【モバマス】あずき「触れた瞬間シュワっと恋に落ちて」back

【モバマス】あずき「触れた瞬間シュワっと恋に落ちて」


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「あずきちゃん、誕生日おめでと?♪ これプレゼント」
「ありがとう、志希さん!」
そう言って志希さんがくれたのは目薬のような入れ物に入った液体。この事務所にはタダ者じゃない人たちがたくさんいる。志希さんはその中でもトップクラスでタダ者じゃない。化学の天才で匂いフェチ、自由奔放な性格。当然、プレゼントもタダ物じゃない。
「それはね、1日だけ想いを強くするお薬♪ 例えば好きっていう気持ちを感じていたとして、それがライクだったとしてもラヴに変わっちゃうの。あ、健康には問題ないよ? 安全安心の志希印?」
ライクでもラブに変わっちゃう? じゃあ、もしこれをあの鈍感プロデューサーに使ったら……あずきを愛しちゃう!?
2:以下、
「そ、そんなすごいのもらっちゃってもいいの!?」
「もういっぱい作ったし、何人かに試したからダイジョーブ」
「そ、そうなんだ。えっと、これはどうやって使うの?」
「飲ませて触れるだけ?。分量はお好みでいいよ。ちょっとでも全部でも効果は一緒だし」
「へ、へぇー。ありがとう、志希さん! 早使ってみるね!」
「使ったら感想よろしくねー、あと気化しやすいから液体にさっと混ぜて使ってね?♪」
3:以下、
プロデューサーを惚れさせる大作戦。
こっちがアピールしても気づいてくれないなら、それは向こうからアピールしてもらわなくちゃ。
それに今日はあずきの誕生日だし、1日だけ夢を見てもいいよね?
コーラを自販機で一本買う。ペットボトルじゃダメ。カンじゃなきゃ。
ピッとスイッチを押すとガコンとコーラが落ちる。
コーラを手に取ると、シャカシャカと数回カンを振る。ここがミソ。
「プロデューサー、おつかれ! コーラだよ」
高らかにコーラを持ち上げる。決して飲み口は見えないように。
「あぁ、サンキューあずき」
「開けてあげるね」
開けた途端にプシュっと音がして一気に泡が溢れてくる。
「うわわわわ! プロデューサー早く飲んで! 溢れる!」
「うおっとと!」
プロデューサーは急いだためか不自然にカンの底を握ると、カンの周りの泡を一気に飲み込んだ。
(やった! 薬を飲んだ!)
すでに開けられた飲み物じゃ怪しまれるけど、目の前で開けられたカンに薬が入ってるなんて怪しむ人は流石にいない。
じゃあ、どうやって薬を飲ませるのかと言うと、カンならではの飲み口の窪みに薬を注いだのである。
カンを開けるのは一瞬だし、事前にカンを振って泡が溢れるようにすれば泡が薬をカモフラージュしてくれる。
我ながら賢い大作戦。
4:以下、
「プロデューサーごめん」
ハンカチでプロデューサーの手を拭くついでに手の甲に触れる。
ちょっと罪悪感。
でも、これでいいんだよね?
プロデューサー、気づいてよ?
あずきはプロデューサーのことが好きなんだよ?
プロデューサーはきっとあずきのこと「好き」って言ってくれる。
でもそれは私の「好き」とは違うんだよね?
だから、今日だけ。
「好き」って言ってよ。
だから──
「やめろ。あずき」
「……え?」
「触れただろ、今……」
「え、ご……ごめん」
だから、そんな恐ろしい視線をあずきに向けるなんて思っても見なかった。
5:以下、
あずきは、知っていた。というよりも信じたかった。信じたくなかった。
『想いを強くする薬』はあくまでその名前の通りでしかない。
志希さんは決して惚れ薬とは言わなかった。
ライクをラブに、はあくまで『例え』でしかない。
だから、もしプロデューサーがあずきのことが嫌いなら、もっと嫌いになる。
視界がグニャっと歪み、水が頬を伝う。
息ができない。
足が震える。
声が出ない。
そんな、嘘だよ。
プロデューサーはあずきにあんなに優しくしてくれたんだよ?
あんなにあずきのために一生懸命になってくれたんだよ?
だからあずきはプロデューサーのことを好きになったんだよ?
全部イヤイヤだったの?
あずきのことをあんなに褒めてくれたのも全部お世辞だったの? お仕事で仕方なくだったの?
6:以下、
「ひっ……ひぐぅ……ごめ、ごめんなさい……う、うぅ……嫌わ……嫌わない、で」
必死に言葉を絞り出す。
嫌だよ、薬なんかもう使わないから、あずきにもう一度夢を見せてよ。
嘘でもいいから、あずきのことを──
「あずき!」
その時のプロデューサーの顔は忘れられない。深い軽蔑と激しい怒りの顔。
「いやあああああああ!!」
あずきは逃げ出した。
もう必死だった。
涙で前はよく見えなかった。
気づいた時には家にいた。
「ひっく……あ、あずきの誕生日なのに……こんなのってあんまりだよ……」
夜には、あずきの誕生パーティーを事務所のみんなが開いてくれることになってる。
だけど、今日は行くことができるのかわからなかった。
行かなくちゃみんなに迷惑がかかる。なんたって、あずきのためのパーティーなんだから。
7:以下、
「一日……一日だけだから……明日になればきっといつものプロデューサーに戻ってくれるから……」
泣き疲れてフラフラの体を引きずって、事務所に戻る。
入り口の扉に手をかけようとした瞬間。
『待て、あずき』
プロデューサーの声だ。
扉の外にいるあずきには中の様子は見えない。
「あ、プ、プロデューサー……」
『その扉を開けるな。顔が見える』
「う、うああああぁ……! プロ、デューサー……」
もう泣くしかない。自分の誕生パーティーに出席させてもらえないなんて、きっとあずきが最初で最後の人間だ。
いくら後悔しても謝っても、嫌われてしまっているなら意味がない。
なんであんなことしたんだと、自分を責め続けても、大好きなあの人はもういない。
明日になってもそれは変わらない。
だって、好きじゃなかったんだから。
あずきの妄想だったのだから。
いくらあずきがアピールしても意味がなかったわけだ。だってあずきのことが嫌いなんだから。
ライクですらなかった。
もうあずきは空っぽだった。
8:以下、
「ごめ、ん……プロデューサー。あずき、もう帰るから……みんなにごめんなさいって……」
『待て!』
だから──
「…………?」
『あずき、大好きだ!』
「…………え?」
その言葉を直ぐに理解する事ができなかった。
『もう一度言うぞ! あずき、大好きだ! ライクじゃ無いぞ! ラブ!ラヴ!』
「え、え、えええ!?!?」
『まだ伝わらないか! 言い方変えるぞ! 月が綺麗ですね! 俺のために毎日味噌汁作ってくれ! 君の瞳に乾杯!』
『んにゃ、最後のは変じゃない?』
9:以下、
何が、なんだか。あずきは夢を見ているの?
あまりのショックに妄想の世界入り?
『あずきの様子がおかしかったから志希に聞いたんだ。そしたら、あずきが何をしたかったのかわかったんだ』
『あずきちゃーん、もしかして自分でお薬使っちゃった?』
「え? そ、そんなことないけど……」
困惑している私に志希さんが不思議なことを聞いてきた。
あずきはあくまでプロデューサーにしか薬を飲ませていない。あずきは一口も口にしていないはず。
『どうやってプロデューサーにお薬飲ませたの?』
「えっと──カンの飲み口の窪みに注いで……」
『あー、プロデューサーから聞いた通りだね?。あずきちゃん、それ、多分気化してる」
「え?」
『今日あっついよね?。その方法だと、カンを開けるまで薬が温められて気体になっちゃうんだよ。ほーんのちょっぴりだけどね。多分肺から直接お薬を取り込んじゃった感じだね』
「つまり、あずきもお薬を飲んじゃってた、いや、吸っちゃってたってこと?」
『うん。そうだと思うよ? それであずきちゃんは今、プロデューサーに対するある感情が増幅されている』
「ある……感情?」
『それは不安感……だと思うよ? プロデューサーに嫌われてたらどうしよーって気持ち。それで、どんな言葉もマイナスの印象で受け取っちゃうんだよ』
自分の不安……あずきは心当たりがあった。コーラをプロデューサーに飲ませる時、少し罪悪感があったから。プロデューサー、怒ったらどうしようってその時思ったから。
つまり、あの時の恐ろしいプロデューサーの顔は、本当にプロデューサーがしていた顔じゃなくてあずきの不安がそう見せていたということ?
10:以下、
「じゃ、じゃあプロデューサーはあずきのこと嫌いじゃないんだよね!?」
『当たり前だ! 嫌いなわけないだろ!』
「で、でもプロデューサーもあの薬を飲んだんだよね!? じゃあなんであの時あんなこと──」
あの時プロデューサーもあの薬を飲んでいた。想いが増幅されるなら、あずきのことが嫌いじゃないなら、あの時どうして『触れただろ』なんて言ったのか。
『あー、実はあの薬、俺には効いていなかったんだ』
「え?」
『実はあずきからコーラをもらう前に志希にあの薬を飲まされたんだ』
志希さんの『分量はちょっとでも全部でも効果は一緒』という言葉を思い出す。
つまり、先にちょっとでも薬を飲んだら、後で薬を飲ませても最初の方の効果が優先されるということだ。
それと、もう一つ。
「志希さんが言っていた『何人かに試してみた』のってまさか……!」
『俺。薬を飲んだ後、志希に言われたんだ。触れたら想いが増幅されるってな。でも最初に触れたの以外には効果がないって聞いていなくてな。だからあの時ああ言ってしまったんだ』
つまり、プロデューサーは志希さんによって誰かの思いを増幅された。その後にあずきが薬を飲ませた。だけど薬の分量にかかわらず効果は一緒だからあずきに触れても、あずきに対してのは効果がなかったってことだった。
11:以下、
「な、なんだぁ。よ、よかったよぉ……怖かったよぉ!」
またポロポロと涙が溢れてくる。でも今度は真逆の涙。
『もう不安は無いよな?』
「うん」
『じゃあ、その扉を開けてくれ』
「うん」
あずきは力強くドアノブを回す。
中にいたあの人はいつもよりもずっと優しそうな目をしているように見えた。なんだか、いつもよりカッコよく見えてきたかも?
「パーティーはまだ少し早いけど、誕生日おめでとう。あずき」
プロデューサーの言葉が全て私の中で幸福に変わっていく。こんなに人の言葉に感動するのは初めてだ。
「ありがとう……プロデューサー」
顔がどんどん熱くなる。
これも薬の効果なのかな?
あずきの大好きの気持ちが、どんどん強くなっていく。
ガバッとプロデューサーに抱きつく。
もう我慢できない。
「プロデューサー、ちゅ、ちゅーしよ?」
「え、マジか! オッケー!」
軽っ! っていつもの調子ならそう言ってたけど、今は──
「ん────」
「えへ♪ プロデューサー……」
この幸せを精一杯享受するんだ。
12:以下、
「あずきチャン……!」
「あ、あずきちゃん!?」
「あずきちゃん……」
「うわあああああああぁ!?」
精一杯過ぎて周りに気づかないほどに。
おわり
13:以下、
オマケ
「ところでプロデューサーは誰への想いが強くなったの?」
「ヘレンさん」
「わ、わーお……」
「不思議な気分だ。ヘレンさんを見ていると自分がちっぽけな存在だと気づかれれるんだ。そう、俺はもっと世界を見るべきだったんだ……!」
「プロデューサー?」
「俺もヘレンさんを見習わないと……より世界レベルに近づけるよう……先ずはダンス、バンブーダンスの練習をしなくては……!」
「プロデューサー!」
「その後はファイヤーダンス、リンボーダンス! やるべきことは山積みだ! だが不思議と気だるさはない……何故なら世界レベルを目指す俺もすでに世界の一部なのだから……! 」
「帰ってきてよー! プロデューサー!」
本当におわり
14:以下、

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