理髪師「いらっしゃいませ」ハゲ「散髪して下さい」理髪師(どうしろと……!?)back

理髪師「いらっしゃいませ」ハゲ「散髪して下さい」理髪師(どうしろと……!?)


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1:
第一話『ハゲを切る』
理髪師「いらっしゃいませ」
ハゲ「こんにちはー」
理髪師「……!?」
理髪師「えぇと……顔剃りですか? 顔剃りですよね? 顔剃りであってくれ!」
ハゲ「散髪して下さい」
理髪師(どうしろと……!?)
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4:
理髪師「こちらへどうぞ」
ハゲ「どっこいしょ」ドスッ
理髪師「ちょ、ちょっと頭を拝見……」
理髪師(うっわぁ〜……完璧にハゲじゃん)
理髪師(産毛すら生えてない……ツルツルだ)
理髪師(まさに……不毛の大地!!!)
ハゲ「どうしましたか?」
 
5:
理髪師(そうか……きっと散髪する気分だけでも味わいたいってことか?)
理髪師(だったら、ハサミで髪を切るフリをすれば満足してくれるはず……!)
チョキチョキ… チョキチョキ…
ハゲ「なにをしてるんです? 準備体操ですか?」
理髪師(エア切りじゃダメなのか……!)
理髪師(こうなったら……打つ手は一つ!)
理髪師「少々お待ち下さい」
ハゲ「はい」
 
6:
一ヶ月後――
理髪師「お待たせしました」
ハゲ「待ちましたよ」
ハゲ「ところで、何をしていたんです?」
理髪師「お客様の不毛の大地のために……育毛剤を作ってきました!」ジャン!
ハゲ「ワオ!」
理髪師「じゃ、塗りまーす」ヌリヌリ…
ハゲ「んっ……」ピクンッ
 
8:
ハゲ「……おや?」ニョキニョキ…
ハゲ「す、すごい! 髪が! 髪が生えてきた! 何年ぶりのことか!」フサフサ
理髪師「すごいでしょう?」
理髪師「みんなの髪を伸ばせばもっと床屋が儲かると思って、密かに育毛剤を研究してたんですよ」
理髪師「それをこの一ヶ月で死に物狂いで完成させたんです!」
ハゲ「へぇ〜」フサフサ
理髪師(髪がないお客なら、髪を生やせばいい! ……これぞ逆転の発想だ!)
理髪師「さあお客さん! どんな髪型にしますか!?」
 
9:
ハゲ「スキンヘッドにして下さい」フサフサ
理髪師「てめえ、ブッ殺すぞ!!!」
<終わり>
 
11:
やるじゃん
 
12:
理髪師、キレた!
 
13:
第二話『オタクを切る』
理髪師「いらっしゃいませ」
オタク「ぶふっ、ぶひひひひ……」
理髪師(なんだこいつ……! 典型的なキモオタっ……!)
理髪師「どのようにします?」
オタク「モテる髪型にして下さい」
理髪師(どうしろと……!?)
 
14:
理髪師(こいつをモテるようにできるのなら、世界から戦争をなくす方がまだ簡単ってもんだ!)
理髪師「……ん?」
理髪師「なんですか、その右手に持ってる人形は」
オタク「ぶひひひ、これはフィギュアだよぉ〜」
理髪師「いつもフィギュアを持ち歩いてるんですか」
オタク「そうだよぉ〜、ぶひひひ……」
 
15:
理髪師「だったらまず、このフィギュアの首を切っちゃいましょう」
オタク「ホワイ!?」
理髪師「だって、こんなもん持ってる奴が、モテるわけないでしょう?」
オタク「あうう……ド正論……」
理髪師「このフィギュアと縁を切るか、モテるようになるか、選べ!」
オタク「うぐぐぐ……!」
オタク(ボクはどうすればいいんだ!?)
オタク(ボクは、ボクは、ボクは――!)
 
17:
オタク「決めた!」
オタク「フィギュアは切らせない! 縁を切らない!」
オタク「このフィギュアを切らせるぐらいなら、ボクは死ぬ!」
理髪師「……見事」
オタク「あなた、まさか……ボクを試したのか?」
理髪師「ええ……そのまさかです」
理髪師「異性なんざ度外視して、キモオタ道……極めてみせよ!」
オタク「はいぃ〜っ!」
 
18:
一ヶ月後――
理髪師「あのオタク……あれでふっきれて、人気ユーチューバーになりやがって……!」
理髪師「キモイのが逆にウケて、女性視聴者からも人気があるとかなんとか……」
理髪師「俺もやってみようかな……ユーチューバー」
理髪師「ってわけで、映像にするためにおかしな髪型にしていいですか?」
客「やめろ!!!」
<終わり>
 
19:
第三話『毛むくじゃらを切る』
毛むくじゃら「髪、切って下さい」モサッ
理髪師(うわっ……!)
理髪師(髪の毛で全身が隠れてる……まるでポケモンのモンジャラみたいだ……)
理髪師「じゃ、切りますね」チョキチョキ
毛むくじゃら「……」
 
21:
ニョキニョキ…
理髪師「な、なんだこりゃ!? いくら切っても伸びてくる! どうしろと!?」チョキチョキ
毛むくじゃら「……」
理髪師「こうなったらバリカンで――」ビィィィン…
毛むくじゃら「バリカンやだ! バリカン嫌い! バリカン拒否!」イヤイヤ
理髪師「……」
理髪師「いいでしょう。だったらハサミで髪が伸びるさより早く切るまで!!!」
毛むくじゃら「……!」キュンッ
理髪師「うおおおおおおおおおおっ!!!」
ジャキジャキ ジョキジョキ チョキチョキ…
 
22:
少女「……ありがとう」
理髪師「うわっ! 髪を切り終えたら、中から可愛い少女が!」
理髪師(どうりで……そりゃ女の子ならバリカンは嫌がるわけだ……)
少女「私……髪の毛の精」
少女「私の髪、バリカン使わずに整えてくれた人、あなたがはじめて……」
理髪師「そりゃどうも」
少女「お願い、私をここに置いて! 恩返ししたい!」
理髪師「っていわれてもな、いきなり女の子を居候させるわけには……」
少女「私がいれば……あなたの髪、ずっと元気」
理髪師「ぜひ、いて下さい」
 
23:
モヒカン「ヒャッハーッ! ありがとよ!」スタスタ…
理髪師「ふぅ〜、今の客で今日は店じまいだな……」
少女「じゃあ今日、私が夕食作る」
理髪師「料理作れるの? だったら頼むよ」
少女「任せて」
 
24:
少女「はい、イカスミスパゲティ」コトッ
理髪師「おっ、うまそう!」
少女「あとひじきと、刻みのりと、昆布盛り合わせと、食後のデザートは黒モンブラン……」
理髪師(なんか髪の毛みたいな料理ばっかだな……)
<終わり>
 
25:
第四話『カリスマ美容師を切る』
理髪師「いらっしゃいませ」
美容師「フッ、ここがここらで一番の理髪店かい」キラキラ…
理髪師「……!」
理髪師(こいつ……たしか、カリスマ美容師!)
理髪師(イケメンで腕が一流なのはもちろんのこと、経営手腕にも長けているという……)
 
26:
美容師「やはり、理髪店っていうのは、なんとも武骨で品がないねえ」
美容師「美容院と比べたら、月とスッポンもいいところだ」
美容師「きっと腕も大したことないんだろうね」
理髪師「……なんだと」
美容師「それじゃ……」スタスタ
理髪師「ちょ、待てよ!」
美容師「ん?」
理髪師「俺の腕前を見せてやる! そこに座れ! ――カリスマ美容師ッ!」
 
28:
ジャキジャキ ジョキジョキ ジョリジョリ ザバザバ…
理髪師「ハァ、ハァ……どうだ?」
美容師「ふむ、スッキリしたよ」
美容師「どうやら、キミは……ボクのライバルに相応しい人間のようだ」
理髪師「ふん、いつでも相手になってやるよ!」
美容師「楽しみにしているよ」
バタン…
 
29:
少女「ねー、ねー」
理髪師「ん?」
少女「無料で散髪してあげるなんて、やさしいね」
理髪師「あーっ!!!」
理髪師(タダで散髪させる術も心得てるとは……! さすがカリスマ美容師……!)
<終わり>
 
31:
第五話『王様を切る』
理髪師「いらっしゃいませ」
王様「……」ムスッ
理髪師(なんだこの、王冠かぶった仏頂面のおっさんは……)
王様「ワシは王である。ワシの髪を切ってもらおう」
兵士A「王はヘアスタイルにうるさい方なのだ」
兵士B「もし失敗したら承知せんぞ!」
理髪師「は、はい……」
理髪師(ここは日本なんだけど……どこの王様だ、この人……)
 
33:
チョキチョキ…
理髪師「ん?」
理髪師「こ、これは……ッ!? まさか――」
ジョキジョキ…
王様「……」ピョコン
理髪師「ロバの耳!?」
王様「……どうやら見てしまったようだな」
理髪師「そりゃねえ……嫌でも目に入りますって」
 
35:
王様「よいか! このことを他言すれば、おぬしの命はないぞ!」
兵士A「そうだそうだ!」
兵士B「この槍で太ももあたりを軽く刺し、じわじわと失血死させてくれるわ!」
理髪師「それが……その……」
理髪師「もうツイートしちゃいまして……」
王様「キサマァァァァァ!!!」
王様「ゆ、許さん! 死刑だ! この理髪師を死刑にせよ!!!」
兵士A「はっ!」ジャキッ
兵士B「ははっ!」ジャキッ
理髪師(ああ……俺の人生、これでオシマイか……!)
 
37:
少女「あ、おじさん」
王様「ん?」ピョコッ
少女「ロバの耳、かわいい」
王様「……」ピョコピョコ
少女「さわってもいい?」
王様「いいぞ、いいぞ! ……よ、よし処刑やめ! 子供の前で血を流してはならーん!」
兵士A「はっ!」
兵士B「ははっ!」
少女「なでなで」ナデナデ
王様「くっ……生きててよかった!」
理髪師(王様がロリコンでよかった……!)
 
38:
テレビ『極秘来日していたバーロ王国の国王が、ロバの耳を公式の場で初披露……』
理髪師「あの王様、ついに耳を隠すのをやめたみたいだ。表情がほがらかになってるよ」
少女「もっとさわりたかったな……」
<終わり>
 
39:
第六話『10円ハゲを切る』
理髪師「いらっしゃいませ」
男「あのー……髪を全部切って下さい! 丸刈りにして下さい!」
理髪師「そりゃまた……いったいなぜ?」
男「ぼく……10円ハゲなんです!」
男「10円ハゲになってから、彼女とケンカするわ、仕事はミスるわ、で……ろくなことがないんです!」
理髪師「あー……(見事な円形脱毛症だ)」
少女「きっとストレスのせいだね」
 
41:
ろくな客が来ないな
 
42:
理髪師「なにも丸刈りにすることはありませんよ」
男「え!?」
理髪師「全て、この私にお任せ下さい」
理髪師「あなたの人生を変えてみせましょう」
少女(いったいどうする気なんだろう……)
 
43:
二週間後――
理髪師「いらっしゃいませ」
男「お邪魔します!」
理髪師「おお、こないだの」
男「ありがとうございました!」
男「あなたに髪を切ってもらってから、なにもかもうまくいって……!」
男「彼女とは仲直りできたし、仕事もうまくいくし、ノーベル賞も取れたし」
男「これも全てあなたに10円ハゲをカットしてもらったおかげです!」
理髪師「いえいえ、お客様に喜んでいただくのは床屋の使命ですから」
少女「……」
 
44:
少女「ねえ、あのお客さん、なんであんなに人生上向きになったの」
理髪師「簡単なことさ」
理髪師「10円ハゲの周囲を長方形に刈って、10000円ハゲにしたんだよ」
少女「なるほど!」
<終わり>
 
45:
最終話『自分を切る』
理髪師「俺、床屋を開業してから、結構経つけど」
理髪師「未だにたまに思うんだよな……もっと他の職業につけばよかったかも、って」
少女「ふうん……」
少女「たまには自分を見つめ直してみたら?」
理髪師「……そうするか」
少女「じゃ、私は出かけてくるね」
理髪師「行ってらっしゃい。ケガしないようにな」
少女「私、毛あるよ」
理髪師「ぶふっ!」
少女「アハハ、笑った笑った」
理髪師(この子、ギャグなんていうようになったのか……)
 
46:
理髪師「鏡で自分を見つめ直してみるか……」
理髪師「んー……俺の髪の毛、ぼさぼさになってきたな」
理髪師「医者の不養生ならぬ、理髪師のボサボサ髪、ってやつか」
理髪師「よーし、たまには自分で自分の髪を切るか!」
チョキチョキ… ジョキジョキ…
理髪師(うーん……自分で自分の髪を切るって案外むずいな)
 
47:
理髪師(とりあえず、髪の毛はなんとかなった。次は洗髪だ)
理髪師(よし、洗面台に顔を突っ込んで、頭を……)ワシャワシャ
理髪師(あれ、よく考えたら顔を突っ込む必要なくね? つい、お客にやるクセが……)ワシャワシャ
理髪師(しまった! シャンプーが目にッ!)
理髪師「目がッ! 目がァッ!!!」
理髪師(このままじゃ失明するッ! ここまでか……!)
 
48:
ハゲ『諦めちゃダメだ!』
オタク『ぶひひひ、あなたはこんなところで終わる人じゃないはずだぁ〜』
美容師『ふぅ、キミはこの程度なのかい?』
王様『失望させるでないわ!』
男『まだやれる!』
少女『頑張って……!』
理髪師(――みんなの声が聞こえる!?)
理髪師(そうだ……こんなところでくじけるわけにはいかない!)
理髪師(俺は大勢のお客さんに支えられて、今日までやってきたんだ!)
理髪師(諦めずに、水でシャンプーを洗い流せば……!)ジャババババ…
 
52:
理髪師「よし……! なんとかなった!」
パチパチパチパチ…
ハゲ「おめでとう!」
オタク「ぶひひひ、感動したよ」
美容師「フッ、さすがはボクのライバルだ」
王様「うむ、よくやった。褒めてつかわす」
男「やったぁ!」
少女「よかった……!」
理髪師「うわっ!?」
理髪師(幻聴じゃなくて、本当に来てたのか! きっと少女ちゃんが連れてきてくれたんだな……)
理髪師(みんな……ありがとう!)
 
53:
その夜――
少女「はい、黒豆のパーマ風盛り合わせ」コトッ
理髪師「いただきます」モグモグ…
理髪師「俺……今日、改めて分かったよ」
理髪師「自分は大勢のお客さんに支えられて生きてるって!」
理髪師「理髪師になってよかったって!」
少女「でしょう?」
理髪師「でもさ……」
 
54:
理髪師「あんだけ大勢いたんなら、誰か手伝ってくれてもよかったんじゃないか?」
少女「やっぱり自力でやらなきゃ意味ないじゃない。そこが床屋の辛いとこや」
理髪師「ぶふっ!」
少女「アハハ、また笑ってくれた。でもね、たまには私にも手伝わせて」
理髪師「いいとも。明日からは床に落ちた髪の掃除から、やってもらうか」
少女「はいっ!」
<終わり>
 
5

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