八幡「気の向くまま過ごしてた二人だから」雪乃「そうね」back ▼
八幡「気の向くまま過ごしてた二人だから」雪乃「そうね」
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三月某日
総武高校
その教室には二人しかいない。
俺、比企谷八幡と、元奉仕部部長、雪ノ下雪乃。
この教室で、この二人が出会ったことから、全てが始まった。
いろんなことがあって、何度もこの関係は壊れかけた。
それでも俺たちはここまでたどり着き、俺は答えを選び出した。
由比ヶ浜には既に俺がこれからすることを伝えてきたから。あとは実行あるのみ。
――その日は、俺たちの卒業式だった。
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2: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 19:57:00.53 ID:BhSZj49po
数年後
とあるアパート
八幡「ただいま」ガチャッ
雪乃「おかえりなさい」
八幡「夕飯、悪いな。急用で遅くなっちまって」
雪乃「いえ、いいのよ。私は今日は終わるの早かったから」
八幡「土日はちゃんと俺が飯作るよ」
雪乃「なら、お言葉に甘えようかしら」
3: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 19:57:28.84 ID:BhSZj49po
卒業式の日、俺は雪ノ下雪乃に告白をした。何ヶ月も悩んでようやく出した答えがそれだった。
それから今までずっと、俺は雪乃と付き合っている。
俺が一人暮らしするようになってからは、雪乃がここにいることが多い。所謂半同棲状態である。
八幡「お、今日は秋刀魚か」
雪乃「ええ、スーパーで安かったから」
八幡「お前そんなに金に困るような立場でもねぇだろ」
雪乃「何を言っているの? 私はこう見えてもちゃんとお金の管理はする方なの。それに、後先考えずにあれもこれも買ってたら、お金なんていくらあっても足りないわ」
八幡「へいへい、そうですか」
4: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 19:57:59.61 ID:BhSZj49po
雪乃「そう言えば来週――」
八幡「学祭だろ? 行くよ、もちろん」
俺と雪乃の通う大学は別だが、たまにお互いの大学に遊びに行くことがある。
来週の土日は雪乃の学校の大学祭だから、俺が行くことになる。
……正直、俺はあまり雪乃の大学に行くのは好きではない。
雪乃「いいの? あなたあそこに行くといつも顔色悪いじゃない」
八幡「俺の顔色が悪いのはいつものことだろ」
雪乃「そうね……。ってそうじゃなくて――」
八幡「大丈夫だから、お前は心配すんな」
5: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 19:58:28.42 ID:BhSZj49po
一週間後
ワーワー
八幡「相変わらずすげぇな、お前んとこ」
雪乃「そうね」
八幡「で、お前が出る演劇は何時からなんだ?」
雪乃「午後の二時から……って、どうして私が劇をやるのを知っているのかしら?」
八幡「いや、練習してたの見てたし」
俺の見えないところでやろうとしても、何だかんだ見えてるもんだぞ。
雪乃「そ、そう……。恥ずかしいから、あなたには内緒にしておこうと思ったのだけれど……」
八幡「何言ってんだ。お前のその容姿で恥ずかしがってたら、俺なんかただ歩いてるだけで顔真っ赤だぞ」
雪乃「どうしてもっと素直に褒められないのかしら」
八幡「うっせ」
6: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 19:58:54.56 ID:BhSZj49po
八幡「じゃあまだ時間あるし、その辺適当にまわるか」
雪乃「……ええ、そうしましょう」ニコッ
俺と一緒にいる時だけに見せてくれるこの笑顔。これを見るためだけに、ここに来ていると言ってもいい。
この笑顔にドキッとする度に「俺って本当にこいつのことが好きなんだなぁ」と思う。高校の時の俺だったら考えられないような思考回路だ。
結論を言ってしまうと。
俺は雪ノ下雪乃が好きだ。
だから、ここに来た。
クスクス…
――たとえ、誰に笑われたとしても。
7: 以下、
八幡「犯人を特定する?」
八幡「俺と小町の短編集」
八幡「孤独なヒーロー」
八幡「はぁはぁダメだ……もう」葉山「比企谷・・・俺も」
7: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 19:59:23.45 ID:BhSZj49po
知っての通り、雪ノ下雪乃はかなりの美人である。彼氏の俺が言うのもなんだが。
だから、彼女に憧れを抱く者は多い。そういう奴らからの中傷の笑いや声が聞こえるのは当然の話だ。
もしも雪乃の彼氏が葉山であったなら、きっと話は別なのだろうが。
これは半年ほど前の話だが、雪乃が俺のアパートに忘れ物をして、それを届けにここに来たことがあった。
その時に、俺は見知らぬ男に話しかけられた。
男『お前さ、雪ノ下さんの何なの?』
八幡『……一応、彼氏っすけど』
男『彼氏! 彼氏って言ったのか!?』
その声には嘲笑の意が込められているのがわかった。
八幡『だから何だよ』
男『お前、雪ノ下さんに騙されてるんだよ』
8: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 19:59:51.63 ID:BhSZj49po
八幡『はっ?』
男『雪ノ下さんには他に男がいるんだよ。お前はただのおもちゃなんだ』
八幡『んなわけねーだろ』
雪ノ下雪乃はそんな嘘をつかない。それは何年も一緒にいた俺だから嫌というほどにわかっている。
だからこの男が俺にこう言うのは、ただ単に俺の中に雪乃に対する疑念を生むためだろう。甘いな、その程度じゃ俺は雪ノ下雪乃を疑ったりはしないんだよ。
ただ――。
9: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 20:00:20.42 ID:BhSZj49po
雪乃「どうかしたの?」
ハッと我に返る。いかんいかん、雪乃が一緒なのに何を考えているんだ。
八幡「いや、何並ぶ?」
雪乃「そうね……、そこのりんご飴とかはどうかしら?」
八幡「りんご飴か、いいんじゃ――」
『ね、ね、何から食べる? りんご飴? りんご飴かな?』
ふいに脳裏にそいつの顔が浮かぶ。
くそ……、どうして今になってもまだ忘れられないんだ。
そう自問する。
でも、その答えだってわかっている。
ずっとずっと前から、わかっているんだ。
ただ、あの奉仕部での空間が、俺にとって大切なものであったからに、他ならない。
10: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 20:00:47.33 ID:BhSZj49po
卒業式一週間前
総武高校
八幡『由比ヶ浜』
結衣『な、何かな?』
言うのがためらわれる。今ならまだ引き返せる。これから伝えようとしている言葉を発さなければいい。それでも、俺はもう決めたんだ。
八幡『俺は――』
結衣『……言わないで』
結衣『わかってるから……。ずっと前から……』
八幡『ずっと……?』
結衣『うん。ヒッキーのこと見てたからね、もうわかってた』
八幡『……マジかよ』
結衣『うん、マジ』
八幡『…………』
結衣『……だから、最後にこれだけ、言わせてもらうね』
結衣『あたしは、ヒッキーのことが……』
結衣『ヒッキーのことが……っ』
結衣『……だいっきらいっ!』タタタ
11: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 20:01:16.38 ID:BhSZj49po
あの時の彼女の泣き顔が、今でも目に焼きついて離れない。
もしも。
もしも、俺がもっとうまくやっていたら、あんなことにはならなかったのだろうか。
ifの話をしたって意味はないから、思考はここでストップ。
12: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 20:01:43.87 ID:BhSZj49po
八幡「…………」
雪乃「やはり体調悪いのかしら?」
八幡「いや、昔りんご飴食って腹痛になったのを思い出してよ」
雪乃「……そう、じゃあ別の物にしましょう」
八幡「助かる」
雪乃「……八幡くん」
八幡「ん?」
雪乃「何かあったら、その時は私に相談してね?」
八幡「あ、ああ……」
……やっぱりこいつには隠し事とかできねぇな。浮気とかしたらすぐにバレそう。する気もねぇけど。
13: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 20:02:10.26 ID:BhSZj49po
雪乃が劇の準備ということで、俺はその辺を一人でぶらつくことになった。
とりあえず、人の少ない木陰のベンチに腰掛ける。小さな一人用だから友人や恋人と来るリア充どもはやって来ない。ぼっちに優しいな、この学校。
ふと、またあのことが頭にちらつく。
あの男の言っていたことだ。
当の彼氏本人にこう言う人間がいるくらいだ。雪乃に直接俺の悪口を言う人間はさらに多いだろう。
たとえどんなに雪乃が強いとは言えども、大人数という数の暴力の前では敗れざるを得ない。
きっと、この学校中に広まっている『雪ノ下雪乃の彼氏』とは、相当に捻じ曲げられた人物像になっているはずだ。
でなければ、道行く人々が俺の姿を見る度に、あんなに表情を歪ませるわけがない。
それは、雪乃にとっての重荷となっているのではないだろうか。
14: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 20:02:37.46 ID:BhSZj49po
誤解とは言え解は出ている。一度出来上がってしまったイメージを払拭するのが難しいのは、この二十年くらいの人生で実感している。
なら、ならば、どうすればよいのだろう。
雪乃に相談する?
それはダメだ。
『俺がこの大学内での自分の評判が、地に落ちていることを知っている』ということを知れば、その時は全力でその人間たちを潰そうとするだろう。
あの頃とは違い、今の雪乃は俺のことを心から大切に思ってくれている。たとえ俺が傷ついていないと言い張っても、彼女はこの大学内で戦争紛いのことを起こしかねない。
そしたら勝敗はどうであれ、確実に雪乃が傷つく結果が待っている。
そんなの、本末転倒だ。
俺が知らないと思っているなら、雪乃は動かない。
ならば、知らないふりをしているのがベストだろう。
だが、それをいつまで続けるつもりだ?
15: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 20:03:19.71 ID:BhSZj49po
八幡・雪乃「「いただきます」」スッ
基本的に俺たちの間に会話はない。が、それは二人にとって苦痛ではない。
雪乃「……八幡くん」
八幡「ん?」
雪乃「あなたは、本当は知っているんじゃないの?」
八幡「何をだよ」
雪乃「……いいえ、何でもないわ」
八幡「そうか」
雪乃「……!」ガタッ
瞬間、雪乃の目の色が変わる。なぜだ、俺は今ミスを犯していないはずなのに。
16: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 20:03:45.48 ID:BhSZj49po
八幡「どうしたんだよ?」
雪乃「やはりあなたは……」
その声は震えている。しまった。俺の最も恐れていたことが起こってしまったらしい。
八幡「だから何を――」
雪乃「本当に知らないなら、あなたはそんな風に言わない……」
八幡「はっ?」
雪乃「あくまでも知らないふりを突き通すのね。でも無意味よ。あなたともう何年の付き合いだと思っているの?」
八幡「……知っていたら、お前はどうするつもりだ?」
雪乃「決まっているでしょう? あなたを傷つけた人間にそれ相応の罰を与えるだけ」
八幡「やめろ」
雪乃「……えっ?」
17: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 20:04:14.48 ID:BhSZj49po
八幡「こっちだって長い付き合いだから、お前がどう思ってどう行動するかも多少はわかっているつもりだ」
雪乃「…………」
八幡「だから、言わなかった」
雪乃「でも――」
八幡「それでも嫌なんだ。俺が周りからどう思われようが痛くも痒くもないが、お前が傷つくのは、嫌だ」
雪乃「私はそんなので傷ついたりしない」
八幡「それは嘘だ。……いや、お前は嘘をついているつもりはないのだろうが、たとえどんな結果に終わろうとも、お前に傷が残る」
八幡「だから、やめてくれ」
雪乃「……わかったわ」
18: ◆.6GznXWe75C2 2015/01/31(土) 20:04:44.22 ID:BhSZj49po
八幡「…………」
八幡「やけに――」
雪乃「?」
やけに物分りがいいな、と思ったが口に出すのはやめた。
八幡「――いや、何でもない」
雪乃「……?」
胸の中にわずかに残るモヤモヤ感。それは恐らく俺の中に雪乃に対する疑念があるからなのだろう。
問い直してみるべきだろうか。
――いや、それは今の雪乃の言葉を疑ったことをはっきり形にしてしまうことだ。
彼女はそんなくだらない嘘をつかない。それを誰よりも知っている俺だからこそ、疑ってはならないのではないだろうか。
猜疑心をあらわにするのは、彼女と過ごした数年間の否定だ。
18: 以下、
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