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真姫「俗物語!」希「まきりんぱなキャット!」
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西木野真姫という人間がこの世で最も憎むべき対象として見ているものが、二つある。
まずは、みかん。
よく言われる事として、冬にこたつ、分かる。
そこにみかん、分からない。全然分からない。
自分こそが真の果実の王様とでも言わんばかりの態度が、私にはどうにも気に入らなかった。
みかん、ああ、自惚れのみかん。
果実の王様はバナナよ。
代々受け継がれてきた、由緒正しき王。
そして。
そして、バナナより、更に王らしい王がいる。
声を大にして言いたい。
民意の王様こと、トマト。
かの者こそが、誰もが崇め奉る果物の王様なの。
トマトこそが民草の心の中に強く芽吹く理想の王を体現した果物。
料理に何か足りないな、と思ったらトマト。小腹が空いたならトマト。ダイエットにもトマト。
TOMATO is king of fruits!
閑話休題。
憎んでるもの二つめ、俗物。
3:
世の中にいる大半の人のこと。
世間的な常識に振り回されて、それを他人にも強要してくる、知性の欠片も無いような人たち。
きっと、誰だって自分だけの世界を持っているはずなのに、他人と混じり合い、馴れ合い、迎合する人たち。
自分たちこそが、世界そのものだと言わんばかりの、あの人たち。
私はそんな俗物が嫌いだった。
いや、嫌いというより、 もっと言うなら。
誤解を恐れずに言うならば、俗物は私にとって。
私のペルソナに仇なす、ウイルスのような。
相容れないものとして、感じていたの。
4:
・・・・・
凛「凛の人生って何だろうって、最近よく眠る前に考えるんだ」
放課後、下校途中。
私の友だち、星空凛がそんなことを言うもんだから、私は立ち止まってその顔を見つめた。
真姫「なによ、凛。ずいぶん暗いこと言うじゃないの」
凛「そうかな。こういうのって、誰でも一回は考えたことあると思うけど」
真姫「誰でも? 一回は? ふーん、なるほどなるほど。俗物的なあれね」
凛「俗物的なあれってなんだにゃ。うさぎもかども、凛は毎夜悩んでるんだよ」
真姫「うさぎもかども?」
凛「うさぎもつのも」
真姫「兎も角…ともかくね。って、何で変な言い方するのよ」
凛「にこちゃんもつのも」
真姫「にこちゃんはウサギじゃないわよ」
凛「にこちゃんも真姫ちゃんも」
真姫「誰がとんがってるのよ!」
5:
凛が歩き始める。立ち止まっていた私も、その横に並ぶ。
凛「ともかく。兎も角、人生について考えることは、悪いことなのかな」
真姫「別に。悪いとは言ってないけど…なに、悩み事でもあるの?」
凛「ないよ。全くない。しいて言うなら、そんな悩みなき人生に意味を見出せないでいる現状こそが、悩みなのかな」
真姫「はぁ…」
はぁ、としか答えられない。
何言ってんのか、意味わかんない。
凛「心が空っぽな気がするよ。こんな時は、ラーメンでも食べるといいんだよ」
真姫「あんたそれ胃が空っぽなだけよ!」
凛「うさぎもかども、真姫ちゃん。ラーメンでも食べに行かない?」
真姫「?ぇっ。い、いいけど…」
6:
・・・・・
凛「で、さっきの話の続きだけど」
真姫「なによ。意識についての話なら、凛が意識していると意識しているとき、自明的に存在了解される何かこそが意識であると決着したでしょ」
凛「違うにゃあ。ラーメンが来るまでの暇つぶしに提案した議論のことは、もうどうでもいいの」
真姫「あれ暇つぶしで提案したの!?」
凛「もっと前。ラーメン屋に来る前に話してた、人生についてだよ」
真姫「……ああ、そっちね」
ずるずると、魚介ラーメンをすする。
うーん、素直に味噌ラーメン頼んだら良かったかしら。
凛「うん。それでね、えーっと……ずるずる。ごくっごくっ」
7:
凛「ふー。ラーメン美味しいにゃあ」
真姫「………」
凛「で、何の話だっけ?」
真姫「?ぇぇ!?こ、このトリ頭!」
凛「……あ、鳥といえば、なんでウサギが一羽二羽って数えられるか知ってる?」
真姫「知ってるわよ!うさぎもかども知ってるから人生についての話をしなさい!」
凛「えっ、なに怒ってるの…?」
真姫「怒ってないわよ!」
凛「はは、トマトみたいな顔」
真姫「キイイイ!!!」
8:
思わず飛び掛かりそうになった。
私をじっと見る凛の目が、それを止めたけど。
真姫「………はあ」
凛「真姫ちゃん?」
真姫「眠る前だけじゃないわよ」
凛「へ?」
真姫「ぼーっとしてることが。今もそう、目の中が空洞になってるみたい。最近の凛は、ずっとそんな感じだったわ」
私は、凛と二人だけで下校している経緯を思い出す。
『凛ちゃん、最近ぼーっとしてることが多いね…』
私のもう一人の親友である女の子が、悲痛そうな表情を浮かべていた。
『呼んでも、返事をしないことが多いの。ねぇ、凛ちゃん、どうしちゃったのかな。どうしよう、真姫ちゃん。どうしよう』
凛のくせに、花陽を泣かせるようなこと、するんじゃないわよ。
10:
凛「ごちそうさま」
真姫「ごちそうさま」
ラーメンを食べ終えて、店を出る。
真姫「それじゃ、行きましょうか」
凛「え、どこに?」
真姫「音ノ木坂学院」
凛「へ?なんで?」
真姫「いいから」
音ノ木坂学院。
正確には、校舎の中の、ある一室に向かう。
超常現象研究会。
そこで待つ、一人の少女に会いに。
11:
・・・・・
希「やあ真姫ちゃん。遅かったね、待ちくたびれたやん」
果たして、そこにいたのは。
超常現象研究会会長、兼アイドル研究部員の、東條希だった。
凛「………え、希ちゃん?どうしたの、ネクタイなんて締めて」
希「気にしないで。これはキャラ付けやから」
真姫「キャラ付けとか言うんじゃないわよ」
希「ねこもつのも」
真姫「猫持つのも?」
希「間違えた。うさぎもつのも」
真姫「うさぎもつのも?」
希「間違えた。ともかく」
真姫「そのネタ飽きたわよ!!!」
希「なんで!?」
12:
希「ごほん。ともかく、なんや。今日は凛ちゃんを連れてきたわけやね」
真姫「ええ………」
凛「ねぇ何の話なの?」
真姫「希。あなたもおかしいと思ってたんでしょ? 最近の凛が。なんで、何もしてやらないのよ。こうして、私が連れてこなきゃずっと放っておいたわけ?」
希「………さて、何のことやら」
希は、可笑しそうに笑って、首を傾げた。
真姫「私は、真剣に言ってるの!」
希「怒鳴らないで。凛ちゃんが、びっくりするやん」
真姫「……しないわよ。最近の凛は、驚いたりもしなくなったじゃない……」
凛「?」
13:
真姫「……っ!」
ああ。
ここ数日で、本当に真っ暗になってしまった。
そんな目で見ないで。そんなの、凛の目じゃない。
真姫「お願い、希。凛を助けてあげて…」
希「うーん……」
まぁ、うん、あの、いや、えっと、はい。
そんな煮え切らない返事の末に────
希「女の子の涙には、弱いからなぁ…しょうがない」
真姫「な、泣いてないわよ」
希「うん! ウチにまかしとき!」
希は、豪快に頷いた。
14:
凛「話、終わった?」
真姫「………」
希「うん、終わったよ。凛ちゃん」
希は、机の上から飛び降りて、凛に近付く。
希「ほうほう、ほう。なるほど、なるほど」
真姫「なにか……分かる?」
希「映ってるわね」
真姫「え?」
希「黒猫が、凛ちゃんの目に映ってるんよ」
真姫「黒猫……?」
希「そう、黒猫。真姫ちゃんには分からなかった? 暗い空洞にでも見えた?」
凛「………」
希「悪いものに、移られたみたいやね」
15:
・・・・・
─────『うつり猫』
希は、そう言った。
真姫「うつり、猫?」
希「そう。移り猫、映り猫、鬱成り猫、と呼ばれる怪異。北のほうでは、空木猫なんて言ったりもする、近畿地方の民承伝話やね」
真姫「それで、凛は…」
希「まぁまぁ焦らんといて。うつり猫は人から人に、瞳から瞳に憑く怪異なの。
瞳は仏教でも重要な意味合いを持つものやけど、まぁ今回の怪異は、それとはなんーら関係ない、ほんとに小さな怪異や」
民承伝話。
人から人に語り継がれてきた、怪異譚。
16:
希「目は口ほどにものを言うとか、目力とか。瞳は昔から、人の感情を映す入り口として考えられてきたの」
希「だから、目を大事にしない子はお化けに憑かれるよ、みたいな感じで昔の大人たちが作った話から生まれたのが『うつり猫』なのよ」
ポケットから何かを取り出す希。
希「だから、はいこれ」
真姫「わわっ。き、急に投げないでよ!なにこれ…」
希「目薬やん♪」
真姫「目薬? え、そんなのでいいの?」
希「何を言う。ご利益のある立派な水やん。ほら、はよはよ」
真姫「……えっと、希が、そう言うなら」
凛「?」
興味なさげに私たちを眺めていた凛の顔に、手を添える。凛はされるがまま。
希「それが終わったら帰ってええよ。あとの色々は、ウチがやっとくから。それじゃ、また明日?」
17:
後日談というか、今回のオチ。
凛「真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃ─────ん!!!」
真姫「?ぇ、?ぇぇぇぇ!!!」
いつものように登校路でおバカな親友に突撃されて、横にいたもう一人の親友ごとなぎ倒された。
真姫「ちょっと!今日はなんかパワフル過ぎよ!!!」
凛「え、そうかにゃ!? なんか力が有り余ってるんだにゃー!」
真姫「まったくもう!子どもじゃないんだから、って花陽────っ!!!」
花陽「きゅう……」
凛「あー!かよちん寝てるにゃ!昨日夜更かしでもしてたのかにゃ?」
真姫「あんたのせいでしょ???!!!」
18:
─────猫に憑かれた原因は、少女漫画にあった。
凛は穂乃果に貸してもらった漫画にハマって、夜通し読み込んだらしい。
それが原因。
それだけなのって思うかもしれないけれど、実際思ったけれど。
民承伝話とは、大人が子どもを脅かすための理由とは、つまるところ、そういうものなのかもしれないわね。
真姫「うさぎもつのも、これからは夜更かしなんてしちゃ駄目よ、凛!!」
凛「えへへ♪ 分かってるにゃー!」
花陽「私が泊まり込んで見張ってるから大丈夫だよ!真姫ちゃん!」
凛「えへへ?♪ 大丈夫なのにな?♪ かよちんは仕方ないにゃ?♪」
真姫「嬉しそう…」
19:
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