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杏「ほんの、一日の、できごと」


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※デレマスSS
※崩壊
※急展開
※考察ガバい
※地の文台本混合
※同性愛をほのめかす表現あり
※きらりも文香も出ない
※許して
2: 以下、
今日はオフ……なんだけど、カーテン閉めようが布団にこもろうが、家に直射日光ガンガン入ってくるのがウザいから、柄にもなく自主的に事務所に出向いてしまった。
全く、もう10月も終わって11月になるってのに遠慮のない太陽だよね。冬になる気ないんじゃないの。
杏の部屋を出て、鍵を閉めて一階に降りて、そんでエントランスから出た瞬間に家から出たことを後悔した。
空気は乾燥していて、風が吹けばさすがに涼しいんだけど、季節外れに照りつける太陽が部屋でのそれに比べて思った以上にキツかった。
十の字なら既に全裸かも知れない。
「……ささーっと行ってすぐに寝よう。そうしよう」
双葉だけにね。笹は単子葉だけど。
----------------------------------------------------------------------------
3: 以下、
薄着か厚着かで迷って結局冬の装いにしたんだけど、選択ミスったかも。
暑い。
杏の身長だと格好間違えばすぐに一般人にバレるから、わざと雑で野暮な格好にするんだけど、これは着込みすぎた。
家から100mとも離れてないのにもう汗が吹き出てきた。
「この時期暖房効いてるから電車の中絶対暑いよね……かといって事務所まで歩くのもな……」
引き返して結局家で寝てるのも選択肢だった。むろんいつもならそうしてる。
でも今日は日差しがこれだからなるべくなら帰りたくない。杏が珍しく家を出たのだってこの日差しから逃れるためだったんだし。
事務所の日当たりの悪い物置みたいな部屋で寝たい。
それに近道をしようとしていつもとは違う隘路を選んだから、引き返そうものなら確実に迷子になる。やっぱ家に帰るのはなし。
「となると電車か、徒歩か……」
ここから最寄駅までへのルートに変更すると、いつもの道に出て電車に乗るか家に帰るかの二択になる。でも家に帰る選択肢は今しがた消えたばかり。
……歩くかぁ。
今日の杏は、本当に珍しく杏らしくない。
4: 以下、
雑木林や公園など、日陰がたくさんできるルートをあえて選んで歩いたけれど、もうその誤魔化しも効かないくらいに暑くなってきた。
体力ない方って言っても麗さんのレッスンについていけるくらいだから、貧弱なほどじゃない。でも暑さは無理みたい。このザマであの夏をよく生き残れたもんだよ。
両手が塞がるのは癪だけど、上の一枚だけ脱ごう。
「あ"ぁ"???」
スーッと涼しい風が杏をつつむ。爽やかでカラッとした秋の風が気持ちいい。
思わずビール飲んだ時の早苗さんみたいな声が出る。あの人のはまだ高くてもっと可愛いけど。
いつもこんな声出すとプロデューサーに「アイドルがそんな声出すなよ」とか言うけど、今はそんな人はいないので、もう思うままに声を出せる。
あ"あ"???あ"お"あ"お"あ"お"??い"え"お"???え"???
SIRENのアレみたいな声が出た。うーやまいーもうしーあーげーる。
なんか楽しくなってきた。誰もいないのをいいことに、私はどんどん調子に乗る。
5: 以下、
「ああああああいあいあいあ?????やいやいよ???や???お???え???お???あ??イ?ヒィ????ヒヒッ↑↑↑wwwww」
声が裏返って、自分でそれが可笑しくなって笑ってしまう。
「レロレロレロレロレロレロレロレロ????んぉフフフフッフッフwwwwwww」
謎のツボに入った。
「あめんぼあかいぞー!!あいうえおー!!!」
冷静に考えるとあめんぼが赤いのは意味不明だ。
「あかいあめんぼがいてたまるかー!ばかやろー!!フフフフフッwwwww」
またツボに入った。
「あえいうえおあおー!!ンッフフフッフッフッフフwwwwww」
テンション上がってきた。
「あははっ、はは、はははは!あはははっ!!!」
杏、全てを捨ててる気がする。
「ひこうきー!!!ぶーんぶーん!!!」
意味わかんないけどもう何か、えらく楽しくてしょうがない。
面白くって可笑しくってどうしようもない。もうどうにもならない。どうにでもなーれ。
よくわかんないけど生きててよかった。地球に感謝。
「ぎゃっはっはっはっは!!!wwwwwwwうわはははははwwwwwwwwww」
1人で馬鹿みたいに笑いながら陽のあたる坂道を駆け上がる。
6: 以下、
井戸端会議中の主婦2人とガッツリ目が合って「こりゃマズイ」と思ってすまし顔して駆け抜けて10分。
車通りが多くなって、信号で立ち止まる回数も増えてきた。事務所はもう近い。
346のビルが見えてきた。真面目に見たことはそんなにないけど、改めてまともに見ると本当にバカでかい。
「あと少し……事務所多分何もないから、何かコンビニで買ってくか……寝るだけなのもアレだし」
カップ麺が棚の低い位置にあることを祈ってコンビニに入る。
7: 以下、
「あった。よかったー低いところで」
さすがに最上段はギリギリ手が届かないからね。
「……なんでデカい方を中段に置いたのか全く解せない。KINGとか高校の売店でしか見たことないよ」
ノーマルサイズのカップラーメン、最上段にあるんだよなぁ。
……んっ、んぅ……んんんん!
無理だ、届かない。無理に取ろうとして棚ひっくり返したらコトだ。諦めよう。
しかし……口に入るかな、このサイズ。おっきすぎ……
会計をICで済ませて、レシートをもらって、バーコードにテープ貼ってもらって、コンビニを出た。
袋は空になると地味にかさばるし、割り箸は事務所に溜めてあるからそれを使う。
レシート発行時刻と払った金額、レシート自体の写真、それをスマホに入力してレシートを捨てた。
やっぱ袋もらうべきだったかもしれない。上着抱えてたの忘れてた。
8: 以下、
社員証をエントランスでスキャンして中に入る。左腕でカップ麺と上着を抱えてるので、何回か落としそうになった。
エレベーターで何階か登ると、すぐそこがもう事務所。
「おはよーございまーす」
「おはようございます、杏さん」
「おはよう、杏ちゃん」
「杏かぁ、オフなのに珍しいな」
事務所に入ると、橘ちゃん、ちひろさん、プロデューサーがまず出迎えた。プロデューサーは相変わらずちひろさんの真隣だ。
扉が開いた瞬間繋いでた手を離したの、杏は見逃さなかったよ。橘ちゃんがいる前でいちゃついてたのか……全く、この2人はもう。爆発しろ。
「コンロとやかん借りるよー」
「まーたカップ麺か」
「いーじゃん。たまにしか食べないし」
「それ量多くないですか、杏さん」
「多いねぇ。BIGよりも多い。でもこれしかなかったんだよ。手が届くところにはさ」
水を適当に入れて重くなった琺瑯のやかんをコンロに置く。
9: 以下、
がちっ、ちちちちち。がちっ、ちちちちち。
火がつかない。困る。
「あーこれしばらく押してガス出さないと火つかないんですよ。ちょっと貸してください」
「お、おう」
「こうやって……こう!」
がっ、しゅー……しゅ、しゅ、ちちち、ぼんっ!
「きゃあ!」
「うわあ!」
出すぎたのだろうガスが、琺瑯の下で爆ぜた。
解き放たれた青と赤の炎が開いた花のように一瞬だけ広がり、杏と橘ちゃんの手の前を掠めた。
その後は何事もなかったかのように、青色の熱い王冠が小さく揺らめきながら琺瑯を温め始めていた。
10: 以下、
私たちは心底驚いて、続いて片眉上げてダルそうにプロデューサーが
「おいやめてくれよ火事とかシャレになんねーからさ」
と言った。数刻してから杏たちの顔を見て、ちょっと声色と顔色が変わる。
「……袖とか髪とか燃えてないか?大丈夫か?」
「うん……」「はい……」
続くのはちひろさん。
「大丈夫ですか?」
「杏はまあなんとか……橘ちゃん大丈夫?」
「だ、大丈夫です……びっくりしました。いつもだったら、普通に火がつくだけなのに……」
11: 以下、
346はナリもガワもでかくて豪華なイメージあるけれど、中は意外に雑だったりする。
こんな風に人が入らなくなったり使わなくなったりすると、管理の手もすぐ行き届かなくなってそのままになって、
結構ボロいものが普通に放置されてたりとかあるんだ。
一部の部署ではMEがまだまだ現役って言ったらそのアレさがわかるかもしれない。
ブラウン管テレビとかもあったりするからね。油断できない。
これの所為で、ジェネレーションギャップギャグがたまに通用しなかったりする。
一部の人たちのボケを殺してくる。恐ろしい。
これから杏が寝る予定の物置部屋なんかその最たる例だ。
夏にあそこで寝てた時なんか、枕にしようと思って引きずり出した謎の機械がニキシー管電卓だった時にゃたまげたもんだよ。
いつどこで使ってたんだっての。しかも動くし。
12: 以下、
「買い替えどきですかね……あまり使う人がいないので、メンテもしてなかったのかもしれません。
しばらくコンロを使用禁止にしておきますね」
「あ、じゃあこれ入れ終わってからにしてほしいかな。
せっかく火がついたのに食べられなくなるのはちょっと」
「わかりました」
湧いたお湯をカップに入れて5分待つ。サイズがでかいと時間もかかる。
杏は遅いのはキライだけど、まあこれくらいなら。
待ってる間にコンロの処遇が語られていた。
「どうせならIHとかにしますか……今は高くないですし」
「ちーちゃん、それ琺瑯使えなくならない?」
「琺瑯は鉄やアルミのものにガラスを焼き付けたものですから、IHでも使えますよ。
空焚きすると琺瑯が溶けるので、それは注意が必要ですが。ね、杏さん」
「いやここで杏に振らないでよ……でもそれ軽いし中アルミだと思うからどのみち向かないと思う。
IHってアルミだと効率悪いらしいしさ」
「……磁石くっつくぞ」
「じゃあ鉄琺瑯か。余裕で使えるね。底も真っ平らだしIHにぴったり。やったじゃん」
琺瑯は生存。コンロはサヨナラ。あゝ、哀れコンロよ。
13: 以下、
6分経って少しのびた麺をすする。んー、なんか長いし、やっぱ多すぎ。口に入りきらない。減る気がしない。
やっぱデカすぎ。ナニもかも、デカけりゃいいってもんじゃないよ。
「ちょっとプロデューサーさんと外回ってきますね」
「あーはいはいデートね。お熱いこって」
「外回りです♪」
「わかったわかった。行った行った。橘ちゃん19時前には帰るっぽいからそれまでには帰ってきてね。
杏もそれくらいには帰るからさ」
一体どこに事務員まで外回りに出る事務所があるんだっつーの。
ちひろさん1人ならわからなくもないけどプロデューサーも一緒って。
関係だって何だってみんなにバレてんだから素直にデートって言えばいいのに。
……これで本当に外回りだったら申し訳ない。
14: 以下、
「……あむ、ずずっ、ずっ、ずーっ……ちゅる、ちゅぷ……んぅ……もぐもぐ」
橘ちゃんと2人きりになった事務所で黙々と食べてるけれど、なんかこう、
だだっ広い空間に2人しかいない上に、BGMが麺をすする音だけというのもなんだかつらいものがある。
テキトーに音楽流したい。
……しくじった、ゲーム機持ってきてないや。
「杏さんと2人きりですね」
脈絡なしにいきなり話しかけられたので驚く。咀嚼していた最中の麺を無理やり飲み込んで話に応じる。
「……そうだね。橘ちゃんとここまで近くで話すのは初めてかな」
「ありすです」
「ありすちゃん「ありすです」あっはい、ありす」
まさかの初手呼び捨て強制。
杏ってばいつの間にこの子の好感度上げてたんだ。
わからん。心当たりがない。
15: 以下、
「ありすも今日オフ?」
「そうですよ。土曜ですから、今日は寮に泊まりますけどね」
「地元から通ってんだっけ?大変だね。神戸でしょ?」
「ちょっと惜しいですね。姫路です。中学上がるまでは地元から通うという約束でしたので」
「ふーん、そっかぁ」
姫路と神戸がどれだけ離れてるのかピンとこない。どれくらいなんだろ。
「ごめん姫路と神戸のズレがわかんないから北海道で例えて」
「……札幌から千歳くらいじゃないですか」
ビッミョーな距離だな。
「ここから国分寺あたりまでくらいか」
「そうですね」
会話が終わってしまった。
やべ、また伸びてる。早く食べないと。
16: 以下、
「平日はどうしてるの?」
「5時間目終わりの日はそのまま新幹線に乗ってこっちにきてます」
「片道3時間を!?」
「そうですね」
「帰りどうしてるの」
「寮で寝て、起きて朝一で新幹線か、あるいは夜のうちに出て新幹線で寝てます。
月木金が5時間目終わりなので、月曜木曜がしんどいです。金曜は仕事が終わったらそのまま寮で寝ます。
土曜と火曜水曜は寮か家でゆっくり寝られるので最高ですね」
たまげた。なんちゅう暮らししてんだ。
それもうこっちで暮らせばいいのに……
「こういう暮らしも今年度で最後ですから。
あと半年もありません。来年度からはプロダクションか中学校の寮から通うことになります」
「ほー……」
ありすの学校は確か小中高と一貫だったはずだ。
それを投げて都内に来るということは、都内の中学を受験するってことだ。
やるなあ、ありす。
……いつ受験勉強してるんだろう。
17: 以下、
「杏さんは飛行機で来てるんですか?」
「ンフッwwwwww」
あっぶな、変なとこに入るかと思った。
「そんなわけないでしょ、都内の高校に通ってるよ」
「マンションで一人暮らしですか」
「まあ、うん」
「すごいですね」
「杏より親がすごい。半分は杏が払うって約束だけど、残り半分は親が払ったもん。
キャッシュでポンって。やってみたいね、一生で一度はああいうの」
「今ご自身で払ってるんですか」
「まあねー。本当は印税だけで行きたかったところだけど、
まぁ厳しいよね。生の稼ぎでみみっちーく泥臭ーく払ってるよ」
「学費もですか?」
「それは特待生かつ校内トップだから全額免除」
「わぁお……」
わぁおってなんだ。わぁおって。
「成績優秀なイメージが全くなかったので意外でした。全教科0点みたいなの想像してました」
おいなんだそれめちゃくちゃ失礼だな。そんなんだったら留年してるわ。
18: 以下、
「杏はサボるために楽するために全労力を注ぐからね。
楽ができればどんな苦労だって苦行だって厭わないよ。
最小の努力労力で最大で上質な幸福を。
杏がやることはどんなことだって、何もしないで幸福を得るための下準備だよ。
さぼってダラダラすることこそが人生の本質だからさ。
怠惰と睡眠が人類に何よりも必要だと、そういうことを言って憚らない人間だからね杏は」
「なるほど……私はゲームこそが人生の本質だと思ってます」
ほー。大きく出たな。
「ゲームと言っても電子ゲームに止まりません。
遊び、娯楽、目的を持って楽しむ精神的活動全てがゲームであり、人生です」
なんかとんでもないこと言いだしたぞ。これは将来大物になる。間違いない。
19: 以下、
そんなんで色々とグダグダ駄弁ってたらあっという間に麺は湯を吸って伸びきり、
盛り上がってしまった。パンパンになっちゃった。
「あーあーあー、ビヨビヨになっちゃった。食べきれないわやっぱり」
「手伝いましょうか」
「助かる。箸はさっきのコンロのとこの棚にあるよ」
「ありました。じゃあ食べます」
言うや否や、ありすは割りたての橋をカップに突っ込んで、さっそくツルツルやりだした。
女2人が一企業の誰もいないオフィスの中で黙々とカップ麺を食べているのはなんとも言えない光景だろう。
今の杏たちを客観的に見れば、例えば4コマ漫画のオチにでも使われそうなくらいシュールな光景に違いない。
「……んっ、あむ、んぅ……ちゅっ、ちゅ、ちゅぅ……もぐもぐ」
「むぅ……あぐ、んっ……んちゅ……もぐもぐ」
伸びきった上に水分もだいぶ飛んでしまった麺は食べづらいことこの上ない。
ツルツルというか、もふもふという擬音が似合う食べざまになる。
20: 以下、
「……あっ」
「……ん」
啜った麺の片方を杏が、もう片方をありすがくわえてる状況になった。わんわん物語か。
適当に噛みちぎってありすにくれてやろうとしたら。
何を血迷ったか。
ありす、瞬きせずこっちを凝視しながら噛みちぎることなく杏に迫ってきた。
杏はそれに面食らって、固まった。
「……!?」
「……」
ありすの顔面が近づいて来る。
近づいて来る。
21: 以下、
「……」
「……」
「「…………」」
22: 以下、
……忘れよう。今日のこのことは。
全部無かったことにしたい。ならないだろうけど。
やっとのことで食べ終わったカップ麺の空を処分して、歯を磨いて例の物置に来た。
なぜかありすもくっついて来た。顔を合わせられない。
「何真っ赤になってるんですか」
「うるさい。ありすだっていちごみたいに真っ赤じゃんか」
「ごめんなさいって。ほんの出来心だったんですよ」
出来心であんなことができるか。一体今時の小 学生ってどうなってるんだ。
「うるさいうるさい。杏はもう寝るんだ」
「私1人になっちゃうんですけど」
「帰るなりなんなりどうぞご勝手に」
「じゃあ勝手にします。私も杏さんと寝ます。杏さんと、寝ます」
「私と一緒に寝るとかそこだけ強調しない。あとひっつかないで暑い」
「私は寒いんです」
「知らないよ。外行きなよ。日差しがありすを温めてくれるよ」
「もう16時ですよ?だいぶ日が傾いてます」
「もうそんな時間!?」
「隙あり♪」
「あ"あ"???っ!!」
……このマセガキが。
23: 以下、
???????????
「……ん」
2人で揉み合って、いつの間にか寝てしまったようだ。
日は傾いてるどころか完璧に沈んで、街灯の白色LEDが階下より遥かから仄かにこの部屋を照らしていた。
星が見える。今夜は晴れか。
左手に柔らかい何かを感じて、杏が一体誰とここで過ごしていたかを思い出す。
「……ありす。ありすー。……爆睡じゃんか」
本当にがっつり寝てしまった。左腕に巻きついて離れないありすを諦めて、時計を見る。
「18時か……そろそろあのバカッポーも帰って来る頃だね」
ありすを起こして帰さないと。
……っていうか、離れないと。
……だってなんかこれ、あれじゃん。
なんか、アレじゃん!杏これ捕まるんだけど!
そんな杏の気も知らないで、この蒼い幼 女はスヤスヤと眠っていた。
24: 以下、
「もうちょっと寝たかったんですけど」
「流石にまずいよ。寮があるんだからそこで寝ないと。
残業だなんだって最近はうるさいからさ」
「オフの日ですから残業代どころか給料も発生しませんけど」
「ビル管理会社とか世間様はそうは見ないからね。
こないだプロデューサーが部長にメッタメタに怒られてたの見たでしょ」
「『職場が家ですって言えば通るかと思えば逆にゲロ怒られた』って言ってましたね」
「アホだよ。全く」
25: 以下、
退出のカードを押して、杏たちは外に出た。
外はすっかり真っ暗で、街灯と爪みたいに大きく欠けた月、
そして他のビルの明かりが杏たちを照らしていた。
日中とは打って変わって、気温はすっかり下がって冷え込んでいた。
厚着して来て正解だった。風も冷たいし。
「寮まで送るよ。帰ろ」
杏と同じくダッフルコートを着込んだありすにそう促す。
……したらありす。
「杏さんちに泊まりたいんですが」
なんて、とんでもないことを言う。
「ダメだよ何言ってんの!?」
「そうですか……」
「家と寮行き来してるんなら知ってると思うけど、予定外の外泊は手続き通さないとダメだよ」
「あれ、あってないようなものですから、別に平気ですよ?」
「杏が平気じゃない!」
「なんでですか?」
「……流石にさ、小 学生の子を一人暮らしの高校生ん家に泊めるのはまずいよ。
事案だよ。事案どころか杏、犯罪者になっちゃうよ」
「杏さんだって小 学生みたいなものじゃないですか。身長が。怪しまれませんて」
「殴るよ?」
「ごめんなさーい」
冗談を言い合いながら、今日の来た道を逆順に辿っていく。寮とは反対の方向だ。
「……言っとくけど、散らかってるよ」
「構いません」
まぁ、あの物置で寝れるくらいだもんなぁ……
26: 以下、
立ち止まらずに歩き続けられるようになった頃、下り坂で満天の星空を見た。
都内では絶対に見られまいと思ってた光景だ。
「……綺麗」
「そうだね……都内でも見られるんだね」
「そこは『君の方が綺麗だよ』って言うところですよ」
「誰が言うかアホ」
なんて冗談を言いながら。
27: 以下、
「……行こ」
「……はい」
ありすの手は、暖かかった。
28: 以下、
「失礼します」
「ん、どうぞ」
杏たち以外の誰も、この階にはいないことを確認して、ありすを部屋に入れて、扉を閉めた。
29: 以下、
この夜、その部屋の中で起こった全ての出来事は、杏たち以外の、何人たりとも知るところにはならない。
……まあ、ほら。女の子には色々あるんだよ。
30: 以下、
「ありす」
「杏さん」
31: 以下、
杏の、ほんの、一瞬の、できごころ。
32: 以下、

35: 以下、
珍しい組み合わせ。
可愛かった。乙。
36: 以下、
良さみが深い
元スレ
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