勇者「勇者の本当の敵は魔王じゃなかったのかもしれない」【後編】back

勇者「勇者の本当の敵は魔王じゃなかったのかもしれない」【後編】


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5:

??(ここまではほぼ、予定通り)
??(予想通り、薬師の死がトリガーとなって覚醒した)
??(もっとも当初の予定とは大きく異なる結果になったが)
??(そもそも薬師が、余計なことをしなければ)
??(彼女は死ぬこともなかったし、この男の覚醒はもっとスムーズに行くはずだった)
勇者「……殺してやる」
??「どうぞ。やれるものなら」
??(そして、ここからが本番)
 漆黒の魔力をまとった勇者が、一瞬で赤ローブの男の視界から消える。
??(はや――)
 気づいたときには勇者は眼前にいた。勇者が突きを繰り出してくる。
536:
 赤ローブはとっさに腕で防いだ。だが、避けるべきだった。
??「ぐっううぅ……!」
 勇者の突きは、男のオークを思わす腕をあっさりと突き破った。
 大量の血が床を濡らす。二の腕から下が、床を転がる。
??「おのれ……!」
 残った腕の触手で勇者の腕をつかむ。捕らえた。
 魔術を発動する。
 無数の光の矢が天井から現れ、勇者を目標に飛んでいく。
 直撃。弾けた光が数秒の間だけ、空間を真っ白に埋め尽くす。
??(これで多少でもダメージを与えることができたら……)
 
 もとに戻った視界に入ってきたのは、猛禽類を思わす翼だった。
537:
??「やはり、この程度ではダメですか……」
 勇者を包み込むように現れた黒翼が、光の矢をすべて受け止めていた。
 攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
 赤ローブの男は光弾を連続して放った。
勇者「――っ!」
 翼が大きくはためく。突風が起きて、光弾をひとつ残らず弾き返した。
 刺さっていたはずの矢が地面に落ちて、かわいた音を立てる。
 再び魔術を発動しようとした男よりも、勇者のほうが遥かにかった。
 魔法のように眼前に現れた勇者は、赤ローブの男の首に手をかけた。
??「……ぁ、ぐっ……!」
勇者「――とらえたぞ……っ!」
538:
??(やはり、こうなったか。私の力は全盛期には程遠い)
??(そう――こうなることは予想済みだった)
 
勇者「終わりだ……!」
 男の手を締めつける勇者の手が、不意に止まる。
 床に仕込んでおいた魔法陣を発動させたのだ。
 突如、大量のツタが床から現れ、勇者の背中に突き刺さる。
勇者「がっ、ああぁぁ……!」
??「わかっていましたよ、こうなることは」
勇者「あぁ……がはっ! ……おまえっ…………!」
??「あなたは勇者としては出来損ないですが、実験体としてはまあまあ優秀でしたね」
 勇者の口から大量の血がこぼれる。
 普通の人間だったら、これで間違いなく死ぬだろう。薬師のように。
539:
??「薬師のせいでずいぶんと手間がかかりましたよ」
??「彼女が真勇者を追う旅のときに、あなたを覚醒させれば」
??「それですむ話だったんですよ」
??「だが彼女はなにを血迷ったのか、あなたを覚醒させるどころか、逆のことをした」
??「結果として彼女には、あなたの力を覚醒させるための犠牲になってもらった」
??「彼女をあなたに同行させたのは間違いでした」
??「いや、そもそもの間違いはあなたを造ったことかもしれませんね」
??「好奇心を満たすため。そして、アレを使うためのコマとしてあなたを造った」
??「しかし偽物ではダメだった。本物の勇者でなければ、アレは使えないとわかった」
??「結局、本物の勇者を蘇らせるハメになってしまいました」
540:
勇者「ぐっ……うぅっ……」 
??「そのツタはあなたの力を奪うための装置ですが、さすがにツライようですね」
??「ところで、ひとつ聞いてもいいですか?」
勇者「……っ!」
??「勇者でもなければ、魔物でもない。まして人間でもない」
??「あなたはそのことを以前から知っていた」
??「自分が得体の知れない存在であること……それってどんな気分なんですか?」
541:

??「自分が得体の知れない存在であること……それってどんな気分なんですか?」
勇者(オレは……オレは…………)
??「……もはや答えることもできませんか。
 なら、そろそろあなたの力を頂くことにしましょう」
勇者(なんとかしなきゃ……コイツを……)
??「真実を知ったものは死ぬ。さようなら」 
 
 「――同時に真実を語った者も死ぬ。終わりだ」
??「あっ、あぁぁ……!?」
 赤ローブから剣が生えていた。そして、男の背後にいたのは。
542:
真勇者「薬師の言うとおりだったな」
 
??「な、ぜっ……あなた、がここに……?」
真勇者「答える義理はない」
 男の胸を貫いていた剣が、なんの前触れもなく燃え上がる。
 あとは一瞬だった。男のからだはローブごと火炎に飲みこまれた。
??「――――」
 悲鳴すらあげることなく、男は灰となった。
 あまりにもあっけなかった。
 ツタが消える。勇者は地面に仰向けに倒れた。
真勇者「このツタをどうやって破壊しようかと思ったが、コイツが死ねば勝手に消えるのか」
勇者「がはっ……はぁはぁ…………」
真勇者「たいしたものだ。傷がすでに治り始めてるとはな」
勇者「仲間じゃなかったのか……」
543:
真勇者「薬師のおかげでようやく五百年前の謎が解けた」
勇者「……?」
真勇者「この男だったんだ。彼女を騙し、五百年前の災厄を引き起こしたのは」
勇者「……災厄の女王のことか」
真勇者「いや、より正確に言えば国がグルだったんだ。
 この男が姫を扇動したんだ、勇者と魔王の混合体を造ることを」
勇者「……」
真勇者「危うく俺も完全に騙されるところだった。
 薬師のおかげで、なんとか真実に気づけはしたがな」
勇者「……薬師……くそっ……!」
真勇者「仲間が目の前で殺された気分はどうだ?」
勇者「なんだとっ……!?」
544:
真勇者「自分の非力のせいで仲間が殺された気分はどうか、そう聞いたんだ」
勇者「……っ」
真勇者「俺にはお前の気持ちが手に取るようにわかる。俺もそうだったからな」
勇者「お前も、仲間を殺されたのか……?」
真勇者「ああ。目の前で殺された。お前と同じだ」
真勇者「俺の仲間は全員死んだ。俺が非力で、愚かだったからだ」
真勇者「気づくべきだった。この国がなにをしようとしているのか」
真勇者「いや、真実の途中までは知ったんだ。なのに、最後にはたどり着けなかった」
勇者「最後……?」
545:
真勇者「気づいていれば、少なくともすべてを失うことはなかった」
勇者「……お前の目的はなんだ?」
真勇者「是正するんだ。なにもかもを」
勇者「なにをする気だ?」
真勇者「……このからだには難儀させられる。ようやく回復した」
勇者「え?」
真勇者「話は終わりだ。目的のひとつは果たした」
真勇者「次はお前の力……いや、俺の力を返してもらうぞ」
 真勇者の手が勇者のひたいを掴む。
546:
勇者(まずいっ……)
魔法使い「――そこまで」
真勇者「!」
 不意に真勇者の足もとから、氷が隆起する。
 真勇者はそれをなんなくかわす。
 さらに追撃。今度は無数の氷針が放たれる。
真勇者「……お仲間の登場か」 
 だが真勇者はこれもすべてやりすごす。床に氷が散乱する。
547:
 戦士、僧侶、魔法使いが現れる。
勇者「みんな……!」
僧侶「勇者、無事か!?」
戦士「なるほど。なかなかいい動きだね。だったら……!」
 戦士が巨大な紫炎を飛ばす。だが、やはり真勇者はすべてを避けきった。
 そのまま三人へと向かってくる。
勇者(くそっ……からだが上手く動かない……!)
548:
 さらに氷の突起と炎で真勇者を攻撃するが、なんなく捌かれてしまう。
戦士「なるほど、これは手ごわい。けど……!」
僧侶「これならどうだっ!」
 あちこちに散らばった氷は、戦士の炎によって水に変化していた。
 魔法陣はすでに展開されている。僧侶が水面へ雷の拳を突っ込む。
 炸裂。光が弾ける。
真勇者「……はあああぁっ!」
 真勇者が地面に剣を振り下ろす。
 真勇者の剣が地面を穿つ。ひび割れた地面から火柱があがる。
僧侶「なっ……」
 真勇者「危うくやられるところだった。
 なるほど、お前の仲間はなかなかの手練らしいな」
549:
戦士「まだ本気じゃないみたいだね」
真勇者「本気じゃない、というよりはまだ本気は出せないと言ったほうが正しいな」
戦士「それでもずいぶんと余裕そうだね」
真勇者「いや、そうでも――ない」
 真勇者がなにかを放った。
 魔法使いがとっさに氷の壁を作る。
 
 まばゆい光が炸裂した。
550:

魔法使い「逃げられた」
僧侶「いちおう聞いておくが、戦士。追うのか?」
戦士「もちろん追わない。斥候の類もなし。
 今のままでは間違いなく勝てないしね」
僧侶「勇者、大丈夫か……勇者?」
勇者「オレのせいだ……オレが弱いから、薬師を……」
僧侶「薬師? 
 あっ…………っ!!」
魔法使い「……!」
戦士「……」
 勇者の怒りの炎は、すでに鳴りをひそめている。
 かわりに荒涼とした心の穴を、風が虚しく吹き抜けていった。
553:

戦士「なるほど。だいたい話はわかったよ」
勇者「……」
戦士「……」
勇者「……」
戦士「とりあえず、検査の結果も良好みたいだし今は養生しておいてよ」
勇者「……」
戦士「伝え忘れたことがあったら、護衛が部屋の前にいるからその人によろしく」
勇者「……ああ」
554:

僧侶「戦士……」
戦士「やあ、僧侶ちゃん。勇者くんのお見舞いかい?」
僧侶「そのつもりだったが……」
戦士「やめておいたほうがいいよ。今はひとりにしてあげて」
僧侶「……そうだな」
戦士「それと……やっぱり彼女は敵のスパイだった」
僧侶「お前はどう思った、薬師が敵側の人間だと知って」
戦士「正直なところ、色々と思うことはあったよ。でも、もう彼女は生きていない」
僧侶「……生きていない、か」
戦士「彼女はボクらと敵対する道を選んだのに、最後は勇者くんを庇って死んだそうだ。
 彼女がなにを考えていたかは、ボクには推し量れない」
555:
戦士「でも色々な葛藤があったんだろうね。
 勇者くんの手の甲に、彼女は魔術でメッセージを残している」
僧侶「メッセージ? なにが書かれてたんだ?」
戦士「『部屋の床に隠した』とだけ書かれている」
僧侶「なにを、とは書かれてないのか?」
戦士「うん。おそらく見ればわかるものなんでしょ」
僧侶「……私は薬師が敵だと知ったとき、正直冗談かと思った。
 人を騙せる人間には、とても見えなかった」
戦士「そう思わせる訓練も、当然受けていたんだろうね」
僧侶「……」
戦士「どちらにしよう、もう彼女はいない。
 そしてボクらは進まなきゃいけない」
僧侶「……わかっている。止まるわけにはいかない」
556:

僧侶(戦士と別れ、一度私は家に戻ることにした)
女の子「あっ、シスター。よかった無事だったんだね」
僧侶「……」
女の子「どうしたの?」
僧侶「いや、まだ礼を言っていなかったと思って」
女の子「ああ、勇者のお兄ちゃんの行方? それのお礼はいいよ、仕事だったし」
僧侶「仕事、か。まさかあなたが私たちの監視役のひとりだったなんて」
女の子「陛下の思惑通り、誰も気づかなかったみたいだね」
僧侶「思いもしなかったよ」
女の子「監視役って一歩間違えると、敵にも狙われる可能性があるからね」
僧侶(そう言うと、彼女は私にウインクしてみせた)
557:

戦士(ボクは僧侶ちゃんとわかれて、薬師ちゃんの部屋へと向かった)
戦士「お待たせ」
魔法使い「遅い」
戦士「途中、勇者くんのとこに寄ったものでね」
魔法使い「……薬師の部屋に隠されていたもの」
戦士「罠の類とかは、なにもなかったってことだね」
魔法使い「……うん。はい、これ」
戦士「ひとつは……なるほど。これは、今は関係ないね」
魔法使い「問題はこっち」
戦士「カプセル状のこれは……」
魔法使い「それは、この場では、解析できない」
558:
戦士「これって彼女が第三番館から持ち出した……」
魔法使い「持ち出したのは、戦士」
戦士「……そうとも言うかもね」
魔法使い「第三番館から、持ち出した資料の、複製だと思われる」
戦士「じゃあこれが解析できれば、なにか状況の打開策が見つかる可能性があるわけね」
魔法使い「これを解析するには、相当時間がかかる」
戦士「キミでもかい?」
魔法使い「賢者クラスならともかく、私では……」
戦士「賢者は例の爆発事故で全員殺されてるからね」
559:
戦士「いや、事故に見せかけて赤ローブが始末した、と言ったほうが正しいね」
魔法使い「……敵は、まだ味方にいるかも」
戦士「それなんだよね。おかげでボクは余計に忙しいよ」
魔法使い「……嘘つき」
戦士「バレた? 実は普段の仕事は他の人にやってもらってるからね」
魔法使い「……それと、勇者の検査の結果で、わかったことがある」
戦士「なにかまずいことでも判明した?」
魔法使い「……真勇者追跡任務時の勇者についての記録」
戦士「彼女がつけていたもののこと?」
魔法使い「うん」
560:
魔法使い「勇者の状態が不安定だったのは、彼女が投与していた薬のせいだった」
戦士「その薬っていうのは?」
魔法使い「大別すると、二種類。ひとつは。魔力を無理やり底上げするもの」
戦士「もうひとつは?」
魔法使「魔力をおさえるもの。どちらも、かなり強い薬」
戦士「なるほど」
魔法使い「魔力を、活性化させるものから、おさえるものに途中から変わっている」
戦士「勇者くんと冒険するうちに、彼女の中でなにかが変わったのかな」
魔法使い「……そう、かも」
戦士「まあ、とりあえずは勇者くんが無事みたいでよかった」
561:

真勇者『あの男が、五百年前の事件に関与している?』
薬師『ええ、おそらく。
私はあの方が裏でなにをしているのか、把握しています』
真勇者『……』
薬師『あなたにも思い当たる節があるんじゃないですか?』
真勇者『……俺を復活させたのは、この国の人間だ』
真勇者『そして、俺の記憶を完全なものにしたのはヤツだ』
真勇者『ヤツは俺のことを妙に知っていた……』
薬師『私もあなたも、利用されているだけなのかもしれません』
真勇者『……そうだとして、なぜお前はあの男を裏切らない?』
薬師『たとえ利用されていても、魔物を滅ぼせるなら、それで私はいいのかもしれません』
562:
真勇者『なぜそこまで魔物を滅ぼそうとする?』
薬師『自分でもわからないんです。でも、魔物の存在が憎くてしかたがないんです』
薬師『視界に入ってきただけで、殺したく殺したくて仕方がなくなるんです』
薬師『今でも目を閉じれば、私の大切な人たちを殺した魔物の姿が浮かびます』
薬師『自分でもおかしいことはわかっています。でも……制御できない』
薬師『憎いって感情を殺すことができなんです』
薬師『自分でもどうかしてるとは思います。でも……』
真勇者『……アイツらを裏切ってでも、達成したい野望ってわけか』
563:
薬師『裏切るもなにも、最初から仲間ですらありません』
真勇者『だったら、なぜお前はそんな顔をする?』
薬師『わからないんです。自分の気持ちが理解できないんです』
薬師『ずっと魔物を滅ぼすためだけに生きてきたのに』
薬師『あなたには迷いはないんですか?』
真勇者『俺にはもうこの道しかないからな』
薬師『私は……彼のことが好きなのかもしれません』
真勇者『……』
薬師『ひらすらがむしゃらに、まっすぐに生きている彼が』
564:
薬師『彼はこんな私でも、迷わず守ってくれました』
薬師『私の故郷の人たちもそうでした』
薬師『私なんかを守るために、凶暴な魔物に立ち向かいました』
薬師『……彼が私のことをどう思っているのか、それは知りません』
薬師『でも私がやろうとすることを、彼は絶対に理解してくれません』
真勇者『だから敵対するのか?』
薬師『相容れないなら、そうするしかないでしょう』
真勇者『どうだかな。お前にはまだべつの道があるんじゃないのか』
薬師『私は迷っていると言いました』
薬師『それでも、私の前にある道は一本です』
565:

真勇者(……どうやらこの培養槽の中で眠っていたらしいな)
真勇者(やはりこのからだは、力を取り戻さないとダメなようだな)
真勇者(いや、あるいは俺の寿命もそう長くないのか……)
真勇者(どちらにしよう万全に近い状態で、ヤツから力を取り戻さなければいけない)
真勇者(しかし敵がここを嗅ぎつける可能性もゼロではない)
真勇者(ならば……)
真勇者「この国が造りあげたもので、この国を追い詰めてやろう」
566:

魔法使い『この旅を終えたらなにがしたいか?』
勇者『ああ。なにかあるだろ?』
魔法使い『あるにはあるけど、どうしたの?』
勇者『なにがだ?』
魔法使い『いつもは魔物の戦い方がどうとか、退屈な話しかしないくせに』
勇者『べつに。特に理由はない』
魔法使い『うそだー。絶対なにかあるでしょ? 勇者らしくないもん』
勇者『……戦士に聞かれたんだ。魔王をたおしたらどうするんだって』
魔法使い『へえ。アイツが。なんか意外』
勇者『やはり、お前もそう思うか』
魔法使い『まあね。勇者はどうしたいの?』
勇者『……』
567:
魔法使い『なに、言いたくないの?』
勇者『いや……』
魔法使い『なんなの? はっきり言ってよ』
勇者『……ないんだ』
魔法使い『え?』
勇者『なにがしたいとか、正直あんまりないんだ』
魔法使い『ええー。なんか一個ぐらいはあるでしょ?』
勇者『本当にないんだ。魔王をたおすことで頭がいっぱいというか……』
魔法使い『ふふっ……』
勇者『なにがおかしいんだよ?』
魔法使い『だって百体の魔物に、囲まれたみたいな顔してるんだもん』
568:
魔法使い『なんか意外。勇者もそういう表情するんだね』
勇者『……そうだな』
魔法使い『んー、でも私も具体的な計画とかがあるわけじゃないよ』
勇者『それでもいいから教えてくれないか?』
魔法使い『私は自分の魔法をね、人の役に立てたいの。
  魔法ってけっこう色んな使い道があるしさ』
勇者『そうか、そういうのでもいいのか』
魔法使い『そうだよ。勇者は難しく考えすぎだよ。
でも、どうしても思いつかないって言うなら私が一緒に考えてあげる』
勇者『お前が?』
魔法使い『なによ、不満なの?』
勇者『いや……心強いよ』
魔法使い『ふふっ、よろしい』
569:

勇者『どうして俺を庇った……!?』
魔法使い『……だって、仕方ないでしょ……守りたかったんだもん』
魔法使い『それに……勇者が……助けてくれなかったら、どうせ異端審問局の連中に……』
魔法使い『……殺されてたしね…………』
勇者『もういいっ! しゃべるなっ! 今誰か回復できる人間を……』
魔法使い『ダメっ……! 今ここを飛び出したら……いくら、勇者でも……』
勇者『だけど……!』
魔法使い『……そういえば、見つけられた……?』
勇者『……?』
魔法使い『やりたいこと』
勇者『今はそんなこと言ってる場合じゃないだろっ……!』
570:
魔法使い『ふふっ……やっぱり見つかってないんだね』
勇者『……そうだ、まだ見つかってないんだよ……だから、だから死ぬな……っ!』 
勇者『俺と一緒に考えてくれよ……俺のそばに……』
魔法使い『……大丈夫……勇者は強いもん……』
魔法使い『私は……たぶん、もうダメ、かな……でも……勇者は生きて……』
魔法使い『あなたは……みんなの希望、だから……』
勇者『まてっ……なにをする気だ……!?』
魔法使い『……ごめんね』
571:

勇者「――っ!」
勇者(なんだ今の夢は……!?)
勇者(オレの記憶は、あの赤ローブのヤツが言うには)
勇者(八百年前の勇者よりさらに前の勇者の記憶らしいけど……)
勇者(だけど、この夢に出てきてるのは真勇者じゃないのか?)
勇者(アイツの力の一部をオレはもっている)
勇者(だから真勇者は、オレをねらった。そしてあの赤ローブの連中も)
勇者(赤ローブ……薬師……)
真勇者『自分の非力のせいで仲間が殺された気分はどうだ?』
勇者(オレが強かったら、薬師は死なずに済んだのか?)
572:
勇者(なんでオレを庇ったんだ薬師……)
勇者「くそっ……!」
勇者「死ぬってなんだよ……わけわかんねえよ……」
竜人「失礼します……勇者殿、目が覚めましたか」
勇者「……竜人」
竜人「魔力が非常に不安定な状態だったため、相当強い製剤を打ち込んだと聞きましたが」
勇者「そうだな。注射を打たれたよ。からだがなんだかダルイ」
竜人「普通だったら一日は眠り続ける薬らしいです。無理に動かないほうがいい」
勇者「……なあ、竜人」
573:
竜人「なんでしょうか?」
勇者「……いや、なんでもない。悪いけど、帰ってくれないか」
竜人「私は現在勇者殿の護衛なので。……部屋の外で待機しています」
勇者「……ごめん」
竜人「いえ、今のうちに少しでも休んでください」
勇者(俺は瞼を閉じた。今はなにも考えたくない)
574:

王「俺の側近であるアイツは敵の首謀者で、殺されたのは全く関係のない人間だった。
 しかし、結局真勇者に殺されたか」
戦士「ええ」
王「……」
戦士「陛下?」
王「いや、すまん。俺もさすがに動揺している」
戦士「とにかく今は、真勇者を捕獲することを最優先に行動するべきでしょう」
王「だが、手がかりがまるでない。真勇者のねらいもわからない」
戦士「いえ、まったくないわけでもありません」
王「薬師が残した第三番館資料の複製か。
だが、俺たちをかく乱するための罠かもしれんぞ」
戦士「その可能性はあります。ですが、足がかりとなるものは、これしかありません」
575:
部下「魔法使い殿がお見えになりました」
魔法使い「……」
王「資料解析の最中に悪かったな。あとは僧侶か」
戦士「陛下、なぜ私たちを集めたのですか?」
王「それについては、僧侶が来たら話そう」
魔法使い「……なら、今のうちに、話しておきたいことがある」
王「なんだ?」
魔法使い「例のサイクロプスについて」
戦士「そういえば、そんなのもいたね」
576:
王「いちおう資料には目を通したが、勇者や俺とそっくりなんだろ?」
魔法使い「……うん」
戦士「勇者くんや陛下とそっくりって……なにが?」
王「構成している物質や、勇者的な魔力。
 そういった要素から見たとき、俺たちとそのサイクロプスはそっくりってわけだ」
魔法使い「そう」
戦士「たしかそのサイクロプスって、普通のに比べるとかなり強かったんだよね?」
魔法使い「異常な回復力。火を吐く、など」
戦士「しかもその魔物って、例の赤ローブの研究機関で開発されたものらしいね」
戦士(なんだこの感じ……謎が連なっていくような感覚)
577:
王「ん? なにか騒がしいな」
部下「陛下、失礼します」
王「なにかあったのか?」
部下「――の村で、突然大量の魔物が現れ、現在市警が駆除にあたっています!」
王「魔物がなぜ……また状況がわかり次第報告しろ」
部下「はっ……! それから僧侶殿がお見えになりました」
王「通せ」
僧侶「遅参いたしまして、申し訳ございませんでした」
王「構わん。急に呼び出してすまなかったな」
578:
戦士「……勇者の混合体……災厄の女王…………生まれない勇者……」
魔法使い「戦士?」
戦士「待って。わかりそうな気がするんだ……なにか、答えのようなものが……」
部下「新たに入った情報をお伝えします!」
王「なんだ?」
部下「市警の大半が魔物によって負傷しました。それから……」
王「早く言え」
部下「は、はい。殺したはずの魔物が復活した、という報告がありました……」
王「なに……?」
僧侶「どういうことだ? あのサイクロプスのような魔物が現れたのか?」
579:
王「側近に魔物討伐の部隊を編成させろ」
部下「はっ!」
王「誰かが魔物を操っているというのか。だとすると、ヤツか」
魔法使い「真勇者が、赤ローブの造った魔物を、操っている?」
王「その可能性はかなり高い。だが、今はまだ可能性の段階だ」
戦士「……もしかしたら、わかったかもしれない」
僧侶「今回の魔物を操っている者の正体か?」
戦士「わかったのはそっちじゃない。
 どうして五百年間勇者が現れなかったのか、その謎の答えだ」
582:
ついに前作からの謎が明かされるのか
584:
王「……わかったのか?」
戦士「完全にわかったわけではありません。間違っているかもしれません」
王「いいから話せ」
戦士「勇者は五百年、生まれてなかった。
 この前提がそもそも間違っている……と思う」
王「勇者が生まれてないって前提が間違っているって……どういうことだ?」
戦士「生まれた勇者は、全部殺されていた」
王「殺す? なぜだ?
 勇者を戦争兵器にするために、わざわざ勇者魔王の争いを仕組んでいたんだぞ」
戦士「実験材料にされていた、というほうが正確でしょうか」
戦士「陛下や勇者くんみたいな存在を量産できたら、勇者単体より驚異だと思いませんか?」
585:
僧侶「総合的に考えれば、たしかにそうかもしれないが。いくらなんでも……」
王「仮にそうだとすると、ある問題にぶち当たる」
王「勇者が勇者であると、選別できなければいけないってことだ」
戦士「ええ、それなんです。その問題さえ解ければ……」
王「……国の人間を一人一人、勇者かどうか確認する。そんなことができるか?」
戦士「非常に難しいでしょうね」
魔法使い「しかも、誰にも、気づかせない方法で、なければならない」
戦士(……やっぱり、ボクの勘違いなのか?)
僧侶「……国民全員が漏れなく受けるもの、ひとつだけ心当たりがある」
戦士「本当!?」
僧侶「ああ――幼児洗礼だ」
586:
王「洗礼……」
戦士「それだっ! そうだ、それでほとんどの謎は解決するっ!」
僧侶「思いつきで言ったんだが、正解なのか?」
戦士「いや、むしろそれしかないと言ってもいい! これですべての辻褄があうんだ!」
王「わかるように説明してくれ」
戦士「はい。勇者くんから、陛下の元側近の話を聞きました」
戦士「そこで、奇妙だなと思ったことがありました」
戦士「災厄の女王に、勇者と魔王の混合体を造らせる、これだけならまだわかります」
戦士「しかし、国は実験がミスをするよう仕向けたあげく」
戦士「自らの国を半壊させた。奇妙極まりないことをしている」
587:
僧侶「たしかに」
戦士「だけど、これがもし教会の権威を失墜させるためだったとしたら?」
戦士「災厄が起きる直前に、魔法使いによる記憶操作事件があった」
魔法使い「魔女狩りのきっかけにもなった事件……」
戦士「そう。勇者魔王の混合体を造るために行われたものだ」
戦士「この事件以降は、人体に直接影響を及ぼす回復魔術は、一切禁じられた」
戦士「こうした流れの中で、もうひとつ影響を受けたものがある」
王「なるほど。同時に教会の人間も、その本分を失ったってわけか」
588:
戦士「ええ。復活や癒しの魔術が使えなくなり、勇者もいなくなった」
戦士「もともと教会の権威は、勇者によって支えられていたと言っても過言ではなかった」
戦士「勇者が消えた上に、癒しの術を使えないとなれば、教会の権威は堕ちるしかない」
戦士「そして、教会は国の傘下に入った」
僧侶「そうか! 幼児洗礼が義務になったのも、教会が国の傘下に入って以降だ!」
戦士「いつか僧侶ちゃんは、この国の医療技術と魔物の体制に違和感があるって言ったよね?」
僧侶「え? ……ああ。私の単なる思い過ごしかと思ったが」
戦士「それも、あのサイクロプスのような存在を造る過程の副産物なのかもしれない」
王「たしかに並みの実験では、俺たちのような存在は造れないだろうな」
戦士「それに、今の人間の支配下にある魔物の状態は、実験材料の確保に適している」
僧侶「じゃあ、それも……」
戦士「あくまでボクの推測だけどね」
589:
王「だが、なぜ洗礼で勇者が勇者であるとわかるんだ?」
戦士「……」
王「……おい」
戦士「いやあ、さすがにそこまではボクもわかりません」
王「……しかし、戦士の憶測は筋は通っているな」
戦士「それと、勇者たちは必ず教会送りにされているという法則があったよね」
僧侶「結局わからないままだな」
戦士「それも、勇者の研究のためだったのかもしれない」
戦士「教会にかけられた巨費は、教会そのものを堅牢にするため。それと」
戦士「勇者の死体を弄るためのなんらかの装置があったせい……かもしれない」
590:
戦士「勇者魔王の争いを仕組み、勇者を戦争兵器に仕立て上げた」
戦士「しかし、勇者のからだを調べていくうちに国は、新たな計画を企てた」
戦士「人口勇者を量産するという計画を」
戦士「そのためには、勇者を確実に見つける必要があった」
戦士「そして、当時権威を誇る教会を弱体化させ、傘下に入れるために」
戦士「災厄の女王に勇者魔王混合体を造らせ、その実験材料の魔物たちを暴れさせた」
戦士「その実験に国は関与していないことにし、責任のすべてを彼女に押し付けた」
戦士「そしてあとは、勇者を探し出し実験を重ね、勇者のまがいものを量産した」
戦士「魔界で魔王が生きていた以上、勇者は殺しても、また新たに生まれる」
戦士「とりあえず、こんな感じかな」
591:
王「…………」
僧侶「…………」
魔法使い「…………」
戦士「えっと……みんな?」
僧侶「いや、なんとか話は理解できたんだが……とんでもない話だなと思って」
魔法使い「……うん」
王「この国の再建スピードやその他諸々のことを考慮すれば、十分ありえる話だな」
僧侶「勇者魔王混合体は、他国へのデモンストレーションの意味があったのかもな」
戦士「よその国にも量産型を横流しする、みたいな契約をしたのかもしれないね」
王「だとしたら、元老院のジジイどもが第三番館に誰も立ち入りさせないのは……」
戦士「はい。そこに見られたら困るものがある、ということでしょうね」
592:
王「こりゃあ近いうちに、掃除してやらなきゃいけねえな」
戦士「色々な片付けが立て込んでて大変ですね」
王「ああ。だが、ようやく真実が見えてきたんだ」
戦士(しかし、結局真勇者の居場所はわかってないんだよね)
僧侶「それで陛下。わたくしたちを招集した理由は?」
王「おっと、そうだった。勇者についてだ」
王「真勇者の狙いは間違いなくヤツだ。アイツの扱いは今後の状況を大きく左右する」
王「俺の中での選択肢は二つだ」
王「ひとつは、ヤツをどこかへ逃がすという選択肢」
王「もうひとつは、ヤツにおとりとして働いてもらうという選択肢」
593:
王「あのバカは、逃げる選択をすることはないだろう」
王「だが、今の状態で役に立つとは到底思えない」
部下「新たな報告です! ――の街付近の森で、新たな魔物の群れが出現しました!」
王「また……!?」
戦士「しかもさっきの出現場所と全然ちがう……」
王「戦士、もしお前の話が本当だとしたら危険だな」
戦士「ええ。その魔物たちもかなり手ごわい可能性がありますね」
魔法使い「私たちも、討伐に向かうべき?」
王「いや、魔法使いは資料解析を優先しろ」
僧侶「参加するとしたら、私と戦士か」
594:
王「いや、まだお前たちはこちらで待機しろ。敵が王都を狙う可能性は十分にある」
戦士「これが真勇者の仕業だとしたら、なんのために魔物たちを……」
王「かく乱だろうな。間違いなくヤツは、魔物の出現場所にはいないだろう」
僧侶「だとすると、勇者も危険じゃあ……」
王「僧侶。勇者をここまで連れてこい」
僧侶「……いいのですか? 場合によってはここが……」
王「いや、少なくともすぐに真勇者がここを襲撃するとは思えない」
僧侶「わかりました。すぐ行ってきます」
王「……場合によっては、俺も出たほうがいいかもしれないな」
戦士「陛下自ら?」
王「ああ。量産型勇者、俺と似たような存在だ。だったら俺がヤるべきだろう」
595:

竜人「僧侶殿、そんなに慌てて……なにかあったのですか?」
僧侶「実は……」
僧侶(私は簡潔に竜人に状況説明をした)
竜人「わかりました。しかし……」
僧侶「ああ、わかっている。だが急いだほうがいい状況だ」
僧侶「勇者、起きているか?」
勇者「…………なんのようだ」
僧侶「とにかく、今すぐ宮廷に来てくれ」
勇者「……」
僧侶「勇者っ!」
596:
勇者「わかんないんだよ……なんでだ……どうして、オレは……」
僧侶「……?」
勇者「なんで薬師はオレを庇った? なんでオレは生きてるんだ……?」
僧侶「今はそんなことを言ってる場合じゃ……」
勇者「仲間が死んだんだぞっ! なんでお前らは普通でいられるんだよっ!?」
僧侶「それは……」
勇者「オレは……オレのせいで薬師は死んだ……っ!」
勇者「オレが弱いからだ……オレがもっと強かったら……」
僧侶「だ、だけど、それは勇者のせいじゃない……」
勇者「ちがうっ! オレがもっと強かったらアイツが死ぬことはなかったっ!」
597:
勇者「そうじゃないのかよっ! ちがうなら教えてくれよ!」
僧侶「……」
勇者「……くそっ!」
僧侶「勇者、どこへ……」
僧侶(本当は勇者を追わなければいけなかった)
僧侶(だけど、私はそこから一歩も動けなかった)
598:

勇者『本当に薬師はなんでも知ってるんだな』
薬師『そんなことはありませんよ。私が知ってることなんて』
勇者『そんなこと言ったら、オレはどうなるんだよ』
薬師『それは……』
勇者『なんで言いよどむんだよ』
薬師『あはは。でも、多くのことを知っていることって、必ずしもいいとは限りませんよ』
勇者『どうして?』
薬師『えっと……どうしてでしょうね?』
勇者『なんか薬師が知らないこと、ないかな』
薬師『いくらでもありますよ』 
勇者『あっ! じゃあさ……』
599:

王「よう、ここにいたか」
勇者「……なんでオレの場所がわかったんだ」
王「優秀な監視役が何人かいるからな」
勇者「オレの監視役は薬師じゃなかったのか……?」
王「死んだ人間が、どうやってお前の監視をするんだ?」
勇者「……っ!」
王「俺を睨んだって、なにも変わりゃしない。それより、ウロチョロされるのは迷惑だ。
 真勇者の狙いが自分だってことぐらい、わかってるだろ」
勇者「……」
王「ったく、ガキみたいにふてくされてんじゃねえよ」
勇者「そんなんじゃない……っ!」
600:
王「そうか。だったら今すぐに逃げろ。逃亡ルートならきっちり手配してやる」
勇者「それでどうなる?」
王「あ?」
勇者「オレなんかが、生き残ってどうなるんだ。
仲間のひとりも守れないオレなんかが……」
王「なにか勘違いしてるようだな。お前のためを思って言ってんじゃない」
勇者「……」
王「真勇者にお前の力が渡ったら困るんだよ。手がつけられなくなるからな」
勇者「だったら……だったら、殺せばいいだろうが……っ!」
王「……なに、お前を殺せば済むって言いたいのか?」
勇者「そうだろうがっ! それで終わりだろ!?」
601:
王「いやあ、なるほどね。うんうん、それはいいアイディアだ」
王「だが、ダメだ」
勇者「……どうして?」
王「お前は真勇者をおびき寄せるエサになるからな」
勇者「エサ、か」
王「……それでも構わないって顔してるな」
勇者「…………」
王「今、お前の仲間は魔物の討伐に向かっている」
勇者「……魔物? また真勇者がなにかしているのか?」
王「おそらくな」
王「そして、その魔物はお前がいつかやりあったサイクロプスと同種だ」
602:
勇者「だったら相当強いってことか……」
王「そうだ。最初に対応した市警の中には、何人か死者が出ている」
勇者「……みんなはもう行ったんだよな? 魔物の退治に」
王「ああ。俺もこれから参戦するつもりだ」
勇者「王様が?」
王「ああ」
勇者「だけどオレは……」
王「自分が足でまといにしかなれないと思うなら、今すぐ逃げろ」
勇者「…………」
王「いつかお前はオレに啖呵を切ったな。仲間が死ぬのは絶対にイヤだって。
 だから守ってみせるって」
603:
勇者「そうだよ、言ったよ。でもオレは自分の言ったことを守れなかった」
勇者「えらそうなことを言っておいて、このざまだ」
王「……ああ、情けないったらありゃしないな。
 だが、お前の仲間は薬師ひとりなのか?」
勇者「……」
王「お前が守るって言った仲間は、ほかにもいたんじゃないのか?」
勇者「そうだよ。僧侶だって、魔法使いだって、戦士だって……みんな仲間だ」
王「お前の仲間だって、それぞれの場所で必死に戦っている」
王「どんな人間だってな、常になにかと闘ってるんだよ」
王「自分の命を賭けてな」
勇者「……王様は、人の死に触れたことがあるんだよな?」
604:
王「そんなもん誰だってある。まあ俺の場合は長く生きてる分、余計にな」
王「色んな生き方がある一方で、色んな死に方もある」
王「くだらない理由で命を落とすヤツもいた。自分の使命のために死んだヤツもいた」
王「そしてお前は、薬師が死んだ瞬間を見ただろ」
勇者「オレは……薬師のこと、なにもわかってなかったんだ」
勇者「オレ、アイツが知らないことってなにかないかなって考えたことがあって」
勇者「思いついたんだ。ひとつだけ……魔界のことだった」
勇者「だから、薬師になにか教えてもらうたびに、オレもよく魔界のことを話した」
勇者「バカだった。薬師のこと、なんにもわかってないで得意げに話して……」
605:
勇者「……オレにはまだ理解できないんだ。死ぬことがどういうことか」
勇者「死ぬってなんだ?」 
王「二度と会えなくなることだ」
勇者「……!」
王「……これをお前に渡しておく」
勇者「これって、薬師がつけてくれたオレの記録帳……」
王「あの女の部屋に隠されていたものだ」
勇者「どうしてこんなものを……」
王「さあな。だが、薬師にも葛藤があったはずだ。
 そして、葛藤の末の答えが薬師の結末だった」
勇者「……薬師」
王「その記録帳はそんな迷いの一部だったのかもな」
606:
王「俺は行く。あと、これを渡しておく」
勇者「これは?」
王「億が一、お前が仲間を助けに行きたいと思ったのなら使え」
勇者「……」
王「逃げ続けた俺の言ったことだ。的外れなことを言っているかもしれない」
王「だが、それでも誰もが戦っている」
王「お前はどうする?」
勇者「オレは――」
607:

勇者(この記録って、オレが真勇者を追っていたときのなんだよな)
勇者(……はじめて会った頃の記録はすごい簡潔だな)
勇者(そうだったな。最初は薬師にどう接していいかわからなかった)
勇者(そんなオレに対して、薬師も困ってたんだよな)
勇者(でも……少しずつだけど、仲良くなって……)
勇者(最後のページになにか書いてある……)
608:
『あなたがこれを読んでいるとしたら、私はもうあなたの隣に立つことはできないでしょう。
 
 私が、自分の進む道のためにあなたたちを騙していたこと。
 
 私のなにもかもが嘘だったということ。
 あなたはもう知っているはずですから。
 
 ただ、一つだけ。
 
 あなたと一緒に旅をして感じた幸せだけは本物だと、そう思っています。
 あなたはあなたの道を進んでください。さようなら』
609:
勇者「さようならってなんだよ……」
勇者「裏切るわ騙すわ、勝手に言いたいことだけ言って……ふざけんなよ」
勇者「オレだって薬師に言いたいこと、たくさんあったのに……!」
勇者「……ぅっ、死んだら……もうっ……なにも言えないだろうがっ……!」
610:

勇者『姫、あなたは魔王をどうするつもりなんだ?』
姫『彼は最後、自らあなたの剣へと飛び込んだ』
勇者『……』
姫『彼が差し出した命、無駄にするわけにはいきません』
勇者『……すまなかった。俺が……』
姫『勇者様は悪くありません。あなたは自分の使命を全うした。……彼もそう』
勇者『姫は、これからどうするんだ?』
姫『もちろん、私のやることは決まっています。勇者と魔王の争いをなくす。
 彼のような犠牲を出さないためにも』
勇者『犠牲、か』
姫『私は人も魔物も関係なく、みんなが幸せな生活を送れる世界を造る』
611:
勇者『まさしく理想論だな』
姫『ダメですか?』
勇者『え?』
姫『理想を掲げることは駄目ですか?』
勇者『駄目とは言ってない。だが、姫が言っていることは困難極まりないことだ』
姫『わかっています。でも、やらなきゃなにも始まりません。
 それに彼との約束ですから』
勇者『魔王と約束したなんて、国民が知ったらどう思うんだろうな』
姫『罵詈雑言の嵐でしょうね』
勇者『それでもやるんだな』
姫『はい、だって――』
姫『幸せでありたいって思う気持ちに、人も魔物も関係ないでしょう?』
612:

真勇者(……人も魔物も関係ない、か)
真勇者(そのとおりだ)
真勇者(魔物は恐ろしい存在だと、かつて俺たちは教えこまれていた)
真勇者(だが、人間だって変わりはしない)
真勇者(そうだ、俺の本当の敵は……)
真勇者(……落ち着け。感情を昂ぶらせてはいけない)
真勇者(体調が万全になるには、まだ時間がかかる)
真勇者(今は待つんだ)
613:
僧侶「……っ!」
 この地帯では絶対に見かけることのない、オーク。
 それが僧侶目がけて拳を振るった。巨大な腕を掻い潜り、敵の懐に入りこむ。
僧侶「――っはあぁぁ――!」
 
 敵の腹を炎の拳で殴りつける。だが、致命傷にはならない。
 今度は拳を敵の足もとへ。衝撃。
 地面から勢いよく突起が出現し、魔物が宙を舞う。
戦士「お見事……と、言いたいところだけど」
僧侶「ああ。コイツら、何度やってもキリがない」
614:
戦士「何度たおしても、すぐ復活する」
僧侶「一撃で敵の全身を焼き尽くすぐらいの呪文じゃないと……」
戦士「数自体はそんなに多くないんだけどね」
僧侶「戦士、水系の魔術は使えないんだよな?」
戦士「残念なことにね、他のメンバーにいないこともないけど……」
僧侶「魔法使いクラスじゃなきゃ、意味がないな」
戦士「……って、喋ってる場合じゃないね」
僧侶「とにかく打開策を見つけるまで、粘るしかない、かっ!」
 飛びかかってきたウルフの顔面目がけて、拳を振るう。
 たしかな手応えとともに魔物が吹っ飛ぶ。すぐさま拳から衝撃波を放つ。
615:
 だがウルフに気をとられていたことで、他の魔物への警戒が疎かになっていた。
 音もなく背後に忍び寄っていたサイクロプスの存在。
 それに気づいたときには、すでに敵の拳が僧侶に振り下ろされていた。
 
僧侶「しまっ……」
 
勇者「させるかああぁっ!」
 不意に現れた影が、敵の腕を切り裂いた。魔物が激痛に悲鳴をあげる。
僧侶「え……」
勇者「待たせた!」
戦士「待ってたよ!」
 僧侶の目の前に現れたのは勇者だった。
 だが、魔物たちは突然現れた勇者を見ても、怯むことなく突っこんでくる。
616:
勇者「魔法使い、氷っ!」
魔法使い「――了解」
 飛びかかろうとした魔物たちの行く手を遮るように、突然巨大な氷が出現する。
勇者「もらったああぁっ!」 
 並みの人間ではまず造れない質量の氷壁。それを勇者は容赦なく切り裂いた。
 分厚く巨大な氷の壁が、音を立てて崩れていく。魔物たち目がけて。
勇者「戦士!」
戦士「そういうことねっ、わかったよ!」
617:
 魔物たちを下敷きにした氷壁めがけて、戦士は紫炎を放つ。
勇者「僧侶、雷を頼むっ!」
僧侶「――まかせろ!」
 戦士の炎によって溶けた氷に、電撃の拳を打ち込む。
僧侶「もう一回……!」
 もうひとつの電撃の拳も、魔物目がけて放つ。
 眩い光。魔物たちの叫びがあたりに響き渡る。
618:
僧侶「どうだ……?」
魔法使い「……おそらく、たおした」
戦士「なるほどね、こうやって確実に一撃で決めれば復活しないってわけか」
魔法使い「それでも、厄介なことには、変わりない」
戦士「たしかに。ボクらも勇者くんたちが来てくれなかったら、ヤバかったかもね」
勇者「……その、えっと……」
戦士「なに、ほんの数分前まですごい威勢よかったのに」
勇者「いや、まあその……そうなんだけど……」
僧侶「助かったよ、勇者」
勇者「……僧侶」
619:
勇者「……っ」
僧侶「……どうした勇者?」
戦士「なんか目が潤んでるように見えるけど?」
勇者「な、なんでもないっ! とにかくすまなかった……!」
戦士「なにが?」
勇者「いや……その、なんていうか……」
戦士「言いたいことはわかるし、勇者くんの気持ちもわかるよ」
勇者「……ごめん」
戦士「いいってことよっ」
僧侶「とにかく今は、一旦ここから一番近い村へ行こう」
623:

戦士「で、勇者くんはボクらを助けに来ようと思ったはいいけど。
 薬の効果が酷くて魔力が引き出せないってことで、魔法使いを頼ったわけね」
魔法使い「私も、勢いにまかせて、勇者についていった」
勇者「まあそんなところだ」
戦士「オッケー。ということは、魔法使いは当然、終わってないってことだよね」
魔法使い「ううん」
戦士「え? 解けてるの!?」
魔法使い「……予想とちがって、かなり解析しやすかった」
僧侶「なにが書いてあったんだ?」
魔法使い「名前」
勇者「なんの名前が書いてあったんだ?」
魔法使い「魔物の名前。それが、羅列されていた」
624:
僧侶「魔物の名前……そんなものに意味があるのか?」
勇者「なにかの実験に使われた魔物とか?」
僧侶「あの第三番館から持ち出したものだから、そういう類の可能性もあるのか」
戦士「でも、これは彼女が複製した資料で、敵がリスクを犯して盗んだものだ」
 敵の目的のモノのヒントだと思ったんだけど……」
勇者「…………なあ、戦士」
戦士「うん? どうしたの勇者くん?」
勇者「今話してくれた勇者の選別方法って、なんだったけ?」
戦士「洗礼のことかい? ていうか忘れるの早すぎ」
勇者「…………」
魔法使い「勇者?」
625:
勇者「……洗礼って、どうやって勇者だってわかるんだ?」
戦士「そこまではわかってない。それがわかれば、ちがってくるんだろうけど」
勇者「なにかないのか? 勇者にしか反応しないアイテムとか」
戦士「そんな都合のいいものは、さすがにないよ」
勇者「ないのか? 『勇者の剣』みたいな勇者専用の道具とか」
戦士「…………」
僧侶「…………」
魔法使い「……」
勇者「どうした、みんな?」
戦士「…………ひょっとして、それなのかな?」
626:
戦士「おとぎ話にしか登場しないものだと思っていたけど」
僧侶「……勇者、いつかお前は『勇者の剣』の話をしたな?」
勇者「ああ。『勇者の剣』についての記憶のことだな」
戦士「勇者にしか扱えない剣……なるほど、それならたしかに選別できる」
魔法使い「……でも、洗礼で選別してるっていうのが、戦士の推測のはず」
戦士「そうなんだよね。剣、関係ないし」
僧侶「でも『勇者の剣』は、実体を持たない剣だと言われている」
僧侶「だから、たとえばその剣が『水のようなもの』で、洗礼の水に使われていた」
僧侶「……とかだったら?
 ……って、いくらなんでも都合よく考え過ぎか」
戦士「いや、でも……ありえなくはないんじゃない?」
627:
魔法使い「確証はない」
僧侶「そのとおりだ。……でも……そうだ」
僧侶「私が持っている冒険の書、アレをつい最近見つけたんだ。
 冒険の書には、たしかに『勇者の剣』についての記載があった」
僧侶「もちろん、その冒険の書が絶対に正しいとはかぎらない」
僧侶「だが『勇者の剣』は勇者にしか扱えないという記述もあった」
戦士「……! じゃあ、赤ローブの連中が教会を探っていたのは本当に……」
勇者「そうだよ! きっとそれだ!」
戦士「でも、にわかには信じがたいっていうか……」
勇者「真勇者はオレの力を狙ってる」
勇者「それって自分の力が不完全で、『勇者の剣』が使えないからじゃないか!?」
628:
戦士「たしかに。なぜ勇者くんを狙うのかって、疑問の答えとしても、しっくりくる」
僧侶「それ、なのか……?」
魔法使い「勇者の剣。魔力を極端に、増幅させるもの。その剣に斬れぬものはない」
魔法使い「その剣の力が解放されたとき、勇者以外の者が触れれば、死に至る」
魔法使い「……という言い伝えが、ある」
勇者「決定だっ!」
戦士「いっきに真相にたどり着いた感じがするよ」
僧侶「……」
勇者「どうした僧侶? オレの顔がどうかした……いてててっ!」
僧侶「本当に勇者か?」
勇者「なんの話だよ!?」
僧侶「妙に勇者が鋭いと思ったから……本物みたいだな」
629:
戦士「ボクもびっくりだよ」
魔法使い「……コワイ」
勇者「お前らなっ!」
戦士「まあこれで、敵の狙いがほぼ完全に読めた」
僧侶「でも……真勇者の居場所はわからないままなんだよね」
勇者「そうだよなあ。あの資料も、魔物の名前が羅列されてるだけだしな」
僧侶「魔物の名前か。この魔物たちの名前に法則性があるとか……」
戦士「パッと見ただけじゃ、思いつかないね」
勇者「これって資料だろ? なんで暗号みたいなものにするんだよ?」
戦士「これが『勇者の剣』の在り処を示すものだとしたら?
 そう簡単にわかったらまずいでしょ?」
630:
勇者「それも、そうか……」
魔法使い「……ちがう」
戦士「え?」
魔法使い「これは、暗号なんかじゃない」
勇者「なにかわかったのか!?」
魔法使い「……一旦、私の家に戻りたい」
戦士「オッケー。この村のことは他の人間に任せよう」
631:

勇者「この記録でいいのか?」
僧侶「この記録、文字がよく読めない」
魔法使い「私たち、魔法使いは、魔女狩り以降、研究記録に手を加えている。
  特殊な魔術を用いないと、解読できない」
僧侶「なるほど。それで読めないわけか」
魔法使い「解読に時間が必要。三十分以内に、終わらすから、どこかで時間潰して」
勇者「わかった」
632:

僧侶「戦士は報告のために宮廷へ行ったが、私たちはどうする?」
勇者「……僧侶」
僧侶「どうした?」
勇者「あ、いや……」
僧侶「……? もしかして調子が悪いのか?」
勇者「そうじゃない。その……あのときは、ごめん」
僧侶「……」
勇者「えっと……」
僧侶「私が知るかぎり、あそこまで勇者が取り乱したのは初めてだったな」
勇者「……え?」
633:
僧侶「……その人に対する悲しみの深さは、その人に対する想いの深さ。
 そういう言葉を聞いたことがある」
勇者「想いの深さ……」
僧侶「私たちは薬師とそこまでの付き合いがあったわけじゃない」
勇者「……」
僧侶「裏切られた衝撃も、死んだ悲しみも、お前に比べればきっと小さい」
僧侶「それでも、薬師は私たちの仲間だった」
僧侶「私はあまり友達がいないから、嬉しかったんだ。
 薬師とは気の合う友達になれると思った」
僧侶「せめて、最期にもう一度だけ話したかった……」
僧侶「戦士も魔法使いも、口には出さないがショックだったはずだ」
634:
勇者「生きてたら、また今回みたいなことは起こるのかな?」
僧侶「死は私たちにとって身近なものだ。無関係でいることなんてできない」
勇者「また、こういう思いをするんだよな」
僧侶「……ああ。それどころか、次は自分が死ぬ番かもしれない」
勇者「……」
僧侶「魔界にいたとき、何度か死にかけたことがあっただろ?」
勇者「うん」
僧侶「勇者は怖いって思ったことはないか? ……私は何度も思った」
勇者「僧侶も怖いって思うんだな」
僧侶「前から気になってたんだが、お前は私をどういう人間だと思ってるんだ?」
635:
勇者「なんていうんだろ。男らしい?」
僧侶「……」
勇者「ご、ごめん。今のはナシで」
僧侶「無理だ。もう耳にこびりついてしまった」
勇者「……ごめん」
僧侶「勇者は私に謝ってばかりだな」
勇者「言われてみるとそうだな。なんでオレ、こんなに僧侶に謝ってばかりなんだろ?」
僧侶「……本気で言ってるのか?」
勇者「……けっこう本気」
僧侶「お前は反省してないみたいだな。あのセクハラ発言といい……」
勇者「セクハラ?」
僧侶「……もういい」
636:
僧侶「とにかく今は生き残ることだけを考えよう」
勇者「おう。……って、大丈夫か?」
僧侶「なにがだ?」
勇者「なんか顔色があんまりよくない気がしたからさ」
僧侶「さっきも言ったが、怖いんだ」
勇者「……」
僧侶「次は自分が死ぬ番かもしれない。
 あるいは、私の身近な人がそうなるかもしれない」
勇者「逃げたいって思わないのか?」
僧侶「逃げて解決するなら、いくらでも逃げる。でも、それでは解決しない」
637:
僧侶「それに、守るのはお前だけじゃない。
 お前が私を守るなら、私もお前を守る。約束だ」
勇者「ああ」
勇者(今度は――必ず守る)
魔法使い「……お待たせ」
勇者「魔法使い! 解読できたのか!」
魔法使い「……五ぐらい前に」
勇者「だったらもっと早く声かけてくれればよかったのに」
魔法使い「空気を読んだ」
勇者「……?」 
僧侶「ありがとう、魔法使い」
魔法使い「どういたしまして」
638:
勇者「それで、あの資料はなんだったんだ?」
魔法使い「アレはある場所を示す手がかりだった」
僧侶「魔物の名前から、場所が特的できるのか?」
魔法使い「うん。載っていた魔物は、その土地で出現するものを書いたものだから」
勇者「……つまり?」
魔法使い「そこに『勇者の剣』がある」
639:

王「なるほど。真勇者が追っていたのは『勇者の剣』だった、か」
戦士「……魔物討伐から戻ってくるのが早いですね」
王「俺の前ではあの程度の魔物、虫けら以下だ。優秀なワイバーンもいるしな」
側近「皇帝自らが率先して、魔物退治をするのもすごい話ですけどね」
王「力があるんだ。それを使わなくてどうするんだ」
側近「……おっしゃるとおりですね」
勇者「ていうか、早く真勇者を捕まえにいかないと……!」
王「わかっている」
側近「すでに腕の立つギルドの者を百名、待機させています」
戦士「さすがですね、師匠」
側近「僕は君を優秀に育て上げたんだよ、当然だろ?」
640:
側近「あと二時間ほどあれば、さらに人員を追加できます」
王「見事な手腕だ。だが、相手は真勇者だ」
勇者「王様は勇者の強さを知ってるんですか?」
王「五百年前にな。ありゃあ全盛期の俺でもかなわないな」
僧侶「陛下ですから敵わないほどの強さ……」
王「数に任せたやり方で、勝てる相手ではない」
戦士「しかも、敵は間違いなく魔物を従えている」
王「ったく、厄介極まりないな」
魔法使い「それに、『勇者の剣』が、加わったら……」
王「おそらく完全に手がつけられなくなる」
641:
戦士「そうなると勇者くんには……」
側近「帰ってもらったほうがいいかもねえ」
勇者「へ?」
王「たしかにお前が隠れている分には、『勇者の剣』が使われることはないもんな」
勇者「そ、それはそうだけど……で、でも!」
王「なんだよ?」
勇者「いや、その……オレをおとりに使う作戦とか、なんかないの?」
王「おとりじゃなくて、そのままエサとして食われておしまいだろ」
僧侶「たしかに真勇者は強いしな……」
魔法使い「おつかれ」
勇者「ええ!?」
642:
王「真面目な話、お前には隠れてもらっていたほうがいいのかもしれない」
勇者「そ、そんな……」
僧侶「……」
王「ギルドメンバー追加まで、あと何時間だった?」
側近「二時間です」
王「それまでに結論を出す。今は待機していろ」
勇者「……」
王「俺の元側近が残した資料をもってくる。もしかしたら、そこになにかヒントが……」
勇者(側近……赤ローブ……)
勇者「待った!」
643:
戦士「おっ。なにかに気づいたかい、勇者くん?」
勇者「気づいた……まあ、そうだな。気づいたっていうか疑問っていうか……」
王「聞こうか」
勇者「その王様が言った元側近って、赤ローブのヤツのことだよな?」
王「そうだが?」
勇者「その人は側近なんだから、王様のそばにけっこうな割合でいたんだよな?」
王「ああ」
勇者「……もしかしたら、真勇者をたおすことができるかもしれない」
王「単なる思いつきで言ってるってわけじゃなさそうだな」
勇者「ああ――オレだからこそ、真勇者をたおせるかもしれない」
644:

少女『……どうして彼女はいつも泣いてるんだろ?』
勇者『彼女?』
少女『女王陛下のこと』
勇者『彼女は……泣いているのか?』
少女『そっか。あなたは見たことがないんだね、陛下が泣いているのを』
勇者『今では事務的なことでしか、会話しないからな。なあ』
少女『なに?』
勇者『お前が彼女をそこまで慕う理由はなんだ?』
少女『……わからない。生まれたときから、あの人のそばにいるのが当たり前だし』
勇者『自分の生まれ方について、なにも思わないのか?』
645:
少女『考えないことはないよ。でも、それを考えてなにか変わる?』
勇者『変わらないだろうな』
少女『でしょ? 変わらないことなんて、考えても仕方ないでしょ』
勇者『お前はなんでもシンプルに考えるんだな』
少女『悪い?』
勇者『べつに。いいんじゃないか』
少女『私はあの人が好き。だから、あの人の役に立ちたい。それで十分』
勇者『……』
少女『いちいち物事に深い理由はいらない。好きな人のためにがんばる、それで十分。
 勇者には好きな人や大切な人、いないの?』
勇者『俺には――』
646:

真勇者(また俺が勇者だったころの記憶、か)
真勇者(最近は、こんな夢ばかり見るな)
真勇者(――!)
真勇者(…………この気配は……アイツか……!)
真勇者(薬師。やはりあの女は、アイツらにヒントを残したか)
真勇者(万全には程遠いが、もはや構っていられない)
真勇者「俺の力、返してもらうぞ……!」
647:

勇者「あのデカイ建物が、この街の教会なのか?」
戦士「もともとこの街は、宗教がもとで栄えた街なんだよ」
僧侶「だからこそ、教会の権威が落ちてからの凋落も酷かった」
勇者「しかし、そこらへんに水がいっぱいあるんだな」
戦士「水の都、なんて呼ばれていたからね。
 運河を利用した交通も発達していたんだ」
勇者「なのに、今は誰も住んでないんだな」
戦士「色々とあったんだよ、この街も。
 ……魔法使い、どう?」
魔法使い「魔術で、確認したところ、魔法陣が辺り一面に、仕かけられている」
戦士「……どうやら、コソコソ隠れてもムダみたいだね」
魔法使い「うん」
648:
魔法使い「勇者、魔力の使い方は、覚えてる?」
勇者「ああ、ここに移動するまでにずっと練習してきたけど、たぶんいける」
魔法使い「……わかった。あと、魔力増幅剤」
勇者「ありがとう」
戦士「……みんな、長く話している時間はないから、ひとつだけ言っておく」
戦士「とにかく生き残れ! オッケー!?」
僧侶「ああ!」
魔法使い「了解」
勇者「おうっ!」
649:
 街のいたるところに仕掛けられていた魔法陣が発動し、光が弾ける。
 魔物の咆哮が街全体に響き渡り、運河の水面が揺れる。
戦士「さて、予想通り敵の魔法陣が発動したね」
僧侶「なんて数だ……」
勇者「だけどこっちも!」
魔法使い「――発動」
戦士「これで、こちらの転移用の魔法陣も発動したんだよね?」
魔法使い「もちろん」
勇者「よし、オレたちも行くぞ」
650:

王「魔物一体に対して、三人で当たれ! 一撃で決めない限り、復活するぞ!」
部下「了解!」
王(変身してるとはいえ、こういう形で人に指示するのは初めてだな)
王「しかし、ここまでの数の魔物を揃えているとはな――お前ら伏せろっ!」
王(こりゃあ魔術の出し惜しみなんてしている場合じゃないっ!)
 大きく跳躍して、味方と魔物の位置を瞬時に把握する。
火炎の魔術を発動する。地面から巨大な火柱が次々とあがり、魔物たちを燃やし尽くす。
部下「お見事っ!」
王「はっ、誰にもの言ってんだ!」
王(こうなると、やはりカギはアイツらか――頼んだぞ勇者たち!)
651:

戦士「よりによってこの街、教会が最奥にあるんだよね」
勇者「どう行っても魔物と遭遇しないのは無理、かっ……!」
戦士「勇者くん、息あがってない?」
勇者「まだまだ余裕だっ!」
 翼の生えたオークが、跳躍とともに勇者と戦士めがけて攻撃をしかけてくる。
 拳が地面にめり込み、砂埃が舞う。
勇者「さっきからコイツ、オレばかり狙ってきやがって……!」
 
 魔法使いが魔術の水弾を放つ。
 背中に直撃するが、オークは構わず勇者に突っこんでくる。
勇者「しつこいっ……!」
勇者(なんでコイツ、オレを執拗に追いかけてくるんだ……!?)
652:
戦士「まさか……勇者くんっ!」
勇者「え――」
 走る勇者の足もとから、強烈な光が起こる。
勇者(魔法陣!? そうか、そういうことか!)
 視界が真っ白に染まる。
 あまりの光にまぶたを閉じる。音がすべて消え失せる。
僧侶「……勇者っ!」
 
僧侶が叫んだときには、勇者の姿は跡形もなく消え失せていた。
653:

勇者「――っ!」
勇者(しまった。あと少し、早く気づくべきだった)
勇者(あの魔物はオレを移動させるための罠だったんだ……!)
 勇者の予想よりも遥かに広い教会。その中心に佇む人影。
真勇者「自分から命を差し出しにくるなんてな、愚かだな」
 かつて勇者だった男がそこにはいた。
勇者「自分でもそう思うよ」
 張り詰めた空気が勇者の肌に刺さる。無意識に息をのんでいた。
654:
勇者「アンタの狙いは『勇者の剣』を手に入れることだな」
真勇者「……わかっていたか」
勇者「薬師が残してくれた資料のおかげでな」
真勇者「……やはりあの女か」
勇者「アンタはその剣を手に入れてどうするつもりだ……?」
真勇者「言ったはずだ。すべてを正すと」
勇者「『勇者の剣』の力でか?」
真勇者「そうだ」
勇者「アンタが言う過ちっていうのを、オレも知った!」
真勇者「知ったから、なんだというんだ? 
 すべてを失った俺のなにがわかるっていうんだ」
勇者「オレは……」
真勇者「造りもののお前が、偽物のお前が、わかったような口をきくな」
655:
真勇者「なんの過去ももたないお前の言葉に、意味はない」
勇者「……っ」
薬師『あなたにはわかりません。過去をもたないあなたに、私のことなんて――』
勇者(あのときも、オレは薬師になにも言えなかった……!)
真勇者「終わりだ――」
勇者「……!」
 目の前に真勇者がいた。
 いつの間にか抜かれた剣が、勇者の胴体を横ざまに切り裂く。
勇者「……っ!」
 気づくのが遅すぎた。
 飛び退いたが、真勇者の剣は勇者の胴体を捉えていた。
656:
勇者「ぐっ……ぅうぅぅ……!」
真勇者「あっけないな。しょせんは偽物で、出来損ないか」
勇者「……まだだっ!」
 勇者はあるものを口に含んで嚥下した。
真勇者「無駄だ」 
 真勇者の剣が帯電して音を立てる。
 振り下ろされた切っ先から、電気の本流が勇者に向けて放たれる。
勇者「……っ!」
 だが、電撃は勇者に直撃しなかった。すでに勇者はその場から消えていた。
真勇者「……?」
 次の瞬間、勇者は真勇者の背後に現れていた。
657:
勇者「そこだああぁっ!」
 剣を真勇者の背中目がけて振り下ろす。
 だが勇者の剣が敵の背中をとらえることはなかった。
 不意に目の前で火柱があがる。勇者はとっさに跳んでかわした。
 あと少し反応が遅れていたら、全身を炎に飲みこまれていた。
勇者「くっ……!」
真勇者「魔力を無理やり底上げして、力を覚醒させたか」
勇者「正解、だっ!」
 勇者の全身を包むように漂う、漆黒の魔力。それを剣先に集中させる。 
 地面を蹴る。真勇者が地面に剣を突き立てる。
 突如、地面から炎が湧き上がる。
 炎が波のように地面をうねりながら、勇者に迫ってくる。
658:
勇者(避けきれない――!)
 全身に魔力をみなぎらせる。背中の肉をなにかが食い破る感覚。
 熱風が勇者のからだを飲み込んだ。 
真勇者「……終わったか」
勇者「まだ終わってないっ!」
真勇者「……!」
 勇者の背中から生えた黒翼が、炎の波を受け止めていた。
 翼が大きくはためき、火炎が真勇者へと跳ね返る。 
勇者(やったか!?)
 真勇者に炎が直撃した、と思った。だが、実際はそうではなかった。
 不意に火炎が文字通り裂けた。
真勇者「何度も言わせるな。偽物のお前では俺には勝てない」
659:
勇者「ならっ……!」
 自身の剣に魔力を流し込もうとした勇者の腕が止まる。
 一瞬で眼前に現れた真勇者に腕を掴まれていた。
真勇者「遅い」
 真勇者が勇者の額を掴む。静電気の弾ける音。全身を電流が突き抜ける。
 どれほどの時間が経過しただろうか。不意に音が止む。
勇者「ぁ…………」
真勇者「あの教会で戦ったときと、なにも変わっちゃいない」
 細胞の全てが焼け死んだかのような激痛。思考がまとまらない。
 視界が激しく明滅してする。
660:
真勇者「さあ、返してもらうぞ」
 勇者の額をつかむ真勇者の力が強くなる。
 魔力が真勇者へと流れていくのがわかる。
勇者(やばい……死ぬ――)
 意識が暗闇に沈んでいく。音が遠のいていく。からだに力が入らない。
 すべてが真っ黒に染まっていく――
661:

勇者(……ここはどこだ?)
勇者(オレは死んだのか?)
勇者(全部真っ黒。ここにはなにもないのか……)
勇者(……やっぱりオレはアイツに……本物の勇者に勝てないのか)
勇者(偽物だから、本物には勝てないのか)
勇者(ごめん、みんな……オレ……)
 ――勇者
勇者(誰の声だ?)
勇者(あっ……)
 勇者の目の前に唐突に景色が浮かぶ。そしてすぐ消える。
662:
勇者(そういえば、魔界で魔王と戦ったときにも、こんなことがあったな)
勇者(誰かの記憶を見せられているみたいだった)
勇者(これも誰かの記憶なのかもしれない)
勇者(でも、誰の…………あれ?)
勇者(はっきりと見覚えがある)
勇者(これは……)
勇者(オレの記憶だ)
663:
勇者(そうだ、オレにだってあるんだ)
勇者(まだちょっとしかないけど、たしかに生きてたっていう証拠が)
勇者(そういえば、みんなと最初に会ったときはすごい不安だったな)
勇者(このパーティでやってけるのかって)
勇者(戦士はなんか、チャラチャラしててイメージと全然ちがったもんな)
勇者(僧侶もイメージと全然ちがった。すごい厳しい口調でちょっと怖かった)
勇者(魔法使いは……無口だしなにを考えてるのか、全然わからなかった)
勇者(なんだか懐かしいな)
勇者(魔界へ行ったときは、驚いてばかりでみんなを呆れさせた)
勇者(自分のまわりのことは、わからないことばかりだった)
勇者(自分のことはもっとわからなかった)
664:
勇者(色んなことがあった。知らないことをたくさん知った)
勇者(自分が造られた偽物だってことも知った)
勇者(色んな敵とも戦った。死にかけたこともあった)
勇者(魔王と戦って、少しはわかりあえて……)
勇者(もっと色んなことを知りたいと思った)
勇者(もっと色んなことをしてみたいって思った)
勇者(世界のことを知りたい、旅に出たいって思った)
勇者(でも、真勇者を追いかけることになって、薬師と出会って……)
勇者(薬師からも色んなことを教わった)
665:
勇者(……そうだよ、オレはまだみんなとの約束も果たしてない)
勇者(もっと生きたいっ)
勇者(死にたくない……!)
 どこからか淡い光が漏れてくる。
 やがてその光は強くなり、その世界を真っ白に塗りつぶした。
666:

真勇者(これでほぼ俺自身の力は取り戻した……)
 真勇者が勇者の額をつかむ手を離そうとしたときだった。
勇者「……く、な……ぃ」
真勇者「!」
 勇者がその手をつかんだ。
真勇者「……お前、まだ……!」
勇者「死に、たくない……」
 まるで、命そのものを搾り出すかのようなかすれた声。
勇者「死にたく、ない……もっと、生きたい……!」
675:
真勇者はその手を振りほどこうとするが、あまりの握力にそれができない。
真勇者「チッ……」
 しかも勇者は、ただ腕をつかんでいるだけではなかった。
 自身の魔力を真勇者の腕に流しこんでいた。
真勇者「なにが目的かは知らないが……無駄だっ!」
 真勇者が体勢を低くする。勇者の腹を蹴り上げる。
 真勇者をつかむ手が離れ、勇者が大きく吹っ飛んだ。
真勇者(今のは…………死にかけておかしくなったか?)
 真勇者がゆっくりと勇者へと近づいていく。
 だが、勇者はなおも立ち上がろうとする。
676:
真勇者「力を解放しても、お前は俺には勝てない。そんなこともわからないのか」
勇者「わかってるさ……アンタとオレじゃ、力の差がありすぎることぐらい……」
 勇者は必死に立ち上がろうとする。
 だが、もはやそれすら満足にできない。
 満身創痍の勇者に剣を突き刺そうとしたときだった。
戦士「――やらせないよっ!」
 紫炎が真勇者に襲いかかる。反射的に真勇者は剣でその炎を振り払っていた。
 だが攻撃はそれで終わらなかった。
677:
魔法使い「――発動」
 地響きを立てて、氷の刃が地面から現れる。
 だが、真勇者はバックステップで最奥まで行き、これもなんなくかわす。
僧侶「まだだっ!」
 今度は地面を這う衝撃波だった。
 だが真勇者は地面に剣を突き立て、同じように衝撃波を放ち無力化する。
真勇者「よくここまでたどり着けたな。ずいぶんとボロボロになってるようだが」
戦士「まあね。さすがにあの魔物の群れを突破するのは、骨が折れたよ」
真勇者「だが、もうお前たちは手遅れだ」
戦士「どうかな? やってみなきゃわからないよ」
真勇者「だったらやってみるんだな」
678:
♪ 
僧侶「勇者!」
勇者「……僧侶、か」
僧侶「遅れてすまなかった……魔法使い」
魔法使い「わかった」
 魔法使いが勇者へと向けて魔術を放つ。本来禁止されているはずの回復呪文を。
 勇者の傷が瞬く間に治っていく。
真勇者「今の時代に、これほどの回復呪文を使える人間がいるとはな」
魔法使い「……魔界で、覚えた」
勇者「……ありがと、なんとか動けるようになった」
679:
真勇者「だが今さら回復したところでどうなる? 
 勇者、お前は俺よりはるかに弱い」
勇者「だから、そんなことは知ってるよ」
戦士「そうだよ、勇者くんが弱いことぐらいボクらは知ってる」
僧侶「お前よりもずっとな」
魔法使い「だからこそ、私たちは、ここに来た」
真勇者「……仲間か。俺にもいたよ。
 だが魔王と戦ったときはひとりだった」 
真勇者が、洗礼盤へと手を置く。
真勇者「そして、そのとき俺はこの剣を携えていた」
680:
 教会そのものが震える。膨大な魔力が空間に広がっていく。
 洗礼盤を満たす水が、独自の意思を持ったかのようにぬたくる。
 やがてその水は輪郭を形作り、長剣へと変貌した。
魔法使い「――」
 
 とっさに魔法使いが水弾を放つ。
 しかしそれは、剣へとたどり着く前に蒸発するように消え失せた。
真勇者「この剣には、そんな術は通用しない」
 真勇者の手に握られた剣から、魔力がにじみ出て、輪郭がぼやける。
真勇者「もう誰にも邪魔はさせない」
 かつての勇者が構えた――『勇者の剣』を。
681:
勇者(アレが『勇者の剣』……)
 真勇者が剣を掲げた。
勇者「……?」
 そしてそれをそのまま振り下ろした。
 勇者たちと真勇者の距離はかなりある。
 その剣が届くわけがない、そう思ったときだった。
勇者「なっ……!?」
 光の奔流が、勇者を横切ってそのまま教会の壁をぶち破った。
 なにが起きたか理解できなかった。
 光が通過した床は、えぐり取られたかのように消え失せていた。
戦士「散開しろ!」
 戦士の言葉とともに、全員が走り出す。
682:
真勇者「逃しはしない」
 
 『勇者の剣』が文字通り燃え上がった。
 真勇者が再び剣を天井へと掲げる。天井から突如炎の雨が降り注ぐ。
勇者「ウソだろっ!?」
 部屋が炎の色に染まり、いっきに温度が上昇する。
 勇者はひたすら走って炎の塊をよける。
 降り注ぐ炎の間隙を縫って、真勇者へと接近する。
真勇者「遅い」
 真勇者が地面へと剣を突き立てる。地面から巨大な突起が次々と現れる。
勇者「……っ!」
 とっさに横っ飛びに避ける。突起が天井を貫く。
 視界全体が激しく揺れる。
683:
僧侶「魔法使いっ!」
魔法使い「了解」
 魔法使いの足もとから、巨大な水柱が何本も現れ、真勇者を襲う。
 水で満たされた床に、僧侶が電撃の拳をぶつける。
真勇者「無駄だ」
 しかし魔法使いと僧侶の攻撃は、真勇者に届くことはなかった。
 真勇者を囲むように何本もの火柱があがり、水流を飲みこんでいく。
僧侶「これもダメなのか……」
戦士「攻撃の手を緩めえちゃダメだっ!」
 いつの間にか戦士が、真勇者の背後に回っていた。
684:
 戦士が真勇者の背中へ向けて剣を振り下ろす。
 しかし真勇者は空いた手で、戦士の腕を掴んでいた。
戦士「っ……!」
真勇者「しょせんお前も二流の戦士だな」 
 だが、真勇者に接近してたのは戦士だけではなかった。
勇者「――っらあぁぁぁっ!」
 真勇者の背後から勇者が、剣を振るう。真勇者が一瞬で身を翻す。
 真勇者が剣を空中へと放る。
 空いた両の拳で、体勢を崩した勇者と戦士を殴り飛ばした。
勇者「……ぐぁっ!」
 背中から落ちたせいで一瞬息が詰まった。すぐさま飛び起きる。
685:
勇者「魔法使い!」
 
 それだけで通じたのだろう。魔法使いが呟く。突き上げるような衝撃。
 魔法使いが魔術で巨大な氷の壁を造り、勇者がそれを切り裂く。
 氷壁が真勇者へ向かって崩れる。衝撃。建物が大きく揺れた。
勇者(どうだ……!?)
真勇者「どこを見ている」
勇者「!?」
 背後で声がした。『勇者の剣』が勇者を切り裂く――
魔法使い「発動」
 剣が到達するより先に、氷のかたまりが隆起し、勇者を大きく吹っ飛ばした。
勇者「うわぁっ!?」
 とっさに勇者は受身をとってすぐさま起き上がる。
686:
魔法使い「ごめん。この方法でしか……」
勇者「わかってる。大丈夫だ、そんなにダメージは受けていないっ……」 
 そう言って、再び勇者は走り出す。
勇者(攻撃の手を緩めるわけにはいかない……だけど、攻撃しても効かない……)
 戦士が真勇者に向けて炎弾を放つ。
 しかし『勇者の剣』のひと振りで、火はあっさりと消えてしまう。
 僧侶が拳から衝撃波を放つ。
 だが、それも真勇者が剣を地面に突き刺しただけで、無効化されてしまった。
勇者(やっぱりダメなのか……っ!?)
 絶望にも似た気持ちが胸を満たしていく。
 なにをやってもこの本物の勇者の前では、意味がない。
687:
勇者(しかも魔力も、ほとんど残っていない)
 真勇者に勇者の力をもっていかれたうえに、魔力増幅剤の反動のせいか。
 以前のような膨大な魔力を引き出すことができない。
勇者(……いや、あきらめるなっ……! もう一度っ!)
戦士「魔法使いっ! 僧侶ちゃんっ!」
魔法使い「了解」
僧侶「わかった!」
 戦士が巨大な紫炎を。
 魔法使いが大量の氷針を。
 僧侶が最高度の衝撃波を。
 いっせいに真勇者へと繰り出す。
688:
真勇者「あきらめの悪いヤツらだ。だが」
 『勇者の剣』が強烈な光を放つ。
 まぶたの裏にまで焼きつくような強烈な光が、教会全体を埋め尽くす。
 気づいたときには三人が放った術は、すべて消滅していた。
魔法使い「そんな……」
真勇者「この剣の前ではすべてが無に等しい」
勇者「まだだっ!」
 勇者が跳躍する。剣を真勇者へと振り下ろそうとする。だが。
真勇者「あきらめろ」
 剣が再び光を帯びる。光が弾ける。全身をつま先から脳天まで衝撃が走る。
 気づけば、勇者のからだは地面を転がっていた、
689:
勇者(……な、なにが起きた……)
 
 からだに力が入らない。無理やりからだを起こす。
 床にたおれていたのは自分だけではなかった。
 戦士も僧侶も魔法使いも横たわっていた。
 足音が近づいてくる。真勇者の影が勇者に覆いかぶさる。
真勇者「偽物のお前が、本物の俺に勝てるわけがないだろう」
勇者「……っ!」
 真勇者が勇者を見下ろす。まるで質量をもっているかのような殺気。
 喉の奥で詰まった息が音を立てる。指ひとつ動かすことができない。
 本物の勇者の圧倒的な力。自分は絶対に勝てないという確信。
 絶望が胸を締めつける。
690:
真勇者「お前の翼……あの魔王のそれと似ている」
真勇者「魔王は強かった。お前たちより圧倒的に」
真勇者「だが、それでもこの俺とこの剣の前に破れた」
真勇者「この力があれば、お前たちの国を滅ぼすこともできる」
真勇者「この力があれば、世界の秩序さえも変えられる」
勇者「……そんなことをして、どうなる……?」
真勇者「間違っていたものが消える。それだけで十分だ」
 真勇者の手が勇者へと伸びる。その手の動きがやけに遅く見える。
 戦士がなにか叫んでいる。魔法使いもなにか言っている。
 だが音がぼやけていて、聞き取ることができない。
 ――勇者!
 誰かの叫び声がはっきりと聞こえた。顔をあげる。
691:
 僧侶が背後から真勇者へとびかかる。
真勇者「何度やっても結果は変わらない」
 
 背後から繰り出される拳は、真勇者に到達することなく止まった。
 僧侶のからだが宙を舞う。
勇者「僧侶っ!」
 
 僧侶が背中から落ちる。鈍い音。
真勇者「いつか俺がお前に聞いたこと、覚えているか?」
勇者「……なんのことだ」
真勇者「仲間が目の前で殺される気分はどうだ?」
 真勇者がきびすを返す。
 勇者は真勇者がなにをしようとしているのか理解した。
692:
真勇者「お前と俺はなにもかもちがう。
 だが、自分の仲間を救えないという点では同じらしい」
 真勇者がゆっくりと僧侶へと歩み寄っていく。
勇者「や、やめろ……っ!」
 からだが動かない。全身を苛む痺れは酷くなっていく一方だった。
 それどころか、腹部が出血している。
真勇者「これから、お前の大切なものをひとつずつ奪う。
 そうすれば少しは俺の気持ちもわかるだろう」
 真勇者が僧侶を見下ろす。
真勇者「……まだ、動けるか。大したものだ」
僧侶「……っ」
693:
真勇者「なにか言い残すことはあるか?」
僧侶「……私にとっての、勇者は……お前じゃないっ……」
真勇者「お前にとってはアイツが本当の勇者だってことか」
僧侶「そうだ……!」
真勇者「だが、アイツではお前を救うことができない」
694:
勇者「僧侶っ……!」
勇者(オレはまた守れないのか……?)
勇者(オレが弱いからまた仲間が殺されるのか?)
勇者(オレを庇ってまた仲間死ぬのか?)
 自分を守ってくれた彼女の姿が、脳裏をよぎる。
 血の匂い。傾いていく小さな背中。長い髪。虚ろな瞳。
勇者(オレのせいで――)
 守ると約束した仲間が殺されようとしている。
 自分を守ってくれた仲間が、また死ぬ。
勇者(そんなのはダメだ……)
 真勇者が剣を構える。僧侶は身動きひとつしない。
695:
 拳を強く握る。
 まだ微かにからだには力が残っている。
 
 勇者の力ではない、もうひとつの力が。
勇者(守るって――)
 歯を食いしばる。悲鳴をあげるからだを無理やり起こして、立ち上がる。
 勇者は、残った魔力を振り絞った。
勇者(約束したんだ――)
696:
真勇者「まずはひとり目」
 
 真勇者が僧侶目がけて剣を振り下ろす。 
 上から下へ、ただ振り下ろす。それで僧侶は死ぬ。
 
 だが、剣は僧侶へと到達する前に止まった。
真勇者「まだ、動けるのか……」
勇者「オレの仲間はオレが守る……もう誰も殺させない……!」
 僧侶の前に躍り出た勇者が、真勇者の腕をつかんでいた。
真勇者「仲間を守る? 誰も殺させない? お前にできるものか――」
勇者「できなくてもやるっ!」
 勇者が拳を振るう。真勇者も同じように拳を繰り出してくる。
 拳が衝突する。
 魔力と魔力がぶつかりあい、ふたりは大きく吹っ飛んだ。
697:
 
 
勇者はとっさに受身をとって、素早くからだを起こす。
真勇者「まだこんな力を残していたとはな。だが……」
 
 真勇者の言葉が途切れる。
 その表情には、はっきりと動揺が浮かんでいた。
真勇者「なぜ……」
 『勇者の剣』の輪郭がぼやける。剣が光り輝く。
 その光が真勇者を飲みこむ。
 静電気が弾けるような音を合図に、真勇者が絶叫する。
 どれほど時間が経過しただろうか。
 光と音が不意に止まった。
 真勇者がもっていた剣は、粒子となり跡形もなく消えていった。
698:
 真勇者は見えない刃に切り裂かれたように、全身から血を流していた。
 ところどころ肌が焼けただれていた。
真勇者「……っ…………お前、俺の剣になにをした……!?」
勇者「……」
戦士「ふぅ、本当にあと少しで死ぬと思ったよ」
魔法使い「同じく」
勇者「ごめん。予想してたより、ずっとうまくいかなかった」
 
 ようやく回復した戦士と魔法使いが、武器を構える。
僧侶「だが、勇者の言ったとおりだったな」
 ふらつきながらも、僧侶が立ち上がる。
699:
勇者「剣にはなにもしていない」
真勇者「どういうことだ……?」
勇者「……王様の側近の赤ローブのヤツは、オレに言ったんだ」
勇者「オレでは『勇者の剣』は使えないってな」
勇者「そしてその赤ローブは、王様の側近だったにも関わらずオレだけを狙った」
勇者「勇者の力だったら、王様だってもっているはずなのに」
勇者「じゃあ、どうしてそうしなかったのか」
勇者「王様の勇者の力では、勇者の剣が使えなかったから」
勇者「勇者はその勇者の力だけじゃないと、『勇者の剣』を使えない」
真勇者「……! じゃあ、あのときお前が俺に魔力を流したのは……」
勇者「ああ。オレには魔王の力がある。
 さっき、そして今。アンタの腕をつかんだときに魔王の力を流してやった」
700:
戦士「本当に成功するかどうかは、賭けだったけどね」
魔法使い「言い伝えも、馬鹿にはできない」
僧侶「力を解放した状態で、勇者以外が触れれば、その剣は触れたものに牙を向く」
真勇者「……っ」
戦士「さて、ここから反撃させてもらうよ」
真勇者「……この程度で俺が終わると思うなっ!」
 真勇者がもうひとつの剣を再び抜く。
 戦士と魔法使いが術を真勇者に放ち、僧侶が衝撃波を繰り出す。
真勇者「甘い!」
 だが、真勇者はこれをかわし、魔法使いへ突っ込んでくる。
戦士「させないよっ!」
 戦士が真勇者の眼前に躍り出る。
701:
戦士「さっきより動きがだいぶ鈍いね」
真勇者「まだだっ! まだ俺は終わらないっ!」
戦士「……っ!」
 真勇者が地面を蹴り、高く跳ぶ。真勇者の剣先が光る。
 静電気の弾ける音。雷の刃が次々と降り注ぐ。
勇者「まだこんな力を……」
僧侶「さがれっ!」
 僧侶の拳が床にめりこむ。激しい揺れとともに、真勇者の足もとから衝撃波が起こる。
 真勇者のからだが地面へ叩きつけられる。
 魔法使いと戦士が魔術を放つ。
 だが、明らかに威力が落ちている。
702:
 真勇者が身を起こして、それをかわす。
 全員体力も魔力もほとんど残っていないのは、明らかだった。
勇者(これ以上長引いたら、勝てない)
 勇者は地面を蹴った。真勇者へ突進する。
勇者(集中しろ――この一撃にすべてをかける)
 残ったすべての魔力を一点に集中する。
 真勇者が炎弾を放ってくるが、かまわず勇者は突っこむ。
 真勇者との距離がほぼゼロになる。勇者は剣を横薙ぎに振るった。
真勇者「――お前では俺には勝てない」
 甲高い金属の音。真勇者の剣の一撃のほうがはるかに強かった。
 勇者の手から剣がはなれる。
勇者「!!」
703:
真勇者「これで終わりだ――!」
 真勇者が剣を振り上げる。勇者の手に武器はない。
 だが、こうなることはわかっていた。
勇者(オレはコイツに剣の腕でも勝てない――だから)
 初めからこのつもりだった。剣はおとりだった。
勇者「――終わりじゃないっ!」
 敵の剣を掻い潜り、全魔力をこめた拳を真勇者の顔面へとぶつける。
 
真勇者「――――っ!?」
 
 重い手応えが拳を通して伝わる。真勇者が吹っ飛び、地面を転がる。
704:
真勇者「…………かはっ……まだ、だ……」
 真勇者が身を起こし、立ち上がる。勇者は再び身構える。
勇者(まだ動けるのか。もう魔力が……)
 しかし真勇者は膝からくずおれ、地面に倒れ伏した。 
勇者「はぁはぁ……」
 勇者はその場から動くことができなかった。どれほどそうしていただろうか。
 不意に勇者の足の力が抜ける。全身を襲う虚脱感に思わず座りかけ、
戦士「大丈夫かい? 肩貸すよ」
勇者「サンキュ……」
僧侶「終わったの、か……?」
勇者「……たぶん。もうアイツからは魔力を感じない」
705:
勇者「戦士」
戦士「なに?」
勇者「オレをアイツのところまで、連れて行ってくれないか?」
戦士「……できれば、あんなおっかないのには近づきたくないんだけど」
勇者「頼む」
戦士「……わかったよ」
僧侶「私も肩を貸す」
勇者「僧侶……大丈夫なのか?」
僧侶「ムチャクチャな無茶をしたお前よりはな」
勇者「……ありがとう」
僧侶「ああ」
706:
勇者「よお」
真勇者「……っ! ……なぜだ……?」 
勇者「……」
真勇者「なぜ……お前が立っていて、俺が……こんなありさまなんだ……」
勇者「そういうこともあるんじゃないのか」
真勇者「わけが、わからない……俺より、はるかに劣るお前が、なぜ……」
勇者「オレもわからないよ」
戦士「勇者くんがわからないことは、これだけじゃないでしょ?」
勇者「うるせえ。……でも、そのとおりだ。
 オレにとって世界は、わからないことばかりだ」
707:
勇者「世界だけじゃない。自分のことだって、つい最近までわからなかった」
勇者「アンタの言うとおり、オレは造られた存在で……偽物だ」
勇者「でも、そんなオレでも死にかけてわかったんだ」
勇者「死にたくない。もっと生きたいって」
真勇者「生きて……それでどうする?
 お前のような存在が、生きてなにをするっていうんだ……?」
勇者「……知りたいことがたくさんある。やりたいこともたくさんある」
勇者「それに……こんなオレでも受け入れてくれる仲間がいる」
勇者「こんなオレでも、支えてくれる仲間がいる」
真勇者「仲間……」
勇者「あのとき、もう一度みんなに会いたいって思った」
勇者「難しいことはわからない。
 でもオレが生きたいって思う理由は、それで十分だった」
708:
真勇者「仲間、か」
勇者「アンタにだって、仲間はいただろ」
真勇者「……いたさ。大切な仲間だった……」
真勇者「この国が……俺の大切なものを奪ったんだ」
真勇者「……ああ、そうだ。俺もあの女と一緒だったんだ」
真勇者「自分の大切なものを奪ったこの世界に、復讐したいだけだったんだ……」
勇者「……」
真勇者「……お前ら三人は、どうしてコイツを助けるためにそこまで必死になれた?」
709:
戦士「べつに。いちいち理由なんてないし、そんなの考えることでもないでしょ?」
魔法使い「仲間だから、で、十分」
僧侶「それに、約束したからな。守るって」
真勇者「……結局、そんな簡単なことだったんだな」
真勇者「多くのものを犠牲にして、世界を変えようとしておいて……」
真勇者「こんな陳腐な結論が出てくるなんてな……」
真勇者「仲間に、会いたい……もう一度だけでいいから……」
勇者「……」
 
 なにかを言おうとして言葉が喉の奥で詰まる。
 こんなとき、どんなことを言えばいいのかわからない自分が、もどかしかった。
710:
勇者「……え?」
 手足の力が急に入らなくなる。景色がかたむいていく。
 なにが起きているのか理解できなかった。
 鈍い衝撃。なにかが床にたおれる音。
勇者(ああ、そうか……力、なくなったんだよな……)
 唐突にまぶたが重くなっていく。目の前が暗くなっていく。みんなの声がする。
 しかし、なにを言っているのかは全然わからない。
勇者(オレは……どうなるんだ…………オレは……)
『――――お前は生きろ』
 黒く塗りつぶされていく視界の片隅で、小さな光が灯った気がした。
711:
♪一ヶ月後
王「あ、とれた」
戦士「……さっきから難しい顔して、なにやってるんですか?」
王「見りゃわかるだろうが。耳掃除だ」
戦士「はあ……」
王「男は基本的に耳が剥き出しだからな。きっちり掃除しておいたほうがいいぞ」
戦士「ボク、髪長いんで」
王「お前はな。だが、女っていうのは意外と耳の裏とか見てるもんだぞ」
戦士「……そんなことを言うために呼び出したんですか?」
王「そんなことってなんだ。
 俺ほど長生きしているヤツの言葉だぞ。重みがあるだろ?」
戦士「年寄りの戯言にしか聞こえない……」
712:
王「まあなんで休日にも関わらず、呼び出したのかっていうと。 
 元老院のジジイどもの悪行、ようやく暴けそうなんでな」
戦士「……そうですか」
王「なんでそんなイヤそうな顔するんだよ」
戦士「また忙しくなると思うと、もうウンザリでして」
王「若いうちだけだぞ。無理して働けるのは、なあ?」
側近「おっしゃるとおりです」
戦士「……そうですね」
王「それと量産型勇者の中には、やはり人ベースのものも少なからずいるみたいだ」
戦士「それはまた、色々と手ごわい課題が出てきそうですね」
713:
王「そういや、今日だったか? アイツが旅に出るのは」
戦士「そうですね」
王「見送りには行かないのか?」
戦士「今生の別れってわけでもありませんし、昨日乱痴気騒ぎをしたばかりなんで」
王「ふーん、まあお前がいいって言うならべつにいいが、意外だな」
戦士「そうですか?」
王「ああ。なんだかんだ言いつつ、お前はアイツを見送りに行くものだと思ってたよ」
戦士「ちょっとした気づかいですよ」
王「気づかい?」
戦士「ええ、まあそんな大した話でもないんですけどね」
王「ふーん、まあいいか」
714:
王「とにかく、これから忙しくなるからこの連休でやりたいことはしっかりやっておけよ」
戦士「言われなくても、わかってますよ。
 それに今が一番盛り上がってるところなんで」
側近「演劇のことかな? 君は相変わらず、それに熱中してるみたいだね」
戦士「現実に辟易してますからね。夢のある物語を作りたくなるんですよ」
王「物語、ねえ。俺としては現実に勝る物語はないと思うが」
戦士「……ボクも正直そう思いますよ。
 でも、だからこそ、物語って存在してるんだと思うんですよ」
王「そうなのか? 俺は創作なんてしたいことないからわからんが。
まあ時間があったら見せてくれよ」
戦士「喜んで」
側近「ちなみに、君の作っている物語っていうのはどんなものなんだい?」
戦士「んー、詳細は話せませんけど」
戦士「ちょっとおバカで、決して強くない、でも仲間想いの勇者の物語です」
715:

竜人「まさかあなたが見送ってくれるとは思いませんでした」
魔法使い「あらそう? 逆に私以上に適した人間はいないと思ってたけど」
竜人「……」
魔法使い「どうしたの?」
竜人「いえ……あの、ひょっとしてアルコール飲みました?」
魔法使い「ふふふっ……もちろん。今後会うことなんて、そうないだろうし。
  このモードじゃないとしっかり話せないと思ってね」
竜人「本当に別人みたいですね」
魔法使い「よく言われるわ。でも、この状態を見れる人ってそういないのよ?」
竜人「昨日の酒の席で見たばかりなのですが」
魔法使い「あなた、すごい幸運ね。誇っていいわよ」
竜人「はあ……」
716:
竜人「しかし、予想していたのとだいぶちがう訪問になりましたね」
魔法使い「でしょうね。竜人、あなた途中から小間使いみたいになってたものね」
竜人「私は密使のはずなんですがね」
魔法使い「陛下もすごくあなたには感謝していたわ」
竜人「ええ。本人からここに残らないかって、何度も言われましたよ」
魔法使い「よかったわね。とっても気に入られているじゃない」
竜人「まあ……嬉しくないわけではありませんけど……」
魔法使い「困るわよね」
竜人「ええ、さすがにちょっと」
717:
竜人「……ひとつ、質問いいですか?」
魔法使い「どうぞ」
竜人「今後、我々魔族とあなたがた人間は、共存できると思いますか?」
魔法使い「すでに魔界では、できてるじゃない。人間と魔族の共存」
竜人「アレはまたべつの形だと思います。
 魔界の人間とこちらの人間では、色々とちがいがありますしね」
魔法使い「そうね。簡単な話ではないでしょうね。
  人間だけの世界でも、私たちのような存在がいるしね」
竜人「……やはり、難しいですよね」
魔法使い「ええ。でも、私もあなたも稀有な例をひとつ知ってるわ」
竜人「女王と魔王のことですね」
魔法使い「そう。結局彼女は利用されて災厄を起こすことになってしまったけど」
718:
魔法使い「でもあの災厄は、ふたりが理解し合おうとした結果から生まれたものでもある」
竜人「そうですね。よく考えたら、とっくの昔に前例はあるんですよね」
魔法使い「それに、私とあなたもけっこう仲良しじゃない?」
竜人「え、ええ……まあ……」
魔法使い「あら? どうしたの? ふふっ……顔色が悪いわよ?」
竜人「少しショッキングな出来事を思い出してしまって……」
魔法使い「あら? それはどんなことかしら? 
  よかったら話を聞きながら、それを実行してみたいわね」
竜人「絶対に嫌です」
魔法使い「あら、残念」
竜人「まったく……妻に知られたら、なんと言われることか」
719:
魔法使い「黙っていれば、絶対にばれないでしょ」
竜人「そうですけど……」
魔法使い「もう当分会うことはないって、さっき行ったけど。
  私はまた魔界へ行きたいと思ってるの」
竜人「……まだ、時間はかかるでしょうね」
魔法使い「ええ、そうでしょうね」
竜人「ですが、あなたが魔界へ来られる日を楽しみにしています」
魔法使い「じゃあ私が魔界を訪れたときは、また……」
竜人「そっち方面は遠慮します」
魔法使い「あら、残念。ではかわりに、握手をしておきましょうか」
竜人「それなら。……また会いましょう」
魔法使い「ええ、いつか必ず」
720:

勇者「そうかあ。オレ、本当に旅に出るんだな」
僧侶「なにを今さら言ってるんだ」
勇者「いや、なんか感慨深いっていうのかな」
僧侶「……本当に嬉しそうだな」
勇者「うん、なんかすごい心臓がドキドキしてる」
僧侶「でも、今回の旅はギルドの任務の一貫として扱われてるんだろ?」
勇者「まあな」
僧侶「しかも今回は一人旅だ。くれぐれも無理はするなよ」
勇者「わかってるわかってる!」
僧侶「本当にわかっているのか?」
勇者「もちろんっ!」
721:
僧侶「……もう少し様子を見るべきなんじゃないか?」
勇者「様子?」
僧侶「お前のからだの話だ」
勇者「でもメチャクチャ調子いいぞ?」
僧侶「……むぅ」
勇者「いや、まあたしかに、アイツがオレに力をくれなかったらヤバかったかもしれないけど」
僧侶「それならいいんだが……」
勇者「……どうして真勇者は、最期にオレを助けたんだろ」
僧侶「それは私にもわからない。
 ひょっとしたら助けた本人も、わかっていないのかもしれない」
勇者「……そういうこともあるんだよな」
722:
僧侶「旅のプランは決まってるのか?」
勇者「いちおう大まかには決まってる、って感じかな。
 あとは王様から預かってるものがあるから、それを届けに行ったりしなきゃいけない」
僧侶「おつかいってことか」
勇者「昔お世話になった知り合いから、借りっぱなしのものとか色々あるらしい」
僧侶「あの人は本当によくわからない人だ……」
勇者「ホントだよな。でも王様には大切なことを教わったよ。
 ……本当にオレってば、色んな人のお世話になってるんだよな」
僧侶「誰だってそんなものだ。どんな人だって、ひとりでは生きていけない」
勇者「……うん」
僧侶「それより、そろそろ行かなくていいのか?
 船の時間に間に合わなくなるぞ。十分程度の遅刻なら大丈夫だと思うが」
勇者「そうだったな。そろそろ行かないと……」
723:
勇者「僧侶、オレさ。色々経験して、勉強して成長してまた戻ってくるよ」
僧侶「……楽しみにしてる。ただ、怪我と病気だけには気をつけろ」
勇者「おう!」
僧侶「……」
勇者「……」
僧侶「……どうした?」
勇者「いや、なんか急に変な気分になったというか……」
僧侶「もしかして体調がおかしいのか?」
勇者「ちがう、そういうのじゃないんだ。なんだろ、この感覚」
僧侶「……もしかして不安になったか?」
勇者「不安?」
724:
僧侶「初めてすることって、同時に知らないことをするってことだ。
 そういうのはやっぱり誰だって緊張する」
勇者「なるほどねえ、緊張か」
僧侶「そのほうがいいんじゃないか、気が引き締まるし」
勇者「そうだな、そう考えておこうかな」
勇者(…………ああ、もしかして)
真勇者『仲間に、会いたい……もう一度だけでいいから……』
勇者(アイツが生き返ったときにはもう、周りに誰もいなかったんだよな……)
勇者(ひとり、か)
勇者「……あのさ、僧侶」
僧侶「なんだ?」
725:
勇者「えっと……その……なんて言ったらいいんだろ……」
僧侶「……もしかして、本当に旅が不安になったのか?」
勇者「いや、旅自体は大丈夫だと思うんだけど……その……」
僧侶「落ち着いて。あわてなくていいから」
勇者「…………真勇者の言ってたことを思い出してさ」
僧侶「うん」
勇者「アイツは封印を解かれたときには、もう仲間がいなかったんだよな。
 それを思い出したら、よくわからないけど不安な気分になって……」
僧侶「続けて」
勇者「……オレが旅から帰ったとき、みんなはなにしてるんだろ?」
僧侶「わからない。今と同じ生活を続けているかもしれない。
 そうじゃないかもしれない」
726:
勇者「そう、だよな……」
僧侶「それは神様にしかわからないことだ」
勇者「神様、か。神様、教えてくれないかな……」
僧侶「……教えようか?」
勇者「え?」
僧侶「私は神様じゃないけど。それでも教えられることはある」
勇者「……教えてくれ」
僧侶「勇者を待ってる」
勇者「……」
僧侶「勇者が旅から帰ってきたときに、おかえりって言えるようにこの街で待ってるよ」
勇者「僧侶……」
僧侶「約束する」
727:
勇者「……ありがとう。オレも僧侶と約束したこと守るよ、絶対に……!」
僧侶「男に二言はないからな」
勇者「もちろんっ。
 ……じゃあ、今度こそ行ってくる」
僧侶「気をつけて。いってらっしゃい」
勇者「――いってきます」
お わ り
728:
ここまで読んでくれた人、本当にありがとうございました
これにてこのシリーズは完全に終わりです。
次はSFもので会いましょう
729:
よかった
ここまで読み応えのあるssに出会えたことに感謝
732:

竜人……まさか酒の勢いで魔法使いと朝チュンを……
736:
感想ありがとうございます
>>732朝チュンは……してないです
よかったら
俺「うわあ!モジャモジャだ!」黒下着女「!?」
というssも書いてのでそっちも読んでください
737:
>>736あれ書いたの>>1かいwwww
あの姫と魔王の話からここまでの話になるなんて思わなかったわ

733:
もっと生きたいって勇者のとこで不覚にも涙が…

734:

すげーおもしろかった
73

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