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「最弱魔王様」
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1:
初投降です。
※このssはいわゆる魔王勇者系ですが、勇者一行はあまり出てきません。バトルシーンを好まれる方や、魔王は絶対悪である、という考えの方にはどこまでもつまらない内容だと思います。
どこかの森
村人1「ほら、さっさと歩け」
村人2「全く、これで穀潰しが一人減ると思うとせいせいするぜ」
幼女「ふえっ……ごめんなさい、もうしないから捨てないでぇ……」ズルズル
村人1「うるせえ! じゃあなんで倉庫から蓄えていた食料をちょろまかしやがったんだ! 今年は去年と比べて作物があまり採れなかったのは知ってただろうが!?」
幼女「ごめんなさい……ごめんなさい……」
村人2「ちっ、これだからみなしごの餓鬼は嫌なんだ。ろくに躾もされちゃいねえ」
村人1「お情けで置いてやっていたのに、恩を仇で返しやがって……」
幼女「グスッ……ごめんなさい」
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・実況「金メダルをとった萩野には俺さんへの挑戦権を手にしました!」俺「ほう君が萩野か」
・俺「コンビニ行くけど一緒に行きたい人〜wwww」 父母「Zzz…」 妹(無視) 犬1「ワンワン!!」 犬2(シッポフリフリ)
2:
村人1「おい、この辺でいいだろう」
村人2「そうだな。おい、その木の根元に座れ」
幼女「え……」
村人1「ぼやっとすんな餓鬼!」ドンッ
幼女「ひっ」ペタン
村人2「たく、手間掛けさせやがって……おい、縄を出せ」
村人1「ああ……これでいいか」
幼女「お願いします、もうしないから……」
村人2「うるせえっ! 一度やったんならまたやらかすだろうが!」
村人1「てめえみたいな役立たずは、そこで魔物に喰われるのが似合いの最期だ」
村人2「そろそろ行くぞ、これ以上いたらこっちまで巻き添えを食う」スタスタ
村人1「そうだな。じゃあな糞餓鬼」スタスタ
幼女「ま、待ってよぉ……置いてかないでぇ……!!」
3:
――――
――
幼女「グスッ……ひっく……こわいよう……おなか、すいたよう……」グウ……
ガサガサ……ガサガサ……
幼女「ひっ!!」
「そこに誰かいるのか?」
幼女「あ……た、たすけ……ひいっ!」ガクリ
「……人間の幼子か。何故、このような場所で木に縛り付けられている」
4:
「大方、何かヘマをやらかして罰を受けているか、口減らしといったところでしょう……もっとも、魔物の多いこの森でこの状況、ほぼ後者で間違いないかと。……いかがなさいますか、魔王様」
魔王「……側近、縄を切って我が城まで連れて行け」
側近「御意」ブチブチ
幼女「」スゥスゥ
側近「こんなに泣き腫らして……お前は、運がいい」
5:
魔王城
――――
――
「やーいみなしご」
「むらのごくつぶしー」
「むらからでていけよー」
「でていけ」
「出ていけ」
「 出 て い け 」
幼女「――ッ!!」バッ
側近「気がついたか」
幼女「! ひいっ……た、食べないで……」ブルブル
6:
側近「落ち着け。ここにいる者は、誰もお前を取って食ったりなどしない」
幼女「で、でも……」
側近「とりあえず、まずは腹ごしらえだ……食べられるか?」スッ
幼女「! パン……おにく……た、たべていいの?」ゴクリ
側近「そのために用意した。食欲がないならせめてスープだけでもn」
幼女「」ガツガツ
側近「……心配は無用だったようだな」
7:
幼女「……グスッ……おいしい、おいしいよう……」ムシャムシャ
側近「……」
幼女「……ごちそう、さまでした」
側近「落ち着いたか?」
幼女「」コクリ
側近「では、ここで自己紹介をしておこう。私は側近、そしてここは魔王様の住まう城だ」
幼女「ま、魔王……?」ブルブル
側近「そう怯えるのも無理はないか。多くの異形なる配下を使って人間を苦しめ、死に追いやった諸悪の根源……お前達から見れば我らはそういう存在だ」
8:
幼女「あの……どうして、わたしを助けてくれたの?」
側近「それは……」
魔王「側近、子供は気がついたか?」バタン
幼女「きゃあッ!」ガタガタ
魔王「落ち着け、我は何もs」
幼女「いやああああっ!!」ブンッ
魔王「痛っ、やめろ、食器を投げるな……!」
9:
側近「魔王様、少々タイミングが悪かったようですね」
魔王「そうだな……」
側近「おい、大丈夫だ、大丈夫だから今手に持っているものを置け」
幼女「……」スッ
側近「よし、良い子だな……先程も言っただろう? この城にいる者は誰もお前を傷つけはしないと。我らはこのような姿をしている故、信用ができないというのはわかるが……」
幼女「だって、角も、牙も……こわい、から」
10:
魔王「そうだろうな。だが、考えてみるがいい」
幼女「?」
魔王「もし、我らがお前を襲おうと考えているならば、お前はとっくにこの世にはいないだろう」
幼女「……!」
側近「まずは、こちらの話を聞いてはくれないか? とても長い話になるが……その上で、お前がどう判断するかは自由だ」
幼女「……わかった」
11:
側近「よし、では続けよう……ここにおられる魔王様は本来、人間の敵であり、彼らの世界を我がものとするために存在している」
魔王「そして、それと対をなすのが勇者。魔王を滅ぼし、人の世に平和をもたらすのが目的である、いわば人間の希望といったところだな」
幼女「でも、大人たちが言ってた……わたしたちが生まれる少し前に、勇者様が……」
魔王「ふむ、確かに先代の魔王は……勇者に討たれた」
12:
幼女「じゃあ、どうしてわたしの目の前には魔王がいるの……? なんでそんなに落ち着いて話せるの?」
側近「……魔王という存在は、その子孫に受け継がれていくのだ。魔王の子供は魔王。それ故、一族が全滅でもしない限り、この世からいなくなることはない」
魔王「だから、魔王が倒されるとその子供が即座に次の魔王となり、その力に釣りあう上級の魔物との間に子をできるだけ多く作り、最も己の力を濃く継いでいる者を筆頭とした子供たちに魔王のなんたるかを徹底的に教育する。
時に人間を蹂躙する様を傍らで見せることもある。その際、人間に子供の姿を見られぬよう注意は怠ってはならない」
13:
幼女「あの……じゃあ、新しい魔王になれなかった他の子供たちはどうなるの?」
側近「魔王に喰われ、その力の一部となるか……魔王に忠誠を誓って僕として魔王を一生補佐することとなる。力は劣れど魔王の子供。取り込めば魔王にとって何よりも力の源になる」
幼女「!!」ビクッ
側近「すまない、恐がらせてしまったようだな……魔物の世界は本当に血生臭いものだ」
幼女「じゃあ、あなたも……たべ、たの……?」ガクガク
14:
魔王「……いいや、我にはできなかった」
幼女「え? どうして……」
魔王「我は……おそらく歴代で最も弱い魔王だ」
15:
側近「……確かにこのお方は当代の魔王様であらせられるが、元々は子供たちの中でも力が弱い方だった」
幼女「じゃあ、なんで……?」
魔王「……魔王の子供たちが、必ずしも仲が良いわけではない。むしろ、他の兄弟を追い落とす機会を常に窺っていると言っていいだろう。
魔王になれなければ死ぬか、下僕として兄弟に仕えなければならない。魔王の子供としての誇りも何もないからな」
16:
側近「先代の魔王様が御存命の時もそうだった。力の強い兄弟達はこぞって互いを潰し合い、次期魔王の座を掛けて醜く争った」
魔王「我と、我よりも力の弱い弟は、魔王の子供にしては本当に脆弱だった。魔王候補としての自覚も薄く、争い事も嫌っていた」
魔王「それ故よく、争う兄弟達を隠れて怯えながら見つめていた。2人で有能な下僕として魔王に仕えるために陰で魔術の勉強もした。
……糧として喰われぬ保証はどこにもなかったというのに」
側近「そして、運命の日――」
17:
――――
――
魔王城(数年前)
側近(先代)「魔王様が……魔王様が勇者に討たれました!!」
魔王候補(兄)「はあ!? 嘘だろ?」
魔王候補(姉1)「母上弱過ぎぃ」
魔王候補(姉2)「まだこっちはちゃんと次期魔王も決まってないんだけど?」
側近(先代)「そう申されましても……」
18:
魔王候補(現魔王)「……母上」
魔王候補(弟)「ぐすっ……ひっく」
魔王候補(姉1)「……そおだ、良い事思いついた。側近、あんたあたしの糧になりなさい」
側近(先代)「は!? 何を仰って……」
魔王候補(兄)「ああ、そういや側近は母上の兄弟の中では母上の次に強かったんだってな」
19:
魔王候補(姉2)「確かに良いアイデアね。でも、あんたの一人占めは許さないわよ?」
側近(先代)「お、おやめ下さ……」
魔王候補(兄、姉1、2)「「「じゃあ、早いもん勝ちだ(ね)」」」
側近(先代)「やめ、やめろ……ぎゃあああああああァァッッッッ!!!!」メキメキメキッ
20:
魔王候補(弟)「あ、兄上……僕達も、食べられちゃうの?」
魔王候補(現魔王)「大丈夫だ、ちゃんとこっちが忠誠を誓えばきっと生かしてくれる」
魔王候補(弟)「そうかな……」
魔王候補(現魔王)「ああ、俺がちゃんと頼んでやるから」
魔王候補(弟)「……僕、魔王の子供になんて生まれたくなかったよ」
21:
魔王候補(現魔王)「……俺もだ。母上の傍について外に出た時、見るものすべてが新鮮だった。
だけどみんな、母上が血の色に染めた」
魔王候補(弟)「母上が人間の町を襲った時、珍しいものがたくさんあったね。
……全部、壊されちゃったけど」
魔王候補(現魔王)「普通の魔物か、もしくは人間だったら……もっと自由に生きられたのかもしれないな……」
魔王候補(姉1)「なあに情けないことごちゃごちゃ言ってんの? あんたそれでも魔王候補?」
魔王候補(弟)「っ、姉、上……」ビクッ
22:
魔王候補(兄)「今度はお前らの番だぜ?」
魔王候補(姉2)「こっちが決着つけるまでにどっちが先に食べられるか順番決めときなさいねー」
魔王候補(現魔王)「ま、待ってくれ、俺達は次期魔王に忠誠を……」
魔王候補(兄)「何言ってんだ? 弱っちいお前らなんか下僕にしても足手まといになるだけだろ?」
23:
魔王候補(姉2)「だったら、少しでも力の足しになるように食べちゃった方が得よね。こいつみたいに」ブンッ ゴトッ
側近(先代)「」
魔王候補(弟)「ひいっ……」
魔王候補(現魔王)「そんな……!」
魔王候補(姉1)「ねえ、そろそろ始めようよ、早くしないとこっちにまで勇者が乗り込んでくるよぉ」ダッ
24:
魔王候補(兄)「そうだな……おい、城から出るんじゃねえぞ? まあ別の部屋で震えてるのは構わねえがな、ぎゃははははは!!」タタタッ
魔王候補(姉2)「ふふっ、あたしが魔王になったら2人ともひと飲みしてあげるわね〜」シュタッ
魔王候補(弟)「うう……」
魔王候補(現魔王)「……弟、こっちの部屋へ来い」
25:
バシッ! グシャッ!!
魔王候補(現魔王)「こんなもんか……弟、兄上か姉上がこっちに来る前にお前は逃げろ」
魔王候補(弟)「え? でも……」
魔王候補(現魔王)「お前、城の外へ行きたいんだろ? 俺がほんの少しでも足止めするから、お前だけでも自由になってくれ」
魔王候補(弟)「そんなのやだ! 僕だけ自由になっても寂しいだけだよ!! 兄上も一緒がいい!!」
26:
魔王候補(現魔王)「無茶を言うな!! このままでは2人とも魔王の胃袋へ一直線だぞ!?
そうなるくらいならせめて、お前だけでもこの宿命から……」
ドゴッ!!!!
魔王候補(現魔王、弟)「ッ!!」ビクッ
魔王候補(兄)「あーあー……あいつら随分と手こずらせてくれたな」ズル……
魔王候補(現魔王)「あ、兄上……姉上達は……?」
魔王候補(兄)「はあ? そんなのぶっ殺して喰ってやったに決まってんだろ? どんだけ馬鹿なんだ」ズルッ……ズルッ……
27:
魔王候補(弟)「うう、いやだ……」
魔王候補(兄)「逃げんなよ? 俺は今こんな体だから……抵抗されたら綺麗に食えねえ」
魔王候補(現魔王)「……」
魔王候補(兄)「くそっ、死ぬ直前までしぶとい奴らだったな……お陰でこっちは腕も足もちぎれかけだ。
まあ……次期魔王の座に比べれば安いもんか」
28:
魔王候補(現魔王)「……う」
魔王候補(兄)「てなわけで、俺が次の魔王だ……あ?」
魔王候補(現魔王)「うわああああああッッッ!!」ダダダッ!
魔王候補(兄)「馬鹿が、こっちが満身創痍なら勝てると思ったか?」ザシュッ
魔王候補(現魔王)「ぐあっ……!」ドサッ
29:
魔王候補(弟)「兄上ッ……わああああ!!」タタタッ
魔王候補(現魔王)「馬鹿っ、来るな!!」
魔王候補(兄)「ふん」ドスッ
魔王候補(弟)「ぐはっ……」ズルリ
魔王候補(現魔王)「弟ッ!!!!」
魔王候補(兄)「本っ当にどうしようもねえ奴らだな、お前ら……そんなに苦しんで死にたいなら望み通りにしてやるよ」ゴオオ……
30:
魔王候補(現魔王)「……ははっ」
魔王候補(兄)「……なんだ? 遂に本格的におかしくなったか」
魔王候補(現魔王)「俺達の方しか見えない程、弱っているのか? らしくないな……魔王サマ」
魔王候補(兄)「? ……ッ! こいつ、は……!!」ザアアアア……
31:
魔王候補(弟)「兄上が……さっき床に書いた魔法陣が光ってる……」
魔王候補(兄)「ぐ、あ……くそ……まさか……!!」ズズ……ズズズ……
魔王候補(現魔王)「あんたが、考えている通りだ……この魔法は、魔王候補の血が流れることによって発動する……下剋上魔法」
魔王候補(兄)「小賢しい真似をッ!! てめえも、やっぱり狙ってやがったか……魔王の座を!!!!」ゴゴゴ……
32:
魔王候補(現魔王)「まさか。俺も成功するとは、思っていなかった……ただの弱者の悪あがきだ。
陣の中に入らず、一足飛びにこちらにくる可能性もあったし……お前が、無傷であっても、駄目だった」
魔王候補(弟)「下剋上魔法……陣に落ちる魔王候補の血の人数によって効果が変わる……」
魔王候補(現魔王)「俺も、そして弟もあんたたちみたいな強大な力は持っていない……だが、弱いながらも魔王の役に立てる僕になる努力はしてたんだ。
その時に、偶然見つけた」
33:
魔王候補(兄)「ぐおおおおおおお!!!!!! てめえ、絶対八つ裂きにしてやる……ぐちゃぐちゃにして……」ジャララッ……ギシッギシッ
魔王候補(弟)「魔王候補1人分なら、その場で最も強い魔王候補に致命的な傷を負わせるだけだけど……血を流したのが2人以上なら」
魔王候補(現魔王)「そいつを半永久的に封印する」
魔王候補(兄)「ォ……ア……――ッ!!!!」シュウウウウ……
34:
――――
――
魔王候補(現魔王)「……弟、何故あの時逃げなかった。もし術が失敗していたら、間違いなく2人とも死んでいたぞ」
魔王候補(弟)「言ったじゃないか……ゴホッ、1人で自由になっても、僕には意味がないんだ。兄上も一緒じゃなきゃ……」
魔王候補(現魔王)「……馬鹿だな。これで俺は自動的に魔王となることが決まったんだぞ?
それがあいつの封印の絶対条件でもあるしな……お前は、このままでは俺に喰われるか……」
魔王候補(弟)「いいよ。兄上になら……兄上の力の一部になれるなら、僕は死んでも構わない」
35:
魔王候補(現魔王)「ッ、で……い……」
魔王候補(弟)「え?」
魔王候補(現魔王)「……できるわけ、ないだろう……! お前は……俺の、大事な弟なんだ……たった、1人の……」ポロッ……ポタッ……
魔王候補(弟)「兄上……」
36:
魔王候補(現魔王)「ははっ……俺は……ちっとも魔王らしくないな。あの術は……こんな弱い奴が魔王になるために生み出されたわけではないだろうに……」ポロポロ
魔王候補(弟)「……良いじゃないか、弱くて」
魔王候補(現魔王)「……」
魔王候補(弟)「たとえ世界中の誰1人として、兄上が魔王だと認めなくても……僕だけは、僕を守ろうとしてくれた魔王に忠誠を誓い続けるよ」スッ
魔王候補(現魔王)「……弟……」
魔王候補(現側近)「力は誰より最弱でも……兄上、いや、貴方は私にとって偉大なる魔王様です」
37:
――――
――
魔王「……というわけで、我はやむなく魔王としてここにいる」
幼女「……」
側近「術は魔王様が死ぬか、魔王であることを放棄することで解除される。あれが解放されれば、すぐにでも魔王様と弟は殺されるだろう。
だから、魔王様は待っておられるのだ……自分や、あれを倒せる程強い力を持つ、勇者の訪れを」
38:
幼女「(だから……魔王のひどい噂は全然聞かないんだ。たまに魔物が襲ってくるだけで)」
魔王「我は、一生子供は作らないつもりだ……歴代魔王が聞いたらさぞ腹を立てるだろう。
だが、我らのような思いをする魔王の子が過去にいたかもしれない。そしてこれからも出てくるかもしれない。
そう考えてみると……どうしても、その気にはなれんのだ」
幼女「(それよりも、わたしにとって恐かったのは……冷たかった村の人達)」
側近「私も、魔王様と同じ気持ちだ。そして最期まで運命を共にする」
幼女「……それで、わたしを助けてくれたことと、どう繋がるの?」
39:
書き溜めていた分が終わったので、今日はここまでです。
需要あるかなこれ……。
43:
側近「お前には、勇者に関する情報を集めるために協力してほしい」
幼女「協力?」
魔王「ああ。側近が集めてきた情報によれば、都では未だに魔物の討伐や、新たなる魔王の出現に備えて常に勇者の素質ある若者を求めているとのことだ。
今この城に兵士1人攻めてくる気配がないのは、我は昼間は滅多に城から出ない故、この存在を知る者がいないためだろう……ましてや、魔王の城へ寄りつこうとするもの好きもそうはいまい」
側近「都では姿を変えているとはいえ、私がこの姿で集められる情報には限りがある……そこで、人間であるお前の力が必要なのだ。
強い力を秘めた勇者の出現に少しでも早く気付き、それを迎え入れる準備をするために」
幼女「……」
44:
魔王「幼いお前にこのようなことを頼むのは酷だと思う……だが、今までそれを頼もうとした人間にはことごとく逃げられてきた。
我らにとって、お前が頼みの綱なのだ」
側近「子供にこのようなことを頼む我らを、情けないと嘲笑っても良い。だが何を言われようとも、我らは引くわけにはいかぬのだ」
魔王「ここにいる間は、お前の衣食住は保障しよう。どうか……我らの望みを叶えてはくれぬか……!!」
幼女「……1つ聞いてもいい?」
側近「1つと言わず、我らに答えられることなら何でも」
45:
幼女「……勇者様がここに来たら、あなた達はどうするの? やっぱり戦うの?」
魔王「さあな……それは勇者がここに来た時にでも考える。だが多分我も側近も……積極的に戦おうとはしないだろうな」
幼女「なんで……なんでそんなこと言うの? あなたは魔王なのに。魔王は勇者様と戦うものじゃないの!?」
側近「確かに今までの魔王はそうしてきた。だが、生憎こちらの魔王様は好き好んで魔王となられたわけではないからな」
46:
魔王「勇者を前にして剣を取れば、我はそれで初めて真の意味で魔王になったと言えるだろう。
だが……生憎この手は誰かを傷つけることに慣れてはいない」
側近「傷つけられる痛みも、悲しみも……我らはよく知り過ぎているからな」
幼女「……(魔王なのに、その側近なのに、弱い)」
幼女(こんな人(?)達でも、やっぱり勇者様に倒されるべきなのかな……?)
幼女(わたしにはわからないよ……でも)
47:
魔王「やはり駄目だろうか……」
幼女「……協力する代わりに、お願いがあるの」
側近「……!」
幼女(わたしが2人に協力することで、何かを変えること出来るなら……助けてくれた恩を返せるなら……)
魔王「それは本当か?! ……何でも望みを言うがいい」
幼女「……わたしの、家族になって。わたしを1人にしないで」
幼女(これでもう、わたしは役立たずじゃないよね……?)
側近「!? そんなことで良いのか……?」
幼女「」コクリ
魔王「……わかった。その願い、聞き入れよう」
48:
側近「私からも異存はない。これからよろしく頼む。と……」
幼女「幼女ですっ! えっと、こっちもよろしくお願いしますっ!!」ニコッ
魔王「ああ、よろしく幼女」
幼女「……あの」モジモジ
側近「ん? どうかしたか?」
幼女「魔王、様……さっきは、食器を投げつけちゃってごめんなさい」ペコリ……
魔王「! ……そのことなら気にするな。それに、わざわざ様をつけなくとも良い」ナデナデ
幼女「……はいっ」ニコニコ
49:
――――
――
幼女(それから、わたしの魔王城での生活は始まった)
幼女(魔王様も側近さんも、村の人達の何倍も優しくしてくれる)
幼女(とても、魔王の一族とは思えない位……)
50:
魔王「幼女、おはよう。今日も早いな」
幼女「あ、魔王様、おはよう」
魔王「む、別に様などつけなくて良いのだぞ?」
幼女「ううん、わたしが好きでそう呼んでるんだから気にしないで」
魔王「そうか……」
幼女「そうだよ」
51:
魔王「……なんだか」
幼女「?」
魔王「側近以外からそう呼ばれるのは、変な気持ちだ」
幼女「あれ? そういえばこのお城には、魔王様と側近さん以外に魔物はいないの?」
魔王「いるにはいたが……人を襲えぬ我の弱さと情けなさに皆出ていった」
幼女「……そうなんだ」
52:
側近「おや、魔王様に幼女、おはようございます」
魔王「うむ、おはよう」
幼女「側近さん、おはよー」
側近「もうすぐ朝食の準備ができますので、お早めに広間へおいでください」
魔王「ああ、わかった」
幼女「今日の朝ご飯は何かな〜」
側近「……そんなに楽しみにする程の変化はないぞ」
53:
幼女「それでもいいの。毎日ちゃんとご飯が食べられるのが嬉しいの」
魔王「……」
側近「……それより幼女、今日は初めて私の都行きへの同行だが……体の調子などは大丈夫か?」
幼女「うん。都は初めてだからとっても楽しみだなー」
54:
魔王「お前の生まれ育った村はこの近くか?」
幼女「多分ー。でもあの時、抵抗するのに夢中で……よく覚えてないの」
魔王「……すまん、いささか軽率な質問だったようだな」
幼女「んーん。気にしないでー。ご飯〜ご飯〜」ルンルン
55:
側近「……魔王様」
魔王「ああ、近いうちに行ってもらえるか」
側近「御意」
――――
――
朝食後
幼女「ねえねえ側近さん。都では情報を集めるだけ?」
側近「いや、他にも食料を買ったり、人間に協力を求める声をかけたりするな……まあ、それはもうお前がいるから必要ないか」
幼女「ふうん……お金はどうしてるの? 物々交換?」
側近「宝物庫に集めている、歴代の魔王が人間から奪ってきた金銀財宝を不本意ながら換金している」
56:
幼女「そっか……」
側近「ああ。人間のやり方で金を稼ごうにも、この姿では難しいからな」
幼女「……側近さん。わたし頑張るよ」
側近「? ありがとう。ああ、そうだ、お前のちゃんとした衣服も買わなくてはな」
幼女「服……」
側近「ずっとそのボロ服を着ているわけにもいくまい」
59:
幼女「側近さんは、いつもどんな格好で行くの? その鎧じゃ目立つよね」
側近「私は鎧を脱いでこのローブを纏って行く」バサッ
幼女(そういえば、側近さんのお顔、まだ見たことないな……)
側近「その格好では色々とあらぬ誤解を受ける故、すまないがお前も今日だけはこれを纏ってくれ」バサッ
60:
幼女「小さなローブ……わたしのためにわざわざ作ってくれたの?」
側近「即席だがな。サイズが合っているか自信はないが」
幼女「ううん、ありがとー」ローブギュッ
側近「……」ナデナデ
幼女「?」
側近「そろそろ出発の準備をするぞ。早く着換えろ」兜ヌギ
幼女「……あ」
61:
側近「? 私の顔に何かついているか」
幼女「違うの、あのね、魔王様ととってもお顔が似てるなって」
側近「……そうだろうな」
幼女「魔王様は髪は紫で長いけど、側近さんは青で短いんだね」
側近「長いと鎧を着けるのに邪魔だからな」
62:
幼女「あ、確かにそうだねー」
側近「……幼女は、怖くないのか」
幼女「何が?」
側近「……我らは多少人間に似ているとはいえ、魔物だ。
額には角を隠し持ち、皮膚にはところどころ鱗があり、瞳も人間のものとは異なる。
……お前達から見ればさぞ恐ろしいはずだが」
63:
幼女「……確かに、初めて見たときは怖かったよ」
側近「……」
幼女「でもね、今は魔王様と側近さんなら怖くないよ。だって全然魔物らしくないもん!」ニパッ
側近「……そうか(少し複雑だな)」
幼女「じゃあ、わたしも着換えてくるねー」パタパタ
64:
側近「……」
側近「服は脱がずにそのままローブを被るんだぞ!?」
――――
――
側近「では、行って参ります」
魔王「ああ、いつも通り顔を見られぬよう気をつけてな」
幼女「魔王様、お土産楽しみにしててねー」ニコニコ
側近「幼女、遊びに行くわけではないんだぞ」
魔王「よい、側近。……ああ、お前も楽しんでくるのだぞ」ナデナデ
幼女「はーい。行ってきまーす」
66:
戻りました、続けます。
ほのぼのな魔王様に需要があると信じながらッ……!
後今更ながら幼女に魔王さまと呼ばせるつもりが魔王様になってたのに気づいた……orz
これからは気をつけます。
67:
側近「あ、まて幼女」ペコリ シュタタタ
魔王「……」ズキッ
魔王「しぶといな、兄上も……我も、早く自由になりたいものだ」
――――
――
幼女「ここから都までどれくらい?」
側近「普通に歩いて行くなら途方もなく時間がかかるだろうな」
幼女「えー」
側近「だが、曲がりなりとも私は魔族だ」ヒョイッ
幼女「?」
68:
側近「これくらいの距離など造作もない」シュタタタタ
幼女「うわあ……」
側近「どうだ?」
幼女「すごいすごい! 周りの景色がびゅんびゅん変わってく!!」
側近「しっかり掴まっているんだぞ」
幼女「うんっ。……すごいんだね側近さん」
側近「……まあな」チョットウレシイ
69:
――――
――
都
側近「着いたぞ」
幼女「ぷはっ……あっという間だったね〜」
側近「そうか? ……帰りはもう少しゆっくり進むか」
幼女「うんっ」
ワイワイ ガヤガヤ
幼女「わあ……人もお店もいっぱい……」
70:
側近「都だからな」
幼女「ねえ、あれはなに? これは?」
側近「少し落ち着け。時間はたっぷりあるからゆっくり回るぞ」
幼女「はーい」
側近「まずはお前の服から見るぞ」
幼女「服っ!」キョロキョロ
71:
側近「どんな服が良い? あの店はやや派手目のものを取り扱っているし、この店の服は落ち着いたデザインが中心だ。
好きなものを選べ」
幼女「そうだなー、じゃあ、まずこのお店に入ろー」
側近「いや、私はi」
幼女「側近さんに、どれが1番似合うか見てほしいな」ニコニコ
側近「……はあ、仕方ないな」一緒ニ入ル
72:
――――
――
店内
イラッシャイマ……ヒッ!?
側近(居心地が悪い……)
幼女「わあ、可愛い〜。側近さん、これどうかな?」
側近「ん? あ、ああ良いんじゃないか」
幼女「じゃあこれとこれと一緒に試着してくるねー」タタタッ
74:
側近「……」
店員「」ヒソヒソ……ナニアレ……
側近「」ジロリ
店員「!」ギクッ
側近「……疲れるな」
75:
幼女「側近さーん! どう? 似合う?」
側近「! ……ああ、よく似合っている」
幼女「本当? じゃあこれ買っていい?」
側近「ああ、勿論だ。他のも着てみるといい」
幼女「はーい」タタタッ
76:
側近「……楽しそうで何よりだ」
――――
――
幼女「側近さんどうもありがとう」ホクホク
側近「礼には及ばん」
幼女「わたし、こんな綺麗なお洋服着たの初めてー」ヒラッ
側近「……そうか」
幼女「次は何を見るの?」
側近「生活に必要な日用品だな。食料は大量だから最後だ」
77:
幼女「はーい……あ」
オトーサンアレカッテー ハハハショウガナイナー
幼女「……」ジーッ
側近「……」スッ
幼女「……?」キョトン
側近「こんな醜い魔物の手では、不満だろうが……ないよりはマシだろう」
78:
幼女「!」パアアッ
側近「……もう少しお前の好きそうなものを見てみるか」
幼女「うんっ」ギュッ
――――
――
書物市場
幼女「ねえ、これは何て書いてあるの?」
側近「? お前、まさか字が読めないのか?」
幼女「うん……村では教えてくれる人がいなかったから」
79:
側近「……店主、ここからここまで全部包んでくれ」
店主「へっ? あんた何言って」
側近「これで頼む。釣りはいらん」ジャラリ
店主「毎度ありっ! おいおめえらさっさとお包みしろ!!」ドタバタ
80:
幼女「……側近さん?」
側近「……明日から文字の勉強をするぞ。それまでは表紙や挿絵を見て楽しみにしておけ」
幼女「……ありがとう。でも側近さん」
側近「だから、礼には及ばn」
幼女「こんなにたくさん、かさばっちゃうよ? いいの?」
側近「……私が持つから心配はいらん」
81:
――――
――
幼女「大丈夫?」
側近「ああ。魔物の腕力は人間より遥かに強いからな……」ズシンズシン
幼女「早く走れるし、力持ちだし、側近さんてやっぱりすごいんだね!!」ニコッ
側近「……魔王様の方がずっとすごいぞ。これから共に生活していればわかる」
幼女「そうかなー」
82:
側近「さあ、次の店で最後だな……」
幼女「あっ、側近さんちょっと待って!」
側近「ん?」
幼女「ほら、魔王さまへのお土産!!」
側近「……ああ。そうだったな」
幼女「わたし考えたんだけど、わたしたちがこうしてお外に出てる時、きっと魔王さまは寂しくしてると思うの……」
83:
側近「……」
幼女「だからね、ここで魔王さまのお友達になれるような子を探したいな……」
側近「ほう、人間に馴れている小動物、小型魔獣を売っている店か……わかった、少し覗いてみよう」
イラッシャイマセー
側近「私はこういうものには疎い……幼女、お前が選ぶといい」
幼女「いいの?」
84:
側近「と言いながら、既に気に入ったものを見つけたようだな」
中型魔鳥「」ジーッ
幼女「この子も良いんだけどね。こっちの子も可愛いんだ〜」
愛玩用兎「」ジーッ
側近「……説明を読む限り、どちらも初心者に飼いやすいようだな」
幼女「そうなんだ」
85:
側近「どうする?」
幼女「うーん……側近さんはどっちがいいと思う?」
側近「言っただろう。私はこういうものの良し悪しは知らん」
幼女「でも、わたしには選べないよ〜」両手ブンブン
側近「む……」2匹ジロジロ
側近「……兎はどうだ。鳥なら飼わずとも周囲の森に掃いて捨てるほどいる。
それに我らの居城には広い庭があるから、兎の運動には最適だろう……あくまで私の意見だが」
86:
幼女「そっか……じゃあ兎にするね。すいませんこの子くださーい♪」
<ヘイ毎度〜
側近「お前……そんなにあっさり決めてしまって良かったのか」
幼女「うん。側近さんがそう言うんならそれでいいよ」ニコニコ
側近「……」
幼女「魔王さま喜んでくれるといいなー」
87:
側近「……お前が、一生懸命魔王様のために考えたんだ。お喜びにならないはずがない」
幼女「もー違うよ。側近さんも考えてくれたでしょ〜? それならもっと喜んでくれるね」クスクス
側近「む……そうなのだろうか」
幼女「そうだよ〜。だからこの子は、わたしたち2人からのお土産」
88:
――――
――
側近「……少々、長居し過ぎてしまったな」
幼女「たくさん買ったねー」兎ナデナデ
側近「待っていろ」ブツブツ……
幼女「?」
側近「転移魔法を使う。お前とこの大量の荷物は目立ち過ぎるからな」シュウウ……
幼女「……わかった」
側近「……ゆっくり行き来するのは、また次の機会だ。荷物が少なく、日が明るい時に」ナデナデ
幼女「うん……きっと魔王さまも心配してるしね」シュウウ……
89:
――――
――
魔王城
魔王「」ソワソワ
側近「只今戻りました。遅くなってしまい申し訳ありません」シュウッ スタッ
幼女「ただいま、魔王さまっ……あうっ」シュウウ…… ペタンッ
魔王「! おお2人ともよく帰ってきたな。幼女、都は楽しかったか?」ナデナデ
幼女「うんっ」ニコニコ
90:
魔王「そうかそうか、それは良かったな」
側近「すぐに夕飯の準備をいたしますので、どうか彼女とお待ちください」
幼女「あ、待って側近さんっ、わたしもお手伝いするよ」袖クイクイ
魔王「!? ま、待て。お前は初めての都行きで疲れておろう? 夕飯までゆっくり休め」
幼女「それは側近さんもおんなじでしょ〜? ……あ、そうだこれ、わたしと側近さんから魔王さまにお土産っ」兎渡ス
魔王「おお、ありがとう……なんと愛らしい。まるで幼女のよう……いや、別に他意はないのだぞ?
あくまで幼女に似て小さくて目が離せないという……おや?」ポツン
幼女「側近さん待ってー」テテテッ
魔王「……」
魔王「……別に、悔しくはないぞ」
91:
――――
――
夕飯時
幼女「それでね、むぐむぐ都は色んな建物がいっぱいあってねっ、はむっ、人もいっぱいいてねっ」モグモグ
魔王「こら幼女、物を口に含みながら話すでない」
幼女「あ、ごめんなさい……」ゴクン
側近「……急がすとも、話す時間も食べ物も逃げぬ」
幼女「だって、だってね、早く話さないとこの気持ちが伝わらないから……」アタフタ
92:
側近(……魔王様)
魔王(ああ……)
側王((人間の子供は、皆このように愛らしいのだろうか……!?
それとも、幼女が特別なのか? わからん、わからんぞ……ッ))
幼女「? どうしたの2人とも、変なお顔ー」ケラケラ
側王「「(ハッ)……いや、何でもない」」キリッ
93:
――――
――
幼女(魔王さまと側近さん。この2人と過ごす時間が増えるほど、わたしは2人がどんどん好きになっていった)
幼女(時々、もしかしたら2人は呪いで魔物に変えられた人間なんじゃないかって思うこともあった)
幼女(……でも、やっぱり違うんだよね)
幼女(2人を見ていれば、当然少なからず魔物らしい部分も目にする)
幼女(それでも……そんなところを含めた2人が好きなことに変わりはない)
100:
小話「魔王と兎」
魔王(……幼女と側近の仲がやたらと良いのが気になる)
魔王(元はと言えば我が側近に連れて帰るように言ったのが始まりなのに……!)
魔王「……この何とも言えない気持ちをどうすればいいと思う? 兎」
兎「?」
魔王「……物言わぬお前に言っても一緒か」
101:
魔王「お前は何も悩みがなさそうで良いな」ナデナデモフモフ
兎「」スピスピ
魔王「奴らのことや、封印している兄上のこと……我の前には問題が山積みだ」
兎「」モフモフ
魔王「……うむ。お前を見ていると幼女と共にいるようで癒される」ホクホク
兎「」ケージカジカジ
魔王「勿論、本物の幼女には敵わんがなっ」ドヤァ
兎「」イラッ
102:
魔王「……さて、そろそろ運動の時間だな。さあ出てこい」ケージ開放
兎「」ノソノソ
魔王「やはり、こうして直に抱くのが1番良いな。フワフワして気持ちが良い」フワッ
兎「」ジタバタ
魔王「元気で何より。では外へ行くぞ」ザッザッ
103:
魔王城外
魔王「今日も天気が良いな。絶好の散歩日和だろう」ナデナデ
兎「」ウトウト
魔王(城の入り口から門までの範囲に結界を……よし)ブツブツ
魔王「ほら、好きなだけ遊んで来い」ソッ……
兎「」ヨタヨタ
魔王「あまり慌てるなよー」
104:
幼女「あ、魔王さま」
魔王「おお幼女。側近との勉強は終わったのか?」
幼女「うん。あのね、今日教えてもらった文字まででね、読めた本が1冊あったのー」ニコニコ
魔王「そうかそうか。良かったな」ナデナデ
幼女「今度魔王さまに読み聞かせしてあげるね〜」
魔王「ありがとう。楽しみにしているぞ」
兎「」ポテポテ
105:
幼女「あー、兎さん」抱キ上ゲ
魔王「幼女は兎が大好きなんだな」
幼女「だってふわふわしてて可愛いもん。はい、葉っぱあげるー」
兎「」モシャモシャ
魔王「幼女から葉を貰えて兎も嬉しそうだな」
幼女「えへへ、そうかな」モフモフ
魔王「この兎のお陰で、我もお前達がいなくても退屈しない」ナデナデ
幼女「それは選んだ甲斐があったねー」ニコッ
106:
兎「」ウトウト
幼女「あれ? 兎さん、おねむ?」
魔物「満腹になって、おまけにこの天気だ……眠くなるのも頷ける」
兎「」スヤスヤ
幼女「そっかー……おやすみなさい兎さん」ナデナデ
<幼女ー!
幼女「あ、側近さんが呼んでるからもう行くね」
107:
魔王「そうか……」
幼女「魔王さま、またあとでね〜」タタタッ
魔王「あまり無理はするなよー……はあ」ストン
魔王「どれ、我も少し眠る……か……」フワァ……
魔王「……平和だ……な……」スウスウ
兎「」スピスピ
110:
――――
――
<カア〜カア〜
魔王「……む、少々寝過ぎてしまったか」パチパチ
魔王「兎は……何時の間にあんな結界ギリギリの場所へ」
兎「」コロコロ
魔王「結界を解除して……兎、中へ入るぞ」ヒョイッ
兎「」ジタバタ
魔王「本当に元気だな……」
111:
魔王の部屋
魔王「よし。お前も家に入れたな」ナデナデ
兎「」コテン
魔王「……」ピーン
魔王「夕食ができるまでの暇つぶしだ。兎に魔法をかけてみよう」
魔王(ほんの少しの間だけ、兎の言葉がわかるように……)ブツブツ
兎「……ア」
魔王「お」
兎「……疲レタ。オナカスイタ」
魔王「……おおお」キラキラ
115:
兎「魔王。チョットウザイ」
魔王「え」
兎「幼女。好キ。魔王。ウットオシイ」
魔王「……」
食堂
幼女「魔王さま、遅いな〜」
側近「先程呼びに行ったが、頑なに部屋に閉じこもっておられる。我らで先に食べておくようにとのことだ」
116:
幼女「心配だな〜。どこか具合が悪いのかな」
側近「……とりあえず、我らは食べよう。料理が冷めてしまう」
幼女「はーい」
側近(もしや、あれの封印に何かしら良くない変化が……?)
魔王「」ズーン
兎「?」モシャモシャ
終わり
117:
小話「幼女の冒険in魔王城」
幼女(魔王さまのお城で生活するようになって、毎日が本当にあっという間)
幼女(でもお城の中は広いから、まだまだ知らないお部屋もたくさんある)
幼女「今日のお勉強は終わったし……ちょっと探検してみよう」ワクワク
119:
幼女「どこに行こうかなー」テクテク
ブォン! ブォン!!
幼女「!?」ビクッ
幼女「あ……もしかして」近クノ窓チラッ
側近「……」ブォン ブォン
幼女「やっぱり、側近さんが大剣で素振りしてるー」
120:
側近「……」ブォン ブォン
幼女(すごいなー。丈夫にできてるお城が少し震えてるよ)
幼女(周りに結界を張っててもこれだもんね……)
側近「……」ブォン ブォン
幼女「……邪魔しないようにしよう」ヌキアシサシアシ
幼女「よーし。この部屋だ」
幼女「側近さん、あんまりお掃除のお手伝いさせてくれないからなー」
幼女「……ここはなんのお部屋かな」
121:
幼女「プレートには……しょ、こ。書庫?」
幼女「えへへ、字が読めるって嬉しいな〜。側近さんといっぱい勉強して良かった♪」
幼女「れっつごー」ギイイ……バタン
122:
幼女「わあ……本棚にも壁にも本がいっぱい」
幼女「さすが書庫だねー」テクテク
幼女「んっと……魔法や魔術に関する本がほとんどみたいだね」ジー
幼女「どう違うのか、わたしにはわかんないや……」
123:
幼女「んー。どれも難しそうだな〜」パラパラ
幼女「……あれ? これって絵本かなー。表紙に動物の絵が描いてある」
幼女「……召喚、術?」
幼女「面白そう!」パアアッ
124:
幼女「えーっと……むう、絵もあるけどやっぱりよくわかんないことばっかり」パラパラ
幼女「ん? ……最下級、妖精? この絵がそうなのかな」ペラッ スッ
幼女「可愛いー。えっと何々、この呪文を唱えて……?」ブツブツ
幼女「最後に、汝の血を、捧げるべし……?」
幼女「なんだか痛そうだな……あっ」ピ……ッ
幼女「あう、紙で切っちゃった……え?」ポタリ……パアアッ
妖精「……?」パタパタ
125:
幼女「えっえっ、この子……」バッ
幼女「やっぱりこの絵の……召喚って、絵の動物を出すこと?」
妖精「」ジーッ
幼女「えっと……こんにちは」
妖精「」
妖精「」ニコッ
幼女「!」パアッ
126:
幼女「わたし幼女っていうの! 妖精さん……わたしとお友達になってくれる?」
妖精「」スーッ
妖精「……♪」幼女ノ肩ニチョコン
幼女「! よろしくね、妖精さん!」ニコッ
妖精「」ニコニコパタパタ
127:
幼女「召喚ってすごいな〜。初めてのお友達ができちゃった♪」
幼女「妖精さん、これから一緒に探検しよう」トコトコ
妖精「」ニコーッ
幼女「本を戻して……と。次のお部屋は何があるかな〜」
ギイイ……バタン
宝箱、魔王の書云々「」出番ナシ
128:
幼女「次はここだね。えっと……物置部屋?」
幼女「何があるんだろー。妖精さん、行くよ」
妖精「」コク
幼女「れっつごー」
妖精「」オー
ギイイ……バタン
129:
幼女「……本当に、色んなものがあるね」
妖精「」パタパタ
幼女「わあ、空っぽの宝箱が積んである! こっちにはお金がいっぱい……良いのかな?」
幼女「あ、お金の傍に書置きが……」
幼女「何々、ゴーレムは○○ゴールド、グリフォンは○○ゴールド……ガーゴイルは○○ゴールド」
幼女「倒される瞬間に経験値と一緒に床にばらまくこと? お金をそんな粗末に扱っちゃダメだよ〜」プンプン
130:
妖精「」クイクイ
幼女「どうしたの妖精さん……わあ、強そうな武器がいっぱい!」
幼女「これは……火薬注意、もしもの時以外は防火箱の術を解かないこと、だって」
幼女「この箱は薬関係か……回復薬、毒消し、強化薬、他にもいっぱいある」
幼女「……これ以上はあんまりいじらないでおこう。次行こう妖精さん」クルッ
妖精「」パタパタ
ギッ……バタン
131:
幼女「次は……この階段を上って……」パタパタ
妖精「!」ブルブル
幼女「どうしたの? 妖精さん」ヨシヨシ
妖精「」ギュウウ
幼女「ああ、あっちはね……魔王さまが頑張ってる部屋だね」トコトコ
妖精「」ブルブル
幼女「魔王さまはね、とっても頑張ってるの……自分に結界を張って、封印を補強してるんだ」
妖精「」フルフル
幼女「大丈夫。魔王さまが頑張っているときはあまり近づくなって言われてるから、こっちには行かないよ」
妖精「」ピタッ
幼女「……落ち着いた?」
妖精「……」コク
幼女「じゃあ、行こうか」スタスタ
132:
幼女「このお部屋は……宝物庫だ」
妖精「」パタパタ
幼女「側近さんにここのことを教わってから、どんな場所か気になってたんだ」ワクワク
幼女「れっつごー」ガチャッ
妖精「」スーッ
135:
幼女「わあ……見てきた部屋の中で1番明るい」パチクリ
妖精「」パタパタ
幼女「宝石って、目の前で見るとこんなにキラキラしてるんだ」キラキラ
幼女「この真っ白い玉も綺麗……」ツルン
幼女「宝箱もたくさんあるけど、こっちは空っぽのがないなー」
妖精「!」ピクッ
幼女「……妖精さん、どうしたの?」
136:
妖精「」ジーッ
幼女「その宝箱……他のと違って鎖でぐるぐる巻きにされてるね」
謎の宝箱「」シーン
幼女「……何が入ってるのかな」ウズウズ
幼女「ちょっとだけ、開けてみてもいいよね」ソーッ
謎箱「」
137:
幼女「んー……この鎖外れないな〜」ガチャガチャ
妖精「」グイグイ
幼女「よっぽど大事なものなのかな……」ガチャガチャ
謎箱「……ァ」
幼女「……え? いまこの箱何か言っt」
謎箱「いやああああああだぁれかあああああああーーーーーー!!!!!!」キイイイイーーン
幼女、妖精「「!?」」
138:
謎箱「だれかきてええええええ!!! アタシあけられちゃうっあけられちゃうのおおおおおおお!!!!!」キンキン
幼女、妖精「」耳フサグ
謎箱「ダメなのにっこれは魔王さましかあけちゃダメなのにっ!!!!!! あーん魔王さまたすけてええええ!!!!!!!」※野太イ声ダヨ
幼女「ふえ……どうしよう、このままだと見つかっちゃう……」フラフラ
妖精「」クイクイ
幼女「妖精さん……うん、とりあえず部屋から出よう」ガチャリ……バタン
謎箱「……ふふん、ざまあみなさい」
139:
――――
――
幼女「はあ、はあ……びっくりした」
妖精「」ペタン
幼女「でも、これでばれちゃったよね……うう、お仕置き決定か〜……」ショボン
妖精「」オロオロ
幼女「せめてお仕置きするのは魔王さまでありますように……そういえば慌てて中に入っちゃったけど、この部屋は何だろう」キョロキョロ
140:
妖精「!」ピタリ
幼女「ものは何もないけど、床に何か書かれてる……これって、血……?」
妖精「」ガクガク
幼女「妖精さん?」
――「……誰だ」
幼女「へ?」
142:
――「人間の餓鬼か……? ゴミのような下級妖精をつれているな」
幼女(誰……? どこから声が……)ガタガタ
――「! ……そうか、愚弟どもの愛玩用というわけか」クックッ
幼女(何……なんか、こわい……)ゾワゾワ
――「どれ……ちょっとこっちに来い。少し可愛がってやる」
幼女「や、やだ……助けて側近さんっ! 魔王さま!!」ポロポロ
側近「幼女! ここにいるのか!?」バタンッ
143:
幼女「ッ! そ……側近さん……うわあああああん!」ギュッ
側近「お前……何故この部屋にいる!? 早く出るぞ!」ヒョイッ ガチャッ
魔王「側近! 幼女はそこにいるのか!?」バタバタ
側近「はい、おりました!」バタンッ
幼女「グスッ……魔王、さま……」グスグス
魔王「この馬鹿者ッ! 勝手に城内をうろうろするんじゃない!! 只の人間にとって危険極まりない部屋もあるのだぞ!?」
幼女「ひいっ! ご、ごめんなさい……ごめんなさい……!!」ビクビク
側近「魔王さま、その辺で……幼女が怯えております」
魔王「ッ!……まあ、お前が無事でよかった」ナデナデ
144:
幼女「魔王さま……心配掛けてごめんなさい……」グス……
側近「全くだ……後で尻叩きの刑だからな……覚悟しておけ」ジロリ
幼女「ひうっ!」ビクッ
妖精「」パタタ……
魔王「!? 何故妖精がここに……」
幼女「あ……紹介するね、わたしのお友達の妖精さん」
妖精「」空中クルンッ
145:
側王「「なッ……!?」」
幼女「?」コテン
側近「お前……まさか書庫へも入ったのか!?」
幼女「う、うん……そこで動物の絵が描いてある本を読んだの……」
魔王「そ、それで……この妖精があるページを見たか!?」
幼女「うん。書いてある呪文? を読んだ後に……紙で指を切っちゃったら、この子が目の前にいたの」
側王「」
146:
側近(魔王様……)ヒソヒソ
魔王(ああ……)ヒソヒソ
側近(これは思いがけない発見……でしょうね)
魔王(まさか、幼女が偶然が重なったとはいえ、小妖精を召喚するとはな……)
側近(ええ、大変驚くべきことです……とんでもない逸材だと思います)
幼女、妖精「?」
147:
側近「……行くぞ。一刻も早くここから離れねば」スタスタ
幼女「うん……」ヒシッ
――「……情けない奴らだ」ククク
魔王「……」ギロリ
魔王「うむ、行こう。もう夕食の時間だしな」クルッ スタスタスタ
――「……」
148:
――――
――
幼女(あの後、わたしは魔王さまと側近さんからこっぴどく叱られ、側近さんからお尻を何十回も叩かれた)
幼女(たくさん泣いちゃったけど、悪いのはわたしだから仕方ないよね……)
幼女(2人を、たくさんたくさん心配させてしまった。その分、ちゃんと反省しなくちゃ)
幼女(でも……妖精さんを取り上げられてしまったのは悲しかった)
幼女(元いた場所に帰すだけだって魔王さまは言ってたけど……)
幼女(……また、いつか会えるといいな)
幼女「……きっと会えるよね?」
終わり
149:
小話2が予想以上に長くなってしまった……。
小話「幼女、側近の手伝いをする之巻」
側近「……幼女、本当に大丈夫か?」
幼女「うんっ、まかせて!」ブンッ
側近「危ないから箒を振り回すな。……では、この部屋の床を掃いた後、雑巾できっちり拭くんだぞ」
幼女「はいっ」ピシッ
150:
幼女「」ザッザッ
側近「……」ジーッ
幼女「んしょ……んしょ……」ガタガタ
側近(……任せても大丈夫そうだな)スッ……パタン
幼女「♪〜」クズ入レニポイ
――――
――
幼女「あとはここを拭いて……」キュッキュッ
幼女「……おわったーっ」ピカーッ
幼女「ふう……」ストン
153:
幼女「側近さん、いつもこれを1人でやってるんだよね……」
幼女「お料理もとってもおいしいし……。すごいなあ」
幼女「よし、お水を流して側近さんに報告に行こっと!」ヨッコイショ
――――
――
幼女「側近さーん、あのお部屋のお掃除終わったよ〜」トテトテ
幼女「どこにいるのかな〜……」キョロキョロ
幼女「……あ。このお部屋の扉がちょっと開いてる」
154:
幼女「側近さん、お掃除終わっt」ガチャッ
側近「……」バババババ
幼女「」
側近「……」 一 心 不 乱
幼女「す、すごい……まるで手が何本もあるみたい」パチクリ
側近「……」ゴゴゴゴゴ
幼女「……今は邪魔しちゃいけないかも。廊下で待っていよう」テテテテッ
155:
――――
――
側近「……ああ幼女。いたのか」ガチャ
幼女「側近さん、お疲れ様」ニコッ
側近「その様子だと、あの部屋の掃除は無事に終わったようだな。御苦労」ナデナデ
幼女「えへへ〜」テレッ
側近「お前はこれからどうする?」ガシャガシャ
幼女「勿論、まだお手伝いするっ」グッ
側近「……生憎、掃除は残り一部屋で終わりだが?」
幼女「へ? あんなにたくさんあるお部屋をもうやっちゃったの?」
側近「ああ」
幼女「……」ボーゼン
156:
側近「……最後の部屋は特別広い」
側近「ともにやるか、幼女」スッ
幼女「! やるっ」パアッ
――――
――
謁見の間
幼女「ここって……」
側近「ああ。魔王である者の本来の定位置、といったところだ」ザッザッ
幼女「ほえ〜……」
側近「……そのガーゴイルの像に迂闊に触るなよ。目から殺人光線が出るからな」
幼女「ひえっ!?」バッ
側近「……冗談だ」
幼女「……もうっ、びっくりしたよ」プクーッ
157:
側近「それは悪かったな。では、幼女はそちら側からやってくれるか」
幼女「はーい」
――――
――
幼女「……よし、終わった」フゥ……
幼女(側近さんは……あ)
側近「……」キュッキュッ
幼女(玉座を丁寧に磨いてる……)
158:
側近「……幼女。終わったのか」キュッキュッ
幼女「! あ、うん終わったよ」
側近「なら後はゆっくりしているといい。残りはこの玉座だけだからな」キュッキュッ
幼女「うん」
幼女「……」ジーッ
側近「……何か言いたいことがあるようだな」キュッキュッ
幼女「んー……他の場所と比べると、特に丁寧にやってるなって思って」
側近「……それは認める。ここはいつか来る運命の日まで、一点の汚れがあることも許されないからな」キュッキュッ
幼女「運命の日って……勇者様が、魔王さまを倒しに来る日のこと?」
159:
側近「……そうとも言えるな。それがあの御方の望みだ」キュッキュッ
幼女「わたしは、その時どうなるのかな……」
側近「運命の日が何時になるかわからぬ以上、それも知りようがないな」キュッキュッ
幼女「……わたしね、実はいつまでもその日が来なければいいなって思ってるの」
側近「……」キュッキュッ
幼女「こうして側近さんのお手伝いをしたり、魔王さまとお話したりする楽しい生活が……ずっと続けばいいのにって思う」
側近「……何事にも、必ず終わりは来る」キュッ……
幼女「……」
側近「我らはそれまで、精一杯毎日を生きるだけだ」ザッザッ
164:
幼女「……ねえ、側近さん」トコトコ
側近「なんだ」
幼女「……怒ってる? わたしがあんなこといったから……」オズオズ
側近「……いいや」
側近(むしろ驚いているよ。お前の考えに同意しかけた自分に)
側近「……もう昼か。すぐに食事の支度をしなければな」
幼女「じゃあ、今度はお料理のお手伝いをするよ〜」ニコーッ
165:
側近「……大丈夫なのか? 掃除とはまたわけが違うのだぞ」
幼女「だいじょーぶっ! 側近さんに教えてもらえばいいもん」
側近「……仕方ないな。怪我には十分注意するのだぞ?」
幼女「はーい」ニコニコ
――――
――
昼食時
魔王「……側近よ」
側近「はい。魔王様」
魔王「テーブルの上に幾つか、見慣れぬ黒い物体があるのだが」
側近「気のせいでしょう。もしくは封印に根を詰め過ぎて幻覚をご覧になっているのでは」
魔王「……」
166:
幼女「魔王さま……あのね、それわたしが作ったの」
魔王「えっ」
側近「幼女が私を手伝いたいと申したので、一部の料理を任せました」
魔王「そうだったのか……」
幼女「やっぱり……食べたくないよね、こんなの」シュン
魔王「なあにを言っておるのだ幼女よ! 幼女が我のために一生懸命作ってくれた料理を食べたくないわけがなかろう!!」
幼女「ほんとっ?」パアアッ
側近「では魔王様、お先にどうぞ」スッ
魔王「えっ」
側近「自信作だそうです」
魔王「……」
167:
幼女「……」ウルッ
魔王「よおおおおおしでは遠慮なくいただくとするかな!!!!」モグモグ
側近「……」ジーッ
幼女「……どう?」ワクワク
魔王「……う、うむ。とても個性的な味だと思うぞ」ゴクン
幼女「そっかあ……」ホッ
側近「幼女、冷めるから私達もそろそろ食べるぞ」
幼女「うんっ、いただきます」モグモグ
168:
魔王「……」モグ……モグ……
側近「……食が進みませんか、魔王様」
魔王「い、いや……そんなわけでは」ガツガツ
魔王(側近……涼しい顔であの料理を……! さては味見で舌が麻痺したな!!)
幼女「んー……やっぱり側近さんの味には遠いなー」パクッ
側近「これから頑張って覚えていけばいい。初めてにしては悪くないぞ」モグモグ
魔王(良く言う……ん?)
幼女「もっともっと頑張らなきゃねー」パクパク
魔王(幼女の手……傷だらけではないか……!)
169:
側近「ああ、お気づきになりましたか。怪我には注意しろと口を酸っぱくして言ったんですが……結局この有様ですよ」ハァ
幼女「ごめんなさい……」
魔王「ま、まあ最初だからな。そんなに気に病むこともあるまい」ナデナデ
幼女「魔王さま……わたし、もっと頑張っておいしいもの作るからねっ!」
魔王「ああ、楽しみにしているぞ」
170:
――――
――
幼女「次は食器洗いだねっ」
側近「……では、私が洗い終わった皿を拭いてくれ」ジャー
幼女「わかった。……ねえ、側近さん」フキフキ
側近「なんだ」ゴシゴシ
幼女「わたしは側近さんと魔王さまのお役に立ててるかな?」フキフキ
側近「……」
171:
幼女「2人はわたしのお願いを聞いてくれたんだから、わたしもそれに合ったことをしたいの」フキフキ
側近「……その際の我らの望みが、結果的にお前の願いを壊してしまうことは理解してるか?」バシャッ
幼女「……」
側近「その点に関して言えば、現状ではお前が役に立てているところはほぼないと言っていい」
幼女「……!」ビクッ
側近「だが……少なくとも、私も魔王様もお前が不要であると考えたことはない」ジャー
幼女「側近、さん……」ジワッ
172:
側近「……泣いていたら食器がぼやけて見えなくなるだろう」ゴシ……
幼女「あう、ごめんなさい」アタフタ
側近「この皿で最後だな……」キュッ
幼女「……」スッ
側近「ほら、最後まで頼んだぞ」ポン
幼女「……うん」キュッキュッ
173:
――――
――
幼女(その後、お洗濯も残っていたけど、それだけは何を言ってもさせてもらえなかった)
幼女(いつも側近さんと魔王さまで分担してやっているらしい)
幼女(……わたしにも、いつかさせてもらえる日が来るのだろうか)
幼女(とりあえず、次は夕ご飯の時に頑張ろう)
174:
――――
――
魔王「……流石に、この我の血のついた布の山はまだ幼女には洗わせられないな」ゲッソリ
側近「魔王様、お顔の色が優れませんね。何か悪いものでもお食べになりましたか?」ゴシゴシ
魔王「知っておるくせに……」
側近「あれを完食などという無茶をされるからですよ」
魔王「幼女のあの手を見ておいて、料理を無碍などできまいよ。お前も結構食べていたではないか」
側近「……そうですね。否定はしません」
魔王「あれはきっとこれから上達するな。あんな手になってまで頑張っていたのだから」ウンウン
側近「ええ……私もその日が楽しみです」
小話「幼女、側近の手伝いをする之巻」終わり
181:
小話「魔王と幼女」
幼女(お勉強が終わった後のお散歩って楽しいな〜。とってもいい天気だし……)トコトコ
幼女(……あ。魔王さまだ)
魔王「ああ幼女。良い天気だな」ポカポカ
幼女「そうだね、魔王さま。魔王さまは日向ぼっこに?」」ニコッ
魔王「ああ、あまりにも気持ちが良かったのでな……これなら洗濯物も早く乾きそうだな……」
幼女「ねえ魔王さま、わたしもお洗濯のお手伝いしたいんだけど……」
魔王「ぐ、それは……」
182:
幼女「なんでダメなの? 3人でやればもっと早く終わるよ?」
魔王「ぐ……お、おおそうだ。お前の身長では洗濯物を干す時に手が届かぬからだ」ポンッ
幼女「手が……?」
魔王「ああ。幼女だって洗濯をするなら干すところまでやってみたいだろう?」
魔王「我らが竿に届くように抱いてやっても良いが、そうすれば時間がかかってしまうしな」
幼女「むう……それもそうだね」
魔王(なんとか誤魔化せたか)ホッ
魔王「だから、今よりももう少し幼女の背が伸びたら、洗濯をちゃんと教えよう。それで良いか?」
幼女「……わかった。約束だからねっ」スッ
魔王「うむ。約束だ」スッ
幼王「「ゆーびきーりげーんまーん」」
183:
幼王「うーそつーいたーらやーりせーんぼーんのーーますっ」
幼王「ゆーびきーったっ!」パッ
魔王「……幼女」膝ポンポン
幼女「! ……えへへ」ヨイショ
――――
――
幼女「そういえば魔王さま。ずっと前から気になってたんだけどね」ジーッ
魔王「なんだ?」ナデナデ
幼女「……どうして魔王さまも側近さんも笑わないの?」
184:
幼王……?
185:
>>184すいません、幼女と魔王という意味です……。
187:
魔王「……何故そのようなことを?」ピタリ
幼女「えっと……もしかしたらわたしが原因なんじゃないかと思って」オロオロ
魔王「いいや。そのようなことはないぞ。我のこの顔も側近の顔も、別に幼女のせいではない」
幼女「ほんと?」
魔王「ああ……。我らは昔から、あまり心から嬉しい、楽しいと感じたことがないのだ」
幼女「え……」
188:
魔王「魔王の子供としての過酷な日々……その中で果たして、本当にそのような感情が芽生えていたのかどうかさえも疑わしい」
幼女「……」
魔王「お陰で2人揃ってこんな顔だ……だが、今ならなんとなく理解することができる」スッ
幼女「……?」キョトン
魔王「……幼女といると、心の奥から温かいものを感じるのだ。しかも不快ではなく、むしろ心地良い」
189:
幼女「!」
魔王「特にお前が幸せそうに笑っているのを見ると、それこそ今の天気のように心が弾む」
幼女「……」ジンワリ
魔王「幼女、もし嫌でなければ……これからも、我らの分まで笑っていてくれないか?」
幼女「魔王さま……」
魔王「お前の笑顔を見ていれば、もしかしたら何時の日か……この魔物の顔にその笑顔が移るかも知れぬ」
幼女「……うん、わかった」
幼女「その代わり、いつか絶対笑ってね? わたし、いつもの魔王さまと側近さんのお顔も嫌いじゃないけど……」
幼女「2人の笑顔は、もっと素敵だと思うからっ」ニパッ
192:
魔王「!」パチクリ
魔王「……ああ。わかった」ギュッ
幼女「えへへ、魔王さまあったかい……」スリスリ
魔王(幼女、願わくば笑顔と共に……我らの分までその身に幸多からんことを)
――――
――
側近「……おや、珍しいですね」
魔王「おお側近。今日向ぼっこから戻ったぞ」
幼女「」スゥスゥ
魔王「ずっと我の膝の上で話していたら、幼女がウトウトしてきてな……何時の間にかこうなったのだ」
193:
側近「……そうですか」
魔王「なんだ。面白くなさそうだな」
側近「……面白いも何も、私は特に何も感じてはおりませぬが」
魔王「そうか?」
側近「……」
魔王「ああ、そういえばな、幼女から顔のことを訊かれたよ」
側近「顔?」
魔王「我らが何故……笑わぬのかを、な」
側近「……」
194:
魔王「確かに我の顔は普段からあまり変わらぬが……側近」
魔王「お前、心なしか幼女といる時は……僅かに表情が柔らかくなっておるように見えるぞ」
側近「……それを仰るならば魔王様こそ」
側近「幼女を抱いているせいか……お顔が実にだらしなく緩んでおります」
魔王「!? な、何……そんなことはn」ペタペタ
側近「冗談です。いつもとあまり変わりません。と言っても常にだらしないお顔ですが」
魔王「何なのだ側近よ、今日はやけに刺々しいではないか……」アタフタ
側近「気のせいです」シレッ
195:
魔王(側近の言っておることが真実かどうかは定かではない)
魔王(……いや、真実であればそれはそれで情けないが)
魔王(だが、恐らくこれだけは真であろう)
魔王「我も側近も……幼女の存在に救われているということだけは」
幼女「……むにゃ、魔王……さま……側近さん……」ムニャムニャ
小話「魔王と幼女」終わり
200:
ここから再び本編です。
――――
――
幼女(色々なことがあったけど、魔王さまと側近さんの家族になってもう1年になるのか……)ハーッ
幼女(寒さはまだ残ってる。でも、植物も少しずつ生え出してるから春はもうすぐだね)グッ
側近「幼女、そちらの掃除は終わったか?」ガチャ
幼女「うん。終わったよー」サスサス
側近「……こんなに手を赤くして。痛くはないか?」ハーッ
幼女「だいじょうぶっ。じゃあ側近さん、最後のお部屋に行こう」テクテク
側近「ああ……」
――――
――
謁見の間
側近「」キュッキュッ
幼女「……」ジーッ
201:
側近「……手」
幼女「?」
側近「本当に大丈夫なのか? 幼いうちから手がそうなっているのは……我らは平気だから、この時期くらいは休んで良いのだぞ」キュッキュッ
幼女「平気だよ〜」ハーッ
側近「……」キュッ
幼女「……側近さん?」
側近「……我らが出会わなければ、もしくはお前が我らの頼みを断っていたなら……お前は今頃どうなっていたのだろうな」ジッ
幼女「! ど、どうしたのいきなり……」フルフル
204:
側近「幼女。お前は今……幸せか?」
幼女「? うん」
側近「ここに来る前よりか?」
幼女「もちろんそうだよ! ……一体どうしたの側近さん」コテン
側近「……いや、何でもない。行くぞ」ザッザッ
幼女「?」テテテッ
205:
――――
――
夕食時
幼女「〜♪」ハフハフ モグモグ
側近「……魔王様。いかがなさいますか」
魔王「そうだな……一応彼女の耳に入れておいた方が良いだろう」
側近「では……幼女」
幼女「むぐっ……なあに側近さん」コトン
側近「実はな、これをお前に言うべきか魔王様と考えていたのだが……」
幼女「?」
側近「……お前が元々いた村が今、酷い飢饉に陥っている」
幼女「!? そ、それって本当? でもなんで側近さんわたしの村を……」ガタンッ
206:
魔王「幼女がこの城に住み始めて間もない頃に、我が側近に命じて密かにお前の村の事を調べさせたのだ」
側近「微かにお前から嗅ぎ取った匂いから、この城周辺で同じような匂いの村を突き止めた」
幼女「」アゼン
魔王「何、年端もいかぬお前にこのような非道なことをする輩がどんな人間か、少し興味が湧いただけだ。他意はない」
側近「最初の印象は、食料の備蓄に不安の残る何の変哲もない村だった」
魔王「もしも、お前にあの村への恨みがあるのなら……こんなことは言いたくないが、村への報復の手助けになると思ったのだ」
幼女「……」ギュウ
207:
側近「その後も何度か、あの村の事を調べていくうちに……今の現状を知った」
魔王「幼女にとって、余計なことであったならすまない。
だが……先程は興味があっただけだと言ったが、本当は家族となったお前を傷つけた輩を許せなかった我の自己満足だったのかもしれぬ」
幼女「……」
側近「幼女」
幼女「!」ビクッ
208:
側近「お前はこれを聞いてどう思った?」ジッ
幼女「どうって……わかんないよ」
魔王「……お前がこの話を聞いて、どのような答えを出すかは自由だ。このまま何もせず、村の壊滅を待つのも……更に追い打ちをかけるのも」
側近「例えお前が村に何をしようとも……我らは全力でそれを補助をするつもりだ」
幼女「……ごちそうさま」ギイッ バタン
側近「魔王様」
魔王「……今は見守ろう。後は彼女次第だ」
211:
――――
――
幼女の部屋
幼女(あの村……今、大変なんだ)
幼女(……わたしが倉庫で盗み食いしたせいかな)
幼女(……)
『みなしご』
『きたねえなー』
幼女「……!」ブンブン
215:
――――
――
魔王『お前がこの話を聞いて、どのような答えを出すかは自由だ』
側近『例えお前が村に何をしようとも……我らは全力でそれを補助をするつもりだ』
幼女(……わたし、は)ギュッ
――――
――
翌朝
チュン チュン
幼女「……もう朝か」ゲッソリ
216:
側近「幼女。起きているか?」コンコン
幼女「! ……起きてるよ、側近さん」
ガチャリ
側近「おはよう……っ、お前、まさかずっと起きていたのか?」
幼女「うん……でも、これくらいだいじょうぶだよ〜」
側近「そんなわけはないだろう! 子供は夜適度に寝なければ体を壊す」ギュッ
幼女「あはは……心配かけてごめんね」ニコ……
側近「……一晩中夕食の時の事を考えていたのか」
幼女「……」
217:
側近「やはり話さぬ方が良かったか」
幼女「……んーん。そんなことないよ」
側近「あの後、魔王様と心配していた……お前の昔の苦しみが蘇るのではないかと」
幼女「確かに嫌なことは思い出したけど……もうだいじょうぶ」
側近「! では」
幼女「とりあえずお腹空いちゃったから行こう」フラフラ
側近「こら、あまり無理はするな」ヒョイ
幼女「ふにゅ……ありがと」ヒシッ
218:
――――
――
側近「魔王様。幼女を連れてきました」ガチャ
魔王「おおご苦労。いつもの時間に来ないから心配しt……どうした幼女目の下に酷い隈が出ておるぞおおおお!!」ガタン
幼女「おはよう魔王さま……だいじょうぶ、ちょっと寝てないだけだから」
魔王「十分大問題ではないかあああああ!」
側近「魔王様……朝から五月蠅いです」
219:
魔王「うう、すまん……幼女、やはり昨日の夕飯時の事か」
幼女「……」コクリ
魔王「その様子だと、余程辛い思い出を掘り返してしまったようだな……」
幼女「ううん、本当にだいじょうぶ……確かにあの頃は嫌なことばっかりだったけど」
魔王「……」
幼女「今は、魔王さまと側近さんと一緒にいられてとっても幸せだよ!」ニコッ
魔王「幼女……」
側近「……幼女。我らは何があっても……お前の味方だからな」ナデナデ
幼女「……うん」
220:
魔王「で、では、そろそろ朝食にするか」カチャリ
幼女「うん」ガタン
側近「では、これを食べて……今日も1日しっかり生きるぞ」カタン
――――
――
幼女「ごちそうさまでした。やっぱり側近さんのご飯はおいしいなー」
側近「……」
魔王「……うむ、そうだな。では我は部屋に戻ろう」バタン
側近「……幼女」
幼女「側近さん。お片づけが終わったら……お外に行きたいんだけど」
側近「! ……ああ、わかった」
221:
――――
――
幼女のいた村
村人1「村長……これでは次の収穫まで持ちません」
村長「む……どうしたものか」
村人2「これ程の不作は初めてですからね……」
子供1「うう、お腹空いたよう……」
村人3「……まさか、あいつの崇りじゃねえだろうな」
ザワッ……
村人1「お、おい、滅多なことを言うもんじゃねえ!!」
村人4「……そういえば、あの子を森へ捨ててから急に作物の育ちが悪くなったような」
村人2「だから黙れって!!」
222:
村人3「……ああ、そういやあんたらがあの子を捨てに行ったんだったね」
村人5「怖いんだ。あの子の亡霊がいつ自分を呪い殺しに行くか」
村人1、2「「だ、黙れぇ!!!!」」
村人1「大体あれは村中で決めたことだろうが! だれがやろうが一緒だ!!」
村人2「そのうち残りの食料もあいつが化けた鼠にでも食い尽くされるだろうよ!!」
村長「皆やめんか! 過去の事を今更蒸し返してもどうにもならんじゃろう」
村人4「そう言う村長も……あの子を捨てることにかなり乗り気でしたよね」
村長「ッ、そ、それは……」
223:
子供2「……ねえ、村の入り口から誰かが入ってきたよ」
村人3「何……ッうわぁ! 何だあいつは!!」
村人2「ちっこいのとでかいの……ローブでどっちも顔が見えねえが……あんなでかい奴見た事ねえ」ゴクリ
子供1「おっきな荷物だね〜。食べ物だといいなあ……」グゥ……
村長「何を言っているんじゃ! とにかく出て行ってもらわんと……」
ローブ(小)「……」
ローブ(大)「……」
村人6「おいあんたら、悪いがこの村は今大変なんだ。泊まるなら別の所を当たって……」
ローブ(小)「」スッ
『……ッッッ!?』
村長「そ、そんな……お前は……」
224:
ローブ(幼女)「……」
村人4「う、嘘でしょ……」ガタガタ
村人2「ひいいい……」ガタガタ
村人1「お前、なんで……そ、そうか、後ろのでかい奴に助けてもらったのか」
幼女「……」
村人1「お、お前みたいな薄汚い餓鬼がどうやって取り入ったのか……」
ローブ(大)「」ジロリ
村人1「――ッ!」ゾクッ
子供3「みなしご……なんだか前より太ってるね」ボーゼン
村長「よ、幼女……お前、よく生きてたなあ」ブルブル
225:
幼女「……」
村長「あ、あれから後悔しておったんじゃ……まだと、年端もいかぬお前を……た、たった1回、の過ちで捨てたことを……」ガクガク
幼女「……」
村長「ゆ、許してくれ……この通りだ……わしらは今、きっとその罰を受けておるんじゃ……」ガタガタ
幼女「……」スッ
ローブ(大)「」ドサッ
村人1「う、うわ、うわああああああああっっ!!!!」ブルブル
村人2「ゆ、許して、許してくれえええええ!!!!」ガクガク
229:
おつ
ローブ大が村長を殺したってことでいいのか?
230:
こんにちは。
今日もマイペースに続けます。
>>229しまった、書き方が悪かったですね。
231:
ローブ大は何かを落とした(降ろした)
急な行動に村人は驚いた
こう解釈してた俺は間違ってたのか……
232:
>>231大丈夫です、それで合っています。
ドサ……ドサドサドサッ!
村人1「……ぁ、え?」
村人2「……」ブルブル
村長「こ、これは……」
幼女「……ありがとう、側近さん」
子供1「わあ……ほら、やっぱり食べ物だった!」キラキラ
村人4「こ、これはどういうこと……?」
幼女「……確かにわたしは、捨てられたよ」
村長「ッ!」ビクッ
234:
幼女「でも、こうして拾われて、たまたま生きていられている」
ローブ(大)「……」
幼女「ここに来るまでに色々考えたけど……嫌な思い出しかなくても、やっぱりここはわたしの元いた場所」
村人3「……」
幼女「……そのことは、感謝してます」
幼女「そして、この食べ物は……わたしが盗み食いしちゃった分を百倍にして返すだけ。作物の種はおまけ」
村人5「……」
幼女「……あの時はごめんなさい。……さようなら」ペコリ タッタッタッ
ローブ(大)「……」ザッザッザッ
235:
村長「……」
『……』シーン
――――
――
森の中
幼女「……」タッタッタ……ピタッ
ローブ(側近)「……こんなに震えながら、よく頑張ったな」バサッ
幼女「……ねえ側近さん、これで良かったのかな」
側近「それは私にはわからん。だが……お前が選んだのならそれが正解なのだろう」
幼女「そっか……そう、だよ……ね……」ウルッ
側近「……だが、私個人の意見としては」ポン
幼女「ぅ……えっく……」ポロポロ
側近「……最良の選択だったと思う」ナデナデ
幼女「……う、ふえ……うわああああああん……!!」ギュウッ
側近「……」サスサス
236:
――――
――
側近「……少しは落ち着いたか」ポンポン
幼女「……」コクッ
側近「……しかし、まさか初めて都へ行った時の格好で行くとは思わなかったぞ」
幼女「……これは、わたしなりの、えっと……けじめなの」
側近「……そうか」
幼女「側近さん。お城に帰ったらこの服……燃やしてくれる?」ボロッ
側近「それも……けじめか?」
幼女「うん。もうあそこには二度と戻らないから」
側近「……わかった」
237:
側近「ああ、そうだ幼女」ゴソゴソ
幼女「?」
側近「あの村の事を乗り越えた記念だ……これを、お前に」スッ
幼女「……わあ、可愛い……! 髪飾り?」パアアッ
側近「ああ……先程、都へ食物を買い込んだ時に密かに買った。この白い花は、持ち主の成長に合わせて相応の形に変化するらしい」
側近「今は小さいが……お前が将来大きくなれば、ともに美しく咲き誇るだろう」
幼女「すごい……ありがとう側近さんっ! 大切にするね〜」ニコーッ
側近「ああ……」
238:
パラパラ……
幼女「あれ? お花が降ってきた……あ」
妖精「」パラパラ
幼女「うそ……妖精さんっ!?」
側近「!?」
妖精「」ニコニコ
幼女「なんで? 2人に連れて行かれたはずなのに……あ、もしかして!」
妖精「」スリスリ
幼女「髪飾りが側近さんからなら、妖精さんは魔王さまが呼び戻してくれたのっ!?」パアッ
側近「……そのようだな」
幼女「わーい! 帰ったら魔王さまにお礼言わなきゃっ」キャッキャッ
妖精「〜♪」
239:
側近「では、早く帰らねばな……」スタスタ
幼女「うんっ」パタパタ
妖精「」スーッ
側近(……ありえない)
側近(妖精を異界へ帰したあの時、魔王様は確かに幼女が魔法に触れるのはまだ早いと仰られた……)
側近(なら、何故妖精はここに……?)
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