しほ「時には昔の話を」back

しほ「時には昔の話を」


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1:
 ―秋山宅
みほ「ありがとう優花里さん。おかげで対策が立てやすくなったよ」
優花里「恐縮です!」
沙織「まさか大学選抜との試合が終わったら海外のチームから試合を挑まれることになるなんてビックリだね?。人気者は大変だ?」ヤダモー
華「しかし、海外の対戦相手の学校にまで偵察に行かれるとは、優花里さんには驚きです」
麻子「国際問題になってもしらんぞ」
みほ「あとは相手チームの戦車の資料を集めて、作戦を練るね」
優花里「あ、ウチに相手戦車の資料本があるはずですのでおだししますね。えーっとこの辺りに・・・」バサバサ
沙織「たいていの戦車の資料揃ってるってとんでもないよねゆかりん」
優花里「あれれ?下にあるのかな?ちょっと下に降りて探してきますね」
華「私達もお共します」
麻子「皆で探した方が早いだろうしな」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1477649163
2:
優花里「うーん、見つからないなぁ」ガサガサ
みほ「私も手伝うよ」ガサガサ
麻子「人の家の押し入れを躊躇なくガサるのもどうかと思うが」
沙織「ねえねえ、家族アルバム出てきたんだけど」
華「わあ、赤ん坊の優花里さんかわいいです」
優花里「そ、それは勘弁してくださいよー!」
麻子「人の家のアルバムで遊ぶのもどうかと思うが」
みほ「あ、あったよ。これじゃないかな」バッ
 ガサガサガサ? ドドドドドド
沙織「わあ!押し入れの中から雪崩が!みぽりん大丈夫!?」
みほ「・・・う、うん・・・平気」ボロ
優花里「あわわわすみません西住殿!我が家の押し入れが詰め込みすぎだったばっかりに!」
みほ「ううん、私がムチャに本を引き抜いたから・・・」ピラッ
みほ「あ、押し入れの中から写真が一枚・・・」
みほ「!・・・・・・この写真・・・お母さん?」
3:
沙織「え?どれどれ」
華「たしかに顔立ちは以前雑誌で拝見したみほさんのお母様に似ていますが・・・これは黒森峰の制服ですね」
麻子「西住さんのお母さんが高校時代の時の写真ということか。なぜそんなものがここに」
優花里「・・・と、というか・・・隣で一緒に写ってる人・・・これ・・・」プルプル
秋山好子「ちょっと優花里、大丈夫?なんだかすごい音がしたけど・・・」ヒョッコ
優花里「お、おおおおお母さん!この写真!」バッ
沙織「もしかしてこの写真に写ってる人っておばさんですか?」
好子「・・・・・・あらら・・・とうとうバレちゃった」
優花里「どどどどどどうしてお母さんと西住しほさんが一緒に写真を!?」
みほ「もしかして・・・」
好子「そう・・・私としほちゃんは、昔一緒に戦車に乗ってたの」
優花里「なっ!なっ!なっ!ぬゎんだってぇ?????!」ガーン
4:
※注意
このSSでは一部キャラクターの年齢が公式で明言されていない範囲で都合がいいように解釈されています。ご注意ください
5:
華「みほさんのお母様と優花里さんのお母様はお友達だったんですね」
沙織「ていうかしほちゃんて!」
優花里「どうして教えてくれなかったの!?」
好子「隠してた訳じゃないけど、自分から言うのもなんだかね・・・」
麻子「悪い意味ではないが、同い歳とは思わなかったな」
好子「それはほら、西住流は歳をとらないって言うでしょ」
麻子「いやいやいや」
みほ「あっ、あの!お、教えてくれませんか!?お母さんが高校生だったころの話!」
好子「・・・うーん・・・そうねぇ・・・まあ、もういいかしら」
好子「あれは私が大洗女子学園に入って数カ月が過ぎた、夏の始まる頃よ――」
 ―――・・・・・・
好子「わあ?・・・戦車がいっぱい」
 好子《私は人並みに戦車が好きだったけれど、戦車道はやってなかったの。大洗は昔こそ戦車道が盛んだったけど、あの頃はまだ復活してなかったし》
 好子《それにあの頃は今よりも戦車道はマイナーな武芸と言われてて、人気も下火で、世間から戦車道は忘れ去られそうになっていた》
 好子《それでも私は戦車の何かに心惹かれて、選手でもないのに一人で戦車道全国大会の抽選会を見に行っていたの》
好子「選手人口減ってるって聞いてたけど、やっぱりそれなりに人はいるんだなぁ」
 好子《その時、あの子に出会ったの》
6:
黒森峰2年生A「西住、どういうつもりなの。隊長に向かってあんなこと言って。先輩達あなたに目を着けてるわよ」
黒森峰2年生B「1年生の新入りなのに皆の前で隊長に噛みつくなんてどうかしてる。あなた自分が何を言ったかわかってる?」
西住しほ「・・・」
好子(強豪校の黒森峰の制服だ。なんだかもめてるのかな?)
 好子《当時の黒森峰は強かったけど、今みたいに優勝常連というわけではなかった。準優勝やベスト4に数回食いこむものの、一番にはなれなかった》
 好子《聖グロ、サンダース、プラウダ・・・強豪ひしめく戦車道界で優勝まで一歩及ばずにいたわ》
黒森峰2年生A「1年は1年らしく上の言うこと聞いて大人しくしてればいいの。でしゃばってチームを乱すようなことしないで」
黒森峰2年生B「先輩達との間を取り持つ私達の身にもなってよ。あなたがチームから追いだされるのをかばってあげてるのよ」
しほ「阿呆ばかりだな」
黒森峰2年生A「なに?」
しほ「隊長は『大会の目標はベスト4』と言った。私はそれに異議を唱えただけ。なぜ優勝じゃないか疑問に思わない?」
黒森峰2年生B「現実的に見てそれが目標としてちょうどいいの。無理に背伸びしないで、皆のモチベーションを維持しやすい目標がベスト4くらいなのよ」
黒森峰2年生A「目指せ優勝なんて言っておきながら優勝できなかったらかっこわるいでしょ」
しほ「阿呆が。そんな心構えで戦う者に戦車道をやる資格などない。戦車に乗っても何の意味もない」
黒森峰2年生B「下級生は先輩の言うことに従ってればいいのよ!上の言うことは絶対なの!戦争でも戦車道でも、上の人間に逆らっちゃダメ!」
しほ「くだらない・・・」プイッ
黒森峰2年生A「あっ!ちょっと!どこ行くの!?」
黒森峰2年生B「夕飯までには帰ってきなさいよ?!」
7:
華「みほさんのお母様、先輩に堂々と噛みつくなんて、度胸があるというか肝が据わっているというか」
好子「言葉使いも男っぽかったわ」
みほ「・・・なんとなくそんなイメージはあったけど・・・やっぱり我が強い人だったんだなぁ・・・」
好子「その後、戦車道大会の対戦順が決まったり、戦車で曲芸やったりして会場は盛り上がったけど、ずっと黒森峰の生徒のことが気になってたの」
麻子「戦車で曲芸て」
好子「会場を後にして帰路につく時も、なぜだかずっと気がかりだったわ。で、駅までの道を歩いていた時――」
 ???
好子「あ」
しほ「む」
好子(さっきの人だ。目が合っちゃった)
しほ「・・・なに?」
好子「あっ、いえ、あの、さっきの人だ。目が合っちゃったな?って思って・・・上級生と言い争いしてた黒森峰の人ですよね」
しほ「見ていたのか。会場にいたということは戦車道を?」
好子「いえ、戦車は好きですけど・・・」
しほ「・・・私は西住しほ。黒森峰一年生」
好子「あ、秋山好子です。大洗女子一年。西住ってことは・・・有名な西住流の?」
しほ「そう。私もいずれ西住流を継ぐつもりだ。だが、そのためには強くならなければならない。今よりもずっと」
 好子《・・・・・・その子は突然、道端のボロボロのみかん箱の上に仁王立ちした。そして、私に言ったの》
8:
しほ「私は強くなりたい。西住流を継ぐ者として強くなりたい。だが今の腑抜け切った黒森峰で戦車道をやっても何も得られるものは無い」
しほ「人の顔色を伺い、勝利よりもメンツばかりを気にし、一年だ二年だとくだらないことに固執するような連中などくそくらえだ!」
しほ「私は私の戦車道を進むと決めた!誰にも縛られず、誰にも邪魔されず、自由に戦うと決めた!」
しほ「自分達だけで練習し、自分達だけで戦い、自分達だけで勝つ!そして今の黒森峰を打ち倒し、日本中の強豪校と戦い、日本一になってみせる!」
しほ「それが私の戦車道だ!」
 好子《高校一年生の女の子が、泥だらけでボロボロのダンボール箱の上でそう宣言したの・・・》
 好子《・・・言い終えると、その子はみかん箱から降りて、私の目を真っ直ぐ見ながら続けた・・・・・・》
しほ「これから一緒にやれそうな者を集めて、等級や学校に縛られない自分達のチームを組むつもりだ。どうだ、秋山。一緒にやってみないか」
好子「っ・・・!」
9:
 ???
好子「・・・想像もできなかった・・・一年のぺーぺーが、それも別の学校同士が戦車道チームを作るなんて・・・ムチャな話だわ」
好子「でも心の奥が熱く燃え上がるような感覚があった・・・ずっと探してた、自分のやりたいことに出会ったようで・・・」
優花里「・・・???!」プルプル
優花里「すごい!すごいよお母さん!西住殿のお母さんと学校の垣根を越えて戦車道やるなんて!」
麻子「むちゃくちゃな話だ。大洗と黒森峰の生徒が学校の戦車道チームじゃなくて自分達だけでやるとは」
華「野良チームという訳ですね」
好子「そんな無茶苦茶な話、断るのが常識的だったけど、私の答えは決まっていたわ。西住しほと一緒に戦車道をするってね」
みほ「お母さんがそんなことやってたなんて・・・聞いたこともなかった」
沙織「それで、それからどうなったんですか?」
好子「さっそく次の日、しほちゃんに呼び出されたの。一緒に戦車に乗るメンバーをスカウトに行くって、朝早くからね」
沙織「でっ、でっ、どこにスカウトに行ったんですか?渋谷?池袋?」
好子「聖グロリアーナ女学院よ」
13:
 ――聖グロリアーナ女学院
好子「ねえ、急に聖グロリアーナに行こうだなんて言ったけど、戦車道やってる人を引き抜くなんて無茶だと思うよ」
しほ「目星は付いてる。聖グロリアーナの戦車道チームに所属していないが、砲撃の名手になり得る人物だ」
好子「砲撃の名手・・・なんで戦車道やってないのかな・・・」
しほ「いたぞ。あれだ」
百合「ふんふんふふ?ん♪」スキップスキップ♪
好子「お弁当持ってスキップしてるあの子?」
しほ「名を五十鈴百合。一年生。元々は華道の家元の人間だが、思春期特有の反抗期に入り、華道を嫌い、親に反発して家を飛び出したそうだ」
好子「どうしてそんなことまで知ってるの?」
しほ「西住流の情報力という奴だ。彼女は親や華道への反発のために、あえて茶道をやってみようと、聖グロリアーナに入学したという」
好子「茶の種類が違うと思う」
しほ「ああ。入学してから気付いたらしい。今まで華道一筋でろくに自由もない生活だったせいか、入学以降色々なことに挑戦している」
しほ「弓道、クレー射撃、ダーツ・・・様々な部の体験入部で叩き出した記録は全国レベルに匹敵し、各部から勧誘されているが、本人は自由に色々やりたいとフリーでいるんだ」
好子「わかった!その子に砲手をやってもらうって訳だね!」
しほ「上手くいけばな。話をしてくる」
14:
しほ「五十鈴百合」ザッ
百合「あら、ごきげんようでございますわ」ペコ
しほ「私は西住しほ。黒森峰の一年生だ。あなたに話があって来た」
百合「あら?ごきげんようでござんす・・・でしたっけ?ごきげんようでごじゃる・・・だったかしら?」ハテ
しほ「突然の話ですまないが、私は今、戦車道チームを組織している。あなたの噂を聞き付け、はるばる来たという訳だ」
百合「ごめんなさい。私、せいぐろの生徒らしいお嬢様言葉というのがまだ上手く話せなくて、聞きづらいでしょう?」
しほ「私と一緒に戦車に乗ってほしい」
百合「それで、わたくしに一体どういうご要件ですか?」
好子「ちょっと待って。二人とも一方通行すぎ」
15:
好子「ちょっと代わって。私が話すから」グイ
しほ「むう」
百合「ごきげんようでござる。あら?ごきげんようでありんす・・・ごきげんようで・・・」エート
好子「私は秋山好子って言います。五十鈴百合さん、私の目を見て」ガシッ
百合「わ、はい、なんでしょう」
好子「私達、一緒に戦車道をやる人を探してるの。学校に関係なく、自分達だけで自由な戦車道をね」
百合「あら」
好子「あなたなら一緒にやれそうって思って誘いにきたの。それで、こっちは西住しほちゃん。私の友達」
しほ「えっ」
好子「なに?友達でしょ?私達」
しほ「・・・その・・・えと・・・ああ」
百合「まあ、戦車道?お母様が大嫌いな鉄と油まみれのきったねぇ泥んこ競技ですね」
好子「お淑やかな人だと思ったけど口は悪いね」
16:
好子「百合さんは射撃の名手だって聞いて来たの。弓道部でもクレー射撃部でもダーツ部でもすごく上手だったって」
百合「はい!わたくし当てるの得意なんです。手から放したものが目指した目標をスパンと射抜く様がとてもとても気持ちがよくて・・・」ウットリ
好子「それじゃあ、私としほちゃんと一緒に戦車道やってみる気はない?きっと楽しいよ。大砲も撃てるし。自分達だけで」
百合「・・・戦車道・・・きっとウチの親は大反対します。家を飛び出し、華道を捨て、あろうことか戦車道などやるようになれば勘当されるのは必至・・・五十鈴流から永久追放されるやも・・・」
しほ「・・・」
好子「・・・」ゴクリ
百合「私、戦車道やります!」
好子「やったぁ!とんでもないヒネくれ者だけど友達が増えたよ!やったねしほちゃん!」ピョンピョンブンブン
しほ「・・・うむ」ユサブラレ
好子「これからよろしくね百合ちゃん!」ギュ
百合「はい、こちらこそよろしくしてございませ」ギュ
17:
 ???
沙織「・・・まさか華のお母さんまで・・・」
華「びっくりして空いた口がふさがりません・・・私が言うのも何ですが、お母様とみほさんのお母様や優花里さんのお母様が同い年というのは少し・・・」
麻子「人それぞれで歳の取り方は違うが、西住さんのお母さんだけ異様に歳をとっていないような・・・西住流とは」
優花里「でもおかしくないですか?五十鈴殿のお母さん、あんなに戦車道を嫌ってるのに」
好子「高校時分の百合ちゃんはとにかく色んなことにチャレンジしたい子だったけど、大人になるにつれて大人しくなっていったわ」
好子「反抗期が終わってから、ちゃんと華道を修めて、五十鈴流を継いだの。皆もあるでしょ?一時自分じゃないくらい変な思考になってた時期って」
麻子「黒歴史というやつか」
みほ「それで、華道を嫌って戦車道をやることになった華さんのお母さんを仲間に入れて、3人はどうしたんですか?また新しい仲間を探しに行ったんですか?」
好子「しほちゃんは3人いれば戦車で戦うことができるって言って、私達だけで活動を始めることにしたの」
好子「私も百合ちゃんも戦車道未経験者だし、少しでも早く戦車道をはじめておかないとってね。でもその前に私達には次の目的があった。それは戦車を手に入れること」
優花里「そっか。戦車も無いのに戦車道はできないもんね」
沙織「でも戦車を手に入れるってどうやって・・・」
好子「盗むの」
沙織「え”っ」
19:
今回はここまでで。ママさん戦車道部が同い年というのは見た目年齢的に違うだろうけど公式で明言されてないからいいかなーって無理矢理通しました。西住流は老化を遅らせる
言うまでもありませんが五十鈴母が聖グロの生徒だったりは公式設定とは(おそらく)全く違うのでご注意を。このSS独自の設定です
24:
 ――戦車喫茶〈ルクレール〉
好子「戦車を盗む!?」ガタ
しほ「人聞きが悪いぞ秋山。それと、店の中で大声を上げるな」
百合「わたくし泥棒ってやったことないのでわくわくします」ワクワク
しほ「正確には泥棒などではない。使われていない戦車を使うんだ。黒森峰にはたくさん戦車があり、修理を待ったまま倉庫で眠っている戦車もある。それを盗む」
好子「ほらほらほら!盗むって正確に言ってるよ!」
百合「でも使われていないものなら誰にも迷惑をおかけにならないのでは?」
しほ「その通り。自分達で戦車を買えるような大金など持っていないし、他に道はない。私のおこづかいは月500円だからな」
好子「しほちゃんの家って西住流の家元なんでしょ!?戦車くらい貸してもらえないの!?」
しほ「これは私達の戦車道だ。家の力を借りたくない」
百合「ではわたくしがウチの親から大金をかっぱらってきましょう!きっと両親ともども怒り心頭まっさかさま!」ガタ
好子「百合ちゃんは何もしないで・・・・・・はあ、わかったよ。使われてない戦車なら大丈夫かな・・・」
しほ「この珈琲を飲み終えたら、すぐに黒森峰に向かおう。今からなら丁度夜に着くだろう」
百合「この喫茶店、小さいけれど戦車を連想させる内装が素敵ですね。窓辺から見えるマロニエの木がまた風情があって・・・」
好子「あの木、マロニエって言うんだね。さすがは華道の家元さん」
百合「ハッ!・・・い、いえ、華道なんて大っきらいです!マロニエさん!あっちに行ってください!シッシッ!」
しほ「無茶苦茶を言うな」
好子「しほちゃんが言わないで」
25:
 ――黒森峰女学園
 コソコソコソ・・・
百合「抜き足さし足忍び足♪お酒を飲んだら千鳥足♪」スキップスキップ
好子「百合ちゃん静かにしてよ!それにスキップするような状況じゃないでしょ」シーッ
百合「あら、ごめんなさいませ。ついウキウキしちゃいまして」テヘ
好子「変わり者にしても度が越えてるよ・・・」
しほ「この倉庫だ。見回りが来る時間は把握しているが、手早く済ませるぞ」ギイーッ・・・
好子「わぁ・・・修理待ちの戦車だけでこんなにいっぱい・・・」
百合「鉄の塊がたくさんです。生け花の花器にいいかも・・・ッハ!か、華道のことなんて考えてございませんよ!」
しほ「あった。これだ。この戦車を私達で使おう」
好子「これって・・・」
 ティーガー?<・・・・・・
しほ「Panzerkampfwagen Tiger Ausf.E・・・ティーガー戦車E型・・・鋼鉄の虎だ」
26:
百合「なんだか泥だらけですね。この虎さん」
好子「ほ、ほんとに使っていいのかな?こんな立派な戦車・・・」
しほ「修理を待つ戦車は新しいものから優先的に修理される。古い物は修理してもすぐ壊れやすく、効率が悪いからな。次から次に戦車が修理に回され、古いのはいつまでも修理されない」
しほ「このティーガーは昔から黒森峰で使われていたもので、同型の新しいティーガーがいくつも入って来たものだから、こいつの修理も後に後にと回されているんだ」
百合「ご年配さんなんですね」
好子「と、とにかく早くかっぱらってとんずらしちゃおう!誰か来たら大変だよ!」
しほ「よし、皆、乗るぞ」パカ
好子「・・・これが戦車の中・・・」
百合「なんだか鉄と油のニオイがいっぱいで・・・不思議な感覚です」
しほ「車内を満喫するのは落ち着いてからにしろ。出発するぞ。エンジン点火」カチン
 ティーガー?<・・・・・・
しほ「・・・・・・エンジン点火」カチ
 ティーガー?<・・・・・・
しほ「・・・あれ」カチ カチ カチ
しほ「あっ、そうか。故障してるから動かないんだった」
好子「しほちゃん」
27:
しほ「他の戦車から使えそうな部品を拝借した。今はエンジンさえ何とかなればいい。すぐに出発したいが、エンジンが温まるまで少しかかるぞ」
好子「なんにしても早くして!誰かに見つかる前に――」
百合「しっ・・・誰か来ます」
 黒森峰生徒「ふわあぁ?・・・夜の見回りってホントいやだな?・・・何もなかったら面倒なだけだし、何かあったら大変だし・・・」ポテポテ
好子「どどどどどどうしよう!捕まっちゃうよ!逮捕されちゃうよ!裁判だよ!刑務所だよ?!」
しほ「落ち着け。車内で静かにしていれば気付かれやしない。音を立てずにやりすごすんだ」
 ティーガー?<・・・ヴオロロロォン!
しほ「あっ、エンジンかかった」
好子「しほちゃぁん!」
黒森峰生徒「な、なに!?なんの音!?倉庫の中から・・・」バッ
 ティーガー?<ドッドッドッドッド・・・
好子「どうするの!?バレちゃったよ!?土下座で勘弁してもらえるかな!?」
百合「ここはワイロをお渡しして・・・」
しほ「強行突破しかない。戦車前進」ガッ
 ティーガー?<ギャラギャラギャラギャラギャラ
黒森峰生徒「わー!ティーガーが・・・ティーガーが・・・」ワナワナ
黒森峰生徒「ティーガーが自我を持って脱走しちゃったよ?!」
好子「変わった子で助かった・・・」
28:
 ――西住邸・戦車整備倉庫(片隅)
好子「ふうっ・・・こっちは終わったよ、しほちゃん」フーッ
百合「わたくしもお任せされていたお仕事終わりました?。がんばりましたっ」フンス
しほ「ああ、助かった。これで試合を出来るくらいには整備できたな。ちゃんとした整備士も無しで仕上げた、急ごしらえでしかないが」
好子「しほちゃんの家って戦車道の家元らしくお抱えの整備士の人とかいないの?やってもらったほうがいいんじゃ・・・」
しほ「私達の戦車だ。私達で整備しないでどうする。それに、前も言ったように家の力はなるだけ借りたくない」
好子「言いたい事はわかるけど、これから本気でやるんだったら、ちゃんとした整備士も必要だと思うよ。しほちゃんだって最低限の整備しかできないんだから」
しほ「むう・・・そうだな」
百合「でもわたくし達だけで戦車をいじるのって、なんだかとっても楽しかったです。今までやったことのない経験でわくわくしました」ニッコリ
好子「たしかにちょっと楽しかったね。それで、しほちゃん、練習はどこでするの?いつ始める?私、今ちょっと気分高まってるから今からでもいいよ」
百合「わたくしもやる気に満ち溢れてます!これから何をなさるんですか?」
しほ「我々は今から二時間後、試合をする。相手は聖グロリアーナだ」
好子&百合『えっ』
29:
今回はここまでで
35:
 ――対聖グロリアーナ女学院戦、練習試合会場
しほ「この度は申込試合を受け入れてくださり、感謝します。聖グロリアーナ女学院戦車道チーム隊長、ダージリン殿」
旧ダージリン「こちらこそ、あの西住流の後継者と言われるあなたと試合が出来るのは貴重ですわ。それにしても、今日は5対5の試合と聞いていましたけど?」
しほ「そうでも言わないと、そちらも一輌しか用意しないのではと思いまして。それに、こちらのチームが一輌だけだと知れば、試合すら組まないかと」
旧ダージリン「ふふ、かもね。そちらがそれでいいと言うのであれば、こちらも手は抜きません。1対5の試合といきましょう。では」ザッ
好子「いくらなんでも無茶だよしほちゃん。私達ズブの素人だよ。二時間の間でルールブックを読み込んだだけでまともに試合なんてできないよ」
しほ「私が操縦をする。秋山は装填手だ。私が指示を出すから、砲弾を装填してくれ。五十鈴は砲手を任せる。合図をしたら撃て」
百合「それだけなら出来るかと思いますが・・・上手くお直撃させられるでしょうか」
しほ「照準は合わせなくていい。砲身ごと、車体ごと私が狙いを定める。秋山には負担が多いかもしれんが、慌てずにやってくれればそれでいい」
好子「勝てっこないよしほちゃん・・・1対5で・・・素人二人も乗せてる戦車じゃ、誰だって負けるよ」
しほ「かもしれん。だが、やる。私を信じろ。この試合は価値のある試合になる」
好子「負けるってわかっててやって、価値なんかあるのかなぁ・・・」
審判「では、試合開始!」
36:
 ティーガー?<ギャラギャラギャラ・・・
百合「わたくし、なんだか気持が落ち着きません。聖グロリアーナの方々とお試合をするというのは、なんだか裏切っているような気分で」
好子「戦車道チームに所属していないとは言っても同じ学校同士だもんね。弱点とか知ってる?」
百合「さあ・・・ガソリンが無くなるとお走りになることができないとか?」
しほ「フラッグ車がチャーチル、マチルダ?が二輌、クルセイダーが二輌だ。フラッグのチャーチルを落とせば勝ち。装甲が厚いが、ティーガーなら勝てない相手ではない」
好子「言うのは簡単だけど――」
 ド ワ ッ !
好子「!?わあっ!?」
百合「ひゃあ!」
旧アッサム「指示通り、こちらの気配を知らせるためにわざと外しました。次は?」
旧ダージリン「左右の履帯を破壊し、身動きが出来なくなったところで撃破するのよ。たった一輌で挑んできた勇気は買うけれど、二度と立ち向かう気が起こらないほど叩きのめすの」
旧オレンジペコ「いくら西住流とはいえ、たった一輌でなんて、私達も舐められたものですね」
旧ダージリン「いいえ、西住しほ・・・あの子の目は真っ直ぐで、決して私達をコケにしている訳ではなく、本気だったわ。だからこそ、叩きのめしてあげるのよ。砲撃」
 チャーチル<ドッ! マチルダ?<ドワ! グワ!
 ドォン! グワァ! ドーン!
好子「わああっ!むちゃくちゃ撃ってきたよ!危ないよー!」ドォーン!
百合「まるで地震のように激しく揺れてます!こ、怖いでございます!」
 ドワ! ゴォーン! ボォーン!
好子(これが・・・これが戦車道・・・考えが甘かった・・・実弾を使った戦車同士で撃ち合いをするのが、どれくらい怖いことかくらい覚悟しておくべきだった・・・)
好子(こんな状況で落ち着いてなんかいられっこないよ・・・戦車で戦うなんて普通じゃない・・・こ、怖い・・・怖いよ・・・)
37:
しほ「秋山、五十鈴、これが戦車の試合だ。初めての砲撃は身がすくむ。怖くて当然だ。だが怯えるな。その恐怖心に打ち勝ってこそ、戦車道になるんだ」
 ティーガー?<ギャギャギャギャギャ!
好子「!」
しほ「こちらからも行くぞ。二人とも、構えろ」
マチルダ?乗員「敵接近!こちらに向かってきます!」
マチルダ?車長「返り討ちよ!ダージリン様の指示通り、脚を狙うの!撃て!」
 マチルダ?<ドッ! ドーン!
マチルダ?車長「チッ!外した!」
 ティーガー?<ギャギャギャギャギャ! ガン!
マチルダ?車長「!?横っ腹に着けられ――」
しほ「五十鈴!撃て!」
百合「!・・・は、はい!撃ちます!」
 ティーガー?<ドワァ!
 ド ォ ン !
 マチルダ?<・・・シュポ
審判「マチルダ?、走行不能!」
38:
好子「っ・・・す、すごい」ジィ?ン・・・
百合「・・・じ、じんじんします・・・身体の芯まで衝撃が伝わって・・・これが・・・これが戦車!」ジィ?ン・・・
しほ「秋山、装填だ」
好子「はっ!は、はい!よいしょっ・・・!」ググッ・・・
好子「お、おんもいなぁ!こんなのホイホイ持ち上げるなんて、戦車女子ってホントに人間?」グググ・・・
好子「うぅ?ん!しょぉ!」ガコン
旧オレンジペコ「まさかマチルダが撃破されるとは・・・」
旧ダージリン「・・・どうやら、認識を改める必要があるわね。操縦手はかなりのもの。けれど次弾を撃たずに慎重な点、砲身が一切動いていない点を見るに、操縦手以外は素人のようね」
旧ダージリン「陣形を変更。マチルダはチャーチルの守りを。クルセイダーは相手を掻き回してやりなさい。手加減は無しよ。虎を狩るのに気を抜くと、こっちがやられるわ」
好子「はあ・・・はあ・・・戦車ってこんなに大変なんだね・・・私、ちょっと甘かったみたい・・・」ゼーゼー
しほ(秋山の体力的に見て、撃てて後3発・・・いや、2発か。確実に当てる角度と距離まで詰めて、確実に1発で仕留めなければ・・・だが)
 チャーチル<ギャラギャラギャラ マチルダ<ギャラギャラギャラ
しほ「くっ・・・マチルダが邪魔でフラッグに近づけない・・・懐に潜り込むには、マチルダをどけるしかないか。秋山、あとでもう一度だけ装填してもらうぞ」
 クルセイダー<ギュオオオオン! ドッ! グワァン!
好子「うわー!撃たれてる!しほちゃん撃たれてるよ!」
しほ「わかってる!クルセイダーがうっとうしいが放っておく。弾が惜しい。フラッグを仕留める!」ギャラギャラギャラ!
39:
しほ「今だ五十鈴!撃て!」
百合「うつー」
 ティーガー?<ドッ! マチルダ<グワア! ・・・ポシュ
しほ「秋山!すぐに装填だ!一気に決める!」
好子「ううぅ?ん!」グググ・・・
旧ダージリン「砲撃!」ドワ!
しほ「!」グンッ
 ティーガー?<ガァン! ゴォン!
旧ダージリン「!・・・咄嗟に車体を斜めに・・・芯を外された」
しほ「秋山!無事か!」
好子「いてて・・・う、うん・・・すぐに入れるから。よい・・・しょお・・・」ググ・・・
好子「ふんんん???!」グググ・・・ガコン
好子「ぜー!ぜー!・・・い、いけるよ!」
しほ「五十鈴!撃て!」
五十鈴「発射!」
 ティーガー?<ド ッ !
40:
 チャーチル<ゴガン!
しほ「!・・・浅かっ――」
旧ダージリン「とったわ」
 チャーチル<ド ッ !
 グワァ!
 ティーガー?<・・・ポシュ
審判「ティーガー?、走行不能。聖グロリアーナ女学院の勝利!」
旧ダージリン「・・・ふう・・・まさかたった一輌相手に冷や汗をかかされるとは、少々不格好な試合だったわね・・・」
旧アッサム「あの子達がこれから腕を上げれば・・・今度はどう勝負が転ぶかわかりませんね」
旧ダージリン「ええ、本当に・・・少し期待してしまうわ。どこまでやれるようになるのか・・・フフ、楽しみね」
好子「・・・はあ・・・はあ・・・負けちゃったね・・・」ゼーゼー
五十鈴「でも、自分で言うのも何ですが、初めての試合で二輌撃破の成績は、よくおやりになった方ではないでしょうか。もっと練習して上手くなれば、次は勝てるかもしれませんよ!」
好子「そうだね。それに、初めは怖かったけど大砲を撃った時は感激しちゃったし、すごくわくわくしたよね。また試合をやってみたくなっちゃった。ね、しほちゃん」
しほ「・・・・・・ああ、そうだな。二人とも、初めてでよくやった。・・・・・・勝つことはできなかったが・・・よくやってくれたよ・・・本当に・・・」
41:
 ???
好子「後になってわかったけど、しほちゃんは私と百合ちゃんに、砲撃の感覚と試合の恐怖心に慣れさせるつもりで試合を組んだみたい。最初は誰でもおっかないものね」
好子「でも、試合が終わってからもしほちゃんは普通に振る舞ってたけど、血が出るくらい唇を噛み締めてたの。本気で勝つつもりだったんだってわかったわ」
好子「私はどうせ勝てるわけがないなんて思いながら試合に挑んだけど、しほちゃんは勝つ気だったの。それを知って、私も百合ちゃんも、本気でやらなきゃって思ったものよ」
沙織「・・・一瞬ダージリンさんが昔から高校生やってたのかと思ってちょっとびっくりしちゃった。聖グロの呼び名って受け継がれてるんだったね」
華「でもダージリンさんなら何十年も昔から高校生でも不思議ではありませんね」
麻子「不思議どころの騒ぎじゃないだろう」
みほ(お母さんも負けたことがあったんだ・・・)
優花里「それで、次はどこと試合を?」
好子「聖グロとの試合後一週間、しほちゃんからの連絡が無くなった。突然よ突然。何も言わずに音信不通になっちゃって、少しだけ不安になったけど、私も百合ちゃんもただただ待ってた」
好子「とにかく私達はそれぞれで戦車の練習や身体を鍛えたりしながらしほちゃんを待ってたわ。それでやっと、久しぶりにしほちゃんから連絡があったの。夏休みに入る前日だったわ」
沙織「なんて言われたんですか?」
好子「北に向かう、とだけよ」
42:
 ???
好子「一週間何の音沙汰もなくて、突然連絡が来たと思ったら北に向かうだなんて・・・今度は何をするの?まさかプラウダと試合とか・・・」
しほ「いいや、今日は違う。聖グロリアーナとの試合の後、新しい仲間に整備士を加えようと探していたんだ。西住流情報網を使ってな」
百合「まあ、そうだったのでございますか。私達もしほさんをお待ちしながら、きちんと鍛錬を積んでいましたのでございますよ」フンス
好子「そうそう。私もちょっとは筋肉ついたよ。それで、プラウダにいい整備士の人がいるから勧誘に行くって訳だね。どんな人なの?」
しほ「プラウダ高校一年、整備科に通う、井手上菊代という者だ。整備の腕は優秀だが、戦車道チームには属していない。我々はみだし者チームの仲間にうってつけだ」
好子「はみだし者って・・・まあ、野良戦車チームだからそうかもしれないけど・・・」
百合「なんだかお不良さんみたいでかっこいいですね!」
 ――プラウダ高校・戦車整備倉庫
 ジジジジジ・・・ ガコーンガコーンガコーン カンカンカン・・・
好子「おっきな倉庫だね。さすが大所帯のプラウダ。で、いてがみきくよさんはどこにいるのかな?」
百合「う?ん、鉄と油のニオイでいっぱいでございます。慣れてしまったらこのニオイがクセになっちゃいました」ウットリ
プラウダ整備士「あんれま?、あんたら他所モンだべ?こったらとこでなんしとるべさ?」
しほ「失礼だが井手上菊代という生徒はいるか?」
プラウダ整備士「あ?、井手上のツレだべか。おーい井手上?、お客さんが来とるべー」オーイ
 ジジジ・・・ ガチャ
菊代「・・・え?・・・・・・お客さん?・・・」
44:
しほ「突然訪れてすまない。私は黒森峰女学園一年の西住しほという者だ。こっちは秋山好子と五十鈴百合」
好子「あ、どうも」ペコ
百合「ごきげんようござんす。・・・あら?ごきげんよろしゅうでしたっけ?ごきげんよきにはからえ?」ハテ
菊代「?・・・はあ・・・あの・・・どちら様でしょうか?・・・知り合いじゃないですよね?・・・」
しほ「私達は今、自分達だけで戦車道のチームを作っている。戦車もちゃんとある。だがいかんせん戦車の整備に明るい者がいない。君の技術は折り紙つきと聞いてはるばる来た」
菊代「・・・はあ」
しほ「これからティーガーで全国の戦車道チームと戦うつもりをしている。そしていずれ、黒森峰に勝つ。君にも私達の仲間に加わってほしい。全国の猛者達と戦うには君が必要なんだ」
菊代「・・・あの・・・よくわからないというか・・・何の話なのか・・・いえ、遠慮します。けっこうです。お断りします」
好子(まあそうだよね。普通はそうだよね。私も百合ちゃんもよく話に乗ったなあ)
しほ「・・・君のことを調べさせてもらった。部活にも所属せず、校内でも友人を作ろうとしない、塞ぎ込んで黙々と整備ばかりしているらしいな」
菊代「!・・・」
しほ「朝起きて、授業を受けて、戦車をいじって、寝て、起きての繰り返しだけの毎日・・・成績こそ問題ないが、あまりにも独りだからと教師達も故郷の御両親も心配しているぞ」
菊代「・・・」
45:
菊代「・・・関係ありませんよね、あなたに。突然現れて人の人生にケチつけるなんて、非常識を通り越して失礼です」プイ
しほ「無礼は詫びる。おせっかいだとは思うが、これでも君のことを気にかけているんだ。技術を買って来たが、調べている内に君のことが心配になったというのもあるんだ」
しほ「なにも学校をやめてチームに加われと言っている訳じゃない。だが君がなぜ人との関わりを拒絶し、戦車の整備ばかりしているのか疑問で、気がかりなんだ」
菊代「・・・私には何も秀でたものが無いんです。手先が器用なくらいしかないから、今の内に整備の経験を積んでるんです。学生の内から何もせずに遊んでると働き口が無くて困るから・・・」
菊代「高校で整備の腕を磨いてたってなれば、就職の時に有利かも知れないし、いつか資格も取れるかもってがんばってるんです。私なんかに遊んでるヒマなんて無いんですよ・・・」
菊代「貴方達と一緒に戦車道やったって、何も残らないじゃないですか・・・強いチームに勝ったらお金がもらえるんですか?仕事がもらえるんですか?後で虚しくなるだけですよね」
しほ「そうは思わない。君は今のままでいいのか。友人も無く、無機質な機械のように毎日を過ごして・・・それでいいのか」
菊代「・・・私だって楽しく高校生活を過ごしたいですよ。友達とおしゃべりしたり遊んだりして、幸せになりたい。でも人と関わるのが怖いんです・・・嫌われたらどうしようって・・・怖くて」
菊代「最初から誰とも関わってなければ、嫌われることもないから・・・私なんて賢くもないし面白くもないし・・・どうしたらいいかわからないし・・・一人でいる方が気が楽だし・・・」
菊代「あなた達はいいですよね・・・友達がいて、何の心配もなくて、幸せそうで・・・私だって、あなた達みたいに幸せだったら・・・毎日楽しいんだろうな・・・」
好子「・・・」
しほ「・・・・・・歯をくいしばれ」
菊代「え?」
しほ「西住流平手打ちぃ!」バシコーン!
菊代「いでがみぃー!?」ブアシー
好子「し、しほちゃん!?なにするの!?」
46:
しほ「人を羨むな!!! 人を羨むということは自分を否定するということだ!」
しほ「そんなんじゃあミジメな人生を送ることになるぞ!人は人!自分は自分!幸せになりたいと思うことは構わない!だがそれは人と比べるようなことではないんだ!」
しほ「人生全ての答えは己の中にあるんだ!!! わかったか!!!」
菊代「っ・・・!」
しほ「・・・もし学生を卒業して、行く当ても無く、働き口も無いというのなら、私の所へ来い。私が面倒を見てやる」
しほ「今の私達にはお前が必要だ。これから無茶なことばかりすることになるだろうし、それが就職の役に立つようなこともないだろう。だが、きっと楽しくなる」
しほ「どうせなら、楽しい学生生活を送ろう。大人になって、子供の頃は無茶をやったなと笑えるような青春をな。友達として、仲間として、一緒に戦車道をやろう、菊代」
菊代「っ・・・・・・は、はい・・・」
好子「・・・!」
百合「あらあらまあまあ・・・」
47:
 ???
華「あらあらまあまあ」
沙織「すっご?い!みぽりんのお母さんおっとこ前?!『私の所へ来い!』なんて言われたら女子なら誰でもオチちゃうようね?!」ヤダモー
みほ「菊代さん、昔は随分印象が違ったんだぁ・・・」
麻子「知っているのか?」
みほ「ウチのお手伝いさんなの。忙しいお母さんの代わりによく私とお姉ちゃんの面倒を見てくれてたんだ。西住流だったとかお母さんと戦車道してたってチラリと聞いてはいたけど・・・」
優花里「じゃあほんとに西住流家元の所へ行ったんですね」
好子「しほちゃんの強引さは肝が冷えるくらいだったわ。ほんとに無茶ばっかりやってたもの・・・」
沙織「でも女は強引な人に弱いものですよね!」
麻子「それは・・・」
好子「プラウダで戦車の整備部品をいくつか買い込んでから、西住流の邸宅でティーガーの本格的な整備をすることにしたの。でも、そこで大きな問題に直面したの。戦車道出来なくなるような大問題よ」
麻子「単位が足りなかったのか」
沙織「麻子じゃないんだから。きっと男子から告白されて困っちゃう?♪ってヤツでしょ!」
好子「お金よ」
沙織「うわっ」
48:
 ――西住邸・戦車整備倉庫(片隅)
菊代「これで整備は完了しました」フキフキ
しほ「ありがとう菊代。助かったよ」
菊代「いえ、しほさんと皆さんのためならこれくらい軽いものです」
しほ「試合中も戦車に乗ってくれるか。ティーガーは足回りが故障しやすいし、試合中にも整備してもらうことがあるかもしれないしな」
菊代「はい、お任せください」
好子「菊ちゃん、友達がいないとか言ってたから心配だったけど、普通に人付き合いできるね」
菊代「私も驚いています。皆さんが話しやすい方々で助かりました」ニコ
百合「こちらこそ、お人の良い方でお助かりになりました」ペコ
しほ「プラウダで買ってきた部品も使い切った。なるべく戦車を壊さないようにしよう。今まで貯めてきたおこづかい貯金の軍資金がもうない」ションボリ
好子「私と百合ちゃんが出した分ももう底をついたんだよね・・・アルバイトしないとなぁ。授業の一環なら学校からお金が出るのに・・・」
百合「私は生活費もあるのでアルバイトをしていますが、これからは戦車道用の資金を稼ぐためにも今まで以上にがんばります!」フンス
しほ「資金の問題もなんとかしないとな。それと、皆に紹介したい者が――」
 「センパ?イ!」ダダダ! ドッ
しほ「るぐぉ!」ズム
49:
菊代「し、しほさん!」
好子「突然現れた女の子が背後からタックルを・・・大丈夫?しほちゃん」
しほ「ぐ・・・平気だ・・・西住流はへこたれない」ググ・・・
 「あー、すみませんセンパイ。ついテンション上がってドーンしちゃいました」テヘ
百合「こちらの方はどちらの方でしょう?」
しほ「ああ・・・今紹介しようとしていた者だ。少し元気すぎるというか、大ざっぱな所がある奴だが・・・自己紹介を」
 「はぁい!」ザッ
蝶野「わたくし、西住しほセンパイの第一の舎弟にして、サンダース大学付属中学校二年生、蝶野亜美でございます!どうぞよろしくしてやってください!」ビシッ
好子「しゃ、舎弟!?」
百合「まあ、中学生の方なのですか?」
蝶野「はい!自分、昔は多少荒れていまして、野良犬同然の生活をしていたところ、西住センパイに目をかけてもらって、お世話してもらってマトモになったんです!」
菊代「困っている人を放っておけないとは、さすがしほさんですね」
好子「野良犬同然って・・・荒れてたってレベルじゃないよね」
しほ「世話と言っても大したことなどしていない。そして、これからは蝶野にティーガーの操縦手をやってもらう」
 好子「えっ!」 百合「えっ」 菊代「え!」 蝶野「え?」
しほ「蝶野、お前は知っているのだから驚くことないだろう」
蝶野「あ、そうでした」テヘ
52:
好子「この子も仲間に加わるってこと?中学生なのに大丈夫?」
しほ「我々は等級に関係ない自由なチームだからな。それに、蝶野の操縦の腕は本物だ。高校を含めても上位に入るだろう。操縦だけならな」
蝶野「そんなヨイショしないでくださいよ?照れますよセンパイ?」デヘヘ
しほ「私は操縦手をやるより、車長の方が性に合っている。これで我々のチームも、やっと役者が揃ったというわけだ」
百合「しほさんが車長、好子さんが装填手、菊代さんが整備士、亜美さんが操縦手、私が砲手で、本格的に始動するというわけですね」
しほ「これから毎日戦車道の練習をするぞ。夏休みに入ったから集まりやすいし、学校を気にすることもない。試合の申し込みもどんどんやっていくつもりだ」
好子「練習もしなきゃだけど、お金もなんとかしないとね。砲弾だってタダじゃないんだから。私もアルバイト始めるよ」
しほ「む・・・私も家の手伝いをしておこづかいをもらうか・・・菊代、うちの整備の仕事を手伝うといい。勉強になるし、賃金ももらえるようにしよう」
菊代「はい。学校の方の整備の仕事は夏休みで自主参加なので、こちらに専念させてもらいます。皆さんの足を引っ張らないように善処します」
百合「わたくしも早明日からピザ屋さんのアルバイトと割烹のアルバイトのシフトを増やします!がっぽがっぽ稼ぎますよ?!」フンス
蝶野「私もその辺で戦車レースにでも参加して賞金稼いできます!」
好子「よーし、なんだかやれそうな気がしてきた!みんなで一緒にがんばろう!」
しほ「さあ、これから嵐のような毎日になるぞ。どうせなら、息が切れるまで走ろう。私達みんなで、どこまでもな」
57:
 ???
華「教官まで出てくるなんて・・・」
麻子「もう何が出てきても驚かんぞ」
優花里「蝶野教官、見た目以上に歳いってるのかな。お母さんと二つ違いには見えないけど・・・」
好子「ほら、あの子、西住流触ってるから」
沙織「いよいよもって西住流ってなんなの・・・」
みほ「でもこれでやっと操縦手も整備士も揃ったから、お母さん達の快進撃がはじまるんですね」
好子「いいえ、その後も負けっぱなしよ」
みほ「えっ」
好子「世の中そんなに簡単じゃないの。高校一年や中学生が集まって作った急造チームが、毎日懸命に練習してる高校生チームにすぐに勝てるなんてことはなかったわ」
好子「いくらしほちゃんがすごくても、百合ちゃんに砲撃の才能があっても、菊ちゃんの整備が良くても、亜美ちゃんの運転が上手くても、簡単にいくものじゃなかったの。アニメじゃないんだから」
麻子「アニメじゃないのか」
好子「試合を申し込んだマジノ女学院、知波単学園、サンダース・・・三戦三敗と負けこしたわ。試合をするにも燃料や砲弾でお金が消えるし・・・戦車の修理にも・・・」
沙織「いいことないじゃん・・・」
華「世知辛いですね」
58:
 ???
 ――戦車喫茶〈ルクレール〉
好子「う???ん・・・・・・」アタマヲカカエル
蝶野「で!で!ここで私がグルグル戦車回すんで!五十鈴センパイもここでドッカンドッカン撃ってください!360度全方位に砲撃!いい作戦っしょ!」
百合「まあ、なんと破天荒な。ぜひ次のお試合でお試ししてみましょう」
菊代「うまく相手に当たるといいですね。ところで秋山さん、何故頭をかかえて唸っているんですか?」
好子「資金繰りだよ資金繰り!私達カツカツだよ!このチームの家計は火の車なの!」ワーン
蝶野「! ヒラメいた!ティーガーに火を点けて敵陣に突っ込めば相手もビビるんじゃないスかね!」
菊代「それならきっとどんな相手でも逃げだすね、亜美ちゃん」
好子「ダメダメダメ!戦車の修理費だってバカにならないんだから!皆の持ち金集めてやっと綱渡り状態なんだよ・・・このままじゃ試合もできなくなるよ・・・」
百合「それはまずいですね。ここは一丁、金融機関さんにお殴り込んで、有り金をごっそり頂戴するというのはどうでしょう。きっと私の親にもご迷惑がたくさん・・・」
 ガチャ カランカラ?ン
しほ「待たせたな」
菊代「しほさん!お疲れ様です。どうでした?お家の方は」
しほ「こってり絞られたよ。お母様はまだしも、周囲の大人達はカンカンだ。西住の名を継ぎながら邪の道を進むとは、なんと嘆かわしい・・・とな」
59:
蝶野「なんの話スか?」
しほ「ティーガー一輌で高校戦車道チームに試合を挑む謎の混成チームとして、我々の存在も多少名が知れてきた。おかげで西住流や戦車道連盟のお偉いさんの耳にも入ってな」
しほ「非公認の野良チームを結成し、試合をけしかける我々は大人達にとっては面倒の種でしかないらしい。連盟の管理管轄が行き届いていないと批判されかねないからな」
しほ「しかも、負け越している。西住流にとって勝利こそ全てなのにも関わらず、目立つ行動をしているクセに黒星を重ねるなど、西住の名に泥を塗っているだけだと叱られた」
百合「なんと!親御さんに叱られるとは・・・なんとうらやましい!」イイナー
しほ「お母様は私の真意を悟っているのか何も言わないが、周囲のお偉い連中が目くじらを立てている。だが大人達の批難が私に集中しているだけだから、皆は心配することはない」
菊代「真意・・・?」
好子「それよりしほちゃん!これ見てよ!私達チームの家計簿!このままじゃ資金が無くなって夏を乗り切れないよ!」
しほ「なに?・・・む・・・安心しろ。私が稼いでやる。昨晩もお母様の肩をトントンしておこづかいをもらった。ほら、千円」ピラ
好子「なしのつぶてだよ!お金が無いから行くとこもなくて、今日もこうやってコーヒー一杯で喫茶店に入り浸って!女子高生なのに!」
しほ「落ち着け秋山。そこまでチームの家計を心配してくれていたとは、きっといい母親になるな。ははは」
好子「カラカラ笑ってる場合じゃないよ!しほちゃんだと上手くやりくりできっこないから私がしっかりしなきゃならないの!言いだしっぺなのにもっとキチンと考えてよ!」
しほ「す、すまん・・・」
60:
菊代「整備のお手伝いで稼いだお金も全て献上してますが、やはり厳しいようですね」
蝶野「私も戦車レースで稼ごうと思ったけど、レースなんかなかったんで稼ぎがないです!スンマセン!」
百合「私のアルバイト先のピザ屋さんにアンツィオ高校のおドゥーチェという方がおられたので、試合をさせてもらえないか尋ねたのですが、延期してもらうべきでしょうか」
しほ「ダメだ。せっかく試合を組めるならやる方がいい。少しでも経験と技量を積まねば」
好子「でも試合となると燃料も砲弾も修理費もかかるし、移動の交通費とか宿泊費とか食事代とか色々かさばるんだよ。ホイホイやるわけにはいかないよ」
しほ「・・・そんなにかかるのか」
好子「いいよね何にも考えないで戦うことしか考えてない人は!気楽で!」
しほ「め、面目ない・・・」
菊代「せっかくのチャンスなのに、どうしましょう・・・」
 一同『う???ん・・・・・・』
 ガチャ カランカランカラン
 「フフフ・・・お困りのようね」
好子「?・・・」
しほ「!・・・・・・き、貴様は!」
千代「お久しぶり、西住しほさん」
61:
しほ「ちよきち!」ガタッ
千代「千代よ!島田千代!名前くらいちゃんと呼びなさい!」キッ
菊代「しほさんのお知り合いですか?」
しほ「・・・こいつは島田流家元の子だ。家柄のこともあって昔から何度か面合わせしたことがあってな・・・」
千代「あらあらしほさん、まだそんな喋り方をしてたのね。中学に入ったころから男みたいな口調で・・・格好つけてるつもりかしら」
しほ「五月蠅い。何しに現れた。今の私はお前にかまってやるほど暇じゃない」
千代「フフ・・・相変わらず威勢だけはいいのね。しほさんが無茶なことばかりをしていると聞いて、一体どういうおつもりなのか問い質しに来たの」
百合「あら、てっきりしほさんのピンチにお助けにご登場なさったのかと思いましたのに」
千代「ななななな!なんで私がしぽりんを助けなきゃならないのよ!けけけ見当違いも甚だしいわ!私はただ嘲笑いに来ただけよ!あー面白いおもしろい!」オホホーノホー!
菊代「?」
百合「まあ、しほさんのお友達かと思ったのですが、いじわるなお方なんですね」
しほ「友達じゃない!」キッ
千代「友達じゃないわ!」キッ
62:
蝶野「なんだかセンパイと同年代とは思えないくらいダンディーッスね」
菊代「大人っぽいって言いたいの?」
好子「・・・しほちゃん、ちょっと」チョイチョイ
しほ「なんだ。友達じゃないぞ、ちよきちとは」
好子「ねえ、物は相談なんだけど、この人もチームに入ってもらうのってどうかな?」
しほ「なんだと!?こんなイヤミったらしい傲慢ちきで勝手で老け顔で成り金女など兆害あって一利なし!」ヤメトケヤメトケ!
好子「島田流家元の子ならきっとけっこー小金を貯め込んでるはずだよ。私達が戦車道を続けるためにはスポンサーが必要・・・¥」
しほ「・・・秋山・・・お前案外・・・」
好子「それに、本心ではしほちゃんのこと心配してるっぽいし・・・それに島田流の家元の人なら戦車も上手なんでしょ?チームのためチームのため」
しほ「くっ・・・確かに・・・仕方ない。心の奥から不本意だが・・・」
63:
しほ「ちよきち」ザッ
千代「な、なによ・・・」ビクッ
しほ「・・・」
しほ「やっぱヤだ」プイ
好子「しほちゃん!お金のためお金のため!」
しほ「お前もそれでいいのかそれで・・・」
菊代「千代さん、本当はしほさんに何かお話があって来たのではないですか?」
千代「うっ!・・・鋭い・・・」
好子「菊ちゃんナイスアシスト!」
千代「・・・ま、まあ大した話で来たわけではありませんわ。しほさんのお話が耳に入って・・・あなた達、悪い意味で有名になってるのよ。戦車道界隈じゃちょっとしたニュース扱い」
菊代「それでなぜわざわざここに来たんですか?」
千代「・・・今は関係者の間でしか話題になってないけど、偉業を成し遂げれば世間一般にも知れることになるわ。どんな競技でも型破りな選手が活躍すれば、世間からも注目されるもの」
千代「今や戦車道は知名度の低いマイナーな武芸扱いされているけれど、あなた達が名を広めれば世の中の人々の目を引き、戦車道そのものの一般認知度が上がる・・・」
千代「これでも私は戦車の世界に生きる身として、戦車道の未来を案じてるのよ。あなた達にはもっと人の目を引き付けるような活躍をしてもらわないと困るの。そこで・・・」
千代「この島田千代、あなた達と一緒に戦車道をやってみようかと思うの」
しほ「なんだと!?」
64:
千代「勘違いをしないでちょうだい。しほさんを助けるなどというつもりは毛頭ないわ。これは戦車道の未来のためよ」
百合「まあ、心強い助っ人さんということですね」
菊代「千代さんも仲間に加われば鬼に金棒ですね。そうですよね?しほさん」
しほ「・・・・・・仕方ない。いいだろう。ちよきち、お前にも役に立ってもらうことにしよう。ただし、足を引っ張るようなことはするなよ」
千代「ご心配なく。やるならせいぜい大きなことをやりましょう。前人未到の偉業を成し遂げれば、戦車道の人気再燃に繋がるもの」
好子「資金難は解決・・・これでなんとかやっていける・・・!」ウルウル
蝶野「チヨセンパイ!よろしくしてやってくださいよぉ!」バンバン
千代「痛いっ・・・ふ、ふん。あなた達は戦車道再盛という私の崇高な目的のために利用されるのよ。勘違いしないようにね」
蝶野「はーい!せーぜー利用されまーっす!ところでー、私気になってるんですけどー西住流と島田流ってどっちが強いんでしょかねー」
しほ「ははは、そりゃ西住だ」
千代「おほほ、島田に決まってるじゃない」
しほ「・・・」ギロ
千代「・・・」ギラ
好子「亜美ちゃん、その話は今後一切しないで」
65:
 ・ ・ ・
 ティーガー?<ギャラギャラギャラ!
しほ「左に旋回!車体を斜めにして砲撃を受け流し、次弾装填の好きを狙って反撃だ!」
千代「右に旋回よ!後方の敵に注意しつつ前方の敵陣の間を突き抜けて一気にフラッグまで辿り着くの!」
蝶野「どっちなんですかぁ!」ギャラギャラギャラ
しほ「ちよきちぃ!貴様何をやっている!」
千代「何って指示を出してるのよ!」
しほ「車長は私だ!」
千代「いいえ私よ!」
しほ「やいの!」
千代「やいの!」
 しほ&千代『ヤイノヤイノヤイノヤイノヤイノ!』
好子「二人とも!やいのやいのと言い合っている場合じゃないよ!」
 ファイアフライ<ド ッ ! \ドグワァァン!/
 ティーガー?<シュポッ
審判「ティーガー?、走行不能!よって、サンダース大学付属高校の勝利!」
66:
蝶野「だー!また負けたー!」クヤシー
しほ「ちよすけぇ!貴様我々の邪魔をしに来たのか!そもそもティーガーの乗員は5人だ!」
千代「あなたこそ何よ!無茶な指示ばかりだして!」
しほ「やいの!」
千代「やいの!」
好子「いい加減にしなさいっ!二人とも仲良くできないなら戦車から降りて!」
しほ「でもちよちよ丸が・・・」
好子「仲間同士でケンカしてなにが戦車道よ!二人とも反省しなさい!」
しほ「う・・・す、すまん・・・」ショボン
好子「しまちょんも!いいわね!?」
千代「しま・・・私は島田千代・・・」
好子「いいわね!?」クワ
千代「・・・・・・はい」ショボン
蝶野「秋山センパイこっえー!」ケタケタケター
サンダース生徒「・・・なんだか向こうのチーム、もめてるみたいですね」
サンダースリーダー「HAHAHA!一輌で私達とここまでやるなんて大したモンだと思ったけどチーム内でケンカまでしてるとは!あの子達大物になるかもね!HAHAHA!」
67:
 ――戦車喫茶〈ルクレール〉
好子「な”ん”た”って”ぇ!?お金持ってないの!?」
千代「語弊がある言い方をしないでちょうだい。島田流はお金持ちよ。ただ私は月に五万しかお小遣いをもらえないの」
しほ「ご、ごまん・・・だと・・・」ワナワナ
好子「そんなー!札束で履帯作れるくらいたんまり持ってると思ってたのに!戦車の消耗品を揃えるのに五万くらいじゃ結局カツカツ生活だよー!」
菊代「そう嘆かないでください。それでも戦車道を続けられるだけありがたい額じゃないですか」
好子「そりゃそうだけどね・・・しまちょんもっと持ってると思ってたから・・・」
千代「あなたが私のことを単なる財布としか見ていなかったことがよーくわかりましたわ」
しほ「ごまんえんも・・・貴様ちよきちぃ!そんな大金を高校生風情が持ち歩いて!誘拐されても知らんからな!ちくしょうめ!」
千代「なにを怒っているのしぽぽん」
しほ「うるさい!この歩く身代金め!島田流なんかだいっきらいだ!バーカ!」
好子「しまちょん!お小遣い前借りしてきて!」
百合「おスネかじり虫!憧れます!」
菊代「コーヒー来ましたよ。お砂糖入れます?」
蝶野「分身の術見せてくださいよ!分身!」
千代「なんなのよ!なんなのよあなたたち!」
68:
 ・ ・ ・
 \ドグア!/
 ティーガー?<シュポッ
審判「ティーガー?、走行不能!よって、アンツィオ高校の勝利!」
アンツィオ統帥「ぅわーっはっはっは!やはり我々はつおいっ!あのティーガー戦車に勝利したぞー!今夜は皆でパーティーだ!」ソーレソレソレドドンガドン♪
アンツィオ生徒P「ウチのP-40重戦車の玉砕アタックのおかげッスよね。完全にブっ壊れちゃいましたけど」
アンツィオ生徒K「もうけっこう古いものだったし、買い替えないといけませんね。これからは貯金しましょう。おやつの回数も減らさないと・・・」
アンツィオ統帥「な、なんだとぉ?!?アンツィオ名物のおやつを減給だと?!?おのれ?あの野良虎め?!今度試合する時は覚えてろ?!」プンプン
百合「なんだかアンツィオのおドゥーチェさん、勝ったのに悔しそうにされてますね」
菊代「勝つために多大な犠牲を払ったからですかね」
千代「なによしぽりん!ぜんっぜん勝てないじゃない!」
しほ「五月蠅い!無駄に負けている訳じゃない!我々にとっていい経験になっているはずだ!」
千代「そんなこと言っても――」
好子「二人とも」
しほ「っ・・・ちよすけ、今は言い争うのはやめよう・・・」
千代「・・・そうね・・・この子怒らすと怖いし・・・」
69:
 ――戦車喫茶〈ルクレール〉
百合「ご覧になってください。戦車シミュレーションの砲撃スコアで満点を獲得しましたよ」フンス
 しほ&千代『おお???』
好子「私だって装填所要時間が前回のスコアの半分以下になったよ!」ブイ
 しほ&千代『おお???』
蝶野「自分、大洗の伝説の飛ばし屋こと、音銀婆(クイックシルバー)の異名を持つ冷泉さんに弟子入りして、操縦テクを学んできました!」
 しほ&千代『おお???』
菊代「私、西住家の整備倉庫で子供の頃のしほさんの写真を見せてもらいました」
 しほ「なんだと!?」
 千代「わー、見せて見せて」
菊代「これです」
好子「わあ・・・10歳くらいかな?」
蝶野「アハハハハ!センパイが幼女ー!」ケタケタケター
しほ「笑うな!お前だって子供だったことくらいあるだろ!」
百合「あら、こちらの方をご覧ください。背丈は子供なのにおヒゲをはやしておられますわ」
菊代「たぶんこれ髭じゃなくて黒ずみですよ。写真の場所が整備倉庫だし、きっと汚れたんですよ」
好子「しほちゃんと同じくらいの年齢かな?友達?」
しほ「ああ・・・懐かしいな。そいつは西住家に専属で就いていてくれた整備士の息子で、たしか・・・常夫という名だったな」
70:
千代「まあ、しほさんったらこんな小さな時からボーイフレンドがいたなんて・・・随分マセてたのね」
百合「なんと!しほさんは意外とお遊び人だったのですね」
しほ「そんなんじゃない!よく父親の仕事について来ていてな、同年代ということもあって一緒に遊んだりもしたが、今ではどこにいるのかわからない」
好子「どうして?」
しほ「西住家とその父親の整備士の契約期間が切れて、別の所で整備士の仕事を続けていると友人のツテでは聞いている。息子の常夫も整備士になったとか」
しほ「あの子は、大きくなったら整備士になって、自分が整備した戦車が日本一になるのが夢だとよく言っていたよ。今でも同じ夢を追っているのかもな」
菊代「もうお会いにならないんですか?」
しほ「まさか。会う必要もないし、理由もない。達者でやっているならそれでいいさ」
千代「ふーん、私も子供の頃たまーにしほさんの家に行ったことがあるけど、知らなかったわ。しほさんは昔の男のことなんかどうでもいいのね」
しほ「そんなんじゃないと言ってるだろう!貴様こそ子供の頃は私の後ばかりチョロチョロ追いまわしていたクセに!」
千代「なななななな!そんな昔のことを引きださないでよ!」
しほ「常夫を見ても『おとこのことおはなしするのこわーい』と言って逃げ出したのを覚えているぞ!今では男の尻を追いかけているのか知らんがな!」
千代「そそそそそそんなことないわよ!私は純愛タイプだし・・・というかそんなこと言ってないわよ!昔のことをねつ造しないでちょうだい!」
菊代「あ、コーヒー来ましたよ。砂糖入れる人ー」
 好子「はーい」 百合「わたくしモーモーさんのおちちも欲しいです」 蝶野「菊ちゃんセンパイ!スティック10本ください!」
 しほ&千代『ヤイノヤイノヤイノヤイノヤイノ!』
71:
 ・ ・ ・
 \ドワオ!/
 ティーガー?<シュポッ
審判「ティーガー?、走行不能!よって、継続高校の勝利!」
百合「あらら・・・もう少しでしたのに・・・」
菊代「でもいい試合でしたね!きっと次は勝てますよ!うん!いけるいける!」
しほ「・・・」
千代「確かに前より操縦も砲撃も装填も精度が上がっているし、試合中のエンジントラブルにも即座に対応できてた。ポテンシャルはいいんだけど、一輌だけなのがどうもね・・・」
継続高校隊長「いい試合だったね。たった一輌だと油断しなくて良かった。ウチの皆にもいい経験になったと思うよ。また試合をしてくれるかい?」スッ
しほ「はい。もちろんです。こちらもいい経験になりました」グッ
継続高校隊長「では、これで」ソッ・・・
好子「ちょっと待ってください。それウチの戦車の部品です」
継続高校隊長「・・・気付くとはさすが、目の付けどころがいいね」
好子「・・・私達、きっと通ずるところがあると思うんです。お互い大変ですよね・・・」ポロポロ
継続高校隊長「・・・そうだね・・・大変だよ・・・本当に・・・」ポロポロ
蝶野「二人とも、なんで財布持ったまま泣いてんですか?」
72:
 ――試合の帰り道・・・
 雨<ザー・・・ザー・・・ザー・・・
好子「わー!走って走ってー!」タタタ
千代「まったく!ガス欠の戦車を置いて豪雨の中を走るハメになるなんて!どうして私までこんな目に!」タタタ
蝶野「仕方ないッスよー。修理代がかさんだんでガソリン代もケチってたんですからー」タタタ
菊代「あ、あれです!あれが予約してる下宿です!」タタタ
しほ「ふう・・・ずぶぬれになってしまったな」ボトボト
千代「こんな小さな下宿に押し掛けることになるとは・・・もっと少しでもいいホテルとか無かったの?」
好子「仕方ないよ。資金面の問題でね・・・今日の試合会場と明日の会場が近いから、ここで泊まるのが最善だったし」
千代「はあ・・・明日はボンプル高校とコアラの森学園と連戦、その前に朝の内に燃料を給油しに行かなくちゃならなし・・・こんなに大変だとは思ってなかったわ・・・」
蝶野「えーいいじゃないですかぁ楽しいし!明後日はBC学園と自由学園の連合と試合で、その次は青師団高校、ヨーグルト学園、ワッフル学院と三連戦ですよ!」ワクワク
菊代「かなりハードなスケジュールですけど、がんばりましょう!」フンス
73:
千代「はぁ?・・・サッパリしたわ」ホクホク
菊代「千代さん、明日の着替えも用意しておきました。皆さんの布団も敷いてます」
千代「まあ、ありがとう菊代さん。随分気が利くのね」
しほ「そうだろうそうだろう」フフン
千代「なんであなたが得意げなのよ。菊代さんのお守りがないと何もできないからかしら」
 しほ「なんだと!」 千代「なによ!」
好子「また始まったよ・・・いい加減に仲良くできないのかな」
百合「ケンカするほど仲がよろしいという奴ですね」
蝶野「センパイ方!やり合うならコレっしょ!枕アターック!」ボフン
しほ「むぶっ!・・・蝶野・・・貴様いい度胸だな・・・私の顔面に喰らわすとは・・・」
千代「わぶ!・・・島田流枕投げ術をお見せしてあげるわ・・・!」
蝶野「はっ!あわわ・・・センパイが怒髪天モードに!好子ちゃんセンパイ、百合ちゃんセンパイ!菊ちゃんセンパイ!お助けくださいー!」
好子「任せて!しほちゃん、しまちょん、中学生をいじめたりしたらダメだよ!」
 しほ「うるさい!一斉撃ち方!」ボフー 千代「破ー!」ボフー
好子「ぐえへー!」
蝶野「好子センパイよっえー!」ケタケタケター
百合「わたくしもお混ざります!昔からまくら投げってやってみたかったんですー」
菊代「ああ、皆さん・・・そんなに騒いだら外まで聞こえますよ」
 <ドリャー! ボフ!
菊代「ぼへ!・・・・・・やりましたねー!」
 \クラエー!/ \ナンノー!/ \ギエピー!/ \ダッシャー!/ \コノヤロー!/
 \ワハハハハハ・・・/
77:
 ???
好子「――結局、その日は朝まではしゃいで眠ったわ。次の日も試合で、急いで帰ってアルバイトに向かったの。終わってからまた次の試合の準備をして・・・もう毎日ヘトヘトよ」
華「なんだか、とても楽しそうですね」
麻子「・・・・・・待ってくれ・・・大洗の飛ばし屋の・・・冷泉って・・・」
好子「詳しく知らないけど、亜美ちゃんが言うにはけっこうなお歳の方だったそうよ」
麻子「・・・詮索しない方がいいかもしれない」
沙織「で、でも戦車喫茶がそんなに昔からあったなんてビックリだね」
好子「今ほど大きくて立派じゃなかったけどね。皆の溜まり場というか、丸一日入り浸って作戦会議やお喋りをしてたわ」
沙織「高校生らしいのかそうじゃないのか難しいところだなぁ」
みほ「本当に色んな高校と試合をしたんですね」
好子「ええ、日本中をあっちに行ったりこっちに行ったりしてね。戦車で帰る途中に燃料が切れて、道端に戦車を停めて、車内で眠ったこともあったわ」
沙織「やっぱり高校生らしくないや」
78:
好子「とにかく連続花火みたいな毎日だったわ。試合して、練習して、アルバイトして、また試合して・・・無茶なことばかりしてたって今でも思う」
みほ「・・・とても大変だったんでしょうね」
好子「大変だったわ。でも生きてる手応えがあった。身体中でその瞬間を・・・時を感じている気がした」
好子「お金は無かったし、この先どうなるかなんてわからなかったけど・・・立ち止まってる暇もないくらい無我夢中で、全力疾走みたいな毎日で・・・楽しかった」
優花里「・・・」
華「青春っぽくていいですね」
沙織「男の子とのロマンスがあれば言うことナシなんだけどなー」
麻子「ところで、ずっと気になっていたんだが・・・黒森峰の戦車を盗んで問題にならないものなのだろうか?」
みほ「そういえば盗んだ戦車だったね」
好子「ええ、今まで何も言われなかったけど、私達の前にとうとう黒森峰の人が現れたの・・・」
79:
 ???
 \グワア!/
 ティーガー?<シュポッ
審判「ティーガー?、走行不能!プラウダ高校の勝利!」
プラウダ指導者「ふう・・・何とか勝てたけど・・・我がプラウダがここまで追い詰められるなんて・・・ウチのドクトリンを見直す必要があるわね」
しほ「ありがとうございました。いい試合ができました」
プラウダ指導者「こちらこそ。正直侮っていたけど、いい経験になったわ。また試合してあげてもいいわよ。そっちがやる気ならね」
しほ「是非」
菊代「私達、プラウダの隊長さんに認められるようになるなんてすごいですね。厳しい方で有名なんですよ。下手した者はしゅくせーされるって」
百合「まあ、厳格でへそ曲がりな鬼隊長さんにお褒めいただいたということですね」
 プラウダ指導者「聞こえてるわよ!」
好子「あーあ、もう少しで勝てたんだけどなぁ・・・でもまた試合させてもらえたら今度こそは勝てるかもね」
黒森峰生徒A「ちょっと、それってウチの戦車でこれからも続けるってことかしら?」ザッ
好子「!・・・ゲッ・・・く、黒森峰の・・・どうしてここに・・・」
黒森峰生徒B「それ、ウチの戦車よね?どういうことか説明してもらえるかしら?西住しほ」
80:
しほ「先輩方、お久しぶりです。プラウダと我々の試合を見学に来ていたのですか?」
黒森峰生徒A「練習に顔出さないから戦車道辞めたのかと思ったけど、まさか戦車を盗んで勝手なことをやっていたなんて!あなた達の話を聞いて駆け付けたのよ」
黒森峰生徒B「見回り番の子が、戦車が自我を得て脱走しただなんて言ってたけど、あなた達が盗んでたのね。おかしいとは思ったけど・・・」
百合「どうやらバレてしまったようですね」
好子「バレなかったのが不思議だけど・・・」
菊代「えっ、盗んだって・・・」
蝶野「この戦車、黒森峰からパクったんですか?さっすがセンパイ!」
千代「しぽりん・・・あなた・・・」ヒキッ
しほ「盗んだのではない。使われていないものを借りただけだ。私も黒森峰の生徒なのだから権利はある」
黒森峰生徒A「そんな言い訳――」
 「待って、私が話すわ」
黒森峰生徒B「!・・・隊長」
しほ「・・・お久しぶりです、逸見隊長」
逸見「説明してもらえる?あなたは何が目的で、何をしているのか」
81:
蝶野「あわわ・・・黒森峰の逸見隊長だ!西住流の門下生でめちゃ強い3年生!黒森峰を今までよりずっと強くした人!」
百合「そんなにおつおいのですか?」
蝶野「西住流の中でもエリートなんですよ!黒森峰を初の全国優勝に導くんじゃないかって言われてるんス!」
しほ「以前隊長に進言した通り、現在の黒森峰の理念に異議があります。ですが聞き入れてもらえないようなので、自分達だけで自分達のやり方を貫こうと」
逸見「やりたいようにやっている・・・という訳ね。戦車の件はいいわ。確かに使われていなかった戦車だし、自分達で修理したみたいだものね」
逸見「でもあなた達の暴走はさすがに私達も放ってはおけないわ。黒森峰の生徒が黒森峰の戦車に乗って、無法者のように振る舞っているんだもの」
逸見「戦車道連盟や西住流からも再三警告を受けているでしょ。非公認の野良チームで非公式の野良試合を続けて・・・大事になる前に止めておきなさい」
しほ「いいえ、止めません。野良試合を続けてきたおかげで私達は強くなりました。そこで・・・」ゴソ
しほ「逸見隊長、私達は黒森峰女学園に試合を申し込みます。これは我々からの果たし状です」スッ
好子「な、なんだってぇー!?」
82:
黒森峰生徒A「は、果たし状!?いつの時代よソレ!」
黒森峰生徒B「っていうかこの状況でウチと試合とかどういう神経してるのよ!」
逸見「落ち着きなさい。・・・いいわ、西住しほ、あなたの申し出を受けるわ」
黒森峰生徒A「た、隊長!」
しほ「ありがとうございます。試合は一週間後・・・詳しい日時、試合条件は果たし状に書いてあります。では、失礼します」
好子「し、しほちゃん・・・」
しほ「帰るぞ」
 ―――
千代「ほんと無茶な人ね・・・あの状況で黒森峰に試合を挑むなんて」
百合「しほさんは黒森峰を打ち倒すために御旗を立てたのですから、私達はこれから最終目標に挑むというわけですね」
好子「で、でも勝てるの?・・・私達、まだ一度も勝ったことがないのに・・・」
しほ「勝てる」
好子「どうして言い切れるのかなぁ・・・」
蝶野「さっすがセンパイ!肝が据わってんスね!」
菊代「しほさんが言うのなら負ける気がしません」フンス
しほ「そのためには作戦を練り、準備を整え、皆が一丸となる必要がある。やるぞ。期限は一週間だ。私達がどれくらいのものか、やってやろうじゃないか」
83:
 ――西住邸・戦車倉庫(片隅)
しほ「――なるほど、これなら敵も混乱するだろう。やるなちよすけ」
千代「当然よ。島田流は変幻自在の戦術が得意。一輌でたくさんの戦車を相手にするのなら、西住流より島田流の方が合うでしょ」
しほ「むう・・・島田のやり口で西住流の逸見隊長率いる黒森峰を倒すのは気がすすまんが・・・ここは仕方ない」
百合「相手が西住流の戦法でお戦いになるのでしたら、しほさんならそのお突破口もご存じなのですね」
しほ「ああ、西住流は一糸乱れぬ隊列陣形で戦う。多対多ならば非常に強いが・・・我々ならその隙間を突ける」
好子「敵の隊列に割り込んで、チョロチョロ動いてかき乱す作戦なんだね」
蝶野「よくわかんねーですけどなんとかなるんならなんとかなるっしょ!」
しほ「明日、私とちよきちと蝶野で会場を下見に行く。秋山と五十鈴は必要な物をリストアップするから用意しておいてくれ。菊代はどこだ?戦車も作戦に合わせて調整してもらわねば・・・」
千代「菊代さんなら、門までお迎えに行ってもらったわ」
しほ「?・・・誰を迎えるんだ?」
 ザッ
菊代「千代さん、お連れしました」
しほ「菊代、誰を――・・・・・・!?」
常夫「・・・」
しほ「・・・・・・つ・・・常夫・・・さん?・・・」
84:
千代「あら、さん付け?お話を聞いた時は呼び捨てだったのに」
しほ「だ、だって・・・どうして・・・なんで・・・」アワアワ
菊代「千代さんの提案で西住家の整備士の方のツテを辿ってお探ししたんですよ。ご迷惑でしたか?」
しほ「い・・・いや・・・そういう訳じゃ・・・」アセアセ
千代「積もる話もあるでしょう。何年ぶりかの再会だものね。ほら」グイイ
常夫「・・・」
しほ「ちょっ・・・あ、あの」アタフタ
百合「あらあら、なんだかしほさんがしおらしいでございますわね」
好子「女の子になってるぅー」キャイキャイ
蝶野「センパイねこかぶりー!」ケタケタケター
しほ「う、うるさい!あっち行け貴様ら!見世物じゃないぞ!散れ!散れ!」シッシッ
千代「ふふふ、それじゃあ皆、しほさんは二人っきりになりたいみたいだし、あっちに行きましょう」
菊代「はい。しほさん、がんばってくださいね」ニッコリ
しほ「なにをがんばるのだ何を!さっさと行け!もうっ!」
85:
 しほ「・・・久しぶり・・・ですね。常夫・・・さん」
 しほ「いや、だってとても大きくなってるから・・・」
 しほ「すみません・・・この喋り方にちょっと慣れてなくて・・・」
 しほ「・・・そ、そんなことないです!・・・昔と同じ様には・・・」
 しほ「・・・ふふ、そうですね」
好子「わー・・・しほちゃんめちゃめちゃモジモジしてるよ」ジー
蝶野「くっそー、ここからじゃよく聞こえねー・・・何話してるんだろ」ジリジリ
千代「うふふ、実はさっきしぽりんの懐に盗聴器潜り込ませておいたの。みんなで聞いてせせら笑いましょう」サッ
百合「まあ、なんと手癖のお悪い。名案でございますね」キュピーン
菊代「ちょ、ちょっと千代さん!しほさん嫌がってたじゃないですか!そんなのいけませんよ!」
 好子「やったー!しまちょんやるぅー!」 蝶野「グッジョブベリーナイス!聞かせてください聞かせてください!」
千代「ほら、静かにして。皆で聞きましょ。菊代さんは聞かないみたいだけどね」チラ
菊代「うっ・・・」
 好子「おお?、しほちゃんが丁寧語使ってる?」 百合「普段と違う雌の声帯ですよこれは」 蝶野「あっははは!センパイ女丸出しー!」
千代「ほんとーに聞きたくないのかな??」ン??
菊代「・・・・・・き・・・聞かせてもらいます」
90:
 ・ ・ ・
好子「――ちゃん・・・しほちゃん」
しほ「・・・」ポヘ?
好子「しほちゃん!」
しほ「わ!な、なんだ!?敵襲か!?」ビクッ
好子「もうっ、ボーっとしちゃって。百合ちゃんと二人で作戦に必要なもの買ってきたよ」ガサッ
百合「西住家の倉庫で常夫さんと菊代さんは戦車のお整備とお改造をされているのですね。会場の下見はどうでした?」
しほ「あ・・・ああ、すまん。地形は把握した。それに見合った作戦を立てておく。後は――」
 千代「常夫さん、わたし・・・子供の頃から常夫さんのこと・・・」
 蝶野「わかっているよしほさん。僕もおんなじ気持さ・・・」
 千代「うれしいっ!常夫さん!いっしょにゼクシィ読みましょ!」
しほ「そこ!いつまでくだらんことやってるんだ!下見の時からずっと続けて!阿呆!馬鹿!やめろ!」
千代「あら、別にいいじゃない。私達はただ夫婦が結婚に至るまでごっこしてるだけよ。ねーっ♪」
蝶野「ねーっ♪」
しほ「五月蠅い!ふ、夫婦なんて・・・そんなんじゃない!結婚とかふざけるな!」
 蝶野「しほさん・・・僕と・・・けっ、けっ、けっ・・・」
 千代「常夫さん・・・私も常夫さんと・・・常夫さんと!」
しほ「わー!馬鹿!阿呆!殴るぞ!止めろ!やめてください!」
91:
 ・ ・ ・
しほ「いよいよ明日、黒森峰との試合だ。準備は万端。作戦通りに行けば勝てない相手ではない」
好子「菊ちゃんと常夫さんが整備してくれたんだもん、絶対に負けられないね、しほちゃん」
しほ「つ、常夫さんは関係ないだろう!阿呆!馬鹿!スカタン!」カア?ッ
好子「ええー・・・めっちゃ怒るじゃん・・・」
菊代「あのー、前から疑問に思っていたんですが、私達のチームってなんていう名前なんですか?」
好子「えっ?・・・・・・そういえば決めてなかったかも」
千代「試合に勝っても名前呼ばれないんじゃ締まりがないわね」
蝶野「じゃあさ!じゃあさ!マイティしほセンパイチームってのはどうですかね!?ウルトラハイパーしほセンパイフォースってのもいいっしょ!」
菊代「しほさん同盟軍なんてどうでしょう」
好子「・・・私達、チーム結成してからもずっと戦車喫茶に入り浸ってたよね。お店の名前を借りて、ルクレールとかどうかな?それか、窓辺から見えてたマロニエの並木とか」
百合「マロニエの木はセイヨウトチノキとも呼ばれ、アンネ・フランクの木とも言われるそうです。アムステルダムの中央に生えていて、『アンネの日記』で言及されていたとか」
千代「へえ・・・ドイツを模した黒森峰に屈さず、希望を失わないという意味では私達には合っているかもね」
しほ「それでいこう。私達はマロニエチームだ。ティーガーとはイメージがかけ離れているがな」
菊代「さすが百合さん、植物に詳しいんですね」
百合「はっ!い、いいえ!華道なんかでぇっきらいでございますわ!やっぱりルクレールチームに変更しましょう!」
しほ「お前は本当にへそ曲がりだな」
92:
 ――対黒森峰戦・試合会場
蝶野「ふわあああぁぁぁ???・・・ねんみぃー・・・なんだってこんな朝っぱらから試合するんですか?っていうかまだ夜じゃないですか」
百合「太陽さんもまだお眠りになっていますね。夜明け前の暗いままですもの」
好子「ねえしほちゃん、相手の隊列に割り込んでかく乱するってのはわかったけど、どうやって割り込むのか聞いてないよ?まともに突っ込んでも集中砲火を浴びるだけだよ」
しほ「作戦はある。タイミングが全てだ。その時になるまで私を信じて待て」
好子「一体どうするつもりなんだろ・・・」
しほ「来たぞ。黒森峰だ」
 黒森峰戦車道チーム<ギャラギャラギャラギャラギャラ・・・
好子「!?」
菊代「わあ・・・ものすごい戦車の大群・・・」
蝶野「ひーふーみー・・・・・・全部で30輌くらいですかね」
好子「どどどどういうこと!?なんであんなにたくさん・・・」
しほ「この試合は我々1輌に対し、黒森峰30輌の試合内容だ。果たし状に書いておいたからな」
好子「な、な、なにぃ?!?1対30!?なんだってそんな・・・」
しほ「黒森峰の全力と勝負しなければ意味がない。それに、こちらのかく乱作戦は相手の車両が多いほど有効だ」
好子「そ、そうかもしれないけどさぁ・・・今までどの高校とも1対5で試合してて、それでも私達は勝ったことがないんだよ?黒森峰の30輌と戦っても勝てっこないよ」
しほ「どうかな」
93:
しほ「おはようございます」
逸見「おはよう。こんなに早く開始するなんて、こちらの集中を乱す作戦かしら」
しほ「どうでしょう」
 菊代「向こうの戦車、ティーガーばっかりですね」
 蝶野「フラッグがティーガー?で、他は全部ウチとおんなじティーガー?・・・黒森峰ってあんなにティーガー持ってたんですねぇ」
 好子「たぶん当てつけでティーガー?揃えたんだろうなぁ・・・」
逸見「本当にいいのかしら?30対1なんて無茶な内容で」
しほ「もちろんです。そちらも手を抜かないでください。私達が負ければ即チームを解散し、戦車をお返しします」
逸見「・・・いいわ。全力で叩きのめしてあげる。西住流の名に懸けて・・・」
しほ「・・・」
審判「合意と見てよろしいですね?それではこれより、黒森峰女学園対マロニエチームの試合を始めます!お互いに礼!」
94:
 ティーガー?<ギャラギャラギャラ・・・
千代「しほさん、一体どういう作戦なのかいい加減に教えてくださるかしら?」
しほ「まあ待て。蝶野、あの丘の上に移動してくれ。大きな岩があるだろう。あれに爆薬を仕掛ける」
蝶野「はーい。おかーをこーえーゆこーよー♪」ギャラギャラギャラ・・・
千代「岩に隠れ、敵部隊が近づいてきたところで遮蔽物の岩を爆破し、奇襲を仕掛けるつもりね。ずいぶん古典的なやり方だけど黒森峰に通じるかしら?」
しほ「いや、違う」チラ
千代「は・・・?」
菊代「セットしました。起爆ボタンを押して10秒後には爆発するようになってます」
好子「っていうか爆弾って戦車道で使っていいの・・・?」
しほ「構わん。戦車に対して使う訳でもないし、どうせ非公式の野良試合だ。蝶野、今度は丘を下りて、東を背に戦車を進めてくれ」
蝶野「?・・・はい」グン
千代「ちょっと、せっかく岩に爆薬を仕掛けたのにどうして離れるの?敵を誘き寄せるつもりならそんな危険な真似しなくても・・・」
しほ「私を信じろ」
千代「無茶いわないでよ」
95:
蝶野「あの・・・いいんスか?このまま進むと敵と真っ向勝負ですよセンパイ」ギャラギャラギャラ・・・
しほ「もとよりそのつもりだ」チラ
千代「な!?・・・どういうつもりなのよ。さっきから時計を何度も見てるけど、本当に策があるの?」
 ティーガー?<ギャラギャラギャラ・・・ ティーガー?(黒森峰)<ギャラギャラギャラ・・・
好子「12時の方角に敵集団。30輌全車で来るよ。密集隊列で綺麗に進んできてる。まるで壁が迫って来るみたい」
しほ「・・・」チラ
千代「向こうはひし形に並んだ密集陣形で来るわ。すぐに引き返して岩の裏に隠れないと――」
しほ「よし・・・戦車前進!敵を真正面に据えて全で突き進め!」
蝶野「えっ!?」
千代「!?・・・取り消し!今の命令は取り消しよ!なにを考えてるのしぽりん!敵の攻撃に晒されるわ!」
しほ「取り消しは取り消し!迷わず進め!」
蝶野「は、はい!」グン
 ティーガー?<ドドドドド!
96:
黒森峰生徒B「敵車輛、真正面から突っ込んできます!」
逸見「玉砕覚悟の突撃か・・・度胸試しのつもりなら乗ってあげるわ。全車前進!引き付けて全車の集中砲火で焼け野原にしてやるのよ!」
 ティーガー?<ギャラギャラギャラ! ティーガー?(黒森峰)<ギャラギャラギャラ!
好子「敵も真正面からこっちに向かってくるよ!」
しほ「菊代!岩を爆破しろ!」
菊代「え!?・・・!?」
しほ「起爆するんだ!」
菊代「は、はい!」カチッ
 カチッ・・・ジジジ・・・
千代「正気!?岩に隠れて待ち伏せするんじゃないの!?こんなに離れた所で後方の丘の上の岩を爆破しても何の意味ないじゃない!」
千代「このままじゃ私達また負けるわよ!」
97:
しほ「・・・敗色は濃厚だ」
 ジジジジジ・・・
しほ「敵は30輌に対し、こっちはたった1輌」
 ジジジジジ・・・
しほ「誰だって勝てっこない」
 ジジジジジ・・・
しほ「だが私達は勝つ」
 ・・・ ゴ ワ ッ !
98:
逸見「全車砲げ――」
 岩<ガラガラガラ・・・
 > カ ッ !!! <
逸見「っ!?・・・目がッ――」
黒森峰生徒A「眩しっ――」
黒森峰生徒B「太陽がっ・・・!・・・し、しまった!て、敵は――」
 ティーガー?<ガンッ!
百合「痛いのをぶっくらわせてさしあげますわ!」
しほ「撃て!」
 ティーガー?< ド ワ !
 グ ワ ァ ア ン !
99:
 ティーガー?(黒森峰)<・・・シュポッ
黒森峰B「し、しまったぁ!」
しほ「突っ込め!煙幕開始!」
菊代「煙幕開始!」シュボッ
 ティーガー?<モクモクモクモクモク・・・
黒森峰生徒A「て、敵車輛、こちらの陣形に侵入!煙幕を撒き散らし始めました!」
逸見「隊列に割り込んできただと!?見失うな!」
黒森峰生徒C「で、でも煙で視界が・・・」
 ティーガー?<ドッ!
 ティーガー?(黒森峰)<ゴワア! シュポッ
黒森峰生徒C「す、すみません隊長!やられました!敵は煙の中から襲ってきます!」
逸見「密集陣形に潜り込んで煙で姿を隠すとは・・・まるで忍者・・・」
100:
千代「まさか正面から密集陣形に割り込むとはね・・・!」
好子「もー!しほちゃん!日の出の光を遮ってた岩を爆破して目くらましする作戦だったなら最初から言ってよ!ヒヤヒヤしたじゃない!」
しほ「万が一でも無線傍受されていることを懸念したんだ。とにかく、これで敵の懐に潜り込めた。ちよすけ、作戦通り行くぞ」
千代「ええ、菊代さん、準備はいい?」
菊代「はい!」
 モクモクモクモクモク・・・
黒森峰生徒A「皆落ち着け!姿は見えんが敵はすぐそばにいる!音を拾って位置を探るんだ!」
黒森峰生徒D「そうは言っても・・・いつどこから攻めてくるかわからないからものすごく怖くて・・・」
 <・・・・・・パンッ
黒森峰生徒D「!?」ビクッ
 <パパパパパパパ!パンパン!
黒森峰生徒D「て、敵だ!機銃か何かわからんが何かしてる!」
101:
 ティーガー?<ブワア!
黒森峰生徒D「!い、いた!撃て!撃て!」
 ティーガー?(黒森峰)<ドワッ! ドォン!
 ティーガー?(黒森峰)<シュポッ
黒森峰生徒E「こ、こら!私達は味方だ!」
黒森峰生徒D「!・・・し、しまった・・・慌てて味方と分らず――」
しほ「撃て!」
 ティーガー?<ズワ! ティーガー?(黒森峰)<ドォン! シュポ
黒森峰生徒D「ああっ・・・!や、やられた!」
逸見「落ち着きなさい!敵味方をきちんと識別して――」
 <パパパパパパ! <パン!パンパン! <パパパパパン!」
黒森峰生徒F「わあ!すぐそばにいます!炸裂音がしています!」
黒森峰生徒G「隊長!指示を!指示をください!煙の奥でなにか動きが・・・!」
黒森峰生徒H「敵だ!撃って!撃ちなさい!やられる前に早く!」
 <ドオン! <グワア! \ズガアン!/ ドンッ!> ボガアン!>
逸見「っ・・・味方同士で撃ち合わせられてる・・・爆竹か何かを振りまいているのか・・・!」
102:
好子「しまちょんの作戦うまくいったみたい!」
菊代「かんしゃく玉と爆竹がこんなに効果的に効くとは」
千代「煙で視界を塞がれ、どこから敵が来るかわからない状況だもの。爆竹の破裂音でもすごく怖く感じるものよ。煙の中で敵が何かしてるんじゃないかってね」
菊代「何をされているのかわからないというのはとっても怖いですからね。ティーガー?ばっかりというのが同志討ちをより効果的にしているようです」
しほ「蝶野、左45度に車体を向けて前進。フラッグがいる」
好子「どうしてわかるの?」
しほ「こちらの方角から履帯を動かす音がしない。逸見隊長のことだ、この状況でヘタに動いたりしない」
菊代「なるほど、他の皆さんはとにかく慌ててますからね」
蝶野「こっちにボスがいるんですねー!やったらー!」ギャラギャラギャラ!
103:
逸見「通信手、全車に通信を。恐らく花火か何かで恐怖を煽っているだけだ。落ち着いて相手を――」
 ティーガー?<ブワア!
逸見「! 目の前に敵車輛!」
 ティーガー?<ドォン! ティーガー?<ゴガン! 
逸見「っく!・・・撃て!」
 ティーガー?<ドォン! ティーガー?<ガァン!
百合「っ・・・すみません、抜けませんでした!」
しほ「蝶野!車体をぶつけろ!」
 ティーガー?<ガンッ! ギャリギャリギャリ!
逸見「くっついて・・・!」
しほ「菊代!ちよすけ!」
 千代「わかってるわよ!」 菊代「は、はい!」
逸見「引き離すわよ!体勢を整えるの!」
 ティーガー?<ギャラギャラギャラ!
104:
蝶野「離されました!」ギャリギャリギャリ!
好子「向こうも馬鹿じゃない!今度は位置を悟られないように、全部の戦車に動くなと通信を入れるハズだよ!音で位置を探る他に方法は?」
しほ「音で位置を探る」
好子「!?」
逸見「くっ・・・密集陣形を逆手に取られるとは・・・だが煙の中で姿が見えないのはお互い様。向こうがこちらを探し出す前に陣形を立て直す」
逸見「通信手!皆に動くなと通信を!もう花火の音も止んでいる。混乱する必要もないと伝えて!」
通信手「は、はい!」
逸見「こちらが全車動きを止めれば、煙の中で動いているのは相手だけ・・・音でどこにいるのか丸わかりよ。自分達の策でやられ――」
105:
 ティーガー?<パパン!パパパパパパパン!
逸見「!? な、何!?・・・なにか破裂音が・・・!」
しほ「周りが静かになったおかげで、どこにいるか丸わかりだ・・・右に75度回せ」
逸見「!・・・さっき戦車をぶつけられた時に火を点けた爆竹をこのティーガー?に――」
しほ「撃て」
 ティーガー?< グ ワ ア !
 ド ガ ァ ン !
106:
 ティーガー?<シュポッ・・・
審判「ティーガー?、走行不能!・・・・・・よって、マロニエチームの勝利!」
好子「・・・・・・勝った・・・の・・・?」
百合「・・・・・・ええっと・・・」
菊代「・・・勝ったみたいですよ・・・私達・・・」
蝶野「・・・・・・???っ!ぃやったぁ???!」
好子「か、勝っちゃったよ!私達黒森峰に勝っちゃったよ?!」
百合「まるで夢みたいです!とうとう私達・・・やったんですね!」
菊代「はじめて勝ったんですよ!初勝利です!今夜はちらし寿司を作ってお祝いしましょう!」
蝶野「勝つのが夢だったけどー!もう夢じゃなくなったー!」
 \イエーイ!/ \ヤヤア!ピューピュー!/ \ワーイワイワイドドンガドン♪/
107:
千代「・・・本当に勝っちゃうとはね・・・かなり綱渡りな作戦だったけど・・・ま、私と島田流のおかげかしら」
しほ「ああ、かもな」
千代「ちょっ・・・反論しなさいよ。やりづらいじゃない」
しほ「この勝利は皆のおかげだ。秋山の素早い装填、五十鈴の見事な砲撃、菊代の整備と下準備、蝶野の完璧な操縦、ちよきちの作戦・・・皆のおかげだ。ありがとう」
千代「っ・・・ま、まあ・・・あなたの無茶な作戦もなかなかよかったわよ。あなたが車長じゃなきゃ、こうはならなかったわ。さすがね」
しほ「ああ、だな。やはりちよすけよりも私の方がすごいらしい」
千代「んなっ!?あ、あなたねぇ!人が下に出たら調子に乗っちゃって!なんなのよ!なんなのよもうっ!」
108:
逸見「・・・負けたわ。私の負け。予想外な戦い方で見事に翻弄されてしまったわ」
しほ「もう一度試合をするとなれば、今回の作戦は通じないでしょう。この勝負一度きりの作戦でした。上手く行ったのはそちらの陣形が見事に統率されていたからこそです」
逸見「ふふ・・・相手を立てることもできるのね。でも、私の指揮がいたらなかったから負けたの」
しほ「いいえ、逸見隊長は西住流の体現者です。西住の門下生であなたほど優秀な方は他にはいません」
逸見「だけど勝負は勝負。あなたの方が私よりも黒森峰の隊長として相応しい・・・」
黒森峰生徒A「隊長・・・」
逸見「西住しほ・・・あなたに黒森峰の隊長の座を譲るわ」
しほ「えっ、それはいやです」
逸見「えっ」
109:
しほ「私はなにも、黒森峰の隊長になりたくて戦っていたのではありません。私はいずれ西住の名を背負うことになる。それ以降、私は絶対に負けられない立場になる」
しほ「だが、敗北を知らない者には見えない世界もある。まだ西住流を継いでいない今の内にせいぜい負けておかなければ、私は強くなれなかったのです」
しほ「本気で戦い、負けて、私は強くなった。私は自分のやりたい戦車道をやるためにチームを結成し、自分を磨くために戦ってきたのです」
逸見「で、でも・・・私より強いんだし・・・」
しほ「強いだけが全てではありません。人の上に立つ人間というのは、人に支えられないと立っていられないものです。今の私では隊長になど相応しくない」
逸見「・・・・・・そう・・・ふふ・・・さすがね。私にとってもいい経験になったわ。戦車は使っていいから、これからもがんばって」
しほ「いいのですか?」
逸見「前も言ったけど使ってなかった戦車だもの。それに、勝者に賞品くらい送らせてちょうだい。でも連盟や大人達には気をつけなさい。どんなイチャモンを付けてくるかわからないわよ」
しほ「・・・はい、ありがとうございます」
黒森峰生徒A「西住、色々きつく当たっちゃってごめんね。でも、次は負けないわよ」
黒森峰生徒B「今度は味方として試合をしたいわね」
しほ「こちらこそ、下級生の癖に色々とすみませんでした。いずれ黒森峰に戻ります。その時は是非、よろしくしてください」
好子「よかったねしほちゃん!黒森峰のみんなに認めてもらえて!」
しほ「ああ。まさかここまで上手くいくとは」
千代「あとはいとしい常夫さんと上手くいけば、万々歳ね」
しほ「あ、阿呆!せっかくいい気分だったのにいらんことを言うな!」
110:
 好子《黒森峰との試合に勝った後も、私達の戦車道は続いた》
 好子《黒森峰に勝った私達のことを聞きつけて、各校は前にも増して試合に意欲的になってくれて、逆に申し込まれるくらいだったわ》
 好子《聖グロとも、サンダースとも、プラウダとも、マジノ女学院とも、ヴァイキング水産高校とも、アンツィオとも、色んな高校と再戦した。勝った試合もあったし、また負けた試合もあった》
 好子《でも勝敗がどうであれ、試合の後にはいつの間にか相手校の生徒と仲良くなっていたわ・・・不思議とね》
 好子《戦車道を通じて、色んな人と出会えて、色んな所へ行って、色んな思いでを作れた・・・》
 好子《戦車道をやっていて、本当に良かった。そう思えたものよ》
 好子《でも・・・・・・》
111:
 ――戦車喫茶〈ルクレール〉
好子「昨日菊ちゃんが淹れてくれた紅茶、とってもおいしかったね?」
菊代「聖グロリアーナの皆さんからいただいた茶葉なので、味も品格も保証付きですからね」
百合「サンダースの方々からお頂戴したケーキセットと一緒に食べてしまいましたが、なんだかお贅沢すぎて少しもったいなかったかもしれませんね」
蝶野「いいじゃないですか?またもらえば。それよりそれより!プラウダからお中元が届いてますよ!じゃーん!」ドッカ
千代「喫茶店に宅配物持ち込まないでよね」
蝶野「んな細かいこと気にしてると老けますぜチヨチヨセンパイ!しほセンパイなんか玉の肌!」
千代「なっ!私はしぽりんと同い年よ!」
好子「そんなことはどうでもいいから中身は何か見てみようよ!」ワクワク
千代「・・・仕方ないわね。オープンザプライス!」ガパッ
菊代「わあ、蟹ですよ!カニ!」ドコカニ
百合「なんとまあ!イカの塩辛の瓶詰まで同梱されております。手紙もあるので読み上げますね」ガサ
百合「《ホカホカの蒸かしたジャガイモに溶けたバターを乗せ、その上にイカの塩辛を乗せて食べるとおいしいわよ!》とのことですわ」
好子「すごくハイカロリーっぽそう・・・プラウダ飯は女の敵ね・・・」
 ガチャ カランカラン・・・
しほ「・・・」
菊代「あっ、しほさん」
112:
蝶野「見てくださいセンパイ!プラウダから蟹とイカの塩辛が送られてきましたよ!毒盛られてないか調べます!食べていいスか!?いいスよね!?ね!?」
百合「お待ちになってくださいまし。毒見の役割はこの私にお任せくださいませ。ほんの微量な毒でさえ全て喰らい尽くしてみせます」キリッ
菊代「プラウダの方々が毒など入れたりしませんよ。調理は私にさせて下さい。しほさん、蟹はお鍋にしますか?刺身にしますか?」
千代「蟹くらいで騒ぐことないじゃないの。プラウダもどうせなら10杯くらいくれればいいのにね」
好子「これだから貴婦人は・・・あれ?どうしたのしほちゃん。なんだかいつもと様子が・・・しほちゃん?」
しほ「・・・」
好子「・・・ど、どうしたの?・・・」
しほ「本日を持って、我々マロニエチームは解散とする」
好子「・・・」
百合「・・・」
蝶野「・・・?」
好子「・・・・・・えっ」
113:
菊代「ど、どうしてですか?なぜ急に・・・」
しほ「西住流の上の方々と戦車道連盟から警告を受けた。即刻、我々のチームを解散しろと。これ以上戦車道を続ければ、西住流と戦車道連盟は然るべき対応を取るとのことだ」
好子「それってどういう・・・」
しほ「西住の者でありながら戦車道連盟が定める規約に違反し、再三の注意を無視して無法行為を繰り返してきた私達にとうとう堪忍袋の緒が切れたらしい」
しほ「黒森峰に勝利して以降、他校にも何度か勝利することができた私達のジャイアントキリングぶりは世間一般にも知れるところとなり、話題になった」
しほ「それは即ち、戦車道連盟が無法者の野良チームを野放しにし、管理できていなかったことを意味する」
しほ「西住流にとっても、次期後継者である私がこんなことをしていると世間に知られ、流派のイメージが損なわれたとカンカンだ」
しほ「そんなうつけ者である私達が、西住流の有望選手にして看板選手である逸見先輩率いる黒森峰を下したことで、西住の名は地に落ちた」
しほ「私達が名を上げたことで戦車道の認知度は上がっても、西住流と連盟の顔に泥を投げつけたことになったのだ。我慢の限界を迎えた西住流と連盟は私にこう言った・・・」
しほ「チームを解散し、金輪際、私がチームの仲間と顔を合わせることを禁ずると・・・お前達と縁を切れとな」
千代「・・・!」
百合「そんな!」
しほ「西住流次期後継者となるべき私が、無法者で負け癖のついた素人共と付き合うなど言語道断だと言われた。さすがに頭に来て怒鳴り返してやったが」
菊代「横暴です!解散だけならまだしも、そんなことにまで従う必要はありませんよ!」
しほ「拒否するならば法的措置も辞さないとのことだ。私達が戦車を盗んだ話・・・出るところに出れば、まずいことになる」
菊代「あっ・・・」
114:
しほ「私が仲間との絶縁を拒否するというのならば、お前達を警察に突きだすと言われた」
しほ「逸見隊長は、戦車を貸し出したのは自分だと、黒森峰が負けたのは自分の実力不足だと私達をかばってくれていたがな」
しほ「だが西住の名を掲げながら黒星を重ねた上に、やりたい放題して自分達のメンツをブチ壊した私達を潰すためなら、大人達はなんでもする」
しほ「言う通りにしなければ、お前達は高校生にして前科持ちにされてしまう。選択肢などない」
菊代「私はイヤです。しほさんと絶交するくらいなら、牢屋でもどこへでも放り込まれてもかまいません」
しほ「私がお前達を巻き込んだんだ。これ以上迷惑をかける訳にはいかない」
菊代「でも・・・」
しほ「お前達同士がつるむことに問題はない。私が引き下がればいいだけ・・・それでも当分は風当たりは冷たいだろうがな。お母様が配慮してくれなかったらどうなっていたか・・・」
好子「・・・しほちゃんはそれでいいの?・・・私達、もう会うこともできなくなるんだよ」
しほ「私が始めたことだ。私が終わらせる。わかってくれ・・・」
好子「・・・」
千代「・・・本当にワガママな人」
115:
百合「そんなのあんまりです!メンツだのなんだの・・・戦車道連盟や西住流の方々は横暴です!戦車道とはそのようなものでいいのですか!」
しほ「大人には大人の事情がある。とりわけ今の戦車道は微妙な時期だ。世間体を気にしなければ、廃れて行く一方・・・」
百合「っ・・・そんなの・・・」
百合「・・・・・・戦車なんて・・・戦車なんて・・・・・・私、戦車なんて大っきらいです!」
しほ「・・・それでいい。五十鈴、お前は華道に生きるべき人間だ。私の我がままで引っ張り込んですまなかった・・・戦車になど、もう乗るんじゃないぞ」
百合「っ・・・」
しほ「もう夏も終わる。どちらにせよ、学校が始まればこうして面を合わせることも難しくなるだろう。私達の戦車道は一夏だけのものだったということだ」
好子「・・・」
しほ「私は黒森峰のチームに戻って、一から出直すことにする。学校の皆も前のように腑抜けたままではなくなっただろうしな」
蝶野「・・・」グスッ
しほ「将来、黒森峰が全国大会で優勝・・・いや、10連覇できるようにしてみせるさ。それが私の今の夢だ」
千代「フフ、最後まであなたらしい無茶な話ね」
116:
しほ「それじゃあ・・・私は去るよ。これからお偉い方に頭を下げて周らねばならんからな」スッ・・・
菊代「・・・しほさん」
蝶野「センパイ!」
百合「・・・」
しほ「お前達も達者でやれよ。もう会うことはないだろう・・・」
 ガチャ
しほ「・・・」
 クルッ
117:
しほ「・・・・・・戦車道をやっていて良かった・・・お前達と出会えて、一緒に戦車に乗れて、本当に良かったと心から思うよ。ありがとう」
好子「・・・!」
しほ「・・・じゃあな」
 カランカラン・・・ バタン
千代「・・・・・・またなって言いなさいよ」
118:
好子「・・・・・・それ以来、私はしほちゃんと会っていないわ」
好子「菊ちゃんと亜美ちゃんは西住流の門を叩き、門下生になったから特例としてしほちゃんと会うことができた。それでもしばらくは話すことすらダメだったみたい」
好子「千代ちゃんも島田流関係でなら会うこともあったそうよ。でも私と、とりわけ百合ちゃんは西住流に入るなんてことはできなかったわ・・・どうしてもね」
好子「あれ以来、百合ちゃんは戦車が大嫌いになっちゃって・・・華道に戻るきっかけにはなったけど、戦車なんて見るのもイヤになったみたい」
好子「もうずっと昔の話・・・結局、あの夏に私達が戦車道をがんばったことで、お金をもらえた訳でも、何かの資格をもらえた訳でもない・・・でも」
好子「あの日々の全てが虚しいものだなんて誰にも言えないわ。形の無い大切な財産をもらえたのは確かだもの」
みほ「・・・」
優花里「・・・お母さんも色々あったんだ・・・」
華「お母様が戦車を嫌うのにも理由があったのですね」
麻子「しかし、それだけがんばっておきながらなんとも虚しい終わり方だ」
好子「そうでもないわよ。チームを解散した後、今まで試合をした学校の皆が私達を称えてくれたの。聖グロの隊長さんから手作りの賞状とトロフィーをもらったわ」
優花里「ウチに飾ってあるやつ!なんのトロフィーなのかなーって思ってたけどそういうことだったんだ!」
麻子「なぜ知らなかったんだ」
好子「友人関係も広まったし、大切な思い出もできた。戦車道をやってて良かったわ・・・しほちゃんが言ったように、私もそう思うの」
好子「だからあなた達も、勝ち負けも大切だけど、もっと大事なことを戦車道から学んでね」
沙織「はい!」
華「心配無用です。もうすでにたくさんのことを学んで、たくさんのものを得ていますから」
麻子「単位と遅刻取り消しの報酬もな」
119:
 Prrr
みほ「あ、電話」Pi
桃【西住ぃ!貴様一体どこで何をしている!秋山の家に偵察映像を取りに行ってから何時間経ったと思ってるんだ!】
みほ「あっ!すっかり忘れてた!早く学校に戻って作戦会議しないと!」
沙織「急がなきゃ!麻子!何分で学校に着ける!?」
麻子「ここからなら飛ばして5分、私なら3分で着ける」
華「さすが麻子さん!すぐに行きましょう!」
優花里「お母さん、散らかしちゃったけど片づけは帰ってからするから!西住殿、行きましょう!」
みほ「う、うん。・・・・・・あの・・・」
好子「ん?」
みほ「ありがとうございました。お母さんの話を聞けて・・・なんだか、少しだけお母さんのことがわかった気がします」
好子「・・・そう・・・しほちゃんは厳しい人かもしれないけど、あなたの事を大切に思っているのは確かよ」
好子「・・・しほちゃん、私達の前では平気なフリをしていたけど、負け続けていた時は西住流の人達から相当きつく当たられていたみたい」
好子「勝つことばかり強要するのは、自分と同じ思いをさせたくないから・・・負けて、西住流の人達方から攻められないように・・・
好子「自分がかつて言われた、一緒にいる友人達にまでどうこう言われないためだと思うの。まあ、でも自分で強く攻めすぎて戦車道をキライにさせちゃうなんて皮肉よね」
みほ「あはは・・・」
優花里「西住殿?!行きますよ?!」
みほ「あ、うん。今行くー。・・・じゃあ、お邪魔しました」ペコ
好子「・・・みんな、どうしてるかなぁ・・・」
120:
 ――〈戦車喫茶 ルクレール〉
菊代「好子さんから連絡が来た時は驚きましたよ。こうしてここに集まるなんて、何年ぶりですかね」
百合「あれから何年経ったかなんて、怖くて数えたくありません」
蝶野「皆さんすっかり歳食っちゃってますからねー」アハハハ
千代「あなたもでしょ。いつまで独りでいる気なのやら・・・それより、あの人は来るのかしら?」
好子「もう家元を襲名したんだし、昔の言いつけを守る必要もないはずだから来るわよ。きっと・・・」
 ガチャ カランカラン・・・
好子「!」
しほ「この店も変わったわね・・・・・・でも、窓から見えるマロニエの並木だけは変わっていない」
好子「しほちゃん」
しほ「・・・せっかく久しぶりに仲間で集まったんだ・・・・・・時には昔の話をしようか」
 おわり
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