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【艦これ】譲れない、大切な者の為に


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1:
提督が私の大切な者を殺した
それはあまりに唐突で
意識する暇もなく
気付いた時には終わっていた
残ったのは、私の大切な者の無残な姿
赤黒く染まった肌
そこにはかつての美しい姿は欠片も残っていない
私はそれを止めることなどできなかった
2:
だって、考えられるだろうか?
その場に、たった一つしか存在しないそれを
何の感情もないような顔をして殺したのだ
私の一番信頼し、愛している提督がだ
殺した後、全く悪びれる様子もない
固まる私
しかし提督は止まらない
大切な大切な者をぐちゃぐちゃにかき回す
穴をあけ、その身を引き裂き
中から出てきた脂と、元はなんだったかもわからないドロリとした黄色い体液をぶちまけさせた
3:
私はそれでも尚動けなかった
ただただ目の前で行われる惨殺を、涙を流しながら見守るしかなかった
何故か?
それは、大切なその者は、人間ではないからだ
仕方のないことなのだ
だって、それは私達にとって殺されるために生まれてきたと言っても過言ではないからだ
でも、それは提督にとっても大切な者だった
4:
その者の肌は病的なまでに白く
しかし所々薄く焦げたような色合いを持っていた
『美しい』
それが、私が第一印象に持った感想だった
それ以来私はその者と出会うたびに、自分なりの装飾をしてやっていた
大きな破れそうな目、その周りや中心に装飾をすることで完成に近づくと思っていたからだ
実際そうだった
完成されたその姿はこの世でも有数の輝きを放つ
その者も嬉しそうに見えた
5:
表情など無い
だが確かに私には見えていたのだ
その眩い笑顔を
しかしその者はあまりに当たり前の存在過ぎて、私たちの記憶には残らない
食事をするように
寝るように
街で知らない人間と挨拶を交わし、数秒後には忘れているように
6:
本来ならば言われなければ気が付かない、その程度の存在だ
でも、この瞬間を私は一生忘れない
私の大切な者を殺した提督を
先ほどの提督の、無慈悲な行為を身に刻んで
決して忘れない
復讐するまで
提督を、断罪するまで
私は、航空母艦・加賀は
決して
7:
第一章
碧き誇り?Feelings that won't change?
8:
提督「おはよう、加賀」
加賀「おはようございます」
提督「あ?眠いなぁ……早く飯食って目を覚ましたいもんだ」
加賀「ふふ、間宮さんのご飯を食べれば今日の活力がわいてきますものね」
提督「折角だし一緒に食うか」
加賀「喜んでお供します」
あの事件から一週間、私は今か今かと復讐の機会をうかがっていた
9:
提督を断罪する、その行為自体は簡単だ
私達艦娘と人間では基本的な力が違いすぎる
片手でどうにかできてしまうレベルだ
だがそんな簡単にやってしまっては意味がない
私と同じ絶望を味あわせるのだ
大切な者を汚され、失う
その絶望を
しかしその機会はなかなか訪れなかった
私の一存ではそれがいつなのかは分からない
明日、或いは一か月
数年後なんてこともあり得るかもしれない
10:
私の信頼できる他の艦に相談もしてみた
赤城さんは言った
「加賀さんが考えて出した答えならば、私は止めません」、と
流石私の一番の相棒である
私の事情を深く咀嚼したうえで送り出してくれた
しかしその表情はひどく悲しそうだった
いや、同情や憐れむ気持ちも入っていたかもしれない
私なんかよりずっと冷静な赤城さんがそんな顔をするほどのことなのだ
11:
それでも、わたしの決意は揺らがない
提督への同情などあの瞬間捨て去った
私が今頼れるのは、あの日から常に持ち歩いている凶器だけだ
これは、殺された私の大切な者が一番好んでいた物だ
これを使うことが最も効果的だ
12:
提督「間宮さん、日替わり朝食セットひとつ」
加賀「同じものでお願いします」
間宮「はい、少々お待ちくださいね?」
しばし待つ
提督は持ち込んだ新聞を読みふけっており、私に対する警戒心など微塵も持っていない
私はあふれ出る感情を必死に殺しながら朝食を待つ
13:
間宮「お待たせしました!本日の朝食セットです」
その瞬間は唐突にやってきた
提督「おぉ、ありがとう。」
間宮「白米、お味噌汁、漬物、焼き魚、目玉焼きです。味わって食べてくださいね?」
!!
来た!!
ついに提督を絶望へ叩き込む瞬間が!!
待ち望んだこの時が!!
14:
提督「さて、いただきます」
加賀「いただきます」
声は震えていないだろうか
ばくばくと激しく鼓動する心臓を必死で抑える
仕込んでいた凶器を片手に隠し持ち、更にベストなタイミングを計る
まだ……まだよ……
怒りに身を任せ、今にもそれをぶちまけたい気持ちを耐え忍ぶ
提督「どれから食べるかねぇ……」
加賀「…………」
15:
汗が背中を伝う
首から伝う汗が胸の中まで流れ込みとてもくすぐったい
凶器を持つ手も震え、少し力めば取り落としてしまいそうだ
まだか……まだ……
隙を、一瞬の隙が出来るのを待つ
提督「んー……よし、目玉焼き食うか」
提督は眠たそうな顔で箸を持ち、ソースを手に取る
その瞬間提督に出来る、わずかな隙
ここだ!
この時を待っていた!
16:
私は凶器を、
『塩コショウを』
私の大切な者、
『目玉焼きに』
ぶちまける
17:
提督「……は?」
加賀「やりました」
こうして私の復讐は終わりを告げた
虚しい戦いだった
21:
?おまけ?
提督「お前そんなこと根に持つなんて本当に……はぁ……」
加賀「そんなこと?私にとっては死活問題です」
提督「いや、でもあの時は目玉焼き1個しかなかったけど今回は二個あったじゃん」
加賀「提督に私の好みを知ってもらう目的もあったので。大体二人で食べようと言ったのに提督はまるで当然であるかのようにソースをかけてしまった
はありませんか」
提督「だって……なぁ?」
加賀「駄目です。譲れません」
提督「俺だってソースは譲れない」
加賀「…………」
提督「…………」
加賀「…………」
提督「…………」
23:
提督「……お前の分の目玉焼き、くれ」
加賀「嫌です」
提督「食べるんじゃないよ……」
加賀「……どうぞ」
提督「……こうすればいいだろ」
加賀「……そうですね」
そこには二つに分けられた私の分の目玉焼き
半々に分けられた目玉焼きに、ソース、塩コショウを分けてかける
そして私たちはお互いに無言でそれを食べた
提督は塩コショウのを
私はソースのを
24:
提督「……塩コショウも、結構美味いな」
加賀「……ソースも悪くありませんね」
欠けた二つの半分の目玉焼き
そこには仲直りの証があった
2

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