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日本の文豪の美文・名文を載せるで


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気長に見ていってや
2:
見てくで
4:
wktk
5:
彼女がその屋台を出て、電車の停留場へ行く途中、しなびかかった悪い花を三人のひとに手渡したことをちくちく後悔しだした。
突然、道ばたにしゃがみ込んだ。胸に十字を切って、わけの判らぬ言葉でもって
烈しいお祈りをはじめたのである。
 おしまいに日本語を二言囁いた。
「咲クヨウニ。咲クヨウニ」
――太宰治「葉」
6:
 死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。
これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。
――太宰治「葉」
8:
>>6
これすこ
7:
原文知っとるやつは変な改行入ってても堪忍してや
9:
>>7
ええんやで
11:
テツさんは、窓縁につつましく並べて置いた丸い十本の指をやたらにかがめたり伸ばしたりしながら、ひとつ処をじっと見つめているのであった。
私はそのような光景を見て居れなかったので、テツさんのところからこっそり離れて、長いプラツトフオムをさまよい歩いたのである。列車の下から吐き出されるスチイムが冷い湯気となって、白々と私の足もとを這いまわっていた。
私は電気時計のあたりで立ちどまって、列車を眺めた。列車は雨ですっかり濡れて、黝く光っていた。
――太宰治「列車」

12:
昨年、彼が借衣までして恋人に逢いに行ったという、そのときの彼の自嘲の川柳を二つ三つ左記して、この恐るべきお洒落童子の、ほんのあらましの短い紹介文を結ぶことに致しましょう。
落人の借衣すずしく似合いけり。この柄は、このごろ流行と借衣言い。その袖を放せと借衣あわてけり。借衣すれば、人みな借衣に見ゆる哉。味わうと、あわれな狂句です。
――太宰治「おしゃれ童子」
14:
病む妻や
とどこほる
雲鬼すすき
――太宰治「葉」
15:
太宰好きなん?
16:
>>15
作家ごとにまとめて貼っとるだけやで
ばらばらに混じって上げたら見づらいやろ?
正直に言ってワイの好みによる偏りはあるで
17:
赤ちゃんの背中は、かさかさ乾いて、そうして痩せていました。けれども私は仲間の紙幣にいいました。
「こんないいところはほかにないわ。あたしたちは仕合せだわ。いつまでもここにいて、この赤ちゃんの背中をあたため、ふとらせてあげたいわ」
仲間はみんな一様に黙ってうなずきました。
――太宰治「貨幣」
19:
小鳥を飼い、舞踏を見るのがそんなに立派な生活なのか。刺す。そうも思った。大悪党だと思った。
――太宰治「川端康成へ」
20:
疼痛。からだがしびれるほど重かった。ついであのくさい呼吸を聞いた。
「阿呆」
スワは短く叫んだ。
ものもわからず外へはしって出た。
吹雪! それがどっと顔をぶった。思わずめためた坐って了った。みるみる髪も着物もまっしろになった。
スワは起きあがって肩であらく息をしながら、むしむし歩き出した。着物が烈風で揉みくちゃにされていた。どこまでも歩いた。
滝の音がだんだんと大きく聞えて来た。ずんずん歩いた。てのひらで水洟を何度も拭った。ほとんど足の真下で滝の音がした。
狂い唸る冬木立の、細いすきまから、
「おど!」
 とひくく言って飛び込んだ。
――太宰治「魚服記」
21:
もうこれからは、女子は弱いなどとは言わせません。
なにせ同権なのでございますからなあ、実に愉快、なんの遠慮も無く、庇うところも無く、思うさま女性の悪口を言えるようになって、
言論の自由のありがたさも、ここに於いて極点に達した観がございまして、あの婆さん教授に依って詩の舌を根こそぎむしり取られました私も、まだ女性を訴える舌だけは、この新憲法の男女同権、言論の自由に依って許されている筈でございますから、
私のこれからの余生は挙げて、この女性の暴力の摘発にささげるつもりでございます。
――太宰治「男女同権」
23:
>>21
女叩きスレに載せてやりたい
24:
水平線の濃紺が空に接するところに、低くつらなった積雲がわだかまっている。それは動かないが、夕顔の花弁がほぐれるように、実はごく静かにほぐれて、形を少しずつ変えているのである。
その上にはやや色褪せたよく晴れた青空があり、雲はまだ色づくには早いが、内部からの光で、ほんのりと杏いろの影を刷いている。
――三島由紀夫「海と夕焼け」
27:
……ようやく四人は、丘の稜線に辿りついた。雑草に覆われた坂の半ばで、倒れて草に顔を伏せ、一雄に扶けられて夜露にしとどになった顔をあげた重一郎は、
自分が第二の丘の上のひろい麦畑に達したのを知った。
その丘のかなたには、更に湖中の島のように、叢林に包まれた丘があった。
「来ているわ!お父様、来ているわ!」
と暁子が突然叫んだ。
円丘の叢林に身を隠し、やや斜めに着陸している銀灰色の円盤が、息づくように、緑いろに、亦あざやかな橙いろに、
かわるがわるその下辺の光りの色を変えているのが眺められた。
――三島由紀夫「美しい星」
28:
掌に余る大きな百万円せんべいを、彼は両手で引き破ろうと身構えた。
手に煎餅の甘い肌が粘ついた。買ってからずいぶんときが経ったので、すっかり湿った煎餅は、引き破ろうとするそばから柔らかくくねって、くねればくねるほど強靭な抵抗が加わり、建造はどうにもそれを引き破ることができなかった。
――三島由紀夫「百万円煎餅」
30:
中尉がようやく右の脇腹まで引廻したとき、すでに刃はやや浅くなって、膏と血に辷る刀身をあらわしていたが、突然嘔吐に襲われた中尉はかすれた叫びをあげた。
嘔吐が激痛をさらに撹拌して、今まで堅く締っていた腹が急に波打ち、その傷口が大きくひらけて、あたかも傷口がせい一ぱい吐瀉するように、腸が弾け出てきたのである。
腸は主の苦痛も知らぬげに、健康な、いやらしいほどいきいきとした姿で、嬉々として辷り出て股間に溢れた。
中尉はうつむいて、肩で息をして眼を薄目にあき、口から涎の糸を垂らしていた。肩には肩章の金がかがやいていた。
――三島由紀夫「憂国」
31:
美文体ってなると泉鏡花と大衆作家だが連城三紀彦がええよね
32:
>>31
境内の半分近くを占めて、拡がっている池は、水も濁り、塵を浮かべていましたが、それでも夏の終わりの残光を、純白に跳ね返して、睡蓮の花が咲いています。
蓮は真宗でいう極楽浄土に、さまざまな色で、咲き乱れる花です。
(中略)
その後の人生を、罪だけを見つめて生きるために、悪人になりきるために――そして、また私の血を守るために。
――連城三紀彦「白蓮の寺」
33:
駒沢は尿意を催おして、そのまま何のためらいもなく放尿した。すべては許されていた。襁褓が当てられていて、それは尿を、柔らかな草地のように受け容れた。
尻のあたりには尿があたたかくひろがった。そのすばらしい、子どもたちの永遠の日曜日のあたたかさ。駒沢は恵みを感じ、全身がそのあたたかさの中へ融け入ってしまう心地がした。
――三島由紀夫「絹と明察」
34:
彼女の肩は海岸線のようになだらかに左右へ下り、頚筋や腕はほのかに日焼けがしていたが、胸もとからは、内側から灯したように温かい白さの、薄く膏の乗った、無染の領域がはじまっていた。
彼女の乳房にいたるなだらかな勾配は、急に傲った形になって、双の手がそれを揉むと、葡萄いろの乳首がそむき合った。
ひそかに息づいている腹。その妊娠線。
(中略)
 それから登は見た、あの黒い領域を。それはどうしてもよく見えず、こんな努力のために登の眼尻はいたんで来た。……彼はあらゆる猥褻な言葉を考え出したが、言葉はどうしてもその叢の中へ分け入ることができなかった。
――三島由紀夫「午後の曳航」
35:
花は実に清冽な姿をしていた。一点のけがれもなく、花弁の一枚一枚が今生れたように匂いやかで、今まで蕾の中に堅く畳まれていたあとは、旭を受けて微妙な起伏する線を、花弁のおもてに正確にえがいていた。
それは実に正確な形象だったので、僕はゆくりなくも宋代花鳥画の気品の高い写実、なかんずく徽宗帝の水仙鶉図を思い出した。
(中略)
僕の眼が水仙を見、これが疑いもなく一茎の水仙であり、見る僕と見られる水仙とが、堅固な一つの世界に属していると感じられる、これこそ現実の特徴ではないだろうか。するとこの水仙の花は、まさしく現実の花ではないか。
――三島由紀夫「鏡子の家」
36:
谷崎か荷風頼むで?(小声)
38:
>>36
再び軽い拍子木の音を合図に、黒衣の男が右手の隅に立てた書割の一部を引取ると裃を着た浄瑠璃語三人、三味線弾二人が、窮屈そうに狭い台の上に並んでいて、直ぐに弾出す三味線からつづいて太夫が声を合してかたり出した。
長吉はこの種の音楽にはいつも興味を以て聞き馴れているので、場内の何処かで泣き出す赤児の声とそれを叱咤する見物人の声に妨げられながら、しかも明かに語る文句と三味線の手までを聴き分ける。
~朧夜に星の影さへ二ツ三ツ、四ツか五ツか鐘の音も、もしや我身の追手かと……
――永井荷風「すみだ川」
39:
これと云って奇巧のない、閑雅な、明るくひらいた御庭である。数珠を繰るような蝉の聲がこれを領している。
そのほかには何一つ音とてなく、寂寞を極めている。この庭には何もない。記憶もなければ何もないところへ、自分は来てしまったと本多は思った。
庭は夏の日盛りを浴びてしんとしている。……
――三島由紀夫「天人五衰」
37:
三島由紀夫の濃厚なホモ視線美文すき
40:
あはれ鳳暦は霜幾くならず、玉顔も浪未だ浸さずおはしますを、菩提の御意の發し給ひけるこそは、貴きものから、悲しくぞ覺えける。
髻を自ら落し給ひし悉達太子の昔を思ひやれば、壇特山は跡暗うして、見て、悲しむ人少なくこそありけれ。
戒を人に受け給へる、國母の今を見奉れば、日本の國は擧りて恩を惜む繁かりけり。いでや今日こそは五戒を悉く持ちおはしませ。苔を穿たぬ輕きおん歩み、蓮にうけて傾かずぞ候ふ可かりける。
千葉花臺の舎那、百億蓮葉の釈尊、諸共に百年の戒を守り給ひて、九品蓮に昇り給へ、聞き給へ。御功徳限あらず。法界の衆生迄遍く及ばむ。
――谷崎潤一郎 戯曲 「誕生」
42:
ワイ無能、大江健三郎を所望
43:
>>42
草に囲まれて黒ぐろと露に濡れた岩肌が向き出ている横に、両手をぐったり開いた彼があおむけに横たわって微笑んでいた。僕は屈みこみ、彼の微笑んだ顔の、鼻孔と耳から、どろどろした濃い血が流れているのを見た。
子供らが暗い草原を駆けて来るざわめきが、谷から吹き上げる風に逆らって高まってきた。
――大江健三郎「飼育」
44:
こう云って、光子は何処かへ行って了ったが、暫くすると、不意にあたりの寂寞を破って、ひっそりとした隣の部屋から幽玄なピアノの響きが洩れて来た。
銀盤の上を玉あられの走るような、渓間の清水が潺湲と苔の上をしたたるような不思議な響きは別世界の物の音のように私の耳に聞えて来る。額の蝋燭は大分短くなったと見えて、熱い汗が蝋に交ってぽたぽたと流れ出す。
隣りにすわって居る仙吉の方を横目で微かに見ると、顔中へ饂飩粉に似た白い塊が二三分の厚さにこびり着いて盛り上り、牛蒡の天ぷらのような姿をしている。
――谷崎潤一郎 「少年」
45:
ハタから見た感じを云えば、孰方かと云うと、陰鬱な、無口な児のように思えました。顔色なども少し青みを帯びていて、譬えばこう、無色透明な板ガラスを何枚も重ねたような、深く沈んだ色合をしていて、健康そうではありませんでした。
――谷崎潤一郎 「痴人の愛」
46:
春琴は天鼓の啼く音を聞きながらこの曲の構想を得たのである手事の旋律は鶯の凍れる涙今やとくらんと云う深山の雪のとけそめる春の始めから
水嵩の増した渓流のせせらぎ松籟の響き東風の訪れ野山の霞梅の薫り花の雲さまざまな景色へ人を誘い、谷から谷へ枝から枝へ飛び移って啼く鳥の心を隠約の裡に語っている生前彼女がこれを奏でると天鼓も嬉々として咽喉を鳴らし声を絞り絃の音色と技を競った
――谷崎潤一郎「春琴抄」
47:
色褪せた覆いの油単を払うと、下から現れたのは、古びてこそいるが立派な蒔絵の本間の琴であった。
蒔絵の模様は、甲を除いたほとんど全部に行き亘っていて、両側の「磯」は住吉の景色であるらしく、片側に鳥居と反橋とが松林の中に配してあり、片側に高燈籠と磯馴松と浜辺の波が描いてある。
「海」から「竜角」「四分六」のあたりには無数の千鳥が飛んでいて、「荻布」のある方、「柏葉」の下に五色の雲と天人の姿が透いて見える。そしてそれらの蒔絵や絵の具の色は、桐の木地が時代を帯びて黒ずんでいるために、一層上品な光を沈ませて眼を射るのである。
――谷崎潤一郎「吉野葛」
48:
その考は、たとえば天の啓示のように瑠璃光の頭上に降って来た。最初は電光の如く閃々ときらめいて居たものが、次第に海の波濤の如くひろがって、ひたひたと瑠璃光の魂を浸し、全身に漲って来た。
そのすがすがしい、嚠朗たる音楽に酔って居るような心持は、三昧の境地に這入った行者でなければ味い得ない、貴い宗教的感激であるかのように覚えたのであった。瑠璃光は我知らず掌を合わせて眼に見えぬ佛を拝んだ。
そうして、胸の奥で次の言葉をつづけざまに繰り返した。
「しばしの間でも今生の栄華に心を移して、来世の果報を捨てようとした愚かな罪を、どうぞお許し下さいまし。
もうわたくしは二度と再び、今夜のような浅ましい考を起すことはございませぬ。どうぞお許し下さいまし。」
――谷崎潤一郎「二人の稚児」
49:
イッチ博学なんやな
漢詩あたりでいいのあるかな
51:
>>49
明月照高樓
流光正徘徊
上有愁思婦
悲歎有餘哀
借問歎者誰
言是客子妻
――曹植「七哀の詩」
52:
>>51
ちなまだ続きあるで
でもワイはこの部分がことさら好きやから選んだわ
閨怨詩、つまり閨(女性の寝室)で男性を恨み待ち望む女の詩や
71:
>>51
ありがとう
ワイいい歳だけど勉強になるわ
50:
長くなってきてるのがあかん
2行3行程度に収められるのが名文じゃないんかなと
これじゃ1ページ丸々って感じ
53:
>>50
すまん
どこで切ったらええかうまく判別できんワイの問題や
谷崎はついつい長くなってもうたけど、次の作家は短い文章が多いで
55:
以上、私は文章道の全般にわたり、極めて根本の事項だけを一と通り説明致しましたが、枝葉末節の技巧について殊更申し上げませんのは、申し上げても益がないことを信ずるが故でありまして、もしみなさんが感覚の錬磨を怠らなければ、教わらずとも次第に会得されるようになる。
それを私は臨むのであります。
――谷崎潤一郎「文章読本」
56:
「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。
――川端康成「片腕」
58:
乗合馬車に追いつく。馬車が道端へ寄る。
「ありがとう」
荷車。
「ありがとう」
馬。
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
彼は十五里の野山に感謝を一ぱいにして、半島の南の端の港に帰る。
今年は柿の豊年で山の秋が美しい。
――川端康成「有難う」
60:
谷には池が二つあった。
下の池は銀を焼き溶かして湛えたように光っているのに、上の池はひっそり山陰をしずめて死のような緑が深い。
私は顔がねばねばする。振り返ると、踏み分けてきた草むらや笹には血が落ちている。その血のしずくが動き出しそうである。
――川端康成「骨拾い」
61:
漱石が一つもなくて草枯れますよ
63:
>>61
芥川、漱石、泉鏡花、梶井基次郎はもう少し待ってクレメンス
62:
「桃色。桃色。」
だんだん透き通ってくる白い肌を覗きながら、「桃色」という言葉を思い出して笑っている。
誰か男が一こと自分を求めれば、――こくりとうなずこうと思って笑っている。
――川端康成「白い花」
65:
「おじさん、中へ乗るのは厭なんだのもの。中へ乗りたくはないんだんもの」
「足の血を見な、血を。靴下が赤くなってるじゃねえか。凄い、少女郎だなあ。」
二里の上りをゆるゆる馬車はもとの村へ近づいた。
「おじさん、ここで下ろして頂戴」
勘三がふと道端を見ると、小さい靴が一足枯れ草の上に白く咲いていた。
――川端康成「夏の靴」
66:
道の東の端に遊んでいた子供たちが西を向き、てんでに足を縮めて身構えしては、飛び上っている。落ちた日を眼で捉えようとして。
「見えるぞ!」
「見えるぞ!」
「見えるぞ!」
嘘ばっかり言ってる。見えもしないのに――
――川端康成「落日」
67:
熱海の宿の庭には、一月の中ごろに桜が満開だった。寒桜ということで、年の暮れから咲きはじめているとのことだが、信吾は別世界の春にあったように感じた。紅梅を信吾は緋桃の花と見ちがえた。白梅が杏子か何かの花に見えた。
部屋へ案内されるより先きに、泉水にうつる姿に誘われて、信吾はその岸へ行った。橋の上に立って花をながめた。
向こう岸へ傘の形の紅梅を見に行った。
紅梅の下から白いあひるが三四羽逃げ出した。そのあひるの黄色いくちばしと、少し濃い黄色の足にも、信吾は春だと感じた。
――川端康成「山の音」
68:
娘の腕から胸をはなすと、私は両方の手をその腕のつけ根と指にかけて、真直ぐにのばした。五燭の弱い光が、娘の片腕のその円みと光のかげとの波をやわらかくした。
つけ根の円み、そこから細まって二の腕のふくらみ、また細まって肘のきれいな円み、肘の内がわのほのかなくぼみ、そして手首へ細まってゆく円いふくらみ、手の裏と表から指、私は娘の片腕を静かに廻しながら、それらにゆらめく光とかげの移りをながめつづけていた。
――川端康成「片腕」
69:
女は四十半ばぐらいの小柄で、声が若く、わざとのようにゆるやかなものいいだった。薄い唇を開かぬほどに動かせ、相手の顔をあまり見ない。黒の濃いひとみに相手の警戒心を緩める色があるばかりでなく、女のほうにも警戒心がなさそうな、ものなれた落ちつきがあった。
――川端康成「眠れる美女」
70:
この殺人を、三人の生涯になんの連絡もないもの、三人の生活になんの関係もないもの、つまりこの一つの行為だけが、ぽかりと宙空に浮んだもの、
いわば、根も葉もない花だけの花、物のない光だけの光、そんな風に扱いたかったらしいが、下根の三文小説家に、さような広大無辺のありがたさが仰げるものか。
ざまをみろ。
――川端康成「散りぬるを」
72:
玲瓏、明透、その文、その質、名玉山海を照らせる君よ。溽暑蒸濁の夏を背きて、冷々然として獨り涼しく逝きたまひぬ。倏忽にして巨星天に在り。
光を翰林に曳きて永久に消えず。然りとは雖も、生前手をとりて親しかりし時だに、その容を見るに飽かず、その聲を聞くをたらずとせし、われら、君なき今を奈何せむ。
おもひ秋深く、露は涙の如し。月を見て、面影に代ゆべくは、誰かまた哀別離苦を言ふものぞ。高き靈よ、須臾の間も還れ、地に。君にあこがるゝもの、愛らしく賢き遺兒たちと、温優貞淑なる令夫人とのみにあらざるなり。
辭つたなきを羞ぢつゝ、謹で微衷をのぶ。
――泉鏡花「芥川龍之介を弔ふ」
74:
が、雨である。雨だ。
雨が降る……寂しい川の流とともに、山家の里にびしよびしよと降る、たそがれのしよぼしよぼ雨、雨だ。しぐれが目にうかぶ。……
――泉鏡花「雨ばけ」
75:
それがさ、骨に通って冷たいかというとそうではなかった。暑い時分じゃが、理窟をいうとこうではあるまい、私の血が沸いたせいか婦人の温気か、手で洗ってくれる水がいい工合に身に染みる、もっとも質の佳い水は柔かじゃそうな。
その心地の得もいわれなさで、眠気がさしたでもあるまいが、うとうとする様子で、疵の痛みがなくなって気が遠くなって、ひたと附ついている婦人の身体で、私は花びらの中へ包まれたような工合。
――泉鏡花「高野聖」
76:
上衣無しで、座敷着の上へ黒縮緬の紋着の羽織を着て、胸へ片袖、温容に褄を取る、襲ねた裳しっとりと重そうに、不断さえ、分けて今夜は、何となく、柳を杖に支かせたい、すんなりと春の夜風に送られて、向うから来る姿。
……手を曳かれたり、三人つれたり、箱屋と並んで通るのだの、薄彩色した陽炎が朧に顕れた風情の連中が、行違ったり、出会ったり、大勢の会釈するのが、間の隔った時分から――西河岸の露店の裸火を、ほんのりと背後にして軒燈明の寝静まった色の巷に引返す、
――この三人の目に明かに見えたのである。
――泉鏡花「日本橋」
77:
日光掩蔽 地上清涼 靉靆垂布 如可承攬
其雨普等 四方倶下 流樹無量 率土充洽
山川険谷 幽邃所生 卉木薬艸 大小諸樹
――泉鏡花「薬草取」
78:
町充満、屋根一面、上下、左右、縦も横も、微紅い光る雨に、花吹雪を浮かせたように、羽が透き、身が染って、数限りもない赤蜻蛉の、大流れを漲らして飛ぶのが
行違ったり、卍に舞乱れたりするんじゃあない、上へ斜、下へ斜、右へ斜、左へ斜といった形で、おなじ方向を真北へさして、見当は浅草、千住、それから先はどこまでだか、ほとんど想像にも及びません。
――明石町は昼の不知火、隅田川の水の影が映ったよ。
――泉鏡花「縷紅新草」
79:
一生他人たるまじと契りたる村越欣弥は、ついに幽明を隔てて、永く恩人と相見るべからざるを憂いて、宣告の夕べ寓居の二階に自殺してけり。
――泉鏡花「義血侠血」
80:
汽車の通るのを仰ぎ見ながら、一斉に手を挙げるが早いか、いたいけな喉を高く反らせて、何とも意味の分らない喊声を一生懸命に迸らせた。
するとその瞬間である。窓から半身を乗り出してゐた例の娘が、あの霜焼けの手をつとのばして、勢よく左右に振つたと思ふと、忽ち心を躍らすばかり暖な日の色に染まつてゐる蜜柑が凡そ五つ六つ、汽車を見送つた子供たちの上へばらばらと空から降つて来た。
私は思はず息を呑んだ。さうして刹那に一切を了解した。小娘は、恐らくはこれから奉公先へ赴かうとしてゐる小娘は、その懐に蔵してゐた幾顆の蜜柑を窓から投げて、わざわざ踏切りまで見送りに来た弟たちの労に報いたのである。
(中略)
 私はこの時始めて、云ひやうのない疲労と倦怠とを、さうして又不可解な、下等な、退屈な人生を僅に忘れる事が出来たのである。
――芥川龍之介「蜜柑」
81:
夢かと思ふと申すのはああ云ふ時でございませう。わたしは殆ど息もつかずに、この不思議を見守りました。
覚束ない行燈の光の中に、象牙の笏をかまへた男雛を、冠の瓔珞を垂れた女雛を、右近の橘を、左近の桜を、柄の長い日傘を担いだ仕丁を、眼八分に高坏を捧げた官女を、小さい蒔絵の鏡台や箪笥を、貝殻尽しの雛屏風を、膳椀を、画雪洞を、色糸の手鞠を、さうして又父の横顔を、……
――芥川龍之介「雛」
82:
あゝ、私はその時、その車にどんな娘の姿を眺めたか、それを詳しく申し上げる勇氣は、到底あらうとも思はれません。
あの煙に咽んで仰向けた顏の白さ、焔を掃つてふり亂れた髮の長さ、それから又見る間に火と變つて行く、櫻の唐衣の美しさ、――何と云ふ慘たらしい景色でございましたらう。
殊に夜風が一下しして、煙が向うへ靡いた時、赤い上に金粉を撒いたやうな、焔の中から浮き上つて、髮を口に噛みながら、縛の鎖も切れるばかり身悶えをした有樣は、地獄の業苦を目のあたりへ寫し出したかと疑はれて、私始め強力の侍までおのづと身の毛がよだちました。
――芥川龍之介「地獄変」
83:
――こうなれば、もう誰も哂うものはないにちがいない。
内供は心の中でこう自分に囁いた。長い鼻をあけ方の秋風にぶらつかせながら。
――芥川龍之介「鼻」
84:
あんまり数が多すぎてなあなあになってしまったわすまん
もう何個か掲載して終わりにするで
85:
それは僕の一生の中でも最も恐しい経験だつた。――僕はもうこの先を書きつづける力を持つてゐない。かう云ふ気もちの中に生きてゐるのは何とも言はれない苦痛である。誰か僕の眠つてゐるうちにそつと絞め殺してくれるものはないか?
――芥川龍之介「歯車」
86:
見渡す限りの廣野です。
そのなかで僕は静かに果てしなく成長してゆく壁なのです。
――安部公房「S・カルマ氏の犯罪」
87:
石の音と同時に蠑もりは四寸程横へ跳んだように見えた。蠑もりは尻尾を反らし、高く上げた。自分はどうしたのかしら、と思って見ていた。
最初石が当ったとは思わなかった。蠑もりの反らした尾が静かに下りてきた。すると肘を張ったようにして傾斜に堪えて、前へついていた両の前足の指が内へまくれこむと、蠑もりは力なく前へのめって了った。尾は全く石についた。もう動かない。蠑もりは死んで了った。
――志賀直哉「城の崎にて」
88:
この故に天然にあれ、人事にあれ、衆俗の辟易して近づきがたしとなすところにおいて、芸術家は無数の琳琅を見、無上の宝?を知る。俗にこれを名けて美化と云う。
その実は美化でも何でもない。燦爛たる彩光は、炳乎として昔から現象世界に実在している。ただ一翳眼に在って空花乱墜するが故に、俗累の覊絏牢として絶ちがたきが故に、
栄辱得喪のわれに逼る事、念々切なるが故に、ターナーが汽車を写すまでは汽車の美を解せず、応挙が幽霊を描くまでは幽霊の美を知らずに打ち過ぎるのである。
――夏目漱石「草枕」
89:
道義に重を置かざる万人は、道義を犠牲にしてあらゆる喜劇を演じて得意である。
ふざける。騒ぐ。欺く。嘲弄する。馬鹿にする。踏む。蹴る。――ことごとく万人が喜劇より受くる快楽である。この快楽は生に向って進むに従って分化発展するが故に
――この快楽は道義を犠牲にして始めて享受し得るが故に――喜劇の進歩は底止するところを知らずして、道義の観念は日を追うて下る。
(中略)
二ヵ月後甲野さんはこの一節を抄録して倫敦の宗近君に送った。宗近君の返事にはこうあった。――
「ここでは喜劇ばかり流行る」
――夏目漱石「虞美人草」
90:
向うを見ると、遥の青草原の尽きる辺から幾万匹か数え切れぬ豚が、群をなして一直線に、この絶壁の上に立っている庄太郎を目懸けて鼻を鳴らしてくる。
庄太郎は心から恐縮した。けれども仕方がないから、近寄ってくる豚の鼻頭を、一つ一つ丁寧に檳榔樹の洋杖で打っていた。不思議な事に洋杖が鼻へ触りさえすれば豚はころりと谷の底へ落ちて行く。
覗いて見ると底の見えない絶壁を、逆さになった豚が行列して落ちて行く。自分がこのくらい多くの豚を谷へ落したかと思うと、庄太郎は我ながら怖くなった。けれども豚は続々くる。黒雲に足が生えて、青草を踏み分けるような勢いで無尽蔵に鼻を鳴らしてくる。
――夏目漱石「夢十夜」
92:
ラスト
舞いも舞うた、謡いも謡う。はた雪叟が自得の秘曲に、桑名の海も、トトと大鼓の拍子を添え、川浪近くタタと鳴って、太鼓の響に汀を打てば、多度山の霜の頂、月の御在所ヶ嶽の影、鎌ヶ嶽、冠ヶ嶽も冠着て、客座に並ぶ気勢あり。
小夜更けぬ。町凍てぬ。どことしもなく虚空に笛の聞えた時、恩地喜多八はただ一人、湊屋の軒の蔭に、姿蒼く、影を濃く立って謡うと、月が棟高く廂を照らして、渠の面に、扇のような光を投げた。
舞の扇と、うら表に、そこでぴたりと合うのである。
「(喜多八)……また思切って手を合せ、南無や志渡寺の観音薩?の力をあわせてたびたまえとて、大悲の利剣を額にあて、竜宮に飛び入れば、左右へはっとぞ退いたりける、」
と謡い澄ましつつ、
「背を貸せ、宗山。」と言うとともに、恩地喜多八は疲れた状して、先刻からその裾に、大きく何やら踞まった、形のない、ものの影を、腰掛くるよう、取って引敷くがごとくにした。
路一筋白くして、掛行燈の更けたかなたこなた、杖を支いた按摩も交って、ちらちらと人立ちする。
――泉鏡花「歌行燈」
93:
ワイは泉鏡花と幸田露伴が好きンゴねぇ
宮重大根のふとしく立てし宮柱は、ふろふきの熱田の神のみそなわす、七里のわたし浪ゆたかにして、来往の渡船難なく桑名につきたる悦びのあまり……
と口誦むように独言の、膝栗毛五編の上の読初め、霜月十日あまりの初夜。中空は冴切って、
星が水垢離取りそうな月に、踏切の桟橋を渡る影高く、灯ちらちらと目の下に、遠近の樹立の骨ばかりなのを視めながら、桑名の停車場へ下りた旅客がある。ーー泉鏡花「歌行灯」
95:
今回は川端康成・三島由紀夫・太宰治中心やったで
途中急に抜けてすまんな
みんなも「この文章ええなあ」って思ったらぜひ買ってみてクレメンス
>>93
歌行燈のラストは圧巻やねえ
外科室・歌行燈・縷紅新草はワイ的泉鏡花TOP3や
99:
やっぱり幸田露伴 尾崎紅葉 泉鏡花とかのリズム感は美しいンゴねぇ
101:
>>99
今はなき美文の本質を理解してたからな
特に江戸文学含む古典に親しんでたのがでかいんとちゃうか?
105:
>>101
そういうもんなんかなあ
なんとなくこう感じるみたいなのはあるんやけどね
いっぱい読んでみるで
100:
文系学生ワイ
良さの本質がわからない
101:
>>100
読書百遍言うくらいやから、何遍も何遍も繰り返し読み続ければ文章の良さってもんは分かるもんやで
それでも分からんなら素直に「ワイがええと思わん文章なんか糞や!他の読んだろ!」くらいの気持ちでいたらええねん
アンチみたいなのにはならんでほしいけどな
102:
地獄変すこすこ
草枕は冒頭が一番美しいと思うわ
103:
>>102
冒頭もう挙げてもうてると思ってたら挙げてなかったから貼っとくわ
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
――夏目漱石「草枕」
26:
これは日曜夜の良スレやな
明日もステキな気分で仕事いけそう
107:

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