一夏「インフィニット・ストラトス」【前半】back

一夏「インフィニット・ストラトス」【前半】


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?エピローグ?
「―――――――」
青年「え、何か言いました?」
「いや、空が澄み渡って気持ち良いなと思ったんだ」
青年「え? 確かにそうですけど……」
「どこまでも続いているんだろうなーって。この空みたいな人間になりたいよな」
青年「はい。それは思います」
「ところで、妹さんはまだ大学生だっけ?」
青年「そうですよ」
2 :以下、
「まだおまえ身の回りの世話して貰ってるの?」
青年「いや、最近は忙しいらしくって……僕も自分で掃除や洗濯をよくするようになったんですけど、やっぱ大変ですね」
「ははは。今まで頼りっぱなしだったっていう訳だ」
青年「そうなんでしょうね。守ってきたと思っていたんですけど、実は自分の方が助けられていた……最近よくそう思うようになりました」
「…………」
青年「小学生の頃からあいつを守ろうと決意してたんですけどね。あの時代にあなたに会って、今みたいに空の下で稽古付けて貰って……」
「よし、それじゃあ稽古再開するか」
青年「そうですね! お願いします!」
3 :以下、
――――――
―――

ブン! カン! シュッ!
青年「はっ!」コンッ!
「うっ……!」
青年「ふうっ……!」
「おまえ……強くなったなあ。最初に会ったときの腕からは想像できないぜ」
青年「ずっとあなたを追い掛けてきましたからね!」
「そっかそっか。教え子に超えられるなんてセンセイからしたら涙がこぼれるほど嬉しい話だね。さすが道場師範代、実力は本物だ」
青年「ま、まだまだですよ! 今のところ勝率半々くらいじゃないですか!」
「気を使うなよ、もっと自信を持っていいよおまえは。よし、そろそろ上がろうぜ。昼飯食おう」
青年「良いですね。いつもの定食屋にしますか?」
4 :以下、
「そうしよう………」
「…………………………………」
青年「どうしたんですか? また空を見上げて……?」
「…………いや、大昔のことをふっと思い出しちまってな。俺がまだ小学生の頃の話さ」
青年「へえ。どんな内容なんですか?」
「いや、何でもないような記憶なんだ。ああ、でも本当に気持ち良いなあ……!」
青年「……?」
「………………」
青年「思い出に浸るのはそれくらいにしてもうそろそろ行きましょう…………あっ」
「ん?」
青年「迎えが来られてますよ」
「…………あっ!」ダッ
5 :以下、
「―――!」
「――――」
「――――♪」
「―――――!」
青年「はぁ……まったく……あの人たちはいつまで経っても……
 二人とも若々しくて、一緒になるとお互い本当に楽しそうに笑って……」
青年「こりゃ飯に行くのが更に遅れるなあ
青年「……………」ジーッ
青年「でも……」
青年「この光景も守りたいな」
青年「………」
青年(本当に……空が綺麗だ。優しさを感じる……)
7 :以下、
―本編
【一夏の部屋】
一夏「うーん……朝か……」
一夏「ふわぁ?あ」
一夏「それにしても懐かしいような妙な夢を見た。子どもの頃の俺が空の下でずっと走ってた」
一夏「なんでああいうイメージを見たんだろう……?」
一夏「ま、いいや。準備して食堂行こっと」
?ホームルーム前?
一夏「今日は妙だったな。食堂であいつらが声を掛けて来なかった」
一夏(ん? あれは箒とセシリアじゃないか)
8 :以下、
一夏「よう二人とも! おはよう」
箒「……」サッ スタスタ
セシリア「……」プイ スタスタ
一夏「えっ……お、おい」
セシリア「あ…」
鈴「!」
一夏「あ、シャル、鈴おはよう。ちょっと箒とセシリアがおかしかったんだけど」
セシリア「……」スタスタ
鈴「……」スタスタ
一夏「ちょ、ちょっと待ってくれよ! なんですぐ行っちゃうんだよ!?」
9 :以下、
ラウラ「むっ」
一夏「ようラウラ。皆がどうも素っ気ないんだが、何か知らないか?」
ラウラ「おまえと話すことはない」
一夏「え!?」
ラウラ「さらばだ」スタスタ
一夏「どうしちまったんだ……? 俺なんかしでかしたかな?」
一夏「もうHRの時間だ。とにかく教室に行こう」
――――――
―――

10 :以下、
【1組教室】
一夏(……五人が同時に無視してきたことから考えて、あらかじめあいつらの間で示し合せたのかな?)
一夏(箒……どうしたんだ?)チラッ
箒「!」ビクッ アセアセ
一夏(あれ、箒も今こっち見てたな? 慌てて前を向きなおしたよな?)
一夏(そういや、皆無視してきたときには冷たい印象は受けなかった。何か隠してるって感じだった)
山田「織村君、どうかしましたか? 急に難しい顔して……」
一夏「あ、いや、平気です。心配かけてすみません」
11 :以下、
一夏(うーん……どうすりゃいいんだろう? 今日の授業終わったら千冬姉に相談しようか)
一夏(こういうケースは初めてだしなあ。弾にも話を持ちかけてみるか)
一夏(……こういう状況って嫌だな。あいつらとは楽しくやっていきたいぜ)
キーンコーンカーンコーン
一夏「箒! 明日早朝の訓練どうする?」
箒「……」
一夏「お、俺もさ、最近自信付いてきてさ。もう本気でやったら剣道で箒に勝てちゃうかもな!」
箒「……」ジロッ
一夏「は、はは……」
一夏(反応がないって辛いな)
13 :以下、
一夏「いやいや、ごめんごめん。まだまだ追いつけてねえよなあ」
箒「当分訓練は止めだ。剣道部の朝錬もあるからな」
箒「あと、しばらく声をかけないでくれ……」スタスタ
一夏「あ……」
シャルラウラ「……」ジ?
一夏「よ、よう、二人とも! 明日の休みに一緒にまた買い物でも行こうぜ!」
一夏「シャルもラウラもスタイル良いもんな! 似合いそうな服、俺が見繕ってやるよ」
シャルラウラ「!」ピクッ
シャル「別にいいよ」
ラウラ「おまえの世話にはならん」
15 :以下、
一夏「そ、そうだよな! 俺のセンスなんかあてにならねえもんな!」
シャル「ラウラ、部屋に戻ろっか」
ラウラ「……」スタスタ
一夏「は、はは……」
セシリア「あら」
一夏「セシリア!……ちょっとカールの巻き型変えたんだな! いい感じじゃないか」
セシリア「!」 ドキッ
一夏「いつもより魅力的に見えるぞ!」
セシリア「……失礼しますわ」スタスタ
一夏「え、別に失礼なことは言ってな……って、セシリア! 待ってくれ!」
のほほんさん「おりむ?なんか必死だね??奥さんに逃げられてるみたい」
夜竹「でも、篠ノ乃さんたちがあんな風になることって珍しいわね」
鷹月「どうしたのかしら……?」
16 :以下、
【二組の教室】
一夏「えっと」キョロキョロ
一夏「あ、鈴! ちょっと勉強で分からないところあるんだけどさ!」
鈴「……」ピクッ
一夏「ここは一つ、中国代表候補生の鈴さんのお力添えをと思いまして」
鈴「あたし、忙しいから」
一夏(おだてる戦法も通用しないか……)
鈴「そこ、通りたいからどいてよ」
一夏「そっか、ラクロス部だったよな! 練習頑張ってるの見てたぞ!」
鈴「!」
一夏「正直、ルールは良く分かってないんだけどさ。でも鈴が活躍してるってのはわかった!」
17 :以下、
一夏「今日は忙しくて残念だ。でも、試合の日には応援に行くよ!」
鈴「……!」スタスタスタ
一夏「じゃ、じゃあな! 練習頑張れよ!」
一夏(皆の反応見るに、俺をハブにしようって目論見は感じられなかったけど……じゃあなんでだ?)
一夏「……………………はあ」
千冬「どうした織斑? 珍しく気落ちして」
一夏「あ、千冬ね……じゃなかった、織斑先生! それが、箒たちが俺のことを避けるんですよ」
千冬(ふむ。あの小娘どもがどういう風の吹きまわしだ?)
18 :以下、
鷹月「あそこにいるのは織斑くん……? 先生になにか相談かしら」
一夏「避けられるようなことしたのかと思ったんですけど心当たりは無いんです」
千冬「…………」
一夏「もう一回自分から声掛けてみても駄目だったんで、もうどうすればいいか」
千冬「はあ……」
一夏「あ、あの……」
千冬「それくらい自分で何とかして見せろ」
19 :以下、
一夏「え?」
千冬「たったそれだけのことで情けない。大体何故無視するのかなどあいつらに直接聞けば済む話だろう」
一夏「でも、何か隠してるみたいなんです。きっと誰も俺を困らせてやろうなんて考えてない気がして……
 いきなり聞くのって無作法だし、何よりちゃんと答えてくれなさそうで」
千冬「だとしても、これからどうするかはおまえの気持次第だ。あいつらの気を損ねたくないなら別に聞かなくても構わん」
一夏「俺の気持ち次第って……そりゃそうですけど」
生徒「織斑せんせーい! ちょっと聞きたいことが……って今取り込み中ですか?」
千冬「いや、構わん。どうしたんだ?」
生徒「ISにおけるスラスターの種類とその性質のことで、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
千冬「勉強熱心だな、感心感心。まずはな……」ペラペラ
20 :以下、
一夏「あのー、俺のことは……」
一夏(どうしよう。話が終わるまで待ってりゃいいのかな?)
生徒「で、この方式だと……」
千冬「ああ、そのタイプはレース競技用として開発されたもので……」
一夏(……まだかな)
千冬「……ん」チラッ
一夏(お、こっち見てくれた)
千冬「……」ジトーッ
一夏(う、『さっさと去れ』って言ってる……)
一夏「す、すみません。失礼します」
21 :以下、
千冬「それはまだ総合的な機動力強化のために実験データを収集している段階で……」ペラペラ
生徒「この形式の問題点は……」ペラペラ
一夏「お忙しいところ時間取って頂いてありがとうございました」ペコリ
一夏「……」
鷹月「織斑くん……」
―――――――
―――

一夏(千冬姉も忙しいんだろうな。仕事も重要な役職を任されているらしいし、俺の悩みなんていちいち相談に乗ってられないんだよ)
一夏(でも、途中から入ってきた生徒には親身で分かりやすい受け答えをしてたな……)
一夏(俺には突き放すようなことしか言わなかったのに……弟はどうでもいいのかよ? 俺だってここの生徒なんだぞ?)
一夏(腐ってても仕方ない。直接聞けっていう千冬姉のアドバイスが正しいのかもしれないし、言う通りにしてみようかな)
簪「…………」ピクッ 
(更識簪……http://wiki.aniota.info/1315788784/)
22 :以下、
一夏「おお、簪! 今から部屋に戻るとこか?」
簪「あ…………」
一夏「前に貰ったDVD、面白かったぜ」
一夏(……そうだ、簪なら女の子がこういう態度を取るときどう接したらいいか分かるかも)
簪「時間……ない……」
一夏「そっか。なら明日の朝はどうだ? 一緒に飯を食いながらでも……」
簪「む、無理っ!」
一夏「な、なんか予定あるのか?」
簪「………………」
簪「???!」ダッ
一夏「おーい!」
23 :以下、
一夏「簪まで……いや、多分予定があったんだろう。きっとそうだ」
一夏「………………」
一夏(本当に俺何かしたっけな……?)
一夏(そういや、俺ってよく鈍感だの唐変朴だの言われるんだよな……冷たくされる原因も、自覚してないだけで俺にあるのかも知れない)
一夏「よ、よし、明日は休みだったな。」
一夏「大丈夫大丈夫……また皆と笑えるさ……きっと……」
一夏「風呂に入って暗い気分を洗い流すかな……」
ガチャ
楯無「あら」
一夏「げっ……またですか、楯無さん。シャワーまた勝手に使ったんですか?」
楯無「うふふ、どう? 風呂上がりの女の子ってより魅力的になるでしょう? 濡れた髪からシャンプーの甘い匂いもして……」
一夏「誘惑するようなこと言わないでくださいよ! 今日は何の用ですか!?」
楯無「特に。久しぶりに一夏くんと二人で過ごしたいな―って思っただけよ」
一夏「そうですか……でも、先の事件で負ったお怪我はもう大丈夫なんですか?」
楯無「うん、そのことなんだけどね……ううっ……」ウルウル
24 :以下、
一夏「え……」
楯無「うっ……うっ……それがね……」
一夏「ど、どうかしたんですか?」
楯無「…………ううぅ」
一夏「楯無さん!」
楯無「右肩を触ってもらったらわかるわ……すんっ……すん……」
一夏(まさか後遺症が……? な、なんてこった!)
25 :以下、
一夏「そんな……」スッ
楯無「……」ニヤリ
楯無「はっ!」グイッ
一夏「うおっ!!」
グルンッ!! ドサアッ!
楯無「すっかり調子が戻っちゃったのよね♪ 久々におねーさんに投げられて嬉しいでしょ?」
一夏「痛てて……嬉しいわけないでしょ……」
一夏「完治したならそう言って下さいよ! 無駄に心配しちゃったじゃないですか!!」
楯無「くすくす、ごめんね。一夏くん見ると可愛がってあげたくなっちゃってね」
一夏「もう……あなたって人は……」
一夏(人が落ち込んでるときに自分のペースで掻き乱して……困らせることがそんな楽しいのかよ)
26 :以下、
楯無「うん? どうかしたの?」
一夏「いえ……」
楯無「嘘ね。何か隠してるでしょ?」
一夏(だんまり決め込める相手じゃないか……)
一夏(待てよ? 人たらしの楯無さんならこの状況を打開するいいアドバイスをくれるかも)
一夏「あの、実はちょっとした悩みに今ぶつかってて」
楯無「あら。鈍感の一夏くんも頭を抱えてることがあるのね」
一夏「鈍感って……確かによく指摘されますけど、そんな言い方はないでしょう!」
楯無「うふふ、ごめんごめん」
一夏「まったくもう……で、相談に乗って頂けるんでしょうか?」
27 :以下、
楯無「いいわよ。あ、そうだ! その前に……」スッ
楯無「はい、プレゼント! 一夏くんにエクレアの差し入れがあったことを忘れてたわ!」
一夏「え?」
楯無「一夏くん、私が治療室のベッドに寝てるときにけん玉と編み物セットを届けてくれたでしょ? そのお礼ってわけ」スッ
一夏「えっと……」
楯無「まあまあ、おいしいもの食べたらそれだけで結構ポジティブになれるものよ。悩みには前向きな気持ちでぶつからないとね!」
一夏「そうですか……じゃあ頂きます」
楯無(ふふふ……)ワクワク
28 :以下、
一夏「あ、おいしそうですね! 最近甘いもの食べてないから余計にそう見えますよ」
楯無「食べたらその味にびっくりしちゃうわよ??!
一夏「そんなうまいんですか!」
楯無「……」
楯無「さあ早く! 男らしく豪快にかぶりつきなさい!」
一夏「いただきまーす♪」バクッ
一夏(楯無さんはよく俺を困らせてくるけど、こんな気配りもできるから素直に尊敬できる……ん?)モグモグ
29 :以下、
一夏「うっ……!? ごほっ! か、辛えっ!!」
楯無「ぷっ……くくっ……」
一夏「げほっげほっ! なんだこれ!? 中にタバスコがたっぷり塗られてるじゃないか!?」
楯無「あはははは! や?いまた引っ掛かった?! 今の顔おっかし?い!」キャッキャッ
一夏「えっ……!?」
楯無「一夏くん、前にもおんなじ方法で騙されてたでしょ? うふふ、学習しないわね?♪」
一夏「ひー……ひー……楯無さん、あ……あんたって人は……」
一夏(落ち込んでる人間を騙して喜ぶなんて……さっきも心配してるところをいきなり投げ飛ばしてきたし……)イラ?
楯無「ダメじゃない、同じ手に二度もハマるなんて。鍛え直さなきゃね??」ケラケラ
一夏(俺にはどんなことしても全部笑って済ませられるとでも思われてるのか…………!)ブチ
30 :以下、
楯無「ぷぷっ……本当に一夏くんたら飽きないわ。ほーら、そんな怖い顔してな」
     バシッ!!
楯無「いで……」
楯無「……痛……はたかれ……」
一夏「……」
楯無「え? ど、どうしたの」
一夏「見損なった。人を小馬鹿にするのも大概にしろよ」
楯無「い、一夏くん……?」
31 :以下、
一夏「俺に食わせたもん、あんたも食ってみろ。半分以上残ってるぞ。ほら食えよ」
楯無「……!」
一夏「かぶりつけよ。俺にやらせたみたいに」
楯無「……えっと……それは……」
一夏「人に食わせて笑ってた癖に自分が食うのは嫌だってか。分かった。あんたはそういう人間なんだな。はいはい」
楯無「う!?」
一夏「そろそろ出て行ってくれよ。頼むから。タダが嫌なら金だって払うからさ」ゴソゴソ
楯無「ご、ごめんなさい!!」
32 :以下、
一夏「いや今更謝らなくていいから。はした金で申し訳ないが一万円で勘弁してくれ」ヒラッ
楯無「……! 本当にやめてよぉ!」ジワッ
一夏「ほら、あんたが大好きな嫌がらせのせいで食えなくなったエクレアだ。ちゃんと持って帰れよ」ブンッ!
ベチャ!……コロコロ……
楯無「…………………………………………」
楯無「……………………」
楯無「…………」
楯無「―――ごめんね。お姉さんが悪かったわ」
楯無「一夏くんと過ごすのが楽しくて、何しても許してくれたから調子に乗っちゃったわね」スッ
一夏(エクレアを拾ったか。持って帰って処分してくれ)
楯無「……本当に悩んでたのにね、馬鹿な会長だね……」パクッ!
一夏「な!」
33 :以下、
楯無「……ごほっ……けふっけふっ……うええぇっ……」
楯無「もぐ……ひー! ひー! か、辛い……」ジワッ
一夏「! 楯無さん……! 床に落ちたもん食べるとか何やってるんですか! 元から食べられるもんじゃないのに!」
楯無「(あ、あと一口)……えいっ!」パクッ
楯無「もぐ……く、えふっ…………」ゴクン
一夏「そうだ、水だ!」ダッ
楯無「喉が痛い……けほっけほっ……汗もいっぱい出てきた……涙も……」
楯無(私は悪戯のつもりでこんなの食べさせてたんだ……ごめんね、ごめんね……)
34 :以下、
一夏「水入れてきましたよ! どうぞ!」スッ
楯無「あ、ありがとう……」
一夏「すみません。俺もあそこまで怒らなくても良かったのに……大馬鹿でした」
楯無「ん……んくっ……」ゴクゴク
一夏「楯無さんはいつも通りちょっと俺をからかって楽しもうとしただけなのに……マジになっちゃって」
楯無「なーに言ってるのよ。どう見ても非があるのは私の方よ」
楯無「生徒会長が生徒の気持ちを踏みにじるような真似しちゃ駄目に決まってるのに。もっと私も精進するから、一夏くんも応援してくれるかな?」
一夏「……楯無さんは時間割いて俺を特訓してくれたり、いろんなことを教えてくれました。そんな恩人をはたくなんて言語道断です」
一夏「俺の方こそこれからの指導よろしくお願いします。この未熟者がちょっとでもマシになるようにガンガン鍛えてください。
 あと、本当にすみませんでした!」
楯無「一夏くん……」
35 :以下、
一夏「……ちょっと不安になったり不機嫌になったくらいで関係ない人に八つ当たりしちまうなんて、生徒会の恥ですね」
楯無「恥なんかじゃないわよ。これからも一夏くんには助けて貰うわ……あら、床がクリームで汚れちゃったわね」
一夏「俺が投げたから付いたんですよ。あとで掃除するから大丈夫ですよ」
楯無「いいの。この件は私の戒めとしなきゃいけないからね……」ゴシゴシ
一夏(! 膝をついて制服の裾で拭くなんて……)
一夏「そんなことしちゃ駄目ですよ! 楯無さんの服が汚れるじゃないですか!」
楯無「いいの。ていうかやらせて。こういう普段やらないようなことすれば、今日の出来事が更に深く私の記憶に残るでしょう」ゴシゴシ
一夏「でも……」
楯無「うん、これで綺麗になったわね……あら、もうこんな時間。そろそろ帰らなきゃ」
36 :以下、
一夏「あ。そ、そうですね」
楯無「ごめんね。一夏くんの悩み聞いてあげたかったんだけど……今度でいいかな?」
一夏「い、いえ、考えてみればそんな深刻な悩みでもありませんでした。やっぱりいいですよ」
楯無「あら、そう? でも、私が下らない悪戯したせいで時間なくなっちゃったね。本当に申し訳ないわ」ペコリ
一夏「頭を上げてください。謝らなきゃいけないのはこっちなんですから!」
楯無「でも」
一夏「ああもう! ならもうお互いに謝るのは無しにしましょうよ。いつも通りに接する方がお互い気が楽でしょう?」
楯無「……そうね。じゃあ明日からは両方とも水に流してってことで………」
一夏「はい……」
一夏楯無「……………………」
楯無「じゃ、じゃあね……」
パタン
37 :以下、
一夏「……何やってんだよ俺は!!」
一夏「楯無さんはちょっと楽しもうとしただけだろうが! それにカッとなって手を上げて怯えさせちまうなんて……!」
一夏「くそ……最低だ。別れ際の楯無さんの目が潤んでたのは見間違いじゃなかった」
一夏(それにしても、周りの反応がちょっと変わったくらいでこのザマとは……俺って弱すぎるな)
一夏「俺はどうしたいんだ?……それは決まってる。またあいつらと仲良くなっていつも通りの学園生活に戻りたいんだ」
一夏(そのために皆に声をかけていかなきゃならないんだが……とてもそんなことができる気がしない。
 また不用意なこと言ってしまうかも知れねえし、それからなぜか聞きに行きたくない気持ちがある。
 無視されるのを怖がっているのか……?)
 
一夏(まあいい。明日は気分転換がてら弾とこ行って話を聞いて貰うか。思いがけない解決策が見つかる可能性もあるし) 
一夏(それにしても一人でも大変なのに五人同時にか。いや、簪ももしかしたらカバーしなきゃいけないかも……
 楯無さんとのわだかまりの解消も早いうちに行わないと)
一夏「やることいっぱいだ……はあ……白式ごめんな、こんな奴が主人でよ」
白式「……」
38 :以下、
――――――
―――

【篠ノ之束の研究所】
束「ふんふん。いっくんたら白式を大分使いこなせるようになってるじゃ?ん!」ピョンピョン
束「そうと分かれば新型ゴーレムの完成を急がないとね! 
 これには前々から実装を狙ってた機能をようやく載せられそうだし、凄いマシーンになるよ??♪」
束「武装に凝るだけじゃ芸がないからね??♪ 画期的な変革をもたらすのは従来より異なる視点と大胆な発想だよ!」
束「今回のキーワードは……『コア・ネットワーク』と……『自己進化機能』! この二つだね!」
束「ふっふっふ……! インスピレーション沸いてきたよ??♪」
39 :以下、
楯無(一夏くんには悪いことしちゃったわね。反省しないと)
楯無(でも、頬をはたかれたあの一瞬……油断してたとはいえ私が反応できなかった……)
楯無「ほっぺ……結構痛かったな」
楯無(静かだけど、妙な迫力があったなあ。思わず謝っちゃった。
 一番怒らせたら怖いのはシャルロットちゃんだと思ってたけど、もしかしたら一夏くんはもっと……
 普段は温和で怒ることすら滅多にないのに、一度スイッチが入るとあの凄みだもんね)
楯無(悩み相談を受けなくてもいいとわかったときは正直、安心しちゃった……。
 別れ際にいつも通りに接するってお互い了承したけど、やっぱり気まずさは残ってるし、正直一夏くんへの恐怖心も持ってしまってる)
楯無「……はあ……でも悩んでいる生徒を放っておくって、生徒会長としてそれでいいの……?
 相談するほどのことでもなかったって言ってたけど、一夏くんもあの状況の後じゃ打ち明ける気もしぼんじゃうわよね」
楯無(あ、そうだ。気が引けるけど、簪ちゃんにそれとなく一夏くんの悩みを探ってくれるように頼もう。
 ……そもそも簪ちゃんと和解できたのは一夏くんのおかげだから、結局彼の功績に甘んじることになっちゃうけど……)
楯無(簪ちゃん。きっとお姉ちゃんを助けてくれるよね?)
44 :以下、
【簪の部屋】
簪(………一夏に相談されたのに……突っぱねちゃった……お話できるチャンスだったのに……)
簪「……はあ……自分から機会を逃しちゃうなんて……」
簪「仲良くなりたい……篠ノ之さんたちみたいにもっと気軽に声掛け合えるようになりたい……」
簪「それができたら篠ノ之さんたちの輪にも……一夏といつも一緒にいる専用機持ちグループにも入れるかな……
 ううんきっと無理……今更私なんかが……」
簪(一夏も……他の専用機持ちの五人とは私より付き合い長いし……私が入り込む隙なんて元からなかった……)
45 :以下、
簪(私を助けてくれた一夏を深く知りたい……そのためには積極的に攻めていけばいいんだろうけど、今の関係が壊れちゃうかも知れない……)
簪(身を引かなきゃ……そうすれば、ずっと一夏とお話しできる仲でいられる……)
簪「……はぁ……一夏っ……」チクリ
簪(そう納得させたはずなのに……どうして胸の痛みは続いてるの……?)ドクン… ドクン…
簪(せめてなんでも話し合えるような仲の友達が一人でもいれば相談できるのに……本音はああ見えて気を遣ってくるときもあるし……
 打鉄弐式の開発に整備課の人たちが協力してくれたのも、一夏の仲介があったから……
 一人で誰かに声を掛けたりするのって凄く苦手だよ……)
簪「ようやく一枚殻を破れたと思っていたのに……! 結局私は及び腰な人間ってことなの……?」
簪「……私の機体だって、専用機持ちの子と仲良くなれてたらもっと早く完成してたかも知れないのに……
 自分から友達を作ることもできない私が、男の子と恋仲になろうなんて土台無理な話だったのかな……」
簪「遠目で篠ノ之さんたちのこと見てると……すごく仲良さそうで……羨ましいよっ……」
46 :以下、
【シャルとラウラの部屋】
ラウラ「…………」
シャル「ラウラ、ココアできたよ」カチャ
ラウラ「……いらん」
シャル「来週ね、料理部で創作イタリアン作ろうかって話になったんだ。出来上がったらラウラにも分けてあげるからね」
ラウラ「………」
シャル「冷めちゃうよ」
ラウラ「いらんと言った! 放っておけ!」
シャル「ラウラ、グッピーのクラインが死んだのは残念だけど、いつまでも引きずってちゃ駄目だよ」
47 :以下、
ラウラ「!」
シャル「一夏に冷たくしてるのも、きっとそれが原因なんでしょ?」
ラウラ「……」
ラウラ「……あいつがすべてのきっかけだ」
ラウラ「二週間ほどまえに一夏とデパートに行ったとき、ペットショップの熱帯魚コーナーに私は釘付けになってしまった」
ラウラ「一夏が興味あるなら飼ってみろ、良い経験になると言ってな……
 飼いやすいグッピー四匹を飼育器具一式とともにプレゼントしてくれた。あのときは嬉しかったさ」
シャル「うん。ラウラは一生懸命水を換えたり餌あげたりしてたじゃない。
 図書館から本借りて生態研究までしてたのにはびっくりしたよ」
ラウラ「ああ……世話を続けていると、胸が温かくなるような妙な感覚になることが度々あった。
 忙しなく動いて餌をついばんだり、水槽を軽く突くと驚いてサッと散開したり……
 そういった一つ一つの仕草がとても胸をくすぐられるようで……」
48 :以下、
シャル「うん……一匹一匹に名前をつけて、寝る前には『諸君、おやすみ』って欠かさず声を掛けてた。
 ラウラのそういうところを見てると、僕まで嬉しい気持ちになったよ」
ラウラ「……」
シャル「そう言えば、ラウラを一回怒らせちゃったことあったなあ。
 『名前付けてるけど見分けはつくの』って言ったら、ちゃんと違いがあるんだって怒鳴られてさ」
ラウラ「そうだぞ。個体ごとに細長かったり尾が鋭かったり、異なった部分はある。同じものは他に一匹もいないのだ。
 クラインの特徴は小さかったことだ。飼い始めたころからどこか元気が無く、特に目を掛けていたんだが……」ジワ
ラウラ「う……ううぅぅ……」
シャル「!」
ラウラ「私がぁ、もっと、もっと気を遣っていれば……」ポロポロ
シャル「ラウラ……」スッ
ギュッ
シャル「君は凄く優しいんだね……!」
ラウラ「くそう……胸が張り裂けそうだ……うぅぅ」
49 :以下、
シャル「大丈夫……?」
ラウラ「はっ……」バッ
シャル「あっ!! き、急に抱きしめてごめんね……」
ラウラ「そんな声を掛けるな……もうこんな気持ちは二度と味わいたくないんだっ!!」
ラウラ「昨日クラインが横になって水面に浮かんでいるのを見つけたとき、私は何度も声を掛けた! しかし再び動くことはなかった!
 ようやく事態を把握すると……今まで味わったことのない苦しみが胸に広がった!
 この気持ちはどんなに客観的に捉えようとしてもダメなんだ……生き物は死ぬものだと頭は分かっているのに!」
ラウラ「本当に得体が知れない………空を見上げるとクラインが生きていた日々が思い出されて、喉の奥から空気が漏れそうになる…」
ラウラ「一夏のせいだ! 知る必要のない世界にあいつが私を引き込んだからだ!!
 私はこの程度のことで揺らぐほどに弱くなってしまった! 全部全部あいつのせいだ!」
シャル「……一夏を避けるのはそれが理由なんだ」
ラウラ「あいつといると私はどんどん弱くなっていく! 訳のわからない感覚に囚われる!
 だからもう、あいつとは慣れ合うことはしない……!」
50 :以下、
シャル「そう、だから僕まで拒絶するの? 皆と一緒にご飯食べたりしなくていいの?」
ラウラ「私は元の強い自分に戻りたいんだ! おまえたちは強くなるための糧として利用してやる!」
ラウラ「おまえもこれからは私に気軽に声を掛けるなよ。必要最低限の会話しか許さんからな」
シャル「ラウラ、君は」
ラウラ「もう私は寝る!」スタスタ
シャル「……」
51 :以下、
シャル「ラウラ、君は誰かの支えを必要としてるんじゃないの? 今胸中を打ち明けたのだって、僕と苦しみを分かち合いたかったからじゃ……」
ラウラ「…………くどい」
シャル「君は残った三匹の世話を今まで以上に一生懸命にやってるじゃない。優しさは捨てられないんだよ、ラウラ」
ラウラ「もともと私は戦いのために試験管の中で作られた兵士。そもそもそんな感情とは無縁でいるべきなのだ」
ラウラ「私はわかった……どんなに他人の交流を重ねようが、自己の根本は変えられん。結局生まれによって人生は決まる」
シャル「!」ピクッ
シャル(『生 ま れ に よ っ て 人 生 は 決 ま る』) ブルッ
シャル「ち、違うよラウラ! 絶対そんなことない!」
ラウラ「ふん……」
シャル「黙って聞いてたら自分勝手なことばっかり言って! 拗ねてるだけじゃないか!」
ラウラ「どうした? 何か私の言ったことが気に障ったか?」
シャル「ぐっ…!」
ラウラ「どういう生き方をしようが私の勝手だろう! 放っておけ!」
シャル「ああそう! なら好きにすればいいじゃないか!! 僕もわざわざ話を聞いて損したよ!」
52 :以下、
ラウラ「ふん……」
シャル「もう!」
シャル「………………」
シャル「あーあ、ココア冷めちゃったなあ。自分の分も淹れてたけど、僕も飲む気分じゃないや……」
シャル「はあ……」
シャル(ラウラがあんなことを言うから……僕もついカッとしちゃった……)
シャル(お父さんが……先日こんな手紙を送ってきたもんだから……)ピラッ
53 :以下、
シャル(僕の偽装がばれたことが原因で本国ではバッシングを受けてるらしいし。
 娘と和解したがってるのは低迷する信頼度を回復するためかな?
 新機体開発にガッツリ関わらせて商品化が達成できれば市場での一発逆転だって狙える……とでも考えてるんだ)
シャル(でもさ……)
シャル「ううぅ……!」
シャル(この言葉を信じたい気持ちがくすぶってるのはどうしてなんだよ!?)
シャル(いつかお父さんが僕らの元に帰ってきて……皆で仲良く笑いながら過ごせたらいいなって……
 どうして子供の頃に抱いた幻想を、今頃描き出してしまうんだよ!)
シャル(それに、ずっと不安だった……この学園を卒業したら僕はどうなるんだろうかって……
 申し出を拒んだり会社が倒産したりしたら僕へのバックアップも無くなり、帰る場所も消えてしまう……
 大人しく言いなりになったらその後はずっと商品開発のために利用され続けるだけ。そのどちらかなんだ)
シャル(天涯孤独の身か、一生飼い殺しか……僕が進める道は二つに一つ……
 一人はもう嫌だ。ここで手紙の内容に同意すれば……でも、この学園を去りたくないよ!
 僕を受け入れてくれた一夏を忘れられないよぉ……!!)ジワッ
54 :以下、
シャル(どうしたらいいんだろう? 僕はどう生きれば楽になれるんだろう?
 ずっと悩んでいるのに、答えは出ないよ……いい加減辛いよっ……!)ポロポロ
ラウラ「…………」チラッ
ラウラ「ふん」プイッ
シャル「ぐすっ……」
シャル(こんなに辛いのも……きっと妾の子なんかに生まれたからだね。
 ラウラの言葉はあながち嘘じゃないね)
シャル(……僕みたいな面倒な女、一夏の周りにいちゃダメなんだ。一度話したら、ずるずる一夏に甘えてしまうに決まってる。
 僕の鬱々とした人生にまっすぐ生きる一夏を巻き込みたくないよ)
シャル(一夏……もう君とお話することはないと思うけど……ひとときであれ僕の味方になってくれて嬉しかったよ)
シャル(もうすぐ手紙の返事書かなきゃ……どう答えたらいいんだろう?
 お父さんとの仲でこんなに悩むなんて……学園で僕くらいだよね……)
55 :以下、
【鈴の部屋】
?ベッドの中?
鈴(お父さんとお母さんが離婚して、あたしが中国に戻ったのが中二の頃だったっけ。いきなりだったから一夏もびっくりしたでしょうね)
鈴(昨日……お父さんからいきなり電話が掛ってきて、『お母さんとヨリを戻そうかと思ってる』って……
 あの喧嘩して別れたウチの親がよ?)
鈴(電話越しに聞いたお父さんの声……すごく嬉しそうだったなあ。お店も改めて始めるらしいし……
 お母さんと手紙のやりとりしてるとも言ってたなあ、私の知らないところで結構動いてたんだ)
鈴(お母さんの手紙がもうすぐあたしの元に届くとも言ってたわよね。お母さんも乗り気なんだね……)
鈴(懐かしいなあ。二人が喧嘩したとき、あたしは怖くなっちゃって……寒いのに外に逃げ出して……つい最近の話よね)
鈴(お父さんとお母さんが……そっか……)
鈴「…………ううっ」
鈴「あ、あたしも……戻りたいよ! 寒い外に出て行くんじゃなしに、暖かい家の中に迎えられたいよ!」
56 :以下、
鈴(退学するってことなんか考えたこともなかったのに……
 お父さんとお母さんと一緒にまた中華料理屋をやりたいって気持ちがどんどん膨らんできてる!)
鈴(あたしの学園生活……一夏と別れた寂しさを紛らわせるためにISの勉強に打ち込んで、代表候補生にもなってさ。
 鳴り物入りで編入してきたとこまでは良かったわ)
鈴(でも、この学園じゃいいとこちっとも見せられないし、あたしだけ一夏とクラス違うし……正直嫌になってきた気持もあるのよね……
 セシリアたちは見た目も垢抜けてるけど、胸も背丈もない田舎娘のあたしじゃいくらお洒落してもあんな風になれない。
 ラウラだってちっちゃいけど大人びてるところがあるし、やっぱり違うわね。見た目も中身もスタートから差がありまくりなのよ)
鈴(このまま逃げ帰ろうかな……あの冬の日、家の外に飛び出して遊園地に駆け出したときみたいに。
 もしそうしたら一夏はどうするのかな?)
鈴(一夏を諦めたくない。この気持ちに嘘はないわ。
あのとき途方に暮れるあたしに手を伸ばしてくれたけど……今回ばかりは同じことされると辛いよっ……
 それに、あいつと一緒にいたら居心地良くなってずるずる決断を先延ばしにしてしまいそうだし……)
57 :以下、
鈴(本当に実家に帰ろう。学校やめてさ。
 政府があたしに期待してくれてるのは分かるけど……
 辞めるまでデータ取りに力入れて、事情をしっかり話せば、強く引き止めることはしてこないでしょうね)
鈴(……うん、きっとそう)
鈴「………………」
鈴(あたしってなんでIS学園に来たんだろう……)ジワッ
鈴(なんかの役に……立てたのかなあ……? セシリアは一人で外敵を追い払ったことがあるのに……
 山田先生に負けてラウラに負けて、イベントの度に乱入してきた連中にいいようにやられちゃってさ……!)
鈴「ひくっ……ううっ………ひっく……惨めだよっ……もう嫌だよっ……あたしは帰るのよ……!」ポロポロ
63 :以下、
【セシリアの部屋】
セシリア「惨めなものですわね……この私も……」
セシリア(一夏さんの家庭事情が見えてくるにつれ、私ももう一度両親のことを見つめなおそうという気になって……
  ここまでは良かったのですわ)
セシリア(今までわたくしは父のことを不甲斐ない人間の代表だと思っていました。
  母に頭が上がらず、誇りも矜持も感じられない一介の凡夫だと)
セシリア(そんな父のことを見下していました。一夏さんに近づきたかったのは、彼が父にはない熱情を持っていたからでした。
  しかし彼と過ごすうちに……強く雄々しい男だと思っていた一夏さんは、寛容で温かい一面を持っていたことに気付きました)
セシリア(最初に好意を持ったのはそこが理由ではなかったはずなのに……わたくしはほだされ、はしたない真似までして……)ポッ
セシリア「う…………」カアァァァ
セシリア「こ、紅茶でも淹れましょうか」スッ
64 :以下、
セシリア(あの日……事故で両親が亡くなった日に、どうして父と母が一緒にいたのか……今までは分かりませんでした)カチャカチャ
セシリア(しかし今は一つの仮説を立てることができます。きっと母は父の優しさに気付いていて、ずっと気に掛けていたのではないか――
  ちょうどわたくしが一夏さんの温容さを知っても幻滅はせず、彼への想いを断ち切れずにいるように)トポトポ
セシリア(ようやく、わたくしも父のことを認められるくらいには成長できたということでしょうか?
  一夏さんとの交流を通じて、雄々しいだけが、強くぶつかっていくことだけが男性の魅力ではないことを知れたから)
セシリア(そう言えば、一夏さんがマッサージに来てくれたこともありましたね。
  クラス代表決定戦で始まった彼との関係……ここまでの変化が起きるとは自分でもちょっぴり驚きですわ)
セシリア「この茶葉、良い香りですわ……」
セシリア(しかし……今まで父のことを見下し続けていたというのは……我ながらとても酷いことのように思えますわ)ジワッ
セシリア(もう、真相はわからない……母が、父が、どういう想いを持って動いていたのか、その心を追うことはできません。
  すべては土煙りと倒れた列車の中で失われてしまいました。
  あの事故も更新され続けるニュースの波に飲まれ、世間の記憶から消えてしまったでしょうね)
65 :以下、
セシリア(…………)
セシリア「もう二度と……父に謝ることはできないのですね……」ポタッ
セシリア「あら、紅茶が少ししょっぱくなってしまいましたわ……ふふっ……」
セシリア(しかし、一夏さんの顔を見るのは正直……辛いですわ。目を合わせると父を見下していたときの記憶が鮮明に思い出されるから。
  その度に深い後悔と自責の念に苛まされてしまっては、身が持ちません……
  でも自立するいい機会かも知れません、いつまでも殿方の背を追い続けているわけにはいきませんもの……)
セシリア(わたくしは……格調高いオルコット家の当主なのですから、もっと強い人間にならなければ……
 父を蔑視していたときのような、狭い考えを持ち続けていてはいけないのですわ)
セシリア「ふう」
セシリア「あなたと過ごした楽しい時間はかけがえのないものでしたわ。ありがとう、一夏さん」
セシリア「そしてさようなら。わたくしの初恋の人」
66 :以下、
【箒と鷹月の部屋】
箒(私の初恋の人……織斑一夏……)
鷹月「ねえ、篠ノ之さん! なんで織斑くんに冷たい態度を取るの!?」
箒「静寐……いや、その件だがな」
鷹月「彼、戸惑ってたわよ。織斑先生に相談してたけど、すげない対応されてたし。
 他の専用機持ちの子たちと一緒になって困らせようとしてるの?」
箒「なに? あいつらも一夏を避けているのか?」
67 :以下、
箒「……一夏がセシリアたちに何かをしたというのか?」
鷹月「それは分からないけど……」
箒「…………」
箒「分かった。明日は私から一夏の元へ行ってみる。ちょうど休みだしな」
鷹月「そうしてあげてよ。織斑くんがかわいそうよ」
箒「ああ」
箒(私の心の中でうごめく纏まりのない問いかけの渦……まだ答が出ていないと言うのに)
鷹月「ところで、なんで今まで織斑くんにそっけなかったの?」
箒「いや、それはな―――」
68 :以下、
?次の日 休日?
箒「一夏、いるか?」コンコン
シーン……
箒「………返事はなし、か。もう出掛けてしまったのかも知れないな」
箒「せっかくの休日だし、余り早く来すぎても一夏が戸惑うだろうと考えて少し遅い時間を選んだのだがな。それが仇となったか……」
セシリア(お父様にはもう二度と会えない……謝れない……)
箒「おおセシリア。一夏がどこに行ったか知らないか?」
セシリア「……」
箒「セシリア?」
セシリア「あっ、はい! こんにちは箒さん、なんでしょう?」
69 :以下、
箒「いや、一夏が部屋にいないんだが、居場所に心当たりはないかと思ってな」
セシリア「存じ上げませんわ」
箒「そうか……」
箒(どうしたんだ? 物想いにでも沈んでいたのか、目の焦点があっていない……)
40
箒「そうか、ありがとう……なあ、セシリア。おまえたちも一夏を避けていると聞いたが、それは本当か?」
セシリア「……申し訳ありませんが、そのことに関しては触れられたくないのですわ」
箒「なぜだ?」
セシリア「……」
「ちょっとちょっとあんたたち! 一体どうしたっていうのよ!?」
箒「!」
セシリア「この声は……」
70 :以下、
↑の40はミスです
71 :以下、
シャル「…………」
ラウラ「鈴音か。貴様の出る幕ではない」
鈴「なに下らない口喧嘩なんかしてんのよ! 二人とも仲がよかったじゃない!
 特にシャルロット、あんたはこういうしょうもないことを止めに入る方でしょ!?」
シャル「はぁ……面倒だなあ……」
鈴「?」
シャル「鈴は外部の人間でしょ!? 僕のこと何も知らない癖にしゃしゃり出て来ないでよっ!」
ラウラ「邪魔だ! さっさと去れ! おまえに口を挟む権利などないぞ!」
鈴「なっ!」
鈴(『外部の人間』……!?『邪魔』……!? それに『口を挟む権利などない』って……)
72 :以下、
鈴「……っ」シュン
セシリア「お二方、どうかされましたの?」
箒「おい鈴……しっかりしろ」
鈴「…………うっ」ジワッ
シャル「もう……また増えた」
ラウラ「ふん。付き合いきれんな」スタスタ
箒「おいラウラ! 待て!」
鈴「ごめん……あたしも部屋戻るね……」
箒「だ、大丈夫なのか?」
鈴「う、うん……平気よ、ありがと箒」トボトボ
73 :以下、
シャル「…………」
箒「鈴があれほど気落ちしているのは初めて見た……
 シャルロットよ、よければこれまでの経緯を教えてくれないか」
シャル「まあ、いいけどさ……」
シャル「今朝、僕はラウラがアリーナにいる生徒たちに片っ端から勝負を仕掛けてるとこを見かけたんだ」
シャル「そのときのラウラは動きが荒っぽかったし、いらだって見えたから僕がなだめようとしたのがそもそもの始まり」
箒「ラウラが不機嫌になった原因に心当たりはないのか?」
シャル「………」
シャル「僕が知る訳ないよ。それでラウラが僕に勝負を挑んできて、こっちも大人しくさせるために了承した」
シャル「勝負自体は僕の負け。でも模擬戦が終わったあとラウラが『やはりその程度か』って、僕を見下すような発言を浴びせてきてさ」
箒「ま、まさか……そんなことがきっかけで……?」
シャル「うん。今思えば馬鹿だったよ。僕もカチンと来て言い返しちゃって……向こうも殺気立ってたから、口論に発展したのは自然な流れだった」
箒(シャルロットが……? いや、そもそもラウラが心を許していたシャルロットを蔑むというのも妙だ)
74 :以下、
シャル「鈴が割り込んできたのはお互いの熱が最高潮に達してたときでね……
 あそこで止めてくれなかったらもっとひどいことになってたかも知れない」
箒「おまえ、どうかしたのか?」
シャル「え?」
箒「今の話を聞いているとどうも違和感が拭えないのだが……
 シャルロット、おまえは安い挑発に乗るような性格ではなかっただろう?」
シャル「……またそれ?」
箒「また、とはどういう……」
シャル「僕だってねえ……いっつも泰然としていられるわけじゃないんだよっ………!」
箒「今もそうなのか? 口調に焦りと怒気がこもっているように聞こえるが……」
シャル「気付いてるなら、もう放っておいて欲しいものだね」
セシリア「…………」
75 :以下、
シャル「僕、もう行くね」スタスタ
箒「あっ!」
シャル「あと、悪いけど」クルッ
箒「?」
シャル「鈴に悪いことしちゃってごめんって伝えといてくれないかな……」
セシリア「シャルロットさん……」
シャル「じゃあね」スタスタ
セシリア「どうされたんでしょうね?」
箒「う、ううむ……」
箒(ああも神経過敏なシャルロットは初めて見たな……何か、不安を抱えているような印象を受けたが……)
セシリア「鈴さんに謝意を伝えるよう頼まれましたが……すみません箒さん、お願いできますか?」
箒「一人で行けというのか!? おまえも来てくれると助かるんだが……どうもこういうのは慣れないのでな」
セシリア「申し訳ありませんが、わたくしは用事がありますので。さようなら」スタスタ
箒「おい、待ってくれセシリア! おい……!」
76 :以下、
――――――
―――

鈴「はぁー……どうしたんだろ、あたし……」
鈴「昨日あんなことを考えたあとだったからかな? どうも『外部の人間』とか『邪魔』とか言われると過敏に反応するようになっちゃった……
 おまえは必要ない人間なんだって、強く罵倒されてるみたいで」
鈴「やっぱ……あたしってやっぱいらない……? 一人だけ組違うし、肝心なときに全然活躍できないし……」
鈴「ううっ……トラウマだわ……あの程度の言葉でこんなにダメージを受けるなんて……ぅう……ひくっ」
77 :以下、
鈴「お父さんたちのところに帰れば、少なくともここに居続けるよりは情けない思いせずには済むでしょ……うっ」
鈴「ううぅぅぅ……でも、何で、まだ心がゴチャゴチャしてるの……? 訳分かんない……ひくっ……ひっく……」ジワ
コンコン
箒「鈴、いるか?」
「箒?」
箒「ああ。シャルロットがさっきの件を謝りたいと言っていたぞ。その旨を伝えに来た」
「ぅ……うん。大丈夫よ。気にしてないからっ…………」
箒(嘘だな……言葉に嗚咽が混じっている。いつも元気な鈴があれ位のことでここまで落ち込むとは……)
箒「その……平気か? 声が震えているぞ。とりあえず中に……」
「だめっ!!」
78 :以下、
箒「な、何故だ?」
「今、ちょっと人に見せらんない格好してるからっ……ごめん、しばらくほっといて!」
箒「そ、そうか。それはすまなかった」
「…………ぅう」
箒「……ではな」
箒(元気を出すんだぞ、鈴)
箒「セシリアも鈴もシャルロットもラウラも……一体どうしたというんだ?」
箒「皆どうも様子がおかしい。攻撃的になったり些細なことで変に気落ちしたり……」
79 :以下、
ガタッ
箒「ん?」クルッ
箒「気のせいか……? 今見られているような気配を感じたが……」
箒「…………」
箒「私も一旦部屋に戻るか」
簪「危なかった……見つかるところだった……」ドキドキ
簪「篠ノ之さんたち……どうしたんだろう……?
 シャルロットさんとラウラさんは口論してたし、それを止めに入った鈴音さんは泣きそうになってて……
 セシリアさんはたまに遠くを見るような眼差しをしてて、上の空になってた……」
簪「……………!」
簪(私、今詳しいことを知りたくなってる……? どうして……?
 どうせ今更あの子たちの輪には入れないって、重々分かってるつもりなのに……)
簪(話しかけたい……でも、怖い……)
80 :以下、
箒(……どうもあいつらのことが気に掛かる)
箒(一夏を巡る恋敵であるが、共に窮地を切り抜いてきたかけがえのない仲間でもある。
 そんなやつらがささくれだったり落ち込む様を見るのは気持ちのいいものではない……)
箒「それに、私だって……一つの迷いを抱えている」
箒「……どうすればいいのだ?」
箒「…………」
箒「はあ」
箒(行き詰まっている閉塞状況を打開するためには、やはりあいつが必要なのだろう)
箒「一夏、おまえは何をやっている?」
81 :以下、
【五反田食堂】
蘭「どうぞ。お兄の部屋で待ってて下さい」
一夏「サンキュ! 蘭」
蘭「あのバカ兄貴ったら最近変なんですよ。口数少なくなったし、柄にもなく机に向かったりすることが多くなって。
 一夏さんが来たら、昔の感じが戻るかも知れないですね!」
一夏「あいつが? へえ、変わったんだな……」
蘭「そうなんですよ! 正直ちょっと気持ち悪くて……」
一夏「そっか。話ぶりからすると、蘭は昔の弾の方が好きなのか?」
蘭「へ、変な言い方しないでください!……でもお兄のこと……お願いしますね。
 お兄、御手洗さんともちょっと衝突したみたいで、仲が険悪なんですよ」
一夏「弾と数馬が? バカ騒ぎの最中にふざけあうっていうのはよくあったけど……」
蘭「はい。もうすぐ帰ってくると思うんで、それとなく話を聞いてやってください。ではわたしは行きますね」
82 :以下、
一夏「おう。ありがとう、蘭。いきなり訪ねてきてごめんな」
蘭「は、はい! では失礼しますね!」バタン
蘭(あーあ。もっとお話したかったのになあ……でも私もこれから友達との約束があるし……)
一夏「さてと、帰ってくるまで待つとするか……」チラッ
一夏「弾の机か。小奇麗に片付けてやがる、あいつらしくもない」
一夏「ノートが載ってる……あいつが勉強に打ち込むようになったってのは信じられないな」
一夏「何が書いてあるのかなっと……」ピラッ
83 :以下、
一夏「…………!」
――――――――――――――――――
IS基礎研究編
篠ノ之束によって開発されたマルチ・フォーム・スーツ。
開発当初は宇宙空間での活動を目的として作られたが、現在は他に大きな目的ができたのか中断。
日本に向けて発射された世界中ミサイル2000発以上を謎のISが無傷で撃墜した「白騎士事件」によってポテンシャルを証明。
各国は軍事転用をおこない、主力兵器として戦闘機に取って代わった。
ISを構成するのは核となる「コア」と腕部・脚部を纏う装甲である「ISアーマー」である。
その性能は従来兵器では辿りつけなかった領域まで高められており、攻撃・防御・機動・通信をサポートする各種機能も揃えられている。
現代世界で中心的に運用されているのは第二世代機であり、各国は新しい発想に基づく装備の搭載を目指した第三世代機の開発に注力している。
????????????????
????????????????
――――――――――――――――――――
一夏(弾の奴、どうしてISの研究なんてしてるんだ!?)ピラッ
一夏「うわっ! あとのページにもビッシリ書き込んで!」
「あ、お兄お帰り! 一夏さんが来てるよ!」
「一夏が?」
84 :以下、
一夏「げっ!」バッ
ガチャ
弾「…………」
一夏「よ、よう弾。遊びに来たぜ」
弾「よう……」
一夏「最近そっちはどうだ?」
弾「まあぼちぼちだな。待ってろ、今茶でも入れるからよ」
一夏「おお」
弾「…………」ガチャッ バタン
一夏(ノート読んだこと気付かれてないよな?)
――――――
―――

85 :以下、
一夏「でさあ、凄い美人が俺にタキシードを買ってくれたんだよ! あのときは驚いたなあ」
弾「マジかよ!? なんでおまえばかり?」
一夏「俺だって分かんねえよ! 申し訳ないから絶対代金を返したいんだけどな」
一夏(弾のやつ、俺の話には一見以前と変わりない反応をしてくれているように思う)
弾「でも、スゲー話だなぁ」
弾「…………」
一夏(しかし、たまに目が笑ってないように感じられるのは俺の気のせいか?)
86 :以下、
弾「で、今日は何の用だ? ラッキー体験を自慢しに来ただけじゃねえんだろ?」
一夏「ああ、ちょっと相談があってよ」
弾「相談? なんだよ」
一夏「うん。実は俺……学園で仲良かった友達から無視されてるんだ」
弾「無視だって?」
一夏「弾、おまえ前に俺の誕生会に参加したよな。そのとき来てた子たちだよ」
弾「篠ノ之さんたちか。確か鈴もいたと思うが、あいつからもシカトされてんの?」
一夏「そうなんだ」
弾「う?ん……これだけじゃ何も言えねえな。その子たちについて詳しく教えてくれよ」
87 :以下、
一夏「おう。まずは箒からな。こいつは俺と一緒におまえの店に来てた子で―――」
――――――
―――

一夏「―――で、この事件のあと簪はちょっと明るくなったと思ったんだけど、今はまた素っ気なくなってるんだ」
弾「…………」
一夏(弾、話が進むにつれ段々表情が消えていっているんだが……真剣に考えてくれているのか?)
一夏「で、これからどうするかっていうのが問題なんだけど」
弾「…………」
一夏「弾?」
弾「贅沢な悩みだなおい」
一夏「え?」
弾「おまえはいいよな。たまたまIS学園に入れてよ。顔も良くて勝手に女が寄って来るんだから気楽なもんだよな」
一夏「な、何を言って……!?」
88 :以下、
弾「本当のことだろ。唯一ISを動かせる男ってことでちやほやされて来たんだろ。
 各国の代表候補生とお近づきになれた癖に、その子たちから冷たくされて悩んでますだあ? 甘えてんじゃねえよ!」
一夏「バカ言え! 俺だって楽じゃねえんだよ! 男だから損な役回りもさせられるし、死にかけたことだってあるんだ!」
弾「そーかい。でもおまえなんかにできるなら、ISを動かせさえすれば俺でもなんとかできそうだな」
一夏「……! お、おまえなんかおかしいぞ? そんなこと言ってくるやつだったか?」
弾「……おまえと違って変わっていってんだよ。今話で出た子たちもそうなんじゃねえか?」
一夏「!」
弾「相手にされなくなったって話だが、割とマジでおまえに愛想つかしたんじゃねえの?
 率直に言ってガキだもん、おまえって」
一夏「はあ?」
弾「おまえ、話を聞いてりゃどの子も守ってやりたいと考えてるみたいだな?」
一夏「それが何か悪いのか!? 困ってる人を助けたいから力を貸す! おまえは間違ってるって言うのかよ!」
弾「力もねえ癖に大それたこと抜かすんじゃねえってこった。
 例えば、シャルロットさんの話だが、彼女は実家との問題があるって言ってたよな」
89 :以下、
一夏「ああ。詳しいことは話せねえけどな」
弾「多分、おまえの機体のデータを採ろうとして本社から派遣されたんだろ?
 で、彼女は良心の呵責に耐えられなくなって、父親と決別する道を選んだってとこか?」
一夏(……! そのことは伏せていたのに……)
弾「その顔からすると、俺の推測は当たってるみたいだな」
弾「シャルルくんはフランスの代表候補生だったシャルロットさんだった。おまえはその事実を受け入れた上で、彼女の味方になった」
弾「しかし後のことはまるで考えちゃいねえ。卒業後はどうするんだ? もしかしたら在学中に本国に呼び戻される可能性もあるぜ。
 そんときはどうすんのおまえ? 千冬さんに泣き付くのかよ?」
一夏「うっ……!」
弾「……多分、彼女自身も完全に本国との関係を断ち切れたとは思ってないだろうな」
一夏(確かに、装備はデュノア社から送られてるらしいし……
 機体の稼働データ採取に協力する代わりにバックアップを受けていると考えるのが自然か)
弾「シャルロットさん自身は代表候補生なんだよな。ってことはフランスもそれなりに目を掛けてるだろう。
 あんな大々的な嘘をついたデュノア社が潰れないでいるっていうのは国がバックにあるからかも知れねえ。
 そんな彼女が卒業後も日本に留まり続けるっていうのは難しい相談だ」
弾「結局彼女は自由もなく、一生デュノア社に隷属して過ごすことになる。
 刃向かうか? そうしたら紛いなりにも会社という居場所を持っているのに、それすら失っちまう」
90 :以下、
一夏「…………」
弾「今は第三世代の開発に向けて各国が躍起になっている状態だ。
 フランス政府も自国の競争力強化のために、国内企業のデュノア社を支援するだろうな。
 貴重なIS操縦者とデータ提供のために好き勝手に利用できる人材はありがたいし、彼女に対する会社の決定を黙殺する公算も高いぜ?」
一夏「ま、まさか」
弾「シャルロットさんは父親の命令に従って、その気はなかったとはいえ世間を騙すことに加担した。重役共々檻の中に入ってもおかしくない。
 そんな彼女が今でも代表候補でいられる理由と、会社がまだ平然と業務を続けている実態の裏側をもう一度よく考えてみるんだな」
一夏「…………どういうことだ?」
弾「わからねえか? 国にとっちゃ、国産装備の使用に慣れた優れた資質を持つIS操縦者を自由に扱えるようになるなんてありがたい話なんだ。
 IS関連事業に活かすことができるからな。デュノア社にしても彼女がもしフランス代表として活躍してくれればイメージアップと宣伝効果が見込めるし、
 シャルロットさんに関して国から下された命令を従うだけで援助も受けられる。企業と政府と社会のwin‐win‐winの関係ってやつさ」
一夏「何だよそれ!? シャルの考えを無視しやがって!」
弾「ま、推論ばかりごちゃごちゃ述べたけど、それ以前に家族の問題でもあるってことを忘れちゃいけねえ。
 部外者のおまえが首を突っ込んでいい話かどうか、もう一回考えてみな」
一夏(家族……)
一夏「お、俺は」
弾「鈴だって結構問題あるんだぜ? 両親の離婚を理由に中学校を出ていったことがあったろ?」
91 :以下、
一夏(そうだ……あいつ、冬の凍える風に晒されて、この世の終わりみたいな寂しそうな目で立ち尽くしてて……)
弾「おまえの誕生会のときは元気そうだったけどな。
 今おまえを無視してるってことは、見た目からは伺い知れない苦悩が胸に巣食ってる可能性がなきにしも非ずだな」
弾(鈴はおまえのことが好きだったのに、遠ざけるような真似するってのはよっぽどのことなんだぜ? 分かってんのかこの鈍感王は)
弾「自分の見通しの甘さが分かったか? 他の子たちだってそうだ。
 皆心に鬱積した問題を隠してるのかも知れないぜ。おまえなんかが到底理解できない気持ちを抱えてる人もいるだろう」
一夏「あいつらはっ……少し前までは俺と騒いだり、協力して外敵に立ち向かったりしてたんだ……」
一夏「箒もセシリアも鈴もシャルもラウラも簪も……俺のかけがえのない仲間だ……」
弾「『だから全員守りたいでーす!』ってか。アホかおまえ。
 おまえがスルーされてんのは、そういう馬鹿げた考えが遠因になってるんじゃねえの?」
92 :以下、
一夏「なんだと?」ピクッ
弾「実際問題自分のことも満足に面倒見れないおまえができるわけねえんだから。
 人一人だけでも幸せにしようと思ったら相当な覚悟と労力がいるんだ」
一夏「……!」
弾「それなのに仲良くなった子全員に無責任な甘さを振り撒きやがって。結局誰一人満足に助けられてないんじゃねえか?」
一夏「ぐ……うぅぅ……」
弾「篠ノ之さんたちがおまえに冷たくなったのは、実際のところ理由は分からない。
 いくらなんでも今まで仲良くしていたのに急に離れていくなんて……まあ現実なんかそんなもんかも知れないが、やっぱり妙だ。
 悩みを抱えているのか、おまえとの繋がりを断ち切って自分の足で進もうとしてるか、そのあたりだろうな」
弾「で、お前がしてやれてることはなんだ?」
一夏「!」
弾「俺のところ来てる場合じゃねえだろ。おまえは全員守りたい、救いたいと思ってるんだろ?
 ならすぐ彼女たちの元に行って話を聞いてやれよ。彼女たちが抱えているものがなんであれ、まずはそっからだろ」
弾「失笑物の信念だけど、何とか現実にしようと行動を起こしてるならそれなりに認めるところはあるんだよ。
 幼稚な考えを今まで抱えて来たんなら、それを捨てるか足を動かすかさっさと決めろや」
一夏「…………」
93 :以下、
一夏「……弾」
弾「ん?」
一夏「今日は……すまなかったな……俺、行くよ……」スクッ
弾「おう」
一夏「蘭に、よろしく、言っといてくれ……俺が、受験、応援してたって……伝えといてくれ……」
弾「オーケー」
一夏「ありがとうよ……じゃあな…………」フラフラ
弾「待て、一夏」
一夏「何だ……?」
弾「一人に照準絞った方がいいんじゃねえかな。心から力になりたいと思う誰か一人に」
一夏「へ?」
94 :以下、
弾「俺はおまえが甘っちょろい理想を手放すことを希望してるんだが、おまえのことだからまだしがみついてるかも知れねえと思ってな」
一夏「……」
弾「最後にもう一度だけ忠告しとくが、それは止めとけ。全員に良い顔しても結局良い事ねえぞ。それどころか皆不幸になるのが確実。
 一人だけにしろ。もう誰にするか選んじまえ。それが皆のためだ」
一夏「……」
弾(どうせ篠ノ之さんや鈴だけじゃなく全員に惚れられてんだろ。女の子たちが誕生会でおまえに向けてた目はきらめいてたもんなあ……)
一夏「……」
弾「一人を選ぶのは嫌だろう。他の子を見捨てることになるとおまえは考えるかも知れない。
 でもそれが一番なんだ。周りから恨まれようが、絶対にこの人だけは守りたいと思えるやつと共に歩むんだ。
 今のままじゃきっと誰に対しても半端にしか助けられず、束の間の安らぎを提供するだけで終わる」
弾「全員を助けようとするのは比類なく優しさが発揮されているようでいて、その実最も残酷だと俺は思う。
 結果的に背負わせなくてもいい苦しみを強いることになる。だから一夏、もう―――」
一夏「…………………!!」
バタン!
95 :以下、
弾「……………」
弾「あそこまで言う気は無かったのによ。俺もどうかしてたな」
弾「でもよ、一夏。中学時代の仲間が自分を置いてガンガン進んでいく様ってよ、見てて嫉妬することもあるんだぜ?」
弾「中学の同級生の内、倍率一万倍のIS学園に籍を置く人間が二人。入学する予定の妹が一人。
 そしてあの人も入れると、周りにはIS関係者が四人もいるんだ」
弾「焦るぜ、俺も……あの人と会うと自分が何も目的を持たずフラフラしてるだけの空っぽな人間だって気がしてくる」
弾「今日もやるか。仲間やあの人に劣等感を感じずに済むように、必要最低限の知識は付けねえと。あいつらとの共通の話題にもなるしな」
――――――
―――

96 :以下、
一夏「ううぅ………」トボトボ
一夏(千冬姉も俺が相談したとき言ってたな……『それくらい自分で何とかして見せろ』って)
一夏「……もう分かってたじゃないか。何をどうするべきなんて……どうして俺は回り道ばっかりしてたんだ?」
一夏「…………」
一夏(そうだ……俺は怖かったんだ。あいつらに突き離されて無視されることを恐れてたんじゃない。
 あいつらの冷たい態度は俺のしてきたことが原因で引き起こされたのかも知れない。それが事実だったと知ればショックを受けてしまう。
 だから向き合うことを避けたかったんだ。なのに誰かを相談することを逃げる口実にした)
一夏(笑わせるぜ。「皆を守りたい」って考えてた癖に、真っ先に自分の身を守ろうとしてるんじゃないかよ)
一夏(そもそもだ。俺の考えは弾の言う通り、幼稚で不完全なものなのか……? 全部間違ってたっていうのか……?
 俺のやってきたことは苦しみを先延ばしにしたり、結果的に痛みを増やすだけだったのか……?)
一夏(…………!)
一夏「違う! 違う違う違う!」
97 :以下、
一夏「そんなわけねえ! そんな、馬鹿な話が……あってたまるかよ! 俺は皆に幸せにいて欲しいだけなんだ……
 あいつらが苦しむところなんか見たくねえ! 力になってやりてえよ!」
一夏「……でも、俺だけで……全員を一人で救いきるなんて……」
一夏「…………」
一夏「一人を選ぶ……か」
一夏「でも弾の言うことももっともかもな……俺一人の力で……全員を助けるなんて無理な話なんだ」
一夏「最初にあいつに指摘されたこともあながち間違ってない。たまたまIS学園に入れて、幸運にも専用機を貰えた。
 鍛えてくれる環境もあったし、優れた功績を残した姉もいる。
 皆とは偶然の連続で今の仲になれたようなもんで、普通に生きてたら接点がなかったり再会できなかった人間ばっかりだ」
一夏「そんな、危ういバランスの上で成り立ってた環境に慣れ過ぎて、俺は良い気になってたのかな……
 中学時代まではごく平凡なガキだったっていうのによ」
98 :以下、
一夏「でも、誰を選ぶ……? 特別な思い出のある人間にしようか……」
一夏「箒……セシリア……鈴……シャル……ラウラ……簪…………誰が一番だと俺は思っているんだ?」
一夏「………………」
一夏「全員じゃねえかよぉ!!」
一夏(何だ!? 俺は誰に対しても……『おまえを一番守りたい』とか…… 
 そういう甘っちょろいセリフを吐けちまうような人間ってことか? 選択した理由を後からいくらでも言い繕えるのか?
 そうか、誰を選ぶにしても「絶対にこの人じゃなければいけない」って理由を俺は……)
一夏(俺は……持ってないんだ……!)
一夏(俺に冷たくしたり、もしくは頼ってくる子が一人だったら俺はそいつを選んでたかも知れねえ……
 そんで、他の連中にも今まで通りいい顔をするだろうな。選んだ子の気持ちを考えずに)
99 :以下、
一夏「……………………………………そっか」
一夏(俺は芯が無い上に誰にも良い顔したがって……支えにしてた「誰かを守ってみたい」って考えも甘っちょろくて穴だらけで……)
一夏「うううぅぅぅ……」
一夏(捨てられねえ! やっぱりこれを手放すことなんてできねえ! 皆みんな救いたい!
 夢だと言われても、これを放り出したら俺じゃなくなる!、誰かを犠牲にして誰かを救うなんて……)
一夏「…………はっ!!」
一夏(……………)
一夏「待てよ……!? これなら……! この方法ならちょっと希望はあるんじゃねえか!?」
一夏(一人で全員助けるのは無理でも――)
100 :以下、
【IS学園 廊下】
千冬「ふう、小娘どもの面倒を見るのは疲れる………ん、あれは」
一夏「………」
千冬(何だ? 一夏のやつ、思いつめた顔をして……)
一夏「あ、織斑先生」
千冬「どうした?」
一夏「先日は助言ありがとうございました。やっぱり箒たち、ちょっと悩んでるみたいなんでそれとなく話を聞いてやってください」ニコッ
千冬「ああ」
一夏「では」
千冬(それだけか?)
千冬(…………)
101 :以下、
一夏「…………」キョロキョロ
鈴(ふう……しばらく泣いたらスッキリした。でも、トラウマワードには今後要注意ね)
一夏「よう、鈴! 飲み物買いに出てきたのか?」
鈴「あ、一夏……」
一夏「なあ、俺の気のせいじゃなければさ、昨日からおまえ俺を避けてるよな?」
鈴「…………」
一夏「正直、おまえから無視されるのって辛くてさ。何か俺に落ち度があるなら言ってくれよ」ニコッ
鈴「…………!」ズキッ
102 :以下、
一夏「鈴?」
鈴「……」
鈴「ごめん、今あんたと話す気分じゃないの」
一夏「ん、そうか」
一夏「なあ鈴……おまえさえよければちょっと頼みたいことがあるんだよ」
鈴「話す気分じゃないって言ったわ。じゃあね、あたし部屋戻るから……」スタスタ
一夏「鈴!」
鈴「……」スタスタ
一夏「箒たちのことはおまえも友達だと思ってるだろ? 
 あいつら、もしかしたら今問題抱えてるかも知れないんだ!」
鈴「……」スタスタ
一夏「おまえの方からそれとなく何を考えてるか探ってみてくれないか!?
 そして、もし余裕があったら助けてやって欲しい!」
103 :以下、
【鈴の部屋】
鈴「ふう……」
鈴「一夏のやつ、『俺を頼ってくれ』ですって……? 馬鹿じゃないの!? 
 あんなこと言ってくるから、また心がグチャグチャになっちゃったじゃない……!
 もう道は決めたつもりだったのに……!!」
鈴「一夏……」
鈴(そういえば……あいつ最後に箒たちが困ってるから助けになってやってくれ、って言ってたわね)
鈴(確かに皆、何かおかしかったなあ……喧嘩止めに入ったら怒鳴られるんだもん……
 もう嫌よ。あんな苦しい思いするのは……周りの悩みを聞いてやる余裕なんて今のあたしにはないわよっ……)
鈴(…………そうよ、皆なんだかんだでうまく切り抜けるはず。あたしと違って優等種だもん……
 それにもう私は学校辞めるんだから……)
――――――
―――

104 :以下、
一夏「……」
コンコン
一夏「シャルー! ラウラー! 部屋にいるかー!?」
シーン
一夏「……いないのか?」
シャル「…………あっ」
一夏「おうシャルロット! 部屋を空けてたのか」
シャル(一夏が僕の部屋の前に……心配してくれたのかな。でも、君の人生に僕なんか必要ないんだよ)
シャル「ごめん、どいて」
105 :以下、
一夏「なあ、シャル」ガシッ
シャル「わっ!」ドキッ
シャル「う、腕を掴まないでよ!」
一夏「なんか様子が変だぜおまえ。俺に隠し事をしてるんじゃないか?」
シャル「…………!」ピクッ
一夏「なあ、何かに苦しんでいるなら俺に相談してくれよ。できる限りの手助けをするつもりだ」
シャル「…………!」
一夏「表情が曇ってるぞ、シャル」
シャル「……どいて」
一夏「シャル!」
シャル「離してってば!!」バシッ!
一夏「うっ……」
106 :以下、
一夏「ど、どうしたんだよ? いつものおまえらしくないぜ」
シャル「一夏……君って凄く残酷だね……」
一夏「え?」
シャル「何食わぬ顔で僕が一番苦しむことをしてきてさっ……!」
一夏「…………!!」ズキッ
ガチャ
ラウラ「…………」ジロッ
一夏「あ、ラウラ……」
シャル「じゃあね」スッ
一夏(あ、ラウラが開けた隙間から部屋に入っちまった……)
ラウラ「何の用だ?」
一夏「ラウラ! シャルのやつどうかしたのか? 同室のおまえなら何か知ってるだろ?」
ラウラ「知らんな。興味もない」
107 :以下、
一夏「おいおいラウラ……もしかしてシャルと喧嘩でもしたのか? とげとげしい雰囲気を纏ってるけど……」
ラウラ「おまえには関係ない」
一夏「そ、そうか。じゃあ、ラウラ、おまえ自身は最近辛いことは―――」
ラウラ「そんなものない!!」
一夏「……昨日から俺に対して辛辣なんだが、俺はおまえに謝らなければいけないことをしちまったか? 
 もしそうなら頭を下げる。そんで、できれば事情を聞かせて欲しい」
ラウラ「それもない! 失せろ!」
一夏「やっぱり変だぜ、ラウラ。おまえはそんな奴じゃ―――」
ラウラ「おまえに何が分かる!!」
一夏「うっ!」ビクッ
108 :以下、
ラウラ「一時期とはいえおまえに惹かれた自分が憎い! そのせいで私はかつてない苦しみを味わうことになった!
 貴様の笑みの下の欺瞞に気付かず、思いがけない罠に掛かったんだ!」
一夏「……!」ズキッ
一夏「ど、どういうことなんだ! 教えてくれよ! 俺は―――」
パァン!
ラウラ「くどい!! 顔も見たくないわ! さっさと消えろ!」
一夏「ってぇ………」ヒリヒリ
一夏(思いっきりはたかれた…………最初に会ったときと同じ…………)
ラウラ「…………」ギロッ
一夏(な、なんて冷たい目だ。そうだ、確か「ドイツの冷氷」って呼ばれてたって……)
一夏「ラ、ラウラ、どうしちまったんだよ……す、少し前までは俺と一緒に模擬戦したり遊んだりしてたじゃないか?」
ラウラ「ふん、忌わしい過去を持ちだしてきたな。もう私はそういう俗な行為はせん。
 これからは今までの私に戻り、ただ己を一つの武器として鍛え上げるのみだ」
ラウラ「生み出された理由通りに、な」
一夏「!」
109 :以下、
ラウラ「もう二度と来るな」スッ
一夏「ま、待ってくれ! 最後に一言聞いてくれ」ガシッ
ラウラ「ドアを離せ!!」
一夏「俺に冷たくするのは構わねえ! けど、周りにそんな態度を取るなよ!」
ラウラ「!?」
一夏「この学園に来て、おまえを助けてくれる仲間ができたはずだ! 何度も一緒に戦ってきた仲間が!
 そいつらには俺に対してと同じようにぶつかるんじゃねえぞ!」
ラウラ「黙れ」
一夏「おまえだって、誰かを助けてやれることができるんだからな! 一人で抱え込んじゃダメだ!」
ラウラ「黙れ……!」
一夏「奥にいるシャルも聞いてくれ! 苦しいことがあるなら俺はいつだって協力するから! 
 俺に言いにくいことならおまえの仲間を頼れ! きっと助けてくれるはずだ!」
ラウラ「黙れと言っている!」ドンッ!
一夏「ひゅっ……!」
110 :以下、
一夏(み、鳩尾に……)
一夏「かはっ…………! ごほっ! げほっ!」
ラウラ「………………」
一夏「はっ…………………げふっ………ふうっ……!」
ラウラ「ふ、ふん」
バタン
一夏「はぁ、はぁ……………」
一夏「よし、立てる。行動に支障はないな。俺も苛立って楯無さんに手を上げちまったし、良い罰だよ、うん……」
一夏「ここでへこたれてるわけにはいかないぜ……ははは……」
一夏「…………」フラフラ
111 :以下、
【シャルとラウラの部屋】
シャル「……………」チラッ
ラウラ「……………」チラッ
シャル「ふん」プイ
ラウラ「ちっ」プイ
シャル(模擬戦のあとの口論で、ラウラとはますます距離ができちゃったなあ)
ラウラ(一夏め……未だに私の心に入りこもうとするのか。もうあいつには騙されんぞ。強くあると私は決めたんだ!)
シャル(さっき彼は僕の力になってくれるって言ってた……でもね、一夏。
 結局君の行為は苦しみを先延ばしにしただけだって、僕は気付いたんだよ)
112 :以下、
ラウラ(しかし……)
シャル(だけど……)
ラウラ(この居心地の悪さはなんだ!?)
シャル(一夏と離れるのは身を切るように辛いよ……!)
ラウラ(あと、妙なことを言っていたな……)
シャル(ドアの隙間から聞こえた最後の言葉……)
ラウラ(私が『他の人間を助けてやれることができる』だと?)
シャル(『おまえの仲間を頼れ!』だって……?)
ラウラ(何故私が愚劣な連中に手を貸さなければならないんだ! ふざけるな!)
シャル(僕の悩みなんか話されても迷惑だし、そもそも分かってくれる人なんていないよ!)
113 :以下、
シャル「…………」チラッ
ラウラ「…………」チラッ
シャル「ふん!」プイッ
ラウラ「ちっ!」プイッ
シャル(ラウラもいつまで意地張ってるんだよ! 一夏の話を聞いてたときの様子を見る限り、君は彼のことを断ち切れてないじゃないか!)ズキッ
ラウラ(シャルロット、貴様が一夏に対しあんな態度に出るとは予想外だったぞ……)チクッ
シャル(ああもう! 一夏のやつ、変なこと言ってきて!)
ラウラ(また割り切れない妙な気持ちになってきた……! くそ、私は―――)
114 :以下、
【セシリアの部屋の前】
セシリア「率直に申し上げてあなたの顔を見たくありませんの、一夏さん」
一夏「な!」
セシリア「さっき、私がすげない態度を取るのは自分に責があるのではと不安がられておられましたが、そのようなことは一切ありません。
  わたくしの極めて個人的な理由に依るものですから、どうぞご安心ください」
一夏(セシリア……話し方が丁寧を通り越して他人行儀になってる)
セシリア「私は部屋に戻って熱いシャワーを浴びたいのです。ではこれで」
一夏「お、おう。じゃあさ、俺が最後に言ったこと―――」
セシリア「箒さんたちが懊悩しておられるかも知れませんので然るべき対応を、ということでしたわね」
一夏「そう!」
セシリア「はあ……ねえ、一夏さん」
一夏「なんだ!?」
セシリア「皆さんはひょっとしたらあなたのことで悩んでいるのかも知れませんわよ」
115 :以下、
一夏「え……!? そ、そのことについて詳しく聞かせてくれないか!」
セシリア「申し訳ございません。私もあなたの顔を見るのはいささか心苦しいのです……!」 
一夏「!」ズキッ
セシリア「さようなら。できればこれからはあまり声を掛けないで下さい。紳士的な対応を期待します」スタスタ
一夏「…………………………」
【セシリアの部屋】
セシリア「うっ……」
セシリア「わたくしは何を言っているんですの! 一夏さんに非は無いというのに! あんな言い方をするなんて……」
セシリア(でも、彼の顔を見ると自分の見たくない部分が思い出されてしまう! 
  父親を憎んでいた醜い過去に押し潰されそうになる!)
セシリア「そうなると、ついつい慇懃無礼な態度で接してしまう……! 
  一夏さんから自立するという決意が揺らぎそうになってしまって……!」
セシリア(それに、一夏さんは箒さんたちが問題を抱えていると考えておられるようでした……
  しかし、わたくしは自分のことすら満足に面倒を見れない偏狭な女なのですよ? そんな未熟者に何ができると言うのです?)
セシリア(矮小な価値観に縛られて父を見下し続けた酷い女! 皆さんを見ていると自分が恥ずかしくなりますわ!)
116 :以下、
一夏「え……!? そ、そのことについて詳しく聞かせてくれないか!」
セシリア「申し訳ございません。私もあなたの顔を見るのはいささか心苦しいのです……!」 
一夏「!」ズキッ
セシリア「さようなら。できればこれからはあまり声を掛けないで下さい。紳士的な対応を期待します」スタスタ
一夏「…………………………」
【セシリアの部屋】
セシリア「うっ……」
セシリア「わたくしは何を言っているんですの! 一夏さんに非は無いというのに! あんな言い方をするなんて……」
セシリア(でも、彼の顔を見ると自分の見たくない部分が思い出されてしまう! 
  父親を憎んでいた醜い過去に押し潰されそうになる!)
セシリア「そうなると、ついつい慇懃無礼な態度で接してしまう……! 
  一夏さんから自立するという決意が揺らぎそうになってしまって……!」
セシリア(それに、一夏さんは箒さんたちが問題を抱えていると考えておられるようでした……
  しかし、わたくしは自分のことすら満足に面倒を見れない偏狭な女なのですよ? そんな未熟者に何ができると言うのです?)
セシリア(矮小な価値観に縛られて父を見下し続けた酷い女! 皆さんを見ていると自分が恥ずかしくなりますわ!)
117 :以下、
一夏「次は箒だ……部屋にいればいいな……」フラフラ
一夏「今度は少しだけでも、本当にほんの僅かでも取り合ってくれたら嬉しいな……」フラフラ
一夏(でもよ、続けて意味あるのか? 全然手応えねえし、もうやめた方が……)
一夏「俺のやってることは正しいのか……? 本当にこれでいいのか……?」
一夏(誰か保証してくれ! あいつらに対して俺ができる最善の方法を教えてくれよ!)
118 :以下、
一夏「…………」
――――――あんたのそういう優しさが私の枷になるんしょうがっ……!!
一夏「俺は……」
――――――何食わぬ顔で僕が一番苦しむことをしてきてさっ……!
一夏「あいつらを励ましたり……一緒に戦ったりしてきた……」
――――――貴様の笑みの下の欺瞞に気付かず、思いがけない罠に掛かったんだ!
一夏「段々仲良くなれたし……それが嬉しかったんだ……」
――――――申し訳ございません。私もあなたの顔を見るのはいささか心苦しいのです……!
一夏「でもよっ……結果的に一番残酷なことをしてしまったのかも知れないって、今になって思うぜ……
 弾、おまえの言ってたこと、多分あってるよ」
119 :以下、
一夏「俺が力もない癖に中途半端な真似したから、俺は皆に見限られたのかな…………」フラフラ
一夏「いいや……今日は帰って頭冷やそう……」
山田「あら、織斑くん」
一夏「! や、山田先生! こんにちは!」
山田「今日はどう過ごしました? リフレッシュはできましたか?」
一夏「は、はい!」
山田「そうですか! それは良かった」ニコッ
山田「…………はぁ」
一夏「どうしました? 顔色が優れないようですが」
120 :以下、
山田「い、いえ。何も……」ジワッ
一夏(目尻に涙が……!)
一夏「隠しだてしないでくださいよ! 先生っていつも生徒の相談に乗ってくれてるんだし、たまには自分の悩みを打ち明けてもバチ当たりませんよ!」
山田「ふふ、優しいこと。さすが織斑先生の弟さんですね! 心配してくれてありがとう」ニコッ
山田「…………うぅ」ポロッ
一夏「あ、山田先生! 俺なんか無作法なこと言いましたっけ!?」
山田「い、いえ。大丈夫です……う……ふうぅうぅ……」ポロポロ
一夏「なんで急に泣き出すんですか!? 誰か来るかも知れませんから、とりあえず人目につかない所へ!」
――――――
―――

121 :以下、
鷹月「篠ノ之さん、織斑くんに会えたのかしら」スタスタ
鷹月「専用機持ちの子たちは今まで織斑くんと仲良かったのに……どうしてああいう態度を取るのか謎だわ」
センセイ、ココナラダイジョウブデスヨ ハイ…スミマセン
鷹月「うん……? 空き教室から声が……?」
鷹月(あれは……織斑くんと山田先生?)
122 :以下、
【空き教室】
一夏「先生……どうしたんですか?」
山田「いえ、織斑くんは知らなくてもいいことですから……」
一夏「……………!」
山田「その気持ちだけで私は十分嬉しいですよ……」
一夏「先生!」
山田「は、はい」
一夏「先生はいつも物腰柔らかく、親身に指導してくれています! 俺もすごく助けられました! そんな先生が悲しそうに泣く姿は見たくないんです!
 打ち明けられるものなら、明かした方が楽ですよ!」
山田「……ありがとう織斑君。教え子からそう言ってもらえるなんて教師冥利に尽きるというものですよ」ジワッ
一夏「先生、本当にどうしたんですか?」
山田「些細なことなんですけどね。少し前に転校する生徒の両親とお話しする機会がありまして……」
山田「その席で、私に対しての手厳しいお叱りをいくつか賜ったわけなんですよ」
一夏「…………はい」
123 :以下、
山田「その子の両親は安全性が不安になってIS学園を辞めさせる決断を下されたんです。
 何度も襲撃を受けている学校に可愛い娘を通わせるなんて、親御さんからしたら心配で堪らないですからね。
 その指摘に対してはただただ頭を下げ、我々の不備を詫びることにしているんですが……」
一夏「それって先生が悪いわけじゃないじゃないですか!」
山田「実際に会って言葉を交わすのは私ですし、保護者の皆さんは私を学校の代表と考えるものなんですよ。
 学校で起きたすべての問題の責任を求められるのは困りますが、それも仕方のないことだと割り切っています」
山田「でも、そう簡単に流せない話題もありましてね……」ジワ
一夏「どういうことですか!?」
山田「織斑くん、私の体のこと……どう思います?」
一夏「え!! ど、どうと言われても……」
山田「やっぱり、この無駄に大きい胸が目障りだと思いますか?」
一夏「そんなこと……ま、まさか先生の体について悪口を言われたんですか!?」
124 :以下、
山田「まあ、そんなところです……は、はは……」ウルウル
一夏「先生、目が笑ってないですよ」
山田「織斑くんの目はごまかせませんね。私、一週間前に言われたことがどうしても頭から離れなくて……」
一夏「どんなことを?」
山田「…………む、胸は……」
一夏「はい……」
山田「『大きい胸は生徒を指導するのに必要なのか』とか『代表入りできなかったからコネで入ってきた教師』とか……
 酷かったのが『どうせ今までの地位は体を使って手に入れたんだろう』と言われたことで……ショックでした……」
一夏「…………!」
山田「その親御さんも話し合いが進むにつれ段々ヒートアップしてきて、そのために言動が乱暴になってしまったとは理解しているんです。
 ほら、私って上がり症でしょう? しどろもどろになって滑らかな受け答えができなかった私にも原因があるのだと言い聞かせて……
 ひっ…く……くぅぅぅ………」
一夏「先生、ゆっくりでいいですから」
山田「そう言い聞かせてっ……こ、心を、落ち着かせようと、し、してるん……ですけどっ……」
山田「う……うううぅぅぅ……」
ポタポタ……ポタポタポタ……
一夏(大人の女性がこんなに涙を流すなんて……)
125 :以下、
一夏「せ、先生! 大丈夫ですか!?」
山田「私っ……そのときはまさかそんなことまで言われると思ってませんでしたから、頭が真っ白になってしまって……
 顔を真っ赤にしたまま、言葉の雨が止むまでうつむいて合槌を打つことしかできなくてっ……!」ポロポロ
一夏「…………」
山田「代表候補まで行けたのは一生懸命練習に打ち込んだからなのに! 後進のためにがんばろうと決めて教師になったのに!
 胸は全然、本当に全然関係ないのに!」ポロポロ
山田「なんでそこまで言われなきゃならないんでしょうか……? それとも、受け流せない私が未熟なんでしょうか……」
一夏「先生はそのときに受けたショックが残ってるみたいですね」
山田「ええ。面談があったのはちょうど今くらいの夕暮れ時ですね。この件があってから、この時間になるとそのときのことが思い出されるんです。
 深い憂鬱に沈み込んで、悔しさやら悲しさやらが一緒くたになって、胸に、溢れて来てっ……」
一夏「押し殺そうと今までがんばってきたんですか……」
山田「はい……他の教師は皆同じような経験を乗り越えて来たのかも知れないと思って、私だけ弱音を吐いていられないと自分を叱責してたんです」
126 :以下、
山田「その結果苦しみを倍増させてしまったわけですから、ダメダメですね。でも、今織斑くんにお話ししてずいぶん楽になりました。
 こういったことは生徒に漏らすべきではないんでしょうけど……あなたの言葉に、どうしても気持ちが押さえられなくなってしまって」
一夏「そんな! 気にしないでください!」
一夏「先生はド素人の俺に嫌な顔一つせず付き合ってくれました。
 専用機持ちが集まるクラスを受け持つのは大変なはずなのに、そのことを生徒の前で愚痴をこぼしたことは一度も見たことありません」
一夏「誰かが山田先生のことを蔑んでも、親切で根気強いとても良い教師だという俺の評価は変わりません!
 先生の優しさと正しさは俺が保証します! だから、あまり自分を責めないでください!」
山田「…………!」ドキッ
一夏「中身を見てる人はちゃんといるんだってことは分かってください!」
山田「あ……ああ……!」
山田「お、織斑くん……ありがとう」
一夏「いえ。あっ、涙の筋が付いたまま外に出ると変に思われるかも。えっと、ハンカチはっと……」ゴソゴソ
一夏「はい、じっとしててください」フキフキ
山田「えっ! あっ……はい」カアァァァ
一夏「安心してくださいね。今日聞いたことは絶対他言しませんから」ニコリ
山田「ふ、二人だけの秘密、というやつですね……」
一夏「?」
127 :以下、
【廊下】
山田「……今日は助けられちゃいました。織斑くんは器が大きくて強いんですね」
一夏「強い? 俺が?」
山田「そうですよ。だって、人の話を受け止めて、背中を押してあげられるなんて強い人にしかできませんから。
 私なんか鬱屈した感情を抱え込んだせいで、周りを見る余裕がなくなっちゃってたんですよ?」
一夏「そ、そんな」
山田「今日は助かりました。また明日ですね、織斑くん♪」スタスタ
一夏「あ……さようなら、山田先生!」
一夏「…………」
一夏(…………山田先生も苦労してるんだ。俺の話なんか聞かせたら余計な心労を増やすだけだろうな。
 ただでさえ迷惑掛けてるのに、これ以上手を煩わせたくはない)
128 :以下、
一夏(これから箒のところへ行く予定だったけど、鈴たちの反応見る限りどうせ無駄足だろうな……そう、無駄足……)
一夏(……箒)チクッ
一夏(先生……俺ほど腑抜けなやつはいませんよ。今だって、あいつらに言われたことに心が揺さぶられてるんですから)
一夏(俺、逃げたんですよ……これ以上自分を否定されたくないって思ってしまって……自分のダメな部分を自覚させられたくなくて……)
一夏(弾に会ったあと自分の意思をもう一回見つめ直して、それを貫きたい気持ちがあることも確かめて、一つの考えに辿りついた。
 そこまでは良かったんです。でも、その考えを実行に移す第一段階でもうグロッキーになっちまったんです)
一夏「はあ……」
一夏(「皆を助けたい」っていう考えはやっぱり捨てたくねえ。皆には笑っていて欲しい。
 どんなに甘い理想だと言われようと手離すことはできねえ……!!)
一夏(でも、実現させようと現実の行動に移しても今んとこ良い感触が返ってこないし……挫けそうになる)
鷹月「織斑くん……」
鷹月「彼……山田先生を話しているときの表情は明るかったのに、一人になった途端あんな憔悴しきった顔をして……」
鷹月「……」
129 :以下、
【箒と鷹月の部屋】
鷹月「ねえ、篠ノ之さん。さっきね、織斑くんと会ったんだけど」
箒「何、帰って来ていたのか! 探し疲れたからといって部屋に戻るんじゃなかった!」
鷹月「うん。だけどね、織斑くん、ちょっと疲弊してるようだったわよ」
箒「一夏が?」
鷹月「うん……私が最初に織斑くんを見たとき、彼は山田先生と一緒にいてね。話をしている最中はいつも通りの笑顔で明るかったわ。
 でも、一人になった途端色が抜けたって言うか、落ち込んだように見えて」
鷹月「これって、珍しいことなのかな? 織斑くんは実は寂しがり屋だったとか……」
箒「一夏が……? そんな記憶はないが……」
箒(…………)
箒「静寐。そういえば昨日、一夏がセシリアたちから冷たくされていると言っていたな?」
鷹月「ええ」
箒(皆揃って一夏を避けるとは妙だし、今日私も会って奴らにおかしなところがあるのは認められた)
130 :以下、
箒「…………」
鷹月「ねえ……織斑くんも、他の専用機持ちの子もちょっといつもと違わない?」
箒「ああ。実はさっきセシリアたちを夕食に誘ったんだが、取り合ってもらえなかったんだ」
鷹月「そうなの……ねえ、篠ノ之さん。どうにかしてあげられないかな……?」
箒「分かっている」
鷹月「?」
箒(私にもできることはあるはずだ……!)
131 :以下、
【一夏の部屋】
一夏「……はあ」
一夏「逃げた。逃げちまった。自分の考えが間違いだと思いたくなくて、抵抗してたのに……真っ向から拒絶されて……」
一夏「ダメだ! ダメだこんなんじゃ! よし! 明日からは絶対逃げないぞ! いくら遠ざけられてもあいつらの力になって……」
一夏「力に……なって……」
一夏「それが……俺が力を貸そうとすることがあいつらの痛みに繋がったときは……どうすればいいんだ?」
一夏「俺だけで皆救えるとは思ってない。でも全員救いたい。
 その夢を本当にするために頭捻って考え出した解決法……それすらも砂上の楼閣ってやつなのか……?」
一夏「でも、信じ抜いてやっていくしかない……! 俺ができるのなんて、これくらいしかないじゃないかよ……!」
一夏(やっぱり先生に相談……いや、山田先生は日々の仕事で苦労しているし、俺の問題で手を煩わせる訳にはいかないってさっき決めたじゃないか。
 それに千冬姉にも自分で何とかして見せろって言われてるし……)
一夏(そうだ……この程度で他人に相談するな。情けない……大体もうこれからの道筋は立てただろうが! 逃げようとしちゃ駄目だ!)
一夏(…………)
一夏「くそ! 皆……俺は……」
一夏「俺は……寂しいよっ……!」
132 :以下、
?一夏中学時代?
【五反田食堂】
厳「よう一夏」
一夏「厳さん、こんにちは。といってももう帰るんだけど……」
弾「俺も店手伝わなきゃいけないからなー。いつもこの時間から混んでくるし」
厳「弾、そろそろ準備しろ!」
弾「へいへい。まったく、俺だけじゃなく蘭にも手伝わせろよ」
厳「あいつはおまえと違って勉強が忙しいからな」
弾「じゃあ仕方ねえな……っておい! 俺だって宿題あるんだよ!」
133 :以下、
厳「おまえは終わってからやればいーだろが、この」クシャクシャ
弾「いてて、乱暴に頭触んなよ!」
蓮「二人とも、遊んでないでさっさと体を動かして」
弾「ち……分かったよお袋」
一夏「…………」
一夏「じゃあな、弾!」
弾「お、おう。また明日」
【一夏の家】
ガチャ
一夏「……ただいま」
シーン…
一夏「晩飯は……一昨日作ったカレーの残りにするか」
――――――
―――

134 :以下、
一夏「明日は新聞配達だったな。早めに寝よう」パクパク
一夏「…………」パクパク
一夏「弾の家は賑やかだなあ。おじさんもおばさんも良い人でさ」
一夏「弾の奴はうっとおしいだけって言ってたけど、いつも話せる身近な人がいるってやっぱり羨ましいぜ」
一夏「千冬姉だっていないと寂しいしな。今何してんだろう。代表じゃなくなっても忙しいのは変わらずか。」
一夏「………………」
一夏「このカレーちょっとすっぱい……時間を置き過ぎちまったみたいだ」
一夏「でも勿体ないし食う。これくらい我慢しよう」
一夏「…………………………………」
142 :以下、
?次の日 昼休み?
【IS学園廊下】
簪(……ううっ……どうしよう)
簪(お姉ちゃんの頼み……安請け合いするんじゃなかった……)
簪(「一夏くんが悩んでるみたいだから話を聞いてあげてくれない?」って……
 できっこないよ……まず私が一夏へどう接していいか測りかねてるのに……)
簪(でも……お姉ちゃん本当に不安そうだった……話しているとき、いつもの余裕が見られなかったもん……
 一夏のことで心を痛めてたんだ、きっと……)
簪(そんな様子見てたらほっとけないじゃない……! 
 私と同じように悩んだり怖がったりする人間だってことを見せつけられたらさっ……)
簪(うう……どうしよう……篠ノ之さんたちも教室の中にいるはずだし……はち合わせたらきっと気まずいよね……
 でもいつまでも何もしないでいたら約束を反故にしちゃう……そしたらお姉ちゃんを幻滅させることになる……)
簪(一歩踏み出す勇気を出せたのは一夏のおかげ……彼のために動けなきゃどうするのよ……! あっ、でも……
 あのとき、行動を起こせたのは一夏がいたからなのかも……私、一夏がいなければまた元の殻に篭りがちな自分に戻っちゃうんじゃ……)
143 :以下、
「更識簪か?」
簪「!」ビクッ
箒「やはりそうか! 先の無人機との戦いでは世話になったな」
簪「あなたは確か篠ノ之さん……? こ、こんにちは……」
箒「1組なんかに来て……何か用事でもあるのか?」
簪(どうしよう……ばらしていいのかな……)
箒「もしかして、一夏に伝えたいことでも……」
簪「あ、いや……別に………」
箒「?」
簪「失礼しました……」 
箒「……」
箒「簪」
144 :以下、
箒「どうだ?」ニコッ
簪「…………!」ピクッ
簪「うん……行く! わ、私も……お話できたらなって思ってたし……!」
箒「そうか! そうと決まれば早く食堂に向かおう! 席が埋まってしまう」
簪「多分大丈夫……海が見える席なんだけど、そこは空いてることが多いから……」
箒「む、詳しいな」
簪「ま、まあね」
箒「それはいいことを聞いたぞ! さっ、行こう行こう!」
簪(びっくりした……篠ノ之さんの笑顔……一夏みたいだった……)
簪(優しく包み込むようで……思わず誘いを受けちゃった……)
145 :以下、
――――――
―――

【食堂】
箒「何!? 一人で専用機を作ろうとしていたというのは本当なのか!?」
簪「うん……でも行き詰まっちゃって……一夏とか整備課の皆の協力が無ければ絶対完成しなかったと思う」
箒「そうか……私も専用機を持っているが……いや、やめておこう」
簪「そう言えばすごい性能だよね紅椿って。敵の熱線からシールド張って私をかばってくれたし……」
箒「ああ、最高の機体だ。こいつには何度も助けられた」
箒「しかし、主がこれではな……」ゴニョゴニョ
簪「?」
箒「いや、何でもない。そうだ、おまえはタッグマッチでは一夏と組んでいたんだったな」
簪「うん……」
簪(そうだ……一夏のことで1組に来たのに……)
146 :以下、
箒「あいつと行動を共にしたのなら分かると思うが、なかなか妙なやつだろう? 苦労したんじゃないか?」
簪「うん……確かに会う前は専用機のことで恨みもあったけど、引っ掻き回されてる内に、段々と……ね。
 打鉄弐式も一夏のおかげで完成したようなものだし……今は感謝してる」
簪(お姉ちゃんとも仲直りできたのも、一夏がいてくれたから……)
箒「そうか!」
簪(……一夏のことを一緒に話せるのって何か……嬉しいな……)
箒「おっと、簪、話に夢中になるのはいいが早く食べないとかき揚げうどんが伸びてしまうぞ!」
簪(お姉ちゃんから言われたことも……打ち明けられるかも……)
箒「ど、どうした?」ニコッ
簪「ちょっと抱えているお話があるんだけど、聞いて貰える?」
箒「もちろんだ!」
148 :以下、
簪「昨日ね……お姉ちゃんから一夏が悩んでいるらしいから話を聞いてあげてって言われて……
 でも、1組に入り辛くて今まで実行できずにいるの……」
箒「ほう。なぜ入り辛いんだ?」
簪(どうしよう……私が篠ノ之さんたちに対して腰が引けてたことを打ち明けるべき……?)
簪「……っ」
箒「…………」
簪「えっと、入り辛かったっていうか……こういうことに慣れてなくて……
 頭ではすぐ行動すれば良いことは分かってるんだけど中々行動に移せなかっただけで……」アセアセ
簪(逃げちゃった……また……嘘で壁作っちゃった……)ギュッ
簪(やっぱり私……)
箒「簪」
簪「な、何……?」
149 :以下、
箒「私には真実を明かせないか? 私は信用されていないのか?」
簪「!」
箒「おまえは私と同じく、人を騙すのも自分を騙すのもそれほど上手くないらしいな。すぐ目の動きや仕草に出る。
 抱えているものがあるならどうか……溜め込まないでほしい」
簪「う……」
箒「頼む……な!」ニコッ
簪(また一夏みたいな微笑みを……そう言えば一夏言ってた……)
―――俺は、戦うよりも逃げる方が怖いからな
―――逃げたら、もう俺には戻れない気がするから
簪「っ……」
150 :以下、
簪「私、一夏のことをずっと憎んでた」
箒「うん?」
簪「でも、あの日とぼけた顔の一夏が四組の教室に来たときから変わり始めたの。
 私の席に来て、声を掛けて来たのがきっかけだった」
簪「一夏は私の専用機を作るのに協力してくれてね。稼働実験中にブースターの不具合で飛べなくなったとき、助けてくれたりもして。
 タッグマッチに乱入してきた無人機に襲われたとき、私に一歩踏み出す言葉を掛けてくれたことは鮮明に思い出せる」
簪「優しくて、強くて、まっすぐで……私も、少しずつ……」
箒「………」
簪「もう、はっきり言うね」
簪「私……一夏のことが好きになっちゃったの……」
箒「!」
151 :以下、
簪「不思議だね。一夏と一緒にいると、こっちの態度や考えも段々変わってくるの。
 交流を続けて、今までの殻を破って新しい自分になれた……と思ってたんだけど……」
箒「どうしたというんだ?」
簪「また及び腰になっちゃってたみたいなの。
 一夏を好きになって、もっと仲良くしよう……と思ったけど、もう周りにはたくさん他の子がいて……」
箒「ふむ……」
簪「『今更この子たちには追いつけない』って思って、一夏を諦めかけちゃったの。
 篠ノ之さんたちと比べて、一夏と交流してきた時間が圧倒的に少ないなって」
簪「どうせ競争に勝てる訳ないんだから、せめて一夏とお話できる関係は維持したかった。
 私の空想がかなうことが無くても、せめてもっと気軽に声を掛けられるようになりたかった」
簪「もっと肩ひじ張らずに付き合えるように……篠ノ之さんたちみたいに、ね」
箒「…………」
簪「でも、勝手に専用気持ちの子たちに苦手意識持っちゃってたみたい。
 多分、ずっと一夏と過ごしてきたあなたたちを羨ましく思う気持ちが変わっていったのね」
152 :以下、
簪「教室に入れず立ち往生してたのはそういう訳なの」
箒「な、なるほど」
簪「ふう……何かすっきり、した……全部ばらしたらこんなに楽になるものなんだ……」
箒「私から言わせてもらえば……」
簪「ん?」
箒「私は一夏と一緒にいた時間が一番長いが、そんなものはあまり意味を成さないぞ」
簪「……! ど、どうして?」
箒「皆違った魅力を持っているからだ。私はあいつと過ごした時間が長い方だと思うが、そんなリードは他のことで容易に埋められてしまうもの。
 あの四人はそれぞれ気高く、明るく、器用で、純真で……繊細で、勇猛で、冷静で、堅剛で……私にはない魅力を備えている」
簪(他の子の魅力をちゃんとわかってるんだ……)
箒「そしてやつらは皆祖国の期待を背負う代表候補生だ。この時点で一つ私は格が落ちる」
簪(篠ノ之さんも私と同じように自分にコンプレックスを……)
箒「でも一夏のことは諦めたくない。諦める気は無い」
簪「!」
153 :以下、
箒「この気持ちを押し殺すことはできなかった。
 なら、私にも他の四人に負けないものがきっとあると信じて、ひたむきに、まっすぐにぶつかっていくしかないと考えた」
簪(私も……この気持ちは押さえられないよっ……他の子に負けないものは私にだって……)
箒「だから、簪。おまえも私たちに引け目を感じることは無いぞ。
 そして、おまえさえ良ければ私だけでなく他の連中にも会ってやって欲しい」
簪「う、うん」
箒「そうそう、言い忘れていたが、私たちは一夏を巡る恋敵同志ではあるが、同時にかけがえの無い戦友でもある」
簪「ふうん」
箒「……ううむ。考えてみれば妙な関係だ……一緒に一夏の家で料理大会をしたこともあるし、トランプで遊んだりも……」
簪「大切な仲間……なんだね……」
箒「そう。簪、おまえもな」ニコッ
簪「えっ!?」
箒「何を驚くことがある。大体私たちだって集まろうとして集まった訳ではない。
 共に戦いを潜り抜け、少しずつ会話を交わす中で自然と互いを認め合って来たんだ」
154 :以下、
箒「おまえは先の戦いで私たちと共に戦っただろう。おまえがいなければ皆助からなかったかも知れん」
簪「そ、そんな」
箒「改めて礼をいう。本当にありがとう」ペコリ
簪「私だって、篠ノ之さん……にだけじゃなく一夏やお姉ちゃんにも助けられたし……それより、私も仲間って……ほ、本当に!?」
箒「ああ! おまえとは共に競い合いたい。一緒にもっと語らいたい! 他の四人だってそう思うはずだ!
 何より専用機を一から作り上げ、一夏を救った恩人なんだからな!」
簪「…………!」
簪「私、篠ノ之さんのこと……凄いと思う」
箒「え?」
簪「私……ライバルだけど……尊敬する。認めるけど……負けたくないって思う」
簪「そして、私に手を伸ばしてくれたあなたに、ありがとうって言いたい」
箒「ふふっ」
箒(表情が明るくなったな、簪)
簪「私、馬鹿だった。一夏が奮い立たせてくれたのに、また臆病者に戻ってさ……もう絶対戻りたくない」
155 :以下、
簪「正直、顔を合わせてお話しするのは怖かったけど、取り越し苦労だった。なんだか今は嬉しい気持ちでいっぱいだよ……!」
箒「それは良かった。と、そう言えば、簪は一夏の悩みを聞いてやってくれと楯無さんから頼まれていたんだったな。
 ええと……この時間は昼食を取りに食堂に来ているはず……」キョロキョロ
簪「……いないね」キョロキョロ
箒「むう……まあ、また会える機会はあるだろうが―――」
簪「……そうだね。また改めて訪ねてみるよ」
箒「そう言えば一夏の奴、朝食時間にも食堂にいなかったな。授業中はいつも通りの雰囲気だったが……」
箒(しかし、昨日静寐から言われたことは気に掛かる。しかし、一夏が暗い顔をするとはあまり想像できない……)
「もう聞いてこないで!」
簪「あ……ねえ、あそこにいるのって鳳さんとデュノアさんじゃない」
箒「ん?」
156 :以下、
鈴「な、何よ。ラウラと仲直り出来たのかどうか聞いただけなのに」
シャル「だから放っておいてよって言ってるじゃない……! 鈴には関係ないでしょ」
鈴(『関係ない』……!)ビクッ
鈴「っ……」
シャル「じゃあね。僕は行くから―――」
鈴「…………」
鈴「あたしが聞いても答えてくれないのは―――庶民生まれのあたしを見下してるから?」
シャル「え?」
鈴「天才科学者の妹でもなく、名門貴族の世継ぎでもなく、軍のエリートでもなく―――
 大企業の社長令嬢でもないから、話もしてもらえないのかしら?」
シャル「何を言って……」
157 :以下、
鈴「やっぱり、生まれが恵まれている人は違うわね。ちょっとあたしとは感覚が違うみたい。男装して学園に来るくらいだもんね」
シャル(『生まれが恵まれている』だって……!? こっちの事情も知らない癖に……!)カチン
鈴「そういうことならもう聞かないわ。今まで迷惑かけてごめんなさいね」
シャル「ちょっと待ってよ! 深く関わって欲しくないのは誰にだって同じだよ! 何も鈴だから言わないって訳じゃないよ!」
鈴「ふーん……じゃあ、自分を特別扱いしてるってことかしら?」
シャル「どういうこと!?」
鈴「自分のことなんか誰も分かるはずないと、あんたは孤独な女王を気取ってるんじゃないの?」
シャル「…………!」
鈴(……何言ってるの! 自分の事情を聞かれたくないのはあたしも同じじゃない!)
シャル(こういう状況になった大元の原因を知らずに好き勝手言って……!)
 ザワザワ ナニアレー? ケンカー? コワーイ
158 :以下、
シャル「じゃあ何? 分かるの? 君のお父さんは―――あっ……」
鈴(お父さん?)
シャル「う……」
鈴「な、なんでお父さんのことが出てくるのよ……」
箒「二人とも、いい加減にしろ! 皆が見ているぞ!」
鈴「あっ……箒。それと……」
簪「さ、更識簪です」
シャル「…………」
シャル「う、うう……」ダッ
箒「おい、シャルロット! どこへ行く!」
鈴「ほっといて欲しいんだって。わがままね」
159 :以下、
箒「鈴……どうしてしまったんだ? 昨日も様子は変だったが、今日はまた別の方向に―――」
鈴「…………」
簪(私も昨日見てたから知ってる……涙ぐんでた……)
鈴「箒。私、シャルにひどい言い掛かりつけちゃった……」
箒「何?」
鈴「シャルが大企業の社長の娘だってことを鼻にかけたことがないのは、私だって知ってるのに……う……うぅ……」
箒「!」
鈴「どうしよう……もう……頭ごちゃごちゃして、訳分かんなくなる……」
箒「鈴。おまえも……抱えているものがあるのではないか?」
簪(鳳さん辛そう……私は皆のことは伝聞くらいで全然知らない……でも……)
簪(力になりたい……! 篠ノ之さんが誇りに思う人たちだもん……私と同じように一夏と共に戦った仲間だもん……!
 それにそれに……そんな不安に歪んだ顔を見たら、昔の私を思い出しちゃう……!)
160 :以下、
鈴「抱えてるもの……?」ピクッ
箒「そのせいで、昨日のように泣いたり、今日のように急に皮肉っぽくなったりしているのではないか?
 いつもの快活さはどこに消えた?」
鈴「う、うるさいわね。あんたには分からない……はっ」
鈴(これじゃあ、私がシャルに向けていった皮肉じゃない……!)
箒「なあ、どうか教えてくれ。もし、私のことを仲間だと思っているのなら……」
鈴「…………」
鈴「箒、あたし……何か疲れちゃった……嫌な言葉を掛けられたり、人に対して皮肉っぽくなったり……
 シャルロットに言った悪口の内容を自分がそのままなぞったり……今のままは、もう……嫌だよ……!」
箒「なら、吐き出してしまえ。ここはどうも注目を浴びてしまうから場所を変えるか。一番近い空き教室にしよう」
簪「うん」
簪(シャルロットさん……)
簪「ねえ、篠ノ之さん! 初対面の私がいたら話しにくいかも知れないから、ちょっと席離れるね!」ダッ
箒「あ……ああ、すまん」
161 :以下、
【空き教室】
箒「鈴、一体何があった……?」
鈴「…………」
箒「鈴」ニコッ
鈴「う……」ピクッ
鈴(笑顔が眩しいのね箒って……普段笑わない印象があったからそのせい? どことなく一夏と似てるし……)
鈴(……一夏)
箒「ここなら他の人間は誰もいないぞ?」
鈴「うん……」
鈴「箒……なんだかごめんね……世話焼かせちゃってさ」
162 :以下、
箒「構うな。溜め込んではロクなことにならんぞ」
鈴(……そうだよね。最近の私って泣きやすくなるわ、友達に無神経な物言いしちゃうわ酷いもんだし)
鈴(もう……このままじゃ色々きつい……)
箒「頼む、鈴」
鈴「うん」コクッ
鈴「……あたしね、学校辞めようと考えてるの」
箒「は!?」
鈴「急に言われても困るよね。そもそもの始まりから話していくね」
鈴「あたしの家、中学時代に両親が離婚してさ。そのせいで中国に帰ることになって、一夏ともお別れするはめになったの」
箒(……無理矢理一夏と引き裂かれた……私と同じ……)
163 :以下、
箒「そうだったのか」
鈴「箒、あんたも確か国の方針で各地を転々とさせられたんでしょ? 単なる一夏の幼馴染同士ってだけでなく、こういう嫌な共通点もあったのね」
箒「む………」
鈴「それでね、続きだけど……そもそものきっかけは、お父さんとお母さんがよりを戻してまたお店開くっていう連絡が先日あったことでね」
箒「そうか、それはめでたいと思うが……」
鈴「あたしも嬉しかった。声を聞くと、親子三人でお店を切り盛りしてた時代が鮮明に思い出されちゃってさ。
 たまにお店に出ると、お客さんたちから可愛い可愛い言われて照れちゃって、お父さんもお母さんもその光景見て微笑んで……」
鈴「……良かったなあ……あの時代は……」
箒「…………」
164 :以下、
鈴「本当に良かった……今なんか霞むくらいにさ」
箒「何を言っているんだ? 今のおまえも十分にすごいと思うぞ」
鈴「ありがと。でもね、肝心なときに全然良いとこ見せられなかったり無様な姿を皆の前に晒したことを思い返したら……自信も失うわよ」
箒「そんなに気にすることではないだろう!」
鈴「セシリアたちみたく生まれも育ちも庶民離れしてたり、一夏やあんたみたいに偉大な身内を持ってたりもしないしさ。
 そんな中で雑草みたいなあたしが組も違う癖に混ざってるのって……やっぱり変じゃない?」
箒「何を言っている!」
鈴「だからさ……もう、疲れて、嫌になって……辞めたくなって……」
箒「…………」
鈴「そう決めたら楽になると思ったんだけど……ちょっとしたことで泣くようになったり、友達に皮肉言うようになったり、ますます頭がこんがらがって……」
箒「…………」
鈴「もう、お母さんとお父さんのお店を手伝う道を選んだのに……なんで……」
箒「!」
箒「一つ言わせて貰うぞ」
165 :以下、
箒「あの臨海学校のとき、私は力に溺れた挙句一夏を危険な目に会わせてしまった。
 そのあと、落ち込んでいた私を奮い立たせてくれたのはおまえだ」
鈴「……」
箒「なあ、鈴。おまえはさっき自分のことを雑草みたいだと言ったが、おまえは家のバックアップなしに代表候補生まで上り詰めたんだろう?
 それは誇るべきことだと思う。こんな友人ができて、私は幸運だ!」
鈴「!」
箒「少なくとも私は、おまえの格好悪いところを見ようが出身が特別でなかろうが、おまえに抱く敬意は変わらない!」
鈴「……箒」
箒「だから……おまえがどの道を歩むにしろ、おまえという人間は素晴らしいもので、自信を持つべきだと、私は考える。
 ううむ……言葉にするというのはどうも苦手だ……口ぼったい表現ですまん」
鈴「あ、あたしが……? 本当に?」
箒「そうだ。私が言いたいのは、自分に無いものを見たり昔の失態を思い出すよりは……
 持っている魅力を誇りそれを胸に進んでいく方がいい、ということだ」
箒「………………………………」
箒(私は何を偉そうに言っているんだ?)
166 :以下、
鈴(持っているもの……か)
箒「そして……鈴。おまえの前向きな姿勢や明るさは誰にもないものだぞ」ニコッ
鈴「…………!」
箒(鈴、立ち直ってくれ)
鈴(一夏と別れたくない。その気持ちが学校への未練になってると思ったけど……それだけじゃなかったんだ……)
鈴「ありがとう。箒、本当にありがとう……!」
箒「鈴!」
鈴「あたし……忘れてたみたい」
箒「ん?」
鈴「辛いときに助けてくれる仲間がいたことをさ……どうして気付けなかったんだろう?」
167 :以下、
鈴「そうだよね。私たちが集まったのは、出自がどうとか、育ちがどうとかといった共通点は全然関係なかった」
箒「そうだろう?」
鈴「皆あいつにモーション掛けて、一生懸命がんばってさ。共闘して、競争して、互いに認め合った仲だったってこと、失念してた」
箒「うむ。妙な仲だが、意外に悪くないものだとおまえも気付いていたはずだ。そうだろう?」
鈴「そうね。あ、シャルにさっきのこと謝らなきゃ……自分のことばっかり考えて、きつい物言いしちゃったからさ」
箒「よし、私も付き添おう」
鈴「どうしよ……学校辞めて二度と目に触れないから許してって言ったら、見逃してくれるかな……」
「辞めないで!」
箒「!」
鈴「!」
シャル「鈴……! 君は辞めちゃ駄目だよ……!」
168 :以下、
鈴「シャル! どうしてここに?」
簪「私が連れて来たの」
箒「簪!」
簪「シャルロットさんの部屋を訪ねて、鳳さんが謝りたがってるから話を聞いてあげてって伝えたの……」
箒「おまえが連れて来たのか……」
シャル「彼女の目が真剣だったから、思わず頷いちゃったよ。空き教室で箒と話をしているって聞いて、ここの前の廊下に来たんだ」
シャル「そしたら、なんだか真剣に話し込んでるみたいでさ。二人の話が一段落してから入ろうかと思って待ってたんだ。
 お喋りの内容にちょっと興味が出て、聞き耳を立ててたんだけど」
簪「……」
箒「……」
鈴「聞いたんだ。あたしが抱えてた気持ちを」
169 :以下、
シャル「うん。学校を辞めようとしてるってことも、自分の家庭のことや出身のことで悩んでたことも全部聞いたよ」
鈴「…………」
シャル「その上で言う。僕は君に辞めて欲しくない!」
鈴「!」
シャル「僕も、家庭や出身のことで苦しんでいたんだ……! 
 少しでも周りに目を向ける余裕があれば、君に冷たい態度を取ることも無かったはずだった!」
シャル「君みたいに家の後ろ盾もなく代表候補生入りするような努力家は、いつも明るくて親しみやすいムードメーカーは出て行っちゃいけないよ!」
鈴「あんた、『家庭や出身のことで苦しんでいた』って……」
シャル「…………!」
箒「シャル……」
簪「…………」ハラハラ
箒「どうやら、やはりおまえも誰にも秘密を明かさなかったために窮迫していたらしいな」
170 :以下、
箒「もう陽の下に引きずり出してしまえ。おまえが私たちを信用しているなら、頼むからそうしてくれ」
鈴「あたしも自分のことを聞かれたからって訳じゃないけど、やっぱり言ってみて欲しいな。
 こんなので償いになるとは思わないけど、食堂で酷いこと言っちゃったからさ」
簪「私からもお願い」ウルウル
シャル「みんな……」
シャル(そう……胸にあるものを誰にも―――あの一夏にも言わなかった結果、にっちもさっちも行かなくなった。
 もう苦しんだり、皆と衝突するのはもうご免被りたい)
シャル(……何でも話せる仲間はすぐ傍にいたのに、見まいとしてたのかな。
 箒……セシリア……鈴……ラウラ……そうだ。僕たちを繋げているのは家柄や国籍じゃなかったじゃないか!
 そんなのより、もっともっと尊い繋がりで結ばれてる……それを信じなくてどうするんだよ!)
シャル「ねえ………」
箒「!」
シャル「……ちょっと、僕の話を聞いてくれるかな?」
171 :以下、
箒「もちろんだ!」
鈴「言ってしまった方が楽になれるわよ。そのことはあたしが保障するわ」
簪「………」コクコク
シャル「じゃあ、まず…………僕のそもそもの生まれから始めるね……」
――――――
―――

箒「…………そうか。シャルロットはそういう枷に縛られていたのか」
鈴「ひっどい話ねえ……娘の意思を無視して勝手に物事を進める親父なんか縁切りなさいよ!」
簪(世界的企業のデュノア社がそんな真似を……)
シャル「一夏には話したんだけどね。嬉しかったなあ……一夏は僕のことを助けてくれて……」
箒(一夏……)
172 :以下、
シャル「………………」ポロッ
鈴「ど、どしたの!? 涙なんかこぼして!」
シャル「いや、鈴たちがちゃんと受け止めてくれたのが嬉しいなって。僕、考え過ぎてたのかも……」
箒「心外だな。 それとも何か? 
 友人が愛人から生まれた子だと知ればすぐさま見下すような冷血漢だと、私たちのことを思っていたのか?」
シャル「ううん! そんな訳ないじゃん!!」
鈴「で……それが本題じゃないんでしょ」
シャル「うん。それで、しばらく本社の方も僕に対しての積極的な働きかけはなかったんだけどね」
シャル「でも先日フランスに戻ってこいっていう文書が届いたんだ。
 それで僕は一度は回避したと思ってた問題に、また向き合わされることになった」
173 :以下、
鈴「そんなの蹴ればいいじゃない! シャルロットの人権はどうなってんのよ! オール無視!?」
シャル「そうできるものならしたいさ。僕、今も手紙を持ってるんだけど見てもらえるかな?」ゴソゴソ スッ
箒「どれ……」
シャル「末尾に追伸文があるでしょ……そ、それがさ……」
鈴「ふんふん……墓参り……一緒に…………」
鈴「っ…………!」
簪「鳳さん?」
箒(鈴も親との問題を抱えていたから、この文の効力がどれほどかは痛いほど分かるのだろうな)
シャル「ちゃんと分かってるんだよ、頭では。こんなの、僕を引きずり込もうとする罠だってことはさ。
 でも、どうしても、信じることを諦めきれなくて……」
鈴「これは……えげつないわね」
174 :以下、
シャル「それにさ、もしデュノア社が倒産してお父さんの行方が分からなくなったりしたら……僕の身を保障してくれるものはなくなるんだよ」
箒「そんなっ……!」
シャル「装備の供給もストップするし、帰る家もなくなるし、きっと牢獄に入れられちゃうって思うと……怖くて、不安で、た、堪らなくなって……」
シャル「だから会社が潰れちゃわないように、戻って開発に協力した方が僕のためにもなるかもって、思っちゃって……う、ううう……」
シャル「うっうっ……ぐすっ………う、うわああぁぁぁ…………! ひぐっ……ひぐっ……! ど、どうしよう……!」
箒「これは……」
簪「シャルロットさん……」
鈴「…………!」
バンッ!!
シャル「う!」ビクッ
鈴「シャル、あんたの気も知らず食堂であんなこと言ってごめん。
 生まれがどうか、育ちがどうかを基準にあたしたちは集まったわけじゃなかったってあたしも気付いたわ」
鈴「安心してシャルロット。もしあんたの父親があんたを好き勝手に操ろうってんなら、そのときはあたしが中国政府に会社の悪行をリークしてあげる」
175 :以下、
シャル「え……」
鈴「といってもそれだけじゃ弱いか。フランスとは競走中だし、中国も敵の基幹を支える企業の黒い噂を検証するでしょうけど……
 どれだけ働きかけてくれるかはわからない」
簪「私……」
箒「ん?」
簪「もしかしたらデュノア社の所業にはフランス政府も噛んでるかも知れないって思う……
 だって、デュノア社は自国のIS産業を担う企業だし、政府も守ろうとするんじゃ……」
シャル「!」
鈴「……もしそうだったらますます旗色が悪くなるわね。どうしたら……」
シャル「ううう……やっぱり……もう八方ふさがりなのかな……」
箒(シャルは父の愛情を知らずに……私は父と切り離されたが、こういった形で癒着してくる親もいるのか……)
箒「…………」
箒「シャルロット。会社が無くなったら帰る場所が消えてしまうを思っているようだが……
 もしおまえさえよければ私の叔母さんのもとで面倒を見てもらうこともできるんだぞ」
シャル「え!」
176 :以下、
箒「先生に事情を話す……と言っても、シャルロットが性別を偽って入学できたことを考えると大きな効果は期待できないだろうな。
 上層部の方は既にデュノア社とフランス政府の圧力を受けていたり、取引がなされていると考えた方がいいだろう」
箒「しかし、私が姉さんにおまえを救うよう頼めばなんとかなるかも知れん。各国政府も篠ノ之博士の動向に対しては下手に動けないと思う」
箒「…………」
箒(また姉に頼るのか……いや、これは友達を救うためだから仕方ない……)
鈴「いいわね。そうだ! セシリアやラウラにも頼みましょうよ! 
 二人とも代表候補生だし、特にセシリアは由緒正しい貴族の家柄でイギリス政府からの信用も厚いだろうし!」
箒「そうか。あいつらなら快く協力してくれるはずだな!」
鈴「同時に何ヶ国もの国から追及されたらフランスだって迂闊な真似できないわよ!」
簪「わ、私もお姉ちゃんに相談してみる。きっと力を貸してくれるはず」
箒「そうか、簪の姉はあの人だったな。よし、織斑先生にも事情を打ち明けて協力を求めよう! あの人は教師の中でも別格だ」
鈴「なんか凄いわね??! 何でも出来そうな気がしてきた!」
177 :以下、
シャル「…………」
シャル「どうして……皆そこまでしてくれるの? 僕なんかに、どうして……」
箒「今更その質問はないだろう」
鈴「そんなの仲間だからに決まってるじゃない! 
 あたしらの腐れ縁は簡単に忘れられるものじゃないし、あっさり見捨てられる仲間は一人もいないってこと!」
簪(篠ノ之さんの言った通り……すごく安心できる繋がりだ……私が考える前に動いちゃった)
シャル(……!)
シャル「……あ、ありがとう。本当にありがとう皆……」ジワッ
鈴「シャルロット……何言ってんのよ、仲間じゃない!」
箒「そうだ。しかしシャルロット、フランスに戻るかどうかは自分の意思で決めるんだぞ」
シャル「うん……」コクッ
178 :以下、
箒「なあに、安心しろ。おまえには私たちが付いているんだ」
シャル「そうだったね」
シャル「…………」
シャル「……僕はスパイとしてIS学園に入学したけど、ここに来てよかったよ……本当にさ……」
シャル「だって……こんなに心強い仲間ができたんだもん……!!」
鈴「ふふ。と言っても、あたしたちだけでは上手くいきそうにないから、多くの人の手を借りることになるんだけどね」
シャル「そんなの全然関係ないよ。僕を助けようとしてくれる、その姿勢が嬉しいんだよっ……!」
箒「ふふっ……」
簪(篠ノ之さん……笑ってる)
シャル「僕、やっぱり戻らないことに決めた。これからきちんとした手紙を書いて、拒絶の意を示すつもり」
シャル「皆と話したら、だんだん自分の道が見えてきた気がする。どうせ向き合わなきゃいけない問題だったんだしね。
 いざとなったら、いくらお父さんと言えども戦うよ」
箒「その、親父さんとの墓参りはいいのか?」
シャル「うん。今はここで皆と過ごしたい。お父さんと一緒にお母さんの前に行けるって話は、本当だったら嬉しいけど……
 ここに一生戻れなくなる可能性があるならお断りさ」
179 :以下、
鈴「今を選ぶってことね」
シャル「うん。死んだお母さんもきっと僕の決断を許してくれると思う」
鈴「…………」
鈴「あたしも……」
鈴「なんかもう、ふっ切れた。あたしが両親が待つ家に戻りたかったのは、心地良い家庭に逃げようとしてただけだったんだ。
 温かく迎えてくれる家がない子もいたのに、あたしだけそうするのは情けないわ」
箒「そうか」
鈴「落ち込むなんてガラじゃないしね! そんな暇あったら攻めるのがあたしだったはずよ」
鈴「心から負けたくないと思える最高のライバルと、心から助けたいと思える最高の仲間が同時に何人もできた。
 それなのにあたしだけ尻尾巻いてバックれるわけにはいかないでしょ!」
箒「さすが鈴だな。やはり、おまえたちがいないと私も寂しい」ニコッ
シャル「……」
シャル「箒さあ、君はそんな顔して笑うんだね。滅多に見たことないから新鮮だよ。どことなく一夏を思い出す……」
箒「なっ!? そ、そうか!?」
180 :以下、
箒「こほん…………シャルロット、一つ、やるべきことを忘れていないか」
シャル「え?」
箒「昨日、ラウラと衝突していたみたいだが……仲直りはできたのか?」
シャル「っ……」
鈴「そういや昨日は……はは、ま、いっか」
シャル「鈴、あのときはごめんね。自分を見失ってた」
鈴「いいっていいって!」
シャル「…………」
シャル「僕、行かなきゃ……」
シャル「ラウラも苦しんでるんだよ! 僕が助けなきゃ! もう彼女とギスギスするのは嫌だっ!」
箒(そう言えばセシリアもどこか様子が変だったな……奴にも当たらなければ)
181 :以下、
箒「そうと決まれば早行動を起こそう。ラウラはどこにいる?」
シャル「確か、食堂に行かずにアリーナに向かったみたいだったけど」
簪(ボーデヴィッヒさんって……確かドイツの代表候補生で特殊部隊出身だって聞いたことがあるけど……)
箒「そうか、昼休みもあと十五分ほどで終わるが一応行ってみるか」
鈴「あいつ荒れてたからねえ??人様に迷惑掛けてなきゃいいけど」
シャル(ラウラ……ごめんね。僕がもっと付いてあげなきゃいけなかったのに)
――――――
―――

187 :以下、
【第三アリーナ】
ピッ! ピッ! ピッ! 
ラウラ(相も変わらずビット頼みか。芸が無い!)
ヒュンヒュンヒュン! ピシッ……ピシッ……
ラウラ「おっと掠ったか、危ない危ない。妙な動きをすると思ったら偏向射撃を身に付けたのだな」
ラウラ「ふふふ…………! 中々腕を上げたではないか! ただのblauaugig※ではないようだ」
セシリア「謝罪しなさい! わたくしの家を侮辱したことを! わたくしのみならず先祖や両親に対する冒涜ですわ!」
※ 青い目を揶揄するスラング。単細胞というニュアンスが込められている。
188 :以下、
ラウラ「良い気迫だ! 古式張った家柄に縛られている割には中々軽やかな動きをする!」
セシリア(ラウラさん……! いくらあなたでも許せません! 叩き潰してやらなきゃ気が済みませんわ!)
?十五分前?
【アリーナ前】
ラウラ「ふむ……一人で訓練とはいささか刺激に欠ける。もっともっと実戦を積みたい」
セシリア「…………」テクテク
ラウラ(セシリアか……あれで我慢するか)
ラウラ「おいセシリア。私の模擬戦の相手をしろ」
セシリア「あら、ラウラさん。申し訳ありませんが今はちょっと……」
ラウラ(ちっ……どいつもこいつも……)
ラウラ「腑抜けめ。ならさっさと去れ」
189 :以下、
セシリア「…………」
ラウラ(ここはこんな腰抜けばかりか)
ラウラ「ふん、おまえのようなものが英国の代表候補生だと? 水準の低さが窺い知れるわ」
セシリア「…………」スタスタ
ラウラ「話によるとおまえは貴族の家の出身らしいが、代々続いてきた家を守るのは荷が重いだろうな。
 こんな臆病者が世継ぎなら実家の格も怪しいものだ」
セシリア「!!」ピクッ
セシリア「なんですって……?」
ラウラ(ん? 挑発に乗ってきたか)
190 :以下、
ラウラ「だから貴様の門閥も取るに足りぬものであると言ったんだ。おまえの臆病振りを見る限り、そう突飛な見解ではあるまい」
セシリア「!」
ラウラ「大方、沈みゆく日をただ指をくわえて見ているだけだったのだろう? 貴様の覇気のない目を覗けば容易に想像がつくわ」
セシリア「……なさい……!」
ラウラ「ん?」
セシリア「撤回しなさいと言ったのです! いくら仲間のあなたでも今の言葉は看過できませんわ!」
ラウラ(仲間だと……!?)
―――この学園に来て、おまえを助けてくれる仲間ができたはずだ! 何度も一緒に戦ってきた仲間が!
 
ラウラ「……」ギリッ…
―――そいつらには俺に対してと同じようにぶつかるんじゃねえぞ!
ラウラ「ふざけるなっ!!」
ラウラ「おまえなど、おまえたちなど仲間ではないわ! 私がより強くなるための……ただの糧だ!」
191 :以下、
セシリア「え!?」
ラウラ「ふーっ……ふーっ……」
セシリア(『仲間ではないです』って……!?)
セシリア「…………なるほど」
セシリア「昨日シャルロットさんが怒ったことも得心が行きました。そうやって自ら敵を作ろうとして……理解に苦しみます」
セシリア「分かりました。あなたの決闘の申し出、受けて立ちますわ! その代わり家を侮辱した言葉は取り消してもらいます!」
ラウラ「本当のことを指摘されてとさかに来たらしいな……! 
 撤回させたければ力尽くで言うことを聞かせればいいだろう! 最も、できればの話だがな」
セシリア「後悔しますわよ……!」
ラウラ「馬鹿め。二人掛かりで私にいいようにやられたのを忘れたか?」
――――――
―――

192 :以下、
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!
ヒュン! ヒュン!
セシリア「スターライトmk?を………」ジャキッ
ラウラ「レール砲(カノン)安全装置解除……初弾装填準備」
ラウラ(ふむ……ビットを私の停止結界に止められないよう高で操作しているのか。所詮浅知恵だ)
ラウラ(おまえの狙いは分かっているぞ。BT(ブルー・ティアーズ)の乱射撃は当てることを目的としていない。
 私の動きを限定するために使用しているのだろうが……見え見えだ!)
ラウラ(私の周囲を囲むように展開しているのは読めているぞ! 
 恐らくライフルの狙撃を私が避けた所を、間髪入れずに一斉射撃をする二段構えで来る!
 その前に私のレールカノンがおまえを吹き飛ばすがな!)
ヒュン! ヒュン!
セシリア「!」キッ
ビュン!
ラウラ(銃で撃たずにこちらに向かってくるだと? 馬鹿が! 貴様の白兵戦能力の低さは割れている!)
193 :以下、
セシリア「はああぁぁぁ!」ブンッ!
ラウラ「甘いわ!」サッ
《AIC 発動》
セシリア「ぐっ!」ピタッ……
ラウラ(ライフルの柄で殴ろうとするとは……愚直にも程がある。至近距離からのレール砲の餌食に―――はっ!)
セシリア(わたくしを止めるために集中を必要とするA.I.C(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を使えば……あなた自身の動きも制限される!)
ピッ! ピッ! ピッ! ピッ! ピッ!
ラウラ「っ!」
ドンドンドンドンドン!
ラウラ「ぐあっ! がっ! ぐおおぉぉ!?」
セシリア(A.I.Cが解除された……! 作戦通り!)
194 :以下、
ラウラ「ぐう!」
セシリア(渾身の力で――)
セシリア「えい!!」ドガッ!
ラウラ「ぐあっ!!」
ヒュウゥゥゥゥ??……… 
ドサァッ!!
ラウラ「うっ……うう……」
ザッ
ラウラ「!」
セシリア「はあっ……はあっ……」
ラウラ「う……!」
セシリア「読み勝ったのはわたくしの方でしたわね」
ラウラ(私と奴の距離は大体十メートルほど……)
ラウラ「おまえは銃で私を仕留めたかったらしいが………ふふふ……甘い! まだ、ワイヤーブレードが……」ブンッ!
195 :以下、
セシリア「無駄ですわ」
ラウラ「…………!」
セシリア「あなたが低俗なスラングを吐く前に、苦い思い出のあるワイヤーの射出機構をBTのビームで封じさせて頂きました」
ラウラ「なっ」
セシリア「そんなことにも気付かないなんて、BTのビームを伝えるアラームで損傷表示が紛れてしまったのかしら?」
ラウラ「単に掠ったのではなく……これを使用不能にしていたのか……ふっ……」
ラウラ「ライフルで殴りかかる直情馬鹿にしてやられるとはな……」
セシリア「それも作戦ですわ」
ラウラ「?」
セシリア「インターセプター(ショートブレード)で飛びつくこともできましたが、そうするとプラズマ手刀で迎撃されてしまう可能性も高くなります。
  AICで停止したところ一斉射撃するという計画も崩れ去るでしょう。
  そうならないように手刀よりリーチが勝り、かつ動きが大振りなライフルで突撃することでA.I.Cの使用を誘ったのです」
ラウラ「ははは……」
ラウラ「はははははははははははははははは!」
196 :以下、
ラウラ「出し抜かれた……か。気の抜けた女だという認識を訂正せねばなるまい。何がおまえをそうさせた?」
セシリア「話したところで……守りたいものを持たないあなたには分からないでしょうね」
ラウラ「…………!」
セシリア「さあ、わたくしの家を貶した報いは受けて貰いますわ! 覚悟しなさい! ラウラ・ボーデヴィッヒ!」ジャキッ!
「やめろセシリア! 勝負はついた!」
セシリア「!」
ラウラ「!」
箒「もういいだろう! 模擬戦でそこまでする必要はない!」
鈴「あんたたち……あたしが言うのもなんだけどちょっと派手にやりすぎじゃない?」
簪「私もそう思う……」
シャル「ラウラ! 君またやったの!?」
197 :以下、
ラウラ「ちっ、あいつらか。いつここに来たのだ」
セシリア「ラウラさんはわたくしの血族を侮辱したのですわ! 撤回させなければ気が済みません!」
箒「だからといってとどめをさすのはやめておけ! これでラウラが気を失えば謝罪の言葉を聞くのが更に遠くなるぞ!」
セシリア「……!」
シャル「ねえ、セシリア! 僕からもお願い! どうか許してあげて!……ラウラも決して本心から言った訳じゃないんだよ!」
ラウラ(シャルロット……!)
シャル「頼むよ! 僕も、僕も一緒に謝るから!」
セシリア「別にシャルロットさんには……」
198 :以下、
鈴「ど、どしたのよ? ちょっと抜けてるお嬢様だとは思ってたけど、あんたがそこまで怒るなんて見たことないわ」
箒「そうだ。おまえ、ここのところ上の空になったり、かと思えば仲間に対して激昂したり……少し妙だぞ?」
簪(…………昨日見たときはぼーっとしてたけど、やっぱりいつもは違うんだ)
セシリア「仲間……ですか。はっ、この方が……?」
セシリア「…………」フィィィィィン……
《ブルー・ティアーズ 展開解除》
セシリア「…………やる気が殺がれましたわ」
ラウラ「ちっ………」フィィィィィン……
《シュヴァルツェア・レーゲン 展開解除》
ラウラ「ぐ………」ダッ
箒「ラウラ!」
シャル(ラウラ、君……目が潤んで……)
199 :以下、
セシリア「放っておいて差し上げたらいかがです? 
  わたくし達は仲間ではないと言っていましたから、追いついたところで突っぱねられますわ」
鈴「ラウラがそんなことを? まさかIS学園に来たばかりの頃に戻ったって訳……?」
シャル「僕、ラウラを追うよ!」
セシリア「落ちついてください。じきに昼休みも終わりますわ。わざわざ追わなくても教室で会えます」
セシリア「それにシャルロットさん、あなたも彼女には酷い目に遭わされたのではなくて?」
シャル「……でも、放ってはおけない! あんな寂しそうな彼女を見捨てておける訳ないじゃない!」
箒「シャルロット、セシリアの言う通りもうそろそろ予鈴が鳴る。ラウラに当たるのは次の休み時間にしよう」
シャル(ラウラ……ごめんね。僕も自分のことで手一杯で……君のことを全然見てあげられなかった……)
鈴「大丈夫よ。あたしたちだって協力するから、ね?」
簪「シャルロットさん……ファ、ファイト!」
200 :以下、
セシリア「ふん……」
箒「…………」ジーッ
箒「なあ、セシリア。おまえも何かに悩んでいるのでは……」
セシリア(…………お父様)
セシリア「……お先に失礼しますわ。皆さんもあまりグズグズしていると遅刻しますわよ」スタスタ
箒「そうだな。私たちも急ごう!」
シャル「うん……」
鈴「次の休み時間、1組に顔出すから!」
簪「私も!」
「………」
「セシリアとラウラの間に出ようとしたら、箒たちに割り込まれちまった」
「あいつら……簪も一緒に集まってたけど、どういうことなんだ?」
一夏「…………………………………………………………」
201 :以下、
【1組前廊下】
鈴「どう? ラウラのやつ、授業中は大人しかった?」
箒「ああ。不貞腐れていたようなところがあるがな。ただ、怒気を撒き散らすことはないが更に塞ぎこんでいるように見えた」
簪「シャルロットさんは? あの人が一番心配してたみたいだけど」
箒「もう行っているよ……誰よりも早くな」
シャル「ね、ラウラ……君が一番今のままが嫌だって気付いているんじゃないの?」
ラウラ「…………」ギロッ
シャル「皆の輪に戻ろうよ。僕も改めて受け入れて貰えたときすごく嬉しくてさ。君にも優しさに触れて欲しいんだ」
ラウラ「黙れ! 気軽に声を掛けるなと言ったはずだぞ!」
シャル「そう言う君が一番周りにちょっかい出してるじゃないか!
 模擬戦のあと僕を挑発したり、セシリアに失礼なことを言ったり!」
シャル「君がそういうことをするのは心の底では他者に興味を持ってるからじゃないの?
 わざわざ敵意を買うような真似をするのは、君の不器用なコミュニケーションの形なんじゃ―――」
202 :以下、
シャル「でも……」
ラウラ「ふん。休み時間だと言うのに……おまえの顔を見ていると息が詰るわ」
シャル「……!」
箒「うーむ……やはりラウラは頑なだな」
鈴「あたしたちも行った方が良くない?」
箒「いや、シャルロットに『一対一で話したい』と告げられてな……」
簪「でも……苦戦してるみたい」
「放っておいて差し上げたらと助言したはずですわ」
箒「ん?」
セシリア「彼女はクラスメイトの家を平気で侮辱するような人間なのですよ?」
箒「セシリア……」
203 :以下、
鈴「やっぱセシリアちょっと変。一体どうしたっていうのよ?」
セシリア「……」
鈴「ねえ、あたしにも言えないことなの? あんたとあたしは腐れ縁なのか、よく一緒に行動した仲じゃない。
 ウォーターワールドで熱戦を繰り広げた記憶はどっか行っちゃった?」
セシリア「鈴さん……」
鈴「ラウラは……まあ、こっぴどい目に遭わされたこともあるけど大切な仲間じゃない。
 あんたもちょっと家を馬鹿にされたくらいで根に持ち過ぎじゃないの?」
セシリア「!」ピクッッ
セシリア「鈴さん、あなたにわたくしが家を貶されたときの気持ちが……いや、止めておきますわ」
鈴「な、何よ……?」
セシリア「失礼」スタスタ
204 :以下、
鈴「あ……行っちゃた……」
箒「ふむ。どうしたものか……」
鈴「そうねぇ……まあ、シャルロットが戻ってくるのを待ちましょ。
 話し始めは明るかった表情が曇ってきたから、もう限界よ」
鈴(セシリア……相棒みたいな存在のあんたがそういう風に変わっていくのは、見てて辛いわ……)
?数分後?
シャル「皆……」
箒「シャルロットか。ラウラはどうだった?」
シャル「色々話してみたんだけど、全然ダメだったよ……まともに取り合って貰えなかった」
簪「大丈夫だよ、きっと。悩みを抱えてるときは周りが見えにくくなるものだから」
簪(……そうだ。色々なことがあって失念してたけど、お姉ちゃんから一夏の悩みを聞くよう頼まれてたんだった)
簪(えーと……一夏は……)キョロキョロ
205 :以下、
ラウラ(……守りたいものを持たない私には分からないというセシリアのあの言葉……)
ラウラ(過去、教官は何故あなたはそんなに強いのかという私の問いに守るものがあるからだと答えた)
ラウラ(やはり……強くなるためにはそれが必要なのか?
 しかし、守りたいものを失ってしまったときの痛みについては誰も教えてくれなかった……教官もだ……)
ラウラ(私は元凶である一夏を捨て去り、一夏と会ってからの自分を闇に葬り、苦しみから逃れようとしたのに……
 なぜ、今も割り切れない思いが胸中に渦巻いているんだ?)
「ラウラ」
ラウラ「うっ……また貴様か! 私の机に近寄る許可を出した覚えは無い!」
一夏「へへ、ま、そう言うなよ!」
一夏「なあ、さっきのシャルとのやりとり見てたけど、ああいった態度はよくないぜ?」
ラウラ「出歯亀が趣味だったとはな。ただでさえ底値だったおまえの評価は地に潜ったぞ」
206 :以下、
一夏「ははは! きっつい冗談だなあ!」
ラウラ「ふん」
ラウラ(どこまでも気楽で能天気な男だ。こいつは今まで何一つ苦しみを味わって来なかったのだろう)
一夏「でもよ、マジで皆とは仲良くした方がいいぜ? ラウラだってホントはそうしたいんだろ?」
ラウラ「黙れ」
一夏「……ラウラ、おまえのレーゲン痛んでるんじゃないのか? 整備課行って直してもらってこいよ」
ラウラ「…………」ギロッ
一夏「はは……」
207 :以下、
ラウラ「目障りだ」
一夏「え?」
ラウラ「失せろ! 眉間にナイフを刺しこまれたいのか!?」
一夏「い、いやいやいや!」
ラウラ「……」
一夏「じゃあ俺は行くけど、ちゃんと修理してもらうんだぞ? ISは大切にケアしないとへそ曲げちゃうぜ」
ラウラ「おまえの声はこれ以上聞きたくない!」
一夏「……はい」
一夏「じゃ、じゃあな」トボトボ
ラウラ「ふん。やっと行ったか」
ラウラ(だが……確かにISの損傷具合は確認しておかねばならないな)
208 :以下、
簪(一夏……ボーデヴィッヒさんのとこ言ってお話ししてる……)
箒「一夏のやつ、笑っているな。元気そうで安心した」
シャル「やっぱり、僕と同じようにうまくいってないみたいだね」
鈴「あいつもよくやるわ。なんか一夏って、いつもああいうことしてる気がする。
 仲良くしてくれるか分からない相手に自分から声掛けて、笑い掛けて……そういうとこ天然なのよね」
箒「確かに。ん……? 一夏とラウラの話が終わったようだな」
鈴「めちゃめちゃラウラに睨まれてるじゃない……」
簪(あ、一夏がこっちに向かってきた……)
一夏「よう! 皆お揃いで。何やってんだ?」
箒「ううむ。それが……はっ」
箒(私は一夏にしばらく話しかけるなと言ってしまったのに……)
鈴「あ、一夏……」
簪「…………」
一夏「どうしたんだ? 箒、鈴、シャル、簪……ちょっと話聞かせてくれよ」
209 :以下、
鈴(昨日あんな対応したあたしに、なんでそんな気軽に声を掛けてこれるの……?)
シャル(一夏は鈍感だけどすごく大らかなんだよね。君を突っぱねた僕を避けずにいてくれてるなんて……)
簪(一夏は悩みを抱えてるっていうお姉ちゃんは言ってたけど、何も胸に閊えてるものがあるようには見えないなあ)
一夏「なんだよ、皆黙っちまって……そうだ、簪! 放課後に整備課に行ってラウラのIS直すの手伝ってくれないか?」
簪「えっ……」
箒(どうしてシュヴァルツェア・レーゲンが損傷したことを知っているんだ? 
 あそこまで頑なだったラウラから聞き出せたようには見えなかったが)
一夏「一応他の知り合いにも頼んでるんだけどよ、やっぱり数が多いに越したことはないって言うか」
簪「私が、ラウラさんのISを……」
一夏「どうだ?」
簪(…………)
簪(篠ノ之さんは私を仲間の輪に入れてくれた。
 鳳さんやシャルロットさんも仲間を助けようと母国に陳情することを決意したり、拒まれても必死に声を掛け続けてた)
簪(私にも……誰かのためにできることがあるはず……)
簪「わかった。放課後だね」
210 :以下、
一夏「おう! 頼むぜ! 箒たちももし時間があれば付き添ってやってくれないか? 
 あまり知らないやつの専用機を直すのってやりにくいかも知れないし、ラウラと簪の橋渡しをして欲しいんだ」
箒「う、うむ。部活には少し遅れて練習に行くと伝えておこう」
鈴「あたしもそうするわ。あ、でもあんたは来ないの?」
一夏「ああ。それと、ラウラには俺がISの修理をおまえらに頼んだってことは伏せておいてくれ」
鈴「どうして?」
一夏「俺、ラウラの機嫌を損ねちまってるみたいなんだ。
 俺が修理に手を貸したりおまえらに手伝うように言ったことが知れたら、あいつは反感持って修理を拒む可能性もあるからさ」
箒(一夏が全員から無視されていたという静寐の話はどうやら本当らしいな……)
簪「そうなんだ……確かに、あのラウラさんの態度じゃ他の整備室の人たちは協力してくれないかも知れないし……」
シャル「機体を直すのはいいけど……ラウラはこのままじゃクラスからも孤立しちゃうよ」
一夏「あ、そういや教室に戻る前にセシリアと会って少し話をしたんだ。ちょっと不機嫌そうだったな、あいつ」
鈴「ラウラに家のことを侮辱されたらしくって、ずっとそのことで怒ってんのよ」
一夏「うーん……鈴、おまえはいつもセシリアとつるんでたけど、どうにかしてあいつから話を……」
鈴「無理だった。もう聞いてみたけど」
一夏「そっか……」
211 :以下、
シャル「そうだ。セシリアに謝りに行かなきゃ」
簪「えっ……?」
シャル「ラウラがあんな調子だからさ。僕がセシリアに頭を下げてラウラへ持っている反感を抑えないと」
簪「そうだね。このままだとどんどん二人の仲は険悪になって行きそうだし……」
シャル「うん。それにセシリアも前からちょっと変だったしね。丁寧な対応をしていかないと」
鈴「シャル、あんたなんでラウラがああなったか知らない? 同じ部屋なんだし、何か思い当たることくらいあると思うんだけど?」
一夏「……!」
シャル「そうだね。ラウラに起こった変化について僕が知ってることを皆には話しておこうか」
箒「ああ、頼む」
箒(…………そうだ。一夏はまだ自分が避けられていた理由を一つとしても知らないのか。ここで一緒に話した方が良いだろう)
一夏箒「なあ皆―――」
一夏「いっ!?」
箒「あっ……」
千冬「授業だ。席に付け」
212 :以下、
全員「はいっ!」
シャル「あっ……続きは放課後でいいかな?」ヒソヒソ
箒「ああ」
鈴「オーケー。あたしも先生に叩かれないうちに戻るわ。簪も急いで」
簪「うん」
千冬「ほらほら、他の組の専用機持ちが二人揃って何をしている。私はこいつらだけで手一杯なんだがな」
鈴「し、失礼しまーす!」
簪「しまーす……」
千冬(全く……また一夏に群がってきたのか)
?授業中?
箒(ふむ……結局一夏に私たちの事情を打ち明けることはできなかった)
箒(しかし静寐の話だと一人になった途端落ち込んで見えたと言っていたな。
 その原因は恐らく私たちが一夏に対して急に素っ気なくなったことにある)
箒(いつも大らかで寛容な態度でいるから想像しにくいが、あいつも一人の高校生だ。
 私たちから一斉に無視されたら堪えるだろう……当たり前だ)
箒(私もあいつに対して酷いことをしてきた……頭に血が上ったときは、何度も一夏に向けて武器を振りかざした……)チクッ
213 :以下、
箒(一夏……おまえの抱えている不安は、私たちが事情を話せばきっと消えるからな?)チラッ
一夏「…………!」ビクッ アセアセ
箒(ん? 一夏が今こっちを見ていた気がする……慌てて前を向き直したような……)
千冬「タッグマッチでは、当たり前だが一対一の場合より行動の選択肢が増え、またそのために最善策を見極めるための判断力もより必要とされる」
箒(危ないところだったな。千冬さんが生徒側に背を向けていたから助かったようだが)
千冬「また広い視野を持つことも重要だ。ここで言う視野とは目で見える光景に限らない。
 敵二人と相方を認識し、彼女らの特性を良く掴み、それを計算に入れた行動を取れと言うことだな」
一夏「…………っ」
千冬「例えば敵の一人が遠距離からの狙撃を得意とし、もう片方が格闘戦に自信を持っている場合には―――」
箒(一夏……?)
221 :以下、
【廊下】
ラウラ「……………」スタスタ
ラウラ(くそう……前の休み時間に一夏とシャルロットの戯言を聞かされたせいで、また落ちつかない気分になってきたではないか!)
ラウラ(いや待て、この程度のことで精神が乱されるとは、まだ強かった私に戻りきっていないということだ。
 もっと冷徹になるんだ。甘さを捨てろ……)
ラウラ「…………」
―――守りたいものを持たないあなたには分からないでしょうね
ラウラ「くそう! 何故セシリアのあの言葉が耳から離れないんだ!?」
ラウラ「くそくそくそ! 訳が分からない! また割り切れない妙な気持ちになる!」
「ボーちゃん落ちついて??」
ラウラ「!」
のほほんさん「や?や?ボーちゃん。あんまり苛立ってたら、周りに迷惑だよ???」
222 :以下、
ラウラ「ぼ、ボーちゃ……な、何だ貴様は? 私に用でもあるのか!?」
のほほんさん「ボーちゃん、逆だよぉ。私が君に用があるんじゃなくて、君が私に用……あ、そうだ。言っちゃいけないんだった」
ラウラ「はあ? な、何を言って……?」
のほほんさん「こほん。とにかく、何か困ってるなら私が力を貸すよ??」
箒「ラウラはもう先に行ってしまったのか」
簪「うん。篠ノ之さん、ちょっと遅かったね」
箒「すまん。ホームルーム後、先生に何か悩んでいないかと聞かれてな。
 無いことは無かったんだが、ラウラたちのことが心配で早々に切り上げたよ」
箒(ホームルームのあとに事情を一夏に話すことはできなかった……
 私は千冬さんに悩みは無いかと尋ねられているあいだに、また部活に貸し出されて行ってしまった)
箒(そう言えば何故千冬さんは私に声を掛けたのだろう? 私が一番変に見えたのだろうか……?)
223 :以下、
簪「ラウラさんが見えたよ……あ、本音。何をやっているの!?」
のほほんさん「あ?、かんちゃんだぁ。私は??ボーちゃんのISを直してあげる使命を与えられているのです」フンスッ
簪「……そうなの」
簪(……一夏が他の知り合いにも頼んだって言ってたけど……本音のことだったんだ……)
箒(布仏も一夏から頼まれたのか……? いつ? 
 昼休みの次の休み時間か? 一夏はラウラから話を聞いてからでなければ頼めないはずなのに、その時点から予鈴がなるまでは私たちと一緒にいたぞ)
ラウラ「?」
箒(まあいい。今はラウラが先だ)
箒「こほん。おまえのISの損傷具合は途中から観客席で見た私たちにも伺えたんでな。修理に協力してやろうというということだ」
のほほんさん「わぁ。皆も手伝ってくれるんだ??」
ラウラ「私がおまえたちに力を借りるだと……? いらんわ、そんなことしなくていい」
鈴「馬鹿。あんたのシュヴァルツェア・レーゲンがかわいそうでしょうが」
224 :以下、
ラウラ「!」
箒「おまえも機体を点検しなくてはいけないことは分かってるんだろう。さっさと行くぞ」グイッ ダッ
ラウラ「あっ、お、おい!」
簪「行こう行こう!」
のほほんさん「わぁ??! 皆でゴーゴー!」
鈴「ちょっとは私らを頼りなさいよ!!」
ラウラ「う………うう………」
ラウラ(何故こいつらは私に構うんだ……孤高の道を歩みたいのに……)
【整備室】
ラウラ「……………………」
簪「機体全体の損傷レベルは低いよ。ワイヤーブレードを発射できなくなってるけど、すぐ直せる」
のほほんさん「ふむふむ。修理するところはあんまりないね??」
ラウラ「…………」
225 :以下、
のほほんさん「そうだ??! 機体修繕が終わったらもっと効率的に稼働できるようにしちゃおうよぉ」
箒「ふむ、それがいいな」
ラウラ「え?」
簪「うん。各種ブースターのバランスは改善の余地があるよ。シールドバリアー展開時のエネルギー効率ももっと見直せそう」
鈴「なら、機材を借りて来なきゃね。その役は私がやるわ」
ラウラ「そ、そこまでする必要はない」
箒「好意は受けておいた方がいいぞ?」
ラウラ「…………」
ラウラ「どうして……」
鈴「ん?」
ラウラ「どうしておまえらは私に纏わりついてくる!? 私はおまえらを糧にしようとしている人間なんだぞ!」
ラウラ「おまえたちとの安い繋がりを絶って、ドイツの冷氷という二つ名にふさわしい自分を取り戻そうとしているのに!」
ラウラ「そして私は……もっと……強くなりたかっただけなのに……どうして……こうも混乱しているんだ……」
226 :以下、
鈴「……………」
のほほんさん「ボーちゃんどしたの……」
箒(強くなりたい、か……)チクッ
ラウラ「くそう……ペースが乱される」
箒「…………」
箒「なあ、ラウラ。強くなるという目的なら、簪たちに機体を調整してもらうことで叶えられるではないか」
ラウラ「何?」
鈴「そうよ。あたしたちも暇なら模擬戦の相手ならできるし、お互いに気付いたところをアドバイスし合えばもっと成長できるじゃん」
ラウラ「!!」
箒「なあ、ラウラ。おまえに何があったかは知らない」
箒「偉そうに聞こえたら済まないが……おまえは自分が選びとった道を本当に納得しているのか?」
ラウラ「うぅ」
箒「割り切れていない様子だが、おまえの心の奥底では皆と結び付きたいと思っているのではないか」
ラウラ「結び付き……だと? 私が……?
 私は試験管から生まれた人造兵器。そんな俗なものとは縁が無いのだ……」
227 :以下、
鈴「そうかな? さっきも言ったように強くなりたかったら仲間の手を借りた方がいいじゃん。
 それに、あたしらと遊んでるときはそれなりに楽しそうだったけどねぇ」
ラウラ(手を借りたことでメリットが得られるのは確かにそうだ。
 しかし、こいつらと伍するのは悲しい未来を連れてくるだけなのではないか……)
簪「…………」
簪「ラウラさん。私も篠ノ之さんや鈴さんとの関係のことで悩んでいたことがあったの。自分なんかが今更輪の中に入ってきていいのかって」
鈴「そうなの?」
簪「うん。でも、篠ノ之さんが私を快く歓迎してくれて……今、こうして皆といられるの」
ラウラ「…………」
簪「ねえ、あなたならもう気付いているんじゃない? 私にだって篠ノ之さんたちの温かさが伝わったんだよ。
 付き合いの長いラウラさんなら、仲間として誇らしい人ばかりだってことを分かってるはずじゃあ……」
ラウラ「くっ…………」
ラウラ(私は元の冷徹さを取り戻したかったはず……しかし、今胸を騒がすものは何だ?)
228 :以下、
ラウラ(教官は守るものがあるから強いと言った……やはり……私が選び直した道の方が間違いなのか?)
ラウラ「こういうときはどうすればっ……!」
箒「ラウラ」
ラウラ「!」
箒「おまえがどう思っているかは分からんが、私は―――いや、私たちはおまえのことを今でも仲間だと思っているぞ」
ラウラ「仲間……」ドクンッ
箒「おまえの本心は何と言っている?」
ラウラ「!!」
ラウラ(私の本当の気持ち―――)
ポタッ……
箒「あっ」
229 :以下、
ラウラ「どうして……だろうな。こんな経験したことはなかったからか……」
ラウラ「試験管の中で生を受け、人を無力化――殺す技術を学び、ただ訓練に明け暮れていたのに」
ラウラ「教官と出会い、一夏やおまえたちと出会い、共に戦い、新しい世界を見て……胸の中に新たな芽が吹き出していたんだ」
鈴「ラウラ……」
ラウラ「わ……」
ラウラ「私だって皆と一緒にいたい!」
ラウラ「守るものを失った悲しみを知っても、守ろうとした気持ちは捨てられない!!」
鈴「ラウラ!」
ラウラ「もう嫌だぁ! こんなに頭を悩ませるのも、皆に酷いこと言うのも言われるのも……後で苦しくなってばかりだ!」ポロポロ
230 :以下、
ラウラ「悲しみによる胸の痛みから逃れようと皆を遠ざけて来たのに! そうしようとするとまた一層の苦しみに襲われる!」
ラウラ「ひくっ……ひくっ……どうしてだ……どうして……!!」
箒「おまえが優しいからだろう」
ラウラ「え!」
箒「何故おまえが私たちを遠ざけようとしたかは分からないが、酷い悲しみに包まれたことがきっかけらしいな」
鈴「……でもね、深く悲しむことができる心を持ってる人は、人のぬくもりを感じられるんだとあたしは思う。
 そして、ぬくもりを知った人間はそれを易々と手放すことができない」スッ
ギュゥッ
ラウラ「んっ」
鈴「こんな小さな体によく鬱積した想いを溜め込めたものね。ま、あたしも人のこと言えないか」
ラウラ「心……感じる心……」
ラウラ「私に……そんなものが……?」
簪「心は皆持ってるよ。ラウラさんが持ってないはずない」
231 :以下、
ツーーッ……
ラウラ「…………私は……飼っていたグッピーのクラインが死んで……打ちのめされて……」
ラウラ「もう二度とあんな思いはしたくない。でも、悲しむことのできる自分を捨てることは、もっと難しかった」
鈴(ペットのグッピーの死が原因かあ……ラウラ、すごく純粋で傷付きやすいのね)
鈴「急に抱きしめて驚かせちゃった? ごめんね、どうしてもやらなければならないような気がしたの」パッ
ラウラ「…………いや」
箒「ラウラ!」ニコッ
ラウラ「あ……!」
のほほんさん「ん?」ピクッ
ラウラ(箒の笑顔が一瞬一夏のそれと重なった……)
箒「私たちも少なからず悲しい思いをしてきたし、これからどうするべきか頭を抱えたこともあった。
 だからおまえの気持ちが全く分からないというわけじゃない」
箒「ラウラよ、私たちとまた一緒に集まろう。また共に進んでいこう」
鈴「あたしからもお願い」
簪「これ以上同じこと続けても苦しいだけだよ」
232 :以下、
ラウラ「…………!」
ラウラ「すまん。皆……心配を掛けた。鈴、昨日は邪険に扱って悪かったな」
鈴「あ、あたしはもういいけど……もっと謝らなきゃいけない人がいるんじゃない?」
ラウラ(シャルロット……セシリア……そして一夏……)
ラウラ「ああ。分かっている」
ラウラ「私の守りたいものはすぐそこにあったのに……! 自ら手放してしまうところだった。
 このまま行っていたら、もっともっと悲しい思いをしていたかも知れない」
ラウラ「すまん。今からシャルロットたちを探しに行きたいんだが、機体の修理・調整は頼めるか?」
簪「いいよ!」
のほほんさん「任せといて??」
鈴「ほらほら、さっさと行ってきな」
ラウラ「ありがとう。本当にありがとう!」ペコッ
箒「しっかり謝るんだぞ! そうすればきっと許してくれるだろう」
233 :以下、
ラウラ「ああ。箒、すまんがおまえも付いてきてくれないか?」
箒「え、私がか?」
ラウラ「うむ。別に一緒に謝ってほしいと言うのではない。ただ、おまえがいてくれるとなんとなく心強くなるから……その……」
箒「!」
箒(…………今、胸に嬉しい気持ちが広がってきた……)キュウゥゥゥ
箒「構わんぞ。私も同行しよう。あ、でも途中で剣道部に行くことになるかも知れんが、それでもいいか?」
ラウラ「もちろん」
のほほんさん「いってらっしゃ?い」
?20分前?
【IS学園 廊下】
セシリア「…………」スタスタ
シャル「ねえ、セシリア……機嫌直してよ……」
セシリア「シャルロットさんも変わった方ですね……
  あなたとラウラさんとの間の不和はまだ解消されていないのに、何故そこまでなさるのです?」
234 :以下、
セシリア「彼女の傲岸不遜な態度はあなたも知っているはず。侮辱したまま謝らずに去るなんて不道徳もはなはだしいですわ」
シャル「ラウラは今ちょっと混乱してるんだよ! だからお願い、許してあげて」
セシリア「シャルロットさん、あなたもいい加減に―――はっ」
セシリア(先の休み時間で一夏さんに対して犯したミスをまた繰り返してしまうところでしたわ……)
セシリア(あのとき、苛立ちから『話しかけないでください』と強く怒鳴ってしまって……
  でも一夏さんは、皆には本音を言うのはいいがそういった攻撃的な態度は取らない方がいいと言われて……)
セシリア(全く、わたくしもどうかしていますわ)
セシリア「はあ……今日はテニス部の練習はお休みですから、じっくり本でも読もうかと思っていますの。
  シャルロットさんも私の邪魔をなさらないで頂きたいですわ」
シャル「ごめん……で、でも」
235 :以下、
セシリア「ともかく、我が誇り高き血統を踏みにじられたからには、相応の態度を見せて頂かねば許せません!」
シャル「………セシリアは家を本当に大切にしてるんだね。凄いなあ」
シャル「なんか……羨ましいよ」
セシリア「…………?」
セシリア「どうしましたの、シャルロットさん?」
シャル「セシリアはきっと自分のお父さんのことも尊敬できてるんだろうなって、ふっと思ってさ。
 ごめんね、急に変なこと言って」
セシリア(父?)ビクッ
セシリア「どういうことですの? あなたは自分のお父様のことを尊敬しておられないのですか?」
シャル「……うん。僕は多分、できていないと思う」
セシリア「どうして?」
238 :以下、
セシリア(ひょっとしてシャルロットさんも私と同じように父のことで悩みを……)
セシリア「シャルロットさん。少しそのことについてお聞かせ願いませんか?」
シャル「うん。あ、そうか。セシリアには話してなかったね。僕の出自と、今までの人生のことを」
セシリア「私『には』とは……皆さんはもう知っているのですか?」
シャル「そうだね。箒たちには話したよ」
シャル「生まれについて負い目を感じてさ、今まで言わなかったんだ」
セシリア「そうですの。ねえ、シャルロットさん。あなたのお父様は―――」
シャル「それも含めて今から話すよ。僕と父親の関係も、ね」
――――――
―――

セシリア「……………そうだったのですね。昨日シャルロットさんが珍しく余裕を欠いていたのはその手紙が原因でしたの」
シャル「うん」
シャル「ねえ、僕のこと幻滅しちゃった?」
セシリア「いいえ。あなたはラウラさんの代わりに私に謝りに来てくれました、シャルロットさんは誇るべき友人ですわ」
239 :以下、
セシリア「それよりわたくしが興味深かったのは、あなたへ酷い仕打ちをしたあなたの父親のことですわ」
シャル「うん……でも、この手紙の末尾の文は、本当か嘘か分からないの」
セシリア(……………まだ父親と和解できると思っているのですね……健気な……)
シャル「箒たちに話して、学園に残ることに決めたんだけどね。
 卒業後に本国に帰ることになっても、皆が協力して僕のこと助けてくれるって言ってさ」
セシリア「そうですの! もちろん私もあなたのことは援助しますわ」
セシリア(そう……生きているなら……まだどんな未来も希望はある……)
セシリア「……わたくしは父のことを見下していました」
シャル「え?」
セシリア「母の後ろに隠れ、母の顔色を伺い、母の言うことに逆らえない父のことを不甲斐なく思っていました」
セシリア「しかし、父は昔の私には分からなかった長所を持っていたと……
  わたくしの知らないところで静かな闘争を続けていたと思えるようになりました」
セシリア「でも、もう二度と父に謝ることはできないのです。もうはるか前に列車事故で母と共にこの世を去ってしまいました
  死の間際に母と交わしたであろう言葉を知る術を永遠に失ってしまい、そのことを知ったとき、わたくしは……」ジワ
シャル「セシリア!!」
240 :以下、
セシリア「ね、ねえ、シャルロットさん。わたくしはあなたが黒い罠に絡め取られないよう力を貸すつもりです」
セシリア「しかし、それとは別に……あなたがあなたのお父様と笑って食卓を囲める日が来ることを、心の底から祈らせて頂きますわ!」ニコッ
ポタッ……
シャル(涙……)
セシリア「あ、あれ、なんでしょう? おかしいですわね。
  シャルロットさんが羨ましくなったのかしら? 嫉妬の涙というのもあるのですね」ポロポロ……
セシリア「最初はシャルロットさんがわたくしのことを羨ましがったのに、もう何が何だかわかりませんわね。ほほほほほ」ポロポロ……
シャル「えっと……」
「これを使ってくれ」
セシリア(ハンカチ?)
ラウラ「セシリア、これで涙を拭け」
セシリア「あっ!」
シャル「ラウラ!」
241 :以下、
箒「セシリア、大丈夫か?」
セシリア「あなたたち……」
シャル「ラウラ、謝る気になったの!?」
ラウラ「ああ。セシリア。おまえの大切な家のことを馬鹿にして本当に悪かった」
ラウラ「…………ごめんなさい」ペコッ
セシリア「えっと……」
箒「セシリア、今だけはラウラの言葉を聞いてやってくれ」
ラウラ「おまえは家を大切に思っていたんだな。私が軽々しく貶していいものではなかったんだ。
 友人が守りたかったものを私は傷付けてしまった。どれだけ頭を下げても許されるものではないだろうが、それでも謝らせて欲しい」
セシリア「…………」
ラウラ「思えば、私がおまえたち相手に瀬踏みをしていたのは、心のどこかで人との接触を求めていたのかも知れない……」
シャル「セシリア、ラウラは―――――――っていうことがあったんだ」
セシリア「大切にしていたグッピーを失って、もうそのときの感情を味わいたくなかった、と……なるほど。
  純粋なラウラさんらしいと言えばらしいですわね」
242 :以下、
ラウラ「すまん、セシリア。本当にすまん……」
セシリア「…………ラウラさん」
ラウラ「な、なんだ?」
セシリア「ハンカチ、お貸し頂けませんこと?」
ラウラ「あ、ああ! 使ってくれ!」シュビッ!!
フキフキ……
セシリア「ありがとうございました。ラウラさん」
ラウラ「お、おう! 礼には及ばん!」
シャル「ラウラ! 君、よく変われたね!」
ラウラ「ああ! 整備室で箒たちが私を後押ししてくれて、本当の私を見つけ出す手助けをしてくれたんだ!」
シャル「そうなんだ!」
243 :以下、
箒「ま、まあな……は、はは……」
シャル(そっかそっか! 僕が一人でぶつからなくても……他の仲間がフォローしてくれるんだ!)
セシリア(あのラウラさんが……人はこうも変われるものなのですね……)
セシリア「ラウラさん。今回の件は水に流します」
ラウラ「本当か!?」
セシリア「ええ。でも、もう二度とああいった真似をしてはいけませんわよ! 誰より自分を押し下げる行為ですからね!」
ラウラ「ああ、面目ない……」
ラウラ「本当に大事なものと、自分の奥底の気持ちに気付いたんだ。私は再び変わる」
箒「ラウラ、シャルロットはおまえに凄く目を掛けていたんだぞ」
ラウラ「そうだった! シャルロットよ、おまえにも心配掛けたな」
244 :以下、
シャル「うん。すっごく不安だったんだからね」
シャル「本当に……ぐすっ……良かった……」
ラウラ「私も辛かった……すまなかったな、シャルロット」
ラウラ(うう……『ハンカチを渡してやれ』という箒のアドバイスを聞いて良かった。うまく行った……)
シャル「僕もごめんね。そうだ! 今日の夜またココア淹れてあげるよ!」
ラウラ「本当か!」パアァァァ
セシリア「あらあら」
セシリア「…………」
箒「セシリア。おまえは父親に対する自分の認識の変化に戸惑っていたらしいな」
セシリア「あら、盗み聞きとは感心しませんね」
箒「すまん。入り込む隙が中々見つからなくてな……悪いと思ったが聞かせて貰った」
245 :以下、
セシリア「ふう……」
箒「もう悩んではいないのか?」
セシリア「どうでしょう。父に対して悪いことをしたという自責の念はまだ残っていますけれど」
セシリア「しかし、ラウラさんが自分を変えて必死に謝ってきたのを見て……わたくしもいつまでもうつむいている訳にはいかないと思いました」
箒「そうか!」
セシリア「内に籠るのでなく、周りに目を向けることも必要でしょう。
  シャルロットさんが自分とまた違った父とのすれ違いを抱えていたことは、わたくしに大きな示唆を与えてくれました」
箒「ほう」
セシリア「恥ずべきと考えていた過去を打ち明けて貰えるほど、わたくしを信頼してくれている仲間がいたことに気付くことができ……
  そしてもっと思い返してみると、私の変化に目敏く気付いて心配してくれる仲間もいたのですね」
箒「そうだぞ! 皆おまえのことで気を揉んでいたんだ」
セシリア「ありがとう。そうでしたわね」
246 :以下、
箒「礼も良いが、周りの仲間を助けてやってくれた方がいいな。皆もおまえと同じように抱えているものを下ろせずに苦労していたんだ」
箒「また皆がつまづいたり悩みを抱えているように見えたときは……今度はおまえが力を貸してやって欲しい」
セシリア(わたくしが皆さんを……ですか。
  そうですわ、他の方が一生懸命動いてくれていると言うのに、このセシリアは傍観しているだけというのは、実家の沽券に関わりますわ)
セシリア「…………」
セシリア「わたくしも……これからどうするべきか見えてきた気がします」
セシリア「わたくしという一人の人間として両の足でしっかりと立ち、自分を磨き、仲間を助けられる家名に恥じない人間になること。
  それが私に見本を示してくれた母に対するわたくしからの精いっぱいの返礼であり、見下し続けた父への贖罪なのですわ」
箒「さすがだな、セシリア。立派な目標だ」ニコッ
セシリア(……………!)
セシリア(一瞬一夏さんを思い出しましたわ……)
箒「ふふ……あ! そうだった! 急いで剣道部に行かないと! すまんが私はここまでだ! じゃあな皆!」ダッ
ラウラ「ああ……箒、ありがとう」
249 :以下、
【放課後 整備室】
鈴「あ、時間だ。ごめん、あたしラクロス部行ってくるね」
簪「うん。手伝いありがとう」
のほほんさん「さよなら??」
のほほんさん「ふ?ん♪ ふふ?ん♪」カチャカチャ
簪「…………」
簪「ねえ、本音。あなたはいつ一夏にラウラさんのISを修理するよう言われたの?」
のほほんさん「昼休みの次の休み時間ですよ?」カチャカチャ
のほほんさん「授業が終わってすぐ、わたしのところに来て??真剣に頼まれちゃいましたぁ」
簪(一夏はその休み時間にラウラさんと話してるのを見たけど、そこで初めて事情を知ったんじゃなかったの……)
簪「……あなたの協力が得られて助かったわ」
のほほんさん「いえいえ??。おりむーがねぇ、昼休みに私を励ましてくれたから??そのお礼って訳じゃないですけどぉ」
250 :以下、
簪「一夏に励まされた……?」
のほほんさん「うん。私、進級したら整備課に入りたくて??でもちょっと不安もあって……」
簪「あなたが不安を?」
のほほんさん「あ??! 今、想像できないって顔した??! む??!」プンプン
簪「ご、ごめんごめん」
のほほんさん「もう……! おりむーはちゃんと汲み取ってくれたのに……」
簪「悪かったって。ねえ、良ければもっと聞かせてくれない?」
のほほんさん「はい。私、こないだ生徒会の仕事をとちっちゃってお姉ちゃんたちに迷惑掛けちゃったの」
のほほんさん「ほら、かいちょーは先の襲撃事件が起きてからしばらく療養してたじゃない?」
簪「……うん」
のほほんさん「その間にどんどん雑務が増えていってね??お姉ちゃんと私とおりむーでいつも以上にがんばって働いてなんとか回してたんだけどぉ」
簪「あなた、足引っ張るから生徒会の仕事は手伝わないようにしてるんじゃなかったの?」
のほほんさん「でもぉ……何もせず見てるだけじゃ悪い気がして??」
251 :以下、
のほほんさん「がんばってたんだけど、お仕事続けてると慣れない作業で疲れちゃって??ちょっとの間居眠りしちゃったの??」シュン
簪「もう……」
のほほんさん「お姉ちゃんには怒られちゃったけど??私が寝てる間、おりむーは上着掛けてくれてたんだ??」
のほほんさん「起きたあと、申し訳なさそうにしてた私にコーヒーも淹れてくれてね??『良く眠れたか?』って笑い掛けてくれてさぁ」
のほほんさん「それがあってから、私もおりむーにはいろいろ話していいかなぁって思って……
  今日の昼休みに、私みたいなおとぼけが整備課に入れるか不安に思ってるって話したの」
簪(本音まで手を伸ばしてたんだ……一夏っていっつもそういうことをやってるのかな……?)
簪「一夏はどう答えたの?」
のほほんさん「それがねぇ……こほん」
のほほんさん「かんちゃん、打鉄弐式の調子はどうですかな?」
簪「……? 異常なしよ。まだまだ改善していかなきゃならなそうだけど」
のほほんさん「そ??。良かった??」
252 :以下、
のほほんさん「おりむーは??かんちゃんのISを作るのに協力してくれた私に感謝すると言ってくれたよ??」
のほほんさん「『のほほんさんがいなかったら簪が参戦できなくなって、皆助からなかったかも知れない』ってね??」
簪「確かにそうね。実戦に投入できるレベルまで完成度を高められたのは、あなたや京子さんたちのおかげ」
のほほんさん「えへへ……『だから自信を持ってくれ』って笑顔で言われてね……
  私も、整備の腕を磨くことでおりむーたちをバックアップできたらいいなぁと思ってさ??」
簪「うん。私もあなたを応援する。私もあなたに差を付けられないようにもっとがんばる」
のほほんさん「はい! やりたいことに向かって走って行きましょうお嬢様!」
簪「……そうだ、一夏の様子にどこか変なところはなかった?」
のほほんさん「うん? 私と話してるときは??いつもの明るく優しいおりむーだったよ?」
簪「悩みを抱えてるように感じられなかったのかしら」
のほほんさん「う??ん……そもそも??おりむーが何かに思いわずらうことなんかあるのかな??」
簪「どうだろう……」
253 :以下、
簪(あの日、私の席にきたお気楽そうな男子……交流を続けていくと、しっかりとした信念と意思を秘めていることは分かった)
簪(一夏は私に道を示してくれた。彼はおせっかいで無神経で鈍感で強引だけど、優しくてまっすぐで広い心を持ってる)
簪(そんな一夏が……ねえ……)
のほほんさん「おりむーは人の話に付き合うのが得意じゃない? 
  何か自分の内に抱えてるものがあったらそんな余裕はないと思う??」
簪(確かに……午後の休み時間だって、ラウラさんに突っぱねられたあとで私たちにも話しかけてたし……)
のほほんさん「なんでそういうこと聞いてくるの???」
簪「いや、お姉ちゃんに頼まれてね。一夏の様子を探るようにって」
のほほんさん「ふーん……でも、大丈夫だと思うけどなぁ」
簪「そうだよね……」
簪(明日一夏に話しかけてみて、それで特に変わったところを見受けられなかったらお姉ちゃんに報告しよっと)
のほほんさん「さあ、ボーちゃんのISを徹底チューンアップしちゃおうよ??」
簪「そうね! きっと仲直りしてくるでしょうし、私たちの調整が遅れたせいで笑顔を曇らせる訳にはいかないしね!」
254 :以下、
?消灯十分前?
【一夏の部屋】
一夏「箒や鈴には普通に話してもらえるようになって、ちょっと安心したぜ」
一夏「よーし。明日あいつらに事情を聞いてみよう。今日はもう休むか」
一夏(……………………)
一夏(ラウラとセシリアは、お互い相手への憎しみをかなり滾らせてたな)
一夏(あの戦いを止めたのは、箒たちだった……)
一夏(あいつらがほとんど顔を知らないはずの簪まで一緒にいたのはどういうことなんだろう? やっぱり箒が声を掛けたのかな?)
一夏(仮にそうだとしたら、別に俺が動き回ることないんじゃ……それならうっとおしがられることも無くなるだろうし)
一夏「………!」
一夏(いやいやダメダメ! 仲間たちを繋げるのが俺の役目だろうが!)
一夏「ふう……」
一夏「俺のやろうとしてることは……合ってるはずだよな」
一夏(もっと周りの仲間と助け合って行けるように、ラウラたちを誘導しなきゃ。
 俺は外のあいつらが世界を見る余裕を持てるよう、困ってる人の話を聞いたりして心の重荷を下ろす手伝いをするだけ)
255 :以下、
一夏「……これが俺の仕事」
一夏(そうだ……これが俺の価値なんだ……)
一夏(弾の言う通り、俺はたまたま恵まれてただけなんだ)
一夏(偶然ISを動かせて、良い機体を貰って、俺を鍛えてくれる人もいて。縁がなかった女の子たちと仲良くなれた)
一夏(でも俺である必要は―――「織斑一夏」でなければならない理由は無かったんだ。
 同じ環境に置かれたらもっとうまくやる男はたくさんいたはずだ。俺みたいに鈴たちを苦しめるような真似をすることはないだろう)
一夏(……何が『力がついたら誰かを守ってみたい』だ。
 俺一人で誰かを助けられたことなんか一度も無かった。それどころか皆を傷付けてちゃ世話ないぜ)
一夏(でも……確かに甘っちょろいけど、皆の力になりたいって考えは持ち続けなきゃ。周りの皆の笑顔を守りたいし)
一夏(ただでさえ皆には色々して貰ってるんだ。俺のせいで苦しめてしまったことの罪滅ぼしも兼ねてこれくらいは返していかないと)
256 :以下、
一夏(そうだ。今の行動を止めたら本当に無価値な人間になっちまう)
一夏(でも俺のせいで皆が苦しまないように。俺はあいつらから一歩引かなきゃな……
 できるだけ遠ざかって、今までのように変に出しゃばらないようにしないと)
一夏「…………」チクッ
一夏「できるんだろうか、俺は……ん?」
キラッ
一夏(白式のガントレットか)
一夏(IS……)
一夏「直訳すると『無限の成層圏』なんだよな……それが女性を守る機械仕掛けの鎧の名前……」
一夏「……!」
一夏「は、はは。そっか、何か見えて来たぜ……」
一夏「俺は『IS』になれば良いんだな……!」
257 :以下、
束「ふんふふ?ん♪」カタカタカタカタカタカタ
束「よーし! 他ISの起動妨害機能……搭載成功!」
束「今までは邪魔者がたくさん入って、いっくんと箒ちゃんの活躍の機会が奪われちゃってたからね」
束「前回は何体も投入したのに、ちーちゃんは出撃してくれないしー。仕方ないから今回は二人の実力を探るだけに目的を絞るよ」
開発中無人機「…………」
束「先に完成しそうなのは初期の鉄巨人タイプに近い方だね」
束「ふふふふふ……これら新型ゴーレムが完成し、二人の共闘を促すことができれば、更にいっくんと箒ちゃんの仲は進展するね!」
束「戦闘用AIの改善は当初の目論見通り自己進化機能に手を加えることで上手くいきそうだし、これはもう……」
束「束さんは世紀の大天才ってことかな!?」ターン&ブイサイン!
束「…………………」
束「さてと、作業に戻ろっと」カタカタカタカタ
束「うふふ……箒ちゃん……お姉ちゃんに任せときなさい」
258 :以下、
束(そう言えば、今も十分だけど昔の箒ちゃんも可愛いんだよね)ゴソゴソ
ピラッ
束(うふふ。いっくんとちーちゃんも写っているこの写真……いつ見てもいいものだねえ)
束(もう一回だけ……こういう写真撮りたいな。今は皆色々と忙しいしもんね、いつかはそんな日が来るのかな)
束(でも、箒ちゃんとはそろそろまともにお話できるかも知れない。昔みたいにお互い何の遠慮もせずに……)
束(箒ちゃん、ごめんね。私が振り回したせいでたくさん迷惑掛けちゃったね。
 小学校変えられて、いっくんと離れ離れになってさ。年端もいかない頃から固っ苦しい尋問を受けさせられてたのも把握してる)
束(箒ちゃんは心がか弱いところもあるから……学校を変えられるたびに色々傷付いてきたんだろうなあ。
 そうそう、高校も自分の意思で選べなかったんだよね。いっくんと会えたのはそりゃ嬉しかったんだろうけどさ)
 
束(………………)
束「でも安心して箒ちゃん。これからはたくさん埋め合わせをするからさ」チラッ
無人機「……」
束「箒ちゃんはとっても強い精神と肉体を備えているし、紅椿を上手く操れるようになってるからきっと倒せるよね」
束(今はこういう不器用な形で繋がることしかできないけど、また仲良く顔を合わせて笑いたい……)
束「ふう」
束「さてと、あと何体か調整しようかな」
259 :以下、
―――――――――――――――――――――――――――――
一夏「……」
一夏「ここは……」キョロキョロ
一夏「篠ノ之神社の道場か……」
一夏「懐かしいな。箒いるかな」
一夏「…………」
一夏「……いねえなあ。ちょっと見回してみよっと」
一夏「うーん……なんだか変だ。道場から掛け声は聞こえなくて妙に静かだし……ちくしょう、西日が眩しいな」
一夏「もう練習は終わったのか? それとも今日は休み?」
一夏「だとしたらここにいても意味は……ん?」
少年「…………」
一夏「井戸端に座ってるのは誰だ?」
260 :以下、
一夏「おいちょっと、君に聞きたいことがあるんだけど」
少年「………………」クルッ
一夏「!!」
一夏「え……!? ガキの頃の俺!?」
少年「……………」ジワッ
一夏(目尻に涙が……)
少年「うっ…………」
一夏「ど、どうした……?」
一夏(何だ? 凄く懐かしいような)
少年「…………」
一夏(でも触れるのが怖いような……)
少年「ど……」
一夏「?」
少年「どうしてっ………行っちゃったんだよ……!」
261 :以下、
一夏「へっ?」
少年「何も言わずどうして!? 俺が何かしたのか!?」
一夏「な、何を」
少年「う、うう……」
一夏「何でおまえはそんなに寂しそうに……あ」
一夏(夕暮れどき……閉まった剣道場……稽古で良く使った井戸に腰かける俺……)
一夏「………………………」
一夏「あ、ああ!」
ポタッ
262 :以下、
?次の日 昼休み?
【食堂】
箒「そうか。先生方に伝えることはせず、まず父親に手紙を送ると。その決定でいいんだな?」
シャル「うん。セシリアが昨日励ましてくれたてね。それでこうしようって思ったんだ。
 ただ帰国を断るだけじゃなくて、お父さんが本当は僕のことをどう考えているのか尋ねるつもり」
鈴「どうせ聞こえの良い言葉ばかり並べてくるんじゃないの?」
セシリア「でも、わたくしは良いと思いますわ。この期に及んで実の娘を騙そうとする親なら、オルコット家が直々に処断しますわ」
シャル「あはは。ありがとう」
ラウラ「そのときは私も力を貸そう。とんでもないのを敵に回したことを骨の髄まで分からせてやる!」
簪「はは……おっかないね」
ラウラ「そうだ、更識簪よ。昨日は私のレーゲンを修理してくれてありがとう。そのうえ動作を最適化してくれて……本当に感謝する!!」
簪「え!! い、いいよ。こっちが勝手にやり始めたことだし……」
セシリア(この方が更識簪さん……楯無生徒会長の妹さんということですが、ずいぶんと印象が違いますわね)
箒「…………」
箒「セシリア、そう言えばおまえはまともに簪と顔を合わせるのは今回が初めてか」
263 :以下、
簪「そうだね」
ラウラ「セシリア! 簪は良いやつだぞ! 見ず知らずの私のレーゲンを直してくれたんだ!」
シャル「そう言えば、僕が鈴とぎくしゃくしてたときに間を取り持ってくれたんだったね」
セシリア「そうですの」
セシリア(皆さんがそこまで言う人なら、きっと素晴らしい方なのでしょう)
簪「ええと……これからよろしくお願いします。セシリア……さん?」
セシリア「こちらこそ。あと、わたくしの名前は呼び捨てで構いませんわ」
簪「そ、そう?」
箒「皆そうしているしな」
セシリア「思えば、わたくしだけですわね……皆さんに敬称や敬語を使っているのは」
鈴「セシリアはそれでいいのよ! 今更キャラ変えされても困るし」
ラウラ「確かにな。まあ、セシリアの好きなようにすればいいと思う」
セシリア「ふふ、どうしましょうか……ねえシャルロット?」
シャル「え!?」
264 :以下、
セシリア「その反応……やっぱりわたくしが使うのは合わないようです」
シャル「な、何で僕を実験台に選んだの!?」
鈴「あんたが一番やりやすそうだもんねー」
ラウラ「うむ」
簪「……確かにそんな感じ……」
シャル「か、簪まで! もー!」
箒「おまえは大らかで親しみやすいからな。いいところだぞ」
シャル「むう……」
箒(なんだか嬉しいな……一時は繋がりにひびが入っていたセシリアたちとまた集まれるとは)チラッ
簪「ふふ」
箒(……そのうえ新しい仲間も加わった)
「ね??一緒に食べていい???」
箒「ん?」
簪「本音……」
のほほんさん「いつも一緒に食べてる子たちが??用事あってね??」
265 :以下、
箒「もちろん構わんぞ!」
ラウラ「布仏本音か! 私の隣が空いているぞ!」
のほほんさん「ボーちゃんありがと??」テクテク
ラウラ「礼には及ばん」
のほほんさん「チキン南蛮一個あげる??」ヒョイ
ラウラ「お、おお。すまん」
シャル(ラウラって結構表情豊かなんだよね。こうして見ると分かるけど)
のほほんさん「かんちゃんもお仲間入りしたんだ??やったね??」
簪「う、うん。本音も良かったらこれからも一緒に食べようよ。お友達呼んでさ」
のほほんさん「いいの???」
鈴「もちろんよ!」
セシリア「構いませんわ!」
のほほんさん「わ?い! 皆、結構専用機持ちの子たちを知りたがってたから、喜ぶよ??」
箒「そ、そうなのか」
266 :以下、
箒(ふむ……クラスメイトともっと近づけるチャンスだ。もっと輪を広げられるかも知れない)
箒「……皆と一緒に食べたいのは私も同じだ。他の生徒が何を思っているか、私も知りたい」
のほほんさん「分かった??私も今度からも入れて貰うね??」
ラウラ「うむ!」
箒「もう二学期も終わろうという時期だが、クラス内の事情については知らないことが多い。親交を深めるにはちょうどいい」
シャル「うん。実は僕もそれほど皆のこと分かってるわけじゃないし」
シャル(周りを見る余裕もできたし、ね)
セシリア「確かにもう冬休みですものね。にしても色々とありましたわね。クラス代表決定戦がもう遠い過去のように思えますわ」
鈴「うん。クラス対抗タッグマッチや臨海学校での事件は結構きつかったわね」
ラウラ「二学期に入ってからも慌ただしい生活は変わらなかったな。むしろ忙しくなった」
シャル「楯無生徒会長も加わって拍車が掛かった感があるよね」
ラウラ「むう……! あいつにはいつも迷惑を掛けられっぱなしだ! 
 気まぐれに部屋に勝手に忍び込んではこちらに被害を出して帰っていく!」
簪「……ごめんね」
267 :以下、
ラウラ「あ! か、簪! おまえが悪いわけではないぞ!」
箒「ははは。しかし早いものだな。冬休みか……」
のほほんさん「そうだ??! お休みに入ったら皆で集まって騒ごうよ??!」
箒「え?」
鈴「あ! それいいわね! 一回皆で遊びましょうよ!」
セシリア「ええ! 皆さんと一緒に余暇を過ごしたことは実のところあまりありませんし」
シャル「賛成!」
ラウラ「私も異論は無い!」
簪「…………えっと」ドキドキ
箒(簪はあまり皆で遊んだ経験がないのだろうか……?)
のほほんさん「しののんはどう?」
箒「あ、ああ。もちろん私も参加するぞ! 簪、おまえも来てくれると嬉しい!」
簪「う……」
268 :以下、
箒「簪!」ニコッ
簪「そうね……私も皆と一緒に遊ぶ!」
箒「良かった。細かい段取りは追々決めていこう」
鈴「ええ! あ、もうそろそろ鐘が鳴るじゃない。話し込んで気付かなかったわ」
シャル「本当に。じゃ、戻ろっか」
ラウラ「うむ」
――――――
―――

?放課後?
箒(抱えてるものを吐き出したら、皆の繋がりが一層深まったような気がするな)
箒(あいつらの嬉しそうな顔……ここへは自分の意思で入学した訳ではなかったが、今ならここに来て良かったと言える)
269 :以下、
鷹月「篠ノ之さん! 嬉しそうね!」
箒「静寐! セシリアたちとまた一緒に過ごせるようになってほっとしているんだ!」
鷹月「良かったじゃない! 昨日部屋に帰って来てからも話を聞いたけど、うまく関係修復できたみたいで何よりだわ」
箒「ああ。静寐があいつらのことを教えてくれたから私も動くことができたんだ。ありがとう」
鷹月「いいわよ、礼なんて。そうだ、織斑くんはどうだった?」
箒「そう言えば今日はあまり姿を見ていないな。朝昼と食堂にいなかったし、教室を空けることが多かった」
鷹月「え、じゃあ皆が織斑くんを避けてた事情を彼自身はまだ知らないってこと?」
箒「……! そ、そういうことになるな……」
箒(何故私は一夏のことを考えなかったんだ? 皆と一緒に過ごすのが楽しくて意識から外れていたのだろうか?)
箒(一夏……すまん)
270 :以下、
鷹月「そうなの……ま、織斑くんは大丈夫でしょ」
箒「ん?」
鷹月「私は織斑くんが一人でいるとき気落ちしてる姿を見たけど、それはあなたたちに避けられていたことが原因だったと思うの。
 篠ノ之さんの話だと皆元の優しさと快活さを取り戻しているし、これからは彼を無視することもないでしょ」
箒「ううむ、そうか……」
鷹月「よく考えたら織斑くんっていつまでも思いつめるような繊細な神経してなかったと思うし」
鷹月(……あの鈍感値ランキングなんかあったら世界ランカーに上り詰めるであろう織斑くんのことだしね)
箒「そうだな。神経はともかく、あいつは強い男だ。まっすぐで大らかで、困った人がいたら手を差し伸べずにはいられない心根の持ち主でもある」
鷹月「…………」
鷹月「篠ノ之さんって、本当は織斑くんのことをすごく認めてるのね。彼にはいつも手厳しい態度を取ってたように感じてたけどさ」
箒「……」
271 :以下、
箒(明日楯無さんに提案して一夏と私に特訓を付けて貰って、そのときに教えようか?……そろそろ一夏にあいつらの事情を話してやらなければ)
箒(きっと優しいあいつのことだ。笑って水に流してくれるに違いない)
箒(しかし、セシリアたちと話していてもほとんど一夏の話題が出ることが無かったな。意外だ……)
鷹月「どうしたの? 難しい顔して」
箒(そう言えば…………)
箒「一夏がいなければ、皆が出会うこともなかったんだな」
鷹月「え?」
山田「はーい! 授業ですよ! 皆さん席に戻ってくださいね!」
鷹月「あ……じゃあね」
箒「うむ」
鷹月(山田先生……織斑くんに悩み聞いて貰ってからより明るくなったわね。自信が付いてきたっていうか)
箒(…………一夏の後追いをしてるだけなのだな、私は……)
275 :以下、
【第三アリーナ】
楯無「……………槍も使わせてもらうわよ。一夏くん」スッ
一夏「はい」
楯無「……行くわよ」
ビュン!
一夏(正面からの突撃……!)
楯無「…………」スッ
ボゥン!!
一夏(前方に爆発!? 攪乱か!)
【白式アラート:右方向からの襲撃】
276 :以下、
一夏「こっちか!」クルッ
ギュウゥゥン!!
一夏(向かって来たのは水のナイフ!? こっちもブラフだ!)バシッ!!
ボゥン!
一夏(くっ―――! 爆発した!?)
一夏「…………」
ゴオォォォォ!
楯無「………!」
一夏「後ろ!」グルン! バシッ!
277 :以下、
楯無「あっ!」
一夏(槍はいなした! 今だ!)
【雪羅 零落白夜発動】
楯無(でも……!)
一夏(右手の蒼流旋対処完了―――敵左手に異変―――優先的に破壊――!)
一夏「はあっ!」ブン!
楯無「!」サッ ギュゥウンッ!
一夏「っ…………」
ヒュゥゥ……
楯無「ふう」スタッ
一夏「剣は左手とヴェールにかすっただけですか」
楯無「……いやあ、段取り組んだ攻撃が全部防がれちゃうなんて思いもしなかったわ。驚いちゃった。
 最初の煙幕も効果なかったし」サッ フッ
278 :以下、
一夏「?」
一夏(何か今楯無さんの纏っていた水のヴェールが変に動いたような……)ジーッ
楯無「すごいじゃない一夏くん」
一夏「楯無さんこそ。ナノマシンで形成した水のナイフを遠隔操作して布石に使ってくるなんて予想外でした」
一夏「弾いても小規模の水蒸気爆発が起きて、あやうく体勢を崩しそうになりましたよ」
楯無「はは……」
楯無(本当はそこで注意を逸らして、後ろからの突進に対応する余裕を奪えてたはずなんだけどね。
 水のナイフを見せるのは初めてだったのに……弾かれたときに爆発する二段攻撃のギミックまで通用しなかったか)
楯無(あの技も潰されちゃうし……)
一夏「どうかしました?」
楯無「うん。でもやるじゃない一夏くん。後方からの突撃への対処も完璧。防御時の基本動作はほぼ身についたみたいね」
一夏「はい! 相手が片手で繰り出した攻撃を両手を使って防いだ場合、もう片方の手の動きに対応できなくなるから極力こちらも片手で捌くんですよね。
 それについては自分でもある程度形になってきたと思います」
楯無「そうよ。君の白式は特性上人一倍エネルギー管理に気を付けなければいけないんだから、防御技術を上げて無駄なダメージを避けなきゃダメよ」
一夏「分かっています!」
279 :以下、

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