P(おめでとう……ペルーサ)back

P(おめでとう……ペルーサ)


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P(初めて彼を見たのは、もう五年以上も前になる)
P(何気なくつけたテレビに映し出された、競馬中継の画面)
P(そこで俺は、彼と出会った)
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2: 以下、
 ―2009年―
実況アナ『さあ、第4コーナーをカーブして、最後の直線コースです!』
実況アナ『外から来るのは、1番人気のペルーサ! ここで先頭に立ちました!』
実況アナ『ペルーサ、楽な手ごたえ! 最後は余裕を持ってゴールイン!』
実況アナ『勝ったのはペルーサ! デビュー戦を快勝です!』
P(気品溢れる、栗色の馬体)
P(ペルーサという名の競走馬の走りに、俺の心は奪われた)
P(この馬は大物になる)
P(競馬なんて、全く知らないはずなのに)
P(確信めいた思いが、俺の心に生まれた)
3: 以下、
P(彼がデビューした同時期)
P(俺は、3人のアイドルのプロデュースを始めた)
P「あずささん! 今日から俺が、あずささんのプロデューサーです!」
P「貴音! 俺と一緒に、トップアイドルまで突っ走ろう!」
P「律子! 頼りないかもしれないけど、精一杯頑張るからな!」
P(あずささん、貴音、そして律子)
P(この3人となら、どこまでも羽ばたける)
P(そんな気がした)
P(何としても彼女達を、トップアイドルにしなければならない)
P(強い使命感が、俺の心に生まれた)
4: 以下、
 ―2010年―
P(高みへ向かい、順調にステップを踏むアイドル達)
P「よし、これで今日からランクEか! おめでとう、みんな!」
P「いやあ、あずささん! 俺、嬉しすぎてどうにかなっちゃいそうですよ!」
P「やったな! この勝利で、ランクD到達だ!」
P「またトップアイドルに近づいたな、貴音!」
P「よし、俺達の勝ちだ! ランクCまで上り詰めたんだな!」
P「律子、これは運なんかじゃないぞ! 実力で勝ち取った、ランクCだよ!」
5: 以下、
P(彼も、連勝をどんどん伸ばしていく)
実況アナ『先頭はペルーサ! 2番手にブルーグラスで今、ゴールイン!』
実況アナ『ペルーサ、今日も快勝! 見事に2連勝を飾りました!』
実況アナ『若葉ステークスは残り100メートル!』
実況アナ『ここでヒルノダムールを競り落とし、ペルーサが先頭に立ちました!』
実況アナ『ペルーサ、ゴールイン! 3連勝!』
実況アナ『評判馬、ヒルノダムールとの一騎打ちを制しました!』
実況アナ『さあ、青葉賞は最後の直線に入っています!』
実況アナ『強い強いペルーサ! 素質馬、トゥザグローリーを全く寄せ付けません!』
実況アナ『ペルーサ今日も完勝です! 大きなリードで、無傷の4連勝!』
実況アナ『世代の頂上決定戦、日本ダービーへ、無敗で駒を進めます!』
6: 以下、
P(彼女達も彼も、全ては順風満帆)
P(心配など、何もしていなかった)
P(……しかし)
実況アナ『さあ日本ダービー、スタートしました!』
実況アナ『おっと!? ペルーサ、スタートに失敗! 立ち遅れました!』
P(まさか、だった)
P(大一番で、彼はまさかのスタートミス)
P(そして……)
実況アナ『第4コーナーのカーブ! ペルーサは大外、まだ後方です!』
7: 以下、
実況アナ『ゴールまで残り200メートル! エイシンフラッシュ抜けている!』
実況アナ『外からローズキングダム追う! 内からヴィクトワールピサが3番手!』
実況アナ『ペルーサは伸びない! 先頭までは差がある!』
実況アナ『エイシンフラッシュだ! エイシンフラッシュゴールイン!』
実況アナ『2着ローズキングダム! 3着ヴィクトワールピサ!』
実況アナ『出遅れたペルーサは、6着でのゴールでした!』
P(この日、彼は初めての敗戦を喫した)
P(そしてこの時期、初めての敗北を味わったのは)
P(彼だけではなかった)
8: 以下、
P(ランクBを賭けた、大事なランクアップフェス)
P(その最中、ダンスのステップを乱し、よろめくあずささん)
P(これが決定打となってしまい……)
P(俺達の手から、勝利は零れ落ちた)
P「そんなに泣かないでください、あずささん……」
P「大丈夫です! 誰にだって、失敗はありますって!」
P「今回の経験を教訓にして、次で挽回しましょう! ね!」
P「そう、その意気です! また明日から、一緒に頑張りましょう!」
P(たまたま、偶然、こういう事もある)
P(この時はそう、思っていた)
9: 以下、
P(しかし数か月後、再度挑んだランクアップフェスにて)
P(今度は貴音が、サビの歌詞を飛ばしてしまい……)
P「……負けたか」
P「貴音……そう落ち込むなって」
P「しかし、驚いたよ。貴音でも、こういうミスをすることがあるんだな」
P「ま、そんな時もあるさ! 次に同じミスをしなければいい!」
P(ミスを続けたのは、彼女達だけではない)
P(彼も、同様だった)
実況アナ『毎日王冠、スタートしました! あーっと!』
実況アナ『ペルーサ、今日もスタートに失敗! 最後方からの追走です!』
実況アナ『さあ残り100メートル! アリゼオとエイシンアポロンの叩き合い!』
実況アナ『二頭全く並んでゴールイン! さあ、勝ったのはどちらか!?』
実況アナ『ペルーサ追い込みましたが、結局5着の入線です!』
10: 以下、
P(嫌な予感がした)
P(そして彼は、次のレースでも……)
実況アナ『秋の天皇賞、スタートしました! ああっ!』
実況アナ『ペルーサ、今日も出遅れ! 離れた最後方となってしまいました!』
実況アナ『最後の直線、抜け出したのはブエナビスタ! これは強い!』
実況アナ『ブエナビスタ1着でゴールイン! 女王の貫録を見せつけました!』
実況アナ『ペルーサは最後、よく追い上げましたが2着!』
P(心がざわめく)
P(何か、歯車が狂い出したような……)
P(不吉な感覚が、俺の胸を掠めた)
P(気のせいであってほしい)
P(いや、気のせいに違いない)
P(そう俺は、自分に言い聞かせた)
11: 以下、
P(そして、三度目の挑戦となる、俺達のランクアップフェス)
P(今度は、律子だった)
P(あろうことか、間奏のダンス中に転倒してしまい……)
P(俺達は、三連敗を喫した)
P「まさか律子まで、本番でミスるなんてな……」
P「ミスがなければ、私達が勝ててたと思うか、って?」
P「そうだな……うん。正直、勝ってたと思う」
P「だったら次は何とかなるさ! 次に目を向けよう! な!」
P(そうやって彼女達を、そして自分自身を鼓舞するも)
P(漠然とした不安が、心の中で少しずつ大きくなっていく)
12: 以下、
実況アナ『ジャパンカップ、スタートしました! おーっと!』
実況アナ『ペルーサ、やや立ち遅れたか! 後方追走となります!』
実況アナ『最後の直線! 先頭のブエナビスタ、ちょっと内に切れ込んだか!?』
実況アナ『これは進路妨害となりました! 勝者はダービー2着、ローズキングダム!』
実況アナ『ペルーサ、最後は追い上げましたが5着でのゴールです!』
P(彼に先着したライバルが、新たなキャリアを積み重ねていく)
P(そして)
P「今日のオーディションは、三人揃ってダンスミス……か」
P「前回俺達に勝ったグループも、ミスってたみたいだけど……2位か」
P「1位になったのは、俺達が最初のBランクフェスで負けたグループか……」
P「うーむ……なかなかやるなぁ……」
P(俺達が敗れた相手も、どんどん結果を残していく)
P(焦燥感)
P(俺の中で、焦燥感がどんどん膨れ上がっていった)
13: 以下、
P(迎えた年末。この年最後に行われる、Bランクフェス)
P(彼女達は久しぶりに、ミスなくステージをやり遂げた)
P(力の全てを出し尽くしたステージを見て、俺は勝利を疑わなかった)
P(しかし、その結果は……)
P「負けた……のか」
P「あずささん、悔しいのは俺も一緒です……。すみません、力不足で……」
P「お、おいおい! 泣き言を言うなんて、貴音らしくないぞ?」
P「律子! ここが限界だなんて、そんなことあるわけないじゃないか!」
P(実力を出し切っての、敗戦)
P(立ちはだかる現実に、俺達は打ちのめされた)
14: 以下、
P(そして……彼も)
実況アナ『年末の大一番、有馬記念! スタートしました!』
実況アナ『ペルーサ、今日は普通に出ました! 先頭集団でレースを進めます!』
P(久しぶりに好スタートを決め、前のポジションでレースを進める彼)
P(これなら1着もある、と思ったのだが……)
実況アナ『さあ、最後の直線コース! ヴィクトワールピサが先頭だ!』
実況アナ『ブエナビスタ猛追! さあ、前に届くかどうか! 前に届くかどうか!』
実況アナ『二頭並んでゴールイン! わずかにヴィクトワールピサ、凌いだか!』
実況アナ『先行したペルーサは、結局4着でのゴール!』
P(終わってみれば)
P(かつて先着を許した馬達に、再度完敗の内容だった)
15: 以下、
P(ミスなく走っても勝てないという現実)
P(そして、ミスのないステージを披露しても勝てなかったという現実)
P(現実が、俺に重くのしかかる)
P(栄光と挫折)
P(二つの相対する味を、二つの局面から同時に味わい)
P(2010年は幕を閉じた)
16: 以下、
 ―2011年―
P(迎えた2011年、年明け最初のランクアップフェス)
P(今年こそは昨年の雪辱を、と意気込む俺)
P(その想いに応えてくれるかのように)
P(彼女達は、今まで以上に気合の入ったステージを見せてくれた)
P(だが結果は……)
P「また……勝てなかったか……」
P「うーむ、あと一歩なんだがな……」
P「ん? あずささん、どうかしましたか?」
P「え!? 今日の対戦相手とは、ランクCのフェスで戦った!?」
P「あ……確かに、言われてみれば……」
P「いつの間にか、追い抜かれちゃったのか……」
P(かつて破った相手に、逆転を許してしまった事実が突きつけられた)
17: 以下、
P(そしてそれは……)
実況アナ『トゥザグローリー、1着でゴールイン! ペルーサは2着!』
実況アナ『昨年の青葉賞の借りを、ここで返しましたトゥザグローリー!』
P(彼も同じだった)
P(さらには……)
P「今回も……。あと一歩だが、勝てないか……」
P「お、おい貴音、大丈夫か? 何だか、顔が青いぞ……?」
P「何!? 優勝したのは、ランクDのフェスで勝負したグループだって!?」
P「そうだったか……」
P「あの時は俺達……」
P「連勝街道まっしぐら、だったよな……」
18: 以下、
実況アナ『ヒルノダムール、ゴールイン! 春の天皇賞はヒルノダムール!』
実況アナ『ついに、G1のタイトルに手が届きました!』
実況アナ『中団に位置したペルーサは、結局8着!』
実況アナ『昨年のこの時期とは、力関係が逆転したか!』
P(かつて負かしたはずの相手に、敗れ続ける彼女達)
P(そしてかつて負かしたはずの馬に、敗れ続ける彼)
P(お互い止まらない負の連鎖に、完全に嵌りこんでしまったのだろうか)
P(このままではいけない)
P(そんなことはわかっている)
P(なら、どうすればいいのか?)
P(自問自答する日々を、俺は繰り返した)
19: 以下、
P(そして出した結論)
P(それは、トレーニングによる自力強化の必要性)
P(……今の彼女達の実力では)
P(やみくもにBランクフェスに挑んでも、勝つことはできないかもしれない)
P(そう考えた俺は、時間を費やし、彼女達に入念なトレーニングを施すことにした)
P(業界でも有名なトレーナーにコーチを依頼し)
P(半年近くを費やした入念なトレーニング)
P(その結果、待っていたのは……)
20: 以下、
P「ダメ……か」
P「あんなに練習したのに、これでも勝てないのか……?」
P「くそぉっ!」
P「何でなんだよ! 何で……」
P「ん?」
P「律子、どうした? 随分、満足気じゃないか?」
P「なに!? 今回の獲得ポイント、今までで一番だって!?」
P「そうか……!」
P「俺達のやってきたことは、ムダじゃなかったんだな……!」
P(ようやく掴んだ、復調の兆し)
P(時を同じくして……彼も)
21: 以下、
実況アナ『さあ、秋の天皇賞、最後の直線!』
実況アナ『ブエナビスタを交わし、抜け出したのは二頭!』
実況アナ『トーセンジョーダンとダークシャドウ! それを追って外からペルーサ!』
実況アナ『三頭の馬体が並ぶか! ここがゴール!』
実況アナ『勝ったのは、トーセンジョーダン、2着にダークシャドウ!』
実況アナ『3着ペルーサ、4着にブエナビスタ!』
実況アナ『勝ちタイムは、何と日本記録! レコードタイムが記録されました!』
P(惜しくも敗れたが、久しぶりに大レースで好パフォーマンスを発揮した彼)
P(しかも、昨年敗れ続けた馬、ブエナビスタを4着に抑えている)
P(彼女達も彼も、ついに流れが上向いたか!)
P(と、思ったんだが……)
22: 以下、
実況アナ『ジャパンカップ、最後の直線コースに向かいます!』
実況アナ『海外最強馬、デインドリームは伸びない! ペルーサもまだ後方だ!』
実況アナ『先頭はトーセンジョーダン! これを追ってブエナビスタ!』
実況アナ『外からブエナビスタ! ブエナビスタ、今1着でゴールイン!』
実況アナ『ブエナビスタ! 昨年の雪辱!』
実況アナ『ペルーサは後方のまま! 何と最下位でのゴールです!』
P(前走、僅差の戦いを繰り広げた馬が、ワンツーフィニッシュを決めたのに)
P(彼は、まさかの最下位に敗れ去った)
23: 以下、
P(そして、俺たちが次に挑んだオーディションの結果は……)
P「う、うーむ。16位……か?」
P「ここまで負けるとは思わなかったが……」
P「あずささん……あずささん?」
P「どうしました? 何だか、フラフラしてるような――」
P「って、うわ! あずささん、凄い熱じゃないですか!」
P「り、律子! 貴音! 早く、早く救急車を!」
P(間断ないトレーニングで疲労を抱え込んでしまったのか)
P(あずささんの体調は、年末まで戻らなかった)
P(年末最後のBランクフェスは、無念の欠場)
P(そして彼も、年末の大一番、有馬記念を出走取消)
P(結局この年は、彼女達も、彼も)
P(一勝もすることなく、一年を終えることとなった)
24: 以下、
 ―2012年―
P(年が明け、俺が打った最初の手)
P(それは、なりふり構わず勝利を掴むこと)
P(まずは一つ勝って、勝ち癖をつけることが大切)
P(そう考えた俺は、年明け初戦にBランクではなく)
P(格下のCランクフェスを選んだ)
P(勝利を確信し、俺は彼女達を送り出した……のだが)
P「ま、負けた……のか……?」
P「まさか……そんな……」
P「で、でもほら! ポイントの差はたった10点だ!」
P「あ、あ、貴音! そんなに暗い顔をしないで!」
P「な、なあ! そんなにしょんぼりしないでくれよ……」
P「そう……だよな。やっぱり、悔しいよな……」
25: 以下、
P(勝って弾みをつけるどころか)
P(モチベーションのダウンに繋がってしまった……)
P(ならば、と思い立ったのは、逆転の発想!)
P(あえての飛び級、Aランクフェス挑戦!)
P「ざ、惨敗……」
P「す、すまん律子! これは俺の作戦ミスだ!」
P「い、いや! 俺は無理なんて思ってなかったぞ!」
P「ほ、本当だって! 律子達の力を信じてるからこそ……」
P「お、おい! 待て律子!」
P「話を! 話を聞いてくれぇ!」
P(勝てないまでも、そこそこの結果さえ残せれば)
P(モチベーションアップに繋がると思ったのだが……)
P(見事なまでに、真逆の結果となってしまった)
26: 以下、
P(結果を出してやれない焦りで、迷走する俺。そして)
実況アナ『白富士ステークスを制したのは、ヤングアットハート!』
実況アナ『ペルーサ、怒涛の末脚でしたが届かず2着!』
実況アナ『断然の一番人気を裏切ってしまいました! まさかの敗戦です!』
実況アナ『安田記念を制したのはストロングリターン! これが初G1制覇!』
実況アナ『ペルーサは最下位! これは、初距離に対応できなかったか!』
実況アナ『全く見せ場がありませんでした!』
P(彼もまた、迷走していた)
27: 以下、
P(気がつけば)
P(最後のCランクフェスの勝利から、2年が経過しようとしている)
P(どうして、こうなってしまったんだろう……)
P(何とかして、Bランクの壁を乗り越えたい)
P(でも一体、どうすれば……)
P(連日悩み続けるも、打開策は見つけられず)
P(途方に暮れていた、ある日のこと)
P(終わりは、唐突にやってきた)
28: 以下、
P「え!? あずささんが、交通事故!?」
P「あずささんは! あずささんは無事なんですか!?」
P「よかった……命は大丈夫なんですね!」
P「複雑骨折……!? 完治するまで一年以上……!?」
P「どうしたんだよ、貴音? そんなに改まって……?」
P「お別れ……!? 故郷に帰らないといけなくなった……?」
P「貴音の故郷って……月!? 何を言って……あれ?」
P「た、貴音!? おい、どこに行ったんだ! 貴音! 貴音ぇ!」
P「アイドルを引退して、別会社の事務員に転向……?」
P「律子……それ、本気なのか……?」
P「そうか……。引き留めても……きっと、無駄なんだろうな……」
P「力になれなくてすまなかった、律子……」
29: 以下、
P(解散という現実を受け入れるのには、しばらくの時間を要した)
P(無念、落胆、後悔、失望感)
P(様々な負の感情が、俺を襲った)
P(時を同じくして、彼もレースに姿を見せなくなった)
P(調べてみたのだが、どうやら喉の手術で長期の休養に入ったらしい)
P(復帰の見通しも、不明とのことだった……)
P(あずささん、貴音、律子、そして彼)
P(俺の生き甲斐は、何もかも消え去ってしまったのだ……)
30: 以下、
 ―2013年―
P(一年の時が流れた)
P(俺の心にポッカリ空いた穴は、埋まる事もなく)
P(ただただ、空虚な毎日を過ごしていた)
P(彼女達のステージでの晴れ姿を思い出すたびに)
P(そして)
P(芝生の上を軽快に走る、彼の姿を思い出すたびに)
P(俺の目からは、涙が零れた)
P(………………)
P(…………)
P(……)
31: 以下、
 ―2014年―
P(それは、年が明けてからしばしの後)
P(身も凍るような寒さの、とある日のことだった)
P(俺の前に、一人の女性が姿を現した)
P(それは……)
P「あずさ……さん?」
P「あずささん! あずささんじゃないですか!」
P「身体はもう大丈夫なんですか?」
P「そうですか……完治したんですか!」
P「よかった……本当によかった……」 
P「え、お願いがある……ですか?」
P「もう一度、アイドルがやりたい……と?」
P「あんな終わり方じゃ、納得できない、ですか……」
P「気持ちはわかります。でも……」
P「すみません。少し、考えさせてもらえますか……」
32: 以下、
P(あずささんの想いは、痛いほどに伝わった)
P(しかし、一度は事故で重傷を負った身。加えて長期のブランク)
P(それに、貴音と律子はもう……)
P(首を縦に振る勇気が、俺には出なかった)
P(できるなら、復帰させてあげたい)
P(でも、あずささん一人では……)
P(返答を先延ばしにしつつ、悩む日々が続いた)
P(時間は容赦なく、一週間、二週間と過ぎていった)
33: 以下、
P(転機を迎えたのは、翌月)
P(2月1日の土曜日だった)
P(何気なく)
P(本当に何気なくつけた、自宅のテレビ)
P(そこに映し出されたのは……)
実況アナ『本日のメインレース、白富士ステークスの発走です!』
実況アナ『さあ、実に1年8か月の休養明けとなるペルーサ!』
実況アナ『果たして、どういう走りを見せるのでしょうか?』
P(今となっては懐かしい、彼の姿だった)
34: 以下、
実況アナ『スタートしました! ペルーサ、多少出負けしたか!』
実況アナ『さあ第3コーナーのカーブ! ペルーサ現在最後方です!』
実況アナ『直線に向きました! ペルーサどこまで詰められるか!』
実況アナ『残り200メートル! ペルーサはまだ後方だ!』
実況アナ『先頭はエアソミュールでゴールイン! 快勝です!』
実況アナ『長期休み明けのペルーサは、12着でのゴールでした!』
P(全盛期の走りは、見る影もなかった)
P(しかし間違いなく、彼は走っていた)
P(懸命に、前を向きながら……)
P(大きな勇気を、もらった気がした)
35: 以下、
P(そして、その翌日)
P(一人の女性が、俺の前に姿を現した)
P「貴音! 本当に貴音なんだな!」
P「夢みたいだ……」
P「まさかもう一度、貴音に会えるとは思わなかったよ……」
P「……故郷の方は、もういいのか?」
P「……そっか。まあ、詳しくは聞かないことにするよ」
P「え? もう一度、アイドルをやりたい……だって?」
P「いやいや! 身勝手なお願いなんて、とんでもない!」
P「そうだな……!」
P「もう一回……みんなで……!」
36: 以下、
P(みんなと一緒に、夢の続きを見たい)
P(心を決めた俺は、すぐに一人の女性とコンタクトを取った)
P(最初は、にべもなく拒絶された)
P(しかし俺は諦めず、彼女に連絡を取り続けた)
P「頼む、律子! 一生のお願いだ!」
P「もう一度みんなと、一緒にアイドルをやろう!」
P「何だってする! 何なら土下座でも……え?」
P「本当か!? 本当なんだな、律子!」
P「ありがとう! ありがとう!」
P「い、いや! 俺は泣いてなんかいないぞ!」
P「だから泣いてないって……ん?」
P「そういう律子こそ、涙声になってないか……?」
P(連日続けた説得に、ついに律子は応じてくれた)
P(こうして俺と彼女達、そして、彼は)
P(新たなるスタート、再スタートを切ったのだった)
37: 以下、
競走馬の生き方にはドラマが詰まってるよなぁ
38: 以下、
P(俺にはわかっていた)
P(今の彼女達に、全盛期の力を求めるのは酷だということを)
P(だから俺は、あえてフェスの話題を出すことはせず)
P(彼女達の力量に合う仕事を、厳選することに心力を注いだ)
P「いやあ、あずささん! 今日のCM撮影、最高でしたよ!」
P「え、ご褒美が欲しい……ですか? 具体的には、何を?」
P「……あ、頭を撫でる……?」
P「えっと……そ、それじゃあ……お言葉に甘えて……っと」
P「こ、こんな感じで……どうでしょう……か?」
P「……ふぅ。あずささんって、意外と甘えん坊だったんですね……」
39: 以下、
P「貴音! グルメリポートが、大分板に付いてきたじゃないか!」
P「え、これから一緒に、らあめん屋に行きましょう?」
P「おいおい……さっき番組であれだけ食べたのに、まだ食べるのか?」
P「な、何だよ! そ、そんなに頬っぺたを膨らませるなって!」
P「わ、わかったわかった! わかったよ!」
P「一緒に行くから、そんなに拗ねないでくれよ、貴音!」
P「大成功だったな律子! キャンペーンガール姿、似合ってたぞ!」
P「え? 私に、この仕事は適任とは思えない、って?」
P「そんなはずはない! 間違いなく適任だよ!」
P「なぜそう思うのか、理由を教えろ、ってか?」
P「そんなの、律子がかわいいからに決まってるじゃないか」
P「だ、大丈夫か律子!? 熱でもあるのか!? 顔が真っ赤だぞ!?」
40: 以下、
P(俺の取ってきた仕事を、彼女達は順調にこなしていった)
P(心なしか、昔以上に距離を縮められた気もする)
P(激しい戦いから離れた場所に身を置き、活動を続ける俺と彼女達)
P(しかし……彼は違った)
実況アナ『エプソムカップはディサイファ! 見事な末脚です!』
実況アナ『復帰2戦目のペルーサは、15着に終わりました!』
実況アナ『毎日王冠を勝ったのはエアソミュール! 武豊騎手、手綱が冴えます!』
実況アナ『ペルーサは中団、9番手ぐらいの入線でしょうか!』
実況アナ『スピルバーグ豪脚一閃! 強豪を相手に、天皇賞秋を勝利!』
実況アナ『最後方からレースを進めたペルーサは、後方3番手でのゴールです!』
実況アナ『金鯱賞を制したのはラストインパクト! 3つ目のタイトル獲得です!』
実況アナ『そしてペルーサですが、今日は10着! 伸びきれません!』
41: 以下、
P(敗れても敗れても、立ち向かい続ける彼)
P(結果は伴わなかった)
P(しかし彼は、いつも全力で戦い続けていた)
P(そんな彼の、ひた向きな姿を目の当たりにして)
P(例え勝てないとわかっていても)
P(俺は昔のように)
P(いや……それ以上に)
P(彼を応援せずにはいられなかった)
42: 以下、
 ―2015年―
P(それは、年明け最初のミーティングだった)
P(熱意のこもった真っすぐな瞳で、あずささんが俺に訴えた)
P「もう一度、Bランクフェスに挑戦してみたい……ですって?」
P「でも、あずささん。最後にステージに立ったのは、もうずっと昔で――」
P「その言葉を待ってました……だって?」
P「貴音も……あずささんと、同じ気持ちなのか?」
P「え? 仕方がないから、付き合いますか?」
P「律子……。その顔、明らかにしょうがないって顔じゃないぞ……」
43: 以下、
P「……」
P「…………」
P「本当に、いいんだな……?」
P「よし、わかった! やるだけやってみよう!」
P(こうして彼女達は、再び戦いの舞台に身を投じることとなった)
P(無謀な挑戦なのはわかっていた)
P(何せ、彼女達が最後にステージに立ったのは、かれこれ2年半も前なのだ)
P(その無謀な挑戦を、無謀と承知で受け入れたのは)
P(諦めずに戦い続ける、彼の姿を見続けてきたからかもしれない)
44: 以下、
P「復帰初戦は惨敗……か。まあ、こればっかりは仕方がないよな……」
P「お疲れ様でした、あずささん!」
P「貴音、いいパフォーマンスだったぞ!」
P「律子も頑張ったな! 初戦としては、上々上々!」
P(意気込んで挑んだ、年明け最初のBランクフェス)
P(わかっていたとはいえ、やはり完敗の内容だった)
P(……そして、彼の今年初戦も)
実況アナ『中山金杯はラブリーデイ! 皐月賞馬、ロゴタイプを完封!』
実況アナ『ペルーサは後方から差を詰めましたが、10着止まりです!』
P(勝った馬の走りには、今後の大仕事を約束するような、オーラがあった)
P(それは遥か昔、俺が彼に感じていたもの……)
45: 以下、
P(それから彼女達は定期的に、Bランクフェスへの挑戦を続けた)
P(しかしその結果は、芳しいものではなかった)
P「復帰2戦目……」
P「まだポイント差は、かなりあるか……」
P「復帰3戦目も、完敗か……」
P「まあ、課題は山積みだもんな……」
P「復帰4戦目も、惨敗……」
P「……いや、まだまだだ。まだまだこれからのはずだ」
P(現実の壁は、恐ろしいほどに高く)
P(そして分厚いものだった)
46: 以下、
P(さすがの彼女達も、時には打ちひしがれ)
P(気負けし、弱音を吐くことがあった)
P「あずささん! 今日のステージも、いい動きでしたよ!」
P「ええ! とても、瀕死の重傷を負ったとは思えないパフォーマンスでした!」
P「え? もし、あの日事故に遭ってなかったら?」
P「今とは違った未来があったかも……ですか?」
P「それは……その答えは……」
P「……でも! あずささんは、こうしてステージに戻って来れたじゃないですか!」
P「あずささんが諦めなければ、必ず、きっと……!」
P「大丈夫ですあずささん! 俺、あずささんを信じていますから!」
47: 以下、
P「申し訳ありません……だって?」
P「どうして貴音が、俺に謝る必要があるんだ?」
P「私は、大きな過ちを犯しました?」
P「……どういうことだ?」
P「あの日、アイドルより故郷を優先しなければ、こんなことには……か」
P「……でも! 貴音は、こうしてステージに戻って来たじゃないか!」
P「それに故郷に帰ったのは、どうしても譲れない理由があったからだろ?」
P「大丈夫だ貴音! その時の経験、絶対これからに活きてくるさ!」
P「は? もう、私を外してください?」
P「待て待て待て! 何を言ってるんだよ、律子!」
P「やっぱり私には、裏方がお似合い……だって?」
P「確かに、律子の事務員としての能力は、疑いようがないと思うよ」
P「……でも! 律子は、こうしてステージに戻って来てくれたじゃないか!」
P「事務員と同じぐらい、律子にはアイドルとしての才能があると思ってる!」
P「大丈夫だ律子! もっと、自分に自信を持っていいんだからな!」
48: 以下、
P(苦しい戦いを続けていたのは、彼女達だけではない)
実況アナ『直線、鋭く伸びたアズマシャトル! 見事に白富士ステークス勝利!』
実況アナ『同じく後方から運んだペルーサは、よく伸びましたが6着まで!』
実況アナ『エイシンヒカリ、見事な逃走劇でエプソムカップを制しました!』
実況アナ『ペルーサは今日も追い上げましたが、6着での入線です!』
実況アナ『マイネルミラノ、圧倒的なスピード! 巴賞を逃げ切り勝ちです!』
実況アナ『ペルーサは後方のまま、8頭中6番手でのゴールでした!』
P(彼もまた、苦しい戦いに挑み続けていた)
49: 以下、
P(失った輝きを取り戻す)
P(言葉にするのは簡単だが、実現するのは何て難しいんだろう)
P(でも……俺は、諦めたくなかった)
P(一度だけでもいい)
P(彼女達に、そして彼に)
P(もう一度、光り輝いてほしかった)
P(気がつけばお互い、最後の勝利からは)
P(かれこれ、5年以上の歳月が経過していた)
50: 以下、
P(そして迎えた、本日)
P(8月8日、土曜日)
P(今日は復帰から数えて5回目となる、Bランクフェス挑戦の日だ)
P(復帰前から数えると、もう何戦目になるだろうか……)
P(前回のフェスの敗戦後、遅まきながら俺は悟った)
P(これまでと同じことを続けても、結果は出せないだろう、と)
P(何かを劇的に変えなければいけない)
P(しかし、具体的に何を変えればいいのか、すぐには思いつかなかった)
P(俺は考え続けた)
P(彼女達のために、何かしてやれないのか)
P(何か、俺にしかできないことがあるんじゃないだろうか、と)
51: 以下、
P(そして、考えに考え抜いた末)
P(一つの結論を出した俺は、彼女達に申し出た)
P(レッスンのトレーナーを、俺にやらせてくれないか、と)
P(素人の俺が、指導力でプロのトレーナーに適うとは思えない)
P(だが)
P(彼女達のことは、誰よりも自分が知っているという、自負は持っていた)
P(俺にしかできない助言、俺にしかできない導きが、何かきっと在る)
P(そう、思ったのだ)
52: 以下、
P(傍から見ると無謀とも思えるであろう、俺の提案)
P(そんな俺の提案は、意外にも)
P(彼女達に、快く受け入れられた)
P「あずささん。今のステップ、もう少しスピーディに踏むのはどうでしょう?」
P「なあ貴音。サビの最後の部分、あとちょっとだけ伸ばせないかな?」
P「律子律子。間奏のダンス、もっと思い切った動きで演じていいと思うぞ?」
P(我ながら、稚拙なアドバイスだと思う)
P(時には反論され、時には意見をぶつけ合い、そして時には同意を受け)
P(二人三脚で、俺と彼女達はトレーニングを続けた)
P(次のステージを、これまでと違う物にしたい)
P(そんな想いを、胸に抱いて)
53: 以下、
P(…………)
P(もうすぐ、フェスが終わって30分は経つだろうか)
P(……俺は今、フェス会場近くの病院にいる)
P(彼女達の本番を前に、まさかの体調不良でダウン)
P(大したことないから大丈夫、そう言い張ったのだが)
P(結局彼女達に、無理矢理病院に担ぎ込まれてしまった)
P(必ず勝って、迎えに来ますから)
P(そう言い残して彼女達は、戦いの舞台へと向かっていった)
54: 以下、
P(診断の結果は、過労とのこと)
P(今は一人きりの病室で、点滴の真っただ中だ)
P(病室備付のテレビをぼんやり眺め、気を紛らわそうとするも)
P(頭に浮かんでくるのは、彼女達のステージのことばかり)
P(現実的に考えて、勝てるとは思わなかった)
P(少しでもポイントを多く取って、次に繋がるステージになってくれれば)
P(でも、もしまた惨敗だったら……)
P(様々な想像が、脳裏を駆け巡る)
P(携帯電話を持っていれば、すぐにでも連絡して結果を確認するのだが)
P(こういう日に限って、事務所に忘れてきてしまったのだ)
P(自分の間抜けさに腹を立てながら、テレビのチャンネルを適当にいじる)
P(そして……何度目かにチャンネルを変えた、その時だった)
実況アナ『スタートしました! メインレース、札幌日経オープン!』
実況アナ『ペルーサ、今日は好スタートを決めています!』
55: 以下、
P(テレビ画面に映し出されたのは)
P(珍しく軽快なスタートを決める、彼の姿)
P(俺は知っていた)
P(今日、戦いの舞台に挑むのは、彼女達だけではないことを)
P(ただ、本来ならば今の時間は、フェスの会場からの帰り道なわけで)
P(生観戦は、あり得ないはずだった)
P(まさか、彼女達の結果より先に、彼の結果を知ることになるとは)
P(苦笑しながら、俺は改めて、テレビ画面に目を向けた)
56: 以下、
実況アナ『ペルーサ、今日は3番手からレースを進めます!』
P(おやっ、と思った)
P(復帰してからは、後方追走から数頭を抜くのが精一杯だった彼)
P(そんな彼が、今日は先頭集団に位置している)
P(そしてさらに、驚くべき展開が起こった)
実況アナ『先頭はタマモベストプレイ、その外からペルーサが並んでいきます!』
実況アナ『ここで先頭が変わりました! ペルーサが先頭です!』
P(これまでに、一度たりとも見たことがない光景だった)
P(彼は自ら先頭に立ち、他馬をリードしていく)
実況アナ『リードを1馬身、2馬身と広げました!』
実況アナ『ペルーサ、軽快に飛ばします! リードを4馬身と取っています!』
57: 以下、
P(完全に予想外の流れだった)
P(同時に、これはさすがに無謀だろうとも思った)
P(今までと違った戦法で、新境地を開きたいという気持ちはわかる)
P(しかし、いくら奇策を打つにしても)
P(あまりにも、これまでとスタンスが対極すぎる)
P(ゴールまでにスタミナが切れ、後退していく姿が容易に想像できた)
P(そう。現実は、決して甘くはないのだから)
実況アナ『先頭はペルーサ! リードを2馬身キープして3コーナーのカーブ!』
P(しかし俺の予想に反して、彼は先頭を走り続けた)
P(いつの間にかレースは、終盤に差し掛かっている……)
58: 以下、
実況アナ『ペースが上がります! 3、4コーナーの中間へ!』
実況アナ『依然としてペルーサ、先頭をキープしています!』
P(まだ、余裕があるように見える……)
P(心臓の鼓動が、どんどん早くなっていくのを感じた)
P(これは、もしかして……?)
実況アナ「残り600メートルを切って、先頭ペルーサ! まだ1馬身のリード!」
P(颯爽と走り続ける彼に、かつて輝きを放った過去の姿が重なる)
P(まさか、まさか……)
60: 以下、
実況アナ「ここでタマモベストプレイ、さらにアドマイヤフライトが差を詰めます!」
P(しかしここに来て、他の馬たちも追い上げてきた)
P(2番手の馬が、騎手の激しいアクションに応え、差を詰めて来る)
P(3番手の馬も、余裕たっぷりにスーッと外から上がって来ている)
P(築いたリードが、じわじわと無くなっていく)
実況アナ『さあ、第4コーナーをカーブします!』
P(負けて欲しくなかった)
P(勝って欲しい)
P(何とか……!)
P(何とか、何とかこのままで……!)
P「頑張れ……!」
実況アナ『ペルーサ先頭で、直線コースに入りました!』
P「頑張れ! ペルーサ、頑張れぇ!」
61: 以下、
実況アナ『ペルーサ先頭! 外からアドマイヤフライト、間からタマモベストプレイ!』
P「行け! 粘れ粘れ粘れ! 粘るんだ!」
実況アナ『前は3頭! その外からワールドレーヴも差を詰める!』
P「もう少しだ! もう少しだぞ!」
実況アナ『残り200メートル! さあペルーサ粘る粘る!』
P「ペルーサ! 負けるな! ペルーサ!」
実況アナ『その外からタマモベストプレイ! ワールドレーヴ迫ってくる!』
P「頑張れ! 頑張れぇ!」
実況アナ『しかし、ペルーサが先頭だ! 抜かせない! 先頭はペルーサだ!』
P「頑張れぇぇぇぇ!!」
62: 以下、
P(俺にとって、永遠とも思える程、長い直線だった)
P(そして、その終わりの果て)
P(1着でゴールを駆け抜けたのは……)
実況アナ『ペルーサ、今1着でゴールイン! 押し切りましたぁ!』
P(彼だった)
63: 以下、
実況アナ『ペルーサ、見事押し切りました!』
実況アナ『ガッツポーズが出ました! 鞍上のクリストフ・ルメール騎手!』
実況アナ『2010年5月1日、青葉賞以来の勝利です!』
実況アナ『そして勝ち時計は、何とレコード! レコードタイムが記録されました!』
P(興奮気味の実況アナウンサーの声が、脳裏に染み渡っていく)
P(信じられなかった)
P(夢ではないかと思った)
P(目に、涙が溢れる)
P(彼は、彼は本当に……)
 ガチャ
P(その時背後で、病室のドアが開く音がした)
64: 以下、
P(ゆっくりと後ろを振り向く)
P(そこに、彼女達が立っていた)
P(あずささん、貴音、そして律子)
P(皆、目に光るものを浮かべていた)
P(何かを成し遂げたような、誇らしげな表情と共に)
P(そんな彼女達の表情を見て、俺は全てを悟った)
P(奇跡を起こしたのは、彼だけではなかったのだ)
P(聞きたい話は、山ほどあった)
P(一時間……いや)
P(一日かけても足りないぐらいに)
P(でも、最初に言うべき言葉は……決まっている)
P「……おめでとう」
P(次の瞬間)
P(破顔した彼女達は一斉に、俺が横たわるベッドに飛び込んできたのだった)
65: 以下、
P(果たして彼女達が、Aランクの舞台で対等に戦えるのか)
P(彼は次のレースで、再び好勝負を演じられるのか)
P(それは……わからない)
P(もしかすると、今日一日限りの輝きなのかもしれない)
P(それでも俺は、これからも)
P(彼女達を、そして彼を応援し続ける)
P(そして俺は)
P(今日という日を、絶対に忘れない)
P(挫折と敗北を繰り返し、ついに栄光を掴み取った彼女達と彼は)
P(間違いなく、今日の主役だったから)
66: 以下、
P(ベッドの上で彼女達にもみくちゃにされながら)
P(俺はもう一度、皆に言葉を紡いだ)
P「おめでとう……あずささん」
P「おめでとう……貴音」
P「おめでとう……律子」
P「それから……」
P(おめでとう……ペルーサ)
実況アナ『札幌競馬場、場内は大歓声です!』
実況アナ『勝ったのはペルーサ!』
実況アナ『実に5年3か月ぶりとなる、鮮やかな勝利でした!』
 ― 完 ―
67: 以下、
以上になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
69: 以下、

熱くなった
73: 以下、
もうトグロもフラッシュもローキンもピサもと同期はいなくなって
オルフェ、ウインあたりの年下もいなくなっちゃったからなあ
75: 以下、
ペルーサとアイマスを絡めて来るとは…
本当にいいのを読ませてもらった。
札幌日経OPの実況のの元ネタであるラジオNIKKEIの山本直也アナウンサーの興奮の実況も印象深いが、地上波の普段は冷静沈着の松岡俊道アナウンサーが驚きながら声を張り上げて実況していたのも印象深かった。
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