真姫「もう星が数えられなくなっても」back

真姫「もう星が数えられなくなっても」


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ある日の帰り道、凛は突然夜空を指さして声を上げた。
「あっ、おっきいお星さまが三つ並んでるにゃ!」
2:
「凛ちゃん、あれはオリオン座っていうんだよ。」
花陽はもふもふの手袋に温い息を吹きかけながら、微笑む。
「へぇー。かよちん物知りだにゃ!」
「正確に言えば、そのオリオン座の、ベルトの部分ね。」
私も暖かい毛糸のマフラーのうえから息を吐いて、そう付け加える。
「真姫ちゃんも物知りだにゃー。」
「っていうか、中学の理科でやったはずでしょ……。」
「うーん、凛は寝てたからわかんないや。」
「まったく……。」
あはは、と花陽の苦笑いする声が聞こえた。
4:

昔から、夜空が嫌いだった。
正しく言えば、音ノ木坂の夜空が嫌いだった。
理由は明快である。
そこには星がないのだ。
春も、夏も、秋も。夜空が嫌いだった。
むせ返るような都会の空気は、きらきら光る夜空の星達をひどく毒々しい靄で押し殺している。
5:
唯一、冬の夜空は好きだった。
理由は明快である。そこには星があるからだ。
星空とまでいかないが、冬のよく澄んだ透明の硝子のような空気は、
いくらかの星々を都会の夜空に顕在させるのには十分だった。
よく晴れた冬の夜には、父に買ってもらった望遠鏡を引っ張り出して、天体観測をした。
夏に地方の避暑地で天体観測をする事もあったが、望遠鏡を通して観るのは大抵、冬の夜空だった。
他に特別な趣味は何一つ無かったので、人に趣味を聞かれた時は「天体観測が趣味よ。」なんて、よく言っていた。
6:

ある日の帰り道、凛が低い夜空を見上げて言った。
「あ、またあのお星様達だにゃ。」
「オリオン座よ、凛。」
先日よりも更に冷たくなった空気に唇を震わせながら、私は静かに正した。
「うん。あれがオリオン座のベルト、なんだよね?」
「何よ、覚えてるじゃない。」
「ふふん、当然にゃ。」
「へぇ。てっきり忘れたかと思ってたわ。」
「にゃっ……。」
7:
私と凛が二人でいがみ合いを始めようとしていたその時、それまで黙っていた花陽が、ゆっくりと口を開いた。
「ねえ真姫ちゃん、オリオン座のベルトって、どういうことなのかなぁ……?」
「あっ、それは凛も気になるにゃ。」
さっきまで私を全力で威嚇していた凛も、いきなり借りてきた猫みたいに大人しくなって、私の方を向く。
「……簡単に言えばね、神話上の人物に、オリオンっていう人がいるの。」
「オリオンは力持ちで、ギリシャで一番の狩人だったんだけどね。ある時、サソリの毒にやられて死んでしまうの。」
「死後、天上に登ったオリオンは、星座になって……。ほら、あの三つの星の周りの星達を結ぶと、砂時計みたいな形が出来るでしょ?」
そう言って私は、かつかつと靴音を鳴らしながら、遠くのビルの上にある星々を指差す。
「あれがオリオン座。まぁ、花陽は知ってるでしょうけど……。」
8:
「……オリオンさん、かわいそうだねぇ。」
「うーん。ねえ真姫ちゃん、なんで死んじゃったら星座になるのか、凛はよく分からないよ。」
「そういうものなのよ。」
「そういうものかにゃ。」
「で、あの三つの星をオリオンの付けていたベルトに準えて、そう呼ぶ、ってわけ。」
凛と花陽はひどく冷えた空気にも関わらず、暫く口をぽかんと開けて、オリオン座を見ていた。
二人が何を考えていたのかは、よくわからない。
私も分厚いマフラーに顔を埋めて、ビルの光に目を細めながら、ゆっくりとオリオン座を見上げた。
9:

ある日の帰り道、凛が少し高い夜空を見上げて、呟いた。
「今日もオリオンさん、出てるにゃ。」
「冬だから、そう珍しい事じゃないわよ。」
そう言って私は、ひとつ、ぶるりと震えた。
真冬特有の肌を刺すような鋭い冷気が時々風に吹かれて、私の脳髄までを刺激しているようだった。
「でも、やっぱり綺麗だねぇ。」
花陽は可愛らしいウールの耳当てを深く付けて、白い息をすぅすぅと吐いている。
「……急ぎましょう。ラブライブの準決勝も近いのよ。」
凛と花陽がまた立ち止まって星々を眺めようとするので、私はそうやって二人を急かして、歩き出した。
10:
「あっ、真姫ちゃん待つにゃー!」
そう言って凛が身体の全体重で私に抱き着いてくるものだから、思わずぐらりと足元が揺らいでしまう。
ひとりの人間の体温がぴたりと触れ合った部分に伝わって、それは確かに暖かかったのだけど。
「ちょ、ちょっと……!花陽、なんとか言ってよ!」
「うーん、私は……こういう時こそ、ゆっくりしてみても良いんじゃないかな、って思うな。」
「は、花陽……。」
「ねっ、ちょっとだけにゃ?」
そう言って凛が指さした先には、以前より輝きを増したオリオン座が、敢然と輝いていた。
「そういえば、明日の夜は雪が降るって。天気予報で言ってたわ。」
「……遅くなり過ぎないようにしましょう。」
私はやれやれという仕草をして、二人の隣で夜空を見上げた。
きっとそれは、ひどくわざとらしい仕草だったのだろう。
12:

ある日の帰り道、凛は夜空を見上げて星を数え始めた。
「星が、ひい、ふう、みい……いっぱいにゃ。」
「ちょっと、最後まで数えなさいよ。」
「うーん、凛が数えるにはちょっと多すぎるかな。だから星空があるって事でいいにゃ。」
「……星空さん、それ駄洒落なの。」
「ぷっ……ぷふふっ……。」
左を見てみると、花陽が柔らかそうなマフラーに口を埋めて、必死に笑いを堪えている。
花陽のツボはよく分からない事が多い。今回のは特にそうだった。
「かよちん笑いすぎにゃー。たまたまだよ。」
「だ、だってぇ……。」
13:
「まったく……。そんな適当じゃなくて、有名な星だけでも覚えておきなさいよ。」
「ゆ、有名……?」
花陽はやっと笑いをくすくす程度に収めながら、興味ありげに私の顔を覗き込んでくる。
「ほら、あれがリゲルで、あれはベテルギウス。」
そう言って私は、夜空の天頂近くに浮かぶオリオン座のα星とβ星を順番に指でさし示す。
「で、オリオン座のベルトを東側に伸ばした先にある、とびきり明るい星。あれが、」
「シリウスだにゃ!」
意外にも私を遮って答えたのは凛だった。
「ふふん、凛も勉強したんだよ。」
こういう素直な所は凛の良い所で、私も、特に見習いたいとは思う。
無駄に得意げな表情を見てると、少しだけその気持ちが削がれるけど、ね。
14:
「ねえ、真姫ちゃん。オリオン座のベルトさん達には、名前があるのかなぁ?」
「特にそれらしい名前はないわね。」
「じゃあ、あれが真姫ちゃんで、右のが凛、左のがかよちんにゃ。」
「……凛、あなたって本当に色々思い付くわね。」
「うーん、それじゃあ、シリウスはにこちゃんかなぁ?」
「ちょっと、花陽まで……。」
「じゃあじゃあ、リゲルは絵里ちゃんで……あっ、ベテルギウスはオレンジだから穂乃果ちゃんかにゃ。」
15: 理事長「やっぱりここね……その顔は…きいたようね」(もんじゃ)@\(^o^)/ (ワッチョイ 4219-/deV) 2015/12/14(月) 01:05:04.12 ID:XWtaOmWV0.net
理事長「私の攻撃が」
絵里「ぐっ……理事長がここまで強いなんて……」
理事長「この学院では強さが全てよ」
絵里「身体が…動かない」
理事長「半日もすれば痺れは取れるわ」
理事長「これに懲りたら今後生徒会ごときがこの私に逆らわないことね」
16:
「お空には、星が、いっぱいだねぇ。」
「そうね。今は、まだ数えられるくらいだけど……。」
「本当は見えないだけで、そこに、もっと沢山あるのよ。」
「……なんか、凄いにゃ。……くしゅん。」
「ちょっと凛、新年早々に風邪ひかないでよね。」
その日は、そうやってなんでもない会話をして、星を数えながら帰った。
17:

ある日の帰り道、凛は夜空を見上げて、ぽつりと呟いた。
「オリオン座、前よりちょっと、暗くなってるね。」
「そうかしら?私にはそうは見えないけど……。」
「真姫ちゃんはニブいにゃ。」
「なっ……。」
そうやって私と凛の不毛な争いが始まろうとしたその時、花陽が一言。
「……これからは、こうやって星を見ながら帰る事も出来なくなるのかなぁ。」
18:
「……。」
「……春には、このままじゃいられないわよね。」
「μ’sを結成して、廃校を阻止して、ラブライブに優勝して。……色々あった一年だったにゃ。」
「……これからは。」
「三年生も卒業するし、μ’sだっておしまいになる。」
「……真姫ちゃん、凛ちゃん。ごめんね。変な、雰囲気になっちゃった。」
ぐすん、という泣き声が聞こえた。
「……かよちん。」
オリオン座のベルトは、靄が掛かったように、前より少しだけ、暗くなっていた。
19:

ある日の帰り道、凛は高層ビルの隙間の夜空を見上げて、言った。
「……ニューヨークじゃ星は見えないにゃ。」
「秋葉原と同じ、ね。」
首が痛いぐらいに真上を見上げながら、日本と変わらず強すぎる都会の光に、私は目が眩みそうだった。
「場所も、季節も……。もう、星を、ひい、ふう、みい、って。数えられないね。」
そう言って花陽は白い指をむにむにと擦り合わせながら、下を向く。
22:
「でもね、真姫ちゃん、かよちん。」
「凛は、それでも、良いと思うんだ。」
凛は、穏やかに笑っていた。
「……なんでよ。」
「だって、真姫ちゃんが言ってたんだよ?」
「お星さまは見えないだけで、確かにそこにある、って。」
「だから、この真っ黒な空の向こうには、オリオン座のベルトがどこかにあるはずなんだ。」
「たとえ星を数えられなくたって、星空にゃ。」
24:

ある日の帰り道、凛は突然夜空を指さして声を上げた。
「あっ、おっきいお星さまが三つ並んでるにゃ!」
25:
敢然と夜空に輝くそれを見ながら、私はふっと笑った。
「……今年も相変わらず、ね。」
「うん……。ずっと、このままみたいで……。」
「一年経ったのに、何一つ変わりがないにゃ。」
「まったく……。私達が見てない間に変わっちゃったら、どうしようかと思ったわ。」
「なーんか真姫ちゃん格好つけてるにゃ。」
「な、なによ!そういう凛だって……。」
あはは、と花陽の苦笑いする声が聞こえた。
26:

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