【長編良スレ】幼馴染みに振られた結果wwwwwwwback

【長編良スレ】幼馴染みに振られた結果wwwwwww


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1:
ようやく傷が癒えてきたので誰かに話そうと思ったんだ
pickup
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2:
人がいようといまいと勝手に話すさwwwww
3:
俺は聞くよ
>>3ありがとう
4:
そいつとの出会いは小学生の頃だったんだ。
親の都合で父親の故郷に引っ越してきた俺。小学一年の頃だ。
当時の俺にとってそれまで育った地を離れるというのは
多少なりともショックだった。
好きな娘もいたしな。
で、何となく気乗りしないまま近くの小学校へ。
6:
三学期のはじめと言うこともあってクラスには何となく入りづらかったんだ。
わかるだろ?
が、当然先生はそんなことも気にせず俺をクラスに放り込んだ。
で、今も昔も変わらずチキンな俺。かなりどもりまくって自己紹介終了。
顔から火を吹くというのを体感したよ。
そしたら当たり前の用に教室の掃除が始まった。
俺は何をしたらいいかわからずに( ゜д゜)ホ゜カーン
そしたら先生が、
「とりあえず床を雑巾で吹いてください」
と指示を出してきたのでその通りにした。
7:
机を前にずらして雑巾をバケツで濡らす。雑巾だけは持ってきてたんだ何故かw
よっしゃやったるでー、と気合を入れて拭こうとしたら、
「ねえ、俺くん? ちょっといいかな」
「ん?」
振り向くとかなりかわいい女子が俺に声をかけてきてた。俺、ちょっとドキドキ。
8:
聞かせてもらいます
雑巾がけとか小学生の頃しかやらなかったな・・・
10:
幼なじみっていいよな
11:
「えっと、なに?」
「うん……あのね」
そう言うと彼女は視線を後ろに向ける。そこには別の女子がいた。
なぜかこちらを見ている。
「この子が話あるんだって」
言うと、その女の子を押し出してきた。
その子は髪をボブぐらいにしたそれなりに可愛い子だった。
「は、なに?」
「えっと、その……」
俯いていて、うまくしゃべれない彼女。
しびれを切らしたように後ろの女の子が言った。
「君のこと好きになったんだって」
12:
書き込み遅くてスマン。大分前の事だからうろ覚えなんだ。
理解不能なことを言われた。
呆然とする俺。真っ赤になる彼女。意地悪く笑う女子。
「は、へ、なんだって?」
「だから、この子が君のこと好きになったの。わかる?」
んなアホな。
「え、まじ?」
確認をとってみると
「……(コクン)」
頷かれた。あまりの事に呆気にとられていると、
「こらー、そこ! サボらないでー!」
怒られた。
これが俺と彼女の初めての出会いだった。
今、思うと漫画みたいだな。でも、残念ながら漫画みたく終わらないんだねっていうこと。
13:
その幼馴染を押し出した女の子は今後は話に出てくるの?
>>13そいつはもうでてこないよ。小学校までだった。
聞いた話だとモデルになったらしいが
16:
さて、そんな出会いがあったわけだから、当然意識しないわけがない。
思えば、この頃からすでに俺は彼女の事を好きになっていたんだろう。異性として。
家がかなり近かったこともあって、彼女とどんどん親しくなっていった。
お互いの家に遊びに行ったり、とかな。
で、彼女には一つ年上の幼馴染とかいたわけですよ。しかも男。
当然俺はモヤモヤした。呪ってやろうかってぐらいに。
ある夏休みの日、彼女とそいつ(仮に石川としよう)が遊びにきた。
というか夏休みは毎日遊んでいたんだなそのメンツに弟と彼女の妹を加えて。
で、俺の家でチューペットを食ってから公園へ行く。
俺は石川のチューペットだけ5分ほど外に放置して溶かしてやった。
そうすると割りにくくなるんだな、これが。
ハサミで切って汁をこぼしてる石川を見て俺はザマァと思った。
17:
で、公園へ。
遊びはこれといって決まっていなかったんだ。ただ漠然と集まって遊ぶだけ。
彼女と年下ズ二人が遊んでいるとき。俺は石川に近寄った。
「勝負しようぜ」
「あぁん」
ちなみにこれは小2の話だ。小2なのでなんで石川と勝負したかったのかわからなかった。
今思うとただの嫉妬だったんだけどな。
種目は駆けっこだった。
言っておくが、小学生のときの1年の差ってやつはかなりでかい。
俺はそれなりに足に自信はあったが勝てるかわからんかった。
で、勝負。
結果は、勝てたwww大差で
18:
その時、俺は石川を完全に見下した。
ああ、こいつは俺の敵ではないな、みたいな。相当いやなやつだった俺。
実際、石川は後々いじめにあって不登校→ヒッキー→ニートの道を辿るんだがそれは後の話。
で、勝った俺はドウダ! 見たいな感じで彼女の方を振り向いたんだ。
砂のお城に夢中だったwww
19:
こっから先はとくに面白くもないかも。
俺たちは普通の幼馴染して、普通に仲良くて、
でも俺はどこかもの足りなくて、見たいな感じだった。
思春期に突入したら、お互い意識しはじめたのかな。
クラスが別々になったこともあって俺たちは、
中学に入る頃はあんまり話さなくなってた。
20:
で、中学二年のとき、俺たちの関係を変える出来事が起きた。
21:
うちの中学は合唱祭に力をいれていて、それが一大行事だったんだ。
で、俺はなぜか知らんがそれの実行委員に選ばれてしまった。
放課後に会議があるやつ。正直めんどい
もともと団体行事が好きではない俺は、
適当に参加して逃げようと思って会議室に行った
そしたら、彼女がいたんだ。一人だった。
23:
「あ、よう……」
「う、うん……」
簡単な挨拶をした後、一気に気まずくなった。
お互いがきちんと顔を合わせるなんて本当に久しぶりだったからだ。
会議室に、重い沈黙。
逃げるか? と思った矢先、
「あの、さぁ……」
彼女が口を開いた。
「え、あ、えーっと……なに?」
いきなりだったので俺はひどく慌てた返事を返す。
25:
「そのさ、ヤス……私のこと避けてる?」
ヤス、というのは俺のあだ名だ。
久しぶりに彼女の口から自分の名を聞いた気がした。
そのことにどこか安堵を覚えつつ俺は言葉を返す。
「いや、そんなことはない」
「そう、かな……。私の、勘違いかな」
勘違いではなかった。
小学校の時、クラスメイトに散々からかわれて、そのせいで俺は気づくと彼女を自然と避けるようになっていた。
26:
見てるから安心しておくれ
27:
みてるよヤス
28:
「だったらさ。また昔みたいにしようよ、ね?」
そこで俺は初めて彼女の顔を見た。
小さい頃と変わらない、目の下にあるほくろ。少し細めの目。
肩あたりまで伸ばしたボブカット。
でも、確かに違う。肌には少しニキビの後が残っていたし、
リップでも塗っているのだろうか唇が少し光っていた。
「昔みたいに、一緒に帰ったり、お話ししたりしよう?」
29:
見てるよ。がむばれ
31:
既に涙目な俺はどうしよう
32:
ありがとう。
彼女は泣いていた。
その涙は昔によく見たもので、俺は昔から彼女の涙に弱かった。
「…………わかった」
俺は何とか声を搾り出す。
誰か来てくれと願いながら。逃げ出したい気持ちはさらに強くなっていた。
「本当!? う、嘘じゃないよね!」
「……ああ、うん……まあ」
曖昧に首を縦に振る。
それだけで彼女はうれしそうに微笑んだ。涙のあとがキラリと蛍光灯の光を反射した。
「あははっ! やった! うれしい!」
教室だというのに、彼女ははしゃぎまわった。
33:
ちなみに1は今何歳?
>>33俺は今二十だな。中学の同窓会行って来て、
そこでいろいろあってここに書くことになった。
そのことについて今夜中に書けたらいいと思う。
36:
同い年だ
最後まで聞こうじゃないか
34:
はしゃぐ彼女とは対症的に俺はどこか気分が重たかった。
そんな俺に気づかずに彼女は声を弾ませる。
「じゃあさじゃあさ。ヤス、携帯持ってる?」
「あー、まあ持っているけど」
親に買ってもらった携帯。
中学校に持込禁止のものなのでただの置物に成り果てていた。
「アドレス! アドレス教えてよ」
「そんなもん知らん」
「えーなんでー」
誰にも教えたことがないから、というのはイタイ子扱いされそうなので言えなかった。
「あんなもん覚えているやつの方がどうかしている」
「そんなことないよー」
不満そうに言いながら彼女はノートの切れ端にペンを走らせた。
「ハイ、これ」
「……なに?」
見たことのない文字列が書いてあるそれを受け取る。
「私のアドレス。帰ったらメールしてね」
「メンド……くないですごめんなさい」
泣きまねをされただけでも弱ってしまうヘタレだった。
「絶対メールしてね! 来なかったら怒るから!」
ハイハイわかった、と言いかけたところで他の委員がやってきた。
39:
「ごめんね〜。遅くなっちゃって。ちょっとみんな集めるのに手間取っちゃって」
「あっ、いえいえ全然平気です」
現れた上級生に首を降る彼女。
俺はというと、もっとく来いよと心の中で不満を呈していた。
その後、会議は滞りなく進行した。俺は寝ていた(振り)をしていただけだが。
会議なんかよりも考えることがあったから。
会議が終わり、外を見ると雨が降っていた。
「うえぇ、マジかよ」
残念ながら傘は持ってきていない。
誰かさがそうにも時間はだいぶ過ぎていて、学校にはほとんど人がいなかった。
当時所属していた剣道部はその日はオフ。
「しかたない。濡れて帰るか」
母親に怒られるのを覚悟で、外へ出ると。
「ヤス!」
41:
彼女の名前とかつけた方がいいかな?いつまでも三人称じゃわかりにくいきが・・・
彼女は傘も持たずにに校門のまえに立っていた。
「なにしてんだ?」
「あー、うん。傘忘れちゃって……。誰か通るの待ってたんだけど」
「悪いな、俺も傘持ってないんだ」
「……みたいだね」
そこで彼女は迷ったような素振りを見せ、
「あのさ、一緒に帰らない?」
「お前、話の内容が論理的崩壊起こしているぞ。どうなったらいきなりそう飛ぶんだ」
「いや、ほら。どうせ二人共濡れるならさ、一緒に帰った方が良くない?」
正直意味がわからない。わからなかったが、俺は頷いていた。内心の喜びを努めて隠しつつ。
「わかった」
43:
「ホント! やったー!」
雨の中ハシャがれた。
飛沫が飛ぶのでやめてもらいたい。
「じゃあ、いこっ!」
雨のなかで晴れのような笑みを浮かべる彼女。
その笑顔を見て、心が動悸を激しくした。
俺はやっぱり彼女が好きなんだと再認識し。同時に暗い風が心に吹いた。
47:
雨のなかを彼女と帰る。
彼女と歩く帰り道は久しぶりだった。
「フンフフンフ〜ン♪」
「ガキかお前は」
彼女は上機嫌に鼻歌なんぞを歌っていた。
「ガキじゃないし、ヤスよりお姉さんだし」
「一ヶ月だけな」
九月生まれと十月生まれの差だった。そして今は九月の最後の日。
彼女が十五で俺は十四、数字上は確かに彼女の方が年上のよう。
「一ヶ月でも年上は年上だし。敬いなさい」
エッヘンとない胸を逸らす。俺よりもかなり低い背と相まって年上の威厳は微塵もなかった。
「ハイハイ、年上年上」
なので口では敬いつつ頭を撫でた。
「全然敬ってないし……」
と言いつつも彼女は手を払わない。
濡れた手で濡れた髪をしばらく撫でる。
とても、恥ずかしかった。
ので、グシャグシャと強めに乱暴な撫でに切り替える。
「うわ! なにすんだよー! やめろー!」
「ハッハッハ」
「笑うなー!」
楽しかった。
久しぶりに。とても。
だからこそ俺の中の不安は大きくなっていったんだ。
49:
そんな風に遊んで、家に帰る。
当然母親には文句を言われたが、ぶっちゃけどうでも良かった。
なので、適当に受け流して部屋に戻った。
部屋に入ると急にそれまでの事を思い出す。
「ハァ……」
ため息をついてしまう。
彼女と話せたことは、嬉しかった。
彼女が俺と話していて嬉しそうにして。それがどうしようもなく切なかった。
久しぶりに話せて、笑えて、嬉しくて。
だからこそそれが俺の一方的なものだと思うと、更に苦しくなった。
「アホくさ……」
一人で悩んでいても馬鹿らしい、と思った。
考えるだけ無駄だ、と。
「メール、してみるか」
50:
メールなんて家族以外でするのは初めてだった。
何を書けばいいのかわからない。
わからないので、俺は今にあるパソコンから2にアクセスした。
安価でメールしようと思ったからだ。
51:
結果は、失敗だった。
というよりも俺には無茶な安価を実行するだけの度胸がなかった。
というわけで、題名に自分の名前だけ書いて、中身白紙で送信。
帰ってきたメールには「コワッ」と書いてあった。
55:
それから拙いメールのやりとり。
俺は書くのが遅く(今でもそうだが)、一つの返信にだいぶ時間を書けていたが、
それでもメールが途切れることはなかった。
話の内容は、これまでのこと。
一緒に通った小学校の頃や、中学校に入ってからのお互いの話。
その中で、俺は彼女が小学校の頃いじめられていたことを聞いた。
が、そのことにはあえて触れなかった。
今日のことも話した。
帰ってきてからずっとしていて、気がつくと百件を超えるメールしていた。
『そろそろ寝なきゃ』
彼女からのメール。
俺はそれにどう返信しようか迷って。
『おやすみ』
それだけを返した。
自分のヘタレっぷりに絶望。
56:
スマン。書くのが遅くて。しかも俺自身はテンションが上がって眠れないという罠ww
それからは、小学校の頃のように遊んだ。
たまに一緒に帰ったり、廊下で会うと休み時間が終わるまで話し合ったり。
メールも一度はじめると尽きることはなく。母親に携帯代もバカにならない、と怒られた。
ついでに誰とメールしているのか詮索されたが、「友達だよ」と言って誤魔化しておいた。
彼女の名前がアドレスに入っていたのでバレバレだったと思うが。
ちなみに、俺の母親は彼女の事を知っていた。むしろ仲良し。
母親は「あの子、絶対にあんたのことが好きだよ」とよく言っていたが、
その度「そんなことねーよ」と返していた。
58:
何でテンション上がってんの
>>58 同窓会後だから。
59:
テスト休みが近づいたある日。
「ヤス!」
「ん?」
廊下を歩いていると彼女に呼び止められた。
「なんか用?」
「今日、暇?」
その日は部活も塾もない。いわゆる暇だった。
ただそれを素直に言うのは何となく癪だった。
「時間的余裕を持て余していることが暇だというのなら暇といえなくもない」
「つまり、暇なんでしょ」
「……はい」
あっさりと流されてしまう。
「私はね、今日塾があるの!」
少し語気を荒げて彼女は言う。
「はあ」
「でもね、わからない問題がある!」
「んな堂々とバカ宣言しないでも……」
何が何だかわからない。
俺は彼女が自虐癖に目覚めたのか心配になった。
「だから、」
「今日、ヤスの家に行ってもいい!?」
時が止まった。
61:
「はあ?」
言っている意味がわからなかった。
「何言ってんのお前」
「だから、家に行ってもいいかって訊いてんの!」
「それは別に構わないけど……」
構わなくないだろ俺。
「よし! じゃあ、放課後すぐに行くね!」
そういって彼女は去っていく。
取り残されたのは、未だに理解が追いつかない俺。
とりあえず、
「部屋の掃除しないとな」
放課後は全力ダッシュが決まった。
64:
「あんたなにやってんの?」
珍しくウチにいた母親が訝しむのを気にせず、
俺は自分の部屋のゴミを弟の部屋に投げ入れる。
全て運び出した頃、
ピンポ〜ン
チャイムがなった。
慌てて電話をとる。
「は、はい!」
「あ、兄? 鍵忘れたから開けてほしいんだけど」
「紛らわしいんだよ! ボケ!」
俺はチェーンロックをかけた。
再びなるチャイム。
「うっせえ!」
「なにやってんの兄! 意味がわかんねえ!」
「黙れ愚民が! お前はサッサと家に帰ってママのミルクでも吸ってやがれ」
「いや、ここが家なんですけど! あと兄にお客さん? が来てるけど」
俺は凍りついた。
「マジで?」
「マジで」
「ど、どうも〜」
電話口から聞こえた声は確かに彼女のものだった。
65:
「アハハハハハ、ば、ばっかみたい!」
うるせえバカこの女。
心の中で毒づく。
醜態を晒した俺は恥ずかしさのあまり自害したくなりながら彼女を部屋に招き入れた。
ちなみに弟へはささやかな復讐として家中のゴミをベットの上に載っけてやった。
生ゴミ回収の日だったので命拾いしたな。
「で、どこがわかんないんだよ」
いつまでも笑っている彼女を止めるべく、本題に入る。
彼女は塾に行くといった通りカバンを背負っていた。
「あはは、はー。おもしろ。でーうん、何だっけ?」
「問題。わからないところがあるんだろ」
自慢じゃないが俺は頭だけは良かった。
彼女と天地ほどの差。誇張ではなく事実。
「あーうーんー? まあ、そんなことは置いておいてさ」
置いておくなよ。
言うと彼女はトコトコ歩き回る。
「ここがヤスの部屋かー」
68:
「なんか、想像通りだね」
漫画だらけの部屋を見てそう呟く。
「人の部屋を勝手に想像するんじゃねえ」
「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」
彼女は本棚から漫画を抜き取ってベッドの縁に座る。
そしてそのまま読み耽った。テニプリを。
「オイ、勉強はいいのかよ」
「んー? んー」
気のない返事。
仕方ないので俺は自分の机から椅子を引っ張り出してそこに座った。
で、することもないのでボーッとしていた。
「ねえ」
しばらくそうしていると声をかけられる。
「ん?」
「ヤスは普段なにしているの?」
「漫画読んでる」
「どんな漫画?」
「ここにあるやつ」
満杯になっている本棚を指差す。
「ふーん」
「……」
「……」
何が言いたいのかわかんねえ。
が、何となく俺の方から話題を振らなきゃいけない気がした。
「お前は、なにしてんだよ」
「私?」
そこで彼女は漫画から目を離してこちらを見た。
71:
「私は、漫画読んだりCD聞いたりしてるよ」
俺の部屋にはCDが一枚もなかったので、音楽はわからなかった。
なのでわかる方を聞く。
「どんな漫画?」
「少女漫画とか」
「プッ」
思わず吹き出してしまう。
「なんで笑うさ」
「いや、だって」
イメージが合わない。
「だってお前、少女漫画ってあのやたら目がキラキラしたやつだろ? 似合わねえ」
「ヤスは私のことを何だと思っているよ?」
「アッハハハハ!」
「笑うなー!」
さっきの仕返しだった。
「そ、それに、最近の少女漫画はすごいんだから!」
「は? 何が」
思わず聞き返してしまう。
どうせ大したものではないだろう、という気持ちから。
「最近のは、その……しちゃうんだから」
「はい?」
語尾が弱くて聞き取れなかった。
というより、頭が理解を拒んだのだろうか。
74:
「最近のは、しちゃうんだから」
今度のはハッキリと聞こえた。
「えと、それって? その、生殖行為?」
恐る恐る訊いてみる。
「…………」
無言の肯定。
同時に気まずい空気が部屋を支配する。
何てことを聞いているんだと公開した。
なので、務めて明るく返す。
「そ、そうか! 最近の少女漫画ってすげえな!」
「うん……」
そしてまた気まずく。
どうしようどうしよう。
俺はこれまでにないくらい動揺。なにか打開策は。
と、そこで時計に目が行く。
「あ、その、じ、時間!」
「え?」
「いや、ほら、塾!」
「あ、あー!」
気がつくと随分な時間になっていた。
彼女が塾に行く時間だ。
「やばいやばい! 急がなきゃ」
慌てて支度する彼女。先ほどまでの空気は霧散していた。
「送ろうか?」
送る、といってもすぐそこまでだ。
彼女の塾はうちのすぐそばにあった。
「あー、ううん。だいじょぶ」
「そっか」
それだけのやりとりをして彼女は慌てて出ていってしまう。
それからしばらく呆然とする俺。
やがて、気づく。
「俺、めちゃくちゃヘタレじゃね?」
答えてくれる人はいなかった。
「ヘタレ野郎」
と思ったら母親がいた。
78:
俺がヘタレだということはわかってもらえたと思う。
実際、あの頃は気づかなかったけど今思うとホントにフラグブレイカーだな。
と、まあそんな風にフラグをバキバキ折っていた俺だが、ついにチャンスが巡ってきた。
それは中3の春頃、六月の話だった。
うちの学校は六月に体育祭をやるところだった。
当然、俺は参加するつもりは対してなかったが。
なぜか、再び委員になる俺。おまけにクラスの女子とペア。
面倒くささを全身でアピッていたのだが、
その子は身体が弱いらしく手伝えという勅命が下された。
なら委員なんかやるなよ。と思いつつも仕事をこなしていた。
そして、なぜだか知らないが。ホントに知らんが。
俺がそのこと付き合っているという噂が流れていた。
その子の名前を青木とする。
82:
青木は実際に可愛い娘だった。
だが俺の食指は全く反応しない。
というのも、俺の友人が彼女の事を好きだったから。
友人の好きな人を好きになることを俺はできなかった。
ちなみに彼女の事を好きだといったやつは俺のなかで友人じゃなくなっていた。
とまあ、こんなわけで根も葉もない噂だと放置していた。
が、事件?が起きてしまった。
青木が転校することになったらしい。
正直どうでも良かったので聞き流していたが、なんでも療養のために田舎へいくそうな。
友人涙目、と思っていたらクラスの視線はなぜか俺に。
その目は獲物のねずみを見つけた猫の目を彷彿とさせた。
「ヤス〜、青木がいなくなっちゃうぜ〜!」
「いいのかあ、恋人がいなくなっちゃうよ!」
クラスの嘲笑。彼らはからかいかもしれないけど、俺は嘲笑と取った。
85:
友人が、俺を見ていた。
「静かに!」
教師の一言で教室は静まる。
その場は解散となり、次の体育祭リハーサルへと移った。
リハーサル直後、教師は今度は学年全員がいる前で青木の話をする。彼女も同じ学年だ。
彼女が最後の思いでのために体育祭の委員になったことをここで知ったがどうでもいいことだった。
それよりも俺は、ニヤついてこちらを見るクラスメイトが気になっていた。
「ーーなので、皆さん青木さんにお別れを言っておくように」
教師の声がそんなことを告げる。
その機を見計らったように一人のクラスメイトが声をあげた。
「センセー、ヤスくんが青木さんに言いたいことがあるようでーす」
「なっ!」
何を言っているんだこいつは?
そう思った俺を瞬時に数多の視線が取り囲む。
当然その中には彼女も。
「ヤス〜、言っちゃえよ〜。俺はお前と分かれたくないんだ〜、って」
「ーーッ!」
瞬間、俺は激昂した。
そいつは、友人の事も青木の事も、俺の事も考えずにそんな発言をしたからだ。
気づくと立ち上がって、そいつに殴りかかった。
86:
「テメェ! ざけんなっ!」
突然殴りつけた俺を、慌てて教師が止める。
殴られたやつは呆然としていたが、すぐに立ち直り、こちらへ向かってくる。
「何だよ! ホントの事だろ!」
もう一発殴りかかろうとするも、教師に羽交い絞めにされたせいで体が動かない。
「こら! やめなさい!
 他のみんなは教室へ戻ってなさい!」
教師の声にそれまで固まっていたやつらが動き出す。
彼女が心配そうに、俺を見ていた。
87:
それから、教師にコッテリと絞られた俺はイラつきながら家へと戻った。
親には遅かった理由を適当にはぐらかしておいた。
今日はもう何もする気が起きない。
そう思いベットに寝転ぶと、携帯がメールを受信していた。
相手は彼女だった。
『今日はどうしたの? 何かすごかったけど? だいじょぶ?』
俺を心配する文面。
少し気持ちが軽くなった俺は、それに軽口で返した。
『大丈夫、な。お前は日本語もまともに使えないのか』
我ながら素直じゃないな、と思った。
『うっせー! 何があったの?』
彼女は尋ねてきた。
話そうかどうか迷う。
わずかな逡巡の後、俺は今日のことを伝えることにした。
88:
『ほうほうなるほど。そりゃ失礼な話だね』
一通り話すと彼女はそう返事をくれた。
『まったくだ。俺がなんで青木のことを好きにならなきゃいかんのだ』
俺が好きなのはお前なのに、なんて書けなかった。
『好きじゃなかったの?』
『当たり前だろ』
『そっか。じゃあ、誰が好き』
「ハァ!?」
俺はその文面に目を疑った。
これは、答えなきゃならんのか?
いや、わ罠かもしれない。
悩んだ末に俺はヘタれた。
『お前こそ好きなやついるんだろ』
『なんで知っているの!?』
知っていた。
だから、知りたくなかった。
『じゃあさ、私も教えるからヤスも教えてよ。いいでしょ?』
絶対に嫌だと思った。
傷つくと思っていたから。
だけど、心のどこかで、希望が光っていた。
絶望を確認しよう。
俺は、意を決してボタンを押した。
『俺が、好きなのは……お前』
89:
悪い、ちょっと風呂入ってくる。
ここからは酔いを覚まして書きたい。
92:
おまww良いとこなのにww
102:
指が震えた。
心臓も、ありえないくらい高鳴っている。
手に汗握る、というか手はふやけてしまうんじゃないかというくらい汗ばんでいる。
まず最初に過ったのは、やってしまったという思い。
これで、良くも悪くも俺たちの関係は終わるんだと。懐かしさに思いを馳せる。
初めて会ったとき。
クラスが一緒になって喜びあったとき。
一緒にプールへ行ったとき。
二人で同じ習い事をしたとき。
最近の想い。
久しぶりに彼女の顔を見た。
しっかりと女になっていて、すごくドキドキした。
それから目まぐるしく動く日々。この一年は本当に楽しかった。
その感情に嘘偽りはなかった。
ああ、俺は本当に。
「好き、だよ……」
握り締めた携帯が、終わりを告げるように。
震えた。
103:
恐る恐る、携帯を開く。
そこには登録してある彼女の名前。
俺は指先がうまく動かないのを感じながら、何とかボタンを押した。
開かれるメール。
俺はとっさに目を閉じた。
もう一度反芻。
待っているのは絶望かもしれない。
だって、彼女には好きな人がいる。
だけど、もしーー
俺はゆっくりと目を開けた。
『嬉しい』
ただ、それだけが書かれていた。
104:
「これは、どっちなんだ……?」
肩透かしを喰らったような気分。
いや、実際に食らった。
どうしていいかわからずに、ただ携帯の文面を見る。
すると、新しいメール。
先ほどより、どこか軽い気持ちで開いた。
『090ーー』
「これは?」
出てきたのは数字の羅列。
おそらくは電話番号だと思った。
番号を携帯に並べ、通話ボタンを押す。
耳に当てるとよく聞くコールオンが一回で消え、
「私も、ヤスがずっと好きだった!!」
あまりの音量に思わず切った。
105:
ちょww
106:
やべ全身痒くなってきたwww
107:
さっそく折りやがったwwww
108:
びっくりした。
そして俺はなんで切ってしまったんだ。
携帯が震える。通話。
「なんで切ってんだよ!」
ごもっともだ。
「いや、悪い。あまりにもうるさくて」
「ボリューム! ボリュームが悪いのか
! 内容については!?」
「ノーコメントで」
「ヒドい!
 ヤスは本当に私が好きなの!?」
「さあ、どうだろう?」
好きだ。
だってこんなにも顔がにやけてしまうから。
こんないつも通りのやりとりに、こんなにもときめいてしまうから。
笑っている。俺も、彼女も。
幸せを感じた。
無謀に思っていた俺の初恋は実った。
111:
「ところで」
「ん?」
あれからしばらく笑いあって。ようやく落ち着いたところで話を切り出してみる。
「お前本当に俺のこと好きなの?」
ここにきてまぁ嘘なんだけどね☆でしたといわれたら俺は死ねる思いだった。
「なにさ。私の愛を疑うの?」
「愛って、お前……。バカか」
「誰がバカだって!」
「いや、バカだろ」
「ムキー! ヤスが頭よすぎんの!」
話が逸れて。
「いや、お前、○○のことが好きなんじゃないの?」
それは学年でも有名なイケメン野郎。
サッカー部のエースという実にリア充な野郎でした。
彼女がそいつを好きだと、聞いた。
それなのに彼女は俺に色目を使っている。
だからムカつくんだ。
誰かがそう言った。だからイジメたんだと。
「うー、それはー、なんというかー」
「何だよ」
「あれですね。アイドルにキャーキャー言う感じですよ」
なぜに敬語なんだろう。
だけど、
「そっか」
俺は確かに安堵のため息をついた。
同時に俺の悩みは杞憂だったと思うと馬鹿らしくなった。
112:
「って、もしかしてヤスはそれで私のことを避けてた!?」
「いや、まあ」
その通りなのだった。
他に好きなやつがいるというのに、纏わりつくのは迷惑だと思った。
何よりも俺が耐えられなかったからだ。
「ヒドい! 私に聞けばいいでしょ!」
「んなこと聞けるかよ」
「なんでよー」
「なんでもだ」
「ぶー、私の寂しい思いを返せー」
「返品不可でございます」
楽しい。実に楽しくて嬉しいやりとり。
できれば電話越しじゃなくて、今すぐにあって抱きしめたかった。
だけど、すでに夜の帳は降りた。
「ねえ」
「うん」
「これで、私たち彼氏彼女?」
「あー、まあ」
そういうことになるのだろうか。
改めて思うと、どこか現実味にかけていた。電話越しだからだろうか。
「えへへ、そっか。嬉しいなあ。ずっと、初めて会ったときから好きだったから」
113:
ああああああああああああまずっぱいいいいいいいいいい
114:
「そうなのか?」
「そうだよ。あの日、帰ったらお母さんに『スッゴいかっこいい人が来た!』って言ってたんだから」
「嘘くせえ」
電話越しで良かったかもしれない。
「嘘じゃないし。ねえ、ヤスはいつから私のこと好き?」
頬が緩みすぎだ。
「ああ、そうだな……」
直にあっていたら、きっと途方もないくらい気持ち悪い顔を晒していたと思うから。
「初めて会ったときからずっと、かね」
ああ、彼女を好きで良かった、とこの時思えた。
115:
さて、こっからしばらく自分でも赤面するバカップル話が続きます。
なのでサッサと振られちまえという人が多ければここは飛ばします。
116:
赤面待ち
117:
赤面wkwk
118:
今何人見ているかわからんが>>116ー>>122までの多数決で。
正直黒歴史ものなので、マジで注意。
120:
赤面晒したまへ
121:
赤面
122:
赤面希望!!!
持ち上げてから突き落とす方がおいしいしww
123:
ちくしょうお前らそんなに人の黒歴史が見たいのか。
コンチクショー、こうなったら絶対お前らを悶えさせてやるわ!
うはははははは
しらふじゃ書けネーヨ
124:
>>123
ゲンドウ「構わん。やれ。」
126:
「ねえねえ、聞いていい?」
ある日の帰り。
あの日から付き合った俺たちは、帰りを毎日一緒にしようと約束した。
どちらかが遅くてもしっかり待つこと。それを条件に。
「その前に」
「?」
ちなみに、この時は手をつないでいない。
というか結局繋がなかった。
なぜなら、
「今君は何をしている?」
「腕組んでいる」
俺たちはずっと腕を君で移動していた。
正直、はずかしいをこえて開き直りに近い心境だった。
「ダメ?」
「ダメではない……よ?」
ダメじゃないけど。
腕のちょうどいい位置に柔らかいものが当たる。
なんだこの野郎当ててんのか、と思いつつ敢えて指摘はしなかった。
だって、男の子だし。
「それでねそれで」
「ん?」
「ヤスは何が好き?」
「お前」
「はう……」
からかったつもりはない。条件反射で答えてしまった。
自分は相当毒されていると思い知った。
同時にこんな甘い毒なら一生使っていたいなあ、とも。
「そ、そうじゃなくて」
恥ずかしがって照れる彼女。
真っ赤になった顔は可愛い。
周りの学生が苛立ったような目で見ているが気にしない。
「ヤスの好きな食べ物を聞いているの」
「おま」
「真面目に!」
129:
「……なぜ?」
素直に疑問に思った。
「えっと、それは、その、ね……」
「ふむふむ」
「せっかく彼女なんだし、手料理、とか……」
先ほどよりも顔を赤くさせて呟く。
か弱い声は反則だな、と俺はのぼせた頭で思った。
「そういうことなら何でも食うぞ」
「えー。つくりがいないなあ」
「いや、お前が作ったものなら多分何でもうまいし」
彼女は家庭科の成績だけは抜群だった。
昔もらったクッキーが非常い美味しかったことを覚えている。
そんな経験談から言った言葉なのだが、
「うう、それは殺し文句だ」
彼女は更に顔を赤くしていた。
ゆでダコも裸足で逃げ出すくらい。
「?」
改めて自分が言ったセリフを思い起こす。
……。
…………。
俺はバカか。バカップルか。
結局、その日はお互い顔を真っ赤にして家路についた。
腕は組んだままだったけど。
132:
別のある日。
『明日デートしよう』
そういった旨のメールが送られてきた翌日。
俺は公園で彼女を待っていた。
近いんだから待ち合わせする必要ねー、と思ったが。彼女曰く必要何だとか。
即にすることもないので手持ち無沙汰に砂ばを弄っていた。
デート、生まれて初めてだった。
当然、思春期の妄想は膨らんでいた。
もうパンパンだった。
「いかんいかん。今日は健全なデートだ。うむ」
親には、友達と映画行ってくると言っていた。
嘘はついていない。彼女を友達の延長線上と考えるならば。
なんで親にバラしたくはなかったのか。
親にからかわれるのだけはごめんだった。
「お待たせ」
くだらない思考をしていると彼女がやってきた。
いつもと違う私服。動きやすそうだった。で、可愛い。
「おせえ」
九分待った。
「そこは『僕も今来たところだよ、ハニー』って優しく微笑むところでしょうがー!」
「お前、それを本気で言っているのか?」
だったら病院へ行かなくては、と心配した。
「ちっげよー! もういい! サッサと行くよ」
「ハイハイ。あ、どうでもいいけど」
「なにさ!」
「似合ってるな、その服」
本心と礼儀に一致が見られる。実に素直な褒め言葉。
「う、あ、ありがとう」
彼女は顔を一転にやけさせて、映画館へ向かった。
134:
すまん。そろそろ仕事なんだ。
一旦落ちる。
帰ってきてまだあったら完結させよう。
137:
赤面黒歴史を期待させて持ち越しとか
どんだけw
163:
おはよう。
仕事を切りがいいとこで止めて、寝ていた。で、今起きた。
寝起きなのでしばらく待ってくれ。
164:
あと、残念なお知らせ。
濡れ場を期待している人には悪いんだが、どうも書けそうにない。
書けないこともないんだが、書きたくはない。
なんというか、これだけは公表するもんじゃないと思うんだ。自分の中で。
あの時の彼女の顔も反応も鮮明に思い出せるけど、
それは俺だけのものにしておきたい。
我ままだけど許してくれ。
それ以外の要求、質問についてはできるだけ聞きたいと思う。
勝手なこと言ってスマン。
166:
てか濡れ場あんのかよwww
>>166 一応、一年くらいは続いていたからな。
回数は少ないけど確かにあった。
167:
濡れ場は聞きたいが、話してくれとは言えないな・・・。
>>167 ありがとう。察してくれて助かる。
170:
むー。そろそろ再開しようと思うよ。
相も変わらず遅レスだから今日中に終わるかわかんね。
でも見てくれたらうれしいさ。
172:
そうそう。彼女の名前だが、いつまでも『彼女』や『お前』というのはアレなので。
以降は、『エリ』という名前をつかおうかと。
173:
実は俺も最近振られたばっかだからさ・・・
1がんがれ!
174:
お、>>1帰ってきたか
書きたくないのなら書かなくて良いだろ、ここは>>1のスレなんだし
175:
映画館に入ると当然ながら人が大勢いた。
その中には当然カップルも。
だけど、腕を組んでいるカップルは明らかに少数派だった。
「なあ」
「ん? なに?」
恥ずかしいから離してくれ、と言おうと思った。
けど言えなかった。
間近で感じたエリの吐息が首筋をくすぐって、こそばゆく。
それだけで羞恥心なんてものは彼方へ吹き飛んだ。
ので、話題変更。
「なんの映画見るんだっけ」
「えー昨日言ったじゃん。聞いてなかったの?」
「いーえ言ってません。なぜならメールで連絡がきたからです」
「揚げ足とんな!」
相も変わらずなやりとり。
それはデートだろうとなんだろうと変わらなかった。
「もう、あれだよ」
そう言ってエリが指差したのは、双子の兄弟が出てくる有名な野球映画だった。
当時はちょうど上映した直後であり、人気の作品だった。
「へー」
原作を知っていた俺は大して面白そうとも思わなかったが。
「はやく! はやくいこう!」
楽しそうに目を輝かせて腕を引くエリを見ていると、悪くないかな、なんて思えた。
176:
「残念ながら本日のチケットは売り切れてしまいました」
「えー」
受付のお姉さんが告げる言葉にエリは肩を落とした。
まあ、そうだろうな。
なんて言っても当時一番注目されていたので、チケット前日予約必須のシロモノだった。
「思いつきで行動するからこうなるんだ。今度からは少しは考えろ」
「今度? また、一緒にきてくれる?」
それはもう何度でも。というのは気恥ずかしいので、頷くだけにとどめた。
「あははっ♪ そっか、じゃあ、いいや! 今日は別のを見よう」
機嫌を直したようで、改めて映画を選ぶ。
俺はといえばとくに見たいものもなかったのでエリに任せていたのだが。
「んー。これにしよっ」
やがてエリが選んだのは。
「マジですか……」
「マジです」
原作少女漫画。二人の同じ名前の少女がそれぞれの道を歩むというお話。ちなみに。
「これって……そういうシーンなかったっけ?」
いわゆる濡れ場。
が、エリはそんなことも気にせずにすでにチケットを買ってしまっていた。
「これも見たかったんだよねー! 原作好きなんだ!」
「はあ……そうかい」
色々と諦めた。
俺は自分自身に気合を入れて敵地へと望んだ。
178:
予想以上に最近の少女漫画はすごいんだなあ、と思った。
映画館から出てきた俺はモアイも真っ青なくらい石化していた。
エリはというと。
「あー! 面白かったね!」
実に楽しんだようだ。
何だろう。俺だけ意識して馬鹿げている気がした。
なので気合を入れなおす。
「よっし、それで? どこへいくよ」
「うん? こういうのって男の子がエスコートするもんじゃない」
「マジっすか」
「マジなのです」
さも当然のように頷かれる。
そんなこと言われても、突然のデートなので何も考えていなかった。
「ふーむ」
考える。考えて。考えていると。
きゅるるる〜
「……」
「……」
エリは顔を真っ赤にして背けていた。
「アッハッハ!」
俺、爆笑。
「しょ、しょうがないじゃん! 女の子がデート前にバクバク食べるわけにはいかないんだよ!?」
「アッハッハッハッハッハ!」
「笑いすぎー!」
俺たちは近くのファーストフード店で飯を済ませることにした。
181:
それからの帰り道。
俺たちはいつもの用に腕を組みながら歩いていた。
他愛もない話。
クラスの事や、差し迫った受験のこと。どうでもいい話まで。
やがて、二人の家の近くにある公園に着く。あたりはだいぶ暗くなっていた。
「ねえ、ちょっと休んでいかない?」
エリの提案。初デートと言うことで一日中緊張していた俺にはありがたい話だった。
「オーケー。じゃああそこに座ろう」
二人でベンチに座る。
フーッと吐いた息はどちらのものだったのか。
俺たちは顔を見合わせて笑った。
「そっち行っていい?」
「おう」
エリが距離を詰める。
彼女の匂いと体温がすぐ近くにあった。それこそ抱きしめられるほど側に。
「昔さ」
「ああ」
「よくこの公園で遊んだよね」
「ああ」
「懐かしいね」
「だな」
「……」
「……」
沈黙。でもそれはいつだかのように重いものではなくて。甘かった。
「私ね」
「うん」
「あの頃から好きだよ」
「……そう」
「ずっと。ずっと」
「ヤスは? どう?」
「そう、だな」
面と向かってその言葉を言うのは初めてかもしれない。
だから俺はきちんと体をエリの方へ向けて、言った。
「ずっと、好きだった……」
182:
まっすぐに、エリの目を見て。
彼女の眼は少し潤んでいて、俺は吸い込まれるような錯覚を覚えた。
いや、確かに吸い込まれていた。
少しずつ近づく顔。
伏せられる瞳。顔の輪郭。唇の紅。
それらが闇の中、鮮明に浮かび上がって。
「……ん、ぅん」
俺たちは、初めてのキスをした。
家に帰った俺を待っていたのは母親のにやけた笑顔。
「今日ねえ、『お友達』のお母さんからわざわざ電話があってねえ。
ムフフ、よろしく言っておいてだってえ」
恥ずかしさのあまり、窓から飛びおりてやろうかと思った。
183:
それからは受験で忙しくてなかなかおたがいの都合がつかなかった。
それでも、会えるときは絶対にあったしなるべく長く一緒にいた。
ただどうしても厄介な障害が存在した。
それは、俺の塾だった。
俺は県内の小規模な塾に通っていた。小規模、といってもそれなりの実績はある。
自慢ではないがその中で俺はトップのクラスに在籍していた。
そこの目標は、高校では最高峰に位置する開成や国立高校だった。
そんなところを狙っているので、当然教師は厳しい。
いや、全員が全員そういうわけではないのだが、一人だけ恐ろしい男がいた。
曰く、
『携帯なんてなぁ、受験生が持つもんじゃねぇ。即刻解約しろ』
『学校の授業なんてきかなくていいんだよ。どうせクズな事しかやってないんだから』
とのこと。
当然だが、この先生の価値観では恋愛なんてもっての外。
付き合っているやつは今すぐ別れちまえ、というのは実際に言っていた言葉。
が、俺にはそんなつもりはない。
なので自己申告もせず、親に口封じもした。
これで平気だろうと思っていると、思わぬところからバレてしまう。
駅でデートしているところを目撃されてしまった。よりにもよってその教師に。
184:
生徒の為なんだろうけど
彼女は居た方が助かる時もあると思う
俺彼女いない歴=年齢だけど
>>184 彼女にうつつを抜かしている暇があったら勉強しろ、
ということらしい。
185:
当然、呼び出される俺。
それから奴は恋人という存在外貨に受験の弊害になるのかを延々一時間語り。
挙句、携帯まで没収されてしまった。
翌日、そのことをエリに話した。
「それは……ひどいね」
「ひどいなんてもんじゃねえし。アイツは人の温かみが通ってないんだね。鬼だ、鬼」
「あ、あはは」
エリは困ったように笑って、それからため息をついた。
「でも、それじゃあこれからどんどん会えなくなるね。イヤだなぁ……」
それは俺もイヤだった。
だからといって塾をやめるわけにもいかない。親の期待、というものがあった。
「私もヤスくらい頭良かったらいいんだけどね」
エリの志望校は県内にある、私立の女子校だった。
俺が男子校へいくといった際、ならばと進路を公立から変更していた。
本当なら同じ高校にいきたかった、けど。
この時の俺には選択肢がなかった。
187:
それから俺たちが一緒に過ごす時間は確実に減っていった。
というのも俺の塾がさらに過酷化したからだ。
平日はもちろんのこと、休日も朝の九時から夜の九時まで、と。
今思い返してもこの頃が一番勉強していたと思う。
だけど、いない分だけエリヘの思いは募っていった。
だから会えるときはなるべくくっ付いていた。それこそ周りの寒さを溶かすほどに。
季節は冬。クリスマスが近づいていた。
188:
クリスマスも当然のように塾があった。
この日ばかりはサボってやろうかと思ったが、ヘタレな俺にはできなかった。
いつもの用に十二時間の塾が始まる。
クリスマスだというのに男ばかりで勉強というのは、悲しくあると同時に申し訳なかった。
エリは今頃何をしているのだろう。
それだけを考えて授業を過ごした。
そして塾が終わり、極寒と呼べるほどの寒さの中、家に向かう。
途中、エリの家に寄ってみた。
が、結局チャイムを押すことなく俺は引き換えしてしまった。
何もできない自分が歯がゆくて。どうしようもなかった。
そして自宅の前まで行くと、俺は自分の目を疑った。
誰かがしゃがんでいるのが見えた。
それは、
「エリ」
「ん? ヤス? ……おそい」
俺の声に気づいたエリは立ち上がりこちらへ駆けてきた。
「お前、なんで……」
「なんでも何もクリスマスでしょ。もー。彼氏彼女が一緒にいるのは義務なの法律なの」
エリの唇は寒さで青くなっていた。
189:
エリ良い子過ぎるだろ 
つД`)・゜・。・゜゜・
191:
健気だな・・・良い子だ
192:
俺は手袋を外して、エリの頬に触れた。
「や、あったか〜い」
彼女の頬は柔らかさそのままに、氷のように冷えきっていた。
俺はもう片方の手でも彼女の頬を包む。少しでも熱が伝わるように、と。
「むふふ〜」
彼女は幸せそうに笑んだ。
その笑顔に、俺の緊張も溶けた。いつもの軽口がきける。
「お前なあ、一体いつからここにいたんだよ」
「んーと、ヤスの塾が終わる九時から」
じゃあ三十分近く待っていたことになる。
凍てつくような寒さの中。
「ねえねえ、私、偉いでしょ。まさに彼女の鏡だね」
「ア ホ か」
両頬に添えたてに力を込めて頬を押しつぶす。
「んん〜! ひゃひふんらよぉ〜」
「うっせ、バーカバーカウルトラバーカ」
「ひゃんふぁふぉ〜」
とりあえず、彼女の残念な顔をこれ以上晒すのは忍びないので、手を離してやった。
「うう、死ね! スーパーバカ野郎」
「プッ、ハハッハハ!」
「笑うなー!」
久しぶりのやりとり。
冬だから、体は冷えていたけど、心は暖かくなった。
193:
それから、立ち話も何なので例の公園へ。
親には、塾で残されていたと言えば何とでもなるだろうと思った。
「そうそうそう」
「ん?」
「クリスマスプレゼントあるですよ」
「何ですと?」
突然の事に驚いてしまう。
いや、クリスマスだから当然なんだけど。
「ほれ、ありがたく受け取るがいい」
やたら不遜な態度が鼻についたが、もらう立場なので文句はいえない。
差し出された紙袋を受け取った。
「見ていいか?」
「どうぞどうぞ」
中を開ける。
入っていたのは、手作りと思わしきクッキーと、棒状の何か。
「何これ」
「万年筆。割と高かったよ」
「なんで、万年筆?」
悪いが俺は万年筆なんて生まれてこの方触ったことがなかった。
「んーんー」
なぜか恥ずかしそうに悶えた。
「どうした。あまりの寒さに脳が死んだのか」
「違うに決まってるでしょ! ヤスはもっとムードを大事にしろよ!」
とっても怒られた。
「じゃあなんだよ」
「うん。……あの、ね」
194:
「ヤスは携帯、取られちゃったじゃない」
「ああ、うん」
ちなみにまだ帰ってきていない。
およそ一ヶ月も奪われたままだ。
だったらいっそのこと解約して新しいのを買うか、なんて思っていたりした。
「だからね、その……手紙」
「はあ? 手紙?」
「うん。それで、手紙書いて送ってほしいなって。んー、いわゆる文通?」
「なぜ?」
そんなまどろっこしいことを。
聞くと、エリは頬を朱に染めて呻くように呟いた。
「だって、寂しいよ……」
あ、やばい。
この時の俺は、確かに何かが崩れる音を聞いた。
それはおそらく理性とかそんなもんだったのだろう。
気がつくと、力いっぱいエリのことを抱きしめていた。
「え、ええ!? な、なにさ!! いいいいきなりこんなとこで!?」
離さないように強く、強く。
忘れないようにしっかりと彼女を感じた。
彼女のぬくもりを、柔らかさを、甘い匂いを。
「エリ、ヤバい」
「な、なにが?」
「好きすぎてヤバい」
「う、ううううう……」
それまで騒いでいた彼女がおとなしくなった。
195:
「ねえ」
「んー?」
しばらくその体勢でいると、えりが話をかけてきた。
すっぽりと収まるように俺に抱き締められているので、暖かい息が胸に当たった。
「あの、ね。私も、プレゼント欲しい……」
「あっ」
すっかり忘れていた。
そうだよな彼氏だけがもらうっていうのは変だよな。
だけど、
「悪い、急なことで何も用意してなかった」
「えー」
「ほんっとうにごめん。その代わり、なんでも言うこと聞くから」
「なんでも……?」
「うん、そう、なんでも」
正直、キスでも何でもしてやる、と思っていた。というかむしろ俺がしたかった。
しかし、エリの回答は予想を上回っていた。
「じゃじゃ、じゃあ! あーのねっ! しっ、しっ、シよう!!」
俺の脳はフリーズした。
197:
さて、ここでお待ちかねの。
King Crimson!!
198:
嘘だ!!
199:
まあ、皆様の想像通り、俺はここでチェリー卒業しました。
ちなみに向こうも初めてだった。
クリスマスプレゼントはゴムということになったよ。
200:
うらやmけしからん
いいぞもっとやれ
201:
なんか鬱入ってきた
202:
さて、おそらく、この辺が黒歴史(赤面)のピークだった。
つまりこっからはは落ちていくよッと。
警告
甘々で終わりたい人はここでスレ閉じてください。ありがとうございました。
203:
どこまでもついていきます!
205:
あーい。
じゃあこっからは割と神経使うからさらに遅くなるかも。
それでも見てやってください<(_ _)>
207:
最後まで見てやんよ
209:
やがて、冬が過ぎ、俺とエリは別々の高校へと進学していった。
残念ながら、二つの高校はかなり離れていて、会うのは容易ではなかった。
さらに、俺は剣道部に入りバイトも始めたので、更に困難だ。
剣道を続ける気なんてサラサラなかったが、
一回だけ練習を見たエリに『かっこいい!』と言われたから続けていた。
我ながら実に単純だと思う。
バイトを始めたのは、エリと遊ぶ金を作るためだった。
そのせいでエリと会う時間が減ってしまい、本末転倒になっているとも気づかずに。
今思えばあの時の俺はのぼせていたのだろう。
受験に成功し、恋も成就した。
だから、俺は前しか見えなかった。自分のことを疑わなかった。
それは、とてもとても愚かなことで。
どうしようもなくバカな俺はそのことに失ってから初めて気づいたんだ。
210:
お前ら……ありがとう(´;ω;`)
頑張って終わらせたい。色々を。
それは唐突に訪れた。
その日曜日。俺は午後九時頃までバイトをしていた。
バイトを終えて着替えると、携帯に着信があった。
エリからだった。
不在着信で、三件あった。
「なんだろう?」
俺は疑問に思い、エリに電話をかける。
しかし、繋がらなかった。
答えたのは無機質なアナウンス。
仕方ないので、俺は要件を聞く旨のメールを送り。
家へと帰った。
211:
そういえば。
エリと話をしたのはいつぶりだったろう。
メールでは、ほとんど毎日話していた。
それでも、やっぱり、
「会いたいよなぁ」
会って話したかった。抱きしめたかった。笑い合いたかった。
だけど、それが叶うことはなかった。
212:
家に帰ると、ちょうど着信。
エリだった。
何の躊躇いもなく携帯を開く。
「ああ、エリ。どうした?」
「…………ねえ、ヤス」
帰ってきた声は何時になく暗い。
おそらく、エリのこんな声を聞いたのは初めてだった。
いやな、予感がした。
「ヤスは、私のこと好き?」
「何、言ってんだよ……。当たり前だろ」
声が震えた。
「私は、ヤスのこと好きだよ」
エリが言葉を紡ぐ。
「好き。好き。でもね……私の好きと、ヤスの好きは違ったのかなぁ」
声は泣いていた。
泣いてほしく何かないのに。笑って欲しいのに。
電話越しに聞くエリの声は泣いていた。
「ヤスは、私と会えなくても平気? 辛くない?」
「そ、んなことは……」
「私は辛いよ」
215:
「辛くて辛くて、どうして会えないのって思って。なんで会えないのって思って」
「……それは」
言い訳なんてできない。
一部の隙もなく、俺が悪かった。
「わかってるよ。忙しいんだよね。学校も違うし」
「でもね、ほんの少しで良かった」
「ちょっとだけでも、会って、キスして、抱いてほしかった」
「それだけで、好きって言えるのに……」
「このままじゃ、私、嫌いになっちゃうよ……」
「大好きなのに、大好きだから、嫌いになっちゃうよ」
嫌だ。
「ねえ、ヤス」
嫌だ嫌だ嫌だ。
「私たち、もう」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
「……終わりにしよう」
217:
せつねえな・・・
218:
ぬおぉぉぉ°・(ノД`)・°・
219:
「あ、っぅあ」
嗚咽が漏れる。
言葉を形成することができない。
あるのはただの感情だった。
「これ以上、辛くなったら。私、壊れちゃう」
「エ、リ……」
「ヤスのこと、ずっと好きでいたいから……お願い」
何も言えない。
言いたくない。
ただ、俺の中にある感情が暴れる。
俺は、エリに、
「わか、った……」
そして、別れを承諾する。
関係が終わるよりも、エリに嫌われることの方が俺には耐えられなかった。
「うん……っく……ごめん、ね…………きらいに、ならないで……」
223:
「なるわけ、ない……」
「うん……うん……」
エリはそれから声を上げて泣いた。
幼児のように。しゃくりあげて。
俺はそれをどこか現実味のない感覚で聞いていた。
やがて、エリが泣き止んだ。
俺たちはどちらから切ることもできず、気まずくなる。
口を開いたのは、やはりエリだった。
「あの、ね。勝手なお願いだけど」
「ああ」
「これからは、友達で、いてくれる?」
「ああ」
嘘だった。
「……そっか」
それが彼女に伝わったかわからない。
ただ彼女はそう呟いた。
「じゃあ、切るね」
「……ああ」
別れの時。
おそらく、もう会うことはないのだと思った。
俺が、会うことはできないと思う。辛いから。
だから、
「またな」
「うん、また、ね」
プツッ ツーツー
最後は嘘をついて別れた。
226:
しばらくは現実にいる感覚がしなかった。
母親が呼ぶ声が聞こえる。夕飯だ。
食べなくては。
俺は、おそらく、普段通りに夕飯を食べた。
それから部屋に戻り、携帯を見る。
受信メールはゼロ。
いつもだったらこの時間にエリからのメールが来て。
百通近いメールを遅くまでして。
急に、夢が覚めたようだった。
「ううっ……くぅ」
限界だった。
「うわわああああああああああああぁぁぁぁっっ!!」
慟哭。
恋が終わった。
初恋が。
それまでの人生の半分を占めていた想いが。思い出が。
楔となって深く心に刻まれた。
心が、痛い。
ズタズタに引き裂かれる。
俺は携帯を開き、履歴とアドレスを消した。エリの。恋人だった人の。
それから、携帯を放り投げた。
228:
それからの俺は別の意味で黒歴史だった。
抜け殻のような毎日。というのが比喩ではなくなっていた。
痛みから逃げるように心と体が分離した感覚。
半分夢心地のような状態で、惰性の生を貪っていた。
弟に言わせると、この時の俺は顔が笑っていないのに、
やたらと元気に振舞っていたらしい。相当怖かった、と。
エリとはそれから連絡を取っていなかった。
友人が勝手に教えてくれたことによると、知り合いの男子に手当たり次第告白したらしい。
何かを忘れるように。何かから逃げるように。
もう、どうでも良かった。
230:
さて、何かかっこいいかっこいいといわれているが実際はそんなもんじゃない。
単純に、振られても嫌われたくなかっただけ。自分で引き止めようとしなかったヘタレだ。
今でも、たまに思うよ。あの時に少しでも勇気があればって。
231:
こっからはさらに情けない。
俺が立ち直ったときの話。
ぶっちゃけ皆飽きれるかもしれないけど、それのおかげで俺は今ここに立っていられる。
多分、それがなかったら死んでいたかもしれない。
だから、どんなに情けなくても聞いてほしい。
233:
ここまできたら、最後まで聞かせてもらうさ
234:
気が楽になるんだったら幾らでも聞いてやるぜ、暇だしなw
それに俺から見れば>>1は情けなくもヘタレでもないよ
235:
この頃の俺は自暴自棄になっていた。
せっかく入った名門校での授業はほとんどサボった。
単位が足りなくなって、留年してしまっても、どうでも良かった。
親が俺のことを叱り、怒鳴りつけたが、それすらもどうでもよかった。
この時の俺は死んでいたんだ。
自分のことも、周りのことも、憎んで嫌いになって。捨て去った。
そして俺は自分を貶めることにした。
未成年でありながら飲酒や喫煙をした。
特に意味もなく深夜の街を徘徊して、不良のレッテルを貼られた。
それも、どうでもよかった。
相変わらず俺の体は分離していて、感情がすきま風の様に漏れて行った。
237:
不良の次は何だろう。
そう思った俺はある意味で世間を騒がしているあれになろうと思った。
アレなら自分を貶められると。
いわゆるオタク趣味だった。
238:
なんでもいい。バイトをしていたので金だけはあった。
使い道がギャルゲーに消えるなんて思ってもいなかったが。
適当に買ったゲームをPS2で起動する。
やる必要なんてなかった。
持っているだけでオタク扱いされるから。
しかしなぜだか俺はそれをやって。
世界が変わった。
239:
そのゲームはいわゆる王道もので。
あり触れたストーリー、あり触れたキャラクター、そしてあり触れたハッピーエンド。
ハッピーエンドでは誰もが幸せになっていた。
主人公はヒロインの悩みを解決し、ヒロインは幸せな笑顔で主人公を迎える。
そんな、どこまでも幸せに満ちあふれたハッピーエンドに。
気がついたら俺は泣いていた。
あの日以来流さなかった涙を流していた。
心と体が一つに戻った気がした。
240:
話の途中すまん・・・
ギャルゲで世界変わる人がいるなんて、迷信だと思ってた・・・
>>240
俺も、正直やる前まではそんなもの、とバカにしていたんだが。
主人公がヒロインの悩みを蹴散らして幸せを掴み取った姿を見て、
俺もこうありたいって思うようになったんだ。
246:
>>240
>>1の事を悪く言うつもりは無いけど、多分何でも良かったんじゃないのかな
とにかくすがりたかったんだろ何かに
それがたまたまギャルゲだっただけだと思う
>>246
俺も多分そうだと思う。なんでも良かったんだ。たまたまギャルゲだっただけで。
それでも、俺にとってあれに出会えたことは大きかったんだ。
241:
本当に情けない話だけど、俺はそのゲームに自分を投影させていたのだと思う。
その上で、主人公が幸せを掴み取ったことに、嫉妬と幸福感が入り混ぜになった感情を覚えた。
でも、確かにそのゲームで俺は生き返ったんだと思う。
それから俺は高校へ真剣に通うようになった。
夢が出来たから。
そのために、まずは学ぶことが必要だと思ったから。
244:
ゲーム名plz
>>244 Φなる・あぷろーち、ってゲーム。
245:
高校を卒業して俺は大学へ進むことなくすぐさま就職した。
その傍らで、いろいろな公募に応募した。
ギャルゲーのシナリオを書きたいって思ったんだ。
俺みたいな人を一人でも救ってあげられるような。
登場人物やプレイした人みんなが幸せになれるような
ハッピーエンドを作りたいって思ったんだ。
248:
それで、俺は今シナリオライター見習いをしている。
今はまだゴーストだけど、経験を積んだらオリジナルを作らせてくれるらしい。
250:
そう、で話は昨日になる。
このスレを立てた理由。
252:
昨日は同窓会だったんだ。
中学の。
で、中学ってことは当然エリに会うことになるわけだ。
正直どの面を下げて会えばいいのかわからなかった。
だから、行きたいって気持ちと行きたくないっていう気持ちが二律背反を起こしてた。
254:
エリとは、あれ以降一回も会ってなかった。
まあ、あれも電話越しだから会ってはいないんだが。
エリのことはまだ好きだった。
気持ち悪いと思うけど、俺は四年経ってもまだ忘れられなかったんだ。
で、きちんとけじめをつけるために、行くことにしたんだ。
256:
同窓会はそれなりに大きなホールでやった。
なぜか知らんが一学年分だよ。
もうね、主催者はバカかと。そのおかげでエリも参加できるんだが。
で、しばらく会場をウロウロして探したのさ。
でも見つからなかった。どこにもいなかった。
出席簿を確認したところ、エリは来ていなかった。
257:
肩透かしを食らった気分だ。
何となく安堵してしまった。
ただなんで来てないのか気になったので、彼女と仲良かった(と思われる)女性に訊いた。
「エリは今日は来ないのか?」
「あれ? ヤスくん知らないの。あの娘、今精神病院に入院しているんだって」
は?
俺は耳を疑った。
259:
は?
260:
え?
中1から6年引きこもってた俺の末路wwwwwwwwwwwwwww
262:
ちょ
エリ何があった
265:
やり直すも何も…
266:
その娘が言うには、
エリは俺と別れた後、いろんな男と付き合ったらしい。ここは俺も知っているところ。
ただ、そんな日々が続いていたある日、突然発狂して自殺未遂をしたと。
エリと付き合った男たちの話では、彼女は付き合っているときも情緒不安定だったらしい。
ほぼ病んでいるといっても過言ではなかった、と。
やたらと男に付き纏い、離れなかった、と。
それを聞いたとき俺は、愕然とした。
彼女をそんな風にしてしまったのは、俺じゃないのか?
俺が、彼女から離れていったから、エリは、そんな風に。
268:
>>266
自分を責めちゃだめぽ。
269:
自意識過剰。と思いたいな…
そして、知りたくはない現実だな…
272:
エリに会いたいと思った。
会って抱きしめたい、と。
ここで俺は気づいた。
ああ、俺はエリのことがまだ好きなんだ。
好きだ、と知った。
だけど、その好きという気持ちはそれまで俺を縛っていたものとは明らかに違った。
はじめてあった日から、盲目的に育っていたドス黒い愛情とは違い。
もっと清々しく、明るいものだと知った。
俺は、顔をみていない、エリにもう一度恋をしたのだと知った。
275:
自分の気持ちが理解できた。
吹っ切れた。
この時、俺はようやく俺を取り戻すことができたんだと思う。
やっぱり、俺はエリが好きなんだ!
叫びだしたかった。
走り出したかった。
全てが輝いて、世界が眩しくて。
俺は、恋を初めて知ったんだ。
276:
やべぇ・・・画面がよく見えねぇ・・・
°・(ノД`)・°・
281:
それから、俺は家に戻ってこのスレを立てた。
立てた理由は初恋を吹っ切るため。
そして、二度目の初恋に生きるためだ。
こうしてお前らに聞いてもらって俺は吹っ切ることができた。
改めて、自分のことを見つめ直すことができた。
本当にありがとう。
これで、投下を終わります!
二日間、駄文に付き合っていただきありがとうございました!
283:
きっとエリもヤスに会いたいと思ってるぞ
ガンガレ
284:
>>1を応援してる
エリさんと幸せになって欲しい
頑張れ
かくいう自分も昨日振られたばかり・・・
>>1を見てると自分も頑張ろうって思えたよ
ありがとう
285:
>>1よ、とりあえずまだこのスレを落とそうとなど思うなよ?
俺はお前とエリさんが幸せになりますた報告を聞くまでは応援してるからなw
286:
いつ会いにいくの?
明日?報告よろ
288:
やり直したいと思っているのは間違いない。
というかすでにエリが入院している病院は把握した。
仕事が休みの時に行きたいが、それだと二の舞になる。
だからこのスレを完結させたら行こうと思ってたんだ。
明日、会いに行ってくるよ。
290:
と言う事は、物語はまだ始まっていない
これからだってことだな!
>>1よ、進むべき道はおまいの中で決まっているな!
ここで、このスレに目を通した俺たちと>>1との出会いは
何かの縁だ。
最後まで付き合わせてくれ!
291:
>>1 こんどは、きっとうまくいくよ、俺も応援してる。
がんばってくれ
292:
頑張れよ>>1、んで幸せになってくれ
出来れば会いに行った後も報告してもらいたいもんだが
それは無粋な気もするんだよなぁ・・・
まぁ>>1が話したくなったらまた来いよ
293:
>>1がこれからどうするのか、どうなるのかが物凄い気になる
299:
どの程度病んでるのかわからないから、あまり楽観的な事は言えないけど、
失ったものが取り戻せるといいね。
300:
幸せになってほしい
出来ればでいいから報告待ってるよ
>>1に幸あれ!
301:
お前ら、本当にありがとう。
お前らに話を聞いてもらえて本当に良かったと思う。正直に嬉しかった。
報告はできるだけしようと思う。
ただ、俺は現実は必ずしも物語にならないって知っているから、
話せるような内容にならないかもしれない。
それでも、お前らへの感謝の気持ちを込めて、報告しようと思う。
今度は、失敗しない。
なぜなら俺には二年間分のエロゲの知識がついているからさ!!
302:
>>1の体験がベースのエロゲってのも面白そうではある
いや、良い意味で
気分悪くしたらすまん
>>302 
俺がもう少し立派になったら、その時書いてみるよ。
さすがに今は書けないけどなwww
304:
ヤス、よく言った!大丈夫・・・おまいには俺たちがついてるぞ!
306:
明日はちゃんと話し合えよ
お互いのことをな
応援してるぞ
>>306 
おk。ただ話せるかどうかがわかんねーからな。
まあ切り札があるからダ、ダイジョウブ…?
307:
ホントにいい話だったよ
いや、いい話だなっていったほうがいいか
ヤスにはきっといい未来が待ってるよ
絶対幸せになれよっ、俺も関東から応援してるからさ
エリさん大切にな!!
>>307 
だといいけどな。明日、もしエリに拒絶されても、
今度は廃人にならなくて済みそうだよ。お前らのおかげでな。
308:
そんじゃ、今日はもう寝るわ。
このスレが残っていたらここに書き込むし、落ちていたら新しく立てて報告するさ。
309:
ガンがれヤス
エリさん大切に!
311:
乙、報告まってるぜ(`・ω・´)
317:
今おいついた。
シナリオライターって、まさかこのスレを叩き台にしてんじゃないんだろうなwwww
んで>>1へ。
釣りじゃないことを祈って忠告。
明日会い行くんだろうけど、結論を急ぐな。
四年振りの再開は、おまいに辛いこと、悲しい現実を突き付けるかもしれない。
発狂した人間を見るのは、想像以上に辛いもんだ。
おまいは狂った彼女を見て、逃げ出したくなるかもしれない。
だけど、一回会ったきりですぐに諦めるな。
何度か会うことで、大事なもんが見つかるかもしれない。
ま、ともかく明日が好い日になることを祈るよ。
>>317 
釣りではない。釣りだったら俺の想いはどこへいくんだべさ。
多分ね、お前の言う通りだと思うよ。だけど、俺は逃げないよ。
口だけかもしれないけど、口だけでも言うよ。
俺はもう逃げない。絶対に離さない。あいつが離してって言っても、絶対に掴んでやる。
それがけじめだと思うんよ。
325:
ならばよし!
今度こそ彼女の全てを受け入れてやるんだ。
そんで悩んだら、またここで相談してくれ。
役にはたたんだろうが、出来る限りの知恵をだすぞ!
319:
どこかで釣りスレだと思ってた俺が恥ずかしい
心の底から頑張れ>>1
俺も仲が非常によい幼馴染がいたけど、大学が県外になってから疎遠になって
この前同窓会で久々に会ったら子供がいたよ・・・後悔だけはするもんじゃない。
やれるだけやってこい!
>>319 
全部が全部事実ではないかもしれない。
俺の思い出だから、多少は脚色が入っているかも。
でも、俺はいるしエリもちゃんといる。だから、俺はがんばれるよ。
326:
やっと追いついた
ヤスかっこいいよ。憧れる。
俺もそんな男になれるのかな…
とりあえず泣いてくる
328:
1の文章の書き方が物語っぽいのは、ライターだからだったのか。
正直、釣りなんじゃないかと思って本気半分で読んでた。
だが、読み終わった今は本気で応援したい。1、マジでガンガレ!
330:
書き方が素人っぽくなかったと思ったら
そういう事か
俺も初恋が突然終わった経験がある
今は立ち直っているが
>>1には俺のように終わらないで幸せになってほしい
そしてライターになってくれ
俺そのエロゲー買うから!w
337:
言い忘れたw
良い意味でも悪い意味でも
犯人はヤス
ありがとさん
361:
携帯からで失礼
今から行こうと思う
たぶん、会えるかわからんけどあがいてみるさ。迷惑ににならん程度に
362:
>>361
がんばれ!
あせらず気長にな
364:
おはよう
ヤス乙
これからがんばれよ
365:
聞いた話だけど、エリの入院は最近なんだと。
自殺未遂→病院→治療後精神科へ みたいな感じだったらしい。
だからまだ症状が重いか軽いのかわかんね。
367:
ヤス
頑張って行ってこい(。・_・。)ノ
368:
んじゃ行ってくる。
もし、エリに会えたら結婚するんだ……という死亡フラグを立ててみる
370:
>>1よ
頑張って
386:
ヤス、カ゛ンカ゛レ。
おまいのエロゲならやるさ。
394:
ちゃんと会えて話ができたから時間がかかってると思いたい…
ヤス、エリ幸せになってほしい
395:
ただいま
今、面会終わった
帰ってPCでやります
397:
お帰り>>1
ゆっくりで良いからな
398:
なんで俺までドキドキしなくちゃならんのだ・・・
403:
面会出来たっぽいな。
ゆっくり報告待ってます。
405:
おかえり。
ゆっくりで良いぞ
最後まで見てるから
416:
おかえり!
ドキドキしてきたよ(゜Д°;)
良い感じになったことを祈ってる
418:
まず最初に言っておく。
お前らありがとう。
お前らに話せてよかったと思っている。
420:
何言ってんだよ!
水臭い!
422:
>>1乙
先ずはゆっくり聞かせてくれ
426:
おそらく、俺が体験したことなんてたいしたことないし、
世の中にはいろいろな恋愛があると思う。
それにたった二十年ぽっち生きただけの若造が、
これを一生の経験だと言うのは浅はかかもしれない。
これから先どうなるかはわからないけど、
俺はこのスレを立てたことを一生忘れないと思う。
周り全部を憎んでいたときには気づくことのできない優しいさがここにはあったんだ。
本当に、ありがとう。
それじゃあ、今日の報告をしようと思う。
429:
>>1 こちらこそだよ。
ありがとう
434:
言ってしまうと、エリの入院というのは大したことなかった。
自殺未遂とか、発狂したとか言うのは後からついた尾ひれだったんだ。
実際のところ、確かに病んだのは事実だがそれは大分前の話だったらしい。
今から一年くらい前だ。
ただ、ちょっと情緒不安定になっただけらしく、それまでは通院していたらしい。
らしいらしいと喧しいかもしれんが、これはエリの親から聞いたことなので確かな事だ。
438:
で、まあ入院した理由についてだが……。
環境を変えるという意味もあったらしいが、一番の理由は本人の意向だったという。
それを言い出したのが、およそ二週間前。同窓会の知らせが回ってきた頃だ。
と、彼女の現状については軽く話したので、今日のことを順に話していこうと思う。
440:
今日の朝、このスレにて出発を宣言してから病院へ向かった。
なにか見舞いの品でも持っていった方がいいのかな、
と歩いているときに思いついたんだ。
花でも買っていこう、と思ったんだが結局やめた。
エリの好きな花というのがわからなかったから。
ずっと一緒にいたのに俺はそんなことも知らなかった。
これなら振られて当然だよな。
と、くらい気持ちに入りかけたので買うのはやめにした。
442:
で、見舞いも持たずに病院へ。
失礼な奴だ、と追い返されるかななんて思ったりもしたがそんなことはなかった。
病院の中は割と閑散としていて人が疎らだった。
見ると、色々な人がいたけど不謹慎なのでやめておこう。
一つ思ったのはここにエリがいるんだなってことだけだ。
444:
で、さすがにアポイントなしで突貫するのは如何がなものだろうと思い、
とりあえず受付に見舞いの旨を伝える。
すると、受付の人が「ご関係は?」と聞いてきた。
なんて答えればいいのかわからなくて口ごもってしまう。
友達? 幼馴染? 元彼?
何となく、どの言葉もいやだった。
かといって他に何も浮かばない。
悩んだ末に、
「元、彼です……」
なんとなく口が酸っぱくなった。
445:
俺の言葉を聞いた受付人は、アラそう、見たいな態度。続けて、
「ご家族や本人の同意は?」
みたいなことを聞いてきた。
すっかりそんなことを忘れていた俺は、ありません、と答えるしかなかった。
せめてエリの家に電話だけでもしておけば良かったなあ、と意味のない後悔をした。
受付嬢は不審者を見る目付きで俺を人睨みし、
「ちょっと待っててくださいね」
というとどっかへと電話をかけた。
電話が終わる。
「あちらでしばらく待っていてください」
ロビーを指差してそう言った。
446:
ねーちゃん態度悪いなw
まぁ、仕方ないんだろうけど
447:
で、しばらくポツーンと待つ俺。
平日の朝っぱからなにしてるの、アノ人。ヒソヒソヒソ。
そんな声が被害妄想で聞こえた。
で、俺はくじけないためにもエリのことを考えていた。
カバンのなかを覗く。
入っていたのは一通の便箋だ。
受験の時、携帯を奪われた俺が彼女と取った連絡手段。それの名残。
エリからもらった万年筆で書いたそれは、もし、エリに会えなかったら渡してもらうつもりだった。
中に書いてあるのは、謝罪の言葉。そして、俺の今の気持ち。エリのことが、好きだという。
450:
これの出番は来ないといいなあ、などと考えていると俺の名前が呼ばれた。
「ヤスさーん。こちらへ来てください」
受付の方へ近寄ると、見たことのある人がいた。
なんでこの人がここに? という疑問。
いや、病院自体にはいてもおかしくない。
だけどどうして俺の前にいるのだろう。
「久しぶり、ね」
「は、はあ……」
突然現れたエリの母親に、俺は戸惑いを隠しきれなかった。呆然としたまま返事をする。
「どれくらいぶりかしら?」
たぶん、最後にあったのは俺とエリの受験が終わり、合格祝いに彼女の家に行ったときだった。
「え、っと……。たぶん四年とちょっとくらいかと」
「そう。ちょっと早いけど、お昼食べる?」
「は、はあ」
俺たちは受付から食堂へと移動した。
454:
正直、彼女の登場は予想外だった。
何を話していいのかもわからないし、そもそもあまり話したことがない。
昔は、「娘をよろしくね」「いえいえこちらこそ」などと言い合っていたが、
今はそんなことを言えない。少なくとも今は。
「ここの食堂はそれなりに美味しいのよ」
「はぁ」
「なにか頼む?」
「え、あ、じゃあアイスコーヒーで」
緊張で喉が乾いていた。
お嬢さんを僕にください、とか言うよりも緊張するんじゃなかろうか。
体験したことないが。少なくとも今は、まだ。
「そう、じゃあ私はーーこれで」
メニューを見て指をさす。
そんな、ちょっと子供っぽい仕草がエリに似ているな、と思った。
455:
4年ぶりのお母さん…ドキドキ
457:
ちなみに、ここは食券なのでメニューに指さしたところでは意味はなかった。
「えっと、じゃあ買ってきますよ」
「あらそう、悪いわね」
とにかく俺は気まずかったので席を立つ。
お金をもらうのを忘れていたが、まあ別にいいなと思った。
もともとこっちでもつつもりだったし。
アイスコーヒーと彼女の頼んだフライドポテトを持って席へ戻る。
「どうぞ」
「ん。ありがとうね」
受け取ると、彼女はムシャムシャとポテトを食べはじめた。
それをただ見ている俺。
なんだろう、俺はエリに会いにきたのになんでその母親と対峙して、
挙句目の前でポテトを食われているのだろう。
気がつくとまたエリのことを考えていて。
本当に好きなんだな、会いたくてたまらないんだな、と思うと緊張が和らいだ。
「ねえ」
突然、声をかけられる。
その声は怒っているでもなく、さりとて歓迎しているようでもなかった。
460:
「どうしてここに来たの」
来た、と思った。
「それは、エリ……さんに会いに」
「会って、どうするの」
彼女の声は平坦に響く。力が篭っていなくても感情が篭っていた。
「それは……」
「あなたたちは終わったんでしょう?」
胸が痛みを覚えた。
だけど、事実だ。
「……はい」
「それなのに今更会ってどうするの? 突然、現れて……」
「……俺は……」
迷ってはいけない。というより、迷いはなかった。
「エリさんとヨリを戻したいと思っています」
461:
あああああ
462:
よく言った!!ヤスカッコヨス
464:
言ったぁぁぁああ!!
良く言えたなGJ!
465:
声はどもることもなく落ち着いて出た。
「エリが今どういう状況だか知っているの?」
「いえ……あまり詳しくは」
「エリが、あなたと別れた後、どうしていたか知っているの?」
「……いえ」
少しずつ。
「それは、そうでしょうね。あなたはエリを遠ざけたんですもの」
少しずつ、彼女の感情が発露していく。
ポテトを食べる手は止まっていて、視線が俺を射抜いていた。
「なら、私が教えてあげる。エリがあなたと別れた後、どうしていたか」
467:
母親がラスボスに見えてきた………
468:
でもここを越えないと何もはじまらないんだろ?
がんばれヤス!
470:
やはり最期の敵は同じ人間か…
474:
それから、彼女はエリのことを語った。
その中には俺の知っていたことや、
さっき書いたエリの現状についてもあった。
だけど、当然俺の知らないことがほとんどだった。
「いろんな人と付き合っていたわ。だいたい一ヶ月くらいで全部終わっていたけどね。
どれも相手の人にフラれたみたい。重い、って言われたらしいわ。
あなただけね。エリから振ったのは」
言葉の矢が刺さった。
正直に言えば、滅茶苦茶ショックだ。だけど、それを表に出さないように。
「なんでそんなに知っているんですか」
おもに俺が振られたこととか。
「当然よ、母親だもの」
理屈ではなかった。
476:
いいお母さんだ
477:
母親ってすげえなあ・・・
479:
「まあ、ざっとこんなものかしら」
「……ありがとうございます」
それから三十分くらい、話を聞かされた。
その中でチクチクと入る棘に俺は割とダメージを受けた。
「どう、あなたが知らないことばかりでしょう?」
「ええ、まあ」
気のせいか、言葉の棘が増している気がした。
「でも、どれもこれも、あなたが知ることのできたものばかり。あなたがエリの傍にいれば、ね」
うん。気のせいではなかった。
それどころかこれは完全に責められていた。
「あなたがエリと連絡を絶たなかったら、エリがここにいることにすぐ気付けた、でしょう?」
「……はい」
その通りだ。
俺が、逃げたりしなければ。エリの以上に気づくことはできた。いや、そもそも。
「もしかしたら、あなたがいなくなったから、エリは誰かにいてほしかったんじゃないかしら」
「ーーッ」
やっぱり。そうなんだろうか。
「まあ、想像だけどね」
それは嘘だった。目が、確信していた。
俺のせいだと。
俺は、責められていた。非難されていた。
484:
「それで?」
相変わらず目に力を込めて、声音だけは平坦に。
「あなたはまだヨリを戻したい?」
娘を傷つけておいて。
それでも、まだ戯言を吐けるのか。
そういう問いだと思った。
辛い。
ある程度想像していたとは言え、面と向かって、
それも親の口から言われると予想以上に堪える。
コーヒーはなくなっていた。
喉が乾く。
俺には資格がないのかもしれない。
エリから逃げた俺には。
彼女の隣にいる資格は。
「…………おれ、は」
489:
思い浮かぶのは、これまでやってきたゲームの主人公。
彼らは迷って、逃げて、けれども諦めることはなかった。
幸せを。好きな人と歩む幸せを手に入れるために。
俺は、彼らになりたかった。
身勝手と罵られても構わない。
資格がないと言われても知ったこっちゃない。
エリとの日々が浮かぶ。
ただ俺は。なによりも。
「それでも、俺はエリともう一度一緒にいたいです」
エリが好きだった。
494:
よく言ったぞヤス!!
504:
「あなたと一緒にいて、またエリが不幸になるかもしれないのに?」
「させません」
「あなたのことを、もう嫌いになっているわよ、きっと」
「それでも、今度は友人として、彼女のそばにいます」
「本当にずっと一緒にいられるの」
「います。そのために、家でできる仕事を選びました」
物書きの仕事は、そのために選んだ。
好きな人と一緒にいられるように。
「……そう」
俺の言葉を聞いた彼女は、フーと長く息を吐いた。
507:
誰も悪くない
だから哀しい
509:
帰ってきたばっかなのに泣きそうなんだが
511:
「まあ、そこまで言えるのなら私の言うことはないわね」
急に、それまでの剣呑さが消え失せる。
先ほどのため息と一緒に吐き出したように。
「後は当人同士の問題ね」
「えっと、いいんですか……」
「まあ、ね」
彼女は俺から視線を外してどこか遠くを見る。
何を、見ているのだろうか。
「エリがああなったのは私にも責任があるしね……」
そういえば、と思い出す。
エリの両親は共働きで、たまにしか家にいなかったことを。
小学校の授業参観も、彼女の祖母が来ていたことも。
「だから、本当はあんまり口出しできないんだけど」
「娘を泣かした男に一言、言ってやりたかったんだよ」
言った彼女は困ったように笑った。
513:
母さんの気持ちも分かるが、清々しい母ちゃんだな。
結婚したら、良いお付き合いできそうだな。
514:
やっぱ母親は偉大だな!
516:
あれだな
やっぱりウダウダ考えててもしょうがないってことだよ
後悔するかしないかは全て自分次第だ
522:
これが、母親なんだと思った。
無条件で味方してくれて、自分の全てを背負ってくれる存在。
母親の顔が浮かび、少し涙が出そうになった。
「ほら、なんて顔してるの。これから会いにいくんでしょ?」
「えっ、あ……いいん、ですか」
「うむ。許可しよう」
大仰に頷く。
「先に私が行くから呼んだら入ってきてね。後は二人きりで話なよ」
「は、はい」
ようやく。
四年ぶりに。
エリと、会える。
「ああ、一つ教えてあげる」
「はい?」
会計を済ましたところで声をかけられる。
「エリはね、付き合っていた人と別れた夜は決まって泣いてたよ。誰かさんの名前を言いながらね」
「……え、え?」
何だそれ? どういうことだ?
理解が追いつく前にサッサと行ってしまった。
もしかして、という希望が生まれた。
エリのことを抱きしめてあげられるかも、と。
523:
こ、これは・・・
529:
エリちゃん一途過ぎだろ
涙が止まらない
531:
そういやヤスこと>>1はエリたんの入院先の病院をどうやって特定したの?
話聞く限りでは友人も噂だけで入院先の病院までは知らないっぽいし
エリたんの両親とは病院で4年ぶりに会ったんだし…?
>>531 
近くの精神科、もしくは精神病院に片っ端から聞いた。
というよりも入院も出来るような病院は限られていたので割と楽だった。
今思えばその時に面会できるかどうか聞けばいきなり突撃にはならなかったのでは……。
532:
病室の前に立つ。
この中にエリがいると思うと緊張してしまう。
「じゃ、ちょっと行ってくるから」
エリの母親が行ってしまう。
チラリと部屋の様子が見えたが、相部屋だったのでエリを見つけられずに扉は閉じた。
ただ呆然と立ってるのも馬鹿らしいので、携帯でこのスレの確認でもしようと思った。
が、病院内は携帯禁止だということを思い出してすぐさま電源を切った。
仕方ないのでただ待つ。
本日二回目の待ちだ。
今度はさほど待たずに、彼女の母親が出てきた。
ん? でてきた。
「あの……」
「あー、悪いけど。ちょっとこっち来て」
533:
何が起こった?
541:
呼ばれるままにホイホイついて行く。
なぜか、病室は遠ざかってしまった。
「あ、あの……」
「黙ってついてくる!」
「は、はい」
そして出たのは中庭、みたいなところだった。
公園程度の敷地にベンチが二つ程度。
芝生の緑が目についた。
屋外なので、空調はなく昼特有の蒸す感じがする。
「ここで待ってて」
「はあ」
置いて行かれてしまった。
本日、三度目の待ち。
立っているのもアレなのでベンチに座った。
これが最後ならいいなあ、などと思って時を過ごす。
そして、十分が過ぎた。
ちなみに、そこからエリの病室までは歩いて三分もしない。
まさか、追っ払われた……。
いやな予感がしたので、立ち上がろうとすると。
「ん?」
中庭の入り口に、誰かが、いた。
544:
ま、まさか・・・・・・
547:
マジで・・・
551:
小柄なその影は、こちらの様子を伺っているようで。
やたら、おどおどしていた。
こちらの視線に気づくと。
ゆっくりと、こちらへ歩いてきた。
涙が、出そうになった。
万感の思いを込めて、彼女の名前を呟いた。
「……エリ」
「……や、やあ」
彼女はバツの悪そうに顔を背けた。
552:
四年ぶり・・・なんだな・・・
557:
発狂しそう
574:
この時の思いはうまく言葉では言えない。
いろいろと混ざっちゃっていたから。
だけど、確かに感じ取れたのは、
エリのことを好きだって言う気持ちが溢れたきたことなんだ。
エリは、四年前とは少し変わっていた。
背が小さいのは相変わらずだ。
髪が少し茶色くなっていた。黒い方が似合ってるけど、これもいいかなって思った。
いつものボブカットが今はロングになっていた。
四年。
四年経って、変わっていても、やっぱりエリはエリで。
ああ、俺は彼女を好きなんだ、と再認識した。
575:
うわあぁぁぁぁぁぁ(ノ_<。)
576:
さっきからずっと、「いとしのエリー」が脳内で繰り返し再生されてる
588:
正直、姿を見れただけでも幸せだった。
これ以上は望まなくても良かった。
だけど、俺はやっぱり一緒にいたいから。
元に、戻りたかった。
抱きしめて、キスして、好きと言いたかった。
だから、最善を尽くそう。
「とりあえず……座るか」
「うん……」
先ほどまで俺が座っていたベンチに座る。
俺たちの間には、空白があった。
それがきっと今の距離なんだろう。仕方のないこととはいえ、寂しく思った。
「……」
「……」
沈黙。
俺は何から言おうか考えていた。
たくさん、言いたいことがあったから。
しかし沈黙を破ったのは、エリだった。
「あの、ね……」
「あ、ああ」
何を言われるんだろうという恐怖。
だけど、淡い期待もあった。
もしかしたら、彼女は俺に好きといってくれるかもしれない。
そんな、身勝手な、期待。
「どうして、来たの……」
だけど、彼女の瞳は悲しみを映していた。
589:
ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!
592:
まぁ、そうなるわなぁ・・・
594:
今の姿を見られたくなかったんだろうね・・・
598:
「なんで、今ごろ……本当に、来ちゃうの……」
暗く、低く、呻くように。
彼女は感情を吐いた。
「私から、いなくなったくせに!!」
エリが叫んだ。
哭くように。
激しい感情をぶつけてくる。
「ずっと! 会いたかった! なのに、連絡、くれなくて!」
痛い。
「私から、私が別れるって言ったから、会いに行くこともできなくて……」
殴られるよりもずっと。
「それで、いろんな人と付き合ったけど、やっぱりヤスが好きで! 忘れられなくて!」
この言葉が、痛い。
「なんで……どうして!?」
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