【モバマス】芽衣子「忘れものを取りに行こう」back

【モバマス】芽衣子「忘れものを取りに行こう」


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1:
・アイドルマスターシンデレラガールズのSSです
・並木芽衣子の一人称です
2:
 偶然の出会いなのに、一生の出会いになっている。
 その文字を下にした私物のボストンバッグを持った自分の写真を見て、胸の奥がこそばゆくなった。
 事務所の一角に貼られた旅行会社のポスターはなんとも場違いな感じだったけど、ドアの近くにあるっていうのはなかなか面白いなぁ、なんてことをおもった。誰がここって決めたんだろう、プロデューサーかな、それともちひろさん? 惠ちゃんな可能性だってあるぞ。
 いや、違う違う。予定を確認しに事務所に戻ってきたんだ。意識をはがすようにぶるぶるって首を振って、下に向けて息を吐いた。
3:
 今日の事務所は比較的静かだった。人がいないっていうのもある。帰ってきて早々「ちょうど良かった」って言ってちひろさんは出かけて、使用中の札がかけられた休憩室にはプロデューサーが休んでいるんだとおもう。わんぱくな子供たちは誰もいないし、志乃さんはソファの端っこに顔をつっこむようにして寝てる。留守番を任せてくれたちひろさん曰く「起きないから気にしないで」って、ちょっとだけ笑顔がこわかったのは気のせいかな。
 ホワイトボードに書かれた予定を手帳に書き写して、ちひろさんが帰ってくるまでどうしようかなーっと事務所をウロウロ。
 掃除、はしなくても大丈夫かな、うん、大丈夫だね。メンドくさいってわけじゃなくて、誰がどう見たってキレイだから私がやる必要がないってだけだからね。なんて、誰に向かって言ってるんだろ。
4:
 とりあえず座ろう。でもソファは志乃さんが占領しちゃってるし、向かいに座るのもなぁ、と考えた結果、プロデューサーのデスクのイスに着地した。書類とか資料が端っこにまとまって重ねられていて、書くスペースだけ確保してる。これはどう見たって片付けているとは言えない状態だった。だけどこれを片付けでもしたら「自分がわかるように置いていた」って文句が飛んでくるに決まっている。だから私はノータッチを貫く、そう、席を借りるだけ。私はなにもしなーい。
5:
 飲み物でも買ってくればよかったな、って考えていると、あるものに視線が止まった。なんだろう、らしくないっていうか、プロデューサーと結びづらいものというか、いや、仕事で使うのかも。それにしたって意外だった。次に「懐かしいなぁ」って気持ちがきた。物を重ね重ねて作られた山の頂上に置かれた一冊の文庫本を手に取った。
 白と黄色のビビッドな表紙はどこに置いたって目に付く。触ってわかったけどまだクセがついてない、買ったばかりなんだとおもう。クリーム色の紙の上に置かれた文字を流し見しながらパラパラと軽快にめくってく。ページの真ん中でくるんと半分に折れたスピン(カタカナなのに日本でしかこう言わないみたい。英語じゃブックマークだって)を見て、やっぱり買ったばっかりだって確信した。そのページのお話はこの本の中でも一番ひんやりしたもので、私はあんまり読んでなかったなぁ。コロッサールな悲しみっていう言葉はずっと覚えてるんだけど。
6:
「撮影終わったのか」
 突然背後から声がして、わっ、とイスごと倒れそうになった。
「そこまで驚くことか」って言うけど、いきなりは誰だってそうなるよ、って口が回らずにただただ睨んで訴えるだけになった。
「もうっ、いるならそう言ってよー!」
「いや、事務所に寄るってことも知らなかったから」
 そりゃ言ってないからね、って前歯の裏に当たったところでこれは私の都合が悪くなるだけだって気づいてごくんと飲み込んだ。
7:
「なにか用事が?」
「うん、もう終わったけど」そう言ってデスクの上に置いた手帳をとんとんって指で叩くと、プロデューサーは「あぁ」って納得したみたいだった。
「用事が済んだら早く帰りなさい」
「冷たいなぁ」
「疲れているんだろうから、早く休めって優しさなのをわかってほしいね」
「そういうのはちゃんと言葉にしないと伝わらないよ?」って言ったら「めんどくさい」って小さい声にしても聞こえてるんだから。
「ちひろさんに留守番お願いされたからね」
「俺がいるから早く帰りなさい」
「そんなに帰ってほしいのかー」
「そりゃもちろん」
「そう即答されるとちょっと傷つくよ!」
 ここでソファに志乃さんが寝てる(倒れてる?)ことを思い出して、人差し指を唇の前に当てて『お静かに』のジェスチャー。
「あれ、生きてんの?」
 呼吸はしてたから生きてる、はずなんだけど。
8:
「こう言うのはなんだけど」
 じいっと私を見てきて「ふむ」と小さく呟いたとおもったら「似合わない」と突然なんだっていうのさ。
「文庫本、似合わない」なんてロボットみたいなカタコトが余計むっとくる。じゃあアイドルらしくバチッと決めちゃおうじゃん! って今度は「わざとらしい」って評価、厳しすぎじゃない?
「そういうプロデューサーも文学ってらしくないじゃん」
「これでも昔は学校の図書館に入り浸る生徒だったんだよ」
「寝てたんじゃなくて?」そう聞くと三秒くらい間があって「半々だったかな」
「人のこと言えなくない?」
「それはそれ、これはこれ」
 便利な言葉で一刀両断された。
9:
「でも本当にプロデューサーが読書って印象なかったなぁ」
「そうか?」私から本をとるとページをめくって読み始めた。うん、やっぱり似合ってない。
「懐かしくなってな。昔読んでたから」
「それは本当なんだね」
 私も、って口にしようとしたけど、それを止めてわざとらしく息を吸って、それから一気に吐いた。なんで言うのをやめたのか、自分でもよくわからなかった。
10:
「どうした?」
 心配してくれたプロデューサーに「ううん」って言って次に
「ちょっと昔話していいかな?」
 * * * * *
11:
 高校生の私は悩んでた。世の中ってなにをするにもお金を使うってことに。いや、それは当たり前なんだけど、高校生にとっては五百円硬貨だってお札と同じくらいの価値がある。私は普通の家庭に生まれて普通の人生を送ろうとしているごくごく普通の学生だ。お小遣いなんて想像よりも少なめなのに、その物欲はイコールじゃ結べない。次の支給日までまだあるのに、いつも読んでいる雑誌が買いたいのに、お財布の中はあまりに心許なかった。
 うんうん考えて考えて、そして私はひらめいた。
 そうだ、学校の図書館に置いてもらおう。
12:
 市の図書館ならありそうだけど、家から気軽に行ける距離じゃない。買わなくていいなら本屋で立ち読みでもいいんじゃないって言われるだろうけど、図書館図書室なら座って読める。それはすっごく大きい。
 早行動! と入学してから初めて踏み入れる図書室に。
 図書室はびっくりするくらい静かで、まさに、がらん、て言葉がピッタリだった。誰もいない、いや、ひとりだけ、カウンターの奥で静かに(たぶん)本を読んでいる生徒がいた。少し暗くなった室内に差し込むオレンジが彼女の横顔を照らした。映画のワンシーンみたいなその光景におもわずじっと見入って、ちょっとだけドキドキしてしまった。
13:
 ジャマしちゃ悪いかなぁ、なんておもいつつ、話さないとどうしようもない。心の中でごめんねー、って言いながら近づくと、なんだろう、見覚えのある。あ、クラスメイトだった。
「ねぇねぇ」
 そう声をかけると、爆発音が目の前で鳴ったみたいにビクって体を揺らして、それから目を大きく開いて二回重い瞬きをした。それを見て反射的に「あっ、ごめんね」って言うと、「い、いえ」向こうのが申し訳なさそうな声色に、口の中が苦くなった。飲み物も食べ物もない今、ごまかすためにはとにかく口を動かすくらいしかなかった。
14:
「それ、面白い?」
 彼女の手元にある本を覗くと文字がびっしり、いや、当たり前だけど。
「え、あ、はい、面白い、です」
「そっかぁ」
 自分から聞いておきながらその気の抜けた相槌はなんだ。向こうも困って、本から視線を動かしてくれない。
「今度借りてみよっかな」そう言うと、ぱっと顔が上がって、バチって目があった。なるべく気さくに声をかけたつもりだったんだけど、なんでか向こうは固まっちゃって、肩はぐいって上がっていた。
15:
「本のリクエストって図書委員に言えばいいのかなーって」
 カウンターに座っているから図書委員だって決めつけて話しちゃってるけど、これで違ったらどうしよう。そんな私の不安を飛ばしてくれたのは一枚の紙だった。
「これに書いてもらえれば、大丈夫、です」
「なんで敬語なの。クラスメイトなのに」おもわずこぼれた言葉に「えっと」「あの」ってまた困らせちゃってる。
「もしかして、私の顔覚えてない、って、そんなわけないよねー」って勢いでごまかせたはず、よし。
16:
 リクエスト用紙を受け取って「ここに書けばいいの?」って聞くと、「はい」ってまた敬語。イヤってわけじゃないし別にいいんだけど、それが慣れなすぎて背中がこそばゆくなる。
「敬語じゃなくていいってば」そう言うと、目の前の彼女はちょっと照れたみたいに笑った。あ、笑った顔、かわいい。
 かっこいいからって理由で胸に差していたボールペンをノックして、さぁ、書くぞ、ってときに、ふと疑問が右から左へよぎった。
「図書委員さんに聞きたいんだけど」
 二秒くらい間があって「うん」って返事が来て、嬉しくなったのはナイショだ。
17:
「雑誌って置けるのかな?」
 図書室を使ったことがないのが丸わかりな質問だなぁ、なんて口にしてから気づいた。
18:
 *
19:
 本を読まないってわけじゃなかった。ただ本を読むって習慣がなかっただけで、これでも小学生のときは図書委員をやったことだってある。まぁ、じゃんけんで負けちゃったからって理由なんだけど。そうだ、小中学は読書週間ってものがあって、朝か昼かに必ず本を読む時間があった。高校にはそれがないって義務教育外だから?
 机の上で猫みたくぐいーんって腕を伸ばして大きなあくびをした。ガマンしたつもりだったんだけど声が出ちゃってたみたいで「眠くなっちゃうよね」ってまた余計うつらうつらしそうな優しい声がカウンターから届いた。
「たまに自分がなにしにここに来てたんだろって考えちゃうよ」
 お昼寝しようっておもって来てるわけじゃないんだよ? そんな言い訳を慌てて置いて、手元にある文庫本をわざとらしく持ってアピールした。
「うん」短い相槌だったけどはにかんだ顔を見たらなんだか嬉しくなった。
20:
 私がリクエストした雑誌が図書室に置かれることはなかった(なんとなくわかってたことだけど)。じゃあ本もまともに読まない私がなんでここに? って自分でもおもう。友達にも担任にも同じ質問をされたけど、毎回答えは「さぁ?」で、そして返ってくるのは「芽衣子(担任からは並木)らしいね」って、こっちも頭の上にハテナを飛ばすことになる。
「ひどくない? それが私らしさって、もうひどいの二乗だよ。友達に言われるならまだいいけど、それが教師の言うことかーってさぁ」
 そこまで言って目の前の控えめな『お静かに』のジェスチャーに気づいて両手で口を押さえた。もごもごとごめんねって言葉にまた「うん」そう返ってくるのがやっぱり嬉しかった。
21:
 もう一度背伸びをしてからしおりを挟んだページを開く。本を読むということが習慣付いてない私にとって短編集っていうのはすごく都合良かった。彼女が勧めてくれるのは所謂古典って呼ばれるような作品が多かった。私でも作者か作品の名前のどちらかを知ってるような。古典って言われたらなんだか身構えちゃうけど、実際読んでみるとスラスラいけちゃうし、なにより一編自体がそんなに長くないから「ここまで読もう」がやりやすかった。たまーに見慣れない言葉につまずくことはあったけどささいなことだった。それに、この読書という行為が私の日常の中に当たり前に入ってるものじゃないっていうのがなんだかドキドキした。知らない場所に行くときの気持ちに似てた。それも続いている理由だとおもう。
22:
「そ、それ、どう?」
「本?」
「う、うん。面白い、かなぁって」
 まさに勧めてくれた本人がおずおずと聞いてきた。それに対して私がおもったままの言葉を伝えたら、曇った表情がどんどん晴れやかになっていった。そしてだんだんと視線が落ちていって顔がほんのりと赤くなったのがわかった。本の評価だけじゃなくて彼女のことも褒めたからだってわかったけど、それも大事なことだったから私はやめない。その顔が見たかったってわけじゃない、うん、たぶんね。
 しばらくそれを堪能してから何ページか読み進めて、しおりを挟む。今日の読書は終わり。残りは三分の一くらいかな、このまま順調に読み進めたら返却期限にまで終われそうな気がする。だんだんと読むペースがくなってきてる気がする。本のセレクトももちろんいいんだろうけどね。何冊読んだかなぁ。
23:
 さて。
「なに読んでるの?」私がそう聞くとなにかをカウンターの下に隠すような動きをして「あ、えっと、さ、参考書」って、明らかに怪しい。隠されると見たくなるのが人のサガ。そっかぁ、って興味ないですよーなんて言いながらじいっと見る。すっかり元に戻った顔色がまたトマトみたいに赤くなってきた。しばらくして机の下からおそるおそると出てきて真っ赤な顔を隠したのは私がいつも読んでいる旅行雑誌だった。
「なるほど、参考書」別にウソじゃなかった。
「隠す必要ないじゃん、もー」って言っても顔の前から動かさないし、それを持っている手も心なしか薄く赤みがかかってた。
「旅行の予定が?」
「ううん」さっきとは比にならないくらい小さい声だった。
「じゃあなんで?」
 そう聞いても返事はなかった。
24:
「面白いよね、それ」
「うん」雑誌がちょっとだけ下がって目が見えたけど、視線は外れてた。
「買ったの?」
「うん」
「高いよね、それ」
「うん」
「行った気持ちになれる、ってのは大げさかぁ」
「ちょっとだけ、わかる、気がする」
「行きたくなるよね」
「うん」
「じゃあ、行こっか」
「え?」
25:
 目が合った、ばっちり。
「今は無理だけど」
「うん」
「いつか行こうよ」
「うん」
「うん、じゃ、決まりっ」表紙に指を置いて改めて彼女の目を見た。昨日の夜に出会
ったまん丸の満月みたいだなっておもった。
「あ、えっと」
「うん?」
 なにか言いたげに口をもごもごしてから「どうしよう」って言葉に「どうした
の?」
26:
「パスポートって、どうやって作るんだろう……」
27:
 * * * * *
「それで」
 私の話が一旦終わってから隙間を埋めるみたいにプロデューサーが「行ったのか。そこに」
「ううん、まだ」
「そっか」
「タイミングがなかなか合わなくて」
 それに。そう口にしたところで、あぁ、これ別に言わなくてもいいことだったなぁって後悔をした。けどもう今更だから、一回深呼吸して、
「もう随分会ってないんだよね」
「連絡も?」
「うん。たぶん、二年くらい? かなぁ」
 プロデューサーが持ってきてくれたコーヒーに砂糖を入れた。私がロケに行ったとき、お土産で買ってきたマグカップだった。
 いろんなところに行った。有名な観光地、隠れた名所、ひとりでも行ったし、友達とも行った。その中にはもちろん彼女もいた。人見知りするタイプだからふたりでっていうのが多かった気はするけど。
28:
「聞いていいのかわからないけど」
「そう言うってことは聞きたいんでしょ?」
 コーヒーをひと口飲んでから「確かに、そうとも言うな」ってそうとしか言わないって、それ。
「喧嘩でも?」
「ううん、たぶんしてない」
「たぶん?」
 細かいところに引っかかる、いや、今のはそれを付けた私が悪いんだけど。
「私がそうおもってるだけかもしれないってこと」
「あぁ」
 砂糖をもうひとつ追加した。今日のコーヒーはいつもより苦く感じた。
29:
 キッカケはなんだったっけな。思い出そうとしてもこれってわかりやすいものはなくて、拾ったものを消去法で減らしていくと最後に残ったのは、予定が合わなくなって自然消滅、なんてありきたりなものだった。だんだんと連絡の頻度が減っていって、意味もなく気まずくてこっちから連絡することもできなくなった。そして私はアイドルになって上京したわけで、物理的な距離も遠くなってしまったという。
「そういうところもあったんだな」
「こう見えて結構ナイーブなんですよーってば」
「勇気、直感、度胸はどうした」
 いつもだったらつっかかるところだけど、今日はそういうテンションじゃなかった。スルーされたプロデューサーはわざとらしくため息をついて、マグカップを持って席を立った。
 美里ちゃんや惠ちゃんにこの話をしても同じことを言われるんだろうな、らしくないって。自分でもそうおもう。そうわかってるから今まで誰にも言わなかったのかもしれない。
30:
「それだけ大切ってことだろ」
 真っ黒なコーヒーを持って帰ってきたプロデューサーの言葉に「大切?」って聞き返して「相手のことを」
31:
「そりゃそうだよ。高校からの友達って貴重だもん」
「俺も何人いるか」
「片手くらい?」
「だろうな」言い方は悪いけど、歳をとればとるほどそういう関係って選別されていく。そう言葉を続けた。
「本当に好きなら、とか言うけど、それができたら苦労しないわな」
 もうすっかり冷めたコーヒーは甘々で、底に溶けきっていない砂糖が残ってた。
「昔話聞くつもりがお悩み相談室みたいになったな」
「本当にね。そんなつもりなかったのに」
「ま、いいんじゃないか。たまには」
「なにも解決してないけどさぁ」
 聞いてもらっただけでも助かったけど。
「解決もなにも、なにをやればいいかなんてもうわかっていることだろ」
32:
「え?」
「そういえば、ちょうど一ヶ月後にぽっかり予定空いてたな、一週間くらい」
 ん?
「いやぁ、うっかりしていた」
 わざとらしくこっちをちらり、手帳をちらり、そして棒読み。これはさすがの私でもプロデューサーがなにを言いたいのか気付いた、けど。
33:
「それができたら苦労しないってばー!」
「結局は行動しないとどうも変わらないだろ」
 そんなこと、言われなくてもわかってる、けどさ。
「背中は押せるけど、どうするかを決めるのは並木自身」
「背中押したつもりだったの、それ?」
「見事なパスだろ」
「えー、なんかもっとさぁ」
「あとから考えたら、きっかけなんてどうしようもなくつまらないものなんだよ」喧嘩の理由、仲直りの理由、そんなもんだ、って。
「ロマンもなにもないじゃん、それぇ」
「一冊の文庫本が再会のきっかけって、これ以上のロマンが必要か?」
 そう言われると、確かに。
34:
「いやでも、すっごい雑じゃない?」
「そんなもんだよ、諦めろ」
「それも雑!」
 すっごい久しぶりのまとまった休み、いつもならワクワクして今からどこ行こうなにしようってなってるのに、今日のドキドキはひどく落ち着かない。ひと言で表すと緊張してる。スマホを持って、置いて、持って、置いて、深く椅子に座りなおしたり、足をブラブラさせたり。足クセ悪いなぁって自分でおもうけど、とにかくじっとしてることができなかった。そんな私を見てプロデューサーが笑ってきたけど、それに反応する余裕もなかった。
「悩め悩め」
「この状況、楽しんでない?」
「そりゃ被害妄想だわ」
 いや、絶対楽しんでる。楽しんでないとそんな笑顔で言ってないって。
35:
 しばらくそんなことを繰り返していたら、机の上に置いてたスマホが突然振動し始めた。長い振動音でこれが電話だっていうことがすぐわかった。ひっくり返すとその画面にはずっと連絡がなかった、ついさっきまで話題に出してた名前が表示されていて、胸の奥の奥が誰かにぎゅって掴まれたような気がした。なんてタイミングだろう。偶然にしてはできすぎ、まるで仕組まれてたみたい、ってそれこそ被害妄想か。プロデューサーはいつの間にかいなくなってて、相変わらず志乃さんは寝たまま、もしかしたら起きてるのかもしれないけど、まぁそれはいいや。
 ええい、ままよ。決心してスマホを持った。
「も、もしもし?」
 心なしか声も右手も震えてて、自分がちょっとだけ情けなくおもえた。
36:
 気持ち間があってから耳に届いたのは、胸をなでおろしたようなゆるいため息と少し湿った声だった。
『よかった。番号、変わってなかったんだ、ね』
37:
「そっちだって、変わってないじゃん」
 喉奥に熱いものが詰まったみたいな感覚があった。出していいのか、それとも出しちゃダメなのかわからなくて、ごくんと息を飲んだけど、まだそこにあるみたいだった。
『えっと、あの、ひ、久しぶり、だね』
 歯切れの悪いその言い方が懐かしくて、つい口元が緩んだ。ただずっと心臓は忙しい。話したいことはいっぱいあった。謝らなきゃいけないこともあった。いっぱいあったんだけど、まずこれを言わなきゃ、聞かなきゃいけなかった。あの日からずっと置きっぱなしの忘れものを、今こそ取りに行くときだ。
38:
「あのさ、パスポート持ってる?」
3

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