渋谷凛「私の……相棒」back

渋谷凛「私の……相棒」


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1:
―――
とん、とん、とん……
凛「……ふう」
凛(事務所の屋上まで来るなんて初めてだな……)
凛「……ほんとにいるのかな? あの娘」
凛(ちひろさんは『屋上にいると思いますよ♪』なんて言ってたけど)
凛「あ……鍵、開いてるんだ」
がちゃ ぎぃぃ……
凛「……まぶし。さすがにこの季節は日差しが……」
凛「ん、と……」キョロキョロ
凛(あ、あそこ日陰。ってことは――)
凛「……見つけた」
凛「――李衣菜」
李衣菜「あれ……凛ちゃん?」
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2:
凛「お疲れさま。こんなところにいたんだ」
李衣菜「うん、お疲れさまー。もしかして、私探してた?」
凛「ちょっとね。話したいことあってさ。いいかな?」
李衣菜「話したいこと? もちろんいいよ!」
凛「ふふ、良かった。……ここ、けっこう涼しいね」
李衣菜「へへ、でしょ? 出入り口の方は日が当たっちゃってるけど、ここは一日中日陰みたいなんだ」
凛「へぇ……今は夏だから、ここの方がいいね」
李衣菜「そうそう! 反対に冬はあっち側がよさそうだよねっ」
凛「だね。風も気持ちいい……」
3:
李衣菜「ねー。今日は雲もないから空が綺麗だし!」
凛「ふふ、そだね。……李衣菜はいつもここにいるの?」
李衣菜「うーん、たまにね。レッスンで疲れたときとか、一人で音楽聴きたいときとか……」
李衣菜「ここって静かだからさ、色々考え事もできるし」
凛「ふぅん……李衣菜にも考えるような悩み、あるんだね」クスッ
李衣菜「あっ、ひどいよ凛ちゃ?ん! 私だって悩みくらいあるよ!」
凛「ふふふ、ごめんごめん。冗談だから、ね?」
李衣菜「むー。……あ、そうだ。凛ちゃんだって……」
凛「え?」
4:
李衣菜「『ハナコ、ハナコ。ハナコはかわいいね、ハナコー……♪』……だっけ?」
凛「!? そっそれ……!」
李衣菜「ふっふっふ……デレラジ、毎回聴いてるんだよ?」
李衣菜「凛ちゃんの可愛いエピソード、ぜーんぶ聴いてるもんねー♪」ニマニマ
凛「や、やめてよ! 今度からゲスト呼んであげないよ!?」
李衣菜「あはは! ゲスト選んでるのラジオのスタッフさんでしょ?」
凛「うっ、そうだけど……!」
李衣菜「『うふふうふふ、ハナコー、ぎゅー……♪』……えへへ、可愛いなー凛ちゃんも♪」
凛「うぅ、李衣菜ぁ!」
5:
李衣菜「はい、これでおあいこねっ。ふふ、まだネタはラジオ以外にたくさんあるけど!」
凛「な、なんでそんなに……!」
李衣菜「そうだなぁ……大体は未央ちゃん経由かな。あと、美嘉ちゃんから莉嘉が聞いたこととか?」
凛「情報漏れるルート多いよ!」
李衣菜「へへ。未央ちゃんはCDデビュー同期だし、莉嘉はここに入ってからの付き合いだしねっ」
凛「あ、そっか……李衣菜は莉嘉とかな子と、最初にユニット組んだんだっけ」
李衣菜「うん。今もずっと仲良くしてるんだー」
6:
凛「ふふ……莉嘉はよく懐いてるみたいだし、かな子も李衣菜のこと頼りにしてるみたい」
李衣菜「えへへ、そうだと嬉しいな!」
凛「……うん、きっとそうだよ」
凛「…………」
李衣菜「ん、凛ちゃん?」
凛「……李衣菜は、すごいね」
李衣菜「へ? ど、どしたの急に……」
凛「どんなときも前向きでさ。真っ直ぐで、自分に正直で、へこたれない」
李衣菜「そ、そうかな……? 凛ちゃんも、とっても前向きだと思うよ。真面目で、いつもクールだし」
8:
凛「それは……そうかもしれないけど」
李衣菜「かも、じゃないって。私が保証するよ!」
凛「ふふ、ありがと。……それで、さ」
李衣菜「うん、なぁに?」
凛「……ライブ、覚えてる? 私たちの、初めての単独ライブの日のこと」
李衣菜「もちろんっ。アツかったよね、ファンのみんなも最高に盛り上がってた!」
凛「ふふっ、そうだったね。そのときにね……」
凛「李衣菜が、私に勇気をくれたんだよ――」
9:
―――
凛(もうすぐ、私が歌う番……)
凛(しっかりしなきゃ。私たちの初めての単独ライブ……絶対成功させないと……!)
凛「…………」フルッ
凛「っ、なんで……こんなに足が震えるの……!」
凛(ダメだ……声まで震えてる……。これじゃ、レッスン通りになんて……っ)
凛「……っ」ギュゥ…
李衣菜「凛ちゃーん。そろそろ出番だよね? 頑張って!」ヒョコッ
10:
凛「り、いな……」
李衣菜「って、ちょっ……顔色悪いよ!? 待ってて、すぐプロデューサーをっ!」
凛「ま、待って! 大丈夫、大丈夫だからっ」
李衣菜「大丈夫なわけないでしょ!? ステージで倒れたりしたら……!!」
ぎゅっ!
凛「あ……」
李衣菜「――え、こんなに手が震えて……凛ちゃん、緊張してるの……?」
11:
凛「…………そう、かも……」
李衣菜「凛ちゃん……平気だよ。会場のみんな、全員が味方なんだから。ね?」
凛「そうだけど、でも……こんなに大きなステージで、うまく歌えなかったらって思うと……どうしても……」
李衣菜「凛ちゃん……」
凛「……っ」
李衣菜「……ふー。聞いて、凛ちゃん」
凛「……李衣菜?」
12:
李衣菜「確かに、緊張しちゃってうまく歌えないかもしれない」
李衣菜「音を外しちゃったり、歌詞を忘れたりするかもしれない」
李衣菜「でもね」
李衣菜「それでも、ファンのみんなは、喜んでくれるよ。……絶対に!」
李衣菜「だって――」
李衣菜「みんな、凛ちゃんが輝いてる姿が見たいんだから!」
13:
凛「……!」
李衣菜「……だからさ。笑って、ステージに立とう?」
李衣菜「間違ったっていい。凛ちゃんの最高の笑顔、みんなに見せてあげようよ!」
凛「李衣菜……!」
李衣菜「ねっ?」ニッ
凛「…………」
凛「うん……!」ニコ
14:
李衣菜「えへへ、やっと笑ったね」
凛「……ふふ。李衣菜のおかげだよ」
李衣菜「うんうん、顔色も顔つきも、いつもの凛ちゃんだ!」
凛「手足の震えも止まったよ。ありがとう、李衣菜」
凛「それじゃ、行ってくる!」
李衣菜「行ってらっしゃい、凛ちゃん。笑顔で、ねっ!」
凛「うんっ!」
―――
15:
李衣菜「――そんなこともあったねー。えへへ、そんなに印象に残ってた?」
凛「うん。李衣菜の言葉、今も胸にしまってあるよ。……ずっと大事にするから」
李衣菜「そ、そこまで言われると照れちゃうなー……あはは」
凛「ふふっ……♪」
李衣菜「あのあとも、すっごく盛り上がったよね!」
李衣菜「私ね、Nation Blueの演出が最高にテンション上がったよー!」
凛「Nation Blue……あ、もしかして、私と背中合わせで歌った演出?」
李衣菜「そうそれ! あれねー、本当にうっひょーって感じだったなぁ!」
凛「360度、見渡す限りのサイリウムの光……。綺麗だったね……」
16:
李衣菜「うんうん……感動、ってああいうこと言うんだね、きっと」
凛「ふふ、そうだね。李衣菜と一緒で心強かったし」
李衣菜「えへへ、私も同じだよ。背中から凛ちゃんのアツい気持ち、伝わってきてた!」
凛「うん。李衣菜の気持ちも、私に伝わってきてたよ。……またやりたいね、背中合わせで」
李衣菜「プロデューサーに頼んでみよっか?」
凛「だね。二つ返事でオーケーくれそうだけど」クス
李衣菜「あは、確かにねっ」
17:
―――
――

凛「……いつの間にか、もう夕方だね」
李衣菜「うん……こんなに二人でお話したの、初めてじゃない?」
凛「そうだね。……李衣菜、話しやすいから。私、そんなにお喋りじゃないから」
李衣菜「そう? 私としては凛ちゃんくらいクールになりたいかな!」
凛「李衣菜は今のままが一番だって」
李衣菜「ありのーままのー、ってやつ?」
凛「くすっ。もう、李衣菜ったら……」
18:
李衣菜「へへへ……。私ね、凛ちゃんのこと……相棒だって思ってるんだ」
凛「相棒……」
李衣菜「あの日の背中合わせ、本当に心がアツくなったんだ」
李衣菜「凛ちゃんになら、背中を任せられる……ってさ」
凛「……うん。実はね、私も同じ思いだよ」
凛「李衣菜となら、ずっと一緒に走って行けるだろうなって」
李衣菜「へへ。おんなじだね、私たち」
凛「うん、おんなじ。ふふ」
19:
李衣菜「それじゃ、これからは」
凛「相棒、だね。私たち」
李衣菜「うん、相棒だ!」
凛「よろしくね、相棒さん?」
李衣菜「よろしくだぜ!」
凛「……その、だぜ、はやめた方がいいと思う」
李衣菜「そ、そう? かっこいいと思ったんだけど……」
20:
凛「正直、あんまり……李衣菜には合わないよ」
李衣菜「う……相棒が言うなら仕方ないかぁ……」
凛「他のにしない? 例えば……英語使うとか」
李衣菜「英語か……ブルー、ツリー、チャイルド! ……いや、もっと頑張らないとダメだよね……」
凛「あ、あはは。小学生でもできそうな……」
21:
李衣菜「い、言わないでよぉ……」
凛「アズール、とかどうかな。蒼色、って意味だけど」
李衣菜「おお、かっこいいね! 二人のユニットできたら、アズール入れたいかもっ」
凛「うん、これもプロデューサーに相談しよっか」
李衣菜「うん!」
22:
凛「……プロデューサー、か……あの人にも感謝しないとね」
李衣菜「だねー。プロデューサー、いつ休んでるか分かんないんだもん」
凛「肩でも揉んであげようかな?」
李衣菜「ふふ、凛ちゃんにされたら泣いて喜びそう」
凛「お、大げさ……でも、李衣菜にされても同じだよ、きっと」
李衣菜「私たちみんなのこと、大事にしてくれるもんね……」
凛「うん……」
23:
李衣菜「……へへ」
凛「……ふふ。やっぱり」
李衣菜「私たち、ここでもおんなじだ」クス
凛「……いつになるかは、分かんないけど」
李衣菜「……うん。負けないよ」
凛「私だって」
李衣菜「相棒だけど、ライバルだね」
凛「ライバルだけど、相棒だから」
李衣菜「どっちが勝っても」
凛「恨みっこなし、ね?」
李衣菜・凛「ふふふっ♪」
24:
がちゃり
P「えーと……たぶんここだろうけど……」キョロキョロ
李衣菜「あ、プロデューサーだ」
凛「噂をすれば、ってやつかな」
李衣菜「おーい、プロデューサー! こっちですよーっ」
25:
P「あ、李衣菜。やっぱりここに――って、凛もここだったか」
凛「うん。お疲れさま」
李衣菜「お疲れさまですっ」
P「ん、お疲れさま。二人でここでお喋りしてたのか?」
李衣菜「はい。えへへ、すごく盛り上がっちゃって!」
P「はは、そっか」
凛「……あっ!」
26:
P「ん? どした凛?」
凛「り、李衣菜に渡そうと思ってたの、ずっと話してて忘れてた……!」
李衣菜「え、私に?」
凛「今まで二人だったからチャンスだったのに……その……」チラ
P「……ああ、いいぞ、俺は人形か何かかと思ってくれ」ニヤニヤ
凛「ちょ、ちょっと! あっち行ってよプロデューサー!」
李衣菜「あ、プロデューサーそっくりの人形だー。大丈夫凛ちゃん、二人きりだよー?」クスクス
凛「り、李衣菜まで!」
27:
P「ふふ、まぁ下にいるからさ。ちょっとしたミーティングだから、待ってるよ」テクテク
李衣菜「はーいっ」
凛「分かった……」
がちゃ ばたん……
李衣菜「行ったね」
凛「はぁ、もう……李衣菜とプロデューサー、ノリが一緒なんだもん……」
28:
李衣菜「えへ、ごめんごめん。……それで、渡したいものって?」
凛「あ、うん。さっきのライブの話に関係してるんだけどね」
李衣菜「うん……?」
凛「李衣菜には助けてもらったから。それと、ちょっと過ぎちゃったけど……」
凛「誕生日おめでとう、李衣菜」
29:
李衣菜「……お」
李衣菜「おぉー! ありがとう凛ちゃん!」
凛「それで、これ……」ゴソ
凛「……はい。李衣菜の誕生花……スイカズラを押し花にして、栞にしたの」
凛「もらってくれるかな……?」
李衣菜「……えへへ。当たり前だよ。ありがと、絶対大切にする!」
30:
凛「良かった、喜んでくれて……」
李衣菜「今ね、ギターの教本見ながら練習してるんだ。それに使わせてもらうねっ」
凛「ふふ、早役に立ちそうだね」
李衣菜「あ、ねぇねぇ、この……スイカズラ、だっけ? 花言葉ってなにかな?」
凛「えっと、花言葉って色々あって……李衣菜には、やっぱり『友愛』が似合うかな」
李衣菜「『友愛』か……ヘヘ、じゃあこの栞は、私と凛の友情のしるしだね!」
凛「……うん!」
31:
李衣菜「――っと、そろそろ行かないと。プロデューサー待たせちゃってるし」
凛「そうだね。行こっか、李衣菜」
李衣菜「うん、凛!」
凛「……あれ? 李衣菜、いつの間にか……」
李衣菜「あ、嫌だった? 呼び捨て」
凛「ううん、全然っ……だって」
李衣菜「相棒、だもんね!」
凛「うんっ!」
32:
てくてく
 てくてく……
李衣菜「凛もさ、ギター弾けるんだよね?」
凛「ちょっとだけね。CDジャケットの撮影のときはベースだったけど、興味湧いちゃって」
李衣菜「すごいなぁ、凛ってなんでも出来ちゃうよね」
凛「そんなことないって……」
李衣菜「今度ギター教えてくれない? やっぱり本だけじゃさー」
凛「ん、いいよ。じゃ、事務所にギター持ってこないと」
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