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「最弱魔王の決戦」【パート3】


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0:
勇者(……来る)スッ
魔王姉1「じゃあまずはぁ……いっちばん弱っちそうなあんた!」ジャキンッ
僧侶「ッ……!」ビクッ
戦士「おいおい、俺の事は無視かよ……」
魔法使い「舐められたものね」
魔王姉1「え? もう害のない虫の事なんかいちいち気にしないでしょお?」
戦士「……ぇ」ピキッ
勇者「どうした?」
戦士(う……動けねえ……!? 何時の間に)ギシッ
魔王「戦士!? しっかりしろ!!」
側近「……姉上、戦士に何をした」ギロッ
魔王姉2「あら? まさか彼女の『父親』を忘れたの? それとも知らなかったっけ」クスッ
戦士「あ……が……っ」
魔王姉1「あたしは……淫魔の王の娘よお?」ニヤァ
411:
魔法使い「……淫魔の魅了の能力ってわけ」ギリッ
魔王姉2「男にしか効かないけどね。それにそこの勇者や愚弟達は無理。でしょ?」チラッ
魔王姉1「そうねえ……でも、あんたには効いて良かったわぁ」
戦士(クソッ! 情けねえがあいつから目が離せねえ……)
魔王姉1「あーあ、それにしても惜しいわねえ。もしも排除する対象じゃなければ死ぬまでベッドで搾り取ってあげるのにぃ」ペロリ……
戦士(何……だと……)ゴクリ
魔法使い「……汚らわしい」
魔王姉2「ふふっ、そっちばっかり気にしてて良いのかな〜」パチンッ
『!?』ズズンッ……ビタッ
魔王姉2「とりあえず、皆まとめて這いつくばっちゃって♪」
412:
魔王姉1「ちょっとお……これじゃああたしが仕掛けた意味がないじゃない」
魔王姉2「あ、ごめんね? 役立たずにしちゃって……元からだっけ」
魔王姉1「……ねえ、さっきのお返し?」
魔王姉2「さあね〜」
魔法使い「……」ブツブツ
魔王姉2「!」
魔法使い「……!」グッ……バヅンッ
魔王姉2「……へえ。人間風情にこれを壊されるなんてね」
魔王姉1「あんたも駄目駄目ねぇ」クスクス
413:
魔法使い「……ふう、久しぶりの詠唱だからヒヤヒヤしたわ」ムクッ
側近(竜の目の魔力で重力に干渉したのか……)
魔王「皆、大丈夫か!」ガバッ
勇者「ああ」
戦士「いてて……今ので動けるようにはなったな……」サスサス
僧侶「戦士さん、大丈夫ですか? 倒れた衝撃で私の全体重が……」オロオロ
戦士「心配してくれるならとりあえず降りてくれよ」
魔法使い「全く、物理以外には本っ当に弱いんだから……もうあいつの目を見るんじゃないわよ」
戦士「わかってらー」
魔王姉1「あはっ、まさかアレだけがあたしの能だとは思ってないわよね?」
魔王姉2「あんなのはほんの小手調べ……」ジャキッ
魔法使い「……ふん」チャキッ
414:
戦士「ま、魔法使い、俺の武器……」
魔法使い「あ、忘れてた。ちょっと待ってなさい」
魔王「待て」スッ
側近「兄上?」
魔王「……お前達、ここは私がどうにかするから先に行ってはくれないだろうか」
魔法使い「……は?」
戦士「え、何だって?」
側近「無茶を言うな兄上! 幾ら成長したとはいえ、あの2人に1人で挑もうなど自殺行為だぞ!!」
僧侶「そ、そうですよ! 第一そのような状態で……!」
魔王「僧侶、この2人は貴女でも一筋縄ではいかない。だからどうか私に任せて欲しい」
勇者「……何か秘策があるのか」
魔王「ふ、なければこんな事は言わぬよ」
415:
側近「それでも、貴方をここに残して行くのは……」
魔王「……大丈夫だ、命を賭すわけではない。ただ今から私がやる事は、お前達が傍にいると非常に都合が悪いんだ」スッ
魔法使い「! ちょっ……」
魔王「失礼」ジャラララッ
姉1・2「!」シュルルッ
戦士「うおおお解けねええええ!!!!」ギチッ
僧侶「ま、魔王さん!」グイグイ
魔法使い「約束が違うじゃない! だから魔物は信用できないのよ!!」
勇者「……」
側近「……信じて良いんだな?」ギュウウッ
魔王「ああ……精々私の心が痛むだけで終わる」グッ
側近「!? 兄上それは……!!」
416:
魔王「うおおおおお……!!!!」グイイッ……
戦士「え……まさか」ジワッ
魔王「……あああああああああああッッッッ!!!!」ブンッッッ
僧侶「きゃ……きゃあああああ!!!!」
魔法使い「こんの糞野郎があああああ!!!!」
勇者「……!」
戦士「ひぃえええええおおおおあああああああ!!!!」
側近「兄上……無茶は……!」
ヒュウウウウ……ガチャッ バタン
417:
魔王「……」シュルルルルルル……フッ
魔王「……」チラッ
姉1「……」ブチッ
姉2「やってくれるね」バラバラ
魔王「嗚呼、また鎖が減ってしまったな……多数を縛るのは骨が折れる」
姉1「それだけじゃないでしょお? あたし達が手を出せないように妙な魔力障壁まで張っちゃって」パリンッ
魔王「正直通用するかどうかは賭けだったよ。少し前に初めてやったからな」
姉2「……本当にあの愚弟? 随分と立派になったものだね……武器以外」ジッ
418:
魔王「そうか? 自分では良くわからないが……」
姉1「1つ訊きたいんだけどさ、それであたし達に勝てるって本気で思ってるのぉ? そんな武器と腕で」ニヤニヤ
魔王「……ふっ」
姉2「何がおかしいの?」
姉1「てかあんた笑えたんだあ? あれと一緒に怯えてる顔しか見た事なかったけど」
魔王「……この表情も、つい最近できるようになったんだ」
姉2「そう。ま、今からまたあの顔しかできなくなっちゃうだろうけどね」クルクル……ブンッ
魔王「それはどうだろうな……それに姉上達は何か勘違いをしている」
姉1・2「?」
魔王「腕は使わん。武器も使わん……ただ、生まれ持った能力のみを使って私は貴女達を地へ還す」
422:
姉1・2「……」
姉1・2「……ぷっ」
姉1・2「あはははははっ!!!!」ケラケラ
魔王「……」
姉1「生まれ持った能力ぅ? あんたにそんなのあったんだ?」
姉2「ギャグにしては寒過ぎるんだけど」
魔王「……笑いたければ、幾らでも笑うがいいさ」スッ
姉2「言われなくても笑うわよ……うふふふっ」クスクス
魔王「……」ギュッ
423:
姉1「何? まさか怖気づいちゃったあ? そんなに大層な力なのぉ?」
魔王「そうだな……できれば使いたくなかったよ」ツゥッ……
姉2「!」
姉2(泣いてる……?)
魔王(本当は死ぬまで使いたくなかったが……大切な者達を守るためだ。腹を括らねば)ポタッ……ポタッ
魔王(落ち着け……2人とも既に死んでおるのだ……!)グッ
魔王「……ふーっ……姉上」ゴシゴシ
姉1・2「?」
魔王「……さよならだ」ギンッ
424:
姉2「ッ!? ……なんだ、何も起きないじゃない」
魔王「……」
姉1「きゃははっ、睨むだけで解決するなら苦労しなぷげぇッ!?」ドクンッ
姉2「……え?」クルッ
姉1「ァ、ガッ……ぐげぇあああアァアア……!!!!」ガクガクガク……ビチャッ
姉2「ちょ、ちょっと、どうしたっていうのよ……何でそんなに苦しんでるの!?」
姉1「ヒぐ、あ……ぐて……ぃ……なにを……ガハァッ」ベチャッ ボタボタボタタ……ッ
姉2(どういう事!? あいつが睨んだだけで……こいつの顔の穴という穴から血が……!)ゾクッ
魔王「……先程の言葉を、そっくりそのままお返ししよう」コツッ……コツッ……
姉2「先、程……?」
姉1「ぁ、げェえっ……くるひ……ゴホォッ!」コヒュー……コヒュー……
魔王「私の『父親』が誰か、忘れたか?」
姉2「……ッッッ!?」
425:
魔王「……貴女の父親は、母上が遠征先で偶然見つけたエルフの屈強な戦士だったと聞く」
姉2「……それがどうしたのよ」ジワッ……
魔王「今でこそ、表へ出る事の少なくなった彼らの一族だが……その原因の一端となったのは」
姉1「かは……ぁ……ッ……」ガクンッ……ビクンッ……
魔王「……ある魔物の襲撃であると書物に記されていた」……ピタッ
姉2「それって……」
魔王「母上……先代の魔王はその事にいたく興味を持ち、貴女達を産んだ後に彼の魔物を次なる種馬とした」
姉2「……」
魔王「ただし、あまりにも危険な魔物だったために……手に入れるのは非常に苦労したようだが」
姉2(そうか……こいつの能力は……!)カタカタ
魔王「……何故ならこの目よりも遥かに早く見る物を死に至らしめるからな」
姉2(蛇の王……の……)フラッ……ペタン
426:
魔王「……そろそろか」
姉1「い……だぁイ……ょ……たひゅ……け……」ピク……ピクッ……
魔王「大丈夫だ、じきに楽になる……心臓に」
姉1「ひぅッ……!」ビクンッ……
魔王「『到達』したからな……死が」
姉1「」シュウウウウ……
魔王「……やはり死者に効く程強いのだな。この力は」
姉2「……ッ!」ギリッ
魔王「さて、どうする……今のは見せしめだ。同じ道は辿りたくはなかろう?」
姉2「……ないで」
魔王「!」
姉2「ふざけないでッ! 今更退ける訳ないでしょ!? 私は死んでも魔王の娘なんだから!!!!」キッ
427:
魔王「……その割には震えておるではないか」
姉2「ッ……く」ギリッ
魔王「では、仕方がない……」
姉2(……あれ?)ピクッ
魔王「一気にいかせてもらおう。弟達が心配だからな」
姉2(体が、動かない……ッ)
魔王「私が意味もなく、こんな事を長々と口にしていたと思うか?」
姉2「あんた……これ以上、何を」
魔王「大した事ではない。ただ、貴女の魔力と体を私の魔力で抑えつけただけだ」
姉2「なに、それ……!?」
魔王「私は一通り魔法を学びはしたが、攻撃系統のそれはあまり思うように使えない……誰かを傷つけるかもしれないという恐れから、な」
姉2「はっ……あんな事、しておいて……よくもそんな口が……」
428:
魔王「……だが、その代わりにこういった事は得意なようだ」
姉2「くっ……」
魔王「それでも少々骨が折れたよ。何せ貴女の魔力は我らの中で最も強いからな……昔の私ならば間違いなく不可能だった」
姉2「……成長したんだね。憎たらしい位に」ギロッ
魔王「そうだな」
姉2「じゃあさっさとやりなさいよ……一気にいくんでしょ」
魔王「嗚呼、そうだったな……」ジロッ
姉2「……やっぱりあんたも魔王の子供ね」
魔王「そうだな……姉上」
魔王(再び葬る前に力を認められた事が、何故か……ほんの少しだけ嬉しかったよ)
429:
――――
――
魔王「げェっ……ぅおええええッ……!」ビチャビチャ……ッ
魔王(はっ……何が『誰かを傷つけたくはない』だ)ゼェゼェ
魔王(こんなにおぞましい力を持っておいて……)
魔王「……はぁっ……はぁっ……こんな目など……っ!」スッ
魔王「ッ……ぐ、ぅ……」ピタッ
魔王「……臆病者め」ギュッ
魔王(こうしている時間が惜しい……もう目も戻ったな)
魔王「……今は、とにかく行かねば……大切な家族のためにも」ヨロッ……
魔王(でなければ……姉上達を手にかけた意味がないのだから)テク……テク……
434:
――――
――
謁見の間
『……ああああぁぁぁぁあぁぁあぁ!!!!』ヒュルルルルル……
戦士「がふゥっ!!」ドスンッ
僧侶「きゃッ!」ベシャンッ
魔法使い「ぐっ……!」ドシンッ
勇者「……ッ」ドン……ッ
側近(ほう……手加減されていたとはいえ、この状況で受身を取ったか)ドッ……クルンッ
ジャララララ……バタンッ
魔法使い「あ……開けろー! 開けろってのー!!」ドンドン
戦士「くそっ……ビクともしねえな」ガンッガンッ
僧侶「ふ、2人とも! そちらも大事ですが今は扉よりも……」
435:
『ふん、遅かったな』
側近「ッ!」バッ
兄魔王「待ちくたびれたぞ」クチャクチャ
勇者「……」ジャキンッ
魔法使い「! ……悔しいけど、僧侶の言う通りね」チャキ
戦士「あ、あいつ……ッ!」
僧侶「……!」ブルッ
側近(……一足遅かった……!)
兄魔王「この玉座、中々の……んぐっ、座り心地だなあ。これぞ魔王に相応しい」バリバリ……ゴクンッ
側近「……貴様に座らせるために手入れをしていたわけではないぞ」ギロッ
兄魔王「俺は魔王だ。これはそのためのものだろうが」
436:
側近「貴様は魔王などではない……そのような器ではない」
兄魔王「俺が勝ちとった座を横から掠め取っておいて良く言う……んん?」
側近「……」ジャキッ
兄魔王「良く見たら1人足りないなあ? 実に残念だ……」ペロリ……
魔法使い「……」スーッ
兄魔王「嗚呼、あいつに見せてやりたかったよ……こうして己の腕が俺に喰われる様をなあ!」ニィィ
側近(すまない……兄上……!)ジワッ
437:
勇者「……気をつけろ。油断はするな」ボソッ
僧侶「そ、そんなの……頼まれたってしませんよ」
戦士「ま、魔法使い! まだか!?」チラッ
魔法使い「うるさいわね! 集中できないから黙りなさい!!」ススッ
兄魔王「何をするつもりかは知らんが……無駄な事だ」スッ
側近「!? 貴様何を……」
兄魔王「この力の前ではなあ!!!!」ズズズ……ッ
魔法使い「……ッ?」ガクンッ
僧侶「魔法使いさん!?」
438:
勇者「……!」
側近「これは……」
戦士「お、お前ら一体どうしたってんだよ!?」
兄魔王「ぎゃはははははは! 魔力を吸い取られる気分はどうだ虫けら共!?」ゲタゲタ
戦士「魔力を吸い取る……だと?」
側近「馬鹿な……以前の貴様にそのような力はなかった筈だ!!」
兄魔王「それはそうだろう。何せ……お前達に封印される少し前に手に入れたものだからなあ!!!!」
側近「!?」
勇者「! ……そう、か」ユラリ
僧侶「ゆ、勇者さん?」
勇者「この能力……そういう事だったのか……」ブツブツ
側近「勇者……?」
勇者「……お前が、祖母の仇だな」ジロッ
439:
魔法使い「え……?」
戦士「何だと!?」
僧侶「それってどういう……」
兄魔王「……」ニヤニヤ
側近「貴様……一体何時先代の勇者と接触する暇があった!?」
兄魔王「何時だと? そんなもの、愚妹達を相手取っている時に決まっているだろう……血が絶えていなかった事には驚いたがなあ」
勇者「……自分でも驚いている。俺が今こうしてここにいるのが奇跡のようなものだしな」
441:
兄魔王「だが、同時に納得もした。でなければ……」
側近(……奴は『魔』とは対極の位置にある勇者の体を乗っ取る事が出来た。それが意味するのは……!)
兄魔王「幾ら母上との死闘で満身創痍だったとはいえ……それでもあの女を」
側近(俄かには信じられん事だが……『勇者』の肉体に体が馴染んでいる状態だった)
兄魔王「喰い殺す事ができなかったかもしれないからなあ!!!!」
側近(その肉を自ら取り込んだ事によって……!)ゾワッ
445:
勇者「……そんなに魔王の地位が欲しかったのか」
兄魔王「お前の祖母殿は中々に美味であったぞ! ……『直前に喰った肉』がなければ今まで食べた中で1番の極上品だったろうなあ!!」
側近「……直前に、喰った肉?」
兄魔王「俺が万が一の事を何も考えずに勇者の肉を喰らうと思ったか? 愚弟」
側近「! まさか……」ワナワナ
兄魔王「……」ニヤニヤ
側近「……『母上も』……喰ったのか……!?」
僧侶「!?」
446:
兄魔王「それがどうした。ああ、本人の許可は得ているぞ? ……勇者の時と違ってなあ」ニヤァ
側近「ふざけるな! 母上を喰らうなど幾ら何でも……!!」
兄魔王「ふざけてなどいないぞ? 考えてもみるがいい……我らは身内で頂点を巡って喰らい合う家系だ」
魔法使い「……」ギロリ
兄魔王「兄弟姉妹の肉が喰えて、親の肉が喰えん道理はあるまい?」クックッ
戦士「……イカれてやがるぜ。本当によ」
勇者「……」
兄魔王「お陰で俺は更なる力を手に入れ、愚妹共を打ち負かし……こうしてここにいる!」ドンッ
側近「ッ……!」ブルブル
僧侶(……なんと恐ろしく……罪深いのでしょう……)カタカタ
447:
勇者「……言いたい事は」
兄魔王「んん?」
勇者「それだけか」ザッ……ザッ……
側近「!」
勇者「お前が祖母を喰らわなければ……あんな事には……」ブツブツ
兄魔王「ふん、今更何ができるというのだ? 魔力もほとんど残ってなどいないというのに」
勇者「……そんなもの必要ない」ザッ……
兄魔王「ほう?」
勇者「これさえあれば戦えるからな」ジャキンッ
側近「!」
兄魔王「……まあ、あっさり終わってもそれはそれでつまらんしなあ」
448:
勇者「それに……俺は」
魔法使い「……ふう。何とか間に合いそうね」ムクッ
僧侶「魔法使いさん……!」
戦士「おい、大丈夫なのか!?」
魔法使い「はっ、四つ目の魔女を舐めんじゃないわよ」スッ……ゴォッ
勇者「……1人で戦っているわけではない」
兄魔王「ふん、仇を前にして仲間に頼るか。みっともない事だなあ……あの女は1人で母上に挑んでいたぞ」
勇者「仲間に頼って何が悪い」
兄魔王「下らんな。本当に」
勇者「……まあ、そういう存在がいないお前にはわからないだろうな」チラッ
側近「! ……確かにな」スッ
449:
兄魔王「愚弟。お前もまだやろうというのか?」
側近「確かに魔力を奪われるのは痛手だが……俺も魔法よりこちらの方が得意だからな」ブンッ
兄魔王「は、その強がりが何時まで続くかなあ?」
側近「何時まで、だと? そんなもの……」
少女『側近さん!』
側近「……守るべき者がいる限りさ」
兄魔王「ほざけ! ならばそいつ諸共あの世へ逝くが良い!!」ゴゴゴ……
450:
魔法使い「これで……いけるわ」ススス……スッ
戦士「ようやく出番だな!」ワキワキ
魔法使い「ええ……遅くなって悪かったわね」ボソッ
僧侶(魔法使いさんが謝罪を……!)
魔法使い「さあ、使い手と共に思う存分暴れなさい……あたしの分までね!」カッ
戦士「っしゃあ!!」ガシッ
魔法使い「狂乱の権化、『元』呪いの大斧ッ……!!」シュウウウウ……
戦士「うおおおおお!!!!」ブンッブンッ……ブンッ
451:
魔法使い「……」フラッ
僧侶「お疲れ様です」ガシッ
魔法使い「ん……悔しいけど、流石にこれ以上はきついみたい」チッ
側近「! 魔法使い、その姿は……」
魔法使い「うるさい黙れ見るなさっさといけ」プイッ
側近「ッ……すまない」クルッ
僧侶「魔法使いさん……」
452:
魔法使い「ねえ僧侶。あたしはまだ『あたし』よね?」
僧侶「……はい。間違いなく何時もの魔法使いさんです」
魔法使い「そう。良かった」
僧侶「例えこんなに……肌が鱗に覆われてしまっていても、魔法使いさんは魔法使いさんですから」サスサス
魔法使い「『眼』だけの分際で生意気よね。本当」
僧侶「あのドラゴンですもの、仕方ありませんよ」
魔法使い「……ふん」
魔法使い(あんたたち……負けるんじゃないわよ)
458:
――――
――
少女「……」
姫「……」
妖精「」パタパタ
白獣「浮かない顔ですね」
少女「白獣さん……そりゃあ、そうだよ」
白獣「まあ、周りを彼らに囲まれていてはそうなってしまうのも無理はありませんね」チラッ
『……ヴァ……あぁア……』
ガタガタ……バンッバンッ
少女「……」
白獣「……勿論、それ以外も原因はあるでしょう」
459:
姫「あの、白神獣様……本当に私達は何もしなくて良いんですか!?」
少女「お姫様……」
白獣「お気持ちはとてもわかります。ですが、彼らにとってはこれが最善なのですよ」
姫「それは理解しておりますが……!」
黒獣「しつこいぞ小娘。それ以上白娘を困らせるなら噛む」ギラッ
姫「ッ……!」ビクッ
白獣「黒様!」
黒獣「……仮にお前がここから出たとして、一体あいつらのために何ができるというのだ?」
姫「そ、それは……」
460:
黒獣「武術の心得もなく、何か術が使えるわけでもなし……それこそ王族であるというだけの非力な人間」
黒獣「それがお前だ」
姫「っ、ぐ……」
黒獣「その事を忘れるな」プイッ
少女「黒獣さん、そんな……あんまりだよ!」
黒獣「黙れ、噛み砕かれたいか」ギロリ
少女「ひっ……!」ビクッ
白獣「黒様、あまり少女さんを脅かさないでください!」
黒獣「ふん……召喚主でなければ今すぐにでも八つ裂きにしてやりたい所だ」
白獣「だからそういう事を言わないでくださいったら!!」
妖精「……!」キーキー
少女(……どうして黒獣さんはこんなに私を嫌うんだろう? 白獣さんと何か関係があるの……?)
少女(なにも……わからないよ……)ギュッ
461:
――――
――
戦士「うおおおおおおお……!!!!」ダダダッ
兄魔王「ふん、わかりやすい的めが」ズズッ……ドンッ
戦士「馬ー鹿。それが狙いだっ!」バシュンッ
側近(あの斧……魔力を受け止められるのか……!)ダダッ
戦士「勇者ッ! 側近!!」
勇・側「……ッ!」ブォンッ
兄魔王「甘いわ! そんなものが当たるか!!」スカッ スカッ
側近「くっ……」
462:
勇者「戦士、また頼む」チャキッ
戦士「任せろ!!」ザザザッ
兄魔王「何度来ようが同じ事だ」ゴォォ……ッ
側近「……何時もこのような戦い方を?」
勇者「滅多にやらないな。今回は魔法使いがあんな状態だから特別だ」チラッ
魔法使い「……」
僧侶「……大分人の肌に戻ってきましたね」ジッ
魔法使い「でも、同じ事をしたら今度は確実にあいつに吸われる……手詰まりね」チッ
僧侶「吸収される限界まで放出する事は……やっぱりできませんか」
魔法使い「そんな事をしたら『あたし』が消えちゃうわよ! 最悪あいつを倒せても共倒れになる」
僧侶「そうですよね……無茶を言ってごめんなさい」
463:
戦士「でりゃああああっ!」
兄魔王「しつこいぞ虫けらぁ!!」ビュッ
戦士「! ……来た」ニヤリ
兄魔王「!?」
戦士「喰らえええええええ!!!!」バシュッ……ギュルルルルル
側近「な……!?」
勇者「……行くぞ側近」ダッ
464:
側近「待て! あれは大丈夫なのか!?」ダダッ
勇者「問題ない。あれは魔力を放った相手しか狙わないからな」
側近「そ、そうか……だが、まさか」
兄魔王「ぬうっ……これはあ!」ブシュウウウウ……
戦士「流石にびびっただろ? これがこいつの『今の』力だ……!!」シュルルル……カシャンッ
側近(斧の刃の部分が外れて飛んでいくとは……)
465:
勇者「……元々あれにかけられていた呪いは違うものだった」
勇者「だが、魔法使いがその性質を弄り……少しだけ扱いやすくしたんだ」
側近「それでも見ていて危なっかしいな」
勇者「だから普段は魔法使いに厳重に保管して貰っている」
側近「成程、な……ッ!」ブオンッ
勇者「……ッ!!」ヒュッ
兄魔王「おのれ……調子に乗りおって!!」シュンッ
側近「障壁か!」ガキンッ
勇者「……中々固いな」
側近「少し待て……はあっ!」ズン……ッ
パキキ……パァァンッ
466:
兄魔王「っ糞がぁッ……!!!!」ギリリリッ
側近「勇者ッ! 今だ!!」
勇者「……感謝する」ダダダッ
兄魔王「くっ……まさかこの俺が……!」
勇者「覚悟しろ……祖母の仇」チャキッ
兄魔王「……などと言うと思ったか?」ニタッ
側近「!?」ゾクッ
兄魔王「ふ……はあああっ!!!!」ゴゴゴゴ……ドゴンッ
勇者「ッ……」ズザザザ……
467:
戦士「勇者!」
側近「貴様……」
兄魔王「忘れたか? 俺が喰ったのは母上とあの女だけではない」
側近(……魔力が膨れ上がった……!!)
兄魔王「こちらはまだまだ余裕があるぞ? こんな事もできる位なあ」ボシュッ
戦士「! しまったぁ!!」クルッ
魔・僧「!!」ギュイイイイイ……
兄魔王「そいつらは狙わないと思ったか? 消し炭になるのを見ているがいい!!」
勇者「くっ……」ダッ
468:
側近「僧侶! 結界を!!」ジャキッ ダダダッ
兄魔王「馬鹿め、その距離で間に合うと思うか?」ゲタゲタ
魔法使い「畜、生……!」ググッ……
僧侶(は、早……これでは結界が!!!!)
ドゴォッ シュウウウウウウ……
戦士「魔法使い!!!! 僧侶おおおおおおおおお!!!!」
469:
魔・僧(……)
魔・僧(……?)パチッ
「ふう……ギリギリだったな」シュウウウ……
勇者「!」
側近「あ……」
戦士「ま……」
僧侶「魔王さんっ!」
魔王「いや皆、遅くなってすまないな」ザッザッ
魔法使い(こいつ、何時の間に……)
470:
側近「兄上! 姉上達は……?」
魔王「嗚呼、心配ない。ちゃんと……片をつけた」
側近「……そうか」
兄魔王「ちっ……役立たず共が」
僧侶「あ……た、助けてくださってありがとうございます!!」ペコッ
魔王「いやいや。それより僧侶、もうこのような事がないようにしっかり結界を張っておいてくれ。彼女のためにもな」チラッ
魔法使い「! ……ふん」プイッ
僧侶「わ、わかりました!」スッ……シュンッ
魔王「うむ、それで良い。くれぐれも力の出し惜しみはするなよ……これが最後の戦いだからな!」ジャランッ
475:
兄魔王「最後だと? ……笑わせてくれるな! それともお前達の最期という意味か?」
魔王「……」
側近「兄上、気をつけてくれ! 奴はこちらの魔力を吸収する……それに母上と先代勇者の肉を……」
魔王「何!? ……成程な。だから彼女はこうなっているというわけか」ジワッ
魔法使い「……」ジロリ
魔王「だが、それならそれで他にやりようはある」スッ ゴゴゴゴゴ……
兄魔王「!」
魔王「喰らうがいい」ゴゥッ
兄魔王「……お前、聞いていなかったのか? 何故こちらに向かって魔力を放つという真似ができる!!」ズズズ……
魔王「……」ボンッ ドヒュッ
側近「兄上……!?」
476:
戦士「何やってんだよ! そんな事したらあいつの思うつぼだろうが!?」
勇者「……そういう事か」
僧侶「え?」
魔法使い「あいつ……わざとやってるわね」
戦士「わざと?」キョトン
側近「! まさか兄上」
側近(奴に限界まで魔力を吸収させて……内側から爆発させようというのか!?)
魔王「……」ボボボ……ッ
兄魔王「ぎゃはははは!! どれだけぶつけて来ようがすべて俺の力になるぞ!!!!」ズズズズズッ
魔王「……本当にそうか?」ドンッ
兄魔王「む……?」ズズ……ドクンッ
477:
勇・側「!」
戦士「あ……」
魔王「ようやく、か」フラリ
僧侶「ま、魔王さん!」
魔王「心配するな、短時間で大量の魔力を消費した結果だ。じきに落ち着く」
側近「これ以上無茶はするな兄上。後は俺達に任せてくれ」ガシッ
魔王「はは、すまんな」
兄魔王「ううっ……こ、これはあ……!?」ドクッ……ドクッ……
勇者「……使い慣れない他者の能力を過信したツケが回って来たな」
戦士「な、なあ……これであいつも終わりって事か?」
僧侶「ええ……その筈です」
魔法使い「……」ジッ
兄魔王「ぐおおお……ああああああああああ!!!!」カ……ッ
478:
勇者「……」タタッ
戦士「勇者!?」
勇者「……とどめを刺してくる」
戦士「あ……おいっ」
側近「止めるな。自分の身内の仇だ……無理もなかろう」
魔王「我らはただ見届けよう。彼が成し遂げる事を」
魔法使い(……)
魔法使い(……?)ジーッ
僧侶「魔法使いさん?」
魔法使い(おかしい……あいつの中の魔力は確かに溢れ出してるけど)
勇者「……」チャキ……ブオンッ
魔法使い(あいつを突き破って出てきているというより、寧ろ……!)ハッ
戦士「な、何だy」
魔法使い「まずい! 勇者そいつから……ッ」
479:
――――
――
少女「……!」ポロ……
妖精「?」
少女「」ポタッ……ボロボロボロッ
妖精「!?」
姫「しょ、少女さん!? 突然どうされたんですか!?」サスサス
少女「あ、わ、わかんない、急に目から勝手に……」ゴシゴシ
白獣「! 少女さん……」
妖精「」オロオロ
少女「妖精さん……何でかわからないけど、凄く悲しいの……どうしてかな?」ボタッ パタタッ
480:
白獣「……これは少々厄介な事になったようですね」
姫「白神獣様? それは一体……」
白獣「少女さん。以前もそのような事がありましたか?」
少女「へ? え、えっと……そういえば、ずっと前にこんな事があったかも」ゴシゴシ
白獣「少女さん。落ち着いて聞いてください……今貴女の大切な方達に命の危機が迫っています……或いは既にそうなっているかもしれません」
少女「!?」
姫「そ、それはどういう意味ですか!?」
黒獣「お前は黙っていろ」ギロリ
少女「何を、言っているの……白獣さん……」カタカタ
白獣「詳しく教えている暇はありませんが、本当の事です。貴女がそのような反応を示しているのがその証拠……」
少女「そんな……!」ポロッ
481:
白獣「彼らを助けたいですよね?」
少女「も、勿論だよ! できるの?」ゴシゴシ
白獣「……これを」スッ
少女「白い……玉?」キラリ
白獣「私の力を凝縮した宝玉です。触れた者の体力や魔力などを全快させる事ができます」
少女「!」
白獣「これを貴女に托しましょう。彼らの元へ行っておあげなさい」ニコッ
少女「えっ……良いの?」
白獣「本当は乗せて行ってあげたい所ですが……この結界は私しか作れませんからね。かと言って……」チラッ
黒獣「私は乗せてなどやらんぞ。絶対にな」フンッ
白獣「……という訳なので、貴女お1人で行ってもらわなければなりませんが、どうします?」
少女「勿論行くよ! これで魔王様や側近さんが助かるのなら……ありがとう、白獣さん」ギュッ
白獣「いいえ。今の私にはこれ位しか貴女を支援する事ができませんから」
482:
妖精「」クイクイ
少女「妖精さん……一緒に行ってくれるの?」
妖精「」コクリ
少女「……ありがとう。とっても心強いよ……白獣さん、良いかな?」
白獣「ええ。少女さんが嫌でないのなら……その代わりしっかりと彼女を支えてあげるのですよ?」
妖精「」グッ
少女「お、大袈裟だな……」
白獣「ふふっ。あ、お守りの杖も忘れずに」ススッ
少女「? ありがとう」スッ
白獣(ここを出たら……少女さん、貴女は今以上に苦しむ事になるでしょうから)
姫「……少女さん」
少女「お姫様、ちょっと行って来るね……大丈夫、ちゃんと戻るから」ニコッ
483:
姫「……ごめんなさい。待つ事しかできなくて」
少女「そんな事ないよ! 寧ろお姫様がここにいてくれる事で凄く安心する」ギュッ
姫「……ありがとうございます」
白獣「では今から一時的に結界を開け、同時に数名、数体の亡者を浄化して道を開きます」
白獣「結界が消えたら、絶対に振り向かずに前だけを見てお行きなさい!」
白獣「それができる程度の道は絶対に確保しますので!!」キッ
少女「は……はいっ」ドキドキ
妖精「」ハラハラ
黒獣「とっとと行け。これ以上白娘の手を煩わせるな」
姫「少女さん……お気をつけて」
白獣「準備と覚悟は良いですか? では……行きますよ!」キィィィ……ン
484:
――――
――
少女「はっ……はあっ……」タタタタッ
妖精「」パタパタ
少女(待ってて……すぐに行くから……!)
ザワッ……
少女「!?」クルッ
ガタ……ガタガタガタ……
少女(あの部屋から……出てくる!)ゾッ
485:
妖精「!」クイッ
少女「あ……そ、そうだね、立ち止まっている暇は……」
バタンッ 
少・妖「!」ハッ
亡者達『……』ズルッ……ズルッ……
少女「ひっ……」
――クルシイ
少女「!」
イタイイタイタスケテモウイヤダオカァサンカエレナクテゴメンナサイマオウサマバンザイイヤダマダシニタクナイマダシヌワケニハイカナインダユウシャサマサヨウナラ……――
少女「!? う、うぅう……あああああ……!!」ペタン
486:
妖精「!?」クイックイッ
少女「嫌、やめて……皆もう死んでるの……!!」ブンブン
少女(流れ込んでくる……この人達の苦しみや悲しみが……!!)ボロボロ
少女(そのすべてに押し潰されそうだ……ぁ……誰か、助け…………)フッ
妖精「!」クイクイッ
少女「……ごめんなさい……何もできなくてごめんなさい……ごめんなさいっ……!」ガタガタ
妖精「〜〜〜〜〜ッ……!」ブンッ
ペ チ ン ッ
少女「……!」
妖精「ッ……ッッ!!」ペチッ……ペチンッ……
少女「……妖精、さん……?」キョトン
妖精「……」ペチン……ッ
487:
少女「私……何を……」
妖精「……」ウルッ
少女「……ごめんね妖精さん。心配かけちゃったみたいだね」ツンッ
妖精「……〜〜〜ッ!!」ヒシッ
少女「もう大丈夫だと思う……ありがとう」
妖精「」スリスリ
少女(でも状況は……全然大丈夫じゃない)チラッ
亡者達『……』ジリ……ジリ……
少女(私が辿り着くまで、皆どうか無事でいて……!)
488:
――――
――
僧侶「う……」パチッ
僧侶「あれ? 結界は……!」ガバッ
僧侶「み、皆さん! ご無事ですか!?」
魔王「うう……」ヨロッ
側近「何とかな……」
戦士「……勇者は!?」ズキズキ
魔法使い「……あ……!」スッ
勇者「」ジワッ……ダラダラ
僧侶「勇者さん!」タタッ
僧侶(酷い傷……すぐに回復を!)パァァッ
489:
側近「馬鹿な! あそこからここまで吹き飛ばされるなど……!」
兄魔王「……く、くく」
魔王「!?」
兄魔王「嗚呼、生まれ変わった気分だ……魔力の吸収はできなくなってしまったが」ムクッ
側近「あ……何故……」
兄魔王「自分でも驚いているな。まさかこのような事が起こるとは」ニヤニヤ
魔法使い「……強くなってる」ポツリ
戦士「え?」
魔法使い「さっきよりもずっと……なんでよ……」
兄魔王「俺にもわからんなあ。まあ、1つ心当たりがあるとすれば」チラリ
魔王「!」
兄魔王「お前の腕を喰らった事位か」ペロリ
490:
魔王「! ……ッぐ」ズキッ
魔法使い「あ……まさか」
兄魔王「どうやらお前の左腕と魔力は」ポゥッ
僧侶「……え」
兄魔王「俺を更なる高みへと導いてくれたようだ」ヒュッ
僧侶「!? がっ……」ドゴォッ シュウウウウ……
戦士「僧侶ッ!!!!」
側近「くっ」ダダダッ
魔法使い「魔王の腕が、魔王の過剰な魔力を無理なく肉体に馴染ませたというの……?」
兄魔王「そのようだな。馬鹿正直な解説ご苦労」ニタァ
魔法使い「……ッ」ギリッ
491:
戦士「う、嘘だろ……? 勇者と僧侶があんな状態だってのに」
魔王(もしもそれが本当だとしたら、私は……何という事を……!)
兄魔王「ふっ、そんな顔をする事はない。今のお前には感謝しているのだからなあ……今までの恨みが」スッ
側近「!」
兄魔王「こんな風に消し飛びかねない位に」ゴォッ
側近「ぐ……あ……ッ」ズザザザザ……ビチャッビチャッ
魔王「お、弟!」
魔法使い「ちっ……」チャキッ
戦士「何だよこれ……悪い夢なのか……?」
兄魔王「現実に決まっているだろうが! ……俺に更なる力を与えてくれてありがとう、親愛なる我が愚弟よ!!!!」
497:
――――
――
少女「……!」ブンッ
亡者達『ぁう……があァ……』ズルッ……ズルッ……
妖精「」シュッシュッ ビシッ
亡者達『ァァ……』ジリジリ……
少女「妖精さん、無理に立ち向かわないで……!」
妖精「……」ピタッ
少女(でも、このままずっとこうしている訳にはいかない……)
少女「うぅ……」ギュ……ッ
『もう、なんてしけた顔してるの? 今すぐ啼かせてあげちゃいたいわね』フワッ……ギュウッ
498:
少女「!?」
妖精「……!!!!?」ギョッ
『……まあ、幾らあたしでも流石に空気は読むけれど』
少女「え……い、淫魔、さん……?」
淫魔「ハァイ、お嬢さん♪ こうして現実で会うのは初めてね」ニィッ
少女「ど、どうしてここに……?」
淫魔「うーん、何だか貴女が困っているような気がしたから……かしら? 丁度暇だったし」スリスリ
少女「ひゃっ……!」ビクッ
妖精「……」ワナワナ
淫魔「……それに」ピタッ
少女「?」
淫魔「『お友達』を助けたいって思うのは、変な事?」コテン
少女「淫魔さん……」
499:
淫魔「……なーんてね。それにあたしだけじゃないわよ?」クイッ
少女「え? ……あ」クルリ
グリフォン「」バサッ
一角獣「」ブルルル……
大蛇「」シャァーッ



ザワザワ……ギャアギャア……
少女「み、皆……!」
淫魔「貴女って変わったお友達が多いのねえ」クスクス
500:
少女「で、でも、私が喚びたいと思った訳じゃないし……魔王様の結界だって」
淫魔「その事だけれど……お嬢さん、貴女とんでもないのを喚び出したでしょう?」
少女「え? それって白獣さん達の事?」
淫魔「ええ。恐らくその影響で異界からの訪問が何時もよりも容易くなったんじゃない?」
少女「そうなの、かな……」
淫魔「まっ、詳しい事はあたしにはわからないわ。あたしは彼らに便乗して来ただけだし」パッ スタスタ
少女「あ……」
淫魔「ふうん……何人か生前良い男っぽかったのがいるじゃない」ペロリ……
少女「淫魔さん……?」
淫魔「とりあえず景気づけに1発……魅了っ♪」バチコーン
亡者達『……』シーン
少女「……」
妖精「……」
召喚獣達「……」
501:
淫魔「……ふ」
少女「?」
淫魔「っざけんじゃないわよおおおおおお!!!!」ゴォオオオオ……
少女「ひゃ!?」ビクッ
淫魔「何なの!? 死んで生き返ると見る目まで腐っちゃうのかしら!?」
妖精「」ガクガク
淫魔「それとも何? あたしの爆乳よりもあっちのが良いってか? ああん?」ビキビキ
少女「い、淫魔さん、落ち着いて……」
淫魔「落ち着け……? サキュバスとしてのプライドが傷つけられて黙ってられっかあああああああああ!!!!」ウガーッ
少女「ひいいいっ」
召喚獣達「」ビクビク
淫魔「……ふんっ。てな訳でお嬢さん、ここはあたし達に任せて行きなさい」ポン
少女「あ……え……?」
502:
淫魔「急いでいるんでしょう? こいつらからは見返りとしてしっかり搾り取っておくから」ニコッ
少女「でも……」
淫魔「……また、夢の中みたいにされたい?」シュルル……
少女「!! い、行く! 行きます!!」ササッ
淫魔「うふふ、それで良いのよ」
少女「……でもあんまり酷い事はしないであげてね……」
淫魔「善処するわ〜」ヒラヒラ
少女「ありがとう。行こう妖精さん」クルッ タタタッ
妖精「!」ハッ パタタタタッ
亡者達『!』ズルズルズル……
淫魔「おおっと、あの子の所へは行かせないわよお? 代わりにたっぷりあたしの魅力を教えてあげるわ」シュルルルルル
召喚獣達「……」
淫魔「貴方達もあたしに構わず適当に暴れたら? そのためにここに来たんでしょう?」
淫魔「……それに貴方も」チラッ
503:
『……ありゃりゃ、バレちった』
淫魔「これでも上級魔族ですから……まさか貴方みたいなのまで来るなんてね、死神殿」
死神「ぼかぁ君達と違って自分の力でここに来ましたともさ〜」ヒョコッ
淫魔「訊いてないわよそんな事……どうしてすぐに顔を出さなかったの? 貴方ならその気になれば一掃できる筈でしょう、ここ」チラリ
死神「そりゃ、幾ら魔王城といえど吾輩の全力を出したら危ないじゃんよー」カラカラ
淫魔「……それもそうね」
死神「それにさー……もうしばらくは少女ちゃんとは会わないと決めてるんでね、あちしゃあ」
淫魔「ふうん。まあ貴方達の事を詮索をするつもりはないけど」
死神「賢明な判断だと思いまっせ。んじゃ用も済んだしおいとましようかね」クルリ
淫魔「え? もうお帰り?」キョトン
死神「心の友の顔を見に来ただけだかんね。君達の獲物を取るつもりはこれっぽっちもないですぞ」
淫魔「そ、そう」
504:
死神「……お互い嘘を吐くのも大変だね」ボソッ
淫魔「ッ!」
死神「アヒャヒャヒャ! ごゆっくりお楽しみを〜」シュンッ
淫魔「……いなくなったみたいね」ホッ
淫魔(やっぱり、あの子には何かあるのね。でなければ……)
淫魔「まあ、とにかく今はあいつらをどうにかしましょう」
亡者達『ヴぉあ……ぁ……』
召喚獣達「!」ギャアギャア ワーワー
505:
――――
――
魔法使い「……」ドシュドシュドシュッ
兄魔王「ふっ」ヒュンッ ドババババッ
魔法使い「ち、全部防ぎやがって……!」
兄魔王「いい加減諦めたらどうだ。虫ケラ」
魔法使い「ッ……誰がああああああッッッ!!!!」ボシュッ ボボボボボ……ッ
戦士「止めろ魔法使い! 残りの魔力も少ねえのにあんまり無茶すんじゃねえ!!」ヨロッ
魔法使い「うるさい! そんな体になってるあんたに言われたくないわよ」
魔法使い(第1、あたしが諦めたら……)チラッ
勇者「」ポタポタ
僧侶「」グタッ……
魔法使い(……確実に全滅する)ギュッ
506:
側近「はあっ……はあっ……」
魔王「……」ジャラ……
兄魔王「ふん、今更そんな物で我が身をどうにかできると思っているのか?」
魔王「……例え通じずとも、この鎖尽きるまで何度だってやる」
兄魔王「馬鹿め! 俺は母上やそれを討った勇者の力に加え、お前の力まで手に入れたのだぞ?」
兄魔王「それでも勝てるとほざくか? なあ!?」
魔王「勝つ。絶対にな」
魔王「……いや、私達は勝たねばならぬ! 貴様をここで倒さねばならぬ!!」
魔王「大切な者達のためにもな……そうだろう!? 弟よ!!!!」
側近「……無論、だ……」ジャキッ
507:
魔王「わかるか? 貴様と我らとではこの戦いにおける覚悟の重さが違うのだよ……最初からな」
兄魔王「誰だって口ではどうとでも言えるものだ……力が伴っていなければ意味がないがなあ!!!!」キィィィィ
戦士「!? うぁあああああ……!!!!」ガクッ
魔王(超音波……何処までも陰湿な奴め……)
側近「ッ……!」
魔法使い「……戦士、あんたやっぱり馬鹿ね」ツカツカ
魔王「魔法使い……何故平気で……」
戦士「……あ」
魔法使い「ずっと前にあんたたちにはあげたでしょう? こういう対聴覚攻撃用のアイテム」
508:
戦士「わ、悪い、忘れてた……!」ゴソゴソ……キュッ
魔法使い「かなり貴重なのよ? 耳なし兎の耳の名残で作った耳栓」スッ
魔王「う、兎?」ピクッ
側近「兄上、今そこに反応しては駄目だ」
魔法使い「防げる攻撃にはきちんと対処しないと無駄に消耗するわ」ゴソッ……ブンッ
兄魔王「!」カッ……ドゴォッ
魔王「今のは!?」
魔法使い「爆弾岩で作った小型爆弾。魔力をこめて相手に投げれば爆発する」ゴソゴソ キュポッ
509:
戦士「ちょ、おまそれ……」
魔法使い「……」ポワワッ……ベシャッ
兄魔王「ッ!! ぐお、おおお……」ジュワァ……
側近「な、何を投げた? ただの水球では……」
魔法使い「流酸を吐く巨大蝙蝠から手に入れた流酸。あいつにも効いて良かったわ」シュルッ
戦士「よく平気で使えるよな……あんなヤバかったのを」ブルッ
魔法使い「寧ろ使い所があって喜ぶべき所でしょ? こんな状況だしある道具は何でも使わないと」シュルルルル……
魔王「それは……」
魔法使い「蜘蛛女の糸で作った捕縛用ロープ。あんたの鎖とどっちが丈夫かしらね」ギュルルルッ
兄魔王「くっ……」ギチッ……
510:
側近(魔法を思うように使えん腹いせか……中々にえげつない戦い方をする)
魔法使い「……ちょっと」
戦士「?」
魔法使い「ここまでお膳立てしてやったんだからとっとと行きなさいよ。気休めにしかならないかもしれないけどね」ギロリ
戦士「! あ、ああ!!」ダダッ
側近「す、すまん、恩に着る」ダッ
魔法使い「……本当はこんな事死んでもしたくないのよ……ったく……」ブツブツ
魔王「魔法使い……」
魔法使い「気安く呼ぶな」ギロッ
魔王「うっ……すまない」
511:
戦士「うおおおおおお……!!!!」ブンッ
側近「勇者には悪いが、これで……決めさせてもらう!」
兄魔王「……ぎゃは」ムクッ……ブチブチ
魔王「!」
兄魔王「ぎゃははははははッ! 舐められたものだ、こんな物が本当に効くとでも?」ガシッ
戦士「なっ……糞っ、放しやがれ!」
兄魔王「何、そんなに喚かずともすぐに放してやる……そおら!」ブンッ
戦士「う……うおわあああああああ!!!!」ヒュオオオオオ……
側近「戦士!」
兄魔王「今度こそ消えろ、目障りだ」ボッ……
戦士「……ッ!」ドゴォッ パラパラ……ズルリ
側近「あ……」
512:
魔法使い「ちっ……」ゴソッ
兄魔王「お前達もな」ボシュンッ
魔王「!? く……っ」バッ
魔法使い「ちょっ……」
ドッ……ゴォォォォ……
魔王「」ドサッ…… ジワァ……
魔法使い「」ポタッ……パタタッ
側近「兄、上……魔法使い……」
兄魔王「馬鹿な奴だ。人間を庇って体に風穴を開けるとは……それに結局守り切れていない」
側近「ぅ……あ……」
513:
兄魔王「あのような事をほざいていた癖にだらしないなあ」ニタァ
側近「――ッ」ブツン
兄魔王「それにしてもこの力は素晴らしい……これさえあれば、母上を超える魔王になる事も最早夢では」
側近「ああああああああ!!!!」ブンッ
兄魔王「嗚呼そうだった。まだお前がいたな」バキィッ
側近「ッ……がああああああああ!!!!」ズザザ……ダダダダッ
兄魔王「しつこいな。やはりこれでないと倒れんか」ボッ
側近「こんなもの……効く、かッ!」ズパンッ
兄魔王「! くっ」ジャキッ……
側近「貴様は……貴様だけは……」
ギィン……カキンカキンカキンッ ヒュオンッ ギチギチギチ……ッ
514:
兄魔王「ふん。まさかこの俺に武器を使わせるとはな……だが」ググッ
側近「!」
兄魔王「俺の剣には絶対に勝てん」ガキィンッ
側近「……!!」ヨロッ
兄魔王「生み出す際に……相対したいかなる武器よりも強く丈夫になるという能力をつけたからな」ギラッ
側近「そんな……出鱈目な能力など……」
兄魔王「認めたくはない、か? 己の武器の能力も明かさない奴に言われても説得力がないぞ」
側近「ふん、貴様のようにひけらかす趣味がないだけ……だっ!」ブンッ
兄魔王「まだわからんか! やはり何処までも愚かな奴だお前達は!!」キィィン……ッ
側近「! 剣が……」クルクルクル……シュンッ
515:
兄魔王「壊れはしなかったか。だが、それさえ消せば」ドスッ
側近「!!」ゴプ……
兄魔王「お前を串刺しにする事など容易だ」グリィッ
側近「……〜〜〜〜ッッッ!!!!」ゴパァッ ブシュウウウウ……ッ
兄魔王「完全復活する前はよくもやってくれたなあ……そっくりそのまま返すとするか」ドスッドスッ
側近「がっ……ぁぐあ……っ」ビクッビクンッ
兄魔王「まだだ、まだ楽になどしてやらん……お前にこれ以上にない絶望を見せつけるまではなあ」クックッ
側近「……ッ……ッッ」ビシャアッ
側近(ま、不味い……意識が……)クラッ
側近(このままでは……本当、に……)ギリッ
『――勝ちたい? こいつに』
516:
側近(……!?)
『勝ちたいよね? ううん勝って貰わなきゃ困るよ……でないとボクも死んじゃうし』
側近(お、お前は……)
『あははっ、わかってる癖に〜。ボクは君で、君はボクだよ? 第1勝手に2つに分かれたのは君の方だ』
側近(ッ……何故、表に……)
『さあね。肉体の防衛本能か何かじゃない? 今の君がこんな状態だし』クスクス
側近(……自業自得か)
『ボクを……力を拒絶するからこうなるんだよ。ざまあないね』
側近(くっ……)
517:
『とは言っても、このままだと本当に不味い……悔しいけどそれは事実だ』
側近(……そうだな)
『そこでだ、とりあえずこいつの事はボクに任せなよ』ドクンッ
側近(! まさかお前……だ、駄目だ、それだけは……!!)
『五月蠅い、今の君に決定権なんてないんだよ死に損ない。ほら、つべこべ言わずに……』ドクッ……ドクッ……
側近(止めろおおおお……ッッッ!!!!)
『 ボ ク に 、 代 わ れ 』 ド ク ン ッ
518:
兄魔王「ぎゃはははは!!!! 痛かろう? 苦しかろう!? みっともなく泣き叫んでも良いんだぞ!?」ズプッ ドシュッ
側近「……」
兄魔王「まあ、そんな気力はもうないだろうが……なっ!」ブンッ
側近「……」ス……ガシッ
兄魔王「!? 馬鹿な、虫の息だった筈……!」
側近「……」ムクッ……ボコボコボコッ
兄魔王「再生だと……!? それに魔力まで……ッ」ジャキッ
側近「……」ニィィッ
兄魔王「……!!!!」ゾクッ
519:
側近「……」ジャキッ……ピタリ
兄魔王「……まさか、お前」
側近「……」
兄魔王「『末子』……なのか?」
側近「……」
側近(末子)『――だったら、何だい?』
523:
兄魔王「……ふ」
末子『?』
兄魔王「ふふ、ははは……ぎゃはははははははは!!!! ようやくか、まだ殺さなくて本当に良かった!!!!」
末子『……』
兄魔王「やっと覚醒したんだなあ……兄上は嬉しいぞ」
末子『……ボクは、お前を兄だと思った事は1度もないけどね』
兄魔王「可愛げのない事を言う……だが許そう。これで俺は真の意味で最強になれるのだからなあ」ニヤァ
末子『ふうん、どうやって?』
兄魔王「無論、『末子』として覚醒したお前を喰らってだ!!!!」グオオオオッ
524:
末子『……それは本気で言っているのかい?』ガシッ パシン
兄魔王「!」
末子『幾ら強い奴の肉を食べようが、多少の力にはなってもそれ自体になれる訳じゃないんだよ?』クスクス
兄魔王「ぐっ……」
末子『例えボクや母上を食べようがそれは変わらない……お前は永遠に末子にはなれないんだ』
兄魔王「きっ、貴様……ッッッ!」ビキッ
末子『そんなに母上に認められたかった? 期待されたかった? そうだよね、お前は只の長子だもんね』
兄魔王「黙れ……」
末子『本当に残念だったね! 末子として生まれる事ができなくて!! お前は所詮紛い物……』
兄魔王「黙れえええええええ!!!!」ゴオオオオッ
525:
末子『堪え性ないな〜。そんなんで魔王になろうとか片腹痛いよ』ボシュンッ
兄魔王「黙れ、黙れ、黙れ……」ボボボボッ……ドゴォッ
末子『良いのかい? せっかく手に入れた魔力をこんなに消耗して』ヒョイッ ボゴンッ
兄魔王「俺はお前を……お前を喰らって絶対に……!」ブツブツ
末子『……ねえ』ゴ……
兄魔王「!」
末子『母上にそういう想いを抱いていたのが自分だけだと思わないでよね』ピッ ドシュウウ……ッ
兄魔王「……がぁっ!!」ズザァッ
兄魔王(なんという……魔力だ……軽い一撃でこれ程……ッ!)シュウウウウ……ベシャッ
526:
末子『お前はまだ良いよ。ちゃんと母上の前に存在する事ができた。話す事ができた。見てもらえる事ができた』コツ……コツ……
末子『……だが、ボクはどうだ』シュンッ
兄魔王「!」
末子『力を使いたくないと駄々をこねるこいつのせいで、別人格として切り離され……ずっとこいつの奥深くに封じられていた』ドスッ
兄魔王「ぐっ……げえええええ……」ビチャビチャ
末子『お前達に痛めつけられている時だって、反撃1つできずにただ悪戯に痛みを感じている事しかできなかった』ガンッ ゴンッ
兄魔王「ゴホッ! がはあっ……!!」
末子『そんなボクの気持ちがお前にわかるかい? ねえ?』バキッ
兄魔王「ぐぶっ……そんなもの、知る、か……ッ」ゼエゼエ
527:
末子『……じゃあ教えてあげるよ』ニヤァ
兄魔王「ッ……!」ゾワッ
末子『ん〜……これでいっか』ガシッ
兄魔王「そ、それは……」
末子『こんなに立派なのが3本も生えてるんだから、1本位なくなっても良いよね?』ツンツン
兄魔王「お、お前、何を考えている!? 角は魔王の力の象徴で……傷ついても再生しない唯一の部分なのだぞ!?」
末子『 だ か ら 何 ? 』
兄魔王「――ッ!」ゾワッ
末子『今までお前達がボクにしてきた事に比べれば、これ位どうって事ないでしょ?』メキメキ……
528:
兄魔王「い、嫌だ……そ、それだけは……!」
末子『散々ボクの体で遊んでおいてさあ……いざ自分がやられる時になるとそうやって怯えるなんて』ググ……ッ
兄魔王「や、止めろ……放せ……放してくれ……!!」ブルブル
末子『みっともないよね♪』
ボ ギ ン ッ
兄魔王「あ、がっ……ぎひぁぁあああああああッッッ!!!!」ブシャアアアアッ……ドクッドクッ
末子『嗚呼、そういえばボク達の体で痛覚が1番集中しているのもここだったっけ? 別にどうでも良いけど』ポイッ……カラン
兄魔王「ひぎぁっ……あ、あァ……」ビクッビクッ
529:
末子『だらしないなあ、ボクにはこれ以上の事をしておいてさあ……』
兄魔王「……ッ……〜〜〜ッッ!!」
末子『まだほんの序の口なのに……先が思いやられるよ』
兄魔王「ま、まだ……やる気、か……」コヒュー……コヒュー……
末子『当たり前でしょ。まさかこれで終わると思ってた? おめでたい頭だね』
兄魔王「ぁ……」
末子『次は……そうだね、何時かやってくれたみたいに首を切り離して蹴っ飛ばしちゃおうか』
兄魔王「!!!!」
末子『その後は……心臓以外の内臓を全部取り出してみるのも良いね!』
兄魔王「あ……あ」カタカタ
530:
末子『あ、大丈夫だよ! まだ命まではとらないからさ〜』
魔王「……弟?」
末子『!』
魔王「お前……何をして……」ヨロッ
末子『……そっか、再生したんだね。考えてみれば当たり前の事だった』
魔王(何時もの弟ではないな……あいつはこんな事はしない。だとすれば答えは1つ)
魔王「お前は……何だ? 弟の力の部分が人格化したのか?」ジリッ
末子『それは間違いじゃあないけどさ……そんな言い方はないと思うよ? ボクだってこいつである事は変わらないんだし』
兄魔王「ぅあ……た、助け……」
531:
末子『だからそういうのみっともないって』グシャッ
兄魔王「がふぁ……っ!」
魔王「――ッ!」
末子『ねえ、ボクは貴方だけは『兄』として認めているんだよ? 弱いなりにこいつを守ってくれていたし……でも』ポゥッ……
魔王「!」
末子『ボクの封印に力を貸した事だけは許せないな』ボシュッ
魔王「ぐっ……」シュンッ……ギュオオオオ
末子『あ、防がれちゃった。でもさ』
魔王「……!」ピシッ
末子『何時までもつかな、それ』ニッ
532:
魔王「……末子の力は伊達ではないようだな」ツウッ……
末子『でしょ?』
魔王(駄目だ……今ある分の魔力ではこれ以上防ぎ切れぬ……ッ)パキキ……
末子『貴方の事は生かしておいてあげる。かつての母上と側近みたいに』
魔王「弟よ……元、に……」
末子『でも、それだけは素直に喰らってよ』
魔王「くそっ……ぐああああッ!!!!」パァンッ……ドゴオッ
末子『でないとボクの気持ちが収まらない』
魔王「……」ガクン
533:
末子『……さてと。邪魔もなくなったし続きといこうか』クルッ
兄魔王「!」ビクッ
末子『何その顔。さっきまでの勢いが全然ないね〜。こうして誰かに踏み躙られるのが初めてだからかな?』
兄魔王「ッ……!」
末子『弱者の苦しみを知るのも良い経験になると思うよ。まあ、お前の生はこの先そう長くはないけどね』
兄魔王「!!!!」
末子『せいぜい死ぬ前に沢山苦しんでよ。オニイサマ』ニコッ
――ガチャッ
兄魔王「!」
末子『またか、今度は一体誰……』
少女「はあっ……はあっ……」バタン……ヨロッ
妖精「……」パタパタ
末子『……少、女?』
539:
末子『あ……』ゴシゴシ パチパチ
少女「げほっ……そ、側近さん、皆……」
妖精「!」ゾクッ
末子『少女……本物の少女ぉっ!!』パアアッ
少女「!? 側近さん……?」ビクッ
末子『夢じゃないんだね? 嬉しいな、君に会える日をずっと夢見ていたよ!』ザッザッ
少女(……側近さん、の筈だよね……?)
末子『嗚呼やっぱり可愛いな……それにとても柔らかそうだ』ペロリ
少女「え……?」
540:
末子『早く君に触れた……』ガシッ
少女「魔王様……!」
魔王「止、めろ……少女に手を、出すな……」
末子『……邪魔しないでよ』ドゴッ
魔王「がッ……!」
少女「魔王様、しっかりして!! さあ、この玉を握って……」タタッ……ゴソゴソ スッ
末子『……』ムッ
魔王「うぅ……」スゥッ
少女(良かった、顔色が良くなってきた……でも)
少女「側近さん……一体どうしちゃったの!? 魔王様にこんな酷い事をするなんて……」
541:
末子『酷いのは君の方じゃないか……少女。君はボクの事だけを見ていれば良いのに』
少女「!?」
末子『……それともそいつを殺せばそうなってくれるかな』コキッ
少女「な……何を言ってるの? 貴方は本当に側近さん?」
末子『そうだよ? ボクはあいつの一部だし、この体は君が大好きなあいつのだ』
少女「どういう、事……?」
末子『そのままの意味だよ……うん、やっぱり近くで見ると一段と可愛いね』スッ
少女「……ッ!」ビクッ
末子『!』
542:
少女「あ……」
末子『その顔……まさか、君もなの?』
少女「ち、違……」
末子『君までボクを拒絶するの!? あいつの方が良いのか!?』ガシッ
少女「い、痛ッ……!」カランッ
妖精「!」パタタタッ ペチッペチッ
末子『わっ……こいつ!』ブンッ
妖精「……ッ!」ベチンッ……ドサリ
少女「妖精さん!!」
末子『どいつも、こいつも……ボクの邪魔ばかりして……』ギリッ
少女「放して側近さん……妖精さんが……!!」
末子『放す? 何で? ……ボクはずっと君に会いたかったんだよ? 夢の中で出会ったあの日から!!』
少女「夢の、中……?」
543:
末子『君だったらボクを受け入れてくれると思っていた……それなのにどうして君は他の奴らばかり見るんだ!?』グググ……
少女「ッ……ぅ……」ズキッ
末子『ただ末子として強く生まれてきただけなのに! ボクだってこいつなのに!!』ポロッ
少女「……あ、あ……ッ」
末子『お願い、ボクを愛して……愛してよ……』ポタッ……
少女「側近、さん……」
末子『……ぐすっ』ドサッ
少女「ひゃっ……!」
末子『甘い……この匂い、とっても落ち着くなあ……』スンスン
少女「や、止めて、側近さん……ッ」カアアッ
末子『君の白い肌には……ふふっ、真っ赤な血が良く映えそうだ』ニッ
少女「!」
544:
末子『今の君がボクを拒絶するなら……』グイッ……ビリビリッ
少女「あ、ぁ……!」ブルブル
末子『お腹の中に入れて……ボクとひとつになれば愛してくれる?』
少女「……」ゾクッ
少女(何時もの側近さんはこんな事も……こんな顔もしない)
末子『ねえ……少女』スリスリ
少女(でも、これもまた……側近さんの一部、なら)グッ
末子『少女……? 答えてよ……』
少女(……『心の導くまま』に)ス……ギュウッ
末子『!』
545:
少女「……ごめんなさい。さっきは、ちょっとびっくりしちゃったから」
末子『少、女……』キョトン
少女「でも、それで……貴方の気持ちが満たされるなら」ジッ
末子『あ……』
少女「私は貴方の血肉になって……ずっと一緒に……」ニコッ
末子『……本当に? ボクとずーっと一緒にいてくれる?』
少女「……」コクン
末子『でも、でもボクはあいつであってあいつじゃないんだよ? それでも……!』
少女「貴方は側近さんの一部なんでしょ? それなら貴方も私の大好きで大切な家族だよ」
末子『少女……』
546:
少女(これで、少しはちゃんと恩返し……できる、かな)
末子『嬉しい……凄く嬉しいよ……』スッ……ジャキッ
少女「! その剣……」
末子『だから、なるべく痛みがないように一瞬で終わらせて……それから少しずつ食べてあげるね』ニコッ
少女(ごめんね……魔王様……妖精さん)ギュッ
末子『少女……だぁい好きだよ』ヒュッ……ドスッ
547:
少女「ッ……!」
少女「……?」
少女(あれ……痛くない?)パチッ
少女「……!?」
末子『ぐ……お、お前ッ……』ポタッ……ポタッ……
少女(どうして……私じゃなくて自分を……!?)
末子『そんなに……少女を独り占め……したいのか?』ギリッ
少女「早く手当てを……あ、あの玉を……」オロオロ
末子『い、行かないで少女……ぐああっ!!』ズプッ……ザクッ
少女(今度は自分の腕を……!)
548:
末子『い、嫌だ……もうあんな姿で閉じ込められるのは嫌だぁ……!!』ジワッ
少女「あ……」
末子『……助けて……少女ぉ……母、上……』ガクンッ
少女「! 側近さん? 側近さん!!」ガバッ
『……』
少女「しっかりして! 側近さん……!!」ユサユサ
『……う……っ』ピクッ……パチッ
少女「!」
側近「……少女……? 俺、は……ッ!」ハッ
549:
少女「大丈夫? 側近さん……」
側近「だ、駄目だ、離れろ少女!」
少女「! ど、どうして?」
側近「……会ったのだろう? おぞましいもう1人の俺と」
少女「おぞましいなんて……」
側近「お前にだけは……知られたくなかった」
少女「……」
側近「こんな俺に、お前の家族でいる資格など……」
少女「そんな訳ないでしょ! 寧ろ私は隠されている事の方が辛かった!!」ギュウッ
側近「!」
550:
少女「例えどんな力を持っていても、側近さんは側近さんだよ……私を救ってくれた家族だよ!!」
側近「少女……」
少女「お願い、もうそんな悲しい事言わないで……私は側近さんの事なら何だって受け止められるから」ジッ
側近「くっ……」
側近(お前にそんな事を言われたら、俺は……)ググ……ッ
僧侶「……」ジーッ
側近「!」
少女「ひっ」
僧侶「……」ハァハァハァ
側・少「」
554:
僧侶「……はっ! ごめんなさい、素敵な光景についつい回復も忘れて見入ってしまいました〜」テヘペロ
側近「そ、そ、僧侶……何故そんなにピンピンしているんだ」
僧侶「その事なんですが、どうやらこれのお陰の様で……」ゴソッ
少女「あっ、どうしてそれを?」
僧侶「私も目を覚ましてから気付いたんですが……恥ずかしながら、ここで姫様からお預かりしていたのをすっかり忘れていたんです」
側近「首飾り……それであの攻撃を受けても」
僧侶「ええ、無傷ではありませんが何とか生き延びられました……他の皆さんも」チラッ
勇者「……」
戦士「うおお、痛みが消えたー!」ブンブン
魔王「それは良かった……この玉の効力は凄いな」
妖精「」パタパタ
魔法使い「またこいつに助けられるなんて……うああいっそ死にたいいい……」ブツブツ
555:
少女「皆……! 良かった、大丈夫そうで」ホッ
側近「若干大丈夫ではなさそうな者もいるがな……」
僧侶「あはは……」
妖精「!」ピューッ ピトッ
少女「妖精さんも……床に叩きつけられた時はどうなる事かと思ったよ」ナデナデ
側近「! ……そうか。俺はそんな事をしたのか」
妖精「」ギロッ
側近「……悪かったな、小妖精」
妖精「!?」ビクッ
少女(わ、側近さんが妖精さんに頭を下げてる……! 珍しいな)
556:
側近「それから少女……先程の、俺であって俺でない者の事だが」
少女「……うん」
側近「後で……きちんとすべてを話したいと思う。聞いてくれるか?」
少女「! 勿論だよっ」ニコッ
僧侶「……やはり何時見てもお熱いですねえ……滾りますよ本当に」ニヨニヨ
側近「!? な、何の事だ!?」カアッ
僧侶「誤魔化さないでくださいよこのムッツリ! 私にはすべてお見通しなんですようふふふふ……」ズイッ
側近「い、いきなり何を言い出す!?」
僧侶「じゃあ、どうしてこんなあられもない姿の少女さんをこのままにしているんです?」
側近「!」ハッ
少女「あ……」カアッ
側近「……しょ、少女、こんな物しかないがこれで隠してくれ」スルッ……パサリ
少女「あ、ありがとう……」ギュッ
僧侶(ふむ、彼シャツならぬ彼マントと言った所でしょうか……未来の)ニヤニヤ
妖精「」ジーッ
557:
魔王「弟! 戻って来れたんだな」ダダッ
少女「魔王様、もう傷は大丈夫なの!?」
魔王「ああ、お陰様でな。この白玉は……白獣からか?」キラッ
少女「うん、そうだよ……元気になって本当に良かった」
側近「……すまない、兄上。心配をかけてしまって」
魔王「全くだ。まあ、こちらも人の事は言えぬが……さて」チラッ
兄魔王「……おのれ……おのれぇ……!」ズルッ……ビチャビチャ
側近「奴はかなりのダメージを受けているが……またあのような事があっては困る」ジャキッ
魔王「ああ……勇者」
勇者「何だ」スラッ
魔王「すまないが、まだ奴の元へ行くのは少し待って欲しい。完全に倒すために、こちらで少しやっておきたい事がある」
勇者「……わかった」スッ
558:
魔法使い「ちょっ……ここまでやっておいて!?」
勇者「良いんだ。魔法使い」
魔法使い「……ッ」ギリッ
側近「本当に良いんだな? 兄上」ジッ
魔王「ああ……奴の中にある私の魔力が、またお前達を傷つける可能性があるのなら……それで良い」
側近「……」グッ
少女「側近さん?」
側近「! 大丈夫だ……少女」カタカタ……ポタッポタッ
少女(嘘……こんなに震えてるのに。それに傷だってまだ……)
魔王「弟……」
魔王(やはり無理をさせるべきではないか……だがこればかりは……!)
559:
側近「大丈夫だ兄上。今度こそ……やれる」
側近(少女や兄上達のためにも……冷酷に、ならねば)
少女「……」ス……ギュウッ
側近「!」
妖精「!?」
魔王「少女……」
少女「私も一緒にやる。こんな状態の側近さんを放ってはおけないよ」キッ
側近「放せ少女、お前はこんな物を持ってはいけない……!!」
少女「嫌! そうやってまた守られてばっかりになるのは絶対に嫌だから!!」
側近「少女!!」
少女「……お願い、私にも側近さんの苦しみを背負わせて……家族、でしょ?」ウルッ
側近「ぐ……だが、俺はお前に血に染まって欲しくはない」
少女「もう、そんなの今更じゃない。こんなに……側近さんや魔王様の血に触っているのに」スッ
魔・側「……ッ!」
560:
少女「思えば、心の何処かで覚悟してたのかもね。2人と家族になりたいって願った時から……自分も似たようなモノになるかもしれないって」
魔王「少女……お前は、それで良いのか?」
少女「うん。私が選んだ事だしね……こうして貴方達の傍にいる事は」ニコッ
僧侶「少女さん……」
側近「……」
少女「魔王様、側近さんにその玉を渡してあげて。あんなに刺していたもの……今だって凄く痛い筈だよ」
魔王「あ、ああ……そうだな……!?」シュッ
側近「! 貴様……!!」
兄魔王「ぎゃは、は……お喋りが過ぎた、な……愚弟達」ギュッ
少女「あ……玉が!!」
僧侶「何時の間に……」
561:
魔法使い「ふん、文字通り最後の力を振り絞ったって訳か。死に損ないめ」スッ
戦士「野郎……往生際が悪いぜ」
兄魔王「何とでも言うがいい……角が元に戻らずとも、これさえあればこっちのものだ……!」グッ
魔王「しまった!」
勇者「っ……」タタッ
兄魔王「これで改めて貴様らを……ぬおおっ!?」パァン……ッ
少女「え!?」
勇者「割れた……?」ピタッ
『貴方は……』
妖精「!」ピクッ
白神獣『私の加護の対象外ですよーだ!』
562:
兄魔王「な……ぐあッ!!」
兄魔王(目に破片が……ええい忌々しい!!)ブンブン
僧侶「し、白神獣様? 何処かにおられるのですか!?」キョロキョロ
魔法使い「……成程、恐らくあいつが触れたらそうなる仕掛けだったって訳ね。全く神獣サマは良く考えていらっしゃる」
側近(……やるなら今か。僧侶に回復して貰う余裕はない)
側近「……少女」スッ
少女「!」
側近「情けない事だが、今の俺の状態では心許ない……先程はああ言ってしまったが、力を貸してくれるか?」
少女「……はいっ!」ギュッ
563:
兄魔王「小癪なァ……真似を……ッ」
側近「少女、絶対に手を放すなよ!!」グッ……タタッ
少女「……!」コクンッ タタタ……
妖精「!」パタタッ
僧侶「ふふ、邪魔してはいけませんよ妖精さん……少女さんの想いを」ガシッ
妖精「〜〜〜!」ジタバタ
戦士「お、おい魔王、大丈夫なのかよ……少女ちゃんをあいつと一緒に行かせて!」
魔王「心配するな。一撃を見届けたらすぐに私も行く」
側近「……冥土の土産に、教えてやろうか」ボソッ
少女「? 側近さん……?」
564:
魔法使い「なんでわざわざあいつらに……!」
魔王「今こそ弟の武器の能力が必要だからだ」
僧侶「あの、それは一体……どんな能力なのですか?」
魔王「うむ……あれはただ振り回すだけでは何も斬る事はできぬ、ある意味かなり使い勝手の悪い武器だ」
勇者「……ほう」
魔王「だが、それでも弟が自分の魔力で生み出した武器だ。あいつなりに色々と考えて……」
魔法使い「さっさと言いなさいよ……!」カツンッ
僧侶「魔法使いさん!」
魔王「……すまない。それであの剣の能力だが……」
565:
側近(少女、お前と一緒だからか……今度こそ、気持ちが固まった)
兄魔王「はっ……そんな体で、何を……仕掛けて……」
側近「俺の剣の、能力は」ブンッ
側近(このような事をさせるのは心苦しいが……本当はお前の言葉が、気持ちが嬉しかった)
戦士「……」ゴクッ
魔王「あいつが『斬る』と真に決意した対象限定で」
妖精「」ハラハラ
少女「……ッ!」ギュウッ
魔王「……物や魔力といったほぼあらゆる存在を……斬る」
勇者一行「……!」
側近(ありがとう……少女)
566:
側近「う、おおおおおお……!!!!」ザクッ……
兄魔王「が、ふ……ッ」
魔王「そして今、斬ってもらったのは」
兄魔王「!? こ、れは……」シュウウウウ……
魔王「奴に喰われた私の右腕……及びそれが持つであろう魔力だ」
魔法使い「! あいつの中から」ギョロンッ
兄魔王(力、が……魔力が抜けていく……!)
側近「どうだ……実に、つまらん能力だろう……? 聞こえているかは、わからんが」グラッ
少女「側近さん……!」ガシッ
572:
魔王「2人とも良くやった! 早く戻れ!!」ダダダッ
戦士「お、おい……何する気だよ」
魔王「念には念を入れて……駄目押しだ!」ガシッ
兄魔王「何を……は、放せッ!」
魔王(私の腕が消えた今なら効く筈だ……!)ガブッ
兄魔王「ッ! こ……の……愚弟がッ……」ギリィッ
魔王「なんひょひぇも……ひひゅがふぃ(何とでも言うが良い)」
少女「魔王様……!?」
側近「少女……今の、うちに……」フラッ
少女「あっ……うん!」テク……テク……
573:
戦士「お、思いっきり……噛みついてやがる」
魔法使い「何やってんのよあいつ……」
魔王(……そろそろか)
兄魔王「! ぐぅ……ッ」ドクンッ
魔王「……」パッ
戦士「な、なんだ? あいつの顔色がどんどん悪くなって……」
側近「兄上の……牙の毒が、効き始めたんだ」
魔法使い「毒……」ピクッ
側近「恐らく奴の中に……兄上の腕が残ったままでは……効かなかっただろう」
兄魔王「がぁああ……!」ボゴゴッ……
574:
側近「……だが、蛇の毒としてはアレ以上に……凶悪で強力なものはない」
魔王「……皮肉なものだな」ペッ
魔王(我が呪わしき2つの特性を……初めてまともに使った相手がよりによって身内とは)
兄魔王「おのれ……おのれおのれおのれおのれえええええええ!!!!」ゴゴゴゴゴ……
魔法使い「ちょっ……何処までしぶといのよあいつ!?」
僧侶「な、何が見えたんですか魔法使いさん!」
魔法使い「僧侶、結界! あいつの残りの魔力が暴走してる……このまま近寄ればタダじゃ済まないわ」ギョロン
戦士「はあっ!? まだそんな力が残ってんのか!? 底なしかよ……」
僧侶「今度こそ……最期の悪足掻き、なんでしょうか」パアアッ……
魔法使い「多分ね。まああのまま放っておいても毒で自滅はするだろうけど……そんなのは嫌でしょ? 勇者」チラッ
勇者「……ああ」ザッ……
575:
魔王「随分と待たせてしまったな、勇者……我らはもう手は出さない」スッ……ポゥッ
側近「……兄上……」
魔王「辛い役目を負わせてしまってすまない……もう休むのだ」
側近「それは……兄上も同じだろう……いや、それ以上だ」
少女「……」
魔王「それにしても、勇者達と共同戦線を張る事になるとは思わなんだ……あの時はすっかり死ぬつもりでおったからな」
少女「魔王様……!」キッ
魔王「も、勿論今は違うぞ少女!」
576:
妖精「〜〜〜!」パタタッ
少女「あ……妖精さん」ナデナデ
側近「……考えてみればお前も意外な活躍だったな」
妖精「」ドヤァァァァ
側近(くっ……憎たらしい面構えだ)
魔王「さあ、ここからは彼らの番だ……あまり長くはかからぬだろうが」
少女「う、うん……」
側近「……」ギュッ
577:
勇者「魔法使い」
魔法使い「ん」
勇者「お前の『眼』から見て魔力の薄い部分はあるか?」
魔法使い「そうね……絶え間なく渦巻いてるから一見わかりにくいけど」スッ
魔法使い「あいつのやや右側……丁度心臓に近い所が、他に比べればほんの少しだけ」ギョロギョロ
戦士「それを訊いてどうすんだ?」
勇者「……僧侶。戦士に持っている首飾りを渡してほしい」
僧侶「え? で、ですが……」チラッ
578:
魔王「それが必要なのか? ならば使ってもらって構わない。少女、良いな?」
少女「あ……元々魔王様から貰った物だし、魔王様が良いっていうなら」
勇者「だそうだ」
僧侶「では……」スッ
戦士「お、おう……これをどうしろってんだ?」
勇者「投げろ」ビシッ
戦士「」
579:
魔・少(えっ)
側(なっ……!?)
勇者「お前の腕力をもってすればそれで魔力の渦に穴をあける事ができる筈だ」
戦士「で、でもよ……そう上手くいくか? いっそ斧で打ち出した方が……」
魔法使い「馬鹿! そんな事すれば命中させる前に木ッ端微塵になるでしょうが!!」
戦士「そ、それもそうか」
勇者「きっと上手くいく。自信を持ってくれ……お前は俺にとって初めてできた仲間なんだ」ジッ
僧侶「勇者さん……」
戦士「……」
580:
魔法使い「ちょっと、そんなうだうだ言ってる暇はないわよ! そんなに不安ならあたしが強化魔法をかけて……」
戦士「いや、大丈夫だ」ギュッ
魔法使い「!」
戦士「これがお前への恩返しになるなら……やるだけやってやるさ」ザッザッ
勇者「……ありがとう」
魔王(……彼らにも様々な事情があるようだな)
戦士「あの辺りにブン投げりゃ良いのか?」
魔法使い「え、ええ」
581:
戦士「……ッ」ビキッ
魔王「!」
戦士「……おおおおおおおお……!!!!」ビキビキ
側近(薬も魔法もなしに……あれ程の筋肉の肥大か……!)
勇者「僧侶」
僧侶「今結界の一部を開きます……戦士さん、いけますか?」スゥッ……
戦士「ああ、頼む……そうさ、野郎が相手なら大丈夫だ」ググッ
魔法使い「全く、提案して損したわ」
戦士「心置きなく……全ッ力でなッッッ!!!!」ブンッ
582:
ギュオオオオオオ…………パァァァンッ
兄魔王「!?」
戦士「よっしゃあッ!」
魔法使い「うん、無事に大穴あいたわね……首飾りも見事に砕け散ったけど」
僧侶「今です、勇者さん!!」
勇者「……すまない」ダダダッ
戦士「いけえええええ勇者ぁぁぁぁッッッ!!!!」
魔法使い「気をつけなさい! 完全に霧散した訳じゃないから!!」ギロッ
兄魔王「来るなッ、来るなああああああ!!!!」ボゴゴゴ……ギュンッ ボシュッ
勇者「……これ位なら」バシュンッ
兄魔王「!」
勇者「魔法であしらえる」ジャキン
583:
魔王「……」
側近「……」
少女「……」ギュッ
魔・側「「! ……大丈夫だ」」ナデナデ
少女「……うん」
妖精「」パタパタ
勇者「今度こそ終わりだ……憎き祖母の仇よ」ブンッ
魔王(……さらば、だ)
勇者「ッ……!」ザクッシュパッザクザクザクザクッ
側近(ひとりぼっちの『魔王』よ)
勇者「……」……キィンッ
兄魔王「ッッ……ぁ、あ……ッ」ユラ……ドサッ
588:
――――
――
白獣「……あら」ピクリ
姫「白神獣様……?」
黒獣「どうやら終わったようだな。さっさと行くぞ」ノソッ
姫「! という事は……」
白獣「もう、ここから出ても大丈夫だという事ですよ。ほら」スッ
姫「あ……」
亡者達「……」スゥゥ……
姫(消えていく……あんなに沢山いた亡者の群れが)
589:
白獣「どうか安らかに眠ってください……そして我らが主の元へ……」スッ
黒獣「……」
姫「……」ギュッ
白獣「……さて、少女さん達の所へ参りましょうか」
姫「はい! ……あ」ヘナッ
黒獣「どうした。さっさと立て」
姫「ご、ごめんなさい、腰が抜けてしまって……すべてが終わって気が抜けてしまったせいでしょうか」
白獣「まあ! それはいけませんね」パチン
黒獣「ちっ、面倒な」
590:
姫「本当に申し訳ありません……」シュン
白獣「なら……ちょっと失礼」ヒョイッ
姫「え? あ……えええええ!?」
黒獣「し、白娘……!」
白獣「では、改めて行きましょう。戸を開けて貰えますか? 黒様」スタスタ
黒獣「あ……う、む」ノソノソ……キィ
白獣「ふふ、ありがとうございます」
姫(お、女の人……しかも白神獣様に横抱きにされるなんて……!!)アワアワ
591:
――――
――
淫魔「……ん?」パンパン
亡者「」ビクンビクン……スゥゥ
淫魔「終わったみたいね……良いとこだったからちょっと残念だけど」スッ
召喚獣達「!」ピタッ
淫魔「まだまだあたしは吸い足りないし、そうとわかればとっとと行きましょう」スタスタ……バサッ
召喚獣達「……」グル……
淫魔「ん? 貴方達の事なんて知らないわよ。用がないなら異界なり何なり元いた場所へ帰ったら?」
召喚獣達「……」スゥッ……
淫魔「あら……見かけによらず素直なのね。かーわいい……またね、お嬢さん」ヒュォォォ……バサバサバサッ……バサッ……
592:
――――
――
勇者「……」
戦士「な、なあ……今度こそ、勝ったんだよ、な?」
魔法使い「見ればわかるでしょ? あいつは心臓をきっちり切り刻まれた……勇者によってね」ジロッ
兄魔王「……ぅう……ッ」シュゥゥ……
僧侶「! か、体が……」
少女(透けて……消えていく……)
兄魔王「やって……くれた、な……人間共……愚弟、共……」ズズ……ッ
魔王「……兄上」
593:
兄魔王「! ……今更、俺を……兄と呼ぶか……」
魔王「今だからこそだ。せめて最期位は……貴方の弟として」
側近「……」コクッ
兄魔王「……ふん……それで俺が喜ぶと、本気で……思っているのか?」
側近「……いいや。これは俺達の単なる自己満足だ」
兄魔王「ず、随分と……安っぽい、な……下らない……」ゴホッ
魔王「貴方にとってはそうだろうな……悲しい事だ、本当に」
兄魔王「それは……こちらの台詞だ、魔族の面汚し共……力を使わぬ愚か者」
側近「……貴方達の思い通りにならなくて残念だったな」
兄魔王「……だが、忘れるな……どんなに安っぽい……家族ごっこ、をしようが……お前達は……」ギロッ
魔王「……」
兄魔王「この世の魔族の、頂点たる……魔王の……」シュウゥゥゥ……フッ
594:
魔王「……」ヨロッ……ガクン
少女「魔王様!」
側近「兄上……」
魔王「す、すまない……何だかな、力が抜けてしまってな」
少女「魔王様……大丈夫だよ、もう大丈夫なんだよ……そうだよね? 側近さん」ギュウッ
側近「ああ、そうだ。もう兄上は……魔王として生きる必要はない」
魔王「少女……弟……」
595:
妖精「」パタパタ……ツンツン
魔王「はは、お前も慰めてくれるのか……小妖精よ」
側近「珍しい事もあるものだな」
少女「……側近さんも」スッ
側近「!」
少女「もう苦しまなくて良いんだよ……全部、終わったんだから」ギュッ
側近「少女……」スッ
魔法使い「……何が『全部終わった』よ」ボソッ
600:
僧侶「!」
魔法使い「さっきから黙って聞いてれば……もう苦しまなくて良い、ですって? 勝手な事ほざいてんじゃないわよ」ユラッ
戦士「魔法使い……」
魔法使い「あんたたち魔物のせいであたしは……あたしは……!」ゴォ……ッ
僧侶「い、いけません、魔法使いさん……!」
魔法使い「死ね……ッ!?」
勇者「止めろ。魔法使い」グッ
僧侶「勇者さん……」ホッ
601:
魔法使い「勇者……どうして止めるの? あんたの仇討ちは終わったんだから次はあたしでしょ?」
勇者「……」
魔法使い「もう良いでしょ? あたしはあんたと違って……魔物がこの世に存在する事が許せないのよ!!!!」
勇者「……あいつらはお前を直接傷つけてはいないだろう」
魔法使い「あたしから見れば魔物は皆あたしの敵であたしの仇よ」
戦士「だからって……」
少女「……」スッ
魔王「!」
側近「少女……!」
魔法使い「……何のつもり? あんたの通せんぼなんざ塵程も意味ないんだけど」
602:
少女「あ、貴女に……何があったのか、私は知らないけど……それで家族が傷つけられるのは嫌だよ」
僧侶「少女さん……」
少女「魔王様も、側近さんも……今までたくさん苦しんできたし、今だって苦しんでるんだよ」
勇者「……」
少女「そ、それでも2人に手を出すなら……まずは私を……!」ガタガタ
魔王「しょ、少女!」
妖精「〜〜〜〜!」オロオロ
603:
魔法使い「……どいつもこいつも邪魔ばっかり」メラッ
戦士「!」
勇者「魔法使い……!」
魔法使い「ならお望み通り先に火炙りの刑にしてあげるわ……異端者ァ!」ボゥッ
少女「……ッ!」ギュウッ
側近「くっ……」ジャキンッ
魔王(間に合えッ……!)ジャラ……ッ
『お止めなさい』
魔・側「!」ピタッ
魔法使い「……!」ジュウッ
僧侶「神獣様方……姫様……」
604:
姫「少女さん! 大丈夫ですか!?」タタタッ
少女「お姫様……うん、なんとかね。ありがとう」ヘタッ
白獣「戦いが終わったというのに、随分と殺気立っていらっしゃいますね」
魔法使い「……」ギリギリ
黒獣「この小娘……消してやろうか」グルル……
白獣「黒様? そんな事をしたら……」
黒獣「冗談だ白娘」
605:
姫「……魔法使いさん。並びに勇者様方には私の友人達を救って頂き、心から感謝しております」クルッ
魔王「姫……」
姫「ですが、彼らを自ら害しようとお考えならば……如何なる理由があれど私はそれを絶対に許しませんわ」キッ
魔法使い「……」
姫「……私を敵に回すという事は、『聖都』そのものを敵に回す事と同義であるという事をどうかお忘れなく」
少女「お姫様……」
戦士(姫様かっけえ……)ポーッ
勇者「……魔法使い」
魔法使い「わかってるわ」スッ……カラン
姫「ご理解頂けて何よりですわ」ホッ
魔法使い「魔物の敵にはなっても、人間の敵にはなりたくありませんから」
606:
僧侶「良かった……ではお仕置きは必要ありませんね」ニコニコ
魔法使い「だから止めてくんないそれ!? できればあれとは2度と会いたくないんだけど!」ブルブル
僧侶「そうはいきません! 私にとっては創作意欲をかき立てる絶好のネタですし……」ハァハァ
少女(ネタ……?)
魔王「姫。ありがとう」
姫「お礼を言われるような事はしておりませんわ。私はほとんど役に立てませんでしたし……何より」チラッ
魔王「そんな事はない。これで余計な血を流さずに済んだのだからな」
姫「で、ですが、此度の騒ぎの一部始終を父……陛下に報告するという重要な仕事がまだ残っております」
側近「確かにそうだな……でなければ完全に収束する事は難しいだろう」
607:
魔王「我らも出向こう弟。この身はもう……自由なのだからな」
側近「その方が手っ取り早いだろうな。だが、俺達のような者が謁見を許されるかどうか……」
僧侶「……あ、それなら1つ提案があるのですが」
少女「提案?」
僧侶「はい。お城へ行く前にうちの教会へ寄っていかれてはいかがでしょう?」
勇者「……何をする気だ?」
僧侶「『魔の浄化』です」
魔王「魔の浄化?」
608:
僧侶「人間に少しでも近付きたい、もしくは共に生きたいと願う魔物や魔族の方々向けに、我が教会が独自に行っている施術です」
魔王「それは興味深い……どのような内容なのだ?」
僧侶「大まかに説明すると、術式と神父様の祈りによって施術対象の方の持つ魔力総量を大幅に減らします」
魔王「ほう……」
僧侶「施術する相手によっては人間と見分けがつかなくなるとも……とにかく効果は保証するそうです」
魔王「……断言はしないのだな」
僧侶「私は神父様から術の事を聞いただけで、実際に施術する光景を見た事がないんですよね……」シュン
側近「そ、そうなのか……」
609:
僧侶「私が教会で暮らしていた頃は1度も行われなかったので……側近さんはこの術の存在は?」
側近「……知っていた。ずっと前に神父殿から直々に聞いた事がある」
僧侶「まあ! そうでしたか」
魔王「なっ……では何故その時に施術を受けなかったのだ!? そうすれば……」
側近「馬鹿を言うな。貴方を差し置いて先に楽になろうなどと考える訳がないだろう」
魔王「弟……」
側近「……それに、その浄化は俺達のような魔王の血筋の者にも効くのか不安だった」
魔王「……あ」
僧侶「あ」
シィ……ン
614:
少女「だ、大丈夫だよ! 魔王様も側近さんも優しい魔物だもの!! きっと上手くいくよ」グッ
魔王「少女……」
魔法使い「けっ」
少女「だから今は、まずご飯を食べてゆっくり休んで……」グラ……
妖精「!」ビクッ
姫「あ……!」
側近「少女!!」ガシッ
少女(あれ……何で、かな? 急に体の力が抜けちゃった……)グッタリ
白獣「……ここまで、良く持ち堪えたものです」ボソッ
僧侶「え?」
615:
白獣「さて、とりあえず回復ですね……でも今日はもう無理をしてはいけませんよ?」パァァッ……
少女「ありがとう……そ、そういえばあの玉! ごめんなさい白獣さん!!」ハッ
白獣「嗚呼、良いのですよ。壊れる事前提で渡した物ですし、何度でも生み出せますから」ニコッ
魔王「本当に凄い力だな……」
白獣「そんな事はありませんよ。これなんて」スッ
姫「その首飾り……何時の間に修復を?」
白獣「ついさっき、貴女達がお話をしている間に。ですがほぼ同じ場所で壊れたせいか……2つの首飾りが1つに合わさってしまったのです」
姫「まあ……とてもそうは見えませんが」
616:
魔王「……確かに以前よりも魔除けの力が強まっているようだな」
側近「ああ。流石にこれは触れないな……」
姫「そ、そうなんですの?」
白獣「では、これは貴女に渡しておきましょうか」シャラッ
姫「え? あ、でも……」
魔王「うむ、私はそれで構わぬよ」
側近「俺も異存はない。少女も良いだろう?」
少女「うん。私が持っててもきつそうだしねー」
617:
姫「な、何だか私ばかり申し訳ないですね……先程は宝物も修復して頂きましたし」
魔王(あのペンダントの事か……それは良かった)ホッ
僧侶(う、羨ましい……! 白神獣様直々に復元して頂いた装飾品……しかも2つも)ゴクリ
白獣「あ、ついでに傍に落ちていたこれも修復したのですが」スッ
勇者「これは……」
魔王「おお、その腕輪は勇者の」
僧侶「勇者さあああああん是非私の腕輪と交換してくださいいいいいい!!!!」ズザザザザ
魔王「じゃ、ジャンプからのスライディング土下座ッッッ……!?」ビクゥッ
勇者「……」スッ
僧侶「ありがとうございますううううううぃやったああああああああああああ!!!!」ピョーン
618:
魔法使い「信者って怖いわね」
戦士「ああ」
少女「僧侶さんって結構面白い人だよね」
側近「それで済ませて良いのか……?」
姫「す、少しだけ羨ましいかもしれませんわね……あの自由さが」
妖精「!?」
黒獣「……気持ちの悪い奴だ」
白獣「そんな事を言ってはいけませんよ。率直で良い子ではありませんか」
魔王「いや、少しは隠した方が良いと思うが……」
619:
黒獣「それはそうと白娘。もうその辺で良いだろう」
白獣「ええ、そうですね黒様……皆さん、私達はそろそろ主の元へ戻ります」
魔王「そうか、名残惜しい事だ……貴方達には本当に世話になった」
白獣「いえいえ。私達はお役目を果たしただけです……それに貴方の腕の事が残念でなりません」
魔王「気にしないでくれ。こうして命があるだけ儲けものだ」
姫「……」
少女「は、白獣さ……!」
白獣「少女さん、そのままで大丈夫ですよ……ただ、貴女の顔をよく見せて下さい」スッ
少女「? ……うん」
620:
白獣「……。…………」ボソボソ
少女「……え?」
白獣「ふふ、神獣から貴女への忠告ですよ……警告とも言いますかね」ニコニコ
少女「あ……」
白獣「では行きましょうか……また困った時は何時でも喚んでくださいね? 来られる時はすぐに飛んできますから」ポンッ
妖精「」パタパタ
白獣「嗚呼、貴方はもっと眠らなければいけませんよ? 大切な人と離れ離れになりたくないのなら」
妖精「……」コクン
621:
黒獣「おい」ノソノソ……ズイッ
側近「な、何だ?」ビクッ
黒獣「……我らの二の舞にだけはなるな」
側近「ッ! ……ご忠告痛み入る」
黒獣「ふん」プイッ……ザッザッ
僧侶「白神獣様……黒神獣様……!」
白獣「……これからも貴女達の事を見守っていますからね」ニコッ
僧侶「! は、はいっ!!」ジワッ
622:
勇者「……」
戦士「なあ、考えてみれば俺達とんでもねえ体験をしたんだよな……?」
魔法使い「そうね……ってあんた、体力馬鹿の癖に何その情けない面」
戦士「……実はさっきまであの黒いのに遊ばれてた」ゲッソリ
魔法使い「あ、そう」
黒獣「白娘」クイッ
白獣「ふふ、乗せて下さるんですか? ありがとうございます」スッ
623:
姫「あ……白神獣様」
白獣「……弟さんを想う気持ちを、これからも大切にしてくださいね」ニコッ
姫「! ……はい」ジワ……
少女「あ……白獣さん! それに黒獣さんも……」
白・黒「!」
少女「本当に本当に……ありがとう」
側近「……」ペコリ
白獣「……願わくば、貴方達の未来に主の御加護があらん事を」
フワリ……シュンッ
624:
『……』
白獣(声)『あ、言い忘れる所でしたが』
『!?』
白獣『ここの土も清めておきましたからねー。では失礼』フッ
少女「び、びっくりしたー……」ドキドキ
魔王「……おい聞いたか弟よ」ヒソッ
側近「ああ」ヒソヒソ
魔王「これでまた農業を試みる事ができるぞ……!」
側近「言っておくが、もうあんな騒ぎは御免だからな」
魔王「わ、わかっておる!」
625:
――――
――
黒獣「……」ビュオオオオオオオ……
白獣「黒様、私姫さんの弟さんの絵を見て……『妹』の事を思い出したんです」
黒獣「そうか」
白獣「あの子には……本当に辛い思いをさせてしまいました」
黒獣「……白娘のせいではない」
白獣「いいえ、いいえ……! 私達のエゴのせいで、あの子は……」ジワッ
黒獣「白娘」ギュッ
白獣「! 黒様、元の御姿に……」
62

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