魔王「人間が我に何用だ」 友「協力したいと思いまして」back

魔王「人間が我に何用だ」 友「協力したいと思いまして」


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5:
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魔王「……最近、お前達の距離が異様に近いように思えるのだが」
側近「そうでしょうか?」
魔王「なんだか、寂しく感じるな」
側近「寂しい……ですか」
魔王「どうした?」
側近「いえ……魔王様からそのような言葉を聞くとは思いませんでしたので」
側近「まるで、人間のようだな、と」
魔王「ふっ、それを言うならお前もだろう、側近」
魔王「最近、なんだか楽しそうに見える」
側近「まさか。私は何も変わってませんよ」
魔王「確かに表情の変化はあまりない」
魔王「だが雰囲気や言葉遣いが柔らかくなった」
側近「雰囲気……その言葉も、魔王様から聞くことになるとは思いませんでしたよ」
魔王「……確かにな」
魔王「そんな曖昧なもの、我等が持っているとは思いもしなかった」
魔王「寂しいとか楽しいとか、他人の空気だとか雰囲気だとか」
魔王「そんなものを、人間でもない我等が……な」
6:
魔王「それで、そうして影響を与えてきたのであろう友はどこにおる」
側近「お呼びしましょうか?」
側近「今、魔物の編成で頭を悩ませております」
魔王「編成?」
側近「はい。なんでも、一つの街を滅ぼすつもりだとか」
側近「二つ目の球から生み出される魔物でも、普通の人間ならまず勝てない」
側近「魔王様が正式に復活成される前に世界各地へと散らばっていた魔物は一つ目の球からの魔物」
側近「こちらはいくつか人間に討伐されてきましたが……その次となる今散らばっている魔物は、そうなりませんでしたからね」
側近「ですから、次の三つ目の球から生み出せる魔物。その配分を考えているようです」
魔王「何故わざわざそこまでする」
魔王「つい最近作り出した四つ目の球からの魔物を全てけしかければ楽だろう」
側近「それだと、不都合があるだとか」
魔王「不都合……?」
側近「なんでも、襲っている途中で勇者がやってきた際、殺してしまうのだとか」
魔王「……なるほど。それだと時間が巻き戻ってしまって全てがフイになるのだったな」
側近「はい」
7:
魔王「しかしそれなら、勇者達がその街から遠い時に襲えば済む話だろう」
魔王「それとも、わざわざ街一つを滅ぼそうと言うんだ」
魔王「何か特別な事情でもあるのか?」
側近「はい」
側近「なんでも滅ぼそうとしているのは、勇者一行の一人……僧侶の故郷だとか」
魔王「……転移魔法の可能性、か」
側近「さすが魔王様です」
魔王「お前の情報収集の賜物だ。あまり褒められた気はしないな」
側近「友の予測では、あの四人の中で一人強い人がいるとすれば彼だとか」
側近「万一にもその魔法を覚えていた際、すぐさまやってこられてしまいますからね」
側近「あの魔法は、一度訪れていればすぐに移動できるのですし」
魔王「……友、か」
側近「どうされましたか?」
魔王「いや、側近がその名を呼んでいるのを始めて聞いた気がしてな」
側近「……そうでしょうか?」
魔王「ふむ……それとも、我の知らぬところでとっくに名を呼んでいたのかな?」
側近「さあ……どうでしょう」
魔王「……お前相手に駆け引きで勝てる気がしないな」
魔王「表情が全く動かん」
側近「それはそうでしょう」
側近「だって動揺するようなことなんて、何一つないのですから」
8:
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勇者サイド
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ある街での酒場
僧侶「……妙だとは思いませんか?」
魔戦士「どうした? 僧侶」
僧侶「魔物の強さが、ある一定のラインから変わってません」
僧侶「具体的には、最初のあの山の中の洞窟を抜けてから、ですが」
魔戦士「そりゃ俺達が強くなってるからな」
剣士「脳筋は黙ってた方が良いんじゃない?」
魔戦士「だったらテメェも黙ってねぇとな、剣士」
剣士「は? あたしは話しに参加できるし! 舐めんな!」
魔戦士「じゃあどう思うのか言ってみろよ」
剣士「…………あたし達が強くなってる」
魔戦士「ほれみろっ」
剣士「くっ……! 悔しい……っ! 魔戦士程度と同じレベルの発想しか出ないなんて……!」
僧侶「…………話を進めても?」
剣士「どうぞどうぞ」
魔戦士「ごめんごめん」
9:
僧侶「それで、勇者はどう思います?」
勇者「……確かに妙だな……」
勇者「だが、まだ魔王が完全に復活していないという可能性もあるんじゃないか?」
僧侶「確かに、その可能性もあるでしょう」
僧侶「ですがそれにしても、遅すぎます」
僧侶「今までの魔王だと強い魔物が出始めている時点で、もうとっくに復活を果たしているはずですが……」
魔戦士「ま、昔とは違うことなんてよくあることなんじゃねぇの?」
僧侶「それは……そうかもしれませんが……」
魔戦士「神に仕えた奴等の住む街だっけ? お前の故郷」
魔戦士「だから色々と歴史があんだろうけどよ、だからってその通りに起きるってこたぁねぇだろ」
剣士「……………………」
10:
剣士(……あの時、あたしの前に姿を現した黒騎士……)
剣士(あたしは、あの時の出来事を、皆に告げずにいた……)
剣士(……あれから一月……タイミングを逃した、というのも確かにある)
剣士(でもそれ以上に……妙な懐かしさを感じてしまったのだ)
剣士(あの魔族相手に)
剣士(顔も見えないアイツに、剣士と名乗る前の名前を呼ばれた、あの時に……)
剣士(……でも、誰かは全く、思い出せない……)
剣士(……あたしは、勇者の仲間に選ばれてから、色々と忙しくなって……)
剣士(それで何か――大切な何かを、忘れてしまっているのかもしれない……)
勇者「どうした?」
剣士「えっ?」
勇者「いや、ボーっとしてたみたいだったから」
勇者「何か思い当たることでもあったか?」
剣士「……ううん、大丈夫。勇者」
剣士「ありがとう」
12:
魔戦士「んな話よりも、この街での闘技場だ」
魔戦士「俺以外に誰が出場するつもりだ?」
剣士「あたしが出てもいいよ」
勇者「でも、魔法の使用も許可されてるだろ?」
勇者「それなのに魔法が使えない剣士が出ても不利になるだけだと思う」
僧侶「オレは神に仕える身ですので、そういうのは」
魔戦士「俺は当然出るつもりだ」
剣士「さっき言ってたでしょ」
剣士「なに? もう忘れた? それとも構ってちゃん?」
魔戦士「念のためだよ! イチイチうるせぇなぁっ!」
剣士「でも実際問題、魔戦士だけでも問題はないとは思うけど……」
剣士「やっぱり、極力人数は多いほうが良いよね」
勇者「ああ」
勇者「なんせ優勝商品は船だ」
僧侶「北にある孤島」
僧侶「魔族に犯されていない永久凍土のその奥にあるとされている、勇者の剣……」
僧侶「過去の歴史を紐解いても、それがなければ魔王を封じることは出来ないのだとか」
剣士「魔族に奪われないために歴代の勇者が代々そこに封印してきたって話しだし……」
魔戦士「船さえ手に入れば、確実に手に入れられる」
勇者「ああ。後は魔王の城さえ見つけ出せれば……」
僧侶「魔王を、討伐できる」
14:
勇者「となれば、俺も出るのは確定だ」
勇者「魔王討伐がかかっている以上、出ずにはいられない」
剣士「じゃああたしも……」
勇者「……なあ、剣士」
剣士「ん?」
勇者「我侭で悪いんだが、お前は出ないでくれないか?」
剣士「は? なんでよ」
勇者「……あまり、お前が傷つくところは見たくない」
剣士「魔物相手に一杯傷ついてると思うんだけど?」
勇者「そういうことじゃない」
勇者「……もし、今回お前が傷つくとすれば、その相手は人間だ」
勇者「俺は、お前が他人に傷つけられるのを、見てられない」
勇者「だから、頼む」
剣士「…………」
勇者「本当は、魔物にだって傷つけられたくない」
勇者「でも、そこは我慢している」
勇者「お前が、ついて来たがったから……どうしてもって言うから……」
勇者「だからお前も、分かってくれ」
勇者「それと同じ気持ちなんだ、今の俺は」
剣士「っ……!」
剣士「……ったく、卑怯よ……不意打ちでそんなこと言うなんて……」
勇者「……悪い……」
15:
剣士「……はぁ……いいわよ」
剣士「じゃああたしは、応援に徹してあげる」
勇者「ああ、頼む」
勇者「……ありがとう」
剣士「なんでお礼言うのよ」
剣士「むしろ楽させてもらうんだし、お礼を言うならコッチでしょ」
剣士「それに、あたしはあんたに言われたから出ないんだからね」
剣士「……絶対に、勝ちなさいよ」
勇者「…………ああ」
魔戦士「……おい、目の前で惚気だしたぞ、この二人……」
剣士「の、惚気てなんて……!」
魔戦士「今のを惚気と言わずにどれを惚気って言うんだよ」
魔戦士「なあ僧侶?」
僧侶「そうですね……オレ達も、一度自分達の婚約者の元へと戻りたくなるほどです」
剣士「っ????????????……!」
剣士「と、ともかくっ! 惚気てなんてないからっ!」
剣士「その辺勘違いしないでよねっ!!」
19:
剣士「大体それよりも! 今は闘技場の話っ!」
剣士「出場登録はしなくて良いの? そろそろ締め切りじゃなかったっけ?」
魔戦士「誤魔化す気満々だな……」
剣士「うっさい!」
勇者「……そうだな。なら、俺が登録に行って来よう」
勇者「出場は俺と魔戦士の二人だ」
魔戦士「ああ。分かったよ」
勇者「よしっ」
勇者「では皆は、例のダンジョンへ向かう準備をしておいてくれ」
僧侶「例の場所、ですか」
勇者「大会開催までの一週間の内に、行ける所まで行っておこう」
勇者「陽が当たる場所なら転移魔法の印を打てるんだったよな?」
僧侶「はい」
勇者「さすがにそれだけの時間があれば、どこかに見つけられるだろう」
剣士「あの、魔王の根城へと繋がっているとされるダンジョン……か」
魔戦士「その奥地か……腕が鳴るぜ……!」
20:
剣士「にしても……なんだか、ついに最終決戦が近付いてきた、って感じね」
魔戦士「にしては短かったな」
魔戦士「神託を受けてから二月も経ってねぇんじゃねぇか?」
僧侶「先程も話しましたが、魔物が弱いのが理由の一つでしょう」
僧侶「こちらが手こずることなく、順調に進みすぎているが故ですが」
僧侶「しかしもしこれが魔王の策略なら……」
剣士「そろそろ何かある、か……」
僧侶「……はい」
僧侶「ですがもちろん、勇者様の言う通り、魔王が完全復活を果たしていない可能性もあります」
魔戦士「だったら、今はそれに懸けて進むしかねぇな」
剣士「そんな短絡的な……」
魔戦士「でもそうするしかねぇだろ?」
魔戦士「ここでんな話してたって意味ねぇしな」
剣士「なんでよ。せめてどんな策があるかぐらい考えてた方が良いんじゃないの?」
魔戦士「どんな策も何も、単純明快だろ」
魔戦士「相手の狙いなんてよ」
剣士「は? 脳筋のアンタが何言ってんの?」
魔戦士「失敬な! 大体俺が脳筋だとしても、魔王自身が脳筋だったら考えは一緒になるだろっ」
剣士「はいはい。で、魔戦士さんは相手がどんな作戦を取っているとお考えで?」
魔戦士「戦力の温存。これしかないと俺は思うね」
剣士「戦力の温存?」
21:
魔戦士「俺たちが魔王城を訪れたその時、今まで外に出してこなかった強い魔物を呼び寄せてくる!」
魔戦士「一斉に、今まで相手にしたことのない魔物で攻め立てられるっ!」
魔戦士「その結果! 成す術なく殺られる俺たちっ!」
魔戦士「それを見届けた魔王はついに! 今まで外へと出してこなかった魔物を解き放つっ!」
魔戦士「勇者のいなくなった世界は、魔物をどうすることも出来ず……」
魔戦士「結果! 世界は魔王が支配する、自然が枯れた生命も芽吹かない、死の大地へと成ってしまったのだっ!」
剣士「……つまり?」
魔戦士「つまり、一気に強い魔物をけしかけて、俺たちじゃあ対応できないようにしたいんだよっ!」
魔戦士「そして俺たちを倒してからジックリと世界征服!」
魔戦士「これしかないってことだ」
剣士「…………え?……?」
僧侶「……なるほど。確かにその可能性もありますね……」
剣士「えっ!?」
魔戦士「だろ?」
22:
僧侶「オレは明日向かう最終ダンジョンに強い魔物がいると思ってましたが……最後の最後、ですか……」
勇者「いや、どちらの可能性もあるだろう」
勇者「つまり、魔王が本当に力を取り戻していないだけなら、取り戻される前に早々に決着をつける」
勇者「もし力を取り戻してあえて戦力を温存しているのなら、いくら警戒して立ち向かおうとも殺される」
勇者「そんなところか」
魔戦士「ああ」
魔戦士「もうここまで来たら、どうせ魔王はもう強い魔物を世界に放たないだろ?」
魔戦士「だったら考えるだけムダだ。勝てないものは勝てない」
魔戦士「だから、最で向かって、もし温存してるだけだったらすぐに逃げて、じっくりと時間をかけて強くなってから立ち向かえば良いって訳だ」
23:
僧侶「いけるところまで全力で向かう……」
僧侶「……単純ですが、確かにその手が一番ですね」
魔戦士「戦力を温存してるなら、そういった理由しかないだろうしな」
剣士「…………」
剣士(本当に……?)
剣士(もしそれが本当だったら……じゃあ、あの黒騎士は……?)
剣士(あんな強いのがいるんなら、魔王だってとっくに……)
魔戦士「おっ? 他の二人にまで支持された俺の考えに反論できないか? 剣士さんよぉ」
剣士「むっ。違うって、そうじゃなくて」
剣士「それならなんで魔王はあえてそんなことをしたんだろうって思って」
僧侶「……どういうことです?」
剣士「それなら最初っから強い魔物をこちらに向かわせてれば良かったんじゃないのかなって」
剣士「こんなあたし達を引っ張りに引っ張ってから殺すより、さっさと殺して世界征服に乗り出した方が時間短縮にもなるじゃん」
剣士「何より、チームワークが出来る前の方が不確定要素だってなくなるはずだし」
魔戦士「む……確かに」
勇者「じゃあ剣士は、魔王はまだ力を取り戻していない派か?」
剣士「そうじゃないけど……」
僧侶「それとも案外、つい最近力を取り戻したのかもしれませんよ」
24:
僧侶「だから、今更強い魔物を差し出すより一気に纏めて、って考えたのかもしれません」
剣士「…………そう、なのかなぁ……」
剣士「なんかあたしには、他に何か考えがあるようにしか思えないんだけど……」
魔戦士「なんの根拠があるんだ? そりゃ?」
剣士「……女の勘」
魔戦士「なんだよそりゃ。今までそんなもん発揮してこなかったろ?」
剣士「まあ、そうだけど……」
剣士(……黒騎士のことを言った方が良いのは分かってる)
剣士(それなのに、言いたくないとも思ってる)
剣士(もしかして……あの時感じた懐かしさのせい……?)
魔戦士「でもさっきも言った通り、現状考えても仕方がねぇのも事実だろ?」
僧侶「ま、それも一理ありますね」
僧侶「ともかくまずは、闘技場の申し込み」
僧侶「そして明日のダンジョンの準備でしょう」
僧侶「魔王の考えの推理なんて、その間にでもすることが出来ますし」
剣士「……そうね。ごめん、変なこと言って」
僧侶「いえ、有意義な時間でした」
僧侶「そもそもそれを言い出すと、提案したのはオレですし」
魔戦士「ま、なんにせよ警戒するに越したことはないってことだ」
魔戦士「イザとなりゃ僧侶の転移魔法で逃げれるんだし、すぐに逃げられるよう心の準備を怠るなって話だ」
勇者「だな」
勇者「よしっ。それじゃあ各自解散!」
勇者「明日のダンジョン、進められる限り進めるぞっ!」
魔戦士「おうっ!」
剣士「はいっ!」
僧侶「うんっ!」
25:
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一週間後
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勇者「結局、あのダンジョンでも何もなかったな」
僧侶「はい。侵食された大地の近くにまで行って転移点を設置して戻ってきましたが……」
勇者「こうなると、あのまま進んだ先にあるであろう魔王城に魔物が集中しているか……」
勇者「もしくは、本当に魔王が完全復活を果たしていないか、のどちらかになるな」
魔戦士「どちらにしても、あそこから先は警戒して進むしかないってことか」
魔戦士「魔王が完全復活してないにしても、アレだけ大地が穢れてたら先に何があるのか分かったもんじゃないし」
勇者「確かにな……魔王が復活する前に決着をつけたいところだが、だからといって急いで何かの罠に掛かって死んでは意味がない」
勇者「あの先は何があるのか分からんからな」
魔戦士「ま、でもどちらにしても、今話しても仕方のねぇことだろ?」
魔戦士「今はとりあえず、今日の闘技場で優勝することでも考えようや」
勇者「……だな。でないと、先代の勇者の剣が取りに行けなくなる」
魔戦士「そういうこった」
26:
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会場
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魔戦士「登録しておいた、魔戦士と勇者だ」
受付「少々お待ちください」
剣士「じゃあ、あたしと僧侶は応援席のほうに移動してるわね」
勇者「ああ」
魔戦士「しっかりと応援しねぇと、船に乗せてやらねぇぞ」
剣士「何でそんな優勝する気満々なの?」
魔戦士「俺が出るんだ。当然だろ?」
剣士「はいはい」
剣士「ま、勇者に負けるところでも見ててあげるわ」
魔戦士「はぁっ!?」
僧侶「お二人とも、そこまでですよ」
魔戦士「でも僧侶、コイツが……!」
僧侶「良いですから。受付の方も証明を終えたようですし、ね」
魔戦士「ちっ……!」
僧侶「では勇者も。ご武運を」
27:
受付「お待たせ致しました、勇者様、魔戦士様」
勇者「いや、こちらこそお待たせして申し訳ない」
受付「ありがとうございます」
受付「では、ルールの説明を始めさせていただきます」
受付「まず武器の使用についてですが、こちらで用意させていただく模造武器の方を使用して頂きます」
魔戦士「模造武器?」
受付「はい。種類はあらゆるものを取り揃えております」
受付「剣・鞘付き刀・槍・弓・ナイフなど、種類は八種」
受付「重さもそれぞれの武器に色々なものを準備させていただいておりますので、後ほど控え室でお好きなものをお選びください」
魔戦士「自分の得物じゃいけねぇのか?」
受付「人を殺さぬための配慮ですので、お願い致します」
受付「もし人を殺した時点で罪人となりますので、ご注意ください」
魔戦士「うへぇ……マジか」
受付「当然、当方が用意した模造武器でも人が死んでしまう可能性もあるでしょう」
受付「もちろんその場合も罪人です。殺さぬよう、絶妙な手加減の程、よろしくお願い致します」
受付「付け加えるなら、もし相手に障害が残った場合は、当事者同士での解決をお願い致します」
勇者「責任は取らないってことか……」
28:
受付「次に、魔法についてです」
受付「こちらは基本的に制限は設けておりません」
受付「もちろん、人を殺さないことは前提ですが」
魔戦士「客席への飛び火は構わないのか?」
受付「その場合は当事者同士の話し合いになりますので、私共は何も関わりません」
魔戦士「ま、そりゃそうか……」
受付「他にご質問はありませんか?」
勇者「会場を吹き飛ばすような呪文を相手に使われた場合は?」
受付「その場合は、私共がその参加選手と話し合いを致しますので」
29:
受付「それで大会についてなのですが……」
受付「今年は参加者が百名近くに昇りましたので、予選を行うことになりました」
魔戦士「予選だぁ?」
受付「はい」
受付「参加者全員を四ブロックに分けまして、そのブロック内で一斉に戦っていただきます」
受付「その中で生き残った四名の、計十六名でランダムに一人と戦っていただく二度目の予選を行い、さらに二名ずつの計八名に絞ります」
受付「そこから本戦へと移行し、会場での戦いとさせていただきます」
魔戦士「それまでの戦いはどこでやるんだよ」
受付「別会場になりますし、この予選で他の予選を見ることも出来ません」
受付「つまり、相手の手の内を知ることができるのは、偶然にも同じブロックになった場合のみとなります」
勇者「なるほど……その場合は相手もこちらの手を知っているから、不平等な戦いにはならない、か」
受付「そういうことです」
魔戦士「ふ?ん……ま、戦う回数が増えて面倒だが、それで良いか」
受付「ちなみに一回目の集団戦での予選は、模造武器も魔法も使用禁止となっておりますのでご注意ください」
魔戦士「はぁっ!?」
魔戦士「つまり素手で戦えってことかっ!?」
30:
勇者「ま、人数が多くなるんだ。妥当な判断だろう」
魔戦士「ちっ……まあ、どんなルールであろうと参加するしかねぇしな……」
受付「ありがとうございます」
受付「それではお二人は、Cブロックの控え室でお待ちください」
勇者「分かった」
魔戦士「あいよ」
コツコツコツ…
魔戦士「ま、素手だろうと勇者には負けねぇけどな」
勇者「俺も、そのつもりだ」
魔戦士「勇者、一回目の予選は手を出さねぇが、次の予選からはかち合ったら敵だからな」
勇者「当然だろ?」
魔戦士「それまで負けるなよ?」
勇者「魔戦士こそな」
31:
??????
「お待たせ致しました。お次の方こちらにどうぞ」
「参加予約をしていたんですけれど……」
「お名前をどうぞ」
友「えと……友、です」
??????
36:
ワアアアァァァァァ…!!
司会「お待たせ致しました! ただいまより、我が街一番にして世界最大の力試しのお祭り大会、バトル・コロシアムを開催いたしまあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっす!!」
ウオオオオオォォォォォォォォ…!
剣士「……スゴイ熱気ですね」
僧侶「ええ。まあ、大陸最大のお祭り行事みたいですからね。他の国からも見物客が来ているのでしょう」
司会「それでは、大会のルールを説明させていただきます!」
司会「試合は一対一の時間無制限、どちらかが戦闘不能と判断されるか、ギブアップを宣言されるまで続きます!」
司会「武器は当大会が用意したものの中から自由に選んでいただいたものを使用!」
司会「魔法の使用は自由! ですので、会場の皆様は飛び火にご注意くださいませっ! 当方では一歳の責任を負いかねますので、ご容赦を!」
司会「ま、試合を行う場所から客席は結構な高さがあるので大丈夫かと思いますけれど!」
司会「どちらかという私がいるこの実況席の方が爆風等の被害が及びそうで正直怖いですっ!」
司会「だからって私のスカートの中が見えそうになっても身を乗り出してまで見ようとしないこと!」
司会「その高さから試合場に落ちたらひとたまりもありませんよ?!」
司会「もちろん、その場合も当方は責任を取りませんのでっ!」
司会「むしろ私が『この覗き魔がっ!』って目で蔑みますので!」
ワハハハハハ…!
37:
司会「はい、こんな下らない事で笑ってしまうぐらい皆さんのテンションが上がっているのが確認できたところで、早出場者についてご説明させていただきます」
司会「まず、今回の出場人数は実に九十一名!」
司会「さすがにこれだけの数を一対一で戦わせては時間がいくつあっても足りないということで、皆様には大変申し訳ないですが予選を執り行わせて頂きました!」
司会「その結果! なんとか八名に絞り込ませて頂きましたっ!」
司会「皆様には、この八名による勝ち抜き戦――計七試合の方を見て頂こうかと思います!」
司会「もちろん! 予選によって強い方が勝ち抜いたので、見応えのある試合となっておりますので、十分にお楽しみいただけると自信を持って言えます!」
司会「え?……それでは、これから選手の方々に入場していただきます!」
司会「外見のみの判断となりますが、誰が勝つのか予想し、是非とも賭けにご参加下さい!」
司会「申し込みは客席前後にいる係員にお声をかけていただければ、一口――」
僧侶「……こういった賭博に利用されるから、オレが出場できないんですよね?……」
剣士「結局、お祭りとは名ばかりで大々的な賭け事に利用してるだけだよね、これって」
剣士「ま、でも今回は勇者と魔戦士の二人に賭けてれば確実に儲けられるよね」
僧侶「……剣士さん?」
剣士「じょ、冗談だって。そんな凄まないでよ、もう……」
僧侶「オレの目が黒い内は、チーム内で賭博は許しませんから」
剣士「はぁ?……僧侶の故郷って本当にガチガチに固いよね」
剣士「絶対に行きたくない」
剣士「本当、なんでお姉ちゃんはこんな真面目な人を気に入ったんだろ」
僧侶「真面目だから、ですよ。きっと」
僧侶「あなたのお姉さんと同じでね」
38:
司会「それでは、選手の入場で???っす!」
ワアアアァァァァァ…!
剣士「……でも普通、恋愛って自分の持っていないものに惹かれるものじゃないの?」
僧侶「それなら、剣士さんはどうなのですか?」
剣士「あたし?」
僧侶「はい。勇者さんのどこに惚れたのか、ですよ」
剣士「どこって……まあ、アイツとは幼馴染だし」
剣士「顔は良いし、強いし、頭も良いし……なんか色々とカッコイイとこ知ってるし……」
剣士「そりゃ、好きになるなってのが無理…………って何話させるのよっ!」
僧侶「その辺の理由は六人で話した神託の日にも言ってましたね……」
剣士「今までの旅で、それが本当だってのも分かったでしょ?」
僧侶「他には?」
剣士「他には、って……」
剣士「……ま、活発なあたしを見守ってくれそうだったから惹かれたのよ」
剣士「それだけよ、それだけ」
剣士「気付いたら好きになってたの」
僧侶「それと一緒ですよ」
剣士「え?」
僧侶「オレが、あなたのお姉さんを好きになった理由です」
僧侶「気付いたら、所作の全てが好きになっていた」
僧侶「それだけです」
39:
僧侶「っと、そんな話をしている間にも、勇者さんが出てきましたよ」
剣士「あ、ホントだ」
僧侶「魔戦士さんも」
剣士「なんか、二人とも余裕そうねぇ……」
僧侶「……どうやら、組み合わせ的にはあの二人、決勝まで戦わないようですね」
剣士「お、それなら船が手に入る確率も上がる――」
剣士「――っ!」
僧侶「? どうされました? 剣士さん」
剣士「……ねえ、僧侶」
剣士「あの人、どこかで見たことない?」
僧侶「どの人です?」
剣士「ほら、あの端の」
友「…………」
僧侶「……いえ。見覚えがありませんね」
剣士「そう……」
僧侶「……覚えがあるんですか?」
剣士「あるんだけど……なんか、上手く合致しなくて……」
僧侶「合致……もしかして、子供の頃に会った事があるのでは……?」
剣士「子供の頃……?」
剣士「……っ!」
剣士「……もしかして、友……?」
40:
僧侶「友……?」
剣士「あたしと男――勇者の、共通の幼馴染」
剣士「一年ぐらい前から町で見かけなくなって……って言っても、それから前もあんまり話さなくなってたから確証はないけど……」
剣士「でも、ちょっと面影があるかも……」
僧侶「ですがそれなら、先に勇者さんが声をかけているはずでは……?」
剣士「そうよね……ってことは違う?」
剣士「いやでも、あの頃の勇者はあたしと一緒で遊んでばっかだったから……」
剣士「町の外近くに行ってばかりだったらしい友とは、その頃から疎遠だったし……」
剣士「あたしも、お姉ちゃんが家に呼んで話してるのを見かけたりとかで、あんまり話さなかったし……」
僧侶「……もしかして、神託の日にいた……?」
剣士「あ、そうそう。たぶんソイツで間違いないと思う」
僧侶「ん?……しかし、オレは思い出せませんね……」
僧侶「そもそも彼とは、一度自己紹介しただけですし」
41:
僧侶「そもそも、どうしてそんな疎遠になったのですか?」
剣士「……あたしのことが、好きだって言ったから」
僧侶「え?」
剣士「あたしが勇者が好きだから応援して、ってお願いしたとき、ボクも好きだ、って告白してきたの。アイツが」
剣士「子供の頃にね」
僧侶「……そういえば、そんな話も神託の日にしましたね……」
僧侶「その人がずっと強くなるために頑張ってきたとか、魔戦士さんの婚約者である従妹さんを守るためにやってきたとか、女姉さんが話していましたね……」
剣士「うん。その人」
剣士「いやでも、もしかしたら雰囲気が似てるだけの人違いかもしれないし……」
僧侶「そうですね……さすがに、剣士さんと同じで幼馴染の勇者さんが素知らぬ顔というのは……」
僧侶「あなたと違い、かなり近い距離で顔を見ているはずですし」
剣士「子供の頃は三人で遊んでたし……近くで見れば気付きそうなもんだけど……」
剣士「あたしももっと近くで見れればさすがに分かるんだけど……さすがにこれだけ遠いと」
剣士「地味な顔立ちな上に結構ブサイクだし」
僧侶「辛辣ですね……」
42:
僧侶「まあなんにせよ、大会が終わったら声をかける機会もあるでしょうし、その時に話しかけてみては?」
剣士「そうね……うん、そうしてみる」
剣士「と言っても、話す内容なんて特にないけど」
剣士「何より準決勝で魔戦士と当たって、順当に負けそうだし」
剣士「そんな中で声をかけたって、なんか悪いかも」
僧侶「まあ、昔話に花を咲かせるのも良いじゃないですか」
僧侶「もしかしたら、故郷の話だって聞けるかもしれませんよ」
剣士「聞けてもね……僧侶の転移魔法でいつでも帰れるし」
僧侶「う?ん……でもそれなら尚のこと、話た方がいいかもしれませんね」
剣士「え? なんでよ」
僧侶「魔王の情報とか、オレ達が周っていない世界の話とか、聞けるかもしれないじゃないですか」
剣士「……そう?」
僧侶「そうですよ」
僧侶「というか、実は話しかけたくないんですか? なんだかそんな感じがしますけど……」
僧侶「もしかして、昔フったことに対して罪悪感でも?」
剣士「そんなつもりはないんだけど……なんか、気付いただけで話しかけるってのも、微妙っていうか……」
僧侶「まあ、剣士さんに任せますよ」
僧侶「世界の事を聞かなくても、優勝した段階で船に乗って剣を取って、すぐに魔王城へと向かう訳ですし」
僧侶「周りが酷い状況でも、それが一番の早期解決になることに変わりはないのですから」
剣士「……ん。分かった」
剣士「じゃあ気が向いて、偶然出会ったら話しかけることにする」
43:
??????
司会「勝者、魔戦士!」
ワアアアァァァァァ…!
剣士「……ま、順当に勝ち上がるわよね、そりゃ」
僧侶「そうですね……魔物って、一体が相手でも並の人間なら一苦労するほど強いですし」
剣士「それを複数体、こっちも大人数とは言え毎日相手してるだから、当然よね?」
僧侶「勇者さんも勝ちましたし、これは話していた通り勇者さんと魔戦士さんの二人で決勝ですかね」
剣士「あたしも出た方が良いかも、なんてのはビビり過ぎだったか」
司会「続きまして四回戦、友VS.武道家の試合ですっ!」
僧侶「あ、次は例の彼の出番ですよ」
剣士「どうせ勇者の次にやってた試合みたいに、見応えのないものでしょ
司会「両者、入場!!」
ウオオオォォォォォ…!
ブドウカ! ソンナナヨッチイノイチゲキダッ!
トモ! オレハテメェミタイナオオアナニカケタンダ! マケルナンテユルサネェゾッ!
司会「それでは、始め!」
45:
「……っ!」
 武道家の気迫を込めた声が、観客席で見ているこちらにまで届く。
 歓声響くこの闘技場で、さらに大きく距離が離れたこの後ろの席まで聞こえてくるなんてのはあり得ない。
 それなのに、聞こえた。
 いや、聞こえたと思えてしまうほどの、強い踏み込み。
 構えることなく剣を持ったままの友。
 開始同時の踏み込みは、正に彼の不意を衝くことに成功していた。
 強く、大地を踏み締めて……あたしでもしっかりと見ていなければ避けられないであろう、おそらくはあたし達のように魔物と渡り合えるであろう強くい一撃を――
 ――放つよりもさらにい一撃が、武道家を襲っていた――
「――え」
 漏れでた声はあたしのものか。
 それとも隣で一緒に観戦していた僧侶のものか。
 もしくは……会場全体の気持ちが、音となって支配されたのか。
「…………」
 静寂。
 先程までの歓声が嘘のよう。
 ……見えた人は果たして何人いるのか。
 友の前で攻撃の予備動作に入ると同時、予備動作無く放たれた剣の一撃が、武道家の脇腹に炸裂した。
 それはルール説明の通り、本当の剣ではないのだろう。
 武道家は真横へと吹き飛ばされた。
「……………………」
 その全てが見えず、状況を理解しようとしている周りを置いてけぼりにしたまま、何事も無かったように剣を担ぎ、友は入場口へと戻っていく。
 その背が消える直前になってようやく、勝利宣言が成され……。
 友本人が闘技場から消えてからようやく、大地を震わせるほどの歓声が響き渡った。
46:
剣士「…………」
僧侶「…………」
剣士「……アレが、次の魔戦士の相手……」
僧侶「……というより、あの強さ……本当に人間ですか……?」
剣士「そりゃ、そうよ」
剣士「人違いでなければ、だけど」
僧侶「もし、違っていたら……?」
剣士「……僧侶の中にはとっくに答えがあるんでしょ?」
剣士「魔族かも、って」
僧侶「しかしそれなら逆に、今度は何故こんな人間のお祭りごとに参加しているのか、という疑問に行き当たるんです……」
僧侶「だから、あり得ない……と思いはします」
僧侶「もしくは、オレ達では理解できない、何か大きな理由があるのかもしれないですし……」
剣士「……あたし達を倒すため、とか」
僧侶「それならもっと良い状況があるでしょう」
僧侶「それこそこの前まで行っていたダンジョン内とか」
僧侶「あそこなら不意打ちだって出来たはずです」
剣士「……見せしめて住人の不安を煽るつもり、とか」
僧侶「オレ達が勇者一行で、魔王討伐の旅の途中だなんて誰も知りませんよ」
僧侶「世界がもっと混沌としていれば名乗りを上げて安心させてあげながら旅をしたのですが……」
剣士「そうね……こうも平和だと名乗らない方が安心できるから、って名乗ってこなかったもんね……」
僧侶「これは……是非とも剣士さんに、話をしてきてもらう必要性が出てきましたね」
剣士「……うん」
剣士「本人なのかそうじゃないのか……」
剣士「本人だったとしたら、どうしてあんなに強いのか……それを、聞いてみる」
52:
??????
司会「勝者! 勇者っ! 決勝戦進出ですっ!!」
ワアアアァァァァァ…!
剣士「さて……次ね」
僧侶「はい」
僧侶「まあですが、魔戦士さんなら負けないでしょう」
剣士「そうね……さっきの試合だってアイツ、魔法使ってなかったし」
剣士「使ってちゃんと油断しなかったら、戦えるはず……」
剣士「あのさ程度の攻撃なら、見切れないはずないし」
僧侶「そうですね……」
司会「それでは準決勝第二回戦!」
司会「魔戦士VS友の試合を開始しますっ!」
司会「両者、入場っ!!」
53:
??????
友サイド
??????
司会「それでは、試合開始っ!」
ワアアアァァァァァ…!
魔戦士「行くぜ……友とやら」
友「お手柔らかにお願いします」
魔戦士「そいつぁ聞けねぇ相談だ……なんせさっきの試合、見せてもらったからな」
魔戦士「近づくのは危険だ……油断もならねぇ……だから、オレは――」
友「魔法、ですか」
魔戦士「――……っ!」
友「どうして知ってるのか、って表情ですね」
友「どの試合でも使ってこなかったのに……そんなところですか」
魔戦士「…………」
友「そう不気味がらないで下さい」
友「ま、あなたが有名なのがいけないんですよ」
友「ねぇ」
友「勇者一行が一人――魔戦士さん」
魔戦士「っ!」
54:
魔戦士「ちっ……それも名乗ってきたつもりはねぇんだがな……」
友「気にしないで下さい」
友「ちょっと旅をしていたら得た知識ですから」
魔戦士「旅……なるほどね」
魔戦士「魔物を相手にしてきたって訳か……」
魔戦士「なら、その強さも頷ける」
友「そうですね。もう五年……いえ、二年ですか」
友「もっともこれは、旅を続けていた年数、ですが」
友「魔物との戦いは、もっと長いですよ」
魔戦士「はんっ。そうかい」
友「さ、会話はこれぐらいにして……さすがに始めましょうか」
友「構えたままジリジリと距離を測りあってるだけでは、観客も退屈しますから」
魔戦士「へっ、違ぇねぇ」
友「ま、ボクを楽しませてみて下さい、魔戦士さん」
魔戦士「ぬかせっ!!」
55:
 自らの声を合図に、模造の大剣を振り上げボクとの間合いを詰めて来る。
 その“遅さ”を確認しながら、同時、魔戦士が片手を開けてこちらに突き出す。
 何か小さく口元を動かしたかと思うと、その手から火の球が三つ生まれ、こちらに襲い掛かってくる。
 真っ直ぐ・少し遅れて左・それらの陰に隠れ右側へと伸びていく本命。
 ……溜息が漏れる。
 なんて、単調な攻撃なんだと。
 これが、従妹の……。
「……ふぅ……」
 ……腹が立ったが、息を吐き出し落ち着く。
 その迫る火球に隠れるように迫る魔戦士を見据えながら、視界を覆うように飛来したソレをその場で回転し、紙一重で躱す。
 そして、そんな避け方をした場合の追撃として迫る魔戦士の刺突攻撃を、手に持つ模擬剣で軌道を逸らして避ける。
 そしてその、ガラ空きの脇腹に、回し蹴りを放った。
「ぐっ……!」
 顔をしかめる魔戦士。
 やはり、鎧越しの打撃では有効打になり得ない。
 甲羅に毛皮を縫いつけた胸甲冑程度の代物でも、ただの蹴りではダメージにすらならない。
 だが、今回はこれで良い。
 だってこれは、警告だから。
 次、そんな下らない攻撃をしてきたら問答無用で胴薙ぎをぶち当てるぞ、と。
56:
 互いに距離を取る。
「へっ……」
 魔戦士の不敵な笑み。
 先程の蹴りの意図を理解していないのが分かる。
 ――さっきので倒せなかったことを後悔させてやる――
 そんな笑み。
 それを見て、また苛立ちが沸いてくる。
 もしかしたらソレを意図してのその表情なのかもしれない……。
 あり得ない可能性ながらそれを考慮することで、再び沸いた苛立ちを冷ます。
「中々やるな……」
「……あまり、口を開かないで下さい」
「あ?」
「バカの声って、聞いてるだけで腹が立つじゃないですか?」
「はあぁっ!?」
 すぐに怒りを表に出したその隙を衝き、一息に間合いを詰める。
「ちぃっ!」
 こちらの横薙ぎを、剣を構えて受け止める。
 すぐさま、息も吐かぬ連撃へと移行。
「くっ、そ……!」
 大きな剣でありながら、後ろに下がりながらもなんとか受け止め続ける魔戦士。
 ……さて、“そろそろ手加減は止めるか”。
「ふっ」
 息を吐き、攻撃の度を上げる。
「がっ……!」
 それだけで……相手は後ろに跳んで避けることもできず、あっさりと一撃を受ける。
 その度のまま、さっきと同じ軌道で攻撃を続ける。
 その全てを、魔戦士は一つも防ぐことが出来ず、ただただ浴びることとなった。
57:
 大きな歓声が上がる。
 頃合を見て攻撃を止め、後ろに跳んでやる。
「……へへっ。もう、終わりか……?」
 大分ダメージを受けたはずなのに、いまだ平気そうな顔を作り、不敵な笑みを浮かべる。
 ……やはり、こちらの力では満足なダメージにはなっていない。
 さすがに打たれ強い、か……。
 ……まぁ、ボクの力が弱いのもあるんだろうけれど。
 しかしそれが分かったからこそ、ボクはこうして距離を取った。
 そう……次、カウンターで一撃与えることが出来たら――さっきの警告を警告じゃなくせば、それだけで相手を倒すことが出来る。
 そこまでダメージを蓄積できたからこそ、ボクはあえて攻撃を止めてやったのだ。
 どうせこのまま続けたところで、相手は気合と気迫で立ち続ける。
 打撃による痛みしか武器で与えられない以上、あの魔戦士ならそれぐらい平気でやってのけるだろう。
 精神で痛みを吹き飛ばす、なんてことぐらい。
 だからこその、カウンターだ。
 絶好の攻撃だと思ったソレから反撃してやることで、心から打ち砕く。
 それによって、ダメージを明確なものとして自覚させてやる。
58:
「次は、こっちの……番だっ!」
 大剣を、横に薙ぐ前の形で構える。
 距離があるにも関わらず。
 口を軽やかに小さく動かして。
 ……仮にも魔戦士を名乗るだけはある。
 魔法を武器に込めている。
 それも、初めて握った武器に。
 火事場の馬鹿力なのか本人の才能なのか……神が与えた加護の一種なのか……。
 どれにしろ、素直に感嘆する。
 ただ、使い所が悪いけれど。
 これじゃあ宝の持ち腐れだ。
 その一撃をキッカケに、本当にダメージを与えられると思っているのなら……所詮は――
「ふんっ!」
 ――気合一閃の一撃。
 その攻撃で、こちらの思考は一時的に追いやられた。
59:
 迸る魔力の刃。
 コチラに迫る、魔力で生み出された魔力の刃。
 ボクはそれを、剣で受け止める。
 もちろん、受け止めきれるはずもない。
 大きく後ろに吹き飛ばされる。
 しかし、刃として顕現したその魔力を受け止めきることは出来た。
 迂闊に避けるのに失敗し、身体を損傷しては意味がない。
 それに……殺してはいけない大会ルールを忘れているはずもないだろう。
 威力を弱めて放つことぐらい想定の範囲内だ。
 だがそれは向こうも同じ。
 吹き飛ばされたボクとの距離を詰め、剣を振り上げ、振り下ろす。
 その一撃はしかし、あっさりとボクは避ける。
 そして再び隙だらけのその胴目掛けて、ボクは次こそ剣を――
「……へっ」
 ――また、苛立つような不敵な笑み。
 全て上手くいったとばかりな、その勝利を確信した笑み。
 同時彼は、その大剣を“手放した”。
60:
「かかったなっ!」
 わざわざ叫び、その両手に魔力の光を灯しながら、こちらの剣を片手で受け止めて、もう片方の手で拳を作り、顔面目掛けて放ってくる。
「っ!」
 ボクはその攻撃を――
「……ふざけるなぁっ!」
 ――叫び、あっさりとしゃがみ込み、さらに一歩間合いを詰めるようにして避けた。
 ……もう、苛立ちを隠す必要も無い。
 魔戦士の底が知れた。
 こんな、ボクがした警告と同じことを仕掛けてくる時点で、相手がこちらよりも下であることは確定した。
 まだ、武器を手放すのは良い。
 しかし、その攻撃で終えられると油断しきっているのが許せない。
 素手というのは、最終手段。
 アイツは、この攻撃によってボクを仕留められると、決め付けてしまっている。
 その程度の奴にボクが……負けるはずがない。
 最終手段であっても、本当に終えられる可能性なんて低い。
 にも関わらず、終わると思っている。
 終えられると思っている。
 この程度の一撃で。
 絶対に倒せると。
 自分と相手の力量差も理解できず。
 上だと自惚れて、勝てると油断して……。
 ……例え、今まで我慢していた苛立ちを――この程度で従妹の下に居続けようとしている図々しさに対する苛立ちを、爆発させてぶつけたとしても。
 冷静さを、欠いてしまっても。
 もう、負けることはない。
61:
 でも、ボクは油断しない。
 例え怒りを爆発させても……それだけはしない。
 そんなものは、この程度の奴と同じだと、認めるようなものだから。
 だから冷静に、懐に潜り込んでの第一撃を放つ。
 がむしゃらな攻撃じゃない。
 あらゆる次手を考えての、顎を狙っての掌打。
 ソレを寸での所で魔戦士は、顔を引いて躱す。
 次に、打ち上げた腕とは対称的にしゃがみ、もう片方の腕で相手が手放した大剣を拾い、その柄の尾で脛を叩く。
 それだけで、相手がよろける。
 そして、よろけた隙に腕を引き戻し、両手で大剣を握り、そのまま横から振り回すような軌道で大きく振り上げる。
「がぁっ!」
 避けきれず、胸甲冑の上から一撃を浴びせることに成功。
 次こそは、明確なダメージ。
 さすがにボクの蹴りとは違うその強い一撃は、防具の意味を成させることは出来なかった。
 今まで累積したダメージも併わさって、絶対の攻撃から反撃されたのも加わって、既にそこに戦いの意志は見受けられない。
 だから……振り上がった大剣を、そのまま勢いよく振り下ろす。
 ……その隙を衝くように、魔戦士は、こちらが振り下ろしたその刃の腹を両手で受け止めた。
 そしてその隙を逃さず、こちらはすぐさま剣を手放して、一歩斜め前に踏み込んで、がら空きになったお腹に、最初の警告と同じ回し蹴りを放った。
 大剣で砕けた胸甲冑をさらに破壊するための一撃。
 それをモロに受けてよろける彼に向け……両掌による打撃を、全力でぶつけた。
62:
 大きく吹き飛び、倒れる。
 起き上がってくる気配は無い。
「勝者! 友っ!」
 勝利宣言を聞きながら、その場を後にする。
 殺してはいない。
 骨だって折れていない。
 ただ、強く傷ついただけ。
 だから、控え室に戻れば、すぐに復活するだろう。
 僧侶の腕と、あの魔戦士の精神力を考慮すれば。
 ……そうでなくてはいけない。
「側近さん」
「はい」
 控え室へと戻る僅かな通路。
 関係者以外通れないその路で待っていてくれた彼女へと、お願いする。
「作戦、始めましょう」
「……はい」
 その返事を残して、彼女は転移魔法を使って姿を消す。
 さて……ボクはボクで、決勝戦だ。
 ……男……いや、勇者……。
 お前には、時間稼ぎに付き合ってもらおう。
64:
??????
勇者サイド
??????
剣士「まさか魔戦士が負けるなんてね?……」
魔戦士「んだよ、バカにしに来たのか?」
僧侶「まさか。ただあの対戦相手について、剣士さんが見覚えあるとのことでして……」
魔戦士「マジか!?」
剣士「確証はないけどね」
剣士「たぶん、勇者と共通の幼馴染」
魔戦士「幼馴染……?」
魔戦士「それなのに確証が無いってのはどういうことだ?」
剣士「……顔が、イマイチ思い出せなくて……」
魔戦士「…………それでよく幼馴染なんて言えたもんだな」
剣士「二年も前なんだから仕方ないじゃない!」
魔戦士「なんだ? 幼馴染ってのに仲はあんまりだったのか?」
剣士「……いや、勇者と合わせて三人ともそれなりに良かったけど……」
魔戦士「うっわ……薄情ってレベルじゃねぇだろそれ……」
剣士「うっさい! こっちにも色々とあったのよっ!」
65:
魔戦士「で、それを言うためだけに俺の控え室に来たのか?」
剣士「それもあるけど、メインは治療よ」
剣士「ここの控え室にいる癒し手よりも、僧侶の方が優秀なんだしさ」
僧侶「それに、あなたの治療を名目に、その例の幼馴染と会話できる可能性もありましたからね」
僧侶「控え室に来るにも、それなりの理由が要りましたから」
魔戦士「それが狙いかよ」
魔戦士「ってか、顔も覚えてない幼馴染と会話って……」
剣士「それは確かにあたしも思うけど……でも魔戦士に勝てるぐらいだし」
剣士「色々と話を聞いてみたら、得られるものがあるかもしれないでしょ? 魔王のこととか」
僧侶「と考えて来ましたが……どうやら彼、ここへと戻っては来ないようですね」
僧侶「まさか勇者相手に連戦するつもりだとは……」
魔戦士「ルール上は一度戻ってきて治癒して、最大三十分の休憩がもらえるって話なのにな」
魔戦士「なんであえてそんな不利なルールで挑むんだか」
剣士「……そういえば、勇者は反対側の控え室よね」
僧侶「そうですね。次の試合を待つ人はあちら側、という話でしたから」
剣士「勝った人と負けた人が同じ側の控え室って……運営、どういう考えしてんだろ」
僧侶「癒し手の都合でしょう。数自体が少ないですからね」
僧侶「むしろ、このお祭りごとで用意できてるだけ、評価するしかありませんよ」
66:
ワアアアァァァァァ…!
剣士「……それじゃあ、客席に戻ろうかな」
剣士「勇者の試合、始まりそうだし」
僧侶「そうですか。オレも、魔戦士の治療を終えたら一緒に――」
僧侶「――っ!」
魔戦士「? どうした、僧侶?」
僧侶「えっ……? えっ? えぇっ……?」
剣士「ちょっ、どうしたの、突然!」
剣士「……オレの街が……魔物の、集団に……?」
剣士・魔戦士「「っ!!」」
67:
剣士「ちょっ、どういうこと!?」
僧侶「わ、分かりません! でも、そういう連絡が、今……魔法で……!」
魔戦士「お前ら落ち着けっ」
僧侶「落ち着いてなんていられません!」
僧侶「だってオレの……オレの故郷が……!」
僧侶「すぐに……すぐに転移を……!」
剣士「待って!」
剣士「あたしも行く!」
僧侶「えっ……?」
剣士「ほら、この前の話、覚えてる?」
剣士「あたしも気になったの」
剣士「どうして魔物が強くならないのかって」
剣士(もっとも、あの黒騎士が出てきてるのにおかしい、って意味でだけど)
剣士「そんな状況下でこの出来事」
剣士「何かあったか、魔族側の罠としか思えない」
剣士「なら、あたしも行くべきよ」
僧侶「……そうですね……すいませんが、お願いします」
68:
魔戦士「……なら、俺もだ」
剣士「えっ!?」
僧侶「ですがそれだと……!」
魔戦士「確かに、勇者を一人にすることにはなる」
魔戦士「が……剣士の言うことも最もだ」
魔戦士「それに、不安なら早く片をつけて戻って来ればいい」
魔戦士「それだけの話だ」
剣士「でも……これが囮の可能性で、勇者を孤立させる狙いがあったら……」
魔戦士「それを警戒して二人だけで行かせる方が問題だろ」
魔戦士「結局こっちでは何も起きなくて、二人が死んじまう方がダメだ」
魔戦士「それに勇者を孤立させて勇者が死んじまっても……俺たちには、神の加護がある」
剣士「……そうね」
剣士「なら、三人で固まって行動して、確実に僧侶の故郷を救う方が大切よね」
魔戦士「そういうこった」
僧侶「……ありがとうございます、二人とも」
僧侶「では、魔戦士の治療をすぐに終えて、転移しましょう」
僧侶「試合が始まってしまって勇者に一言残せないのが残念ですが……」
僧侶「なによりオレも、く助けに行きたい」
魔戦士「ああ」
剣士「ええ」
剣士「そして、く終わった、勇者の優勝を讃えましょう」
僧侶「はい!」
69:
??????
僧侶の故郷
僧侶「なっ……!」
魔戦士「なんだ、これ……っ!?」
剣士「村が……既に……!」
「とはいえ、まだ建物だけ、ですけれどね」
剣士・魔戦士・僧侶「「「っ!」」」
側近「どうも、お初にお目にかかります」
側近「私のことは、側近、とお呼びください」
剣士「側近……?」
側近「はい」
側近「魔王様一番の部下、と名乗れば分かりやすいでしょうか」
魔戦士「っ……! じゃあ、これはテメェが……!」
側近「そうですね。魔王様が生み出した魔物に指示を出し、やらせました」
僧侶「このっ!」
魔戦士「待て僧侶!」
70:
僧侶「どうして止めるんですっ! あれは、皆の仇なんです!」
僧侶「母さんの! 父さんの! 友達のっ!」
剣士「だからって無闇に飛び込んでもやられるだけよ!」
魔戦士「この場で生き残らないといけねぇのはお前だ」
魔戦士「転移魔法を使えるお前が死ねば……それだけで、勇者がここを訪れるのにだって、時間が掛かっちまうんだぞ」
僧侶「っ!」
剣士「だからここは、あたし達に任せて」
魔戦士「ああ。お前は補助に回ってくれ」
僧侶「っ……。……分かった……」
71:
側近「へぇ……思っていたよりも的確な指示ですね」
側近「ですが、そうはさせませんよ」パチン
シュン
剣士・僧侶・魔戦士「「「っ!」」」
剣士(なに、あれ……見たこともない魔物……?)
僧侶(いや、魔族……? しかし、人間に近い姿でも……ですが魔物とも呼べない……ちょうど中間のような……)
側近「こちら、この街を滅ぼしてくれた魔物よりも強い魔物……まあ、有体に言えばボスのようなものです」
側近「コレで、僧侶さん。あなたの足止めをさせてもらいます」
僧侶「足止め……?」
側近「はい。この中であなたが一番強いですからね」
側近「正直言って私、戦闘向きじゃあないんです」
側近「ですから、あなたの相手は、コレ」
魔戦士「はんっ。で、お前は俺たちが相手すりゃ良いのか?」
魔戦士「それとも、俺たちにも相手をする魔物がいるのか?」
魔戦士「お前、戦闘向きじゃねぇんだろ?」
側近「違いますよ」
側近「あなたとそこの女性の相手は、私です」
剣士「……あなたが本当に戦闘向きじゃないって言うんなら、舐められたものね」
剣士「あたし達、強いわよ」
側近「ふふっ、面白い冗談ですね」
72:
剣士「……冗談を言ったつもりはないんだけど……?」
側近「本気で言ってるのなら、自分達の力の無さを自覚していないことに驚きですよ」
側近「ま、ちょうどその薄っぺらい力を見ておきたかったので、乗り気なのは大いに助かりますが」
側近「いえ、大丈夫ですよ。安心してください」
側近「一度しか、殺しませんから」
剣士「へぇ……随分とデカイ口を叩くのね」スッ…
側近「いつもはこうじゃないんですけれど……さすがに、そこまで勘違いしている姿を見せられると、ね」
魔戦士「お前、戦闘向きじゃねぇんだろ?」
魔戦士「お前こそ、俺たちのことを舐めてんじゃねぇのか?」
側近「こんな私でも、あなた達二人が相手なら大丈夫だと踏んだんです」
側近「本当はあなた達の相手もアレにさせろと心配されたんですけどね……」
剣士「心配……?」
側近「おっと」
73:
側近「少し、おしゃべりが過ぎましたね」
側近「ですが、最後に一つだけ」
側近「もしここで私を止められなければ、今世界に居る魔物よりも強い魔物が、世界に放たれます」
僧侶「なっ……!」
側近「そう。これはいわば宣戦布告」
側近「魔王様復活の合図、ですからね」
魔戦士「おいおいおい……何サラっととんでもないこと言ってんだ、あの魔族」
剣士「その話は後よ」
剣士「まずは……アイツを倒す」
僧侶「……すいません、二人とも」
僧侶「オレも出来るだけくあの魔物を倒して、援護に向かいますから」
側近「あ、そうそう」
側近「この街の人たちはまだ生きてますよ」
剣士・魔戦士「「なっ……!」」
僧侶「……っ」
側近「ウソではありません。確実に多くの人が逃げるのを見ましたから」
側近「僧侶さん、あなたは分かっているのでしょう? こういった場合どこかに隠れることになっていると」
僧侶「……………………」
74:
側近「キレた演技までして、私にバレないようにと考えたのでしょう?」
側近「まあ、本当に逃げ切れたと言う確証も無かったでしょうが」
僧侶「……そこまで分かっていましたか……」
側近「はい」
側近「でも、良かったですね」
側近「私、ウソは言ってません」
側近「本当に、生きている人は生きています」
側近「その中にあなたの親しい人がいるかいないかは分かりませんが」
僧侶「……何故、今ソレを口に出したんです?」
側近「分かっているのでしょう?」
側近「これで勝てなければ、その生き残りを殺すために……文字通り村を、蹂躙します」
側近「こうして村を壊すことが出来た、次に世界へと放たれる新たな強い魔物を使って、ね」
剣士・僧侶・魔戦士「「「っ!!」」」
側近「やはり、世界には見せしめないといけませんから」
側近「我々の存在を」
75:
側近「さて……言いたいことは言えました」
側近「あとは、戦うだけです」
「「「…………」」」
側近「既に言葉は不要」
側近「魔族を相手取っての戦いです」
側近「弱い私ですが……どうか、お手柔らかに」
76:
??????
ワアアァァァァァ…!
 既に何度目になるのか。
 俺の剣を受け、相手の剣を受け、時には躱し、時には弾き……。
 同じ得物を使っての戦いは、均衡が保たれたままだった。
 ザッ、と互いに距離を取る。
 試合を始めてからどれぐらいの時間が経ったのか。
 ただ、今の今まで、互いに距離を取ることも無く、ただひたすらに、牽制と必殺・回避と防御を繰り返していた。
オオオオオォォォォォォォォ…!
 耳に届く観客の歓声。
 今までそれらが鳴っていたのかどうかさえあやふやなほど、剣戟に集中していた。
「……ふぅ」
 それは相手も同じなのだろう。
 俺と同じく息を吐き、再びしっかりとした構えを取る。
 ……この友という相手、魔戦士を倒しただけのことはある。
 やはり、強い。
77:
 どう攻めるべきか……。
 俺はまだ、強化の魔法と簡単な治癒術しか使えない。
 その強化の魔法だって、力を上げることしかできない。
 相手の防御行動に対してなら効果があるだろうが……それだけでは決定打になり得ないだろう。
「さて……そろそろ良いか」
 と、攻め方を模索していると、友と呼ばれた敵の、そんな声が聞こえた。
 小さな声。
 対峙している俺ですら、耳に届いたのがマグレに思えるほど。
 構えは解かれていない。
 けれども、その手から力が抜けているのが、分かった。
(何か仕掛けてくる……!?)
 警戒し、こちらもすぐさま対処できるよう身体に力を込める。
 だが相手は、そのまま武器を手放して――
 ――前のめりに、倒れた。
78:
 シンッ、と静寂が支配される。
 しかしそれも一瞬。
 次の瞬間には、大歓声が巻き起こっていた。
 ス、スゲェ…!
 マサカサッキノアレデ…!
 アア! アノユウシャッテヤツ、メチャクチャツヨイジャネェカッ!!
 イツコウゲキヲアテタノカワカラナカッタゼッ!!
 耳に届く観客からの声。
 ……俺が、誰にも見えない攻撃をあの剣戟の間に仕掛けていた……?
 あり得ない! あんな攻撃の群れの中でも、こちらの攻撃が当たっていれば手応えですぐに分かる。
 手に伝わったのは空を切る感覚と、鉄を打ち返す重い衝撃だけ。
 それなのに、ダメージなんて……!
「今年の優勝は、勇者に決定致しましたっ!」
 けれども司会者は問答無用で、俺の勝利を宣言する。
79:
「おいっ!」
 倒れた友へと、どういうつもりだと問い詰めるため歩み寄る。
 歓声に紛れて消えたであろう俺の声に反応した訳ではないのだろう。
 けれども相手は、ゆっくりと立ち上がって、真っ直ぐに俺の目を見据えてきた。
「もう十分ですからね」
「十分? なにがだ」
「時間稼ぎ」
「は?」
 意味が分からず、間の抜けた声が出る。
 しかしそれに答えることはせず、相手はさっさと剣を拾い、会場を後にしようとする。
「待てっ!」
「優勝出来たのだから良いではないですか」
「そういう問題じゃ……!」
「それに、すぐに分かりますよ」
 それっきり、こちらを振り返ることはせず、友と名乗った敵は、その場を立ち去った。
 結局、倒れた理由は、分からないままだった。
80:
 しかし、本当にその意味はすぐに分かった。
 優勝を讃えられ、船の受け取り手続きへと向かうその途中の道で……僧侶が転移してきたのだ。
 傷だらけで。
 それ以上の傷を受けて死んだ、剣士と魔戦士を抱えて。
 そして悔しげに、唇を噛み締めながら。
 事の顛末を全て、告げてきた。
81:
 それを聞いて、すぐさま僧侶を連れて再び彼の故郷へと向かったけれど……後には何も、残っていなくて……。
 彼等住人が隠れることになっていた場所へと案内されて見たものは……既に、生きているものが居なくなった、死体と血の溜まりだけだった。
??????
友サイド
??????
側近「これで良かったのですか、友」
友「うん。ありがとう、側近さん」
友「でも無茶したね。まさか直接戦うなんて」
側近「あのぐらいの相手なら、造作もないことです」
側近「むしろ、あれでよく今まで魔王様を倒すだなんて言ってられたなとさえ思えるほどです」
側近「私程度にすら負けるなんて……友ですら余裕で勝てますよ」
友「さすがに今のボクじゃあ、二人同時相手だと無理かなと思うけどね」
友「補助魔法ばかりとはいえ、転移魔法が使えるのはやっぱり大きいよ」
側近「……こちらを見ましたね、あの二人」
友「そうだね……さて、これで完璧に完了だ」
友「遠くからとはいえ、一緒に姿を見せたボクと側近さんから、繋がりも明確にしただろうし」
友「さて……それじゃあ帰ろうか」
友「帰って、準備をしないとね」
側近「準備、ですか」
友「うん。盛大に歓迎しないと」
友「神を堕とすのに必要な、例の『歴代勇者の剣』を持ってきてくれる勇者のために、ね」
第二章・終わり
82:
というわけで今日はここまで
明日は宣言通り更新できないです
明後日は第一章を投下
時間を、友が魔王の元へと訪れたところに戻します
先に第二章を投下したのは、第一章に設定ばかり書いてしまったせい
設定厨だからこそやってしまったミス!
というわけです
それでは
84:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします 2014/02/15(土) 04:45:20.47 ID:Okum9CzR0

側近が魔戦士と剣士
倒すとこ書いてほしかったわ
86:
再開――の前に
>>84 さんが言ってくれたので、載せない方が流れ的にスマートかなと思ってカットした戦闘シーンを先に投下
87:
 私の言葉が終わると同時、まず襲い掛かってきたのは大きな剣を握った男性だった。
 鞘に納められたままの剣を握った女性は、回り込むようにして私の背後を取ろうとしている。
 その二つを視界に収めながら、私は女性の背後へと瞬間移動した。
「なっ……!」
「えっ……!?」
 突然目の前から消えた私に驚く声と、突然後ろに現れた私の気配に驚く声が重なる。
 辛うじて反応し、けれども対応できない女性のその背中を、魔力を込めた手でポンと叩く。
「くぅっ!」
 すぐさま鞘から剣を抜き放ちながら、流れるような斬撃。
 しかしその攻撃をまた、瞬間移動で躱す。
 そして今度は、男性の背後、その頭上へと跳ぶ。
88:
 女性とは違い、私の気配に気付いていない。
 その間抜けな背後に、スカートを膨れ上がらせながら着地し、その音でようやく気付いたその背中を、これまた女性と同じ要領でポンと叩く。
 そしてまた、瞬間移動。
 今度は最初の位置に舞い戻った。
「……なんてさだ……!」
 さ……その男性の読みに、相手の力量が本当に低いことを思い知る。
 友が強いと言った僧侶と同じ転移魔法……その上位互換のようなものだという発想に至れないのだから。
 そもそも、消えているのか高で動いているのか、その違いすら気付けない時点で底が知れる。
 彼等を監視し、色々と情報を集めていたからこそ分かる。
 僧侶の使っている転移魔法は、転移点を設置することで、そこへと転移することが可能になるもの。
 対して私はそれ以外に、相手の姿を思い描くだけで転移できたり、視界に移る範囲に転移できたりと、様々な転移魔法が使える。
 そうでなければ、魔王様の一番の手下なんて名乗れない。
 まあ、世界に生み出されたからこその特権、とも言えるのだけれど。
89:
 ともかく、もう彼等を倒す準備は整った。
「はぁっ!」
 気迫を込めながら、攻撃のため、一息に距離を詰めようとしてくる男性。
 その後に、今度は一直線にこちらへと向かってくる女性。
 ……私に、戦闘能力なんてものはない。
 けれども、魔王様を補助する能力には特化している。
 そして、それを応用さえすれば……格下の相手に負ける道理なんて、ない。
 腕を上げ、魔力を込めた箇所へと魔法を発動するために、腕を下げる。
 それだけで、その箇所を目標点として、大きな岩が一つずつ、二人の頭上に現れた。
「っ!」
 驚き、声も無く、動くことも出来ず、押し潰される二人。
 事前に準備していたからこその呆気なさ……では、済まされない。
 本当に弱い。この二人は。
 もし、相手にそれなりの対魔力があったのなら、私が触れた箇所に何かされたことぐらい悟れただろう。
 そうすれば岩に驚くことなく、落ちてこようとしたソレを避け、私に襲い掛かることが出来たはずだ。
 でも、それが出来なかった。
 出来ずに、そのまま死んだ。
 ……いや、まだ死んではいない、か。
90:
 でも、それも同じこと。
 私は下ろした腕を上げて、岩を消す。
 そして、起き上がろうとする二人を見て、再び同じ岩を落とす。
「がぁっ!」
 男性の方から苦しそうな声が聞こえた。
 女性の方は……もう死んでしまったか。
 声が無い。
 それでも……再び腕を上げて岩を消し、一人と一つに、再び腕を振り下ろして岩を落とす。
「ぐぅっ……!」
 それを何度も繰り返す。
 男性の声が聞こえ、女性からは潰れるような音が聞こえ……。
 次第に、男性の声も聞こえなくなり……。
 両方とも、潰れるような音しかしなくなるまで、繰り返す。
 そんな単調なことで、彼等を倒せる。
 ……本当に弱い。
 友は本当に警戒しすぎだ。
 この程度の奴等が相手なら、私程度もでも負けるはずがないのに。
91:
 ただ、僧侶。
 彼は確かに、警戒されているだけはある。
 いまだ、あの魔物といい勝負をしている。
 彼を相手にすれば、きっと私では、勝てなかった。
 もしかしたら触れた瞬間の魔力反応に気がついて、この二人に警戒を呼びかけた可能性だってある。
 そうなれば、こう簡単には終わらなかっただろう。
 ただ友ならば、いい勝負をしたかもしれない。
 一対一ならば、だけれど。
「……まあ、でも」
 彼の仲間がこの二人じゃあ、いない方が良いかもしれないけれど。
 案外、こうして私が引き受けてしまったから、彼はあそこまで長持ちしてしまっているのかもしれない。
 足手纏いとして押し付けろ。
 そういう意図で友は、彼等の相手もあの魔物に任せろと、そう言ったのかもしれない。
 ……まあ、今更なことだけれど。
 だってもう二人とも、とっくに死んでしまっているのだし。
92:
というわけで終わり
次から予定通りの再開分投下
94:
??????
友が魔王の元へと訪れてすぐの時間
??????
魔王城?作戦会議室?
魔王「すまないな。こんな場所しか、座って話し合える場所が無いものでな」
友「構わないです。それよりも、魔王様がそう簡単に謝らないで下さい」
魔王「客人をもてなす準備がこの城で整っていないんだ」
魔王「なら、城主である我が謝るのが筋だろう」
友「いえ。急に訪ねたボクに問題があります」
友「まず手紙などで挨拶に伺うことを申しておくべきでした」
側近「それを受け取ることが私たちに出来るとでも?」
友「してくれないんですか?」
側近「魔物が人間の言葉に耳を貸すはずないでしょう」
友「でも今は、貸してくれてます」
側近「それは魔王様だからです」
友「あなたは?」
側近「私は……あなた達で言うところの、魔族、だからです」
友「……なるほど」
友「その感じ、どうやら魔族サイド、と言い直したのすら語弊があったようですね」
魔王「構わんよ。我等のことをそう呼ぶことに慣れているのならな」
魔王「我等もその人間の勝手に合わせてやるさ」
魔王「ま、実際は人間と何も変わらぬと言うのだから、中々に滑稽だがな」
95:
側近「魔王様。そのようなことを人間に話されても……」
友「いえ、大丈夫です」
友「ボクは全てを知っています」
友「人間のことも、神のことも、この世界のことも」
友「あなた達のことも」
魔王「ほう……」
側近「それを信じろと?」
友「信じてもらうしかないですね」
側近「そもそも何故、ただの人間であるあなたが知っているのですが?」
側近「あなた達人間は神の加護とやらのせいで、私達のことを絶対悪としか認識できないでしょう?」
友「それは単純に、ボクが人間ではなくなったからです」
側近「人間じゃない……?」
側近「だから、私たちのことも知っていると?」
友「はい」
96:
友「言うならばボクは、元人間なんです」
友「だからと言って魔族側――いえ、人間に魔の存在だというレッテルを貼られ、迫害されている、あなた達側の存在でもない」
友「あやふやで、中途半端な存在です」
側近「そんな存在、いるはずが……」
魔王「神の認識から外れた人間……故に元人間、か」
友「はい」
魔王「側近。その様子から察するに、今まではいなかった存在なのだな?」
側近「……はい」
魔王「なるほど……つまり前代未聞、ということか」
魔王「面白いな……そんな存在だからこそ、神の打倒を望む、か」
友「……そんな、立派なものじゃありませんよ」
友「ボクはただ、女にフられた腹いせに、こんなことをしたいだけです」
側近「…………ふざけているのか?」
友「本気ですよ」
友「本気で、女性にフられたから、神を堕とす」
友「……いえ、フられた、という表現だけじゃ不十分ですね……」
友「ただ、神の身勝手に振り回され、あらゆるものを奪われるのに嫌気が差した」
友「それに気付けた」
友「だから、堕とす」
友「それだけです」
97:
魔王「ははっ! 面白いなっ、友とやら」
友「……言葉の割りに、笑っておられないようですが」
魔王「ああ。下らぬ理由だと思っておるよ」
魔王「でも、それが良い」
魔王「ご大層な理由を述べられるよりも、良い」
魔王「少なくとも我は気に入った」
側近「魔王様……!」
魔王「それで、何故ここに来た?」
魔王「神を倒すのだろう? その目的は分かった。動機も分かった」
魔王「なら、神に倒されることが決まっている我等の元に来たところで、何の意味も成さないではないか」
魔王「それが分からぬお前ではないだろう?」
98:
友「……魔王様は、神を堕とす方法は知っていますか?」
魔王「さあな。少なくとも我は」
魔王「側近は?」
側近「いいえ。私も」
友「……そうですか」
魔王「もしや、その方法を訊ねにきたのか?」
友「……………………」
魔王「……それで、どうして協力すると口に出来た?」
友「……魔王様なら、勇者を倒してくれると思ったからです」
魔王「なに?」
99:
友「神を堕とす……その準備段階で必要なのは、勇者を倒すこと」
友「それも、歴代の勇者の剣を使うという、特別な方法で、ね」
魔王「……何故、元人間だったお前がそんな情報を……?」
友「……色々とあったんですよ」
友「フられてから、世界を恨んで、神を憎んで……それから、色々とね……」
魔王「解せんな」
友「……何が、でしょうか……?」
魔王「先程も我は言ったであろう。我等は神に倒されるのが決まっている」
魔王「それはつまり、勇者に倒されるのが決まっているということに他ならない」
側近「魔王様! ですからそれは歴代の魔王がそうなってきただけで、今回の魔王様なら……!」
魔王「歴代の魔王よりも魔力の低い我が、か?」
魔王「そんなはずはないだろう」
魔王「そのことをお前も分かっているはずだ、友」
友「…………」
魔王「それなのに何故、我等なら倒せると踏んだ?」
100:
友「そうですね……しかし、勇者を倒せる可能性がこの世界にあるとすれば、あなた達の存在しかないのもまた事実です」
魔王「だが、我等は倒される」
魔王「世界の仕組みはきっと、我等の敗北を約束するように編み込まれている」
友「だから、ボクが協力する」
魔王「なに……?」
友「人間じゃなくなったボクなら――神から見られなくなったボクなら、何か出来るかもしれない」
友「その編み込みを、解けるかもしれない」
友「あなた達を勝たせることが出来るかもしれない」
友「だから、協力に来たんですよ」
104:
魔王「はっ……なるほどな」
魔王「つまりお前は、神を倒すために我等を利用すると、そういうことか」
友「まぁ、端的に言えばそういうことです」
魔王「だったら、そんな大層なことを言えるお前自身が勇者を倒しに行けばどうだ?」
魔王「元人間なら造作も無いだろう」
友「……………………」
友「……そうしたいのは、山々です……」
友「でも……」
側近(手が、震えてる……?)
友「……ボクは所詮、才能のない、ただのザコでしかありません」
友「神に選ばれた勇者に勝てるほどの力は……ボクにはない」
友「むしろボクが神に見つかれば、僕の存在自体が消されるかもしれない」
友「だから迂闊には……勇者の前に姿を現すことすら、出来ないんです」
105:
側近「……一つ、良いですか?」
友「はい……?」
側近「ただのザコと自称するのなら、どうやってこの城の最深部までやって来れたのですか?」
側近「仮にもここは魔王様の城です」
側近「城の守りとして魔物を――それも現在最も強い魔物を配置していましたけれど」
友「魔物が襲うのは、人間です」
友「人間じゃなくなったボクは、その対象じゃない」
友「それだけです」
側近「だからあっさりと魔王様の元へとやって来れたのですか」
友「力も魔力も無いボクは、おそらくあなた達の小指一本で殺されます」
友「強く見せかけるために鎧と剣を持ってみても、いくら鍛錬をしてみても、あなた達や勇者達とは、大きな隔たりがある」
友「どうすることも出来ない、実力差が」
友「絶対に倒せないよう仕組まれた仕組みが」
友「選ばれた者と選ばれていない者の差が、ね……」
側近「……………………」
106:
魔王「……我も一つ聞いていいか?」
友「もちろんです」
魔王「お前は女にフられたから神を倒すと言ったが……」
魔王「その原因が、勇者なのか?」
友「……………………」
魔王「勇者を倒せないことを悔やみ、勇者との認めざるを得ない実力差に哀しむ」
魔王「選ばれし者と選ばれなかった者、そのもたらされた物の差を嘆く」
魔王「それはつまり、お前の中で勇者が深く根付いているということに他ならない」
魔王「それを突き詰めれば自然と、な……」
友「…………………………………………」
魔王「……どうした?」
友「……いえ、ただ見た目が幼女だからそういう恋愛ごとに結びつけるなんてマセガキにしか見えないなぁ、と」
魔王「よし分かった。お前を今すぐ殺そう」
友「冗談です冗談。見た目が幼い女の子なのはまだ魔物を沢山生み出していないからでしょう?」
魔王「なに……?」
107:
友「魔物は生み出せば生み出すほど強くなり、ソレに伴ってあなたも強くなって外見も変わる」
友「さっき、歴代の魔王よりも魔力が弱いと言いましたけれど、それは現状の話でしょう?」
友「おそらくこのまま魔物を生み出していけば、きっと歴代の魔王に追いつく――もしかしたら追い越すかもしれない」
友「だからまだ諦めるなって言ったんですよね?」
側近「まさか……そこまで知っているとは……」
魔王「なるほど……全てを知っていると言ったのは伊達ではないということか」
友「ただ、見た目がそんなだからそう思っただけで……勝手な感想なんです」
友「魔王様のことは見くびってないです。決して」
友「小指一本で殺される相手にそんな感情、抱くわけないでしょう?」
魔王「……まあ、言葉数が多くなったことが十二分に怪しさを倍増させているが……良いだろう」
友「ちなみに、魔王様の答えは正解です」
友「言うなればボクは、勇者のおかげで、神を堕とそうと思えるようになったんです」
108:
友「それはそうと、ボクからも一つ良いですか?」
魔王「どうした?」
友「魔王様の傍にいるそちらの魔族は、どうして成人女性のような外見なんですか?」
魔王「前の魔王の趣味だ」
魔王「我等魔王の側近は、外見は前の魔王が決め、情報量は神からどれだけ奪えるかで決められる」
魔王「それだけのことだ」
友「情報の部分は知ってましたが……外見は前の魔王なんですか……」
友「そのメイド服も?」
魔王「この服はメイド服というのか?」
側近「知りませんでしたね」
友「それらの情報までは神から奪えなかったんですね」
友「というか前の魔王の趣味が……」
側近「もしかして、人間から見てあり得ないことだったりします?」
友「いえ……まぁ、ある意味正しいと言えば正しいんですが……」
友「というか、例えそうだとしても気にしないんでしょう?」
側近「まあ、はい。どうせ人間にどう思われようと構わないですから」
109:
魔王「にしても、勇者に好きな人を取られた、か……」
友「まぁ正確を期すなら、神様に、ですけれど」
魔王「しかしそうか……もしや友の外見は、人間の中では醜い分類になるのか?」
友「なるでしょうね」
側近「そんなキッパリと……」
友「事実ですから」
友「自分のことは、自分がよく分かってます」
友「肌も、髪質も、目も鼻も口も耳も輪郭も、その全てが中途半端に悪いんです」
友「気持ち悪い顔、と突き抜けることも無く、けれども美形からは当然のように程遠い」
友「中の下、か下の上、といった感じです」
魔王「なるほどな……まあ、外見に対して何も思わぬ我等では、その醜さはいくら説明されようと理解できないがな」
110:
友「それで、ボクはこちら側に協力させてもらえるのですか?」
魔王「そうだな……まあ、良いだろう」
側近「魔王様っ!?」
魔王「勇者の差し金であろうとも、所詮我自身が勇者に倒される身」
魔王「なら、その人間から離れたという言葉、信じてみよう」
側近「そんな……」
側近「このまま魔物を生み出していれば、確実に勇者に勝てるのに……」
魔王「その覚悟で続けてきて負けてきたのが、先代の魔王だろう」
魔王「なら何か、一つぐらい奇をてらったことをしてみた方が良いだろう」
魔王「でなければ、結局先代魔王と同じ末路になるだけだ」
魔王「期待しているぞ、友」
友「ありがとうございます」
友「ですが……あなたは、不服ですか?」
側近「……当然です」
111:
側近「そもそも私は、魔王様が諦めていることにすら、納得いきません」
側近「神から奪った過去の魔王の情報と勇者の情報……そしてその情報量の多さ」
側近「これは神自身が、絶対に勝てるという自信の顕れ」
側近「つまり、油断です」
側近「ならこれを利用すれば、もしかしたら勝てるかもしれない……」
側近「今回こそは……歴代の魔王様の無念を晴らせるかもしれない……」
側近「……それなのに……!」
友「…………まあ、任せてください」
側近「……何をですか?」
友「ボクだって、勇者を倒したいんです」
友「神を堕とすという目標が信じられないなら、勇者にフられた復讐をしたいから、という目標のためだと思ってくれても構いません」
友「ともかく、動機はあるんです」
友「だから、魔王様が勇者に勝つ。そのために全力ぐらい、尽くしますよ」
120:
魔王「それで、まずはどうするつもりだ?」
側近「それはもちろん、魔王様には魔物を生み出してもらって、それを勇者の所へ向かわせるのですよね?」
友「いえ、側近さん。それは止めましょう」
側近「なっ……!」
魔王「ほう……」
側近「それは止める……? では、どうやって勇者達を倒すつもりですか?」
側近「もしかして、勇者に楽をさせ、魔王様を倒すための手を早打って来ましたか?」
友「さすがのボクも、疑われているときにそんなさらに疑われるようなことは言いませんよ」
側近「なら、魔物を生み出さず、勇者の元へと向かわせず、どうやって勇者に勝つというのですか?」
側近「あなた自身が弱いことは、あなた自身が話しました」
側近「なら魔物を送り込む他に、どうやって勇者を倒すつもりなんですか?」
121:
友「魔物を生み出せば、魔王様は強くなる」
友「だから側近さんが言う通り、本来なら魔物は生み出すべきなんでしょう」
魔王「なら何故、お前はそれを否定する?」
友「魔物を強くする……確かに素晴らしいことです」
友「しかしそれは同時に、勇者までも強くしてしまうということだからです」
側近「ふんっ、何を根拠にそんなことを……」
友「魔物は生み出されていけばいく程強くなる」
友「そして、強い敵との戦いは、相手を成長させる」
友「特に勇者一行はそれが顕著です」
魔王「だからそれを止めるために、魔物を生み出さないと?」
友「そういうことです」
122:
側近「そんなの……! そんなことをしたら、勇者がこの城にたどり着いたらすぐに魔王様がやられてしまうではないかっ!」
側近「私は戦闘能力なんて皆無だ! 今の勇者にすら勝てるはずもないっ!」
側近「なら誰が魔王様を守るのだ? 強い魔物もおらず、邪魔者二人しかいないこの場で! 誰がっ!」
側近「誰も、守れないだろうっ!」
側近「魔王様を守るために――せめて、魔王様が強くなるまで守れる魔物を作り出す必要がある!」
側近「それをさせないとは……やっぱりお前は――」
友「魔王様は、どうやって魔物を生み出すのですか?」
側近「――っ! 話を聞けっ!」
友「聞いていますよ」
友「その上で、魔王様に訊ねています」
魔王「……………………」
魔王「……まずは、大きな魔力の球を生み出す」
側近「魔王様っ!?」
側近(スパイかもしれない相手に、どうしてそんな大事な情報を……!)
123:
魔王「その球は言うなれば、我がその段階で生み出せる魔物が全て入っている」
魔王「そしてその球を生み出すと同時、我は一回り強くなる」
友「その球は、いくら使っても消えないんですよね?」
魔王「……まるで知っていたような口振りだな」
友「魔王様こそ。ボクが知っていて確認のために問いかけていることに気付いていたのでしょう?」
魔王「ふっ……ま、両方ともその通りだと答えておこうか」
友「……ついでに、これも確認なのですが」
友「その球から魔物を生み出しても、魔王様は強くならないですよね?」
魔王「当然だ」
友「では、現状生み出した球の数はいくつです?」
魔王「三つほど」
友「ふむ……では、あと生み出すのは二つほどにしましょうか」
側近「何故お前にそこまで指示されなければいけないっ!」
124:
側近「魔物を生み出し、次々と勇者にけしかける」
側近「そうすればいずれ勇者の倒せない魔物が奴等を倒すかもしれない」
側近「それで殺せれば、最早世界は魔王様の物になったと言っても過言じゃない!」
側近「それの何が不服なのだっ!」
友「勇者は、倒せないからです」
側近「なに……!?」
側近「それは、魔王様が生み出す魔物が弱いという意味かっ!!」
友「違いますよ」
友「彼らは、死なないんです」
側近「はぁ!? そんな訳無いだろうっ!」
友「あるんです」
友「何故なら彼らは、神に愛された存在ですから」
魔王「神に愛された、か……」
友「はい……」
友「……本来、人間が魔物を殺すことは出来ない」
友「それは異常な硬さと再生力を誇っているからに他なりません」
友「それもそのはずです」
友「だって魔物は、不純物とはいえ魔王様の魔力そのものが形作った存在なんですから」
125:
友「魔王様の成長において不要なものが段々と削ぎ落とされ……磨かれたものですらも不要と断定され、抜け落ちる」
友「それこそが例の、魔物を生み出すための球」
友「そして、魔物の強さの正体です」
友「それをただの人間が、鉄の塊を叩き付けただけで倒せるはずもありません」
友「……いえ、最初の弱い魔物なら可能でしょう。現にボクが可能だったんですから」
友「しかし、強くなった魔物はそうはいきません」
友「ですが、勇者一行はそれらを倒せる」
友「平然と」
友「当たり前のように」
友「硬さを物ともせず、再生力なんて無いものとして」
友「その力こそ、神に選ばれ・愛され・もたらされたものなんです」
側近「……それと死なないことと、何の関係がある?」
友「死なないことも、その魔物を殺せる力と同一の、神によってもたらされた力の一端――勇者を殺せない仕組みの一つだということです」
126:
側近「しかしもしそれが事実だとして、それなら私の記憶に残っていなければおかしいということになる」
側近「過去の勇者は一度も死んだことが無い」
側近「それは、歴代の魔王様が弱かったからではないのか……?」
友「弱いなんてとんでもない」
友「きっと歴代の魔王様も、十分に強かった」
側近「なら何故、私の記憶に歴代の勇者が苦戦したという情報がない?」
友「そもそも、記憶とかそういうのじゃないんですよ、側近さん」
側近「なに……?」
友「彼らは死んでも、“死ななかったことにされる”」
友「神の手により、時間が巻き戻されるのです」
127:
側近「時間の……巻き戻し……?」
魔王「……………………」
友「どこまで戻るのかは分かりませんが、ともかく、死ぬ少し前か遥か前か……時間が戻ります」
友「勇者が死んでいなかった時間まで」
側近「そんなのはデタラメだっ!」
友「デタラメじゃありません」
友「……いえ、デタラメですね。ウソじゃあありません、の方が正しいですね」
友「本当に、あの存在はデタラメなんです」
友「そもそも、歴代の魔王が勇者を殺せなかったとは、ボクにはどうしても思えない」
友「きっと、殺しても殺しても、殺していなかったことにされてきたのです」
側近「そんなもの、お前の想像の域を出ない!」
魔王「…………いや」
側近「っ……魔王様……?」
魔王「友の情報は、案外的を射ているかもしれない」
128:
側近「それは……どういう……」
魔王「我も確信めいたものはもっていない」
魔王「しかし、彼が持っていたあらゆる我に関する情報……もしやその情報源とともに、その時間逆行の情報――勇者に関する情報もあったのではないか?」
側近「し、しかし魔王様……! それはコイツがそれっぽく見せているだけの可能性も……!」
魔王「確かに。あるにはある」
魔王「だからこそ、側近。お前はちゃんと傍にいてくれ」
魔王「お前は我の代わりに、友の言葉を疑い続けてくれ」
魔王「お前の指摘があるからこそ、我も考えを深めることが出来ている」
側近「魔王様……!」
側近「……はい……! かしこまりました」
魔王「頼むぞ、側近」
129:
魔王「さて……それで友」
魔王「魔物を新たに生み出すな、と言ったお前のその理由は分かった」
魔王「時間逆行の件も考えるに値する」
魔王「時間を戻されては、殺せたとしても記憶に残らないからな」
魔王「その事象自体を疑っても仕方の無いこと」
魔王「お前自身を信用するか否かという話になる」
魔王「だが、もし信用したとしても、疑問が一つある」
友「疑問……ですか」
魔王「例え時間を巻き戻しても、どうせ奴等はまた死にに来るだけだろう?」
魔王「なら、魔物を生み出しても構わないのではないか?」
友「さすがに、生き返ってすぐにまた同じところには来ませんよ」
友「そこは神がご丁寧に導くんです」
友「他の魔物を倒し、強くなってから、その倒された魔物を倒しに行くようと、ね」
130:
友「勇者も時間を巻き戻された記憶は残りません」
友「しかし、殺されるまでに積んだ経験は残ります」
友「ここが、勇者の厄介なところです」
魔王「厄介とは?」
友「勇者は相手が誰であれ、戦えば戦うほど強くなります」
側近「それは人間なら当然のことじゃあないのか?」
友「いえ。……そうですね……成長のスピードがおかしい、と言ったほうが近いかもしれません」
友「というより、学ぶはずの無いことすらも学ぶのです」
側近「もっと具体的に言えないのか?」
友「例えるなら……魔王様のような感じです」
魔王「我の?」
友「魔王様も、球を生み出せば強くなるでしょう?」
友「勇者はそれが、誰かとの戦いなんです」
友「戦うことで、例え守ることをしなくても守ることを覚え」
友「魔法の勉強をしていなくても魔法を覚え」
友「訓練をしていなくても魔力が成長し」
友「筋トレしていなくても筋肉がつき」
友「い攻撃を避けた訳でもないのに動体視力と反射神経が成長し」
友「素早く動くことを覚え」
友「的確に弱点を衝くことを知り」
友「攻撃の先読みすら可能になる」
友「本来、その戦いで身につくことのない出来事であったとしても……」
友「究極、ザコの魔物をただ斬りつけ続けるだけでも……勇者はそうして、段々と強くなるんです」
友「まるで、熟練の相手との戦闘経験を経たかのように」
131:
友「実はボク、勇者達を除く人間の中では、それなりに強いことを自負しています」
友「こんな顔ですからね。せめて他で優れているところを作り出そうと、必死になりました」
友「何より、従妹や幼馴染の姉などを守りたかったというのもあります」
友「十年間……勇者が何もしてこなかった五年と、勇者が勇者と自覚して旅に出てからの五年……必死に必死になりました」
魔王「…………」
友「でもきっと、ボクはもう勇者に追い抜かれています」
友「……いえ、殺しても時間が巻き戻る段階で、既に勝ち目は潰えていたのでしょうけれど……」
友「それでも、純粋な勝負にすら、ボクはきっと、足元にも及びません」
友「おそらく、勇者が旅を始めてから半年も経たずに追いつかれ……」
友「五年も経った今となっては、追い抜かれていることでしょう」
魔王「……勇者とお前は、知り合いなのか?」
側近「えっ?」
友「……ちょっと、喋り過ぎましたね」
132:
魔王「話したくないのか?」
魔王「そう言われれば先ほども、なんだかんだで誤魔化されたな」
魔王「今までしていた、我の強さの秘密について話すことでな」
友「……別に、明かして困ることではないんです」
友「確かにボクと勇者は、同じ町出身の、幼馴染です」
側近「やはり貴様、勇者の仲間……!」
魔王「いや……違うぞ、側近」
側近「えっ……?」
魔王「……幼馴染だからこそ殺したい、か……」
友「……………………」
魔王「勇者に好きな人を取られたと言っていたが……」
魔王「その従妹や幼馴染の姉とやらが、勇者の下についたか」
友「……いいえ、違いますよ」
魔王「…………ほう……」
133:
友「言ったじゃないですか。正確を期すなら神に取られた、と」
魔王「なるほど……お前の復讐心は、嫉妬なんていう簡単なものではないということか」
友「だからといって、大層なもののつもりはありませんよ」
友「ただ、勇者のためにと神が振る舞った結果、ボクは神によって蔑ろにされた」
友「それがちょっと許せないから、例の神様に向けてちょっとした嫌がらせをしてやろう、ってな感じです」
魔王「ははっ。倒すことを嫌がらせと言うか」
友「大層なもののつもりがありませんから」
魔王「……良いだろう。気に入った」
魔王「お前の案に乗ろう」
側近「魔王様っ!? そんな簡単に……!」
魔王「簡単にじゃない。友の言うことにも一理あるだろう」
魔王「それに、どうせ負ける戦いと諦めていたんだ。なら、こういう方法も悪くない」
魔王「何より、勇者が弱いまま我の前に姿を現すというのも面白い」
魔王「友の考えでは、城に着く少し前にいきなり我が強くなれば良いのだろう?」
側近「なるほど……それなら確かに勇者も対処できない……!」
側近「さすが魔王様ですっ!」
魔王「我ではない。友の考えだ」
魔王「それで良いのだろう?」
友「……………………はい」
友「ボクの意見を取り入れてくださり、ありがとうございます。魔王様」
魔王「……………………」
139:
???翌日???
側近「魔王様」
魔王「ん?」
側近「魔王様の指示通り、勇者一行の行方を調べてまいりました」
魔王「ご苦労」
魔王「それで、何か分かったか?」
側近「……いえ、特にこれといったことは」
魔王「そうか……我の思い過ごしだったか……」
側近「……何か、気になることが……?」
魔王「なに、勇者を弱いまま招くと言った時にちょっと言い淀んだことが気になったのでな」
魔王「もしかしたら勇者側と何かあるのかと思ったのだが……」
側近「なるほど……」
側近「……あ、しかし一つだけ、ちょっとおかしいなと思ったことが」
魔王「ほう……申してみよ」
側近「耳に入れるほどのことでもないかもしれませんが……勇者一行の現在地について、少し」
151:
側近「魔王様が生み出した魔物球の数は三つ。その中の最初の一つ目は、魔王様が生まれると同時に作り出されたものです」
側近「そして同時に先代魔王の魔法が発動し、私が生まれました」
側近「そして、二つ目の魔物球からの魔物……」
側近「今の魔王城周辺のような魔界を作り出し、そして勇者目覚めの気配と同時に世界へと散らばらせたその存在」
側近「いまだ全土に広がっていないそれらとすら、いまだ接触していないのです」
魔王「…………ふむ……それは、ちょっとおかしいな……」
魔王「あまりにも勇者一行の進みが遅い」
魔王「友の言い分を信じるなら、だがな」
側近「はい……」
魔王「……少し、友に聞いてみるか」
魔王「彼をこの玉座に」
側近「はっ」
152:
??????
友「勇者がまだそんなに進んでいない、ですか……?」
魔王「側近の話だとどうもそうらしい」
側近「場所は??――です」
友「……ボクと勇者が生まれ育った町の一つ隣……」
友「山を抜けるための洞窟すら抜けていない……」
友「旅を始めてからずっと故郷の町周辺で魔物狩りをしていたとでも……?」
友「まさか……五年もの間町から出ないなんてことは……」
側近「ちょっと待ってください。五年ってなんですか?」
友「えっ?」
側近「昨日もそう言っていてつい流してしまいましたが……」
側近「……いえ、その前にちょっとだけ説明を致しましょう」
153:
側近「私の情報は、人間の味方である神によってもたらされる物」
側近「これは先代の魔王が勇者に対抗するために作り出した、世界に干渉する魔法です」
側近「神から情報を得ることで、確実に勇者を知る……」
側近「生まれてくる時の、万物が神と一度接触するその時に、神へと攻撃し強制的に“もたらさせる”」
側近「だから得られる量は私が生まれようとする度に違うし、生まれてしまえばもう得られないのがキズですが……」
側近「しかし、その情報は確実です」
友「それが、どうしました?」
側近「ここまでは前置きです」
側近「ただ、私の情報は正確だと言う事を知っておいて欲しいということで」
154:
側近「その上で話します」
側近「勇者の気配を察知したのは、魔王様が生まれてから六年後……つまり、今から一月前です」
友「一月……!?」
魔王「……友が旅を始めたのは、勇者が“勇者”と認められた時だったな」
魔王「つまり、側近が勇者の気配を察知した時とほぼ同時だと言う事になる」
魔王「勇者が旅を始めたのは半月前……過去にそう側近から報告を受けた記憶がある」
魔王「だから勇者の旅立ちは、お前の旅立ちから僅か半月後でしかない」
魔王「……改めて訊ねるぞ、友」
魔王「五年とは、どういうことだ……?」
友「……………………」
魔王「話せない、か……」
友「いや……話せない訳じゃあないんです」
友「ただ、自分でもよく分からないだけで……」
155:
友「……………………」
側近「どうされました? 矛盾をなくせる説明を探してるのですか?」
友「いえ……ただ、ありのままを話すと、どうもおかしいことになるんです」
魔王「良い。申してみろ」
友「……ボクが勇者の下を離れたのは、勇者が勇者として覚醒したからです」
友「そのせいでボクは、神を堕とそうとするキッカケを得た」
友「そしてボクの中でそれは、ちょうど五年前……」
側近「……つまり?」
友「お二人が一月前の覚醒と言われていることが、ボクにとっては五年前なんです」
156:
側近「そんな戯言、信じてもらえると思っているのですか?」
友「思っていません。だからこそ一度、話そうかどうか躊躇ったんです」
側近「大仰なウソなら誤魔化しきれるとでも?」
友「ウソじゃあないんです。なんなら、五年間の一人旅を全て話しても良いぐらいです」
友「その結果こそ、この世界全てを知る知識に繋がったのですから」
魔王「勇者覚醒と同時に旅立ち、僅か一月で知識を得たという可能性は……?」
友「それはあり得ません。間違いなく五年間、経過しています」
友「……もしかして、人間じゃなくなったせいで、時間の経過がおかしくなっているのか……?」
魔王「生きる時間軸が変わったということか?」
友「しかし、そんな知識はボクにもなかった……」
魔王「ふむ……つまり、友もよく分からないと」
友「…………はい……」
友「ボクですら正直、戸惑っているぐらいです」
157:
友「あの……魔王様。それと側近さん」
友「こんなことを許可してもらえるとは思えませんが……お願いがあります」
側近「? なんだ?」
友「ボクを、勇者の元へと向かわせてくれませんか?」
側近「なっ……!」
友「もしかしたら何か……このズレについて分かることがあるかもしれません」
側近「ダメに決まってるだろ! そんなことっ!」
側近「やはり貴様、勇者の仲間だったかっ!」
友「……そう言われると、思ってはいました」
魔王「だが、お前は言った」
魔王「何か理由があるのか?」
友「……妙に、気になるんです」
魔王「勇者のことが、か?」
友「時間のズレが、です」
友「何か……知っておいた方がいいようなことがある気がして……」
魔王「…………ふむ」
159:
魔王「ならば友よ。一つ呪いを受けてみるか?」
友「呪い……?」
魔王「ああ。先代の魔王か勇者かは知らないが、放置されてた呪いの全身鎧がある」
友「それは……装備すると外せない類ということですか?」
魔王「それでは側近が納得しないだろう。装備したまま勇者に情報を流す可能性がある」
魔王「そうではなく、こちらが指定した条件を破れば死に至らしめる呪いの鎧だ」
友「そのようなものが……」
魔王「ああ。どういった経緯で存在しているのかは我にも分からんけどな」
魔王「それとも、装備して勇者の元へと向かうのに、何か不都合でもあるのか?」
友「……いえ。むしろ大歓迎です」
友「魔王様からもらえる呪いの全身鎧となれば、神の加護を一身に受けている勇者と接触しても、ボクが神に存在がバレる可能性は低い」
友「人間で無くなったのに人間の姿をしているボクのことを神に勘付かれるのは、もしかしたら危ないかもしれませんからね」
魔王「そうか。では側近、我の私室に置いてある黒い鎧を持って来い」
側近「……そんなものありました?」
魔王「ああ、あのクローゼットの中に置いてあるからな。まあ見てきてくれ」
160:
側近「あの、魔王様……」
魔王「ん? あったか?」
側近「えっと……それっぽいのはあったんですけど……コレ……」
側近「埃被ってますよ?」
魔王「ああ、それで間違いない」
友「えっ!?」
魔王「ん?」
友「いや……まさか埃被ってるものを渡されるとは思っていなかったんで……」
魔王「クローゼットの中と言っただろう?」
友「言ってましたけど……」
側近(……そのクローゼットの中はおもちゃ箱みたいにメチャクチャになってることは言わないでおこう……)
魔王「ま、埃は被っているが呪いの強さは一級品だ。魔王直々のお墨付きだから安心しろ」
161:
友「でもクローゼットの中にあったのなら、先代かさらにその前かの魔王の代物じゃあないんですか?」
友「前の勇者のものの可能性は低いんじゃ……」
魔王「だからこそ、こちら側についたお前には打ってつけだろう?」
友「いえ、そうですけど……ならなんで“先代勇者の代物”って可能性を指摘したのかなぁ、と」
魔王「この城の位置は昔から変わらん。過去の勇者が使った武器も鎧も、全て神の加護によって守られた状態で城の中にいくつも放置されている」
魔王「この鎧は我等サイドの物だから神の加護を受けて守られてはいないが……それでも、過去の勇者が持ってきていて、荷物になったから捨てた可能性も大いにあるだろう。それだけだ」
友「……魔王様は城から出られない」
友「その代わり、自ら生み出す魔物と、魔族に分類される存在全ては、神の影響を受けない」
友「確か、そうでしたよね」
魔王「ああ。その通りだ」
162:
魔王「そして、この鎧もその類の、言わば世界に干渉された魔法の鎧だ」
友「世界に干渉……」
魔王「ああ。これは我が魔力を込め、禁止事項を刻み込むことで、相手の動きを制限する役割を持つ」
魔王「例えば、魔物を攻撃するな、という禁止事項を刻んだコレを装備すれば、魔物を攻撃すると同時に鎧の内側から魔力の刃を発生させ、装備者を殺す」
魔王「まあ、勇者達のような神に認められた存在なら、精々ダメージを与えるのが限界だろうがな」
魔王「そして呪いごと解除するには、我自身が手を出す必要がある」
魔王「神に仕えるものなら、もしかしたら外すことぐらいは可能かもしれんがな」
友「なるほど……」
友「つまり神に認められなかったボクなら、魔王様が定めた禁忌を犯せば、一撃で死んでしまう」
魔王「だからこそ、枷として十分な役割を果たすだろう?」
友「……そうですね」
友「しかも外せない以上、万一勇者達に死体となったボクが見つかっても、顔を見られる心配もない」
友「……拒絶する理由はありませんね」
友「ぜひ、お願いします」
163:
??????
魔王「着心地はどうだ? 友」
魔王「いや、黒騎士、と呼ぶべきか」
黒騎士「埃を払った黒の鎧……」
黒騎士「……まぁ、ボク程度の剣の腕で騎士を名乗ろうと言うのなら、このぐらいでちょうど良いのかもしれません」
魔王「そうか。気に入ってもらえて何よりだ」
魔王「それで黒騎士。その呪いについてはしっかりと把握しているか?」
黒騎士「命に関わることですからね。もちろん」
黒騎士「神の影響を受けている人間に、ボクの正体を悟られること」
黒騎士「それが呪いの発動条件……ですね」
魔王「ああ」
魔王「条件が条件なだけに、人間の神遣いにも声をかければ発動する」
魔王「言葉や文字で伝えようとしても発動する」
魔王「勝手に向こうが悟っても発動する」
魔王「厳しい条件かもしれないが、世界と干渉した魔法とはそういうものだ」
魔王「本当に神を堕とすつもりならまだ死ねないだろう? なら、自らの行動全てに細心の注意を払うんだな」
164:
魔王「では、側近の魔法で勇者の近くへと送ろう」
黒騎士「そんなこと出来るんですか?」
側近「はい。私は魔王様のフォローを担う存在ですので」
側近「それぐらい造作もないことです」
側近「魔王様が城の外に出られないので、使う機会なんてもっぱら偵察だけですがね」
魔王「では黒騎士よ、準備を怠るなよ」
魔王「明日にはお前を連れ戻させるのだからな」
黒騎士「期間は一日……了解しました」
黒騎士「魔王様、側近さん……本当、ありがとうございます」
魔王「良い」
魔王「その代わり、しっかりと原因を見つけてくるのだぞ」
165:
??????
側近「魔王様……本当にアレで良かったんですか?」
魔王「ああ」
側近「そうですか……」
側近「では、私は彼の監視に移ります」
魔王「ふっ……やはり分かっているな、側近は」
側近「……まだ、あの人間を信用するに値する材料は揃っていませんから」
側近「それに魔王様自身、彼が何か言い淀んだのを気にしてらっしゃったので」
側近「ただ……死と隣り合わせな状況を作る必要があったのかどうか、という疑問はありますが」
魔王「なんだかんだで優しいな、お前は」
側近「そういう訳では……」
魔王「確かに。アレは相手に悟られるだけで発動する」
魔王「だからこそ、もし彼が勇者の仲間で、ここへはスパイのためにやってきたのなら……あの姿を見られるだけで勇者も悟るだろう」
魔王「あの黒騎士は自らの仲間だ、とな」
側近「その察するという行為が仲間の死を招くとも知らずに、ですか」
魔王「そういうことだ」
166:
魔王「それで側近には、友が勇者達の前に姿を現さずに連絡を取ろうとするかどうかを監視して欲しい」
魔王「そしてその監視中にさり気なく、友を勇者一行と話す方向に持っていってくれ」
側近「なるほど……」
側近「ということは、声を変質させる魔法を使っても……?」
魔王「当然だ」
魔王「仲間なら、声が変わっても分かるだろう」
魔王「それは友も自覚している」
魔王「故に、もしそれで会話を渋ったなら、それは勇者の仲間という線が濃厚になるということだ」
魔王「それを警戒して話せば死ぬだろうし、な」
側近「了解しました」
魔王「その間、我ももう一つ球を生み出しておこう」
魔王「もし敵だったならかなりの出遅れになる」
魔王「それぐらいはしておかなければな」
167:
側近「ですがもし、それで会話をして、相手に彼の正体が悟られなかったのなら……」
魔王「その時は、本当に神を堕とすつもりなのだと信じてみることにしよう」
魔王「そして疑っていたことと、勝手に魔物の球を生み出したことを謝罪する」
魔王「つまり、彼を完全に仲間だと認める」
魔王「……側近も、それで構わぬな」
側近「……もちろんです」
側近「ここで信じないというのは、先代魔王様による世界の干渉魔法の否定――ひいては、神の力が上だと認めることとと、自己の否定になります」
側近「何より……魔王様が信じるといったのなら、私はそれに従うだけです」
魔王「ありがとう、側近」
魔王「では友の転送と監視の方、よろしく頼むぞ」
側近「はっ」
側近「お任せください、魔王様」
側近「その任務、全うしてみせます」
171:
◇ ◇ ◇
洞窟内・出口付近
◇ ◇ ◇
側近「そろそろ、勇者達がやってくる頃かと」
友「そうですか……」
側近「あの岩陰に隠れましょう」
側近「それとも、話でもしますか?」
友「いえ、見るだけで十分ですよ」
友「って、側近さんも一緒なんですか?」
側近「当たり前です。私はあなたを疑っているのですから」
側近「それとも、一緒にいられるとマズいですか?」
友「まさか。ただこの鎧があるから大丈夫なのに……と思っただけです」
友「……もしかして側近さん――」
側近(早怪しまれた……?)
友「――この呪いのこと、あまり信じてません?」
172:
あ、やってもた
>>171全訂正
◇ ◇ ◇
洞窟内・出口付近
◇ ◇ ◇
側近「そろそろ、勇者達がやってくる頃かと」
黒騎士「そうですか……」
側近「あの岩陰に隠れましょう」
側近「それとも、話でもしますか?」
黒騎士「いえ、見るだけで十分ですよ」
黒騎士「って、側近さんも一緒なんですか?」
側近「当たり前です。私はあなたを疑っているのですから」
側近「それとも、一緒にいられるとマズいですか?」
黒騎士「まさか。ただこの鎧があるから大丈夫なのに……と思っただけです」
黒騎士「……もしかして側近さん――」
側近(早怪しまれた……?)
黒騎士「――この呪いのこと、あまり信じてません?」
173:
側近「…………ま、正直な話……そうですね」
側近「魔王様のことは信用してますけど、埃被ってた鎧の呪いというのはさすがに……」
黒騎士「でも側近さんなら、この鎧から禍々しさとか魔力的なものとか、そういうのが分かるんじゃないんですか?」
側近「いえ、さっぱり」
側近「だからこそ余計に、ですよ」
側近(そういうことにしておこう)
黒騎士「なるほど……分かりました」
黒騎士「まぁ楽しくはないと思いますけど、よろしくお願いします」
側近「よろしく……? ……監視される方が言うのはおかしくないですか?」
黒騎士「いえ、これで信じてもらえたら良い訳ですから」
黒騎士「しっかりと監視してください、という意味ですよ」
174:
ガヤガヤガヤ…
黒騎士・側近「「っ!」」
黒騎士「早く隠れますか」
側近「そうですね」
タッタッタッ…
「ふぅ……そろそろ出口か」
黒騎士(魔戦士……)
「魔物が出てくる前はこんなに苦労しなかったんですけどね……」
黒騎士(僧侶……)
「でも、町を出たばっかの頃よりは着実に強くなってるよね、あたし達」
黒騎士(女……いや、剣士)
「だが、油断は禁物だ。相手も出口近くに強い魔物を置いている可能性があるからな」
黒騎士(……男……)
黒騎士(……いや、勇者……)
175:
側近「男三人に女一人……あの剣士以外は全員男ですか……」
黒騎士「まぁ、勇者と剣士以外のあの二人には、それぞれ婚約者がいますから」
黒騎士「側近さんが考えるようなやらしい行為はないはずですよ」
側近「やらしい行為……?」
黒騎士「……いえ、忘れてください」
黒騎士「最低な冗談でした」
側近「?」
黒騎士「ちょっと、気が昂ぶっているのかもしれません……申し訳ない」
黒騎士「ともかく……その例の婚約者二人というのは、勇者に近しい人なんですよ」
側近「……誤魔化しきれてませんけれど……まあ、良いです」
側近「にしても、近しい人ばかり……ですか……」
側近「何か、作為的なものを感じますね」
黒騎士「あるんですよ。作為が」
黒騎士「神の手によっての、ね」
176:
側近(……彼は、勇者に好きな人を取られた……)
側近(勇者とあの女以外の二人にはそれぞれ婚約者がいる……)
側近(つまり……あの剣士は勇者のモノだということで……)
側近(…なら…彼が好きだったのはあの女剣士と言う事、か……)
側近「……それで、勇者達を見て、何か気付きました?」
黒騎士「……はい」
黒騎士「……彼等を見て、正直違和感があります」
側近「違和感……?」
黒騎士「……認めるのは、イヤなんですけれど……」
黒騎士「どう見ても彼等の外見の変化が……五年も経っていないんです」
177:
黒騎士「魔戦士と僧侶の年齢は知りませんが……少なくともボクと勇者と剣士の年齢は一緒です」
黒騎士「……もし別れてから五年も経っていれば、もう少し変化があってもおかしくはない」
側近「どうして?」
黒騎士「ボクが町を出たのは十六歳の時」
黒騎士「そこから五年ですよ? さすがに、変化があるはずです」
側近「……人間の成長についてはよく分かりませんが……そういうものなんですか?」
黒騎士「はい。ただ、確かに少しは成長しているんです」
黒騎士「でもそれが五年分かというと……とても……」
側近「では……やはり五年も旅をしていたというのはウソだったと……?」
黒騎士「まさか……そんなはずは……」
黒騎士「大体それなら、ボクのこの記憶の説明が……五年間の旅、確かに詰まっているその中身の理由の……説明が……」
黒騎士「…………っ!」
側近「…………?」
黒騎士(…………え……? あれ……?)
黒騎士「どういう、ことだ……?」
178:
側近「? どうしました……?」
黒騎士「おかしい……おかしいんだ……」
側近「……?」
黒騎士「……側近さん、急いでここから離れてください」
側近「え……?」
黒騎士「早く……!」
側近「っ!」
179:
???洞窟、入口???
側近「……とりあえず、勇者達とは反対側まで転移しましたが……」
黒騎士「あ、ありがとう、ございます……」
側近「一体どうしました?」
黒騎士「いえ……あのままだと、パニックで声を荒げてしまって、居場所がバレてしまいそうだったので……」
側近「え……?」
黒騎士「……ねぇ……側近さん……聞いてくれますか……?」
側近「……なにを……?」
黒騎士「おかしいんです……」
黒騎士「さっきまであった記憶が……ないんです」
側近「記憶が……?」
黒騎士「魔王城にいた頃にあった、五年間の旅の記憶……」
黒騎士「とても大切な、大事な、ボクの歩んできた軌跡のその全てが……記憶から……」
黒騎士「消えたんです……っ」
側近「なっ……!」
180:
側近「まさか……神、か……?」
黒騎士「わ、分かりません……」
黒騎士「でも、人間じゃあなくなったボクの記憶を操作できるなんて……」
黒騎士「いやしかし、現にボクは……」
黒騎士「でもそれなら、さっきまであった記憶がなくなった説明が……!」
黒騎士「いやでももしかしたらその記憶自体が最初から作られたもので今いきなりなくなっただけででもいやしかしおかしいおかしいおかしいあれあれあれあれ? あの時ボクはどうしたんだ? どうやって外に出てどうやって歩いてどうやってあそこまで行ってどうやってこれらの情報を得て今を歩んで今こうしていて今勇者を見て勇者のことを知って勇者のせいで世界のことをああああああああああああああああああああああああ……!」
側近「友っ!!!!」
黒騎士「はっ……!」
側近「深く、考えるな……」
黒騎士「側近さん……!」
黒騎士「でも……でも……!」
側近「とりあえず、魔王城に戻りましょう」
側近「それからでも遅くはないです」
側近「記憶の整理は」
側近(……スゴイ汗……顔も真っ青……)
側近(とても、嘘をついてるようには思えない……)
側近(今にも消え入りそうな、足元から崩れて無くなってしまいそうな、そんな……)
側近(……演技で、いきなりこんなに、儚げになれるはずなんて、ない……)
181:
側近「さあ……早く戻ろう」
黒騎士「…………いえ……」
側近「友っ!」
黒騎士「いえ……記憶の整理は、確かに、あとでも出来ます……」
黒騎士「いきなり、ぽっかりと空いて、おかしいことだらけで……すぐにでも、埋めたり、整理したり、したいけれど……」
黒騎士「でも、それよりも先に、話しておきたいんです」
側近「なにを……?」
黒騎士「言葉を」
黒騎士「女に――あの、剣士に」
186:
??????
◇ ◇ ◇

宿屋
◇ ◇ ◇
剣士「それじゃあ、あたしは先に休ませてもらうわね」
魔戦士「おう、おやすみ」
僧侶「隣ですので、何かあったらすぐに呼んで下さい」
剣士「分かってるわよ」
187:
ギィ…
剣士「ふぅ?……」
パタン…
剣士「初めての洞窟は疲れたな?」
剣士「でも……確実に、強くなってる」
剣士「半年間だけ戦い方を学んで、そこから旅を始めて……こんなに実感できてる」
剣士「これなら案外魔王も楽勝だったりして」
黒騎士「生憎と、それは無理な相談だ」
剣士「っ!」バッ
黒騎士「そう身構えるな、剣士」
剣士(いつの間に……扉側に……!)
剣士(一緒に部屋に入ったはずがない……)
剣士(いや……入ったのに、あたしが気配に気付けなかった……?)
黒騎士「ふっ……我が力に恐れをなしているか……」
剣士(っ! みんなを……!)
黒騎士「おっと、大声を上げてもらっては困るな」チャキ…!
剣士(っ! ……いつの間に……首元に……)
剣士(剣を抜く瞬間すら、見えなかった……)
黒騎士「こちらとしても、手出しするつもりはない」
黒騎士「お前が仲間を呼ばなければ、な」
188:
剣士「……そんな言葉、信用できるとでも?」
黒騎士「信用してもらうしかないさ」
黒騎士「でなければ、大声を上げた瞬間にお前を殺すことになる」
剣士「っ」
黒騎士「ここで、勇者との旅を終えたくはないだろう?」
剣士「……それじゃあ、何の用?」
剣士「そもそも、あなたは誰?」
黒騎士「誰……? そうだな……」
黒騎士「……………………」
剣士「?」
黒騎士「……黒騎士、と名乗っておこうか」
剣士「黒騎士? ふ?ん、見た目の陰湿さ通りな名前ね」
剣士「で、用件はなに?」
黒騎士「……なに、ちょっとした挨拶さ」
黒騎士「いずれ倒すことになる相手の、な」
剣士「ふんっ……今殺さないのは、殺すにも値しないってところ?」
黒騎士「いや……違う」
黒騎士「今日は、覚悟を決めに来ただけだ」
剣士「覚悟……?」
189:
黒騎士「そう……覚悟だ」
黒騎士「お前たちを敵だと思い、戦うための覚悟……」
黒騎士「だからこそ、お前と二人で話す必要があった」
剣士「…………」
剣士「……もしかして、昔会った事でもあるの?」
黒騎士「……さぁ、な……」
黒騎士「しかし、もう十分だ」
チャキ…
黒騎士「次に来る時は、互いに殺し合うときだ」
黒騎士「そのことを忘れるなよ……女」スゥ
剣士「っ! どうして、あたしの名前……!」
剣士「って、訊く前に消えるなってのっ!」ダンッ!
190:
ドタドタドタ…!
魔戦士「おい剣士! どうしたっ!?」
僧侶「何か大きな物音がしましたが……!」
剣士「……ううん、別に」
剣士「ちょっと今日の反省してたら、自分にイラついただけ」
魔戦士「はぁ? なんだそりゃ?」
僧侶「全く……人騒がせですね。でも、何も無くて良かった」
魔戦士「勇者は買出しに出かけてんだ。あんま心配かけんなよ」
剣士「ごめんごめん」
剣士(……なんであたし、アイツとのこと話さなかったんだろ……)
剣士「黒騎士……か……」
191:
◇ ◇ ◇
魔王城
◇ ◇ ◇
側近「どうして、あんな危険なことを話しに行ったんですか?」
側近「もしかしたら魔王様がかけた鎧の呪いで、死んでしまったかもしれないんですよ?」
友「あれ? 側近さんは呪いのことは信じていないんじゃなかったですか?」
側近「……その言葉がウソだと分かっていて、訊ねてますか?」
友「まぁ、側近さんが魔王様の力を疑うとは思えませんしね」
友「何より、着ているただの人間だったボクですら、どこか禍々しさを感じてるぐらいです」
友「ちょっと取って来た場所がアレだからって理由だけで、側近さんがこのオーラを感じ取れない訳ないですから」
側近「なるほど……ということはあの行為は、私達に信頼されるための行動だった、と」
側近「呪いが発動しないぐらい、彼等とは縁遠くなっているという証明をしたのですね」
友「……よく、分かりません」
友「ただ最初は――あの女剣士に声をかけると言っていた時は、少なくとも、そんなつもりはありませんでした」
側近「え……?」
友「……言わなくても良いことですが、あえて言っておきます」
友「あの時ボクは、何故か魔王様のいるこの城への行き方を、話そうとしていました」
側近「なっ……!」
192:
友「ボクは、世界の秘密を知って、人間じゃなくなりました」
友「けれども、それでも、元は人間です」
友「……おそらくですけれど、記憶が混濁したあの瞬間……ボクは一瞬、人間に戻ったのだと思います」
友「それによって、人間だったなら神によって起こさせられたことを、強制的に実行させられた」
友「でも、言う寸でのところでまた人間じゃなくなったから、それを実行に移すことがなかった」
友「そして咄嗟にあんな行動をとった」
友「事の顛末は、そんな感じです」
側近「……ちなみに、どこでまた人間じゃなくなったんですか?」
友「……女に、名前を訊ねられた時、でしょうか」
友「それまでの記憶もありますし、どういう考えでその行動に移ってたのかも分かっていますけれど……」
友「それでも、今の自分に違和感を覚えて、ハッとして、魔王様を裏切ろうとしているという自分を明確な意思で認識できたのは、その時でした」
友「だからたぶん、その時にまた人間じゃなくなれました」
友「それまでは、裏切っても当然だと思っているかのように、自分の考えに違和感がありませんでしたから」
193:
側近「…………神の影響、というのが、魔族である私には分かりませんが……」
側近「自分の考えを持っていて、自分で行動を起こしているのに、実は自分の意思が伴っていない」
側近「そういうものだと認識して良いのですか?」
友「はい……」
友「ですから、明確に神の影響を与えられた瞬間というのが、実は分からないんです」
友「魔王様と一緒に行動すると決めたはずなのに、何故かあの時だけは、魔王様を裏切ることがおかしいとは思いませんでした」
側近「なるほど……まるで催眠術による洗脳のようなものですね」
友「洗脳……」
側近「ただそれが、人間として生を成してからずっと続いているから、洗脳されたという事実にすら気付けない」
側近「そういうことなのでしょう」
194:
友「……信じてくれるんですか?」
側近「……咄嗟にとは言え、ああして危険に身を晒して、自分が勇者の味方ではないと示してくれたんです」
側近「信じないわけにはいきません」
側近「何よりあの話をした女性、昔からの顔なじみだったようですし」
側近「でなければ、神に操られていたあなたが、魔王様の居城を教えようとはしないはずですからね」
友「……その言葉すら、ウソかもしれないんですよ?」
側近「それはないでしょう」
側近「それならあなたと勇者一行がグルだったということになります」
側近「だったら今頃あなたは、鎧に貫かれているはずです」
友「……そう、でしたね……」
側近「……それとも、あの女性と顔なじみだと知られたくない理由でも?」
友「……いえ」
友「ただ、あの女剣士――幼馴染と、勇者とボクは、子供の頃から一緒でした」
友「それなのに、忘れられていた」
友「それが少し、自分でも認められないだけで……」
195:
側近「……………………」
側近(これは……あの時の妙な取り乱し方について訊ねるのは危険か……)
側近(心が折れている今、妙なつっつき方をして、また神に意識を取られると面倒ですし)
友「まあ、声だけで分かってくれ、なんてのは、虫が良すぎる話なんですがね」
側近(……そういえば、変性魔法を使ってなかったですね……)
側近(……なら、尚の事――)
側近「――安心出来ますね」
友「え?」
側近「より信頼できると、そう言ったんです」
側近「まさか、自分のことを忘れている相手のために、命を懸けて魔王様の元までやってこないでしょう?」
側近「もし来たとしたらそれは……神に完全に操られた、ある意味人間ではなくなった、ただの人形である場合だけ」
側近「さすがにあなたがそんな存在なら、神の影響を受けていない私たち側の存在が、そのことに気づかないはずがありません」
側近「よく人間の街で見かける人々のような、あの生きていながら生きているだけの雰囲気ならすぐに気付けますし」
196:
側近「あなたに、そんな雰囲気はありません」
側近「ですから、安心してください」
側近「あなたはれっきとした、人間じゃなくなった人間です」
側近「決して、人形じゃあありません」
友「……ありがとうございます」
友「ちょっと、自分のことを信じられそうです」
側近「そうですか。それは良かったです」
友「…………側近さんには、また助けられましたね」
側近「また?」
友「ボクの記憶が混乱したとき……側近さんがボクの名前を叫んでくれたから、ボクはその時少しだけ、落ち着けました」
友「もし名前を呼んでくれなければ……それこそ、人形になっていたのかもしれません」
友「本当に、助かりました」
側近「……お礼を言われるほどのことではありませんよ」
側近「それにあの時は結局、神によって操られてしまったようですし」
友「それでも、ですよ」
友「……そう言えばあの時、初めて側近さんに名前を呼ばれましたね」
側近「……そうでしたか?」
友「はい」
友「……もう、呼んでくれないんですか?」
側近「……考えておきます」
側近「それよりも、そろそろ魔王様の元へと向かいましょう」
側近「これらのこと、報告しないといけませんからね」
201:
??????
◇ ◇ ◇
魔王城・自室
◇ ◇ ◇
友「ふぅ……」
友(今日は色々とあった……)
友(記憶が混乱して、それを魔王様に報告して、納得してもらって……ボクを信用していなかったからと魔物の球を生み出したことを謝られて、でもそれは当然だったから頭を上げて欲しいとボクがお願いして、仲間だからとこんな部屋までもらって……)
友(……認めてもらえたのか、ボクは)
友(今まで、信じてもらえてないという自覚はあった)
友(だから、魔物の球は当然だと思った)
友(だって、そんな目をしていたから)
友(でも、今日。仲間だと言ってくれてからは、疑いの眼差しが少しも混じらなくなって……)
友「…………」
友(……それだけ魔王様は、側近さんのことを信じているってことか……)
友(あの人自身が大丈夫と言ったから信じよう、だなんて言って、それを本当に実行に移せるってことは……そういうことだろう)
――これからはお前も、我が仲間だ――
――歓迎するぞ……友よ。……我が仲間よ――
友(……仲間、か……)
友(いまだ神の影響を受けてしまうのに、本当に良かったのだろうか……?)
友(こんなボクが、神の影響を受けない彼女達の、仲間だなんて)
友(でも……ボクも、側近さんのように、信用されたい……)
チラッ
友「っ!」
202:
 部屋にあったのは、姿見の鏡。
 そこに移ったのは、旅に出た時とそこまで変わっていない、自分の姿。
 今まで記憶にあった、自分の姿を思い出そうとして……この鏡に映った姿しか、思い出せない。
 違うのに。
 違うということは分かっているのに。
 なのに、今まで自分はこんな外見だったと、記憶が正しく、訴えかけてくる。
 これ以外の姿はなかったと。
 自分は、この城に来たときから、こんな外見だったと。
 違うと、分かっているのに。
 それなのに、この姿しか自分の記憶には、なかった。
 自分という、存在が。
 形が。
 姿が。
 これより老けていたと思うのに、成長していたと思うのに……その姿が全く、頭の中に浮かんでこなかった。
203:
「っ????????????????……!!!!」
 叫びそうになるのを堪える。
 あの時……記憶が混乱したときを思い出し、また神に操作されると言い聞かせ、なんとか、己の自我を保つ。
 操られるなと訴えかけながら。
 この記憶の混乱は、どういうことだと考えるのを、巡るのを、冷静になるまで、必死になって、食い止める。
 頭の中に、側近さんが呼んでくれたボクの名前を、何度も反響させて。
 あの時の……初めて名前を呼ばれたときの嬉しさを、思い出して。
「つっ……!」
 指を噛み、血を流し、痛みで己を自覚して。
 あやふやになりそうな存在を、崩れそうになる足場を、今ここにいるという真実を、何度も何度も、血の味と共に身体に沁み込ませながら……手放さないようにして。
 神から忍び寄る手を、なんとか振り払って。
 ボクはなんとか……さっきと同じで……一度、考えるのを止めて、自分を、落ち着かせた。
 今度は、神による操作を、受けないようにして。
204:
 しばらくして、落ち着いて、ようやくやっと、側近さんを探す。
 広い城の中。
 魔物とすれ違う中、必死に探す。
 その時、魔物に襲われなかったことに、安心した。
 今の自分は、人間じゃないままで……だからと、勇者一行と同じ、神の操り人形にはなっていないんだと、知ることが出来たから。
205:
友「側近さん!」
友(やっと……やっと、見つけられた……!)
側近「ん? どうかしましたか?」
友「……一つ、お訊ねしたいことが」
側近「どうされました? 私、これから勇者の動向を監視しに行かなければならないのですが」
友「すぐに済みます」
友「……ボクの見た目は、変わっていませんよね?」
側近「……え?」
友「お願いします。何を言ってるんだと思うかもしれませんが、教えてください」
側近「…………何も、変わってないですよ」
友「そう……」
友「……そう、ですか……」
側近「……どうかされたのですね?」
友「いえ……大丈夫です」
友「勇者のことも気になりますし、行ってください」
206:
側近「……そういう訳にもいきませんよ」
側近「神に支配されそうになった今日その日です」
側近「勇者の監視よりも、仲間の方が心配です」
友「仲間……」
側近「はい」
側近「ですから、言ってください」
友「……あまり、気にするほどのことでもないんでしょうけれど……」
友「部屋にあった姿見を見たとき、自分が今まで見てきていた“自分”とは、姿が違っていたんです」
側近「違っていた……?」
友「具体的には、若かったんです」
友「自分が思い描いていた自分よりも、鏡に映った今の自分の方が」
側近「それは……」
友「はい」
友「あの時の記憶の混乱と一緒です」
207:
友「五年という旅の歳月……しかし、実際には二月しか経っていない……」
友「そもそも、この時間の齟齬こそが始まりでした」
友「今、それと同じこと起きて、混乱しながらも整理して、落ち着きを挟み込みながら思考して、幾つかの可能性を搾り出して、そしてさっきの言葉で結論とも呼べるべき仮説を――」
側近「待って下さい」
友「――え?」
側近「友。あなたまた、記憶が混乱してませんか?」
友「え……?」
側近「なんとなく、そんな雰囲気がしました」
側近「ですから、その話をして、またあなたがあんな感じにならないという保障はありますか?」
側近「もしないのなら、今その話はしなくても構いません」
友「でも……」
側近「また、次の機会で良いんです」
側近「落ち着いてから、自分が確かにここにいると、心が安定して、神に操られないと、そう確定してからでも、構いません」
側近「時間なら、たっぷりとあるんですから」
208:
友「……ありがとうございます。心配してくれて」
友「でも、今話しておきたいです」
友「言葉に出しておかないと、頭の中で一人考え続けると、さらに気が狂ってしまいそうで……」
友「違うかも、そうなのかも、と何度も何度もシーソーのように否定と否定を繰り返して揺り動いていたら、きっとボクはまた……」
側近「……では」
ギュッ
側近「こうして、手を繋いでおきます」
側近「……すごく震えているあなたを、少しでも、繋ぎ止めておきます」
側近「あなたは、ここにいます」
側近「神に操られそうになったら、呼び戻します」
側近「ですから……安心して、無理してください」
友「……ありがとうございます」
209:
友「実は、ちょっと怖かったんです」
友「でも――」
…ギュッ
友「――これで、怖くありません」
友「側近さんなら、神の手が及んでも、連れ戻してくれそうですから」
友「こうしていれば、安心します」
友「本当に、ありがとうございます」
210:
??????
友「……きっとボクは、神に見捨てられた人間なんです」
側近「神に……?」
友「はい」
友「会いに行った時も言いましたけど、女と男とボクは、一番古い記憶にある子供の頃から、同じ町で育った大親友なんです」
友「でもそんなある日――この関係は崩れました」
友「幼馴染が、男のことを好きだって、ボクに告げてきて」
側近「どうしてあなたに?」
友「協力して欲しかったんでしょう」
友「この頃はまだ子供ですからね。誘い方もアプローチの仕方も、何も分かりません」
友「でもそれは、ボクにとってはとても残酷なお願いだったんです」
側近「……どうしてですか……?」
友「ボクも、女のことが好きだったからです」
211:
友「その話を聞いたとき、咄嗟に告白してしまって……」
友「それでフられてからは、気まずくなって……」
友「そのまま自然と瓦解したんです」
側近「…………」
友「それで落ち込みながらも、ボクが我慢して二人を応援すれば何も問題ないとか思いながら家に帰ると、偶然従妹が来ていたんです」
友「その子はボクを見て――必死に表に出さないようにしているボクを見て、それでも何かを察して、ずっと励ましてくれました」
友「それがまた不器用で……でも、暖かくて……その時に思ったんです」
友「あぁ、この子には幸せになってほしいな、って」
212:
友「それからしばらくして、魔王が復活したという話が耳に届きました」
友「現に町の外にも、何匹か魔物がやってきていました」
友「それを見て、思ったんです」
友「ボクが従妹を守らないと、って」
友「……気が多いように思われるかもしれないですが、別に、恋愛感情じゃないんです」
友「ただ、本当に、幸せになって欲しいだけで……」
友「だから……それからは、必死に修行しました」
友「神に選ばれた存在でもないのに魔物と戦い、身体を鍛え、死にそうになりながらも強くなることを目指しました」
友「その時はまだ、神に選ばれていないと魔物を殺すのに苦労する、なんてことを知りませんでしたから」
友「強くなって、なってなってなり続けていれば、従妹を守ることが出来る」
友「……そう、信じていました」
友「でも……それは違いました」
友「まざまざと見せ付けられたんです」
213:
友「ある日、町の外れに魔物がやってきたんです」
友「その日ボクは、相変わらず修行に出ていました」
友「だから、気付いてあげられなかった」
友「その日何故か、町外れに従妹が行っていたなんて」
友「……でも、従妹は殺されなかった」
友「守ってくれたんです」
友「魔戦士が」
214:
友「ボクがそれを知ったのは、修行を終えて家に帰って、彼がいた時でした」
友「悪い目つき、粗暴な口調、鍛えられた肉体、柄の悪そうな見た目……全てがボクの対極」
友「でも、そんな人が、従妹を守ってくれた」
友「……悔しかった」
友「修行してきた意味が、全く無いと、見せ付けられて」
友「……どうしてあの時、ボクがあの場にいれなかったのか」
友「どうして、ボクが助けてあげられなかったのか」
友「それがとてつもなく、悔しかったんです」
215:
友「でも、それだけじゃあなかった」
友「ソイツが残していったのは」
友「……魔戦士が帰った後、従妹に聞かれたんです」
友「男の人へのお礼って何が良いの? ってね」
友「笑顔で、頬を赤く染めながら」
友「……その時、思ったんです」
友「ああ、ボクの頑張りは、無駄だったんだって」
友「どれだけ頑張っても、力をつけても……無駄なんだって」
友「でも……それでも、あの子を守ってくれるのが、あの人になるだけで……」
友「ボクじゃあなくて、ボクの嫌いなタイプである、アイツになるだけで……」
友「あの人のことを従妹が好きなら、それはきっと、幸せなはずで……」
友「だから、ボクは自分の胸の内を押し留めて、教えてあげました」
友「男性が喜ぶ、プレゼントを」
216:
友「それから、修行をしなくなりました」
友「無駄になったから」
友「ボクが守ってあげたい子は、これからアレに守られるから、もう大丈夫だと」
友「そう、思って」
友「そうして、落ち込んでいる時に……幼馴染の姉が、話しかけてくれたんです」
友「ボクが修行を始めて、そのキッカケを話しても、カッコイイと言って、頑張ってと言ってくれた、その人が」
友「……一人の男性を、傍に連れて」
友「僧侶を、隣に歩かせて」
友「その、雰囲気で……なんとなく、分かってました」
友「それでも、聞かずには、いられなかった」
友「その人はどちらさんですか? って」
友「そしたら、嬉しそうに、楽しそうに、喜びの中、教えてくれました」
友「婚約者だ、って」
217:
友「……別に、幼馴染の姉――まぁ、女の姉なんですけど……その人のことは、好きだったわけじゃありません」
友「でも、憧れてはいました」
友「修行をしているときの支えは、従妹と、その人だったから……」
友「だからって、幼馴染姉さんを自分が守りたいとか、自分のものだとか、思ったことはありません」
友「ただ、なんだか、自分の傍を離れるのが、寂しかっただけで……」
友「……だからこそ、それを告げられて、ずっとずっと付き合っていると教えられ……自分のその感情を押し込めて……」
友「その人は良い人なのが雰囲気で分かったから、自然に見えるように、笑顔を浮かべながら、『紹介してもらってよかった。僧侶さん、幼馴染姉さんのこと、お願いします』……そう、言いました」
友「寂しかったのは、幼馴染姉さんことが、好きなんて恋愛感情じゃなく……ただ純粋に、大切で……その人が、自分の傍にいてくれないからこそのものだっていう、自分勝手な物だって、分かったから」
友「だから、苦しい想いを募らせながら、平気な顔して言いました」
友「自分の近くには誰もいなくなったな、って……そう、思いながら」
218:
友「結局ボクは、独占欲の強い、全部自分の物だと自惚れていたダメ男なんです」
友「自分だけの物であって欲しいっていう、ガキなままの男……」
友「それがボクです」
友「勝手に奪われた気になって、勝手に守ってやろうと相手にも告げず躍起になって、勝手に相手のことを好きになっていた……」
友「そして、その全てが報われると、勝手に思っていた……」
側近「……それで、神を堕とすと……?」
友「まさか。そんなのは逆恨みです」
友「今までのは全て、ガキだったボクの身に起きた――起きるべくして起きた、当然の出来事です」
友「悲しいし……悔しいけれど……因果応報な出来事です」
友「決定的なことが起きたのは、その後です」
友「その後……男と、女と、僧侶と、幼馴染姉さんと、魔戦士と、従妹が、偶然にも、一堂に会しました」
友「それぞれに、今まで会った事がない人もいた、その集まり」
友「でも、全員が意気投合し……そして、握手を交し合ったときに、起きたんです」
友「神による、勇者認定の神託が」
219:
友「それが、決定打でした」
友「ああ、ボクは……このための捨て石にされたんだって」
友「なんの繋がりもないあの四人を繋げるために、ボクという存在を利用したんだって」
友「利用して、捨てるつもりなんだって」
友「何も報われないのが当然のボクだけれど、きっとどこかで報われていたかもしれない」
友「そんな妄想すら許さない、叩き落すための運命的決定事項」
友「ただただ、神によって操られていた、人形」
友「勇者一行を作るためだけに作り上げた、捨て石」
友「だって、その六人には神の声が聞こえて……ボクには何も、聞こえなかったから」
友「それを知って、愕然とした時……自分の中で、何かが壊れるような音がしました」
友「きっとそれが、人間じゃなくなった瞬間です」
友「神に見放され、捨てられて、影響を与える価値すらなくなった音……」
友「アレはきっと、その音だったんだと思います」
220:
友「それからは、旅をして、この世界の真相を知って、魔王様の元を訪れて……って感じです」
友「たぶん、ボクがそこまでするとは思っていなかったのでしょう」
友「だから、記憶が混乱した隙を衝いて、神がボクにまた影響を与えてきた」
友「でも、女に自分のことが分かってもらえなかったショックでまた混乱した時、ボクはその不完全だった神の影響を脱した」
友「そんなところでしょう」
側近「……………………」
友「って、すいません。長々と話をしてしまって」
側近「いえ、構いませんよ」
側近「あなたのことが、よく分かりましたから」
側近「とはいっても、好き嫌いなんて感情は分かりませんから」
側近「そういうものなんだ、って感じにしか分かりませんでしたけど」
友「ははっ……本当、すいません。長い前置きで」
友「なんだか、手を繋がれて安心してしまって……」
友「……たぶん、誰かに話したくて、仕方なかったんです」
友「それを聞いてくれて、ありがとうございました」
221:
友「それで、結局どうして五年も経っていたと思い込んでいたのかですけれど……」
友「おそらくは、世界のことを知った時に、何かあったんだと思います」
側近「……ふと思ったのですけれど、その知識とやらはどうやって手に入れたのですか?」
友「それです」
側近「……どういうことです?」
友「ボクは、その情報を得た場所・方法の記憶すらないんです」
友「記憶の中にあるのは、いつの間にか世界についての知識があった、といった感じなんです」
友「まるで、散歩をしているとき、ふと天啓が降りて来たような……」
友「神が勇者達に与えた、神託のような……」
側近「それなら……あなたはやっぱり、勇者サイドの……?」
友「それなら、こんな話を側近さんにさせないでしょう」
友「こんな、スパイだと明かすような行動を」
側近「……それすらもだとすれば……」
友「だとしたら、もうボクにはどうすることも出来ません」
友「神が、死んでも構わないけれど生きていればめっけもの程度の存在、なんて認識でボクをここへと送り込んだのなら、もうどうすることも出来ないですよ」
友「ただ、それでボクが裏切りそうになったら……側近さんなら、ボクを殺してくれるでしょう?」
222:
友「ボクが神を憎んでいることに、変わりはありません」
友「今までの行動やこの感情、その全てが神の掌の上だったとしても、その存在を憎んでいるのは確かです」
友「だから、魔王様の味方になりたいという感情も、本当です」
友「例え、その全てが作られたものだとしても……」
側近「……だから、もし違う考えになったら、殺して欲しいと……?」
友「……お願いします」
友「ボクは、仲間にしてくれたお二人を裏切るような真似は、したくありません」
友「だから、裏切ってしまったら……その時は問答無用で、殺してください」
側近「……ええ」
側近「分かりました」
友「頼みますよ?」
側近「まかせてください」
側近「仲間として、それぐらいはしてみせますよ」
223:
友「ただ、これは最悪の場合の話です」
友「何かあった、の何かについて、もう一つ仮説があります」
側近「もう一つ……?」
友「全てが神の掌の上ではなく……」
友「神の影響から外れたと思い込まされたのではなく、本当に外れていたのなら……」
友「この世界に関する知識を得た原因はおそらく、先代魔王の魔法です」
側近「それは……あり得るのですか?」
友「あり得て欲しい、という願望が混じっていないと言えば嘘になります」
友「ただ、根拠もあります」
友「……ボクは町を出てすぐ、魔物に襲われないことを知って、魔王様の元へと向かいました」
友「その道中でこの知識を、まるで五年間の旅の果てに手に入れた代物だと錯覚させられ、手に入れました」
友「……皆さんは、神の影響を受けない」
友「そしてその時のボクも、神の影響を受けていない」
友「もし、神の影響を受けなくなった人が、魔王様が生まれたことによって侵食され始めた世界に入った際、その知識が手に入るよう設定されていた魔法があったとしたら……」
側近「……なるほど」
側近「先代魔王様の魔法なら、こちらが認識できないように設定しておくことも容易いでしょうしね」
友「もしそうならボクは、その魔法を発動されることを望んでいた存在……言わば、先代魔王にとって“切り札足り得ると認められた”ようなものです」
友「だからこそ、あり得て欲しい仮説なんです」
224:
側近「なるほど……あなたの考えは分かりました」
側近「つまりあなたは、どちらにせよ五年間の旅は偽りの記憶だったと、そういうことですか」
友「はい」
側近「そしてそのせいで、いまだ自分に自信が持てずにいる」
側近「人間じゃなくなったのか、そう思い込まされている人間のままなのか」
友「……はい」
側近「……分かりました」
側近「…………また、手の震えが大きくなりましたね」
友「あっ……そういえば、ずっと繋いでいましたね」
側近「ええ。話しているときも、小さく震えたままでしたから」
側近「そうでなくとも、手を離して欲しくなさそうな表情してましたから」
友「……そんな表情してましたか」
側近「はい。もし手を離せばすぐに泣き出してしまいそうな表情でした」
友「そんなにですか……」
側近「……まあ、構わないですよ」
側近「この行為でどれだけ安心してくれるのかは分かりませんが……それで、落ち着いてくれるのなら」
225:
側近「ですから、そんなことは気にしないで下さい」
友「え?」
側近「神に操られたままなのか、そうじゃないのかなんて」
側近「だって、神の影響を受けていれば、私が手を繋ぐ気軽さで殺してあげます」
側近「神の影響を受けていなければ、仲間としてまた手を繋いであげます」
側近「ですからあなたは、今のあなたの感情のままに、動いてください」
側近「もし、あなたの仮説どおり、先代魔王の魔法が発動し、その魔法設置者があなたのような存在が切り札になると思っていたのなら……それがきっと、正しいことでしょうから」
友「……良いんですか?」
側近「はい」
側近「だって、仲間ですから」
友「…………神に操られた、自覚無きスパイかもしれないんですよ……?」
側近「……正直に言いますと、そんなの関係ないんです」
側近「さっきのだって、責めるつもりで聞いた訳ではありません」
側近「だってあなたは……殺してくれと、頼んだじゃないですか」
側近「それだけ私たちを仲間だと思ってくれている人を……一度信用した人を……仲間じゃないなんて、言えません」
226:
側近「魔王様が認めて、私も認めた、人間じゃなくなった、あなたの……」
側近「ずっとずっと孤独で、誰かの傍にいようと思っても見放され、あらゆるものから手を繋いでもらえなかった、あなたの……」
側近「……ちゃんとした、味方です」
側近「私たちは」
側近「私と、魔王様は」
側近「だから、あなたの殺してくれというお願いも聞くんです」
側近「仲間、ですから」
友「……ありがとう、ございます」
側近「お礼なんていりません」
側近「涙だってふいてください」
側近「そして、互いに頑張りましょう」
側近「勇者を倒すために」
側近「神を、堕とすために」
側近「一緒に」
側近「仲間として」
友「……っ…………はいっ……!」
227:
第一章終了です
というわけで本日ここまで
明日また投下できないからって張り切り過ぎた
ちなみに第二章は>>5からになります
次の投下からは第三章になり、そこから終わらせにかかります
もう少し辛抱してくださいマジで
231:
???第二章から一年後???
??????
魔王城・大広間
??????
側近「友」
黒騎士「側近さん。どうかしましたか?」
側近「……勇者一行が、ついに動き出しました」
黒騎士「…………そう、ですか……」
側近「ついに、ですね」
黒騎士「……………………はい」
側近「……怖いですか?」
黒騎士「怖い……そうですね……」
黒騎士「そうかもしれません」
黒騎士「ついに勇者を倒し、神を堕とせるかと思うと、ね」
黒騎士「何が起きるか分かりませんから」
232:
側近「……ふふっ」
黒騎士「? どうしました?」
側近「いえ……ただ、勝つ気満々だな、と思いまして」
黒騎士「そりゃそうですよ」
黒騎士「球から一体しか生み出せない強い魔物……それも四番目から生まれたコイツで特訓させてもらえたのですから」
ボス「…………」
黒騎士「側近さんにも、何度も回復魔法で助けてもらいましたし」
黒騎士「むしろ、自信がつかないほうがどうかしてますよ」
233:
側近「ですが、勇者一行も強くなっているはずです」
側近「僧侶とやらの故郷破壊の際に使用した魔物を世界に放ちましたからね」
側近「神の加護のおかげで、満足のいかない修行であっても強くなるのでしたよね?」
側近「ただただ人として強くなるしかない友にしてみれば、不利なだけでしょう」
黒騎士「それでも……ああでもしないと、勇者一行に危機感が生まれませんでしたから」
黒騎士「それまでみたいに急かさないままだと、おそらくさらに五年ぐらいは時間をかけられたでしょうし」
魔王「しかしだからと言って、それでお前が負けては意味がないのだぞ?」
黒騎士「魔王様……」
魔王「我はあれから球を生み出していない」
魔王「つまり、まだまだ弱いままだ」
魔王「見た目だって女の子のままだしな」
234:
黒騎士「大丈夫ですよ」
魔王「ほぅ? 自信満々だな」
黒騎士「はい」
黒騎士「正直、あと半年も経って彼らがこなければ、また相手の危機感を煽る行動に出ないといけなかったですし……」
黒騎士「魔王様にも、一か八かで球を新たに作ってもらうことになったのでしょうが……」
黒騎士「そうでないのなら、おそらく――」
黒騎士「――負けることはありません」
魔王「一か八か?」
側近「どういうことです、友」
黒騎士「……そうですね。思えば、どうしてボクが魔王様が球を生み出すのを止めていたのか、話していませんでしたね」
黒騎士「……魔王様は今、人間についてどう思っておられますか?」
235:
魔王「そうだな……神の言いなりになって哀れだな、ぐらいかな」
黒騎士「救えるのなら救いたいとは?」
魔王「人間が救いを求めるのなら、な」
魔王「神の束縛から逃れたくないと言うんなら、我から何か手出しするつもりはないが」
黒騎士「……優しいですね」
黒騎士「だからこそボクは、新たに球を生み出さないで欲しいと、そうお願いしていたのです」
魔王「? どういうことだ?」
黒騎士「……球を生み出せば、その感情が、黒く塗りつぶされる」
黒騎士「それが神の与えた、魔王様への――そして側近さんへの、数少ない悪影響の一つ」
側近「……っ! まさかっ……!」
黒騎士「…………はい」
黒騎士「これも例の知識で得たことなのですが――」
黒騎士「――魔王様は、新たに強い魔物を生み出すたびに、勇者を――人間を――段々と、理由も無く、憎むようになってしまうのです」
236:
◇ ◇ ◇
勇者サイド
◇ ◇ ◇
勇者「一年間……世界に散らばった、強い魔物と戦い続けた」
剣士「先代の勇者の剣も手に入れて、使いこなせるほどになった」
魔戦士「へっ、これで魔王にも負けねぇな」
僧侶「……果たして、そうでしょうか?」
魔戦士「僧侶は心配性だなぁ」
魔戦士「今の俺たちはたぶん世界最強だぜ?」
魔戦士「あの友って奴にだって負けねぇだろ」
剣士「勇者の言う通り闘技場で時間稼ぎは十分だとかそんなことを言ったんなら魔族の仲間ってことになるし……」
剣士「警戒しておくに越したことはないわよね」
237:
勇者「にしても、昔なじみか……」
勇者「それは本当なのか、剣士?」
勇者「俺は全く覚えが無いんだが……」
勇者「闘技場で戦った時に見た顔を思い出してもピンとこないし」
剣士「……まあ、あたしの勘違いかもしんないし」
剣士「勇者と違ってあたしは近くで見れた訳じゃないしね」
魔戦士「ま、だがどちらにせよ敵だろ?」
魔戦士「昔の友人だろうが魔物側についてんなら、人間にとって裏切り者だ」
魔戦士「んな奴に気を遣う必要もねぇだろ」
238:
僧侶「皆さん、そろそろ」
魔戦士「入口に着いたか……魔王城」
剣士「……渡り始めたら、いきなりこの橋が壊れたりとかしないわよね?」
勇者「それはないだろう」
勇者「もしそんなことになれば、城から魔物が出られなくなる」
勇者「魔物の発生源は間違いなくあそこだ」
勇者「なら、まだそんなことはしないだろう」
剣士「なら、大丈夫か」
僧侶「…………」
魔戦士「なんだ? まだ不安か? 僧侶」
僧侶「……………………まあ」
239:
魔戦士「だから、俺たちなら負けねぇって」
僧侶「……その驕りも確かに恐ろしいですが……」
僧侶「なんの罠もないと考えるのはどうかな、と」
魔戦士「だが、中に入らんことには進まんのも事実だろ」
僧侶「そう、ですね……」
僧侶「すいません。ちょっと、故郷を破壊された時のことを思うと、妙に警戒してしまって……」
僧侶「もしかしたら、この隙に他の街を、とか……」
剣士「それなら僧侶の転移魔法で帰れば良いじゃない」
剣士「敵の罠なんて、真正面から突破あるのみよ」
240:
??????
魔王城・内部
??????
勇者「ここが、魔王城……」
魔戦士「なんか、粘っこいな……」
剣士「っ! 橋が!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!
剣士「上がっていく……!」
勇者「閉じ込めるつもり、か」
魔戦士「ま、でも僧侶の転移魔法があればすぐに出られるし、気にする必要もねぇだろ」
…バダン!
黒騎士「だがもし、転移魔法が使えない空間を生み出せるとしたら……?」
勇者一行「「「「っ!!」」」」バッ!
黒騎士「どうも、勇者一行」
勇者「お前は……!」
剣士「黒、騎士……!」
241:
勇者「知ってるのか? 剣士」
剣士「……前に一度、話をしたことがある」
剣士「もっとも、簡単な自己紹介みたいなことしかしなかったけど」
黒騎士「本当は他の皆の下へも向かうつもりだったんだが……ま、色々とあってな」
黒騎士「他の皆さんは始めまして、かな」
魔戦士「へっ……まずはテメェを倒せってことか」スッ
魔戦士「門番みてぇなもんなんだろ? さっさと始めようぜ」チャキ
黒騎士「野蛮な……」
魔戦士「あぁ?」
黒騎士「……あなたにとって、誰かを守るとはどういうことですか?」
魔戦士「あん? んなこと考えたこともねぇよ」
黒騎士「……もし、従妹ちゃんが襲われたらどうするつもりだ?」
魔戦士「っ! なんであの子の名前を……!」
魔戦士「てめぇ何かしたのかっ!!」
黒騎士「質問しているのはこちらだ」
魔戦士「いいから答えろっ!」
黒騎士「……………………なにも、していない」
魔戦士「本当だろうなぁ……? もし何かあったらテメェのことただじゃおかねぇぞ……!」
黒騎士「……クソが」
242:
魔戦士「あぁっ!?」
黒騎士「要はお前、襲われてからようやく考えるってことだろ?」
黒騎士「つまり、守る気が無いってことだ」
魔戦士「なに言ってやがる……守るに決まってんだろ」
魔戦士「俺にとっても大切なんだ」
魔戦士「だから今、守るために、魔物の発生源のお前たちを殺しに来てんだろ」
黒騎士「……ボクが望んでいるのは、傍にいてやる守りだ」
黒騎士「そんな野蛮な守り方じゃあない」
黒騎士「あの子だって……そんなのは望んでいないはずだ」
魔戦士「何言ってやがる。世界を守るための旅立って言ったら喜んで見送ってくれたぞ」
黒騎士「神によって思考を変えられたから、な」
魔戦士「……さっきからテメェ、なんなんだ?」
黒騎士「……なに、か……」
黒騎士「そうだな……もう、お終いにしないとな……」
黒騎士「」スッ
友「お久しぶりです。男、女、僧侶さん、魔戦士」
魔戦士「てめぇは……!」
剣士「友……!」
勇者「…………」
僧侶「まさか……!」
249:
友「こんなところではなんです」
友「せっかくだから奥に行きませんか?」
友「お茶ぐらい出してあげないことも無いですよ」
魔戦士「はっ。俺たちを罠に嵌めようってか?」
僧侶「そう言われて、大人しくついていくはずがないでしょう?」スッ
剣士「…………」チャキ
友「そうですね……まぁ、当然の反応ですね」
友「良いですよ。もう堅苦しい口調の演技も必要になくなっただけ、良しとします」
友「それに皆さんが立ち話をご所望なら、叶えてあげるのが迎える側の礼儀ですからね」
友「男も、それで構わないですか?」
友「あなただけ、武器を構えてないようですけれど」
勇者「……誰のことだ? それは」
250:
勇者「もし俺のことを呼んでるつもりなら、大きな間違いだ」
勇者「神に選ばれたあの時から、俺は勇者だ」
友「ははっ」
勇者「……何がおかしい」
友「おかしいだろ、男」
友「だって名前を変えたところで、キミの遊び人気質は変わらないだろう?」
勇者「は?」
友「今もまだ、キミは思っているはずだ」
友「なんで俺みたいなのを選んだんだ、って」
友「なんて面倒臭い役を押し付けやがったんだ、って」
友「ただ町で遊んでいるだけで良かったのに、って」
友「神に選ばれ思考を変えられようとも、それだけは変わっていないはずだ」
友「それが何より、お前が“男”だという証明に他ならない」
勇者「何言ってやがる。そんな訳ないだろ」
勇者「俺は勇者だ」
勇者「神に選ばれ、民の希望足り得る存在だ」
友「そう思うことで支えてるんだろ?」
友「自分を」
友「そうでも思わないとこんな旅やってられないだけだろ?」
友「自身が」
251:
友「ボクは知っている」
友「君の性格を」
友「幼馴染と付き合い始めてからずっと、彼女と遊び続けて何もかもをサボるようになった君を」
友「幼馴染と付き合う前から憧れて、付き合ってからずっと呆れてきたボクだから分かる」
友「確かに、一途という面ではスゴイと思う」
友「そういう意味では遊び人ではないのだと思う」
友「そうだね……怠け者、の方が正しいか」
勇者「なに……?」
友「幼馴染とずっと一緒にいたい」
友「ずっと一緒に遊んでいたい」
友「将来なりたいものも無く、ただただ遊んで楽しくその場で生きていければそれで良い」
友「それが君だろう、男」
勇者「違うっ!」
友「違わない」
友「今旅をし始めたのだって、世界を救えば遊び惚けても責められないだろうと思っているからだ」
勇者「違うっ!!」
友「なら、何をそんなに怒る必要がある?」
252:
友「大体、それの何が悪いんだ」
友「好きなことのために頑張る」
友「未来怠けるために現在頑張る」
友「将来のために、今一生分の頑張りを見せる」
友「それの何が悪い」
友「恥じる必要の無いことだ」
友「怒る必要の無いことだ」
友「責められる必要の無いことだ」
友「分かりやすくて良いじゃないか」
友「でもお前は、どこか恥ずかしいと思ってる」
友「だから“男”ということを否定して“勇者”と名乗っている」
友「少なくとも君が言った“希望”だなんてアヤフヤな存在になろうとするより、余程人間らしいのに」
勇者「っ……」
友「その怠惰を恥と思うように、神によって洗脳されたが故にそうなってしまっている」
僧侶「洗脳……?」
253:
僧侶「洗脳とは、どういうことです」
友「そのままですよ、僧侶さん」
友「神にとって都合の良い人間を作る」
友「それが洗脳」
友「全ての民に施されているソレを、より一層、神の加護を与えることを対価に施す」
友「それが勇者一行です」
僧侶「神を、侮辱するんですか……!」
友「……あなたは素晴らしい人間だ、僧侶さん」
友「あなたが幼馴染姉さんと結ばれたことについて、なんら不服はない」
友「だからこれは、ただの思想の違いだとでも思ってください」
友「ただそれも、人間らしい」
友「全ての思想を受け入れ、認める……そんな、神のような懐深さを持つよりは」
友「洗脳されて、神のような存在にされるより、ね……」
僧侶「あなたは……何を……」
友「……さあ?」
友「あなた方がなるかもしれなかった未来、ですかね」
剣士「……一つ聞かせて、友」
254:
剣士「どうして、魔族側についたの?」
友「どうして? それを聞くの? 女」
剣士「ええ」
剣士「だってあたしは、バカだから」
剣士「だから、分からない」
剣士「まさか、あたしと付き合えなかったから、なんて言うつもりじゃないんでしょ?」
友「うん。そんなことは言わない」
友「むしろ今は、あそこで失恋していて正解だったとさえ思う」
友「そのおかげでボクは、今こうして、君と敵対出来ている」
友「神の洗脳を解いて、神を恨めている」
剣士「…………あたしを、殺したいの?」
友「違う」
友「ボクが殺したいのは、神様だよ」
255:
友「君たち四人を集めるために利用して、そのままボクをポイ捨てした神様」
友「ソレを堕とすことが、ボクの目的」
友「そのために、幼馴染二人と、慕っている人の婚約者二人と敵対している」
友「神に認められたお前達と、ね」
剣士「……何、ソレ?」
剣士「なんか壮大な目的みたいに語ってるけど、要は構ってちゃんってこと?」
剣士「どうして自分を選んでくれなかったんだ?、恨んでやる?、なぁんて」
剣士「まるで子供みたいね」
友「ま、言われても仕方がないことさ」
友「ボクだってそう思ってるし」
友「でも、おかげで世界のことを色々と知れた」
友「そして知っても尚、神を堕としたいと思った」
友「だから、実行に移してるだけだ」
256:
剣士「その情報が、魔族側からの偽情報かもしれないのに?」
友「女は、神の教えが嘘かもしれない、って考えたことはある?」
友「僧侶は当然ないだろうし、怠け者から世界の英雄候補に選ばれた男も無いと思う」
友「でも、君はどう?」
剣士「…………小難しい話は嫌い」
剣士「要は、どっちが本当かどうかなんて分からないってことでしょ」
友「そういうこと」
友「なら、どっちを信じるか、だ」
友「そこでボクは神に嫌われたから、こちらの情報を信じた」
友「それだけの話」
剣士「だから、魔族側についた」
友「ああ」
剣士「だから、僧侶の故郷を滅ぼした」
友「ああ」
257:
友「だってそうでもしなければ、お前達がここには来てくれなかっただろ?」
友「あそこで魔物の強さを見せしめないと、世界の危機を感じてもくれない」
友「そんな温い足取りでここに来られても、神を堕とすことなんて出来やしない」
友「だから、あそこがちょうど良かったから、滅ぼした」
剣士「ちょうど良かった!?」
剣士「そんな……そんな理由で……!」
剣士「そんなことのために、罪もない人たちを……!」
友「……お前たちがく来なかったのが悪い――」
剣士「そんなの――」
友「――なんて、責任転嫁をするつもりは無い」
剣士「――え?」
友「罪もない? それは違うよ、女」
友「ちょうど良いっていったのは、あそこを滅ぼすのが世界のためだと思ったからだ」
友「神を妄信するあまり、狂ってしまったところだったから」
剣士「なに、を……?」
僧侶「…………」
友「……あそこは神を信仰するために、人攫いを平気でする土地だ」
友「ねえ、僧侶さん?」
剣士「えっ!?」
僧侶「……………………」
258:
友「神隠し……誘拐なんていう犯罪行為を着飾るには、とてもキレイで便利な言葉だ」
友「才能ある幼子を転移魔法を使って奪い、己の信仰しているものを押し付けて、選ばれた人間だと錯覚させて組み込んで、生きていかせる」
友「それを目の当たりにしたからこそ、僧侶さんは故郷を抜け出した」
友「それでもまぁ、育ててくれた人たちだからね」
友「殺されたことを悲しんだんでしょ?」
友「ほんの、少しだけ」
僧侶「……………………」
友「だから、ここに来てもいまだ冷静でいられてる」
友「だって、あそこの人たちは殺されても仕方が無いって、僧侶さんもどこかで思ってたんだよね?」
友「だからここに来ても、すぐに飛び掛ってくるなんてことはしなかった」
友「黒騎士の姿をしていた魔族のボクを見ても、冷静でいられた」
友「だからボクは、僧侶さんを素晴らしい人間だって言ったんだ」
剣士「……それは……本当なの……? 僧侶……」
僧侶「…………はい」
勇者・魔戦士「「っ!」」
友「神からの情報ではそこまで教わらなかったか」
友「いや、仲間がいるから教える必要なんてないって判断されたのか」
友「まぁ、どちらにせよ、そういうことだよ」
友「この世界は既に、神の名の下ならば何をしても大丈夫、だとか、そういう思想を持った人が蔓延り始めている」
友「腐り始めているんだ、この世界は」
259:
友「神もかつては魔王だった」
友「そして神になってからも、新たな魔王は生まれてくる」
友「そうしてその新たな魔王が世界を掌握した時……その魔王が、新たな神となる」
友「これが神を堕とすための方法」
友「そして、世界の仕組み」
友「腐る世界を新しくする、歯車のような世界」
友「常に新しく、常に変化する」
友「破壊と創造を繰り返すための手段」
友「それが、魔王と神の真実」
勇者一行「「「「…………」」」」
友「……もっとも、そこの四人は信じられないだろうけど」
魔戦士「……ああ……」
魔戦士「ああ! 当然だっ!」
魔戦士「んなもん、テメェ等魔族の戯言だっ!」
友「戯言、ね……」
友「……それがかつての魔王で、現在の神である存在が植えつけた意識であることにも、お前は気付いていない」
友「仕方が無いこととは言え……ボクにとって大嫌いなお前が言うと、尚滑稽に見える」
友「そういう色眼鏡で見てしまう」
友「悪いね……魔戦士」
友「一番最初に立ち直って、一番最初に仲間を立ち直らせようとしてくれたけれど……」
友「お前が何を言っても、薄っぺらいんだよ……ただの野盗ごときが」
魔戦士「っ……!」
260:
勇者「野盗……?」
剣士「どういう、こと……?」
友「皆にも話していないんですね……」
友「ま、自分の過去なんてそう話せないですよね」
友「盗賊さん?」
僧侶「魔戦士って名前は……ウソ……そういうことですか」
魔戦士「……わりぃ……」
友「昔何をしていたのか」
友「そしてそれを肯定する皆の涙劇場は無くて結構」
友「どうせこんな話をボクにされたところで、今更チームワークは悪くならないでしょう?」
勇者「当然だ」
剣士「当たり前よ」
僧侶「はい」
魔戦士「お前ら……」
友「長い時間一緒に旅をしてきた」
友「それだけの信頼があるのは分かっています」
友「ただ、そうして過去に悪いことをしていた奴が、従妹を偶然救っただけで結婚しようとしている」
魔戦士「……それが、許せねぇか?」
友「……いいえ」
261:
友「偶然、タイミングよく、従妹を君が救っただけで、従妹が君に惚れた……」
友「それを否定するつもりはありません」
友「だってそれが無ければ、従妹が死んでいたという事実は変わりません」
友「だから、従妹が認めたのなら、ボクはそれを肯定するだけです」
友「それほどまでに、大切なんです」
友「あの子が」
魔戦士「…………」
友「根本的に許せないのは、もちろん神の方だ」
友「でもボクは、従妹を護っていくと誓ったお前が弱い」
友「それも、許せない」
友「世界の危機を救って欲しいという神の能力によって思想を変えられた従妹のことを、分かってもいない」
友「それも、許せない」
友「だから、薄っぺらい」
友「護っていくという誓いを守れないお前の言葉なんて……」
友「人を貶めて楽をして、金のためだけに殺人も厭わなかった経歴を隠そうとする、その弱いままのお前の言葉なんて……」
友「誰の心にも、響かない」
友「少なくとも、ボクの心には……響きもしない」
魔戦士「……………………」
262:
魔戦士「友、っつったか」
友「ああ」
魔戦士「昔、ちゃんと話をしてれば、また変わったのかもしれねぇな」
友「…………」
魔戦士「……こんなこと言うのも、アレだけどよ……」
魔戦士「もしかしたら俺は、おめぇと仲良くなれたのかもな……」
友「……なれないよ」
友「一生」
魔戦士「そうか?」
友「従妹の想いは肯定できても、魔戦士自身を否定してしまう」
友「そんな矛盾したヤツが、矛盾の原因そのものと仲良くなるなんて無理ですよ」
魔戦士「……そうか」
友「そうです」
友「こればっかりは、変えらません」
263:
友「例えお前が、真っ当になろうとも」
友「ボクはあなたの過去を見て、許せないと言う」
友「従妹の想いは肯定した癖に」
友「ずっとずっと、未練がましく言い続ける」
友「だから、無理なんです」
友「ボクはきっと従妹に対して、ずっと大切に想い続けるから」
友「自分の言葉に矛盾が生まれておかしくなってることを自覚しても、きっと何度も、色々な言葉で、お前を否定し続けるから」
魔戦士「…………そうか」
魔戦士「それだけ、あの子が大事だってことか」
友「……………………当然だ」
264:
勇者「なら、こんなことはもう止めよう」
友「…………」
勇者「魔王の傍にいても仕方が無い」
勇者「従妹ちゃんと一緒にいたいんだろ?」
勇者「あの子が、大切なんだろ?」
勇者「ならお前が望んだとおり、傍でお前も守ってやればいい」
勇者「その間に魔族を殺して、平和にしてやるから」
勇者「昔みたいに、また一緒に……」
友「……昔みたい、ね」
友「なあ、男」
友「ボクはね……例え大切でも、それで神を堕とさない理由にはならないんだ」
友「それに……もう分かってるんだろ?」
友「こうなった時から」
友「説得なんて不可能だってことぐらい」
勇者「…………」
友「それに、心にもない言葉を言うな」
友「楽をしたいからって、上っ面だけの説得を続けるな」
友「気持ち悪い」
友「女だって言っただろ?」
友「分かるよ、そういうの」
友「ボクのことを覚えていない君とは違って」
友「ボクはね、覚えてる」
友「お前のことを」
勇者「……………………」
265:
友「さぁ……そろそろ始めよう」
友「側近さん」
側近「はい」
勇者一行「「「「っ!」」」」
友「結界は貼れました?」
側近「既に」
側近「時間稼ぎ、ご苦労様でした」
剣士「時間稼ぎ……!?」
友「いえ、ちょっと思い出話に花を咲かせていただけですよ」
勇者「結界ってのは……どういうことだ?」
友「転移魔法を使用不能にする結界」
友「入場して、対象者がしばらく中にいないと仕掛けられないっていうからさ」
僧侶「なっ……!」
魔戦士「僧侶っ!」
僧侶「……っ……! くっ……!」フルフル
魔戦士「ちっ……!」
友「これでもう、逃げられない」スッ…
剣士(黒い、刀身の剣……)
剣士(あの時あたしに突きつけた、剣……)
266:
友「魔王様、準備が整いました」
魔王「ご苦労」
勇者一行「「「「なっ……!」」」」
魔王「何を驚く」
魔王「我のこの姿がそんなに不思議か?」
友「魔王……といえば、化け物を想像してましたか?」
友「ま、魔王様が生み出す魔物が異形の姿をしてますからね」
魔王「アレは成長における不要な魔力の残り粕みたいなものだからな……」
魔王「ま、後は友が教えてくれた通り、残っている良心のようでもあるが」
魔戦士「おいおいおい……お前、本当にそんなガキを魔王だって言い切るつもりか?」
友「言い切るも何も、事実ですから」
友「魔王は、魔物を生み出すことで成長する」
友「生み出すことで、人と神を憎み、世界と存在の破壊を渇望させる」
友「憎悪を増長させながら、女の子の姿からお前達が想像する異形へと姿を変えていく」
友「それが、魔王なんです」
友「それが、お前たちが尊敬する神様が創った、世界の仕組みなんです」
267:
剣士「……なら、今のその子は、まだ成長していない魔王ってこと?」
友「魔王様も人を殺すことを望んでいない」
友「望んでいるのは、勇者を殺すこと」
勇者「っ!」
友「ひいては、ボクと同じで神を堕とすこと」
友「そのために強くなろうとした結果、人間全てを恨んでしまう」
友「そういう風に、世界が出来上がってしまっている」
友「神の手によって」
勇者「……つまり、ただ殺そうとしてくる勇者に対抗しようとしていただけなのに、気がつけば人を恨んでしまっている」
勇者「そう言いたいのか、お前は」
友「そういうことです」
268:
僧侶「……オレの村を滅ぼしたとき、魔王が復活するって言った、そこの女の言葉は?」
側近「ウソ、ですよ」
側近「あなた方を焦らせるための、ね」
側近「ま、信じてもらえないでしょうけれど」
側近「それに、信じてもらえたところで、この戦いを終えるつもりはないでしょう?」
僧侶「……ええ」
僧侶「魔王が、人に害を成す存在」
僧侶「神を、世界を、破壊しうる存在であることに、変わりはありません」
僧侶「だから、これを好都合と考えます」チャキ…!
魔戦士「ああ」
魔戦士「ガキってのは殺すのに躊躇っちまうが……」チャキッ!
剣士「力が戻っていなくても、魔王だって言うんなら……」スッ
勇者「今ここで、その子を倒すっ!」シャキン!
友「させません」
友「ボクが絶対に、あなた達を倒します」スッ…
黒騎士「そして神を、堕としてみせる」チャキ…ッ!
277:
黒騎士「魔王様、側近さん……まずはボクに、任せてください」
魔王「ああ」
側近「はい」
魔戦士「残念だが……俺たちの狙いは、お前じゃねぇ!」スッ
勇者「そう」バッ!
剣士「その後ろに控えた、魔王本体よ!」ザッ!
黒騎士(剣士の度を上げる魔法……)
黒騎士(そして、魔戦士の手による、力を上げる魔法で……)
黒騎士(……剣士の、一点突破っ!)
スッ!
278:
 まるで、消えたかのように見える、常人ならば見えない程の度。
 気がつけば隣に――視界の端に、剣士の姿が映った。
 魔王は階段の上。
 大広間中央から伸びるその先の踊り場。
 このままでは本当に、一撃で魔王が殺されてしまう。
 今の魔王では、あの普通の剣すら防げるかどうか怪しい。
 だからボクは身を翻し、剣士の移動先へと先回りし、魔王との直線上に立って、抜いた剣を突きつける。
「っ!」
 足を止め、一瞬コチラを睨みつける剣士。
 抜き去ったつもりが、いつの間にか正面に立たれた。
 その圧倒的度の差による動揺をこちらに悟らせないためか。
 しかしその隙だらけの行動も僅か。
 すぐさま鞘に納められたままの剣で殴りかかってくる。
 その攻撃を剣で受け流し、次にこちらが反撃――
 ――に移るよりもく、剣を抜いてこちらの脇腹目掛けて斬りかかってくる。
 だがその攻撃はこちらの黒の鎧に防がれる。
 呪いの鎧と言うものは、防御力がバカにならない。
 少なくとも、魔力を通した程度の普通の刃は通らない。
「ちっ」
 それを理解したのか。剣士はすぐさま後ろに跳び、こちらとの間合いを取る。
 追撃したいところだが……。
「火炎龍!」
 魔戦士の魔法がボクを狙う。
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