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穂乃果「お母さんなんて大嫌い!!」
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そう言って穂乃果は家を飛び出して、とりあえず、ことりちゃんの家に転がり込んだ。
飛び出した理由はちょっとした口論からで、それがだんだん激しくなって、喧嘩になっちゃって。
翌日が休日ということで、穂乃果はことりちゃんの家に泊まらせてもらうことにした。
ことりちゃんはいいと言うけど、ことりちゃんのお母さん、理事長は、『心配するだろうから、なるべく早く仲直りするのよ』って。
……たぶん、お母さんに電話するんだろうなぁ。
でも穂乃果は帰らないもん。お母さんが悪いんだもん。
考え出したら嫌に気分になってきたから、その日はことりちゃんと同じベッドで眠った。
少しいい気分になった。
ごまかしでしか、なかったけど
〜〜〜
穂乃果「……ん」
朝、目が覚めると、携帯電話にメールが何件かきていた。
全てお母さんからで、内容は、『早く帰ってきなさい』。
…そう言われて、素直に帰れるようなら、家なんか出ない。
穂乃果は無視した。
2:
せっかくの休日なのだからと、ことりちゃんは海未ちゃんも誘って、どこかに遊びに行こうと言った。
穂乃果は首を縦にふった。お財布も持ってきててよかった。
でも、着替えがなかったから、ことりちゃんの服を借りる事になった。
サイズはそこまで問題はなかったけど、一つあるとしたら胸がちょっぴり余った。
しょんぼりだ。
4:
海未ちゃんと合流した後、穂乃果たちは流行りのクレープ屋さんとか、素敵な服をみてみたり……なんていうの、ウィンドウショッピング?
穂乃果はとっても楽しんでいた。久しぶりに三人で出かける事が嬉しかったし、嫌な事が忘れられるから。
…でも、たまに電話がかかってくる。
お母さんから。
穂乃果は無視する。
心配されたって、鬱陶しいだけ。
5:
基本的に、お母さんは心配しすぎなんだ。
言わなくていいことばかり。言って欲しいことを言ってくれない。
なんなの。
穂乃果「……やめとこ」
せっかく楽しい時間を過ごしているんだから、余計な事は、考えないように。
どうせそのうち、お母さんも諦めるだろうし。
でも穂乃果は、お母さんが謝ってくれるまで、帰らない。
……いちいち、子供みたい?
……そうかもしれない。
6:
気がつけば夕方になっていた。
海未ちゃんは、稽古があるからここまで、と帰った。
それでその日は解散になった。
ことり「……どうする?帰る?」
穂乃果「……嫌」
ことりちゃんにそう返すと、ことりちゃんは、『……そっか』と言い、『じゃあ、もう一泊する?』と続けた。
頷いた。
7:
小さい頃は夕焼けが嫌いだった。
きれいだけど、それはみんなとばいばいしなきゃいけない合図みたいなもので。
でも今は違う。帰らない。
お母さんに手を引かれて帰るあの頃じゃ、ない。
自分で決めるから。
ことり「……穂乃果ちゃんは、ある意味じゃ、子供みたいだよ」
皮肉だね。
でもそうだね、と穂乃果は苦笑いで返した。
8:
…電話にはお母さんからの着信があった。
四、五件。
……どうせ、ことりちゃんのお母さんから連絡もらって、居場所なんて分かってるくせに。
わざわざ迎えに来ないあたり、よっぽど穂乃果に自分で帰ってきて欲しいみたい。
やーだね。
……でも、明日はなんとかなっても、明後日はそういうわけにもいかない。
……結局、子供の行動力では、こんなもんなのかな……って思われたくない。
9:
こっそり戻って、通学カバンと制服、教科書類だけ持ち出そう。
学校にはいかなきゃ……。
…鍵もっておいて、よかった。
これでとりあえず、誰もいない時に忍び込める。
穂乃果「……裏口からなら」
慎重にすれば、なんとかバレないはず。
穂乃果「……自分の家なのに…」
変な気分だと思った。
……ん?なんだろう、この匂い……甘い……お父さんが新しい和菓子でも作ってるのかな……その割には……。まあいいや。
穂乃果「……そっーと、そっーと」
誰もいないと思い、階段を登ろうとした時。
お母さんが倒れてるのを見つけた。
10:
穂乃果「……っ!?」
体を揺らしても反応がなかった。
穂乃果「お母さん!?お母さん!?」
呼んでも返答がなかった。
穂乃果「お母さん!!」
叫んでないで救急車を呼べよ私は。
そんなんだから3バカとか言われるんだよ。
穂乃果「……っ!もしもしっ、すみません、母が倒れてて……!」
〜〜〜
結果から言うと。
急性心筋梗塞。
お母さんは死んだ。
13:
対応が遅すぎたらしい。
その結果が、これだと。
穂乃果「……」
何も思わなかったわけじゃない。
自分が意地をはらないで、帰って、家にいれば、お母さんは助かったかも知れない、と思う。
でも、それを思うことが出来ても、今の穂乃果には。
子供みたいに泣きじゃくる事しか出来なかった。
14:
…お葬式には、結構人がきた。
穂乃果の知らない人もいた。
みんな、泣いていた。
穂乃果も泣いていたかもしれない。
……わからないけど。
『……最後に、お顔をみてあげてください』
……顔を見ると、お母さんは、ただ眠ってるだけみたいに見えた。
『人が死んでいる』っていうリアルが、そこにあるけど、信じ難いものだった。
……よく見ると、目尻や、いろんなところに、しわがあった。
〜〜〜
お母さんが焼かれる。
お母さんが入った棺桶が、焼かれる。
雪穂「……う、ううううっ……!!」
そこで雪穂はとうとう、我慢できなくなったのか、涙を流した。
涙腺っていうダムが崩壊して、抑えきれなくなっていた。
雪穂「お母さんっ……お母さん……」ポロポロッ
雪穂は強い子だね。
ここまで、よく我慢出来たね。
穂乃果は、弱い子だから、我慢出来ていなかったのに。
16:
……お母さんがね。
骨だけになっちゃった。
肉がなくなって、生命を、何一つ感じない、骸だった。
それをお母さんとは呼べない。
でもそれはお母さんなんだ。
ほのパパ「……」
お父さんは骨を小さな箱に入れる。
小さな骨を……。
穂乃果「…」
多分今穂乃果は今、ひどい顔になっている。見せたくない。誰にも。
悲しみとか、そんなんじゃない。
心に、穴が。
ぽっかりと塞がることのない穴が。
そこから何かがとどまる事なく溢れる。
それは、悲しい時があったとき、よく空いた。
そしてそれを塞いでいてくれたのは、お母さんだったんだ、って気づいた。
17:
穂乃果達3人は、家に帰った。
……とにかく、喉が乾いていたから、穂乃果は冷蔵庫をあけた。
そこで見つけたもの。
……見なきゃよかった。
ホールケーキ。
上には『誕生日おめでとう、穂乃果』とかかれたチョコ板。
雪穂「……お姉ちゃん」
穂乃果「……そうだったね」
……今日誕生日じゃん。
穂乃果「……」
誕生日プレゼントが欲しいです。
お母さんを、ください。
20:
……お母さんはいつも。
口うるさくて。
勉強しなさいってうるさくて。
洗濯物を出せってうるさくて。
店番手伝えってうるさくて。
アイドル頑張れってうるさくて。
応援するからねってうるさくて。
ありがとうが言えなくて。
ごめんが、言えなくて。
穂乃果「……」
だって思わないじゃん。
こんなに、呆気なく、もう会えなくなるとか思わないじゃん。
こんな日が来るってわかってたら、もっとお母さんと仲良くする。
そうしてる。
そうできないから辛い。
22:
どうして、こうなるんだろう。
こうやって、後悔するくらいなら、喧嘩なんかしなきゃよかった。
最後に言った言葉が「大嫌い」って。
穂乃果最低じゃない。
そんな自分に嫌悪感が襲いかかってくる。
……夢だったらいいのに。
そんなことは、みんな思うんだろうな。
でも現実だから、どうしようもできないことだから、だめなわけで。
なくしかできない。
23:
穂乃果「……」
手にはカッターナイフ。
これで頚動脈でも、かき切れば、死ねる。
お母さんと同じところに行ける。
穂乃果「……そんなんでいいの?」
……そんなんでいい。
だから、これでいい……。
そして、穂乃果は、カッターナイフを喉に突き刺して――
〜〜〜
穂乃果「……ほあっ!?」パチッ
(・8・)チュンチュン…
穂乃果「……?あ、あれ……?」
穂乃果「……」チラッ
穂乃果「……8月…3日」
ガララッ
ほのママ「穂乃果っ!あんた早く起きなさい!いつまで寝てるの!今日は登校日のはずでしょう!」
穂乃果「うわああああああああ!!お母さぁぁぁぁぁあん!!」ダキィッ
ほのママ「え、ちょ、なに!?」
〜〜〜
雪穂「……なにしてんのお姉ちゃん」
穂乃果「……」ギュゥッー
ほのママ「ほ、穂乃果、ちょっと離れてくれない……?」
穂乃果「……やだ」
25:
穂乃果「……」ギュゥッー
雪穂「……お姉ちゃん、なんで泣いてんの?」
穂乃果「泣いてないし!」
雪穂「いや泣いてるじゃん」
穂乃果「うるさいうるさい!」
ほのママ「はいはい、早くご飯食べて……穂乃果も……」
穂乃果「……ん」パッ
〜〜〜
穂乃果「……」
ほのママ「……穂乃果?どうしたの、早く行かないと遅刻するわよ?」
穂乃果「……いかない」
ほのママ「は?」
穂乃果「……お母さんといる」
28:
穂乃果「……だめ?」
ほのママ「いやだめよ。早く学校行きなさいよ」
穂乃果「やぁだぁー……おかぁさぁぁん……」ベタベタ
ほのママ「高校生にもなってずる休みはだめよ!早くはなれ、こら!」
雪穂「……」
穂乃果「ウォーイオイオイオイ……」
ほのママ「はなれなさーい!」
穂乃果「やだーー!!」
29:
※おわり
34:
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