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みほ「昔の大洗女子学園に来ちゃいました」


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2:
戦車が好きですかって聞かれたら何て答えますか?
優花里さんだったらきっと「大好きです!」って答えると思う。
沙織さんと華さんもたぶん同じ、「好き」って答えそう。
麻子さんはどうだろう。でもたぶん「好き」なんだと思う。
いつも戦車の中で寝てるし……。
でも私なら何て答えるのか、それが分からない。
自分のことなのに分からないなんておかしいよね……。
でも今までそんなことを考えたことなんてなかったから……。
3:
???
半分寝ぼけたままの頭で私は夜の町を歩いていました。
ここは学園艦の上、私の足はつい学校の戦車庫に向かっていたようです。
みほ「……」
みほ「はっ……!」
みほ「あれ?ここ、学校……?」
みほ「こんな時間なのに、戦車庫の中に灯りがついてる」
みほ「自動車部のみんながいるのかな」
私が重々しい戦車庫の扉に手をかけたとき、初めてその違和感に気がつきました。
古びた木造の扉は確かに長い築年数を感じさせる年季が残っていたものの、修繕でもされたように材木の角が蘇っていました。
しかし私がその違和感に確信を得たのはその次の瞬間、戦車庫の中を見たときでした。
4:
掃除が行き届いた床には見慣れない戦車が並んでいました。
いいえ、それは紛れもなく私たち大洗女子学園の戦車たちでした。
しかし私たちのIV号は最初のD型に戻され、生徒会チームのヘッツァーは元の38tに戻っていました。
そして美しく磨かれた車体には白く漢数字が壱から順番に振られていました。
私はその文字に見覚えがありました。
みほ「あの数字……!」
ひろ子「やあ、見かけない顔だねぇ!」
みほ「ひぃっ!」
ひろ子「ああ、いやぁごめんごめん、驚かすつもりはなかったんだけど」
ひろ子「こんな時間に来るなんて戦車道チームの誰かだと思ったからね」
生徒と思われるその少女は確かに大洗女子の制服を来て、小屋の中から姿を現しました。
その姿と振る舞いを見た瞬間、私は今のこの状況を察したのです。
普通に考えれば決してありえないこと。
しかし今の私にはそれが起こっているとしか考えられませんでした。
5:
みほ「あっ……ええっと、あの……」
私がおどおどと態度を決めあぐねていると、彼女は堂々と凛々しい表情で私に片手を出してきました。
ひろ子「私は菊池ひろ子。戦車道やってるんだ。君は?」
みほ「あ、はいっ!」
みほ「私は西住みほ……です……」
ひろ子「西住!?」
みほ「あっ」
ひろ子さんの見開いた目が私の顔にぐいと近づいてきました。
名前はごまかした方が良かったかな……。
ひろ子「西住ってもしかしてあの西住流の!?」
みほ「あ、いえ!違います!」
みほ「……ただの西住です。戦車道とは関係のない」
ひろ子「なぁんだ、そうか」
ひろ子「ま、西住流の子がいたら戦車道やってるはずだもんな」
そう言いつつも彼女は輝いた目のまま私と力強い握手を交わしてくれました。
私はその真っ直ぐな瞳を見て出会ったばかりだというのに魅力的な人だなと思いました。
7:
ひろ子「みほちゃんは一年生?」
みほ「いえ、二年生です」
ひろ子「なぁんだ!私と一緒じゃないか!」
みほ「あわわっ……」
ひろ子に肩を抱かれながら、またしても返答を誤っしまったと思いました。
しかしひろ子は見たこともないはずの同級生の存在に疑念を抱く様子もありませんでした。
ひろ子「みほはどうしてここに来たの?」
みほ「ええっと、戦車に……ちょっと興味があって……」
ひろ子「おお!そうかそうか!」
ひろ子「明日は試合だもんな!気になって来ちゃったか!」
テンションの上がったひろ子さんがあまりにも私の体を強打するので思わずバランスを崩しそうになりました。
ひろ子「ああ、ごめんごめん!大丈夫だった?」
みほ「はい……大丈夫です」
ひろ子「いやぁ、ついやっちゃうんだよね。みんなにもよく注意されるんだけど」
8:
ひろ子「あ、そうだ。そんな格好じゃ寒いでしょ。上着持ってくるよ」
みほ「あっ、そんな気を使わなくても……」
私の声が届くよりも早く、ひろ子さんはまたあの小屋に戻ってすぐにジャケットを抱えて飛び出してきました。
その姿を追った私の目は、戦車庫の一角に置かれたその妙に重厚な小屋に釘付けになりました。
ひろ子「ん?どうかした?」
みほ「ひろ子さんがさっきから出入りしてるその小屋って……」
ひろ子「ああこれ?もしかして気づいた?戦車の車体を置いてるんだよ」
みほ「もしかして……マウス!?」
ひろ子「へぇ!詳しいねぇ!そう、マウスのボディなんだ」
ひろ子「はい、これうちのパンツァージャケット。寒いから着なよ」
みほ「これが大洗のパンツァージャケット……」
ひろ子さんのジャケットは私たちのものと少し似ていましたが、異なるデザインでした。
思わず背中を見ても当然あんこうのマークはありませんでした。
9:
みほ「ありがとうございます、ひろ子さん」
ひろ子「ひろ子でいいよ!タメでしょ」
みほ「は、はい」
ひろ子「マウスのこと知ってるなんて、相当戦車が好きなんだね」
みほ「いえ、それほどでもないです」
ひろ子「そうなの?」
ひろ子さんが眉を寄せて心底疑問な表情を私に向けました。
私、そんなにおかしいことを言ったのかな……?
みほ「友達に戦車が好きな子がいて、それでちょっとだけ知ってるんです」
その時私は優花里さんの顔を思い浮かべていました。
ひろ子「そうなんだ!そりゃいい友達を持ったね!」
みほ「それでそのマウスなんですけど、結構すごい戦車なんじゃあ……」
ひろ子「そうそう、超重戦車っていってね。超強い戦車なんだ!」
みほ「でもこんな小屋代わりにしてるんですか?」
ひろ子「うん」
ひろ子さんの表情が一瞬にして硬くなりました。
10:
ひろ子「本当は大洗でマウスを作る予定だったんだ」
ひろ子「でももうそんなこと関係なくなっちゃったからね」
みほ「えっ、関係ないってなんで……」
ひろ子「みほは知らないの?うちの戦車道、もう今年で終わりなんだ」
みほ「あっ」
私の中で糸が一つにつながった音がしました。
大洗の戦車道がなくなったのは20年以上前のこと。つまり今は……。
みほ「そう……だったんですか」
ひろ子「まぁうちの戦車道も今や誰にも注目されなくなっちゃったからねぇ」
ひろ子「昔は大洗女子っていったら高校戦車道でも結構すごかったんだよ」
ひろ子「でも最近は成績が振るわなくてね」
ひろ子「予算削減だとかなんとか生徒会が難しい理由つけて戦車道は廃止になるんだ」
ひろ子「だからマウスの製作も中止さ」
11:
ひろ子「本当は一軍が使う予定だったんだけど、いらないならってことでうちらが休憩室として使ってるわけ」
みほ「一軍?」
ひろ子「ああ、うちらは二軍だから。ここは二軍用の戦車庫」
ひろ子「みほも多少戦車のこと知ってるならこのラインナップ見て分かるでしょ?」
ひろ子「うちの子たちは問題児ばかりの寄せ集めさ」
みほ「あはは……」
ひろ子「うちらは入ったときからの万年二軍なんだ」
ひろ子「いっつも一軍のやつらには馬鹿にされてきた」
ひろ子「だからいつかは見返してやるー!って、毎日練習にあけくれてたんだよね」
ひろ子「明日の決勝戦はそんなうちらに巡ってきた最初で最後のチャンスってわけ」
みほ「え?二軍なのに決勝戦?最初のチャンスってことは、初めての試合なの!?」
みほ「あっ……」
私は自分で自分の口をふさぎました。
でも一度言ってしまった言葉は戻ってきません。
12:
ひろ子「あっはっはっはっは!」
ひろ子「いやいや、言いたいことは分かるよ。無謀だってことだろ?」
みほ「す、すいません……」
ひろ子さんの豪快な笑い声で私の心もいくらか救われた気分になりました。
ひろ子「いや、その通り、無謀も無謀だ」
ひろ子「でも一軍は準決勝の試合でギリギリ勝ちはしたんだけど相当戦車のほうもやられちゃっててねぇ」
ひろ子「もう予算が尽きたうちの戦車道クラスには修理する金もないんだ」
ひろ子「だから無傷で残ってるうちらの出番ってわけさ」
みほ「でも、かなり厳しい戦いになるんじゃ……」
ひろ子「分かってるよ。分かってる」
ひろ子「さっきは一軍のやつらを見返してやるって言ったけどね――」
ひろ子「今年が最後の一年になるって決まってからは、一緒になってここまで頑張ってきたんだ」
ひろ子「最後の戦車道、悔いの残るものにしたくなかったから」
13:
ひろ子「うちらは試合には出られないけど、大洗女子のためにできる限りのサポートをした」
ひろ子「戦車の整備もやったし、練習では動く標的役にもなった。相手チームに偵察にも行った」
ひろ子「ようやくここまで来れたんだ。最後にもう一回決勝戦の大舞台までたどりつけた」
ひろ子「そしたら一軍のやつらがうちらの所まで頭を下げてきたんだよ」
ひろ子「決勝戦に出てくれ。自分たちの想いを成し遂げてくれって」
ひろ子「もうさ、やるしかないじゃん?別に一軍に馬鹿にされたことを全部許したわけじゃないけどさ」
みほ「……」
ひろ子さんは私の顔を見やるとにっこりと笑いました。
ひろ子「ちょっと辛気臭い話になっちゃったかな」
ひろ子「来なよ!うちの子たちを紹介してあげる」
みほ「わあっ、ちょっと」
私の腕は強引に引っ張られ、私は転びそうになりながら戦車の前まで走らされました。
14:
ひろ子「まずはこれが一番車。八九式だ」
バレー部チームが乗ってる戦車だ……。
ひろ子「うちの隊長が乗ってる」
みほ「これが隊長車なの?」
ひろ子「変かい?」
みほ「あ、いや……」
ひろ子「この中では一番の最年長戦車だからね」
ひろ子「チームの長たる隊長車にピッタリだろう!」
みほ「ああ、そういう……」
ひろ子「隊長チーム、みんな三年生なんだけどね、入ってからずっと八九式に乗ってるんだよ」
みほ「へぇ」
ひろ子「だから八九式への愛が半端じゃないっていうか、そりゃもう溺愛してるのさ」
みほ「なんだかかわいいですもんね、八九式」
ひろ子「おっ、そう思うかい?」
みほ「はい。おしりのところとかアヒルさんみたいで」
ひろ子「はっはっはっ!言われてみれば確かに!」
15:
ひろ子「次は二番車、ポルシェ・ティーガーだ」
自動車部が乗ってる戦車……。
ひろ子「いやーこいつは強いぞー。なんたって88mmはうちらでも最強クラスだからな!」
ひろ子「ただなぁ、こいつはよく壊れるんだ」
みほ「あぁ……はい、なんとなく知ってます」
ひろ子「うちらもしょっちゅうこいつを牽引するハメになるんだが」
ひろ子「メカの知識なんてほとんどなかったのに、こいつのおかげで修理のプロになった」
ひろ子「なんせポルシェティーガーのチームはその技術を活かして自動車部を結成したほどだ」
ひろ子「だからうちらには欠けてはならない重要な戦車なんだ」
みほ「へ、へぇ」
ということは今の自動車部ってこのときにできたんだ……。
16:
ひろ子「三番車、三式だ」
私のところだとネトゲチームが乗っている戦車。
ひろ子「こっちもチームメンバーは全員三年生だ」
ひろ子「同じ日本戦車だし、隊長の八九式とよく一緒につるんでるな」
ひろ子「こいつの主砲はそこそこ強いから八九式の足りない火力をカバーするのにもってこいなんだ」
ひろ子「あとしょっちゅう隊長とレースしてるけど毎回負けてる」
みほ「ええ!スペック上は三式の方がいはずじゃ」
ひろ子「スペック?あんなのウソウソ、あてになんないって」
ひろ子「それに隊長チームはいつもズルするから」
みほ「そうなんだ……」
17:
ひろ子「四番車、M3リー」
これは一年生チーム。
ひろ子「ここのチームはミリタリーマニアばっかり6人集まってて、戦車にもかなり詳しい」
みほ「それは頼もしいですね」
ひろ子「いや、こいつらはハッキリ言ってうちらでも一番のポンコツチームだった」
みほ「え!?」
ひろ子「みんなが自分の趣味に走って好き勝手なことをするし言うことも聞かなかったからな」
うちの一年生たちとは正反対な趣味だけど、ちょっと似てるところもあるような……。
ひろ子「相手の戦車のこともよく知ってるから作戦立案では欠かせないやつらだ」
ひろ子「それに今では立派に戦えるように訓練した」
ひろ子「いつでも試合に送り込めるよ」
18:
ひろ子「五番車、ルノーB1bisだ」
これは風紀委員が乗ってたけど、こっちはどんな人たちが乗ってるんだろう。
ひろ子「このチームの車長はめちゃくちゃできるスーパーマンみたいなやつだ」
ひろ子「なんたって主砲の装填、砲撃、通信まで兼任してて、それらを誰よりも上手くこなしてるからな」
みほ「わぁ、すごい人なんですね」
ひろ子「そう、本当なら一軍に行くべき人材なんだが、人間的に少々問題があってなぁ」
みほ「問題って?」
ひろ子「どうしようもないドスケベなやつでさぁ、みんなのスカートめくりがひどくて一軍を追放されたんだ」
みほ「うわぁ」
風紀委員とは正反対な人だった……。
ひろ子「いや、全く悪いやつじゃないよ。うちらの大切な仲間さ」
19:
ひろ子「そしてこいつが六番車、IV号だ!」
私が乗ってる戦車……もしかしたら……。
みほ「もしかしてひろ子さんが乗ってる戦車ですか?」
ひろ子「その通り!よく分かったねぇ!」
みほ「すごく嬉しそうに名前を呼んでいましたから」
ひろ子「いやぁ分かっちゃうかぁー。私から湧き出るIV号愛を感じ取ってくれるとはねぇ」
みほ「あはは……」
ひろ子「うちも大洗女子に来てからずっとこの子と一緒にやってきたからねぇ」
ひろ子「一軍にはもっとすごいドイツ戦車がいっぱいあるけど、うちにとってはもうIV号以外考えられないっていうか」
ひろ子「もううちの家族みたいなもんなんだよ!」
ひろ子「分かるかいこの気持ち!?」
そう言いながら目をきらきらと輝かせているひろ子さんの顔は、私には少しまぶしく感じました。
20:
ひろ子「七番車、III号突撃砲だ」
暦女さんチームの戦車。
ひろ子「うちの一番のアタッカーって感じだね」
ひろ子「砲塔が回らないが、この子もなかなか強力な主砲を持ってるからねぇ」
ひろ子「ただしここのチームは暴走族みたいなやつらだから気をつけた方がいい」
みほ「え、暴走族!?」
ひろ子「単車から降りさせるためにうちの風紀委員が無理やり戦車道に入れたからな」
ひろ子「戦車に乗せておけばバイクはやめるだろうってこと」
みほ「それはなかなか……」
ひろ子「こいつらの走りはかなりキレてていいぞぉ」
ひろ子「みんな気概があるしうちは結構好きなんだけどなぁ」
ひろ子さんってやっぱりちょっとヤンキーっぽいかもしれません……。
21:
ひろ子「最後は八番車、38tだ」
生徒会チームの戦車。38tの姿で見るのは久しぶりです。
ひろ子「小さくてすばしっこいから、先行偵察用に使うことが多いなぁ」
ひろ子「うちの一年生たちに乗せてるんだけど、こいつらがなかなかダメダメでなぁ……」
ひろ子「最初は履帯が外れるたびにわんわん泣いちゃってたなぁ」
ひろ子「その頃に比べたら今はずいぶんと立派になったもんだよ」
ひろ子「あ、でもすぐに泣いちゃうのは今でもおんなじか!」
そう言ってひろ子さんはまた高く笑い声をあげました。
楽しそうに仲間のことを語る彼女のことがなぜだかとても羨ましく思えました。
ひろ子「あ!今みほ笑った!」
みほ「え?」
唐突にひろ子さんが私の顔を指差しました。
ひろ子「ようやく笑ってくれたぁ!」
ひろ子「いやぁ、なかなか笑顔を見せてくれなくてあせってたんだよー」
どうやらひろ子さんにつられて私の頬もゆるんでいたみたいです。
22:
ひろ子「あっ、そうだ!」
ひろ子さんが再び私の手をぎゅっと掴んできました。
ひろ子「IV号に乗せてあげるよ!来て!」
今度はひろ子さんの走るペースに合わせてついていけました。
IV号の車体に触れてみると、隅々までよく磨かれているのがすぐに分かりました。
みほ「とても綺麗にしていますね」
ひろ子「そりゃそうさ!」
ひろ子「なんたって明日は晴れの舞台だからね!綺麗にしてやんなきゃ戦車が泣くよ!」
すっぽりとひろ子さんが操縦席に収まると、私は車長の場所に座らされました。
ひろ子「さぁ行くよ!」
みほ「あの、ひろ子さんちょっと待って」
ひろ子「ん?どうした?」
みほ「もしよかったら……私が操縦してもいいかな?」
23:
ひろ子「……」
珍しくひろ子さんが沈黙するものだから、機嫌を損ねてしまったのかと冷や汗が流れました。
しかし一瞬ののちにまた素敵な笑顔を見せてくれました。
ひろ子「うん!いいよ!」
私はひろ子さんと操縦席を代わり、ゆっくりとIV号を前に進めました。
校庭を横切って校門を出て、夜の町の中を可能な限り静かに戦車を走らせました。
エンジンの鼓動はとてもスムーズで、履帯と転輪の動きにはまったくゆがみが感じられず、
元々IV号の操縦はあまりしていませんでしたが、「この子」は今とてつもなく良好な状態に整備されていると分かりました。
最初は心配そうに色々とアドバイスをしていたひろ子さんも、そのうちに何も言わなくなりました。
山林の近くまで来ると今度は操縦を交代し、私が車長の席に座りました。
キューポラから顔を出すと、いつもの眺めが広がっています。
しかし車内にいるのがあんこうチームのみんなではないことが少しだけ心をざわつかせました。
みほ「みんなともこうして夜走ってみたいかも……」
ひろ子「それじゃあ行くよ!みほ!しっかり掴まってて!」
みほ「え?」
ひろ子「いやっっほぉぉぉおおおう!」
24:
すさまじい轟音と共に戦車が発進し、今までにないほどの風圧で私の心のざわつきも一気にどこかへ吹き飛んでしまいました。
みほ「わっ、わっ、スピード出しすぎ!ひろ子さん危ないって!」
ひろ子「大丈夫だって!ほぉーらっ!」
木が立ち並ぶ林の中をIV号は右に左に方向転換して、まるで道を暗記しているかのように暗闇を突進し続けました。
いくつもの木の枝が私のすぐ近くを飛びぬけて行き、あまりの恐怖におもわず目を閉じかけると、ある時目の前が開けました。
そこには暗い海の先に広がる無数の光の群れがありました。
みほ「わぁ、きれい……」
26:
林の中を駆け抜けたIV号は、学園艦の端に到達して停車しました。
ひろ子「どう?この景色」
みほ「うん、すごくきれい……!」
ひろ子「あれが明日の試合会場のある町さ」
みほ「へぇ」
ひろ子「港に着く前の夜はいつもこうして見に来るんだよ」
みほ「それであの山林をあんなにく走って来れたんだね」
ひろ子「うん!道は完璧に把握してる」
みほ「でもちょっとビックリしちゃった。ひろ子さんは操縦手をやってるんだね」
ひろ子「いや、うちは車長」
みほ「え、そうなの?」
ひろ子「うん、みんなうちの操縦が怖いって言うから」
みほ「あははっ!」
ひろ子「あっはっはっはっ!」
27:
ひろ子「やっぱりみほも戦車好きなんだな!」
みほ「そ、そう思う?」
ひろ子「あぁ、目が違う」
みほ「操縦してるときの私の目?」
ひろ子「いや、戦車を見てるときの目。ずっとさ」
みほ「もしかして私ずっと変な顔してた!?」
ひろ子「あっはっは!安心しなって、みほはずっとかわいかったよ」
みほ「かわいいなんて……」
ひろ子「うちの仲間と同じ目をしてた。家族を見つめるような目だ」
みほ「家族を……」
28:
ひろ子「戦車っていうのはさ、戦ってるときだけが戦車じゃないんだよ」
ひろ子「動くように修理して、きれいに洗って、ピカピカに仕上がったら外に走らせにいく」
ひろ子「たったそれだけのことをしてるとさ、なんだか一日がすっごく楽しいんだよね」
ひろ子「うちらはチームも戦車もずっと一緒なんだ」
ひろ子「寝るときや食べるときだって一緒のこともあるんだぞ。気持ち悪いって思う?」
みほ「いいえ、全然」
ひろ子「港に着いたら必ず降りてその町を走り回るんだ」
ひろ子「IV号は全員がハッチから顔出せるだろ?」
ひろ子「海沿いの道を流すと最高なんだよ」
ひろ子「大洗に帰ったときは二軍の戦車全部でツーリングだってするぞ!」
ひろ子「いい道はレディースチームのみんなが全部教えてくれたしな」
ひろ子「あ、レディースチームっていうのはさっきのIII突の暴走族みたいなチームのことね」
ひろ子「戦車で走っちゃいけない日に走ってめちゃくちゃ怒られたことも一度や二度じゃない」
ひろ子「一軍のやつらはあきれてたけどな」
29:
みほ「あはは……それ、バイクはやめても結局暴走族やめてないんじゃ……」
みほ「……でも、ちょっと楽しそうかも」
ひろ子「そうさ、うちらはいつでも一緒。それが幸せの秘訣だ」
みほ「いつでも一緒……か」
ひろ子「そう一緒!さっきも言ったろ?うちらチームと戦車は家族なんだ」
ひろ子「家族はいつでも一緒にいるもんさ!」
みほ「ふふっ、なんだかとっても充実してそう」
ひろ子「こう見えて戦闘の練習だってちゃんとしてるんだぞ」
ひろ子「一軍の練習に付き合ったあとに二軍だけで練習するんだ」
ひろ子「チャンスがあるたびに色んなところとも練習試合をした」
ひろ子「本物の試合はまだしたことないけど、うちらは強豪校にだって負けない」
みほ「勝つつもりなんだね。決勝戦」
ひろ子「そうだよ」
30:
ひろ子「明日うちのIV号がフラッグ車をやる」
ひろ子「この子が勝利のカギになるんだ」
ひろ子「一軍のやつらはもう諦めムードみたいだけど」
ひろ子「みんなが弱い戦車だって言うけど、この子たちは弱くなんかない。いや強いぞ!」
ひろ子「それこそ超重戦車だって力を合わせれば倒せるんだ!」
ひろ子「まぁ、倒したことはないけどな!」
みほ「そうだね」
ひろ子「あっ!信じてないな!」
みほ「そんなことないって」
ひろ子「いや!今笑ってたぞ!」
みほ「もう、ひろ子さんてば」
ひろ子「よし分かった!明日の決勝戦に必ず勝ってみせる!」
31:
ひろ子「勝ってうちの子たちの強さを証明するぞ!」
みほ「うん」
ひろ子「うちが言ったら絶対だ!今までだってそうしてきた!」
ひろ子「そして西住みほ!うちらが勝ったらあんたは戦車道に入ること!」
みほ「ええっ!?」
みほ「いやいや!だって今年でもう戦車道終わっちゃうんだよ?」
ひろ子「ふっふーん。それなら大丈夫」
ひろ子「全国で優勝すれば戦車道の廃止が取り消しになる!」
ひろ子「……と、うちは踏んでる」
みほ「それって生徒会と約束したわけじゃないんだよね?」
ひろ子「わけじゃない!」
みほ「それじゃあ勝ったとしても……」
32:
ひろ子「分かってる」
ひろ子「でもうちらに残された最後の希望がこの決勝戦なんだ」
ひろ子「ここでうちらの強さを証明すれば、きっと頑固な生徒会も考えを変えるだろう」
ひろ子「戦車道がなくなったらうちの戦車たちは売り飛ばされる」
ひろ子「うちはうちの子たちを守りたい」
ひろ子「最後まで一緒にいて、それで後輩に託したい」
みほ「きっと大丈夫」
みほ「ひろ子さんの戦車たちはとても強いと思う」
みほ「だってこんなに愛情がこもってるから」
ひろ子「応援してくれるんだ」
みほ「はい。私も大洗の一員ですから」
ひろ子「そうか。次会うときはぜひ戦車道の一員として迎え入れたいね」
みほ「はい」
34:
そのあとはひろ子さんの操縦で再び学校に戻りました。
IV号はさっきとは打って変わっておだやかな音を立てて静かな夜の町を走りました。
ひろ子「家まで送っていこうか?」
みほ「ううん、ここで大丈夫」
みほ「ひろ子さんは明日のためにゆっくり休んで」
ひろ子「仲間が帰ってきたらそうするよ」
ひろ子「あいつらいつまで買い出しに行ってるんだか」
みほ「それじゃあ、また」
ひろ子「ああ、明日の試合も応援に来てくれよ」
みほ「うん!」
35:
「おーい、ひろ子ー!」
「帰ったぞー!」
「たっだいまー」
「はぁー、疲れたよぉ」
ひろ子「やっと帰ってきたか。一体何してたんだぁ?」
「もぉー、それが聞いてよぉー」
「ひろ子は何してたの?IV号動かして」
ひろ子「お前らがいない間に戦車が好きだって言うお客さんが来てたから乗せてあげたんだよ」
「お客さん??」
「そんなの来てたんだ?」
ひろ子「あ、ちょっと待て!まだすぐそこにいると思う!」
ひろ子「おーい、みほー!みほー!」
「もう帰っちゃったんじゃない?」
「夜遅いからやめなよー」
ひろ子「ふぅ、まぁいいか。また明日会えるだろう」
36:
???
ちょっとおかしな夢を見たのだとそう思います。
麻子「昼寝しようと思ったら、先客とは珍しいこともあるもんだな」
みほ「……あれ?」
ひろ子さんと別れてからの記憶はあいまいで、気がついたら私はIV号の中で眠っていました。
みほ「ここ、IV号の……中……」
麻子「起きたか」
みほ「あっ、麻子さん」
みほ「もしかして私ここでずっと寝てた?」
麻子「いつからかは分からんがな」
みほ「……麻子さん」
麻子「どうした?」
みほ「麻子さんは戦車好きですか?」
37:
???
沙織「急にどうしたのみぽりん、生徒会室に行こうなんて」
みほ「ごめんみんな付き合ってもらっちゃって」
華「もしかして会長さんたちに殴りこみとか?」
みほ「どうしても確かめたいことがあって」
優花里「確かめたいことですか?」
沙織「もう、麻子ったらさっきからケータイに連絡してるのに返事ないし!」
みほ「麻子さんならIV号の中で昼寝してる」
私たちが生徒会室に入ると、副会長の小山柚子さんが快く迎え入れてくれました。
そしてそのまま会長のいる部屋へ通されました。
柚子「大洗女子の最後の試合?」
みほ「はい、どうなったかを知りたいんです」
38:
杏「最後って、昔戦車道やってたときの最後の試合ってこと?」
みほ「はいそうです」
柚子「どうかなぁ。もう20年以上前の話だし、資料があるかどうか……」
杏「河嶋!」
桃「はい。この前一度学園艦を出て行く際にありとあらゆる資料を箱にまとめたんだが」
桃「昔の戦車道の記録もその時にごっそり見つかった」
桃「この中にきっと最後の試合の記録も残ってるんじゃないか」
沙織「うわぁ、いっぱいだね……」
優花里「それにすごく古くて埃っぽいです」
華「それではみんなで手分けして探しましょう」
みほ「みんなありがとう!」
39:
杏「それにしてもどうしたの西住ちゃん?」
杏「急にそんなことを知りたいだなんて」
桃「西住も学園を想う心に目覚めて我が校の歴史に興味を持ったのでしょう」
埃まみれの書類を漁っていくと、私の目に一冊の新聞がとまりました。
一号分だけが保存されたその新聞の一面には大きく戦車の写真が載っていました。
みほ「この新聞……日付の年……きっとこれだ」
みほ「私たちの、最後の試合の記事」
『戦車道大会決勝。優勝は黒森峰――』
沙織「なになに見つかったの?」
華「黒森峰対大洗と書いてあります」
優花里「ということは私たちと同じく黒森峰と決勝で当たったんですね。負けたみたいですけど」
みほ「……」
みほ「そっか……負けちゃったんだ」
40:
華「ちょっとよろしいですか」
華「えぇっと――」
華「戦車道全国高校生大会の決勝戦は往年の覇者大洗女子学園と新たな刺客黒森峰女学院の対決となった」
華「大洗はかつて多数の優勝を収めた強豪校であったが、現在では成績も芳しくなく名声も落ちる一方――」
華「対する黒森峰は無名であるものの、今年から西住の流儀を本格的に取り入れることで一気に勝利の階段を駆け上がった――」
優花里「この時から黒森峰の快進撃が始まったんですね」
華「大洗はこの試合でたった8両の戦車しか揃えることができず、かつての隆盛も見る影なし」
沙織「なんか随分な書き方ねー」
華「大洗はその全車両を撃破される大敗を期した……と」
みほ「ということは……フラッグ車、最後まで戦い抜いたんだ……」
優花里「この試合のあとうちの戦車道はなくなってしまったんですね」
華「この記事によれば決勝まで進んだのも久しぶりということですから、成績の悪化が戦車道廃止の原因だったということでしょうか」
41:
華「これが大洗最後の戦車道大会であると書いてあります」
華「大洗が所持する戦車の大半は黒森峰が買い取ることがすでに決定しているとも書いてありますね」
優花里「当時の大洗はドイツ戦車が主力だったみたいですね」
沙織「それじゃあ黒森峰が使ってる戦車は元々私たちのものだったってこと?」
優花里「まぁ一部はそうなんでしょう」
沙織「なんかずるーい!ドロボー!」
華「いえ、お金を払って購入してますから……」
優花里「それに戦車を売ったおかげでうちの学園がつぶれずに済んだわけですし」
沙織「でもなんか納得いかなーい!」
優花里「あれ?五十鈴殿、新聞の間から何か落ちましたよ」
華「え?」
42:
新聞のページの間から落ちたのは一通の封筒でした。
そこに書いてある宛名を見たときに私の心臓は一瞬止まり、そして戦車の駆動音のように激しく鳴ったのです。
優花里「これ……西住みほ様へって、書いてあります……」
沙織「ええっ!みぽりん宛て!?」
みほ「ちょっとそれ貸して!」
優花里「あわわっ、西住殿っ」
思わず優花里さんから封筒を奪い取ると、私は震える手で中を開きました。
封はまだ切っていなかったようで、中には一枚の手紙が入っていました。
華「どういうことでしょうか?同姓同名の方?」
優花里「勝手に読んでしまうのはまずいんじゃ……」
みんなの声も私の耳には届かず、私はその手紙を破いてしまわないように慎重に広げます。
ありえないけど、もしかしたらこの手紙は私に宛てられたものかもしれません。
その期待は手紙を読むことによって確信に変わったのです。
43:
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西住みほ様へ
うちは手紙を書くような性分じゃないが、どうしてもみほに会えなかったから
こうして君への気持ちを手紙に書いておくことにした。
いつかみほがこの手紙を読んでくれることを願っている。
うちの文章はたぶん失礼極まりない書き方だと思うけど勘弁してくれ。
みほなら分かってくれるよね。
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みほ「ひろ子さんだ……!」
優花里「ひろ子さん……?」
沙織「誰それ?」
私はみんなの疑問に答える心の余裕もなく、目玉をせかして次の一文を追いました。
44:
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決勝戦は応援しに来てくれたかい?
もし来てくれていたのなら嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいな。
絶対勝つって約束したのに、大洗は負けてしまった。
もしかしたらうちらの惨敗を見てみほはガッカリしちゃったかな。
生徒会の公約通りに戦車道は廃止になる。
すでに一軍のいい戦車からどんどん外に運び出されているよ。
マウスの車体も持っていかれたから服をかける場所がなくなった。
生徒会のやつらは決勝戦より前に黒森峰に戦車を売っぱらう算段をしていたんだ。
さすがにカチンときてちょっとだけ怒鳴りつけに行ったら、罰として自習室に監禁された。
その暇にこの手紙を書いてるってわけさ。
一軍のやつらはみんな泣いていた。
あいつらだって今まで一緒に戦ってきたうちの仲間だ。
その仇にあのムカつく会長に一発おみまいするくらいばちは当たらないだろう?
45:
でもうちらは泣かない。
うちらは試合に負けても、まだこの勝負に負けるつもりはない。
毎日交代で戦車庫に篭城して、うちの子たちを守ってる。
それでも下手なことをすればうちら全員退学にするって脅されてるから
戦車が持っていかれるのを止めることができない。
だからうちらはうちらの大切な子たちを隠すことにした。
今は成す術もないが、うちらの戦車道は終わっちゃいない。
なんせうちの子たちの本当の強さをまだ試合で見せつけてないからな。
それまでにうちの子の本当の魅力を知らないやつらに渡してたまるもんか。
うちらがいる間は復活できなくても、それでも未来の後輩たちにうちの子たちを残す。
それが大洗女子戦車道の先輩の務めってもんだ。
すでに何台かは学園艦の中の絶対に見つからない場所にこっそりと移動した。
しかしIV号だけは最後の試合で履帯をかなりやられて修理部品が足りず、
戦車庫から移動することができないでいる。
今はうちのチームのみんながIV号を守っているところだ。
46:
とにかく今はてんてこまいな状況さ。
こんな状態でいうのも申し訳ないんだが、みほもうちらに加わってくれないか?
みほが操縦するIV号に乗って、みほと夜景を見ながら語り合ったことが今でも忘れられない。
正直今来てもらったところで戦車には乗れないかもしれない。
うちらは再起の機会をうかがっているが、いつになるかは分からない。
それでももし、もう一回うちと戦車のことを語り合いたいって思ってくれるなら、
最初に出会った戦車庫まで来てくれ。
うちらと一緒に未来の戦車道を守ってほしい。
IV号が君を待っている。
        菊池ひろ子より
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手紙を読み終えた私は、とめどなくあふれる涙を抑えきれませんでした。
チームメイトたちに体を支えてもらいながら、なんとか近くの椅子に腰をかけるのが精一杯でした。
私を抱いてハンカチを渡してくれる仲間の姿を見て、きっと私の顔は泣き笑いのまぬけな表情になっていたと思います。
47:
???
麻子「なんだ突然そんなことを聞いて」
みほ「いや、なんというか……ちょっと気になっちゃって」
麻子「超大好きだ」
みほ「え!?」
麻子「なんだ、おかしいか?」
みほ「うん……ちょっと、意外だったかも……」
みほ「そこまではっきり言うとは思わなくて……」
麻子「ここはよく眠れるからな」
麻子「IV号の中にいると落ち着く」
麻子「みほは戦車好きじゃないのか?」
48:
ついに聞かれてしまったその質問。
今まではずっとその質問を恐れていました。
しかし頭で考えるよりも早く、心が私の言葉を主砲のように口から発射したのです。
みほ「好き……」
自分でも驚いてしまうほど、すんなりと言葉が出ました。
口にしてしまえばなんてことのないものでした。
このとき私は初めて自分の心に中に秘めていたものを外に放出した気持ちになりました。
みほ「……私、戦車が好き!IV号も大好き!」
麻子「……」
麻子「まぁ、そりゃそうだろう。嫌いとか言われる方がびっくりだ」
みほ「そ、そうかな?」
麻子「そうだろう」
49:
みほ「……うん、麻子さんありがとう!なんだかすっきりした!」
麻子「そうか、それじゃあ次は私が一眠りしてすっきりする番だ」
大きなあくびをする麻子さんと入れ替わって、私はIV号の外に出ました。
みほ「あっ、そうだ!」
みほ「ねぇねぇ、麻子さん!」
麻子「むぅ……なんだぁ?」
みほ「私たちと戦車って家族みたいだよね!」
麻子「んん……そうだなぁ……」
みほ「それじゃあ、おやすみ!」
麻子「おやすみぃ……」
麻子「……」
麻子「……家族?……家族か……」
麻子「スゥ……」
5

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