絵里「もうすぐでバレンタインね」back

絵里「もうすぐでバレンタインね」


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1:
希「急にどうしたん」
絵里「なんかみんなそわそわしてるからそういえばって思って」
生徒会室の窓から外を見つめたそがれるように呟いたエリチ
希「エリチは毎年貰う側だから覚えてないと思った」
絵里「そ、そりゃあげたことはないけど…。手作りってなんか苦手だし…」
希「つまみぐいしちゃうから?」
絵里「そ、それもあるけど…っていうか希は私をなんだと思ってるのよ…」
エリチは少し照れたように頬を染めながら視線を落とした
絵里「今まで作ってまであげたいって思った人いないから…」
なにか引っかかる発言
希「今までってことは今年はいるん?」
絵里「うーん…」
否定はせずたださっきよりも赤く染まる頬で何となく察した
希「へぇー、誰にあげるん?先生?生徒?それともうち?」
からかうようにそう言うとエリチはやめてよという感じに手を振った
5:
絵里「秘密よ秘密。さ、穂乃果達が帰ってくる前に仕事少しでも進めといてあげましょ」
希「なんや余計に気になるやん」
絵里「もういいの!ほら喋ってないで手進めて」
希「もー」
今までエリチとそういう話なんてしてこなかったから少し戸惑った
この学校でも先生でも生徒でもないとなると余計にわからなくなる
前に少し家庭教師のバイトをしたって言ってたけどそのときの生徒さんかな
なんていう憶測も飛び交って仕事なんて全く手につかなかった
希「はぁ…」
にこ「なーに、希がため息なんて珍しいわね」
みんなが集まる前の部室
にこっちと二人っきりでつい気が緩んでため息を漏らしてしまった
希「うーん、エリチがバレンタインに関心を持ってるんよ」
にこ「別にいいじゃない。それでなんでため息なのよ」
7:
希「あのエリチがやで?男女のイベント事なんて関心なさそうなエリチがやで?」
にこ「いくらなんでも言いすぎよ…。まあでもあの絵里がバレンタインデーに関心を持つなんて確かに気になるわね」
希「しかもあげたい相手までいるんやって」
にこ「えええええええええ」
部室の外まで聞こえてるんじゃないかというくらいのにこっちの大声に思わず耳を塞いだ
にこ「ちょっ、ちょっとそれど…」
花陽「どういうことですか!」
いつ来たのか、気づいたら花陽ちゃん、凛ちゃん、真姫ちゃんまでも話に加わっていた
花陽「ど、どういうことですか!絵里ちゃんがバレンタインデーにあげたい相手がいるって!」
にこ「ちょっ、今にこが聞こうと…」
真姫「そのままの意味でしょ。エリーにだってそういう相手くらいいるわよ」
希「うーん、でも今までそんな感じなかったんやけどなあ…」
もしそういう相手がいるならなんでうちに言ってくれないんやろ…
花陽「はぁーあの絵里ちゃんが渡したい相手って誰なんでしょう」
にこ「よし!こうなったら今日から絵里を追跡するわよ!」
8:
凛「追跡!?なんか面白そうにゃ!凛もやる!」
花陽「えー!凛ちゃん!?」
真姫「はぁ…私はやらないわよ」
にこ「希は?」
まあここまで隠されると逆に暴きたくなるのが人間の性やんな
希「よし!今日からエリチの追跡や!」
にこ、凛「おー!」
花陽「や、やめようよー…」
真姫「…イミワカンナイ」
いつもどおりの練習メニューが終わり各々帰り支度を始める中
エリチは携帯を開きなにやらメールを見ているようだった
希「エリチ?帰りどうする?」
絵里「あーごめん。ちょっと用事があるから今日は先かえるわね」
その言葉にうちの傍で聞き耳を立てていたにこっちと凛ちゃんはにやっと笑った
作戦スタートや!
10:
素早く身支度を済ませエリチに気づかれぬよう背後をマークしていると
今度はうちらが背後から声をかけられた
海未「なにをしてるんです」
凛「ひゃあっ!」
にこ「い、いやあの…これは…やばい!見失っちゃうわよ!」
希「にこっち、ここはうちに…っあ!」
気にせず尾行を続けようとしたら海未ちゃんに首ねっこを掴まれた
海未「希までいったい何をしてるんですこんなところで」
希「いやーあのーこれはー」
言い訳を考えてるフリを見せエリチが歩いていったほうをチラっと確認するとすっかり姿が見えなくなっていた
あかん…完全に見失ってもうた…
今日の作戦は失敗や…
海未「まったく公共の場所でこそこそと、あんなところ誰かに見られてたらどうするんです!しかも希まで!」
「「「すみません…」」」
延々と海未ちゃんの説教を聞かされ家につくころにはすっかり暗くなっていた
19:
鞄を机に置くとそのままベッドに倒れこんだ
希「エリチに好きな人…か」
うちが知らないだけで今までだってそういうことはあったのかもしれない
エリチをすべて知るのに3年は短すぎるから
でも何でも話してくれるような関係に思ってたのはうちだけなのかなって思って少し寂しくなって、悲しくなって…
希「うちは全部話してきたんやけどな…」
頬を伝う涙を拭った
にこ「今日こそは絵里のことを暴くわよ!」
希「おー!」
凛「凛はもう怒られるのいやだから抜けるにゃ」
にこ「ちょっと凛!裏切る気!」
凛「だって海未ちゃん恐いにゃー…」
希「大丈夫やで。今日は海未ちゃん生徒会で忙しいはずや」
20:
にこ「でかしたわ希!」
にこっちが親指を立てぐっとやるのを見てうちも同じように返した
それを凛ちゃんがため息をつきながら見つめていた
にこ「それより絵里は?」
希「まだ教室にいるはずやからちょっと見てくる」
部室を出て教室へ向かうとまだクラスの子が結構残っていてその中でも目立つ金色の髪の彼女を見つけた
希「エリ…」
手を上げ名前を呼ぼうとしたところで数人のクラスメイトに遮られてしまった
「絢瀬さん!今年はガトーショコラ作ろうと思うの」
絵里「へぇー、すごいわね」
「頑張って美味しく作るから貰ってね」
絵里「うん。ありがとう」
そのクラスメイトの一言で次々と話しかけようと窺っていたであろう他の子達が「私も」「私も」とエリチを囲んだ
希「…」
話しかけるタイミングを見失い上げた手を力なく下ろすとこちらに気づいたエリチと目が合った
23:
絵里「希。…ごめん、そろそろ行かなきゃ」
「うん!また明日ー」
エリチはみんなの輪から抜けてくると鞄を持ちこっちに駆け寄ってきた
絵里「わざわざ迎えに来てくれたの?」
希「う、うん。まだ全員揃ってないんやけど…」
絵里「そっか」
エリチの横に並んで一緒に歩く
横顔をチラっと見るとそれに気づいたのかエリチもこっちを見た
絵里「ん?」
希「あ、えっと…相変わらずモテモテやなーって思って」
絵里「そんなことないわよ。友チョコなんて毎年もらってるじゃない希も」
希「そうやけど…」
あの輪の中にだって一人くらいは本命を渡そうと思ってる子もいると思う
でもそれを友チョコだと思ってしまうエリチは鈍感で…女の子同士は恋愛対象ではないと言うことを主張してるかのようだった
25:
部室にみんな揃っていてあとはうちらだけだった
絵里「ごめん、待たせたわね」
穂乃果「ううん。私と海未ちゃんとことりちゃんも今来たところだから」
花陽「私と真姫ちゃんも今来たところだよ」
真姫「凛が勝手にいなくなるから探しててちょっと遅くなったのよ」
凛「先に行ってるって言うの忘れてたにゃ…」
真姫「まったく…」
いつもと変わらない何気ない光景
横で笑みを浮かべるエリチの顔もいつもと変わらない
少しだけ違うのはなんだかエリチと距離が離れてしまった気がするうちの胸の内だけだった
希「なんかもうええんやない?わざわざ追求しなくても…」
昨日と同じようにエリチを尾行していたにこっち、凛ちゃんにそうボソっと呟いた
にこ「何言ってんのよ。ここまで来たからには徹底的に調べてやるわよ!」
凛「凛は本当はどうでもいいんだけどにゃー…」
26:
希「でもさ…もし本当にエリチに彼氏がいてそんな現場を見てしまったらどうするつもりなん?」
にこ「そんなの決まってるじゃない。アイドルに恋愛なんてご法度なんだから」
希「…そっか」
にこ「希は?」
希「え?」
にこ「希はどうするの?」
にこっちの真剣な顔
うちの心の迷いの原因を全てわかってるような顔つきに思わず目を反らした
希「うちは…」
凛「あ!マンションに入って行くにゃ!」
にこ「え!?」
前を歩いていたエリチのほうに視線を戻すと見慣れないマンションに入っていく姿が見えた
にこ「希、ここどこかわかる?」
希「ううん。うちも初めて来た」
しばらくすると通路にエリチの姿が見えとある部屋の前で止まりインターホーンを押すのが見えた
27:
少しすると玄関の扉が開き中からは同い年 もしくは少し下くらいの年齢の男の子が姿を見せエリチを中へ通した
にこ「ほ、本当に彼氏だったの…」
がくっと膝から崩れ落ちたにこっちを凛ちゃんが慌てて支えた
部屋に消えていくエリチの背中を見つめながらうちは泣くことも叫ぶことも出来ずただ唇を強くかみ締めた
バレンタインデー前日ということもありいつもよりふわふわして雰囲気が学校内に広まっていて
エリチを囲む女の子の数もさらに多くなっていた
うちとにこっちは教室の入り口でそんなエリチの光景をじっと見つめていた
にこ「あのあとなんか絵里に聞いた?」
希「…ううん。言わないってことは聞いてほしくないことなんだろうし…」
にこ「それでいいの?」
希「…うん。にこっちこそあんなに必死だったのに結局エリチに何も言ってないやん」
にこ「そ、それは…」
絵里「おまたせ。何話してたの?」
希「ううん。なんでもない」
28:
絵里「そう…」
希「はよ部室行こ」
エリチの顔を上手く見れなくてすぐに背を向けると一人歩き出した
絵里「希…?」
にこ「はぁ…、しょうがないわね」
絵里「にこ?」
バレンタインデー当日
朝になって何も作ってないことに気づいた
希「ここのところ色々あったからなぁ…。みんなに謝らないと」
はぁ…深いため息が漏れバレンタインデーなんてなくなればいいのにと心の底から思ってしまった自分に変な笑いがこみあげてきた
いつものように誰もいない部屋に向かって「いってきます」を言うと玄関のドアを開ける
希「…え」
目の前に広がるいつもの町並みと同時に目に映ったのは金色の髪をなびかせ頬を少し赤く染めたエリチの姿だった
絵里「おはよう希」
30:
希「え、エリチ?なんでいるん」
絵里「なんでって今日バレンタインデーでしょ」
希「バレンタインデーでなんでうちの前に…」
いいかけた言葉を遮るようにエリチは手に持っていた紙袋をうちのほうへ向けた
絵里「ハッピーバレンタイン!」
そういって少し照れたように微笑むエリチ
紙袋を受け取りもう一度エリチの顔を見るとその顔はだんだんかすんでいき自然と涙がこぼれてたいた
希「…なんなんもう急に…」
絵里「今年はもう私達高校最後じゃない。だから最後くらい感謝の気持ちをちゃんと伝えたくて」
エリチの手にはうちのとは違う大きな紙袋
絵里「みんなにも作ってきたんだけどやっぱり最初に希に渡したくて」
さっきまで笑っていた顔が少し真面目になり真っ直ぐにうちの顔を見つめた
絵里「希、いつもありがとう。これからもよろしくね」
希「こちらこそ」
そう答えるとエリチは満面の笑みを浮かべながらうちの髪をそっと撫でた
34:
真姫「結局エリーが渡したい相手って私達だったのね。私は何となく気づいてたけど」
にこ「気づいてならもっと早くいいなさいよ!」
凛「そうにゃそうにゃ!凛達変な人みたいじゃん!」
海未「十分変ですよ。尾行なんてまったく」
部室で各々が持ってきたチョコ菓子を食べながらエリチ尾行大作戦の裏話に花を咲かせた
絵里「私もまさかつけられてたなんて気づかなかったわ」
にこ「そんなのにこの変装術に任せればちょろいもんよ」
希「変装してなかったやんうちら」
凛「あれ?でもそういえば絵里ちゃん知らないマンション入って行かなかったかにゃ?」
にこ「あ…あー!そうよ!知らないマンションで男と密会してたじゃない!」
「「「お、男ー!?」」」
真姫「ちょ、ちょっとエリーどういうこと?」
花陽「まさか本当に彼氏さん…!あぁ…パタン」
凛「か、かよちーん!しっかりするにゃー!」
海未「え、絵里にお、お、男!…破廉恥です…!」
絵里「ち、違うのよ!あれは」
にこ「あれは?」
しどろもどろになるエリチに全員が詰め寄りエリチは後ずさりを始める
うちに助けを求めるようにこちらを見つめているがうちもその弁解はまだ聞いていない
希「エリチ」
絵里「の、希ぃ…」
38:
エリチは「はぁ…」と小さなため息を一つつき少し困ったような笑みを浮かべた
絵里「実は知り合いの人から家庭教師頼まれてて、たぶんあなたたちが見たのはその子のお兄さんよ」
にこ「家庭教師??あやしいわね?」
希「だったら用事やなくて家庭教師してるっていうてくれたら良かったのに」
絵里「だってあなたたちがそこまで気にしてると思わなかったから」
にこ「っで、その生徒さんは女の子なんでしょうね?」
絵里「女の子よ、決まってるでしょ。男の子だったら断ってるわよ…」
希「でも、ほんまに彼氏じゃなくて良かった」
希「うちはエリチの一番の親友だと思ってたのにエリチは何も言ってくれないんやって思って少し寂しかったんよ…」
みんなの手前泣きそうになるのを堪えていたせいか少し声が震えた
それに気づいたのかエリチは申し訳なさそうな表情を浮かべていた
絵里「希…」
にこ「はいはい、そろそろ練習の時間よ。凛、花陽、真姫早く行くわよ」
真姫「ちょ、押さないでよ」
花陽「凛ちゃん行こう」
凛「うん!」
ことり「私達も行こっか、穂乃果ちゃん、海未ちゃん」
海未「そうですね」
穂乃果「うん!」
絵里「みんな…」
うちとエリチだけ残しみんなが出て行った部室には静寂につつまれた
40:
希「なんかみんなに気使わせちゃったみたいやね…」
絵里「そうね…」
また広がる沈黙
絵里「希」
希「ん?」
エリチはそのまま近づいてくるとそっとうちの両手を握った
絵里「私も希のことずっと一番の親友だと思ってるしこれからもそれは変わらないわ」
希「エリチ…」
絵里「だからもし本当に恋人が出来たなら一番にあなたに話すし一番にあなたに聞いてほしいってちゃんと思ってる」
絵里「だから希も私に一番に教えてよ」
希「うん」
夕日に照らされたエリチの金色の髪がゆっくりとうちの視界から消え、そして目の前にエリチに匂いが広がった
うちをそっと優しく包みこむように抱きしめたエリチ
希「エリチ?」
絵里「はぁ…やっぱ希から恋人の話とか聞きたくないわ…きっと私嫉妬する…」
希「そんなの…うちも一緒や。今回のでずっとモヤモヤしとった…」
抱きしめていた体を離しお互い向き合うと自然と笑みがこぼれた
絵里「私達一生恋人できなそうね」
希「そうやね」
絵里「でも別にいなくてもいいかな。希がいてくれれば私はそれでいいかも」
そんなキザな台詞をさらっと言ってしまうエリチにはそんな言葉でうちの胸の鼓動が早くなったことにきっと気づかない
でも、エリチのそばでこうして笑っていられるならうちはそれでもいいって思ってる
だってそれくらいエリチのことが大切で大好きだから…
希「うん!」
おしまい
42:
乙!良かったよ
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