【艦これ】長良「なんですかそれ?」 提督「ロードバイクだ」back

【艦これ】長良「なんですかそれ?」 提督「ロードバイクだ」


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すごくいい
たのしそう
31: ◆B2mIQalgXs 2016/02/01(月) 00:24:40 ID:nQnuWSWg
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・長良型軽巡洋艦:長良
【脚質】:スプリンター
尋常ならざる脚力は天性のものであり、スプリンターとして抜群の才能を有する
かつスタミナのお化けのようなタフネスも有しており、
登坂力もそこそこあるオールラウンダー寄りのスプリンターで万能性が高い
平地での巡航度もケタ違いで、回して進むのと踏んで進む両方が得意という天性の脚を持つ
なおスピード狂のもよう
【使用バイク】:PINARELLO DOGMA F8 Carbon T11001K(872 Rhino Red)
ピナレロが誇るフラッグシップ、オールラウンドエアロロード。
元々は提督のロードバイクだったが試乗してひとめぼれ。おねだりして譲り受けることになった(本人談)
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32: ◆B2mIQalgXs 2016/02/01(月) 00:27:08 ID:nQnuWSWg
※長良の脚に筋肉がつきすぎちゃったのはロードバイクのせいだったんだよ!(キバヤシ感)
 亀更新になると思うので長い目で見てください
33: 以下、
RJとかは脇役好んでルーラーやりそうだよな
平地で重要だし
平地で重要だし
35: 以下、
鎮守府の談話室に弱ペダおいときますねwww
36: 以下、
じゃあ俺はのりりんとかもめ☆チャンスを
37: 以下、
乙、無邪気に100万以上の物を奪っていく長良かわいい
シャカリキ置いときますね
38: 以下、
じゃあ俺はろんぐらいだぁす!を置いときますね
42: 以下、
長良が譲り受けたブツは総額でいくらぐらいになるの
43: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 21:08:40 ID:kV2lSeIg
【1.5 明石のロードバイク工房へようこそ! 〜提督のロードバイクのお値段は?〜】
 フレーム(PINARELLO F8) : \726,000-
 コンポ+クランク(電デュラ) : \320,000-
 ホイール(フルクラムRS XLR80) : \462,000-
 ハンドル(exライトニューエルゴ) : \ 38,000-
 カーボンステム : \ 35,000-
 サドル(SLR テクノ) : \ 52,000
 セラミックBB : \ 45,000-
 CDJビックプーリーキット : \ 41,000-
 サイコン(Edge1000J) : \ 90,000-
 その他小物諸々 : \ 38,000-
 提督の手間暇工夫 : Priceless
 提督の思い出 : Beautiful
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 小計 :\1,847,000-
 消費税 :\ 147,760-
 合計 :\1,994,760-
 提督へのダメージ : ASTRAL FINISH
明石「>>42さんの質問についてですが、自組で工賃なし、各機材の値引きなしで考えるとこのぐらいです。
 ショップのセール中とかネット通販とかを利用したり、
 きちんとしたショップでの組み立て工賃を考慮、そしてクリートやビンディングペダル代で、
 ここから更に10万以上安くも高くもなりますが、セールやネット通販は課金による大型建造ばりにお勧めできません。
 素直に上記の値段プラス10万を考えた方が宜しいかと」
44: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 21:19:01 ID:kV2lSeIg
提督「うん…………そうだな」
明石「!? て、提督! いらしてたんですか」
提督「ああ………どうした、笑えよ明石。たかが自転車にこんな金をかけるなんて馬鹿げていると」
明石「こ、高給取りの鎮守府提督にとって、200万は特に痛手ではないのでは?」
提督「………そうだ。大和どころか睦月型駆逐艦一隻の出撃一回の支出の方がはるかにデカい。
 しかし痛手なのは費やしてきた時間、それによって生まれた愛着、思い出補正だ。これがデカい」
明石「ま、まあ、分からなくもないです。その……この度は」
提督「言うな………」
明石「提督………」
 提督の心はとても荒んでいるようだ。
45: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 21:20:46 ID:kV2lSeIg
長良「〜♪」
 そんなことは露知らず、なんとも楽しそうな長良である。
明石「その、私……長良ちゃんに」
提督「言うな……おまえたちの、艦娘の笑顔には替えられん。絶対に長良には何も言うな」
明石「し、しかし、それでは提督が……」
提督「言うな!!」
 このSSは優しい世界で出来ている。
【続く】
46: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 21:29:44 ID:kV2lSeIg
【2.ロードバイクを買いに行こう!】
 季節は春真っ盛り。冬の寒波もどこへやら、温かな日差しに照らされた鎮守府を、今日も静かな波音と風の声が優しげに包んでいる。
提督「大淀。こっちの民間に回したインフラ整備の請求書処理は後回し。
 というか工期にしろ材料費にしろ諸経費にしろ、どう計算しても当初の試算を遥かにオーバーしてるから金額是正の連絡を。このままじゃ印は押せん」
大淀「あ、はい……」
 鎮守府本館の執務室で、鎮守府の総責任者たる提督は執務に励んでいた。傍らには本日の秘書艦たる軽巡洋艦・大淀が控えている。
 深海棲艦との戦いが終結した現在、提督の仕事は主に鎮守府敷地内の設備の改修やインフラ整備を、民間の企業へ依頼する書類作成といった事務作業が中心となっている。
 戦いが激化していた中で、限られた予算を戦費としてやりくりするのが精いっぱいだった頃、後回しにしていた要件ばかりだった。
提督「確か、この業者はこれで二度目だったな。それとなく次に誤魔化したら切るって伝えておいてくれ。あちらの契約違反だから、強気で行っていい」
大淀「はい……」
 てきぱきと書類を一つ一つ吟味しつつ処理していく提督だったが、その一方で秘書艦の大淀は、いつもの精彩を欠いている様子だった。
 心ここに在らず、といった様子で、どこか視線も胡乱気に虚空を漂っている。
47: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 21:34:04 ID:kV2lSeIg
 その様子に、提督自身も気づいてはいた。これが隼鷹や那智ならば酒気帯びを疑うところではあったが、大淀に限ってそれはない、と提督は確信している。
 体調が悪いのかと思ったが、特に苦しげな表情をしているわけでもなく、頬に赤みを帯びているわけでもない。
 はて、と提督は首を傾げつつ、しかし手元の書類に再び視線を向ける。
 
提督「ん………これ、先月に艦娘たちから提出された日用品の経費請求だが」
大淀「どれです? ああこの………ッ、その、提督。やはり、これだと多すぎますか?」
 少し不安げに眉を寄せる大淀。提督もあまり見たことのない表情だった。
提督「ん? 違う、むしろ逆だ。予想より請求額が少なすぎる」
大淀「えっ!? で、でも、ほら、桁が……」
提督「ああ、桁が一つ小さいな」
大淀「え、ええっ!? 大きくないですか!?」
提督「………後程、青葉を通じて艦娘たちにもっとお金を使っていい旨を周知しておこう。大淀がその様子じゃ、成程。皆が節制するわけだ」
大淀「ッ……ほ、本当ですか!?」
 ぼんやりとしていた大淀の目が、にわかに輝きを取り戻す。
48: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 21:37:54 ID:kV2lSeIg
提督「無論だ。君たちが艦として在った大戦の最中と違って、今は質素倹約の時代じゃあないんだ。欲しがりません勝つまではというが、勝ったんだから贅沢しろと言うのだ」
大淀「本当ですか! じゃあ………あっ、ゴホンゴホン」
提督「……? まあ、湯水のごとく使えとは言わんが、誰よりも頑張った君たちには相応の贅沢をする権利がある。誰にも文句は言わせない」
大淀「提督、ありがとうございます」
提督「そう畏まるな。気兼ねなく希望を出してくれると此方としても助かるんだ。酒保の品揃えが変われば、隼鷹の愚痴を聞く機会も減るだろうしな」
大淀「ぷっ……」
 悪戯を思いついた悪ガキのような笑みを見せる提督に、大淀は思わず笑い声を漏らした。
大淀「ふふ、もう、提督ったら」
提督「ワハハ。………ああ、そういえば『居酒屋 鳳翔』の改修工事の件については、請負先の業者にちょっとツテがあるから、後でこっちが段取りしておくよ。比較的安く抑えてくれる筈だ。工事日程も鳳翔と一緒に明後日にでも……」
大淀「…………そうかぁ、贅沢して、いいんですね」
提督「………?」
 提督はまた首を傾げた。一度は夢から醒めたように輝いた大淀の瞳が、また夢を見ているように虚空をさまよい始めたのだ。
49: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 21:40:55 ID:kV2lSeIg
提督「それと『甘味処 間宮』のインテリアの新調の件だが、同期のイタリアの提督が腕のいい職人を紹介………大淀?」
大淀「…………えへへ、どれがいいかな」
提督「……大淀? どうした?」
大淀「…………迷っちゃうなぁ」デヘヘ
 でへへ、と。大淀らしからぬ笑い声に、今度こそ提督は見逃せない異変を察知した。
提督「………大淀?」
大淀「ッ、あ!? す、すいません! なんでしょう!」
提督「疲れているのか? 少し休憩を取ろう」
大淀「い、いえ、その……」
提督「休憩だ。どの道、かなり前倒しで書類は片付いてるし。な?」
大淀「………はい、すいません。その、お茶を入れますね……」
提督「二人分頼むな」
 立ち上がり、窓から空を見る。太陽は高く、もう昼時になろうとしていた。
50: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 21:47:44 ID:kV2lSeIg
 ――――程なくして二つのカップを乗せたトレイを、恥ずかしそうな顔で運んできた大淀を、対面のソファに促す。
 互いにソファに腰かけ、いただきます、と茶を啜る。
提督「ん、旨い………しかし、随分と上の空だったな、大淀。なかなかレアな表情を見れて得した気分だ」
大淀「う、う゛………すいません。お恥ずかしい限りです」
 からかわれていると分かっていても、大淀は文句を言えなかった。言えるような立場ではなかった。
 縮こまってカップの茶を啜る大淀の眼鏡は曇っていた。湯気で曇っているのか羞恥による発熱で曇っているのか、提督には判断が付かないほどに真っ赤な顔だ。
提督「何か悩みごとか」
大淀「その、職務中ですので……」
提督「今は休憩中だ。少しくらいプライベートな話でも構わんよ」
大淀「そ、そうですか? じゃあ、その………実は提督に聞きたいことがありまして。えっと、えっと、その」
 もじもじと膝の上で指を絡ませ、言いにくそうに口ごもる。
提督「ん? なんだ、上の空だったのはそれが原因か。いいぞ、何でも聞いてくれ」
51: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 21:53:40 ID:kV2lSeIg
 柔和な笑みを浮かべて話を促す提督に安堵したのか、はたまた覚悟を決めたのか、大淀はおずおずと口を開いた。
大淀「はい、その……三日前、長良さんが乗っていた自転車の、その、ロードバイクについてなんですが……」
提督「お、なんだ。大淀も興味津々か?」
大淀「え、ええ。元々自転車に乗るのは嫌いじゃなかったんですけど……あんなにも長良さんが楽しげで。
 この三日間は毎日鎮守府のあちらこちらで滑るように走っているのを見ていたら、なんだか落ち着かなくなってしまって……それで、その……実は」
提督「え? まさか――――もう買っちゃったとか?」
 大淀は慌てたように体の前で大げさに両手を振った。
大淀「い、いえいえ! え、えっと…………まだ買ってはいないんですけど、そのう……ほ、欲しいんですけど、何を買えばいいのか、どれがいいものか、目移りばかりしてしまって」
提督「ははぁ、成程」
 得心いったとばかりに、提督は再び笑みを悪戯小僧のように歪ませる。
提督「さっき贅沢していいって俺が言ったから――――さてはちょっと贅沢してイイの買っちゃおうかなんて考えていたんだろー」
大淀「う゛」
52: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 21:56:30 ID:kV2lSeIg
 ずばりであった。図星であった。
大淀「うう、その通りです……お恥ずかしながら。執務中だと言うのに、集中力が欠けていました。申し訳ございません!」
提督「そう恥ずかしがることないじゃないか。艦娘のみんな、特に大淀は仕事一筋で頑張ってきたし、そうした娯楽で目移りしてしまうのも分かるよ」
大淀「そう仰っていただけると………ああ、恥ずかしい」
提督「まだ目星もついてない?」
大淀「……あ、いくつか候補は出来ているんですが……宜しければその、購入に当たってのアドバイスなどをいただければなと」シュッシュッ
提督「お、タブレット。どれどれ、見せてみ?」
 ソファから身を乗り出し、大淀が手元で操作するタブレットに顔を近づける。
大淀「はい、これと」
提督「………ん?」
 大淀が示すものを見た提督の笑みが、僅かに引き攣った。
53: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 21:59:55 ID:kV2lSeIg
大淀「それとこれに」
提督「んん?」
 大淀が示していくものが増えるにつれ、提督の笑みはどんどんと引き攣っていき―――
大淀「こっちは色はちょっと気に入らなくて……それにお値段も」
提督「――――大淀。待て。ちょっと待て」
 提督の顔から、笑みはおろか、瞳からは光が失われた。
大淀「はい? なんでしょう………!? て、提督? その、お顔が怖いんですが……お、怒ってらっしゃいます?」
提督「キレてねえよ……弥生と同じで元々こういうツラだよ……元々ね……」
大淀(嘘です絶対嘘です顔中に血管浮いてますもん)
提督「なんだこれは。ええ? これが欲しい? これが? まじで? あ?」
 修羅のそれであった、と大淀は後に述懐する。
54: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 22:07:12 ID:kV2lSeIg
 深海棲艦のフラ艦エリ艦もかくやと、紅の燐光を瞳から放つ提督が、ゆらりとソファから立ち上がり、大淀を見下ろした。
大淀「ひっ、す、すいません、すいませんすいません! こんな贅沢なこと言って軽巡の私ごときが本当にすいません!!」
提督「―――――ちょっと休憩、延長しようか……」
大淀「」
 大淀は解体を覚悟した。

……
………
55: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 22:12:52 ID:kV2lSeIg
………
……

 結果から言えば、大淀は解体されなかった。
 むしろ優遇されたと言えるだろう。
提督「――――さて、話をまとめてみるが」カキカキ
大淀「はい!」
提督「書きだしてみたが……大淀の話をまとめると、以下の通りだな?」
大淀「は、はい……」
 提督が手元の紙に、大淀の求めるロードバイクの希望を書き出したものを差し出す。
1.デザインや色合いが気に入ったものが欲しい
2.用途はロングライドを目的としており、レースに主眼を置いたものではない
3.フレームの素材については何を選べばいいか良くわからない
56: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 22:20:43 ID:kV2lSeIg
提督「1〜3まではいい。何も問題はない。だが問題は4だ……なあ、大淀」
大淀「……は、はい」
提督「怒ってるわけじゃない。畏まらなくていいよ……これの真意が聞きたい」
4.予算は贅沢に2〜3万円ぐらいで考えている
提督「俺は贅沢していいと言った。予算は俺が出す、という意味で言ったつもりだが、自費で買うと?」
大淀「あー、その、もっと贅沢していいとおっしゃったので、お言葉に甘えて良い自転車などおねだりし様かと思ったんです、け、ど……」
 どんどんと言葉尻が下がっていく。提督の顔は修羅を越えて阿修羅神ごとき何かに成り果てようとしていた。
提督「――――すまん。気を抜くとこうプチッと行きそうだ。血管が」
大淀「そ、そうですか(怖いよぉ)」
提督「うん、やめよう。多分互いの認識が違いすぎて、噛みあっていないんだこれは」
大淀「え? それは、どういう……」
 ひょっとして、贅沢は取りやめなのか――――肩を落としそうになった大淀だったが、
57: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 22:26:48 ID:kV2lSeIg
提督「海を解放した英雄たる君たちが、2〜3万円が贅沢……!? そんなことがあるものか……あっていいものかよ」ブツブツ
大淀「提督? 提督?」
提督「結果には……対価が必要だ……見合う対価が……結果の前に過程は無意味で、結果が良いものであれば相応の対価があってしかるべきなのだ……。
 それが崩壊するのは、それは、それはとても酷いことなんだよ………」ブツブツ
大淀「て、提督……?」
 急に独り言をつぶやきだした提督に、大淀がどうしていいか分からず右往左往していると、
提督「決めた――――よし」
 提督が立ち上がった。その顔は修羅でも阿修羅神の如きおぞましい何かでもなく、いつもの提督の子供っぽい笑みに満たされている。
提督「大淀。少し早いが、今日の執務は終わりだ。どうせ前倒ししていたものだ。出かけるぞ」
大淀「え、えっ!? ど、どこにですか!?」
 あまりの急な展開に大淀が混乱していると、更に大淀を混乱させる言葉を、提督はあっさりと言ってのける。
提督「――――ロードバイクでサイクルショップに行くぞ。俺のロード貸してやる」
58: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 22:34:33 ID:kV2lSeIg
大淀「え」
提督「実物を見て説明した方がい。いい機会だ。現実の相場ってやつを見てもらう」
大淀「で、でも、そんな」
 急展開に更に突然を被せた様な非現実感に、大淀はなんと答えるべきなのか、判断を迷う。
提督「ふむ。じゃあ言い直そう」
大淀「え?」
 呆ける大淀に、提督は手を差し出し、
提督「俺と一緒にサイクリングに行こう。一人は寂しいから、大淀みたいな可愛い子と連れ立っていきたい」
大淀「っ」
 逢引に誘われる。大淀とて乙女だ。夢想したことがないと言えば嘘になる。
 だが、提督の少し照れが入った笑みと共に差し出された手は、本物だった。
大淀「あ、あう、あうあう……」
59: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 22:40:23 ID:kV2lSeIg
 大淀の混乱した思考は熱湯をかけられたかのように赤熱し、それこそ真っ赤に燃えるタービンのようにぐるぐると旋回し続ける。
 そして回転が臨界点を迎えた大淀はやがて、
大淀「……は、はい……わ、私でよろしければ」
 考えるのをやめ、反射的に手を握り返していた。
 満足げに笑みを深める提督は、心底楽しそうで、熱を持った思考で上手く考えられなかったが、大淀はそれがとても嬉しいと感じた。
提督「よろしい。じゃあ運動着に着替えてきてくれるか? ちゃんとしたジャージやレーパンはないだろうし、それなりに距離はあるから、サドルは柔らかめのものにしておくよ」
大淀「は――――はい!」
提督「ん、よろしくな。準備が出来たら鎮守府の入り口で待っててくれ………俺も自転車持っていく」
大淀「わ、わかりました! そ、その、た、楽しみにしてます!!」
提督「お? おお、俺も―――」
 提督の返事を待たず、大淀は執務室から逃げ出すように退室していった。律儀にドアは閉めていくところは、生真面目な大淀らしいと、提督は笑いを漏らす。
60: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 22:55:48 ID:kV2lSeIg
提督(さって、と………この際だ。天龍達や暁達、金剛達も欲しがってたし、長良型の皆の分も考えないとな)
 背を伸ばし、バキバキと骨を鳴らす。
提督(杞憂ならいいが、ヘタすると面倒くさいことにもなりそうだし………隼鷹の言葉じゃあないが)
提督「パーッと行こうぜ、パァーッとなあっ、と」ピポパ
 取り出した携帯をダイヤルする。
 電話する先は、件のサイクルショップだ。程なくしてコール音が止み、元気のいい店員の声がスピーカーから漏れ出す。
提督「もしもし、私鎮守府の提督です………はい、いつもお世話になっております。ああ、いえ。先日の注文とはまた別件でして、はい」
 ―――電話に集中し始めた提督は気づいていなかったことが三点ある。
 一つ目は、大淀が出て行った時、思いのほかドアを閉める音が大きかったこと。
提督「実は他にもウチの艦娘が、ええ、何名かバイクの購入を検討しておりまして。はい――――先立って注文したバイクについては……。
 ………いえ、『二台』のうち小さいサイズの方を急いでいただけると。いや、そこをなんとか」
61: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 23:01:04 ID:kV2lSeIg
 二つ目は、大淀がドアを閉める勢いが強すぎて、完璧にはドアが閉まっていなかったこと。
 執務室の前を通るものがいれば内部の声や音がハッキリと聞き取れる程度には、ドアに隙間が出来ていた。そして提督はそれに気づいていなかった。
提督「どうか。二台とも完成車ですし、ええ。最悪整備についてはこちらで。ええ。どうか。
 それでカタログを各メーカー分、複数ご用意いただけないかと……ありがとうございます、お手数おかけいたしますが、はい」
 最後の三つ目は、音につられて、部屋の前に艦娘がやってきていたこと。そしてそれが――――
提督「ええ。これからロードバイクで向かいますので、ええ。そうですね、お願いします。お手数おかけしますが、よろしくお願いします、では―――」
青葉「………青葉、聞いちゃいました!」
長良「お外で、サイクリング……!?」
 青葉と長良であったということ。

……
………
62: ◆B2mIQalgXs 2016/02/06(土) 23:02:36 ID:kV2lSeIg
※後半に、続く
83: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:10:11 ID:7Qja5lQg
………
……

 かくして提督はロードバイクの調整を終え、二台のロードバイクをそれぞれ片腕で担ぎ上げ、本館の廊下を歩く。
 階段を下り、本館の入り口を出る。柔らかい春風が吹く中、心地よさそうに目を細めて空を見上げる。雲一つない青空とは、まさにこのことだった。
提督「絶好のサイクリング日和だなあ」
 言って、ロードバイクを地に下ろし、それぞれ器用に片手で転がしていく。
 チキチキと鳴り響くラチェットの音が、否応なしに提督のテンションを高めていった。
提督「待たせたな大淀………って」
 そして鎮守府の入り口に辿り着いたとき、提督の両目が捉えた光景は、
大淀「………」ムスッ
青葉「あっ、司令官! お待ちしてました!!」ニコニコ
長良「司令官! 私たちも一緒に連れてってください!!」キラキラ
84: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:12:19 ID:7Qja5lQg
 見るからに「私不機嫌です」といった表情の大淀とは対照的に、見るからに戦意が高揚した状態の青葉と長良であった。
 しかも青葉も長良も運動服で、長良に至っては既にロードバイクに跨っている。
 提督は苦笑しつつロード二台を器用に転がしながら大淀に近づき、
提督「なんだ、バレたのか?」
大淀「うう………私の不注意だったようです。うかつな……」
提督「ハハ、自転車、青葉の分も取ってこなきゃな」
大淀「………はい」
 ますます気落ちする大淀に、二台のロードバイクを手渡す。その時、小さく提督が囁いた。
提督「見るからにがっかりしてるとこからして……よほど二人きりが良かったのか?」
大淀「ッ……!」
提督「悪い。俺の勘違いだったらハズいんだが……」
大淀「ッ、あ、あう、そ、その……」
 みるみる赤面していく大淀に、青葉と長良が首を傾げた。
85: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:15:27 ID:7Qja5lQg
青葉「? どうしたんです?」
長良「何のお話ですか?」
提督「いや、俺のロード持って待っててくれって大淀に頼んだんだ。青葉の分も取りに行かにゃならんし」
青葉「あ、そうですそうです! いやー、楽しみです!!」
長良「ホントだねー! お外走るの初めて!! 司令官! はやくはやくーー!!」
提督「はいはい、すぐ取ってきますよっと」
大淀「………」
 しょんぼりとした顔で俯く大淀の耳に、届く声がある。
提督「んじゃ、大淀――――またな?」
大淀「!!」
 提督の「またな」がどんな意味なのかを理解し、大淀は、
大淀「は、はい! 是非!!」
86: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:16:38 ID:7Qja5lQg
青葉「?」
長良「???」
 凛とした声を上げ、花開いたように微笑んだ。その傍らには、ますます首を傾げる青葉と長良がいた。
 ――あまり空気の読めない青葉と長良であった。

……
………
87: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:18:15 ID:7Qja5lQg
………
……

 提督が三台目の―――長良のものを含めれば四台目なのだが―――バイクを担いできた時、
 青葉と大淀は既に持ってきていた二台のバイクを興味深げに様々な角度からしげしげと眺めていた。
提督「ところで大淀、青葉、乗り方とかちゃんと分かってるか? 公道での走行ルールは?」
大淀「はい。問題ありません」
青葉「ふふん、そういった情報収集は青葉の十八番です! ロードバイクのことも抜かりなく勉強済です!」
 ロードバイクの乗り方や、公道を走る上での諸注意などは不要であった。
 勤勉な大淀と好奇心旺盛な青葉である。特に説明するまでもなく、最低限の知識は持ち合わせていた。
提督「よろしい。長良も外を走るのは初めてだったな? 自転車は左側順守、基本的に車道を走る、歩道は止むを得ない時のみ、分かってるか?」
長良「はい! あれからいつでもお外を走れるよう、自分でも色々調べて勉強しましたから!」
提督「そうか、ところでおまえが俺から奪った……ごほん、強請ったソレについては?」
長良「??? えっと、イタリアのメーカーで、ぴなれろっていう人の創った自転車で、凄くい! ですよね?」
88: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:20:05 ID:7Qja5lQg
提督「…………うん。合ってる。それで合ってるよ。もうそれでいいよ」
長良「し、司令官? どうして血の涙を流しているんですか!? ハッ、まさかどこかお体の具合が……!」
提督「いや、心の……なんでもない」
青葉(うわー、司令官、ご愁傷様です……)←価値を知っている人
大淀(それだけ愛着のあるロードバイクだったのかしら……?)←価値は知らないが正解
提督(…………あれで大会に出たかったなぁ)
 提督はガチ勢である。なおヤバいレベルの料理上手でもある。
 世が世で提督になっていなかったら、間違いなく料理人かプロのロードバイク選手か競輪選手を目指していただろう。
提督「さ、さて、気を取り直して………青葉、大淀。ここに三台の自転車があるじゃろ?」
青葉「どこかで聞いたフレーズですねえ」
大淀「三台とも、全然違うんですね……色合いは勿論ですけど、形状も、部品も」
提督「素材はそれぞれチタン、クロモリ、アルミニウムだ。なおこの白黒カラーのアルミには今回は俺が乗る」
青葉「いきなり選択肢が減った!? クソゲー!? クソゲーですか!?」
大淀「そんな、計算外です!?」
89: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:24:14 ID:7Qja5lQg
提督「だまらっしゃい。特に青葉。元々大淀と俺で出かける予定だったから、既にアルミは俺用にフィッティング済みなんだよ」
青葉「うっ……」
大淀「そういえば……じー」
青葉「そ、そんな目で見ないでください……」
 少しは罪悪感があったのか、それで青葉は押し黙る。
提督「さあ、チタンかクロモリか選べ。どっちがいい? なお白地に青模様がチタン、緑色のがクロモリだ」
大淀「私はこの緑色のクロモリロードにします」
 ほぼノータイムで大淀は緑色のロードバイクを選択する。
青葉「えっ、即決」
大淀「第一印象から決めてましたし。というか、これに乗って出かける予定でしたし」
提督「おお、イタリアはカザーティのPIETRO 1920、クロモリのラグフレームだな」
 
 参考:https://actionsports.co.jp/casati_p_18.php
90: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:29:17 ID:7Qja5lQg
大淀「これ、素敵ですよね………キラキラしてます。ヘッドマークもオシャレで素敵……」
提督「こういう美しさがクロモリラグフレームの魅力だな。
 しかもイタリア純国産、名前通り1920年創業当時のヘッドマークとフォークショルダーのデザイン。
 スペシャル記念モデルだ。どこか育ちの良さと言うか、礼儀正しくて品の良い大淀にはぴったりだな」
大淀「ま、まぁ! お上手ですね……ふふ、ありがとうございます」
長良「おおー、同じイタリア製でも、ピナレロと全然タイプが違うんですね。細くて、継ぎ目があって、チューブが円柱状です。これはこれで綺麗ですね」
 ピナレロF8参考画像(右下872 Rhino Red):http://www.riogrande.co.jp/pinarello_opera/pinarello2016/dogma_f8.php
提督「ピナレロと、というよりは、カーボンとクロモリ、そしてメーカーの……ま、まあ、細かい話はいいか」
 大淀と長良が目を輝かせている傍ら、青葉は少々がっかりしていた。
青葉「……出遅れました。なんか、聞くからにスゴそうなバイクです……なんですか1920って………私より年寄りなんですかそれ」
大淀「うふふ、早い者勝ちですよ。というか、最初からこっちは提督が私に用意してくださったロードですもの」
青葉「ぐぬぬ!」
提督「そうガッカリするのは早いんじゃないか、青葉?」
91: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:35:09 ID:7Qja5lQg
青葉「え?」
提督「こっちのバイクはチタン製。走行性能で言えば、カザーティのクロモリより上だ。しかも日本の誇る、PanasonicのFRTD01だぞ」
大淀「ええっ!? に、日本のですか?」
長良「日本製!? あ、ホントだ!! これ、日本の自転車だ!! ほら、ほらここ!」
青葉「わ、わー! 横文字でPanasonicって書いてある!? ロゴ読んでませんでしたよ」
 参考(カラーデザインはオーダーで白地に青):http://cycle.panasonic.jp/products/pos/custom_order/2016/frtd01/
提督「チタンはアルミより重いがクロモリより軽く、腐食しづらく錆びない。そんな素敵素材だ。
 チタンのピカピカした外見もいいが、こういう塗装を施してあるのもまたいいものだ。
 親方日の丸で安心の性能、しかもロングライド用で乗り心地最高。コンポも日本のシマノ製だし。
 ああ、まさに質実剛健、品行方正、清く正しい青葉には相応しい」
青葉「そ、そんなにホメられたら恥ずかしいですよぉー、もぉー司令官ったらお上手なんですから!」
提督「ワハハ、本心だぞ(ちょろすぎて将来が心配というのも本心だが)」
青葉「も、もぅ………しかし、青葉ったらひょっとして当たり引いちゃいました? 乗り心地が楽しみです!
 おお、良く見たらこの白地に青のカラーリングも、カブトガニめいたコンポーネントも、質実剛健で清く正しい青葉に相応しいような気が……」キラキラ
92: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:37:47 ID:7Qja5lQg
提督(現金なやっちゃ)
大淀「司令官はおだてたり乗せたりするのが、本ッッ当にお上手ですよねー……」ジト
長良「そうやって何回私たち軽巡を4-3の練度上げ随伴に送ったか……」プイ
提督(え、なんか一方でこっちの忠誠心が下ってるんだけどー)
 さておき、それぞれが乗るバイクが決まった。
提督「ごほん………で、俺がアルミと」
長良「あ、そういえば。どうして今回、それを選択肢から外したんです? その白黒バイクもなかなかカッコいい感じで、どっちかといえば私のと似たタイプでそうですけど」
青葉「青葉も気になってました」
大淀「ええ。差し支えなければ、教えていただいても?」
提督「あー…………率直に言えばコレ、アメリカブランドのバイク」
長良「あー」
大淀「あら」
青葉「おお」
93: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:43:53 ID:7Qja5lQg
提督「キャノンデールというブランドの「カーボンキラー」と讃えられたアルミの革命児……CAAD10だ」
 参考(いいのが見つからなかった):http://www.cozybicycle.com/jouhou/image/2015/cannondale/caad10105bbq.jpg
大淀「カーボンキラー……?」
青葉「おおっ、物騒ですがなんだかスゴい異名ですねぇ」
提督「並のカーボンよりはるかに振動吸収性が高く、そして何よりも軽い。
 故についた異名が『カーボン殺し』。アルミも捨てたもんじゃないとしみじみ思わせてくれる、そんなエントリーモデルのバイクだよ。
 予算が限られてる初心者にはオススメできるバイクだろう」
長良「………まあ、アメリカと聞いて、思うところがないわけでもないですけど」
大淀「そういう先入観は無しで行きたいですね。良いものは良い、悪いものは悪い、です」
青葉「というより、司令官がアメリカを敵視してたら……ほら、いつだかアメリカの提督さんに支援物資送ったじゃないですか」
大淀「ああ、覚えてます。ニューヨークの……なんて鎮守府だったかしら? あ、ごめんなさい、話の腰を折ってしまって」
 余談だが、そのニューヨークの鎮守府というのは……簡単に言えばニューヨークに流れ着いた清霜が、ある人たちと出会って共に戦い成長し、戦艦になるお話である。
青葉「いえいえ。話を戻しますと、司令官がアメリカ嫌いだったらそういうことしないでしょ? 青葉、ハンバーガーとか結構好きですし。それはそれです」
94: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:46:16 ID:7Qja5lQg
提督「そっか………いや、お前らのこと考えると、デリケートな問題だからさ。今後オススメする時に避けた方がいいのかどうか聞きたかったんだよね」
青葉「御心遣い、嬉しいです。今度それとなーく青葉が聞き込みしてみますよ!」
提督「助かる」
青葉「いえいえ。ロードバイク買ってもらえるんですし、このぐらいはどうってことないです!」
提督「ワハハ、もう買ってもらう前提か、こやつめ! ワハハ! まあ買ってやるけどな、ワハハ!」
青葉「えへへへっ」
 そうして、大淀と青葉の乗るバイクが決定した。
 サイズ調整のフィッティングを終え、三者三様にロードバイクに跨った。 
提督「さて、出発するぞ………経験者がしんがりを務めるのが普通なんだが、今回は例外だ。
 俺が先頭、そこからは長良、青葉、大淀の順番で行く。ローテーションは組まない。ずっとこのままの隊列で行く」
長良「ええー? 長良が二番目ですか?」
提督「……仮に先頭を走らせたら、絶対俺らをチギッて一人で突っ走るだろ?」
長良「そ、そんなことしませんよ!! ショップへの道順だって知らないのに!!」
提督「いーや、鎮守府内道路の周回ですらあんなに楽しげに狂ったような度で走るお前が、外で走ったら絶対そうなる。というか、お前は今日以降、鎮守府内周回じゃ物足りなくなるぞ」
95: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:49:24 ID:7Qja5lQg
長良「ええー……」
 なまじ才能のある初心者ロードバイク乗りあるある話である。
提督「おまえの信用がないと言うより、普通はそうなるんだよ。ついつい楽しくて度出し過ぎちゃうってのはあるんだ。
 遅いド素人ならまだいいんだが、長良はダメ。
 途中で楽しくなってきて段々度が上がって、気づけば40キロを軽くオーバーした度でつっ走る姿が容易に目に浮かぶ」
長良「………え? 40キロ出しちゃダメなの!?」
提督「………決定。おまえ二番手。固定。厳命。違反したらロードバイク一週間没収」
長良「そんなぁ!?」ガーン
 妥当な処置であった。
青葉(確か40キロ以上で単独巡航が30分以上できたらプロ一歩手前でしたっけ……そんなの絶対置いてかれますね)←なんやかんやロードバイク乗りの基礎知識は豊富
大淀(英断です、提督)←流石に原チャリ以上の度で走り続けるのは無理だと思い込んでいる人
 理解のい子たちばかりである。
96: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 22:57:11 ID:7Qja5lQg
 そんなこんなで鎮守府入口に立つ憲兵に外出の旨を伝える。
 かくして鎮守府の外に出た四人であった。
提督「じゃあ今度こそ出発な。手信号は教えた通り。基本的に遅めの一定度で走るが、俺も気ィ遣うけどすぎるようなら言ってくれ」
長良「遅すぎるときにも言っていいですか!」
提督「あ、やっぱり長良は今日はずっと一番後ろね。今決めた。絶対決めた。違反したら一ヶ月ロードバイク没収」
長良「」ガーン
提督「一度大通りに出て、橋を渡る。その後は川の上流に向かってサイクリングロードをまっすぐ進み、緑色の橋が見えたら降りてすぐのところにショップがある」
大淀「どのくらいの距離になりますか?」
提督「んー、正味10キロぐらいかな」
大淀(じゅ、10キロも!?)←知識はあるものの乗ったことがないため、ママチャリを基準に考えている
長良(たったの10キロかぁ)←ロードバイク脳。後先考えずに全力で走れば10分ぐらいで着くと思っている
青葉(なんでしょう。二人の心情が手に取るようにわかる)←知識として初心者でもどのぐらいで走れるかは把握済
97: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 23:06:20 ID:7Qja5lQg
提督「じゃ、行こうか! 旗艦・提督! 出撃だ! 俺についてこい! 抜錨!」
大淀「っぷ、うふふっ、出撃ですね! じゃあ、大淀も抜錨です!」
青葉「提督が先頭の単縦陣なんて、とっても新鮮です! 青葉、抜錨ーー!」
長良「こんな出撃なら、いつでも大歓迎だね、あははっ……長良、抜錨します!」
 そうして、彼女たちは外界へと一歩を踏み出した。
 何処までも続く一歩を踏みしめ、タイヤが接地する僅かな面積だけで大地を感じ、全身で風を浴びる。
青葉「お、おおお!?(こ、これは、聞きしに勝る……!!)」
大淀「きゃ、きゃ……!!(は、初めての感覚です……!!)」
 ロードバイク初体験の二人は、共に全身に微弱な電流が走る様な、心地良い衝撃を受けていた。
長良「わあ、鎮守府の外……気持ちいいですね。風がどこまでも突き抜けていくような……」
提督「景色が違うからな。固定された景色よりずっとずっと気持ちいいだろう」
 それなりに車の通行量が多い通りに出て、左折する。
98: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 23:14:34 ID:7Qja5lQg
 しばし大淀と青葉は、ロードバイクの乗り心地を確かめながら、ギアを変え、ポジションを変え、乗りやすい感触を試しながら走っていた。
大淀「あれ、なんでしょう。思ったよりずっと楽ですね、これ……今、25キロぐらいでしょう? なのに、全然疲れないです」クルクル
青葉「ホントですね。あ、なんか青葉、ロード初めてですけど、このチタンフレームっていい感じです。
 比較対象がママチャリなので上手く言えないんですけど、こう、力が逃げずに推進力になってるっていうか」クルクル
提督「く走るための乗り物って意味が実感できるだろ?」
青葉「はい! なんていうか、サイコンの度よりもずっとずっとい感じがするっていうか、とっても気持ちいいです!」
大淀「ええ。海上を行くときは、今の度よりずっといのに、こちらの方がずっとずっとく感じられます」
提督「思わずく走りたくなる理由が分かるだろう?」チラッ
青葉「え? そ、そりゃあ、まあ」チラッ
大淀「そ、それは、その………ええ、まあ」チラッ
長良「遅い遅い遅い全然遅いくもっとくスピーディに筋肉は躍動する骨は裏切らない体幹はバネの如くもっと度を一心不乱の度をこんなさじゃ満足できない腐る腐っていく長良の脚が腐ってしまう長良が遅い長良がスローリィありえないありえちゃいけない」ブツブツ
 何かヤバいもんが乗り移りそうになっている長良が、三人の背後にいた。
提督「しょ、しょうがねえヤツだ………仕方ないなあ」
99: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 23:20:35 ID:7Qja5lQg
 むしろ良く持った方だろうか、と提督は苦笑する。
 四人は丁度、橋の上を抜けてサイクリングロードに入るところだった。ショップまで残りの距離は8キロと言ったところだろう。
提督「――――ここからは度を少し上げるぞ。キツかったら声出して知らせてくれ」
大淀「えっ!」
青葉「嘘ッ!?」
長良「そくど? そくど………度!!」ピクッ
 長良の目が輝いた。原人にまで退化する一歩手前で引き戻せた提督はぐう有能である。
提督「大丈夫。滅茶苦茶楽だから。今日は思っていたよりずっと風が強いな」
長良「あ――――そうか。サイクリングロードは海を背にする形だから」
提督「そ。長良は分かるだろうが、アレを残り8キロだ」
長良「あっという間についちゃいますね。今から十分ぐらいで到着ですか?」
提督「……いや、出しても40キロ位だから」
長良「えー、せっかくいい追い風が吹いてるのにー」ブー
100: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 23:31:27 ID:7Qja5lQg
青葉「こ、この人……50キロぐらい出そうとしてましたよ」
大淀「やめてください。こちとら初心者なんですよ……というか提督! 40キロでも、私たちでは少々……」
提督「まぁまぁ、モノは試しだ。ほら、ギア上げて」
青葉「うー……そ、それじゃ試しに」カチカチカチ、ジャコンジャコンジャコン
大淀「わ、私も」カチチチチ、シュコココン
 サイクリングロードに入って大きく道幅が広がった。
 大きくギアを上げ、力強くペダルを踏み込んだ。すると、
青葉「ッ――――は、い! いです、これ!! え、なんで!?」
大淀「うそ、全然、楽ですよ!? え、だって調べた情報じゃ、こんな度出すのって凄く疲れるって……なのに、なんで!?」
 サイコンの示す度は42キロを示している。プロでもこの度を維持するのは30分程度と言われる度だ。
 しかし、青葉と大淀に疲労の色は皆無だった。
提督「追い風だ。今は後ろから風が吹いて、俺達の背中を押してくれている」
101: ◆B2mIQalgXs 2016/08/06(土) 23:54:10 ID:7Qja5lQg
長良「ホント、空気抵抗って馬鹿にできませんよね。全然使う力が変わっちゃいます。あー……やっぱりこのぐらいの度の方が落ち着きます……青葉さんも大淀さんもそうでしょ?」ニコニコ
提督(同意を求めんな。おまえのような初心者がいてたまるか)
大淀「」ウズウズ
青葉「」ウズッ
提督「(あ……いや、まあそうか。初心者だからな。落ち着くどころか、むしろどれだけ度出るのか試したくなるか)………いいよ。大淀、青葉、ちょっと本気で踏んでみ」
 その言葉が、引鉄だった。
大淀「ッ――――行きます。砲戦、用意……消し飛ばします。ふふ、うふふ、うふふふふふ」シャガッ
青葉「青葉も続きます……敵はまだこちらに気づいてないよ? 気づく前に終わらせちゃいましょう、フフ」シャゴッ
 笑みとは本来攻撃的なものである。彼女たちの笑みは、まさしくそれであった。
提督(あっ……出撃の時と同じ顔だ……なんつープレッシャー放ちやがるこいつら……イカン。俺も度上げよう)ジャココココン
 英断であった。先頭を走る提督が度を上げねば、恐らく衝突していたであろう。
102: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 00:03:59 ID:VTd3blqA
大淀「っお……おおおおおッ!!」グンッ
青葉「やぁああああ!!」グンッ
長良「やった! 私も行くよ!! ったぁああ!!」グググンッ
 全力での踏み込み。シッティングのままであったが、流石に艦娘の身体能力は伊達ではない。みるみる度が上がっていく。
提督(―――おお)
 その様子を振り返りながら見ていた提督は、思わず感嘆する。度に、ではない。
 彼女たちの表情にだ。
大淀「っ、は、はっ、はっ、はぁっ……!」
青葉「しっ、しぃっ、しっ……!!」
長良「あははっ、やっぱりきもちーーー!!」
 それを見て、提督は先ほど、出撃時の迫力を想起した己の認識を撤回する。
提督(イイ顔してんじゃん、おまえら)
103: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 00:10:54 ID:VTd3blqA
 出撃の時の気合の入った彼女たちとは違う。
 戦いに勝利し、喜んでいる時の彼女たちとも違う。
 寮で友人や姉妹と馬鹿話をしているときや、食堂で夕食やデザートを楽しんでいるときのような……心底楽しんでいる顔だった。
提督(やっぱりお前ら、戦ってるよりそういう顔してた方がいいよ。凄くいい)
 しみじみとそう思い――――我に返る。
提督「っと………おーい、大淀、青葉。飛ばしてるところアレだけど、ちょっとサイコン見てみ?」
大淀「え………ッ!? ご、じゅう、ごきろ……時55キロですか!? あ、でも、これ、流石に、つ、疲れっ! あ、我に返ったら、これ、マズいです、これ!」ゼイゼイ
青葉「こ、こんな、く……わぁ、わぁあああ!! な、なんですかこれっ! 青葉、こんな気持ちいい乗り物、乗ったことないです!! あ、でも息がッ! あっ、疲れ、あっでも足が止まらなっ」ハァハァ
長良(まだ遅いんだけど……言っちゃいけない空気だっていうのは分かる)
提督(帰り道が地獄と化すことは言わんどこ。向かい風の中をどう走ればいいのか、初心者が最初にぶち当たる鬼門の一つだ)
 ゆるゆると度を落としていく大淀と青葉に、提督はドリンクを手渡す。思い切り不満げな長良は無視した。
104: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 00:45:26 ID:VTd3blqA
提督「いいもんだろ」
青葉「イイ! やっぱり一台買ってください! 青葉、毎日乗ります! 大事にしますから!」
大淀「いいですこれ! 欲しいです! 買ってください、お願いします!」
 水分を補給し、呼吸を整え、ひと心地着いた青葉と大淀は、力強く答えた。
提督「うし。んじゃ次は……土手の上に上がってみようか。俺の前走っていいぞ」
青葉「え? は、はぁ……」クルクル
大淀「えっと、この坂を登ればいいんですよね?」クルクル
長良「何かいいものでも見れるんですか? 景色がいいとか!」クルクル
提督「まあ……な。上がったら一度止まって、前を見てみろ。俺にとっての、とっておきだ。歩行者や他の自転車に気を付けてな」
 先頭を走る提督が、スッと左側を開ける。
 長良と大淀、そして青葉の正面の視界が開けた。三人は坂道をするすると登り、土手の上へと到達する。
 そこには――――思いもよらぬ光景が広がっていた。
 求めていたもの。欲していたもの。どうしようもなく遠く感じたものが、そこにあった。
105: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 00:47:12 ID:VTd3blqA
https://www.youtube.com/watch?v=wBiiEEvQGjo
大淀「――――――」
青葉「――――――」
 言葉もなかった。ただ馬鹿みたいに口を大きく開けて、その光景を見やる。
 ただ、遠くが見えた。
 河川敷の土手の上から開いた景色には、人の営みそのものがあった。
 道行く老夫婦。自転車に乗る子供。ロードバイクに乗る夫妻がいた。
長良「―――――」
 長良もまた、息を呑んでいた。
 土手の向こう側、およそ数キロ先にある橋が見える。その先の橋も、更にその先も。
 そこには自動車が走っていて、更に向こう側には電車の路線がある。
 右手には河が広がり、河に面する野球やサッカーのグラウンドで、スポーツに興じる若者がいた。
 河向かいの陸地はゴルフ場だろうか。豆粒のように小さく見える中年男性が、へっぴり腰でスウィングしているのが見えた。
106: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 00:48:37 ID:VTd3blqA
 左手には、住宅地。一軒家があり、アパートがあり、高層マンションもある。
 せわしなく人が行きかう都会では見られない光景。
 鎮守府の中では実感できないもの。
 海の上では、今まで失われてきたもの。
 ―――それは、人の息吹だ。
 彼女たちが求めていたもの。欲していたもの。どうしようもなく遠く感じたもの。
 平和があった。
 平穏があった。
 人々の笑顔が、そこにあった。
107: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 00:50:01 ID:VTd3blqA
長良「綺麗………遠い。道が、遠くて、あんなに遠いのに、掴めちゃいそうで……」
 長良が感じたものは高揚。あれだけ広いと感じ、疲労困憊になるまで走った鎮守府でさえ、あまりにも狭かったことを知る。
 闘いの最中――――いつの日か――――。
 そう願った日は、今日だったのか、と。
 目の前に広がる光景に、思い知らされる。
 出撃や遠征の頻度が減って、暇を持て余すこの頃。それでも得られなかった実感。
 初めて実感を得た――――平和とは、こういうものではないのか、と。
 これからは、この光景を走れるのか。
 平和の中を、噛みしめるように。何処までも先へ。
 もっともっと凄い光景を見れるんじゃないか。
 それが、長良を高揚させた。
108: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 00:51:30 ID:VTd3blqA
大淀「あ…………そう、そうか。これが……」
 大淀が抱いたものは、実感。己が守り抜いたもの。
 なんのために人の身体を得てこの世に転生したのか。
 なんのために戦っていたのか。
 なんのために苦しんで、痛い思いをして、日々を戦い抜いたのか。
 その答えが、あった。
 ここに、あった。
 大淀は確信する。
 この光景の為ならば、戦い続けることができる。
 何年だろうと、何十年だろうと。
 ――――この光景を守るためならば。
 その実感が、確かに大淀の心にしかと根付いたのだ。
109: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 00:53:30 ID:VTd3blqA
青葉「青葉、青葉は………遠くに。もっと、もっと、遠くに、いっぱい、いろいろな、もの……古鷹さん、加古さん、ガサ……一緒、に」
 青葉を駆り立てるものは焦燥。
 世界には知らないことばかりだ。鎮守府からわずか数キロでこれだ。
 こんなにも人の生きるところがあることを、彼女は知らなかった。それは確かな喜びだった。
 苦しくて、痛くて、辛くて、泣きたいぐらいに怖くて、でも。
 ―――戦った意味はあったのだと、痛感する。
 カメラを持ってこなかったことを悔やんだ。
 心のファインダーが早く次の被写体を、と。
 瞬き、急かすのだ。
 欲望は果てしなく加する。もっと遠くへ。もっと高くへ。もっとくへ。
 それがままならない艦娘たる己の身に、焦燥を抱いた。
 もう戦いは終わったのに、この光景が無くなってしまうその前にと。
 これを失ってしまうのが、あまりにも怖かった。
110: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 00:56:15 ID:VTd3blqA
提督「………これをな、見せたかった。ここが人間の生きる場所だ。そしてこれからはお前たちが生きる場所でもある」
 背後から掛けられた声に、三人が振り返る。
 提督が立っていた。優しい笑みを浮かべて、長良と、大淀と、青葉の三人の顔を見つめている。
提督「お前たち艦娘が、守り抜いた人たちだ。掴みとった平和だ。
 これを守り抜いてくれたのは、お前たちだ。心から尊敬し誇りに思う。
 お前たちは、こんなにも凄いものを守ったんだ」
 長良はその言葉に、思わず込み上げるものがあった。大淀も同じなのだろう、唇の端を震わせて、瞳が潤んでいる。
 青葉は既に、ぽろぽろと涙を溢していた。
提督「平和な世だ。でも俺は軍属だ。何日先か、何ヶ月先か、何年先か……確約はできんが――――世界中のあらゆる美しいもの、必ずお前たちにみせてやる。約束するよ」
 そして堪えていた長良と大淀も、ついに決壊する。心の防波堤はあっけなく崩れ、透明なしずくがしたたり落ちた。
 だけどそれは、長良にとっても、大淀にとっても、青葉にとっても、嫌な涙ではなかった。
 悲しみの涙ではない、後悔の涙でもない、喜びの涙だった。
111: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 00:59:43 ID:VTd3blqA
長良「ッ………ふ、不意打ちは、ずるいでず……な、泣がぜないで、くださいよ………ッ」
提督「すまん」
青葉「う、う゛っ………わ゛ぁあああん………うわぁあああん……あおばは、あおばは……わぁああああん!!」
提督「ごめん」
大淀「ほ、ほんとに、お上手なんですから、提督はッ……もう、眼鏡が、曇っちゃいました」
提督「ごめんな」
 三者三様。
 長良は押し殺すように泣き、青葉は人目もはばからず大声で泣きじゃくり、大淀は静かに震えて涙を溢す。
 誰もが嬉しかった。なのに、涙が止まらない。提督から貰える称賛も、旗艦の栄誉も、MVPの誉も。同じ嬉しさに違いはなかっただろう。
 だけど、それは実感がなかった。
 終わりの見えぬ闘いの最中、それでもいつか、いつか、と。
 そして平和になったと大本営から、唐突に告げられる。
 平和は一体いつやってきた? それはどこだ? どこに行けば、それが分かるのか?
 多くの艦娘たちがそれを、結果を知りたがっている。
112: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 01:00:33 ID:VTd3blqA
 その実感を、確かに得た。
 これが、成果だと。目の前のものを守った。それこそが最大の戦果なのだと。
 あまりにも、嬉しかったのだ。こんなにも素晴らしいものを守れてきたことが誇らしく、辛かった日々は決して無意味じゃなかったんだと実感させられて。
 嬉しくて嬉しくて嬉しすぎて、涙が止まらなかった。

……
………
113: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 01:12:36 ID:VTd3blqA
………
……

 後日、提督は大淀と青葉から怒られていた。
大淀「もう!!」
青葉「司令官のばか!!」
提督「だから、悪かったって……まさかあんなに大泣きするとは思わなかったんだよ」
 その後、涙が止まらず、サイクルショップに行くどころではなくなってしまった四人は、鎮守府へとんぼ返りすることとなった。
 ぽろぽろと涙を溢しながらロードバイクを走らせる美少女が三人に、その先頭でなんともいたたまれない顔をしている男が一人。
 どうあがいても人目に付いた。
 しかも提督は鎮守府周辺では非常に有名人だったことが災いした。
子供A『あっ、てーとくがかんむすのねーちゃん泣かせてる!!』
子供B『いーけないんだー、いけないんだー!』
子供C『なーがもーんに言ってやろー』
提督『やめろ馬鹿殺す気か』
114: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 01:15:23 ID:VTd3blqA
 そんなやりとりはまだ可愛い方であり。
老婆A『おや、あんたこんな別嬪さん三人も泣かせて……罪な男だねえ』
提督『違いますお婆さん。そういうんじゃないです』
老婆B『知っとるぞ、よんぴーってヤツじゃろ? 若いってのはええのう……怖いもの知らずじゃなあ。刺されんようになあ』
提督『いえ、だからそういう関係では……あの、道を開けてほしいというか……違うんで、お引き取り下さい』
老婆C『ああ、言わんでええ言わんでええ……男ってのはいつの世もそうやって女を侍らそうとする願望があるでな。で、具合はどうだったんだ坊や?』
提督『息を引き取るかババア?』
 提督がキレかけたり。
憲兵A『おやおや……』ヒソヒソ
憲兵B『あらあら……』ヒソヒソ
憲兵C『まぁまぁ……』ヒソヒソ
提督『……こ、こいつら』
 ようやく鎮守府に戻ってみれば、憲兵たちが何やら泣きじゃくる艦娘と提督の顔を交互に見ながらヒソヒソ話をされたりと、散々であった。
115: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 01:23:17 ID:VTd3blqA
大淀「て、提督があんなに泣かすから……ロードバイクも買えませんでしたし、妙な噂も流れるし……もう、知りません!」
青葉「そうです! 酷いです!」
提督「いや、だからカタログ持ってきたろ……」
 その後、提督は鎮守府にも居辛く、一人でサイクルショップに向かった。
 店員は同伴するはずのもう一人がいなかったため怪訝に思ったようだが、とにかく電話で伝えられていた通りにカタログを手渡した。
 そして帰ってきてみれば――――地獄へようこそな状況であった。
明石『あのー提督……なんか大淀が凄い泣きじゃくって帰って来たんですけど』
提督『えっ、そ、それは……』
衣笠『提督、ちょっと、こっち……』
提督『衣笠? なんで……なんでそんな怖ーい顔で手招きすんの……ちょっと、やだ……怖いんだけど……』
五十鈴『ねえ、ウチの長良に何したの? ねえ、貴方……ねえ、何したの?』
提督『い、五十鈴、それ、俺のバット……なんで今持ってきたの、ねえ……?』
 提督はケツバットの刑に処された。その後に誤解は解けたが、既に打ち据えられたケツの腫れは引かない。提督のケツは犠牲になったのだ。
116: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 01:46:23 ID:VTd3blqA
大淀「まあ……もう誤解と伝わってますし、ロードバイクも注文できましたし……でも」
提督「ああ、その……分かってるよ」
 執務室の隅には、真紅のロードバイク、ピナレロF8が寂しげに鎮座している。
青葉「そうです! どうすんですか、提督! 長良ちゃんがカタログ読んで、自分のロードバイクがとんでもなく高価だって知ってしまって!
 提督に返した後、ショックと罪悪感で寝込んじゃいましたよ!?」
提督「………うん。だからね、それは今日解決す―――って、来たか!!」
青葉「えっ、来た? 何が……え、まさか!!」
 執務室の窓から、鎮守府入口へ入っていくトラックの姿を確認し、提督は立ち上がった。
 痛む尻を抑えながら、階段を下り――――トラックの停まる軽巡寮の前へと向かう。
 提督は運転手との挨拶もそこそこに、受領証のサインを終えるや、すぐにそれを持って軽巡寮に駆けこんだ。
提督「長良ーーー!!」
長良「え、司令官……? あ、や、やだ……!!」ダッ
提督「逃げんな! おまえにロードバイクのプレゼントだ!!」
117: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 01:47:13 ID:VTd3blqA
長良「えっ……!?」
 ピナレロF8のカラーリングは872 Rhino Redが、そこにあった。
 提督と同じカラーリングに、コンポーネントまで統一。長良に適したフレームサイズに変更されている以外は、提督が使っているのと遜色がない、ピカピカ新品のロードバイクだ。
提督「俺のバイク、好きだったんだろ。同じもの買った! こいつに乗れ! 俺と御揃いだ!!」
長良「し、司令官と、御揃い……! あ、で、でも、こ、これ………でも、私……」
提督「気にすんな! むしろ俺は嬉しいぞ! 俺と同じセンスで、同じモンを気に入ったんだろ!」
長良「う、うう……」
提督「お前に乗ってほしいんだ。おまえは凄いスプリンターだ。平地の巡航もできる、すげえ乗り手になる!!
 世界を制すバイクこそ、お前に相応しい!! こないだの侘びも兼ねて、お前にプレゼントしたい!!」
長良「……………あ、あはは。なんだか、落ち込んでたのが、馬鹿みたいです」
 らしくないハイテンションで、ゴリゴリに押し切ろうとしてくる提督に、長良は苦笑めいた笑みを浮かべて、今度こそ笑う。
大淀「わ、私のも、来てる!!」
青葉「青葉のバイクもーーーー!! 待ってたんですよーーー!!」
118: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 01:50:12 ID:VTd3blqA
天龍「オ、オレのも……いやったあああ! 来たぜ! オレの、オレだけの艤装!! スコットのロードバイク来たぜぇええ!! 龍田ぁ! おまえのもーーーー!!」
龍田「あらぁ、待ちかねたわ〜〜〜。これで天龍ちゃんや第六駆逐隊の子たちとサイクリングができるわね〜〜〜♪」
長良「………司令官、ごめんなさい。あと、ありがとうございます……私、これ、大事にしますね。ピナレロF8……すっごく大事にしますね!!」
提督「ああ、また外にサイクンリングに行こう。色んな世界、俺と一緒に見よう! な!!」
長良「はい、司令官!!」
 満面の笑みを浮かべる長良。まだ瞳の端に涙のしずくが残っていたけれど、それはもう喜びに変わっていた。
【2.ロードバイクを買いに行こう!】
【失敗!】
【2.ロードバイクを手に入れよう!】
【大成功!】
【続く】
119: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 02:00:08 ID:VTd3blqA
https://www.youtube.com/watch?v=7VzzpzGleHI
※この作品のコンセプトは>>1の好きなモン全部詰めるだけ詰める
 次回はレース! 度と聞いては黙っていられない駆逐艦がいる!
 最を争うレースの行方、勝利の女神がほほ笑むのはどちらか!
 次回ロードバイク鎮守府の日常、
 【3.ロードレース、開始!】
 世界最へと挑む者には、相応しいバイクが存在する。
 次回投下日、未定!
122: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 21:53:35 ID:VTd3blqA
※忘れてた設定集をどーんと投下します
123: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 21:55:52 ID:VTd3blqA
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・長良型軽巡洋艦:長良
【脚質】:スプリンター
 ―――よーし、長良もF8も、コンディションさいこーーー!!
 尋常ならざる脚力は天性のものであり、スプリンターとして抜群の才能を有する。
 登坂力もそこそこあるオールラウンダー寄りのスプリンターで万能性が高い。
 平地での巡航度もケタ違いで、回して進むのと踏んで進む両方が得意という天性の脚を持つ。
 今後のトレーニング次第で脚質が変わる可能性も。
 なおスピード狂のもよう。体力のお化け。休むとすぐ回復する吸血鬼体質。多分ヘマトクリット値やばい。
 頭を使うのは大の苦手らしく、腹芸や駆け引きはてんでダメだが、超体育会系でメンタル強いので敵からすると超厄介。
 空気が読めないのは弱味でもあり強みでもある。
【使用バイク】:PINARELLO DOGMA F8 Carbon T11001K(872 Rhino Red)
 長良のバイクは、イタリアのピナレロが誇るフラッグシップ、オールラウンドエアロロードのドグマF8だよ!
 元々は司令官のものに乗っていたんだけど……その、色々と……申し訳なくて。
 でも、でも………司令官がサイズ違いの、全く同じF8をプレゼントしてくれたんだ!
 フレームサイズは元々の長良の適正サイズで、ますます乗り心地と加が良くなっちゃった!
 しかもカラーリングも装備も、司令官と御揃い! やったあ!
 だからこそ……長良、このバイクならどこまでだって走り抜けて見せます!!
 司令官は長良の脚に――――ついてこれる?
********************************************************************************
124: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 21:56:29 ID:VTd3blqA
【2.5 ロードバイク図鑑そのいち、なのです!】
※現時点で作中に登場してロードバイクを得た艦娘たちのロードバイクや脚質といった設定集と、番外的な小話
 【注意】どっちかといえば設定厨向きで、内容も厨二成分が過分に含まれます。
  読まなくても本編を読むのに差し支えはありませんが、
  むしろ読むと本編を読む上で一部展開が予想できそうなネタバレがあるかもしれません。
  ……君のような勘のいい提督は(こんな設定集は)嫌いだよ。
125: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 21:57:06 ID:VTd3blqA
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・長良型軽巡洋艦:長良
【脚質】:スプリンター
 ―――よーし、長良もF8も、コンディションさいこーーー!!
 尋常ならざる脚力は天性のものであり、スプリンターとして抜群の才能を有する。
 登坂力もそこそこあるオールラウンダー寄りのスプリンターで万能性が高い。
 平地での巡航度もケタ違いで、回して進むのと踏んで進む両方が得意という天性の脚を持つ。
 今後のトレーニング次第で脚質が変わる可能性も。
 なおスピード狂のもよう。体力のお化け。休むとすぐ回復する吸血鬼体質。多分ヘマトクリット値やばい。
 頭を使うのは大の苦手らしく、腹芸や駆け引きはてんでダメだが、超体育会系でメンタル強いので敵からすると超厄介。
 空気が読めないのは弱味でもあり強みでもある。
【使用バイク】:PINARELLO DOGMA F8 Carbon T11001K(872 Rhino Red)
 長良のバイクは、イタリアのピナレロが誇るフラッグシップ、オールラウンドエアロロードのドグマF8だよ!
 元々は司令官のものに乗っていたんだけど……その、色々と……申し訳なくて。
 でも、でも………司令官がサイズ違いの、全く同じF8をプレゼントしてくれたんだ!
 フレームサイズは元々の長良の適正サイズで、ますます乗り心地と加が良くなっちゃった!
 しかもカラーリングも装備も、司令官と御揃い! やったあ!
 だからこそ……長良、このバイクならどこまでだって走り抜けて見せます!!
 司令官は長良の脚に――――ついてこれる?
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126: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:00:00 ID:VTd3blqA
※提督とモデルからカラーリングからコンポから何から何まで御揃いということで、一部の提督ラブ勢がややざわめきだすのは別の話。
 提督はケツバットやら鎮守府内の風紀やらでてんやわんやでそこまで考えが及ばないぐらい切羽詰まっていた。
 純粋に御揃いが羨ましく思ってる子もいるっぽい?
 ただし、脚質も相まって(F8はオールラウンドだが、どちらかと言えば瞬発系強い人向き)同じものを欲しがる艦娘もいるかが。
 艦娘の多くがロードバイク≒艤装と考えてる節があり、そして砲や魚雷と違い『提督と同じものを使える』というのはある種の喜びを感じるようであるクマ。
 なお長良は提督ライク勢。今は。(今後は変わるとは言ってない)
127: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:01:17 ID:VTd3blqA
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大淀型軽巡洋艦:大淀
【脚質】:なし(ポタリング派)
 ―――優勝、おめでとうございます。
 すっかりロードバイクの魅力にとりつかれてしまった大淀。
 非番の時はロードバイクで街乗りしたり、明石と一緒に整備をしたりと、毎日を楽しんでいる。
 行動範囲が広がって、街中で思わぬ発見をしたり、平和になった街並みをゆっくりと眺めながら走るのがお気に入りのようだ。
 後にロードバイクに乗るようになった足柄・霞・清霜とサイクリングに出かける姿をときどき目撃するようになった。
 これまた後に開催されるレースではときどき解説や、裏方での補給・設営作業に従事するようになる。
 たまに足柄に借りたレース仕様のバイクでガチ走りする。たまたま目撃した提督曰く、
 『ガチ勢になったらなかなか高いポテンシャルを秘めてそうなんだけどなぁ。でも楽しんでるようで何より』とのこと。
【使用バイク】:TOMMASINI SINTESI 8Z(ブルー)
 イタリアのハンドメイドスチールフレーム、トマジーニ・シンテシーです。
 その……最初は提督と同じ、カザーティのピエトロ1920にしようと思っていたんですが、えっと……。
 …………私には、青が似合うって、前に言ってくれたから…………。
 あ、いえ、ふ、深い意味はないです、ええ!!
 こ、これ、実に乗り心地がいいんですよ、ええ! 街乗りもちょっとしたサイクリングでもいい感じですし。
 華やかな外見もとても気に入っています。
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128: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:02:20 ID:VTd3blqA
※いうまでもないですが、このおおよどさんはていとくらぶぜいです
 あとポタリングというのは、『あちこちを気楽にぶらつくこと』の意。
 自転車で言う散歩(サイクリング)のこと。
129: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:03:37 ID:VTd3blqA
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青葉型重巡洋艦:青葉
【脚質】:なし(ポタリング派)
 インプレ(感想)も解説も実況も、青葉にお任せ!
 お祭り事が大好きな青葉は、レースにおける解説・実況枠。
 でも時々は自分でもロードバイクに乗って、サイクリングを楽しむ。もちろん衣笠や古鷹、加古も一緒。
 外出先でいっぱい写真を撮ったり美味しいもの食べたりと、とっても楽しんでいる。
 また、ちょくちょくサイクルショップの試乗会に参加しては、試乗したバイクのインプレッションを書き起こし、
 鎮守府かわら版に掲載したりしている。
 素人的な感想ではあるが、着眼点が面白いと提督を始め他のガチ勢、ポタリング派からもなかなか好評のようである。
 後にロードバイクに乗るようになった夕張も色々と乗り比べるのが好きであったため、二人は意気投合。
 フレームを始め、各種ホイールやパーツの性能をあれこれ試してみたりと、ドツボに嵌っていくのであった。
【使用バイク】:PANASONIC FRT09(AURORA OS-PV/パープル×ブルー)
 司令官……青葉、とうとうロードバイクデビューです!
 青葉のロードバイクは、司令官のチタンバイクと同じやつにしちゃいました! 色違いですけど!
 あんまり見ない色でしょ? でも青葉に似合ってませんか? でしょー! えへへ!
 それとほら、ここ! トップチューブの左側に『AOBA』ってロゴを入れてもらったんですよ!
 え? 『WARE-AOBA』じゃなくていいのか……って、司令官! 青葉、怒りますよ! ぷん!
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※あんまり問題を起こさない青葉。面白記事を書くのでかわら版や新聞の評判は上々。
 パソコン業務もなかなかく、事務職が得意。当鎮守府においては提督ライク勢。
130: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:05:36 ID:VTd3blqA
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天龍型軽巡洋艦:天龍
【脚質】:オールラウンダー
 ―――天龍様のお通りだ! よっしゃあ!
 元々の脚質はスプリンターだったが、すぐに山岳を鍛えてオールラウンダーに転向。
 登坂・平地巡航・ダウンヒル・アップダウン・アタック・駆け引き、全てにおいて世界水準軽く越えた乗り手へと成長。
 とある理由により、大戦時から当鎮守府の駆逐艦や軽巡から非常に慕われている。特に睦月型や朝潮型、深雪や磯波。
 軽巡では木曾や北上、大井が姉以上に慕っている。球磨と多摩はぐぬぬ。
 提督曰く、非常に華がある、とのこと。人の目を惹きつけてやまないらしい。
 そんな天龍がロードレースにおいても注視を浴びる存在になるかは、まだ誰も知らない。
 鎮守府最古参の軽巡。着任最初期に鎮守府に着任した、提督にとって初めての軽巡。
 ずっと提督と鎮守府を支え続けてきたという自負と誇りは、彼女にとってあまりにも重い。
【使用バイク】:SCOTT FOIL PREMIUM(2016ver)
 コイツの名はフォイル・プレミアム……フフ、怖いか?
 え、怖くない? そ、そっか……世界水準軽く超えたバイクなんだぜ? 見る目ねえなぁ。
 お、いいバイクだってことは知ってるって? だろ! いいよな、こいつ! 軽くてグングン進んでくれるんだぜ!
 なあ、今度一緒に遠征しようぜ! もちろんロードバイクでだよ! すげーウマい店を見っけたんだよ。な?
 ……へ? い、いや、その、二人きりとかじゃなくてな、その……龍田や駆逐艦たちと一緒にさ、な?
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※>>1のかんがえたさいこうにかっこいいてんりゅー。主に作中で。
 なお提督に対しての思いは上手く言葉に出来ないもよう。
131: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:07:57 ID:VTd3blqA
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天龍型軽巡洋艦:龍田
【脚質】:ルーラー(スピードマン)
 ―――あら〜? くてもう着いてこれませんか? うふふっ。
 平地の高巡航においては天龍以上。天龍に付き合って様々な地形を走り込んだため、山岳もそこそこイケる。
 きわめてオールラウンダー寄りで、訓練次第で転向もできるが、あくまでルーラーとして天龍のアシストをしたいらしい。
 駆け引きと威圧感がヤバい、とは相手チームの駆逐艦の言。誰の許可を受けて私と天龍ちゃんの前を走っているのかしら〜?
 天龍ほどではないにせよ、多くの駆逐艦から慕われている。時々怖いという噂。
 天龍のことが大好き。提督に対しては過去の出来事から複雑な思いを抱いている。
 天龍の自覚のない想いを天龍自身より先に察してしまった。
 まだ未コンの提督をギラついた目で見る他の艦娘達より先んじて天龍をケッコンさせられるようあれこれ企んでいる。
【使用バイク】:SCOTT FOIL PREMIUM(2016ver)
 うふふっ、天龍ちゃんと御揃いなんだ〜♪ いいでしょ〜?
 翼断面の形状からお察しの通り、すっごく高性能なエアロロードなのよ?
 とても軽くて坂道だってすすいのすいなんだから。
 ところで提督? いつになったら天龍ちゃんとケッコンしてくれるのかしら〜? 私、お願いしたわよね?
 ……え? 誰ともケッコンする気はない? あー、ふーん、そう。そうなんだ〜?
 じゃあ―――見る目の無い節穴のようなその両目、存在する意味はないわよね? 
 
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提督「所詮はカッコカリ。深い絆などとうに天龍との間に存在している。おまえともだ、龍田」
龍田(や、やりづらいわぁ。ホントこの子やりづらいわぁ……)
132: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:11:36 ID:VTd3blqA
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特?型(暁型)駆逐艦:暁改二
【脚質】:オールラウンダー
 ―――暁よ。一人前のオールラウンダーとして扱ってよね!
 暁型の中で、響と共に努力して登坂を繰り返した。
 元々TTスペシャリストだった脚質が開花し、オールラウンダーへ成長。
 登坂が多かろうと平地が長かろうとアップダウンが沢山あろうと、
 どの区間においても上位に喰らいつけるポテンシャルを持ち、エースとしての能力が高い。
 『一人前のレディはみんなオールラウンダーでしてよ』と騙された結果ガチのオールラウンダーになる。
 誰に騙されたかは推して知るべし。なおほざいた謎の航巡Kはポタリング派である。許すまじ。
 なお、レース中はかなり目ざとく周囲を見ており、アタックチャンスを見逃さない強かさもある。(ヒント:索敵値)
【使用バイク】:PINARELLO MARVEL 940 Violet
 イタリアの名門・ピナレロのマーベルよ。一人前のレディに相応しいバイクよね!
 いずれは本格的なチームレースにも出てみたいけれど、第六駆逐隊や天龍さんたちと一緒にサイクリングも楽しみたいかなって。
 明日はちょっぴり遠出するんだって! 楽しみだわ! わくわく。
 えーっと………と、ところで、し、司令官? 司令官と私のバイクって、同じブランドのバイクなのよね?
 そ、そう、ふーん! し、知らなかったわー。選ぶときはそんなの知らなかったわー。ほ、本当よ?
 ま、まぁ、司令官も一人前の『じぇんとぅるめぇん』として、いい趣味だと思うわよ。うん。ピナレロはいいわよね。
 ………ってぃ! 響ったら、なんで笑ってんのよ、もー!! ぷんすか!!
********************************************************************************
※いちにんまえのれでぃにはぴなれろやこるなごがふさわしいとおもいました(こなみかん)
 提督への思いはやや父性や兄のような頼りになるところに甘えたい気持ちが半分と、
 男の子らしいところにたまにドキドキするという淡いものが半分
133: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:15:37 ID:VTd3blqA
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特?型(暁型)駆逐艦:響(Верный)
【脚質】:クライマー
 響だよ。ヴェールヌイ? ううん、響さ。皆が響って呼んでくれるから………私は響だ。
 脚質はクライマーだよ。山岳なら暁にだって負けないよ。でも平地は苦手だから……置いて行かれるのは、寂しいな。
 え……皆、待っててくれるのかい? 優しいんだな……ありがとう。
 ―――………計画通り(ハラショー)だ。
 これで体力を温存できる。後は山岳地帯に入ってから皆をチギって置き去りにすれば、私の勝利は揺るがない。
 勝つためなら同情を引くぐらいするさ。お金に出来ない価値とはすばらしい。何一つ失うことなく勝利という結果を得られる素晴らしい錬金術だ。
 君もそう思うだろう? 何せ不死鳥並の山岳登坂力に、信頼(仲間)という名の重荷を捨て去った今、私は最強だからね。
 酷い? 卑怯? 冷酷や卑劣と言ってほしいね、より格調高く。司令官の膝の上でナデナデしてもらうのは私だけの特権だ。誰にも渡さない。
 ―――といった具合でなかなかにブラックな響である。司令官の悪いところを真似した結果こうなった。司令官は艦隊戦やレースでは鬼畜そのものである。
【使用バイク】:RIDLEY HELIUM SL
 ベルギーのメーカー、リドレーはヘリウムSLだ。
 自転車大国ベルギーにおいて屈指の技術力とセンスを備えた、『信頼』できるメーカーなんだ。
 ん? 姉妹の中ではフレームもコンポもガチガチのレース仕様だって? そりゃあそうさ。やるからには競技でも勝つさ。
 まして艦隊戦とは違い、ロードレースには『艦種』に寄らぬ『脚質』、そしてチームにおける役割分担が明確だ。
 艦種という絶対的なスペックに寄らない、『努力』が結果を裏切ることのないスポーツ。なら私は勝つために最善の努力を続けるよ。
 『不死鳥』と『信頼』の名はロードレースにおいても伊達じゃないことを証明するよ。
 司令官の育てた私が弱いなんて、そんなことは有り得ないよ。貴方の『信頼』を裏切るなんて、あってはならないことだ。
 ………? 司令官。なんだい? どうして頭を撫でるんだい?
 ……ううん、嫌じゃないよ。………司令官の手は、温かいね………本当は、不死鳥のままで、いたかったよ。
 それでもまだ、私を『響』と呼んでくれる姉妹や仲間達、この鎮守府の皆が、私は大好きだ。もちろん司令官のことも、だよ。
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134: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:16:25 ID:VTd3blqA
※なおレースでは姉妹は勿論仲間という名の信頼はドブに捨てるもよう。勝てばいいのさ、勝てばね。
 信頼とは無形のものである(虚無感) 当鎮守府における提督に父性を求めている勢の一人。
 リドレーのフェニックス(不死鳥)に乗せるか最後まで迷ったが、名前的に山岳において無敵になるのでやめた。多分以下のような感じになる。
響「そう、フェニックスは何度でも甦るのだから!!」アラブルフシチョウザノポーズ
時雨「チートはよくないよ、響」
響「そのペダリングはもう見た! このフェニックス響、一度見たペダリングは二度と通じない」
雪風「(そういう競技じゃ)ないです」
響「受けろ、フェニックスのはばたきを――――鳳翼天翔――――!!」
妙高「ぐわぁああああ!!」
初風「妙高さん、ふっ飛ばされた!」
響「ダスビダーニャ、妙高=サン」
提督「響、反則行為で失格」
響「(´・ω・`)」
 フェニックス・響の語呂が良すぎてやばい
135: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:17:07 ID:VTd3blqA
雷・電「やっぱり来てくれたのね、お姉ちゃん!」
 セルフ腹筋崩壊に陥りそうだ
 鳳凰幻魔拳の一撃は全ての艦娘たちに己が軍艦だった頃の前世の悲惨な光景を垣間見せ、ハンガーノックに陥れる。
 時雨にはこうかばつぐん。
 特に雪風の場合は今まで見届けてきた艦隊の沈没シーンが勢ぞろい。
 これには流石の雪風もレ○プ目で泣く。
 というわけでボツにしたんだ。すまんの。
136: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:18:00 ID:VTd3blqA
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特?型(暁型)駆逐艦:雷
【脚質】:パンチャー/ヒルクライム寄り
 ―――パンチャー? 私がいるじゃない!
 細かいアップダウンを迅雷の如き度で駆け抜ける高い瞬発力が強み。山岳強めのパンチャー。
 傾斜の緩い坂であればスプリント勝負もできる。
 ―――この雷様に坂で勝てるとでも思ってんのかしら?
 逃げ集団に入れれば優勝も狙っていける。
 ―――もーっと私に頼ってもいいのよ!
 でも平地での高巡航は苦手で、響と同じくお荷物になりがち。
 ―――お荷物だなんてひどーい!
 いずれにせよとても頼りになる雷である。
 ―――えっと、あの、司令官、聞いてる? 
【使用バイク】:ANCHOR RS9(エッジイエロー)
 へ? 気づかなかったの? ひどーい!!
 って……ごほん。雷のバイクはアンカーのRS9よ! 雷にぴったりのバイクでしょ?
 だってほら、アンカーって錨(いかり)って意味よ! いっつも私が手に持ってるじゃない!
 色はカラーオーダーでイエローにしたのよ! ハンドルバーテープもイエロー!
 こういうこだわりって大事よね。司令官もそう思うでしょ? うんうん、さっすが司令官、分かってるわね!
 このバイクで、レースじゃガンガン勝ちに行っちゃうんだから、期待して見ててね!
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137: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:23:24 ID:VTd3blqA
※錨(アンカー)を手に持つ雷は、最初からアンカーのバイクに乗せることに決めてた。
 提督には頼ってほしいという母性を出すも、結局父性で甘やかされてしまう現状から、
 徐々に提督ラブ勢になりつつある
138: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:25:40 ID:VTd3blqA
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特?型(暁型)駆逐艦:電
【脚質】:ルーラー
 ―――電の本気を見るのです!
 特?型はそれぞれの脚質が異なる。長女から順にオールラウンダー・クライマー・パンチャーと来て、
 電は平地における高巡航を始め、仲間の牽引やサポートが得意な典型的ルーラー。
 チームとしてはなかなか役割分担が揃っている。
 なお比較的ガチ勢の姉三人と比べ、本人はポタリング派であるため、電の技量はそこまででもない。
 実はルーラーは『ルーラー抜きのチームでは絶対に優勝できない』と言われるほどの超重要ポジションだったりするのだが……。
 なお深雪に自分の前を走られることを極端に嫌がる。深い意味はない。
【使用バイク】:ANCHOR RS9(エッジイエロー)
 雷ちゃんと御揃い、なのです! かっこいいのです!
 レースでの競争もいいものですね。同じ争うにしても、沈んじゃったりする戦争は、もうこりごりですから……。
 あっ、はわわ、すいません、しんみりさせちゃいましたね。
 電はこのロードバイク、好きですよ。温かい街の風、優しい海の風、柔らかい山の風……お気に入りなのです。
 レースでは精いっぱい頑張りますので、見ててほしいのです、司令官!
 電の本気をみるので――――はわっ!? み、深雪ちゃん! い、電の前を走っちゃダメなのです!
 あ、あぶないのです!! もうぶつかりたくないのですぅ!!
 
********************************************************************************
※ぷらずまだと思った? 残念! 可愛い電ちゃんでした!
 提督への感情は複雑な信頼と、頼りになるお兄ちゃんのような安心感が混ざったような色
139: ◆B2mIQalgXs 2016/08/07(日) 22:27:51 ID:VTd3blqA
※こんな感じの設定集。なお艦娘160名中、半分は書ききった。
 なかなかこれがキツい
 次の投下は未定ですが、多分月末までにはイケると思う思いたい駄目だったら本当にごめんなさい。
150: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:27:11 ID:TOOOYOK6
【3.ロードバイクを選んでみよう!〜他短編〜】
 長良が提督から改めてロードバイクをプレゼントされてから、一週間が経った。
 長良はご機嫌だった。
 毎日のように鎮守府敷地内の道路を、時間が許す限り走っている。悪天候の時は一日ブルーな気分になることもしばしばだ。
 以前提督が言及した通り、鎮守府内の道路では物足りなくなってきている。そんな時は、
長良「司令官! 長良、また外を走りたいです!」
提督「いいぞ。明日あたり、ちょっと山の方まで遠出してみるか?」
長良「やったー!」
天龍「オレもー」
龍田「私もー」
暁「にぎやかね!」
響「楽しくなりそうだね」
雷「お弁当作ろうかしら?」
提督「いや、せっかくだしメシ食いに行こう。ここから20キロぐらいサイクリングロード走ったところに、ロードバイク乗り御用達の店があるんだよ」
151: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:28:39 ID:TOOOYOK6
電「どんなお店なのです?」
提督「天丼屋」
天龍「お、いいねえ」
青葉「なになに? 美味しそうなもののお話ですか? 青葉もご一緒させてくださいー!」
大淀「明日のオフですか? よろしければ、私もご一緒しても?」
提督「もちろん」
 そうしてオフの日には外出申請を出し、河川敷のサイクリングロードや内地の山々、市街地など、色んな所を提督らと共に駆けまわる。
 当然、他の長良型にとっては面白くない。彼女たちは長良以外が、いわゆる提督ラブ勢であった。
五十鈴「………」
 提督への気持ちを、隠しているつもりの者が一人。
名取「………」
 提督の前では緊張のあまり混乱してしまう者が一人。
152: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:30:10 ID:TOOOYOK6
由良「………」
鬼怒「………」
 そもそも隠そうともしない者が二人。
阿武隈「………」
 不器用ながらも近づいて気を惹こうとする者が一人。
提督(視線を感じる………!!)ゾクッ
長良「?? 司令官、どうしたんですか?」
天龍「顔色悪いぜ?」
大淀「体調を崩されているのでしたら、また後日にでも……」
提督「いや、ありがとう。でも大丈夫だ。明日が楽しみだな」
 提督が共にツーリングに行くのは、長良だけではないのが幸いなのか不幸なのか。
 天龍や龍田、第六駆逐隊の暁型四姉妹も同様だ。ちょくちょく提督のところに顔を出しては、アドバイスを受けている。
153: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:30:53 ID:TOOOYOK6
 感じたことのない快感、度、風の感触、その全てを全身で楽しんでいる。
 ――――平和を満喫している。
 艦娘とは軍人だ。任務が皆無というわけでもない。
 しかしアジア圏内の深海棲艦をほぼ壊滅にまで追い込んだ結果、任務は減り、代わりに待機時間や自由時間は増えている。
 激動の時代が幕を下ろし、平穏な時間が戻った――――艦娘達にとっては、初めての平穏である。
 その平穏な時間を、提督と共に過ごしたいという艦娘は少なからず存在する。
 長良型もそうであった。しかし、
五十鈴(………誤魔化せない。ダメだわ。欲しい。あのロードバイクってやつが、欲しい)
 五十鈴をはじめとする、長良を除いた長良型軽巡もまた、ロードバイクを欲した。
 当然と言えば当然だった――――毎日のように長女がロードバイクを物凄い度で乗りまわしては、楽しげに笑っている。
 毎日くたくたになるまで走り回り、自室に戻ってからも宝物を扱うようにロードバイクを洗い、ホイールを磨き、チェーンを洗浄し、甲斐甲斐しく整備する。
 ロードバイクに乗ってないときはロードバイクの雑誌やカタログを読みながら新しいパーツやウェアを楽しそうに吟味していたり、パンク修理の練習をしたり、提督から借りたらしいヨーロッパのロードレースのDVDを鑑賞している。
154: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:31:40 ID:TOOOYOK6
長良「えへへ」
 長良の表情から笑みが絶えることは無かった。長良型の妹たちは、最初は微笑ましい表情でその様子を見ていた。
 己の艤装を整備するときだって、走り込みで自己ベストタイムを更新した時だって、長良があんなにも楽しげな表情をしていたことは無い。
 よほどうれしかったのだろう、と、率直に長良の喜びを祝福していた。していたのだが。
五十鈴「………」チラ
 談話室のソファに深く腰掛け、ファッション誌を手に持つ五十鈴の視線は、ちらちらと部屋の片隅へと向けられている。
 そこには天龍姉妹や暁ら第六駆逐隊と共に、レースのDVDを大型TVで鑑賞する長良の姿があった。
 目をキラキラさせて食い入るようにレースDVDを観る長良たち。
 手に汗握って鑑賞する彼女たちは、心底楽しそうだった。
五十鈴「………(これはちょっと……ううん、かなり……欲しいかも)」チラチラ
阿武隈「………(わぁ、坂道をあんなにスルスル登って……苦しそうだけど、それ以上に楽しそう)」ソワソワ
由良「………(凄い観客……あんなに応援される中を注目されて走ったら、とっても気持ちいいんだろうね。ねっ)」ムズムズ
155: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:32:27 ID:TOOOYOK6
 レースの模様を興味深そうにチラ見するのは五十鈴だけではなく、阿武隈や由良、そして、
鬼怒「………(鬼怒も乗りたい鬼怒も乗りたい鬼怒もロードバイク欲しい欲しい欲しい長良お姉ちゃんだけズルい鬼怒も欲しい欲しい欲しいったら欲しい)」ガタガタガタ
 特に鬼怒などは長良に次ぐ鍛錬マニアであり、初めて長良がロードレースを駆っていた時から好奇心が膨れ上がる一方だった。
 未だ跨ったことすらない状態でコレである。
 日々膨れ上がる物欲の波動に目覚めかけている鬼怒。そして、
名取(わぁー、いろんな自転車があるんだぁ……目移りしちゃうなぁ。あ、これ可愛い……こっちのカッコイイのも……うーん、迷っちゃう)
 一人、長良の持ってきたカタログの様々な自転車のフレームを見て、わくわくを隠せない名取。
 当然姉妹たちは興味を惹かれる。長良型は長良を筆頭に、結構なアウトドア派が多く、スポーツに対する興味が大きい。
 名取は比較的インドアであったが、日常的にランニングやトレーニングを行うなど、運動が生活の一部に染みついている。
 そんな長良姉妹は、当然のように一つの結論に至る。
 ふと気づいたのだ。モヤモヤした気持ちの正体、それは。
156: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:33:06 ID:TOOOYOK6
 ――――そんなに楽しそうなものを、どうして長良(お姉ちゃん/姉さん)だけ!!
 ことさら鬼怒は激おこであった。その名の通り顔を真っ赤にして鬼の如き怒りっぷりを見せた。
 彼女たちが執務室に突撃を仕掛けるのは、それから程なくしてのことであった。
五十鈴「頂戴!」
名取「く、ください!」
由良「買ってください! ねっ!」
鬼怒「くれちん!」
阿武隈「欲しいです!」
 さて、そんな長良型の五人に対して、提督は――――。
提督「いいよ」
 あっさり了承する。
 単に提督は彼女らを蔑ろにしたわけではなく、興味があるかどうかもわからないものを押し売りの如く提供するのはいかがなものかと思っていた。
157: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:33:47 ID:TOOOYOK6
 だからカタログを手渡した際に、長良には「興味のある子がいたら俺のところに来るように言っておいてくれ」と伝えた。そして長良も適切にそれを伝えた。
 それでもなお、彼女たちが提督の訪れを待っていたのは、
五十鈴(長良にプレゼントしたなら、すぐに自分たちにもプレゼントしてくれるでしょ?)
 そんな風に考えていた時期が、彼女たちにもあった。
 しかし、提督は一向に彼女たちの部屋を訪れようとしない。
 ―――――どういうことだ。どういうことだこれは。
 彼女たちは姉妹であるが、艦娘としてはMVPを争うライバルでもある。兵器としての側面を持つ彼女たち艦娘は、本能の部分で自分たちを大事に運用・管理してくれる人間を、提督を欲しているのだ。
 それがまさかのロードバイクプレゼントという特別扱い(と、長良始め長良型軽巡らは認識している)である。長良型ネームシップという点を除けば、長良も自分たちも同じ軽巡ではないか。
 ―――長良だけなんてズルい。私たちにも同じものを!!
 要は、可愛らしい嫉妬であった。
158: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:34:41 ID:TOOOYOK6
提督「ロードバイク、欲しいんだろう? いいぞ、好きなものを選ぶといい」
五十鈴(な、なんか釈然としない……しないけど……ま、まぁ、いいわ)
名取(うぅ………)
由良(むぅ………)
鬼怒(ちょっぴりおこだけど、でもロードバイク! プレゼントしてもらえる! やったぁ!)
阿武隈(提督ってば、女心がわかってないですぅ! ぷんぷんです!)
提督「………カタログは見たんだろう? どれが気になってるんだ」
 そんな彼女たちの心情はなんとなく理解しつつも、素知らぬ風で提督は彼女たちを促す。
 別に長良だけを特別扱いした覚えはないし、天龍や龍田、第六駆逐隊、大淀や青葉だってそうだ。
 欲しいものがあるのならば元々買ってあげるつもりであった。
 それがロードバイクであるかどうかは提督にとって関係ない。
159: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:35:30 ID:TOOOYOK6
提督「見た目で好きなのを決めるのも一つだけど……五人はどんな目的で乗るんだ? あ、一人ずつ頼む」
五十鈴「五十鈴はイタリアンバイクがいいわね。デザインが気に入ったわ。でも見た目だけのものはいらないわ。目的はレースで勝つこと! これよ!」
名取「わ、私もイタリアンの……その……どうせ乗るなら、やっぱりいのが……ご、ごめんなさい、うまく言葉に出来なくて……」
由良「イタリアンデザイン、いいよね。ねっ。それと、どうせやるならやっぱりストイックにやっていきたいわ」
鬼怒「カッコ良くてめちゃんこいのがいいな! いかにも強い感じの! あ、鬼怒もイタリアンがいい!」
阿武隈「素敵なイタリアンバイクがいいです、はい。阿武隈はヒルクライムっていうのに興味があります!」
提督「………長良型って、ひょっとしてイタリアン好き?」
長良「大好き!」
五十鈴「洗練された華やかさがあるわ」
名取「き、綺麗だと思います」
由良「うん。いいんじゃない。ねっ?」
鬼怒「キレーさとカッコ良さがあると思う!」
阿武隈「あたし的にはとっても素敵だと思います!」
160: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:37:05 ID:TOOOYOK6
提督「はは、いいな。姉妹でイタリアン統一か………よし、大体わかった」
五十鈴「そんなんで分かるの?」
提督「分かるよ。大体絞れる。一口にロードバイクと言っても、素材や形状は目的によって大きく異なる。
 ……カタログ読んだなら、察しもつくと思うが、五十鈴たちの用途ならば、自ずとレース用のロードバイクフレームとなるな」
名取「れ、レース用、ですか?」
提督「ああ。レース目的のバイクのメリットは、加の良さ・ハンドリングの良さといった、とにかくあらゆる面での『反応性』が良い。
 その半面で乗り心地や安定性といった『快適性』は、ロングライドを主目的にしたバイクには劣ってしまうが……」
五十鈴「快適性? いなら快適ってわけじゃないの?」
提督「初心者がロードバイクを選ぶところで陥りやすい罠がそこにある」
阿武隈「罠、ですか?」
提督「メーカーごとに乗り味が異なるものの、試乗会で人気が出るのは大体が踏んだ際にパリッと硬い反応性の良いバイク……ほとんどがレース用だ。
 スペシャライズドのターマックとか、それこそピナレロのドグマとかな。乗り比べてみると………そういや長良は俺の持ってるヤツは全部乗り比べたことあったな」
長良「はい!」
提督「俺の持ってる四台の中じゃ、きっとドグマF8が馴染んだだろう?」
長良「はい! もーすっごく反応が良くって!」
161: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:38:09 ID:TOOOYOK6
提督「そう、その反応性の良さっていうのが罠だ」
長良「えっ?」
提督「話を戻すぞ。レース用に大体共通する点はとにかく反応が即でキビキビ動くため、乗っている側は非常に楽しい。いからな。
 大規模な試乗会となると、乗れても精々30分から1時間程度。走れる距離はたかが知れている――――しかし楽しい。
 つまり『快感』だが、『快適』ではない。踏んだ分の力がモロに脚にハネ返ってくる。これは何百キロと走ると差が顕著に表れてくる。
 だからロングライド目的にはまるで向かないバイクをつい買ってしまうなんてことになる」
由良「あー……そういうことなのね」
五十鈴「レース仕様のバイクはいけれど、比較的疲れやすいってこと?」
提督「ま、そういうことだ。さを出すためにパワーを伝達しやすくなってるからある程度そうなるのは仕方ない」
鬼怒「難しいから艦隊で言って!!」
提督「……乗り手の体力を艤装の燃料に置き換えてみるか。低の戦艦六隻で長距離輸送任務をやらせたら赤字確定だが、快の駆逐艦六隻だとコスパがいいって話。
 輸送任務に過剰な火力は必要なかろう? だけど前線でヒャッハーするには戦艦や空母の高火力が必要だ。わかるか、鬼怒?」
鬼怒「……? 鬼怒は軽巡だよ? 提督、何言ってるの?」
提督「由良、阿武隈、このお馬鹿をだまらせろ」
162: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:39:48 ID:TOOOYOK6
由良「はーい」
阿武隈「よーそろー」
鬼怒「な、何をするあねいもーーー」
提督「さて、そういうところを踏まえてロードバイクを選んでいこうか」
 鬼怒があらかた関節技を極められた後、
提督「レース用と一口に言っても色んなフレームがある。大まかに四つ。オールラウンドフレームと、エンデュランスフレームと、エアロフレーム。例外で軽量フレーム。前者の三つが主流と言っていい」
五十鈴「軽量フレームを除外した理由は?」
提督「軽量フレームはオールラウンドフレームの一種で、名前通り軽いから山岳に特化している。
 でも公式レースだと完成車の重量に下限制限が設けられている。『これ以上軽いバイクは参加できませんよ』ってな具合だな。
 だが、大抵のメーカーのレース用フレームはどんどん軽量化が進んでてな。もうコンポーネントの組み方次第でその重量ギリギリまで選択することが可能だからあんまり意味ないんだよね」
由良「ああ、レースに出ないけど登坂を楽に上りたいとか、早く登りたいって人向けってこと?」
163: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:41:26 ID:TOOOYOK6
提督「あるいはコンポーネントで使いたいものを使うためとか、色々理由はあるが……話を戻そう。各フレームの特徴をざっくり説明するとだな……」
提督「オールラウンドフレームは文字通り、オールラウンドに場所を選ばない。平地もヒルクライムも対応する」
提督「エンデュランスフレームは、別名ロングライド……路面からの突き上げの緩和、疲れにくさを重視し、長距離をく走るためのフレームだ。200kmを超えるような長丁場のレースや、悪路の多いレース向き」
提督「エアロフレームは空気抵抗の低減や推進力を生むことを特に重視した形状のフレームのことだ。飛行機の翼の断面に似ているだろう?」
鬼怒「あー……あーあー! 言われてみれば、ちょっとそんな感じするね!」
提督「F8はオールラウンドエアロフレームっていう、いいとこどりのフレームだな」
長良「言われてみれば……ドグマF8かっこいい……」
提督「いいよなF8……」
長良「いいですよね……」
提督「ああ……」
五十鈴「む………(何よ……何を通じ合ってる感じ出してんのよ……イライラする)」ムッ
鬼怒「ぐぬぬ……(鬼怒だって、本当はそのドグマF8が良かったのにぃ……提督と御揃い、いいなぁ……)」ジー
 長良型は何か感性のところで通じ合うものがあるらしい。
164: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:43:58 ID:TOOOYOK6
五十鈴「ん? ………ちょっと待ちなさい。そっちのエアロフレームの方がそうじゃない。見たところ、空気抵抗を考えて作られてるんでしょ?
 ならそれを突き詰めたエアロフレーム形状のハイエンドバイクの方がいいってことじゃない?」
提督「ところがそうとも言えんのだ。形状を見て分かるように――――エアロフレームって通常のフレームと比べて、その分軽量面を犠牲にしているんだ。カタログ見てみ?」
鬼怒「あ、本当だ」
五十鈴「む……でも数百グラム程度の違いじゃない」
提督「その数百グラムが100km、200km走れば大きな違いになってくる……そうだな。丸一日、数百グラム程度の重りを足に付けて生活したと考えたら、どうだ?」
五十鈴「あ、そういうこと……? ああ、その分コンポーネントを吟味して軽くすれば……でも選択肢が……」
提督「そうなる。それに真正面からの風に対してエアロフレームは通常のフレームに対して、ハッキリと大きい優位性はないんだなコレが。実は風の抵抗って人体による抵抗が九割超えるし」
五十鈴「そうなの!?」
提督「うん。エアロフレームは斜めからの風に対して非常に強い。
 重く安定性が高いからフラフラしないし、度が乗った後の巡航維持が非常に楽だ。だが坂道だとその重量は文字通り重荷になってしまう。
 特にヒルクライムのような坂道においては、エアロフレームは軽量フレームに比べてどうしても劣ってしまう」
五十鈴「…………ということは、むやみやたらに重かったり軽かったりもメリットデメリットがあるってことね?」
提督「流石の理解力だ。平地を走る分にはあまり実感できないだろうが、登坂時には顕著に表れてくるぞ」
166: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:47:20 ID:TOOOYOK6
長良「なるほど! よくわかりません!」
鬼怒「つまり、どういうことだってばよ?」
五十鈴(こ、この子らは……)
名取(なんで長良ちゃんと鬼怒ちゃんってこう…………感覚派というか、うん)
提督「………平地をひたすらカッ飛ばすだけが目的ならエアロフレーム。空気抵抗は無論、比較的重いから度が乗るとブレずに維持するのが楽。ずひゅーんと加する直線番長だ。
 長距離をスイスイ行きたいならエンデュランスフレーム。乗り心地がいいから色んな地形を走るのがラクちんだ。それ故に瞬間的な度を叩きだすスプリントにはやや不向き。
 どんな地形にも対応したいならオールラウンドモデル。エアロフレームと軽量フレームの中間みたいな位置づけと思っておけばいいだろう(本当はかなーり違うが……このぐらいの認識でいいか)」
長良「はい! 長良、すっごく良くわかりました!」
鬼怒「なるほど!! 提督の説明って、分かり易いなぁ!」
提督「は は は そ う だ ろ う(長良や鬼怒にはざっくりした説明の方がなぁ……分かってくれるからなぁ……)」
五十鈴(愚姉と愚妹が本当にごめんなさい)
名取(すいません、本当にすいません提督さん……)
由良(ごめんね、提督さん)
阿武隈(お姉ちゃんたち脳筋すぎるんですけど!?)
167: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:48:06 ID:TOOOYOK6
 で。
提督「まず五十鈴は……ピナレロ、コルナゴ、デローザのイタリア御三家……このあたりのフラッグシップで選べばいいだろう」ホレ
五十鈴「そんなテキトーな……」
提督「適切と言え。まずコンマ一秒を争うような結果を求めるなら、各メーカーのフラッグシップを選ぶのが妥当だ。
 ただし一口にフラッグシップと言っても、メーカーごとに重視しているコンセプトに違いはある。
 山岳での強さを売りにしているのもあれば、オールラウンド性を重視したもの、エアロの直線番長、それこそ様々だ。
 『このメーカーのこれ!』というのはない。見た目の好みってのもあるからな」
五十鈴「ふーん……? で、なんでそこでその三社を?」
提督「実戦で培った確かな実績……そういうの重視するだろ、五十鈴は」
五十鈴「む………(見透かされてるみたいで悔しいけど、相談しなかったら多分、コルナゴかデローザの二社に絞ってた……ピナレロはもう長良が乗ってるし)」
 山口提督、山本提督、後の英雄を輩出してきた五十鈴は、伝統や実績を重視する。
 性能の高さと近年の結果を重く見つつ、美しさを兼ね備えたものを愛でる嗜好があった。イタリアンバイクという括りがあれば自ずと選ばれるバイクは狭まってくる。
提督「五十鈴の欲しいもののカタチ、多少は見えてきたか?」
168: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:49:13 ID:TOOOYOK6
五十鈴「ええ………ありがと。参考になったわ」
提督「おう。決まったら連絡くれ。それじゃ、名取? おまえはどんなバイクがいい?」
名取「え、えっと。その、えっと……」
提督「大丈夫。ゆっくり喋りなさい」
名取「す、すいません。えっと、私は………その、イタリアンのデザインが、五十鈴ちゃんと一緒で、気に入ってて、それで」
提督「うんうん」
名取「その、このメーカーのが欲しいんですけど、どれがいいか良くわからなくって」
提督「どれどれ………お、ビアンキか」
五十鈴「ああ、ビアンキね。それも素敵なデザインのバイクが多かったわ!」
提督「ふむ、名取の求める奴なら……やはりこの辺りか。どうだ?」
169: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:49:53 ID:TOOOYOK6
名取「あ、は、はい! こ、これで! これでお願いします!」
提督「ああ、楽しみに待ってな。それじゃあ、由良……由良もストイックに乗っていきたい感じだったか?」
由良「はい。それにね、その………ちょっと、耳をお貸りしてもいいですか?」
提督「ん?」
由良「実は………ててね………がいいと………どうかな?」ヒソヒソ
提督「ああ、成程………大丈夫だ。別に金剛とは被るわけじゃないし」
由良「やったー! それじゃあ、由良にはそのバイクお願いしますね、ねっ!」
鬼怒「内緒のお話?」
由良「うふふっ、納車されてからのお楽しみだよ。提督? ねっ?」
提督「ああ、内緒」
鬼怒「き、気になる……」
提督「まぁまぁ。それより次は鬼怒だぞ。鬼怒が『カッコイイ! い!』と思うのはこのカタログだとどういう形状のフレームだ?」
鬼怒「えっとね、長良姉ちゃんの乗ってるF8っぽいやつ」
提督「っぽい?」
鬼怒「ぽい。色は赤がいい!!」
170: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/27(日) 23:55:41 ID:TOOOYOK6
提督「エアロフレーム?」
鬼怒「そう、それ! もうすっごくそうなのがいい!」
提督「ふーむ、イタリアンの括りなら……このあたりか(ドイツならキャニオン一択、カナダならサーヴェロ一択なんだが)」
鬼怒「これ、なんて読むの?」
提督「ウィリエール」
鬼怒「ウィリエール………あ、なんかしっくりくる! それにこの三叉槍のロゴがカッコ良い!」
提督「それのエアロとなると……そういえば110周年記念モデルが出るっけ。それにするか?」
鬼怒「ひゃ、ひゃくじゅう!? つ、強そう!! それで! 鬼怒決めた! お願いします!!」
提督「ははは、分かったよ。色は赤な――――さて、阿武隈」
阿武隈「やっとあたしだー!」
提督「阿武隈はヒルクライム目的なら軽いカーボンフレームのヤツがいいな」
阿武隈「ヒルクライムは、レース用と違いがあるんですか?」
提督「レース用と一口に言っても、そこから更に三種類ある。オールラウンドフレーム、ヒルクライムフレーム、エアロフレーム。ヒルクライム用だが、これは軽さがウリのレース用と思ってくれていい。軽さゆえに登坂に特化している」
阿武隈「あぁ、確かに軽い方が坂道すいすいですよね」
提督「ウィリエールのゼロ・セッテやゼロ・セーイあたりは軽いが……気に入ってるのはあるか? メーカーなりデザインなり」
171: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:00:41 ID:ugsHUkJ6
阿武隈「コルナゴ!!」
提督(俺に相談する意味なくね? コルナゴの現行のクライムバイクっつったらもう一択だろ)
阿武隈「歴代のバイクを見たんですけど、すっごくカッコイイんです!! はい!!」
提督「あー……ほら、コルナゴのコレ。カラーリングで気に入ったのあるか?」ホレ
阿武隈「そうそう、いいですねこれ! あたし的にはすっごくOKですぅ!」
提督「ああ、カッコいいよな。コルナゴって上品さと機能美を兼ね備えてるよな……じゃあ、これで。カラーは?」
阿武隈「これー!」
提督「OK、分かった。それじゃ、明石のところで股下計測とかしてきなさい。フレームサイズ選びには重要だ」
鬼怒「はーい! くぅー、待ちきれないよ!!」
五十鈴「やったわ!」
名取「楽しみですね」
阿武隈「わくわくするー」
由良「するね、ねっ」
 かくして、彼女たちのバイクは注文された。
172: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:02:00 ID:ugsHUkJ6
 納車までの7〜14日間を、彼女たちは夢見心地で過ごすのだろう。
 それがどんなバイクなのかは、また後程。
【3.ロードバイクを選んでみよう!】
【大成功!!】
【続く!】
173: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:06:00 ID:ugsHUkJ6
https://www.youtube.com/watch?v=7VzzpzGleHI
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・長良型軽巡洋艦:五十鈴改二
【脚質】:オールラウンダー
 長良型では唯一のオールラウンダー。元々海戦においてもコマ送りしたようなさで航行するところから『韋駄天』の異名を得ていたが、ロードバイクでもその機動は陰らない。
 韋駄天・五十鈴、此処に在り。
 高いスプリント力に、高巡航度、それを維持するタフネス、登坂能力がバランスよく身について最強に見える。
 いずれにせよ【弱点がない】というオールラウンダーの強みを教科書通りに体現したオールラウンダー。
 長良型のエースに相応しい乗り手で、鎮守府内におけるオールラウンダーの格付けでも上位に位置する。
 またダウンヒラーとしての才能があり、どんな急勾配の下りでも臆さず冷静に『キレた』走りを見せる。
 長良と同様生粋のスピード狂。車を使う際、五十鈴にハンドルを握らせると漏れなく天国と地獄の心地を味わえる。
【使用バイク】:COLNAGO C60 Classic Blue
 五十鈴のバイク? イタリアはコルナゴのC60よ。
 コルナゴはロードレースと共に歩み、名だたるレースで数々の栄光を掴んできたメーカーなのよ!
 見て、このカーボンラグの美しさに、独特のカラーリング。この五十鈴に相応しいと思わない?
 ………な、なんで私ばっかり見てるの? なぁに? 五十鈴のロードレース仕様の制服に見惚れてるの?
 ふふん、いいジャージでしょ。五十鈴に似合う? ……そ、まあ当然ね、ふふっ
 あんまり無茶ばっかりするなって? 心配しないで。五十鈴は強いんだから
 ………でも、まあ。あなたがそこまで言うなら………考慮してあげても、いいわよ
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174: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:07:10 ID:ugsHUkJ6
※鬼怒「何ッ!? 五十鈴ねーちゃんはIS〇ZUのトラックに乗るのではないのか!?」
 五十鈴「よーし、そこ動くんじゃないわよ」ガタッ
 キ、キヌハッ、シズマナイィイイイイ!!
 ワタシガシズメテヤロウッテンノヨ!!
 提督(どうして鬼怒はこう……見える地雷を踏みに行くのか)
 長良(もしくはトラックレースに出るとか……うん。言わないでおこう)
175: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:08:17 ID:ugsHUkJ6
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・長良型軽巡洋艦:名取
【脚質】:ルーラー?(スピードマン?)
 ―――え? 着いてこれない? ……それでは、私はこれで……。
 おまえのようなルーラーがいるか! 実はチームレースより個人レースの方が得意。
 レースに出ると性格が激変する艦娘、そのいちにして筆頭候補。平地の巡航は原チャリよりい。
 超高巡航による牽引や大逃げを得意とするが、たまにエースが付いてこれない。ちょっとしたアップダウンでは度が下がらないという恐ろしさ。
 普段の優柔不断で引っ込み思案な性格が消え去り、冷徹にして冷酷な『絶対チギるマシーン』と化す。なお敵味方の区別がつかないもよう。
 輸送任務ばかりだったのが相当なストレスだったのか、『誰よりも先に切り込む』という願望が具現化。
 スタミナに多少難があるものの、『長良型では』という意味であり、他の艦娘から見れば十分すぎる体力馬鹿。
 回復力が高く少しの回復走で定位置に配置されたゾンビのように甦る。長良型は体力の化け物ばかりで、同じくスタミナを売りにしている那珂の天敵。
 また、バイクコントロールと位置取りが上手く、逆風・強風の中でも安定した度で走れるのが、他のTTスペシャリストたちにも勝る最大の強み。
 由良とコンビを組んで休みながらロテーションされると、長良・五十鈴・鬼怒でもついていくのがやっとというさを誇る。
 敵チームとの協調? えっと………それ美味しいんですか?
【使用バイク】:BIANCHI OLTRE XR.4(2017年モデル)(black/red)
 は、はい。イ、イタリアの、ビアンキの……オルトレXR4です。
 す、すいません、き、緊張してて……。えっと、このバイクを選んだ理由、ですか?
 え、えっと、少し重めのエアロフレームの方が、高巡航っていう持ち味を生かせるので、こちらを。
 チーム戦ではいいかなって……す、すいません! な、生意気言いました……。
 ………え? わ、私らしいですか? ほ、褒めてくれてるんですか………あ、ありがとう、提督さん。
 あ、そ、その、私……提督さ……ぁ、なたから……戴いたこのバイクで……絶対、絶対チームを優勝させて見せますから!
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176: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:09:17 ID:ugsHUkJ6
※提督「あえてチェレステグリーンではなく黒地に赤を選ぶそのセンス、嫌いではない」
 名取「………? は、はぁ」←ビアンキと言えばチェレステグリーンの色合いという定番を知らない。
 提督「まァさておき、ルーラーはチームの要だ。皆、敬意を払え。ルーラーを蔑ろにするチームに勝利はない。いいな、敬意を忘れるな」ビシッ
 長良「はいっ! 名取、目指すは優勝だよ!」ビシッ
 五十鈴「ええ。頼りにしてるわよ、名取」ビシッ
 由良「同じ脚質だし、一緒に頑張ろうね、ねっ」ビシッ
 鬼怒「お願いします、名取ねーちゃん!」ビシッ
 阿武隈「お世話になります、名取姉さん!」ビシッ
 名取「ふぇ、ふぇえ……(プ、プレッシャー、プレッシャーが……き、気合を、い、入れなきゃ……で、でも)」オロオロ
 名取(ど、独走したい………!!)
 長良型はナチュラルに相手の精神を追い込んでいくスタイル。
177: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:09:47 ID:ugsHUkJ6
※提督「あえてチェレステグリーンではなく黒地に赤を選ぶそのセンス、嫌いではない」
 名取「………? は、はぁ」←ビアンキと言えばチェレステグリーンの色合いという定番を知らない。
 提督「まァさておき、ルーラーはチームの要だ。皆、敬意を払え。ルーラーを蔑ろにするチームに勝利はない。いいな、敬意を忘れるな」ビシッ
 長良「はいっ! 名取、目指すは優勝だよ!」ビシッ
 五十鈴「ええ。頼りにしてるわよ、名取」ビシッ
 由良「同じ脚質だし、一緒に頑張ろうね、ねっ」ビシッ
 鬼怒「お願いします、名取ねーちゃん!」ビシッ
 阿武隈「お世話になります、名取姉さん!」ビシッ
 名取「ふぇ、ふぇえ……(プ、プレッシャー、プレッシャーが……き、気合を、い、入れなきゃ……で、でも)」オロオロ
 名取(ど、独走したい………!!)
 長良型はナチュラルに相手の精神を追い込んでいくスタイル。
178: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:10:24 ID:ugsHUkJ6
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・長良型軽巡洋艦:由良
【脚質】:ルーラー(スピードマン)
 ―――さあ、由良のカッコイイとこ、見せちゃおうかな?
 由良と名取は同じタイプのスタンド、もとい脚質であった。
 長良型の運び屋・由良。スプリンターではない(重要)。ロケット・ユラなんてなかったんや。(意味が分からない人は分からなくて結構)
 長良型は総じて体力高めの子が多い中、スタミナにおいて長良型でも最高である。
 鎮守府内で艦種を問わない最優秀ルーラーといえば、一番に名前が挙がるほど際立って能力が高い。
 ルーラーとしての理想像を体現した無限の体力と高巡航維持時間を誇る。
 平地において42km/hの度を維持しつつ、先頭で五時間でも六時間でも走れる。
 由良と名取が先頭集団にいると後続集団は度を上げざるを得ない地獄のような耐久レースになる。
 平地メインのチームレース、クリテリウムにおいては由良と名取が揃っていればそれだけで優勝候補と言われるぐらいの名アシスト。
 例えるなら敵からの攻撃を引きつけながらも自らは一切被弾せず逆に攻撃を喰らわせ、その上でMVPは他の艦に譲ってコンディションは常時キラキラ状態という随伴艦の鑑。
 なおルーラーにも拘らず、山岳でもペースを維持すれば安定した走りをすることが出来、苦手が極めて少ない。
 
【使用バイク】:BASSO DIAMANTE SV(ITALY)
 イタリアのバッソのフラッグシップ、ディアマンテSVよ。カッコいいよね、ね?
 オーソドックスな造りに見えるけど、日本製のカーボンをオートクレーブ釜を用いて形成した信頼あるフレームなの。
 メリハリの効いた反応が心地よくてね、好きになっちゃった。
 ところでディアマンテって、英語でダイヤモンド、日本語で金剛石って意味なの。
 金剛さんには悪いけど、早い者勝ちだもんね。ね。わーい。由良がフラッグシップだぁ。
 ルーラーって目立たないポジション? そんなことないわ。
 チームを勝利に導くために、誰よりも長い時間曳いて、長い間先頭に輝くポジションよ。そうだよね、ね?
 あら、由良の実力を疑うなら、提督さんに由良のいいとこ、レースで見せちゃおうかな? うふふっ
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179: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:11:32 ID:ugsHUkJ6
※由良「由良と一緒にがんばろ、ねっ?」
 名取「う、うん。頼りないお姉ちゃんでごめんなさい……」
 由良「そんなことないよ。名取はお淑やかで可愛くて、いざってときにはやってくれる素敵なお姉ちゃんだよ」
 名取「そ、そうかなぁ……えへへ」テレテレ
 由良「うんうん。自信持って行こう? ね?」
 長良(仲良しっていいよね)
 五十鈴(ええ。和むわ)
 提督(ああ、平和だ。球磨型にはない平和がここにある……)ホロリ
 鬼怒(ぶっちゃけ長良ねーちゃんと名取ねーちゃんは、長良型のオーパーツだと思う。なにあの火力……こちとら改二でやっとマシになったっていうのに。甲標的……)
 阿武隈(うわぁ……声かけずらい……)
 なお球磨型は世紀末のコトワリが跋扈しているもよう。
 長女・次女の二人からして野生剥き出し、三女と四女はイヤンな感じ、末女はいつも貧乏くじを引く。
180: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:12:28 ID:ugsHUkJ6
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・長良型軽巡洋艦:鬼怒(改二ではない)
【脚質】:スプリンター
 ―――どけこらぁああああああああああ!!
 純粋無垢なスプリンターの脚質と違い、持久力の高いロングスプリントを得意とする。
 万能性や瞬間的な最高度は長良に劣るが、ロングスプリント力は軽く凌ぐ。
 死力を振り絞る様な鬼気迫るスプリントには、某戦艦すら脅威を感じるという。
 じわじわと度を上げていくロングスプリントは脅威の一言。
 ゴール前の直線が1キロ続いているコース設定で、温存した鬼怒が先頭集団に居たら、戦艦・重巡勢を差し置いて他の選手に勝ち目がないと言わしめるほど。
 初に優れる半面、後半の伸びがいまいちな陽炎や不知火にとって天敵となるスプリンターであるが、
 ド根性のロングスプリントを得意とする天龍や川内などは逆に火が付く。
 半面坂道は苦手で、こうした弱点も典型的なスプリンターである。
 その底抜けに明るい性格とは裏腹に、勝負事では慎重派。それは利に働くこともあれば不利になることも。長所であり弱点でもある。
 疑心暗鬼に陥るとドツボに嵌る。精神的にタフだが、その分一度調子を崩すとリカバリーできない脆さを持つ。
【使用バイク】:WILIER Cento-10-AIR Red
 来た来たぁっ! 鬼怒のロードバイク! イタリアはウィリエール! チェントディエチ・エアーだよ!
 うーん、その、提督と同じピナレロか迷ったんだけど………やっぱり赤いのがいいよね♪(御揃いも続くと新鮮味ないし。長良姉ちゃん、いいなぁ)
 いっつも鬼怒がパナイパナイ言ってるからって、パナソニックには乗らないよーだ。……え、なにその微妙な顔。
 ……さ、さておき、このチェントディエチ・エアー、加性能と高域の安定性はバッツグンだよ! マジパナイ! パナイよね!
 ブレーキのメンテナンスが凄く難しくって……ごめんね、提督。いつも忙しいのに。
 このバイク、メンテナンス性が悪いよね……えっ、鬼怒の為なら頑張ってくれるって?
 う、嬉しい! ありがと、提督! 鬼怒はね、これからずっと、ずぅーっと提督のおそばにいるからねっ!
 ねえ、整備が終わったら鬼怒と一緒にツーリングで汗かいちゃう? きっと楽しいよっ!
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181: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:13:53 ID:ugsHUkJ6
提督「え? そこまでブレーキ弄るの難しくねえけど」
五十鈴「それはさておき、うーん、なんていうか……しっくりくるわね。鬼怒のそのバイク。まさに鬼怒って感じ?」
鬼怒「え? それって褒めてる?」
五十鈴「褒めてる褒めてる。似合ってるし格好いいわよ?」
鬼怒「そっかー! ありがとー、五十鈴ねーちゃん!」
長良(鬼怒にはサーヴェロも似合うと思うんだよなぁ。でも鬼怒って本当に赤が似合うね)
名取(私もそう思う。五十鈴ちゃんも蒼いバイクがとっても似合うよ)
由良(なんやかんやであの二人、仲が良いわよね)
阿武隈(赤と青って真逆の色だったような? んぅ? 違ったっけ?)ハテナ
提督(なおサーヴェロのS5に赤系統の色合いがあったら、迷わずそっちにしてたらしいぞ)
 長良型の中では提督に好き好きアピールする筆頭。スキンシップは少な目。だ、だって恥ずかしいもん!
 その分提督とはお喋りする。スポーツや自転車の話題が大半。ツーリングしながらおしゃべりも好き。
 提督からするとお馬鹿な子ほどなんとやらである。いつもつまらないギャグを言って提督から白い眼を向けられることに、最近なんだかゾクゾクしてきたもよう。
 そっち行っちゃダメ。クライマーフラグだ。
182: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:14:24 ID:ugsHUkJ6
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・長良型軽巡洋艦:阿武隈改二
【脚質】:クライマー
 ―――どこかの山岳バカには負けないんだから!
 長良型唯一のクライマー。というか阿武隈が山岳バカだし、どこかの軽巡はクライマーですらない。
 一定のペースで走るより、相手のペースを乱しにかかる連続アタックが脅威。
 大戦の時に駆逐艦があまりにも阿武隈の言うことを聞かないので、一念発起。
 随伴艦を指示に従わせるために磨いた空気の読み方・トークのテクニックなどが、レースでは競う相手の一番イヤなタイミングでアタックを仕掛けまくることに生かされる。
 敵に気づかれないでアタックするの、あたし的には十八番なんですぅ、任せて任せてぇ!
 そのくせ阿武隈は姉たちの例に漏れず体力馬鹿で、しかも超回復持ちというチート体質。
 補給食もぐもぐして水分を摂り、深呼吸を三回―――あら不思議全回復という言語道断な子。第一水雷戦隊旗艦は伊達じゃないんだから!
 一方でそういうスタイルの走りの為、チームレースでの山岳牽引は苦手。味方までペース乱れる。個人ヒルクライムレースが得意。
 挑発に弱い艦娘にとって天敵だが、一切ペースを乱さないで走る相手は阿武隈にとって天敵。
 平地は苦手って言うか、阿武隈が遅いんじゃなくてお姉ちゃんたちがすぎなんですけど!? あたし的にはい方ですぅ!!
【使用バイク】:COLNAGO V1-r White
 イタリアはコルナゴのV1-rです。五十鈴お姉ちゃんとメーカーは御揃いなんです。
 阿武隈のバイク、白くてキレイでステキでしょ? あのフェラーリとのコラボレーションフレームなんです、はい。
 コンポはカンパです。すっごくオシャレでしょ? えへへ。
 軽さとシームレスな反応性も両立させた性能に、あたし的には大満足です!
 どんな坂道だって、このバイクとなら越えていけるって、あたしは信じてます。
 平地はちょっぴり苦手ですけど、お姉ちゃんたちの足手まといになんてならないんだから!
 提督も、今度一緒にヒルクライム、どうですか?
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183: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 00:15:23 ID:ugsHUkJ6
提督「フェラーリはコルナゴとビジネス的に仲良し。もう30年近くになるのか?
 ロードバイクに興味のない日本人の感覚からすると「自転車にフェラーリが?」って感じで違和感バリバリかもしれない。
 でもヨーロッパにおけるロードバイク選手の立ち位置って、日本で言うところのプロ野球選手。つまり超メジャースポーツ。
 エンジンか人力かの違いはあれど、共に最を目指す企業が手を組む……実に」
長良「し、司令官……その辺りで。それ以上の台詞は」
提督「む、いかん。そうだな……うかつにあの台詞を言うと、かの者を呼び寄せてしm」
長門「胸が熱いな」ウンウン
提督「クソッ! もう来やがった!!」
阿武隈「この展開は読んでました」
 上記のV1-rもそうですが、他にもコルナゴとフェラーリのコラボフレームはある。
 CFシリーズとか。「CF」はCOLNAGO for Ferrariの意味。現在だとCF10? だっけ?
 税込み180万以上だったのは覚えてる。マジふざけ。
188: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 23:05:43 ID:ugsHUkJ6
【番外編 〜3の裏話〜】
提督「明石のところで股下計測とかしてきなさい。フレームサイズ選びには重要だ」
 股下の長さ。それはフレームを選定するうえで重要な数値である。
鬼怒「………誰が一番、足が長いんだろうね」ボソリ
 その鬼怒の一言は、彼女たちに戦慄を与えた。
五十鈴「!?」
名取「!?」
由良「!」
阿武隈「!!」
長良「え? あ、うん」
 約一名を除いて。
189: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 23:09:29 ID:ugsHUkJ6
 そんな例外を除けば、年頃の艦娘にとって、己のスタイルは気になるものだ。他人と比較してみたくもなる。
 たとえ同じ姉妹であろうとも。
 果たして自分の脚は長いのか。それとも短いのか。平均値? いやいや、バランスの良いスタイルの揃った艦娘達の平均値は非常に高い。
提督(何故地雷を踏んでいくのだ鬼怒ェ………)
 かくして『第一回・誰の脚が一番長いか選手権』という、実に不毛な争いが愛し合う姉妹艦の間で勃発したのである。
 そして。
鬼怒「きぬぅ!」ドヤァ
 コロンビア。南アフリカ北西部に位置する共和制国家であるが、この説明に特に意味はない。
 そんなコロンビアの風土をなぜか彷彿とさせる例のポーズでドヤ顔を晒す鬼怒。
 その股下××cmであった。身長からの比率で言えばかなりのものであり、並のモデルが裸足で逃げ出す長さである。
190: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 23:12:00 ID:ugsHUkJ6
五十鈴「い、五十鈴が、五十鈴が、短足……? そんな、馬鹿な事、あ、ありえない……」
 五体投地する五十鈴。股下××?。
 その差は僅かであったが、差は差だ。鬼怒よりも短い。
鬼怒「ふっふっふ! 来ちゃったかなぁ〜? 鬼怒の時代来ちゃったかなー!! あ、五十鈴ねーちゃん、ちょっと喉渇いたからジュース奢って!」
五十鈴「こ、この……調子に乗って……!」
 勝者と敗者の明確な図がそこにあった。
 しかし足の長さとはあくまでも比率である。絶対的ではなく、相対的。
 そして何に相対する比率なのかを、思い上がった鬼怒は即座に思い知る。
長良「いやいや、1センチも差がなかったじゃない」
由良「っていうか鬼怒ちゃん、長良型の中じゃ鬼怒ちゃんが一番背が高くて、五十鈴姉さんが一番小さいじゃない? 比率で考えたら……」
提督「おい由良やめろ」
191: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 23:14:31 ID:ugsHUkJ6
由良「あれ? ということは、股下比率的には………股下の値を、身長で割ると………あっ」
名取「あっ(察し)」
阿武隈「あー(察し)」
提督「だからやめろって言ったのに……」
五十鈴「あっ(察し)」
鬼怒「えっ」
鬼怒「えっ」
 そして、鬼怒は現実を思い知る。
192: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 23:16:29 ID:ugsHUkJ6
 果たして、驕り昂ぶったコロンビアを天変地異が襲ったのだ。
鬼怒「きぬぅうううう!? なんでさ!? コロンビア悪くないでしょ!!」ズザァ
 特に意味はない。
 五体投地の鬼怒の股下比率0.467である。
 長良型の中で最低の比率であるが、日本人平均は0.45である。十分に長い。
 しかし、
五十鈴「あら、五十鈴が一番? 当たり前だけど、イイんじゃない?」ドヤァ
 即復活する五十鈴。股下比率0.484。上には上がいる。
 勝者と敗者の明確な図がそこにあった。
五十鈴「あー、なんか喉渇いたわー。あら、いいところに負け犬ならぬ負け鬼怒が。ちょっとラムネ買ってきてくれる?」
鬼怒「ち、ちくしょう……か、改装すれば、鬼怒だって、改二になれば、ワンチャン……」
193: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 23:18:30 ID:ugsHUkJ6
五十鈴「はいはい改二改二。ホラ、早く。ダッシュで。その短い脚で、無様に、歩数多めのダッシュで」
鬼怒「ちくしょぉおおおおおおお!!」ダダダダッ
五十鈴「六本よ? 私たちと提督の分」
鬼怒「わかった!!」バタン
 チクショオオオオ……オオオ……オオオ……キヌノブンガナイジャン!? ヒドイ!?
提督「つーかおまえらみんな脚長いじゃんよ」
由良「提督さんのえっち……」ポッ
提督「いやいや、計測した結果見て言っただけだから。白人クラスだぞこの比率……」
長良「そういう司令官も足長いよ?」
阿武隈「う、うん。スタイルいいですよね」
提督「いやいや、比較的長いってだけで、おまえらみたいな黄金比はないからね?」ナイナイ
五十鈴「身長にせよ股下にせよ……っていうか改めて見たら充分だわ。長い方よ」
提督「んー、股下云々よかもうちょい身長欲しかったなぁ」
由良「そう? 随分伸びたと思うけれど」
194: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 23:21:30 ID:ugsHUkJ6
阿武隈「あっ、そういえば男女の理想の身長差って、15センチって言いますよね!」
提督「横に並んだ時に女性がヒールを穿いても見劣りしないとか、手をつないで歩きやすいって(俗な)説だったか」
阿武隈「そう、それです!」
名取「あ、頭を撫でてもらうのにちょうどいい身長差とも言いますよね」
長良「そうなの? じゃあ司令官、試しに長良の頭、どうぞ!」スッ
提督「えっ、なにこれ。やる流れ? そんで感想聞かせろってか?」
由良「比較対象がないとダメだよね、ねっ。由良で良ければ、由良の頭もどうぞ?」スッ
名取「あ、あの、あの、わ、私も……」スッ
阿武隈「お姉ちゃんたちズルい! あ、でも前髪の御触りはめっ、ですからね! はい!」スッ
五十鈴「…………」スッ
提督(拒否したらKYな流れ……無心、無心だ……俺はこれから、鈍感系主人公のような心境になって、そのうち誰かに刺されるんだ。そんな気持ちでやろう。うん)
 女性ばかりの鎮守府。しかも例外なく美しさの粋を集めた様な少女から美女までが勢ぞろいの鎮守府である。
 そんな職場に勤める提督の内心はいかばかりか。
195: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 23:23:41 ID:ugsHUkJ6
提督「………」ナデナデ
長良「〜♪」
提督(清涼感のあるシトラス系の匂いがする……何気にすっげえ身だしなみに気を使ってんだよなぁ長良って)
 提督の理性はガリガリと削れていく。
提督「………」ナデナデ
五十鈴「っ………」カァアアッ
提督(グリーンアップルとローズ系か……ひたすら甘い……つーか顔小っちゃいな、五十鈴……おう、睨むな。微笑ましくなっちまうだろ)
 提督の野生がアップを始める。
提督「………」ナデナデ
名取「ぁ、ぅあ、ぅ……」ウルウル
提督(ジャスミン系の香りだな……何故だろう、犯罪臭がする。もちろん俺の行動に……あかんやろこれ。物凄く罪深いことをしている気分になる)
 提督の野生と理性がグーで殴り合う殺し合いを始める。
196: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 23:30:38 ID:ugsHUkJ6
提督「………」ナデナデ
由良「えへへっ」ニコニコ
提督(イランイラン系の匂い……由良、いつからそんなエロい子に……)
 野生が理性にマウントポジションでフルボッコを始めたもよう。
提督「………」ナデナデ
阿武隈「あ、撫で方いい感じですぅ。前髪は触ったらダメですよぉ?」エヘヘ
提督(阿武隈の髪、マジで気ィ使ってんな……撫で心地良すぎ……それにこの匂い………あ、やばい。やばいこれ、やばい)
 提督は。
 否、男の誰もが己の中に、自分では押せないスイッチを持っている。
 オンとオフの切り替えができないのだ。これが一度押されると。
 押されると。
197: ◆9.kFoFDWlA 2016/11/28(月) 23:36:06 ID:ugsHUkJ6
鬼怒「ただいまー!! ちょっぱやで買ってきたよー!」ガチャッ
提督「!」ハッ
 ギリギリでカウンターを放ち、理性が勝利を収めた。
由良「どうでした?」
提督「………うん。刺されるのは当然だし、俺は刺されるのは嫌だなって思った」
長良型「「「「「????」」」」」
 頭上にクエスチョンマークを浮かべる長良型の子たちを尻目に、提督はラムネで熱くなった身体を冷やすのだった。
 なおこの後程、話で頭ナデナデ比べが行われたことを知った鬼怒の反応であるが、
鬼怒「ち、ちくしょう……ちくしょぉおおおおおおおお!!!」
 その怒りによって鬼の血が覚醒し、改二へと昇華する日も近い――――のかもしれない。
【番外編:艦】
200: 以下、

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