【艦これ】提督「紅炉の上に早霜」back

【艦これ】提督「紅炉の上に早霜」


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その晩、早霜たちは球磨川の河口にある八代港に停泊することになった。
「停泊」と称されはしても、別して艦娘たちは鎖の首輪によって犬の如く港に縫い付けられる必要はない。艦娘たちも一応は人間として犬よりかは信頼され丁重な扱いを受けるべきであった。
わざわざ「停泊」という些か非人間的な表現を取る理由は、その逗留が彼女たちの「艦娘」としての仕事のためであったからだ。
早霜たちの艦隊は岩川基地で行われた合同演習に参加し、今はその帰路にあった。長崎の佐世保が彼女達の所属である。
薩摩の地を渡り、八代海から有明海という内海上の予定航路は、外海における深海棲艦との遭遇による無用の損害を避けるためとされている。せっかく兵器が人型なのだから、その利点を活かすべきと提督は判断したようだ。
提督の意図とは別にこの道筋は艦娘たちにも好ましいものであった。艦娘たちは外洋への遠征に駆り出されると、何週間という単位で単調な水平線を眺めなければならないこともざらにあった。
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そのため、陸上または遠くに陸地の見える内海での移動は比較的変化に富んでおり彼女達には愉快なものに思われたのだ。
そんな中で、演習の延滞によって本来なら予定のない停泊が決定されると、彼女たちがいよいよ盛大な気分になるのも仕方ないことだった。はしゃぐ駆逐艦をまとめようとする軽巡艦もいくらかそわそわした様子を見せていた。
仲間たちが日用品にさえ帯びるあの旅地特有の輝きに眩惑されているのを尻目に早霜はひっそりと自室に向かう。
扉の内はベッドに机とクローゼットがあるぐらいで、生活は可能だが生活感が欠如しているよくある宿泊部屋であった。
早霜はベッドに腰を落とし寝転び、白い天井を眺めた。壁越しに仲間たちの笑い声が深く聞こえてくる。喧騒を遠くに感じる時ほど静寂が深まることもない。
早霜は眠たい気がして目を閉じた。帰るべき佐世保の鎮守府が自ずと暗がりに映しだされた。
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佐世保の鎮守府は九州地方で最も大規模に艦隊運用がなされており、毎日、新しい艦娘がやってきて顔ぶれの移り変わりが激しい場所であった。
早霜の着任はごく最近であった。まだ練度も低い。戦闘経験を積ますために今回の演習では旗艦を任された。
提督が早霜を訪ねて来た時は司令官がどうして私にと動揺した。そして「期待している」と言われた時などは内心大変に舞い上がってしまい、ドキドキして提督に対して何か乙女的な淡い期待を寄せてしまったぐらいだった。
早霜と提督との会話はそれきりであった。提督は執務に忙しそうで、もはや早霜の扉を叩くことはなかった。着任したての娘に対する儀礼的な世辞だったのだと早霜は考えることにした。
中には執務室に突っ込んでいき提督と積極的に関わろうとする艦娘もいるけれど、それは早霜には抵抗の強いことであった。
もともと内省的な傾向があった早霜はこの諦観による些か早まった「失恋」によって己を嘲笑した。「馬鹿みたい。あれだけで心を動かすなんて」
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また早霜は感情の割り切りを苦手にするタイプでもあったので、その「失恋」による自己嘲笑は早霜全体にまで及び、あらゆる期待を戒めた。
その戒めは早霜に他の仲間達と距離をとらせることになった。仲間達は早霜のその態度に特に違和感を持たないようだった。
佐世保の忙しい雰囲気は艦娘たちの間で個体に対する関心を摩滅させていた。早霜はその「都会的」に洗練されたドライな関係に自由を見てとり、ありがたく思っていた。
結局のところ、このネガティブさは提督云々が原因ではなく、早霜自身の気質上の問題なのだと思った。いずれこのふさぎ込みに遅かれ早かれ至っていたであろう。
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そう一旦思うと何だか晴れやかな気分になって、後ろ向きなのはもうどうしようもないと前向きに捉えられるようになるのだった。
ノックの音が聞こえた。早霜に訪問者とは珍しい。
扉を開けると不知火がタッパーを持って立っていた。「ああ。不知火さん。何か御用」「一緒に食べましょう」。早霜を押しのけるように不知火は部屋に入ってくる。早霜は不知火の印象とは異なる強引な行為に面食らう。
机に置かれたタッパーの内容はワラスボであった。小さなエイリアンは揚げられたり刺身に捌かれたりしても何か外見に不気味さを色濃く残していた。
「グロテスクね」早霜は率直に言った。そして、どうして不知火がこれを早霜と食べようと提案することになったのか経緯を尋ねる。
聞くところによると、不知火は物見目的に港町を巡ってきたのだが、そこでワラスボに出会い、親近感を覚えたらしかった。親近感? 早霜が首をかしげても、不知火は沈黙を通した。
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不知火はこの魚が店主から食用だと聞くとすぐさま購入を決めたらしい。好奇心だった。どんな味か気になったのだ。
しかし、この異形の風貌だ。一人で箸を持つことには勇気が必要であった。そこで他の仲間を誘ったのだが、みんなこの奇妙な物体を見るや拒絶。そこで不知火は早霜を思い出すのだった。ゲテモノも食べそうだなと。
不知火の話を聞いて早霜は眉間をおさえた。馬鹿なんじゃないかと思った。早霜にとっても悪食扱いは不本意であった。
確かに早霜はワラスボの姿を見て食欲を減退させるなんてことはない。しかし、まるで毒見役のように見られるのは釈然としない気持ちであった。
不知火の対面にある椅子に座り、早霜はワラスボの刺身を口にした。不知火が少し目を輝かせて「お味はどうですか」と聞いてくる。
早霜は言葉に詰まった。ワラスボは独特の食感であった。この固有性は確かに舌には新鮮であったが、おいしいのかどうかという判断を早霜は下せずにいた。
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不知火は早霜の沈黙を肯定とみなして己も一口食べた。「これ存外、おいしいわ」不知火がそう述べたので、早霜もなるほどこれはおいしいのかと思った。
早霜にはワラスボがとても新鮮なものに思えてきた。それはワラスボの食感だけによるものではなかった。不知火の問、「これはおいしいかどうか」に答えようとする早霜の精神的な姿勢が大きかった。
早霜にとっては食事を「おいしい/おいしくない」に分類するという概念的な枠組みが今更ながらに新しいものに思えていた。
早霜は己が食事に対して当然持っているべきである概念を喪失したままであったことに気付いた。惰性によって続けられる食事は生活の無意識に埋没してしまい、そこにはおいしい/おいしくないという判断の余地はなかったのだ。
漫然とした生に楔を打ち込む異質性として独特の輝きをもって眼前に浮かび上がってくるワラスボ。食事に対してこんな見方もあるのかと早霜はちょっと感動した。不知火がどうかしましたかと聞いてきたけれど、流石に答えを濁す。
食事のその美味しさではなく、美味しい食事が存在するという可能性自体への感動なんて自分でも大仰に感じて共感の期待を持ちようもなかった。
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不知火は早霜を夜の散歩に誘った。早霜は断っても良かったが、その時の気分は積極的であった。
港に出ると整然と区画化されて角ばった風景が宵闇の中に街灯で赤くふちどられていた。潮風に吹かれて遠くにいくつも起立している大型クレーンの先が幽かに揺れていた。
早霜は不知火に先導される形で直線的な干拓堤防の狭路を歩き出した。道はわかるの? いえ、わかりません。あてのない散歩だった。
道の片側の暗い海から波の砕ける音だけが響き、もう片側は砂や粘土が清め塩でも盛るかの如くとんがった山状に連なっていた。道の人工的なその荒涼さには何か無骨な懐かしさを感じた。
常夜灯の闇をまとうような赤橙の中を不知火と歩くことに早霜は奇妙さを覚えた。「なぜ私は不知火さんとここを歩いているのでしょう」「早霜が不知火の誘いを受けたからです」「そういうことではなくて。散歩の意図を聞きたいのだけど」
不知火は「意図? 意図とはいったい」と頭をひねっていた。早霜の質問自体が的を外していると言わんばかりであった。早霜も追究をやめて言ってやる。「不知火さん、あなたも後先を考えない人ね」「ありえません」
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少し開けた場所に出た。常夜灯の下では釣り人が糸を垂らしている。赤く陰影深くしてじっとする釣り人の姿は神話的苦悩を背負っているようにも見えた。
不知火が彼を眺めて立ち止まった。「夜釣りです。セイゴやメバリが釣れるそうです」不知火はワラスボについて尋ねた際、その店主から芋づる式に他のことも聞く羽目になったのだと口をすぼめた。
「私はああいうことには疎いのだけど、夜遅くまで熱中できることがあるのは良いことね」「なんでもここらの海でしか釣れない魚もあるとか」「例えば?」「………黒い斑点がついたスズキ、今はセイゴなのでしょうか」「黒い斑点があると何か違うの?」「わかりません。でも、各地からそれを求めてくる人もいるようですから変わるのでは?」
二人は釣りにそこまで関心があるわけでもないのであやふやな応答が続く。結局、黒い斑点にどのような価値を見出すべきか、それを理解できるのは釣り人だけだという月並みの結論へ改まった風に至るのであった。
「演習は不知火たちの勝ち越しでした」唐突に、いやもしくは準備していた様子でようやくとも言えるように不知火が口を開いた。釣り糸の先でセイゴが力強くもんどり打って白い腹を見せると再び暗い海に落ちた。釣り人もその強い抵抗に負けじと竿を操っている。「そう………だったわね」早霜は答えた。
佐世保と比べればほとんどの拠点は小規模だ。岩川の艦隊も高い練度ではあったが、それでも早霜たちの艦隊、正確には旗艦の早霜を除く艦娘たちには及ばなかった。今早霜と並んで立つ不知火も鎮守府でかなり古株の艦娘であった。
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旗艦である早霜が艦隊一の低練度であることは、演習において早霜に泣きたくなるようなやるせなさを与えた。最弱、それも旗艦となると狙われるのは当然であり、それを防ぐ味方艦。その傷ついていく様子は早霜に多大な衝撃を与えた。
司令官はどうして私に。その意図は? と裏切られた気分であったが、提督が早霜の考課表を一瞥した時点でこの演習計画を立てていたことを考えて、だからこそかとも思いなおした。
それでも、艦隊に早霜が最も引け目の苦手意識を持つ不知火が含まれることには恨みを抱いた。あまりにスパルタが過ぎるのではないか。もしかしたら、今回不知火の任務には演習勝利以外の目的があるのかもしれないと思った。
「もし、早霜、あなたが不知火に何か他の動機を見て取っているなら、それは心外です」。早霜は口にも表情にも疑いを出さなかったが、不知火は釘をさした。「不知火が今夜あなたを誘ったのは、不知火の勝手からです」
「………それで演習がどうかしましたか? 私をなじりでもするつもり?」「いえ、相手の艦隊をどう思ったかを聞きたいです」「みんな私より強かったわ。ええ、ふふふ」
「不知火は少し彼女達を羨ましく思いました」「羨ましい?」「ええ。彼女たちの信頼関係に」早霜は不知火との間にある何らかの認識の差異に気付いた。
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「私たちにも信頼関係はあるでしょう」実のところ、早霜は不知火の言葉にピンとこなかった。早霜は流れゆく景色を映す車窓を眺めるように無感動であった。まだ釣り糸の下ではセイゴが海面に跳ね上がっては白い腹をみずみずしく輝かせていた。
「そうです。しかし、そうではないです」「私にはよくわからないわ」。沈黙。不知火も言葉に困っているようだった。しかし、早霜も不知火の言葉を理解こそしなかったものの、不知火が何か自分たちの関係に変化をもたらしたいのだと欲していることは十分に実感できた。
「不知火は遠慮のない友情が欲しいのかもしれません」「例えば?」「例えば………例えば、味方が自分の落ち度でひどい目にあっても、それを引きずらない関係、」「………気遣いのないひどい関係ね」「いえ、だからといって、そうではなくて」
不知火は何かごにょごにょと続けて言う。もともとどちらも口が回るタイプではない。完全な伝達は不可能だった。なので、早霜は言う。「ええ、不知火さんの言うことはわかります」「本当ですか」「いえ、よく考えるとわからないけれど」「どっちですか」「………どっちも」「なるほど」
釣り人はついに釣り上げた。何を。白い光の輝きを。釣り人はセイゴを釣ろうとしていなかったのだ。早霜たちは暗い沖合に小さな光を見出した。その輝きはいずれぷつぷつ増え横に大きく広がった。鋭くどんどん強烈に輝いてきていた、それでもそこには何か抱擁されるような柔らかさがある。
「早霜。不知火はあなたと改めて友人になりたいのです」これは彼女の素直な気持ちなのだと早霜はすんなり納得できた。夜の埠頭、不知火も早霜も超常的光に照らされ、そこでは何もかもが誠実であった。今ならどんな真意も伝わる確信があった。お互いに言葉を交わす。それは彼女達に完全な一体感を与え、友情に清純な官能性を付与した。やがて光は何もかも白一色に境界を呑み込んで。
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早霜は目を覚ました。明け方のくすんだ光が白い天井をぼうっと照らしていた。早霜にはその光が何かとても貧弱に見えた。鮮烈さがなく不満であった。
夢でも見ていたのだろうか。壁越しから笑い声は聞こえない。静寂、ベッドから起き上がる衣擦れ音が大きかった。
部屋は整然としていて使用の形跡は払拭されていた。扉は内から施錠されている。早霜は外に出た。薄く漂う霧が潮風に流されていく。考えてみれば、夢か。不知火があんな素直な言葉を誰かに、ましてや早霜に投げかけるとはどうも現実的じゃないと思った。
早霜は不知火を見つけてドキリとした。不知火は埠頭のL字型ボラードに容器をもって腰を据えていた。
早霜は不知火に近づく。昨夜のことを尋ねたかった。不知火は海を遠く睨んだまま言った。「この時間に出発すると有明海に着く頃には丁度朝日が眩しくなりそうです」
「不知火さん」「なんでしょうか」「昨夜のこと………いえ、やっぱり何でもありません」「そうですか」。尋ねても、結局どちらかだったか答えをはぐらかされそうな気がした。それに昨夜のことは夢か現かその曖昧の中に沈むべきとも思えていた。
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早霜にとって不知火との関係はいまや曖昧な礎に頼る必要があった。昨夜のことを踏まえるなら関係は変わっているはずである。
しかし、それで変わっていたとしても、それは本当に昨夜のことが理由なのだろうか。実のところ昨夜の光は存在せず、その変化はただ早霜だけによって引き出されたのではないか。
もしそうであるなら現在の関係は現在のみによって変化が可能となり、変化は何も過去の出来事に因果的に束縛される必要はなくなるのではないか。もしそうであるなら早霜は不知火と「都会的無関心さゆえ」ではない自由な友情を初めて結べるのではないか。
早霜は初めて不知火に己から接近しようとしたのだ。それには勇気が必要で、それを汲み取る場所こそ昨夜の事実不詳の輝きであった。事実だと思うことによって己の行為を正当なものにし、夢だと思うことによって過去からの解放を己に強く意識した。
「不知火さん。何を持っているの?」早霜は不知火の横に座って尋ねた。ボラードは流石に狭くなった。「これですか? ワラスボです」「………ワラスボ」「有明の方からよく流れてくるそうです」「不知火さんはワラスボが好きなのね」「………どうでしょうか」
不知火が容器の蓋を開けた。刺身や揚げ物ではなく今日は干物であった。「一つ貰っても?」「どうぞ」。早霜は干物を手に取り頭からかじった。「お味はどうですか」不知火が何か期待の眼差しで聞いてくる。早霜は答えた。「おいしいわ。とっても」「そう、良かった」不知火は微笑んだ。そこにはちょっと珍しい優しさがあった。
おわり
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