鳳翔「大断捨離」back

鳳翔「大断捨離」


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お雑煮と、お素麺。温かい食べ物と、冷たい食べ物。冬季と、夏季。
両者共に季節を代表する立役者。しかし季節感と異なる性質を持つせいか彼らはお互い顔をを合わす機会は少なく、その二人に共通する悩みの種を打ち明けられずにいます。それは、
瑞鶴「かーうち。餅あげるわ」
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3: 以下、
瑞鶴さんは箸で掴み取った餅を川内ちゃんのお椀の中へと投入しました。悪意などない単なる思いつきでの行動なのでしょうが品行下劣極まりありませんね。後で一言申しておきましょうか。
川内「じゃあ私の餅と交換ね」
今し方口と箸とで餅を伸ばし、半分くらいを口に含んだ残りの餅を瑞鶴さんに差し向け、その餅を瑞鶴さんはというと溜息をついた後かぶり付くのです。
鳳翔「二人とも、少し下品が過ぎませんか?」
4: 以下、
私が一言小言を申すと瑞鶴さんはむっとした顔をこちらに向け大きいな声で文句をあげました。
瑞鶴「だって飽きたんですから!昨日から三食雑煮とおせち!しかも何も味が変わらないし!」
鳳翔「あら、文句があるなら自分で料理なさったらいかがでしょうか?」
川内「私は別に文句ないですよ?っと」
こたつに腕を伸ばし突っ伏して、慣れた手つきでみかんを剥き始めました。
5: 以下、
瑞鶴「あんた今日の夜中に散々、今年も雑煮の季節か?毎年毎年同じ味で飽きるんだよね?って言ってたじゃない!」
飽きられます。麺を麺汁で浸して食べるお素麺と、醤油とかつお昆布だしを土台にした汁物に焼いた角餅といちょう切りに仕上げた大根を加え、最後は一緒に火を通し青海苔を加えるお雑煮。
作り手にとってお素麺は夏場の絡みつくような熱気の場をあっという間に離脱でき、お雑煮はというと作りすぎた餅を消費する為にできるお素麺よりは手間が掛かるが簡単な料理で、二つとも家に居座る置物さん達に振る舞うための料理なのです。
6: 以下、
が、貰い手にはとってはそんなことはいざ知らず。美味しいか、不味いか。引き延ばす献立がいつまで続くか。この三つにしか興味がないのです。
瑞鶴「あー早く提督さん帰ってこないかなぁ...」
川内「ほーだねー」
瑞鶴さんも机に伏せ始めこたつの中でドタバタと足を暴れ始めました。
7: 以下、
提督はというとお宮参りに伊勢神宮へと出向いています。
なんでも提督同士集まって合同で参拝することが恒例行事だとか。このお二人さんが提督の帰りを待ちわびてやまないのは提督は料理が得意でアイディアに溢れた、お雑煮とお素麺に縛られない変わり種を披露してくれるからなのです。
鳳翔「えぇ本当に早く帰ってきて欲しいですねぇ。私のお雑煮ではもう四人を満足できませんからねぇ」
8: 以下、
すると玄関の方から引き戸を滑る音が鳴り響きます。その音を聞きつけた二人は顔を上げお互い万遍の笑みをしてこたつから抜け出し出迎えに行きました。
私もこたつに入っているので二人が抜け出した一瞬、冷気が侵入し温度が下がったのを見逃さずつまみを回して温度の調整をします。
川内「なんだ...吹雪と鈴谷か...」
鈴谷「ちーす。あけおめ?ことよろ?」
吹雪「ただいま...」
9: 以下、
そんな落胆する声が聞こえました。予定では提督は午後に帰宅するらしいので、今は午前中。帰ってくるはずがないのです。
またしてもどたどたと走る足音がこちらに向かってきます。そんなに走ると埃が舞うのでやめて欲しいですね。
瑞鶴「鳳翔さん!鳳翔さん!!」
襖に掴み掛かり顔だけを覗かした瑞鶴さんは玄関の方を指差し、悪事を働いた二人を先生に報告するかのような顔をしています。
鳳翔「なんですか」
11: 以下、
瑞鶴「あの二人哨戒任務のついでで福袋買ってきてますよ!!」
鳳翔「あら、それは本当ですか」
遅れて吹雪ちゃんと鈴谷ちゃんがやってきます。両手にはいっぱいの赤袋を携えて、鈴谷ちゃんは満足げな、吹雪ちゃんはというと私をおずおずと見つめ申し訳なさそうな顔をしているのです。
鈴谷「あーさむさむ。おこた、おこたっと...」
12: 以下、
福袋を端っこに並べ私が住まうこたつに侵入してきます。足が入ってくると私はすかさずこたつの電源を落とし事情を聴き始めます。
鳳翔「ほら、吹雪ちゃんもお入りなさい。積もる話しは山程あるのですから」
吹雪「鳳翔さん...すみません....」
吹雪ちゃんもこたつに入り、下を見つめ始めました。
鈴谷「鳳翔さーん。なんか冷たいんだけどこの中」
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鳳翔「まずは私に、いえ今は留守ですが提督に何か言うことがあるのではないでしょうか?」
鈴谷「あーあれ。大丈夫大丈夫!哨戒任務を終えた後に買いに行ったんだから!そ、れ、に?鳳翔さんにも買っておきましたよぉ?調味料の福袋!」
抜け目がありませんね全く。私はこたつに電源を入れ直します。作動音と共に鉄線が赤みを帯び始め熱放射が生じます。
14: 以下、
鈴谷「あ?極楽、極楽....」
吹雪「えっと、いいんですか鳳翔さん?」
鳳翔「ええ、気にしないで結構ですよ。代わりに...」
私は立ち上がり石油ストーブの上にある鍋の元へと向かいます。そして煮込んでおいたお雑煮をお椀によそい二人に差し出します。
鳳翔「二人にはお雑煮を食べてもらいます。今回は福袋を買ってきてくれましたので、特別に、餅を二つで。どうぞ召し上がれ」
鈴谷「うっわまだあんの...。提督早く帰ってきてぇ!」
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15: 以下、
てんとう虫の冬眠は木の皮の下に身を寄せ合いおしくらまんじゅうで寒さを凌ぎます。
変温動物である彼らが温かな場所を求め密集するの理にかないますが、私達恒温動物が彼らと同じく温かな場所で時を共にするこに私は可笑しく思えてしまうのです。
何を言いたいのかというと、みんなこたつに身を委ね各自好きなように寒さを越しているのです。
16: 以下、
川内「ねぇチャンネル変えようよ」
先程から蜜柑の皮を剥いては食べ、剥いては食べを繰り返し無くなったら取りに行く。そんな事を繰り返している川内ちゃんでも流石に耐えれなくなったのか一言申します。
吹雪「.....」
吹雪ちゃんはその川内ちゃん直送の蜜柑を口に押し込まれては飲み込み、また突っ込まれては飲み込み偏にテレビを眺めています。
残りの二人の瑞鶴さんと鈴谷ちゃん。この二人はこたつに開いたスペースに洋服の福袋と雑誌を広げ、戦果の品定めをしております。
17: 以下、
川内「駅伝の中継なんて観てて楽しいの鳳翔さんは?」
鳳翔「ええ好きですよ。何かを必死に頑張る姿はこちらにも勇気を与えてくれますから」
私が料理時以外は一切こたつから出ないのは毎年恒例の箱根駅伝の為です。まだ青くささ残る彼らが全身全霊を掛けタスキを繋げる。しかしただタスキの渡し合いではなく、人生山あり谷ありを表現するかの様に様々な障害が彼らを襲い、乗り越える。その姿に私は釘付けになってしまうのです。
そういった理由から甲子園の中継などもよく観てしまうのです。
18: 以下、
川内「走ってるのなんてねぇ...。テニスとかサッカーみたいに盛り上がる事なんてないじゃん。ね?吹雪?」
吹雪ちゃんの口に蜜柑を放り込みます。彼女らにはこの趣きある行事をまだ理解できないのでしょうね。
するとまたしても玄関の引き戸を滑る音が聞こえました。私は立ち上がり、来訪者の応対をせねばなりません。もうよい塩梅ですし待ちわびた彼でしょう。
19: 以下、
関係ないですが駅伝を毎年見るのはうちのおかんです。自分はというと川内ちゃんと同じです。
22: 以下、
提督「ただいま鳳翔。留守の間ありがとな」
玄関に辿り着くとやはり、提督が帰ってきていました。
鳳翔「お帰りなさいませ、提督。お荷物お預かりしますね」
提督「あぁすまないな鳳翔。そうだこれ熊手と全員分のお守りを買っておいたんだ。お守りは私からみんなに渡しておく。熊手は神棚に飾っておいてくれ」
23: 以下、
鳳翔「はいはい、わかりました。ですが提督、玄関はお寒いですし早くお上がりくださいね」
荷物と熊手を受け取った私と提督は居間に向かいます。襖を開けると温度の境を越え熱気が冷気漂う玄関に流れ込んできました。
提督「みんなただいま。ほら、お土産買ってきたぞ」
提督の声に反応したのか一気に全員が後ろを振り向き瑞鶴さんと川内ちゃんは提督の足に飛びつきおんおんと泣き始めました。この二人が提督を待ちわびてならなかった理由は、
24: 以下、
瑞鶴「やっとお雑煮から解放されるぅ!!」
川内「提督早くご飯、ご飯作ってよぉ?」
まったく、この二人には私の存在は無いようなものなのでしょうか。そんなに泣きながら言われると私も目頭が熱くなるではないですが。
提督「はは!鳳翔はまた雑煮ばかり作っていたのか」
鳳翔「仕方ないでしょう?私、料理はそんなに得意ではないのですから...」
25: 以下、
私は料理が下手っぴです。レパートリーは非常に少なく工夫を凝らした一品など作るには才能のかけら、それ一つとして存在しないのです。
提督「そんな事ないぞ。私は鳳翔が作る料理は好きだ。雑煮だっていつも彼女らは飽きた飽きたと言うばかりで不味いとは一度も言ってないのだから。そうだろ二人共?」
川内「まぁ一回目に出される雑煮はメチャクチャ美味しいけど、何度も出されるはやっぱり嫌だからさ...」
瑞鶴「右に同じく....」
26: 以下、
ほら、と言わんばかりに私に無邪気な笑みを向けた。
提督「鳳翔は習ったことは確実にできるタイプだからな。そうだな、そのうちまた料理を一つ教えてあげよう」
鳳翔「ええ、是非。それはそうと提督、昼食はどう致しますか?直ぐに用意しますよ。と言ってもまたお雑煮なのですけどね....」
提督「いいや頂こうか。ほらみんなも一緒に食べよう。いいだろう?」
27: 以下、
突如流れ矢をくらった鈴谷ちゃんと瑞鶴さんはなんとも意を唱えたい顔を提督に向けていますが知らぬ存ぜぬ、提督は同じ釜の飯を信条にする人なのです。
まったく反応しない吹雪ちゃんはというと、いつの間にかただひたすらに蜜柑を食べるだけの機械に変貌を遂げていました。
その後改めてみなさんでお雑煮を食べ。食べ終わった後、提督はお土産に買ってきた交通安全のお守りをみなさんに配っていました。
あながち間違えでもないですが、言葉で形容するには複雑すぎる印象を抱きみなさん無言で受け取るのでした。
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29: 以下、
鳳翔「さてと、みなさん。お着替えはすみましたね?」
うん、と口では言わずみなさんは頷きます。聖地こたつを解体し、毛布は天日干し、本体は縁側の邪魔にならない端っこに置き捨てました。名残惜しいですがこれも決め事の一つなのです。して、これから私達が行うその決め事とは、
鳳翔「みなさん、やっと提督も帰ってきましたので毎年恒例の大掃除を始めたいと思います」
30: 以下、
年始の大掃除です。本来なら年末に大掃除を済まし、年始にはゆったりと過ごす事が好ましいのですが知っての通り毎年提督は同僚の方々とお伊勢参りに行くのが決まりです。
提督が留守の間に終えるのは私とみなさん、相違無いのですが提督は全員でやらなきゃ意味がない。と、いうわけでこうしてみなさん正座をし監督者である私の一言を待っているのです。
鳳翔「しかしですね、今年の大掃除は一味違います!断捨離です!断つ、捨てる、離れる。そして大掃除と断捨離を掛けまして、大断捨離と私は命名します!」
川内「たぶん断捨離が流行ったから流行に乗ったんだよねぇ」
31: 以下、
提督「いいじゃないか、可愛くて。そういう鳳翔の一面は私は好きだぞ」
鈴谷「きゃー!!おあつぅーい!」
鈴谷ちゃんと瑞鶴さんは頬を赤らめ抱きつき合います。
吹雪「司令官さんと鳳翔さんは結婚何年目でしたっけ?」
提督「確か七年目だな。なんだ惚気話を聞きたいのか?」
鳳翔「はいはい。みなさんそこまでで。提督もあまりおふざけしないで下さい」
ぱんぱんと手を叩くとみなさんは私の方へ向きます。
32: 以下、
鳳翔「では始めるにあたって断捨離についてのご説明を致したいと思います」
鈴谷「はいはい!」
鈴谷ちゃんは大きな声で手を挙げ質問の許諾を得ようとします。
鳳翔「なんでしょうか鈴谷ちゃん?」
鈴谷「断捨離ってー普通の掃除と何も変わらないんじゃないかなって思ってですね。ほら、ゴミになる物全部捨てる!って同じですから」
33: 以下、
鳳翔「ええ。本質的には鈴谷ちゃんの言う通りですね。しかし唯の掃除と断捨離は精神的意味合いが違うのです。これからその違いをお話し致しますよ」
断捨離とは。断つ、捨てる、離れる。
言葉とは一つ一つ分裂させ、自らが感受した趣きを照らし合わせると大抵言葉についてを理解することができると、私は思うのです。
鳳翔「断捨離とは、要約するといらない物はこれから買わない。使わない物は捨てる。捨てるに従い物の執着から離れる。これらを合わせた言葉を断捨離と呼びます。前者二つは今までと同じく掃除することと何ら変わりはございません。しかし物への執着を断つ。この一つについては今日は意識してもらいたいのです」
34: 以下、
物を捨てるにあたり、過去を断つ。
鳳翔「物には様々な思い出と、魂が宿っており、そして物には百年を超えると付喪神という神様が宿ると言われています。それ故、使わない物を捨てるという事は無駄に神様にご足労をかけないようにという私達なりの気遣いなのです。そして捨てる過程でその物に宿る思い出も一緒に捨てるのです。胸悲しいとは思いますが心と部屋の整理をするにあたり非常に効果的なのです」
吹雪「はい....」
川内「.....」
瑞鶴「へーなるほどねぇ...」
鈴谷「つまりは大掃除!」
35: 以下、
みなさん浮かない顔、上の空。どうやら私の頑張った説明は心には響いていなかったようです。
鳳翔「えっとぉ....」
提督「つまりは、捨てる時はその物の思い出を思い出してから捨てるか捨てないかを決める。そういう事だな鳳翔?」
提督の補足。その通りです。余計な話しまでしてややこしくしてしまいました。
鳳翔「えぇ、まあそういう意味です。まどろこしいお話しをしてすみません。それじゃあみなさん取り掛かりましょうか。私は居間と厨房のお掃除を致しますので。一時間後、みなさんのお部屋を巡回させていただきますね」
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38: 以下、
先程の説明からぴったり一時間後。その間にわたしはお掃除を終え、干した毛布をしまい込み組み立てたこたつと毛布とでこたつを完成させ終えていました。
約束の時間ですので私は二人一部屋の部屋を巡回しようと立ち上がります。
まずは、瑞鶴さんと鈴谷さん。
私が思うにあの二人の断捨離は非常に時間がかかると思っています。ですので、敢えて最後に見回るのでなく先に済ませておこう。そういう事なのです。
39: 以下、
私は正座をし、こんこんと襖を叩きます。
鳳翔「二人とも、入りますね」
襖を開けると、それは正に阿鼻叫喚の様が押し目もなく広がっていました。目に入るベットの上に散乱する衣服の色合いは選り取り見取り。赤や黒や緑に白。様々な季節の色が布団に広がりそこだけ異空間を作り上げていました。
そして当事者の二人は、部屋の中心に座り込みどうしたら良いものかと思いあぐねている様子です。
鳳翔「どうせそんな事だと思っていましたよ..,」
40: 以下、
鈴谷「ヘルプ。鳳翔さん」
鳳翔「っと言ってもですねぇ...。私が勝手に整理整頓をするわけには」
仕方なく私は二人が対面しあう形で座り込んだ隣に腰を下ろします。そして中身が広がり空になった福袋の残骸を二人に渡します。
鳳翔「さてと、瑞鶴さん。断捨離の断とは?」
瑞鶴「...いらない物は買わない」
鳳翔「ええ、そうですね瑞鶴さん。では鈴谷ちゃん。断捨離の捨とは?」
41: 以下、
鈴谷「...使わない物は捨てる」
鳳翔「正解です。よくお解りになっているようで」
私は立ち上がりこの部屋を後にしようと踵を返します。
瑞鶴「えぇ!!ちょっと待ってよ鳳翔さん!!
瑞鶴さんが私の足に掴み掛かります。
瑞鶴「何のアドバイスも無いんですか!?」
鳳翔「いえ、二人は良く理解しているので必要ないかと」
鈴谷「いやいや意味わかんし」
44: 以下、
瑞鶴「...ううん。そんな事ないよ鈴谷」
瑞鶴さんは立ち上がり本棚からありったけの洋服雑誌を掴み取り床にぶちまけます。
瑞鶴「いい鈴谷?今からこれを参考にして出来る限り少ない服で着回しできるように考えよう」
鈴谷「えーワンパターンになるじゃん...」
瑞鶴「どうせ服なんて行き着く答えなんて同じだよ!奇抜なファッションするわけじゃないんだし!」
何やら二人は答えを見出せたようです。お払い箱になった私はそっとこの場を後にしました。
48: 以下、
川内ちゃんと吹雪ちゃんの部屋は、先方の方々とは打って変わって漫画本は巻数を揃え並べられ、衣類もきちんと箪笥に収納されています。が、やはりというか何故か部屋の中心に二人は集まり腕を組み、思いふけっていました。
鳳翔「あら綺麗に片付けてますねぇ?。で、二人は何を考えてるいるのですか?」
吹雪「あっ、鳳翔さん、いつの間に...」
49: 以下、
やはり私が部屋に入ったことに気がついていなかったようです。一応お邪魔する時一言かけたのですが、返事がないので勝手に入ったのです。
二人の間に置かれた物を伺うと何やら赤色の塗装が剥げた髪留めが置かれています。
鳳翔「これは?」
川内「あぁこれは...。昔私と吹雪と提督とで買い物に行った時プレゼントで提督が買ってくれた物なんだよね」
50: 以下、
吹雪「見ての通り、もうボロボロなんで引き出しに閉まっていたんですけど断捨離って事なんで捨てるべきか捨てないべきか迷ってるんですよ...」
鳳翔「これは、もうゴミなんですか?」
敢えてきつい言葉を選びます。こんな言われようをされたら、私は激昂し胸倉を掴み掛っています。
勿論それは私だけに限った話しではありません。川内ちゃんは一気に顔を茹で上げると立ち上がり私の胸倉を掴みかかりました。
川内「いくら何でもそれは言い過ぎじゃない?」
51: 以下、
突如として起きた出来事に遅れて反応した吹雪ちゃんは私と川内ちゃんの間に入り込み、
吹雪「ちょっと!川内さんストップ!!」
私と川内ちゃんを引き剥がそうとします。
まったく、提督はほんとみなさんに愛されていますね。私は誇らしいです。
鳳翔「すみません、川内ちゃん。流石に言い過ぎましたね。もしも立場が逆でしたら私も同じ行動をしています」
川内「じゃあ何でそんな言い草したのさ?」
52: 以下、
鳳翔「いえ、それ程大切な物をどうして捨てようか迷っているの聞いてそう思ったのですよ。....そうですね。二人には断捨離の離の一語について考えて頂きましょうか。川内ちゃん、手を離して貰えますか?」
川内「ごめん...。私も熱くなりすぎた...」
私の胸倉から手を離します。
吹雪「もぅ!二人共悪いんですからね!司令官がこの事を知ったらどうなるか。私想像したくないんですから!ほら二人共正座です!」
53: 以下、
鳳翔「あらあら、怒られちゃいましたね川内ちゃん」
川内「あーあ、誰のせいですかー」
顔を見合わせお互い微笑みます。そして三人揃って正座をし吹雪ちゃんはこう言いました。
吹雪「まったくもう...。ほら仲直りの握手、してください」
私と川内ちゃんの右手を掴み取り握手をさせます。本当に可愛い子ですね、吹雪ちゃんは。
54: 以下、
さてと、
鳳翔「では早、この髪留めの回顧を始めましょうか。川内ちゃんは先程提督からプレゼントとして受け取ったと言いましたね?」
川内「正しくは吹雪と私だけどね」
鳳翔「それはどんな天気で、いつの日でした?」
川内「.....推理小説でも読んだの?」
鳳翔「いえ、特には...」
吹雪「話の腰を折らないで下さい川内さん...」
55: 以下、
呆れた声で吹雪ちゃんは言いました。そして川内ちゃんに変わり吹雪ちゃんは言葉を紡ぎ始めました。
吹雪「よく覚えてますあの日を。とっても天気が良くて、晴れ晴れとしてて海の上にいるみたいなのに、陸の上にいるのが不思議で仕方なかったことを。その日は私、まだ生まれて間も無くて右も左もわからない。そんな時期だったんですよ」
不意に古ぼけた髪留めをなぞり始めます。まるで目の前にある思い出を転がすように。
56: 以下、
吹雪「突然だったんです。司令官に挨拶を終えたらすぐに、一緒に買い物に行こうかと私に言ったのは」
鳳翔「えぇ、あの人はそう言いますでしょうね」
川内「それで近くにいた私を無理 矢理捕まえて一緒に買い物に行った」
川内ちゃんは少し苦笑いをしました。言葉では言い表せない記憶の中で、提督とどの様なやりとりがあったのかは私は存じません。ただ、懐かしむ事が出来るのならそれは悪い思い出ではないという事です。
57: 以下、
吹雪「その日私は人の世界っていうのを初めて知りました。道中色んな話しを提督や川内さんから聞いていましたけど、実際に見ると全く違いましたね」
川内「で、色々学んだよね。お金の使い方や人との接し方。艦娘がどう人間に思われているかを」
鳳翔「ほんと、あの人は手厳しい人ですね...」
吹雪「いいえ、遅かれ早かれ知る事です。もう慣れましたし」
58: 以下、
川内「それで帰り道。吹雪が半泣きの中これを買いに行ったんだよね」
吹雪「川内さんは覚えてますか?司令官が髪留めを渡す時何て言ったか?」
当たり前じゃんと言い吹雪と顔を合わせます。
59: 以下、
川内「今日から私達と吹雪は家族だ。血の繋がりは一切ないが、それ以上に結ばれた関係であり続けたい。だから吹雪。困った事があったら川内に聞きなさい。そして川内は吹雪を妹として面倒を見てやってほしい。そうやって二人支え合いばどんな苦難も乗り越えられるはずだ。だが、いつかはこの約束を忘れてしまかもしれない。その時はこれ見てこの約束があった事を思い出してほしい」
川内ちゃんは赤色の髪留めを握り締めました。
鳳翔「ふふ、よく覚えてますねぇ...」
川内「後で提督が書いた台本見つけたからさ」
吹雪「あっ!!それは内緒にするって決めたじゃないですか!」
60: 以下、
鳳翔「....それじゃあ、この髪留めはどうします?」
吹雪「....捨てたくないです」
川内「私も。もうボロボロだけど大切な思い出が詰まってるから」
鳳翔「じゃあ捨てなくて結構です」
鳩が豆鉄砲を食ったような、そんな呆けた顔をされました。
吹雪「捨てなくていいんですか?」
61: 以下、
鳳翔「まったく、みなさん何も聞いてないのですか.....。はい!川内ちゃん!断捨離の離は?」
川内「え、えーと...。吹雪なんだっけ?」
吹雪「確か、物の執着を断つ、でしたっけ?」
鳳翔「はい。よくできました吹雪ちゃん」
私は吹雪ちゃんの頭を撫でます。なにやら納得できない川内ちゃんは突然叫びました。
川内「物の執着を断つって言うなら、髪留めの思い出を話したらもう捨てるみたいな雰囲気だよねぇ!?」
62: 以下、
鳳翔「あら?川内ちゃんは捨てたいの?」
川内「だから捨てたくないって!!」
鳳翔「物の執着を断つ。と私は言いましたが何も絶対捨てなくてはいけない、なんて私は言ってませんよ?二人のお話しを聞くとそれがあなた達二人の関係を結んだ物であるのは明白です。過去を振り返り果たして本当にそれは必要なのか。断ちたい思い出なのか。私は物に宿る記憶を辿って整理整頓をしてほしいと思っていたのですよ?」
63: 以下、
吹雪「はぁ...」
鳳翔「それに髪留めを二つ残そうがさほど邪魔にはならないでしょう?しっかりと悩むだなんてほんと、あなた達二人は可愛いですねぇ」
私は二人を抱き寄せます。鬱陶しそうに腕の中で暴れますが離しません。
愛おしいこの二人と、手間のかかる瑞鶴さんと鈴谷ちゃん。こんな可愛い娘達に囲まれた私と提督はとても幸せ者です。
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64: 以下、
鳳翔「提督?入りますよ?」
返事がありません。いつもなら必ず反応してくれる提督ですのでほんの少し不安げになります。
扉を開けると提督は椅子に腰掛け執務机に広がった何かを愛おしそうに眺めています。
鳳翔「提督?」
提督「ん?あぁ鳳翔か....」
65: 以下、
鳳翔「どうしたんですか。提督が物思いにふけるだなんて、久し振りですね」
提督「いや掃除をしてたらな...。今回は大断捨離だったな。こんな物を見つけてしまってな」
提督は手をくいくいと曲げ私を呼びます。私は近づき提督の側に立ちその物を見つめます。
鳳翔「....懐かしいですね。以前の鎮守府のアルバムだなんて...」
この小さな鎮守府が設立される前、私と提督はそれなりに規模の大きい鎮守府に籍を置いて居ました。
66: 以下、
アルバムに映る提督はどこか苛立ちを隠せない、余裕の無い顔をしています。そして私は、ここには居ませんが、加賀さん、赤城さん、飛龍さんに翔鶴さんと並び提督と同じく不満気な顔をしています。
提督「この頃は、お互い余裕が無かったな...。戦果を上げようと躍起で色んな無理難題をやってきた」
鳳翔「えぇ私も。後輩達を何が何でも育て上げなくてはならないと思っていましたし...」
提督「まさかあの鳳翔が料理と家事を出来るようになっているだなんて加賀達は今でも思っていないだろうな」
67: 以下、
大きい声で笑います。それも目頭に涙を浮かべて。
鳳翔「あらそんな事言ったら、あの鬼の様な提督が艦娘に優しくしてるだなんて言ったら腰を抜かしてしまいますよ」
私も負けじと笑います。思い出して笑いが止まりません。
提督「....なぁ鳳翔」
鳳翔「はい。なんですか「あなた」?」
提督「年を取ったな私達も」
68: 以下、
鳳翔「えぇ、本当に...」
私はそっと愛しい人の右手を包み込みます。温かく大きいこの右手。全てを一人で決めたこの右手を。
提督「いつかあの鎮守府に一回顔を出そうか鳳翔。加賀達がまだいるかは知らないが」
鳳翔「あら馬鹿にしないでくださいね。あの子達は私が手塩にかけた大事な後輩なんですから。絶対、生きてます」
提督「鳳翔....」
69: 以下、
提督の手は私からすり抜け優しく私の頬に触れます。提督の高揚した温度が私に流れ込みます。
鳳翔「あなた....今はまだダメです...」
手を引き離します。すると提督は立ち上がり私の中腰に手を回し、改めて私に触れます。
提督「いいだろう。そういう雰囲気なんだからら。それに誰もこの場にはいない。そうそう無いのだからこういう状況は」
鳳翔「「提督」。扉の方を」
70: 以下、
勢いよく提督は扉の方に振り向きます。
鈴谷「あっ。バレた」
瑞鶴「あーおあついですねぇーほんとー」
吹雪「川内さん見せてくださいよ!」
川内「ダメだ。まだ早い」
提督「お前たちなぁ!!!?雰囲気ってやつを考えろよ!!」
山積みになったみなさんは一人を除き、じーとこちらを見ています。いつからかと言われますと私と提督がアルバムで感傷に浸っていたあたりからです。
71: 以下、
鳳翔「あら提督。残念でしたね」
提督「えぇい!もうどうでもいい!!鳳翔!」
鳳翔「えっ!?」
私が目を瞑る素ぶりを見せる前に、提督は私の唇を塞ぎました。
瑞鶴「うぁ節操ないわ」
鈴谷「はい撤収?夫婦の邪魔をしてはいけませーん」
吹雪「なになに!?」
川内「ほら吹雪戻るよ」
どこからかそんな声が聞こえてきます。何も見えないのは愛しい人で私が覆い尽くされているからです。
72: 以下、
まったく、強引な所はいつだってあなたは変わらないのですね。
過去を断つことは、やはり並大抵のことではありません。断捨離という手段を使い、遺恨をたったとしても心に蝕む記憶は消せません。
ただ、消すのでなく記憶と向かい合い共存する事は一人でなくとも、家族。はたまた友人となら乗り越える事ができる。
私は、そう思いたいのです。
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73: 以下、
瑞鶴「で、なんで提督さんが帰ってきたのに鳳翔さんがご飯作るわけ?」
提督「何でも鳳翔が一つ料理を思いついたらしくてな」
鳳翔「えぇ!インスピレーションが湧きましたよ!どうぞ召し上がれ!」
川内「雑煮に....」
鈴谷「素麺が入ってる....ね」
吹雪「蜜柑が入らなかっただけマシですよ....」
74: 以下、
おしまいです。
みなさま良い年始を。ほとんど終わってますが...。
75: 以下、
おつー
元スレ
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番外個体「  」番外通行SSの原点かな?
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まどかパパ「百合少女はいいものだ……」君の心は百合ントロピーを凌駕した!
澪「徘徊後ティータイム」静かな夜の雰囲気が癖になるよね
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ルカ子「きょ、凶真さん……白いおしっこが出たんです」岡部「」これは無理だろ(抗う事が)
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紅莉栖「とある助手の1日ヽ(*゚д゚)ノ 」全編AAで構成。か、可愛い……
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