【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」 back

【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」 


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第1作 【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」 
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
読み切り 
【デレマス時代劇】水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」 
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2: 以下、
 夕暮れ時。竜胆の花が点々と咲く、野原。
「池袋殿、こちらが貴殿の申していた最強の剣士か」
 脇山珠美は、7尺を超える身丈の鎧武者と相対していた。
 しかし、彼女の表情に恐れはない。
 幼くして一刀流の免許皆伝を受け、
 自身の強さを磨くために全国を行脚。
 数々の剣豪を打ち破り、“最強”の名を欲しいままにしている。
 また近年、示刀流なる剣術を自身で編み出し、道場を立てた。
 門下生は200をゆうに超え、
 念流、神道流、陰流、中条流に並ぶ
 第5の兵法源流となるのではないか。
 そのように噂されている。
3: 以下、
「最強の剣士、と言われれば自信がありませんな」
 鎧武者の背後で、池袋晶葉は肩をすくめた。
 彼女は先日道場に現れて、
 脇山珠美よりも強い剣士を知ってる、と声を上げた。
 激怒する門下生らを諌めながらも、脇山の自尊心は
 むくむくと鎌首をもたげてた。
 最強の剣士は脇山珠美おいて他になし。
 脇山自身がそう考えているからだ。
 「そう謙遜されると、まるで私が弱いようではないか」
 脇山は笑いながら、剣をすぅっと滑らかに抜いた。
4: 以下、
「そなたは名を何と言う」
 脇山は鎧武者に問うた。剣士の流儀である。
 しかし相手は黙して語らなかった。代わりに晶葉が答えた。
「すみませぬな…そやつは口が聞けぬ者でして。
 
 名は、我者髑髏と申します」
 がしゃどくろ。脇山は眉を細めた。
 戦で死んだ武者の怨霊が集まって、形を成す妖怪の名。
 脇山は自身が斬り捨ててきた剣豪達を思い出した。
 もし自分が敗れたとしたら、それは今まで殺めてきた者の
 祟りということになるだろうか。
 くは、と脇山は笑った。
 敗れるなど、到底ありえぬことであるが。
5: 以下、
「それでは尋常に、参る」
 脇山は奇妙な上段の構えをとった。
 柄を逆に持ち、切っ先を武者に向け、両腕を顔の真横に据える。
 これは脇山が独自に開発した、刺突のための構えである。
 対して、鎧武者の方はゆらりと野太刀を抜いた。
 緩慢すぎる動きだった。
 鎧を着ていることで安心しているのだろうか。
 露出した急所さえ剣で防げいでいれば、勝てるなどと。
6: 以下、
 脇山はまた笑った。
 自身の剣の前に、防具など意味をなさぬからだ。
 脇山の突きは、米炊き用の厚い羽釜さえ貫通する。
 「傲ったな、我者髑髏!!」
 脇山の刺突は風を巻き込み、猛烈な音を立てた。
 そして鎧を、いとも簡単に貫いてみせた。
 だが、驚愕したのは脇山の方であった。
 心の臓を狙ったのに、手応えがまったくない。
 まるで中身ががらんどうのような…。
 鎧武者は緩慢な動きで、脇山の剣をつかんだ。
 きりきりきりと、歯車の回る音が聞こえた。
「まさか、から…」
 脇山が言い終える前に、彼女は大刀によって押し潰された。
 血が、竜胆の花に雨のように降り注いだ。
 それはおどろおどろしくも、美しい光景だった。
7: 以下、
「我者髑髏も改良が必要だな…」
 糸を指で繰りながら、晶葉はため息をついた。
 我者髑髏は彼女が5番目に製作した、絡繰の武者であった。
 最高傑作ではなかった。しかしとにかく頑丈ではあった。
 その装甲が人間の手によって突破されるとは。
「やはり脇山珠美は、凄まじい剣豪だった」
 花のように上半身がめくれた脇山の死体に、晶葉は一礼した。
8: 以下、
 世は、太平の一歩手前。
 戦国に敗れた大名どもや百姓が、各地で散発的な乱を起こしていた。
 
 池袋家は、玩具用の絡繰人形を作る職人の家であった。
 だが玩具と言って侮れぬ精巧な出来栄えで、
 ひっそりと蒐集する大名や富商が数多かった。
 顧客は多く、池袋家は裕福だった。
 晶葉は両親に甘やかされ、何不自由なく育った。
 元々は厳しい家であったが無理もない。
 晶葉の才能は、池袋家史上最高のものだった。
9: 以下、
 初めて見る絡繰でも内部の機構を完全に理解した。
 そして、代々の傑作と呼ばれる作品が児戯に見えるような、
 素晴らしい絡繰を次々に作り上げた。
 とかく資金には事欠かない環境であったから、
 上達は止まることを知らなかった。
 最上級の素材、最前線の知識を消化して、晶葉の絡繰は進化して言った。
 彼女の栄達は約束されたもののように思われた。
 しかし恵まれた者が、恵まれぬ者の憎悪を買うのが世の常。
 池袋家は夜盗に踏み入られた
10: 以下、
 技術一筋の家系が災いし、抵抗するも虚しく、
 家の人間は次々に殺されていった。
 少女だった晶葉は、試作品だった武者人形を操り、
 自身の身を守った。
 だが朝を迎えた時には、彼女は1人になっていた。
 それから晶葉は、人間と等身大の絡繰を作るようになった。
 玩具とはかけ離れた、殺人用の絡繰を。
 自身の身を守るためか、それとも孤独を癒すためか。
 それは当人にしか分かりえぬ。
11: 以下、
 晶葉は絡繰を使って復讐を果たした。
 相手はいともあっけなく死んだ。
 金に困った、やせ百姓達だった。
 それから晶葉は、天下一の腕前を持つ剣豪達に戦いを挑むようになった。
 剣豪達は人の身にして、晶葉の絡繰と渡り合った。
 彼女が最高傑作と見込んだものさえも、敗れ破壊されることもあった。
 その度に改良を重ね、晶葉は再戦を挑み、打ち勝ってきた。
 結果できたのが我者髑髏だったが、晶葉は納得していなかった。
 頑丈さと馬力だけを追究した、のろまで不恰好な武者は
 晶葉の美意識には合わなかった。
12: 以下、
 精強な剣豪達はえてして慕われるものであったから、
 晶葉は多くの人間に恨まれた。
 しかし本人は気にも留めなかった。
 池袋晶葉の信念は、自分自身だけのために、最高の絡繰を作ること。
 人の世の理など知ったことではないのだ。
14: 以下、
 脇山珠美を倒した後、晶葉は四国の地に入った。
 そこで、遊佐家預かりの絡繰師となった。
 無論忠義の徒になったわけではなく、絡繰の開発のためであった。
 「ふわぁ…あなたが…いけぶくろ、あきは…」
 遊佐城にて、晶葉は姫のこずえと対面した。
 ほのかに緑がかった、金色の髪。
 
 翡翠石のごとく、きらきらひかる瞳。
 乳を溶かしたようになめらかな肌。
 こずえは、人形のように愛らしい少女だった。
15: 以下、
 遊佐氏はこずえを溺愛していた。
 領民を締め上げて税を集める一方、
 こずえのために高価な絡繰をせっせと集めた。
 そのほとんどは池袋家製のものだった。
 そして、晶葉が遊佐家に招かれたのは、
 こずえのための絡繰を作らせるためだった。
 親馬鹿も甚だしいな。
 晶葉は内心で笑った。
 遊佐氏とこずえを見ていると、かつての両親のことを思い出した。
16: 以下、
 しかし、晶葉の本懐は玩具の製作ではない。
 職人は人目があっては、作品を作る事ができませぬ。
 
 晶葉はそう言って城外に工房を建てさせ、立入厳禁の札を建てた。
 これで自身の研究に集中できる…はずだった。
 こずえはどうやって抜け出してくるのか、
 たびたび晶葉の工房に忍び込んできた。
 そして、絡繰製作をつぶさに見つめるのであった。
 晶葉はこずえをつまみ出し、娘を探す遊佐氏の下へ帰した。
 しかし、こういったことが何度も続くと、
 遊佐氏の方から、こずえの好きにさせよと命じられた。
17: 以下、
こずえの目があるために、
自身のための絡繰作りは一向に進まなかった。
しょうがないから真面目に仕事にしていると、
今度はこずえが色々と注文をつけてくる。
衣装はこういう風にしてほしい。
髪の色はどうだ、顔のかたちはこうだ。
しかし晶葉が最も困ったのは、
お話できるように、という頼みだった。
「こずえ…おにんぎょうさんと…おはなし…したいの…」
こずえはしきりにせがんだ。
晶葉が理由を尋ねると、友達が欲しいからだと言う。
18: 以下、
「非効率的な機能だ。しゃべるなら人と話せ」
晶葉は銅板に爪を立てた。
きぃぃという音がした。
こずえは顔をくしゃっと歪めた。
その様子が存外に面白かったので、晶葉はまた爪を立てた。
同じ音がした。
こずえがまた、顔をくしゃっとさせた。
「それ…なに…」
こずえが銅板を指差して、晶葉に尋ねた。
「高純度の銅だよ。導電性が高くてな。
 本当は、金とか銀の方がよかったんだが…」
「どう、でん…」
晶葉の説明にこずえは目を回して、ぱたりと倒れた。
そしてそのまま、すやすや眠ってしまう。
晶葉は肩をすくめて、仕事に戻った。
糸のように細く切った銅を、糸巻きのような器具に巻きつける。
話すのはともかく、遊び相手にはなる人形を作ってやるか。
晶葉はふっと笑った。家族を失って何年かぶりの、小さな笑みだった。
19: 以下、
しかし、遊佐氏の圧政が祟ってか、
次第に領内は不穏な空気に包まれていった。
晶葉の工房も、領民達から狙われた。
遊佐氏が金に飽かして呼び込んだ絡繰師。
その工房からは夜更け、まばゆい光が漏れているという。
領民達にとっては格好の標的であった。
とはいえ晶葉が無抵抗に身を差し出すはずはなく、
我者髑髏を使って相手を蹴散らした。
動きが遅いものだから、我者髑髏にも多くの傷ができた。
「おにんぎょうさん…いたく…ないのー…?」
晶葉が修理を行なっていると、こずえが尋ねた。
「痛いわけがないだろう。こいつには心がないんだから」
晶葉はそう返した。
20: 以下、
「矢が飛んでこようが、槍が刺さろうが、我者髑髏は傷つかない。
 中身が空っぽだからな」
晶葉は我者髑髏の胴体を開いた。
彼女の言う通り、小さな動力装置の他には何もなかった。
「かわいそう…」
こずえの言葉に、晶葉は眉をひそめた。
絡繰とはそういうものだ。
ものを考えず、壊れはしても、死んだりしない。
だからこそ素晴らしい。晶葉はそう思う。
21: 以下、
やがて晶葉は、こずえのための絡繰を完成させた。
こずえに似せて作った、等身大の毬つき人形。
遊佐氏は大層喜んだ。
しかし、こずえは不満げであった。
「このおにんぎょうさん・・・しゃべらないのー・・・?」
晶葉は聞かぬふりをした。
晶葉自身の絡繰もまた出来上っていた。
いままでの木と鉄ではなく、全身を軽銀で組み立てた。
我者髑髏とは異なり小柄で俊敏。
見栄えにもこだわり、
武装の剣は両腕に格納できるようにした。
素材が光沢のある白色であったので、
この絡繰は“白雪”と名付けられた。
その意匠には、どことなくこずえの面影があったが、
晶葉は気づいていなかった。
22: 以下、
仕事を終えたので晶葉はこずえと別れ、領内を後にした。
新しい絡繰を手に入れたので、
重くかさばる我者髑髏は工房に置いてきた。
23: 以下、
それから晶葉は九州を巡った。
聞くところによると、タイ捨なる新しい流派が精強であるという。
晶葉は白雪を繰り、その流派の剣士達に戦いを挑んだ。
タイ捨流の剣術は、いや、兵法は、
たしかに今までのものと次元が異なっていた。
神道流が持つ一瞬の静謐さ、念流の重厚さとはちがい、
タイ捨流は、機敏で自由な剣さばきだった。
しかし白雪はさらに鋭敏、かつ苛烈な攻撃を行う。
絶えず相手の死角に回り込み、相手の目にも止まらぬ。
まさに最高傑作。
晶葉は白雪を繰り、輝かしい勝利を量産した。
24: 以下、
また、彼女は鉄砲について造詣を深めるために、
種子島を訪れた。
晶葉は以前から、威力はもとより、
その戦術的価値に注目していた。
音と光による相手への牽制。
“遠くから狙われている”という心理的圧迫。
装填度さえなんとかすれば、鉄砲は刀を戦場から、
いや社会から駆逐してしまうだろう。
そう晶葉は確信していた。
25: 以下、
晶葉は鉄砲を一本買い付けて、つぶさに調べた。
弾丸。火薬。火縄による点火方式。それぞれが分離している。
晶葉は迂遠な発射機構に失望した。なんたる原始的な発想。
弾丸と火薬を一体化させ、点火方式を単純化した方がよいか。
火縄が外に露出しているのは明らかな欠陥だ。
雨に濡れれば使い物にならぬし、火縄を支えるために余計な部品が増える。
彼女は色々と工夫して、いくつかの試作品を開発した。
すると今度は、火薬の性能が気にくわない。
26: 以下、
黒色火薬は光と音が大きい割に、弾丸を押し出す力が弱い。
貫通力を高めるために施条を行なったのに、
かえって威力が低下している。
だが、薬化学は晶葉の専門外。
冶金ならともかく、こればかりはどうしようもなかった。
もう1人の天才が現れるまで、自分は生きていられるだろうか。
晶葉は孤独を感じた。
27: 以下、
両親が亡くなってから、ずっと1人だった。
いや、もしかすると生まれた時から、
自分は1人であったかもしれない。
工房のなかでひとり、無数の絡繰達に囲まれながら、
他者を寄せ付けなかった。
こずえ。晶葉はふいに、彼女のことを思い出した。
こずえに会いたい。
晶葉は山陽から本州に入る針路をねじまげて、再び遊佐氏の領内に入った。
果たして、そこは火の海だった。
28: 以下、
「こずえ!!」
池袋晶葉は、こずえの名を呼びながら城下を駆けた。
遊佐城はすでに燃えていた。
こずえはどこかに避難しているだろうか。
だが、遊佐氏の姫を呼ぶ者が看過されるはずはなかった。
1人の女が、晶葉の前に立ちふさがった。
「“秋来ぬと 
目にはさやかに見えねども 
風の音にぞおどろかれぬる”」
鷲色の長髪が、炎の明かりでちろちろ揺らめいてる。
相手は、焦点の合わない目を晶葉に向けた。
29: 以下、
「いまの季節は春だ」
「無粋だねえ、池袋晶葉」
相手は名前を名乗った。
「一刀流、松永涼。脇山珠美の、ちょっとした知り合いだ。
 
 アンタが遊佐氏に仕えたって聞いて、ここに来た」
「復讐か」
「はははは。アタシは、そんないツマンナイ女じゃないよ。
 強い剣士と闘いたいだけさ」
 松永は舌をちろりと出した。
 それは、嘘をついている表情だった。
30: 以下、
 だが晶葉にはどうでもよい。一刻も早くこずえを見つけねば。
 白雪の繰り糸をがっと引き、松永の背後から攻撃を仕掛けた。
「なにこれ」
 
 松永は造作もなく、白雪の剣を弾いた。
「魂が込もってねえな」
 
 白雪は死角から、次々に剣を振るう。
 しかし、すべてが防がれる。まるで全身に目がついているようだった。
「狙ってんのか。アタシの死角を」
 晶葉は、試作銃を松永に向けて発砲する。
 それも避けられた。
「アンタ、本当に珠美に勝ったのか?
 やることなすこと、てんでくだらねえ」
31: 以下、
 晶葉は策を弄するのをやめ、正面から挑んだ。
 さきほどより度は上だ。
「貴様の目には追えまい!!」
 そう叫んだ晶葉の目の前で、白雪は破壊された。
「目?
 アンタまだ気づいてないのか」
 松永は両目にぎゅうと指を掴んで、眼球を抜いた。義眼であった。
「珠美にやられてから、この有様だ。
 せっかく可愛がってやったのに…あんなに、いっぱい、可愛がってやったのに」
 松永は義眼を握りつぶして、あ゛ー!、あ゛ー!と叫び始めた。
 晶葉は逃げだした。絡繰を失えば、非力な1人の女だった。
32: 以下、
 そして、心当たりを思い出した。
 晶葉の工房。そこにならあるいは。
 城下のはずれに工房はある。まだ無事かもしれない。
 晶葉は哄笑を上げる松永を背に、再び駆けた。
33: 以下、
 果たして、工房はまだ焼けてはいなかった。
 戸を蹴破って中に入る。こずえは見当たらない。
「こずえ!!」
 晶葉は枯れかかった喉で、名前を読んだ。
 すると、鎮座した鎧武者の中から、かすかに音がした。 
晶葉は我者髑髏の腹を開いた。こずえがいた。
 でかしたぞ!!
 晶葉は初めて、我者髑髏の肩を叩いて褒めた。
「…ちちうえも…ははうえも…みんな…」
 こずえは涙を零して震えた。晶葉は彼女を抱きしめた。
「逃げるぞ。ここから、2人で」
34: 以下、
こずえを我者髑髏の中に入れ、晶葉は城下から逃れた。
しかし遊佐領の境で、松永が待ち構えていた。
「そのお侍さんには魂があるねえ」
彼女は舌なめずりをして、我者髑髏に迫った。
こちらはさが足りぬ。圧倒的に。
晶葉は我者髑髏の前に立ちはだかって、松永の突きを受けた。
「やれぇ!! 我者髑髏!!!」
そして繰り糸を、身体中の筋肉が裂けるくらいの力で引く。
びちびちと、 傷口から血が吹き出した。
「そう、そういう一撃だ」
鈍重な拳が松永の頭を潰し、宿主を失った身体が、ぺたりと足をついた。
35: 以下、
松永の刀は晶葉の肺腑を貫いた。致命傷だ。
晶葉はじんわりと息が赤く染まるような気がした。
我者髑髏の方を見た。
晶葉を貫いた刃によって、大きな傷がついている。
しかし脇山との戦いの後、少しだけ厚くした装甲によって、
こずえは守られた。
晶葉は我者髑髏の腹を開いた。
36: 以下、
「こずえ、出てこい」
こずえは、人形を抱えて出てきた。
晶葉がこっそり中に忍ばせていたものだ。
大きさはこずえの手に納まるくらいの、小さなものだった。
そして、どことなく晶葉に似ていた。
「そうか、見つけたのか…。
 それの、背中のぜんまいを…回してみてくれ」
こずえは震える手で、ゆっくりとぜんまいを回した。
すると人形が、こずえ、こずえ、と言葉を発した。
それはくぐもっていたが、晶葉の声だった。
37: 以下、
「本当に、非効率な機能だ…
 気恥ずかしくって…
 素直に…渡せやしない…」
晶葉は苦笑したように、顔を歪めた。
「こずえ…逃げろ …それを持って…」
晶葉は崩れ落ちた。もう限界が迫っていた。
38: 以下、
こずえは涙をぽろぽろ流しながら、しばらく立ち尽くした。
だが、晶葉が息を引き取る前に領外へ逃れた。
晶葉はかすむ意識の中、いままでの絡繰達のことを思い出していた。
「ごめんなぁ…お前達…ずっと、こんなに…痛かったんだな」
冷たくなっていく彼女を、鎧武者が静かに見守っていた。
39: 以下、
おしまい
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1496287724/
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