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「最弱魔王の決戦」
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1:
前スレ
「最弱魔王様」
の続きです。
・エッロいグラインド騎乗位をする女神たち集めたったwww
・【動画あり】スカパー圧勝wwwポロリしまくり水泳大会が絶対地上波で放送できないwww
・【キチガイ】外国人さんのマイクロビキニ、一線を越えるwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww(画像あり)
・【※近親相姦注意※】「あ、これは近親相姦ですわ」 っていう闇の深いGIF画像を貼ってくwwwwwwwwwwwwww(GIFあり)
・売れないアイドルとHする簡単な方法。
・【GIF画像】潮●きが止まらなくなった女たちをご覧くださいwwwwwwwwwwww
・【ポケモンGO】ポケモンゲットしようとしたら逆にヤられちゃった女トレーナー達のエ□画像
・声に魔力がある女の子「君は女の子」 俺「……ちがう……」 女の子「君女の子」 俺「あ……あ……ちが……う……?」
・男「神待ち掲示板、かぁ」少女「……」
・俺が歌丸やるからみんなで笑点やろうぜ
・アスカ「あっついわねぇ、シンジクーラーの温度もっと下げなさいよ」
・(´・ω・`)「お兄ちゃん、天皇陛下って世界三大権威なんだって!」
・【閲覧注意】山の中で ”ありえない状態” の女性が発見される
・”ミス・コリア” に続いて ”ミス・アメリカ” の最終候補者も「全員同じ顔だ」と話題に
・巨乳の女の子がブラジャーをしなかったら・・・ここまでエ□い事に
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・【画像】彡(゜)(゜)「えっ!ワイが童話の主人公に!?」
・男「お前、毒舌なんだってな?」 毒舌少女「そうよ」
・実況「金メダルをとった萩野には俺さんへの挑戦権を手にしました!」俺「ほう君が萩野か」
・俺「コンビニ行くけど一緒に行きたい人〜wwww」 父母「Zzz…」 妹(無視) 犬1「ワンワン!!」 犬2(シッポフリフリ)
2:
――――
――
翌日 朝食時
少女「……」モグ……モグ……
魔王「どうした少女? 何だか元気がないように見えるが……何処か具合でも悪いのか?」
少女「あ、ううん魔王様、何でもないよ!」ブンブン
側近「魔王様……何時この城に勇者が来るかわからない今、少女がこのような状態に陥るのも無理はないでしょう」
魔王「むう……成程な」
姫「少女さん、あまりご無理はなさらないでくださいね?」
妖精「」パタパタ オロオロ
少女「ほ、本当に大丈夫だから! ほら、食欲だってちゃんと……」ムグムグ
側近(やはり昨夜は吸い過ぎたか……本当にすまない、少女……!)グッ
3:
少女「そ、そう言えばお姫様! すっかり聞きそびれちゃってたけど」
姫「はい?」
少女「お姫様は、その……力のある勇者様とその仲間について他に知っている事はないの?」
魔・側「!」
姫「あ……そうですわね。考えてみればこちらへ来てすぐにでも皆さんにお話ししておくべきでした」
魔王「まあ、あの時は我らも貴女が来た事やその後の準備に気を取られていたからな……失念してしまうのも無理はない」
側近「だが姫君。貴女は直接彼らを見たわけでは……」
姫「仰るとおりですわ、側近さん……ですが、だからと言って情報が皆無なわけではありません」
少女「そうなの?」
姫「ええ。心強い協力者がいますからね」ニッ
少女「! ……そうだね」ニコッ
4:
魔王「では姫、改めてお聞かせ願おう……どれ程小さな事であろうと情報があるに越した事はないからな」
姫「そうですね……何処からお話ししたものか……まず情報によれば、勇者様ご一行の人数は彼を入れて4人とのことです」
妖精「」パタパタ ムグムグ
少女「……魔王様、できればご飯を食べ終わってからにしない? 妖精さんが慌ててお口に詰め込んでるよ」
魔王「む……それもそうだな。では続きは食後にしよう」モグモグ
姫「ええ、わかりました」
側近「……何だか緊張感が感じられんな」
少女「良いじゃない。腹が減っては戦はできぬって言うでしょ? ……妖精さん、ゆっくり食べていいからね?」ニコッ
妖精「」コクン……モグモグ
側近「全く……」モグモグ
6:
――――
――
姫「では、改めて先程の続きですが……4人は勇者様の他にそれぞれ戦士さん、魔法使いさん、僧侶さんというそうです」
魔王「ふむ……やはり少数精鋭か」
側近「昔を思い出しますね」
魔王「ああ……あの時は直接対峙するような事はなかったがな」
少女「……」
姫「それから僧侶さんは都の教会出身で、旅の途中でも教会の教えを説いて回っていたとか」
魔王「そうなのか……随分と熱心な事だな」
姫「ええ。何でも都を出る際に何冊も聖書を持って行かれたそうで、布教には事欠かなかったそうですわ」
側近「ほ、ほう……ところで姫君、一行の特徴はわからないか? 容姿や、性別は……」
7:
姫「詳しい容姿まではわかりませんが……勇者様と戦士さんが男性で、魔法使いさんと僧侶さんが女性らしいです」
魔王「む……後は己で見極めるしかないか。魔力の大きさでわかるとは思うが……」
少女「ねえ魔王様。結界を張ったなら入って来た人だけに注意すれば良いんじゃないの?」
側近「基本的にはそうだが……万が一手違いで勇者一行以外に入られたら不味いからな。余計な犠牲が出てしまう」
魔王「うむ。念には念をという奴だ。何時想定外の事が起きるかわからぬからな」
少女「そっか……」
妖精「」パタパタ
姫「ごめんなさい、大した情報を持ち合わせていなくて……」シュン……
魔王「いや、充分だ。ありがとう姫」
姫「……」
8:
少女「ありがとうお姫様! お姫様が知っている事はこれで全部なんだね?」
姫「ええ……あ、そうだわ! これは役に立つかはわかりませんが……」
側近「教えてほしい」
姫「勇者様も、そのお仲間も、力は絶対的に信用に足るとの事ですわ。それぞれ異名がつく程に……それに」
少女「それに?」
姫「……皆さん中々に個性的だそうです」クスッ
少女「そうなんだ。何だか楽しみだな」クスクス
妖精「」コクコク
側近「全くお前達は……」ハア……
魔王「まあ、少女が元気であれば良いではないか……それに、笑っていてくれれば……」
9:
少女(こうしてこの日は何事もなく過ぎていった)
少女(表面上は……今までと変わらずに)
少女(でも次の日は、ほんの少しだけ人が集まっていたから外に出られなくなった)
10:
少女「……」
姫「少女さん……ずっと窓を見ていても仕方ありませんわ」ギュッ
少女「お姫様」
姫「私がついています。ですからどうか気をしっかり持って下さいな」
少女「……うん、ありがとう」
妖精「」パタパタ……ピトッ
少女「妖精さんも、ありがとう」ナデナデ
妖精「♪」
11:
――――
――
魔王の部屋
側近「……魔王様」
魔王「ああ。恐らくもうすぐ来るだろうな……本当に待ち侘びたよ」
側近「……」
魔王「予定通り、頼むぞ……側近」
側近「……御意」
12:
少女(そして……そのまた次の日は――)
13:
――――
――
魔王城前
ザワ……ザワ……
『魔王城に着いたは良いが……』
『一体何なんだこの結界は! 幾ら攻撃してもびくともしねえ!!』ガンッガンッ
『くそっ、こうしている間にも姫様は……!』
?「はあ……ほんっと無能ね、あんた達」
『! 何だと……!』
?「魔王復活の知らせと聞いて来てみれば、群がるだけ群がってこの有様……無能と言う他ないじゃない」
『なっ……』
14:
?「こんなのも壊せないなら、侵入できたとしても無駄死にするだけ。わかりやすい選別だわ全く……つまりお呼びじゃないのよあんた達は」
『ローブで顔隠して好き放題言ってくれるなこの小娘……一体どんな面してやがる!』グイッ
?「……こんな面ですけど?」ジロリ
『ッ、ひ、ひいいっ……!』ドタッ
?「何よ、良い大人が小娘相手にみっともない」ハアッ
『その瞳……まさかお前』
『更なる力を得るために竜を殺し、その目を抉って自分の物にしたという女魔法使い……』
『四つ目の魔女か!?』ガタガタ
15:
魔法使い「だったら何? こちとら魔の殲滅に執念燃やしてんのよ。そのためなら何だってする」ギロリ
『う、ああ……』
魔法使い「ここにいるだけしか能がないなら……とっとと失せろ役立たず共」ギンッ
?「おう魔法使い、最近魔物を殺ってないからって他人に八つ当たりすんのは良くないぞー!」
魔法使い「黙れ」クルッ ゴンッ
?「痛っ、ちょっ、杖で殴るのは止めろって何時も言ってんじゃねえか! 頭が馬鹿になっちまう!」バッ
魔法使い「あんたはそれ以上馬鹿にはならないから良いのよ」ガンッゴンッ
『じゃああの殴られてる馬鹿でかい戦士は……』
『生まれながらに魔族と渡り合える異常な体格と身体能力を持っている……』
『人から生まれた魔、か……?』
戦士「ちょ、もうギブ! 頼むから止めろって!!」ワーワー
『……とてもそうは見えないけどな』
16:
?「もう、魔法使いさんったら……それ以上やっては流石に戦士さんが可哀想ですよ」ススッ
魔法使い「……けっ」プイッ
戦士「はあ……助かったぜ僧侶」グッタリ
僧侶「いえいえ、お気になさらず。何時もの事ですもの……ところで回復魔法は要りますか?」ニコッ
戦士「いんや、これぐらいなら平気だ」
『あの僧侶は……癒しの鬼か。種族を問わずに助けを求める声は誰でも拒まないという』
『浄化の鬼とも呼べるな……可憐な見た目とは裏腹に、かつて数百年もの間人を寄せ付けない程の瘴気に満ちていた地を、僅か3日足らずで元に戻した強者らしい』
『え? 俺は1日でって聞いたぞ?』
『回復だって、死んでさえいなければどんなに酷い怪我でも治せるんだよな……』ゴクリ
17:
僧侶「な、何だかやたらと大袈裟に私達の噂が伝わっているような気がしますね……」
魔法使い「概ね真実なんだから別に良いじゃない」
戦士「はっはっは、まあ俺達は皆あいつにくっついてきただけなんだけどなー」チラッ
?「……魔法使い」
魔法使い「……ん」
?「この状況……やはり俺はおかしいと思う。お前の『眼』にはあの城はどう映っている?」ジッ
魔法使い「そうね……確かに忌々しい気配は感じるけど、魔王城にしてはどうも数が少な過ぎる。物足りない位にね」ギョロリ
18:
『お、おい……何を言ってるんだ?』
?「……そもそも、最初に入ってきた情報からしておかしいと思っていたんだ」
?「仮に、本当に魔王が再出現したとしたら、魔物の動きはもっと活発になっていても良い筈だろ? だが目撃された魔物がその1体だけというのは妙だ」
『だがそれでも魔物は魔物だ! それに連れていた人間に噛みついてこれ見よがしに血を啜ったって話だぞ!?』
?「逆に言うなら、そいつは連れていた人間以外には一切手出しはしていないという事になるな。魔王の部下らしくもない」
『ぐ……っ』
?「その人間だって、俺からしてみれば本物かどうか疑わしい……こちらを挑発する為の魔物の悪戯だという可能性もある」
?「解釈によっては魔王を騙る者にからかわれたんじゃないかとも取れる」
19:
『はぁ? だったら何だよ!』
『都での騒ぎの話がデマだって言いたいのかお前は!?』
?「いや、別にそうは思っていないが気を悪くさせたなら謝る。しかし何にせよ……俺は魔王をこの目で見なくては納得できない」ザッザッ
『何だこいつ……ぐだぐだと口ばっかり』
?「……まあ、どの道姫への手掛かりもここしかないのは確かだ」スッ……
『ふん、無駄だ。どんな打撃も魔法も通じなかったんだぞ? ちょっと触っただけじゃ何も……』
?「……」スーッ
『!?』ザワッ……
『俺達が何をやっても変化のなかった結界が……奴らが触れた場所だけ開いた……!』
20:
魔法使い「へえ、どうやらあたし達は歓迎されているみたいね。ま、これ位壊してやっても良かったけど」スーッ
戦士「お、おおっ、そうなのか?」スーッ
僧侶「どうやら私達以外立ち入り禁止のようですね……」スーッ
?「そうだな……とりあえずあんた達は、もしもの時のために別の場所で待機していてくれないか?」クルッ
『なっ……』
?「この結界がある限り、恐らく俺達以外は何もできない。そう遠くない場所に小さな村があっただろ? そこから魔王城を監視していてほしい」
『てめっ……最後に来た癖に偉そうに指図してんじゃ……!』
『おいやめとけよ、お仲間の異名が異名ならあいつは……』
21:
魔法使い「そーいうこと。言っとくけどこいつの勘は中々当たるからね」ニッ
戦士「おっちゃん達心配すんな。俺達は必ず帰ってくるからよ〜」ニカッ
僧侶「お気持ちはわかりますが、どうか従ってはいただけませんか? その方が私達も安心して全力を発揮できますし……お願いします」ペコリ
『……』
?「……頼む」
『……しょ、しょーがねーな』
『お前は気に入らねーが……まあ、僧侶ちゃんに免じて聞き入れてやるよ』
?「……感謝する」ペコッ
22:
『良いからさっさと行って来い』
『これで何も収穫がなかったらただじゃおかねえからな!』
?「ああ……行くぞ」クルッ ザッザッザッ
魔法使い「りょうかーい」スタスタ
戦士「おうっ」ザッザッ
僧侶「あ……ご協力感謝します!」ペコリ テテテッ
『……それにしても、確かにご立派な剣は持っていたが』
『本当にあんな変な奴が……』
『勇者、なのか……?』
23:
――――
――
魔法使い「それにしても勇者、あんたよくもまああんな出まかせを言えたもんね」クスクス
勇者「……何の事だ」
魔法使い「どの道ここには来る気だったんでしょ? 今回の騒ぎはその切っ掛けに過ぎない……」
勇者「……」
魔法使い「あんたは別にお姫様の事なんてどうでもいいのよ。『見』てればわかる」
戦士「え、そうなのか勇者!?」
僧侶「魔法使いさん、幾ら勇者さんでもそれは……」
勇者「……姫の事がどうでもいいという事以外は肯定しておく」
魔法使い「! ……ふふ、じゃあそういう事にしといてあげる。あたしは魔物さえぶっ殺せればそれで良いしね」
勇者「それはありがたい」
勇者(何と言われようが俺は知りたいんだ……真実がな)
28:
――――
――
城内
僧侶「それにしても……中に入れたのは良いですが、何だか外から見た印象とは違いますね」キョロキョロ
戦士「ん? そうか?」キョロキョロ
僧侶「ええ。魔王城にしてはその、何というか……綺麗過ぎるというか、瘴気が足りないというか……隅々までお掃除が行き届いている感じがします」
魔法使い「はっ、じゃあ何? 僧侶……あんたは魔物達がここで人間の真似ごとをして平和に暮らしてるんじゃないかって言いたいの? ばっかみたい」
僧侶「魔法使いさん……」
魔法使い「この中で邪悪な気配を感じるのは事実よ? あたしの『眼』の力……あんたはよーく知ってる筈だけど」
僧侶「……確かにそうですが……」
魔法使い「お願いだから、それ以上あたしにとって不愉快になるような事は言わないでくれる? 士気が下がるから」ジロリ
僧侶「……わかり、ました」
29:
僧侶(魔法使いさん……その苛立ちは魔物への憎しみ故ですか? 本当においたわしい事です……)ギュッ
戦士「ひーめーさーまー! どこにいるんでーすーかー!? 助けに来まーしたー!!」ゴオオオオッ
魔法使い「うるさい。敵に見つかるでしょ」ボカッ
戦士「ぐおおおおお……!!」ゴロゴロゴロ……
僧侶「せ、戦士さん……流石に空気読みましょうよ」
勇者「……この扉の先が恐らく謁見の間だな」ピタッ
魔法使い「こんな時でもほんっとブレないわねあんた……ちょっと羨ましいわ」
僧侶(同感です、魔法使いさん)ウンウン
勇者「……開けるぞ。準備は良いな?」スッ
魔・僧「……」コクン
戦士「お、おう……」サスサス
30:
勇者「……」スッ ギィィィッ……
――――
――
謁見の間
少女「魔王様しっかりして! 魔王様あああ!!」ヒシッ
魔王「ぐ、うぅ……っ」グッタリ
少女「お願い……死な、ないで……」ポロポロ
『!?』
僧侶「なっ……」
戦士「なんだあ? 玉座の前で魔王っぽい奴が倒れてて、それに女の子が縋りついてるぞ?」
魔法使い「……あんたにもそう見える? あれ……どんな茶番よ」
勇者「……」
31:
少女「……あ」ハッ
『!』
少女「……あなた達は……勇者様と、その仲間?」
魔法使い「ッ……だったら何? このふざけた状況説明してくれるの?」
僧侶「ちょっと魔法使いさん!」
少女「……うう」ゴシゴシ
戦士「お前……流石にそれはないわ」
魔法使い「うるさい」
勇者「……落ち着いてくれ。できれば幾つか質問に答えてくれないか? 俺達も状況が知りたい」
少女「……」コクン
32:
勇者「よし。じゃあまず……君の傍に倒れているのは魔王か?」
少女「……」コクン
勇者「次に、君は……魔王の部下、もしくはそれに近い者か?」
少女「……」フルフル
勇者「違うのか?」
少女「……私は、魔王様の部下じゃなくて、家族」
戦士「いっ!?」
魔法使い「はあ? 何言ってんのあんた」
勇者「少し黙っててくれ魔法使い。……では最後の質問だ、何故このような状態に?」
少女「! あ、ああ……」ガタガタ
僧侶「落ち着いてください! 初対面の者から言われても説得力はないかもしれませんが……!」
少女「お、お願い、勇者様達……魔王様と……あの人を……側近さんを助けて!!」ジワッ
39:
――――
――
謁見の間(勇者一行が来る少し前)
魔王「いよいよだな。結界で覆われていても感じる……彼らの来訪を」ピリ……ッ
少女「……」
魔王「側近。姫は安全な場所に隠れてくれたか?」
側近「……はい。最初は中々首を縦に振りませんでしたが、最終的にはどうにか説得する事ができました」
魔王「そうか。御苦労……少女、首飾りはちゃんと着けているな?」
少女「うん。それから魔王様がくれた杖と……側近さんがくれた髪飾りもね」ギュッ
魔王「うむ」
側近「少女、大丈夫か?」
少女「大丈夫だよ、側近さん……その鎧姿、久しぶりだね」ニコッ
側近「っ、そう、だな……」
40:
少女(何でだろう? この頃体調がおかしい……朝起きる時は何ともないのに、活動を始めると途端に気分が悪くなる)
少女(あれから毎晩、側近さんに血をあげているからかな? その時は割と楽なのに……)
少女(それとも、魔王様が今日……死んじゃうかもしれないから?)クラッ……
側近「少女……!」バッ
少女「だ、駄目だよ側近さん! 首飾りが発動しちゃう……こうして杖で体を支えていれば大丈夫だから」カツンッ
側近「だが……」
魔王「少女が大丈夫だと言っておるのだ。それ以上構うな」フイッ
側近「……」キッ
魔王「……それにしても、小妖精はまだ眠っておるのか?」
少女「うん……朝ご飯を食べた後から全然起きる気配がないの。幾らなんでも長過ぎるよね?」
側近「まあ、ある意味では好都合かもしれんな。あの小ささではもしもの時に気付かずうっかり傷つけかねん」
少女「確かに、今みたいにずっと私の部屋で寝かせておくのが……1番安全、かもね」
魔王「……」
41:
側近「……魔王様、そろそろご準備を」
魔王「うむ……側近、そして少女」
側・少「はい」
魔王「……今日まで、ここでお前達と過ごした日々は、本当に楽しかった」
魔王「勇者一行がここに来た時、我の命運が一体どう転ぶのかは正直わからぬ。だが何があってもどうか見届けてほしい……酷かもしれぬが」
少女「魔王様……」
魔王「まあ何にせよ、今日で封印に変化が訪れる事に変わりはない。決まっていた事だ……そうであろう? 側近」
側近「……ええ」
魔王「……それなのに、我の体は震えている。情けない事にな……少女、この震えを止めるためにどうか、お前を少しの間抱き締めさせてほしい。良いか?」
少女「! ……うん、良いよ」シャラッ……カタン コツ……コツ……
少女(多分、今から魔王様は……私の記憶を消すつもりなんだ)コツ……コツ……
42:
魔王「……このような時でも、こんな調子で……我は本当に弱い魔王だな」
少女「そんな事ないよ。どれだけ弱くても、私は優しい魔王様が大好きだよ」コツ……ッ
魔王「っ……ありがとう、少女」スッ
少女(側近さん……ッ!)ギュッ
側近「……失礼する、魔王様。いや……兄上」ザザザッ
ジャキッ……ザクッ
43:
魔王「なっ……!?」グラ……バタンッ
少女「……え?」パチッ
側近「……貴方の『鎖』を断ち切らせてもらった。心臓までは届いていない筈だ」
少女「あ、あ……どうして……側近さん」カタカタ
側近「これで兄上と奴の命は再び分かたれる。同時に封印も緩むが……もう奴を斬っても、兄上が同時に死ぬ事はない」
少女「何、を……言ってるの……?」
側近「……良かった、血は飛び散ってはいないようだな」スッ
少女「う、ああ……」ブルブル
側近「嗚呼、恐がらせてしまってすまない……少女」ギュッ ナデナデ
少女「そ、そんな事より、魔王様が……魔王様が……!」
側近「大丈夫だ。命に別状はない……ただ、すべてが元に戻るのに少し時間がかかるだろうが」ナデナデ
44:
少女「でも……!」
側近「少女……」
側近「後は俺に任せろ」スッ カシャンッ
少女(! 兜を……)
側近「兄上を、頼んだぞ」
少女(どうして……どうしてこんな時に笑ってるの?)
少女(初めての筈なのに、なんでそんなに優しい笑顔が……)
側近「少女、お前をずっと……―――――」
少女「……ッ!!」
45:
魔王「! がああっ……!」ビクッ……ガクンッ
少女「魔王様ッ! しっかりして!!」ガバッ
魔王「う、ぐ……あああああ!!」ドクッ……ドクンッ……
側近「……」クルッ カシャンッ ザッザッザッ……
少女「! あ……まさか……」
少女(あの部屋へ……?)バッ
少女(止めないと! でも……魔王様をこのままにはしておけない!!)
少女(どうすれば……!)
側近「……」ザッザッザッ
少女「! ま、待って、お願い……行かないで側近さん!!!!」
ガチャッ……バタン
46:
――――
――
魔王「はあ……はあ……」グタッ……
少女「……」ギュッ
僧侶「そのような事が……」
戦士「なあ……その側近って奴が行った部屋ってそんなにやばいのか?」
少女「うん……扉の前に近付くだけでぞわぞわする」ブルッ
魔法使い「……嘘を吐いているわけでも、魔物に操られているわけでもないみたいね。めんどくさい」ポリポリ
少女「!?」
魔法使い「優しい魔物? そんなのいるわけないでしょ。あんたが腕に抱えてるそいつだって腹の中じゃ何考えてるか……」
少女「魔王様の事を……悪く言わないで!!」キッ
魔法使い「どうせ何か取引でもしたんでしょ? 家族ごっこに付き合ってやる代わりに言う事を聞くとか」
少女「っ、確かに最初はそんな感じだったけど……」
魔法使い「ほら見なさい」
47:
少女「でも、それでも今では本当の家族と変わらないよ! 私は寧ろ、人間の方が怖い位……」
魔法使い「幼いうちからの洗脳、教育か……おっぞましいこと」
僧侶「魔法使いさん、あんまりです!」
魔法使い「僧侶、何時も思うけどあんたは魔物に毒され過ぎなのよ。幾ら教義でも誰かれ構わず救うなんて人が良過ぎるわ」
僧侶「ですが……」
勇者「……魔法使い。やはりお前は黙っていてくれ」
魔法使い「勇者、あんただってあたしの生い立ちは知ってるでしょ?」ギョロッ
勇者「確かにそうだが、今はそれを持ち出すべきではない……話が拗れる」
少女「……」
勇者「お前のお陰でまだ警戒されているようだしな」
魔法使い「……はいはい、わかりましたよ勇者サマ」プイッ
48:
勇者「……すまない。俺達全員が魔法使いのような考えを持っているわけではないんだ。それをどうかわかってほしい」
少女「……は、い」
僧侶「私は信じますからね、その方の優しさを」ニコッ
少女「あ……あり、がとう」
僧侶「……ふふっ」
戦士「なあ、それよりこれからどうするんだ? その子が言ったおっかない部屋にでも行ってみるか?」
勇者「そうだな……幾ら俺でもこのような事態は予想外だったからな。少し考えさせてくr」
ガチャッ……
姫「……話は、すべて聞かせて頂きました」
少女「!」
戦士「へあっ!?」
僧侶「ひ……姫様!」
勇・魔「!」
52:
少女「お姫様……どうして? 側近さんに説得された筈じゃ」
姫「ふふ……少女さん、貴女から見る私は素直に安全な場所へ隠れていられるとお思い? 自ら進んで魔王城へ来るような人間ですよ?」
少女「! ……ごもっともです」
魔法使い「ちょっと……流石に今のは聞き捨てならなかったわよ?」
僧侶「た、確かにさらりととんでもない事を仰いましたね」
戦士「姫様……本物か……?」ボーゼン
勇者「十中八九な。まあ、顔を知っている僧侶は勿論、魔法使いが警戒していない所を見れば確実にそうなんだろうが」
戦士「すごくきれーだな……あの女の子もだけどさ」ジーッ
勇者「……嗚呼、お前はそういう奴だったな」
姫「そういえば直接お会いするのは初めてでしたわね……姫です。以後お見知り置きを」ペコリ
勇者「……勇者です。この度貴女がここに攫われたと聞いて馳せ参じましたが……」
姫「その件ですが……ごめんなさい、嘘なんです。私はこの方を救うために進んで皆さんを誘き寄せる囮となりました」
53:
魔法使い「え、何なの、何が起こっているのよ一体……わけわかんない」
僧侶「えーっと、とりあえず姫様が無事である事を喜びましょう」
少女「お姫様、魔王様は……!」
姫「存じております。側近さんも無茶な事をなさいますね……って、こうして悠長にお話している場合ではありませんわ!」バッ
少女「! そうだ、側近さん……!」
魔法使い「あのーお姫様? ちょっと説明していただけます? あたし達には何が何やら……」
姫「早く行ってください少女さん! 魔王様の事はどうか私に任せて!!」
少女「お姫様……」
姫「あの方を説得できるのは貴女だけですわ!!」
魔法使い「もしもーし。そっちで勝手に盛り上がらないでくれませんかねー?」
少女「……ありがとうお姫様。お願いするね」ダッ
魔法使い「おいこら待て無視すんな……って行っちゃったし。どうする勇者?」チラッ
54:
勇者「……魔法使い、戦士、それに僧侶……彼女を追ってくれ。嫌な予感がするんだ」
戦士「なっ……お前はどうするんだ!?」
勇者「俺は魔王に用がある……それを終えたらすぐに行く」チラッ
僧侶「勇者さん、貴方のそれは今、何よりも優先されるべきものですか?」
勇者「……ああ。事情は何時か必ず話すから、今は何も訊かずに行ってくれ……頼む」ジッ
魔法使い「……やっぱりあたしが言った事、当たってたんじゃない」ボソッ
僧侶「魔法使いさん……」
魔法使い「まあ、魔王には勇者。これは昔からのお約束よね? めちゃくちゃ悔しいけど今回は譲ってあげるわ」テクテク
勇者「すまないな」
魔法使い「謝らない! あたし達のリーダーはあんたよ。不満はあれど指示には大体従うわ」ビシッ
戦士「……魔法使いの言うとおりだな。ま、お前なら大丈夫だろ」
僧侶「で、ですが戦士さん……」
55:
戦士「今までもそうだったしな。違うか? 僧侶」
僧侶「! ……そうですね。ですがくれぐれも無理だけはなさらないでくださいね? 回復魔法は私の方が上ですから」ニコッ
勇者「わかってる……腕輪は着けているな?」
魔・戦・僧「」コクッ
勇者「よし。じゃあ後でな」
魔・戦・僧「」タタタッ
姫「……あ! お待ちください!」バッ
僧侶「? 何でしょう姫様」ピタッ
姫「これをどうか、少女さんに渡してください……魔除けの首飾りですわ。肌身離さず着けているよう言われていた筈ですが、魔王様へ近付く際に外してしまったんでしょう」シャラッ
僧侶「……承知しました。では」スッ タタタッ
56:
勇者「……あの首飾りは、姫の着けている物とほぼ同一に見えましたが」
姫「どちらも魔王様から護身にと賜った物ですわ。効果は確認済みです」
勇者「魔王から、ですか……」
姫「……それより腕輪とは何の事ですか」
勇者「魔力の込められた、通信用の装備です。あいつらに何かあればすぐに連絡が来るでしょう」ザッザッ
姫「成程……お噂に違わず、互いに信頼されているんですね、お力を」
勇者「そのようですね……お話は、まだ続きますか?」ザッザッ……ピタッ
姫「!」ギュッ
60:
勇者「ご安心を。魔王に危害を加えるような事は致しません……今はまだ」
姫「今は……?」
勇者「……彼に訊きたい事があるんですよ。当代の勇者として」
姫「!? それはどういう……」
魔王「……うっ……」ピクッ
姫「! 魔王様、大丈夫ですか!?」バッ
魔王「っく……ぁ……ひ、め?」パチッ
姫「はい。お体の具合は如何ですか?」
魔王「何故……ここに」
姫「ごめんなさい。1人だけ安全な場所にいる事に耐えられずに……出てきてしまいました」
魔王「……嗚呼、貴女はそういう人だったな……そういえば、2人は……」
姫「あ……あのお部屋、に」
魔王「! ま、不味い、我も行かねば……!」ググッ
61:
勇者「俺の仲間も向かっている。何がどう不味いのかは知らんが、ひとまず落ち着いてくれ……魔王」
魔王「! そこにいるのはもしや」
姫「ええ……勇者様です」
魔王「……そうか。我を、いや私を殺しに来たのか……よくぞここまで来てくれた」
勇者「……」
魔王「側近によって私はもう魔王ではなくなってしまったが、その家系の者である事には変わりない。だが殺すのはもう少しだけ待って欲しい……頼む」スッ
姫「魔王様……! 勇者様、この方を害する事は私が許しませんわ!!」キッ
魔王「姫……」
勇者「……少なくとも、今はまだお前をどうこうする気はない」
魔王「なっ……!?」
勇者「俺は個人的にお前に用があるし、お前の『もう魔王ではない』という言葉も気になる……魔族にしてはお前から殺気はおろか血の匂いすらしないのもな」
魔王「……」
62:
姫「当たり前です、魔王様は誰かを傷つけるような事は一切致しません!」
勇者「……姫の態度も謎だ。ここで凌辱の限りを尽くされていると聞いたからな」
姫「凌辱だなんてとんでもない! 私はここの方々から酷い事をされた事はありませんわ!」
姫「それどころか、押しかけてくる私に何時も良くしてくださいます」ドヤッ
魔王「ひ、姫、私のためにそう言ってくれるのは嬉しいが、頼むから落ち着いてくれ……」オロオロ
勇者(……何故だろう。頭が痛くなってきた)
勇者「失礼ですが姫、それは本当の事ですか?」
姫「神と私の名に誓って」ギュッ
勇者「……では、俺に納得のいくように事情を説明していただけますか?」
姫「ええ、魔王様の誤解を解くためなら幾らでもして差し上げます……!!」
魔王「姫、それは私がするから……!」
63:
姫「魔王様はまだ安静になさって! 傷に障ります」
魔王「心配は無用だ。もう傷はほとんど塞がっておる……だが」ゴソゴソ
姫「! それは……以前見せて頂いた」
魔王「これと一緒に逝くつもりで胸の所に入れておいたのだ……お陰で破れて私の血が付着してしまったがな」ショボン
姫「ま、魔王様……」オロオロ
魔王「……後で側近、いや弟には地獄を見てもらおう」ボソッ
姫「! お、お手柔らかにお願いします」
勇者(! ……何故ここで殺気が。それに胸に……兎のぬいぐるみ?)
魔王「……だが今のままではそうもいかんな」スッ
勇者「!」
魔王「待たせた勇者。姫の代わりに私が説明しよう……嘘を吐くつもりは毛頭ないが、信じるかどうかはお前次第だ」
勇者「……ようやくか」
64:
魔王「だがその前に勇者、お前は先程私に個人的に用があると言ったな? 先にそちらから話してもらっても構わないが」
勇者「! ……良いのか?」
魔王「ああ。確かに早くあの部屋へ行きたいが……無防備な私を放置した所から察するに、お前にとって余程大事な事なんだろう。私はそれを尊重したい」
勇者「……」
魔王「それにお前の仲間の力は……お前がいなくても大丈夫な位信頼できるものなのだろう?」ニッ
姫「魔王様……」
勇者「! ……無論だ」
魔王「では聞こう。お前とその仲間に敬意を表して、私は答えられる範囲で嘘偽りなくそれに答えるぞ」
勇者「それはありがたい。ならば俺は……お前を可能な限り信頼する事にする」
魔王「!」
姫「勇者様……!」パアッ
勇者「さっそく問おう。俺が知りたいのは……祖母の行方だ」
65:
魔王「!?」
姫「ゆ、勇者様のお祖母様、ですか……?」
勇者「ええ。ここに来たのを最後に途絶えているのです……40年程前に」
魔王「! ではお前は……先代勇者の」
勇者「……残された『事実』は、その日から魔王がいなくなったという事だけだった」
魔王「そうだったのか……だが、すまない」
勇者「?」
魔王「私はお前の問いに答える事が出来ない……わからないからだ」
勇者「! ……何故だ」
魔王「あの時は、我らの事で精一杯だったからな……今度は私の『真実』を話そう」
66:
――――
――
少女「はあっ……はあっ……」タタタッ
少女(何でだろう……さっきまでの辛さが嘘みたいに体が軽い)
少女(……でも、これはこれで好都合だね)
少女「お願い、考え直して……側近さん……!!」
――――
――
???の部屋
側近「……」ギイイッ……バタン
側近(少女……俺はお前の優しさにつけ込み、何度もその血を吸ってしまった)ザッザッ
側近(このままではそう遠くないうちに……肉にまで牙が届いてしまうだろう)
側近(だから……これで良い)ザッ……
67:
側近「少女よ……俺の事は幾ら恨んでも構わん」
側近「だが、どうかお前の幸せを祈る事だけは許してほしい」チャキッ……ザクッ
ジャララッ……ドクンッ
側近「ほら、解放してやったぞ……ずっと待ち望んでいただろう」スッ
ドクンッ……ドクンッ……
側近「長年封印されてきた貴様の体は……今や原形を留めてはいない」
側近「ここには『心臓』もないしな。完全なる復活にはそれを探し出すまでの器が必要な筈だ」
ドクッ……ドクッ……ドクッ……
側近「……俺がなってやる。あの頃とは違って成長した『末子』の体だ、衰弱しきっている貴様には充分過ぎるだろう?」
側近「貴様の魂を受け入れる準備はできている。とっとと入るがいい」スッ
ド ク ン ッ
側近(……その瞬間俺の心臓ごと貴様を貫いてやる)
68:
『……』シュウウウ……
『……はは』
側近「っ……何がおかしい」
『まさかお前がそんな殊勝な事を言い出すとはなあ……末子の愚弟よ』フワフワ
『確かにお前は仮の器としてこれ以上ない位魅力的だが……俺はもっと良い器を知っているぞ?』
側近「!? 何を言っている……『末子』以上に良い器など」
『まあ、能力的に遥かに劣るのは確かだがな……その代わりお前達を傷つけるのに最適な器だ』クックッ
側近「……まさか貴様……!」
『さて、心当たりはあったかな?』
側近「くっ……だが、それは不可能な筈だ……!」
『お前の愚かさがこんなにも愛おしく思えたのは初めてだ……では不可能かどうか自分の目で確かめてみるがいい』フワッ
69:
側近「させるか……!」ザザッ……ブンッ
『馬鹿が! 魂だけならお前でも勝てると思ったか!? この俺に!!』ヒュッ ボォッ……
側近「!」スパンッ
『はっ、やはりそうか! お前の武器は魔力を断ち切る力を持っているな? 危ない危ない』
側近「……どうだろうな」ギリッ
『嗚呼、あ奴を刺したお前は見ていて面白かったぞ! 視覚以外ほぼないのがこれ程悔しく思った事はないなあ!! あれの悲鳴が聞きたかったなあ!!』
側近「! ……悪趣味な奴め」
『魔族の性だ、お前達が異常なんだ。それにしてもあんなに仲が良かったのになあ……まあ、腹の中は違ったという訳か』
側近「ふん……何とでも言え」
『愉快な物を見せてくれた褒美だ……お前を喰うのは1番最後にしてやろう』ザワッ
側近「……ッ」ゾクッ
『と、戯れはここまでだ』
バタンッ
少女「はあっ……はあっ……側近、さん……」
『……器の到着だ』ニタァ
70:
側近「来るな少女!!」バッ
『ぎゃはっ』ズオオオオッ
少女「え……!?」
ズズズ……ッ
少女「――っ!!」ビクンッ
側近「! ……そん、な」ガシャンッ
魔法使い「っだあっ! やっと追い付いたわ」タタッ
戦士「うわあ……本当にやばそうな部屋だな」ダダダッ
僧侶「はあはあ……あの、少女、さん?」タタタッ……ピタッ
少女「……」カランッ
71:
戦士「? ……おい、大丈夫か?」スッ
魔法使い「! 馬鹿そいつに近付くな!!」ギロッ
少女「……」スッ……ズブッ
戦士「……え?」ブシュッ
僧侶「なっ……貫手!?」
魔法使い「……また面倒な事になってるみたいね」ジリッ
少女?「……やはり力はあまり出せないか。まあ良い」ペロッ
側近「嘘だ……」ブルブル
少女(兄魔王)「どうだ愚弟、この上なく最高の器だろう? ぎゃは……ぎゃはははははっ!!」ゲタゲタ
75:
僧侶「戦士さん……!」タタタッ
魔法使い「……今のはあんたじゃなかったら正直やばかったわね。それでも気をつけなさいよ」
戦士「そうだな……すまん。僧侶頼むわ」
僧侶「はい」ポウッ……
戦士「……あの子は今どうなってんだ? 魔法使い」チラッ
魔法使い「正直『見』ているだけで吐き気がするわ……只でさえ人間っぽくない中途半端な気配を纏っていただけにね」ギョロリ
僧侶「ですがそのお陰で、彼女をここまで見失わずにいられたんですよね……皮肉な事に」
魔法使い「そうね、そこだけは感謝してるわ。さっきは魔王にくっついてたからわかりにくかったけど何なのよほんと」
僧侶「さあ……今はあの方に近付くのが危険だという事しかわかりませんね」
魔法使い「とりあえず、あれがあっちに気を取られているうちに勇者に報告しなくちゃ……うええ」スッ
僧侶「無理はなさらないでくださいね?」サスサス
戦士「あー……どの道あの子があのままじゃ俺役立たずだな。どうする?」ポリポリ
魔法使い「悔しいけど今は様子見。何やらあっちもあっちで盛り上がってるみたいだし、どうするかは報告後に考えるわ」チラッ
76:
少女(兄魔王)「さて、せっかくだからお前に教えてやろう、何故俺がこの小娘の中に入る事が出来たのかを」ニッ
兄魔王「そもそもお前達がこの小娘を引き取った事が始まりだ。あの喰い甲斐もないガリガリの頃のこいつをな」
側近「……」
兄魔王「全く違う種族の者同士が同じ場所で生活を共にすれば、形はどうであれ互いかもしくはどちらかに何らかの変化がある」
兄魔王「現にお前達は肉を多く取るようになった……こいつを喰いたくなる衝動を抑えるためになあ」ニタリ
側近「……」
兄魔王「話は変わるが、俺達魔王の家系の者は、屈強な体躯に加えて他の魔族よりも遥かに濃く強い魔力の気配を有している。普段はほとんど意識せんがなあ」
兄魔王「量や強さに違いはあれど、同じような気配を持っている魔の者には特に何の影響もないが……人間はどうだろうか」
兄魔王「ましてや体が未成熟のうちからお前達に引き取られ、俺やお前達の気配が充満する魔王城で今日まで寝食を共にしてきたこいつは……どうなったと思う?」
側近「……」
77:
兄魔王「幼い頃から濃厚な魔の気配にあてられて育った体は目立った変化こそないが、中身は最早純粋な人間にあらず」
兄魔王「それどころか人でも魔でもない、極めて特殊な存在へと変貌したのだ」
兄魔王「自分では召喚以外の魔法は何ひとつ使えない癖に、その身に魔を受け入れる事は出来る! 面白い事この上ない……」
兄魔王「つまりお前達は俺にとって都合の良い器を生み出したって事だよぉ! あっはははははははは!!!!」ゲラゲラ
側近「……」
兄魔王「時間の経過と共に……お前達の気がじわじわと小娘の体を作り変える様を眺めるのは実に愉快だったぞ」
兄魔王「お前達にあのような姿にされたお陰で、気配の流れをお前達以上に強く感じられたしなあ!」ニヤァ
側近「……」
兄魔王「なあ、どんな気持ちだ……? 俺を倒すために大切に育ててきた筈の小娘が、かえって俺にとって都合の良い存在になっていたと知らされるのは」
側近「……」
兄魔王「何だ、まだ呆けているのか……つまらん。もっと絶望に染まると思ったのに」
78:
兄魔王「……まあ良い、これであの時の溜飲が大分下りた。とりあえず」
魔法使い「馬鹿丁寧な解説ご苦労様〜……」ユラッ
兄魔王「このゴミ共の始末をしなくてはな」
魔法使い「とっとと死ね」カ……ッ!
兄魔王「さっきも言ったがお前は最後だからなあ!」ヒラリ
魔法使い「ああもう! 完全不意打ちの光魔法だったのに……」ギリッ
僧侶「魔法使いさん、勇者さんの言葉を忘れてはいけません!」
魔法使い「わかってるっての! でもせっかくおあずけから解放されたんだからちょっとくらい大目に見なさい」クルンッ
兄魔王「ぎゃはっ」ニタァ
魔法使い「変なのが入ってなくてもあの女……気配も、考えもだけど」
魔法使い「あたしと同じ杖なのも気に入らないのよ!!」キッ
僧侶「おっぱいの大きさは?」
魔法使い「黙らっしゃい」ギョロンッ
79:
――――
――
謁見の間(少し前)
『……しゃ……勇者……』
勇者「……!」バッ
魔王「? どうした勇者」
姫「もしかして、お仲間からの連絡ですか?」
勇者「そのようです……どうした魔法使い」
魔法使い『ちょっと……面倒な事になった』
勇者「……お前、何を『見』た」
魔法使い『胸糞悪い混ざり物。あの女……どうやら変なのに乗っ取られたっぽいわ。貫手で戦士が刺された』
勇者「! そうか……場所は?」
魔法使い『ずっと奥のだだっ広い変な部屋。鎧姿の馬鹿でかい魔物がいたわ……多分『側近』よ。あたし達に気付かずに呆けてる』
勇者「乗っ取られた子は?」
魔法使い『そいつに何かべらべら喋ってるわ。戦士と僧侶が見張ってるけど……どうする?』
80:
勇者「俺は今、魔王から話を聞いている途中だが……お前が言う変なのは恐らく魔王の兄だ」
魔法使い『……勇者、今何て言った?』
勇者「悪いが説明している暇はない。これから言う指示を2人に伝えてくれ」
魔法使い『あんた……魔王の言う事を信じるっていうの!?』
勇者「頼む。お前が1番頼りなんだ……『四つ目の魔女』」
魔法使い『ッ! ……は、吐き気が治まらないからさっさと言って』
勇者「わかった。まず魔法使い、お前は……」
――――
――
勇者「……以上だ。俺も用が終わり次第すぐに行く」スッ
魔王「おい」
勇者「……」
81:
魔王「少女が……乗っ取られたと言ったか……?」ギロッ
姫「魔王様、どうか落ち着いて……」
魔王「落ち着けだと!? 姫は心配ではないのか!? あの外道が……少女の体の中にいるのだぞ……!?」ギリ……ッ
勇者(随分と気配が『魔王』らしくなってきたな……)
勇者「……まだ話の途中だろう? まずは続きを頼む」
魔王「勇者よ、貴様には説明したばかりだろう……あれを聞いてなお貴様は……」ユラリ
勇者「俺は仲間を信頼しているだけだ。それともお前の先程の言葉は嘘だったのか?」
魔王「っ、ぐ……」
勇者「お前がその気なら、俺は何時でもこれを向けるぞ」チャキッ
姫「そんな、勇者様……!」
勇者「姫も強制的に連れて帰るが……どうする」
魔王「……もしも取り返しのつかない事になってみろ。その暁には貴様らを死よりも恐ろしい目に合わせてやるからな」ズンッ……
姫「魔王、様……」
勇者「……その時は甘んじて罰を受けよう。では話を続けてくれ」グッ
82:
――――
――
???の部屋
勇者『まず魔法使い、お前はできるだけ奴の注意を引きつけてくれ。彼女から引き剥がせればベストだが、下手な事ができない以上それはこの際二の次だ』
魔法使い「あーあ……全力が出せないのも辛いわね」ズラッ
勇者『体は傷つけるな。攻撃するのはあくまで奴の精神面に留めるんだ』
兄魔王「ほう、お次は魔を断つ短剣か。そんなに出現させてどうするつもりだ?」ニヤニヤ
魔法使い「決まってるでしょ……全部あんたにお見舞いするのよ!」ザザザザザッ!
兄魔王「はっ……ぬるいな」スカッ フイッ クルンッ
魔法使い「掠りもしない、か……入ったばかりの割に良く馴染んでるわね。あんたが純粋な魔族なら有効だと思ったんだけど」チッ
兄魔王「当たらなければ無意味だろう? お前が今までどんな輩を相手取って来たかは知らんし興味もないが、そいつらと一緒にされては困るなあ」スタッ
魔法使い「……ま、ほぼ読み通りってとこね」パチンッ
兄魔王「!」シュル……ギュウウ
魔法使い「異界直送の鉄の蔦の具合はどう? 後さっきの台詞もっかい言ってよ」
兄魔王「……ぎゃはっ」ブチブチッ
83:
僧侶「魔法使いさん……」ハラハラ
勇者『僧侶は引き続き待機。できるだけ力を温存しておいてくれ』
僧侶「せめて入り込んだ魂を浄化できれば良いのですが……もしそれで少女さんにも何かしら影響が出たら……」
勇者『後、護身として姫から預かった首飾りも引き続き持っていろ。どの道今の状況では返せないだろうしな』
僧侶「……神よ……その御許へ侍りし神獣よ……どうか……」ブツブツ……ギュッ
84:
勇者『そして戦士、お前は彼女には攻撃できないだろうから……』
戦士「……」ザッザッ
勇者『側近の状態が幾らか落ち着いているようなら説得しろ。魔王の話が本当ならば、俺達には攻撃しない筈だ。万が一の事があってもお前なら大丈夫だろう』
戦士「正直信じらんねえが……ま、勇者が言うなら本当なんだろうな、うん」ポリポリ
勇者『そいつの彼女への気持ちを利用し……あれにぶつけろ。魔法使いのタガが外れないうちにな』
戦士「……魔王城の下敷きになるのは勘弁だ」ブルッ
側近「……」ブツブツ
勇者『だが、もし先程とほとんど変化がないようなら……まず』
戦士「ちっとばかり痛いかもしれないが……しょーがねえよな」ブンブン
勇者『お前なりの方法で正気に戻せ』
戦士「いい加減……目ぇ覚ませやごらあああああああああッッッ!!!!」ドゴォォ……ッ!!
89:
側近「……ッ!」ドザッ……
戦士「まだ足りねえか? なら……」グッ
戦士「おらおらおらおらおらおら!!!!」ドガッ バゴンッ
側近「……」ガクンッ ゴシャッ
僧侶「あわわわ……戦士さん、幾らなんでもやり過ぎでは……」
戦士「こっちはあんたらの事情は知らねえけどな!」ゴッ ガンッ
側近「……」
戦士「俺は女の形してる奴にゃ攻撃できねえんだよ! 中身が何であろうとな!!」
側近「……」
戦士「だから代わりにあんたをとことんやらせてもらうぜ……止めてほしけりゃ早く正気に戻れってんだ!!!!」ゴッ ガッ
側近「……」
戦士「っくそ、まだか……俺と目も合わせねえ」ガシガシ
90:
戦士「あのなあ、今は魔法使いの奴がどうにか頑張ってるが、その内遅かれ早かれあの子……少女? の体が多分どうにかなるぞ」
側近「!」ピクッ
戦士「あいつ心の底から魔物が大ッ嫌いだからなあ……我慢できなくなってあの子ごとふっ飛ばしちまうかも」
側近「……あ……」
戦士「あの子がああなって、そんなにショックを受ける程あんたはあの子が大事なんだろ!?」グッ
側近「しょう……じょ……すま、ない……」ブツブツ
戦士「だったらあんたが何とかしろよ!!」
戦士「何時までも現実逃避して……俺達に押し付けてんじゃねえ!!!!」ゴン……ッ
僧侶(ッ! 戦士さんの必殺の頭突き……これで変わらなければ)ゴクッ
戦士「はあっ……はあっ……これでも、駄目なのかよおっ!?」ブンッ
91:
――パシッ
戦・僧「「!」」
側近「……」ギュッ
戦士「……あんた」
側近「……今のは中々効いた」パッ ムクッ
戦士「そうは見えないけどな……普通の魔物なら多分数十回はあの世に行ってるぜ」
側近「魔王の血筋をあまり舐めない方がいい。忌々しい位頑丈だ」ゴキゴキ
戦士「ふーん? ってかあんたも魔王の兄弟?」
側近「……一応弟だ。まあ、とにかく目が覚めた……感謝するぞ」ザッザッ
92:
戦士「……怒らないのか? 人間にここまで一方的にボカスカやられてよ」
側近「俺のためにやってくれたんだろう? それに感謝はするが怒る理由はない」
戦士(……こいつマジで魔王の弟か? まあ攻撃して来ないなら良いのか?)
側近「おい、あの人間の娘……恐らくお前の仲間だろう? 良ければ少女から引き離してくれ」スッ
戦士「! お、おう」ダッ
僧侶(この方……私達に気付いても冷静ですね。それに敵意を向けるどころか感謝までしてくるなんて)
僧侶(おまけに少女さんへの反応……とりあえずまだ様子を見る必要はありますが、恐らく……)
僧侶「……これはお話を伺う必要がありますね。すべてが終わった後にでも」
93:
兄魔王「ふん。人間にしては中々やるなあ……ほんの少しだけ見直したぞ」ケロリ
魔法使い「……」
兄魔王「その額の目……竜の物だろう? 確かに取り入れれば格段に能力は上がるだろうが、脆弱な人の身に余る代物だ」
魔法使い「……」ギロリ
兄魔王「力を渇望する姿勢には共感するが……やはり人間。哀しいかな、そんな事をしても我らとの差は」クスクス
魔法使い「もういい加減、黙れ」スッ
兄魔王「!」
魔法使い「我慢の限界……これ以上は時間の無駄だわ」ゴオッ
兄魔王「ほう……ではどうする」
魔法使い「あたしの全力であんたをぶち殺せないかどうか……その身で確かめてみろ!!」
戦士「ちょ、魔法使い! ストップ、ストォォォップ!!!!」ガシッ
94:
魔法使い「! 戦士……!」
戦士「俺達のやるべき事はここまでだ! ひとまず杖をおろせ!!」
兄魔王「なんだ? お前の全力とやらはなしか? つまらんな……まあ命拾いして良かったな」ニヤニヤ
魔法使い「ッ! ちょっと放しなさいよ馬鹿あああああ!!」ジタバタ ズルズル
戦士「やっぱり勇者の指示を忘れかけてるな!? マジで魔物に対して堪え性なさ過ぎだ!!」ズルズル
魔法使い「うるさい! 戦士の癖に!!」キーッ
僧侶「……魔法使いさん」ススッ
魔法使い「何よ!」ジロッ
僧侶「……」ボソッ
魔法使い「!」ビクッ
95:
僧侶「駄目じゃないですか……勇者さんの指示を無視しちゃ」ニコニコ
魔法使い「あ、や、やめ……」ガタガタ
僧侶「あんまり勝手が過ぎると……今度はあの程度じゃ済まなくなりますよ?」
魔法使い「いやあああああああ!」ブンブン
僧侶「では、わかっていますね?」
魔法使い「」コクコクコクコク
僧侶「ふふっ、よろしい」ニッコリ
戦士「僧侶、助かったぜ……」ヘナヘナ
僧侶「いえいえ。今の私ではこれ位しかお役に立てませんからね」
魔法使い「あれだけはいや……あれだけは絶対にいや……」ブルブル
僧侶「それより戦士さん、あの方……側近さんは」
戦士「ああ……どうやら勇者の狙い通りになりそうだ」チラッ
96:
兄魔王「ようやく我に返ったと思ったら……せっかく伸ばしてやった寿命を捨てる気か?」
側近「……貴様を少女から追い出すためならこの命など惜しくはない」スウッ……ジャキッ
兄魔王「そんなにこいつが大事か。だがお前の剣で何ができる? それとも自棄になったか、ええ!?」
側近「何とでも言え……遅くなってすまない」ボソッ
兄魔王「まあ、やるなら精々足掻いてみせろよ……? この体を傷つけないようになあ!!」ダッ
側近「今助けるからな……少女」スッ
107:
――――
――
謁見の間
勇者「……成程、お前達の事情は大体把握した」
魔王「……」
勇者「俺達はまんまと誘き寄せられたという訳だな。お前達の勝手な都合で……しかも姫まで巻き込んで」
魔王「……その件に関しては本当に心苦しく思っている。お前達の命にも関わる問題だ、私と弟の心臓を差し出しても許される事ではなかろう」
勇者「随分と潔く認めるんだな」
魔王「事実だからな。ただ、あの子……少女だけは許してやってほしい」
勇者「……」
魔王「あの子は我らが拾って利用しようとしただけだ。お前達や姫と同じように」
姫「……」
魔王「まあ、結局……情の方が大きくなってこのザマだがな」
108:
勇者「……彼女の処遇はすべてが終わった後に改めて決める」
魔王「!」
勇者「とりあえず、今はお前の言う事を信じよう」
魔王「……ありがたい」ホッ
勇者「その代わり、幾つか質問をしても?」
魔王「う……い、良いだろう」
勇者「お前は話の中で自身を歴代最弱の魔王と称したが……そんなお前が今日まで、そのような凶悪な存在の封印ができていたのが俺には信じられない」
魔王「……」
勇者「何か副作用があったんじゃないか? もしくは……代償でも良い」
魔王「……流石は勇者、と言った所か」
姫「魔王様……」
魔王「確かにそうだ。あの頃の私達はまだ第2成長も迎えていなかったしな」
勇者「ならばますます疑問に思う……よくもまあ危ない橋を渡ったものだ」
109:
姫「第2成長……?」キョトン
勇者「……姫に説明をしても良いだろうか」
魔王「やむを得んな……」
姫「すみません……」シュン
勇者「姫のような方ならば知らなくて当然です……魔王の血筋やその他の人型の上級魔族には大きく分けて3段階の成長があります」
勇者「まず生まれてから、人間の年齢で10代後半頃までが第1成長。ここまでは人間と変わりなく育ち、魔力や腕力の平均は人間よりもやや強い程度です」
姫「ふむふむ、外見は私達と同じ位でしょうか」
勇者「そうなりますね。次に第2成長ですが、ここからが問題なのです」
姫「問題?」
勇者「第1成長を終えた魔族は、1度そこで肉体の成長が止まります」
姫「!」
勇者「同時に魔力などの成長も……この時点で半人前の状態です」
110:
勇者「第2成長を迎えるには、何らかの精神的な成長をして自身の壁を越えなければならない……それを遂げた時、一気に成熟した姿まで変化するといいます」
魔王「うむ。私や弟の今の姿は第2成長にあたるが、ほとんどの魔族は残りの生をこの姿で過ごす……力の伸びしろも底知れないからな」
姫「そうなのですか……」
勇者「そして第3成長ですが……この件では無関係なので割愛させていただいてもよろしいですか」
姫「は、はい」
魔王「では話を戻そう。結論から言うと封印の維持による副作用はあったし、同時に代償も支払った」
勇者「やはりか」
魔王「まず、副作用は……今こそ大分落ち着いたが、封印して間もない頃は頻繁に発熱や吐血があったものだ」
姫「……!」
魔王「当時の奴の暴れっぷりは本当に凄まじかったな……姫、そんな顔をしないでほしい。貴女には似合わない」
姫「で、ですが……!」
魔王「もう、昔の話だ」
姫「……」グッ
111:
魔王「そして代償の方は……元々のそれであった活動範囲の制限に加え、魔力の大半と命だな」
勇者「命……か」
魔王「ああ。常に魔力の大半を封印へ費やしながら奴と私の心臓をこれで繋げ、下手な事ができぬようにした」ジャラッ
姫「! その大量の鎖、一体何処から……?」
勇者「……それがお前の武器か? 魔王らしさの欠片もないな」
魔王「ああ、自分でもそう思う」
姫「?」
勇者「姫、あまり知られていない事ですが、第2成長を終えた魔王の血筋の者は一生に1つだけ、自分固有の武器を己の魔力で生成する事ができるのです」
姫「そうなんですか……」
魔王「大半の者は勇者と戦うに相応しい剣を作るが、私の場合は封印をより強固なものにするためにやむを得ずこのような形になった」
勇者「1度作れば変更できない代わりに、何時でも自由に手の中へ出す事ができるというが……」
112:
魔王「破壊されたら2度と元には戻らんがな。これも先程弟に何本か断ち切られてしまった」シュン
姫「……りょ、量が多いのであまり目立ちませんわ」
魔王「そうか?」
勇者「封印を維持してきた割には随分とあっさり切られてしまったな」
魔王「弟の武器の何らかの能力によるものだろう。生成の際にそれも1つだけ付与できるからな」
勇者「鎖はこれで全部なのか?」
魔王「いや、後は奴の心臓の封印に何本か使っている。私が死ぬか、私自らが解こうとしない限り容易には解けないだろう」
勇者「お前の拘束するという意志がそのまま鎖の強度へ繋がっているというわけか?」
魔王「そうなるな……拘束だけが取り柄の取るに足らない武器と能力だ」
姫(今のお話が本当なら、魔王様は……やろうと思えば勇者様を縛り上げてでもあのお部屋へ行けた筈)
姫(この方ならどうにかできるかもしれませんが……恐らく勇者様もお気づきでしょうね)ゴクリ
113:
勇者「それにしても、自分の心臓と別の場所にある心臓を鎖で繋げる……しかも命ごと、か。言葉にするのは容易いが」
魔王「いまいちピンとこないか? 空間系の魔法を使用すれば意外とどうにかなるものだ。維持は中々大変だがな」
勇者「……」
魔王「どうだ、なけなしの魔力をこのような事にしか使えぬ私など魔王と名乗るのもおこがましかろう」
勇者「……」ツカツカ
魔王「? どうした勇者」
勇者「……この口か」ボソッ
魔王「ん?」
勇者「人間への無自覚の嫌味を吐くのは」ガシッ グニグニグニ……
魔王「ゆ、勇者なにふぉっ!? いひゃっ、いひゃひゃひゃ……!」バタバタ
姫「勇者様!? 魔王様になんて事を……!!」オロオロ
勇者「人間の代表としてやっておかねばならないような気がしたのです、姫」グニグニ
114:
魔王「ふおおおおおおお」
姫「ああああ魔王様が涙目に……! 魔王様、どうかぬいぐるみをお放しになって!! 鎖も……」
魔王「ひゃ、ひゃがうひゃぎを地べひゃに置くなど……ひょれにこれ以上くひゃりが減るのもいひゃだ!」
魔王(だ、だが兎を地べたに置くなど……それにこれ以上鎖が減るのも嫌だ!)
姫「ど、どうしましょう……勇者様、そろそろお止めに……!!」
勇者(封印に使っていない残りの魔力でそれ程の芸当をやってのけておいて……最弱の魔王だと?)
勇者(あの結界を張りつつ、その状態を長年継続させていると魔法使いに知らせた上でそうのたまった日には……多分憤死するだろうな、あいつは)
勇者(だがこの際問題なのは)グニッ
魔王「ぬあああああああああああ……!!!!」
姫「ま、魔王様ああああっ!!」
勇者(……魔王が封印していた存在がそれ以上に強い力を持っているという事だな)
120:
――――
――
???の部屋
兄魔王「どうした? 先程の威勢はやはり虚勢だったのか?」ニヤニヤ
側近「はあっ……はあっ……」ボタボタ
側近(少女の中の奴の魔力が増している……これ以上長引かせれば不味い。だが……)
戦士「あいつ大丈夫なのか……? さっきからほとんどやられっぱなしじゃねえか」
僧侶「……恐いんでしょうね」
戦士「え?」
僧侶「今の少女さんをどうにかできる方法があっても、ぶっつけ本番では失敗するかもしれない」
側近「……っ!」ザザザッ
121:
僧侶「それで少女さんを永遠に失ってしまう事を恐れている……自分が死ぬ事以上に」ギュッ
兄魔王「ぎゃははあっ、遅い、ぞっ!!」ゴオッ
側近「が、はっ……」ドスンッ……グラリ
僧侶(ですが、このままではどの道少女さんは……側近さん、私の見込み違いだったのですか?)
兄魔王「つまらんな、もう終わりか? 嘆かわしい事だ……宝の持ち腐れにも程がある」
側近「……」ググッ……ギロリ
兄魔王「……ああ、それにしても本当にこの小娘の体は最高だなあ」クスクス
兄魔王「居心地が良いのは勿論の事」スッ
側近「!」
兄魔王「肉付きも……んっ、それに感度も魔族好みだ」グニュッ ムニュッ
側近「……貴様ぁぁぁ……っ」ギリ……ッ
122:
兄魔王「ははっ、この器を育て上げた事だけは高く評価してやる……それ以外にも良い活用法があるからなあ」ハァハァ
戦士「おおう……自分で自分の胸を……!」
僧侶「見るんじゃねえです。人間の男風情が」スッ グキッ
戦士「」
僧侶「もう、戦士さんったらスケベなんですから〜」クスクス
魔法使い「うわあ……」
側近「活用法、だと……?」ピクッ
兄魔王「わからんか? ……俺の子を産ませるんだよ」ニタァ
側近「!!」
兄魔王「お前達の首が見ている前で朝も夜も関係なく……手足に枷をはめて徹底的に犯し尽くしてやる」
側近「な……ぁ……っ」
123:
兄魔王「安心しろ、お前達はちゃあんと定期的に魔力で防腐してやるよ。そうだなぁ軽く10人は孕ませるか」
側近「……」
兄魔王「それだけいけば末子もできそうだしなあ。その後に骨も残らず喰う……今から楽しみだなあ」ジュルリ
側近「……」ブルブル
兄魔王「喰われる時のこいつはどうなっているかな? 快楽に狂って俺に擬似的な情を抱くか……それとも心を絶望に満たされながら廃人と化すか」
側近「……!」ビキィッ
兄魔王「ああ、体は人間だから先に子宮が壊れるかもしれないなあ。ぎゃははははははは!!」
魔法使い「流石魔族えげつない……あれって挑発のつもりかしら? でも一体何のために……ッ!」ゾワッ
側近「……そんな、目に」ユラリ
兄魔王「んん?」
側近「そんな目に遭わせるために少女を育てたわけではないぞッ!!!!」
124:
僧侶(! ……やっと覚悟を決めましたか)
魔法使い(何……何なの? あの鎧野郎から一瞬……)ギュッ
兄魔王「ふん、何ができるというのだ? 目の前のこの体を攻めあぐねている無様なお前に」ムニュ
側近「さあな……何ができるんだろうな?」チャキッ
兄魔王「!」ピクッ
側近「これ以上、貴様に少女は汚させない」スッ……ザザッ
兄魔王「馬鹿が、血迷ったか……!?」ビクンッ
――ドスッ
125:
魔・僧「なっ!?」
側近「……」ズブブッ
兄魔王「な、に……おまえ……」ブルブル
戦士「ううっ、俺は一体……って何だよこの状況!?」ガバッ
魔法使い「戦士……見ての通りよ。何をとち狂ったか鎧野郎の剣があの女を……」
戦士「なんだと!? あの野郎……!」
僧侶「! ま、待って、2人ともよく見てください!!」
戦・魔「え?」
魔法使い「あ……確かに刺さってる筈なのに血が1滴も……」
戦士「でもあいつ、苦しんでるみたいだぜ?」
兄魔王「なぜ、だ……これは……」カタカタ
126:
側近「剣の能力ヲ貴様が勝手に勘違いシたんダロウが」グリッ
兄魔王「がああ……っ」
側近「さっさト少女かラ出てイけ」グリグリ
兄魔王「ぎぃう、あ……!」
魔法使い「……もしかしてあいつの剣」
戦士「?」
魔法使い「何らかの条件下で斬りたいものだけを斬れる……?」ボソリ
僧侶「! 成程それなら……」
魔法使い「あいつが何か余計な魔力を使った形跡はないから、剣の固有能力ね。多分」チッ
兄魔王「ぐ……おのれ……愚弟の分際で……」ギリッ
127:
側近「出ていけ」ズルッ……グサリ
兄魔王「ッッッがあああっ……!!」
側近「出ていけ出ていけ出てイけ出テイけデテイケ……」グサッグサッグサッ……
兄魔王「あぎィッ……う、がっ、ああああああああああ!!!!」ビクンッビクンッ
戦士「おいあれ……大丈夫なのか?」
僧侶「……確かに、幾ら体を傷つけないとはいえ少しやり過ぎかもしれません」
魔法使い(……!)ヘナヘナ
戦士「ま、魔法使い大丈夫か? 何か見えたのか?」ガシッ
魔法使い「うぐっ……ええ見えたわよ、これまでにないおっぞましいものが」ズキズキ
僧侶「何が、一体何が見えたんですか!?」
魔法使い「それは……!」バッ
戦士「今度は何だ!?」
128:
魔法使い「あの、女の……周囲の魔力が全部体内に収束した……!」ギョロッ
側近(後少しダ少女……モウすぐ……お前ヲ……!)グルルル
兄魔王「……あまり、調子、に、乗るなあああああああっ!!!!」ヒュオッ
ズプッ……
魔・戦・僧侶「!?」
側近「……っ」ブシュウウッ グラッ……ガシャン
129:
戦士「あのほっそい腕で……鎧を貫通した!?」
僧侶「先程の、戦士さんもやられましたが……あれは……ああ、神よ……!」カタカタ
魔法使い「……まさか、最後に心臓を貫いてから出ていきやがるなんてね……敵ながら大した執念だわ」
兄魔王『畜生ッ……くそっ……もう少し、で……覚醒、させられたのに、っ……勿体ない事を……』シュウウウ……
兄魔王『とにかく……今は器だ……早く次の、器を……』ヨロヨロ……フッ
少女「」ドサッ
魔法使い「……消えた。この部屋からは完全に」
側近「……」ズズ……ッ
魔法使い「あいつっ……まだ動けるの!?」スッ
僧侶「だ、駄目、駄目です魔法使いさん……戦士さんも止めて!!」バッ
戦士「え? お、おう」ガシッ
魔法使い「ちょ、何なのよ! 今が絶好のチャンスなのに……!!」ジタバタ
130:
側近「……しょう、じょ……」スッ……
側近(すまない……俺の血……で汚して、しまって……)
側近(だが……良かっ、た……お、前が……無事、で……)
側近(兄上……勇、者……すま、ないが……)
側近(後、は……たの……ん…………)ゴボッ
――パタン
135:
――――
――
謁見の間
魔王「うう……」ヒリヒリ
姫「魔王様、大丈夫ですか……? 赤くなっていますわ」
魔王「ああ。それにしても、頬とはいえ魔族の皮を摘むとは中々やるな」サスサス
姫「あはは……流石は勇者様、と言ったところでしょうか」
勇者「……」
魔王(……初めて見た時から感じていたが、何とも読めん奴だな)
魔王(己の目的のために単独で私に迫ったかと思えば、仲間を信頼し大切にする素振りを見せる)
魔王(年の頃は少女や姫と変わらぬというのに……得体が知れんな)
魔王「……」
姫(き、気まずいですわ……)
136:
勇者「……」バッ
姫「あ……お仲間からですか?」
勇者「ええ……魔法使いか。どうした」
魔法使い『勇者ー……へるぷみー……』
勇者「何があった」
魔法使い『馬鹿と僧侶に反逆されたー』
勇者「? どういう事だ」
魔法使い『……声からもわかる通り、あたし今魔法が使えない状態なのね。2人のせいで』
勇者「……その2人は一体何をやっている」
魔法使い『戦士はあたしを見張ってる。杖も持ってるから、へし折られないかひやひやするわ……んで僧侶は……むかつく事に鎧野郎の手当て』
勇者「その様子じゃ、大方お前が暴走しそうになったのを止めたんだろう」
魔法使い『……ちっ、やっぱばれたかー』
137:
勇者「ところで俺の指示はどうなった」
魔法使い『それはちゃんと従ったし、概ね成功したわ……結果はかくかくしかじか』
姫「そ、そんな……側近さんが……」カタカタ
勇者「……ではその子に憑いていた奴は何処へ行ったんだろうな」
魔法使い『んー……この状態じゃどの道わからないわね。でも器がどうのって言ってたから……』
勇者「こちらに来るかもしれない、か?」
魔法使い『毎度ながら察しが良い事……そんなわけだから一応気をつけておいてー』
勇者「ああ、了解……」ジャラッ
魔法使い『? 何、今の音』
勇者「……どういうつもりだ。魔王」ギシッ
魔王「1つ尋ねてもらっても良いか。でなければ……少々手荒だが腕輪を奪わせてもらう」
138:
勇者「! ……何を訊きたい」
魔王「少女と、弟……側近の様子を」
勇者「わかった。ではこれを解いてもらえるか」
魔王「答えを聞けたらな」
勇者「……魔法使い。女の子と鎧野郎、もとい側近の様子はどうだ?」
魔法使い『え……何よいきなり』
勇者「良いから答えてくれ」
魔法使い『……鎧野郎は遠くから見る限り、ピクリとも動かないわね』
魔法使い『女の方は……気を失ってるだけみたい』
勇者「……そうか。ありがとう」
魔法使い『ってか何なのよ一体』
勇者「気にするな」
139:
魔王「……なあ、今この腕輪から僧侶へ通信を繋げるか? 少し話がしたい」
勇者「それは可能だが……まだ解放してはくれないのか」
魔王「家族の一大事だからな。なりふり構ってなどおれんよ……このままお前の腕をもいでやっても良いのだぞ」ギロリ
姫「魔王、様……」
姫(怒っていらっしゃる……!)ブルッ
勇者「……報告御苦労、魔法使い。休憩も兼ねてしばらくそのまま待機しておいてくれ。僧侶も治療を続けて良い」
魔法使い『え? ちょっと勇……』ブツッ
勇者「」スッ……ポウッ
勇者「……僧侶。今話せるか?」
僧侶『……勇者さん、どうなさいましたか』
勇者「魔王からお前に話があるそうだ」
僧侶『!』
140:
勇者「心配するな、今の所こいつは敵じゃない……それだけは確かだ」
僧侶『……』
勇者「大丈夫か? 魔王とかわっても」
僧侶『……はい。お願いします』
勇者「……」カチャッ スッ
魔王「!」
勇者「腕を奪われるのはごめんだからな」
魔王「……すまんな」バララッ
姫(勇者様が解放された……良かった)ホッ
僧侶『……は、初めまして、魔王さん。勇者一行が1人、僧侶です』
魔王「魔王だ。何を考えて貴女が弟……側近の治療をしてくれているのかはわからんが、とにかく感謝する」
僧侶『いえ、そんな……無力な私にそのようなお言葉を頂く資格などありません』
141:
魔王「……それ程酷いのか」
僧侶『それは……』
魔王「正直に言ってもらいたい」
僧侶『っ……はい。胸に開いている穴から血がとめどなく溢れている状態で、自分を浄化しながらそれを抑えるので精一杯です』
魔王「穴以外に、何か外傷は?」
僧侶『少女さんに憑いていたモノとの戦闘中に幾つか……ですがそちらはこの際問題ではありません』
魔王「……そうか」
魔王(心臓を完膚無きまでに破壊されていれば絶望的だが、それなら望みはある……しかし)
僧侶『……何の因果か、私は巷では『癒しの鬼』などと持て囃されておりますが……聞いて呆れますよね』
魔王「いや、そんな事は……」
僧侶『ごめんなさい……本当に……!』グスッ
魔王「! な、泣かないでくれ、私は貴女を責めるつもりは……!」オロオロ
142:
僧侶『……でも』
魔王「ん?」
僧侶『私はこんな終わり方認めませんからっ! 絶対に諦めませんからーッ!!』
魔王「!?」ビクッ
僧侶『あ……すみません、少々取り乱してしまいました……とにかく私は最後まで全力を尽くします』
魔王「……それは本当にありがたい。だが、良いのか? そいつは私の……」
僧侶『存じております。ですが、例え魔王の血筋の方であろうが人であろうが、救いを求める気持ちに差異はありませんから』
魔王「……」
143:
僧侶『ただ、この方……側近さんの場合』
魔王「何だ?」
僧侶『……傷口からそれが見受けられません』
魔王「! それは、どういう……」
僧侶『助かりたいという思いが、全く……感じられないのです』
魔王「ッ、やはりかあの馬鹿……!」
150:
こんばんは。
続きの投下の前にまずは数日遅れのホワイトデーを。
チョコのお返しとして妖精がキャンディーをお届けに参ります←
一方魔王達は……これまたおかしな事に(笑)
お返しに顔に似合わぬ可愛らしいクッキーを焼く側近!
側近と同じように作った筈なのに暗黒物質の生みの親となってしまった魔王!
「魔王様の……手作り……」と熱に浮かされた目でそれを食べようとする姫! それを阻止しようとする少女!
そして妖精は側近の作ったクッキーをこっそり砕いたり食べたり……←
ってな感じです。
長々と失礼致しました。
151:
――――
――
少女(――ん)パチッ
少女(あ、れ……? 私……どうなって……)
少女(確か、あの……お部屋に、入って……側近さんに来るなって……ぁ)
少女「そ、きん……さん……側近さんは!?」ガバッ
戦士「! 気がついたか少女ちゃん」
僧侶「……その調子で、引き続き呼びかけて下さい」ポウッ……
魔王『弟よ……あまりふざけるなよ……? お前はこう言われるのは厭うだろうがこの際言わせてもらうぞ』
少女「え……何、が……あったの?」スッ……ヨロヨロ
戦士「おっと……すまねえが説明は後だ! おい僧侶、少女ちゃんが目を覚ましたぞ!!」サッ
152:
僧侶「! 丁度良かった……少女さん、目を覚ましてすぐで申し訳ないのですが……貴女もこちらに来て呼びかけてあげてください」
魔王『お前は末子だろうが! 私よりもずっと強い筈だろうが馬鹿者!!』
魔王『私よりも先に母上達の元へ逝くなど……断じて許さぬぞ……!』
姫『魔王様、私も……側近さん、貴方はそんなにやわな殿方ではないでしょう!? しっかりなさい!!』
少女「……」
少女(これは……何? 僧侶さん? に隠れてはっきりとは見えないけど……)
少女「どうして側近さんが倒れてるの……?」
魔法使い「……ふん、随分とお気楽なものね」
少女「! 魔法使い……さん」
少女(なんで額に布を巻かれた状態で床に……? 両手も胸の前で縛られてるし……)
153:
魔法使い「気安く呼ぶな異端者が。あたしの獲物を減らしやがって」ジロリ
少女「え……」
魔法使い「どうしてそいつがそんな事になってるかって? 知りたいなら自分の手をよーく見てみなさいよ」
戦士「おい魔法使い、あれはこの子が自分の意志でやったわけじゃ……!」
魔法使い「あんたはちょっと黙ってなさい……どうせ今のあたしは口しか動かせないんだから」
少女「……!」
少女「何、こ……れ……」カタカタ
魔法使い「それに少なくとも、化け物って呼んであげないだけマシでしょ?」フン
少女(どうして……私の手……こんな、に……)ベタッ
154:
少女「? 何か、くっついてる……綿?」
僧侶「あ、あの、少女さん……治療のために鎧を脱がせた時、丁度胸の部分からこれが……」スッ
少女「……あ、ああ……!」
少女(わ、わたし、が……あげた……)ガタガタ
魔法使い「全く女々しいわね……ぬいぐるみを鎧の裏に仕込んでいたなんて」
魔王『く、そっ……何故こんな所だけ考える事が同じなのだ……!』ギリッ
少女「うわ、あ、あああ……じゃあ私が、わたし、が……!」
魔法使い「これでわかったでしょ。あんたがやったのよそれ……大事な大事な家族をその手で」
少女「ああぁあああああぁぁぁぁぁぁああ……!!!!」
155:
戦士「もう止めろ魔法使い! 少女ちゃん違うんだ、あんたは乗っ取られて……!」
魔王『少女気がついたのか!? 大丈夫か!?』
僧侶「っ……魔王さん、今は側近さんに呼びかけるのが先です!」
僧侶「救いを求める気持ちを……生きる気力を引き寄せなければ、治癒魔法を持ってしても助けられません……!!」
魔王『ぐっ……これでは助けた意味がないではないか……あの時せっかくお前を救えたと思ったのに!!』
魔法使い「やっぱり魔物と一緒にいると碌な事にならない……良い例だわ」ボソッ
少女「側近さん……側近さん側近さん……!!」
少女「お、お願いだから……目を開けてよぉ!!」ボロボロ
魔王『! ……おい、聞こえるか弟よ。少女も泣いておるぞ……これがお前の望んだ事か?』
姫『側近さん……!!』
156:
魔法使い「諦め悪いわね本当に。いい加減無駄な足掻きは止めたら良いのに」プイッ
戦士「魔法使い……!」キッ
魔法使い「あの女もぴーぴー泣くことしかできないなんて……鬱陶しいったらありゃしないわ」
魔法使い「……昔のあたしを見ているみたいで嫌になる」ボソッ
少女「ううっ……こんなの、嘘だよ……やだぁ……」ポロポロ
少女「何か……何かできる事は……ぁ」スッ
僧侶「?」
少女「そうだ……私の血……必要なら肉もあげるよ……」カプッ……ブツン
魔王『なっ……少女!?』
少女「っ……ほら側近さん、何時もみたいに飲んで……?」グイッ
157:
僧侶「しょ、少女さん何をなさって……!」
少女「そしたら側近さん、楽になるでしょ……? また目を開けてくれるよね?」
僧侶「少女さん、どうか気をしっかり持ってください!!」ユサユサ
少女「……どうしたの? 何時も美味しそうに飲んでくれるじゃない」ポタポタ
僧侶「少女さん!!」
魔法使い「……おっぞましいわね」ブルッ
少女「さあ飲んで? きっと元気になるよ……飲んで飲んで飲んで飲んでn」
バチンッ
戦士「!?」
魔王『……い、今の音は』
魔法使い「僧侶……あんた……」
僧侶「しっかりしなさい少女さん……!」ヒリヒリ
少女「あ……私……」
158:
僧侶「貴女までそうなってしまって……どうするんですか!!」ハァハァ
少女「……」
僧侶「ショックを受ける気持ちはわかります……ですがそんな事をしても側近さんは目を覚ましませんよ!!」ポウッ
少女「僧侶、さん……」
僧侶「今、貴女にできる事がある筈です……貴女にしか、できない……」ゼエゼエ
戦士「僧侶、お前力の消耗が……!」
僧侶「これ位、大丈夫ですから! 戦士さんは少女さんに……落ちている杖を……」
戦士「え? わ、わかった……」バッ ダダダッ……スッ
少女「……? あり、がとう」スッ ギュッ
僧侶「ありがとうございます……」ニコッ
159:
戦士「お、おう……僧侶、あまり無茶は」
僧侶「……魔王さん」
魔王『! す、すまない、続けよう』
僧侶「お願いします」ポウ……ッ
少女「僧侶さん、どうして……」
僧侶(どうか気付いてください、少女さん……!)
僧侶(私の口から教える事はできませんが……1つだけ、この状態をどうにかできる方法があります)
魔法使い「! ……僧侶、あんたまさか」
僧侶(少女さんがあれをつけていたのは本当に幸いですが……)
僧侶(問題は貴女が知っているか。それと条件を揃えているか……ああ、私が先に力尽きてもアウトですね)
魔法使い「あれを狙ってるの……? あんな迷信にも近いものを」
160:
僧侶(こればかりは少女さん自身が気付かなければいけません。自分の意志で成し遂げなければなりません)
僧侶(……間に合うかわからないし、できるかもわからない)
僧侶(不確定なそれに賭けるしかない自分が情けない)ギリッ
戦士「僧侶……一体何のつもりだよ」
僧侶(……でも、それでも私は諦めたくないんですよ)
魔王『戻ってこい弟! お前はもっと生き永らえて……少女を幸せにしろと言っただろうが!?』
姫『お願い、します……どうかまだ逝かないで……』
僧侶(こんなに慕われて……愛されている尊い命を!!)キッ
164:
少女「僧侶さん……」ジッ
少女(一体私に何を求めているの? どうして杖を……)ヒラッ
戦士「少女ちゃん、何か落としたぞ……花弁?」スッ
僧侶「! 少女さん、1つお伺いしますが……その髪飾りはこの方から贈られたものですか?」ポウッ……
少女「え、あ……そうだけど……」
僧侶「やはりそうでしたか……どうやら残された時間はあまり多くはないようですね」ジワッ……ポタッ
少女「!」
僧侶「髪飾りから花弁が散る時の条件……貴女はご存知ですか?」チラッ
少女「……ぁ」
『送り主が死ぬか、想いが消えてしまうと』
『一緒に散ってしまうのよ――』
165:
少女「ど、どうしよう……ああ、また……!」ヒラリ
僧侶「今は何とか持ち堪えているようですが、すべての花弁が散ってしまったらもう……」
少女「そんな、どうすれば良いの僧侶さん!?」
僧侶「……貴女ならきっとできる」
少女「え?」
僧侶「私は信じていますからね」ポウッ……
少女「……」ヒラッ……
魔王『目を覚ませ弟! お前はまだ死んじゃいけない!! 頼むから……』
姫『側近さん! 貴方は魔王様のたった1人の弟なんで……きゃあっ!!』ブツンッ
166:
僧侶「!? 姫様! 魔王さん!! 応答を……」
魔・戦「!」
少女「何があったの……!?」
僧侶「……腕輪の通信が途絶えました。戦士さん、そちらから連絡は?」
戦士「だ、駄目だ! 俺の呼びかけにも反応しねえ」
魔法使い「……戦士、今すぐあたしの拘束を解きなさい」ジロッ
戦士「魔法使い……」
魔法使い「十中八九あいつの仕業よ! 幾ら勇者でもそんな通信の切り方はしないって知ってるでしょ!?」
戦士「で、でもよ」チラッ
魔法使い「この際そいつの事は後回しにするからさっさとして!」
167:
戦士「……僧侶」
魔法使い「あっちにはお姫様もいるのよ!? 手遅れになっても良いの!?」
僧侶「……やむを得ません。戦士さん、お願いします」
戦士「わ、わかった」スッ……シュルッ ブチッ
魔法使い「……ふう、やっと自由になれた」ムクッ コキコキ
僧侶「……」ジッ
魔法使い「どれ……」スッ……ギョロン
魔法使い「……ああもう、魔王の魔力のせいでわかりにくいわね」ガシガシ
少女「……」
魔法使い「っと、これ以上は杖なしじゃできないわね。ん」スッ
168:
戦士「?」
魔法使い「馬鹿! あんたのそれ返しなさいよ」
戦士「あ、ああすまん」サッ
魔法使い「よし、折れてはいないみたいね……んじゃあ急いで行きますかー。転移魔法使おうにも忌々しい妨害が入っているしね」クルリ
僧侶「……お気をつけて」
魔法使い「ん。あ、戦士はついて来なくていいから」ザッザッ……ジロッ
少女「!」ビクッ
魔法使い「……じゃあね役立たず」ボソッ
少女「……」ヒラッ……
魔法使い「一生そこで狼狽えてなさい」ガチャッ……バタンッ
169:
少女「やく……たたず……」
僧侶「少女さん……あまり気に病まれる事はありませんよ」
戦士「そ、そうだぜ! 大体あいつは性格がキツ過ぎるんだよ。特に魔物がらみの事になるとなー」
僧侶「仕方ありませんよ……幼い頃にあのような目に遭っていては」
戦士「……まあ、な」
少女「……」
僧侶「さあ、気を取り直して頑張りましょう! 私も力を尽くしますから……うっ」バチッ
少女「! 僧侶さん、手が……」
170:
戦士「お前、やっぱり無茶してんじゃ……!」
僧侶「ああ……お気になさらず。浄化に回す分が勿体ないので、少し前からすべて治癒につぎ込んでいるんですよ」シュウウウ……
少女「だ、大丈夫なの……?」
僧侶「汚染の効果を和らげるアイテムを装備しているのでしばらくは……長くは持ちませんが」ポウッ
戦士「僧侶、お前は充分よくやってる! だから……」
僧侶「言った筈です。諦めませんと……邪魔をするなら容赦は、しません……」
戦士「……ああくそ! どうしてうちの女共はこうも強情なんだ!!」ガシガシ
少女「僧侶、さん……」
少女(私は何故か何ともないのに、僧侶さんは少し触っただけで……側近さんと魔王様の血って、やっぱり危ないんだ)
少女(私、ずっと2人に気を遣われて……守られてたんだ……!)ジワッ
171:
――――
――
謁見の間
魔王「くっ……腕輪がすっかり壊れてしまったではないか。復元できるか……?」パラ……パラ……
『そのような心配は無用だぞ? じきに母上達の許へ逝く事になるのだからな』
魔王「全く、幾らなんでも予想外の事態が起こり過ぎだ……しかもほとんどが悪い事ときた」
『本当はすぐにでもお前を葬ってやりたい所だが、こればかりはお前しか知らないからなあ』
魔王「何故、乗っ取る事が出来たのか……考えるのは後回しだな」ギンッ
『ぎゃははあ……さて、何故だろうな?』ニタニタ
姫「ああ……そんな……」ブルブル
勇者(兄魔王)「さあ……我が『心臓』の在り処を吐いてもらうぞ上の愚弟よ!!」スラリ……ジャキンッ
175:
魔王「姫、気をつけるのだ……決して私の傍から離れるんじゃないぞ」
姫「は、はい……!」
魔王(確かに勇者は常人ではないだろうが……かと言って簡単に魔に付け入られるような存在でもない筈)
魔王(一体何が起こっているんだ……っと、いかんいかん、言った傍からこれでは駄目だな)ブンブン
勇者(兄魔王)「ふ、仮とはいえこうして肉体を持って話すのは久しぶりだなあ、憎々しい上の愚弟よ……」
姫「勇者様、どうか正気に戻ってください……!」
兄魔王「ふん、そこいらの低級な憑き物と一緒にするなよ……お姫サマ」
姫「気易く呼ばないでくださいな! 不愉快ですわ」キッ
兄魔王「無力な癖に良く吠えることだ……それにしても、素晴らしきかなこの器。先程の何倍も力を振るい易い」クックッ
魔王「……厄介だな。本当に」
176:
魔王(だが、これで当分弟の治癒の時間は稼げる。こちらから呼びかける事は出来なくなってしまったが……)
魔王(魔力も大分戻って来たしな)ワキワキ
兄魔王「さて、今1度問う……我が心臓の在り処を素直に言う気はないか?」スッ
魔王「……私が、貴様を封印してきた数十年間を無駄にする事をわざわざ言うと思うか?」
兄魔王「はっ……本当に可愛げのない奴だ」フッ
姫「!? 消え……」
魔王「くっ……!」ジャッ……ジャラッ
兄魔王「ふっ」シュンッ キィン……ッ
姫「なっ、一瞬でここまで!?」
兄魔王「ぎゃははっ、よくぞ見切ったなあ……俺達の中で1番弱いくせに」ブンッ
魔王「!」ジャラッ グルグル……
177:
兄魔王「あんなに可愛がってやったのに、その性格の欠陥は遂に治らなかったな……実に残念だ」ギギギ……ッ
魔王「……っ」ブル……ッ
姫「魔王様! 気をしっかりお持ちください……!」
魔王「!」ギチッ……
兄魔王「ちっ、ほとんど緩まなかったか……邪魔な小娘だ」ジロリ
魔王「……たとえ貴様らにどれ程そう思われようと、我らはこのような生き方に後悔などしていない」
魔王「仮に魔王の家系らしい人格を持って生まれていれば、こうして大切な存在達に出会う事もなかっただろうしな」ニッ
姫「魔王様……」
姫(このような時に思うのは、不謹慎でしょうが……)
姫(私は、そんな貴方が……好きです)ギュッ……
178:
魔王「私は逆に哀れに思うよ……欲望のままに生きる事にしか喜びを見出せない貴様らをな」ググッ
兄魔王「ッ! ……失敗作の分際で生意気を!」
魔王「生意気で結構。我らは貴様には死んでも屈しない」
兄魔王「……まあ良い。どうせお前はこれ以上どうする事もできないのだからな」
魔王「……」
兄魔王「そうだろう? この体を攻撃する気持ちを持てない愚か者よ」
魔王「……」ギチッ
兄魔王「頭の中は、こいつの中からどうやって俺を追い出すかで一杯か……実に下らん事だ」
魔王「……そう考える事の、何が悪い……!」
兄魔王「だからお前は出来損ないなんだ」スッ
姫「!」
兄魔王「この器ができる事は……剣術だけではないぞ!!」カッ
179:
姫(あ……勇者様は剣も魔法も……!)
魔王「しまったっ……あああああッ!!!!」バシュッ
兄魔王「障壁魔法でこれも防ぐか……だが、至近距離故に無傷ではない」ニヤニヤ
魔王「はあっ……はあっ……」シュウウ……
兄魔王「先程は魔力を直接ぶつける事しかできなかったが、やはりこうして魔法が使えるのは良いものだ」
兄魔王「ほら、剣も自由になったしな」クルクル
姫「魔王様、大丈夫ですか!?」
魔王「ああ……問題ない。これ位すぐに治る」
180:
兄魔王「俺を前にして余所見をするとは余裕だなあ……おおそうだ」フッ
姫「また消えて……え?」
兄魔王「お前に使う前にこいつで試し斬りをしてみるか」スタッ……ヒュッ
姫「あ……!」
魔王「ひ、姫……ッ!!!!」バッ
ザクッ……
魔王「くっ……」ビチャッ……ガクン
姫「あ……ああ……」ガタガタ
181:
兄魔王「おやおやあ? お前らしくもないなあ……何の対策もせず無防備に勇者の剣に斬られるなど」ニヤニヤ
魔王「……」ボタッ……ボタッ……
兄魔王「そんなにその小娘が大事か? 王族である事以外何の価値もないそいつが!!」
魔王「……違、うっ……姫は、我らにとって……っぐ……かけがえの、ない、友人だ……!」ハァハァ
姫「……」ブルブル
兄魔王「くく、友人、ねえ……だがそいつはすっかり怯えきっておるようだぞ」
姫「ま、まお、さま……そんな……」ポロポロ
兄魔王「自分を庇った事で……お前の腕が無残に断ち切られてしまった事になあ。ぎゃははははははは!!!!」
魔王「ッ……」
兄魔王「すべてお前の甘さが招いた結果だ! 馬鹿が!!」ゲタゲタ
182:
姫「ああ、あ……魔王様、ごめんなさい……ごめんなさい……ッ!」ギュウッ
魔王「……姫」スッ
姫「!」ビクッ
魔王「そう気に病むでない」ポン
姫「……え」
魔王「やれやれ、先程勇者に言った言葉が……自分に返ってきてしまったな」ビリッ クルクル……ギュッ
姫「で、ですが、腕が……貴方の左腕が……!」
魔王「姫……別に、命を取られたわけではないのだぞ……? むしろ腕1本で済んで……良かったというべきか」フウッ……
姫「魔王様……」
魔王「そなたが無事で……何よりだ」ニコッ
姫「ッ……!!」ボロボロ
183:
兄魔王「ほう、随分と楽観的だな上の愚弟よ……そんなにふらついているというのに」
魔王「ふらつく? これは……武者震いだ」ニッ
魔王「今こうしている間にも、弟が生死の境を彷徨っているのだ……たかが腕を失った程度で動揺している場合ではないだろう」
姫(嘘です……顔色まで変わってきているのに……!)
兄魔王「ふん、強がりを……ただの人間に負わされた傷ならともかく、今の我が身は紛う事なき勇者」
兄魔王「この剣は本来の勇者の剣ではないが、それでも長年こいつに愛用されてきたのだろう……お陰で手に良く馴染んでいるぞ」ジャキッ
魔王「……それで?」
兄魔王「よって自然に勇者の力が移り……勇者の剣に近い能力が付与されているようだ」
兄魔王「それをこうして魔王に利用されているのは皮肉だがなあ!」
魔王「……」
兄魔王「お前の腕は……果たして元通りにくっつくだろうか? 未だ出血も止まり切っていないというのに」ゲラゲラ
姫「……!!」
184:
魔王「……姫。下がっていろ」
兄魔王「まあそんな暇など与えないがな」ザザザッ……ブンッ
魔王「ちっ……」ジャララッ
兄魔王「ぎゃはっ、苦し紛れに放つ鎖などあたるか!!」フイッ スカッ
魔王「!」
兄魔王「そら、もう1本も――」
姫「ま、魔王様から、離れなさい……っ!」サッ
兄魔王「っと……ああ、そうだった。お前はこいつからそれを渡されていたな」スタッ
魔王「ひ、姫! そなた……」
姫「……」ガチガチ
兄魔王「くく、震えているなあ……まるであの時の兎のようだ」
魔王「……何だと?」ピクッ
185:
兄魔王「ん? まさかと思うがお前……あの兎の死が本気で病気か寿命が原因だと思っているのか?」ニヤァ
魔王「! まさか……」
兄魔王「我が魔力にあてられてもがき苦しむあれを見るのは……実に愉快であったぞ」
魔王「き、き……貴様ぁぁぁぁあああぁぁぁぁッッッ!!!!」ゴオッ
兄魔王「ふん、何を勘違いしているのかはわからんが、元はと言えばあれを飼っていたお前が悪いのだ」
兄魔王「只でさえ魔の気配が充満していた魔王城で、更に飼われていた場所が我が魔力を内包していたお前の部屋」
兄魔王「人間以上に弱い生き物だ。俺が手を下さずとも、遅かれ早かれあれは……」
魔王「黙れえええええええええ!」ブォン バシュンッ
兄魔王「おっと」ヒョイッ
魔王「よくも兎を……っあああああああ!!!!」ドドドドドッ
186:
兄魔王「どうした? そんなに荒い攻撃をしたらこの体に傷がついてしまうかもしれんぞ?」サッ ビュンッ ザザザッ
姫「魔王様、あまり無茶をなさっては……!!」
兄魔王「それに」
魔王「っ! ぐ……っ」ジワッ……ビチャビチャ
兄魔王「その調子では治るものも治らんと思うがなあ」
魔王「ふーっ……ふーっ……」ギロッ
兄魔王「はっ、怒りに我を忘れ、過剰な魔力を無計画に放出して倒れるとは……先程の俺でももう少し頭は使っていたぞ?」
姫「魔王様……!」バッ
兄魔王「ほう……無力な人間のくせにこいつの盾となるというのか? 健気な事だ」
魔王「姫……よせ……」ゼエゼエ
姫「私にはっ……この首飾りがあります……」シャラッ
187:
兄魔王「……確かにそれに宿っている力は弱くはない。それは認めよう」
姫「……」キッ
兄魔王「だが、確か……どれ程かは忘れたが回数制限がある」
姫「……!」
兄魔王「くく……良いぞ、その絶望に染まった表情。もっと見てみたくなる」
魔王「彼女に……手を、出すな……!」ググッ……
兄魔王「何故お前の言う事を聞く必要がある? ……そうだ、面白い事を思いついた」ニタッ
姫「!?」
兄魔王「今からその首飾りだけを狙って魔法で攻撃する事にしよう。何処までやれば壊れるか実験だ」
魔王「何だと……!?」
兄魔王「実のところ、少しだけ興味があったのだ。あの母上を傷つける程強力な力を持つそれに……良い機会だろう」
188:
兄魔王「その間お前達の体へは一切攻撃しない……どうだ、悪い話ではないだろう?」
魔王「ふざ……けるな……! 姫を危険に晒すなど……」
姫「……わ、わかり、ました」
魔王「姫……なんと無茶な事を……!」
姫「魔王様、首飾りが持ち堪えている間にどうか腕を……」
魔王「だが……奴が約束を守るとは……!」
姫「わ、私だって……守られているばかりは嫌なのです!!」
魔王「ッ……」
姫「これで貴方の傷が少しでも癒えるなら、私は喜んでこの身を捧げましょう……さあ、おやりなさい! 私は逃げも隠れも致しませんわ!!」
兄魔王「……随分と素直だな。まあ、こちらは何時でもお前達を殺せるのだからなあ……少しでも生き永らえる方が良いだろう」
兄魔王「楽しみだ。首飾りが壊れた時……お前達が再び素晴らしい表情を見せるのが」ニヤァ
姫「……ッ」ゾクッ
189:
兄魔王「ではさっそく一撃」ズズズ……ゴォッ
姫「っう……!」キィンッ
兄魔王「ほうほう、中々だな……ではこれはどうだ?」ボォ……ッ
姫「ぁあ……っ!」ギュッ
魔王「や、止めろ……」
兄魔王「誰が止めるか! どうだ、己が守っていた者が目の前で嬲られる様を見るのは!!」ビュンッ ブォンッ
姫「……! ……ッ!!」ブルブル
兄魔王「それそれ、どんどんいくぞ!」バリバリバリ……バシュンッ
魔王「ひ、姫……っ!」
190:
姫「……は、はや、く……腕を……私は、大丈夫……」ガタガタ
魔王「くっ……すまない、姫……!」バッ……グイッ
兄魔王「ぎゃはははははは、本当に無様だなあ!」ゲラゲラ
兄魔王「先に首飾りが壊れるか? それともお前の腕が元通りになるか? ……結果が楽しみだよ全く」
魔王(くそっ……! 頼む左腕、元通りになってくれ……っ!!)
姫(どうか、持ち堪えてください……魔王様の腕が元に戻るまで!!)
兄魔王「ほら、まだまだいけるだろう!? あははははは……!!!!」ボ……ッ ドォンッ
191:
――――
――
少女(……これ以上、2人に守られているばかりじゃ駄目だ)スッ ゴシゴシ
少女(今度は、私が……2人を助けなきゃ)キッ
少女(役立たずな私の、たった1つの取り柄……『お友達』を喚び出せる事)
少女(でも……今、この状況じゃ)チラッ
僧侶「そ、側近さん……頑張って、ください……!」ゼエッ……ハアッ……
戦士「僧侶、このままじゃお前の命の方が……!」
僧侶「大丈夫、です……から……」ポウッ……
少女(……何の意味もなさない。事情を知らない彼らを巻き込みたくもないし)ヒラッ
192:
少女「! また1枚……」
少女(ああ、お友達じゃなくても良い……! どうにかして僧侶さんの助けになる誰かを喚べれば……)
少女(……っ!)ギュッ
シィ……ン
少女(……そう、だよね。第一呪文も本もないのに……何やってるんだろ)
『――ねえ、貴女』
少女「ふえっ!?」ビクッ
193:
戦士「しょ、少女ちゃん!?」
少女「ねえ、今、私に話しかけた……?」
戦士「」フルフル
『ああ、ごめんなさい……今の私の声は貴女にしか聞こえないんですよ』
少女「え……何、これ」
『こちらは貴女だけに話しかけているのです……お困りですか? お嬢さん』
少女「……っ!」
198:
戦士「少女ちゃん……」
戦士(まさか、精神的に参って変な幻聴でも聞こえ始めたのか?)
戦士(無理もないよな……俺が見る限り髪飾りの花弁はもう5枚も残ってない)
戦士(ッ、また落ちた……!)ヒラリ
戦士「僧侶……」ギュッ
僧侶「まだ……まだですよ……」
戦士(……勇者達は大丈夫なのか? 魔法使いは今どこら辺にいるんだ……!?)
199:
――――
――
魔法使い「はっ……はッ……」タタタッ
魔法使い(あの女のおっぞましい気配の残り香……これで辿れてるのが幸いね)ギョロリ
魔法使い(……それでも無駄に広いのがムカつくわね)
魔法使い(お願いだから……あたしが着くまで勇者も、お姫様も無事でいなさい!)キッ
魔法使い(それにしても……同じ城内にいるのに、転移ひとつできないなんて我ながら情けないわ)ギリッ
魔法使い(せっかく力を手に入れたのに、これじゃああの女と同……)
魔法使い(……違う、そんな事ない、あたしは強い。あたしは……アタシハ……)
魔法使い「っああああああああ……ッッッ!!!!」ダダダダッ……ゴオッ
200:
――――
――
少女(ま、まさか……幾ら私が願ったからって都合が良過ぎるよ)
『ふふ、そんな事はありませんよ?』
少女「!?」
『ごめんなさい、少々貴女の心を読ませていただきました……ですが、これだけは信じてください』
『私は……いえ、私達は貴女が条件を揃え、真に救いを求めているからこそ』
『それに応えようと思っているのです。あの者の頼みでもありますしね』クスクス
少女(あの、それってどういう……あなたは一体誰なの?)
『……まあ! 貴女はもしや、意図せずして条件を揃えたというのですか?』
少女(?)
『これは驚きですね……ああ貴方、そんなに苛立たないで』
201:
少女(えっと、良くわからないけれど……あなたは、私の大切な人達を助けてくれる?)
『……はい。それは約束します』
少女「!」パアアッ
戦士「?」
『ですが、そのためには……貴女に示してもらわねばなりません』
少女「示、す……?」ヒラリ
戦士(後、2枚……ッ!)ゴクッ
『自分以外の誰かのために心から救いを願い、求める……いわば魂の叫びです』
『こちらの準備が整っていても、貴女の想いが伴っていなければ意味がありませんからね』
少女「そ、それってどうすれば……」
202:
『ただ、声高に願いなさい。貴女が助けたいと思う者のために』
『心に宿す想いのたけを、まっすぐにぶつけてきなさい』
『それが真にこちらへ届いたその時こそ……我らは貴女に応えましょう』
少女「……わかった」コクリ
『……では、貴女の願いは何ですか?』
少女「……私の、大切な人達を、助けたい」
『もっと』
戦士「少女ちゃん? 何を……」
203:
少女「ど、どうか助けて、今苦しんでいるあの2人を……」
『まだ足りません』
少女「ずっと守ってもらってたから、今度は私が助けたいの!」
『貴女の想いはその程度ですか? やはり我が身が1番可愛いですか?』
少女「そ、そんな事ないっ!!」
戦士「頼むから、落ち着いてくれ少女ちゃん……!」オロオロ
『では、今1度願いなさい……貴女の中の誠を証明しなさい』
少女「私は……私なんかどうなっても良いから!」ヒラッ
戦士(こ、これで残りは1枚……!)
少女「どうかお願い……私の」ジワリ
204:
――――
――
姫「……ぁっ……!」ピシッ
兄魔王「ようやくヒビが入ったか……流石に手こずらせてくれる」ワキワキ
魔王(くそっ、まだか……自分の腕なのに何故こうもままならないのだ……!)ギリッ
兄魔王「ふっ……さて。次はどうかな」ドンッ
姫「っ……う……!」ピキッ……パキンッ……
魔王(……まだ表皮しか……!! せめて魔力さえ回復すれば……っ)
兄魔王「ぎゃはっ……これで終わりだ!」カッ
姫「……ああっ!」
パァン……ッ
205:
少女「大好きな人達を……」ツウッ……
206:
――――
――
兄魔王「遊びは終わりだなあ……?」ニタッ
魔王「ぐぅ……ッ姫、に、逃げろ……っ」ヨロッ
兄魔王「何だ、まだ皮1枚しか繋がっていないのか……つまらん」
姫「あ、ぁ……」カタカタ
兄魔王「結果はご覧の通りだ、姫サマ……良い絶望をありがとう。お礼の残念賞だ」シュッ
姫「!」ト……ン
魔王「あッ……!?」
兄魔王「人間とは脆いな……こんなに細く小さな矢でも胸に刺されば」ニヤニヤ
姫「……っ」ガクンッ
兄魔王「簡単に逝く」
魔王「姫ぇええええええ……ッ!!!!」ガシッ……ドサッ
207:
少女「助けて……っ!!!!」ポタ……ッ
『――その想い、確かに受け取りました』
――フワリ……トンッ
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