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花丸「マルの好きなへたれ堕天使」


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「誰も来ないずらねー」
「なんで誰も来ないのよ!」
今日は浦の星女学院、閉校祭。
昨日、二人で作りあげた堕天占いの館でマルは善子ちゃんと二人、来るのかもわからないお客さんを待っていた。
「せっかくここまで用意したのに……」
隣で善子ちゃんがぶつぶつと呟く。本当に占いがしたくてしょうがないらしい。準備、結構大変だったしね。
でも、善子ちゃんには申し訳ないけど、マルはこの時間が好き。
二人きりの教室、好きな人の隣でのんびり本を読む。ここはまるでマルの理想の世界、なんて。
この時間が永遠に続けばいいのにな――。そんな風に思えてしまう。
引用元:http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1514089947/
2 :
や め る ず ら
3 :
お や り な さ い
4 :
――コンコン。
マルの理想の世界を破壊する音が響く。
「どうぞ!」
善子ちゃんは待ってましたと言わんばかりに来訪者を招き入れる。
けれど、どうやらお客さんではなく――。
「言われた通り、来てあげたわよ」
やって来たのは同じAqoursの梨子ちゃん。
マルにとって、一番来てほしくはない人だった。
6 :
 
「ありがとうずら、梨子ちゃん」
心にもないことを言う。
「花丸ちゃんはこの堕天使とずっと一緒にいたの?」
「そうずらよ?」
「お互い苦労するわね……」
苦労? 苦労ってなんだろう?
善子ちゃんと一緒にいることが何で苦労になるのかマルにはわからない。
適当に愛想笑いをする。
7 :
 
「フフッ。よくぞ来てくれた」
「それでこそ我が眷属、上級リトルデーモンリリーよ!」
「お礼も言えない子には弾いてあげないからね」
善子ちゃんは占いの際、梨子ちゃんにびーじーえむを弾くお願いをしていた。
お願いされた時は一見嫌そうな顔をしながら、気が向いたらね……。なんて言ってたのにコレである。
口ではああ言っても、梨子ちゃんは善子ちゃんに優しい。優しすぎる。
だって――別に録音でいいよね。マルがいるんだしさ、二人には言わないけど。
9 :
 
「うっ……ありがとう、リリー」
「はいはい。善子ちゃんの大好きなリリーですよー」
子供をあやす様に善子ちゃんの頭を撫でる梨子ちゃん。
「子供扱いするなー!」
語気こそ荒いものの、梨子ちゃんに撫でられる善子ちゃんは随分と嬉しそうで――。
その光景はまるで、大好きな飼い主が家に帰ってきた猫の様だった。
10 :
いつからか。
善子ちゃんは梨子ちゃんのことを“リリー”と呼ぶようになった。
初めはただ、いつもの善子ちゃんの一方的な悪ノリで、すぐに飽きるだろうと――そう思っていた。
でも、現実はそうではなくて――。
今も、マルの目の前で、リリー、リリーと呼びながら甘い声を出している。
最初はリリーって呼ばないで。と、言っていた梨子ちゃんもいつの間にか自分でリリーを名乗る程、それは当たり前になっていて。
マルは気付く。
『それ』は二人にとって、特別なモノになったんだと――。
11 :
 
もしかしたら、マルが気付くのが遅いだけで最初から特別だったのかもしれない。
どちらにせよ、同じこと。誰の目にも明らかなくらい二人の距離は近くて、マルの入る隙間はなくて。
同じ空間にいるのがとても居た堪れなくなった。
15 :
 
「大体ねぇ、本当にお客さん来るの?」
「来るわよ!」
「今、何人来てるの?」
「…‥ぜ、ぜろ」
「はぁ……」
「何よ、その溜め息は!」
「私のご主人様って人望ないんだなぁと思って」
「なっ!? 眷属の癖に生意気な――」
また、いつものコントが始まる。
少し前までは、そのポジションはマルのはずだったのにすっかり梨子ちゃんに奪われてしまった。
しょうがない、と自分に言い聞かせる。梨子ちゃんは善子ちゃんと波長が合うようで、二人とも活き活きとしている。
マルはよくわからないから……。
16 :
 
「マ、マルがお客さん連れてくるずら!」
「え、ずら丸!?」
そう言って、二人の世界から逃げ出す。
見ていられなかった。耐えられなかった。受け入れたくなかった。
善子ちゃんの瞳には――梨子ちゃんしか映っていない現実を。
17 :
運命――だと思っていた。
入学式の日にひと目で善子ちゃんだとわかり、思わず駆け寄って覗き込んだ。幼い頃から変わらない綺麗な顔立ち、少し大人びた声、大きな紅紫色の瞳。
一目惚れ……? うーん、二目惚れ? わからない。けれど、マルのことを覚えていてくれたとわかった時、ハッキリと聞こえた。
恋に落ちる音。
それからずっと、善子ちゃんのことを見ていた――ずっと隣にいた。
誰よりも近くにいたくて、誰も近づけたくなくて。マルのモノにしたくて――。
 
 人の世に在るとき、求むる所、意の如くならず。
18 :
 
――とんとん。
ダイヤさんのLoveliveクイズ! を覗いていた千歌ちゃんに声を掛ける。
「占いに興味はないずらか……」
「花丸……ちゃん?」
両の手で千歌ちゃんの左手を掴む。逃さないように。
「占いに興味はないずらぁ」
「えぇっと……」
半ば無理やり、千歌ちゃんを連れて行く。
早く善子ちゃんの願いを叶えてあげたくて。早く二人だけの世界を壊したくて。
どっちが本当のマルなのか。自分でもわからない。
20 :
 
早歩きで堕天占いの館に戻ってくると、扉の向こうから二人の声が聞こえてくる。
何を話してるかまではわからないけど、随分と楽しそうだ。
――コンコン。
お返し、とばかりに少し大きめに音を立てる。
どうやら後者だったらしい。
「お客さん連れて来たずらよー」
「でかしたわ! ずら丸!」
扉を開け、千歌ちゃんを案内する。
「わぁ、すごい」
大量の黒いカーテンで出来た内装に千歌ちゃんが驚く。
館というかテントずらね。
22 :
 
「こんなのやってたんだぁ」
「どんな悩みもズキュゥッと解決してあげましょう」
善子ちゃん、嬉しそう。少しだけ頬が緩む。
「わかりました。恋の悩みですね?」
「いえ、全然」
「どっちかと言えば、人が来なくて悩んでたのはこっちずら」
恋の悩みはマルの方ずら。
「で、では、最近太ってきて体重が気になる……」
「いえ、さっぱり」
「それは善子ちゃんずら」
「ずら丸は黙ってなさい! てかヨハネ!」
もしかしたら善子ちゃんも恋に悩んでるのかな。ふと、そんな疑問が頭によぎる。
23 :
 
「素直に何を占ってほしいか聞いた方がいいずら」
「うっさい! 聞かなくても脳内に響く堕天の囁きが全て教えてくれるのです!」
「いいわ! とにかく占ってあげましょう!」
「ミュージック!」
善子ちゃんの掛け声に合わせて、それっぽい音楽が教室に流れる。
「わっ、本格的……。あっ」
「だからなんで私が……」
「梨子ちゃん?」
「梨子ちゃんが勝手に手伝ってくれるってー。さすがリトルデーモンリリーずら」
ちょっと嫌味を込めて言う。
24 :
 
「花丸ちゃんだってぇ、一度くらい善子ちゃんの望みを叶えてあげたいって」
「マルは……たまたま……」
違う。マルは善子ちゃんの傍にいたかっただけ、ただの自分の望み。今まで――ずっと。
だから罰が当たったのかも。
「ずら丸……リリー……」
善子ちゃんの綺麗な顔に影が掛かる。あながち、さっきの疑問は間違いではないのかもしれない。
「あっ! じゃぁAqoursを占ってください。この先――どんな未来が待っているか」
善子ちゃんの表情は穏やかになり、さも当然の様に答える。
「それなら占うまでもありません」
「全リトルデーモンが囁いています。Aqoursの未来は――」
25 :
 
夕日が差し始めた教室で、善子ちゃんと片付けの準備をしていた。マルは窓の、善子ちゃんは床の魔法陣? を。
外からはキャンプファイヤーの喧騒が聞こえる。少し早い気もするけど、この季節だし丁度いいのかな。
キャンプファイヤー。
文化祭ではある種定番の行事。お約束という奴ずら。
だけど、今日この日のキャンプファイヤーは少し意味が違ってくる。
閉校祭。
浦の星女学院、最後のお祭りだから。
生徒の間ではこのキャンプファイヤーを一緒に見た二人はずっと友達でいられるだとか、結ばれるだとか、そんな噂が囁かれている。
それ自体は特段珍しいことではないけど、この学校の最後の灯火。もう二度と見ることのできない輝きにはみんな特別な想いを抱いていた。マルもその一人。
――善子ちゃんと、二人で、見たい。
27 :
マルと善子ちゃんを再び巡り会わせてくれた特別な場所で、その最後の輝きを二人で見届けることが出来たら……きっと何かが変わる。変えてくれる。そんな淡い期待を。
「善子ちゃん」
「ん」
「えっと……マルと……や、やっぱ何でもないずら!」
言えなかった。
いくら友達のいない善子ちゃんでもキャンプファイヤーの噂くらいは耳に入っているはず。
二人で見たい。そんなの実質告白。言えるわけがなかったずら……。
「なによそれ」
クスっと笑われる。
昨日、善子ちゃんのことをへたれ堕天使、なんて言ったけどマルの方がよっぽどへたれだった。
もうこのままくっついて無理やりにでも見ちゃおうかな……。
28 :
 
「あ、そろそろ時間ね」
時計を見た善子ちゃんが呟く。
ああ――。行かないで、置いて行かないで、あの人のところになんて、行かないで……。
「それじゃあ、ずら丸」
すっと立ち上がり、マルを正面に見据える善子ちゃん。
お別れの言葉なんて聞きたくない。耳を塞ぎそうな両手を必死に抑える。
「キャンプファイヤー、見に行くわよ」
「え?」
予想だにしない言葉に素で返事をしてしまった。全然可愛くない。
「んな、露骨に驚かないでよ。傷付くじゃない」
「ご、ごめん……」
頭の整理がつかない。善子ちゃんがマルと……?
30 :
 
「ど、どうして……?」
やばいずら。思わず聞いてしまった。
「どうしてって、アンタさっきからずっとキャンプファイヤーの方見てたし……。早く見に行きたいんでしょ?」
「それに……ずら丸には昨日、今日と世話になったしね」
その微笑みは――まるで天使の様。
……。
善子ちゃんに背を向ける。見られるわけにはいかないから。こんなだらしない顔。
嬉しくて――嬉しくてたまらなかった。
善子ちゃんの瞳にマルはいた。見てくれていた。心が満たされていくのを感じる。
――満たされてしまったから。
31 :
 
「ちらちらマルのこと見てたなんて善子ちゃんは変態ずら」
「ちらちらとは見てないわよ!」
「じゃぁガン見してたずら?」
「ガン見もしてないわよ!」
特に意味のない会話で表情を直す時間を稼ぎながら、
善子ちゃんに聞こえないよう静かに深呼吸をする。
すぅーはぁー……。
ようやく心臓の鼓動が落ち着いてきたのを確認すると、
マルは意を決して善子ちゃんと向き合う。
32 :
 
「マルはルビィちゃんと見るから、善子ちゃんは梨子ちゃんを誘うといいずら」
「……なんでそこでリリーがでてくるのよ」
「マルにはお見通しずらよ?」
少しだけ、息を呑む。
「善子ちゃんのことずっと見てたから」
それは遠回しな告白。
「ずら丸……」
本当は今すぐ胸に飛び込んで、善子ちゃんの優しさに溺れてしまいたかった。
それでも――。
その優しさは、天使の様な微笑みは――マルが『本当に欲しいモノ』ではないから。
34 :
 
「私ね……梨子のことが……んっ」
善子ちゃんの唇をそっと右手の人差し指で塞ぐ。
この愛しい唇から“それ”を告げられたらマルはきっと耐えられないから。
「モタモタしてると梨子ちゃん他の人に盗られちゃうよ。はやく行くずら」
善子ちゃんの瞳の中にいるマルはとても幸せそうで、自分ではないかの様に思えた。
「そうね……。行ってくる」
くるりと振り返り、別れの言葉を告げられる。
「頑張ってね、へたれ堕天使さん」
「へたれ言うな! 私がへたれじゃないってとこ見せてあげるんだから!」
「楽しみにしてるずら。ちゃんと、見てるよ」
少し、重たかったかな。
「それじゃ……また後で」
「ありがとうね。花丸」
「……うん」
35 :
入学式以来に花丸と呼ばれた。
それは多分、善子ちゃんなりの答え。
「いってらっしゃい」
軽く手を振り、一度も振り返ることなくマルの理想の世界から羽ばたいていく善子ちゃん。
その、本当に羽があるかの様に思えるほど美しい後ろ姿をマルはじっと見つめていた。

『いつか羽が生えて天に還るんだ』

今が、その時なのかもしれない。

 
教室で一人。彼女への想いが瞳から零れ落ちそうになるのを必死に堪えながら私は――
そっと、人差し指に口付けをした。

おしまい。
37 :
ありがとうございました。メリークリスマース!
39 :
乙乙
メリクリ
40 :
( ;∀;)
44 :

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