ハリー・ポッター「僕の言うことを聞け」ダドリー・ダーズリー「……わかった」back

ハリー・ポッター「僕の言うことを聞け」ダドリー・ダーズリー「……わかった」


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ホグワーツでの実りある1年を終えたハリーはプリベット通り4番地へと帰ってきていた。
ここにはハリーの母親の姉であるペチュニア叔母さんと夫であるバーノン・ダーズリー夫妻が暮らしており、彼らは甥に当たるハリーのことを快く思っておらず、冷遇していた。
なので正直、もう二度と帰りたくない場所であったのだが、来年度が始まるまでは厄介にならざるを得ず、仕方なくハリーはただいまの挨拶をしてダーズリー家の玄関を開いた。
「誰かと思ったら、小僧。お前か」
リビングにはダーズリー叔父さんが居てハリーにおかえりとは言わなかった。しかし、それ以上何か言うわけでもなく静かなものだ。
「ただいま、叔父さん」
一応、挨拶を繰り返しておく。邪険にされるかと思ったがやはり叔父さんは静かだった。
叔父さんだけでなく、家全体が静まり返っていて、ハリーがホグワーツに行く前とは何かが違うような漠然とした違和感を覚えた。
「叔母さんは?」
「叔母さんは今、ちと取り込み中でな……」
言葉を濁した叔父さんを怪訝に思いつつ、洗濯物でも取り込んでいるのかと庭に目を向けると、2階から叔母さんの悲鳴が響いた。
----------------------------------------------------------------------------
2: 以下、
「今の、叔母さんの……」
「こうしちゃいられん!」
ペチュニア叔母さんの悲鳴を聞きつけたダーズリー叔父さんは慌てて2階に向かい、ハリーもその後を追いかけた。階段を上り終えるとそこでは、ダドリーの部屋の前で、叔母さんと息子の攻防戦が繰り広げられていた。
「お願いだから部屋から出てきて!」
「うるさい!! 放っておいてよ!!」
部屋の中からダドリーのおもちゃが次々と飛んできて、ペチュニア叔母さんの馬面に当たり、そして鼻血が吹き出した。ハリーは混乱のあまり思わず笑いそうになったが堪える。
流血した妻を見て顔面蒼白のバーノン叔父さんは、慌ててダドリーの部屋の扉を閉めた。
「ペチュニア、ひとまず手当てを……」
「でもあなた、このままじゃあの子が……」
「大丈夫。きっと時間が解決する筈だ」
ドアに縋りつこうとする妻を引き剥がすのに苦労しながら、バーノン叔父さんはペチュニア叔母さんをリビングに運んで手当てした。
ハリーは廊下に散乱したダドリーのおもちゃを見つめながら、自分の居ない間に一体何があったのかを想像して、気が重くなった。
3: 以下、
「小僧。飯は自分で買ってこい」
ペチュニア叔母さんの手当てを終えたバーノン叔父さんにお金を握らされ、ハリーは近所のスーパーにお弁当を買いに出かけた。
バーノン叔父さんも混乱していたのか1人分にしては多すぎる金額を手渡して来たので、ハリーはおやつを買いたい誘惑に駆られながらも、一応、ダーズリー家のぶんのお弁当も買った。
うだるような暑さの中、照りつける太陽の光がアスファルトを焼き、ハリーは汗だくになりながらスーパーとの往復を終える前に、自分のぶんは近所の公園で食べることにした。
何やら問題が発生しているあの家の中で食事をする気はどうしても湧かなかったからだ。
「ただいま。これお釣りと叔父さん達の分」
お弁当を食べ終え帰宅しお釣りとダーズリー家のぶんのお弁当をテーブルの上においた。
叔父さんはお釣りにもお弁当にも目を向けずに、じっとハリーを見つめてくる。なんだ。
「えーと、僕の顔に何かついてる?」
「小僧。お前は1年間、なんたら学校でおかしな勉強をしてきたのだろう。その、つまり」
「うん。魔法を学んできたよ」
魔法と口にすると、まるで拒絶反応を示すように叔父さんの顔が赤くなったが、爆発することはなく、言葉を選ぶようにこう尋ねた。
4: 以下、
「小僧。お前が学んだ中には役に立ちそうなものはあるのか? たとえば、不安定になってしまった精神を落ち着かせるものや……」
「叔父さん?」
ハリーは思わず訊ね返していた。あまりにもそれがおかしな問いかけだったからだ。
あのバーノン叔父さんがよもやハリーに対して役に立つ魔法の存在を確認するなんて。
「わしも悩んだ。しかし他に手立てが……」
「とりあえず、説明してくれる? ダドリーはいったいどうしちゃったの? 叔父さんはまさか、ダドリーに魔法をかけるつもりなの?」
「わしとてそんな如何わしいものに頼りたくはなかった。しかし、カウンセリングも受けないし、ペチュニアに対してもあの有様だ」
バーノン叔父さんは言葉通りに苦悩しているらしく、結論を急いだ。ハリーに詰め寄る。
「小僧、今のダドリーによく効く手段があるのかないのか、それだけ答えろ」
あるかないかと言えば、ない。そもそも未成年のハリーは学校の外では魔法を使えない。
ましてや非魔法使い族であるマグルに魔法を行使することなど、出来る筈もないことだ。
しかしそれで話が終わってしまえばこの家で何があったのかを聞き出すことすら出来ないと思い、ハリーは慎重に言葉を選び答えた。
5: 以下、
「まずは詳しい状況を教えて欲しい。じゃないと、魔法が効くかどうかは判断出来ない」
自分が校外では魔法を使えないことを伏せて、なるべく正論のようにハリーは諭す。
バーノン叔父さんは仕方なく、語り始めた。
「小僧が出て行ってから、ダドリーも学校に通い始めた。初めのうちは上手く行っていたようだが、ある日突然、もう学校には行かないと言って部屋に引きこもってしまった」
「理由は聞いたの?」
「何度も聞いたが、答えてくれんかった」
理由がわからないのではどうしようもない。
だからこそバーノン叔父さんも困っているのだろうと察した上で、別の角度から探る。
「学校のほうには問い合わせたの?」
「もちろんすぐにペチュニアと共に乗り込んだが、ダドリーに対してクラスメイトが何かしたわけではないようで、むしろダドリーのほうが他の生徒に迷惑をかけていたなどと、わけのわからないことばかり……」
それはわざわざ聞かずともわかることだ。
ダドリーが他の生徒を虐めていたとして、返り討ちになって引きこもったのならば因果応報であり、同情の余地はないが、あのダドリーが返り討ちになるとは思えず、何か別の理由があるのではとハリーは考えていた。
6: 以下、
「叔父さん。確認するけど、引きこもる前のダドリーは毎日怪我していたり持ち物がなくなっていたわけじゃないんだよね?」
「当たり前だ。もしそんな前兆かあったのならこうなる前に別の学校に転校させている」
だろうなと頷きつつ、少なくとも表面的な問題ではなく、内面的なことだろうと察した。
「わかった。あとはダドリーに聞いてみる」
「小僧……やはり、その……」
「魔法は最後の手段にするから安心して」
杖を取り出して軽く振ってみせると、バーノン叔父さんは一瞬緊張したらしく、ハリーが杖を仕舞うとほっとしてお腹を鳴らした。
「お弁当、叔母さんと食べてて」
「ああ……」
叔母さんもあんな調子ならずっと満足に食事も出来なかったのだろう。ガサゴソとスーパーの袋を漁る叔父さんはふと咳払いをして。
「小僧……ダドリーを、頼む」
ハリーは耳と目を疑った。肉に埋もれたバーノン叔父さんの顎がまるで頭を下げるかのように僅かながらも引かれたからだ。衝撃だ。
「……さっさと行け」
目をパチクリしていると、叔父さんに睨まれたので2階へと向かった。道中、何故自分がダーズリー家の問題を解決しなければならないのか、理由を探したが見つからなかった。
7: 以下、
「ダドリー」
ノックして、返事を待つ。応答はなかった。
「入るよ」
わざわざリスクを犯してまで魔法を使う必要はなかった。鍵は開いていて、部屋の中から物が飛んでくることもなくダドリーが居た。
「やあ、久しぶり」
「……帰ってたのか」
ダドリーは、意外にもスリムになっていた。
引きこもりで外に出ずにろくに運動もせず、さぞ肥えているだろうと思ったが、考えてみればハリーだって家の外にはあまり出して貰えなかったのにガリガリに痩せているのだ。
ホグワーツでは毎日美味しいご飯をお腹いっぱいに食べていたので、ダドリーよりも自分のほうが太ってしまったのではないかと不安に駆られたが、ハリーは横よりも縦に伸びていた。
「パパに言われて魔法をかけに来たのか?」
「まさか」
ダドリーのためにリスクを犯してホグワーツを退校処分になる筋合いはハリーにはない。
8: 以下、
「じゃあ、嘲笑いにきたのか?」
さて、どうだろう。そうなのかも知れない。
自分にはダドリーを救う気なんてこれっぽっちもなくて、ただ引きこもりになった嫌な従兄を嘲笑いに来ただけ。それだけだろうか。
「僕はともかく、叔父さんも叔母さんも心配しているよ。学校に行く行かないは別として、少なくとも部屋から出たほうが君にとっても良いんじゃない?」
なるべく正論に聞こえるように諭すとダドリーはふんと豚鼻を鳴らして見透かしてきた。
「パパとママにとってはその方が都合が良いだろう。そして今のこの状態が続くよりは、お前にとってもそのほうが都合良いだろ?」
どうやらダドリーは世間に揉まれてバカな子供から卒業したらしい。それなら話は早い。
9: 以下、
「今のところ実害はないにせよ、叔父さんと叔母さんはそのうち僕に責任転嫁しそうだからね。お前の杖から出る毒電波が、だとか」
「杖、あるのか?」
「あるよ、ほら」
ハリーがポッケから杖を取り出して見せると、ダドリーはスゲーと目を輝かせた。
「何かやってみろよ」
「また豚の尻尾を生やされたい?」
「いっそのこと完全に豚にしてくれよ」
杖を向けて軽く脅してみてもダドリーは動じずに、そんな投げやりなことを口にした。
その反応を見てこれはどうやら本当に重症のようだと判断したハリーは、本題に入った。
「何があったの?」
「学校が嫌になった」
「どうして?」
「どうしてだろうな」
ダドリーはハリーのことを拒絶しなかった。
バーノン叔父さんやペチュニア叔母さんには話せなかったことを誰かに吐き出したかったのかも知れない。ダドリーは顛末を語った。
10: 以下、
「パパの会社の社員の子供が周りに集まっていつの間にかリーダーみたいになってさ」
「裏で陰口を言われたりした?」
「そんなのは別に気にしない。ただそいつらが、クラスメイトをいじめてるのを客観的に見たら……もう学校に行くのが嫌になった」
その説明になるほどと、ハリーは納得した。
これまで自分がやってきた行いがいかに醜いものだったかを、ダドリーは知ったらしい。
「不登校の理由はわかったけど、どうして叔父さんと叔母さんにまであんな……」
「パパとママもお前をいじめてたろ?」
目から鱗が落ちたダドリーには、自分の両親の醜さもはっきりと見えてしまったらしく、両親が居ないハリーがもしも自分に置き換えたらと想像してみると、酷く吐き気がした。
自分の両親がクズなのは、子供にはキツい。
11: 以下、
「挙句の果てにあんなに蔑ろにしていたお前を頼って自分の息子に魔法までかけさせようとするなんて、パパもママもどうかしてる」
ダドリー。少し見ないうちに見違えたよ。
通常、親の庇護下に置かれた子供が自分の環境に疑問を持つことは難しい。それが現実。
それだけが現実であり、学校生活という環境の変化によって、違和感を覚えたのだろう。
形は違えど、ハリーにも覚えがあることだ。
「僕もホグワーツでギャップに苦しんだ」
「なんだ、向こうでも虐められてたのか?」
「逆だよ。向こうじゃ僕は英雄らしい」
ハリーは自分が赤ん坊の時に襲われたことや、両親が自分を庇って死に、そして独り残されたハリーが死の呪いを跳ね除けて、その悪党を退けたことを掻い摘んで話した。
「でも、別にお前は何もしてないよな?」
「そう。君が会社の社長ではないように」
ハリーはこれまでその事実を知らず、証拠として額に稲妻のような跡が残っただけで、それで英雄扱いされても反応に困ってしまう。
ダドリーも父親が社長なだけで自分自身は偉くもなんとない。似たようなものだった。
12: 以下、
「お前が英雄とはな」
「君が引きこもりとはね」
口に出すと、なんだかおかしくってふたりして噴き出した。久しぶりに、笑い合った。
久しぶりすぎて、最後にふたりで笑い合ったのがいつだったかは定かではないが、こうして仲良く笑い合った頃が、確かにあった。
「お前の学校のこと、聞かせろよ」
「いいよ。何から話そうか……」
9と4分の3番線という奇妙なホームのこと。
汽車で出会った、ロンとハーマイオニーのこと。そしてスリザリンに入寮して、あの銀色のお姫様と過ごした夢のような日々のこと。
「ガールフレンドか?」
「そうだったら嬉しい」
「可愛いのか?」
「それはもう、とびきり」
ハリーはドラ子・マルフォイのことを語る。
彼女がどれほどまで可憐で、可愛らしいか。
高飛車なところもあるが、それでも根は素直で良い子であること。やや潔癖なところ。
「今度うちに連れてこいよ」
「彼女は魔法族のお姫様だから、この家には来ないと思う。マグルのこと嫌いだし」
「うちも魔法族ならな。そしたらパパもママも少しはマシだったかも知れないのに」
「いや、魔法族にも悪い奴は居るよ」
「そうか。そいつにお前の親は……」
ヴォルデモートのような存在が居る以上、もしもバーノン叔父さんやペチュニア叔母さんが魔法族なら間違いなく闇の魔法使いとなっていたに違いない。ハリーは確信していた。
13: 以下、
「ともあれ、お前は楽しそうだな」
「まあね」
ハリーが学校生活を謳歌していることについてダドリーは僻んだり妬んだりしなかった。
「悔しがる顔が見れなくて残念か?」
また見透かしたようなことを言うダドリー。
お前はそんなに頭が良さそうじゃなかっただろう。そんな風に、自嘲げに笑う奴じゃなかっただろう。ハリーは何故か堪らない気持ちになった。
「学校、転校したら?」
「どこも同じだろ」
「少なくとも、叔父さんの会社の社員の子供が居ないところならマシだと思うけど」
「そこが楽しいなんて保証はない」
なんとか前向きな提案をしてみるも、ダドリーには根本的にやる気が失われていた。
「ダドリー」
ハリーは不思議な気分だった。
親身になって相談に乗る気はなかった。
しかし、放っておくことも出来なかった。
14: 以下、
「ホグワーツに入学するまでは、僕も毎日なんのために生きているのかわからなかった」
ダーズリー家での日々は過酷で、ハリーの生きる気力を削いでいった。無意味な日常。
無価値な自分。先が見えない未来。だけど。
「どこかに道はある筈だ」
何処かしら、何かしらのキッカケはあって、それを見つけたり手を伸ばすのは他人ではなく、自分にしか出来ない。だからダドリー。
「諦めるな」
「無理だよ……どこも同じだ」
「ダドリー・ダーズリー」
気がつくと、ダドリーの前には魔法使いが佇んでいた。少し見ないうちに背が伸びた、髪の色も目の色も自分とちっとも似ていない従弟が握りしめている杖の先端から、バチバチと火花が迸った。
「僕の言うことを聞け」
ダドリーにはハリーに命じられる筋合いはない。しかし引け目はあった。負い目もある。
これまでハリーにしてきたことを少しでも償えるのなら、ハリーに従おうとそう思えた。
「……わかった」
こうしてダーズリー家の騒動は幕を閉じた。
15: 以下、
ようやく部屋から出てきたダドリーを連れて1階に戻ると、そこはなんと地獄絵図だった。
ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅ?っ!
「ぬおおおおおおおおおおおっ!?!!」
「あなた、早くトイレから出てきて!?」
トイレからは耳を塞ぎたくなるような排泄音が響いており、切羽詰まった様子のペチュニア叔母さんが激しくドアをノックしている。
「お前、一体パパとママに何をしたんだ?」
「僕はただ、お弁当を買ってきて……」
買ってきて、届ける前に公園で自分のぶんを食べて帰った。そこでふと原因に思い至る。
真夏の陽気に照らされて、傷んだのだろう。
「きっと、太陽が弁当に魔法をかけたんだ」
「それで、パパとママは腹を壊したと」
「うん。まさに『便当』だったわけだ」
「フハッ!」
両親が苦しんでいるというのにダドリーは嗤う。まるで、これまでハリーを蔑ろにしてきた罰であり、因果応報だと言わんばかりに。
「こんなことになるなら、スネイプ教授に腹痛の薬の調合を教わっておけば良かったよ」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
傷んだお弁当を食べさせたと知れたら、叔父さんと叔母さんは更にハリーに辛く当たるだろうと想像して、ホグワーツが恋しかった。
【ハリー・ポッターと引きこもりの従兄】
FIN
16: 以下、
おまけ
マルフォイ家の屋敷の一室で、まるで妖精のように美しい少女が物憂げに溜息を吐いた。
真夏の陽気すらもひんやりとした冷気に変える銀色の妖精の名前はドラ子・マルフォイ。
純血の一族であるマルフォイ家のお姫様だ。
細く美しいプラチナブロンドの長い髪の毛を放射状にベッドに広げて、横たわっている。
大きな天蓋付きの寝台は、少し前までの彼女には明らかにサイズが合っていなかったが、ホグワーツで1年過ごして帰って来た今は、少しだけ寝台が小さくなったようにも見える。
もちろんそうではなく、成長したドラ子の手足が伸びたことでそう見えるだけである。
「しもべ、しもべ」
「はいはい、ドラ子お嬢様!」
「はいは1回よ」
手を鳴らしてマルフォイ家の屋敷しもべ妖精であるドビーを呼び出した。すぐに現れる。
もう今日だけで数えきれないほど呼び出されたドビーは正直言ってうんざりしていたが、それでもホグワーツから帰ってきたドラ子お嬢様はいくらかマシになったと感じていた。
17: 以下、
「ハリーはどうしてる?」
「ハリー・ポッターは現在……」
「あのお方には『卿』と付けなさい」
「はい、心得ました」
ドビーは命令通りにキーキー声で訂正した。
「ハリー・ポッター卿は現在……」
「ポッター卿でいいわ」
「はい、心得ました」
またこの流れかと、ドビーは何度も繰り返してきたやり取りに文句も言わずに従った。
「ポッター卿は現在……」
「やっぱりフルネームでお呼びして」
「お嬢様……」
結局振り出しに戻り、もういい加減にして欲しいのだが、恋するドラ子は気にしない。
「それで、ハリーはどうしてる?」
「ハリー・ポッターは現在、叔父と叔母の食べ物に毒を盛った罪により、監禁状態です」
「そう……あなたのせいでね」
「ドビーめはお嬢様の言いつけ通りに弁当に腹痛の呪いをかけただけでありまして……」
「不幸ね。ああご主人さま。おいたわしや」
潤んだ灰色の瞳からキラキラ涙を溢す、このお嬢様こそが黒幕であり、主犯格であった。
ドラ子は休み中にハリーを屋敷に招き、魔法界中の純血の一族を集めて、盛大なダンスパーティーを開きたかったのだが、父親の許しが出ずに、ならば仕方なく想い人と文通をしようとしても監禁状態のハリーに手紙が届く筈もなく、陰鬱とした日々を過ごしていた。
18: 以下、
「なんとかして助けてあげられないかしら」
ドラ子には決して悪気があったわけではなく、ハリーが帰ってきてもおかえりも言わないダーズリー家に天罰を下しただけだった。
それがかえってご主人さまを苦しめている現状を憂い、どうにか打破しようとしていた。
「しもべ、なんとかして」
「屋敷しもべ妖精に事態の解決は困難かと」
「そう、じゃあどうするの?」
そろそろそう来るだろうと思って、ドビーはドラ子と同じくハリー・ポッターを心配しているであろう友人達の動向を伺っていた。
「ウィーズリー家が動きを見せております」
「ウィーズリーが? 詳しく聞かせて頂戴」
「具体的には、どうやら空飛ぶ車に乗ってハリー・ポッターを救出する作戦のようです」
「車? 馬車ではなく?」
「はい、マグルが使う自動車でございます」
「ふん。いかにもウィーズリーが考えそうなことね。私ならペガサスで馬車を引くわ」
「しかしそれでは些か目立ちすぎます」
「うっ……それくらいわかってるわよ」
本当にわかっているのか怪しいところだが、銀色の少女はパチリと目を開け、寝台から起き上がる。成すべきことはすぐに理解した。
19: 以下、
「間抜けなウィーズリーのことだから空飛ぶ車をマグルに目撃される可能性が高いわね」
「おっしゃる通りで」
「念のため、お父様に頼んで魔法省の役人に根回しをしておくわ。それで、ドビー」
「はい、お嬢様」
恭しく礼をするドビーに、ドラ子は尋ねる。
「私はいつ、ご主人さまに会える?」
「近いうちに、必ず」
「具体的には?」
「2学年において必要な教科書などを購入する際、ダイアゴン横丁でお会い出来るかと」
「つまり、そのためにはハリーをあの家から逃がさないといけないということよね?」
「おっしゃる通りでございます」
「ならば、お前は私のしもべとして私のために動きなさい。屋敷しもべ妖精とて、救出時にマグルを足止めする程度は可能でしょう」
「はっ、かしこまりました」
命令を受諾して、パチンッと指を鳴らしてドビーは姿を消した。ドビーはハリーと出会ってからドラ子お嬢様はそれなりに、だいぶ、いや相当に、マシになったと感じている。
この根は悪くないお嬢様を良い方向に向かわさせるために、しもべは尽力を心に誓った。
「もうすぐ会えますね、ご主人さま」
恋するお嬢様は未だ、自分の父がかつての主君から賜りし日記を用いてハリーを試そうと画策していることなど知らず、ダイアゴン横丁での邂逅の際にはどんな服を着ようかしらと、また悩ましげな溜息を漏らすのだった。
【ハリー・ポッターと白銀のプリンシパル】
FIN
20: 以下、
好き
シリーズっぽいけど、前作あるならスレタイ教えて欲しい
21: 以下、
>>20
ハリー・ポッター「僕の言うことを聞け」ドラ子・マルフォイ「……はい」
どうぞ
元スレ
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品薄だったマスクが急に流通しだしたのってアベノマスクのおかげってマジ?

日本郵便「宛名」がなくとも配達へ NHK受信料徴収などを想定 料金は通常料金に200円を上乗せ

【悲報】日本語文法、難しすぎる

【衝撃】マ●コが臭すぎて店をクビになった風俗嬢のプレイ動画、辛すぎる・・・・・

マッチングアプリでマッチした女の子と会ってきた結果www

なんで犬の映画は飼い主とタヒに別れるとか、置き去りにされても待つとか、そんなんばっかりなんだよ。

向こうから日光へ行きたい、一緒に行こうと誘ってきた。→私「何時出発?」相手「何時でもいいです!」私「どうやっていくの」相手「お任せします」だと、もう行くのやめようかな。

劇場版ガンダムSEED制作決定

【ようやく】日本政府、氷河期世代のひきこもりの就労支援へ テレワークを活用

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