水銀燈「にゃーん♪」back

水銀燈「にゃーん♪」


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1:
「あ?退屈だわぁ」
 水銀燈は日差しの暖かなとある午後、ふわふわと空を跳んでいた。
「武闘派アリスゲームの緊迫感が無くなったのは別にいいんだけど、
それはそれで退屈なのよねぇ…」
 にゃー。
「…ん?」
 ふと小さな鳴き声が耳に入り、水銀燈は興味が指し示すままに
声のした方向へと降りていった。
「にゃーにゃー」
2:
そこには、生まれて少しと思われる白い子猫が居た。
「…子猫、よね、これ。まだ目開いてないじゃない」
「にゃー。にゃー」
「今時あるのねぇ、段ボールに入れて拾ってください、の文字」
「にゃー…」
「どうでもいいけどあんたも大変ねぇ。捨てられちゃったのね」
「にゃー…。にゃー……」
「ま、頑張って飼い主捜しなさぁい。あんた達、捨てられる子に限って
自分で拾ってくださいって書けるくらい頭いいんだから、大丈夫よぉ」
4:
「…にゃー…。……にゃ……」
「ちょ、ちょっと? 何崩れる様に突っ伏してんのよ!」
「……」
「ちょ! ちょっと!? もしもーし! えっと…。えっと…。ああもう!」
 水銀燈は子猫を抱きかかえて空に舞い上がる。
「めぐ!」
「あ、水銀燈。おかえ…」
 めぐがいつもの様に水銀燈を迎え入れようとして、その胸に抱かれた小さな猫を見つける。
「…貴女の子? 毛深いわね」
7:
「冗談に付き合っている暇ないの! えっと…何か…そうそう牛乳! 牛乳ある? 頂戴!」
「あるけどダメよ」
「何で!? なんか死にそうなのよ! 頂戴よ!」
「意地悪じゃないの。猫には猫用のミルクじゃないと、かえって具合悪くするからよ」
「え? 猫用?」
「本当はそれが一番なんだけど…スキムミルクでもいいから、それならあるからあげる。
はい、これをお湯に溶かして、ぬるめで飲ませてあげて」
「あ、ありがとう!」
「うふふ、まずは急いで飲ませてあげて、あとでゆっくり見せてね」
「分かったわ。それじゃ」
 水銀燈は一袋を受け取り、飛んでいく。
11:
「ふーん、水銀燈って、やっぱりああ見えて面倒見いいんだぁ」
 めぐは滅多に見せない慌てた顔の水銀燈を思い出し、くすくすと笑った。
 水銀燈が住処としている病院脇の廃教会。
「息は…しているわね」
 水銀燈は子猫をタオルの上に置いてくるみ、急いで病院の調理室から
持ってきたお湯でスキムミルクを溶いた。
 ついでに持ってきたほ乳瓶に冷ましたミルクを入れ、気絶している子猫を
抱き上げると母が子にミルクをあげるように口元にそっとほ乳瓶をあてがう。
「……」
「…にゃ……」
「!」
 子猫はミルクの匂いで意識を取り戻し、弱々しくもミルクを飲み始めた」
13:
「…これなら、大丈夫かしら」
 ほ乳瓶半分程ののミルクを飲み切った時。
「げふ」
「…猫もげっぷ、するのねぇ」
 水銀燈は猫の背中をとんとん、と気持ち程度に叩いてから、タオルの上に寝かせた。
「……」
「すー…すー…」
「…で、どうしようかしら…?」
「で、どうするの?」
「どうするも何も…」
15:
次の日、水銀燈は昨日と同じ様に子猫を抱きかかえてめぐの病室を訪れていた。
 昨日と違うのは、子猫が元気である事。そして目が開いていた事。
「にゃー」
「はいはい、ここに居るわよ」
「にゃん」
「すっかり懐いているわね」
 めぐが子猫の顎を撫でながら笑う。
「だって、朝目が覚めたら鞄の外がカリカリいうのよ。何事かと
思って開けたら、この子が飛び込んで来るんだもの。びっくりしたわ」
「あははっ。水銀燈の匂いを覚えていたのね」
16:
「笑い事じゃないわぁ。それからもう、あたしから一時も離れようと
しないのよ。朝のミルク作りに調理室行こうとしたのに、結局ロゼが
ドレスに爪立てて行かせてくれないから、仕方なく連れて行って
調理場でミルクあげたわよぉ。見つからないかドキドキしたわ」
「あは、大変だったわね」
「ロゼ、あんたミルクがおいしいからって、うにゃうにゃ鳴きながら
飲むのはやめてよね。家でならいいけど、あそこではダメよぉ」
「にゃー」
「…ねぇ、それで、これからどうするの?」
「何を?」
「この子よ」
「そんなの、どっかで新しい飼い主を捜してすぐバイバイするに
決まっているじゃない。あたしは子猫なんか飼う気は無いわよぉ」
 水銀燈は馬鹿馬鹿しい、と涼しい顔で言う。
18:
「ふーん。で、この子の…」
「めぐ、ちょっと」
「ん?」
「この子、なんて言わないでよ。ロゼって名前があるんだから。
さっきから言っているでしょ」
「ロゼ? この子の…名前?」
「そうよ、rose。ほら、お鼻がピンク色で、薔薇の花びらみたい
でしょ? 昨日の夜から、寝るまでずっと考えてたんだから。ねー、ロゼ」
「にゃーん」
 返事をしたロゼを、水銀燈は満足げに笑って撫でる。
「…飼う気、無いのよね?」
「さっきも言ったでしょ。当然よぉ」
20:
「トイレとかは外でいいとして…首輪くらいは探しておこうかな?」
 めぐはくすくすと笑い、水銀燈を撫でながら呟く。
「子供扱いしないでよぉ。でも、首輪はいいわね。貰ってくれる人も、
それくらいお洒落している方が貰ってくれやすいかもねぇ」
「ふふ。そうね。水銀燈は何色が好き?」
「なんであたしの好みなの?」
「いいから、教えてよ」
「そうねぇ…。何が似合うかしらね、ロゼ」
「にゃー」
 半月後。
 小さなペリドットが光る銀糸の首輪を付けたロゼと水銀燈が
公園で遊んでいた。
「…ほ、本当だわ。カナ」
21:
「でしょでしょ? あの冷酷無惨地獄少女現代に蘇った岩本虎眼の
水銀燈が、あんなに楽しそうに笑って子猫と戯れているなんて、
鬼の乱獲とはあの事かしら」
「カナ、鬼の霍乱よ」
「…わざとかしら」
「それにしても…」
「そう、それにしても一体何を企んでいるのかしら…」
「くぁわいい…わぁ…ふひーふひー…」
「そう、かわいくって…え?」
「真っ白なにゃんにゃんと、じゃれ合う様にして蒼い芝生の上を
小走りで駆ける水銀燈…追いつかれそうになるとふわりと跳ねて
ちょっとだけ逃げて、でも決して子猫が困惑しない程度の距離で
着地して再び子猫に追いかけられると言うその優しさ、ぶひーぶひー」
「み、みっちゃん? は、鼻から赤い液体が…」
22:
「バッグを春物も夏物も秋物も冬物もガマンして一年分の予算を頭金にして
買ったプロ仕様一眼レフを解き放つ時は今ね! 今なのね! うんそうよ!」
「じ、自問自答かしらーっ!」
「ああっ! にゃんにゃんが遊び疲れるのを見越して、その前にわざと
捕まってあげたわ! 芝生に転がってにゃんにゃんを両手で抱き上げて
いる! 何あの笑顔!? 天使? エンジェル? 天使ってこんなにも
美しいものなの? 神の創造物? 畜生神の奴っ! こんなもの見ちゃって
死ぬの? あたし三年後に死ぬの? いいえ、あたしは死なないわ。
あたしが守るもの! ふおぉぉぉぉっ!」
「み、みっちゃんのシャッターを押す指が早すぎて見えないかしらっ!?」
「……」
「にゃー?」
 ロゼがどうしたの? と水銀燈を見上げる。
「あひぃいぃいぃっ! すっくと立ち上がった素立ちも凛々しいわ!
モデルがいいとどんな姿勢も絵になるのね! 絵にするわ! あふん!
いやん! カメラ目線いただきましたぁ! あたしをやっぱり殺す気ね!
視線で殺す気ね! あなたの瞳は百万ボルトね!」
24:
「え? カメラ目線?」
「……」
「に、にゃ?」
 流石にロゼが水銀燈の表情を見て青ざめる。
「いやぁあん! 被写体がこんなに大きく! あはぁん! 抱っこした
にゃんにゃんが天使様のお顔をぺろぺろしてエクスタシーがパッションで
パトスでレボリューションでWiiだわっ!」
「…お父様、先立つ金糸雀の親不孝を許して欲しいかしら…」
 ぷす。
「おぁふ」
 水銀燈の投げた羽がみっちゃんの額に刺さり、みっちゃんはそのまま卒倒した。
「あんたら馬鹿ぁ?」
27:
「返す言葉も無いかしら…」
「ふぅん、ロゼちゃんって言うんだぁ。ステキな名前ね」
「とっても賢そうかしら?」
「あんた達、いまさら常識ぶっても無駄だからね」
「あはは、ま、まぁ、人は時々暴走してガス抜きが必要って事で…」
「ガス抜きって言うか、あんたがガスの塊じゃないのぉ?」
「にゃー」
「ほ、ほらほら、ロゼも許してあげてって言っているかしら! …多分」
「ま、いいわよぉ。そうだ、あんた達、この子を飼える人間に心当たりなぁい?」
「え? 飼う?」
「誰が?」
28:
「だから人間よぉ」
「…水銀燈以外が?」
「馬鹿ねぇ。あたしは動物を飼う趣味なんて無いの。薔薇乙女最強のドールがそんな
腑抜けな、なよっちい趣味持っているわけ無いでしょ。ねー、ロゼ♪」
 水銀燈はそう言ってロゼを抱き上げ、すりすりと頬ずりする。
「にゃーん」
「うふふ。にゃーん♪」
「ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ……」
「…言動と行動がロンパっているかしら」
「あ、そろそろ行かないといけないわぁ」
「え? どこへ?」
「マエストロの家」
30:
「水銀燈がそこに行くなんて珍しいかしら」
「あ! そうそう聞いてよ。マエストロの家に行く事になった経緯なんだけどぉ」
「聞かせて聞かせて。ジュンジュン元気かな? 衣装また作ってくれないかな?」
「本人に聞きなさぁい」
「井戸端会議みたいかしら」
「で、二日前ね、教会に遊びに来た蒼星石にロゼ見せたらね、蒼星石ったら、
急に鼻息を荒くして…」
「す、水銀燈…子猫を囲っているの!?」
「囲ってってなによぉ。囲ってないし飼っているって訳じゃ無いわよぉ」
「でで、でもでも、少なくとも水銀燈と今日まで…ええと、ひのふのみの…
十二日間も一緒に住んで居るんだよね?」
「まぁ、そうね」
「このねこにゃんの舌が…舌が…水銀燈の柔らかで張りがあって艶めかしい体躯を…」
32:
「今、なんか背筋がぞくって来たんだけど」
「こ、このねこにゃんお借りしたいんですけど」
「…なんで? なんか嫌だわぁ」
「べ、べべべべべ別にこの子のざらざらした舌で全身をなめ回してもらって
水銀燈と擬似的にペッティングなんて思ってないよ! ああああああくまでも
生物学的にバターを個体調査とおまんまんに在来種の帰化率を塗りたくって
森林保護であわよくばアナ」
「……」
「ごろざないでくださいおねがいじまず…」
「…はー。スッキリしたわぁ」
「にゃ…」ガクガクブルブル…
「いやぁ、ミスティカ出ちゃうかと思ったよ。あははっ」
「…出ても良かったのに」
33:
「まぁ、それはさておいて、せっかくだし、翠星石の所に行って、バタ…ロゼを
みんなにも見せてあげようよ」
「え? マエストロの家に?」
「うん。ジュン君も、飼い主捜し手伝ってくれるかも知れないよ」
「…飼い主…そ、そうね」
「ふふ。どうしたの?」
「な、なんでも無いわよぉ! それより蒼星石、なんでそんな冷静なのよぉ。
さっきと大違いじゃない」
「ふふっ。水銀燈のヒールで顔を踏まれて、軽くイッちゃったから…かな。
しかも、おぱんちゅも見えたしね」
「何爽やかな笑顔で最低の告白してんのよぉ…」
「蒼星石ちゃん、相変わらずね…流石だわ」
「…なんだか、自分で話していて悲しくなってきたわぁ」
35:
蒼wwwwwまたかwwwwwww
37:
「銀ちゃん、はい、ハンカチ」
「…ありがと。ぐす」
「妹の病気が悪化しているかしら…」
 金糸雀が水銀燈の頭を撫でながら呟く。
「見た目はあんなに凛々しいのにぃ…」
「かしら」
「えっと、で、まぁ、その後あたしは別に行かなくても良かったんだけど、
雛苺が『子猫見たいの見たいの見たいのーっ! 雛、子猫とあそびたいのーーっ!
うにーーーっ!』…って言ってたって言うから、仕方なく連れて行く事にしたのよぉ」
「……」
「……」
「ど、どうしたの? 二人ともそんな呆けた顔して」
「…ふ、不意打ちを食らったわね。心臓が止まるかと思ったわ…ハァハァハァ…」
40:
「あ」
「にゃ?」
 真っ赤になってうつむく水銀燈の顔をロゼがのぞき込んだ。
「あら、水銀燈ちゃん、いらっしゃい」
「久しぶりね、のり」
 二日後。水銀燈はロゼを連れて桜田家を訪れる。
「ちょっと待ってね、今みんなを呼んで…」
「あーっ! 水銀燈なのー! ロゼなのー!」
 雛苺が猫の鳴き声を聞きつけ駆け寄ってきた。
「呼ぶ間でもなかったわね」
「もう名前も知っているのねぇ」
41:
「来たですね、水銀燈。チビの奴、朝からロゼロゼうるさくて仕方なかったですよ」
 翠星石がのりの後ろに隠れながら遠巻きに言う。
「うわーい! ロゼ可愛いのー!」
「にゃー」
「思った通り、ロゼは雛苺にはすぐ懐くわねぇ」
「うふふ。可愛いわぁ」
「そ、そうですね。…の、のり? ちょっと近寄ってないですか?」
「近寄っているわよ?」
「ひえ…」
「翠星石も遊ぶのー」
 雛苺が頭にロゼを載せてにじり寄る。
「ひぃっ! す、翠星石は…そ、そんな子供っぽい事は…」
42:
「はい、どうぞ、なの」
 雛苺がロゼを胸元に押しつける。
「ふぎーっ! あっちにい…」
 一瞬払いのけようとするが、水銀燈の殺人ビームを放つ瞳に気付き、恐る恐る子猫を抱いた。
「かっ、可愛いですぅ…。そうですよねぇ? 水銀燈おねえたま」
「ええ、可愛いでしょう? 暫く抱いていてもいいわよぉ」
「え? いや、あの、翠星石はえっと…水銀燈の方がふさわし」
「にゃー」
 ロゼがぴょん、と跳んで水銀燈に抱きついた。
「あら」
「ロゼ、水銀燈の方がいいって言っているのー」
「仕方ないわねぇ。よしよし」
45:
「にゃーん」
「にゃーん♪」
「…す、水銀燈がにゃーんって普通に言っているですぅ…」
「ところで、真紅とマエストロはぁ?」
「二階ですよ。朝からチビ人間にひっついているですぅ」
「…のろけ?」
 ふーん、と二階に上がる水銀燈。
「お茶の用意しているわねー」
「よろしくねぇ」
 水銀燈はドアを軽くノックして開けた。
「真紅ー。いるのよねー?」
「……」ガタガタブルブル
47:
「…あらまぁ」
 そこには、顔面蒼白となった真紅がジュンの足にしがみついて震えていた。
「きっききき来たわね水銀燈、姉妹を傷つける事はしないとお父様に誓った
筈なのに、やっぱりあなたは私を亡き者にしようとしてその悪魔の手下を
ひきつれてきたのだわわわわわわ…」
「……」
「落ち着け真紅。水銀燈が呆れかえった顔でお前を見ているぞ」
「…だだだ、騙されないのだわわわ…」
「ロゼ、あの赤いのと遊んであげなさぁい」
「にゃー」トトト
「qあwせdrftgyふじこlっっっ!」
「あ、ものすごい勢いで鞄の中に入っていった」
「だらしないわねぇ」
「……」ガタガタブルブル
49:
「にゃー」
「お、これがロゼか。可愛いな。よしよし」
「にゃー」
「でしょ? とっても可愛いし賢いんだからぁ」
「遊びに来たよー。あ、水銀燈」
「あら、蒼星石。ごきげんよう」
「カナも一緒に来たかしらー」
「うわーい、みんな来たのー!」
「……」ガタガタブルブル
「そ、蒼星石! 来てくれたですぅ!」
「あはは、猫はそんなに怖くなかったでしょ?」
「で、でもでも…ううう…」
50:
「あ、ロゼが水銀燈に戻っていったのー」
「うふふ。私が一番みたいねぇ。よしよし」
「……」ガタガタブルブル
「鞄が小刻みに揺れているけど、何?」
「気にしなくていーですぅ」
「あ、そうだ、水銀燈」
「なぁにぃ?」
「姉ちゃんにも聞いて貰ったんだけど、猫を飼えそうな家、いくつかあるみたいだぞ」
「え?」
「ほら、水銀燈、ロゼの飼い主を早く見つけたいって言う話をしに来たんだろ?」
「…!」ガタガタブルブ…ピクッ!
「え…あ、そ、そうよ! この子、さっさと飼い主を見つけて引き取って
欲しいって思っていたのよぉ! な、なかなか気が利くじゃなぁい!」
54:
「えー? ロゼ、居なくなっちゃうのー? そんなのやだー!」
 雛苺がロゼを抱き上げて顔を膨らませる。
「…ひ、雛苺? ロゼ、好き?」
「だーい好きなのー!」
「そ、そう。……。マエストロ? えっと…雛苺もこう言っているし、無理に…」
「水銀燈、クールだからあんまり猫って好きじゃなさそうだもんな。流石は長女だよ」
「そ、そうね! ふ、ふふっ。薔薇乙女最強の水銀燈ともあろう者が、子猫を
側に置くなんて…お、おほほほほ…」
「……」ジー…
 真紅が鞄を僅かに開いて外を覗く。
「…翠星石、翠星石」
「ん? 何ですか、真紅。て言うか、ミミックみたいですよ。ぷぷっ」
「そんな事はどうでもいいのだわ。あの魔性の物体は…もうすぐ居なくなるのだわ?」
57:
「さぁ? でも、チビ人間とのりは飼い主を捜してくれていて、目星はついているみたいですねぇ」
「…そう」ホッ
「だから真紅も、ちょっとくらい触」
「部屋からあの猫が居なくなったら教えて頂戴」バタン
「結局出てこねーですか…」
 デンデンデンデンデンデンデンデンデンッデン
「ドラクエ9やってんじゃねーですぅ! しかもなんか呪われてるですぅ!」
「みんなー、お茶の用意が出来たわよー」
「はいですー!」
 みんなが下に行く中、水銀燈は一人立ちすくんでロゼを抱きしめていた。
「…ロゼ」
 水銀燈がロゼの顔をじっと見つめる。
「にゃー?」
58:
「水銀燈ー! お茶が冷めるぞー!」
「わ、分かっているわよぉ!」
「あのね、私の友達に猫を飼っていた友達が居てね、その子、前の猫を
十年も飼っていたの」
 居間。
 皆がお茶とくんくんで楽しんでいる中、のりが水銀燈に話しかける。
「そう…」
「でね、老衰で死んじゃって…それが一年前なんだけど、そろそろまた
飼いたいなって、話を聞いたから、言ってみたの。そしたら、是非って。
あ、その子は勿論猫の飼い方は熟知しているし、物扱いとかも絶対に
しないから大丈夫よ! どうかしら? 水銀燈ちゃん」
「…い、いいんじゃなぁい? ロゼも、あたしの所よりは快適に
暮らせそうだし、あたしもそろそろ猫の相手は飽きてきたところなのよねぇ」
60:
水銀燈は膝の上のロゼをわざと乱暴に雛苺に押しつけ、紅茶を飲もうとする。
「水銀燈、それ、シュガーポットかしら」
「! ち、ちょっと間違えただけよ! 手違いよ! わざとよ! 間違いよ!」
「明らかに狼狽しているかしら」
「きっ気のせいだってば!」
「にゃー」
「あ、ロゼが水銀燈のお膝に乗りたがっているのー」
「ロゼ」
「にゃーん」
「ロゼ…」
 すっかり慣れた仕草で水銀燈の膝の上で丸くなったロゼを優しく撫でる水銀燈。
「にゃー♪」
61:
ロゼは喉を鳴らしてしっぽを振った。
「……」
 チャラララッチャッチャッチャー
「レベルアップなのだわ!」
 プツ
「あ」
「…バッテリーが切れたのだわ…」
 三日後。
 水銀燈に連れてこられたロゼを受け取ったのりが、自宅で引き取り手の
友人と会っていた。
「うわぁ、可愛いね、のり! こんなきれいな子猫、本当にいいの?
毛艶も良くって、手足もこんなに立派だわ! 今まで大事にされてきたのね…」
「うふふ。そうよ、この子を今までお世話してくれていた子がね、とっても
ロゼを好きだったの」
「ロゼ? あ、この子の名前ね」
62:
「うん。ピンクのお鼻が薔薇の花びらみたいだからだって」
「可愛い名前…」
「でも、サキがこれから飼い主なんだから、名前変えてもいいんじゃない? 今なら」
「ううん。この子、ロゼにする。私もその名前、気に入ったわ」
「そう、良かったわね、ロゼ」
「にゃー?」
「そうだ、この首輪は? けっこう高級そうなんだけど…」
「それも一緒に貰ってあげて。お嫁入りする時に、綺麗な方がいいでしょって、
選んでくれた首輪なの」
「ふぅん…いいのかなぁ?」
「にゃー…」
「ま、それならそれでいいか。とりあえず、これからよろしくね、ロゼ!」
64:
「にゃー…」
 同時刻。病室。
「……」
「水銀燈?」
 めぐに抱きかかえられたまま放心している水銀燈に、めぐが問いかける。
「……」
「水銀燈ってば」
「え?」
「どうしたの? 尻子玉が抜けちゃったみたいな顔して」
「し…せ、せめて魂って言いなさいよぉ。そ、それにべ、別にぃ。
ロゼが居なくなってせいせいしたわよぉ」
「あら、ロゼの事なんて言ってないけど?」
「!」
65:
なんて古風なw
67:
「でもあたし、正直ほっとしているんだよねー」
「な、何でよ? …ロゼ、嫌いだったの?」
 水銀燈が泣きそうな顔で問う。
「うふふ。違うわ。大好きよ。ただ…」
「ただ?」
「水銀燈が、ロゼばーっかりかまっていたのが、つまんなかったかなー」
「…子供みたい」
「うふふ。今の貴女も、そうじゃないの?」
「だ、誰が、そんな…」
 目も開いてない頃のロゼを思い出し、水銀燈の体がかすかに震える。
「…うっ…」
「水銀燈、よしよし」
「めぐぅ…ひっく…」
70:
二日後。
 教会のベッドに水銀燈は突っ伏していた。
「……」
「馬鹿みたい。あんな子猫…どうでもいいじゃない」
「あたしはローゼンメイデン最強の第一ドールよ。アリスに最も近い…存在…」
「……」
「だから、何よ…」
「そんなの、ロゼが居ない事と何の関係も無い…。ロゼは…もう居ない…」
 ベッドの横を見ると、そこにはロゼのミルク皿と寝床の篭が置いたままになっていた。
「ロゼ…ロゼ…」
 にゃーん。
「…あたしも堕ちたものね。幻聴でも声を聞きたいと思うなんて…」
74:
「にゃーん」
「……」
「にゃー」
「!?」
 水銀燈が飛び起きる。
 声がする。
 どこから?
 耳を澄ますと、その声は鏡の中からだった。
「ロゼ?」
 水銀燈は飛び起き、自分の身長の数倍もある姿見に駆け寄る。
 鏡の奥からぼんやりと猫の姿が見え始め、やがて水の中から出てきたかの様にロゼが鏡面から飛び出した。
「ロ、ロゼ!? ロゼなの?」
「にゃー!」
77:
「ロゼッ!」
 水銀燈は両手を広げて駆け寄る。
 ロゼはそれを見て、そのまま水銀燈の胸に飛び込んできた。
「ロゼッ!」
「にゃーん♪」
「ど、どうして? 逃げて? ええっ!? なんで鏡の…nのフィールドから!?」
「黒薔薇のお姉様」
「!」
 その時、鏡の中から声が聞こえた。
「雪華綺晶?」
「ロゼ、確かにお届けしました。可愛いですね…食べちゃいたいくらい」
「あ、あんた…どうして?」
81:
「のりから伝言があります」
「のり? 伝言?」
「お友達のおうちにロゼがお嫁入りした次の日…」
「……」
「次の日の朝に、ロゼが、虫の息になっていたそうです」
「!? な…なんですってぇ!? あの人間…大事にするとか言って…
のり…あいつも…!」
「落ち着いてください。黒薔薇のお姉様」
「何が落ち着いてよ! 許さない…ロゼを…」
「では、今そこにいるロゼは?」
「…え? あ…。ロゼ?」
「にゃーん…」
「落ち着いて聞いてください」
84:
「この…このロゼは…?」
「ロゼは、生まれながらの病を持っていたのです。のりのお友達は、
ロゼの症状を見て気付きました。これは、助からない病だと…」
「!」
「のりのお友達は、朝一番でのりのお家に駆けつけ、ロゼが生きているうちに
元の飼い主、黒薔薇のお姉様に最期に一目だけでも、とおっしゃったそうです」
「……」
 少し前の桜田家。
「のり…ごめんね、ごめんね…。こんな苦しい病気を持っていたのに…
気付いてあげられなくて…」
「ううん、サキのせいじゃないよ。最期の最期まで、気付きにくい病気
なんでしょ?」
「でも…」
88:
「飼い主の子には、私から急いで伝えるから…」
「お願い…最期に…一目だけでも…そうでないと、ロゼも、その子も
絶対に後悔するから…」
「うん、サキ、そこまでしてくれて…ありがとう」
「ううん。だって…それに…」
「ん?」
「この首輪」
「首輪?」
「首輪の裏にね、書いてあったの」
「え? 何が?」
「首輪をロゼに買ってあげた時、きっと一緒に書いたんだと思うんだけどね…
『I PRAY YOUR HAPPY』って」
「あ…」
90:
「そんな優しい子に…看取られないなんて…かわいそうすぎるから…。
ごめんね、辛い事を頼んで…ごめんね…のり…」
「ううん。本当に、有り難う、サキ」
「ロゼ…」
「その後すぐ、残念ながらロゼは息を引き取りました」
「!? じゃ、じゃあ…今あたしが抱いているロゼは…」
「…にゃーん…」
「のりが、他のお姉様達に泣きながらお願いしたのです。どんな形でも
いいから、一目、黒薔薇のお姉様にロゼを逢わせてあげたい、と」
「…のり」
94:
「翠星石、蒼星石が、ロゼの微かに残った命の、精神の苗に力を
与えてくださいました」
「真紅が時を、出来るだけゆっくりにしてくださいました」
「雛苺が、ロゼの苗木を優しく包んでくださいました」
「金糸雀は…ええと、応援しました」
「そして、私がロゼに仮初めですが姿を与え、ここに連れてきました」
「…みんな…」
「それでも、僅かな時間です。もしかしたら、逆に悲しませるかも。
そうも思いました。ですが…ロゼは、逢いたがっていました。
黒薔薇のお姉様に、水銀燈に」
「ロゼ…」
「にゃー…ん…」
「ロゼ…ごめんね…ごめんね…」
「にゃ…ん…」ペロペロ
97:
「ロゼ…ロゼ…ごめ…ううん。ありがとう…ありがとう…」
「にゃ…ん…♪」
「ロゼっ!?」
 砂がこぼれる様に、ロゼの姿は消えた。
 首輪を残して。
「…ロゼ…」
「黒薔薇のお姉様…。私達のした事は、余計でしたか?」
「…そんな訳…無いでしょ」
「お姉様…」
「ごめん、暫く、独りにして」
「…分かりました」
「ロゼ…ロゼ…」
 教会に独りになった水銀燈は、少しの間だけ泣いた。
 声を上げて。首輪を握りしめながら。
98:
一日後。
「水銀燈…元気?」
「ふふ…元気よぉ。いつまでも、泣いてられないわぁ。恥ずかしい」
「そう」
「ねぇ、めぐ」
「ん?」
「ちょっと出かけてくるわ」
「…気を付けてね」
「別に、変なところに行く訳じゃないわよぉ。妹達の所。
一応…お礼、言っておかないとね」
「素敵な、妹たちね」
「…お節介な、可愛い妹たちよ。めぐ、この首輪、持っててもらえる?」
「いいの?」
110:
「ふふ。いつまでもめそめそするのは性に合わないのよ。
気分、切り替えないとね」
「うん。分かった。水銀燈、行ってらっしゃい!」
 めぐはぐっとガッツポーズを取って見送る。
「ふふ。貴女こそ無理しないでね?」
 水銀燈は飛び立った。
「…あの時も、こんな空だったかしらぁ」
 まぶしい太陽が目に痛い。
 水銀燈は、太陽のせいでこぼれてしまった涙を拭いて、空を飛ぶ。
「ロゼ…。短い一生だったわね。でも…あたしは、あなたの事、忘れないわぁ」
 にゃーん♪
「にゃーん♪」

114:

素敵な物語をありがとう
いい誕生日プレゼントになったよ
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夫を父親代わりにしようと目論む出戻りコトメ。私は夫のブチ切れ待ちw

お前らの本当の姿がわかるらしいぞ

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