ハルヒ「ヘイッ!カモン、カモンッ!!」back

ハルヒ「ヘイッ!カモン、カモンッ!!」


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9:
碧眼に金髪というものは得てして人の眼を引いてしまうものだ。
それに加えて自己紹介の席で、
耳慣れないファミリーネームなぞをだされてしまえば、
その相手に興味を抱かないやつなんて存在しないわけがない。
「あ、えーと……ハ、ハロゥ?」
俺もそのなかの一人だった。
他のクラスメイトに先駆けて声をかけることができたのは、
そいつの席が俺の後ろだったから、という端的な理由に他ならない。
そしてコテコテのカタカナ英語で日常会話を試みた俺に、彼女は言ったのだ。
「日本語でいいわ」
ベリークール。
第一印象はそれだった。
16:
休憩時間となっても、俺の好奇心は収まらなかった。
なぜかという理由は最早説明するまでもないだろう。
訊ねる。
「それ、地毛だよな?」
「だったら、なに」
「いや……珍しいなと思って」
「そういう血統だから」
ハーフかクォーターってところなのだろうか。
髪色などを除けば傍目には日本人にもみえるが、
すらっとした長脚や見事なスタイルは、欧州などのそれを思わせる。
どちらにせよ席が近いのだ、友好的に過ごしていきたい。
「これからよろしく、えと……」
ファミリーネームはなんだったかな、と詰まる俺。
聴き慣れないせいか記憶から抜け落ちるのも早かった。
仕方なく相手をうかがうと。
「ハルヒ」
面倒そうにファーストネームを教えられた。
22:
入学式なので早々に放課後となる。
挨拶回りもしたので滑りだしは上々の出来だろう。
あとは帰るだけだ。
しかしハルヒ。
妙に刺々しい相手だな。高校生らしくないというか。
「よお、やるねえお前」
俺が考えていると、ぽんと肩を叩いて話しかけてくるやつのご登場。
こいつは確か……。
「谷口、だったよな」
「そうだ。これからよろしくな、キョン」
どうして俺の愛称を、と訝しむと谷口の隣には国木田がいた。
国木田と俺は中学時代から付き合いがあったので、恐らく勝手に広めたのだろう。
まあいいけどさ。
それで話はなんなんだ?
「別に話ってほどのもんじゃないけどな。
 入学初日からあんな美女と親しくなろうとする、お前のしたたかさに一目を置いただけさ」
「まさか俺をダシにして親睦を深めようって魂胆か?」
「バレちまってはしょうがねえな。
 ま、俺様的美人ランキンクでSランクに入れてもいいほどの相手だからな。
 ああいうレベルになりゃ他校にいても噂が広がっちまうだろうさ」
「ってことは中学時代から、さぞかし有名だったんだろうな」
谷口の表情が変わる。
25:
「言われてみれば中学時代の噂はカラッキシだな。
 あれだけ色々な意味で目立てば街全体に存在を知らしめそうなもんだが。
 となると、それがないってことは遠くから越してきたんだろうか……」
顎をかかえて推察に耽りはじめる谷口。
俺は答える。
「お前がそういう気になるってのは理解できるけど、
 あんまり他人の素性なんかを詮索するのは褒められたことじゃないと思うぞ」
国木田も続ける。
「そうだね。あれだけ目立てば眼の敵にされる場合もあったのだろうし。
 もし越してきた人だと仮定するのなら、僕も詮索すべきじゃないと思うかな」
二対一の構図。
「ちっ、わかったよ。じゃあ俺はこっちだからまたな」
こうして俺たちは別れた。
この日あったことといえばこれくらいだ。
27:
それからは特に何事もないまま一週間ほどが流れた。
クラスの和というものも初めこそはギクシャクと固いものであったが、
中学時代からの繋がりってものを持っているやつらは、
グループ同士が次第に打ち解けあったことも加勢し、
全体的にみてもかなり和やかで円満な関係が築かれつつあるといえた。
だがそれを拒絶する人物が一名だけいたことも事実。
ハルヒだ。
黙っていても様々な形でお誘いが来るにも関わらず、
なぜかあいつはそれらを尽く拒否、というよりは無視しつづけ、
元来から携えている独特の威圧感までもがそれに加わって、
徐々にハルヒのまわりからは人の気が退いていった。
それでも席が近い俺は、やつに話しかけないわけにはいかない。
「もう少しでいいからさ、よかったら友好的に接してもらえないかな。
 クラスのなかにはお前を怖がっちまってるやつもいるみたいだから」
じっと睨まれる。刃物のような眼光。
暫くあとにわかったことだが、これは威圧ではなく黙考なのである。
そういう癖なのだということらしい。
しかしこの時それを知らなかった俺もまた、他者とおなじく威圧されように委縮し、
話しかけた手前視線を逸らすわけにもいかず、
ハルヒの長髪に結いつけられていた赤リボンを眺めるほかなかった。
28:
ゆうに10秒程が経過したころ。
「ここらにあるならず者の溜まり場、知ってる」
前置きも無しに何かを言われた。
疑問形だったように思えるが、けれど意図が掴めない。
「すまん、もう一回言ってくれ」
「ここらでガラの悪い人たちが集まる場所を知らない?」
「それはどういう意味だ」
「言葉どおりの意味」
字面どおりに受け取るにしてもやはり理解ができない。
ならず者やガラの悪いってのは、どの程度を差すのだろうか。
未成年の喫煙レベルか?
はたまた買春売春レベルか?
それとも麻薬売買レベルか?
あるいはソッチ系の人が絡むレベルか?
もしくはそれ以上の――?
雑多で纏りのない憶測。
なんにせよ俺には専門外のようだ。
「……しらないかな」
「そう。ならいいの」
39:
昼休み。
「ガラの悪い連中が集まる場所?」
「ああ、谷口なら顔も広そうだし知ってるんじゃないかと思って」
「うーん……」
正直いってこれは、弁当を食いつつの高校生がするような話じゃない。
もしかすると口にするのもまずい内容なのかもしれない。
けれどもこれがハルヒとの間口を拡げる可能性に繋がるのかもしれないのだ。
変な下心があるわけではないが――まあ完全に無いわけではないが、
やはりクラスメイトであるあいつとはそれなりの関係を築いてはおきたかった。
端的には興味本位ってやつだ。
「なんでもいい、眉唾レベルでもな」
「地区によっちゃあそういうのもあるらしいが、そうだな」
谷口が紙と鉛筆を取り出し、世辞にも上手いとはいえない周辺地図を描く。
近場の駅を中心に据えた簡潔なものであるが、最低限の特徴は捉えられているようだ。
「耳にした事があるのはここだな。
 本校から言えば、東方面ということになる。
 高架線近くで、いわゆるの飲み屋や風俗店が立ち並ぶ裏通り。
 いかにもってところだろうが、やっぱりそういう所は噂が絶えないもんだ」
40:
谷口は弁当を頬張り、そして続けた。
「これはお前のタメを思って言うんだけどな、
 手が後ろにまわるようなことには首を突っ込みすぎるなよ」
何か勘違いされているようだ。
俺はこれでも真面目なほうだし、タバコすら吸わないタチだというのに。
ほら、国木田も吹き出しそうになっているじゃないか。
「そうか。でもあんまり興味本位で肩入れすんのはまずいぞ。
 特にさっき教えた場所から南に下れば、
 たびたび全国ニュースに取り上げられているような場所だからな。
 風の噂じゃそれでも報道管制が敷かれて隠匿されてるって話だし」
その場所も詳しく頼めないか?
「……勘弁してくれ。どこで誰が聴いているのかわからない。
 俺はそういうのに係るのはゴメンなんだ、例え杞憂だったとしてもな」
そう言いつつも谷口は地図にペンを走らせた。
顔を近づけなければ見えないようなサイズで、
『俗称サウスタウン』とだけ書き込み、四つ折りにしたそれを俺へと差し出す。
「何をするつもりかはしれないけどな、注意だけは怠らないようにしとけ。
 こういうのは用心しすぎるくらいが丁度いいくらいなんだから」
41:
谷口のそれは歴とした忠言だった。
だが俺はそれを軽視し、伝えてしまった。
今しがた受けた情報を、あますことなくハルヒへと。
結論から言えば、俺はわかっちゃいなかった。
俺はハルヒが世間話のような感覚で、
それを訊ねてきたものだとばかり考えていたのだ。
「昨日のドラマ見た?」 「所属する部活動はきめた?」
というような日常生活レベルの話だとばかりにである。
他人と会話するのが苦手で、妙なことに興味がある奴だとばかりに……。
しかし現実は大いに異なっていた。
なぜハルヒがそんな情報を欲しがっていたのか。
そのハルヒにそんな情報を与えたら何をしでかすのか。
俺がそのことに気づけたのは、翌日になってからのことだった。
45:
刺すような背後からの視線を浴び続けた俺は、
昼休みを迎えるころになると疲労困憊となっていた。
待ちに待ったチャイムが鳴り自由時間が訪れると、
酸素を求める魚のように慌てて弁当箱をひっつかみ、
谷口と国木田に向けて、
「悪い、ちょっと用事があるから」
とだけ言い残してその場をあとにした。
気晴らしを兼ねるために昼食はひとりで食べよう。
午後もあの針の筵に座らせられるんだろうからな。
心身ともに休めておかなければ参っちまいそうだ。
考えつつ向かったのは部室棟そばにある広場である。
ここならば校舎からは離れているので人通りもないはず、
つまりはゆっくりと一人になれるはずなのだ――。
「…………」
が、その推測は見事に打ち砕かれた。
広場のベンチには一人の青年が腰かけていたのだ。
それも何故かは知らんが白をベースに青のラインが入った、
道着のようなものまで着こんでいる始末。
確実だった。
そうだ、気温が零度を下回れば水が凍るというほどに確実。
それほどまでに何かが起こるだろうという予感は、未だかつて感じたことがなかった。
しかし不覚にもその相手と目が合い会釈までしてしまった手前、
引き返すわけにもいかなくなってしまったのである。
47:
その日、珍しくも早めに登校していた俺は、
爽やかな朝をクラスメイトたちと談笑しつつ愉しんでいた。
けれどもホームルームが近付いてきた頃合い、
ふと室内の空気が冷たくなったことに違和感を覚える。
理由は、教室の入り口をみてから納得した。
「どうしたんだ、お前?」
俺は一応ながらにも平静を装いはしたのだが、
きっと塵ほどの効果すらも発揮してはいなかっただろう。
前日までは髪の色がやや目立つというだけであったハルヒが、
腕や足などにこれでもかというくらい包帯を巻いていたのだから、
それを目にしてしまえば動揺するなというのが無理な注文である。
「……転んだ」
席につくなりぶっきらぼうに答えるハルヒ。
俺は何か具合の悪いものに苛まれながらも、
結局そのあと言葉を交わすことはなかった。
49:
「やあ、どうも。いい天気ですね」
頼むから話しかけてこないでくれ、
という想いが砕け散った瞬間だった。
「……あ、ああ、そうですね」
「隣、よろしいでしょうか」
「……どうぞ」
「ありがとうっ!」
ぐっと握手を求められる。
太陽のような笑顔と、キラリと光る犬歯が眩しい。
あまり関わりあいになりたくないと思ったところで、
無碍に扱うわけにもいかず俺は仕方なく右手を差し出す。
「痛ぇッ!?」
そしてゼロコンマ数秒後には俺は地に伏すこととなった。
強烈な握力に俺の右手が悲鳴をあげたのだ。
「すみません、悪気はなかったんですが。
 それから僕のことは古泉と呼んでください、気兼ねなくね」
キラン、と歯を輝かせながらの一方的な自己紹介。
51:
その勢いは留まるところを知らず、
俺は拝聴に徹するハメとなってしまう。
「いい体つきですね。スポーツなどはやっておられるのでしょうか?」
「特には何も」
「ではテコンドーなどいかがでしょう。
 これからのご時世、身を守る術は必須ともなります。どれ」
古泉、とやらが懐から封筒を取り出す。
「うちで道場をやっていましてね。
 僕もそこで日々、鍛錬を積んでいるんですよ。
 ここにあなたの住所や氏名、それから――」
古泉がつらつらと練習内容を語りだす。
俺が合いの手を入れる暇もないくらいにだ。
いい加減にしてくれ、俺はひとりで寛ぎたいだけなんだ。
お前のような面倒なやつと話をしたいわけじゃないんだ。
「おや、その顔をみた限りテコンドーというものに不満をお持ちのようですね。
 いいでしょう、そのイメージというものを僕が払拭してさしあげます」
テコンドーにではなく、お前に不満があるんだが。
けれども相手は俺が物言いする隙すら与えてくれない。
52:
古泉が懐に手を入れ、今度はスプーンを取り出した。
「超能力というものをご存じですか?
 限られた人間だけしか使えないと主張する輩もいるようですが、
 人体を極限まで鍛え上げれば、それを我がものとするのは容易いことです。
 百聞は一見に如かず。では今から超能力をおみせしましょう。
 ワン、トゥー、スリー……――ハァキキャクッ!」
咆哮とともに古泉が地を踏みしめ、
瞬間的にマグニチュード換算4ほどの極地型地震が発生した。
それとの因果関係は全くの不明であるが、
古泉の手に握られていたスプーンは見事に折れていた。
曲がったというより、捩じ切れたというほうが近い。
「いかがでしょう?」
スプーンの頭を回収しつつ満面の笑みを浮かべる古泉。
何がどう如何なのか俺には解らない。
「言いにくいんだが、単なる腕力にしか見えなかったが」
「このスプーンにはタネも仕掛けもありませんよ?」
「お前の指のほうに仕掛けがあるんだろ、単なる力技だ」
俺が指摘すると古泉は悲しそうに腕を組んだ。
55:
「ふむ。道場再興に一芸をと考えていたのですが……。
 スレた人たちが多い世の中では往々にして難しいものがあるようですね。
 それもこれも世に悪が蔓延ったせい。なんとも悲しいものです。心も痛みます」
オーバーリアクションでオーノーのポーズ。
不意に、その目つきが変わる。
「ところで……あなたにお訊ねしたいことがあるんです。
 この学校には金髪の女性がいらっしゃいますね。
 あの制服は確かにここのものでしたし、
 視界に収めずにはいられないほどに目立つ容姿は偽りようもありません。
 今すぐ僕をその人のところへ案内してください。さもなくば――」
ギリギリ、と力むような音がした。
その出所を探ると、古泉の手に握られていたスプーンの柄が、
出来の悪い金属細工のごとく出鱈目に曲折していた。
「――今度はあなたが、こうなってしまうのかもしれません」
からんからんとスプーンの残骸が地に落ちる。
俺はただ呆然とそれを眺めることしかできなかった。
56:
「……やはり僕の推測は正しかった」
教室扉の陰で古泉がつぶやく。
仕方がなかった。
案内するほかなかったのだ。
俺なりにシラを切ってはみたものの、
『では握手をしましょう。
 あなたが嘘を吐いていなければ痛くはないはずです』
などと拷問に処され、それがいつまで続くか解らなかったのだから。
むしろ十数秒を耐え抜いた俺自身を褒めてくれてもいいだろう、なあ。
とはいえ。
すまん、ハルヒ。
たぶん、面倒なことになるのだと思う。
「失礼します。古泉一樹です」
教室の敷居を跨ぐ前に一礼と紹介を述べ、
ツカツカと迷いのない歩みでハルヒのもとへと進んでいく。
補足しておくが奴はテコンドーの道着を着用しており、
さらにはおそらく、諸要素から推測するにこの学校の生徒ではない。
故に人目を惹いてしまうのは必然だといえよう。
57:
古泉がハルヒの席につくよりも早く、
ハルヒは何かを感じ取ったのか立ち上がっていた。
どこから取り出したのかパンチャーグローブのような物も手にしている。
加えて常日頃からもクールで刺々しさを漂わせていたその眦が、
さらに鋭くキツく、いや、攻撃的かつ急迫的なものへと豹変していた。
背筋がうすら寒くなるような眼だった。
「屋上」
ハルヒが親指で真上を差す。
そこまで来いとのことだろう。
古泉は一瞬真顔になったものの、再び笑顔を振りまいた。
ハルヒ以外に、だ。
ただならぬ気配が漂うなか、舞台は屋上へと移る。
本来ならば進入禁止であるそこには人気など皆無だった。
59:
ハルヒが常日頃から他者を拒絶するような真似をしていただけあって、
これだけのハプニングに見舞われてもギャラリーなどはいない。
例外は、間接的にとはいえ原因を作ることとなった俺くらいのものだ。
「お訊ねします」
適度な距離をとった二人。
痛覚に訴えてきそうなほどに場が緊張していくなか、
なぜか古泉は背中をみせながら喋っている。
「あなたは昨日、一般市民に力を振るっておられましたね。
 いえ、それはあなたのその包帯と怪我をみればわかります。
 やりあっておられたのは確実です。言い逃れはできません。
 しかとこの目にも収めてありますから」
ハルヒが両手を広げた。
眉をしかめつつ何かを呟いたようにもみえたが……。
風が煩い。仕草からするに「why?」とでも言ったのだろうか。
だが古泉は意にも介さずに口上なのか罪状なのかを詠みあげていく。
「善良な市民。未来への種籾。
 そのような方々に対して暴力をふるうとは言語道断。
 僕は善良な人々が苦しみ、泣き寝入りするような世の中にはしたくない。
 信賞必罰。天網恢恢疎にして漏らさず。
 裁きを下せる者がいないというなれば、僕がその責を負いましょう」
奴が向き直った。
同時に踏みしめ、衝撃が地を貫き。
「悪は――許さんッ!!」
61:
「ボムソギの構え、のようね」
踏みしめた衝撃により舞い上がった砂。
それが地に落ちるよりも早く、古泉が間合いを詰めにかかる。
短距離ランナーを想起させるほどの健脚は、
やはり脚を中心的につかう流儀によって培われたものなのだろうか。
「ハァッ!」
嚆矢を放ったのは古泉だった。
片膝を上げ、それをギリギリまで体に引きつけてから、
バネを使って素早く水平に蹴りだす、というよりは突きに近い技。
ヨップ・チャギ。
テコンドーの基本技とはいえ、隙が少なくかわし辛く、
極度に洗練されていたそれは風を切り裂く唸りをあげた。
バチリと電流が走るような衝撃が突き抜ける。
見てからではとても回避などできそうになかったそれを、
しかしハルヒは態勢を崩すこともなく、
僅かな軸移動と掌底だけでたたき落としたのだ。
だがそこへ古泉の追撃が襲いかかる。
一手目をブラフとした、流れるようなコンビネーション。
叩き落とされたほうの脚へ即座に重心を移し、腰を捻り、
逆脚の甲でハルヒの背を狙った一撃。ドルリョ・チャギ。
71:
背後からの攻撃。
だというのにハルヒは上半身を屈める最低限の動作だけでかわす。
慣性によって残されたハルヒの金髪が風圧に浚われるなか、
古泉はそこからさらに体を捻り、後ろ蹴りを放った。
ティチャギ。体重を乗せ、固い足の裏でダメージを与える一直線の突き。
姿勢の低くなったハルヒの顔面へと迫る。
「くッ――!」
なのにそれも当たらない。
歯を食いしばり、短く息を吐いての掌底による裁き。軌道の逸らし。
これもまさに最低限の動作。
まるで以前同じ相手と戦ったといわんばかりに、
ハルヒは相手の動きを、テコンドーの流れを、完全に既知としている。
でなければこうも鋭い連撃を掠らせもしないというのは有り得ない。
ふと思い立つ。
俺はこうやって観戦している場合ではなく、
今すぐにでも二人をとめるべきじゃないのかと。
今の俺じゃあ止めるのは無理なのかもしれないけれど、それでも……。
偽れない。見ていたいと思う心を。
これほどまでの格闘劇を久々に間近で目にしている、この高揚感を。
やっぱり俺は――。
結局、制止をかけることはできなかった。
俺は完全なまでにこの二人に魅せられていたのだ。
75:
傍からみればダンスとしかみえない古泉の動作。
実際はそのひとつひとつが洗練された凶器である。
ナイフよりも切れ、鉄球よりも重い、脚力という武器。
仮に一撃でもマトモに頂いてしまえば、
骨の数本は覚悟しなければならないことだろう。
未だ防戦一方のハルヒ。
対して、熾烈な蹴りを浴びせ続ける古泉。
その勝負が動いたのは、
今まで中段から上段ばかりを執拗に狙っていた古泉が、
モーションの大きい上段への回し蹴り――と見せかけ、
足元を華麗に掬いとった瞬間だった。
流石のハルヒも表情が一変した。
俺がそんな顔をみたのは初めてだった。
冷静や冷徹といった、表情なき貌ではない、それ。
片足を後方へと退けられ、前に仰け反るという失策を悔やむそれ。
そこに姿勢を屈めた古泉が潜り込み――、
「あたァッ」
真下から一直線に蹴りあげた。
胸部へ向けられたそれをハルヒは両腕の十字交差で防ぐが、
衝撃までもは殺せず、苦しそうな呻き声とともに宙に打ち上げられる。
さらに古泉。
「飛燕斬ッ!」
76:
地面ギリギリ、いわば伏せ状態から、
両手両足の全身を活用した古泉の跳躍。
続けざま、大人二人ぶんほどの高さまで蹴り飛ばされたハルヒを目掛け、
カミソリのようなムーンサルトキックを放った。
妙な態勢で宙を舞っていたハルヒ。
危険を察し辛くも両手両足で防ぎにかかる。
が、古泉による盤石な態勢からの瑕疵なき追撃は、
仮初に満たない防御態勢を突き破るには十二分すぎた。
建物が倒壊するときのような唸りと、ガラ空きになったハルヒのボディ。
ちっ、とハルヒの舌打ちが聴こえた気がした。
驚くべきことに古泉は空中で態勢を整えていたのだ。
つまりはまだ追撃するということ。
ハルヒはそれを真に受けなければならないということ。
そして古泉はこのチャンスこそを狙い続けていたということであり、延いては――、
「もらったァ!」
古泉の怒号とともに、蹴り上げからの逆ムーンサルトが牙をむいた。
地面へと叩きつける上空からの撃墜技。
炸裂。ハルヒの背中に深々と突き刺さった右足は、
射程限界まで加度を与え続け、ようやく爪先から逃れたハルヒの体に、
今度は屋上の硬いコンクリートが迫る。これも受け身の取りようがない。
無邪気な子供が、無垢なカエルを地面へと投げつける場面を想起させられた。
地面へと打ちつけられたハルヒは無残にも数度ほどバウンドし、
その一連の動作がようやくしてとまったのは、古泉が着地するのと同時だった。
78:
しん、と水を打ったように静まり返る状況。
今の今まで叫声と打撃音が響いていた屋上を、
春の冷たい風だけが吹き抜けていく。
唯一、規則正しくも荒れている古泉の息と、
見ているだけで心臓が破裂しそうになっている俺の息が場を彩る。
しかしハルヒのそれは聴こえてこない。
うつ伏せになっているその背中も、上下してはいない。
一瞬、俺はハルヒの赤いリボンが鮮血にみえた気がして、
全身が粟立つ感覚を覚えた。なぜピクリともしないんだ。
「なかなかのお手前で」
古泉がテコンドー流の礼をしている。
終わったってことなのか、これは? なあ古泉?
「あれをまともに受ければ立てるものはいないでしょう。
 非常に勘が良く素早い相手でしたが、僕には及ばなかったようですね」
そうじゃない。あいつは大丈夫なのかと訊いているんだ。
「問題はないでしょう。前日の立ち回りはしかと目撃しています。
 この程度で命に支障を来すようなヤワな方ではないことだけは確かです。
 まあ、数週間は病室にいることになるのでしょうが、これも必罰。
 彼女が大多数に与えた業にくらべれば安いものですよ、はっはっは。
 さあて、これに懲りたら二度と悪事には手を染めぬようにな。
 あなたからも彼女の目が覚めたときに一言添えて頂くとして――んっ?」
古泉の口上が止まる。いや、止められたのだ。
79:
ハルヒがむんずと立ち上がる。
上半身をダラリと垂らし、けほっけほっと咳をしていはいるが、
口元からの出血を拭い去るなりすぐにファイティングポーズを整え、
「――――ッ!」
何かをぼそりと呟いた。
日本語ではない耳慣れない言葉。
俺はそれを聴き取れなくとも内容は汲むことができた。
餓えた狼のような貌と、古泉を射抜く好戦的な両眼からだ。
『やるじゃねえか、ならばこっちも本気で潰してやるぜ』
一瞬、古泉がキョトンとした。
驚いているのだろう。
どうみても最高の一撃が最良の一点で決まったのに、
その相手が起き上がるどころかまだ闘志が失われていなかったのだから。
されど格闘の猛者。
すぐにニヤリとした笑みを浮かべて構えなおす。
「前言は撤回しましょう。なかなか、ではなく、かなりのお手前のようですね」
言葉を受けたハルヒがニタリと笑う。
それから。
「Are you OK?」
83:
少なくとも古泉とハルヒの距離は3メートルほど空いていた。
そして二人は睨み合いの状況にあったはずだ。
だがそこからの戦局が激戦に様変わりするまでは、
マイトネリウムが半減期を迎えるよりも短かったように思えた。
どうみても格闘技の射程では無かったはずの間合い。
ヨガを極めたところで決して届くはずのない空間。
それほどの圧倒的猶予があったはずだ。お互いにである。
けれどもハルヒが拳を握り締め、握力とグローブの摩擦によって拳が鳴動し、
何を思ったのか有りっ丈の力で地面をぶん殴った瞬間。
辺りの風の流れが奇妙に歪み、衝撃の波のようなものが地を走った。
まるで工業用カッターで地面を切り裂いていくかのように、
地を駆ける亀裂が生命を得、砂煙を巻きあげつつ古泉へと襲いかかっていき、
しかし古泉は動揺をみせずにそれを覇気の籠った地踏みで掻き消し――。
次の瞬間には、ハルヒの右ストレートが古泉の顔面を捉えていた。
全身全霊、全体重と全活力を注ぎ込んだであろう拳。
当然、古泉の体はトラックに衝突されでもしたかのように吹き飛ぼうとしたが、
ハルヒはその古泉の胸倉を掴み、真上から、そうだ、
古泉の空中撃墜技のときと似たような形で、今度は腹部への強烈な一撃を叩きこみ、
地面でバウンドした体を膝で蹴りあげ、さらにその背中に拳を突きさし、自らも飛び上がり。
「――dunk!」
空中からダメ押しだとばかりに抉るように痛烈な右拳。
ボールを古泉に見立てた、バスケットにおけるダンクシュートそのものな早業。
85:
まだ終わらない。
地面によって跳ねとんだ古泉に、着地を兼ねた縦回転蹴りで追撃。
それも踵でキッチリと、浴びせ蹴りよりも綺麗な流線形を描く足技でだ。
手毬のようだと思った。
叩きつけと上空への打ち上げ、そしてまた叩きつけ。
一撃が決まるごとに鈍い音が奏でられ、古泉の衣服が削り取られていく。
違う、削られているのは衣服だけではない。古泉の戦意もだ。
もはや古泉に闘えるだけの意志があるとは到底思えなかった――が。
古泉もされるがままという訳ではなかった。
再度上空へと舞い上がっていた古泉の体が、中空で翻った。
追撃をと狙っていたハルヒは、まさかの反撃に応じれず。
ハルヒよりも上空にいたはずの古泉が、ハルヒの顎を蹴りあげていた。
大きく態勢が崩れるハルヒ。反動を利用して即座に着地した古泉。
「――天舞脚ッ!」
だが古泉が地に足をつけたのは瞬目のことで、再び上空へと舞い戻る。
得意のサマーソルトがハルヒの下顎を揺るがした。
スパン、という切れ味のいい、小気味のいい、スマートな打撃。
だが逃がさない。逃げられない。
蹴りあげたのと逆の足でハルヒを掴み、さらにもう一回転。
再びの突きあげるような一撃が腹部に刺さり、もう一回転。
そこから手、足、首、肩、胸、全身のあらゆる個所への攻撃を、
さながら天を支配する不死鳥、鳳凰のごとく何度も啄ばみ、抉り、毟り、
「アタァッ!」
最後に上空からの蹴り落としで一旦の間があけられる。
87:
通算二度目ともなる古泉の撃墜技。
そう、二度目なのである。
ハルヒは、それの特性を早くも見抜いていたようだ。
一度目のときとは異なり、二度目は地に打ちつけられることもなく、
軍隊における五点着地のような方法でもって衝撃を和らげつつ降り立ち――。
まだ着地していなかった古泉の表情が、恐怖に歪んだのが見えた。
――ハルヒが何かを口にし、一旦、両手を開く仕草。
そこから大きく、投球モーションほどまでに振りかぶってから、
受け流し態勢をとるひまもなかった古泉の間隙へ迷いのない拳で割入り、拘束し、
「Buster――!」
咆哮と共に両手で顔面をぶち抜いた。
ゼロ距離から放たれたはずのそれは、
古泉の全身を伝播していく波動のように、或いは時限式爆弾のように、
ワンテンポ遅れてからダメージの深さというのもが顕在化した。
古泉着用のテコンドーユニフォームの背中部分は粉々に弾け飛び、
やつは爆風にあおられた人形のような不恰好さで屋上昇降口の壁にめり込んだのだ。
88:
もはや人間業だとは思えないが、
俺の目の前で事実として起こっている光景がこれなのだから、
ただただ呆然としつつも、二人の行きつく先を待つほかないのだろうか。
ハルヒはなおも相手を見据えている。
荒い呼吸とボロボロの衣服は立っているだけでも困難だというのを示しているが、
古泉が起き上がってくるのかもしれない、という可能性を捨てきれずにいるのだろう。
「……いかんいかん」
熱狂的な観客と化していた俺も、ようやくして本分を取り戻すことができた。
これ以上やり合わせると命にかかわりかねない。
ならば勝負がついたことを早々に確認し、幕を降ろすべきだ。
判断するや否や古泉のもとへと走りよる。
「おーい、生きてるか……?」
正直、検死を行っているかのような錯覚にとらわれたが、
呼吸はしているようなのでまだ息はあるようだ。
まったく、丈夫なやつである。しかしよかった。安堵したぜ。
「試合終了だ! あーっと……そうだ――YOU WIN!」
俺は言いつつも手を振ってハルヒへと伝えた。
ずっと恐い顔をしていたハルヒも、この時ばかりは嬉しかったのだろう。
「オーケイッ!」
しゅるりと外された赤いリボンを天高く投げ上げ、それが春風に遊んだ。
89:
「見ていただけだったのに、なんだかどっと疲れちまったよ」
難は去ったのだと俺は身勝手にも一安心していたのだが。
本当に大変だったのはそれからだった。
これだけド派手に騒ぎまくれば、そりゃ人も寄ってくるよな。
「こいつは酷いな。一体どうやったんだよ」
野次馬一号、谷口。
「ハルヒさんと、あっちのボロボロの人は……?」
そして国木田。
他にも雑多な連中が、続々と階段をのぼってきているようだ。
まずいなこれは。
地面には亀裂が入っちまってるし、
昇降口の側面はヘコんじまってるし、
何より覗かなくとも下着が見えそうなハルヒ。
あと、ほぼ全裸に近いが奇跡的に秘部は守られている古泉。
こりゃ総合的にまずい。
90:
焦りばかりが募りそうになったが、野次馬のなかには、
救いの手を差し伸べてくれる人物もいてくれた。
我がクラスのマドンナ、朝倉涼子である。
今までハルヒのインパクトが強すぎて紹介が遅れていたが、
献身的で柔和で、才色兼備に明朗快活なパーフェクトガールだ。
「なんだか大変なことになっているようね。
 はい、これ。よかったら使って。ちょうどあったから」
その朝倉はやはりパーフェクトなことに、
身を包むことができるほどの大きなタオルを寄越してくれた。
さらには野次馬の整理と、教師への口止めも兼ねてくれているらしい。
「委員長の朝倉から差し入れだ」
俺は受け取ったタオル一枚をハルヒへと手渡し、もう一枚で古泉を包んだ。
とはいえ簀巻きのようになった古泉をこのままにしておくわけにもいかず、
谷口と国木田の援助を受けて保健室まで運ぶこととした。
一応、怪我をしているハルヒも同伴のもとでだ。
92:
保健室。
朝倉の人徳というものは強烈らしい。
うまいとこ方便でギャラリーを掃いてくれたうえに、
ハルヒの着替えとして教室から体操着まで運んできてくれた。
加えて、谷口や国木田を引き連れて退散する後腐れのなさ。
「保健室に大勢でいると目立つからね」
とのことらしいが、あまりに献身的なので勘ぐってしまいそうだぜ。
さて、現在のメンバーは俺、ハルヒ、古泉の三名。保健医はいない。
ハルヒはカーテンを隔てた向こう側で、
勝手に治療薬類や包帯類を用いて自己処置を行っているので、
俺はベッドに寝かせた古泉の処置を受け持つこととなった。
かつて憶えたくもなかった応急処置の心得が、こんな所で役立つとはな。
だが所詮は素人の付け焼刃に近いものだ。器具も貧弱。
簡単なカッティングやら消毒やら包帯処置やらにとどまっちまう。
念のためと触診を行ってみたところ、幸い骨が折れたりはしていないようだ。
「ほんとうに丈夫なやつだよな、お前」
「ええ、体のつくりには昔から自身がありまして」
「……いきなり喋るな。ホラーゲームより怖い」
「すみません」
ニカッとした笑顔が眩しい。
93:
しかしその笑顔もすぐに萎んでしまう。
枯れ果てる尾花のごとく威勢を失うと、しみじみと語りだしていく。
「僕はいままで自分の道を信じ、
 師の教えを固く守って正義を歩んできました。
 なのにその僕が……悪に負けてしまうとは……」
このまま号泣してしまいそうな古泉を俺は制す。
「ちょっといいか。ずっと気になっていたことがあるんだ。
 お前がハルヒに喧嘩を吹っ掛けたのは――」
「喧嘩ではありません。鉄槌です。それも正義の」
「あー……鉄槌とやらを下す原因となったのは、
 前日におけるハルヒの所業を見たから、だったよな」
「ええ、そのとおり。それはもう残忍なものでした」
「らしいが……ハルヒ、そこんところはどうなんだ?」
隣へと話しかけた瞬間、古泉がベッドから起き上がろうとする。
まだやり合うつもりでいるらしい。
俺はその手首を捻り、ベッドへと押し返してやった。
苦悶を訴える古泉であるが、その体なら似非合気技でも束縛できる。
94:
ハルヒは静かに答える。
そしてその声色には呆れがありありと表れていた。
「先に手を出してきたのはあっちよ。
 あたしはちょっとしたことを訊ねただけ。
 そしたらいきなり襲われたんで一人をノックアウトしてやったら、
 立て続けに二人目、三人目、と増援が来ちゃったみたいで」
「結果的に大乱闘に?」
「そういうこと」
何かを思い出したのか、shit、と吐き捨ててハルヒが黙る。
つまりあれか、こいつが見たのはその後半部分だけってことか。
先ほど古泉とやりあった際のハルヒを見る限り、
並のならず者程度なれば一方的に熨してしまうだろうしな。
だからあいつは今朝方に怪我をして登校してきたわけで、
古泉との決闘だか鉄槌だかが始まる前にも噛み合ってなかった。
「ということらしいぞ、古泉。お前が人の話を聞かないからこうなる」
「けれども前日の所業は……」
「訪ねておくが、そいつらどういう格好をしていたんだ?
 まさかとは思うがサングラスやら刺青やらがある強面じゃなかったか?」
「よくお判りで。モヒカンというアグレッシブな方もおられました」
人を見ためで判断するなとはいうが、善良なモヒカンなんて俺はしらない。
「しかし、ハルヒ殿も高校生にしては金髪という校則を意にも介さない……」
「ハルヒは血筋がそうなんだよ。瞳が青いじゃねえか」
「あっ、なーるほど」
ぽん、と手を打つ古泉。
95:
古泉君w
96:
その直後。
「申し訳ないことをしてしまいましたッ!」
俺の束縛を逃れ、隣のカーテンを開ききっての謝罪。
頭や背筋もきっちりとした角度をたもっている見事な礼だ。
だが古泉の陰からハルヒの素肌がチラリと覘けたな、
と思った直後には古泉がこちらへと蹴り飛ばされてきていた。
不機嫌あらわにカーテンが閉じられる。
「なかなかのお手前で」
それしか言うことないのかよ。
「いえ、冗談です。
 にしても……僕は少々頭が固いようですね。
 この世の平和を守り、安寧を保っていたつもりが、
 気づけば非が無いはずの人間を責めていました。
 僕こそが悪です。力に溺れ、正義というものを見失っていたのです。
 まだまだ修行が足りていないということなのでしょうね、きっと」
でも、方向性が少しばかりズレていただけで、
悪しきことを正そうとする行動力自体は誇ってもいいと思うけど。
いや、それは俺の勝手かな。
「滅相もない。未熟者ですよ、僕は」
煩悩ありて菩提あり。
それはこいつにぴったりの言葉なのかもしれない。
99:
「しまった! 昼休みはあと何分ありますか!?」
急に慌ててどうしたんだよ。
まあ、あと10数分ほどは猶予があるようだけどさ。
「際どいッ! 可及的やかに本校へと戻らねば授業怠慢を働いてしまう!」
「本校って……お前、他校の生徒だったのか」
「これでも高校一年生。無遅刻無欠席で生涯皆勤の身です。
 正義とは規律と秩序から生まれ来るもの。日々の生活こそが修行ですから」
古泉は慌てふためき、そうしながらも懐に手を入れた。
懐といっても着衣は俺の体操着で、ボロボロの道義は枕元に置いてある。
そこから手早く見覚えある封筒を取り出すと隣へ侵入し、
「うちで道場をやっていましてね。
 僕もそこで日々、鍛錬を積んでいるんですよ。
 ここにあなたの住所や氏名、それから――」
聞覚えのある勧誘文句の途中、またも蹴り帰ってきた。
何がやりたいんだこいつは。
「ハルヒさんのように強く、美しい方に我が道場へと来ていただければ、
 きっとテコンドーを通じて世界はよりよき未来へとつながるはずなのです。
 やがては家業も安泰、道場再興も揺るぎ難いものとなりえることでしょう。
 そして僕は、あなたのような方に教えを乞いたい。そう切に願っています」
まるであなたは僕にとっての神様だ。
強く言い残した古泉は、最後に一礼をくべてから疾風のように去っていった。
100:
やや時系列が飛ぶが翌日のことだ。
「やあ、どうも」
登校してきた俺の目に、サンサンと輝く犬歯が映り込んだ。
俺は夢でも見ているのかと自身の手首をつねり、
しかしそれが確かな痛みを感じたことで嘆息するハメとなった。
「なぜお前がここにいるんだ」
「転校してきたんです」
「そうかい……」
古泉は、根っからの馬鹿だったようだ。
しっかりと本校の制服に身を包んでいることからして、
こいつの言葉が嘘偽りではないことが証明されているわけだからな。
さらには何やら工具類をつめる麻袋まで抱えている。
「その袋はトレーニングでもやるつもりなのか?」
「違いますよ、後片付けまでやるのが闘いというものですから。
 ですがこれもある意味ではトレーニングですね。流石はお目が高い」
そういって袋のなかから道具をひとつ取り出して見せた。
あれだ。コンクリートを固めるのに使う左官ってやつをだ。
恐らく、コンクリの素やその他の器具も持ってきているのだろう。
「時間は掛かってしまうのでしょうが、これから連日屋上の修復にかかります。
 もちろん、ハルヒさんやあなたも共にね。御安心ください。僕が主犯です。
 すでに事情は校長殿にも説明し、こちらから誠心誠意謝罪しておきましたので」
……やれやれ。なんてこったい。
102:
いったん乙
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