勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」【後編】back

勇者「コミュ障すぎて満足に村人と話すことすらできない」【後編】


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僧侶「勇者様が病院を抜け出して、なにをしようとしたのか。当ててみましょうか?」
僧侶「教会に報告しようとした。報告の内容はスパイがいる可能性について」
勇者(俺の考えが見透かされてる!?)
僧侶「私が勇者様を引き止めたのは、教会への報告をとめるためです」
勇者(引きとめるって、もうこれ完全に僧侶が敵だ!)
僧侶「どうせ勇者様は、私が魔物の手の者だと思ってらっしゃるんでしょう?」
勇者「はい」
僧侶「……もしパーティの中にスパイがいたのなら、先日の魔物との戦いはなんだったんでしょうね」
勇者(言われてみれば)
531:
僧侶「もうひとつ。私たちの動向はある機関に、全部筒抜けになってます」
勇者「え?」
僧侶「今まさに勇者様が足を運ぼうとした場所のことです」
勇者(なに言ってんだ? 俺が行こうとしたのは教会……)
勇者「……そうか、そういうことか」
僧侶「そうです。私たちは逐一行き先を教会に報告している」
僧侶「教会の情報を得ることができれば、先回りも容易でしょう」
勇者(僧侶が俺をとめたのはそういうことか。でも)
僧侶「納得がいかないって顔してますね」
勇者「そ、そんなことは……」
僧侶「嘘をおっしゃらないで下さいまし。不服が顔に出ています」
532:
僧侶「勇者様が疑いたくなる気持ちも、わからなくはありません」
僧侶「私から提案です。ご自身で確認をしてみては?」
勇者「確認?」
僧侶「勇者様が探りを入れて確かめるってことです」
僧侶「私たちが敵か、味方かを」
勇者「探りを入れるなんて」
僧侶「今の状態、勇者様にとってはストレスにしかならないでしょう」
勇者(僧侶の言うことは、ハズれてはいないけど)
僧侶「疑うことで私たちへの信頼を取り戻せるなら、むしろそうしてください」
勇者(ようやく振り返った俺に、僧侶はペンを突きつけた)
勇者(俺の背中に突きつけていたのは、どうやらこれだったらしい)
533:

魔法使い「遅かったね。どこかに行ってたの?」
勇者「……」
戦士「なに? ボクの顔になにかついてる?」
勇者(会話から、このふたりが味方であるって確信を得る。……そう、会話で)
戦士「もしかしてボクが食べてるバナナが欲しいの? あげないよ」
魔法使い「ケチ、一本ぐらい分けてあげればいいじゃん」
戦士「しっかり栄養補給しなきゃならないんだよ、ケガを治すためにもね」
僧侶「勇者様。お話しないですか?」
勇者(考えるまでもなかった)
勇者(普通の会話もままならない俺に、探りを入れるなんて無理だ!)
534:
勇者「……とんでもないことに気づいたんです」
魔法使い「なになに?」
勇者「いるかもしれないんです。ボクたちの中に、敵が」
勇者「えっと、あの、その考えに至った根拠もあるんですけど」
戦士「アレでしょ? 行く先々で敵と遭遇するってことでしょ?」
勇者「……気づいてたの?」
魔法使い「さすがにここまで露骨だとね」
戦士「ていうか。スパイの可能性については、前の街のときから考えていたよ」
勇者(だとしたら俺、すげえマヌケじゃないかっ!)
戦士「ついでに、気づいてたよ。キミがこのことに気づいたってことにね」
勇者「……」
536:
戦士「考えてよ。先日の戦いにしてもそうだし、連中に加担する理由がそもそもない」
勇者(そうだ。リザードマンやサキュバス、ヤツらの殺気は本物だった)
勇者(魔物に手を貸す理由も、ありそうで浮かばない)
戦士「だとしたら、こう考えるのが自然じゃない?」
戦士「魔物たちは教会の情報を、なんらかの手段で得ている」
勇者「……」
僧侶「ここまでの話で、勇者様はどう考えますか?」
勇者(バカの考え休むに似たりか。俺はもっときちんと考えるべきだった)
勇者「その、疑ったりして……すみませんでした」
戦士「謝らなくていい。疑ったことで、とりあえずは疑念も氷解したしね」
537:
魔法使い「それから朗報があるんだよ。ねっ、猫ちゃん」
猫「前回の戦いで、ヤツらは痕跡を残していったにゃん」
勇者「痕跡?」
猫「そう。ひょっとしたら、魔王城の場所がわかるかもしれない」
539:
よかった
仲間の中に敵はいなかったんだね
540:
ほんとのほんとに白なんだな?
547: はい◆N80NZAMxZY 2014/10/30(木)22:33:46 ID:S1wBw7KKg

勇者「つまり。痕跡っていうのはあの魔物たちの魔力ってことか」
魔法使い「多かれ少なかれ、生物は常に魔力を放出してるからね」
戦士「あの強さのリザードマン、魔力の放出量も並の連中とは比較にならない」
猫「匂いと魔力の痕跡をたどるのは俺様がやる」
僧侶「ひとつだけ問題が……」
戦士「教会のことだね。それなんだけどさ、今までどおりでよくない?」
魔法使い「ダメだよっ。また同じ目にあっちゃう」
戦士「そのときは返り討ちにしてやればいいじゃん」
戦士「なにより。敵との遭遇は、情報を得るチャンスでもある」
僧侶「ですが、あの盗人たちのようなことが起きるかもしれませんよ」
548:
戦士「ああ、アレね」
勇者(成功はした、あの盗人どもを捕まえることには)
勇者(問題は尋問だった。ヤツらは記憶を失っていた)
勇者(教会によると、後催眠のようなもので記憶を操作されたとのこと)
戦士「そのときはそのときだよ」
魔法使い「じゃあ『緑の街』に行くって方向で決定ね」
戦士「それと、次の行き先については教会以外には知られないように」
猫「なんでにゃん?」
魔法使い「確証を得るためだよ。情報が本当に教会から漏れてるのかどうか、ね」
猫「そういうことか」
549:
戦士「とりあえずの方針はこんなところかな」
魔法使い「方針は決まっても、しばらくはこの街を離れることはできないけどね」
戦士「いやあ、面目ない」
勇者(特に戦士はリザードマンとの戦闘で、からだ中ボロボロだからな)
僧侶「この街に滞在してる期間は、術の特訓などに時間を充てるしかありませんね」
戦士「うんうん。特訓したまえよ、魔法使い」
魔法使い「うっさい」
勇者(特訓って……。魔術の扱いに一番長けてるのは、魔法使いのはずだよな?)
勇者(このふたりの会話の意味がわかったのは三日後のことだった)
550:

勇者(道具屋。魔法使いは店主と客としゃべってる。俺は待ってるだけ)
魔法使い「うん、これに決めた。この眼鏡買います」
店主「ついでにそっちの外套なんかもどうだい?」
魔法使い「んー、今は金銭的に余裕ないから」
客「金に余裕がないのはこの店も同じだよ。なあ?」
店主「まったく、この前の魔物には参ったもんだ」
魔法使い「この店、魔物の被害にあったの?」
客「直接の被害はなかったんだよな?」
店主「ああ。だが、今回の騒動で『夜の街』から『魔物の街』に変わっちまった」
客「外からの客のほとんどが、尻尾をまいて逃げちまった」
551:
客「魔物の存在は百害あって一利なしだよ」
店主「さっさと滅んじまえばいいのにな。嬢ちゃんもそう思うだろ?」
魔法使い「えっと……」
店主「ほかの連中もみんな言ってるし、そうねがってるよ」
客「ていうか勇者はなにをやってるのかね。早く魔王を滅ぼしてほしいよ、本当に」
勇者「暴れようとするなよ」
猫「ふん、そんなことするか」
勇者(世間の魔物に対する感情は、どこへ行ってもだいたいこんな感じ)
勇者(魔物は人類の敵、人類は魔物の敵。それが一般的な認識だ)
553:
魔法使い「ごめんね、待たせちゃって」
僧侶「魔法使い様は目が悪いのですか?」
魔法使い「ちがうよ。この眼鏡はオシャレだよ」
魔法使い「……ほら、私って年齢のわりに、その、アレでしょ?」
猫「アレってなんだ?」
魔法使い「と、とにかく! これですこしは大人っぽく見えるかなって思ったの!」
猫「声がむだにデカイ」
魔法使い「ムダにデカいって、ひどいなあ」
魔法使い「ていうか。猫ちゃん、ひょっとしてご機嫌ななめ?」
猫「……」
554:
魔法使い「もしかしてさっきの会話、気にしてる?」
猫「……あの連中、好き勝手に言ってくれたにゃん。魔物は滅べだと?」
魔法使い「あれはお客さんが来なくなっちゃって、店主さんもイライラしてたんだよ」
猫「そんなこと知るか。勇者はなにも思わなかったのか?」
勇者(なんで俺にふるんだ)
猫「剣の一つも握らんくせに、文句だけは一丁前と来たもんだ」
勇者「……」
猫「魔物は滅べというなら、自分でやればいい話だにゃん」
勇者「……少なくとも、あの人たちに戦ってくれとは思わない」
猫「なぜ?」
555:
勇者「あの店主にしても、自分が選択した人生を全うしようとしてるんだし」
勇者「それに。みんながみんな、魔王をたおしに行ってみろ。
 俺たちの旅も成立しなくなるぞ」
勇者「戦うっていうのはなにも、剣を握ることだけじゃないだろ」
僧侶「……」
魔法使い「……」
勇者「……えっと、どうしました?」
魔法使い「ビックリしちゃった。勇者が普通にしゃべるんだもん」
僧侶「猫相手だと、本当に流暢にお話されますね」
魔法使い「私たちには、今みたいにおしゃべりできないの?」
勇者「え? あ、いや……」
魔法使い「うん、普段どおりの勇者だね」
556:
猫「勇者に聞いた俺様が、バカだったみたいだにゃん」
勇者(好き放題言いやがって)
魔法使い「猫ちゃんはどう思ってるの、私たち人間のこと」
猫「……なにも思わん。そもそも俺様は、人と関わったことがあまりない」
魔法使い「じゃあ私のことはどう思う?」
猫「とりあえず頬ずりをやめろ」
557:
魔法使い「……それにしても、本当にこれでよかったのかなあ」
僧侶「なにがですか?」
魔法使い「教会に次の行き先を伝えたこと」
勇者(もう三日もたってるのに、なにを今さら)
魔法使い「勇者。三日前のことなのに、なに言ってんだって顔したでしょ」
勇者「……」
猫「相変わらずよく顔に出るヤツだにゃん」
僧侶「……三日前といえば、戦士様との会話で気になってたことが」
魔法使い「んー?」
僧侶「なぜ戦士様は、魔法使い様だけに魔術の訓練を促したのでしょうか?」
魔法使い「それは……」
558:
魔法使い「えっと……実はね。あの杖から煙を出す術、あるでしょ?」
僧侶「ええ。空間系の類の術ですよね?」
魔法使い「あれね、魔力で煙に量をもたせて、拘束するだけの術なの」
僧侶「じゃあ空間系の魔術ではない、と?」
魔法使い「うん。そもそも空間操作系の術って、魔術師の中でも賢者クラスじゃないと扱えないし」
魔法使い「ずっと前からいろいろと練習はしてるんだけどね」
僧侶「それで、戦士様は魔法使い様に?」
魔法使い「うん」
勇者(煙に質量をもたせるだけでも、十分すごいと思うけどな)
559:
魔法使い「空間系魔術は習得しときたいんだよね、今後のためにも」
僧侶「敵はさらに手ごわくなりますからね」
魔法使い「うん。勇者、術の訓練につきあってね?」
勇者「……」
魔法使い「……露骨に不服そうな顔しないでよ、悲しいよ」
勇者「あ、はい」
勇者(個人的には、僧侶の術のタネのほうが気になるんだよなあ)
勇者(戦士ですら、僧侶の術に関しては聞こうとしないし)
僧侶「……そんなにジッと見つめられても困ります」
勇者「あ、すみません」
575: はい◆N80NZAMxZY 2014/11/04(火)01:10:21 ID:rel6Cv8jK

魔王「これですこしは満足できたか?」
リザード「……っ」
魔王「余の言いつけを無視しあまつさえ、勝手に勇者と交戦したこと」
魔王「今回だけは不問に付す。だが、次はないと思え」
リザード「はっ!」
姫(呼び出されて魔王の間に入ったら、リザードマンが床に膝をついていた)
姫(広間が滅茶苦茶になってる。戦いらしきものがあったのは、あきらかね)
魔王「サキュバス、卿は残れ」
サキュ「了解しました」
姫「呼び出されたから来たけど、いったいなにが……」
魔王「気にすることはない。こちらの問題だ」
576: はい◆N80NZAMxZY 2014/11/04(火)01:11:04 ID:rel6Cv8jK
姫「それで? ここに私を呼び出して、なんの用ですか?」
魔王「これから話す。しばし待て」
サキュ「お冷になります、魔王さま」
魔王「うむ」
姫(魔王がひたいをぬぐって、水を飲んでる……今の戦闘がこたえたのかしら?)
サキュ「すごい汗ですわ。いまだに緊張なさるんですか?」
魔王「むぅ、いつもこれだ。リザードマン相手だとつい暴力ですましてしまう」
魔王「こういうとき、緊張して回らなくなる自分の舌が嫌になる」
サキュ「口下手なのは今に始まったことじゃないですよ、魔王さま」
姫(その冷や汗は戦いが原因じゃなくて、人見知りが原因なのね)
577:
魔王「姫よ。この世界、五つにわけられることを知っているか」
姫「ええ、いちおうは」
姫「第一の世界。人間たちの世界」
姫「第二の世界。魔物たちの世界」
姫「第三の世界。人間と魔物が共存する世界」
姫「第四の世界。エルフやヴァンパイアといった、存在自体が珍しい魔物の世界」
姫「そして第五の世界。いわゆる未開拓地、フロンティア」
姫「もっとも第三世界はごくわずかしか存在してない」
姫「第四世界に関しては住民も含めて存在自体があやしい」
姫「第五世界も、まだ残っているのかは定かではない」
魔王「そのとおりだ」
578:
魔王「いつか余が言った言葉、おぼえているか?」
姫「もしかして『手伝ってほしい』のこと?」
魔王「おぼえていたか」
姫「あのときは聞けなかったけど手伝ってほしいって、なにを?」
魔王「そなたの術だ。余が築く世界のためにその力、使わせてほしい」
姫「本気で言ってるの? 理解できない、私の術は……」
魔王「インプリンティング。
 対象にした生物の思考に、無意識レベルの刷りこみができる」
姫「……前にも疑問に思ったわ。どうして私の力を知ってるの?」
魔王「答えるつもりはない。だがそなたの能力の使い道、それには答えよう」
魔王「簡単な話だ、新たなる世界の住人たちの思考を書き換えるためだ」
579:
姫「……あなたのねらい、だいたい理解できたわ」
魔王「余が築く世界において、人間は魔族の支配下に置かれる」
魔王「だがこれまでの歴史において、人間と魔族は常に対立してきた」
魔王「それどころか近年では、魔族の世界は人間の手に落ちようとしている」
姫「人間を支配下に置いたとしても難しいでしょうね、私たちを服従させるのは」
魔王「宗教や教育で人々の思想を操るにも限界がある」
魔王「だからだ。そなたの術で、人間の意識を塗り替えるのだ」
姫「……私が従うとでも思って?」
魔王「逆に聞こう。させられないとでも?」
580:
姫(私の力はインプリンティングのほかに、もう二つある)
姫(それすらも彼は把握しているのか。聞き出すべき?)
魔王「どちらにしても、そなたの能力が必要になってくるのは先のこと」
姫「……」
魔王「サキュよ、姫を部屋にまで連れていけ」
サキュ「かしこまりました」
姫(私はそれ以上、言うべき言葉を見つけられなかった)
姫(魔王の顔を見ても、私には彼の表情の変化すら読み取れなかった)
581:

サキュ「あーん、やっぱり姫さまのベッドやわらかーい」
姫「……」
サキュ「あら、お姫様。かわいい顔がこわーい」
姫「……魔王が言ってたこと、あれは本当なの?」
サキュ「あたしは聞いたことない、魔王さまの口から出たジョークなんて」
サキュ「ていうか今日の魔王さま、すごく流暢に話してたと思わない?」
姫「そうかも、しれません」
サキュ「ずっと練習してたのよ、姫様とお話するために」
姫「魔王が?」
サキュ「そう。あなたと話すために、あたしといっしょにねー」
姫「しゃべることを練習する魔王、なんだか不思議ね」
582:
サキュ「滑稽だと思わない?」
姫「え?」
サキュ「魔王さまはあたしたちにとって、唯一無二の存在なの」
サキュ「そんな存在が、一人の人間のためにおしゃべりの練習をしてたの」
姫「……」
サキュ「あの方は口下手だし、考えてることも全然読めない」
サキュ「だけどはっきりとした意志がある」
サキュ「それだけじゃない。あなたたち人間さえも、可能な限り救おうとしてるの」
姫「私にあなたたちの味方をするなんて……無理です」
サキュ「どうして?」
姫「それは……」
583:
サキュ「こんなこと、あたしが言うのもなんだけど」
サキュ「あなたって今までの人生で、自分で決めた選択肢ってあるの?」
姫「あ、あなたこそ! ただ魔王に従ってるだけでしょ!?」
サキュ「あたしはそうよ。魔王さまの命に従うだけ」
サキュ「でもそれは、あたしが決めたこと。あたしがそうしたいから、そうするの」
姫「……どうして? どうして魔王に?」
サキュ「命を救われたの、あの方に」
姫「……だから従うの?」
サキュ「……そうね、あなたにだけ。特別に教えてあげる」
サキュ「あたしね、もともとは人間だったの」
590: はい◆N80NZAMxZY 2014/11/05(水)00:26:24 ID:hFCJ8xQuC
姫(限りなく人間に近い容姿をしている、とは思っていた。でも……)
サキュ「あー、うん。だいたい予想通りの顔してる」
姫「突然、魔物が自分は人間だったって言ってきたのよ。驚かないほうが無理よ」
サキュ「でーも、事実だもん」
姫「信じられないわ」
サキュ「まあね。でもさ、魔族の研究って年々進んでるじゃない?」
サキュ「今では魔族を操ることができる人間もいるんでしょ?」
姫「詳しくは知りませんが。近年になってそういう職業が生まれたことは耳にしています」
サキュ「そして魔族は、人間以上に魔族の研究を進めてきた」
サキュ「特に人間を支配下に置いていた時代、人間と魔族の研究が同時に行われていた」
591:
サキュ「あたしはその研究の副産物ってわけ」
サキュ「物心つくころには、両親も頼れる親戚もいなかった。そのうえ、戦争孤児」
サキュ「で、その戦争で死にかけたあたしを拾ってくれたのが、魔王さまだった」
姫「……あなたはそれで、魔物になったっていうの?」
サキュ「そっ。あたしは人間から淫魔に生まれ変わっちゃってわけ」
姫「……」
サキュ「でもね、あたしには選択肢がふたつあったの」
サキュ「魔族に成り代わって、あらたな人生を歩む。
 治療してもらって、人間のまま今までどおりに生きる」
姫「そしてあなたは……」
サキュ「うん、あたしは魔族になることを選んだ」
592:
姫「理解できないわ。あなたは人間だったのでしょう? どうして?」
サキュ「あのとき、考えたのよ。自分が仮に戦争で負傷しなかったらって」
サキュ「おそらく、ひどい目にあうってことは容易に想像がついた」
サキュ「戦争の渦中に放り投げられた天涯孤独の幼い子ども」
サキュ「どのみち、長くは生きられなかったでしょうね」
サキュ「生き残ったとしても、そのために必要な犠牲を考えたら、ね」
姫「……あなたは後悔してないの?」
サキュ「ここまで来るのに色々あったけど、うん」
サキュ「後悔はしてない――だって、自分で選んだ道だもん」
姫(本人が言ったとおり。サキュバスの笑顔には、一片の後悔も見えなかった)
593:

?「お食事の時間になりました、姫様」
姫「……」
?「お昼の食事にも手をつけていませんでしたが。食べてもらわないと、困るんですがね」
姫「……私の父は、私を生むのをためらったらしいの」
?「なんのことでしょうか?」
姫「父上は様々な土地をめぐり、たくさんの人々と交流したの」
姫「民の上に立つ以上、民を知らなければならない。これが父上の口癖だった」
姫「だけど、後継ぎの子どもが生まれれば政務に拘束されることになれる」
姫「もっとも、周りに促されて私を生むことになったけど。父上は私にいつもこう言ってた」
姫「『お前にも、少しでも早く世界を知ってほしい』って」
594:
姫「だけど、幼い私を外の世界へと連れ出すことを、周囲は反対した」
?「大事な後継者です、万が一があってはならないでしょう」
姫「……私はなにも知らないまま、ここまで生きてきてしまった」
?「焦る必要はないでしょう。あなたの人生はまだこれからなんですから」
姫「ええ、私もずっとそう思ってた。将来のために学問も学んできた」
姫「だけど……」
サキュ『あなたの意思、それってホントにあなたの意思?』
サキュ『あなたって今までの人生で、自分で決めた選択肢ってあるの?』
サキュ『後悔はしてない――だって、自分で選んだ道だもん』
姫(私は……私は……)
姫「――あああああああああああああああああああああああああああ!」
595:
?「……姫様?」
姫「……頭の中がぐちゃぐちゃになって、どうしようもなくなったら、天井に向かって叫べばいいって」
姫「ある人が、そう教えてくれたの」
?「はぁ、そうですか。
 ……姫様、どこへ行くつもりでしょうか?」
姫「魔王のところよ」
?「……」
姫(正直、まだ頭の中はぐちゃぐちゃで、なにがなんだかわからない)
姫(でも、もうじっとなんてしてられない!)
597:

魔法使い「あのぉ……その、ほんと、すみませんでした……」
勇者「……」
戦士「……」
猫「……」
魔法使い「ううぅっ、みんな冷たいよお! ツララみたいだよぅ、僧侶ちゃん……」
僧侶「私もなんて言ったらいいか……」
戦士「そりゃあね、文句も言いたくなるよ」
戦士「見知らぬ場所に連れてかれた挙句、一日中さまようことになったらね」
魔法使い「ううぅ……」
勇者(いったいなにがあったのか、簡潔に説明しよう)
598:
勇者(魔法使いが空間転移魔術の練習をしようと言い出したのが、事の始まりだった)
魔法使い『空間系魔術、その中でも転移系の魔術の練習をしたいんだよね』
魔法使い『転移の魔術は、基本的に魔法陣がふたついるの』
魔法使い『どうしてかって? その魔法陣を行き来するのが転移系の術だから』
魔法使い『まあ魔法陣ひとつでも、できないことはないんだけどね』
魔法使い『ただ、どこに飛ぶかわかんないんだよね、魔法陣がひとつだけだと』
魔法使い『厄介な敵をどこかへ送り届けちゃう、なんて使い道はあるけどね』
魔法使い『とりあえず時間がもったいないし、さっさと練習しちゃおっ』
勇者(冷静に考えると、この術の練習に俺が付きあう必要なかったよなあ)
勇者(しかも病室を抜け出した戦士と、猫まで練習の場にいた)
勇者(練習の場所は病院の屋上。魔法陣は屋上と、病院の入口に施したらしい)
599:
勇者(で、魔法使いが空間転移の術をやった結果)
勇者(俺たちは見知らぬ場所にいた。荒れ果てた荒野のような場所だった)
勇者(丸一日さまよっても、町や村にもたどりつかず、人にすら遭遇しなかった)
勇者(結局魔法使いが何度も術のトライをして、ようやく病院に帰ってこれた)
戦士「とにかく。今後、空間系魔術の使用は禁止だからね」
魔法使い「えー……」
戦士「『えー』じゃないっ」
戦士「そもそも、こっちとら病人なんだよ。今回の件で入院が長引いちゃったし」
魔法使い「……ごめんなさい」
600:
猫「ったく、俺様の足が棒になりそうだったにゃん」
勇者(お前はほとんど俺の肩に乗ってて、歩いてないだろうが)
僧侶「この話はここまでにしませんか? 魔法使い様も反省していますし」
魔法使い「うん、私ってばすごく反省してるよっ!」
戦士「……」
勇者「……」
魔法使い「……ごめん。これからもっと反省します」
戦士「まあ、過ぎたことに拘泥するのはよくない。今度からは気をつけてね」
魔法使い「はい! 『……次の転移系術の練習場所と方法を考えなきゃなあ』」
勇者(こいつ、反省する部分を間違えてるぞ)
601:
戦士「まあ、かわいいナースにお世話になれると思えば、それほど悪いことでもないかもね」
勇者(こうしてる間にも姫様は……って考えたら、そんなこと言ってられないけどな)
勇者(戦士いわく、人質だから殺されることはないそうだけど、心配だ)
コンコン
勇者(ノック……ナースか?)
戦士「はいはい、どうぞ勝手に入ってー」
女騎士「失礼する」
魔法使い「あっ、あのときの騎士さん」
戦士「おや、まさかキミがボクのお見舞いに来てくれるなんてね」
女騎士「見舞いに来たのではない。用件があってきたんだ」
602:
戦士「用件ね、デートのお誘い?」
女騎士「私も暇ではないんでな。手短に話すぞ」
戦士「つれないなあ」
女騎士「おそらくお前たちは、すでに次の行き先を決めていることだろう」
魔法使い「はい、もう教会にも伝えてます」
女騎士「その行き先、変更してほしい」
戦士「それは、上からの命令ってことでいいのかな?」
女騎士「ああ。次にお前たちが行くのは、『柔らかい街』だ」
603:
魔法使い「柔らかい街? 変な名前……。
  ていうか、どこ?」
女騎士「あとで説明する。それから私ともうひとり、お前たちに同行させてもらう」
僧侶「勇者様、なんだか変な顔になっていますよ」
勇者「……」
勇者(そりゃあ、変な顔にもなる。俺はこの女騎士がすごい苦手だった)
勇者(それに。柔らかい街は、俺にとって非常に思い出深い街でもある)
勇者(柔らかい街。そこは、数少ない魔物と人間が共存する場所だった)
634: はい◆N80NZAMxZY 2014/11/09(日)22:44:07 ID:KwjHrgx9x

女騎士「リザードマンとサキュバス。奴らと同時に街に現れた魔物のことは覚えてるな?」
女騎士「私の部隊がその魔物たちを捉えたが、ほとんどが未確認のものだった」
女騎士「調査を行った結果。魔物たちの出どころがわかった」
戦士「それが柔らかい街だった。で、ボクたちに調査してほしいってことね」
魔法使い「でも、魔王城の探索はどうするの?」
女騎士「問題ない。そっちに関しては別の部隊が動いてる」
勇者(女騎士に指示を出してるのは教会だ。つまり)
勇者(俺たちや他の部隊の情報から、大まかな魔王城の場所は特定できたってことか?)
戦士「命令だから従わなきゃならない。けどねえ」
女騎士「なにか問題でも?」
勇者(俺たちの行動は、教会を通して筒抜けになっている可能性があるんだよな)
635:
戦士「まっ、なるようになるか。了解したよ」
僧侶「……ひとつ質問があります」
女騎士「なんだ?」
僧侶「あの街はここから船を乗り継いで、いくつかの街を経由しなければたどり着けないはずです」
僧侶「例の魔物たちは、どうやってこの街に現れたのでしょうか?」
女騎士「そのことか。この夜の街と柔らかい街を繋ぐ魔法陣があったんだ」
女騎士「調査隊の調べでは、魔法陣はこの街の入り口に設置されていたらしい」
僧侶「なるほど。つまり作為的なものである、と」
女騎士「だが、魔物たちが空間転移の術を使える話など聞いたことがない」
女騎士「以前になんらかの目的で、誰かが魔法陣を設置したのかもしれない」
636:
魔法使い「魔術研究に関しては、人間のほうが魔物よりも進んでるもんね」
勇者(魔物との戦争。あれも一役買って、魔術研究の差は広がる一方だそうだ)
女騎士「魔法陣に関しては、まだ調査中だ」
女騎士「どちらにしても。戦士、貴公が退院しないことには、この街から出ることもままならん」
戦士「いやあ、面目ない」
女騎士「そこで、だ。教会本部が回復魔術を得意とする者を寄こした」
戦士「ボクのために? すごいね」
女騎士「あとからこの病室に来るだろう。
 私はまだ仕事があるのでな、一旦失礼する」
女騎士「それと……貴様は相変わらずだな、勇者」
勇者「……」
勇者(それだけ言うと、彼女は病室を去っていった)
637:

魔法使い「勇者って女騎士さんに嫌われてるの?」
勇者「……」
魔法使い「勇者を見るあの人の目、すごくコワかったよ」
戦士「ははっ、実際に嫌われてるんじゃない?」
勇者「まあ、たぶん」
魔法使い「なんで? あっ、前に話してた訓練が関係してるとか?」
戦士「鋭い。ボクと勇者がギルドの訓練キャンプで、彼女と同じ班だった話はした?」
魔法使い「したした」
戦士「うん。ボクらの班のリーダーは、最年長かつ実績がある彼女だったんだよ」
戦士「基本的には問題のないメンツがそろってた、一人を除いてね」
魔法使い「その一人って……」
戦士「そう。勇者だよ」
638:
戦士「このグループキャンプって、訓練生の協調性や素質なんかを見るのが目的なワケ」
戦士「勇者はべつに課題自体はきちんとこなしてたんだよ」
戦士「ただ、ひとつ非常に大きな問題があった」
魔法使い「わかった。グループの人たちと交流しなかったんでしょ?」
戦士「そういうこと。しかも、女騎士にはとんでもなく無愛想な奴だと思われてね」
勇者「……」
猫「容易に想像がつくにゃん」
戦士「それで、訓練期間中に彼女が勇者に勝負をもちかけたんだよ」
戦士「『その舐めきった態度を二度ととれなくしてやる』ってね」
魔法使い「勝負の結果は?」
戦士「勇者の圧勝。見てるこっちが気の毒になるぐらいの」
641:
魔法使い「女騎士さんが、勇者を嫌う理由もすこしはわかるね」
戦士「それだけじゃないんだ。勇者を目の敵にする理由は」
魔法使い「まだあるの?」
戦士「訓練班には一人、品定めをする人間がいるんだよ」
魔法使い「ってことは、勇者が落ちる可能性は十分あったんだね」
戦士「女騎士はそう思ってたんだろうね。いや、実はボクもそう思ってた」
勇者(そういえば。戦士は戦士で、俺に突っかかってきたもんな)
戦士「ところが蓋を開けてみたら、勇者は見事に選ばれていた」
魔法使い「なんか、勇者のイメージが悪くなったかも」
戦士「まあ実際は無愛想ではなく、人見知りってオチだったけど」
642:
魔法使い「それにしても、ギルドの加入方法っていろんな種類があるんだね」
戦士「魔法使いは学校からの推薦だっけ?」
魔法使い「うん。ていうか、勇者や戦士とは部門がちがうんだけどね」
僧侶「戻りました」
戦士「悪かったね、教会への報告を頼んじゃって」
僧侶「いえ、ちょうど外の空気を吸いたかったので。それより、よかったのですか?」
戦士「うん。行き先変更の命令には、きちんと従うよ」
戦士「女騎士のおかげで、仮説がにわかに真実味を帯びてきたしね」
猫「どういうことだ?」
戦士「魔法陣の話さ。空間転移の魔術を魔物が使った、なんて前例はないんだよ」
644:
猫「ん? あの騎士は、人間が仕込んだものだと言ってなかったかにゃん?」
戦士「人間にしか扱えないって点、これが問題なんだよ」
猫「さっぱりわからん」
魔法使い「人間の街を襲った魔物と、人間にしか使えない転移系の術。これがヒント」
猫「……魔物側に人間の協力者がいる、ってことか」
僧侶「そうです。あなたはご存知ないのですか?」
猫「知らん」
戦士「即答だね、予想通りだけど」
魔法使い「でも、いちおう今後に大きく関わってくることだから、ね?」
猫「な、なにをする気だ……?」
戦士「苦しみ悶えること」
646:
勇者(魔法使いや戦士が情報を吐かせるために、猫にくすぐりの刑が執行された)
猫「はぁはぁ、世の中にはこんな拷問もあるのか……」
コンコン
戦士「はいはい、どうぞ。彼女が戻ってきたかな?」
勇者「……」
僧侶「勇者様、露骨に顔がこわばってますよ」
青年「あ、どうもっす」
戦士「……どなた?」
青年「あ、オレ。派遣されてきた『魔物使い』ってもんっす。
 戦士さんの病室ってここであってます?」
魔法使い「じゃあ、あなたが戦士の回復を?」
青年=魔物使い「そーなんすよ! オレが戦士さんを全回復させちゃいますよ!」
勇者(うわあ。すさまじく暑苦しい)
647:
戦士「えー、キミなの? 癒し手だから、お姉さんを期待してたのに」
魔物使い「申しわけねえ! でも回復は全力を尽くすんで!」
戦士「……冗談だよ。こっちはお世話になる身だし。よろしく」
魔物使い「ありがてえ! 勇者パーティーの一人である方の言葉……感無量っす!」
戦士「あの、ごめん。もうすこし声のボリューム落としてもらっていい?」
魔物使い「そうっすね! ここは病院! お静かに!」
猫『耳が痛いにゃん』 
勇者『我慢だ。それと今はしゃべるな』
勇者(女騎士とは別のベクトルで苦手なタイプだ。関わりたくない、できるかぎり)
魔物使い「ところで、勇者さんって誰っすか?」
勇者「……」
649:
僧侶「この方です」
勇者(僧侶!?)
魔物使い「お初にお目にかかるっす! 魔物使いってもんっす!」
勇者(顔が近いっ。ていうか自己紹介を二回もするな)
魔物使い「まさか生で勇者さんを拝めるとは、オレ、マジで感動っす!」
勇者「ど、どうも」
魔物使い「ていうか握手してもらっていいっすか?」
勇者「は、はあ」
魔物使い「くぅ〜、ありがてえ! 三日は手洗えないっすわ!」
魔物使い「しかも一時的とはいえ、勇者さんと一緒に旅できるなんて!」
勇者(なん、だと……?)
650:
魔法使い「女騎士さんが、同行者がもう一人いるって言ってたけど」
魔物使い「そうっす。オレがその同行者なんすよ」
勇者「……」
猫「……」
魔物使い「あれ? その反応、もしかして知らなかったって感じ?」
僧侶「今、はじめて知りました」
魔物使い「女騎士さん、いつも説明が足りてないんすよね。」
魔物使い「緑の街から行き先までわざわざ変えてもらってるのに。申しわけねえ!」
戦士「まあ、癒し手が増えるってのはありがたい。ねっ、勇者?」
勇者「……うん」
勇者(俺の胃と耳はすでに痛くなりはじめていた)
660: はい◆N80NZAMxZY 2014/11/11(火)01:29:58 ID:nVgsFtdyG

勇者(俺たちは魔法陣を介して、無事に『柔らかい街』にたどり着いた)
魔法使い「ううぅ〜、まだ気持ちわるいよぉ」
猫「んにゃぁ……」
戦士「この魔法陣っていうのは移動距離によって、かかる負担に差が出るみたいだね」
僧侶「いちおう酔い止めならありますけど」
魔法使い「ちょうだいっ!」
戦士「この調子だと魔法使いが転移術を扱えるのは、まだ先のことになりそうだね」
魔法使い「戦士とか勇者は気持ち悪くないの?」
戦士「影響がないわけじゃないよ、でもこの程度じゃね?」
魔法使い「病み上がりのくせに」
勇者(あの暑苦しい魔物使いの術によって、戦士はあっさりと退院できた)
勇者(さすがに教会から派遣されただけあって、腕に関しては本物だった)
661:
勇者(魔物使い、そして女騎士。あの二人はこの場にはいない)
勇者(同行すると言っていたが、あれは柔らかい街に入ってからの話だったらしい)
魔法使い「思ったよりも、魔法陣の場所から歩いたね」
僧侶「それにしても、ここは相変わらずですね」
勇者(僧侶の表情にはめずらしく、動揺のようなものが見え隠れしていた)
勇者(口ぶり的に、僧侶はこの街を訪れたことがありそうだけど)
戦士「すごいね。同じ区画で人間と魔物が一緒に露店を開いてるよ」
猫「あれはオーク、あっちはガーゴイル。ハーピーもいるにゃん」
サイクロプス「旅の者かい? どうだい、うちの占いを受けてみないか?」
男性「やめといたほうがいいぜ。単眼じゃ、見えるもんも見えやしねえ」
サイクロプス「ああぁ!?」
男性「あああっ!?」
662:
魔法使い「な、なんていうか。すごい光景だね」
戦士「魔物と人間がごく普通に会話をしてるなんて、異世界に迷いこんだ気分だ」
女性「今度、新しいコスメの開発のために、街外れの洞窟に行こうと思うんだけど」
ハーピー「ついてきてほしいって?」
女性「お礼ならするから。例の入浴剤でどう?」
ハーピー「しゃあない。それで手を打ちましょう」
猫「魔物が人間相手に商売したり、その逆もあったりするのか?」
勇者「ここで商売をしてる連中は、専ら物好きな観光客を相手してる」
戦士「一般道で魔物を見つけたら大騒ぎって時代なのにね」
魔法使い「人間の管理が行き届かない山ぐらいだもんね、魔物と遭遇できるのは」
663:
猫「だが、想像していたよりもずっと穏やかな街だにゃん」
魔法使い「だね。もっと物騒な雰囲気かと思ってたもん」
戦士「だけど、魔物が平気で闊歩してるような街だ」
戦士「市警が存在するかもあやしい。していたとしても、満足には機能してないだろうね」
勇者(だが、俺がこの街で暮らしてたころより平和になってる。それは間違いない)
魔物使い「おーい! 勇者さんたち!」
勇者「……」
僧侶「勇者様。顔色が急に悪くなりましたね」
魔物使い「お待ちしてました! すでに教会への報告は済ましてあるっす!」
戦士「こんな街でも教会はあるんだ」
664:
僧侶「街ができた当初は、宗教による統一を果たそうと国も動いていたそうです」
僧侶「魔物とのゴタゴタ、諸外国への介入などに力を入れるうち、有耶無耶になってしまいましたが」
魔物使い「さすが! その若さで『赤勇会』に所属していた人だ」
猫『なんだ、その『セキユウカイ』って?』
勇者『魔物使いの前では小声でもしゃべるな。説明はあとでする』
勇者(『赤勇会』は、優秀な癒し手たちによる人道支援団体だ)
僧侶「なぜあなたがそのことを?」
魔物使い「一時期、オレも赤勇会に入ろうとしてたんすよ」
魔物使い「で、僧侶さんの話を小耳に挟んだわけっす」
戦士「赤勇会は治癒術の腕以外にも、魔物をたおすだけの魔術の腕も要求されるからね」
戦士「なんてたって、魔物による被害地域に足を運ぶわけだし」
665:
魔法使い「そうなの!? 僧侶ちゃんって、やっぱりすごいんだね」
僧侶「……そうでもありません」
勇者(僧侶がわずかに視線を泳がせた。照れてるのか?)
僧侶「それより。この街に対する認識を、改めるべきかと」
魔法使い「どういうこと?」
僧侶「あれを見てください」
戦士「あのデカイのってスタジアム? でもなんで?」
魔物使い「闘技場っすよ。あそこでは賭けが行われてんすよ」
魔法使い「賭け? 闘技場? イマイチ話が見えないんだけど」
僧侶「賭けバトルが行われてるんです、あのスタジアムで」
魔物使い「しかも、ただの賭けバトルじゃないんすよ」
666:
魔物使い「人間も魔物も関係ない。刺激と金に飢えた連中の掃き溜め」
魔物使い「死をも恐れない屈強な猛者たちの戦いの場なんすよ、あのスタジアムは」
戦士「死をも恐れない。つまり、死者が出るわけだ」
魔物使い「賭けバトルのルールはあってなきが如し。市警もバトルには介入しないっすからね」
戦士「秩序がないから、なにをやっても許されるってことか」
魔法使い「そういうある種の柔軟性から『柔らかい街』って名前になったんだね」
戦士「……そういえば、女騎士はどうしたんだい?」
魔物使い「街の視察だって言って、どっか行っちゃったんすよね」
戦士「そう。じゃあボクらは、ひとまず宿を探そうか」
魔物使い「それなら問題ないっすよ! すでに手配済みっす!」
勇者(暑苦しいくせに仕事はスマートだな、こいつ)
668:

魔物使い「さあ! ここがオレがチョイスした宿っす!」
戦士「ふーん。まっ、可もなく不可もなくって感じかな」
魔物使い「値段も手頃だし、メシもうまそうっすよ」
勇者「……」
魔法使い「どうしたの勇者? ポカンとしちゃって」
勇者(俺は魔法使いの言葉を無視して、宿の扉を開いた)
ゴブリン「いらっしゃい……って、お前!?」
勇者「あっ、やっぱり」
勇者(宿の受付にいたのは、数年前、俺が世話になったゴブリンだった)
674: はい◆N80NZAMxZY 2014/11/12(水)00:04:43 ID:frQBdV6eX

ゴブリン「まさかボウズ、お前がこの街に帰ってきてるとはな」
勇者「……もう、ボウズって年齢でもないよ」
ゴブリン「ワシから見りゃ、まだまだガキだ」
魔法使い「この街に住んでたなら、教えてくれればよかったのに」
ゴブリン「無口なのは、どうやら今も変わらんみたいだな」
勇者「……」
ゴブリン「しかしボウズ、今はなにやってんだ?」
ゴブリン「この街にわざわざ戻ってきたのも、里帰りなんかじゃないだろ?」
勇者「えっと……」
勇者(夕食を食べ終わって、俺たちは談話室でおしゃべりをしていた)
戦士「ボクと魔法使いは学生でね。遺跡発掘調査のために今回、こちらに足を運んだんだ」
戦士「彼にはボクらの護衛として、ついてきてもらってる」
675:
魔法使い「そうなんです」
勇者(さすが戦士。嘘がお上手)
ゴブリン「そういや、昔から口は立たなかったが、腕は立ったもんな」
ゴブリン「ってことはアレか? 今は傭兵でもやってんのか?」
勇者「そんな感じ」
ゴブリン「まっ、理由はなんだっていいさ」
ゴブリン「こういう再開ほど嬉しいもんはないからな」
勇者「……うん」
勇者「あっ、そういえば姉(あね)さんは?」
ゴブリン「今は夕食の片づけをやってる。あとで呼んでやるよ」
ゴブリン「じゃっ、ワシはやることがあるんで失礼するが、ゆっくりしていってくれ」
676:
魔法使い「私、普通にゴブリンさんとお話してたよね? 今、ちょっと変な気分」
戦士「なにを興奮してるの?」
魔法使い「ゴブリンさん、魔物だよ? なのに普通にお話してたんだよ?」
魔法使い「はじめての経験だもん、ドキドキしちゃった。戦士はしないの?」
戦士「特には」
魔法使い「つまんないのー」
戦士「ただ、この宿はすばらしいと思うよ。料理もうまかったし」
勇者「いい宿っていうのは、トイレが綺麗だ」
魔法使い「……勇者?」
677:
勇者「宿を選ぶさいにトイレが綺麗かどうか、俺は必ずチェックする」
勇者「ここが綺麗じゃない時点で宿としては失格だ」
勇者「ほかに見るとしたら玄関だな。言ってみりゃ、宿の顔だからな」
勇者「短い期間とは言え、寝泊りする場所だ。清潔かどうかは重要だ」
魔法使い「おーい、勇者さーん」
勇者「……あっ。す、すみません」
魔法使い「ビックリしちゃった。急にしゃべりだすんだもん」
戦士「コミュニケーションが苦手な人には、種類がある」
戦士「意外と勇者は、一方的に話すのが原因で意思疎通ができないタイプかもね」
勇者「……」
678:
魔法使い「でも、わかるなあ。私もこだわってることなら、しゃべりたいって思うし」
魔法使い「勇者は宿にこだわりがあるんだよね?」
勇者「こだわりって、ほどでは……」
戦士「そう言うわりに、魔法使いは魔術に関しては秘密主義だよね」
魔法使い「魔術師にとっては、魔術は命と同じぐらい大切だもん」
戦士「ふーん。それにしても、僧侶ちゃんは大丈夫なの?」
勇者(体調がすぐれないってことで、僧侶は部屋で寝てる。食事もとってない)
戦士「あと、魔物使いくんは?」
魔法使い「騎士さんと合流するって出て行ってから、二時間ぐらいたってるね」
勇者(俺としては、魔物使いと女騎士には帰ってきてほしくない)
679:
魔物使い『もうほんとに勘弁してくださいよ、女騎士さん!』
女騎士『賭けバトルに参加しただけだろうが』
魔物使い『オレ、治癒術の使いすぎて疲れったすよー!』
勇者「……」
魔法使い「……女騎士さん、スタジアムにいたんだね」
戦士「女傑って言葉がピッタリな彼女だ。すばらしい闘いをしたにちがいない」
女騎士「なにか言ったか?」
勇者(うおっ!? いつのまに!?)
戦士「賭けバトルに参加したんだって? 会話が聞こえてきたよ」
魔物使い「そうなんすよ! この人、魔物も人間も関係なくボコボコにしたんすよ!」
戦士「穏やかじゃないね」
680:
女騎士「道を歩いていたら、絡んできた馬鹿な魔物がいたんでな」
女騎士「しかも賭けバトルをもちかけてきた。だから受けてやった」
戦士「それで、ついでにスタジアムで暴れてきたわけだ」
魔物使い「一回一回、勝負が終わるたびに回復させないでほしいっすよ」
女騎士「礼として、賭けで手に入れた金はやるって言ってるだろ」
戦士「最初のオッズは高かっただろうし、けっこう儲かったんじゃない?」
女騎士「金なんてどうでもいい。それより、勇者」
女騎士「貴様も過去に、あのスタジアムに出入りしていたらしいな」
勇者「……」
女騎士「……ふんっ、まあいい。シャワーを浴びてくる」
681:
魔法使い「本当なの、今の話?」
勇者「……いちおう」
魔物使い「それで騎士さんは対抗心燃やして、ハッスルしたわけっすね」
戦士「理由はどうであれ、勝ち続けたんでしょ? たいしたもんだ」
魔物使い「そりゃあ魔物相手に関しては、オレのアドバイスがありましたからね」
戦士「忘れかけてたけど、キミは意外と優秀なんだったね」
魔物使い「そうっす! オレは意外と優秀なんすよ!」
戦士「……ふーん、なるほど。ちょっと二人だけで話がしたいな」
魔物使い「アレっすか? 熱い男子トークっすか?」
戦士「そんなところかな。とりあえず外に行こう」
勇者(戦士は魔物使いの肩に手を回すと、外へと行ってしまった)
683:
魔法使い「なんだったんだろうね、今の」
勇者(もちろん、俺にわかるわけがない)
魔法使い「でも、意外だなあ。勇者が賭けバトルをしてたなんて」
魔法使い「しかも女騎士さんが知ってたってことは、戦績もよかったんでしょ?」
勇者「それは、その……」
女性「おくつろぎのところ、申しわけございません。談話スペースは……」
勇者「姉(あね)さん……?」
女性「え?」
勇者「えっと、俺、なんだけど」
女性「もしかして……え? うそ? え?」
685:
勇者「……ひさしぶり」
女性「うそおっ! いつの間に戻ってきたの!?」
勇者(ゴブリンの奴、俺が来たことを伝えてなかったのか)
女性=姉「何年ぶりかしら? 前は私と背丈、変わんなかったのに」
勇者「……背はけっこう伸びた、と思う」
姉「っと、まだ仕事が片づいてないの。だから、すこし待っててくれる?」
勇者「……うん」
姉「あっ、その前に」
勇者「?」
姉「おかえりなさい」
686:

魔法使い「じゃあ、ここの宿はゴブリンさんとお姉さんで?」
姉「ええ、私とあの人の二人で切り盛りしてるの」
魔法使い「へえ……」
姉「えらく驚いてるけど、やっぱり変わってると思う?」
魔法使い「正直。魔物と人が経営してる宿なんて、聞いたことなかったから」
姉「実は私も。あの人と働くまでは、想像もしてなかった」
姉「ところで。黙々と食べてるけど、おいしい?」
勇者「うまい」
姉「そう、よかった。魔法使いさんの口にはあったかしら?」
魔法使い「はいっ。本当においしいです、このチーズスープ」
687:
魔法使い「勇者って、ずっとここの宿に泊まってたんですか?」
姉「ええ。一年と半年ぐらいだったかしら?」
姉「宿代は賭けバトルの賞金でまかなってたのよね?」
魔法使い「それで、勇者は賭けバトルに参加してたんだ」
勇者「まあ、そんなとこです」
魔法使い「二人は宿の主と宿泊客って関係なんですよね?」
姉「そうよ? ああ、妙に親しそうだって?」
魔法使い「はい。なんだか本当の姉弟みたいにみたいです」
勇者「……」
姉「子どもだったこの子が、ずっと一人で宿泊してたからね」
姉「だから、気になっちゃって。思いきって声をかけたの」
魔法使い「それで二人は仲良くなったんですね」
689:
姉「でも、帰ってはこないし、手紙のひとつも寄こさないし」
勇者「……ごめん。色々あったんだ」
姉「いいよ、こうやってまた会えたんだし」
勇者「……」
692:

魔物使い「うーん。リザードマン対策は、だいたいこんなところっすね」
戦士「なるほどね。つまり、ほとんど人間と同じってわけだ」
魔物使い「でも筋力が根本的にちがうっす。それにそいつ、魔術も使えるんすよね?」
戦士「直接この目で見たわけじゃないけどね」
女騎士「宿の前で、なにをしてるんだ?」
戦士「……そっちこそ」
女騎士「落ち着かなくてな。この街、魔物が我が物顔で闊歩している」
魔物使い「そんなにカリカリしなくてもいいじゃないっすか」
女騎士「魔物は私たち人類にとって、敵でしかない」
女騎士「いずれは必ず、この星から抹消しなければならない存在だ」
693:
女騎士「戦士。貴様もそう考えているから、こいつに魔物について聞いているのだろう?」
戦士「ちがう。ボクはただ、あの野郎に仕返しをしてやりたいだけさ」
女騎士「あの野郎? 私怨、か」
戦士「それもちがうね。ボクにとって、どんな魔物も例外なく理解できない存在だ」
戦士「そんな存在に苛立ちを覚えたり、個人的な恨みを抱いたりはしない」
魔物使い「魔物について聞いてきたときの戦士さんの顔、怖かったすよ?」
戦士「それはね、ジャマされたからさ」
魔物使い「ジャマ? なにかされたんすか?」
戦士「夜の街で、ボクとかわいいお姉さんの熱い夜を、ぶち壊しやがった」
戦士「ボクがムカついてるのはそのこと。ヤツ自体はどうでもいい」
女騎士「お前……」
694:
戦士「それから。未確認魔物の出処の探索。これはどうするの?」
女騎士「私の隊の者たちがすでに調べはついてる」
戦士「あら、優秀なことで。場所は?」
女騎士「街の目と鼻の先にある研究所だ。
 早ければ明日の昼にでも、攻めこむ予定だ」
戦士「なるほど。もう大まかな準備はできてるってことね」
女騎士「しかし、不安要素がいくつかある」
魔物使い「なに言ってんすか? オレたちには勇者さんがついてるんすよ!」 
女騎士「その勇者こそが最大の不安要素だ」
魔物使い「え!?」
女騎士「ヤツに協調性は期待できないからな。というより、会話が成り立たないんだ」
魔物使い「……それって女騎士さんにも、問題があるんじゃないっすか?」
女騎士「……」
戦士(うわあ。ボクでも言いづらいことを……)
695:
魔物使い「女騎士さんって話し方からして、取っつきにくいし」
魔物使い「勇者さん、オレのときは普通に話してくれるっすよ?」
戦士(これ、本気で言ってんのかなあ)
女騎士「な、なんだと? それは本当なのか、戦士?」
戦士「まあ、勇者は意外としゃべるよ。ついでに愛嬌もある、と思う」
女騎士「……」
魔物使い「どうっすか? この際思い切って、しゃべり方を変えてみるとか?」
女騎士「……いいだろう、やってみよう」
女騎士「あたい、マジちょ〜勇者と仲良くしたいんだけどぉ」
女騎士「てゆーかぁ、これでダメならぁもうマジ無理」
戦士「……」
魔物使い「いやあ、これはドンマイっすわ」
696:
女騎士「いちおう、軽い感じの女性になりきってみたんだが」
魔物使い「オレ、こんなしゃべり方する女はイヤっす」
戦士「ボクも。これだと勇者も裸足で逃げ出すよ、きっと」
魔物使い「ていうか、そのしゃべり方はどこで覚えたんすか?」
女騎士「できるかぎり、自分の想像力を働かせてみたんだが」
魔物使い「……女騎士さん、彼氏とかいるんすか?」
女騎士「恋愛か? そんな浮ついたことに、現を抜かしていたことなどはない」
魔物使い「……了解っす」
戦士「キミは恋愛とか以前の問題だよ」
女騎士「……?」
697:

魔法使い(スープを飲み干した勇者は、すこし頬をゆるめて部屋に戻っていった)
魔法使い(ちなみに今この談話室には、私、お姉さん)
魔法使い(そして、ようやくお目覚めの僧侶ちゃんの三人でいる)
姉「そっか。あの子はホントに全然変わってないのね」
姉「チーズスープを飲んでる様子を見て、だいたいわかってたけど」
僧侶「……成長してないってことですか?」
姉「ううん、顔つきや体格はすっかり変わってたわ」
姉「でも、スープを飲んだあとの反応が昔と同じだったから」
姉「ほら、あの子って口よりも顔に出ちゃうタイプじゃない?」
魔法使い「そうですね。まさにそんな感じです」
姉「あの子、スープを飲んだあと、うまいとは絶対に言わなかったのね」
姉「でも、表情は変わるから。不思議と悪い気はしなかったわね」
701:
女騎士ワロタwww
735: はい◆N80NZAMxZY 2014/11/17(月)00:05:39 ID:O0AKif5Gv
リザード「まっ、こっちはこっちで前夜祭を精々楽しむとするか」
サキュ「アンタっていいよねえ」
リザード「あ? なにがだ?」
サキュ「これから敵と戦えるってだけで、機嫌がよくなるんだもん」
リザード「オレにとって戦いは全てだ。流せる血は、いくらでも流す」
サキュ「……はぁ、あっそ」
リザード「ため息をつくと、幸せが逃げるらしいぞ」
サキュ「吐き出したため息と一緒に、自分の中の憂鬱を逃がしてあげてんの」
サキュ「ていうか、そろそろ出るわよ。パーティに遅刻しちゃう」
リザード「かまわねえよ。どうせオレらが行きゃ、祭りはお開きだからな」
736:

女騎士「戦士、貴様の言ったとおりになるとはな」
戦士「正解だったでしょ。キミの仲間を街にバラバラに潜伏させたのは」
魔物使い「でもヤバイっすよ! 街に魔物の群れが現れるなんて!」
戦士「とにかく。時間を稼いで街の人たちを避難させる必要がある」
女騎士「そしてあとはやかに魔物を駆逐する、それだけだ」
魔物使い「それにしても勇者さんたちは、この緊急事態にも関わらず落ち着いてましたね」
戦士「まあ、ボクらも伊達に選ばれたってワケじゃないさ」
戦士(謎の発光現象とともに現れた魔物たちは、すでに街へと侵入しつつあった)
戦士(敵はこちらの動きを把握している。だから敵が先手を打つことは予測できた)
戦士(さすがにこの規模までは予想できなかったけど)
737:
戦士「で、さっそくご対面か」
魔物「ううぅ……ぐううぅ……」
戦士「これまた初めて見る顔だ。例の研究所からのものと思って間違いないだろうね」
女騎士「私は二度目だ。魔物使い、貴様もそうだろう?」
魔物使い「スタジアムで女騎士さんが、コテンパンにやっつけたうちの一匹っすね」
女騎士「やはりな。私の予想は当たった」
戦士「予想?」
女騎士「ここは魔物と人間が共存する場所。市警もあってなきがごとし」
女騎士「おかげで街の秩序は形骸そのもの。さらに、誰もが参加できる賭けバトル」
女騎士「そして夜の街で現れた未確認魔物と、そいつらの出どころである研究所」
女騎士「これらの要素から、あるひとつの仮説が立つ」
738:
戦士「そういえば。賭けバトルでは、死者が出ることもあるんだったね」
女騎士「ああ。あのスタジアムは研究材料確保の場であり、魔物実験の場でもあった」
女騎士「……まあ、まだ推測の域を出てはいないが」
戦士「素直に感心してしまったよ、ボクは」
戦士「キミはそこまで考えたうえで、賭けバトルに参加していたんだね」
魔物使い「いや、その可能性に気づいたのはオレっす」
魔物使い「この人はひたすら人間魔物問わず、ぶっ飛ばしてただけっす」
女騎士「貴様っ……!」
戦士「……話はあとにしよう、来るよ。
 まるで神話に出てくるケンタウルスのような魔物がね」
女騎士「スタジアムで戦ってわかった。奴の尻尾は機能してない」
戦士「尻尾は掴めるってわけだ」
739:
魔物使い「さあお二人とも! さっさと敵をやっつけちゃって!」
戦士「……なんで建物の影に隠れてんの?」
魔物使い「申し訳ねえ、戦いに関しては門外漢なんで。あっ、来るっす!」
戦士「そのキャラで戦わないとかアリなのっ!?」
魔物使い「オレ、こんなキャラでも頭脳派エリートっすから!」
魔物「ぐぅ……ううぅおおおおおっ!」
女騎士「とにかく構えろ。やるぞ」
戦士「それもそうだね」
740:

魔法使い(街の人たちを避難させるために、別れて行動することにした)
魔法使い(私、僧侶ちゃん、勇者、猫ちゃんグループ)
魔法使い(戦士、女騎士さん、魔物使いくんグループ)
魔法使い(とりあえずの最優先事項は、住民の避難のための時間稼ぎ。……なんだけど)
猫「自分はこの街の地理に明るいから、一人で大丈夫だって嘯いてみせたのににゃあ」
僧侶「予想できたことですけどね」
魔法使い「だね。勇者が見ず知らずの人に話しかけるなんて、想像できないもん」
魔法使い(勇者はみんなとわかれた瞬間に、人と話せないことを思い出して戻ってきた)
僧侶「しかし。どんな魔物がいるか、まったくわからない状況です」
魔法使い「うん。一人は危険だし、これでよかったんだよ」
勇者「……はい」
741:
魔法使い「それで、次は勇者が言ってた区画に向かえばいいんだよね?」
勇者「はい」
猫「腕っぷしが強い連中も少なくないからにゃあ」
魔法使い「うん。だから向かう場所の順番は考えないとね」
勇者「……」
魔法使い(……勇者。なんだか表情がいつもよりかたいかも)
魔法使い(やっぱりお姉さんと、ゴブリンさんのことが心配なのかな)
742:
ゴブリン『……つまり、危険な連中が現れたから逃げろってことか?』
魔法使い『はい。ゴブリンさんたちは、すぐに安全な場所へ』
姉『あなたたちはどうするの?』
勇者『……避難を、手伝う』
姉『いくらあなたが強いからって危険よ。どんな魔物かも、わかってないんでしょ?』
勇者『だけど、やらなきゃならない』
姉『……』
ゴブリン『……』
戦士『なんで一介の学生がそこまでするんだって、そう思うかもしれないけど』
戦士『今は事情を話してる時間すら惜しい』
女騎士『住民の避難は我々だけで行うわけではない。そこは安心してくれ』
魔物使い『そうっす! とにかく今は避難っす!』
744:
ゴブリン『ボウズ。お前は自分の考えを、口で伝えることが苦手だな』
勇者『そんなこと今は……』 
ゴブリン『そのくせ、顔や目には考えてることが思いっきり出ちまう』
ゴブリン『昔からそうだ、だからわかる』
ゴブリン『お前が本気でワシらのことを心配してくれてるのはな』
勇者『だったら……!』
ゴブリン『だがここはワシらの街だ。ほうっておくことはできん』
ゴブリン『ここには大切な思い出が、たくさん置いてあるからな』
勇者『……』
姉『ここは私たちが帰れる唯一の場所だから。私たちが守らなきゃ』
姉『この街は、この宿は、あなたを待つための場所でもあるから』
745:
姉『覚えてる? 昔、私に言ったこと。「自分は旅から旅の根無し草。帰る場所なんてない」って』
姉『正直に言うと、あのときね。私はなに言ってるのって思ってた』
姉『あなたが帰る場所はここにあるじゃない。ずっと待ってるんだから』
勇者『……姉さんって強引だよな、昔から』
姉『そうよ、強情っぱりなの。こうじゃないと、守りたいものも守れないし』
勇者『……わかった。この街を守ろう……いっしょに』
ゴブリン『そうこなくっちゃ!』
魔法使い(もちろん。お姉さんたちには、万が一の際には逃げてもらう)
魔法使い(騎士さんの仲間に、あとから来てもらう段取りもつけた)
魔法使い(落ち合う場所は、街の外れの広場だって決めた)
勇者「……」
魔法使い(でもやっぱり心配なんだよね、勇者)
746:
僧侶「どうやらこの区画は、全員避難済みのようですね」
魔法使い「よし。じゃあ、次のところへ……って、な、なに!?」
猫「じ、地面が!?」
魔法使い(宿の窓から見えた光と同じ!? ということは――)
?「お久しぶりです。勇者様」
魔法使い(間違いなかった。地面が光ったのは魔法陣が発動したから)
魔法使い(魔法陣から現れたのは、ローブに身を包んだ誰か)
勇者「その声、お前……」
僧侶「以前、別の意味でお世話になった占い師ですね」
?「これはこれは。覚えてくださっているとは、恐懼の極みでございます」
魔法使い「思い出したっ! あのときのインチキ占い師!」
747:
猫「リザードマン、サキュバスときて。次はお前か」
?「ええ。あの二人のしくじった分、私が取り返そうと思いまして」
勇者「猫。あのローブの占い師、魔王の手先でいいんだな?」
猫「そうだにゃん」
僧侶「目的はなんでしょうか? できれば、そこをどいていただきたいのですが」
?「それは無理な相談です。なぜなら、みなさんをもてなすように頼まれたので」
魔法使い「また魔法陣が!?」
僧侶「これは……」
猫「な、なんて数……!」
魔法陣(再び赤く光った魔法陣が運んできたのは、大量の魔物だった)
749:
魔物「ううぅ……」
?「この魔物たちは研究の過程で生まれた出来損ないなのです」
?「しかし数が多すぎまして。始末するのに手間取っているのが現状です」
猫「で、コイツらを俺様たちにけしかけるのか?」
?「このことが魔王さまに伝わるのは困るのですよ」
猫「やっぱりか。こんな命を弄ぶ所業、魔王さまが許すわけがないにゃん」
?「だから始末してほしいって頼んでるのですよ」
僧侶「どうします、勇者様?」
勇者「……」
魔法使い(まずい。いくら私たちでも、この数の魔物をたおすのは難しい)
魔法使い(それにまだ避難が終わってない場所もある)
750:
魔法使い「こうなったらやることは一つ――みんな、さがって!」
僧侶「なにを?」
魔法使い「いいからまかせて!」
魔法使い(こういうときに備えて練習してきたんだから、空間転移の術を!)
魔法使い(集中力を研ぎ澄まして。一瞬で頭に術式を描いて。魔法陣を造りあげる!)
勇者「ま、魔法使い? これは……」
?「ほう、すばらしい。これは立派な魔法陣だ」
魔法使い「この魔物たちを全員どっかへ吹っ飛ばしちゃう!」
魔法使い「いっけええええぇ!」
勇者「……」
僧侶「………」
猫「……」
魔法使い「……あ、あれ?」
751:
魔法使い「魔法陣が、発動しない……?」
?「残念ですね。てっきり、すばらしい魔法陣の展開が見られると期待したのですが」
?「待つ理由はありません。さあどうぞ、この魔物たちを始末してください」
魔法使い「う、うそ……し、失敗……?」
僧侶「魔法使い様。仕方ありません、今は通常の魔術で戦うしか」
猫「むしろ発動してたら、俺様たちまで飛ばされた可能性があるにゃん」
勇者「たしかに」
魔法使い「いいもんっ! こうなったら特大の火の球で!」
魔法使い「……あれ?」
魔法使い「あ、あれ? 魔術が発動しない……」
?「おやおや。どうしました?」
752:
魔法使い(たしかに魔力はひねり出した。あとは火球を放つだけ)
魔法使い(なんで? からだの中をめぐる魔力は感じられる。なのに)
猫「お、俺様まで術が使えない!?」
?「どうやらこの装置、本当に使えるようですね」
僧侶「……術が使えないのには、なにかタネがあるようですね」
魔物「ぐおおおおぉっ!」
勇者「さがって!」
魔法使い(ど、どうしよう。魔術が使えない私なんて……)
754:

魔法使い(勇者と僧侶ちゃんは魔物たちと、なんとか戦えていた)
魔法使い(勇者はもとから魔術を使わない。僧侶ちゃんは術のかわりにナイフで応戦していた)
魔法使い(だけど、魔術しか取り柄がない私は……)
?「さすが勇者とその仲間といったところですか」
魔法使い(あのローブ、さっきから勇者たちの戦いを静観してるだけ)
?「どうも面白みに欠けますね。これでは勇者様と出来損ないが普通に戦っているだけ」
?「勇者様。この街には、あなたが懇意にしている存在がいるとか」
勇者「……?」
?「宿の主であり、すばらしい人格者らしいですね」
?「人間や魔物といった種族による差別をしない存在、このご時世ではめずらしいことこの上ない」
勇者「なんでお前がそれを?」
756:
?「これでも占いを生業にしてたこともあるので」
?「それからもうひとつ。彼らはこの街にいる、そうですね?」
勇者「……」
?「宿の場所は、わざわざ言う必要はありませんね」
?「それより。あなた方が落ち合うことになってる場所、こちらのほうが重要でしょうか?」
勇者「お前、まさか……」
魔法使い(ハッタリじゃない。この人は私たちの行動を把握してる)
?「私はべつに、なにもするつもりはありません」
?「しかし。往々にしてなんの前触れもなく訪れるものですよね、不幸というのは」
魔法使い(本気でまずい。私たちの状況もそうだし、ゴブリンさんたちも……!)
?「さあ勇者様、どうしますか?」
765: はい◆N80NZAMxZY 2014/11/18(火)22:42:20 ID:RTXIuDwGN
魔法使い(この中の誰かが、ゴブリンさんたちのもとへ行くべきだけど)
魔法使い(魔術が使えないこの状況では、魔物を食いとめきれない)
勇者「……ここはまかせてください」
魔法使い「え?」
勇者「ここはまかせて。宿に向かってください」
魔法使い「だけど」
?「ほう。この状況をひとりでどうにかできると?」
勇者「たのむ。あの二人は、俺にとって……」
僧侶「行きましょう魔法使い様。勇者様は強いですから、いい意味で」
魔法使い「でも……」
魔法使い(勇者にはこの状況を打破する手段があるってこと? それでも……)
魔法使い(って、どっちにしても今の私は役立たたず。だったら)
767:
魔法使い「……勇者。あの二人は私たちが必ず護るから」
僧侶「やられてはいけませんよ、勇者様」
猫「安心しろ。勇者には俺様がついているにゃん」
魔法使い「うんっ。勇者のこと、おねがいね」
魔法使い(今は私にできることをやるしかない)
?「大切な人のためなら、自分の命すら惜しくない。さすがは勇者様だ」
?「自己犠牲の精神とはいついかなる時もすばらしい」
勇者「勘違いするなよ。自己犠牲なんかじゃない」
?「つまり、この劣勢をひっくり返すと?」
勇者「ああ。それに俺は知ってるからな、戦いのあとのチーズスープのうまさを」
?「では、見せてもらいましょうか。勇者様のご活躍を」
769:

魔王「呼んだ覚えはないが」
姫「ええ、私も呼ばれた覚えはないわ。ここに来たのは私の勝手」
魔王「……待て。なぜ近づいてくる」
姫「話をしたいの。顔を見て、目を見て」
魔王「とまれ。近づく必要はない。この空間は特殊そのもの」
姫「そうね。大きな声を出さなくても、どういうわけか声は届く」
姫「でも、それではダメなの。あなたの表情が見えないもの」
魔王「……」
姫「目は口以上に真実を雄弁に語る、と教えられたことがあります」
姫「あなたが話すことが不得手なのは百も承知。それでもいいから」
姫「私とお話してください」
771:
魔王「……その前に。ひとつ聞きたい、その歩き方はなんだ?」
姫「歩き方? こうやって大股で歩くと気合が入ると思って」
魔王「てっきり股でも痒いのかと」
姫「……最低ね、あなた」
魔王「よくわからんな」
姫(近づけば近づくほどにわかる。魔王の全身からあふれる魔力が、覆いかぶさってくるような感覚)
魔王「……」
姫「……」
姫「あなたの顔、近くで見たら怖いのね。頭の中の言葉が、全部吹き飛んでしまったわ」
魔王「はあ?」
773:
魔王「もしかして、それは冗談か?」
姫「ごめんなさい。冗談ではないけど。ごめんなさい」
魔王「……それで? 余と話したいこととはいったい」
姫「あなたは言ったわね。人間を魔物の支配下におき、共存に近い形を実現すると」
魔王「ああ」
姫「今、この世界では魔物は駆逐されようとしている。人間の手によって」
魔王「そうだ。無意味な抵抗だと揶揄し、我々のことをレジスタンスと呼ぶ輩もいる」
姫「でもあなたは、勝機が全くないとは考えていない」
姫「それだけじゃない。人間に勝利したその先の先まで考えている」
姫「だから私をさらった」
774:
姫「私の勝手な予想だけど。あなたが目指す世界には、モデルがあるんじゃないかしら?」
魔王「なぜそう思った?」
姫「魔王でありながら、人間のことを恐ろしいって言ってのけたあなただもの」
姫「いろいろと私たちについて、調べているんでしょう?」
魔王「正解だ。ただし半分、だが」
姫「半分?」
魔王「モデルとなった街は存在する。だが、その街も余の目指すべきものには程遠い」
姫「でも、あるのよね?」
魔王「……なにが目的だ?」
姫「見せてほしいの。あなたが目指しているものを、私に」
776:
魔王「余が目指すものを、その目で確かめようというのか」
姫「そうよ。自分の目で見たいの、確かめたいの」
魔王「それは、つまり……」
姫「?」
魔王「そなたは余のやろうとしていることが正しいのか、見極めたいということだな?」
姫「いいえ、ちがうわ」
魔王「解せんな。では、なんのために?」
姫「誰かの出した答えの、答え合わせがしたいんじゃない」
姫「見つけたいの。自分で、自分なりの答えを」
魔王「自分なりの答え……」
778:
魔王「だがその答えの行き着く先が、余と同じ道だとしたら?」
魔王「そなたはどうする? 迎合するのか? 結論を捻じ曲げるのか?」
姫「それも考えた。けど、わからないわ」
姫「だって少なくとも、あなたは勇者をたおそうとするのでしょう?」
魔王「余の目的において、勇者は最大の障がいのひとつ。片づけねばならん」
姫(そう、それだけは阻止しなければならない、必ず)
魔王「……見つめられても、その、困る」
姫「私の癖なの。言葉に詰まったとき、ついつい人の目を見てしまう」
魔王「……」
姫「あなたは逆ね。目があうと、必ず視線が泳ぐ」
780:
魔王「そなたが言ったとおり、目は雄弁に語る。迂闊に視線を合わせるのは危険だ」
姫「目があうと緊張するだけでしょ」
魔王「断じてちがう」
姫「今さら強がっても。って、今は目線の話は置いておくとして」
姫「私に見せてください。あなたの目指す世界の、ほんの断片でもいいから」
魔王「……」
姫(魔王は一瞬だけ視線をそらしかけて、でも最後には私と目線をあわせた)
魔王「いいだろう」
姫「本当に?」
魔王「なぜそこまで驚く?」
姫「いえ、だって。こんなあっさりと承諾してくれるなんて、思わなかったもの」
魔王「……。だが条件がある。
 勇者のことを、なんでもいい。余に話せ」
 
781:
姫「私、彼についてはそれほど詳しくはないわよ?」
魔王「知っている。だからなんでもいいと言っている」
姫「……あなたに似ている」
魔王「魔王である余と勇者が?」
姫「人見知りなところや、口下手なところ」
姫「もっとも彼は、あなた以上にコミュニケーションが苦手だけど」
魔王「いや、もっと他にないのか?」
姫「そんなことを言われても」
魔王「勇者に似ていると言われるのは、いささか以上に不快だ」
姫(同族嫌悪、とは言わない方がよさそう)
姫「……そうね。これは私の勝手な予想、勇者にはあなたのような意思はないのかも」
784:
姫「魔王。あなたは自分たちの世界を、よい方向へ導こうとしてる」
姫「勇者は勇者で、あなたをたおそうと命懸けで戦ってる」
姫「でも、それだけ。自分の役割は魔王をたおすことのみ。その先は知らないって」
魔王「勇者の発言とは思えんな」
姫「それに、彼はこんなことも言ってた」
姫「まだ完全には決まってないけど、やりたいことがあるって」
魔王「その内容は知らないのか?」
姫「聞いたけれど、恥ずかしかったのかしら。答えてはくれなかった」
魔王「……さっぱりわからんな、勇者というのは」
姫「あなたにはあるの? やりたいって思うこと」
魔王「考えたことすらない。目指した世界のその向こう側、その先の自分など」
785:
姫「すこし、似てるのかしら」
魔王「どちらなんだ? 勇者と余は結局、似てるのか似てないのか」
姫「今のは勇者のことじゃなくて。似てるって思ったのは……私のこと」
魔王「姫、と?」
サキュ「魔王さま。失礼します」
魔王「……卿が来たということは、奴らは来たのだな?」
サキュ「はっ。すでに準備は整っております」
魔王「わかった」
姫「どこへ行くの?」
魔王「決まっている。戦いだ」
787:
姫(あっという間に魔王は出て行ってしまった)
姫(広い空間に残ったのは、サキュバスと私だけ)
サキュ「姫さま。あまり長い間、ここにはいないほうがいいよー」
姫「待って。あなたたちはどこへ?」
サキュ「魔王さまが言ってたでしょ、戦いだって」
姫「戦いって……」
サキュ「そう。人間と私たち魔族の闘い」
サキュ「魔王さまが目指してるのはさ、ある種の人間と魔族の共存だけど」
サキュ「魔族と人間だもの。どうやったって争いは避けられないよねえ」
姫「……」
サキュ「じゃあね、姫さま。今夜は早く寝てちょうだいね」
788:

姫(あのやりとりから、数時間)
姫(いつもは魔物の気配であふれてるこの城も、凍ってしまったみたいに静か)
姫(もちろん、もぬけの殻ってことはないでしょうけど)
姫(戦い……まさか勇者と?)
姫(でも魔王の傷は、まだ癒えてはいないはず)
姫(ここまで慎重を期してきた魔王が、万全じゃない状態で挑むとは思えない)
姫(……)
789:

?「すばらしい。これが勇者さまの力」
猫(……これが、勇者?)
 魔物がまた一匹、勇者によって振り下ろされた剣によって消滅した。
 切り裂かれたなんて生易しいものではない。文字通り、消滅したのだ。
勇者「無駄だ」
 勇者の言うとおりだった。
 鳥の肉体に蛇の頭部をもった異形の魔物は勇者に飛びかかったが、触れることさえかなわない。
 見えない壁に阻まれたように、魔物はあっさりと地面を転がった。
?「これが勇者の力。そして、『勇者の剣』の力……」
 勇者が再び剣を振り抜く。それだけの動作だったのに。
 波のように空気が揺らめきわずかに遅れて空間が爆ぜる。
 
 魔物の群れが為すすべもなく、吹き飛ばされていく。
 たったひとりのこの男によって。
791:
猫(あれだけの数が……)
 魅せられていたのか、自分は。
 失せかけていた時間の感覚がようやく蘇ったときには、すでに魔物は全滅していた。
猫(そうだ、これが勇者なんだ)
 これまでの旅で生まれた疑問は、今、氷解した。
 なぜこの勇者が魔王と渡り合えたのか。単純な話だ。強いのだ、勇者は。
 この勇者の力は――たしかに魔王の敵となる。
?「本気の勇者さまには役不足でしたね、この程度の魔物たちでは」
勇者「まだやるのか」
?「いいえ、さすがにもう駒は尽きてしまいました。
 それに。勇者様のおかげで片づけは済みましたので」
?「ですが、不思議ですね。どうしてあなたは、今までも本気を出さなかったのでしょうか?」
勇者「……」
792:
?「そして、もうひとつ疑問が」
?「なぜ勇者さまは、今すぐに私に襲いかからないのでしょうか?」
猫(たしかに。こんなやりとりの前に、勇者なら行動不能にすることぐらい……)
?「まあ、いいでしょう。あなたをたおす役目は私じゃない」
?「機会があればまたお会いしましょう、勇者さま」
猫(魔法陣が再び光る。ヤツは溶けるようにあっさりと消えてしまった)
勇者「……ぷはぁっ!」
猫「うわっ! なんで急に座りだすにゃん?」
勇者「バテてる場合じゃないな、さっさとゴブリンたちのとこへ行かないと」
猫「わけがわからん。今のお前の強さはいったい?」
勇者「今のは俺の力であって、俺の力じゃない」
猫「わかるように説明してくれにゃん」
794:
勇者「……まあ、いいか。走りながら説明する」
勇者「普段から俺は本気だ。イレギュラーなのは、今回の俺のほうだ」
猫「『勇者の剣』が関係してるってことか?」
勇者「そう。この剣、簡単に言うと自分の魔力を溜めることができるんだよ」
勇者「普段からすこしずつ、自分の魔力を溜めておく」
猫「で、ここぞって場面でぶっぱなすわけか、その魔力を」
勇者「極端に簡単に説明すると、そんな感じ」
猫(極端に簡潔に説明してるのは、剣の秘密を守るためだろうにゃあ)
勇者「だけど、おそらく今度ので剣に注いでおいた魔力はゼロになった」
勇者「さっきの戦いや魔王戦のときの俺は、言ってみればある種の奇跡だ」
勇者「ったく、焦りすぎた。冷静じゃなかった」
795:
勇者「そのうえ、魔術が使えなかった原因はわかっていない」
猫「しかも、その剣にたよると体力的にも追いこまれるみたいだにゃあ」
勇者「魔力の負荷が極端にかかるからな。からだがついてこない」
魔物「ぐるあああぁっ!」
猫「さらにタイミング悪いことに、新手だにゃん」
勇者「この状況で!」
猫(さっきまでの強さが嘘みたいだ。誰が見ても、フラフラの状態)
猫「もう一度、似たようなことはできないのか?」
勇者「それができるなら、今までだって『勇者の剣』は大活躍だよ」
796:
猫(この状況。俺様はどうするべきか)
魔物使い「ならっ! ここはオレの出番っすね!」
勇者「魔物使い!?」
魔物使い「勇者さんのピンチにかけつけるオレ、マジでグッタイミング!」
勇者「えっと……」
魔物使い「大丈夫っすよ。自慢じゃないけど、オレ自身は戦えないんすよ」
猫(なにしに来たんだコイツ)
魔物使い「オレには最高の相棒がいるんで――ゴーレム!」
魔物「がはっ――」
猫(突如空から降ってきた人間サイズの土人形が、魔物にのしかかった)
797:
勇者「これって……」
魔物使い「どうです、強いでしょう? オレの相棒のゴーレムっす!」
魔物使い「生物に限りなく近い、人工生命体。土の戦士っす」
猫(ぱっと見は人間の形をした泥人形だが、そこそこ強いみたいだな)
魔物使い「ていうか聞いてくださいよ」
魔物使い「戦士さんと女騎士さんに、役立たず呼ばわりされたんすよ」
魔物使い「悔しすぎて、宿に隠していたコイツを連れてきちゃいました」
魔物使い「いやあ。しかし、ひとりで魔物だらけの街を歩くの、めっちゃ怖かったっすよ」
勇者「……待った。宿に行ったの?」
魔物使い「そうっすよ。あっ、二人のことなら大丈夫っすよ!」
魔物使い「用意したゴーレム、実は三体いたんで宿にも置いてきたっす」
猫(どこに隠してたんだよ、このゴーレム)
798:
勇者「じゃあ、あの二人は……」
魔物使い「大丈夫っすよ。騎士さんの仲間も来てましたし」
魔物使い「ていうか、なんで勇者さんは一人でいるんすか?」
勇者「ああ、それは……」
猫(そこから先を、なぜか勇者は口に出さない)
魔物使い「ゆ、勇者さん!? し、しっかり!」
猫「これは……」
勇者「……」
猫(『勇者の剣』を使ったせいなのか。それともべつの理由なのか)
猫(勇者はそのまま気絶してしまった)
824: はい◆N80NZAMxZY 2014/11/27(木)05:38:19 ID:Vxf

魔法使い「さすが僧侶ちゃん! また魔物をやっつけちゃった」
僧侶「魔法使い様。ひどいことを申し上げてもよろしいですか?」
魔法使い「なあに?」
僧侶「けっこうジャマです、いい意味で」
魔法使い「……ですよねえ。魔術を使えない私なんて」
僧侶「隠れていてください。なるべく早く終わらしますから」
魔法使い「……ごめんなさい」
魔法使い(魔物が突然動きをとめた。私の術とちがって、僧侶ちゃんのは発動してる)
魔法使い(それだけじゃない。身のこなしも私なんかより全然軽い、魔物を次々とたおしていく)
魔法使い(それに比べて私ったら。足を引っ張ることしかできない)
魔物「ううぅ……」
僧侶「キリがないですね、これでは」
825:
魔法使い(これじゃあ宿にたどり着く前にやられちゃう。どうすれば)
戦士「芳しくないようだね、二人とも」
女騎士「あれだけ捌いたのに、まだ湧いてくるのか」
魔法使い「戦士! 女騎士さんも!」
戦士「僧侶ちゃん。キミはすこし休んでいていいよ」
僧侶「だいたいの状況は把握されてるようですね」
戦士「もちろん。ボクらも魔術が使えなくなって、あたふたしてたからね」
戦士「魔法使いは術を使えなくて、お手上げ状態ってとこかな」
魔法使い「……そうだけど」
戦士「まかせてよ。ここはボクと女騎士が片づけておくよ」
魔法使い「だけど、術が使えないんじゃあ……」
戦士「術が使えなくても剣がある。剣が折れたら拳を。拳が砕けたら足を」
戦士「まあ見てなよ、このボクの活躍をね――いこうか」
女騎士「貴様に言われるまでもない」
827:
女騎士「貴様ら魔物の存在はこの街にとって害悪だ。容赦はしない」
魔法使い(なんて素早い! でも、空を飛ぶ魔物に剣だけで挑むなんて……あっ!)
魔法使い(突き立てた剣を足場に。さらに足を絡めて魔物を地面に叩き落して――もう一本の剣で仕留めた!)
戦士「久々に見たけどキミの戦い方はすごいね。マネできないよ」
女騎士「鍛えたからな。あの男に徹底的に打ちのめされたのを機に」
女騎士「そういう貴様こそ。魔術の訓練は相当したようだな」
戦士「そうかい? 昔からボクの腕はピカイチだよ」
魔法使い(戦士は戦士で魔術なしでも、魔物を圧倒してるし)
戦士「最後はあのグリフォンもどきか。けど、ここからじゃ届かないな」
女騎士「魔物め、臆病風に吹かれたか」
戦士「おっかない女が下で待機してるからね」
女騎士「おっかない? 二人とも、そんなふうには見えないが)
戦士「……キミってときどきボケるよね」
828:
僧侶「あの魔物、私が引き摺りおろします」
魔物「――っ!?」
魔法使い(突然魔物が、重力に引き寄せられるように落ちてくる。僧侶ちゃんの術?)
女騎士「よくやってくれた」
魔法使い(あとは一瞬だった。落ちてくる魔物を、騎士さんは容赦なくたたき伏せた)
戦士「お見事。だけど僧侶ちゃん。どうしてキミだけは術を使えるの?」
僧侶「わかりません、試してみたら普通に使えたので。それより」
魔法使い「そうだよ! 早くゴブリンさんたちのところへ行かないと!」
魔物使い「それなら大丈夫っすよ!」
女騎士「魔物使い、無事だったか。
  ……お前がおぶってるのは勇者か?」
魔物使い「そうっす。それから、ゴブリンさんたちなら無事っす。騎士さんの仲間が駆けつけてくれました」
829:
魔物使い「ついでに。オレってば大活躍だったんすよ。なんてたって……」
戦士「キミの話はまた今度だ。勇者がまた気絶してるのはどうして?」
魔物使い「詳しくは知らないっす。合流したときには、すでにバテバテでしたし」
僧侶「おそらく、大量の魔物を一人で相手するために相当の無茶をしたのかと」
女騎士「一人で? なぜそんなことを?」
魔法使い「私たち、頼まれたんです。ゴブリンさんたちを護るため、私たちには宿に向かってくれって」
女騎士「宿のゴブリンは、勇者とは懇意の間柄だったか」
戦士「それで盛大にムチャしたわけだ、大切な存在のために」
女騎士「……この男にも、そんな一面があるんだな」
戦士「オッケー、状況はわかった。勇者が一肌脱いだんだ、ボクもがんばらせてもらうよ」
女騎士「ああ。残りの魔物も始末するぞ」
魔法使い(みんな、がんばってる。なのに私は……)
830:

勇者(物心着くころには俺は勇者だった)
勇者(自覚があったわけじゃない)
勇者(ただ流されるまま、俺は勇者をやっていた)
勇者(子どものころは、師と仰ぐべき人間と様々な場所を転々としていった)
勇者(すべては強くなるため。強くなって魔王をたおすため)
勇者(強くなって。強くなって魔王をたおして、そのあとは――)
勇者「……んっ」
猫「ようやくお目覚めか、勇者」
勇者「からだ中が痛いうえに頭がぼうっとしてる」
勇者「ていうか待て。状況がわからない、説明してくれ」
勇者(猫の説明を聞いてるうちに、俺の記憶はゆっくりと蘇ってきた)
勇者(俺が気絶してから、すでに一日以上が経過していること)
勇者(街に現れた魔物は全員たおし、怪我人もほとんど出なかったそうだ)
831:
勇者「そうか、ゴブリンも姉さんも無事か」
猫「あれだけの騒ぎがあったのに、何事もなかったようにやってる店まである」
猫「この宿もそうだ。いつもどおりだにゃん」
勇者「病院だと思ってたけど。思いっきり宿だな、ここ」
猫「なんでもありの街だにゃん、本当に」
勇者「お前の言うとおり、メチャクチャな場所だ。でも、いい街だろ?」
猫「よくわからん」
魔物使い『勇者さーん、入るっすよー」
勇者(ノックと同時にドアを開けんな。ノックの意味がないだろうが)
魔物使い「なんだ、起きてるなら返事してほしいっすよ」
勇者「……ノックの音で目が覚めたもんで」
魔物使い「図らずとも心のノック」
勇者(……なに言ってんだコイツ)
832:
勇者(俺は魔物使いから診察のようなものを受けた)
勇者(アホっぽい口調のせいで忘れがちだが、コイツはエリートなんだった)
魔物使い「ぶったおれたときはどうしようかと思ったんすよ、マジで」
魔物使い「でも、よかったすねえ。オレのおかげで勇者さん、助かったんすから」
勇者(それについては感謝する。ただ自分で言うな、自分で)
勇者「……そういえば、みんなは?」
魔物使い「……その前に、話しておきたいことがあるっす」
勇者(なんだ?)
魔物使い「えっと、いい話と悪い話の両方があるんすよ。どっちから聞きたいっすか?」
勇者「悪い話」
魔物使い「おかしいっすよ! 普通、こういうのはいい話から聞くもんっすよ!」
勇者(じゃあ普通に話せよ)
833:
勇者「……じゃあ、先にいい話のほうを」
魔物使い「よくぞ聞いてくれました。なんと、見つかったんすよ」
勇者(なにが?)
魔物使い「魔王城っす」
勇者「魔王城が……!?」
魔物使い「まあ落ち着いてくださいよ、悪い話のほうがまだっす」
勇者「悪い話のほうは?」
魔物使い「魔王城を見つけた部隊、それが全滅したっす」
勇者「……」
844: はい◆N80NZAMxZY 2014/11/29(土)00:21:58 ID:Wqh

戦士「魔王城から魔物の群れが出てきたのを、偵察用のワイバーンが確認した。教会からの情報だ」
戦士「断言はできないけど、こちらに向かっている可能性は濃厚だよ」
勇者「……」
戦士「『マジかよ』って顔に書いてあるね。マジだよ」
勇者(俺が眠っているあいだに、状況はとんでもないことになっていた)
戦士「敵は攻めこまれる前にこちらを潰すつもりだ」
女騎士「現在、集められる限りの市警やギルドの人間で対策を講じている」
女騎士「だが。その善後策が焼け石に水なのは明らかだ」
戦士「正規の部隊を編成するには、まだまだ時間がかかるだろうしね」
女騎士「しかもここ数日、各地で魔物が暴れていたからな」
女騎士「けっこうな人数を制圧に駆り出したせいで、より部隊編成に手間取っている」
勇者「……オレたちは?」
戦士「本部もボクらの扱いについては、考えあぐねているのが現状だよ」
845:
女騎士「現時点で決まっているのは、私の部隊がこの街に残ることだけだ」
戦士「のんきに構えてはいられない状況だけど、かと言って下手に動くのもマズイ」
勇者「……そういえば、あの二人は?」
戦士「魔法使いと僧侶ちゃんは、二人でなにやら話し合ってるよ」
魔法使い「お待たせ」
戦士「うわさをしたらなんとやらだ。なにしてたの?」
魔法使い「魔術が使えなくなった件について、話してたの」
戦士「そうだった、今は普通に魔術が使えるんだよねえ」
僧侶「敵は『この装置は使える』的なことを口にしました」
戦士「あのあと、魔物使いのゴーレムと一緒に街中を捜索したんだよね」
戦士「結局、それらしい手がかりは見つからなかったけど」
勇者(戦力にならない魔物使いは、すでに本部に呼び戻されて街を出ている)
846:
魔物使い『ひどいっすよ! たしかに、戦いに関してはてんでダメっすよ?』
魔物使い『でも、オレは頭脳派なんで。そのうち大活躍する予定っす』
魔物使い『次の登場では、きっとみなさんビックリするっすよ!』
勇者(……みたいな感じで、あの暑苦しい野郎とはわかれた)
戦士「で、なにかわかったのかい?」
魔法使い「制限されない魔術があるのは間違いないと思う」
魔法使い「たぶん、制限できる魔術はオーソドックスなもの」
戦士「つまり、武器や人体の一部を媒介にして発動するものってこと?」
魔法使い「より正確に言うと、媒介にしたものから魔力を放出するものだね」
女騎士「なるほど。私のような剣に魔力を流しこむだけのものは制約されない、そういうことだな?」
魔法使い「ええ。まだ予想の範疇を超えないけど」
女騎士「その考えに至った根拠を知りたい」
僧侶「あのとき、私の術だけは使用できたからです」
勇者(そういえば、僧侶の術の仕掛けって謎のまんまだな)
847:
僧侶「私の術は、媒介から空間へ放出されることはありませんから」
女騎士「おかしいな。私の知る癒しの術とは、魔力を対象にぶつけるものだ」
女騎士「正確な術のタネを知りたいんだが」
僧侶「私の術については、お答えしかねます」
女騎士「なんだと?」
戦士「落ち着きなよ。僧侶ちゃんの癒し手としての腕は、国のお墨付きだ」
戦士「そうやすやすと教えられることでもないでしょ」
女騎士「……そのとおりかもしれん。すまなかったな」
僧侶「いえ、こちらこそ。申し訳ありません」
女騎士「私は部隊の方へ戻る。指揮系統の編成にもまだ不備があるからな」
勇者(数年前の女騎士なら、この場で剣を抜いてたかもしれない。いや、ないか)
849:
勇者(騎士が去って、四人だけが残った)
戦士「ボクが一番気にしてるのは、勇者。キミのことだ」
勇者「俺のこと?」
戦士「猫から聞いたよ。『勇者の剣』の大まかな能力。そして、それを使ったこと」
戦士「魔王のための切り札なのに、魔王と戦うために使っちゃったんだってね」
勇者「それは……」
魔法使い「敵が攻めて来ようとしてるのは、剣の魔力を使い切ったからかも」
僧侶「魔王への対抗手段が意味をなさない状況、敵にとっては願ってもない機会です」
勇者「……」
戦士「ヤバイね。これから魔王城に突貫するっていうのに」
勇者「は?」
850:
戦士「だから。ボクらで魔王城へ突撃するんだよ、これから」
勇者「だ、だけど」
戦士「敵に情報が漏れてる、でしょ。それを逆手に取る」
魔法使い「偽の情報を捕まえさせて、敵をかく乱するってワケ」
僧侶「そして。作った混乱の隙をついて、魔王を確実に叩く」
戦士「最悪、魔王をたおせなくても姫様は取り戻す。そういう筋書きだ」
勇者(俺が盛大に気絶してるあいだに、そこまでの段取りを?)
戦士「こちらに向かってる魔物の群れの規模は、中隊レベル」
戦士「これは、魔王軍の半分以上が駆り出されてると考えていい」
魔法使い「さらに各地で暴れていた魔物も含めれば。もうわかるよね?」
勇者「魔王城は手薄ってことか」
戦士「そっ。大チャンス」
勇者「でも、俺が言うのもなんだけど……剣の魔力、カラだよ?」
851:
戦士「把握してるよ。勇者が後先考えずに剣を使った結果だ」
勇者「……すんません」
戦士「でも、キミがそうした理由はキライじゃない。むしろ好感度はあがったよ」
勇者「はぁ」
魔法使い「剣のことだけどね。実はちょっと実験したの」
魔法使い「『勇者の剣』って、ようは勇者の魔力を溜めてるんだよね?」
魔法使い「だから、試しに私の魔力を剣に流してみた。どうなったと思う?」
勇者「溜めれたの?」
魔法使い「うん」
僧侶「私たちの魔力。それから騎士様や部隊の方々にも協力してもらいました」
勇者「……本当だ。魔力の蓄積、できてる」
戦士「問題はその魔力が魔王に効くのか、だけど。イケそう?」
勇者(俺はうなずいた。大丈夫なはずだ、この剣が媒介になっているのなら)
852:
戦士「オッケー、ここまでの風向きは決して悪くない。朗報は続くよ」
戦士「全滅した部隊の生き残りに魔術師がいるんだ」
戦士「その人が魔王城付近に魔法陣を展開してくれた。もちろん、隠蔽はしてある」
魔法使い「少し距離があるから、猫ちゃんは連れてく必要があるみたい」
僧侶「今の私たちは、ピンチとチャンスの狭間にいます」
戦士「運には見放されていない。でも、事態は切迫してる」
魔法使い「私たちがお腹の中で飼ってるスパイも、まだ割れてないしね」
戦士「まっ、以上のことを踏まえた上で。ボクら三人は魔王城への侵入を決めた」
勇者「……あとは俺次第か」
戦士「うん。勇者、キミはどう思う?」
勇者(少し考えた。そして、俺は戦士の質問に答えた)
853:

サキュ「小隊008、009が人間たちによって制圧されたと報告が入りました」
魔王「……また、同胞が逝ったか」
サキュ「……」
魔王「理解はしている。この犠牲無くして、悲願は達成されないと」
サキュ「魔王さま、すこし休まれた方がよろしいのでは?」
サキュ「勇者による傷もいまだに癒えてません。それに、先の戦いで体力の方も」
魔王「問題ない。なによりこの感情の昂ぶり。心もからだも休まろうとはしていない」
サキュ「……成功するでしょうか、あたしたちの策略は」
魔王「させなければならん。我らが悲願のため、犠牲になった命のためにも」
サキュ(……いつになく魔王さまの口数が多い。でも、それも当然ね)
サキュ(計算と修正を重ねに重ね、練った策略。でも、これはある種の賭け)
サキュ(あたしたちが賭けに勝てば――勇者は確実に殺せる)
855:

勇者(街の住民の避難はスムーズにこそいかなかったが、それでも進んではいた)
勇者(俺はギリギリまで安静ってことで、一旦宿に戻ってきていた)
猫「本気で魔王さまに挑む気なんだな、お前たちは」
勇者「そう決めたからな」
猫「今ならしっぽを振れば、魔王さまも許してくれるかも知れないにゃん」
勇者「振るしっぽがない」
猫「……」
勇者「あとはやるだけだ、やるべきことをな」
魔法使い「勇者! 報告が入ったよ!」
勇者「なんて?」
魔法使い「教会からの命令は『この街に待機して、魔物を迎撃すること』」
魔法使い「運がいいよ、私たち。これなら教会に嘘を流す必要ないし」
勇者(たしかに。黙って街を去るだけでいい)
856:
魔法使い「そうと決まればこっそりと……」
勇者「だ、大丈夫?」
勇者(よろけた魔法使いを、とっさに俺は受け止めた)
魔法使い「ご、ごめんね。ちょっと疲れてる感じかも」
勇者「そう、ですか」
勇者(よく見てみるまでもなく魔法使いの顔色は悪かった)
勇者(そういえば、ゴブリンと別れ際にした会話――)
ゴブリン『ボウズ、お前にはいろいろ教えておきたいことがあるんだがな』
ゴブリン『また帰ってくるんだろ? そのときは旨酒を酌み交わそう』
ゴブリン『話したいことがある。ああ、だがこれだけは今言っておく』
ゴブリン『魔法使いのお嬢ちゃん。あの子、意気消沈してるだろ?』
ゴブリン『わからない? ……お前もオトコだろ?』
ゴブリン『困ってる女がいたら助けてやれ。
  ……理由? そんなもんいるか、クソ食らえだ』
857:
勇者(正直、俺にはよくわからないんだよな。でも)
勇者「あの、もしかして……落ちこんでる?」
魔法使い「へ? な、なんで?」
勇者「えっと、言ってた……その、ゴブリンが」
魔法使い「……なにそれ、ゴブリンさんに言われたから気づいたってこと?」
勇者「そう、なりますね。はい」
魔法使い「まあ、そうだよね。それでこそ勇者だよ」
勇者「あ、どうも」
魔法使い「ほめてない」
魔法使い「……私、前の戦いでまったく役に立たなかったでしょ? それで……」
勇者(なるほど、それで落ちこんでたのか)
勇者(……それで。こういうとき、どんな言葉をかけたらいいんだ?)
858:
勇者「……」
魔法使い「そんなに見つめられても、困っちゃうんだけど」
勇者「……剣の修行を始めて一年ぐらいがたったとき、だったと思う」
魔法使い「え?」
勇者「師匠の提案で、いきなりギルドの訓練に参加させられたんだ」
魔法使い「……うん」
勇者「当時は子どもだったし、怖いもの知らずの俺は魔物の群れに挑んだ」
勇者「もちろん、あっさりと返り討ちにあった。大怪我もした」
勇者「ギルドの連中には、当然叱られた。人生初の挫折だったと思う」
勇者「だけど叱られたおかげで、ギルドの人たちと、すこし仲良くなれた」
魔法使い「……」
勇者「……」
859:
魔法使い「……もしかして、なぐさめてくれてる?」
勇者「そのつもりだけど。……元気、出た?」
魔法使い「出ない。ていうかそれ、全然なぐさめになってないし」
勇者(自分では頑張ったつもりなのに。むずかしいな)
魔法使い「元気は出ないし、なんか逆に脱力しそう」
猫「聞いてる俺様まで、力が抜けそうにゃん」
魔法使い「でも、よかったかも。おかげで肩の力も抜けた気がする」
魔法使い「変ななぐさめ、ありがとね」
勇者「……どういたしまして」
戦士「話は終わったかい?」
勇者「うおっ!?」
僧侶「教会の報告も来ました。ここからは迅な行動が求められます」
勇者(お前ら、いたんかいっ)
860:
戦士「今度勇者には、ボクが女性の口説き方を教えてあげるよ」
勇者(いや、べつにいいんだけど)
戦士「まっ、冗談はここまでにしておこう」
僧侶「ええ。魔王城の前に、まずは魔法陣にたどり着かなければいけません」
魔法使い「いよいよ、だね」
猫「そうだにゃん」
戦士「――さっ、行こうか」
勇者(これが最後の戦いになるなら、俺はみんなに言うべき言葉があるのでは?)
勇者(だが、かけるべき言葉は見つからない。それだけじゃない)
勇者(このイヤな感じはなんだ。まるで、これからとんでもない間違いを犯してしまうような、そんな予感)
勇者(これからの戦いに対する緊張が、思考を悪い方向へと誘導しているのか?)
勇者(考えても答えは見つからなかった)
勇者(俺は黙って、みんなの背中へとついていった)
871: はい◆N80NZAMxZY 2014/11/30(日)22:46:46 ID:Aq2

戦士「ここまではスムーズに来れたね。順調すぎてコワイけど」
僧侶「今のところ、魔物との交戦も数回のみ。計画どおりとも言えますが」
勇者(魔王城への侵入はあっさりと成功した)
勇者(猫という案内人がいた。敵の裏をかく手段もあった)
勇者(だとしても、事が順調に運びすぎているように思える)
魔法使い「追っ手も来てるし。ここに来て引き返すのは無理だよ」
戦士「二手にわかれるって手もなくはない」
僧侶「しかし。二手にわかれた状態で、魔王と対峙することになったら?」
戦士「最悪だね。戦うことも、逃げることもかなわなくなる」
勇者(敵を撒けることができるのは、猫が城の中身を把握していたおかげでもある)
魔法使い「猫ちゃん、どこかに裏道的なものはないの?」
猫「首輪の爆破で脅す。道案内をさせる。俺様をこき使ってくれるにゃん」
872:
猫「まあ、裏ルートは存在する。それで魔王様の居場所へ、最短でたどり着ける」
魔法使い「本当!?」
猫「だが、理解しているか? ここは魔王さまの城で、俺様はお前たちの敵」
猫「裏切りのタイミングとして、今がもっとも適した状況にゃん」
戦士「ここまで来たんだ。裏切るつもりなら、裏切ればいい」
僧侶「どっちにしても、ここで燻っているのが一番危険です」
猫「泥沼にはまる覚悟で、俺様に頼るわけだな?」
魔法使い「うん」
猫「勇者。お前もそれでいいんだな?」
勇者(猫の黄金色の目がはっきりと俺をにらんだ)
勇者(こんな状況だ。全員の判断力が曇ってないとは言い切れない。もちろん、俺も)
戦士「ここは敵の腹の中だ。過ぎた時間の分だけ、ボクらの状況は悪くなる」
勇者「……わかった。みんなと同じ意見で」
勇者(いいのか、本当にこれで?)
873:
猫「この壁に隠し通路がある」
魔法使い「……ホントだ。でも、狭いね」
猫「あくまで隠し通路だからにゃん。さあ、行くぞ」
戦士「自分から先陣を切るとはね」
猫「戦士。どうせお前は、俺様に先頭を歩かせるつもりだったにゃん」
戦士「すこしはボクのことを理解してるみたいだね。っと、急がないとね」
僧侶「ええ。追っ手はすぐそこまで迫っています」
勇者(暗く狭い通路を急ぎつつも、慎重に進んでいった)
魔法使い「ここは……」
勇者(隠し通路を抜けた先にあったのは、真っ白な空間だった)
戦士「それで? ここからはどうやって進めばいい?」
猫「どうやって、だと?」
875:
魔法使い「猫ちゃん? どうし……っ!」
戦士「な、なんだ!?」
勇者(前触れはなかった。見えない力が、覆いかぶさってくるような感覚)
勇者(気づけば全員、地面に膝をついていた――猫を除いて)
勇者「……っ! 猫、お前……!」
猫「最後に確認したはずだが? 俺様を信用していいのか、と」
勇者(からだが動かない。それだけじゃない。いつの間にか空間が、黒い霧に覆われている)
勇者「なんのつもりだ……!?」
猫「勘違いしてないか? 俺様は敵だ。お前と最初に出会ったときから、今日までずっと」
猫「敵は排除する。まして、魔王さまの脅威となり得るなら、なおさら」
僧侶「危険です……この状況で、魔王が現れたら……!」
猫「ここに、魔王さまはいない」
勇者「な、に……!?」
猫「そもそもここは、魔王城なんかじゃない」
876:
魔法使い「魔王城じゃない、って……そんな、ことって……」
猫「すべてはこの瞬間のためだ」
猫「今までのすべてが、この結末へ導くための布石だったにゃん」
勇者(そうだ、気づかなきゃいけなかったんだ)
勇者(全滅した部隊の生き残りが魔法陣を残した。これからして都合がよすぎた)
勇者(そんなものが残せた時点で、おかしいじゃないか)
勇者(猫が俺をたおそうとした計画にしたって、疑問に思ったじゃないか)
勇者(『しっかし、ずいぶんずさんな計画だよなあ』)
勇者(『もっと有利になる展開、いくらでも作れそうなのに』)
勇者(あの計画の本当の狙いは、俺たちのパーティーに潜りこむことだった?)
猫「勇者、覚えてるか? 俺様が話した『奥の手』のこと」
勇者「……」
猫「お前はこう返したな――『お前には足しかついてないぞ』と」
猫「この霧が俺様の『奥の手』だ。お前たちはもう、詰みだ」
877:
戦士「これぐらいで、ボクらがやられるとでも?」
猫「そうだな。俺様ではお前たちを殺すことはできないだろう、普通にやればな」
猫「なぜこんな場所にお前たちを連れてきたのか、わかるか?」
僧侶「まさか……!」
猫「そう。お前たちは死ぬんだ、この城とともに」
魔法使い「そんなことをしたらあなたまで!」
猫「わかりきったことを。もちろん俺様もここで死ぬ」
勇者「なんで……」
猫「命を賭けてまで魔王様の力になろうとする、か?」
猫「お前の顔はそんな顔だな、勇者。口には出さないのに、すぐに顔に出る」
猫「何度も言わせるな、あの方の邪魔はさせない。誰であっても、絶対に」
勇者(まずい。空間を満たしているのは霧と高密度の魔力だ)
勇者(おそらくこの魔力は、城を爆発させるためのもの)
878:
魔法使い「っ……!」
勇者(魔法使いは指一つ動かせない。転移の術を使って逃げるのは無理だ)
勇者(そして城を満たすほどの規模の魔力)
勇者(城から脱出でもしないかぎり、俺たちが助かる見込みはない)
勇者(考えろ、考えるんだ! 考えて、なにか手段を……!)
魔法使い『「勇者の剣」って、ようは魔力を溜めてるんだよね?』
魔法使い『だから、試しに私の魔力を剣に流してみた。どうなったと思う?』
勇者(――イチかバチかだ。これに賭けるしかない)
猫「もう遅い。なにをしてもムダだ」
勇者「……猫。言ったはずだ、ぞ……!」
猫「……」
勇者「優位に立ったぐらいで浮き足立つような奴に、俺はたおせないって、な……!」
勇者(動け……っ! すこしだけでいい、ほんのわずかでいいから!)
勇者「――うごけええぇっ!」
 黒い霧が裂け、そこから現れた真っ白な光が勇者の瞳を射抜いた。
879:

猫(これで、俺様の一生も終わりか)
猫(自分がこんなふうに死ぬなんて、まったく、笑えないにゃん)
猫(いや。考えてみれば、魔族としての始まりから、もう笑えないか)
猫(生みの親の顔も覚えてないくせに。魔王さまとの出会いは、忘れられない)
猫(あんな怖い顔してるくせに、俺様と出会ったときの目は丸かった)
猫(『そなたは余を目にしても、恐れおののかないのだな』なんて不思議そうだったな)
猫(魔族や人間どころか、この俺様とすら目を合わせることができない魔王さま)
猫(そんな魔王さまも、自分の願いを語るときだけは目を見て話してくれたにゃん)
猫(あの方はあんなコワイ顔のくせに。目はとっても綺麗なんだ)
猫(人間との戦争に敗れたあと、俺様たち魔族は何度も死にかけた)
猫(それでも生き残れたのは、ひとえに魔王さまが俺様たちのために戦ってくれたから)
猫(……いつからだろう。そんな魔王さまの力になりたいと思ったのは)
猫(いつからだろう。そんな魔王さまに憧れたのは)
880:
猫(俺様が勇者をたおすために、城を出ることを話したとき。あなたは怒った)
猫(なぜか俺様まで怒って、平行線のまま話は終わってしまい)
猫(結局城をこっそり出ることに決めた)
猫(でも、魔王さまは俺様のやることなんて見抜いていた)
猫(城を出る直前。なにも言わず、俺様にこの首輪をくれたにゃん)
猫(嬉しかった。なのに、俺様は意地になってなにも言えなかった)
猫(そして、勇者。はじめて会ったときから、変な奴だと思っていたにゃん)
猫(自分の使命に対しても曖昧な態度で、覇気も感じられなかった)
猫(なにより。お前は勇者とは思えないほど情けなかった)
猫(仲間と口をきけなくて死にかける。敵と話せなくて俺様に頼る。ああ、情けない)
猫(そのくせ、なにかの拍子に急に語りだしたりもするし)
猫(そういう部分は、すこし魔王さまに似ているのかもにゃん)
猫(……だから。気づいたら少しだけ、少しだけ親近感を覚えた)
猫(さらに。あの街で『勇者の剣』を振るったお前の背中。お前の背中に重ねてしまった)
猫(俺様たちを護ってくれた、魔王様の後ろ姿と)
881:
猫(うん。勇者と魔王さまは似てるようで似てないし。似ていないようで似ている)
猫(なんで死ぬ直前で、二人のことを考えてしまう?)
猫(……まったく。一番情けないのは俺様か)
猫(なんにもできない、動物でもない魔族でもない中途半端な存在)
猫(リザードやサキュに比べたら、俺様はただの役立たず)
猫(最期だ。この死に際が、みじめな一生をちょっとでも塗り替えてくれたら……いいにゃあ)
猫(俺様、すこしは力になれたか? にゃあ、魔王さま?)
猫(あぁ……もう一度だけ見たいにゃあ、魔王さまの顔)
猫(それから、勇者)
猫(お前とはちがうカタチで出会っていれば、もしかしたら――)
882:

魔法使い「……うぅっ……」
魔法使い(どう、なったの? からだが痛すぎて……視界も……)
僧侶「……目が、覚めま、し……たか?」
魔法使い「そ、僧侶ちゃん!? ち、血だらけ!?」
僧侶「あなたに、たくしま、す……」
魔法使い「僧侶ちゃんっ!?」
魔法使い(な、なにがどうなってるの!?)
戦士「……はぁはぁ……寝てる場合じゃないよ、魔法使い」
魔法使い「せ、戦士!?」
魔法使い(僧侶ちゃんと同じで、戦士も血だらけだった)
戦士「立て、る……? 立てるなら、にげろ……勇者を背負って」
魔法使い「な、なに言ってるの? それより……」
魔法使い(次の瞬間、理解した。戦士がどうして逃げろって言ったのか)
魔法使い(私たちを囲っている瓦礫の隙間から見えてしまった)
魔法使い(私たちは、大量の魔物によって包囲されていた)
883:
戦士「僧侶ちゃんが、ボクらを回復してくれた」
戦士「だけど……満身創痍のこの状況、全員で逃げるのは、無理だ……」
魔法使い「じゃあ、どうするの……!?」
戦士「だから、にげろ。勇者を背負って。……ボクがなんとか、時間をかせぐ」
魔法使い「それこそ無理だよっ! こんな数を相手に……!」
戦士「じゃあ全員、ここで死ぬのか!?」
魔法使い「……っ!」
戦士「あきらめるのかっ!? そしたら本当に終わりだぞ!?」
戦士「ここまでボクたちが旅してきたこと! その意味もなくなるぞ!?」
魔法使い「……で、でも、私は……」
戦士「安心しろ……女の子とした約束は、破ったことがない。ボクの自慢だ」
魔法使い(私は……私はまた、みんなの足を引っ張ることしかできないの?)
魔法使い(なんにもできないまま、みんなにまもられるだけ?)
884:
魔法使い(……僧侶ちゃんは、癒しの術を私に優先して充てた)
魔法使い(それは。私が転移の術を使えるから)
魔法使い(成功したことはほとんどない。でも、僧侶ちゃんは私に全てを託した)
戦士「魔法使い?」
魔法使い「戦士。ここは私にまかせて」
戦士「なに言ってるんだ!? 逃げろって……!」
魔法使い(私が引っ張らなきゃいけないのは足じゃない――手だ!)
魔法使い「……戦士。何度も言わせないでよね」
戦士「……?」
魔法使い「私、女の子って年齢じゃないでしょ?」
魔法使い(大丈夫。もう失敗なんてしない)
魔法使い「戦士。僧侶ちゃんと勇者のこと、頼んだからね」
885:

魔物「コイツは驚いたぜ。まさかあの爆発に巻きこまれて、生きてるとはな」
魔物「警戒して様子見してたのが、アダになっちまった」
魔法使い「すごいでしょ? 神様がまもってくれてるんだよ、私たちのこと」
魔物「取り残されてるあたり、嬢ちゃんは見放されてる気がするがな」
魔法使い「さあ、どうかな。それこそ神のみぞ知る、ってヤツじゃない?」
魔物「この状況でも笑ってられるとは」
魔物「将来、大物になるかもしれねえな。将来があれば、だが」
魔法使い「サイン書いてあげてもいいよ。グレムリンさん?」
魔物=グレムリン「残念だったな。俺は人間が死ぬほど嫌いなんだ」
魔法使い「そう? 私は嫌いじゃないよ、あなたたちのこと」
グレム「減らず口を。死ぬんだな、ここで」
?「いけませんよ、グレムリン。彼女は城へ連れてきます」
魔法使い「……インチキ占い師」
?「ふっ、またお会いしましたね」
895:

リザード「フェイクの城に誘いこんで、その城を勇者たちもろとも沈める」
リザード「こんな作戦が成功するなんてな。本気でつまらねえ」
サキュ「アンタね……。勇者と戦わずに済むんだし、めっけもんでしょ」
サキュ「……でも、奇妙なのよねえ」
サキュ「見通しでは跡形もなく吹っ飛ぶはずだったの、あの城」
リザード「んだよ、勇者たちが生きてる見込みがあるとかじゃねえのか」
サキュ「勘弁してよ。瓦礫の撤去作業も、中途半端な状態で終わっちゃったのに」
リザード「人間どもか」
サキュ「そっ、アイツら。城の爆発を確認してすぐに部隊を送ったみたい」
サキュ「勇者たちの変わり果てた姿が発見できたら、安心できたんだけど。ねっ、姫様?」
姫「……」
?「残念ながら、死体があの場所から発見されることはないかと」
サキュ「戻ってたの? ていうか、どういう意味?」
896:
?「あの場所から見つかったのは、魔術師一人だけだったのですよ」
?「しかも驚くことに。重傷を負ってはいるものの、命に別状はない状態です」
リザード「罠にはハマっても、そう簡単にはくたばらなかったか」
サキュ「……ほかの連中は?」
?「ご存知のとおり、痕跡の発見すら困難なのが現状です」
?「ですが、とらえた魔術師からある程度の情報は得られるかと」
サキュ「重傷なんでしょ? 拷問にかけるには厳しくない?」
?「ええ。ですから、サキュ様の水晶が大変役に立ちました」
サキュ「深手を負わせた今だからこそ、アレが役に立ったってことね。それで?」
?「転移の術を使って、ほかの三名は逃がしたそうです」
サキュ「じゃあ、痕跡すら見つからないって……」
?「ええ、見つからないでしょうね。飛ばされてしまったのですから」
サキュ「……先に言いなさいよ」
897:
リザード「勇者は生きてるってことか。いいねえ」
サキュ「喜ぶなっつーの、もうっ」
サキュ「勇者たちがどこへ飛ばされたか、その情報は引き出せたわけ?」
?「それが、把握してないようです。術者本人も彼らをどこへ飛ばしたのかは」
?「ですがご安心を。すでにグレムリンが動いています」
リザード「で? その魔術師はどうするんだ?」
?「そうですね。まだまだ利用価値は……」
姫「その魔術師の方に会わせて」
サキュ「……今まで口を閉ざしてたと思ったら。急になに?」
サキュ「あたしらが姫様の言うことを聞くと思って?」
姫「頼みを聞き入れてくれないなら、死にます」
サキュ「……は?」
898:
姫「外の世界を知らない私だけど、死出の旅路につく覚悟ならあるわ」
サキュ「あっさりと言ってくれるけどさ、姫様」
サキュ「自分の言ってることの意味、わかってるの?」
姫「箱入り娘の戯言だと思っているのでしょう? 私の能力よ」
姫「いかなる状況にあろうと、死を迎え入れることができる。自分の意思で」
サキュ(意思だけで死ぬことができる能力。あたしたちも知ってはいた)
?「なるほど。あなたの能力が、第三者に悪用されないための措置ですか」
サキュ「……能力、ね。それって、意思がなければ死ねないってことでしょ?」
姫「私に死を選ぶ覚悟がないとでも?」
サキュ(まさしく箱入り娘の戯言。以前のように一笑に付せばいいだけのこと。なのに)
サキュ(あたしたち三人の魔族は、笑い飛ばすことはできなかった)
899:
?「……いいでしょう。あなたに死なれては困りますからね」
姫「それから。きちんとした手当も」
リザード「おいおい。俺らはテメエの小間使いじゃねえ、わかってんのか」
姫「はい。でも、おねがいします」
リザード「頭を下げられてもな。そんな雑用にゃ、どうせ俺は関わらねえ」
サキュ「……ワガママっぷりがずいぶん板についてきたのね、姫様」
姫「箱入り娘は、おとなしく箱に収まっていろ。私にそう言ったのはあなたよ」
姫「だから、箱の中でせいぜい羽を伸ばさせていただきます」
サキュ「……あっそ」
サキュ(それだけ言って、あたしらは姫様の個室を出た)
900:
リザード「そういえば。あれから魔王さまはどうしてんだ?」
サキュ「わかんない。一人にしてくれって言われたから、あたしも」
リザード「猫のことか」
サキュ「かもね。……全然話ちがうけど、アンタって妹とかいる?」
リザード「いねえけど。それがどうかしたか?」
サキュ「ふと思いついただけよ」
サキュ(そう、素直にムカついた。だけど、不思議な気持ち)
サキュ(反抗期の妹がいたら、こんな気持ちになるのかしら)
リザード「……なにニヤニヤしてんだ?」
サキュ「ニヤニヤ? あたしが?」
 
リザード「ああ。気持ちわるいぞ」
サキュ「……はじめて言われた」
リザード「あ?」
サキュ「気持ちいい、しか言われたことないから」
901:

魔法使い「――し、新記録っ!」
姫「きゃっ!?」
魔法使い「……あ、あれ?」
姫「……」
魔法使い「……」
姫「えっと……目は覚めたようですね?」
魔法使い「ひ、姫様!? え!? ど、どうして姫様が!?」
魔法使い「私、自分の部屋で辞典ドミノをやってたはずなのに……!」
姫「あの、それはたぶん、夢よ?」
魔法使い「脳みそがシェイクされたみたいで、混乱してる……」
魔法使い(こんがらがった頭の中を整理するのには、すこし時間がかかった)
902:
姫「あなたは勇者たちを逃がしたのね。転移の術を使って」
魔法使い「でも。成功したって確証はないし、勇者たちの安否も不明です」
姫「大丈夫。勇者は無事よ」
魔法使い「え?」
姫「私たち王族には、特殊な能力が宿ること。あなたは知ってるわね?」
魔法使い「は、はい。細かいことについては、存じてませんけど」
姫「人と心を通わせる能力があるの、私には」
魔法使い「……」
姫「……やっぱり信じられない?」
魔法使い「そ、そんなことはないですっ。ただ……」
姫(唐突すぎて、困るってところかしら?)
魔法使い(はい、そうです。……え?)
魔法使い「ええぇっ!?」
903:
姫「能力を実際に使用してみました。口で言っても伝わらないでしょうし」
魔法使い「ご、ごめんなさい。私、さっきから驚いてばっかりで」
姫「気にしないで。私も不慣れな説明しかできないし」
魔法使い「つまり、こういうことですね?」
魔法使い「姫様は今の能力を用いて、勇者と心で話して生死を確認した」
姫「ええ。でも、確認できたのは生きてることだけ。会話はできなかった」
魔法使い「ひょっとして、今の能力にはなんらかの制限があったりしますか?」
姫「そのとおり。いくつかの条件がそろって、はじめて心の会話ができるの」
魔法使い「……でも、よかったです」
姫「魔法使い?」
魔法使い「私、コワくて。一歩間違えてたら、勇者たちを死なせてたから……」
魔法使い「すみません、泣いちゃったりして……ひ、姫様!?」
姫「ごめん、なさ、いぃ……もらい泣き……。今まで、ずっと一人で……」
姫「心細かった、から……親交のある、あなたが来てくれて……よかった……」
904:
姫「……ぐすっ、泣いてる場合じゃないわね。魔法使い」
魔法使い「はいっ!」
姫「これまであったできごと。あなたの知ってる範囲で、もう一度教えてください」
魔法使い「あ、その前に確認したいことが。よろしいですか?」
姫「どうぞ」
魔法使い(杖はない。魔術も……使えなくなってる。『柔らかい街』のときと同じ)
魔法使い(そして。この部屋から出ることも……できない)
魔法使い「お待たせしました。それでは、話しても大丈夫ですか?」
姫「ええ、おねがい」
魔法使い(できるかぎりコンパクトにして、私は姫様に旅であったことを話した)
905:
姫「私たち人間側に、魔族の息のかかった者がいる」
魔法使い「はい。そのせいで先手を取られっぱなしで……」
姫「……」
魔法使い「姫様?」
姫「 」
魔法使い(唐突に、姫様は一人の名前を挙げた)
姫「その人がスパイです。おそらく、間違いないはずです」
魔法使い「……今の話でわかっちゃったんですか、犯人?」
姫「ええ。だって……」
魔法使い(姫様の説明は短かった。その短い説明で十分だった)
魔法使い「こんな簡単なことに気づけなかったなんて……」
姫「そんなに落ちこまなくても。私が気づけたのはたまたまよ」
魔法使い「……ホント、私ってダメだなあ」
姫「魔法使い?」
906:
魔法使い「ここのところ失敗ばかりで。みんなに助けてもらう一方で」
魔法使い「愚痴ってる場合じゃないって、わかってはいるんですけど」
姫「でも、あなたは今ここにいる」
魔法使い「……」
姫「命を賭けて勇者たちをまもったから。そうでしょ?」
姫「むしろ、なにもできてないのは私」
魔法使い「姫様……」
姫「だけど、ウジウジしていたってなにも始まらない」
姫「なにもできない私だけど、やってみようと思います。できることから」
魔法使い「……そうだよ。私だって決めたんだから……!」
魔法使い「姫様。協力してください、おねがいします」
姫「はいっ。私にできることなら、なんでも」
魔法使い(私たちは、次になにをすればいいのか。それは――)
907:

勇者(朝起きて、真っ先に目に入ってくるのは丸まった猫だった)
勇者(その次に、俺より先に起きている僧侶と朝の挨拶をして)
勇者(戦士は俺と同じぐらいに目を覚ますことが多かったかな)
勇者(魔法使いが目覚めるのは、決まっていつも最後だった)
勇者(でも、今は俺一人。あるのは硬いベッドの感触だけ)
勇者(仲間をいなくなった。みんなは生きていのか。わからない)
勇者(そう。俺は今、一人ぼっちなんだ)
女騎士「勇者。からだの調子はどうだ?」
勇者「……」
勇者(訂正。一人、知り合いがいる)
911: はい◆N80NZAMxZY 2014/12/03(水)03:36:26 ID:CB5

勇者(魔法使いの転移の術によって、再び『夜の街』へと戻ってしまった)
勇者(重傷だった俺を、偶然見つけたのが女騎士だった)
女騎士「教会には、貴様のことは伝えていない。そう貴様が望んだからだ」
女騎士「だが、そろそろ事情を話してもらいたんだが」
勇者「まだ話せない」
女騎士「またそれか。貴様と再開して、今日で四日目だぞ」
勇者「……とりあえず道具屋に行ってくる」
女騎士「道具屋? なぜ?」
勇者「……」
女騎士「おい、私の質問に答えろ」
勇者「えっと、あとで答えるから。ついてくるな」
女騎士「待て。だいたい誰がこの宿を教えたと――」
912:

店主「どうですか? こちらの剣なんかは、なかなかのものだと思うのですが」
勇者「あー……」
店主「不満なようで。では、こちらのほうが?」
勇者「いやあ……」
店主「これなんか、月の下で振ると素晴らしいきらめきが拝めますよ?」
勇者「いや、その。そういうことでは……」
店主「じゃあ、これですね。作った人間はいい仕事をしている」
勇者「うーん……」
勇者(城が爆発する直前。俺は『勇者の剣』を使って、魔力を吸収した)
勇者(そして、爆発の瞬間に合わせて、魔力を放ち爆発を相殺した)
勇者(だが。ここに転送されたときには、俺の手に剣はなかった)
913:
店主「あのね、お客さん。聞けるワガママには限度があるんだよ」
勇者「す、すんません」
勇者(道具を選ぶときに店員と話すなんて、したことがない)
勇者(旅の最中は、道具選びは魔法使いにまかせてたからな)
店主「時は金なり。こっちの時間をとったんだ、物で返してほしいね」
勇者「えっ? それは……」
勇者(なんて理不尽。さすがアナーキー街)
勇者(……猫がこの状況を見たら、また俺を馬鹿にするんだろうな)
女騎士「道具屋になにしに行ったのかと思って、来てみれば」
勇者「……騎士。ついてきたのか」
店主「ふんっ。国の忠犬が来るような場所じゃないよ、ここは」
女騎士「言われるまでもない」
女騎士「それに。この男に剣を握らせたいのなら、もっとデキのいいものを揃えるんだな」
店主「じゃあ、他所に行きな」
914:
勇者「武器、買えなかった」
女騎士「そんなことより、さっきの話の続きだ。今度こそ話してもらうぞ」
勇者「トイレに行きたい」
女騎士「話をそらすな」
勇者「……」
女騎士「目をそらすな」
勇者「んー……」
女騎士「腰をそらすな。というか早く話せっ!」
勇者(今の俺には武器がない。しかも満身創痍。始末するには絶好の機会)
勇者(俺と騎士の再開から四日。騎士がスパイだとしたら、とっくに俺は――)
勇者「……わかった。がんばって話す」
女騎士「普通に話せ。
 まあいい、立ち話もなんだ。どこか適当な店に入るぞ」
915:

女騎士「身内に敵がひそんでいる、か」
勇者(女騎士に事情を話すのには苦労した。時間もかかった)
勇者(説明を戦士がしていたら、時間は十分の一に短縮されただろう)
女騎士「それで。私が敵である可能性を考慮して、事情を話さなかった、と」
勇者「まあ、そうなる」
女騎士「こういう感覚は久々だ、腸が煮えくり返りそうだ」
勇者「……」
女騎士「この私が魔物の手先? たわ言もたいがいにしろ」
女騎士「奴らは人類にとっての敵、悪だ。この地上から駆逐しなければいけない存在だ」
勇者「……なんで?」
女騎士「なんで、だと?」
勇者(しまった。思わず聞いてしまった)
916:
女騎士「魔物によって、どれだけの人間が苦しんだと思っている?」
女騎士「魔物が人々に残した傷跡、その深さは貴様も知っているだろう?」
勇者「……」
勇者(俺は旅の中で様々な世界を見てきた。そして、それは騎士も同じ)
勇者(だから、騎士が言ってることは決して間違ってはいない)
女騎士「勇者。貴様の使命は魔王をたおすことだ、ちがうか?」
女騎士「あと一歩のところまで来ている。あとは、魔王を抹殺するだけ」
勇者「……でも魔物たちは、人間のせいで追いつめられている」
女騎士「当たり前だ、追いつめているのだからな」
勇者(なんで俺は苦手なコイツと話そうとしてるんだ? そもそも、なにを……)
女騎士「……さっきから、なにが言いたい?」
勇者「いや、だから俺は……」
917:
勇者(そういえば、戦士に言われたことがあったな)
勇者(勇者は言葉が出てこないくせに、話しかけられたら、慌てて返答しようとするって)
勇者(コミュニケーションが苦手な人間は、やりがちらしい)
女騎士「また黙りか」
勇者「……すこし、待ってほしい」
女騎士「……?」
勇者「……俺は言葉を引き出すのが下手だ。ダメなんだ」
勇者「時間をかけないと。会話ができない。だから……」
女騎士「……かまわない」
勇者「え?」
女騎士「貴様が話下手なのは、戦士から聞いている。待ってやる、話せ」
勇者(しかし、話せと言われても。自分でも言おうとしてることが、見えてこないし)
勇者(……たしか魔法使いは、人の顔や目を見て話せとか言ってたな)
918:
勇者(女騎士は口調こそアレだけど、見た感じは意外と落ち着いてるな)
女騎士「……むぅ」
勇者(あっ、ちょっと眉毛が動いた。すこし機嫌が悪くなったか?)
勇者(これが僧侶だったら、全然表情の変化とか読めないんだろうな)
女騎士「まだか? さすがに長いぞ」
勇者(思考がまとまらない。ていうか、無意識にアイツらのことを考えて……)
勇者「……ああ、そうか。そういうことか」
女騎士「答えが出たようだな」
勇者「考えた。考えたけど、考えがまとまらない」
女騎士「……人を待たせて、出た結論がそれか」
勇者「でも、おかげで見つけた。次にやるべきことを――教会に行く」
女騎士「お、おい。またお前は話の途中で……!」
勇者(そうだ。立ち止まってる場合じゃない。動け、無理してでも)
919:

サキュ「……」
?「……」
サキュ「……どういうことよ、これ? あたしの目、おかしくなった」
?「だとしたら、私の目も心配ですね」
サキュ「冗談言ってる場合じゃないっつーの。どういうこと、これ!?」
?「見てのとおりです。姫様と魔術師が部屋から消えてます」
サキュ「魔術封じの装置は使ってたんでしょ!?」
?「ええ。ついでに言えば、この部屋の扉には監視用の兵もつけておりました」
サキュ「だーもうっ! じゃあ、あの二人どこに言ったのよ!?」
929: はい◆N80NZAMxZY 2014/12/07(日)01:55:13 ID:Z4A
?「この部屋のどこかに隠れている、というのが一番望ましいのですが」
サキュ「隠れるような場所はこの部屋にはない」
?「と、なると。転移の魔術でここから脱出した、という線が濃厚でしょうね」
サキュ「ありえない、って否定したいわあ」
?「残念ながら目の前で起きたことは事実です。……おや?」
サキュ「なに? なにかあったの?」
?「……失礼、気のせいだったようです」
サキュ「ああんもうっ。期待させないでよ」
サキュ「ていうか。さすがにこれは、魔王さまに報告しないと……!」
?「ええ、まずいでしょうね」
サキュ「とりあえず行ってくる。アンタも来てよね」
?「すこし遅れます。念のため、部屋のチェックをしておきたいので」
930:
◆二十分前
姫『魔法使い、その腕はいったい!?』
魔法使い『細かい説明をすると、長くなってしまうから簡単に説明すると』
魔法使い『この部屋は現在、ほとんどの魔術は使うことができません』
魔法使い『なぜか。魔力が肉体の外から放出されること、それ自体が封じられてるから』
魔法使い『だけど抜け道はあります。たとえば、転移の魔術』
魔法使い『この術に魔法陣が必須なのは、言うまでもありませよね?』
姫『……それであなたは腕にあらかじめ、魔法陣を仕込んでおいた、と』
魔法使い『はい。これなら魔力が外に放出されることもありませんから』
姫『魔術の使用には媒体が必要。だから自分の腕を媒体にした。そういうことね?』
魔法使い『はい。刺青の要領で、僧侶ちゃんに魔術式を施してもらいました』
姫『それ、きっと痛いでしょう?』
魔法使『魔力を流すと、ちょっとだけ。でも、これで脱出ができます』
931:
姫『それで私は城に戻り、私が為すべきことを為す』
魔法使い『私はなんとかして、みんなと合流します』
魔法使い『時間がないです。もしかしたら、また私にチェックが入るかもしれません』
姫『そうね。急がないと』
魔法使い『実家で転移の術の練習はしてたんで、魔法陣は残ってます』
姫『あなたの家は王都にあったわね』
魔法使い『ええ。姫様を私の家に。私は『柔らかい街』に飛びます』
魔法使い『私の両親にこれまでのいきさつを話せば、あとはスムーズに行くと思います』
姫『……』
魔法使い『姫様?』
姫『すこし、魔王のことが気になって。ごめんなさい、今はそれどころじゃないわね』
魔法使い『いえ……じゃあ、先に姫様からどうぞ』
932:

姫(そして私は、魔法使いの魔方陣によって転送された)
姫(まずは彼女の両親に事情を話して……って、あれ?)
サイクロプス「今なんっつった!?」
男性「だからテメエの占いは当たらねえんだよっ! このひとつ目野郎がっ!」
サイクロプス「二つ目があったって豪快にハズすお前よりはマシだっ!」
男性「ああ!?」
サイクロプス「あああっ!?」
ハーピー「この前もらった入浴剤なんだけど、アレまだある?」
女性「また欲しくなった?」
ハーピー「もちろん、タダじゃない。例の洞窟についてってあげる」
女性「仕方ない。それで手を打ちましょうか」
姫(魔族と人間が……ここはどこなの?)
933:
姫(もしかして、魔法使いの術がなんらかの形で妨害された?)
姫(と、とにかく落ち着いて。そう、こういうときは教会に……)
オーク「どこ見てんだ、おい」姫「え? あっ……」
オーク「あっ、じゃないなんだよ嬢ちゃん」
姫「そ、その……私は……」
オーク「いきなりぶつかっておいて謝罪もなしか。あー、痛いなあ」
姫「ご、ごめんなさい。私の不注意で……」
オーク「おせえよ。んなことより、今退屈してんだよなあ。なあ?」
オーク「この街の人間じゃないだろ? 案内ついでに『イイコト』しようぜ」
姫「あ、あの……」
ゴブリン「やめておきな。そのお嬢さん、怯えているだろ」
オーク「……ゴブリンかよ」
937:
オーク「俺はただこの嬢ちゃんに、街の魅力を知ってもらおうと思っただけだぜ?」
ゴブリン「それなら、まずはその手をはなしたらどうだ?」
オーク「……チッ、人間に媚び売って楽しいのか?」
ゴブリン「なんとでも言え」
オーク「クソが」
姫(それだけ言い残すと、オークは去っていった)
ゴブリン「お嬢さん。怪我はしてないか?」
姫「あ、はい。その……ありがとう、ございました」
姫(ど、どうしよう。頭が混乱してる……)
姉「だいじょーぶ。この人は顔はコワイけど、とっても優しいから」
姉(今度はゴブリンの背後から、女の人が出てきた)
姫「え? あ、はい」
ゴブリン「お前なあ。……ところでお嬢さん。困ってることがあるなら力になろう」
938:

姫(いまだに混乱した状態のまま、私は宿へとお邪魔した)
姉「もしよかったら、どうぞ」
姫「チーズスープ……」
姉「お口に合うかはわからないけど」
ゴブリン「ワシにもくれるか」
姉「あなた、出かける前にも食べたわよ?」
ゴブリン「ダメか?」
姉「まさか。食べてくれる人がいなきゃ、作りがいがないもの」
姫(この二人は……)
姫「……いただきます」
ゴブリン「どうだい? スープの味は?」
姫「おいしい……」
ゴブリン「だろ? うちのチーズスープは、どこのチーズスープよりもうまいんだ」
姫「はい。本当においしいです……!」
940:
姉「よかった。だいぶ顔色もよくなってきたわね」
姫「その、助けてもらったうえに、お食事まで……」
ゴブリン「なに、困ってるときはお互い様だ」
姫「……あの、一つ質問してもよろしいですか?」
姉「ええ、どうぞ」
姫「この宿はお二人で営んでいるのですか?」
姉「ええ。なんだかんだ二人でやってきて、もう何年になるかしら」
姫「あるのね。本当に、この世界には」
ゴブリン「ん?」
姫「……ごめんなさい、なんでもありません」
姉「……あら、目が覚めたのね。おはよう」
姫(あの人は……)
944:
◆三日後
神父「まもなく、この街に本部専属の癒し手が到着するはずです」
勇者「あ、はい」
神父「しかし勇者様。また傷も癒えてないのに、ここ数日ずっと街の外へ行かれているようですが」
勇者「あ、はい」
神父「今日もまた街の外へ?」
勇者「あ、はい」
神父「……他にこちらに報告しておくことは?」
勇者「あ、はい。……って、そうじゃなくて」
勇者「診断書、あの、三日前に提出した……。あれ、本部に届いてますよね?」
神父「はい、それは間違いなく」
勇者「それから……ボクが一人で行動していることは?」
神父「そちらも報告には抜かりありません」
勇者「……では、今回の報告はこれで」
神父「了解しました。勇者様に神のご加護があらんことを」
946:

勇者(そういえば。教会への報告って、旅をはじめてから一度もしてなかったな)
勇者(旅に出る前も、報告書の提出だけして神父様とは話さなかったし)
勇者(みんなにまかせっぱなしだったな、ほとんど)
勇者(……さて、とりあえず街を出るか)

勇者「今日もいい天気だーそしてこれから隣の街にいくぞー」
勇者「森の中を歩くのはイヤだけどガンバるぞー」
勇者(こんな感じでいいか)

勇者「あーひとりで森の中にいると孤独をひしひしと感じてしまうなあ」
勇者「誰か俺とおしゃべりしてくれる人いないかなあ」
魔物「してやろうか、勇者さんよお?」
勇者「……誰?」
魔物「俺か? 知りたいのなら教えてやる。俺は魔王さまに仕えし魔族」
魔物「グレムリン。グレムリン・ジョー・ジェンガ・ジェイフォンだ」
947:
魔物=グレムリン「口数はすくないって聞いてたが」
グレム「ずいぶんひとり言が多いな、お前」
グレム「クソチキン野郎なんだろ。まともに口がきけないんだってな?」
勇者「……」
グレム「人間の男は愚図しかいねえな、やっぱり」
グレム「傑作だぜ。こんな奴が魔王さまに挑もうとするなんて――よ!」
 風が裂ける音が聞こえたときには、すでに勇者の腹は蹴り飛ばされていた。 
 威力は決して強くはないが、はやい。
 単純な度なら、今まで勇者が戦ってきたどの魔物よりも。
グレム「なんだよ。からだがボロボロのまんまってマジなのかよ」
勇者「……」 
グレム「今テメエが一人なのは、スパイを警戒してるからだろ?」
グレム「だから治癒の術も受けてねえ。そしてこの状況だ」
グレム「ハッ、勇者。魔王さまにかわって、俺がテメエを排除してやるよ」
948:
勇者「……ああ、ようやくわかった。お前、そっくりだな」
グレム「あ?」
勇者「どっかの猫に、だよ」
グレム「ワケのわかん……って、おいっ! 逃げんのかよっ!」 
 すでに勇者はグレムリンに背を向けて駆け出していた。 
 ここ連日、足を運んでいたおかげで、森の大まかな地形は把握できていた。
グレム「どこの勇者が敵に背中を見せんだよっ!」 
 もちろん敵の罵倒には答えず、とにかく逃げる。
 だが、なかなか敵を引き離すことができない。
 もともと素早さでは敵に分があるうえ、こちらが満身創痍のせいもあるのだろう。
グレム「なんだよ。もう逃げるのも無理か」
 あっさりと勇者はグレムリンに追いつかれた。
グレム「俺はな、人間が死ぬほど嫌いなんだ。まして勇者なんていうのはな」
グレム「というわけで――」
949:
 勇者が身構えるよりも先にグレムリンは跳躍していた。
グレム「――死ね」
女騎士「お前がな」
 鈍く光る爪甲が、勇者を引き裂くことはなかった。
 生い茂る木々から躍り出た影が、グレムリンを容赦なく殴り飛ばす。
 完全な不意打ちだった。グレムリンは受身も取れず、地面に投げ出される。
グレム「なっ……なんだ!?」
女騎士「人間だ。貴様が憎み、軽蔑している」
勇者「……助かった」
女騎士「ふんっ。……こんな単純な手に引っかかるとはな」
グレム「伏兵がいたか」
女騎士「本来ならば、私は別の街へ移動しているはずだった」
グレム「命令を無視して、この街に残っていたのか」
女騎士「ああ。同僚や部下を言いくるめるのは、なかなか面倒だったがな」
勇者(俺からの提案だった。女騎士は渋々だが承諾してくれた)
950:
グレム「クソが。この俺がノロマな人間ごときに」
女騎士「身軽さには自身があるようだが。頭の中まで軽いとはな」
グレム「何…だと…?」
女騎士「エサを与えればすぐ食いつく。魔物、貴様と獣とのちがいはなんだ?」
グレム「……久々に本気で殺してえと思ったぞ、人間」
女騎士「そう思うなら、かかってこい」
グレム「…………いや、やめておく」
勇者(やらないんかいっ。いや、そのほうがいいんだけど)
グレム「で? わざわざこんなリスクを負ったのは、俺から情報を引き出すためか?」
勇者「そうだ。お前が知っていること、洗いざらい吐いてもらう」
グレム「ことわる。言っただろ、俺は人間が死ぬほど嫌いなんだ」
グレム「死んだほうがマシだ、人間の言いなりになるぐらいならな」
951:
勇者「どうして?」
グレム「あ?」
勇者「なんでお前は人間を嫌う? 理由があるのか?」
グレム「決まってる。テメエら人間のせいで、恋人を失ったからだ」
勇者「……」
女騎士「人間に殺されのか?」
グレム「……ちげえよ」
勇者「じゃあ、いったい」
グレム「フラれたんだよ! いちいち言わせんなっ!」
女騎士「は?」
グレム「いいところ見せようと思って、恋人の前で人間にケンカ売ったんだよ!」
グレム「ボコボコにされたわ! そのあとフラれたわっ!」
グレム「『人間に勝てないようなダサい野郎は嫌い』ってなあっ!」
女騎士「完全に自業自得だな」
グレム「黙れぇ! 俺は悪くねえっ! 俺は悪くねえっ!」
952:
勇者「……」
グレム「その目はなんだ。『勇者でモテモテな自分にはわからねえな』的なアレか!?」
勇者「生まれてこの方、俺には恋人なんていない」
グレム「……マジか」
勇者「それどころか友達もいない」
グレム「嘘だろ?」
勇者「嘘であってほしいよ、俺も」
グレム「情けねえツラのわりに、鋼の精神力だな……すげえわ、尊敬するわ」
女騎士「……いつまでこのやりとりを続ける気だ? 目的を忘れたのか?」
勇者「わかってる。さて、今度こそ話してもらうぞ」
グレム「……俺はフラれたかわりに、ある答えを見つけられた」
女騎士「なんの話だ?」
954:
グレム「醜態をさらしたから、俺は愛する女にフラれた」
グレム「だから、俺は死に物狂いで修行した。そして身につけた。すべてはダサい姿を見せないため」
女騎士「立ち向かってくるか? それもよかろう」
グレム「自分より強えヤツからは逃げる」
女騎士「は?」
グレム「そうすりゃ俺はダサくねえ! あばよっ!」
女騎士「なっ!? 待てっ!」
勇者(なんてすばやい。ていうか、身につけたのは逃げ足のはやさかよ)
女騎士「追うぞ、と言いたいところだが。とんだ土産を置いてったな」
魔物「……」
勇者「コイツら。『柔らかい街』のときと同じ……」
女騎士「正体不明の魔物か。しかし、なんて数だ」
955:
女騎士「勇者。そのからだで戦えるのか?」
勇者「……こういう場合、戦えなくても戦わないといけない」
女騎士「ごもっともだ」
勇者(だけど今の状態では、騎士の足手まといにしかならない)
勇者(さらに、この数。どうすれば――)
女騎士「来るぞ」
魔物「ぐあああぁっ!」
勇者(考えてる暇はない。とにかく今は戦うしかない)
 「友達はいない、か。寂しいことを言ってくれるね、勇者」
勇者(すっかり聞き慣れた声が聞こえてきたときには、魔物は宙を舞っていた)
勇者(魔物を吹っ飛ばしたのは、地面から飛び出した突起だった)
戦士「まっ、友達かどうかはともかく、ボクらは仲間だろ。勇者」
勇者「戦士……」
964: はい◆N80NZAMxZY 2014/12/08(月)21:42:44 ID:PHB
戦士「しかし、キミにしてはずいぶん無茶なことをしたね」
勇者「一人、なのか?」
戦士「いや。ボロボロな勇者のために、素敵な癒し手を連れてきたよ」
 「勇者様! 構えてくださいまし」
勇者「え?」
女騎士「油断するな。私たちは魔物に囲まれてるんだぞ」
勇者「う、うん」
勇者(俺に襲いかかろうとした魔物を、女騎士はあっさりと切り伏せた)
僧侶「相変わらず勇者様は気が抜けてますね……いい意味で」
勇者「僧侶……無事だったんだな」
僧侶「おかげさまで」
戦士「さて。再会の喜びを噛みしめる前に、まずはコイツらをけちらすとしようか」
女騎士「言われるまでもない」
965:

戦士「思いのほか、あっさりと終わったね」
女騎士「しょせんは時間稼ぎのための捨て駒だったのだろう」
勇者(さすが。頼もしいな、この二人がそろうと)
僧侶「勇者様、座ってください。街に戻る前に応急処置しますので」
勇者「あ、はい」
戦士「しかし、勇者は本当にボロボロだね。無茶なことをしたもんだよ」
僧侶「その無茶のおかげで、こうして合流できたわけですけど」
女騎士「……どういうことだ?」
戦士「勇者がリスクを冒した目的は、敵をおびき寄せることだけじゃなかったんだよ」
戦士「教会に自分の居場所を伝えてボクらと合流する。これも目的の一つだった」
女騎士「勇者からは、そんなことは聞いていないが」
戦士「へえ、今回の作戦は勇者から持ちかけたんだ。意外だね」
勇者(なぜか目を丸くする戦士であった)
966:
女騎士「それより。二人は今までどこに潜伏していたんだ?」
戦士「僧侶ちゃんは『柔らかい街』で、ボクはとある港町」
戦士「実はボクと僧侶ちゃんが合流したのは、本当についさっきのことなんだ」
女騎士「勇者から話は聞いたが、どうして三人はバラバラの場所に?」
戦士「ボクの予想だけど。魔法使いの転移の術は、まだ不安定なんだと思う」
戦士「だから、今まで生成した魔方陣にバラバラに飛ばしてしまったんじゃないかな」
僧侶「おそらく様々な場所で、魔法使い様は空間転移の術を練習していたのでしょう」
勇者(そう。魔法使いがいなければ、俺たちの再開はありえなかった)
僧侶「あとの話は、街に戻ってからにしましょう。勇者様の回復もまだですし」
戦士「そうだね。だけどさあ、勇者」
勇者「?」
967:
戦士「生きるか死ぬかの崖っぷちからの再会だよ?」
戦士「もっとさ、喜んでくれてもいいと思うんだけど?」
勇者「あ、いや……その、うまく言えないけど。俺もよかった、って思ってる」
勇者「二人とも生きててくれて、本当に」
僧侶「戦士様。意地悪はそこらへんにしておいては?」
戦士「それもそうだね」
勇者「意地悪?」
僧侶「勇者様が心の底から、私たちの無事を喜んでくれてるのはわかっています」
勇者「そう、なの?」
戦士「キミはすぐに顔に出るからね、考えてることが」
戦士「真面目な話。生きて再会できたのは、本当によかった」
女騎士「……」
戦士「あっ、騎士。キミと再会できたのも、うん、喜ばしいことだ」
女騎士「お前、完全に私のことを忘れていただろ」
968:
戦士「だけど。ボクらのパーティーで、魔法使いだけがここにいない」
勇者「……」
戦士「そう、あのとき。ボクが彼女をまもらなきゃいけなかったんだ」
戦士「……もしかしたら、魔法使いは魔物たちに捕らわれたのかもしれない」
戦士「だが、そうだとしても。彼女は必ず取り戻す、絶対に」
勇者(そういえば、前に魔法使いから聞いたな。戦士が今回の旅に参加した理由)
勇者(名門貴族の生まれながら、九人兄弟の末っ子の戦士)
勇者(昔から周囲に相手にされなかったから、幼い頃に家を出て、ギルドに加入した)
勇者(周りに認めてもらうため。今回の旅も、自分の名をあげるため)
勇者「……そうだな。四人そろわなきゃ、勇者パーティーじゃないもんな」
戦士「そういうことっ」
僧侶「……あの、今思い出したのですけど」
勇者(めずらしく、僧侶が気まずそうに視線を泳がせた)
僧侶「魔法使い様は無事です」
969:

戦士「魔法使いは転移の術を使った。で、うっかり王都に飛んじゃった、と」
僧侶「はい。あくまで聞いた話ですが」
戦士「聞いた話って、誰に?」
僧侶「それは私ではなく、実際にその人から聞いたほうがよろしいかと」
戦士「その人は教会にいるってことか。にしても、見張りが多いね」
勇者(たしかに。俺が街を出たときには見張りなんて、いなかったのに)
僧侶「その人に会えば、この人数の理由もわかるでしょう」
勇者(僧侶について行く形で教会に入り、関係者室へ続く隠し通路に立ち入る)
戦士「魔法使いの事情を知ってる人は、この部屋の中ってことだね」
僧侶「ええ。たいへん偉い方なので、くれぐれも失礼のないように」
戦士「そこらへんは大丈夫だよ。じゃ、失礼しまーす」
姫「あっ」
戦士「わーお」
勇者(姫様を見た戦士は、口を開けた状態で固まってしまった)
970:

戦士「いやあ、もう、うん。今この場で死んでもいいかもしれない」
姫「それはちょっと」
戦士「勇者。キミが急に憎らしく思えてきたよ。ていうか、羨ましいよ」
戦士「キミは姫様の美しさを、何度もその目に焼きつけてるんだろ?」
勇者「……いや、今はそんな話をしてる場合じゃないから」
勇者(姫様は魔法使いによって、『柔らかい街』に飛ばされた)
勇者(運がよかったのは、宿で僧侶と出会えたこと)
勇者(あの街では軍がいなかった上に、僧侶の傷のこともあって、しばらくは身を潜ませていたらしい)
女騎士「姫殿下。この阿呆には構わず、話を続けてくださいませ」
戦士「キミが女で残念だ。勇者とでは、この喜びを分かちあえないし」
女騎士「……黙らぬのなら、その舌、切り落としてやろうか」
姫「あの、話を続けてもいいかしら?」
戦士「どうぞどうぞ。全力で傾聴させていただきます」
姫「あ、ありがとう」
971:
姫「私の能力で、なんとか魔法使いと会話をすることができたの」
勇者(姫様の能力。はなれた人間とも、心で会話をする能力か)
姫「それで、彼女が王都にいることは判明した」
姫「すでに王都を出て、魔法使いはこちらに向かっているわ」
戦士「そうか、魔法使いも無事か……よかった」
女騎士「だが。まだ全員、傷は癒えていない。それに、魔王城の手がかりもない」
僧侶「傷に関しては、私の術で、ある程度の回復は可能です」
戦士「だけど、大丈夫なの? 僧侶ちゃんの魔力も、かなり消費してるでしょ?」 
僧侶「ええ。ですが、多少は薬で誤魔化せるでしょう」
女騎士「癒し手を寄こすよう、教会に伝えたのではなかったか?」
勇者「……あっ、完全に忘れてた」
戦士「癒し手か。美人なお姉さんだと嬉しいね」
『マジっすかあ。そういう要望はちょっとねえ』
戦士「……気のせいかな。この暑苦しい声に、聞き覚えがあるんだよね」
魔物使い「美女だと思ったんすか? 残念、魔物使いでしたー!」
972:
戦士「……」
女騎士「……」
僧侶「……」
勇者(扉から入ってきた魔物使いを見る目は、非常に冷たかった)
魔物使い「あれ? なんか反応が変っすね。待望のオレの登場っすよ?」
戦士「ああ、うん。はるばる来てくれてありがとう」
魔物使い「やっぱ戦士さんは、オレの味方っすね」
戦士「よし、帰っていいよ」
魔物使い「ひでえ! オレの扱いひどいっすよ!?」
戦士「ジョークだよ」
魔物使い「いやあ、それにしても。本物の姫様に会えるなんてもう感激っす!」
姫「は、はあ」
魔物使い「ご尊顔を拝し奉り、もう恐懼の極みっすよ!」
魔物使い「オレごときの卑しい一介の下僕からしたら、汗顔の至りって感じっす!」
973:
女騎士「相変わらず、暑苦しい男だ」
魔物使い「そういう騎士さんは、なんか前より顔がコワイっすよ?」
女騎士「……姫殿下の前でなければ、貴様を殴りたおしてるところだ」
戦士「まあまあ。とりあえず、ボクらは魔物使いに回復してもらおう」
魔物使い「勇者さんの診断書は目を通してるんで。治癒はここでやっちゃうっす」
勇者「ああ。たの――」
僧侶「いいえ。あなたにやってもらう必要はありません」
勇者(魔物使いの行く手を阻むように、僧侶は俺の前に立った)
魔物使い「な、なんすか急に?」
僧侶「信用できません。あなたは敵ですから」
戦士「……まさか」
僧侶「スパイはあなただった。そうでしょう――魔物使い様」
魔物使い「……」
974:
女騎士「この男が、スパイ……?」
勇者「だ、だけど。なんで魔物使いが?」
魔物使い「……あーあ、どうも誤魔化せる雰囲気じゃないっすね」
勇者「じゃあ、お前は本当に……」
魔物使い「そうっす。魔族に情報を流してたのはオレっすよ」
戦士「魔物使いは、『魔物の使い』だったってわけね。だけど、どうして魔物に?」
魔物使い「質問に答えてもいいんすけど。先にこっちの質問に答えてくれません?」
魔物使い「どうしてオレがスパイだってわかったんすか?」
女騎士「貴様、自分の立場が理解できていないようだな」
戦士「騎士、待て。正直、ボクも個人的に気になるんだよね、それ」
魔物使い「オレ、ほとんどボロは出さなかったはずなんすよね」
僧侶「たしかに。あなたはほとんどミスをしていない。でも、魔物はどうでしょう?」
魔物使い「……ひょっとして、あのローブの男っすか?」
僧侶「ええ、正解です」
978:
僧侶「勇者様は覚えていますか? あのローブの占い師の発言」
勇者「占い師の? たしか――」
?『宿の場所は、わざわざ言う必要はありませんね』
?『それより。あなた方が落ち合うことになってる場所、こちらのほうが重要でしょうか?』
勇者「……そうだ。どうしてか、あのローブは知ってたんだ。俺たちの合流地点を」
僧侶「はい。あのとき、その合流場所を知っていたのは、私たち四人」
僧侶「女騎士様と魔物使い様。……この場合、宿の経営者である二人は除外していいでしょう」
魔物使い「……それで?」
僧侶「ローブに情報を流せるのは、当然、この六人の中の誰かです」
僧侶「ですが、合流場所を決めたあとは、二手に別れた。だから、単独行動をした人はいない」
戦士「……そうか、そういうことか」
僧侶「そう、一人だけいたのです。途中、単独で行動した人間が」
僧侶「その人こそが、あのローブに私たちの合流場所を伝えた」
979:
勇者(魔物使いとの会話は、今でも思い出せる)
勇者(戦士と女騎士に役立たずと言われて、宿に隠しておいたゴーレムを連れてきた)
勇者(つまり。魔物使いは俺と会うまでに、一人で行動した時間があったってことだ)
戦士「蓋を開けてみれば、至極単純な答えだったね」
魔物使い「……まったく。あの魔族、余計なことを」
僧侶「もっとも。あなた自身にも、失言はありました」
魔物使い「失言? このオレが?」
僧侶「はじめての顔合わせのときです。あなたはこう言ったはずです」
僧侶「『緑の街から行き先までわざわざ変えてもらってるのに。申し訳ねえ』と」
魔物使い「言ったかなあ、そういえば」
戦士「……そうだよ、言ってたよ。教会にしか行き先は伝えてなかったのに」
戦士「キミは教会本部に配属されてたね。気づくべきだったよ」
戦士「ボクらに会う前から、キミは教会から情報を引き出して、魔物側に流してたんだね」
980:
魔物使い「……あーあ。出しゃばるんじゃなかったなあ」
僧侶「ちなみに。この推理は私ではなく、姫様によるものです」
姫「魔法使いから話を聞いて、偶然気づいたの」
戦士「容姿端麗、そのうえ頭脳明晰だなんて。さすが姫様」
女騎士「で? 貴様の疑問は、これで解けたか?」
魔物使い「おかげでね。しかし、謎って解けるとつまんないっすね」
魔物使い「特に今回みたいに、陳腐な解答だと余計に」
女騎士「話はここまでだ。裏切り者を、いつまでも殿下の前に置いておくわけにはいかん」
戦士「まっ、それもそうだ。まずは身柄を押さえて――」
魔物使い「ヤダなあ。まだオレが答えってないっすよ? 勇者さんの質問に」
勇者(不意に地面が光る。地面、じゃない。これは魔方陣!)
戦士「これは、空間系の魔術……!」
僧侶「からだが……動かない……」
魔物使い「やっぱり。体調は万全じゃないみたいっすね」
魔物使い「不意打ちとはいえ、こんなあっさり術にハマるなんて」
981:
姫「いったいなに……!?」
魔物使い「空間系魔術。魔方陣で空間を切り取り、切り取った空間に獲物を閉じこめる」
戦士「空間系魔術……キミも使えたのか?」
魔物使い「当たり前っすよ。『柔らかい街』のこと、思い出してくださいよ」
魔物使い「あの大量の魔物、誰が運んできたと思ってるんすか?」
戦士「じゃあ、キミがあの魔物を?」
魔物使い「戦士さんも、知ってるじゃないっすか? オレがエリートだってこと」
女騎士「エリートだろうが、なんだろうが関係ない」
魔物使い「あーあ、一人だけ捕まえられなかったか」
女騎士「勇者たちとちがって、私は体力があり余ってるからな」
魔物使い「コワイコワイ。物騒な人だ」
女騎士「覚悟――!」
魔物使い「ムダっすよ」
勇者(今度は天井が光った。この光は……)
982:
ゴーレム「……」
女騎士「コイツら……!」
魔物使い「こっちに来る前に上の階で準備しておいたんすよ」
魔物使い「転移の術の魔法陣は、時間がかかるんでね」
勇者(ゴーレムが三体。人工生命体とかって言ってたな)
勇者「騎士、ゴーレムは強い。気をつけろ」
女騎士「……まさか、貴様が私を心配するとはな」
魔物使い「さあ、騎士さん。このゴーレム相手にどうやって戦うんすか?」
女騎士「決まってる。正々堂々、容赦なく叩きつぶす」
 騎士が跳んだ。一瞬で距離を詰めた騎士を相手に、ゴーレムは拳を振り抜く。
 だが、騎士の足払いのほうが早かった。
 土の魔物の体勢が崩れ、その隙にみぞおち目がけて膝を叩きこむ。
女騎士「チッ、かたいっ!」
勇者(なんであの姿を見て、膝蹴りをかますんだ?)
983:
 もう一体のゴーレムが、騎士の背後から拳を振り下ろす。
 だが、騎士はからだを横に流して、なんなく敵の攻撃をかわした。
魔物使い「素早いな。なら、これで」
 挟みこむように、ゴーレムが騎士へと襲いかかる。
 勢いよく飛んできた土の腕を、とっさに跳躍してやりすごす。
魔物使い「もらった」
 狭い空間であることが災いした。
 三体目のゴーレムが騎士に合わせて、同じように飛び上がっていた。
女騎士「なめるなよ、魔物」
 いつのまにか振り抜いていた剣を、壁に突き刺す。
 そのまま剣の柄をつかんだ騎士は、上半身を捻ると同時に魔物の顔面に蹴りを入れる。
戦士「うまい!」
 空中でまともに蹴りを食らったゴーレムが、背中から床に落ちる。
984:
 騎士は片手で剣にぶら下がったまま、もう一本の剣を抜き、ゴーレム目がけて投擲する。
 しかし、剣がゴーレムに直撃することはなかった。
 騎士は構わず、地面に着地。たおれたゴーレムに向かって躍りかかる。
魔物使い「ゴーレム!」
 主の声が合図になったのだろうか。土の魔物が跳ね起きる。
 騎士が三本目の剣を振りかぶる。その姿を確認して、危険と判断したのだろう。
 ゴーレムは、騎士から離れるように飛び退く――
ゴーレム「?」
勇者(ゴーレムの動きが止まった。なんで……いや、そうか)
 ゴーレムの背中を抑えつけたのは、騎士が放った長剣。
 生まれた隙はあまりにも短いものだった。それで十分だった。
 
 魔力を帯びた剣が、ゴーレムの肉体を容赦なく引き裂く。
女騎士「まずは一体」
986:
 再び騎士の背後から、ゴーレムの腕が伸びてくる。
女騎士「あまい」
 身を低くして、ゴーレムの腕を避けたときには、彼女は剣を手放していた。
 魔物の腕に、自身の空いたそれを絡ませる。
 そのままゴーレムの勢いを利用して、眼前のもう一体へと投げ飛ばした。
 あとはあっさりとしたものだった。
 重なって倒れた二体のゴーレムに、騎士は一切の躊躇もなく自身の剣を叩きつけた。
女騎士「まだやるか?」
魔物使い「……メチャクチャっすね、アンタ。ホントに騎士なんすか?」
女騎士「なにを今さら。貴様も私の戦い方は、見たことあるだろ」
魔物使い「コロシアムでね。でも、アンタはゴーレムを見ていない」
女騎士「なにが言いたい?」
魔物使い「アンタはゴーレムについて、なんも知らないってことっすよ」
ゴーレム「――」
女騎士「……ふんっ、そういうことか」
 叩き割ったはずのゴーレムが、形を取り戻して立ち上がっていた。
2: はい◆N80NZAMxZY 2014/12/09(火)00:17:21 ID:nSk

女騎士「はぁはぁ……どうした、そんなものか?」
魔物使い「ここまで粘るとは。さすがっすね」
勇者(騎士が何度ゴーレムを破壊しても、すぐさま復活してしまう)
勇者(しかも、俺たちを拘束する空間魔術は、解除できてないまま)
女騎士「何度でも叩きつぶしてやる。かかってこい」
姫「待って! 魔物使い、あなたの目的は私でしょう?」
姫「言うことなら聞きます。だから、それ以上はその人を傷つけないで」
女騎士「姫殿下! いったいなにを!?」
魔物使い「……よかったっすね、女騎士さん? 物分りのいい姫様で」
女騎士「ふざけるな……! この私が引くとでも?」
勇者(まずい。今の状況では、また姫様をさらわれる。俺たちも無事ではすまない)
勇者(考えろ。剣を使わず。この場から動かず。状況を打開する術を)
姫様「……」
勇者(……姫様)
4:
勇者「……まだ質問に、答えてもらってない」
魔物使い「……あー、言われてみれば。忘れてたっすよ」
勇者「なんでだ? なんで魔物たちに協力する?」
魔物使い「故郷のためっすよ」
勇者「故郷?」
魔物使い「オレの故郷は、いわゆる第三の世界に属する場所だったんすよ」
姫「第三の世界ってことは、人間と魔族が共存してたってこと?」
魔物使い「……小さな村だったし、周りにはなにもなかった。でも、いい場所だった」
魔物使い「まあ、この軍のせいで故郷は滅んだんすけどね」
姫「……」
魔物使い「……いったいオレたちがなにをした? 魔族がなにをした?」
魔物使い「ただ平和に、静かに暮らしていただけなのに。魔族だって理由で抹殺される」
魔物使い「魔族と一緒にいた。ただそれだけで、人間さえ迫害される……!」
8:
戦士「だからって国を、人間を裏切ってどうなる?」
魔物使い「べつに国に反逆したいわけじゃない。ただ、故郷を取り戻したいだけっす」
魔物使い「そのためには、上層部急進派の行動を抑える必要がある」
戦士「急進派……勇者を今回の旅に出した連中か」
魔物使い「アイツらは自分たちの汚れた部分を、全て魔族に擦りつけるクズだ」
僧侶「どういうことですか?」
魔物使い「僧侶さん。アンタなら、気づいてると思ったんすけどね」
僧侶「……」
魔物使い「『柔らかい街』で調査することになっていた研究施設」
魔物使い「アレが国の管理下にあったってことに」
魔物使い「あの街の教会はきちんと機能していた。そして、街と施設は目と鼻の先の距離」
戦士「じゃあ、あの施設は……」
魔物使い「国が新たな生物兵器を作り出すための、実験の場だったってことっすよ」
魔物使い「そして魔王が死ねば、いよいよ魔族はこの地上から排除される」
9:
勇者「だからお前は……」
魔物使い「……勇者さん。オレは前々から、アンタには会いたいと思っていた」
魔法使い「だから、実際に会ってみた。……ガッカリしたよ」
魔物使い「自分の意思なんてありゃしない。アンタは命令に従うだけの人形だ」
魔物使い「アンタのような存在が、オレたちを狂わせるんだ」
勇者「……」
魔物使い「……もういい、不毛な会話はうんざりだ。終わらせてやる――ゴーレム」
ゴーレム「――!」
勇者(三体のゴーレムが溶けるように、混ざり合っていく。そして)
女騎士「デカイな……だが!」
 巨大な拳を掻い潜って、騎士はゴーレムの懐へと潜りこむ。
女騎士「図体がデカイだけで、勝てると思うなっ!」
 鈍い音がむなしく室内に響きわたった。
 騎士の振り上げた剣は、ゴーレムに傷一つさえつけられなかった。
魔物使い「ムダっすよ。今のゴーレムの硬度は、さっきとは比較にならない」
戦士「騎士っ!」
 ゴーレムの巨腕が、騎士を軽々と吹っ飛ばした。
10:
女騎士「……っ」
魔物使い「騎士さんは気絶したみたいっすね。これで邪魔者はいなくなった」
魔物使い「あとはそこの姫様を連れて行くだけ」
姫「……」
勇者(騎士もやられた。どうする? どうすれば……?)
 
 「まだだよ。まだ、終わってない」
魔物使い「!?」
勇者(文字通り、壁が爆発した。もうもうと上がる煙の中から現れたのは――)
魔法使い「お待たせ。待たせちゃってごめんね、みんな」
戦士「魔法使いっ!」
魔法使い「今、みんなを助けるから」
13:
魔物使い「次から次へと。ていうか、どうやってここに?」
魔法使い「決まってるでしょ? 魔物使いくんの空間魔術を解いたんだよ」
魔法使い「まっ、ちょっと手こずったけど」
魔法使い「警備の人は眠ってたし。ホント、ここに来たときはビックリしちゃった」
魔物使い「なんでもいいっすよ。ゴーレムにはどうせ勝てない」
魔法使い「どうかな? こういう決着って意外と一瞬でついたりする――よっ!」
 魔法使いがマントを広げて、立て続けに杖をゴーレムに向かって投げつける。
 投擲された杖は間髪入れずに爆ぜて、瞬く間に空間を煙で覆い尽くす。
魔物使い「煙で拘束する魔術。厄介だけど、このゴーレムには効かないっすよ!」
 ゴーレムが低く唸り、自身に絡みつく煙を引きちぎる。
 魔物使いの言うとおり。ゴーレムの前に、煙は煙以上の意味をもたなかった。
魔物使い「抵抗はやめたほうがいいっすよ。無駄な足掻きにしかならない」
女騎士「いや、意味のある足掻きだ」
魔物使い「なっ……!?」
勇者(気づいたら、女騎士が魔物使いの背後に立っていた)
15:
女騎士「認めよう。私では貴様のゴーレムはたおせない」
女騎士「だが、たおす必要はない。術者を無力化すればいいだけの話だ」
魔物使い「どうやってオレの背後に!? そもそもアンタは……」
女騎士「さっきのは気絶したふりだ。貴様を油断させるための、な」
女騎士「それから。貴様の背後に移動したのは、空間転移の術を使っただけのこと」
魔物使い「転移の術? いつの間に!?」
魔法使い「一つ目の転移用魔方陣は、この部屋に侵入したときに展開したの」
魔法使い「二つ目のは、杖を投げてるとき」
魔法使い「あの派手な登場には、きちんと意味があったんだよ」
魔物使い「爆発も煙の術も、全部目くらましだったのか……」
魔法使い「そのとおり。でも、けっこうギリギリだったね」
魔法使い「勇者が魔物使いくんと話して、時間を稼いでくれたおかげで助かったよ」
勇者「まあ、うん……」
勇者(もっとも。この策が成功したのは、姫様の能力があったからこそだ)
勇者(彼女が能力を使用したおかげで、全員の意思疎通がとれた)
21: はい◆N80NZAMxZY 2014/12/10(水)01:13:37 ID:rmH

魔法使い「本当に本当に本当に本当にごめんなさいっ!」
勇者(魔法使いが最初にしたのは、姫様に謝ることだった)
姫「ど、どうしたの?」
魔法使い「本来なら王都に帰還されているはずだったのに。私のせいで……!」
魔法使い「一歩間違ったら、姫様は……」
姫「たしかに、あの魔術は失敗したんでしょうね」
魔法使い「……はい」
姫「でも、そのおかげで私はとてもいい経験ができました」
姫「それに。今回のピンチを救ったのは他の誰でもない、あなたよ」
姫「ねっ、勇者?」
勇者「はい」
戦士「そうだよ。ボクらはまた、キミに救われたんだよ」
僧侶「私たちを拘束していた術も、魔法使い様がいなければ解けませんでしたし」
魔法使い「みんな……」
22:
魔法使い「なんか、泣きそうかも……」
戦士「おいおい。キミはボクらのパーティーで一番オトナだろ?」
魔法使い「わ、わかってるよ」
魔法使い「……ていうか。みんなの顔見るのって、すごく久しぶりな気がする」
戦士「実際には数日なんだけどね」
僧侶「でも。魔法使い様の気持ち、わかります」
戦士「ボクもだよ。やっと会えたって感じがする。そうでしょ、勇者?」
勇者「はい」
魔法使い「もうっ。また勇者は『はい』しか言ってない」
戦士「だけど、勇者も変わったよね」
戦士「時間稼ぎのためとはいえ、率先して自分からしゃべるなんてさ」
僧侶「白状すると、あの瞬間は状況を忘れて、そちらに驚いてしまいました」
勇者「まあ、俺も多少は……ね?」
魔法使い「うんっ。やっぱり私、みんなに会えて嬉しいっ」
23:
戦士「っと、積もる話にもうすこし花を咲かせていたいけど」
魔法使い「だね。まだまだ私たちにはやることがあるもん」
勇者(そう。俺たちは魔物使いから、情報を引き出さなきゃいけない)
女騎士「……話は終わったのか?」
戦士「いちおうね」
戦士「しかし、魔法使いの煙の術はやっぱり便利だね。こうやって拘束にも使えるし」
魔物使い「クソっ。なんでオレがアンタらみたいな連中に……!」
女騎士「抵抗は無意味だ、やめておけ」
魔物使い「特にアンタみたいな思考停止の馬鹿にやられるなんて……屈辱っすよ」
女騎士「思考停止、だと……?」
魔物使い「自分のやってることが、正義だって信じて疑わない」
魔物使い「アンタみたいな人間が他人を平気で踏みにじる! 不幸にする!」
女騎士「……」
25:
魔物使い「アンタにはわかんねえだろうな! 大切なヤツらの命が理不尽に奪われる怒りが!」
魔物使い「考えたこともねえだろ!? 自分の居場所が消えていく恐怖なんてっ!」
魔物使い「どうなんだ!? 答えろよっ! あぁっ!?」
女騎士「……」
姫「魔物使い」
戦士「姫様。近づくのは危険です」
姫「おねがい。すこしでいいから、顔を見て話がしたいの」
魔物使い「……なんすか。上から目線の、憐れみたっぷりの同情でもしてくれるんすか?」
姫「あなたは自分の故郷を救うために、ずっと闘ってきたのよね?」
魔物使い「……そうっすけど。それがなにか?」
姫「その故郷はあなたが自分を犠牲にしてでも、まもりたい程に価値がある。そうよね?」
魔物使い「言いたいことがあるなら、はっきり言ってほしいんすけど」
姫「……もし。もし、魔族と人間が手を取り合う世界を目指すとしたら、それは実現可能ですか?」
魔物使い「!」
26:
魔物使い「……アンタ、自分がなに言ってんのか。理解してるんすか?」
姫「ええ」
魔物使い「はっ。世間知らずの姫様でも、人間が魔族にどんな感情を抱いてるのか」
魔物使い「それぐらいは知ってるでしょ?」
姫「知った上で、聞いてるのです」
魔物使い「無理だ。できるわけがない」
姫「でも、魔族と人間が共存する世界は、たしかに存在してる」
魔物使い「一部の例外だけを見て語るなよ」
姫「それでも。そういう世界が存在することは、まぎれもない事実です」
姫「……私もほんのわずかですが、その世界に触れました」
魔法使い「そっか。私が間違って飛ばしたのは『柔らかい街』だったから……」
姫「はい。……勇者」
勇者「……はい?」
姫「あの宿のチーズスープは、すごくおいしかったです」
27:
勇者「……えっと、あのスープ。やっぱりおいしいですよね?」
姫「ええ、とっても」
戦士「辛口のボクでも、あの宿の食事は絶賛せざるを得なかったよ」
魔物使い「……だからなんだって言うんだ?」
姫「人間と魔族の間に確執があるのは、間違いありません」
姫「違っている部分はたくさんあるし、互いに理解できないこともあるでしょう」
魔物使い「……」
姫「だけど。それ以上にわかりあえることもあるって、私はそう信じたいんです」
姫「だってあのスープは、魔族も人間も関係なく、温めてくれたもの」
魔物使い「理想、いや、それさえ通りこして妄想だな」
姫「あなたの方が正しいのよね、きっと」
姫「でも、変えられるかもしれない未来があるのに、なにもしないなんて私にはできない」
29:
魔物使い「なら、やってみればいい」
魔物使い「いかに自分が無謀なことを言ってるのか、理解できるだろうからな」
姫「ええ。そのときにはあなたにも協力してもらうから」
魔物使い「……は?」
姫「形はどうあれ、あなただって今まで現状を変えようと戦ってきた。そうでしょう?」
姫「だから、その戦い。これからも続けてもらうわよ」
魔物使い「……」
勇者(この場にいる誰もが、たぶん、魔物使いと同じ顔をしていた)
勇者(魔物使いが言っていたことは悲観的な考え方ではない、単なる事実だ)
勇者(俺も魔物使いの立場なら、同じことを言っただろう。なのに)
勇者(姫様の言葉を否定する気にはなれなかった)
30:

女騎士「私の部隊は、まもなく姫殿下を王都へと送り届ける任務に就く」
戦士「魔物使いのほうは?」
女騎士「それは別の隊の仕事だ」
魔法使い「……魔物使いくんには、それ相応の罰が下されるんだよね」
僧侶「魔物側への情報提供や王族である姫様への狼藉、街へもたらした被害。その他諸々」
僧侶「裁きを受けることは避けられないでしょう」
戦士「まっ。姫様もああ言っていたし。多少は緩くなるんじゃない?」
魔法使い「……うん」
女騎士「そういえば、勇者はどうした?」
戦士「姫様と二人でいるよ。姫様が二人で話がしたいって。くぅ〜、羨ましいっ」
女騎士「そうか。なら、私も挨拶だけしてくる」
戦士「キミから勇者に挨拶しようとする日が、来るなんてね」
女騎士「……そうかもな」
31:

勇者(俺と姫様は教会の地下で、二人でいた)
姫「私のせいで、あなたたちにたくさん迷惑をかけてしまって。ごめんなさい」
勇者「いえ……姫様を助けるのは、任務でしたから。当然のことです」
姫「任務じゃなかったら、助けてくれなかったって意味かしら?」
勇者「え? あ、いや、その……」
姫「冗談です。そんなに顔を青くしないで」
勇者「は、はいっ」
姫「やっぱり、私と二人でいると緊張する?」
勇者「あ、はい。正直、かなり緊張します」
姫「そう。ひょっとしたら、って思ったけど。そうよね」
勇者「……?」
姫「以前会ったときに比べると、顔つきがすこし変わった気がしたの」
勇者「……どなたの?」
姫「あなたの」
32:
勇者「あー、まあ。旅の最中に、顔を殴られたりしたこともあったので。はい」
姫「そういう意味ではなくて。……ふふっ、なんだか久しぶりの感覚」
勇者「久しぶり?」
姫「ええ。勇者との会話って、噛み合わないことがよくあるから」
勇者「そう、ですかね?」
姫「……魔王と、こんなふうに話をしたの」
勇者「魔王と?」
姫「魔王はちょっとだけ、あなたに似ていたわ」
姫「おしゃべりが苦手なところや、まったく目線を合わせることができない部分とか」
勇者「……」
姫「勇者?」
勇者「あっ……すみません。同じことを言うヤツがいたから」
勇者(それから、姫様は魔王とした会話を俺に話してくれた)
33:
勇者「それが、魔王が言ってたことなんですね」
姫「ええ。でも、戦いは避けられないわよね」
勇者「絶対に不可能です」
姫「……勇者がそんなふうに断言するなんて、意外ね」
勇者「一度、戦ってるからわかるんです。魔王はなにがなんでも俺を殺しに来ます」
姫「あなたはどうするの?」
勇者「……戦います。戦わきゃ、なにも始まりませんから」
女騎士「失礼します」
勇者「うわっ、騎士」
女騎士「うわっ、とはなんだ? 殿下を迎えにきたのだ」
勇者「……そうか」
姫「もう、そんな時間? けっこう話していたのね」
34:

勇者(姫様は女騎士の仲間に連れられて部屋をあとにした)
勇者(別れ際、姫様は俺にこう言った)
姫『あなたに頼まれたことは、大丈夫、まかせて』
姫『私は私のやるべきことを全力でやります』
勇者(俺には俺の戦いがあるように。姫様には姫様の戦いがある)
女騎士「勇者」
勇者「うわっ! まだいたのか?」
女騎士「貴様、さっきもまったく同じことを言わなかったか?」
勇者「あー、そ、そうだっけ?」
勇者「ていうか……行かなくて、いいのか?」
女騎士「この街を離れる前に、貴様に聞いておきたいことがあったのだ」
女騎士「いや、聞いておきたいこと、ではないな。愚痴だ、これは」
勇者「愚痴?」
35:
女騎士「魔物使いの言葉を聞いて、うまく言えないが、たぶん私は迷っている」
勇者「へぇ」
女騎士「なんだその顔は?」
勇者「いや、迷うこと、あるんだなって」
女騎士「私だって人間だ。考えるし、迷うこともある」
女騎士「……私は今まで、魔物を駆逐することで平和な世界を築けると、そう思っていた」
女騎士「それが正しいことだって信じてきた」
勇者(騎士の横顔は、いつになく曇っているように見えた)
女騎士「ある救出任務で、両親を魔物に殺された少女がいた」
女騎士「その子の泣き叫ぶ声が、今でも耳にこびりついて離れないんだ」
勇者「……」
女騎士「ある意味、私を突き動かしているのは、その子の声なのかもしれない」
女騎士「少しでも多く、魔物を排除しようと思ったのもそのときからだ」
女騎士「魔物に命乞いされたことがあった。そのときでさえ、私は容赦なく奴らを斬った」
36:
女騎士「自分のやってることが本当に正しいのか。疑問に思わなかったわけじゃない」
女騎士「だが、その疑問の声でさえ、その子の声がかき消すんだ」
勇者「……でも、今回はちがうってことだろ?」
女騎士「ああ。魔物使いの言葉が、ずっと引っかかってる」
女騎士「魔物がいなくなれば世界は平和になる。そんな考えは奴の言ったとおり、思考停止なのだろうな」
勇者(そういえば、再会したとき。騎士と魔王を滅ぼす云々の話をしたことがあったな)
女騎士「ああ……そうだ。私は迷ってる、怖いんだ。変わってしまう自分が」
勇者「……ダメなの?」
女騎士「え?」
勇者「変わることは、ダメなのか?」
女騎士「変わる、というか。今の自分はふらついてるように思えて……」
勇者「そうか」
女騎士「そうか、とはなんだ。まったく……」
37:
勇者「……あのさ。すこし前に話したよな?」
女騎士「なにをだ? きちんと内容を明確にしろ」
勇者「魔物をたおすことについて話しただろ、俺とお前で」
女騎士「話したな。結局、あのときの答えは聞けずじまいだったが」
勇者「俺は魔王と戦う。戦って、この戦いを終わらせる」
女騎士「……」
勇者「それがあのときの答えだ」
女騎士「答えになってない気がするんだが」
勇者「そうかも」
女騎士「……貴様は、すこし変わったのかもな」
勇者「変わらないヤツなんていない。姫様だって、誘拐される前と後じゃ、ちがってた」
女騎士「変わってもいい、か。まあ、そのとおりなのかも」
女騎士「どんなに変わったって、ここまできたのは他の誰でもない。私自身なんだからな」
38:
女騎士「勇者。ありがとう、私の話を聞いてくれて」
勇者「……!」
女騎士「貴様は考えてることが顔からだだ漏れなんだ」
勇者「いや、だって」
女騎士「ふんっ。私が貴様に礼を言うのは、これが最初で最後だ。素直に受け取っておけ」
勇者「……そうか」
女騎士「では、私はそろそろ行く」
勇者「……騎士」
女騎士「なんだ?」
勇者「騎士には色々と世話になった……ありがとう」
女騎士「……!」
勇者「……騎士も顔に出やすくないか、考えてること」
女騎士「う、うるさいっ。まさかお前から礼を言われるとは、夢にも思ってなかったんだ!」
勇者(ひどい言い草だと思った。でも、そのとおりだとも思った)
勇者(そう。みんなが言うように、俺もまた少しずつ変わっているんだろう)
40:

魔王「つまり、勇者たちはこの城に侵入できる、と?」
?「ええ。以前、姫を軟禁していた部屋に施された魔方陣。これを使えば」
サキュ「杖もなしに魔方陣が作れるって、どういうことよ」
?「残念ながら手段は不明です」
?「ですが、仮に杖の代わりに媒体になるものがあるなら、魔方陣は展開できます」
サキュ「どうやって? あの部屋には魔術封じの装置があったでしょ?」
?「あの装置は、あくまで魔力が空間に放出するのを防ぐもの」
?「つまり。媒体から直接、壁や床に魔力を流せば、魔方陣を描くことは可能なのです」
リザード「あの短時間で装置の欠陥に気づくなんて、大したもんだ」
サキュ「感心してる場合じゃないでしょ、このアホトカゲ」
サキュ「ていうか、まずは魔方陣を消さないと」
?「不可能です。なにせ、我々にはそれだけの技術がない」
サキュ「でも。協力者が……」
リザード「魔物使いはパクられたよな。ほかの協力者は?」
41:
?「……姫様はなかなか強引な手に出たようです」
魔王「どういうことだ?」
?「空間転移の術を扱える者を、全員王都に帰還させたんです」
サキュ「裏切り者がいることを見越して、魔方陣の解除を防ぐために?」
?「ええ。自分の立場を最大限に利用して、強硬手段に出たようですね」
リザード「はーん。ってことは、いよいよ戦いは避けられねえってことだな」
?「アンタね……」
魔王「……リザードの言うとおりだな。決戦のときはそこまで来ている」
?「それから。現在、フェイクの城のほうにグレムリンの小隊を向かわせています」
サキュ「なんでよ?」
?「グレムリンの証言が確かならば『勇者の剣』はそこに眠っているはずですから」
?「もっとも。現地の軍との衝突は避けてはとおれないでしょう」
サキュ「それって人間側も『勇者の剣』を回収できてないってこと?」
?「そうなりますね」
42:
リザード「剣をこっちが手に入れりゃ、こっちが有利ってわけか」
?「話は戻りますが、魔方陣を無効化することは、我々の技術では不可能です」
?「しかし、多少細工することなら可能です」
魔王「魔方陣については卿にまかせる」
サキュ「……まっ、とにかく。近いうちにあたしらは勇者たちと戦うわけね」
リザード「すげえ憂鬱そうだな」
サキュ「憂鬱っていうか、そうね。コワイ、のかな?」
魔王「……なぜだ? なぜそう思う?」
サキュ「死ぬのがコワイ、っていうか。なんだろ」
サキュ「負けたら、あたしたちがこれまでやってきたこと、全部水の泡になるんですよね」
魔王「……」
43:
リザード「だったら負けなきゃいいだろ」
サキュ「そういう問題じゃないっつーの、バカ」
魔王「いや、リザードの言うことも一理ある。突き詰めれば、そういうことなのだろう」
サキュ「それは、まあ、そうなんでしょうけど」
?「どちらにしても、勇者たちとの対決はこれが最後でしょうね」
魔王「余は……否、我々は勝たねばならんのだ」
魔王「我ら魔族の未来のため。世界に生きるすべてのもののため」
魔王「今まで犠牲になってきた魂たちに報いるため」
リザード「……難しいことはわかんねえ。けどよ、勝ちゃいいんだ。なっ?」
サキュ「じゃあさ」
リザード「なんだよ?」
サキュ「勇者たちとの戦いが終わったら、なんかご馳走してよね」
リザード「べつにいいぜ。勝ったあとの飯のウマさは、半端ねえからな」
リザード「それから、魔王さまよ。アンタ、負けんなよ」
サキュ「ま、魔王さまになんて口の利き方してんの!?」
44:
リザード「やっぱり俺には、あんな堅苦しい喋り方は似合ってねえ」
リザード「言葉を考えてるうちに、舌を噛んじまいそうになる」
魔王「……余は負けん。卿こそ、大丈夫なのか?」
リザード「安心しろ。俺は自分で引きちぎった尻尾に誓ったんだ」
リザード「アンタに勝つまでは、ほかの誰にも負けねえってな」
サキュ「やっぱりアンタってバカね」
リザード「うるせえ。テメエこそウジウジと、しっかりしろよ」
サキュ「ちょっとナーバスになってただけよ。あたしだって、負けないんだから」
?「まあ。なんだかんだ普段どおりな感じですし、大丈夫じゃないですか」
サキュ「アンタもけっこうテキトーよね」
?「お二人ほどではないですがね」
リザード「めずらしいな、テメエが悪態をつくなんてよ」
?「こういうのも、たまにはいいでしょう?」
45:
サキュ「まっ、なんだかんだ最後に勝つのはあたしらよ」
サキュ「そうですよね、魔王さま?」
魔王「……余とて、まったく不安を覚えんわけではない」
サキュ「魔王さま?」
魔王「だが、そんなことは些細なことだ」
魔王「我々は戦い、そして勝つ。それだけのこと」
魔王「屍を並べねば歩けぬような世界は、もはや必要ない」
サキュ「はいっ。それを聞いて安心しました」
リザード「とにかく俺たちは勝つ! 絶対に!」
魔王(勇者、来い。必ず貴様はこの手で――)
46:
◆数日後
魔法使い「いよいよ、だね」
勇者(俺たちは、今日、魔王城に突入する)
勇者(魔法使いが残してくれた魔方陣、それを使って侵入する)
戦士「この質問さあ、何回もしたけどもう一回聞かせてもらうよ」
戦士「『勇者の剣』なしで、本当に突貫していいのかい?」
勇者「……もう決めたことだから」
僧侶「勇者様が剣をもっていないことは、おそらく敵も把握している」
僧侶「だから。魔物たちは剣が見つかるまでは、攻めこんでこないと高を括っているはず」
僧侶「そこで、あえて意表をついて剣なしで突入する。……でしたよね?」
勇者(俺はうなずいた。この策に出ようと思ったのは、魔物使いの証言が理由でもあった)
勇者(魔物使いは、魔王城の居場所を把握していた)
勇者(どうしてアイツが、俺たちに城の場所を教えたのか。その理由はわからないけど)
勇者(城の場所が把握できてる上に、城内には魔方陣がある)
勇者(つまり、外からでも中からでも攻めることができる)
勇者(なにより。時間が経過すればするほど、敵の魔方陣の解析が進む可能性がある)
47:
僧侶「すでに別の部隊は現地で待機しています」
勇者(俺たちと同じく、魔方陣から侵入する部隊もすでに別の場所で待機している)
戦士「この待機してる間に『勇者の剣』が見つかる、なんてことはないんだろうね」
魔法使い「たぶんね。あー、ていうか、すっごいドキドキしてる」
戦士「おどすわけじゃないけど、今回は失敗は許されないよ」
魔法使い「わかってるってば。ここ数日は転移の術は失敗してないし、大丈夫だよ」
僧侶「勇者様、お手洗いは大丈夫ですか?」
僧侶「城の中は広いですし、トイレを見つけるのは困難だと思われます」
勇者「……大丈夫」
僧侶「そうですか、よかったです」
勇者(これはひょっとして、ボケて俺をリラックスさせようとしてる?)
勇者(そういえば。以前とはちがってイヤな予感はしない。むしろ落ち着いてる)
勇者(あのとき。俺はなにかを言おうとして、結局なにも言えなかった)
勇者(これが最後の戦いになるなら。俺は――)
48:
勇者「……みんな」
戦士「ん?」
勇者「その……俺は、今でも後悔してることがある」
魔法使い「……」
僧侶「……」
勇者「猫のことだ。俺たちは結果としてアイツに裏切られた」
勇者「いや。アイツの言い分では、はじめから仲間じゃなかった、か」
勇者「アイツが本心ではどう思ってたのか、それはもうわかることはない」
勇者「だけど、思うんだ」
勇者「あの城に入る前に。猫ともっときちんと話しておけば、なにか変わったかもしれないって」
勇者「こんなことを考えたって。今さらで。手遅れで」
勇者「もうアイツと話すことはできないけど。だからこそ、今みんなと……」
戦士「……みんなと?」
49:
勇者「……ごめん。なにが言いたいか、わからなくなった」
戦士「なんだそれっ」
魔法使い「……私は少しわかるかも。勇者の言いたいこと」
僧侶「魔法使い様……」
魔法使い「あの城でのことはショックだった。でも、それって私の思いこみだったんだよね」
魔法使い「猫ちゃんの気持ちも考えずに」
魔法使い「一方的に仲間になれたって、そう思ってただけなのかも」
魔法使い「本当の意味で仲間になろうとするなら、もっと歩み寄らなきゃダメだったんだよね」
戦士「まったく。相手は猫の姿をしていたとはいえ、魔物だった」
戦士「ボクらの認識が単に誤っていただけ……って言いたいところだけど」
戦士「まっ、不思議と憎めないんだよね、あの猫。殺されかけたっていうのに」
僧侶「……そうですね」
50:
勇者「もう、あんな後悔はしたくない」
勇者「俺は、その、みんなを……仲間だって、思ってるから」
僧侶「なにを今さら。私たちは勇者パーティーです。今までも。そして、これからも」
戦士「ホントだよ。ボクらは最高のパーティーだ」
魔法使い「うんっ、そのとおり!」
戦士「さてとっ! そろそろ突入の時間だ。ボクらも行こうか」
勇者「……うん」
戦士「前回はパーティー会場を間違えるなんて、ドジしちゃったからね」
魔法使い「大丈夫。今度は間違えないよ」
戦士「さあ、パーティーの続きと行くよ! みんな準備はオッケー!?」
僧侶「いつでも!」
魔法使い「どこでも!」
勇者「なんなりと!」
勇者(魔王。勝負だ――!)
52:
読み返すと勇者の成長が凄まじいな
展開も熱すぎる
54:
何か勇者たちにも勝ってほしいし魔王たちにも負けて欲しくないという複雑な気持ち
56: ◆N80NZAMxZY 2014/12/11(木)07:27:19 ID:w49

部下「あのグレムリン、すごい勢いで逃げてきましたね」
女騎士「はやさしか取り柄がないからな。だが、また戻ってくるだろう」
女騎士「……時間的にはそろそろか」
部下「お腹すいたんですか?」
女騎士「こんな状況で、私が食事のことを気にすることでも?」
部下「先輩、わりと空気を読まずにそういう発言するじゃないですか」
女騎士「空気よりも戦況を読むほうが重要だ。それより、一時的とはいえ敵をしりぞけた」
女騎士「今のうちになんとしても『勇者の剣』を見つけ出し、回収するぞ」
部下「了解っ」
女騎士「……あと、魔物はできるかぎり殺すな」
部下「え?」
57: ◆N80NZAMxZY 2014/12/11(木)07:29:02 ID:w49
女騎士「その顔やめろ。姫殿下の希望だ」
部下「だって、魔物ってだけで容赦しない先輩が……」
女騎士「……情報収集のためでもある。というか、軽口叩いてる場合じゃないっ!」
部下「なにカリカリしてるんですか」
女騎士「うるさいっ。いいから働け」
女騎士(今ごろ勇者たちは、魔王城に侵入しているはず)
女騎士(期間の問題とスパイ対策。魔物たちにこちらの動向を察知されないため)
女騎士(必要最低限の人員しか駆り出されていない)
部下「先輩、あの場所!」
女騎士「光ってるな。……剣か? 
 なにがあるかわからん。瓦礫の撤去は慎重にやるぞ」
女騎士(負けるなよ、勇者たち)
58:

魔法使い(閉じていた魔方陣を開いて、私たちは魔王城へ侵入した)
魔法使い(大丈夫。今回は失敗なんてしてない。そう思ったのに――)
サキュ「ひさしぶり」
魔法使い「っ!?」
魔法使い(目の前に例のサキュバスがいた。でも、みんなはいない)
サキュ「びっくりしすぎ」
サキュ「あたしもこんなに早く来ると思ってなかったら、かなり驚いたけど」
魔法使い「……もしかして、ここって魔王城じゃない?」
サキュ「そこは安心して。ようこそ、ここは魔王城でーす」
魔法使い「……なんとなく状況が読めた。私の魔方陣になにかしたでしょ?」
サキュ「正解。ヤったのはあたしじゃないけどね」
サキュ「ていうか。あたしは魔方陣が展開された床を壊せばいいって思ってたけど」
サキュ「あれって空間そのものに張りつくんだね」
魔法使い「当然。『空間魔術』の一種なんだもん」
59:
サキュ「まっ、なんでもいいけど。どうせヤルことは変わんないし」
魔法使い(どうしよう……。一人で戦うことは、もちろん想定はしてたけど)
魔法使い(それに。もし、例の装置を使われたら……)
サキュ「そういえば、あなたって魔術師なのよねえ」
魔法使い「見ればわかるでしょ」
サキュ「じゃあ、魔術を封じちゃえばどうなるかなあ?」
魔法使い「魔術を封じる装置のことなら、やってみれば?」
魔法使い「ただし、あなたも得意の術を使えなくなると思うけどね」
サキュ「でも、単純な力ならあたしのほうが上」
魔法使い「でも、私がこの城から脱出した方法は知ってるよね?」
サキュ「……そうなんだよねえ。まっ、面倒だし装置なしでいこっかな」
魔法使い「それこそ、後悔するかもよ」
サキュ「大丈夫。術が使えることを後悔するのは――そっちだから」
魔法使い(最初の関門はクリア。勝負はここから)
60:

戦士「今回は、会場は間違えなかったようだけど」
戦士「いきなりキミと鉢合わせするのは、想像してなかったよ」
リザード「俺もお前と最初に会うことなんて、微塵も想像してなかったぜ」
リザード「どうせ誰が来たところで、俺には関係ねえからな」
戦士「自意識過剰も甚だしいね」
リザード「事実だ。テメエは俺には勝てねえよ」
戦士(このリザードマン。単なる自意識過剰の馬鹿じゃないから、厄介なんだよな)
リザード「勇者と戦えるチャンス、ムダにはできねえ」
リザード「テメエには悪いが、さっさとあがらせてもうらぜ」
戦士「今回も勇者に夢中ってわけね。目の前にいるボクじゃなくて」
リザード「当たり前だ。テメエは俺からしたら、ただの安牌だ」
戦士「安牌、ね。言ってくれるじゃん」
リザード「『リーチ一発ドラドラ』か、そうだな」
リザード「『純チャン三色一盃口』あたりで決めてやるよ」
61:
戦士「――ボクをなめんなよ」
戦士(先手必勝。まずは魔術で――)
リザード「どうした? 早く術を使ってみろよ? ん?」
戦士「……なるほどね。この空間じゃ術は使えないってわけだ」
リザード「ああ。ちょこまかと術を使われるのは面倒だからな」
リザード「言ったろ、テメエは安牌だって」
戦士「で、キミの横にある巨大な斧。それ、ボクのために用意してくれたの?」
リザード「雑魚を始末するのには、これが一番手っ取り早い」
リザード「安心しな。あの世に逝くのはテメエだけじゃねえからよ」
戦士「ボクら勇者パーティーは、みんな同じような状況にあるってわけね」
リザード「そういうことだ。テメエも、テメエの仲間も俺たちには勝てねえんだよ」
戦士(しょっぱなから最悪の展開だ、こりゃ)
62:

?「あなた方が魔方陣を使って、城に侵入することはわかっていました」
?「なかなか上手く魔法陣は隠蔽されていました。ですが、あの狭い空間です」
?「魔法陣はすぐに見つかりました」
?「最も望ましい展開は、もちろん、魔方陣を消滅させることでした」
?「しかし、我々の魔術に関する知識ではそれは不可能」
?「そこで次善の策として、あなた方を混乱させるために、魔法陣を弄らせてもらいました」
?「その結果、あなた方はバラバラの状態で城に侵入することになった」
?「さらに我々は、勇者パーティーが真っ先に魔王城に侵入するとわかっていた」
?「魔法使い様の魔法陣は不安定ゆえ、転移をミスする可能性があった」
?「これらの要素から考えれば、あなた方が最初に移動してくることを読むのは難しいことではない」
?「そして、実際想定したとおりになりました。説明は以上です」
僧侶「ずいぶん、長いひとり言でしたね」
?「私はあなたに話しているつもりだったのですが」
63:
僧侶「聞いてもないことをペラペラ話されても、聞く気になれません」
?「これは申し訳ない。状況を理解されてないようでしたので」
?「老婆心ながら説明させていただきました」
僧侶「……魔法使い様が移送できる人数には、限りがあります」
僧侶「つまり。最初から城に入るのは、私たちだけだったのです」
?「ほう。私の考えすぎでしたか」
僧侶「敵の心配より、味方の心配をしたほうがよろしいかと」
?「その言葉、そっくりそのままお返しします」
?「あなた方は沈みゆく泥船に乗りこんだんですよ、自分から進んでね」
僧侶「……ひとつあなたに教えてあげましょう」
?「ほう?」
僧侶「泥で船は作れませんから」
?「……あなた。ユーモアのセンス、ゼロですね」
僧侶「ひそかに気にしてることを……」
69: はい◆N80NZAMxZY 2014/12/12(金)03:11:06 ID:hxg

勇者「……」
 魔法陣を抜けた先にあったのは、広大な空間だった。
 そして、その空間の最奥に静かに佇む影。
魔王「……」
 目の前に魔王がいるというのに、自分でも不思議なぐらい落ち着いていた。
 まるでこうなることがわかっていたかのように。
 魔王も自分と同じなのかもしれない。
 悠然と構える姿には、焦りも驚きも感じられない。
女騎士『勇者。貴様の使命は魔王をたおすことだ、ちがうか?』
 いつか女騎士が勇者に問いかけた疑問。今ならそれに、はっきりと答えられる。
 勇者としての使命は、それで正しい。
 勇者と魔王には明確な因縁がある。
 だから自分は、当たり前のように剣を抜いている。闘おうとしている。
70:
 だが。そう考える一方で、疑問に思う自分がいた。
 勇者と魔王としてではなく、一人の人間と魔物としてだったらどうなのか、と。
 いや、そんな疑問に意味はないのだろう。
 どの道、戦うことに変わりはない。
 魔王を目の前にして、勇者は改めて自分たちの戦いの本質を理解した。
 言ってしまえば、自分たちの争いは原始的なものなのだ。
 異なる生物どうしの、単なる生き残りをかけた戦いにすぎないのだ。
 この戦いに善悪なんて概念は存在しない。掲げるべき大義名分も。
 だから魔王を目の前にしても、勇者は口を開こうとは思わなかった。
 これから始まる戦いに会話は必要ない。ただ戦うだけだ。
 魔王も自分と同じことを考えている。
 魔王とは一度も言葉をかわしてない。だが、勇者にはわかってしまう。
 それは勇者と魔王の因縁のなせる業なのか。あるいは。
 
 本能が危険だと告げた。魔王が大きく一歩を踏み出す。
 それが戦いの始まりの合図となった。
71:

リザード「どうしたどうした!? ああっ!?」
戦士「……っ!」
 防戦一方だった。
 戦闘が始まってから、戦士は一度も敵に攻撃をすることができないでいた。
 魔術が使えない。しかも彼我の実力差はあまりにも大きい。
リザード「おらあぁっ!」
 巨大な斧が戦士の頭上を横切る。
 一瞬でも避けるのが遅れていれば、と想像する間もなくリザードマンが蹴りを繰り出してくる。
 これもなんとかやりすごす。だが、すでに戦士の体力は限界に近づいていた。
リザード「ちょこまかとうぜえんだよっ!」
 敵が斧を大きく振り上げる。
戦士(振りがデカイ。これなら――)
 戦士はすぐに自分の考えが安易だったと気づいた。
 これはこちらの攻撃を誘い出すためのエサだ。
72:
 攻撃に気をとられたことで隙が生まれた。
 リザードマンの拳が戦士のみぞおちに食いこむ。
 声すら出せず、受身をとることもできず、戦士は無様に地面を転がった。
リザード「やっぱ弱えな、テメエ。俺の敵にはなれねえな」
戦士「ぐっ……!」 
リザード「ずいぶんと時間を食っちまったな。まっ、雑魚にしちゃあよく粘ったほうだ」
 呼吸がうまくできない。剣を握る手に力が入らない。
 立ち上がることすらかなわない。
 このままでは確実に殺される。
戦士(……なんとか……なんとか、しないとっ……!)
戦士「……あのさ」
リザード「あ? 命乞いなら聞かねえぞ」
戦士「いや、やられる前に、聞いておきたいことが……あってね……」
リザード「……どうせ今からじゃあ、勇者は間に合わねえか」
リザード「いいだろ。言ってみろ」
戦士「……礼を言うよ」
73:
戦士「これ、又聞きなんだけどさ。魔王って平和を目指してるんでしょ?」
リザード「それがどうした?」
戦士「キミって平和を目指してるの?」
戦士「ボクの印象では、とてもそんなふうには見えないんだよね」
リザード「ああ。平和なんざ、どうでもいい」
リザード「俺は俺の血を流せる戦場が欲しいだけだ」
戦士「だったら、どうして魔王に仕える?」
リザード「簡単な話だ。魔王さまの側にいりゃ、強い奴と戦える」
戦士「……じゃあ、魔王が目指す世界が完成したらどうするのさ?」
戦士「争いのない世界に、キミの居場所があるとは思えない」
リザード「死ぬ」
戦士「……は?」
リザード「魔王さまが目指す理想世界。それが完成するなら、テメエの言うとおりだ」
リザード「生きてる意味はねえ。だから死ぬ」
74:

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