キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」六冊目【後半】back

キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」六冊目【後半】


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6:
雪の女王の世界 雪の女王の宮殿
ビュオオオォォォォ……
ファサッ
雪の女王「やれやれ、出掛けたときに限って急に吹雪かれるとは……今日はついていないな」フゥ
ガチャッ
カイ「遅かったじゃねぇか女王」
雪の女王「ただいま。カイ、良い子にしていたか?」ギューッ
カイ「抱きつくな。それで?用事は済んだのかよ?」
雪の女王「ああ、いくつかのおとぎ話に顔を出してきたんだ。協力して貰うためにね」フフッ
カイ「そうかよ、ならいいけどよ…それよりあんたに客人だぜ、娘が一人。応接間に案内してやったからあとは頼む」
雪の女王「ああ、分かっている。突然彼女の気配を感じたからね…これでも急いで帰ってきたんだ」
カイ「ああ、そういやぁ、あの娘は飲み物いらねぇとか言っていたがどうする?何か持って行くか?」
雪の女王「彼女にはホットミルクを頼む、メープルシロップを多めに入れてやってくれ。私は…コーヒー以外で適当に」
カイ「ああ、後で持って行く…だから早く行ってやれ。事情はしらねぇがひどく落ち込んでたぜ」
雪の女王「そうだな、急ぐとしよう」ファサ
雪の女王「彼女が私の元に訪れるとは余程追いつめられているのだろう……早く話を聞いてやらないとな」スタスタ
497:
雪の女王の宮殿 応接間
赤ずきん「……」ボーッ
ガチャッ
ファサッ
雪の女王「フフッ、ようこそ私の宮殿へ。よく訪ねてきてくれたね赤ずきん、こんなに早くキミと再会できるとは嬉しいな」フフッ
赤ずきん「急に訪ねたりして悪かったわね……」
雪の女王「気にすることはないさ、今日はどうしたんだ?ただお茶をするために来たわけでもないのだろう?どうやら赤鬼も居ないようだしな」
赤ずきん「ええ、赤鬼は……その……今日は別行動なの」
雪の女王「そうか、それはどうやら君の目が真っ赤に腫れているのと関係があるみたいだな。聞かせて貰おうか、何があった?」
赤ずきん「私たちは【人魚姫】の世界で……どこから話したらいいかしら……」
雪の女王「全て聞かせて貰おう、ゆっくりでいいさ。そのうちカイが温かい飲み物を持ってきてくれる、少しは時間あるんだろう?落ち着いて話すといい、どんなに長い話になっても私は聞いているよ」
498:
・・・
・・

赤ずきん「それで……──私は……──だから……──」ポツポツ
雪の女王「……ふむ、なるほどな」
ガチャ
カイ「邪魔するぞ、飲み物持ってきたぜ女王」
雪の女王「ああ、すまない。折角だから紹介しておこう、彼は私が預かっている少年カイだ。彼女は赤ずきん、二人とも仲良くするようにな」
カイ「ふーん…あんたが赤ずきんか、この宮殿寒いだろ?あいつの趣味はどうかしてるからな。ほらホットミルクだ、少しは暖まるぜ」コトッ
赤ずきん「えぇ……ありがとう、カイ」
雪の女王「フフッ、どうかしているとは随分だな。それでもシャンデリアの代わりがオーロラというのはシャレているだろう?」フフッ
カイ「どーだかな?ほら女王は熱いの駄目だろ、アイスティーだ」コトッ
カイ「じゃーな、俺は書庫にいるから用事があれば呼んでくれ。気が向いたら手伝ってやるから」
ガチャッ
赤ずきん「彼が、カイ…【雪の女王】の主人公ゲルダの友達であなたがさらってきたという少年ね」
雪の女王「そうだ、今はこの宮殿で私と共に暮らしている。悪魔の鏡の破片が突き刺さっているせいで性格がねじ曲がっているが……良い子だよ、少々口は悪いがな」フフッ
499:
雪の女王「さて、それはいいとして……君が今話してくれた事が【人魚姫】の世界で起きたこと全てだと言うんだな」
赤ずきん「……ええ、話した通りよ。人魚姫との出会い、ディーヴァの存在、疑問が残る人間と人魚との確執、王子を助けたドロシー……そのあげくに私は赤鬼を傷つけてしまった……」
雪の女王「世界を取るか友人を取るか悩んだ挙げ句別の友人を傷つけてしまい、それでいたたまれなくなってここに来た……か」
赤ずきん「……」
雪の女王「私は構わないが、何故ここに来た?話を聞いて貰うのならキモオタ達の方が適任だろう?そうでなくとも裸の王やシンデレラとも親しいのだろうキミは。彼等なら私よりも優しく接してくれると思うのだが」
赤ずきん「あなたなら……私を叱ってくれると思ったの」
雪の女王「あぁ、そういう事か……」
赤ずきん「彼等ならきっと私を優しく慰めてくれる。けれど私には優しくして貰う資格なんて無いもの……」
雪の女王「フフッ、私が優しくないみたいな言い方だな?」クスクス
赤ずきん「そういう意味ではないわ、あなたには聞きたいこともあったの。ただ、今の私はきっとひどい顔をしているから…彼らに合わす顔がないというのもあるわね」
雪の女王「そうか。だがキミはもう反省しているように見える、私があえて叱責する必要もなさそうだが……」
雪の女王「それでも私が言葉にすることで君の気持ちが引き締まるというのならあえて言うが、やはり話を聞く限りではキミが悪いな」
雪の女王「キミが精神的に追いつめられていていたのは分かるがそれは赤鬼だって同じだ。それで赤鬼に八つ当たりするのはお門違いだ」
赤ずきん「そうね、その通りよ……本当にね……」
500:
雪の女王「自分の過ちに気が付いて反省している点は認める。だがそれでも吐き出した言葉は無かったことには出来ない。人間と鬼の共存を目指す彼にとってそれを否定する言葉がどれだけ胸を刺すか…キミなら想像できるな?」
赤ずきん「えぇ、きっとひどく傷つけてしまった。絶対に、絶対に口にしてはいけなかったのに」
雪の女王「それも旅を共にしている友人に言われたんだ、その衝撃は計り知れない。赤の他人に言われるよりもずっとだ」
赤ずきん「私……彼の信頼を裏切っちゃったかしら」ボソッ
雪の女王「どうだろうな…?明日会うのならばその時に謝罪の気持ちを伝えなければいけないな。以前と同じ関係でいられるかはわからないがな」
赤ずきん「ええ、必ず謝る……」
雪の女王「そうか、おそらく大丈夫だろう。彼はキミとは違って大人だ、子供の八つ当たりに傷つくことはあっても反省したキミを突き放したりはしないだろう」フフッ
赤ずきん「子供だと言われても今回ばかりは…何も言い返せないわ」
501:
雪の女王「これに懲りたら今後は注意することだ。」
赤ずきん「……許してくれるといいのだけど」
雪の女王「なんだ、随分と弱腰なのだな?【裸の王様】の世界で私に啖呵を切ったのはどこの娘だったかな?」クスクス
赤ずきん「…余りの子供っぽさに自分で呆れてしまうわ。本当に傷ついているには彼なのにね。私は落ち込んでいてはいけない、しっかりしないと…」ググッ
雪の女王「…しかし、よかったじゃないか赤ずきん」
赤ずきん「よかったって…何がかしら?」
雪の女王「赤鬼のような仲間が側にいる事がだよ。キミが熱くなったら止めてくれる、八つ当たりをすれば受け止めてくれる。キミは彼の存在に大いに救われている筈だ」
赤ずきん「そうね…彼には感謝している。鬼ヶ島でも、ドロシーに挑発されたときも私をいつも助けてくれるから。でもだからこそ…何も出来ない自分が強調されるようで…彼を妬ましく思ったこともあったわ」
赤ずきん「実を言うとね、強くて頼れる彼の側にいることがたまらなく辛いときもあったのよ。自分の弱さを見つめてしまうから……」
502:
雪の女王「フフッ、彼からしたらキミの事が羨ましくてたまらないだろうに、おかしな話だ」フフッ
赤ずきん「赤鬼が…私の何を羨ましがるのかしら?私は彼とは違って何も持っていないのに」
雪の女王「あくまで私の想像に過ぎないが……キミは人間だ、それは赤鬼がどんなに努力しても手に入らない。赤鬼が人間なら、村人に恐れられることもなかっただろう。身を隠して旅をする必要だってない…人間であることを羨ましく思うこともあったんじゃないか?」
赤ずきん「そんな事……考えたこともなかった」
雪の女王「物事は視点が変わればまるっきり違う物に見えるものさ。それは君たちが悩んでいる事でも一緒だ」
赤ずきん「視点が変われば…違うものに見える…」
雪の女王「そうだ。おとぎ話を選ぶか、人魚姫の命を選ぶかという選択…赤ずきんはおとぎ話を選んだ。それはキミが過去に自分自身のおとぎ話を失っていて、その苦しみを知っているからだ」
赤ずきん「…ええ、私も人魚姫には生きて欲しいけれどあんな苦しい思いはして欲しくない」
雪の女王「一方、赤鬼は人魚姫の命を選んだ。鬼と人魚、種族は違えども二人とも人間と共存したいという気持ちは同じ。赤鬼はきっと人魚姫の姿に自分を重ねているんだろうな」
雪の女王「人間の王子に恋をしてそれが叶った人魚姫。人間の友人を欲してそれが叶った赤鬼…難しく思えた共存への一歩を踏み出して未来に希望が見えてきた。だからこそ同じ境遇の人魚姫を幸せにしてやりたいんだろう」
赤ずきん「それじゃあ……私の選択も彼の選択もどちらも間違っていなくて、正解なんて無いって事になってしまうわよ?」
雪の女王「実際、その通りさ」
赤ずきん「……」
雪の女王「『世界を選ぶか友達を選ぶか』なんて正解の存在しない問題だ。どう感じるかは人それぞれ、正解も不正解もない…模範解答を探そうという方が間違っている」
503:
赤ずきん「……だったら私達は一体どうすればいいのかしら?いつまでも答えのない問題をただ追いかけているわけにもいかないのに……」
雪の女王「それを決めるのは君たちだ。大方、ドロシーも君たちに答えのない難問を突きつけてひっかき回したいだけだろうな」
赤ずきん「本当に嫌らしい事をする娘よ、悔しいけれど」
雪の女王「では改めて聞くが、キミの選択は変わりないのか?」
赤ずきん「えぇ……私は、それでもやっぱりおとぎ話を選ぶ。人魚姫にあんな辛い思いをさせたくない。いつまでも消えたおとぎ話に未練を残してる私のようにはしたくない」
雪の女王「なるほどな……キミはそれで平気なのか?」
赤ずきん「平気かって……どういう事かしら?」
雪の女王「おとぎ話を守ると言うことは、友人である人魚姫を失うということだぞ?」
赤ずきん「……わかっているわ。私は最善を尽くして、人魚姫がなるべく苦しまないよう悲しまないようにするつもり…楽しい思い出を作ったり人魚姫の願いを叶えたり…」
赤ずきん「そして、私が王子と人魚姫を引き離す、そうして私が彼女に恨まれても仕方ないとも思ってる」
雪の女王「それだとキミが自ら悲しい結末へ物語を進める事になるが……そのことがずっとキミにのし掛かって…その心をへし折ってしまわないか?」
赤ずきん「本当に辛いのは人魚姫だもの、それを選んだことで私が弱音を吐いてはいけないの。平気よ、耐えてみせるわ」
雪の女王「決心が固いことは良いことだが本当に耐えられるか?私にはそうは思えない」
赤ずきん「……どうして、そう思うのかしら?私が子供だから出来ないと思っているの?」
雪の女王「そうじゃない。私は以前、おとぎ話を救った事で苦しみを抱えた少年を見ている」
雪の女王「だから、キミも【人魚姫】を救うことで苦しみや悲しみを背負うんじゃないかと思っているんだ。私の可愛い家族の一人…ヘンゼルがかつてそうだったようにな」
504:
赤ずきん「それって…もしかしておとぎ話【ヘンゼルとグレーテル】の主人公?」
雪の女王「ああ、そうだ。事情があって彼はしばらく前までこの宮殿に住んでいたんだ。だがある日とある目的で宮殿を後にしたよ、妹のグレーテルと共にね」
赤ずきん「その、おとぎ話を救って…苦しむってどう言うこと?」
雪の女王「ヘンゼルとグレーテルはある日、別のおとぎ話に迷い込んでしまった。そのおとぎ話はある国の民話だ、現実世界で忘れられ始めていて今にも消えてしまいそうな状態だった」
雪の女王「そうとも知らず、ヘンゼル達はそのおとぎ話の主人公の女の子と父親と親しくなった。その女の子の家は貧しくて見知らぬ子供二人を養う余裕など無かったが、その父親はヘンゼル達を家族として向かえてくれた」
雪の女王「そして、その世界でヘンゼルがとった行動が偶然にもそのおとぎ話の消滅を防ぐことになってしまったんだ」
赤ずきん「消滅寸前のおとぎ話を…そうと知らず偶然救ってしまった。結果的に何かの代役をする形になったのかしら?」
雪の女王「その通りだ、彼の行動は些細なことだったが…それがきっかけとなった」
赤ずきん「彼は…ヘンゼルは一体何をしたというの?」
雪の女王「病気の女の子のために盗みを働いた。一掬いの米と一握りのあずき、それだけを地主の倉から盗み出したんだ」
505:
赤ずきん「そんな小さな盗みでおとぎ話が救われたというの?」
雪の女王「ああ、小さな盗みだがそのおとぎ話では重要な出来事だった。ヘンゼルの行動がきっかけとなって、消えるはずだったおとぎ話は本来の筋へと軌道修正された。そして、そのまま結末へと物語は進んでいった」
雪の女王「途方もない悲しみと理不尽な苦しみが主人公の女の子に襲いかかる、悲しい結末へとね」
赤ずきん「悲しい結末…?それじゃあヘンゼルは…」
雪の女王「悔やんでいたよ、知らなかったとはいえ自らの行動でその女の子を苦しめてしまったとね。自分を責めていた、彼女を苦しめたのは自分だと」
赤ずきん「……」
雪の女王「彼と違ってキミは事情を理解した上でおとぎ話を救うことを選択している。人魚姫を失う決断はキミにとっても苦渋の選択だったと思うが、それでもキミはそれを選んだんだ。キミなりの覚悟もあるのだろうだが…」
雪の女王「…キミは本当に耐えられるか?抱える苦しみが大きすぎて身動きがとれなくならないか?」
赤ずきん「決断した以上は私はその選択に責任を持たなければいけないわ。だから、私は耐えてみせる。耐えなければいけないのよ」
雪の女王「私は、キミが望むのなら今からでもキミの代わりを手配できる。キミの住む所もだ。それでも…こんな辛い選択を強いられても旅を続けると言うんだな?」
赤ずきん「…もちろん。それ以外の答えはないわ」
雪の女王「……いいだろう。もうこの件では私は口を出さない、キミの覚悟というものを見させて貰うことにするよ」フフッ
506:
赤ずきん「雪の女王、参考までに聞きたいのだけど…あなたならどうするの?私や赤鬼と同じ選択を強いられたら」
雪の女王「おとぎ話【人魚姫】か友人の人魚姫どちらかを選ぶ状況になったら…という事だな?これはあくまで私の視点での考えになる、参考にならないと思うが?」
赤ずきん「聞かせて頂戴、あなたは様々なおとぎ話に協力を求めてくれている。私より何倍も経験を積んでいるもの、是非聞きたいわ」
雪の女王「そうだな…結論を言えば、私はおとぎ話を救う」
赤ずきん「その理由はなんなの?」
雪の女王「簡単だ、人魚姫は泡になって消えても幸せになれる余地があるからだ。泡になった後彼女はやがて空気の精になるのだから」
赤ずきん「空気の精になることは知っているけれど……幸せになれるってどう言うこと?空気の精になってたとしても彼女は人間には見えなくなる、そんなの居ないも同然じゃないの?」
雪の女王「フフッ、子供のキミにはわからないさ」フフッ
赤ずきん「はぐらかさないで、泡になって消えるのに幸せになれるなんてそんな事、信じられないわ」
雪の女王「空気の精は人間には見ることが出来ない。そのあたりの空気に溶け込むように宙をさまようだけだ。しかし空気の精は人間が見える、彼女には周りが見える」
赤ずきん「でも、見えても…触ることも話すことも出来ないなら…意味なんかないんじゃないかしら?」
雪の女王「それでも愛する男の側にいることは出来る。例え永久に恋が叶わなくても、永遠に想いが届かなかったとしても…愛する者の笑顔をずっと近くで見ていられるならそれだけで幸せになれる……そういう恋もあるという事さ」
507:
赤ずきん「例え実体を失って空気の精になったとしても、王子の側にいられるなら幸せ…という事?」
雪の女王「ああ、そのとおりだ。人魚姫はそれに幸せを感じるだろう。それこそがアナスンが彼女に与えた救いなのだから」
赤ずきん「アナスン…?どちらにしても私にはよくわからないわね……だって言葉を交わすことも触れることすら出来ないのに…本当に人魚姫はそんなことで救われるの?」
雪の女王「わからなくて良いさ、子供のキミには大人の恋愛は少し早いからな」フフッ
赤ずきん「…そうね、でも問題ないわ。いつかは私だって知ることになるでしょうから」ムッ
雪の女王「フフッ、まぁともかくだ…これが私の選択とその理由。もっともこれはあくまで私の考えだ、正解でも不正解でもない」
赤ずきん「参考にはさせて貰うわ。人魚姫が消えてしまうまでに私は出来るだけ彼女を幸せにしてあげたいから」
雪の女王「確か彼女は種族の共存を願っているのだったな?だが人間と人魚の間には不可解な確執がある…そうだったな?」
赤ずきん「ええ、人魚は人間に襲われたと主張していて人間を恨んでいるけれど人間は人魚の存在を知らない、王子ですら知らなかったから王族が隠しているとかではないと思うのだけど…どうもこの矛盾が拭えないの」
雪の女王「そうか、私には事の顛末が想像できたがな。人魚を襲っているのが何者か」フフッ
赤ずきん「……私があなたに話した情報だけでわかったというの?」
508:
雪の女王「あくまで想像だがな。人魚は人間に襲われていると思っていること、しかし人間は人魚を知らない…その矛盾を解くことが出来れば全ての黒幕を突き止めることは簡単さ、キミにも出来る」
赤ずきん「簡単に言うけれど、あなた……」
雪の女王「人魚を襲っている黒幕が誰か…それが解れば共存の道が開けるかもしれないぞ?だったら人魚姫のためにキミが頑張らなければな」フフッ
赤ずきん「……けれど、結構考えたのよ?自然災害の可能性とか海に未知の怪物が居るとか…いろんな可能性を」
雪の女王「さっきの話ではないが、視点を変えて見ろ。それと先入観には捕らわれないこと」フフッ
赤ずきん「……」
雪の女王「さぁ、今日はもう帰った方がいい。あとは宿に戻ってゆっくりと考えてみると良いさ。赤鬼になんと言って謝るかも考えなければいけないだろう?」
雪の女王「それにあまりここに長く居ると、キミをつい凍り漬けにしてしまいそうだ」クスクス
赤ずきん「……それは嫌ね、おとなしく帰ることにするわ」スクッ
雪の女王「そうしてくれ、まだキミを飾る台座を造っていないんだ」フフッ
赤ずきん「あら、それなら作らない方がいいわよ。作っても無駄になるんだから」
雪の女王「フフッ、また来ると良い。次はキミ好みのうんと苦いコーヒーをご馳走するよ」
赤ずきん「それは楽しみね。それじゃあ私は帰る。それと、雪の女王……ありがとう」
雪の女王「ああ、相談事程度ならいつだって受けてやるさ。そのかわりしっかりとやっている姿を見せてくれよ?私がキミから旅を取り上げなくても良いようにな」クスクス
509:
雪の女王の宮殿 女王の間
雪の女王「……いつになったらこの騒ぎは収まるのだろうか」フゥ
雪の女王「こんな騒ぎが起きているせいで彼女のような子供が友人を失う事を選択しなければいけない状況になっている。狂っているとしか思えない。子供達はもっと自由に暮らしても良いはずだ…」
雪の女王「そうだろう、アナスン…?」ボソッ
雪の女王「おとぎ話は子供達を苦しめるために存在するものじゃないのだからな……」
コンコンッ
???「女王様ー!ただいま戻りました!入ってよろしいか!?」
雪の女王「ああ、キミか…入って構わないぞ」
ガチャッ
白鳥「デンマークの美しき翼!この白鳥、ただいま任務を終えて帰還しましたー!」スワーン
510:
雪の女王「相変わらず賑やかだなキミは」クスクス
白鳥「えっ!?やめてくださいよ女王様!『相変わらず美しい翼だなキミは』とか言うのは!当然ですからね、僕が美しいのは!なんたって白鳥ですから!ンナハハハッ!」スワーン
雪の女王「フフッ、それは失礼したな。それで、有事の際に協力して貰えるよう別のおとぎ話に向かって貰ったが…どうだったんだ?協力は得られそうか」
白鳥「バッチリでした!【金太郎】の金太郎さんと【ジャックと豆の木】のジャック君、それと【卑怯なコウモリ】の鳥類一派に協力をお願いして約束してくれました」
雪の女王「成果は上々だな、やはりキミの美しさのおかげか?」クスクス
白鳥「でしょうね!それはそうでしょうね!僕は白鳥ですからね!」スワーン
ブスリッ
白鳥「痛っ!美しい僕に針を突き立てるとか…どういうつもりだよ!?」
???「黙れ。貴様の手柄にしようとするからだ、殆ど私が交渉しただろう。貴様はただ軽口を叩いていただけだ」
雪の女王「あぁ、キミも一緒だな。お疲れさま」フフッ
親指姫「はい、この親指姫。女王様からの任務、一生懸命遂行いたしました。騎士道に恥じぬように!」ニコニコ
511:
白鳥「女王様の前だと良い子ぶるんだもんなー、縫い針振り回してるだけのどこが騎士道だよ。一寸なんとかっていう奴に憧れてるんだかなんだか知らないけどさー」ブツブツ
親指姫「黙れ!騎士である私を侮辱するならば、この場で八つ裂きにしてくれるっ!」ブスリブスリッ
白鳥「おいやめろ!あんまり刺すと血で羽根が染まっちゃうだろ!僕のチャームポイントは美しい白さなんだよ!チャームポイントは美しい白さなんだよ!」
親指姫「二回言うな!私だけならいざ知れず、一寸法師様まで馬鹿にするとは…!恥を知れ、このアヒル!ナルシスト鳥類!」ブスリブスリッ
白鳥「言ったな!僕は正真正銘の白鳥だ!このエセ女騎士め!このままじゃピンクになっちゃうだろ!……あれっ?ピンクでも僕いけるんじゃね?女王様!ピンクでも美しいかな?どう?」
親指姫「クソッ…ポジティブな馬鹿は相手にしてられない……っ!」クッ
雪の女王「フフッ、君たちにお願いして正解だったよ。しばらくはゆっくり休んでくれ。そして、その後に行って欲しいところがある。頼めるか?」
白鳥「まっかせてください!僕がひとっ飛びいってきますよ!この美しき翼で!」スワーン
親指姫「はいっ!小さくとも女王様のお役には立ちます、なんだって申しつけてください!」
雪の女王「私は少し野暮用がある、だから君たちにはある人物に挨拶をしてきて欲しいんだ、この女王の代理としてね」
雪の女王「キモオタという現実世界の男の所だ。頼めるね?」フフッ
540:
人魚姫の世界 宿屋
赤ずきん「もう、十分泣いた。反省もした。落ち込むのはもうおしまい…」スクッ
赤ずきん「私達は前に進まなければいけないもの。雪の女王に話を聞いて貰ったおかげで少しは落ち着いて考えられそう…しっかりしないと」ペチンペチン
赤ずきん「明日には赤鬼に会うんだから今日しっかりと考えなければね、時間はあるように見えるけれど…もたもたはしていられないわ」
赤ずきん「まずは…状況の整理をすべきね。メモに書き出すと……」カキカキ
・ドロシーの干渉で【人魚姫】が消滅の危機
・私の主張は代わらず、おとぎ話を救うこと
・そのためには人魚姫は泡にならざるを得ない
・しかし、赤鬼は(私も可能なら) 人魚姫を救いたい
・私が赤鬼を傷つけたことをちゃんと謝る
赤ずきん「それに加えて…雪の女王の言っていたこれね」
・人魚と人間の確執。人魚を襲ったのは誰か?(雪の女王は犯人が分かった?)
赤ずきん「…うん、こんなところね。これについて…女王が言っていたように違う視点から洗い出してみましょう」
541:
赤ずきん「……」ウーン
赤ずきん「……おとぎ話を救った上で人魚姫を救う方法、私と赤鬼の意見を両立するためには代役を立てるしかないけれど…それで人魚姫以外の誰かを泡にして消すのは間違っているし、赤鬼も納得しないでしょうね」
赤ずきん「かといって他に方法も思いつかない…それならまずは答えが出せそうなことから考えてみようかしら」
赤ずきん「確か…雪の女王は人魚を襲った犯人が解ったと言っていたわね。あくまで想像だとは言っていたけれど…私ももう一度よく考えてみましょうか」カキカキ
赤ずきん「視点を変えて…よく考える…あり得る可能性は…」ウーン
・人間が襲った
・人間以外の種族が襲った
・事故や災害
・海獣に襲われた
赤ずきん「人間が犯人という線はやっぱり無いでしょうね、王子も町の人も人魚の存在を知らなかった。隠している風でもない…」
赤ずきん「人間以外の種族の可能性もない、あの旅人がそう言っていたことと…それに鬼の存在を人魚は知らなかった。もし鬼や他の種族が居るのなら人間にしか効果がない歌意外にも戦う術を持つはずだものね」
赤ずきん「海難事故はその存在を知らずに長い間一定数の人魚が被害に遭っている理由が説明できないし…海獣はもっと無いわね、海に詳しい人魚が存在を知らないなんて…」
赤ずきん「…やっぱり、どれも矛盾がある。理由としては……決め手がないわね」
542:
赤ずきん「……」
赤ずきん「女王のアドバイスの通り……視点を変えて逆に見てみようかしら、誰が襲ったとしても矛盾がありそうなら逆に人魚を襲っても矛盾がない人物を考えてみるとか……」
赤ずきん「そう、例えば…人間以外で人魚の存在を知っていて、なおかつ海中の人魚を襲える力や技術を持っていて、人魚を襲うことで何か利益がある者……」
赤ずきん「そんな都合のいい人物が居るわけ……」
──みんな人間を恨んでるから人魚同士の争いなんて滅多にないしさ
──人間という共通の『敵』がいるから団結できるというわけか
赤ずきん「……っ!」
赤ずきん「……居るじゃない、人間以外で人魚を知ってて人魚を捕まえることが出来る種族…!利益がある人物が…!」バッ
赤ずきん「もしこの想像が正しければ…きっとそいつは早い段階でこの町に何らかの行動をとる……もしもそいつがこの町に来たら……」
赤ずきん「そうなると人魚姫が危ないわ…王子や町の人たちも…!対策を…手を打たないと…!」ガタッ
544:
赤ずきんが雪の女王の宮殿に訪れる少し前
海底 珊瑚で出来た王宮
ザワザワ ザワザワ
人魚王「……騒がしい、実に騒がしいな。そう思わぬか?」
髪の美しい人魚「……はい、お父様」ビクビク
人魚王「無理もあるまい。ディーヴァが任務をしくじり多くの人間を逃がすなど前代未聞。それもディーヴァとして強大な力を持つ妹に妨害されてな、そのうえアレは行方を眩ましているときた」
人魚王「妹に出し抜かれ、管理も出来ず逃がしてしまう……貴様はどういうつもりだ?私の足を引っ張る奴は必要ない、違うか?」ギロリ
髪の美しい人魚「……(お父様、相当苛立ってらっしゃるみたい) 」ビクビク
人魚王「私が欲するのは静かな海底の世界。このような騒ぎは望んでいない、任務をしくじるような役立たずを私は欲してはおらん。解るな?」グイッ
545:
髪の美しい人魚「……うぐっ、苦しいです…お父様…!」ウググッ
ガゴッ
髪の美しい人魚「……ゲホッ!ゲホゲホ……」ドサッ
人魚王「貴様は…アレの能力を理解しているのか?アレの歌声は人間を眠らせるなどと言う貴様の半端な能力とは段違い」グイッ
人魚王「アレの歌声があれば私は人間共を支配することも可能だ」
人魚王「人間共を支配するべく神がアレに与えた歌声…いや、支配者たる私に与えられた世界の全てを統べる為の…私に必要な道具だというのに…!」ギリッ
髪の美しい人魚「確かにあの子の行動は許せません…ですが道具だなんてそんな言い方をなさらなくとも…!人魚姫はお父様の大切な娘では…」
人魚王「大切だとも。だが生物としてのアレに興味はない。アレは選ばれし私が手にした、最も優れた対人兵器だ」ギロッ
髪の美しい人魚「……っ!」ゾワッ
546:
人魚王「だというのに、みすみすアレを逃がすとは……貴様のような役立たずが血縁であることを汚らわしくすら感じるわ!」ビュオッ
ゴスッ
髪の美しい人魚「ガッ……!ゲホゲホゲホッ…!」ボタボタ…
執事魚「姫様!血が出てるじゃないですか…!こ、国王様!姫様も反省しておられます!どうか、どうか!このあたりで勘弁していただけませんか!?」
人魚王「ならん。国家の有力兵器を紛失したこいつの罪は本来処刑に値する。だがこいつが姫だからという理由で部下共が『慈悲を』などと抜かす…故に、私が直々に罰則を与えているだけだ」バシッ
髪の美しい人魚「……ゼェゼェ、執事よ……問題ありません…これは私の罪……」ボタボタ…
執事魚「しかし、もう見ていられません…姫様!」
人魚兵「国王様!お話中失礼いたします」スィー
人魚王「騒がしい……アレは見つかったのか?」
人魚兵「いえ、人魚姫様はまだ…あたりの海域全てを捜索いたしましたが依然行方不明のままでして…」
人魚王「……私はそのような報告は望まぬ。下らぬ事で時間を取らすな、アレを捕らえたことのみ報告せよ」ギロリ
人魚兵「し、失礼いたしましたっ!」
──クックックッ スゥー
海底の魔女「クックック、失礼するよ?」クックック
執事魚「と、突然人魚が…一体どこから!」
人魚王「…何者だ、貴様は?」スッ
海底の魔女「噂に違わぬ苛烈ぶりよ、お主が国王だな?」クックック
547:
海底の魔女「苛烈は苛烈。だが国は至って平和…人間を憎んでいる種族だ、取りまとめる者が厳しいくらいがちょうどいいのかもしれないねぇ」クックックッ
人魚王「貴様、海底に住むという魔女か…目的は何だ?いや、だいたい察しは付くがな…魔女などという者は自らの利益のためにしか動かんと相場が決まっている」フン
海底の魔女「いいのかい邪険に扱っても?私は海底のことなら何でも知っているんだ、襲われた人魚…それが誰の仕業なのかもね」クックック
人魚王「人魚殺しは人間共の仕業だ。まさかそのような分かり切ったことをわざわざ言いに来たわけではあるまい?」
海底の魔女「まぁよい、お前達は人魚姫を探しているのだろう?だがお前達が見当違いな捜索をしているようだったからな。一つ助言をしてやろうというわけさ」
人魚兵「なっ…見当違い!?我々は近隣の海域をくまなく…!」
海底の魔女「駄目だそれでは永久に見つからん、人魚姫だってお前達に捕まらないように必死なんだ。逃げるのならお前達が追えない場所へ逃げるさ…例えば海の外とかねぇ」クスクス
人魚王「……貴様、まさかアレを陸に逃がしたのではあるまいな…?」
執事魚「えぇっ!?で、でもですよ!?人魚は陸には上がれませんよ?陸に逃げるなんて…」
人魚王「たわけが、こいつは魔女……アレを陸に逃がすなど容易いだろう」
海底の魔女「そうさ、私はこの海一番の魔女だ。人魚を人間にするなんて容易いこと。今頃陸地の城にでも居るだろうさ」クスクスクス
人魚王「……なるほどな、この卑しい魔女は自ら人魚姫を陸へ逃がした…その上でそれを捕らえる術を我々に与えるつもりだ。膨大な代償と引き替えにな」
548:
海底の魔女「流石、察しがいいねぇ」クスクス
人魚王「言ってみろ、私にどれくらいふっかけるつもりだ?貴様は何が狙いだ?」
海底の魔女「特に狙いなんてないさね、だが相手は国王だからな素敵な宝物の数々を期待している。さて、お前は対価に何を支払えるんだ?」
人魚王「アレは我が国に必要だ、連れ戻す為なら金に糸目はつけぬ」
海底の魔女「そりゃあ豪気だね。だがあの娘はもう歌は歌えない、願いの代償としてその声を私に渡したからねぇ。あの娘を取り返してもこの歌声がなきゃあ意味がないだろう?」
人魚王「なんと愚かな選択を…アレは自らの歌声を捨てたというのか!ならばアレを奪還したうえで貴様から声を取り戻さねばならんではないか…!」ギリッ
海底の魔女「その通り。今、この声の所有者は私だ。譲るのは構わんが安くはないぞ?」クスクス
人魚王「……足元をみる奴だ、いいだろう。宝物庫にある宝は全てやる、それでその声を貰う。そして…出来るだけの兵と私に足を与えろ」
人魚王「自在に陸を駆ける事が出来る足をな」
549:
人魚王「だが人間になるなど御免だ。我々は事をなしたら人魚に戻る、足を得るのは一時的で構わん」
海底の魔女「いいだろう、時間がたてば効果が消えるようにしてやる。交渉成立だ」ニヤリ
人魚王「アレの奪還は明日の早朝、襲撃の直前に魔法をかけろ。ちょうど良い、そのままあの町を襲撃し私の支配下に置く。アレを取り戻すまでは貴様が歌え。眠らせるしかできない屑のような歌声でも足しにはなるだろう」
執事魚「お、恐れながら……姫様はこのようなお怪我をされているのに、無理ですよ!」
髪の美しい人魚「いいえ、大丈夫……私は行きます」ヨロッ
人魚王「私はもはや貴様に期待はしておらん、だが最低限の仕事だけはしろ。いいな?」
人魚王「それよりも問題はアレの方だ…連れ戻したら厳しく拘束せねばな。今まで自由にしていたのが間違いだったのだ。人魚に戻した後は尾ビレに金属の重しでも打ち込み、鎖で縛って拘束する。アレを歌うだけの兵器にするのだ」
人魚王「道具は所有者が管理するものだ、それがあるべき姿なのだからな」
髪の美しい人魚「……」
人魚王「兵達を集めよ。アレの奪還に加え、我ら人魚が人間を駆逐し住処を奪う良い機会だ。この機を逃すわけにはいかぬ」
海底の魔女「では国王、詳しい話をしようではないか。どのような宝があるかまず見せて貰いたい」クックック
スゥー
髪の美しい人魚「……」
550:
・・・
髪の美しい人魚「……明日の夜明けと共にお父様と軍隊は陸地の人間へ奇襲をかける。私も人間を眠らせる役目を担って同行するので、留守はあなたに任せます」
執事魚「はい…でも国王様は人間の住処を奪うと言ってました、これを機会に陸地へ領土を拡大するおつもりでしょうか」
髪の美しい人魚「わかりません……ただ一つ確実なのは、人魚姫が……私の妹が危機に晒されるという事です」
髪の美しい人魚「あの子の言うとおりでした、お父様はディーヴァを兵器としてしか見ていないのかも知れません。そうでなければ尾ビレに重し打ち込むなど考えないですからね……そんな姿の妹を私は見たくありません」
執事魚「……国王様の振る舞いは、国にため姫様方のためと思っていましたが……」
髪の美しい人魚「私もそう信じていましたが……いいえ、過ぎたことを悔やんでも仕方がありません。そこで、あなたに頼みたいことがあります」
執事魚「はい、姫様の頼みであれば何でも」
髪の美しい人魚「人魚姫に会う機会を作って欲しいのです。私はあの魔女に人魚姫を人魚に戻す方法を聞いてみます、あの子が自発的に人魚へと戻りきちんと謝罪すればお父様の怒りも少しは収まるでしょう。多少の慈悲はいただけるはずです」
執事魚「…解りました、難しいかもしれないですが空を飛ぶカモメにでも伝言をお願いしてみます」
髪の美しい人魚「お願いします。あの子には手を焼き、何度も言い争いになってしまいましたが…それでも私の妹です」
髪の美しい人魚「明日の夜明けまでにあの子に危機を知らせなければ…人魚へ戻ってお父様の許しを得なければ…あの子は一生を兵器として扱われることに……」
・・・
551:
人魚姫の世界 海岸
ザザーン ザザーン
赤鬼「……」
鬼神『グワッハッハッハ!ガーッハッハッハ!』
赤鬼「……」
鬼神『クハハ!滑稽!アマリニ滑稽!笑イガトマラヌワ!グワッハッハッハ!』
赤鬼「おい、鬼神。何がそんなにおかしいかしらねぇが少し黙っていてくれ、オイラは今集中して考えているところなんだ。どうするのが人魚姫の為か」
鬼神『クックック!笑ウシカナカロウ!アノ頭巾ノ娘ハナントイッタ?人間ト鬼ハワカリアエヌ!ソウ言ッタノダ!』クックック
鬼神「アマリニ哀レ!貴様ハ人間トノ共存ナドクダラナイ夢ヲモッテイタガ、ソレヲ否定サレテイルデハナイカ!貴様ガ信ジル仲間トヤラニナ!」グハハ
赤鬼「あれは本心じゃないだろう。大人ぶっていてもあいつはまだ子供なんだ、感情的になってつい口に出しただけだ。オイラはあんなの気にしちゃいねぇよ、驚きはしたがな」
鬼神『ソコガ青二才ダトイウノダ、思ッテイナイコトガ口ヲツクカ?スクナクトモアノ娘ハ普段カラソウ思ッテイタノダ。貴様ハ裏切ラレタノダ!』
552:
赤鬼「考えが極端すぎねぇか?そりゃあまぁ、あいつはドロシーに初めて会ってから強さにやたら固執していたからな…オイラのような鬼を羨むこともあったかも知れねぇ、腕力の部分ではな」
赤鬼「あいつは人間の少女、オイラは鬼の男だ。身体能力に差がでるのは当然だ…まぁ、それはあいつも解っていただろうが…」
赤鬼「鬼ヶ島で足を潰されたこと、ドロシーの策に為す術がないこと…自分の弱さを痛感しているところに自分より強い奴に『お前は強いよ』なんて言われたらそりゃあな…オイラも軽率だったんだよ」
鬼神『デハナニカ?貴様ハアノ娘ヲ許スト?アノヨウナ事ヲイワレナガラカ?』
赤鬼「許すもなにも怒っちゃ居ないぞ?オイラも配慮が足りなかったな、とは思うが」
鬼神『貴様、甘イ性格モ大概ニセヨ!ドノヨウナリユウガアレドモ、アヤツハ貴様ヲ裏切ッタノダゾ…!』
赤鬼「だから別に裏切ってねぇだろうが、無理してまで自分を大人に見せようとするあいつが泣きながらわめくなんて相当だぞ?それだけ精神に来てたんだよ」
赤鬼「察してやるのが大人ってもんだ、だからあいつを一人にしたんだ、このまま話しても変に気を使ってしまうだろうからな」
赤鬼「あいつには頭巾がある、今頃キモオタ達にでも相談して……いや、あいつはキモオタに弱みを見せるのを嫌うからな。シンデレラあたりに相談でもしてるさ。明日になれば落ち着いているだろう」
鬼神『アキレテ物ガ言エヌワ…』
赤鬼「何だ?お前、やたら突っかかってるが…オイラを心配してくれんのか?」ガハハ
鬼神『戯レ言ヲヌカスナ…!アヤツガワカリアエヌト言葉ニシタコトハ事実ダロウ!我ハ貴様ノメヲサマサセテヤロウトダナ…』
553:
赤鬼「そりゃあ種族の違いは事実なんだ、受け入れがたいことや分かり合えにくいことはあるだろう。オイラが熊肉を生で食ったときあいつは明らかに冷めた視線を送ってきたからな」ガハハ
赤鬼「まぁ、あいつには言ってないが…オイラもあいつの寝起きと寝相の悪さには辟易してるんだ。オイラは何度ベッドから落ちたあいつを元に戻すんだって話だろう?」
鬼神『…ナラバ共存ナドアキラメテシマエバヨイ、ワカリアエヌノナラバ無理ヲスルヒツヨウナドナカロウ』
赤鬼「まぁ、でもなぁ、それでもあいつはオイラの食生活に口出ししねぇだろう?それにオイラも黙ってあいつに布団をかぶせるさ。そりゃあお互いが全て理解し合えたら一番良いかも知れねぇが……」
赤鬼「なにもかも全部理解できねぇと仲間じゃねぇのか?オイラはそうは思わないぞ。多少理解しがたいところがあっても良いじゃねぇか、大事なところが解り合えていたらそれでいいだろ」ガハハ
鬼神『……フンッ、クダラヌ。人間ハ敵ナノダ、折角貴様ガ共存ナドアキラメテ我ニ協力スルトオモッタノダガナ』
赤鬼「そりゃあ残念だったな、オイラは諦めちゃいねぇよ。あいつとの旅だって続けるさ、もちろんお前ともな」
鬼神『……フン、モウイイ。無駄ナアガキヲツヅケロ、ソレガ貴様ニハオニアイダ』
554:
赤鬼「それにしても…人魚姫、どうしたらあいつが幸せになれるんだろうな」
鬼神『……』
赤鬼「思ってもいなかったが、赤ずきんの体験を聞くと確かに別世界で暮らすのも辛いかも知れねぇよな、とはいってこのままってのも可哀想だろう。そうだろう?」
鬼神『我二トイカケルナ、我ノシッタコトデハナイ』
赤鬼「そうかも知れねぇが、オイラと赤ずきんだけじゃ答えが出そうにねぇんだ。お前の意見が参考になればと思ったんだがな」ガハハ
鬼神『……』
赤鬼「明日、とは言ったがな…オイラも答えをまとめるのに苦労しそうだぞこりゃあ…おとぎ話か人魚姫か…むぅ…」グヌヌ
鬼神『……貴様等ガドレダケナヤモウト、ソレハ他人事ニスギヌ』
赤鬼「どういうことだ?オイラ達と人魚姫は友達だ、他人なんかじゃ…」
鬼神『貴様、ソモソモ死トハナンダ…?肉体ガクチルコトカ?物ヲ考エラレナクナルコトカ?ソシテ…幸セトハ?不孝トハナンダ?答エテミヨ』
赤鬼「そりゃあお前…一言じゃあ言えねぇけど……」
鬼神『青二才ニハワカラヌダロウ…ソレラノコタエガデヌノナラ、人魚ノ娘ノ幸セナドトウテイ無理ダ』
赤鬼「おい、それってどういう…」
鬼神『……貴様ガ考エヨ。ドウヤラ貴様二客ノヨウダカラナ』フン
ザバザバ
赤鬼「……あいつは」
ザバザバ
執事魚「ハァハァ…あ、あなたはあの時の……!」ボロボロ
赤鬼「人魚姫の姉の使いの魚…!なんでここにきた…!」
執事魚「……こんな事頼めた義理ではないですが、私の話を聞いて欲しいのです!姫様の願いなんです、どうか人魚姫様に伝えてください!」
執事魚「姫様…姉上様が人魚姫様に会いたがっていると…!」
579:
赤鬼「人魚姫の姉が……あいつに会いたがってるだと?」
執事魚「はい、海底は今大騒ぎでして…どうにか姉上様の想いを人魚姫様へ伝えたいのですが他に頼める方が居ないのです!」
執事魚「カモメ達に伝言を頼もうにも相手にして貰えず……そこで人間ではないあなたを思い出して…わずかな可能性にかけて海岸を探してまわっていたんです!一度あなたを殺そうとした私にはこんな事をお願いする資格などないのですが…どうか、どうか!」ペコペコ
鬼神『…オイ青二才。ワカッテイルダロウナ?コヤツハ先日、我々ヲ亡キ者ニシヨウトシタノダゾ。ヨモヤ信用シヨウナドト考エテハオランナ?』
赤鬼「詳しく話を聞かせてくれ。だが…人魚姫はお前達海底の奴らから逃れるために陸へ上がったんだ。だからあいつに伝えるかどうかは話を聞いてから決める、それでもいいな?」
鬼神『……貴様ッ』ギリッ
赤鬼「…それは向こうも承知の上だろう、それでもオイラ達に頼らないといけないほど切羽詰まってんだ。他意はないんじゃないか」ボソッ
鬼神『……ドコマデモ甘イヤツメ』チッ
執事魚「はい…!実は人魚姫様が失踪されて海底は大騒ぎでして、特に海底の王である人魚王様が…」
・・・
・・

580:
・・・
執事魚「……と言うわけです。今お話ししたように、人魚王様は激昂されて、人魚姫様を連れ戻すためにこの町に攻め込むとおっしゃっています」
赤鬼「なんでだ……お前等は何故人魚姫の好きにさせてやらねぇんだ…!兵器にするためだと言ったが、あいつは物じゃねぇんだぞ!?ふざけてやがる!」グッ
執事魚「……」
赤鬼「……あいつが持つ人間を操る歌声が必要だから、そこまでしてあいつを連れ戻しに来るのか?お前達は…!」ギリッ
執事魚「に、人魚王様のお考えはそのようです。でもそれはディーヴァとしての能力を評価しての行動です。ですが、姫様は…姉上様は違います!」
執事魚「このままでは人魚姫様は人魚王様に拘束されてしまいます。そうならないよう…少しでも人魚王様の怒りを静めるため人魚姫様に人魚に戻って欲しいとお考えなんです!」
赤鬼「例え人魚になったとしても、あいつはもう陸には上がれねぇんだ。最悪な事態は逃れられたとしても、あいつは幸せにはなれねぇ。違うか?」
執事魚「それは……」
赤鬼「……」
執事魚「どうか、人魚姫様にお話だけでもお伝えしてもらえませんか…」
赤鬼「……」
赤鬼「海底の奴らが町を襲うってのはあいつにも教えておかねぇといけねぇ…一応、あいつの耳には入れておく」
執事魚「ありがとうございます!私は一時間ほど後に姫様ともう一度ここに来ます。もしも、会っていただけるのでしたらここへ……」
赤鬼「伝えるだけは伝えておく…。あいつが会うというなら連れてくるが拒否するならオイラもここには来ない。それでいいか?」スクッ
執事魚「は、はい!ありがとうございます…!」
581:
城 客室(人魚姫の部屋)
赤鬼(海底の奴らは…人魚の王は兵器として人魚姫を必要としている。戻れば王に拘束されて完全に兵器として扱われると執事魚は言っていた)
赤鬼(執事魚の言葉を信用するなら、人魚姫の姉は…あいつを人魚に戻すことで王の怒りを静めようという腹だ…それで人魚姫が受ける罰が少しでも軽くなればと言うことらしい)
赤鬼(しかし、いくら罰が軽減されても…海底に戻ったところでどう転んでもあいつが幸せになれる未来は無いだろう)
赤鬼(ただでさえ、ドロシーの干渉でこのままだとおとぎ話か人魚姫を失うってのに…いや、愚痴をこぼしても仕方ねぇ)
赤鬼(海底の軍が攻めいれば町が危ない…なにかしらの手をうたねぇとな…)
コンコンッ
赤鬼「人魚姫。赤鬼だ、遅い時間にすまんが話がある。入っても構わないか?」
人魚姫『あっ、赤鬼?オッケー、今ちょー暇だったんだよねー。ちょうど良かったし』ヘラヘラ
ガチャッ
赤鬼「邪魔するぞ。一人か…王子は一緒じゃないのか?」
人魚姫『事故の原因や船の不備探し?そーゆうので忙しいみたいなんだよねー…夕飯は一緒に食べたんだけどさ、それからすぐに仕事に行ったし。そんであたしはマジで暇すぎてアクセ作ってたんだけどね』ヘラヘラ
赤鬼「忙しいんだな王子は…なかなか個人的なことに時間を割くこともできないか」
582:
人魚姫『つーか赤鬼はどうしたわけ?なんか話があるって言ってたけどさ、急ぐ話?』
赤鬼「……実はな、さっき海岸でお前の姉の使いに会ったんだ」
人魚姫『あー、よく赤鬼に姿を見せられたねあいつ。どーせあたしのこと探してたんでしょ?それで、どーしたの?』
赤鬼「そいつが言うにはお前の姉がお前に会いたいと言っているらしい。だから連れてきてくれないかと、そう言われた」
人魚姫『姉ちゃんかぁ…まぁ、確かに黙って出て来ちゃったけどさー、でもどうせ私のこと説教するつもりなんでしょ?会うのはちょっとなー』
赤鬼「聞くところによると海底ではお前の父親がさぞかし怒っているようだ、お前が姿を消したことにな」
人魚姫『まーそうだろね、あいつにとってあたしの歌声は大切な兵器だから、娘が消えた事じゃなくて兵器を失ったことに怒ってるんでしょ。ザマーミロっての、もうあいつの大切な兵器は無い!あたしはもう歌えないかんね!』ヘラヘラ
赤鬼「だがなぁ…どうやら、お前の父親は諦めていないみたいだぞ」
人魚姫『は?どう言うこと?』
赤鬼「人魚王は…お前を取り戻すためにこの町を襲うつもりらしい」
人魚姫『はっ…?なにそれ……!!この町を…なんで!?』バンッ
583:
赤鬼「執事魚の話だと人魚の王は海底の魔女に依頼して一時的に兵士達を人間化するつもりらしい。それにどうやらお前の声も宝物と引き替えに手に入れたようなんだ」
赤鬼「あとはお前を連れ戻せばいいという状態みてぇだな」
人魚姫『……あの魔女!あたしを助けたりあいつに声を渡したりどっちの味方だっての!』イライラ
赤鬼「おそらくどっちでもねぇんだろう、お前と契約して声が貰えるならお前を助けるし国王と契約して宝物が手にはいるならお前の声は手放す、あの魔女にとっちゃあ魔法は自分が利益を得るための道具に過ぎねぇんだろう」
赤鬼「魔女にもいろいろいるんだ。貧しい娘に善意で魔法をかける魔女もいれば、利益優先で魔法を売り物にする魔女もいる。だが今重要なのは魔女がどうあるべきかじゃねぇ…人魚の軍が攻めてくるのを黙ってみていられねぇぞって事だ」
人魚姫『当たり前っしょ!この町を攻めるとか……絶対にそんなことさせない、絶対止めるに決まってんだから!』
赤鬼「そうだな。だが、どうする…?宿に行ったが赤ずきんはどっか行っちまってる。オイラからあいつに連絡する方法がねぇからとりあえずは共通の友人に伝言を頼んで置いたが…オイラと赤ずきんだけじゃあ対応しきれるかどうか…軍の規模もわからねぇんだ」
人魚姫『軍の規模自体は赤鬼達じゃ倒しきれないほど大きいけど、すべての兵士を陸へ派遣するなんてできないと思うんだよねー…でもあたしにもどれくらいの兵士が攻めてくるかわかんない、でも……』
人魚姫『でも、王子には協力を頼めない。人魚の軍が攻めてくるなんてそんな事言えないっしょ、人魚と人間の関係悪くなるじゃん』
赤鬼「それはそうだが……ならどうするつもりだ?」
人魚姫『少しでも向こうの情報を掴んでやろう、だからあたしが姉ちゃんに会って情報を聞き出す。そんで親父達は町に入らせない、海岸で食い止めて…失敗させる!それしかないでしょ!』
赤鬼「そうだな…どの道、オイラ達だけで食い止めるしかねぇんだ。時間は無ぇ、しっかり準備して迎え撃たねぇとな」
人魚姫『うん、襲撃計画なんて無かったことにしてやんだから!』
584:
一時間後 海岸
ザザーン ザザーン
人魚姫『担いでくれてサンキューね。ここでいいよ、降ろしてくれる?』
赤鬼「おう、わかった。執事魚が言うにはここにお前の姉を連れてくるという事だったが…」トサッ
ザバザバ
執事魚「あぁ、人魚姫様…!お待ちしてました!お姉さまは大変心配なさって…なんと変わり果てたお姿に…!」
人魚姫『っていうかさ、姉ちゃんは?あたしは姉ちゃんと話すためにここにきたんだけど?』
ザバァ
髪の短い人魚「…本当に人間の姿になってしまったのね、人魚姫」フラフラ
人魚姫『姉ちゃん…!何それ…そんなにアザだらけで…全身キズだらけで…それでここまで泳いできたの!?それにその髪……!』
髪の短い人魚「魔女の言うとおりなのね。あなたは声を差し出した。、私にはあなたの言葉が届かない。なんて事を…そこまでして人間になりたかったなんて……でも、今の私にはあなたを責める事なんて出来ないわ」
人魚姫『赤鬼!お願い…!』バッ
赤鬼「ああ。なぁ、聞かせてくれるか?お前の執事の話だと人魚の王が町を襲うつもりらしいが…」
髪の短い人魚「あなたには人魚姫の言葉が届くのね……いいわ、答えましょう。お父様は夜明けにこの海岸から陸へと上がり町を襲う計画を立てています」
585:
髪の短い人魚「目的は…人魚姫の奪還」
赤鬼「人魚の王は人魚姫の声を手に入れたんだったな、あとはこいつが居れば……」
人魚姫『あたしという兵器が取り戻せるってことね。あたしを連れ戻すために関係ない人間まで攻撃するつもりとか……マジ最悪だよあの親父!』イライラ
髪の短い人魚「お父様ははっきりと口にされました…人魚姫は兵器であると。人魚姫は以前、お父様はディーヴァの事を兵器としてしか見ていないと言っていましたが、その通りだったのです」
髪の短い人魚「それなのに私はあなたを咎め…国民を守るという立派な使命の裏に隠されたお父様の真意に気が付けなかった…今更こんなことを言っても仕方ないけれど…」
人魚姫『本当だよ……もっと早くあいつの真意に気付けたら姉ちゃんはそんなキズだらけにならなくてもよかったんじゃん!人間を殺す事だって…!』
髪の短い人魚「どちらにしてもこのままではあなたはお父様に連れ戻される。そうすればもうお父様はあなたを自由にはしません、人魚に戻して尾ビレに重しを打ち込み、兵器として扱うと仰ってましたから…それはあまりに不憫です。ですから捕まる前に自ら戻るんです、海底へと」
赤鬼「尾ビレに重し…オイラ達で言うなら足枷をはめられるようなもんか。なんで実の娘にそんな事を……!」
人魚姫『あたしは戻らない……折角来てくれた姉ちゃんには悪いけど絶対に戻るつもりは……!』フルフル
髪の短い人魚「もしかしたら…人魚姫がきちんとお父様に謝れば、そこまでの罰は受けなくても良いかも知れません。そこで…これをあなたに受け取って欲しいの」カチャッ
人魚姫『なにこれ、短剣…?』
586:
髪の短い人魚「解魔の短剣。生物にかけられた魔法を解く事が出来る魔法具です」
人魚姫『ちょ、ちょっと待ってよ!これどうしたの!?こんなの王宮には無かった筈じゃん!もしかして姉ちゃんの髪が短いのって…!』
赤鬼「魔女に譲ってもらったんだな?お前の長かった髪の毛と引き替えに」
髪の短い人魚「察しがいいのね。この解魔の短剣は私の髪の毛と引き替えに魔女から手に入れたものです。私があなたに姉として出来ることはもうこれだけしかないのよ」
人魚姫『なんで!?子供の時言ってたじゃん!長くて綺麗な髪の毛は姉ちゃんの自慢だったんでしょ!?それを手放してまで…!』
髪の短い人魚「人魚姫、これであなたにかけられた魔法を……人間になる魔法を解きなさい。そして人魚に戻り、お父様に謝罪すれば多少の温情は頂けるはずです…」
赤鬼「待ってくれ、この短剣…使うには更に犠牲が必要なんじゃねぇか?」
髪の短い人魚「…解魔の短剣は魔力を分解する作用を血液に与える事で効果を表すと魔女が言っていました、ただしその血液は解魔の対象となる人物が強い想いを感じている者の血液であることが条件」
人魚姫『えっと…?ねぇ、赤鬼どーいう事?よくわかんないんだけど』
赤鬼「つまりだな……魔法を解くにはそいつにとって大切な奴の血液が必要って事だ、そうだろう?」
髪の短い人魚「その通り。人魚姫が人間になってまで想いを告げたいと思った王子ならその条件が満たせる。つまり、この短剣で王子を刺してその血を浴びれば人魚姫の魔法は解ける」
人魚姫『はっ……?あたしに王子を刺せって言うの!?その短剣で!?』
587:
髪の短い人魚「そうよ、人魚姫。きっと今の私の血液では効果はないでしょう…そこの彼や赤いずきんの娘でもあなたの魔法は解けるかもしれませんが、王子を殺したとなれば先の国家船襲撃妨害への謝罪にもなるでしょう」
髪の短い人魚「王子を解魔の短剣で刺し殺せば、あなたは人魚に戻れる上にお父様へ誠意の伝わる謝罪が出来る…だから」
人魚姫『……姉ちゃん、私のために髪の毛犠牲にしてくれたのは嬉しいよ。でも、あたしには無理。王子を刺し殺すなんて、マジで無理だよ。できない』フルフル
髪の短い人魚「無理だと言ってるの…?どうして?このままだとお父様はこの町を襲撃し、王子も命を失う!だったらその前にあなたが王子を殺すんです、それであなたの受ける罰が少しでも軽くなるなら…」
人魚姫『自分が酷い目に遭うのが嫌だからって、大好きな人を傷つけたりしたら…死ぬまで後悔するっしょ。大好きなアクセ作りもきっとつまらなくなるし、人魚と人間が共存するっていう夢はもう絶対に叶わない。それってもう死んでるのと一緒じゃん』
赤鬼「……」
髪の短い人魚「……あなたの声は私には届かないけれど、わかるわ。王子を殺すつもりは一切無いのね。例え自分が酷い目にあっても」
人魚姫『そのつもりもないよ、あたしは赤鬼達と一緒にあいつの邪魔をする、町は襲わせない』
赤鬼「そういう事だ。お前等の軍が攻めてきても、オイラ達が食い止める」
髪の短い人魚「……私には妹を救うことすら出来ないのね」
人魚姫『姉ちゃん……』
髪の短い人魚「あなたの気持ちは分かったわ……先ほども言いましたが、夜明け前にこの海岸からお父様は侵攻を開始します。連れ立つ兵士は多くはありません、20人ほどでしょうか。人間に攻撃するための兵ではありませんから」
髪の短い人魚「その代わり、私も同行します。人間を眠らせる……兵器として」
588:
人魚姫『ちょ、なんで!?もうあいつがディーヴァを兵器としてしか見てないって解ったじゃん!なんでまだ姉ちゃんがでるの?訳わかんない!』
髪の短い人魚「理解できないという顔ね…確かにお父様はディーヴァを兵器扱いしています、けれど私が歌うことをやめたら人魚の民が辛い思いをすることもあるでしょう。襲撃に失敗して今まで以上に人魚に被害が及んだら…?」
髪の短い人魚「そう考えたら私は歌うしかない。例えお父様に兵器だと思われていても、私が歌で国民を守れることに代わりないのよ」
赤鬼「……だったら、なぜだ?お前はあくまで海底の国側に味方する。なら何故襲撃時刻や規模を人魚姫に教えたんだ?」
髪の短い人魚「どうやら私の説得では妹を救うことは出来そうにないの。ならもう妹を助ける方法はあなた達がお父様を倒すしかない、私に出来る手助けはこれだけ」
人魚姫『……』
髪の短い人魚「けれど私はお父様側の人魚。あなたがお父様を敵に回すのであれば次に会うときはもう…私はあなたのお姉ちゃんでは居られない」
髪の短い人魚「あなたの大切な人を襲う、憎むべき人魚になってしまう」
589:
人魚姫『姉ちゃん…!姉ちゃんはいつも説教ばっかりだからウザく思う事もあったけど、あたしは姉ちゃんの事…!』
髪の短い人魚「無駄になってしまったけれど、その短剣は持っていなさい…私はもう戻ります。襲撃前にあなたに会ったなどとお父様に知れたら大変ですからね」スッ
髪の短い人魚「鬼…でしたね、私の妹を助けられるのはもうあなた達しか居ないの。こんなことが言えた立場ではないけれど、頼むわね」
赤鬼「…わかった、こいつを不幸にはしない。絶対にな」
髪の短い人魚「お願いね。それじゃあね人魚姫、さようなら」
ザブンッ
人魚姫『……姉ちゃん』ジワッ
590:
人魚姫『……』ポケーッ
鬼神『ナニヲ腑抜ケテイルノダ、アノ娘……猶予ハナイノダ、人魚共ヲ迎エ撃ツノダロウ?ソノ根回シヲスベキダ』
赤鬼「まぁ、しばらくそっとしてやろう」
鬼神『人間ナドニナルカラコノヨウナ結果トナルノダ、自業自得トイウモノダ』
赤鬼「そんな言い方をするなよ。しかしこの海岸から襲撃してくるってのは好都合だな、この道を守りきれば他に道はないから町へは進めない。20人なら赤ずきんも居ればなんとかなるか…?」
鬼神『ソノ程度、我ナラバヒトヒネリヨ。ドウダ?ココハ我二任セテミルトイウノハ?』ニヤッ
赤鬼「そうそうお前の力を借りれねぇよ、身体を貸せば貸すほどオイラはお前を制御しきれなくなるんだろう?」
鬼神『ソノトウリダ、ソレガ狙イダカラナ。ダガ…勝テルカ?マタ瀕死ノ貴様ノシリヌグイヲスルノハ断ルゾ』
赤鬼「魔法で人間になったとしても特別強くなるわけでもないだろう。むしろ問題は歌だな…」
鬼神『人間共ヲ眠ラセルトイウ歌カ』
赤鬼「一人二人兵士を取り逃がしても町には警備隊がいる。大きな問題にはならないだろう、だが歌を歌われて人間を眠らされたら八方塞がりだ。人魚姫は今声を失っているんだ桃太郎達の時のようにはいかない」
赤鬼「何か対策を考えないといけねぇが…どうしたもんか。歌への対策もだが人魚姫のこともある、考えることが多すぎるな……だがやるしかねぇ…!」
鬼神『……』
591:
海底 珊瑚で出来た王宮
執事魚「人魚姫様……どうなりますかね、あの鬼は本当に国王様に勝てるつもりでしょうか?」
髪の短い人魚「どうでしょうか…ですが私にはそれを祈るしかありません……」
執事魚「だ、大丈夫ですよ!きっと人魚姫様は大丈夫ですよ!だから元気出してください姫様」
髪の短い人魚「…それならいいんですが」
スッ
人魚王「…なるほどな、聞かせてもらった。襲撃前夜に何処に出掛けているかと思えば…」ギロリ
髪の短い人魚「お、お父様…!」
執事魚「ちちち、違うんです!これはその…」
ガシッ
人魚王「アレに作戦の内容を漏らしたのだな…?余計なことを…!兵器などに感情を持つからこんな事になるのだ」ブンッ
ゴガァ
髪の短い人魚「うぐっ……!」ゲホゲホ
人魚王「動きを拘束するのは貴様が先だったな。従順な兵器だからと自由を与えたのが間違いだったわ」ガシッ
髪の短い人魚「は、離して…くださ…」ガクッ
執事魚「ひ、姫様!」
人魚王「まぁいい、魔女が言うには鬼とかいう種族と銃を使う娘が居るんだったな…だが私には魔女から手に入れた薬がある、鬼とかいう種族がどんなに怪力であろうと遅るるにたりんわ」クックック
602:
数時間後 海岸
ザザーン ザザーン
人魚姫『……スゥスゥ』
鬼神『何故コノ娘ハ気ヲ抜イテ眠ッテイルノダ……?数時間後ニハ海底カラ襲撃者ガヤッテクルトイウノニ、油断シテイルトシカ思エヌ』フンッ
赤鬼「人魚姫は足で歩くことに馴れていないからな、疲れているんだろう。夜明けまでしばらく時間がある、そのときに起こせばいいだろう」
鬼神『……フンッ、コノ娘ハ戦エヌノダゾ?足手マトイニナル前ニ城ヘオイテクレバヨイノダ』
赤鬼「そうもいかねぇよ、王子に人魚姫を匿ってくれなんて言えば海底から人魚が襲撃に来ることも言わないといけないだろ?人魚姫はそれを望んでない、種族間の関係が悪化すると思ってるからな」
赤鬼「どちらにしろ、もう夜明けまで数時間。赤ずきんはまだ来ないし海底の奴らをオイラが一人で退けねぇとなぁ…」
鬼神『ディーヴァトイウ輩ガ操ル奇怪ナ歌…対策ハアルノダロウナ?ソノ輩ヲドウニカセネバ貴様ハ不利ニナルノダゾ』
赤鬼「考えてはみたんだがなぁ。歌われる前に他の兵士を全部倒す……しかねぇかな?」
鬼神『……戯レガ過ギルゾ小僧、ソレハ対策トハ呼ベヌ代物ダ』
603:
赤鬼「いや、だが実際他に対策が思いつかねぇ。住人全員に耳栓を配るわけにもいかねぇんだ、歌われる前に先手を打ってとにかく歌わせない。それが最上の方法に見えるんだがなぁ…」
鬼神『一人デソノ作戦ヲ実行スルノハアマリニ無謀、他ノ策ヲ練ルベキダ』
赤鬼「他の策って言ってもな……この歌声のせいでキモオタ達を頼ることも出来ねぇし、赤ずきんが間に合ったとしても結局はこの歌をどうにかしねぇと……」
鬼神『単純ナコトニ思エルガナ…?オソラクアレモ呪術ノ一種ナノダ……コノ世界デハ魔法ト呼ブノダッタカ?ドチラニシロ本質ハ同ジ』
赤鬼「魔法…確かにあの不思議な能力はまるで魔法みたいだが、歌うことで効果を発揮する魔法なんてあるのか?」
鬼神『呪術・魔法ト言エド…ソノ手法ハ千差万別。言霊ヲ媒介トスル呪術、術札ヲ媒介トスル呪術、アノ赤イ頭巾ノ娘ノヨウニ物質ヲ媒介トスル呪術…呪術ヲ扱ウ方法ニモイクツカアル』
鬼神『ディーヴァトカイウ人魚ノ場合、呪術ヲ行使スル手段ガ歌声ダトイウダケ。本質ガ同ジナラバ妨害スル方法モ……』
赤鬼「……ちょ、ちょっと待ってくれ」
鬼神『ドウシタ青二才、我ガ呪術ニ詳シイ事ガ不思議カ?』
赤鬼「ああ、お前は腕力一辺倒だと思ってたんだが」
鬼神『不思議ナ事デハアルマイ。我ハ呪術ニヨッテ鬼ノ憎悪スル感情ヲ源ニ生ミ出サレタノダカラナ。トハイエ我ガ呪術ヲ行使デキルワケデハナイ、モシ可能ナラバ人間ノ町ナド早々ニ焼キ払ッテオルワ』クックック
604:
赤鬼「確かにそうか…だが、なんでオイラにそんなことを教えてくれるんだ?オイラは確かに助かるがお前にとって人魚の襲撃は人間を苦しめるいい機会だ…むしろ向こうに味方するんじゃないかと思ったが」
鬼神『貴様ノ死ハ我ノ死ダト何度モ言ッテイルダロウ。貴様ガ人間ナドニ肩入レスルカラ我ハ苦労シテイルノダ…コノ愚カ者メ。ダガシカシ…別ノ理由モアル』
赤鬼「……別の理由?」
鬼神『……コノ人魚ノ娘ガドウナロウト我ノ知ッタ事デハナイ。ダガ人魚ノ王ガコノ娘ヲ兵器同然ノ扱イヲスルトイウノハ…少々気二入ラン』
赤鬼「おおっ、つまり人魚姫が可哀想だって事だな?なんだお前にもそんな感情があるんだな!」ガハハ
鬼神『都合ノ良イ解釈ヲスルナ、ダカラ貴様ハ青二才ナノダ』フンッ
赤鬼「いや、だってお前…人魚の王があいつを兵器扱いするのが気に入らないんだろ?」
鬼神『……人間共ニ捕ラエラレタ鬼ハ角ヲモガレタリ見世物二サレ虐ゲラレル、ソレハ弱イ女子供ノ鬼ノ場合ダ。ダガ成人シタ大人ノ鬼モ捕ラエラレル事ハアッタ。無論、数ハ多クナカッタガ』
赤鬼「……いや、だが大人の鬼なんてそうそう捕まるものなのか?」
鬼神『ソコガ人間ノ卑劣ナ所ヨ。貴様ハ赤イ頭巾ノ娘ガ敵二捕ラエラレ…ソノ命ヲ救イタケレバ人間ノ集落ヲ潰セト言イワレタラドウスル?断レバ頭巾ノ娘ハ殺サレル』
赤鬼「それは……どうするんだろうな、オイラは…想像も出来ねぇ」
鬼神『カツテソノヨウナ選択ヲ強イラレタ鬼モイタノダ。女子供ヲ人質ニトラレ破壊ヲ命ジラレル…人間ノ中ニハ鬼ヲ破壊ノ道具トシテ扱ウ輩モ居タノダ』
赤鬼「……」
605:
鬼神『強靱ナ肉体、驚異的ナ腕力。人間ヲ自在ニ操ル歌。優レタ能力ヲ持ツ者ヲ道具ノヨウニ扱ウ輩ハ種族問ワズ存在スル。我ヲ構成スル憎悪ニハソノヨウナ扱イヲ受ケタ者ノ無念モ含マレル』
鬼神『ソノセイカ人魚ノ王ノ行動ニハ虫酸ガ走ルノダ』フンッ
赤鬼「なぁ鬼神、お前は…鬼の人間に対する憎悪から生み出されたんだよな?」
鬼神『何ヲ今更、ソウダト言ッタダロウ。コノ腹ノ底カラ湧キ上ガル憎シミハ人間共ニ虐ゲラレタ無数ノ鬼達ノ憎悪。コノ憎シミヲ払ウニハ人間共ヲ駆逐スルホカナイノダ…!』
赤鬼「…お前が大勢の鬼の憎しみを抱えているってぇなら、同じようにその鬼達が憎しみを抱く原因となった虐げられた辛い記憶や苦しみも背負ってるんじゃねぇのか?」
鬼神『……』
赤鬼「…そうなんだろ?お前は憎悪にかられて人間を駆逐するなんて口にしているが本当は根っからの悪なんかじゃないんだろう…?」
鬼神『……貴様ノ都合ノイイヨウニ物事ヲ解釈スル癖、死ヲ招クゾ』
赤鬼「……」
鬼神『貴様ノ言ウ様ニ、我ハ数々ノ憎悪ノ感情ヲ抱エ、ソレト同様ニ無念ノ想イヤ辛辣ナ過去ノ記憶モ抱エテイル』
鬼神『ダガソレハ人間共ヲ駆逐スルタメノ糧ニスギヌ。貴様ガ期待シテイルヨウナ、我ヲ善ナル鬼ニヘト導ク為ノ代物デハナイ。我ハ復讐ニ利用デキルナラバ悪鬼モ殺ス、貴様ノ肉体モ奪ウ。善ナル鬼?フンッ、冗談デハナイワ』
赤鬼「お前がそう言うのなら、オイラは無理にお前を変えようとはしねぇが……」
鬼神『当然ダ、我ハ神ナル鬼…鬼神ダ。青二才ノ講釈デ易々ト目的ヲ見失ウ我デハナイ』
606:
赤鬼「でもオイラも諦めないからな」
鬼神『……ムッ?』
赤鬼「決めたぞ。お前がオイラの身体を乗っ取って人間を殺すのを諦めて無いように、オイラもお前が人間を憎しみ続けるのを止める。今は無理でも諦めねぇぞ」
鬼神『馬鹿ガ、我ハ憎悪ノ塊。貴様ガ止メヨウトシテイルノハ無数ノ鬼ノ憎悪。思イ上ガルノモ大概ニセヨ』
赤鬼「思い上がっちゃいねぇさ。オイラの夢は全ての鬼と人間の共存だ、その道を変わらず突き進むだけだ」
鬼神『愚カナ、ソノ鬼ニ我モ含ンデイルトデモ言ウツモリカ?』
赤鬼「そうだ、鬼神だろうが鬼は鬼。何もおかしいことはないだろ?」
鬼神『ガッハッハッハ!愚ノ極ミ!アマリニ無謀!貴様、トンダ青二才ダト思ッテイタガ……ドウヤラ真ノ大馬鹿者ヨ!』グワハハハ
赤鬼「オイラはそうは思わねぇけどな?お前にも憎悪意外の感情があるってわかったんだ、だったらもうオイラにとっちゃお前は普通の鬼と大差ないさ」
鬼神『…舐メラレタモノヨ。ダガ貴様ハ人魚ノ娘ノ行ク末ニモ悩ンデイタダロウ。ソノ答モ出テ無イトイウノニ…自ラヤルベキコトヲ増ヤシ、己ノ首ヲ締メテドウスルノダ』クックック
607:
赤鬼「それなんだが……少し気がついたことがある」
鬼神『ホウ…?コノ短時間デカ?クックック、サゾカシ立派ナ浅知恵ナノデアロウナ?言ッテミルガイイ』クックック
赤鬼「お前は言っていたよな、死ぬってのがどういう事か分からないと人魚姫を幸せには出来ないって」
鬼神『ソウダ、デハ理解出来タノカ?死トハナンナノカ』
赤鬼「人魚姫は姉に言っていた、自分が酷い目に遭うのが嫌で王子を傷つけたりしたら死ぬまで後悔する。何をしてもその後悔を背負うから、そんな人生は死んだことと同じだってな」
赤鬼「鬼神、お前が言いたいのは…この事だろ?消えない後悔を背負えば生きていても死んでいる事と同じ。だから逆に例え死んでも消えたとしても…後悔を残さないこと、無念を残さないことこそが大切だって、それがお前の考えなんだろう?」
鬼神『答エル義理ナド無イガ……アエテ教エテヤルナラバ、ソレデハ不完全ダナ』
鬼神『生キテイク上デ後悔シナイ者ナド存在シナイ…ダガ命尽キル時、コノ世ニ未練ヤ無念ヲ残サヌ事ハ可能ダ』
鬼神『具体的ニ言ウナラバ生キタ証トデモ言オウカ。命ヲ失ワヌ生物ハ存在シナイ、ダガ…死シテ尚、生キ続ケルモノガアル』
鬼神『強キ意志。アルイハ強キ想イ。ソレハ肉体ガ朽チヨウトモ消エルコトハナイ…云ワバ生キタ証』
鬼神『貴様デモ理解出来ルヨウニ言ウナラバ…マッチヲ売ル娘ガ良イ例ダ。アノ娘ハ子供達の幸セヲ願ッタガ、ソレヲ叶エラレズ命ヲ失ッタ。シカシ死シテ尚人間共ニ影響ヲ与エ…現実世界ノ人間共ノ精神ヲ育ンデイルトイウデハナイガ』
鬼神『死シテモソノ者ノ強キ想イハ生キ続ケテイルノダ。生キタ証ガ残リ続ケル、コレコソガ真ノ幸セトイウモノデアロウ』
609:
鬼神『モットモ我ハ人間ヲ憎悪スル鬼神。マッチヲ売ル娘ノ想イナド興味ハナイガナ。ダガ貴様デモ理解ハ出来タデアロウ?』
赤鬼「キモオタ達が選択した答えと同じ、それがお前の考えって事か……」
鬼神『アノ豚ト同類ノヨウナイイカタハ不愉快ダガ……ソウダ。ソシテ人間共ニ殺サレタ鬼モ様々ナ目標ヤ夢ヲ持ッテイタ、ダガ志半バデ殺サレ…ソノ意思ヤ想イハ残ルコトナク命尽キタ』
鬼神『生キタ証サエ残ラヌ、残ルハ憎悪ノミ。コノヨウナ不幸ナ事ガアリエルカ?ダカラコソ我ハソノ無念ヲ晴ラスベク人間共ヲ駆逐スルノダ』
赤鬼「うーむ……そういわれちまうと、お前の行動も正しいのか……?いや、しかし無関係の人間を巻き込むのはまた別の問題だしなぁ…。いや、とにかく聞かせて貰えて助かった。ありがとうな、鬼神」ガハハ
鬼神『フンッ……我ハ人魚ノ王ガ気ニ食ワンカラ助言シタダケノコト…ソレニ貴様ニ恩ヲ売ッテオクノモ悪クナイト思ッタダケダ。我ガ善意デ貴様ニ協シテイルナドト思ウナ』フンッ
赤鬼「だが、オイラが人魚姫に何をしてやれるかはわかったようなきがするぞ、お前のおかげだな」ガハハ
鬼神『フンッ……精々、海底ノ輩ニ殺サレヌ様……ムッ?』
赤鬼「どうした?」
鬼神『ドウヤラ無駄話ハココマデノヨウダナ……』
ザバザバザバザバー
赤鬼「沖から複数の人影…!もう襲撃に来やがったのか!?まだ夜明けまで随分とあるぞ!?」バッ
610:
鬼神『海底デ何カ起キタノカモ知レヌガ……最早、覚悟ヲ決メルシカアルマイ』
赤鬼「おい!人魚姫、起きろ!あいつらが攻めて来やがったぞ!」ユサユサ
人魚姫『もう…?ちょっと早くない?まだ夜明けじゃないじゃん…!』クシクシ
ザバザバザバー
赤鬼「だがそうも言ってられねぇ!赤ずきんも間に合わなかった、ここはオイラが一人で相手する!」
人魚姫『わかった…!邪魔になんないようにするから、ゴメンけどお願い!あいつ等を町に近づけないで!』
ザバザバ
赤鬼「おう、じゃあ…気合い入れてやらねぇとな…!」ググッ
ザバザバ ザバー
人魚王「……やれやれ、ようやく海岸までたどり着いたか。この足は泳ぐには随分と不便な代物だ」フウー
赤鬼「お前が…人魚の王、人魚王だな…?」
人魚王「如何にも。貴様はアレの仲間だな?魔女が言っていた……鬼とか言う種族の」
赤鬼「させねぇぞ…!人魚姫を連れて行かせはしねぇ!お前等の襲撃はオイラが食い止めてやる!」ググッ
人魚王「鬼というのは強靱な肉体を持つ種族だったな……だが貴様の対策も万全だ、恐れることなど無い。あぁ、だが襲撃というのは少し違うな……」
人魚王「これは我等による一方的な侵略だ。見せてみろ、鬼という種族がどれほどの実力を持つのか」
612:
人魚王「さぁ配置に付け我が兵達よ!この鬼にはディーヴァの歌声は通用しないらしい。貴様等の仕事はあの鬼を捕らえることだ」
ザバァザバァザバァ
人魚兵達「「「了解しました、国王様」」」ビシッ
人魚姫『人魚の兵士…!あいつもだけどみんな人間になってる…!あたしを連れ戻すためだからって……あの魔女にどれだけの対価支払ったんだっての…!』
鬼神『ドウヤラ、兵ノ数ハ事前ノ情報通リ二十前後。武器ハ主ニ槍トイウワケカ…』
赤鬼「金棒だと少し不利な間合いだ……迂闊に近寄れないな」
人魚王「どうした?攻めてこないのか?貴様の武器は近接戦では滅法強いらしいが、中距離からの攻撃にはどうだ?それもこの人数相手だ」
鬼神『赤鬼、貴様ノ情報ハ筒抜ケノヨウダゾ。確カニ槍相手ダト分ガ悪イ』
赤鬼「だがいつまでもこうしている訳にもいかねぇぞ……」
人魚王「なるほど、外見の豪快さと違い随分と冷静なようだな。貴様のようなタイプは挑発にも応じなそうだ……おい、アレを連れてこい」
人魚兵「ハッ!承知しました!」スッ
人魚王「よく聞け。貴様の自分勝手な行動で我々は大迷惑だ、王宮は前例の無いほどの騒ぎとなり……魔女へ支払う対価のせいで宝物庫は空、これらは私の望んだ結果ではない」
人魚姫『…うっさい!勝手なのはあんたの方っしょ!あたしは戻んないし歌わないかんね!』イライラ
人魚王「反省している様子は無しか。何やら吠えている様だが、聞こえぬ。……だが、すぐに貴様は勝手な行動を悔いることになる」
人魚王「おい、私の兵器をここに寄越せ」クイッ
ドサッ
髪の短い人魚「……」ゼェゼェ
613:
人魚王「見ての通り尾ビレには鋼を打ち込んだ、一人では泳ぐことすらままならぬ。両腕には鎖だ、首に鎖などを巻いて万一歌えぬ等ということになればそれこそこコレの価値は無くなるからな」クックック
人魚姫『ひどすぎっしょ……!姉ちゃん!!今助けるかんね!』ダッ
赤鬼「待て!近づくな!お前まで捕まっちまうぞ…!」グイッ
人魚姫『だって!赤鬼にも見えるっしょ!?姉ちゃんの体見てよ!酷いなんてもんじゃないじゃん!』ギリッ
人魚王「お前を奪還する上で…これには余計な感情が多すぎる。これは当然の措置だ、兵器の暴走を許すなどあってはならぬからな」
人魚姫『ふざっけんな!姉ちゃんを離せっての!』ギリッ
人魚王「コレはよりにもよって作戦を貴様等に漏らした。予定を早めたのもそのせいだ……コレのおかげで計画に狂いが生じたのだ、それを私は望んでいない」
人魚王「全く、嘆かわしい…姉妹揃って私の役に立てぬどころか邪魔をするのだからな!」シュッ
ゴッ
髪の短い人魚「……ゲホッ、ゼェゼェ……」ゲホゲホ
人魚姫『姉ちゃん!』
赤鬼「やめろ!なんでそこまでする必要があるんだ!そいつはお前の娘だろう!」
人魚王「違うな、これは私の所有する兵器だ。貴様の隣に居るそれと同様にな」
鬼神『……』フンッ
赤鬼「どういう神経してやがんだ…!」ギリッ
人魚姫「お願い…赤鬼!あいつを…あいつを殴ってよ!じゃなきゃあたしが殴る…!そうでもしなきゃ、姉ちゃんが…かわいそうっしょ……」
614:
人魚姫「これを見ても状況が理解できないのか?私はこの町を侵略するために対したことをする必要はないのだ」
人魚王「なぜなら、これは出来の悪い兵器だが、町の人間共を眠らせることは出来るからだ。人間共を眠らせればその生殺与奪は私にゆだねられる。お前達にはそれを止めるすべがない……もっともこれを殺す度胸を持っていれば別だが」
人魚王「解るか、鬼。私は貴様さえ捕らえてしまえばいいのだ。だが貴様はこれの歌声を止める事、大勢の兵士を相手にする事、その兵器を守る事を同時にせねばならぬ……無理な話だ。諦めてそれをこちらに寄越せ」
人魚姫『こいつ……っ!なんでこんなのがあたしの父親なんだろ、マジ最悪……!』
人魚王「その最高の能力を持つ兵器が我が手に戻れば、この町はおろか全世界を支配することすら可能…!迷うことなどないだろう、さぁ早くその兵器をこちらへ寄越せ」
赤鬼「悪いが……オイラはお前に渡す兵器なんか持ち合わせていねぇんだ」
人魚王「……ほう?」
赤鬼「オイラの隣にはちょっと騒がしい友達が一人居るだけだ。そしてこいつに手を出そうってなら……」
赤鬼「手加減は無しだ。でもいいのか?慣れてない足じゃあ逃げられねぇかもしれないぞ?」ガハハ
人魚王「…なるほど、鬼というのは感情に流されて状況判断が出来ぬほど知能が低いということか」
人魚王「従順ならば捕らえて兵にすることも考えたが……やめだ。お前等、あの鬼を殺してしまえ。さっさと殺して本来の目的へ移るぞ」スッ
ウオオォォォ!!
615:
ワアアァァァァ
赤鬼「槍を持った兵士を一度に20人相手か…」
赤鬼「さて…オイラ一人で何処までやれるか…!」ググッ
シュッ
人魚兵「国王様のご命令だ!この異種族め……覚悟しろ!」シュオッ
ビュッ
赤鬼「うおっ……やっぱり槍は不利か、間合いの外から攻撃して来やがる…!だが……!」ビュオッ
ゴシャアァ ベキベキッ
人魚兵「何っ…!槍をへし折るだと!?」
赤鬼「こっちは金棒だからな、避けちまった槍をへし折るなんざ容易いんだ。それにそんな単調な突きじゃあ、ただの棒きれを振り回してるのとかわらねぇぞ!」ビュオッ
人魚王「愚か者共、個々で攻撃をするな。多方から一斉に攻勢に移れ!」
ビュオッビュオビュオ
赤鬼「っと……!一人一人は大したことねぇが、やっぱり数で来られると凌ぐので精一杯だな……避けるのは容易いがこう囲まれちまったら反撃もなかなか……!」ビュオッ
ビュオビュオッ ガキーン
人魚王「やはり兵力差があってはいくら怪力自慢と言えど呆気ないものだな。そのまま押せ!反撃の隙を与えるな!」
ウオォォォウオオォォォ!!
???「もう、あなたは少し目を離すとすぐに無茶をするんだから……」ガチャッ
ズダーン ズダーン
赤鬼「やっとか…!遅かったな、待っていたぞ…!」ニッ
赤ずきん「ええ、おまたせ。遅れて到着してしまったから……今回ばかりは文句が言えないわね」フフッ
616:
ズダーン ズダーン
人魚兵「うおっ…!なんだ、援軍か…!」バッ
赤鬼「おいおい…!よそ見してちゃあ危ねぇぞ!それに援軍なんて大層なもんじゃねぇ、ありゃあただの友達だ!」ビュッ
ビュオッ
人魚兵「ぐああぁっ!」ドサッ
人魚王「ほう……あれが魔女の言っていた銃を操る頭巾の娘か」
スタッ
赤ずきん「悪かったわね、赤鬼。随分と待たせてしまったわ」ガチャッ
赤鬼「いいや、助かる!だが話は後だ、そのまま援護頼むぞ…!」ググッ
赤ずきん「任せて頂戴、あなたは間合いに入った敵をなぎ払いなさい。それ以外の奴らは私が牽制しておくから」ガチャッ
ズダーン ズダーン
人魚王「……なんだと?急にあの鬼の動きが向上した……いや、あの娘の攻撃によって鬼の攻撃が効率的に行えるようになっているのか……」
人魚王「なかなか侮れん奴等と言うことか…だが、未だ勝機はこちらにある」ニヤリ
617:
ビュオッ ブオォン! ズダーンズダーン
人魚兵「うぐぅ…遠距離からの攻撃など……卑怯者め……」ドサッ
赤ずきん「あら、卑怯なんて心外ね?大勢で赤鬼を取り囲んでいたあなた達に言われる筋合いはないわよ?」フフッ
ズダーン ズダーン
人魚兵「うぐっ……」ドサッ
人魚王「随分とやられたか…だが兵など捨て駒にすぎん。むしろ、貴様等は不利に陥っていると気がつかないのか?その頭巾の娘にはディーヴァの歌声が有効なんだぞ?」
赤鬼「そうだ、やべぇじゃねぇか……っ!」
赤ずきん「何を言うと思えば……あなた、他人を見くびりすぎじゃないかしら?私が何の対策も取っていないと思っているの?」フフッ
人魚王「ほう……?ディーヴァの歌に対策をしてきたと?面白いジョークだな」
赤ずきん「ジョーク?フフッ、残念だけどこれから始まるのは笑えるような舞台じゃないわよ?」クスクス
人魚姫『舞台……?赤ずきん一体何を……』
赤ずきん「簡単な事よ、聞いたら眠る歌なら聞かなければいい。あるいは……それを聞こえなくすれば、眠ることはないわよね?」
618:
人魚王「構うな、歌え。あんなものはハッタリに過ぎん。お前が歌声をあげればはっきりすることだ」グイッ
髪の短い人魚「……わかりました」スゥッ
赤鬼「おい、大丈夫なのか!?」ビュオッ
人魚姫『歌を聞こえなくするって……どうするつもりなわけ?』
赤ずきん「私は種族間の確執の黒幕に目星をつけていたから……あの王が人魚姫を取り戻しに来ることも、眠りの歌声を使ってくることも予想できたわ」
赤ずきん「だから、彼らに協力を頼んだのよ。少しばかり手間取ってしまったけれどね」
赤鬼「彼等……?一体誰に協力して貰ったんだ?」
赤ずきん「さぁ、少し静かにして彼等の演奏を聴きましょうか。そうでないと彼等がヘソを曲げてしまうから。それじゃあお願いね、あなた達の演奏をこの王達に聞かせてやって頂戴!できるだけの大音量でね」
ガサガサ
???「おぉ!こりゃあ、随分とギャラリーがいるみたいじゃよ!ブルッヒヒン!うむ、喉の調子もいいみたいじゃな」
???「しかし、我々にもようやく演奏のオファーが来るとは!実に喜ばしい!ワンダフル!」
???「でも欲を言えばもう少し大きなステージが良かったニャン」
???「オファーが来るだけでもケッコーな話さ、あの娘に感謝しなけりゃ」
人魚王「陸地の動物共か……?何をするつもりだ?」
赤ずきん「そう身構えなくてもいいわよ、楽しい楽しい動物達の演奏会が始まるだけだから」フフッ
629:
人魚王「無力な娘が私にそのような口を利くな。いい加減に耳障りだ…おい、何をしている早くあの娘を黙らせろ」ギロリ
髪の短い人魚「は、はいっ…お父様……では、歌います……」ヨロヨロ
???「おや、人魚の娘さんはもう歌うみたいじゃぞ?みんな準備は万端じゃな?若い者には負けておれんぞ!」
???「もちろんだとも。しかし、あの人魚の娘さん腕に鎖やらなんやら巻いて派手だなぁ…ヘビィメタルって奴だろうか?」
???「ビジュアル系かもしれないニャン!」
???「どっちにしろ僕たちは自分の音楽をやるだケッコー」
髪の短い人魚「……スゥッ」
人魚姫『赤ずきん、来るよ…!』
赤ずきん「平気よ、心配しないで。それより赤鬼、彼等が歌ってるときはマスケット使わない約束だから。悪いけどあまり援護は出来ないわよ?」スッ
赤鬼「おう、分かった…!」ググッ ビュオン
髪の短い人魚「アアー…「ブルルンヒヒーン!ワンワンッニャオニャオコケコケッコー♪」
髪の短い人魚「…アー「バウワウワンワンコケッコケッコニャオニャオブルブルルッ♪」
髪の短い人魚「ア「ニャンニャンブルルンコケコケッコケコッコワオンワオン♪」
髪の短い人魚「なんてこと…私の歌が…かき消さ「コケコックックニャオニャオバウバウワオンブルヒヒーン♪」
赤ずきん「この対処法で…問題ないみたいね」ホッ
人魚王「どういう事だ……何故、何故あの娘は眠らない……!」ギリッ
630:
赤ずきん「だから言ったでしょう。それにこんなすてきな演奏してもらってるのに眠ったら失礼だものね?」フフッ
鬼神『騒音ヲ利用シ、歌声ニ乗セタ呪術ノ行使ヲ妨害スル…単純ダガ有効ナ手法ダ』
赤鬼「よしっ!あいつの歌声を封じることが出来たなら町への被害は抑えられるぞ!」ググッ
人魚王「おい、妹が向こうにいるからといって手を抜くんじゃあないぞ……?」ギロリ
髪の短い人魚「と、とんでもありません…精一杯歌っています!ただ、あの動物達の鳴き声があまりに大きくて……!」
???「コケケ!声量には自信あるコケ!」
人魚王「なるほどな……ディーヴァの歌声をかき消すために動物の鳴き声か……雑魚なりによく考えたと誉めてやろう。だが、いつまでも遊んでいるんじゃない。わかっているな?」
髪の短い人魚「も、申し訳ありませんお父様……しかしディーヴァの歌声はそれを聞いた人間に作用するので。雑音が入ってしまっては……近づいて歌えばなんとかなるでしょうが……」
人魚王「チッ…このような馬鹿馬鹿しい作戦で…騒がしいだけの鳴き声でディーヴァの歌声を封じるとは……貴様等は何者だ?単なる獣ではあるまい?」
???「そういえばメンバー紹介してなかったじゃあないか、これは失礼した。みんな、メンバー紹介に移るよ」スッ
???「わかったにゃん!それじゃあ早、イカれたメンバーを紹介するニャン!」
631:
ロバ「ブレーメンへ導く者!皆のリーダー!ボーカル担当、ROBA!」ヒヒーン
イヌ「昔は羊を追い、今は夢を追う男!ボーカル担当、INU!」ワオンッ
ネコ「グループの紅一点!魅惑のセクシーボイス!ボーカル担当、NEKO!」ニャーン
ニワトリ「夜明けは僕の独壇場!ボーカル担当、ON-DORI!」コケコッコー
ロバ「四匹あわせて……!」
イヌ「……ちょっと待ってくれ。考えてみたら我々にはグループ名がないんだ」
ネコ「そうだったニャン…!これじゃあ締まらないニャン!」アタフタ
ニワトリ「こんな事じゃせっかくのライブなのに次に繋がらない…!ケッコーまずいよこりゃあ」ワタワタ
赤ずきん「……もうあなた達のおとぎ話のタイトルにしたら?」
ロバ「うむ、赤ずきんちゃんの案を採用しよう。では改めて……四匹あわせて……!」
四匹「「「「ブレーメンの音楽隊!!」」」」テテーン
632:
人魚王「私はこのようなふざけた輩に邪魔されているのか…!おい、兵士共!早々にこの畜生共を蹴散らせ!」ギリッ
ウオォォォ!
イヌ「なんと、演奏者に襲いかかるなんて今日のオーディエンスは随分と熱狂的だね」トコトコトコ
ネコ「ライブでファンが暴徒と化すのもある種のステイタスだニャン!」
ニワトリ「だが今日のライブは赤ずきんちゃん達にとっては戦いでもあるらしい、そのあたりは協力してあげないとね」
赤ずきん「ええ、兵達は私と赤鬼で始末するからあなた達はあの人魚に歌わせないようにして頂戴。それと、人魚姫を守ってくれると嬉しいわね」ガチャッ
ロバ「うんうん、任せたまえ。演奏会はこれからだ、楽しまなきゃあね。ほら、声を失った人魚のお嬢さんは僕の背中にどうぞ、とっておきの特等席だ」スッ
人魚姫『オッケー、ありがと!でも随分とおじいちゃんロバみたいだけど大丈夫?あたしそんなに重くないはずだけど、しんどくない?』ストッ
ロバ「んん?もしかして重くないかと気にしているのかね?年老いてもお嬢さんを乗せて走るくらいは訳ないさ」ハッハッハ
人魚兵「クソォ!こんな年老いた動物共に遅れをとるわけにはいかない…!姫様を返せッ!」シュバッ
ガキィィンッ
赤鬼「そいつは音楽家なんだろ?戦えねぇ奴を狙うなんざ男らしくねぇなぁ…オイラが相手になるぞ!さぁ、反撃といこうじゃねぇか!」ビュオンビュオン
人魚王「調子づきおって……兵共!死ぬ気で応戦しろ!お前もだ、絶えず歌い続けろ……このようなふざけた奴等に苦戦するなど私は望んでいない」ギリッ
633:
人魚兵「うおぉぉ!動物共を狙え!姫様の歌さえ使えれば…!」
シュガッ
ロバ「おっとと、危ない危ない。みんな、ここらでしっとりしたバラードでも奏でよう、どうも今日の観客は怒りっぽくていけない」トコトコトコ
ニワトリ「そうだね、最近の若いのはどうも落ち着きがないから。もっと落ち着いた曲を聴くべきかもしれないね」コケコケー
人魚兵「そっちの動物は任せた!俺はこっちの奴等をやる……くそ!なんてすばしっこいんだ!」シュババ
ネコ「伊達に長年猫やってないニャン!お望みなら顔面にサイン入れてあげるニャン!」ヒラリ バリバリ
イヌ「演奏だけでなくパフォーマンスを織り交ぜた『魅せる音楽』…!堪能してもらおうじゃあないか」スタタタタ
ワーワー ギャオギャオ ザワザワ
人魚王「初の陸地での戦闘に加えて獣や銃など戦い慣れていない相手、兵共の統率が乱れている…」チッ
ズダーン ズダーン
人魚兵「ぐああぁっ!」ズサー
ビュオンビュオン ドシャアー
人魚兵「クッ……人魚王様、奴等は想像以上の実力です!ここはお逃げください……!」ヨロッ
人魚王「案ずるなたわけが……兵も残りわずか、少々見くびっていたようだ。よもや魔女から得た秘薬を使うほかあるまい」ゴソッ
634:
赤ずきん「あと数人…兵さえ始末しきればあとは王だけね」スタッ
ズダーン ズダーン
ススッ
人魚兵「すばしっこい獣も駄目、鬼という種族は強すぎる…だったらこの子供を先に始末してやる…!背後からなら銃だろうが関係ねぇ…!」シュッ
ビュオオン ドシャアー
人魚兵「うぐ……」バタッ
赤鬼「すまねぇが子供って言わないでやってくれ、こいつ気にしちまうからな」チラッ
赤ずきん「あら、いいのよ。もう私はそれに関して気にしないことにしたから」フイッ
赤鬼「ん?そうなのか?」
赤ずきん「今回の一件で自分が子供なのは認めざるを得なかったもの……」
赤鬼「お前、もしかしてまだ気にして…」
赤ずきん「そうじゃないわ。私はね…あなたのような腕力も体力も強い身体も持ってない。けれどそれらはドロシーを倒すために絶対に必要だと思ってた。だけどそうじゃないって解ったの」
635:
赤ずきん「腕力も強い身体も無いけれど、私には狩人さんに貰ったマスケットもおばあちゃんに貰ったずきんもある。それにおばあちゃんに聞かせて貰ったたくさんのおとぎ話…たくさんの世界の存在を私は知っている」
赤ずきん「たくさんあるおとぎ話のどの世界に誰が居て…その人にどんな事ができて、どんな風に苦難を解決してきたかを知ってる。そして、このずきんはその世界を行き来する能力を持っている」
赤ずきん「その能力を使えば、私は様々な世界に住むおとぎ話の世界の住人に力を借りることが出来る。始めから私は一人なんかじゃなかった、ただ強くあろうとして意地を張っていたから誰にも頼らず、そして頼れずにいた…けれどそれももうおしまい」
赤ずきん「ドロシーを倒すために、私が赤鬼のようになる必要なんて無いってわかったもの。私の武器はこのマスケットとずきん、そして様々なおとぎ話の知識……それで私は世界を救える、おばあちゃん達の仇を討てる」グッ
赤鬼「うむ…そうだな、オイラはオイラ。お前はお前で良いんだ」
赤ずきん「えぇ…もう私は持っていない物を数えて嘆いたりしないわ。だから、赤鬼…あなたには…その、これからも私と一緒に旅を続けてほしいの…もう、弱音を吐いたりしないから」
赤鬼「ガッハッハ、当たり前だ!改めて言うような事でもねぇさ。オイラはお前と別々に旅をする事なんざ端っから考えちゃいねぇんだ」ガハハ
赤ずきん「そう、それなら……私の取り越し苦労だったわね」フイッ
ネコ「赤ずきんちゃん、そっぽ向いてるけどなんだか嬉しそうニャン。何か良いことあったニャン?」トコトコトコ
赤ずきん「……何でもないわ」スッ
赤ずきん「ただ、友達がいつも通り優しかった。それだけの事よ」フフッ
636:
赤鬼「さぁてと、敵も数えるほどだ。早いところ人魚の王を捕まえて…人魚姫の事は諦めさせねぇとな!」ビュオ
人魚姫『1…2…3人!うん、この数ならマジでなんとかなるかもしんない!ううん、絶対いけるっしょ!』
ロバ「観客が減ってしまうのは反対じゃが……あの人魚の娘さん、怪我でもしてるのか存分に歌えていないんじゃよ。歌うのをやめさせて医者に見せた方が良さそうじゃ」トコトコトコ
赤ずきん「それじゃあたたみかけましょう、もたもたしていたら夜が明けてしまうわ。一気に攻めて、人魚王に降参させなければね」ガチャッ
ドロシー「そー簡単にいくかなー?」クスクス
人魚姫『あれ?あの子……なんでこんな所にいんの……?』
赤ずきん「……ロバ、あいつを人魚姫に近づかせないで」ガチャッ
らしい
ロバ「うむ、任せるんじゃ」トコトコトコ
赤鬼「お前は……どこから現れやがった!またオイラ達の邪魔をしようってのか?」グッ
ドロシー「まぁまぁ、そんなのどうでもいいじゃーん!私は何もしないからさ、ただの見学でーす!つーかさ、折角アンタ達が仲違いすると思って夜更かしまでして見てたのに仲直りしちゃうとかつまらな過ぎぃー」ブーブー
赤ずきん「どうせ、昼間からずっと私達を見張っていたんでしょう?随分と良い趣味をしてるじゃない」
ドロシー「誉めてくれてサンキュー!おかげであんたのモノマネレパートリーが増えたよ!『ふぇぇー、ひとりだと寂しいよ赤鬼ぃー!なでなでしてよぉー!ふえぇぇー!』ほらほら、激似!」クスクス
赤ずきん「あら……?私はそんなに情けなかったかしら?気がつかなかったわね」
ドロシー「あら、なんか挑発に乗ってこないね?そんなじゃあドロシーちゃんはつまんないなー!いつもみたいに顔真っ赤にして反論してよぉー」ケラケラ
赤ずきん「悪いわね、もうあんたの挑発なんか無視することに決めたのよ」
ドロシー「あっそ、まぁいいよ。つーかさー、人魚の王様ー!魔女に秘薬貰ったんでしょー?あれ早く使いなよー!このままじゃこいつら勝っちゃうよ?そんなのつまんなすぎぃー」
637:
人魚王「なんだあの小娘は…?何故私が魔女から秘薬を受け取ったことを知っているのだ……」
赤鬼「秘薬…?あの王、奥の手を隠してやがるのか……」ググッ
ドロシー「奥の手っていうか、赤鬼対策?王様、早くしなよー」クスクス
赤ずきん「赤鬼、何が起こるかわからないわ…用心しましょう」
人魚王「何者だあの娘、王たる私になんと無礼な…!あのような娘に言われずとも私は初めから使うつもりだ。さぁ鬼対策の秘薬…今こそその能力を見せろ…!」ゴクゴクゴク
ドロシー「よしよし、ちゃんと飲んでるねー。海底の魔女に作って貰ったスペシャルな魔法薬♪ごめんね赤ずきん、折角仲直りしたみたいだけどもう赤鬼ともお別れかもねー?」クスクス
赤ずきん「さっき聞いていなかった?あなたのくだらない挑発にはもう…」
ドロシー「挑発?違うって、事実だよん♪さてさて、ちゃんとできてるか観察観察ー」クスクス
赤ずきん「赤鬼の対策……なにか特別な能力が身につく薬かしら……?それとも鬼の攻撃を無力化する薬……?」ガチャッ
赤鬼「何するつもりかわからねぇが…何か起きる前にビビっても仕方ないさ、今はあの王が薬でどんな事になってるのか見極める方が先だ」ググッ
人魚姫『でも、あれ……なんかヤバい感じしない?あいつ…なんか様子おかしいし…』
ドドドドド
人魚王「……ほう…これがあの鬼を滅する為の力か……!」ゴゴゴゴゴ
638:
人魚王「身体に力がみなぎる…!底から沸き上がってくるこの力を抑えきれん程にな……!フハハハ!」ゴゴゴゴゴ
人魚兵「こ、国王様?一体、なにが起きたのですか……?」ドヨドヨ
人魚王「残る兵は3人か……貴様等は陸地での戦闘に関しては雑魚以下。もはや用済みだが……新たな力を試すくらいはできよう」
シュババ バキッバキッベキッ
人魚兵達「」バタッ
赤鬼「腕を一振りしただけで…首をへし折っただと!?」
人魚王「ほう……なかなかいい具合だ。この怪力ならば、あの鬼と同格……いや、それ以上に渡り合える……!」
赤ずきん「鬼をも超える程の……怪力」
ドロシー「おー、なかなかいい感じに仕上がってるじゃん!さすがは魔法薬作りに定評のある魔女だよねー」ケラケラ
赤ずきん「……これで納得がいったわ、何故あなた達がこのおとぎ話に姿を現したか」キッ
ドロシー「そう睨まないでよー!嬉しくなっちゃうからさ、アンタ達の思い通りにいかなくするのって楽しいもんねぇ」クスクス
639:
赤ずきん「【シンデレラ】の魔法使いが私達に協力してくれているように、あんた達は海底の魔女に協力して貰っている……いいえ、正確には海底の魔女と取引をしているという所かしら?」
ドロシー「あはは、察しがいいじゃん。私達は不良少女だからさ、善人の魔女は協力してくれないんだよね。だから海底の魔女に頼んだんだよん♪あの魔女、対価さえ支払えばどんな相手でも協力してくれるからねー♪」
赤鬼「あの魔女に……オイラの対策として怪力になる魔法薬を作らせたのか」
ドロシー「正確には全員分の…ってところかな?」クスクス
赤ずきん「全員分ってまさか……」
ドロシー「なんだかさ、雪の女王が嗅ぎまわってるみたいだし…アンタ達と戦うのに毎回魔法具使ってられないしさ!だから作ってもらったってわけ」
ドロシー「キモオタ、シンデレラ、裸王に桃太郎、ラプンツェル…その他にも沢山ね、それぞれの対策になる魔法薬を頼んでるってわけ♪もちろん、赤ずきんがお漏らししちゃうような激ヤバな魔法薬もあるからお楽しみにー♪」ケラケラ
赤ずきん「戦いに備えて新たな魔法具を作る……考えることは同じってわけね……」
ドロシー「ほらほら、お話ししてる場合じゃないよん?今、人魚の王が纏ってるのはただの怪力じゃないんだからさぁ?」
ドロシー「赤鬼と同じ国に伝わる鬼退治のおとぎ話……その怪力で鬼をねじ伏せる主人公と同じ怪力なんだってさ。確かそいつ垢で出来てるんだっけ、さすがのドロシーちゃんもドン引きだぁー!」ケラケラ
ドロシー「そだなー、あえて名前を付けるなら……魔法薬『力太郎』ってところかな?」クスクス
640:
ドロシー「じゃあ私はちょっと離れたところで観戦しますか!じゃあね、次会うときは赤ずきんちゃん1人旅になっちゃう?クスクス、バイバーイ」スタスタ
赤ずきん「……いいわ、腹は立つけれど放っておきましょう」
赤鬼「それより今は人魚王だ、あの怪力は鬼退治した主人公の能力ってわけか…どういうおとぎ話かわかるか?赤ずきん」
赤ずきん「【力太郎】……あなたの国のおとぎ話である【桃太郎】と同じく、数奇な生まれの主人公が悪鬼をねじ伏せるおとぎ話よ。ただ、桃太郎は刀を手に剣技で鬼に挑んだけれど、力太郎はその無双の怪力で鬼に挑んだの」
赤ずきん「もしもドロシーが言うとおり、人魚王が力太郎と同様の怪力を得たのだとしたら……赤鬼の腕力では叶わないかもしれない」
人魚王「ぶつぶつと相談しているが……掛かってこないのか、鬼よ」
赤鬼「つまり、オイラじゃあ適わないほどの怪力を持ってるって訳か……」
人魚王「来ないのならこちらから仕掛けさせて貰うぞ……!」ゴゴゴゴゴ
タタッ
赤鬼「赤ずきん、援護射撃頼む。ブレーメンの奴等も王に近づけないように頼む」グイッ
赤ずきん「任せなさい。隙間を縫って撃ち込むから、あなたは自由に動いて頂戴、必ず人魚姫と町をあの王から守るわよ」
人魚姫『赤鬼…あたしは二人の言ってることよくわかんないけど、無理しなくていいかんね?…赤鬼がもしヤバい事になっちゃうなら、あたしがあいつに…』
赤鬼「おいおい、そりゃあ駄目だ。お前があの王に屈したらどうなる?町も王子も無事じゃいられねぇんだぞ?」
人魚姫『そうだけどさ…死ぬとかなしだかんね?』
赤鬼「そんなつもりねぇから安心しろ。じゃあ行かせてもらおうか…!オイラだってそうそう簡単にやられるわけにはいかねぇんだ!」
641:
人魚王「フフッ、この怪力を前にして怖じ気付かぬ気概は誉めてやろう」
赤鬼「……」ジリッ
人魚王「迂闊に近寄れぬといった所か。賢明な判断だ、貴様は私の間合いに入ってはいけないのだからな、さぁ怯えろ…歌の効かぬ貴様は目障りだ、ここで消しておく」クックック
赤鬼「そうですかとはならねぇな、それにお前が思っているほど怯えちゃいないさ。それより今はどうやってお前に一撃くれてやろうかと思ってるんだ、オイラの友達はあんたのせいで辛い思いをしたわけだからな」
人魚王「あぁ、アレの事か…私の所有物に友情を感じ事もあろうに私に因縁を付けてくるとはとんだ迷惑だな」
赤鬼「王族には何人か知り合いがいるが……お前のようなゲスな王は初めてだ、兵達もなるべく気絶ですむようにと思ってたんだが……お前がそのつもりならお前だけはそうもいかねぇみてぇだ」
人魚王「ふん、ゲスだと?結構だ。国王とは国を守るものだ、時には突拍子のない行動も求められる。常に下々の者に理解できる行動だけを取れるわけではないのでな」クックック
鬼神『……青二才、奴ニ人間共ヲ恨ム理由ヲ聞キダセ』
赤鬼「なんだよ、いきなりどうした?今更こいつにそんな事を聞いても…」
鬼神『黙ッテ我ノ指示ニ従エ……奴ハドウニモ不信ダ』
赤鬼「不信ってなんだ?気になることでもあるのか」
鬼神『我ハ憎悪ノ感情ニ敏感ダト以前話シタナ。ダガ、奴カラ微塵モ感ジヌノダ』
赤鬼「微塵も感じない……?」
鬼神『ウム、奴ハ人魚王。本来ナラバ人間ヘノ憎悪ハ沸キ立ッテイルハズダ。娘ノ話ダト人魚ハ人間ニナイガシロニサレテイルノダカラナ』
鬼神『シカシ、奴カラハ人間ヘノ憎悪ヲ一切感ジヌノダ。オカシナハナシダロウ』
656:
赤鬼「確かにおかしな話だ……人魚は人間に深い憎しみを持っているはずだろ。それは人間が人魚を襲うからだと」
鬼神『ウム、先程ノ兵士達モ、ディーヴァト呼バレル人魚モ…例外無ク人間ヘノ憎シミヲ纏ッテイタ』
鬼神『復讐心、ソシテ憎悪…ソレラガ溢レテイタ。イクラ平静ヲ装オウトモ我ハ見抜ケル。ダガシカシ……アノ人魚王ニハ人間ヘノ一切ノ憎シミヲ感ジヌ』
赤鬼「どういうことだ……?」
鬼神『…恐ラク、アノ者……イヤ、先ズハ避ケヨ』
シュバッ
人魚王「鬼と言うのは随分と独り言の多い種族のようだな」ヒュオッ
バシュッ
赤鬼「っと…危ねぇ危ねぇ。これが鬼をも越える怪力か、集中しねぇと怪我じゃすまねぇか…!」スッ
人魚姫『赤鬼!ぶつぶつ言ってたら危ないって!なんでこんな時に独り言なんか言ってんだろ…』
赤ずきん「あれは独り言じゃあないわよ……鬼神にそそのかされてなければいいけど」ボソッ
人魚王「避けたか、だがそこは既に私の間合いだぞ?」バッ
ゴシュッ
赤鬼「うおっ…!なんて拳圧だ…あんなもん食らっちまったらただじゃすまねぇ…!」スッ
657:
人魚王「強さ故の油断か慢心か…こうも容易く敵を懐に入れるとはな」ススッ
赤鬼 「いいや、これでいい。お前の間合いの中だって事はオイラの金棒が届く距離にお前は居るんだ。だったら少なくとも、オイラを無視して人魚姫や赤ずきんを狙えねぇだろ!」
人魚王「この期に及んで仲間の心配か?言っただろう、目障りな貴様は消しておくと。それとも、驚異の怪力を得た私を力勝負で倒せると思っているのか?」
赤鬼「さぁな。やってみねぇことにはわからねぇが……確実なのはオイラが倒されちまったら、赤ずきんや人魚姫が危険だって事だ!」ブンッ
ビュオッ ガシッ
人魚王「怪力というのは便利なものだ、攻撃を避ける必要も耐える必要もない。こうして武器を受け止めてやればいいのだからな」ガシッ
赤鬼「ぐおっ…!金棒の一撃を避けるどころか掴んできやがった…!」グググッ
人魚王「それを奪えば貴様は丸腰というわけだ。この金棒……しばし借りるぞ?」グイッ
赤鬼「なんて力だこいつ……!」ググッ
ズダーン ズダーン
人魚王「……あの小娘、余計な真似を」ギロッ
赤ずきん「よそ見をしている場合?あなたにどんな怪力が備わっているとしても、目の前にいるのは鬼。痛い目をみても知らないわよ?」
赤鬼「ああ、なめてもらっちゃあ困るぞ!ぬおおおっ!」ビュオン
ガシッ
人魚王「少し不意を突かれたが、私の方が強い力を持っていることは変わらぬ」スッ
赤鬼「ぬぬっ…正攻法では一撃与えるのは難しいか…!」
658:
人魚王「しかし解せぬ。なぜあれの為にここまでやる?」
人魚王「あれの歌声は人間を操る。私にとっては無くてはならぬ兵器、故に多大な犠牲を払ってまで回収に来たのだ」
人魚王「だが貴様等は違う。獣を集め歌を封じてまで我らを迎え撃とうとし、私が貴様を上回る力を手にしたと知っていながら向かってきたりと…あれを助けることで貴様等にどのようなメリットが存在する?」ビュオッ
スッ ズダンズダーン
赤鬼「オイラも赤ずきんも損得であいつの友達やってねぇんでな」ググッ
ブオンッ
人魚王「尚更理解できんな。あれから歌声を取り上げればただの人魚、歌声を失ったあれに利用価値など無い。そのうえで何故助け何故庇う?その行為に自らを危険にさらす価値があるのか?」スッ
赤鬼「ああ、大いにある!オイラはあいつが海に帰りたくねぇってならお前等を追い払う!ディーヴァになりたくねぇってなら、ならなくて良いように手助けしてやる!」ガシッ
赤鬼「友達が悩んでたら手を貸すって決めてんだオイラは!かつて親友がそうしてくれたようにな!だから損得なんざ知った事じゃねぇんだ!」ブォン
人魚王「若さ故か、まったく世界というものが見えていない」
スッ
人魚王「若造にひとつ教えてやろう。なんらかの目標を持って生きる以上…何かを成し遂げようとすれば必ず犠牲が必要になる」
659:
人魚王「そうなれば愛だの恋だの友情などというくだらない感情は障害にしかならない。時に冷酷でなければ……」ググッ
ガシッ
赤鬼「ぐぅっ…!しまった…!」ガシッ
人魚王「何かを成し遂げるなど不可能だ」ギリギリギリ
赤ずきん「いけない…!赤鬼!振り払いなさい!」ダダッ ガチャッ
人魚姫『赤鬼…!ちょっと、私を赤鬼の所まで運んで!赤鬼がピンチなのにほっとけないっしょ!お願い、マジで頼むって!』バシバシ
ロバ「あの青年の所へ行けと言っているのだろうがそれは出来ないよ娘さん。彼等はあの王から君を守るために戦っている、それに水を差すってのはよくない」トコトコトコ
人魚姫『でも、赤鬼が捕まったのに何も出来ないとか……!』
赤鬼「ぐお……離しやがれ……!」ゲホゲホ
人魚王「貴様等はあれを救うなどと言っていたが、到底無理な話だ。私と貴様等には目的に対する覚悟の差がありすぎる」ギリギリギリ
赤鬼「ぐぐ……赤ずきん、人魚姫を連れて……この場から離れ……」ググッ
660:
人魚王「都合が良すぎるのだ貴様等は。あれも救う、そして仲間も救いたい…故に容易く遠距離攻撃というアドバンテージすら放棄する。甘いとは思わぬか?ずきんの娘よ」ギロッ
ガチャッ
赤ずきん「赤鬼を離しなさい。この距離なら、いくらあなたが力自慢でもその腕を吹き飛ばすくらいはできるわよ?」
人魚王「ほう、ならばやめておけ。私が手にしている『盾』にでも当たれば大変だ、貴様も仲間が弾け飛ぶ様は見たくあるまい」
赤ずきん「……人魚姫を兵器扱いしたと思えば、今度は赤鬼を盾呼ばわりなのね」ガチャッ
人魚王「利用できるものはなんであろうと利用する。私は常にそうやって全て解決してきた、そして今後もだ」
人魚姫『もう我慢できない!あいつ今度は赤鬼の事も道具みたいに言って…!マジで許せない!』タッタッタッ
ロバ「こ、これお嬢さん。待ちなさい!」トコトコトコ
人魚姫『ちょっと親父!あんたいい加減にしろっての、姉ちゃんをボロボロになるまで利用した次は赤鬼を盾にするって?いいから私の友達を離せっての!』キッ
人魚王「聞こえぬと解って尚、感情を抑えられぬか。何を喚いている?不服か?私がこの鬼を利用することが」
赤ずきん「……そうやってあなたは様々なものを利用してきたのね」
赤ずきん「人魚の歌声を兵器として扱い、兵士達の命も容易く散らせ、私の攻撃を防ぐために赤鬼を利用する……そうやって人間のことも利用したのでしょう?海底の国の繁栄のために」
人魚王「ほう…国の繁栄のために私が人間を利用したと?」
661:
人魚姫『あいつが人間を利用ってどゆこと…?っていうか悪い人間が不老不死のために人魚を捕まえてんでしょ?利用してるのは悪い人間の方じゃないの?』
赤ずきん「あなたには言っていなかったけれど、この世界の人間は誰ひとりとして人魚の存在を信じていなかったわ。誰もあなた達の存在を知らなかった」
人魚姫『は?なんで…?人魚の存在を知らないなら、捕まえることなんか思いつかないんじゃないの?』
髪の短い人魚「……デタラメを言うのはやめなさい……人間が人魚の存在を知らない?……ならどうして人魚は人間に襲われ続けてるの?」ゼェゼェ
髪の短い人魚「人間共はその罪すら認めないつもり……?私たちの仲間は数えられないほど命を失っているのに……あなたたち人間の手によって……!」
赤ずきん「人魚が襲撃されたのは事実でしょうけど、人間がその犯人とは限らない…いいえ、犯人は人間ではないわ」
人魚王「面白いことを言う娘だ。ならば貴様は真の犯人は誰だと考える?」
赤ずきん「一人だけいるじゃない。人間以外で人魚の存在を知っていて、人魚を襲う事が出来て、そして人魚を襲うことで利益を得られる人物」
人魚王「……馬鹿馬鹿しい……魚でも獣でも災害でもないなら……人魚を襲えるような種族は人間しか存在しない……」
赤ずきん「……人魚が人魚を襲った、としたら?」
人魚姫『はっ!?人魚が仲間を襲ったって事?いくらなんでもそんなことないっしょ!』
赤ずきん「そうかしら?聞いてみればはっきりするんじゃない?それともシラを切り通す?ねぇ、人魚王。どうなのかしら?」
人魚王「……」
662:
赤鬼「なんだと……お前は、こいつが人魚襲撃の犯人だと言うのか…?」
赤ずきん「ええ、人魚を襲撃していたのは人間じゃない。人魚を統べる王、あなたよ人魚王」
人魚姫『えっ!?ちょ、マジでちょっと待って…!あいつが?何のために!?そりゃさ、人魚なら泳ぎは得意だし簡単に人魚襲えるだろうけど……』
髪の短い人魚「……あろう事か人間共の罪をお父様に着せようとするなんて…!お父様は国民達のために平和で豊かな国を作る事を一番に考えておられます、それを……許せない……!」
赤ずきん「……どうなの、人魚王?」
赤ずきん「あなたなら人魚を襲うことが出来る、それに人魚を襲う意味だってあるはず。娘を物としてしか見ていないようなあなたなら…同種族を殺すことも容易いんじゃないかしら?」
クハハ……
人魚王「クハハハッハッハッハ!小娘、私が全ての黒幕だと?」
赤ずきん「……」
人魚王「私が自らの国民を殺し、その罪を人間に着せたとお前は言うのだな?」
髪の短い人魚「お、お父様!あの様な小娘の言葉など聞く必要ありません、ただのでたらめです!」
人魚王「クハハハッ!いいだろう、小娘風情がよく真相にたどり着いたものだ。褒美代わりだ、認めてやろうではないか…!」
人魚王「人魚を…我が国の民を殺していたのは人間ではない、私だ」
663:
人魚姫『……えっ!?はぁ!?』
髪の短い人魚「お、お父様…!?」
赤鬼「そういうことだったか……!」
赤ずきん「あら、随分と容易く認めたわね…少し予想外よ」
髪の短い人魚「私には信じられません…!お父様がそんな事…お父様には国民を手に掛ける理由なんてないではないですか…!」
人魚王「理由がない?私は国の繁栄のためならば、国民を守る為ならば手段など選ばん、人間だろうが鬼だろうが国民であろうが殺す」
赤ずきん「赤鬼が言っていたものね、共通の敵が存在することで人魚達は団結していると。人魚同士の争いを止め、人魚の襲撃を人間のせいにすることで怒りの矛先を人間に向けさせる。それをあなたは意図的に行った」
人魚王「そうだ、圧倒的な憎しみが同じ敵に向けば……人魚同士の争いは消える、そうすれば我々の国は平和に近づく。人間に姿を見せてはいけないという古来からの掟がある以上、自ら人間に近づく人魚は稀だ。本来ならば真相が表にでることもないはずだったがな」
赤ずきん「国民を守るために国民を殺す……どうかしているわ」
人魚王「少数の国民を殺す事で国が栄え、人魚同士のいさかいが無くなるのならば安すぎる犠牲だ。それで殺した人魚の何千倍もの人魚が幸福になるならばな」
人魚王「何かを得るには相応の犠牲が必要だ。いくつかの人魚の命、人間との関係、ディーヴァの自由…それを失えば人魚の王国は栄え、争いもなく多くの人魚が幸せになれる。ならば迷うことなどない」
人魚王「国の繁栄と多くの人魚の幸福を求めること、それは私の王としての勤めだからな」
664:
赤ずきん「そんなものは詭弁よ。失うものがなくても、得られるものはある。私は知っているもの」
人魚王「いいや違う、だが貴様には理解できぬだろう。何もかも救おうなどと考えているような未熟者ではな」
髪の短い人魚「……全ては真実、お父様はわずかとは言え……平和のためとは言え……国民を手に掛けたんですね……!」
髪の短い人魚「申し訳ありません、お父様。この事は……全ての国民に伝えます、伝えなければなりません!ですからどうか……どうか罪を償っていただきたく思います……!」
人魚王「愚か者、これは罪ではない。それにそのような事を許すわけなかろう。私が何故、真実を口にしたと思うのだ?」
人魚王「ここで真相を語ったところで海底に伝わることがないからだ。戦いの後、ここには無数の兵と鬼、獣、頭巾の娘、鋼を撃ち込まれた人魚の死骸が横たわるのだからな」グイッ
ギリギリギリ
赤鬼「ぐあ……息が……」ゼェゼェ
人魚姫『赤鬼……!こいつ、離せって言ってんでしょ!』ダダッ
赤ずきん「待ちなさい、人魚王の目的はあなたよ。赤鬼を苦しめているのはそのための餌。近寄っては駄目よ」
人魚王「察しが良すぎるというのも考え物だな、だがそろそろ始末を付けようではないか」ググッ
赤鬼「ぐおぉ……!」ギリギリギリ
人魚姫『赤ずきん!あんたならなんとか出来るっしょ!マジでなんとかしなきゃ赤鬼やばいよ!』ユサユサ
赤ずきん「赤鬼……あなたの力ではどうやっても逃れられそうにないのね?」ガチャッ
赤鬼「情けねぇ事だが無理だ……流石は鬼退治を可能にする怪力……これ以上はあらがえそうもねぇ…!ここは……一か八か、賭けるしかねぇぞ……」ギリギリギリ
赤ずきん「……」フゥー
人魚王「ほう?何か秘策でもあるのか?見せてみろ、それで私を倒せるというのならな」クハハ
665:
赤ずきん「赤鬼……あなたの思惑は理解したけれど」ガチャッ
タッタッタッ
髪の短い人魚「あの娘……お父様達の方へ……!お気をつけくださいお父様!」
人魚王「ほう、極限まで近寄って狙いを定めるつもりか?私が持つ『盾』を忘れたか?」グイッ
タッタッタッ
人魚姫『ダメ…!あいつ、赤鬼を盾にして赤ずきんの攻撃をふせぐつもりじゃん…!』
タッタッタッ スタッ
赤ずきん「言っておくけれど、私は納得していないから」ガチャッ
赤鬼「……ああ、だが平気だ。あいつならこの場も何とかしてくれるだろう」
赤ずきん「そのあとが怖いの。痛いわよ、我慢なさい」スッ
ズダーン
赤鬼「ぐっ……っ!」ドサァー
人魚姫『赤ずきん!?ちょ、なんで赤鬼撃ってんの!?』
人魚王「ほう、仲間が殺されるならば…苦しまぬようせめてとどめは自分でという事か?」
666:
赤鬼「……」ドサッ
人魚王「気を失ったか……まぁいい、これで私に楯突くことも無かろう。次は貴様だ、ずきんの娘よ」
赤ずきん「離れるわよ、人魚姫。今のあなたは人間だから、危険よ」タッタッタッ
人魚姫『それってどういう…?ってそうじゃないじゃん!なんで赤鬼を……』
赤ずきん「いいから、逃げるのよ。今は出来るだけ赤鬼から距離をとっておきなさい」タッタッタッ
人魚姫『赤鬼?はっ?追いかけてくるのは親父のほうっしょ?』タッタッタッ
人魚王「逃がさぬ、真実を知るものは一人としてこの海岸から逃さん。そして私の兵器よ、貴様を守るものは消えた。おとなしく我が手に戻れ」
人魚姫『……』
人魚姫『……ごめん、やっぱ駄目だ。我慢できないっしょ…!なんであいつが悪いのに逃げるのかわかんないし、聞こえなくても怒鳴ってやりたい事もあるしさ』スッ
赤ずきん「人魚姫…!」
人魚王「ほう、観念したか?」
人魚姫『うっさい!あんたが自分の目的のために人魚を殺さなかったら……人間に対する憎しみを植え付けなかったら、きっと人魚と人間は仲良くできてたんだよ!』
人魚姫『姉ちゃん達が人間を殺す必要も無かった!きっとたくさんの人魚は大勢の人間と共存できて…協力してどっちの種族も幸せで、船が沈むこともなくて、王子が苦労する必要もなくて…!』
人魚姫『私は…歌声にも家柄にも縛られず、王子と恋をすることだって出来たはず!自分の声で気持ちを伝えることだってできたはずなんだ!』
人魚姫『あんたは人魚の幸せのためなんて言ってるけど、ただの押し付けじゃん!あんたが居なけりゃ…人魚はもっと広い世界をみれたのに!』
人魚王「……学習せぬ兵器よ。自分は危害を加えられるとでも思っているのだろうが……歌声さえ響かせられればあとはどうなろうが構わぬのだぞ?」
667:
人魚姫『やってみろっての!あんたの思う通りにはもうさせないんだからね!』
人魚王「何を言っているか解らずとも、兵器に楯突かれるのはどうも気分が悪いものだな…喉に影響のない部分から潰しておくか…」
赤ずきん「離れなさい人魚姫!」
人魚姫『……っ!』
人魚王「腕か、足を潰す程度なら歌声に影響はあるまい。だが叫びすぎて喉を枯らせてはつまらない、耐えてみせよ我が兵器よ」スッ
ガシッ
人魚王「なんだ…腕が動かぬ…!背後から押さえつけられているような……!」ハッ
鬼神赤鬼「ようやく外に出られたってぇのに、獲物が人間モドキってんじゃあやる気も出ねぇな」ガシッ
人魚王「貴様さっき気を失ったばかりでは……いや、黒い皮膚……別の個体の鬼か…!」ギリッ
鬼神赤鬼「ったく、青二才が気を失っている間は共存だのなんだの眠てぇ事を言う奴がいねぇと思ったんだがな。小僧といい人魚の娘といい反吐が出る輩が多くて嫌になっちまう」
人魚王「こやつ…我が力を持ってしても腕を微動だにすることができぬ…なんという怪力だ…!貴様等の切り札というわけか!この様な兵器じみた鬼を隠していたとは……」
赤ずきん「……」フゥー
鬼神赤鬼「おい、俺をあいつ等のしもべのように言うんじゃねぇ。モドキと言えど殺すぞ」ギロリ
668:
ガシッ
鬼神赤鬼「丁度良い、貴様の事は少々気に食わなかったところだ。少し遊んでやる」シュガッ
ガシッ
人魚王「は、い…!そしてなんだこの腕力は……!!」ウググッ
人魚姫『さっきまで赤鬼を圧倒してたあいつを簡単に捕まえた…!なんなのあれ……赤鬼じゃ、ないよね?』
赤ずきん「……ええ、断じてね。それと、あれは私たちの味方というわけでもないから注意なさい」
人魚王「くっ……もう少しで兵器の奪還に成功する、貴様のような得体の知れない輩に好きにされてたまるか…!」グググッ
鬼神赤鬼「ほう、掴んだ腕を振り払うとは、まだそんな余力があったとはな。その薬はなかなか侮れないようだ。だが……」
人魚王「今度はこちらから行くぞ、鬼よ!赤かろうと黒かろうと鬼は鬼!我が怪力の前に沈め!」シュッ
鬼神赤鬼「自惚れるな。小賢しい呪術で鬼を越えし腕力を手に入れたようだが……」シュバッ
ゴガァ
人魚王「がはっ……!」ゲホォ
鬼神赤鬼「貴様が相手にしているのは神と呼ばれる鬼。対峙することすら恐れ多い行為であると知れ」
669:
人魚王「なぜだ……あの薬ならば鬼を越えることができるはず……」ボタボタ
シュババ ドゴォ
鬼神赤鬼「貴様の人間を利用するという考えは興味深かったがな、だが鬼神に喧嘩を売るのは感心しねぇな。だが俺はこう見えて寛大だ」ヒュヒュッ
ドゴォ バキィ
鬼神赤鬼「貴様のような雑魚だろうと、喧嘩を売ってきた以上は高値で買い取ってやろう」シュババ
ゴガガガガッ
鬼神赤鬼「買値は…そうだな、貴様の四肢を潰すというのはでどうだ?」
バキッ ゴシャァ
人魚王「げふぁ…ハァハァ……ゼェゼェ……」
人魚王(手も足も出ぬ……もはや、声も……)
人魚王(何故だ……私は間違っていない。国を守るため、民を守るため……私はなんだって利用してきた)
人魚王(それが……何故、こんな所で……!私は……!)
人魚王(……)
人魚王(私は間違っていない。私は……正しいのだ!私こそ正しき王の姿なのだ…!)
・・・
・・

670:
人魚姫の世界 ずっと昔 海底 珊瑚で出来た王宮
若き日の人魚王(以下、人魚王子) 「……また、南北の海域で対立か」フゥー
側近「はい…北の海域の人魚と南の海域の人魚での争いは収まりそうにありません」
人魚王子「同じ国民だというのに、同じ人魚だというのに住む海域が違うだけでなぜこうも争いが無くならないのだ…!」
側近「海は広いですからね、海域によって環境も文化も違います。始まりはきっとそんな些細なことでしょうが……」
人魚王子「だがもはや無視できる規模ではない……国王は見て見ぬ振りをする始末。私が争いを無くさねば……」
側近「人魚王子様……」
人魚王子「私はゆくゆくは王になる男、この国の民の幸せは私が叶えるべきものだ。なんとしても、どんな事をしてでも平和な国を手に入れる!」
671:
・・・
ワーワー ざわざわ ワーワー
人魚王子「……何故だ……何故、人魚同士の争いが絶えない……」ブツブツ
側近「王子……」
人魚王子「お互いに罵り傷つけあうこんな事になんの意味がある……我々人魚はもっと平和に暮らせるはずだ……何故、何故だ……なぜ争いが……何故平和な世界が訪れない……」ブツブツ
人魚王子「なりふり構っていられない、なんとかせねば……なんとかせねば……何を捨ててでも……」ブツブツ
側近「種族を同じくしても心が離れているのでしょう……なにか、南北の人魚の心を一つにする手段があれば……」
人魚王子「心を一つにする手段……心を一つに……例えば同じ目標、同じ願い……同じ敵……」ブツブツ
側近「お、王子?」
人魚王子「ある……あるぞ!人魚同士の争いを無くす策が……」
側近「……と言いますとどのような?」
人魚王子「陸に住むという人間を利用するんだ。あいつらが人魚を襲ったという情報を流布しろ、共通の敵を持てば人魚はきっと団結できる」
側近「し、しかし、実際の被害もないというのに…」
人魚王子「私が殺す。手頃な人魚を数人な……そうだな、人間が人魚を襲うのは不老不死に効果があるという噂を信じているという事にしろ、いいな」
側近「……」
672:
・・・
・・

「人間は人魚を襲う極悪種族だ!」
「もう何日も帰ってこないうちの娘も人間に襲われたに違いない!」
「人間を許すな!人魚同士団結して奴等を殺せ!」
「殺せ!殺せ!人間を許すな!」
人魚王子「どうやら、うまく言っているようだ。何人かの人魚を殺すだけでこれほどの成果が生まれるとは…!素晴らしい!やはり何かを得るには代償が必要……!あれだけの人魚を犠牲にしただけでこの結果はすばらしい」
側近「しかし……これはあまりにも……」
人魚王子「我が国が平和に一歩近づいたのだ、喜べ」
側近「……」
人魚王「だが襲われる人魚が居なくなってはまた争いが起きるかも知れないからな……口止めを兼ねて貴様には我が国の礎になって貰おう」スラッ
側近「……っ!」
ズブリッ
673:
人魚王子「邪魔なものは消し、利用できるものは利用する……全ては国の繁栄、国民の幸せの為だ…!フハハハハ!」
・・・
それから時は流れ 十数年前
・・・
部下「国王様!六人目のお子さま、無事に生まれたようです!おめでとうございます!」
人魚王「当然……女だな?」
部下「えっ、はい、かわいらしい姫様です!よくお泣きになって母子ともに…」
人魚王「そのような事はどうでも良い。王族の娘ならば歌声を持っているだろう、その特性を教えろ。産婆は産声から判断できるのだ、当然伝え聞いているな?」
部下「は、はい!確か、人間を操れる歌声であると……産婆もこのような歌声は初めてだと……」
人魚王「……ほう、次の兵器は人間を操れると……!」ガタッ
人魚王「遂に、遂に手に入れた!この兵器が育てば……人間共を消し去れば領土の拡大が出来る、更なる繁栄が約束される!」フハハハハ
674:
そして現在
・・・
・・

人魚王「……たしは……ない……」
鬼神赤鬼「あぁ?なんだって?聞こえねぇぞ?」
人魚王「私は間違ってなどいない……!」
人魚王「実際、私の策で人魚は団結し平和は手に入ったのだ!これ以上に何がある!人間を憎んで何の問題がある!」
人魚王「共存?笑わせるな、同じ種族ですらいさかいが起きるというのに別の種族と共存だと?」
人魚王「全く持って不可能だ!つまり、私の策は……私の王としての行動は間違ってなど……」
シュッ ドゴォ
人魚王「げは……っ!」ドサッ
鬼神赤鬼「共存が馬鹿馬鹿しいというのには同意だがな……貴様の行動が正しいか間違ってたかなんざでかい声で喚くもんじゃねぇだろうが、そんなこと喚く時点で自分自身どこか納得してねぇんだろ」
鬼神赤鬼「正しいと思うなら黙って進んでりゃあいいだろうが。もっとも俺には貴様の王としての行動など興味がないがな」
690:
人魚王「……」ゼェゼェ
鬼神赤鬼「もうグダグダと喚く力も残ってねぇか。まあ良い、準備運動にもならなかったが……多少は体が温まったようだ」
グイッ
鬼神赤鬼「その礼だ、痛みすら感じぬよう俺が息の根を止めてやろう」ググッ
人魚王「ぐぐっ……」ゼェゼェ
髪の短い人魚「お父様……!」
ズダーン ズダーン
鬼神赤鬼「……チッ」パシッパシッ
赤ずきん「……銃弾を掴むなんて、随分と優れた胴体視力ね」ガチャッ
鬼神赤鬼「……どういうつもりだ小娘?」ギロリ
赤ずきん「やめなさい、王を殺すことは私たちの目的ではないわ。それに…罪のない人魚を殺していた彼を裁くのは私たちではないもの」
鬼神赤鬼「思い上がるなよ小娘……!」ギロリ
691:
ヒュン
赤ずきん「一瞬で距離を……!」
グイッ
鬼神赤鬼「いいか?俺にとって貴様は邪魔だ、だが殺せばあの小僧が何をするか解らん……最悪、俺諸共命を絶つ可能性もある。故に貴様は生かしてやっている」シュバッ
ガシッ
赤ずきん「……ぐっ、離しなさい……!」
鬼神赤鬼「だが貴様を殺すなど容易いという事を忘れるな。この細い首に爪を這わせれば事足りる……あまりでかい態度を取るんじゃねぇぞ、小娘」ギロリ
赤ずきん「……あなたこそ、思い上がらないで」キッ
鬼神赤鬼「あぁ?」
赤ずきん「今回あなたを外に出したのは、あのままだと赤鬼が殺されそうだったからよ」キッ
赤ずきん「だから私は彼を助けるために気絶させた。赤鬼は鬼神のあなたなら何とか出来ると思っていたようだけど、私はあなたを信用なんかしていないの…!」
鬼神赤鬼「信用などいらん、人間である貴様と協力するつもりなど毛頭無いからな。更に言えば今はこの肉体の主導権は俺にある、俺がどう動こうと誰を殺そうと勝手だ。指図をするな、人間風情が」ブオンッ
ドサッ!
赤ずきん「ゲホッ……!随分と……手荒じゃないの、鬼神…!」ゲホゲホ
鬼神赤鬼「フン……王の息の根を止めようと思っていたが興が冷めた。だが思い出したぞ……この場にはもう一人目障りなガキが居たじゃねぇか」ザッ
鬼神赤鬼「出てきやがれ小娘、どうせ見物しているんだろう?モドキの人魚王を殺すよりも貴様の方が殺しがいがありそうだ」
692:
ヒョコ
ドロシー「んー?私は今回見学のつもりだったんだけどー?」
鬼神赤鬼「そんな言い分が通用すると思っているのか?俺は人間が殺せれば相手は誰だって構わねぇ…!日ノ本の人間だろうが余所の人間だろうがな」
赤ずきん「鬼神、やめなさいと言っているでしょう、今はドロシーを相手にする時じゃあないのよ。あなたはもうその肉体を赤鬼に返して頂戴」
鬼神赤鬼「断る。まだ俺は実体を保っていられるようだ、時間一杯は俺の自由に暴れ思うがままに殺す。それよりも小娘……」
鬼神赤鬼「指図をするなと言うのが聞こえなかったか……?」ギロリ
赤ずきん「……っ!」ゾクッ
鬼神赤鬼「この小僧に乗り移ってからというもの……一人の人間も殺せず苛立ちが募っていたが、ようやく…ようやく人間への復讐が叶う」
ドロシー「殺す?えっ?私を?アハハー!冗談キツいよー」ケラケラ シュッ
鬼神赤鬼「フン、貴様は随分と楽観的だな?状況の解らぬ馬鹿か、あるいは死を恐れてねぇのか……どっちにしろ」バッ
ヒュッ
鬼神赤鬼「俺はあの小僧のように甘くねぇぞ」グググッ
ドロシー「っ!でもあんたじゃ私は殺せないよん♪殺すって言う時はね、ちゃんと殺せそうな相手に言わなきゃ失敗したとき顔真っ赤だよー?」クスクス
ドロシー「ってわけで、ドロシーちゃんは鬼神ちゃんを殺しまーす♪」ケラケラ
693:
鬼神赤鬼「面白い冗談だ小娘、人間を殺せると思うと愉快で仕方ねぇなぁ!」シュッ
ブオォンッ!
ドロシーの幻「クスクス、さすがは鬼神ちゃん!見事命中したね!」ファサァァ
鬼神赤鬼「チッ、幻像を交えるとは……小賢しいッ!」ギロリ
ドロシー「そいつは残像だ!……って一回言ってみたかったんだよねー!残像って言うかマッチの幻覚だけどね♪」ケラケラ
ヒュッ
鬼神赤鬼「…なに余裕面で無駄口叩いてんだ?」グググッ
ドロシー「うわっ、もう目の前!?鬼神ちゃんデカい図体なのにいなぁ!」カツンカツン
ヒュッ
ドロシー「でもさならちょーっとは自信あるけどねー?」ケラケラ
・・・
ロバ「赤ずきんちゃん!こりゃあまずいんじゃないかね?黒い鬼君は見たところ相当強い、あのお嬢さんもただ者じゃあない!我々音楽隊が巻き添えになるのは避けたいんだが」トコトコ
ネコ「そうにゃん!あれって熱狂的なんて次元を越えてるにゃん!」
赤ずきん「ええ、あなた達は倒れている人魚王とあの姉を少し離れた場所へ、巻き込まれたら命の保証が出来ないものね」
赤ずきん「人魚姫は私の後ろに居なさい。鬼神にはきっと活動限界が存在する、それまで待ちましょう。もうこうなればこちらからは手出しできない」
人魚姫『オッケー!とりあえずあの二人にちょっかい出されないようにしなきゃマジでマズいね……次元が違うって感じするし……』
赤ずきん「鬼神が負けるなんて無いでしょうけど……鬼神が死ねば赤鬼も死んでしまうから、不本意だけど鬼神を援護する形になるかしらね」
赤ずきん「けれどそれもあくまで緊急時だけ、時間が来て赤鬼の人格が戻ったらすぐに逃げましょう。繰り返しになるけどドロシーを相手にしている状態じゃないもの、今はね」
694:
鬼神赤鬼「素早さには自信ありか、ならば避けてみろ小娘!」ブオン
ヒュッ
ドロシー「クスクス、私の武器は魔法の靴だからね!流石にシンデレラのガラスの靴程じゃあないけど度を上げる魔法くらいはお手の物だよん♪」ヒュッ
鬼神赤鬼「魔法だの呪術だのばかりに頼っているような小娘が俺を殺すとは笑わせる!」ヒュッ
ブオンッ チッ
ドロシー「わわっ!今のはやばかったよ!金棒の先っちょがおさげに当たっちゃってた!ちょっと舐めすぎてたかもしれないなー」ヒュッ
鬼神赤鬼「フン、その小賢しい魔法具がなければ貴様などとうの昔に肉塊だ」
ドロシー「それはちょっと困るなー、たかが挽肉でも私みたいな美少女だとグラムいくらになるかわかんないしね」クスクス
鬼神赤鬼「無駄口が多い小娘め、どうせ軽口を叩くのなら遺言の一つでも残した方が有意義ってもんだぞ」ググッ
ブオンッ
ドロシー「うーん、避けてばっかりじゃつまんないし、勿体無いけどちょびっとだけ手の内見せてあげようかな♪」ヒュッ
赤ずきん「まさか、また新たな魔法具を……!」
ドロシー「鬼神ちゃん相手じゃ時間稼ぎにもなんないかな?でもちょびっとだけ動きとめるくらいはできるかもねー」クスクス
ドロシー「枯れ木は無いけど花よ咲け!無数のつたで鬼神ちゃんを縛りつけちゃえ!」カツンカツン
ファサー
695:
ファサー バサササササッ
鬼神赤鬼「フン、次から次へと小細工ばかり達者な小娘だ」フンッ
赤ずきん「あの魔法具は【花咲か爺さん】の……!でもあんなに数多くのつたを出現させるなんて……!」
ドロシー「おー、驚いてる驚いてる!まぁ植物生成は元々の効果だけどさ、ドロシーちゃんが使うことによってぐーんと強化されてるわけですよ!」
赤ずきん「強化…ですって?」
ドロシー「魔法具にちょちょーっとこの靴の魔力を送り込んでやればね、元々よりグレードアップしたスペシャルな効果が期待できるんだよん♪アリスは魔力の底上げー?とかいってたけど、まぁ要するにパワーアップですよ」
ドロシー「それでも鬼神ちゃんの力なら引きちぎっちゃうかもだけど、これだけのつたが一度に襲いかかってきたら避けられないんじゃない?」クスクス
シュババー!
鬼神赤鬼「…つくづく人間は愚かで傲慢だ、小細工に頼りそれを自らの能力だと錯覚する。その上、この鬼神をねじ伏せられると信じている……」
鬼神赤鬼「実に滑稽!俺は鬼神だ、いくら数が多かろうと……たかが草木に縛られるほど軟ではないわ!」シュバッ
バササササッ ブオンブオン!
ブチブチブチー
赤ずきん「四方から襲ってくるつたを全てなぎ払ってる…やっぱりあいつはただ腕力の強いだけの鬼じゃない……!」
ブオンブオン ドスンッ
鬼神赤鬼「どうした小娘、余興は終いか?」
ドロシー「あははっ!ですよねー!でもドロシーちゃんのターンはまだまだこれからだよーん♪」カツンカツン
人魚姫『なにこれ……あの娘もなんかいきなり植物操っててヤバい感じだけど黒くなった赤鬼もそれ全部引きちぎっちゃうし……!』
696:
鬼神赤鬼「いや、小娘如きに時間を掛け過ぎた。貴様は次で仕留める」ググッ
ドロシー「次があればだけどね?私は鬼神ちゃんの弱点も知ってるんだから、いつだって倒せるんだよん?」クスクス
鬼神赤鬼「フン、貴様の減らず口に付き合う義理は無ぇな」ヒュッ
ドロシー「つれないな?!じゃあこっちおいでよ、私に触れることなんかできないけどね!」カツンカツン
鬼神赤鬼「またお得意の魔法具か。童の玩具自慢に付き合うのは終いだ、小細工ごと叩き伏せてくれるわ!」ググッ
ドロシー「私達には優秀なスパイがついてるからねー、青い鳥が教えてくれたよ。鬼神ちゃんの弱点はひ・い・ら・ぎ・♪でしょ?」クスクス
鬼神赤鬼「ほう……読めたぞ小娘の考えがな!」ヒュッ
赤ずきん「……さっきのつたのように柊を生やすつもりね…!?」ガチャ
ドロシー「ふっふふーん♪そのとーり!苦手な柊に囲まれたら鬼神ちゃんもずいぶん弱くなっちゃうでしょ?」クスクス
ドロシー「枯れ木…はやっぱないけど、柊よ!鬼神ちゃんの周りいーっぱいに生い茂っちゃえ!」ファサー
バササササササッ
人魚姫『辺り一面にトゲトゲした植物が……!ねぇ、あれ大丈夫?あの娘が言ってる感じだと、黒い赤鬼の弱点なんでしょ?ヤバくない?』
赤ずきん「柊の薬は赤鬼の中に眠る鬼神の動きを抑える……鬼神を弱体化させることは間違いないわね、どの程度かは分からないけれど」ガチャッ
697:
バササササーッ
ドロシー「クスクス、ほらほら!トゲトゲした柊をかき分けないと私のところには来れないよ♪でも来れるわけないっか!柊を避けてここに来るなんてできっこないし!」
鬼神赤鬼「……確かに、貴様を殺すにはこの柊をかき分ける必要がある。一切触れずにたどり着くのは不可能だ」
ドロシー「柊は鬼神ちゃんの弱点だもんね♪詳しくは知らないけど力を奪われちゃうのかな?」クスクス
鬼神赤鬼「教えてやろう、柊の葉は鬼神を弱体化させ本来の実力を発揮できなくさせる」
ドロシー「ふーん、弱体化!それって残念だよね、せっかく腕力自慢の鬼神ちゃんもこーんな葉っぱに触れちゃうだけで雑魚になっちゃうんだもんねー♪」クスクス
鬼神赤鬼「……滑稽だな、小娘」
ドロシー「なになに?こっけー?かっこつけて私に一撃も入れられない鬼神ちゃんが?」クスクス
鬼神赤鬼「ガーッハッハッハ!浅はか!浅はかよ小娘ェ!」ヒュッ
バサバサバサッ
鬼神赤鬼「俺をこんな草で倒そうってのか?随分と考えが甘いみてぇだな!」ダダダッ
ドロシー「あれ……?鬼神ちゃんなんで柊かき分けて走ってくるわけ?そんな風にしたら力を奪われちゃうんじゃ…!?」
ビュッ
鬼神「ああそうだ、鬼神は柊に触れると弱体化する」ビュオッ
ヒュッ
ドロシー「……ちょっと待ってよ、こんな一瞬で目の前までは走ってこれてんのに弱体化してるって!?嘘ばっかり…!」
鬼神赤鬼「嘘じゃねぇ弱体化はする。確かにするが……少し考え違いをしてねぇか?」ググッ
鬼神赤鬼「獅子が牙を失い爪を折られようとな、そんなもんは野良猫を殺すのに必要ねぇのさ。多少力を奪われようと、鬼が人間の小娘に劣る道理なんか有るわけ無ぇ!」グググッ
ブオンッ!
698:
ドロシー「あっ、ダメだ」
ドロシー「これ避けれない奴だー……」フッ
フラッ
ドロシー「……うわっ、最悪。こんな時にあの目眩か……」フラッ
フラッ
ドロシー「あれ……?」キョトン
赤ずきん(……?ドロシーの雰囲気が変わった……?)
ドロシー「えっ……?あっ……私……?」オロオロ
鬼神赤鬼「終いだ。地獄で浅はかな己を恨んでいろ!」
ドロシー「えっ、えっ!?誰か……た、助けて……!」
ガキィィィンッ
鬼神「……邪魔が入ったか」ギリッ
ブリキ「……」ギギギッ
699:
ドロシー「ブリキ…!」
ブリキ「帰りが遅いと心配してきてみれば……また無茶をしたのか?」
鬼神赤鬼「ほう、俺の一撃を耐えきるか……貴様、人間じゃねぇな?」ギロリ
ブリキ「今は……な」ギギギッ
鬼神赤鬼「ああ、思い出したぞ貴様…鬼ヶ島でこの小娘と一緒にいた輩だ。邪魔をするな、その小娘は俺が殺す」
ブリキ「……お前の行動は当然ともいえる、だが断る。こいつは殺させない」ググッ
ドロシー「ブリキ……早く逃げよう、私もあなたもあんな化け物にはかなわないよ……」ガタガタ
ブリキ「ドロシー……お前、その口調……まさか薬を飲み忘れたのか?あれほど飲み忘れるなと言っただろう…!」キッ
ドロシー「ご、ごめん……私の病気を抑える薬なのに……」
ブリキ「……いや、怒鳴ってすまなかった。今は一刻も早く逃げよう」
ザザッ
鬼神赤鬼「逃がすと思うか?人間じゃねぇなら貴様に興味はないが……その小娘は俺に殺意を向けてきた、殺されても文句は言えないはずだ」
ドロシー「……」フルフル
ブリキ「俺の連れが迷惑をかけたことは謝ろう。だが怒りを鎮めてくれ、今戦うのはお互いに避けたいはずだ」
鬼神赤鬼「いや、人間を殺せるなら俺はいつだって戦いを望むがな……まぁ良い、貴様ごと潰せば済む話だ」ググッ
ピクッ
鬼神赤鬼「……チッ、時間か。しばらく眠っていればいいものをあの青二才め……!」ギリッ
700:
ブリキ「どうやらお前も時間切れのようだな」
鬼神赤鬼「……チッ、鬼神である俺が小娘ごときを殺し損ねるとは……屈辱……!」ギリッ
ブリキ「肩に乗れドロシー、すぐに離れて薬を飲まないとまずい」
ドロシー「……」スッ
赤ずきん「……」
ブリキ「……赤ずきん」
赤ずきん「あら、ブリキのきこりが私に何の用かしら?随分と大人しくなったドロシーの代わりに挑発でもしてくれるのかしら?」
ブリキ「いや、ただ一言言わせてくれ……すまない、と」
赤ずきん「……その一言ですべてを許せというの?」
ブリキ「そんなつもりでは無い。ただ……勝手な言い分ではあるが……」
赤ずきん「……」
ブリキ「……こいつを救うためにもうしばらく……苦労をかけることになるだろうからな」
ドスドスドス…
赤ずきん「ドロシーを…救う…?」
・・・
701:
港町のはずれ
ブリキ「ほらドロシー、水だ」スッ
ドロシー「うん、ありがと」スッ
ブリキ「お前に単独で行動させたのは軽率だった……やはり次からは俺が必ず付き従う」
ドロシー「……ねぇブリキ、あなたがさっき話していた女の子って誰……?」
ブリキ「少々面識がある娘。ただそれだけだ」
ドロシー「私、あの女の子にそっくりな娘の夢を見たことがあるの」
ドロシー「あの女の子の住む村を狼に襲わせる恐ろしい夢、でも恐ろしいのはその惨状よりも私なの。周りの人たちがどんどん死んでいって泣きじゃくるあの子を見て……私は笑ってた。愉快な喜劇でも見ているみたいに」
ブリキ「…ただの夢だ。そういう偶然もあるだろう」
ドロシー「……でも近頃酷い夢をよく見るの、私が楽しそうに誰かを傷つける夢。それに起きてる時の記憶がほとんど無くて……」
ブリキ「疲れているんだろう、今日は薬を飲んで休め」
ドロシー「うん、アリスちゃんが私の為に作ってくれた薬だもん、きちんと飲んで元気にならないとね」ニコッ
ゴクゴク…
ブリキ「……」
ドロシー「……ぷはっ、生き返ったー!さっきは助かったよブリキー!もうちょっとで鬼神にベッコベコに殺されるとこだった、そんなのつまんないからねー」ヘラヘラ
ブリキ「気分はどうだ?怪我はしていないな?」
ドロシー「元気元気ー!でも気分は最悪かなー?青い鳥の情報が中途半端なせいで死にかけたしね、次会ったらローストにしてやろうよ」クスクス
ブリキ「……ああ、だが程々にしておけ。辛い思いをするからな」
ドロシー「どゆこと?まぁいいや、城に戻って寝よっと、今日はちょっと疲れたしー」ヘラヘラ
702:
しばらく後
海岸 岩場の影
・・・
・・

人魚王「……私は望んでいない。真実を知られたうえに捕えられるなど……」ギリッ
赤鬼「薬の効果は切れたみたいだが、流石に野放しにはできない。拘束されるのは少々苦しいだろうが、我慢してくれ」
人魚姫『赤鬼、そんな奴に優しくすることないって!そいつが何をやったか忘れたわけじゃないっしょ?』
赤鬼「そうだが……まぁ、やり方が間違っていたとはいえ、国の為にやったことだってんだから、どうもなぁ……」
髪の短い人魚「……随分と優しいのね、私もお父様もあなたを殺そうとしたのに。報復しないのね」
赤鬼「オイラ達は人魚姫の好きにさせてやりたいだけだ、だからお前達を殺す必要なんかないのさ」
ヒュンッ
赤ずきん「ふぅ……戻ったわよ。ようやく落ち着いたかしらね」
赤鬼「御苦労さん、ブレーメンの音楽隊には救われたな。無事に送り届けられたか?」
赤ずきん「ええ、元のおとぎ話へね。演奏が必要ならいつでも頼ってくれと言ってくれたわ。その代わり腕の立つセロ弾きに会わせろとか自我を持つハープを見たいとか注文をつけられたけれどね」フフッ
赤鬼「随分と音楽好きな連中だな」ガハハ
赤ずきん「それよりも、あなたは大丈夫なの?鬼神は……外に出せば力をつけてしまうんでしょう?今回はやむを得ないといえ、まずかったんじゃないの?」
赤鬼「まぁ、なんだ、まだオイラの意思で抑えられてはいるから急に暴れたりはしない、安心してくれ」
赤ずきん「そう、それならいいのだけど」
鬼神『安心しろ…か、よく言えたものだな?』
赤鬼「……」
703:
鬼神『相変わらず貴様にしか俺の声は聞こえない。未だ体の自由は利かない……だが、確実に俺の力は増大している』
鬼神『気づいているだろう?俺の意思が以前より鮮明に貴様に伝わっているはずだ。それも当然、俺が以前よりも深い場所まで貴様の精神を蝕んでいるからだ』クックックッ
鬼神『共存などという夢物語に俺をも巻き込むと貴様は語ったが……どうやら俺が貴様を支配するほうが近そうだな?』クックックッ
赤鬼「……鬼神」
鬼神『何だ?貴様の青臭い演説など聞くつもりは無ぇぞ?』
赤鬼「お前のおかげで人魚王に殺されずすんだ、ありがとうな。赤ずきんや人魚姫も無事だったのもお前のおかげだ」
鬼神『……』
赤鬼「だけどお前の言うとおり、鬼神の力に頼ってちゃあ共存なんて夢物語になっちまうな。オイラ自身で何とかできるようにならねぇと」ガハハ
鬼神『……フンッ、貴様自身で何とかできたとしても夢物語である事に変わりはない。いずれ現実を突きつけられ絶望する日が来る、その日までせいぜい足掻け青二才』フンッ
赤鬼「……もちろん足掻くさ、夢だからな。俺と青鬼の」
704:
赤ずきん「さぁ、これからどうしましょうね?人魚の王もお姉さんもこのままというわけにはいかないものね」
人魚姫『親父は国をまとめるために人魚を殺して、それを人間のせいにしたんだよ?それをそのまま無かったことにはできないって、人魚のみんなに教えないとダメっしょ!』
赤鬼「そうだが、お前はもう人間だ。どうやって海底の奴らに……」
赤ずきん「問題はそれよね、私達には海底へと行く術がない。海底の魔女に払える対価も持ち合わせていないしね」
髪の短い人魚「……何故、責めないの?」
赤鬼「んっ?」
髪の短い人魚「頭巾の娘さん、あなたは人間よね?なら何故私達を責めないの?人間は人魚に危害なんか加えていなかった、それなのに私達人魚は罪のない人間に憎しみを向けていた」
髪の短い人魚「けれどそれは……お父様が国の為に作り出した偽物の憎悪。お父様が国民たちに騙った人間の悪事は全て偽り。それに踊らされて、私達は人間を殺し続けていたのよ!?」
赤ずきん「人間を殺した罪は消えない、けれど王に騙されたあなたも被害者だもの」
髪の短い人魚「……私達が愚かだった。人魚を悪意から守り、平和を築いていると思い込んで歌っていたのに……実際に確執の種をまいていたのは私達だった…!」
人魚姫『……姉ちゃん』
髪の短い人魚「鬼さん、お父様は小瓶を持っていませんでしたか?小さな、一見すると中身のない小瓶です」
赤鬼「ああ、どんな魔法具を持っているか解らないから持ち物は預かってるが……これか?」スッ
髪の短い人魚「人魚姫の声が閉じ込めてあるはずです、封を切れば声が取り戻せるでしょう」
705:
ポンッ フワッ
赤鬼「よし、封を切ったぞ。どうだ、人魚姫?」
人魚姫「……うん、声出せてる感じする!ねぇねぇ、ちゃんと聞こえてる?」
赤ずきん「ええ、あなたの考えはずっと私達に届いていたから久しぶりという感じはしないけれどね」フフッ
髪の短い人魚「人魚姫、あなたには辛い思いをさせてしまったわね。正しいのはあなただったのに」
人魚姫「いいよ、姉ちゃんはそんなにボロボロになってでも私を救うために来てくれたじゃん?ちょっと口うるさいと思ってたけど、結局は優しい姉ちゃんだしさ」ヘラヘラ
人魚姫「それにさ!人間が悪くないってのはもうわかったでしょ?だからもう人魚が人間を恨む理由はないっしょ?これってマジで共存するチャンスだと思うんだよね!さっそくみんなにこのことを伝えてさ、人間と仲良く暮らそうよ!」
人魚王「甘い考えだな……」
人魚姫「は?そんな事ないっしょ!全部ウソだったんだからさ、人間は人魚を襲ってなんかいないんだし恨む理由がもうないじゃん」
人魚王「長い年月で成長した憎悪はそう簡単には刈り取れぬ。私が植え付けた憎悪は確かに偽りだが、国民たちの中で膨らんだ人間への憎しみはそう簡単には拭えぬ」
髪の短い人魚「解ってくれる国民もいるでしょうけど、きっと大多数の人魚は突然真実を告げられても……混乱する。一度植え付けられた人間への悪い印象はぬぐえない、そう簡単にはね……」
人魚姫「……なにそれ」
髪の短い人魚「それに……いくら国民の為とはいえお父様の行為は許されない、おそらく投獄は免れないでしょうし王家への不信感は確実に高まります。最悪、国家転覆なんて事も十分に考えられます」
人魚王「それを私は望んでいない。平和を維持する最善の方法は、貴様らが口をつぐむこと。今まで通り人間への憎しみを向け、人魚だけで平和に暮らすことだ」
706:
人魚王「今まで通り、人間どもは好きに暮らせばいい。人魚は人間を恨み続け、ディーヴァは時折船を襲えばいい」
人魚姫「……なんでそうなんの?」
人魚王「解らんのか?国民に真実を告げれば、規模の大小にかかわらず人魚の仲間内で争いが起こる。国家へ反逆するもの、人間を信用する人魚とそうでない者のいさかい、私が収めた南北の海域間の争いだって勃発する」
人魚王「それに…確かに私の言葉は偽りだ。実際、人間は人魚を襲っていない。だが、それは人間が心優しい種族だからか?いいや、違う…人魚の存在を知らないからだ」
人魚王「人魚の存在を知った人間が人魚に危害を加えないと断言できるか?人間は善人ばかりか?貴様が出会った人間に悪意を持っている輩は一切存在しなかったか?」
人魚姫「……それは、でも!」
人魚王「貴様等は私の行動を悪だと言うが、例え偽りにまみれていたとしても長い間海底は平和で人魚の間での争いは起きていなかった。だが、お前が善行だと信じている行動は争いを生み出す、確実にだ。違うか?」
人魚姫「だからって!罪のない人を犠牲にしてまで得た平和に意味なんか無いじゃん!」
人魚王「いや、平和であること自体に価値がある。そしてそれに導くことが王の務めだ」
髪の短い人魚「私は……お父様の行動は、やはり許されたものではないと思います。でも、人間と共存できるかどうかというのは…また別の問題よ、人魚姫」
人魚姫「はっ!?姉ちゃんまで何言って…!」
髪の短い人魚「お父様が国民を騙していた事は公表し、償ってもらいます。あとは人魚間での争いが大きくならないように対応する、それが最善だと思います。共存なんて……やっぱり難しいわ」
人魚姫「……」
707:
人魚姫「……ねぇ、赤ずきんと赤鬼はどう思う?」
赤ずきん「正直に言うと、全ての人間が人魚と平和に暮らせるとは思えない。他人を利用して利益を得ようとする輩は少なくないもの」
赤鬼「鬼は人間に被害を受けている、これはお前達と違って偽りなんかじゃない。人間が自分たちの利益の為に鬼を利用したことは事実だ」
人魚姫「……」
赤ずきん「でも、そんなのは種族どうこうの問題じゃないわ。人間だけで暮らしていてもそういう輩は居るもの」
赤鬼「そうだな、それに……これは俺も同じ状況に居たからわかるが」
赤鬼「人魚は人間を悪い奴だと思っている、だが実際はそうでない人間も多い。それを知って貰うことだ」
人魚姫「海底の人魚たちに…人間の良さを知ってもらえば、良いって事?」
赤鬼「人魚は人間の本来の姿を知らない、きっと人魚を利用する悪人だと思ってる。その印象を拭ってやればいいんだ……まぁ、口で言うほど簡単なことではないんだがなぁ」
人魚姫「実際に見てないから解らない、解らないから信じられない……だったら、人間にもいい人がいるって事を知っている人魚がそのことをみんなに伝えればいいじゃんね?」
人魚姫「人間と接したあたしが、海底に行ってさ!赤ずきんや赤鬼や桃太郎や王子や……人間との事話せば、きっと信じてくれるっしょ!」
赤ずきん「……ちょっと待ちなさい、海底に行くってあなた……」
赤鬼「自分で言っておいてなんだが…お前がそれをするには人魚に戻るしかないんだぞ?それがどういうことか解ってないわけじゃないだろう?」
人魚姫「解ってるって、あたしそこまで馬鹿じゃないよ。でもこれって私じゃなきゃできないじゃん?」
赤ずきん「声を取り戻したとしても、あなたに掛けられている呪いが解けた訳じゃあないのよ?それなのにあの魔女があなたをまた人魚にしたり人間にしたりするとは思えない、きっと今度は声以上の対価を要求するわよ?」
人魚姫「そうかもしんないけどさ、悲しいじゃん?本当は仲良くなれるかもしれないのに、諦めるなんてさ」
人魚姫「私は人魚になって、親父と姉ちゃんと海底に行くよ。そんでさ、人間との事みんなに話して……仲良くできるように頑張ってみるからさ」ヘラヘラ
赤鬼「……」
人魚姫「だからあたしを城に連れて行ってくれる?王子に会いたいんだ、それに声も取り戻したし」
人魚姫「最後くらいさ、自分の声で気持ちを伝えたいじゃん?」ニコニコ
729:
人魚姫の世界 城 客室(人魚姫の部屋)
人魚姫「えーっと、アクセ作る道具と素材っしょー?二人が用意してくれた洋服と桃太郎に貰ったアクセとー……あと何か忘れ物してないっけ?」ゴソゴソ
赤鬼「……」
人魚姫「忘れ物したら大変だかんね、二人ともちゃんと手伝ってよ?」ゴソゴソ
赤ずきん「……」
人魚姫「ちょっとー!二人ともテンション低すぎなんですけどー?もうちょっと楽しくやろうよ、ほらほらできるっしょ?」ヘラヘラ
赤鬼「楽しくってお前…無理を言うなよ、こんな状況で笑ってられるわけないじゃないか」
赤ずきん「私も同意見よ…友達が死を覚悟しているというのにヘラヘラ笑っていられないわ」
人魚姫「あははっ、死を覚悟したとか流石に大げさ過ぎじゃん?」ヘラヘラ
赤鬼「大げさなんかじゃない、事実だ。お前は王子に別れを告げた後、海底へ行くんだろう。人魚の王が部下用に作らせた人魚に戻す薬…そいつを飲んで人魚へ戻るんだ」
人魚姫「そうそう、海岸で姉ちゃん達と話した通りだよ。私は人魚に戻って、姉ちゃんと一緒に親父を連れて海底へ行くよ」
人魚姫「そんでさ、国民を集めて親父の悪事を洗いざらい白状させて…みんなに謝って、親父と王族の処分を決める。それからさ、人間は本当は悪くないって…良い人がたくさんいるって、わたしがみんなを説得する」
赤ずきん「包み隠さず事実を公にして王の悪事にケジメをつける。王族として自らも罰を受けるというのはあなたのお姉さんの意見だったわね」
人魚姫「姉ちゃんまじめだからさ、自分も相応の罰を受けるって言って聞かないんだよね。ちゃんと謝罪してさ、そんで国民がそれでも政治を王族に任せてくれるなら姉ちゃんが王位に就くことになんのかなー?」
赤鬼「全ての人魚が許してくれるとは考えづらい、家族や友人を王に殺された人魚も大勢いるんだ。それでも誠心誠意謝罪をすれば…お前の姉までひどい扱いを受ける事は無いだろう、あいつも騙されていたんだ」
赤ずきん「…けれど、あの王が罪を認めるとは思えないわ。いいえ、自分の行いが罪だと思ってすらいないもの」
730:
人魚姫「それなんだよねー、あんな親父でも国民には支持されてるからさー。やり方は最悪だったけど、南北の海域の争いを収めたのも人魚の世界を平和にしたのも親父だしさ」
赤鬼「確かにな、方法は褒められたもんじゃねぇが…あの王が国民の為、国家繁栄の為に行動して成功したってのは事実だもんな」
人魚姫「そうそう、だから逆に親父がなんかうまい事演説でもしちゃったら最悪なんだよねー…まぁとにかくさ、そうなってもわたしがちゃんとみんなに人間のいいところ伝えるから大丈夫っしょ」ヘラヘラ
赤鬼「お前がよく考えてだした結論だ、オイラ達は応援する。お前ならきっとうまく説得できるってのも信じてる。だが、なぁ……赤ずきん?」
赤ずきん「……ええ、ひとつだけ大きな問題があるわね」
人魚姫「あー……うん、わかってる」
赤ずきん「あなたの説得が成功して人間への憎しみが消えたとしましょう。……その結果として人魚が人間と交流を持つようになっても人魚王が残した爪痕は消えない」
人魚姫「それって人魚に殺された人間……の事っしょ?復讐の為に…正義の為に殺したと思ってたのに実はただの虐殺だった……なんて、悲惨すぎるって」
人魚姫「でも本当に悲惨なのは殺されちゃった人たちだよね。だってどんなに反省しても謝罪してもさ、殺した人間が帰ってくる事はもうないもんね。例え誤解だったとしてもさ、残された家族にはそんなこと関係無いもんねー……」
赤鬼「そうだな……被害者の家族や友人にとっちゃあどんなに人魚が反省し悔もうが人間に友好的になろうが人魚は大事な人を殺した憎むべき種族になっちまう」
赤ずきん「事の顛末を全て話しても……どんなに頭では理解していても、一部の人魚だけが悪いのだと解っていても全ての人魚に憎しみを向けてしまうでしょうね」
赤ずきん「もちろん、長い時間を掛けてお互いをよく知る事を繰り返すことで…次第に憎しみを向ける相手が間違っていると理解できるでしょうけど…それはとても時間がかかるしものすごく難しいわ」
赤ずきん「あなたが人魚の心を動かし、そして人間の心を動かせる先導者がいれば…いつの日か人間と人魚は共存できる。それは険しくてどこまでも続くように見える長い道のりになるでしょうけれど…いつか叶う、必ずね」
人魚姫「……うん、だからこそわたしは人魚に戻る。わたしが絶対に人魚を説得して人間に歩み寄れるようにする。マジで頑張るよ、これだけは絶対にね!」
731:
赤鬼「うむ、よぉし!お前が体張って頑張るってんだ、オイラ達が気を落としてちゃあいけないよな!」ガハハ
赤ずきん「そうね…私達にできる事は多くないけれど、それでも出来る事が無いわけではないもの」
人魚姫「うんうん、二人ともありがとね!じゃあわたしは王子の所に行ってくるかなー」ヘラヘラ
赤鬼「おう、それじゃあオイラが連れて行ってやる。声が戻っても歩くと足が痛むのは変わらないんだ、肩に乗ると良い」
赤ずきん「……赤鬼、そこは一人で行かせてあげましょうよ」
人魚姫「あははっ、嬉しいけどさ王子の所には一人で行きたいんだー」ヘラヘラ
赤鬼「うおっ、それもそうか……ならオイラ達は城の前で待っているとするか、そしたら海岸へ向かおう。すぐに海底に行くつもりなんだろ?」
人魚姫「うん、王子に会ったらすぐに行こう。姉ちゃん達が誰かに見つかったらまずいかんね」
赤ずきん「……それなら後でバタついてもいけないし、忘れないうちにあなたにはこれを渡しておくわね」ゴソゴソ
スッ
人魚姫「何これ?瓶に入ってるけど……石?キャンディとかいうお菓子?」
赤ずきん「いいえ、石でも飴玉でもないわ。石なんかよりずっと脆くて飴玉のようにすぐに消えてしまうだろうけど、この魔法具はあなたを助けてくれる。使い方はね……」
ヒソヒソ
人魚姫「……マジで!?これ絶対役に立つじゃん!でもレアな物じゃないの?いいの?」ヘラヘラ
赤ずきん「いいのよ、けれど少しずるいかしら?」フフッ
人魚姫「そんなことないって、もしもあいつがちゃんと謝らなかったら使うからさ!…じゃあ、赤ずきんにはお返しのプレゼントあげなきゃねー」ゴソゴソ
グイッ
人魚姫「特別な魔法具って聞いたけどわたしには必要ないから赤ずきんが役に立ててよ。わたしからのプレゼントなんだから大切にしなきゃおこだかんね?」ヘラヘラ
732:
赤ずきん「ええ、ありがとう人魚姫」ニコッ
人魚姫「あははっ、じゃあまた後でねー」ヘラヘラ
バタンッ
赤鬼「行っちまったな……」
赤ずきん「…そうね」
赤鬼「王子との結婚も諦めて、泡になって消える事を承知で…それでも種族共存の道を取るんだな、あいつは」
赤ずきん「もちろんそれは彼女の願いだけれど……むしろ王子を幸せにするという意味合いのほうが強いのかもしれないわね、共存できればこの港町はかつてのそれよりも繁栄できるでしょうしね」
赤鬼「自分の幸せより王子の幸せの為…か。愛した男の願いの為なら、例え自分が泡になっても……か、健気な奴だよあいつは」グスッ
赤ずきん「私は彼女がそれを望むのなら…それがあの娘の愛の形なら…人魚姫らしく王子を愛する事、それが一番の選択だと思う」
赤鬼「そうだな、あいつが消えた後も人魚姫の願いと想いはずっと生き続ける。そしていつか、二つの種族が解り合える日が来るなら、あいつは報われる」
赤ずきん「……ええ、人魚姫が泡になれば結果としておとぎ話が消える事はない。ずっとずっと、このおとぎ話の中には彼女の想いが生き続ける…そしてこのおとぎ話が消えなければ」
赤鬼「現実世界で人魚姫の想いはは生き続ける、か……そういえば、赤ずきん。人魚姫から何を貰ったんだ?」
赤ずきん「短剣よ。おそらく、お姉さんが髪の毛と引き換えに彼女に託した魔法具ね」
赤鬼「ああ、確か……『解魔の短剣』だ。元のおとぎ話にもあったが魔法を打ち消す事が出来るらしい、ただし魔法に掛けられている奴と強い絆で結ばれている奴の血液を浴びせる必要があるけどな」
赤ずきん「そう、強力な魔法具だけど……容易には使えないわね」
赤鬼「ああ、強力な魔法具だが魔法を解くために他の誰かを刺す必要があるからな……」
赤ずきん「もちろんそれもあるけれど……友達からの贈り物ですもの、大切にしたいのは当然でしょう?」
733:
城 王子の部屋
人魚姫「王子ー、入るよ?」
ガチャッ
王子「……zzz」スゥスゥ
人魚姫「寝てる…っていうか灯りつけっぱなしだし、作業しながら寝ちゃったのかも知んないなー…本とか紙の束もあちこちに山積みだし」ペラッ
人魚姫「これは多分この辺りの海図っぽいね?それと船の行き来の記録と……こっちは事故船の記録っぽいけど…うへー、全然わかんないんですけどー」ウヘー
人魚姫「わたしなんかちょっと読んだだけで頭痛くなりそうなのに、マジで頑張り屋だよー。王子は港の復興が夢だもんねー…だから寝る時間も惜しんで頑張ってるんだ、うんうん偉い偉いー」ヘラヘラ
王子「……zzz」
人魚姫「……」
人魚姫「でも大丈夫だかんね、もう姉ちゃん達は船を襲わないからさ。海難事故はもう起きない、王子の頑張りは報われるんだよ?……っていうか姉ちゃんが船沈めてた事黙っててごめん」
ナデナデ
人魚姫「これからは港から出た船はちゃんと戻ってこれるし、余所からの船だってたくさん来るようになる。ちょっと時間はかかるかもしれないけどさ、昔よりも立派な港にきっとなるよ」
人魚姫「そのころには町ももっと栄えてて、たくさんの船や旅人が来て町はもっと賑やかでみんな幸せに暮らすんだよ」
人魚姫「そしたら、そのころには王子は王様になってるのかな?だったら絶対良い国になるっしょ!」
人魚姫「立派な王様になった王子が、頑張って手に入れた大賑わいの港町を治めるんだ。余所の国にも、あの国の王様は立派だって褒められて……それで仲良くなった人魚と人間が一緒に暮らしてんの」
人魚姫「時間はかかるかもしれないけどさ…それでお互いに協力し合って生活するの。人魚と人間が仲良くして王子の夢も叶う、わたしが夢見たそんな未来に…この街は絶対になれる」
人魚姫「わたしはそれを見ることはできないけどさ、王子も幸せになれるって信じてるからさ」ニコニコ
734:
人魚姫「欲張り言っちゃうと……本当はわたしも見たかったんだけどさ、王子が立派な港町治めるとこ。でもちょっと無理っぽいんだよね」ヘラヘラ
人魚姫「赤鬼たちとも話してたけど、一部の人間にとっては人魚は悪い種族になっちゃうんだよね。王子ならきっと人魚の味方してくれるけど、そこで人魚のわたしが側にいたらきっと王子に迷惑かけるしさ」
人魚姫「初めのうちはどうしても人魚を嫌う人間はいると思う、でもさ王子が共存の為に頑張ってくれてもわたしがいたら『王子は人魚の恋人がいるから肩を持ってるだけ』とか言われたりさ、しちゃうとおもうんだよねー」
人魚姫「それってすごくつまんないよ、わたしが原因で王子まで辛い思いをさせちゃうのってさ。そういうの泡になっちゃうより嫌だな、わたし」
王子「……zzz……んんっ……」モゾモゾ
人魚姫「……あっ、王子ごめん。起しちゃったっぽいね」ヘラヘラ
王子「姫…?あぁ、しまったもう朝じゃないか……調べ事をしている最中に眠ってしまったみたいだ」
人魚姫「あははっ、あんまり頑張りすぎると良くないからさ、テキトーに休まなきゃだよー?」ヘラヘラ
王子「いや、そんな事よりも…!喋れるようになったのだね!?君は声が出せない病だと聞いていたが……治ったのかい?」
人魚姫「あー……うん、そんな感じ?」ヘラヘラ
王子「それは良かった、そうだ…!赤鬼や赤ずきんはもう知っているのかい?この良い知らせを伝えなければ…!」ソワソワ
人魚姫「二人とももう知ってるから大丈夫だって、だから王子のところに来たんだしさ」ヘラヘラ
王子「そ、それもそうだね。すまない、なんだか舞い上がってしまって…」
人魚姫「っていうか、王子がテンションあがんのおかしいじゃん?」クスクス
735:
王子「いや、しかし喜ばしい事に変わりはない。これからは君の想いをより理解できる、愛する人と昨日よりずっと解り合える…こんな嬉しい事はない」ニコッ
人魚姫「……」
王子「早父上にも報告しよう、きっと喜んでくださるだろう!」
人魚姫「あー…それはいいんだけどさ」
王子「父上に報告した後、婚姻の報告をすませたいと思っているんだ。君を国民たちに紹介したい、私の妃として」
王子「君は心優しい女性だ、そのうえ透き通った声と可憐な美しさを兼ねている。きっと国民にも慕われるよ」
王子「海難事故の直後で大変な時期ではあるが…だからこそ良い知らせを国民は待ち望んでいるはず。さぁ、準備を整えたらすぐにでも…」
人魚姫「ちょ、ちょっと……!待ってってば、王子!」
王子「あぁ…そうか、私とした事が事を急ぎ過ぎてしまった。まだ君の両親に御会いしていないのに……ご両親に挨拶もしないまま婚姻など不躾だ」
人魚姫「そうじゃないって、それはどうだっていいよ」
王子「……?ならば、何だというんだい?」
人魚姫「わたし、王子とは結婚できない」
王子「っ…!何故だい?私に何か不満があるのならば言って欲しい!私は姫を愛しているんだ!」
人魚姫「それはわたしも同じだけどさ……わたし、王子に言ってない事があるんだ」
王子「一体それは何だというんだい?君も私を愛してくれているというのなら、その想いを押さえつけるほどの事情なのかい?」
人魚姫「…わたしは、本当は人間じゃない」
人魚姫「海のずっと深くに住む、人魚なんだ」
736:
王子「人魚というと…あの伝説や昔話に出てくる人魚の事かい?」
人魚姫「陸の上ではそんな風に思われてるんだっけ。うん、わたしは人魚の国の姫なんだ」
王子「ふふっ、言葉を交わすことで君の新たな一面を知れたようだね。姫がそんな冗談を言うとは思わなかったよ」フフッ
人魚姫「ちょ…冗談なんかじゃないっての!本当の話だって、わたしは魔法の力で人間の姿をしてるだけなんだって!」
王子「……しかし、とてもじゃないが信じられない。人間以外の種族が実際に居るというのも、どう見ても人間である君が…人魚だというのも」
人魚姫「わたしはチョー真面目だよ。あの日、まだ人魚の姿だったから沈んでいく王子を助けて岸まで運べたんだしさ。すぐ近くで船が沈んでいってんのに自由に泳いであんな沖から海岸まで泳ぐって人間にできる?日も落ちてたのに?」
王子「……確かに」
人魚姫「初めて王子を見たときさ、一目で気に入っちゃってさ。恋人になりたいって思ったんだ、それで色々あって……海底の魔女に人間になる魔法を掛けてもらったんだ」
王子「……冗談ではないのだね、姫」
人魚姫「マジで言ってるよ。今のあたしは水中で呼吸出来ないし尾びれも無いけどさ、王子なら信じてくれるっしょ?」
王子「困ってしまうな……やはり姫が人魚だなんて信じられないが、君の言葉に嘘があるとは思えない。おそらく真実なのだろう」
人魚姫「信じてくれて、ありがとね。それでこそ王子だよ」ニコニコ
王子「だが…君は自分が人魚だから人間である私とは結婚できないという考えなのだろう?」
王子「私は姫が人間だからという理由や命の恩人だから愛しているのではない。君だから愛しているんだ、例え人魚だとしても私の気持ちは変わらない」
人魚姫「ヤバっ…チョー泣きそう」ボソッ
王子「君が何故そんな事を気にするのかわからない、私には君が何者かなんて関係無いんだ」
人魚姫「……でもさ、この海域の船を沈めていたのが…人魚だって言っても、同じふうに言ってくれる?」
737:
王子「この海域の船を……沈めていた?あれは、あれは事故ではないのか!?」バッ
人魚姫「あれは事故じゃない、襲撃だったんだよ。海底ではね、人間は人魚を襲う悪い種族だって言われててさ……船を沈める役割を持つディーヴァっていう仕事があるんだ」
王子「……」ボーゼン
人魚姫「人魚の事情としてはさ、人間が悪人だって嘘を振りまいた奴がいて…人魚たちはみんなそいつに騙されてたって事だけど、人魚が人間を殺したのは事実だよ」
王子「何という事だ……」
人魚姫「……ごめんなんて言葉じゃ足りないってのはわかってるけどそれでも、私にはそういうしかないよ。ごめん……」
王子「……何故だ?」
人魚姫「だからさ、人魚の王…わたしの親父が国をまとめるために人間を利用してて……」
王子「いや、人魚が船を襲った理由では無くてね。君が何故それを私に教えたかを聞きたいんだ」
人魚姫「なんでって……」
王子「君が実は人魚で、人魚は人間を恨んでいて、船を沈めていたのも人魚…いずれも信じがたいがすべて事実だとするなら、君にとってその事を私に教えることは不利益しかないはずだ。それなのに何故、君は私に打ち明けたんだい?」
人魚姫「……」
王子「私が…人魚が人間を殺していたことや船を沈めた事を怒って君に危害を加えるかもしれない…そう思わなかったのかい?」
人魚姫「王子はそんな事しないっしょ。それに、わたしは人魚だってことも船が沈んだ理由も王子に隠してたからさ…仮にされても文句言えないし…」
人魚姫「それに王子は喋れない私を信じてくれたし、なにもかも隠したままにするなんて嫌だったって事。王子だったら、例えこんなことがあっても人魚の事を受け入れてくれるって信じてたし」
738:
人魚姫「誤解っていっても人間を殺した人魚が絶対に悪いよ?でもいつかはきっと仲良く暮らせると思うわけ」
人魚姫「っていうか仲良く暮らすのはわたしの願い。そうなれば港町の復興も手伝えて王子の願いも叶う、これがもう一個のわたしの願い。人魚の説得は私がする、だから王子にも共存の為に手伝ってほしい、そう思って王子に教えたんだ」
王子「君の願い…そして私の目標の為なら、例え危険な目にあってもどう思われようと構わなかったというのかい?」
人魚姫「…それはちょっと違うかなー?王子に嫌われるのは絶対嫌だし、でも王子なら頭ごなしに怒ったり否定しないって信じてたしさ。ほら、実際にこうして話を聞いてくれてるじゃん?」ニコニコ
王子「……だとしても、決断には勇気を必要としただろう。実際、私も事故で友人を失っている……君が私にとって特別でなければ……どうしていたかわからない。それなのに君はそれを覚悟で真相を告白するほど、種族の共存を強く願っているんだね?」
人魚姫「そんな立派な感じじゃなくてさ、ただ欲張りなだけだよ。わたしには人魚の家族も友達も人間の友達も恋人もいる。だからどっちとも仲良くしたいだけって感じかな」ヘラヘラ
王子「……わかった、愛しい姫。約束しよう。すぐに結果は出ないだろう、茨の道になってしまうと思うが……私は君に協力する。人間が人魚と手を取り合う未来に向けて、出来る限りの助力をしよう」
人魚姫「本当!?王子ならそう言ってくれるって信じてた!」ギュー
王子「や、やめたまえ抱きつくのは…!」ジタバタ
人魚姫「誰も見てないなら良いって昨日言ってたじゃん?忘れちゃったとか言っても納得しないかんね?」クスクス
王子「むむぅ……だが、これでもう君が婚姻をあきらめる理由はないはずだよ?」
人魚姫「……」
739:
王子「君が種族の共存を望むなら、君と私の婚姻はそれが可能な事を証明する材料にもなる。だから改めて私は君に……」
グイッ
人魚姫「あははっ、ごめん王子。それはできないや」ヘラヘラ
王子「……姫っ!」
人魚姫「確かに王子の言う通りかもしれないけどさ、やっぱり私達の関係は人魚を嫌う人たちの目には良いものに映らないよ。何かを憎んでる人がどういう感情を持つかなんて、子供の時からいっぱい見てきたから知ってんの」
人魚姫「私たちの関係はいい影響より、悪い影響のほうを強く生むと思うんだ。だからできない」
王子「何故だ!?……君がそこまで耐えなければいけない理由はなんなんだい!?どうしても無理というのなら…私は夢や王子という地位を捨ててでも君と……!」
人魚姫「ストップ!それ以上は言っちゃだめだって。王子が諦めてどうすんの?王子の夢は私の夢なんだからそんなの許さないかんね?」
王子「しかし……!」
人魚姫「ごめん…それに私はもう一個王子に隠してる事があるんだよね」
王子「それがいまさら何だというんだ、君が何を隠していたとしても私はもう驚かない…!」
人魚姫「私の歌を聞いた王子は……『寝ちゃう。でも夕方くらいまでね』……」スゥッ
ラーラララーララー
王子「何故だ……突然、睡魔が……まさか姫、君の……」バタッ
王子「……zzz」
740:
人魚姫「ごめんね王子、夢を捨ててまでわたしと一緒に居たいって思ってくれたのは正直うれしかったけど…」
人魚姫「やっぱり、夢を叶えて幸せになってよ。王子の夢はわたしの夢、その方がわたしも幸せだしさ」ヘラヘラ
人魚姫「でもさ、わたしの事は忘れちゃった方がいいよ。わたしはもうすぐ泡になって消えるんだ、もう会えないのに思い続けるのって辛いしさ。だからさ、こうしよ」
人魚姫「わたしの歌を聞いた王子は……『目覚めたら、わたしの事全部忘れてる。助けられたことも、恋したことも、存在も全部』…そんで、どこかの優しくて可愛くてさ王子の事大好きな女の子と結婚して、一緒に夢をかなえてよ」スゥッ
人魚姫「……」
人魚姫「……ダメだ、やっぱこれだけは出来ないや……。完全にわたしのわがままだけど、全部忘れるとか、他の女の子と結婚するとか……マジで辛すぎるし……そう思うとどうしても、声が出ない……」ポロポロ
王子「……zzz」
人魚姫「ごめん、王子。王子に辛い思いさせるの嫌とか言ってたくせに、結局わたし自分のことしか考えてないや……わたしは王子に忘れられるのだけは……マジ無理だよ」ポロポロ
人魚姫「どうしても……この恋が無かった事になるのは……耐えられない……」ポロポロ
人魚姫「……」グスングスン
人魚姫「……もう会えなくてもわたしはずっと王子の味方だかんね……だからわたしの歌を聞いた王子は……『夢をあきらめない』。いつか絶対に自分の力で叶えられる」ラーラララーララー
人魚姫「……わたしはもう行くね、でも無理しちゃだめだかんね?わたしがいないからって無茶したらおこだかんね?」クスクス
ナデナデ
人魚姫「じゃあね。バイバイ、王子」スッ
バタンッ
741:
・・・
数時間後 海底 珊瑚で出来た王宮
ザワザワ ザワザワ
執事魚「えぇーっ!?人間が人魚を襲っているというのは人魚王様の虚言だったんですか!?」
人魚重鎮「その上、被害者の人魚を手に掛けていたのは人魚王様御本人…!?」
人魚兵長「こ、このような事前代未聞ですよ!?いくら平和の為とはいえ国王様が民に手を掛けるなど…!」
ザワザワ ザワザワ
人魚姫「王宮の中心人物だけ集めて会議しただけでこれだけ大騒ぎになんだもん、国民に説明する時はこんなもんじゃないだろーね」
髪の短い人魚「しかし、お父様の悪事は見過ごせるものではありませんからね。もうすでに国民には王宮前に集まってもらうよう連絡を回しています」
人魚姫「後には引けないってことかー……今更、そんなつもりないけどさ」
人魚王「……」モガモガ ギロリッ
人魚兵「しかし、とても信じられない…!国王様が…!」
人魚兵2「だが、仲間の兵が帰ってこないのだって一部は国王様が殺害したからだって姫様は仰ってるし、姫様が嘘を吐いているようには思えないぜ」
人魚兵「ああ、髪の短い姫様はファザコン気味だったしな……国王様を裏切るとは思えないし…」
人魚兵2「そうだよな、しかし……国民がどういう反応を取るか……」
執事魚「姫様、どうして人魚王様の口を縛っておられるのですか?」
髪の短い人魚「……虚言を吐いたとはいえ、お父様の功績は事実ですから……お父様が言葉巧みに兵や国民を騙す可能性は拭えませんからね」
742:
執事魚「しかし…人魚王様が自らの行いを認めなければ、国民も納得しないのでは…?兵士の中にも信じ切れずにいるものが多くいるようですし…」
ザワザワ ザワザワ
「マジか…?えー…マジで?転職考えるか?」
「うーん、しかしあの国王様が……でも姫様は嘘付いてないだろ、あの方は真面目だから…」
「確かに国王様は姫様への暴力とかやり過ぎなところはあったけど、流石に人魚を殺すとかないんじゃ…?」
「でも傷だらけの姫様もそれはそれで……」
ザワザワ ザワザワ
人魚姫「うん、だから親父の口から直接言わせる。自分がした事と、国民への謝罪をさ」
髪の短い人魚「問題は、お父様が素直に応じてくださるかどうか……」
執事魚「少し、難しいのではありませんか?今だから言いますけど……国王様は少し御自分の考えに固執し過ぎるところがありましたから、だから姫様の意見など聞き入れてくれませんでしたし」
髪の短い人魚「そうですね……まずは私から国民の皆さんに事の顛末と謝罪を行い、そのあとにお父様に自白していただく予定ですが……」
人魚姫「もうそのお父様って言うのやめなよ姉ちゃん、こいつは国を守るためにみんな騙してたんだよ?悪い奴じゃん」
髪の短い人魚「人魚姫、私はお父様がこれを機に心を入れ替えてくださればと思っているんです」
人魚姫「えー…?無理っしょ、だってそもそもが守るために守るべきものを殺すって発想……普通なら出てこないって」
髪の短い人魚「しかし、お父様の行動の根本にあるのは平和を望む心、まだお父様はやり直せると思うの」
743:
人魚姫「そんなにうまくいかないと思うけどなー……」
髪の短い人魚「容易くない事を夢見ているのは、私もあなたも一緒よ?人魚姫」フフッ
人魚姫「うー、それ言われちゃうと…反論できないんですけどー……」
執事魚「しかし、もしも大勢の前でまた虚言を漏らされては…!場合によっては姫様達を犠牲にする可能性もありますよ!?」
髪の短い人魚「可能性はありますね、お父様にとっては平和の為なら私達を娘としてみてくださらないですから……」
人魚姫「姉ちゃんが親父がまともになる可能性を信じてるってなら……まずは親父の様子を見るよ、予定通りちゃんと直接悪事を告白して貰うことにしてさ」
執事魚「でも、もし、素直に白状されなかったらどうするんです?何か起こってからでは対応が遅れてしまいます…大勢の国民が暴徒と化したら、兵を失っている我が国の軍では…」
髪の短い人魚「お父様の願いは平和です、そのような無茶はしないと思いますが…しかし、あなたには何か考えがあるのですか?人魚姫」
人魚姫「考えって言うかさ……友達に貰った魔法具があるんだ、本当は初めから使ってもいいかなって思うけど、やっぱ親父が罪を認めないときに使うよ」
執事魚「魔法具…いったいどのような…?」
人魚姫「それはその時まで秘密、親父の耳にはいっちゃまずいもんね」
ザワザワ ガヤガヤ
人魚兵「姫様方!お時間です、国民もすでに集まっております……では壇上の方へ、お願いいたします」
髪の短い人魚「いよいよ……ね。うまくいってもいかなくても、私達人魚の世界の歴史が動く瞬間……」ゴクリ
人魚姫「そんなに緊張しなくていいじゃん、むしろ今まで私達の歴史なんて親父の嘘で固められた偽物だったんだしさ」
人魚姫「だからこれは始まりだよ、人魚の世界の。ううん、人魚と人間の歴史のね」
744:
海底 珊瑚で出来た王宮前 
人魚姫「うわっ、これすごいね……めっちゃ集まってんじゃん」
髪の短い人魚「ここからは公の場です、言葉遣いには注意なさい」キリッ
人魚姫「えー、やりにくいなー……」
髪の短い人魚「…普段のような口調では、国民の信用も得られませんよ」ボソッ
人魚姫「うん、わかった…ですわお姉様」
ワーワー ザワザワ ワーワー
「今日は重要な報告があるって事だったが…なんなのかね?」
「人魚姫様の奪還に成功した報告じゃね?」
「しかし、一番上と下の姫様だけで…国王様がおられないようだ」
「見ろよ、一番上の姫様今日もボロボロだぜ、我々の為に戦ってくださったから…人間ども許せん!」
「キャァー!姫様ー!ショートも似合ってますわー!」
「皆の者、静粛に!静粛に!」
ザワザワ……シーン……
髪の短い人魚「みなさん、本日は突然のお願いにも係わらずお集まりいただき感謝しております」
髪の短い人魚「本日皆様にお集まりいただいたのは、我々人魚のこれまでと……そして今後について、重大な報告があるからです」
髪の短い人魚「私達は昨日、国王陛下の指揮の元…人間の住む陸地へと侵攻を試みました。そこで…私にも信じられない真実を知ったのです」
745:
「あの姫様でも知らないって相当だよな?なんだろ……」
「人間共の更なる悪事に違いねぇだろ…!あいつら恐ろしい奴らだからな…!」
「しかし、それにしても国王様…ま、まさか!?人間の卑劣な刃に…?」
ザワザワ
「静粛に!静粛に!」
髪の短い人魚「これは我々人魚にとって、非常に信じがたい事実でした」
髪の短い人魚「以前より、我々人魚は相次ぐ人魚の行方不明…及び誘拐死亡事件に悩まされてきました。そして、その悪事は……」
「人間だー!全て人間の仕業だー!あいつらをぶち殺せー!」
「そうだそうだー!こっちには姫様の歌声があるんだ!あんな奴ら一捻りだぜ!」
髪の短い人魚「…違います、人魚が襲われていたのは人間の仕業では無かった。それどころか、人間達は私達人魚の存在すら知り得なかったのです」
ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ
「はっ?なに?どゆこと…?」
「姫様は何を仰って…人間が我々の敵では無いなど…ありえんですぞ!」
「きっと極悪な人間に言いくるめられちまったんだ!姫さまー!目ぇ覚ましてくれー!」
髪の短い人魚「いいえ、目を覚ますのは私達人魚の方だったのです。兵士長、お父様をこちらへ」
人魚兵長「はっ!只今!」ザザッ
髪の短い人魚「私達人魚を襲っていたのは……この国を治める王、人魚王だったのです」
746:
ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ
ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ
「ちょ、姫様ー!いくらなんでもそんな冗談……!」
髪の短い人魚「皆様が驚かれるのも無理ありません、私も信じられませんでした」
髪の短い人魚「ですが…国王陛下自ら人魚を殺し、それを人間の仕業だとすることでこの国は団結を増し、平穏な日常を手に入れていたのです」
髪の短い人魚「陛下は国の平和の為と称し、罪のない人魚を……」
「ちょっと待ってくれ姫様!そんな突拍子もない事言われて信用できねぇよー!」
「そうだそうだー!俺達の人間への怒りを何かに利用しようってならいくら姫様といえど許せねェぞー!」
「国王陛下はどうしたー!陛下が直接申し開きをしてくれねぇと信用できねぇー!」
ザワザワザワザワ
人魚王「……私はここだ、皆の衆」ユラユラ
「こ、国王陛下!?何故そのように縛られておいでで……!」
「国王様ー!姫様の言葉は事実なのですか!?そんなことありませんよねー!?」
「国王陛下ー!真実を、真実を我々国民に!」
人魚王「案ずるな、我は少々……手を打ち損じただけだ。おい、私が演説を開始する……貴様ら、余計な口出しをせぬように」ボソッ
髪の短い人魚「……はい、きちんとした謝罪。お願いします、お父様」スッ
人魚姫「……」
747:
人魚王「まず、このような大きな騒ぎになった事を諸君に謝罪しよう。すまなかった」
人魚王「平和に暮らす皆の衆を呼び出した事、心苦しく思うが……だが更なる平和の為、大目に見て欲しい」
人魚王「我々は昨日、陸地へと侵攻した……そこで新たな種族に遭遇した。鬼と呼ばれる……悪魔のような角と海獣の如き巨体を持つ恐ろしき種族だ」
髪の短い人魚「……」
人魚姫「……赤鬼の事、恐ろしいとか…!」イライラ
人魚王「そこで出会った鬼という種族…本当に恐ろしいのは身体能力の高さでは無かったのだ……!」
ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ
人魚王「……貴様等、私が民衆の前で謝罪をするなどと……よくもそのような夢物語にすがったものだな」ボソッ
髪の短い人魚「やはり…駄目なのですか?もう、良いでしょうお父様……これ以上、被害を広げる事は……!」
人魚王「私は間違っていない。今まで通りに事を運ぶ事が一番なのだ。私のシナリオはこうだ、『精神を操る鬼という種族の魔手に長女である貴様が犠牲となり、我を捕え虚言を吐いている』とな」
髪の短い人魚「お父様…!何故、何故わかってくださらないのですか…!お父様の望む平和はほかの形で手に入れられます!」
人魚王「わかっていないのは貴様らだ。最優先すべきは真実でも立場でも威厳でも無い、平和を得ることだ」
人魚王「平和こそ全て、争いが起きず全ての民が過ごせるならそれが一番なのだ」
748:
人魚姫「よーくわかったよ、姉ちゃんがあんなに言うからさ……ちょっと様子見たかったけど、もういいっしょ?姉ちゃん」
髪の短い人魚「……」
人魚王「フン、我に演説の自由を与えた時点で貴様等の負けだ。私は瞬く間に民衆を味方につけ、新たな悪である貴様等を討ち……平和を取り戻す。貴様等には鬼に操られた哀れな人魚として、我が国の平和の礎となってもらう」
ババッ
人魚王「皆の者、よく聞いてほしい!愚かにも私の娘は鬼という種族の魔手によって……」
コロンッ
人魚王の声「皆、よく聞いてよ…いや、よく聞くのだ皆の者!!」
人魚王「何っ…?」バッ
人魚王の声「人魚を殺してたのは実は人間じゃない、人魚を殺していたのは親j…いや、このわたし……!」
人魚王の声「この国王が、人魚を襲撃した張本人!私こそが全ての元凶だったんだ!」
ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ
人魚王「……なんだ、この声は……!貴様か…貴様の仕業か……!」ギロリ
人魚姫「さぁ…私には何の事かよくわかんないんですけどー?どうすんの親父、いやおとーさま?」ヘラヘラ
766:
人魚姫(人魚王ボイス)「もう一度言う!今まで襲撃された人魚は全部私が殺したんだ!人間は本当は全然悪くないんだよ、国王の私が国をまとめるために人間に罪をなすりつけたんだから!」
人魚王「おのれ……!違う!皆の者騙されるな…!この声は……」ゲホゲホ
人魚姫(人魚王ボイス)「これが全ての真相なんだ!人間は私達人魚の事を知りすらしない!それを良いことに人間に憎しみの感情が向くように仕向けて偽物の平和を手に入れたんだ!」
人魚王「クッ…鬼との戦いで消耗してしまったか…民衆へ届くほどの声を張り上げる事が出来ぬ…!」ギリッ
人魚姫「そりゃあさ、わたしだってチョー嫌嫌だったけどレッスンはさせられてんだし、声量には自信あんだよね」ヘラヘラ
人魚王「兵器としての精度を高めようとした事が仇となったか……」ギリッ
人魚姫「結局サボってばっかだったけどさ、戦った後でボロボロの親父の声に勝てるくらいにはでかい声だせるっての」ヘラヘラ
ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ
「に、人魚を殺していたのは人間じゃなかっただって!?」
「それどころか本当の犯人は国王様!?国王は国民を自ら殺していたってのか!?」
「おいおい!いくらなんでもそんなこと……えっ、人間はどうなるんだ?あいつらは悪くないってのか!?」
「いや、でも国王様が自ら仰っていたぞ!?これ…どうなるんだこれ!?」
ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ
髪の短い人魚「望んだ方法では無かったけど、国民たちに真実を伝える事は出来た……でも人魚姫、あなた一体どうやって国王の声を…?」
人魚姫「友達に貰ったんだよ、チョークだったかな?声を自在に変えられる道具?でも出涸らしみたいなもんだから少ししか使えないってさ。でも十分っしょ、親父の声で真実を告げられたんだしさ」
髪の短い人魚「陸にはこのような不思議な道具が……しかし、まだ終わっていません。本当の説得はここからです」
人魚姫「うん、大変なのはこっから。わかってたけど…みんな混乱しちゃてるっぽいしね」
767:
人魚王「混乱するに決まっているだろう…!何が魔法具だ、何が声の変わるチョークだバカバカしい…貴様がしたことは平和を踏みにじる行為だとわからんのか…!」ギロリ
人魚姫「平和を踏みにじる?なんないでしょそんな事。あんたが皆を騙してたって事を教えただけじゃん、本当の事を教えて何が悪いっての?」
人魚王「馬鹿者め、何度も言わせるな……真実は重要ではない!見ろ、貴様が真実を告げた結果を!大勢の民衆が混乱している、やがてそれは怒りや恐怖に変わる…!無益な人魚同士の争いがまた始まる!」
ザワザワ ザワザワ
人魚王「貴様は青臭い正義感を振り回し、国民を苦しめているに過ぎん!自らのエゴで平和を乱す逆賊め…私が築き上げた国をよくも…!」ギリッ
人魚姫「あーもう!なんとでもいいえばいいじゃん!どーせわたしは不良娘だからさ。でも私は人間も人魚もみんな幸せにするよ、あんたみたいな偽物の平和じゃなくて本物を手に入れるから」
人魚王「平和に本物も偽物も無いのだ、どのような手段を使ってでも手に入れてしまえばそれに違いなど存在しない…!」
人魚姫「もういい…あんた黙っててよ!国民のみんなはあんたが立派な王だって思ってくれてたってのにさ、その気持ちを踏みにじってんのは誰なわけ?あんたっしょ!?」
髪の短い人魚「人魚姫、今は王と言い争う時ではありません。あとは私が皆さんに説明します、あなたにはまだすべき事があるのだから落ち着きなさい」スッ
人魚姫「……わかった、このままじゃみんな混乱したままだもんね」
髪の短い人魚「ええ、真実を知る私達が国民を導かなければ、この国に未来はありません。そして…兵長、もしも暴動が起きてしまった際は私達よりも、国民の安全を優先してください」
人魚兵長「し、しかし……これだけの数の国民が暴徒と化せば……」
髪の短い人魚「お父様の側に居ながらその嘘に長年気がつかなかった私の責任です。それよりも巻き込まれた国民が怪我などせぬよう、お願いします」
人魚兵長「は、はい…お任せください、姫様…!」
人魚王「愚かな…また無意味な争いが人魚同士で行われるだけだ…人間を唯一の敵としていればいいものを…私が、私が唯一正しいというのに…」ブツブツ
768:
ザワザワ ザワザワ ザワザワ
「こんな時に王達は何をもめているんだ…?この騒ぎで何話しているのか聞こえないが…」
「そんな事どうだってかまわねぇよ!俺達は王に騙されてたって事は事実なんだ、俺達が恨む相手は人間じゃあなかったんだ!」
「俺達はずっと騙されてた!無関係な人間をだしに使われて…あいつの良いように操られていたんだ!」
「うちの娘を殺したのも国王だったんだ…!それを国の為と称して…許せない!」
ザワザワ ザワザワ ザワザワ
髪の短い人魚「真実はみなさんお聞きの通りです。国王は長きにわたる南北の海域間の争いを鎮めるため、そして人魚同士の争いを無くすため…自ら罪のない人魚を殺し、それを人間の仕業とすることで……」
髪の短い人魚「私達の怒りや恨みを人間へと向けさせました。そして、私達姉妹をディーヴァとして海上へ送り出し人間を襲撃させることでその憎しみを少しずつ晴らさせているように見せかけていたのです」
髪の短い人魚「私達が過ごしていた平和な日々は大きな犠牲と国王の虚言によって覆われていたのです。平和のため国民の為とはいえ……国民の平和の為に国民が嘆く事などあってはなりません。そしてそれに気が付けなかった私達も…同罪です」
髪の短い人魚「いくら交流がないとはいえ、比の無い人間を巻き込み無関係な人間を殺すなど……悪魔の所業です」
髪の短い人魚「お父様……いいえ、前王。あなたは国を守る者として……それ以前に、人魚として失格です!」キッ
人魚王「兵器風情が……好き勝手いいおって……!」ギリッ
ザワザワ ザワザワ ザワザワ
髪の短い人魚「兵長、前王を牢へ。決して取り逃がさないよう、そしてどんな言葉であっても耳を貸さないように」
兵長「はい!かしこまりました!」ビシッ
769:
髪の短い人魚「…前王、私はあなたに依存し過ぎていたようです。私は今でもあなたが自分自身の為でなく、国民の幸せの為に行動したのだと信じています」
人魚王「貴様、自らの意思で私を王座から引きずり下ろしたというのに勝手な事を……!」
髪の短い人魚「……私には国民を蔑ろにするあなたのやり方が許せません。ですがあなたが獄中で心の底から改心し、もう誰も悲しむことのないそんな国にするために再び王座に就き……今度こそ本当の意味で国民を守るために私に命令を下してくださるのを私は心の隅で願っています」
髪の短い人魚「ですから、獄中でどうか……御自分と向き合ってください。私は王族としてあなたを許せませんが……娘として、優しい心を取り戻される事を願っています、お父様」
人魚王「……おい、兵長。さっさと牢へと案内せよ、出来損ないの兵器の声が傷に障るのだ」
人魚兵長「は、はい。案内いたします」
人魚王「こうなれば私が投獄される事は逃れられん。だが、貴様等のような甘い考えで国を建て直せるなどと思うな」
人魚王「貴様等がどのような政策を立ち上げるのか、そして国民に見捨てられどのように国が崩れていくのか……貴様がこの選択を後悔する様を、獄中から見させてもらうとしよう」フンッ
スゥーッ
人魚姫「姉ちゃん、もうほっとけばいいのに……あいつ改心なんか絶対しないって」
髪の短い人魚「そうはいきません、国民を騙していた事は許せませんが……あんな王でも私のお父様なんですから」
ザワザワ ザワザワ
「しかし…あいつが王を辞めちまったら誰が王をやるんだ!?」
「そりゃあ……長女の姫様だろ?前王には息子がいないし王妃様ももう随分昔に……」
「姫様ー!そこんところどうなってんですかー!」
「新しい王には姫様がなってくれるんですよねー?」
「姫様が国王……つまり女王様か……女王様か……」
ザワザワ ザワザワ ザワザワ
770:
髪の短い人魚「す、少し待ってください皆さん…!王を牢に入れた以上、確かに次の王が必要です……そしてその役目を担うべきは立場上、私です。ですが……」
髪の短い人魚「前王のやってきた事は先ほどお伝えしたとおりです。前王は罪のない国民や人間達を利用していたんです!そして私もその娘、そして王族なんですよ!?」
髪の短い人魚「国民を騙す王族がいてはいけない、国民を傷つける王族なんていない方がいい。国民の皆さんも今回の件で私達王族に失望しているはずです!あなた方の家族や恋人や友人を殺していたのは王族なんですよ!?」
髪の短い人魚「それなのに何故、私を王にと言ってくださるんですか?」
声のでかい国民「何故…って、姫様はやりたくないんですか?国王になるのは本意ではないと?」
髪の短い人魚「いいえ、私は前王の過ちを繰り返さないよう…持てる力を全て使って国を盛りたてて行くべきだと思います。今、この国をまとめるものがだれもいなければ…私の好きなこの国も皆さんもバラバラになってしまいます」
髪の短い人魚「それは…悲しいです。私は今まで国を無くすのが、国民の皆さんを失うのが嫌でディーヴァとして戦ってきたのです。ディーヴァとしての役割を失ったとしても王になれば皆さんを守れます、だから私は……」
髪の短い人魚「私は王になりたい。でもそれは皆さんが許してくださればの話です、裏切り者の父を持つ姫など王に相応しくないと仰るのでしたら私は…!」
声のでかい国民「姫様が王に相応しくなかったら誰が相応しいんですかー、そうだろ?」ハハハ
「そうですよ姫さまー!何言ってんすかー!姫様はずっと俺達の為に歌ってくれてたじゃないっすか!」
「人間が悪くなかったとしても、私達の為に姫様が戦ってくれたのは事実だものね」
「姫様はいつも傷だらけで俺達の仇を取ってくれてたじゃないか!いや、実際は敵じゃなかったけども」
「どっちにしろ姫様が私達国民の為に行動できる方だってのはみんな知ってるんですよー!」
髪の短い人魚「皆さん…!」ポロポロ
人魚姫「まぁ、そうだよねー。姉ちゃんは誤解だったとはいっても皆の為に人間と戦い続けてきたんだもん、みんなの事を思う気持ちは誰より強いっしょ」
771:
ワーワー ヒメサマー
執事魚「……前王の虚言が判明し、人間が敵でないと解り姫様の苦労は無駄な物になってしまったと嘆いておりましたが……」
執事魚「無駄ではなかった……姫様が国民を思う気持ちは、少しも無駄ではなかった……!」ポロポロ
髪の短い人魚「私は…私は新たな王として皆さんの気持ちに必ず応えて見せます!争いのない平和な国に…必ず!」
ワーワー パチパチパチ
髪の短い人魚「ですが…まずすべき事があります」
髪の短い人魚「まずは前王の行いにケジメをつける為、被害者の遺族の方々には後ほど私が出向き……改めて謝罪に伺います。そして私には他にも謝罪すべき相手が存在します」
髪の短い人魚「私が殺してしまった、罪のない人間達です。海底を治める王として、私は陸へ赴き…人間への謝罪を行います」
ザワザワ ザワザワ
「そ、そりゃあ道理だけど……」
「俺達には人間を襲う正当な理由が無くなったんだ。のこのこ出て行っても大丈夫かな、俺達は人間にとってはただの襲撃者だってのに……」
「馬鹿!姫様を前にそんな言い方があるかよ!」
「でも、人間を殺したのは事実だ。その上で、人間と関係を持つってのは……ちょっとなぁ」
「悪いとは思うけど、黙っておいた方が……」
772:
ザワザワ ザワザワ
髪の短い人魚「皆さんの不安はよくわかります」
髪の短い人魚「私も少し前までは共存など不可能と思いました、正直に申しますと今も人間にこの事を明かすのは……非常に恐ろしいです。どんな言い訳をしたところで私は人殺し。そこに正義も何もない……」
髪の短い人魚「ですが、私の妹……人魚姫は人間と交流を持ち、そして彼女は人間と人魚がきっと共存することができるとそう信じています」
髪の短い人魚「私は妹を信じてみるつもりです。ですから、皆さんにもどうか人魚姫を信じてもらいたいのです」
髪の短い人魚「全ての責任は私が負います。ですから私達人魚は……人間との交流に踏み出します、いつか来る共に笑いあえる日を信じて」
ザワザワ ザワザワ ザワザワ
人魚姫「姉ちゃん、あんなに共存は難しいって言ってたのに…協力してくれるって事で良いんだよね?」
髪の短い人魚「ええ、今でも難しいとは思っているけれど…今回の件、私はあなたの言葉にもう少し耳を傾けるべきだったもの。もっと妹の事を信用しなくてはね」フフッ
人魚姫「姉ちゃんが協力してくれるならさ、難しいなんてことないって!むしろ余裕だって」ヘラヘラ
髪の短い人魚「さぁここからは…あなたの仕事。皆さんに存分に教えて差し上げて」
髪の短い人魚「あなたが人間とどれだけ楽しい時間を過ごしたかをね」フフッ
人魚姫「うん、まかせて。それだったらどれだけ時間があっても話し足りないぐらいからさ!」ヘラヘラ
773:
人魚姫「えっと、じゃあ私はみんなに人間がどんな種族なのかを、私が共存できるって信じてる理由を話すかんね!」
ワーワー パチパチ
人魚姫「皆が不安に思うのも解るけどさ、でも人間は本当は悪くないからさ!私の友達みたいに良い人もたくさんいるって事、今からチョーいっぱい話してあげっからちゃんと聞いてよー?」ニコニコ
髪の短い人魚「人魚姫!皆さまの前でそんな喋り方ではいけないとさっき言ったはずですよ!」ヒソヒソ
人魚姫「やばっ……えーっと……」
「人魚姫様ー!普段通りの喋り方でいいですよー!」ヘラヘラ
「俺達は本当の人間がどういう種族か知らないんだ、でも人魚姫様は知ってるんでしょー?」
「教えてくださいよ、私達に本当の人間がどういう種族なのかを!」
人魚姫「うん!みんながああやって言ってくれてんだから、堅苦しくなくてもいいっしょ?」ヘラヘラ
髪の短い人魚「……好きになさい」ハァー
人魚姫「オッケー!じゃあ早話していこっかなー」ヘラヘラ
・・・
髪の短い人魚「……不思議なものです」
執事魚「と、言いますと?」
髪の短い人魚「昨日までは人間を憎んでいた人魚が、今は揃って人魚姫の話を聞いている。あの子の、人間との交流の話をね」
執事魚「実際の所、人間が犯した悪事の数々は全て前王の虚言でしたからね。非のない人間を逆恨みし続けるような輩はこの国にはいませんよ」
774:
髪の短い人魚「運命というのはどう転がるかわからないものですね」
髪の短い人魚「信じていた王の言葉は偽りで、感じていた幸せは偽物で、私が憎んでいた敵に罪はなく、正義と思っていた歌声に正義は宿っていなかった」
髪の短い人魚「全てが偽物で塗り固められていて、それが真実だと知った時……もうこの国を失ってしまうかとも思いましたが」
髪の短い人魚「国民たちは私を信頼してくれ、そして国の復興を信じてついてきてくれる」
髪の短い人魚「そして人魚たちにわずかに残る人間への不信や不安を取り除くのが、国民の前で礼儀も形式も一切無視して楽しそうに話すあの人魚姫……」
髪の短い人魚「私や父に逆らい、自分の好きなよう自由に生きていた人魚姫が…この海底に希望をもたらしてくれる」
髪の短い人魚「こんな光景を見ることになるなんて、昨日までは思いもしませんでした」
執事魚「そうですね。でも確かに人魚姫様の演説は…いえ、あれを演説と言っていいのか疑問ですが、でもあのように楽しそうに話す人魚姫様を見ていると……」
執事魚「不思議と、人間とも手を結べるのではないかと信じてしまいますね」
髪の短い人魚「歌を口ずさみ大勢の心を魅了し、言葉を口にすることで大衆の心を動かす……彼女こそが本当の意味でのディーヴァ、人魚の歌姫なのかもしれません」フフッ
執事魚「ははっ、確かにそうかもしれませんね……ん?」
シュゥゥゥ コポコポコポ
執事魚「人魚姫様の体から気泡が……?」
髪の短い人魚「……あれがあの子の言っていた、泡になる呪い……王子との結婚が叶わなくなったから……」
775:
人魚姫「でねー!だからー人間は本当はー」イキイキ
ワーワー イイゾビンギョヒメサマー
髪の短い人魚「人魚姫、演説はもう十分よ。中断なさい」ヒソヒソ
人魚姫「は?今良いところなんだけど?みんなもわたしの話ちゃんと聞いてくれてるしさ」
シュゥゥゥ コポコポコポ
髪の短い人魚「気が付いていないのね…あなたにはおそらくもう、呪いの効果が出始めている。まだ少しだけど気泡が上がってるもの」ヒソヒソ
人魚姫「もう……かぁ、早すぎっしょー……」シュゥゥゥ
髪の短い人魚「今はまだ気泡程度だけど、突然あなたが泡になって消えたら国民たちは大混乱です。それに…あの二人と約束しているのではないの?」ヒソヒソ
人魚姫「うん、泡になる前にもう一度あの海岸で会う約束。演説が終わったら行くって話してたんだけどさ」ヒソヒソ
髪の短い人魚「それならあとは私に任せて、あなたは行きなさい。間に合わなければ後悔してしまうわよ」
人魚姫「…ごめん、ありがと。じゃあ後は姉ちゃんに任せる」スッ
ザワザワ ザワザワ
人魚姫「ってことでさ、わたしの話は終わりにすんね!私達は人間に酷いことしたけど絶対いつか仲良くできるよう姉ちゃんは頑張ると思うからさ。姉ちゃんの事よろしくね!」ニコッ
ワーワー パチパチパチ
人魚姫「じゃあ、わたしもう行くね。あの親父が何か企んできても相手にしちゃダメだかんね?この国は姉ちゃんにかかってんだからさ」シュゥゥゥ
髪の短い人魚「ええ、あなたが安心できるような国を作るわ。いつになるかは分からないけれど、人間との関係も良くしていく。だから、心配しなくて平気よ人魚姫」
人魚姫「うん、姉ちゃんがそういうなら大丈夫っしょ!じゃあね!」ヘラヘラ
スィー
776:
海中
スィー
シュゥゥゥゥ ゴポゴポゴポ
人魚姫「……ちょーっと急がなきゃマジやばいかも」
ゴポゴポゴポ
人魚姫「海底の国は姉ちゃんがちゃんとまとめてくれる、みんなわたしの話ちゃんと聞いてくれたし」
ゴポゴポゴポ
人魚姫「陸の上の事は王子がちゃんとしてくれるっしょ、だからわたしはもう出来る事はちゃんとやった、あとは共存が叶う事を願うだけ」
人魚姫「でも、あの二人には……赤ずきんと赤鬼にはちゃんと言わなきゃダメっしょ、二人にあえてよかったってね」
ゴポゴポゴポ
人魚姫「例え王子と結ばれなくても、泡になって消えても……わたしは悲しい事なんてなにも無い」
人魚姫「思い切り恋をして、優しくて厳しい姉ちゃんや、異種族の友達や、話を聞いてくれるみんながいて……わたしの願いは残されたみんなが紡いでくれる……こんな嬉しい事ってないっしょ」ニコニコ
ゴポゴポゴポ ゴポゴポゴポゴポ スゥゥ
人魚姫「……っ!尾びれが…消えて……!これじゃあ、進めない…!」
ゴポゴポゴポ
777:
人魚姫「……ダメだ、もう海上にはどうやっても間に合わない……だったら、せめて二人だけには伝えなきゃ」グッ
ラーラーラララー
人魚姫「わたしは何かを恨んで泣きながら消えたりなんかしてないって、笑って歌いながら消えていったって…!」シュゥゥ ゴポゴポゴポ
ラーラーラララーラーラーラララー
ゴポゴポゴポ
ラララーラーララー
ゴポゴポゴポ
ラーラーラー
ゴポゴポゴポ
コポコポコポ…
ラーラー
コポンッ
778:
海岸
ザザーンザザーン
赤ずきん「人魚姫、うまくいっているのかしらね」
赤鬼「あいつなら問題ないだろう、姉も協力してくれそうだったから心配いらないだろうさ」
赤ずきん「そうは言っても心配よ、人魚姫が多くの民衆を前に演説するところなんて想像つかないもの」
赤鬼「そりゃあ違いねぇな」ガハハ
鬼神『解せぬ……』
赤鬼「ん?何だ解せぬって」
鬼神『小娘が人魚の娘に与えた魔法具の事だ。鬼ヶ島であのアリスという娘が吐き捨てた出涸らしを密かに拾っていたのは知っていたが、なぜこんな事に使う?』
赤鬼「そりゃあ人魚王が罪を認めなかったとき、王の声が出せれば民衆も納得するからだろ。少々ずるい手だが、そうも言ってられないだろう」
鬼神『そんな事を話してるんじゃねぇ。あのチョークを使えばドロシーとかいう小娘に一矢報いることもできたはずだ、小娘の目的はドロシーへの仇打ちなのだからな。ならば何故このような事に貴重な魔法具を使う?』
鬼神『貴重な道具を無駄にしてまで、あの人魚の娘の願いをかなえる価値があるとは俺には思えん。理解不能だ』
赤ずきん「どうしたのかしら?」
赤鬼「鬼神が言ってるんだよ。ドロシーを倒すのに使えたかもしれないのにここで人魚姫にチョークをやったのは理解できないってな」
779:
赤ずきん「それで友達が幸せになれるなら理由は十分でしょう?」
赤ずきん「仇を討つ事も私には大切な事だけど、人魚姫の幸せだって大切。復讐にだけ生きていたら見えないものもあるのよ、鬼神」
赤鬼「……だそうだ」
鬼神『解ったような口を……不愉快な小娘よ』
赤鬼「お前の復讐だって自分の無念を晴らすんじゃなく仲間の無念の気持ちを酌んでのもんだろ?だったら少しは理解できるところがあるんじゃねぇか?」
鬼神『この鬼神が人間の小娘と解り合う事などあり得ねぇな。だが、人間もまた感情に左右されやすい生き物だ…そういった感情を持っている事を知る事は奴らの駆逐に役立つかもしれん』
赤鬼「素直じゃ無い奴だ、理解できる所もあるって素直に言えば良いじゃねぇか」ガハハ
鬼神『相変わらず呑気な男だ、俺にあれだけ身体を乗っ取られておきながら…だが少々頭の抜けている方が俺にとって都合のいい事は確かだがな』
……ラーラララーララー
赤鬼「…今、微かだがあいつの歌が聞こえなかったか?」
赤ずきん「ええ、聞こえた……演説が終わったらここに来る手はずなのに、その道中に歌……もしかして、人魚姫は……」
海底の魔女「察しの良い小娘だ、あの娘はここへ向かっていたようだが…今頃泡となって消えただろう」クックックッ
赤鬼「お前は海底の魔女……何故お前が人間の姿で陸にいるんだ!」
ドロシー「ドロシーちゃんと仲間達もいまーす♪」ヒョコッ
赤ずきん「あなた達は手を組んでいるのだったかしら…そろいも揃って私達の所へ来るなんて、何の用事かしらね?」キッ
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