幼女「待ちくたびれたぞ勇者」【後編】back

幼女「待ちくたびれたぞ勇者」【後編】


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8:
神官「あれ?そういえば竜人さんと魔女さんは?」
仮面「さあな。先々週くらいから別行動とってる」
勇者「うーん、星の王のときみたいに竜人が一緒に説得してくれればと思ったんだが」
勇者「時間も惜しい。仕方ない……このままのメンバーで向かうか」
神官「来ましたね。宮殿。さてどうなるでしょうか」
戦士「もうここまで来たら勢いだ。勢いだけで乗り切ろう」
勇者「そうだな、そもそも俺たちのパーティに勢い以外の何かがあったか?」
神官「そう考えればそうでしたね!もともと勢いしかなかった!」
仮面「不安しかねぇ。帰りたいんだが」
419:
ギィィィ……バタン
騎士「陛下、勇者殿御一行が謁見に参られました」
雪の女王「ふふ、久しぶりじゃのう。元気にしておったか神官、戦士、そして勇者。
  ……はて、端の男は初めて見る顔だが。面をとらずにこの謁見の間にいるとは……レディの前で失礼だとは思わなかったのか?」
  
仮面「……」
戦士「おいっ」
女王「ふん……? ……まあよい。話を進めるか」
勇者「お久しぶりでございます、陛下。さっそく本題に入らせて頂きたいのですが、実は――」
女王「ああ、そなたらがこの国に参った理由は察しがついておる。――認定書じゃろう?」
神官「え!どうして……」
女王「星の国の王から先日文を受け取ってのう。事情は大体聞いておる。
 我ら三国が神より賜った聖なる法――という名分のあの法律に、馬鹿正直に挑む奴がまだいるとはなぁ」
 
女王「くくく……最初会ったときから変わった勇者だと思っておったが、まさかそこまでとは。魔族に肩入れする勇者など、変わり者どころではないわ」
勇者「変わり者でもなんでもいいです。事情をご存知でしたら話が早い。どうか、認定書を我らに」
女王「よいぞ」
勇者「えっ?」
420:
勇者「今、なんと?」
女王「よいぞと言ったのじゃ。二度も言わすでない」
神官「(あ、あれ……すんなりOKでましたね)」
戦士「(不気味だが僥倖だったな)」
仮面「(俺きた意味あったのか、これ?)」
勇者「……あ、ありがとうございます!!」
女王「なにをそんなに驚いた顔をしているのやら」
女王「私はそなたらの国も魔族も、どうでもよい。そなたらの計画が成功しようが失敗しようが、国のトップが誰だろうがどうでもよい。
 私は私の国だけが大切なのだから。国境の外でなにが起きようが、私にとっては瑣末なことじゃ」
勇者「はい。あなたがそのような考え方をする方だと知っていたからこそ、先ほどの返事に驚いているのですが」
女王「なに、ただ単にそちらの方がおもしろそうじゃったからの」
女王「本来、剣と魔法を武器に戦うそなたらが、そのままでは立ち向かえないモノに対してどのような戦い方をするのか、と。
 私は高みの見物がこの世で五番目に好きなのじゃ。はっはっは」
 
勇者「……ご期待に添えるよう頑張ります。ではさっそく、認定書を、」
女王「しかし」
勇者「?」
女王「取引はギブ&テイクが基本ということはそなたも知っておろうな?」
勇者「…………(そうだ、こういう人だった)」
勇者「えーと。何かお困りのことがあれば、どうぞ我らにお任せ下さい」
女王「そうこなくては」ニッコリ
421:
女王「最近、森の動物たちの様子がどうにもおかしい。ふらりと人里に下りてきては人に襲いかかろうとしたり、畑を荒らしたり。
 これまでそのようなことはなかったのだが、最近になって急に凶暴になってまるで別種の動物かと疑うほどじゃ」
 
女王「彼らを森に住むよき隣人、神聖な獣として崇めていた国民たちも、立て続けに起こる人や畑の被害で気が立っておってのう。
 このままでは討伐隊を組んで森を焼き払うとまで言いだしかねん」
 
勇者「分かりました。森に入って、何故動物たちの様子が急変したのか、その原因を突き止めればいいのですね」
女王「頼むぞ。報酬はそなたらの望む認定書じゃ。……ふっ、その顔だと、もっと無理難題を言い渡されると思っておったようじゃの」
勇者「いっ、いえ」
女王「なにやら急いでおったようだが……私から認定書を受け取ったら、そのまますぐに太陽の国でクーデターを起こすのか?」
勇者「いや……それが、まだ、王位継承者を見つけ出せていなくてですね。今目下捜索中です」
女王「なんと……。……ふふふ」
女王「のう勇者。幸せの青い鳥の話を知っておるか?」
勇者「? はい。有名な話ですよね」
女王「探しているものは、意外とすぐ近くにあるかもしれぬぞ」
勇者「すぐ、近く……ですか」
422:
城下町
勇者「意外となんとかなったな。じゃあ薬草とか防寒具とかもろもろ準備して、1時間後にまたここに集合しよう」
神官「暗くなる前に帰ってこれるといいですね……」
戦士「俺たちは宿をとっておこう。荷物あれば預かるが」
神官「あぁ、はあこれお願いします」
仮面「ちょっと待て。おっさん、俺“たち”ってなんだよ。まさか俺も、このクソ寒い中森に入らなくちゃならねぇのか!?」
勇者「当たり前だろ。ほっておいたらまた人の金盗もうとするだろうが」
仮面「現金は盗まない。あくまでモノを盗るのが俺流だ」
勇者「知らないよ。とにかくいまは少しでも腕の立つ奴がほしいんだ、協力してくれよ」
仮面「なんで俺が……チッ……しょうがねぇな。その代わり、報酬はたんまりもらうぜ」
神官「あ、はい。飴ちゃんでいいですか?」ゴソゴソ
仮面「むしろなんで飴ちゃんでいいと思った? ん?」
423:

ザックザックザクザック……ドテッ
神官「ひゃっ!」
勇者「大丈夫か?」
神官「ええ……。もう、これだけ雪が積もってると歩きにくいですね」
戦士「人里に下りてくる動物たちか。ふむ……足跡の一つでも、ここらへんにあっていいと思うのだが、見当たらんな」
仮面「そりゃーこんだけ雪が毎日降ってれば、足跡も消えちまうだろ」
勇者「動物たちが来たのは一番最近で一週間前だそうだ。余裕で消えてるだろうな」
神官「闇雲に探しても時間と体力の無駄です。どうしますか?」
勇者「話を聞く限り、凶暴化した動物は人間に対して敵意を抱いているみたいだから、大声で話して俺たちの居場所を知らせるとかどうかな」
神官「それって私たち自身が囮役するってことですか」
勇者「まあ、そうとも言うな」
神官「ええええぇ〜!?」
戦士「いいぞ神官、その調子だ」
神官「いや今のはわざとではないですよ!」
424:
ビュォォオオオオオオ
神官「いつの間にか森を抜けて、木に囲まれただだっぴろい雪原にでちゃいましたね。本当に囮作戦やるんですかぁ……?」
神官「森ってどこでもそうですけど、囲まれたらかなり不利な状況になりますよ」
勇者「大丈夫、お前がそのロッドで会心の一撃を繰り出したあのときのこと、忘れちゃいないぜ」
神官「そこは嘘でも俺たちが守るから大丈夫だ的なことを言ってほしかったですね!!お忘れなら言っておきますが、私非戦闘員ですからね!?
 とにかくもう少し場所を変えましょう……!!もうちょっとマシな場を選んで……」
仮面「いや、その必要はないみたいだ」
神官「え?」
仮面「後ろ」
神官「……」クルッ
熊1「グルルルルル……」
熊2「ガァァァァッ!」
鳶「キィーッ!」
鷹「……」バッサバッサ
狼「ガウゥッ!!」
神官「……わ、わあ」
425:
勇者「なんだ、意外にあっさり遭遇できたな」
戦士「俺が熊をやるか」
仮面「おいおい、こんなの俺たちで相手できる数じゃねぇだろ。後ろにまだまだ控えてら。ざっと20くらいか?
 勘弁してくれよ。手がかじかんでうまく剣が扱えねえし」
 
勇者「俺が雷魔法でこいつらを麻痺させるよ」
バチバチバチバチッ!!
勇者「さて、どうしてこいつらが急に凶暴になったのか、その理由を探らないとな」
神官「あっ、勇者様!近づいちゃだめです!」
熊「ガァァァァァァッ!!」
勇者「うおっと!」
戦士「前列にでてきているその熊と、空の鷹、そしてそちらのひと際でかい狼は動きは鈍っているものの、気絶とまではいかなかったみたいだな」
勇者「やるしかないか。一人一匹だな。神官は後ろに下がっててくれ」
神官「はい!」
426:
熊「ガルルルルルル……!!」ブンッ
戦士「フンッ……!!」ガシッ
仮面「熊と一騎打ちってまじかよ、あのオッサン。体張ってんなぁ」
勇者「おい、下りてくるぞ」
鷹「キィーーーッ!」
ビュッ!
仮面「うぉ! ッハハハ!鷹の剥製とか高く売れっかなー……」
神官「だめですよ!?できるだけ動物たちを殺さないでって女王様にも言われたじゃないですか!」
仮面「冗談冗談。真面目だねぇお譲ちゃん」
神官「目が本気でしたよ」
狼「ガウッ!!」
ザザッ
勇者「何か変わったところ……変なところ……」
勇者(外傷も特にないしな。人間が動物の怒り恨みを買ったという線はなさそうだ。
 魔法で何者かに操られているのかとも思ったが、そうだとしたらこの滑らかな動きはできないだろうし)
 
勇者(でも確かに様子が変だ。……毒キノコでも食べたとか?いやまさかな)
427:
戦士「ぬぅぅぅ……はああ!!」ドスッ
熊「ぐえっ!?」
神官「戦士さん……熊相手に拳で勝っちゃうなんて……相変わらず出鱈目な人ですね」
戦士「まだまだ若いもんには負けぬぞ。 む?なんだこれは」
神官「え?」
戦士「熊が今しがた吐き出したものだ。これはネックレスか?」
神官「なんだかそれ、邪悪な感じがしますよ。もしかしてこれが騒動の原因かもしれません……!」
神官「勇者様、仮面さん!動物のお腹を殴って、これを吐き出させてあげてください!」
仮面「あぁ?」
勇者「それって……あっ!待てこら!!」
勇者「俺は逃げた狼を追う!そっちはまかせたぞ!」
戦士「あぁ。大丈夫か?」
勇者「おう!」
428:
戦士「……ふう。これで全部か?」
神官「やっぱりこのネックレスが原因だったみたいですね。これを吐き出した動物たちはもう私たちを襲ってきませんし」
神官「これ、おそらく呪いがかかってます。それほど悪質なものじゃないですけど、動物たちには効き目が大きかったのかもしれません。
 でも一体どうしてこんなものが彼らの口に入ったのでしょう……やはり恣意的なものでしょうか?」
 
仮面「あー……」
戦士「なんだ、何か言いたそうな様子だな?」
仮面「確証はないが、盗賊ギルドの奴が言ってたことを思い出してね。
 ちょいと呪いのかかった品々を闇市で売ろうとしてたんだが、旅の道中丸ごと落としちまった、みたいなことを言ってたぜ」
 
戦士「その落とした場所が雪の国だとしたら、つじつまが合うな」
神官「呪いのかかった金品の売買は、どこの国でも禁止されていますけど。闇市って、そんなのも売ってるんですか?」
仮面「もっとすごいやつもあるぜ」
神官「……はぁぁー。私、魔族の方たちのこととか、王子探しのこととか全部落ち着いたら、闇市を解体することに全力を注ごうと思います」
仮面「そいつは困る。まああんたにそんなことできるとは思えねぇが」
神官「ムキー!」
戦士「そのへんにしておけ、二人とも。勇者を追うぞ」
429:
ザックザックザック……
戦士「足跡は、向こうに続いておるな」
神官「そのまま遺跡に続いてますね」
仮面「なんで遺跡がこんな山奥にあるんだよ?」
戦士「む、勇者が出てきよった」
勇者「悪い、なかなか追いつけなくてさ。狼は遺跡の中に入りこんじまった。入り口はここひとつだから取り逃すことはないと思う」
勇者「遺跡の中で入れ違いになったら厄介だからここでお前らを待ってたんだ」
神官「よかったぁ、松明セットとか持ってきて。備えあれば憂いなしですね」
仮面「おいおい、犬っころ一匹すら取り逃がすとは、呆れた勇者様だなァ?」
勇者「すばしっこいんだよ、あいつ」
仮面「へっ」
戦士「もう日も傾く。あとはあの狼一匹だけ追えば、あとは問題なかろう」
仮面「だな。さっき話した盗賊の男も、仕入れた品の数は20くらいだっつってた。さっさと終わらせて帰ろうぜ」
430:
* * *
勇者「……なんだ。盗賊ギルドの奴が原因を作ったんだな。人騒がせな……」
戦士「全くだ」
仮面「暗いし寒いし狭いし最悪だな、遺跡の中ってやつぁよ。遺跡につきもののお宝も全然ねぇし」
神官「ここの遺跡はとっくの昔に女王様が調査隊を派遣してますよ」
神官「以前はトラップも多かったり、頑強なゴーレムがいたりと結構厄介な遺跡だったみたいです。
 ほら、この通路なんかも、床が重量を感じると同時に天井が押し迫ってくるベタな仕掛けがあったところですよ」
神官「古代の方たちもいろいろ考えますよね〜、あははは」
 
仮面「へえ。詳しい……、ん?なんだ、この音?」
ズズズズズズ……
戦士「……」
勇者「うーん、おかしいな。……俺も神官と同じことを聞いてたんだが」
神官「ええと……ま、まさか」
431:
ゴゴゴゴゴゴゴ……
勇者「とりあえず、走れ!!!」
神官「いやーーーーっ!」
仮面「ハァ!?トラップは昔の話じゃなかったのかよ!?」
戦士「圧死したくなければお前も走れ!!」
ダダダダダッ!
勇者「……ぐううう!まずいまずい!!天井がガンガン迫ってきてるぞ!」
神官「こっ、このままじゃ4人とも間に合いませんよー!」
戦士「ぬ!あれを見ろ!!」
狼「グッヘッヘヘ」ポチポチ
勇者「あいつ! なんか仕掛けをいじってやがるな!?やたらと天井のスピードがいのもそのせいか!?」
戦士「あの狼、知性があるんじゃないか!?」
仮面「ぐっ…………おおおおおおお!!」
ガッ!
432:
神官「仮面さん!? そ、そんな、天井を腕で支えるとか無茶ですよっ」
仮面「今のうちに、さっさと……!!行け……!! ……ぐっ!!」
戦士「仮面!恩に着るぞ!」
勇者「ありがとう!」
狼「ガウッ」ダッ
勇者「右の通路に逃げた!追うぞ!!」ダッ
戦士「待て狼!!大人しくお縄につかんか!!」ダッ
神官「狼さん、怖くないので逃げないでくださーい!」ダッ
仮面「おいっ!!待てお前ら!!先にトラップ解除しろや!!!」
仮面「このアホパーティがっ!!おーーーーい!!!」
440:
仮面「はぁっ、はぁっ! てめぇらまじふざけるなよ!? そろそろ本気で怒るぞ!」
勇者「だからごめんって」
神官「狼さーん!……だめです、見失っちゃいました」
戦士「少し開けた場に出たな。ここらで一旦休憩するか? 昼から動きっぱなしでくたびれたろう」
神官「もう夜ごはんの時間ですものね。簡易食しか持ってきてませんけど、よろしければいかがですか?」
勇者「準備がいいな、神官。いつも助かるよ」
勇者「戦士の言う通り、ここで少し休憩しよう」
仮面「はあ……ったく疲れたぜ。 なあ、お前、火を起こせる魔法も使えたりするのか?」
勇者「一応な。ほら」ボッ
仮面「おお。それずっと続けてくれや。 あーあったかい。この国はどうも寒すぎていけねぇな」
神官「相変わらず便利ですね、勇者様の魔法。あったかーい」
勇者「俺を焚き木代わりにしないでくれよ。もういいか?」ボォォッ
戦士「ここが少し広いとはいえ、本格的に焚き木をしたら空気が淀んでしまうからなぁ……。あったかいな」
勇者「俺も休みたいんだが」ボォォッ
441:
仮面「これが勇者だけに使えるっていう五大魔法……か」
神官「火、水、風、土、雷。 自然界の五大属性を司る魔法ですね。最も勇者様があまり使わない属性の魔法もありますが」
勇者「一応得手不得手があるんだよ。使おうとすれば、まあ、使えるが、不得意な属性はそんなに威力も出せない」
仮面「ふうん。そういうもんか」
仮面「……なぁ、お前はなんで勇者になろうと思ったんだ?」
勇者「なんでって……教会から預言が為されたんだよ。俺の村の何月何日に生まれた男児が勇者ですってさ」
勇者「お前がさっき言ったように、小さい頃から神父が使う治癒魔法とは違う魔法も扱えたし。
 そりゃああんまり俺は勇者っぽくないとは自分でも思ってるさ。でも預言と魔法、二つも揃ってれば認めざるを得ないだろ」
 
仮面「俺が言いたいのはそういうことじゃない。確かにお前はこの時代に一人だけ、勇者の資格を持って生まれた」
仮面「だが、勇者以外の生き方を選ぼうとは思わなかったのか? 勇者として生きることに何の抵抗もなかったのか?
 それとも、何か確固たる理由があって、勇者になったのか。俺はそう聞いてるんだ」
 
勇者「勇者以外の生き方?」
勇者「……。そんなの、考えたことなかったな。生まれたときから、お前は勇者だって告げられて。
 剣の修行も、魔法の修行も大して苦じゃなかったし。俺だけが魔王を討ち滅べせて、それで世界が平和になるなら……」
 
勇者「そうだとしたら、俺がなるべきだって思ったんだ」
勇者「だから勇者になるかならないかなんて、迷ったことなんてなかったよ」
仮面「………………そうか」
仮面「ならお前は、俺が思ってたよりずっとつまらない人間だな。勇者」
442:
勇者「……」
神官「…………あ、あの。仮面さん!お水飲みますか!? 勇者様も、や、薬草食べますか薬草。滋養強壮にいいですよ薬草!」
仮面「いらねぇ」
勇者「俺も、いいや」
神官「そっそうですよねぇ〜!」
仮面「……」
勇者「……」
シーン
神官「(戦士さん……! これどうしたらいいんでしょうか、この空気。私窒息しそうですよぉ)」
戦士「(仮面は仮面なりに考えていることがあるのだろう。放っておくのが吉だ)」
神官「(ええぇ?)」
戦士「さて、そろそろ休憩も終わりにするか。ここから先は道が二手に分かれているが、どうする勇者?」
勇者「定石どおりにこっちも二手に分かれて進もうか」
勇者「多分トラップはこの先もあると思うから、気をつけて行こう。じゃ組み分けするぞ」
443:
右通路
勇者「意外と広いな、この遺跡。どちらかが行き止まりじゃなくて、両方とも奥に続いていれば合流がスムーズに行くんだがな」
神官「でも前者の方が可能性が高い気がしますよ……」
勇者「だろうな。 くそ、狼一匹にここまで時間を食うことになるとは」
神官「……」
神官「あの、さっきの仮面さんの言葉は気にしない方がいいですよ」
勇者「ん?」
神官「仮面さんは……多分その、かなり自由な生き方をしてらっしゃるので、あんなことを言ったのだと思いますが、
 私は勇者様の生き方は正しいと思います。あなたが、勇者として神に選ばれたのは何かしらの理由があるはずです」
 
勇者「はは。神官らしい言い方だな」
神官「まあ腐っても神官ですから……。じゃなくて、真剣に言ってるんですよ」
勇者「仮面は、俺が何も悩まず、苦しまずに勇者になると選択したことが気に食わないと思ってるんだろうな」
勇者「確かにあいつのように生きている奴からしたら、異常に思えるのかもしれないな。
 実際俺も、今までそのことを考えなかったことに驚いたくらいだ」
 
神官「それは悩むこともないほど、天性があるということだと思います」
神官「私は勇者様が勇者様でよかったと思ってますよ。多少破天荒で向こう見ずなところは直してほしいですけどね。
 これまで一緒に旅してきた戦士さんだって、きっとそう思ってます」
 
 
 
444:
 
勇者「……もしかして俺、慰められてる?」
神官「少ししょげてた様子でしたので」
勇者「別にしょげてねぇよ。ただ、いろいろ考えてただけで」
神官「珍しいですね、勇者様が」
勇者「別にいいだろ、たまには。ない頭しぼってもさ。 じゃあ逆に聞くけど、お前はなんで神官になることを選んだんだ?」
神官「えっ……私、ですか」
神官「私は、最初は学校の先生になりたかったんです」
勇者「へえ、初耳だな」
神官「でも子どもとはいえ大勢の前で話すのが苦手で……それから、植物学者になろうとしましたけど、高等教育を受けられるお金がなくって、
 結局神学校に進んで神官になることに決めたんですよ。そのまま神官になれば学費も大幅免除されますから」
 
神官「とまあ、私なんてかなり優柔不断な人生設計立てたものです」
勇者「そうだったのか。……金があったら自分は他の道を歩んでいたと思うか?」
神官「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。今では神官になってよかったと思ってますし。
 でも、本当に神官が私の生きる道なのか、悩んだことはありました。そんなとき、勇者様がとってもうらやましかったです」
 
勇者「なんで俺がそこででてくる」
神官「だってこの世で一人だけ、勇者として選ばれて。勇者に絶対ならなくてはならない。
 そんな風に世界から言われたら、悩むこともないじゃないですか。それが私の天職だって、生まれたときから思えるじゃないですか」
 
神官「私のこの考え方も、勇者様にとっては失礼で、癪に障るかもしれません……でもこんな風に考える人もいるんですよってことで」
445:
勇者「なるほどな……。そういう考え方もしたことがなかった。ありがとな」
神官「いえいえ」
勇者「ここが雪山の中の遺跡なんかじゃなければ、もっとじっくり話を聞きたいところだが、そうもいかないみたいだな」
コツコツ
勇者「行き止まりだ。あっちが正解ルートだったみたいだな。この壁も壊せそうにない。戻るか」
神官「い、いや、壊せそうでも遺跡を無断でやっちゃうのはまずいかと。
 しかし……ここまでこっちのルートにトラップがゼロというのは不気味ですね」
 
勇者「そんなことを言うと、今までの展開から見るにそろそろ一つ来るんじゃないか? ハハハ」
神官「あはは、止めてくださいよ、洒落になりませんって。さあ、戦士さんと仮面さんたちに合流するために戻りましょうか」
ガコッ
勇者「あ、おい、何かのスイッチを踏まなかったか今……」
神官「……」
勇者「な、なんかこっちに転がってくるような轟音がするが大丈夫か!? これ大丈夫!?」
神官「多分だめなパターンです!! うわーん!!」
勇者「逃げろ!!」
神官「私たちこんなのばっかー!! わぁぁぁん!!」
446:
左通路
仮面「あぁクソったれ。もう外は真っ暗な時間だぜ。暗闇の中で下山するつもりか?」
戦士「いや、勇者の転移魔法で帰れるから心配はいらぬ」
仮面「あーそういやそんな魔法もあったか。それで星の国で俺はあいつに負けたんだよな。思い出すだけでムカついてくる」
戦士「……勇者の奴もな、神によって選ばれたからと言ってただ漫然とその資格に胡坐をかいておったわけではない。
 それは対峙したお前も重々分かっていることだとは思うがな」
 
仮面「なんだよオッサン、説教か?今時そういうのって、若者には引かれるぜ」
戦士「オッサンオッサンと言うが、俺はまだ……、 む。扉が見えてきたぞ」
仮面「さっさと狼に吐かせて帰ろうぜ。おらよっと」
ギィィィィ……
狼「ガルルルル…」
仮面「いたぜ、犬っころ。どうやらここで行き止まりみてぇだな。観念しやがれ」
戦士「二人で挟みうちするぞ。俺が右から行く、お前は左からだ」
仮面「へいへい、っと!」ザッ
戦士「……!? 待て、何か来るぞ」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
447:
ゴーレム「……」
戦士「ゴーレム!? まさか、まだ稼働しておるとは……厄介だな」
仮面「面倒くさそうなのがまたでてきたな、おい。でもこいつ、動きが鈍いぜ」
戦士「鈍いのはいいが、問題は硬さだ。よっぽど力を込めんと決定打は与えられんぞ」
仮面「ハッ!」
戦士「フンッ」
ガキンッ
仮面「……確かにかてぇな」
仮面「じゃああの狼の野郎を先に……ってあいつ!ゴーレムの裏に隠れやがって!腹立つ野郎だなぁ」
戦士「地道にダメージを与えていくしかないみたいだな……仕方ない」
ゴーレム「……」ブンッ
ズドドドドドッ
仮面「うおっ!? 一撃で地面を揺るがすたぁ、やるな」
戦士「気をつけろよ。一発でも食らったら即お陀仏だ」
448:
戦士「しかし、攻撃モーションに入った後の隙が肝だな」
戦士「様子を見つつ、攻撃をした後の隙をついてこちらから打撃を加えていくぞ」
仮面「は? んなまどろっこしいやり方してられっかよ。あいつの攻撃なんてそんな用心してなくても避けられる。
 様子なんて見る必要ねえ、行くぞ」
戦士「あいつの攻撃を見たろう、用心しすぎて困ることはないぞ」
仮面「ビビってんならオッサンはそこで見てろ。俺がやってやるよ」
戦士「…………だからオッサンと呼ぶのはやめろ!!!まだそう呼ばれるだけの年は重ねとらんわ!!!」
戦士「ここは素直に年長者の言うことを聞いておけ!!お前のためを思って言ってるんだ!!」
仮面「うっるせぇな、叫ぶんじゃねーよ。だったらこうしようぜ」
ゴーレム「……シンニュウシャ……」ブンッ
仮面「俺は俺のやり方で、あんたはあんたのやり方で戦う。これで文句はねぇだろ?」ヒョイ
仮面「っこの!」ガッ
戦士「おい! 考えなしに突っ込むな……! 大体、勇者と神官ももうそろそろ追いつくだろう」
戦士「そんなに急がなくても、あいつらが来るのを待つのも手だぞ」
仮面「どいつもこいつも勇者勇者って……気にいらねえな」ガキンッ
仮面「神託だの運命だの、胡散臭いと思ったことはないのか?」
戦士「……?」
449:
戦士「……くそっ」ザッ
仮面「なんだオッサン、無理すんなよ」
戦士「ぬかせ」
ゴーレム「……」ブンッブンッ
仮面(しかし、これだけ攻撃を加えてるのに全然堪えた様子がねえな……いつまでこうやってりゃいいんだ?)
仮面「なぁオッサン、ゴーレムって、人形に魔法がかけられたもんだよな?なんか急所とかねえの?」
戦士「そういうのは神官の方が詳しいんだが、俺にはさっぱりだ」
仮面「役に立たねぇな」
戦士「黙れ……、! おい、来るぞ!」
ズドドドドドドドッ
仮面「わっと……!」ヨロッ
ゴーレム「……」ブン
仮面「!」
戦士「仮面!」
450:
ドゴッ!
仮面「……!?」
戦士「ぐっ……」
仮面「オッサン! なにしてんだてめぇ……馬鹿か!?」
戦士「……一旦……退け……勇者たちと合流しろ……」
仮面「分かったよ、じゃあ掴まれ。チッ、重いんだよクソが!」
戦士「俺はいい……先に行け……」
仮面「んなこと言ってる暇あったらさっさと立てや!」
仮面「ん……!?」
ヒュ……
仮面「!」
仮面(避けたらオッサンが…… 俺に受け止められるか!?)
仮面(やるしか……!)
バターンッ
451:
勇者「戦士!仮面!無事か!?無事じゃないな!」
勇者「おらぁぁぁ!!」ゴッ
ゴーレム「!?」グラッ
仮面「お……お前!今のどうやって!?」
勇者「え?」
神官「戦士さん!しっかりしてください!今、治癒魔法かけますので……!」
戦士「助……かる……。死んだ……祖父が……手を振って……」
神官「戦士さーん!こっちに帰ってきてください!!」
ゴーレム「ガガッ……ガッ……」
勇者「神官、ゴーレムの弱点ってなんだと思う?」
神官「ええと、確かゴーレムの動力源は体の中心部に嵌めこまれてることが多いです」
神官「体は岩よりも硬いですが、関節部分はほかよりダメージが与えやすいと思います!」
勇者「そっか」
勇者「仮面、お前はまだ戦えるのか?」
仮面「ああ……俺は無傷だ」
勇者「じゃ、手伝ってくれ。隙を見て二人で両足の関節を狙って、転倒させるんだ。
 片足だけじゃあ、さっきみたいにぐらつくだけで終わってしまう」
勇者「転がせたら後は俺がゴーレムの胸を割って、動力源を取り出すから。行くぞ!」
452:
仮面「後は俺が……って、お前あんなのぶった斬れんのかよ!?」
勇者「うおおおぉおぉ!!」
仮面「聞けよ!」
ゴーレム「……」ブンッ!
勇者「おっと」ヒョイ
勇者「今だ!足を狙うぞ!」
仮面「……っああ!」
ズドーンッ
ゴーレム「ッガガガ……ガガ……」
勇者「……っせぇい!!」ズバッ
ゴーレム「ッガ……――――」
453:
仮面「あ、あいつ。本当に一発で斬りやがった……化けもんか」
神官「よかった……。扉開けて血まみれの戦士さんを見たときにはどうなることかと」
勇者「さて、もう観念しろよ?手こずらせやがってよぉ……」
狼「」ガクガク
勇者「おらぁ、吐いちまいな!!」
狼「クゥーン……!」
神官「勇者様、勇者にあるまじき言動は謹んで頂けますか」
460:
* * *
女王「……ふぅむ。なるほどな、呪いの品のせいであったか」
女王「よもや盗賊どもがそのような品を私の国に持ち込んでおろうとはな。あやつらやってくれる」
女王「関所の警備を強化することにしよう。 ご苦労だったな」
勇者「いえ、お役に立てて光栄です」
女王「それにしてもできるだけ急いで解決してほしいとは思っておったものの、まさか一日足らずで帰ってくるとは。
 しかし今日はこの国に留まるのであろう?」
 
勇者「はい。そのつもりです」
女王「ちょうどよい」
神官「?」
女王「今夜はこの城で舞踏会が行われる予定でのう。そなたらも参加するとよい、皆喜ぶ」
戦士(……)ギク
女王「そなたらの国の王子を探しておるのであろう?今夜出席する貴族たちに話を聞いてみたらどうじゃ?顔見知りの者もおるかもしれんぞ」
勇者「確かに、そうですね。参加させて頂きます。でもよろしいのですか?」
女王「よいよい。着替えはこちらで用意しよう。ついでにその後城に泊まってゆけ」
勇者「どうも有難うございます。お心遣い感謝いたします」
461:
使用人「勇者様、とてもお似合いですよ。後は髪型ですね。あらあらこんなに癖っ毛で……毎日とかしていらっしゃいます?」
勇者「え?ああ、いえ。ありがとう」
勇者(……うーん。動きにくい。戦士と仮面の奴はどんな様子だろう)カチャ
使用人「え!? ちょ、ちょっと勇者様。剣をかついで舞踏会に参加なさるおつもりですか!?」
勇者「あ……。つい」
勇者「戦士、どうだ? ってめちゃくちゃ暗いな!どうした!?」
戦士「俺は昔から社交界とかああいうのが大の苦手なんだ……はぁ。憂鬱だ……」
勇者「俺も好きではないけどな」
戦士「大体、あの時、参加すると即答しておったが、お前踊れるのか?」
勇者「………………いっけね!!」
戦士「そんなこったろうと思ったわ」
勇者「まあいいや。どうせ情報収集が目的だし。で、仮面の奴は?」
戦士「さあな。そろそろ出てくるんじゃないのか」
仮面「あ〜〜雪山で獣とゴーレムと戦って、休む暇なくダンスとか……だるすぎ」ガチャ
462:
勇者「……ブッ!ッハハハハ!!」
仮面「んだよ、人の顔見るなり笑いだすんじゃねぇクソガキ」
勇者「いやおま……その仮面に燕尾服ってもろ仮面舞踏会で、似合いすぎてて笑うわ」
仮面「うっせぇバーカ死ね。おいオッサン、あんたもう怪我は平気なのか」
戦士「ん? おう。神官の魔法のおかげでな」
仮面「そーかよ。あんときゃ悪かったな」
戦士「なんだ、いきなり随分殊勝になりおって」
仮面「俺はいつも殊勝で素直だよ」
勇者「どの口が言って……って、もう時間か。神官はもうホールにいるそうだから、そのまま行こう」
戦士「はぁ……帰りたい。娘に会いたい」
神官「あ!遅いですよ、皆さん。女性より身支度に時間かかるってなんなんですか」
勇者「おお、神官の神官服以外の姿って、そういやレアだな。似合ってるじゃん」
戦士「うむ、なかなかだぞ」
神官「褒めても毒消し草くらいしかだせませんよ、アハハ」
神官「……って、ちょッ!? 仮面さん……いい出オチですね!」ニコ
仮面「黙れ」
463:
〜〜♪ 〜〜〜♪
女性「太陽の国の? うーん、ごめんなさいね。私社交界に出たの最近だから……母なら知ってるかもしれないわ」
勇者「そうですか……どうもありがとう」
勇者(王子のことを知ってる人がそもそも少ないな。次は年配の人に聞いてみるか)
勇者(って言ってもほとんどみんなダンスに夢中でなぁ。俺と戦士浮きまくり。
 まさか自分が貴族に混じって舞踏会に出席する日が来るとは思わなんだ)
 
勇者(というより、神官はいいとして、なんで仮面の野郎が完璧にステップ踏んでるんだよ!あいつ盗賊じゃなかったのかよ!)
仮面 女性「」クルクル
勇者(あいつ何者だ? 今時の盗賊は社交ダンスも踊れるのか……盗賊に負けた俺って……)
勇者(まだ曲は終わらないか。曲が終わって話聞けそうな人を捕まえられるようになるまで、のんびりしてよう)
勇者(……。遺跡の中での会話といい、今のダンスといい、あいつって何か事情があって盗賊になったのかもしれないな)
464:
勇者(四六時中仮面をつけてるのも何か理由があるのかもしれないな。人には一つや二つ、誰にも知られたくない秘密ってものがあるはずだ)
勇者(誰にも知られたくない……隠したい秘密……が)
勇者(……なんだ? やけに頭にひっかかる。仮面……あいつ)
〜〜♪
勇者(金髪。男。顔の上半分を覆った仮面。常に身につけてる、首元をかくす布――今はしてないな)
勇者(しかし襟とタイで首はほとんど隠れてるし……身につける必要はないか)
女性「あの仮面つけてる方、なんか不思議な雰囲気よね」ヒソヒソ
女性「仮面から覗くアッシュブルーの瞳がミステリアスで素敵」ヒソヒソ
勇者(アッシュブルー?青い瞳。王子の妹である姫様の瞳の色も……青だ)
勇者(金髪に青い目?)
勇者(いや…………いやいやいやいや。まさかな)
465:
勇者(仮面が泣きぼくろを隠すためで?マフラーが首の傷を隠すためで?おまけに金髪碧眼?社交ダンスも完璧?)
勇者(…………いくらなんでもできすぎだ。そうだ!戦士!)
勇者「戦士!ちょっといいか!?訊きたいことがあるんだが」
戦士「ぬ?なんだ?」
勇者「こっちに」
勇者「今日の遺跡で、俺と神官が来る前に、仮面と一緒に戦ったよな?あいつの戦闘スタイルを見てどう思った?」
戦士「スタイル……?素早さ重視でトリッキーな動きを得意としているように感じたが。勇者の方がよく分かっているのでは?」
勇者「戦士は王子がやってたっていう、太陽の国の貴族剣術の型、知ってるんだよな?あいつの戦い方にどこか類似点はなかったか?」
戦士「見たところあまり……むしろ正反対のような気さえする」
戦士「……いや!待て。俺がゴーレムの一撃を食らった後で、勇者が来る前だ。
 振りかぶったゴーレムを前にして、自分が避ければ俺にあたると考えた仮面が、一瞬防御の姿勢をとった」
 
戦士「それが、以前見た貴族が使う剣術に似てなくも、なかったな」
勇者「そ、そうか。ありがとう」
戦士「勇者?」
勇者「ちょっとテラス出て考えてくる」フラフラ
戦士「外は雪だが……」
466:
ガチャン
勇者「……………………」
勇者「ええええええええええええーーーーー!? まじでッッ!?!?」
勇者「うそだろ!?あり得ないだろ!?ないよな!?ありかなしかで言ったら完全にないよな!?」
勇者「だって……あんな……柄の悪い王子って大丈夫なのか?いいのか?」
勇者「うっそ……」
勇者「つーかもし俺の考えていることが本当だとしたら、これまでの無礼の数々が思い起こされる」
勇者「……いや、もしそうだとしたら。もうすでに仲間にしてるし、認証書も2枚揃ってるし、万々歳なんだが」
勇者「ちょっと衝撃すぎて脳の処理追いついてないよ……」
――のう勇者。幸せの青い鳥の話を知っておるか?
――探しているものは、意外とすぐ近くにあるかもしれぬぞ
勇者「近すぎだよ!!!」
467:
そのころ
魔女「はっ―――」
魔女「っくしゅっ!!」
竜人「大丈夫ですか?もうそろそろ休みますか。宿に向かいましょう」
魔女「火ぃ吹いてよー」
竜人「馬鹿言わないでください。変温動物の私のことも慮ってくださいよ」
魔女「いま人の姿じゃん……てか竜ってそうなんだ」
魔女「……うわあ!ね、見て見て。雪国名酒『雪おんな』あります、だって!
 どうせ今日はもうやることないし、ちょっとだけお酒飲もうよ!ね!」
 
竜人「なに言ってんですか、いやですよ。何も今日飲まなくても」
魔女「だってこんな寒いんだし、今日はずっと外で王子の手がかり探してたし、少しお酒飲めば体もあったまるじゃん」
竜人「……飲みすぎないって約束できますか」
魔女「できますできます」
竜人「じゃあ―――」
「食い逃げだーー!!誰か捕まえてくれーー!!」
468:
バタンッ!!
竜人「?」
魔女「っわ!! ちょっとー、ぶつかりそうになったじゃん、あの食い逃げヤローとっつかまえようよ」
竜人「いや、ここは下手に目立ちたくない。見なかったフリしましょう」
魔女「えー?」
旅人「いやぁね……だめよ。食った分だけの代金はきっちり払う。それが世の中のルールってもんよ……」
食い逃げ「どけっ!!!」バッ
竜人「!! あ、あの人……!?」
魔女「え?知り合い?」
食い逃げ「どけぇぇぇえぇえぇカマ野郎がぁぁぁ!!!」
旅人「そんな基本的なことさえ分からないチ○カス野郎は……カマ以下ね!!!」
旅人「滅しなさい!!! 破ァ――――――!!!!!」
食い逃げ「ちょ」ジュワッ
竜人「……」
魔女「……」
オカマってすごい。二人はそう思った。
469:
店主「おや旅人さん!いらっしゃってたんですか!お久しぶりです」
旅人「はい食い逃げ犯。煮るなり焼くなり掘るなり好きにしてちょうだい」
竜人「やっぱり!星の国で会った人だ。魔女、やっぱりこの店は諦めてください。宿に帰りますよ」
魔女「えー!?なんで!?さっき好きなだけ飲んでいいよって言ったじゃん!?」
竜人「そこまで言ったっけ!? あと声大きいです、気づかれる前に……」
旅人「……ん?」
旅人「あら」
竜人「ほらこうなる……助けて魔王様……」
470:
旅人「やーっぱり、あのとき勇者ボーイと一緒にいた子よね!隣の女の子はなに? コレ?」
竜人「小指立てないでください。違いますよ」
魔女「ねーあなたって、女?男?どっ ムグ。ひゃにしゅんのー」
竜人「すいませんね躾がなってないもんでアハハハハ気にしないでくださいね本当申し訳ない」
旅人「なにこの子、おもしろいわ。今日会ったのも何かの縁ね、ここはあたしが奢るから好きなだけ飲んで食べなさい」
竜人「い、いえ。もうそろそろ帰らないと……明日も早いので」
魔女「ねー、旅人は勇者に会ってない?あたしたちこの国で落ち合うことになってるんだけど、全然来ないの」
旅人「勇者ちゃんねー、結構な頻度で巡り合うんだけど、この国ではまだ会ってないわ。神様の意地悪かしら」
魔女「そっか。なにやってんだろーね今頃」グビグビ
魔女「プハー。うまい!もう一本!」
竜人「青汁じゃないんですから」
旅人「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜んむ」
竜人「な、なんですか?」
旅人「この間も言ったと思うんだけど、やっぱどっかで見たことあるような気がするのよね、二人とも」
竜人「初対面ですよ。やだなあ、あはは」ギク
471:
旅人「本当にそうかしら。ん〜〜〜。……ハッ!!!」
旅人「そうだわ思い出した!! あなたたち、魔族ね!?」
竜人「!?」
魔女「!」
シーン……ざわざわ……
「魔族?いま、魔族って?」 「言い間違いか?」
 「いや、ここに魔族がいるわけないだろ」 「あそこのテーブルから」
 
 
魔女「ま……ま……」
魔女「これで『満足』したでしょー!?私オリジナル配合のカクテル!!舌の肥えた旅人も満足するよねきっと!!」
旅人「ンゴッ」
魔女「はい、ちゃーんと飲み込んでね!!おいしいでしょ!?あっははは!」
旅人「ゴゴゴゴゴ」ガクガク
「なーんだやっぱり聞き間違いだったよ」 「ちょっとびびったぜ」
472:
魔女「はあ……はあ……」
旅人「」
店主「おやぁ、旅人さんが潰れるなんて珍しいこともあるもんだ。ハッハッハ」
竜人「ほんとですね!ちょっと休ませときましょうかアッハハハハ!!」
竜人「(よくやった。ですが、あなた飲ませた酒の中に何か混ぜてましたよね?一体何を?)」
魔女「(ただの忘却の水薬と眠り薬だよ。これで魔族のこととかは忘れたはず。でもさっきのどういうこと?)」
竜人「(ほら、よく魔王城に漂流してくる人間に、魔王様が忘却呪文かけて帰してやってるでしょう。
 そのうちの一人です。見覚えがありませんか?)」
 
魔女「(あるような、ないような)」
竜人「(何故か呪文が解けかかってるみたいです。もともと効きにくいのかもしれません。
 とりあえずここはすぐに逃げますよ!お代はここに置いとけばいいでしょう)」
 
魔女「ちょっ、ちょっと待ってよ。外套忘れてるって。これないと死ぬよ?」
473:
翌朝
竜人「……」
魔女「おはよー」
竜人「勇者様はまだですかね?」
魔女「っぽいね。今日魔王城に行く?」
竜人「せっかくなら勇者様方と会ってからにしたかったんですけどね。もうこれ以上先延ばしにしても時間の浪費か」
魔女「王子の持ち物っぽいの手に入れちゃったもんねー。早く魔王城で調べなくっちゃ。これでうまくいけば一発だし!」
竜人「一応勇者様に鳥を飛ばしておきましょう。さて……じゃあ行きますか」
竜人「ん……? 私の外套、こんなに肩幅余ってましたっけ」
魔女「竜人の肩幅が縮んだんじゃね?」
竜人「なんか内側の手触りも違うような」
魔女「………………あ」
竜人「え」
474:
竜人「えっ!?旅人さんの外套と間違って持ってきたかもしれないって!?」
魔女「だって竜人がさっさと行っちゃうから焦ったんだもん」
竜人「どうすんですか、これ……」
魔女「別に外套なんてそのまんまでいいんじゃないの?」
竜人「いや、私が肩幅余ってるってことは、あっちはかなり窮屈な思いをしてるってことになります。
 ましてやここは外套必須の雪の国ですし……、くっ……返しに行かなくてはならないのか」
 
魔女「そっかー……じゃあ先に魔王様のところ、行ってるね?」シュッ
竜人「いやいやいやいや!?」ガシッ
魔女「ちょ、離してよ」
竜人「なに一人で帰ろうとしてるんですか。信じられない」
魔女「いやいやいや」
竜人「いやいやいや」
旅人が泊まってるはずの宿
魔女「旅人さーん。いるんでしょー?開けてくださーい」ガンガンガン
竜人「借金取りみたいな挨拶やめなさい! ええと、旅人さん。いらっしゃいますか?」
魔女「返事がないけど、部屋に気配あるよね?」
竜人「もしかして、やっぱり魔女の昨日の薬が原因で倒れてるとか……!?」
魔女「あたしが薬で間違うはずないない。開けちゃえ」ガチャ
竜人「え!?」
475:
魔女「急病だったら大変じゃん?」
竜人「……まあ、確かに」
竜人「……おかしいな。中にもいない。そんなに広い部屋ではないんだが」
魔女「あ、このドア開けてなくない?」ガチャ
竜人「そッ!? それはまさか浴室のドアでッ……」
旅人「……あらぁ?やだ!ちょっとなに覗き見してんの!魔族のエッチ!」
竜人「バカーーー!!すいませんでしたーー!!」スパーン
魔女「いったぁぁぁぁ!?」
竜人「何故か魔族って既にばれてるし、男の裸見ちゃうし、覗き魔の称号を得てしまうし!!!どうなってんですかーー!!」
魔女「そんなのこっちが聞きたいんだけど」
旅人「いま上がるからちょっと待っててね〜」
魔女「はーい」
竜人「私が変なのか、彼らが変なのか……」
476:
旅人「お待たせ。こんな姿でごめんなさいね」
魔女「うわ!?化け物!?」
旅人「やぁねー。顔パックよ、パック。あなたもやった方がいいわよ。この国空気が乾燥してるから」
魔女「へー」
旅人「ほしければ一つあげるわ」
魔女「まじで!?やったぁ」
竜人「いやあの、順応性高すぎですから」
竜人「旅人さん……私たちのこと、さっき魔族って仰ってましたよね」
旅人「ええ。全部思い出したわ。あなたたちが、海で漂流しちゃった私を助けてくれたのよね。
 お礼が遅れちゃったってごめんなさいね。あのときはどうもありがとう」
 
魔女「恐くないの?あたしたちのこと」
旅人「命の恩人だもの」
竜人「……」
魔女「よかったー。まあ結果オーライだけどさ、なんで思い出せたのかな?あたしの薬は完璧のはずなのに」
旅人「薬?よくわかんないけど、あたし胃は丈夫な方だから」
魔女「えー。そういう問題なのかな。すごい敗北感なんだけど」
477:
旅人「あのとき、あたしを助けてくれたのはあなたたち二人のほかにもう一人いなかった?赤い目をした女の子」
竜人「いましたよ。彼女が魔王です」
旅人「へえ〜魔王って……そうだったの。じゃああたしが勇者ちゃんに言ったことは間違いじゃなかったのね」
竜人「あらためて自己紹介しますね。私は竜人、竜の血族です」
魔女「あたしは魔女。よろしくね」
旅人「魔王ちゃんの側近ってわけ?でも今あなたたち大変なんじゃないの?戦争だのなんだので」
魔女「うん。ちょー大変」
旅人「ん?ていうか竜人ちゃんは勇者ちゃんと一緒にいたわよね?」
旅人「ははーん、もしかして何か企んでるの?どれ、言ってみなさいよ」
竜人「……あなたを信じていいですか?旅人さん」
旅人「いいわよ。あたしに全てまかせて身を委ねなさい、二人とも。カムカム」
竜人「いやそういう意味でなく。魔女もひょいひょい行かないで」
478:
旅人「冗談よ〜〜。もらった恩は三倍返し!それがカマ道ってもんよ。
 あなたたちがいなかったら今あたしも生きてなかった。恩返しさせてちょうだい」
 
魔女「竜人、あたしは旅人を信じるよ。悪い人には見えないもん」
竜人「そうですね。では旅人さん、お話します。実は……」
旅人「………………マジ?」
魔女「マジ」
竜人「マジです」
旅人「なにそれ〜〜情報通を名乗るあたしが全然知らなかったなんてあり得ないわ。本当の本当にマジなの?」
魔女「マジ」
竜人「マジです」
旅人「うっそぉ〜〜!?えーこわい!!こわいわ!!」
魔女「あたしも……こわいよ」
竜人「魔女?」
479:
魔女「本当はね、ちょっと怖いんだ。うまくいかなかったらどうしようって考えちゃうと、怖くて仕方ないよ」
魔女「もう友だちや家族が、大切な人たちが傷つけられるのなんていや。あたしだって誰かに否定されたりしたくない。
 魔族の血が流れるあたしを、皆を、誰にも否定されたくない。胸を張って生きていきたいの」
 
魔女「あたし、魔王様とか竜人みたいに器大きくないからさ、実を言うとまだちょっと人間が憎いよ」
竜人「魔女……」
旅人「……」
魔女「でも、その憎しみのまま行動したらこの先ずっとそれが続いちゃうって分かってる。
 憎しみが憎しみを生んでいつまでもそのまま。何も新しいの生まれないよね」
 
魔女「それに人間の中でも勇者や神官、戦士とか、旅人とか、あたしたちを助けてくれる人もいるって知ったから。
 あたしは魔族だけの世界じゃなくて、魔族と人間の世界で生きていきたい」
 
魔女「怖いけど、がんばるよ。……って、話が脱線しちゃったね」
旅人「魔女ちゃん……。そうよね。怖がってちゃ何もできないわ」
旅人「……。あたしにも手伝わせてくれないかしら?あなたたちの力になりたいわ」
竜人「いいのですか?」
旅人「ええ」
480:
旅人「命を救ってくれた恩……ここで返さなきゃカマが廃るってもんよ!!!!ねえ!?」
魔女「わーい!旅人が仲間になったぜ!」
竜人「ありがとうございます」
旅人「で?認定書は勇者ちゃんたちがとってきてくれるのね?後は王子様だけってこと?」
魔女「うん。あ、でも一応手がかりはあるよ。これからあたしたちは魔王城に行くつもり」
旅人「そう。あたしはあたしでツテを伝って探してあげるわ。そうねぇ……一週間よ」
竜人「?」
旅人「一週間で見つけ出してみせる。太陽の国の、広場の前の宿屋は知ってる?」
旅人「一週間後、そこで落ち合いましょう。それくらいの時間があれば、勇者ちゃんたちも仕事が終わってるはずよね?」
魔女「だといいけどね」
旅人「じゃあそういうことでいいわね。勇者ちゃんによろちくび。あたしもすぐにここを発つわ」
竜人「あ、あの?本当に一週間で見つけられるんですか!?」
旅人「だって顔見知りだもん」
481:
竜人「えっ?」
旅人「小さい頃からの知り合いよ?あいつって臆病で無責任でホントろくでもない奴なんだから」
旅人「すぐ捕まえてあげるわ。まかせて」バチコン
竜人「え……本当に?」

竜人「強烈な人間もいるもんですね……」
魔女「あたしたちはどうする?」
竜人「私たちは私たちにできることをしましょう。とりあえず魔王様に……」
勇者「あれ?」
竜人「あ」
魔女「あーーー!」
482:
魔女「遅いよ!なにしてたの皆。てかいつこっち来てたの?」
竜人「入れ違いにならなくてよかったです」
神官「すいません。ちょっと太陽の国で足止め食らっちゃってまして」
盗賊1「久しぶりっす魔女の姉貴に竜人の旦那」
盗賊2「どーもー」
魔女「って、君、なにちゃっかりそっち加わってんの」
仮面「無理やり加えさせられたんだよ!」
戦士「二人とも、久しぶりだな」
勇者「朗報だぜ。認定書は二つとも手に入れた」
竜人「え!?は、早いですね」
魔女「すごいね!やるじゃん!」
戦士「あとは放浪王子の行方だけだ」
竜人「あ、そのことなんですけど、さっき……」
483:
勇者「えっ……あの旅人が協力してくれるって!?あ、あいつが?」
魔女「一週間で王子様を見つけ出すって言ってたよ」
竜人「一週間後、太陽の国の広場前の宿屋で落ち合おうと仰ってましたよ」
勇者「王子を見つけるったって……」チラ
仮面「? なんだよ」
勇者「いや……何も」
勇者(表情が読めない……やっぱり見当違いだったか?でもなぁ……偶然にしちゃ出来すぎだ……)
竜人「とは言っても、私たちは私たちなりにできるだけ王子を探してみます。
 手がかりを手に入れたので、これから魔王様のところに行きますがあなた方はどうしますか?」
 
勇者「俺たちは……一度王国に帰るよ。待ってる仲間たちにも報告したいし」
勇者「あ、そうだ。王国に来るときはくれぐれも気をつけてくれ。国王に反する者たちが同盟を組んでるってのも、もうばれてる。
 魔族に対しての警備もきつくなってるはずだ……できればもう王国には来ない方がいいかもしれないな」
竜人「ついに露呈してしまいましたか。……分かりました。気をつけます。あなたたちこそ気をつけてくださいね」
勇者「ああ」
神官「あともう少しです。お互い頑張りましょう」
戦士「ここが正念場だな」
竜人「ええ。なにもかも、本当にありがとうございます。では何かあったら鳥を飛ばすので」ニコッ
魔女「またねー!」
勇者「おう!」
484:
太陽の国
シュンッ
勇者「……っと。よし」
神官「ふぅ。帰ってきましたね」
勇者「とりあえず女主人のいる店に歩いていこう。認定書のことは彼女に伝えておけば大体みんなに伝わると思うし。
 俺たちが発ってからの国王の動向も訊いておきたい」
 
戦士「ここからならすぐだ。行こう」
仮面「……」
仮面「この国に入るのも久しぶりだ……」
盗賊1「兄貴?」
仮面「……いや、なんでもねぇよ」
勇者「あ、あれ?今日は閉店か?珍しいな」
神官「お店の中、誰もいませんね。もしかして女主人さん、体調が悪いんでしょうか?」
勇者「じゃあ冒険者ギルドか本屋のじいさんのところに行くか……ここへは明日また来てみよう」
仮面「俺たちはここらへんで分かれていいよな?あとは一週間後、広場の前の宿屋に行きゃあいいだろ?」
仮面「じゃあな」
勇者「……待て」
485:
仮面「あ?」
勇者「少し……話がある」
仮面「なんだよ」
神官「勇者様……?」
勇者「…………」
勇者「間違ってたら謝るよ。……あのさ」
勇者「その仮面、とってみてくれないか?」
仮面「……何故だ?」
勇者「もしかして、お前は――」
兵士「勇者殿!勇者殿ではありませんか。お帰りになっていたのですね」
勇者「!」
仮面「!」
勇者「あ……ああ」
兵士「このような細道で何をしていらっしゃってたんですか?」
兵士「街で勇者殿をお見かけ次第、宮廷にお連れするようにと国王様から言付かっております。一緒に来て頂けますか?」
486:
戦士「国王様が……?」
神官「(また全体訓練ですかね?憂鬱……)」
勇者「分かった。仮面、話はまた後でにしよう」
兵士「そちらの方々は勇者様のお仲間ですか?でしたらご一緒に宮廷までお越しいただきたいのですが」
仮面「俺たちがこいつらの仲間?そんなわけねぇだろ」
仮面「この勇者様とやらは正義感だけはご立派のようで。俺たちが怪しい商売をしてるだかなんだかでイチャモンつけられてたところだ。
 助かったぜ兵士さん。な、勇者さん、もう見逃してくれたっていいだろ?国王様がお呼びだぜ」
 
盗賊2(?? 兄貴?)
仮面「そら行くぞ、てめーら。さっさとトンズラだ」
盗賊1「??へ、へい」
兵士「……あのような者はいかに法を厳しくしても、警備を強化しても、一向に減りませんなぁ。
 魔族のこと以外にも、問題は山積みです」
 
兵士「盗賊風情なんぞをお仲間と勘違いしてしまい、大変失礼しました。では行きましょう」
勇者「……ああ」
487:
宮廷内
コツ、コツ、コツ……
兵士「国王様はもうお待ちになっておられるはずです」
神官「(さっきの、仮面さんにする予定の話って、なんなんですか?)」ヒソヒソ
戦士「(俺も気になるな)」
勇者「(ああ。そうだな、二人には話しておいた方がいいか。……これは俺の憶測でしかないんだが)」
勇者「(仮面が……俺たちが探し求めてる人物なんじゃないかって)」
神官「(へっ!?)」
戦士「(ハハ……あんな王位継承者がいてたまるか)」
勇者「(いや、冗談じゃないって。俺もまさかとは思ったけどさ。でも考えてみてくれよ、いろいろ辻褄が合うんだ)」
神官「(しかしですね。じゃあなんでずっと今まで一緒にいたのに、名乗りでてくれなかったんです?)」
勇者「(そりゃあ……まあ。事情があるんだろ、あいつにも)」
勇者「(とにかく、今日帰ったら確認してみるぞ。違ったら違ったで、また探せばいい。旅人の言う一週間後ってのも気になるしな)」
兵士「殿下、勇者様がいらっしゃいました」
勇者「(おしゃべりはここまでだ。また後でな)」ヒソ
神官「(はい)」
488:
謁見の間
国王「来たか、勇者よ。いきなり呼びつけてすまなかったな」
勇者「いえ、滅相もありません。お待たせしました」
国王「……今日お主を呼んだのはほかでもない」
勇者「…………?」
国王「ひとつ……お主に訊きたいことが」
国王「あってな」
489:
今日はここまで
しか
499:
* * *
昨晩
タッタッタッタ…
コンコン
魔王「グリフォン。いるか?」
グリフォン「君か。いらっしゃい」
魔王「いま、いい?」
グリフォン「いいよ。お茶淹れるから適当にその辺座って」
魔王「ありがとう」
魔王「いつも以上に書が散乱してるな。いい加減片付けたらどうだ」
グリフォン「片づけてるよ。はい紅茶」
魔王「……?この手紙の山積みは一体?」
グリフォン「あぁ。人間からの手紙さ。この間勇者くんが持ってきてくれてねぇ」
魔王「人間から……」
グリフォン「僕の本を読んでくれた人間からの手紙。軽い気持ちで書いたものだったけど……なかなかに嬉しいものだね」
魔王「そうか。よかったな」
500:
魔王「……ふふ」
グリフォン「どうして笑ってるんだい?」
魔王「グリフォンのそんなに穏やかな笑み、はじめて見たと思ってな」
グリフォン「失礼だなぁ。もうこの話はいいよ」
魔王「そんなに照れなくてもいいのに」ブラブラ
グリフォン「足をぶらぶらしない。 で?君の用事は?」
魔王「うん、貿易論についての本を持ってるか?持ってたら貸してほしい」
グリフォン「貿易論?人間社会のでいいんだよね?一応一昔前のならあるけど。君が魔法書以外の本を読むなんて珍しいね」
グリフォン「はい、これ」
魔王「ありがとう。ふむ。なるほど」パラパラ
魔王「…………単語の意味が全然分からないのだが」
グリフォン「だろうね。何故それを?」
魔王「いずれ、必要になってくるだろう。魔族と人間の関係が改善された後に」
魔王「それに勇者くんが星の王に約束してしまったらしいんだ。認定書の礼に、いずれ魔族との交易において優遇すると」
グリフォン「あらら」
魔王「今のうちに勉強しておかないとな……しかし、なかなか難航しそうだ」
501:
グリフォン「前向きだね」
魔王「当たり前だ。私が前向きじゃなくてどうする。一応これでも魔王なのだぞ」
グリフォン「分かってるよ、マオウサマ」
魔王「ふふん」
魔王「それから、城にいるときは勇者くんたちが使えるようなアイテム合成とかしてみた」
グリフォン「へえ、どんな?」
魔王「例えばこれだ。この青い粉末はただの粉ではない。ものすごい辛さの青とうがらしを粉にして呪いをかけた。
 これを敵に振りまけば、相手はあまりの刺激に発狂して『ウニョラー』『トッピロキー』しか喋らなくなる」
 
グリフォン「どっかで聴いたことあるようなアイテムだね」
魔王「あとはこれ。魔法陣が描いてあるこの紙に、魔力をこめると……腰みのをつけた中年男性がでてきて、
 敵を魅了するダンスを目の前で踊ってくれるのだ。その隙に使用者は逃げることができる」
 
グリフォン「それもどっかで聴いたことがある話だね」
魔王「そうだったか」
グリフォン「うん」
魔王「とまあこれは全部冗談だが」
グリフォン「君の冗談は分かりにくいね」
502:
魔王「いつか魔族と人が住む街をつくろうと思うんだ」
グリフォン「どうしたの突然」
魔王「城でやることがないので、これからのことやこれまでのことについて考える時間が多いんだ。
 グリフォンは100年前の戦争以前、本当に人と魔族は完全な対立関係にあったと思っているか?」
 
グリフォン「思ってないよ」
魔王「……理由は?」
グリフォン「そうじゃないと半魔半人の僕たちのルーツがどこにあるのか分からなくなってしまう」
魔王「そうか……。私も同じ意見なんだ」
魔王「魔族の住む大陸と人の住む大陸は大河で隔てられていたけれど、本当に全く交流がなかったのか疑問が残る。
 証拠はないから完全に推測だけど、川沿いの村にでも魔族と人が共存している、なんてことがあったのかもしれない」
 
グリフォン「そこで僕たちの先祖が生まれてたのかもね」
魔王「勿論大っぴらに交流が行われていたとは思えないけど。
 だから私たちが、魔族と人が堂々と交流できるような街をつくるんだ」
 
魔王「港と、学校と、教会と、図書館と、店と、広場と、川と、橋と、畑と、家をつくって」
魔王「活気のある街にしたいんだ」
503:
グリフォン「名前は?」
魔王「ん?」
グリフォン「街の名前」
魔王「それはまだ決めてない。私はそういったセンスがないから」
グリフォン「君の名前をつければいいんじゃないかい?」
魔王「魔王村って? 嫌だ。そんなんじゃ人が寄りつかないだろう」
グリフォン「いや、そっちじゃなくて。君の本当の名前だよ」
魔王「……その方がもっと恥ずかしくて嫌だ」
グリフォン「街に人の名前つけるのって結構あると思うけどなぁ」
魔王「どうせ先の話だ、それまでじっくり考える」
グリフォン「僕が老衰で死ぬ前につくっておいてね」
魔王「まだ若いくせに、何を言う」
魔王「……じゃあ、邪魔したな。本は借りてくぞ。多分また分からないところを質問に来る」
グリフォン「僕もあんまり詳しくないけど……まあ、待ってるよ」
ガチャ
グリフォン「魔王様」
魔王「ん?」
グリフォン「『魔王』は楽しい?」
504:
魔王「……」
魔王「楽しいよ」
魔王「なってよかった」
グリフォン「そう」
魔王「魔王と言ったって……ただ今の魔族の中で最も魔力が強かったことだけが理由だったけど」
グリフォン「まぁ、10年前は今よりいろいろひどかった状態だしねぇ」
魔王「だから勇者と魔王の伝説なんて、今は効力を失っているだろうな。なにせこっち側の選別が適当だ。
 『魔王は勇者にしか討ち滅ぼせない、勇者は魔王にしか討ち滅ぼせない』っていうアレだ」
 
グリフォン「あ〜……」
魔王「勇者くんじゃなくても私は殺せるし、私以外の者でも勇者くんは殺せるだろう」
魔王「神の啓示も先代からの指名も何もない魔王だけど……楽しいよ。だから心配しないでくれ」
グリフォン「心配は別にしてないけどね。君がそう思うのならよかった」
魔王「全部うまくいくよ」
魔王「おやすみ、グリフォン」
グリフォン「……おやすみ、魔王様」
505:
魔王(本当に、伝説の通りだったらいいのに)
魔王(そうだったらこの世界の誰からにだって勇者くんは殺されたりしない)
魔王(伝説も神も運命も、きっと存在しないと思うけど……)
魔王(……あ。勇者くんたちは時の女神に会ったことがあるのだったか)
魔王(神が実在しているのなら……ほかだって、存在しているのかもしれない)
魔王(……)
魔王(そうだといいな)
506:

魔王「……ふーむ」
魔王「やっぱり貿易というものは私にはよくわからないな。商人とやらを尊敬する」パラパラ
シュッ
魔女「まおうさまーーーっ!!」ガバッ
魔王「まっ……!?」
魔女「元気だった!?久しぶり!ほんと久しぶり!さびしくて泣いてなかった!?大丈夫!?」
魔王「泣いてないし大丈夫だ」
竜人「お久しぶりです。ほら魔女、魔王様が苦しさからの涙を浮かべてますから、離しなさい」
魔女「ごめんごめん」
魔王「二人とも、元気だったか?」
魔女「元気元気!」
507:
魔女「てかねー、いい知らせと超いい知らせがあるけど、どっちから先に訊きたい?」
魔王「じゃあいい知らせから」
魔女「はい、これ。雪の国で王子様の手がかり入手しましたー!魔術で居所調べて!」
魔王「耳飾りか」
竜人「最近の落し物だそうです。金髪碧眼、やけに羽振りがいい、首元を隠した男の」
魔王「羽振りがいい……か。王子のように身分が高ければそれも頷けるな。首のことも条件と一致する」
魔女「で、次の超いい知らせっていうのが、認定書二つ揃いました!あとは王子を見つけるだけ!イエーイ!」
魔王「本当か。すごいぞ」ナデナデ
魔女「えへへへ」
竜人「認定書の件は完全に勇者様たちの成果ですからね」
魔王「よし。後は王子の居所だけなら私の腕の見せ所だな……!さっそく魔術の準備をするぞ」
魔女「魔王様がんばれー!」
508:
魔王「あと一回分くらいの魔術の用意をしといてよかった。あとは……また血の採取だけだ」
魔女「ああ、女の子の血だっけ?いいよ、あたしやる」
魔王「何を言う、それくらい私にもできる。この間もできたんだ」
竜人「えっ……いや。私がやりますよ。はいどうぞ」
魔女「どうぞって、あんた男だろーが。なに言ってんの?大体なにその、性別がまぎらわしい一人称」
竜人「丁寧な口調を心掛ける私の意気込みを見習え」
魔王「……」スパッ
竜人「ってちょっと!!魔王様は魔王様で何無言でリストカットしてんですか!!」
魔王「大丈夫だ、二度目だしもう慣れた。じゃあ魔法陣発動させるから離れてくれ」
竜人「いやめちゃくちゃ涙目じゃないですか!?全然大丈夫じゃないように見えるんですが!」
魔王「うるさい、そこは見ないふりをしろ」
509:
魔王「……この耳飾りにはちゃんと魔法陣が作動したが……おかしいな」
魔女「なにが?」
魔王「これによると、耳飾りの持ち主、王子は太陽の国にいるらしい」
竜人「え?久しぶりに里帰りでしょうかね。でも居所が分かってよかった。
 今は太陽の国は少し混乱している状況ですが、行くしかないでしょう」
 
魔女「だよねー、あたしまだ今日転移魔法使ってないし、さっさと行っちゃお」
魔王「魔力回復する薬草、そっちの棚にストックが、ある―― え?」
パキッ
魔王「……」
竜人「どうかしましたか?」
魔王「勇者くんからもらったブローチが」
魔女「あれ?ヒビがはいってるね。急にどうしたんだろ?魔王様握りしめすぎたんじゃないのー?」
魔王「そんなわけあるか。一体どうして……」
魔王「…………」ギュッ
510:
勇者「訊きたいこととは何でしょうか」
国王「……」
勇者(……なんだ?何故俺は汗をかいている?)
勇者(嫌な予感がする……まさか?)
国王「今日までどこに行っておった?」
勇者「……雪の国です。雪山に住む動物が凶暴化して困ってると人づてに聴いたので」
国王「ほう、では……その前はどこへ?」
勇者「どこへ、と言われましても……この国に、いました」
国王「嘘をつくな。本当のことを申せ」
国王「魔王城に行っておったな?」
神官「えっ……」
戦士「何……?」
勇者「……!」
511:
国王「お主がどうも魔族のことを気にかけすぎておるように思えてな。悪いが魔術師に動向を探らせてもらった」
神官「……大陸全土に渡って対象者の位置を把握できる魔法なんて」
国王「そんなに高度な魔術ではない。勇者に『魔除けの札』と言って渡したあれのおかげだ」
勇者「……」
国王「魔除けの効果など、あの札にはない。宮廷魔術師が現在研究中の魔術アイテムだが、どうやら成功のようだな。誤作動などではなくてよかった」
国王「さて……お主が我らの宿敵たる魔王の根城に、何故行っていたのか……。
 それを何故先ほど私に告げなかったのか……」
 
国王「何か申し開きがあるのなら言ってみるがよい」
国王「勇者……いや。国に仇なす反逆者よ」
騎士「……」チャキ
騎士「……」スッ
勇者「くそっ!」
512:
神官「わわ……!」
戦士「チッ……」
勇者(王の周りに10人、扉の前に10人)
勇者(腕が立ちそうな奴もチラホラいるが、俺と戦士ならゴリ押しでいけるな)チャキ
国王「この場で剣を抜いたということは、認めたと考えていいのだろうな?」
勇者「その通りですよ。俺たちはあなたについていけません。悪いが反旗を翻させてもらう」
国王「愚かな真似を……貴様には悉く失望させられたわ」
勇者「愚かなのは――あんただ」
勇者「戦士!」
戦士「ああ!」
騎士「ウオォォォォォォ!!!」
騎士「覚悟っ!!」
勇者「はあぁぁッ!」
戦士「――フンッ!!」
513:
――ドサッ……ドサドサッ
騎士「ぐ……」
騎士「がっ」
国王「……腐っても元勇者か」
騎士「扉の前の騎士が一瞬で……!?」
勇者「退くぞ!」
神官「は、はい……っ!」
戦士「どけっ!」ガィン
騎士「ぐあ……ッ」
国王「待て。この者たちを見殺しにするつもりか?」
勇者「!?」
514:
女主人「離しなっ このクソ野郎が!」
本屋「全く老体にひどいことをしおるわい……」
司書「皆さん!私たちのことは気にしないで、早くここから逃げてください!」
神官「えっ……!!ど、どうして……!?」
戦士「人質か。こすい真似を」
勇者「なっ、なに捕まってんだお前ら!」
女主人「うるさいね!あんたらこそほいほいここに来てんじゃないよ!ちったぁ疑いな馬鹿!」
司書「喧嘩してる場合ではないですよ、早く逃げてください……!!」
勇者「……っ」
国王「私の言いたいことは分かるな? 抵抗をやめ、武器を捨てなさい」
勇者「…………ほらよ」ガチャン
国王「身柄を拘束しろ」
騎士「はっ」
515:
神官「いたた……」
戦士「……」
女主人「馬鹿……あんたらまで捕まってどうすんのさ!」
司書「申し訳ありません……皆さん」
国王「貴様らがなにを企んでいたのか、大方の予想はついている。
 認定書はもう受け取っているのかね?」
 
勇者「!」
勇者「……そこまで察しがついていたとは。ハッ……情けないが、まだどっちの国からも受け取ってない」
国王「魔術師……」
魔術師「は、承知しております」
勇者「(げっ……)」
魔術師「『我が言葉に従い、真実を示せ』」
勇者「うっ……やめろ!」
神官「勇者様!」
魔術師「『認定書はどこにある?私に差し出しなさい』」
戦士「勇者……!」
勇者(手が……勝手に……!!くそ……!)
国王「ほう。あの偏屈屋の王子と、高慢な女王、どちらからも認定書を持ち帰ってきていたとはな。
 全く、侮れんものだ。しかし……私の放蕩息子の行方までは掴めていまい」
 
勇者「……」
516:
国王「図星のようだな。あれの行方はいまだに私ですら掴めんのだ。今どこで何をしているのやら」
国王「……これはもう必要ない。暖炉にでもくべてしまえ」
騎士「はい」
ビリビリ……
勇者「……! やめろ!」
ボォッ パチパチ……
神官(……あぁ……。あんなに苦労して手に入れた認定書が……灰に、なって……)
勇者「……ッごめん」
戦士「お前のせいではない」
517:
国王「残念だが――クーデターを企み、国王である私を陥れようとし、民を無意味に惑わしたその罪」
国王「死をもって償ってもらうほかない」
国王「三日後。計画の首謀者である三人の処刑を行う」
国王「それまでその者らを牢獄に繋いでおけ」
騎士「ハッ」
大臣「やれやれ、ひと段落ですな。まさか勇者が魔王と繋がっていたとは……。
 あのような若者が、何故……疑問が残りますな。魔族に惑わされていたのでしょうか?」
 
国王「それはないだろう。彼奴の目を見れば分かることだ」
国王「しかし、まさかあそこまで彼奴らが動いておったとは。
 これはあの放蕩息子の捜索もいよいよ本格化させんとな」
 
国王「またこのようなことが起きたら面倒だ……。あいつもそろそろ満足したろう。
 未だ王座を譲る気は毛頭ないが、私もいい年だしな」
 
大臣「仰せのままに」
518:
ガンッ!
勇者「くそ!剣さえあれば、こんな牢……」
戦士「落ち着け、勇者。こういう時にこそ冷静になることが重要だ」
勇者「冷静になんかなってられるか。畜生、あと一歩だったってのに!」
神官「私たち、三日後に処刑、ですよね。どんな処刑方法なんでしょうか……」
戦士「重罪人だからな。そりゃあ国民の前で首をスパッと……或いは磔にされて内臓を下から串刺しに」
神官「いやぁー!血みどろスプラッタ!神よ、哀れな子羊をお助け下さい!」
勇者「おぞましいことを言うのはやめてくれ!吐きそう!」
勇者「はぁ……二人ともすまなかった。全部俺のせいだ」
神官「気を落とさないでください。勇者様だけの責任じゃありませんよ」
勇者「認定書も……昨日受け取りたてほやほやだったのに。
 灰になったら流石に無効だよな。つーか王子もまだ……いや」
 
勇者「あいつ、そうだ、あいつはまだ俺たちの仲間ってことがばれてない!」
戦士「うむ。しかし……なあ」
519:
神官「そ、それに、魔王さんや魔女さん、竜人さんなら、もしかしたら灰から認定書を再生できる魔法が使えるかもですよ」
勇者「ああ、あいつらならもしかして……って思えてしまうことが恐ろしいな。
 仮面も捕まってない。まだまだ諦めるには早いってことだな」
 
戦士「しかし、どうも俺は仮面と王子を結びつけるのは早計だと思うのだが……」
勇者「でもあいつがそうでないとしたらもう希望が見えないぞ」
神官「王様に私たちの目論見が露呈してしまった以上、国を挙げて何が何でも阻止しようとするでしょうね」
神官「もう……こうなったら、祈るしかありません」
戦士「祈る、か……」
神官「きっと、信じる者は救われます。最後まで信じましょう――運命を」
520:
魔王城
魔女「じゃ、ちゃちゃっと行ってくるね。王都」
魔王「待て」
竜人「?」
魔王「……」
魔王「今、魔女の転移魔法で王都に行ったら、二人とも今日は転移魔法が使えなくなる……」
竜人「それは分かってますけども、急ぎませんと。時間はもうたくさんは残されていないのですから」
魔女「大丈夫だよー、心配しなくても」
魔王「……そうだな。余計なことを言った。でも、くれぐれも気をつけて」
竜人「ええ。これまで振り回してくれた王子様の首を絶対にとっ捕まえてやりますよ」
魔女「どんな人なのかなぁー王子って。ついに会えるのかー」
魔王「だから気を引き締めろと……まあいいや。行ってらっしゃい」
521:
王都
魔女「ふう。到着」
竜人「……? なんだか、いつもより騒がしいですね。何かあったんでしょうか」
ザワザワザワザワ……
男性「号外!号外!!大ニュースだよ!!」
男性「あの伝説の勇者とお仲間の二人が、反逆罪で三日後に処刑だ!!!」
ザワザワザワザワ……
魔女「はぁ!? どういうこと!?」
竜人「一部下さい!」
男性「毎度あり!!さあさあ皆も買った買った!!今年一番の大ニュースだ!!」
竜人「ええと……勇者様たちが捕まったのは……私たちが来るほんの1時間前ですね」
魔女「魔族と裏で繋がり、国家転覆を謀ったため、死罪って!?なんでばれちゃったのかな?」
竜人「とりあえず、なんとか助けださないと。三日間のうちに彼らを助けだして、
 あとは旅人さんの言う一週間後まで逃げ延びられれば、まだチャンスはあるはずです」
 
522:
ザワザワ
「あの勇者が魔王とつながってたなんて。俺たちは裏切られたのか」
「どうなっちまうんだ、この国は」
魔女「! 竜人、顔隠して」
竜人「あれは……騎士団か。どこに向かって……」
女性「……な、なんです騎士様。うちに何か用ですか?」
騎士「ここの主人に用がある。悪いが入らせて頂きますぞ」
女性「ちょ、ちょっと!なんなんですか!」
騎士「来い!魂を穢した売国者め」
男性「離せ!畜生!」
女性「やめてください!主人は何もしてません!連れてかないで!」
子ども「パパー!」
「かわいそうに……今日で何件目だ?」 「自業自得だろ」 
竜人「…………」
523:
塔の上
竜人「くっそ、街中騎士だらけだ」
魔女「って、何も塔の上じゃなくても、ほかに隠れられるところあるんじゃないの」
竜人「ここなら地上からの目は届かないでしょう。しかし困りましたね。
 勇者様たちのほかにも、どんどん味方の人間が騎士たちに捕えられてしまっています」
 
魔女「こんな空気じゃあ、あたしたちの格好悪目立ちだね。ろくに歩けないよ」
竜人「あ〜〜〜〜もう!王子も見つけないといけないし、勇者様たちも助けないといけないし、
 魔王様にもこのこと知らせないと……ああ、そうだ。鳥を今のうちに飛ばそう」
 
魔女「できるだけ急いでね、鳥くん。緊急事態だから」
鳥「ピィー」バッサバッサ
竜人「もうなんなんですか、この状況!胃が痛い!思考回路が焼き切れ寸前ですよ全く!」
魔女「やばい、竜人が発狂し始めた。あんた本当追い詰められるとすぐ胃が痛くなるよね。
 もーめんどくさいからしっかりしてよ。早く作戦考えて」
 
竜人「丸投げよくないと思います。少しは私のストレス軽減してくださいよ……。
 ……とりあえず暗くなるまでここで待ちましょう」
 
竜人「で、まずは魔王様が特定してくれた場所に行って、王子に会いに行く。
 勇者様たちを解放するためにも、地の利がある王子を仲間につけておいた方が得策でしょうしね」
 
魔女「りょーかい」
534:
ドンドンッ!
姫「どういうつもり!?出して、出しなさい!」
大臣「申し訳ありません、姫様。王都中が混乱しています故、いまは自室にてお待ちください。
 国王様からのご命令でございますので、恐れ多くも鍵をかけさせていただきます」
 
姫「鍵……? どうしてそんなことを。お父様に会わせて!!ここから出しなさいよ!!」
大臣「姫様、貴女様は王族の自覚をもって、慎重に行動して頂きたいものですな」
姫「この、分からず屋ポークヘッド!」
大臣「どうやら魔族の暗示にかかっているご様子……後で神殿の者を呼びましょう」
姫「肉壁大臣!髭面眼鏡!豚!!!」
大臣「随分強力な錯乱の呪いにかかっているご様子ですなぁ!?ええ!?あーあー聞こえない!」
兵士「大臣殿、ご報告に参りました。
 東の民衆による暴動は既に鎮圧されましたが、今度は王都の南と西で暴動が起きて、ただいま鎮圧にあたっています」
 
大臣「南と西でも、か。分かった、私から殿下に伝えましょう。
 現場での指揮は引き続き、将軍に任せます。牢の警護は騎士団長にまかせるので」
 
兵士「ハッ」
535:
姫「あっ……行っちゃったわ。もう!」
姫「勇者たちが捕えられてしまったなんて、一体どうしたら……。
 それに、暴動って……何が起こっているの?」
 
姫「このままじゃ全ておしまいよ」
姫「お兄様……いまどこにいらっしゃいますの……!?」
536:

ドゴーン…… ワーワー
 いたぞー!捕まえろぉ! やれるもんならやってみろー!
 
竜人「……そろそろ動きだしてもいいような暗さになりましたが、あちこちで聞こえる爆発音は一体……」
魔女「よくわかんないけど、あたしたちにとっては好都合じゃない?」
竜人「確かに混乱に乗じて騎士の目を引かずに移動できるのはいいですけど。
 ……気にしても仕方ありませんね。行きましょう」
 
魔女「そうそう。利用できるもんはよく分からなくても利用しなくっちゃ」
タッタッタッタ…
竜人「もう少しです。この通りを真っ直ぐ行って……ここだ!」
魔女「ここ?こんなボロっちぃ廃屋に王子様がいるっていうの? うそでしょ」
竜人「確かに魔王様に告げられた場所はここのはずなのですが」
バタバタッ そっちにいたか!? 虱潰しに探せ!
竜人「うわ、人が来ます。とりあえず中に入りましょう!」
魔女「なんか汚そうだしやだよー」
537:
ガサガサ
竜人「一応人が住んでたらしき痕跡はありますね。ソファーや調理道具も……ボロボロですけど」
魔女「でもホコリだらけだよ?普通に廃墟レベル」
竜人「誰かさんの部屋も似たようなもんですけどね」
魔女「こんなに汚くないもーん」
魔女「ていうかまさかの本人不在? いい加減あたしもイライラしてきたんだけどな」
竜人「……」
魔女「なに見てんの?」
竜人「壁に貼ってあるメモ、見てください。全部どこかの建物の見取り図です」
魔女「ほんとだ。変な趣味だね!」
竜人「趣味……なんでしょうか。 ん!?」
竜人「これ、双子の盗賊さんのバンダナじゃあ……?」
魔女「あれ。なんでこんなところにあるの?ここって、あいつらの家ってこと?」
竜人「っていうより、仮面さんと双子の盗賊さんの……アジト、と言った方がいいですかね。
 ここに葉巻の吸い殻があります。双子は葉巻を吸ってませんでしたし」
 
竜人「とすると見取り図は盗みに入る前の事前調査でしょうね」
竜人「……もしかして」
竜人「王子って……まさか」
538:
魔女「あ。ねえ!ゴミ箱にビリビリに破かれたメモ入ってるよ」ゴソゴソ
竜人「意味深ですね。つなげてみましょう。……これも見取り図ですか」
魔女「これってさあ……王都の牢獄のじゃないの?」
竜人「何故そう思うんです?どこの見取り図なのかは何も書いてありませんよ」
魔女「だってさ、窓がどこにもないよ。これを見ると7階建ての建物だと思うけど、
 そんな高い建物、さっき私たちがいた時計塔くらいしか王都にはないよね?」
 
魔女「だとするとこの見取り図の建物は地下7階建てってことでしょ?
 窓がなくて、そんな大層な地下の建物って、牢獄くらいしかなくない?」
 
竜人「なるほど。確かに説得力がありますね」
竜人「牢獄の見取り図が破かれてゴミ箱に捨てられてたってことは……
 王子、いや仮面さんは勇者様たちを脱獄させに牢獄に向かったのか?」
 
魔女「はあ?なんで王子=仮面?テンパりすぎでしょ、竜人。プッ」
竜人「さっきあれだけ鋭い考察したのに、何故そこは気づかないんですか。
 あり得ない話じゃないですよ。現に魔王様の魔術が、ここに王子がいたと示したんです」
 
魔女「だって王子って……金髪碧眼イケメンハンサム王子様って……もっとさあ……もっと!!!」
竜人「言いたいことは分かります!完全に同意しますが、今はおさえて!」
539:
竜人「多分、この家に誰もいないってことは、彼らは牢獄に向かったんでしょう。勇者様たちを助けに」
 
魔女「仮面君、結構情に厚いところあるんだね」
竜人「私たちも行きますよ。この見取り図を覚えれば、裏口からこっそり侵入できます」
魔女「よっしゃ、行こうか!みんなを助けに!」
540:
牢獄 地下1階
仮面「……」チラ
騎士A「今日は随分城下が騒がしいな」
騎士B「なんでもあちこちで暴動が……」
騎士C「すまん、ちょっと便所に行ってくる」
騎士A「早めにすませろよ、今日は特別重警護をしなければならないのだから」
騎士C「へいへい」スタスタ
騎士C「はぁー……誰が囚人を脱獄させに来るってんだ。そんな奴ここ10年来たことねーっつの」
仮面「じゃあ俺が記念すべき10年来の脱獄補助者だな」ダスッ
騎士C「ぐむっ!?」
仮面「……騎士装備、似合うか?」
盗賊1「似合ってますぜ兄貴」
仮面「じゃ、ちょっと待ってろよ」
541:
仮面「待たせたな」
騎士A「ぶはっ、お前、なんで兜被ってるんだ?」
騎士B「……? 待て。そいつ……」
仮面「遅えよ」
* * *
仮面「おら、これ着ろ」
盗賊2「すげー。騎士団の鎧なんて一生着る機会ねーや」
盗賊1「おもっ……重いッス!!これじゃまともに戦えねーよ兄貴!」
仮面「戦う必要はねーよ。さっき倒した騎士三人組の異常に、誰かが気づく前に勝負を決める」
仮面「いちいち出会う騎士全て相手してたら時間が足らん。盗賊らしくコソコソしながら勇者たちの牢に行くぞ」
盗賊1「なるほど」
盗賊2「でも、勇者の旦那たちはどこに捕まってるんだろ」
仮面「どうせVIP待遇の最下階、地下7階だろうさ。さっさと行くぞ」
542:
地下3階
仮面「ん? なんかここの階は騒がしいな」
盗賊1「あ、あれって、街の人たちじゃねぇですかい?」
女主人「こっから出しな!おいこら聞いてんのかい馬鹿騎士!」ガンガン
騎士「……」
本屋「静かにしてくれんかのう、わし寝たいんじゃが」
司書「よくこんな状態で寝れますね」
女主人「全く、頭が固い連中だよ」
歴史家「同感です。なんとか脱獄できませんかねぇ」
男性「帰してくれよ〜妻と子が待ってるんだよ〜」
盗賊2「どうするんで?」
仮面「どのみちあそこを通過しねぇと地下4階に行けねえ。仕方ねぇな……」
仮面「見張りは6人か。多いな。少し博打にでるか」
543:
仮面「大変です!」
騎士D「どうした?」
仮面「先ほど当番を代わりに地下1階に赴いたのですが、見張りをしていた騎士が全員倒れていました!
 もしかしたら脱獄者が出たのかもしれません!」
 
騎士E「なんだって!?まさか……あり得ん!」
騎士F「どこの牢から脱獄者がでたのか、確認せねばなるまい」
盗賊1「私たちがここの牢を見張ります。皆さまは地下1階をお願いします!」
騎士G「分かった!」
仮面(よし……)
騎士隊長「なんだ?どうかしたのか」ヌッ
騎士H「隊長、大変です。地下1階の見張りが倒れていたようで、脱獄者が出たかもしれません」
騎士隊長「なんだと!?しかし、それをどうやって知ったのだ?」
仮面(……)ダラダラ
544:
騎士D「この3人の騎士が知らせに来ました」
騎士隊長「お前らか。どこの部隊の所属だ?言ってみろ」
仮面(部隊!?)
騎士隊長「どうした……?まさかド忘れしたわけじゃあるまいな」
盗賊1「えぇと……あの……」
騎士隊長「……ハァッ!」
盗賊2「うわぁッ!?」
カランカラン……
盗賊2「うわわ、兜がっ」
騎士隊長「貴様、見ない顔だな。それに随分鎧に着慣れていない様子も気になる」
騎士隊長「我ら騎士団の名を騙る賊め。構えろ!こいつらも牢に入れるのだ!」
騎士「「「はい!」」」
仮面「チッ ばれちゃあしょうがねえな!!」
545:
騎士F「はぁ!せいっ!」ザッ
盗賊1「うぐぐ……鎧が重くて……! どわッ!!」
騎士D「なんだ、口ほどにもないじゃないか」
盗賊2「いってて……!!」ドサッ
仮面「お前らしっかりしろ!盗賊の根性見せつけろ馬鹿!」キィン ザシュッ
騎士隊長「よそ見している暇があるのか!?」
騎士H「うおおおお!!」
仮面「おいおい、俺一人で6人はさすがに手こずるぞ……!」
??「全体睡眠魔法!!!」
仮面「……!? だ、……れ……だ……」バタッ
546:
??「仮面さんたちまで眠らせてどうするんですか」
??「あんだけ入り乱れてたら区別なんてできないっしょ。まあいいや、叩き起こそう」
??「そうですね」ユサユサ
仮面「うぐ……む……」
??「だめだよ、あたしの睡眠魔法なんだから、そう簡単に起きないよ。これくらいやらなきゃ」ドスッ
仮面「いっ……うぅ……」
??「仕方ない、時間がないので許してくださいね」
??「そんな振りかぶっちゃっていいの?」
??「っらぁ!!」
仮面「ぐえぇぇ!!?」
竜人「よかった、起きましたね」
仮面「うっぐゲッホ、ゲホ、ゴホゴホッ!!」
魔女「時々ほんとにあんたが怖くなるよー」
547:
仮面「てめぇぇ、なにしやがんだゴラァ!!殺すぞクソドラゴン!!」
竜人「彼らも起こしましょう」
魔女「っていうか、あたしが状態異常回復魔法かければよかったねー」パァァ
盗賊1・2「……あれ?俺なんで眠ってたんだ?」
仮面「もっと早く気付けよ!!わざとだよなお前ら!!」
竜人「失礼しました。大丈夫ですか?」
仮面「てめーのせいで腹がいてーよ。死ね、5回死ね」
盗賊1「なんで竜の旦那と魔女の姉貴がここに?」
魔女「そりゃ、勇者たちを助けに来たに決まってんじゃん!君たちもでしょ?」
盗賊2「そりゃあ心強いや!」
竜人「そこの牢に入ってる人たちも起こして、ここから逃げてもらいましょう。
 裏口までの最短距離にいる見張りは全て魔女が眠らせました」
 
竜人「今なら誰にも見つからずに逃げ出せるはずです」
548:
女主人「助かったよ。恩に着る」
司書「ありがとうございます……!」
女主人「私たちは牢の外でやれることをやるよ。勇者たちによろしくね!がんばんなよ!」
本屋「グッドラックじゃ」
タッタッタ……
竜人「私たちも先を急ぎましょう!」
魔女「そんなに呪文の効果、長いわけじゃないからさ」
盗賊1「全員眠らせちまうなんて、魔法ってすげーっすね」
549:
地下4階
タッタッタ
竜人「すいません。あなたたちのアジトに入らせてもらいました」
仮面「は!?」
魔女「ちゃんと掃除した方がいいよ」
仮面「るせー。てか何勝手に入ってんだよ。
 ああ、見取り図を見たんだな?だからここの裏口を知ってたってわけだ」
竜人「二つ訊きたいことがあります。走りながらでいいので答えてください」
竜人「昼から続いてるあちこちでの暴動、あれはあなたが?」
仮面「まあな。って言っても俺がしたのは人家がない路地裏とか空き家に少しばかり火薬を仕込んで爆発させただけだ」
魔女「テロじゃん」
仮面「一応近隣の住民に許可とったよ。何気にノリノリな奴が多くてな。
 あちこちで騒ぎを起こして、牢獄に集中してる騎士兵士を分散させたかったんだ」
 
仮面「でも俺が起こしたのは最初の数件だけだぜ。後は勝手に民衆がやってくれた」
竜人「今逃がした人たちも加わって、さらに苛烈になるでしょうね……騎士もお気の毒に」
魔女「今夜は眠れないね」
550:
騎士「なんだおm」
魔女「死ねぇぇぇ!」
竜人「違うでしょうが!睡眠睡眠!」
老女「ありがとうございます……この恩は忘れません」
商人「外でド派手な花火あげてやるぜ!俺は勇者やあんたらを応援する!がんばんな!」
バタバタ……ドタドタ……
盗賊1「順調に国民を解放できてますね!」
盗賊2「こんなに多くの人が捕まってたなんて、驚きだ」
仮面「牢も広いから面倒だな……。が、もうここまで来たら意地でも全員逃がすか。
 その方が後に有利になりそうだしな」
竜人「しかし意外ですね」
仮面「あん?」
551:
魔女「仮面君が勇者を助けるために、こんなに頑張るなんて、ね。 君ツンデレ?」
盗賊1「兄貴はクールに見せかけて、内に燃えたぎる魂をもつ熱い男だぜ!」
仮面「別にただの乗りかかった船だ。それにまだ、あいつに報酬をもらってねぇからな。
 人探ししたり、雪山に獣退治しに行ったり、いくら請求してやろうか今でも楽しみだ」
 
魔女「素直じゃないんだからー」
仮面「ニヤニヤするんじゃねぇ!!」
仮面「で?竜男、お前のもうひとつ俺に訊きたいことってなんだよ?」
竜人「ああ……」
地下6階
竜人「あなたの正体は――……」
??「止まれッ!!」
竜人「!?」
552:
仮面「だれだ!?」
騎士団長「貴様らこそ、何者だ!!この先は通さんぞ」
騎士副団長「こいつら、どうやってここまで!?」
竜人「今までいた騎士たちとは装備が違う。見るからに手ごわそうですね」
盗賊1「こ、この二人、騎士団長と副団長だ」
盗賊2「に、逃げて別ルート探した方がいいっすよ!!」
魔女「大丈夫、まかせてよ。全体睡眠魔法!」
団長「なっ……!? この呪文……貴様、魔族か!!どうやってこの国に入りこんだ!?」
魔女「あ、あれ?効かない?」
団長「副団長、お前は国王様にこのことを知らせに行け。ここは俺が受け持った」
副団長「はい!」
竜人「それは……まずい。とてもまずい!待て!」
団長「貴様らの相手は俺だ」
竜人「くっ」
553:
魔女「混乱魔法!麻痺魔法! あーもーなんで全然魔法が効かないの!?」
団長「俺に呪いは効かない。『破魔の指輪』を装備しているからな」
魔女「そんなのアリ!?」
団長「まとめてかかってこい! 一網打尽にしてくれる」
仮面「フン……いいぜ。一度その高い鼻へし折ってみたかったんだ」
盗賊1「魔法が効かないなら!」
盗賊2「レベルをあげて物理で殴れ!」
仮面「相手は槍使いだ。リーチが長いが、懐に入り込めればこっちの勝ちだ」
竜人「数の利を生かしましょう。連携が大事ですよ!」
団長「推して参る!!」ゴォッ
558:
竜人「数の利を……」
ブォンッ!!
竜人「生かし……」
ブォンブオンッ!!
竜人「連携が……」
ブォンブオンブォンッ!!
竜人「ええい! できるわけあるか!!」
盗賊1「つ、つええ」
盗賊2「うわぁあ!」ドサッ
団長「自ら牢獄に侵入してきたことを後悔するがいい。今に貴様らの背後にある牢にぶち込んでやる」
仮面「はぁ……はあ……薙ぎ払いが厄介だな。4人で囲い込めればかなり有利になるはずなんだが」
団長「うおおおおッ!」
ガッ!!
盗賊1・2「ぬわーっっ!!」
559:
魔女「ひゃっ……君たち大丈夫!?」
盗賊1・2「」
仮面「おい、しっかりしろ!!」
魔女「気絶してるだけみたいだけど……」
竜人「なんて馬鹿力だ……戦士さんに勝らずとも劣らずですね」
団長「他愛もない。あとは3人か」ブンッ
竜人「!」
仮面「うおっ!!」
竜人(このままじゃ防戦一方だ。ここで時間をとられるわけには……っ)
団長「終わりだっ!!」
560:
竜人「…………っ!」ブンッ
仮面「お前なにしてんだ!!?頭沸いてんのか!」
団長「なにっ!? 剣を投げ……っ!?…………が」
団長「避けられぬとでも、思ったのか!!」
ズブッ!!
竜人「ぐっ……っげほ……」ガクッ
魔女「竜人!!」
団長「…………。……!?」グッ
竜人「……死んでもこの槍、離しませんよ。仮面さん!今のうちに!」
団長「貴様……!まさかそのために……!」
仮面「うおおおおおおっ!!」
団長「ぐああぁ!!この……賊めが……!!!」
561:
団長「……っ」グラッ
団長「……ならん!!」グッ
仮面「しぶてぇ野郎だな……!!」
団長「この程度の傷で……俺は倒れん……ここは通さん!!!」
団長「槍がなくとも、この身ひとつで事足りる!!」
仮面「こちとらもたもたしてる時間なんてねーんだよ、……!?」
団長「……?」
盗賊1・2「「おりゃああああああああああああああああ!!」」スパッ
団長「貴様ら……!?」
団長「しかし虫けらが一匹だろうが三匹になろうが、変わ……」
団長「か……k……!?」ガクッ
団長「n……に……を……」
562:
盗賊1「痺れて動けねぇだろ?象でも動けない痺れ毒だ」
盗賊2「竜には効かないみてぇだけどな」
団長「…………!!」
盗賊2「魔法がだめなら物理で状態異常だ」
盗賊1「騎士団団長撃破!!」
仮面「お前ら……たまには役に立つじゃねぇか!さすが俺の子分だぜ!」
魔女「大丈夫?無茶しないでよ、もう」
竜人「ええ……」
仮面「おい、死んでねえか竜男!」
竜人「……平気ですよ。竜族は生命力強いので、これくらいなら……いてて」
魔女「あたし治癒魔法あんまり得意じゃなくって……ほんと応急処置くらいしかできないんだけど」
竜人「十分です。さあ、いつ追手が来るとも限りません。行きましょう……」
仮面「……次がいよいよ最下層だな」
563:
地下7階
仮面「オラァー!てめぇら助けに来てやったぜ、跪いて感謝しろ!!」
神官「ひえ!?」
戦士「仮面!?盗賊も……竜人と魔女も!?お前ら、どうして」
竜人「助けに来ました……って、何故二人だけ……?」
神官「さっき騎士団長さんと副団長さんが来て、勇者様は最下層の地下牢に移されてしまいました。
 街で暴動が起きているから、用心のために特別な牢に入れると……」
魔女「えー」
竜人「地下7階が最下層では……?」
仮面「おかしいな……ここより下なんてなかったはずだが」
盗賊1「解錠ならまかせてくだせえ」カチャカチャ
盗賊2「ピッキングなら誰にも負けねえ」カチャカチャ
戦士「助かった。心から礼を言う」
神官「ありがとうございます……!」
魔女「よっし。で、勇者の牢にはどうやって行けばいいの?」
戦士「この通路の奥に連れていかれていた。行ってみよう」
564:
仮面「あぁ!?行き止まりじゃねぇかよ」
戦士「一体どこに階段が……」
盗賊1「ここまで一本道だってえのに、どこに消えちまったんだ?」
魔女「どーなってんの??」
竜人「…………」
神官「竜人さん?」
竜人「……そこの床だけ、音の反響が違います……恐らく空洞になっているのではないかと」
仮面「よく分かったな。全然違いを感じねえよ」
魔女「でも取っ手なんかないし、床を壊せそうもないし、万事きゅーすだね」
神官「うーん、きっとどこかに仕掛けがあるんじゃないでしょうか……」キョロキョロ
戦士「目に留まるのは燭台くらいか……。む」
戦士「ほかの燭台は埃で汚れていたり錆びているのに、この燭台だけ妙に新しいな」
神官「あ、ちょっと待って……」
盗賊2「お、右に回せる」ガチャ
ガコン
盗賊2「ぎゃあああああああああああああああ」ヒュー
神官「落とし穴!わ、罠です!」
戦士「うおおおおおおおおおおおお」ガシッ
盗賊2「はあ……はあ……死ぬかと思った……」
565:
神官「さ、さすが最下層への扉ですね。意地悪なトラップです。
 ……目立たないですけど、この壁の石だけダミーでずらせるのをさっき発見して……」
神官「多分この窪みに手の平を合わせれば、階段が出没するのかと思います」
盗賊2「先に言ってくれねぇか」
神官「ごめんなさい! えっと……じゃあやってみますね。一応気を付けてください」
神官「……えいっ」
ゴゴゴゴ……
神官「あ、開いた!」
戦士「暗いな……用心して行こう」
竜人「……私は夜目がきくので、先導しましょう」
魔女「どきどきするね」
566:
勇者「………………はぁ」
勇者「俺、なにやってんだろ……、ん?」
キサマラ ナゼココニ 
 ウギャアアアア アベシッ
 
 
勇者「……なんだ?」
神官「勇者様!大丈夫ですか!?」
勇者「え……!?お前ら……!」
魔女「勇者!完全に姫ポジションの勇者!助けに来たぜっ!」
勇者「情けなくて泣きたくなるから姫ポジションとか言わないで!自覚してるから!」
仮面「この檻……なんだ?扉も鍵も何もねぇ。どうやってお前、この牢に入れられたんだ?」
竜人「なんだか変な感じがします。ただの金属でできていないのかも……いたたッ」バチッ
勇者「それ以上近づくな。この牢は特別製らしくてな、魔法で結界が張ってあるんだ」
勇者「術者が解錠するか、死亡するかしないと俺は出られない」
神官「術者って、宮廷の魔術師のことですよね……ええええ、どうしましょう」
竜人「斬り続けたら結界が壊れたりは……」
仮面「しねぇな。実体がないものはいくらなんでも斬れねえよ」
567:
魔女「竜人が竜に変身してブレスかましてみれば?」
竜人「こんな地下で竜に戻ったら全員生き埋めです……もう少しここが広かったらよかったんですけど」
仮面「んだよ、せっかくこんな地下深くまで来たってのに!!」
勇者「……みんな、本当にありがとな」
勇者「でももういい。俺は牢に残る。すぐに騎士たちが来るだろうし、早くここから逃げるんだ」
神官「なに言ってるんですか、このままじゃ処刑されちゃいますよ!」
竜人「諦めないでください。何か手はあるはずです」
勇者「情けないけど、お前らに全部頼んだ。俺のことは気にせず、認定書をまた取りにいってくれ。
 国王は俺の処刑まで王都に目を配るだろうから、その隙にこの国を脱出しろ!」
魔女「馬鹿言わないでよ。君が死んだら魔王様泣いちゃうよ」
勇者「ここで全員捕まったら魔族はどうなる?……俺のことは本当に気にするな」
勇者「魔王によろしくな」
竜人「……」
勇者「それから、仮面。お前の事情も知らずに、いろいろ巻き込んでごめん。無礼を承知で、恥も忍んで言うけど」
勇者「どうか、みんなを……魔族を、俺の仲間を頼みます」
仮面「……なんで急に畏まった言葉なんて使ってんだよ」
568:
勇者「だってお前、」
勇者「この国の王位継承者だろ?」
569:
仮面「……………………」
仮面「………………は?」
勇者「! おい、後ろだ!!」
仮面「くっ!?」バッ
カランッ……カランカラン……
騎士「動くな!!」
射手「頭をカチ割るつもりだったのに。割れたのはその変な仮面だけか」
神官「もう追手が……!」
竜人「え?」
魔女「……君、それ……」
勇者「…………お、前」
勇者「その顔の傷跡、なんだよ?」
仮面「なんで俺なんかを王子と勘違いしたのか知らねえが、的外れだぜ」
仮面「俺は王子じゃない」
勇者「はあああああ!?!?」
570:
勇者「左目の泣きぼくろは!?」
仮面「見ての通りそんなもんねぇ」
勇者「首の傷は!?いつも巻いてる布、傷跡を隠すためだろ!?」
仮面「ちげーよ。ただ不格好な痣があるから隠してるだけだ」
勇者「だっ……お前……ふざけんなよ!!!紛らわしいんだよ!!!」
仮面「勝手にてめぇが勘違いしたんだろうが!!」
騎士「ごちゃごちゃと騒ぐな!全員でかかれーっ!」
「「「うおおおぉぉ!!」」」
神官「もうだめです!これ以上ここにいられません!」
戦士「ぬ……!!勇者ぁ!!!」
勇者「なんだ!」
戦士「お前の剣があれば、その牢も断ち切れるのではないか!?」
勇者「え!? でも、剣は宮殿に保管されてるはずだ。取りに行く時間なんて」
戦士「できるのか、できないのか、どっちだ!!!」
勇者「…………ッ」
勇者「……ああ、できる!やってやるさ!!!」
戦士「そうか!ならば待っていろ!!すぐに持ってきてやる!!」
571:
戦士「よし!!地上まで駆け抜けるぞ!!」
仮面「武器のないオッサンと神官は下がってろよ。俺たちが切り開く!」
戦士「いや、俺が先を行く。竜人、剣を貸してくれ」
竜人「……どうぞ」
戦士「俺にまかせろ。行くぞ、仮面!盗賊!魔女!!」
盗賊1「おお!!」
盗賊2「邪魔だああああどけぇぇぇ!!」
魔女「あたしも出来る限りサポートするよ!」
神官「勇者様、待ってて下さい!!必ず戻ります!!」
勇者「ああ……悪いな。気をつけろよ!」
572:
宮殿
国王「まだ牢に侵入した人間と魔族は捕えられていないのか?」
大臣「はい……騎士団が健闘しているのですが、まだ報告はありません」
国王「まさか魔族が、私の国にな……なめられたものだ」
国王「必ず捕えろ。殺しても構わん。しかし問題は魔族のことだけではない……」
大臣「はあ……暴動が、鎮圧しても鎮圧しても次から次へと起きてまして……
 明日の朝には宮殿の前に詰め掛けかねない勢いです」
国王「……何故わからん。私こそ国民のことを第一に考えているというのに。
 やはり群衆は愚かだ。理性ではなく感情や情緒で判断する生き物だ」
大臣「殿下、もう夜も更けます……。そろそろ休まれては」
国王「……」
573:
草陰
竜人「」
魔女「はーっ はーっ しんどいまじしんどい」
仮面「全員生きてるか……儲けもんだな」
盗賊1「体中いてえ」
竜人「」
盗賊2「ってちょっと!!竜の旦那がしゃべってねぇ!!生きてますか旦那ぁぁ!!」
竜人「ぎ、ぎりぎり……少し体力を消耗しすぎました……ぜえはあ」
神官「うう、すいません……杖があればすぐ治療できるんですけど。
 竜人さんだけじゃなくて皆さんも傷だらけですし……ごめんなさい私役立たずで!生きる価値のないゴミクズで!」
 
魔女「ちょっとここで休もうよ……」
574:
戦士「……やはりお前は王子ではなかったか」
仮面「勇者も言ってたけど、とんでもねぇ勘違いしてくれるな。んなわけねーだろ」
盗賊1「兄貴の素顔初めて見たぜ!男前だ!」
魔女「でもイケメン王子って感じじゃあないかな」
仮面「うっせ」
神官「あの……首の痣って?」
仮面「あぁ、……まあいいか。これだよ」
盗賊2「な、なんですかい?それ。手の形がくっきり残ってら」
竜人「まるで誰かに、首を絞められたみたいな痣ですね」
仮面「その通りだよ。母親に首を絞められた時の痣が、何故かずっと消えねえんだ」
575:
神官「その顔の傷も、首の痣も、あなたは一体……」
仮面「聞いておもしろい話でもねぇけどな。まあ、息を整える間に与太話として聞くか?」
仮面「実はな、俺は貴族の息子として生まれたんだ」
盗賊1「はえっ!?」
盗賊2「えええ!?兄貴が!?」
魔女「じょ、冗談としか思えないなぁ」
仮面「そんなに驚かなくてもいいだろーが。今はこんなんでも昔はお坊ちゃんだったんだよ!」
仮面「……よくあるだろ?貴族の世継ぎ問題。俺の母親は後妻でな、前妻と父親の間には俺と同じくらいの息子がいたんだ。
 俺の兄だな。前妻は俺が生まれる随分前に亡くなった」
仮面「ま、それなりに兄とも仲が良かったんだけどな。そこで親父が逝っちまった。
 そうなると俺と兄でどっちが後を継ぐかで周りの大人がやいのやいのとうるせぇ」
仮面「人一倍俺に跡を継がせたがってたのが俺の母親だ。
 俺は社交も勉強も着飾るのもあんまり好きじゃなかったし、兄の方が出来が良かったから
 普通に兄に継いでほしかったんだがなあ……」
仮面「で、その母親の頑張りが報われたのか跡継ぎは俺に決まった。
 だがやっぱり兄の方が適任だと思ってたんでな、その意思を母親に素直に告げたらこのザマだ」
神官「母親が実の子どもを、跡を継がないからって殺そうとするなんておかしいですよ!そんなの……」
仮面「今思うと俺の母親も貴族として生きてくにゃあ、ちょっとばかしメンタルが弱かったな。
 自分の立場と俺の立場を考えて、ノイローゼ気味になってたんだろ」
仮面「くっだらねえ世界だ、貴族も社交界ってやつも。どいつもこいつもにこにこ笑いながら腹の内では自分の評判と外聞のことだけ考えてる」
仮面「だから俺は家と国をでて、盗賊界のトップに立つことにした!!」
576:
仮面「世界中の埃被ってる宝物を、欲すがままに盗み去る!それが俺の正義だ!!どうだ、恐れ入ったか!!」
盗賊1「まじっすか……」
盗賊2「兄貴にそんな過去があったなんて……」
神官「な、なんかすいません……詮索するような真似をしてしまって」
仮面「おいおい、湿気た面すんなよ。なんか語っちまって恥ずかしいな」
仮面「そろそろ体力が回復したか?宮殿への侵入口を探しにいかねぇとな」
竜人「人間もいろいろ大変なんですね……」
戦士「勘違いしていて悪かったな。仮面の言う通り、そろそろ動くか」
コソコソ……
戦士「俺たちが脱獄したことは既にもう知れ渡っているだろう。
 あれだけ派手に出てきたんだからな」
神官「でも、まさか宮殿に侵入しようとしてるとは思ってないんじゃないですか?」
魔女「見当違いのところ捜してくれてればいいけど」
盗賊1「兄貴、宮殿の見取り図とか知らねえんで?」
仮面「さすがに知らねえよ。宝物庫には興味あったけどな」
竜人「じき、夜が明けます。できれば暗いうちに剣を入手したいのですが……」
577:
竜人「あ。そういえば……この耳飾り、仮面さんのですか?雪の国で見つけたんですけど」
仮面「なんでお前がそれを持ってんだ!?」
竜人「あああぁ……。自分の頭の残念さが悔やまれます」
竜人「金髪で首元を隠してて、やけに羽振りのいい男って、あなたですか……」
仮面「羽振り……ああ。お前らと別れた後、ちょっと……な、いいもん拾ってな」
戦士「どうせ盗んだんだろう」
仮面「盗んだと書いて拾ったと読むんだよ」
神官「めちゃくちゃな」
魔女「でも君、耳飾りなんてつけてなかったよねー」
仮面「別に……値打ちがありそうなもんだったから、いつか売ろうと思ってただけだ」
魔女「ふーん……」
竜人(しかし、仮面さんが王子じゃないとすると、本物の王子は一体どこに……)
竜人(確か勇者様の処刑は――今から60時間後の正午12時)
竜人(それまでに、見つけられるのでしょうか……)
578:
魔王城
魔王「今日は曇りか。雨が降り出さないといいが」テクテク
子エルフ「あ、魔王様だ。おはようございまーす」
キマイラ「おやおや、今日は早起きですね」
魔王「もう一人は?」
子エルフ「今日は風邪で休み!魔王様、一緒に勉強する?」
魔王「いや、今日は……」
魔王「ん……?」
鳥「ピィーッ」バサバサ
魔王「なんだ?……竜人からか」
魔王「…………!」
子エルフ「魔王様?どうしたの?」
キマイラ「顔色が悪いようですが……?」
魔王「…………いや、なんでもない」
魔王「急用ができたので城に戻る」
子エルフ「あっ……行っちゃった。魔王様どうしたのかな、先生」
キマイラ「様子がおかしかったですね……」
579:
魔王「処刑……勇者くんたちが」
魔王「…………」
魔王「…………」
魔王「助けに、行かないと」
魔王「1日……いや、半日で完成させてみせる」
魔王「……待ってて。すぐに行く」
580:
宮殿
騎士「そっちには!?」
騎士「いや、いない」
バタバタバタ…
戦士「……行ったか」
神官「仮面さんが無駄に部屋の宝を物色してるから姿見られちゃったじゃないですか……」
仮面「あまりに見事なダイヤのネックレスだったからな」
魔女「同感」
竜人「二人とももっと緊張感を持って臨んで頂けますかね!?」
仮面「けが人なんだから大声でツッコミ入れんなよ。うるせえし」
竜人「自分でも己の立ち位置が忌々しいですよ……!」
盗賊1「しかし宝物庫ってどこにあるんですかねい」
魔女「じゃあ聞いてみよっか」
神官「え?」
581:
兵士「宝物庫は……西と東にそびえる双塔の……東の方……」
魔女「そっ、鍵はかかってないの?鍵はどこ?」
兵士「わ……わからん……」
魔女「オーケー、もういいよ」
兵士「」ガクッ
魔女「魔女ちゃんお得意の自白呪文でした!」
仮面「便利なもんだな、オイ」
戦士「東の塔、あれか……。しかし鍵は一体どこに?」
竜人「心当たりがない以上、虱潰しでいくしかないですね……」
神官「仕方ない、ですよね。頑張りましょう!」
数時間後
兵士「てやぁー!」ブン
戦士「しつこいぞ!!」
神官「あっ、あっちの角からも援軍が来ます!!」
仮面「埒があかねぇ!やっぱ逃げるぞ!」
魔女「この部屋、入れるよ」ガチャ
582:
戦士「……気づかず通り過ぎたな……
 しかし、敵の数の多さと我々の体力の消耗がネックだ」
盗賊1「昨日からずっと寝ずに戦い続けでへとへとですぜ」
盗賊2「鍵も全然ないし」
仮面「少しここで休憩するか。このままずっと動き続けてたら逆に効率が悪ぃ」
魔女「ねえ、あんた本当に大丈夫なの?顔色悪いよ」
竜人「お荷物にはなりませんよ」
神官「いくら竜族だと言っても、流石に無理しすぎです」
神官「ここ、倉庫みたいですし、包帯か何かありませんかね……」ゴソゴソ
魔女「仮面君の言う通り休もう。……あたしも疲れちゃったよ」
魔女「…………なんか、目閉じたら……急に眠気が……」
盗賊1「扉の鍵……閉めてねえ……うーん」
??「……ん……」
??「……み……さ……!」
魔女「なによぉー……うるっさいなぁ……」
??「起きてください、みなさん。大丈夫ですか!?」
魔女「うーん……?」
584:
魔女「わ!?」ガバッ
姫「きゃ!?」
魔女「え……お姫様?」
姫「大丈夫ですか?ケガはない?驚いたわ……扉を開けたらみなさん座りこんでるんですもの」
仮面「……うおおぉぉ!?!?」ガバ
騎士「ギャー!なにするんですか!!僕です、僕!!姫様お付きの騎士ですよ!!」
仮面「あーびっくりした。思わず首に剣突き付けちまった」スチャ
姫「皆さん、無事でよかった!神官と戦士も」
神官「姫様もご無事でなによりです。でもどうしてここが?」
姫「私も部屋に閉じ込められてたのですが、彼が部屋から出してくれて。
 戦士と神官が脱獄して、勇者がまだ囚われていると盗み聴いたとき、
 あなたたちは絶対勇者を助けるために、宝物庫の勇者の剣を取りにくると思ったの」
姫「で、宝物庫の鍵をこっそり取ってきて、私もあなたたちを探してたのだけど、
 何の気なしに倉庫を覗いたらみんな死んだように眠ってて……
 ていうか死んでるのかと思ったわ。卒倒しそうになったわよ、もう」
585:
竜人「しまった、私たちいつの間にか眠ってしまったみたいですね。
 窓の外がもう暗い。ざっと2時間経過したところでしょうか……」
魔女「でも、お姫様とすれ違いにならなくてよかったじゃん!結果オーライ!」
盗賊1「体も軽いっす!腹は減ってるけど!」
騎士「だと思って、わずかばかりですが厨房から食料も持ってきました。パンや水ばかりですけど、よければ」
仮面「うお!気がきくなぁ!」
姫「それから、怪我してる方もいるだろうと思って、いろいろ医療室からかっぱら……拝借してきましたわ。
 とりあえず竜人さん、あなたのお腹の傷診せて下さい。出来る限り治療して見せます」
 
竜人「……助かります」
姫「これから宝物庫に?」
竜人「ええ」
姫「気を付けてくださいね。私も鍵をとった直後に、こっそり宝物庫に侵入しようと思ったのですけど、
 多くの魔術師が塔への道に集合して何かやってて、見つからずには通れなかったの」
騎士「何か仕掛けてるのかも」
仮面「かもっていうか、ぜってえ仕掛けてんだろ」モグモグ
魔女「だるいねー」モグモグ
戦士「しかし、行くしかなかろう……俺と神官の武器もそこにあることだし」
586:
姫「……はい。とりあえずですけど、傷の手当てはこれで終わりです。
 造血剤の効き目はどうです?」
 
竜人「ありがとうございます。大分楽になりました」
盗賊1「顔色も少し戻ってきてるみてぇですね」
姫「魔族の方にも効き目があってよかった……。でも無理は禁物ですわ。
 私も専門の知識を持っているわけではないので、応急処置の域をでませんもの」
 
竜人「本当に助かりました。ここでへばるわけにはいきませんからね」
竜人「姫様が来てくれてよかったです」
姫「そ……そう言って頂けると……そっそんなの当然ですわ!感謝してくださいまし!!嬉しくなんてありません!!」
騎士「姫様、キャラがブレブレです」
魔女「そんなイチャイチャしてると、宝物庫で死亡フラグ回収〜なんて事態になってもしらないよ〜」
竜人「誰と誰がイチャイチャしたって言うんです。さて、じゃあ準備を整えたら宝物庫に向かいますか」
仮面「面倒なことにならなきゃいいがな……」
596:
魔王城
魔王「…………よし!できたっ」
魔王「私の魔力を分断してここに留める魔術。
 これで結界を私から独立して張り続けることができるから、王都に私も勇者くんたちを助けに行ける……」
 
魔王「さて、問題はどれくらいの魔力を私から切り離すか、だ」
魔王「…………私が無事帰ってこれるとしたら、残しておく魔力は数日結界を張るくらいの量でいいわけだが」
魔王「…………」
魔王「そういうわけには、いかないだろうな」
魔王「一応……1年分……いや3年分くらいの魔力をここに残しておいた方がいいかな」
魔王「すると私の身に残る魔力は半分のそのまた半分以下くらいになってしまう……けど、
 無駄な消費を避ければ十分戦えるだろう」
 
魔王「よし、魔術発動」
パアァァァ……
魔王「……う……なんか変な感じだな。一気に魔力が減ったせいで、めまいが」
597:
魔王「……処刑まであと40時間弱か。急がなければ」バサッ
バサバサバサ…
窓の下
子エルフ「……」ヒョコ
子エルフ「魔王様、今日元気なかったからおやすみって言いに来たんだけど」
子エルフ「処刑って??だれがだろ……」
子エルフ「魔王様、どっかに飛んで行っちゃった。先生に知らせた方がいいかな……」
598:
王都
神官「あれが宝物庫のある塔です。あそこに行くには、この橋を渡るしかありません」
竜人「暗くて足元が見えにくいですね。気をつけないと」
魔女「結構大きい橋だねー。さっさと渡っちゃおうか」
戦士「しかし……姫様たちと別れてから、橋の前に来るまで、全く騎士や魔術師に遭遇しなかったな。
 不気味なほど静まり返っていた」
 
仮面「ラッキーだったじゃねぇか」
戦士「ただの幸運で済ませられればいいがな」
神官「姫様が言っていたことも気になりますね。見たところこの辺りに人はいないと思いますが……」
仮面「いないならいないでいいっつの。さっさと行こうぜ」
599:
魔術師X「……来ましたよ、魔術師長」
魔術師長「来たわね。うふふふ」
魔術師Y「発動させますか」
魔術師長「まぁだ。まだだめよ。もっと橋の中央に来てから……うふふふふ。楽しみね」
魔術師長「私とあなたが一緒に研究したこの魔術。早く発動させたいわぁ。ねえ?召喚師長サン」
召喚師長「うまく発動すればいいけどね。これだけの魔術師、召喚師を動員して発動させる魔術なんて、初めてだよ」
召喚師W「尽力しますよ、僕たちも」
魔術師長「さあ、そろそろね。みんな、配置について」
召喚師長「……普段でかい顔している騎士団を見返してやろうじゃないか」
魔術師長「うふふ、あいつらって真正面から剣を振り回すしか脳がないんだから、野蛮よねぇ」
召喚師長「戦い方などいくらでもあるというのに。相手の弱点を探り、その弱点をさらけ出すしかない状況を作り出す」
魔術師長「それから罠にかけて追い詰めて、じわじわ弱らせていくのよ。うふふふふふ。楽しみ」
召喚師長「それじゃあ、やろうか。みんな集中してくれ」
600:
魔女「……ん……?」
神官「…………あれ……なんか……竜人さんか魔女さん、いま魔法使いましたか?」
竜人「いえ?」
魔女「気をつけて……なんか来るかも」
仮面「なんか、ってなんだよ。もっと具体的に――あ!?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
不死鳥「ここは……通さぬ!!」
盗賊1「!? ほ、炎がしゃしゃしゃべ……!?なんだこりゃ!!」
盗賊2「め、めちゃくちゃでけぇぇ!!ま、魔物っ!?」
魔女「いやあんな魔族知らないんだけど」
神官「これは……幻獣です!
 宮廷の召喚師が作り出す魔法生物……でも、人の言葉を話すほどの知能をもった幻獣だなんて」
 
神官「しかもこんな大きな生物、初めて見ました。恐らく魔力も攻撃力もケタ違いのはずです!気をつけてください!」
戦士「やはり仕組まれていたか……戦うより宝物庫まで突っ切った方がい!駆け抜けるぞ!!」
不死鳥「させぬ!!」
ゴオオオォォォォオォッ!
601:
魔女「ちょ……橋、燃え尽きちゃったんですけど」
仮面「なんつー火力だよ!!こりゃあやべえんじゃねえか!?」
魔術師長「うふふふ、焦ってるわ。焦ってる。でもまだまだこれからよ」
召喚師長「成功か……知能のある幻獣を召喚できたのも、全て君たち魔術師の協力のおかげだ」
魔術師長「私たちもいい研究データが得られてメリットばかりよ。例には及ばないわ」
602:
召喚師長「さて、次は彼らの退路を断つように伝えてある」
魔術師長「進むことも戻ることもできなくなって逃げ場がない状況で、あの不死鳥が橋をも溶かす炎を吹いたらどうなるかしら」
召喚師長「大人しく燃えてくれるのもおもしろいけど……」
魔術師長「いやね。そんなの興ざめだわ。――きっと彼らは、空に逃げるはずよ」
召喚師長「本当にあの中に竜族の生き残りが?」
魔術師長「そのはずよぉ?私は参加してないけれど、以前兵士たちとともに魔王城を襲撃したときに、
  王国軍と戦ったのはたった3人の魔族……魔王に魔女、竜と聞いてるわ」
  
魔術師長「その魔女の姿を見た者が騎士の中で何人もいるわ。なら竜の方もこっちに来てるって考えるのが妥当でしょ?」
召喚師長「へえ……にしてもまさか本当に魔族が勇者を助けにね……」
魔術師長「私自身は勇者に恨みも何もないし、むしろ好感を持っていたのだけどね。あなたもでしょ?」
召喚師長「まあ、ね。でも……仕事だからね」
魔術師長「しょうがないわよねぇ」
603:
バサッバサッ
魔術師Z「……竜だ!本物の……」
召喚師S「すごい……データとらなきゃ」
魔術師長「ほらほらぁ、ね。言った通り。竜がみんなを背に乗せて逃げるはず、あたったわ」
召喚師長「不死鳥と大きさは互角か。思ったより大きい竜だな」
魔術師長「うふふ、でもあの竜、手負いなのよねぇ。あの暑苦しい騎士団団長と交戦したときの傷……まだ治ってないはずよ」
召喚師長「彼らはここから逃げて一旦体勢を立て直そうとするだろう。でも逃がしはしない。
  追ってくれ、不死鳥。絶対にここから逃がすな。あの竜を空中にとどめるんだ」
不死鳥「了解した……」
魔術師長「うふふ、全部計算通りね。空中戦をできるのはあの竜と、箒にのって飛べる魔女だけ……あとの5人はただの人間。
  でも彼らが仲間だって言うなら、飛ぶことのできない人間を背に乗せて空に留まるしかない」
  
召喚師長「既に橋はほぼ壊されて、地上であの不死鳥の炎から逃れる術はないからね」
魔術師長「彼は手負いでいつまで飛べるのかしら?いつまで不死鳥の攻撃をかわせるかしら?」
召喚師長「せっかくなら賭けるかい? ははは…」
魔術師長「遠慮しておくわ……あなた強いんだもの」
604:
不死鳥「いつまで逃げるのだ? 我が炎を受けてみよ!」
竜「…………ッ」
魔女「はあ、ぎりぎりで箒召喚できてよかった……けど、どうすんの!?こいつ!弱点とかないわけ?」
神官「弱点……炎を纏った鳥……や、焼き鳥……?」
戦士「しっかりしろぉぉ神官!!焦るのは分かるが冷静になって考えてくれ!!」
仮面「おいおい、こんな怪獣相手にするなんて聞いてねーぜ!剣で攻撃しようにも、近づいただけで全身燃えちまう!!」
盗賊1「絶体絶命のピンチ……って、わああ!?竜の旦那、ち、血が……」
盗賊2「大丈夫なんですかい旦那!!」
竜「……」コクン
魔女「危ない!来るよ!!」
ゴオォォォォォッ!!
605:
魔女「沈黙呪文!!麻痺呪文!!」
不死鳥「ふん…」
魔女「混乱呪文!!」
不死鳥「無駄だ…………む!? ぐぐ……」
神官「!!効いた!?」
不死鳥「……一瞬囚われてしまったが、もって数秒。どの道無駄だ、逃しはしない!」
魔女「ちっ 混乱だけ効くみたいだけど、ほんの少しの間だけみたい。
 竜人……あんたそろそろ限界なんじゃないの?大丈夫!?」
 
竜「……」ギロッ
仮面「やせ我慢してんじゃねーよ、うざってぇなあ。お前らと一緒にこのまま燃えカスなんて、俺ぁごめんだぜ」
神官「ちょっと、そういう言い方はないんじゃないですかっ!」
戦士「よせ、……なにかほかに言いたいことがあるのだろう?仮面」
仮面「……魔女、またあの焼き鳥野郎に呪文をかけろ」
魔女「数秒しか効き目ないけど、いいの?」
神官「魔女さん、前!!」
ゴオォォォォォォッ!!
 ゴオォォォォォッ!!
 
 
606:
戦士「魔女!!!」
盗賊1・2「姉貴ぃぃぃぃ!?」
魔女「ここ! 間一髪、転移魔法で避けたから平気……じゃない!!」
魔女「っぎゃー!あたしのローブの裾燃えたああああああぁっ!!」
戦士「竜人も、翼が……」
仮面「魔女、ローブぐらいでぎゃあぎゃあ騒いでないで、早くしろ!」
魔女「っるさいな、やってやるわよ!!こんのぉぉぉっ、本物の魔族なめんじゃないわよ!!混乱呪文!!!」
不死鳥「む……っ」フラフラ
仮面「よし!」ヒュッ スタッ
神官「仮面さん!? な、えっ!?地上に降りたら……!」
仮面「俺があいつをなんとか引き留める。あいつが混乱している間にさっさと宝物庫に行け!!」
戦士「お前……とことん素直じゃないな」
仮面「へっ、まあな。でも長くはもたねえだろうから、俺が燃やされる前に早く勇者の剣と武器とって戻ってきてくれよ」
盗賊1「兄貴!俺たちも手伝いやすぜ!!」スタッ
盗賊2「もちのロンでさぁ!!」スタッ
魔女「本気?どうやってその剣で……」
仮面「うるせー!!やろうと思えば人間……いや、生物はなんだってできんだよ!!早く行けっ」
魔女「ありがとね! 行こう竜人!!今の内に!」
神官「必ず勇者様の剣を取り戻してきます!!仮面さん……あの、さっきはすいませんでした!」
607:
不死鳥「……む?竜と女……!!宝物庫には行かせぬぞ!!待て!!」
仮面「待つのはテメーだ、焼き鳥野郎。おーいこっちこっち」
仮面「(おい、お前ら。ありったけの罵詈雑言であの鳥を挑発しろ)」
盗賊1・2「(? 了解っす!)」
盗賊1「やーいやーい焼き鳥野郎!味付けは塩か?たれか?」
盗賊2「そんなチンケな炎で俺たちに勝てると思ってんのかぁ?俺たちゃ天下の大盗賊団だぜ!!」
仮面「てめぇみたいな鳥なんか、飽きるほど相手してきたってんだ。遊んでやるからかかってこいよ、チキン野郎」
不死鳥「貴様ら……我を愚弄するのもいい加減にしろ……」
不死鳥「骨さえ燃やしつくしてくれるわ!!」
ゴオォォォォォォ
召喚師長「うわ、まさか人間3人を囮にするなんて。読みが誤ったな」
魔術師長「不死鳥サン、そっちの人間じゃなくて宝物庫に向かってる竜と魔女を追ってちょうだい!」
不死鳥「ちょこまかと逃げおって!!さっさと燃え尽きてしまえ!!!」ゴオオ
魔術師長「ちょ……聞いてる?」
召喚師長「おーーい!そっちじゃなくって!!あっち追って、あっちーー!!」
不死鳥「死ねぇぇえぇええええ」ゴオオ ゴオオ
召喚師長「……知能つけない方がよかったかな……」
魔術師長「かもねぇ」
608:
ガチャガチャ
神官「あ、開きました!」
戦士「武器がごちゃごちゃしていて分かりにくいな。2階まであるぞ」
神官「! 私の杖!よかった……竜人さん、いま治癒魔法かけますから!魔女さんは怪我ありませんか?」
魔女「あたしはローブが焦げただけだから大丈夫」
神官「……はい、終わりです。大丈夫ですか?」
竜人「すごい……あっという間ですね。聞いてことのない言語の呪文でしたが、あれは?」
神官「あれは古代の言葉ですよ。神への祈りの言葉です。
 私たちが使う魔術はあなたたちとは根本的に違うんですよ。私たちが使う魔法は全て『神の奇跡』ですから」
 
竜人「神……」
神官「神様の偉大なる力を祈りによってお借りしてるに過ぎません。私自身は何の力もないんです」
竜人「神は実在していると考えているんですか?」
神官「え?」
竜人「いえ、神官なのですからそうに決まってますよね……すいません。なんでもないです。私たちも勇者様の剣を探し……」
戦士「見つけたぞ!勇者の剣だ!!」
魔女「戦士の大剣もここにあったよー。ほい」
609:
神官「よかった!これで勇者様を牢から救えます!」
戦士「それより前に仮面たちのことが気になるな。早く行こう。竜人、もう平気なのか?」
竜人「ええ。今ならあの不死鳥とも空中戦をやり合えますよ。さあ、では……」
カシャンッ!
魔女「わ、ごめん。なんかひっかけて落としちゃった。割れてるし」
竜人「国宝割るとか、恐ろしいことしますね」
魔女「やばいかな。なにこれ……『忘れじの鏡』?」
神官「……変ですね。これ、偽物じゃないですか?本物だったら落としただけで割れませんよ」
神官「忘却呪文を一切跳ねのけるっていう鏡です。古くからここに保管されてると聞きますが……」
竜人「………………ん?」
魔女「………………忘却呪文を?」
610:
竜人「…………え。ちょっと待ってください。…………」
魔女「………………ここにあるのが偽物だとしたら、本物は誰かが持ち去ったってことだよね…………」
戦士「どうかしたか?二人とも」
神官「この鏡がなにか?」
竜人「……」
魔女「……」
竜人「……」
魔女「……」
竜人「…………イエ、ナニモ……」
魔女「…………ハ、ハヤク、カメンクンタチ ノ トコロニ……イカナイト……ネ」
戦士「お、おい。どうした本当に。汗がすごいぞ」
611:
神官「…………」
神官「ほかにやるべきことが見つかったんじゃないですか?」ニコッ
魔女「でも……」
神官「勇者様のこと、それから仮面さんたちのこと、私たちにまかせてください。ね、戦士さん」
戦士「よく分からんが、お前たちがほかにやるべきことがあるというのならそちらを優先してほしい」
竜人「しかし……空を飛べる私や、混乱呪文を使える魔女を抜かしてどうやってあの鳥に……」
魔女「みんなを見捨ててあたしたちだけ助かろうなんて、できないよ……。
 魔族のあたしたちと一緒に戦ってくれた、大事な人たちだもん」
 
神官「大事な人たちじゃないです」
魔女「えっ」
神官「私たち、仲間です!」
戦士「仲間に必要不可欠なのはお互いを信頼する気持ちだ。俺たちを信じろ、魔女、竜人」
神官「そうです。私、勇者様と戦士さんと旅してひとつだけ学んだことがあります……
 『やけくそで思いきってやってみたら、案外なんでもできる』ってことですよ。あはは。私たちのパーティらしい」
 
戦士「それで全部乗りきってきたんだ、俺たちは。 行け、二人とも。あとはまかせろ」
神官「私もお二人のこと、信じてますから。神のご加護があらんことをお祈りしています!」
魔女「……ありがと!絶対王子連れてくるからね!!」
竜人「信じてますから、絶対後でまた会いましょう。仮面さんたちにもよろしくお伝えください」
竜人「転移魔法!」
シュンッ
614:
神官「……行きましたね」
戦士「俺たちも、仮面たちのもとに。橋は溶けてしまったが、なんとかして向こうへ行こう」
神官「はい。よいしょっと」
戦士「……神官、それは『神殺しの大弓』では?」
神官「ええ、そうですよ。一応遠距離攻撃用の持っていった方がいいかと思いまして」
戦士(神職が神殺しって……)
神官「ふふ。私の神学校時代のあだ名、知ってますか? CHの鬼ですよ」
戦士「CH……まさか!?」
神官「そう、私のクリティカルヒット率は95%です。攻撃力は弱いですけどね」
戦士「俺より高いだと!?」
神官「…………ふふっ」
神官「昔の血が騒ぎますよおおおおおおおおおおおおおっっ!!行きますよ、戦士さん!!!!!!!!」
戦士「お…おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!??」
615:
魔王城
竜人「うかつでした……盲点でした。いえ、言い訳なんてできません。もっと早く気づいていれば!!アホか自分は!!」
魔女「すぐに魔王様にあの魔術を使ってもらおう。この、彼……でいいんだよね?からもらった顔パックを使って、王子の居所を教えてもらわないと」
竜人「……魔王様! 魔王様?おや……城にはいないみたいですね。魔王様がやるより時間がかかってしまいますが、自分たちでその魔術を発動させましょうか」
魔女「急がないといけないもんね」
竜人「……ふう……なんとかうまくいった」
魔女「ええと?彼は雪の国と星の国の中間地点くらいにいるみたい……ていうか移動中?」
竜人「今は午前4時……処刑まで約32時間ってところですか。
 今日は私も魔女も転移魔法を使ってしまいましたし……飛んでいくしかなさそうですね」
 
魔女「えーと。太陽、雪、星の三国って上から見ると、それぞれ三角形の頂点になってて
 国同士は、あたしたちが飛んでいくと10時間くらいかかるよね?」
 
竜人「馬で走ると倍以上かかりますけどね。ええ、10時間」
魔女「じゃ、その王子がいまいるところに一直線に行けば、7、8時間くらいでいけるからー。
 往復16時間くらいで帰ってこれる。よっしゃ、余裕だね!」
 
竜人「いや……まず、星の国、王子の場所、雪の国という順番で行きましょう」
魔女「はっ!?なんで!?」
竜人「なんでもなにも、忘れましたか?神官さんと戦士さんが言ってたでしょう。認定書が燃やされてしまったんですよ。
 もう勇者様たちも私たちも助かるには、王子に今日か明日、王位を継承してもらわないといけません。
 彼には突然の話で悪いと思ってますけどね」
 
魔女「あ、そっか。そうだよね、もうあっちの王様、今回のことでカンカンだろうし。勇者たちもずっと危ないし」
616:
竜人「星の国まで10時間。認定書をもらって、王子を見つけて、雪の国まで10時間。そこでまた認定書をもらって、太陽の国に帰ってくるまで10時間」
魔女「合わせて30時間かー……ギリギリ処刑には間に合うね」
竜人「ええ」
コンコン
竜人「ん?来客ですね。どなたでしょう」
キマイラ「すいません、失礼します。竜人様も魔女様もお戻りになられてたんですね」
子エルフ「大変だよ!聞いて聞いて!」
魔女「大変て、なにが?」
617:
竜人「え!?魔王様が王都に!?でも……結界は張られたままですよね?この結界は術者が結界内にいないと発動しないはずですが……?」
子エルフ「ほんとだよ、バサバサって飛んでったの見たよ!」
魔女「……魔王様の部屋と、結界の魔法陣がある部屋、見てきた。自分の魔力を切り取って、独立して結界を発動させてるみたい」
竜人「そんなことが……!?」
魔女「しかも、結構な量の魔力がここに残ってたよ。結界が何年も張れるくらいの膨大さ。
 魔王様に残ってる魔力は微々たるものだと思う」
 
キマイラ「……魔王様……それなら我々のことを気にせず、結界を解いてくださってよかったのに」
グリフォン「本当にね」
子エルフ「グリフォンさんいたの……」
竜人「そんな僅かな魔力で王都なんて行ったら、魔王様といえど危険ですよ!まさか……。……いや、なんでもありません」
魔女「…………ッ!!」
竜人「魔女!どこに行くつもりです」
魔女「どこって……決まってんじゃん!王都に魔王様を連れ戻しに行くの!」
618:
竜人「…………………王都に行ってる時間はありません。星の国の都の方向とは大分違いますから」
魔女「王子を連れてくるのも、どっちか一人がやれば十分じゃないの?」
竜人「空を飛んで移動するんですよ。ということは、どう頑張っても人の目に止まります。
 なにがあるか分かりません。一人より二人の方が確実でしょう」
 
魔女「……じゃあ!竜人は魔王様を見捨てるって言うの!?絶対あの子死ぬ気じゃん!
 そんなの絶対許さない!竜人がなんと言おうと、あたし魔王様を止めてくるから!!」
 
竜人「魔女、」
魔女「魔王様がいない世界でなんて、生きのびても意味ないもん!!そんなの絶対絶対だめ!!!」
竜人「……」
パチンッ……
魔女「……」
キマイラ「……子エルフくん、ちょっと外で一緒に遊ぼうか」
子エルフ「お、おねえちゃ……」
キマイラ「さあさあ」
619:
竜人「少し落ち着け。神官さんと戦士さんと約束したこと、忘れたのか?
 魔王様が心配なのは私だって……この村の魔族みんながそうです。あなただけじゃない」
 
魔女「……」
竜人「魔王様だって何も考えずに王都に向かった訳じゃないはずです。もう、子どもじゃないんですから。
 彼女が考え抜いて思い悩んで、その結果の行動のはずです」
 
魔女「……」
竜人「それをあなたがふいにする気ですか?私たちには私たちのやるべきことがある。
 それを為すことが、いま、魔王様のためにできる唯一のことですよ」
 
魔女「…………」
バキィィィィィッ!!!
竜人「がはっ!!」ガシャーン
魔女「いっったいなぁぁ……なにすんの?お返しだよ」
竜人「いや、全然威力ちが……!!」
620:
魔女「あんたのさぁ!!そーいういい子ぶったところ大っきらい!!あとそのまどろっこしい喋り方!?なんなのそれ!?普通に喋れよ!!」
竜人「……はい?じゃあ私も言わせてもらいますけどね!!みすぼらしい体のくせに露出度の高い衣服選ぶのやめてもらえますか!?」
竜人「それにあなたが何でもかんでも面倒事を私に押し付けるから、私がそういうブレーキ役に甘んじてたんですよ!!あなたがしっかりしてくれればですね……!」
魔女「はあ!?責任転嫁やめてくれます?つーかみすぼらしい体ってなによ!!!この猫かぶりドラゴンが!!」
竜人「だれが猫かぶっているんです、だれが!!言ってみろゴラ!!」
魔女「やっぱかぶってんじゃん!」
魚人「……えーなにこれ?」
グリフォン「かくかくしかじか」
魚人「ほー。グリフォンさんバケツ2個貸して」
621:
魔女「このエセ紳士!!世話焼きオカン男!!」
竜人「黙れ馬鹿魔女!!いい加減にしろ!!」
バッシャアアアアアアアアアアアアアア
魔女「……」ポタポタ
竜人「……」ポタポタ
魚人「……目、覚めたかい?」
魔女「…………うん」
竜人「…………すいません」
魚人「仲間割れしてる状況じゃないって、二人とも分かってんだよなぁ?ん?」
魔女「…………ふー。ごめん。……王子、探しに行かないと……だよね」
竜人「魔王様のことは、もういいんですか」
魔女「ちょっと頭に血が上ってた。そう、だよね。あたしはあたしのやるべきことを……しないとね」
竜人「……多分、魔女が言いださなければ私が言いだしてましたよ。頬叩いてすいませんでした」
魔女「あたしも、顔ぶん殴って鼻血出させたし、おあいこだよ。気にしないで」
竜人「……。……………ええ、そうですね」
622:
魔女「魔王様、きっと大丈夫だよね。だって、魔王様なんだから」
竜人「ええ。私たちのかわいくて強い一番の王様ですから」
623:
王都 入り口
兵士I「勇者が処刑なんて、世も末だよなあ」
兵士H「だよなあ。つーかさっき、噂で、魔族が国に侵入してるって聞いたけど」
兵士I「なんだそりゃ。朝から酔っ払っちまってんじゃねーの?」
兵士H「騎士様の言うことは分からんわ。ハッハッハ」
兵士I「……ん?なんだあれ……鳥?」
兵士H「でけえなあ。鷹かなにかか?ここらじゃ珍しいな」
兵士I「どんどん近付いて……あ、あれ?ありゃ人じゃねえのか?」
兵士H「ま、まさか。人って背中に翼が生えてんのか?いるとすりゃ、そりゃ魔族だよ、魔族」
兵士I「だよなあ。魔族だよなあ」
スタッ
魔王「…………」
兵士I「…………魔族だああああああああああああああああ!!魔族が来たぞおおおおおお!!」
兵士H「橋を上げろおおおおおおおおお!!門を閉ざせえええええええええええええ!!!!!大至急だあああ!!!」
624:
ギイィィィィィ…
兵士長「魔族!?本当にか!?」
兵士I「はい!!確かに見ました!!」
兵士長「すぐに将軍をお連れしろ!!お前は宮殿に報告を。橋は上げたな!?門は!?」
兵士J「いま完全に閉ざしました!!」
兵士長「第一隊は暇そうな魔術師・兵士・射手を片っ端から連れて来い!!
 それ以外は城壁から投石機と大砲と弓で魔族を迎え撃つぞ!!」
 
兵士長「よし!!ってえーーーい!!」
ビュンビュンビュンッ!!
魔王「……土の防壁」
ズドドドドドドッ
兵士長「なっ……あ、あの魔族……もしやあのとき、海で巨大なイカの怪物を作り出した奴か?」
魔王「―――……―――」
魔術師「何か呪文を口にしています!気をつけて」
625:
魔王「――…。」
―――カッッ!!
兵士長「…………」
兵士I「……門が……一瞬で、木っ端みじんに」
兵士G「こ、こんな魔法……食らったら、ひとたまりも……」
兵士長「信じられん……やはり化け物か。くそ!!なんとしてもここは守りきれ!!奴を王都に入れるな!!!」
魔王「化け物ではない。魔王だ。さっきの魔法は人にあてるつもりはないので安心しろ」
兵士長「…………フッ。そりゃあ有り難い。魔王が……王都になんの用だ?」
魔王「勇者たちを助けに」
兵士長「は?」
魔王「彼らを……解放しろ!」
処刑宣告から2日目、午前6時。
勇者処刑まで、残り30時間。
627:
すごい単純な計算間違いをしたところで、今日はここまでにします
わーい600越えたの初めて
あと最初の方で、魔女が1日に2回転移魔法使ってるとこありましたがそれもミスです
634:
宮殿
「勇者処刑をとりやめろー!!」「国王がでてくるまでここから退かんぞ!」
騎士「こら!いい加減にしろ!!立ち去れ!!」
「いてっ!なんだよ、暴力で解決か!?」 「私たちはただ抗議しに来ただけよ!」
 「処刑を取りやめなさい!」 「魔族のことも、王様の言うことは信じないことに決めたぞ!」
 
国王「……まだ宮殿前の民衆は片付かないのか。うるさくて敵わん」
大臣「申し訳ありません……。何分彼らも武器を持っているわけでもなく、ただ主張しているだけなので、
 騎士たちに武力制圧させることもできず……」
 
大臣「しかもその数は刻一刻と増えてきております。王都各所の暴動も収まるところを知らず、いやはや……」
国王「………………愚かな民衆め」
騎士「国王様!大臣様!失礼します……緊急事態です!!」
国王「どうした。脱獄した戦士・神官、そして国に侵入した二人の魔族は捕えられたのか?」
騎士「い、いえ。それが……!!」
騎士「魔王が!魔王が王都の中央門に現れたとの連絡が警備兵より入りました!」
国王「なに……!?」ガタ
635:
大臣「それは確かなのですか!?」
騎士「はい。今も城壁で魔王と兵士たちが交戦中です。しかし、こちらの戦力不足は否めません。
 奴は一瞬で王都を閉ざす大門を吹き飛ばしたとか……」
 
騎士「『勇者たちを解放すれば、王都に侵入することもなく立ち去る』と主張しているそうなのですが」
国王「…………」
国王「……フッ……おもしろい。勇者らを助けに来たというのか。魔族が」
大臣「どうなさるおつもりですか、殿下」
国王「戦える者を全て中央門へ。魔術師長と召喚師長にも伝えろ。絶対に王都への侵入を許すでないぞ」
騎士「では……魔王の主張は」
国王「飲むわけがなかろう。むしろ魔王が一人で我が領地に赴いたのを好機とも捉えられる。
 奴が落ちれば残りの魔族を制圧するのも容易かろう。……随分勇者に執着しているようだしな」
国王「今の時点ではこちらが有利だ。さあ、行け」
騎士「ハッ!」
636:
バッサバッサバッサ…
不死鳥「どこだ……どこに逃げた……」
仮面「あ゛ーーーもう、なんでお前ら竜と魔女をどっかにやっちゃったんだよ!!
 あいつらなしでどうやってあれから逃げるって言うんだよ!!」
 
盗賊1「今俺たちが隠れている岩陰も、いつか見つかっちまいやすぜ」
盗賊2「死ぬ……まじで死ぬ……」
神官「うう……もう薬草も魔力も残り少ない……」
戦士「この状況、どうやって打破したものか……」
仮面「……ん!?」
神官「あれ? 不死鳥、方向転換してどっか行っちゃいました……?」
盗賊1「どういうことだ?」
盗賊2「もう俺たちを探すのを諦めたってのか?」
仮面「……なんにせよ、御の字だな。勇者の剣は手に入れたし、ひとまずどっかで少し休息していこうぜ」
戦士「全員ボロボロだしな。よく生き残ったものだ……」
637:
ドーーーン……!
 ズドーーン!
 
女主人「ハッ!騎士も兵士も鈍い奴ばっかさね!重たい鎧なんか着てるからさ!
 次は騎士駐屯地に殴りこみに行こうか」
 
冒険者「やりますね姉さん!!俺も久々に血沸き肉躍るぜーー!!」
司書「しかし……なんだかおかしくないですか?さっきから全然我々を追ってきませんよ。
 なんかあわただしい様子ですし、もしかして何かあったのかも」
 
本屋「そういやあ、さっき中央門の方で大きな音が聞こえたのお。
 てっきり同胞の仕業かと思ったが、それにしちゃ規模が大きかったのが気になったのでな」
 
女主人「んー、確かに中央門の方向に向かってるね。こりゃ本当になんかあったのか……?」
638:
中央門
将軍「……久しぶりだな、魔王」
魔王「で、勇者たちを解放するのかしないのか、どちらなんだ。
 言っておくが、私はそれなりに強いぞ。人間たちを傷つけるのは本望ではないが」
 
魔王「もし私の出した条件を呑まなければ、建物や道路は甚大な被害を伴うだろうな。経済的被害は尋常じゃないぞ」
将軍「脅しのつもりか?…………答えは、ノーだ。我々は貴様に屈しない。ここで討つ!!王国軍の名にかけて!」
魔王「……」
将軍「魔術師長、召喚師長、どうだ?」
魔術師長「ええ。整ったわ」
召喚師長「いやーやっぱり知能無い方が扱いやすいよね。じゃあみんな、行くよ。陣について」
魔王「……!」
不死鳥「ピィィィィィィィィッ……」バッサバッサ
将軍「兵士隊は指揮に従って大砲で、射手隊はおのおの石弓で、遠距離攻撃で援護しろ」
将軍「相手は魔王だ!!油断するな!!しかし怯みもするな!!国王軍の意地を見せてやれ!!」
「「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」
639:
魔王「炎を纏った鳥……いや、鳥の形をした炎? 魔族ではないな」
不死鳥「スゥ……」
魔王「! 氷水魔法」
ゴオォォオォォッ!
魔王「……結構分厚い氷柱を立てたつもりだったんだがな。一瞬で水蒸気にさせられるとは」
ヒュウゥゥゥウ…
魔王「おっと、土の壁! ……飛んでくる砲撃と矢と、あの鳥を一緒に相手するのは骨が折れるな……」
魔王「さて……どうしようか」フラッ
640:
将軍「……」
魔術師長「なんか、変ね。魔王って海戦のときに、すごい大魔法連発してたのよね?」
将軍「ああ」
召喚師長「不死鳥の炎を相殺したり、大砲を防いだり……魔法の質はかなり高い。詠唱時間も短いし。
  でも、正直言って聞いてたほどじゃあないね」
  
魔術師長「それによく見てれば足元がたまにフラついてるし、顔色も悪いわ」
将軍「様子が変なのは俺も気づいている。しかしそれがなんだというのだ?」
魔術師長「別に?ただチャンスねって言いたかっただけよ。あなたはどう問われてると思ったのかしら?」
将軍「婉曲な言葉を俺は好まんぞ」
召喚師長「はいはい。これだから戦士とか剣士って……」
641:
魔王(私が出した脅しという名の交換条件を跳ねのけられた今、勇者くんたちを助けるには牢獄に直接手助けに行くしかない)
魔王(さっさと王都に侵入したいんだけど……空を飛んで無理やり城壁を越えてしまおうか?)
魔王(いや、牢獄がどこにあるのかも分からないし、それなら思う存分戦える広いスペースのあるここで始末をつけた方がいいか)
魔王(とりあえず……あの鳥をどうにかしたい)
不死鳥「ピィィィィィィイイイイ!」ゴォォォ
魔王「『氷の矢』、『氷の刃』……はあ、全て奴の体に触れただけで蒸発してしまうか。なんて温度だ」
魔王(……仕方ない、あの術で動きを止めよう。詠唱時間が長いし魔力消費も大きいからあまり使いたくなかったんだが)
魔王「とりあえず分身を2体作り出して……本体の私は隠れよう」
642:
魔王(詠唱をしている間……分身がどうにかばれずに、かつ消されずにすめば御の字だ)
魔王「―――……―――…――――――」
ゴオォォォッ ドーーンッ!! ズドッズドッ…!
魔王「―――…………―――……!」
魔王「…―――…――――――」
不死鳥「ギイイイイイイイィィィ!!!」スウッ
ゴオォッ!!
魔王「っ!……――――――……。詠唱完了っ…」
魔王「地に伏せろ!重力魔法!!」
不死鳥「ギ……ッ」
ゴシャアァッ!!
不死鳥「ピ……ギ……ッ」ミシミシ
召喚師長「あああああ!僕の不死鳥がっ!!」
魔術師長「重力を操作して不死鳥を地に縫い付けたの……!?まさかそんな魔法まであったなんて」
魔術師長「うふふふふ……おもしろいわね!でもその子、ただの火の鳥じゃなくってよ?うふふふ」
将軍「相変わらず気味の悪い女だ。おい!!魔王が消耗している間に畳みかけろ!!」
兵士「はいっ!!」
召喚師長「気を付けた方がいいよ?将軍。畳みかけようとしているのはあちらも同じかもね」
将軍「なんだと?」
643:
兵士「砲弾装填かんりょ……」スパッ
兵士「へっ!?」
ビュオォォォォオッ
兵士長「将軍!!ぜ……全大砲、今の風によって破壊されました!!」
将軍「全て、だと? クソッ……」
魔術師長「風魔法ね。でも不思議……いまの風、私たちを傷つけることもできたはずなのに、どうして大砲だけ?」
将軍「フン。目測を誤っただけだろう!
 射手はそのまま遠距離攻撃を!兵士はそれぞれの武器を持て!突撃の準備をしろ!!」
 
将軍「俺が……先陣を切る。橋を下ろせ」
魔王「はあっ……はあっ……はあっ……げほげほ」
魔王「あとはこの鳥を……重力魔法の効果を上げて、圧死させる」
不死鳥「ギギ……ギ……!!」メキメキメキメキ
バキッ!!
魔王「はあ…はあ……」
魔王「は……?」
644:
召喚師長「不死鳥って、何故不死なのか知ってるかい?その身が朽ちたとき、炎に包まれて、その灰から新たに生まれ変わるのさ」
パキパキ……パキ……
魔王「それは……厄介だ」
魔王「だけどやりようがないわけじゃない。土の壁をつくって、それでこいつを密閉してしまえば……」ズドドドッ
魔王「炎は空気がなければ燃え続けることはできない。さっきの完全体になる前に閉じ込めれば、不死鳥もさしたる脅威ではない」
召喚師長「……ほう」
魔術師長「確かに」
将軍「納得しとらんで、お前らも俺たちの援護をしろ!まだ魔力は残っておるな!?」
将軍「よし、今だ!!奴の首を国に捧げるのだ!!勝負の女神は我らに微笑んでいる!!行くぞ!!」ドドドド
兵士「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」
魔術師長「うふふふふ。効くか分からないけど、捕縛魔術もう少しで発動できるわよ」
召喚師長「大型幻獣10体召喚完了!行け!」
魔王「…………チッ」
645:
将軍「なんだ……!?この霧は……これも魔王の魔法なのか!?」
兵士長「前が見えないほどの霧ですね。これでは……」
将軍「くそ!!奴を逃すな!!まだ近くにいるはずだ!!探せ、なんとしても!!」
兵士「どわ!?」ブンッ
兵士「ば、ばか!!俺だよ俺!味方だ!!」
魔術師長「あなたの召喚した幻獣で、匂いで追えないの?」
召喚師長「探らせてるのですが、だめだね。匂いも消してる。あなたの方は?」
魔術師長「対象が視認できないと発動できないのよ、私たちの魔法って。これは一本とられたわね」
646:
射手「霧が……晴れましたね」
兵士「いない……」
将軍「くそ!!!奴は王都に侵入した可能性がある!!血眼になってでも探し出せ!!
 俺は騎士団に話をつけてくる」
 
将軍「魔術師長。お前の魔術で王都内にいる魔王の居場所は割り出せんのか?」
魔術師長「さすがに疲れちゃったわ。でも、ほら……魔王城の在り処をつきとめたあの預言者なら可能なんじゃないかしら」
将軍「最近音沙汰を聞かないが、まあいい。合わせて尋ねてくる」
魔術師長「がんばってね」
647:
騎士団副団長「将軍殿!」
騎士団団長「魔王はどうであった?こちらは一応住民の避難は……全員に呼びかけた」
団長「素直に従わない連中も多かったが。そういう奴らは大体宮殿前に集まっている……
 散らそうと奮闘しているのだが、なかなかままならん。武器で脅す訳にもいかぬのでな」
 
将軍「そうか。俺たちは……魔王を逃した。恐らく王都に侵入していると思われる」
副団長「なんですって!?」
将軍「すまない。俺たちは魔王を探し出す。騎士団も余力があれば協力してくれ。
 それから、宮殿にいる預言者様のことは知っているか?」
 
団長「確かいまは病床に臥せられているが……魔王の居場所を占ってもらうか?俺が話をつけにいこう。
 現場の指示は副団長にまかせるぞ」
 
副団長「はい」
将軍「助かる。では」
648:
路地裏
魔王「あー……はあ……はあ…」ズッ ズッ
魔王「疲…れた」ドサッ
魔王「ここまで来るのにも魔法をかなり使ってしまった。火傷した足も治したいが……
 勇者くんたちを脱獄させるために魔力を残しておかないと……」
 
魔王「……いまは……ええと、もうすぐ正午か。随分戦ってたんだな」
魔王(処刑まで時間はある。焦らずにここは傷をいやそう。どこかの空き家に入って薬を頂戴しようかな。
 はしたないとどこかの竜に怒られそうだが、緊急事態だし仕方ないのだ、うん)
 
魔王(仮面や竜人、魔女たちはどこだろう……合流したいが、無理そうか)
魔王(とりあえず傷の手当てをして……体力と魔力の回復を待とう。それから牢獄の位置を探りだして……ええと)
魔王(疲労で頭が回らない……)
649:
午後3時
預言者「申し訳ありません……なにぶん高齢のため、体調が常に万全というわけにもいかないのです」
団長「いえ。こちらこそお身体の調子が悪いときに無理を言ってすいません」
預言者「やっと、視えました。魔王は、王都南東区。民家のひとつに留まっているようです」
団長「南東区……分かりました。ありがとうございます。ご協力感謝いたします」
団長「南東区……か」
団長「すぐに兵団、騎士団ともに知らせねば」
650:
午後4時30分
宮殿前
わーーーーわーーーーー
 わーーーーーわーーーーー
 
国王「魔王を仕留めることも、追い払うこともできず、あまつさえ王都への侵入を許してしまうとは
 我が国の兵士はなにをやっているのだ?騎士団といい兵団といい、魔術師団といい……」
 
大臣「宮殿前に集まっている民衆の数も、まだ増え続けてます。
 魔王が侵入したから避難するように言っているのですが、全く聞く耳持たずでして」
 
大臣「むしろ勇者とともに魔王を応援するような輩もちらほら……」
国王「…………」
国王「愚民め」
国王「一人だと自分で考えることもしない……
 そんな人間たちがただ単に騒ぎに浮かれて、心地のいい言葉に便乗して、それが自分の意志だと思いこんでいるだけのこと」
国王「そのような愚かな国民たちを導くのが王たる役目よ」
大臣「では、どうなさるおつもりですか?」
651:
国王「いま宮殿の前にいる民衆は、ただ誰かが唱えた力強い言葉に引きずられているだけだ。
 ならば、正気に戻してやればいい。より大きな、より正しい何かを見せつけてやればいい」
 
国王「……こんなことを言うと、私が悪役のようだな。フッ……」
大臣「殿下……?」
国王「……」
国王「勇者の処刑を、予定より18時間早める」
国王「明日の正午に執り行う予定だったが、変更だ。今日の18時、今から1時間と四半刻後に」
国王「宮殿に集まっている民衆の前で。彼らが信じる偶像を処刑してみせよう」
国王「神の加護など、彼には備わっていないことを……本当に信じるべきなのは誰なのかということを」
国王「盲目で無知たる民たちに見せてあげよう」
大臣「……では準備を」
国王「ああ、頼む」
652:
午後5時
魔王「……ようやく牢獄の場所が分かったな。そこらを騎士と兵士がうろちょろしているから煩わしいことこの上ない。
 しかし無駄な魔力を消費するわけにも……いかないし」
 
魔王「傷の手当てはできたが……魔力はほとんどまだ空だ。でも、何もできないわけじゃない。うまくやれば、どうにか」
将軍「……!!!(魔王……!!)」
兵士「しょ、将軍……!」
将軍「待て……焦るな。まだ奴はこちらに気づいていない」
魔王「……ん…?」
子ども「ふえぇぇぇ……ママぁぁ……みんな どこ行っちゃったの……」
653:
兵士「あ!子どもが……避難し忘れたのでしょうか。魔王があんな近くにいますよ!助けないと!!」
将軍「…………奴は……なにをしているんだ?」
兵士「え?」
魔王「……ええと、大丈夫か?」
子ども「だれ……?」
魔王「立てるか?あっちに騎士がいるから、保護してもらえばいい」
子ども「さっき足くじいて……いたくて立てない……ぐす」
魔王「けがをしていたのか。見せてみろ。……これでもう痛くない?」
子ども「うん。もう痛くない!すごいね……神官様なの?神官様って君みたいな子どもでもなれるの?」
魔王「こ、子ども……いや、私は神官ではないが」
母親「ああ!!こんなところに!!よかった……!」
子ども「ママ!」
654:
母親「あなたは娘のお友達かしら?とにかく、一緒にここから避難しましょう。
 魔王が王都に入ってきているらしいの。騎士様たちに保護してもらっ……あら?」
 
魔王「いや……私は、ええと……」
母親「あなた……その目と……耳……ま、魔王……なの?」
子ども「違うよ、神官様だよ。わたしの足、治してくれたもん!」
母親「え……!?本当なの?」
魔王「私は、人を傷つけるつもりはない。勇者くんたちを助けに来たんだ」
母親「処刑されるっていう……あの……?」
魔王「! 騎士がこちらにもうすぐ来る。私はこれで」タッ
母親「あ、あの!!娘を助けて頂いて……本当にありがとうございました!」
子ども「ありがとう、神官様ー!」
魔王「……」
655:
タッタッタッタ……タ
将軍「待て、魔王」
魔王「! ……く……」
将軍「杖を下ろせ。我らも剣を抜いておらんだろう」
魔王「なんのつもりだ?」
将軍「聞きたいことがある。さきほどのあれは、どういうことだ?」
魔王「……見ていたのか」
魔王「君たちが初めて魔王城に来たときからずっと言っている。
 私たちは人間に敵意も持ってないし、ただそっとしておいてくれれば何も望まないと」
 
魔王「いや、むしろ、手を取り合って共存関係を築けたらとさえ思っている」
将軍「まさか……魔族が本当にそんなことを思っているというのか。それを信じろというのか。
 ……と、数時間前の俺なら言っていただろうな」
 
将軍「俺の信条は『己の目で見るまでは何も信じない』。つまり言いかえれば、見たものは信じるということだ。
 いま俺は人の子の傷を癒す貴様の姿を見た。それは俺にとって何にも勝る情報だ」
 
魔王「……?」
656:
騎士「いたぞ!!魔王だ!!!」
騎士「将軍殿もいる。囲めー!!!」
将軍「……この通りを右に曲がり、大通りを北にずっと進め。宮殿につく」
将軍「勇者の処刑が早まった。処刑は午後6時、いまから1時間後だ」
魔王「なに!?処刑は明日の正午だって……!」
将軍「だから早まったと言っただろう。早く行け。勇者を助けに来たのだろう。ここは俺が受け持つ」
兵士「わー……将軍まじっすか……」
将軍「お前らはどうする?己が信じる道を行け。俺の敵になろうとなるまいと、好きにするがいい」
兵士「じゃあ、味方で」チャキ
騎士「なっ、将軍殿!!どういうおつもりですか!!?」
将軍「ここを通りたくば俺を倒してから行け!!!」
魔王「……あ……ありがとう」
将軍「礼には及ばん」
657:
午後5時30分
牢獄 地下7階
仮面「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!やっとここまで辿りついたあああああああああああ」
神官「なんか以前より警備が薄いですね?いや助かりますけど」
戦士「行くぞ!!最下層!!」
バターン
盗賊1「勇者の旦那あああああああああああっ!!」
盗賊2「お待たせしやしたあああああああああああ」
神官「勇者さ…………まッ!?」
戦士「い、いない……?」
仮面「どういうこったぁ……?」
658:
午後5時45分
勇者「…………」
勇者「夕日がきれいだな」
処刑人「最後の夕日です。とくとご覧ください」
勇者「そうだな」
勇者「……俺は死ぬなら、魔物にバッサリ切られて死ぬか、旅の途中に谷に落っこちて死ぬかだと思ってた」
勇者「まさか処刑されるとはな。ハハ……笑ってくれていいぜ」
処刑人「…………自分もまさか勇者様の首をギロチンにかける日が来るとは思っておりませんでした」
勇者「ギロチンで処刑してくれる部分がまだ良心的か?」
処刑人「…………そろそろ時間です。断頭台へ」
勇者「……。ああ」
663:
乙様!
因みに一刻は約2時間、半刻は大凡一時間、四半刻は30分。
小さなミスを気にする>>1さんのために一応伝えておくね(´・ω・`)
668:
>>663
ほげええ恥ずかしいいいい
普通に勘違いしてました。ご指摘本当にありがとうございます。
669:
午後6時
670:
ざわざわざわざわ ざわざわざわざわ
「勇者様!」 「処刑をやめろー!」 「本当にここで……?」
 「王様ー!」 「なにがどうなってるんだ」 「ちょっとおさないでよ!」
 
 
国王「……これより勇者の処刑を行う」
国王「彼の罪状は、魔の者と共謀し、我が国を滅ぼそうとしたこと。すなわち国民に対する裏切り行為である」
国王「この者の罪が、いま死によって贖われようとしておる。みな心して見よ」
勇者「…………」
国王「最後の言葉として言いたいことはあるか?反逆者よ」
勇者「ああ……あるね」
勇者「俺がいなくなったって、俺みたいに考える奴はどんどん出てくるぞ。
 あんたは俺を処刑することで俺の考え自体をこの国からなくしたいんだろうが、無駄だ」
 
勇者「人ってのはそんなに単純な生き物じゃない。ただ誰かの意見を聞くだけじゃなく
 自分で考えて、時には以前の間違いも認めて、迷いながらも答えをだすことができるんだ」
 
勇者「国民全ての意志とか信じるものを掌握して操作するなんて、いくら国王のあんたでも無理だよ」
 
勇者「なあみんな!!俺が死んだら……あとは頼むぞ!!!」
ざわざわざわ……
671:
国王「引かれ者の小唄か……」
処刑人「勇者様、こちらに……お首を」
勇者「よいしょっと」
処刑人「では、綱を切りますよ。……一瞬で刃が下まで落ちます。痛みを感じる暇もないはずですから」
勇者「……ああ」
672:
勇者(…………終わりか)
勇者(……あんなに偉そうなことを言っておいて、俺はなにもできなかったな)
勇者(魔族を守るとか……いろいろ。出鱈目言っちまって悪かった)
勇者(魔王に雪を見せるって、雪の国に連れてってやるっていう約束も、破ることになるな)
勇者(…………)
勇者(………………ごめんな)
処刑人「では、切ります……」
――ブチッ!!
勇者(……ごめん)
673:
「きゃああああああああああ!!」 「うわ……っ!!」 「勇者あああ!!」
ヒュッ……!
勇者「……」スッ
魔王「やめろっ!!」
――ガシャァァァァァァァァァァァァァン!!
674:
国王「なに……!?」
国王「まさか……貴様が、魔王か!?」
処刑人「ギ、ギロチンの刃が粉々に!?」
「なんだなんだ!? なにが起こった!?」
「ギロチンが大破してる……勇者様のお力!?これが神のご加護?」
「いや違うぞ!女の子の声が聞こえたんだ!どこだ!?」
勇者「……お、俺の首……まだある……!?え!?」
勇者「つーかさっきの声って、まさか…………」
勇者「お前…………」
勇者「魔王!!」
魔王「遅くなってごめん。助けに来たぞ、勇者くん」
勇者「どうしてここに!?」
675:
魔王「……はあ……、うっ」ドサッ
勇者「魔王!」
魔王「大丈夫だ……」
騎士「ま、魔王だ!!すぐにここから出て避難してください!さあ早く!」
男「魔王だって……あ、あれが?でも……」
騎士「早くしてください!一刻を争うのですよ!!」
女「あの子が……本当に?」チラ
魔王「……」
母親「待って下さい!!」
騎士「ちょ、ちょっと奥さん……危ないですから!」
母親「その子、確かに魔王だって言ってましたけど、さっき私の娘の傷を治してくれたんですよ!!
 わ……悪い人じゃないと思うんです!!」
 
魔王「さっきの……」
676:
男「…………あの馬鹿正直な勇者が、本当の悪党と仲よしこよしだなんてできるわけねぇんだ!あの子だっていい子にちげぇねえ!!」
女「そうよ!!人間を滅ぼしたいと思ってるはずの魔王が、子どもの傷なんて癒さないわ!!」
 「僕は勇者と魔王を信じる!!処刑と魔族侵攻をやめろー!」
 
 
勇者「みんな……!」
魔王「……ありがとう」
魔王「……国王!!私と取引をしよう」
国王「…………」
魔王「勇者を解放しろ。さもなければ、私はこの場でお前の身の安全を保障できない。
 距離が離れていようとも、私ならお前の全身至るところ任意で狙うことができる」
 
国王「……その割には顔色は青ざめて、立つのもやっとという具合に見えるが?」
魔王「命を危険に晒すか、勇者を解放するか、二つに一つだ」
国王「よかろう。勇者の処刑を取りやめよう。ただしこちらも条件を一つ提示したい」
ヒュッ……カランッ
国王「いま貴様の足元に投げたそれは『聖なる短剣』。刺した者の魔力を吸いつくす聖剣だ。
 魔の者にとって魔力を奪いつくされるということは死と同義なのは、分かっている」
 
国王「その剣で自分の心臓を刺せ」
677:
勇者「はっ……!?なに言ってんだ!!」
魔王「………、………」スッ
勇者「おい!!!魔王!!なにをする気だ……!?」
国王「賢明だな。もう魔力もほとんど残っておらんように見える。
 自分も勇者も死ぬか、自分だけ犠牲になるか……後者の方がはるかに賢い」
 
魔王「本当に勇者くんを解放するんだな」
国王「処刑人。彼の枷を外してやれ」
勇者「おい、よく考えろ!馬鹿な真似はやめろ、魔王!!」
騎士「動くな!」ガシャ
勇者「離せ!!」
国王「貴様がここで命を断つというのなら……残りの魔族には手を出さんと約束しよう」
 
魔王「いきなり親切だな」
 
国王「魔王がいまここに一人で来ているということが、残りの魔族は取るに足らん存在だということを示しているからな」
魔王「……そうか。そうしてくれ」
678:
ざわざわざわざわ ざわざわざわざわ
魔王「ならば喜んで私は……」
魔王「魔族の平和のためにこの血を捧げよう」
勇者「う、うそだろ? やめろ……、今からでも遅くない!すぐ逃げろ……魔王!」
魔王「勇者くん…………。…………だめだな」
魔王「次に会ったら言おうと思っていたことがたくさんあったのだけど、……なんだか言葉が出てこない」
魔王「でも、これだけ。私たちのために戦ってくれてありがとう。私たちを信じてくれてありがとう。
 私たちに未来を、夢をくれてありがとう……君は伝説の通り、世界に光をもたらす存在なんだって、いま改めて思う」
 
魔王「ここにいる人たちも、歴史上の私たちではなく、いま存在している私たちをちゃんと見てくれて嬉しかった。ありがとう」
魔王「残った魔族をよろしくお願いします」
ざわざわ……ざわ………
679:
魔王「人間とか魔族とか、そういう考え方じゃなくて、もっと一人ひとりが向き合って話し合ってみればいいんじゃないかって……そう思ってます」
魔王「そうすれば、宿敵のはずの魔王と勇者だってこんなにお互い分かり合えました。ね、勇者くん」
勇者「…………っ」
魔王「勇者くん。君はどう思っているか分からないけど、私は」
魔王「君に出会えてよかった……!」
スッ……
勇者「やめろっ!! 頼む……魔王!!おい!!」
騎士「くっ……動くな」
勇者「魔王!!!」
魔王「…………もういいんだ」
680:
――ドッ
魔王「…………っ」
681:
――――パタッ……ポタタッ……
魔王「……―――」
ドサッ……
国王「……ほう」
国王「魔族の血も……赤いのだな」
勇者「…………………………」
682:
勇者「……魔王」
魔王「 」
勇者「おい……うそだろ」
魔王「 」
勇者「…………」
魔王「 」
勇者「なんで……」
魔王「 」
勇者「なあ……」
魔王「 」
勇者「魔王…………ッ!!!」
683:
――魔王様!
684:
「え?だって王様なんだから様をつけるのが普通じゃない?」
「確かにそうですね。こういうのは形から入るのが一番ですし。私もそう呼びましょう」
「あっはは、すごい嫌そうな顔してるー。いいじゃん、魔王サマー」
「そうそう、堂々としてればいいんですよ」
「喋り方も少し変えてみれば?魔王っぽく。なんかちょう偉そうな感じで」
「……うーん、ちょっとぎこちないですね……いや、いいんですよ。これから慣れていけば
「え、あたしか竜人が魔王をやればいいのにって?むりむりむりむり!!」
「こういうのは器っていうのがあるんですよ。少なくとも魔女みたいなだらしない魔族には魔王は務まりませんね」
「はあ?竜人にだって魔王なんか1日も務まらないね!あんただって無理無理。べーっだ」
「はい?…………あ。い、いえ、これは別に喧嘩じゃないですよ、魔王様」
「そ、そうだよ。あたしたちめちゃくちゃ仲良しだから、だからそんな泣きそうな顔しないで!!ね!!」
685:
「魔王様ぁ!おはようございます!」
「魔王様だ!」
「え?いや竜人様と魔女様がそう呼んでるの聞いたんで。いやですか?」
「……ならよかった!じゃあまた!」
「いたっ!いてて……ちょっ なんですか魔王様!?私なにかしました!?」
「……ああー。広まっちゃいましたか。まあいいじゃないですか。魔王様は魔王様なんですから」
「自分が子どもの姿だからなんか申し訳ない?……ははは、そんなの気にしなくていいんですよ」
「魔王様はそのままでいいんです。そのままのあなたが、みんな大好きなんですから」
686:
「ねー。魔王様」
「一緒に寝ていい?……うん!ありがとっ」
「ん?んー。あたしも、怖い夢見て眠れなくなっちゃったから」
「『も』ってなんだって?」
「だってなんかすすり泣く声が魔王様の部屋から……わわ、ごめんねって!うそうそ何も聞いてないです」
「……うん、だから一緒に寝よ。二人でいれば大丈夫、いい夢見れるよ」
「羊数えてあげようか。それともあたしが睡眠魔法かけてあげようか」
「羊でいいの?本当に?魔法の方が効果あるけど?本当にいいの?」
「……ちぇ。えーと、羊は一匹ー……羊が二匹……って」
「もう寝てるし……寝付きよすぎでしょ魔王様」
687:
「魔王様、ハンバーグおいしいですか?……よかった」
「ていうかね、聞いてよ二人とも」
「なんです?」
「今日村で買い出ししてる時に小耳に挟んだんだけど、勇者が魔王城を探して旅してるみたいだよ」
「ファ!?勇者って……100年前に魔王を討ったっていう!?この時代にもいるんですか」
「でも結構間の抜けてる勇者みたい。薬草1こで遺跡潜って血まみれで帰ってきたりとか」
「カジノに行ったら身ぐるみはがされて、裸で雪の国の狼と戦ったとかなんとか」
「それ本当の話ですか?尾ひれが随分ついてそうですね」
「……あ、魔王様が笑ってる。おもしろそうな勇者だよね。でもこの城に近づいたら容赦しないけど」
「迷いの森にすら辿りつけないでしょう。大丈夫ですよ」
688:
「ねえ、この間勇者の話したよね?今日も噂聞いたんだけど」
「いやー。なんでか知らないんだけど、勇者たち迷わずこっちに向かってるらしいんだよねー」
「え?どうしてでしょう。ここの場所は誰も知らないはずなのですが……どうします、魔王様?」
「森で始末しちゃう?あ、別に物騒なことじゃなくて、忘却呪文ぱぱっとかければあと10年は思いだせないはずだよ」
「え……招き入れる?ちょっと待ってください。本気ですか?」
「…………なるほど。……はい、分かりました」
「魔王様も結構賭けにでるねー。あたしはそっちの方がおもしろそうだから賛成!」
「じゃあいつ来てもいいように準備しときませんとね」
689:
「また窓の外を見ているのですか?まだ勇者たちは来ませんよ」
「……そんなに会うのが楽しみですか。いい方たちだといいですね」
「いやいや、顔に出てますから。隠しても無駄ですよ。ははは」
「……あまり夜風にあたっていてはお体を冷やします。もう窓も閉めましょう」
「ええ。ちゃんと魔王様が寝てるときに来たら、すかさず起こしますから」
「はい。おやすみなさい」
690:
「うわ!」
「連れてきましたよー魔王様ー」
「ま……魔王!!俺は貴様を倒しにきた、勇者だ! 」
「貴様に苦しめられてきた人々のために、今日俺はお前を討つ!!覚悟しろ!!」
「……?おい、魔王の姿が見えないが……?」
「待ちくたびれたぞ……勇者」
「ようこそ我が城へ」
691:
国王「死体を処理しておけ。聖火にて浄化するのだ」
騎士「はっ」
国王「国民たちよ。王都に訪れた危機は去った。安心したまえ」
国王「さて……貴様はもう自由の身だ。しかし、二度と我が国の土を踏むことは許さぬ。
 国家転覆を図って単なる追放で許されるなど、貴様が初めての例だ。感謝しろ」
 
勇者「……」
国王「一番恐れるべき魔王は消えた。これで数カ月後の魔族殲滅も楽になるだろう……」
勇者「……」
勇者「あ……?」
国王「なんだ?」
勇者「……あんた、何言ってんだ?」
国王「何とは……?」
国王「私が魔族風情とかわした約束など、守ると思っているのか?」
692:
勇者「…………て」
勇者「てめぇぇっ!!ふざけるなッ!!!」
騎士「ぐあっ!」ドッ
勇者「このっ!!!」
国王「やれ」
近衛騎士1〜10「……」スッ
ジャキッ!
国王「そこから一歩でもこちらに踏み出せば、騎士たちの剣が貴様の身を引き裂くぞ。
 せっかく魔族に救ってもらったその命、大事にしてはどうかね」
 
勇者「てめえは……魔王のあの言葉を聞いてなかったのか!?
 聞いてたなら、なんであんなことが言えるんだ!!この、下衆がッ!!!」
 
国王「おかしなことを言う……まあ貴様もあと何十年か年をとれば分かるようになるだろう」
693:
男「……っ お前なんか王じゃない!勇者を離せ!」
女「魔族はきっとあんたが思ってるような生物じゃないわよ!間違ってるわ!」
母親「魔族も人間も……そんなに違うところなんて、ないって……!!そう彼女は言ってました!!」
子ども「ママ……あの子どうなっちゃったの……?」
母親「……っ」
男「そうだそうだー!!」
ヒュッ…… コン
国王「いま誰か石を投げたな?」ニヤ
国王「武力をもって国家権力に仇なす者として、いまこの広場に集まっている者たち全て、制圧しろ」
騎士「……」ジャキ
国王「武力制圧を……許可する」
国王「怪我をしたくない者は両手を上げて、騎士たちの誘導に従うのだ」
「ひ……!」「ちょっと!離しなさいよ!」「大人しくしろ!!」
わーーーーーわーーーー!
 ざわざわっ ざわざわ
 
勇者「この野郎……!!」
 
694:
騎士「頼む、大人しくしてくれ……さもないと」ジャキ
母親「そ、そんな危ないもの子どもに向けないでちょうだい!!」
騎士「仕事なんだ……ガハッ!?」
女主人「へ、フライパンでも結構いい攻撃力してんのよね」
母親「あ、ありがとうございます……?」
女主人「子どもは危ないからあんたはその子連れてこっから離れな。あとは私たちが頑張るからさ!!」
男「いててててててっ!!肩外れる外れる!!勘弁してくれー!」
司書「はあああああああああっ!!」
冒険者「おらああああああああああああ!!!」
騎士「なにっ!?」
女「こんなの横暴よ!!私たちは自分たちの考えを主張しているだけじゃない!!」
本屋「大丈夫かい、お譲さん」ゲシッ
騎士「な、なんだこのジジイ!!」
本屋「古書アターック!!」
勇者「女主人、司書、冒険者、本屋の爺さん……!」
695:
騎士「抵抗をやめろ!これ以上抵抗すれば、痛い目に遭うことになるぞ」
??「痛い目に遭うのは、貴様だ!」
ドッガァァァァン!!
人「き、騎士を一気に3人!あんた……戦士か!」
 
戦士「どんどん来い!!」
神官「どいてください!!!」ゴシャッ
騎士「ぐっはあ!?」
神官「魔王さん、魔王さん!!しっかりしてください……!!いまっ、いま治療しますから!!!」
神官「勇者様、魔王さんは私にまかせてください!!」
騎士「ぐあああ!き、貴様ら何者だ!?ただの一般人ではあるまい……」
盗賊1・2「「え?一般人ですよ?」」
仮面「ったく、処刑の時間早めるとか反則じゃねーのかよ?せっかく死に物狂いで剣とってきたのによ!!」
勇者「戦士、神官、仮面、盗賊……」
696:
騎士「こら、おとなしく……って、え!?姫様……!?」
姫「はああああああ!……あれ?」スカッ
騎士「なにをなさっているのですか!いますぐ宮殿に!!」
姫「きゃ!ちょっと離して!!」
そばかす青年「てやああ!!」ドカッ
騎士「な!?」
そばかす「全く、姫様。無茶しないでくださいよ」
姫「あら。いまのはたまたまよ」
戦士「……なんだか、見覚えがあるな」
そばかす「僕ですよ、僕!!元騎士です!僕、騎士団今日限りでやめるんで!!」ヒュッ
姫「私だって、姫やめてやるわ!!民衆の声に耳を傾けなくて、なにが王族よ!!」ヒュッ
仮面「すげえ姫もいたもんだ」
国王「馬鹿娘が……」
勇者「姫様……元騎士も」
697:
女主人「私らは戦うよ!王様、あんたの思い通りになんてなってたまるか!」
 「お…俺も戦ってやる!!おい、フライパン貸してくれ!!」
 
 「あたしだってこの箒で騎士様相手に戦ってやるよ!!もうやけくそだ!!」
 
 「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
 
 
国王「……騎士団長はなにをしている? 国の誇る騎士たちよ、この暴動を必ず鎮めよ!!」
仮面「おい、勇者!! 受け取れ……っ てめえの剣だ!!」
国王「! 剣を奴に渡すな!」
近衛騎士「はあぁっ!」キイン
カランカラン…
仮面「!? チッ…」
戦士「なにやってる仮面!」
仮面「うるせーーーな!!ごめん!」
698:
国王「近衛騎士団!!もうよい……奴の、この反逆者の首を掻っ切ってしまえ!!」
国王「こ奴が全ての元凶だ!!首謀者がいなくなれば民衆の気勢も削がれるだろう」
近衛騎士「……」スッ
勇者「!」
近衛騎士「許せ…!」ブンッ
勇者(全方位から囲まれてる……逃げ場がない……!)
神官「勇者様ぁーーーー!!!」
戦士「勇者っ……!!」
699:
国王「フッ……呆気ない最期だな。魔王も勇者も」
国王「もう邪魔も入るまいて……!」
―――ヒュッ……!
勇者「ぐっ……!!」
700:
バサッ!!
??「太陽の国第一王子が命ずる!!!」
??「全員その場から動くな!!!」
勇者「!?」
701:
近衛騎士「!?」ピタ
国王「なに……!?」
戦士「ぬ!?」
神官「あ……!!」
勇者「!?……王子……!?」
勇者「と……竜人……魔女!?」
バッサバッサ…
竜「間に合った……!!」
魔女「連れてきたよ!!王子っ!!」
702:
ざわざわざわざわ ざわざわざわざわ
「ありゃド、ドラゴンか!?」 「王子だってー!?」
王子「神の定めし法により、星と雪の国両国から持ち帰った認定書と、この国の唯一なる王位継承者、第一王子の私の存在をもって」
王子「これより、この国の近衛騎士団、騎士団、兵団、魔術師団の最高指揮権は私に移ることになる!」
王子「近衛騎士、勇者から刃をのけよ。騎士よ、広場の民衆と争うのをやめ、剣を鞘におさめよ」
近衛騎士「……」スッ
騎士「……はっ」スッ
王子「国民たちよ、私は魔族殲滅に乗り出すつもりはない。勇者もその仲間も処刑するつもりはない」
王子「得心がいったら武器をおさめてくれ」
703:
ざわざわ… ざわ…
王子「……遅くなってすまなかった。勇者、久しぶりだな」
勇者「いや……え……」
勇者「だれ!?」
王子「やっぱり分からないかな?スッピンで会うのは初めてだからか」
王子「こう言えば分かるかい?」
王子「久しぶりねぇ〜 勇・者・ちゃ・ん」
勇者「!?!?!?!?」
勇者「おまっ……お前……旅人か!?!?」
王子「そうだ」
704:
国王「お前……認定書と神法のこと、本気なのか?」
王子「はい。本気です。お久しぶりですね父上」
国王「たわごとを言うな。こんな方法……実の父に!許されんぞ……!!」
王子「父上……認めてください、潮時です。もうあなたのように強引に国を導くやり方じゃあ通用しないのですよ」
王子「いまこの国は変わろうとしています。そして王たる者がいますべきなのは……
 強引にその変化を止めようとするのでなく、一緒に変わろうとすることです」
 
王子「これから私が父上に変わって、この国の上に立ちます。少し早いですが、御隠居なさって下さい」
国王「…………ふ、ふざけるな……今まで国政に微塵も関わっていなかった貴様が!!!」
国王「理想だけでは国は動かせん!!」
王子「……」
国王「何故分からん!?ここに私以上にこの国を案じている者がおるか!?
 私こそ!!私だけが!!この王国内で国の繁栄に、真に腐心しておるというのに!!」
国王「はぁ……はぁ……」
国王「……そもそも……全て貴様のせいだ」
国王「息子と娘が私に反抗するのも、民衆が私に従わないのも……全て貴様のせいだ、勇者……!!」チャキ
勇者「!」
705:
国王「貴様さえ……いなければ!!騎士の手を借りるまでもないわ!!私がこの手で……!!!」
勇者「……てめぇ……いい加減にしろ」
戦士「勇者!!今度こそ、この剣を!!!」ヒュッ
勇者「!!」パシッ
――『ほう。魔族の血も……赤いのだな。』
勇者「…………ッ」ギロッ
国王「覚悟ッ!!」
706:
―――チキッ…
勇者「王様……あんたの血は何色だ?」
国王「ぬうぅぅ!!」
勇者「俺は……あんたを、許さない……!!」
勇者「っああああああああああああ!!!!」
―――ズパッッッ!!!
国王「かっ……」
707:
姫「っお父様……!!」ギュ
そばかす「……大丈夫ですよ、姫様。勇者さんは……踏み留まりました。目を開けてご覧ください」
姫「え……」
国王「剣が……真っ二つ、か」
勇者「…………」
勇者「……あんたは見方によっちゃ、いい王様だったと思う。
 自国の民を第一に考え、民にとって危険なものは何がなんでも排除する、あんたのやり方は」
 
国王「……」
勇者「でも悪いな。……俺はあんたのやり方が個人的に気に食わない。
 自国の民以外の声を無視して聞こうとも、理解しようともしないのは間違ってる」
勇者「数多の犠牲の上に成り立っている安全なんて、この国のみんなが喜んで享受すると思うのか」
勇者「そこまで俺たちは落ちぶれちゃいない。あんたに思考も信念も全て委ねて安穏と日々を過ごすほど愚かじゃない。人間をなめるな」
勇者「王座から降りろ。あんたの時代は、もう終わりだ」
国王「…………く」
708:
ざわざわざわざわ
王子「私が事態の収拾にまわる。君は……彼女のもとへ」
勇者「すまない、あとで必ず礼をさせてもらう」ダッ
勇者「神官!!魔王は……!?」
神官「…………ッ」
魔女「魔王様、魔王様、魔王様……っ 目を開けてよ……ねえ……!!」
竜人「…………」グッ
勇者「おいおい……うそだろ!?神官、お前はどんな傷だって今まで治してくれたじゃないか!魔王のこんな傷くらい……」
神官「先ほどから……高位神官の方にも協力してもらって……治癒魔法かけてます……」
神官「でも……どうしても息を吹き返さないんです」
神官「この……『聖なる短剣』のせいだと思います」
戦士「どういうことだ……!?」
709:
魔女「うっ……うぁ……魔王様ぁ……やだよぉ……」
竜人「魔族にとって……いえ、魔力ある者にとって、魔力が完全に尽きてしまうことは死を意味します……から」
神官「この短剣で致命傷を受けたせいで、魔王さんの魔力は全てこの剣に吸い取られてしまったのだと……」
勇者「吸い取られたなら、いま剣から戻せないのか!?」
仮面「無駄だ。俺もその短剣について調べたことがあるが、一度吸われた魔力は二度と戻らない」
盗賊1「魔王の嬢ちゃん……」
盗賊2「こんなのって、ねぇよ……」
勇者「そんな……なんとか……ならないのかよ……。
 魔力水は?魔力が0なら、足せばいいだろ?ほら、神官もよく俺たちの旅の途中に飲んでたじゃないか」
 
竜人「魔王様は遙かに大きな魔力をお持ちでしたから……少しの魔力を回復しただけでは、どうにもなりません。
 どちらにせよ、魔王様の心臓が動かないことには……」
 
神官「でも、心臓を動かすためには魔力が足りないのです。だから八方ふさがりで……」
710:
勇者「大きな魔力…… そういえば、これは?」
神官「なんです?その小びんに入った液体……」
勇者「月祭りの夜に変な男からもらったんだ。魔王は男から分断された魔力だって言ってたけど」
竜人「……なんだか、魔王様の魔力に近いものを感じます。それにすごく大きな力が秘められている。もしかして……これなら」
竜人「でも……どっちにしろ手遅れです。魔王様は……お亡くなりに……なりました」
魔女「ひぐっ うっ こんなの……ひどいよ…… せっかくあたしたち、認めてもらえたのに……魔王様がいないなんて……っ」
仮面「……」
神官「ごめんなさい……もう……」
勇者「もし時が巻き戻って、魔王の心臓が止まる前に戻れたら、この小びんの魔力も役に立つんだな?」
勇者「そうしたらこいつの魔力が尽きることもなく、命を落とすこともないな?」
711:
竜人「……勇者様……?」
魔女「そんな、もしの話なんてしたって……意味ないじゃん!!もう……もう、魔王様死んじゃったんだよぉ……生き返らないの、もう!!」
戦士「……お前」
神官「あ……まさか!?」
勇者「よかった」
勇者「なあ、戦士、神官。 伝説の剣っていくつかあったよな。どれを武器にしようかあれこれ迷ってさ……」
戦士「稲妻の剣。三日月の聖剣。神剣グラム。そして、時の剣……だったな」
勇者「あのときは一番近いところに時の剣があったからそれを取りにいっただけだったが
 きっとあのときから決まってたんだ。俺はいまこの瞬間のために、時の剣を選んだ」
 
勇者は、時の剣を天高く掲げた。
712:
勇者「魔王の時間を巻き戻す」
魔女「えっ……?そんなこと……できるの!?」
勇者「あんまり長い時間は巻き戻せないと思う。でもぎりぎり魔王の心臓が止まる前まではできるはずだ」
勇者「これ、頼むぞ。……その魔力、一体だれのなんだろうな」
神官「勇者様!!女神が言ったこと……覚えてるんですか?」
神官「時を巻き戻す代償は、あなたの――命なんですよ」
竜人「……!?」
勇者「勿論覚えてるさ。でも、いいんだ。いま使わなくて、いつ使うって言うんだ?」
戦士「勇者」
魔女「勇者……!でもそれじゃ君が……」
勇者「旅人……いや王子か。あいつに礼を言いそびれた。誰か俺の代わりに言っといてくれ」
勇者「全員今までありがとうな」
勇者「……あと。魔王が目を覚ましたら謝っといてくれ」
勇者「――じゃあな」
神官「勇者様っ!!」
713:
眩い光が勇者の体を包み込んだ。
全員が再び目を開けたとき、そこに……彼の姿はなかった。
714:
―――――――――――――――――
――――――――――――
――――――――
―――――
勇者「……ん。ここは……」
時の女神「来てしまいましたか、勇者」
勇者「あんたは…… 久しぶりだな」
715:
女神「こうなることは分かってましたが……やはり、寂しいものですね」
勇者「分かってたのか?」
女神「私は過去未来全てで起こり得る事象が見通せます。
 あなたが選び取った現在は、起こり得る事象の中で最善のものでした」
 
勇者「最善ね……なににとって最もいいって判断しているんだ?」
女神「より多くの生きとし生ける者にとって、ですよ」
勇者「……なら、よかった」
女神「あなたが自分の命を犠牲に時を巻き戻すことも、本当は……見えていました。
 でも、そうならない未来も数多あったのですよ」
女神「……いいのですね?いまなら向こうの世界に引き返せますけれど」
 
勇者「そんなことしない。いいよ、俺の命をあんたに捧げる。だから魔王の時間を巻き戻してくれ」
女神「…………分かりました」
スウゥゥゥゥ
勇者「体が、足から……消えていく」
716:
女神「さようなら。勇者」
勇者「そんなに悲しそうな顔しないでくれよ」
勇者「俺は満足してるんだ」
勇者「誰かを守れた。誰かを救ってあげられた。世界を変えることができた」
勇者「……勿論、いろんな奴の手助けがあって、だけどな」
女神「ええ……」
勇者「まあ。できれば、変わった世界をもう少し見たかったってのもある。
 王子の奴にもいろいろ質問したかったし……でも」
 
勇者「ずっと10年あの島で魔王として頑張ってきたあいつにこそ、新しい世界を見せてやりたいんだ」
勇者「雪だけじゃない。星の国も太陽の国も、この大陸外のことだって……
 全部全部、俺よりあいつが見るべきだ。……見てほしいんだ」
 
勇者「あいつのために死ぬんなら、そんなに悪くないって思える。不思議なほど今は心が落ち着いてるんだ」
勇者「おっと……そろそろか」
717:
勇者「さようなら、女神様。ありがとうな」
女神「……さようなら、勇者」
スウゥ…………
………
718:
魔王「……………………ん」
魔女「!!!」
竜人「魔王様!?」
魔王「…………んん……あれ……?」
魔女「ま゛お゛う゛ざま゛ああああああああああ!!!」ガバ
竜人「よかった……!!本当に……!!」
魔王「ここは……」
竜人「魔王城です。2週間、ずっとあなたは眠ったままで……本当にどうなることかと……」
神官「あ!魔王さん、お目覚めになられたんですね……!よかったあ」
戦士「具合は悪くないか?どこか痛いところは?」
魔王「いや、どこもない。……私は、ええと。頭の中がぐちゃぐちゃで、よく思い出せない」
魔王「なにがあったんだっけ」
719:
魔王「そうだ。勇者くんは?神官と戦士殿がいるということは、勇者くんも来ているのだろう?」
戦士「……」
神官「……えと」
魔女「……」
竜人「勇者様は」
魔王「?」
竜人「……っ」
魔王「…………?」
魔王「え?」
720:
魔王「…………なんだ?みんなして黙り込んで……」
魔女「……」
神官「……」グス
戦士「……」
竜人「……」
魔王「はは……。まるで……勇者くんが……死んじゃったみたいな、顔してる」
魔王「………………」
神官「ゆっ……勇者様、は…………勇者様はぁ……っ」
魔王「え…………?」
721:
* * *
王国暦×××年
第――代目国王、神法により即位す。
また同日、
神に選ばれし勇者XX、神の御許に招かれ、この地を旅立つ。
722:
ザアァァァァァ……
 ザアアァァ……
魔王「…………」
魔王「…………」
魔王「…………」
魔王「ひどいよ」
魔王「…………」
ザアアァァァァァァ……
 ザアァァァ…………
 
723:
―――――――――――――――――
――――――――――――
――――――――
―――――
一カ月後
太陽の国 王都 宮殿
神官「……それにしても」
戦士「まさか旅人が王子だったとは……世の中わからんものだ」
王子「はは。すまないね」
竜人「どうしてあんな格好と……えっと、態度を?」
王子「家出同然で旅に出たとき、騎士団の追跡がうざったくてね。髪型を変えても、服装を変えても必ず私だってばれてしまうから、
 いっそ度肝を抜くような変装をしてやろうと思ったら、ああなったんだ」
 
魔女「度肝抜きすぎ」
王子「凝り性だから化粧も服装も態度も口調も全部変えた。
 王族としてきちんとした身なり立ち振る舞いをずっとしてきた自分にとっては、結構楽しかったけれどね。
 いまも気を抜くとオネエ言葉がでちゃうわぁ〜」
 
仮面「なんだこいつ……」
姫「もう。お兄様、今日就任式と、その後パレードがあるのよ?ちゃんと自覚持ってるの?」
王子「勿論持ってるさ。ただ政治に関しては僕も素人同然だからね、努力はするけど手助けしてくれよ、我が妹」
姫「しょうがないわね……お兄様がきちんとした王様になるまでは、手伝ってあげるわ」
724:
姫「ねえ、どうして家を出たの?私……寂しかったわ」
王子「うん。すまない。実を言うと……王位を継ぎたくなかったんだ。
 私が旅先で失踪すれば、王位継承権は必然的に君に移る……正直、私より君の方が向いていると思うんだよね」
神官「なんか仮面さんと似てますね」
仮面「やめろこんな奴といっしょにするな」
王子「まあそんなことを薄ら考えながら根なし草の生活をしていた……それなりに気にいっていたんだよ。
 父は次の王になる私に、自分と同じような考えを植え付けようとするのに必死だった。意識的にか無意識的なのかは分からないけれど」
 
王子「そんな風に何かを押し付けられて生きてくのは苦しかったし、自分が何なのか分からなくなっていた。この宮殿にいるときは」
姫「…………そんなこと考えてたなんて、知らなかった」
王子「君は私より強かった。あの父のそばにいても、自分をしっかり持っていたから。だから向いているって言ったんだ。
 旅に出て、自由に生きてると、型に嵌められて埋没した自分自身を少しずつ解放していってるような気がした」
 
王子「このまま、生きていくのもいいと思った」
王子「でもそこで竜人と魔女にあの話を聞かされたんだ」
王子「私が自由に生きていく裏で、苦しんでいる人がいる。見ないフリして逃げてた事実を目の前に叩きつけられたんだ。
 もう逃げていられないと思って、腹を括ったよ」
 
725:
姫「私は、私よりお兄様の方が王様に向いていると思います。
 そんな風に色んなことを考えられる繊細な心をもったお兄様の方が、よい政治を行えると思うの」
 
王子「ありがとう。精進するよ。……もう逃げない。自分からも、国からも」
竜人「あなたが旅人として魔王城に漂流してきた時。魔王様が忘却呪文を施したにも関わらず、記憶を思い出したのは
 宝物庫から盗んだ、忘却呪文を跳ね返すという『忘れじの鏡』のせいですね?」
 
王子「鏡?ああ……あれそんな名前だったんだ?鏡がほしかったから適当に取ってきたんだけど」
神官「えええ……」
戦士「それからその左目の泣きぼくろと首元の傷……俺たちがお主に会ったとき、気づかなかったのは、お主が化粧をしていたからか」
 
王子「まあね。首まで化粧しないと、顔と首の色が違ってしまうじゃないか?常識だよね」
神官「そうでしょうか……」
魔女「金髪碧眼の時点でちょっとは気をとめればよかったのかもしれないけど……それ以上にインパクトありすぎてありすぎて」
王子「あっはっは」
魔女「確かにこうして見るとイケメンだけどさー。あんなの気づかないよ。まったく」
726:
竜人「雪の国で、あなたの宿のシャワールームを開けてしまったときがありましたね」
王子「やだーもう。恥ずかしっ!エッチ!」
姫「お兄様」
王子「すみません」
竜人「あのときは『この世で最も汚いものを見てしまった…』と思ってすぐに記憶から抹消したのですけど」
王子「ひどくない?」
竜人「思えば、何か引っかかるところがありました……きっと、泣きぼくろと首の傷をそのとき視界に入れてたからですね」
魔女「ああ。確かに……あったかも」
竜人「でも、まあ、あのとき魔女があなたからもらった顔パックが後のち役に立ったから、よかったですけど」
魔女「王子の居場所を特定するための材料としてね」
727:
仮面「しかし、お前らほんとあのときギリギリだったな。よく間に合ったもんだぜ」
竜人「ああ。あれは本当にギリッギリでしたね」
魔女「本当は間に合わなかったはずなんだよね。予定では、えーと。
 処刑宣告から3日目の正午、つまり処刑が早まる前の本来の時間ギリギリに王都に到着することになってたんだもん」
竜人「太陽の国→星の都→王子拾って→雪の首都→太陽の王都 で、全部で30時間かかる計算でしたから」
神官「じゃあ、どうして?転移魔法は使えなかったんですよね?」
魔女「王子が雪の国の認定書を取ってきてくれてたからねー」
戦士「ほう?」
王子「竜人と魔女から話を聞いたあと、私は雪の国を旅立ったんだ。いろいろ準備しなくちゃいけないことあったし、国王になるための後ろ盾も必要だったし。
 でもその後……しばらくして、勇者が処刑されるとの噂が耳に入った」
 
王子「父が嗅ぎつけたんだと思った。当然認定書も消されてるはず――だからまた取りに行ったんだ。
 でも馬で走るとどう頑張っても星の都に行った後、太陽の国まで時間内に辿りつけない。
 どうしたもんかと思いながら馬を走らせてた時に、大きな竜が飛んでくるのが目に入った」
 
王子「正直ちびったよね」
姫「お兄様」
王子「はい」
728:
竜人「私たちが無事に星の国の認定書を手にしたあと、星の国と雪の国の中継地点で王子と合流しました。
 それから王子が認定書もう一枚持っていることが分かったので、すぐに王都に引き返したんです」
 
魔女「処刑は次の日のはずだったからさ、一日休んで転移魔法でぴゅって行っちゃおうって考えたんだけど。
 王子が絶対王様は処刑を早めるはずだから急いだ方がいいって言うからさ」
 
仮面「さすが親子だな。あたってるじゃねーの」
王子「こういうときの勘はあたるからね」
竜人「それから死に物狂いで飛びました。で、なんとか王都に辿りつけたってことです。
 でももし王子が星の国の認定書をもらっていなかったら、確実に間に合いませんでしたね」
神官「ほえー……ギリギリでしたね」
王子「もう少し……早く、私も動いていれば、未来も違ったのだろうけどね」
王子「すまない。この通りだ」
戦士「……いや、お主はよくやってくれたと思ってる。それにあいつは、自分でああなることを選んだんだ。
 後悔はしてないだろうさ」
神官「……はい、私もそう思います。きっと、今も神様の近くで……私たちを見守っていてくれているはずです」
コンコン
騎士「失礼します。そろそろ……」
王子「もう時間か」
729:
王子「さて。これから私は就任式だ。では行ってくるよ」
竜人「はい。私たちもぜひ見させてもらいますよ」
魔女「パレードもね」
仮面「……あいつはどこ行った?あのちびっこ魔王」
魔女「…………多分、お墓かな」
竜人「迎えに行ってみます。転移魔法で」
王子「そういえばさっき、旅人としての私は変装だと言ったけど、何から何まで嘘じゃないんだ」ガタッ
神官「へ?」
王子「男も女も愛することができる、いわゆるバイというものだね」
姫「お兄様」
王子「今のは普通の発言だろ?」
730:
王子「ということで、私は男も女も人も魔族も、自国民もそれ以外も愛するよ。そんな政治を行いたいと思っている」
姫「なにを言いだすかと思えば」
王子「この国も、あの勇者に託されたようなものだからね。やるからには半端な政治はしないつもりだ」
魔女「期待してるよ、王子様」
竜人「……ええ」
神官「できますよ。きっと」
戦士「ああ。俺たちだって、何かできることがあればすぐに手を貸す」
王子「……ありがとう。じゃあ行ってくるよ」
バタン
731:
小さな村
ザアアァァァァ……
 ザアアアアァァァァ……
『勇者XX ここに眠る』
魔王「眠る、か……」
魔王「みんなが言うには、勇者くんの体は光に包まれて消えてしまったらしい」
魔王「ならばこのお墓の下にはなにも埋まっていないのだろうな」
魔王「……」
魔王「……」
魔王「風が気持ちいいな。勇者くん」
魔王「君の育った村を初めて見た…… 小さいけれど、いいところだ」
魔王「風車があるんだな」
732:
ザアァァァ……
魔王「風の音を聞いてると、いろいろ思い出すよ」
魔王「君と出会ったときのこと。一緒にご飯食べたこと。夕焼けの中を二人で飛んだこと」
魔王「絵本を読んでくれたこと……頭をなででくれたこと……」
魔王「雪を見せてくれるって言ってくれたこと……」ゴシゴシ
魔王「約束したのに……」
魔王「勇者くんのばか」
733:
魔王「……」ゴシゴシ
魔王「……泣いてないよ」
魔王「君が変えてくれた世界に、君がくれた命。どちらも大切にするから」
魔王「いつか、また。どこかで会おうね」
魔王「そのときは覚えていてくれ。私は……まだほんのちょっとだけ、怒っているんだぞ」
魔王「…………」
シュン
竜人「……魔王様。王子の就任式とパレード、そろそろ始まりますよ」
魔女「いこ……」
魔王「……うん」
734:
魔王「勇者くん」
魔王「ごめんね」
魔王「…………ありがとう」
魔王「……じゃあね。また来るね」
タッタッタ……
735:
魔王(もう泣かない)
魔王(泣いてるひまなんてない)
魔王(それに……絶対またいつか、会えるって信じてるから)
魔王(いつか、なんでもないような顔して……「元気だったか」とかなんとか言って)
魔王(私が怒ったら、いつもみたいに「ごめんって」って言って笑いながら謝るに違いない)
魔王(そしたら……許してあげるよ。約束破ったことも、勝手に死んじゃったことも……だから)
魔王(………………)
魔王(ずっと信じてる。また会えるって)
魔王(ずっと……)
魔王「いつまでだって……待ってるよ、勇者くん」
おわり
736:
時の女神「あら」
時の女神「なんでしょう。これ、『おわり』?」
時の女神「こんなところにおいたら邪魔です。えい」
おわり 「あっちに蹴っちゃいましょう」ドカッ
わり 「えいえい」バシッ
り 「よいしょ!」ゴスッ
女神「ふう」
737:
!?
739:
女神「え?」
女神「だってまだ、終わりじゃないですよ」
女神「むしろ始まりです」
女神「なにがなんだかわからないって感じですか」
女神「ですよね」
女神「じゃあ、少しだけ時間を巻き戻しましょうか」
女神「命?代償? いえいえ、私は女神なのでいいんですよ。自由自在に過去未来見れますから」
女神「では時の歯車をまわして……」カラカラ
740:
* * *
勇者「さようなら。女神様」
女神「……さようなら、勇者」
スウゥ…………
………

女神「…………」
女神「…………あら……お客さんなんて珍しい」
??「こんにちは」
742:
女神「あなたは……先代の勇者ですね。どうやってここに来れたのですか?」
先代勇者「さあ。自分でもよく分からないよ」
女神「そうですか」
先代勇者「いまのが今の時代の勇者だよね」
女神「ええ。時を巻き戻した代償として、消えてしまいましたけれど」
先代勇者「……」
先代勇者「知ってる?先代の魔王と勇者は、相手にできるだけの苦痛を味あわせて殺したかったから、ほとんど剣術で闘ったんだ。
 魔力を使ったのは、せいぜい己の身の治療のみ」
 
先代勇者「だから二人ともほとんど魔力を残して死んだんだ」
女神「ええ。見てましたから」
先代勇者「先代魔王……あいつの魔力は、いまの魔王の命を救ってたね」
先代勇者「はい。これ使ってよ。さっきの彼、助けてあげて」
女神「魔力、ですか。でもこれは契約なのです。魔力ではだめなのです……命でなければ」
先代勇者「意外と面倒くさいんだね」
743:
先代勇者「魔力ある者にとって、魔力の枯渇はすなわち死を意味する。ってことは、魔力=命ってことなんじゃないの?」
女神「屁理屈です」
先代勇者「君だって、彼に生きてほしいくせに」
女神「見ていて飽きませんからね」
先代勇者「頼むよ。先代勇者として、世界を無茶苦茶にした功績を称えてよ」
女神「意味が分かりません」
先代勇者「……先代勇者が成し遂げられなかったことを、やってのけたんだ。彼にはご褒美が必要なんじゃないの?
 ほら、受け取っちゃいなよ。ほらほら」
 
女神「もう…………分かりました。一応理屈が通っているってことで、大目に見ましょう」
先代勇者「やったね」
女神「ただし、あなたの魔力で購われるのは、彼の命の半分だけですね。結構消費してるじゃないですか」
先代勇者「そう?ごめんごめん。ま、命があるだけいいよね」
744:
女神「でも……不思議ですね。私が見ていた未来に、あなたがここに来るルートはなかったのですけど」
先代勇者「神様だって予測できないことのひとつやふたつ、この世には起こるんじゃないかな。
  それに、ほら、勇者だし。仕方ないよ。嬉しいサプライズでしょ?」
女神「まあ。本音を言えば……そうなりますね」ニコ
女神「では、もう一度彼の魂を呼び戻しますよ。あなたの魔力を使ってしまえば、あなたは既にここに存在できなくなります。
 よろしいのですね?」
 
先代勇者「よろしいよ。覚悟はできてる」
女神「そうですか。…………では」
女神「……あなたも、長い間お疲れ様でした。どうか向こうの世界ではお幸せに」
先代勇者「……」
745:
* * *
少年「…………んあ」パチ
農夫「お!起きたか坊主!!」
少年「え……だれだ?ここは……?」
農夫「オメーよお、あの時の神殿の前で倒れてたんだっぺ。ずーっと眠り続けてっから、死んだかと思ったっぺよ」
少年「時の神殿?……あれ!?なんで俺、生きてんだ……?」
農夫「でーじょうぶか?あの神殿は危険だっつーことで有名なのよ。坊主まさか入ったわけじゃねーな?」
農夫「ま、顔でも洗ってきな。扉を出てすぐに泉があるからよ」
少年「え、え?あ、……おう」
746:
少年「………………なんっじゃこりゃあああああああああああああ!!!」
農夫「うおおお!? どーした坊主!?熊か!?それとも猪か!?!?」
少年「お、お、俺……なんで子どもになってんだ!?」
農夫「なあに言ってんだ?オメーもとから子どもだっぺ」
少年「違うっぺ!!こんなんじゃなかった!!絶対!!」
農夫「そういやオメーの名前まだ聞いてなかったな。なんつーんだ?」
少年「俺は……!!」
747:
* * *
ピューピュー!
新たな太陽の王、ばんざーい! ばんざーい!
王子「ありがとう!」
がやがや わいわい
竜人「華々しいパレードですね」
魔女「わああ、すごーい」
魔王「うん。それにすごい人だ……」
748:
魔王「あ。あそこにいるのは、神官と戦士殿だ」
魔女「本当だ。話しにいこうよー」
竜人「……ん?誰かほかの方と話し中のようですね」
神官「……う、うぅぅ、本当に……勇者様そっくり……」
戦士「見れば見るほど似てるな……まさか隠し子か……?いやまさかな」
少年「だーかーら!!俺がそうだって言ってるだろ!?」
魔王「……………………」
魔王「…………ゆ」
竜人「なんだかあの少年、彼に……すごく似てますね。そんなはずないのに」
魔女「変だね。あたしもすっごい見える。ちょっと目が疲れてるのかも」
竜人「あっ、魔王様!?」
749:
少年「いい加減信じろって!!だからな、何度も言ってるけど――」
神官「ええ。あなたが勇者様に憧れる気持ちも分かりますよ。本当に……すごい方でした……うぅっ」
戦士「ところでお父さんかお母さんはどこにいるんだ?迷子か?ん?」
少年「お前ら……いい加減にしろよ、ほんっ―――」
魔王「勇者くん!!!!!」
少年「うわっ!?!?」
ドサッ!
魔王「勇者くん……勇者くん勇者くん勇者くん勇者くんっ……わぁぁぁぁぁぁん!!ばか!ばかばかばか!!」
少年「ま……魔王? よかった、無事だったのか」
魔王「無事だったのか、じゃない!!それは……私の台詞だっ……ばか!!!」
750:
勇者「そ、そんな泣くなよ。ごめんって本当」
魔王「うるさい泣いてない、よだれだっ!」
勇者「よだれの方がアレじゃない!?」
魔王「私が……私がどんな気持ちで一カ月過ごしたと……っいままでどこにいたんだ!言え!言えったら!」
勇者「わーーーっ 一旦落ち着け!!深呼吸しよう!なっ!!」
神官「魔王さん……え!?ほんとうにこの子勇者様なんですか!?」
勇者「だから何度もそう言ってんだろ」
戦士「お前は時を巻き戻した代償で命をとられたのではなかったのか!?」
勇者「なんか知らないんだけど、時の神殿の入り口で倒れてたらしいんだ。
 何故子どもの姿に若返っているのかも全然分からん」
 
魔女「君、本当に勇者なの? 生きてたんだ……よかった!!!!今日は宴会だーーーっ!!!」
竜人「勇者様!? まさか、……え!?本当に!?ご……ご無事で何よりですが……え、本当に?」
勇者「こんなナリだが正真正銘勇者だ」
戦士「本当に無事で何よりだが……まずいな、葬儀もやったし墓も建ててしまった」
勇者「墓!?俺の墓があるの!?」
751:
勇者「あー。にしても、みんな無事でよかった……俺もここに来るまで気が気でなかったんだ」
魔王「……勇者くんも私と同じくらいの背の高さになったな」
勇者「ぐ……言っておくが、すぐ元の姿くらいに大きくなってやるからな」
魔王「どうかな。私の方が先に大きくなるかも」
勇者「なんだと!」
戦士「どちらも今は子どもの姿なのだから、喧嘩はやめろ」ヒョイ
勇者「う、うわ。離せよ。子ども扱いするな。中身は普通に俺のままだからな!?」
魔王「わっ……」
神官「勇者様が死んで悲しんだ方、たくさんいたんですよ。皆さんに顔を見せに行きましょう!」
勇者「このまま!?」
魔女「ほらほら、いこーよ!!」
752:
数か月後
753:
魔王城
魔王「……では新たな太陽の国国王就任と、『ようこそ人間たち魔王城へ記念日』を祝して」
勇者「これからの人と魔族の明るい未来を願って!」
「「「「かんぱーい!!!」」」
王子「ここが魔王城か。なかなかいいところだね」
魔王「君の国の歴史ある宮殿には及ばない。しかし、あんなに探していた王子が、まさかあのとき海から助けた漂流者だったとは」
王子「そうだ、あのときは命を救ってくれてありがとう」
魔王「前は泣きぼくろも傷跡もなかった気がするのだが?」
王子「それは、あれさ。ウォータープルーフの化粧品を使っていたからね」
魔王「うぉーたーぷる…… え?」
勇者「なあ、あんた……いや、ええっと。貴方様、……王子様?国王様?」
王子「そんなに畏まらなくていいさ。今まで通りの態度で頼む」
勇者「なんか慣れないんだよな。そういうことなら俺も普通に話すけど」
王子「なにかさっき言いかけた?」
勇者「ああ。あんた、雪の女王に正体ばれてたろ。俺、あの人にまぎらわしいヒントもらったぞ」
王子「そうなんだ。以前雪の国をぶらついているときにバッタリ顔を合わせてしまってね。1秒で正体が露呈してしまったよ。
 まあ、おもしろいからという理由で見逃してもらえたけどね」
勇者「女王も相当な変わり者だな」
754:
竜人「今日は公務はお休みですか?王に就任してからお忙しいと聞いてましたが」
王子「忙しいさ。文字通り忙殺されそうだ」
姫「今まで王としての勉強を怠けてフラフラしていたのだから、自業自得よ」
王子「ひどい妹君だろう?全く。 でも勇者と魔王も相当多忙だそうじゃないか?」
勇者「まあな。あんたが王になってくれて、魔族を脅かす直接的な要因はなくなったが……それだけで終わりってわけにはいかないからな」
魔王「うん、魔族と人の相互理解がないと、いつなんどきまた衝突が起きないとも限らない。
 だからそのためにお互い種族を越えて手を取り合えるように、いろいろと取り図っている最中だ。私と勇者くんで」
 
魔女「そーそー、俺たちの戦いはまだこれからだぜっ!って感じかな! 神法は成立させられたし、次の目標はー……」
竜人「魔族と人の本当の意味での共存関係を築くこと、ですね。……って、もう一瓶空けたんですか、魔女」
勇者「まだまだ時間はかかりそうだけどな。王都はまだしも、地方の田舎へは今回俺たちはまだ何もアプローチしてないし。
 ……ま、焦っても仕方ない。じっくりやってくさ」
 
王子「悪いな、私もそちらに力を貸せたらいいのだが。法の整備だけやって、地道な仕事は君たちに押し付けてしまって」
魔王「なにを言う。十分だ。本当に王子には感謝しているんだ」
王子「まあ、私は大変だとは言っても、彼らがいてくれるおかげで随分助かっているよ」
戦士「久しぶりだな、勇者。まだ子どもの姿のままか。ははは、ちんまいな」
神官「お久しぶりです。ぷふっ」
勇者「笑うな!抱き上げるな!ちくしょーほんっと数年後覚えてろよお前ら!!」
755:
魔女「戦士と神官は勇者についていかなかったんだね」
仮面「オッサンはあれだろ? 近衛騎士。ハッハッハ!騎士ってガラかぁ?あんた」
戦士「うるさいわ」
王子「私が彼に頼んだんだ。就任の仕方が仕方だったから、国の内部もごたごたしててね。信頼に足る部下の一人くらい、身近にほしかったのさ」
そばかす「あ。ちなみに僕も近衛騎士に昇格しましたよ!やった!」
魔女「だれ?君」
そばかす「ひどい!!何回か会ってるじゃないですかぁぁぁ」
魔王「神官は、神殿を抜けるのだったな」
勇者「意外だったな、それ。本当にいいのか?神官長昇格への誘いが来てるんだろ?」
神官「ええ。もう少ししたら本格的に神官をやめます。……歴史の先生になろうと思ってるんです!えへへ」
キマイラ「ほうほう。教師ですかな。教職はいいものですよ」
神官「はい……私、今回のことで歴史教育の重要さを知りました。私たちが魔族への偏見を持ってたのって、
 何も知らない白紙の状態の子どもの心に、周りの大人たちのそういう魔族への考えが植え付けられたから、というのもあると思うんです」
 
盗賊1「やべえ……話が難しすぎてついていけねえ」
盗賊2「俺もだ」
神官「えっと、だから!もちろん過去あった事件を知識として学ぶのは大事だと思いますが歴史の不確かさをいつも頭の片隅に置いて自分で正誤を判断する力をいまの子どもたちに身につけてほしいと私は!!!」
仮面「おい盗賊らが泡吹いて倒れたぞ!!嬢ちゃん、難しい話をこいつらにこれ以上聞かせないでやってくれ!!」
756:
がやがやがやがや がやがやがやがや
女主人「あ……あんた!!あのときの……!!よかった、生きてたんだね!!」
ケット・シー「あなた……まさか、森で会った女の子……?うそっ……!また会えるなんて信じられない!」
キマイラ「教師たる者うんぬんかんぬん…」
神官「教育とはうんぬんかんぬん…」
戦士「俺も頭痛くなってきた」
司書「じゃああなたがあの本を書いた魔族の方なんですね!はじめまして。王国で司書をやっております」
本屋「あんたのおかげでひと儲けさせてもらったよ。ヒッヒッヒ」
グリフォン「え、あ、ああ……はは、なんだか照れるね」
魚人「よおよお!お前さんが新しい王さまなんだってぇー!?いいガタイしてんじゃねえの!!呑み比べすっかあ!?」
ハーピー「ちょっ……魚人さん!その方えらい人なんだから勢いで絡むのやめた方が」
王子「いいよ。よっしゃ樽ごともってきてくれ」
姫「お兄様明日も公務なんだからやめてちょうだい!!」
757:
仮面「……」
勇者「よお」
仮面「話しかけんなチビ」
勇者「……」ボグッ
仮面「いってえええ!脛蹴るのやめろマジで!!俺の扱いだんだんこんな感じになってるけどそろそろやめてくれ!!」
勇者「ごめんごめん」
仮面「チッ 何の用だよ……チッ」
勇者「2回も舌打ちせんでも……。あー……前に雪の国の、森の遺跡で話したことがあっただろ?あのことについて、俺なりにいろいろ考えたんだ」
仮面「あ?」
勇者「俺が勇者になるのに抵抗はなかったのか、とかそんな話だよ」
仮面「ああ……それが?」
勇者「やっぱり、何度考えても、俺は勇者になることに対して全然戸惑いも躊躇もなかったんだ。
 そういう意味ではお前とも王子とも真逆なんだよな」
 
勇者「……でもさ!多分、俺が勇者という身分だろうがそうじゃなかろうが……
 例え魔法が使えなくて、剣も全然できなくて、勉強も……勉強は今もあんまり得意じゃないが、頭もよくないとして」
 
勇者「それでも、そんな風に生まれてたとしても。何の力もないただの一般人だったとしても、俺は今と同じことをしていたと思う」
758:
仮面「んなことできるわけねーだろ。なんの力もなかったら、認定書をもらうことも王子を探すこともできなかっただろうが」
勇者「どんなに不可能に思えてもやったよ。やらずにはいられないと思う。俺は思いついたらすぐに行動しないと死ぬ男だからな」
仮面「恐ろしい持病だな」
勇者「だって俺は俺なんだ。力や剣や魔法があってもなくても、俺は俺だ。勇者だろうがそうじゃなかろうが、俺は俺!」
勇者「だからお前が、仮面被った変な男だろうが、元貴族だろうが、盗賊団のリーダーだろうが、お前がお前であるってことには変わりない」
勇者「俺やお前だけじゃない、この世界の誰もがそうなんだよ。多分。本当に大事なのは身分でも種族でも肩書でもなんでもない、自分が自分をどう捉えるかだ。
 だから未来に迷ったお前や王子だって、迷わなかった俺だって、どっちが間違いとかないんだ」
勇者「どっちも正解なんだから」
 
仮面「……へっ。勇者様の有り難いお言葉どうもありがとうございますっと」
勇者「おい、真剣に話したんだから茶化すなよな……。俺が恥ずかしいだろうが」
魔王「…………」
魔女「魔王様なにやってんのー!?」
魔王「わっ……! ばか、静かに!」
魔女「なになになに!?!?あーー勇者と仮面君じゃん!!おっす!」
魔王「堂々と出て行くなっ」
759:
仮面「なにやってんだお前ら」
勇者「いたのか?」
魔女「うん!あたしはさっき、そこの影に身を潜めてた魔王様の後ろから来たばっかだけどねー」
魔王「魔女……わざとか?」
魔女「え?言っちゃだめだった?」
魔王「いや……盗み聞きをしていたわけでは……これはその……偶然。……すまない」
勇者「いるなら出てきてくれればよかったのに」
魔女「あー そういえば言いたかったことあるんだけどさ。君のあの耳飾り、お母さんのじゃないの?」
仮面「ブッフ!!!ガハッオゥエッ!!ゲホゲホ!!」
魔王「大丈夫か」
仮面「な、なにを……ちげえ、あれはいざとなったら質屋にいれようと……」
魔女「会いたいと思ってるなら、会いにいけばいーじゃん?」
760:
仮面「……簡単に言うなよ、一度殺されかけた女だぞ? なんで俺が……」
魔女「じゃあなんで耳飾りをずっと持ってるのかなー。ま、別にどっちでもいいけどね。
 ただ一生なんて短いんだから、会いたいなら早く会いに行った方がいいと思うよ、あたしは」
 
仮面「……チッ 余計のお世話だっつの。酔いが醒めちまった、おーーい!酒どこだ酒」
魔女「あ。逃げた。ていうかあたしもお酒おかわり」
魔王「ほどほどにしておけ、魔女……って聞いてないな」
勇者「ははは、あいつらも変わらないな。そりゃそうか。まだ出会ってそれほど時間も経ってないんだよな。
 なんだか初めて魔王城に来た時から随分時が過ぎたように感じるが……まだ1年も経ってないんだった」
 
魔王「不思議だ。ずっと前からここにいるみんなとは知り合いだった気がする」
勇者「俺も」
魔王「……さっきの話だが」
勇者「む、蒸し返すのかよ。結構恥ずかしいこと言ってた気がするから流してくれよ」
魔王「もし、勇者くんが勇者くんでなかったとして……私が魔王でなかったとしても……」
761:
魔王「それでもきっと、私は勇者くんのことを好きになってたと、おも……っ」
魔王「いや……もちろん、仲間として!」
魔王「友人として、という意味だけども……!」
勇者「お、おう!?」
魔王「えっと、だから……えー……なにを言いたいのか忘れてしまったな」
勇者「しっかりしろ」
魔王「……まあいいか」
勇者「よくねえよ、俺が気になるだろ!なに諦めてんだ、がんばれよ!」
魔王「いいじゃないか。思いだしたらすぐに言う」
魔王「だってこれから、ずっと一緒にいられるんだから」
勇者「……それもそう……なのか?」
762:
姫「可愛らしいですね」
王子「あの二人はいいコンビになるだろうね」
神官「魔王と勇者のコンビって、なんですかそれ。最強じゃないですか」
戦士「こうして見ていると、ただの子ども二人なんだがなぁ」
魔女「結局、なんで勇者があの姿になっちゃったのかわかんないままだよね」
仮面「まあ、姿が元のままじゃあ勇者が変態ロリコン野郎になっちまうからよかったんじゃねえの」
姫「ロ……なにを仰ってるの、あなた」
そばかす「同い年、同じ日に生まれたそうじゃないですか?あの二人。運命ですねえ」
竜人「ハァァァ……魔王様を嫁にもらいたくば私からの4つの試練をクリアして頂かなくてはなりませんね……」バキャッ
魔女「竜人、グラスグラス。割っちゃってるから」
仮面「嫁って気早すぎだろオメー」
763:
* * *
あれから数年の月日が過ぎ去った。
王子は時々いまだ姫様にひっぱたかれながらも、順調に国王の風格を身につけつつある。
もともと素養はあったのだろう、外交でも内政でもすぐに辣腕をふるい始めた。
ただ時々旅人時代の話し方が出てきそうになるのを抑えるのに苦労しているらしい。やめてくれ、マジで。
元国王――王子と姫様の父は隠居して、今は王都から離れた東の湖畔地方にて、近しい家臣とともに静かに暮らしているようだ。
王子と姫様はときどき彼の元を訪れるそうだ。権力に対しての野心や固執は見られないらしい。
毒気が抜けたように穏やかになったと二人から聞いた。
神官は教師の免許をとって、いまは王都の初等学院にて教鞭をとっている。
少し緊張するがやりがいのある仕事だと言って笑っていた。教職も板についてきたようだ。
戦士は宮殿にて毎日王子の近くで近衛騎士として働いている。
王都から離れることが基本的になくなったので、都に住んでいる娘と妻に毎日会えるのは嬉しいと親ばか丸出しで言っていた。
764:
女主人はいままで通り昼も夜もあそこで店を開いている。
本屋の爺さんも、司書も、歴史研究家も、冒険家も、姫様も、近衛騎士に昇格したそばかすの青年も、
いつも通りの日常に戻った。
ただ、俺たちが結成した反戦同盟はまだ解散しちゃいない。
集まって何かをするということはとりあえず今のところないが、各々魔族と人の歩み寄りのために活動をしてくれている。
本当に有り難く、頼りがいのある仲間たちだ。
仮面のあいつと、双子の盗賊は、驚くべきことに盗賊業から足を洗った。
美術鑑定師として店を構えていると聞いたときはまさに青天の霹靂だった。
なんでも美術品を盗品か本物かチェックしたり、闇市に流れた美術品を探し出したりと、そういう仕事を専門に請け負っているらしい。
……得意分野は仕事として生かすべきだよな。うん。
店がもっと大きくなったら、実家に行って母と兄に会うつもりだと、あいつは俺に話した。
ちなみに実際はもっと冗長で言い訳めいて回りくどい言い方だった。もう面倒だから素直になれよ……。
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