少女「お兄、すき」男「そうか」その2back

少女「お兄、すき」男「そうか」その2


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ーーー夜ーーー
カチャ...
薬屋「遅かったじゃないか」
男「……」
薬屋「お前が居ない内に…それ、仕上がったぞ」
男「そいつが?」
薬屋「奴の作った肉体強化、その解除薬だ」
薬屋「驚いたよ、あの男あんな性格をしておいて後遺症がほとんど残らないような分子構造を採用していた。大方、研究材料の使い回しがきくだとかいった理由だろうがね」
男「油のような液体だな。飲めばいいのか?」
薬屋「エーテル溶液だよ。液状の方が体内へ入れやすいだろ?血管から入れようが経口摂取だろうが構わん」
男「…さすが。本当に数日で特効薬を作り出すとはな」
薬屋「……忌まわしい事実を、早く終わりにしたいだけだ」
薬屋「こんな才能など…私にとっては呪いでしかない…」
男「………」
男「昼間の事」
男「けしかけたのは向こうらしいな。だが、お前も相当ムキになったと聞いた」
薬屋「あの女は敵だ。なぁ男、殺しはしない、私達が居る間だけあいつを眠らせておいては駄目か?」
男「しなくていい。俺がよく言い聞かせておいた」
薬屋「何をっ」
男「俺が誰のものか、お前は誰のものか」
薬屋「……」
男「あの子も本気で俺達の邪魔をするつもりはないはずだ。それでも角を立てるような事をしたのは…薬屋、お前のあしらい方に何か思うところがあったんじゃないのか?」
薬屋「…私を責めるのか?」
男「違う。これ見よがしに俺の名前でも出したんだろう」
薬屋「っ」
男「……」
薬屋「……」
男(あれほどの事があろうと、変わらないなこいつは)
男「薬屋、こっちに来い」
薬屋「………」
...タタタッ ヒシッ
薬屋「男が居ないと、私は……堪らなく不安になるんだよ……」
男(出会った時から向けられるこの目は、何も変わらない)
男「俺は居なくならない。絶対にな」
薬屋「……」ギュ...
63: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/01(水) 15:35:43.95 ID:y3XyzfXm0
男「………薬屋。改めて俺はお前に興味がある」
薬屋「…それはそういう意味か?」
男「否定はしないが、お前の過去を知りたいんだ」
男「お前が薬屋として生きるようになった理由……妹や親の事…」
男「掘り返したくない過去だというのなら無理強いはしない」
男「…どうだ?」
薬屋「………」
薬屋「……面白い話ではないぞ……」
男「それでも、だ」
薬屋「……」
薬屋「父と母の事は今でも覚えている。物心ついた時でも一人娘の私を優しく育ててくれたものだ。私が薬剤に興味を持つのも反対するどころか後押しするくらいだった。誰もが羨む幸せな家庭がそこにはあった」
薬屋「表面上は」
薬屋「…父はある日突然姿を消した」
薬屋「後で知ったが、不倫先に作った借金のカタに"粛清"されたんだそうだ」
薬屋「そして元々依存体質だった母はその日を境に豹変した」
薬屋「母曰く、私は忌子であるらしい。それから毎日毎日、罵られ、叩かれ蹴られ投げつけられ…」
薬屋「母が母でなくなっていくほど、私は唯一の拠り所である薬学にのめり込んでいった」
薬屋「彼らは結局、私に優しかったのではなく私に関心が無かっただけなのさ」
男「……」
薬屋「そんな折、転機は訪れた。私が匿名で公開していた論文がその道の権威の目に留まり、私の家を訪ねてきたんだ」
薬屋「彼は私の居る環境を知ると半ば無理 矢理母を引き剥がし、私を連れ出した」
男「親元から離れる事に抵抗しなかったのか?」
薬屋「何も思わなかったね」
男「…そうか」
薬屋「引き取り先は何処ぞの研究施設の一画。そこで初めて顔を合わせたのが……」
薬屋「…お前が少女と名付けた幼子だ」
男「!」
64: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/01(水) 15:36:15.82 ID:y3XyzfXm0
薬屋「碌でもない父親が残した愛人の子。奴らが私達を引き合わせたのは情けでもなんでもない。私という人間を担保する為」
薬屋「その頃の私は研究に身をやつすことでしか生を感じられない生き物であったが…なかなかどうして他人を利用してきた人間は人心掌握に長けていてな、唯一の肉親に心を寄せるよう誘導していった」
薬屋「そうして私が易々と逃げられぬよう、体のいい人質が出来上がったわけだ」
薬屋「奴らは自分達に協力し続ければ生涯の地位と生活を保証すると、そう言ってきた」
薬屋「……はっ、信用すると思うか?」
薬屋「案の定、盗み聞いた話によれば私と少女は用が済めば貴族に売られる手はずになっていたようだ。"愛玩具"としてな」
薬屋「最早留まる価値などない。妹を連れて離れたさ」
薬屋「金だけはたらふく貯め込んでいたみたいだからな、拝借させてもらった」フッ
薬屋「とはいえ当てもなく彷徨っていてもいずれ限界が来るのは明白。だから私はーー」
男「依頼を出したんだな」
薬屋「…そこからは話す必要もあるまい」
男「なるほど…。あれが直接出された依頼だったとは」
男「だが少女はどうした?初めてお前と会った時も姿は見えなかったが…」
薬屋「隠していたに決まってる。わざわざこちらの弱点を晒すことはないしな」
男「依頼相手を騙していたわけか」
薬屋「とっくに時効だろう?」
男「悪いが俺の契約は治外法権だ」
薬屋「なら何をするんだ?今の私に」ジッ...
男「………」
.........
65: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/01(水) 15:37:02.29 ID:y3XyzfXm0
薬屋「…男、寒い」
男「もっと寄れ」
モゾ...
薬屋「随分と荒い違反料だ」
男「よく言う。煽ったのはお前だろうに」
薬屋「…ふふ」
男(……)
男「…些末な疑問だが、もし依頼を受けたのが俺じゃなかったらお前は」
薬屋「あり得ないね」
薬屋「例え話であろうと私が男以外に心を預けるなど、あり得ない」
男「……」
男「そこだけは母譲りだな」
薬屋「…そうだよ。お前だけが私の存在価値なんだ」
...ギュー
男「薬屋?」
薬屋「それでも、お前はまた行ってしまうんだろう?」
男「何を」
薬屋「仇討ち。自ら死地に赴こうとしている」
男「俺は死なない。必ず戻ってくる」
薬屋「……そうじゃない……」
薬屋「男を失う可能性が僅かにでもあるのが……嫌なんだ……」
男「………」
66: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/01(水) 15:38:14.45 ID:y3XyzfXm0
薬屋「………なぁ」
薬屋「このまま、二人で逃げてしまわないか…?」
薬屋「鉤鼻男のアンチドーテなら完成した。後は残った者がばら撒いてくれるだろう…」
薬屋「私と男が消えたところで俗世の何が変わるわけでもない」
薬屋「男……」ミアゲ
男「…少女はどうなる?」
薬屋「っ……」
男「………」
男「貴族に売られる身と知った時、お前は少女を連れて逃げたと話したな」
男「お前は何のために逃げた?研究を続けるためか?単に束縛を逃れるためか……いずれにせよ少女を連れ出すのはお前にとって大きいリスクだったはずだ」
薬屋「……」
男「お前にもまだ、他者を想う心は残っている」
薬屋「………」
薬屋「」ギュ...
男(いかなる要因が、どれほど個人の性格に影響を与えるかなど分かりはしない。ある者は己のみで生きる術を教わるかもしれない。ある者は人を信頼する事を辞めるかもしれない)
ーーーーー
少女「――お兄!」
ーーーーー
男(…なればこそ、あの子の時間をここで途切らせたくない。一度失った機会…)
男「…薬屋」
男「俺と共に行くか」
67: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/01(水) 15:38:53.81 ID:y3XyzfXm0
ーーーーーーー
総裁「……感じますね」
総裁「もうじきですか」
総裁「」ゾクゾクッ
総裁「待ち遠しい……」
69: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:17:32.49 ID:RJVfJNbM0
ーーー翌朝ーーー
ジャー カチャカチャ
...キュ
町娘「ふぅ…洗い物もおしまい」
町娘(皆さんの分の食事を用事する……やってることは普段のお仕事と変わらないのに、少し不思議な感じ)
町娘(本当はお父さんも起きられるようになったから、もう営業再開出来るんだけどね)フフッ
町娘(…男さん、後どれくらいここに居るのでしょう)
薬屋「おい」
町娘「…なんです?昨日のことなら私は――」
薬屋「それはもういい。私が未熟なせいもあった…悪い」
町娘「!」
町娘(……)
町娘「…いえ、私もあなたのことは言えないですし…ごめんなさい」
薬屋「だからそれはいいんだ」
薬屋「その代わり、少し付き合って欲しい」
町娘父「町娘、そろそろうちも商売再開しようと思うのだが備蓄は…」
町娘父「…おや誰も居ない。出かけているのかな」
町娘父「ふむ、買い出しくらい私が行こうか。あの子にはいつも苦労をかけてしまっているからね」
70: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:18:37.59 ID:RJVfJNbM0
ーーー町 商街区ーーー
町娘「ちょっと待って下さい…!いですって!」タッタッ
薬屋「もたもたしてる暇はない」スタスタ
町娘「もっと周りを警戒しながら行かなくては」
薬屋「私もお前も顔は割れてないだろう。無用な心配だ」
町娘「そんな楽観的な…」
町娘(確かにこっちを気にしてる人はいないけど…)
町娘「ただでさえ物騒なものを買いに行くんですから怪しまれないようにしましょうよ」
薬屋「金を払えば商品は買える。それが商売だ」
町娘「…私が言っても聞かないんですから…」
薬屋「ここなら置いてそうだな」
看板『刀剣商』
町娘「……」
薬屋「」テクテク
町娘「!」タッタッ
薬屋「……これか…いやこいつでは小さ過ぎるか……」
町娘「……」キョロキョロ
町娘(わー…本物の刀ってこんなに高いの?)
町娘(色んな意味で触るのが怖い…)
薬屋「ボーッと見てるな。お前も手伝え」
町娘「そんなこと言われても私刀の良し悪しなんか分かりませんよ」
薬屋「男に合うか合わないか、それくらいも分からずに私に喧嘩を売っていたのか?」
町娘(男さんのこととなると論理的でなくなるんだよね)
町娘「けど、どうしてあなたが刀を選ぶんです?男さんが直接表に出られない今、仕方ないにしてももっと武器に詳しい人に頼んだ方が…」
薬屋「……男は何も言わなかったが」
薬屋「あいつの刀を壊したのは恐らく私だ」
町娘「物騒な薬で操られていたっていう…?」
薬屋「あぁ。その時の光景が微かによぎるんだ」
町娘「…せめてもの罪滅ぼしということなんですね」
薬屋「それだけではない」
町娘「?」
薬屋「……」
薬屋「私は、男が刀を振るう姿が好きだからな」
71: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:20:57.85 ID:RJVfJNbM0
ーーー宿屋ーーー
カチャ パタン
男「今戻った」
女盗賊「今日はちょいと遅かったね。もしやついに突き止めた…!?」
男(……)
男「いや、残念だが」
女盗賊「はぁ…もう随分怪しい所は潰したはずなんだけどねぇ」
女盗賊「こうなりゃダメ元で情報屋にでも駆け込むしかないんかね…」
薬屋「男、帰ったか」
男「あぁ」
薬屋「こいつを渡しとく。身に付けておけ」
男「……!これは」
女盗賊「そういや折れてそのままだったもんね、あんたの得物」
男「…悪くないな」
男「お前どうやってこれを」
薬屋「買いに出たんだ、こいつと二人でな」
町娘「……」
男「なんだと…この状況で外へ出たのか」
薬屋「私がこそこそしている必要はないだろう?」
男「何を言ってる。万一にもあの男がうろついていたらどうするんだ」
薬屋「それならそれで、好都合だったかもしれないな?」
男「…!」
男「お前という奴は…」
72: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:21:36.36 ID:RJVfJNbM0
男「…町娘」
町娘「あ…はい!」
町娘(名前で…!)
男「こんな事にまで付き合わせてすまないな。本当に世話になっている」
町娘「いえ、むしろどんどん付き合わせて下さい。私に出来ることがあるなら何でもします」
男「…ありがとう」
薬屋「…もう準備は出来てるぞ」
男「……」
男「女盗賊、俺は薬屋を連れて老師殿の所へ向かう」
女盗賊「爺の?なんでさ」
男「例の逃亡の件にもう一人加わると知らせるだけだ。その間ここの警戒を任せる」
女盗賊「いいけど、鉤鼻男はどうすんのよ。このまま同じように捜索を続ける気?」
男「それについては考えがある。案ずるな」
女盗賊「ほー。だったら期待して待ってるよ」ニヒッ
男「…行くぞ」
薬屋「……」
トットットッ
...ガチャン
73: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:22:22.88 ID:RJVfJNbM0
ーーー商店街ーーー
町娘父「ここに置いてある野菜、5つずつ貰えますかな?」
店主「はい毎度!…ん?おぉ宿屋のご主人じゃねぇの!身体の方は治ったんかい!」
町娘父「えぇ。娘のおかげです」
店主「羨ましいねぇ。うちも献身的に看病してくれる娘の一人や二人、欲しかったなぁ」
店主「ご主人が起きたっつーことは宿の営業も始めんだろ?」
町娘父「近い内に開きますよ」
店主「近頃は志願兵募集も盛んだし、商売にも波が来るんじゃねぇかって話で持ちきりだったもんだ。良い時期に持ち直したな!」
店主「あ、でも気ぃ付けなよ?これも最近のことなんだがな、何でも凄腕の元傭兵が国家転覆を企んだっちゅーことで指名手配されてんのよ。一人で行動して見つかるなんてことがないようにしないとな」
町娘父「そんなことが…物騒なものですね…」
店主「こいつが、件の人物だとよ」スッ
町娘父「ほぅ…」
町娘父(!!)
店主「ま、ここいらへ買い物に来そうな面じゃねぇよな!わはは!」
町娘父「……この人は……」
ーーー宿屋ーーー
女盗賊「…ちょっと遅いね」
町娘「え?」
女盗賊「男が行ってる場所、ここからそこまで遠い所じゃないはずなんよね」
町娘「人に見つからないように移動してるからとか…?」
女盗賊「薬屋ちゃんも居るし、そうなのかも」
女盗賊(……ん?薬屋ちゃんも…?)
コンコンコン
女盗賊「!」
「あの、青年です。昨日の今日で急ですが中に入れてもらえませんか?」
町娘「青年さん…どうしたのでしょう、男さんはいらっしゃらないのですが…」スクッ
女盗賊「待ちな」
女盗賊「なんか怪しいね。男から聞いたよ、昨日は一人で来たんだって?でも今日は違うだろ」
青年「えっと…それなんですけど…」
74: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:23:23.67 ID:RJVfJNbM0
サワッ
女盗賊「ひゃんっ!?」
老師「警戒心や良し。じゃがちと行動が遅いのぅ。これが戦場なら首を取られてても文句は言えまいて」
女盗賊「…こんのエロじじい!!」シュッ
老師「ほっほっ」サッ
女盗賊「あーもう!だからさっきから悪寒がしてたんだ!」
老師「わしを悪寒呼ばわりとは尊敬の念は何処へ行った?」
女盗賊「今の所業に尊敬出来るとこなんか欠片もないわ!」
青年「すみません、なんかうちの師匠が」
町娘「いえ…個性的な御師様なんですね」
青年「ははは……あれでもやる時はやる方なんです。…多分」
女盗賊「で、何しに来たのよ」ゼェゼェ
老師「男殿に所用があると聞いての。微力ながらこの老いぼれの手が貸せないかと」
老師「見たところ留守のようじゃの」
女盗賊「爺のとこに行ったんじゃないの?」
老師「見とらんが」
町娘「入れ違いでしょうか」
女盗賊「薬屋ちゃんまで連れて、どこで道草食ってるんだかまったく」
女盗賊(……いや、待って)
女盗賊「あいつまさか…」
老師「――仇敵を討ちに行った」
女盗賊「!…爺、知ってんの?」
老師「そうじゃなかろうかとな。男殿の所用というのは、今は無き"血吸い"の幹部、鉤鼻男を討つことなんじゃろ。今ので確信したわい」
老師「男殿がかの組織を滅ぼしたことは有名じゃが、そのきっかけとなる家族虐殺を仕向けたのが鉤鼻男という事実は埋もれてしまっているからの。それを男殿が知ったとなれば…」
女盗賊「恐い目をしてたよ、あいつ」
女盗賊「でもさ!まだ居場所も分かってないんだ!どうやって復讐なんか」
老師「奴はずっと城の地下で研究を続けておるぞ」
女盗賊「城…?城は男が探し尽くしたって……!」
女盗賊「…嘘、か」
老師「……」
75: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:24:01.22 ID:RJVfJNbM0
女盗賊「あーー!そうだよ、なんで気付かなかったのウチは!爺に報告しに行くだけなら薬屋ちゃんを同伴させる必要なんか無いっつの!」
女盗賊「隠してたんだあの馬鹿!いざとなったら自分だけで乗り込もうと!」
老師「置いてかれたようじゃのう。戦力外通告かの」
女盗賊「ここまで来てやったのに……裏切られた気分だ…!」
女盗賊「爺!そいつの所まで案内して!」
老師「構わんが、いいのか?男殿は言外に大人しくしておれと言ってるのじゃぞ」
女盗賊「自惚れもいいところよ。ウチが居なかったら今頃お陀仏だったかもしれないのにさ!今度こそウチの有り難みを分からせてやる!」
老師「…わしも便乗させてもらおうかの」
女盗賊「便乗?」
老師「こっちの話じゃ」
老師「青年よ」
青年「は、はい!大丈夫です僕も」
老師「違う。お主には行ってもらいたい場所がある」
青年「え、僕は別行動ですか?」
女盗賊「ウチ以下のあんたが来たところで盾役が関の山よ」
青年「そ、そんなこと――!」
町娘(…私も役に立ちたい)
町娘(この人達の。何より男さんの…)
ーーーーー
男「――そして絶対に何もするな。君が危険に晒される」
ーーーーー
町娘(……)
町娘「みなさん、どうかお気を付けて」
女盗賊「ん。留守番よろしくね」
町娘「ここ、私の宿ですよ?」
女盗賊「知ってる」ニシッ
女盗賊「行くよ、爺!」
老師「急かすな急かすな。まったく年寄り遣いが荒いのう」
タッタッタッ...
76: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:27:26.30 ID:RJVfJNbM0
ーーー城の裏門前ーーー
男「……八人か。以前より警備が厳しい…もたつけば気付かれる、同時撃破が望ましいな」
薬屋「それぞれ四人ずつやればいいんだろ?」
男「簡単に言うがな……声も出させず音も出さず昏倒させるといった芸当が、場数の少ないお前に出来るのか?」
薬屋「何の為の私だ。もしもに備え用意しておいた甲斐があったな」スッ
(微量の液体が入った注射器)
男「皮肉なものだ。散々苦しめられたそれに頼ることになるとは」
薬屋「私はこれの適性があるからな。使えるものはなんでも利用するべきだ」
...プツ
薬屋「……っ」
男「平気か?」
薬屋「問題ない…」
男「…俺は右方を片付ける。お前は左側の二人を頼む」
薬屋「分かった」
薬屋「男、これが無事終わったら…褒美が欲しい」
男「善処しよう」
薬屋「……」ジト...
男「…冗談だ。好きなものを考えとけ」
薬屋「忘れるなよ」
サッ
77: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:28:32.08 ID:RJVfJNbM0
ーーー宿屋ーーー
町娘「行っちゃった…」
町娘「……」
トットットッ...
町娘「静かだな」
町娘(これであの人達が来る前の、元の宿に戻ったんだ)
町娘「……」チラリ
(散らかったままの研究部屋)
町娘「……もう、掃除くらいしていってよ」クスッ
ガチャッ!
町娘父「町娘!大変だ!!」ドタドタ!
町娘「お父さん…!どうしたの!」
町娘父「これ…これを見てくれ!」
(男と女盗賊の指名手配ポスター)
町娘父「これは男さんたちのことじゃないかね!?何か事情があるとは聞いていたが…国家反逆罪!?いや彼らは今どこに…!?」
町娘「落ち着いてよお父さん…!」
町娘「ごめんね、全部話しておかなかった私が悪かったね」
町娘父「…?町娘、お前何か知ってるのか…?」
町娘父「彼らのことを知ってて隠していたのか!?」
町娘「待ってよお父さん!男さん達はそんな悪者なんかじゃ――」
ダァンッ!
78: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:29:35.84 ID:RJVfJNbM0
二人「!?」
兵1「へっへ…邪魔するぜ」
兵2「お取込み中悪いね…んー?なんだその部屋は?見たところ普通の寝室として使ってたんじゃなあねぇよなぁ?」
町娘父「な、なんですかあなた方は」
兵1「おっさんがよ、怪しい挙動してるもんだから付いてきてみりゃあ……へっ、道案内ご苦労」
兵3「!隊長、こいつあの時の女ですぜ」
町娘「っ」
兵1「へぇー、そういうことかい」
兵1「おっさん、俺らは国に雇われた役所の兵士だ。お国の秩序を守るのが仕事なんですがね……あんたんとこ、この」スッ
兵1「大罪人を匿ってたでしょ」
町娘父「………」
町娘父「…知りませんよ、そんな方。大体うちはしばらく休業していたわけですから――」
ゴスッ
町娘「お父さん!」
兵1「嘘はいけねえよ嘘は。そいつぁ国に向かって唾吐いてるようなもんだ」
兵1「おっさんが言ってくれねぇなら」ギョロ...
町娘「……」
兵1「…嬢ちゃんに聞くしかねぇよな」
兵2「」ニタァ
町娘「…人、呼びますよ」
兵1「ははっ!まだ分からないかな?俺らがその、"人"だってぇの」
兵3「これも平和のためなんだよ、お嬢ちゃん…ゲヒッ」
町娘父「町、娘……」
兵1「大人しくしてないと……痛くしちまうかもなぁ!」
「そこまでにしてもらおうか」
79: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:30:32.18 ID:RJVfJNbM0
ーーー城内ーーー
タッタッタッ!
「居たぜあそこだ!」
男「しつこいな…」
「数の暴力だ畳んじまえぃ!」バッ
薬屋「」フッ
ドゴォ!
「ぐぼぉっ…」
ドサ、ドサドサ
男「…お前」
薬屋「男の手を煩わすまでもないだろ」
男「味方ならこれ程心強いとはな」
薬屋「当然だ」
男「だが殺すなよ。今日死ぬのはあの男だけでいい」
薬屋「……分かってる」
男「しかし、動きが早過ぎるな。俺達の襲撃を読んでいたかのようだ」
薬屋「お前となら何が相手だろうが負ける気はせん」
男「俺もだ」
薬屋「男、見取り図」
ガサゴソ
薬屋「…まただ、この道も載ってない道だ」
男「所詮表向きに配布された見取り図だ。非常時の隠し通路含めそんなものは山ほどあるんだろう」
男(敵の動きが早い以上闇雲に探し回るのは愚策だが…)
..ザッ..ザッ
薬屋「…なぁ、こいつら」
男「あぁ」
私服の人間たち「「「……」」」
男「強化人間だろうな」
薬屋「……」
男「油断するなよ」
薬屋「お互いな」
ビュンッ
.........
80: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:31:24.29 ID:RJVfJNbM0
「……」ブンッ
薬屋「!」サッ
薬屋(空中で無理にかわしたか…!)
ザンッ
「」...ドサ
薬屋「……」スタッ
薬屋「助かった」
男「迂闊に跳ねるな。姿勢制御の効かない宙空は危険が大きい」
薬屋「戦闘の極意を教えてくれるのか?」
男「基礎中の基礎だ」
薬屋「ふっ…そうか基礎か」
...ドクン
薬屋(っ…)
男「?どうした」
薬屋「いや…何でもない」
男「掠りでもしたか?」
――ヒュン
男「!」ズバッ
コロコロ...
男「…石?」
女盗賊「それくらい当たっとけこの大馬鹿!」
81: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:35:43.98 ID:RJVfJNbM0
男「お前…なんでここに」
女盗賊「こっちの台詞よ!仲間欺いてまで出しゃばってさぁ!」
女盗賊「結局ウチのこと信用してくれてないんじゃないか!」
老師「こやつが行くと聞かないもんじゃて。すまんの、連れてきてしもうたわい」
男「……信用している」
女盗賊「だったら――!」
男「しているからこそ、失うのはごめんだ。もうな」
薬屋「……」
老師(……ふむ)
女盗賊「…見くびんなっつーの。そう簡単にくたばらないわよ」
女盗賊「まだまだ金の魅力を知り尽くしてないんだから死んでたまるか」
老師「…少々育て方を間違えたかの」
男(なら、こうして駆けつけて来たのは金のためなのか?)
薬屋「…とんだ自己矛盾だな」ボソッ
女盗賊「鉤鼻男と少女ちゃんを探すんでしょ?ウチらとあんたら手分けして探した方が効率いいはずよ」
女盗賊「奴の研究設備は地下にあんだって」
男「地下か。危うく後回しにするところだったな」
老師「…じゃが、奴がそこにいる可能性は低いじゃろうな。己に酔いやすい男じゃ、あからさまな場所でお前さん達の到着を待っておるのだと思うぞ」
女盗賊「なんでそう思うのよ」
老師「奴の性格はよく知っておるからのぅ。あの組織が健在だった頃、どこにいても奴らの噂は耳に入ってきたものじゃよ」
女盗賊「んじゃあ地下では少女ちゃんを見つけることに集中すればいいんね」
82: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:36:19.31 ID:RJVfJNbM0
女盗賊「男、鉤鼻男は任せてもいい?」
男「他人に任すつもりはない」
女盗賊「地下はウチと爺に任せてな」
女盗賊「…薬屋ちゃんも来る?」
薬屋「……私は……」
薬屋(……)
薬屋「男と行く」
女盗賊「…そうかい」
女盗賊「しっかりサポートしてやってよ。そいつ小心者だから」
女盗賊「さて爺、地下はどっち?」
老師「そう慌てなさんな……男殿、この城のあからさまな場所と言われたら大方の目星は付いとるじゃろうが…」
(床に転がる強化人間たち)
老師「そやつらの来た先を辿れば、何か分かるやもしれぬな」
老師「ではの。健闘を祈る」
タッタッタッ...
薬屋「…言いたいだけ言っていったな」
男「そうだな」
男(女盗賊…)
男「まさか老師殿が一緒とは思わなかったが」
男「俺達も行くぞ」
83: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:37:22.29 ID:RJVfJNbM0
ーーーーーーー
タッタッタッ
女盗賊「……」タッタッ
老師「」スタタタッ
女盗賊「ねぇ爺」
老師「なんじゃ」
女盗賊「いい加減話してくれていいんじゃない」
老師「…はて」
女盗賊「とぼけんな。城まで付いてきた理由」
女盗賊「何かあんでしょ?」
老師「お前さんがこの老体を引きずって来たんじゃろ?」
女盗賊「自分から手伝いに来たって言ったじゃん」
老師「なに、女盗賊の右往左往する様をからかってやろうと思ったんじゃがの。ふぉふぉ」
女盗賊「………」
女盗賊「なんだ、爺も嫌な予感察知して来てくれたのかと思ってたけど、違うんだ」
老師「む…?カン、か?」
女盗賊「そ」
老師「お前さん、そうと知りながら来たのか」
女盗賊「そうと分かったから来たのよ」
女盗賊「何もせずにいたらあの二人…五体満足に帰ってこれないって。そんな予感」
老師「……」
女盗賊「ま、言いたくないんならいいよ」
女盗賊「帰ってからじっくり聞かせてもらうだけだから」ニヒッ
老師「馬鹿者!前を見るんじゃ!」
女盗賊「え?」
ズラッ...(複数の兵、私服人間)
女盗賊「待ち伏せ…」
眼帯男「お告げの通りだなァ…」
「ヨボヨボの爺さんと、こっちは上玉だ」
女盗賊(ウチらがここに来ること、知られてたっていうの!?)
84: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 22:39:06.17 ID:RJVfJNbM0
老師「ふぅむ」
女盗賊「くっ…」
女盗賊「…出来るだけ撹乱しながら撒こう。雑兵はともかく、強化人間共はヤバイ」
老師「女盗賊よ、地下は向こうじゃ。今なら手薄じゃろうて先に行っておれ」
女盗賊「は…?」
女盗賊「何言ってんの、爺だけで相手する気!?」
老師「そうじゃよ」
女盗賊「いや爺がある程度できるのは知ってるよ!?けどこれは――」
老師「早う行け」
女盗賊「……下手こかないでよ」
老師「誰に向かって言っておる」フォッフォ
女盗賊「………」
ダッ
眼帯男「女を逃すなァ!生け捕りだ!」
老師「まぁまぁ落ち着きなさいお前さん方」
老師「ちょいと、この老いぼれの遊び相手になってくれんかの?どうせ地下は袋小路じゃ。追うのが少し遅れたところで問題あるまいて」
「おいおい爺さん、老い先短い命大事にした方がいいぜ。でねーと貴重な老後がゴミ屑に早変わりだ」
老師「心配してくれるのかえ?優しいのぅ。安心せい、天寿は全うするつもりじゃよ」ニコッ
「そうかそうか!…んじゃ」
「それが今ってことだな!ギャハハ!」バッ
――ヒュッ
ドサッ
「…あ……あぇ…」ピク..ピク..
眼帯男「あァ…?」
老師「失敬失敬。いやの、動くものを見るとつい…」
老師「当てたくなってしまうのだよ」スッ...
85: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 23:20:55.19 ID:RJVfJNbM0
眼帯男(あのじじい、何か持ってやがる。投擲したのか?)
眼帯男「…!」
眼帯男「てめェ、"針師"か」
老師「ふぉっふぉ。しがない老いぼれじゃよ」
眼帯男「臆病者の鶏じじいが今更何の用だァ?もうてめェみてえな古い化石は用無しなんだよ」
眼帯男「安楽死でもご所望かァ?」
老師「おぉ…最近の若いのは口が悪いのぉ嘆かわしいわい」ヨヨヨ
眼帯男「チッ、いけ好かねェカスだなァ…!」
眼帯男「おめぇら構わねェ、この生ゴミは粉砕だ」
サッ!ササッ!
老師「老体には堪えるんじゃがのう…」ヤレヤレ
86: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/06(月) 23:21:22.81 ID:RJVfJNbM0
次回の投稿で完結する予定です。
87: 以下、
ーーー地下ーーー
女盗賊「」サッ
女盗賊「……」ススッ...
女盗賊(無駄に広いねここ。ほとんどが資料部屋みたいなとこばっかりだし)
女盗賊(…拷問器具の置かれた部屋もあった。最近使われた形跡はなかったけど…)
女盗賊(それに、手薄というよりこれは)
女盗賊「……」
女盗賊(誰一人居ないじゃない)
女盗賊「……!」
(薄っすらと明かりの漏れる部屋)
女盗賊「……」ソッ...
女盗賊(…人の気配はないね)
ススス
女盗賊(何、これ)
(仄暗く光る身長大のカプセル)
女盗賊(中に変な液体が入ってる。研究者の奴らが好きそうなオブジェだこと)
女盗賊(こっちのカプセルに浮いてるのは…ネズミ?アリクイ?)
女盗賊(部屋が妙に小ざっぱりしてるせいで余計に不気味だ)
88: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 07:57:50.70 ID:uGTOhtcfO
女盗賊「…?」
女盗賊(服がある。……誰かの着替えか?けど明らかに女の子向けの服……)
女盗賊「!」
女盗賊(思い出した。これ男が少女ちゃんに買ってあげてたやつだ)
女盗賊(…ということは)チラリ
(何も入ってないカプセル)
女盗賊「………」
カツ..カツ..
女盗賊(!誰か来る!)サッ
カツ..カツ..
カツ...
女盗賊「……」
女盗賊「……」
女盗賊(………)
..カツ..カツ
女盗賊(…行ったみたい)
女盗賊(ひとまず、まだここらを探す価値はありそうね)
89: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 07:59:11.51 ID:uGTOhtcfO
ーーー城内ーーー
ズバン!
「がふっ…」
男「」スタッ
薬屋「…この様子だと次は右に行けということかね」
男「お前も気付いていたか」
薬屋「露骨過ぎるからね」
薬屋「私ら、誘導されてる」
男「だがこちらにとっても願ったり叶ったりだ。避ける理由はない」
タッタッタッ
.........
(荘厳な扉)
薬屋「なるほどな」
男「玉座の間か。見るのは初めてだな」
男「ここで俺達を殺せば、奴の自己顕示欲も満たされる…そういうことか?」
男「滑稽な演出家だ」
薬屋「…男」
薬屋「終わらせよう」
男「無論」
...キィ
鉤鼻男「やっと主賓の到着だねぇ!待っていたよ男くん。こーんな小さい子を待たせるなんて罪なお人♪キヒヒッ」
少女「……」
薬屋「──っ」
男「…ここに居たか、少女」
90: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:00:24.65 ID:uGTOhtcfO
鉤鼻男「あれ?あれあれ?あんまり驚いてくれないんだね?やっぱ二回目ともなると飽きられちゃうんだなぁ」
鉤鼻男「男くん、きみはすごいよ!あの日崩れる廃虚からボクに見つからないよう脱出したんでしょぉ?そこのゴミをリユースまでしてくれちゃって」
鉤鼻男「ねぇねぇボクの用意したギミックはどうだった?きみをここまで案内出来るようたくさんの駒を使って工夫してみたんだよ。ちょっと楽しかったなぁ」
男「あいつら、国の正規兵ではないな?」
鉤鼻男「ご名答♪頭の固いつまんない連中ばっかだったんだもん、即解雇さ」
鉤鼻男「ね、王様?」スッ(その場をどく)
国王「……うむ」
鉤鼻男「イヒッ。今の方がお城も賑やかで良いよねぇ」
男(見る限り、王も正常ではあるまい。脅迫を受けているか薬で思考を奪われたか…)
男(いずれにしろ)
男「全てお前の筋書き通りなわけか」
鉤鼻男「当然。こーんな平和ボケした国、乗っ取るなんて屁でもなかったよ」
鉤鼻男「あとは、城に侵入した不届き者を片付けて、襲撃を受けたっていう名目の元堂々と戦争を始めることが出来る」
鉤鼻男「ボクのお人形さんを前に、全世界が平伏すことになるのさ……ボクの偉才にね!ヒヒヒヒッ」ジュルリ
男「……哀れなものだな。他者を蹴落とし悦に浸ることでしか己を保てないとは」
鉤鼻男「はー?おっかしいんだぁ」プッ
鉤鼻男「優れた生命だけが生き残り、劣等種は淘汰される。この世の摂理じゃないか」
鉤鼻男「圧倒的な才を持つボクが、生き物としての定めをこなしてやろうってんだよぉ?ただ生まれて老化して死ぬだけのボンクラ共より遥かに崇高だろ!神はそう評価するさ」
男「お前でも神は認めるんだな」
鉤鼻男「ボクの世界ではボクが神になるからねぇ!」
91: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:01:05.51 ID:uGTOhtcfO
男「…力で屈服させたとして、全ての人間がお前を崇めるようにはならない」
鉤鼻男「ボクの方が"上"だと認識すればそれで終わりだよ」
鉤鼻男「ふぁーあ…男くんさぁ、いい加減このつまんない問答やめよ?時間稼ぎとか意味ないから」
鉤鼻男「きみの本分は、こっち」シュンッ
男「っ!」バッ
ズドンッ
鉤鼻男「…戦うことだよねぇ?キヒッ」パラパラ...
男「……」
鉤鼻男「加えましてー!舞台を彩るための本日の余興はー!」
鉤鼻男「姉妹喧嘩?」
少女「……」ペタ..ペタ..
薬屋「あ…」
少女「」ズオッ!
バキッ!
男「薬屋!」
鉤鼻男「きみはボクと遊ぶんだよぉ?」
鉤鼻男「近づくなって言ってたけど殺さなきゃいいよねぇ…?キヒヒヒヒ!」
92: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:02:17.28 ID:uGTOhtcfO
ーーーーーーー
眼帯男「ハァ……ハァ……」
老師「もうバテたのかの?情けない若造じゃ」
眼帯男「クソが…!」
眼帯男(全然近づけねェ…)
眼帯男(どう動こうが正確に針を飛ばしてきやがる。そのくせこいつはほとんど動いてねえ)
老師「じゃが、お仲間よりは根性ある奴よの。こやつらたったのひと針で倒れおってからに」
眼帯男「……ちっ。俺程度その気になりゃいつでもやれるってかァ?」
眼帯男「ウゼェなおい!?俺は力を隠す人間が大っ嫌えなんだよ!能ある鷹は爪を隠さねェ、最適な使い道を知ってんだ!」
眼帯男「おいクソじじい!てめェはなんで血吸いに居た!?なんで一人も殺さなかったんだァ!」
老師「逆に訊くが、お主は何故じゃ?」
眼帯男「人間様をブッ殺す以外にねーだろォが」
老師「老いぼれ一人殺せぬのにか」
眼帯男「……」ギリッ...
老師「…力とは便利なものじゃよ」
老師「使いようによって刃にもなれば、盾にもなる。力の強い者は弱い者を従え、忠誠や崇拝を意のままにすることさえ可能じゃ」
老師「じゃから、それを妄信的に追い求める者も尽きぬのだ」
眼帯男「あァ…?」
老師「わしが人を殺さなかったのはお主らの言う通り、怖いからじゃ」
老師「そして組織に身を置き、何を得たのか……身を以って教えてやろう」
眼帯男(何か来やがる)
老師「……」バッ
眼帯男「また針投げかァ!」
眼帯男「んなの、目が慣れてくりゃ大したこと──」ヒラッ...
老師「」シュッ
キン、キキン
眼帯男「!?」
眼帯男(後続を一投目の針に当てて軌道を変えやがった…!?)
眼帯男(間に合わねェ…!)
.........
93: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:04:20.86 ID:uGTOhtcfO
眼帯男「」バタッ...
老師「……」
老師「力とは真、美しいがの」
老師「こいつだけでは虚しいものよ…」
パチパチパチ
総裁「見事なお手並みです。昔より腕を上げましたね」
老師「……お主……」
総裁「久しぶりに会えてとても感慨深いですね」ニコッ
老師「…わしより先に三途の川を渡ったものと思っておったわい」
総裁「私はまだご年配と言われる歳ではありませんよ」
老師(組織の壊滅と共に死んだと聞いていたが…こやつの佇まい、紛れもなく本物)
総裁「それにしても」
(倒れ伏す兵達)
総裁「やはり皆、生かしてあげているのですね」
老師「……」
総裁「あれだけの"力"を手に入れたのに、存分に発揮しない理由。貴方が血吸いに居た時から誰しもが気にしていましたね」
総裁「怖いから、でしたか」
総裁「──人を育てる者として人を殺めることへの忌避」
老師「…!」
総裁「晩年は子育てに執心しやすくなるのでしょうか」
総裁「捨て子など預からなければ、貴方は今頃さらに大きな力を手に出来ていたはずですよ。躊躇なく人を殺せ、殺人の犯せない臆病者として後ろ指さされることもなかった」
総裁「貴方が組織を離れた時は寂しく思ったものです」
老師「しょうのない嘘を吐きおって…」
総裁「嘘など言いませんよ。嘘に興味はないですからね」
総裁「そうそう、ここへ来る途中例の貴方の教え子を見ました」
老師「!…もしやお主!」
総裁「いいえ何も。興味がないですから」
総裁「今興味があるのは、彼の死だけ」
総裁「人が死ぬ瞬間というのは何物にも代え難い至福の芸術。私がどれ程この時を待ちわびたことでしょう…」
老師「………」ザッ
総裁「なんです?また小針ショーを見せてくれるのですか?」
老師「お主は危険じゃ。あまりにもな」
総裁「いいですよ」
総裁「私も、貴方の死に様には少し興味がありましたから」ニッコリ
94: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:05:26.51 ID:uGTOhtcfO
ーーーーーーー
鉤鼻男「ほらほらぁ!どうしたの!きみ、刀の扱い上手いんでしょ?ボクの素手に押されてるよぉ?」ブォン!
男「っ…」
スンッ
男「」ビュオッ
ガシッ
鉤鼻男「キヒ、あんまり握り心地は良くないんだねぇ」
鉤鼻男「返してあげる♪」パッ
男「……」ザッ...
男(…刀身を掴むか。無茶苦茶な奴だ)
鉤鼻男「あー退屈退屈」
鉤鼻男「血吸いを滅ぼしたって言ってもさぁ、所詮人間止まりの強さなんだよねぇ」
鉤鼻男「ん?ちょっと手の平切れてる?遊び過ぎちゃったかなぁ。キヒッ」
男「……」
鉤鼻男「きみもさっきから黙ってないで、退屈しのぎにお話くらいしようよ」
男「………」
鉤鼻男「でないと」
──バシュッ
男(消えた…!?)
男「違う上か!」
鉤鼻男「どーん♪」
ズドン!
男「がっ…!」
男(……く……)
鉤鼻男「今日の予定が早々に終わっちゃうじゃん」ニタニタ
男(…意識がある。奴なら今の一撃を致命傷にすることも出来たはず…)
男(………)
95: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:07:05.97 ID:uGTOhtcfO
ドスン!
少女「」バッ
薬屋「」バッ
ゴッ!
少女「」シュンッ
薬屋「」シュンッ
バシッ!
薬屋(あの薬は体格の違いにより効き目が顕著に異なる)
薬屋(だというのに…恐ろしいまでの身体制御力だね)
スタッ
少女「……」
薬屋「……」
薬屋(無気力な瞳…)
96: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:07:57.99 ID:uGTOhtcfO
ーーーーー
少女「──早く来るといいね。お姉の好きな人」ニコッ
ーーーーー
薬屋(………)
少女「……」ユラリ...
ガンッ! ドスッ!
薬屋(懐の解除薬を打ち込むことが出来ればそれで終いなのだが)
少女「」ビュン
薬屋(…一度大人しくさせねばな)
薬屋「」スッ
少女「…!」
薬屋(私だってさっきから無計画にぶつかっていたわけでは)
薬屋「ないんだよっ!」
ドゴッ!
少女「」ズザァ...
少女「……ケホッ」
薬屋「ふー……」
──ズキッ
薬屋「っ…」
97: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:08:56.71 ID:uGTOhtcfO
鉤鼻男「顔を狙いー?」
男「!」
鉤鼻男「と見せかけて肩でしたぁ♪」バキッ
ドサッ
男「ぐ…」
鉤鼻男「きみ思ったより飛ばないねぇ?ちょっと太ってるんじゃないの?」
鉤鼻男「…お?」
薬屋「っ…」ズキッ
鉤鼻男「…キヒャ…!」
鉤鼻男「お前、そうだよお前!案の定だったねぇ!」
薬屋「あ…?」
鉤鼻男「ボクのお人形と渡り合えるなんておかしいと思ってたんだ。どうせ強化薬の効能を強めて使ってたんだろぉ!」
鉤鼻男「お粗末な副作用まで強くなってるって、気付かなかったのかな?お馬鹿さんだねぇ?」
男「お前…そんなこと一言も…」
薬屋「…死にはしないよ」
鉤鼻男「キヒヒィ!ここにやって来た時点で死ぬことは決まってるのにぃ!馬鹿が過ぎるよぉ…ボクを笑い死にさせるつもり?」
鉤鼻男「ま、いいや。そろそろフィナーレといこっか」
男「……」
鉤鼻男「結局、高い知性は強い武力を生み出すことも出来る至宝なのだと証明されてしまったねぇ」
鉤鼻男「きみたちも出しゃばらなければ、もう少し長く生きられたのに。なまじ人よりちょっと優れていたばかりに…哀れだなぁ」
鉤鼻男「おい、もう殺していいよ」
少女「……」..テク..テク
薬屋(…今は、まずいね…)
98: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:09:56.83 ID:uGTOhtcfO
鉤鼻男「男くんは腕の一本くらい潰しても平気だよね♪」
鉤鼻男「」ダッ
──ズパンッ
ボトッ
男「………」
鉤鼻男「……?」
鉤鼻男「……あ……」
鉤鼻男「ボクの腕…が…!?」
男「腕を一本。お前は平気ではないようだな」
鉤鼻男「な、なんで…どうしてぇ!?」
男「自覚がなかったか?自身の動きが鈍ってきていたことに」
鉤鼻男「腕…!ボクの腕…!くっつけないと!」
男「…この刀身にはお前の薬を打ち消す解毒薬を塗っておいた」
男「微量だろうと体内に入ればその効果は現れる。薬屋のお墨付きだ」
鉤鼻男「なに…解毒薬…?だってあいつが自我を取り戻してもせいぜい一週間……そんな短い時間で作り出したと?」
鉤鼻男「そんな馬鹿な話があってたまるか!!ボクより無能な存在がボクを超えられるわきゃないんだよぉ!!」
男「……その馬鹿な話にやられるお前は、底抜けの馬鹿なのだろう」
男「死ねば治ると聞く」ザッ...
鉤鼻男「ひっ…!」
鉤鼻男「お、おい!」
薬屋「く…ぐ…」グッ...
少女「……」ググッ
鉤鼻男「もうそんなのはいい!ボクを助けろ!」
少女「………」フリムキ
薬屋「……はぁ……はぁ」
99: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:10:58.73 ID:uGTOhtcfO
...テクテク
薬屋「…待て…」
少女「……」テクテク
薬屋(……行ってしまう……)
薬屋「戻ってきて…くれ…」
薬屋「──妹」
少女「──?」
少女(………お姉………)
鉤鼻男「なにボケッとしてる!?早く!」
少女「……」
スタッ、スタッ
鉤鼻男「よし、よしよしいいよぉ…!お前がいればあんな凡人共を片付けるくらい造作も無いでしょぉ。キヒヒヒヒ!」
鉤鼻男「まずは手始めにあの脳筋男をぶちのめしてこい!ボクの身体を傷つけやがって…!四肢をもぐくらいしないと対等にならな」
ゴスッ
鉤鼻男「ぶべっ…!」
少女「」スッ
グシャッ!
鉤鼻男「」
男「…少女…」
薬屋「………」
少女「」ヨロ...
男「少女!」
薬屋「!」
タッタッタッ
男「少女、聞こえるか!?俺だ!」
男「お前の姉も、いるんだ」
薬屋「…私、は…」
少女「……ぁ……」
少女「ぉ……」
少女「……」ニッ
男「薬屋、解毒薬を早く」
薬屋「…分かってる」
ゴソゴソ
──プツ
少女「………」スー(ゆっくり目を閉じる)
男「…!?」
薬屋「慌てるな、眠っただけだ」
薬屋「私と同じように、そのうち目を覚ますはずだ」
100: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:15:01.66 ID:uGTOhtcfO
男「……」
男「笑ってくれたな、この子」
薬屋「あぁ」
男「散々苦しませてしまった俺達を見ても尚、笑顔を見せようとするか…」
薬屋「……ごめんな。私は男だけがいてくれればそれでいいと思っていた。いや、今も思っている」
薬屋「だが、お前も生きることが出来るなら……」
薬屋「……許されるとは思っていない。これは私の自己満足な懺悔だ」
薬屋「少女」
男「……」
男「寝てる間に言ってどうする」フッ
薬屋「うるさい」
男「…さて」
男「王よ!そなたを脅かす危機は去ったぞ!」
国王「……」
男「…やはり薬を打たれているか」
鉤鼻男「」
男「自らが生み出した業に殺されるとは」
男「…この世で最も知性のない死に様だな」
総裁「本当に。その通りですね」
101: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:16:02.30 ID:uGTOhtcfO
ーーーーーーー
女盗賊「」スタタタッ
女盗賊(まずったね。ちょっと時間をかけ過ぎた)
女盗賊(やたら広かった割に、カプセル部屋以外めぼしい場所はなかった)
女盗賊(でもこの服……あそこに少女ちゃんが居たことは間違いない。ということは今は)
女盗賊「…!」スタ...
老師「」
女盗賊「爺!?」
老師「」
女盗賊「なんだよ、これ。血糊か?下らない冗談で驚かそうとしてんの…?」ハハ...
女盗賊(──いいや、この据えた鉄の臭いは)
老師「……む……」
女盗賊「!爺っ、生きてる!」
女盗賊「待ってな、今医者のとこへ運んでってやる」
老師「よい…女盗賊よ…」
女盗賊「何言ってんのよドアホ!下手打つなって言っといたのに!」
老師「いいんじゃよ…わしは十分に生きた…」
老師「こうしてわしのために…泣いてくれる者もいるんじゃからの…」
女盗賊「諦めないでよ…!あんたの性格はそんなんじゃ…!」ポロ..ポロ..
老師「…ふぉ…ふぉ…」
老師「お前さんを育てるのは……面倒じゃったが、それなりには楽しかったわい……」
女盗賊「やめて…聞きたくない…!」ポロポロ
老師「わがままは変わらんのう……」
老師(わしの生き様は…とても褒められたものではない。大なり小なり間違えてきた)
老師(じゃが…この子を育て上げたことは……正しかったと信じたいの…)
老師「…そうじゃ……青年を頼んだぞ……」
女盗賊「青年…?」
老師「……まだまだ未熟者…じゃて…」
女盗賊「分かったから…!もう喋んないで…止血出来ない…!」
老師「……」
老師「……自由に……生きるんじゃぞ……」
女盗賊「…爺…?ねぇ、爺?」
老師「」
女盗賊「………」
女盗賊「………」
102: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:16:58.52 ID:uGTOhtcfO
ゴロツキ「居たぞ、あれだ」
「あの女、ターゲットの一人っすね」
ゴロツキ「おう。あの忌々しい傭兵の仲間だそうだ。よくここまで逃げ回れたもんだが…多勢に無勢だ」
「ぐひっ…」ニヤニヤ
「そばで死んでる汚ねぇじじいはなんだ?」
ゴロツキ「ねーちゃんよぉ、選ばせてやる」
ゴロツキ「そこのじいさんみてぇにくたばるか、大人しく投降して俺らの玩具になるか」
女盗賊「……」
女盗賊「…お前ら…」
ザッ
女盗賊「生きて帰れると思うな」ギン
ゴロツキ「あ?まさかやる気かよおい。周りが見えねぇんか?」
ゴロツキ「俺ぁな、奴に散々コケにされて苛々が溜まってんだ。その綺麗な顔、原型を留めてるといいなぁ…?」
女盗賊「……」ギリッ...
「今だ、かかれ!」
「「「おおおぉ!」」」ダッダッダッ!
「なんだこいつら…!?」
「ぐひぃ?」
キンッ キン、キンッ
ザシュッ!
「ぐぁああ!」
女盗賊「…?」
青年「女盗賊さん!無事ですか!」タッタッ
女盗賊「あんた…え、なに?」
103: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:17:45.05 ID:uGTOhtcfO
青年「彼らは、元々国の騎士団員だった人たちです。先導しているのは近衛騎士団長」
団長「私に続け!この穢れを国から一掃しようぞ!」
オー!
青年「師匠に言われて呼びに行ったんですよ。不当に解雇された兵達の愛国心を呼び覚ましてこい、って」
青年「最初に保護したのは町娘さん家のお二人でしたけどね」
青年「……でも、遅かったみたいだ」
老師「」
女盗賊「…ウチも行く」
青年「ダメですって!師匠がやられる程の相手がいるんです、戦闘は本職の人に任せましょう!」
女盗賊「どこの世界に親殺されて黙ってる人間がいんのさ!止めるってんならあんたでも容赦しないよ!」
青年「もしあなたが死んだら師匠の意志は誰が継ぐんです!?」
女盗賊「っ」
青年「師匠の一番弟子のあなたが居なくなってしまったら…師匠の残したものが、本当に消えてしまうんですよ」
女盗賊「……」
青年「僕だって悔しいです…こんな形で師匠を失うだなんて信じたくありません…」
青年「…だけど、今僕らがするべきは憎しみに駆られて命を投げ打つことでは、ないんです」
団長「はぁっ!」ズバッ
ゴロツキ「どうしていつもいつもこう邪魔が入りやがる…!」ガキン!
女盗賊「……ちくしょう……」
女盗賊(………)
女盗賊「……」ポロ..ポロ..
青年(……)
104: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:19:18.68 ID:uGTOhtcfO
ーーーーーーー
総裁「あぁ…やっと相見えることが出来ましたね、男」カツ..カツ..
男「……」
薬屋「…あれは?」
男「…血吸いの頭領だ」
総裁「貴方に手を出すなと言っておいたのですが」
鉤鼻男「」
総裁「興味をそそられない死に様です。思索の価値もありませんね」
男「お前は、確実に屠ったはずだが」
総裁「あれですか?影武者ですよ」
総裁「あんな場所に閉じこもっていては、人の死に様に立ち会うことが出来ないじゃないですか」
総裁「ずっとずっとずーっと…会いたかったのです」
総裁「貴方の妻子を手にかけ、その美しい死に様を見てから、男、貴方が息絶える瞬間を見たくて見たくて…今日までこの疼きを抑えてきたのです」
総裁「ですが…もう我慢しなくていい…」ホゥ...
薬屋「男の家族を殺したのは、そこの鉤鼻男じゃないのか?」
総裁「確かにこの木偶による見せしめでしたね。私は退屈しのぎに同行してみただけでしたが」
総裁「最高の選択をしました」ニコ
男「…それで、俺を追い続けてきたのか」
総裁「はい。私は、少し先の出来事を見ることがあるのですが、結末の分かりきったゲーム程つまらないものはありません……しかし、人の死は別でした」
総裁「それだけは全く予測の出来ない、この世の神秘とも言える現象」
総裁「男、貴方の死を見届けることで私は、己が生涯最上の快感を得られるのです…!」
総裁「全快の貴方に抵抗して頂けないのは少々残念ですが、いっそ一思いに終わらせるのも悪くありませんね」
105: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:20:51.77 ID:uGTOhtcfO
薬屋「…男、私も」
男「いや、そこで見ていろ」
男「……」
フッ(目を閉じる)
総裁「感動しますね。貴方も同じ気持ちでしたか」
総裁「それでは……」ジャキ
シュタタタッ
男(ここで全てを終わらせる)
総裁「」シャッ
男(もう、繰り返さない為に──)
──ザシュッ
106: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:21:40.63 ID:uGTOhtcfO
ーーー城内 パーティールームーーー
国王「では、本国の秩序と平和が守られた事、そしてそれを成し遂げてくれた英雄達に」
国王「乾杯」
「「「乾杯!」」」
??♪
ワイワイ
少女「」オロオロ
女盗賊「ほら、少しは落ち着いたら?少女ちゃんも主役の一人なんだから」
少女「でも…」
女盗賊「この肉食べる?美味いよ」スッ
少女「う、うん」
貴族1「いやはや、聞きましたよ。彼らを匿い、国を取り戻す手助けをなさっていたこと!」
町娘父「いえ、私はそんな大層なことは」
貴族1「それに貴方の娘さんの勇敢さ!是非うちの息子の嫁に来て頂きたい!」
貴族2「抜け駆けはいけませんぞ!あなたのために来て下さったのではありませんからな」
町娘父「ははは…」
町娘「」ニコニコ
少女「……あの」
少女「お姉は…?」
女盗賊「ん?男のとこだよ。ここ数日ずっとね」
女盗賊「あいつが目覚ますまで、付きっきりなんだろうさ」
少女「……」
少女「私、向こうの料理も取ってきます」
女盗賊「ん。落とさんようにね」
テッテッテッ
女盗賊(少女ちゃん、戻ってきたと言っても、男と出会う前の記憶しか残ってないなんて)
女盗賊(ウチにもなんとなく余所余所しいし、肝心の男は生き残ってた血吸いの頭と相討ちで昏 睡中…)
女盗賊「……ウチも、外の空気でも吸おうか」
107: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:22:34.27 ID:uGTOhtcfO
ーーーバルコニーーーー
女盗賊「……」
女盗賊「」クイッ
女盗賊「…美味しくはない」
女盗賊「………」
青年「隣、いいですか」
女盗賊「……」
青年「……」
青年「師匠、血吸い四幹部の一人だったみたいですよ」
青年「一人も殺さないことで有名だったとか…」
女盗賊「……」クイッ
女盗賊「ウチにとっちゃ、今でもお調子者のセクハラじいさんよ」
青年「…師匠は、僕が弟子入りしてからあなたの話ばかりしていたんです」
青年「やれ生意気な口を聞くようになった、昔の素直さが見る影もない、他にも色々」
青年「ですがあなたのことを話している間はずっと、楽しそうにしていましたよ」
ーーーーー
老師「──お前さんを育てるのは……面倒じゃったが、それなりには楽しかったわい……」
ーーーーー
女盗賊(……)
青年「…ですから、その…」
青年「女盗賊さんも、また前みたいに…」
ガシッ
青年「え?」
ワシワシ
青年「うわわ」
女盗賊「誰が落ち込んでるって?」
女盗賊「一丁前にウチを慰めてるつもりなら、まだまだだね」
女盗賊「ウチには爺の意志を受け継ぐ義務があんでしょ?…青年、あんたの修行はウチが続けるから」
青年「はい!?」
女盗賊「ウチは爺みたく甘くないよ。覚悟しとき?にししっ」
女盗賊(あんたのこと、任されちまったからね)
「女盗賊様、青年様、ここにいらっしゃいましたか」
女盗賊「何か用?」
「王がお呼びです」
108: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:23:32.23 ID:uGTOhtcfO
ーーーーーーー
国王「我が国を窮地から救ってくれた英雄諸君には、相応の礼をしなければなるまい」
国王「出来うる限りの望みは叶えよう。皆の者、言うてみよ」
町娘父「えぇ、王様。私共はですね、宿の改装のために少しばかりの援助を──」
町娘「爵位と領地を頂きたく思います」
町娘父「!?」
ザワザワ...
町娘父「な、何を…!?」
国王「ふむ…その心は?」
町娘「はい。私、夢が出来まして」
町娘「いつか自分の店を拡げ、国中に名を轟かせるような宿を経営してみたいのです」
町娘(そして誰よりも良い女になって…見返してあげます、男さん)
町娘(あなたの逃した魚は大きいですよ)
国王「…強い目をしておる。良いだろう、後日、正式な爵位とそれに付随する領地を分け与えよう」
町娘「ありがとうございます」
町娘父「」ボーゼン
109: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:24:09.72 ID:uGTOhtcfO
国王「そちらのお嬢さんは何が欲しいかな?」
少女「え…私は…」
女盗賊「何でも好きなものくれるって」
少女「そんなこと言われても…」
少女「…じ、じゃあ」
少女「お姉と、私を…もう、頼らないで下さい」
少女「それだけです…」
国王「…承知した」
国王「そなた達に干渉しないこと、ここに誓おう」
女盗賊「次はウチだね」
女盗賊「ねぇ王様、新大陸の開拓権利って貰えるの?」
「新大陸だって!?」
「初耳だ…」
国王「近いうちに発表するつもりであったが…それは難しい」
国王「既に他国との共同出資が決まっておってな。すまぬが全権移譲は出来ないのだよ」
女盗賊「えー、何でもいいって言ったのに?」
女盗賊「ま、いいよ。分かってたし」
女盗賊「んじゃあさ、葡萄酒ちょうだいよ」
国王「む?葡萄酒ならそなたのテーブルにも出ておるぞ」
女盗賊「違う違う」
女盗賊「寝かせてないやつね」
110: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:25:08.19 ID:uGTOhtcfO
ーーー町娘の宿屋ーーー
少女「……」テクテク
少女「……」テクテク
ーーーーー
女盗賊「──これ、持っていきな。男が好きだった酒」
女盗賊「──手ぶらよりはお姉さんとも話しやすくなるかもしんないしね」
ーーーーー
少女「……」
少女(……)
コン、コン
少女「………」
「誰だ?」
少女「私、だよ」
「………」
少女「………」
キィ...
薬屋「……」
少女「……」
少女「…あのね、お見舞い持ってきたの…男さんに…」
薬屋「………」
薬屋「…女盗賊の差し金だな。あいつは、本当に…」
少女(……)
少女「ごめん。私、余計なことしてるよね…」
薬屋「そんなわけあるか。入っていけ」
少女「!…うん」
パタン
111: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:27:32.70 ID:uGTOhtcfO
少女「お姉、これ」
薬屋「葡萄酒か」
薬屋「おい男、あんまり寝ているとこいつの味も変わってしまうぞ」
男「」
少女(男さん…昔少し見たことがあった。お姉の長年の想い人…)
薬屋「…妹、すまなかった」
少女「お姉は謝らなくていいんだよ」
薬屋「……」
少女「女盗賊さんに全部聞いたよ。私がどうなってたか、お姉が何をしてたか…」
薬屋「すまない…」
少女「謝らないでいいって。お姉が不器用なことは知ってるもん。それにね、私お姉になら何されてもいいと思ってる」
少女「だってお姉は、一人ぼっちだった私の手を引いてこの国に連れてきてくれた。たくさん、楽しいことを教えてくれたから」
少女「私の、大切なお姉ちゃん」
薬屋「……」ギュ...
薬屋「似た者同士かもしれないな、私達は」
少女「本当?だったら嬉しい」
ーーーーー
男「──少女」
ーーーーー
少女「─!」
男「」
少女「……少女」
112: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:28:42.16 ID:uGTOhtcfO
薬屋「気になるか?男がお前に付けた名だ」
薬屋「これでお前には二つの名が存在することになるのか」
薬屋「…きっとどちらでもあるんだろうな」
少女「……」
男「」
少女(………)
少女(………)
少女(……………!)
ーーーーー
男「──そういうことだ。少しの間だが、共にいてもらうぞ」
男「──ふっ。俺も少女が好きだぞ」
男「──良い案がある。幽霊が多く出現するという北の国はどうだ?」
男「──だから……死ぬな、少女…!」
ーーーーー
少女「………ぁ」
薬屋「…どうした?」
ピクッ
薬屋「!」
男「……ん……」
薬屋「男!目が覚めたか…?私が分かるか!?」
男「…薬屋…」
薬屋「」ギュー
少女「お兄」
男「──っ」
男「少、女…?」
少女「……」
少女「す、き」ニコッ
ー終わりー
113: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 08:29:41.21 ID:uGTOhtcfO
以上で完結となります。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
115: 以下、
おつおつ
後日談はないのかなぁ
117: ◆YBa9bwlj/c 2020/04/13(月) 20:04:49.07 ID:uGTOhtcfO
>>115
後日談は考えていませんが、男が新大陸開拓に駆り出されたり、少女が男に好意を寄せるのに強く出れない薬屋がいたり、女盗賊と青年が修行という名の怪盗を繰り返したり、そんな妄想でもしてくれれば幸いです
元スレ
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