【THE・WORLDは止められない】back

【THE・WORLDは止められない】


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1:
【最期のけじめ】
悪の化身、DIOを倒してから三週間。
熾烈を極めたDIOとの死闘から早くも三週間が経とうとしていた。
承太郎「ここか…。」
承太郎は受けた傷が癒えるまでしばし休学と言う扱いとなっていた。
常人なら暫くは動けないものだが波紋と言うものは凄いもので完璧とは言えずとも普通に生活できる程度には動けるようになっているのだ。
まぁ休学しているのだから出歩いてはいけないのだがそんなことを黙って聞くほど不良のレッテルを貼られた承太郎ではない。
学校でもないのに学生服に学帽。だが制カバンではなく控えめな花束を持ち、ある墓地を訪れていた。
2:
少しだけ爽やかな風が雑草を揺らした
承太郎は墓の間を縫うように歩き目的の場所を目指す
承太郎「探すのに手間がかかったぜ…。だが珍しい名字のおかげか割りとすんなりと見つけられたな」
そう言えばお前はここに越してきたばっかって言ってたっけか?
承太郎は目的であるある名前の刻まれた墓の前に立っていた
承太郎「遅くなっちまったな花京院…。葬式にも顔を出そうとしたんだがジジイに止められてな。コッソリ墓だけでも参りに来たって訳だ」
エジプトへの旅の仲間であった花京院典明。
卓越した技術を持つスタンド使いでありDIOに殺されてしまった男の墓参りこそ承太郎の目的である。
3:
まだ真新しい墓は手入れが良く行き届いていた
慣れた手つきでジッポを付け線香を立てる。
花は少し萎れていたので変えておくことにした
承太郎「確か好物だったよな、チェリー」
供えるために用意してあった皿の上に幾つかパック入りのチェリーを置いてやる
いつだったか花京院がチェリーが好物だと言っていた
丁度その前に花京院の奴に化けたスタンド使いが同じチェリーの食べ方をしていたものでとてもじゃないが驚いた
まさか花京院があんな食べ方をする奴とは思いもしなかったからだ。一瞬敵がまた懲りずに化けているのかと身構えはしたが
4:
「すいません……どなたですか?」
しゃがみこみ花京院の墓に静かに合唱し帰ろうとしたときに背後から誰かに声をかけられた
その声はどう考えても俺に向けられており、いぶかしむ気持ちがひしひしと感じられる
その声はこう続けた
「もしかして…典明のお友達?」
思わず俺は立ち上がった。その視線の先にいたのは少し前髪が特徴的なご婦人だった
直感でわかった。どう見たって…花京院の母親だ。顔立ちが良く似ている
俺は立ち尽くして何も言えなかった
呼吸一つすらマトモに出来ない錯覚に陥った
5:
『良いか承太郎。お前は花京院の親御さんの所にも墓にも行っちゃならん』
エジプトから帰る飛行機の中でジョセフはそう告げた
『どういう意味だジジイアイツは俺の仲間だぜ?まさかボケちまったのか』
声は冷静だが怒りは込み上げていた
共に戦った仲間の死を弔えないと言うことに怒りを覚えない人はいるだろうか?
『花京院の件はワシ一人でケジメをつけると言っとるんじゃ』
ジジイは昔共に戦った仲間を死なせてしまった過去があると言っていた
だからこそ自分が助けられなかったものを背負って来た。それを自分以外、ましてや孫になどには背負わせるにはいかないと言ったのだ
勿論反抗した承太郎だったが葬式の日取りすら伝えられず結局自分で探すしかなかったのだ
6:
恐らく花京院の親には俺に関して、いやDIOのこともスタンドのことも伝えられちゃいないのだろう。
ジジイが一人で背負い込んだ物をぶち壊すわけにはいかない
(と思ってコッソリ来たってのに鉢合わせちまうとはな、やれやれだぜ…)
俺自身の正体を明かすのは不味いことだろう。やるべきではないハズだ
ならただ一礼して帰るとするか。
「あなた、もしかして典明のお友達なの?」
悲痛な言葉が俺に刺さる
『友達』、その言葉が典明にとってどんな重みのある言葉か…。
7:
花京院はスタンドが見えるのは周囲には全くいなかったと語っていた
生まれつきスタンドを持っていたが故に本当に心を許せる仲間と言うのを作れちゃいなかったのだ。無理もないだろう
他人に、ましてやスタンドを見えない人にスタンドを理解してもらうことは相当無理があるのだ
「…………そうだ」
俺自身、花京院は『友達』なんて生温いもんでは無いと思う
共に一つの目標に向けて戦った『仲間』、ほんの少しの期間だったが固く強い絆を育てた真の『友』だったのだ。
8:
「花京院は……典明は俺の『友達』だ」
俺は一言呟いた
どんな言葉を投げ掛けるだろうか
花京院の死はどう伝えられてるかもわからない
だが今さら友達だと言うのが出てきてもにわかに信じられないのではないか
罵るのだろうか?けなすだろうか?
だがその次の一言は予想だにしないものだった
「………ありがとう」
罵声でも何でもない、ただ一言の礼だった。
重く深く、俺には不釣り合いでしかない礼だった
9:
「典明の友達で……友達でいてくれてありがとう」
涙声で言い切ったあと、花京院の母親はぼろりと壊れた彫刻のように泣き崩れた
深く帽子を被り直し、俺は墓場を立ち去る
墓の間に生えた雑草はエメラルドグリーンの輝きを放っていた
END
13:
【受け継がれる志】
水の都ヴェネチア
美しい芸術の土地にある誇り高き血統と崇高な志を持つ青年がいた
どつやらトランク一つの荷物を片手に誰かを探しているようである
「さて……中々いいとこじゃあないかヴェネチアってのも」
下ろし立てのスーツをラフに着崩し、頭にはバンダナを巻いている青年、シーザー・アントニオ・ツェペリである
ある男の遺言に従って俺はこの地に来ていた
14:
「私の死をヴェネチアにいるリサリサと言う女性に話してくれ」
それは久々に、やっと再会できた父親である男の最期の言葉だった
俺の父親がどこにいったかなど全くもって覚えちゃいなかった。突然の蒸発だったからだ
だが数年ぶりに父親を見つけた瞬間、人生が劇的に変わった
ノコノコと故郷ローマに出てきた父を追った先に見たものは、人智を越えた壁の中の存在
それに迂闊に触れてしまった俺を助けたのは他でもない、憎み続けた父親だった
やっと再会できた父は俺の成長した姿と気付くこと無く壁に取り込まれてしまった
俺は瞬時に理解した
父がいなくなったのはこの壁を知ったからのだと。自らを犠牲にして他人を救うような男がこの壁面を見て知らないフリ等出来るはずが無かったのだ
だからこそ、彼は家族を捨て、自ら一人で全てを背負ったのだ
家族を巻き込まないために。全ては不器用な優しさから来たものだったのだと知った
15:
全てを知った俺は今ヴェネチアにいる
だがリサリサと言う女性は何処にいるのか見当がつかない
詳細は女と言うことしか知らないのだ
このヴェネチアで一人の女性を探すのにはヒントが足りなさすぎる
そう考えていた時、ある女性に目を奪われた
真っ赤な唇に美しい黒い髪、決め細かな白い陶器のような美しい肌。そして微かに感じる寂しそうな雰囲気
俺は次の瞬間にはこの女性の下へ歩いていった
寂しそうな雰囲気を持つ女性をほっておいては伊達男の名が廃ると言うものだ
「お一人ですか、素敵なお嬢さん?」
慣れた手つきで向かいの席に座ると優しげに警戒心を与えないように声をかける
16:
「ナンパならば結構よ?生憎私は軽い女じゃなくてね?それにある人と待ち合わせていますの」
彼女は動じる様子もなくサングラスをかけたままツンと言い放った
どうやらナンパされなれているらしい
普通の男なら「ちぇっ、お高く止まりやがって!」とふて腐れるかもしれない
だが俺は違う
「まぁまぁ固いこと言わずに…ウェイター、この女性にあったワインを」
少しあっと驚く手品を見せてみようかな
そうすればそっぽ向いてしまった顔もこちらに向くだろう
17:
運ばれてきたワインのコルクを抜こうとするウェイターを止める
「君との出会いに少し手品を…」
ワインのボトルを掴むと少し独特な呼吸を始める
バチバチィッ!っと電気がショートしたかのように火花が散り、コルクはスポンと抜けた
生まれつき俺には不思議な力があり、ワインボトルのコルクぐらいなら栓抜きなしで開けられるのだ
だが彼女は何の興味もないようにワインをグラスに注ぐとあろうことか指を突っ込んだ
「マンマミーア!手癖の悪いお嬢さんだ!」
思いがけない行動についこんなことを叫んでしまった
だが次の瞬間には言葉すら出せなかった
彼女がグラスから指を抜くとその指を拠点にワインがゼリーのように固まっているのだ
しかも一滴たりとて溢してはいない
完全にワインは空中で静止しているのだ
18:
「近くでよーく見てみたらよろしいのでは?」
恐る恐るワインに近づいてみると微かに俺と同じような電気のようなものが見えた
だが次の瞬間!
いきなりワインが爆ぜ、顔やスーツにこれでもかとワインが飛び散った
「な…何で俺と同じことが出来るんだ…?何者なんだお嬢さん…」
俺と同じことが出来る人を見たのは始めてであり声が震えた
情けないことだがビックリしたのはこっちの方だったのだ
「待たせたなリサリサ、商談がやっとまとまってね」
驚く俺を尻目に顔に傷のある老人がここに来た
だが俺が驚いたのはそこじゃなかった
「リ、リサリサだってぇ??ッ!?」
思わず大声で叫んでしまった
さっきまでナンパしていた人が探していた人だったのだ
19:
「君は誰だい?」
そう言えばこの男は確か新聞で見たことがあるぞ……そうだ!あのSPW財団の社長じゃないか!
「ただのナンパ男よ」
リサリサと呼ばれた女性はサングラスを外し蔑むような目でそう言った
「ま、待ってくれ!あなたホントにリサリサなんですか?」
声が裏返って裏返って仕方無いのだ
恥ずかしいのと焦りとその他もろもろのせいである
「そうだけど…まだ何か?ナンパ男さん?私を口説くのだったらあと10年は…」
「マリオ・A・ツェペリを……父を知っていますか?」
父の名を出した瞬間、二人の顔色がサッと変わり、リサリサの眼はただのナンパ男を見る目じゃなくなっていた
20:
「あなたの名前は?」
「シーザー・A・ツェペリ、マリオ・A・ツェペリの息子です。」
震えは止まらなかった
止めることも出来なさそうだ
「マリオは…どうなったの?彼はローマに帰っていたはずだけど」
リサリサは震える声でそう尋ねる
タバコをくわえようとする手は平静を保とうとしているが恐らく無理だろう
「父は…父を俺を…俺を庇って死にました…。あとリサリサさん…タバコ逆さまですよ」
自分の無知、無力さに嫌気がさしてたまらない。それ故に父さんを殺してしまったも同然なのだから
だが俺にはやるべきことがあることを知った
21:
次の瞬間、俺は地面に頭を擦り付けるような姿になった、所謂土下座だ
「リサリサさん、いやリサリサ先生ッ!先程の無礼をお許し下さいッ!」
土下座した姿勢でリサリサ先生に謝罪する
土下座なんて普段なら屈辱過ぎてしないだろう。だが今は違う
土下座の姿勢のまま続ける
「そして俺に父のやっていたことを教えて欲しい!継がせて欲しいんです!父さんのやろうとしていたことを!父さんの志を!そのためならなんだってします!どれだけ辛いことでもやり遂げて見せます!御願いします!
さっきのような技を、俺のこの力の使い方を教えてください!!」
この地に俺を行かせたのは運命だったのかもしれない
俺がこの地に来たのは、崇高な志を継ぐためだったのだ
22:
「そっくりね。あなたの父親と同じ。その真っ直ぐな瞳は父親譲りね」
タバコを直したリサリサ先生は寂しそうな笑みで俺を見た
「良いでしょう、マリオの意志を継ぐのならついてきなさい。でも修行は厳しいわよ?」
その一言を聞いた瞬間、笑みがこぼれた
俺は父の意志を、誇りを継げるのだ。
「よろしくお願いします!」
深々とリサリサ先生にお辞儀をした
そしてこの日俺は父さんのやって来たこと、ツェペリ家が追い続けてきた石仮面と言う存在について知ったのだ
その日から俺の血統は、ツェペリ家の魂は誇りとなった
23:
(あぁ………今こんなことを思い出すなんてな…)
最期の波紋を絞りだしもう何も残すことのない
最早何の気力もなくなったこの瞬間に思い出したのはあの日のことだった
(リサリサ先生、ジョジョ。俺の魂は…そこにある。だから哀しむ必要なんてないんだ
こんなところで立ち止まらないでくれ。泣かないでくれ
俺の魂を受け取ってくれ、ジョジョ。
去らばだ、我が魂の『友』よ。)
END
27:
【受け継がれる者。受け継ぐ者。】
オウガーストリートから複数の仲間を連れ、新天地アメリカへ旅立とうとしていたときにある凶報が俺に届いた
「ジョースターさんの船が大事故だとッ!?おい嘘だろッ!?」
ディオとの戦いのあと、新婚旅行に行ったジョースターさんの船が大事故を起こしたと言うのだ
しかし生存者は二名、しかも担ぎ込まれた病院は近いらしい
「こうしちゃいられねぇ!すまねぇ船の旦那、男スピードワゴン、恩人が危険な目に合っちまってるんだ!行かなきゃなんねぇ!」
船の旦那に告げたあと韋駄天のごとく走り病院へ向かう
無事でいてくれよ、ジョースターさん!!
28:
だがしかし、病院で待ち受けていたのは非情な現実だった
「ジョースターさんが…死んだだと…!?」
二人の生存者、一人はエリナさん。だがもう一人は違ったのだ
「あの人はこの子と私を庇って…船と運命を共にしました。」
エリナさんの話ではまだゾンビが生き残っていたがジョースターさんが決死の覚悟で船を爆破させ偶然生き延びたこの赤ん坊と共に脱出させたらしい。
「この無関係な子を………ジョースターさん…あんたって人は、どんだけあまちゃんなんだよォ」
最期の最期までジョースターさんは他人のために生きたのだと言う
あの人らしい最期だが、自らを犠牲にしてしまうなんてあんまりじゃないか…
29:
「けどジョースターさん……エリナさんを残していっちまうなんてよぉ、あんまりってもんだぜ」
しかも聞くところによればエリナさんはお腹に子供がいるらしい
幸せの絶頂だって言うのにそりゃあ無いぜ
「決めたぜエリナさん。俺はジョースターさんの代わりにあんたらを守る。あんたたち二人を 守って見せる」
どうせジョースターさんに会っていなければオウガーストリートで燻っていたんだ
ジョースターさんのために投げ出しても何の問題もないのだ
だがエリナさんの答えはNOだった
理由はこうだ
「きっとジョナサンは貴方が貴方の道を行くことを望みます。ですから私とこの子供の為なんかに人生を棒に振ってはなりませんよ」
あぁジョースターさん。貴方の選んだ女性は芯の通った強い女性だ
素晴らしい女性だぜ
30:
「ホントにいいんですかい?スピードワゴンさん、恩人の葬式に出なくて」
「あぁ…ジョースターさんはそんなことを望んじゃあいないさ…。俺は胸を張れる男になって帰ってくる」
そうだろう?ジョースターさん
こんな未熟な俺でもあんたのそのお人好しのあまちゃん精神を受け継いでもいいよな?
「俺も自分の知らねぇ世界を探しに行くさ!先ずはアメリカって場所へな!おめぇらも達者でやれよ!」
スピードワゴンはクールに去るぜ…。
こうして俺は単身アメリカって場所へ旅を始めた
だが俺を待っていたのは想像を絶するモノだった
32:
「あっちいなぁ………昔行ったジャングルとは違うからっとした暑さだぜ……」
何の因果かタンクトップ一枚で砂漠を放浪している
大体、何故こんなことになったのかと言うと、アメリカに着いて直ぐのことだった
「おいおいさっさと働きやがれッ!このクロンボ!また賃金減らされてぇのか!?」
年端もいかない黒人の子供が無理矢理働かされているのだ
ウィンドナイツ・ロッドで出会ったポコぐらいの歳である
アメリカは移民の国だが、黒人差別が未だに健在だったのだ
特に低賃金で働かされ続ける子供は負のスパイラルから抜け出せずにいた
それを見て見ぬふりなど出来るはず無かったのだ
「おいあんた、その子供は病気じゃねぇか。休ませてやんな」
あんたならこうするよな?ジョースターさん
33:
「あぁ?ん?このクロンボはウチで雇ってんだ!このクロンボだけじゃあねぇんだよ!この国じゃクロンボにデケェ顔させねぇんだ!カネと白人がこの国のルールだからなァ!」
こんな外道がいやがるなんてな
ゲロの匂いがプンプンするような奴だぜ
「いくらだ」
「あぁ??何だってイギリス野郎!聞こえねぇぞ!」
「ここにいる黒人の給料はいくらだって聞いてんだ。早く答えろ。カネと白人がこの国のルールなんだろ?」
肩の手の力が強くなっていき軋む音がギリギリと響く
「フヘヘヘヘェッ!物好きな野郎だなぁおい!良いだろう、一人当たり五百ドル!びた一文負けねぇぞ」
男は肩の手を振り払うと薄汚い笑みを浮かべそう言った
34:
その場の空気で承諾したが五百ドル、いやその十分の一も出すことは俺には出来ないだろう
何てたって殆んど無一文身一つでこの国に来たのだから
「パッ……とそんな大金を稼ぐ方法があるだろうか…流石にねぇよなぁ…」
頭を抱えて考え込んでいると酒屋から出てきたおっさん二人組の話が耳に入った
「聞いたかい?一発大儲け出来っかもしれねぇって儲話!!」
「あぁ、あのソノラ砂漠って所で石油が見つかるかも知れねぇって話かい?確かに夢物語だが俺は信じないね」
聞いた瞬間に思った。これだ、と
俺に残されたチャンス、それはこの石油の話に違いないと
35:
「おいそこのおっさん!その話詳しく聞かせてくんねぇか!?」
俺はそのおっさんたちから詳しく話を聞いてこの砂漠に単身スコップ片手に乗り込んだ…と言うわけだが俺は少々砂漠を舐めきっていた
南極の原住民の所で暮らした時よりもアフリカのジャングルで遭難しかけたときよりもこの暑さと日照りは厄介かもしれない
「不味いな……このダウジングって装置もアテになんのか?」
昔旅していたときに教えてもらったダウジングと言う地下のものを探す方法だが、果たして意味があるのかどうか……
「そもそもよぉ…なんで針金二本曲げた程度でモノ見つけれるんだってんだ」
そう毒づいた瞬間、ダウジング装置が何の力もなく反応した
つまり、ここに何かあるかも知れねぇってこった
半信半疑だが俺の最後の手段だ。一か八か掘ってみるしかねぇよな!
そう意気込むと砂漠の砂を掘り始めた
36:
だがこの暑さと終わること無さそうな砂一面の世界では一時間と掘るのがもたなかった
「ぜぇ……ぜぇ……辛すぎるぜ…掘っても掘っても砂砂砂。どうかしてるぜ」
もう俺一人分は入れそうな穴蔵が出来ているのに石油のせの字も出やしない
「水も残りすくねぇってのに…ちくしょう。もう限界だぜ………」
穴の中から這い上がる気力も精力も沸いてこねぇ
このまま死んじまうのかなぁ…こんなところでひっそりとよぉ……
「スピードワゴンさん!スピードワゴンさん!」
意識が朦朧としてオウガーストリートのアイツらの幻覚まで見えてきやがった
へっ、達者でやれって言ったのに幻覚に見てんのは俺だとはな…情けねぇぜ
37:
「早く水だ!水持ってきてやれ!意識が朦朧としてやがるぞ!しっかりしてくれよスピードワゴンさん!あんた死なせるわけにゃいかんのですよ!」
バシャッと顔に冷たい感触
それと同時にこれは幻覚なんかじゃあねぇってことに気付いた
「ホ、ホントにおめぇらなのか!?なんでこんな砂漠によぉ!」
さっきまで死にそうだったのにもうこんな大声が出せるようになっちまった
「何って…あんたを追ってアメリカに着くなり物好きなイギリス野郎がいるって聞きましてね、あんたに違いないと思ったんですよ」
「スピードワゴンさん…やっぱ俺達あんたのそばにいたいんですよ!俺達ゃ貴方のその心意気に惚れて着いて来たんですよ!あんたが地の果てにいこうと、着いていかせて下さい!」
口々にオウガーストリートの奴等は言う
ホントに、ホントに馬鹿な野郎達だよ…
このスピードワゴン、その心意気に恥ずかしながら男泣きしちまったぜ
39:
「けっ……勝手にしろっ!…」
それだけ言うと俺は今石油を掘り当てようと掘っていること、勿論辛く厳しいことをアイツらに伝えてやった
するとアイツらはニヤッと笑いながらスコップを取り出した
全部お見通しって訳かよ…
「手伝いますよスピードワゴンさん!」
「任せてくださいって!」
頼もしい限りの奴等だぜ…!
こうして丸3日、途中途中死にそうになりながら地獄の3日間を過ごし、石油を探し求めた
そして3日目のある日、俺の掘っていた場所から黒色の液体が溢れ始めた
油独特の臭い
まごうことなく探し求めていた石油である
「やったぞーーーーーッ!!ついにッ!ついにッ!堀り当てたぞッ!!!」
俺は天に向かって声の限り叫び、仲間と喜びを分かち合った
40:
この日、アメリカでは一人の男が紙面を大々的に飾った
【LEO・スピードワゴン氏、アメリカンドリームを掴む!】と。
一人の男が身体一つで砂漠から石油を掘り当てたのだ
人々はその男をこう呼んだ。『石油王』と!
スピードワゴンが最初に行ったのは、黒人達をあの環境から救う事だった
「ほら、数えやがれ。これでこの子達は解放されるんだろ?」
あのゲロ野郎にきっちりと金を払うと、彼らを連れ出した
「てめぇらはこれから自由だ。生活に困ればここに来な。今よりはいい条件で雇ってやるからよ」
会社の名刺を渡すと身を翻し帰ろうとした刹那、黒人の少年に呼び止められた
「あっ……あのっ!貴方…何で僕らを助けたりなんてしたんですか!?得なんて無いじゃ無いですか!」
黒人の少年は矢継ぎ早に捲し立てた
「そらぁ…俺はあまちゃんでお人好しだからよ。困ってる人を放ってはおけねぇ。それだけなんだよ」
「………最後に…名前だけでも教えてください」
黒人の目はキラキラと光っていた
「俺はお節介やきのスピードワゴンさ。ただの……高貴な精神を受け継いだ男なだけさ」
それだけ言うと俺はその場を後にした
後に彼は世界経済をも動かすほどの男へと成り上がっていくのだが、それはまた別のお話………
END
55:
【ジョジョ・ウォールストリート】
「う?ん…まだ慣れねぇなぁ…この左腕はよぉ」
左腕をギリギリと音をたてながら動かす青年はある酒屋にいた
どうやらポーカーに興じているらしい
相手は取引先の重役らしく恰幅のいい格好なのだがその青年は筋骨隆々で逞しい身体をしている
「その腕は…事故か何かかい?若いのに義手なんて大変だねぇ」
恰幅の良い男は口だけの心配をしつつカードを配るディーラーに目配せをした
ディーラーは何かを察したかのようにニヤリとほくそえんだ
どうやらイカサマをするための目配せらしい
「えぇ…昔ちょっとやっちまいましてねぇ……まぁ名誉の負傷ですよ」
青年はイカサマに気付くどころか義手をギリギリと音をたてながらいじるのに夢中らしい
56:
(チョロいな……この男は)
重役は心の中で良いカモに当たったとほくそえんでいた
元々この青年とポーカーをする経緯はこうだ
この青年は私の会社の土地を購入したいと言ってきた
それも半額以下で。見る目があるのか一等地である場所をだ
当然私は断った、だがあろうことかその青年はある賭けを持ち込んできたのだ
『じゃあポーカーで勝てば俺の希望通り売ってもらう、もしも負ければ、その土地は倍額の値段で買う?どう?勝てばオイシイ話よん?』
ポーカーをする場所やディーラーは俺に選ばせると言う条件付きだ
この時点で俺はコイツをカモだと思った
(ポーカーをやる上でアウェーでするなど愚の骨頂!甘いな若造め。私を耄碌したジジイだと侮ったな!若い頃はポーカーで大勝し続けたのを知らんようだな!ここのディーラーとは若い頃から共にイカサマをやって来た仲間よ!)
倍額であの土地が売れれば大儲け
思いがけない商談に顔が緩みそうで仕方無かった
57:
「おぉっと、ポーカーする前にここで飲んでる奴等に証人になってもらわねぇとなぁ。後でそんな話はありませんってのは無しだぜぇ??」
馬鹿な野郎だぜ。てめぇのその行動が負けたときに自分の首を絞めるってのによぉ!
青年は複数の男達に捺印を押して貰うと再び席についた
「まっ、シンプルにクローズド・ポーカーと行きましょうか!ベットは無し、カードはチェンジは三回まで……ジョーカーは一枚だけ」
三回までのチェンジ…なるほど、イカサマはやり易いじゃあないか
ジョーカーは一枚?お前にとっちゃあ0枚だろがッ!
(今日はツイてるぜぇ?!)
喜色満面で配られた札をとった
58:
「…………え……?」
次の瞬間にはディーラーも私も眼を疑った
私のカードはKING二枚とA三枚のフルハウス
そしてあの青年の配られたカードはブタ…揃うはずがないッ!なのになんでなんでなんで
「おやまぁ?勝っちゃたよ!うれぴぃ?!」
青年のカードは2の3枚とジョーカー、つまりフォーカードッ!
「次のお前の台詞は『どうしててめぇがブタ以外握れんだァ?ッ!?イカサマだッ!こんなの無効つってんだろォッ!』だ」
「どうしててめぇがブタ以外握れんだァ?ッ!?イカサマだッ!こんなの無効つってんだろォッ!………ハッ!?」
えっ!?なんでコイツ、私の台詞を読めちまったんだ?
59:
「おめぇの事なんざ調べついてるってぇの。若い頃は詐欺紛いのイカサマポーカーで何人も路頭に迷わせてきたってのはな。お前が乗ってこないわけ無いと踏んだ結果、見事引っ掛かってくれたって訳」
ぐぬぅぅ?ならわざとここでイカサマするように仕向けたって言うのか!
「な、無しだ!お前イカサマしてるんだろッ!?そうだろ!そんなの無しに決まってんじゃねぇか!」
ここまで小馬鹿にされたのは始めてだ!こんなポーカー無しだ無し!
声を荒げ店の外に居させておいた若いのを呼びつける
若いのはゾロリゾロリと酒屋の玄関から………あれ?
ゾロリゾロリと入ってきたのは見たこともないごろつき共である
「外にいた若いのはのしといたぜ坊っちゃん」
ごろつき共は青年にそう声をかけていた
全て読まれ先回りされてるってのか!
63:
「ヴェェェリィナァイス!流石あのオウガーストリートの元ごろつきだぜ、格がちげぇな!」
「ヘヘッ!こんなニューヨークのあまちゃんに負けるほど腕は落ちてねぇっての!」
青年は私の方に向き直ると微笑む目で次の手を打ち出した
「さぁて、今から賭けは無かったことにしてスタコラ逃げるかい?逃げれるならよぉ!」
ギリギリと左腕を鳴らしながら青年に尋ねられては逃げれる気もせず、がっくりと肩を落とし商談を成立させてしまった
「教えてくれよ…あんた若ぇのに胆が座ってやがる…何者なんだ?」
「ジョセフ・ジョースター、ニューヨークで一旗上げる男さ。んじゃ今後ともごひーきにぃーよろぴくね?」
二本指を立てて挨拶をすると土地の権利書を持って酒場から出ていってしまった
「ジョセフ・ジョースター…恐ろしい男だ…」
一夜にしてこの私から莫大な資産を奪っていくとはたまげたものだ
64:
ニューヨークのジョセフ宅
「ただいまぁ?ってうおォッ!イッテェ……何しやがんだよスージー!帰ってくるなり殴らなくたってもよぉ……」
玄関に待ち構えていたスージーQは帰ってくるなり俺の頭を叩いた
「えらく遅いじゃないの、今日は重要な話があるって言ったじゃない!?」
そう言えば今朝そんなこと言ってたっけか!やべぇーポーカーのことでいっぱいいっぱいで忘れてたぜ…
「仕事がちょっぴり延びちまったんだよ、これでも全力で帰ってきたんだぜ?ほらほらそんなに怒ると小皺が増える…あでぇ?耳はッ!耳はやめてくれェ?!千切れちまうって!」
一切の容赦なく耳を引っ張るスージーQ
こりゃ究極生物よりもおっかねぇぜ……
65:
「機嫌直してくれよ…悪かったってば」
ディナー中でも怒っているスージーQ。やはり小皺が増えるわけだぜ…
ま、俺は波紋の呼吸さえしてれば見た目はフケねぇから今でもやってるんだけど
「早く教えてくれよ重要な話!俺が焦らされるの嫌いって知ってるだろ?」
スージーQに催促すると顔を赤らめこう言った
「……たのよ……」
「ヘッ?何だって?聞こえねぇぞ!」
「出来たのよ……赤ちゃん。三ヶ月よ。」
その言葉を聞いた瞬間、時が止まった
沈黙のあと、スージーQは慌てて言葉を繋いだ
「も、勿論貴方と私の子供よ!浮気なんかじゃあないわ!」
「ホントか?ホントに、ホントに出来たんだよな!」
スージーQにテーブル越しに詰め寄る
親になる。俺が…親になれるのだ。こんな嬉しいことは他にはあるわけがないだろう
俺は父親になれるのだ
66:
俺には気付いたときには母親も父親もいなかった。いや、正確には母親はいたのだが
その代わりエリナ婆ちゃんとスピードワゴンのじいさんがいてくれた
けれど俺は少しだけ父親が欲しい。そう考えたことがある
「俺が父親になれるんだよな…」
この子には…絶対親がいないなんて寂しい思いをさせたくはない
俺と同じ、気持ちなんて絶対に感じさせてたまるか
「あなた?ねぇジョセフ?なんで泣いてるの?泣かなくったって良いじゃあないの」
「だっ、誰が泣くっかよォ!あれだぜ、この料理の味が旨すぎただけだ!そう、旨すぎるのがわりぃんだよ!」
照れ隠しに飲んでいたスープを素早く飲み干し、目の横の雫を乱雑に拭いさってスージーQの顔を見るだけで互いに笑みがこぼれた
67:
その日から完璧に運がこっちに流れてきた
一等地にオフィスを建て、株に手を出して元手を増やす日々
その元手で様々な分野に手を出して行った。どれもこれもが上手く行く日々
まさに天が味方についていると言えるような順風満帆な日々を過ごし続けた
「ほ?らホリィ……いないいない……バァ?!」
「キャハキャハ・・」
スージーQと俺の子供、ホリィはとても可愛い娘だった。もう目に入れても大丈夫なくらいに
彼女のためなら何だってやった。時にやり過ぎたこともあったため、良くスージーQには咎められたがホリィは可愛くて可愛くてたまらなかった…
だがホリィが六歳の頃、少しだけ事件があった
68:
ホリィが六歳の頃、俺はまだ波紋の呼吸をし続けていた。見た目は若々しいままだった
理由は……何と言えば良いのだろう、老いへの抵抗が少しだけあったのだろうか?
柱の男達のように永遠を手に出来るわけでもない。今ならストレイツォの考えてることが少しだけわかる様な気もするのだ
波紋の呼吸をして尚、精神や行動も若くあろうとした俺は毎日のように豪遊、パーティーなんかをし続けていた
当然その事でスージーQには何度も何度も咎められ続けた
だが俺はこの迫り来る恐怖から逃げるためだけに豪遊を続けていた
そんな堕落しきった毎日をし続けていたある日のことだった
69:
スピードワゴンのじいさんがある日俺のパーティに現れた
俺はスピードワゴンのじいさんの元へ駆け寄った。正直身体の方も割りと悪いらしい
「おうスピードワゴンのじいさッ!!」
歩み寄った瞬間にスピードワゴンのじいさんは老いを感じさせない一撃を僕に見舞った
重く、身体の芯へ染み込むような一撃だった
「何をしているんだこの馬鹿者ッ!!自分のしていることを言え!言ってみろ!!私の目を見て、お前の言葉で言ってみろ!!」
子供の頃ですら見たことの無い剣幕で俺の胸ぐらを掴み凄み続ける
俺はその真っ直ぐな強い瞳を見て何一つと言えなかった
70:
「何一つ言えないのならそんなことをするな!お前のすべき事は何か…考えてみろ!」
スピードワゴンのじいさんの一喝のお陰で目が覚めた
自分の考えていること、していることの愚かさに
「ありがとうよ、スピードワゴンのじいさん」
スピードワゴンのじいさんと堅く握手をするとパーティー会場から逃げるように外へと出た
行く場所は勿論、アイツのいる我が家だった
「スージー、スージーQ!いねぇのかスージーQ!!」
家に入るなり大声でスージーQを探す
もしかしたら愛想をつかして何処かへ行ってしまったのかも……
「何々!?どうしたのジョセフ!?」
慌てて出てきた様子のスージーQを見た途端、駆け寄り強く抱き締めた
71:
「えっ……ちょっと…ジョセフ!?どうしたの急に!」
戸惑うスージーQなど気にすること無くただ抱き締めていた
「すまねぇ…スージーQ…俺が間違ってた……ホントにすまねぇ…」
掠れた声で何度も何度も詫びを入れる
力を入れれば涙がこぼれそうだからだ
スージーQの顔をまじまじと見つめる
少し小皺が増えたかもしれない顔だが、昔の頃と変わらず、いやとても美しさに磨きがかかっていた
彼女の顔を見ていれば、老いることなんて何ともないように感じられた
老いることは恐れるのではなく楽しむべきものなのだと、いつも近くにその答えはあった。なのに俺は見逃していたのだ
こんなにも美しいモノを、俺は自ら見ないようにしていた
この日から、俺は波紋の呼吸をしなくなった
もう老いることに抵抗なんて無くなった
美しくなるスージーQのとなりで、俺も美しく老いて行こう………そう決めたのだ
この後彼は『ニューヨークの不動産王』ジョセフ・ジョースターとして更に世界に名を知らしめて行く
その彼が一人娘の嫁入りに戸惑う日は……また別のお話
END
76:
【追悼の風】
「ここは……いい町だな」
爽やかな風が吹く町は、とても平和であり美しい
そこで僕はあるリストランテへ入った。この町一番のピッツァを出す店らしい
「いらっしゃいませ……ご注文は?」
店の奥から出てきた店主は人の良さそうな顔で注文を取りに来る
「このリストランテには、楢の薪で焼く熱々のマルゲリータが有名だと聞いて来てみたんだが、それにポルチーニ茸を乗せて貰えないだろうか?………出来る?グラッツェ…よろしくお願いします」
この僕の少し我が儘な頼みを快諾してくれた店主はピッツァを作りに公房へと入っていった
「やはりこの町はとてもいいな…とても」
リストランテの窓から見える子供の遊ぶ姿を遠い目で見ながらポツリと呟いた
77:
「意外にでかいな……食べきれるだろうか?」
勿論味も香りもとても良いのだがいかんせん一人で食べきれるものか難しそうな大きさなのである
これならミスタの奴も連れてきておくべきだったなと半ば後悔しながら熱々のマルゲリータにかぶり付く
すると窓の外にある少年が通った
普通なら気にも止めること無い存在のはずが、ソイツは僕の目を釘付けにした
ソイツはアイツに似ていた。始めてあった残飯を漁っている頃のアイツと同じ目をしている
誰も彼も、信じらんねぇ…信じたくもねぇ…
そんなこの世の薄汚い情念が渦巻いているかのような、そんな目をしていたアイツに
78:
気付いたら僕はそいつの手を引くとその青年に余っていたピッツァを差し出した
「食べなよ。僕はもうお腹いっぱいでね。これだけで足りないなら追加してもいい」
ソイツは驚いて何も言えず固まっていたが腹の音がなった瞬間にはガツガツと涙を流しながらピッツァにかぶり付いていた
僕は無言で彼の食事風景を見ていた
この町でこの少年に出会ったことは何かの縁なのだろうか?
アイツにそっくりなこの少年がこんなところにいるのは……運命なのだろうか?
ソイツはピッツァを食べ終えると僕にこう尋ねた
「あなたって…ギャングですよね?身のこなしも年のわりにも落ち着きがある。かといって身なりはきっちりとしている」
ここまではっきりと見抜ける辺りは、アイツとは違うところだな
79:
「ギャングなんだろ?頼むよ、俺をギャングにしてくださいよぉ。もうどうなったっていいんだよ俺はよぉ……」
その少年の悲痛な目を見た瞬間、僕の返事は決まっていた
無言で力一杯の一撃を少年の腹へ見舞う
当然その少年は吹っ飛んでいく
腹を抱えて苦しむ少年にこう吐き捨てた
「ギャングになりたい?自分なんてどうでもいい?ふざけないでくださいよ、僕のいる世界はそんな生半可な覚悟で入ってチャラチャラしていられるような世界なんかじゃあないんですよ。
この世界から掃き捨てられてごみ溜めの中で這いずり回った奴等が最後に落ちる場所なんですから」
そして顔を持ち上げ、その少年の目を見据えた
「君の目には…覚悟も凄みの欠片もない……。だが君がホントに覚悟が出来たなら、僕達の元へ来てもいいですよ」
そう言った後、幾らか病院代を渡すとその場を後にした
80:
次に僕がたどり着いた地は無縁墓地である
簡素な花束を手に僕はある人の墓参りに来ていた
ナランチャ・ギルガ。僕の組織のメンバーでありある戦いで死んでしまった少年のためだった
「……あのとき、君は船に乗った。自分の意思で覚悟をもって」
ド低脳と罵った事もある彼は本当は僕よりも重要なことに気付いていた
今更になって君の墓参りに来る資格も無いような恥知らずだけれど、僕なりに成長したつもりだ
「僕は君のその勇気ある意思と覚悟に敬意を表する」
花束を墓へ添えしばしの黙祷を終えると耳に付いていたイチゴのイヤリングが風にそよいだ
「そうだ、君の食べようと思っていたピッツァ、とても美味しかったよ……。それじゃあ、アリーヴェデルチ」
そう墓に礼をすると、僕の町へと帰ることにした
今度来るときはあそこのピッツァを持っていくことにしよう。そんなことを考えながら……
END
88:
【おらの親友】
ソイツはおらが小さい頃から一緒にいてくれたど
ソイツは小さくていつでも出てきて、特におらが寂しいと思ったときにいてくれたんだど
「ママ、おらの周りのこの小さいのなんだど?」
あるときホントに不思議になっておらはママに聞いてみたど
けどママは首をかしげて可笑しなしげちー。と笑っていたのを覚えてるど
パパにも言ってみたけど、やっぱり笑っていただけだったど
「わかったど、こいつって、おらにしか見えない妖精なんだ!」
周りのみんなに聞いても変なしげちー。と言うだけで教えてくれなかったから、きっとおらにしか見えてなかったんだとわかったど
「うーん、うーん、お前の名前は……うーん」
ソイツの名前を付けてやろうとしたけど、おら考えるの苦手だからパッと目に入ったお菓子の名前にしたど。おらの大好きなお菓子の名前にだど
「お前の名前は、『ハーヴェスト』だど!ヨロシクな、『ハーヴェスト』」
ソイツは気に入ったのか小躍りしてて、見てるおらもとても嬉しかったど
90:
けど小学校にはいるとみんながおらをからかうようになったど
「やーいやーいのろまのしげちー!勉強出来ないマヌケやろー!」
おらはいっつも徒競走じゃあビリッケツだったし、計算も両手を使わないと良くわからなかったど
それに皆には見えなかった『ハーヴェスト』は嘘つきだって、言われたど
何度も何度もおらの前にいるんだって言ってもその度にゲラゲラと笑いながらこういうんだど
「また始まったぜ!嘘つきぼっちのしげちーのお友達自慢がよ!」
「その『ハーヴェスト』って奴をさっさと見せてみろよぉ?見せらんねぇのか?」
おらはだんだんと小学校には行きたくなくなったど
友達はだんだんといなくなっていってしまったど
けれど友達がいなくなる度に『ハーヴェスト』はどんどん増えていったから、寂しくは無かったど
91:
『ハーヴェスト』はとっても良い奴等だったど
おらが欲しいと思ったモノを、持ってきてくれるど。エンピツでも、消ゴムでもお金だって持ってきてくれる、スゴい奴だど
それに、悪口は一切言わなかったど
小さいのに皆で力を合わせてとってもくおらを遠くへ遠くへ運んだり出来たど
けどそんなある日ある事件が起こったど
いつも通り消しゴムを忘れたから『ハーヴェスト』に持ってきてもらって使っていたら僕を指差してクラスメイトが言ったんだど
「それ!僕の消ゴムじゃあないか!返せよッ!盗んでんじゃあねぇよのろまのしげちー!」
そのままおいらに近付くと消しゴムをひったくっておいらを突き飛ばしたど
おいらもこれにはかっとなって殴り返そうとしたら、『ハーヴェスト』がいきなりおらの代わりにソイツの鼻を抉ったど
92:
ハーヴェストは小さいから精々ソイツは鼻の穴が少し大きくなっただけだったど
けれどソイツは大泣きしておらはそのまま職員室へ連れていかれたど
「おらじゃないど!『ハーヴェスト』がやったんだど!」
何度も何度もおらはやってない、『ハーヴェスト』がやったんだと言ったけど、誰一人としておらの事を信じてくれなかったんだど
果てには先生にまで嘘つきだと罵られたど
ママが学校に来て、何度もおらの代わりに謝ってたけれど、おらは謝りたくなかったど
だって『ハーヴェスト』がやったんだど
なのにおらが悪いなんて理解不能だど!
「どうやらしげちー君は頭がおかしいみたいですねぇ?とんだ嘘つきの問題児ですよ!」
先生がそう言った瞬間、ママの目付きが変わって、こう言ってくれたど
「しげちーはそんな子じゃありません!嘘つきなんかじゃあありません!」
凄みをもってはっきりと言ったど
ママは見えていなくたって、嘘をついていないと信じてくれたんだど
93:
学校から帰ったあと、ママはこう言ったど
「しげちー…あなたにしか見えない友達はママとパパには見えないわ。だけれどね、ママとパパはあなたを嘘つきなんて思わないわ。世界中の誰もがあなたを嘘つきなんて言ったって、パパとママはあなたを信じ続ける。だから今日みたいに暴力を振るうのだけはダメ。もう振らないって約束して」
そう言ってママは優しく抱き締めてくれたど
おらは嬉しくて、暖かくて、止めどなく溢れる涙を止めること無く流しながら暴力を振るわないと約束したど
その日からおらは暴力なんて振るわなくなったど
『ハーヴェスト』にも人間を襲っちゃいけないときつく言い聞かせたど
謝ったけれどクラスの皆から無視されるようになってしまったど
でもおら寂しく無かったど
だって、寂しいと思う度に『ハーヴェスト』は増えていって、今では五百体はいるからだど
94:
そして中学生になったど
相変わらず勉強はわからないし徒競走じゃあビリッケツだし友達はいないけれど、おらにはおらにしか見えない友達がたくさんいたど
『ハーヴェスト』達が迷子になら無いように杜王町からは出ちゃいけないって教えてやったど
けれどやっぱりおらは『ハーヴェスト』だけじゃ寂しいど……
もし、おらのこの友達を見ることができる友達が出来たら……
その時は…ホントの『友達』が出来るかもしれないど
「見ろっ!あの木の根もとに集まっていくぜ?!」
「気を付けろっ!近くに『本体』がいるぜッ!多分ッ!」
To be continued……………
102:
【原子父心】
エジプト、とあるマーケット街
「仕事とはいえ……エジプトなんぞに派遣するとはあの部長め。ふざけおって」
淡々と仕事はこなすものの愚痴の一つも言いたくなる
何でこんな小汚ない異国なんぞに来なくちゃあならんのだ
しかも仕事の内容も一日二日で終わるようなものじゃあない。エジプト旅行のパンフレット用の写真だとォ?
こんなくそ暑い地に良いことなんぞ無いではないか
誰が好き好んでこんなところに来たがると言うのだ全く
「もしもし…旅のお方…」
半ばイライラしながら歩いていると小さなババアに話しかけられた
良く見ると両手ともが右手と言う何とも奇っ怪なババアである
103:
「ええ?っと、私ですか?あの、押し売りとかだったらいらないんで」
良く日本人をカモにする奴を見かける
どうやらこのババアもカモにしようと言う魂胆らしい。そんなババアの者なぞ買ってやるか
「ふぇっふぇっふぇっ………そう蔑ろにすると後悔しますぞ?」
気味の悪い笑い声を上げながらババアはある館を指差した
どうやら面白いものはあの館にある…とのことらしい
まぁ良い。このババアの口車に乗ってやってもなんの問題もない。勿論何も買わないのだが
「良く来たね……入りたまえよ…暗がりですまない。個人的に太陽は苦手でね」
その館の中で、金色の頭髪をした白人が足を組ながら私を待っていた
その男の声は、安心感と不安感を一度に押し寄せさせるかのような声であり、その声を聞いた瞬間最早私は一縷の疑問もなくその館に入っていった
104:
「君を待っていたんだ…。吉良吉廣……で良いかな?」
その男は私の名前を一瞬で言い当てて見せた
私が名乗ったわけでもなく何かを見せたわけでもない。暗記してきたテストの答えを書くかのように言い当てて見せた
「驚かなくて良い。別に私は君を取って食おうって訳じゃあない。恐れる必要は無いんだ。君の悩みを解決してあげよう」
「そうだな…まずは私と友達にならないか?」
その男の妖しい色気とゾッとするほど暖かい口調に私は何も言えなくなり、無言で頷いた
「そう強張る必要は無いんだ。君の悩みを解決してあげよう。その代わり私の悩みも一つ解決する、持ちつ持たれつと言う関係と言うわけだよ良いかな?」
こいつのさっきから言う私の悩み…まさか知っていると言うのか?知っているわけがない
これだけは誰にも言えないし言ったこともポロリと溢したこともないのだ
なのに何故だ?
105:
「簡単な事だ……だが君にしか出来ない。もし断れば…分かるだろう?」
その言葉の中には別に死んでもらって構わない…そう感じられるものがあった
つまり断ることは死ぬと言うわけだ
「君には今からある試練を受けてもらう……なぁに…単純な試練さ」
その男が指を一つパチリと鳴らした
次の瞬間、あの小柄なババアが弓矢を構えると制止する暇もなく私を正確に射抜いたのだ
最も驚くべきことはその矢に射抜かれた私は痛みこそ感ずれど生きていたのだ
「ぐげっ……ゴゲェッ!!」
「おめでとう吉廣…君は『矢』に選ばれたのだな」
パチパチと控えめに拍手をしながら私へと近付いてくると男は妖艶な笑みを浮かべながら力任せにその矢を抜き去った
106:
矢が引き抜かれた瞬間、何かが自身に宿るのを感じた
いや、自身の中に眠る蕾のようなものが開花したとでも言おうか?
「さて……これで君の『息子』に関する特殊な悩みを解決する方法が宿ったろう?」
やはりこの男、知っている。私の悩みを
打ち明けられるはずの無い悩みを
私の『息子』の持つある衝動の事を、その悩みを
「ところで私の悩みと言うのは……この『矢』に関してだが……日本へ持ち帰り君と同じ片鱗を持つ者を探し出して欲しい。射抜くべき者はこの『矢』が指し示すだろう…。勿論礼はする。私のために働いてくれるな?」
少し血の滴る左胸を抑えながら恐怖に震えながら頷いた
私悪魔に魅入られたのだ
最早抵抗することは不可能だった
107:
仕事を終え、日本へ戻った私はガクガク震えるのみだった
自身に何が宿ったのか。分かったもんじゃあないのだ
今のところ何も見えはしないが……何もだ
「只今……帰ったぞ…」
疲れきった顔をしながら帰ると、妻が出迎えた
割りと出来た評判の妻、そして
「お帰りなさい父さん…エジプトまでなんて大変だったね」
良くできた近所でも評判になる息子、吉影である
せがれは私の誇りであり、様々な大会やコンクールで賞を貰うこともしばしば。成績も一番とは言わずとも優秀なものである
だがその優等生な男の裏の顔を知るのは私だけである
「あぁ…エジプトは大変だったよ…」
そう告げると一旦私の部屋へと戻った
せがれを救うための手立て……一体何なのか
108:
そう言えばあの男はこんなことを言っていた
この『矢』で宿るモノはその者が心から望むものだ、と。
深層心理で望んでいるものがそこに出てくるのだと
だとしたら私の望んだものとは……
そう物思いに耽っていると、夢の中へと引き込まれていった
その夢は少し昔のボーイスカウトキャンプのことだった
私は写真を撮るためにそのボーイスカウトに参加していた。勿論吉影もである
そんなとき、吉影の写真を撮ろうとしたときに何処かへ行ってしまっていることに気付いた
私は吉影を探し回っていると、吉影を見つけた
だが私は話し掛けることが出来なかった
何故なら吉影がなんの表情もなく猫を殺していた真っ最中だったのだから
109:
私は無言で立ち尽くしていた
木の枝をポキリポキリと折る子供の頃の吉影と何の差も無い表情だったのだ
まるで生き物を殺すことは自身の生活の、人生の一部であると言わんかのように何の表情もなく。無言で
しばらくして満足したのか吉影はその場を立ち去った。立ち去ったあと私はその猫の死骸を誰も見ることの出来ない場所へ捨て去った
私は知った。吉影には運命付けられたモノがあることを
他者を殺さねば気がすまない…いや他者を殺すことが自身の人生の一部の欲求なのだと
この秘密はバレてはならない
吉影のために
大切な息子のために
その日から私は吉影のために彼の殺戮を補助した
死体の隠蔽は勿論のこと凶器はコッソリと仕事へ出張した先へ持ち込み捨て去った
111:
だが最も恐れていた事を知ってしまった
吉影は猫に飽きたらず人まで殺め始めたのだ
そしてあろうことか吉影は女性の右手を切り落とし、大事そうに持ち帰っていったのだ
私はその女性を処理しながら恐れ戦いた
もう私は逃げることはできない
何処までもこの秘密は私を追い続けるだろう
全ては吉影の『植物のような平穏な生活』の為だが、私には全てを処理し続けてやることは出来ない
恐らくと言うか確実に私が死ぬからだ
その時、あの摩訶不思議な男、『DIO』に出会い『矢』に射抜かれたのだ
私が目を覚まし朝居間へと行くとあることに気付いた
吉影の清々しそうな表情である
あの表情は『何事も上手く行っている』時にする独特な表情だったのだ
それと同時に吉影の側に立つ幽霊のような謎の存在を認識した
113:
「ふむ………それは『スタンド』と言うものだ吉廣よ」
『DIO』はそう言っていた。吉影に宿ったものは精神の具現体なのだと
恐らく吉影の深層心理が反映された力を持っていると言うのだ
『矢』に射抜かれたのは私だが稀に血縁者にも発現することがあるらしい。それが吉影だったと言うわけだ
「吉廣、貴様の送ってきたスタンド使いは優秀だな…実に良く働いてくれる。貴様も自身のスタンドを早く発現させろ」
やはりこの男の前だと恐怖で足がすくみそうになってしまう
なおのこと恐ろしかったのだが私は日本へまた生きて帰ることが出来た
だが私はそれ以降エジプトへ行くことは無かった
何故なら日本に戻った三日後に末期ガンだと言うことが発覚したからだ。呆気ないことに即日入院。助かる見込みなど無いとの事だった
114:
死ぬ間際、私は絶望していた
もう私には吉影を守ることは出来ない
吉影はスタンドの能力で死体をどうにか消し去っているようだが、同じスタンド使いにはバレる日が来るかもしれない
「せめて私のスタンドが………死して尚吉影を守れないだろうか?」
微かな願いが私の脳裏に過った
『矢』に選ばれたとき願ったことは…………『吉影を見守ること』だ。願わくば…我が息子の為に……
そして私のスタンド、アトムハートファーザーを発現させた
このスタンドで私は半ば幽霊となりこの世に取り憑くことが出来た。そして吉影の正体を探るものを抹殺することが出来るのだ
このスタンドは吉影を狙うものを…吉影を追うものを殺すため
吉影を調べようと部屋に忍び込んだモノは躊躇無く消し去っていった
私は永遠と吉影を見守っていく。『植物のような平穏な生活』を実現させるために……
例え何が起ころうと吉影の敵を殺し続けるだろう……
END
118:
【ラストバタリオン?誇り高き戦場の華?】
1942年12月20日、世界は第二次世界対戦の渦中にあった!
この戦争の発端であったナチス・ドイツは同盟関係であるはずのソ連からの宣戦布告を受け、戦争を開始した
最初こそ押してはいたが、ソ連軍の市街地戦の前には電撃作戦も通じることがなく徐々にドイツ軍は疲弊していった
そしてロシアの猛烈な吹雪による戦車の使用不可能な状況、加えて圧倒的な物資不足
最早ナチス・ドイツはその戦線の維持すら難しくなっていた
「失礼します少佐!『雷鳴』作戦は燃料不足のため不可能!物資の補給にも時間がかかる模様です!」
テントへと駆け込んできた兵士からの報告を聞くと否が応でも苦虫を噛み潰したかのような顔になる
このままではここへソ連軍が襲ってくるのは自明の理。時間の問題である
「ええい!別の部隊へ連絡は取れんのか!まだ動ける部隊はこの地へ集結するよう回すのだ!」
無線部隊に怒鳴り散らす。これでは何の解決にもならないのは百も承知なのだ
119:
総統閣下は死守命令、つまりソ連軍を決して祖国ドイツへ入れてはならないと命令を出した
「シュトロハイム少佐!ダメです!我々の部隊しか燃料に余裕は無いようです!何処も応援を要求しているぐらいです…我々の方から出向くしかないかと」
恐らくもう既にソ連軍は此方へと近付いているのだろう
我々の部隊の生き残りも数少ない
戦車は数台あるのだがマトモにこの吹雪の中を進めるのは精々二台だろう
燃料こそギリギリだが、戦車の弾はあることはあるのだ。一番近くの部隊の元へ集合し少しでも何としてもソ連軍の時間を稼がねばならない
最早ここで腹をくくるしかないようだ
「………我が部隊全員を集めろ。最後の作戦を通達する」
俺はそう告げると、全員をテント内に集めた
「たった…………これだけか」
来たのは最初の部隊の半分にも満たなかった
だがこの人数なら戦車は二台だって充分乗れるだろう
120:
「シュトロハイム隊最後の作戦を告げる……貴様らは全員最も近くの部隊へ応援に行くことだ!尚口答えは許さない、上官命令だ!」
この命令に全員が驚いた顔をした
普通ならば手足が千切れようと玉砕してでも相手の足止めをするべきであろう
だが応援に行けという命令なのだ
「シュトロハイム少佐!少佐はどうされるのですか!?」
「貴様らが応援に行くことは邪魔させん。私がしんがりを勤める」
私が応援に行くには燃料は足りないだろう。足手まといになる気なんぞ無い
動けなくなって死ぬよりも、誇り高く戦場で散る方を私は選ばせてもらう
121:
「早く行け。戦車は二台ある。誇り高きドイツ軍人が泣いてる暇があるか!そんなヘタレに育てたこと等無いわ!俺は戦場で泣いたところで何も変わらないことは教えたはずだぞ!」
どいつもこいつも入隊したときと何一つとして変わっちゃいないヘタレだ
「さぁ行け!貴様らなら出来る!誇り高きドイツ軍人の意地を見せてみろ!」
涙を止めた兵隊たちと敬礼を交わす
今まで見たどの敬礼よりも汚くてダサく、素晴らしい敬礼だった
奴等がここを去って行く姿を最後まで敬礼し、私は来るべき敵に備えた
122:
「何故一人なのだ?ドイツ軍人」
ざっと五十人はいるような大部隊。戦車も多数ある。だが一人たりとてここから先に行かせてたまるか…
「一人だと………?私はラストバタリオンンンンンッ!たった一人、だが貴様らを倒すには充分だぁぁあッ!」
戦車を掴むと遠心力でぶん投げた
相当な重さがある戦車は投げることができれば充分な兵器となりうるのだ
無論そんなことを出来るのは世界で見ても私ぐらいだろうが
「化け物だッ!撃てぇ!ガンガン撃てぇッ!」
今更トンプソン機関銃など全く豆鉄砲程度にしか感じない
「馬ァァア鹿者がぁぁッ!ドイツの化学は世界一ィィィイ!!貴様らの豆鉄砲など食らうシュトロハイムでは無いわぁあ!!」
再び戦車をぶん投げると大爆発が巻き起こった
123:
更に内蔵された機関銃やミサイル、更に腹部にある60ミリ重機関砲を展開し一斉掃射
「我ァがドイツの科学力は……世界一ィィィイ!」
強烈な弾幕により相手の戦車でも兵士でも破壊し尽くしていく
「バッ化け物だ!戦車すらアイツには敵わねぇぞ!」
「アイツだって弾切れはある!その瞬間に近付いて突破だ!」
だがソ連軍は弾幕の薄くなった瞬間に近寄っていく
完全な足留めにはなってはいない
「行かせるかァァ!紫外線照射装置、作動ッ!」
目眩ましのために掌から通常の十倍の紫外線を照射する
だがシュトロハイムも内心焦っていた
このままでは突破され、自身は恐らく科学技術の転用に捕まる可能性がある
一分一秒でも長く足止めせねばならないというのに!
124:
撃たれたミサイルを掴み投げ返す
既に戦闘から二十分ほど経過しているだろうか?
敵兵は応援部隊も含めれば200は倒しているのかもしれない
建物は倒壊し何処からでも火の手は上がっているが敵の数は如何せん減ることはない
「死ねソ連兵!!」
右腕のロケット装置を起動し発射。腕の一本も我が祖国の最高知能の結晶、ソ連なんぞにはくれてやるものか
「この腕、爆弾が付いてるぞ!」
右腕の着弾地点が爆発し、私はそろそろ限界を感じていた
最後に腹部に備え付けられたダイナマイトに火を付け、手榴弾を取りだし、口でピンを引き抜いた
そして敵陣に向けて思いきり駆け出す
「我が祖国に………栄光あれェェえ!!!!」
その戦場を白い光が包み込み、瞬間巨大な爆風が巻き起こった
ルドル・フォン・シュトロハイム少佐
スターリングラード戦線にて、名誉の戦死
その勇敢なる行動は、決して表舞台では語り継がれる事はない
だが誇り高いラストバタリオンの勇姿は語り継がれていく………
END
131:
【錆び付いた銀戦車が示すもの】
「ええ?っと、『1986年』……『1986年』」
この世には知らない方が良いことがある
ガールフレンドが別の男に夢中だったりとかじゃあない
深入りしては二度と戻ることはできない。そんなものがこの世には存在するのだ
「あれぇ??おっかしいなぁ…『1986年』の新聞が所々スッ羽抜かれたように見当たらねぇ……」
俺はDIOとの因縁、そして妹の敵討ちを終えてから数年後、あるものを調べていた
スタンドを発現させる『矢』についてである
132:
1990年に入ってから俺と空条承太郎は『矢』と言うものを追跡し始めた
更なる邪悪を産まないために
エンヤ婆と言う小柄な老人が持っていたその『矢』は全部で6本あると言う事を調べついていた。だが俺が気になったのは『1986年』に発掘されたと言うことだ
『1986年』にエジプトにて発掘されたそれは19才の青年によって発掘され、持ち出されたと言う
そしてその『矢』の内五本はエンヤ婆へと高値で売られた……五本の『矢』の内一つはスピードワゴン財団が保管、一つは吉良吉影…承太郎とその甥が倒したと言う日本人の父親が持っていたと言うがどさくさ紛れに破壊してしまったらしい
そしてエンヤ婆の持つ『矢』は既に破壊済み
残る二本の内、一本は俺が独自に回収に成功した。全くの偶然だった
骨董品店にてゴミのように売られていたところを偶然買ったのだ
後の一本は見当もつかない。全く手掛かりが無いに等しかったのだが、本当にきがかりなのは問題は発掘した青年の持つ一本のことだった
133:
実はこの『1986年』と言う数字は俺の故郷にも関わっていた
急激に治安が悪化し、大変なことに犯罪指数も上がっていることを調べたときにピンと来たのだ。『矢』を発掘した青年はヨーロッパの何処かにいる……と
ソイツは既に『矢』に秘められた力について知っているのだと
だから『1986年』に何かしらの事件が起こっていてもおかしくないから図書館で新聞を幾度と無く調べてみていたのだがスッ羽抜かれているものがいくらかあるらしいのだ
「とは言ったものの……一人で『1986年』の新聞について調べるのも大変だ……やっぱ承太郎とその甥……あ、甥じゃあないのか。年下の叔父とやらに手伝ってもらうべきだろうか?」
さっきの考え事中にも甥と叔父を間違えた気がするが、年下の叔父なんぞ間違えても仕方ないんじゃあ無いんだろうか?それにあのジョースターさんの隠し子がいたことの方が驚きだっての
そんなことを考えている時に電話が鳴り響いた
「はい…あぁ例の『矢』の解析結果が出た?」
以前『矢』についてスピードワゴン財団に頼んでおいたが、どうやら判明したらしい
だが得られた情報はスタンドを発現させる事に関して、そして『矢』を構成しているのは隕石と同成分であるということだった
134:
たいした進展も得られないで肩を落としながら図書館を出ると腹の虫が鳴り出した。作業に没頭するあまり腹が減っているのに気が付かなかったのだ
取り敢えずまずは腹ごなし…と言うわけでリストランテに入ったのだが少しばかりトラブルが起こっていた
「おいてめぇ?ッ!み!ここは『パッショーネ』のシマなんだよッ!みかじめ料が足りてねぇ上に俺の服を汚しやがって!どう落とし前つけんだ!?」
店員に対してチンピラ、いやギャングだろうか?どちらにせよ小者が粋がって店員を脅していたのだ
しかも店員は可愛い女の子であり、小物ギャングの見幕に完全に萎縮しきってしまっていた
「あのぉ?すいません…オーダーしたいんですが?そう君じゃあないといけないんだけど良いかな?君に俺の注文だけじゃあなくてハートもとって欲しくってね」
ここは女の子のためにいっちょカッチョいい正義の味方のポルナレフのご登場。と言うことで堂々とそのチンピラとその子の間に割って入った
135:
「んだとこの電柱野郎!バカにしてんじゃあねぇぞ!表出ろや……ぶっころしてやんよ!」
この俺の髪型を電柱と言ったのは許せないが落ち着いて店の外に出る
不安そうに見ていた店員の女の子にはウインクをしてやっておいた
良い男はいつだって女の子への気遣いを忘れないんだぜ?
「うへへ……てめぇなんざアヒィッ!?」
ナイフを取り出したのでこちらも武器で応戦させてもらった
まぁ俺の武器は一般人何かじゃあ見ることは出来ないだろう。生まれもっての俺の武器『スタンド』
その名も『シルバー・チャリオッツ』。銀の甲冑に纏った俺の分身は瞬く間にそのレイピアでナイフを細切れにした
「ナイフの一本でガタガタ言うな!女の子脅すようなことしやがって…それでも紳士か」
胸ぐらを掴み焼きをいれてやると一瞬でチンピラはヘタレた
ホントに小者な野郎だぜ…
136:
「てめぇ『パッショーネ』に手ぇ出して良いと思ってんのか!?」
尚もチンピラは『パッショーネ』と言う組織名を出す。ついでにその『パッショーネ』とやらも聞き出しておくか
「おい、さっきから言ってるその『パッショーネ』ってのは何なんだ?さっぱりわからねぇぞ」
もう一度尋ねるとソイツは日和ながら『パッショーネ』について教えてくれた
『パッショーネ』は最近になって頭角の表した組織であり、今ではヨーロッパの大半を支配しつつあるギャングらしい
このチンピラは『パッショーネ』に入るためのテストを受けていたがヘマをやらかした挙げ句に服を汚され店員に怒鳴り散らしていたらしい
団員ですらないのにそれを語る時点で変なやつである
「入団試験だと?誰かの暗殺とかブツを運ぶとかなのか?俺にもおせーてくれよその試験とやらをよ」
そのチンピラは胸ポケットから点火されてないライターを取り出した
このライターの火を消さずに一日過ごすことが入団条件らしいが風のせいで消してしまったらしい
137:
「もっぺん着けてみろよ。ただのライターじゃあねぇか」
そう言うとソイツはライターを点火させた
呆気なく着いたライターに大喜びである
「再点火………したな…?」
突然、背後から声がして振り替えると陰の中に奇妙な姿の生き物がいた
大学の卒業式のような格好なのだが顔は無機質で人ではない
何者かの『スタンド』がいたのだ
「『スタンド』!?一体何処から!」
直ぐ様『シルバー・チャリオッツ』で迎え撃とうとするも片手で攻撃を止められてしまった
どうやら相当な力を持っているらしく、片手を振り払うことが出来ない
138:
意図も容易く『チャリオッツ』を蹴飛ばされると吹き飛ばされてしまった
だが追撃してこない辺り、このスタンドの本体は別のどこかにいるようだ
「再点火したのはお前のようだな…?さぁ……試練を受けろ」
そのスタンドがチンピラを掴んだ瞬間、俺はあり得ない光景を見てしまった
口から現れ出たのは紛れもなくあのスタンドを発現させる『矢』だったのだから
「ぶぐふぅっ!」
そして『矢』はチンピラの喉を思いきり貫いた
チンピラはいきなり出てきた『矢』に何がなんだかわからないと辺りを探るようにしていたがやがてピクリとも動かなくなってしまった
そのチンピラにスタンドの素質は無かったと言うわけだ
「や、野郎ォ……何故『矢』を持ってやがるんだ?……ハッ!まさか奴の矢はエジプトで無くなっていたと言うあの『矢』か!?」
まさか発掘したと言う青年の持っていたとされる『矢』なのか!?
『チャリオッツ』がもう一度攻撃を加えようとしたもののそのスタンドは影の中に消え、壁を壊すだけに至った
139:
「消えただと!?ちっ…さっきのライターもねぇってことは『遠隔操作型』か。ライターを再点火させたから現れたって事みたいだな」
承太郎曰く、本体がかなり離れている状態でも活動する『遠隔操作型』と言うのがいるらしい。
勿論精密な動作をしないものばかりらしいが
「おい貴様!動くな。警察だ」
気が付くと俺の周りには野次馬と警察が集まっていた
どうやら俺とチンピラが喧嘩し、チンピラを殺したと言う筋書きが出来てしまっているらしい
これはどうやらまずい事になってしまっているんじゃあないか?
「ホントなんだって…信じてくれよお巡りさん!俺を調べても何にも見つかってねぇだろ?ナイフ一本ありゃしないんだぜ?」
取調室で必死に無実を訴えるのだが中々信じて貰えない
まぁ血の付いた凶器一つ見つからない上に帰り血も無いから無実は当たり前なのだが
「ううむ…取り調べは終わりだ。とっとと帰れ!」
取っ捕まえてこの台詞である
シンガポールで警察に捕まったことがあったっけ。万国共通で警察ってのは面倒なもんだぜと思いながら警察署を後にした
彼の去った警察署で署長ははある場所へ恭しく電話を始めた
「はい……例の男の名前と住所と電話番号はわかりました…。ジャン・P・ポルナレフ、フランス人の男です。……各所へデータは送っておきます。分かりましたポルポさん。その代わり出世の件はよろしくお願いします……」
その男は吐き気を催す邪悪な笑みを浮かべながら電話を切った
140:
「『パッショーネ』……。何か訳のありそうな組織だな。調べる必要がありそうだぜ」
家に戻った俺はファイリングしたバインダーを眺めながら呟いた
『1986年』から増え始めた犯罪や麻薬による事件。そして頭角を最近だが現し始めた『パッショーネ』という犯罪組織と『矢』
関連がないとは言い切れないようだな
「取り敢えずスピードワゴン財団と承太郎に連絡して協力を仰いでおくべきだな…」
俺は手紙を書き、承太郎とスピードワゴン財団に電話をかけるがどうにも繋がらないようだ
二つとも電話に出れない状態らしい
「おっかっしぃーな……留守電も入れられないなんて承太郎らしくねぇぜ」
少し違和感を覚えたが後日改めて電話しておくことにした
手紙にも『矢』と『パッショーネ』の関係を調べることを書いておいたが何とかなると良いのだが……
俺はタンスの上の自らが買った『矢』を見つめる
あの『矢』を持つ者を追い詰めることが出来れば『矢』について更に詳しく知ることが出来るかもしれない
そしてもしその者が二つ『矢』を持っていればエジプトからの因縁にもケリを着けることが出来るだろう……
141:
「『1986年』………サルディニア島の小さな村における大火事?」
別の街の小さな図書館にてまだ見たことのない記事に俺は目を止めた
そこに死傷者リストの中には19才の青年が載っていたからだ。勿論他に何かある訳じゃあないのだが何故この小さな記事を今まで俺は見ることが出来なかったのだろうか?
原因不明の大火事であるのも何か引っ掛かるのだ
「もしかしたら何かサルディニア島にあるのかもしれない…『矢』と今俺の感じている違和感を結び付ける何かが……」
そう感じた俺はサルディニア島へ向かった
俺の感じている違和感は確信じみた物があるような気がしてならないのだ
それと同時に何か知ってはならないものを知ろうとするかのような違和感もなのだが
144:
サルディニア島
美しい海と自然のある観光地だが俺は大火事の起こったと言う村へ来ていた
「『1986年』に生きていた人が誰一人としていないだとォ?ッ!?」
村で聞き込みを始めていたのだがおかしな事に誰一人として『1986年』の大火事を知っているかその事件に巻き込まれた人はいなくなっていると言うのだ
唯一わかったのは火事で死んだと言う19才の青年は『ディアボロ』と言う名前らしい
偶然残っていた卒業アルバムからわかったのだが、写真は顔立ちがハッキリわからない
どう考えたっておかしい
やはり『1986年』の大火事は何か重要な事があったと言うことだ
(もしも、もしもこの村にいた19才の青年が死んでなかったとして、死んだのは全くの偽造だったとして……!)
俺は全ての謎が繋がったのを感じた
『1986年』、自らを知る者を事故に見せかけすべて抹殺した『ディアボロ』はエジプトに迎った
そして運命は『ディアボロ』の手に『矢』を掴ませたのだ。それを持ってヨーロッパへと戻ってきた
スタンドを発現させる『矢』を持つ『ディアボロ』は間違いなくその力で『パッショーネ』を乗っ取るなり創り上げたのだ
そして自身の正体を知る者を消し続けた。恐らく永遠に自身の正体を知る者を無くし続ける為に。自身を脅かす存在を消し去る為にだ
145:
「なら次に消されるのは間違いない…俺だ!恐らく俺は勘づかれている!奴の正体を調べていることに」
既にサルディニア島からは出てこれから日本へ行くために空港へ向かうことにしている
だが組織の者が既に俺を追っているハズなのだ。あの『遠隔操作型』のスタンドの本体が動いているに違いない
ここまで徹底的に過去を消し続けている『ディアボロ』が俺を見逃すわけがない
直ぐに伝えなくてはならないッ!承太郎に、スピードワゴン財団に!
俺一人で立ち向かうには『パッショーネ』は、『ディアボロ』は強大すぎる!
「その通りだジャン・ピエール・ポルナレフ。お前は知りすぎたのだ。私の過去を、秘密を、知らなくても良いことを全て!」
パスポートを取るための帰路にてソイツは現れた
至って普通のスーツであり何処にでもいそうなソイツは俺の前に現れた
俺は直感的に感じた
こいつが『ディアボロ』なのだと!
自身の繁栄のためなら誰だって犠牲にすると言う吐き気を催す邪悪な意思の持ち主だと!
「『パッショーネ』のボスが直々のお出迎えとは光栄だぜ…『ディアボロ』さんよぉ…?」
頬に冷や汗が流れるも毒づいた。あのDIOと対峙したときと同じプレッシャーを感じるが恐らく逃げることは出来ないだろう
ここでやるしか無かった
俺はやるしかないッ!
「うおぉぉ??ッ!!『シルバー・チャリオッツ』ッ!!」
先手を打つべく現れた『シルバー・チャリオッツ』は恐るべきスピードで奴に接近すると目にも止まらぬ刺突を奴に食らわせた
146:
だその刺突は全て虚空に舞っていたのだ
剣先が一切カスることなく全て避けられてしまっていた
いつの間にか背後にいた『ディアボロ』はスタンドを出していた
『ディアボロ』のスタンドは、血のような深紅な体に網目が入り、そして頭には何故か二つ顔が存在していた
その姿はまるで暴虐の深紅の王だと感じた
そのスタンドから放たれる容赦ないラッシュをギリギリ『チャリオッツ』を戻しバックステップで避けたのだが鎧を纏っていても掠めた部位から血が流れるのを感じる
血が一滴、二滴と地面に滴り落ちるのを見た
まさか避けたのは時を…『止めた』のかもしれない
だが時を『止めた』と言うのならタイム・ラグがあるハズッ!
その隙を突けるのは今だけだッ!
「『シルバー・チャリオッツ』ッ!!」
次の瞬間には血の滴が『増えていた』
まるで五、六秒流れた後のように。いつの間にか増えていた
その瞬間俺は『ディアボロ』のスタンドのの能力がわかった
だがそれと同時に『チャリオッツ』の右目を『ディアボロ』のスタンドの手刀が貫いていた
147:
「『キング・クリムゾン』を見たものはその『時』……………」
『チャリオッツ』と同じ部位に俺の体はダメージを受け、右目が視界を失った
「『能力』は…!時を…!ディアボロ貴様!」
時を『止める』のではなく、ビデオの早送りの様に『吹っ飛ばした』のか!
だから血の滴が増えていたのだ、あの一瞬で
「もうこの世にはいない……!!」
『ディアボロ』はそう告げると『キング・クリムゾン』の腕からラッシュを繰り出し、俺の体をバラバラに吹っ飛ばした
腕や足が千切れ、痛みにのたうつ暇もない中、俺はスローに流れるように感じていた
「希望は…無いのか………」
『ディアボロ』の正体を知れなかったのは…奴一人の行動じゃあない
政治家やメディア、きっと俺の出した手紙も届くことは無いのだろう
奴の組織は、『パッショーネ』は既に深いところまで潜り込んでいたのだ
「承……太郎………すま…ない」
そう呟いた後、俺は崖から落ちた衝撃から意識を失なった
148:
ドスン、と何かが落ちる音がした
「………夢か」
車椅子の上で俺は眠っていたらしい
あの時偶然通り掛かった船が俺を見つけ、助けてくれていなければあのまま死んでいただろう
といっても俺はかろうじて無事なのは左手だけであり両足は立ち上がることが出来ないこともない特殊な義足、腕は千切れたモノを何とか使えるようにしてくっつけただけであり動くものの戦闘者としては再起不能である
治療が済んだ後、スピードワゴン財団や承太郎に連絡をすべきかと思っていたが『ディアボロ』は俺の名を聞けば確実に殺しに来るであろう。自身の過去を知る者は自ら殺さねば安心できないような奴だから
「俺に残された出来ることは…『ディアボロ』を追うものが現れたときにその者達に『ディアボロ』の能力と過去について説明してやることだッ……!」
そのためネットワーク上に『ディアボロ』の人相や指紋などに反応するシステムを組んではいるのだが…まだ現れることはない
気長に待つ必要があるな…と考えているとタンスの裏の所に『矢』を落としていることに気がついた
149:
『ディアボロ』に奪われることなく俺の家にあったので持ってきておいたので、どうにかしてでも取っておきたかった
「奥の方過ぎて今一取ることが出来ないな……。仕方無い。『チャリオッツ』」
私と同じような姿になってしまったチャリオッツに『矢』を取らせようとすると誤って指先を切ってしまったが取れた
すると『チャリオッツ』から光が溢れだした
突然の事に俺は焦っていた
窓の外を見ると牛や馬、農夫がバタリバタリと倒れていく、だが誰もが苦しむのではく眠るように倒れているようだ
「『矢』なのか…!?『矢』がスタンドを傷付けたから何か発現したのかッ!?」
だがこれは私の意思とは違う。全く制御出来ていない力を感じている
何か良からぬ事が起こりそうなのだ
急いで私は『チャリオッツ』から『矢』を奪った
するとどうだろうか…眠っていたらしい生き物達は何事もなかったかのように起きたのだ
「これだ……これを使えば…『ディアボロ』のスタンドの能力に打ち勝つ事が出来るかもしれないッ!」
俺に唯一見えた希望。それがこの『矢』の本当の使い道だった
スタンドを発現させる『矢』はスタンドの先へと導くのだ
満身創痍の私にはとてもじゃあないがこの力を抑えることは出来ないだろう
ならば『ディアボロ』を追うものに託さねばならない
『ディアボロ』と言う吐き気を催す邪悪な意思を打ち倒すジョースターのような『黄金の意思』を持つもの達に、託さねばならないのだッ!
星のような儚く消えてしまいそうな光を俺は手繰り寄せねばならない運命
錆び付いた銀戦車が最後に指すモノ、それは『ディアボロ』を打ち倒すための『矢』だ
俺は『矢』を守り抜かねばならない
錆び付いた銀戦車が繋ぐ最後の希望なのだから……
To be continued………
159:
【今、僕の進む道】
生まれた日から僕は差別を受け続けていた
僕の持っている肌の色だけで
僕の生まれた国はそんな国だった
「スモーキー、あなたは負けちゃいけないわ…勉強して、頑張ってあなたが悲しみの涙を流す最後の一人になるの。」
苦しい日々の中、母さんはそう言って息を引き取った。まだ若かったのにだ
知り合いも居なかった僕は満足に生活することも出来なかった
勉強もろくに出来ない僕は万引きをして生計を立てるしか出来なかった
160:
だが所詮は子供
ある時財布をスッたら警察に捕まってしまった
恐らく僕のような黒人は取り調べで更に罪を重くされるだろう
あ?あ、終わったなって。もう僕は外には出れないんだろうなって
警棒で殴られた薄れ行く意識の中で僕は悟っていた
だが僕が財布をスッた英国人はとても変わった奴だった
「そのサイフは私が彼にあげたものですよおまわりさん」
何と僕を庇ったのだ
滅多撃ちにするなら有り得るが僕を庇うような人がいると言うのだろうか
それが後の僕の人生を変える恩人、ジョセフ・ジョースターとの出会いだった
162:
ジョセフは本当に変わった奴だった
見上げるほどの大男で警察をぶっ飛ばしたにも関わらずただエリナばあちゃんと言う人に怒られる事だけを恐れているのだ
当然僕もエリナばあちゃんと言う人を恐れた
そして僕はエリナばあちゃんに会う機会があったのだが僕はある不安があった
恐いかどうかもそうだが一番の不安は黒人だと言うことで差別しないか…である
だがその心配も杞憂に終わった
「あら?ジョセフのお友達?ごめんなさいねウチのバカ孫がいつも迷惑かけてしまって…」
顔色一つ変えること無く彼女は気品ある言い方でそう告げたのだ
その言葉には一片の差別の感情も無いと感じられた
163:
ジョセフから聞いた話だとエリナさんは若い頃に夫を、息子もその妻も亡くしているらしい
何となく僕に対しての差別なき態度は彼女の人生から来ているような気がした
どんな人にだって手を差し伸べる聖母のような慈悲深さは彼女の人生の寂しさから来ているのだろう
自身の感じている哀しみを他人に感じさせまいと言う心が慈悲深さへと繋がっているのだろうと
そう感じた瞬間、僕の目から涙があふれでた
迷子の子供が母親に出逢い安堵するかのように涙が止まらなかった
差別されずに受け入れてくれる人がいたと言う事を、僕は涙ながらに感謝した
母が死んだ日から僕は初めて神様に感謝した
エリナさんは無言で僕の涙を拭ってくれた
その手はとても暖かかった
164:
それから数年が経ったある日、エリナさんは天国へと旅立った
その慈悲深い人生に幕を下ろしたのだ
この頃僕はスピードワゴンさんやエリナさんのお陰で大学に入ることが出来ていた
もう少しすればジョセフ達に恩返しが出来るだろうと言うときにエリナさんは逝ってしまった
僕は何をすれば良いのか
返しきれない恩を僕は抱えていた
何だか心も体も空っぽになってしまったかのようだった
そんなときに手を差し伸べてくれたのはスピードワゴンさんだった
僕はスピードワゴンさんにどうしたら良いかすがり付くように尋ねてみた
スピードワゴンさんは微笑むと肩に手を置きこう語った
「君の人生は…多くの人に手を差し伸べて貰えたのだろう?それに気づいたならば君が次にすべきなのは君が誰かに手を差し伸べること。君になら出来るだろう?私は出来ると信じている」
そう告げられた時、僕は僕の進む道を見付けられた
165:
そうして僕は多くの人に手を差し伸べる為に、市長になった
史上初の黒人市長として、僕は差別撤廃の為に日夜行動を続けている
例え小さな小さな一歩だとしても…この一歩一歩が道を創るのだから
まだ貰ったほど恩を僕は返せていないけれど、エリナさんのように誰にも僕のような哀しみを感じさせないために少しずつ前に進んでいこう
それが今、僕の進む道なのだから
END
169:
【戦闘流法】
物心ついたときから、私は常に戦闘を続けていた
初めて地面に立つよりも先に敵を倒すことを私は可能にしていた
「凄いなワムウよ…もう子供の波紋戦士であれば倒せると言うのか」
「サンタナも凄いぞカーズ。波紋をいなす体質を既に備えているようだぞ?」
まだ幼子であった私の脳裏に焼き付いている光景
大きな手のひらで私を撫でてくださるカーズ様とエシディシ様。そして日々切磋琢磨するサンタナ
そして死屍累々の波紋戦士達、これが私達の日常だった
171:
そんな日々が続きサンタナとエシディシ様がその日のための食事を調達に行っており、私とカーズ様が二人きりの時があった
私はカーズ様にあることを尋ねた
小さな頃からのほんの些細な疑問である
「カーズ様、このワムウある疑問があります」
カーズ様は波紋使いから奪った本と言うものを閉じるとこちらに向き直った
「どうしたワムウ…何でも聞いてみよ。このカーズに答えられぬ事など無い」
私はカーズ様の前に平伏し、幾ばくの間を空けると尋ねた
「どうして我々は太陽の当たる場所へは行けぬのでしょうか…?何故我々以外の仲間がいなくなってしまったのでしょうか?
そして、何故に波紋使いと我々は争わねばならぬのでしょうか?」
一度に多大な量を質問してしまい、私は少し失念したと感じた
172:
「申し訳ありませぬカーズ様、簡潔に纏めずこのような発言。浅はかでありました。何なりとこのワムウに罰をお与えください」
「いや……良いのだワムウ……」
そう答えたカーズ様は一片の笑顔もなかった
カーズ様の顔からは怒りよりもむしろ郷愁の感情を感じられた
「いずれ話さねばならぬと思ってはいた。今夜話すことにしよう。お前の疑問に全てを話そう…」
私はしてはならぬミスを犯してしまったのだろうか
だが私とカーズ様の間には何一つとして言葉を交わす事はなかった
175:
「おぉ?どうしたカーズ。そんな恐い顔をして…」
薪と少しの木の実を持ったエシディシ様とサンタナが戻ってきた
感の鋭いエシディシ様は私とカーズ様の間の独特な空気を察したらしい
「エシディシよ…サンタナとワムウに全てを告げる時が来た」
重々しくカーズ様はエシディシ様にそう告げた
エシディシ様は無言で薪に灯りを灯すと、真面目な表情へと変わった
「覚悟は決めたんだな?カーズ」
「あぁ……。結果どうなろうと構わぬ…」
「そうか。ならば俺も止めはしない。だがこれはお前だけじゃない、俺にだって責任はあるのだ。……それをわかって聞いてくれよサンタナ、ワムウ」
エシディシ様の眼を見ながら固く私とサンタナは誓った
176:
「まず…何故我々以外の同胞は…皆死んだ」
ここまではわかっていたが、次にカーズ様が発した言葉は予想だにしないものだった
「同胞は皆、このカーズとエシディシによって殺されたのだ。無論真剣な決闘によって、我等に刃向かう者は皆容赦無く殺し尽くした」
あまりの衝撃に私とサンタナは言葉を失った
尚もカーズ様は灯りを見つめながら続ける
「俺はただ…太陽を克服したかった。太陽の下自由に大空を眺めたかった。誰もが無理だと諦めてきた事を成し遂げたかった。恐怖を我が物とし全てを得たかっただけなのだ」
「だが族長や国の上層部は反対した。エシディシを除いてな」
暗闇の中、パチリと焚き火が爆ぜた
177:
「俺は進化へのヒントは脳にあることを突き詰めた。その結果石仮面と言うものに俺は行き着いた。それによって幾ばくかの犠牲の果てに不死身の力を数多の生物へもたらすことが出来ることを知った」
カーズ様は一つの仮面を取り出した
進化を促す不気味な仮面、それが石仮面だ
「そしてそれを元に我々の一族であろうとも更なる進化を遂げるための石仮面を幾つか造り出した。だがそれを族長達は聞く耳を持たず俺とエシディシを死刑に処そうとした」
静かにカーズ様は眼を閉じた
「族長は叫んだ『やつが存在するのは危険だ』『あいつをこの地球から消してしまわなくてはならない…!』『やつを殺してしまわなくては!』と。最早交渉など出来はしなかった…」
エシディシ様は終始無言でピクリとも動かない
「俺とエシディシは自らの血で石仮面をかぶり…結果流法と言う力を得た。そして三日三晩ひたすら戦った。そして結果我々のみが生き残ったのだ」
178:
「………カーズ様……では何故我々を生かしておいたのでしょう?当時赤子であった私とサンタナなぞ造作もなく殺せるでしょう?」
サンタナも神妙に頷いた
「お前ならわかるはずだぞワムウ…。戦闘を行わぬ無抵抗であり無垢な乳飲み子であったお前らを殺すことは外道のすること。だから生かしておいたのだ」
カーズ様は尚も続ける
「だが今日からは違う。全てを知った貴様らが亡き一族の仇を討とうと言うのなら逃げもせずその勝負を受けよう。一人の戦闘者として、我が一族を滅ぼした者として正々堂々と受けよう」
その眼には漆黒の殺意が宿っていた
受け身の対応者ではなく、あくまでも漆黒の殺意をもって行動する誇り高き戦闘者としての眼だった
それと同時に、拭いがたい悲哀の色も見えた
179:
「そう言えば乳飲み子のお前らを旅につれたときだが、カーズと俺はお前らの世話をしているときは四苦八苦していてな
特におしめの変え方を考えるのにカーズの奴は難解な数式を立てたぐらいだ」
流石にどんよりとした空気を払うためにかエシディシ様はニヤニヤと笑いながらそう語った
「むぅ……言ってくれるなよエシディシ…。何事も高尚な計算の上に成り立っているのだ。それにお前も上手くあやせず泣きわめいていたではないか?三人一度に泣かれた日には五月蝿くて敵わなかったぞ…」
困り顔でカーズ様も返していた
「それは激情に身を委ねぬ為だカーズ。お前もいきなり笑いだしたりしてるじゃんかよ。お互い様じゃねぇか?」
流石に堪えきれず私は笑いだすとつられてカーズ様もエシディシ様も笑っていた
だがサンタナは静かに笑みを浮かべていただけだった
誰一人としてそれには気付かなかった
その時は
182:
そして月日は遥かに流れ、我々は更なる進化をもたらす最後のピース、エイジャの赤石と言うものを探し求めていた
カーズ様の話では、我々を更に上へと押し上げるための存在であるらしい
「ダメだ!この赤石のパワーでは足りん!まだこれでは足りぬのだ…俺達が太陽を克服するには更に強い力が必要なのだ!」
壁に投げ捨てられた赤石は意図も容易く打ち砕かれた
色々な地を駆け、その度に私は戦闘者として更なる強さを求め決闘を続けた
波紋の戦士達は誇り高く強い者ばかりだった
片目を潰そうとその敵意は衰えること無く勇敢に死んだ友のために戦って死ぬ者もいた
女子供を守るべく単身我々に戦いを挑む者もいた
その度に私は戦闘者として最大の敬意を払いながら神聖な決闘を続けていた
183:
そして一族として私とサンタナが成人となる日が来た
その日に我々は流法を得るべく石仮面を被り、晴れて更なる戦闘者として進化を遂げるべきだとエシディシ様は提案し、皆受け入れた
そしてメキシコの祭壇にてその儀式は始まった
まず私はカーズ様の血によって石仮面を被った
被った途端に発せられる命の輝き
美しく他を犠牲にする者を生む妖しい光がその場を包んだ
「次はサンタナおまえだ…サンタナ?」
サンタナはその場から動かず、その目は何処か空虚で悲しい光を灯していた
184:
「俺は……ずっとこの旅で考えてきた……何故俺の一族は死ななくてはならなかった?本当にそれしかなかったというのか?」
サンタナの顔は影となり読めなくなってしまった
暗く重々しい口調でサンタナは続ける
「俺はあの波紋使い共を見ていて羨ましかった。母親のいる奴等が。自らと血を分けあった者のいる奴等が!」
「何故あの虫けらにはいる!?あの下等な奴等にはいると言うのに何故俺にはいないのだ!?どうして……どうして!
俺を生かした!?戦闘者ではなかったからか!?あのとき情けをかけられたと言うのならば俺は既に戦闘者としては死んでいるのではないのか!」
ユラリ…とサンタナは風にあおられた灯のように揺れた
「お前が憎い……憎いぞカーズ。俺の両親を殺した貴様が憎くてたまらないッ!!」
サンタナは石仮面を握り潰すとカーズ様を殺さんと駆け寄った
185:
「死ねぃカーズ!お前の殺した同胞の元へ行くがいいッ!」
だがカーズ様の対応はかった
迅に右腕からカーズ様の光の流法、輝彩滑刀の流方を発動し目にも止まらぬ度で切り捨てて見せた
「流法無き貴様が勝てるわけ無かろう…!」
だが切り刻まれたサンタナも黙ってはおらず肉片の一つ一つがカーズ様へと張り付いていこうとする
「何ッ!?」
「例え…細切れの肉片になろうと…貴様を殺すッ!貴様を憎む肉片となってな!」
流石の輝彩滑刀でも手数では勝てない
そのままカーズ様は肉片に徐々に取り込まれて行った
186:
「フハハッ!終わりだカーズッ!実に呆気ない終わりだなぁ!」
「甘い…甘過ぎるぞ!勝ちを確信して詰めを見誤ったかサンタナッ!」
取り込まれていたはずのカーズ様はサンタナの背後へと回っていた
「なっ…これは…変わり身か!」
輝彩滑刀を発動した瞬間に石像の変わり身へと姿を変えていたのだ
サンタナとカーズ様では圧倒的な差があるなぞわかりきっていた
戦闘者としての力量、経験、機転
どれを取ってもサンタナの勝る面など無いのだ
最初から勝ちの目など赤子が戦車へ突っ込んで行くかのように分かりきったことなのだ
「………ッ!!とどめだァッ!」
一閃
輝彩滑刀がサンタナの上半身と下半身を切り裂いた
カーズ様の顔には、悲痛と惜念がちらりと泡のように現れ、消えた
187:
戦闘の行われた地には静寂が訪れていた
私はサンタナに石仮面を被せようとした
だがサンタナはそれを最後の力で振り払った
仮面を被ることは…サンタナの、一族同胞の恥だとでも言うのだろうか?
それがサンタナの誇りだと言うのだろうか?
その様子を見ながらカーズ様はポツリポツリとこぼし始めた
「………何故だサンタナ?何故なのだ…!お前が勝てるわけ無かろう!何故だ!?何故お前の親も、お前も俺を理解しない!?あのとき俺をいち早く異端と責めた族長のように!何故俺を認めようとしないのだ!」
戦闘者としての誇りを持つカーズ様は既に居なかった。そこにいるのはただ一人の孤独に苦しむ弱き者だった
サンタナは何一つとして語らない
自身のエネルギーを使い果たし永い休眠へと入っていた
「ワムウ…エシディシ…ここを発つぞ…サンタナはここへ置いて行く…」
カーズ様は我々に背を向けるとそう語った
「カーズ様………」
その背中に何一つとして私はかけることが出来なかった
エシディシ様は一つだけ提案をした
サンタナが目覚めたとき、戻ってくることがあれば道に迷わぬよう壁画を描こう
幾多の石仮面を置いておけば、サンタナは流法を獲得しまた道を違えること無く旅が出来るかもしれないと
私達はそう信じ、神殿の柱にサンタナを安置すると旅を再開した
いつかまた四人で旅をすることを祈って…
「行くぞっ!エイジャの赤石を探しに!」
END
196:
【とある執事の郷愁】
まだ日も昇らぬ朝の四時、ジョースター家の執事の朝は早い
気付けのブラックコーヒーを淹れる間にクローゼットからシワ一つないスーツを取り出す
執事のスーツにシワが一つあれば百主人に恥をかかせることとなる
この仕事に就いた頃心得として教え込まれたことの一つだ
思えばあの日から一日足りとて欠かすこと無くジョースター家にお仕えしてきた
今でこそ慣れてはいるが最初の頃は慣れないものだったな…と朝から郷愁に耽っていた
「旦那様、お目覚めのお時間でございます」
ドアをノックすると驚いた顔の旦那様がいらっしゃっいこうおっしゃった
「ローゼス、お前今日は有給じゃあ無かったのか?」
その言葉を聞いた途端、私ですら覚えていないことに気付いた
そうだった。今日は有給休暇ではないか
197:
事の発端は昨夜の奥様と旦那様との会話だった
「ねぇローゼス?あなたっていつ休みを取ってるの?」
奥様はお戯れにそうおっしゃったのでかれこれ四十年間あの日以来お暇は頂いていないと申し上げたところ、お二人ともひどく驚きになった
「まさかローゼス…休みを与えていなかったとはな…すまなかった」
旦那様が頭をお下げになったので慌てて止めるよう頼んだ
一介の執事が旦那様の頭を下げさせるなどおこがましいことだ
だがこうなっては奥様も止まらない
「なら明日から有給ね!人生仕事ばっかりなんてつまらないわ!遊ぶときには遊ばなきゃ!」
と、奥様もノリノリで有給を取らされたのが昨夜の事だった
だがすっかりそんなこと忘れていた私はいつも通りの仕事の準備をしてしまった…と言うわけだ
198:
「仕事中毒もほんと呆れたものねぇ…」
旦那様の声で起きになった奥様は愚痴りながら紅茶をすすっていた
私がやるとは言ったものの無理矢理座らされており、主人の命に逆らうのかと釘を刺されてしまい返す言葉もなく何も出来ない状態
あぁ不甲斐ない…
「ですが私お暇を貰いましても何をしたら良いのやらさっぱりでして…死後と一本でやって参りましたから尚更…」
奥様と旦那様の刺すような視線が恐ろしい
「ローゼス、休暇じゃぞ休暇。日本のサラリーマンってのが欲しくても貰えないぐらい貴重なもんなんじゃぞ?」
旦那様はコーヒーを飲み新聞を広げながらそう語った
「ですがね旦那様、思い返して見てください、私が拾われたあの日を」
そう言うと私はポツポツとあの日のことを語り始めた
199:
「あれはまだまだ寒さ厳しい冬の頃でした…」
まだまだ若僧だった私は会社と言う会社に入社を断られ、このままじゃ路頭に迷うどころか新聞紙をかけて公園で虚しく眠る日々が待ち受けていると言っても過言ではありませんでした
そんなとき私に最後のチャンスが訪れました
旦那様の会社の面接試験にギリギリ通ったのです
当時の旦那様の会社と言えばアメリカでは知らぬ者がいないと言うほど有名な会社でした
私はこの千載一遇のチャンスをモノにせんと気張りながら旦那様の会社へ精一杯背伸びして買った上等なスーツで向かいました
200:
そうして会社へ向かう道である少女に出会いました
どうやら公園にて親とはぐれ泣きじゃくっていたようでどうしても声をかけずにほおってはおれず近付きました
その少女に緊張ほぐしのための飴をあげ、その子の親を探してやろうとしていたのです
面接まではまだまだ時間はある。通り掛かったのも一つの縁と言うわけで、所謂気まぐれに近かったでしょう
しかしその子は少し事情とやらが違ったようで、厄介なことに巻き込まれていたのです
「いたぜ!あの嬢ちゃんを捕まえろ!」
強面の屈強な男達がその子を指して走りよってくるではありませんか
その子に聞いてもどうやら知らない人とのこと
なりふり構わずその子の親を探しながら逃避行を開始したのです
204:
男達から撒くために色々な場所を駆け回りました
路地裏、橋の下、ビルからビルまで飛び越えたりしている内に息も切れて新品のスーツはドロドロ
その内に男共に囲まれてしまい、絶対絶命にまで追い込まれてしまいました
あぁこれで面接にも行けず子供も守れない…ならせめて子供だけでも逃げる時間を稼がねば、と腹をくくった時です
「ホリィ!こんなところにいたのか!」
「あっ!パパだ?!」
屈強な男達から出てきたのはあのニューヨークの不動産王、ジョセフ・ジョースターじゃあないですか
しかもさっきまでの子供は駆け寄って行くしで、もう訳がわからないと言う状態だったのです
205:
次に眼が覚めた場所は、今では見慣れたジョースター家の豪邸の一室でした
後にわかったのですがあまりの訳のわからなさと極度の緊張からの解放と疲労から私は気を失ったようです
「おっ!目覚めたようだな兄ちゃん」
枕元には普段着の旦那様がいらっしゃいました
まだ朦朧としていたのですが旦那様を見た途端すぐにしゃっきりしました
「どうやらニューヨーク中を駆け巡ってでも俺の娘を守ってくれたらしいじゃあねぇか。礼を言うぜ」
デパートにて旦那様はホリィお嬢様のお召し物を買おうとしていたらはぐれていたらしく、ニューヨーク中を探し回っていたとのこと
そして見つけたときに知らない男といたのには驚いたが後にホリィお嬢様のお話を聞いて気絶した私を屋敷に運んだのが事の顛末らしいのです
206:
「さて、こんなことして貰っといて礼をしなけりゃエリナばあちゃんやジョースター家の名が廃るからよ、何か礼させてもらうぜ?」
私は慌てて遠慮しましたが、この頃から旦那様は聞く耳持たずで鼻唄混じりに鞄を漁り、ある書類を取り出しました
「確かうちに面接に来る予定だったらしいけど残念だが会社は会社だ。組織である以上中途半端な真似はできねぇ。だが、今回のローゼス、あんたが俺の娘を守る姿勢からホリィのボディーガード兼ジョースター家の執事に任命する」
そうして契約書を旦那様は差し出してきたのです
「次にお前は「そっそんなの無理ですよぉ!」と言う!」
「そっそんなの無理ですよぉ!…ハッ!?」
「大丈夫だぜローゼス。俺はお前なら出来るって信じられる…だからお前も俺を信じてやってみてくれないか?」
その旦那様の一言から私は勇気を貰い執事として働き始めたのです
209:
旦那様がコーヒーを啜りながらしみじみと呟いた
「そうか…あの日からもう30年もたったんじゃなぁ」
「そうです旦那様。旦那様と奥様のお陰でこのローゼス、ただひたすらに鍛え上げられました。これもあの日拾われたお陰です」
執事としてジョースター家全体のスケジュール管理を今では一人で行えるようにまでなれたのだ。それに奥様の急なお願いにも対応してるうちに何でも出来る気がしてきたと言える
今でならあのスピードワゴン財団でも通じるほの働ける自信がある
最も、ジョースター家以外で働く気など沸かないのだが
210:
「ローゼス……よし!じゃあ今日はパーティーね!ローゼスがジョースター家に雇われた労いのパーティーよ!」
奥様はそう言うと何処かへ電話を始めた。恐らくお気に入りのリストランテだろう
こうなった奥様はもう止められない。即断即決と言える人なだけある
旦那様と目が合うと、旦那様も困ったような笑みを浮かべた。奥様に振り回されるのは慣れっこと言う事だろうか
「ほらほら!早く行くわよ!主役がパーティーに遅れちゃ仕方ないじゃない!」
奥様に急かされ玄関へ行こうとすると旦那様に肩に手を置かれ旦那様はこうおっしゃられた
「これからも頼りにしているぞ、ローゼス」
「わかっております。旦那様」
深々と礼をしながら旦那様に付き添い奥様の下へ向かった
END
215:
【聖女、星十字軍を待つ】
「あら?パパは?承太郎は?」
「そう………仕事で外国の方に。承太郎も一緒なのね?パパったらいっつも世界を飛び回って忙しいんだから」
「え?大丈夫ですよ。少し熱があるだけだから、それよりお医者様の皆様も付きっきりで看病なんて大変でしょ?私は大丈夫ですから、御休みなさって」
「そうだ、じゃあご飯だけでも作りますよ!出前だけじゃ栄養が偏るじゃあない?」
「もうそんな遠慮しないで!大丈夫ですってば!」
216:
「久しぶりにこんなに多く料理作っちゃったわ?。承太郎が小さい頃のお誕生日以来かもねぇ」
「どんどん食べてくださいね?いくらだって作りますから。皆さん、看病ばっかりなんて大変じゃない?なら私は出来ることなら何でもしなくちゃ、ね?」
「あっ…いけない。夜中から雨が降るかも知れないから承太郎の制服取り込んでおかなきゃ!それにズボンも破れてたし、直しておかなきゃね?」
「もう…大丈夫ですってば!ほらほら、休めるときに休んでください!」
「パパや承太郎が仕事してるのに私だけ休んでちゃいけないの。せめて、せめて二人が帰ってきたときに笑顔で迎えてあげなきゃ」
「だから寝てる暇なんて無いじゃない?働か……なきゃ……ね…?」
217:
「………あれ?あっ!いけない!私まさか倒れちゃったんですか?…ごめんなさい。中途半端なままにしてしまって…。三日間も寝込んでたなんてね?」
「あら?誰かお客様?」
「……あなた!?いつの間に帰ってきたの?今は海外ツアー中じゃあなかったの?」
「えっ?私が倒れたの聞いてすっ飛んできたって…でもツアーは?」
「そんなことどうでもいいなんて、ダメよそんなの!私はどうだって良いからツアーに行かなきゃ!」
「私、あなたのサックスの音色も、それを弾いてるときの生き生きした顔が好きなんだから」
「……私は大丈夫よ。イエーイ元気いっぱい、ファインセンキュー……ね?元気でしょ?」
218:
「あっ……ごめん。少しふらついちゃって…ううん、大丈夫だから…」
「えっ?どっちにせよ日本で一泊して行くって…ツアーは大丈夫なのよね?…そっか。じゃあ一日だけ久々にあなたに甘えようかしら」
「何かして欲しいって…そうだなぁ?じゃあ…髪の毛とかして貰おっかなぁ?あと爪切りも」
「承太郎?パパと一緒に仕事の手伝いよ。大丈夫!パパが一緒だもの」
「そうだ。そう言えばね、承太郎ったらあなたにますます似てきたわよ?クールで少し愛情表現がぶっきらぼうなところがね、初めてあった日のあなたそっくり」
「……ふふっ。あと友達も久しぶりに連れてきたの!花京院って子でとっても良い子なのよ。今度承太郎に聞いてみたら良いわよ、きっと良い奴だって言うわ」
219:
「後は…パンツも履き替えさせて貰おうかしら!アハハ!冗談よ冗談」
「久しぶりにあなたとお喋り出来たら…楽しくて嬉しくて、疲れちゃった。」
「ツアー…頑張ってね?ここから私応援しちゃうんだから!」
「私なら大丈夫。パパと承太郎がきっと、きっと何とかしてくれるわ。私わかるの…遠くで二人が戦ってるって」
「二人は二人の出来ることをしてる。だからあなたはあなたの出来ることを…ね?」
「そうだ…最後に…ほっぺにチューして?」
「ありがと…嬉しいなぁ…今度は承太郎とあなたと……家族三人で…話したいなぁ…」
「早く帰ってきてね…二人とも」
「どうした承太郎?またDIOに念写されたか?ワシは何にも感じなかったのだが…」
「何でもねぇぜジジイ…旅を急ごうぜ。手遅れになる前にな」
To be continued……
224:
【救世主の降りし場所】
例えばの話、ポーカーをしていたとして
カードが配られれば誰一人として文句を言うことは出来ない。そのカードで勝負しなくちゃあならない
それは人生においても同じなのである
容姿運動神経思考能力やその他の能力
神の与えしカードで人は戦わねばならないのだ
「1、2……いや3か。年齢は四十代。なるほど、今回のターゲットと一致したな」
俺の場合は視力と言うモノを奪われていた
生まれついての闇。生まれついての孤独
人は良く闇とは絶望や悪と結びつけるが、闇に生まれた私は生まれついての悪だと言うのだろうか?
225:
悪に神は微笑まない。だから俺は目が見えない。無論生まれる前の俺が罪を犯してさえいるか定かではないのだが
「もう少しでエレベーターで昇ってくる…フフフ…さぁ昇れ昇れ。天国へのエレベーターとも知らずな…」
なら俺にこれを与えたのは恐らく悪魔だろう
人を殺すためだけの力
鋭く何処までも聞くことの出来る聴力
そして恐らく私にしか出来ない能力
「………シュート…ッ!!ン?一人仕留め損ねたか?」
それは水を操る能力…最も目の見えない俺には水かどうかなどはっきりとわかるわけではないのだが
その力は意図も容易く人を殺める無類の殺意
もしかすればこれが俺を悪とたらしめるものなのかもしれない
226:
生まれて目が見えないことが分かるや否や俺は親に捨てられた
そんな俺を拾ってくれた人は優しかった。一通りの言葉や音の正体を教えてくれた
だが神はやはり悪には微笑むことはしたくないらしい
その人は病気で死んでしまった。呆気ない死だった
俺に残ったのは何もなかった。目の見えない者が生きるには辛すぎた
まともに働くこともできず、飢える寸前になったときに初めてモノを盗んで生きようと考えた
この瞬間俺は悪に堕ちた。わずか十にも満たぬ齢だった
水を操り音を頼りにしながら一つリンゴを奪ったときに初めて俺は生きると言うことを実感できた
口を開けて餌を待つ鯉のような者に神は微笑まない
不平等なカードに嘆いたところでカードは変わってくれない
神が平等に誰も救わない
生きることに貪欲で悪に堕ちようと生きる者のみが生を全うする権利を有するのだ
227:
それから俺は何でもやった
他人を殺すことも盗みも全ては生きるために
これからもずっと……独り生きる為に悪になるのだ。救世主無き世界で独り
「おかしい……仕留められない…だと?」
暗殺者として誰一人として生かさないようにしなければならない。だがさっきからこの男は…全く仕留められない
「屋上へ向かっているのか!?マズイ…殺さねばッ!」
幾度となく空振る攻撃
こんなことは一度足りとてなかった
「なんだと…?全く足音がしない?何処だ、何処にいると言うのだ!」
屋上に辿り着かれたのは分かったが扉を開けた瞬間に姿を消された
228:
「見事だ…実に見事だ。暗殺の手並み、間近で見させてもらったよンドゥールよ」
その優しく色気のある声は真後ろから聞こえた
突然だった。突然いたのだ
何の音もなくその場にいつの間にか!
至極当たり前のようにその男はいたのだ!
「おおっと…やめておくんだ。今なら君が動いた瞬間に私は君を殺せるからな?」
指一本とて動かすことが出来ない
俺は将棋やチェスで言うチェックメイトにハマったと言うところだろうか
「フフフ……これで私も年貢の納め時、終わりと言うわけだな…」
死を前にして抗うほど愚かではない
覚悟を決めて、腹をくくることにした
229:
「いいやンドゥールよ…死ぬ必要はない…安心しろよ…」
その男はやはり妖しい色気を纏った声で諭してきた。その声に私は抗うことが出来ない…ただ為すすべなくなし崩しに殺意までも奪われる
「悪として生まれ、悪として生きるが故に他人を殺すことに抵抗なく行ってきたのだろう?神などいない。自身はこの運命の下に生きる奴隷なのだ…そう自身を奴隷としていたのだろう?」
その男は肩に手を置いた。そしてその瞬間俺は見た。見えるはずのない私の眼でその男の姿を!!
「さぁ…私と友達にならないか?君は独りじゃあない…私に全てを委ねてみせろ」
見えるはずのない眼はその男の邪悪に満ちた眼を見た。鮮明にハッキリと
それはまさに奇跡、聖人イエスが行った行為のように奇跡としか呼びようのない光景
そして俺は確信した
この方は…この方こそが悪の救世主だと!
俺に遂に訪れた救済の使徒なのだと!!
230:
「あ……あぁ…」
両の眼から溢れる熱い滴
救済の歓喜が俺の眼から溢れて行く
「お名前を…お聞かせください救世主様…悪のカリスマ…貴方に…全ての忠誠を全身全霊何もかも捧げんと誓わせてください!」
肩の手を取ると頭を垂れながら俺は頼んだ
「このDIOに…誓うのか?…フフッ、喜ばしい限りだよンドゥール…私のために全身全霊をかけて尽くしてくれ。期待しているぞ」
それから俺はDIO様のために生きている
悪の為の悪の救世主に全てを捧げれば、きっと俺は天国へと行けるのだと信じて…
END
240:
【コミック・パニック】
エジプト某所の病院にて、三人の男たちがいた
「ひっでェ?目にあったぜ……お前の予言が外れちまったせいでよ!」
悪態をつきながら少年に話しかけるおっさんの名前はホルホース
トレードマークのカウボーイハットの角度をしきりに気にしながら煙草を慣れた手つきで取り出した
「おいホルホース!俺の弟を無理矢理連れてってそれはねぇんじゃねぇか!?」
それに反論したのは少年の兄であるオインゴ
何としてでもと弟を探して見つけてみれば知らぬ男と入院していた時には驚きを隠せなかった
因みに彼も入院して顔がめちゃくちゃになっているはずなのだが問題なく元の顔になっている
241:
「おっ…おっ…お兄ちゃん…ぼっぼっぼく怖かったぁ…」
そして先程から論点の中心にいるボインゴ
ある一行の暗殺にホルホースと半ば無理矢理組まされた挙げ句に暗殺には失敗して根倉な性格が更に根暗になって入院
結果ますますすぐに兄であるオインゴに泣き付くようになってしまった
「見ろよこんなに怯えちまって!ひでぇ野郎だなぁホルホース!」
「俺は女には優しくするけど男が泣きわめこうが知ったこっちゃねぇの!!」
口論する二人から気を紛らすためにボインゴはある漫画を読み始めた
タイトルは『オインゴとボインゴ兄弟大冒険』
この漫画は二人の未来を予知する内容を示す、トト神の暗示を持つボインゴのスタンドなのだ
242:
漫画の内容はこうだった
オインゴとホルホースが口喧嘩している中いきなり銃弾が飛んできたぁーッ!
時間は10時5分、ホルホースの時計できっかり!10時5分!今度の時間はズレない!
そして飛んできた弾は見事にホルホースとボインゴの脳天に命中!そのまま二人はお陀仏!
BADENDだ?ァッ!!
「…えぇっ?うえぇっ!?」
トト神の予言を見て、思わず声がこぼれた
僕が死ぬ運命がその漫画には描かれていたのだ
243:
ホルホースの時計を盗み見ればもうすぐ10時になろうとしている
「うわぁぁぁっ!!!どうしよう!」
急いで止めさせなきゃ!口喧嘩を止めさせなきゃ、僕が死んでしまう!あとついでにホルホースも
トト神の予言は絶対なんだ、その通りに行動すれば予言通りになる、なってしまう!
「やっぱ気に入らねぇなホルホース!このスケコマシ!」
「俺が女を捕まえるんじゃなくて女の方から来るんだよ!」
でも二人は口喧嘩に夢中で聞いてくれない
245:
ホルホースの時計はもうすぐ10時4分を指さんとしている
このままでは脳天ぶち抜かれてお陀仏
「こ、こうなったら…」
僕はそこら辺の石を持ち上げると思いきりホルホースの時計に向かって投げた
見事命中、粉々に腕時計が砕け散った
「うげぇ?ッ!!馬鹿野郎何しやがんだよ!」
手首を押さえるホルホース
その時計は10時4分を指したまま止まっていた
「良し!これで10時5分は来ないぞ!予言の時は訪れない!ウケケケケ!」
「良し!じゃねぇ馬鹿タレ!せっかくの時計壊しやがって!」
予言は絶対でも、その時間が来なければ問題がない
そう喜んだのも束の間、ホルホースの拳骨が飛んできた
246:
「まーったその漫画の予言かよ。俺ぁもうこりごりだぜ」
何とか説明したもののホルホースは不機嫌そうに壊れた時計を眺めている
「トト神の予言は絶対なんだよホルホース!てめぇの命が助かっただけでも感謝しやがれ!」
オインゴ兄ちゃんはホルホースに怒鳴り返している
その時、また予言が漫画に現れた
今度はオインゴ兄ちゃんとホルホースと一緒に読むことにした
漫画を鵜呑みにしてなんとか助かったボインゴ、だけど意地悪なホルホースに叱られてしょんぼり
そんな三人がゆったりと過ごしている喫茶店にいきなりマフィアが襲ってきた!
どうやらホルホースを狙っているみたいだ!
そして仲違いをしたオインゴとボインゴとホルホースは三人仲良く殺されてしまいました。ちゃんちゃん
顔から血の気がさぁーっと引いていくのが分かる
またトト神が死を予言してきたのだ。それも今度はオインゴ兄ちゃんも!
248:
「ま、またこんな予言かよ!ろくでもねぇ?スタンドだなトト神はよぉ!!」
ホルホースはじたばたと予言を見ながら暴れ始めた
「おいボインゴ!さっき死の運命とやらは回避したんだろ!?なんたってまた死ぬかも知れねぇなんて出てんだよ!?」
ホルホースは僕の胸ぐらをつかむとそう言った
「わっ、わかりません!もしかしたら運命を回避しきれなくて、ただ、先伸ばしにしてた、だけなのかも、時計を壊すという仕方じゃあ回避しきれなかったのかもしっしれないです!」
ホルホースは怖くて嫌なやつだ?!
「んなことしてる場合かホルホース!取り敢えず喫茶店から逃げ」
「動くな!ここにホルホースってやろうがいるよな!出てこい!」
喫茶店のマスターを脅しながら黒服の男たちが現れた
予言の時は訪れてしまった!
249:
黒服が入ってきた瞬間に三人とも店の壁に隠れる
「おいおい探してるぜホルホースさんよ!いってやれよデートかも知れねぇじゃねえか」
ヒソヒソとオインゴ兄ちゃんはホルホースに耳打ちする
真っ先にホルホースが出ていってくれれば何とか僕らだけでも助かるかもしれないじゃあないか。と言うわけだ
「無理だ無理!だいたい俺は男にゃ興味ねぇよ!」
「ならお前のご自慢の皇帝で全員吹っ飛ばしちまえば?そしたらなんとかなんじゃねぇの?」
「流石に数が多すぎるぜ…ここは何とかやり過ごすしかねぇな…」
オインゴ兄ちゃんとホルホースの掛け合いは段々と声が大きくなっている
そしてそれに二人は気づいていない
僕は必死にトト神の予言を待っていた
何か助かる手が出ないか…何かないのか
どれだけ探しても待っても、予言は現れない
このままでは三人仲良く死ぬ予言が当たってしまう!
250:
「取り敢えず行ってこいホルホース!」
「嫌だね無理だね絶対ダメだね!」
「おいそこの柱の影にいる奴等、さっさと出てこい!さっきから何こそこそやってんだ!ゆっくりと出てこい…太極拳の動きのようにゆっくりとな!」
さんざん大声を出していたせいで遂に黒服にバレてしまった
このままじゃ予言の通り
その時僕は気付いた
(トト神の予言は絶対なんじゃあない…今まで絶対だと思い込んでただけなんだ……。ずうっと絶対だと信じてただけなんだ)
トト神の予言をもう一度良く見る
じっくりと、コマの一つ一つをじっくりと
(予言はその通りに動けば絶対だ。でも逆にその通りに動かなければ変えられるんだ!)
さっきのホルホースの時計を壊したときみたいに!
僕が勇気をもって予言を変えるんだ!そうすれば変わる、変えられる!
そして運命を変える方法も分かった!やらなきゃ、運命に抗わなきゃ、自分を変えなきゃ!根暗な僕は変わらなきゃならないんだ!
運命を変えるために!立ち向かうんだ!
251:
「オインゴ兄ちゃん、ホルホース…助かる唯一の方法が…あるんだ……僕を…僕を信じて…!」
二人を呼び、僕はその作戦を語った
勿論二人は信じられないと言う顔をしたが。無茶苦茶だと思っただろう
けれど運命を変えるにはこうするしかないんだ
「わかったぜボインゴ…てめぇのその糞ったれなスタンドの予言とやら、変えようぜ!」
ホルホースも覚悟を決めた顔をした
一方のオインゴ兄ちゃんは泣いていた
「ボインゴ…お前から運命に立ち向かおうとするなんてな……嬉しいよ俺は!強くなったな…オインゴ…」
誉められて嬉しいけど今は喜んでる場合じゃあない
「早く出てこい…良いか、三つ数える内に出てこなきゃぶっ殺す!い?ち…………にィ??い」
黒服がカウントダウンを始め、さんと言おうとした瞬間、ホルホースが柱から現れた
作戦開始だ
252:
「待った待った!俺は怪しいもんなんかじゃあ無いぜ!」
ホルホースは両腕を上げながら黒服たちの前に現れた
「お前ホルホースだな?命頂戴する…」
黒服たちは各々の銃をホルホースへ突き付ける
「どうしたんだヘルヘース……まさかまたホルホースの奴に間違われたのか?」
黒服たちはぎょっとした表情になった
出てきたのはホルホースと瓜二つの顔をした男なのだ
背丈も同じぐらい、つけてる香水までも同じなのか匂いまで同じだ
「そうなんだよフルフース兄ちゃん……婆ちゃんが五つ児の俺たちにハ行で名前付けるなんて事したせいか顔まで似ちまってな、よりによってまたホルホースに間違われちまったぜ。あのゴロツキの女ったらしにな!」
勿論フルフースもヘルヘースなんてこの世のどこにもいない
このフルフースとやらはオインゴ兄ちゃんのスタンド、クヌム神の力によって変身しただけの存在なのだ
253:
クヌム神の暗示を持つスタンド、それは身長体重匂い、果てには声質までも再現可能な完璧な変身能力のスタンド
「え…五つ児だと…?へ?でも写真そっくり」
やはり黒服たちはそっくりな人間が二人も同時に出てきたら困惑する
「すいませんねうちのホルホースが…昔からただのゴロツキで俺達には手もつけられないようになって何処にいるのやらと言うわけで……おいボインゴ……お詫びにオレンジでも渡してやってくれ」
フルフースことオインゴ兄ちゃんに指示されて僕は籠一杯のオレンジを渡す
勿論このオレンジは喫茶店にあったものだが
「ちっ…人違いかよ!よこせ坊主!引き上げっぞ!たっくさっきホルホースを見たってのも嘘っぱちかよあのスナイパー……ぶっ殺してやる!」
黒服たちは僕から籠ごと引ったくるとそのまま外の車に乗ってどっかへ行ってしまった
254:
「何とか助かったな……一時はどうなるかって思ったぜ」
ホルホースが脅して奪ったジープに乗りながら三人とも一息ついていた
オインゴ兄ちゃんは既に変身を解いている
「しっかしもう追ってこないのか?大丈夫なんだよなぁ?」
ホルホースがそう言ったとき、一台の車がボロボロになっているのと救急車が見えた
先程の黒服達が乗っていた車だ
ジープで通るときに救急車の隊員がこんなことを話していた
「気の毒だよなぁ……爆発なんて大事故じゃねえか」
「あぁ…しかも殆どの奴はあれで即死っぽいし生き残ってる奴も記憶が無いだろうぜ。ま、取り敢えず運ぶか」
「成功だな…オレンジ爆弾」
そうオインゴ兄ちゃんは呟くと胸ポケットからオレンジを取り出してかぶり付いた
255:
「さて…こっからどうするよ」
オインゴ兄ちゃんがそう呟いた
「さあな…でもまぁお前らと組むのも悪くねぇんじゃねえか?」
ホルホースはあながち冗談じゃあないようにケラケラ笑いながらそう答えた
「僕……三人なら…どんな運命も予言にも勝てるかも、なんて…思えたよ…」
吃りながらも僕はそう答えた
例えどんな予言があっても運命も変えられる。勇気と仲間がいれば
「へっ!良いこと言うなボインゴ!さぁって、なら俺の町にでも戻って暗殺でもすっか!勿論三人でな!」
「ところでホルホース…なんであの黒服達に追われてたんだよ?心当たりあんだろ」
「ギク?ッ!い、いや?精々女引っ掻けたかな?っとか?」
「あのなぁ?ホルホース!お前って奴は!」
オインゴ兄ちゃんの怒号が響く中、僕らの道は続いて行く
これから先どこまでも。きっと三人で
END
261:
【加する時の中で】
「ふぅ?…今週と来週分は書けたぞ…第六部も快調に進んでるしこのペースは余裕だな」
ペンを机において体をゆっくりと伸ばす
僕の名前は岸辺露伴、週刊少年ジャンプで連載している漫画家だ
こう見えても売れっ子の部類に入ると自負している。まぁ知らないと言う失礼な奴もいるだろうがね
それに締め切りは絶対に守るタイプでね。休載も絶対にしない主義だ(無論昔怪我で執筆出来なかった事もあったのだが休載はそれっきりだ)
「まだ月曜日か……気晴らしにどこか出掛けてみるかな」
気分転換も必要だろう。今僕の漫画はラスボスとの決戦でヴォルテージは最高潮
ここに更にリアリティを加えることで更なる傑作を生めるだろう
その為にもどこか出掛けるのは必須だ
262:
「むっ、雨だな…雲の動きがい」
出掛けようとした矢先にこの雨の予感
しかし変だな…雨は夜中まで降らないはずだと天気予報で言っていたのにと思いつつもGUCCIの傘を取り出した
このGUCCIの傘は五部の取材の時にイタリアに行った際に買ったものだ。
流石madeinItalyの高品質
雨の日が楽しくなる要因でもある
「あっ、露伴先生。こんにちは」
外出先で傘を持ちながら歩いていると小柄な高校生に声をかけられた
「やあ康一くん。犬の散歩かい?」
ヨボヨボの犬を連れながら康一くんが現れた
なるほど、ヨボヨボの犬ってこんな動きをするんだな…覚えておくかと思った矢先雨が降りだした
263:
「あー、降ってきちゃいましたね…僕帰りますよ。行くぞポリス」
「そうか…風邪引かないようにな」
そう言って康一くんと別れることになった
ホントは少し話したかったのだがもう既に辺りも暗かったから仕方無いだろう
「僕も帰るかな…雨のせいか疲れてしまったし」
帰路に着いたのだが何かがおかしかった
家についた頃にはもう既に辺りが真っ暗だったのだ
「暗くなるのが早かったな…何か変な日だ」
こんな日は早く寝るのに限ると思い寝ることにした
漫画の続きは明日書けば良いや
264:
「なっ……もう10時だと?」
きっちりといつもなら8時に起きるはずなのにおかしすぎる
「疲れてたのかな……うーん…まぁ悩んでも仕方ないな」
遅めの朝食はコーヒーだけで良いか…と考えていたら電話がなった
「もしもし…ああ君か…原稿はもう出来てるけどまだ火曜日だしいつも水曜日に渡してるからまだいいんじゃあないかい?」
担当が珍しく原稿の催促の電話だとは…この岸辺露伴を甘く見ているんじゃあないか?
「え?今日は木曜日だって?何を言ってるんだ…?」
担当曰く世界中が奇妙なことになってるそうだ
取り敢えずテレビを見てみろとのことなので(命令に従うのは癪なのだが)テレビをつけることにした
265:
「奇妙なことに…?この前のピンクダークの少年が実体化した日以上に奇妙なことになることがあるのか?」
ほんの数日前には全世界のキャラクターが実体化すると言う事が起こっていた
勿論僕のピンクダークの少年も実体化して、しかもあろうことか僕を襲ってきたのだ
あのときばかりはクソッタレ仗助と億泰に助けられたが…ってこんなことはどうだっていいじゃあないか
「なんだこの現象は!?」
テレビではニュースキャスターの落としたコップが次の瞬間には粉々に粉砕されていたのだ
落ちる過程なんて一切無くである
他にも高校野球でボールに頭を潰されて死んだ人やら高で針を刻むビックベンの姿が中継されていた
「これは……凄いぞ…面白すぎる!これだ!僕の求めていたリアリティだ!」
人生史上最大の飛び上がって舞い上がりそうな程の喜びを僕は感じた
滅多に見れないぞ、こんな奇妙な日常は!
267:
「あぁもしもし…もう原稿は取りに来てくれてかまわない…何?書こうとしてもインクが乾いて書けるわけ無いって?」
このリアリティを漫画に与えれば僕の作品は更に傑作へと昇華していくだろう
それにインクが乾く前に書けば問題がない
こんなに執筆意欲が湧いてきたのは康一くんの記憶を覗いたとき以来だ!
「問題なく書けるし僕は締め切りは絶対に破らないんだ。早く取りに来いよ」
それだけ言うと担当からの電話を切った
もう既に三十ページは書けたぞ
「露伴先生!町が大変なことに……」
部屋のドアが勝手に開いたと思ったら康一くんがいた
どうやら康一くんが来てるのもわからないぐらい集中してたらしい。まぁ無理もないよな
268:
「やぁ康一くん、大変なことになってるのは知ってるけど今僕は忙しいんだ」
康一くんの方を向かず空返事を返す
そう言えば担当はまだだろうか…遅いな何日待たせるんだよ…
「アメリカの承太郎さんとも連絡がつかないし漫画書いてる暇じゃあないんですよ露伴先生!恐らくスタンドの能力ですよ!」
康一くんの言う通りこれはスタンドの能力だろう。大方は時を加させるスタンドと言うべきだろうか
「悪いね康一くん、僕は締め切りは絶対に守る主義って知ってるだろ?それに時が加するなんて滅多に出来ない経験だぞ?」
だんだん昼と夜の間隔が短くなってきた時、担当がやっと僕の部屋に来た
僕は取り敢えず一ヶ月分の原稿を渡しておくことにした
まぁまだ三ヶ月分はストックしているんだが、まだまだ執筆意欲が尽きない
269:
「……て言うか良く普通にこんな状況で漫画書けますね」
「ま、僕だからね?」
康一くんは呆れたようにそう呟いた
外はもう昼も夜も同時に訪れたかのような世界に変貌している
太陽は線のように空を流れ、その周りは星空
凄い景色だな…スケッチしておくか
「しかしまぁ…このスタンド使いは恐らく世界最強だろうな…是非何を考えているのか見せてもらいたいぐらいだ」
加する時の中ですら唯我独尊かつ自身の道を行く岸辺露伴こそ最強のスタンド使いなのでは?と、ひっそりと広瀬康一は考えたのであった
END
282:
【黄金の回転の軌跡】
「なぁジャイロ…」
僕はジャイロのいれたドロドロのコーヒーを飲みながら話しかけた
一方のジャイロは焚き火の加減を調節している
「なんだジョニィ。俺のギャグでも聴きたくなったか?」
「いや遠慮しとくよ、かなり大爆笑で喋る内容忘れたら嫌だしね」
「まぁな、何てったって俺のギャグだもんな」
「あーうん。でさ、ジャイロの故郷ってどんなところなんだ?」
最初は何気無い世間話のつもりだった
最初は本当に
283:
「ん?俺の故郷か……悪いとこじゃあねぇぞ。いやむしろスゴく良いとこだぜ?」
ジャイロは自分の分のコーヒーを淹れ始めた
「料理は旨いし、処刑人の俺が言うのもなんだが治安は良い方だし、何より女の子が可愛いんだよなぁ?…わかる?」
「僕はネアポリスは行ったこと無いけど美人が多いとかは聞いたことあるな」
ジャイロの女好きっぷりは昔の僕にもひけをとらないんじゃあないかな
「そうそう、美人多いんだぜ!?しかもよぉスタイルは良い娘も多くて町に行けば選り取りみどりよ!わっちち!あっつ!」
テンションが上がりすぎたのか熱々のコーヒーを思いきり太股へジャイロはぶちまけた
284:
「うっへ?…染みになってねぇと良いんだけどなぁ…」
ハンカチでコーヒーを拭き取りながら泣きそうな声でジャイロはそう語った
「ネアポリスかぁ…行ってみたいなぁ」
ジャイロの住んでいる国。鉄球という僕を立たせることの出来たあの奇跡のような技術のある国
この先レースが終わってからの僕を決めるための道標になるかもしれない
「おっ、そうだジョニィ。このレース終わったらよ、俺の故郷に来いよ!そんでよ、町行って二人でナンパしようぜ!こー見えても俺モテるからよ!」
ジャイロの名案だろッ!?と言う顔に喉元まで出かかった女はもういい…って言葉は掻き消された
286:
「……わかったよ…良いよジャイロ。君のそのナンパテクってのを見せて貰うよ」
「おっ、わかってんじゃねぇかジョニィ!女の子全部取られても泣きべそかくんじゃあねぇぜ?」
僕の体がこんな風になったのは僕が金や女に溺れたからだ
勝手に舞い上げられて、何を勘違いしたのか舞い上がった僕は自分で舞っているんだって勘違いして
そんな凄い自分じゃあないなんて一度たりとて思いもしなかった
いや、思いたくなかった
「ん?どうしたんだジョニィ………泣いてんのか?」
「え?…そんなわけないだろジャイロ。ちょっとあれさ、目にごみが入っただけさ」
いつだって何もかも失った自分自身の愚かさには涙が溢れる
287:
「ふぅ?ん…まっ、何だって良いけどよ。今度はお前の故郷についても教えてくれよ。俺だけなんて不公平だろ?」
僕の故郷、あの場所
運命が狂ってしまった、僕の故郷
「僕の故郷は……牧場があって、馬がいて……それで、それで」
何故だろう。もう大丈夫なハズなのに
何故だろう。こんなにも、辛くて何かに潰されてしまうようになって、あの日のあの白いネズミが僕の目の前を過るのは
もう僕の帰る事のない場所。僕が逃げ出したあの場所を思い浮かべると、こんなにも辛い
「父さんがいて…馬を調教しているんだ。い馬さ。とびきりいやつをね…」
僕は思わずうつむいた
顔をあげていては涙が止まらないだろうから
288:
「ふぅ?ん…お前の故郷も行ってみてぇな。なら俺の故郷に行ったあとはよ、今度はお前が俺をその故郷に連れてってくれよ。な?」
「それはいつになるかわからないよジャイロ……誰だって帰る場所がある訳じゃあないだろ?」
父さんが今何をしているのかなんて知らない
全くわからない
一つわかるのは父さんはきっと僕が帰ることを望んじゃあいないだろう
僕が帰ればきっと嫌な顔をして追い返すに決まっているさ。入院していても見舞いにすら来ないんだから
「それは違うさジョニィ。これは旅なんだぜ…誰にだって帰るべき場所はある」
その一言にハッとして僕はジャイロを見た
「今は帰れなくたってよ、気付いたら帰ってるってこともあるだろ?ガキの頃親に叱られて泣きべそかきながら家に出てっても三日四日したら家に帰ってる。そんな場所なんだよ帰るべき場所ってのはな」
そう言うとジャイロはコーヒーをぐいっと飲み干した
289:
「だからこの長いレースをワンツートップで終わらせて、ついでにその遺体って奴も集めて帰るべき場所へ帰ろうぜ」
僕もコーヒーを飲み干した
何故だか苦いはずのコーヒーは今日は少ししょっぱくて、いつも以上に僕の体の芯から暖まったかのようだった
「そうだね……そうだねジャイロ。帰るんだね僕らは」
目元を少し擦るとそう返事した
「そうと決まれば明日に備えて寝るべきだぜ。レースもあるし刺客が来ねぇかどうかは俺が見張っておくからよ、安心して寝な」
そう言ってジャイロはまた焚き火を弄り始めた
「あぁ…そうさせて貰うよ」
そう言って僕は寝転がった
(ありがとう…ジャイロ)
END
293:
【虹村億泰の恋愛事情】
「…………お前今なんてったの億泰?」
髪型をいじる櫛の手が思わず止まった
以前に康一があの由花子と付き合い出したときにスタンドも思わず月までブッ飛ぶこの衝撃!等と言ったが、これは遥かにそれを越えている
「あれェ?仗助聞いてなかったの?だからよぉ?俺の下駄箱にこれが入ってたのよ!」
億泰がポッケから取り出したのは可愛らしい薄ピンクの手紙、手紙の開け口には可愛らしくハートのシールが付いている
「じゃんじゃジャーン!正真正銘、ラブレターよ!」
確かに世間様で言うところのラブレターと言うやつである
「億泰………お前……」
「どーしたんだよ仗助??まるで鳩が豆鉄砲食らったみてぇな顔してよ!?」
「まさかお前が自前のラブレター使ってまで見栄張りたかったなんてな……気付いてやれなくてすまねぇ…!」
俺は友達のこんな事を気付いてやれない自分を呪いながら億泰の肩に手を置いた
294:
「世の中モテねぇことなんざ珍しかねぇんだからよ…そんな焦らなくても良いんだぜ億泰…フフッ」
だめだ一周回って笑いが込み上げてきた…億泰にラブレターとかあの露伴と俺が仲良くするぐらいあり得ねぇぜ!
「笑ってんじゃあねぇ!本物だッてんだろダボがぁーッ!」
「おはよー…ん?どうしたの仗助君、そんな笑い堪えた顔して」
少し遅れて康一がやって来た
取り敢えず俺は康一に訳を説明してやることにした
「アハハ!もぉー億泰君、今日はエイプリルフールじゃあないよ?」
その言葉も億泰の見せるラブレターの前では閉口させられてしまった
「仗助君…こりゃあ相当参ってるみたいだよ…?」
「だよな康一…こりゃあ相当やべぇーよな…」
「うがーっ!康一おめぇも信じねぇのかよぉ!」
295:
「ちくしょー二人して疑いやがって…削り取ってやろうか?」
億泰がちらりと殺意満点のザ・ハンドを出したので流石に焦りを覚えた
削り取られちゃたまったもんじゃあねぇ
「まぁ怒んなって。肝心の中身を見てみようぜ億泰。な?」
そう言うと億泰はラブレターを爆弾処理でもするかのように慎重に慎重に開け始めた
そこまで慎重にならなくてもって感じである
「え?っと……拝啓虹村億泰様。本日放課後杜王町のバス停にある時計台に待っています、一人で来てください………えっ…これ本物じゃね?」
「確かに億泰君がこんな女の子っぽい字を書けるわけないもんね」
文字はきゃぴきゃぴした丸い文字で億泰のような男特有の雑さは全くもって感じさせないのだ
字も筆跡も
「うぐっ……うっ……な?本物だろ仗助ェ…?やったぜ…俺ホントにラブレター貰ったんだぜ…」
感極まったからか億泰は号泣している
トニオさんの所で疲れ目が吹っ飛んだときよりもドバドバと涙と鼻水が溢れていた
296:
「これで信じてくれるよな仗助??なぁ康一?!俺にも春が来たんだぜ?遂に!」
「お、おう。やったな億泰!でも鼻水はバッチぃから拭いてくんない?」
肩をつかんで俺を揺らす億泰から顔を離しながら答えを返す
あ、髪型がまた崩れちまった
「でも億泰君にラブレターなんて誰だろうね?心当たりあるの億泰君?」
康一はそう言っているのだが確かに言う通り
それもそのはず億泰は端から見れば不良、そしてクラス最下位を争えるほどの馬鹿だし、そして何よりがさつ
女の子への気配りなんて一切と言っても良いほど出来ない
「う?ん……ねぇなぁ?。案外よぉ、一目惚れとかって奴かもな!こう、小指と小指が赤い糸で結ばれてるぐらいフィーリングがピッタリな人なのかもしれねぇしよ!」
億泰がこう言っているがやっぱり考えられるのは一目惚れぐらいしかないか
いやほぼあり得ないのだけれどね?
297:
「う?ん…まぁ取り敢えず放課後までのお楽しみってわけだよね」
康一はなんだか微妙そうな顔をしていたのが気になったが先生も来てホームルームが始まったので三人とも席に戻ることにした
そしてかったるい授業が終わって待ちに待った放課後である
「よし。億泰の未来の彼女ってのを皆で見に行こうぜ!」
俺の提案に二人は微妙そうな顔をした
「仗助、わりぃんだけどよ。ラブレターにはよぉ。一人で来てくださいって書いてッから俺一人でいくぜ。良いか?絶?ッ対についてくんなよ?」
億泰は強い口調で念を押してきた
こりゃマジな時の感じだぜ…無視したらマジで削られちまうって奴だ
「僕もちょっと学校に残らなきゃいけないんだ…ごめんね仗助君」
康一まで乗ってこないので必然的に俺一人で帰ることになっちまった
なかなか髪型が決まらない日はやっぱりろくなことねぇぜ
299:
「へへッ、こんなことですごすご引き下がる仗助さんじゃあねぇっての!」
やっぱり億泰の相手と言うのは気になるものなのでこっそり草葉の陰から盗み聞きと双眼鏡で盗み見をすることにした
「だからって僕まで巻き込まないでくださいよ仗助さん…」
双眼鏡になっているミキタカがブー垂れているが後でなんか奢ってやると言うことで交渉成立である
この前ジョースターさんから貰ったお小遣いで懐が暖かいもんね?ッ!
「億泰の奴そわそわしてんなぁ…まぁ呼び出されたらそりゃそうか」
あの億泰がソワソワしてるのはホントに笑いが溢れそうになって困る
まぁ億泰の声が聞こえそうな場所にいるから笑ったら一瞬でバレちゃうだろうけど
「おっ!相手の子来たっぽいぞ!」
遂に億泰の彼女(仮)のご登場に億泰は間抜けみたいに突っ立っている
301:
「おいおいおい、結構可愛いじゃねぇかよ!隅に置けねぇな億泰の奴にもよぉ!」
「そうなんですか仗助さん。僕地球人の感覚じゃあイマイチわからないんですけど」
高等部じゃあなくて多分中等部の制服
身長は億泰の胸ぐらいの高さ
ショートカットで目がパッチリとしている
ミキタカは見る目ねぇなぁ…あ、宇宙人だから仕方ねぇのかな?
「もしかしたらおちょくりかと思ったけどよ、心配いらなそうだし俺帰ろっかな?。やっぱ邪魔って良くないしよ!」
「仗助さん悔しいからって負け惜しみはいけないですよ?」
「ま、まぁそんなこと言うなってミキタカ…お前ドゥ・マゴって言う喫茶店行ったことねぇだろ?取り敢えず行ってみようぜ?な?」
ミキタカの言うことにぐうの音も出ないのでとりあえずいつものドゥ・マゴに行くことにした
仕方ねぇ、やけ食いでもすっか!
304:
「残念でしたね仗助さん。億泰さんに先を越されるなんて」
「先を越されるたって…俺結構純愛派でポンポン噴上みたいに付き合えねぇだけだっつーの。やっぱフィーリングがピッタリな女の子じゃあねぇとな。ってお前にはわかんねぇかミキタカ」
ドゥ・マゴでミキタカはケーキセット、俺はコーヒーを啜っている
今日のコーヒーは格別苦いような気がする
「あ?あ、今頃億泰の奴は女の子とよろしくやってんだろな…」
「あれ?あれって億泰さんじゃあないですか?」
ミキタカが指差す方向には確かに億泰がいた
あの改造学ランを見間違えるわけない
307:
「おーい億泰ぅ!………億泰?」
俺の目の前を通りすぎても立ち止まる気配は一切無い
億泰から生気を一切と言っても良いほど感じないのだ
「やべぇぞミキタカ!なんかわからねぇけど億泰がやべぇ!」
新手のスタンドかも知れねぇ。取り敢えず億泰をこっちに連れてこねぇと
くそッ!スタンド使いが億泰を狙うってのも考えなかったミスだぜ!
「おい億泰!大丈夫か!?敵スタンドか?おい!」
トロトロ歩いている億泰の肩を掴み真っ正面から億泰の顔を見ると完璧に目が死んでいた
億泰の兄貴が死んだときと同じかそれ以上だぜ……こりゃグレートにヤバイんじゃねぇの…?
308:
「仗助…」
死んだ魚の方がまだ生き生きした目で億泰がやっとこさ反応してくれた
「大丈夫かよおめぇ…ほれ、この指何本に見えるよ?」
億泰の目の前で三本指をヒラヒラさせると億泰は三本と答えた
「取り敢えず話はそこのドゥ・マゴで聞くぜ?」
フラフラする億泰の手を引きながらドゥ・マゴの席に付いた
「仗助……俺よぉ…はぁ…」
億泰は泣くわけでもなくため息をついて何があったのかをぽつりぽつりとこぼし始めた
309:
遡ることホンの少しだけ前
「えっと……億泰さんですよね?」
俺はつい来たって舞い上がったぜ
髪型は何度も鏡をみながら整えたし、バッチグーに決まってるよな?なんて考えながらドキドキしてた
「おう!で、何の用なんだ?こんなとこに呼び出してよ!」
平常心平常心と心の中で何度も呟く
取り乱したりなんてしてみろ、億泰様の面目丸潰れだぜ、なんて考えながらな
「実は……」
「おう!」
来るぞ来るぞ、俺にも春が!
なんて考えてた時が俺にもあったってな
310:
「あの……実は一目惚れでして…お恥ずかしい話に…」
「うんうん。ま、まずは見た目からってのもあるよな」
「頼りに出来るのは億泰さんだけなんです!」
「まぁまぁ言ってみな?力になるからよ!」
うっひょ?、頼りに出来るのは俺だけだってよ!更に俺は舞い上がった。
「良く一緒にいる東方先輩を紹介してほしいんです!」
「喜んで………へ?」
俺は何かの聞き間違いじゃあねぇかと思った
でも聞き間違いでもエコーズに何か貼り付けられた訳でもなかった
はっきり言われたんだ、俺じゃあなくて仗助を紹介して欲しいってな…
311:
そっからと言うもの、あの女は止めどなく仗助のここが良い、こんなとこが格好いいと雨あられにぶつけてきたんだよ。ほぼ初対面の俺にだぜ?
俺?俺はその時から死んだみたいにずーっとボーッと突っ立ってた
何が何だかと訳もわからずと言わんばかりにな。だって告白されるのを期待していったらあろうことかダチが格好いいだなんだ言われんだからよぉ…
そして止めを刺した一言がコレだよ
「億泰さんって怖くて粗暴そうな人かなって思ってましたけど、案外顔によらず優しい人なんですね!」
そっからの記憶は全くねぇけどよ…気付いたときには路地裏の壁やらなんやらが削れまくってたのと俺の顔が涙と鼻水でドロドロになってたってな
316:
「その……なんだ…すまん億泰!」
一通り話を聞いた後に俺の取った行為は誠心誠意の土下座
いや俺が悪いのかわかんねぇけどよ
「いや謝らなくて良いぜ仗助ェ…」
億泰の目付きは最早この世の何よりもの不幸って感じの濁り方をしていた
「いやホントすまねぇな…」
「だから謝らなくて良いぜ…お前が悪い訳じゃあねぇしよ……」
「いやホントな。マジで悪かった」
「るっせーこのダボがぁッ!止めろよ謝るの!更に惨めになるだろーがよ!勘違いしていった俺がよ!」
億泰が思いきり机を殴ってキレた
「くっそイラつくぜ…こうなったら仗助、トニオさん所行くぞ!旨いもん腹一杯食ってよ、こんなしみったれた雰囲気おさらばしようぜ!行くぞダボがァ!」
良いのか悪いのか元の調子に戻った億泰はズカズカと歩き始めた
恋の傷心って奴はトニオさんの料理でも俺のクレイジーダイヤモンドでも治せない気がする
317:
「ってことがあったんだよなぁ…大変だったぜ昨日はよぉ…」
康一に昨日遭ったことを事細かに話しているとため息がこぼれた
殺されるんじゃあねぇのかなって何度も覚悟決めたぜ
「アハハ…億泰君も大変だね。期待して行ったらこんな結果だなんてさ。でもまぁ大丈夫だよ」
康一は快活に笑っていたがこっちからしたら笑い事じゃあすまない
「何が大丈夫なんだよ?億泰の奴やっぱしょげてんだぜ?」
「フフッ…億泰君に言っちゃ駄目だけどね、実は…」
康一の奴が昨日の用事とやらを教えてくれた
それを聞いた瞬間に俺も理解できたぜ、康一の大丈夫って訳がよ
「おい仗助ェ!見ろよこれ!」
億泰がまた教室へ息を切らして目を輝かせながら一枚の便箋を持って入ってきた
END
320:
【戦士達の旅路】
「喉乾いたなぁ…こんな時間じゃあどこの店も閉まっちまってるだろうしな…」
ホテルの一室でポルナレフは呟いた
「ふぅむ…ルームサービスでも頼むか?」
「おっ、奢りかよ流石ジョースターさん!太っ腹だなぁ」
「お前が出せポルナレフ…ま、ワシはビールでも貰うかな。お前らは飲まんのか?」
ジジイが備え付けの受話器に手をかけながら他の三人に尋ねた
「私もビールを…たまには酒も悪くない」
タロットカードを切る手を止め、アヴドゥルは答えた
「俺もビールで良いぜジジイ」
俺は海洋学の本から目を離すこと無く言った
「ジョジョ、君は未成年だろ?不味いから適当なジュースにでもしておきなよ。ジョースターさん、僕らはコーラで」
花京院は俺を疎めるとジジイにそう言った
321:
「ルームサービスは10分はかかるらしい…まぁそれまでゆったりしてれば良いだろうな」
注文を終えたジジイがそう告げた
「ならトランプしようぜ!」
ポルナレフは意気揚々とトランプを取り出した
「じゃあ何か賭けるとするか…何が良いかのぉ」
「ならこのトランプで負けた奴がルームサービスの料金を払うってのでどうだ?」
スター・プラチナでカードをシャッフルしながら提案した
「おっ、良いじゃあねぇか承太郎。でもこう言うのは言い出しっぺが負けるんだけどな!」
「じゃあゲームは大富豪で良いですね」
「「「………大富豪って…何?」」」
「やれやれだぜ。大富豪知らねぇのかこいつら」
思わずため息がこぼれた
322:
この三人が全く知らないのも無理はない!
何故ならばあまり知られていないが大富豪とは日本発祥のゲームだからだ!
と言うわけで花京院の奴がざーっとルールを説明し終えた。ルールは八切りのみの超初心者で行うことになった
「かァーッ!日本人は細かいルールの決まったゲームを良く作り出すのォー!」
ジジイは早いことにもうルールの難解さを読み解いたらしい。頭の回転は耄碌してないと言うことか
「ま、やってる内に何とかなんだろ。さっ、やろーぜ皆」
ポルナレフはポルナレフで納得していた
相変わらず軽いとこの多い男だ
「むぅ…私は出来るだろうか…」
こうして五人全員が席に着き、スター・プラチナがディーラーとしてカードを振り分けていく
「…おいジジイ。足の所にある鏡を自分で取るか叩き割られるかどっちが良い?」
「アレ…バレちった?」
ジジイの奴、みみっちいことに他人のカードを盗み見ようとしやがった
呆れてモノも言えねぇぜ
326:
「……おい花京院…」
「どうしたんですポルナレフ。僕の方を睨んだりして」
「なんで俺の足元にお前のハイエロファント・グリーンが巻き付いてんだよ!こっそりカード見ようとしてるしよ!」
紐状になったハイエロファント・グリーンがソロソロと花京院の方へと戻っていった
「だってルール上じゃあスタンド禁止とは言ってないじゃないですかポルナレフ」
しれっと花京院が言い放った後、全員がハッとした。そして花京院は後悔した
(不味い……僕がこの理由を言ったら他の人もスタンドによるイカサマがOKになってしまう…)
ポルナレフに見破られたことによる精神的動揺からの痛恨のプレミである
327:
「ダメだダメダメ。スタンドでの行為なんて禁止に決まってるだろ」
意外ッ!禁止を唱えたのは一番イカサマを画策しそうなポルナレフ!
それもそのはず、ポルナレフのシルバー・チャリオッツは戦闘に向いてはいるもののその他では何も出来ないと言えるスタンドだからだ
(っぶねー…俺のシルバー・チャリオッツじゃあ精々タンスの裏のモノぐらいしか取れないからな…それにイカサマをしないと言う提案は白だ…俺は正義の白の中にいるってはっきりわかるぜ)
ポルナレフにとってはアドバンテージを潰した結果となった
ついでに言うと燃やすことが出来ても何の得もないアヴドゥルも無言で賛同した
「スタンドは無し。次やった奴は見つけた瞬間にスター・プラチナぶちこむからな?」
承太郎はタバコを加えながらそう忠告した
いつの間にかタバコを加えていると言うのはいつでも顔面に拳を叩き込めることの証明だろう
もう一度カードを切り直し、この五人の大富豪大会が始まった
331:
「最初はスペードの3を持つ人からだな」
「おっ私からですな。始まりの暗示を持つが所以…とでも言えそうですね」
アヴドゥルがスペードの3を出した後、スペードの4を出した
今回のルールに色縛りも階段も無いので問題はない
順番はアヴドゥル→花京院→ポルナレフ→ジジイ→承太郎である
「うぅん…花京院が7なら俺は…10辺りにしとこっかなァ?」
ポルナレフが自信なさげに置くとジジイはニヤッと笑いながらエースを出した
序盤でのエースに四人は驚きを隠せない
(序盤からガンガン戦うッ…このジョセフ・ジョースター、まだまだ衰えちゃおらんのぉ…!)
全員が流せばまた自分のターンが回ってくるのでアドバンテージを稼ぎやすい
最もその分強いカードを使っていけば後半にツケが回ってくるものだが
333:
「パス」
俺とアヴドゥルがパスを続ける
(ここはアドバンテージを稼ぐか…?僕の手札には2は二枚揃っていることだし飛ばしても良さそうだ)
花京院は2をスッと出した
ジジイは小さく舌打ちをして悪態をついている
「なら俺は…うーん…やっぱやーめたっと」
ポルナレフの言葉に衝撃が走った
やっぱやーめた…つまりポルナレフはこの状況で出せるカードがある可能性が出てきたのだ
すなわちjokerの存在である
(やれやれ…揺さぶりとはたまげたものだなポルナレフ…これぞ大富豪の醍醐味だがな…)
全員がパスをしたことにより花京院のターンになる
「二枚出しとさせて貰いますよ」
花京院の出した二枚のカードの数字は3
「うっ…パスだぜ」
「ワシも…」
ジジイとポルナレフは嫌そうな顔をしてパスを宣言した
335:
承太郎が真剣にこの状況を考え抜いている最中
花京院典明はこの状況に喜びを感じていた
何気ないこの大富豪をしていると言う瞬間に
(いつ以来だろう…こんなにも気楽にトランプなんてしているのは…)
スタンドを持つ身が故に他人と壁を感じていた僕は他人に隠しているスタンドと言うものの後ろめたさのせいで本当に心から他人と打ち解けたり出来なかった
でも今は違う
ここにいる皆はスタンドを持っているが故に壁も何も感じないで良い
実の家族にすら感じていた圧倒的な壁がここにはない
たったそれだけでこうも嬉しいのだと、花京院は一人笑みを溢した
「俺はがっぷりよつといかせてもらうぜ…花京院」
承太郎はにやりと口角を上げながら5を二枚出した
337:
「ふっ…そう来るなら迎え撃つだけさジョジョ」
ジョジョの言うことに笑みで返す
「私も出させてもらいますよ…除け者にはされたくなくてね」
アヴドゥルが出したのは10を2枚
流石に10以上は複数持っていなかったので全員がパス
「そんなつえーの2枚も持ってねぇよ卑怯だぜアヴドゥル!」
ポルナレフがごねたが全員が一笑に伏した
こうして何気無い時間は流れていく
残りの手札は花京院が四枚、アヴドゥルが三枚、ポルナレフが六枚、ジジイは六枚そして俺が三枚
手札的には俺は枚数的にも俄然有利なのだが…
ジジイの考えが気になる。何か気を伺うかのように見える
そしてそれはjokerを切ったポルナレフの次の番に起こった
338:
「やーりぃ…こりゃ俺の勝ちっぽいな!」
自信満々に八切りをした後に5を出したポルナレフは勝ちを確信していた
恐らく残りの三枚は強めのカードであろうことがポルナレフの自信満々な顔から伺える
「ふっふっふ…甘いのぉ…まだまだあまっちょろいなポルナレフ!」
ジジイは不敵な笑みを浮かべながらカードを四枚出した
「こっ…これは!」
アヴドゥルが瞠目しながらカードを指差す
「「「「革命ィ!?」」」」
土壇場に出てきた革命
それは9が四枚と言う奇跡のような光景
全員がKやAを持つ中での革命はドラマのような展開そのもの
「jokerさえ切らせちまえばこっちのもんよ!」
ジジイは勝利を確信しきった
6を出してしまえばあと手札は一枚
勝ちを確信してもおかしくはない状況だ
339:
「よっしゃァーッ!1抜けたーッ!……って何ィ!?」
最後の一枚を出す寸前のジジイは驚きで止まった
自分の6の上に5が乗っていたからだ
「Sun of a Bich!!これじゃァワシ出せないじゃあ無いか!」
「俺が5を出した…ジジイが出そうとした寸前でな…」
学帽をきっちりと被り直してキメてみせた
「さあジジイ…そのカードを出すのか…出さねぇのか…出さねぇなら俺の番だな」
全員がパスを宣言したので、俺はパパっと八切りからの2を切って上がった
「くそぅ…まさか孫に負けるとは…」
ジジイは二着抜け
その次を花京院が抜け、ポルナレフとアヴドゥルの一騎討ちとなった
「これで…終わりだな」
「ぬぉーっ!ドベかよ!途中までは良かったんだけどなぁ…」
カードを投げ出しポルナレフは本気で悔しがっていた
如何せん手札に強いのを温存したポルナレフは為す術もなく負け、僅か七分ばかりだが白熱しきった大富豪は終わった
大富豪完全決着…一位、空条承太郎
ドベ、ポルナレフ。完全敗北の末に18ドル払った
(この後ポルナレフがごねたのでもう一度大富豪をやり、ハマッたせいか夜通しで大富豪大会が行われた)
341:
それからあくる日のことホテルにて…
ジジイは移動の手配とやらで朝からいない
「暇だなぁ…しりとりは腐るほどやったし大富豪は懲り懲り…何やるかねぇ…」
「一人でしりとりはまだやってないんじゃないんですかポルナレフ」
ポルナレフもたまには女のけつばかりじゃなくて本でも読めば良いと言うのに
だがまたうるさくなるのも面倒なのでちょいと隠し芸でも披露するかな
「ポルナレフ、花京院。今から一回しかやんねぇ隠し芸を見せてやるぜ…」
5本タバコに火をつけると一度にくわえる
そしてそのまま口の中に運んでいく…
「なっ…危ないぞ承太郎!熱くないのか!?」
「おぉ…ブラボー!ブラボー!すげぇよ承太郎!」
そしてポルナレフにジュースを取らせてタバコを口の中にいれたまま飲み干す
そしてタバコをまたもとに戻すとポルナレフに教えてくれとせがまれた
やれやれ…やらなきゃよかったななんて思いながらも満更でもなかった
「アチィーッ!舌が焼けちまった!」
案の定ポルナレフは失敗してベロをやけどしていたが
343:
「あっち…ベロ火傷しちまったぜ…」
舌を冷やしながらポルナレフはうんざりと呟いた
「全く…いきなり5本から挑戦するからだ。無謀すぎるぞポルナレフ…ん?この写真は?」
花京院が拾い上げた写真にはポルナレフに寄り添う美しい女性が写っていた
二人ともカメラに向かい幸せそうな笑顔を浮かべている
「ガールフレンドかいポルナレフ?美人な娘じゃあないか」
ポルナレフに写真を手渡しながら花京院は冷やかした
「あぁそうだろ?世界で一番の美女さ。気立ても良くてスタイルも良い…最高の女性さ」
ポルナレフはしみじみと写真を眺めながら呟いた
「もしかしてこの子がお前の妹か?」
俺はポルナレフにふとそう尋ねた
344:
「そうだぜ承太郎。俺の妹は、シェリーは世界で一番大切な女性さ」
ポルナレフは自慢するかのようにその写真をヒラヒラさせていた
どうだい?素晴らしい女性だろう?羨ましいだろと言わんばかりだ
「そうだったのか…。すまない、そんな辛いことを思い出させてしまって」
「気にすんなよ花京院!謝るこたぁないさ」
ケラケラと快活にポルナレフは笑った
「ま、たまに写真を眺めてるときがあるとは知ってたがまさか妹だったとはな…やれやれ深い兄妹愛だぜ」
「えっ!?見てたのかよ承太郎!頼むからジョースターさんには言わないでくれよ、どんな冷やかし言われるかわかんねぇからさぁ」
ポルナレフは照れたのか頬をかきながらそう懇願した
346:
「そうだ。お前らこの旅が終わったらどうしたいよ?」
「まずはあのアマが治ったかどうか調べねぇとな…その後はまただりぃ学校に通うことになるだろうよ」
日本に戻ったらまたガタガタやかましい女に囲まれるのか…と思うと少し嫌気がさした
嫌いではないのだが付きまとわれるのも面倒なもんがある
「僕も学校に通おうかな…承太郎と同じ学校に転校してからまだ一日も通ってないしね」
「花京院…出席日数って知ってるか?」
「パパっと追試でもなんでも受ければ何とかなるだろうしね。ポルナレフはどうするんだ?」
「俺か?うーん…フランスに帰って知り合いのやってる本屋でも手伝うかなぁ…」
ポルナレフが本屋の店員なんて似合わなすぎて笑ってしまった
本を読まないのに本屋とはな…たまげたもんさ
348:
「そうだ。この旅が終わったらよ。お前らフランス来いよ!良いとこだぜフランスは。バクシーシバクシーシ五月蝿くねぇし飯も旨い」
ポルナレフみたいなのがいっぱい居れば五月蝿いことに代わりはないと思うんだがな
「是非行かせて貰うよ。ポルナレフも日本に来てみたらどう?僕の家広いしね」
「え?花京院ってボンボンなの?」
そう言えば花京院の家族は謎に包まれている
本人も言わないので特に聞きもしなかったがいざとなると気になるものだ
「ボンボンじゃあないさ…精々古いお寺の跡継ぎってとこかな」
「なるほど…意外だぜ」
この後、三人で自分達の帰る場所について話していたらジジイが帰ってきた
どうやら船の手配が出来たらしい。そこでアイツと落ち合う予定らしい…刺客に襲われないと良いんだがな
あと船が沈没しないことを祈った
349:
エジプトに入る前の最後の夜
何となくだが夜空を見上げていた
星が澄んだ空気の中で燦然と輝いている神秘的な光景に目を奪われながら
「眠れないのか承太郎」
制服に身を包んだ花京院が出てきた
花京院もどうやら眠れないらしい
「もうすぐDIOとの決戦だからな…」
緊張ではなく意志の昂りを体の底から感じる
この旅の終わりはもうすぐ近くなのだ
「安心しろよ承太郎。敗けやしねぇさ」
何処からともなく欠伸しながらポルナレフが現れた
「そうさ承太郎。これまでの旅を乗り越えてきた僕らなら何とか出来るに決まってる…そうだろ?」
花京院の言葉に微笑みを返す
三人を穏やかな笑みが包んだ
「DIOを倒せば全て終わるんだよな…この旅も俺の復讐ってやつも」
「僕はこの旅が終わったらまずは父さんとと母さんに謝らなきゃならないなぁ…話し合わなきゃって気付いたんだ」
「もし親と喧嘩なんてことになったら、俺の家にでも来れば良い。あのアマも一人や二人増えようと問題ないだろうしな」
花京院にそう告げ、もう寝ようぜと呟いた
二人も無言でうなずき、三つの影がホテルへと消えていった
その後ろでは無数の星星の中で一際強く輝く五つの星と一つの流れ星があった
350:
「………夢か…」
電車の進む音に目を覚ます
花京院の墓参りの後だからなのか、少し懐かしい日々を思い返したのかも知れない
あの旅は終わり、多くの犠牲を払って、今俺は全てにケリをつけて帰ってきた
胸ポケットから取り出したあの時の写真は色褪せずにここに残っている
辛く厳しく、けれど笑みの絶えることのなかった日々がここには確かにあった
共に試練を乗り越えた強い絆で結ばれた友は確かにここにいた
電車は音をたてて静かに日常へと還っていく
車輪の音を少しだけ寂しそうに、名残惜しそうに遺しながら…静かに
END
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