キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」九冊目【中編】back

キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」九冊目【中編】


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アリババと40人の盗賊の世界 とある弱小盗賊団のアジト
ギャーギャー ワーワー
雑魚盗賊A「クソ!何が起こってるんだ!?別の盗賊団の奇襲か!?突然茂みからロープが伸びてきたと思ったら仲間が何人か捕らえられちまった!」
雑魚盗賊B「お前よく見ろ!ロープじゃあねぇよありゃ髪の毛だ!…えっ、髪の毛!?人間を縛れるほど長い髪の毛とかあんの!?なぁ、どうなの!?なぁおいいぃ!」
雑魚盗賊C「混乱するんじゃねぇ!少なくともあの女は長い髪の毛を自在に操る魔術だか妖術だかの使い手だ!気ぃ抜いたらもってかれるぞ!?」
盗賊頭領「一カ所に留まるのは危険だ!お前ら散れっ散れーっ!女の方だけじゃなくチャラチャラした男の方にも気を配れ!こいつらただ者じゃあねぇぞ!」
ワーワー
シンドバッド「よーし、奇襲が成功したな!こんな具合でうまーく不意を突いてやると相手はただ混乱するしかできねぇんだ、そうすりゃもうこっちのもんだぜ。じゃあ問題だ、ラプンツェル。ここでお前はどう動くべきか解るか?」
ラプンツェル「えーっとね、とーぞくが混乱してる間に攻撃する!」ドヤァ
シンドバッド「よし、正解だ!だが相手はお前の髪の毛を警戒してるからな、それに剣を抜いてっから正面から捕らえようとても髪を切られちまうぜ?さぁ、どーしたもんかねぇ?」
ラプンツェル「うーんとね、それじゃあこーするっ!」シュッ
シュルシュルシュルッ ガシッ
雑魚盗賊A「うおっ!?お、俺の足にあの女の髪の毛が絡みついて…ぬわーっ!?」ビターン
盗賊頭領「おい!大丈夫か!?あの女…足を引っ張ってこかせてくるぞ!お前ら気を付け…ぬおぉぉっ!」ビターン
雑魚盗賊B「へへっ、大丈夫ですぜ頭領!足を狙ってきてるってぇならこういう具合に飛び跳ねて避けりゃあ…!えっ、なんで避けたのに追いかけてきtぐわーっ!」ビターン
雑魚盗賊C「あの髪の毛、飛ばすだけじゃなく軌道さえも自在なのかよ!?この混乱の中であんなもん避けられるわけ…ぎゃーっ!」ビターン
ラプンツェル「ふふんっ!みんなを困らせる悪いとーぞくはこのラプンツェルがみーんな捕まえちゃうからね!ろーやの中で反省してるといいよっ!」フンス
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491:
シンドバッド「ひゅーっ、やるじゃねぇか!だがここで油断しちゃダメだぜ、転かしたら動けないうちに縛っちまえ!…っと、相手を縛るときに注意することはなんだ?さっき別の盗賊捕まえたときに教えた事、覚えてるよな?」
ラプンツェル「えっとね、刃物を持っていないか確認する!それか持ってても取り出せないように両手もぐるぐるに縛っちゃう!」
シンドバッド「よーし、その通りだ!こいつらが体勢立て直す前にとっとと縛っちまえ!」
ラプンツェル「わかった!みんなまとめて縛っちゃえーっ!」シュッ
シュルシュルシュルッ グルグルグルッ
「クソ、俺達盗賊がカタギの小娘に出し抜かれるなど…認めんぞぉ!」ジタバタ
「こんなむちゃくちゃに縛られてたんじゃナイフも取り出せねぇ…」ジタバタ
「追尾してくるとかズルいだろ!あんなもん初見で対処出来ねぇよ!」ジタバタ
シンドバッド「よし、一丁上がりだな!もうこいつらは動けねぇ、街に戻って番兵にでも伝えりゃあとは投獄なり処罰なりしてくれるだろうよ」
シンドバッド「しかしすげぇな!今回はほとんどお前一人で捕まえちまったぞ!俺はちょいと助言しただけだ、お前案外戦闘のセンスあるんじゃねぇか?」ハハハ
ラプンツェル「そうだよね!私センスあるよね!私もそう思う!だってすんごく余裕だったしね!あさごはんまえ!」フンス
シンドバッド「おいおい、誉めはしたがあんま調子に乗るんじゃねぇぞ?今回はうまいこといったけど毎回思い通りになるとは限らないんだぞ、確実に相手を無力化するまでは油断しちゃいけねぇ。じゃねぇと痛い目見るぜ?」
ラプンツェル「えへへっ、大丈夫!私の髪の毛は特別だからね!私が思った通りに動いてくれるし普通じゃ持てない物でも髪の毛使えばラクラクだもんっ!余裕だよよゆー!」ドヤァ
シンドバッド「いや、だからお前そういう慢心が真剣勝負の中じゃ命取りに…まぁいいか、確かにお前の髪の毛はすげぇしな!十分戦力として数えられると思うぜ!」ハハハ
492:
ラプンツェル「私、シンドバッドに戦いのやり方教えてってお願いして良かったよ!こーして特訓できる場所にも連れてきてくれたし!ありがとね!」ニコニコ
シンドバッド「おう!まぁ、数え切れない程の冒険を繰り広げた俺に相談したってのは良い判断だったな!でもシェヘラザードにバレたらかなりヤベェからこの事は内緒な?」
ラプンツェル「わかった!私、絶対に言わないよー!」フンス
シンドバッド「それにしても嬉しいねぇ、お前には他に頼れそうな奴が大勢いるってのにその中で敢えて俺を選んでくれたんだからな。ラプンツェル、そんなに俺が好きなら俺の女になっちまうか?」ニッ
ラプンツェル「えへへ〜、王子のほうがずっとカッコいいからやめとく!それにシンドバッドに相談したのもたまたまお城で会ったから話しただけなんだー」ニコニコ
シンドバッド「なんだよ…まっ、そーだよな。だが引き受けたからには手は抜かねぇぜ、バッチリ特訓してやるからよ!その代わり、約束した例のアレ…頼むぜ?」ヒソヒソ
ラプンツェル「うん!シンドバッドはすんごく頼りになってとっても強くてものすごくカッコいいって事を私の友達に伝えたらいいんだよね!」ニコニコ
シンドバッド「おっと、ちょっと間違ってるな。それを『可愛い女の子の友達』に伝えるんだ、男には別に言わなくても良いからな?どういう事かわかるだろ?」
ラプンツェル「わかってるわかってる!赤ずきんとかグレーテルとかシンデレラとか…あとシェヘラザードにもバッチリ伝えとくから、安心してね!」
シンドバッド「わかってねぇなお前!?子供とか人妻には伝えなくてもいいんだよ!いや人妻はありか…?つーかシェヘラザードには絶対に言うなよ?俺が言わせたってバレたらヤベェからな」
ラプンツェル「そーなの?それよりあれだね、シンドバッドはシェヘラザードにバレたらやばいことがいっぱいあるねぇ〜」ニコニコ
シンドバッド「へへっ、まぁな。あいつは何かと口うるさいからよぉ…俺のこと思って言ってくれてるってのは解るが、全部に従ってたら窮屈で仕方ねぇぜ」
ラプンツェル「わかるわかる!私にも言ってくるもん!もうすぐお姫様になるんだから買い食いはやめなさいーとか!つまみ食いはやめなさいーとか!あと手が汚れたときとか裾で拭くのはやめなさいーとか言ってくるよ!」
シンドバッド「いや、それはハンカチとか使えよお前。ガキじゃねぇんだから」ハハハ
493:
ラプンツェル「まーでもシェヘラザードがホントは良い子だって事は知ってるよ?国を良くするので忙しいはずなのに私やかかしにお勉強教えてくれるし!あとお菓子もくれるし!優しいし旦那さんの事すごく好きだし!」
シンドバッド「まぁ他人に厳しい分、自分にはもっと厳しいしな、あいつ。説教は多いし煩わしいこともあるけどまぁ…良い奴だよ、そうじゃなきゃ俺もわざわざ別の世界の警備なんかしねぇし」
ラプンツェル「うーん…そー考えるとお勉強会すっぽかして来た事、シェヘラザードに悪いことしちゃったなぁ…」
シンドバッド「おいおい、今更そんな事言っても仕方ねぇぜ?」
ラプンツェル「そーなんだけどさ、昨日はシェヘラザードが私のお話聞いてくれないからもーっ!てなっちゃって勝手にするって決めちゃったけど、やっぱりもっとお話しした方が良かったのかなぁ…」
シンドバッド「まぁそれが出来るなら一番良かっただろうがな、まーなんにせよお前は勉強より特訓を選んだんだ。シェヘラザードが思わず納得しちまうくらい強くなればいいんだ、あんまり気にすんなって」
ラプンツェル「そうだよね!もう決めちゃったんだし悩んでも仕方ないよね!特訓頑張るしかないよね!」ウンウン
シンドバッド「あぁ、そうだ。この調子でガンガン盗賊を退治していきゃお前は強くなれるし治安も良くなる!うまくすりゃあ逆に誉められるかもしれねぇぞ?」ニッ
ラプンツェル「そっか!悪者退治して街が平和になれば誉められるかもだね!あっ、でもさでもさ!確かこの世界はアリババって人が盗賊を退治するおとぎ話なんだよね?」
シンドバッド「まぁ正確にはアリババの召し使いのモルジアナっていう女が盗賊を退治するんだけどな。それがどーかしたか?」
ラプンツェル「もしもね?私達がうっかりモルジアナが退治するはずの盗賊をやっつけたら、このおとぎ話消えちゃうよね?それは私嫌なんだけど、大丈夫かな?このまま盗賊退治してても大丈夫?」
シンドバッド「ハッハッハ!意外と心配性だなラプンツェルは!確かに俺たちがうっかり例の『40人の盗賊団』を退治しちまったらモルジアナが連中を退治するってぇ筋書きが変わっちまってこのおとぎ話は消滅する。だがそんな事は絶対にねぇから安心しろ」
シンドバッド「なにしろこの世界には数十以上の盗賊団が溢れかえってるんだぜ?まさに大盗賊時代!そいつ等をうっかり倒しちまう可能性なんてかなり低いぜ、ざっくり五十分の一で計算してえーっと、何パーだ?…まぁとにかくありえねぇから心配すんなってこったな!」
ラプンツェル「そっか、それなら大丈夫だね!私達は安心して盗賊をやっつければいいんだね!」
シンドバッド「おう、俺が適当に標的として選んだ盗賊団がまさかあの『40人の盗賊団』だった!なんて事、絶対にありえねぇよ。ハッハッハ!」
・・・
494:
とある盗賊団のアジト付近 茂み
ガサガサ
シンドバッド「よーし、ラプンツェル。次の標的はあの盗賊団だ、街で見かけた下っ端盗賊っぽい奴を尾行してたらまんまとアジトに到着だ!丁度良いから退治しとこうぜ」
ラプンツェル「わかった!でもなんだか沢山居るよ?大丈夫かなー?」
シンドバッド「いけるいける。お前さっきも余裕だったろ?確かに人数は多いが、ビビってしょぼい盗賊ばっかり相手にしててもなんにもならねぇだろ?」
シンドバッド「それに安心しな!もしもやべぇと思ったら俺も加勢する、いざとなったら上空を飛んでるロック鳥に奴らを襲わせるってのもありだ」
ラプンツェル「それなら安心だねっ!たくさん盗賊捕まえてもっと強くなってシェヘラザードに私がちゃんとしてるってところ見せたいもんね!」
シンドバッド「おう!お前が成長することはあいつにとっても嬉しいことのはずだ。しっかり頑張って認めてもらおうぜ」
ラプンツェル「うん、頑張る!」フンス
シンドバッド「で、今回の作戦だが…さっきと同じように奇襲をかける。だが今回は人数が多いからな、まずはお前の髪の毛を使ってあっちの方の茂みに石を投げ込め」
シンドバッド「そうすりゃ盗賊共はそっちに気を取られるだろうからその隙に一気に勝負を決める。それじゃあ適当な石を掴んで投げてみろ、気づかれないように高いとっから素早くな」
ラプンツェル「わかった!えーっと…じゃあこれにしよっ」ズシッ
シンドバッド「いやちょっと待て!ちょっと物音立てりゃあいいんだぞ?そんなデカい岩を使う必要なんかねぇって」
ラプンツェル「でも小さいよりおっきい方がいいと思う!よーし、じゃあちょっぴり重いけどこれを掴んであっちの茂みに投げるよ!せーのっ!」
ブンッ ズルッ
ラプンツェル「ありゃ?思ったより飛んでいかなかったなー…って言うか投げるときちょっとズルってなっちゃった。失敗失敗ー、えへへー」テヘペロ
シンドバッド「あーあー何やってんだ、無駄にデカい岩なんか投げるから飛距離足りてねぇぞアレ。お前これじゃあ向こうの茂みに届かねぇじゃねーか、ったく」
ヒューンッ
495:
ラプンツェル達が標的にした盗賊のアジト
盗賊の親分「えぇい!アリババとかいう男の家はまだ突き止められねぇのか!お前には部下の指揮を任せてんだ、この不手際はテメェの責任だぞ、どうオトシマエ付けるつもりだぁ!?」バンッ
盗賊アニキ「す、すいやせん親分!どうやらアリババの野郎、随分と頭が切れる召使いを従えてるようで…そいつが俺たちを妨害してるようなんで」
盗賊の親分「だから何だってぇんだ!?頭がキレようが相当な手練れだろうと関係ねぇ!俺が殺せと命じたらテメェらはそれに従うだけだろうが!」ギロリ
盗賊アニキ「す、すいやせん!団員一同、血眼になって探してますんで…もう少しばかりお待ちくだせぇ!」
盗賊の親分「ったく、アリババの野郎…ただじゃおかねぇぞ!俺達が居ない間にアジトの洞窟に忍び込んで宝を盗んで行きやがって、素人に癖に盗賊から盗みを働こうなんざとんでもねぇ野郎だ!」
盗賊アニキ「まったくでさぁ。恐れ知らずなのか愚かなのか…どっちにしろ大胆とはこの事ですぜ。大した肝っ玉持ってますよアリババは」
盗賊の親分「何を感心してんだテメェは!いいかぁ!?盗賊ってのはメンツを潰されたらおしまいなんだよ!俺の40人の盗賊団がただに素人に出し抜かれたなんて他の盗賊団に知られたらどうなるかもわからねぇのか!?」
盗賊アニキ「い、いえ…この事が他の盗賊団に知れたらうちの盗賊団の名声は地に落ちちまいやす…!」
盗賊の親分「あぁそうだ、それだけは絶対に阻止すんだ!小さな盗賊団をようやくここまでデカくしたんだ、それを馬鹿な素人のせいで失うなんざ…間抜けすぎる!絶対にそんな事はさせねぇ!」
盗賊アニキ「へい、その通りでさぁ!」
盗賊の親分「いいか?俺はゆくゆくは世界を牛耳る盗賊…そう!盗賊王になる男だ!手下のテメェ等は命を賭けて俺の命令に従い、死に物狂いで俺ために働け!俺を盗賊王にのしあげるためになぁ!ガーッハッハッハー!!」ガハハハ
ヒューンッ ドゴォッ!!
盗賊の親分「ゲボアッ」ドサッ
盗賊アニキ「!? 突然岩が飛んで来やがった!?い、いやそれよりも!だ、大丈夫ですかい!?親分!?」ユサユサ
盗賊の親分「」
盗賊アニキ「し、死んでる…!お、親分が謎の奇襲でやられたァー!?」
496:
盗賊アニキ「…テメェ等、辺りに気を配れ!親分を殺した奴はまだ近くにいるかもしれねぇ、探せ!探せ!このまま帰すんじゃねぇぞ!」
ワーワー サガセサガセー
盗賊「アニキ!俺、妙なことに気がついたんスけど…そっちの茂みからいい香りがしませんかい?なんか女の子の匂いっていうか…」スンスン
盗賊アニキ「馬鹿!お前、こんな時にお前馬鹿!ここは俺達盗賊のアジトだぞ!?女の子の匂いなんてするわきゃねぇだろふざけんなよお前……あ、マジだな。なんか花の匂いするわ」スンスン
盗賊「でしょ?俺、鼻はすごくいいんス!もしかして親分を殺した女の子がそこの茂みに潜んでいるとか…」
盗賊アニキ「馬鹿お前!親分は相当の手練れだったんだぞ!?こんなフローラルな香りさせてる女の子が親分を殺せるわけねぇだろ!もしそんなすごい娘居たら見てみたいわ!そしてその強さを褒めてやりたいくらいだわ!」
ラプンツェル「あっ、はいはーい!みんなの親分倒しちゃったの私だよ!すごいでしょ!」フンス
盗賊アニキ「!?」
シンドバッド「バッカお前何で出て行くんだよ!やべぇから逃げるぞって言ったろ!?」グイグイ
ラプンツェル「えっ、でも誉めてくれるって言ってたから…シンドバッドだって誉められると嬉しいでしょ?私は誉められるの好きー!」ニコニコ
シンドバッド「なこと言ってる場合か!早く逃げるぞ!」
盗賊アニキ「待て待て!このまま帰す訳にはいかねぇぞ!テメェ等この子らの周りを取り囲め!」
ザザザッ
ラプンツェル「ありゃー…囲まれちゃったね。ねぇシンドバッド、私知ってるよ!こういうのをぜったいぜつめいっていうんだよね!」ドヤァ
シンドバッド「…あぁ、物知りだよお前は。この人数じゃあ正面突破は無理だな。だったらお前を呼ぶしかねぇよな!ロック鳥!降りて来い!お前の見せ場がやってきたぜ!」
497:
ロック鳥「ルオオオォォォォォォォッ!!」バサバサーッ
盗賊アニキ「なんだこの怪鳥は!あのチャラいのが呼んだのか…!まさか猛獣使いだったとは…いや、んな事言ってる場合じゃねぇ!待て待てお前らちょっと聞け!」
シンドバッド「ロック鳥!盗賊共を一蹴しろ!爪で裂こうが吹き飛ばそうが啄もうがお前の勝手だ!自由にしちまって構わねぇぞ!」
ロック鳥「ルオッ!ルオォォォォォック!!」バサバサーッ
盗賊アニキ「待て待て!そこのチャラいの!勘違いしないでくれ!俺達はあんたらと戦うつもりなんかねぇ!」
シンドバッド「やかましい!俺らを取り囲んでおきながらよくもそんな白々しい嘘がつけたもんだ!今更怖じ気づいてもおせぇ!ロック鳥やっちまえ!」
ラプンツェル「待って待ってー、ロック鳥ー。ちょっと待ってあげて!この人達戦うつもりないっていってるから攻撃しちゃかわいそうだよー」
シンドバッド「おいラプンツェルお前いい加減にしろ!こいつ等は盗賊だぞ!あんなの嘘に決まってる!ロック鳥、いいからやっちまえ!」
ロック鳥「ルォッ」フイッ
シンドバッド「あっ、お前!何、ラプンツェルの命令を優先してんだ!お前のマスターは俺だろうが、なにラプンツェルにすり寄ってんだ!」
ラプンツェル「ロック鳥はさっき自由にしていいって言ってたから好きなようにしてるだけだもんねー?」ナデナデ
ロック鳥「ルオッ!」スリスリ
シンドバッド「肝心なときにお前誰に似て……いやハッキリしてるよな。こうなりゃあ俺が一人で相手するしかねぇか…!」スラッ
498:
盗賊アニキ「そりゃあ盗賊の言葉なんか信用できねぇか。しかもこの構え、やはりただ者じゃねぇ…!テメェ等、守りを固めろ!」
シンドバッド「この大人数を相手にするってぇのは相当分が悪いが、この程度の逆境には慣れっこだ。数多の海を駆け、いくつもの修羅場をくぐり抜けたシンドバッド様に切り開けねぇ道はねぇ!さぁテメェら覚悟しt…痛ってぇ!」ビターン
ラプンツェル「もーっ!盗賊のみんなが戦う気が無いって言うのはホントだよ、武器持ってないもん!よく見なきゃだよ!ねーっ、ロック鳥?」グルグルグルー
ロック鳥「ルォーッ」
シンドバッド「ラプンツェル!バカお前早くほどけ!そうやって油断させて隠したナイフでブスリといかれたりすんだよ!こいつ等は悪党なんだぞ!?世間知らずなお前には思いも寄らないような卑劣な手を使うんだぞ!」
ラプンツェル「えーっと、はじめまして!私の名前はラプンツェルだよ!こっちはロック鳥で、あのぐるぐる巻きになってるのがシンドバッド。よろしくね!」ニコニコ
シンドバッド「聞けお前!」ジタバタ
盗賊アニキ「俺はこの盗賊団の副団長。と言えば聞こえが良いがこいつ等にまとめ役、盗賊アニキなんて呼ばれてる。それより、俺は盗賊家業に着いて長いが…カタギに真っ正面から自己紹介されたのは初めてだ」
ラプンツェル「初めてあった人には自己紹介しなきゃなんだって!塔の外じゃ挨拶は特に大切だってママが言ってた」
盗賊アニキ「そうかい、だが俺が言う事じゃあないが盗賊相手にする事じゃあねぇ。そこの兄ちゃんが言うように盗賊は汚い手でも平気で使うんだぜ」
ラプンツェル「でもアニキは違うでしょ?さっき言ってたもん、戦うつもりなんか無いって、でしょ?」
盗賊アニキ「まぁ…そうだが、普通は盗賊の言うことなんか信じないもんだ」
ラプンツェル「どーして?」
盗賊アニキ「どうしてもだ。だが…今回俺達に戦う気が無いってのは本当だ。むしろあんたに感謝してんだ、親分を…いやあの男を倒してくれたんだからな」
盗賊アニキ「あんたは俺達の恩人だ、こいつ等を代表して礼を言わせてくれ。助かった、恩に着る。礼にもならねぇが宴に参加してくれねぇか?もちろん無理にとはいわねぇ」ペコッ
ラプンツェル「よくわかんないけど、どーいたしまして!そしてパーティーは大好きだから私もやるやる!」フンス
シンドバッド「…どうなってやがる?普通は親分を倒されたんなら仕返しするもんだ。そもそも戦う気がないってのは嘘じゃねぇのか?」
盗賊アニキ「よぉしテメェ等!宴の支度だぁ!恩人に出来る限りの礼を尽くせぇ!」
499:
・・・
ラプンツェル「じゃああの親分はとっても酷い人だったって事ー?」モグモグ
盗賊アニキ「あぁ、俺達は盗賊だからあんたらカタギに人並みに扱って貰えねぇ事に不満なんざねぇよ。だがあの男は…団長でありながら俺達団員を人間として見てすらいなかった、宝物を奪い名声を高めるための道具としてしか見ちゃいなかったんだ」
盗賊アニキ「あいつは団員を駒としか思っちゃいなかった。命を落としかねない無茶な任務、明らかに人手が足りない状態での任務なんか当たり前で、自分のみを守るために部下を盾にする囮にするなんざしょっちゅうよ」
盗賊アニキ「精神的にも肉体的にも過酷な生活、それでいて休息なんざまともに取れやしねぇし全員に十分な飯が行き渡らないことも少なくなかった。ほとんど奴隷のようなもんだった」
ラプンツェル「むーっ、ひどいね!休憩できないのもご飯食べられないのも辛いよね!そんな盗賊団やめちゃえばよかったのに!」ムシャムシャ
盗賊アニキ「奴は傍若無人だったが…それを黙認させるほどの力があった。全員でかかれば勝機もあっただろうが、この大盗賊時代だ…親分を失った後、団をまとめられる器がある奴がいねぇと…別の盗賊団の食い物にされちまうだけだった」
ラプンツェル「アニキじゃだめだったの?」ガジガジ
盗賊アニキ「俺はそんな器じゃねぇよ。こいつらは慕ってくれてるが…学がねぇから、読み書きはかろうじて出来るが難しい事となるとなぁ。それで…」
ガヤガヤガヤガヤ
「ラプンツェルさん!ノンアルなんですよね!ぶどうジュースどうぞ!本当、ラプンツェルさんには感謝してるんですぜ、なぁ?」
「おう!あのおっさん無茶ばっかりだったからな。でもよそに行くあてもねぇから従うしかなくてなぁ…」
「でももう違うもんな!俺達はあのブラック盗賊団から解放された!ラプンツェルさん!乾杯しましょ乾杯!」
盗賊アニキ「お前ら!恩人に失礼だぞ!ちょっと下がってろ!」
500:
「アニキばっかりズルいッスよ!俺達もラプンツェルさんとおしゃべりしたいッス!」
「そうッス!こちとら女の子と飯食うのなんて十数年振りっすよ!この喜びを噛み締めさせてくだせぇ!」
盗賊アニキ「お前ら…情けねぇ事言ってんじゃねぇ!この方はカタギなんだ、俺達とは住む世界が…」
ラプンツェル「もーっ、私あんまりラプンツェルさんとか言われるのイヤだなー、くすぐったいから!ラプちゃんでいいよー」ニコニコ
「うおぉー!ラプちゃんはなんて器がでかいんだ…つーか女の子を愛称で呼べる日が来るとか泣きそうだ俺…」
「泣くな泣くな!涙でラプちゃんの姿が拝めないなんて損だぞ!」
「うおぉー!ラプちゃんの髪の毛くんかくんかしてぇー!」
盗賊アニキ「誰だァ!今失礼なこと言った奴ー!…すいやせん、こいつらは気のいい連中なんですがどうも下品でならねぇ…気ぃ悪くしねぇでくれ」
ラプンツェル「いいよいいよぉ、口悪いお猿さんや妖精の友達とかいるし、あんまり気になんないよ」ニコニコ
盗賊アニキ「ラプンツェルさん、見かけによらず肝据わってんだな…」
シンドバッド「ラプンツェル、お前あんまりこいつ等と仲良くするんじゃねぇぞ。腹の中じゃ何考えてるのかわかんねぇんだ」グルグルマキ
シンドバッド「…あといい加減に髪の毛ほどいてくれねぇか?」
ラプンツェル「ダメ。シンドバッド、ひどいこというもん!みんなは戦うつもり無いのなんかもうとっくにわかってるくせにー!」
501:
盗賊アニキ「いや、その兄ちゃんの言うとおりだ。あんまり俺達に情を持たない方がいい。俺から誘っておいてなんだがあんたは少々世間を知らなすぎる」
ラプンツェル「えーっ?そりゃ盗むのは悪いことだと思うけど、みんなは良い人だよ?私にも優しいし!もー友達だよ、私たち!」ニコニコ
盗賊アニキ「カタギがそんな事口にするもんじゃねぇ。優しいのはそりゃああんたが恩人だからだ、みんな感謝してるからな。だが結局俺たちは盗賊、悪党なんだ。今だって俺達はある一人の男を殺すために探してたんだしな、あんたらと同じカタギの男をな」
盗賊「そんな言い方…!ありゃああの男の命令で仕方なくやってたことじゃないですか!宝物を盗まれた報復にって…あの男が死んだ今、もうアリババを殺す必要も無いんd」
シンドバッド「ちょ、ちょっと待て。今なんて言った?その宝物を盗んだ男の名だ」
盗賊アニキ「どうしてそんな事を気にするんだ?まぁ今となっては隠す必要も無いけどよ…宝を盗んだのはアリババっていう男だ。俺達『40人の盗賊団』に宝物庫に忍び込んでな」
盗賊「盗賊から宝を盗むなんてトンデモねぇ!ってんであの親分だった男が怒っちゃって、でももう別にどうでもいいんですけどねアリババ殺さなくても…って大丈夫ですかい?兄ちゃん汗すっげぇけど…どっか痛いのか?」
シンドバッド「……」
シンドバッド(おいおいおい!こんな偶然ってあんのか!?この世界にいくつ盗賊団があると思ってる!?よりによってお前…やべぇ、完ッ全にやらかしちまった…!)
シンドバッド(どうすんだこれ…!親分が死んじまったら結末を迎えられなくなってこのおとぎ話が消えちまう!いや落ち着け、この盗賊の兄貴分を新しい親分に仕立て上げて…いやダメだ、こいつらにはもうアリババを殺す理由が無い!)
シンドバッド(とにかくここはシェヘラザードに報告してうまく改変してもらうのが一番の解決策だよな。だがそうするってなると必然的にあいつの耳に入れなきゃ何ねぇ訳で…)
シンドバッド(…駄目だ!どっちにしろシェヘラザードは魔神の如く怒る…防ぎようがねぇ!)
502:
シンドバッド「あいつに知られずに…いやそうすると…するってぇと…いや無理か…」ブツブツ
盗賊「アニキ、大丈夫すかねこの兄ちゃん…急にブツブツ言ってるけど」
盗賊アニキ「大丈夫じゃねぇか?別に怪我してる訳じゃねぇ。…まぁそういう事だラプンツェルさん、所詮俺たちは盗賊、盗みも殺しもする悪党だ。だから盗賊なんかを友達だなんて言うもんじゃねぇ、冗談だとしてもな」
ラプンツェル「冗談じゃないよ?よくわかんないけど、だったらみんなもう盗賊やめたらいーじゃん、親分ももういないんだしさ!」
盗賊アニキ「そんな簡単なことじゃねぇんだ。こいつらは俺と同じで大体が孤児、身よりもなけりゃ学も金も無い、読み書きできない奴が大半だ。結局悪党に身を置くか奴隷に成り下がるか…そんくらいだ、末路はな」
ラプンツェル「お仕事が無いなら私が探すの手伝ってあげるよ!私、友達もいっぱいいるからお仕事無いか聞いてみる!パパ…あっ、王様なんだけどね、パパにお願いしたら働くところ見つけてくれるかも!」
盗賊アニキ「お、王!?ラプンツェルさん、姫君なのか!?い、いや…だったらなおさら俺たちと関わっちゃあ…」
ラプンツェル「あとは…シンデレラとかシェヘラザードに聞いたらお城のお仕事貰えないかなー。あっ、みんなマッチョだから裸王なら喜んでお仕事くれるかも!あとで聞いてみる!」
盗賊アニキ「…なぁラプンツェルさん、あんたがあの男を倒したのは偶然なんだよな?」
ラプンツェル「うん、そーだよ?」
盗賊アニキ「どうして俺達にそこまで肩入れするんだ?頭領を失った盗賊団の連中に仕事を探してやるなんて…どう考えても普通じゃあねぇぞ、何故そこまでする?ただ成り行きで杯を交わしただけだぞ、俺達は…」
ラプンツェル「一緒にご飯食べて飲み物飲んでお喋りしたらもうお友達だよ?盗賊とかかたぎ?とかよくわかんないけど、関係ないよ。だってもうみんなは私の友達だもん」
ラプンツェル「だから友達がお仕事無くて困ってるんなら私はお手伝いするよ!そんなの当たり前のことだよー」ニコニコ
503:
その時、盗賊アニキの頬を伝ったのは涙であった。
物心付いた時には既に親は無く、他の孤児達と盗みをして食いつなぐ日々
社会の隅に追いやられ、他人から優しい言葉をかけられることなど…無かったのである
盗賊アニキ「あんたは…盗賊の俺達を友と呼んでくれるのか?散々盗みを働いた俺達を!」
ラプンツェル「だから最初っからそういってるのにー。それにもうみんなは盗賊じゃないでしょ?私がお仕事探してきてあげるからおーぶねに乗ったつもりでいてよね!」フンス
盗賊アニキ「ラプンツェルさん…!俺の心は今、喜びで満ちている。親分から解放されたからじゃねぇ、真っ当な仕事が見つかるかもしれないからでもねぇ!あんたのような心優しい人に出会えたことが、俺はとても嬉しい」
ラプンツェル「アニキが嬉しいなら私も嬉しいなー、でも出来ればラプンツェルさんはやめてよー。友達はそんな風に呼び合ったりしないよ?」ニコニコ
盗賊アニキ「あぁ、わかった…!よぉし、お前らぁ!親分から解放された今、俺達は盗賊団を捨てる!そして今ここに新たな団体を発足する!その名も『40人のラプちゃん親衛隊』だ!反対意見がある奴はいるか!?」
「みんな賛成ですぜアニキィィ!ナイスアイディア!」
「よっしゃあぁぁ!これからもラプちゃんと一緒だぁ!」
「ラプちゃんかわいいぃぃぃ!!ラプちゃんマジ天使ぃぃぃ!!くんかくんかぁー!」
盗賊アニキ「ラプちゃん、これから俺達はあんたに付き従う。だがそれは部下としてでも奴隷としてでもねぇ、友人として…そして親衛隊としてラプちゃんの力になる、構わねぇか?」
ラプンツェル「しんえーたい?とかよくわかんないけど、みんな仲良くできるって事だよね!それなら賛成賛成!」
盗賊アニキ「そうと決まればもう一度乾杯だラプちゃん!お前等ぁ!飲み物準備しろー!ラプちゃんはノンアルだぞノンアル!」
ワーワー ガヤガヤ
シンドバッド(や、やべぇ…名案が浮かばないうちに話がこじれて来やがった…!)
505:
シンドバッド「な、なぁ…お前等さ、盗賊やめる事ねぇんじゃね?なんつってもプロなわけだしさ。ほら、もったいないだろ、技術がさ。だろ?」
ラプンツェル「もーっ!みんなが新しいお仕事探そうってしてるのに何でそんな事いうの?シンドバッドのイジワル!」プンスカ
「そうだぞお前!ちょっと顔が良いからって調子に乗ってんのか!?ふざけんなよハンサムが!」
「ちょっとモテそうだからって舐めんなよチャラ男が!くたばれ!」
「プンスカしてるラプちゃんもかわいいぃぃぃ!!」
シンドバッド「クソっ…なんだこの結束力…なんとかしてこいつら盗賊やめるの阻止しねぇと…!」
スタッ
???「おやおや、あなたにしては珍しく随分と余裕がなさそうですね…いつもは余裕ぶっていることが多いのに」スッ
シンドバッド「こんな状況で余裕ぶっていられるかってんだ!このままじゃ俺はお前に……ゲッ、シェヘラザード…!?」
シェヘラザード「ゲッとはなんですか。もう少し言葉を選びなさい、あなたはおとぎ話の主人公なんですからね。まぁ今は、それよりも……」
ゴゴゴゴゴ
シェヘラザード「何がどうなっているのか私に説明をしなさい、シンドバッド?」
520:
・・・
シンドバッド「──で、今に至るって訳だ…。あとは見ての通り俺は身動きがとれねぇしあいつ等は宴に夢中でこっちに気づいてすらいねぇ…ってな所だ。他に何か聞きたいこと、あるか?」
シェヘラザード「いいえ、大丈夫です。大体の状況は把握しましたから」
シンドバッド「話が早くて助かるぜ。いやぁ、お前はなんつっても俺達と違って頭の回転がいからな!一度話しただけでぱぱっと状況把握しちまう、やっぱお前は聡明な女だ。流石は俺の作者だぜ」ハハハ
シェヘラザード「ありがとうございます。でもおだてたところでお説教を中止にしたりしませんよ?」
シンドバッド「ハハハ!お前何言ってんだよ、そんな下心なんて無ぇって!……なんで解ったんだ?」
シェヘラザード「当然です。あなたが突然誉めるのは何かやましいことがある時か、お説教回避のおべっかのどちらかなんですから」フイッ
シェヘラザード「まぁ色々と言いたいことはありますが…あなたの性格ではラプンツェルさんの頼みを断ることは出来ないでしょうし、友人として彼女の相談に乗るのは当然だと思います」
シンドバッド「だろっ?困ってる女を見過ごすなんて出来ねぇしそれがダチだってぇなら尚更だ。なんだなんだ、お前今日は妙に話がわかるじゃねぇか!」ヘラヘラ
シェヘラザード「で・す・が!その方法が最悪です!百歩譲って彼女の特訓に付き合うのはいいとしても、どうしてそれを【アリババと40人の盗賊】の世界でおこなうのですか!?」
シンドバッド「そ、そりゃお前…実戦に勝る特訓無しだからな。この世界には数え切れないほどの盗賊団が存在すんだからそいつ等を退治がてら特訓の相手にすりゃ街は平和になるわラプンツェルは強くなるわでwin-winだろ?ハハハ…」
シェヘラザード「何がwin-winですか!確かに物語と関連性のない盗賊団なら退治しても直接的な問題はないでしょう…ですが結果はどうです!?あなた達二人はあろうことか40人の盗賊団の親分を倒してしまっているではないですか!」キッ
シンドバッド「そ、そりゃあうっかりっていうか不可抗力っていうか…わざとじゃねぇんだって!結果的にそうなっちまっただけで俺達には悪気があった訳じゃねぇんだよ、な?」
シェヘラザード「悪気があろうと無かろうと同じです!彼が死んでしまった今…このままにしておけば物語が立ちゆかなくなり、この世界は消えてしまうんですよ!」
シェヘラザード「完結していないおとぎ話に不用意に干渉すればこうなってしまう危険性があることをあなたは知っていたはず。それなのによく考えもせず…いくらなんでも軽率過ぎます!それなのにあなたは言い逃れや言い訳ばかり…!」
521:
シンドバッド「わ、わかってるって…悪かった。ついいつもの癖で言い訳しちまったけどよ…流石に今回ばっかりは反省してる。いいや、猛省してる!見ての通りだ!」
シェヘラザード「とてもそうは見えませんけど…」ジーッ
シンドバッド「ぐっ…そうかよ、こういうとき普段の行いのツケが廻ってくるよな…」
シェヘラザード「分かっているなら普段からキチンとしなさい。まぁ…学んだこともあるようですし今回はあなたの言葉を信じます。それに、いつまでも拘束されているのは辛いでしょう」スパッ
シンドバッド「おぉ、流石はシェヘラザード!恩に着る!お前が作者で俺は幸せもんだぜー!」ヘラヘラ
シェヘラザード「言った側から軽口を叩くのですから困ったものです…。事態が落ち着いたらアリババやモルジアナにも謝罪しておくのですよ、特にモルジアナは激昂していましたから念入りに」
シンドバッド「おう、任せろ!にしてもお前がこの程度の説教で許してくれるなんて珍しいじゃねぇか。いつもだったら何時間もガミガミガミガミ…」
シェヘラザード「あら、お望みならば何時間でもガミガミしますけど?」
シンドバッド「そ、そういう意味じゃねぇよ!勘弁してくれ!」
シェヘラザード「まったく、あなたは一言多いのですから…。確かにあなたの行動に関してまだ言いたいことは山ほどありますが…」
シェヘラザード「今回はラプンツェルさんの気持ちを考えていなかった私にも非があります。ですからあなただけを糾弾するのは筋違いです、私も反省すべき所はしなければなりませんからね」
シンドバッド「まっ、そりゃあ一理あるな。お前があいつの話聞いてりゃこんな大事には…おっとやべぇ、また余計なことを言っちまうとこだったぜ」ヘラヘラ
シェヘラザード「……まぁいいです。今はこの状況をどうするか考えましょう。この世界が消滅してしまうという危機から、まだ脱していませんからね」
522:
シェヘラザード「このおとぎ話が本来の結末を迎える上での問題は二つ…ひとつはモルジアナが倒すはずの親分が死んでいること。そしてもう一つは…」
シンドバッド「盗賊団がどう言うわけかラプンツェルの親衛隊になっちまってることだな。あいつ等もう盗賊業どころかアリババへの仕返しなんかどうでもいいと思ってるぞ」
シェヘラザード「あなたの話だと彼等は元々親分に尽き従っていただけで根っからの悪人ではなかったのでしょう。とはいえ…この世界を守るためにアリババへの仕返しはしてもらわなければいけません」
シンドバッド「つーかよぉ、このおとぎ話の作者はお前なんだからどうにでもなるんじゃねぇの?ぱぱっとうまい具合に書き換えちまえば万事解決だろ?」
シェヘラザード「随分と簡単に言ってくれますね…。私なら書き換えは確かに出来ます、ですがここまで物語が進行している状態では大規模な改変は不可能です、つじつまを合わせることが出来なくなるので」
シンドバッド「なるほどな、作者の力も万能じゃねぇってか」
シェヘラザード「そもそも物語の改変は現実世界へ影響を及ぼしますからね…本来ならばあまり使いたくはありません」
シンドバッド「そうなのか?でも消えちまう訳じゃねぇし些細なもんだろ?」
シェヘラザード「とんでもない。大規模な改変はこの物語を気に入ってくださっている方、このおとぎ話を元に新たな物語を紡いだり作家を志してくれた方、その方達を裏切ることになりますからね」
シンドバッド「まぁ言い分はわかるけどよ、余所の世界の連中に気を使いすぎじゃねぇか?お前の物語の聞き手はあくまで国王だろ?」
シェヘラザード「確かに私は王に優しい心を取り戻してもらうために物語を紡ぎましたが…現実世界で私の物語が誰かの心を動かしているのなら、私はそれを大切にしたいのです」
シンドバッド「そうかい、頭の良い奴の考えることは良くわかんねぇけどよ。お前がそうしたいってならそれでいいんじゃねぇか」
シェヘラザード「えぇ。ですから、なるべく小さな改変で済むように…出来るだけ些細な変更で済む方法を考えましょう」
523:
シンドバッド「まぁ盗賊の連中はどうにか説得してアリババの所へ行かせるとしてもだ…問題は親分だよな。本人は死んじまってる、代役を立てようにも死んじまう役回りを無関係の奴にやらせるのもなぁ…」
シェヘラザード「そうですね。それにあれを見ていると盗賊団の皆さんの命を奪うというのも…」
・・・
ラプンツェル「あっ、アニキもうお酒無いよ?私がついできてあげるよー」ニコニコ
「ラプちゃんのお酌とかアニキズリィー!ラプちゃん俺も俺も!」
「大体さぁラプちゃんの隣占領するのズリィよアニキ!」
「アニキには俺がついで差し上げやす!だからラプちゃんこっち来てー!」
親衛隊アニキ「えぇい、ラプちゃんは俺についでくれるって言ってんだよ!お前等は後だ後!後で頼め後で!」
・・・
シンドバッド「まぁなぁ…あいつ等死んじまったらラプンツェルもショックだろうしな」
シェヘラザード「こうしましょう。物語は当初の筋書き通り進行させましょう、ただし…親分役もあの盗賊達もモルジアナに退治されるだけ。命までは失いません、それなら改変も僅かで済みます」
シンドバッド「そうすりゃ親分の代役も死なずに済むな。でもよ、俺には良くわかんねぇけど死ななくても大丈夫なのか?」
シェヘラザード「盗賊達の生死はこの物語で重要では無いですから、問題ないでしょう」
シェヘラザード「【マッチ売りの少女】のマッチ売りさんや【キジも鳴かずば】の弥平さんのように死ぬ事が物語に重大な影響を与える人物を生かしたままおとぎ話を存続させることは出来ませんが……彼等はそうではありませんから」
シンドバッド「良くわかんねぇけど大丈夫なら問題ねぇな。となるとあとは誰が親分の代役をするか、それとどうやって盗賊達をやる気にさせるかだが…」
シェヘラザード「それに関しては私に考えがあります」
524:
シンドバッド「そんじゃお前に任せてりゃいいな。どんな手か知らねぇけど俺が無い知恵絞るよりはずっといいしな」ハハッ
シェヘラザード「どちらにしろ、彼等と話さなければいけませんね。では行きましょうか」スッ
シンドバッド「待て待て!用心しろよシェヘラザード、あいつらラプンツェルにはゾッコンだが俺に対しては辛辣だしな…いきなり余所者のお前が顔を出すのはマズい」
シェヘラザード「そうでしょうか?私には彼らがそこまで悪人のように見えませんが」
シンドバッド「人は見かけによらないって言うだろ?用心するに越したことねぇよ。実際、俺はそうとう嫌われているようだしな…不用意に出て行かない方がいいぜ」
シェヘラザード「それはあなたが嫌われるようなことをしたのではないですか?大方、調子に乗ってヘラヘラしていたのでしょう」
シンドバッド「お前も大概辛辣だな…俺はこう見えておとぎ話の主人公、魅力はあるって自負してんだ。そもそも俺が他人に嫌われるような奴に見えるか!?」
シェヘラザード「あなたは良い人ですよ、相応の魅力もあります。ですがそれは初対面ではわかりにくいです、外見は相当チャラチャラしてますし。もう少し清潔感と誠実さをですね…」
シンドバッド「…あーっ、わかったわかった!もう行くぞ!これ以上話してたらこっちが傷ついちまうぜ、ったく」スタスタ
シェヘラザード「大丈夫ですよ、長くつきあっていれば魅力がわかるはずですから」ウフフ
シンドバッド「っつーかよ、結局親分の代わりは誰がやるんだ?つってもラプンツェルにさせるわけにもいかねぇし盗賊の兄貴分にやらせるのか?」
シェヘラザード「いいえ、親分の代役は盗賊団以外の人物でなければ39人になってしまいますからね。代役はシンドバッドに頼もうかと」スタスタ
シンドバッド「いやいやいや待てお前!何で俺なんだよ!?聞けお前!」
525:
ワイワイ ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ
「いやー!しかしようやく盗賊から足を洗えるぜ。なぁ、お前はどんな仕事に就きたい?俺は騎士がいいな、白馬の騎士」
「白馬の騎士ってお前(笑)俺は独学だけど剣術くらいしか取り柄ないしなぁ、どっかの城で雇ってもらえりゃ御の字だな」
「俺は仕事はなんでもいいがとにかく彼女が欲しい」
「真顔はやめろよ切実すぎて笑えねぇ」
親衛隊アニキ(うんうん、ラプちゃんのおかげでこいつ等もまともな仕事に付けそうだ。昨日まで将来を語るなんて出来なかったのに、良い事だな)
スッ
シェヘラザード「盛り上がっているところ失礼いたします、少しお時間よろしいでしょうか」
親衛隊アニキ「なっ!?なんだぁ!?今日は次から次へと…!」ザワザワ ザワザワ
シェヘラザード「申し遅れました、私シェヘラザードと申します。シンドバッドとラプンツェルさんの友人なのですが、二人がお世話になったようなので…私もご挨拶をと思いまして」
親衛隊アニキ「ラプちゃんの友達か。俺はこいつ等盗賊の兄貴分…いや、ラプちゃん親衛隊のアニキだ。そんな事よりあんた、随分良い身なりしてるがこの辺は物騒だから気をつけろ…ラプちゃんもだがもっと危機感を持つべきだ」
シェヘラザード「ご忠告ありがとうございます、私には立派な護衛が居ますのでご心配なく。ところでラプンツェルさんはどちらに?」
親衛隊アニキ「おう、ラプちゃんならそこに……ラプちゃんなにしてんだ…?その前髪なんだ?一発芸か…?」
前髪がすげぇ長い人「わ、私ラプンツェルじゃないデース!人違いダヨー」コソコソ
親衛隊アニキ「なぁラプちゃん、あの嬢ちゃん友達なんだろ?何でそんな嘘t」
前髪がすげぇ長い人「う、嘘じゃないデース!シェヘラザードは友達だけど今私がここにいることバレたら怒られちゃうから内緒にしてて!…あっ、内緒にしててデース」
526:
シェヘラザード「そうですか。申し訳ありません、友人によく似ていたので」ペコリ
前髪がすげぇ長い人「気にしないでイイヨー。あとラプンツェルに会っても怒らないであげてネー?あっ、私はラプンツェルじゃないケドネ?」コソコソ
シェヘラザード「はい。しかし困りました、これ以上ラプンツェルさんの居場所がわからないとなるとゴーテルさんが心配しますね…きっと食事も喉を通らず夜も眠れない程に…お年を召されていますし寝込んでしまうかも…」
ラプンツェル「…!だ、ダメだよそんなの!ママに心配かけたくないもん!」バッ
シェヘラザード「おはようございます、ラプンツェルさん」ニコリ
前髪がすげぇ長い人「あっ、えっと…おはようデース…」バサッ
シェヘラザード「もうその小芝居は良いですよラプンツェルさん、私はあなたを叱りに来た訳じゃないんですから」
ラプンツェル「本当?シェヘラザード、怒ってない?」チラッ
シェヘラザード「そうですねぇ…怒ってないわけではないです」ウフフ
ラプンツェル「えーっ!?やっぱり叱りにきたんだ!」ガビーン
シェヘラザード「ですがそれは、あなたがかかしさんを巻き込んでまで嘘を付いたこととおとぎ話の世界の事情を知っていながらシンドバッドの誘いに乗ったことです」
シェヘラザード「ですから私の反対を押し切って戦うことを選んだことに関しては怒っていません。むしろ私が謝るべきです、昨日の私はラプンツェルさんの話を聞かずに自分の意見を押しつけてしまいました」
527:
シェヘラザード「今では後悔と反省をしています。それと…思わず叩いてしまったこと、本当に酷いことをしてしまいました。ごめんなさい」ペコリ
ラプンツェル「ううんっ、私も勝手なことする前にもっかい話した方が良かったよね…ごめんね!もう二度とぺたんこおっぱいって言わないよ!気にしてるのにぺたんこおっぱいって言ってごめんね!」
「あぁ…確かに…」
「あぁ、ぺたんこだな…」
「お前等!あんまりじろじろ見るんじゃねぇ!ぺたn嬢ちゃんに失礼だろうが!」
シェヘラザード「……。いえ、ラプンツェルさんがわかってくださったのならそれ以上は望みません。では仲直りのしるしに」スッ
ラプンツェル「うん!あくしゅ!なーかーなーおーりっ!はいっ!仲直りしたー!」ブンブン
シェヘラザード「はいっ。でもかかしさんとモルジアナには謝っておくんですよ?迷惑をかけていますからね」
ラプンツェル「うんっ!わかった!で、モルジアナって誰!」ニコニコ
親衛隊アニキ「なんだかよくわかんねぇが、仲直りしたってことは良いことだ。おい、嬢ちゃんにも何か飲み物を出してやれ!」
シェヘラザード「あっ、お気遣いなく。突然押し掛けたというのにもてなして貰っては…」
親衛隊「いいんだよ!ラプちゃんは俺らの友達!友達の友達は友達だからな!」
シンドバッド「そうだよな!いやぁ二人が仲直りできて良かったぜ。俺も二人の友達だから俺にも酒を頼むぜ」
親衛隊「シェヘラちゃんお待ちどうー!ノンアルでよかったかな?」ニコニコ
シンドバッド「おい無視はやめろ」
528:
・・・しばらくして
親衛隊アニキ「おいおい待て待て!?余所の王妃だぁ!?嬢ちゃん、案内付けてやるから今すぐ戻れ!そんな高貴な奴が居ていい場所じゃねぇぞここは!」
シェヘラザード「ご心配感謝します、ですが私はそんな大層なものではありませんよ。いざとなればシンドバッドも居ますし」
親衛隊アニキ「しかしなぁ…わざわざ治安の悪い場所にくるんじゃねぇよ。盗賊には女子供だろうと容赦ねぇ卑劣な奴も多いんだぞ」
シェヘラザード「説得力に欠けますね、それが真実ならば私は今頃拘束されているはずですよね?」
ラプンツェル「アニキやみんなはもうとーぞくじゃないから大丈夫!それにみんな優しいよ!」ニコニコ
親衛隊アニキ「ラプちゃんがそう言ってくれるのはありがてぇが…」
シェヘラザード「ところでラプンツェルさんは彼等に新しいお仕事を探してあげるのだと言っていましたね。あてはあるのですか?」
ラプンツェル「えーっとね、お友達みんなに聞いてみようかなって思ってるしパパにも相談してみる!あっ、シェヘラザードのお城でお仕事余ってない?みんな強いらしいからお城の兵士とか!」
親衛隊アニキ「ラプちゃん、気持ちはありがたいがいくらなんでも余所の国の盗賊団崩れを雇うような王族はいねぇよ。あんまり嬢ちゃんを困らせるようなこt」
シェヘラザード「そうですねぇ、陛下に相談してみましょうか?」
親衛隊アニキ「そんな簡単に決めて良いことじゃねぇだろ!?見ず知らずの連中をお前…」
ラプンツェル「うん、お願い!あとあとシェヘラザードは頭良いからみんなが新しいお仕事見つけるいい方法考えつくよね?なにかないかな?」
シェヘラザード「うーん…そうですねぇ…」
シェヘラザード「やはり新たな仕事に就くのなら盗賊時代の行為は清算しておくべきですね」
529:
ラプンツェル「とーぞくじだいのこーいをせーさん…?よくわかんない!」
親衛隊アニキ「シェヘラの嬢ちゃんは俺達に罪を償えって言ってるのさ、散々盗みも殺しもしてきた俺らが今更普通の暮らしを手に入れようなんて虫がいい話だからな」
シェヘラザード「どんな事情があったとはいえ窃盗は犯罪です。犯罪を犯せば償うのは当然です」
親衛隊アニキ「あぁ、それは当然の報いだ。だが…自首なんかすりゃいつ牢から出られるか…そもそも出られるかどうかも怪しい」
ラプンツェル「シェヘラザードー、何とかならない?みんなホントは良い人だからろーやはかわいそうだよ」
シェヘラザード「そう言われましてもこの国でも窃盗は罪なのですよね、なら法に則った罰を受けるべきです。ですが…この国から出て行けばもうこの国の法律に縛られることはありません」
ラプンツェル「そっか!別の国に逃げよう!」ポンッ
親衛隊アニキ「あんたら王族なのにとんでもねぇこと言い出すな…要するに高飛びじゃねぇか」
シェヘラザード「厳密には違います、罰からは逃げますが罪を捨てる訳ではないのです。法律ではなくあなた方が出来る方法で今までの罪を償えばいいのでは無いでしょうか?」
親衛隊アニキ「まぁ…そうするしかねぇけどな、この国じゃ働き口はみつからねぇだろうし捕まれば牢屋だしな」
ラプンツェル「じゃあきまり!みんなで別の国にお引っ越ししてそこから仕事探そう!」
シェヘラザード「ところでアニキさん、盗品はまだどこかに保管してあるのですか?」
親衛隊アニキ「あぁ…金はほとんど使っちまったが宝石やら何やらはまだ随分残ってる」
シェヘラザード「出来ればそれは元の持ち主に返しておきたいですね。それは可能ですか?」
530:
親衛隊アニキ「盗賊やめるなら盗んだ物は元の場所に…ってか。全てってわけにはいかねぇが…大体はどこから盗んだのかわかると思うぜ」
シェヘラザード「ならば返せるものだけでも返しましょう。返したからといって罪が消えるわけではないですが、その方がいいです」
親衛隊アニキ「そうだな、じゃあお前等!宴が済んだら早お宝返却開始するぞ!」
親衛隊「へい!しかしアニキ…そうするとアレ、どうします?」
親衛隊アニキ「あぁ、アリババに奪われた宝物か…」
シェヘラザード「まぁ、何者かに宝物を奪われたのですね。ならばそれも取り返した上で元の持ち主に返却しましょう」
シンドバッド(なるほど、名目は違えど盗品を取り返すって部分は同じ。それなら自然にこいつ等をアリババの所へ誘導できるってわけか)
親衛隊アニキ「そうだな、それがいい。だがアリババには頭の切れる奴が付いててな、一筋縄じゃいかねぇだろう…親分もいねぇしな。嬢ちゃん、あんたも頭が良さそうだ。知恵を貸してくれねぇか?」
シェヘラザード「それならば亡くなった親分代わりにそちらのシンドバッドをお貸ししましょう。こう見えて機転も利いて戦いの腕も立ちますよ、皆さんの役に立つはずです」
シンドバッド「来た来た来やがった…はいはい!やりゃいいんだろ!こうなったのは俺のせいだし盗賊の親分でもなんでもやってやるよ!」
「は?お前が親分とかねぇわ」
「女の子ならいいけどよぉ、でもラプちゃんやシェヘラちゃんを危ない目にはあわせらんねぇし…」
「いくら罪滅ぼしのためだっていってもこんなチャラ男の下につくとか形式上だとしてもごめんだわ」
シンドバッド「こいつら…」
531:
シンドバッド「お前等俺を舐めるのも大概にしろよ!俺はあの怪鳥ロックを従える優秀な船乗りなんだからな!」
「それロック鳥がすげぇだけだろ、勘違いすんなよ」
「自分で優秀とか言う奴は大概雑魚だよな(笑)」
「つぅか丘の上で船乗りの経験とか生かせねぇだろ、結局一般人じゃねぇかこいつ」
シンドバッド「畜生…おいラプンツェル!こいつらに俺のすごさ教えてやれ!俺は気がすすまねぇが親分代わりはしねぇといけねぇんだ!」
ラプンツェル「うん!えーっとね、シンドバッドはね!女の子好きでいっつも女の子のことばっかり気にしてるけど強いし頭もちょっとだけ良いからみんなの親分の代わり出来ると思う!だから宝物返す間だけ親分にしてあげてよ、ねっ?」
「ラプちゃんがそう言うならもちろんだよー!なぁみんな!」
「おうよ!それに考えて見りゃ親分って目立つし命も狙われやすいから親しい奴より案外どうでもいいこいつのほうが適任かもな!」
「あぁ、確かに。こいつならうっかり別の盗賊に殺されようがどうでもいいしな!」
シンドバッド「……」
親衛隊アニキ「よし、じゃあ頼むぞ兄ちゃん。ありがとなシェヘラの嬢ちゃん、色々と知恵を貸してくれてよ」
シェヘラザード「いえいえ。ただ…あなた達が盗賊をやめようとしていることが周囲にバレては余計なトラブルを招くでしょう。あくまで内密に…盗みを働くふりをして返却した方がいいと思います」
親衛隊アニキ「そうか、そうだな!よし!ここが正念場だぞお前ら!きっちりケジメ付けてまともな生活送れるように頑張るぞ!」
オォォーッ!
532:
・・・
親衛隊アニキ「よし、じゃあ宴はここまでだ!ちゃっちゃと片付けて仕事に移るぞ!」ヘーイ!
ラプンツェル「あっ、じゃあ私もお手伝いするよ!」
シェヘラザード「私もお手伝いします。この量ですからね、手は多い方がいいでしょう」
親衛隊アニキ「いやいや、二人には世話になっちまったからな。座っててくれよ。それにシンドバッドの兄ちゃん、気ぃ悪くしねぇでやってくれな、こいつら暗い青春しか送ってねぇからあんたのようなモテそうな男に厳しいんだよ」
シンドバッド「ったく、何で俺がムサい盗賊どもの面倒を…」
ラプンツェル「あっ、違うよ!とーぞくじゃなくてしんえーたい!」
シンドバッド「あぁそうだったな。まぁ俺が代役してこの世界が消えないならそれで良いけどよぉ…もうちょっとなんとかなんねぇかなあいつら」
シェヘラザード「それじゃあシンドバッドに任せて私達は帰りましょうかラプンツェルさん。あなたの特訓をどうするかも考えなければいけませんし」
ラプンツェル「そうだった!じゃあ帰るねアニキ!また遊びに来るしみんなのお仕事ちゃんと探しとくからみんなにも頑張ってねって伝えといて!」
親衛隊アニキ「あぁ、俺たちなりの罪の償いを見つけて必ずそれをやり遂げてみせる。そしてラプちゃんの親衛隊として胸張れるようになるからよ、またいつでも来てくれ。みんな喜ぶ」
ラプンツェル「うん!みんな友達!友達はいつでも会えるんだよ!だからまたね!」
親衛隊アニキ「あぁ、あんたに会えて良かったよラプちゃん。そんじゃあまたな」
シェヘラザード「ふふっ、では行きましょうか。帰りは魔法の絨毯で空の旅です、だからといってあまりはしゃがないようにしてくださいね?」
ラプンツェル「はーい!よーし、次来るときはもっともっと強くなってるようにしよっ!」ニコニコ
・・・
543:
舌切り雀の世界 雀のお宿
舌切り雀「えっ?この世界にあの有名な『桃太郎』が来てるってんですかい?そりゃすげぇ!」
雀の長老「これ、舌切りの!日ノ本一の英雄を呼び捨てにするとは何事じゃ!様を付けんかい様を!」
舌切り雀「へぇすんません。そんで…本当なんですかい?その桃太郎サマが来てるってのは?」
雀の長老「うむ、偵察隊からの確かな情報じゃ。お供として有名な三匹は不在じゃが素性が解らぬライオンを引き連れているとの報告もあるのぅ」
舌切り雀「ほー…まぁ鬼退治のお供が犬猿雉って完全に舐めてますもんね。桃太郎もようやく本気を出したってとこですかね」ハハハ
雀の長老「様を付けろと言うに!まったく…舌を切られても相変わらず口に減らない奴じゃ、お前はもう少し言葉を選んでじゃなぁ…」
舌切り雀「まぁまぁ、今日は小言を聞くために来たんじゃありやせんから。お説教はまたの機会ってぇ事で、じゃないとまた抜け羽が増えますぜ」ハハハ
雀の長老「そうやって思ったことを口にするのを控えろと言うておるんじゃい!お前には雀のお宿の一員だという自覚と気配りが足りん!」
舌切り雀「やだなぁ、長老忘れたんですかい?あっし、雀のお宿の一員として、お世話になったご主人をキチンともてなしてお土産のつづらもバッチリ渡したじゃねぇですかい。完璧な仕事でしたぜありゃあ」
雀の長老「お前はその後に訪れたご婦人にとんでもない仕打ちをしたじゃろ!よりによって世話になった相手に魑魅魍魎の入ったつづらを渡すなど宿始まって以来の不祥事じゃ!」
舌切り雀「あのクソババァはあっしの舌を切り落としたんですぜ!?そのくせ強欲にももてなしを要求しやがって…ありゃあ当然の報いですぜ!」
雀の長老「阿呆!そもそも舌を切られたのはお前が勝手に糊を食い尽くしたせいじゃろうが!」
舌切り雀「まぁ…うん…いやいや、そうだとしても舌を切るなんざやりすぎだ、あっしがババァに復讐をするのは当然ですぜ!」
雀の長老「まったく…そういう考えじゃから自覚が足りないというんじゃ。舌切りの、ワシ等が営む雀のお宿とはどういうものか言うてみよ。きちんと理解しているかの?」
544:
舌切り雀「当然ですぜ!ほら、あれ…客をもてなす宿!来た客をもてなしてつづら渡して…つう感じで…へへっ」
雀の長老「…良いか?我々が作っているのは癒しの空間なのじゃ。訪れた人を歓迎し心尽くしのもてなしをすることで理不尽や不条理のまかり通る社会で疲弊した心と体を癒す場所…それが雀のお宿」
雀の長老「一時だけでも慌ただしい日常から離れて安らいで頂き、帰り際にはお土産のつづらをお渡しする。そして笑顔でご帰宅なさるお客様の笑顔が何よりの報酬なのじゃ。決して復讐に利用して良い場所ではない」
舌切り雀「えーっ?じゃあなんで魑魅魍魎の入ったつづらとか用意してるんですかい?財宝より化物を選ぶ変態用ですかい?」
雀の長老「違うわい!あれは非力な我々が外敵から身を守るための護身用つづらじゃ!お土産用ではない!」
舌切り雀「あーなるほど!てっきり宿でベロンベロンになってゲロる客とか横柄な態度のクソみてぇな客をぶちのめす為かと思ってやした!はははっ!」
雀の長老「まったく…お前のような未熟者が何故このおとぎ話の主人公なのかのぉ…」
舌切り雀「ははっ、なんでですかね?」ヘラヘラ
雀の長老「笑い事ではない!偵察部隊からの報告によると桃太郎様はこの雀のお宿をめざしているようじゃ。おそらくは同じ主人公であるお前に何かしらの協力を求めるためじゃな」
舌切り雀「桃太郎があっしに用事?えーっ、正直相手するの面倒ですぜー?」
雀の長老「様を付けろと言うに!あと面倒とか本人の前で決して口にするでないぞ!」
545:
雀の長老「おそらく、桃太郎様がお前の元へやってくるのは昨今のおとぎ話の世界を取り巻く現状に関連しておる。お前も現在おとぎ話の世界がどのような状況にあるかよく知っているだろう?」
舌切り雀「そりゃあもう。前にあっしの所に来た鬱陶しい白鳥と女版一寸法師みてぇな連中から詳しく話を聞きやしたから!アリスが暴れて世界がヤバい。ってなもんですよね?」
雀の長老「言葉選びはさておき…まぁそうじゃ。本来ならば我々もおとぎ話の世界の住人として、好き勝手しているアリスに立ち向かうべきじゃが…」
舌切り雀「そりゃ無理ってなもんですわ、あっしらは非力でちっぽけな雀ですぜ?」
雀の長老「如何にも。口惜しいかな…我々は戦うことなどできん、出来ることと言えば自分たちだけの力でこの【舌切り雀】の世界を守りきり、他の世界の方々の手を煩わせないことくらい」
雀の長老「しかし、詳しい理由は解らぬが桃太郎様はこの宿に…お前に協力を求めてやってこられる。これは喜ばしく、誇らしい事じゃ」
舌切り雀「アリスと戦う力を持つ桃太郎に協力できりゃあ、間接的つっても世界を守る戦いに一役買えるから、ですかい?」
雀の長老「左様。非力な我々でも力になれることがある、これほど嬉しいことはない。じゃから舌切りの、桃太郎様が訪れたら出来る限りのおもてなしと協力をする事、良いな?当然ワシ等も出来ることはするでな」
舌切り雀「えーっ…それあっしじゃないとダメですかい?ほら、あっし口も悪いし短気だしあんまり接客って向いてないと思うんd」
雀の長老「自覚しておるのならなんとかせい!お前は主人公じゃろ!」
舌切り雀「いや、そんなこと言われてもそれ現実世界の奴が勝手に決めたことですぜー?あっしに言われてもねぇ?」
雀の長老「言い訳無用じゃ!とにかく桃太郎様のお相手はおまえに任せるでな。しっかりと準備を整えて、さっさとお出迎えにあがらんか!」
546:
舌切り雀の世界 雀のお宿から少し離れた森
舌切り雀「長老の話だとそろそろこの辺までたどり着いてんじゃねぇかって話だけどよぉ…桃太郎って強いんだろ?迎えなんかいるのかねぇ?」
舌切り雀「しっかし面倒な事になっちまったなー、あっしが日ノ本一の英雄の接待かぁー…面倒な上に気が重いわなぁー…接待しろつってもなぁ…何しろってんだよ」
舌切り雀「糊食っただけでブチキレるババァとか、わざわざ森の奥まであっしを探しに来たご主人とかもそーだけど、人間の考えってのはイマイチわかんねぇしなぁ…」
舌切り雀「とりあえずあれだ、好物はきびだんごだろうな。厨房の連中にクッソ大量に作っとけって言ったからまぁ問題ねぇだろ」
舌切り雀「しっかしあっしに何の用事なのかねぇ…確かに日ノ本が舞台だって共通点はあるが時代も場所も違うしそもそも世界が違うってのに、何頼まれるんだか知らねぇけどさ」
舌切り雀「まっ、どっちにしろ下手に出てやるか。鬼を倒す程だから相当な手練れでよ、そんでお高く止まってる偉そうな野郎だろうしなー…んっ?」
ドタドタドタ
行商人「うわああぁ!だ、誰か助けてくれぇ!」
流浪の侍「逃がしはせん…!悪いが荷は全て置いていって貰おうか…さもなくば斬る!」チャキッ
舌切り雀(うわー、物騒になっちまったなこの辺も。野武士か落ち武者か…どっちにしろ商人にゃ気の毒だがあっしにはどうにもできねぇ)
行商人「そ、そいつはできねぇ!商品を渡しちまったら村で俺を待ってるお客に申し訳ねぇ!だから勘弁しちゃくれねぇか!」
流浪の侍「…拙者の知ったことではない。こちらも命を繋ぐには銭が必要…荷を渡す気がないというのならば、お主を殺して奪うまで…!」
行商人「くっ、もう逃げ場がねぇ…ここまでか!村の衆、すまねぇ…!」
547:
流浪の侍「退路は断たれた、観念するがいい…!」ググッ
ビュオンッ! ガキィィンッ!!
桃太郎「…罪無き商人を襲うとは不届きなり」グググッ
行商人「た、助かった…!」
流浪の侍「馬鹿な…拙者の太刀が防がれただと!?」
桃太郎「腰に携えた刀、そしてその身なり、侍としての器は整っているようだが…肝心の中身が伴っていなければ侍とは呼べぬ、素人同然」
流浪の侍「拙者を愚弄するか…!主を失おうとも拙者は侍だ、拙者が素人だなどという戯れ言…撤回して貰おう!」ジャキッ
桃太郎「確かに刀は相当な業物のようだが…信念無き刃などナマクラ刀にも劣る、そのような棒きれで斬れる物などありはせん」
流浪の侍「どこまでも拙者を愚弄するというのだな…貴様が相当な手練れだというのなら、一切の容赦はせぬ!」ダダッ
ビュオンッ! スッ
桃太郎「…言ったであろう、信念無きお主では拙者を斬ることは叶わぬ。早々に去るがいい」
流浪の侍「くっ…堕ちようとも拙者は侍!いくら貴様が強かろうとそこまで言われながら背を向け逃げるなどできん!」ズバッ
桃太郎「退くもまた兵法…とはいえその心意気、悪くはない」ビュッ
流浪の侍「ぬぐぉ…峰打ちだと!?くっ、動けぬ…!侍同士の果たし合いに遠慮など…ひと思いに斬れ!」ドサッ
桃太郎「お主は斬るには惜しい。商人よ、この隙に逃げよ。護衛についてはやれぬが…大きな街道へ出ればもう案ずることもないだろう」
行商人「あ、ありがとうございます!助かりました!では私は失礼して…!」スタタタタ
桃太郎「さて…これであの商人は無事村へたどり着けるだろう。次は…お主だ」スッ
548:
流浪の侍「ようやく斬る気になったか。命を捨てる覚悟など遠の昔に出来ている…!斬れ…!」
桃太郎「言ったであろう、斬るには惜しいと。しばらくすれば動けるだろう…もうあの様な真似をするのは止めることだ。お主が侍であり続けたいのならな。これは僅かだが…とって置くが良い」スッ
流浪の侍「銭だと…?このような施しをされるいわれはない!」
桃太郎「お主もかつては主君のために刃を振るう真の侍だったのだろう?」
流浪の侍「あぁ…だが主を失い、職を失った拙者にはもうこうするしか生きる道が無いのだ!」
桃太郎「拙者はそうは思えぬ。今は辛くとも歩みを止めなければいずれまた侍として刃を振るうことも叶おう。この路銀は…それを願う拙者の気持ちだ、受け取っては貰えぬか」
流浪の侍「……」
桃太郎「信念無き刃ではあったが、お主の剣術はなかなか見所が有るものだった。すぐにでもお主を必要としてくれる者は現れるだろう。では…拙者はこれにて」
流浪の侍「待て。お主、名はなんという?」
桃太郎「桃太郎。そう呼ばれている」
流浪の侍「桃太郎。拙者は侍だ、受けた恩義は必ず返す…!次に合間見えるときは名実ともに侍として…お主の前に参ずる!必ず、必ずだ」
桃太郎「うむ…承知した。いずれまた合間見えよう」スッ
549:
・・・
桃太郎「……」スタスタスタ
舌切り雀(へぇー、さすがは日ノ本一だ。商人を助けたうえに堕ちた侍にまで気をまわせるなんてな、少なくともあの侍は盗人にならずに済んだわけだ)
桃太郎「……」
舌切り雀(ただ悪い奴をぶちのめすんじゃなくて改心させちまうなんてすげぇなあいつぁ!あっしなら攻でぶちのめすってのに、接待にも俄然やる気出てきたってもんだ!)
桃太郎「……ライオン、そこの茂みにいるのか?もう良い、姿を見せて構わぬ」
ガサガサ
ライオン「ガルルゥ…」ノシノシ
舌切り雀(おっ、あれが例のライオンか。丁度良い、もうここで声かけちまって宿まで案内するか)
桃太郎「ライオンよ。今し方、流浪の侍に襲われていた商人を救ってきたのだが……」
舌切り雀「おーい、桃t」
桃太郎「うおぉぉぉっ!ライオン聞いてくれよマジで!あの侍思ったより強くてめっちゃびびった!!つーか最初刃受け止めたとき結構ギリギリだったからねあれ!?泣きそうなの我慢したの賞賛して欲しいくらいだっての!」
ライオン「だよねだよねぇ!?僕も茂みから見てたけどもう何度も目を覆っちゃったもん!見てるだけで漏らしそうになっちゃったよ僕ぅー!」
舌切り雀「は?」
550:
ライオン「それにしても桃太郎さんいきなり飛び出してっちゃうからびっくりしたよもぉー…知らない世界で独りきりとか怖くて想像しただけでたてがみが抜け落ちちゃうよぉ…」
桃太郎「わかるわかる!すげー心細いもんなぁ…でも商人が襲われてたからさ、正直めっちゃ怖かったけど見過ごすわけにはいかないしさー」
ライオン「でもよかったよぉ。さっき桃太郎さんも言ってたけどいくら強くっても信念っていうのが無かったら何にも斬れないんだよね?だったら安心だよぉ」
桃太郎「いやいや!斬れるからね!?信念あろうがなかろうが刀振るえば大体斬れるし避け損なえば血まみれで死ぬからね!?」
ライオン「えぇっ!?でもこれさっき桃太郎さんが言ってたんだよぉ!?あれ嘘だったのぉ!?」
桃太郎「嘘じゃないって!あれはなんていうかこう…精神的な?心意気みたいな?なんかそういうアレで…」
ライオン「そうだったんだぁ…他にもいろいろカッコイイ事言ってたから実は余裕があるのかなぁなんて思っちゃったよぉー…」
桃太郎「ないない!余裕とか微塵もないから!ほんと戦ってる最中ももう英雄やめて柴刈りで生計立てたいと思ってたし!」
ライオン「あっ、それはいいねぇ!平和が一番だもんねぇ〜」
桃太郎「ほんとそれ。早いところアリスを何とかして平和な村で暮らしたいー、最近ちょっと畑とか欲しいなーって拙者思っててさー、良い土地探して貰うかなー」
舌切り雀「……」
551:
桃太郎「でもまぁみんなも頑張ってるしアリス倒すのは頑張るけどさ。っていうかもうそろそろ到着しても良さそうなんだけどなぁ…えっと、地図地図」ゴソゴソ
ライオン「この世界の主人公の雀さんの飼い主だったお爺さん、丁寧に地図描いてくれて良かったねぇ」
桃太郎「ありがたいよね。でも言いにくいけど達筆すぎて字が読めないんだよ…なんてよむんだろこれ『大きな…蜂の巣に気を…つけるべし』かな?……はぁっ!?そんなの口頭で言ってよぉぉ!!こえええぇぇぇ!!!」
ライオン「だ、駄目だよ!蜂さんは騒ぐと寄ってくるんだってかかしが言ってた!静かにしようよ!」
桃太郎「マジでか!わかった、静かに静かに…な?」ヒソヒソ
ライオン「はーい、そっと森を抜けようね」ヒソヒソ
桃太郎「蜂はなぁ…マジでヤバいから!うちの村でも蜂に刺されて死んだ奴いるからね?マジで気をつけよう、マジでヤバいからね蜂は」
ライオン「うんうん、僕とかほとんど裸だから刺され放題で怖いよぉ〜」
桃太郎「ライオンを覆えるような布無いしなぁ…でも拙者は怖いから顔覆おうかな…蜂ヤバいし」
ライオン「えぇーっ!ずるいよぉー!蜂はヤバいんでしょぉ!?僕も何か欲しいよぉー!」
舌切り雀「テメェ等ァ!男が蜂がヤベェ蜂がヤベェって…つまんねぇことで騒ぐんじゃねぇ!それでもテメェ等男かァァ!!」
桃太郎「うわああああぁぁぁ!!!!」ビクゥーッ
ライオン「で、出たあああああぁぁぁ!!」ビクゥーッ
552:
舌切り雀「うるせぇぇ!何も出てねぇってんだ!ったく、どうなってんだ英雄と百獣の王が実はヘタレだったってぇのか?」
ライオン「も、桃太郎さん!この雀さん喋ってるけど…日ノ本の雀さんは喋るの?」ヒソヒソ
桃太郎「喋らない喋らない!雉以外で喋る鳥なんてうちの世界にもいないって!多分……突然変異じゃないのか?」ヒソヒソ
ライオン「突然変異!ならしかたないねぇ…」ヒソヒソ
舌切り雀「違ぇ!あっしはこのおとぎ話【舌切り雀】の主人公、だから喋れるだけだ。ライオン、オメーと同じだ」
桃太郎「ちょ、ちょっと待って…じゃあお主は拙者のこと知って……?」
舌切り雀「おう、オメー桃太郎だろ?でもまぁまさか日ノ本一の英雄桃太郎があんなヘタレだとは思わなかったがなぁ」
桃太郎「……」
舌切り雀「……?なんだってんだ、急に黙ってよぉ」
桃太郎「ヘタレというのは何の事だろうか舌切り殿。拙者は鬼退治の英雄桃太郎!そんな拙者がヘタレ?舌切り殿は何か幻でも見たのではないか?」キリッ
舌切り雀「今更キリッとしたとこで誤魔化されるわきゃねぇだろが!このドンブラコ野郎がァァ!!」
桃太郎「ひえっ、すいませんっ!」
553:
舌切り雀「おい、ドンブラコ。そっちのライオンは何者だ?つーかオメー等の目的はなんだよ?」
桃太郎「あっ、拙者の名は桃太郎で…」
舌切り雀「オメーみたいな流されやすそうな野郎はドンブラコで十分だろうがァァ!!」
桃太郎「ひいぃっ!ラ、ライオン!早く自己紹介したげて!この雀すげぇ怖い!」
ライオン「あっ、あの…僕はその【オズの魔法使い】のライオンでその…よろしくお願いします」ペコペコ
舌切り雀「よろしく頼む。で、雀のお宿を目指してるってぇ聞いたぞ?このあっしに用があんだろう?何の用事か教えて貰おうか」
桃太郎「うむ。実はお主に折り入って頼みたいことがあるのだ。その頼みというのは…」
舌切り雀「何を格好付けてやがんだテメェ!」
桃太郎「い、いや…拙者はキリッとしてないと実力出せないって言うか…あと体裁とかイメージとか色々あるから人前ではキリッとするようにしてて…」
舌切り雀「普通に喋れ。ヘタレが取り繕ってるみてぇで腹立つ」
桃太郎「な、なぁライオン…ちょ、ちょっと言いすぎじゃない?いくらなんでも…」ヒソヒソ
舌切り雀「文句があんならあっしに直接言えばいいだろうがぁ!ヒソヒソすんじゃねぇぇ!!何の用事でここに来たのかさっさと言えこのヘタレドンブラコ!」
桃太郎「ひぃぃっ!もおおぉぉ!なんなのこいつううぅぅ!!!もうマジ怖いいやだもう拙者ああああぁ!!」
554:
・・・
舌切り雀「なるほどねぇ…大体事情は理解した。とりあえずお前等は本物で、アリスを倒すための修行でこの世界に来たってぇんだな?」
ライオン「う、うん。そうなんだよぉ…ねっ、桃太郎さん?」
桃太郎「そ、そうそう。お主のつづらは魑魅魍魎を出せるって友人から聞いて…ちょっと協力して貰えないかなぁ…って」
舌切り雀「あっしのじゃねぇけどな。まぁ良いだろ、お前等がヘタレだってのはどうも納得いかねぇがアリスを倒す為ってなら協力してやらぁ」
桃太郎「おぉ!かたじけない!できればもうちょっと優しいしゃべり方にしてくれるともっとありがたいんだけど…」チラッ
舌切り雀「でもどうしてこの世界なんだ?他の世界には鬼とか怪物とかいるだろうしそういう奴らを征伐した方が話が早いんじゃねぇか?」
桃太郎「雀に無視された…」ガビーン
舌切り雀「まぁさっきはヘタレだってバカにしたけどよぉ、修行のために魑魅魍魎に立ち向かおうって気概は流石は桃太郎って所だな、そんくらいの相手じゃねぇと修行にならねぇってか」
桃太郎「そ、それはどうも…。修行!そう、修行の為にね!強い相手と戦わないと意味ないからね!ははっ…」
舌切り雀「おっ、わかってるじゃねぇか!ビビりだがやるときはやるって感じかぁ?少しは見直したぜ」
ライオン「うんうん!でも協力して貰えて良かったねぇー…雀さんのつづらから出てきた魑魅魍魎ならもしも危なくなっても引っ込めてもらえるし、これで最初の予定通り怪我することなく安全にしゅぎょうできるねぇ」ニコニコ
桃太郎「ばっ…なんでそういうこと言っちゃうんd」
舌切り雀「ドンブラコ」
桃太郎「は、はい…」
舌切り雀「正座」
桃太郎「わかりました…」
555:
舌切り雀「修行するには強敵じゃないと意味がない。でも本気の戦いだと怪我をするかもしれないし死ぬかもしれない。だからいざという時引っ込められそうって事でうちのつづらを頼った…つうことか?」
桃太郎「はい…」
ライオン「ご、ごめんね桃太郎さん…」
桃太郎「い、いいよ。事実だし…」
舌切り雀「事実なのが問題なんだろうがァ!傷付くのが怖いからいざってときにやっぱり無しって出来る修行を選ぶって…どう言うことだテメェなめてんのか!」
桃太郎「すいませんっ!なめてません!」
舌切り雀「あっしはな…嫌いなもんが3つあるんだ」
舌切り雀「ひとつは調子に乗ってるクソババァ。もう一つは和ばさみ。もう一つ、なんだかわかるか?」
桃太郎「さ、さぁ…なんですかね…」
舌切り雀「オメーみたいな男のくせにビクビクしてるヘタレ野郎だァー!男ならもっと堂々としろこのキビダンゴ野郎!」バンッ
桃太郎「ひぃっ!」
556:
舌切り雀「おい…ひとつ気になってたんだがよ。お前が背負ってる旗はなんだ?なんて書いてあるか読んで見ろ」
桃太郎「あっ、この旗ですか?これは『日本一』ですね」
ライオン「確かアリスちゃんとの戦いが決まってからお爺さんが新しくこさえてくれたんだよねぇ?」
桃太郎「そうそう、じーちゃんばーちゃんには内緒にしてたんだけどさ、心配するから。でもお供がバラしちゃってさぁー、そしたらじいちゃんとお供が協力して旗作ってくれたんだよ!ばぁちゃんは得意のキビダンゴ作ってくれたし、気を使わせて申し訳ないんだよなー」
ライオン「でも優しいよねぇ。家族ってこういうときありがたみを感じるよねぇ」
桃太郎「確かになー。流石にアリスの世界には付けていけないけどみんなの気持ちがこもってるからそれ以外ではなるべく付けようかなって」
ライオン「うんうん、それがいいよぉ」
桃太郎「そうだよなぁ?ははっ、ちょっとこっぱずかしいけど」
舌切り雀「何ほのぼのとしてんだ!おいドンブラコ、テメェは本当に日ノ本一なのか?」
桃太郎「えっ、そりゃまぁ…一応鬼倒してるしね、拙者…日ノ本一って名乗って良いかなって思ってるけど…」
舌切り雀「テメェみてぇなヘタレ野郎が…日ノ本一なわけねぇだろうが調子のんじゃねぇぞ!」
557:
舌切り雀「お前の世界もそうだろうがこの世界も日ノ本なんだ。おめぇみたいな奴が日ノ本一を名乗るなんざあっしが許さねぇぞ!?」
桃太郎「す、すいません!すぐに外します!」
舌切り雀「男が一度掲げたもんをほいほい降ろすんじゃねぇぇぇ!!」
桃太郎「もおおぉぉぉっ!じゃあどうしろっていうんだよお前えええぇぇ!!!」
ライオン「お、落ち着いて桃太郎さん!」
桃太郎「だってあいつが…!あいつが無茶苦茶言うからさぁぁ!!」
舌切り雀「無茶じゃねぇよ。今のお前を日ノ本一と認めるわけにゃなんねぇが…だったら自他共に認める日ノ本一になりゃあいい」
桃太郎「えっ、なにそれどう言うこと…?」
舌切り雀「だからよぉ!お前や俺以外にも日ノ本が舞台のおとぎ話はいくつかあるだろ?今からそいつ等の所に行ってよぉ…お前が本物の日ノ本一だって証明して回れ」
桃太郎「他の日ノ本のおとぎ話の世界で…拙者のことを認めて貰う!?無理無理無理!」
舌切り雀「やる前から諦めんな!あっしがこれから連れて行く世界の主人公に認められたならつづらも貸してやるしお前を桃太郎だって認めてやる、修行にもなるだろ?」
桃太郎「そ、そうかもしれないけどさぁ…いやでもなぁ…」
舌切り雀「ウジウジせずにスパッと決めろやこのドンブラコ野郎がァァァ!!」
桃太郎「は、はいぃぃ!わかりました!やりますぅ!」
576:
金太郎の世界 足柄山
ライオン「あ、あの…雀さん、僕達ってもう世界移動してるんだよね?ここってもう【舌切り雀】の世界じゃあないんだよね?」オドオド
舌切り雀「おうよ、ここは既に別のおとぎ話【金太郎】の世界だぜ。それがどうかしたってぇのか?」パタパタ
ライオン「ううん、ただ周りの景色が雀さんの世界とすっごく似てるから不思議だなぁって…遠くに見える建物の造りとかそっくりだもんねぇ」
舌切り雀「そりゃあそうだ、あっしの故郷とここは別の世界に違いねぇ、だが同じ『日ノ本』ってぇ国を舞台にしてんだからよ」
ライオン「うぅーん…それなんだけど実は僕よくわかってないんだ。別の世界だけど同じ国…?この世界には雀のお宿は無くて…?桃太郎さんの家族も住んでなくて…?でもここは日ノ本で…うぅん?」
舌切り雀「あくまで舞台が同じってだけでそれぞれの世界は別モンだって事だ。あんまり難しく考えるこたぁねぇよ」
ライオン「そっかぁ、でもこういうとき頭が良かったらなぁーって思うよぉー、僕あんまり物知りじゃないから…もっと賢かったらあれこれ考えなくてもいいのになぁ」
舌切り雀「ハハッ!面白ぇ事言うなぁお前!【オズの魔法使い】で知識を求めてんのはお前じゃなくてかかしだろ?」ハハハ
ライオン「あははっ、そうだねぇー、僕が欲しいのは勇気なのに知識も欲しいなんて欲張りだねぇ〜」アハハ
舌切り雀「おうよ、強欲なのはよくねぇぞ。あのババァみてぇに魑魅魍魎に襲われちまうかもしれねぇからなぁ〜?」ケラケラ
ライオン「あわわ…僕は欲張らないようにしなきゃ!とりあえずは勇気だけ、勇気を手に入れることだけ考えようっと」ウンウン
舌切り雀「おう、それが良いぜぇ!…って言うかよぉ」チラッ
桃太郎「うわぁ…マジで来ちゃったよ…別のおとぎ話の『日ノ本』…ここの主人公に拙者を認めて貰う…?いやいや、無理だってマジで…」ブツブツ
舌切り雀「テメェはいつまでグダグダ言ってやがんだ!いい加減覚悟決めろやァァ!クチバシでガッてすんぞコラァァ!」ガッガッガッ
桃太郎「ひいぃっ!痛っ!痛っ!既にガッてやってるだろお前!もうなんなのこの暴力雀マジで嫌だもぉぉぉぉ!!」ヒイイィィィ
577:
桃太郎「怖えぇぇ…こいつマジで容赦ねぇ…怖えぇぇ…」コォォォッ
ライオン「その治癒能力本当に便利だねぇ。それにしても雀さんは桃太郎さんに対して特に厳しいよねぇ…も、もうちょっと優しくしてあげられないかなぁ…なんて思ってみたりするんだけど」チラッ
舌切り雀「こっちだってあんまりギャーギャー言いたくねぇんだぜ?でもなぁ…あっしが元々キツい性分だってのもあるけどよ、こいつの腐った桃みてぇな性格見てると我慢ならねぇんだよ。で、つい怒鳴っちまう」
桃太郎「腐った桃!?それ言い過ぎじゃない!?もうちょっと配慮した言い方g」ガーン
舌切り雀「雀ごときに怒鳴られてヒーヒー言ってるような男なんざ腐った桃以下だろうがァァ!」ガッ
桃太郎「痛いっ!雀ごときって言うけどお前気性も荒いし声もデカいから迫力すごいからね!?か弱さなんか微塵も無いからね!?」
舌切り雀「だからってビビっていい理由にはならねぇだろうが!オメェは仮にも日ノ本一を掲げてんだぞ?だったら誰に何を言われようが揺るがねぇ意識だの強いの気概があって当然じゃあねぇのか!」
桃太郎「うっ…一理ある…。確かにビビりなのは拙者の弱点だし…」
舌切り雀「国一番の英雄だろうがなんだろうが結局は人間だからよぉ、一つ二つ弱い部分があろうが隙があろうがそりゃ仕方ねぇよ。どんな偉業を成し遂げたところでそいつは神仏じゃねぇんだから」
舌切り雀「だがなぁ、オメェの場合はあまりに情けねぇ部分が多い!この際だから正直に言うがよぉ…お前の戦いぶりを初めて見た時はスゲェと思ったぜ。剣術に関しては日ノ本一ってのにあながち嘘じゃねぇと思ってるしな」
ライオン「わっ、やったね桃太郎さん!雀さん、誉めてくれてる!認めてくれてるよ!」ワチャワチャ
舌切り雀「ただし!こいつの場合は他がクソ過ぎて剣術の凄さが霞んでんだよ!戦いの後にやれビビっただの泣きそうだのと愚痴るわ…いい大人が蜂に怯えるわ…柴刈りで生計立てたいだの言って現実逃避するわ…些細なことでギャーギャー騒ぐわ…」
舌切り雀「挙げ句に雀なんぞに怒鳴られてすぐに謝るわで…どれだけ自分に自信がねぇんだオメェはよぉ!?」
桃太郎「ぐぬぬ…正直、否定できない…」
舌切り雀「だからそこで否定しろォォ!鬼退治を果たした英雄が何を雀ごときに言いたい放題言われてるんだ!そこをまずおかしいと思えェェ!」
桃太郎「た、確かに…」
578:
舌切り雀「あっしはオメェを日ノ本一とは認めないって言ったがな、ありゃあお前の立ち居振る舞いや精神面に不安が…すっげぇ不安が残ってるからだ!」
桃太郎「ええぇ…言い直してまで強調しなくても…。でも確かに言うとおりだよなぁ…拙者、素だとありえないくらい情けないし…」
ライオン「で、でもでも!桃太郎さん普段はキリッとしてるから大丈夫だよ!」
舌切り雀「大丈夫な訳ねぇだろうが!ヘタレな本性隠して取り繕ったところでなぁ…いずれボロがでるもんなんだよ!根本的な解決にはならねぇだろ!」
ライオン「ひえっ、そんな怒鳴らないでよぉ…」
桃太郎「いや…言い方はキツいけど舌切り殿の言うとおりだ。拙者は自分の武術に満足してるわけじゃないけど、精神面の弱さは本当にどうにかしないといけないなって思ってる」
舌切り雀「なんだよ、自覚はあるってぇ事か」
桃太郎「うん。もう本性バレたし開き直って話すけど…拙者は昔から自分に自信が無くて臆病でさ…鬼ヶ島の大悪鬼と対峙した時も自信が持てなくて、失敗するのが怖くて刀を振るえなかった」
桃太郎「でもさ、その時キモオタっていう友達のおかげで…拙者は勇気の出し方を知ったんだ。自分一人じゃ駄目だけど…拙者を頼って応援してくれる人達の為なら拙者は勇気を出せる。英雄でいられる」
舌切り雀「なるほどなぁ、だから周囲の目を気にしてキリッとしてるときだけは全力が出せるってぇのか」
桃太郎「うん、そういうこと。でも…近頃こんな風に考えてた。逆に言えば一人の時とか気心知れた家族友人と居るときはキリッとする必要がないから、もしそんな時襲撃されたら…実力を出せないんじゃないかって」
ライオン「桃太郎さん、そんな風に思ってたんだ…。でも確かにアリスちゃん汚い手も平気で使うからねぇ…」
桃太郎「だからさ、どんなときでも実力が出せるように…いつでも家族な友を守れるように、精神的な弱さの克服をしなきゃいけないってずっと考えていたんだけど…」
桃太郎「やっぱり拙者、筋金入りのヘタレなのかな。自分なりにいろいろしてみたけどうまくいかなくて」ハハハ…
579:
桃太郎「頭では解っててもどうしても逃げ腰になっちゃうって言うか…一度染み付いた性格はそうそう簡単には変えられないって言うか…情けない話なんだけどさ」
ライオン「そ、そんなことない!家族や友達のために勇気を出して頑張ろうってしてるのが情けない訳ないよ!ねっ、そうでしょ雀さん?」
舌切り雀「いいや。心構えは立派だがよぉ、結局自分を変えられてねぇんだろ?だったらなんの意味もねぇよ」
桃太郎「まぁそう言うかなって思ってたけど…やっぱ舌切り殿は手厳しい…」
舌切り雀「だが丁度良いじゃあねぇか!あっしはオメェのヘタレな所が気にいらねぇ。オメェは精神的に強くなりてぇ、目的とするところは同じなんだからよぉ」
桃太郎「確かに…精神的に強くなれれば拙者も日ノ本一に相応しくなれる。そうすれば舌切り殿も納得というわけか…」
舌切り雀「おうよ!だがオメェが言うように性格なんざそうそう変えられねぇってのも一理ある」
ライオン「じゃ、じゃあ一体どうやって桃太郎さんはもっと強くなるの…?」
舌切り雀「そうだな…よっし。おい桃、あっしはこれからこの【金太郎】の世界を含めていろんな日ノ本のおとぎ話にオメェ達を連れ回すって、さっき言ったよな?」
桃太郎「うん。拙者が日ノ本一だって認めて貰うために……あっ!もしかしてそれ中止にするっ!?」パァッ
舌切り雀「何を嬉しそうにしてんだオメェ!そうじゃあねぇ!当然、日ノ本のおとぎ話巡りは続行する!」
桃太郎「ですよね…そんな甘くないですよね…」
舌切り雀「当たり前だろうが!で、だな…これからお前は色々な奴に出会って日ノ本一だって事を認めて貰わなきゃなんねぇ訳だが…」
舌切り雀「その間、お前は一切格好付けるの禁止だ。どんな相手でも素の状態で接しろ」
580:
金太郎の世界 足柄山の山奥
熊「グルルゥ…グオオオォォォッ!」ダダダッ
金時「おっ、真正面からの突進か!お前は相変わらずみてぇだな!そういう分かり易い力のぶつかり合い、俺は好きだぞ!」ガシッ
熊「…っ!ガアァァ!」バシッ
金時「ハッハッハァ!そう易々と投げ飛ばされちゃあくんねぇか!だが、そうこなけりゃわざわざ都から修行に来た意味がねぇってもんだ!」ググッ
熊「……グルルゥ、グオォッ!」ガシッ
金時「うおっ、危ねぇ危ねぇ!もうあれから二十年近いってのに全然衰えてねぇな!だが俺も都で遊んでた訳じゃあねぇんだぞ!」ググッ
熊「……っ!」ズオォォッ
金時「ずええぇぇいっ!」ブオンッ
熊「クマァァァッ!!」ドサーッ
金時「ハッハッハァ!まずは白星一つ!相撲なんて久し振りだったが、意外と身体が覚えるもんだな!」
・・・
ライオン「ひ、ひえぇぇ…あの人熊と素手で戦って投げ飛ばしちゃったよぉ!?ものすごく強いみたい…」
桃太郎「ねぇ舌切り殿、やっぱ格好つけちゃだめ?熊倒しちゃう大男相手に拙者は素でいかなきゃいけないんでしょ?えぇぇ…ちょ、えぇぇ……」
舌切り雀「何を怖じ気づいてんだオメェ!素の状態のオメェを認めて貰うって所に意味があんだろが!そうすりゃ今より自信も勇気もつくだろ!オラ早く行くぞ!」
581:
舌切り雀「おい、金太郎ー!見てたぜぇ、相変わらずの怪力だなオメェは!」パタパタ
金時「んっ?その声…舌切りの!おぉ、久しいな!元気そうで何より!」ハッハッハ
舌切り雀「おうよ!へへっ、こうしてガキの頃みたいに熊と相撲とってると、とても都で活躍するお侍には見えねぇな金太郎!」ヘヘッ
金時「山に居ようが都に居ようが俺は俺、何も変わりはしないぞ!まっ、名は『坂田金時』に変わりはしたが『金太郎』の方が呼びやすいだろうからそうしてくれ!」ハッハッハ
舌切り雀「おう。ところでよぉ、今日はオメェにちょいと頼みがあんだよ。修行中悪いが…つき合っちゃくれねぇか?」
金時「おうっ!俺もお前もおとぎ話の主人公同士!何でも言ってくれ!」
舌切り雀「二つ返事で助かるぜ!おい、桃ライオン、オメェ等挨拶しろ。この世界の主人公…今は坂田金時って名らしいが、要するに金太郎だ。名前くらいは知ってるだろ?」
ライオン「あっ、はじめまして!ぼ、僕は【オズの魔法使い】のライオンです。あの、臆病で有名な…えへへ、よろしくお願いします」
金時「おぉ!あの西洋のおとぎ話の!よろしく頼む!」ニカッ
ライオン「う、うん。なんだかすんごくさわやかな人だなぁ…」
桃太郎「金時殿、お初にお目にかかかる。拙者h」キリッ
舌切り雀「おい」ギロリ
桃太郎「……えっと、桃太郎です。よろしく」ペコッ
582:
金時「おおっ!桃太郎というと現実世界の日ノ本で知らぬ者はいないという、あの鬼ヶ島の悪鬼を征伐したことで有名な日ノ本一の大英雄!」
桃太郎「いやいやいや!ちょっと持ち上げ過ぎだから!そんな大したもんじゃないから拙者!」
舌切り雀「堂々としてろ!オメェが悪鬼を倒したのは事実だろうが」
金時「ハハッご謙遜を!私はご紹介に預かった金太郎こと坂田金時と申す。まさかあの有名な桃太郎殿にお会いできるとは、感激です」ニッ
桃太郎「あっ、いや、そんな堅い感じじゃなくていいんで!もっと普通に頼みます、拙者ホントに大層な人間じゃないんで!」
金時「…? そう言うことならお言葉に甘えて楽にさせて貰おう!しかし桃太郎殿と会ってみたかったというのは本当なんだ、何しろ日ノ本一と名高い武人!同じ武人としては興味を持たずにはいられなくてな!ハッハッハァ!」バシバシバシ
桃太郎「ハハハ…って痛っ!肩!叩きすぎだから!」
舌切り雀「二人とも鬼退治の英雄だってのにこの差はなんなのかねぇ…」
ライオン「ねぇ雀さん、僕が聞いた話だと【金太郎】って男の子が主人公だったんだけど…あの金太郎さんは大人だよね?桃太郎さんよりもちょっと年上くらいだもん。それに…金太郎さんが鬼退治したって初耳だよぉ?」
舌切り雀「そりゃお前の知識不足だな、さてはあんまり【金太郎】の内容しらねぇな?」
ライオン「う、うん…金太郎さんの名前は知ってるけど内容まではちょっと…わかんない、ごめんね?」
583:
金時「ハッハッハァ!確かに現実世界でも俺の名は知っててもどんな内容かは知らないって奴が多いらしいからな!」
ライオン「ひえっ、聞かれちゃってた!?ごめんなさいごめんなさい!」
金時「気にしなくていいぞ、前に来た白鳥と親指姫にも『名前はメジャーなのに内容はマイナー』とか言われたしな。童の俺がお袋に貰った鉞(まさかり)を担いで熊に相手に相撲…ってのがよく知られてる話だよな!」ハハハ
ライオン「ぼ、僕が知ってるのもそこだけで…でも続きがあるんだよねぇ?」
舌切り雀「おう。金太郎はガキの頃から熊倒すくらい怪力だったからな、その力を見込んだ源のナントカって武士に雇われて都で侍になるんだよ」
金時「そうだな。それでいずれ都には酒呑童子っていう狂暴な鬼とその手下が現れるんだ、そいつを退治するのが俺の役割であり、この【金太郎】の結末なってことだ。まだまだ先の話だけどな」
桃太郎「すげぇ…じゃあ金太郎殿は鬼退治の英雄ってことか。うわーすげぇ人と知り合っちゃったなぁ拙者」
舌切り雀「オメェも鬼退治成功してんだろうが!他人事かテメェ!」
桃太郎「いやいや!そうは言うけど金太郎殿はひとりで鬼の軍勢を倒したんでしょ?拙者はお供も仲間も居たから、金太郎殿の方がすごいって!」
金時「いや、俺も一人じゃなく仲間の武士と共に戦う予定だ。それに鬼退治と言えば聞こえは良いが…毒入りの酒を使った騙し討ちなんでな、桃太郎殿の足下にも及ばんよ!ハッハッハァ!」
ライオン「そうなんだ…それでも十分すごいけど、桃太郎さんは真っ向から勝負して勝ってるから、どちらかって言うと桃太郎さんの方が鬼退治としてはすごいのかなぁ…」
舌切り雀「【金太郎】の内容がいまいち認知度低いのも、桃太郎の鬼退治の劣化版っぽからかもなぁ。オメェの鬼退治がすごすぎるからなぁ」ニヤニヤ
桃太郎「や、やめろそういうのは!なんか拙者のせいっぽい感じになっちゃうだろ!」
584:
金時「しかし桃太郎殿は思ったよりずっと親しみやすいな!もっとこう…力こそ正義!みたいなガチガチの武士かと思っていたぞ!」
桃太郎「いやむしろそういう人が一番苦手で…平和で優しい世界なのが一番だって思ってるしね、拙者」
金時「それは確かにそうだな!ところで桃太郎殿は何故この世界へ来たんだ?」
桃太郎「えーっと、実は拙者達近々アリスを倒しに……あっ、知ってるのかな?アリスのこと」
金時「うむ、数々のおとぎ話に危害を加えていると聞いた。本来ならば俺もアリスの企みを止める戦いに賛成したいが…この【金太郎】はまだ結末を迎えていない。出来ることはすると雪の女王と約束はしたけどなぁ…易々とこの世界を離れるわけにはいかない」
舌切り雀「まぁ基本的には自分の世界を守るのが優先だよな。戦いたくても何かと事情があって戦えないって奴は結構多いからよぉ」
桃太郎「その点、拙者のおとぎ話は結末を迎えてるから自由に動けるもんなぁ……えっと、それでまぁアリスと戦うことになったんだけど」
桃太郎「それにむけてちょっと精神修行をしたいなと思って、色々な日ノ本のおとぎ話を巡って拙者が日ノ本一だということを認めて貰おうかなって感じで…」
金時「ハッハッハァ!面白いことを言うなぁ桃太郎殿!俺が認めるまでもなく、お前さんは日ノ本一に決まっているだろう?何を今更!」
桃太郎「そ、そう?そう言って貰えるのは嬉しいなぁ。ねぇ舌切り殿、とりあえず金太郎殿は拙者が日ノ本一って認めてくれてるわけで…ひとまずこの世界での目標達成って事でいい、よね?」
舌切り殿「なぁ金太郎よぉ、お前は戦いもせずに評判だけでコイツの力を認めるのか?そりゃあ武士としてちょっとばかりどうかと思うぜぇ?」
桃太郎「ちょ、そういう余計なこと言わなくてもいいから…!」アセアセ
585:
金時「確かに…手合わせもせずに相手に力を見極めた気でいるなんて俺もまだまだだ!よぉし、桃太郎殿!俺と手合わせを願いたい!」
桃太郎「いやいやいや!金太郎殿は拙者を認めてくれてるんでしょ!?無意味な戦いはやめとこうって!お互いに戦いを控えた身なんだし命大事に!」
金時「むぅ…桃太郎殿が嫌だと言うなら無理強いするのも…」
舌切り雀「違うぞ金太郎。もう戦いは始まってんだ、桃太郎はこうしてお前が自分と戦うに相応しいか計ってやがるんだぜ?少し断る素振りを見せた程度であきらめる奴なんか戦うに値しないとか思ってんだぞコイツは」
桃太郎「ちょ…そんな訳ないだろ!?あっ、お前ワザとか!ワザと金太郎殿を焚き付けつるためn」
金時「そういう事だったか…やはり俺とは一回りも二回りも格上!鬼退治の先輩として胸を貸して貰うとしよう!」ドスドスッ
ライオン「あれ?金太郎さん、どこ行くの…?」
金時「なに、本気の手合わせならば素手という訳にもいかない。桃太郎殿が刀を使うのなら俺も愛用の武器で挑もうと思ってな!」
ググォッ
ライオン「う、うわぁ…!おっきい斧…あっ、鉞!それがお母さんに貰った奴?」
金時「いや、これは都の鍛冶屋に依頼した特注品でな。俺は刀よりもこっちの方が性に合っているからな!」
桃太郎「デカすぎじゃない!?その刃渡りなんなの!?それに柄も長いから刀じゃ間合い的に不利だって!今ならまだ間に合うからやめとこうって!」
金時「ハッハッハァ!桃太郎殿、お前さん程じゃないが俺だって腕には自信がある。それに強者と戦いたいと言うのは武士の常、いざ…参る!」
桃太郎「もおおぉぉ!なんで強い奴は決まって戦いたがりなの!?っていうか参るなよもぉぉ!!」
586:
桃太郎「でもここで逃げちゃ来た意味ないし…こうなった以上頑張るけども!金太郎殿!この手合わせで拙者が勝ったら日ノ本一だって事、マジで認めて貰うからね!?」シャキン
金時「勿論!だがこっちも本気でいかせて貰うぞ!酒呑童子征伐の前に鬼退治の英雄を倒す事が出来れば、俺も自信もって鬼退治に臨めるというもの!」
桃太郎「自信が欲しいのはこっちだっての!……って、うぉっ!こえええぇぇ!!」ヒュッ
金時「先手は取らせて貰ったぞ!どうやら流石のお前さんも鉞相手には戦いの経験が足りないみたいだな!」ビュオンッ
舌切り雀「あー、桃の奴…金太郎に先手許しちゃってんじゃねぇか」
ライオン「金太郎さん強いしあの斧おっきいもんねぇ…。でもあんなに大きい武器だと重たいだろうし、そうなると動きも遅くなって隙が出来ちゃうんじゃない?」
舌切り雀「まぁ見てろ、多分桃も同じ事考えてるんだろうが…そんなたやすい相手じゃねぇぞ金太郎は」
金時「ぜぇいっ!」ブオンッ
桃太郎(よっし、うまく避けれた!鉞みたいなデカい武器は強力だけど隙もデカい!しかも金太郎殿は巨漢だから鉞を降り終えたあとにでかい隙が出来……あれっ?)
金時「さぁて!もう一丁おぉ!」ビュオンッ
桃太郎「ちょ、なんで隙が…!っていうか金太郎殿、この巨漢でその素早さって……うおぉっ!隙ないじゃん!」ヒュッ
金時「ハッハッハァ!刀の方が小回りが効くだろうけどな、俺の怪力なら鉞でも木切れみたいに振り回せる!合間を縫って反撃なんかさせないぞ桃太郎殿!」
587:
ビュビュオン ビュビュオン ビュビュオン
桃太郎「マジかよ…あんなデカい鉞、掠っただけでもヤバそうだ…。避けてばっかりじゃダメだ、どうにかして動きを止めないと反撃できねぇ…」
金時「どうした桃太郎殿!この俺に手加減など無用!さぁいつでも攻撃してきてくれて構わないぞ!ハッハッハァ!」ビュオンッ
桃太郎「……っ!」
ライオン「あわわ…これまずい感じがするよぉ…ちょっとでも動きを止めないと…あっ!桃太郎さん!避けるんじゃなくて防御したらどうかな!?鉞を刀で受け止めて、そっから反撃するんだよぉ!」
舌切り雀「おい、素人が見よう見まねで余計な事を…」
桃太郎「それじゃ駄目なんだってライオン!こんな刃受け止めたら刀ごと真っ二つになるから!」ヒョイッ
舌切り雀「おっ、惑わされてうっかり防ぐと思ったがよぉ、あいつやっぱり戦闘に関してはそこそこ冷静っぽいな。あんな細い刀で鉞の刃をうけとめられるわけねぇ、相手が金太郎なら尚更な」
ライオン「ぼ、僕余計なこと言っちゃったね…でも、それじゃどうやって勝てばいいのかな!?桃太郎さん大丈夫かな?」
舌切り雀「心配いらねぇよ。あいつは豆腐みてぇな精神力だしすぐにビビる情けねぇ腐れ桃だが……」
桃太郎「防御は出来ない、刃を刀で受け止めるのもダメ、刀は金太郎殿に届かない…だったら狙うのは一カ所!」ヒュッ
ズパッ ガリッ
金時「…っ!俺を狙うでも刃を防ぐでもなく、鉞の柄を刀で受け流した…?」
桃太郎「柄の部分ならそんな力加わらないから受け流しつつ切れ込み入れていけば…そのうち使い物にならなくなる」ジャキッ
桃太郎「そんなにデカい刃なんだから柄にかかる負担だって相当なもんだ、拙者が勝つには…この一点を狙うのみいぃぃ!!」ヒュッ
舌切り雀「……武術に関してあいつは間違いなく日ノ本一だからな」
588:
・・・
桃太郎「これで……終わりだああぁぁ!!」シャキンッ
金時「くっ…これ以上柄で攻撃を受けるわけにはいかない、しかし攻撃の手を休めれば合間を縫って攻撃されるだけだ…!やむを得ないか!」ガガッ
ビッ ズドオォォッ
ライオン「鉞の柄が!折れた!」
舌切り雀「柄があのデカい刃を支えきれなくなっちまったか。勝負あり、ってところだなぁ」
金時「桃太郎殿、参った。俺の負けだ…まさか全ての攻撃を交わしつつ鉞を壊されるなんて考えてみなかった、今までそんな相手は居なかったからな、完敗だ。やっぱり日ノ本一の英雄は……」
桃太郎「……すっ」
金時「す…?」
桃太郎「すいませんでしたあああぁぁ!!手合わせなのに大切な武器壊してすいませんでしたあああぁぁ!!拙者もう必死で…あの、弁償するんでホントすいません!」ペコペコ
金時「…ハッハッハァ!相手の心配までできるとは流石日ノ本一!弁償なんてしなくていい、おかげで貴重な体験が出来た!」
桃太郎「そ、そう…?いいならお言葉に甘えようかな…」
舌切り雀「おい金太郎、こいつ金持ってるから新しい奴買って貰えよ、鉞」
桃太郎「いやいや!別に金持ってないから!悪鬼から取り戻した宝物は返して回ってるからね!?まぁお礼とかで色々貰った分はあるけど…あれ実家だし」
舌切り雀「まぁ何はともあれ、実際に戦ってみてどうだったんだ?金太郎、こいつは文句なしの日ノ本一か?」
金時「あぁ、武術も機転も利く。戦って改めて実感したが…やはり日ノ本一は桃太郎殿にのみ許された称号だ、俺に文句を付ける理由はないぞ!ハッハッハァ!」
589:
金太郎の世界 足柄山
・・・
桃太郎「はぁ…マジで疲れた、どっと疲れた…」
ライオン「お疲れ様ー、でも金太郎さん認めてくれてよかったじゃない!鮭とかお土産に貰ったし」
桃太郎「素手で捕まえてたよな金太郎殿、人間技じゃないよあれ…」
舌切り雀「でもまぁ、よくやったじゃねぇか桃。その調子で次行くぞ」
桃太郎「マジでやっぱり次行くの…?金太郎殿相当強かったし、もういいんじゃ…」
舌切り雀「何甘えてんだ!金太郎は腕っ節は強かったが特別頭がいいわけでも妖術使えるわけでもねぇんだ!そういう奴らの所にもいかなきゃあな」
舌切り雀「候補としちゃあそうだな…冷気を操る雪女、動植物の声を聞き取れるじーさん、あと強そうな奴を誰か…あぁ、飯食わない嫁さんがいたな。この中なら誰がいい?」
桃太郎「なんなのその選択肢…でも金太郎殿メッチャ強かったし、次は簡単に認めて貰えそうなところが良いから…飯食わない嫁さんで、いい?」
舌切り雀「おう、わかった。【食わず女房】の世界な。じゃあパパッと行くぞ」
桃太郎「あれっ?楽な場所選んだらすげー怒鳴られるかなって思ったけど大丈夫だった…なんだ!舌切り殿もなんだかんだで拙者のこと気遣ってくれてるんだな、ありがたいなぁ」
ライオン「あ、あのさ…多分だけど【食わず女房】って…多分、楽じゃないんじゃ…っていうかその人確か……」
舌切り雀「おい、よけいなこと言わなくていいぞ。楽しようとした罰だ」ヒソヒソ
桃太郎「よっし、この調子で次も頑張るか!バンバン認めて貰って自信つけて、アリスを倒してみせるぞ!」ハハハ
590:
今日はここまで 『作者』編 次回へ続きます
桃太郎はきっと飯食べない嫁さんっていうのを少食の女性って意味だと思ったんでしょうね
でもその嫁さん、一筋縄じゃいかないんです。頑張れ桃太郎
おとぎ話【食わず女房】
http://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9F%E3%8F%E3%9A%E5%A5%B3%E6%BF
次回、遂に『作者』そして物語の核心に触れます。
雪の女王がかつて訪れた現実世界のとある街、そこで出会った人物とは?
複数の作者の想いが交錯する『作者』編、次回をお楽しみに!
605:
【九冊目、これまでのあらすじ】
・・・
食わず女房「逃げないでくださいよ桃太郎さーん。アタシお腹が空きすぎてもう我慢できませんよぉ…それとも後頭部に大口開けてる女はお嫌いですか?やっぱり気味悪いですか?」グオオォォ
桃太郎「うわああぁぁ!!別に外見的な理由で逃げてんじゃないから!お主が拙者を食べようとするから逃げてるんだってぇぇ!」タッタッタッ
食わず女房「そんなに怖がることないですよぉ、キチンといただきます言って感謝して食べますし…内臓も骨も残さず食べますから。それとも丸呑みはお嫌いですか?それなら油をたてて天ぷらにします、それならいいですか?」ドタドタドタ
桃太郎「調理方法とかどうだっていいんだよぉぉ!ライオン!舌切り殿!どうして相手が鬼女だって教えてくんなかったんだよぉぉ!このままじゃ美味しく頂かれるから助けてええぇぇ!」
舌切り雀「うるせぇ!オメェが【食わず女房】の世界に来るって決めたんだろうが!一人で何とかしろ!…おいライオン、あっし等はもっと離れとくぞ、まだ死にたくねぇ」
ライオン「わ、わかったよぉ!ご、ごめんね桃太郎さん」スタタタ
桃太郎「あからさまに距離取るなよおおお!鬼だからって女の人は斬れないしさぁぁ!な、なにかちょこっとだけで良いからこの人の弱点とか教えてぇぇ!」
舌切り雀「おーい、食わず女房!そこの桃がお前の苦手なもん教えてくれってよ」
食わず女房「苦手なものはありますけど…それが原因で前の旦那さんを食べ損ねちゃったんでナイショです。でも好きな食べ物は人間ですよ、特に若い男性の生肉が一番好きです。ですから桃太郎さん、もう諦めましょうよー」ガアアァァ
桃太郎「諦めないに決まってんだろおおぉぉ!で、でもちょっと希望見えてきたぞ…何かは解らないけど弱点はあるってことでしょ!?考えろ拙者!考えろ拙者!」
舌切り雀「…さぁて、おいライオン。あいつ待ってる間暇だからこれまでのあらすじやるぞ」
ライオン「えっ」
舌切り雀「もう九冊目始まってから随分経つだろ、内容忘れてる奴もいるかも知れねぇからここらであらすじしといた方がいいだろ」
ライオン「う、うん…その通りなんだけど…こういうのってキモオタさんとティンクちゃんの役目じゃあ…」
舌切り雀「いいんだよこんなもん暇な奴がやりゃあ。ウダウダ言ってねぇでさっさとやっちまうぞ!」
606:
おとぎ話の世界を消滅させている黒幕・アリスに対抗するべく旅を続けていたキモオタ達
そんな彼らの元に飛び込んできたのはシンデレラが行方不明になったという知らせだった
どうやら彼女はアリスにさらわれてしまったのだという情報を得たキモオタ達はシンデレラ奪還を計画する
しかし、奪還が目的とはいえ【不思議の国のアリス】の世界に乗り込む以上、決戦は避けられない…作戦の決行を三日後に控え、キモオタと仲間達はシンデレラを救う力を手にするのために別々のおとぎ話の世界へ向かう
キモオタとティンカーベルは【雪の女王】の世界で女王を相手に戦闘の訓練を受け
裸王、ヘンゼルとグレーテル、司書、ドロシーは【裸の王様】の世界で各々に出来ることをより特化させるために動き
赤ずきん、赤鬼、人魚姫の三人は【ライオンとねずみ】の世界で仲間との連携を重視した特訓を重ね
ラプンツェルは【アラビアンナイト】の世界で戦闘訓練をしながら勉強に打ち込み
桃太郎とライオンは様々な日ノ本のおとぎ話を巡り精神修行を目的とした旅を…それぞれ続けていた。
最終決戦を前に研鑽を重ねるキモオタとおとぎ話の主人公達
だがアリスも自らの望みを果たすため着実に歩みを進めていたのだった…
舌切り雀「って感じかねぇ…他の連中も苦労してんだな。【雪女】の姉ちゃんも【聞き耳頭巾】のじーさんも一筋縄じゃいかねぇ性格してっからなぁ…桃がどう切り抜けるか楽しみだぜ、ハハッ」
ライオン「桃太郎さん…無事にアリスちゃんと戦うことが出来るかなぁ…」
食わず女房「桃太郎さん、お肉に付けて食べるならお醤油がいいですか?お塩がいいですか?あたしは断然お塩派です、素材の味を楽しみたいのでー」
桃太郎「ぼかしちゃいるけど拙者の味付けをどうするかって話だよねそれ!?そんな事本人に聞いちゃうの!?」
食わず女房「だってどうせ食べるなら美味しく食べたいじゃないですかー。桃太郎さんは桃から生まれたんですしきっとほんのり甘いお肉に違いないです…想像したらよだれ出ちゃいますよ〜」グゥー
桃太郎「ちょ、食欲増さなくて良いからぁぁ!とにかく食わず女房殿の弱点を見つけないとこのままじゃマジで食べられる!うわああぁぁ!嫌だああああぁぁぁ!マジで勘弁してよもおおぉぉ!!」
・・・
次レスから本編です
607:
キモオタ達の作戦決行まであと1日
雪の女王の世界 女王の宮殿前 氷のドーム
キモオタ「うおおぉぉ!悪鬼をも断ち切るこの刃…受けてみるがよいですぞぉぉ!」ビュバッ
雪の女王「ふふっ、随分と思い切った攻撃が出来るようになったな。でもまだまだ…戸惑いが残ってる、踏み込みが甘いよキモオタ」スッ
ティンカーベル「ありゃ、避けられちゃった…でもドンマイドンマイ!今のはいい感じだったよキモオタ!次ガンバロ、次!」
キモオタ「ガッテン承知www引き続き作戦は『ガンガンいこうぜ』ですぞwwwいい感じの援護射撃頼むでござるwww」コポォ
ティンカーベル「よーし!わかったよ!いつでもいけるからね!」フワフワ
雪の女王「決戦を明日に控え随分と燃えているようだな。だが熱くなりすぎて冷静さを失ってはいけない、どれ私が少し頭を冷やしてやろう」ススッ
ティンカーベル「キモオタ!女王が距離をとったよ!多分つららを飛ばしてくるか吹雪ぶわぁーっ!ってしてくるよ!警戒してよね!」
キモオタ「わかっていますぞwww我々、何度それの餌食になった事かwww」コポォ
雪の女王「ふふっ、何度も戦ったものな。私の攻撃パターンはお見通しというわけか。だが予測できていても対応しきれなければ意味はないぞ?」パキパキパキ…
ティンカーベル「あっ、これ、つらら飛ばす方だ!キモオタ!どうする?このまま避けて攻める感じ?それともサイリウムで塔を出して防御する?」
キモオタ「ここは強気で攻撃続行ですぞ!我輩はあのつららを迎撃するでござるからお主は隙を見て女王殿へ攻撃するチャンスを見極めてくだされ!」
ティンカーベル「わかった!まかせて!バッチリ隙をとらえるからね!」
雪の女王「ここで防御に徹しては私のペースに飲まれてしまうからな、悪くない判断だ。だがこの無数の氷柱をどう捌くつもりだい?」ヒュバババ
キモオタ「とび道具にはとび道具で応戦するのが定石wwwここはクールロリの力を借りますぞwww」フリフリ
おはなしサイリウム「コード認識完了『赤ずきん』武器モード『猟銃』への形状変化を実行」
608:
キモオタ「ドゥフフwww赤ずきん殿の射撃テクをもってすればつららなどただの冷たい的ですぞwww」ズダーンズダーンズダーン
パリンパリンパリーン!
雪の女王「大したものだな、私が生成した氷柱がこうも容易く砕けるとは…流石は魔女が生み出した魔法の猟銃といったところか」
キモオタ「ドゥフフwwwこれで迎撃&障害物の除去に成功ですなwwwそして休む暇を与えずこのまま女王殿にダイレクトアタックですぞ!」ガチャッ
ズダーンズダーン
雪の女王「息をつかせぬ攻撃で相手の攻め手を封じる…初日と比べれば随分成長したな。次の一手に繋がる行動がとれている。だが私の氷結は攻め専用ではないぞ?」
パキパキパキ カキンカキーン
キモオタ「ぬぅ、氷の盾で…!女王殿の能力は今更ながらチート過ぎますぞ!万能過ぎますぞ!?」
雪の女王「ふふっ、君のサイリウムと同じで攻守自在なのさ。強度を上げれば盾にだってなる、その分投擲には向かない氷塊になってしまうがな」
ティンカーベル(あの能力なんでもでき過ぎてずるいよ!でもキモオタに気を取られてる隙に後ろから攻撃すれば勝てるよね!よーし…)ヒュッ
雪の女王「それとティンカーベル、奇襲はバレないようにするものだよ」パキパキパキ
ティンカーベル「わーっ!なんで後ろからだったのに気づいちゃうの!?っていうか羽根が凍り付いて飛んでられないy」ビターン
キモオタ「ティンカーベル殿ー!おもいきり顔面打ったでござるが大丈夫ですかな!?」
雪の女王「キモオタ、君も仲間に気を取られていると…手詰まりになるぞ?」パキパキパキ
キモオタ「ブヒッ!?両足が氷漬けに!?ぐぬぬ…油断したでござる…!」ビターン
雪の女王「途中まではいい調子だったんだがな…私の能力への理解が不足している。まずは氷結能力を封じるか弱体化させる事が優先だ、そうしなければ勝負にならないぞ」
キモオタ「それは解っているつもりでござるが…女王殿の氷結能力はノーモーションかつ射程も広いしで隙がなさ過ぎますぞ!?封じるなど難易度ベリーハードでござるよ…」
雪の女王「確かに氷結能力は強力だが私自身は無敵じゃない、この能力を満足に使えなければただの低体温の女だ。不死の体を持っているわけでもなし、ナイフで胸を突けば死ぬぞ?」
ティンカーベル「能力の無力化とか言うのは簡単だけど実際にやるとなると簡単にはいかないじゃん!」プンス
雪の女王「だがアリスも私と同じだぞ?魔法や魔法具で武装していてもアリス自身はただの女の子だ、それらを無効化あるいは弱体化すれば相手をするのは容易いさ」
キモオタ「確かにそうでござるが…やはり言うは易し行うは難しでござるなぁ…」
609:
雪の女王「まぁ容易くはないだろうが…君もティンクも確実に成長しているぞ。無茶なごり押しも減ったし正確な判断もできるようになった、そこは誇って良い」
キモオタ「ドゥフフwww誉められましたなティンカーベル殿www悪い気はしないwww」コポォ
ティンカーベル「まぁね!わたしはちょっとブランクあっただけでフック率いる海賊と戦ったりしてたし!まぁ当然ですよ!」フンスッ
雪の女王「ふふっ、そのポジティブさは君達の一番の武器だな。さて…もうそろそろ良い時間だ、今日の戦闘訓練はここまでにして宮殿に戻ろうか」
ティンカーベル「もうそんな時間?でも私はまだまだいけるよ!さっきももうちょっとでいけそうだったし!」
雪の女王「やる気なのは良いことだが君達がすべき事は他にもあるだろう?アリスはまだ手の内をすべて晒していない、どのような魔法具を前にしても問題ないようにしなければな」
キモオタ「そのためにはおとぎ話の世界にどのような魔法具が存在しているのか把握しておかなければなりませんからなwww今日も今日とて書庫でおとぎ話を読みまくりますぞwww」
ギィィッ バタンッ
カイ「なんだ、丁度一段落ついてるみたいだな。キモオタ、ティンカーベル、晩飯できてるから終わったらダイニングに来い」
キモオタ「うっひょーwww飯でござるwww飯でござるwwwこれを楽しみに一日頑張ってるでござるからなwww」コポォ
ティンカーベル「もーっ!意地汚いよ!私達はお世話になってるんだからもっと謙虚にしてなきゃ!でも私もお腹空いたからすんごい食べるよ!超食べるよ!」
雪の女王「ふふっ、彼等は食事のことになると途端に元気になるな。さて、私も夕飯を頂くとしようか」クスクス
カイ「……女王、悪いがお前は応接間へ向かってくれるか。待たせてる連中が居るんだ」
雪の女王「あぁ、それは構わないが…客人かい?」
カイ「いや…白鳥と親指姫だ。詳しくは聞いていないが親指姫の奴珍しく深刻な顔してたぜ、何があったか知らないが…行って話を聞いてやってくれ」
雪の女王「…わかった。キモオタとティンクは君に任せるよ、疲れてるだろうから労ってやってくれ。任せたよ」スタスタ
610:
雪の女王の宮殿 応接間
雪の女王(普段は賑やかな彼等が深刻そうにしているというのは確かに珍しい。何か余程の問題があったと考えるべきか…とにかく話を聞かなければいけないな)
ガチャッ
雪の女王「二人とも待たせてしまってすまない。別件で手を取られていてね…それよりどうしたんだい?こんな風に改まって…いつもは私の所に直接報告に来るというのに」
親指姫「女王様…!」バッ
雪の女王「親指姫、何かあったのかい?珍しく君の表情に余裕がない、いつもはもっと毅然としているだろう?」
親指姫「…申し訳ございません!この親指姫…女王様の想いを守ることが出来ませんでした…!こんなちっぽけな私を信頼してくださったのに応えることが出来なかった…!どうかこの首を切り落として頂きたい…!」
雪の女王「落ち着くんだ親指姫。そんな事できるわけがないだろう」
親指姫「いいえ、私に生きる資格はないんです。それだけではありません、私は…私は、戦友を守ることが…彼の世界を救ってやることが出来なかった…!」クッ
白鳥「お前は悪くないよ…だからそんなに自分を責めるなよ…。女王様だって困惑してらっしゃるだろ」
親指姫「……すまない。だが私は…とても平静を保っていられそうもない」
白鳥「女王様には僕が説明するから、だから…少し落ち着こう、なっ?」
親指姫「……わかった」
雪の女王「…彼女がこんなに取り乱すなんて余程の事だ、何か大きな問題があったんだな?」
白鳥「はい…女王様もご存じの通り、僕達は様々なおとぎ話の世界を巡ってアリスの件の注意喚起、それと警備を続けていました。それで…任務も一段落したんで一度この宮殿に帰ろうって話になったんですが」
白鳥「親指姫がその前に寄って欲しい世界があると言うんで、とある世界に寄り道したんです。そこは以前に訪れた事がある世界で…そこの主人公と親指姫はその時すっかり意気投合した親友同士だったんです」
白鳥「女王様もよくご存じの【しっかり者のスズの兵隊】のおとぎ話の世界…そしてその主人公、スズの兵隊です」
612:
雪の女王「あぁ…直接会ったことはないけれど、そのおとぎ話はよく知っているよ」
親指姫「スズの兵隊は…あいつは玩具の兵隊だったが、芯のしっかりした男だった…。兵隊だということに誇りを持った、本物の戦士だった」
白鳥「…彼は背丈も親指姫と近いし、数々に困難に翻弄されるという物語にも共通点がある。だからこいつは…スズの兵隊のことを信頼していたし戦友として認めていたんです」
雪の女王「だがその口振りだと、彼は…いや、【しっかり者のスズの兵隊】のおとぎ話は…」
白鳥「……僕達がその世界にたどり着いた時には、もう街は焼け野原でした。状況を察した僕達はすぐにスズの兵隊が居た家を訪ねましたが、もう……」
雪の女王「……そうか」
親指姫「私達がたどり着いた頃にはそのスズ製の体はおおかた溶け出して私の声も聞こえなかったみたいでした、けど…」
親指姫「あいつの傍らには踊り子の人形が寄り添っていました。あいつは…戦士として、守るべきものを守って…死にました。でも、私がもう一歩早ければ…あいつは死なずに済んだかも知れなかった…!」
白鳥「親指姫…」
雪の女王「親指姫、あまり気に病まない方がいい。残念だがどうにもならないという事は…あるものだよ」
親指姫「しかし…あの世界は、【しっかり者のスズの兵隊】の世界は女王様にとても大切な世界のはずです!それを知っていながら私はあの世界を守ることが出来なかったんです!悔やんでも…悔やみきれません、そしてアリスが…憎い…!」
雪の女王「確かにあの世界が消滅したという事実は衝撃的だ。だが…それは君のせいじゃない。なってしまったものは…どうにもならない、受け入れるしかないよ」
親指姫「女王様がお優しい方だという事はよく知っています…ですがあいつの世界を創ったのは私達の作者と同じハンス・クリスチャン・アンデルセンなんですよ!?アリスへ怒りを感じないのですか!?悔しくないのですか!?」
親指姫「女王様は以前教えてくださったじゃないですか!アンデルセンが…アナスンが記したおとぎ話は一つとして失いたくないと!」
613:
雪の女王「確かにそう言ったよ。今もその思いは変わりない」
親指姫「それなら一つ提案があります女王様……私はアリスが許せません。今すぐにでも協力者を率いて強襲をかけたいと考えています。スズの兵隊に弔いの為にも」
白鳥「ちょっと待ってって!お前はなにを言い出すんだよ!気が動転してるのはわかるけどそんな事できるはずないじゃないか!」
親指姫「何故だ!?これ以上奴を野放しにすれば他のおとぎ話だって次々消えていく!アナスンのおとぎ話の中には結末を迎えていないものだってあるんだ、それらが餌食になるかも知れないんだぞ!」
白鳥「容易くないからキモオタ君達は必死に努力してるんだろ!僕達が私怨で勝手な事をしてアリスを倒すチャンスを逃しでもしたらどうするんだ!?」
親指姫「だったらどうしろって言うんだ!?このまま私や女王様の大切なものが消えていくのを指を咥えて見ていろって言うのか!?」
白鳥「そうじゃない!慎重になれって言ってるんだ!これは僕達だけの問題じゃないんだぞ!」
親指姫「お前じゃあ話にならない…!女王様はアリス襲撃に賛成してくださいますよね?あいつの命を…アナスンの世界を奪われた無念は晴らすべきです!」
雪の女王「悪いが…君の提案は飲めない。今、アリスの世界を襲撃する事はできない」
親指姫「何故ですか!?アリスはアナスンの生み出したおとぎ話を消した悪人です、殺さない理由がありますか!?それともあなたがアナスンのおとぎ話が大切だというのはその程度のものなんですか!?今すぐにアリスを殺s…痛っ!何をする無礼者!」ガッ
白鳥「無礼者はお前だ!お前はモグラやコガネムシの自分勝手な行動に振り回されて辛い思いをしたんだろ?今度はお前が他の奴らを振り回すのかよ!?巻き込まれるのは嫌だけど自分が巻き込むには構わないって!?」
親指姫「……いや、悪かった頭に血が上りすぎていた。女王様も…申し訳ありません。女王様だって辛いというのに…やり場のない怒りに思わず当たり散らしてしまって…」
雪の女王「いいんだ、気持ちは分かるよ。私だって内心…アリスを全く憎んでいないわけではないしな…だからこそ慎重に行動すべきだよ、親指姫」
614:
雪の女王「カイから聞いたかも知れないが…今、キモオタ達はアリスの世界へ向かうための特訓の最中だ、明日にはその作戦が実行される。今私たちが動くのは得策じゃあないんだ」
親指姫「はい、それは…先程聞きました。でも、あいつら…大丈夫なのですか?」
雪の女王「確かに未熟な部分はあるが…全く見込みがなければ特訓の相手をしたりしないさ。少なくとも私はキモオタ達ならアリスを止められるかも知れないと…見込みがあると考えている」
親指姫「私には気持ちの悪い男と不愉快な羽虫にしか見えませんが…」
白鳥「まぁその点はお前も不愉快なこびとだけd痛いっ!」ズブッ
親指姫「随分とあの男のことを評価しているのですね、女王様は」
雪の女王「まぁ確かに気持ちは悪いが…それだけの男ではないよ。なにしろヘンゼルが行動を共にするくらいだからな。目に見えない魅力というのはあると思うぞ」フフッ
白鳥「とはいえ目に見える魅力が一番重要ですよね、この美しい僕のようn痛っ!」ブスリ
親指姫「確かにあの男の想いには共感すべき所もありますが…」
雪の女王「君ももう少し他人と打ち解けるようにすればもっと周囲の人間の魅力に気づけると思うが…あぁ、今頃彼らは食事中だ、是非一緒に食卓を囲むと良い。二人とも空腹だろう?」
親指姫「それは…いささか空腹でもありますが…私はあの羽虫があまり好きではないので…お互い嫌な気分になるだけでは」
白鳥「ンナハハ!ほらほら、女王様がそうやって提案してくださったんだから僕達も夕飯をご馳走になろうじゃないか!」グイッ
親指姫「おい、引っ張るのはよせ!私はまだ行くと決めたわけでは…」
白鳥「なーに言ってんだよ!それじゃあ女王様、急にお邪魔してすんませんでした!僕達しばらくここに滞在するんでよろしくお願いします、ンナハハハ!」スワーン
雪の女王「あぁ、ゆっくりしていくと良い。それと…すまないが私は夕飯はいらないとカイに伝えておいてくれるか?」フフッ
白鳥「わっかりましたー!この純白の翼にかけて必ず伝えまs痛い!やめろ!」ブスリ
ペタペタペタ
雪の女王「フフッ、賑やかな方が彼等らしいな。……ふぅ」
615:
白鳥「ンナハハハ!さっき厨房から香っていたのはまさしくシチューの香り!いやはや、楽しみだ!」スワーン
親指姫「お前は強引すぎるぞ。目の前で別のおとぎ話が消えたっていうのに…薄情な奴め」
白鳥「ずいぶんな言い方だなぁ、僕だって辛いに決まってるだろ。それに女王様…きっと一人になりたいだろうしさ。そういうこと考えて僕は動いてるんだよ、気配りできる白鳥だよ僕は」
親指姫「どうだか…。だがまぁ…先程、私が取り乱した時に正気に戻してくれた事には礼を言おう。悪かった」
白鳥「どういたしまして。まぁ気持ちは分かるけど女王様だってあれ普通にしてたけどきっと相当つらいと思うよ?」
親指姫「まぁそうだろうな…酷いことを口にしてしまったな。反省する」
白鳥「まったくだよ。女王様がアナスンの事特別大事に想ってることは知ってるだろ?それなのにあんな言い方はないよ」
親指姫「うるさいな…反省すると言ったろう。まぁ…何者かがおとぎ話の世界を荒らしていると知って、女王がまず私やお前に協力を仰いだのも同じ作者だからだろうしな…」
白鳥「ハンス・クリスチャン・アンデルセン…彼がどういった人物かは僕はあんまり知らないけど、女王にとっては自分の生みの親って以上に大切なんだね」
親指姫「詳しく聞いたことは無いからな…だが女王様の大切なものを守るのも私達の勤めだ、それが形あるものだろうと形ないものだろうとな」
白鳥「そのつもりだよ。まぁ女王様が声をかけてくれたおかげでこの美しい翼で様々な世界を飛び回れるわけだし」
親指姫「あぁ、私も女王様のおかげで小さくても戦えることを知った。せめてもの礼にすらならないが…恩は返したいところだ」
白鳥「そうだね、その一環としてティンクちゃんとは仲良くしてくれよ?仲違いしたら女王様悲しむだろうし」
親指姫「それはあの羽虫次第だな」
白鳥「もうその呼び名の時点で望み薄なんだよなぁ…まぁなんとかフォローするから挑発だけはやめてよ」
616:
雪の女王の宮殿 女王の自室
雪の女王「……遂に消えてしまったか、いつかはこの日が来るかも知れないと思っていたが。……思っていたよりもショックが大きいな」
雪の女王「……」
雪の女王「私のワガママでしかないが…アナスンの生み出したおとぎ話は一つとして消滅させたくなかった。今更…そんな事を言ってもどうにもならないが…」
雪の女王(もうあれから…あの幸せな日々からどれくらいの月日が流れただろうか…)
雪の女王(あれは…お千代がこの宮殿で暮らすようになる前、まだヘンゼルもグレーテルも…カイもいない。ずっとずっと昔……)
雪の女王(現実世界の時の流れでは…もう百五十年程前か…)
雪の女王(何もかもが懐かしいな、現実世界で出会ったアナスンの事…ヤーコプ、ヴィルヘルム…もう皆、ずっと昔に亡くなってしまった。おとぎ話だけを後世に残して…)
雪の女王「……ふぅ、駄目だな。私が辛気くさい顔をしていると皆を不安にさせる。ショックな出来事ではあったが…気持ちを入れ替えよう」
雪の女王「そうだな…久々にあの本を読むとしよう。今なら書庫にカイが来ることもないだろうしな…。あの本を開いている間は君との思い出に浸れるからな、アナスン…」
スタスタ
雪の女王(アナスンことハンス・クリスチャン・アンデルセン……私の【雪の女王】を始めとする数々のおとぎ話を生み出した、世界的に有名な童話作家)
雪の女王(彼はおとぎ話を通して様々なことを世界中の子供達に伝えようとしていた。変わり者ではあったけれど貧しい子供達を救うことをいつも考えていて…優しくて暖かくて誠実で、そのくせおとぎ話に関しては考えを譲ることを知らなくて…)
雪の女王(そして…私が生涯で唯一愛した男だ)
626:
雪の女王の世界 女王の宮殿 ダイニング
キモオタ「くぅ〜www運動後の飯はどうしてこんなにうまいのかwww我輩、今なら無限に食えそうですぞwww」ガツガツバクバク
ティンカーベル「たくさん特訓したもんね!明日もいっぱい頑張る為にいっぱい食べちゃおう!」モグモグムシャムシャ
カイ「お前等少し落ち着いて食えよ。そんな急いで食わなくても誰も取らないだろ…どれだけ腹減ってたんだよ」
キモオタ「いやいやwwwカイ殿の料理の腕前が良い故に我々も手が止まらないのでござるよwww」コポォ
ティンカーベル「私達、現実世界じゃいっつも出前か外食かコンビニ弁当だからねー…私達のために美味しいご飯作ってくれてありがとね、カイ!」
カイ「礼なんて要らねぇよ。こっちも食料庫の整理が出来て助かってるからな、その干し肉とか結構ギリギリだったんだぜ」
キモオタ「ちょwww我々は残り物処理班ですかなwwwしかしカイ殿と女王殿の二人暮らしならば食料そんなに備蓄する必要も無いのではwww」バクバク
カイ「女王が多めに買い込むんだよ、いつヘンゼル達が帰ってきても良いようにな。常に五人が十分に食える量は備蓄するようにしてる」
ティンカーベル「もしかして三人とも食べ物が無かったせいで前の家族失っちゃってるからかな?きっと女王はせめて今はおなかいっぱい食べさせてあげようって思ってるんだねぇ」ムシャムシャ
キモオタ「実に優しい方ですなwwwでは我々は調理してくださったカイ殿に敬意を表してこの料理を食い尽くしますぞwww」バクバク
ティンカーベル「そうだね!出された料理は全部食べるのがマナーだよね!カイも早く食べなきゃ私達が全部食べちゃうよー?」ムシャムシャ
カイ「俺はもういい。でも女王達の分だけは適当に残しとけよ」
ティンカーベル「あはは、言われなくたって女王の分まで食べたりしないよー!私達こう見えて遠慮してるし!」ムシャムシャ
キモオタ「そうですぞwww他人の飯を奪うほど落ちぶれてはいませんからなwww」コポォ
カイ「嘘つけ。あわよくば食い尽くそうって勢いだっただろうが」
627:
親指姫「女王様に世話になっている身でよくもまぁガツガツと無遠慮に…まるで家畜だなお前達は」
ティンカーベル「出たな!誰が家畜だおらぁー!キモオタはそうかも知れないけど私は違うし!失礼なこと言うなバーカ!」ムシャムシャ
キモオタ「ちょwwwお主も大概失礼ですぞwww我輩はギリギリ家畜ではないwww」コポォ
白鳥「親指姫!なんで開口一番暴言吐くんだよ!?仲良くしようって話だっただろ!」
親指姫「こいつ等の浅ましい姿を見て気が変わった。それに私は思った事を口にしただけだ、私に非は一切無い」プイッ
ティンカーベル「言ってろバーカ!それより白鳥もこっちで一緒に食べようよ、そんなチビッコの騎士ごっこに付き合う事ないよ!」
親指姫「聞き捨てならないな、私はお前達と違って遊びでやっているわけではない。己を律し、常に騎士道に恥じぬ行動を心掛けているのだ…ごっこ等と言われる謂われはない」
ティンカーベル「へーそっかそっかすごいねふーん。っていうか……騎士道(笑)」プスプス
親指姫「何だその顔は…言いたいことがあるのならハッキリと言え」イラァ
ティンカーベル「べっつにー?……ププッ、騎士道(笑)」
親指姫「羽虫の分際で私を…騎士を愚弄するか!切り捨ててくれる!」チャキッ
ティンカーベル「はぁー?私は別に何も言ってませんー!言いがかりはやめてくださいー!そーやってすぐ暴力に頼るのが騎士道(笑)なんですかぁー?」
親指姫「他人を小馬鹿にすることだけは一人前のようだな…軽口叩いた事を後悔させてやる!剣を抜け羽虫、相手になってやる!」スタッ
628:
ティンカーベル「ふんっ!そっちがその気ならこっちだって本気だからね!とびきり痛い奴…食らえー!」ギギッ ビュンッ
親指姫「くっ…空中からとび道具で攻撃とは卑怯な!羽虫!降りてきて正々堂々と戦え!」
ティンカーベル「これが私の正々堂々ですぅー!ふははは!制空権はこちらにありー!」ビュンビュンビュン
親指姫「クソっ…!あまり調子に乗るなよ、羽虫など撃ち落としてやる!」ヒュッ
ティンーベル「わっ!こいつ小石投げてきた!とび道具は卑怯だって言ってた癖に自分はいいんですかぁー!おかしいと思いますぅー!」
親指姫「黙れ!目には目をだ!すぐに地を這わせてやるから覚悟しろ羽虫!」ヒュンヒュン
ティンーベル「ふんっ、上等だよ!やってみろやぁー!」ヒュヒュヒュ
白鳥「何やってるんだ親指姫!やめろ!…あぁ、駄目だ。こうなったら僕の言うことなんか聞きやしないんだから!すまないがキモオタ君からも止めるように言っt」
キモオタ「カイ殿、申し訳ないでござるが茶を一杯頂けますかなwww」
カイ「仕方ねぇな…ほらよ。キモオタ、そこの皿こっちに寄越せ。そいつ等の争いに巻き込まれて割られたらかなわねぇから」コトッ
キモオタ「わかりましたぞwww」スッ
白鳥「どうしてそんなに落ち着いているのかな君達は…」
629:
キモオタ「女子の争いに首を突っ込むとろくな事がないですからなwww我々メンズは傍観するに限りますぞwww」コポォ
カイ「同感だな、下手に関わると怪我するだけだ。ほらよ白鳥、お前の飯だ」コトッ
白鳥「おぉ、ありがとう!まぁ僕が止めに入ってどうにかなりそうもないし…よし!もう放っておいて食事にするかな!ナハハ!」スワーン
キモオタ「それが賢明ですなwww我々はボーイズトークに花を咲かせるとしますぞwww」コポォ
カイ「ガキと鳥類と気持ち悪いオタクで話が弾むかよ…俺は洗いもんしてくるからお前等でやってろ」スッ
白鳥「おっと待ってくれるかなカイ君!女王様からの伝言なんだが…今日は夕食いらないそうだ」
カイ「はぁ?特に体調が悪いようには見えなかったが…理由は聞いてないのか?」
キモオタ「あれだけハードな運動をしておきながら飯抜きなど我輩なら有り得ないwww」コポォ
白鳥「カイ君ならピンと来るんじゃないかな…実は【しっかり者のスズの兵隊】のおとぎ話が消滅してしまってね、さっき女王様にそのことを報告してきたんだ」
カイ「あぁ…なるほどな。そりゃあ飯を食う気になんかならねぇか、あいつの場合」
キモオタ「ほう…?それは女王殿にとって特に大切なおとぎ話なのですかな?」
カイ「あぁ。正確にはあいつが特に大切にしている話のうちの一つ…だな。なぁ白鳥、あいつの様子はどうだった?」
白鳥「普段通りに振る舞っては居たけど…内心、相当ショックだったと思うよ」
カイ「そりゃあそうか…俺たちに気落ちした姿なんか見せるわけねぇよな」
631:
キモオタ「なにやら…深刻そうですな?」
白鳥「まぁね…。おとぎ話の世界を守ろうとしてる女王様や僕達にとって物語に優劣なんかはないけど…あのおとぎ話はアンデルセンが書いたものだから、女王様は特にショックが大きいのさ」
キモオタ「アンデルセン殿…でござるか」
カイ「ハンス・クリスチャン・アンデルセン…【雪の女王】の作者だな」
キモオタ「知ってますぞ。そういえば以前ヘンゼル殿の話にも出てきましたな…確か女王殿が現実世界に直接会いに行ったとかなんとか…」
白鳥「そのことは僕もあまり詳しくは知らないんだけどね…でも女王様にとっては大切な人なんだろうね」
キモオタ「ふむ…。我輩は現実世界の人間故よく解らないのでござるが…おとぎ話の住人にとって作者というのは特別なものなのでござるか?」
カイ「ほとんどの場合は作者に特別な感情なんかねぇよ。ヘンゼルみたいに作者を憎んでる奴も少数派だ、女王はアンデルセンと直接交流があったから特別に感じてるだけだろ」
キモオタ「なるほど。確かに我輩の友人からも作者の話を聞いたことなどほとんどありませんからな」
白鳥「でもきっと…相当な信頼を寄せていたんだと思うよ?おとぎ話を救うって話になったとき、僕達に声をかけたのだってそれが理由だろうしね」
キモオタ「ということは白鳥殿と親指姫殿のおとぎ話も?」
カイ「【みにくいアヒルの子】も【親指姫】もアンデルセンの書いたおとぎ話だ。女王は作者を信じていたからこそ、協力者にこいつ等を選んだんだろうな」
632:
白鳥「アンデルセンのおとぎ話の中であの頃既に結末を迎えていて、自由に動ける主人公は僕とあいつくらいだったんだろうね」
キモオタ「その頃はまだアリス殿が黒幕だと判明していませんでしたからな、誰が敵かわからない状態でも信用出来たということは女王殿のアンデルセン殿への信頼は相当のようですな」
カイ「そうだな、まだ情報が不足していた頃だ。事情を知らない連中に事態を伝える必要もあった、それを踏まえての人選だろ」
白鳥「僕なら世界移動も陸海空も自在だからね!それに親指姫はチビだから潜入に向いてる、警備の厳しいお城なんかも楽々さ」
キモオタ「確かにwwwうちのティンカーベル殿もその辺での活躍多いでござるしwww」コポォ
白鳥「もちろん美形だからっていうのも採用理由なんだろうけどね?親指姫もまぁ姫っていうだけあるし僕の美しさは言わずもがな!ンナハハハ!」
キモオタ「出たwww白鳥殿のナルシスト節www」コポォ
カイ「まぁあれだな、女王が気落ちしてるってなら…なんとかしたいところだな」
キモオタ「ほうwww憎まれ口叩きながらも女王殿が心配なのですなカイ殿www」コポォ
カイ「茶化すな。あいつの強大な魔力はアリスを止めるのに必ず役立つ、精神的に弱ってる状態のままだといざって時困るだろうが」
白鳥「そうだね、女王様の過去に何があったか知らないけど…女王様のショックを何とか和らげたいとは思うよね」
キモオタ「我々も女王殿にはすっかり世話になっておりますからなぁ…」
633:
カイ「だが…それなら逆にそっとしておいた方が良いような気もするな。俺や白鳥が行っても…あいつは弱い部分を見せようとしないだろ」
白鳥「確かに…でも今の僕があるのは女王様が声をかけてくれたからなんだ。少しでも女王様の力になりたいよ」
キモオタ「作者が同じといえ白鳥殿は随分女王殿を気にかけてますなwww」
白鳥「そりゃあ女王様には感謝してるからね。僕はずっと誰かの役に立ちたいって思ってたんだよ。生まれた頃から誰にも愛されずに蔑まれて馬鹿にされて生きてきたから…誰かに必要とされたかった、それが夢だったんだ」
白鳥「でも自分が白鳥だって気が付いてもその夢は叶えられなかった。だから今、女王様の元で世界を飛び回って間接的でもたくさんの人を救えているって事を僕は誇りに思ってるのさ!」
キモオタ「なるほど…ただのナルシストではなかったのですな白鳥殿www」
白鳥「そうとも!真のイケメンは心もイケメンってね!それは親指姫も同じ気持ちだと思うよ、あいつも昔は周囲に振り回されっぱなしだったからね」
キモオタ「親指姫殿のおとぎ話は知っていますぞwww小さいから誘拐されたり誘拐されたり誘拐されたりしてましたなwwwしかし確かハッピーエンドだったはずwww」コポォ
カイ「確か花の王子と結婚して幸せな暮らしを…って結末だったな。ヘンゼルの言葉を借りるようだが親指姫はどこか納得してなかったんだろ、自分の結末に」
白鳥「そうだろうね、だからあいつは王子に黙って城を抜け出した。周囲が定めた運命じゃなく今度こそ自分の意志で、自分の運命を決めるためにね。だからその機会をくれた女王様には感謝してるはずだ」
キモオタ「あの暴力的な性格はそれまで押さえつけられていた反動なのでござろうかwww」
白鳥「解らないけどまぁ僕はいい迷惑だよ…出会った頃はあいつの暴力でハゲると思ったよ…まぁハゲても美しいのが真のイケメンだけどね?」
634:
白鳥「で、ここの書庫で読んだ【一寸法師】にえらく感動してね。それからはもうあの女騎士スタイルさ」
キモオタ「親指姫殿www意外と影響されやすいwww」
白鳥「自分と同じ小さな体なのに自分で運命を切り開いた一寸法師はあいつにとって理想の生き方だったんだろうねー…まぁ今のあいつはイキイキしてるから結果的には良かったのかな、僕を針で刺さなければね。大体あいつは…」
カイ「おい、話がそれちまってるぞ。今は女王をどうするかだろ?」
白鳥「そうだったね!ンナハハハ!僕としたことが!」スワーン
キモオタ「それならば我輩とティンカーベル殿が女王の所にいってくるでござるよwww我々のようなおとぼけキャラと話せば悩みなどバカバカしくなるでござるよwww」
白鳥「それ自分で言っちゃうのか…」
カイ「まぁ多少気休めにはなるかもな…バカな奴と話すのは疲れるが不思議と場が和むことはあるしな、バカ特有の空気っていうか…そういうのは確かにある」
キモオタ「ぶっちゃけそういうことでござるよwww我々そういうの得意でござるしwwwティンカーベル殿!バトルはそのあたりにして一緒に行きますぞwww」
ティンカーベル「…もうちょっとでチビッコを倒せそうだから後にして」ゼェゼェ
親指姫「ふん…ならば一生無理だな…諦めろ」ゼェゼェ
キモオタ「ちょwww息切れしてるでござるwww思ったよりガチで戦ってたwww」コポォ
635:
雪の女王の宮殿 書庫
ティンカーベル「なるほどね。女王様は自分のおとぎ話の作者と交流があって、そんでその作者が書いたおとぎ話が消えちゃってショックを受けてるっぽいって事ね?それで私達二人でそのショックを和らげようって話かー」
キモオタ「その通りwww説明的セリフありがとうでござるwww」コポォ
ティンカーベル「でもさー、ホントにそれだけ?」
キモオタ「ちょwwwなんですかなwwwその意味深な問いかけはwww」コポォ
ティンカーベル「知ってるんでしょ?アンデルセンが書いたおとぎ話は【雪の女王】や【みにくいアヒルの子】や【親指姫】だけじゃないってさ」
キモオタ「ドゥフフwwwお見通しですなwww」コポォ
ティンカーベル「わかるよ、これだけ一緒にいるんだし。調べてたんでしょ?マッチ売りちゃんのおとぎ話書いた作者のこと…ググッたんでしょ?」
ティンカーベル「【マッチ売りの少女】を書いたのがアンデルセンだって、知ってるんでしょ?」
キモオタ「まぁ、そうですなwww」コポォ
ティンカーベル「作者と交流があったなら女王に話聞けば…アンデルセンが何を思ってあの救いのないお話を書いたのか解るかも知れないもんね」
キモオタ「そうかも知れませんなwwwしかし女王殿が落ち込んでいるかも知れないから励ます…と言うのが一番の目的なのであってwww我輩の個人的な質問はあくまでついでというかwww」
スッ
雪の女王「フフッ、気持ちは嬉しいが私は落ち込んでなどいないぞ?」フフッ
キモオタ「ちょwww女王殿www我々の話聞いていたでござるかwww」コポォ
636:
雪の女王「そんなに大きな声でコポコポ言っていれば嫌でも耳に入るさ」クスクス
ティンカーベル「やっぱキモオタのせいだ!コポコポうるさいからだよ!反省して!」
キモオタ「ちょwwwなんでそこまでwwwしかし図書館的な場所では静かにするのはルールwww申し訳ないwww」コポォ
雪の女王「私達しか居ないんだ、気にすることはないさ。ただカイが居るときは静かにしていないと後が怖いぞ?」フフッ
ティンカーベル「ねぇ、女王…作者のアンデルセンと交流があったって話、本当?」
雪の女王「あぁ、本当だとも。もう随分と昔の話だけれどね」
キモオタ「そのアンデルセン殿のおとぎ話が消えたからショックを受けていると聞いてきたのでござるが…」
雪の女王「…まぁショックだよ。彼がどういう考えを持っておとぎ話を書いていたかを知っているからな。だけど消えてしまったおとぎ話はアナスンのものだけじゃない」
雪の女王「ペローやグリム兄弟、それ以外にも様々な作者が書き記したおとぎ話が消えている。誰が作者だろうとおとぎ話が消えるのは辛いさ…おとぎ話に込められたら想いまで消えてしまうからな」
キモオタ「聞かれてしまっていたようなので正直に話すでござるが…女王殿、実は……」
雪の女王「【マッチ売りの少女】が何故生み出されたか、あの悲劇的な結末に意味があるのか…それを知りたいんだろう?」
キモオタ「…マッチ売り殿は自分の運命を受け入れたでござる。だから我輩も彼女の意志を遂げるためにも交わした約束を守るためにも旅を続けているのでござる。そこに一切の迷いはないでござるよ」
キモオタ「しかし女王殿がアンデルセン殿と交流があったと言うのなら…話を聞きたいと言うのは本音でござる」
雪の女王「…君達になら話しても構わないだろう、【マッチ売りの少女】の話とアナスンと私の過去を。特別な本棚があるんだ、そこへ案内しよう」
・・・
637:
ここではない時 ここではない場所
・・・
「何故だ…何故…。何故、私が殺されなければならない…」
「私は願っただけだ…すべての人類が幸福に生きる世界を…」
「大人も子供も老人も、大人も子供も、貴族も奴隷も…その境無く幸福を掴める未来を…」
「私は紡いだだけだ…誰をも幸せにすることができる物語を…おとぎ話を…」
「私が紡いだ物語を…皆は喜んで聞いていたではないか…」
「私が紡いだ物語を…皆は涙して聞いていたではないか…」
「それこそが未来への希望ではないのか…苦しい現実を塗り替える希望ではなかったのか…」
「あぁ…嘆かわしい…。私は思い違いをしていた…おとぎ話が私を救ったからといって…全ての人類を救うなどできるはずがなかったのだ…」
「所詮はただの戯れ言……言葉の組み合わせに過ぎない」
「それを天才だのなんだともてはやされて…私は有頂天になっていたのだ…」
「愚かな自分に腹が立つ…神にでもなったつもりだったのか…?」
「結局私は少々運が良かっただけの奴隷…。私のおとぎ話など…奴隷の言葉遊びに過ぎない」
「そんなものが世界を…未来を変える力を持っているわけが無いではないか…」
「あぁ……今、死を目の前にして…ようやく過ちに気がついた…」
「こんなものは…何の意味もない、ただの言葉の羅列……」
「我々作者に…おとぎ話に…何かを変える力などありはしないのだ…」
・・・
654:
現在
雪の女王の世界 女王の宮殿 書庫
・・・
ポツン
ティンカーベル「あっ、見て見てキモオタ!あの本棚だけ他と違うよ!ガラス扉も付いててなんか特別っぽい感じがする!」ピューッ
キモオタ「確かに特別感ありますなwww図書館などでこの手の本棚に収められているのは大抵が貸し出し禁止のレア本でござるしwwwおそらくこの棚に並んでいる本も相当貴重な一品に違いないwww」
雪の女王「大切な物には違いないが、本自体はごく普通の本屋に並んでいた物だ。購入したのは随分と昔だがな」
ティンカーベル「そーなの?それにしては買ったばっかりの新品みたいにピッカピカだよ?」
雪の女王「この本棚には魔法がかかっていてな。ここに並べられた本はあらゆる事象の干渉を受けない。時間の流れから切り離されているせいで経年劣化することもないのさ」
キモオタ「ちょwwwしれっと言ったでござるがそれかなり高度な魔法なのではwww」コポォ
雪の女王「まぁ、かなりレベルの高い魔術だな。この本棚を創るためにおよそ半月の時間を要したし魔力も相当消費した」
ティンカーベル「女王がそこまでして残したいって思った本がこの棚には並んでるんだよね…それってやっぱアンデルセンが書いたおとぎ話?」
雪の女王「あぁ、この棚にはアナスンが執筆したおとぎ話が一遍も洩らさずに収められている。私は現実世界で彼と交友を深めるうちに彼のおとぎ話を特別なものと思うようになったんだ、彼の作品は私にとって宝物なのさ」フフッ
ティンカーベル「そうだったんだ…じゃあ私達悪いことしちゃったね…ごめんね、女王」
雪の女王「どうした突然?君に謝られるようなことなどされたか?」
ティンカーベル「だってさ、女王は知ってると思うけど私達【マッチ売りの少女】の世界に結構干渉しちゃってるんだよね…他にも【裸の王様】とかも……ね、キモオタ?」
キモオタ「ですな…そして我々が干渉したことで物語に変化が現れているでござる。アンデルセン殿のおとぎ話を大切に思う女王殿にとってそれは…嫌な事でござろう。すまなかったでござる」
雪の女王「悪意は無かったんだ、責めはしない。君達が行動しなければ【マッチ売りの少女】や【裸の王様】の世界そのものが消えていたかも知れないんだ、むしろ感謝してるよ」
雪の女王「それに君達やアリスが干渉しなくてもおとぎ話の内容が変化するということは自然に起こるものだ。数百年、元々の内容のまま物語が伝わることはなかなか難しい」
雪の女王「だから私はこの本棚を創り、彼の紡いだ物語を詰め込んだ。百年経とうと千年経とうと人々に忘れられようと物語が変化しようとせめて私だけは彼の本当の願いを忘れないようにな」
655:
雪の女王「だからこの棚には消滅したはずの【しっかり者のスズの兵隊】が残っているだろう?」スッ
ティンカーベル「あっ、本当だ!おとぎ話の世界が消滅したら現実世界から絵本もなにもかも消えちゃうのに、この棚の本は消えないんだね!」
キモオタ「流石はハイレベルな魔法なだけありますなwww」コポォ
雪の女王「君達が干渉したという【マッチ売りの少女】も同様だ。この棚の本には君達が登場しない、この通りな」パラパラ スッ
ティンカーベル「本当だね、私達が登場しちゃう現実世界の絵本とは違って元々のまんまだ!」
雪の女王「これでこの棚の本は一切の変更がされていない状態…アナスンが書き記したそのままのおとぎ話が並んでいると解ってくれたはずだ」
キモオタ「バッチリ理解しましたぞwww」
雪の女王「そうか、それならアナスンについて話すとしようか。まずは…丁度いい、キモオタはこの【しっかり者のスズの兵隊】をティンクは…この【ヒナギク】を読んでみるといい」
雪の女王「もちろん、一切改変のない元々の物語だ」
キモオタ「了解でござるwwwちなみに女王殿wwwこれあとで感想とか聞かれるでござるか?我輩この手のレビュー苦手なのでござるがwww」コポォ
雪の女王「聞くつもりだ、しかし別に君たちを試そうというわけじゃないんだ。どちらのおとぎ話も童話作家としての彼の特色が色濃くでているおとぎ話だからな、是非読んで欲しい。それだけさ」
キモオタ「そう言うことならばwwwおっwwwどうやら兵隊が主人公でのようでござるなwwwこれはバトルアクションものが期待できますぞwww」ワクワクコポォ
ティンカーベル「ヒナギクってお花の名前だよね?それじゃこっちはファンシーなカワイイ系おとぎ話かなー?読むの楽しみ!」ワクワク
656:
数分後
キモティン「……」ズーン
雪の女王「読み終わったか?やはり二人とも凄まじく暗い表情をしているな」
キモオタ「スズの兵隊殿、理不尽アンド理不尽な目にあった挙げ句、溶かされて死んだでござるけど…」ズーン
ティンカーベル「こっちもだよ…人間に振り回されてヒバリは苦しんで死んじゃうしヒナギクは枯れちゃうし…ちょっと後味悪すぎるよ何これ…」ズーン
雪の女王「ふふっ、とびきり暗い内容だっただろう?気分が悪くなる程にな」
キモオタ「ちょっwww解っててこのチョイスwww以外とおにちくですな女王殿www」
雪の女王「それで…君達の率直な感想を聞こうか、それを読んでどう思った?」
ティンカーベル「私は…人の身勝手な振る舞いがどれだけ酷い事かっていうのがよくわかったし、子供達がこれを読んだら思いやりの気持ちを持てるかもって思ったよ。でも……」
雪の女王「でも?」
ティンカーベル「正直、すごく胸くそ展開だったよ!最後だけ報われてもいいじゃん!よくあるじゃんそういう展開!ダメなの!?」イライラ
キモオタ「ティンカーベル殿おさえておさえてwww我輩が読んだ方もまぁ理不尽エンドでござったけどもwww」
ティンカーベル「もーっ!アンデルセンなんなの!?【マッチ売りの少女】もそうだし【人魚姫】も暗い結末だし…この作者バッドエンド大好きおじさんじゃん!」
657:
ティンカーベル「女王には悪いけど私はぶっちゃけこの作者嫌いになったよ!」プンスカ
キモオタ「お主はwww女王殿の前でよくそんな事言えますなwww空気を読むでござるよwww」
ティンカーベル「知ったこっちゃないよ!作者は読み手に何かを伝えたいからおとぎ話を書くって事、私は理解してるつもりだよ?マッチ売りちゃんの結末は悲しいけど意味のあるものだと思ってるし、きっとたくさんの人の心に響いて優しい気持ちにさせてるなって信じてる」
ティンカーベル「でもいくらなんでも多すぎなんだよ!しかもこれほんの一部でしょ?どうせ他にもバッドエンドあるんだろうし…理不尽エンドのおとぎ話のほとんどをこいつが書いてんじゃないかって勢いじゃん!」プンプン
ティンカーベル「私はマッチ売りちゃんの死に意味があるって信じてたけど……バッドエンドが多すぎてなんかこいつのこと信用できなくなってきた!こいつ自分の趣味でこんな結末にしてんじゃないの?」イライラ
キモオタ「こwwwいwwwつwww遂にこいつ呼ばわりwww女王殿、ティンカーベル殿はちょっと興奮してるだけなので無礼は大目に見てあげて欲しいですぞwww」
雪の女王「気にしていないさ、私も初めはティンクと同じ意見だった。私達にとっておとぎ話の世界こそ現実だからな、死の運命を背負った者を生み出すことが残酷だと考えるのは当然だ」
ティンカーベル「だよね!バッドエンドはまぁ仕方ないにしても死なせる必要ないよね!そうすればマッチ売りちゃんだってもうちょっと救われたと思うもん!」
雪の女王「それはどうだろうな…死ななければ本当に幸せなのか?」
ティンカーベル「えっ?」
雪の女王「マッチ売りに会った君達なら解るだろう、君達の干渉が無く、仮に彼女があの世界で生きながらえたとして…本当に幸福になれたと思うか?」
ティンカーベル「そ、それは…なれたかもしれないじゃん!もしかしたらあの神父さんがうまいこと…」
キモオタ「無いでござるな、シンデレラ殿と裸王殿の活躍が無ければ孤児院は作られなかったでござる。神父殿にはどうにもできなかったでござろう」
キモオタ「あの世界に一切の干渉が無く、あの雪の夜に運良くマッチ売り殿が生き延びたとして……あの父親の元では先は見えているでござるよ」
ティンカーベル「それはそうかも知れないけど…」
キモオタ「我輩も…アンデルセン殿は理不尽エンドを書きすぎだと思うでござる。しかし、ただバッドエンドを書きたいだけならもっと惨たらしく殺す展開を選ぶのではないですかな?」
キモオタ「『お婆ちゃんの幻を見て幸せな気持ちで天に召された』などと書いているあたり…マッチ売り殿のを苦しめるつもりなどなかったのでござろう」
658:
ティンカーベル「確かにキモオタの言うとおりかも…少なくとも悪意があったわけじゃないのか…」
雪の女王「キモオタ、君はなかなか良いところに目を付けるな」フフッ
キモオタ「いやはやwwwただのキモいオタクの妄想でござるけどwww」
ティンカーベル「でもさ、作者の趣味じゃないとしたらなんでこんなにたくさんバッドエンドのおとぎ話書いてるのかな?」
キモオタ「うむ…白鳥殿や親指姫殿も結末こそハッピーエンド寄りでござるけど、辛い日々を送っていたようでござるしな…」
雪の女王「君達はさっきからバッドエンドバッドエンドと言っているが…アナスンはこう言っていたぞ」フフッ
雪の女王「『【マッチ売りの少女】はハッピーエンドだ』と」
ティンカーベル「はっ!?えっ!?何!?どゆこと!?」
キモオタ「ブヒィ!?どういう意味ですかな!?」
雪の女王「まぁ、そういう反応になるか。まぁ君達もこの話が終わることには…アナスンという人物が少しは理解できるかも知れないな」
ティンカーベル「えーっ、正直、自信ないけど…絶対私は理解できないタイプの奴だと思う、だってあれ…少なくともハッピーエンドじゃないでしょ?」
キモオタ「まぁまぁwwwとにかく聞かせて貰うでござる、アンデルセン殿の事を理解できればマッチ売り殿の運命の事も…もっと深く知れるでござろうwww」
雪の女王「そうだな、少し前置きが長くなってしまったが…彼について語るとしようか」
雪の女王「これは、ずっとずっと昔…この世界が生まれて間もない頃、現実世界で【雪の女王】が発表されてしばらく経った頃の話だ」
・・・
659:
ずっと昔…現実世界でおよそ170年前
雪の女王の世界 冬 とある村外れ
ビュオオォォォ 
きこりのおっさん「おぉい、そこのソリぃ止まれ、止まれぇ!ここは通れねぇぞぉ!」
男「待ってくれ、通れないってどういう事だ!?俺は急いでるんだ!早く隣村までいかねぇといけないんだぞ!」ズサー
きこりのおっさん「そうは言ってもなぁ、昨日の晩の大雪で橋が壊れちまって通れねぇんだ。まだ修理には時間かかるぞぉ?」
男「何とかならないのか!?嫁さんが急に産気づいちまって…今すぐにでも隣村の産婆に頼まねぇといけねぇんだ!」
きこりのおっさん「そりゃ大変だぁ!でも橋はまだ直らねぇ…お前さんそこの村のもんだろ、そこにも産婆はいただろぉ?」
男「間が悪いなんて言っちゃいけねぇが…隣の家の奥さんも少し前に産気づいちまって、そっちについちまってる…うちのはまだ少し余裕がありそうだからすぐに隣村から産婆を呼んでくれって言われてよぉ…」
きこりのおっさん「ぬぅ…力になりてぇが、大回りして下流の橋を通った方が早いかもしれねぇな…」
男「何時間余分にかかると思ってんだお前!手遅れになっちまったら俺はどうすりゃいいんだこのヒゲモジャが!」グイグイ
きこりのおっさん「お、俺に当たるんじゃあねぇって、そうは言っても…うぉっ、何だぁ!?」
ビュオオオオォォォ
男「なんだ!?突然吹雪が…!くっ、前が見えねぇ!なんだってこんな日に!」
ビュオオオォォ
660:
ビュオオオォォォ…スッ
きこりのおっさん「ぬぅ…おさまったか。何だったんだ今の吹雪は…突然吹雪いてあっと言う間におさまっちまったぁ…」
男「お、おい!?こりゃあどういう事だぁ!?」
きこりのおっさん「ん…?な、なんじゃぁこりゃあぁ!?」
キラキラキラ…
男「さっきまで何もなかった場所に氷で出来た橋が…!」
きこりのおっさん「よぉし、ちょっと待ってろぉ!……大丈夫だぁ、強度も十分だ!通れそうだぞぉ!」グッグッ グイグイ
男「ほ、本当か!?助かった…これで隣村まで行ける!」ホッ
きこりのおっさん「不思議な事もあるもんだぁ…きっと妖精がお前さんを助けてくれたんだなぁ、それより急げぇ!嫁さんがまってるぞぉ」
男「お、おう!それじゃあ俺は行くわ!」ススーッ
きこりのおっさん「うーむ、こんな事もあるんだなぁ…。しかしこんな立派な橋があるってぇなら急いで橋を直すことねぇかなぁ…」
セクシー美女「…その橋、あまり長くはもたないぞ」
きこりのおっさん「!? 姉ちゃん一体どこから現れたんだぁ!?」
セクシー美女「ゲルダの父親…さっきの男が戻ってくるまでは大丈夫だが、その後は次第に溶けていく。早急に橋の修理をした方がいい」スッ
ビュオオオォォォ
きこりのおっさん「消えた…!な、なんだったんだ今の姉ちゃんは…まさか、雪の妖精か…?」
661:
雪の女王の世界 女王の宮殿
雪の女王「……さっきのは余計な手助けだったかもしれないな」ファサッ
雪の女王「生み出されて間もないこの世界が消える道理はない、おそらく遠回りをしてもあの男の奥さんも赤ん坊も何一つ問題なかっただろうに」
雪の女王「……まぁいいか、カイは無事に生まれたようだし。あの様子ならば今頃、ゲルダも元気な産声を上げていることだろう」
雪の女王「……」
雪の女王(しかし…未だに私は納得していない)
雪の女王(この世界は現実世界に住むアンデルセンという男が生み出したおとぎ話の世界…作者が書き記した通りの筋書きで人々の運命が定められた【雪の女王】の世界)
雪の女王(私がこの世界で一番の魔力と自在な氷結能力を持つ雪の女王であることも、このだだっ広い宮殿に一人で暮らしていることもアンデルセンが定めた運命)
雪の女王(今日、あの村で産声を上げた二人の赤ん坊…ゲルダとカイと名付けられる二人の子供にも重要な役割が与えられている)
雪の女王(まだ先の話だが…親友同士になった二人、カイは悪魔の鏡が原因でゲルダと決別する。その彼を私がこの宮殿へとさらってくる…それが私に与えられた役割であり運命だ)
雪の女王(私の役割はいわゆる主人公の敵役、悪役。それに関しては何も思わない、私には両親も家族も友人も存在しないから誰かを巻き込むこともない。悪役だろうとなんだろうと引き受けてやろう)
雪の女王(それよりも納得がいかないのは主人公ゲルダの運命の方だ。ある日突然親友カイと離ればなれになり、彼を取り戻すために彼女は一人でこの宮殿を目指して旅をする)
雪の女王(旅の協力者はいる、最終的にカイを取り返すこともできて幸せな結末が待っている。しかし…決して楽な旅ではない、何一つ罪を犯していない少女が何故過酷な旅を強要されなければいけないのか)
雪の女王「少女に…子供に何故そんな過酷な運命を押しつけるのか?私には理解できない」
雪の女王(アンデルセンという男は…私の理解の外にいる。子供は守るべき存在、愛でるべき存在。無用な試練を与える必要があるだろうか…?)
662:
それからしばらく経ったある日
雪の女王「……」
雪の女王(私は苛立っていた)
雪の女王(ゲルダとカイが生まれ、この世界の物語が動き出してからというものどうしてもアンデルセンという男のことが気になった)
雪の女王(彼はただの作者。現実世界の男、おとぎ話の住人である私が気にかける必要などなかった)
雪の女王(だがどうしても…その作者が気になってしまったのだ。幸い、私には有り余る魔法の力が存在する。おとぎ話の世界の事情も、他のおとぎ話の存在も知っている)
雪の女王(彼について調べていくうちに一つの真実にたどり着いた。どうやら彼が紡ぐおとぎ話の多くは主人公が苦しみ辛い思いをするようなのだ)
雪の女王(おとぎ話はその全てがハッピーエンドではない。それは当然だ、おとぎ話には教訓を与える役割もあるのだから主人公全てが幸せになるとは限らない。だが…)
雪の女王(彼が紡ぐおとぎ話のいくつかは…理不尽な運命を主人公が強いられている。自業自得とはとてもいえない者も多い、幸せな結末さえ与えられない、救われることのない主人公が大勢いる)
雪の女王(悲恋の末泡と消える人魚、恋実らず焼き解かされる玩具の兵隊、人間に弄ばれるヒバリとヒナギク…。
詐欺師に騙される王、自らの行いが原因とはいえ沼に沈められる娘、同様に終わることのない舞踏を続けざるをえない少女。周囲に翻弄され続ける小さな娘、独りきりで虐げられ続ける白鳥…あげればきりがない)
雪の女王(これほど辛い思いをしている者が居て、その元凶がアンデルセンであると知って…私は黙っていられない)
雪の女王(その多くの主人公は自分がおとぎ話の世界の住人だと言うことすら知らないだろう。しかし…私は知っている)
雪の女王(そして私なら…現実世界へ向かうことが可能。世界を移動する魔法は使える、アンデルセンに与えられたこの魔力を兄弟姉妹たちの為に使うべきだ)
雪の女王(そう、私は決めた。現実世界へ渡り、私たちのおとぎ話を生み出したアンデルセンに出会い、その悪行を止めさせる)
雪の女王「罪のない主人公たちを苦しめる作者は…まさに悪魔だ。その悪魔を、私は成敗しなければいけない」
・・・
663:
1840年代
現実世界 デンマークのとある都市
ザワザワ ザワザワ
雪の女王「……」スタスタ
雪の女王(この国、この都市にアンデルセンは住んでいる筈だ。だが正確な場所までは把握できていない、地道に探し出すしかないが…それより)
「おい、あそこ歩いてる女…この辺りでは見慣れない服装だな、外人かな?」
「っていうか、すげー美人だぜ。もう結構冷える季節になったのに妙に露出も多いし…いや、それは大歓迎なんですけどね。乳デカいし!」
「じろじろ見るなよお前、デンマークの民度が低いと思われるだろ…とはいえ綺麗な人だよな」
雪の女王(少々、私のこの姿は目立つようだ…。彼は私達おとぎ話の住人が実際に存在している事すら知らないだろうが、目立たないに越したことはないな。何か変装を…)
スッ
若者「そこのお姉さん、見たところ観光かな?この街は見所多いから悩んじゃうでしょ、俺が案内してあげようか?」ヘラヘラ
雪の女王「そうだな…是非案内を頼もうか。とはいえ観光地には興味ないんだ、できれば路地裏のような人目に付かない場所へ案内して欲しいな」
若者「路地裏?なんでそんな所に…」
雪の女王「フフッ、人目に付かない場所でする事なんかそう多くはないじゃないか。それとも私に皆まで言わせるつもりかい?」クスクス
若者「えっ、マジで?それってもしかして…行く行く!行きます!そこの路地裏なら人通り超少ないからそこに行こうか」ウヘヘ
雪の女王「何処でも構わないよ、誰にも見られないのならな」フフッ
ペキペキペキ ヌアアァァー!
雪の女王「さて、男物のコートだが…これで少しは目立たずに済むな。しかし人目に付かない場所へわざわざ行かないと魔法が使えないのは面倒なものだな」スタスタ
664:
雪の女王(さて…あまり派手に聞き込みをする訳にもいかないが…一軒一軒当たっていくわけにもいかない、そもそもアンデルセンの風貌を知らないからな)スタスタ
雪の女王「となると…どうやってアンデルセンの家を探すのが最善か…」
靴磨きの少年「ねぇねぇお姉さん、アンデルセン先生に会いたいの?」ニコニコ
雪の女王「口に出ていたか…。その通りだが、君はアンデルセンの家を知っているのか?」
靴磨きの少年「残念だけど知らないよ。でも先生がよく行く本屋さんなら知ってるよ、そこの店員さんなら先生の住所知ってるかも。ところで…お姉さんの靴、少し磨こうか?」ニコッ
雪の女王「そうだな、世間話でもしながら磨いて貰おうか。代金は銀貨一枚で足りるか?」
靴磨きの少年「うん、十分だよ。じゃあちょちょっと磨いちゃうね……あぁアンデルセン先生だけどね、先生はそこの広場の脇にある小さな本屋によく入ってるのを見るよ」フキフキ
雪の女王「そうか。この後そこの本屋に行ってみるとしよう」
靴磨きの少年「そっか、でもお得意先の住所を見知らぬ女の人に教えてくれないと思うよ?先生に会いたくて来る観光客だって少なくないし、その辺のガードは堅いんじゃないかな。方法がない訳じゃないけど」チラチラッ
雪の女王「フフッ、君は実に腕のいい靴磨きだな。銀貨をもう一枚渡すからもう少し念入りに頼むよ」
靴磨きの少年「そりゃどーも。そういえばあの本屋さん、いつも通りならもう少しあとに本とかインクとかの配達をすると思うよ。もしかしたらアンデルセン先生にお家にも届けにいくかもね……はい、終わり!」キュッキュッ
雪の女王「君のおかげで足取りが軽くなりそうだ、ありがとう」ナデッ
靴磨きの少年「いえいえ、また靴磨きが必要ならいつでもどーぞ」ニコニコ
665:
しばらく後…
ハンス・クリスチャン・アンデルセンの自宅
雪の女王「思った以上に容易くたどり着けたな。私が思っていた以上に彼が有名人だったということもあるが…しかし、有名人の割には普通の家に住んで居るんだな」
雪の女王「…さて、いつまでも家の前をうろうろしていて怪しまれても良くない」スッ
雪の女王「そこの路地からなら人目に付かないな、丁度よく小窓もある。鍵はかかっているかも知れないが…まぁそれは大した問題じゃない」
パキパキパキ ガチャン
雪の女王「……家の中から人の気配はしないな。それじゃあお邪魔させて貰おう」スタッ
雪の女王「さて…作家先生なんだ、どこかに執筆作業に使っている部屋があるはずだ。そこで彼が帰ってくるのを待とう」
雪の女王「アンデルセンに出会ったら、まずは奴が執筆した残酷な物語の数々を書き直させる」スタスタ
雪の女王「他人が無理やり干渉すればおとぎ話の世界が消える可能性もあるが、作者ならば問題がない筈だ。もしも私の要求を飲まず…おとぎ話の修正を断るようならば」スタスタ
雪の女王「彼が私に与えたこの氷結能力で脅迫する。アンデルセンがどんな男だとしても…自分のおとぎ話よりも命を優先させるだろうからな…っと、この部屋かな?」スタスタ
ガチャ
雪の女王「ペンにインク、原稿紙…どうやらここがアンデルセンの仕事部屋のようだ」
雪の女王「資料らしい本の他に自分が書いたおとぎ話の本も並んでいるな、私の世界【雪の女王】も並んでいる。この多くの物語の主人公が奴の餌食になっているわけだ…」
雪の女王「なんにせよアンデルセンが帰宅してからだな。それにしても慣れない世界を歩き回って少々疲れた、少し座って…んっ?机の上に原稿が置いてあるな、どうやら書き終えたばかりのおとぎ話のようだが…」
雪の女王「奴はいつ戻ってくるかわからない、退屈しのぎに読ませて貰おうか。この原稿の、このおとぎ話のタイトルは…」
雪の女王「【マッチ売りの少女】…か、せめてこの物語の主人公が他の主人公のように辛い思いをしないことを祈るばかりだな」ペラッ
666:
アンデルセンの自宅
アンデルセン「いやはや、参ったな。すぐに家に戻るつもりが…すっかり遅くなってしまった。まだ新作の推敲が終わっていないというのに、さぁ急いで推敲を始めよう」ガチャガチャッ
男の声『待て…妙だ、アンデルセン。お前は家を出る前、確かに鍵を閉めた。何故、家の中から人の気配がする?』
アンデルセン「人の気配?私には何も感じないのですが…」
男の声『私はお前と違って敏感だ、間違いない。しかも…ただの盗人じゃあなさそうだ…おとぎ話世界の住人の可能性が高い、膨大な魔力を感じる』
アンデルセン「おぉ…それは楽しみだ!どこの世界の誰かは知らないがおとぎ話の世界に住む者が私に会いに来てくれたというわけだ!」フフッ
男の声『愚か者、お前はあの様な物語を書き連ねておきながらよくも楽しげに出来るものだ。お前の作風はおとぎ話の住人に愛されると言うよりは恨みを買う方だ』
アンデルセン「そんなつもりは無いのだが…私は自分に作品を愛しているんですよ?」
男の声『お前がどう思っているかなど関係は無い。おとぎ話の住人は作者の決定には抗えない、そして作者に想いまでは知る由がない』
男の声『私に言わせればお前がおとぎ話の住人に恨まれて殺されようが自業自得だ。おとぎ話に人々の未来を変える力があるなどと未だに信じている愚かな男への報いだ』
アンデルセン「おや、あなただって以前は私と同じ志だったと聞いていますけどね」
男の声『過去の話だ。おとぎ話にはそんな力は無い。そして私はもう、決して筆をとらない』
アンデルセン「勿体ないですよ、かつて沢山の名作を生み出した作者であるあなたがもう筆をとらないというのは…」
男の声『……今はそんなことはどうでもいい、どうやら客人はお前の書斎で待っているようだ。早く向かうべきではないか?』
667:
アンデルセンの書斎
ガチャッ
雪の女王「……っ」ギロッ
アンデルセン「これは驚いた、私の書斎に忍び込むなんて誰かと思ったが…こんなに美しい女性だとは思わなかった」フフッ
雪の女王「…貴様がアンデルセンだな?」
アンデルセン「あぁ、如何にも。私がハンス・クリスチャン・アンデルセンだ。君の名も是非教えて欲しいものだが…」
雪の女王「その前に答えて貰おうか、この原稿は…何だ?」バサッ
アンデルセン「っ、ぞんざいに扱わないで欲しいものだ。それに何…とはどういう意味かな?それは昨晩書き上げたばかりのおとぎ話【マッチ売りの少女】というおとぎ話だ、まだ推敲を残しているから完成とはいえないが」
雪の女王「私が問いかけているのは内容の事だ」
アンデルセン「内容…?この作品に何かおかしなところがあるかい?」
雪の女王「色々と言いたいことはある、だがこの物語は何だ!?常軌を逸している!正気じゃあない!まともな人間がよくもこんな残酷なバッドエンドを書けたものだ!」バンッ
アンデルセン「バッドエンド…?おかしな事を言う女性だ、【マッチ売りの少女】はハッピーエンドじゃないか、マッチ売りは死ぬことが出来て幸せだったんだからね」
ヒュッ バチーンッ!!
アンデルセン「ぐっ…!何をするんだ君は…!」
雪の女王「…人を殴るなんて初めてだ。だが私の心は決まった…あぁ、まだ名乗っていなかったな」
雪の女王「はじめましてアンデルセン、私は貴様が生み出した雪の女王という名の魔女だ。そしてさようならだ、アンデルセン」
雪の女王「私は貴様を殺すことに決めたよ、無慈悲で残酷な作者様を…!」ギロリ
パキパキパキ ヒュオオオォォォ
668:
今日はここまで 『作者』編 次回へ続きます
>>1はアンデルセン童話大好きです!(フォロー)
次回以降予告
マッチ売りは幸せだ、ハッピーエンドだと言い放つアンデルセンに怒りを露わにする雪の女王
何故彼が他の作者と比較して数多くのバッドエンドを書き記しているのか…アンデルセンの思想と想いに振れる女王
次回をお楽しみに!
678:
過去、現実世界 (1840年代)
アンデルセンの書斎
アンデルセン「そうか、君は雪の女王か。自分が生み出した物語の登場人物と言葉を交わせる日が来るとは…実に喜ばしい」フフッ
雪の女王「私はただただ不愉快だがな。貴様の思想もその余裕そうな態度も全て気にくわない」スッ
パキパキパキ…! シャキンシャキン
アンデルセン「おぉ、無数の氷の刃で私の動きを封じるとは…いやはや見事な手際だね、流石は雪の女王だ。賞賛と拍手を贈ろう」パチパチパチ
雪の女王「止めろ。嘗めた態度で私を挑発して隙を生み出そうというのなら無駄だ」
アンデルセン「失敬、そんなつもりは無いよ。純粋に君の能力への賞賛さ」
雪の女王「余計な行動はするなと忠告してやろう。今、私は貴様の命を容易く散らせるという事を忘れるな」
アンデルセン「君は随分と物騒な物言いをするね。冷静沈着に見えてその心に秘めた怒りと情熱は『雪』とはあまりにもかけ離れている…『焔』という二つ名の方が今の君にはお似合いかな」クスクス
679:
雪の女王「訂正する、余計な言葉も発するな。刻まれて死ぬのが嫌ならこの書斎ごと貴様を焼き殺そうか?私はどちらでも構わない」ギロリ
アンデルセン「むぅ…すまない、そう怒らないでくれ。私は場を和ませようと冗談を口にしただけなんだ、悪気は無いよ」
雪の女王「悪気は無い…か。貴様が不幸にしてきた数多くの主人公たちにもそうやって言い訳をするつもりか?」ギロッ
アンデルセン「薄々感づいてはいたけれど…。君がこの世界へ来た理由は私が執筆したおとぎ話に不満があったから…そうだね?」
雪の女王「その通りだ、私は貴様のせいで苦しんでいる者達を救いたい。しかし物語の筋を無理に変えればその世界を消滅させてしまう、一度決められた結末を変えることは出来ない。ただ一人、作者を除いてな」
アンデルセン「なるほど、君の納得がいくように物語を書き直せと言うんだね」
アンデルセン「…確かに作者である私になら人魚姫の恋を成就させる事も、赤い靴の少女の呪いを解く事も、マッチ売りに裕福な暮らしをさせることも容易い…君はそれを望んでいるんだろう?」
雪の女王「そうだ。今すぐに彼女達の物語をハッピーエンドに書き直すというのなら、私はこの刃を収める。だが断るというのならば…どうなるかは言わずとも解るな?」
アンデルセン「あぁ解るとも、だが君の望みには応えられない。私はおとぎ話の結末を決して変えるつもりはないよ」
680:
ヒュッ ザシュッ
アンデルセン「……っ!」ボタボタ
雪の女王「残っている方の耳でよく聞け、アンデルセン」スッ
雪の女王「貴様のおとぎ話を全てハッピーエンドに書き直せ。これは頼みでも要求でもない、命令だ。次は耳では済まさないぞ?」
アンデルセン「ハハッ…やっぱり君は『雪』なんかじゃないなぁ」ハハハ…
雪の女王「余計な言葉を発するなと私は言ったはずだ、何度も言わせるな。私の命令に対して首を縦に振る事、それ以外の言動は死に繋がると思え」
アンデルセン「君こそ何度も同じ事を言わせないで欲しいな、私は言ったはずだよ」
アンデルセン「おとぎ話の結末は変えない。君がどんな暴挙に出ようこの考えは覆らないよ」
シュッ ピタッ
雪の女王「こんな風に…刃の切っ先を喉笛に突きつけられなければ正しい判断ができないか?アンデルセン」
アンデルセン「……っ」
雪の女王「図に乗るなよ?私は貴様を殺すことに抵抗も躊躇も感じない。これが生き長らえる最後のチャンスだと思え、さぁ…結末を変えろ」
アンデルセン「断る。決して変えないよ、私は」
雪の女王「……っ」
アンデルセン「どうしたんだい?私は生き長らえる最後のチャンスをふいにしたんだ。さぁ、ひと思いにやってくれ…私を殺すんだろう?雪の女王」フフッ
681:
雪の女王「貴様…!」ギロリ
アンデルセン「いや…女王である君の手を煩わせるのは忍びないな…。目の前に丁度良い刃があるんだ、これで自ら命を絶つとしようか」スッ
雪の女王「……っ!やめろ…!」
フッ
アンデルセン「どうしたんだい?氷の刃を収めては私を殺すことが出来ないぞ?」フフッ
雪の女王「…もういい、茶番を続けるな」
アンデルセン「そうかい?君が言うのならそうしようか」フフッ
雪の女王「やはり貴様は…意地の悪い男だな」ギロリ
アンデルセン「私のおとぎ話を書き換えられるのは私だけ、殺してしまって君は望みを叶えることが出来ないばかりか唯一の希望すらふいにしてしまう」
アンデルセン「でも君はそこまで愚かじゃない。殺す殺すと強気に脅してきたのも、それを悟らせないためだったんだろう?」
雪の女王「……」ギロリ
アンデルセン「そう睨まないでくれ、もう私を脅迫して我を通すことは無理だと解っただろう?ここは一つ話し合いで解決しようじゃないか、君にはそれしか手が残っていないのだしね」
雪の女王「言葉の端々に嫌みを織り交ぜるのは止めろ。私の憎しみを煽って貴様に利益があるのか?」
アンデルセン「あぁ…すまない。全くの無意識なんだ…悪気は全くないんだ、大目に見て欲しい」
682:
雪の女王「……で、話し合いで解決すると貴様は言ったな?」
アンデルセン「言ったね。あぁ、耳の手当てをしながらでも構わないね?こう見えて相当痛いんだよ」ハハハ…
雪の女王「好きにしろ。話を戻すが…そう言った以上、場合によってはおとぎ話の結末を書き替える、そう解釈してもいいな?」
アンデルセン「構わないよ。そうでなければ嘘になってしまう」ガサガサ
雪の女王「さっきはあれほど頑なに拒んでいたというのに、どういう心境の変化だ?」
アンデルセン「誤解を招かないように言っておくけれど、既に世間に発表されている【人魚姫】や【赤い靴】の結末は決して変えないよ」
アンデルセン「私は自分の納得できる物語を書けたから世間に公表した。これを変えることはありえない。もうこれに関しては諦めてくれとしかいえない」
雪の女王「…それならば、私が結末を変える事が出来るのはこの原稿のおとぎ話だけというわけか?」スッ
アンデルセン「そうだね、この原稿のおとぎ話【マッチ売りの少女】はまだ世間に公表していない」
アンデルセン「作者である私とある童話作家と…それと書斎に忍び込んで盗み見した君の三人だけだ、この童話の内容を知っているのは」
雪の女王「まだ発表されていないから世界も構築されていないというわけだな。だが……」ペラペラ
雪の女王「何度読んでも胸くその悪い内容だ。よくも貴様はこんな物語を書けたものだと心底思う」
雪の女王「可哀想な少女が報われず救われず死んでいくだけなど…そんな結末には絶対にさせない。必ず貴様を説き伏せて彼女には幸せな結末を用意させる」
683:
アンデルセン「その前に…雪の女王、最初の読者として君に聞きたい。【マッチ売りの少女】を読んだ感想を、聞かせてくれないか」
雪の女王「貴様を殺す決意が固まった」
アンデルセン「いや、そういうのではなくて…もう少し一般的な感想をだな…」
雪の女王「それほどに残酷だった。という事だ」フイッ
雪の女王「それに貴様の口振りだと…おとぎ話を書いてそれが世間に知れ渡るとそのおとぎ話の世界が生まれる、と言うことを知っていたようだな?」
アンデルセン「そうだね、知っていたよ。とある童話作家から聞いたからね」
雪の女王「本来、現実世界ではそれは知られていないはずだ。貴様がどこからそれを知ったのかまでは聞かないが…この事実を知っていたという事は」
雪の女王「【マッチ売りの少女】を生み出すという事はそれと同時に父親に虐待され貧しく食事もできず苦しい生活の末、些細な幻にすがって凍死する…そんな少女を実際に生み出す。それを理解した上で執筆したということだな?」
アンデルセン「そう思ってくれて構わない。それを理解した上で私はこの物語を書いた」
雪の女王「残酷だとは思わなかったのか?このマッチ売りに申し訳ないとすら思わなかったと?」
アンデルセン「…残酷だとは思う、マッチ売りには酷な運命を背負わせたとも思う」
アンデルセン「だが私は童話作家だ、必要があると考えたから彼女にこの運命を定めた。それに…」
アンデルセン「彼女なら…あの女性ならきっと私の考えを理解して納得してくれると信じている。マッチ売りはきっと私の意図を汲んで運命を受け入れてくれると信じている」
684:
雪の女王「あの女性…?」
アンデルセン「マッチ売りにはモデルがいるんだ。優しくて自分のことより他人を優先する優しい女性だった」
アンデルセン「私は数え切れない程の愛情と恩を受け取ったけれど何一つ返せないままこの世を去ってしまった。せめてこの【マッチ売りの少女】が恩返しになればいいのだが」フフッ
雪の女王「…貴様は不可解なことばかり口にする男だ」
アンデルセン「そうかい?」
雪の女王「そうだろう。こんな残酷なおとぎ話の主人公のモデルにされてその女が喜ぶ訳ないだろう。むしろ普通は憤慨する」
雪の女王「それに貴様はこのおとぎ話をあろうことかハッピーエンドだなどと抜かした。私に言わせれば全てのおとぎ話の中でも屈指のバッドエンドだ、こんな残酷な結末が他にあるか?」
アンデルセン「確かに彼女の境遇は残酷かも知れない。だがあの結末はむしろハッピーエンドだ」
雪の女王「解らない男だな貴様は。死を迎える結末が幸せだというのか?」
アンデルセン「解っていないのは君だと思うが…ならば生きていれば幸せなのか?」
雪の女王「当然だろう、死んでしまっては終わりだ。幸せになる未来すら失うことになる」
アンデルセン「わかっていないな…未来なんかないんだよ、貧民には」ボソッ
雪の女王「何だ?よく聞こえなかったが?」
アンデルセン「いいや、なんでもないよ。すまないがその原稿をよこしてくれ」スッ
685:
アンデルセン「さて…本題に入ろう」スクッ
アンデルセン「君は私のおとぎ話の主人公を…マッチ売りを救いたいと考えている。それはおとぎ話がただの『物語』ではなく君たちのとっての現実だからだ」
アンデルセン「だが私もそうそう容易く自分の想いを曲げられない。私は必要だと思ったからこの物語を執筆した、当然この結末も必要なものだと思っている」
雪の女王「私はそうは思わないがな」
アンデルセン「君と私は違うからね。だからこそこのおとぎ話を書いたともいえるが…ともかく」
アンデルセン「私としてもマッチ売りには幸福になって欲しいと思っている、だからハッピーエンドにした訳なのだし」
雪の女王「貴様はまだ言うか、あの結末の何処が…」
アンデルセン「それに関してはひとまず置いておくとして…とにかく私にとってこの物語はハッピーエンドなんだ。それを書き換えろと言うからにはこれよりも素晴らしい結末でなければいけない」
雪の女王「…つまり、私に現状よりもマッチ売りを幸せに出来る結末を用意してみろという事だな?」
アンデルセン「そうだ、それに私が納得すれば結末をきちんと書き換えて発表する。それで私に出来る精一杯の譲歩だ」
雪の女王「十分だ。こんな最悪の結末よりも幸せな展開など湧き出るほど存在するからな」
アンデルセン「そうか、ならば君の考えるハッピーエンドを聞かせてくれ、私はそれをメモしていく」スッ
686:
雪の女王「そうだな…まずは死ぬのは無しだ」
アンデルセン「死ぬのは無し、と。ならばマッチ売りは何故死なないんだい?」
雪の女王「何故?こんな幼い少女が死ぬなど可哀想だからに決まっているだじゃないか」
アンデルセン「そうじゃない。これはおとぎ話だが最低限のリアリティは必要なんだ」
アンデルセン「マッチ売りは貧しい暮らしをして食事も着るものにも困っているんだ、まともな防寒もせずに体調も万全じゃない状態で一晩過ごせるとは思えない」
雪の女王「ならばそもそも貧しい生活という設定を変えるべきだ、彼女は裕福な家に暮らしていて両親からも愛されていてだな…」
アンデルセン「……何故そんなお嬢様がマッチを売る事になるんだ?」
雪の女王「売らなくてもいいだろう、マッチ売りが幸せならば」
アンデルセン「…目だ、そこを変えたらこの物語の意味がない。マッチ売りの境遇はそのままで最後の晩だけの改変しか認めない」
雪の女王「注文の多い奴め…ならばこうだ。その日、マッチがたくさん売れた事にしろ。そうすれば死なないだろう」
アンデルセン「マッチがたくさん売れました、おしまい……では物語を締めることなんかできない。それくらい配慮してくれないか?」
雪の女王「何の問題がある?オチが特にないおとぎ話なんていくらでもあるだろう」
アンデルセン「民間伝承ならともかく私のおとぎ話は創作童話だ、そんな結末では多くの人に読んでもらえるわけがない
687:
しばらく後…
雪の女王「……」ムムム
アンデルセン「もうそろそろネタ切れではないか?」
雪の女王「待て、今考えているところだ」
アンデルセン「いいよ、いくらでも待つ。でもわかっただろう、これ以上のハッピーエンドなどありはしないんだよ」
雪の女王「黙っていろ。ならばこうだ、マッチ売りが息を引き取る前に心優しい富豪が現れてだな…」
アンデルセン「よく読んでくれるか女王、この街にそんな富豪が居るならもう少しマッチ売りはましな生活が出来ているさ」
雪の女王「何なんだ貴様は却下却下と、結局マッチ売りを幸せにするつもりも結末を変えるつもりもないんじゃないか」バンッ
アンデルセン「…君は魔女としては一流だが作家としては三流だ」
アンデルセン「女王はマッチ売りを可哀想に思うあまり現実が見えていない。世間は彼女のような貧民には無関心だ、手をさしのべる者なんか決していない」
アンデルセン「食事も衣服も不足して、父親からは虐待され、毎日毎日苦しい日々を過ごすマッチ売りを助ける者なんていない…それは君も散々考えて解っただろう」
雪の女王「……」
アンデルセン「もう薄々理解してるだろう?私が何故、死をハッピーエンドだと言ったか」
雪の女王「黙っていろ。私はまだ認めていないし諦めてもいない」
アンデルセン「無駄だよ女王…マッチ売りを、このような貧しい少女を救うのは死しかない」
アンデルセン「この冷たい社会の中で貧しい少女は未来を夢見ることすら許されない。誰見手をさしのべてくれない上に少女が一人で生きていけるほど社会は甘くもない」
アンデルセン「死ぬことでしか救われない、そういう状況もあるんだ。解っただろう、女王」
688:
雪の女王「黙れ、私は認めない。そうだ魔法だ…魔法を使えばいい!マッチ売りの所へ魔女が現れる、これなら自然な展開だ」
アンデルセン「【シンデレラ】は名作だよ、ペロー先生の童話はどれもすばらしい。でも【マッチ売りの少女】には相応しくない」
雪の女王「貴様…いい加減にしろ、今度こそ問題はないだろう」
雪の女王「【シンデレラ】は人気の高い作品だ、あれも貧しい娘のシンデレラが登場するが魔法で助けられるじゃあないか。ならばマッチ売りも同じように…」
アンデルセン「私の作風はペロー先生のそれとは大きく異なる。民間伝承を元にしたファンタジー色の強いペロー先生の作品と違って私の作風はずっと現実的だ」
アンデルセン「ファンタジー色の強い作品を書くときだってリアリティは残している、そしてこの【マッチ売りの少女】は限り無く現実に近い形に仕上げたいと考えている、だから魔法使いは出せない」
雪の女王「マッチ売りを幸せにしたいとお前は言ったはずだ、ならば魔法を使って助ければいいだろう。何が気にくわない?」
アンデルセン「それなら聞くけれど現実世界に住む貧しい子供たちは…清く生きていれば魔法使いが来るのか?正しく生きていれば王子が来てくれるのか?ガラスの靴を持って?」
雪の女王「…いいや来ないさ。だが別にいいだろう、おとぎ話の世界なんだから多少は都合がいい展開だとしても」
アンデルセン「駄目なんだそれじゃ。ここで魔法に頼っては私が伝えたいことがかき消される、キチンと読み手に伝わらない」
アンデルセン「この思いが伝わらなければ未来を変えられない。貧しい子供たちを取り巻く現状を変えることなんてできないんだよ」
689:
雪の女王「未来?現状を変える?貴様は何を…」
アンデルセン「【マッチ売りの少女】はただのおとぎ話じゃない」
アンデルセン「私が童話作家として出来る、貧しい子供たちの未来を救うための希望だ」
雪の女王「救う…?世界を、おとぎ話で、か?どういう事だ…?」
アンデルセン「…雪の女王、悪いが今日は帰ってくれないか」
雪の女王「…断る。貴様は何を言っている、話はまだ終わっていないだろう」
アンデルセン「わかっている。この話をうやむやにするつもりはない、ただ…君に見て欲しいものがある。だから明日、同じ時間にこの場所に来てくれないか?」
雪の女王「……」
アンデルセン「私がこのおとぎ話を通して伝えたいことを見せる。言葉では伝えきれないが…女王ならば必ず理解してくれるはずだ」
雪の女王「…いいだろう。つき合ってやる、ただしお前がこのおとぎ話に込めた思いとやらに納得がいかなかった場合は…このおとぎ話を世に出すことは許さない」
アンデルセン「それでも構わない。なんなら両腕をへし折ってくれても構わない」
雪の女王「…いいだろう。ならば明日、もう一度訪れる事としよう」スッ
690:
女王が去った後 アンデルセンの書斎
男の声『貴様も酔狂な男だ』
アンデルセン「あぁ…いらしてたんですね。声が聞こえませんでしたからどこかへ行かれたのかと」
男の声『傍らでずっと聞いていた。所詮あの女はおとぎ話の住人、作者であるお前がその気になれば氷結能力を失わせることも出来ただろうに』
アンデルセン「その必要はありませんよ。それに…私を殺したいほど憎んでいるという事はそれ程マッチ売りや他の主人公を思ってくれていると言うことです。それは嬉しいことですよ」
男の声『くだらないな。所詮おとぎ話の住人など我々作者の道具に過ぎない。想いを伝えるための道具にな』
アンデルセン「あなたの事、尊敬していますよ。しかしそのような考えには賛同できません」
男の声『お前に賛同して貰おうとも思わん。だが私には無意味に思えてならない』
アンデルセン「そうでしょうか?」
男の声『あいも変わらず貴様はおとぎ話で未来を変えるなどと宣っているしな。不可能な夢を見るのも大概にしろ』
アンデルセン「不可能ではありませんよ。長い時間はかかっても必ず変えられます」
男の声『馬鹿め。実際に私は千年以上もの長い間人間の歴史を目の当たりにしてきた、だがおとぎ話如きに何かが変えられたことなど一度もない。不可能だ』
アンデルセン「……」
男の声『そもそみだ、おとぎ話の住人に現実世界の人間であるお前に考えなど理解できる訳ないだろう、世界が違う』
アンデルセン「そんなことはありませんよ。彼女は心優しい女性です、きっと私と同じ感情をもってくれるはずですよ」
・・・
707:
時は少し遡って…過去、1835年
現実世界 デンマーク アンデルセンの自宅
出版業者「いやー、凄いですよ先生!先日増刷したばかりだというのに追加で刷ってくれって依頼がバンバン来てて…更に更に増刷することが決まりました!」ホクホク
アンデルセン「ふふっ、なんだか作者の私よりも君の方が嬉しそうだ」
出版業者「そりゃ嬉しいですよ!自分の所で印刷した本が大ヒットしたんですから、出版冥利に尽きるってもんです!」
出版業者「それにバンバン増刷してるんでぶっちゃけ儲かってます!これもアンデルセン先生と『即興詩人』のお陰ですよ!」
アンデルセン「私のような無名の作家の作品を世に出してくれたんだから君に感謝しているのはむしろ私の方だよ」
出版業者「そんな畏れ多いですってー!でも無名作家なのはもう過去の話ですよ、アンデルセン先生の名前を知らないデンマーク人はもう居ませんからね!よっ!有名作家!」ポンッ
アンデルセン「ふふっ、そんなにおだてなくても次回作を出すときには是非君の所に頼もうと思っているよ」クスクス
出版業者「いやいや!お世辞とかゴマスリとかではなくて…でも今後ともご贔屓にしていただけるならありがたいです!うちもバッチリ高品質な本を印刷し続けますんでまた声かけてください!」
アンデルセン「あぁ、実はいくつか案はあるんだ。まだ完成にはほど遠いのだけどね」スッ
出版業者「おぉ!それは楽しみですね、ちなみにどんな作品なんですか!?『即興詩人』のような恋愛小説ですか?それとも冒険小説?いや推理小説というパターンも…」
アンデルセン「どれもハズレだ。『即興詩人』への反響は非常に喜ばしいが私が目指している作家は小説作家ではないんだよ」
アンデルセン「私が目指しているのは童話作家だ。だから次の作品はおとぎ話にしようと思っている」
出版業者「お、おとぎ話…ですか?えぇ…マジですか…?」ドンビキ
708:
出版業者「ちょ、ちょっと待ってください先生!それちょっと考え直しませんか!?」ガタッ
アンデルセン「何故だい?私がおとぎ話を執筆することに何か問題があるのかな?」
出版業者「問題しかありませんよ!おとぎ話っていうのは子供向けの読み物で…!いわゆる子供だましなんですよ!?」
出版業者「世間ではほとんどの場合、童話は文学作品として認められませんし扱いも小説等よりずっと劣ります…それは先生もご存知でしょう?」
アンデルセン「童話という作品を取り巻く現状は知っているよ。しかしおかしいとは思わないかい?おとぎ話には素晴らしい作品だって多いんだ、それなのに子供向けだという理由で一蹴するなんて…間違っている」
出版業者「先生の仰りたい事は解りますけど、それが世間の評価なんですって!先生は『即興詩人』のような名作を執筆できる立派な小説家なんですから小説一本でいきましょうよ!」
出版業者「せっかく世間に認知されて評価もされてるのに、わざわざ童話なんか書いて先生の評判を落とすことは無いですって!」
アンデルセン「童話は近い将来、必ず文学作品として認められて確固たる地位を築く。シャルル・ペロー先生やヤーコプさんにヴィルヘルムさんのような童話作家もこの先増えていくだろう」
出版業者「それでも…!先生は一般的な小説が書けるんですからそっちに力を入れるべきです!」
アンデルセン「その方が君の会社は儲かるから…かい?だから人気の低い童話を書かれては困ると?」
出版業者「…正直に言えばそれも理由の一つです!でもそれだけじゃありません、私は出版業者である前に一人の人間として先生に才能に惚れているんです!『即興詩人』も自腹で買いました!」
出版業者「先生の才能はずば抜けています!だからこそ童話なんて書くのは勿体ないです!これは先生のファンとしての私の気持ちなんです!」
710:
・・・
アンデルセン「……何故だ、何故解ってくれない。世間のおとぎ話に対する評価は不当だ…何故だ…」ブツブツ
男の声『机に突っ伏していても作品は仕上がらない。いつまでそうしているつもりだアンデルセン』
アンデルセン「正直、あそこまで強く反対されるとは思っていませんでした。彼は『即興詩人』の出版で私のために親身にしてくれましたから、きっと協力してくれると信じてました」
アンデルセン「そのうえ…彼の忠告は私の作家としての将来を案じているからこそのものです。あれは彼の心からの言葉ですから尚更堪えました…」
男の声『だから私は忠告してやったのだ、童話作家を目指すなど止めろと』
アンデルセン「しかし…私の夢は童話作家です。作品を通して想いを伝えるには童話作家でなければいけません」
男の声『小説家の何が不満だ?小説でも作品を通して考えや想いを伝えることはできるだろう』
アンデルセン「そうですが、子供は小説を読みません。私が本当に想いを伝えたい相手は子供たちなんです」
男の声『お前はおとぎ話というものを高く評価しすぎだ。お前が思うほどおとぎ話は良いものでも力を持ったものでもない』
アンデルセン「かつては高名な童話作家だったあなたが、そんなことを口にするのですか?」
男の声『昔の話だ。今はただの亡霊だ。千年以上も前に肉体は朽ちたが、どう言うわけか私の魂はこの世に留まっている…理由は解らんがな』
男の声『だが現世に残れるなら儲けものだ、私は様々な人間の元を転々としながら長い時間を過ごした。霊で居るのも悪くない、こうして優れた作家の側にいればいつでも新作の小説を楽しめるのだからな。なぁアンデルセン』
アンデルセン「優れた作家などと…買いかぶりすぎですよ。『即興詩人』だってたまたま読者のウケが良かっただけです」
男の声『謙遜するな、お前の才能は本物だ。だからこそ私はお前の元に居る、そしてその存在を明かした。…その童話に夢を見ている所だけは頂けんがな』
アンデルセン「童話作家のあなたですら、認めてはくれないのですね。おとぎ話が持つ力を、未来を変える力を」
男の声『かつて童話作家だったからこそ、千年以上の時を過ごしてきた私だからこそ認めないのだ』
男の声『生きていた頃はお前と同じ考えを持っていた頃もあった。だが結局、おとぎ話などただの作り話に過ぎない。まして希望を託すなど愚かしい事だ』
・・・
711:
雪の女王が訪れた翌日
現実世界 デンマーク アンデルセンの自宅
・・・
男の声『起きろ。起きろと言っているのだ、アンデルセン』
アンデルセン「…んん、うたた寝してしまったようだ」ウツラウツラ
男の声『あの女との約束の時間まで僅かだ。寝過ごしてまた家を破壊されては私も居心地が悪い、早急に脳を覚醒させろ』
アンデルセン「あぁ…マズいですね。寝ぼけ眼では彼女に凍らされるかも知れない。えぇっと…蝶ネクタイはどこにしまったか…。フフッ…」
男の声『…何を笑っている?』
アンデルセン「思い出し笑いですよ、先程夢を見ましてね。私が童話作家になる前、丁度『即興詩人』を出版したころの夢です」ゴソゴソ
男の声『あぁ…あの頃か。私はあの時散々忠告してやったのに、結局お前は童話作家になるという愚かな道を選んだのだったな』フンッ
アンデルセン「私の夢でしたからね。ですが今はこうして結果も残せています、ですから『愚かな』という物言いは訂正していただきたいものです」
男の声『何を言っている、当時は滅茶苦茶に酷評されていただろう。あの出版業者の言葉通り、実力ある作家が童話など書くなとまで言われていた癖に』
男の声『まぁまったくの正論だったがな。それなのにどういうわけか…お前の童話は周囲に受け入れられてしまった、私には到底理解できんな』
アンデルセン「私が落ち目の時でも出版を引き受けてくれた彼や、常々文句を付けてくれたあなたのおかげですよ。感謝してます」フフッ
男の声『フンッ、お前のおとぎ話がどれだけ受け入れられようとそれがなんの力も持たないただの物語だという事実は変わらん』フイッ
アンデルセン「あなたは相変わらずですね、あの頃からおとぎ話への嫌悪は一向に変わらないんですから」
男の声『お前も大概だろう。いつまでも無意味な夢を追い続けている辺りがな』フンッ
・・・
712:
現実世界 デンマーク アンデルセンの自宅 前
雪の女王「……」ザッ
──アンデルセン「明日、同じ時間にこの場所に来てくれないか」
──アンデルセン「私がこのおとぎ話を通じて伝えたいことを見せる」
雪の女王(あの男が【マッチ売りの少女】を通して読者に伝えたかったこと……)
雪の女王(あの男は、アンデルセンは多くの主人公を不幸にした憎むべき作者だ。だが……この言葉が嘘だとは思えない)
雪の女王(アンデルセンは何を思ってあんな辛い結末の物語を生み出したのか…)
雪の女王「ここで考えても仕方ないか…。奴に会えば全て解る」スッ
リンゴンリンゴーン…
アンデルセン「あぁ、いらっしゃい。来てくれたんだね女王」フフッ
雪の女王「お前が来いと言ったのだろう?それとも来ない方が良かったか?」ギロッ
アンデルセン「そんな事はないさ、歓迎する。ただまた昨日みたいに鍵を壊して進入してくるのかも…と身構えていたから拍子抜けではあるかな」フフッ
雪の女王「そうか。今からでも遅くはないだろう、貴様の期待に応えて扉を破壊してやろうか?30秒ほど貰うが」スッ
アンデルセン「待ってくれ、冗談だ。これから出掛けなければいけないんだ、扉を壊されるのは困ってしまう」フフッ
713:
雪の女王「出掛ける…?その先に貴様があのおとぎ話を書いた理由があるというのか?」
アンデルセン「まぁそうだね。少し歩くが構わないだろう?」
雪の女王「いいだろう。そういう事ならつき合ってやる。それで、何か支度が必要か?」
アンデルセン「いいや、女王はそのままの格好で構わない。それ以外には必要なものも特に無い」
雪の女王「そうか。いや…待て、昨日似たような格好で街に出たら妙に目立ってしまったんだ。暗い色のコートを羽織るとかして変装しておいた方がいい」
アンデルセン「あぁ…確かに君の衣装は刺激的だ。この季節にしては露出も多い」クスクス
雪の女王「他人事のように…貴様がそのように生み出したんだろう?問題があるのなら貴様が責任を持ってなんとかしろ」ギロリ
アンデルセン「なんでも私の責任にされても困ってしまうな。だが問題はないよ、むしろ少々目立った方が好都合だ」
雪の女王「好都合…?」
アンデルセン「とにかくその格好のままでいいよ。さぁ、そろそろ行こうか」
雪の女王「待て。結局何処へ行くんだ?」
アンデルセン「そう身構えなくても良いじゃないか。なんてことない、ただのパーティー会場さ」スタスタ
714:
現実世界 デンマーク とある大きなパーティー会場
アンデルセン「さぁ到着だ。えぇっと、招待状は何処へしまったかな…」ゴソゴソ
雪の女王「随分と大きな会場だな。無駄に豪奢で、警備も客も多い…身なりに随分と金をかけていそうな輩も多い」
アンデルセン「貴族のお坊ちゃんの主催だからね。さて、女王には一つ芝居を打って貰うが…ここでは私の助手として振る舞ってくれるか?」
雪の女王「私が…貴様の助手だと?私がお前を襲撃した理由を忘れたか?」ギロリ
アンデルセン「忘れちゃいないよ。ただ…私はあまりこういった場には顔を出さないから女性の君を連れていれば周囲の人間は興味本位で関係を聞いてくるかも知れない」
アンデルセン「私もこう見えてこのデンマークでは随分と名の知れている男だ。腑に落ちないかも知れないが面倒を防ぐためだ、頼むよ」フフッ
雪の女王「…やむを得ないか。あくまでフリだ、いいな?」
アンデルセン「あぁ、構わないよ。助手クン、早荷物を持ってくれるかな?」フフッ
雪の女王「……」ギロッ
アンデルセン「参ったな。こんな調子じゃすぐに怪しまれてしまう、そうすれば目的を達成することも難しいな…いやはや参ったな」ヤレヤレ
雪の女王「わかりましたお持ちします…ただしあまり調子に乗ると後で地獄を見ることになりますよ先生」ギロッ
アンデルセン「あぁ恐ろしい助手だ…まぁお手柔らかに頼むよ」クスクス
715:
ザワザワ ザワザワ
アンデルセン「さて…この辺りに彼が居るはずだが…」キョロキョロ
出版業者「あっ、アナスン先生!今日はご足労頂きありがとうございます!なんとお礼を言っていいやら!」
アンデルセン「やぁしばらくぶり。どうだい調子は?」
出版業者「おかげさまで特に病気もなく!どうやら先生もお変わりないようで!……ところでそちらの女性は?はっ!もしかして先生の恋人ですか!?」
アンデルセン「違う違う、そうじゃないよ。彼女は…」
出版業者「またまたー!隠さなくたって良いですよ!私と先生の仲じゃないですか!こんな若くて綺麗な女性捕まえて先生も隅に置けませんね!ふぅーっ!」フゥーッ
雪の女王「こいつが今、違うと言ったのが聞こえなかったか…?」ギロリ
出版業者「ひっ」ビクッ
アンデルセン「彼は私の作品の出版を担当してくれているんだ、随分長い付き合いになる。さぁ挨拶を」
雪の女王「…申し遅れました、私はアンデルセン先生の助手です。先程は冗談が過ぎて申し訳ございません」ニッコリ
出版業者「あっ、ジョーク!?そうですよね!いやいやこっちこそ失礼しました、先生は長らく助手さんをとらなかったので私はてっきり!ははは!」
アンデルセン「もう少しうまくあわせてほしいものだが…」ボソッ
雪の女王「お前のような男と恋仲だと思われた私の気持ちになれ。不愉快意外の何ものでもない」ボソッ
716:
出版業者「何はともあれ私がご案内しますよ!先生、どうぞこちらへ!助手の方も」スッ
アンデルセン「それにしても…随分大勢の客を招いたようだ、あのお坊ちゃんは。相当費用もかさんでいるだろうな」
出版業者「えぇ、豪華すぎです…普通はここまでしませんよ。やっぱり貴族の方は体裁とか気にしますからね、著名人も結構来てますよ。それであのー…先生のご友人のグリム様とかリンド様とかには…招待状渡していただきました?」チラッ
アンデルセン「それは手紙で断ったはずだが?」
出版業者「でしたよねぇ…ダメ元で聞きました」ペコリー
アンデルセン「ヤーコプさんもヴィルヘルムさんも何かと忙しいだろうしジェニーには舞台だってあるんだ。例え暇があったとしてもこんなくだらない集まりの為にわざわざ呼べないし呼ばないよ」
出版業者「…いや本当にすいません。失礼なのは承知の上なんですけど、私としても一応頼むだけはしておかないと」
アンデルセン「構わないよ、君の気苦労も理解できる」
出版業者「すんません、でも本当にアナスン先生が来てくださっただけでもぜんぜん助かりました。これでうちの会社も首の皮繋がりましたよ…」
雪の女王「おいアンデルセン…先生、結局この集まりは何なのですか」
アンデルセン「とある貴族の坊ちゃんが先日小説家としてデビューしてね、これはその記念式典を兼ねたパーティーというわけだ」
出版業者「そうなんです。その方はアナスン先生のファンらしくてですね…先生の作品を扱ってるうちの会社にその小説の出版をさせてやるからアナスン先生を紹介しろって言われまして」
出版業者「断ると後が怖いんで…失礼を承知で先生にお願いしていたんですよ。本当はこういう集まり苦手なのに本当にすいません、先生」
アンデルセン「まぁたまにはいいんじゃないか、それに別の目的も果たせそうだ」
717:
雪の女王「なるほど…その貴族としてはこのパーティーに貴様…先生が来ていれば箔が付くというところか。こう見えて有名作家だものな」
アンデルセン「貴族というのはやたら見栄を張りたがる。私がいれば『あのアンデルセンが認めた!』とか言いはれる、自画自賛になってしまうが私の名前は出版物を出す時に使えば何かと都合がいいのさ」
出版業者「先生以外にもいろんな著名人来てますよ、画家とか政治家とか歌手やら色々…挨拶回りだけで大変ですよ」グッタリ
雪の女王「他人の威光を借りようって腹積もりか…馬鹿馬鹿しい」
アンデルセン「気持ちは分からんでもないがな、意味があるかどうかは別問題だが」
出版業者「ちょっと先生も助手さんも何処で誰が聞いてるかわかんないんでもうちょっとトーンを…ところで招待状と一緒にお贈りした小説は読んでもらえました?絶対送ってくれって言われてるんで…」
アンデルセン「あぁ、一応目を通しておいた」
出版業者「助かります。あっ、あそこにいらっしゃるのがその小説の作者でこのパーティーの主役の…」
雪の女王「貴族のお坊ちゃまか」
出版業者「先生、ホント軽くでいいんで挨拶して貰っていいですか?一応紹介するって約束なんで、ホントスイマセン」
アンデルセン「あぁ、では行こうか助手クン」スタスタ
雪の女王「…あぁ、行こうか先生」スタスタ
718:
出版業者「せ、先生お疲れ様ですー!」ヘコヘコ
貴族作家「あぁ、君か。どうかしたのか?」
出版業者「先生に是非とも紹介したい方がいらっしゃいまして…ささっ、アナスン先生お願いします」ススッ
アンデルセン「本日はお招きいただきありがとうございます。お初にお目にかかります。私、ハンス・クリスチャン・アンデルセンと申します」ペコリ
貴族作家「おぉ、あなたがあの有名な!招待状をお渡ししたもののこの様なパーティーには滅多に足を運ばないと聞いていましたので心配していたのです」
アンデルセン「いえいえ、お招き感謝しております。この度はデビュー作品の出版おめでとうございます」
貴族作家「ありがとうございます。実は私はあなたのファンなのでお会いできて光栄です。立食ではありますが食事も用意しているので存分に楽しんでいただきたい」
アンデルセン「ありがとうございます。それにしても随分と豪勢な式典ですね、これほどに贅を尽くしたパーティーは私といえども見たことがございません」
貴族作家「そうでしょうそうでしょう!数々の著名人を呼び寄せ会場にも装飾にも料理も最上級のものを用意しましたからな」ハハハ
アンデルセン「流石は○○様の御子息、金に糸目を付けないとはまさにこのことでございますな」ハハハ
出版業者「先生ー!アナスン先生ー!口汚いの出てますって!」ヒソヒソヒソヒソ
貴族作家「フフッ、アナスン先生はどうやら冗談がお好きなようだ。ところで私の作品は既にごらん頂けましたか?」
アンデルセン「えぇ、もちろんですとも。非常に興味深い内容でした」
719:
貴族作家「そうですか!あのアナスン先生に読んでいただけるとは光栄です。で…いかがでしたか?私の作品は」ウキウキ
アンデルセン「いやはや、あの様な凄まじい作品を目にしたのははじめてと言って差し支えありませんね」
貴族作家「おぉ、そんなに素晴らしかったですか!」
アンデルセン「えぇ、なんと表現しましょうか…読み手の感動を誘う言葉使い、終止収まることのないワクワク感と膨れ上がる期待…それを受け止めるだけの重厚な結末」
アンデルセン「私にはとても真似できない物語でした」
貴族作家「おぉ、アナスン先生にそこまで誉めていただけると自信がつきますよ。次回作も期待していただきたい、完成しだい贈らせますので」ホクホク
アンデルセン「それは光栄ですね…んっ?どうしたかね助手クン?」
雪の女王「は?…………あぁ、そろそろお時間が迫っております先生」
アンデルセン「なんと、せっかくの機会だというのに…先生、名残惜しいですが私は新作の執筆がございますのでこの辺りで…」
貴族作家「そうですか。おい、アナスン先生をご自宅までお送りして差し上げろ」
使用人「はっ!」
アンデルセン「いえいえ、それには及びません。それでは私はこれで…」
720:
・・・
出版業者「助かりましたアナスン先生!今日はありがとうございました、でも不意に口悪くなるの何とかしてください…」
アンデルセン「悪気はないんだが…さぁすまないが私は用事があるから失礼するよ。新作は出来次第連絡を入れるからもう少し待っていて貰えるかな」
出版業者「あっ、はい!お待ちしています!あの、送迎本当にいいんですか?遠慮なさらなくていいんですよ?」
アンデルセン「あぁ結構、寄るところもあるんでね。それじゃあお疲れ様」スッ
・・・
アンデルセン「ふぅ、少々疲れたな助手クン?」
雪の女王「もうその茶番はいいだろう…それと突然私に振るのは止めろアンデルセン」
アンデルセン「あぁ、すまない。君ならうまくあわせてくれると思ってね」フフッ
雪の女王「調子のいいことを…さっきだってそうだ。ワクワク感だの自分には真似できないなどと感想を述べていたが…貴様あの男の小説読んでいないな?」
アンデルセン「フフッ、失礼だな?ちゃんと読んださ、20ページくらいね」フフッ
雪の女王「そんなところだと思った。感想に内容がなかったからな、抽象的な言葉ばかりでストーリーや展開には一切振れていない」
アンデルセン「見抜かれてしまったな。だが彼は気が付いていなかったから良しとしようか」クスクス
雪の女王「不誠実な奴め。どれだけ興味が無くともそれなりに読んで感想を述べるのもああいった場では社交辞令として必要だろう」
アンデルセン「そうは言うが…実際の感想なんか言えば悪評が広がり私が贔屓にしている出版社が潰れることになりかねないしな」クスクス
雪の女王「大袈裟すぎるな。そんなに酷い出来と言うわけでもないだろうに」
アンデルセン「そうだな、まぁ彼の小説でもっともすばらしいところをあげるなら…鍋敷きとして使うのに丁度よい厚さだったというところくらいだな」フフッ
アンデルセン「さぁ用事は済んだ。次の場所へ向かおうか、女王」
雪の女王「次の場所…?」
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