初春「あ、あの…お茶いれました」 上条「フン」バシャァback

初春「あ、あの…お茶いれました」 上条「フン」バシャァ


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1:
初春「ハッ!!」
初春「どこここ…暗い…」
初春「え…やだ…手縛られてる…」
突如目覚めた初春飾利。
彼女は今、手を後ろでに縛られ、真っ暗闇の部屋で椅子に座らされていた。
初春「えっと私、確か佐天さんたちとカフェにいて…途中で眠くなって…」
バンッ
初春「きゃっ」
唐突に辺りが明るくなったかと思うと、目の前に一つのスクリーンが現れた。
3:
光に慣れない目をまばたきながらも、初春はスクリーンの中央に知った顔が立っていることに気付いた。
初春「白井さん?」
初春「何これ…映写機?」
ふと隣を見ると、ジジジと音を立てながら古いタイプの映写機が回っている。
ゴミやチリが浮かぶ光の道筋の先には、黒子の影によって画面の一部が黒く遮られたスクリーンがあった。
初春「えっと…白井さんですよね?何で俯いてるんですか?と言うか、状況が全然読めないんですけど…」
初春「何で私、縛られてるんですか?それ以前にここどこです?」
黒子「ジャッジメントですの!!!!!」
キーン!!!!
マイクを通して流された黒子の声がハウリングする。
5:
初春「っ」
初春「な、何ですもう?いい加減に説明してくだしあ」
黒子「よくぞここに来ましたね初春飾利」
初春「いや、知らない間に連れて来られたんですけど。っていうか縛ったの白井さんですよね?」
黒子「口答えは許しませんわよ初春!!!」
初春「ひっ」
黒子「何故ここに貴女を連れてきたか、思い当たる理由が何かありますか?」
初春「えっと…ないです…」
黒子「私たちは日頃から初春に接していてある事実に気付かされました」
初春「無視ですか?ていうかもう説明始まってるんですか?」
黒子「初春、貴女、小学校の卒業アルバムで将来の夢に『可愛いお嫁さんになること』って書いたそうですが」
初春「なななななな何でそんなこと知ってるんですか!///あああああれは私の黒歴史なのに…///」カァァ
黒子「このままでは無理ですわね」
初春「ど、どうしてそんなこと言い切れるんですかぁ!」
黒子「一週間前、いつもの4人で喫茶店に行ったのを覚えてますか?」
初春「あ、そういえば行きましたね…」
6:
黒子「その時、殿方の話しになったのを覚えています?」
初春「え?ええーっと…」
―一週間前・とある喫茶店―
佐天「でも男の人ってさー、意外と甘えたがりなところあるらしいですよ。あ、ちなみに御坂さんはどんな人がタイプですか?」
御坂「えっ!?私!?わ、私はその……かっこよくてー、強くてー、優しくてー、頭がツンツンしててー、高校生でー///」
黒子「(完璧、あの殿方ですわね)」
佐天「へー。じゃあ白井さんは?」
黒子「私ですか?私はお姉さま意外の方を伴侶に選ぶ気などさらさらありませんの」
佐天「あっはっは、やっぱりそうなるかー」
御坂「き、気持ち悪いのよあんた」
黒子「まあまあまあお姉さまそう照れずに」
御坂「照れてないっつーの!」ビリビリッ
佐天「ははは…あ、じゃあ初春は?」
初春「ムシャムシャパクパク」
佐天「初春?」
初春「ふぇ?」
佐天「あ、いや、その好きな男の人のタイプ…(口の周りにチョコついてる…)」
初春「私のですか?」
佐天「そうそう」
初春「そうですねー…例えばですけど」
佐天「うんうん」
初春「私がジャッジメントの仕事で事件に巻き込まれるとするじゃないですか」
佐天「ほうほう」
初春「で、ピンチになった時、その人が現れるんです!!白馬に乗った男の人が!!!」
佐天「ふむふむ……えっ」
7:
初春「で、冠を被ってマントを羽織ったその王子様は倒れてる私に手を差し伸べてこう呟くんです!!『飾利姫、お怪我はありませんか?』ってキャー///」
御坂・黒子・佐天「………」
初春「それで、その王子様に見初められた私は、王子様と一緒にお城で末永く暮らすんですよー///キャーもう嫌だなー佐天さんったら!///」バシッ
佐天「いたっ」
初春「うふふふふー」
御坂・黒子・佐天「………」
9:
― 現在 ―
初春「そ、それが何だって言うんですか!!///た、ただ理想像を語っただけじゃないですかぁ!!///」
黒子「それだけならまだ問題ではありませんの。初春、三日前、セブンスミストに行ったときのこと、覚えてます?」
初春「え…あーそういえば…」
―三日前・セブンスミスト―
御坂「この服なんてどうかなー?」
黒子「(それはさすがに10年間家に引きこもって外部から情報を遮断し続けた人間のセンスですの)」
佐天「あ、見てみて初春ー!学生夫婦だよあれー」
初春「あ、ホントだ。赤ちゃんも連れてますねー」
黒子「まったく、最近の若者は道徳がなってませんの」
御坂「ふーん学生結婚かぁ…私もいずれ当麻と…デュフフフ」←妄想中
佐天「赤ちゃん可愛いなー。私も大人になって結婚したら男女一人ずつは欲しいなー」
初春「そうですよね!私も同意です!!ただ、コウノトリさんの都合もあるから無理は言えませんよね!」
佐天・黒子「えっ」
初春「そう言えばコウノトリさん、毎年赤ちゃんを運んでますけど、疲れないんでしょうかねー?」
佐天・黒子「えっ」
初春「でも私のときは、男女一人ずつ運んできてほしいなー」
佐天・黒子「………」
御坂「『上条美琴』…デュフフフ」
10:
― 現在 ―
黒子「さすがにコウノトリは中学一年生でも有り得ませんの」
初春「わ、私だって…子供をつくる方法ぐらい知ってます!!!///習ってます!!!///だけど、最後にはコウノトリさんが運んで来てくれるんじゃないんですか?!」
黒子「………(中途半端に知識つけてますのね)」
黒子「…なら、言ってみなさい」
初春「え?」
黒子「その子供を作る方法とやらを!!」
初春「ええええええ、そそそそそそそんな恥ずかしいこと/////」
黒子「やっぱり初春はまだ子供…」
初春「そ、そんなことありません!」
黒子「じゃあ言って御覧なさい」
黒子「どうなさったのです?知ってるのでしょう?」ニヤニヤ
初春「う…///」
初春「えっと……その……男の人の……////」
黒子「お、男の人の?」ゴクリ
12:
初春「はうぅぅ…////」
黒子「なな、何ですの?は、早く仰いなさい」
初春「…そ、そう言う白井さんは知ってるんですか?///」
黒子「えっ」
初春「まさか自分は知らないで聞いているんじゃないでしょうね?」
黒子「な、何を言っているのでしょう?私だってそれぐらい…」
初春「じゃあ、答えてみてください」
黒子「え?ええーっと…それは」
初春「やっぱり知らないんだぁ」プッ
黒子「いいですとも!言いましょう!言ってあげましょう!!」
初春「じゃあ、どうぞ」
黒子「えっとですね……と、殿方の……////」
初春「と、殿方の…?///」ドキドキ
黒子「ゴニョゴニョを…女の人の……///」
初春「き、聞こえませんよ?///」
13:
黒子「ですから……殿方のゴニョゴニョゴニョを…女性の…///」
初春「え、えー?聞こえないなー?///」
黒子「も、もう!!次に移りますの!!///」
初春「何ですかそれ。人をさんざんバカにしといて」
黒子「い、いいんですの私は。では気を取り直して…」
黒子「さて、極めつけは昨日!!!」
―昨日・ジャッジメント第177支部―
初春「はむはむはむ」←パソコン見ながらおやつの芋を食べてる
固法「白井さん、初春さん、紹介するわ。こちら私の同級生で他の支部から移ってきた山田くんよ」
山田「こんにちわ。初めまして。これからお世話になります山田です。宜しくお願いします」
初春「やば…ゴックン」
白井「こちらこそ初めまして。常盤台中学1年生の白井黒子と申します。どうぞよしなに」
山田「宜しくお願いします」
白井「初春」ツンツン
初春「あ、ごめんなさい…。柵川中学1年生の初春飾利です!どうぞ宜しくお願いします!!」
山田「こちらこs…」
プゥッ??
山田「…………」
固法「…………」
白井「…………」
初春「////////////」
14:
―現在―
黒子「有り得ませんの!!!いくら何でも初対面の殿方の前で『おならでこんにちわ』は、有り得ませんの!!!」
初春「だだだだって仕方ないじゃないですかぁ!!!芋おいしかったんですもん///」
黒子「初春、貴女これで将来、殿方とお付き合いできるとでも思ってまして?」
初春「そんな先のこと今はまだ考えられません!!それに今挙げたのだって私の年代なら普通に有り得ますよ」
黒子「はぁ…まったく…それでは、これを見ても言い逃れが出来まして!?」
初春「???」
黒子「アシスタンツ!!レッツ・スタートですの!!!」
ミサカ「ラジャー!と、ミサカは隊長の指示に従います」
振り返る初春。
そこには、美琴の妹の御坂妹が映写機の側で立ち敬礼をしていた。
初春「え?え?御坂さん???いつの間に???」
初春「っていうか隊長って何です?」
ミサカ「細かいことは気にしない、とミサカは貴女の言葉を制しつつ映写機を回し始めます」
15:
手前のスクリーンに変化があったことを察知し、顔を正面に戻す初春。
そこには、初春が佐天、御坂、黒子と共に食事をする姿が映っていた。
初春「これ…いつの間に…っていうか、映画じゃなくて静止画ですか?」
黒子「そう…これはこの一週間以内で撮られたもの」
初春「盗撮じゃないですか!一体誰が!?」
ミサカ「プッw…」
後ろで聞こえた笑い声に反応し振り返る初春。
しかし、ミサカは無表情でスクリーンを見つめている。
黒子「注目ですの。撮影の許可はお姉さまと佐天さんから既に頂いてます」
初春「ええええ??何で私だけ??」
黒子「問題はこの次の写真ですの!!!カメラは決定的瞬間を見逃してはいませんでしたの!!!」
バンッ
初春「〒♯▲◇※drftgyふじこ」
黒子「そう、連続撮影だからこそ撮れたこの写真…御覧なさい!!初春のこの間の抜けた顔!!!」
初春「そそそそそんなの、ほんの一瞬の出来事じゃないですか!!///誰だってなりますよ!!!///」
黒子「まだありますの!ジャーン!!」
17:
バンッ
初春「ぎゃー変な顔をドアップで映さないで下さい!!///死にたくなります!!!///」
黒子「まだまだ!!」
バンッ
初春「ひゃぁぁぁ///やめてくださーい///」
バンッ
初春「だめぇぇええ///映さないでー」
バンッ
初春「ふぇぇぇん///」
黒子「まだまだいきますの!!!」
初春「やだああああ///」
18:
黒子「それそれそれ!!!」
初春「うぅぅ…///」
黒子「まだまだですの!!!!」
初春「やめてくだしあぁぁぁ…///」
黒子「まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだmハァハァハァ」
初春「うぇぇぇぇええん///」
ミサカ「プククククwwww プークックッククククwwwwww」
黒子「まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ」
初春「ひゃーーーーん///」
ミサカ「ブプププププwwwwww ククククククwwwwwww」
19:
御坂「ええ加減にせんかい」
バシッ
ミサカ「あうっ!」
ファイルされた紙の束でミサカの頭を叩いたのは御坂美琴だった。
ミサカ「あぅぅ…痛いですお姉さま、とミサカは涙目になりながら頭を押さえます」
黒子「まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ」
御坂「あんたもよ黒子!!!」
スコーン
御坂が投げた紙束が黒子の顔にヒットする。
黒子「ぎゃん!!!」
黒子「ハッ!私は何を!!??」
黒子「お、お姉さま……!!」
黒子「何だか今の私、新しい性癖に目覚めそうな感じでしたの…」
20:
御坂は映写機を消し、いまだスクリーンから目をそらしつつ一人で悶えていた初春に近付いた。
御坂「初春さん、ほら、目を覚ましなさい」
初春「はっ…!!」
初春「あれ、御坂さん?どうしてここに?」
佐天「おーっす、初春ー!」
初春「佐天さんまで」
御坂「ったく…自分とこの子の二人だけで全部出来るって言うから任せたけど…心配していた通り脱線してたわね」
黒子「申し訳ありませんのお姉さま。少々、我を忘れていましたわ」
ミサカ「責任は全部あの方にあります、とミサカは一人言い逃れを試みます」
黒子「まあー何て薄情なんでしょう。お姉さまに外見が似てるから採用してあげたと言うのに」
御坂「あん?」ギロッ
黒子「い、いえ何でも…」
初春「えっとーどういうことです御坂さん?状況が飲み込めないんですけど…」
御坂「んーっとね…元々の発案者は佐天さんなんだけど、それに目をつけた黒子が全部考えたっていうか…」
初春「い、意味が分かりません…一体みんなして何を企んでるんですか?」
黒子「ずばり!!初春を将来のために一人前の女に仕立て上げる計画ですわ!!」
21:
初春「ふぇぇ?」
黒子「名付けて!『初春花嫁修行大作戦』!!!」
初春「は、花嫁ぇ?」
黒子「そうですの!さっき挙げた初春の男性観および、あの乙女として信じられない間抜け面!!」
初春「間抜けじゃありません!」
黒子「それを矯正し、貴女自身が望んだ可愛いお嫁さんになるためにも…初春、貴女を一週間、独身の殿方の家に送ります!!!!」
初春「ええええええええええええええええええ!!!!!????」
黒子「そこで一週間、殿方と過ごして頂き、男性とはどういった生物なのか、どういった生活をしているのか、をあくまで擬似的ですがお嫁さんの立場として直にその目で、見て、聞いて、感じてもらいます!!!」
初春「なななななななななな」
黒子「つまりは、初春に結婚生活を送っていただくと言うことです」
初春「結婚ってそんな…///」
23:
黒子「派遣先の殿方は、私とお姉さまの御妹君様がちょっとした方法で い じ っ て お り ま す」
初春「いじるぅ?」
黒子「要するに本人に気付かれないようにちょっと頭の中を細工してるだけです」
初春「細工って…何をしたんですか?」ゾゾゾ
黒子「企業秘密でございます。ウフフ」キラーン
ミサカ「………」b
黒子「そういう訳で早…」
初春「ま、待って下さい!!」
初春「私の意思はどうなるんですか!!私にはジャッジメントの仕事もあるんですよ!!それに、そんなどこの誰かも知らない人と一週間も同棲なんて…///」カァァ
黒子「初春、これは貴女のためにやるのですよ。ジャッジメントについては、既に初春の休職届けは出しております」
初春「いつの間に…」
黒子「それに、殿方に関しては、私個人としてはあまり納得できませんが、ある程度信頼のある男性を選ばせて頂いてます」
初春「だ、誰ですそれ?」
黒子「しかもお姉さまのお墨付きです」
24:
御坂「う……正直、私としてはあまりっていうかほとんど乗り気じゃないんだけど…まあ初春さんの将来も心配だし、あいつなら一応安心出来るかなって思ったから」
御坂「ダケドホントハ、ワタシノホウガアイツノヨメサントシテ、イッシュウカンドウセイシタイトイウカ…ナントイウカ///」カァァ
黒子「それに一週間経てば、その間の記憶は殿方の頭から消える算段ですので、その後の関係に変化があるというわけでもありません」
初春「だけど私…」
佐天「大丈夫だって初春ー!初春なら何でも全部やり遂げられるよ!」
黒子「あら?佐天さんも花嫁修行で殿方の自宅へ派遣される予定ですが」
佐天「なにー!!??」ガビーン
御坂「まあそういう訳で初春さん。ホントウハワタシガイキタイトコロダケド」ボソボソ
御坂「一応、安心できるからそいつ。勝手言ってごめんだけど、頑張ってみて!初春さんなら出来るから!」
そう言って御坂は紙束の中から資料を取り出し初春に渡した。
初春「うぅぅぅぅぅ…」
こうして、一週間に及ぶ初春の花嫁生活が幕を開けた―!!
25:
1日目―。
初春「ここが一週間お世話になる男の人の寮かー」
一週間分の荷物と御坂から渡された資料を持ち、とある寮前にやって来た初春。
初春「緊張するなあ……」ドキドキドキ
初春「押し切られた形だったけど、何で私も馬鹿正直みたいに来てるんだろ」
 ― 黒子「もし逃げ出したら、それなりのペナルティーを受けてもらいますわよ!」キラーン ―
初春「…………」
初春「まあ、あの御坂さんの知り合いで御坂さんも大丈夫だって言ってるもんね」
初春「それに、いつかは私も男の人と一緒に暮らすときが来るかもしれないし…練習と思ったらきっと大丈夫…テヘヘ///」
初春「でも、どんな人だろ…?御坂さんと白井さんで評価が正反対だったから分かんないや」
 ― 黒子「個人的な意見ですと、あの殿方は類人猿ですの!見てるだけで獣の臭いが漂ってきそうな
 こっちが痒くなるような…何故あの方がジャングルにいないか不思議でなりませんのムキー! ―
 ― 御坂「あいつ?駄目駄目。頼り無さそうだけど実際はかっこいいし、強いし、優しいし、もうどこから
 見てもイケメンだし、責任感あるし…ってちちちちち違うの!今のは冗談よ冗談!あははは ―
初春「暴力的な人だったら…恐いかも」
26:
初春「待って…もし…オタクとか呼ばれてる人だったらどうしよう…」
初春「佐天さんが言ってたっけ…『オタクの恐怖は並大抵じゃない』って」
ホワンホワンホワン
―初春の想像―
男「初春ちゃぁーん萌えー萌えー萌えーハァハァハァ」
初春「う、あ、あのごめんなさい…近すぎます」
男「初春ちゃんはアニメキャラみたいだね。声も可愛いしハァハァハァ」
初春「そ、そんなことないですぅ」
男「ほら見てよ、このDVD。初春ちゃん、この子に似てない?」
初春「似てませんよ…」
男「あー我慢できなくなってきた」
初春「え?」
男「初春ちゃーーーーん大好きだーーーーー!!!!」
初春「きゃぁぁぁぁぁあああ」
―初春の想像終わり―
ブルブルブル
初春「な、無いよねそんなこと…きっと…うん」
初春「………」
初春「帰ろうかな…」
28:
が、帰ったところで無駄だと思ったのか、彼女はよせばいいのに派遣先部屋の前まで来てしまう。
初春「私も諦め早いなあ…」
初春「ここが…その人の部屋……。『上条』さん?って言うのかな…?」
初春「どうしよう…早くインターホン押さないと……」
初春「あぅ…でも、恐い……。御坂さんによると、高校生って言うし…」
初春「高校生の男の人って……どんなんだろ?年上だし、何だか恐いなー」
ブツブツと扉の前で呟き続ける初春。
5分後、そこに彼女の姿は無かった。
と、思われたが、部屋の前の廊下を通り過ぎる影が一つ。
消えたと思ったらまた通り過ぎる。
初春「……………」
何度も部屋の前を往復し、落ち着かない初春。
物陰から探るように上条宅のドアを伺う。
30:
 黒子『わざわざインターホンを押す必要は無いですの』
 初春『え?何故ですか?』
 黒子『向こうの方は既に初春をご自分の奥方…つまり妻であると認識されてます』
 初春『ええええええええ!!!???どうして!!??』
 黒子『企業秘密です』キラーン
 ミサカ『…………』b
 黒子『設定としては新婚ほやほやの夫婦です』
 初春『新婚ほやほや///…で、でも、新婚なら男の人も優しそうだし簡単そうですね』
 黒子『チッチッチ』
 初春『え?』
 黒子『人生そう簡単にはいきませんのよ』
 初春『?』
初春「白井さんの言ってることはよく分からなかったけど……どっちにしろ、行く勇気ないなあ…」
と、ぶつくさと独り言を唱えていると、急に目の前の扉が開いた。
初春「!!!」
中から出て来たのは、頭はボサボサ、眠そうな表情、垢抜けない服装の部屋の主だった。
初春「(び、びっくりした…)」
初春「(この人が…上条さん…?)」
初春「あ、あの……」
上条「…………」
初春「う……。あ、あの、貴方が上条さんですか?」
37:
上条「………」ジーッ
初春「(やだ…何で見つめてくるんだろうこの人?///)」
上条「………」
初春「………」
上条「……入れ」ボソッ
初春「え?」
上条「早く入れよ。近所迷惑だろ」
初春「え、あ、ご、ごめんなさい!」
上条「ったく…」
38:
バタン
初春「(どうしよう…最初からつまづいちゃったかも…何か機嫌悪いし…)」
玄関で立ち止まる初春。彼女は中を見回す。
初春「(ふぇぇ…これが、男の人の部屋なんだあ…私や佐天さんの部屋とは大違い…)」
初春「(どうしよう……男の人の部屋なんて初めてだから、なんかドキドキする////)」
上条「おい」
初春「は、はい!」
上条「何突っ立ってんだよそんなところで。早く来てお茶でも入れろよ」
初春「ご、ごめんなさい!」
トタタタ
初春「わっ!」
部屋に着いた途端、初春は驚きの声を上げる。
初春「散らかってる…」
初春「(でも男の人なら、有り得るのかも…)」
初春「(って…普通なら男の人の部屋にいること自体、おかしいのに…何でこんなことに)」
上条「おい、頼むからいつまでも部屋の真ん中で突っ立てるなよ。邪魔だろ…」
39:
初春「え、あ、はい…ごめんなさい…(何だか私さっきから「ごめんなさい」ばかりだ)」
上条「それから早く茶をいれてくれよ。喉カラカラなんだからさー」
初春「わ、分かりました(どうして私がこんなことを…)」
上条「ったく、ほんとお前ってトロくさいよなー」
初春「ごめんなさい…」シュン
荷物を置き、急いでキッチンに向かう初春。
初春「(どうしよう…早くしないと…怒られちゃう…)」
初春「(でも何であの人あんなに機嫌悪いんだろう……私のせいかな?)」
初春「えーっと…茶碗はどこだろ…ポットはええっと…」
上条「…………」
初春「あつっ」
初春「うー…冷やさないと」バシャバシャバシャ
40:
そして…。
初春「あ、あの…お茶いれました。はい、これ湯飲みです…」オソルオソル
初春から湯飲みを受け取る上条。
しばらく彼はお茶を見つめていた。
初春「?(な、何だろこの間は…)」
ふと立ち上がる上条。湯飲みを持ちスタスタとキッチンへ向かう。
その行動を目で追う初春。
と、次の瞬間、初春は我が目を疑った。
上条「フン」バシャァ
初春「!!」
何と、上条は初春がせっかく入れたお茶を流しに流してしまったのだ!!
45:
初春「…な、何で…」
上条「お前さー」
初春「はっ、はい!」ビクッ
上条「嫌がらせ?嫌がらせなのこれ?」
初春「え…嫌がらせって…私は別にそんなつもりは…」
上条「俺さ、いつも言ってるよね?家にいるときは冷たいお茶がいいって」
初春「え…あ…(そんなこと知らないよ!)」
上条「しかもさっき俺何て言った?お茶いれてほしい、って言った時なんて言ったっけ俺」
初春「えっと…」
上条「喉カラカラって言ったよね?言ったよね?覚えてるよね?」
初春「あ…」
上条「なのに何で熱いお茶淹れたの?ねぇ、何で嫌がらせ?ん?答えてみ?」
51:
初春「それは…」
上条「さすがの上条さんもこれには少々堪えましたよ」
初春「…ごめんなさい…」
上条「はぁー何で俺、お前なんかと結婚したんだろうな…」
初春「(結婚って…)」
上条「世の中にはもっといい女性たくさんいるはずなのに。何でこんなドンくさいやつと…」
初春「……………」シュン
上条「もういいよ自分でいれるから。ったく…」
捨て台詞を吐き、キッチンへ戻る上条。
初春はあまりのショックからか、しばし動けなかった。
初春「(…何でこんなに嫌われてるんだろ…)」
初春「………はっ!」
急いでバッグから、御坂に渡された資料を取り出す初春。
表紙には「黒子ちゃん特製(ハート)・新婚お嫁さん生活ガイド♪」と書かれている。
ページをめくると、「教訓」と題打って長ったらしい文章が書かれていた。
初春「『そもそも私黒子が思うに、妻というものは夫の支えとなるべき人格を持つべきで………お姉さまは私黒子のような妻を選ぶのが一番………お姉さまが結婚なさるときは、隣の新郎もとい新婦は黒子が……」
初春「もう!何でこんな意味ないことばかり書いてるの!?って言うかほとんどのページこんな感じで埋め尽くされてるじゃないですかぁ!」
52:
ダラダラと美琴への想いが書き綴られているページをめくっていく初春。
そして、初春が欲していた情報は最後のページでようやく見つかった。
初春「あった…『当プロジェクトについて』」
初春「
 『このプロジェクトの目標は、参加者が新妻となり、協力者の夫と共に支え合い、助け合い、夫婦の絆を
 確かめながら一人前の花嫁になることです。楽しくも厳しい夫婦生活を経て、女としての自分を磨いて
 いきましょう』
               」
初春「もう!他人事だと思って…」
初春「
 『夫となる人物は、参加者である貴女を本当の妻であると認識されています。設定としては、新婚の
 夫婦を基準にしていますが、いくつか注意点があります。それは、夫となる人物には、「ツンデレ度」
 なるレベルが設定されていることです』
               」
53:
初春「『ツンデレ度?』」
初春「
 『このレベルには1から5まであり、参加者である貴女様の女としてのレベルに合ったものとなって
 います。レベル1に近付くほどツンツンであり、レベル5に近付くほどデレデレです。貴女様には、
 良妻として頑張って頂き、最終的に旦那様をレベル5にして頂きます。そして、その時初めてこの当
 プロジェクトは終わりを迎えます。ただし、1週間以内にそれが達成されない場合、参加者は一生、
 妻として旦那様と夫婦生活を送ってもらうことになります』
                」
初春「…………」
言葉を失う初春。滅茶苦茶な要求の説明文の下には手書きで「初春飾利」と足された文字と、
それまでと同じくワープロ文書で印字された「さまの旦那様のレベルはこちら↓」という文章があり、
さらにその下には、( )の中に、それぞれ「レベル1」「レベル2」「レベル3」「レベル4」「レベル5」と
いう選択項目が見受けられた。
ちなみに、初春の場合は「レベル1」が丸で囲まれていた。
初春「白井さあああああああああああああああああん!!!!!!!!!」
55:
初春「誰が女としてのレベルが1ですか!そういう貴女こそ人のこと言えるんですか!!??」
初春「貴女いつも「お姉さまお姉さま」って言って御坂さんに過剰に迫ってますよね!?御坂さん女性ですよね!!??貴女はこのプロジェクトに参加しなくていいんですか!?」
初春「っていうか「ツンデレ度」って何です「ツンデレ度」って!!実際の夫婦生活に「ツンデレ」なんて関係あるんですか!?こんなことして太陽は西から昇りますか!?東に沈みますか!?」
初春「…はっ!」
後ろから刺すような視線に気付いた初春。
振り返ると、キッチンから上条が目を光らせてこちらを見ていた。
初春「………」
再び、資料に目を落とす。
そこには、それぞれのレベルの説明がなされていた。
レベル1の項目を見る初春。
『レベル1:もう離婚手前状態。何かと夫が嫌味を言ってくる。夫によってはDVをする人も』
初春「何で…こんな難易度が高いんですか…orz」
因みに、レベル2からレベル5は以下の通り。
『レベル2:夫婦仲はマシだが、まだお互いの距離がある。夫の嫌味は多少減る』
『レベル3:普通の状態。特に仲良くもなく、悪くもない。一番、飽きが来やすい』
『レベル4:夫と妻が互いに信頼し合っている。理想の夫婦像』
『レベル5:見てるこっちが恥ずかしくなるほどのバカップルぶり。イチャイチャし過ぎて周囲は殺意を抱く』
57:
上条「おい、飾利」
初春「ふぇ?」
初春「か、飾利って…」
上条「何ボケてんだよ。飾利はお前しかいないだろ」
初春「……そ、そうですよね(男の人に初めて名前で呼ばれちゃった…///)」
上条「早く飯作ってくんねーかな?」
初春「え?」
上条「もう昼飯の時間なんだけど?何?作るの嫌なの?」
初春「そ、そういう訳じゃ…」
上条「じゃあ早くしろよ。いちいち口で言わないとできねぇのかよ。イライラすんなぁ」
初春「…ごめんなさい。すぐにします…」
上条「チッ」
59:
キッチンへ駆けていく初春。
初春「どうしよう…何作ろう…男の人って昼ごはんは普通どんなの食べるんだろ?」
冷蔵庫や棚を空け、揃っている食材や食器を確認する。
初春「……これだけあれば、チャーハンぐらい出来るかも…」
初春「エプロンはどこだろ…あ、あった」
セーラー服の上からエプロンをし、初春は支度を始めた。
初春「えっと…これをこうやって…こうして…」
しどろもどろしながらも、初春は一つ一つ丁寧に進めていく。
上条に嫌われたくない、上条と仲を深めたい。そんな健気な思いが
汗となって、彼女にやる気を与えたのだった。
初春「出来た!!」
汗を拭い、初春は完成した二人分のチャーハンを机に持っていく。
初春「で、出来ました…」ドキドキ
上条「あっそ」
60:
スプーンを手にし、チャーハンを口に入れる上条。
初春「(チャーハンは以前、佐天さんにもとても褒められた私の得意料理…。これで上条さんも機嫌を直してくれるはず)」
上条「…………」
初春「(何だろ?)」
上条はスプーンを口に入れたまま、微動だにしない。
初春「あ、あの…どうかしました?結構、自信作なんですけど…てへへ」
上条「まずい」
初春「え?」
上条「何だこの味!!犬の餌かよ!!!」
初春「!!」ガーン
61:
上条「お前、俺に毒でも盛る気かよ!!」
初春「え、そ…そんな…」
上条「甘すぎだろこれ!!チャーハンは辛いのが一番なんだよ!!!」
初春「えっと…その…ちょっと…甘味を付け加えたんです…前、佐天さんには好評だったから…」
上条「他人のことなんて知るか!!誰だよ、さてんって!俺はチャーハンは辛いのが好きなんだよ!!!前に言ったはずだろが!!!」
初春「ご、ごめんなさい!!」
上条「チッ、やってらんねー!」
スプーンを投げるように皿に戻す上条。
上条「お口直しにラーメンでも食いに行ってくるか」
初春「え!?そんな!じゃあ、これは?」
上条「お前が食っとけよ!!こんな不味いもん食わせやがって!!ノロマが!!」
64:
バタン!!!
初春「!!」ビクッ
捨てるように言葉を残し、ドアを強い勢いで閉め出て行く上条。
一人、残された初春は目の前に置かれた2つのチャーハンを見つめた。
初春「……そんなに、不味かったかな……」
スプーンでチャーハンを口にする初春。
初春「おいしいのに…グスッ…」
初春「…ごめんなさい、上条さん…ヒグッ…グスッ」
初春「…何だろ?甘いはずなのに…塩辛いやこれ…グスッ」
独り言を呟きながら、初春はチャーハンを乗せたスプーンをちびちびと口に運ぶ。
頬を伝った涙が口に入っているのも気付かずに、初春は一人、チャーハンを食べ続けた。
66:
その頃、佐天は…
佐天「…初春、上手くやってるかな…?」
とある寮の前にやって来た佐天。
住所が書かれたメモを手にし、今、彼女は派遣先の
夫となる人物の部屋の前にいた。
佐天「つーか、何で私までこんなことしなきゃいけないんだろ?」
佐天「にしても、誰だろな。御坂さんの知り合いの男の人って」
佐天「あの人も結構、男の人と交流あるんじゃん。隅に置けないなー」
佐天「まあいいや。どうせ超絶嫁スキルを持ってる涙子ちゃんなら、どんな男の人でも簡単にデレデレさせちゃうし。って言うか尻に敷いてやろ、ふっふっふ」
ピンポーン
佐天「さて、どんな人が出てくるかwktk」
佐天「…出て来ないな。いないのかな?」
ピンポーン
佐天「……出ない」
ピンポーンピンポーン
佐天「出ろよさっさと!」
68:
ピンポーンピンポーンピンポーピンポピンポピポピポピポピピピピピ
佐天「こうなったら、直接入ってやるか。どうせ奥さんって設定だし、問題ないよね」
ドアノブに手をかける佐天。
と、同じくしてドアが内側から開けられる感覚があった。
佐天「お?」
「あ?」
玄関で対峙し、数秒ほど固まったまま互いを探るように見る二人。
佐天「……………」
佐天「……若白髪って言われたことありません?」
一方通行「………ねェよ」
佐天「……………」
一方通行「……………」
86:
上条宅―。
初春「遅いな上条さん……もう4時間経つのに…」
部屋の隅で、体育座りで上条を待つ初春。
初春「怒っちゃって…帰って来ないのかな?」
初春「男の人にあんなに嫌われたの初めて……」
初春「佐天さんどうしてるんだろ?…今からでも佐天さんと交代できないかな…?」
散らかった部屋をぼんやり眺め、初春は独り言を呟く。
更に時が流れて2時間後…。
初春がうたた寝をしていると、玄関の扉が開く音が聞こえた。
初春「ん?」
起き上がり、玄関に向かう初春。
初春「あ…お帰りなさい」
上条「…………」
しかし、上条は無視し部屋の中に入っていく。
初春「……やっぱり、まだ怒ってる…」
上条「おい!!」
初春「!!」ビクッ
88:
後ろから掛けられた声に驚く初春。
初春「な、何ですか!?」
彼女は部屋の中に戻る。
上条「あのさ、これどういうこと?」
初春「え?」
上条「え、じゃねぇよ。これどういうことか、って聞いてるんだけど?」
初春「な、な、何のことですか?」オドオド
上条「はぁ?見てわかんないの?」
初春「え…あ…はい…」
上条「はい、じゃねぇよグズ!見ろよこの部屋!!何にも片付いてねぇじゃねぇか!!!」
初春「!!」
上条が激昂していた理由は部屋の散らかりようだった。
89:
初春「ごめんなさい!ちょっと気付かなくて…」
上条「気付かないわけないだろ!」
初春「だって、他人の家だし……」
上条「何言っんだ?ここ、お前の家でもあるんだけど?」
初春「あっ…(今はそういう設定だったっけ…)」
上条「それとも何?もう自分たちは夫婦じゃありません、ってか。ん?私たちはもう赤の他人です、ってか」
初春「ち、ち、違うんです!!これには色々あって…」
上条「言い訳すんな!」
初春「…ご、ごめんなさい」
上条「ったく、お茶は淹れ間違えるわ、不味い飯出すわ、部屋は片付いてないわ、何でお前そんなに何も出来ないの?」
初春「…………」
上条「俺が嫌いならそう言えばいいじゃん」
初春「別に嫌ってなんか…」
91:
上条「何?口答え?はぁー…もういいから。じゃ、お望みなら俺、出て行くわ」
初春「ええっそんな!!」
上条「っと…でも他人の家に泊まらせてもらうのも悪いしな……チッ」
上条「おい」
初春「は、はい!」
上条「0時までには帰ってくるから。風呂と晩飯の用意しとけ」
初春「えっえっえっ…」
上条「言っとくけど俺より先に風呂は入るなよ?あと、晩飯はラップしとけよちゃんと」
初春「あ、は…はい」
上条「ったく、ホントムカつくぜ」
再び上条は部屋を出て行った。
初春「……………」
声を掛けることも、引き止めることも出来ない初春。
また取り残された初春は、無言で部屋の片づけを始めた。
93:
その頃、佐天は…。
一方「このやろ!いい加減にやめねェか!!」
佐天「うっさい!部屋の掃除は主婦の務めなんですぅ!!」
一方「バ、馬鹿!!ベッドの下はやめろ!!」
佐天「え?何かベッドの下はまずいんですか?覗かれたら困るんですか?」ニヤニヤ
一方「うっせェよ!そこは唯一俺のプライベートエリアだ!!手を出すんじゃねェ!!」
佐天「あ、見て一方さん!窓の外!UFO浮いてる!!」
一方「えっ!?マジかよ!?」
佐天「へっへっへ?」ガサゴソ
95:
佐天「あーーーー!!!こんなところに、こんな卑猥な本がーーー!!!」ニヤニヤニヤ
一方「てめェ!!騙しやがったな!!」
一方「あ、馬鹿よせ!それは俺の宝だ!触るンじゃねェ!」
佐天「うわ、何これ…ロリものとか…ドン引き…」
一方「チッ…///」
佐天「私という女がいながら…よよよ」
一方「うっせェ!!ババァに用はねェンだよ!!!」
佐天「なっ!ババァですって??私がババァならあんたはジジィだ!!若白髪!!」
一方「はァ?ババァに言われたくないンですけど!!!」
佐天「うっさいジジイ!バーカバーカ」
101:
上条宅・夜11時―。
初春「よかった……大分かかったけど、片付け終わった…」
初春「風呂は沸かしたし、晩御飯もちゃんと作っておいたから、これで上条さんも喜ぶよねきっと」
グーキュルルル
初春「うう…お腹すいたなあ…先に食べちゃおうかな…」
初春「って駄目駄目!上条さんと一緒に食べるって決めたんだから、我慢我慢。あと1時間もすりゃ帰ってくるはずだろうし…」
初春「……………」
部屋を歩き、初春は窓を開けベランダに下りる。
初春「上条さんまだかな…」
初春「早く仲良くなりたいなあ…。佐天さんはちゃんとやってるのかな?」
初春「結婚かあ…私もいつかは男の人と結婚するんだよね…」
初春「頑張らないと…」
しかし、午前0時を回ったものの、上条が帰ってくる気配はなかった。
初春「………帰ってくるって、言ったし後ちょっとで帰ってくるよね」
初春「…お腹すいたなあ」
チラリと机の上の料理を見る初春。
初春「駄目だって!ただでさえ上条さんと仲悪いんだから!一緒にご飯とか食べないと仲良くなる機会ないよ」
初春「…でも暇だなあ…勝手にテレビ見たら怒られるだろうし…」
初春「ふぁーあ…何だか眠くなってきちゃった…」
102:
午前1時―。
初春「…………」
ウツラウツラと、眠気と戦う初春。
カクン、と頭がもたげるたび目を覚まそうと努力する。
初春「眠い…そしてお腹すいた……ってもう1時?いつもなら眠ってる時間だ…」
初春「本当の奥さんって、こんなことまでしなきゃならないのかなぁ?」
パンパン、と初春は頬を叩く。
初春「もうすぐ帰ってくるから大丈夫!それまでご飯も睡眠も我慢我慢!」
午前2時―。
初春「遅いな……何かあったのかな?」
午前3時―。
初春「zzzzzzzzz.....」
夜も深くなった頃、ついに玄関から音がした。
ガチャッ
上条が帰って来たのである。
初春「ムニャ…あっ、もう3時だ!」
103:
ガサゴソ
初春「ん?」トタタタ
玄関に走る初春。靴を脱いでいた上条と目が合った。
初春「あ、お、お帰りなさい…」
上条「ああ…」
初春「遅いから心配してました。0時には、帰ってくるって言ってたから…」
上条「別に予定の時間過ぎようが過ぎまいが俺の勝手だろ?お前、俺の自由まで束縛する気かよ」
初春「ご、ごめんなさい…」
上条「で、ご飯と風呂出来てるんだろな?」
初春「え、はい!ちゃんとご飯も出来てますし風呂も沸いてます!あ、あと片付けもしときましたから!!」
上条「当たり前だ!そんなんで喜んでるんじゃねぇよ!!」
初春「そ、そうですよね…」
上条「ったく…もういいわ。じゃあ先飯食うから」
初春「あ、わ、分かりました。急いで温めますね」
机の上に置いた食事をレンジに入れる初春。
104:
上条「なあ」
初春「な、何でしょう?」
上条「なんかもう一人分あるんだけど」
初春「あ、それ私のです!一緒に食べようと思って置いといたんです!」
上条「はぁ?馬鹿じゃねぇの?」
初春「!?」
上条「で、何?それでずっと夕飯も食べずにいたわけ?」
初春「そ、そうです」
上条「アホだろお前。別にこっちは一緒に食いたいとも思ってねぇのに…」
初春「…………」
上条「俺なんか無視して先食ってりゃいいじゃねぇか。要領悪いなあ。見ててイライラするわ」
初春「…ごめんなさい」
上条「もういいから。俺一人で食いたいから、お前は食器洗いでもやっとけよ」
初春「あ…あの…」
上条「あ?何?」
106:
初春「私、まだ風呂まだなんですけど…」
上条「はぁ?風呂も入ってないの?馬鹿なの?死ぬの?」
初春「だって…先に入っちゃ駄目って言われたし…」
上条「何それ?俺のせいですか?確かにそう言いましたよ?でもね、今、何時だと思う?ん?答えてみ」
初春「さ…3時10分です…」
上条「だよね。3時10分。俺が伝えた帰宅時間は0時。もう3時間も過ぎちゃってるわけよ」
上条「だったらね、予定狂ったんだからさ、先に風呂入るぐらい機転利かせろよ」
上条「二人して3時まで起きてたらさ。色々とうるさいだろ?そしたら近所迷惑だろ?ここ寮なんだぞ?」
初春「ごめんなさい…」
上条「はぁーどうしてそうお前は要領悪いかねー。もういいよ、先風呂入れよ」
初春「分かりました…」
言われるがまま、初春は風呂に入った。
浴室にて―。
初春「…失敗しちゃったな…」
初春「また上条さん怒らせちゃった…」
初春「一緒にご飯食べようと思ってたんだけどなあ…」ブクブクブク
109:
そして、午前4時―。
上条「さてと、寝るか…」
初春「あ…あの、つかぬことをお聞きしますけど…」
上条「何だよ?」
初春「も、もしかして一緒にベッドで寝るんでしょうか?///」
上条「ああー」
初春「(やっぱり///)」
上条「いや、いつも通り別々で寝るから」
初春「え?別々?」
上条「確か今日はお前が風呂場で寝る番だろ?」
初春「風呂場?」
上条「何?一緒に寝たいの?」
初春「え、いや、そ、そんな//// た、ただ風呂場って…」
111:
上条「いやいや、何言ってんだ?随分前に決めたじゃねぇか。これからは、風呂場とベッド交代で寝ようって」
初春「え…(そ、そうなんだ…)」
上条「それとも何?もしかして俺、ずっとこのままベッドで寝ていいわけ?」
初春「え、そ、そんなわけじゃ…」
上条「だったらいいだろうが。わざわざこんなこと確認させんなよ」
初春「ごめんなさい…」
上条「じゃ、俺はもう眠いから。お前も早く風呂で布団敷いて寝ろよ」
初春「…分かりました…」
お湯を抜いた浴槽に布団を敷く初春。
無言でその中に入り込む。
初春「……駄目だな私って…やることなすこと全部、空回りするんだもん……」
初春「はぁー結局、1日目は全然上条さんと仲良くなれなかったなぁ…」
初春「ヒグッ…家に帰りたいな……グスッ」
その後、しばらく、風呂場から彼女の嗚咽が止むことはなかった。
115:
少し時間を遡って、一方通行の寮―。
佐天「はあ!?何で私が床で寝なきゃならないの!?」
一方「いっつもそうしてるだろうがァ」
佐天「何、あんた、自分はベッドでぬくぬくと寝て妻には床で寝かすわけ?」
一方「ンだよ?文句あっか?それとも一緒に寝たいのかよ?」
佐天「え!?いやいやいや、それはないです。お断りします。これでも私まだ13歳の乙女だから」
一方「こっちもお断りだァ!そもそも13歳が乙女なわけねェだろがババァ!!!」
佐天「あーまた言った!!また私のことババアって言った!!」
一方「事実言っただけじゃねェか。何が悪いンだよ」
佐天「くっ…なんかムカつくなあ…このロリコン白髪ジジイ!!」
一方「黙れ化石クソババア!!」
罵り合いながらも、二人は上手くやっているようだった。
こうして、初春と佐天の波乱の1日目は終わりを迎えた―。
134:
2日目―。
初春「ん…?」
目を開ける初春。一瞬、いつも目覚めた時とは違う光景に戸惑ったが、
すぐに現在置かれている状況を思い出した。
初春「そっか、私…昨日は風呂場で寝ることにして……今何時だろ?」
手元に置いた携帯電話で時刻を確認する。
初春「7時半か…」
のそのそと布団から出、初春は部屋に向かった。朝の寒さがパジャマ姿の初春を震わせた。
初春「寒い……。あれ?上条さんがベッドにいない…」
ふと、いい匂いが漂ってくる。その匂いの先を辿ると、キッチンで上条が忙しなく動いていた。
初春「…何やってるんだろ……。あ、あの…上条さん…」
後ろから声を掛けてみる。しかし、反応はない。
初春「あの…上条さん?」
上条「黙ってろよ!気が散るだろ!」
初春「ご、ごめんなさい…!」
136:
怒鳴られ、しゅんとなる初春。やることもないのか、彼女はそのまま床に座った。
初春「………(まだ怒ってるんだ)」
と、そのとき、目の前の机に上条が何かを置いた。
初春「!?」
上条「朝食だ」
それだけ言うと、上条は腰を降ろした。見ると、二人分のパンとココアが並べられている。
初春「…あ、あのこれ…上条さんが作ったんですか?」
上条「はぁ?見てわかんねぇの?」
初春「な、何でそんなこと…わ、私が朝食ぐらい作ってあげたのに…」
上条「冗談言うなよ。昨日の昼飯と言い、朝からまずいもん食わされたらたまったもんじゃないのに…」
上条「だったら、俺が作ることにしただけだ。これからお前、朝食用意しなくていいから」
初春「で…でも…」
上条「うるさい!二度も言わせんな」
初春「わ…分かりました…」
ココアを口に付ける初春。
初春「………暖かい」
138:
上条「…………」
二人はしばし、朝食の時を過ごす。無論、会話などは一切無いが。
初春「(食パンにマーガリン塗っただけなのに…何だかおいしい)」
初春「(にしてもようやく上条さんと二人でご飯食べれた……ちょっと嬉しいかも)」チラ
上条「あ?何?」
初春「い、いえ…」
上条「じゃ、俺、そろそろ学校行くから」
初春「へ?」
上条「後片付けしとけよ」」
初春「え、学校って…」
上条「何?俺急いでるんだけど、学校行っちゃ悪いですか?それとも俺を遅刻でもさせんの?」
初春「い、いえ…行ってらっしゃい…」
上条「フン」
学生鞄を手にし、部屋を出て行く上条。
初春「学校があるなんて…聞いてないよ…。二人だけでいる時間、短くなっちゃうのに…」
初春「…………」
初春「あっ!そういえば私も学校だった!!わっ、もう8時!?うー急がないと!!」
139:
柵川中学校―。
佐天「うーーーーいーーーーはーーーーるーーーー!!!」
バサアッ
初春「きゃあああ////またですかもう!!やめてくだしあ佐天さん!!」
佐天「履いてない…?」
初春「そんなわけないでしょ!!/// 」
佐天「だっはっはーごめんごめん。でさ、どうだった?」
初春「どうって、何がですか?」
佐天「旦那様との愛の巣は?」ニヤニヤ
初春「あ、それのことですか……」
初春の表情が曇る。
佐天「元気ないね。喧嘩でもしたの?」
初春「いえ…喧嘩って言うよりも…」
佐天「何?もしかして暴力受けてるとか?」
142:
初春「そ、そんなんじゃないんです!ただ…」
佐天「ただ?」
初春「何だか嫌われてるみたいで…」
佐天「嫌われてる?」
初春「はい…。淹れたお茶を流しに流されたり、作ったご飯を食べてもらえなかったり、あとは怒鳴られることもしょっちゅうです…」
佐天「何それ酷いなー」
初春「でも、私がノロマなのが原因ですから…」
佐天「そんなことないって!初春ほどお嫁さんにして幸せな女の子なんてそうそういないのに…」
初春「ふふ、ありがとうございます…。でも、きっと上条さんとは最後まで仲良くなれないかも…」
佐天「そんな…」
初春「佐天さん、もし私が1週間で上条さんと仲良く出来なかったら、あの人に嫁ぎますから…結婚式には来て下さいね」ニコッ
佐天「いや、本気で落ち込み過ぎでしょ…(いくら白井さんでもそんなの強要しねーよ…多分だけど…)」
佐天「って言うか、中学生が結婚とか早すぎでしょーが!」
初春「そう言う佐天さんはどうなんです?旦那様とは上手くいってますか?」
143:
佐天「ん?ああ、駄目駄目。よく考えりゃ私もあいつと仲良くなれそーにないかも」
初春「そうなんですか?」
佐天「そうだよ!だってあいつさあ、ロリコンだし!」
初春「ロリコン?じゃあ、佐天さんやばくないですか」
佐天「いや、ロリコンって言ってももっと下の年齢の子が好きらしいよ…。何か私の年齢はあいつに言わせると既にババアらしいよ…」
初春「うっ…ババアって…地味に私も傷つきますね…。その人どんだけロリコンさんなんですか」
佐天「ま、まあ私のことは心配しないでいいからさ。初春はちゃんと頑張りなよ」
初春「はい…」
佐天「初春と同棲して、落ちない男なんてこの世にいないはずなんだからさ!」
初春「佐天さん…」
佐天「大丈夫だよ。私も男の人のことなんて全然知らないけど、ちゃんと真正面から向き合って話せば優しくしてくれるからさ!」
初春「分かりました。ありがとうございます佐天さん」
佐天「私もあいつに『ババア』とか『化石』とか『ミイラ』って言われないよう頑張るぞー」
初春「真正面から向き合って話せば…か」
145:
放課後・上条宅―。
初春「ただいまー」
初春「って、まだ帰ってないんですね…」
電気を点け、部屋を進む初春。
出たときと変わりない様子の部屋を改めてじっくり見る。
初春「やっぱり何か不思議な気分……本当に新婚生活送ってるみたい…」
スーパーで買ってきた食材を詰めたビニール袋をキッチンに置き、
初春は食器を洗い始めた。
その頃、上条は…。
とある公園―。
上条「はーあ…またテストで悪い点とっちまった…おまけにセールには間に合わなかったし、ついてねーや」
上条「何だかすっきりしねーな…」
ビリビリビリッ
と、唐突に飛んでくる電撃。間一髪、上条はそれを右手で防いだ。
上条「うおおおお、ビックリしたーーーーー」
上条「って、おいビリビリ!」
御坂「何よ!?」
146:
上条「な、何か機嫌悪いな……不意打ちは止めろよ!死ぬだろ!」
御坂「うっさい黙れ!!」ビリビリッ
上条「ま、また!!」
同じように、右手で電撃を防ぐ。
上条「いい加減にしろよ!俺だって今日は機嫌悪いんだからな!いい加減にしないと怒るぞ!」
御坂「あんた、初春さんに随分、無礼な態度とってるらしいわね!?」
上条「はぁ?だから何だってんだよ?」
御坂「な…!ただでさえ、黒子が考えたこの企画には納得出来ずイライラしてるって言うのに…」
上条「何言ってんだお前?」
御坂「うっさい!…それに加えて初春さんに酷い仕打ちするって、どういうつもりよ!」
上条「飾利が何言ったか知らないけど…」
御坂「『飾利』ですって!?」ガーン
上条「人ん家の事情に口出さないでくれる?」
御坂「ムッキー!私を蚊帳の外扱いして!もう、これ喰らっとけえええええ!!!!」
上条「ぎゃあああああああああ!!!!!!!!!」
147:
上条宅―。
初春「よし!これで準備OK!!」
腰に手を当て、いつでも掛かって来い、とでも言いたげな表情を浮かべるエプロン姿の初春。
初春「えへへ…近くのお菓子屋で美味しいって評判のクッキー買ってきちゃった…。あと、人気の紅茶パックも」
初春「ちょっと出費がかさんじゃったけど、男の人とちゃんとした話し合いの場を持つためには、それを盛り上げるツールも必要」
初春「それなりに上品な雰囲気を醸し出して、正面から向き合えば、上条さんだってちゃんと私のこと分かってくれるはず…!」
エプロンを外し、初春はそわそわし始める。
初春「まだかなまだかな上条さんまだかなー」ワクワク
ガチャッ
初春「あ、帰ってきた!」トタタ
上条「チッ…ビリビリのやつ、容赦せずに攻撃しやがって…あームカつくなあ」ブツブツ
初春「お帰りなさい!」ニコッ
上条「なんかスッキリしねーなー」
初春「………お、お帰りなさい!」ニコッ
148:
上条「あ?何?」
初春「え…あの…何ってほどでもないけど…実はさっきお菓子と紅茶を…」
上条「悪いけどさ、今話しかけないでくれる?」
初春「え?」
上条「今無茶苦茶ムカついてんの。分かる?上条さんにも機嫌ってもんがあんの。それぐらい分からない?」イライラ
初春「あ、そ…うん…分かりました…」
初春「でもお菓子と紅茶を用意してるので、良かったら…」
上条「いらねーよ。お前一人で食ってろよ」
初春「……そ、そうですか。ごめんなさい、余計なことして…。じゃ、私一人で食べてますね…」
作り笑いを見せる初春。それを無視するかのように上条は鞄を床に放り投げた。
仕方なく初春は腰を降ろし、机の上のお菓子を食べ始めた。
上条「あ、それからさ…」
初春「は、はい何です!?」
上条「お前、ビリビリにうちの事情チクったろ?」
初春「え…」
上条「さっき、ビリビリの奴がそれで文句言ってきて酷い目に遇ったんだぞ」
149:
初春「そ、そうなんですか…」
上条「そうなんですか、じゃねーよ。お前、そんなことして何のつもり?上条さんを一人、悪役に仕立てあげるつもりですか?」
初春「え…そんな…違う。それに、御坂さんには一言も…」
初春「あ…(佐天さんが御坂さんに話したんだきっと…)」
上条「もういい。お前と話してっとイライラするから黙って菓子でも食ってろよ」
初春「………ごめんなさい」ショボーン
一人、初春はお菓子を食べる。
すぐ側では上条が漫画を読み漁っている。
初春「(……話し合いの場すら、つくれないや…)」
初春「(…でも、このままじゃ終われない…何とかして上条さんに話しかけよう…)」
上条「あースッキリしねー」
立ち上がる上条。
初春「(今だ!)」
初春「あ、あの上条さん!」
上条「チッ…何だよ?今からトイレに抜きに行こうと思ったのに」
152:
初春「(…抜く?)」
初春「す、少しでもいいので、宜しければ、一度面と向かって話し合いませんか?」
上条「はぁ?何言ってんだよ?つーか今にも暴発しそうなのに中途半端なところで止め………」
初春「ちょ、ちょっとでいいので…」
初春「? どうしました?」
気が付くと、上条が口を開けたまま生気の無い目でじっくり初春のことを見つめている。
初春がその視線の先を辿ると、そこには自分の足があった。
セーラー服のスカートが少々はだけ、ふとももが露出していたのだ。
初春「………っ///」バッ
咄嗟に、スカートの裾を直す初春。
初春「あ、あの///そうじゃなくて、だから、その、私と…」
初春は、立ち上がり何とか言葉を紡ごうとする。
が、上手く呂律が回らない。
上条「そっか……」
初春「え?」
上条「お前も、女なんだよな……」ボソッ
初春「!?」ゾクッ
154:
次の瞬間、初春は宙を浮いたような気がした。
ドンッ
背中に軽い衝撃が当たったかと思うと、いつの間にか彼女はベッドに
仰向けに倒れていた。
初春「…………?」
初春を押し倒したのは上条だった。
初春が上条の顔を見ると、彼の目はどこか虚ろだった。
初春「何を…」
無防備で、偶然にも男の本能を刺激するような姿でベッドから見つめてくる
初春に対し、上条は既に限界に来ていた。
初春「!!」
突如、上条が初春に覆い被さった。
初春「きゃっ…!」
上条「ああーもう我慢できねー」
初春「や…いや…」
155:
初春「止めてください上条さん……」
突然の出来事に驚き、何とか出せるだけの言葉を口にしようとするが叶わない。
それどころか上条は更に激しくなり、初春の首筋や顔に鼻をうずめてきた。
初春「やだ…やめて!…お願い…!!」
上条「夫婦なんだからいいだろー」
初春「(…怖い…)」
抵抗を試みるも、手を押さえられているせいか状況は変わらない。
そうこうしていくうちに、上条の行動は激しさを増していく。
初春「お願い…離れて…」
上条「ハァハァハァ…」
獣のように自分を求めてくる上条。
初春は初めての経験に慄き、しまいには目に涙を浮かべてしまう。
それが上条を更に煽ったようだった。
遂に上条はセーラー服の隙間に手を入れ、初春の肌に触れたのだ。
初春「!!」ビクッ
初春「(やだ……怖い…)」ブルブル
初春「(助けて…お父さん…お母さん…)」
159:
自らの身体を男の手が這っていくという未知の経験に動くことも出来ない初春。
しかし、上条が動かしていた手を下着に触れようとした時…。
初春「!!」
初春「やだぁ!!!」
余りの恐怖が初春に声を取り戻させた。
そして、彼女は持てる力で上条を突き飛ばしていた。
上条「!!」
ベッドの上で身を縮こませ、身体をガードする初春。
乱れたセーラー服をぎゅっと握り、目に涙を溜めた彼女は
恐怖と怒りが混ざった表情を浮かべ、その顔は上条の瞳を貫いた。
初春「はぁ…はぁ…はぁ…」
初春「(はっ!)」
初春「(………どうしよう…やっちゃった…また怒られるかも…)」
ずっと初春の顔を見つめていた上条の口が開いた。
上条「……ごめん…」
161:
初春「…え?」
殴られるのかと思い、一瞬目を瞑った初春だったが、
返ってきたのは拳ではなかった。
上条「……怖がらせてごめん…」
上条「……ちょっと頭冷やしてくるぁ…」
目を伏し、それだけ言い残すと上条は部屋を出て行った。
初春「…上条さん…?」
ベッドから降り、上条の後姿を送った初春はしばらくそこで茫然と立ちすくんでいた。
165:
その頃、佐天は…。
佐天「じゃじゃーん!!」
一方「…………」
佐天「どう?私とペアルックの服は?」
一方「………ェ…」
佐天「ん?」
一方「だせェェェェェェェ!!!!!!!」
佐天「なんだとー!?」
一方「何なンだよこの服は!誰がペアルックなンてしたいって言った!!あァ?」
佐天「でもーペアルックのほうがー夫婦としていいっていうかー」
一方「黙れ。ババァに興味はねェ。それにこの服、ハートマークがでかでかと印刷されてて気持ちわるいンだよ!!」
佐天「さーて食器洗いでもするかー」
一方「聞けやオラァ!!」
佐天「え?何?聞こえない?( ゚A^)」
一方「…………(#゚ー゚)」ピキピキ
169:
上条宅―。
ベッドの上で体育座りで上条の帰りを待つ初春。
日が既に沈みかけているが、部屋の電気は点いていなかった。
初春「…どうしよう…上条さん帰って来ないや……」
さっきの出来事を初春は思い出す。
初春「ふん、やっぱり上条さんなんて知らない!私、とても怖かったんだから……」
初春「やっぱり男の人って、女の子がいたらあんなことしちゃうんだね……初めてだったからびっくりしちゃった」
初春「…でも…」
 ―「……ごめん…」―
初春「一応は謝ってくれた……殴られるのかと思ったのに…」
初春「……でも、あれが油断させるための演技だったらどうしよう……逃げるなら今のうちかも…」
初春「………ちょっとだけ…あとちょっとだけ…様子を見てみよう…うん、ほんの少し…」
そして2時間後―。
初春「zzzzzz......」
ガタ
初春「ん?」
初春「寝ちゃってた…もうこんな時間?夕飯作らないと…」
170:
「はぁはぁ…」
初春「誰?」
「飾利…」
暗闇の中、目の前に立つ人間がいる。
初春「上条さん?」
初春「ど、どうしたんですか?」
また襲われるのではないか、との不安が一瞬過ぎる。
が、しかし、そう思ったのも束の間、上条は身体をフラフラさせ、しまいには床に倒れ込んでしまった。
初春「!!」
初春「か、上条さん?どうしたんです??上条さん!!」
上条「うーん…」
初春「電気点けないと」
ポチッ
初春「きゃああああああ!!!」
見ると、うつ伏せに倒れた上条の身体の一部から血が流れており、白い制服も真っ赤になっていた。
175:
初春「上条さん!しっかりして下さい!!」
初春「やだ!どうして!?何で?ねぇ、何とか言って下さいよ!!」
初春は上条の身体をゆする。
上条「…うるせぇ…触んな」
初春「はっ!」
突如、思い立ったかのように冷静になる初春。
初春「(駄目だよ飾利…。私はジャッジメントなんだから、こんなことで慌てたら…)」
初春「(私だって、ジャッジメントで救命講習受けてるんだ!)」
初春「上条さん!どこが痛むんですか?私の質問に答えられますか!?」
上条「うるさいな…」
初春「うるさくありません!どう見たって死にそうじゃないですか!今すぐ救急車を呼びますから!」
上条「その必要はねぇよ」
そう言うと、上条は上体を起こした。
初春「でも…!」
上条「見ろ、左腕…。ちょっと不良に絡まれてナイフで切られただけだ。こんなの、俺にとったら重傷どころか怪我の一つにもならねぇ。慣れてんだから、いちいち心配すんな」
初春「だからってそのままは駄目です!今すぐ手当てしますから!!」
176:
上条「大丈夫だって言ってんだろ!!勝手なマネすんな!!」
初春「嫌です!!」
上条「!?」
初春「目の前で人が血を流してるのに、何もしないなんて、ジャッジメントとして見過ごせません」
立ち上がる初春。彼女は救急箱を探し始めた。
上条「…………」
上条は驚いた顔で初春の行動を見つめる。
彼女の顔は真剣そのものだった。
初春「えっと…ここじゃない……この棚かな?…違った…どこだろ…急がないと…」
上条「…………」
上条「………だ…」
初春「え?」
上条「……一番手前の引き出しの奥に、入ってる…」
初春「……ありがとうございます」
引き出しを開け、初春は救急箱を取り出した。
初春「腕、見せてください」
180:
上条「別にこれぐらい自分で…」
初春「駄目です!!」
上条「!!」
上条はベッドに腰をかけ、初春は床に正座する。すごすごと腕を見せる上条。
初春「ほんとだ…あまり深い傷じゃないみたい…」
上条「だから言ったろ?ったく」
初春「良かった…」
上条「えぇっ?」
初春「とにかく、どっちにしろ手当てしないと…」
初春「ちょっと滲みますけど、我慢してくださいね?」
初春が訊ねる。
その時の彼女の表情は、上条が普段世話になる病院の看護婦たちよりも優しく癒しの効能があるものだった。
上条「っ…」
初春「ごめんなさい。すぐ済みますから…」
上条「…余計なことを」
初春「無駄口は叩かない!」
182:
上条「……はいはい」
汗を流しながらも真面目な表情で、上条の腕を手に取り応急処置を施す初春。
先程、酷いことをしたと言うのに何故ここまで親身になれるのか。そう思い、上条は
初春の姿を見つめていた。
初春「? 何です?」
上目遣いで初春が訊ねる。
上条「…な、何でもねぇよ……」
初春「そう…」
しばし、無言の時が二人の間に流れる。
初春「よし!これでOK!」
応急処置が終わったようだった。
初春「これで全部大丈夫ですよ!上条さん!」パァァ
これでもか、と言うほどの笑顔を浮かべる初春。
彼女の顔には汗が浮かんでいたが、それでも笑みの輝きは消えることはなかった。
上条「…………」
目をそらし、明後日の方向を見る上条。
上条「……ありがとな…」
184:
初春「え?」
上条「二度も言わせんな……ありがとな…」
初春「(…上条さんが…「ありがとう」って言ってくれた…)」
上条「やっぱり、さすがジャッジメントだけのことはあるわお前……」
照れ臭いのか、上条は顔をそらしたまま言う。
初春「……えへへ…そう言ってもらえると、とても嬉しいです」
初春「どういたしまして!」パァァ
再び、初春は満面の笑顔を見せる。
上条「………!!///」
初春の天使のような微笑みの前では、さすがの上条も一人の男だった。
初春「上条さんが無事で、安心しました…」
上条「………でいい」
初春「え?」
上条「『当麻』でいいから……夫婦なのに、名字はねーだろ」
186:
初春「あ!」
初春「そ、そうですね…………」
初春「……『当麻』さん………」ボソッ
初春「///////////」
上条「チッ、分かったらさっさと夕飯でも作ってくれねぇかな?」
初春「あ…」
上条「さっさとしてくれよ」
初春「分かりました!今、作りますね!!」トタタ
キッチンへ向かっていく初春。
彼女のセーラー服に、上条の腕から流れ出た血が付き、赤くなってしまったのを上条は見逃さなかった。
上条「…………」
こうして、初春の2日目が終わった―。
191:
その頃、佐天は…。
佐天「ちょっと!今ご飯作ったところなのにどこ行くつもりですか!?」
一方「ああ?どこだっていいだろ?お前の不味い飯なんて食ってられっかよ」
佐天「ムキー!!言ったね?もしかしていかがわしいところじゃないでしょうね!?」
一方「ご名答!ババアと一緒にいてもつまンねェから、楽しンでくるわ」
佐天「この甲斐性なし!!」ブンッ
タワシを投げつける佐天。
一方「フン」カキーン
佐天「まただ!また跳ね返った!!」
ガスッ
返ってきたタワシが佐天の顔にヒットする。
佐天「むきゅぅぅぅ…」バタン
一方「じゃ、朝には帰るからな。一晩中そこで伸びてな」
218:
3日目・朝―。
ピンポーン
初春「…ん?」
ピンポーン
初春「…呼び鈴?」
初春「こんな朝から?」
布団から身体を出し風呂場を出る初春。
ベッドの上に上条がいるのを確認する。昨夜は、上条が怪我をしたこともあって、
初春が2日連続で浴槽で眠ることにしたのだ。
ピンポーン
初春「はーい、今行きまーす」
ガチャッ
「お届け物です、とミサカは配達員の格好に変装して手紙を渡そうとします」
初春「……………」
221:
初春「御坂…さん?」
初春「…の確か、妹さん…?」
「そんな人は存じ上げておりません、とミサカは帽子で顔を隠しながら手紙を渡します」
初春「手紙?」
「では失礼します、とミサカは光のさで撤退します」
初春「あ、待ってミサカさん!」
初春「…って、行っちゃったか…」
初春「何だろこの手紙?」
初春「開けてみよう」
台所のハサミで封を切る初春。
中から出てきたのは、一枚の明細書だった。
「『初春花嫁修行大作戦』内訳詳細
☆ご利用コース:じっくり1週間コース・ゴールド
☆ご利用日数:2日
☆ご利用男性:幻想殺し系不幸体質タイプ「上条当麻」
☆契約者さまのお名前:初春飾利
☆現時点での殿方「ツンデレ」度:レベル2
         」
223:
初春「何これ?」
初春「『じっくり1週間コース・ゴールド』とか、『幻想殺し系不幸体質タイプ』とか、何の内訳?」
初春「あれ?でも、現時点でのレベル2って…どういうことだろ?」
初春「もしかして、2日経って、上条さんの『ツンデレ度』がレベル2に上がったってこと?」
初春「……何でだろ?どこで上がったのかな?」
上条「おい」
初春「はい!」ビクッ
上条「そこ、邪魔だ」
初春「え?」
上条「朝食作るからどけよ」
初春「あ…」
初春「でも、左腕怪我してますよね…どうせなら今日は私が…」
上条「パン焼くことぐらい出来るわ!飾利の不味い飯なんか朝から食えるかよ。だから通してくれ」
初春「わ、分かりました…」
道を開け、上条を通す初春。
初春「(ホントにレベル2に上がったのかな…?)」
225:
柵川中学校―。
佐天「うーーーーいーーーーはーーーーるーーーー!!!」
バサアッ
初春「……………」
佐天「………あれ?」
佐天「…よしもう一回」
佐天「うーーーーいーーーーはーーーーるーーーー!!!」
バサアッ
初春「……………」
佐天「…何で?」
佐天「うーーーーいーーーーはーーーーるーーーー!!!」
バサアッ
初春「……………」
佐天「これは……チャンス!!」
佐天「うーーーーいーーーーはーーー… ゴスッ!
初春「いい加減にしましょう佐天さん」
佐天「…ひゃい」
佐天「え?レベルが上がった?」
227:
初春「そうです。一応、上条さんの『ツンデレ度』がレベル1から2に上がりました」
佐天「へー良かったじゃん。昨日、元気がなかったから安心したよ」
初春「安心なんて出来ませんよ。あと5日しかないんですよ?それであと3つもレベルを上げないといけないなんて…」
佐天「だ、だよねー」
初春「もう…。そういう佐天さんはどうなんですか?」
佐天「私? 私はねーずっと変わらないまま、レベル4だよ」
初春「レベル4?随分高いじゃないですか。それじゃあ旦那さんとも仲良くやってるってことですか?」
佐天「それがよく分かんなくてさー、だってあいつ昨日、一晩中家にいなかったんだよ。いつも突っかかってくるし、ムカつくし」
佐天「しまいには私の前で堂々と、いかがわしい所へ行ってくる発言!それで朝になっても帰って来ないんだよ」
初春「それは酷いですね……でもそれでレベル4って納得できませんね」
佐天「でしょう?もう意味分かんないよ。白井さんのシステム、欠陥ありすぎ!あはは」
初春「笑い事じゃないでしょう…」
佐天「確かに、本当の旦那だったらぶっ飛ばしてるだけじゃ済まないかも」
佐天「ま、レベルが上がってることはいいことじゃん。順調にレベル5まで上げなよー」
初春「……分かってますけど…」
231:
放課後・上条宅―。
初春「今日で3日目かぁ…。もっとレベル上げ頑張らないとな…」
初春「で、こういう本買ってきちゃった…」
床に散らばるいくつかの本。
『男性と仲良くなる方法50ヵ条』、『彼の心を掴む!』、『猿でも出来る異性との付き合い方』、『新妻が心得ておくこと』など、おあつらえ向きのタイトルが並ぶ。全て初春が本屋で購入したものだ。
初春「これで男の人のことを勉強するんだ」
初春「よーしやるぞー!!」
ガチャッ
上条「ただいま」
初春「あああ、お、お帰りなさい!」
咄嗟に鞄の中に本を隠す初春。
上条「なんだ?今何か隠したろ?」
初春「い、いえまさかぁ…(やばい…)」
上条「フン、まあ別に興味ないからいいけど」
初春「(良かった…)」ホッ
235:
上条に背中を向け、鞄の中身を確認する初春。
上条「さて、汗かいたし全部着替えるか」
初春「(これ見つかってたら、怒られるだけじゃ済まなかったかも・・・)」
上条「おい飾利。お前、俺の下着知らねぇか?」
初春「(どっかに隠しとかないと…)」
上条「おいこら、聞いてんのか?無視ですか、そうですか」
初春「(でもどこに…)」
上条「飾利!!」
初春「はぃぃい!!」
振り返る初春。
初春「!!??」
上条「ったく、お前には100回言わないと反応しねぇのかよ…」
上条「あ?何?」
上条は初春の視線の先を辿る。
何とそこには、猛者たちの幻想をぶち殺すほどの象さんが茂みの中から顔を覗かせていた。パオー
初春「…バ…///」ボンッ
236:
顔を真っ赤にし、目に涙を溜める初春。
初春「バカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
顔を赤らめたまま、初春は外に出て行った。
上条「おい!」
上条「…別に夫婦なんだから見ても見られてもいいだろうが」
上条「ん?」
上条が床に目を向けると、初春の学生鞄から何冊かの本が見えた。
そのうちの1冊を手に取る。
上条「何だコリャ?『男性と仲良くなる方法50ヵ条』?」
上条「こっちは…『新妻が心得ておくこと』?」
上条「………あの馬鹿」
外に飛び出した初春。そのまま彼女は公園を走り抜ける。
ミサカ(10033)「今日もいい天気ですね、とミサカは一人たそがれる女を演出します」
初春「(もう!当麻さんのバカバカバカ!!!女の子の前で下半身を見せるなんて…!!)」
初春「(……………)」←思い出し中
初春「///////////」
ミサカ(10033)「おや、向こうから頭に花飾りをつけた少女が一人走ってきますね、とミサカは注意を向けます」
238:
初春「!!」
初春「(あんなところに…御坂さんの妹が!もう!どれもこれも全部…)」
ミサカ(10033)「グッドイブニング!と、ミサカは洒落た英語で挨拶しま…!?」
初春「…貴女たちのせいです!!」
ドゴオッ!!
ミサカ(10033)「ぶふぉぉぉ……と、ミサカは理不尽なとばっちりを食らい倒れ込みます」
初春「…え?」
初春「やだ!当たっちゃった!」
初春「だ、大丈夫ですかミサカさん!?」ユサユサ
初春「どうしよう…当てるつもりなんてなかったのに…」
ミサカ(10033)「…………」ムクッ
初春「きゃっ」
ミサカ(10033)「大丈夫です」b
初春「いえ、鼻血出てますけど…」
十分後―。
ミサカ(10033)「なるほろ。そんな事情があっだのですね」
初春「は、はい…。ごめんなさい。まさか御坂さんにまだ妹がいたなんて思いもよらなかったので…本当は当てる気も全然無かったんですけど…」
239:
ミサカ(10033)「気にじない気にじない」
鼻の両穴にティッシュを詰めながら話すミサカ(10033)。
初春「(鼻声が気になる…)」
ミサカ(10033)「まあ、お姉ざまだぢも初春ざまを思ってやっだこどでしょうじ、あまり怒らないでやっでくだざい、とミサカは多少息苦しさを覚えながら答えます」
初春「はい…」
ミサカ(10033)「同じ姉妹として、悪ふざげがずぎる10032号…もどい、2番目のお姉ざまには後でおじおぎが必要でじょうが…」
ミサカ(10033)「ま、私も男性経験はありまぜんが……ぎっど初春ざまならその殿方さまも振り向いでぐれるど思いますよ」
初春「…ミサカさん…ありがとうございます!」ペコッ
ミサカ(10033)「どういだじまじで」
初春「あの、ホントにごめんなさい…何かあったら、こちらに連絡先書いておきますので」
ミサカ(10033)「だいじょーぶだいじょーぶ、どミザガは受け取りを拒否します」
ミサカ(10033)「ぞれよりもあなだは早ぐ旦那様のもどへ帰っであげたほうがいいのでは?」
初春「あ、そっか…急に飛び出して来ちゃったから…」
初春「では、これで失礼します。今日はすいませんでした…」
ミサカ(10033)「良ぎがな、良ぎがな」
走り去る初春。それをミサカ(10033)は見送る。
ミサカ(10033)「ざで、ご武運を祈っでまず、とミザガはか弱き乙女を心配する出来る女をアッピールじまず」
261:
上条宅―。
初春「…どうしよう…入りづらい…やっぱり、怒ってるよね…」オドオド
初春「…………」
初春「もう!私の馬鹿!馬鹿!ホント私って要領悪いんだからぁ…」
初春はドアノブに手を掛ける。
初春「…駄目」
初春「あうーでも、でも、でも」
ガチャッ
初春「きゃっ」
ドアが開いた勢いで初春はバランスを崩した。
上条「何間抜けなことやってんだよ」
初春「あ…う…///」
上条「入るのか?入らないのか?さっさとしろ」
初春「入ります…」
二人は部屋の中に入る。
初春「??……何だろ?いい匂い」
キッチンを見る。すると、フライパンの上にホットケーキが二つ並んでいた。
263:
初春「…ホットケーキ?」
上条「まったく、お前って奴は……人を『馬鹿』呼ばわりして飛び出していくとは…そんなに俺のことが嫌いなのかよ」
初春「だって…あれは…」
上条「別に俺といたくないなら勝手に出て行ってもらって構わないから」
初春「そ、そんなんじゃありません!」
上条「あ?」
初春「あ…そ、そんなんじゃなくて…寧ろ私は当麻さんと一緒に…その…ゴニョゴニョ///」
上条「何言ってるのか全然わかんねぇよ」
初春「……………」
上条「お前、そんなに俺と仲良くなりたいのか?」
初春「え?」
上条「それとも こ の 本 は別の相手と仲良くなるためのもんか?」
266:
上条が左手から飛び出した1冊の本。そこには『彼の心を掴む!』というタイトルが表紙に踊っていた。
初春「あ!」
上条「浮気相手がいるんなら、俺なんか捨ててそいつのところへ行けよ」
初春「ち、違うんです!その本は…その…あの…当麻さんと…」
上条「俺と何だよ?」
初春「…仲良くなりたくて……///」
上条「ふーん」
初春「ごめんなさい!」
上条「ただでさえ我が家は家計が苦しいのに、こんな高いもん何冊も買いやがって…」
初春「すいません…」ショボーン
上条「ま、その代わりと言っちゃなんだが、この本に載ってる『ホットケーキを作る方法』を参考にさせてもらったわ」
268:
初春「え?」
上条「材料が余ったから二人分作っちまった。別にお前がいらんなら、俺が二つ食べてもいいんだが…」
初春「あ…食べます!ぜひ食べさせて下さい!!」
上条「………なら、いつまでもボーッと突っ立ってないで、座ってろ」
初春「はい!」
初春「でも、良かったら手伝いますよ?」
上条「いい。お前に任すとホットケーキ落としそうだし」
初春「ブー当麻さんの意地悪ー」
上条「フッ、意地悪で結構。その意地悪な夫に嫁いだお前は物好きだって訳だ」
初春「もう!当麻さんったら!」プクー
その日初春が食べたホットケーキは、今まで味わったことのないほどの美味さだった。
初春は今、知る由も無かったが、この日この時を機会にして上条のツンデレ度は「レベル3」に上がっていた―。
270:
その頃、佐天は…。
一方「おい」
一方「…おい」
一方「聞いてンのかババァ」
佐天「ババアじゃないもん。『涙子』って名前があるもん」
佐天「それに私は今、朝帰りの夫に対してストライキ中なんですー。話しかけないでくれますか?」アッカンベー
一方「けっ、好きにしろや…」
一方「じゃ今日も、今から出かけるからな。帰りは朝頃だ」
佐天「何それ!?言ったそばから!?信じらんない!そんなに外にいる女の子のほうがいいの!?」
一方「そういうことだ」
佐天「キー…言ってくれる…なら私も今夜は一方さんについて行くから!!」
一方「来るンじゃねェ!!」
佐天「!!」
272:
一方「…目障りなだけだ。ついてくるンじゃねェ」
佐天「何よ…そんな怒らなくてもいいじゃない…って言うか何で私が怒られてんの?」
佐天「あんたが本当の夫なら包丁でぶっ刺してるところだわ」
佐天「どうせ跳ね返されるんだけど…」
一方「何訳の分かンねェこと言ってやがる…。とにかくついて来るなよな。邪魔なンだからよ」
佐天「言われなくてももうついてなんか行きませんよーだ」ベー
佐天「あんたなんか、いかがわしい店の女の子とずっとロリコン談義にでも花を咲かせてればいいんだから!」
一方「フン、お望み通りそうさせてもらうぜ」
ガチャッ
バタン
佐天「ホントに行っちゃった……」
佐天「別に本当の夫ってわけじゃないけど、何だかムカつくなぁ…」
大きなぬいぐるみを胸に抱え、顔をうずめる佐天。
佐天「……………」
佐天「……一方さんの馬鹿……グスッ…」
275:
上条宅―。
初春「当麻さん!お風呂上りましたよ!」
上条「ああ」
初春「って…あれ?そのミニノートパソコン、どうしたんですか?」
上条「ちょっと学校から借りてるんだよ。これがなきゃ宿題できないからな…」
初春「へぇー」
初春「あ、でもそのパソコン、最新のモデルじゃないですか?」
上条「そうなの?俺パソコンほとんど知らないから」
初春「そうですよ♪動作も今までと比べて格段に早いし、たくさんファイルとか保存できちゃうんです!」
上条「詳しいんだな飾利は」
初春「えへへ…これでもパソコン一筋でジャッジメントの試験合格してませんよ」
上条「あークソッ」
初春「どうしました?」
上条「このファイル開こうとすると、フリーズするんだよ。でも開かなきゃ宿題出来ないし…。さっきからこんな調子で全然進まねぇんだよなー」
初春「ちょっと…私に見せてもらっていいですか?」
上条「え?お前に直せんのか?」
276:
初春「まあ、見ててください。よっこいしょっと」
上条「…お、うん」
上条の隣にチョコンと座る初春。
初春「これをこうして…えいっ」ポン
手馴れた手つきで初春はパソコンを扱う。
初春「あとはこれで…はい、取り敢えずもうフリーズすることはないと思いますよ」
上条「本当か?」
初春「ええ、ほら……やっぱり♪」
パソコンの画面を見て微笑む初春。そんな初春を上条はじっと見つめた。
湯上りの火照った身体でパジャマ姿。花飾りをしていない今は黒髪が美しく見え、おまけにシャンプーの甘い香りも漂ってくる。中学生とは言え、どこか色香漂う今の初春は、上条にとってちょっとした戦略兵器だった。
上条「………/////」
上条は胸が高鳴るのを感じつつ、ずっと隣で座る初春を見つめていた。
初春「ほら、見てくださいこれ!」
初春「ん? どうしました当麻さん?」
上目遣いで顔を覗いてくる初春に対し、上条は目のやり場に困った。
上条「べ、別に何でも……///」
279:
上条「そ、それより…もういいから、お前はさっさと寝ろ」
初春「あ、そうですね」
上条「今日は交代でお前がベッドで寝る番だ」
初春「あ、そっか…じゃあ上条さんはお風呂で?」
上条「いや、俺はちょっと出かける」
初春「え?」
そう言い、上条は上着を羽織る。
初春「出かけるって…今もう夜ですよ?」
上条「知ってる」
初春「こんな夜中にどこ行くんですか?」
上条「それは俺の勝手だろ」
初春「勝手じゃありませんよ!こんな夜中に外出なんて、心配じゃないですか!」
上条「明日は一日、好きなところ連れて行ってやるから」
初春「そういう問題じゃありませんよ!ちゃんと妻である私にも、説明してくれないと…」
上条「黙れ!!」
282:
初春「ひっ」
上条「……ちょっとした散歩だ。分かったら、さっさと寝ろ」
初春「そんな…」
上条「何度も言わせんな。お前は今すぐ寝ろ」
初春「でも…」
上条「口答えは許さん」
初春「………分かりました…」
上条「戸締りはしっかりしとけよ。じゃあ行ってくるから」
初春「……行ってらっしゃい…」
部屋を出て行く上条。初春はただ、黙って見送るしか出来なかった。
初春「…当麻さん…また怒らせちゃったかな?」
初春「せっかく仲良くなれたと思ったのに…」
初春「夜中に出て行くなんて…普通じゃないよ…。……まさか…!!」
285:
 ―初春の想像―
上条「ちーっす!待たせた??」
女「もう、当麻ったら遅い?」
上条「ごめんごめん、ちょっと家出るの手間取っちゃってさーうちの奴がうるさいんだよ」
女「またあの女の話??いい加減さっさと別れてよー」
上条「悪い悪い。後ちょっと待ってよ。どうせいつだって捨てられるんだからさ!」
女「早くしてよねー」
上条「心配しなくても俺はあんな愚図女よりお前のことが好きだよ。チュ☆」
女「もう、いじわる☆チュッ」
 ―初春の想像終わり―
初春「ないないないない!!」ブンブンブン
初春「当麻さんに限って、絶対ない!」
初春「大丈夫…もう寝よう…」
ベッドに潜り込む初春。
初春「(あ…当麻さんの匂いだ……それに暖かい……)」
初春「(何だろ?とても包容力のある男の人に抱かれてるみたい…///)」
初春「(男の人のベッドで寝るなんて初めてだけど…今日はとても早く寝れそう…)」
初春「(でも、後ちょっとだけこのまま起きとこう……。うん、後ちょっとだけ……)」
胸に抱いた一抹の不安を消すように、初春は深く布団の中に身を沈めた。
287:
4日日・柵川中学校・昼休み―。
佐天「で、どう?旦那様との暮らしは?」
初春「どうって…言われても…」
佐天「相変わらず元気ないね。あ、もしかして一線越えちゃったとか?」
初春「な、ななな///ど、どういう意味ですか!至って健全な毎日を送ってますよ!」
佐天「それは残念」
初春「何が残念ですか///」
佐天「じゃあ何でそんな元気ないのさ?」
初春「……実は…ようやく仲良くなれて来たのかと思った矢先なんですけど…」
佐天「うんうん」
初春「もしかしたら当麻さん、浮気してるかもしれないんです」
佐天「え?」
初春「昨夜、夜も遅い時間に急に『外出する』って言って出て行って…朝起きてもまだ帰ってませんでしたし…」
289:
初春「思い返せば一日目の夜も遅くまで帰って来なかったような…」
初春「どこに行くのか訊ねても、曖昧にして答えてくれなかったし…」
初春「どうしよう佐天さん!きっと当麻さん、浮気してるんだと思います!だから当麻さん、私には素っ気無くすることが多いんだ!」
佐天「お、落ち着いてよ初春…」
佐天「………実を言うとさ、私の方も一方さん、浮気してるかもしれないんだ…」
初春「ええ?そうなんですか!?」
佐天「うん。一昨日も昨日も、朝帰りしてるんだよ・・・。しかも本人、しっかりと「いかがわしい店に遊びに行くため」って断言しちゃってるし…」
初春「うわ…それは酷いですね…」
佐天「そうだよ。それに比べたら、初春なんてまだ望みあるじゃん」
初春「でも、夫婦は新婚の時期が一番危ないって聞いたこともありますし…」
佐天「だよねー。結局、夫婦の価値観が合わないと離婚も有り得るからねー…」
初春「…………」
佐天「…………」
佐天「…ねぇ初春…」
初春「何です佐天さん?」
290:
佐天「…私たちって、女子中学生だったはずだよね?」
初春「…そのはずです…」
佐天「やっぱりままごとでもこんなことするもんじゃないよ。いかにお母さんが苦労してきたか分かった気がする」
初春「…佐天さん、やっぱり私、このままでは納得できません」
佐天「ん?」
初春「当麻さんが浮気なんてするはずないですもん」
初春「そりゃ、たまに怒るときは恐いですけど…でも、あの人、根は優しい人だと思うんです!」
初春「それにやっと、やっと、お互いのことが分かり合えてきた気がするのに…」
初春「そう、絶対そう…当麻さんが私を裏切るはずないですもん……きっと…きっと…私、信じてますから…」
佐天「……………」
佐天「ねぇ、初春…」
初春「何です?」
佐天「初春、貴女、もしかして本気で上条さんに恋してない?」
初春「……え?…」
296:
佐天「だってさっきから『当麻さん当麻さん』って……それに初春とても真剣に話すんだもん」
初春「な、何を言ってるんですか?だって、私たち今は夫婦の設定で…」
佐天「いや、そうだけどそれはあくまで『設定』の話でしょ?あっちはこっちのこと本当の奥さんって思ってるかもしれないけど、私たちからしたら、1週間だけ『夫』役を演じるただの男の人に過ぎないじゃん」
佐天「たまたま、上条さんや一方さんが私たちの『夫』役に選ばれただけで…」
佐天「なのに、初春、どう見ても上条さんに本気で恋してるようにしか見えないんだけど…」
初春「え、そんな、だって、私…」
佐天「違うの?」
初春「で、でも1週間でレベル5まで上げなかったら、一生夫婦でいなきゃならないって…」
佐天「そんなの本当に白井さんたちがやるわけないじゃん?ただの脅し文句に決まってるでしょ」
初春「……っ」
佐天「だいいち、同棲はともかく、中学生の年齢でまず結婚なんて無理だから」
佐天「それぐらい初春だって、分かってるでしょうに…なのに、そこまで真剣になれるってことは、要するに初春は上条さんのこと本気で……」
初春「………!!」
初春「(私が……当麻さんに…本気で…恋?)」
初春「(そんな…私、いつの間にか、当麻さんのこと好きになってたの……?)」ドキドキドキ
300:
放課後・上条宅―。
初春「ただいまー」
初春「あれ…まだ帰ってないのかな……。あ、でも一度帰って来た形跡ある・・・じゃあ今、学校行ってるんだ…」
初春「浮気…じゃないよね……」
 ―「初春、貴女、もしかして本気で上条さんに恋してない?」―
初春「……………」
初春「……私はただ…当麻さんのレベル上げを頑張ろうとしてるだけで……」
 ―「『当麻』でいいから…夫婦なのに、名字はねーだろ」―
 ―「フッ、意地悪で結構。その意地悪な夫に嫁いだお前は物好きだって分けだ」―
初春「………////」ドキドキドキ
Prrrrrrr.....
初春「ひゃう!!」
Prrrrrrrr.......
初春「で、電話!?」
携帯電話を取り出す初春。
着信画面には「当麻さん」との表示が。
初春「当麻さんだ!!」パァァ
初春「はい、もしもし飾利です!!」
302:
上条『おう、今どこいる?』
初春「え、あ、家です!」
上条『そうか。なら、ちょっと出て来いよ』
初春「え?今からですか?何で?」
上条『お前、昨日俺が言ったこと忘れたのかよ?』
初春「えっえっ」
上条『ったく…ほら、『明日は一日、好きなところ連れて行ってやるから』って言ったろうが』
初春「あっ…そういえばそんなこと…」
上条『まあ別に来たくねーなら来なくていいぜー』
初春「い、行きます!行きます!すぐ行きます!!」
上条『じゃあ公園で待ってるから。30分後に来いよ』
初春「はい!分かりました!!必ず行きますから!!」ピッ
初春「ふふふ♪お出かけだー!当麻さんとお出かけ♪お出かけ♪」
初春「よし、じゃあ今すぐにでも……ってこの格好で?」
初春「……せっかく二人で外出するのに、制服はないよね…何かいい服持って来てたかな?」
初春は鼻歌を唱えながら箪笥を開ける。
304:
初春「どれにしようかな♪どれにしようかな♪」
初春「あうー…こういうとき佐天さんがいてくれると、参考になるんだけどなー」
鏡の前で、初春はどの洋服にしようか選ぶ。
初春「これはちょっと肌の露出が多いよね……当麻さんの前じゃ恥ずかしいかも…」
初春「こっちは何か子供過ぎるかな?当麻さん、高校生だもんなー」
初春「この服はちょっと大人っぽいけど、無理に背伸びしてる感があって嫌かも…」
初春「よし!これだ!」
次いで鏡台の前に座る初春。
色つきのリップクリームを取り出し、唇を往復させる。
花飾りを外し、櫛で髪を丁寧に梳いていく。
そしてもう一度頭に花飾りを装着する。
初春「ばっちり!」
初春「…って、うわ!もうこんな時間だ!急がないと間に合わなくなっちゃう!!」
戸締りを確認し、初春は目にも止まらぬさで部屋を飛び出して行った。
とある公園―。
初春「あれ…当麻さんまだ来てないや。てっきりもう到着してると思ってたんだけど…」
初春「まあいいや♪まだ時間あるし」
初春「…にしても、ここの公園って結構カップル多いんだね……わっ!あのカップル、人前で大胆///」
初春「私と当麻さんも、一緒に歩いてたらデートに見えるのかな?」
初春「デート……そっか、これよく考えてみるとデートなんだよね♪うふふ、まだかな当麻さん♪」
309:
御坂「最近あいつに会わないわねー。もしかして上手く逃げてんのかしら…」
御坂「……にしてもカップル多いわねこの公園。何かイライラするのは気のせいかしら…」
御坂「みんなしてラブラブな雰囲気出しちゃって、馬鹿じゃないの?べ、別に羨ましいとかじゃないんだからね!」
御坂「…ん?あそこで待ち合わせ中の学生たちの中にいるのってもしかして……初春さんじゃん!」
御坂「おーい!初春さ……(って、待てよ…)」
御坂「(よくよく見ると初春さん、見たことないぐらい妙にめかし込んでるわね…って言うか初春さんあんなに可愛かったっけ……化粧したらもっと綺麗になりそう…」
御坂「(にしても誰か待ってるみたいね……)」
御坂「(…まさか!!)」
御坂は咄嗟に茂みに隠れる。
御坂「……もしかして、初春さん、あいつを待ってるのかな?……だって、そうよね…今は黒子の怪しい工作によってあいつと初春さんは夫婦の仲になってるんだから……」
御坂「…となると、さしずめ、初春さんはあいつとのデートの待ち合わせ…ってところ?」
御坂「………………」
御坂「…何だろこの気持ち……」
御坂「そ、そっか…初春さんがあいつとデートか…ふーん…べ、別にいいんじゃない?ふ、夫婦って設定なら別段おかしくも……」
御坂「ふ、二人の邪魔しちゃ悪いしね……このまま帰りましょ……」
御坂「……………」
御坂「…ま、まあ初春さんの待ち合わせ相手を確かめてからで…」
314:
初春「なんかさっき、御坂さんの声が聞こえた気がするんだけど……気のせいかな?」
初春「…あ、そろそろ待ち合わせ時間だ」
初春はキョロキョロと辺りを見回し始める。
御坂「お…もしかしてそろそろ待ち合わせ時間なのかな?…さーて…相手の男をこの私がじっくり拝見してやるわ」
御坂「…で、もしあいつが来なかったらどうしよう……い、いや私としてはそっちがいいかなー?って思うんだけど…っていうか、あいつじゃなくて別の男が来たら初春さん、浮気してることに!!??」
御坂「……ど、どっちみち見ておいたほうがいいわね…」
15分後―。
御坂「…こ、来ないわね…まだ待ち合わせ時間じゃないのかしら…」
初春「…来ないな…」
初春「でもまだ15分だし、ちょっと遅れてるだけなのかも…」
30分後―。
初春「……30分か…」
周りの学生たちが、待ち合わせ相手と会い公園を離れていく中、
初春はまだ上条と落ち合えることが出来ていなかった。
初春「だ、大丈夫…きっと何か事情があって遅れてるだけ…うん、30分なんてまだ余裕余裕」
御坂「……まだ来ないのかしら…おっそいわねあいつ…」
317:
更に30分後―。
初春「……………」キョロキョロキョロ
御坂「さっきから何回も時計を確認してる…それにずっとキョロキョロしてるし……」
御坂「もしかして、初春さん、すっぽかされたの?」
初春「まだ1時間しか経ってないし……あと10分後ぐらいには来てるはず…」
更に1時間―。
初春「……………」
周りの学生たちもほとんどが消え、初春は一人、ベンチに座って俯いていた。
たまに時刻を確認するため、時計に目を向けるが、状況は何も変わらない。
御坂「ちょっとちょっとちょっと……幾らなんでも遅すぎない?しかも初春さん、かなりテンション下がってるし…」
御坂「…あの馬鹿…初春さんを一人で待たせておいて連絡も入れないの?」
初春「………まだ…大丈夫……」ボソッ
更に2時間―。
御坂「……初春さん……」
御坂「………もう夜中じゃない…」
街灯がポツリと、ベンチで待ち続ける初春を寂しく照らす。
完全に人気が無くなった公園で、彼女はずっと上条を待ち続けた。
320:
学生「あ、見て見てあの子!さっきもあそこにいなかった?」
学生「あーホントだな」
学生「もしかして彼氏にすっぽかされたんじゃない?」
学生「かもな。そんな酷い男のことなんて待ってても意味ねーだろ」
学生「まったくね!あははははは」
初春「……………」
初春はギュッとスカートを掴む。
御坂「あのカップルども…何てこと言うのかしら・・・」
御坂「…にしてもそろそろ私も限界ね…門限もあるし…」
御坂「…でも、このまま夜の公園にあの子を一人でさせとくのも心配だし……」
御坂「よし!」
意を決し、御坂は立ち上がった。
と、その時、誰かの手が御坂の肩に置かれた。
振り返る御坂。
ミサカ(10033)「お姉さま」
御坂「あんた…!」
フルフル、とミサカは首を横に振る。
御坂「え…?」
ミサカ(10033)「酷ですが、今の彼女に声を掛けたところで何の慰めにもなりません、とミサカは真剣な表情でお姉さまに語りかけます」
321:
御坂「でも!あの子、何時間もずっと待ってたのよ!」
ミサカ(10033)「寧ろ大事なお友達であるお姉さまに全てを見られてた、と知ったら彼女はどう思うでしょうか、とミサカは懸念を口にします」
御坂「…っ」
ミサカ(10033)「ここはお任せ下さい。暴漢に襲われないよう私がずっと彼女を見守っておくので……」
御坂「………大丈夫なの?」
ミサカ(10033)「もちろんです。彼女がどうなったかはまた後ほどお伝えしますので、とミサカは想い人である男性を孤独に待ち続ける儚き少女に同情の視線を送ります」
それにつられ、御坂も初春の方に顔を向けた。
いまだ彼女は上条を待ち続けている。
御坂「……分かったわ。ちゃんと、あの子のこと宜しく頼むわね」
ミサカ(10033)「はい」
それだけ言うと、御坂は名残惜しそうな視線を最後に初春に向け、その場から去って行った。
御坂の後姿を見送り、ミサカ(10033)は再び初春を注視した。
ミサカ(10033)「貴女が持つ乙女心は痛すぎるほどに純粋なのですね、とミサカはこの世界の汚れを知らない少女に届かない言葉を掛けます」
初春が公園から去っていったのは、それから2時間後のことだった―。
337:
その頃、佐天は―。
一方「あ?何やってンだお前?」
部屋のドアの前で仁王立ちする佐天。
佐天「今日は…外に行っちゃ駄目…」
一方「……はっ!それで俺の外出を止めようってか?」
佐天「…………」
一方「心配せずとも今日はどこにも行かねェよ」
佐天「ホント!?」
一方「ああ…。更に言うと別にいかがわしい店にも行ってねェよ」
佐天「そ、そうなの?」
一方「ああ…」
佐天「じゃあ毎晩夜中にどこ行ってるの?」
一方「ンなもん、決まってンだろ。悪友どもと一晩中遊んでるだけだ…」
339:
佐天「そ、そうなんだ。でも、それでも夜中に遊ぶのは駄目ですよ…不良みたいですし…」
一方「不良で結構。どうせ俺はそっちの方が…っておい、どうしたってンだよ?」
佐天「グス…だって…だってだって……一方さんが他の女の子たちと……ヒグッ…遊んでるって…思ってたんだもん…グスッ…」
一方「ただの冗談だろ…。真に受けてンじゃねェよ。つーか泣くな…めンどくせェ…」
佐天「…だって…グスッ」メソメソ
一方「チッ…ほら、これやるから泣くンじゃねェ」
佐天「…グス…何ですこれ?チケット?」
一方「知り合いから貰った映画の割引券だ…。こんなもンいらねェのに無理矢理渡されてなァ。乗り気じゃねェが今度の休日暇だし、ついて行ってやるぐらいは出来るかもなァ…」
佐天「一方さん!」パァァ
一方「フン、だから早く泣き止め」
佐天「うん!分かりました!ありがとうございます!」
一方「けっ……」
342:
翌朝・上条宅―。
初春「う…うーん…」
目を開ける初春。甘い香りが鼻腔をくすぐる中、彼女は眠りから目を覚ました。
初春「…!!」
上体を起こす。どうやら机に突っ伏して眠ってしまったようだった。
初春「私……確か昨夜、帰ってきてそのまま眠っちゃったんだっけ…」
初春「あ…」
ふと背中を見てみると、一枚の布団がかけられていた。
初春「これ…」
「起きたか?飾利…」
後ろから声をかけられ、初春はそちらの方に注意を向けた。
初春「当麻さん……」
上条「ココア入れたけど…飲むか?」
初春「………ありがとうございます」
差し出されたココアを受け取り、ずずずと初春は口に入れる。
上条「美味いか?」
345:
初春「………はい…」
上条「そっか…」
上条「……………」
初春「……………」
気まずい沈黙が二人の間に流れる。お互い、何故気まずい状態に陥っているのかは
大体理解していたので、それが余計に気まずさを悪化させた。
上条初春「「あの」」
上条「な、何だ?」
初春「と、当麻さんこそ何ですか?」
上条「……いや、昨日はすまなかった…」
初春「…い、いえ…」
上条「…ちょっと用事ができてな……いけなくなったんだ…。連絡も入れたかったんだけど無理になっちゃって…」
初春「……………」
上条「お、怒ってるか?」
初春「………まさか」ニコッ
初春「用事があったんなら仕方がないですよね」
351:
上条「でも……」
初春「大丈夫です!全然気にしてませんから!」
初春「私、こう見えてもとても強いんですよ!!」
上条「……そっか、本当にすまなかった…」
初春「だから、もう気にしてませんって!」
上条「詫びと言ってはなんだけど、今度の休日こそ一緒に外に出かけないか?」
初春「本当ですか!?行きたいです!」
上条「じゃあ…決まりだ」
初春「やったあ!」
上条「飾利は本当に子供みたいに喜ぶなあ」
初春「ふぇ?う…うう、もう、子供じゃありませんよ!」プンスカ
上条「ははっそうか…。じゃあ俺、もう学校行かなきゃならないから」
初春「あ、そうですね!私もそろそろ用意しなきゃ」
上条「それじゃ、行って来るわ」
初春「行ってらっしゃい!」ニコッ
354:
見送る初春。
上条は部屋を出て行った。
初春「………早く、帰ってきてね今日は…」
初春「…………用事か…」
初春「用事だったなら、来れなくても仕方がないよね……うん、きっとそう。当麻さんを信じよう……」
初春「……………」
初春「あれ?郵便受けに何が入ってる」
初春「あ、白井さんからだ。どれどれ…」
「『初春花嫁修行大作戦』内訳詳細
☆ご利用コース:じっくり1週間コース・ゴールド
☆ご利用日数:4日
☆ご利用男性:幻想殺し系不幸体質タイプ「上条当麻」
☆契約者さまのお名前:初春飾利
☆現時点での殿方「ツンデレ」度:レベル4
         」
356:
初春「…あ、レベルが4に上がってる!いつの間に…」
初春「そう言えば今朝の当麻さん、いつもみたいなツンツンした雰囲気なかったな……」
初春「じゃあやっぱりレベルは確実に上がってるんだ。良かったー…これであとレベルを1つ上げるだけで合格かー。今日含めて残り3日もあるし、余裕余裕」
嬉しそうに笑顔を浮かべ、初春はガッツポーズをする。
しかし…
初春「……………」
 ―「…ちょっと用事ができてな……いけなくなったんだ…。連絡も入れたかったんだけど無理になっちゃって…」―
初春「……べ、別にどうせあと3日で当麻さんとはお別れして記憶も無くなるんだし、そんなに気にすることじゃないよ…」
初春「…そうだよ…どうせ当麻さんが浮気してようがしてまいが、もうすぐ関係無くなるんだし……しかも夫婦って言ってもただの設定上のことだもん。馬鹿だな私…」
初春「さ、私も学校行こうっと!」
白井から届いた明細書をしまい、セーラー服を取り出す初春。
彼女の表情はどこか曇っているように見えた。
361:
柵川中学校―。
佐天「で、どうよ初春?」
初春「どうって…何がですか佐天さん?」
佐天「んーもう。分かってるくせにー。旦那様との生活だよ!ちょっとはレベル上がった?」
初春「…ああ、その話ですか。まあ、レベル4にまでは上がりましたけど……」
佐天「おー良かったじゃん!」
初春「ええ…私もそう思います……」
佐天「? 何かまた元気がないようだけど…」
初春「そんなことないですよ。それより佐天さんはどうなんですか?」
佐天「私?えへへ、私?べっつにー相変わらず無愛想な奴だし特に変わりないよ?♪」
初春「……にしては嬉しそうですけど」
佐天「え!?」
364:
初春「何かあったんですか?」
佐天「うーん…実はさ…ほら、前言ったじゃん。一方さん、毎晩いかがわしい店に遊びに行ってるって」
初春「はい」
佐天「でもあれ嘘だったんだって。ホントは友達と遊んでるらしいよ」
初春「そうだったんですか」
佐天「うん。で、今まで心配かけてたお礼として今度の土曜日、一緒に映画館行く約束しちゃったんだー♪」
初春「へーいいじゃないですか」
佐天「でしょ?もう私安心したら、今まで悩んでたのが馬鹿馬鹿しくなっちゃって!」
初春「ふふ、佐天さんとても嬉しそう。よっぽど一方さんのことが好きなんですね」
佐天「な、そ、そ、そんな訳ないじゃん!あいつは本来なら赤の他人だし…でも時折、優しいところあるし…それに結構素直なところも……ブツブツ」
初春「(佐天さん、勘違いだったんだ…。私はどうだろう…。やっぱり当麻さん、他に好きな人でもいるのかな…?)」
365:
放課後・上条宅―。
初春「ただいまー」
上条「おう、お帰り」
初春「あ、お先に帰ってたんですね」
上条「まあな。何か飲み物飲むか?」
初春「あ、じゃあジュースを一杯」
上条「ジュースかー。相変わらず子供だな飾利は…」
初春「そんなことありませんよ」プクー
初春「(……やっぱり、レベル4になったからか、当麻さんの私への態度も普通になってる……。それは良かったけど…でも…でも…)」
差し出されたオレンジジュースをチビチビと飲む初春。
上条「そういやあ、今日、お義父さんとお義母さん来るらしいな」
初春「そうですか…ズズズー」
初春「……………」
初春「………え!?」
368:
上条「もうそろそろだと思うし、用意しておいたほうがいいかも」
初春「ちょちょちょちょちょっと待ってください!」
上条「んん?」
初春「お、お父さんとお母さん??だ、誰の?」
上条「いや、お前のだろ…」
初春「え?んんん?」
上条「さっき電話あったんだけど、つーか『飾利には既に伝えてる』って言ってたけど知らなかったの?」
初春「し、しししし知りませんよ!それに私の両親、学園都市の外に住んでるんですよ!そんな簡単に来れるわけ…」
上条「何言ってんだよ?」
初春「え?」
上条「お前の両親、学園都市内で働いてるじゃないか」
初春「えええええええええええ!!!!????」
初春「な、な、何かの間違いじゃないですか???」
371:
上条「はぁ?」
初春「はっ!」
何かを思い出したのか、会話を中断し箪笥の引き出しを開ける初春。
今朝届いた明細書を見つけると、急いでそれを開き目を通した。
「『初春花嫁修行大作戦』内訳詳細
☆ご利用コース:じっくり1週間コース・ゴールド
☆ご利用日数:4日
☆ご利用男性:幻想殺し系不幸体質タイプ「上条当麻」
☆契約者さまのお名前:初春飾利
☆現時点での殿方「ツンデレ」度:レベル4
         
補足事項:本日、初春飾利さまのご両親が来宅なされます。
          」
初春「白井さあああああああああああああああああん!!!!!!!!!」
373:
上条「うお、びっくりした」
初春「りょ、両親って…そんなの聞いてませんよ!って言うか何でお父さんとお母さんが来る必要性があるんですか!」
ピンポーン
上条「お、噂をすれば何とやらだ」
初春「あわわわわわわ…。ど、どうしよう。こんなの想定外だよ…しかも、まだ制服のままだし…」
上条「別に格好なんてどうでもいいだろ。じゃ、俺出てくるわ」
初春「そんな…突然すぎるよ…」
初春「どうすればいいんだろう・・・」
父「や、飾利、久しぶり」
初春「え?」
振り返る初春。しばらく彼女は父親の顔を見つめていた。
そこにいたのは中肉中背の至って普通の中年男性だった。
初春「…誰?」
379:
父「誰…って酷いなあ。久しぶりに会ったから忘れちゃったのかな?お父さんだよお父さん」
初春「……え?」
初春「人違いじゃ…(だ、誰このおじさん!全然知らない人なんですけど!!)」
上条「おいおい飾利、何言ってんだ。お義父さん可哀相じゃないか」
父「ははは、当麻くんは優しいなあ。久しぶりに会った娘に『誰』って言われるとは思わなかったよ」
初春「(いやいやいや、初対面じゃないですか私たち!)」
父「もしかして反抗期なのかな?」
上条「かもしれませんね」
父上条「「あはははははは」」
初春「(ぜ、全然状況が読めない…。ホントに誰この人?)」
父「ほら母さんも何か言ってくれよ。飾利ったら酷いこと言うんだ」
母「あらあらまあまあ。全く、ういはr……飾利ったら困った子ですわね」
初春「……………」
380:
母「しばらく見ない間にやさぐれてしまわれたのでしょうか」
初春「(白井さああああああああああああああん!!!!!!)」
上条「あ、どうか腰かけてください」
父「ありがとう当麻くん」
黒子「ではお言葉に甘えて」
初春「(ちょっとちょっとちょっと!何で白井さんが私のお母さんなんですか!!さっきから全然意味が分かりませんよ!!)」
机を間に挟み対面する上条・初春と謎の男性・黒子。
初春「(白井さん…一体何のつもりで…)」
父「いやあ当麻くんも見ない間に男らしくなったなあ」
上条「あははは、お義父さんほどじゃありませんよ」
上条が初春の父らしき男性と会話をする中、初春は目の前に座っている黒子を睨む。
初春「(どういうことなんですか白井さん)」ギロリ
黒子は悪びれる様子もなく、手元にメモを持って見せてみた。
初春「(……? 『この家では高級菓子も出ませんの?』?)」
初春「…………」イラッ
381:
額に青筋を浮かべる初春。それを見て焦ったのか、黒子は新しいメモを見せてきた。
初春「(……『今は私が貴女の母親ですの。あ、因みにこの殿方は、常盤台中学の掃除のおじさんですの』)」
初春「知りませんよそんなこと!!」
上条「!!」
父「んん?何が知らないんだ飾利?」
初春「はっ!!」
初春「い…いえ、何でもありません…///」カァァ
初春「……(もう、白井さんの馬鹿…。って言うか掃除のおじさんって、他にもっと人材いなかったんですか)」
恥ずかしさを隠すように湯飲みを手にしお茶をすする初春。
上条「そう言えばお義父さん、転職したらしいですけど、何なさってるんですか?」
父「ん?掃除のおじさんだよ?」
初春「ブーーーーーーーッ!!」
上条「うわ、お前!何やってんだ!」
父「下品だなあ。大丈夫か母さん?」
黒子「ま、まあ…人間は突然の状況にはそう簡単には慣れませんの…」フキフキ
初春「(仕事はそのまんまなんですね…。っていうか悪ふざけが過ぎますよ白井さん…)」
384:
父「いい加減にしないか飾利、さっきから。もう大人なんだからちゃんとしなさい」
初春「(え?怒られてた??って言うか、私まだ中学生ですけど…)」
父「大変だね当麻くんも。すまないね」
上条「いえいえ。僕としては助かってますよ。飾利を嫁にもらって良かったです。可愛いですし」
初春「(か、可愛い?///)」
上条「ドジなところもあるけど、いつも一生懸命で、感心します」
初春「と、当麻さん……///」
初春「(褒められちゃった…///やっぱりレベル上がって良かった…)」
黒子「(チッ…何だか無性に腹が立ちますわね…)」
上条「それでー…が…なんですよー…」
父「ほう…」
初春「んもう当麻さんったら…///」
黒子「(…まさか初春、本気でこの類人猿のことを……?)」
黒子「(……………)」
黒子「(全てを仕掛けたのは私ですが、これは予想外な展開ですわね。私としては面白半分で考えた企画でしたのに、まさか初春がここまでのめり込むとは…)」
黒子「(…けっ、この天然フラグメイカーが……お姉さまだけでなく初春までたぶらかすとは…)」
386:
父「それで、孫の顔を早く見たいんだが、まだかね?」
初春「ええ!?///」
黒子「(佐天さんも妙に夫役の男性に好感を抱いているようでしたし…何だかつまりませんわ…)」
上条「ああー、もうちょっと待って下さい。来年の春頃までには作っときますから」
初春「もももももう////ななななな何を言ってるんですか当麻さん!!」
黒子「(まるで本物の新婚夫婦ですわね……まあ初春の将来性の安全が確認できただけでも幸いですね)」
黒子「あなた(…そろそろ失礼させて頂きますか…)」
父「ん?何だい?」
黒子「いつまでもここにいても若い二人に邪魔になるだけですし、そろそろおいとましませんこと?」
初春「!!」
初春「(良かった…やっと帰ってくれる気になったんだ…)」
父「そうだなー」
父「でもその前に飾利と二人だけで話がしたいんだ」
初春「え?」
父「しばらくの間、当麻くんと一緒に出かけててくれないか?」
黒子「(……これは想定外の展開ですわね…まあ一応今は親子という設定ですし、それぐらいは我慢しますか…)」
黒子「分かりましたわ。では当麻さん、エスコートしてくださる?」
390:
上条「え?でも…」チラッ
初春「あ、当麻さん…」
助けを求めるような目で当麻に何か話しかけようとする初春。
父「じゃ、当麻くん、母さんを宜しく頼む」
上条「あ、はい、分かりました」
名残惜しそうに初春を見つめたまま、上条は黒子と出て行った。
初春も不安げな顔で上条の顔を見つめていたが、遂に彼女は父親と二人だけに
されてしまう。父親、と言っても初春にはとっては見知らぬ男性である。
上条「飾利のやつ…心配だな。お義父さん、説教モードになると恐いからな…」
黒子「(フン、随分初春のことを心配なさってますのね。初春もなかなかやりますわ)」
上条「あ、じゃあお義母さん、どこへ行きますか?」
黒子「どこへも行きませんわこの類人猿!」バシバシッ
上条「あいたっ!いたっ!痛いですお義母さん!」
黒子「ここで待つんですの!貴方と二人並んで歩くなんて拷問ですわ!」バシバシッ
上条「ひーご、ごめんなさいお義母さん」
393:
上条宅内―。
初春「……………」
父「……………」
初春「(何だろこの間…何で私、知らないおじさんと二人だけでいるんだろ…いや、それを言ったら当麻さんも同じことだけど…)」
父「飾利」
初春「は、はいっ!」
父「…父さんな、お前のこと心配してるんだよ…」
初春「はあ…」
父「まだ父さんたち親の保護が必要な年齢で『学園都市で一人暮らし始める』って言ったときのお前の顔は忘れないよ」
初春「…………」
父「幼い娘を持つ父としては、とても心配なんだ」
父「しかも、お前が『紹介したい人がいる』って言ってきたときは卒倒しそうだったよ」
初春「(そこは知りませんけど…)」
父「でもな、当麻くんを初めて見たとき思ったんだ。ああ、この男なら、君を任せられるって…それは今でも変わらない」
394:
父「当麻くんを選んだ君の判断は正しい。 あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことのできる人間だ。それがいちばん人間にとって大事な事なんだからね。彼なら、まちがいなく君を幸せにしてくれると、僕は信じているよ」
初春「(何だかすごくどっかで聞いた名台詞なんですけど…!!)」
父「で、飾利はどうなんだ?」
初春「ふぇぇ?」
父「当麻くんと一緒になれてよかったか?」
初春「!」
初春「そ…それは…」
父「ん?嫌だったのか?」
初春「(な…何て答えればいいんだろう……相手は本当のお父さんじゃないし…。でも、嘘をつく必要もない…。じゃあ、私の本音を言っちゃっても…いいのかな?」
初春「(…本音…私の…当麻さんへの本音……)」
初春「(…当麻さん…)」
上条の笑顔を思い浮かべる初春。
しばらくして、彼女は頬を僅かに赤く染めながら口元に小さな笑みを刻んだ。
初春「……“お父さん”……」
顔を上げ、父親を見つめる初春。無論、父役の男性は初春の本当の父親ではなかったが、
初春は、本当の父親に接するように真剣な表情を向けた。
黒子「う、初春。何ですの?は、早く言いなさい!!」
396:
扉に耳を押し当て、中の声を拾おうとする黒子。
上条「お義母さん、何やってるんですか?」
黒子「ええい、黙りなさい!今いいところなんですの!!」バシバシッ
上条「あいたっ」
初春「私は……」
父「…ん?」
黒子「ゴクリ」
初春「当麻さんのことが……」
父「うん…」
初春「心の底から… 大 好 き で す……/////」カァァァ
言い終わった後、初春の顔はトマトのように真っ赤に染め上がった。
黒子「キタ━━━━━━━━━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━━━━━━━━!!!!!! 」
401:
初春「/////////////」
父「そうか…」
初春「はい……」
父「それを聞いて安心したよ」
初春「…え?」
父「なら、これ以上詮索するつもりはない。老兵はただ去るのみだ」
初春「お…お父さん」
父「君たちはまだ若い。そして人生は長い。楽しいことも辛いこともあるだろうが、互いのことを信じていれば乗り越えられる。だから飾利、お前は当麻くんを信じるんだ」
初春「はい…///」
父「当麻くんもお前の事を信じてくれる。だから、頑張ってな」
初春「分かりました」
父「…何だろうな。成長した娘を見ると、涙が…」
目頭を押さえる初春父。
初春「…え、うふふ、お父さんったら……ってあれ?」
404:
初春「(やだ…私も…泣いてるの?…本当のお父さんじゃないのに…?)」
父「ま、まあ…とにかく次来るときは孫の顔でも見せてくれ」
初春「ふぇぇ?も、もう!!また何言ってるの!!////」
父「あっはっは」
そして―。
父「じゃ、父さんたちもう帰るからな」
黒子「元気にやるのですのよ(ちょっと衝撃的な展開が起こってビックリしてしまいましたが…)」
上条「はい、お義父さんたちもまたいつでも来てください」
父「ああ。当麻くんも、うちの娘のこと、宜しく頼んだよ」
上条「任せてください。こいつは俺の、この世に一人しかいない妻ですから」ガシッ
そう言い、隣にいた初春を抱き寄せる上条。
初春「ふぇぇ?//////」
初春「あわわわわわわ/////」ボンッ
黒子「(天然ジゴロめ…初春を傷物にした恨み、覚えていろですの(♯^ω^)」ピキピキッ
こうして、初春の両親は帰って行った。
452:
上条「いやー毎回毎回、緊張するなあ飾利のお父さんは。あ、茶飲むか?」
初春「そうでしょうか?あ、いただきます(って言うか私にとったら全然知らないおじさんだったんですけどね)」
上条「お義母さんはお義母さんのほうで、何か様子おかしかったし」
初春「へ、へー(白井さん…)」
初春「(にしても…あのおじさん、一時だけ本物のお父さんみたいに見えたなあ。私も将来、本当に結婚するとき、あんな風にお父さんと話すことになるのかな…)」ズズズ
初春「(お父さんか…久しぶりに会いたくなっちゃった…)」
上条「そういやお前、お義父さんと何話してたんだよ?」
初春「え?何って別に………」
 ―「当麻さんのことが……心の底から… 大 好 き で す……////」―
初春「/////////」ボンッ
上条「どうした飾利?」
初春「し、知らない知らない!!////」バシャアア
上条「あっつー!!!!」
初春「きゃぁぁあ!!ごめんなさい当麻さん!!!」
455:
夜―。
初春「(ふふふ…色々あった一日だけど、何だかとっても良かった気がする…)」
初春「(当麻さんと、なんだかもっと距離が近くなった感じもするし。えへへ)」チラッ
上条「ん?どした?」
初春「い、いえ何でも///」
上条「? ……飾利」
初春「な、何です?」
上条「ちょっとまた外出してくるわ」
初春「……え?」
上条「今日はいつもより早く帰れそうだから」
初春「…ま、また?」
上条「悪いな…」
初春「…最近、ずっと夜中外出してませんか?」
上条「………かもな」
初春「どこ行ってるんですか?」
上条「…ちょっとな…」
456:
初春「ちょっとじゃ分かりませんよ!いつもいつもはぐらかして。こっちは心配なのに…」
上条「大丈夫だって、すぐ帰るから…」
初春「そういう問題じゃありませんよ」
初春「……もしかして、誰か知らない女性と会ってるんですか?」
上条「ば、馬鹿言うなよ。んなわけねーよ」
初春「…ならどこへ行くのか教えてください」
上条「…………」
初春「…………」
無言で見つめ合う二人。
上条「…ごめん!」
初春「え?」
突如、駆け出した上条。そのままの勢いで彼は部屋を飛び出して行った。
初春「待って!」
しかし、突然の行動に、初春は反応が遅れてしまい、彼女が部屋を出たときは、
既に上条の姿はどこにもなかった。
初春「……当麻さん」ギュッ
458:
翌日(6日目)・柵川中学校―。
初春「……………」ボーッ
佐天「……………」ボーッ
教室の窓から外の風景を眺める初春と佐天。
何故か二人は心ここにあらず、という感じだった。
初春「……………」
佐天「…………初春ぅ」
初春「……何です佐天さん?」
佐天「………元気ないね」
初春「………佐天さんも」
佐天「………ちょっと一方さんのことでね」
初春「………私もちょっと当麻さんのことで…」
佐天「………何かあったの?」
初春「………やっぱり当麻さん、浮気してるかも」
佐天「マジ!?」
460:
急に声を張り上げる佐天。
初春「うわ、びっくりしたじゃないですか!」
初春も我に返る。
佐天「浮気なの?」
初春「分かりませんよ。ただ、最近、毎晩夜中に外出することが多いので…。結局、今朝も帰って来てませんでしたし…」
佐天「そうなんだ。何だか私のところと状況似てるね」
初春「そうなんですか?」
佐天「ほら、前言ったじゃん。うちも朝帰りが多いって。昨夜もそうだったんだよーもう最悪。理由聞いても教えてくれないし」
初春「…佐天さんも、そうだったんですか…」
佐天「そうだよ。もう信じらんない」
初春「…当麻さんも一方さんも二人して、なんなんでしょうね」
463:
佐天「偶然にしては二人とも同じ時に訳ありの夜間外出多すぎだよねー」
初春「……………」
佐天「……………」
初春佐天「「まさか!!!」」
 ―初春と佐天の想像―
上条「お、悪い悪い待たせちまって。いやあ飾利の奴がうるさくてさ…」
一方「ったく、もっと早く来いよバカ。待ちくたびれただろォ…」
上条「そうやって怒った顔もかわいいな一方通行は」ツンツン
一方「よ、よせ照れるじゃねェか…///」カァァ
上条「じゃ、今日も夜中のデートと洒落込みますか」ガシッ
一方「フ、フン、今夜は寝かさねェからなァ…///」
上条「一方通行…」
一方「上条…」
上条一方「ムー……」
 ―初春と佐天の想像終わり―
初春「///////////」
佐天「///////////」
469:
初春「………って、そんなわけないです絶対!当麻さんに限って!!男の人が趣味だなんて…」
佐天「………い、一方さんだって有り得ないから!そんなの!!」
初春「それに、二人とも夜に外出するのは同じですけど、かぶってない日もありますよね」
佐天「確かに。じゃあ、何なんだろね?」
初春「……それこそ、当麻さんに限って、浮気なんて無いですもん……」
佐天「……一方さんだって、私がいるのに浮気なんて、しないもん……」
初春「…………」
佐天「…………」
一抹の不安を胸に抱えながらも、彼女たちは帰路に着いた。
初春「…当麻さんが私を置いて浮気なんて……ないよそんなの…でも、世の中には私より素敵な女性はたくさんいるし……やっぱり当麻さんは大人っぽい人が好きなのかなぁ?…」
初春「私なんてまだ…子供だもん……」ペタッ
自分の胸を触る初春。
473:
初春「………もう!関係ない関係ない!!」
初春「昨日、お父さんに言われたでしょ!『当麻くんを信じろ』って!だったら、信じて支えてあげるのが、妻の役目なんじゃないの!?」
初春「そうだよ……きっとそう。だから頑張れ飾利!!」
上条宅―。
初春「よし、気合入れるぞー」
ガチャッ
初春「ただいまー」
黒子「おーよしよし、初春に似てとてもいい子ちゃんですね貴方はー」
赤ちゃん「だぁぁぁあ!!」
上条「あっはっは、白井は赤ちゃんあやすの上手いな」
初春「……………」
480:
黒子「ベロベロベロバー」
赤ちゃん「だぁぁぁあ!」ニコニコ
初春「……………」
上条「お、帰ったか飾利!」
黒子「あら、そのようですわね」
赤ちゃん「たーーーーい!!」
黒子「あらあらこんなに喜んじゃって。やっぱり本当のお母さんのほうがいいですのね」
初春「……………」
黒子「はい、本当のお母さんが帰ってきまちたよー」
抱えていた赤ん坊を初春に渡す黒子。
初春「……………」
赤ちゃん「たややい!だーーー!!」
黒子「ふふふ、本当に嬉しそうですわね」
赤ん坊を抱いたまま、初春は数秒間思考停止する。我に返ったかと思うと、彼女は赤ん坊を上条に私し、
黒子の首根っこを掴み引っ張るというアグレッシブな行動を見せながら外に出て行った。
初春「白井さあああああああああああああああん!!!!!」
483:
黒子「いたたた…痛いですわ初春!」
初春「ど、どういうことですかあれ!!??」
黒子「あら?何か問題でも?」
初春「あ、あの赤ちゃん、どこの子供ですか!?」
黒子「え?正真正銘、初春の子供では?」
初春「そんなわけないでしょう!!この歳で子供がいるわけないでしょ!」
黒子「世間知らずですのね初春はwww 世の中には14歳で子供を生んだ中学生もいると言うのに。プッw」
初春「そんなこと聞いてませんよ!あの赤ちゃん、どこから連れて来たんですか?」
黒子「さぁ?コウノトリさんが運んで来てくれたんのではありますぇん?wwwww」
初春「うっ……そ、その話はもうしないで下さい///////」
黒子「うるさいですわね…まあ白状すると、仕掛けたのは私ですわ」
初春「やっぱり…」
黒子「昨日、初春のお父様が『次来るときは孫の顔が見たい』って仰ってたでしょう?だから、貴女とあのるいじ…上条さんは子供をもうけましたの」
初春「だからってたった一日で子供が出来るわけないでしょう!!しかも随分成長してますよあの赤ちゃん!!」
487:
黒子「だからそういう設定ですの。いちいちつっこまないでくださいまし。ボケ返すのも大変ですのに…」
初春「ううう…他人事だと思って…」
黒子「ま、そういうわけで宜しく頑張るのですわ。部屋の中に育児本や必要な道具は用意しているのでどうかお使い下さいまし」フンフーン
初春「…あの赤ちゃん、どこに返せばいいんですか?」
黒子「一応夜には引き取りに来ます」
黒子「では、ご健闘を祈ってますわ、 “お 母 さ ま”(ハート)」
初春「…………」イラッ
部屋に戻る初春。
上条「ほらほら高い高ーい!」
赤ちゃん「だぁぁぁ!」
上条「お、ほら、ママが戻って来たぞ」
489:
初春「…………」
上条「ほら飾利、抱いてやれよ」
初春「…はい…」
赤ちゃんを抱き抱える初春。
赤ちゃん「たぁい!たぁい!」
初春「(この子が……私の子供?…)」
初春「(13歳で子持ちとか、随分私ってハードな人生送ってるんですね…)」
赤ちゃん「たぁ!たぁぁあ…」
上条「ほら、美琴が残念がってるだろ。あやしてやれよ」
初春「…はぁ…」
初春「……………」
初春「え?」
上条「どうした?」
初春「美琴?」
上条「ん?そうだろ?この子の名前は」
初春「みみみみみみみ美琴!!??」
初春「白井さああああああああああああああん!!!!!!!」
495:
赤ちゃん「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
初春「きゃあああああああああああ!!!!」
初春「ごめんなさいごめんなさい大声出して!!」
上条「何やってんだよ…」
初春「だって、美琴って…美琴って…」
上条「ああ、俺たちの子供は『美琴』だろ?元気でたくましい男の子だ」
初春「ブーーーーーーーーーッ!!!!」
赤ちゃん「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
初春「きゃーーーーごめんなさああああい」
上条「何一人コントやってるんだ」
赤ちゃん「うわぁぁぁぁぁああああん」
初春「ど、どうしましょう当麻さん!な、泣き止みません!!」
499:
上条「え…俺に言われても…」
初春「よーしよしよし。ほらほら、泣いちゃメ!ですよ。ほらほらほら」
何とか赤ん坊を泣き止まそうとする初春。
赤ちゃん「うわああああああああああん」
初春「あわわわわわわ。な、何で泣き止んでくれないの?」
上条「あーそっか」
初春「え?何です?何が原因なんです?」
上条「おっぱい欲しいんだろ」
初春「ブーーーーーーーッ!!!!」
初春「おおおおおおおっぱいって//////」
508:
上条「その泣き方、いつもおっぱいが欲しがってる時の泣き方じゃねぇか」
初春「そ、そうなんですか??よく分かりますね!」
上条「え、何でお前は分からないんだよ」
初春「え?えへへへー…な、何でかなー?」
初春「じゃなくて、そ…その…お、おっぱいって…つ、つまりはぼ…ぼ…母乳のことですよね?///」
上条「え?それ以外に何があるんだ?」
初春「(どどどどどどどうしよう//////白井さん、何てことしてくれたんですかぁ!)」
初春「わわわわわ私、おおおおおっぱいなんて、ででででででで出ませんよ……」
上条「はぁ?」
赤ちゃん「うわああああああああああん」
初春「キャーごめんなさぁああああい。でもそんな、おっぱいだなんて…私そんなの……////」
初春「で…でも…このまま泣き止んでくれないと困るし……」
初春「ううううううう……」
初春「……か、覚悟決めるしか…ないか…。で、出るか分からないけど……」
セーラー服の裾を捲り上げようとする初春。
516:
上条「ん?なんだ、この哺乳瓶にメモが貼ってあるぞ…白井から?」
初春は光のさで哺乳瓶をひったくる。
メモ『初春はまだ子供ですので当然おっぱいなんて出ませんよ。ですのでこの哺乳瓶をお使い下さいまし。あ、まさか本当に母乳を飲ませようとしたり馬鹿な真似はしてませんわよね?(^^;)』
初春「……………♯」
グシャッ
白井からのメモは一瞬で紙屑に変化した。
初春「おー泣き止みましたねー」
赤ちゃん「ゴクッゴクッゴクッ」
初春の胸の中で、哺乳瓶を飲む赤ん坊。
上条「美琴は甘えん坊さんだからなー」
初春「(『美琴』って名前に違和感覚えますけど… 白井さん、何故、敢えてこの名前を付けたんですか?)」
初春「(でも、こうして見ると、赤ちゃんって可愛い…)」
赤ちゃん「ンゴキュンゴキュ」
上条「幸せそうな顔してるなー」プニプニ
520:
初春「ふふっ…」
上条「ん?どうした?」
初春「いえ…(何だかこうしてると本当の家族みたい…)」
上条「よし。じゃあ、そろそろ散歩に行くか」
初春「え?散歩って?」
上条「いつもそこの公園まで行ってるだろ?美琴連れて」
初春「え、ああ、そ、そうでしたね(話合わせないと)」
とある公園―。
上条「いやーいい天気だなー」
初春「そ、そうですね…」
子供たちが戯れる午後の公園。
そこに、ベビーカーを押す初春と上条の姿があった。
初春「(ベビーカーまで用意してるなんて…白井さんどこまで本気なんですか…)」
初春「(まさかこの歳でベビーカーを押すなんて考えてませんでしたよ……)」
521:
学生「あー見て見て!学生夫婦よ!」
学生「ほんとだー」
学生「学生で結婚って素敵よねー」
学生「赤ちゃんも可愛いー」
初春「う…(何だか恥ずかしい…///)」
学生「ねぇほら、あんたたちも見てみなさいよ!学生結婚よ学生結婚!」
学生「ああ?計画性皆無のただの出来ちゃった婚じゃねーか」
学生「いや、正しくはズッ婚バッ婚だろ?」
初春「ガーン!(計画性皆無の出来ちゃった婚って…)」
学生「なーにそれ。ホント男子ってサイテー」
初春「(……こっちも好きでこんなことやってるわけじゃありませんよ……)」
初春「でも…」チラッ
初春「(当麻さんとこうした生活送るのもいいかも…///)」
上条「どうした?」
初春「いえ、何でも…///」
と、二人の正面から同じくベビーカーを押した一組のカップルが近付いてきた。
「貴方の顔だと赤ちゃんも恐がるんですよ!」
「うっせェなァ…赤ン坊は俺にとってドストライクゾーンなンだよ…」
524:
セロリさん…
526:
「それ本気で言ってんの?しかも実の我が子に?」
上条「おい、見ろよ。俺たちと同じ学生夫婦だ。しかも夫婦まで連れてる」
初春「あ、ホントですね…」
距離が近付く二組。
そして…。
上条「お?」
「ンン?」
「あれ?」
初春「あっ…」
初春と上条は、その学生夫婦を目の前にして立ち止まった。
それは向こうも同じだった。
一方「……三下ァ…」
上条「……一方通行…」
佐天「……………」
初春「……………」
微妙な間が流れた。
527:
ベンチに腰かけ、語り合う初春と佐天。
佐天「ホント、お互い大変だよねー」
初春「まさか本当の赤ちゃんまで世話にするとは思いませんでした…」
佐天「って言うかこの赤ちゃん、一体どこの子なんだろうね…」
初春「少なくとも私たちの実の子供じゃないですよね…」
それぞれ赤ん坊を胸に、二人は愚痴を零す。
上条と一方通行は男同士で語り合うためか、公園内を散策しに行っていた。
佐天「でも、可愛いのは確かだよねー。ベロベロバー」
佐天の赤ちゃん「キャッキャッ」
初春「確かに、赤ちゃんには罪は無いですもんね」
初春「ちなみにその子、名前は何て言うんですか?」
佐天「ん?あー名前ねー…なんか『美琴』らしいよ」
初春「ブーーーーーーーーーーッ!!!!」
佐天「わ、どうしたの初春!?」
初春「い、いえ……実はこの子も『美琴』なんです」
佐天「ま、マジ?お、同じ名前??」
530:
初春「らしいですね…まったく、白井さんってば…」
佐天「まあ…別にいいけど…」
佐天「それよりさ、そっちの子抱かせてよ!」
初春「え、あ、もちろんいいですよ。その代わり私も抱かせて下さい」
佐天「いいよー」
互いの赤ん坊を交換する二人。
佐天「あ、可愛いー」
初春の赤ちゃん「たあああ」キャッキャッ
初春「この子も可愛いですね」
佐天の赤ちゃん「だああああ」
佐天「あ、この子もしかして男の子?」
初春「おーよく分かりましたね。もしかしてこっちは女の子ですか?」
佐天「そうなんだよー。そのせいか、一方さんが異常に可愛がって逆に恐いんだよねー」
533:
初春「可愛がるって別にいいじゃないですか。今はお父さんなんだし・・・」
佐天「いや、それが……」
―佐天の回想・一方通行の寮にて―
佐天「ほら一方さん、貴方も抱いてあげてよ」
一方「チッ、面倒くせェなァ…」
佐天「もう、お父さんなんだからしっかりしてよね!」
赤ちゃん「たあああい!たぁぁああい!」
一方「ベロベロベロバー!ほォら、パパですよォォォォォォ!!!!!美琴ちゃんは可愛いでちゅねェェェェ」
佐天「えっ」
一方「おおお可愛いぜェ、マジで可愛いぜェ」ホッペスリスリ
赤ちゃん「わああああああん」
佐天「ちょっ…泣いてるんですけど…」
一方「ああああああ泣いてる顔もかンわいーぜェ…」スリスリスリスリスリスリスリスリスリスリ
赤ちゃん「びゃあああああああ」
佐天「……………」
―佐天の回想終わり―
537:
初春「そ、それは…父親の愛が強すぎますね…」
佐天「いや、あれ、そういう次元超越してるから…だからか、美琴ちゃん、一方さんのこと嫌ってるようだし…」
初春「た、大変ですねぇ…」
佐天「逆に一方さんの溺愛ぶりは過激だし…」
初春「ま、まさに一方通行なんですね…」
佐天「にしたら、あんたの旦那さん、とても優しそうじゃん。私も上条さんのほうが良かったなー」
初春「いえいえ、あれでも最初のうちはとても仲悪かったんですよ」
佐天「ほぇー信じられないなあ。だって本当の夫婦みたいなのに」
初春「えへへ///ありがとうございます」
佐天「まあ、一方さんも優しいところ結構あるんだけどね」
初春「ならいいじゃないですか」
佐天「うん、そうだけどね。あれで、夜の外出控えてくれればさ…」
初春「そう…ですね。それはこっちも同じです…」
佐天「…………」
初春「…………」
538:
初春の赤ちゃん「たあぁあああい!!」
佐天「ん?何々?どうしたの?」
初春「あ、戻って来たみたいですね」
赤ちゃんの視線の先を辿ると、上条と一方通行の二人が見えた。
上条「よ、ただいま」
初春「お帰りなさい」
佐天「随分、話してたんですね」
一方「ン?まァ…ちょっとなァ…って、おい、そいつ俺の美琴ちゃンじゃねェな…」
上条「あ、ホントだ。こっちも美琴じゃないな」
初春「あ、ちょっと互いに交換して抱き合ってたもので。はい、一方通行さん。美琴ちゃんです」
一方「おお、すまねェなァ」
初春から赤ん坊を受け取る一方通行。
一方「おおおお、ごめんねェ美琴ちゃん、寂しかったでちゅねェ!!パパも寂しかったでちゅよォォォォ」スリスリスリスリ
佐天の赤ちゃん「わああああああああん」
初春「(ホントだ…)」
542:
佐天「ったく…。あ、はい、上条さん。こちら美琴くんです」
上条「おお、ありがと…。よしよし、いい子にしてたか?ん?」
初春の赤ちゃん「きゃっきゃっ」
初春「やっぱりパパのことが好きなんですね」ニコッ
佐天「(何か負けた気がする…)」
初春「じゃあ佐天さん、また会いましょう」
佐天「うん。初春も頑張ってね」
上条「今日は悪かったな一方通行」
一方「まァ…お互い、避けられないことだしなァ…また暇あったら相談しろや」
初春佐天「?」
佐天「じゃ、帰りますか」
一方「おお。さ、美琴ちゅわァァァァァン。帰りますよォォォォォォ」スリスリスリスリ
赤ちゃん「びゃあああああああ」
佐天「もういい加減にして下さい!」
初春「あはは…(何だか名前使われてる御坂さんが不憫になってきた…)」
546:
上条宅―。
上条が宿題に精を出す中、初春はがらがらの玩具で子供をあやしていた。
赤ちゃん「キャッキャッ」
初春「ほらほらー」ガラガラガラ
初春「ママはここですよー」
赤ちゃん「キャッキャッ」
合間、上条のほうを見る初春。
必死にペンを動かしているのか、上条の背中は少し揺れていた。
初春「…………」
初春「…(当麻さん…)」
初春「(最初は怖かったけど、今ではとっても、いとおしく感じる…)」
初春「(当麻さん…貴方と一緒に暮らせて私は幸せです…。惜しむらくは、この生活も明日で終わるということ…。もし…願いが叶うなら私はずっと当麻さんと……)」
上条「ん?」クンクン
上条「おい」クルッ
初春「わっ、えっ、な、何です??」
いきなり振り返った上条と目が合い、初春はしどろもどろしてしまう。
上条「何か…臭わねェか?」
初春「えっ?あ、そう言えば…」クンクン
551:
初春「まさか!!」
赤ちゃん「キャッキャッ」
急いで赤ん坊のオムツを開ける初春。
上条「うわ…やっぱり…」
初春「く、臭い……」
初春「急いで変えなきゃ…」
新しいオムツを取り出す初春。
初春「(お母さんも…私のとき、こうやってたのかな?)」
初春「(何だか…お母さんの苦労が分かってきた気がする・・・)」
上条「あっ」
初春「え?」
ピュルピュルピュルピュル…
気付くと、赤ん坊の元気なおしっこが虹を出現させ、綺麗な弧を描いていた。
初春「……………」
上条「だ、大丈夫か?ほら、タオルだ…プクク」
初春「(なるほど、改めてお母さんの苦労が分かったよ)」フキフキフキ
552:
上条「あはははははは」
初春「んもう!笑わないで下さい!」フキフキ
上条「だって、傑作じゃねぇか。だっはっは」
初春「もう!///」ポカスカ
上条「あはは、ごめんごめん」
初春「プンプン」
数十分後―。
初春「……………」
赤ちゃん「スースー」
553:
赤ん坊と一緒の布団で身体を横たえる初春
空ろな目で彼女は、規則的に美琴をポンポンと叩いていた。
上条「飾利」
初春「………ん?」
寝ぼけ眼で初春は、上条の顔を見る。
上条「眠たかったら、寝ていいぞ…」
初春「…うん」
上条「俺がすぐ側で見守っててやるから、安心して寝てな」
初春「うん」
微笑み、初春は頬杖を崩し枕に頭を預けた。
初春「(ありがとう当麻さん……貴方の側にいれて、私は幸せです……)」
初春「(ホントに…この日々がいつまでも……続けばいいのに…)」
上条の笑顔を視界に収めながら、彼女は眠りに就いた。
555:
夜・0時前―。
一方通行の寮―。
佐天「また外出するですって!!??」
一方「おゥ…悪いかよ」
赤ん坊を白井に引き渡し、親子生活も終えてから数時間後、
佐天は一方通行が突如言い放った言葉に異議を唱えていた。
佐天「当たり前ですよ!明日は一緒に映画見に行くって言ったじゃないですか!!」
一方「だからァ…それには充分間に合うっつってんだろォ…多分だけどなァ…」
佐天「ふざけないで下さいよ!そうやっていっつもいっつも…一人で留守番するこっちの身にもなってください!」
一方「その埋め合わせとして、明日映画の約束したんだろォが」
佐天「そういう問題じゃありません!」
556:
一方「あァ?」
佐天「だって…もう…明日で…私たちは…私たちは…一緒にいられなく……」
一方「何言ってンのか全然分かンねェよ…。とにかく朝には帰って来るからよ。おとなしくお前は家で待ってろ」
佐天「やだ!!」ガシッ
一方「!!」
一方「おい…離せよババァ…」
佐天「離さない!」
佐天「最後の夜ぐらい…一緒にいて下さい…グスッ」
一方「………最後ってのがよく分からねェが…とにかく人を待たせてンだ…悪いな」
佐天「あっ…」
それだけ残し、一方通行は部屋を出て行った。
佐天「…………一方さん」ギュッ
570:
上条宅―。
初春「うーん……」
眠りから目を覚ます初春。視界がどんどん明瞭になっていく。
初春「………私、ずっと寝てて…」
初春「はっ!」
我に返ったかのように、すぐ隣に視線を流す初春。
そこに、赤ん坊の姿はなかった。
初春「………あれ?美琴くんは…」
初春「ん?これは…メモ?白井さんからだ」
メモ『初春。ご苦労様でした。赤ん坊はしかと引き取らせて頂きましたの。まるで本物の母親と赤ん坊のようで、黒子、一瞬頬が緩んでしまいましたの。貴女はいい母親になれますわ。P.S.あと一日どうか頑張って下さいまし。ご健闘を祈ってます 黒子』
初春「そっか…終わったんだ…」
初春は手に僅かに残る赤ん坊の温もりを実感した。
初春「私も…いつか本当のお母さんになりたいな…」
バタン
と、その時だった。部屋の扉が閉まる音がしたのは。
初春「え?」
立ち上がり、扉の方に向かう初春。
571:
しかし、誰かが入ってきた形跡はない。
初春「何だろ?」
初春「…!!」
そこで初春は気付いた。室内に、上条の姿が見当たらないことに。
急いでトイレや浴室を確認する初春。しかし、中身は空っぽだった。
初春「まさか!!」
嫌な予感が頭を掠める。
次の瞬間、彼女は防寒着を着る間も惜しんで、部屋を飛び出していた。
初春「当麻さん!」
辺りを見回すが、上条の姿は見当たらない。
急ぎ、初春はエレベーターに乗り、一階まで降りていった。
初春「最後まで、最後まで、私に嘘をついて出かけるんですか」
初春「本当の夫婦じゃないけど…今の私は紛れも無く貴方の妻なんです…。だから、私を、置いていかないでっ…」
寮を出、道に飛び出す。真夜中であるからか、辺りに人は数えるほどしかいない。
その中から目的の人物を見つけ出すのは、そう難しくなかった。
初春「いた!当麻さんだ!」
豆粒に見えるほど、距離は離れていたが、初春には確信があった。
初春は走り出した。
573:
その頃、佐天は…。
佐天「ハァハァ…どこなのここ?資材置き場?」
密かに一方通行を尾行していた佐天。彼女は今、資材置き場の影に隠れていた。
数メートル先には、一方通行の背中が見える。
佐天「一方さん……こんなところに何の用事が?」
佐天「あっ、誰か出てきた…もしかして浮気相手?」
一方「よォ…」
男「よう」
佐天「違う、男だ…」
一方「最近、学園都市の学生たちを病院送りにしてるのはお前だな?」
男「主には、俺がやってることだがな」
一方「毎晩毎晩、お前らの手下どもに呼び出されてこっちも迷惑してンだよ」
一方「まあ、お前らを放っておいたら、無関係な野郎どもが痛い目に遭うからな。こっちはそいつらを助ける名目でお前らをぶっ飛ばす、という楽しみがあるからわざわざ出向いてやってンだ」
佐天「…何の話してるんだろ?学生が最近、事件に遭ってるのは初春にも聞いてたことだけど…」
男「俺たちはな、学園都市に捨てられた存在なんだよ。レベルアップのために研究に協力してやったのに、あいつら、俺たちのこと使えないと分かるとたちまち見捨てやがった。結局は研究資金を横領するために俺たちを利用してただけなんだよ」
一方「だから、復讐として研究に関わった研究者どもを次々ぶっ殺してるのかよ?」
574:
佐天「…ぶっ殺す!?」
一方「学生を巻き込んでるのは見せしめのためか…器の小せェ野郎だな…」
一方「ンな奴に俺が簡単に負けると思えねェや…」
男「これを見ても減らず口を叩けるか?」
足元にあった物体を男は足で蹴り転がす。
なんとそれは、顔から血を流し息絶えていた人間の死体だった。
一方「ふン、ンなもン見慣れて…」
「きゃあああああああああああ!!!!」
突如、叫び声が響き渡った。
一方「何!?」
男「ほぅ…鼠がいたようだな。しかもまだ汚れを知らない子鼠ちゃんだ」
一方「お前っ!何でここにいやがる!!」
佐天「し…死体が…死体が…いや…」
男「なんだお前の女か。お前のような汚れだらけの人間と一緒にいるってことは…相当な超能力者なんだろうな」
一方「!!」
男「試してみるか!!」
577:
男が手をかざす。
一方「チイッ」
直後、風を切る音が聞こえた。刹那のさで動いた一方通行は、咄嗟に佐天の前に躍り出た。
男「!?」
一方「…真空を実体化させやがったか…」
佐天「い、一方さん!!」
一方「だが、俺には無駄なことだなァ」
足元にあった丸太を蹴飛ばす一方通行。やがてそれは高で飛来していき、男に衝突した。
男「グアアアアッ」
丸太の直撃を受け、倒れる男。
一方「てめェは殺す価値もねェよ…」
佐天「あ…あ・・・」
一方「さて…」
振り返る一方通行。
佐天「…い、一方さん…」
578:
一方「馬鹿野郎がァ!!!」
佐天「ひっ」
一方「何で付いて来てンだ!アァ??」
佐天「だって…だって……一方さんが…浮気してると思って…」
一方「はァ?こんな夜中に野郎と浮気だァ?気持ち悪いこと言ってンじゃねェよ!!」
佐天「ご、ごめんなさい!!」
一方「チッ…しゃァねェ…説教は帰ってからだ。取り敢えず今はアンチスキルに連絡入れとくかァ…」
そう言い、携帯電話を取り出す一方通行。佐天には、何が起こっているのか状況を理解出来ずにいた。
一方「まァ…これで良しとするか…」
一方「おい」
佐天「は、はい!」
一方「帰るぞ…」
佐天「で、でも…」
一方「ンだよ?さっさと立てよめんどくせェ」
佐天「な…何か…身体に力が入らなくて…あんなの見ちゃった後だから……」
一方「…マジでめんどくせェ…」
579:
佐天「ごめんなさい」シュン
一方「こういうのは俺の性に合わねェが…オラよ」
佐天「えっ…」
一方「おぶってやるから、早く乗れ。今は跳ね返らねェ」
背中を佐天に向ける一方通行。いつもはヒョロっとした背中が、この時ばかりは大きく見えた気がした。
佐天「でも…」
一方「さっさとしろオラァ!!」
佐天「は、はい!!」オソルオソル
一方「お、おもぇ…」ズシリ
佐天「なっ!重くありませんよ!!あ、貴方の腕力が無さすぎるんでしょ!!」
一方「いいから黙ってろ。次無駄口叩いたら、途中で捨てて帰るからなァ…」
佐天「うっ…一方さんの意地悪」
一方「意地悪で結構だ。行くぞ」
佐天「うん…」
少々、フラつき気味の背中は乗り心地が良いとも思えなかったが、それがとても暖かく感じられたのか、佐天は家に帰るまでずっと顔をその背中にうずめていた。
582:
その頃、初春は…。
初春「いた!あそこだ!!」
依然、上条の後姿を追っていた。
初春「ハァハァ…もう、どこまで行くんだろ…」
しかし、追いつこうにも追いつこうにも、初春が見失いかけるたび、距離が離れてしまうので、なかなか叶わなかった。
初春「でも…もう少し…」
遂に初春は後数メートルというところまで上条に迫っていた。
と、その時。
「ねぇねぇ…」
誰かがスカートを引っ張る感覚があった。
初春「え?」
振り返る初春。そこには、7歳くらいの女の子が泣きべそを浮かべながら立っていた。
初春「お…女の子?」
女の子「…ずっと迷子なの…」
初春「ま、迷子?」
女の子「ついさっきまで、お母さんと一緒にいたんだけど…離れちゃったの…」
587:
初春「そ、そうなんだ(どうしよう…当麻さんが行っちゃう…)」
上条の方に顔を向ける初春。
ようやく縮めた距離がまた開いている。
女の子「お姉ちゃん……」グイグイ
初春「え?あ……何時間前にお母さんとはぐれたか分かるかな?」
焦りを何とか隠しつつ、初春は中腰になって女の子に話しかける。
女の子「分かんない……ちょっと遅めの外食だったから…グスッ」
女の子「それでね…ヒグッ…誰かに話しかけようとしても……みんな…恐そうな男の人…ばっかりだったから…グスッ」
初春「そ、そっか…(こんな時間帯だし、この子を一人で置いておくわけにはいかない…でも…)」
ふと、向かいの通りを見る初春。
3階立ての小さな建物の窓から、光が漏れているのが見えた。
初春「(あ…あの建物は、確か以前行ったことがある…)」
初春「ねえ」
女の子「なに?グスッ」
初春「ほら、あそこに窓が光っている建物があるでしょ?見えるかな?」
女の子「うん、見える…」
初春「あそこね、ジャッジメントの詰所なんだ。だからあそこに行ったらちゃんとジャッジメントの人がお母さんと会わせてくれるから、行ってみて」
588:
女の子「分かったけど…お姉ちゃんは一緒に来てくれないの?」
初春「う、うん。ごめんね。ちょっとお姉ちゃん急いでるから。でも、すぐそこだから一人でも大丈夫でしょ?」
初春「(…本当はとても心配だけど…)」
女の子「分かった。それぐらいなら、私一人でも大丈夫…」
初春「うん、偉い偉い」ナデナデ
女の子「えへへ」
初春「じゃ、確かにあの建物まで行くんだよ。お姉ちゃん、もう行かないといけないから」
女の子「分かった」
初春「じゃ、バイバイ」
女の子「バイバイ」
女の子に手を振り、別れを告げると初春は再び上条の跡を追い始めた。
591:
一方通行の寮―。
佐天「…学園都市…第1位?」
一方「ああ…」
佐天「一方さん…が?」
一方「そういうことになるなァ」
佐天「信じらんない…」
一方「信じるか信じないかはてめェの勝手だな」
佐天「(私がずっと憧れてた超能力者…その頂点に立つ人が…この人だったなんて…)」
一方「ま、そういうわけで、1位だと1位なりに、汚れ仕事を請合うこともあるわけだ」
佐天「…どういう意味です?」
一方「この学園都市にはお前の知らない世界がたくさンあるってことだよ」
佐天「よく分からないけど…それと一方さんが夜な夜な外出してたことに何の関わりが?」
一方「簡単に言うとだなァ…通常のジャッジメントどもが対処する表の事件とは違って、学園都市側からしたら、もみ消したり、無かったことにしたいような事件や問題が学園都市にもわんさかあるってことだ」
一方「普通の学生どもには知ることのない汚れた世界がなァ…」
佐天「汚れた世界って…学園都市のことですか?全然イメージないけど…」
592:
一方「綺麗なもんの裏には必ず汚いもんが蠢いてるもンなンだよ…俺はそれをよく知ってるからなァ」
一方「お前らが普段からダチとペチャクチャしてる間にも、俺たちのような裏を知る人間は血で血を洗う争いを繰り広げてンだ」
佐天「……それが、さっきのあの超能力者のようなことなんですか?」
一方「あの案件はまだマシな方だァ。この学園都市にはお前らのような汚れを知らない子猫ちゃんたちが想像だに出来ないもンが山のように転がってやがる」
佐天「汚れを知らない子猫ちゃんですって?」ムッ
一方「他に言い方があるかァ?学園都市のやっすい宣伝に騙されて親元から離れて一人、ここに来てダチどもと能天気にケラケラと能力談義に花を咲かせてやがる…自分たちの生活してる世界がどれだけ危険を孕んでるのかも知らずになァ…」
一方「まあ、世の中、知らなくていいことがたくさんあるからなァ…お前らがそれで満足するならいいンじゃねェか?」
佐天「だから…だから私に嘘ついてたんですか?そんな世界に巻き込まれることのないように…」
一方「ご名答だな」
佐天「ふざけないで下さいよ!!」
一方「あァ?」
佐天「私だって!いえ…私たちだって、それなりに修羅場を潜ってるんです!!」
一方「ほーオ…」
595:
上条「出て来いよ…人を呼んでおいて自分は隠れてるつもりか?」
魔術師「ははは、バレてたか」
上条「どうやって俺の名前を知った?」
魔術師「我々ぐらいになると、君のような学生一人探し出すことぐらい訳ないんだよ」
上条「一週間ぐらい前、俺のところに助けを求めてきた女の子がいたが、翌日に死んじまった」
上条「その女の子が全部教えてくれたよ。お前らが新興の魔術集団ってことも、超能力を持つこの学園都市の学生を密かに犠牲にしてたことも…」
上条「この一週間、夜な夜な調査を調べて分かったよ。ボスがお前だってことがな。お陰でお前の手下に左腕怪我させられて、周りに心配かけちまったよ」
魔術師「ふん、やはり全て知ってたか…。なら、隠す必要も無いな。その通りだ。我々は魔術によって肉体と精神の大進化を図る秘密組織だ」
魔術師「この街の学生たちは特殊だからね。彼らの命を糧にすると、大幅のパワーアップが見込めるんだ」
上条「そんなことして、本当の意味で進化なんて出来ると思うのか?」
魔術師「進化には犠牲が付き物だよ」
上条「そうか…」
上条「いいぜ、てめぇが何でも思い通りに出来るってなら、まずはそのふざけた幻想を、ぶち殺す!!」
「当麻さん!!」
上条「…え?」
597:
突如後ろから掛けられた声に、驚きゆっくりと振り返る上条。
まさかそんなはずがない。彼女がここにいるわけがない。その考えも
空しく、上条はそこに立っていた一人の少女を見て言葉を失った。
初春「当麻さん!!今の話、本当なんですか!?」
上条「飾利……なんで…ここに…」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方「なるほどねェ…グラビトン事件、レベルアッパー、ポルターガイスト…」
佐天「分かったでしょう?私たちだって、この学園都市でも辛酸舐めてるんです…。ただ、レベルアッパーでは皆に迷惑かけちゃったけど…」
一方「どれもこれも俺の耳に一度入ってきてるぜェ。なるほどなァ…お前らが当事者だったってわけかァ」
一方「お前の話を聞いた限り、お前らや超電磁砲が苦労したのは分かったぜ。だがまだまだ甘いな」
佐天「!?」
598:
一方「それでもお前らは普通の中学生生活を楽しンでいられるンだから幸せだぜェ」
一方「だが、俺たちはそうはいかねェンだよ…」
佐天「俺たち?」
一方「お前、言ってたよな。ういはる、とかいうダチが旦那の三下…上条に浮気疑惑抱いてるって…」
佐天「ええ…」
一方「ベクトルは違うけど、あの上条だって同じなンだよ」
佐天「え?」
一方「それなりに死線潜ってやがる」
一方「しかも、無能力者のくせに右手一本だけでなァ…」
佐天「無能力?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
初春「と…当麻さん、今のは一体!?」
初春の前に立ち、右手を空中に突き出した上条。
魔術師「ほう…私の炎の攻撃を防ぐとはな…お前も超能力者ってわけか」
上条「生憎、俺はレベル0でね…」
初春「当麻さん…!!」
上条「下がってろ飾利…こいつらはお前の常識が通じる相手じゃねぇんだ」
600:
初春「え?」
魔術師「お前の女か上条当麻。躾がなってないな。非力の癖にこんなところにでしゃばってくるんだからな!!」
初春「貴方は一体誰なんですか!?」
上条「よせ!」
初春「もし、学園都市の治安を乱すなら、ジャッジメントであるこの私が許しませんよ!」
魔術師「あっはっは、恐いなーおしっこちびりそうだよ」
初春「くっ…馬鹿にして…」
上条「飾利」ボソッ
初春「え?」
上条「俺があいつに攻撃を仕掛けるから、お前はその間に逃げろ」ヒソヒソ
初春「え…そ、そんなの嫌です!当麻さんを見捨ててなんていけません!」
初春「それより一緒に逃げて、ジャッジメントかアンチスキルに応援を頼みましょう!」
上条「ジャッジメントやアンチスキルで対応出来ればいいんだけどな…」
上条「まあ俺のことは大丈夫さ。これでも俺、結構強いんだぜ?」ニッ
初春「当麻さん…」
上条「だから早く逃げろ!!」
602:
初春「そんな…貴方を置いていくなんて、私…私…」
「おねーちゃーん」
初春「え?」
「あ、おねーちゃんいたー」
上条「何!?」
初春「あの子は!?」
声の方を向く初春と上条。そこには初春が先程一人で置いてきた女の子が立っていた。
女の子「あ、おねーちゃんいたー!」
魔術師「なるほど。知り合いか」
魔術師「悪いな上条当麻」
上条「!?」
魔術師「俺たちは目的のためにはどんな手でも使うのさ」ニッ
そう言った魔術師は目標を上条から女の子に変えた。
女の子「んー?」
初春「駄目ええええええええ!!!!」
上条「飾利!!!」
603:
上条の背中から飛び出し、女の子の元へ駆け寄る初春。
彼女が身を挺して女の子を庇った時、魔術師の攻撃は既に発動していた。
上条「くっ!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方「上条の奴も馬鹿だよなァ……ほうっとけば巻き込まれずに済むのに、自ら干渉して毎度大怪我負ってやがる…」
佐天「じゃあ、上条さんが夜な夜な出かけてたのって…」
一方「ああ…俺と同じく、取り込んでた案件があったンだろうよ…」
一方「俺もあいつもお前らが無縁の世界で生きてる…腕を吹っ飛ばされたり、頭を拳銃で撃ち抜かれたり、記憶を失ったりなァ…」
佐天「そんな…」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
初春「え!?」
目を開ける初春。意外にも自分が五体満足であったことを確かめた彼女は、
自分たちを避けるようにして魔術師の炎が彼方に飛んでいくのを視認した。
不思議に思い、振り返ってみる。そこには、右手を空中に突き出す上条当麻の背中があった。
初春「…当麻さん……何だろこれ?デジャヴュ…?前にもこんなことあったような…」
魔術師「何故だ…何故そこまでして他人を守ろうとする上条当麻!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
佐天「じゃあ何で!?何で貴方たちはそこまでして、他人のために動けるんですか!?」
一方「ンなもん、俺の気まぐれだァ…だが、敢えて一つ言わせてもらうとなァ…」
一方「男ってのは……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
上条「……人を守ろうとするほど、命が燃え上がるもんなんだよ!!!」
606:
魔術師「!!??」
ドゴオオオッ!!!!!
強烈な右ストレートを魔術師に食らわす上条。
魂を込めた一発を食らった魔術師は数メートルほど飛び、やがて地面に倒れ込んだ。
初春「すごい…当麻さん…」
魔術師が完全にKOしたのを確認すると、上条は振り返り、駆け寄ってきた。
上条「大丈夫か、飾利!」
初春「あ…私は大丈夫です…」
初春「貴女は大丈夫?」
女の子「うぇええええええええん恐かったよおおおおおおお」
初春「あ、大丈夫そうだね。良かった…」
女の子「おねええええええちゃあああああん」
初春「よしよし、もう大丈夫だよ。ごめんね、お姉ちゃん、貴女を一人にさせちゃって…」
上条「ふー」
二人が無事なのを確認すると、上条は大きな溜息を一つ吐き出した。
609:
初春「当麻さん…」
胸の中で泣く女の子の頭を撫でながら、初春は上条に問いかけた。
上条「ん?」
初春「いえ、やっぱり何でも……」
初春「(聞かなくても分かる…。この人は以前、セブンスミストで爆発から私を守ってくれた人だ…)」
初春「(そっか…もう私たち、あの時既に会ってたんだね…。二度も…助けられちゃった…)」
その後、現場にはアンチスキルが到着し、魔術師は連行されることになった。
女の子はジャッジメントにより保護され、後に無事母親と会えたようである。
そして…。
パシーン!!!
上条「!!」
左頬に走った衝撃に少しよろめく上条。
彼が驚きの視線を向けた少女は、目に涙を溜めて、口のは一文字に結ばれていた。
初春「…………心配、したんですよ…ずっと」
上条「…ごめん」
初春「ずっと心配で、心配で…ずっと…グスッ…心配で…ヒグッ…」
611:
上条「お前を、巻き込みたくなかったんだ…」
初春「…バカぁ…グスッ」
初春「バカぁぁああああああ!!!!うわああああああん」
堪っていた感情が吐き出され、彼女の涙腺は崩壊した。
寂しさを紛らわすために、彼女は上条に抱きつき大声を上げて泣き出した。
帰り道にて―。人気のない通りを歩く一人の少年。
夜風が吹く中、彼は泣き疲れた一人の少女を背負い、帰路に着いていた。
初春「…ふふっ」
上条「どうした、飾利?」
初春「いいえ…何でも…」
上条「そっか」
初春「(当麻さんの背中…とても暖かい…。そして、大きい……)」
初春「(男の人の背中って…どうしてこう…安心するんだろう…まるで、お父さんみたいだ…)」
幸福感に包まれ、彼女は眠りに就いた。
この日、上条当麻の「ツンデレ度」はレベル5に進化した―。
そして7日目・上条宅―。
ついに、上条当麻・飾利夫妻によるスーパーイチャイチャな一日が始まる―!!
621:
朝―。
初春「う??ん…」
眠りから目を覚ます初春。
部屋の中に差し込む光を見、彼女は徐々に意識を明瞭にさせていく。
初春「そっか……昨日、帰り道あのまま寝ちゃったんだ…」
初春「でもここベッドだよね。上条さんが運んでくれたのかな…?」
初春「上条さん、また風呂場で寝てるのかな…?」
しかし…。
モゾモゾ
初春「ひゃっ…何?」
背中で何かが動く感覚を確かめ、不思議に思った彼女は
後ろを振り返った。そこには、初春を後ろから抱くようにして上条が
幸せそうな笑顔で眠っていた。
初春「とっととととととととととととととととと当麻さん!!!????」
626:
初春「なななななななななな何で一緒にねねねねねね寝てるの??///////」
初春「(…お、落ち着け飾利…よく考えて…どうしてこういう状況なのかを冷静に…」
上条「うーん…」
初春「〇×△□drftgyふじこ」
上条「何だよー」
初春「!!」ビクッ
上条「今日は休日だろ…もう少し寝ておこうぜ」
どうやら上条が起きたようである。初春はなるべく冷静に務めて質問をする。
初春「あ、あの…当麻…さん・・・私、…あの…だから…」
しかし、緊張しているせいか上手く呂律が回らない。それどころか顔中が熱くなってきていた。
上条「何だよ?」
初春「なななな、何で私たち一緒のベッドでその…ねねねねね寝てるんでしょうか?」
何とか言葉を紡ぐ初春。
上条「何って…決まってんじゃねぇか」
初春「え?」
上条「俺たち、アダムとイブが羨むほどディープに好き合ってるからだろ?」
634:
ガシッ!!
初春「!!!!!!!!」
後ろから強く抱き締める上条。
そのあまりの行動に、初春の身体は完全にほてっていた。
上条「こうやって、飾利を抱き締めてると、世界が滅んでもいいって思えるぐらい幸せなんだよー」
まるで上条は甘えん坊の子供のようだった。
初春「(わわわわわわわわ/////当麻さん、いきなり積極的になりすぎ!!!/////)」
初春「(ななななななな何でこんなこと起こってるのぉー?)」
初春「はっ…もしかして…」
あることを初春は思い出す。
初春「まさか…白井さんのシステム「ツンデレ度」がレベル5に進化したの…?」
初春「レベル5ってこんなに変わるものなの!?」
初春「ひゃんっ///」ビクッ
上条「飾利?」
首筋に鼻をうずめてくる上条。
初春「とととと当麻さん///ひゃっ、くすぐったいです////」ビクビクッ
642:
上条「さっきから何ブツブツ言ってんだよーせっかくの休日なんだから」スンスン
初春「ちょっ…///やめ…////あっ…ん///」
上条「色っぽい声出すなよー上条さん、戦闘モードに入っちゃいますよー」
初春「え?」
上条「お望みなら、今から一度始めてみましょうか?」
初春「ああああああのののののののの/////////」
初春「そうだったあああああああああ!!!!!!」
大声と共に布団を捲くり上げベッドから飛び出す初春。
上条「おいおい何だよ」
初春「ほほほほほら、今日は、一緒にお出かけするって約束したじゃないですか!?ね?ね?」
上条「あ、そうだったな」
初春「だから、起きましょ!?」
上条「そうすっか…」
後ろを振り向く初春。
初春「(あーーーーもう////なんだか頭がおかしくなりそうだよ/////無性に身体が熱いし…///)」
650:
玄関まで駆け寄り、初春はポストを確認する。
初春「あ、やっぱり白井さんから来てる…」
封を開けると、いつもの如く明細書が入っていた。
「『初春花嫁修行大作戦』内訳詳細
☆ご利用コース:じっくり1週間コース・ゴールド
☆ご利用日数:6日
☆ご利用男性:幻想殺し系不幸体質タイプ「上条当麻」
☆契約者さまのお名前:初春飾利
☆現時点での殿方「ツンデレ」度:レベル5
         」
初春「やった!とうとうレベル5に進化した!」
初春「良かったー…1日目はどうなるかと思ったけど、ようやく私、ここまで来たんだね」
初春「これで私も無事、いつもの生活に戻れるんだ」
初春「……………」
初春「………そっか、終わるんだね今日で…」
振り返る初春。見ると、上条は部屋の中でボサボサと頭を掻きながら
テレビに見入っている。
初春「…………当麻さん…」
初春「…お別れか…」
初春「なら、最後の日ぐらい、思いっきし甘えちゃっても、罰は当たらないよね♪」
658:
初春「よし!」
エプロンをかけ、キッチンに向かう初春。
初春「頑張るぞ!」
そしてしばらく後、キッチンから部屋の中に甘い香りが漂ってきた。
上条「お?何だぁ?いい匂いだなー。飾利、何作ってるんだー?」
初春「えっへっへ、内緒ですぅ」
初春「きゃっ」
上条「なぁんだーホットケーキかないかー」
調理中の初春を後ろから抱き締める上条。
初春「も、もう////ちゃんと座って待っとかないと、あげませんよ!」
上条「えーもうちょっとこうしてたいー」
初春「だ・ぁ・め♪」 
667:
初春「焦げちゃったら当麻さんに全部食べてもらいますからね!」
上条「へいへい、分かったよ」
そう言って、上条は戻っていった。
初春「(ドキドキしちゃったぁ////)」
そして、数分後、上条宅の机に二人分のホットケーキが並んだ。
初春「はい、どうぞ」
上条「うお、上手そうー。食べちゃっていいのか?」
初春「もちろん。召し上がって下さい」
上条「でも何だかもったいなー」
初春「じゃあいいですよ。私が二つ分食べますから」
上条「おいおい、そんなことしたら太るぜ」
初春「太りません!」プクー
上条「おっと、ほら膨れるとフグみたいに太ってるぜ」プニプニ
初春「きゃっ、もう!当麻さんったら!///」
上条「あははは」
676:
二人はしばしの間、朝食を嗜む。ココアを啜りながら、初春は上条の横顔をチラッと見た。
初春「(ああ…何て幸せなひと時なんだろう……。この人と、ずっといたい…それほどまでに私は、この人のことが…)」
上条「ごちそうさまでした」
初春「あ、お粗末様です…」
上条「世界で一番上手いホットケーキだったぜ」
初春「やだ、もう褒めても何も出ませんよ♪」
上条「いいんだいいんだ。こうしてお前と一緒にいれるだけで俺は幸せだからな」
初春「///////////」
上条「じゃあ、歯磨いたら、出かけよっか」
上条「どこ行く?」
初春「この間はドタキャンされましたからね。とことん付き合ってもらいますよー」
上条「おー恐い恐い、上条家の新妻様は恐妻じゃぁ」
初春「誰が恐妻ですか!」プンスカ
上条「あははは♪」
初春「うふふふ♪」
680:
そして―。
初春「早く早くー」
上条「おい待ってくれ」
上条の腕を引っ張りながら走る初春。
いつもよりめかし込んだ彼女の顔は、とても嬉しそうに見えた。
初春「ほら、映画始まっちゃいますよー」
上条「まだ大丈夫だって!」
まず、二人がやって来たのは映画館だった。
初春「(勢いで恋愛映画選んじゃったけど、すごい内容ですねこれ…)」
初春「(見てるこっちが恥ずかしくなっちゃう…)」
チラッと隣に座る上条を窺う初春。
初春「(………でも良かった…最後に、一緒にいられて…)」
初春「(これってもうデートなんだよね……デートなんて初めてだけど、とても楽しい…///)」
上条「ん?どうした?」
初春「あ、ううん何でも///」
初春「ごめんなさい、ちょっとお手洗いに行ってきますね」
上条「おお」
劇場を出、トイレに向かう初春。
686:
初春「お手洗いはどこかなー…っと」
「はースッキリしたー」
初春「あ、あったあった、あそこだ」
「早く戻ろうっと」
初春「ん?」
「あっ」
初春「佐天さん!?」
佐天「ういはるぅ!?」
初春「ぐ、偶然ですね」
初春「佐天さんも映画見に来てたんですか?」
佐天「そうなんだよー一方さんと一緒に来てるんだー」
初春「それはいいじゃないですか」
佐天「もしかして初春も上条さんと?」
初春「えへへー分かります?」
佐天「だって…さぁ。初春、見たことないぐらいめかし込んでるし」
初春「佐天さんだって、普段見ないぐらいお洒落してるじゃないですか」
691:
佐天「え?そ、そうかな?あはは」
初春「佐天さんも一方さんと上手くいってるようですね」
佐天「おう!もうバッチリだ!」
初春「じゃ、せっかくの二人の時間、邪魔しちゃ悪いですし」
佐天「うん、そうだね。そろそろ戻るよ」
初春「頑張って下さいね佐天さん」
佐天「初春もね!」
分かれる二人。
佐天は急いで劇場の座席に戻って行った。
佐天「ごめんなさい一方さん、実は初春と会っちゃって…って…え?」
一方「ケッ…くだらねェ理由で…グスッ…別れてンじゃ…グスッ…ねェよ…」
一方「男なら…正々堂々と…グジュッ…勝負しやがれ…グスッ…つまンねェ…グスッ…映画だぜ」
佐天「(泣いてる…)」
694:
初春「(…ほんの数日しか一緒にいることが出来ない、主人公の女性と男性……)」
初春「(お互い愛し合ってるのに…期限は刻々と近付く…。まるで、どっかで聞いた話みたい…)」
初春は隣に座る上条の肩に頭を預ける。
上条「ん?どうした?」
初春「ううん。ちょっと、こうしていたいんです……」
上条「そっか、甘えん坊さんだな飾利は…」
初春「(…最後の時まであと12時間ちょっと…。それまで出来るだけ、この人の肌の温もりを感じてたい……)」
映画が終わるまで、初春はずっと頭を上条の肩に預けていた。
1時間後、映画は終わり二人は劇場を出た。
昼食を終え、二人はショッピングへ向かう。
初春「あ、当麻さん、見て見て!これなんて可愛いと思いませんか?」
女の子向けの服を手に取り、子供のようにはしゃぐ初春。
上条「うーん…上条さんはあまり女物の服には詳しくありませんでして…」
696:
初春「ブー!女性とのデートにその言葉はNGですよ!」
上条「ああ、ごめんごめん」
初春「じゃーこっちはどうでしょう?ちょっと大人っぽい感じすると思うんですけど…」
上条「うーんそうだなー…」
初春「もう、はっきりして下さいよ当麻さん!」
上条「だって俺には選べねぇよ」
初春「え?」
上条「飾利は何着ても似合うからな」
初春「わ、わ、わ、もう!そういうことを平気で言うんだから当麻さんは!///」
上条「それにどんなに可愛い服があっても、飾利の可愛さの前ではただのボロ雑巾だからな」
初春「もーう///当麻さんったら、お世辞が上手ですね」
上条「お世辞じゃないし、真実を言ったまでだし」キリッ
702:
初春「そういう当麻さんの前では、どんなにかっこいい服も紙くず同然ですけどね♪」
上条「飾利…」
初春「当麻さん…」
上条「飾利」
初春「当麻さん」
上条「飾利♪」
初春「当麻さん♪」
上条「飾利っ☆」
初春「当麻さんっ☆」
上条「飾利…////」
初春「当麻さん…////」
それから数分間、二人は互いの名前を呼びながら見つめ合っていた。
711:
上条「じゃーん!買ってきましたよー特大アイスだ」
初春「わぁ!でっかーい!食べきれるかな?」
上条「食べ切れなかったら俺が食ってやるからよ。安心しな」
初春「はーい!ありがとうございます!」
初春「あれ?当麻さんのアイスも私と一緒の味のやつ?」
上条「当たり前だろ?飾利と一緒のアイス食わなきゃ意味ねぇじゃん」
初春「もう!当麻さんったら」
初春「でも私も当麻さんと同じアイスを食べられて嬉しいです////」
上条「だろ?さあ食った食った」
初春「はい!」
初春「ハムハムモグモグ」
上条「ムシャムシャペロペロ」
初春「ハムハムモグモグ」
上条「ムシャムシャペロペロ」
初春「……………」
上条「……………」
初春上条「「あの…」」
715:
初春「な、何です?」アセアセ
上条「そ、そっちこそどうした?」
初春「いや…その…当麻さんが食べてる方のアイスってどんな味するのかなぁ…って」
上条「ああ、俺も…なんだ…飾利が食ってる方のアイスっておいしいのかな…って思っててさ」
初春「同じこと考えないで下さいよー」
上条「それはこっちの台詞だ」
初春「えへへへ」
上条「じゃあ、交換してみるか?」
初春「うん…」
上条「ほら、持っててやるから食ってみな」
初春「はい…」
初春「ハムッ…」
初春「あ、こっちのアイスも美味しいです!」
上条「そうだろ?じゃあ今度俺の番な」
初春「はい、持ってますからどうぞ」
上条「ん」
上条「ペロペロ」
721:
上条「うおーうめー。俺のより少し甘くねーか?」
初春「? そうですか?」
上条「これが俗に言う『飾利味』ってやつだな!」
初春「じゃあそっちのは『当麻さん味』ですね!」
上条「あははははは」
初春「ふふふふふ」
上条「あっ」
初春「え?」
上条「口の周り、アイスついてるぜ」
初春「ホントですか?」
ヒョイッ
パクッ
初春「あっ///////」
上条「全く、子供だな飾利はー」
初春「もう!当麻さんの意地悪ぅ??」
上条との二人だけの時間を楽しむ初春。しかし、非情にも時間だけは刻々と過ぎていく。
726:
街の通りを歩く初春と上条。
初春「(はぁ…もう夕方か…楽しいときって、ホントに時間が早く流れちゃうんだね…)」
初春「(やだな…)」
上条「何浮かない顔してんだよ飾利?」
初春「え?あ…何でも…」
上条「お前がそうやってさ、元気のない顔してると、俺まで元気がなくなってくるんだよ…」
初春「あ、ごめんなさい…」
上条「何でそんな元気が無いんだ?」
初春「だって……」
上条「ん?」
初春「あの……一つ聞いてもいいですか?」
上条「何だ?」
初春「…当麻さんは、私と一緒にいて嬉しいですか?」
上条「はぁ?今更そんなこと聞くか?当然だろ?」
初春「ホントに?」
上条「本当だ」
735:
初春「ホントにホント?」
上条「もちろん」
上条「だって、考えてもみろよ?一緒にいて楽しくもない女とデートなんてするかよ?」
初春「…!」
上条「だから、自信を持てよ…な」
初春「はい」
上条「お前は、可愛くて優しい女の子なんだからさ」
初春「はい…/////」
上条「ちょっと抜けてるところあるけどなー」
初春「どういう意味ですかそれ!?」
上条「あっはっは、その通りの意味だよー」
初春「プー」
上条「やっぱり可愛いわ」
初春「……////」
初春「じゃ、その……手、繋いでもらっても……いいですか?///」カァァァ
上条「当たり前だろ。つーか寧ろ俺が繋いでほしいみたいな?」
742:
初春「(何でこの人はこんな恥ずかしいこと普通に言えちゃうの!?)」
初春「分かりました…」
初春「じゃあ、仕方がないですねー」
ギュッ
上条「お!」
初春「//////////」
上条「小さくて細くて可愛い手だな…それに暖かい」
初春「…ご褒美です」
上条「ご褒美?」
初春「その……ずっと…当麻さんのために…手の温度、冷まさないようにしてました…」
上条「んん?」
初春「保温が私の能力なんです…」
上条「そうなのか。なるほど」
初春「たっぷりと、味わって下さい…///」
初春「初春印の人間魔法瓶です」
752:
上条「はは。でもなんか、どんどん暖かくなってねえか?」
初春「貴方のせいですよ……///」
初春「だから…」
ガシッ
手を解き、上条の腕を組みながら身体を密着させる初春。
上条「!!」
初春「 お ん だ ん か 」
初春「…です////////////」ホカァァァ
765:
意図的に初春が能力を使い続けてたのか、それとも自然だったかは定かではなかったが、
家に帰るまで、密着した二人の身体の熱が、冷めることはなかった。
上条宅―。
上条「出来たぞ!上条さん特製のグラタンだ!!」
初春「わー美味しそうー!」
両手を合わせ、歓声を上げる初春。
上条「さ、食ってみてくれ。味は保障する」
初春「うん!」
初春「いただきまーす!」
パクッ
上条「どうだ?」
初春「おいしいいい!!!!」
上条「本当か!?」
初春「はい!とっても!」
上条「それは良かった。上条さんとても心配してましてねー。もしかして不味くはないかと」
初春「ううん、そんなことないですよ!」
上条「そっか、じゃあ俺も食べてみよっと!」
767:
初春「はい。じゃあ私も続きを…って何ですか?」
上条「ん」
スプーンを初春の目の前に差し出す上条。
初春「ふぇぇ?」
自分のスプーンを口に入れたまま、初春は変な声を上げる。
上条「はー…伝わらなかった?」ガックシ
初春「ん?…あ……そ、そういうことですか///」
上条「うん……嫌か?」
初春「まさか……ちょっと恥ずかしいですけど…///」
初春「と、当麻さんは…あ、甘えん坊さんだから仕方ありませんね!///」
上条「へへすまんな」
上条から受け取ったスプーンを手にし、グラタンを掬い上げる初春。
初春「/////////」ドキドキドキ
初春「は、はい」
初春「あ?ん//////」
772:
上条「あーーーーーーん」
上条「パクッ」
初春「美味しい…ですか?」
口を動かしながら親指を立てて見せる上条。
上条「ゴクッ。我ながら、最高だ!」
初春「じゃ、じゃあ…」
上条「もう一回」
初春「ええ?もう一回ですか?」
上条「そっかー嫌かーそうだよなー」
初春「まままままさか。だ、大丈夫ですよ」
上条「じゃあさ早く早く」
初春「当麻さんったら…」
再び、グラタンをかき上げる初春。
初春「はい」
初春「あ?ん/////」
上条「あーーーーーん」
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