雪歩「大きくなるということ」 後編back

雪歩「大きくなるということ」 後編


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5:
「あら、雪歩じゃない」
思わず、肩が大きく揺れる。
伊織ちゃんが、手にいつものうさちゃんを抱えて立っていた。
「一人でどうしたのよ? あんたたち、さっきまで隣の部屋でレッスンしてたんじゃないの?」
「それは、その……」
私の顔が浮かないのを見てか、伊織ちゃんは小さく息を吐くと、私の隣に腰を下ろした。
「雪歩、あんたそんな辛気臭い顔して、何があったのよ。話だけなら、聞いてあげないこともないわよ?」
そう言ってくれる伊織ちゃんの表情は、いつもよりずっと優しくて。
心がなにか、暖かくて、やわらかいものに包まれたような気がした。
「……実はね。私が下手で、ダンスが先に進めなくなっちゃったの。みんなは私にレベルを下げるか決めろって言うけど……そんなこと、私には決められなくって」
56:
そこまで話したところで、伊織ちゃんが立ち上がる。
そして私の顔をじーっと見つめると、今度は深く、長く溜め息を吐いた。
「ほんっとにアンタは……心配して損したわ」
「えっ?」
「ダンスが難しいだなんて、そんなの練習するしかないに決まってんじゃない。私たちはプロなのよ?」
「でも、私は……私は何をやってもダメで、美希ちゃんと真ちゃんはダンスが得意で……いつまでも、何回やっても私だけ遅れたままで、これ以上は二人に迷惑がかかって」
「何言ってんのよ。何回やってもできないところがある。そんなの誰だって同じに決まってるじゃない。私だって真だって、弱点や苦手くらいあるわよ。だから頑張るんじゃない。二人はダンスが得意だなんて、そんなの言い訳にもならないわ」
57:
「で、でも、レッスンの度に、二人との差は離れるばっかりだし……」
「レッスンの時間じゃなくたって、出来ることはあるでしょ。やれることを全部やってから、泣き言は言いなさい。それでもダメだったら、レベルを下げるのに何も恥じることなんてないわよ」
自信満々に告げる伊織ちゃん。
その瞳には一片の迷いもなく。
私よりも年下の彼女は、私よりもはるかに先の世界を見据えていた。
今の私に、出来ること。
今の実力不足な私でも、出来ること。
……それは、見る人から見れば見苦しいかもしれないこと。
でも、私は伊織ちゃんに教えてもらったから。
迷うことなんて、もう無かった。
59:
「ありがとう、伊織ちゃん。私、もう大丈夫だから」
「本当でしょうね……私の言いたいこと、ちゃんと理解してる?」
私の覚悟が伝わるように、伊織ちゃんの目をじっと見つめる。
伊織ちゃんは、しばらく私を見つめ返した後、ふいと視線を逸らした。
「まあ、それならちゃんと、行動で示してみなさいよね」
伊織ちゃんはそう言って、先に帰っていった。
……私も、動かなくちゃ。
今出来ることを、するために。
62:
翌朝、真ちゃんたちが来る前に事務所に入る。
「あのっ、プロデューサー!」
ドアを開いて開口一番、出た声は自分で予想していたよりもずっと大きかった。
「雪歩? ……一体、どうしたんだ?」
「あの、私、実は……」
これから言うことは、ともするとプロデューサーに迷惑をかけることになりかねない。
そう考えると、私がする「努力」なんてものは、ただの他力本願なのかもしれない。
それでも、私は決めた。
もう絶対に、言い訳なんてしない。
ダメな自分に。
私は、逃げない。
出来る努力から。
64:
「プロデューサー、私に個人レッスンをつけてください!」
「個人レッスンって……そんな時間も体力も、あるのか?」
「私……自分の実力が二人に及ばないって、分かってます。でも、今回のテレビは、私たちには二度とないかもしれないチャンスだから……絶対に、諦めたくないんです! そのためなら、どんな努力もできます! ……だから、お願いします!」
そのまま深く頭を下げる。
幾年ともいえるような時間が流れたように感じた。
「そうか……それが雪歩の選んだ方法なんだな」
「はい」
「後悔しないな?」
「はいっ!」
「……分かった。そこまで言うなら、俺の方で時間を用意しよう。社長には俺から話しておくよ。……勤務時間外になるけど、構わないな?」
「もちろんです!」
目の前の壁にしっかり向き合ってみれば、その壁にはいくつものでっぱりがついていた。
それを登る私はきっと不格好だけど、確かに上に進んでいた。
69:
二人はそうなることを分かっていたのか、別段驚いた様子もなくて、ただ笑ってくれていた。
レッスンの進度は少し落としてもらうことになったけれど、上手く出来ないところを丁寧にやり直してくれて、私の細かい粗は少しずつ減っていった。
レッスン後は、私の家へ。
仕事の時間を過ぎての活動は、お父さんが許してくれなかった。
だから、前にお父さんが据えてくれた離れのミニスタジオで、今はプロデューサーとの特別レッスンに臨んでいる。
「俺にはコーチの先生みたいなことは出来ない。だからまず、雪歩に何が足りないかを徹底的に考えていこう」
プロデューサーが取り出したのは、白いディスク。
マジックペンで、「ダンスレッスン」と書かれていた。
「DVD、ですか?」
「ああ。どうすればいいかは分からなくても、お手本とどこが違うかは教えられるからな」
71:
プロデューサーと並んで、私のダンスを鑑賞する。
画面の中で、今までならったダンスを踊る私。
その動きが乱れたのは、開始二分後だった。
「……雪歩、これ、息上がってないか?」
「それは……そう、ですね」
テンポが遅れるときは、いつも頭の中が真っ白になってしまう。
だからその時の私がどんな感じになっているのか、分からなかった。
ただ、今画面の中で遅れた踊りをしている私は、みっともなく肩で息をしていた。
「これじゃ、踊れるものも踊れないな。その体力がないようじゃ。雪歩、明日の朝からランニングをしよう。基礎体力をつけるんだ」
「そんな……それくらい、私一人でもやれます。ただでさえ今手伝ってもらってるのに……」
「いや、俺も走るよ。最近運動不足だから。それに、雪歩と一緒なら、ただ走るだけでも楽しいしな」
73:
……いつも私たちの仕事を取ってくるのに忙しそうで、そんな暇無いはずなのに。
私が無理を言っても、プロデューサーはいつも隣で笑っていてくれる。
その事実が、私の頬を熱くさせた。
「ありがとうございます、プロデューサー」
「だから俺がやりたいだけだって」
「それでも、ありがとうございます」
「……そうか」
くすぐったいような心地がして、とにかくプロデューサーにお礼を言う。
そうでもしないと顔が火照ってしまいそうだった。
76:
「あとは、この時間に何をするかだけど、さっきも言ったように俺は難しいことは教えられない。だから、ここにいる間は、ずっと基礎練習のみを行ってもらう」
「基礎練習……ですか」
「気が、進まないか?」
基礎練習は、決して甘いものではない。
普段のレッスンと違って、パフォーマンスの質を高めるそれは、むしろ普段よりも厳しいものと言えた。
それをプロデューサーが指定してくるということは、今の私には、根本的な欠如があるということ。
だったら、どんなに辛くても、私はそれと向き合おう。
だって、それは私が決めたことだから。
「……いいえ。どんな努力もできるって、そう言いましたから」
その日から、私に課せられるレッスンは倍になった。
それは、私の覚悟の証。
そして、私を信じてくれている人にとっても、それは同じだった。
77:
別の日、プロデューサーと駅で朝早く待ち合わせる。
プロデューサーは、私が来るよりも早くからいて、一人で待ってくれていた。
たまの運動よりも長めに設定した距離を、二人並んで走る。
途中から息切れしちゃったけれど、それでもプロデューサーと走る道は、いつもより楽しかった。
一通り走った後、そのまま事務所に向かう。
中はいつも通りに騒がしくて、みんな揃っているようだった。
「あら、プロデューサー……雪歩が一緒なのね、珍しい」
プロデューサーを見て寄ってきた伊織ちゃんは、彼の後ろに私の姿を認めると、その表情を訝しげなものへと変えた。
「なんか汗かいてるみたいだけど……雪歩、あんた何を始めたの?」
軽く今までのことを話す。
すると伊織ちゃんは、その眉をわずかに上げて、小さく笑った。
79:
「へえ、アンタがねえ……そっか、そうよね」
「伊織、どうかしたのか?」
「なんでもないわよ。……にひひっ、そうこなくっちゃね」
突然機嫌をよくした伊織ちゃんは、にこにこ笑いながら竜宮小町のみんなの方へ歩いていく。
そして、
「何やってんのよ、アンタたち! 早くレッスンに向かうわよ?」
ゆっくりファッション誌をめくっていたあずささんや、真美ちゃんとゲームをしていた亜美ちゃんに喝を入れて回っていた。
81:
そして、レッスン後は私の家へ向かう。
今日は、少しだけ珍しいことが起こった。
「よし、前より少し良くなってるな。でも、このままだとやっぱり詰めが甘いから、今日はこのステップを……」
唐突に言葉を詰まらせるプロデューサー。
どうしたんだろう。
そう思ってプロデューサーの視線を追った私も、同じように動きを止めた。
「……こんばんは」
そこに立っていたのは、私のお父さんだった。
自然と空気が重くなる。
隣にいるプロデューサーの喉が、ごくりと鳴る音が聞こえた。
そのまま一歩、二歩と距離を詰めるお父さん。
その眼は鋭く細められ、プロデューサーの顔を正面からじっと射抜いている。
83:
どうすればいいのか分からず、二人の顔を何度も見比べる。
プロデューサーもプロデューサーで、お父さんから目を逸らさず、眉一つ動かさない。
押しつぶされそうな重圧が部屋を満たし、今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいになった頃。
お父さんは小さく片足を引いて、頭を下げた。そして、
「雪歩をよろしくお願いします」
と、それだけ残すと部屋を出ていった。
直後、プロデューサーが長い息をこぼす。
「雪歩のお父さん……やっぱり怖いよなあ」
そんなことを言うプロデューサーは笑っていたけれど、足が震えていて。
あんまり格好良くはなかったけど、私はその日の二人の様子に、何よりも安心した。
85:
「響さん、チキンライス、出来ましたー!」
「こっちも焼きあがったぞ! これであとは、軽く盛りつけるだけだね」
いつものこの場所には似つかわしくない声が飛び交う。
その二人も、いつものそれとはほど遠い格好をしていた。
「……これで、いいのかしら」
「それであとは、イチゴをのせたら……出来上がり! やったね、千早ちゃん!」
「こっちも、完成したよ→!」
「はて……これはどうすればよいのでしょうか」
「うわわっ、貴音ちゃん、私がやっておくから座ってて!」
部屋のところどころで歓声が上がる。
それは、この場所が今日の主役を待つ姿に変わったしるしだった。
「……あとは、待つだけだね」
リボンの女の子の言葉に、誰しもが小さくうなずく。
その場所は、その時は、彼女を待っている。
萩原雪歩は、しかしながら、まだそれを知らない。
86:
それから2週間。
私はジョギングと基礎練習を、毎日欠かさず行った。
二人のレベルにはまだ追いつけそうにないけど、体力が足りなくて、途中でへばるようなことはなくなっていった。
その日のレッスンは、私も二人に加わって、通しで曲を踊ることに。
ボイスレッスンも兼ねて、歌いながらのダンスに挑戦した。
スタジオの壁にもたれて、スポーツドリンクのボトルに口をつける。
やっぱりお茶の方が好きだな、なんて思っていると、ふいに視界に影が差した。
「雪歩、お疲れ様」
「あ、真ちゃん、美希ちゃん……お疲れ」
挨拶を返すと、二人は興奮したように詰め寄ってきた。
「雪歩、いつの間にあんなダンス上手くなったの? ミキ、ビックリしちゃった。雪歩に追い付かれちゃうって」
87:
「そんな、まだ、全然二人には敵わないよ……でも」
言いかけて、思わず笑みをこぼす。
……今までの私なら、こんなこと言おうだなんて絶対に思わなかったな。
「でも、本番では、誰にも負けないダンスを踊りたいな」
その時、ふと窓の外を見ると、可愛いおでこが一つ、ドア越しにこちらを覗いていた。
「……伊織ちゃん?」
思わず声に出すと、ドアの外のおでこは大きく震えて、どこかに走り去ってしまった。
「伊織? 伊織がいたの?」
美希ちゃんがドアまで行って、外を確認する。
「もう行っちゃったみたいなの」
「あ、もしかして、ボクたちのレッスンを偵察してたのかも」
好き勝手に想像を始める二人。
でも私は、伊織ちゃんが来た理由が、少し照れくさいけど、なんとなくわかる気がした。
89:
そして、とうとうクリスマス・イブ当日。
私たちは律子さん達と一緒に、セット入りの待機をしていた。
「……ねえ、伊織ちゃん」
隣に立つ伊織ちゃんに、声をかける。
顔は、見ないまま。
「……何よ」
「いままで私、伊織ちゃんがしてきたような、『当然の努力』が足りなかったみたい」
「ええ、そうね。……今は、違うみたいだけれど」
「うん。伊織ちゃんに教えてもらって、私は出来ることを全てやった。自分の力を出すために。……伊織ちゃん達に、勝つために」
自分の中で、精一杯の宣戦布告。
伊織ちゃん達のの顔を、見た。
そして、私は息をのんだ。
91:
そして、とうとうクリスマス・イブ当日。
私たちは律子さん達と一緒に、セット入りの待機をしていた。
「……ねえ、伊織ちゃん」
隣に立つ伊織ちゃんに、声をかける。
顔は、見ないまま。
「……何よ」
「いままで私、伊織ちゃんがしてきたような、『当然の努力』が足りなかったみたい」
「ええ、そうね。……今は、違うみたいだけれど」
「うん。伊織ちゃんに教えてもらって、私は出来ることを全てやった。自分の力を出すために。……伊織ちゃん達に、勝つために」
自分の中で、精一杯の宣戦布告。
伊織ちゃん達の顔を、見た。
そして、私は息をのんだ。
92:
「あんたが頑張ってたことは、知ってるわよ。それで、遅れていたダンスを克服したのも知ってる。……でもね」
生で初めて見た、伊織ちゃん達の『プロ』の顔。
あの柔和なあずささんの、可愛らしい亜美ちゃんの、優しい伊織ちゃんの、これ以上ないほど真剣な、顔。
「それは私たちが負ける理由には、ならないわよ」
ちょうど時間になって、竜宮小町がステージに入っていく。
私はただ、その姿に圧倒されるほかなかった。
94:
「竜宮小町の三人です!」
アナウンスと同時の、割れんばかりの拍手。
それが最初に課せられた私達と、彼女達との差だった。
「今回勝負に使うのは新曲ということで、大いに期待が持てそうです。ではお聞きください、『七彩ボタン』!!」
「うわ……すごい……」
自然と、賞賛の言葉がこぼれた。
一糸乱れぬ動き。
洗練された歌声。
どれをとっても、それはレッスン中の私のそれを上回っているように思えた。
95:
圧巻のパフォーマンスに、曲が終わった後も、司会者までもが一時言葉を失う。
そんな竜宮小町と、私達は勝負するんだ。
そう考えると、私は足の震えが止まらなかった。
「よし、そろそろ準備をして……雪歩? どうしたんだ?」
「プロデューサー……私、あと一歩も進めません……」
怯え。
怖れ。
不安。
言いようはいくらでもある。
それらの感情がないまぜになって、私が前に進むのを許さなかった。
これじゃ、踊れない。
そう思った、その時。
104:
「……プロデューサー?」
私の頭に、ぽんと手が乗せられる。
その手は、私の髪を優しくくしけずった。
「今まで、俺たちは全力を出してきた。勝っても負けても、その事実だけは変わらないさ。だから、雪歩。怖がることなんて、ないんだぞ」
目を閉じて、プロデューサーを通した世界を感じる。
私に向かう世界。
それは、私を支えてくれた世界。
逃げ腰の私に、喝を入れてくれた伊織ちゃん。
……いや、今から手合わせをしてくれる、竜宮小町のみんなと律子さん。
ダンスが苦手な私を信じて、協力してくれた真ちゃん、美希ちゃん、プロデューサー。
その全てが、私を支えてくれる世界。
私の足を掴んでいた何かが、消えた。
「すみません、プロデューサー。何だか、少し弱気になってました。でも、もう大丈夫。私、踊れます」
「……そうか。じゃあ、もう平気だな。よしみんな、行ってこい!」
ぐっと背中を押されて、ステージに飛びだす。
目をつぶりたくなるような光が、視界いっぱいに広がった。
106:
楽屋で、一人椅子に座りこむ。
ステージの上での事は、ほとんど覚えていない。
ただ、曲を踊ることに精一杯で、必死で。
覚えているのは、私たちは勝ったということ。
それだけだった。
「勝ったんだよね……」
呆けたまま、一人呟く。
すると、どこかから呆けたような「うん」が帰ってきた。
「なによ、勝ったってのに、辛気臭い部屋ね」
いつからそこにいたのか、すぐ隣に伊織ちゃんが立っていた。
107:
「今日のステージ、すごく格好よかったわよ。……『エージェント夜を往く』、なかなかいい曲じゃない。覚えちゃったわ」
「あ……ありがとう」
「とにかく、今回は私たちの負けね。いい勝負だったわ」
そう言って、右手を差し出す伊織ちゃん。
その手を握った時、私の中で何かが変わった気がした。
……これで伊織ちゃんとは、また勝負ができる。
そう感じた。
その時は、もう迷っている私じゃないことも。
少しさびしいような気もするけど、私は強くなれたから。
もう後戻りは、しない。
「じゃあ私たちは、先に帰ってるわ。アンタも、早めに戻ってきなさいよ。……待ってる人が、いるかもしれないしね」
そう言って、楽屋を出ていく伊織ちゃん。
「……待ってる人?」
最後の言葉の意味は、私には分からなかった。
109:
「ただいまー」
四人の少女が帰ってくると、部屋の中にいた少女達は素早く視線を巡らせた。
「律子さんたちだけですね。さあ、早くこれを持って待機です!」
少女の一人が、四人に渡したのは、クラッカー。
それは、ある一人の少女のためだけに用意されたものだった。
「多分、もうじきあの四人も到着すると思うわよ。……ほらメール来た。あと五分で着くって」
「分かりました。ほら、みんな用意しよう?」
リボンの少女の言葉で、同じく手にしたクラッカーを事務所――彼女達がいる部屋のドアに向ける。
萩原雪歩は、それを――。
110:
車の中、私たちはようやく勝利を実感し始めていた。
「ねえねえハニー。ミキ達、あの竜宮小町に勝てたんだよね?」
「ああ、そうだぞ! これでお前たちも一気に注目されるはずだ」
「へへっ、やーりぃ! これも頑張ってくれた雪歩のおかげだね!」
「へっ?」
唐突にそんなことを言われて、面食らう。
私が頑張ったのは、ただ遅れたのを取り戻すためだったし、そもそも二人にはそれを内緒にしていたから。
「あー……雪歩。言い忘れてたんだけど、な。実は、二人にはもう話してあるんだ。特訓の事を」
114:
「あはは……雪歩がいつもと全然変わらないように見えたから、隠しときたいのかと思って言い出せなかっただけで……雪歩、ボクたちなんかよりもずっと頑張ってて、格好よかったよ」
「ミキ、雪歩の頑張りで目が覚めたの! ミキもこれからは、もーっと本気、出してみるの」
今日まで、ダンスの目標としてきた二人。
二人に追い付くことこそが特訓の動機で、意味だった。
今、その二人が私の努力を認めてくれている。
ただその事実だけが、私は嬉しかった。
目の奥の熱いものが抑えきれなくなって、形になって零れた。
「雪歩、もしかしたら、涙はちょっとだけ早いかもしれないぞ」
「え……?」
気付けば、私達はもう事務所に到着していた。
車から出て、いつもの階段をのぼる。
「早いって、どういうことですか?」
「それは、多分もうじき分かるさ」
プロデューサーの言っていることが、どうにも要領を得ない。
私は誰も開こうとしないドアを掴むと、それをいつものように開けた。
116:
破裂音。
みんなの笑顔。
幾重にも重なった「おめでとう」。
それら全てが、ドアを開けた途端に私に降り注いだ。
そして次々に渡される、たくさんの包み。
私一人だけが、状況を理解できないでいた。
「あの……みんな、これって……?」
しどろもどろになりながら、何とか声を絞り出す。
プロデューサーはクラッカーを持ったままの春香ちゃんと顔を見合わせて、心底不思議そうに言った。
「どうしたんだ、雪歩。今日はお前の誕生日だろ?」
私は、自分が大きな勘違いをしていたことに気が付いた。
渡されたものは、クリスマスのプレゼント交換用のものではなく、私へのプレゼント。
このパーティー自体、私のためのものだった。
117:
「ほら雪歩、今日は雪歩が主役だよ」
真ちゃんに押されて、みんなの前に出る。
どうすればいいのか分からなくなっていると、誰からともなく、懐かしい歌が聞こえてきた。
世界一歌われる曲、『ハッピーバースデートゥーユー』。
いつからか気恥ずかしくなってしまって、歌うことも歌われることもなくなったそれは、今も確かに私の心を温めてくれた。
さっきプロデューサーが言っていたのは、こういう意味だったのか。
分かっていても、嬉しくて、嬉しすぎて。
しばらく涙は止まらなかった。
121:
私が泣き止んでからも、パーティーはつつがなく進行する。
真ちゃんと美希ちゃんは、この前買い物に行ったときに見たお茶をプレゼントしてくれた。
あの時二人は、私にばれるとまずいから、いつもより会話を減らそうとしていたらしい。
もちろん嬉しかったけれど、それ以上に安心してしまった。
やよいちゃん達の作った料理を食べて、みんなでお話して。
私はずっと誰かと話をしていたから、それを見つけたのは本当に偶然のことだった。
パーティーのざわめきから、少し外れたところ。
プロデューサーが、竜宮小町の三人と一緒にいた。
「……ねえアンタ、勝者の分際で敗者の会に寄って来るなんて、どういう神経してんのよ」
反射的に、隠れるようにしてしまう。
幸い、誰も私には気づいていない様子だった。
125:
「何かしら俺にも、みんなにできることはないかと思ったんだけど……」
「全く、ちょっとは空気を読むとかしなさいよね」
「そっか……悪かったな」
立ち上がろうとするプロデューサー。
その裾を、伊織ちゃんがそっと掴んだ。
「まあでも、折角来たんだから……背中くらい、貸していきなさいよ……」
そう言って、伊織ちゃんはプロデューサーのスーツに、静かに頭をつける。
「いおりん……」
目を逸らして、小さくつぶやく亜美ちゃんの指にも、優しく触れる手が一つ。
「私たちも、我慢することはないんじゃないかしら。……ほら、行きましょう、亜美ちゃん」
あずささんは、そのまま亜美ちゃんの手を引いてプロデューサーのもとへ。
亜美ちゃんは少しためらって、あずささんは小さく、悲しく笑って、プロデューサーに寄り添う。
126:
私達より上の世界にいる竜宮小町。
Aランクアイドルの竜宮小町。
その竜宮小町は今、私達に負かされて、声を殺して涙を流していた。
驚いた様子のプロデューサー。
ただ、その場に立つままだった。
「そんなところで、何してるの? ……って、あらら」
「あ……律子さん」
「……ねえ雪歩、あなたは今回の勝負で一番頑張ったんだって?」
隣に立っている律子さんは、伊織ちゃん達の方を見たまま、私に問いかける。
「そっ、そんなことないです! 私なんて……」
「嘘。プロデューサー殿から聞いたからね。……でも、あの子達も、一生懸命頑張ったのよ。だから今、あそこで泣いてる。……ねえ、雪歩」
127:
気付けば律子さんは、私のことをじっと見ていた。
「忘れないで。これが、プロになるってことよ」
竜宮小町も律子さんも、数えきれないほど泣いてきたし、泣かされてきたんだろう。
彼女達はAランクでまだまだ遠いけど、こんな私でも、少しだけ近づけた気がした。
「……さて、私も行こうかな」
「え? どこにですか?」
すると律子さんは、珍しくイタズラっぽい笑みを浮かべる。
「決まってんじゃない。混ざりに行くのよ。私だって、たまには甘えてもいいと思わない?」
128:
四人はひとしきり泣いた後、またいつもの元気を取り戻した。
「次の仕事では、絶対に負けませんからね!」
そう言い残してみんなのところに戻る律子さんたちの姿は、さっきまでよりも幾分か魅力的に見えた。
プロデューサーは一人になると、ゆっくり息を吐きながら椅子に座る。
私は深呼吸すると、そこに静かに歩み寄った。
「あのっ、プロデューサー」
「ああ、雪歩か。誕生日、おめでとう」
「ありがとうございます。私、こんなにたくさんの友達に祝ってもらったことなんて無くて、すっごく楽しいです」
「そっか。そりゃ、あいつらも喜ぶだろうよ。……そうだ、雪歩。これ、誕生日プレゼントだ」
白い小箱を手渡される。
金の字があしらわれたそれは、一見して安くないものだと分かる。
131:
「……開けても、いいですか?」
プロデューサーがうなずくのを見てから、恐る恐るふたを取る。
そこには、小さな真珠のイヤリングが、ちょこんと鎮座していた。
「雪歩に似合うと思ったんだ。受け取ってくれるか?」
「はい……あの、私も、プロデューサーに渡したいものがあるんです」
「雪歩も? 今日は雪歩の誕生日なのに……って、クリスマスだから別に構わないのか」
微かに笑うプロデューサー。
初めは、そんな彼へのいつものお礼のつもりだった。
響ちゃんに編み物を習って、時間を見つけては少しずつ作ったもの。
それはいつしか、私の中で特別な意味を持つようになっていった。
勝ったら渡そう、勝ったら伝えよう――そう思っていた。
日々の、感謝の気持ち。
そして、胸に秘めていた、この気持ち。
半ば押し付けるようにして、手の中のそれをプロデューサーに手渡す。
「聞いてください、プロデューサー。私、その、前から、プロデューサーのことが――
135:
冬ももう半ば。
外を出歩く人も少なくなる中、私とプロデューサーはジョギングをしていた。
「だんだん寒さも強くなってきましたね……」
私が呟くと、プロデューサーはにっこり笑って片手を上げてみせる。
少し不格好に出来上がってしまっている、黄色い手袋。
「雪歩がくれた手袋があるから、今年も暖かいよ」
「えへへ……じゃあ、私も」
プロデューサーの手を握る。
握り返されたそれは、私の心を安らがせてくれる。
「仕方ないなぁ……ジョギングはここまでにするか」
手をつないだまま、歩調を緩める。
……プロデューサーは、あの時のプレゼントの意味に気付いているのだろうか。
そんなことが、ふと気になった。
それは、口にするのは、少しだけ恥ずかしくて。
だから、遠回しに。
願わくば、この気持ちが少しでも伝わりますように。
「ねえ、プロデューサー。『てぶくろ』って絵本、知ってますか?」
137:
終わり
140:
乙乙
14

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【悲報】 東京ビッグサイト入り口前のファミリーマートが今日で閉店 

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雪歩「大きくなるということ」 後編

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