つぼみ 「帰ってきた希望の花! 新たなプリキュア誕生です!」【前半】back ▼
つぼみ 「帰ってきた希望の花! 新たなプリキュア誕生です!」【前半】
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………………
セイレーン 「――――ネガトーン!!!」
響 「リズム……!! 危ない!!」
奏 「えっ……――――ッ!?」
―――ッッッッッッドォォオオオッッッ!!!!
奏 「が……ッ……!!」
ハミィ 「リズム?????!!」
響 「リズム……っ……!!」
奏 「……――だ、め……」
響 「えっ……?」
奏 「――来ちゃ……だ……ダメ……」
響 「……なっ、何言ってんのさ、リズム」
奏 「今の、わたしたちじゃ、このネガトーンには、勝てない……」
奏 「……だから、お願い……わたしは、メロディに、傷ついてほしく、ない……」
奏 「ごめん、ね、メロディ。……わたしの、せいだね……」 ニコッ
2:以下、
奏 「だから……せめて……メロディ、あなただけは、逃げて……」
響 「………………」
ギリッ
響 「――――っけんな……」
奏 「え……?」
響 「ふざけんなって言ったのよ馬鹿リズム!! 馬鹿!! 馬鹿バカ莫迦ぁ!!」
ハミィ 「ニャプ!? こんなときに何を言うんだニャー!」
奏 「なっ……! ば、バカですってぇ……!?」
響 「そうよ馬鹿よ!! 大馬鹿よ!!」
響 「今回だって、わたしたち、ケンカしちゃって、それで、こんなピンチになって……」
響 「わたしが悪いのに、それを素直に謝れなくて、奏を傷つけて……」
響 「リズムが、そんなにボロボロになって……」
響 「それで……それで何で……」 グスッ 「何で、逃げろなんて言うのよ……!!」
3:以下、
響 「わたしが悪いのに……何で……」
響 「何で、リズムが謝るのよ……何で……わたしが、謝らないのよ……」
奏 「メロディ……」
――――キィィ……
ハミィ 「!?」 (ふたりの心のト音記号が、共鳴してるニャ!!)
セイレーン 「……はは! ふたりして薄ら寒いお友達ごっこ?」
セイレーン 「私には何一つ理解できないわ! くっだらないわね!!」
ハミィ 「セイレーン! なんでそんな酷いこと言うニャ!!」
ハミィ 「メロディもリズムも、ケンカばかりだけど、本当は心の底からお互いを想い合ってるニャ!!」
ハミィ 「それをそうやって笑うセイレーンなんか、ハミィは嫌いだニャ!!」
セイレーン 「っ……!」 ギリッ 「か、カンケーないわよ、そんなの! アンタなんかどうだっていい!!」
セイレーン 「アンタなんて……っ! アンタなんてぇ!!!」
セイレーン 「ネガトーン!!! まずはそのプリキュアを、捻り潰しておしまい!!」
――――――ガッ……!!!
奏 「あッ……!」
4:以下、
響 「リズム……!! リズムぅぅぅぅうううううう!!」
奏 「っ……が……メロ、ディ……ひび、き……」
ギリリリリリリリッ……!!!!
奏 「っ……あ……ッ!!!」
響 「リズム……かなでぇぇぇぇぇえええええええええええ!!!」
ハミィ 「こ、このぉ!! ネガトーン! リズムを放すニャ!!」
ポカポカポカ!!!
奏 「!? だ……ダメ、ハミィ……!」
ハミィ 「ニャ……――!?」
――――――ドガァァァアアア!!!!
ハミィ 「ニャーーーーーーーーーー!!!」
響 「は、ハミィ!!」
セイレーン 「ハミィ……!?」 ハッ 「……っ、いい気味よ……!」
ハミィ 「………………」 ボロッ
響 「ハミィ……っ」
5:以下、
響 「エレン……! いいえ、セイレーン!!!」
響 「わたしたちプリキュアだけでなく、ハミィまで……!」
セイレーン 「な、何よ……当たり前でしょ!? そいつは私の敵なんだから!!」
ハミィ 「………………」
響 「……ハミィは、友達だって言ってた」
セイレーン 「えっ……?」
響 「ハミィはアンタのこと、大好きだって……大切な友達だって……そう言ってた……!!」
セイレーン 「………………」
響 「それなのにアンタは……アンタはこうやって、ハミィを傷つけるんだね……」
セイレーン 「そ、そんなの――――」
響 「――――わたしだったら!!!」
セイレーン 「っ……!?」
響 「……わたしだったら、もう、間違えない。もう、傷つけ合うのは嫌だから」
奏 「ひ、びき……?」
6:以下、
響 「……たくさん間違ってきたよ。たくさん、傷つけちゃったよ。たくさん、酷いことも言ったよ」
響 「でも、だから分かったんだ。そんなのはもう嫌だ。すれ違うのも傷つけ合うのも、もうたくさんだよ」
響 「……ねぇ、セイレーン」
セイレーン 「………………」
響 「アンタは違うの? 傷ついて、倒れて、気を失って、ボロボロで……こんなハミィを見ても、」
響 「――――アンタはそれでもまだ、ハミィを傷つけたいと思うの?」
セイレーン 「ッ……!!!」
ギリッ
セイレーン 「うる、さい……!! うるさいうるさいうるさいうるさぁぁぁあああい!!!」
セイレーン 「アンタに何が分かる!! アンタに、何が分かるって言うのよ!!!」
セイレーン 「悔しかった!! 悲しかった!! 妬ましかった!! 恨めしかった!!!」
セイレーン 「……そして何より、そんな風に思ってしまう自分が、たまらなく嫌だった……」
セイレーン 「歌い手に選ばれたハミィを……友達を、わたしは祝福することができなかった……」
響 「……分かるよ。その気持ち」
奏 「………………」
7:以下、
奏 「……わたしも、嫌だった。本当は仲良くしたいのに、酷いこと言ったりして」
響 「それで、自分がすごく嫌になって、だから……また、相手を傷つけちゃって」
奏 「言いたいことはたくさんあったよ。でも、そのほとんどが、口にできなかった」
響 「相手を傷つけるようなことばかり、言っちゃって……」
奏 「……ねえ、セイレーン。まだ、間に合うよ」
響 「もうこんなことやめよう? 不幸のメロディを奏でても、幸せにはなれないよ」
セイレーン 「………………」 グスッ 「……遅いわよ。もう。全部。だって、私……」
セイレーン 「嫌いって言われちゃったもん。ハミィに……っ……嫌いって……言われ、ちゃったもん……!」
セイレーン 「……もう戻れない。私は、やってはいけないことをやりすぎたのよ」
―――― 『セイレーンの毛並み、綺麗で柔らかくて、ハミィ大好きだニャ!!』
セイレーン 「……もう、何もかも手遅れなのよ……!!」
セイレーン 「ハミィはもう、私に笑いかけてはくれない! ……好きだって、言ってくれない!!」
響 「セイレーン!」
セイレーン 「うるさいうるさいうるさい!! もう何もかも遅いのよ!!」
セイレーン 「もう遅い……だったら、私は……! 私は、世界全てを不幸にする……私と同じように!!」
8:以下、
セイレーン 「……ネガトーン! さっさとキュアリズムを捻り潰してしまいなさい!!」
奏 「ひ、あ……っ!!」
響 「かなでぇぇえぇええええええええええ!!!」
奏 「ひ、びき……ぃ」
響 「っ……こんなのって……こんなのってないよ……!!」
響 「わたし、まだちゃんと謝ってない。奏に、きちんとごめんねって、してない……!」
響 「セイレーンだって……本当は、ハミィと仲直りしたいはずなのに……」
…………ポタッ……ポタッ……
ハミィ 「……ニャプ……あった、かい……」
響 「ハミィ!? 良かった……!」
ハミィ 「……聞こえるニャ。とっても、温かくて、心地良い、メロディが。リズムが……」
響 「えっ……?」 フルフル 「……そんなの、聞こえないよ。冷たくて、暗い音楽しか、聞こえないよ……」
ハミィ 「………………」 クスッ 「……そんなこと、ない、ニャ? ハミィには、ちゃんと……聞こえてるニャ」
ハミィ 「小さくて、消えてしまいそうな、旋律だけど……ちゃんと、聞こえてるニャ……」
ハミィ 「響と奏の心が、その温かい音楽を、作り出しているニャ。ハミィには、しっかり、聞こえるニャ」
9:以下、
響 「わたしと……奏が……?」
ハミィ 「ニャプ。ふたりの心のト音記号が、新しいハーモニーを紡ごうとしてるニャ」
響 「わたしと、奏の、ト音記号が……」
………………スッ……
響 「……ハミィ、ごめん。わたし、行かなくちゃ」
響 「伝えなくちゃいけないんだ。言わなきゃいけないんだ」
響 「この気持ちを、心を、想いを……伝えたいんだ」
ハミィ 「ニャプ」 ニコッ 「……それでこそ、響――キュアメロディなんだニャ」
響 「……うん!」
ハミィ 「今のセイレーンに、ハミィの声は届かないニャ……セイレーンは、きっとハミィを怒ってるニャ」
響 「………………」
ハミィ 「だから、伝えてほしいニャ。嫌いなんて言っちゃってごめんって。本当は大好きだって」
ハミィ 「……頼むニャ、キュアメロディ」
響 「……その気持ち、絶対に届けるよ。絶対に、セイレーンに届かせてみせるから」
響 「だからハミィは、ここで安静にしててね」 ニコッ
12:以下、
響 (……ずっと、伝えたかった。わたしの、本当の気持ち)
響 (けれど、意地とか、恥ずかしいとか、そんなことに邪魔されて、伝えられなかった)
響 (だから、いま……伝える。届かせてみせる)
響 (わたしは……北条響は……キュアメロディは……)
――――――――――ダッ……!!!!!
響 「――……かぁぁぁぁああああなぁぁぁぁああああでぇぇぇえええええええええ!!!」
奏 「……!? ひ……び、き……?」
響 「わたしは!! あんたに!! 伝えたいことが!! あるんだぁぁあああああ!!!」
奏 「ひ、び、き……響……!!」
セイレーン 「ッ……!! 今さらアンタに何ができる!! 友達ごっこで何ができるッ!!」
セイレーン 「ネガトーン!!」
響 「っ……邪魔を……ッッッ――――――」
――――ッッットンンン!!!
響 「――するなぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」
ドガァァァアアアア!!!!
13:以下、
セイレーン 「っ……そんなちんけな蹴りで、このネガトーンをやれるわけがないでしょうが!!!」
セイレーン 「ネガトーン!! その間抜けも捕まえておしまいッ!」
――――ガッ……!!
響 「ぐっ……! 痛っ……」
奏 「響……どうして……」
響 「へへ……作戦、成功、ってね……」 ニッ
奏 「!? まさか、あなた……わざと捕まったの……!?」
響 「その通り。へへっ、セイレーンったら、単純なんだから」
奏 「ばっ、馬鹿!! 何で響はそう馬鹿なのよ! どうして、そんな……」
――……グスッ……
奏 「どうして、そんな……っ、無茶、ばっかり……するのよ……」
響 「……うん、ごめん。わたしってば、馬鹿だからさ」
響 「だから、こんな風にしかできないんだ。いつも、奏には迷惑ばっかりかけてると思う」
奏 「そっ……そんなこと……!!」 キッ 「そんなこと、ないもん!!」
奏 「響が、引っ張ってくれるから……わたし、プリキュアでいられるんだもん」
15:以下、
響 「奏……?」
奏 「響が、引っ張ってくれるから、助けてくれるから……」
奏 「無茶をしてでも、わたしをの元にやってきてくれる……そんな響がいるから、」
奏 「――ダメなわたしでも、一緒に戦える。プリキュアでいられるの」
響 「………………」 フルフル 「……違うよ、奏」
奏 「……?」
響 「奏がいつも傍にいてくれるから、わたしは安心して無茶ができるんだよ」
響 「奏がとなりにいてくれるから、いつも冷静に、わたしのことを諫めてくれるから」
響 「……そんな奏がいてくれるから、わたしはプリキュアでいられるんだよ」
奏&響 「「………………」」
――――クスッ……
響 「……ははっ……ねぇ、奏、わたし、奏のこと、」
奏 「……ふふっ……うん、響、わたし、響のこと、」
―――――― 「「………………大好き、だよ」」
キィ……――――――――――――キィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイ……!!!!!!!!!
16:以下、
………………
セイレーン 「なっ……なんだ……? 何が起きている……!?」
セイレーン (プリキュアが光を発している……これは、何だ……?)
セイレーン (心が温かくなる……この光は、一体……)
――――――キィィイイイ…………
セイレーン (この、メロディは……リズムは……)
ギリッ……!!!
セイレーン (幸福のメロディの……一節……ッ!!)
セイレーン 「……ッッッ……!!! ネガトーンッッ!!!」
………………
響 「……ねぇ、聞こえる、奏?」
奏 「うん、しっかり聞こえるよ」
奏 「……これが、あなたの心のメロディなのね、響」
響 「うん。これが、奏のリズムなんだ。温かい。とっても、気持ちいい」
――ギュッ……
17:以下、
響 「とっても温かい。とっても、心地良い」
響 「このリズムを、奏でたい」
奏 「ええ。このメロディを、響かせたい」
奏 「もっともっと大きく。もっともっと強く」
響 「……わたしたちプリキュアが、この街を、」
奏 「この街のみんなの心を、幸せを……」
「「――――――守る……!!!」」
………………
ハミィ 「この、光は……伝説の……」
ハミィ (あのふたりは……本物の……本当の……)
ハミィ (本物の、伝説の戦士……プリキュアの、本当の、姿……)
――――――――――――――――――――――――――カッッッ……!!!!
ハミィ 「!? り、リズムぅぅうううう!! メロディぃぃいいいい!!」
18:以下、
………………
セイレーン 「っ……! 一体、何が……!?」
――――ッットン……
セイレーン 「……――――!?」
響 「……プリキュアは、ふたりでひとつ。ふたりが力を合わせれば、いくらでも強くなれる」
奏 「ふたりが心を通い合わせて、本当の気持ちを伝えることができれば、何でもできる」
セイレーン 「っ……さっきの衝撃で、ネガトーンの手から離れたのか……ッ!!」
奏 「ねぇ、セイレーン。もうこんなことやめましょう。あなたの不幸のメロディは、あなたを傷つけるだけよ」
奏 「誰かを不幸にしたって、自分が満たされるわけじゃない。それはもう分かっているでしょう?」
セイレーン 「……うるさい……」
響 「セイレーン、ハミィは、「ごめん」って言ってたよ。「嫌い」なんて嘘だって」
響 「そんな嘘をついてしまってごめんなさいって……謝ってたよ」
セイレーン 「っ……うるさい……!」
響 「今ならまだ仲直りできるんだよ!! 友達に戻れるんだよ!」
響 「仲直り、したいんでしょ? ……今ならまだ、その気持ちを伝えられるんだよ!?」
19:以下、
セイレーン 「……うるさい……うるさいんだよお前たちはッ!!」
セイレーン 「何が幸福のメロディだ!! 何がプリキュアだ……!!」
セイレーン 「わたしは、もう……もうっ……」
セイレーン 「もう、ハミィに気持ちを伝えられないんだよ……もう、無理なんだよ……」
響 「遅くなんてない。無理なんかじゃない。だって、ほら」
奏 「わたしたちはこうやって手を取り合ってる。大好きな気持ちを、伝えられた」
響 「だからできるよ! セイレーンにも、ハミィに気持ちを伝えることが!」
セイレーン 「っ……!!」 ギリリッ 「……ネガトォォォオオオオオオン!!!!」
――――――……ズザッッ……!!!
響 「………………」 フゥ 「……分かった。駄々っ子には、少しだけお灸を据えてあげなくちゃね」
奏 「ハミィの大切な友達だもの。助けてあげなくっちゃ」 ニコッ
響 「ここで決めなきゃ女がすたる!!」
奏 「気合いのレシピ、見せてあげるわ!!」
セイレーン 「プリキュア……ッ!! プリキュアぁぁぁあああああああああああ!!!」
セイレーン 「潰せ……!! その圧倒的な力で、今度こそ奴らを潰せ! ネガトーン!!」
20:以下、
響 「……行くよ、奏――ううん、キュアリズム!!」
奏 「うん!! わたしの大切なパートナー、響――キュアメロディ!!」
――――――ガシャッッ……!!!
響&奏 「「レッツプレイ・プリキュア!!! スーパーモジュレーション!!」」
セイレーン 「ッ……!?」 (ば、馬鹿な……! すでに変身している戦士が、再度……!?)
セイレーン (これは、まさか……伝説の中に存在する、本物の伝説の……)
――――パァァアアアア……
響 「爪弾くは、世界に響く、幸せのメロディ!! ――――」
奏 「爪弾くは、世界に奏でる、幸せのリズム!! ――――」
………………ザッ……!!!!
響&奏 「「――――届け、ふたりの組曲!! スイートプリキュア・ハーモニアスシルエット!!」」
セイレーン (ッ……!? 心のト音記号で、幸福のハーモニーを奏でる、本物の戦士……!)
セイレーン (清浄なる光をまといし、プリキュアの中のプリキュア……ッ!!)
セイレーン 「っ……あんなもの、見かけ倒しだ!! さっさと潰せネガトーン!!」
21:以下、
響 「……無駄だよ。こんな不幸のメロディじゃ、」
奏 「わたしたちの奏でる幸福のハーモニーには、敵わない」
キィィィィイイイイイイ……!!!!
響&奏 「「プリキュア――――」」
――――ギュッ――――
「「――――パッショナートハーモニー!!」」
――――――ッッッッッッドンンンン!!!!!
セイレーン 「ッ……!?」 (今までとは段違い……ッ! なんて、強大な……なんて、温かい、光……!!)
……パァァァアアアアア……――――――……
セイレーン 「そ、そんな……あの、ネガトーンを……」
セイレーン 「たったの一撃で……」
響 「……セイレーン」
セイレーン 「ッ!!?」 ビクッ
奏 「……安心して、今、あなたを助けてあげるから」
セイレーン 「っ……くっ……」
25:以下、
響 「怖がらないで。大丈夫」 ニコッ 「あなたの心に、幸福のハーモニーを届けるから」
セイレーン 「私は……っ……私は……!!」
響&奏 「「調べましょう、大いなる奇跡のハーモニー!!」」
――――キィィィィィイ……!!!!
響&奏 「「ハーモニアス・ベルティエ!!!」」
響 「ミリー、ファリー、ソリー、ラリー、シリー!!」 奏 「みんな、力を貸して!」
♪ ドド レレ ミミ ファファ ソソ ララ シシ ♪
響 「駆け巡れ!!!」 奏 「トーンのリング!!!」
響&奏 「「プリキュア!! ツイン・ミュージックロンド!!」」
セイレーン (温かい……心地良い……私が好きだった、音楽……)
響 「――リズム!!」
奏 「オッケー、メロディ!!」
奏 「三拍子!! 1,2,3!!!」 響 「フィナーレッッッ!!!!」
――――――カッ………………………………!!!!!!
………………………………………………――――――――――――――――――
26:以下、
――――――――――――――――――………………………………………………
ふたば 「………………」 ゴクリ
つぼみ 「………………」 ギュッ
えりか 「………………」 ゴクッ
いつき 「………………」 ギリッ
ゆり 「………………」
ゆり 「……へぇ。私、実際に観たのは初めてかもしれないわ」
えりか 「あ、そうなんだ。いやぁ、わたしもこのシリーズは初めてなんだけどさぁ……」
いつき 「……なんていうか、すごいね。というか、少し照れちゃうな」
つぼみ 「ははは……」 (幼児向け番組とは思えない熱い展開に、思わず見入ってしまいました……)
コソコソ
つぼみ (えりか……えりか!!)
えりか (はぇ? どうかしたの、つぼみ)
つぼみ (どうかしたの、じゃないですよ。そもそもどうしてこんなことしようなんて言い出したんですか)
えりか (こんなことって、プリキュアの視聴会のこと?)
27:以下、
えりか (いやぁー……わたしたちがモデルになったアニメだよ? やっぱり興味あるじゃない)
つぼみ (それはまぁ……興味ないと言ったら嘘になりますけど)
えりか (でも、さすがにハタチの女子が日曜の朝っぱらから家で一人寂しくアニメ鑑賞なんて不健全っしょ)
つぼみ (ハタチ以上の女子が四人でアニメ鑑賞してる方がよっぽど不健全です……)
えりか (分かってるよー。だからふたばをダシにして――)
つぼみ (今ダシって言った! ひとの妹のことダシって言いましたね!?)
えりか (ま、まぁまぁ。細かいことは置いておこうよ)
つぼみ (細かくありません!!)
ゆり 「――で? あなたたちはさっきから何をコソコソ話してるのかしら?」
つぼみ&えりか 「「ぎくぅ……!!」」
いつき 「すごく古典的な音がしたね」
クスクス
いつき 「それで、どうかな、ふたばちゃん」
ふたば 「はえ?」 クルッ 「なぁに、いつきお姉ちゃん?」
いつき 「プリキュア、面白い?」
29:以下、
ふたば 「うん! とっても!」
ふたば 「キュアメロディもキュアリズムもとってもかわいくて、格好いいの!」
ふたば 「わたし、プリキュア、大好きだよ!」
つぼみ 「だ、大好きっ……///」
えりか 「………………」 フフン (ね? 観てよかったでしょ?)
つぼみ 「ま……まぁ、悪くはないですね」 ニヘラァ
いつき 「面と向かって言われると……少し照れるね」
ゆり 「……そうね」
ふたば 「?」
ふたば 「何でお姉ちゃんたちが照れるの?」
つぼみ 「あ……」
えりか 「あ、あははははは……」
ふたば 「???」
30:以下、
――…………ガチャッ……
みずき 「つぼみー?」
つぼみ 「あっ、お母さん。何ですか?」
みずき 「ちょっと頼まれてもらってもいいかしら? お店のお花の配置を変えたいの」
つぼみ 「分かりました。すぐに行きますね」
みずき 「ん。ありがとう、つぼみ」
つぼみ 「……と、いうことなので、皆さん、ちょっと待っててくださいね」
みずき 「ごめんなさいね、せっかくふたばの相手をしてもらってるのに、お構いもできなくて」
ゆり 「いえ、そんな。お気になさらずに」
ゆり 「……あの、もしよければ、なんですけど」
みずき 「? 何かしら?」
ゆり 「私もお手伝いさせてもらってもよろしいですか? お店のお仕事」
みずき 「あら、いいの?」
ゆり 「はい。是非」
ふたば 「あっ……ふたばもやるー!! お手伝いするー!」
31:以下、
いつき 「はは……昔を思い出すなぁ。僕も手伝ってもいいですか?」
えりか 「あたしもあたしもー! 昔はみんなでよくお店のお手伝いしたよねぇ」
みずき 「あらあら、そうだったわね……じゃあ、頼んじゃおうかしら」
つぼみ 「皆さん……ありがとうございます」
ゆり 「いいのよ。やらせてもらいたいだけなんだから」
つぼみ 「ふたばも、ありがとう」
ナデナデ
ふたば 「えへー」
つぼみ 「お手伝いが終わったら、お外に遊びに行きましょうか?」
ふたば 「ほんとに!? 行く! 行くー!」
えりか 「おお!! 楽しみ楽しみ!!」
いつき 「何でえりかがふたばちゃんより喜んでるのさ……」
つぼみ 「ふふ。じゃあ、まずお手伝いがんばりましょう!」
ふたば 「おー!!」
34:以下、
つぼみ (砂漠の王・デューンがこの地球に襲来したあの事件から、もう六年が経ちました)
つぼみ (あのときお母さんのお腹の中にいたふたばももう六歳。来月に小学校入学を控えています)
つぼみ (わたしとえりかといつきは、20歳になり、大人の仲間入りを果たしました)
つぼみ (ちょっぴり寂しいけれど、くよくよなんかしていられません)
つぼみ (一足先に大人になっていたゆりも合わせたわたしたち四人は、もう子どもではないのです)
つぼみ (それぞれの夢に向かいながら、次の世代の子どもたちに夢を与える大人にならなければなりません)
つぼみ (……なんて、ちょっと格好つけちゃいました)
つぼみ (でも、本心なんですよ? ふたばみたいな子どもたちが笑っていられるような世界を作るために、)
つぼみ (わたし、がんばろうって思うんです!!)
つぼみ (……あ、そうそう、人々の心を見守るこころの大樹も、順調に育っているそうです)
つぼみ (たまにこちらにやってくるシプレたちの幸せそうな顔を見ていると、こっちまで幸せになってきます)
つぼみ (様々なひとが守り、育んできたこころの大樹。それをしっかりと次の子どもたちに託すために)
つぼみ (もうプリキュアじゃないけれど……子どもではなくなった、責任ある大人として)
つぼみ (こころの大樹のために、自分自身の心のために、自分の回りの人々の心のために)
つぼみ (わたしは、幸せに、精一杯生きています)
36:以下、
………………公園
ふたば 「――――ターッチ!!」
いつき 「わっ……やったなぁ?????!!」
ふたば 「きゃー! いつきお姉ちゃん鬼さんだー!」
いつき 「待て??????!!」
ゆり 「………………」 クスッ 「……ふたばちゃんを見ていると、なんかこっちまで幸せになってくるわね」
つぼみ 「ふふ。なんたってわたしの自慢の妹ですからね」 エッヘン
ゆり 「……そう、ね」
つぼみ 「……? ゆり?」
ゆり 「ううん、なんでもないわ」
ゆり 「……ところで、ようやく慣れてくれたようね」
つぼみ 「へ? ……ああ、ふたばですか? あの子は少し人見知りが激しいですからね」
つぼみ 「でも、えりかは元より、もういつきともゆりとも仲良くできるようになりましたね」
ゆり 「ふふ、本当に妹想いなのね、つぼみは。けど、違うわ」
つぼみ 「え?」
37:以下、
ゆり 「ふたばちゃんのことではなくて、あなたのことよ」
つぼみ 「わたし……ですか?」
ゆり 「ええ。やっと私のことを 「ゆり」 って呼ぶのに慣れたみたいだから」
つぼみ 「あっ……そういえば、そうですね……」
つぼみ 「……わたしたちが高校を卒業するときでしたもんね」
ゆり 「ええ。私があなたたちに、名前を呼び捨てで呼んでって頼んだのよね」
ゆり 「……我ながら単純ね。あなたたちともっと仲良くなりたかったからって、そんなこと頼むなんて」
つぼみ 「でも、わたしたちは嬉しかったですよ? ゆりともっと仲良くなれる気がしたから」
つぼみ 「……最初の頃は、わたしはついつい 「ゆりさん」 って呼んじゃいましたけど」
ゆり 「ふふ。えりかなんて頼んだ次の瞬間から馴れ馴れしく呼んできたって言うのにね」
ゆり 「いつきもすぐに慣れてくれたし……」
つぼみ 「………………」
ゆり 「……けれど、あなたたち姉妹のそういうところ、私は好きよ?」
つぼみ 「え?」
ゆり 「人見知りといってしまえばそうだけど……裏を返せば、慎重で、礼節を重んじてるってことだから」
38:以下、
つぼみ 「あ……ゆりにそう言ってもらえると嬉しいです」
ゆり 「ううん。上から目線でごめんなさいね」
『コラァーーーー!!! つぼみ! ゆり! いつまで休んでんのさーっ!!』
『あたしみたいな美女ひとりでちびっ子と明堂院流準師範の相手なんかできないよーっ!』
つぼみ 「あっ……噂をすれば影、ですね」
ゆり 「影というよりは大声、だけれどね。まったく、えりからしいわね」
『えりかお姉ちゃんもうバテちゃったの?』
『まったく……せっかく僕らが遊んであげてるっていうのに、仕方ないお姉ちゃんだね』
『えりかお姉ちゃんは、仕方ないお姉ちゃんなの』
『なっ、何をーーーーーっ!! コラ待てーーーーーーーーー!!』
ドタドタドタ!! キャーーー!!! エリカガクルー!!! ゴラーーーー!!!
つぼみ 「……どっちが幼稚園児なんだか」 クスッ
ゆり 「さ、行きましょう、つぼみ。そろそろ本当にえりかがバテてしまうわ」
つぼみ 「そうですね。……ふふ、なんか、昔を思い出しますね」
ゆり 「そうね。あのときはこんなに平和な駆けっこではなかったけれどね」
39:以下、
………………???
?? (………………)
?? (……ここは……)
?? (……わたし、は……)
?? (……くらい……)
?? (……つめたい……)
?? (……くるしい……)
?? (……こわい……)
?? (………………)
?? (……たす、けて……)
?? (……だれ、か……)
?? (……たすけて……)
40:以下、
………………
えりか 「ぶっはぁ???」 パタッ 「さっすがに疲れたぁ????」
いつき 「えりかは言うほど走ってないだろう? なまってるんじゃない?」
えりか 「だっ、誰が太ったかー!!」
つぼみ 「えりか、誰もそんなこと言ってませんよ」
えりか 「む……むむ……」
ゆり 「……太ったのね?」
えりか 「そこを突っ込むあたり、ゆりは本当に容赦ってモンがないよね!!」
ふたば 「? えりかお姉ちゃん太ったの?」
えりか 「ほらふたばが真似しちゃったじゃん!! うわーん!!」
つぼみ 「大丈夫ですよ。えりかは太ってません」 (むしろ出るトコ以外は痩せてて羨ましいです……)
えりか 「そ、そうだよね!? やっぱりつぼみは優しいから大好き!」 ダキッ
つぼみ 「わひゃあ!? い、いきなり抱きつかないでください!!」
えりか 「あー初々しい反応。いいねぇ。つぼみはいつまで経っても癒し系のままだねぇ」
えりか 「一緒にいると心が安らぐっしゅ……むふー」 ギューッ
41:以下、
いつき 「はは……えりかも、何年経っても変わらないよね」
えりか 「!? いつき、それは太ってないって意味!?」
ゆり 「性格が幼いままって意味よ」
えりか 「だからゆりはーーーーーー!!!」
ふたば 「えりかお姉ちゃんはこどものまま?」
えりか 「ふたばーーーーーー!!!」
ふたば 「きゃはっ、えりかお姉ちゃんお顔がまっかだよ?」
えりか 「まったくもう……!!」 プンプン
つぼみ 「ふふ、えりかったら」 クスクス 「あ……そういえば、ももかさんはお元気ですか?」
えりか 「え、もも姉? うん、元気らしいよー」 ピッピッ……
えりか 「……ほら、これ。あっちの写真だってさ。昨日送ってきた」
つぼみ 「はぁー……懐かしいですねー、花の都パリ……」 ポワーン 「また行きたいです……」
ゆり 「ももかったら、その写真、わたしにも送ってきたわよ。それ以外にもたくさん」
ゆり 「データ通信もタダじゃないっていうのに……よっぽどあっちでの生活が楽しいのね」
えりか 「友達たくさんできたー! ってしょっちゅう電話かけてくるもん。そりゃ楽しいでしょーさ」
42:以下、
いつき 「それにしても、相変わらずももかさんは綺麗だね。ヨーロッパのプロモデルさん……憧れちゃうよ」
えりか 「ぶーっ、いつきがそんなこと言うと嫌味にしか聞こえないよー」
いつき 「えっ? ち、ちょっと待ってよ。どういう意味?」
えりか 「そんなモデル体型してよく言うよ。大学のミスコンに出たって聞いたよー?」
つぼみ 「えっ? それ、本当ですか!?」
いつき 「なっ、なっ……! なんでそれをえりかが知ってるのさ!」
えりか 「えりかちゃんネットワークを舐めてもらっちゃぁ困りますなぁ明堂院さん」 ニヤニヤ
えりか 「……なーんてね。いつきの大学のHPに普通に載ってたよ?」
いつき 「あっ……もう! 出ないって言ったのに無理矢理出させられただけだよ! 本当だよ!?」
えりか 「いつきったら顔まっかにしちゃってかわいいー」
いつき 「え、えりか!!」
えりか 「にゃはは、冗談じょーだん。ごめんってばー」
ゆり 「……でも、満更でもないのではなくって? いつき」
いつき 「あ……あぅ……それは、まぁ……嬉しかったけどさ……」 モジモジ
つぼみ (照れてるいつき、相変わらず可愛いすぎです……)
43:以下、
いつき 「で、でもでも、僕はえりかにも憧れてるんだよ?」
えりか 「えっ? あたしに!?」
いつき 「うん! えりか、背ちっちゃくて可愛いし……そのくせ……その……」
えりか 「? なに?」
いつき 「……その……//// 胸は……おっきいし……////」
えりか 「はぇ? お○ぱい?」
いつき 「……////」
えりか 「………………」 ジトッ 「……いつきのえっち」 ボソッ
いつき 「!? ち、ちょっとえりか!! その言い方はないよ!!」
えりか 「………………」
いつき 「……ど、どうしたの?」
ムンズ
いつき 「わひゃっ!! え、えりか、そんな急に……///」
えりか 「………………」 ペタペタペタ 「……うん。たしかにこれは断崖絶ぺぱきゅ!!」
いつき 「誰が断崖絶壁だーーーーーー!!!」 ワナワナワナ!!!
45:以下、
いつき 「ち、ちょっとはあるよ!! ちょっとは!! Aだけど!!」
つぼみ 「ど、どうどう……どうどうどう……」 (そんなわざわざ言わなくても……)
いつき 「フーッ!! フーッ!! フシャーッ!!」
えりか 「じ、冗談。じょーだんだよー。ちょっとはあったよ。ちょっとは」
いつき 「……まったくもう!!」
ふたば 「………………」 ペタペタペタ 「……ふたばも断崖絶壁です?」
つぼみ 「ふ、ふたばはいいんですよ! これから育ちますから」
つぼみ 「えりか!! ふたばの教育上よくないことを言わないでくださいっ!!」
えりか 「えへへへ……いつき、怒られてやんのー」
いつき 「怒られてるのはえりかだよっ!!」
ワーワーギャーギャー!!!
――――――ッ……ポン……ポポン……
つぼみ 「? あれ、ボール……?」
女の子 「あっ……ふたばちゃん?」
ふたば 「? あっ……」
46:以下、
つぼみ 「ふたば? お友達ですか?」
ふたば 「う、うん。幼稚園の、お友達……」
女の子 「ふたばちゃん、こんにちは」
ふたば 「こ、こんにちは……」
いつき (? なんか一気に元気がなくなっちゃったな)
いつき 「……このボールは、君の?」 ヒョイ
女の子 「あ、うん。わたしの」
いつき 「じゃあ、はい」
女の子 「ありがとう!」 ペコリ
いつき 「ふふ、どういたしまして」
ふたば 「………………」
女の子 「……ふたばちゃん」
ふたば 「!? な、なに……?」
女の子 「あのね、あっちでね、みんなでボール遊びしてるの」
女の子 「よかったら、ふたばちゃんも一緒に遊ばない?」 ニコッ
48:以下、
ふたば 「あっ……あの、その……わたしは……」
つぼみ 「それはちょうどいいですね。ふたば、せっかっくのお誘いですし、遊んできたらどうですか?」
ふたば 「あぅ……」 コクリ 「……うん。じゃあ、行ってくるね」
つぼみ 「はい、行ってらっしゃい」
女の子 「ん! みんなあんまりふたばちゃんと遊んだことないから、きっと喜ぶよ!」
ギュッ
つぼみ 「あっ……」
女の子 「いこ!」
タッ……トトトトトトト……
ふたば 「………………」
いつき 「……?」 (行っちゃった……なんか、ふたばちゃん不安そうだったな)
つぼみ 「………………」
いつき 「? つぼみ? 怖い顔して、どうかしたの?」
つぼみ 「えっ?」 ドキッ 「わたし、そんな顔してました?」
いつき 「う、うん……」
49:以下、
つぼみ 「………………」
えりか 「つぼみ?」
つぼみ 「……ふたばは、わたしと同じように人見知りをする子ですから」
つぼみ 「幼稚園でも、もう年長さんだっていうのに、まだ仲良しができないみたいなんです」
つぼみ 「それがちょっと心配で……」
ゆり 「……それは……来月に小学校入学も控えているし、心配ね」
つぼみ 「はい……だから、友達と一緒に遊ぶことを覚えてもらいたくて……」
つぼみ 「ふたばが心配そうな顔をしているのは分かっているんです。不安だってことも」
つぼみ 「けど、いつまでもわたしたちが遊んであげられるわけじゃないから……」
つぼみ 「わたしも辛いけど、ふたばが頑張らないといけないことだから」
えりか 「……そっか。つぼみは偉いね。ちゃんとお姉さんしてる」
つぼみ 「そ、そんなことないですよ……。それに、わたしは信じてますから」
つぼみ 「ふたばのことを。それから、わたしのように、ふたばの前にも親友が現れてくれることを」
つぼみ 「……ね? 転校初日にわたしのことを引っ張り回してくれた、大親友さん?」
えりか 「あっ……あははは……その節はどうもご迷惑を……」
50:以下、
つぼみ 「そんなことないですよ。わたしが変わるきっかけを作ってくれたのはえりかなんですから」
えりか 「そう? ……えへへへへ。照れちゃうなー」
いつき 「そういえば、僕もファッション部がなければ……えりかがいなかったら変われなかっただろうな」
いつき 「えりかが無理矢理にでも引っ張ってくれたから、僕も変わるきっかけを掴めたんだと思うよ」
えりか 「え……///」 パタパタ 「あ……あはははは、おだてても何もでないよー?」
ゆり 「……そうね。誰とでもすぐ仲良くなろうと努力して、その相手を変えていく」
ゆり 「それはももかにはない、あなただけの魅力よ、えりか。誇りなさい」
えりか 「も、もうっ! ゆりまでおだてるんだから……////」
えりか 「ま、まぁこの世紀の美少女・来海えりかの溢れるオーラなら仕方ないっしゅ!」
いつき 「……まぁ、その子どもっぽい照れ隠しが全部をぶち壊してるんだけどね」 ハァ
つぼみ 「まったくです……」 ハァ
えりか 「なっ……何をーーーーーーー!!!」
ゆり 「まったく。あなたたちのその奔放さが羨ましいわ……」 ファサッ……
えりか 「ぐっ……」 (しかし真にもも姉の魅力に抗える人材は……)
いつき (この綺麗なお姉さんポジションを地で行くゆりしかいない……)
51:以下、
つぼみ (ゆりは相変わらず綺麗ですよねー……いいなぁ……)
ゆり 「? みんなどうかしたの?」
えりか 「ううん。なんでもないよー」 ピコーン 「あっ……!」
つぼみ (また何かよからぬコトを思いつきましたねえりか……)
えりか 「そ、そういえばさ、ゆり! ひとつ聞きたいことがあるんだけどさ!」
ゆり 「何かしら?」
えりか 「その後ハヤト君とはどうなったの?」
ゆり 「っ……!? い、いきなりにゃっ、にゃにを!! 何を言い出すのえりか!!」
つぼみ (今 “にゃっ” って言いましたね……かわいい)
えりか 「ねえー、教えてよゆりぃー」
ゆり 「ど、どうなったって……ど、どうもにゃってにゃいわよ!!」
つぼみ (でも何でネコなんでしょう……?)
えりか 「付き合うまではいったんだよねー? さささ、どこまでいったのか白状しなさい」
ゆり 「どこまでって……べっ、べつに……なんにもないわよ」
いつき 「……ぷっ……ははははは」
52:以下、
つぼみ 「? どうかしたんですか、いつき」
いつき 「いやね……全部知ってる身としては見てて面白いな、ってさ」
ゆり 「!? ま、まさかいつき! ハヤト君から何か聞いて……!?」
いつき 「ま、一応僕は彼の “先生” だからね」
つぼみ 「あ……ハヤト君、中学校に入ってすぐ明堂院流の門下生になったんでしたっけ?」
いつき 「うん。スジはいいし、まだ入門して四年目だけどめきめき上達してるよ」
ニヤニヤ
いつき 「なんたって、入門理由が 「年上の綺麗なお姉さんを守りたい」 だもんね。妬けちゃうよ」
ゆり 「い、いつき!!」
えりか 「で? で? いつきはハヤト君からどんな話を聞いたのさ!?」
いつき 「……言っちゃっていいのかなぁ。ま、いっか」
ゆり 「よ、よくないわよ!!」 ガバッ
いつき 「わっ……あはははは、冗談だよ、ゆり。そんなことハヤト君が教えてくれるわけないじゃない」
ゆり 「あっ……/// いつき!!」
いつき 「ハヤト君は真面目で優しい子だからねぇ。ゆりが嫌がることは絶対やらないだろうし」
53:以下、
えりか 「……でもでも、ゆり、正味な話さ」
ゆり 「な、なによ……急に改まって」
えりか 「……キスぐらいはさせたげなよ?」
ゆり 「………………」 ボソッ 「――た、わよ……」
えりか 「えっ? なになに?」
ゆり 「し……したわよ! 触れるくらいなら……////」
つぼみ 「あぅぅ……///」
ゆり 「こ、これで満足でしょ!? あなたたちこそどうなのよ!」
えりか 「あたしたち?」
ゆり 「恋人でもできた? って話よ」
えりか 「………………」 プハッ 「はははは……できるわけないじゃんそんなのー」
えりか 「ゆりと違って想いを寄せてくれる近所の男の子なんていないからねーあたしには」
えりか 「専門学校もアパレル系だから女の子ばっかりだし、出会いも何もありゃしないよ」
えりか 「……ちなみにつぼみは?」
つぼみ 「え……ええっ!? わたしですか!?」
56:以下、
つぼみ 「そんなのいるわけないじゃないですか……」 ショボーン
えりか 「でも、大学って男の子たくさんいそうだけど」
ゆり 「わたしとつぼみは専攻が植物学だから。男性と女性が半々くらいよ」
ゆり 「まぁ、さすがにわたしの在籍している修士課程は男性ばかりだけれど」
えりか 「いないの? 気になる男のひととか」
つぼみ 「……残念ながら、“良いな” って思った殿方はみんな恋人さん持ちです」
えりか 「あー……つぼみって面食いだもんねぇ……」
つぼみ 「そ、そこまでじゃないですよ!!」
えりか 「いつきはー? ミスコンに出るくらいだし、彼氏できたー?」
いつき 「はは……そんなの考えたこともなかったな。できてないよ」
つぼみ 「いつきは教育学部ですよね? なんだかんだで出会いも多そうですけど」
いつき 「それが……僕は家庭科専攻で、回りが女の子ばっかりだから」
えりか 「……なるほど。それで女の子に告白されまくりで困っていると」
いつき 「!? 何で分かったのえりか!?」
えりか 「中高と一緒なんだからいい加減分かるっしゅ」 ハァ 「変わらないねぇあたしたちも」
59:以下、
つぼみ 「………………」
いつき 「………………」
えりか 「………………」
ズゴーン
つぼみ 「……わたしたち、このまま恋人もできず、結婚もできず……」
いつき 「ひとり寂しく歳を取っていくのかなぁ……」
えりか 「や、やだよそんなの! 頑張ろうよ!!」
ゆり 「……そう焦るものでもないでしょう」
つぼみいつきえりか 「「「ゆりが言うと嫌味にしか聞こえないよ!!」」」
ゆり 「そ、そうかしら……?」
えりか 「くそーーーー!! ゆりなんて児童なんたら法で逮捕されちゃえー!!」
ゆり 「あら、やましいことは何一つないから関係ないわ」
えりか 「むきーーーーーー!!!」
えりか 「もういい!! いつき、つぼみ!! 合コン!! 合コンしようよ!!」
いつき 「……またいきなり変なことを言い出すんだから」
60:以下、
えりか 「変なことじゃないよ! あたしら、花も恥じらう女子大生だよ?」
つぼみ 「えりかは女子専門学校生ですけどね……」
えりか 「細かいことはいいの! とにかく、合コンをしてみたいの、あたしは!」
いつき 「……? えりかしたことないの? てっきりそういうの慣れっこだと思ってたよ」
えりか 「……服作るのが楽しくて、ついついガラにもなく真面目に二年間を過ごしてしまいました」
つぼみ 「いや、そんな反省してるみたいに言わなくても……」
いつき 「と言ったって、僕も行ったことないしなぁ……つぼみは?」
つぼみ 「……あるわけないじゃないですか……」 ズゴーン
えりか 「ゆりは……ないよね。ハヤト君がいるもんね……」
ゆり 「まぁ、そうね」
えりか 「……花も恥じらう美少女女子大生集団が……合コンのゴの字も知らないなんて……」
ゆり 「わたしは大学院生だけれどね」
えりか 「だから細かいことはいいんだってば!!」
えりか 「合コンしたい合コンしたい合コンしてみたいよーーーー!!」
ゆり 「……まったくもう……」
61:以下、
………………
女の子 「ふたばちゃん、いくよー!」
ポーン
ふたば 「あわ、あわわわわ……」
トトトトト……トテッ
ふたば 「あうっ……」
男の子1 「わっ……ふたばちゃん、大丈夫?」
ふたば 「あ……あう……だ、大丈夫、だよ……」 (痛い……)
男の子2 「うわ、痛そう……お家帰る?」
ふたば 「あう……う、うん……そうする」
女の子 「……大丈夫、ふたばちゃん? おうちまで一緒に行こうか?」
ふたば 「だ、大丈夫だよ。あっちに、お姉ちゃんたちがいるから……」
女の子 「そう……?」
ふたば 「う、うん……」 トテトテ 「じゃ、じゃあね、また、明日、幼稚園でね」
女の子 「あ……う、うん……ばいばい、ふたばちゃん」
62:以下、
ふたば 「………………」
トテトテトテ……
ふたば (あ……ありがとうって、言えなかった……)
ふたば (誘ってくれてありがとうって……また、遊ぼうねって……言えなかった)
ふたば (ダメだよ。わたし、悪い子だよ……)
ジワッ……
ふたば (嫌われちゃうよ。嫌な子だって思われちゃうよ。わたし……)
ふたば (うぅ……)
グスッ……
――――――キャッキャ……ウフフ……
ふたば (あ……お姉ちゃん……)
つぼみ 「……――――……」 ニコニコ
えりか 「……――――……」 ギャーギャー
いつき 「……――――……」 マァマァ
ゆり 「……――――……」 ヤレヤレ
63:以下、
ふたば 「………………」
ふたば 「……お姉ちゃん……」
ふたば 「………………」 クルッ 「……邪魔しちゃ、ダメだよね」
ふたば 「お姉ちゃん、えりかお姉ちゃんたちと、楽しくお喋りしてるんだもん」
ふたば 「わたしが一緒にいたら、邪魔になっちゃうよね」
ふたば 「………………」
ふたば 「……このままおうちに帰っても、お仕事で忙しいお母さんの邪魔になっちゃうし」
……トテトテトテ
ふたば (……わたしも、お姉ちゃんみたいになりたい)
ふたば (お姉ちゃんみたいに明るく、積極的に……なりたい)
ふたば (でも、無理だよね……わたしは “ふたば” だもん。“つぼみ” じゃない)
ふたば (どんなに頑張ったって……わたしは花を咲かせることはできないんだから……)
ふたば (葉っぱは葉っぱ。お花にはなれない。わたしは、お花にはなれないんだ)
ふたば 「……っ」 グスッ (“あそこ” に行こう……)
64:以下、
………………明堂院流道場
さつき 「………………」
ハヤト 「………………」
ハヤト (……この間合いなら……いける……!!)
スッ――――――ッダン!!!
ハヤト 「――――うぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!」
さつき 「………………」 カッ 「……っはぁ!!!」
ハヤト 「……ッ!?」 (師範代が、消え……――ッ!!!?)
――――――――ッッッダンンンン!!!!
ハヤト 「がっ……!!」
熊本 「……そこまで!!」
さつき 「………………」 フゥ 「……大丈夫かい?」 ニコッ
ハヤト 「あ……だ、大丈夫です。すみません!!」
熊本 「……礼」
「「ありがとうございました!!」」
65:以下、
ハヤト (すごい……師範代が消えたと思った次の瞬間には、床に叩きつけられていた)
さつき 「いやぁ。様になってきたね。思わず本気で投げ飛ばしてしまったよ」
さつき 「そのまま僕や熊本さん、それから準師範も超えられるくらい強くなってくれよ」
ハヤト 「そ、そんな恐れ多い……!! さつき師範代や熊本師範代に勝つなんて……そんなそんな」
熊本 「自分で無理だと思っているうちは絶対に為し得ないぜよ?」
熊本 「守りたいものがあるから強くなりたいと思ったのだろう?」
ハヤト 「あっ……」 グッ 「……がんばります。いつか、絶対に追いつき、追い越します」
ハヤト 「ずっと、助けてもらってたから。守ってもらってたから」
ハヤト 「……今度は俺が守る番。だから……俺、もっと強くなります!!」
熊本 「うむ。良い返事ぜよ。強くなりたい理由があるのなら、精進するぜよ」
ハヤト 「はい! まずは諸先輩方に追いつけるよう、全力でがんばります!!」
熊本 「応。そうするぜよ!」
さつき 「そうだね。一緒にがんばろう」 ニコッ 「それじゃ、今日の個人稽古はおしまいだ。お疲れ様、ハヤト君」
さつき 「午後の “子ども道場” が始まるまで休んでて。午後は組み手の見本になってもらうからね」
ハヤト 「は、はい! ありがとうございました!! 午後も誠心誠意努めさせていただきます!!」
66:以下、
………………明堂院宅
さつき 「……師範代業も大分板についてきましたね、お互い」
熊本 「とんでもない。さつき殿はともかく、自分はまだ未熟じゃきぃ」
さつき 「そんなことはないんじゃないかなぁ。ハヤト君も熊本さんの言葉に何かを感じたようだったし」
熊本 「……自分の言葉で、若人の心を動かせたのなら、それは喜ばしいことじゃきぃ」
さつき 「ふふ。そうですね」
熊本 「それにしても、今日の手合いはお見事だったぜよ。あの瞬間の動きは、自分も目で追えなかった」
さつき 「そんな、熊本さん、おだてたって何も出ませんよ」
熊本 「いや、謙遜するものではないぜよ。やはり、自分はまださつき殿には勝てん」
熊本 「自分はもっと強くならなければならんじゃきぃ……もっと……もっと……」
さつき 「……あの、熊本さん。ひとつ聞いてもいいですか?」
熊本 「? なんなりと」
さつき 「熊本さんは、どうしてそんなに強くなりたいんですか?」
熊本 「どうして……? 強くなりたい理由……」
熊本 「……そんなもの、強くなりたいからに決まっているぜよ。他に理由など必要ないじゃきぃ」
73:以下、
熊本 「――と、ここに来る前の自分だったら、そう言っていたぜよ」
さつき 「え……?」
熊本 「正直な話、自分にもよく分からんぜよ」
熊本 「……だが、心の奥底にひとつ、凜とした声が響いているじゃきぃ」
さつき 「凜とした声……?」
熊本 「『あんたは何で強くなりたいの?』 ……そう、自分に問いかける声が」
さつき 「………………」
熊本 「理由は分からん。だが……自分は、その声を思い出すたび、安心するぜよ」
熊本 「きっと、その声の主に、自分は助けられた……そんな気がするぜよ」
熊本 「だから……自分は、あの声の主に恥じぬように、強く生きたい。だから、強くなりたい」
熊本 「そして願わくは、あの声の主に恩返しがしたい……そのために、強くなりたいんぜよ」
さつき 「……なるほど。よく分かりました」
熊本 「申し訳ないぜよ。意味の分からない解答になってしまって……」
さつき 「とんでもない」 ニコッ 「……だって、僕も似たようなものですから」
熊本 「……?」
74:以下、
さつき 「僕も、とっても明るい声に助けられたんです」
さつき 「まるで、お日様のような……太陽のような、明るい声」
さつき 「あの声の主のおかげで、僕は自分の弱さと向き合えた」
さつき 「心配してくれる家族とも向き合えた。勇気を出して手術を受けることができた」
さつき 「弱虫だった自分と向き合えた。……少しだけ、けれど、たしかに、強くなった」
さつき 「だから、僕もあの声の主に恥じないように、がんばりたいんです」
さつき 「もっと……強く、なりたいんです」
さつき 「そして僕も願わくは……いつか、あの子に恩返しができたらって」
さつき 「そんな風に、思ってるんです」
熊本 「さつき殿……」
さつき 「……まぁ、そんなこと言って、まだ妹にも勝てないんですけどね」 クスッ
熊本 「うっ……それを言われると自分も弱いぜよ」
熊本 「……いつき準師範はあんなにお綺麗なのに、何であんなにお強いのぜよ……不思議じゃきぃ」
さつき 「あの子は……いや、あの方は小さい頃から鍛錬を怠っていませんからね」
さつき 「並大抵の努力じゃ追いつけません」
75:以下、
熊本 「………………」
ウズウズウズ……
熊本 「さ、さつき殿!!」
さつき 「………………」 クスッ 「……ええ、存分にお付き合いしますよ。僕も同じ事を考えていました」
さつき 「ハヤト君の若い真っ直ぐさに当てられたかな。強くなりたくてたまらない」
さつき 「師範代同士、午後まで道場で鍛錬に励みましょう。秘密特訓です」
熊本 「応! さすがはさつき殿ぜよ!」
さつき 「いい加減、準師範の座を奪い取って、いつきを安心させてあげなくちゃなりませんからね」
熊本 「む……ならばその役目、この熊本が代わって差し上げてもよろしいが」
さつき 「はは……負けませんよ? 熊本さん」
熊本 「望むところじゃきぃ、さつき殿!」
タタタタタタタ……
つばき 「……はぁ。まったく、男の人は元気ね」
厳太郎 「良きかな良きかな。あれでこそ明堂院流の師範代だ。儂が引退する日も近いかのう」
つばき 「無理しないといいですけど」 クスッ
76:以下、
………………希望ヶ花市 チャペル
?? 「――美しい!! 素晴らしい!!!!」
花嫁 「あ……ど、どうもありがとうございます……」
?? 「いやぁ……さすが僕。美しさが生地の繊維にまで行き届いている……」
?? 「ここまで素晴らしいウェディングドレスはそうはない……うん。素晴らしい!!」
花嫁 (……たしかに綺麗で素敵なドレスだけど……)
花嫁 (馬子にも衣装になってないかしら……私、きちんと着こなせてるのかな……)
?? 「うん……本当に綺麗だ。素晴らしい。最高だ!」
花嫁 「………………」
?? 「……そう、僕が一から仕立てたワンオフのウェディングドレスもさることながら、何より!!」
ビシィ!!!
花嫁 「!」 ビクッ
?? 「今日の主役たるアナタが!! 幸福の真っ直中にいるアナタが!! 何よりも美しい!!!」
花嫁 「えっ……?」
?? 「世界広しといえど……この僕のウェディングドレスを華麗に着こなせるのは、アナタだけでしょう」
77:以下、
花嫁 「そ、そうでしょうか……きちんと、綺麗でしょうか……?」
?? 「当たり前です!! ほら、見てください!!」
サッ
花嫁 「あっ……これが、私……? なんか、以前に試着したときと、雰囲気が……」
?? 「それはそうでしょう。本日はあなたの結婚式。こころが幸せに打ち震える日」
?? 「ならばあなたの美しさが最高潮に高まるのは必然!! ああ……美しいですよ」
花嫁 「あ……////」 グッ 「ありがとうございます!! 私、なんか自信が出てきました!」
?? 「それは良かった。僕は元より、そのドレスも、きっと喜んでいます」
花嫁 「あなたにウェディングドレスの依頼をして良かった……えっと……」
?? 「……以後お見知りおきを、美しい花嫁様」
ペコリ
?? 「人呼んで、美と心の狩人……コブラージャ――」
花嫁 (あ、やっぱり変な人……)
?? 「――本名は古布 (こぶ) と申します」
花嫁 「あ、名前は普通なんですね」
79:以下、
………………チャペル外
古布 「……感激してくれた花嫁からこの後始まる式の飛び入りの招待状までもらってしまった」
古布 「会社も出席を快くオッケーしてくれたし……緩いなぁ」
古布 「……ずっと夢で見ていたあの組織とはすごい違いだ、いや、ある意味あの組織も緩かったが」
古布 「………………」
古布 「しかし、あの花嫁は本当に綺麗だった。人とは……人の心とは、あんなにも美しくなれる」
古布 「……教えて、もらったんだよな。六年前、夢の中で」
古布 「僕は、あの美しい、金色に輝く女の子に、救ってもらったんだ」
古布 「人の心の美しさ。それを素直に美しいと思うこと……みんな、彼女が教えてくれたんだ」
古布 「だから僕は、僕の全てを賭してでも、この世界に生きる人々の美しい心を守る」
古布 「そして、その心をなお美しく……幸せ色に輝かせられるような服を作る」
古布 「……それが、美しい僕の義務。美しい僕に与えられた仕事」
古布 「ふふ……ふははははははははは!!!!」
子供 「……? ママー、あのひと大声で笑ってるよー?」
ママ 「しっ……見ちゃいけません」
80:以下、
………………
ふたば 「………………」
トボトボトボ……ハァ……
ふたば 「………………」
?? 「……んう? あら、ふたばちゃんじゃなーい?」
ふたば 「ふぇ?」
?? 「日曜日に会うなんて奇遇ねぇ。こんにちは」
ふたば 「あ……佐曽(さそ)先生。こんにちは」
佐曽 「やぁねぇ、ふたばちゃん。気軽にりな先生って呼んでよぉ」 クネクネ
ふたば (……この先生、苦手)
ふたば (とっても優しいんだけど、なんか……)
佐曽 「あらやだ!! ふたばちゃんそれどうしたの!?」
ふたば 「え……?」 (あっ……怪我……)
佐曽 「あらあらまぁまぁ、痛そう……こけちゃったの?」
ふたば 「あ……う、うん……」
81:以下、
………………佐曽宅
佐曽 「うちが近くで良かったわぁ。これで大丈夫よ」 ニコッ
ふたば 「あ……う、うん……ごめんなさい」
ふたば (結局、そのまま連れて行かれて手当てまでされちゃった……)
佐曽 「いいのよぉ。ふたばちゃんは先生の大事な大事な教え子なんだからぁ」
ふたば 「で、でも……先生、お出かけの途中だったんじゃ……」
佐曽 「そんなこと子どもが気にしなくていいのよぉ。先生はふたばちゃんたちのためにいるんだから」
佐曽 「ね?」
ふたば 「う……うん……」
佐曽 「………………」 (花咲ふたばちゃん……この子は、園児の中でも群を抜いて人見知りをする)
佐曽 (三年間見てきた限りでは、発達障害などは皆無……)
佐曽 (幼稚園で色々とやってきたつもりだけれど、難しいわねぇ)
佐曽 (私も幼児理解がまだまだ足りないなぁ……)
佐曽 (……ううん、まだよ。まだ諦めるのは早いわ)
佐曽 (嫉妬や僻み、寂しさに囚われていたあのときとは違う。今の私は先生)
82:以下、
佐曽 (ふたばちゃんのために、まだやれることがたくさんあるはずよ……がんばるのよ、佐曽りな!!)
佐曽 (あのときのように……あの、夢の中でわたしを救ってくれた四人の女の子たちのように)
佐曽 (……そして、いがみ合いながらも、私を手助けしてくれた、あの二人のように)
佐曽 (私はもうひとりじゃない。そして、助けられる側でもない)
佐曽 (あと一月もないけれど……ふたばちゃんのために、できることをやらなくっちゃ!!)
ふたば 「先生……?」
佐曽 「あっ……ごっめんなさぁい! 先生、少し考えごとしちゃってたわぁ」
佐曽 「……さ、ふたばちゃん、お家まで送るわ。行きましょう?」
ふたば 「あっ……で、でも……」
佐曽 「子どもが遠慮なんてしないの。私は、ふたばちゃんのことが好きだからそうしたいのよぉ」
佐曽 「だからこれは私のわがまま。付き合わせちゃってごめんなさいねぇ、ふたばちゃん」
ふたば 「……あ、う、うん」 (やっぱり、とっても良い先生。きっと、わたしは、この先生のことが、好き)
ふたば (けど、伝えられないよ。怖いよ。わたし、お礼も言えてないのに……)
佐曽 「さ、行きましょう」
ふたば 「あっ……」
83:以下、
佐曽 「? ……もしかして、どこか行くところがあったかしら?」
ふたば 「えっ……? あ、そ、そうじゃ、なくて……ううん、そうじゃなく、ないんだけど……」
ふたば (お礼……)
佐曽 「?」
ふたば 「あ……あの……その、……おばあちゃんのところに、行く、途中、だったの」
佐曽 「おばあちゃん……ああ、ふたばちゃんのおばあちゃんは植物園の園長さんをしていらっしゃるのよね」
ふたば 「う、うん……その、植物園に、行く途中で……」
佐曽 「そうだったの。じゃあ、植物園まで送っていくわ」
ふたば 「あ……う、うん……」
トコトコトコ……
ふたば (……お礼、言えてない。また、言えない。わたし……)
ふたば (……わたし、ダメな子だ) シュン
佐曽 「………………」 ニコッ 「……伝わっているから、大丈夫よ? 安心して」
ふたば 「えっ……?」
佐曽 「ふたばちゃんが言いたいこと、分かるから、そう自分を責めないで」
91:以下、
ふたば 「……なん、で?」
佐曽 「ふたばちゃんは優しい子だもの。そんな子の考えてることなんて先生にはお見通しよぉ?」
クスクスクス
ふたば 「あうぅ……」
佐曽 「……不思議なものでね、心って、そのままじゃ相手には伝わらないの」
佐曽 「けれど、私たちには “言葉” っていうものがあるの。それを使えば、心を伝えられるのよ」
ふたば 「………………」
佐曽 「だから、今度は、その気持ちを相手に伝えられるようにがんばりましょう?」
ふたば 「……うん!」
ギュッ
ふたば 「りな先生!」
佐曽 「はい、何かしら?」
ふたば 「あり、がとう!!」
佐曽 「ん。どういたしまして」 ナデナデ 「よく言えたわねぇ。偉いわぁ」
ふたば 「う……うん!」
92:以下、
………………こころの大樹
コフレ 「……うん。今日もこころの大樹は順調に育ってるですね」
シプレ 「みんなのこころの花がしっかりと咲いている証拠ですぅ」
ポプリ 「………………」 ソワソワソワ
コフレ 「? ポプリ、どうかしたですか?」
ポプリ 「!? ど、どうもしてないでしゅよ!?」
コフレ 「………………」 ジーッ 「……怪しいですっ」
ポプリ 「ぎくっ」
シプレ 「ポプリぃ??????」
ポプリ 「な、なんでもないでしゅー!! ポプリ何もしてないでしゅ!」
?? 「――あ、いたいた。ポプリ先輩、言われてたもの、用意できましたけど……って」
?? 「……? どうかしたんですか? コフレ先輩、シプレ先輩」
ポプリ 「あ、バニラ!!」 ピューン!!! 「バニラ、ポプリを助けるでしゅ! かくまうでしゅ!」
バニラ 「えっ? えっ? えっ? ……どういうことです?」
コフレ 「バニラ! おとなしくポプリを渡すです!!」
94:以下、
バニラ 「えーっと……話が読めないんですが……」
シプレ 「……? ところでバニラ、そのふろしきは何ですぅ?」
バニラ 「あっ、これはポプリ先輩に頼まれて用意しておいたキュアフルミッむぐぅ!!?」
ポプリ 「バニラ!! しーっ! しーでしゅよ!! ナイショなんでしゅ!!」
バニラ 「そ、そうなんですか……? 僕はてっきりコフレ先輩たちもご存知なのかと……」
コフレ 「ポプリーーーー!!! 今度は一体何を企んでいたですか!!」
コフレ 「というか!! いくら先輩だからって、後輩のバニラをいいように使うなですっ!!」
バニラ 「いえ、いいんですよ、コフレ先輩。僕は生まれたばかりの妖精ですし」
バニラ 「先輩方のお役に立てるのなら、どんなことでもしたいですから」
コフレ 「そういう問題じゃないですっ! バニラは優しすぎなんですっ!!」
シプレ 「それにしっかりしすぎですぅ。だからポプリが甘えたさんになっちゃうですよ」
バニラ 「あ……それは、申し訳ありません……」 シュン
コフレ 「それはともかくとしてポプリ!!」
ポプリ 「あう……あうぅ……」 ブワッ
コフレ 「話はしっかりと聞かせてもらうですからねっ!!」
95:以下、
………………
ポプリ 「……と、いうわけなんでしゅ」
コフレ 「………………」 ハァ 「……なるほど」
シプレ 「………………」 ハァ 「……よくわかったですぅ」
ポプリ 「分かってくれたでしゅ?」
コフレ&シプレ 「「馬鹿ポプリーーーーーーーーーーー!!!!」」
バニラ 「わっ……! み、耳が……」 キーン
ポプリ 「あー……うー……」 グワングワン 「目が回るでしゅー……」
コフレ 「ポプリ!! 目を回してないでしっかり話を聞くですっ!!
ポプリ 「は、はいでしゅー……」
シプレ 「いつまで甘えたさんでいるつもりですか! ポプリは!!」
シプレ 「――勝手に希望ヶ花市に行こうだなんて……許されませんですぅ!!」
ポプリ 「あぅぅ……」
コフレ 「それにキュアフルミックスまで持っていこうとするなんて……ピクニックですか!!」
バニラ 「あ、あの……シプレ先輩、コフレ先輩……そのくらいにしてあげた方が……」
96:以下、
コフレ 「バニラは静かにしてるですっ! そこで甘やかすからポプリが甘えちゃうんですっ!」
バニラ 「す、すみません!」
シプレ 「……ポプリ」
ポプリ 「は、はいでしゅ」
シプレ 「ポプリも少しはバニラを見習うです。バニラは全然悪くないのに、こうして反省してるですぅ」
シプレ 「ポプリは、こんなに真面目な後輩を誤魔化して、悪いことしたんですよ?」
ポプリ 「あう……その通りでしゅ」
ポプリ 「……でも……でも」 ウルッ 「……ポプリは久しぶりにいちゅきたちに会いたいでしゅ」
ポプリ 「シプレとコフレは違うでしゅか……?」
コフレ 「そっ……そんなわけないですっ。コフレもシプレも……会いたいです」
シプレ 「……けどですね、ポプリ。私たちは妖精ですぅ。こころの大樹を見守るのがお仕事です」
シプレ 「せっかくプリキュアたちが守ってくれたこころの大樹を放っていくわけにはいきませんです」
ポプリ 「……はいでしゅ。ポプリも、こころの大樹は心配でしゅ」
コフレ 「一年に一度は会ってるじゃないですか。僕たちも辛いけれど、それで我慢ですっ」
ポプリ 「………………」 コクン 「……はいでしゅ。ポプリが悪かったでしゅ。ごめんなさい、シプレ、コフレ」
97:以下、
コフレ 「分かればいいですよ。……でも、ポプリはもうひとり謝らなきゃいけないですよ?」
ポプリ 「あっ……そうでしゅね……」
バニラ 「?」
ポプリ 「バニラ……騙してごめんなさいでしゅ。ポプリ、バニラに悪いことしてしまったでしゅ」
バニラ 「えっ……? いや、そんなの気にしないでください」
バニラ 「コフレ先輩もシプレ先輩も、それからポプリ先輩も、僕の憧れの先輩ですから」
コフレ 「バニラ……?」
バニラ 「……最強のプリキュアたちを生み出した、四人の妖精……それは、僕の憧れですから」
バニラ 「だから何なりと申しつけてください。喜んで何でもします」
シプレ 「………………」 ハァ 「……バニラはバニラで、実は手のかかる後輩ですぅ」
コフレ 「何でも……じゃあ、ちょっと僕の分のキュアフルミックスを取ってきてもらっていいですか?」
バニラ 「分かりました! すぐに取ってきます!!」 ピューン!!
コフレ 「………………」 ニヤリ 「……これは便利です」
シプレ 「……?」 ハッ 「こらコフレっ!!!! 後輩をパシリにしちゃだめですぅ!!!」
ポプリ 「……やれやれ。コフレはどうしようもないでしゅね」
100:以下、
………………植物園
薫子 「――わざわざすみませんでしたね、りな先生。ありがとうございます」
佐曽 「とんでもないですわぁ。私はふたばちゃんの先生ですもの」
ニコッ
佐曽 「それじゃ、ふたばちゃん、お母さんとお父さんにもよろしくね。また明日」
ふたば 「あ……う、うん! 今日は、ありがとう! また……また、明日!」
佐曽 「ん」 スッ 「……それでは、失礼いたしますわぁ」
薫子 「はい。本当にお世話をおかけしました」 ペコリ
テクテクテク……
佐曽 「ふたばちゃんは、幼稚園の子たちと公園で遊んでたって言ってたわよね……」
佐曽 「………………」
佐曽 「……よし、今日のお出かけは取り止めよぉ」
佐曽 「これから公園に行って、さり気なくふたばちゃんのことを聞くとするわぁ」
佐曽 「これも、先生のお仕事だからねぇ」 グッ 「……がぜんやる気が出てきたわよぉ!!」
佐曽 「がんばるのよ佐曽りな。ふたばちゃんのために……!!!」
102:以下、
………………園内
薫子 「……そう。お友達と話すときは、まだ緊張しちゃうのね」
ふたば 「……うん。何か分からないんだけど、気持ちを伝えられなくなっちゃうの」
ふたば 「今日も、“ありがとう” って、“また遊ぼうね” って……言えなかった」
薫子 「………………」 スッ……ナデナデナデ
ふたば 「あっ……」
薫子 「……そうね。でも、そういう風に思えるってことは、とても素敵なことなのよ?」 ニコッ
薫子 「ふたばも本当はその気持ちを伝えたい。けど、怖くて伝えられない」
薫子 「そんな風に悩めるのは、ふたばが優しくて、とても綺麗なこころの花を咲かせているからなのよ」
ふたば 「綺麗な……こころの花?」
薫子 「ええ。だから、今度はもう少しだけ勇気を出して……その心を、口に出してみましょうね」
ふたば 「……うん!! ふたば、明日からがんばるね!」
薫子 「ふふ。おばあちゃんはいつでも応援してるからね」
薫子 (さて、と……つぼみが心配しているといけないから、電話だけはいれておくとしましょうかね)
薫子 (可愛い孫を持つと苦労するわ。けれど、こんなに可愛くて心地良い苦労ならどんとこい、ってね)
103:以下、
………………希望ヶ花市 商店街
? 「………………」
キョロキョロ
? 「……まいったな。迷ってしまったか」
? 「時間に遅れるなんて言語道断だからな……急がないと」
? 「………………」
? 「……希望ヶ花市、か。彼女が引っ越した先だよな」
? 「まぁ、関係ない。もう六年も前のことだしな」
? 「………………」
ブンブンブン
? 「いけないいけないいけない!! 我ながら女々しいな」
? 「今日は剣道の交流試合に来ただけだ。偶然の出会いなんて期待するな」
? 「……って、つまり期待してるんじゃないか、俺。ダメダメだな」
? 「えっと……場所は、私立明堂学園高等部道場……」
? 「……急ごう」
104:以下、
………………公園
つぼみ 「……あ、そうですか……分かりました。はい……」
プツッ……ツー、ツー、ツー……
つぼみ 「………………」
えりか 「薫子さんから? 何だって?」
つぼみ 「ふたばが植物園に来たって。今は落ち着いてるから心配しなくていいって……」
いつき 「そっか……」
ゆり 「迎えに行きましょうか?」
つぼみ 「………………」 フルフル 「……いえ。今は、ふたばはきっとわたしに会いたくないでしょうから」
えりか 「!? 何でそんなこと言うのさーーー!? そんなわけないじゃん!!」
つぼみ 「いえ……ふたばは優しい子ですから。多分、これ以上わたしたちの邪魔をしたくなかったんだと思います」
えりか 「邪魔なんてそんな……わたしはふたばが一緒でも全然平気だよ!? むしろ一緒にいたいよ!」
つぼみ 「でも、ふたばはそう思ってません。わたしの想いを汲んで、自分でがんばろうとしてるんです」
つぼみ 「……わたしだって、手を差し伸べてあげたいです。ふたばを助けてあげたいです」
つぼみ 「でも、それはわたしの我が儘です。甘やかしです。だから……我慢するんです」
107:以下、
えりか 「………………」 コクン 「……つぼみがそんなに深くふたばのこと考えてるなんて知らなかったよ」
えりか 「ごめん。勝手なことばっかり言って」
つぼみ 「いいんですよ。えりかがわたしやふたばのことを大事に想ってくれているのを知っていますから」
つぼみ 「ありがとう、えりか」
つぼみ 「……だから、ふたばが助けを求めてきたときは、協力してくれると助かります」
えりか 「あいあいさー!! もちろんっしゅ!!」
いつき 「僕も、教育学部生として、できる限り力になるよ」
ゆり 「私も、できる限り力を貸すわ」
つぼみ 「皆さん……ありがとうございます!!」
――prrrrrrr……
ゆり 「……? ちょっとごめんなさいね。電話だわ」
えりか 「はいはーい」 ニヤニヤ 「ハヤト君からー?」
ゆり 「バカ言わないで。大学の研究室からよ」 ピッ 「……はい、月影です」
えりか 「……はぁ。なんか研究者然としちゃってるねぇ、ゆり。かっけー」
つぼみ 「はい……わたしの憧れの先輩です……」 キラキラキラ
108:以下、
………………
ゆり 「………………」
いつき 「あ、戻ってきた……って、どうかしたの? 暗い顔しちゃって」
ゆり 「……ええ、少しよくないことが発覚したわ」
えりか 「どうしたの?」
ゆり 「私の研究室に、アフリカの砂漠地帯の研究をしている方がいるの」
ゆり 「そのひとが今、現地でフィールドワークをしているんだけど……」
ゆり 「……どうも、この一年……いえ、一ヶ月で、砂漠化がとてつもない勢いで進行しているらしいの」
いつき 「えっ……一ヶ月? そんな短いスパンで環境が変わるなんて……」
つぼみ 「普通ならありえませんよね……」
ゆり 「何か原因がないかと探っているらしいのだけど……今のところ見つかってはいないらしいわ」
えりか 「砂漠……なんか、嫌な予感がするね」
ゆり 「ええ……。その予感が当たらないことを祈るばかりだけれど」
つぼみ 「だ、大丈夫ですよ! そんな深刻な顔をしなくても」
つぼみ 「砂漠の使徒はもういません。デューンも、わたしたちの拳で改心してくれました」
109:以下、
いつき 「……そうだね。こころの大樹は守られた。人々のこころの花も」
いつき 「大丈夫だよ。もう、あんなことにはならないよ」
えりか 「……うん」
ゆり 「? えりか、何か不安なことでもあるの?」
えりか 「えっ? ……ううん、少し悲しくて、悔しいだけ」
つぼみ 「悔しい……ですか?」
えりか 「うん。六年前、みんなで力を合わせて守ったこの星の環境が破壊されていく」
えりか 「砂漠が広がっていく……花が枯れていく……それが、悲しくて、悔しくて」
えりか 「……でも、自分もその一因を作っているんだって思うと、やるせなくて……」
ゆり 「………………」 クスッ 「……大丈夫よ、えりか。心配しないで」 ナデナデ
えりか 「あっ……」
ゆり 「それを何とかするために私たち研究者がいるわ。それに、あなたも努力しているじゃない」
えりか 「……でも、あたし、何もしてないよ。この星のために、何もできてないよ」
ゆり 「あら? そうかしら?」 スッ 「……これを私にプレゼントしてくれたのは誰だっけ?」
えりか 「あっ! あたしが作った小物入れ……ゆり、使ってくれてるんだ」
110:以下、
つぼみ 「あっ、わたしも使ってますよ」
いつき 「僕も。携帯電話を入れてるんだ」
ゆり 「こんなにお洒落で可愛い物を使わないなんてもったいなくてできないわ」
えりか 「え、えへへ……そうかな……」
ゆり 「……えりかは時々、端切れを縫い合わせてこういう小物やポーチを作ってくれるじゃない」
ゆり 「そんなひとつひとつの行いが、この星を助けている……綺麗な花を咲かせているのよ」
ゆり 「そう気に病まないで。あなたは立派よ、えりか」
えりか 「そ、そうかな……///」 テヘッ 「えへー……」
つぼみ 「そうですよ! それに、わたしもがんばります!!」
つぼみ 「砂漠に、宇宙に……大輪の花をたーっくさん咲かせるために!!」 ムフー
いつき 「……そうだね。僕も、子どもたちのためにがんばれる先生になる」
いつき 「いずれこの星を支えていく、次代の子どもたちのために」
えりか 「うん! じゃああたしもがんばるよ!!」
えりか 「みんなの心を晴れやかにする、エコの髄を極めた、可愛い服をたくさん作るっしゅ!!」
113:以下、
ゆり 「……そうね。私たちはもう子どもじゃない。そして、プリキュアでもない」
ゆり 「だからこそ、できることを精一杯がんばりましょう。それが大切なことよ」
えりか 「よーし!! あたしがんばっちゃうぞー!!」
えりか 「そうだ! この前、もも姉があっちで買った布をたくさん送ってくれたんだ!」
えりか 「みんな、今度は何を作ってほしい? 服でも何でも作っちゃうよ!」
つぼみ 「本当ですか!? じゃあ……うーん、迷っちゃいますね……」
いつき 「じゃあ、僕はえりかに任せようかな。今から楽しみだなぁ」
えりか 「よっしゃ!! めっちゃ可愛いの作っちゃうから覚悟しといてよね!!」
ゆり 「ふふ……」
ゆり (……とはいえ、これは明らかに異常事態ね。砂漠の総面積がありえない広がりを見せている)
ゆり (それも……送られてきた資料を見る限り、自然災害や人的災害が理由というわけもない)
ゆり (……一体、この星で何が起きているというの)
ゆり 「………………」 フルフル (……私が不安になっても仕方ないわね)
ゆり (……お父さん、コロン……それから、私の、妹になるはずだった、不遇のプリキュア……)
ゆり (見守っていてね。今度は、あなたたちのおかげで生き残った私たちが、この星を守るから)
114:以下、
………………???
?? (ふるえが、とまらない……)
?? (わたしは、だれ……?)
?? (ここは、どこ……?)
?? (くらい、さむい、こわい……)
―――― 『……おまえは、私の――――――だ……』
ズキッ
?? (っ、あ……わた、しは……わたし、は……)
…………キィ………………キィィィ……
『――選びなさい』
?? (……? 声……?)
『……選びなさい。あなたは、どうなることを望む?』
?? (選ぶ……?)
『どうしたい? どうなりたい? 清浄な意志と邪悪な意志が混在するあなたは、どちらを選ぶ?』
?? (わ……わたし、は……――――)
115:以下、
………………???
――――こころの大樹――――
――――プリキュア――――
――――こころの花――――
――――すべてこわす――――
――――すべて残らず何もかもを――――
…………ギィ……………………ギギギギギギギギギギ……!!!!!
――――さあ終わらせよう――――
――――この星の全てを――――
――――全ての終わりを、始めよう――――
116:以下、
………………植物園
薫子 「………………」
コッペ 「………………」
ピクッ
ふたば 「? コッペ様、どうかしたの?」
コッペ 「………………」
薫子 「………………」 ニコッ 「……何でもないって」
ふたば 「そうなの?」
薫子 「ええ」 (……コッペも何かを感じたようね)
コッペ 「………………」 コクッ
薫子 「………………」 スッ 「……ふたば、ひとつお手伝いを頼んでもいいかしら?」
ふたば 「お手伝い? いいよ! ふたば、何でもやるよ!」
薫子 「ん、ありがとう。ちょっと、植物園のお花の観察をお願いできる?」
ふたば 「お花の観察?」
薫子 「ええ。枯れている草花があったら記録しておいてほしいの」
117:以下、
ふたば 「うん、分かった! ふたば、そのお仕事する!」
薫子 「ありがとう。お願いね」
ニコッ
薫子 「……お婆ちゃんは、ちょっとお出かけしてくるわ。良い子でお留守番できるわね?」
ふたば 「えっ……? わたしひとりでお留守番?」
薫子 「ええ。でも安心してね。ふたばのお仕事が終わる頃には、お婆ちゃん戻ってくるから」
薫子 「コッペもついてるし……大丈夫ね?」
ふたば 「う、うん……」
薫子 「うん、ふたばは強いわね。偉いわよ」 ナデナデ
薫子 「……じゃあ、お留守番とお仕事、お願いね」
ふたば 「……うん! いってらっしゃい、お婆ちゃん」
薫子 「………………」 (……コッペ、もしもの場合に備えて、植物園に結界を張っておいてちょうだい)
コッペ 「………………」 コクッ
薫子 (それから……ふたばのことを、守ってあげてね)
コッペ 「………………」
118:以下、
薫子 「………………」 クスッ (……そう心配そうな顔をしないでちょうだい。大丈夫よ)
薫子 (ちょっと様子を見てくるだけ。何にも問題はないわ)
コッペ 「………………」
薫子 (……それじゃ、ふたばのこと、頼んだわよ)
コッペ 「………………」 コクッ
ガチャッ
薫子 「……じゃあ、ちょっと行ってくるわね、ふたば、コッペ」
ふたば 「うん。いってらっしゃい!」 ノシ
コッペ 「………………」
スッ…………キィィィィィィイイ……!!!!
コッペ 「………………」
ふたば 「……? コッペ様?」
コッペ 「………………」 フルフル
ふたば (……どうしたんだろ? なんか、心配そう……)
ふたば 「……あ、そうだ。お手伝い、しっかりやらなきゃ」
124:以下、
………………こころの大樹
ポプリ 「!」 ピーン
コフレ 「ポプリ? どうかしたですか?」
ポプリ 「!? こ、コフレは何も感じなかったでしゅか!?」
シプレ 「何の話ですぅ?」
ポプリ 「何か……何か、とてつもなく怖いものが、すぐ傍まで迫っているような……」
ポプリ 「いますぐ、現れるような……そんな感じがするでしゅ!!」
バニラ 「……? それはまた……具体的なようでいて、抽象的な感覚ですね」
ポプリ 「妖精のくせに難しい言葉使うなでしゅ!!」 ビシッ
バニラ 「はい!! ごめんなさい先輩!! 反省します!!」
ポプリ 「とにかく、そんな感じがしたでしゅ! 悪い予感がするでしゅ!!」
コフレ 「……そんなこと言って、いつきたちのところに行きたいだけなんじゃないですか?」 ジトッ
ポプリ 「ち、ちがうでしゅ!! ポプリは本当に嫌な予感がしてるでしゅ!!」
シプレ 「うーん……さっきのこともあるですし……疑わしいですぅ」
ポプリ 「本当なんでしゅー!! 嫌な気配が、希望ヶ花市からするんでしゅーーーー!!」
125:以下、
コフレ 「信じられないですっ!」
ポプリ 「本当なんでしゅ! 信じてくださいでしゅ……」
グスッ
ポプリ 「本当なんでしゅよ……本当に、嫌な予感がするでしゅ……」
ポプリ 「ポプリは、心配なんでしゅ。いちゅきたちにもしものことがあったら……」
ポプリ 「せっかくみんなが守ってくれたこころの花が、全部枯れてしまったら……」
ポプリ 「そんな風に考えると、たまらなく辛いんでしゅ……」
ポプリ 「……ポプリはうそをついたこと、ありましゅ。間違えたことも、ありましゅ」
ポプリ 「けど、今度は本当なんでしゅ……だから、信じてくださいでしゅ!!」
シプレ 「ポプリ……」
バニラ 「………………」 スッ 「……ポプリ先輩、涙を拭いてください。先輩は笑ってるのが一番です」
ポプリ 「バニラ……?」
バニラ 「……コフレ先輩、シプレ先輩、僕からもお願いです。ポプリ先輩の話を信じてあげてください」
コフレ 「で、でもポプリは、つい今さっき、バニラを騙したばっかりなんですよ!?」
バニラ 「……それでも、です。僕には、今のポプリ先輩が嘘をついているようには思えない」
127:以下、
ポプリ 「バニラ……!」
バニラ 「……それに、僕は知っていますから。ポプリ先輩の素敵なところを、たくさん」
バニラ 「ポプリ先輩はいつも、自ら率先してこころの大樹のお世話をしてくれています」
バニラ 「花のひとつひとつを確認して、弱っている花があったらしっかり癒してあげて……」
バニラ 「花が大きく育ったら、自分のことのように嬉しそうに喜んで……」
バニラ 「……僕は、そんなポプリ先輩を知っています。だから、言えるんです」
バニラ 「ポプリ先輩は時々頼りないし、わがままだし、嘘をつくこともあるけど……」
バニラ 「――僕の憧れる 『最強のプリキュア』 を生み出した四人の妖精の、ひとりなんです」
ポプリ 「バニラーーーー!!!」 ダッ……ギュッ!!! 「バニラバニラバニラーーー! ありがとでしゅー!!」
バニラ 「わっ……わわっ! 急に飛びついてこないでくださいポプリ先輩!!」
コフレ 「………………」
シプレ 「……コフレ」
コフレ 「わ、分かってるですっ!」 プイッ 「……分かったです。バニラがそこまで言うなら、信じるです」
ポプリ 「ほ、本当でしゅか!?」
シプレ 「ポプリは勘が鋭いですしね。念のため、希望ヶ花市に確認に行くですぅ」
128:以下、
コフレ 「ま、まぁ、えりかたちも心配ですしね」
ポプリ 「わーい! ありがとうでしゅ! コフレ、シプレ!」
ポプリ 「……あ、そうでしゅ! ちょうどいいから、バニラをいちゅきたちに紹介するでしゅ!」
バニラ 「えっ……? 僕を、プリキュアたちに紹介……?」
ポワワーン……
バニラ 「……伝説の……最強の、プリキュアたちに……会える……////」
シプレ (バニラのプリキュアに対する憧れは凄まじいですぅ……)
バニラ 「あ……」 フルフル 「……ダメです。やっぱり、僕は行けません」
シプレ 「えっ? 何でですぅ?」
バニラ 「……こころの大樹を放っておくわけにはいきません。誰かが残っていないと」
コフレ 「? 少しの間くらい大丈夫ですよ」
バニラ 「いえ、今回は遊びに行くことが主目的ではありません」
バニラ 「念のためというなら、こころの大樹についても同じです。誰かが残っていないと」
コフレ 「う……そ、そのとおりです……」
バニラ 「……なので、今回はお三方だけで行ってください。僕が責任を持ってこころの大樹に残ります」
130:以下、
シプレ 「で、でも、いくら何でも悪いですぅ。バニラにだけお留守番させるなんて」
バニラ 「気にしないでください、シプレ先輩。お気遣いありがとうございます」
バニラ 「いざというとき頼りになるのは、プリキュアを持つ先輩方です」
バニラ 「だから、もしものときのために、先輩方はプリキュアと合流しておいた方が良い」
ポプリ 「でも……」
バニラ 「はは……それとも何ですか? 僕一人にこころの大樹を任せるのは不安ですか?」
コフレ 「そ、そんなわけないですっ! バニラはとっても頼りになる僕らの後輩です!」
バニラ 「ありがとうございます」 ニコッ 「では、安心して任せてください」
コフレ 「あっ……」
バニラ 「……本当に僕のことは気にしないでください、先輩」
バニラ 「僕は生まれたばかりの若輩者です。先輩方のお役に立つことくらいしかできませんから」
シプレ 「バニラ……」 (バニラは本当に……自分に自信がなさすぎですぅ……)
シプレ (せっかく “特別” な妖精なのに……何でそこまで自分を嫌うですか……?)
ポプリ 「……じゃあ、急いで準備をして行くでしゅ! バニラ、こころの大樹を頼んだでしゅ!」
バニラ 「はい、お任せ下さい、ポプリ先輩! 先輩方も、お気をつけて!」
131:以下、
………………植物園 外
薫子 「………………」
ギリッ
薫子 「……気配がどんどん濃厚になっている。これは、間違いないわね」
薫子 「――――砂漠の使徒……ッ!!」
薫子 (どうして……? あのとき、砂漠の王・デューンは無限シルエットの拳によって改心したはず)
薫子 (王が消滅した今……どうして砂漠の使徒の気配がするの……?)
薫子 「………………」 フルフル 「……考えるだけで答えが出るなら苦労はないわね」
スッ……
薫子 「……間違いなく、これがわたしの最後の変身になるでしょうね」
薫子 「デューンと相討ちし消滅した、わたしのプリキュアとしての力の残滓……その、最後の一欠片」
薫子 「……これが最後の変身よ、キュアフラワー」
薫子 「コッペ……あなたも辛いでしょうけど、力を貸してね」
……ザッ……!!!!
薫子 「――――――プリキュア・オープンマイハート!!」
133:以下、
………………明堂院流道場
熊本 「む……?」
さつき 「……? どうかされました?」
熊本 「いや……何でもないぜよ」
ハヤト 「? さつき師範代、熊本師範代、そろそろ子ども道場の時間ですが……」
さつき 「ああ、分かった。すぐ行くよ。熊本さん、行きましょう」
熊本 「応、分かったぜよ」 (何ぜよ……この、胸騒ぎは……)
………………チャペル
古布 「………………」
古布 (……美しい結婚式だというのに、何だ……この、嫌な感じは……)
古布 (皆が幸せそうに笑っているこの場に相応しくない、嫌な気配だ……)
………………希望ヶ花市 道路
佐曽 「………………」 (さっきまで青空だったのに……いきなり曇るなんて)
佐曽 (胸騒ぎが収まらない。何なの、これは……?)
佐曽 (……急がなきゃ。公園で遊んでいる子たちが心配だわ)
134:以下、
………………公園
つぼみ 「………………」
えりか 「………………」
いつき 「………………」
ゆり 「………………」
つぼみ 「……あの、真っ黒な雲……」
えりか 「嫌な感じしかしないよね……なんか、こう……」
いつき 「陽の光を遮って、わざと街を暗くしているみたいだ……」
ゆり 「一体何だというの……?」
つぼみ 「……? あっ……あれ!!」
えりか 「つぼみ? どうかしたの?」
つぼみ 「あそこを見てください! 空に上る光が見えます!!」
いつき 「……!? あ、あれは……!!」
ゆり 「そんな……キュア、フラワー……」
つぼみ 「お婆ちゃん……!?」
136:以下、
………………希望ヶ花市 上空
フラワー 「………………」
スッ
フラワー 「……出てきなさい。そこにいるのは分かっているわ」
――ズッ……ズズッ……ズズズズズッ……
『……その必要はない』
フラワー (……やはり、厚い雲の中に……) 「……あなたは何者?」
フラワー 「砂漠の使徒? それとも……砂漠の王?」
『……否』
『私は私だ。それ以外の何者でもない』
フラワー 「……どういう意味かしら?」
『語る必要はない。全てが終わる。私が終わらせる』
『……この “砂漠の意志” が、プリキュア、こころの大樹……そして、人間のこころの花を、』
『――――すべてまとめて、無に帰す』
フラワー (“砂漠の意志” ……?)
137:以下、
フラワー 「一体、あなたは……――」
『――語る意味はないと言ったはずだ。史上最強のプリキュア、キュアフラワー』
フラワー 「……あなたの目的は、こころの大樹を枯らせることなのね?」
『否。この星そのものを無に帰す。無論、人類のこころの花も含めて、全てを』
フラワー 「そう……なら、あなたは私の……プリキュアの敵だわ」
『敵味方を語る意味もない。私はただ意志を体現し、現実とするだけだ』
『こころの大樹が人々の心を見守り、こころの花を守る役目を持つのだとすれば、』
『私もただ、私の役目を果たすだけのこと』
――――ズッ……ズズッ……ギィィィィィィィイイイイイイイイッッッッッ……!!!!
フラワー 「ッ……!?」 (耳障りな音……これは……?)
『キュアフラワー、史上最強のプリキュアよ』
『貴様が、プリキュアとしての、こころの大樹の戦士としての役目を果たすというのなら、』
『――――この一撃を止めてみせるのだな』
ギィィィィィィィイイイイイイイイ……!!!!
141:以下、
フラワー 「!?」 (なんて莫大なエネルギー……これを瞬間的に集約させたというの!?)
フラワー (まずい……!! このエネルギーを直接、街に落とされたら……ッ)
キィィィィィイイイイ……!!!!
フラワー (何としても……)
―――― 『わたし、お婆ちゃんのこと大好きです』
フラワー (……この、老いた命に代えてでも)
―――― 『うん! ふたば、明日からがんばるね!!』
フラワー (新しい世代が育つこの街を、守り抜く……!!)
――――バッ……!!!
フラワー 「……プリキュア……――――」
フラワー 「――――クリムゾンイージス!!!」
キィィィィィィイイイイイイイインンン……!!!!!!!
『紅き花のシールド……よくそこまでの力を残しているものだ。さすがは最強といったところか』
『ならば、この “砂漠の意志” と最強のプリキュア、どちらがより強いのか、力比べといくか』
『砂漠の力よ、すべてのこころの花を、枯らせたまえ――――ヘルビサイド!!!』
142:以下、
フラワー 「なんですって……?」
『分からぬか? キュアフラワー。こころの大樹に意志があるように、』
『砂漠そのものにも意志があるということが』
フラワー 「……その “意志” とやらが、あなただっていうの?」
『そうだ。私は砂漠そのもの。砂漠の意志を現出させるもの。“砂漠の意志” だ』
『こころの大樹の末端でしかない貴様に、どうこうできる相手ではない』
『私は私の意志を体現させる。それは決まった事象だ。もう変えることはできない』
『たとえ貴様が最強のプリキュアであったとしても、それは不可能だ』
フラワー 「ッ……!! あまり私を舐めないでちょうだい……!!」
『ああ。だから本命を出そう。こころの花への攻撃は、また次の機会でもいい』
フラワー 「……何をするつもりかしら?」
『簡単な話だ。貴様もすでに一度、目にしているはずだがな』
『――――――落ちろ砂漠。この地球を、無へと帰せ。……デザートフォール!!!』
ザザッ……ザザザザザザッ……!!!!!!
フラワー 「ッ……!?」 (先の攻撃で終わりではなかったというの……!?)
143:>>142の前1 2011/04/29(金) 18:10:07.84ID:caPyoPm60
――――――――カッ……!!!!
ドドドドドドドドドドドッッッッ!!!!!
フラワー 「ッ……!!」 (暗いエネルギーの奔流……ぐっ……!)
フラワー (段違いの、力……この光は、人々の心を容赦なく枯らせる闇の光……)
――――――ピシッ……
フラワー 「!?」 (まずい……シールドが、保たない……!?)
『……存外脆いものだな。もうおしまいか?』
フラワー 「っ……まだ……まだよ!!!」
キィィィィィイインンン!!!!!
フラワー (お願い、力を貸して……こころの大樹、こころの花……コッペ……!!)
フラワー 「やらせるわけにはいかない……私の後ろには街がある。人々の笑顔がある!!」
フラワー 「私の息子がいる。義理の娘がいる。孫がいる。……大切な人が、たくさんいる!!」
フラワー 「それを……やらせるわけにはいかないのよッ!!」
ガガガガガガガッッッ……!!!!
――――――――――カッ…………!!!!!!
144:>>142の前2 2011/04/29(金) 18:10:59.46ID:caPyoPm60
フラワー 「……っ……っ」 ゼェ……ゼェ……
ニィ
フラワー 「……どうやら、私の……勝ちの、ようね……」
フラワー 「あなたの、闇の光は、私が、打ち払ったわ……」
『ふむ、厄介だな。私の役目に支障が出てしまう。誤差の範囲ではあるが』
フラワー 「………………」
『…… “人々の笑顔をやらせるわけにはいかない” か……なるほど』
フラワー 「……?」
『……それが貴様のプリキュアとしての使命というわけか、キュアフラワー』
フラワー 「……はっ、違うわよ。使命なんて、堅苦しい言葉じゃない。私が守りたいから、守るのよ」
フラワー 「ただそれだけの話。簡単なことよ」
『……解せぬな。貴様はこころの大樹の命によって人々のこころの花を守っているのではないのか?』
フラワー 「……確かに、私にこの力を授けてくれたのは、コッペとこころの大樹よ」
フラワー 「けれど、私が今ここでこうして戦っているのは誰の命令でもない。わたしの意志よ」
『……なるほど。こころの大樹も、私と同じように苦労をしているようだな』
145:>>142 2011/04/29(金) 18:11:46.68ID:caPyoPm60
フラワー 「なんですって……?」
『分からぬか? キュアフラワー。こころの大樹に意志があるように、』
『砂漠そのものにも意志があるということが』
フラワー 「……その “意志” とやらが、あなただっていうの?」
『そうだ。私は砂漠そのもの。砂漠の意志を現出させるもの。“砂漠の意志” だ』
『こころの大樹の末端でしかない貴様に、どうこうできる相手ではない』
『私は私の意志を体現させる。それは決まった事象だ。もう変えることはできない』
『たとえ貴様が最強のプリキュアであったとしても、それは不可能だ』
フラワー 「ッ……!! あまり私を舐めないでちょうだい……!!」
『ああ。だから本命を出そう。こころの花への攻撃は、また次の機会でもいい』
フラワー 「……何をするつもりかしら?」
『簡単な話だ。貴様もすでに一度、目にしているはずだがな』
『――――――落ちろ砂漠。この地球を、無へと帰せ。……デザートフォール!!!』
ザザッ……ザザザザザザッ……!!!!!!
フラワー 「ッ……!?」 (先の攻撃で終わりではなかったというの……!?)
146:>>142 2011/04/29(金) 18:14:42.31ID:caPyoPm60
フラワー (凄まじい闇のパワーの集約……これは、さっきよりもよほど……強い!)
『かつて私の端末であった砂漠の王・デューンがしたように、もう一度、この地球を砂漠としてみよう』
フラワー 「!?」
『……そうすれば、すぐに人々の心は荒みきる。こころの花は勝手にしおれ、枯れていく』
フラワー 「そんなこと……!! そんなことは絶対にさせない……ッ!!」
――――――ズキッ……!!!
フラワー 「!?」 (っ……さっきの、無理の反動が……!?)
『さしもの最強も、先のシールドで限界か。他愛のないものだ』
フラワー 「ッ……! 勝手に……決めつけてるんじゃないわよ……!! 私を誰だと思っているの?」
フラワー 「聖なる光に輝く一輪の花!! キュアフラワー!!」
フラワー 「……この誇り高き名にかけて!!! 私は負けるわけにはいかない!!」
――バッ!!!
フラワー (お願い……もう一度だけでいい……私の命を吸ってくれても構わない)
フラワー (力を貸して……こころの大樹よ……!!)
147:以下、
……キィィィィィィイイイイインンン!!!!
フラワー 「プリキュア!! クリムゾン・イージス!!」
『……先よりも目に見えて出力が落ちているな。その程度か、キュアフラワー』
フラワー 「………………」
『この闇の光が地球を覆えば、全地上は砂漠となり、我が僕サンドクラスタが暴れ回る地獄と化す』
フラワー (サンドクラスタ……? っ、それがデザトリアンのようなものだとすれば、まずい……!!)
『行け。デザートフォール。全地上を砂漠とし、我が僕を解き放て』
ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾッッッッ……!!!!!
フラワー 「ッ……!!!」
ピシッ……ピシピシッ……
『呆気ないものだ。本当に』
フラワー 「――――――あら、あまり私を舐めるなと、忠告したはずよ?」 ニコッ
『……っ、強がるな。すでにシールドは破れる寸前ではないか』
フラワー 「この闇の力が地表に落ちたら、全世界の砂漠化は免れない」
フラワー 「……ならば、防御しきるしかない。けれど、私にはもうそこまでの力はない」
148:以下、
『……ならばどうすると言うのだ?』
フラワー 「……悲しいけれど、私に打てる最前の策はこれしかない」
ギュッ……!!!!
フラワー (空気の奔流を掴み取る。足の裏で、空をしっかりと踏みしめる)
フラワー (思い出しなさい、キュアフラワー、かつての五代薫子。あなたの本質を)
『何をするつもりだ……』
フラワー 「……覚えておきなさい、“砂漠の意志” 。プリキュアの本当の強さは、必殺技に宿るのではないの」
フラワー 「その二つの拳にのみ、宿るのよ」
フラワー (シールドが破れる瞬間を狙い定める。その瞬間に…………――――――)
――――――――――――パリン…………
フラワー (――――――腰を低く、回す。腕をしならせる……そう……)
フラワー 「――――プリキュア!!! 全力全開・正拳パンチ!!!」
――――――ッッッッッッッッッッドォォ!!!!!
…………………………………………――――――――――――――――
149:以下、
………………希望ヶ花市
タタタタタタタ……
えりか 「一体何が起こってるの……?」
えりか 「あの空の曇って……砂漠の王の――」
つぼみ 「違います! 砂漠の王・デューンはしっかりと改心してくれました!」
えりか 「じ、じゃあ何だっていうの!?」
つぼみ 「……そんなの、わたしに分かるわけないじゃないですか!」
いつき 「……えりか、つぼみ、言い争う体力がもったいないよ」
いつき 「今は急がなきゃ。早く、パフュームを取りに行かなくちゃ」
つぼみ 「……ごめんなさい」
えりか 「あたしも……ごめん」
タタタタタタタタタ……
いつき 「……こんなときに、何もできないなんて……!!」
ゆり 「泣き言を言わないの。今のわたしたちにプリキュアに変身する術はないのよ」
ゆり 「今この場で大人としてできること……それをするしかないわ」
150:以下、
いつき 「……うん。その通りだね、ゆり。ごめん」
ゆり 「いいのよ。私も、この場にココロポットがないのが悔しいと思っているもの」
ゆり 「けれど、だからこそ、パフュームとプリキュアの種を手元に置いておかなくては」
ゆり 「きっとシプレたちもすぐに来てくれるはずよ。そのときに、変身できるように」
つぼみ (……お婆ちゃん、大丈夫でしょうか。一体、空で何が起きているのでしょう……)
――――――――ピタッ……
ゆり 「……ここからは別行動ね。つぼみ、えりか、何か分かったら連絡をしてちょうだい。いいわね?」
えりか 「……うん。分かった。ゆりといつきも、連絡よろしくね」
ゆり 「現時点で何が起こっているのかは分からないわ」
ゆり 「けれど、キュアフラワーが現れたということは、“何か” が起きていることだけは確かよ」
ゆり 「二人とも、気を引き締めて行くこと。分かったわね?」
えりか 「うん。ゆりといつきも、気をつけて」
いつき 「……僕は明堂院流の準師範だ。心配には及ばないさ。何があっても、僕がゆりを守るよ」
いつき 「……ただ、今のえりかとつぼみは普通の女の子なんだ。本当に気をつけて」
つぼみ 「は、はい……」 (今のわたしたちにはプリキュアに変身する力はない……)
156:以下、
……ゾクッ
つぼみ (っ……怖い。プリキュアになれないというだけで、こんなに怖い……)
えりか 「………………」
えりか 「……つぼみ」
つぼみ 「は、はい?」
――ギュッ
えりか 「ははー。ガラにもなく怖くなっちゃってさ。手、繋いでてもいいかな?」
つぼみ 「あっ……」 (えりか、わたしに気を遣って……)
つぼみ (えりかの手、あったかい……震えが、怖さが、吹っ飛んでしまいました……)
つぼみ 「……し、仕方ないですね、えりかは」 ボソッ 「……ありがと、えりか」
ゆり 「……じゃあ、私といつきはこっちね。二人とも、無理をしてはだめよ」
つぼみ 「……ゆりといつきも、気をつけて」
――――――タッ……!!!
いつき 「………………」 (……道場にはお兄様も熊本さんもいる。心配には及ばない)
ゆり 「………………」
157:以下、
いつき (だから僕はせめて……六年前、あまりにも多くの傷を負ってしまったこの親友を……)
ゆり 「………………」 ギリッ 「……お母さん」
いつき (……この親友と、そのお母様を……何があったとしても、この命に代えても守る……!!)
―――――――――――――――――――――――――ッッッッッッッッッッドォォ!!!!!
いつき 「!? な、何だ!?」
ゆり 「空……!? 雲がから、何か……――――ッ!!?」
――――――ッッドドドドドドドドドドドッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!
ゆり 「きゃっ……!!」
いつき 「っ……ゆり! 掴まって!!!」 ギュッ
ドドドドドドッドォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
――――――………………
いつき 「……大丈夫? ゆり」
ゆり 「え、ええ……」 スッ 「ありがとう、いつき。助かったわ」
いつき 「今のは……見覚えがある。六年前、世界を砂漠に変えた、デューンの力だ」
――――ザザザザザザッッッッ……………………
158:以下、
ゆり 「……ッ!? 砂漠が街を飲み込み始めている……!!」
いつき 「一体何が起こってるんだ……? 砂漠の使徒はもういなくなったっていうのに……!」
ゆり 「急ぎましょう。早く私のプリキュアの種と、シャイニーパフュームを回収しなければ」
………………
つぼみ 「……うそ。また、世界が……砂漠に……」
えりか 「うそだよ、こんなの……だって、あたしたち、砂漠の使徒を倒したのに……」
つぼみ 「………………」
えりか 「………………」
ギュッ……!!!
つぼみ 「……大丈夫。大丈夫です。怖くない。怖くない。怖くない」
えりか 「そうだね……あたしたちは一人じゃない。仲間がいる。親友がいる」
えりか 「行こう、つぼみ。早く、家にココロパフュームを取りにいかなくちゃ!」
つぼみ 「ええ。急ぎましょう!!」
ダッ……!!!
つぼみ (……ごめんね、ふたば。後で、絶対に迎えに行きますからね)
160:以下、
………………植物園
ふたば 「……あなたは大丈夫。元気だね」
メモメモメモ……
ふたば 「……ん。あなたも元気だね。ちょっとお水あげておこっか」
ジャバジャバ……
ふたば 「……あ、あなた、ちょっとだけ根っこが出ちゃってる。えっと……シャベルは……」
コッペ 「………………」
ふたば 「コッペ様、シャベルってどこだっけ?」
コッペ 「………………」
ふたば 「……? コッペ様?」
コッペ 「………………」
ふたば 「………………」
ふたば 「……心配、なの? お婆ちゃんのこと」
コッペ 「………………」 コクッ
ふたば 「………………」
161:以下、
ふたば 「……いいよ」
コッペ 「……?」
ふたば 「行ってきて、いいよ。お婆ちゃんのこと、心配なんでしょ?」
コッペ 「………………」 フルフル
ふたば 「ふ、ふたばなら――わたしなら大丈夫だよ! 心配しないで」
ふたば 「わたしはお婆ちゃんの孫だもん。つぼみお姉ちゃんの妹だもん。だから、大丈夫」
コッペ 「………………」
ふたば 「ね?」
コッペ 「………………」 コクッ 「………………」
――――――ットン!!
コッペ 「………………」
ペコリ――――――ダンンッ!!!
ふたば 「………………」 ハァ 「……行っちゃった」
ふたば 「……何だろう。外が、暗い。少しだけ、怖いな。さっきまで、綺麗な青いお空だったのに」
ふたば 「………………」 ブンブンブン 「……お仕事、やらなくちゃ」
162:以下、
………………明堂院流道場
熊本 「……これは一体、何事ぜよ……?」
さつき 「……砂漠が街を……これは……」
ハヤト 「六年前のあのときと同じ……ッ」 ギリッ 「………………」
さつき 「………………」
子供1 「まちが砂で埋もれちゃってるよぅ……」
子供2 「怖いよ……何がおこってるの……?」
さつき 「……大丈夫だよ、みんな」 ニコッ 「ここには先生たちがいる。心配いらないから」
子供3 「でもぉ……」
さつき 「大丈夫。大丈夫だよ。今は隠れてしまっているけれど、いずれお日様がでる」
さつき 「そうしたら、ヒーローが来てくれるんだ。だから、大丈夫」
子供1 「ヒーロー……?」
さつき 「みんな知ってるだろう? プリキュアだよ」
子供2 「プリキュア……? プリキュアが来てくれるの?」
さつき 「ああ。だから心配いらない」
163:以下、
ハヤト 「………………」
さつき 「……ハヤト君」
ハヤト 「! は、はい! 何でしょうか?」
さつき 「………………」 スッ 「……行きなさい」
ハヤト 「えっ……? 行くって、どこに……?」
さつき 「決まっているだろう。行きなさい。守るべき人の元へ」
ハヤト 「なっ……行けるわけないじゃないですか! この子たちを放ってなんて……」
熊本 「……若僧が、何を生意気なことを言っている?」
ハヤト 「熊本師範代……」
熊本 「お前ひとりいたところで何にもならんわ。さっさと行くぜよ」
ハヤト 「………………」
熊本 「……お前は何のために武術を習った。お前は何のために強くなった」
熊本 「守りたいものがあるのなら、それを守るために、行け!!」
さつき 「……その通りだ。行きなさい、ハヤト君!!」
ハヤト 「………………」 ギリッ 「……はい! すみません、行きます!!」
164:以下、
熊本 「……それから、さつき殿も。さっさと行くぜよ」
さつき 「え……?」
熊本 「あなたの目の泳ぎを見逃す熊本だと思ったか。あなたも行くぜよ」
さつき 「………………」
熊本 「……ここは俺が死んでも守る。だからさっさと行くぜよ!!」
さつき 「っ……すみません、頼みます、熊本さん……!!」
さつき 「ハヤト君、急ごう!!」
ハヤト 「は、はい……!! 熊本師範代、すみません……!!」
――――――ダッ……!!!!
熊本 「……ふぅ。ようやく行ったぜよ。揃いも揃って責任感が強いじゃきぃ」
子供1 「先生……」
熊本 「なぁに、心配するな。お前たちも俺の強さは知ってるぜよ?」
熊本 「これから何が起こるか分からんが……お前たちは俺が守るぜよ。だから安心するぜよ」
子供2 「う、うん!! くまもとせんせい強いから大丈夫!!」
熊本 「応。力強い良い返事ぜよ」 ニカッ
165:以下、
………………
?? 「なっ……何が起きてるんだ、一体……?」
?? 「街が砂に飲み込まれてる……これは……」
?? 「……六年前にもたしか、似たようなことがあったよな……」
?? 「………………」
――――――キャーーーーーーーーーーー!!!!!
?? 「!? 悲鳴……!?」
?? 「………………」
ギリッ
?? 「……っ、迷ってる暇があるかよ、バカヤロウ!!」
――――ダッ……!!!!
166:以下、
………………
タタタタタタタタ……!!!!
えりか 「うそうそうそーーーーーーーー!!!!!」
つぼみ 「うそじゃないですよえりか!! っていうか何なんですかあれ!?」
えりか 「あたしに聞かれても分かんないよーーーー!! 何あれ!?」
ドドドドドドドド……!!!!!!
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!』
えりか 「っていうか何であたしたち追いかけられてるのーーーーー!!?」
つぼみ 「だから聞かれても分かんないですってーーーーーーーー!!!」
えりか 「デザトリアン!? デザトリアンなの!?」
つぼみ 「違うんじゃないですか何か砂でできてますし!!!」
えりか 「何であたしたちみたいな美少女が砂の巨人に追いかけられなきゃなんないのよーーーー!!」
つぼみ 「知りませんしわたしたちもう美少女って歳じゃないですーーーーーー!!!」
――――――コケッ
171:以下、
えりか 「!? こんなときに石につまずくってある意味本当に器用だよねつぼみはげふぅ!!」
つぼみ 「――あ………………ふげっ!!?」
ズザァァアアアア……!!!
えりか 「いたたたたた……」
つぼみ 「あっ……ご、ごめんなさいえりか!! わたしの巻き添えで……」
えりか 「いいっしゅいいっしゅ。こんな程度何でもないってば」
つぼみ 「えりか……」
『ヴオオオオオオオオオオ!!!!!!』
ドドドドドドドドドドドッッッッ!!!!
つぼみ 「ってそんな場合じゃないんでしたーーーーーー!!!」
えりか 「ふにゃーーーーーー!!」
つぼみ (ふっ、) ギュッ (踏み潰される……!!!!)
――――――――――――――――ッッッッッッッッッッッッドッッッ……!!!!!!
172:以下、
………………
タタタタタタタタ……
ゆり 「……それで、これはどういうことだと思う?」
いつき 「そうだなぁ……砂漠の使徒の復活……とか?」
ゆり 「砂漠の王であるデューンは満足して消滅したのよ? そんなことがありえるかしら」
いつき 「それなんだよね。けれどこの攻撃は間違いなくデューンと同じものだし……」
ゆり 「こころの大樹がどうなっているのかが心配だけれど……」
いつき 「少なくともクリスタルは見られないから、致命的なダメージは受けていないと思うけど」
ゆり 「……だからといって、予断は許さないわよね」
いつき 「ポプリたちが無事だといいんだけど……」
ゆり 「ココロポットとあなたたちのプリキュアの種があれば、わたしたちはまたプリキュアになれるわ」
ゆり 「……今はあの子たちを信じるとしましょう」
いつき 「そうだね……」 チラッ
『ヴオオオオオオオオオオ!!!!』 ドドドドドドドドドドッッッ!!!!
いつき 「……ところで、あれはどうする? ずっと逃げてるわけにもいかないし」
173:以下、
ゆり 「……一応聞いておくけど、いつきならアレに勝てる?」
いつき 「うーん……身長が三メートルほどの砂の巨人……勝てないことはないと思うけど」
ゆり 「そう。じゃあやめておきましょう。気合いで撒くわよ」
いつき 「え? いや、僕は勝てないことはないって――」
ゆり 「――いつきがそんな中途半端な物言いをするということは、自信がないってことなのよ」
ゆり 「それくらい分かるわ。もう六年の付き合いになるのよ?」
いつき 「あ……あはははは……敵わないな、ゆりには」
ゆり 「伊達にあなたたちより三年多く歳を取ってるわけじゃないわ」
――――――――ザッッッッ……!!!! 『ヴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
いつき 「!?」 (なっ……!? 前にもう一体だって!?)
――――ズザァァアアア……!!!
ゆり 「っ……完全に挟まれたわね」
いつき 「………………」
―――― ((……この親友と、そのお母様を……何があったとしても、この命に代えても守る……!!))
いつき 「……そうだよ、僕が……僕が、ゆりを守らないと……!!」 ギリッ
174:以下、
ゆり 「いつき……?」
いつき 「ゆり、いいかい? よく聞くんだ」
いつき 「僕が合図をしたら、脇目もふらず真っ直ぐ前に走って」
ゆり 「えっ……? な、何を言って――」
いつき 「――黙って聞いてくれ! 僕がなんとか前方の奴を引きつける」
いつき 「ゆりはその隙に奴をやり過ごして逃げるんだ。そうしたら僕は前と後ろの二体を足止めする」
いつき 「そのあ間にゆりは、プリキュアの種を取りに行くんだ」
ゆり 「なっ……!! そんなことできるわけないでしょう!?」
ゆり 「あなたをここに置いていくなんて、そんなこと……!」
いつき 「他に方法なんてないんだ!! いいから行け! 行くんだ!!」
ゆり 「っ……!!」
――パシィ!!!!
ゆり 「………………」
いつき 「へ……?」
ゆり 「……馬鹿! そんなことできるわけないでしょう!!」
175:以下、
ゆり 「大切な友達をひとり、怪物の目の前に残して逃げるなんて……!!」
ゆり 「あなたには、私がそんなことをできる人間に見えたって言うの!?」
いつき 「ゆ、ゆり……。ごめん」
ゆり 「……切り抜けるわよ、絶対に。けれど、それはひとりだけで、じゃないわ」
ニコッ
ゆり 「ふたり一緒に。それ以外は認めないわ」
ゆり 「あなたが戦うというのなら、私も一緒に戦うわ」
いつき 「……うん!」
――――スッ……
いつき 「………………」
いつき 「……ゆり、君は前の怪物を引きつけていてほしい。無理はしなくていい」
いつき 「その間に僕は、まず後ろの怪物を……」 グッ 「……倒す」
ゆり (すごい気迫……これが、明堂院流準師範としてのいつきの姿……)
ゆり 「……分かったわ。お願いね、いつき」
いつき 「うん、任せて」
176:以下、
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
――――――ッドン!!!
ゆり 「……膂力、度、共に並のデザトリアンと同程度というところかしら」
ゆり 「残念ね。私、何度か生身でデザトリアンと相対したことがあるから」
ゆり 「あなたがそこまで恐ろしくは感じられないの」
ゆり 「倒す……まではいかなくとも、そんな単調な攻撃、避けるくらいわけないわ」
いつき 「………………」 スー……ハー……スー……ハー……
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
――――ブゥンンン!!!!!
いつき 「………………」 ザッ!!! 「……――――はぁああああッッッ!!!!」
――――――ッッッッドッッッッッッッッッッッ!!!!!
ゆり 「……それにしても、あれは凄まじいわね。砂の怪物の拳に真っ向から拳を合わせるって……」
『ヴオ……ア……』
――――――バララララ……
ゆり 「しかも倒すって……あの子、本当に人間なの……?」
177:以下、
いつき 「………………」
いつき (感触は砂そのもの。殴った感じからして、硬度はそう大したことはない)
いつき (攻撃されることを想定していない作り……外部からの衝撃には弱いみたいだ)
いつき (ただ、打撃の仕方を知らない素人じゃ、戦うのは難しそうだな……)
『ヴオオオオオオオオ!!!!』
――――ッドンン!!!
ゆり 「っ……」
いつき 「っと、冷静に分析してる場合じゃなかったな。早くあっちも倒さないと――――」
――――ズゾゾゾゾゾゾッッッ……!!!
いつき 「!?」 (なっ……バラバラになった砂が、また集まって……――!?)
いつき (まさか、あそこまで脆かった理由は……倒されてもすぐに再構成できるから……)
『ヴオオオオオオオオオオオ!!!!』
――ブゥンンンン!!!!
いつき 「っ……何度復活しようと、倒すだけだ!!!」
…………ブヂッ……!!
178:以下、
いつき (!? しまった……春物のミュールが、僕の動きの負荷に……――――)
――――ズザッ……!!!
ゆり 「!? いつき!?」
いつき 「だ、大丈夫。ちょっとこけただけ……――――ッ!?」
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
いつき 「っ……」 (だ、ダメ……回避が、間に合わ――)
ゆり 「いつきぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
『ヴオオオオオオ!!!』
ゆり 「!? し、しまっ……――――」
――――――――ッッッッッッドンンンンンン!!!!
181:以下、
………………
つぼみ 「………………」
えりか 「………………」
つぼみ 「……う、うそ……」
?? 「っ……」
『ブオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
えりか 「怪物の、パンチを、竹刀で……あたしたちを、助けてくれたの……?」
?? 「……――おおおおおおおお……オオオオオオオオオオオオオオ!!!」
――――――――――ッッッッッッドンンン!!!!!
『ヴオオ!!?』
――――ッッッッズドンンン!!!
えりか 「し、しかも竹刀で吹き飛ばしたぁあああああああああああああ!!?」
つぼみ 「す、すごいです……」
?? 「ふぅ……大丈夫ですか……」 ハッ 「って……は、花咲!?」
つぼみ 「えっ……」 ハッ 「あ……も、もしかして……みつるくん!?」
182:以下、
………………
『ヴオ……!?』
?1 「良かった……間に合って……」
?2 「……まったくです」
いつき 「なっ……お、お兄様……!?」
ゆり 「ハヤト君……!?」
さつき 「はは……話は後だ」 ギリッ 「……はぁあああ!!!!」
ハヤト 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
――――――ズドォォオオオオッッッ!!!!
『ヴオ……』
『ガ、ア……』
――……バラララ……
さつき 「……ふぅ、見た目の割に脆いな。掌底の一撃で崩壊か」
ハヤト 「そうですね。俺の未熟な腕でも何とかなるくらいですから」
さつき 「しかし、さしもの準師範殿も、その格好では本気が出せないようですね?」 クスッ
189:以下、
いつき 「お兄様……////」
ハヤト 「間に合って良かったよ、ゆり姉さん。大丈夫? 怪我はない?」
ゆり 「あ、ありがとう……/// 大丈夫よ」
ゆり 「……強くなったわね、ハヤト君……あんな怪物を一発でやっつけちゃうなんて……」
ハヤト 「い、いや、そんな……大したことないよ……///」
ズゾゾゾゾゾ……!!!
いつき 「!? お兄様、早くここを離れましょう!」
いつき 「この怪物は、崩壊してもすぐにまた復活するんです!」
さつき 「……なるほど。脆く崩れやすいが、すぐに復元するのか。厄介だな」
さつき 「仕方ない」 スッ 「……君たちは早く行きなさい」
いつき 「えっ……? お、お兄様は……?」
さつき 「僕はここでこいつらを足止めする。君たちが逃げる時間くらいは稼ぐさ」
いつき 「そ、そんな……そんなことできません!! 僕も一緒に――」
さつき 「――何かしなければならないことがあるんだろう? なら、僕に構わず行くんだ」
いつき 「え……?」
191:以下、
さつき 「何年君の兄をやっていると思っているんだい?」
ニコッ
さつき 「いつきの考えていることなんてお見通しさ。さ、行きなさい」
いつき 「お兄様……」
ハヤト 「………………」
ゆり 「……? ハヤト君?」
ハヤト 「……ゆり姉さんも、さ、行きなよ。俺にも分かるよ」
ハヤト 「ゆり姉さんも、何かすることがあるんだよね?」
ゆり 「ハヤト君……ダメよ、そんな……――」
ハヤト 「――俺はさ、ゆり姉さん。姉さんを守るために、明堂院流を修行したんだよ」
ハヤト 「姉さんを守るために、姉さんの進む道を開くために……だから、やらせてよ」
ハヤト 「ずっとお世話になってきた恩返しを、させてくれよ」 ニコッ
ゆり 「ハヤト君……」
いつき 「………………」 スッ 「ゆり……」
ゆり 「ええ……」
192:以下、
いつき 「お兄様、ご武運を!!」
ゆり 「ハヤト君……ごめんなさい、お願いするわ!!」
タッ……タタタタ……
『ヴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
さつき 「おっと、行かせないよ。君たちの相手は僕たちだ」
――――――ッッッズドォォオオオッッ!!!!
『ヴ……』 ズゾゾゾゾゾ……!!! 『――ヴオアアアアアアアア!!!』
さつき 「……凄まじい回復力だな。元が砂なのだから当たり前か」
ハヤト 「俺じゃあまり頼りにはならないかもしれませんが……師範代の背中、預からせて頂きます」
さつき 「はは、とても頼もしいさ。わざわざ残ってくれるなんてね」
さつき 「それでこそ明堂院流の門下生だ。僕も鼻が高い」
ハヤト 「……さぁ来い、怪物ども。姉さんたちの元には、絶対に行かせないぞ」
『ヴ……ヴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
ハヤト 「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
――――――――――――ッッッドォオオオオオ!!!
193:以下、
………………
みつる 「は、花咲……お前だったのか……」
えりか 「あなたは……ああ!! 鎌倉で会ったつぼみの幼なじみ!!?」
みつる 「君は……ああ、あのときの小うるさい奴……」
えりか 「!? むきーーーーー!! 小うるさいって何さ!?」
つぼみ 「みつるくん……ありがとうございます!! 助けてくれて」
みつる 「あ……////」 プイッ 「た、大したことじゃない。こんなの……」
つぼみ 「でも、何で希望ヶ花市に……?」
みつる 「ん? ああ……剣道の交流試合でな。偶然来てたんだ」
えりか 「………………」 ジトーッ
みつる 「な、何だよその不満そうな目は……」
えりか 「気が利かないねぇ……そこは嘘でもいいから、「花咲を助けに来た」 くらい言いなよ」
みつる 「無茶言うな! 鎌倉からここまで駆けつけるって、何だその超人的なヒーローは!?」
えりか 「いやいや、竹刀であんな怪物吹き飛ばす時点で十分超人的っしゅ……」
みつる 「? いや、でもアイツ、意外と軽かったぞ」
194:以下、
『ヴオ……オオオオ……』
みつる 「っ……しつこいな。花咲、下がってろ」
つぼみ 「あ、は、はい!」
スッ……
みつる 「………………」
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
ドドドドドドドドドドドッッッッッッ……!!!!
みつる 「……――っ……ヤァァァァアアアアアアアアア!!!」
ッッタンンン――――――
――――――ッッッッザンンンンッッッ!!!!!
えりか 「!? し、竹刀で、砂の怪物を……」
つぼみ 「きっ、きき……斬り捨てましたーーーー!?」
『ヴ、オ……』
――バラララ……
みつる 「………………」 フゥ 「……やっぱり大したことないな。弱い」
195:以下、
つぼみ 「す、すごいです……」
えりか 「かぁっくいーーーー!! さっすがはつぼみとフラグ立ててただけのことはあるっしゅ!」
つぼみ 「フラグ?」
みつる 「フラグってなんだ?」
えりか 「……何でもないっしゅ」 ショボン
つぼみ 「あっ!! そうだえりか! 早くココロパフュームを取りに行かないと!」
みつる 「? ココロパフューム……?」
つぼみ 「あ……」 (しまったーーーー!! みつるくんがいるんでした!!)
つぼみ 「あ……えーと、その……――」
――ズゾゾゾゾゾゾッ……
みつる 「!? なっ……!!」
『ヴオオ……オオオオオオオオオオオオ……!!!』
えりか 「!? 崩れた怪物が、また復活してる!!?」
みつる 「……なるほどな。脆くて壊れやすい変わりに、しつこいってことか」
みつる 「………………」
196:以下、
つぼみ 「えりか、みつるくん、逃げましょう! あんなのまともに相手してられません!」
つぼみ (きっと、プリキュアの力なら、浄化できるはずです……)
みつる 「………………」 フルフル 「……いや、俺は逃げない。ここで奴を足止めする」
つぼみ 「えっ……? そ、そんなのダメですよ!」
みつる 「……いいから行けよ。なんかやることがあるんだろ?」
えりか 「!?」
みつる 「逃げるといったって、女の足じゃ限界がある。すぐに追いつかれる」
みつる 「そして、戦うにせよお前たちがいたところで何の足しにもならない」
みつる 「……それとも、俺にお前たちを守りながら戦えって言うのか?」
つぼみ 「みつるくん……」
みつる 「……安心しろ。自慢じゃないが俺は強い。ほら、さっさと行けよ」
つぼみ 「でも……でも……!!」
みつる 「……お前、たしか来海、って言ったよな? 花咲を頼む」
えりか 「……分かったっしゅ。あんたも、気をつけてよね」 ギュッ 「行くよ、つぼみ」 ダッ!!!
つぼみ 「えっ……!? ち、ちょっとえりか!? み、みつるくん……!!」
197:以下、
タタタタタ……
つぼみ 「えりか!! 放してください!! みつるくんを置いて逃げるっていうんですか!?」
えりか 「そうだよ。あたしたちはみつるくんをあそこに置いて、二人で逃げるんだよ」
つぼみ 「そ、そんなの……!! そんな、卑怯なことを、どうし――――」
えりか 「――――卑怯なことでも!!!」
つぼみ 「……!?」
えりか 「……たとえ、卑怯なことでも、今はそうしなきゃいけないんだよ!!」
グスッ
つぼみ 「えりか……?」 (泣いてるのですか……?)
えりか 「……つぼみ、思い出して。あたしたちが今するべきことって何?」
えりか 「今のあたしたちはただの人間なんだよ。プリキュアじゃないんだよ」
えりか 「悲しいけどさ、悔しいけどさ、今のあたしたちにできることなんてないんだよ」
えりか 「卑怯でもいい。汚くたっていい。それでも、今はこうしなきゃいけないんだよ」
えりか 「この異常事態をどうにかできるのは、プリキュアだけなんだよ……」
えりか 「……つぼみ、お願い。みつるくんのためにも、今は走って」
198:以下、
つぼみ 「………………」
つぼみ 「……ごめんなさい、えりか。わたしが間違っていました」
えりか 「間違ってなんかないよ。きっと、正しいのはつぼみだよ」
えりか 「……それでも、今はこうしなきゃいけない。あたしたちが、プリキュアになるために」
つぼみ 「……はい!!」
………………
みつる 「……さて、なんかよく分からないが、修行だと思えばいいか」
みつる 「あー……この分じゃ交流試合には間に合わないな。まぁ、異常事態だし、いいか」
『ヴオオオオオオオオ!!!』
みつる 「……だから行かせないっての」
――――――ッッッッッッドォォオッッッ!!!!
みつる 「……初恋の相手に良いところを見せられたことにだけは感謝するよ」
みつる 「だが、ここは絶対に通さない。覚悟しろよ?」
『ヴ、オ……オオオオオオオオオオ……!!!』
――――――――――――――――ッッッッッッッドッッッ!!!!
200:以下、
………………こころの大樹
バニラ 「………………」
ハァ
バニラ 「……カッコつけて送り出したはいいものの、ひとりだと暇だなぁ」
バニラ 「こころの大樹のお世話でもしようかな」
ピューン
バニラ 「……元々は、とっても大きな木だったんだよね」
バニラ 「今は、まだ若々しくて細い木だけど……いずれ、昔みたいな大樹に戻るんだよね」
バニラ 「……僕は、プリキュアが砂漠の王を倒してから生まれた、初めての妖精」
バニラ 「まだ成長途中のこころの大樹から生まれた、弱い弱い不完全な妖精」
バニラ 「……ワガママは言えないよね。だって僕は、ポプリ先輩たちとは違う」
バニラ 「もうプリキュアを生み出す必要もない。ただ、大樹のお世話をするためだけに生み出された――」
バニラ 「――出来損ないの妖精、だもんね……」
グスッ
バニラ 「あっ……」 ゴシゴシゴシ 「な、泣いてどうするんだよ、馬鹿バニラ。しっかりしろ」
202:以下、
ザワザワザワ……
バニラ 「……? 梢が、ざわめいている……?」
?? 『……バニラ……バニラ……聞こえますか?』
バニラ 「へ……?」 キョロキョロ 「だ、誰かいるのですか……?」
?? 『わたしです。目の前の、あなたが成長途中と言った、木です』
バニラ 「えっ……?」 ピョーン!!! 「こ、こころの大樹が喋った!!?」
大樹 『そう驚かないでください。あなたたち妖精とわたしは、心を通じ合わせることができるのです』
バニラ 「あ……そ、そうなんですか。そんなこと、今初めて聞きました」
大樹 『そんなことより、バニラ、不穏な影が迫っています。力を、貸してください』
バニラ 「え……? 不穏な影?」
大樹 『わたしの落ち度です。砂漠の使徒は……いえ、“砂漠” そのものが、まだ邪悪な意志を持っていたのです』
バニラ 「砂漠そのもの……?」
大樹 『力の弱まっているわたしにはあまり多くは分かりません。しかし……』
大樹 『……恐らく、何かが起きました。人類のこころの花が、急に枯れていくのが感じられます』
大樹 『多くの心が、絶望し、悲観し、諦め、今まさに破滅の淵に立たんとしています』
204:以下、
バニラ 「そ、そんな……!!」
大樹 『わたしはこころの大樹です。そんなことは、今すぐ止めなければなりません』
大樹 『コフレたちはもう希望ヶ花市に向けて飛び立ちましたね?』
バニラ 「あ……は、はい。多分、もう着いているころかと……」
大樹 『……ならば、あなたも希望ヶ花市に飛びなさい、バニラ』
バニラ 「えっ……? ぼ、僕もですか!? でも、こころの大樹、あなたは……」
大樹 『わたしならば心配はいりません。“砂漠” に気取られぬよう、結界を張りつつ世界を転々と旅します』
大樹 『“砂漠” に見つからぬよう気をつけます。だから、あなたは行きなさい』
大樹 『……大事な役目ですよ、バニラ。シプレたち、そしてプリキュアたちに伝えなさい』
大樹 『「“砂漠” の本拠地はアフリカ大陸のサハラ砂漠だ」 と……』
バニラ 「あ……は、はい……!! 絶対に、先輩たちとプリキュアに伝えます!!」
大樹 『……あなたの面立ちは、パートナーを守り消滅した、かの誉れ高き妖精によく似ています』
大樹 『あなたの双肩に世界の命運がかかっています。頼みましたよ、バニラ』
バニラ 「……はい!! 行ってきます!! こころの大樹!」
205:以下、
………………希望ヶ花市
シプレ 「………………」
コフレ 「………………」
ポプリ 「………………」
「「「これはどうしたことですーーーーーーーーー!!?」」」
シプレ 「あ、ああああ辺り一面が砂漠になってしまってるですぅ!!」
コフレ 「これって……も、もしかしなくても……」
ポプリ 「砂漠の使徒の仕業でしゅーー!?」
シプレ 「? でも、砂漠の使徒はもういないですぅ」
コフレ 「確かにそのとおりですっ。でも、この惨状は六年前のあのときと同じです」
ポプリ 「考えるのは後でしゅ!! 今はいちゅきたちを探すでしゅよ!!」
コフレ 「そ、そうですっ!! 早くえりかたちを探して、なんとかするです!」
――――――ッッッドンン!!!
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
206:以下、
シプレ 「?」 チラッ 「――!? な、ななななななな……何ですかあれは!?」
コフレ 「? シプレ、どうかしたです?」 チラッ 「――何ですかあれはーーーーー!?」
ポプリ 「? ふたりともどうしたで、」 チラッ 「――しゅーーーーーーーー!!?」
「「「デザトリアンですーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!?」」」
『ヴオ……?』 ギョロッ 『ヴ……オ……ヴオオオオオオオオ!!!』
ドドドドドドドッッッッッッ!!!!!
コフレ 「ひ、ひぃぃいいいいい!! なんか追いかけてきたですーーーーっ!!!」
シプレ 「に、にににに逃げるですぅーーーーーーーーーーーー!!!」
ピューーーーーーーーーーーーーン!!!
ポプリ 「これはどういうことでしゅか!? ポプリに説明してほしいでしゅ!!」
シプレ 「そんなこと言われても困るですぅ!! わたしたちにも訳が分からないですぅ!!」
コフレ 「とにかく、えりかたちのところに急ぐですっ! 話はそれからですっ!!」
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』 ドドドドドドドドドドドッッッッ!!!!
「「「ひぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」」」
ピューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンン!!!!
207:以下、
――――――――――――――――…………………………………………
『……なるほど、考えたものだな、キュアフラワー』
フラワー 「………………」
『私の攻撃を完全に防御しきる力はない。ならば、余力あるうちにその攻撃を弾いてしまえばいい』
『……そういうことか。やってくれたな、キュアフラワー』
フラワー 「………………」 (攻撃の、大部分を……宇宙へ、逃がすことには、成功した……)
フラワー (けれど……地上にも、少なからず、攻撃が……)
『全世界が中途半端に砂漠化したか……まったく、厄介なことをしてくれた』
フラワー 「………………」
ガクッ
フラワー 「っ……」
『さしもの最強も限界か。だが、私もこれが限界だ。一度退くとしよう』
『――だが、キュアフラワー。貴様は危険すぎる』
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!
208:以下、
フラワー 「ッ……!?」 (巨大な砂の腕……!?)
フラワー (ハートキャッチオーケストラと同等か……それ以上の力を感じるわ……)
『驚くな。これは私の身体のほんの一部に過ぎん』
『……こころの花を枯れさせることも、地上の完全な砂漠化も叶わなかったが、』
『貴様だけはここで完全に消滅させておく。覚悟しろ、キュアフラワー』
フラワー 「ふふ……たとえ私を滅したところで、何にもなりはしないわよ」
フラワー 「私は所詮、もう過去のプリキュア。本来の力の半分も出せない、老いぼれよ」
フラワー 「私が今ここで消えたとしても、当代のプリキュアがあなたを倒す。それは絶対よ」
『……ふふ……くくくく……』
フラワー 「……? 何が可笑しいの?」
『……まさかとは思うが、キュアフラワーよ、私がそんなことも考慮に入れていなかったとでも?』
フラワー 「どういう意味かしら?」
『決まっている。保険は二重三重にかけてあるのだよ』
フラワー 「保険、ですって……?」
209:以下、
『サンドクラスタ……貴様が知っているデザトリアンと同じような存在が、先の攻撃の余波で生まれている』
『サンドクラスタは心つよき者とプリキュア、そして妖精を狙い攻撃する』
『砂漠化を見ても心が折れない存在やプリキュアたちを物理的に壊すためにな』
フラワー 「っ……何てことを……ッ!!」
『人類は砂漠化でこころの花を枯らす。心つよき者はサンドクラスタによって破壊される』
『そしてプリキュアは変身する前に、妖精共々始末する』
『……どうだ? 手も足も出まい? これが保険だよ、キュアフラワー』
フラワー 「………………」
フラワー 「……ふん、そんな程度でどうにかできると思わないことね」
フラワー 「人類も、プリキュアも、妖精も……そんなにヤワじゃないのよ」
『……ふむ。それが負け犬の遠吠えにならぬことを、草葉の陰から祈っているのだな』
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!
フラワー 「っ……」 ゼェ、ゼェ…… (あんな巨大な拳を、まともに喰らったら……)
フラワー (けれど、避けるわけにはいかない……わたしの背後には、希望ヶ花市がある……)
フラワー (未来がある、希望がある、夢がある……ならば、わたしのこの身体を盾にしてでも……!!)
210:以下、
『“史上最強” の二つ名と共に、今ここで滅びろ、キュアフラワー』
『……――デザート・クラッシュ!!』
――――――ブゥンンンンンンンンンンンンッッッッ!!!!
フラワー 「………………」
フッ
フラワー 「……残念ね、“砂漠の意志”」
『……!?』
フラワー 「私がここで滅びたとしても、残念ながら “史上最強” は滅びることはないわ」
フラワー 「……だって、その称号は、私の孫娘と、その仲間たちに奪われてしまったんですもの」
ニコッ
『今際の際に世迷い言を!!』
フラワー (……ごめんね、つぼみ。えりかちゃん、いつきちゃん、ゆりちゃん)
フラワー (地球の未来……人類の未来……あなたたちに任せたわ)
フラワー (……あとは頼んだわよ。最強の意志を継ぐ……当代のプリキュアたちよ)
――――――――――――――――――――――――――――ドガァァァアアアアアアアッッッッッ!!!!!!
211:以下、
………………植物園
ふたば 「………………」
ふたば 「……おばあちゃん、遅いなぁ」
ふたば 「どうしたんだろ。もう、お花の観察終わっちゃうよ」
ふたば 「………………」 スッ 「……もう一週、してみようかな」
トコトコトコ……
ふたば 「……おばあちゃん、コッペ様……早く戻ってこないかな」
ふたば 「ん……? あれ?」
――――キラキラキラ……
ふたば 「……こんなところに、こんなお花、咲いてたっけ?」
ふたば 「これは、えーっと……あ、そうだ、スズランだ」
ふたば 「……すごい。スズランの白い小さなお花が、いっぱい咲いててとってもきれい」
ガサッ……!!!
ふたば 「――!?」 ビクッ
212:以下、
ふたば 「だ、だ、だだだ、誰……? 誰か、いるの……?」
?? 「う……あ……」
ふたば (……? きれいな声……)
ふたば 「っ……」
ガサガサ
ふたば 「……!?」 (スズランの繁みの中に……わたしと、同い年くらいの、女の子……?)
?? 「……う………」
ふたば 「ね、ねえ、大丈夫? 起きて? 起きて!!」
?? 「ん……あ……」
――パチッ……
?? 「……ひ、かり……? あ……明るい……」
ふたば 「え……?」
?? 「っ……あ……君、は……誰……?」
ふたば 「わたし? あ……わたしは、ふたば。花咲ふたば」
?? 「ふたば……? ふたば……」
217:以下、
ふたば (とってもきれいな真っ黒の髪……すごい)
ふたば 「……あの、あなたは、誰?」
?? 「私……? 私、は……私は、誰……?」
ふたば 「分からないの?」
?? 「分からない……いや、何だ……私は……」
――――――ズキッ……!!!
?? 「ッア……!? がっ……あ、頭が……」
ふたば 「だ、大丈夫!? 無理しないで!!」
……ギュッ!!
?? 「あ……温かい、手……」 ギュッ 「大丈夫……大丈夫、だ……」
?? 「だが、すまない。私は、私が誰なのか、まったく思い出せない」
ふたば 「……記憶そーしつ、なの?」
?? 「分からない……何も、分からないんだ……。すまない」
ふたば 「あっ……い、いいよ! そんな、謝らないで!!」
ふたば 「歩ける? ちょっと、ベッドまで行こうか」
218:以下、
………………植物園 休憩室
?? 「……何から何まで、すまない。ありがとう、ふたば」
ふたば 「ううん。困ったときはお互い様だって、お姉ちゃんに教えてもらってるから」
?? 「お姉ちゃん……? お姉ちゃん……妹……」
ふたば 「? どうかしたの?」
?? 「いや……何でもない」
ふたば 「でも、あなたはいつの間にあそこに来たんだろう」
ふたば 「わたしがさっき、植物園中を見て回ったときは、いなかったのに」
?? 「分からない。気づいたら、目の前にふたばがいた。その前の記憶が、ない」
ふたば 「そっか……」 クスッ 「うん、いいよ。思い出せたら教えてくれれば」
?? 「ああ……ありがとう」
ふたば 「ふふ、さっきからごめんとありがとうばっかりだよ、えーと……」
ふたば 「……やっぱり、名前がないと不便だね」
?? 「そうか……すまない」
ふたば 「だから謝らないでってば」
221:以下、
?? 「あ……ごめん」
ふたば 「はは……いいよ。えーっと……じゃあさ、もし良かったらなんだけど、」
ふたば 「――わたしがあなたの名前をつけてもいいかな」
?? 「私の、名前を……ふたばが?」
ふたば 「うん。もちろん良かったらでいいし、本当の名前を思い出せるまでだけど」
ふたば 「どうかな?」
?? 「……ああ、頼む。私も、なぜだか分からないが、ふたばに名前をつけてほしい」
ふたば 「うん! じゃあ決まりだね。うーん……どんな名前にしようかな」
?? 「………………」
ふたば 「………………」
――ポン!!
ふたば 「……決めた。あなたにぴったりの名前、見つけたよ」
ふたば 「――――すずらん。あなたの名前は、すずらんちゃん」
?? 「すずらん……?」
223:以下、
ふたば 「うん。あなたが倒れていた近くに咲いていた、きれいな白いお花だよ」
ふたば 「あなたのとっても白くてきれいな肌にぴったりな名前だと思うんだ」
?? 「すずらん……すずらん……すずらん……」
ふたば 「……あ……嫌、だったかな……?」
?? 「……とんでもない。良い名前だ。ありがとう、ふたば」
すずらん 「この名前を大事にする。私は今から、すずらんだ」
ふたば 「うん。よろしく、すずらんちゃん」
すずらん 「ああ。よろしく、ふたば」
ふたば 「……?」 (あれ……? わたし、普通に喋れてる)
ふたば (怖くない……同い年くらいの子なのに……)
ふたば (何でだろう……なんか、お姉ちゃんたちと一緒にいるみたいで、安心する……)
すずらん 「? ふたば? どうかしたのか?」
ふたば 「え? う、ううん、何でもないよ、すずらんちゃん」
ふたば 「それより、すずらんちゃん、何だか疲れてるみたいだから、目を閉じて休んでて」
すずらん 「ああ……すまないが、そうさせてもらおう。一眠り、したいんだ……」
224:以下、
………………花咲家
つぼみ 「――お母さん!! お父さん!!」
つぼみ 「……いない、ですか……」
つぼみ 「わたしとふたばを探しに行ったのでしょうか……」
つぼみ 「ごめんなさい、お母さん、お父さん」
つぼみ 「………………」 ギュッ 「……今は、くよくよしてる場合じゃないですね」
つぼみ 「……メモだけ残しておこう」
トトトトト……
つぼみ 「……わたしの部屋の、机の引き出しの中」
つぼみ 「……なつかしい。大事にしまっておいたから、触るのは本当に久しぶり」
つぼみ 「ココロパフューム……わたしの、わたしたちの……大切な宝物」
『つぼみーーーーーー!! ココロパフュームあったーーーー!?』
つぼみ 「えりか……」 ガラッ 「はい、見つかりました。えりかもありましたか?」
えりか 「うん! 長居は無用っしゅ! 行こう!!」
つぼみ 「はい! 行きましょう! えりか」
225:以下、
………………明堂院家
いつき 「お母様!!」
つばき 「!? いつき!!」
いつき 「良かった……ご無事だったのですね」
つばき 「いつきこそ……無事で良かった……」
いつき 「お兄様とハヤト君に助けてもらいました。いつきは大丈夫です」
つばき 「わたくし、もう、何が起こっているのか分からなくて……」
いつき 「お母様……」 ギュッ 「大丈夫。大丈夫です。すぐにお日様が見えるようになります」
いつき 「……そうしたら、ヒーローが現れます。そのときまで、耐えてください」
つばき 「いつき……。そうね、ごめんなさい。娘に泣きついてしまうようじゃ、母親失格ね」
厳太郎 「……そんなことはない。支え支えられ、お互いを助け合う、それが家族だ」
いつき 「お、おじいさま……」
厳太郎 「空気が揺らいでおる。何か、良くないものが間近まで迫っているようだ」
厳太郎 「あの砂の怪物だけでない、もっと大きな悪意が……」
226:以下、
いつき 「………………」 グッ 「っ……お、おじいさま、あの――」
厳太郎 「皆まで言うな。分かっておる。成すべきことがあるのだろう?」
いつき 「えっ……? ど、どうして……」
厳太郎 「準師範といえど、弟子は弟子だ。分からぬことなどない」
ニコッ
厳太郎 「ここは儂と熊本たちで守る。いつき、お前はお前の成すべきことを成してこい」
いつき 「は……はい!!」
つばき 「……いつき、気をつけて」
いつき 「お母様……はい!! 気をつけて行ってまいります!!」
――――――ダッ……!!!
つばき 「いつき……」
厳太郎 「心配するな。あの子は強い。身体も、心も……おそらくは儂よりもな」
つばき 「……はい」
227:以下、
………………団地 月影家
春菜 「………………」
春菜 「……ゆりちゃん」
――――ガチャッ!!
ゆり 「お母さん!!」
春菜 「!? ゆりちゃん……!! 良かった……」
ギュッ
ゆり 「……ごめんなさい、お母さん。心配をかけてしまって」
春菜 「ううん。いいの。いいのよ……ゆりちゃんが無事なら、それで」
ゆり 「お母さん……」
ゆり 「………………」 グッ 「……お母さん、あのね――」
春菜 「――ゆりちゃん、」
ゆり 「え……?」
春菜 「……親っていうのはね、子どもが幸せでいてくれればいいの」
春菜 「だから、本当は心配だけど……ずっと傍にいてほしいけど、そうは言わないの」
228:以下、
ゆり 「お母さん……?」
春菜 「……子どもが親の心配なんてするものじゃないわ」
春菜 「親が子どもを心配するのよ。それこそ、些細なことでも。くだらないことでもね」
春菜 「だから、私のことを思って何かを思いとどまるなんてことはしないでちょうだい」
スッ
ゆり 「!? こ、これ……わたしの、プリキュアの種……」
春菜 「ゆりちゃんの大切なお守りでしょう? 持っていきなさい」
ゆり 「……お母さん……お母さん……っ」 グスッ 「おかあ、さんっ……」
春菜 「あらあら、ゆりちゃんはお友達の間では頼れるお姉さんなんでしょう?」
春菜 「泣いたりしたらダメじゃない」 ニコッ 「……さ、涙を拭いて」
ゆり 「……うん」
春菜 「……さ、行ってらっしゃい。お母さんのことは心配しなくても大丈夫だから」
春菜 「けど、ひとつだけ約束して、ゆりちゃん」
ゆり 「………………」
春菜 「絶対に……絶対に、帰ってきてね」
229:以下、
ゆり 「……うん。約束する。私、絶対に帰ってくるから」
春菜 「ん。待ってるわ」
ゆり 「……あのね、お母さん」
春菜 「なぁに?」
ゆり 「帰ってきたら……お話することがあるの。私と……こころの大樹と、お父さんの話……」
ゆり 「ずっと、お母さんに内緒にしてた。この世界のこと……お父さんのこと」
ゆり 「ごめんね。帰ってきたら、ちゃんと話すから。荒唐無稽で、信じられない話かもしれないけど」
ゆり 「きちんと、お母さんに話すから」
春菜 「……ゆりちゃんは優しいのね。私のために、内緒にしてくれていたのね」
ゆり 「………………」
春菜 「……大丈夫。私は大丈夫よ。ゆりちゃんがいてくれれば、私は大丈夫」
春菜 「ありがとう、ゆりちゃん。……行ってらっしゃい」
ゆり 「うん、お母さん。行ってきます」
――――――タッ……!!
春菜 「……あなた、どうか、」 ギュッ 「どうか、私たちの娘を守ってあげてね……」
235:以下、
………………
タタタタ……
えりか 「急ごう、つぼみ!! 早くプリキュアになって、こんな馬鹿げたこと、終わらせなくちゃ!」
つぼみ 「はい!! 緑溢れる大地を、キラキラと輝く世界を……取り戻しましょう!!」
………………
タタタタ……
いつき 「……ゆり、お母様は……?」
ゆり 「……問題ないわ。笑顔で送り出してもらったから」
いつき 「そっか……」
ゆり 「……ごめんなさい。気を遣わせてしまったみたいね、いつき」
いつき 「………………」
ゆり 「でも、大丈夫だから。私には……あなたと、つぼみと、えりかがいる……」
ゆり 「大切な友達……仲間がいるから。もうひとりじゃない。だから、大丈夫。もう何も失わない」
いつき 「……うん!!」 グッ 「急ごう、ゆり。この世界を、人々の心を……もう一度守るんだ」
ゆり 「ええ。こころの大樹の戦士、プリキュアとして……この世界に輝きを取り戻すわよ!」
236:以下、
………………明堂院流道場
熊本 「――――ッハァァアア!!!!!」
ズドォォオオオオッッッ……!!!!
『ヴ……ア……』
熊本 「……ふん。弱いわ。その程度でこの熊本を倒せると思うとるとは、片腹痛いわ」
子供1 「はぁ……すごい。やっぱり熊本先生は強いや」
熊本 「この程度は強い言うに入らんわ」 ニッ 「お前たちでも倒せるくらいじゃきぃ」
熊本 (……しかしこうもしつこいと面倒だ。大元を潰す必要があるぜよ)
――――――ザッ……!!!
熊本 「!? 新手か!?」
?1 『……ふん、そういちいち身構えるモンではないぜよ。弱く見えるじゃきぃ』
熊本 「……ッ!?」 (な、なんだ……コイツは……!?)
237:以下、
………………希望ヶ花市 チャペル
花嫁 「一体……何が起こってるの……?」
花婿 「大丈夫。大丈夫だ。何か分からないけど、何があろうと君は僕が守る」
花嫁 「……うん」
――――ズゾゾゾゾゾゾッ!!!
花嫁 「き……キャーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
花婿 「っ……こいつ……ッ」
――バッ!!!
花婿 「早く逃げるんだ!! 僕がコイツを食い止める!!」
花嫁 「む、無茶よ、そんなの……死んじゃう……」
花婿 「……君を守って死ねるなら本望だよ」 ニッ 「……早く逃げろ!!」
花嫁 「いや……そんなの……誰か……」
グスッ
花嫁 「――――――誰か助けて!!!」
―――――――――――――――――――――――シュシュシュシュシュンンンンン!!!!
238:以下、
花嫁 「えっ……? か……カード……?」
?? 「美しい。素晴らしいとしか言いようがない。ああ……トレビアンだよ、本当に」
?? 「お互いを想い合い庇い合う……なんという美談だろうか」
?? 「……しかし悲しいかな。それが悲劇ということだけが、ネックになる」
花嫁 「あ……あなたは……ドレスのデザイナーの、古布さん……?」
『ヴオ……? ヴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
花婿 「あっ……危ない!!! よ、避けて――――」
古布 「――――だが、ならばその悲劇を最高のハッピーエンドに変えようじゃないか」
――――――ザザザザザザンンンンンン!!!!
古布 「……真の美しさは幸せにこそ宿る。今の僕はそれを、知っているからね」
『ヴ……ア……』
花婿 「か、カードを投擲して……砂の怪物を、倒した……」
古布 「さぁ、奥に避難してください、花嫁様と花婿様。ここは僕が守ります」
花婿 「あっ……は、はい!! ありがとうございます!!」
239:以下、
………………
古布 (……何だろう。この、胸のモヤモヤとした感じは)
――――――シュシュシュシュシュンンンンン!!!!
『ヴア……』
古布 (まるで、この状況が僕を苦しめているようだ……罪悪感が湧いてくる)
古布 (一体、何が……)
――――――ザッ……
古布 「!? 新手か!?」
?2 『ふふ、そう驚かないでくれよ。美しくない』
古布 「なっ……!? き、君は……!!」
?2 『……だから驚くなと言っているだろう。本当に美しくないな』
240:以下、
………………希望ヶ花市 公園
『ヴオオオオオオオオオ』
『ヴアアアアアアアアア』
女の子 「ふぇ……ふぇぇえええ……」
男の子1 「こ、この!! あ、あっち行け!! こっちにくるな!!」
男の子2 「っ……なんなんだよ……うぅ……」
『ヴアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
女の子 「うっ……うぅぅぅ……怖いよ……おかあさん……おとうさん……」
女の子 「せんせぇ……ノリコせんせぇ……っ……りなせんせぇっ……たすけてっ……」
――――――――ズドオォォオオオオオッッッッ!!!!
『ヴオ……ア……!?』
女の子 「へ……?」
?? 「……遅く、なって……ごめんね、みんな」 ニコッ 「もう、大丈夫よ」
女の子 「あ……!! りなせんせい!!」
佐曽 「……間に合って、良かった……みんなが無事で……本当に、良かった……」
242:以下、
『ヴオ……アアアアアアアアアアアアアア!!!』
男の子1 「ひっ……またくるよ……!!」
佐曽 「ふふ、大丈夫よ。みんな、先生の後ろにいなさいね」
ザッ……!!!!
佐曽 「よくもまぁ……私の可愛い園児たちに、怖い思いをさせてくれたわね……!!」
佐曽 「――――幼稚園の美人な先生、舐めるんじゃ……ないわよッッッ!!!!」
――――ッッッッッッッドッッッ!!!!!
『ヴ……オ……』
佐曽 「……ふん、他愛もないわねぇ。こんな簡単に崩れちゃうなんて、情けない」
佐曽 「私が砂漠の使徒だった頃はもう少し骨があっ――――」 ハッ 「……砂漠の、使徒……?」
佐曽 (なに……? 私、何かを思い出そうとしてる……?)
女の子 「先生……?」
佐曽 「あ……だ、大丈夫よぉ! さ、早くみんなで安全な場所に避難を――」
?3 『――それには及ばないわぁ。どうせ無駄になるんですもの。ふふ』
佐曽 「!? 誰!?」 チラッ 「……げっ! へ、変な人ぉぉおおお!!」
243:以下、
?3 『なっ……変な人とは失礼しちゃうわねぇ!』
女の子 「……変な人だよ」 男の子1 「変な人だ」 男の子2 「変な人だよね」
「変な人すぎるよ」 「っていうか変だよ」 「変じゃないところがないよ」
?3 『き、きぃぃいい!! 生意気なガキ共ねぇ!!』
佐曽 「っ……」 スッ 「……あなた、何者? 普通の人には見えないけど」
佐曽 (というか……なんだろう、この嫌な感じ……こいつ、誰かに、似てる……?)
?3 『……あらぁ、あんたがそれを聞いちゃうの? 佐曽……りなさん、だっけ?』
佐曽 「なっ……何故私の名前を知っているの!?」
?3 『そりゃあ知ってるわよぉ。当たり前でしょう?』
?3 『だって私は……――――』
?1 『俺は……――――』
?2 『僕は……――――』
?3 『――――――……あんただもの』 ニィイ
244:以下、
………………希望ヶ花市 丘
えりか 「――いつき! ゆり!」
いつき 「えりか!! つぼみ!!」
つぼみ 「はっ……はっ……も、もう走れません……」
ゆり 「がんばったわね、つぼみ」 スッ 「……これで、準備はできたわ」
えりか 「うん……あとは、この場所にコフレたちが来てくれれば……」
いつき 「……来て、くれるかな。ポプリたち、異常事態に気づいてはくれているだろうけど……」
ゆり 「……あの子たちがこの場所に来てくれるかしら……」
つぼみ 「――――来てくれます。絶対!!」
えりか 「つぼみ……?」
つぼみ 「何の保障もありません……間違っているかもしれません……」
つぼみ 「でも、何となく思うんです…… “ここ” だって。ここにいれば、シプレたちが来てくれるって」
つぼみ 「……だって、ここは……わたしがシプレとコフレと初めて出会った、思い出の場所だから」
つぼみ 「だから、絶対に……――――――」
「「「――――たすけてですぅうううーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」」
245:以下、
つぼみ 「……!」 ガクッ 「……せっかく格好つけてたのに、台無しです」
えりか 「この間抜けな声は……」 ハァ 「まったく、空気も何も読まないというか……」
ゆり 「あら、あの子たちらしいじゃない」 クスクス
いつき 「はは、まったくだ――――」 ハッ 「ってそんなこと言ってる場合じゃないよ!?」
つぼみ 「そうでしたーーーーーーー!!! 今 『たすけて』 って言ってましたよね!?」
ゆり 「………………」 キリッ 「……行くわよ、みんな」 タッ!!
えりか (ゆりはこういうとき簡単にキメ顔に戻れるからずるいっしゅ……) ダッ!!
………………
ピューーーーーーーンンン!!!
ポプリ 「ほ、本当に、いちゅきたちはこの場所に来てくれるでしゅか……?」
コフレ 「絶対絶対ぜぇええええったいですっ!! つぼみは絶対この場所に来るですっ!!」
シプレ 「そうですぅ。つぼみなら絶対にこの丘にやって来るはずですぅ」
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』 ドドドドドドドドドドドッッッッ!!!
シプレ 「でもその前にあれを何とかしなきゃですぅ!!」
ポプリ 「あぅ……誰か助けてでしゅーーーーーーーーーーーーー!!!」
252:以下、
――――――ボフッ!!
ポプリ 「あう!?」
ヨロヨロ……ペタリ
シプレ 「あ、ポプリ!! 叫ぶときに目を瞑ったりするからですぅ!!」
コフレ 「ポプリ!! ポプリ!! 枝にぶつかったくらいでへこたれるなですっ!!」
ポプリ 「あうあう……ポプリ、もう限界でしゅ……」
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
シプレ 「ひぃぃ!? ふ、踏み潰されるですぅ……!! つ、つぼみぃぃい……」
コフレ 「え、えりかぁああああああああああああああああああ」
ポプリ 「いちゅきぃいいいいいいいいいいい」
「「「ゆりさぁあああああああああああああああああああああんんん」」」
――――――――ザザザァァアアアアアッッッ!!!
シプレ 「え……?」 (これは、懐かしい……)
コフレ 「あ……っ」 (温かくて頼もしい……)
ポプリ 「でしゅ……?」 (大好きな、手……)
253:以下、
えりか 「……なんか、ゆりを呼ぶときが一番大声だった気がしてちょっと妬いちゃうなー」
つぼみ 「え、えりか……そんなことはなかったと思いますけど……」
いつき 「気にしすぎだよ。ねぇ、ポプリ?」
ゆり 「……ともあれ、みんな無事で良かったわ」
シプレ 「……わたし……っ、たちは……信じてたですぅ」
コフレ 「はいですっ。僕らは、みんなが絶対に、来てくれるって……っ」
ポプリ 「信じて……っ、た……でしゅ……」
つぼみ 「わたしたちも信じていましたよ。みんなが、ここに来てくれるって」
えりか 「だから泣かないの。ほら、コフレ、あんたは男の子でしょうが」
いつき 「はは……ポプリは相変わらず泣き虫だなぁ」
ゆり 「……ありがとう、妖精たち。私たちのために、危険を顧みずやって来てくれて」
ゴシゴシゴシ……
シプレ 「はいですぅ! ゆりさん、受け取るですぅ!!」
パァァアア……ポン!!
ゆり 「ココロポット……。ありがとう、シプレ」
254:以下、
『ヴオ……?』
ガサガサガサ……!!!
えりか 「あっ……アイツ、あたしたちを探してるよ!」
いつき 「見つかるのも時間の問題だね」
ゆり 「……まぁ、そもそもやることなんて一つしかないのだけれどね」
つぼみ 「ええ、その通りです」 ギュッ 「……やりましょう、皆さん!!」
「「「「「「「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」」」」」」」
『ヴオ!? ヴオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
いつき 「あ、居場所がばれた」
えりか 「つ、つぼみの天然のせいだよ!!」
つぼみ 「そんなぁ……みんなも乗ってくれたじゃないですかぁ!」
シプレ 「そんなこと言い合ってないで、早く変身するですぅ!!」
コフレ 「ほら早くするですっ!! まさか変身の仕方を忘れたなんて言わないですよね!?」
ポプリ 「ええっ!? 本当でしゅか!?」
ゆり 「……まさかそんなはずないでしょう?」 フゥ 「……さ、おふざけはここまでにして、行くわよ」
255:以下、
――――――ザッ!!!!
「「「プリキュアの種、行くですーーーーーーーーーーーー!!!!」」」
『ヴオ……!!?』
「「「「プリキュア!!! オープン・マイ・ハートッッ!!!!!」」」」
――――――――ガシャッッッッ!!!!!!
つぼみ (……さぁ、来てください、かつてのわたし。あのときの、わたし)
えりか (懐かしいな……たった六年前のことなのに、なんか遠い昔のことみたい)
いつき (僕は……みんなに出会って、そしてプリキュアになって、変われた。だから今一度……)
ゆり (……コロン、お父さん、それから……私の妹……力を、貸してね……)
つぼみ (さぁ) えりか (行こう) いつき (戦いの) ゆり (始まりよ)
――――――――カッッッ……!!!!
パァァァアアアアッ……!!!!
257:以下、
(わたしは、たくましく生き、可憐に咲く花のようになりたいと思った)
「……大地に咲く一輪の花!! キュアブロッサム!!」
(あたしは、海のように、心広く伸び伸びと生きたいと思った)
「……海風に揺れる一輪の花!! キュアマリン!!」
(わたしは、人々の心を照らし、守る、明るいお日様のようになりたいと思った)
「……日の光浴びる一輪の花!! キュアサンシャイン!!」
(私は、いかなるときも冷静で物静かな、月のようになりたいと思った)
「……月光に冴える一輪の花!! キュアムーンライト!!」
(そう、そしてわたしたちは……)
(お互いを助け合い、想い合い……)
(ずっと、戦ってきた……)
(人々の心を見守り、戦い、助ける、この名を背負って……)
「「「「――――ハートキャッチプリキュア!!!」」」」
コフレ 「プリキュア、完全復活ですっ!!」
シプレ 「さぁ、ちゃっちゃとやっちゃうですぅ!!」
259:以下、
………………明堂院流 道場
熊本 「ッ……!?」 ギリッ 「お前が……俺、じゃと……!?」
熊本 (な、何ぜよ……この頭痛は……頭が、かち割れそうじゃ……!!)
?1 『ああ、その通りぜよ。俺はお前。お前は俺だ』
クモジャキー 『……正しくは、クモジャキーと呼ばれていた頃のお前、だがな』
………………チャペル
古布 「一体……ッ……何を言っている……!!」
コブラージャ 『安心してくれたまえ。すぐに分かるさ』
………………公園
佐曽 「ッ……あ……ど、どういう、こと……かしら……!?」
サソリーナ 『すぐに分かるって言ってるじゃなぁい。その頭痛が何よりの証拠よぉ』
サソリーナ 『……さぁ、思い出しなさい。あなたがサソリーナと呼ばれていた頃のことを』
佐曽 「っ……あ……あああああああああああああああああああああああ!!!!」
260:以下、
………………上空
『……ふむ。避けようと思えば避けることもできたであろうに』
『デザート・クラッシュが直接地上に当たることを厭ったのか』
『どこまでも使命に忠実だな、キュアフラワー。己の身体を盾にしてまで地球を守るとは』
『しかし、デザート・クラッシュをまともに喰らい、この高さから地表に叩きつけられたのだ』
『……さしものキュアフラワーも生きてはいまい』
――――――キィィィ……
『む……? ッ!?』
フラワー 「あれ……わ、わたし……」
?? 「………………」
『きっ……貴様はッ!!』
フラワー 「空、さん……?」 ハッ 「こっ、ぺ……?」
空 「………………」 コクッ
『……キュアフラワーの妖精か。さすが、強大な力を持っている。貴様がデザート・クラッシュを防いだのか』
空 「………………」 キッ
261:以下、
フラワー 「……コッペ、どうして……?」
空 「………………」
フラワー 「……バカ。バカ……」 グスッ 「……ありがとう」
『……くだらぬ。ただ一度攻撃を凌いだ程度で図に乗るな、妖精如きが』
空 「………………」 ビキッ 「……ッ!?」
『ふん……こちらも “右手” が崩れたが、貴様も身体にガタが来ているようだな』
空 「………………」
フラワー 「コッペ……」
『それでもなお逃げぬか。ならばさっさと潰してしまおう』
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!
『私もそろそろ砂漠に帰らなければならない。もう、終わらせよう』
『さようなら、キュアフラワー。そして、その妖精よ』
ブゥンンンンン!!!!
―――――――――― 「サンフラワー・イージスッ!!!!」
ガッッッッッ……!!!!!
262:以下、
『なにッ!?』
キィィィイイイイイイイイ……
フラワー 「あ、あなたたち……」
コッペ 「………………」
ブロッサム 「おばあちゃん、無事で良かった……」
マリン 「まったくさぁ、もう現役じゃないんだから、あんまり無理しないでよ」
ムーンライト 「すみません、キュアフラワー。遅くなりました」
『っ……貴様らは……ッ!!』
サンシャイン 「……見れば分かるだろう? 当代の、プリキュアだよ」
『ッ……!!』
ザザザザザッッッッ!!!!!!
ムーンライト 「!?」 (気配が消えていく……!?)
ブロッサム 「逃げるつもりですか!!」
『さすがにこれ以上の疲弊は避けたいのでな。一旦引かせてもらおう』
マリン 「卑怯よ!! 姿を現してあたしたちと戦いなさい!!」
264:以下、
『現状で貴様らと戦って勝てる可能性はゼロではないが高くはない』
『私は私の使命を確実に果たすために、手段は選ばん』
サンシャイン 「ッ……お前は何者だ!!」
『私は “砂漠の意志” 、砂漠そのものの意志を世界に体現する存在だ』
マリン 「さ、砂漠そのものの意志を世界にたっ……たい、げん……?」
ムーンライト 「砂漠そのものの意志……? そんなものが存在するとでも言うのかしら」
『貴様らがそれを否定するのか? 人々の心を見守るこころの大樹の意志に触れた貴様らが』
ブロッサム 「!? 何ですって……?」
『こころの大樹に人々の心を守る意志があるように、わたしにも意志がある』
サンシャイン 「その意志とやらが……こんな惨状を望んだっていうのか!!」
『そうだ。“砂漠の意志” は、全世界の砂漠化と人々のこころの花が枯れることを望んでいる』
ムーンライト 「……砂漠の使徒と同じ目的というわけね」
『当然だ。砂漠の使徒、そして砂漠の王・デューンは、私の端末としての役割を果たしていたのだからな』
ブロッサム 「っ……!! させません、絶対に……! そんなこと、絶対にさせません!!」
『ふん。ならば、せいぜい足掻くのだな、当代のプリキュアたちよ』
274:以下、
マリン 「待ちなさい!! 逃げるな!!」
マリン 「――集まれ!! 花のパワー!!!」
キィィィイイイイ……!!!!
マリン 「マリンタクト!!」
バッ……!!!
マリン 「プリキュア!! ブルーフォルテウェイブ!!!」
――――――ッッッッッッッドンンン!!!!!
『む……!?』
ッッドォォォオオオオンンンンン!!!!
マリン 「や、やった……!?」
ムーンライト 「……いえ、どうやらダメージも与えられていないようね」
『……この程度か、プリキュア。とんだ茶番だな。今ここで潰すことも容易か』
マリン 「なっ……なんですって!?」
『否。藪をつついて蛇を出すわけにもいかぬか。おとなしく退散しておこう』
ブロッサム 「っ……!!」
275:以下、
『そう睨むな。私はすぐに戻ってくる。本当の破滅を与えるためにな』
サンシャイン 「……来るのを待っているわたしたちだと思うな」
サンシャイン 「こちらから出向く。そして、その心の闇をわたしたちの光で照らしてみせる」
『ふん。ならばこの私を、この広い世界で見つけてみせるのだな』
ザザザザッ……!!!!
『それでは、また会おう、プリキュアたちよ』
――――――フッ……
サンシャイン 「……!?」 (気配が一瞬にして消えた……)
マリン 「っ……逃がさないわよ!!」
――ガシッ
マリン 「!? ムーンライト……?」
ムーンライト 「深追いをするのは危険よ。それに、ヒントも何もなければ見つけられないわ」
ムーンライト 「私たちは “砂漠の意志” とやらの姿形も知らないのよ?」
マリン 「そりゃあ……そうだけどさ……」
ムーンライト 「気持ちは分かるわ。けれど今は抑えなさい」
276:以下、
マリン 「……うん、ごめん、ムーンライト。その通りだね」
ブロッサム 「おばあちゃん……コッペ様……大丈夫ですか?」
フラワー 「ええ、大丈夫よ。みんな、ありがとう」
空 「………………」 コクッ
フラワー 「……わたしは大丈夫だから、下で暴れているサンドクラスタの対処をお願い」
サンシャイン 「サンドクラスタ……? あの怪物のことですか?」
フラワー 「ええ。“砂漠の意志” がそう呼んでいたのよ」
………………
『やはり、使命を帯びた戦士ひとり程度では、意志そのものは止められぬのだな』
『しかし誇るがいい、キュアフラワー。貴様はこの “砂漠の意志” の予定を狂わせた』
『……一度砂漠へ戻り、枯れ果てた力を取り戻さなければな』
『まぁいい。保険はサンドクラスタだけではない』
『当代のプリキュアが現れたところで脅威とはなりえない』
『“砂漠の意志” によって蘇った、砂漠の使徒の “意志” がお前たちを潰す』
『楽しみに待っているのだな、プリキュア』
277:以下、
………………明堂院流道場
熊本 「………………」
子供1 「く、熊本先生!! どうしたの!?」
クモジャキー 『ふん。どうやら思い出したようぜよ』
子供2 「先生!! 先生、しっかりして!!」
熊本 「俺、は……砂漠の、使徒の、大幹部……クモジャキー……」
クモジャキー 『そうぜよ。お前はかつて砂漠の使徒として、多くの心を枯らしてきた幹部ぜよ』
………………チャペル
古布 「……なるほど、ね。思い出したよ。全て」
古布 「あれは夢でもなんでもなかった。全て現実だったんだね」
コブラージャ 『その通りだよ、僕。君は砂漠の使徒の大幹部だったんだ』
………………公園
女の子 「りな、先生……?」
佐曽 「私は……そう……そうだったわねぇ。私は、砂漠の使徒の大幹部だった……」
サソリーナ 『ええ、その通りよぉ。佐曽りな……いいえ、“サソリーナ”』
278:以下、
サソリーナ 『記憶は完全に取り戻せたかしら? サソリーナ』
佐曽 「……ええ。思い出したわ。何もかも。全部をね」
佐曽 「けれど、砂漠の使徒としての私はあのとき完全に浄化されたはず……」
佐曽 「あなたは一体何者?」
サソリーナ 『言ったはずよ? あなた自身だと。あなたは私、私はあなただと』
佐曽 「………………」
サソリーナ 『そうねぇ……分かりやすく言ってしまえば、復活したあなたの “意志” といったところかしら』
佐曽 「……復活した私の “意志” ?」
サソリーナ 『ええ。正しくは、砂漠の使徒であったときのあなたの “意志” ね』
サソリーナ 『…… “誰もお見舞いに来てくれない”』
佐曽 「!?」
サソリーナ 『“健康に動き回れる人間が羨ましい。恨めしい。妬ましい”』
サソリーナ 『“ずるい……ずるいずるいずるいずるいずるいどうして私だけ私だけ私だけ――”』
佐曽 「――――やっ……やめてっ!!」 ガタガタ 「やめて……」
サソリーナ 『あら? でも、これは全部私の中に入っている、あなたの “意志” よ?』
279:以下、
サソリーナ 『そしてあなたは望んだのでしょう? 自ら、砂漠の使徒となることを』
佐曽 「………………」
サソリーナ 『だから私はあなたに再びチャンスを与えに来たの』
サソリーナ 『もう一度砂漠の使徒として…… “砂漠の意志” を実行する手伝いをさせてあげるために』
佐曽 「もう一度、砂漠の使徒として……」
サソリーナ 『ええ、そうよぉ。あなたのこころの花を私に委ねなさい』
サソリーナ 『そうすれば、あなたと私が一つとなり、砂漠の使徒の大幹部、サソリーナが復活する』
サソリーナ 『……そしてもう一度、この世界を砂漠化するお手伝いをするのよ』
佐曽 「……この世界の砂漠化。全ての人間のこころの花を枯らせる」
女の子 「りな、先生……?」
佐曽 「また、砂漠の使徒として……戦う……」
サソリーナ 『……答えは出たかしらぁ?』
佐曽 「……ええ。答えなんて、最初から決まってるもの」
サソリーナ 『そう。なら、その身体という枷を外し、こころの花を私に寄越しなさい』
佐曽 「ええ」 ニコッ 「――――お断りするわ。大間抜け女」
283:以下、
………………
コブラージャ 『なっ……なんだと……!?』
古布 「聞こえなかったかい? 断ると、僕はそう言ったんだよ」
コブラージャ 『なぜだ!? 君は……君の意志である僕が、世界の砂漠化を望んでいるんだぞ!?』
コブラージャ 『それを何故君が否定する!! どうしてだ!?』
古布 「……そんなのは決まってる。僕はもう砂漠の使徒じゃないからだ」
コブラージャ 『っ!? なんだと……?』
古布 「今の僕は一介のファッションデザイナーに過ぎないよ。それ以上でも未満でもない」
古布 「……砂漠の使徒としての “意志” なんか、持ち合わせちゃいないんだ」
コブラージャ 『っ……!! 君は本当にそう思うのか!? 美しいことを探究するのが君の使命だろう!?』
古布 「そうだね。僕は美しいものが好きだ。だから、美しいものを探し求め、自身の美の錬磨も怠りはしない」
コブラージャ 『ならば何故だ!! こころの花など、美を探求する上では邪魔にしかならないではないか!』
古布 「……こんな当たり前のことが、何故分からないのかな」
古布 「――君にこころの花を委ねてしまったら、僕は美しいものを美しいと感じることすらできなくなる」
古布 「……美しさを感じるのは心だよ。僕はそれを、教えてもらったからね」
284:以下、
………………
クモジャキー 『貴様……ッ!! どういうことじゃ!!』
熊本 「強さの追求は、確かに俺の望みぜよ。それは砂漠の使徒でない今も変わらない」
クモジャキー 『ならば何故じゃと問うている!!』
熊本 「そんなことは決まりきっているぜよ」
熊本 「――心を捨てた先に、本当の強さなどは存在しないからだ」
クモジャキー 『!?』
熊本 「心が何を感じ、何を想うのか……それなくして強さを追い求めることなどできんぜよ」
熊本 「“何のために強くなるのか” ……心なくば、それを考えることもできんじゃきぃ」
熊本 「俺はそれを、教えてもらったじゃきぃ。砂漠の使徒に戻るわけにはいかんぜよ」
クモジャキー 『………………』
ジャキッ……!!!!
クモジャキー 『……なるほど、よく分かったぜよ。ならばお喋りはここまでじゃ』
クモジャキー 『貴様のこころの花、無理矢理にでも頂くぜよッッ!!』
――――ッッッッダンンンン!!!!
285:以下、
熊本 「!?」 (い……!?)
ッッッドッッ……!!!
熊本 「ぐッ……!!」 (そして、重い……ッ!!)
クモジャキー 『……どうしたぜよ? 本当の強さとはその程度のものなのか?』
ブゥンンンン――――――
熊本 (あの体勢から二撃目を……ッ!? 馬鹿な――――)
――――ッッッッッドォォオオッッ!!!
熊本 「がッ……!?」
クモジャキー 『……ふん、他愛もない。貴様が俺に勝てるわけがないじゃろうが』
クモジャキー 『今の貴様はただの人間。しかし俺は砂漠の使徒としてのお前』
クモジャキー 『戦闘能力の違いなど、わざわざ語る必要もないぜよ』
熊本 「っ……」
子供1 「せ……先生!!」
熊本 「……大丈夫、ぜよ……心配、するな」
クモジャキー 『ほう、まだ立つのか。無駄な足掻きを』
286:以下、
子供2 「先生……っ……ダメだよ、死んじゃうよ……っ」
熊本 「ふん……お前たちの先生は、その程度で死ぬほどヤワではないぜよ……」
熊本 「……安心するぜよ。お前たちは俺が守る。今の俺の強さの理由は、お前たちだからな」
クモジャキー 『くだらんぜよ。守るための力とでもほざくつもりか? 貴様らしくもない』
熊本 「まったくその通りじゃきぃ、返す言葉もないぜよ。だがな、」
熊本 「……何故かは知らんが、コイツらの声を聞くと、姿を見ると、力が湧いてくるぜよ」
熊本 「負けられない。負けるわけにはいかないって……そう、思えるんじゃ!!」
クモジャキー 『……くだらん。虫酸が走るぜよ』 スッ……
クモジャキー 『闇に沈みダークな心に支配されるぜよ!! ダークブレスレット!』
バヂヂヂヂヂヂ……!!!
熊本 「!?」
クモジャキー 『……懐かしいじゃろう? ダークブレスレットの力は、貴様もよく知っているぜよ』
スッ……ブゥンンンンン!!!!
熊本 「光刃……!?」 (しかし、避けるわけには……!!)
――――ドガァァアアアアッッッ……!!!!
287:以下、
………………
佐曽 「………………」 ガクッ 「っ……なんていうパワーなの……!」
女の子 「り……りなせんせいっ!!」
佐曽 「だ……大丈夫……大丈夫よ。先生は、強いんだから……」
サソリーナ 『あらあら、強がっちゃって。とてもそんな風には見えないけど』
サソリーナ 『あんたもダークブレスレットの力はよく知ってるでしょう?』
サソリーナ 『無駄な足掻きはやめなさいな。本当に無駄極まりないことなんだから』
サソリーナ 『力もないただの人間のくせに、いきがってるんじゃないわよ』
佐曽 「……たとえ――――ったって……」
キィィィィィィィィィィ……――――
サソリーナ 『……!?』 (ッ……!? この、不愉快な感覚は……!!)
佐曽 「力が、なくったって……守ってみせる……!」
佐曽 「守りたいから……この子たちを、守りたいから……力がなくったって……弱くったって……」
佐曽 「――――――守ってみせる!!!」
サソリーナ (こころの大樹の波動――――ッ!!?)
288:以下、
――――――――――…………………………
――――――――カッッッ!!!!
佐曽 (これ、は……? 何……? 温かい光……)
熊本 (何ぜよ……? 地に足着かないのに……どこか、安らぐ……)
古布 (なるほど……これが、こころの大樹の……。美しい……)
『……あなたたちに、力を与えます』
『こころ強きあなたたちならば、使いこなすことができるでしょう』
佐曽 (……あんたが、こころの大樹……)
熊本 (強いな……声を聞いただけで分かる……)
古布 (そして美しい……これが、人々の心が育てる美か……)
『あなたたちが憧れる存在の力を、あなたたちに与えました』
『名乗りなさい……あなたたちがなりたい本当の姿を』
『そして、かつての自分の過ちを悔やんでいるのなら、』
『その力をもって、私とプリキュアたちに力を貸してほしいのです』
289:以下、
………………
コブラージャ 『なんだ……この光の奔流は……!!』
コブラージャ 『不愉快だ……!! 一体、奴に何が……――――ッ!!?』
――――――バッ!!!!
古布 「……やあ、待たせたね。随分とまぁ、美しい僕に傷をつけてくれたけど……」
古布 「まぁその点に関しては構わない。傷ついた僕も美しいからね」
コブラージャ 『っ……何を……!!』
古布 「……僕はかつて数え切れない罪を犯した。だから、これはその償いの一貫だ」
古布 「何よりも美しい人の心を守る償いなんて、僕からすれば望むところなんだけどね」
古布 「こころの大樹……なかなか粋な計らいをしてくれるよ。まさかこんなことをしてくれるとは」
コブラージャ 『き、君は!! さっきから何を言っている!!』
古布 「そうか。君には感じられないのか、かつての僕の意志よ。残念だね。悲しいよ」
スッ……ゴォォオオオオ!!!
コブラージャ 『……!?』 (ブレスレット!? ダークブレスレット……違う、あの黄金の光は……!!)
古布 「……君の悪意という名の意志も、罪深き名も、僕のものだ。だから今ここで受け取ろう」
291:以下、
キィィイイイイイイイイイイイイイイイイ……!!!!!!
古布 (僕は……本当の美しさを知った。美しきを感じられる心の美しさを知った……)
古布 「日の光の如く美しき力よ、この身に集え!! シャイニーブレスレット!!」
コブラージャ 「心の守護者、花の使徒が一人!! コブラージャ! 参ろう!!」
………………
熊本 (俺は……本当の強さを知った。何のために強くなるのかを考えさせられた……)
熊本 「海の如く荒ぶる力よ、この身に集うぜよ!! マリンブレスレット!!」
クモジャキー 「心の守護者、花の使徒が一人!! クモジャキー! 参るぜよ!!」
………………
佐曽 (私は……妬み、憎しみが何にもならないことを知った。想い合う大切さを知った……)
佐曽 「大地の如く揺るがぬ力よ、この身に集いなさい!! ブロッサムブレスレット!!」
サソリーナ 「心の守護者、花の使徒が一人!! サソリーナ! 参る!!」
292:以下、
………………
サソリーナ 『なっ……なん、ですって……!?』
サソリーナ 「その名前、返してもらうわよ。忌み嫌うべき名前だけど、それが私を変えたのも事実なのよ」
サソリーナ 「そしてその名を名乗っていた時の罪も、私のもの。あんたなんかに渡してはおけないのよ」
………………
クモジャキー 『っ……貴様ァ!!』
クモジャキー 「これが俺の力ぜよ。こころの大樹が、罪を償う方法を提示してくれた」
クモジャキー 「さぁ、どうした? 俺のかつての意志。かかってこないのか?」
………………
コブラージャ 『やってくれたね……まさか、キュアサンシャインの力を得るとは……!』
コブラージャ 「これはそこまで上等なものではないよ。随分と簡素化されたシステムらしい」
コブラージャ 「だが、確かな力だ。悪いが、今の僕は君程度に負ける気がしない」
コブラージャ 『ッ……!! 調子に乗るなぁああああああああああああああああ!!!!』
――――――――――――――――――――――――――ッッッッドッッ!!!!!!!!!!
293:以下、
………………超高高度
バニラ 「……うわぁぁあああ」
パァァア……
バニラ 「これが、世界……これが……これが、大空……」
バニラ 「綺麗だなぁ、気持ちいいなぁ……世界ってこんなに大きくて、心地良いものなんだ」
ピューーーーーーーーン!!!!
バニラ 「すごい……自由に飛ぶってこんなに気持ちいいことなんだ……」
バニラ 「こんなに自由なのは初めてだ……生まれてからずっと、大樹のお世話をしていたから……」
バニラ 「………………」
バニラ 「……そう、だよね。こんなことやってる場合じゃないよね」
バニラ 「早く希望ヶ花市に行って、先輩たちにこころの大樹からの伝言を伝えないと」
ザザザザザザ……!!!!
バニラ 「ん……? 何だ、あの黒い雲は……」
『む……? あれはまさか、新しい妖精か。ふむ……』
『……不確定事項は潰しておくべきか』
295:以下、
………………植物園
すずらん 「………………」
スー……スー……
ふたば 「………………」
クスッ
ふたば 「きれいなお顔……本当にお人形さんみたい。かわいいなぁ」
すずらん 「ん……っ……」
ふたば 「……?」
すずらん 「……お、とう……さま……」
ふたば (寝言……? おとうさま……?)
すずらん 「お……ねえ、ちゃん……」
ふたば 「おねえちゃん……?」
すずらん 「っあ……」
パチッ
ふたば 「あ……」 ニコッ 「おはよう、すずらんちゃん」
296:以下、
すずらん 「ああ……ふたば、おはよう……」
ツー……
ふたば 「!? すずらんちゃん!? どこか痛いの?」
すずらん 「え……? あ、いや、何だ……? 何で……」
すずらん 「……何で、涙が止まらないんだ」
ふたば 「あ、え、えーと……」 スッ 「は、ハンカチ、使って」
すずらん 「ああ……すまない。ありがとう」
ふたば 「……本当に、どこも痛くないの? 無理してない?」
すずらん 「大丈夫だ。ありがとう。ふたばは優しいな」
ふたば 「疲れは取れた?」
すずらん 「うん。寝たらスッキリした」
ふたば 「それと……何か思い出せた?」
すずらん 「………………」
フルフル
すずらん 「すまない。何も思い出せない。何か、夢をみていた気がするのだが……」
298:以下、
ふたば 「あ、べつにいいよ! 責めてるわけじゃないから!」
アタフタ
ふたば 「そ、そうだ! お茶をいれてくるね! 美味しいハーブティー!」
ふたば 「おばあちゃんにいれかた教えてもらったんだ! とっても美味しいよ!」
トタタタタ……
すずらん 「あ、ああ……」
すずらん 「……行ってしまった。忙しない子だ」
すずらん 「……だが、面白い子だ」
すずらん 「………………」 (私は……何者なんだ……?)
すずらん (私は……そうだ、何か……何かを、忘れている)
すずらん (記憶などという話ではない。もっと、大事な何かを……)
すずらん (私はそれを思い出さなければならない……けれど、怖い……)
すずらん (私は……)
―――― 『……おまえは、私の――――――だ……』
すずらん 「ッ……!?」 (頭が……割れるように痛む……ッ)
299:以下、
………………
ふたば 「――いっつーもー♪ みんなっのー♪ ちかっくにいっるー♪」
ふたば 「いっしょにきっれいなここっろのはっなー♪ さかーせつづけよぉー♪」
ふたば 「ハートキャッチ♪ プっリキュアー♪」
ふたば (不安なときはセージの葉っぱのハーブティーだっておばあちゃんが言ってた)
ふたば (わたしが飲んだときも、こころが落ち着いたもん)
ふたば (すずらんちゃんも、きっと少しは心が落ち着くといいな)
ガチャッ
ふたば 「すずらんちゃん、お待たせー……――――!?」
すずらん 「ッ……」
カタッ
ふたば 「すずらんちゃん!? 大丈夫!? 頭痛いの!?」
すずらん 「ふ……たば……?」
ふたば 「すずらんちゃん!!」
ギュッ……!!!
300:以下、
すずらん 「!?」
すずらん (ふたばの、手……温かくて、気持ちいい……)
すずらん (なんだ……? 心が、安らぐ……)
すずらん (心……? 心? 心……って、何だ……?)
ふたば 「すずらんちゃん……? 大丈夫?」
すずらん 「あ……ああ……なんだろう。ふたばが触れてくれた途端、頭痛がピタリと治まった」
すずらん 「ありがとう、ふたば。もう大丈夫だ」
ふたば 「そう……? 本当に?」
すずらん 「ああ。何か、記憶を辿ろうとすると頭が痛くなるらしい……」
すずらん 「しばらくは無理をしないことにするよ」
ふたば 「うん……」
すずらん 「……そう心配しないでくれ。大丈夫だ」
すずらん 「それよりも、お茶をいれてきてくれたのだろう?」
すずらん 「私は、ふたばのいれてくれたお茶が飲みたい」
ふたば 「あっ……」 ニコッ 「う、うん!!」
302:以下、
………………
すずらん 「………………」
ズズズズズ……
ふたば 「………………」 ドキドキドキ
すずらん 「………………」 コクッ 「……おいしい」
ふたば 「本当に!? やったぁ!!」
すずらん 「ああ。染み渡るようだ。温かくて優しい……心が澄み渡り、落ち着くようだ」 (心……?)
ふたば 「良かったぁ……わたし、まだお茶をいれるのそんなに上手じゃないから心配したよ」
ふたば 「ごめんね、すずらんちゃん。おばあちゃんがいれてくれたら、もっと美味しいんだけど……」
すずらん 「何を言っているんだ、ふたば。このお茶をいれてくれたのはふたばじゃないか」
すずらん 「ふたばが今いれてくれたこのお茶を飲んで、私は安らいでいるんだ」
すずらん 「だからありがとう、ふたば。私のために、美味しいお茶をいれてくれて」
ふたば 「すずらんちゃん……」 テヘッ 「う、うれしいな……ありがとっ」
すずらん 「ああ……本当においしい」
ふたば 「えへへへへへ……」
303:以下、
ふたば 「知ってる? すずらんちゃん」
すずらん 「? 何だ?」
ふたば 「そのお茶に入ってるセージって、サルビアのお花の一種なんだよ」
すずらん 「そうなのか」
ふたば 「うん。だから、お花はとってもきれいなんだ」
すずらん 「……?」
ふたば 「……けど、わたしはきれいなお花だけじゃなくて、葉っぱも好き」
ふたば 「お茶になるし……栄養をつくるのは葉っぱだって、おばあちゃんも言ってたから」
ふたば 「……葉っぱはきれいじゃないし、目立つこともできないけど……」
ふたば 「お花のようにはなれないけど……でも、わたしは、好きだよ」
ふたば (あっ……わたし、何言ってるんだろ……恥ずかしい……)
すずらん 「………………」
すずらん 「……私も好きだぞ、葉っぱ。きれいじゃないか」
ふたば 「えっ……?」
すずらん 「きれいだし、たくましい……それに何より、こうして私を癒してくれている」
304:以下、
すずらん 「……お前は本当に、このセージの葉みたいだな」
ふたば 「………………」
すずらん 「私に安らぎを与えてくれる。私を癒してくれる」
すずらん 「……お前は葉っぱだ。花に栄養を与えるための大事な葉っぱだ」
ふたば 「……?」
すずらん 「いずれ、“花咲ふたば” という大輪の花を咲かせるための、大事な葉っぱだ」
すずらん 「未来のお前がどんな花を咲かせるのか……楽しみだな」
ふたば 「あ……///」 ポッ 「そ、そんなこと言われたの……初めてだよ……」
ふたば (っていうか、葉っぱの話なんてしたのも初めてだし……)
ふたば (わたし……どうしちゃったんだろ……でも、嬉しいな)
ふたば (わたしは……そっか、葉っぱでいいんだ。未来のわたしという花を咲かせるための葉っぱで)
ふたば (……うん。そして、できることなら、他の人の花を咲かせるための葉っぱでもありたい)
ふたば (お姉ちゃんのように……それから……この、女の子みたいに)
すずらん 「? ふたば?」
“たすけて!!”
305:以下、
ふたば 「えっ……?」
すずらん 「なんだ……?」
―――― “誰か……たすけて!!”
ふたば 「誰……? あなたは、誰なの?」
―――― “僕の声が聞こえるのかい?”
―――― “なら、お願いだ!! 僕の名前を呼んでくれ! 僕を導いてくれ!”
ふたば 「あなたの、お名前……?」
―――― “ああ……頼む! バニラ……それが僕の名前だ!”
ふたば 「バニラ……」
すずらん 「だ、ダメだふたば! 呼んではいけない!!」
ふたば 「えっ……? どうして?」
すずらん 「分からない……分からないが、分かるんだ。この声の主は、災厄を連れている!」
すずらん 「ふたばが危険な目に遭ってしまう!」
ふたば 「………………」 スゥ 「……バニラ、こっちだよ。おいで!!」
すずらん 「ふたば!!」
306:以下、
すずらん 「ふたば、どうして……!?」
ふたば 「……だって、すずらんちゃんが言ってくれたから」
ふたば 「わたしのことを、花を咲かせるための葉っぱだって……そう、言ってくれたから」
すずらん 「ふたば……」
ふたば 「だからわたしは、困ってる声を見捨てたくない!」
すずらん 「………………」
ふたば 「……ごめんね、すずらんちゃん」
ふたば 「バニラ!! こっちだよ!!」
―――― “ありがとう!!”
―――― “見えた……!! 窓を……開けてくれ!!!”
ふたば 「うん!!」
バァアアアア!!!!
――――――――ッットン……!
ふたば 「あう……」 (柔らかい……ぬいぐるみ……?)
バニラ 「あ……危なかった……」 ゼェゼェ……
307:以下、
バニラ 「あれ……? 君は……子どもじゃないか!!」
ふたば 「えっ……?」
バニラ (おかしいな……プリキュアに声を発したはずなんだけど……)
バニラ 「まぁいいや。君が僕を呼んでくれたんだね。ありがとう」
ふたば 「!? シプレちゃん!? ……じゃない?」
バニラ 「シプレ先輩を知っているのかい!?」
ふたば 「シプレちゃんはわたしのお友達だよ? 時々しか会えないけど」
バニラ (シプレ先輩の友達……?)
すずらん 「………………」
バニラ 「……? 君は……」
――――ズキッ
すずらん 「痛っ……!!」
ふたば 「すずらんちゃん……? すずらんちゃん!!」
ズゾゾゾゾゾゾ……!!!
バニラ 「!?」 ビクッ 「庭……!? しまった、ここまで着いてきていたのか!!」
308:以下、
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