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P「春香!結婚しよう!!」


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1:
春香「という夢を見たわけ」
真「それでボクにどうしろっていうのさ……」
5:
春香「私、プロデューサーさんのこと好きなのかな?」
真「そんな夢を見たんだから、気になってはいるんじゃない?」
春香「えへへ、そうなのかな」
真「春香はどう思うのさ」
春香「うーん…真は?」
真「えっ」
春香「プロデューサーさんのこと。好き?」
7:
真「わっ、え、ちょっと待って!」
春香「仕事の合間とか、空いた時間に遊びに行ったりしてるでしょ」
真「あ、あれは女の子扱いして貰ってるだけだよ!」
春香「いいなープロデューサー、真とデートか」
真「暇な時に、僕が王子様をお願いしてるだけだよ」
春香「そう?」
真「そ、それより!春香だってそんなに気になるなら、プロデューサーとデートしてくればいいんだよ」
春香「…ああ、そっか。そうだよね!」
8:
真「へ?」
春香「夢に出てきたってことは、これは何かの暗示なんだよ!」
真「あの、春香?」
春香「そして、プロデューサーさんに『春香、結婚しよう!』って言わせちゃえば良いんだよ」
真「急な話だなぁ」
春香「きっとその時は、私の気持ちもはっきりしてると思うし!」
真「えっ」
春香「真、ありがとう!私も負けてらんないな」
9:
春香は嬉しそうに鼻唄を歌いながら、次の仕事へ向かってしまった
真「はぁ…」
ソファに寄りかかる。
事務所の天井の、どこでもない一点を眺めながら、色々考える。
真「僕にとってプロデューサーは、王子様なのかな?」
仕事の合間。
たまに時間が空くと、僕はプロデューサーを引っ張って買い物や食事をして過ごす。
もちろん、いつもちょっとしたお姫様待遇で。
プロデューサーも手慣れた感じて返してくれる。
真(でも…)
さっき、つい「王子様役をお願いしてる」と言ってしまった。
なんでこんな言い方をしたんだろう?
真(素直に王子様じゃダメだったのかな?)
11:
真「うーん」
棚の上から、あのぬいぐるみを降ろす。
くまの背中を顔に押し付けて、ソファにごろんと寝転んだ。
真「あーもう、なんだよ」
春香が変なこと言うから、デートという言葉の意味が変わってしまった気がした。
プロデューサーが王子様?
いつか誰かたった1人、僕を女の子扱いしてくれる…。
真(それが、もう見つかってたとしたら)
早合点すぎる?
真「わあああああ…」
くまに表情を押し付けて、僕はそのまま目を閉じてしまった。
12:
真「ん…」
蛍光灯の刺すような白い光で目を覚ます。
P「おっ、起きたか」
真「ぷづ、プロデューサー!?」
P「昼寝か?しっかり休養取らないと仕事に響くぞ」
言われて壁の時計を見る。
もう夜6時。2時間近くも眠ってしまった。
P「仕事終わりで良かったな。寝坊なんかしたら大変なんだから」
真「あっ、あの」
P「ん?」
真「は、春香は?」
15:
最初に思い出した単語が出てきてしまった。
P「春香なら、さっき駅まで送ってきたぞ」
真「なん、何か言ってました?その…」
P「さあ?春香と喧嘩でもしたのか?」
真「いや、全然。そう…ですか」
どうしたんだ僕は。
プロデューサー相手に、なんでこんなに噛み噛みなんだ。
P「お前も送ってくから、時間になったら言えよ」
コーヒー片手に、プロデューサーはデスクに着いた。
またいつもみたいにスケジュール表とのにらめっこが始まるんだろう。
真「あの、プロデューサー」
P「どうした?」
17:
口は開いたが、中身は特に考えてなかった。
真「本当に、何にも言われてないですか?」
P「春香に何かあったのか?」
真「いや、そんなんじゃないんですよ!トラブルとかじゃ」
なんでパニクってるんだよ。
真「大体、伊織じゃないんですし。春香と僕はちゃんと仲良しですよー!」
P「はいはい、なら良いんだ」
嘘はついてない。
僕は765のみんなが好きだし、みんなが居れば、アイドルとして出来ないことは無いんじゃないかって、本気で思う。
でも。
真「はぁ…」
抱えたままのくまを見下ろす。
20:
今はちょっとだけ、春香が憎らしい。
半日前は、明日も撮影の帰りにクレープのひとつでも奢って貰おうかとか考えてたのに。
そういう「デート」が、気軽に出来なくなってしまった。
真(あの日以来、プロデューサーはたまにだけ、僕の王子様だ。それは事実だ)
真(でも、じゃあプロデューサー以外の男の人が僕を女の子扱いしてくれたら、その人も王子様?)
漫画の中の、端麗な青年を思い出す。
実在したらきっと、僕やJupiterなんか目じゃないくらいカッコいいんだろう。
多分、プロデューサーよりも断然。
真(でも…)
ファイルの棚の向こうで仕事に打ち込む、眼鏡の青年をそっと覗きこむ。
真(違うよなぁ)
24:
あの人に白馬なんて似合わないし、サーベルなんてもっての他だ。
見た目は整ってるほうだとは思うけど、眼鏡に地味なスーツ。そっけない黒髪。
それでも理想の王子様より、遥かに惹かれる何かがある。
真(困ったなぁ)
事務所に二人きり。
小鳥さんは社長と商談のお手伝いで今朝からいない。
普段の僕なら、力いっぱい駅まで歩くなり、夕飯をご一緒に!とでも声を掛けているだろう。
真「プ、プロデューサー」
そうだよ、その手があったか。
P「ん?」
真「あの、えと、良かったらご飯…」
直後、デスクから携帯の振動音。
P「あ、待ってろ…お電話ありがとうございます、765プロダクションです」
プロデューサーは手帳をもって、そそくさと階段へ向かっていく。
真「…ちぇ」
25:
長い電話のようだった。
しばらく経つとドアの軋む音がして、プロデューサーが帰ってきた。
P「…ああ、わかった。週末な。じゃあ」
真「仕事ですか、プロデューサー」
P「お前にだぞ真、オーディション番組の審査員だってさ」
真「本当ですか?」
P「ああ、参加者のダンスの評価をやってほしいそうだ。ちょっとしたお披露目も出来るかもな」
真「へへ。やーりぃ」
P「最近はバラエティなんかでも、真の需要は増えてるぞ。ダンスの技術とか、歌唱力とか」
真「照れるなぁー」
P「俺も嬉しいよ。王子様以外の真が、受け入れられてるってことだろ?」
真「ん…」
27:
そうなのかな。
ちょっと違う気もする。
ダンスも歌も、仕事は大体楽しいけど。
行き着くところ、求められてるところはまだ「カッコいい」なんじゃないかな?
真「だと、いいんですけど…」
王子様だって、今はやるのが嫌な訳じゃない。
でも、僕が求めてる女の子らしさは、やはりアイドルとしたは求められてないような気がする。
真「もうちょっと、違う需要も欲しいなぁ」
P「そうか?大丈夫だよ、真なら」
プロデューサーが、ポンと頭に手を置いてくれた。
真「え、えあ、え」
思わず顔が固まる。
なんなんだ今日の僕は。
P「いつかきっと、お姫様の真が見たいって流れもくるさ」
28:
頭の中が滅茶苦茶になってきた。
僕は誰に、お姫様として扱って欲しかったんだっけ。
アイドルになって、いつの日か女の子らしくなって。その先には?
父さんに育てられたいまの自分を変えたかったから?
それともファンの人たちに、可愛いと愛されたかったからだっけ?
真「プロデューサー」
それとも、この人にお姫様として扱って貰いたいから?
真「僕…」
P「どうした?」
混乱から、涙が浮かんできた。
落ち着きたい、今すぐに。
僕は目の前の男性のワイシャツに、潤んだ瞼を押し付けた。
29:
P「おい、真」
こんなの菊地真じゃない。
意味不明に涙目になって、子供みたいに泣きじゃくって。
僕にすら僕らしくないとしか言いようがない。
P「大丈夫か」
真「なんか、わかんないんです」
口を動かしながら、話を1から思い出す。
真「僕が何で泣いてるのか、僕がわかんなくて」
P「いいから、座れって」
なんだっけ?
カッコいい仕事は嫌じゃないけど
女の子らしさは求められてなくて
春香にデートが云々で
P「誰に、何されたんだ?」
真「…あ」
元はといえば、春香の夢に出てきたプロデューサーが悪い。
真「プロデューサーです…」
P「はぁ…?」
30:
真「大丈夫です…ぐずっ」
この人が悪いんだい。
お姫様なんて、もっと遠い目標の方が良かったのに。
P「よく分からんが、すまなかった」
ほんのちょっとだけど、プロデューサーに叶えられてしまったから。
真「そうですよ。プロデューサーが悪いです。僕にお詫びしてください」
P「またデートか?そうだなぁ、明日の撮影終わりなら…」
真「ブー、違います」
P「え?」
真「今度は、プロデューサーがオフの時に、僕がお姫様になってあげます」
P「なんだよそれ」
真「だから、エスコートさせてあげるんですよ」
32:
P「それじゃあいつもと一緒じゃないか。何が違うんだ?」
真「違いますって!今度は僕も、プロデューサーを王子様にしてあげるんです」
なるようになっちゃえ。
隣に座るプロデューサーの腕に、僕はがばっと抱きついた。
P「じゃあ、真が何かしてくれるのか?」
真「お姫様ですから、もちろん!」
P「あのなぁ」
真「これで、正式に"デート"ですよねっ?」
さらに、ぐいっと近づく。
プロデューサーの顔が、本当に目と鼻の先にあるくらい。
P「…どういう意
真「プロデューサー」
真「へへ」
34:
翌日。
春香「おはようございまーす」
P「」
春香「プロデューサーさん!?どうしたんですか?」
P「」
美希「なんかハニー、朝からずーっと熱いの」
響「風邪でも引いたのかなぁ」
雪歩「お薬、買ってきましょうか?」
P「…いや、いい。ありがと」
35:
真「おっはようございまーす!!!」
P「…ああ、まこと」
真「さあプロデューサー!仕事ですよ!起きて!」
美希の真似して、プロデューサーの腕を引っ張る。
美希「真クン」
春香「真、どうしたの?」
真「なんでもないよっ」
階段を降りて、車に乗り込む。
どこか惚けた感じのプロデューサーは、それでも僕に小さく「二度とやるなよ」と叱ってきた。
真「はーい」
今日も王子様、頑張ります。
だからいつか、僕も報われますように。
真「よしっ」
僕は帽子を深く被って、鍔の下でくすっと笑ってみた。
おわり
41:
>>25の外で電話から分岐
P「…はい、かしこまりました、菊地の方にも…はい。確認させていただきます。折り返し…はい、それでは。失礼いたします」
電話を切る。
民放の人気番組から真にお声がかかったようだ。
P「よしっ」
うまく行けばレギュラーを取れるかもしれない。
今や慣れたことかもしれないが、こうやってウチの事務所にオファーが掛かるのはやはり嬉しい。
P「さてと」
そろそろ真の奴を送ってやらないと、等と考えていると、再び携帯が震えた。
背中のディスプレイにはEメールのアイコンと春香の名前が輝いていた。
42:
春香『お疲れさまです!ところでプロデューサーさん、今ちょっとお話出来ませんか?忙しくなくて、お仕事の邪魔にならないならでいいんです。お返事お待ちしてます!』
P「んー…」
時計を見る。
18:20ちょっと。長くならないならいいか?
P「…、もしもし」
春香『あっ、プロデューサーさん?』
P「おう。どうした?」
春香『えと、どうしよう。そんなにすぐに話せるとは思ってなくて』
P「なんだよそれ」
春香『う、えーっと、…こんばんわ』
43:
P「ああ、こんばんわ」
春香『…』
P「どうしたんだ?」
春香『あの。』
P「うん」
春香『なんていうか…言っても怒らないですか?』
P「言われないと怒れない」
春香『あっ、そうですよね!』
P「うん」
春香『えーっと。プロデューサーさん、今度オフの日とかありませんか?』
44:
P「今はなぁ…丸々1日オフというのは、あんまり無いかもな」
春香『ですよね…』
P「みんな売れっ子になったからな」
春香『ですよね!』
P「とにかく、律子や音無さんに合わせないと難しいかも」
春香『すみません…』
P「でも、何で俺のオフなんか聞くんだ?」
春香『"へへっ、デートですよっ!デート!"』
P「似てないぞ」
春香『あはは、ですよね』
47:
P「どっか遊びに行きたいのか?社長に休みを出して貰おうか」
春香『いや別にそういうわけじゃ』
P「まぁ、考えとくよ。仕事に出すぎるのもアイドルとしては良くないしな」
春香『ありがとうございます…』
P「まぁ、日曜に収録で会えるしな。その時にでも話そう」
春香『はい!楽しみにしてます!』
P「…ああ、わかった。週末な。じゃあ」
50:
春香「はぁ」
電話、切られちゃった。
真みたいにストレートに誘って見たかったんだけどな。
春香「うまく行かないな」
美希みたいに、プロデューサーさんに素直に甘えてみたら変わるのかな?
そんな勇気は私にはないけれど。
春香「"春香、結婚しよう!"だって…」
言葉にすると冗談みたいだけど、覚えてるような夢というのは大抵生々しいもので。
ドームコンサートの側、夜風の通る道の真ん中で、プロデューサーさんが私の左手を取って、あのちょっと頼もしい顔であの台詞を言うのだ。
52:
架空の体験なのに、薬指には指輪を填められた圧の感触が残ってる。
それが、気色悪い。
あの夢の私は、背骨の奥から頭の中を吸いとられるような感涙の感覚のあと
トップアイドル天海春香として、プロデューサーさんの最愛を受け入れるのだ。
春香「いいなあ、私」
独り言が勝手に出てくる。
あんな夢を見せられたら誰だって憂鬱になるんじゃないかな?
春香「トップアイドルになったら、実現するかな?」
そんな気も、いまいちしない。
54:
P「真美とやよい、春香!そろそろ行くぞ!貴音、4時までに必ず美希を起こしてくれ」
日曜日。
芸能人にとっては、平日より遥かに忙しい1日。
真美「はるるん、どったの」
春香「はぇ…?」
やよい「しゅーろくですよ春香さん!」
春香「ああ、うん。ごめんねやよい」
階段を降りる最中、真美に小突かれた。
真美「さてははるるん、年頃のお悩みですな?」
春香「そんなんじゃないよ、真美」
真美「気になるメンズがきゅーせっきかな?」
春香「逆だと思う」
真美「ふぇ…?」
56:
春香「"眠り姫"満員御礼です!すっごく面白いので、是非見に来てください!」
真美「見ないとやよいっちのうっうー炸裂だYO→!」
番宣コーナー。
無事終わったけれど、ディレクターさんから暗いと叱られてしまった。
やよい「春香さん、大丈夫ですか?」
春香「ごめんね、ちょっと寝不足みたい」
やよいの心配が嬉しいけれど、今私が沈んでるのは、あんな夢をみた私のせいなのだ。
誰が悪いというわけではない。プロデューサーさんも…。
57:
車の中でも、私は結局あの幻想に俯いていた。
春香「…」
真美「そこで亜美が思い付いたのが、いおりんのウサちゃんを寝ているあずさお姉ちゃんのグレープフルーツに…」
やよい「シャルルだよ、真美」
P「ははは。それ、よく起きなかったな!なぁ?春香、」
春香「…」
P「春香?」
春香「…zzz」
真美「おりょ、はるるん熟睡中?」
やよい「しっ。起こしちゃダメだよ」
真美「わかってるよう、やよいっち。真美だってレディだよ」
やよい「?」
58:
P「なぁ春香」
春香「はい」
P「もしトップアイドルになって…いや、なりきっちゃったら、どうする?」
春香「えええ!?そんなの分からないですよ…」
P「だよな。女優や歌手に転向したり、タレントやったり」
春香「…アイドルって、いつでもそうあれるものじゃないんですよね」
P「だな」
春香「本当に目指す先がなくなっちゃったら…どうなるんでしょうか」
59:
P「誰かのお嫁さんとかも、立派な選択肢だよな」
春香「え?」
P「だってそうだろう?日本中の男がお前をお嫁さんに欲しがると思うぞ」
春香「あ、アハハ!そうですね。そうだと、…いいですね」
日本中かぁ。きっと幸せものだろうな、夢の私は。
現実には目の前の1人すら落とせないのに。
春香「そうだと、いいなぁ」
62:
春香「プロデューサーさ…」
P「おう、起きたか。そろそろ駅だぞ」
車の中だった。
私は後部座席に寝そべり、シートに寝汗を吸わせていた。
肩には真美の使っていたタオルケットが掛かっている。
春香「あれ、二人は?」
P「事務所で降ろしたよ。亜美を待つそうだ」
春香「そっか。そうですね」
P「春香」
春香「はい」
P「…ちょっと待ってろ」
車がコンビニの駐車場に入る。
春香「あ」
P「待ってろ」
63:
しばらくして、プロデューサーさんはコンビニからチキンと飲み物を買ってきてくれた。
P「鶏肉を食べると、気分が幸せになるらしいぞ」
春香「どこのバラエティでやってたんですか?」
P「やよいの受け売りだ。お隣失礼」
後部座席に乗り込んでくる。
私とプロデューサーさんは二人並んで、揚がったチキンを食べ始めた。
P「うまい、うん、結構…」
あまりに美味しそうに食べるので、私もかじってみた。
その瞬間、プロデューサーさんの気遣いが見に染みた気がして、鼻の奥が痛くなった。
65:
P「え!?」
肉をかじっただけで泣き出すとは想定外だった、という表情でプロデューサーさんはわたわたと手を振った。
P「春香、なに、大丈夫か?」
春香「ごめんなさい、ごめんなさい…」
何で泣いているんだろう私は。
仕事や将来に不満不安はない。
恋愛だって…まだ片思い未満のはずだ。
そうだ、夢にいきなり、あなたが現れたから。
春香「でも…プロデューサーさんのせいです」
P「はぁ?」
やっぱりこの人が悪い。
66:
春香「げほっ、はぁ。いきなり…卑怯なんですよ」
P「何が、何が。俺が?」
春香「全部です!」
P「えええ…」
女の涙に困る男の人って、こういうシチュエーションなんだ。
体感しちゃった。
春香「プロデューサーさんには、夢で酷い目に会ったんです」
P「そんなところまで責任持てないよ…」
春香「いいえ。プロデューサーさんは、アイドルに悪夢を見せる駄目な人です」
だから。
春香「だから、仕返しします。今から、プロデューサーさんに」
急がばまっすぐ進んじゃえ。
68:
P「ちょっと、待っ、春香」
プロデューサーさんを座席の端へ追い詰める。
泣き腫れた顔じゃ、普段以上に可愛くないかも知れないけど
ちょっとくらいなら、身勝手に怒ってもいいよね。
P「止めろ、はる…
射程圏内。
私は両の指をかけて、ついに実行した。
P「あれ?」
71:
P「前が…おい…」
プロデューサーさんの眼鏡をひょいと掲げて、私はニタリと笑いかける。
春香「眼鏡の命が惜しかったら、"崇め奉りなさい"、ですよ?」
P「なんだよ、春香ぁ」
春香「さぁ、さぁ!」
P「わかったよ…ん、"ははーっ"」
なんだか、貴音さんのコーナーの亜美と真美みたい。
春香「よかろう。いいですよ、顔を上げても」
子犬のようにこちらに顔を向けたプロデューサーさんに、眼鏡をかけ直す。
眼鏡の先端を怖がって、彼が瞼を閉じるのを確認すると、私は顔を近づけて、そっともうひとつの仕返しをした。
P「あっ、おm馬鹿…
ここから、駅まですぐだ。
私は帽子をかぶって車から逃げるように降りると、真っ赤になった顔でこう言い放ってから、すぐに駆け出した。
春香「プロデューサーさんのバーカ!」
おわり
7

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