【モバマス】嵐の夜と方眼紙back

【モバマス】嵐の夜と方眼紙


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1:
・アイドルマスターシンデレラガールズの二次創作です。
・独自解釈を含みます。
2:
●某所/とあるレストラン
志希「あれー、ほたるちゃんじゃん?」
ほたる「え、あっ、一ノ瀬さん!?」
志希「奇遇だねー。ほたるちゃんもこの店でお昼?」
ほたる「一ノ瀬さん、あの」
志希「あたしはこの『鰹御膳』ってのが気になって―――ん、どしたの?」
ほたる「一ノ瀬さん、どうして高知県に…!?」
志希「えー。ほたるちゃんこそどうして高知県に?」
ほたる「私は、お仕事でPさんとご一緒に…」
志希「あたしはそうねー。なんとなく?」
ほたる「なんとなく、って…一ノ瀬さんが時々失踪するって本当だったんですね…!」
志希「本当だよー?でもまあなんとなくで来ちゃったから、この鰹御膳食べたら素寒貧です」
3:
ほたる「えええ」
志希「しかしここでほたるちゃんに見つかったら失踪にならないねー。どうしよ」
ほたる「そんなことより、お金ないって。泊まるところは…?」
志希「まあどうにかする?」
ほたる「どうにか、って…あ、Pさんに」
志希「ああ、Pさんにはナイショにしてね。もうしばらくフラフラしてるつもりだから!」
ほたる「えええ。えええ…」
志希「ああ、でもちょーどよかったかにゃあ。実は前からほたるちゃんに聞いてみたいことがあったんだよね」
ほたる「わ、私に?」
志希「そそ。ほたるちゃんにこそ聞きたいこと」
ほたる「…あの、私、学校の成績も普通だし、芸暦も長いわけじゃなくて…」
志希「にゃははは、聞きたいのはそういうことじゃないから安心してー。ね、頼むよー。どうしても聞きたいのー」
ほたる「ええと…」
4:
志希「お返しにあたしも何でも答えてあげるからさー」
ほたる「…何でも、ですか?」
志希「そそ。学校の宿題の答えでも惚れ薬の作り方でも」
ほたる「…解りました。私で解ることなら」
志希「あらあらー?惚れ薬に興味あったり?」
ほたる「ち、違います!(///)」
志希「ふふふ、純情だにゃー」
ほたる「もう…それで、あの。聞きたいことって?」
志希「ああ、うん、そうでした」
ほたる(どきどき)
一ノ瀬志希「ほたるちゃんから見てさ―――人生に希望なんてあるの?」
ほたる「えっ」
5:
志希「ほたるちゃんの人生には、『希望は無い』って実証が一杯あったわけじゃん?」
ほたる「……」
志希「希望は無いよとさんざん示されて、それでも諦めなかったのは何故?希望や夢ってことについて、ほたるちゃんはきっと深く考えたことがあると思う」
ほたる「それは…」
志希「あたし、希望とかそういうのちょっとよくわかんなくて―――ちょっとほたるちゃんに聞いてみたかったのでした」
ほたる「……」
志希「どう?ダメ?」
ほたる「…あの、うまく説明できないかも知れないけれど…いいですか」
志希「オッケーオッケー。思ってること聞かせてくれれば」
ほたる「…色々な人と話して、考えた末の事ですけど。希望ってどこかに『ある』物じゃなくて、『持つ』物だと思うんです」
6:
志希「へえ。つづけて?」
ほたる「世の中って、うまくいかないことばかりですよね」
志希「うんうん」
ほたる「思うに任せないことばかりで。続くと思った道はすぐ途切れて。喜びが後で余計、悲しいことに繋がったりして」
志希「だよねえ」
ほたる「まるで真っ暗な、荒れた海の上に居るみたい。どこに進めばいいのか、そもそも正しい方向があるのかも解らなくて」
志希「……」
ほたる「それでも留まることは許されない。どこかに向けて進まないといけない。そこに必要なものが希望だと、私は思います」
志希「それだと希望って後ろ向きなものに聞こえるにゃー。暗闇に飛び出すための気休め?」
ほたる「そうじゃなくて…ええと。ええと」
志希「うんうん」
7:
ほたる「たとえ上手く行かないとしても、どんな目に会うとしても。この道を進みたい。望むものに近づきたい。その気持ちが、希望や夢じゃないでしょうか」
志希「……」
ほたる「だから、『持つ』だと思うんです。世の中は不明瞭で、苦しいことも沢山あって、移り気で―――きっと、希望や正解に見えるものを外に探すと、私達は余計に迷ってしまうから」
志希「だから、たとえ正解でなくてもこう在りたい、というものを探して持つ、と?」
ほたる「はい―――希望はきっと、どこかに輝いて見えているんじゃなく。暗くて荒れた海を迷わず越えていくために自分の中に持つものなんです」
志希「ほたるちゃんにとっては、それがアイドル?」
ほたる「人を幸せな気持ちにできる。そんなアイドルになりたい。それが私の希望で―――」
ほたる「たとえどんな目にあっても進みたい道、です」
8:
志希「……」
ほたる「…志希さん?」
志希「ああ、ううん。ありがとね。大体解ったよ」
ほたる「お、お役に立てたのならよかったのですが…!」
志希「お役に立ったかどうかはわかんないにゃー」
ほたる「……」
志希「でもちょっとうらやましいとか思ったかも。にゃはは…さて、つぎはほたるちゃんが質問する番ね?」
ほたる「は、はい。御気に触らないといいのですが」
志希「御気に触るようにこと聞かれちゃうの!?やーんドキドキ!」
ほたる「一ノ瀬さん?」
志希「ジョークジョーク…はい質問どうぞー?」
9:
ほたる「はい…一ノ瀬さんは時々失踪すると聞いてたけど、本当だと知って驚いてます」
志希「あはは、そうだろうねー」
ほたる「…でも何故失踪なさるんですか?」
志希「ふむ?」
ほたる「嫌々お仕事をしてるわけではないのでしょう?」
志希「志希ちゃんはいつだって、ホント意に沿わないことは拒否しまーす」
ほたる「アイドルが嫌なのでもないし、旅行だって、多分Pさんに言えばダメって言わないし…だから、何故かな、って」
志希「そういうもんだから?」
ほたる「ええええ」
志希「そうねー…色々理由があるけど、そのうちの1つってことでいい?」
ほたる「は、はい」
10:
志希「ほたるちゃんは『賢い』ってどういうことだと思う?」
ほたる「…沢山の事を知ってて、色々なことを思いつけて、物事をよく見て、正しい判断が出来て…?」
志希「知識。発想。理解。判断。うん80点」
ほたる「ありがとうございます…?」
志希「ちなみにあたしはその4つとも凄いです」
ほたる「へええ…」
志希「素朴な憧れの視線が新鮮だにゃー…あと付け加えるなら『無駄を避ける』。省力、効率化能力ってことかな」
ほたる「……」
志希「人は誰でも『こうすると痛い』と知れば痛みを避ける。『この道は疲れる割りに得るものが少ない』と知ればその道を避ける。学習というのは経験を通じて行動パターンを最適化することなんだ」
ほたる「はあ…」
志希「夢を追う若者に『もっと賢くなれ』って言う人がいたりする。あれは勉強しろって意味じゃなく、『失敗する確立が高い道に無駄な労力をつぎ込むな』って意味だね。賢さは失敗を避ける力ということだ」
ほたる「……」
志希「ちょっと不服そう?」
ほたる「い、いいえ…」
11:
志希「で、あたしはとっても賢いわけですが」
ほたる「…はい」
志希「―――同じことを続けてると、見えてくるんだな」
ほたる「…何が、ですか?」
志希「非効率な道、失敗する確率が高い道」
ほたる「…」
志希「人生には無限の選択がある!…だけど試すだけ無駄なものはある。二つの選択を比較すれば、どちらかがもう片方より効率がいい」
ほたる「…はい」
志希「あたしは無意識にそういう選択肢を削除していく。より有用な方法を模索するわけ…そしたらどうなると思う?」
ほたる「…」
志希「選択肢がどんどん減っていくんだよね」
ほたる「あ…」
志希「先が見えない人生が真っ暗な荒れた海の上だとしたら、選択が減っていった後の景色は方眼紙のような大地かな。そこに、一本の線が引いてある。削った末の、最適解」
ほたる「…」
志希「最適解なら、そっちに進めばいい。だけどその景色はすごくつまんなくて―――あたしは選択肢が減ってくると、かき回したくなっちゃうんだよ」
ほたる「かきまわす…ですか」
志希「変数が欲しいんだ。選択肢を変化させるものが」
12:
ほたる「…だから、失踪して?固まってきたものをかきまわす…?」
志希「うん、それが、理由のひとつ、かな―――そしてね、ほたるちゃん。この話には、悲しい結末があるんだ…」
ほたる「えっ…!?」
志希「実は今までした話は全くのウソなのでした」
ほたる「えええええ!?」
志希「にゃははは、ごめんごめん。でも面白かったでしょ?」
ほたる「もう、もう!」
志希「面白さに免じてウソついたことは許してね」
ほたる(一ノ瀬さんは、そう言って笑います)
ほたる(…一ノ瀬さんはウソだって言ったけど、そうなのでしょうか)
ほたる(何も無い方眼紙の上に、たった一本引かれた線。その上に立つのは、どんな気分なのでしょう)
ほたる(それに、もしかしたら)
ほたる(ひょっとして、いつも最後に現れてくる『最適の答え』は、一ノ瀬さんが望む答えではないのかもしれない)
ほたる(私はそんなことを考えて、じっと一ノ瀬さんを見詰めて…)
13:
ほたる「あ、あの」
志希「ん?」
ほたる「今夜、どこかに泊まるお金は無いんですよね?」
志希「まあねー」
ほたる「私は高知に宿を取っています。個室です―――Pさんに内緒で一晩お泊めしますから、私のお願い、ひとつ聞いてくれませんか」
志希「お、意外な提案…言うだけ言ってみて?」
ほたる「今度失踪するとき、私も連れて行ってください!!」
志希「えっ」
ほたる「私、不幸を呼ぶって言われてます…」
志希「うん、知ってる」
ほたる「だから、その…私を連れて行けば、きっと思ってもみなかったようなことが起こります、よ?」
志希「……」
14:
ほたる「ど、どうでしょう…」
志希「誘い合わせて出かけのって失踪って言うのかにゃー」
ほたる「え、あ」
志希「でもそうだね。その提案は全然予想してなかった。驚いちゃった、ふふふ」
ほたる「……」
志希「いいよ。今度いっしよに『シッソー』しましょー!」
ほたる「…はい!」
志希「ほたるちゃん悪い子の仲間入り―――いつ言われてもいいように、覚悟だけはしとくんだよー?」
ほたる(―――そのお願いが一ノ瀬さんにとっていい物だったのか、悪いものだったのか。私には解りません)
ほたる(志希さんはとっても賢くて―――そのお考えの本当のところは、私には解らないのです)
ほたる(そもそも、私と一緒なんて、ただ迷惑なだけなのかも)
ほたる(…でも、想像してしまったんです)
ほたる(方眼紙の上に、一人でぽつんと立っている一ノ瀬さんの姿を)
ほたる(それがあんまり寂しげで)
ほたる(方眼紙の上の、小さな茂みにでもなれたらいいのに)
ほたる(一ノ瀬さんの進む道に、未知の楽しさがもっとあればいいのに、って)
ほたる(そんなことを考えて、私はその夜、一ノ瀬さんと一緒に眠りました…)
(おしまい)
15:
●その後のてんまつ
志希「ほたるちゃんの言うとおり一緒の部屋に泊まったら、結局Pさんにバレて東京に連れ戻されました」
ほたる「ごめんなさい…!」
志希「いやー、ほたるちゃんがあれほど嘘が苦手だとは思わなかったにゃー…」
ほたる「だってだって嘘なんて滅多に言わないから…!」
志希「ほたるちゃんはそのままでいるといいよ。あはははは」
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