【シャニマス】芹沢あさひ「光の速さはどれくらい」back

【シャニマス】芹沢あさひ「光の速さはどれくらい」


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──事務所──
P(早朝のことだった。より具体的に言うと午前4時30分の出来事だ)
P(事務所の扉を開けると芹沢あさひが窓の外を見ていた。ハイライトのない静かな瞳が、薄暗い陽の光にユラユラと揺れている)
あさひ「あれ、プロデューサーさんじゃないっすか」クル
P「……」ポカーン
あさひ「どうしたんすか。こんな朝早くに?」
P「そ、それはこっちのセリフだよ。何をしてるんだ、こんな朝っぱらから」
あさひ「もう。質問したのはこっちが先っすよ」
P「……それはその通りだな。ごほん。俺は今日中に作らないといけない資料があったから、余裕を持って早めに出勤したんだ」
あさひ「ふむふむ。そうだったんすね」
P「それで、あさひは?」
3:以下、
あさひ「私は朝日を見てたんす」
P「……? 鏡くらい家にもあるだろう」
あさひ「それはあさひ。私が言ってるのは朝日。朝の日と書いて朝日っす」
P「あぁ、そっちの。しかし朝日を見に来たと言われても、それはそれで良く分からん理由だぞ」
あさひ「どうしてっすか?」
P「朝日を見に来た動機が分からない。それに朝日ぐらい、それこそ家でも見れるじゃないか」
あさひ「家だと窓が西向きなので陽の光がよく見えないんすよ。でも外で見ると虫に刺されちゃって、冬優子ちゃんに怒られちゃう。そこで事務所ってわけです」
P「なるほど……。ん、待て。事務所にはどうやって入ったんだ? 定時前入室はビルに対して事前の申請が必要のはずだけど」
あさひ「入ってないっす」
P「はい?」
あさひ「正確には今日は事務所に入ってないっす。昨日入ったまま、今まで身を隠してました」
P「……。……そのことは、怒られないとでも?」
あさひ「あはは。冬優子ちゃんにはバレないと思ったんすけど、思わぬ人に見つかっちゃいましたね」
あさひ「でも大丈夫っす。プロデューサーさんは冬優子ちゃんほど、怒っても怖くないっすから!」
4:以下、
P(この後俺があさひに対して、社会的かつ常識的な観点から説教を行ったことは想像に難くないだろう)
P(そして社会や常識以上に、女子中学生がたった1人で自宅以外の場所に寝泊りすることの身の危険性を口をすっぱく言い続けた結果、一応は納得してくれたみたいで)
あさひ「はぁい」
P(と、口をとんがらせてあさひは返事をした)
P「……まぁでも、色々偉そうに言ったとはいえ、興味に向かってまっすぐな姿勢に対しては尊敬もしているんだ」
P「それはあさひの良いところだと、本心からそう思っている」ゴホン
あさひ「プロデューサーさん……」
P「だからこそ、今度からは事前に相談してくれ。俺はあさひの考えを頭ごなしに否定するなんてことしないからさ。今までだってそうだったろ?」
あさひ「はいっす。でも相談とかを考える前に、身体が行動に移しちゃうんすよねぇ。善は急げを頭ではなく、身体の方が覚えちゃってるみたいで」
P「そ、そうなのか。それじゃまあ、尚更のことあまり強くは言えないけど……」
あさひ「でもでも、善を急いだ結果、すごいことを発見できたっす!」
P「ん? 発見?」
あさひ「発見も発見。世紀の大発見っすよ!」
5:以下、
P「そこまで言うのか」
あさひ「はい。この事実を公表すればノーベル化学賞どころか、世界を軽く一変させることになるっすね?」
P「ははっ。ちょっとハードルを上げ過ぎじゃないか?」
あさひ「そんなことないっすよ。これはニュートンが重力、エジソンが電気、そしてアインシュタインが相対性理論に匹敵するほどの大発見なんすから!」バッ
P「ま、待て待て待て。盛り上がってるところ悪いが、流石に話が大袈裟だと思うぞ」
あさひ「そうっすか? ふふふ、まぁ何を見つけたかを明かさずにこんなことを言っても、確かにはいそうですかと頷くことはできないっすよね」
P「……聞かせてくれ。あさひは何を見つけたんだ」
あさひ「プロデューサーさん、私は──」
あさひ「私は、光よりいものを見つけたんすよ」
6:以下、
──レストラン──
冬優子「……光よりいものぉ?」
P「あぁ、そうだ」
冬優子「そんなものあるわけないじゃない。仮にあったとして、唯の女子中学生であるあさひに見つけられるわけないでしょうに」
P「言いたいことは分かるが……でもな冬優子。あさひは唯の女子中学生じゃあないぞ?」
冬優子「あー? ……ふん、それもそうね。芹沢あさひはアイドルユニット・ストレイライトのセンターで、驚異的な記憶力と無尽蔵の探究心を持つ、手のつけられない恐るべき子供」
冬優子「あさひを指して唯の女子中学生って呼称は確かに不適切だし、不釣合だったわ」
P「うんうん。そうそう」
冬優子「で、それが何? ちょっとばかし特別であるあさひが、『光よりいもの』何ていう世界の常識がひっくり返るような大発見をしたと、あんた本気で信じてるわけ?」
P「いやぁ、信じてるっていうか……」
店員「ご注文をどうぞ」スッ
冬優子「ふゆは?、イチゴクリームパフェをお願いしますっ?」
P「あー、自分はディアボラ風スパゲティで」
7:以下、
スタスタ…
冬優子「……信じてるっていうか、何よ?」
P「あさひがそう信じるに値するだけの、何かしらを事務所で目撃したんだろうなって。それが本当に光よりいかどうかは別問題としてさ」
冬優子「何よそれ。答えになってないじゃない」
P「んー、言葉にするのは難しんだけど……ほら、あさひって聡い子だろう?」
冬優子「聡い子だろう、ですって? 呆れた。あんたにはあの子の傍若無人たる普段の振る舞いが、目に入っていないとでも言うのかしら」
P「傍若無人じゃないよ。その四字熟語は他人の目や声を全く気にしない人に使う言葉だ。あさひは意見を言えば素直に聞くし、その意見が納得できるかどうかを自分の頭でちゃんと考えてくれるじゃないか」
冬優子「……ふん。そうね、半分くらいは同意してあげる」
P「そのあさひが『光よりいものを見つけた』って言ったんだよ。それはつまり、あさひ本人が考えた結果、そう信じられるだけのことを目撃したというわけで」
冬優子「……つまり?」
P「つまり、だからまぁ、あさひがそう信じるに値するだけの何かしらを目撃したんだろうなって」
冬優子「はぁ。結局言ってることは同じじゃない」
8:以下、
店員「ご注文の品をお持ちしました。ごゆっくりどうぞ?」
スタスタ
P「……はいこれ、ディアボラ風スパゲティ」
冬優子「ん。ふゆのパフェと交換ね。……ありがと」
モグモグ パクパク
冬優子「だいたい、あんたはあの子のことを買い被り過ぎなのよ。案外『あの発言は冗談でしたっす?』で終わりかもよ?」
P「いやいや、あさひはそんな冗談を言うようなヤツじゃないって」
冬優子「ていうかさ、まだあさひの『光よりいもの』の答えを聞いてないんだけど」
P「……」
冬優子「あの子は何を指して『光よりいもの』なんてたいそれた発言をしたのかしら?」
P「それが……教えてくれないんだよ」
冬優子「はぁ?」
P「俺も何度か聞いたんだけど、まだ教えられないって。この大発見をサプライズチックに発表するために、事前に教えちゃ面白くなくなるって」
冬優子「お、面白くないって……はぁ。相変わらず物事を測る物差しが狂ってること」
9:以下、
冬優子「……でもまぁ、芹沢あさひらしいと言えばこの上なく芹沢あさひらしい考え方ね」
冬優子「いえ、この場合ストレイライトのセンターらしいと言った方が適確かしら。自分も観客も楽しませる、盛り上げ上手な考え方……」フッ
P「……」
冬優子「な、何よその顔。何か文句でもあるわけ?」
P「いいや。流石は冬優子、ストレイライトのリーダーだなと思ってさ」
冬優子「はぁ? 何あんたまでわけの分かんないこと言い出して……ん? あー、そういうことか!」ポンッ
P「どうした?」
冬優子「分かったのよ。あさひが言う、光よりいものの正体!」
P「え、えーっ?」
10:以下、
P「教えてくれ冬優子!」
冬優子「いいわよー。勿体ぶるような話じゃないしね。答えは思った以上にストレート……いいえ、ストレイライトだったわ」
P「はい?」
冬優子「ストレイライト、直訳で迷光。さて、光よりも先に登場するもの何でしょう?」
P「……。……"迷"って漢字?」
冬優子「ご明察。なんてことはないIQクイズだわ。おおかた事務所のホワイトボードに書いてあるユニット名でも見て、あさひは思い付いたんでしょうね」
P「ええと、まぁかろうじて納得できなくもない答えだけど……これが世界をひっくり返す大発見か?」
冬優子「世界っていうのはきっと、あの子なりの比喩表現だったのよ。さ、頭も使ったところだし甘いものでも食べましょう」
ヒョイパクッ
P「あ、俺のイチゴパフェ!」
冬優子「元はふゆのよ。ふふふっ」
11:以下、
──レッスン室──
愛依「歌うは真実か、狂気か。解き放たれた迷光が、今日も世界を奔る」
愛依「身に纏うは迷光、少女たちは偶像となる──」
ガチャ
P「愛依。お疲れさま」
愛依「あ、プロデューサー。お疲れさま?!」
P「こんな遅くまで口上の練習か。偉いな」
愛依「当たり前っしょ! うちは本番でセリフをよく噛んじゃうし、緊張してない時に十分過ぎるってほど練習しておかないと!」
P「うん! ますます殊勝な心掛けだよ」
愛依「ていうか、プロデューサーこそこんな時間まで何してたの?」
P「俺か? 俺は事務所の片付けをしていたんだ。今さっき一区切りついたから、愛依の様子を見にきたってわけ」
愛依「えーっ、超お疲れさまじゃん。言ってくれればうちも全然手伝ったのに!」
P「練習中のアイドルに手伝わせるわけにはいかないさ。……あーだけど、片付けてる最中に持ち主不明の漫画が大量に出てきたから、後で自分で持ち込んだものが無いかだけは見て欲しいかも」ハハ…
愛依「あはは?。ついみんな学校や自宅にいる感覚で、物を置きっぱにしちゃうんだよねぇ」
12:以下、
愛依「ちなみにさ、どんな漫画があったの?」
P「少女漫画から少年漫画からきらら系から手塚治虫まで様々だ。さすがに青年誌っぽいタイトルは無かったけどな」
愛依「漫画かぁ。そう言えばうちも事務所で何回か見かけたわ?」
P「少女漫画は凛世や智代子だろうな。忘れ物ってわけじゃなくて、お気に入りの漫画をみんなにも勧めるという意味で事務所に置いていそうだ。もしかしたら2人で1冊を買って、共同所有物として事務所に保管しているのかも知れない。2人は趣味が合うみたいだから」
愛依「ふむふむ」
P「少年漫画は甜花や樹里、夏葉といったところだろうか。樹里と夏葉は自分で買うというよりも、友人から借りたというものが多そうだ。ボロボロの本が割りかしたくさんあったから、クラスで回し読みをしたか、相当読み込んでいるかのどちらかだろう。前者が樹里と夏葉で、後者が甜花という推理だ」
愛依「ほうほう」
P「きらら系は甜花か冬優子かなぁ。でも、ポップアートという意味で摩美々が興味を持っていてもおかしくは無いだろうし、少し趣味の毛色が違うようにも思うが結華という線もあることはある。手塚治虫は正直想像のつかないところではあるけれど、BJつながりで霧子か、はたまた大穴で社長の私物という可能性も捨てきれない」
愛依「……ふふふ。随分と熱心に考えるんだね」
P「ははっ。別に誰が持ち主であろうと、事務所に置いていることを咎めようとかいう話じゃ全然無いんだけど、何だか考えるうちに楽しくなっちゃってな」
13:以下、
愛依「楽しい?」
P「あぁ、楽しい。当然だけどアイドルのみんなにはそれぞれ個性があって、趣味や興味も十人十色なわけだ。だからこうやって、あれは誰のだろうこれは誰のだろうと想像を巡らすことは、彼女たちの個性の豊かさを再確認できて、楽しい以上に嬉しく思うよ」
愛依「……そっか。流石はうちらのプロデューサーだね!」
P「いいや、流石なんて大層なものじゃ無いさ。俺自身が楽しいと、嬉しいと思ってやってることなんだから」
愛依「えへへ、そっか! ……なんだかプロデューサーってさ」
P「ん? なんだ?」
愛依「みんなのお父さんみたいだね。それもめっちゃ子煩悩の!」
P「なっ……! お、俺はまだそんな歳じゃないっ」
愛依「え?? じゃあ学校の先生かな。それもめ?っちゃ生徒思いの!」
P「それならまぁ……って違う。俺はみんなのプロデューサーだってば!」
アハハハ…
14:以下、
──ライブ会場・舞台袖──
シン…
冬優子「……静まり返っているとはまさにこのことね。しらけているのとは違う。何かが始まる前特有の、音ひとつない研ぎ澄まされた空間」
愛依「はぁ、緊張してきた。……でも、大丈夫。今日のためにたくさん練習してきたんだから!」
あさひ「真っ暗っすねぇ」
冬優子「……あさひ、何気の抜けたこと言ってるの。あと数分もしないうちにライブが始まるっていうのに」
あさひ「でも、真っ暗っす。暗転したままっす」
冬優子「……? そんなの当たり前のことじゃない。この後ふゆたちが華々しく登場するんだから」
あさひ「そしたら明るくなるっすか?」
冬優子「当然でしょ。暗いままやるライブがあるかってんの。何を今更、いつもそうでしょうに」
あさひ「そうっすよね。私もそう思うっす」
冬優子「全く、おかしなところに気がいくヤツね。まぁ、それもいつも通りか……」
15:以下、
冬優子「……愛依、準備OK?」
愛依「OKだよ。いつでも行ける」スッ
冬優子「うん。……あさひ?」
あさひ「もちろん準備はいつでも万端っす」
冬優子「ふっ。そうよね、あさひは──いいえ、ふゆたちはいつだって、準備万端で臨戦態勢よ!」
冬優子「さあ行くわよ。今日も最高のステージにしましょう!」ダッ
キャーキャー! ワーワー!
16:以下、
──ライブ後──
P「ライブの成功を祝って、乾杯!」
カンパ~イ!
P「今日のライブは本当によかったよ。もちろん成功を疑っていたわけでは無いけれど、こうして無事終わった後は、なんだか胸がスッと楽になるな」
冬優子「ふん。プロデューサーもまだまだね。これから数えきれないほどのライブをこなしていかなくちゃならないっていうのに、そんな心持ちじゃ先が思いやられるわ」
愛依「え?? そんなこと言って冬優子ちゃん、ライブ直後の控え室でずっと小さくガッツポーツしてたじゃん」
冬優子「ちょ、愛依! いらんこと言わなくていいの!」
アハハハ…
17:以下、
愛依「でさ?あの時の振り付けでさぁ」
冬優子「それはふゆも思ったわ。もっとあーしてこーして……」
P「……ん?」
あさひ「……」ボーッ
P「あさひ、隣いいか」スッ
あさひ「あ、プロデューサーさん。どうもっす」ペコ
P「今日は随分と口数が少ないじゃないか。料理にも手をつけていないし……少し疲れてしまったか?」
あさひ「いいえプロデューサーさん。元気はあってあり余ってるくらいなんすけど、頭の中が整理ができていなくって」
P「整理? 今日のライブについて自分なりに研究してくれているとか?」
あさひ「いいえ。ライブは関係ないっす。ライブどころかアイドルの話でも無いっす。私は、光よりいものについて考えていたっす」
18:以下、
P「あー……そうか。その正体について、まだ俺たちには言えないんだったな」
あさひ「そうなんすよ。だから自分の頭の中で整理をつけなくちゃいけないんすけどねぇ。これがなかなか難しくて」
P「……世界を変える大発見なんだろ? 難しくて当たり前さ」
あさひ「!! ふふ、プロデューサーさんの言う通りっすね。よーし頑張るぞー!」
P「あぁ、その意気だ」
あさひ「……。…………」スン
P「ん? あさひ?」
ガタッ ダダダッ!
P「あ、あさひ!?」
19:以下、
冬優子「な、何なのあさひのやつ。急に飛び出てっいって」
愛依「あさひちゃんが走って行ったの、お手洗いとは逆方向だったよね。あっちって確か、お店の出口しか無かった思うんだけど……」
P「……あさひのことは俺が追いかける。財布を置いていくから、冬優子と愛依はそのまま料理を食べててくれ。1時間経っても戻らなかったら先に帰っていいからな」
ダッ
冬優子「ちょ、ちょっとあんたまで……はぁ。忙しない連中だこと」
愛依「ねぇ、プロデューサーはああ言ってたけど、お会計済ませてうちらも後を追いかける?」
冬優子「誰がそんな面倒なことするもんですか。あいつらが帰ってくる前に、美味しい料理食べ尽くしてやりましょ」
愛依「でも……」
冬優子「あんたはあさひを甘やかし過ぎ! ほら、お肉がいい感じに焼けてるわ。取ってあげるからお皿貸しなさい」
20:以下、
──裏山──
P(夜の暗闇の中、あさひは天を仰いで突っ立っていた)
あさひ「……」
P「あ、あさひ。やっと、追いついた……」ハァハァ
あさひ「ん、プロデューサーさん? どうしてここにいるんすか?」
P「あさひが何も言わずに飛び出て行くから、急いで後を追ってきたんだよだよ。急にどうしたんだ?」
あさひ「あれ、言いませんでしたっけ。お店に入る時、建物の奥にこの裏山が見えたんす。それを思い出したので、ここまで走ってきたっす」
P「言ってないよ……。それに、なんで裏山?」
21:以下、
あさひ「あっ。雲が空ける」スッ
P(あさひが空を指さした。風で雲が流れ、満月があたりを薄く照らす)
あさひ「月の光がキレイっすねぇ」
P「……そうだな」
あさひ「月の光は光だと思いますか?」
P「え? そりゃあ光だろう。確か太陽の光を反射してるって話だから、反射光だ」
あさひ「光は1秒間に地球を7周半するんですってね。でも、私が見つけた"アレ"は、それよりもずっとずっとい」
P「……。…………」
22:以下、
P(光よりいもの。果たしてそんなものが本当にあるのだろうか)
P(あったとして冬優子の言う通り、あさひに見つけられるような代物なのだろうか)
P(──答えはきっと、分かりきっている)
P(俺は何も言わず、あさひと一緒に夜空に浮かぶ月を眺め続けた)
23:以下、
──
冬優子「──こらっあさひ!!」
ビクッ
あさひ「ふ、冬優子ちゃん。それに愛依ちゃんも!」
P「え、どうして2人ともここに? 料理は?」
冬優子「料理なんてとっくに食べ終わったわよ」
P「あ、もうそんな時間なのか。でも、それじゃあ先に帰っててもよかったのに」
冬優子「ふん。食後の運動でなんとなく裏山を散歩してたら、あんたたちを偶然見つけたってだけよ。ねぇ愛依」
愛依「ん? うーん、そうだったかな。んー、そうだったかもねー」
あさひ「丁度いいっす。2人も一緒にお月見をするっすよ!」
冬優子「はぁ? なに呑気なこと言ってんのよこの食い逃げ犯。あんたね、ふゆたちがいなかったら警察沙汰になっていたのよ! その自覚はあるわけ!?」キッ
あさひ「! ……ご、ごめんなさいっす」
冬優子「プロデューサー、あんたもあんたよ。何あさひと一緒にぼーっと突っ立ってるの? あんたら共犯だったのかしら!?」キッ
P「め、面目ない……」
24:以下、
冬優子「……罰として、これから二次会行くから。ふゆの指定するお寿司屋さん。言っておくけど高いからね」
P「あ、あぁ。今日はライブ成功のお祝いだったんだ。それぐらいさせてくれ」
冬優子「当然よ。まだ成功のお祝いも、これからの作戦会議もちゃんとできてないんですもの」
あさひ「あっ、そう言えば私ハラペコっす。やった! おすし、おすし♪」
冬優子「はぁ、鈍感も度が過ぎているわね。ライブ後から何も食べないで平気となったら、いよいよあんたは化物よ。せいぜいプロデューサーのお金でたらふく食べることだわ」
あさひ「はいっす!」
P「はいっすって……いや、いいんだけどさ」
愛依「……本当優しいね、冬優子ちゃん」クス
冬優子「愛依、何か言ったかしら?」
愛依「ううん、お寿司楽しみだなーって♪」
冬優子「よし。それじゃあ早出発するわよ!」
オーッ!
25:以下、
──休日・公園──
P「……」
 あさひ『私は、光よりいものを見つけたんすよ』
 あさひ『光は1秒間に地球を7周半するんですってね。でも私が見つけた"アレ"は、それよりもずっとずっとい』
P「……」ボーッ
スッ
真乃「プロデューサーさん?」
P「ん……? あれ、真乃じゃないか」
真乃「ふふふ、休日に奇遇ですね。プロデューサーさんもお散歩中ですか」
P「ああ。ぼーっと考え事をしたいときなんかに、たまにこの公園のベンチに来るんだよ」
真乃「ふふ……その気持ち分かります。お隣に失礼してもいいですか?」
P「ああ、勿論だ」
26:以下、
──
P「いいなぁ、こういう休日の過ごし方って。落ち着くっていうか安らぐっていうか」
真乃「うふふ。はい」ホワ…
P「……真乃が隣にいると、いつもよりリラックスできる気がするよ」
真乃「ふぇっ? そんな……ありがとうございます」
P「真乃はすごいな。一緒にいるだけで他人を癒すことができるなんて」
真乃「……///」
P「真乃?」
真乃「いや、ええと……そうだプロデューサーさん。私おにぎり作ってきたんです。プロデューサーさんも食べませんか?」
P「え? 悪いよ、自分で食べるために作ってきたんだろ? それを俺になんて……」
真乃「いいんです、ちょっと作りすぎちゃったくらいなので。はいっ、どうぞ」
P「そ、そうか? じゃあお言葉に甘えていただこうかな」
27:以下、
モグモグ…
真乃「……プロデューサーさん。これはもしかしたら、聞くべきことではないのかも知れないですけど」
P「ん?」
真乃「考え事をしたい時に公園に来るって、そうおっしゃっていましたよね。つまり今日は、何か悩みがあってここに来たってことなんでしょうか?」
P「あー……心配かけてごめん。でも別に、悩んでるわけじゃないんだ。だってこれはきっと、明確な正解が存在しないタイプの話だからさ」
真乃「?」
P「……例えば真乃。自分の子供ができたとするだろ」
真乃「こ、子供?」
P「例えばの話だよ。自分の子供が、こう言ってきたとしたらどうする?」
P「お父さんお母さん。私は宇宙飛行士になりたい……って」
真乃「……!」
P「それは、100%叶わない夢じゃない。だけど多くの場合は、実現することのない夢だ」
28:以下、
P「親は子供に何て声をかけるべきだろうか」
P「頑張ってね応援してるよ? 現実的な夢じゃないから別のことを目指しなさい?」
P「……肯定にしろ否定にしろ、どちらにしたって残酷だ。本音にしろ嘘にしろ、子供はきっと傷つくだろう」
P「それでも俺は、どちらかの言葉を選択しなくちゃいけない。だって、それが親として果たすべき責任なんだから」
真乃「……」
P「正解が存在しないって言ったのは、つまりそういうことだよ。どちらを選んだって正解だし、どちらを選んだって間違っている」
P「だからこれは、悩む悩まない以前の、単なる考え事なのさ……」
真乃「……プロデューサーさん」
29:以下、
P「ごめんな。昼下がりの公園でする話じゃなかったよ」
真乃「いいえ……。でも、私ビックリしちゃいました」
P「そうだよな。急にこんなシリアスな話をしたら、誰だって──」
真乃「プロデューサーさんってお子さんがいたんですね」
ズコーッ!
P「い、いないよ。どうしてそうなるんだ!?」
真乃「え、だって、子供とか親としての責任がどうとか……」
30:以下、
P「それは例え話だって言ったじゃないか」
真乃「私に対しての例え話で、プロデューサーさんの経験談なのかと、私てっきり」
P「ち、違うって。そもそも俺はまだ、物心ついた子供がいるような年齢じゃないだろ?」
真乃「はい。だからビックリしちゃったんです」
P「……ええとだな、つまり子供云々は比喩表現で、俺は俺のアイドルについて悩んでるってことなんだよ」
真乃「ほわ……やっぱり悩んでたんですね」
P「あっ」
真乃「しかも、アイドルの話だったんですね」
P「うぐ……」
31:以下、
真乃「もう、プロデューサーさんは意地悪さんです。それならそうと、初めから言ってくれれば良かったのに」クス
P「も、もう。調子狂うなぁ」
真乃「……だけど、ならば話は簡単じゃないですか」
P「簡単って……何が?」
真乃「だって、プロデューサーさんは私たちのプロデューサーさんなんですよ」
真乃「私たちの親ではありません」
P「……!」
真乃「夢が叶う叶わないで悩むのは、私たちの責任であり権利です」
真乃「それは、プロデューサーさんの持ち物ではないと思いますよ」
32:以下、
P「……」ポカーン
バサバサバサッ…
P「あ、鳥が集まってきた」
真乃「ふふふ。私が座っていると、なぜだかみんな来てくれるみたいで」
P「はは……鳥の気持ちが分かる気がする。真乃の側は、何故だかとても居心地がいいから」
真乃「ほわ……」
P「……。俺は真乃たちの親じゃない。うん、真乃の言う通りだ」
真乃「え、偉そうなことを言ってしまってすみません……」
P「ううん。偉そうだったのは俺の方だよ。みんなの権利を、勝手に自分の責任だと思い込んでいたんだから。それはとんでもない思い上がりだった」
真乃「え? いえ、そう言う意味じゃなくて、むしろプロデューサーさんばかりが荷を背負う必要はないって意味で私は……」
P「いいんだ。俺はアイドルたちの親じゃない。愛依にそう言ったのは俺のはずなのに、何故だかすっかり忘れてしまっていた」
P「あるいは自覚がなかったのかもしれない。知らないうちに傲慢になってしまっていたのかも。それに気づかされたよ、ありがとう」
33:以下、
モグモグ… ゴクン
P「おにぎりご馳走様。真乃」
真乃「いえいえ。お粗末様でした」フフ
P「……俺はもう少しベンチで休んでいようと思うけど、真乃はどうする?」
真乃「じゃあ私ももう少しだけ。勿論、プロデューサーさんのお邪魔じゃなければですけど」
P「邪魔なんてとんでもないよ。……あ、そうだ、事務所に漫画が大量に置いてあるってこと、真乃は知っているかな?」
真乃「ええ、知っています。実は何冊か借りさせてもらっていて……」
P「そうなのか。俺も借りて読んでみようかな。何かオススメの漫画はあるか?」
真乃「はい。ええと私のオススメは……」
アハハ… ウフフフ…
34:以下、
──社用車──
ザーッ
P「外、雨が降ってきたね」
あさひ「そうっすねぇ」
P「あさひ。学校はどうだった?」
あさひ「んー、普通っす。あ、でも給食で見たことのないカラフルな豆が出たっす。あれは面白かった」
P「面白いって……味の方がどうだったんだ?」
あさひ「さぁ? 食べないで校庭に埋めてきたので」
P「お、おいおい……」
あさひ「きっとカラフルな木に育つっすよ。今から楽しみっす。ふふふっ」
P「……あぁ。そうだなぁ」
ブーン…
35:以下、
──
P「あちゃー渋滞だ。全然進まない。この雨だから、まぁ仕方のないことだけど」
あさひ「……」
P「なぁ、あさひ。悪いけど、遅れるってこと冬優子と愛依に連絡しておいてくれるか?」
あさひ「……。プロデューサーさん」
P「ん、どうした?」
あさひ「──光よりいものを見つけた、なんて、馬鹿げてるっすかね」
ザーッ…
P「……え?」
あさひ「学校の同級生に話したっす。私は、光よりもいものを見つけたって」
あさひ「そしたら、そんなの馬鹿げてるって言われちゃいました。普通に考えたら分かるって、常識的に考えたらあり得ないって、理解できるって……」
36:以下、
P「……」
あさひ「ねぇ、プロデューサーさん。今ここで話してみてもいいっすかね」
P「話すって……何を?」
あさひ「私が見つけた、光よりいものの正体について」
P「……俺はいいけど、あさひはいいのか? 発表するその日までみんなには秘密にしておくって、そう言ってたじゃないか」
あさひ「気が変わったっす。それに……プロデューサーさんになら、話してもいいかなって」
P「……。そうか。じゃあ、お願いするよ。話してみてくれ」
あさひ「”暗闇”っす」
P「……何が?」
あさひ「暗闇。それが光よりもいものの正体」
37:以下、
あさひ「光の前には必ず暗闇があるっす」
あさひ「懐中電灯で物を照らせるのは、その空間が暗いから。月明かりがキレイなのは、その時間が夜だから」
あさひ「……深夜の事務所は暗かったっす。だけど朝日が差し込んできて、事務所は光に包まれました」
あさひ「ライブ前のステージは暗かったっす。だけどスポットライトに当たって、私たちはお客さんから見えるようになりました」
あさひ「光の前には、必ず暗闇があるんです。朝の前には夜が、点灯の前には暗転が」
あさひ「暗闇が必ず光の前にあるならば、光は暗闇の後を追っているに過ぎない」
あさひ「だから暗闇は、光よりい」
38:以下、
ザーッ
あさひ「……。冬優子ちゃんと愛依ちゃんに連絡っすよね。了解です、やっておくっす」
P「あ、うん。ありがとう」
あさひ「……どう思ったっすか?」
P「……ん。面白い発想だと思うよ。あさひはやっぱり頭が柔らかいな。すごいよ」
あさひ「そうじゃなくて──」
P「あさひ。俺はあさひの発言に、肯定も否定もする気はないよ」
あさひ「え……?」
39:以下、
P「だってそれは、俺が決められることじゃないから。──あさひ自身が考えなくちゃいけないことだから」
P「あさひが大発見をしたと言った。友達に常識的にあり得ないと言われた。俺はあさひのアイディアを面白いと思った」
P「全部ひっくるめて、あさひは考えなくちゃいけない。暗闇は光よりいのか、この発見は果たして本当に大発見なのか」
あさひ「……」
P「それだけじゃない」
P「なぜ無断で事務所に外泊しちゃ駄目なのか。女子中学生が寝泊まりして危険ってどう言う意味なのか」
P「ライブは成功したか。月はキレイかどうか。食い逃げの何が悪いのか。寿司は美味しかったか」
P「校庭に埋めた豆が育つのかどうか。常識とは何か。同級生が言ってることが正しいのか。自分が言ってることが正しいのか──」
P「全部全部、見て聞いて考えて決めるのはあさひ、お前自身だ」
あさひ「……。…………」
ポタ… ポタ…
P「……雨、上がったみたいだな」
40:以下、
ガチャッ ダッ
P「ちょ、あさひ!?」
あさひ「 」パクパク
P「き、聞こえないよ。待って、今窓開けるから……」
ウィーン…
あさひ「プロデューサーさん! 見てくださいっす! ほら!」バッ
P「? 天上天下唯我独尊?」
あさひ「違うっす! 空!」
P(あさひが指差した先の空には、濃くはっきりと7色の虹がかかっていた)
41:以下、
あさひ「虹っす! キレイっす!」
P「おーそうだな。……でもなあさひ、いくら渋滞で車が止まっているとは言え、そこに立つのはよくない。早いとこ戻ってきてくれ」
あさひ「虹なんて久しぶりっす! やったやった、ふふふっ♪」
P「……全く」クス
あさひ「今日の豆を見てから虹が見たいなって、ずーっと考え込んでいたんすよ。それがこんなに早く叶うなんて、私ついてるっす!」
P「……ん? まさかあさひ、それで表情が暗かったのか?」
あさひ「え? 私表情暗かったっすか?」
P「いや……どうだろうな。雨のせいで車内が暗くて、そのせいかも知れない」
42:以下、
バタン
P「おかえりあさひ」
あさひ「ただいまっす! そうだ、冬優子ちゃんと愛依ちゃんにも虹のこと知らせてあげないと!」
P「渋滞で遅れそうってことも伝えておいてくれ」
あさひ「あ、忘れてた。了解っす!」
ポチポチ…
P「……こうやって晴れたのも、もしかしたらあさひのおかげなのかもな」
あさひ「ん? どういうことっすか?」
P「あさひがカラフルな豆を植えてくれたおかげで、カラフルな虹が生えてきたのかも知れない。ふと、そう思っただけだよ」
あさひ「??? それはいくらなんでも物理的にあり得ないと思うっすけどね?」
P「は、はは……」
43:以下、
あさひ「でもそう言われると、虹ってなんでカラフルなんすかねぇ。空は青の1色なのに、虹は7色もあるなんて」
あさひ「不思議っす。不可思議っす。何か理由があるのかな?」
P「ええと、確かそれは──」
あさひ「あっ、言わないでください」
P「え?」
あさひ「こういうのは、自分で考えるから面白いんすよ!」ニコ
P「……! うん。そうだな」
ブーン…
44:以下、
P(虹が7色に見えるのは、水滴中を通った太陽光が7色に分解されるから)
P(進行方向の違いによって光が屈折し、異なる色を映し出すから──)
P(答えは分かりきっている。正解はすで存在するのだ)
P(俺があさひの親や先生だったら、理屈と一緒に正解を教えてあげるべきなのだろう)
P(でも、俺はプロデューサーだ)
P(あさひの、ストレイライトの、そしてアイドルみんなの……)
45:以下、

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