神娘「我を呼んだか!」男「呼んでません」【後編】back

神娘「我を呼んだか!」男「呼んでません」【後編】


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4:
――――――
先生「えー、この数式を用いてベクトル分解を行う事で」
男「……」
友「どした、やけに元気がないな」
男「引っ越しか…」
友「えっ、まじ?」
男「まじ…」
友「でもまあ、大学は変わらんだろ?」
男「まあな」
友「なら…まあ、いいんじゃね」
男「そうでもないんだよ…」ガクッ
友「はぁ?なんでさ」
男「えっと、まあ、通学面倒だし?」
友「そっかーそれもあるよなー…」
男「(セーフ)」
545:
友「でもさー、そろそろ一人暮らしでもよくね?」
男「うちは親が煩いんだよ…」
友「関係あるの?」
男「親にとやかく言われるの面倒くさいだろ?」
友「いや、お前がやりたくないならちゃんと言えよ」
男「……そうか」
友「何も言わないから意見を通されるんだぞ?しっかししろよ」
男「友よ」
友「あん?」
男「恩にきる」
友「ジュース一本奢れよ」
547:
――――――
男「と言う事があってだな」
神娘「……」
男「引っ越すかと言われて…」
神娘「……」
男「神様?」
神娘「……神主」
男「うん?」
神娘「我が嫌いになったか?」ウルッ
男「……ん?」
548:
神娘「いや…言うまい、お前がそうしたいと思うならば…」
男「いやいやいや、行かないからね!?」
神娘「…ん?」
男「ちゃんと断るから」
神娘「………取り乱した」グシグシ
男「(可愛い)」
549:
神娘「結論から先に言え!驚いただろうが…」
男「すまん、そのつもりは微塵も無かった」
神娘「…ったくもう…」
男「まさか泣かれるとは思ってなかった」
神娘「今の私は謂わばお前に生かされているのだ、分かるな?」
男「分かってるって…でも引っ越しても週末には会えるけどさ」
神娘「そりゃ、そうだがな…うむ」
男「まあそれでもここには毎日来たいけど」
神娘「それでこそ我が神主だ!」バシバシ
男「痛い、痛いって」
551:
男「いやぁ、友には良い事を言われたもんだ」
神娘「私からも礼を言わねばな…やはり持つべきものは友だ、大事だぞ」
男「あの後ジュースを奢りたかったんだがな」
神娘「ん?どうかしたか?」
男「先生からチョークとお叱りと罰則の課題を受けて…」
神娘「……そうか」
男「眉間から煙が出てた」
神娘「先生も友人も人間ではないのではないか?」
552:
神娘「ではお前はどうする?」
男「んー…それは相談だな、家を売ることが確定してたらどこかに泊まるよ」
神娘「そっか…」
男「ん?」
神娘「いや?なんでもないぞ」コテン
男「(可愛い、いや本当に)」
553:
――――――
男母「え?ここに残る?」
男「うん、通学とかもあるし」
男母「でも…ううん、あなたもそろそろそう言う年頃よね」
男「まあ家事とかは普通にできるしさ」
男母「でもこの家はもう売っちゃう事になってるのよ…契約もすんじゃって」
男「アパートかなんか借りるからいいよ、それにこの家は一人には大きすぎるし」
男母「…ねえ」
男「ん?」
男母「やっぱり好きな人できたんでしょ」
男「冗談言わないでよ」
554:
男「もう寝るよ」ガチャ
男母「おやすみ〜」
男「おやすみ」バタン
男「……」
男「と言う訳だ」
神娘「気付いていたのか」
男「どれぐらいの付き合いだと思ってるのさ」
神娘「それもそうだ」カラカラ
男「油断も隙もありゃしないんだから…」
男「」
555:
神娘「帰るぞ、私は」
男「嫌に早いな」
神娘「なに、そんなに長く憑くつもりは無かったのでな」
男「確かこっちの体力も使うんだっけ」
神娘「僅かだがな、お前は私に慣れてるから憑くにしても消費が少ない」
男「便利な体になったもんだ」
神娘「もうすっかりこちら側だよ、お前は」
556:
男「こちら側か、確かに自由に”この世の者ではない”奴等が見えるし…分かる」
神娘「何か不満か?」
男「いや、でも友には薄々気付かれてるんだろうな」
神娘「……ほう」
男「『この世から離れているみたい』だってさ」
神娘「あながち間違えてはいない、お前は最早我々の領土に居るのだからな」
男「それは三途の川を越えたって意味で?」
神娘「死んでは無い、だが”生きても居ない”」
男「随分大ごとだな…」
557:
神娘「神主よ」
男「あん?」
神娘「貴様は今やこちらの住人だ、神々の領土の民だ」
男「そりゃ、光栄…」
神娘「自覚は無いだろうが…お前にも直に分かるだろう」
男「それは真面目に受け取った方がいいか?」
神娘「さあ、どうだろう」
男「神様は汚いな」
神娘「私の生まれを考えれば当然」
558:
神娘「では、帰るよ」スゥ
男「…なあ神様」
神娘「ん?」
男「ひょっとして今日憑いてたのは…」
神娘「…もし本当に引っ越すことになった時、お前とここで話したかったんだ」
男「心配しなくていいのに」
神娘「どうにもならない事もあるから」
男「……」
神娘「ふ、私らしくも無い」
男「大丈夫だよ、出来る限り神様の傍に居るからさ」
神娘「そうもいかんよ」
男「…へ?」
559:
神娘「お前は人間で、私は神だ、それはお前がいくら変わっても変わる筈は無い」
男「うん」
神娘「お前が人間である内は、お前は人と契り、子を成さなければならない」
男「…そんな先の事なんて、分からない」
神娘「気付いていないのか?お前は既に人として成熟しているのだぞ」
男「……」
神娘「それは人の義務だ、在るべき姿だ、私は神である限りお前がその道を進む様導かねばならない」
男「人」
神娘「それが人だ、それが神だ。関係は崩れてまた構成される、それがこの世だ」
男「じゃあ、もし神様がまた一人になったら」
神娘「その時は…大人しく消えるさ」
男「折角ここまで戻ったのに?」
神娘「そもそもなぜ生きるか分からなかった命だ、神の役目には替えられんよ」
男「神様…」
神娘「そんな顔をするな、私まで悲しくなる」
560:
神娘「さて、もうお前は寝ろ」
男「まだ話は終わってないのに?」
神娘「人を寝かすのも神の役目だよ」
男「卑怯だ」
神娘「今更」
男「さて、家はどうするかな」
神娘「それなら…いや、明日話そう」
男「そうしてくれ、疲れた」
神娘「おやすみ、人の子よ」スゥゥ…
男「おやすみ、神様」
561:
男「静かだ」
男「暗い」
男「ここに残る事になったな、家はどうしよう」
男「でも神様可愛かったな、人間なら好きになってた」
男「駄目だ」
男「こうしていると頭がこんがらがる」
男「寝ないと」
男「…寝れない」
男「目が冴える」
男「寝れない」
562:
男「神様と離れなくてよかった」
男「あの場所好きだから、離れたくない」
男「…それだけか?」
男「それだけの為に、あれだけ焦ったのか?」
男「本当に?神様が心配だからだけで?」
男「それだけであれだけ焦るのか?」
男「これも信仰なのか?それとも違うのか?」
563:
男「神様は可愛い」
男「ふとした仕草なんて素晴らしいと思う」
男「きっと人間なら大層持てたんじゃないかな」
男「でも」
男「”神様には畏敬以外の感情を持てない”」
男「神様を友人だと思ったことも無い」
男「ましてや恋愛の対象なんてもってのほかだ」
男「神様は神様であって、同じ次元の存在じゃない」
男「これが神様の言っていたフィルターなのか?」
男「可愛いと思う、でもそれだけだ」
男「時々綺麗だと思う、それだけだ」
男「それ以上は無い」
男「…もうやめよう」
男「神様は神様なんだ」
男「……」
564:
―――――
男「で、何だ話って」
神娘「別に、大した話ではない」
男「おう」
神娘「お前、まだ済む場所は決まってないよな?」
男「引っ越すのもまだだいぶかかるらしいし」
神娘「よかった…」
男「どうかしたか?」
神娘「神主、ここに住まんか?」
男「…ん?」
578:
神娘「…ふむ、暇だ」
神娘「神主が居たら紛れるが…無理に呼び出す事も無し」
神娘「あやつを待つとするか、時間なら有り余っている」
神娘「どうやって待つか…」
神娘「…」
神娘「…」スゥ
断章
神娘「……」
ミーン ミーン…
神娘「……」
シャワシャワ…
神娘「……」
579:
神娘「……」
―――――ま
神娘「……」
―――――さま
神娘「…ん」
―――――神様
神娘「何だ…もう来たのか?」
子供「何言ってんだ?神様」
神娘「…ん?」
子供A「約束して無い筈だけどなぁ」
子供B「んだ、んだ」
子供C「でもおっかぁが神様に取り付けたのかもしれんな」
子供B「そんだなぁ」
子供A「そっかもしれんなぁ」
580:
神娘「(なんだ?これは)」
子供A「おっかぁがもうじき奉納にくっから、先に来てたんだ!」
子供C「最初に勝った奴が神様に頭撫でてもらえるんださ!」
子供A「俺が勝っただ!」
子供B「いーや俺だ!」
子供C「どっちも同じだと思うがなぁ」
子供A「俺だ!」
子供B「なんだと!」
神娘「(なんだこれは)」
581:
神娘「(知らぬ相手なら幻覚だと勘違いできるだろう)」
子供A「ぐぬぬ…」
神娘「(だが私はこの景色を知っている、この子供達を知っている)」
子供B「ぐぬぅ…」
神娘「(忘れもしない、私が治めていた国だ、私が居た場所だ)」
子供C「あわわわわ…」
神娘「(そして彼らは…私が戦争に送り出す…)」
神娘「……」
女「ばっきゃろー!」
神娘「ふぉっ!?」
子供達「「「うわっ!おっかぁ!」」」
582:
母「ったく…神様の前で喧嘩なんてしてんじゃないよ!」
子供A「ご、ごめんよ…」
子供B「ごめんなさい…」
母「謝るんだったら神様に謝りな!…すみません神様、うちの馬鹿どもが」
神娘「ああ良いとも、子供は元気が一番」
母「すんませんねぇ…あ、奉納しに来ましたよ」
神娘「ほほぉ!これはまた見事な西瓜」
母「よーく川で冷やしてありますよ!」
神娘「よしよし…では食すとしよう、お前たちも一緒にな」
母「えっ?」
子供達「いいのか?」
神娘「無論だ、一人で食すより多くで食べた方が飯は美味い」
583:
神娘「(平和だ)」シャクシャク
ミーン ミーン
神娘「(こうして皆と食べているとまるであれが嘘のように思えてくる)」
ミーン ミーン
神娘「(力を失い、自ら閉じこもり、そして…)」
子供「神様ぁ」
神娘「ん?」
子供「最近は戦無いなぁ」
神娘「まあ…良い事じゃないか」
子供「うん、そうだね」
神娘「ああ」
子供「このままなければいいのにね」
神娘「…ああ」
584:
母「なに、神様が何とかしてくれるさ」
神娘「それは買いかぶりすぎだ、私にそんな力はない」
母「いやいや、現にこの国は神様の威光があって戦争が少なくなりましたよ」
神娘「…そうかな」
母「そうですとも」
神娘「私は、役に立てているかな」
母「神様…」
585:
母「神様、そんな気負わんでもいいんだよ」
神娘「うん?」
母「神様はそこに居るだけでみんなの希望なんだ、それだけで十分なんだよ」
神娘「まるで置物だな」ハハ
母「いいじゃないか、私は神様の事を人形さんみたいに思ってるんだから」
神娘「それは光栄だな」
母「おっとぉ、口が滑ったねこりゃ!」パシーン
586:
爺「おぉ神様!今日もありがとうございます!」ペコリ
神娘「私は何もしてないが」
爺「儂が元気なのも孫が皆元気なのも神様のおかげですぞ!」
神娘「そんな力はないがな」
爺「なんのなんの!神様ですからな!」
神娘「…そうだ!それもこれも私の威光あっての事だ、信仰するがよいぞ」
爺「ありがたやありがたや…」
母「ありがたいありがたい」
子供「ありがとうございます」
神娘「(これでいい、これこそ神の姿だ)」
―――男「神様」
神娘「(…今となってはもうお前しかいないがな)」
587:
婆「神様ぁ、取れたての胡瓜です」
爺「儂は茄子をもって来たぞい!」
神娘「よしよし、ならば台所に立てい!新鮮なうちに野菜を食すぞ!」
母「ちょっと仲間呼んでこないと…」イソイソ
子供「俺たちも呼んでくるぞ!」
神娘「(…ああ、これだ)」
神娘「(これが私が望んでいた光景だ)」
神娘「(これこそが…)」
588:
神娘「(…足りない)」
神娘「(望んでいた光景なのに…足りない)」
―――男「神様」
神娘「ああ、そうか」
母「どうかしたかい?」
神娘「いいや?なんでもない」
神様「(神主、今はお前が居なければ…そうだな)」
589:
神娘「…すまん、少し寝るよ」
母「おや、疲れましたか?」
爺「神様には悪いが騒がせてもらうぞ!はっはっは!」
婆「この年になって騒ぐとは年甲斐もないがねぇ!」カラカラ
神娘「(…夢でも、見れて良かったな)」
590:
子供「神様、寝ちゃうの?」
神娘「すぐ起きるよ」ウトウト
子供「神様」
神娘「なんだい?人の子よ」
子供「…僕ね」
神娘「ああ」
子供?「神様に会えてよかったよ」
神娘「……そうか」
591:
子供?「ここに居るみんなそう思ってるんだ」
ミーンミーン
神娘「そりゃ、よかったよ」
少年「神様は皆が恨んでると思ってるけど、それは違うよ」
神娘「そうかな」
少年「そうだよ」
ミーンミーン…
592:
少年「ここに居るみんなは神様を愛しているんだ」
神娘「そりゃ…嬉しい、嬉しいに決まってる」ウトウト
少年「少なくとも今も、神様の事なんて少しも恨んでない」
神娘「本当に?」
少年「嘘をついたら神様が悲しむから」
神娘「そりゃ、そうだな…」
593:
少年「神様」
神娘「ん?」
少年「愛してるよ、これまでもこれからも」
神娘「告白かい?」
少年「半分はね人間は神様に恋できないけど」
神娘「残念だ」
少年「残念だね」
594:
少年「愛してるから、もう僕らの事は忘れていいよ」
神娘「そんな事は出来ないさ」
少年「神様」
神娘「なんだ」
少年「僕らは死んだんだ」
神娘「……」
シャワシャワシャワ…
595:
少年「僕らは死んだんだ」
少年「あの時戦争で死んだんだ」
少年「1人だって生き残らなかった」
少年「お国のために命を投げ出したんだ」
少年「でもね、神様」
少年「ぼくら、神様を恨んでないよ」
少年「それよりも感謝してるんだ」
青年「神様を護れたことを」
青年「今まで護ってくれた神様を護れたことを」
596:
青年「だから神様、忘れてくれ」
青年「貴方には私達とは違う今がある、生きている」
青年「私達はあなたを束縛するつもりなんてないんだ」
青年「…だから神様」
青年「もうそろそろ目覚めて下さい」
男「神様?」
シャリリリリリリ…
ミーン ミーン ミーン…
597:
男「おはよう神様」
神娘「…寝ているところを見られたな、不覚」
男「気にしてない癖に」
神娘「まあな…神主」
男「ん?」
神娘「私はどんな顔をしていた?」
男「どうって」
神娘「分からなかったならいいんだが」
男「なんか、少し辛そうだったな」
神娘「…そうか」
男「でも」
神娘「ん?」
男「笑ってたよ、神様」
神娘「…そうか」
598:
男「なあ神様」
神娘「なんだ?」
男「どんな夢を見ていたんだ?」
神娘「気になるか?」
男「気になる、神様そういうの頓着してそうだし」
神娘「そうだなぁ」
男「うん」
神娘「とんでもない悪夢を見たよ」フッ
男「なんだそれ」
599:
神娘「さて、上がれ」
男「なにかある?」
神娘「西瓜が一丁」
男「お、いいね」
神娘「既に切り分けてあるからこれもって縁側に行ってくれ」
男「りょーかい」
神娘「あ、先に行っててくれないか」
男「分かったー…おっと」
神娘「おとすでないぞー」
男「わーってるって」
600:
神娘「……」
シャワシャワシャワ
神娘「忘れる事は出来ない」
ミーンミーン
神娘「だが、私は前に進むことにしたよ」
ザァァァァァァァァ
神娘「それでいいんだろう?」
『ありがとう、神様』
ザァァァァァァァッ…
613:
男「神様?ここでは暮らせないって言った気がするんだけど」
神娘「外での体面がどうかこうかだろう?心配するな!」
男「なにか策でもあるのか」
神娘「おうとも、お前に家をくれてやろうとな」
男「スケールのでかすぎる話だと思うんだが、騙してないよな?」
神娘「心配するな、ちゃんとした家だ」
男「神様って外界に干渉できたっけ」
神娘「直接的にはまだ干渉するに至ってないが、間接的なら」
男「維持費とか」
神娘「その程度親からぶんどってこい」
男「えー…」
614:
男「でも家をくれてやるって言ってもだよ、どこにあるのかわからん」
神娘「この森の向かいに家があるだろう」
男「あー、あそこ?ぼろい家だよね」
神娘「そこ」
男「…そこ?」
神娘「その家をくれてやる」
男「あのぼろ屋をくれる、かぁ…」
神娘「ただだぞ」
男「確かに維持費とかはただ同然だと思うけど…雨漏りしない?」
神娘「多分な」
男「多分って…」
615:
神娘「ま、色々あるのだ」
男「結構気になるんだがな」
神娘「黙って従え、損はない」
男「はいはい」
神娘「不満か?」
男「滅相も無い」
神娘「…むぅ」
616:
神娘「取り敢えず見に行くといいぞ、下見で」
男「んーそうだな、行ってくるか」
神娘「おおそうか!じゃ、行くぞ」ポン
男「神様も来るのか?」
神娘「当たり前だぞ、神主が仮とはいえ己の住居にする所だからな」
男「へーへーありがたい事で」
神娘「馬鹿にしたな!?」
男「全然、神様の加護があれば万事大丈夫だろうね」
神娘「お、おう」
617:
―――――
男「…で、だ」
神娘「おう」
男「これがその…家?なんだな?」
神娘「そうだな」
男「どう見ても廃墟なんだが」
神娘「雨をしのげるだけはあるな、多分」
男「ここに住めと?神主に?」
神娘「お前は何を言っているのだ阿保め」
男「口が悪いな」
神娘「私はお前にこの家をくれてやるとは言ったが、住めとは言っていない」
男「そうだな」
神娘「お前…私が最初なんでこの家をやると言ったか忘れてないか?」
男「実はそうなんだ、なんだか衝撃的な事を言われた気がして」
618:
神娘「お前はな、私と住むんだ」ズイッ
男「おう」
神娘「私と」ズイッ
男「神様と」
神娘「あの森で」ズイズイッ
男「あの森で」
神娘「一緒に住むんだ!」ズズイッ
男「住む」
神娘「分かったな?」
男「全然」
神娘「この馬鹿たれが!」バチコーン
男「あべしっ!?」
619:
神娘「お前が『取り敢えず住居が無くては困る』と言うから思い出したわけだよ」
男「なんとなくは分かったがな」
神娘「だからその取り敢えずの住居を与えると言っているのだ」
男「……」
神娘「これさえあれば問題ないだろう?な?」
男「なあ神様」
神娘「おん?」
男「神様はなんでそんなに積極的なんだ?」
神娘「言わせるな恥ずかしい」
男「…おう」
620:
神娘「逆に聞くが、異論はあるのか?」
男「無論ない」
神娘「なら良いではないか」
男「…そうだな、別に何にもおかしいことは無い」
神娘「神である私が言うのだ、間違いはない」エッヘン
男「なんでえばるんだよ」
神娘「私が神だからだ」
621:
これ男は住所不定ってことにならね?
622:
>>621
神娘「だから一応の住居を与えたわけだ、住所はあるから住所不定ではない!」エッヘン
男「それ犯罪に抵触しないの?」
神娘「知るかそんなもん!」
623:
男「しっかし…ぼろい家だな、家として認められるのかこれは」
神娘「一応は家だろう、住所のない家なんて家じゃない」
男「お、おう」
神娘「それにだ…こうしてみるとほら、なんとなーくまともに」
男「見えないな」
神娘「お前には心眼が足らん!」
男「んな理不尽な」
624:
男「んで、だ」
神娘「おう」
男「実をいうとあまり持ち物を持っていなかったりする」
神娘「なんだ、ここは荷物置き場にもならんか」
男「(やっぱりぼろいって思ってるんじゃないか?)」
神娘「はて、しかし年頃の男がそんなものを持ってないとは」
男「だってほとんどあの神社に持っていっちまったんだもの」
神娘「えっちぃのとかは」
男「…そんなのわざわざ言うと思うか?」
神娘「つまらん奴め」
627:
男「だから引っ越しってもあんまりやる事ないんじゃないかなとは思うよ」
神娘「…まあ、随分と雑多になったものだとは思っていたが」
男「持っている者なんて本ぐらいしかなかったもんなぁ」
神娘「ゲームと言うのがあるらしいが、それはないのか?」
男「なんか飽きたから売っちまった」
神娘「…遊んでみたかったのだが」
男「じゃあ適当な奴買ってくるよ」
神娘「操作が優しいのがいいのだが」
男「探しとく」
628:
男「んー…じゃ、下見も終わったし帰るか」
神娘「おう、で引っ越しはいつになる」
男「二・三週間後かなぁ」
神娘「そうかそうか…ふふ」
男「うん?」
神娘「これからは一つ屋根の下だな神主」
男「(そう言えばそうなんだよなぁ)」
神娘「これからは沢山探索に出かけような」
男「いつもやってることじゃないか」
神娘「そうだったな」
629:
神娘「…っと、もう言う事も無いな」
男「最近はぐでってばかりだしな」
神娘「随分となれたものだよ」
男「誰のせいだと思ってるんだ」
神娘「でも、それで見える景色もあるだろう」
男「…確かに、まあ」
神娘「神社に寄るか?」
男「いや、今日は帰るよ」
神娘「そうか」
男「ああ」
630:
神娘「…なあ」
男「後悔ならしてないぞ」
神娘「すっかりばれてるな」
男「神様は心配性だな」
神娘「いや…」
男「ん?」
神娘「嫌な予感がするのだ、もうじき何かが起こる…そんな気配が」
男「気を付けておくよ」
神娘「お前に何かあったら…いや言うまい」
男「おう」
632:
―――――
男「じゃ、寝るよ」
男母「はーい」
男「あ、住むところは見つけて来たから」
男母「あらそう、準備はしてたのねー」
男「まあね」ガチャン
男「ふぅ…」ドサッ
――――これからは一つ屋根の下だな
男「…楽しみにしている自分が堪らなく卑しいぜ」
633:
――二週間後
男母「じゃ、ちゃんと栄養取りなさいよ?」
男「分かってるって」
男母「時々電話寄越しなさいね」
男「そこまでせんでもいいだろうに」
男母「心配だし…」
男「こちとらもう子供じゃないからね?」
男母「それもそうね、じゃ」
男「父さんと仲良くやりなよー」
男母「何言ってるのよ、私はあの人の妻よ?」ブロロロロ
男「…いっちまったな」
神娘「いつも思うが如何にも人のよさそうな顔をしているの」
男「実際そうだよってかナチュラルに隣に居座るなよ」
神娘「良いではないか」
636:
神娘「今日は休日だったか」
男「あーね、もうじき試験だと言うのにのんびりもしてられんが」
神娘「見てやろうか?勉強」
男「あいにく一夜漬けなんて度胸は無い性格なので」
神娘「良き心がけ、だがまあ効率も大事だぞ?」
男「神様が言うセリフかよ」
神娘「私は仏でもないから俗にまみれても良いのだ」
男「そりゃ、結構な事で」
637:
神娘「神と言うのは俗っぽいもんだ」
男「ふぅん」
神娘「酒も煙草もやる、喧嘩もする」
男「人間と変わらんじゃないか」
神娘「つまりそこだよ、神は人と近いんだ」
男「近い…まあ確かに、時々人間と話しているみたいに思えるけど」
神娘「神は人より生まれ、人と共に生きている…つまりそう言う事だよ」
男「そっか」
神娘「そうだ、じゃあ行こう」
男「行こう、神様の森へ」
神娘「私達の森だろう?」
男「ん、ああ」
638:
リーン…リーン…
男「あ、今秋なのね」
神娘「ちょっくら見せたいものがあってだな」
男「うん?」
神娘「これだこれ、このために秋にした」
男「…なんだこれ」
神娘「囲炉裏を知らんか?」
男「いろり?」
神娘「知らんか…ともかく良いものだぞ、これは」
男「ほほぉ」
639:
神娘「ここを囲んで鍋をつついたりするんだ」
男「ああ、郷土資料で見たことがあるかもしれん」
神娘「いいものだぞ、これは」
男「早つけてみるか」
神娘「点火用具、点火用具は…」
男「コンビニで売ってたかな」
神娘「あった、マッチ」
男「…時代を感じる」
640:
神娘「ふふん、こんな事もあろうかと用意しておいたのだ」
男「そりゃ大した心がけで、付くの?」
神娘「多分付くだろ…えいしょ」シュッ
男「……」
神娘「んしょ、えいしょっ」シュッ シュッ
男「……」
神娘「ええい、このっ、くそっ、この…」シュッシュッシュッ
男「…買ってこようか?」
神娘「黙っておれ!」スカスカスカスカッ
641:
神娘「この馬鹿物がっ」
男「(今日から神様と一つ屋根の下かぁ)」
神娘「言う事を聞かんか!」
男「(学校行って、帰ったら散策でもして、本を読みあったりして)」
神娘「神の言う事が聞けんと申すかっ」
男「(…いつもと変わらなくね?)」
神娘「くそっ、このっ」
男「(…別に変に違うよりそっちの方が楽だな)」
642:
神娘「……」シュッ
男「(それにしても)」
神娘「……」シュッシュッ
男「(変な所で諦め悪いよな神様も)」
神娘「……」シュッ
男「(引っ越すって言った時はあっさり引いた…いやあれは引いてなかった気がする)」
神娘「……」
男「買ってくるよ」ザッ
神娘「頼む」
男「(こっちから動いてやらなきゃ諦めないんだもんな)」
645:
――――
男「もうちょっと言ってくれてもいいんだぞ?」
神娘「そうはいってもだな」
男「神主なんだから、神様の言う事聞くのは当たり前だろう」
神娘「確かに!」ポン
男「…もしかして覚えて無かったりする」
神娘「そんなことは無い、ちょっと置いておいただけだ」
男「口が上手い事で」
神娘「褒めるな」
646:
パチパチパチ…
神娘「暖かいな」
男「火で暖を取るってことは無いから新鮮だ」
神娘「昔はよくこうしていたんだがなぁ」
男「悪くないな」
神娘「しかしあれだ…足りん」
男「なにがさ」
神娘「鍋」
男「鍋?」
神娘「鍋が足りん、鍋が」
647:
神娘「囲炉裏と言ったら鍋だ」
男「お、おう」
神娘「鍋が無い囲炉裏なんて囲炉裏ではない」
男「流石にそれは言い過ぎじゃないか」
神娘「言い過ぎではない、それほど鍋と囲炉裏は重要なものだ」
男「(そういうものなのか?)」
神娘「ああ、鍋が食いたい」
男「取ってくればいいじゃん」
神娘「獲ってくるか」
男「そうだな、一緒に行こう」
神娘「おうともさ」
648:
神娘「茸鍋がいいな、うん」イソイソ
男「そう言えば神様っていつも同じ服装だけどいいの?」
神娘「ここは俗世とは無縁の場所、さらに私は神だから穢れも出さないから汚れない」
男「…便所は?」
神娘「人用だ」
男「食ったもの何処に行くの?」
神娘「力となる」
男「うわ、なんかずるい」
650:
神娘「人の体を捨ててよかったことだな、うん」
男「割かし現金なんだね」
神娘「夢なんて昔に捨てた」
男「反応に困るんだが」
神娘「すまんな」
男「それにしても、服替えないの?」
神娘「一応神具と呼ばれる礼装だからな」
男「えっ、それそんなに大事な物なのかよ」
神娘「下位のではあるがな、これを着ていないと示しがつかんしな」
651:
男「すっかり下駄が染みついたなぁ、こっちも」パカッ
神娘「流石にそれで散策に出たら転ぶぞ」
男「その時は運動靴を履くさ、ここに置いてある」
神娘「手馴れたもんだな」
男「自分でも驚くほど適応してる、うん」
653:
神娘「うっ、寒い」
男「上着持ってきた」
神娘「助かる…」
男「神様って寒い暑いは感じるんだな」
神娘「悪いか」
男「いや、別に食べなくてもいい体だし」
神娘「寒暖を感じるのは季節を感じるのと同意、肌で感じるのもまた楽しからずや」
男「そんなもんか」
神娘「そんなもんだ」
654:
神娘「秋と言うのがこんなに寒いなんて忘れてた」ザカザカ
男「ふぅん」ザッザッ
神娘「冬の寒さはこれの日では無かった気がするな」
男「忘れたのか?」
神娘「…ずっと夏だったからな」
男「そうか」
655:
神娘「身を切るような寒い風、まるで時が止まった様な灰色の景色…そして雪」
男「…冬か」
神娘「厳しい冬を乗り越えてこそ、春が訪れる」
男「春?」
神娘「生命の春、冬の試練を乗り越した者のみが享受できる季節だよ」
男「知らないな」
神娘「いずれ訪れれば、二人で花見をしような」
男「楽しみだけど、そんな日が来るかな」
神娘「くるよ、きっと」
男「待っているよ、神様がそう言うなら」
657:
神娘「あっ、しめじだ」
男「舞茸はあるかな」
神娘「外では舞茸の養殖が盛んらしいな」
男「んー、まあ一番馴染みのあると言うか」
神娘「実はきくらげもキノコの一種…生えてはないが」
男「ないのか」
神娘「探せばあるかもしれん、諦めるな」
男「…これって松茸?」
神娘「そうだが」
男「天然ものは大変高級なんだがね」
神娘「結構そこら辺に生えてるが」
男「まあ、うん、予想通りと言うか」
658:
男「大分取れたな」
神娘「帰るか、あ」
男「ん?」
神娘「鍋はあったっけ」
男「土鍋があった気がする」
神娘「出汁とか、昆布があった気がするが」
男「簡易台所にあったなー」
神娘「そう言えば正式な台所は無かったか」
男「元々本殿の中だからなー、台所がある方がおかしい」
神娘「作るか…」
男「木材には困らなさそうだから作れる気がする」
神娘「神の力で身体強化ぐらいなら出来そうだぞ」
男「頼んだ」
659:
神娘「……」ザカザカ
男「……」ザッザッ
ヒュルゥッ
神娘「…寒い」
男「寒いな」
神娘「懐かしい寒さだ」
男「うん」
神娘「昔は、こんな寒い日には皆が集まって…暖を取って」
男「うん」
神娘「…涙もろくなったな、私も」
男「神様」
神娘「うん?」
男「ここに居るさ、神様は一人じゃない」
神娘「…そうだな、そうだよな」
男「ああ、そうだよ」
660:
――――
グツグツ
神娘「……」スジュル
男「……」ゴクリ
グツグツグツ
神娘「…もういいか?」
男「駄目だ、まだ煮えていない」
グツグツグツ
神娘「ちょっとだけ」
男「駄目だ」
グツグツグツグツ
神娘「……なあ」
男「駄目」
神娘「ぬぅーっ!」
661:
神娘「まさか貴様に”鍋奉行”の素質があったとは…」
男「鍋奉行?」
神娘「鍋の事になると途端に口やかましくなる輩の事だ!」
男「こうした方が美味いと思うんだが」
神娘「うぐぅっ」
男「神様堪え性ないと駄目だぞ?」
神娘「うぐっ…」
男「…ん、そろそろかな」
神娘「そうか!」パァッ
男「……」
神娘「…貴様、今私の事を馬鹿にしたな?」
男「いや、滅相も無い」
662:
神様最近可愛すぎ
664:
神娘「ええいまったく!お前は最近不遜すぎるぞ!」パクパク
男「さーせんしたー」パクパク
神娘「第一な、お前は神主であって私は神だぞ」
男「さいで」
神娘「もっと敬いをもってだな」
男「あーん」
神娘「んむっ、ん…美味い!」
男「肉が無いと物足りないと思ったけどそんな事も無かったな」
神娘「だろう?」エッヘン
667:
男「こうして鍋をつつくのも中々良いな、うん」
神娘「そりゃ、昔はこうして親睦を深めたものだ」
男「あ、それ取るなよ」
神娘「早い者勝ちだ馬鹿者」
男「じゃあこっち貰った」
神娘「ちぃっ」
男「早い者勝ちだ」
669:
神娘「ふむふむ」モッチャモッチャ
男「美味いな」ムグムグ
神娘「やっぱりこうでないとな、茸しか入ってないが」
男「野菜は買ってくるべきだったな」
神娘「概ね同意する」
男「お、もう食べ終わるか」
神娘「うどんでも作ろう、うどん」
男「お、いいなそれ」
670:
―――――
男「食ったな」
神娘「いやぁ、食った食った」
男「それにしても神様はよく食うなぁ」
神娘「お前が食わなさすぎだ」
男「そんな事も無いと思うけど」
神娘「もっと食え 健康で居ろ」
男「お前は親か」
神娘「なってもいいぞ」
男「えっ」
神娘「と言うより人は皆神の子だぞ」
男「あ、そう…うん」
神娘「甘えてきていいのだぞ!」
男「(どう反応していいんだこれは)」
672:
神娘「神主、一緒に月を見よう」
男「月?」
神娘「ここから月が見れるんだ」
男「…あ、本当だ」
神娘「いつもは暗くなる前に帰るからな、お前」
男「帰されるんだがな」
神娘「言うな、時々ここの時間は私の予期しないさで進む」
男「そうなのか」
神娘「安定している時は外と同じだけ進むようにしている、お前が取り残されることないように」
男「ありがとう?」
神娘「当然の事よ」
673:
神娘「こうして月を見ると、あれだな」
男「うん?」
神娘「……いやいい、今更終わった事だ」
男「…そうか」ウトウト
神娘「眠いか?」
男「少し…」
神娘「よし、じゃあここに横になれ」ポンポン
男「うん?」
神娘「膝枕してやる」
男「……(不意打ち過ぎるだろこれ)」
神娘「さあさあ遠慮するな、減らんから」
男「…じゃ、遠慮なく」ドサ
神娘「神に膝枕される人は珍しいぞ」カカ
男「…恥ずかしい」
674:
神娘「月が見えるな」
男「うん、綺麗だ」
神娘「真ん丸で美味しそうだな」
男「神様」
神娘「なんだ」
男「月が綺麗ですね」
神娘「そういうのは人に言え、神に言う言葉ではない」
男「なんだばれてたか」
神娘「さり気なく馬鹿にしているな?」
男「めっそうもない」
675:
ちゃっかり告白する男さんマジ漢
676:
神娘「人か」ナデナデ
男「撫でないでくれ」
神娘「減るもんじゃない」
男「まあそうだが」
神娘「お前はもうちょい私に頼れ」
男「えー」
神娘「助けられてばかりだ」
男「そんな大仰な事はしてない」
神娘「…いや、確かに助けられてばかりだ」
677:
神娘「お前に力をもらった」
神娘「お前が私の過去を断ち切った」
神娘「お前は外の知識を私に持ってきた」
神娘「この森に季節を齎した」
神娘「全てお前のおかげだ」
男「……どうも」
678:
神娘「……」ナデナデ
男「妙な気分だ」
神娘「ん?」
男「初めて会った時は、こんな事されるなんて思っても無かった」
神娘「そりゃ、私もだよ」
男「そっか」
神娘「なんか迷い込んできた人間、その程度だった」
男「自分のことながら酷い言い草だ」
神娘「ついでに利用できないかと考えたよ」
男「本当に酷いな」
神娘「だろう?」
679:
神娘「だが私はお前の誠意に触れた、お前は私に信仰を捧げた」
男「役目だからな、それが」
神娘「神主の役を継いだ、そしてこうして私の隣に居る」
男「それは…役目なのかな」
神娘「さあ、どうだろうな」
男「なんだそれ」
神娘「神主にもいろいろいると言う事だよ」
男「そっか」
680:
神娘「そろそろ寝るか」
男「それがいい…あ」
神娘「ん?」
男「布団ってある?」
神娘「…どうだったか」
男「と言うより神様って普段寝るの?」
神娘「寝ないな、うん」
男「えー…」
神娘「あ、でも一応の為に布団が」
男「一組しかないと言うベタな展開とか」
神娘「いや、結構ある」
男「あるんかい」
神娘「来客とかいるからな、龍とか」
男「成程」
681:
―――――
神娘「こうして隣で誰かが寝るなんて久しぶりだな!」ハッハッハァ
男「お、おう」
神娘「まあ布団は別だがな」
男「(一緒だったらどうしようかと思った)」
神娘「残念だったな!」
男「テンション高いな神様」
神娘「そうか?」
男「うん」
神娘「…そうか」
682:
神娘「なあ」
男「ん」
神娘「最近嫌な予感がするんだ」
男「嫌な予感?」
神娘「戦争の時に感じた気配、死の匂いがする」
男「なんだって!?」
神娘「近い将来何かが起こる、私には分かる」
男「…そうか」
神娘「怖いんだ」
男「そりゃ、死の匂いなんてしたら…」
神娘「違う?」
男「え?」
683:
神娘「私はお前と離れるのが怖い」
男「そりゃ…唐突な告白か?」
神娘「分からん、ただ私にとって今一番交友関係の不快のは間違えなくお前だ」
男「こっちもだよ、そりゃ」
神娘「失うのが怖い、怖いんだ」
男「(…確かに、神様が居なくなるのは怖いな)」
神娘「私の中ではまだ、時々戦火に焼かれる者の声が聞こえるんだ」
神娘「噎び泣きが、怒号が、断末魔が、狂気の笑いがまだ聞こえるんだ…」
男「神様、そっち行くよ」ズリズリ
神娘「へっ?」
男「そのまま寝てりゃ良いからさ」ドスッ
神娘「神の布団に入ってくるなんて不届き者め」
男「罰してくれても構わんよ」
神娘「お前は私の神主だからな、この程度は許そう」
男「ありがたい」
684:
男「ずっと居なくならないなんて、そんな事は言えない」
神娘「その程度、知っている」
男「知っていても、理解はできても、納得できない」
神娘「…っ」ギゥ
男「そんなこと知ってる、神様だけじゃないから」
神娘「私だけじゃない?」
男「神様と別れたくないよ、同じだ、同じなんだ」
神娘「…神主」
男「だから、約束しよう」
神娘「約束」
男「『いれる内は、一緒に居よう』って約束しよう」
神娘「いいのか?」
男「いいよ」
神娘「神との約束は高くつくぞ」
男「知ってる」
691:
神娘「…」
男「…心臓の音がする」
神娘「そう聞こえるだけだ」
男「動いてないのか?」
神娘「私が人間を止めた日に私は人間としては死んだから」
男「でも確かに、聞こえる」
神娘「また気づいていないのさ、私が死んだことに」
男「…そうか」
神娘「滑稽なもんだ、全部滑稽だ」
692:
神娘「私が護りたかったものは皆死んで、死んでも良かった私だけが生きている」
男「…そうか」
神娘「挙句私はお前に頼り切って生きている、自分では何もできない」
男「……」
神娘「何のための神だ、だれが為の神なんだ」
男「……」
神娘「私は、無力だ」
神娘「無力だ…」
693:
男「だったら、守ってよ」
神娘「誰を」
男「神様の神主を」
神娘「…お前を?」
男「そうだよ」
神娘「でも、私はお前に護られてばかりで」
男「関係ないよ、神様に信仰を捧げる代わりに神様が護ってくれればいいんだよ」
神娘「…神主」
男「悪い予感がするなら護ってくれ、頼む」
神娘「……」
男「神様」
694:
神娘「おい、人の子」
男「なんぞ」
神娘「私を誰だと思ってる、まさかただ人の形をした無能とは思っているまいな」
男「おう」
神娘「我は神、我は絶対の力」
神娘「信ずる者に加護を与え、戦の野に立つ者ぞ」
神娘「たかが人一人を護る事造作も無い、我を畏れよ、我を崇めよ」
神娘「…さすれば、私はお前を護ってやる」
男「そうか!」
神娘「ああ、護ってやるさ」
男「神様が居るなら安心だよ」
神娘「く、くく…まったくお前は時々妙な事を言う」
男「しゃーないだろ」
695:
神娘「人の子」
男「あん?」
神娘「ありがとう」
男「…おう」
神娘「さて、寝るか」
男「1人で寝れるか?」
神娘「馬鹿にするな」
男「安心した」
神娘「…はぁ」
696:
男「……」グゥ
神娘「…んー…」
男「……」
神娘「やっぱり、そうなのか?」
男「…むにゃ」
神娘「人は神に恋をできない」
男「………」
神娘「だが、その逆はそうとは限らんな」
男「……」ゴロン
神娘「…おやすみ、人の子」
697:
――――――
男「んー…良く寝た」
神娘「おう、起きたか」
男「神様ってこんな早く起きるのか」
神娘「元々寝る必要も無いからな」
男「ふぅん、便利なもんだ」
神娘「不便な所もあるがな」
男「えっ」
神娘「まあお前は気付くまい、あくまで人だからな」
男「含みのある言い方だなおい」ノビー
698:
神娘「神主、こっちを向け」
男「良いけど…なんでさ」
神娘「……ふーむ」ジーッ
男「なんなのさ」
神娘「うーん、もうちょっと眉が太くてきりっとしたのが好みだった気がするが…」
男「神様って起きて一番に人の顔の品評するのが趣味だったりするの?」
神娘「ふーむ」ジー
男「ちょっと、神様近い」
神娘「…趣味が変わったか?」
男「何の話!?」
699:
神娘「まあいい、ほらこれ」ズイ
男「なにこれ」
神娘「弁当」
男「買ってきたの?」
神娘「馬鹿言うな、作った」
男「えっ」
神娘「もしやお前、私が料理できないと思ったか?」
男「いや、何度か食べてるから美味いなとは思ってたけど」
神娘「なんだ、何が不満だ」
男「いや、でもこれ神様が造ったんだろ?」
神娘「そうだが」
男「…ありがたくいただきます」
神娘「栄養満点だ」
700:
男「そろそろ行ってくる…」スクッ
神娘「待て」
男「連れてかないぞ?」
神娘「そうではない」スッ
男「どうした」
神娘「握れ」
男「は?」
神娘「さっさと握れ」
男「お、おう」ニギッ
神娘「……」
男「……」
神娘「…よし、行っていいぞ」パッ
男「(何なんだ一体…)」
神娘「ふふん」
713:
――――
友「よー、購買行こうぜー」
男「ああすまん、弁当持ってきてるんだ」
友「なんでいきなり」
男「悪いか」
友「確か1人暮らし始めたってな、それでか」
男「お、おう」ギクッ
714:
友「そっかー…お前も遂に一人暮らしか」
男「まあそうだな、うん」
友「お宅訪問すっか!」
男「やめてくれ!」
友「なんでだよ、問題か?」
男「うちはな、超ぼろいんだよ」
友「あっ…まあ、うん、強く生きろ」
男「(神様と暮らしてるなんて言える訳ないだろうが)」
715:
男「と言う訳で弁当だ」
友「ほほぉ、それにしてはやけに…和風だな?唐草模様か」
男「(神様の趣味か…)」
友「それではわが友の料理の腕を拝見…ぬぅっ!?」
716:
友「この色とりどりの野菜の盛り合わせ…」
友「なんとも食欲を誘う様な香り…」
友「そして男子にあるまじきバランスの良さ!」
友「『これはお前が作った弁当ではない』…そうだな?」
ザワ・・・ ザワ・・・
男「(…神様)」
友「なんだこれは!しかも母親が作る弁当にありがちな適度に手を抜いた感が無いな!」
男「(気合入れて作りすぎだぞ!)」
友「友よ、いや…場合によってお前は敵だぞ」
男「違うって、彼女じゃないって」
友「ええい白々しいぞ!」
717:
友「誰のだ!この弁当誰に作ってもらった!」グワシグワシ
男「うるせー!」
友「畜生!いつの間にか彼女なんて作りやがったのか!」
男「彼女じゃないって言ってるだろうが!」
友「でも弁当作ってくれるなんてお前それ確実に好意持たれてるぞ」
男「…なんだと」
友「気付いてやれよ…」
男「(そうなのか?そう言う事なのか?)」
718:
友「でも美味そうだなそれ」
男「美味いぞ、うん」
友「羨ましいな」
男「だろう?」
友「ちくしょ…呪われてしまえ」
男「やーだよ」
719:
―――――
男「ただいま神様」
神娘「おかえり神主」バッ
男「なんだ、腕を広げて」
神娘「おかえりの抱擁だ」
男「はい?」
神娘「早くしろ、待たすな」
男「え、あ、ああ」ギュゥ
神娘「良し」
男「なにがだ」
720:
神娘「飯にするか?」
男「んー、まだ早いかな」
神娘「では風呂でも入るか、確かあったはずだが」
男「いいよ、神様が先は入りなよ」
神娘「しかしだな」
男「神様より先に風呂入る神主がどこに居るんだよ」
神娘「…ふぅむ」
721:
神娘「では、そこに座れ」
男「どした?」
神娘「そのまま私の顔を見ろ」
男「おう」
神娘「……」ジーッ
男「……」ジー
神娘「…ふっ」
男「なんで笑うんだよ」
722:
神娘「いやなに、滑稽でな」
男「喧嘩売ってるの?」
神娘「んなわけなかろう」
男「でもその口調はどう見てもそうとしか」
神娘「そうなったら私は負けるぞ、信者が居ないからな」
男「喧嘩するわけないじゃないか、神様相手に」
神娘「むむぅ」
723:
男「今日は夏だな」
神娘「夏の夜は蒸し暑いが過ごしやすい」
男「団扇がこんなに便利なものだとは」パタパタ
神娘「ん、そろそろ飯にするか」
男「もう作ってあった?」
神娘「暇だからな」
男「本当に?」
神娘「(流石に気恥ずかしいがな)」
724:
男「んむ」パクッ
神娘「どうだ?」
男「…相変わらず美味いよ」
神娘「そうかそうか」
男「……」モグモグ
神娘「…ふふ」
男「あんだい」
神娘「やはり、飯を食う人は見てて楽しい」
男「なんか見られてると恥ずかしいのだが」
神娘「ああ、すまんな」
男「(どうしたんだ一体)」
725:
新婚生活みたいだな
729:
こんだけ相思相愛なのにくっつけないんだから悲しいな
733:
「くそっ、もう時間が無い」
「マスコミを抑えるのに手一杯です!」
「分かっている!なぜあの方は見つからん!」
「”座標上にはあるのに見つからない”とのことです」
「く…このままでは我が国は…」
「見つかりましたぞ!」
「なにっ!」
「座標は同じですが次元の違う所にお隠れになっていました!」
「よくやった!今すぐコンタクトに向かう!」
「まさかあのお方を見れる日が来るとは…」
「楽しみなのか?」
「そんなときではないとわかっては居ますが…とても」
「だろうな、私も足が竦む気分だ」
「お察し申し上げる」
「では、”神様”にお目通り願うとするか」
734:
―――――
『最近天候の乱れが激しく、気象庁は何らかの異常事態が発生している可能性が…』
男「…ふむ」
神娘「どうした」
男「いや、まず神社にテレビが持ち込まれたことに驚きだが」
神娘「試しにやってみたが面白い出し物はないな」
男「まあニュース見れるだけで助かるよ」
神娘「で、なんだ?」
男「気象が管理局の管制化から外れた行動をとっているらしい」
神娘「確か…完全な管理下の元一定の過ごしやすい気候を作っていたという事だが」
男「最近なにか上手く行かないらしい、その所為で体調を崩す奴が多くなってさ」
神娘「ふん、貧弱だからだ」
男「確かになぁ、ここの変化と比べたら微々たるものだし」
735:
神娘「飯だぞ」ゴトッ
男「お、ありがと」
神娘「やはり米は良い、何時の時代も米のうまさは変わらん」
男「うまいなー」ムグムグ
神娘「神主、米粒がついてる」
男「おろ?どこよ」
神娘「だらしないぞ」ヒョイパク
男「すまんすまん」
神娘「一粒の米には七人の神様が居てだな」
男「神様を食うのか」
神娘「八百万の神が居る様に、人に食われる神も居るのさ」
男「…神様?」
神娘「なんだ、今説教中なのだが」
男「人の事言えんぞ」ヒョイパクッ
神娘「むぅっ!?…不覚を取った」
736:
男「んじゃ、行ってくる」
神娘「弁当を忘れるなよ」
男「(何時も気合入りすぎて気恥ずかしいのだが)」
神娘「なんだその顔は」
男「いや、なんでも」
神様「では」バッ
男「はいはい」ギューッ
神娘「進行は補給したから行け」
男「つれないねえ」
738:
いちゃいちゃしやがって……
もっとやれ
739:
友「あー…だりー…」
男「お前もか」
友「むしろなんでお前は平気なんだよ…」ゲッソリ
男「慣れてるしなぁ」
友「えっ」
男「冗談だ、ただ健康なだけだろ」
友「そっかー…」
男「(あっぶね)」
友「どうして急に機構が乱れたのかね」
男「分からん、体調には気をつけろよ」
友「あいあいさー…」
740:
男「(神様の言っていた嫌な予感と関係するのか?)」
先生「えーでは、体調不良に気を付ける様に」
男「(それとも何か別な事か…気にかかるな)」
友「こんな時にも授業かよー…」
男「我慢しろ」
友「でもよー、管制化にある気象がおかしくなるなんてやばいぜ?」
男「それは、確かにそうだが」
友「陰謀の匂いがするとか」
男「そうか?」
友「そうだよ」
男「分からん」
友「そうだよなあべしぃっ!」バピィン
先生「…後で私の部屋に来るように」
男「なむなむ」
741:
男「(さて、あいつは居残り確定として…さっさと帰るか)」ガタン
男「(神様に何か買っていこうかな、肉とか)」
男「(それにしても、弁当とか気合入りすぎてこっちが恥ずかしいんだがな)」ハァ
ザワァッ……
男「…なんだ?」ゾワッ
男「(今一瞬、背筋が震えた気がする)」
男「(…気のせいか?)」
男「(取り敢えず神様に聞いてみるか、早く帰ろう)」
742:
―――――
神娘「さて、今日は夏か…」
神娘「懐かしいな、こうして一人で夏の神社に居ると」
神娘「…今は、一人ではないがな」
神娘「あいつには感謝のしようもなぁ――――っ!?」ゾワァッ
神娘「(なんだ?今一瞬とんでもない悪寒がした)」
神娘「(背筋を這う様な嫌らしい、汚らわしい悪寒…戦争のそれではない、もっとおぞましい何か…)」
コンッ コンッ コンッ
神娘「ん?あいつはもう帰って来たのか…」
コンコンコンッ
神娘「…違う」
神娘「こいつ…神主ではない」
コンッ コンッ
神娘「…何者だ!」
743:
―――――
男「はっ、はっ」タッタッタッ
男「くそっ、何か嫌な予感がする」タッタッタ
男「…?神様の他に誰か居る?」
男「まさか…くそっ!」ダダダダダ
男「神様ぁ!」バッ
龍女「よう人間、久しぶり」
男「おまえかーい!」ドベシャッ
744:
龍女「ひどいな人間、出会い頭にお前呼ばわりとか」
男「いや、神様に何かあったのかと思ったんだが」
龍女「…ほぉ?相変わらずと言うよりますます”こちら側”に精通している様だな」
男「神主なんだから当たり前だろ」
龍女「くく、あいつも良い神主を持ったな」
男「それで、神様はどこだ?」
龍女「何処だと思う?」クスクス
男「…まさか!」
龍女「どうした人間?そんなに神様が大事か?」
男「友達じゃなかったのかよ…」ザリッ
神娘「いや、普通に友人なのだが」
男「普通に居るのかよ!」
745:
龍女「ちっ、折角興に乗って来たというのに」
神娘「悪かったな、茶が入ったぞ」コトン
龍女「かたじけない」グイッ
男「一瞬ヒヤッとしたよこっちは」チビチビ
龍女「ふむ、中々相思相愛のようで」
神娘「そうか?」
男「そうなのか?」
龍女「…はぁ」
746:
神娘「それで、いきなり訪れてきて何の用事だ?からかいに来ただけか?」
龍女「いや、警告しに来た」
神娘「警告?」
龍女「昨今天候が不安定になっていることについてだ」
男「なにっ!?何かわかるのか?」
龍女「分かるも何もない、龍は天候を感知する事に長けているのだ」
男「そうか…」
神娘「で、何が起こっているのだ?」
龍女「簡潔に言おう、これは”前触れ”だ」
神娘「…前触れ?」
男「どう言う事だ」
龍女「これは意図的に仕掛けられた”攻撃”だ、少なくともそう見ている」
男「攻撃!?戦争並びにそれに準じた行為は国際間で禁止されているのに…」
龍女「ふん、まだそんな戯言を信じていたのか」
男「……」
747:
龍女「お前は…流石に気付いているか」
神娘「戦争が簡単になくせるのならばとっくのとうに無くなっている」
龍女「そうだ、戦争は理由があるから起きる、それが痛手をこうむる以上理由なき戦争なぞ存在しない」
男「知ってたよ、でも…小さい頃からそう教えられてきたから」
神娘「だから言ったのだ、甘い考えだと」
龍女「私もここ最近妙な気配を感じたからな、髭を敏感にしていたのだ」
男「髭?」
龍女「おいおい、私は龍だぞ?」
748:
男「戦争」
龍女「気を付ける事だな、軍靴の足音はいきなり鳴り響くわけではないぞ」
神娘「知ってるさ、痛い程な」
龍女「なお悪い事にだ、これは我々にも関係のある事だぞ」
男「どう言う事だ?」
龍女「まさか人為的に他国に大規模な干渉をして、気候を乱すなんてことが易々と出来ると思うか?」
神娘「”こちら側”の力を使っていると考えた方がいいな」
龍女「そうすれば必然的にお前にも声がかかるだろう」
男「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
龍女「なんだ」
男「”こちら側”に声を掛ける奴なんているのか?政府直々に否定されてるんだろ?」
龍女「……お前、案外頭が鈍いのか?お人よしなだけか?」
男「言い過ぎだぞ」
749:
神娘「国家間のパワーバランスに古代より深く関与してきた”こちら側”それを上が認知しないなんてことがあると思うか?」
男「…まさか」
龍女「摩訶不思議な力を否定しているのは何もしらん奴だけだ、上の人間は全部知っているのさ」
男「隠していたのか?」
龍女「そうだろう?その方が管理しやすい」
男「…っ」
神娘「まあそう苛立つな、”誰しもが知らない”と言う事は悪用が難しいと言う事なのだから」
龍女「確かにな、昔に比べて呪いなんてものが認知されてないから殆ど悪用もされん」
男「そう、なのか」
神娘「視点を一方向ではなく多方向から見る事は大事な事だぞ」
750:
龍女「(しかしだ、お前に声がかかる事は分かりきっている)」ボソッ
神娘「(出来れば私はなにもせずに居たいが…)」ボソボソ
龍女「(そうもいくまい、確実に声がかかる、居場所が割れるのも時間の問題だろう)」
神娘「(割と派手をしてしまったからな…迂闊だった)」
龍女「(また、この空間を閉じる事も視野に入れた方がいい)」ボソボソ
神娘「(っ…しかし、そうすれば神主が留まるにせよ留まらないにせよ禍根が残る)」ボソボソ
龍女「(…ふむ)」ボソッ
神娘「(なんだ)」ボソッ
龍女「(いやまあ、うん、頑張れ)」ボソッ
神娘「(はぁ?)」
751:
龍女「(なに、お似合いだよお前らは)」ボソボソ
神娘「(えっ、ちょっと待て、えっ)」ボソッ ボソッ
龍女「(気付かないとでも思ったか?私はあの神主とは違う完全なこちら側だぞ?)」ボソボソボソ
神娘「(えーっ、本当にばれてる?えーっ…)」ボソボソッ…
龍女「(動揺するな、ばれる)」ボソボソ
神娘「(ま、まあな)」ボソッ
龍女「(しっかし、面倒くさいのを選んだな)」ボソボソボソ
神娘「(仕方ないだろう)」ボソボソ
龍女「(人間はこちらに怖れしか抱かんのだぞ、まあ相手としてはお似合いだが)」ボソボソボソ
神娘「(うーむ…)」ボソ…
752:
男「(女のひそひそ話は聞かない方がいいのは知っているが気になるな)」
神娘「(こればかりは仕方ない事だ、諦めるよ)」ボソボソ
龍女「(友人としては応援したいが…無理なものは無理だ)」ボソボソ
神娘「(私としては、一緒に居られるだけでもいいのだ)」ボソボソ
龍女「(健気な事で、まあそれぐらいが分相当かもしれんな)」ボソ
神娘「(そっちは良い奴は見つかったか?)」ボソボソ
龍女「(駄目だな、もう龍なんてどこにもいないよ)」ボソボソ
神娘「(そうか…)」ボソ
男「(…気になるな)」
753:
龍女「ま、あらゆる意味で私も出来る限り応援するよ」
神娘「助かる」
男「ありがたい」
龍女「神主、気をつけろよ」
男「なににさ」
龍女「どうやら向こうさん、なりふり構ってないぞ」
男「…おう?」
龍女「戦争は嫌なもんだ」
神娘「ああ、そうだな」
755:
男「…まさか飛んでいくとはな」
神娘「私も飛べるぞ?一応」フワッ
男「えっ、嘘」
神娘「神だからな」
男「一瞬羨ましいと思ってしまった」
神娘「飛ぶのは良いぞ、嫌な事を忘れられる」
男「そっかー…」ウズウズ
神娘「んー…やってみるか」
男「え?」
神娘「よーっとぉ、どりゃぁぁ!」
男「わ、わっ」フワッ
神娘「ん、私の力も相当回復したな」
男「すげえ、浮いてる!」
神娘「これも神の力よ」フフン
男「このまま外に行くのは…流石にできんな、目立つ」
756:
神娘「ふぅ…走って疲れただろう」
男「まあたいしたことは無いぞ」
神娘「風呂湧いてるから入るといい、龍の奴が入れろ入れろ煩かった」
男「神様は?」
神娘「こんなとこまで気を使うな、さっさとは入れ」
男「はいはい」
神娘「体洗ってやるから」
男「はいは…はい?」
757:
―――――
神娘「いやぁ、昔を思い出すな」ゴシゴシ
男「(…てっきり一緒に風呂には居るのかと思った)」
神娘「こうして子供の体を洗ってやったりもしたな」
男「毎度思うけど神様って所帯じみてるよね」
神娘「褒め言葉として受け取っておこう」
男「(しかし、手馴れてるだけあって上手いな)」
神娘「(なかなか身体つき良し、ふむ)」
男「(しかしこの状況…)」
神娘「運動をやってたりするか?」
男「剣道部だった、今でも時々竹刀を振るけど」
神娘「ふぅむ…」
男「そんなまじまじと見るな…恥ずかしいんだが」
神娘「減るもんじゃない、見せろ」
男「…ぐぅ」
758:
神娘「……」ゴシゴシ
男「…神様」
神娘「ん?」
男「一体何なんだろうな」
神娘「さあ、分からんよ」
男「神様はさ、どうするの?」
神娘「どうって…やけに抽象的だな」
男「もしも協力を要請されたりしたらさ、やっぱり協力するの?」
神娘「場合に寄るだろうな」
男「神様がいないと負けるって状況だったら」
神娘「間違いなく協力するだろうな」
760:
神娘「ここは私が護る国だ、そうである以上私はどれほど危険でもそうする」
男「そう、だよな…」
神娘「例えそれが何を対価にしても私は守らなければならない、それが神だ」
男「神か…」
神娘「私が奴等との間に刻んだ盟約だ、そして私本来の役割だ」
男「忘れるわけにはいかないもんな、破棄するわけにも…」
神娘「何か勘違いしてないか」
男「え?」
神娘「私が護りたいのはこの国だけではない、盟約を結んだのは奴等だけではない」
男「他にも何かあったのか?」
神娘「馬鹿が、お前だ」
男「…あ」
神娘「お前を護ると誓った、だから私は引くわけにはいかない」
762:
神娘「私は何があっても引かない」
男「…なら、それならこっちも意地があるよ」
神娘「ほお?」
男「付いていく、人が行ける場所までは神様に付いていく」
神娘「いいのか」
男「元々もうほとんど人間じゃないんだ、いいだろ?」
神娘「建前としては、お前はまだ人間だから連れていく訳にはいかない」
男「でも」
神娘「本音を言えば…ありがたい、1人よりもお前が居た方が嬉しいんだ」
男「神主としての義務だよ」
神娘「偉そうな口を利くなお前も」
763:
――――
男「ここの景色は好きだ」
神娘「ああ」
男「月が見える、星が見える、自然が見える」
神娘「風が吹いている、虫が鳴いている」
男「それで神様がいる」
神娘「私に神主が居る」
男「…もしかしたら、何事も無く終わらないかな」
神娘「甘えるな、”起こるだろう”は”必ず起こる”と同意だ、それも悪い意味なら」
男「そうか」
神娘「沢山あったさ、起こってほしくない事なんて」
男「あるだろうな」
神娘「…誰かの死も、なにもかもだ」
男「……」
764:
男「いやだけどさ…」
神娘「神主」
男「ああ」
神娘「お前は、私を信じろ」
男「信じてるよ」
神娘「お前が信じている限りは私が何とかしてやるから」
男「…ああ」
神娘「私が、何とかしてやるから」
男「信じてる」
神娘「私は」
―――娘「私は……」
神娘「神様だからな」ニマッ
―――娘「神だからな」ギリィッ
男「…ふふ」
神娘「なんだ、結構決め台詞だったんだが」
765:
男「(変わったな、神様も)」
娘「お前のおかげさ」
男「……えっ?」
神娘「どうした?」
男「…いや、なんでもない」
神娘「幻聴とは老いるのが早くないか?」ケラケラ
男「冗談じゃないよそんなの」
神娘「ま、少なくともお前の老いは人より遅いだろうよ」
男「えっ、まじで?」
神娘「いよいよもってお前はこちら側だからな…」
男「複雑だけど…まあ、それでもいいか」
神娘「普通人間は人間であることに拘るのだがなあ…」
男「神様に付き合えるのが普通の人間だと思う?」
神娘「それもそうだな」
766:
―――――――
『相変わらず気候は戻らず、それどころか低気圧による突風等異常気象が発生して』
男「悪化してるな」
神娘「やはり近づいているか…」
男「……」
『気象庁は何らかの外的要因が働いているかもしれないとし』
神娘「嫌に抽象的だな」
男「このご時世だからな、変な発言をすると国際的にまずいんだよ」
神娘「面倒な事で」
『政府は緊急の対策チームを設立し……』
男「無駄だろうな」パチンッ
神娘「いずれこちらにも声がかかるだろう…」
男「出来れば、ばれてなきゃいいけど」
神娘「諦めろ」
男「はいはい」
767:
神娘「ほら、弁当だ」
男「ありがと」
神娘「それと」
男「分かってる」ギュゥ
神娘「良し」
男「じゃ、行ってくる」
神娘「…気をつけろよ、何が起こるか分からん」
男「ああ」
神娘「出来る限りは守るが…予想外の事態は起きること前提だぞ」
男「油断しないでおくよ、『大丈夫』なんて死亡フラグだしな」
神娘「よく分かってるじゃないか」
768:
――――――
男「学校閉鎖?」
先生「連絡が回らなかったか?」
男「…あ(神様の所に居るとメールを見る機会が無かったからか)」
先生「この事態だ、各所が混乱していて学校にも運営を休むようにと」
男「分かりました」
先生「気を付けて帰れよ、私も悪寒がしてな…」
男「はい」
男「(…わが友は無事かな?)」
769:
――――
『あー?まあ、だるい』
男「そうか、無事なようでよかった」
『おめーよー…こっちは体調崩すなんて経験してないんだぞ…』
男「まあ生きていればいい事あるさ」
『ちっ…まあいいや、結構きつい』
男「なにか持っていくか?」
『いや…別にいい』
男「そうか…(無事なようで安心したな)」
770:
チーン
男「じゃ、一週間は休みみたいだから」
『嬉しいのか嬉しくないのかわからん…』
チーン
男「いいじゃないか、偶には休め」
『無事な奴に言われたくねー…』
チーン
『ところでさ』
男「あん?」
『気になってんだけどさ』
男「おお」
『お前のその鈴、こっちまで音が聞こえてるぞ?』
771:
男「……………は?」
『いや、結構うるさく鳴ってたけど…ってどうした?』
男「(……迂闊だった!いや油断してしまっていた!)」
チーン チーン チーン
『おい、どうかしたか?』
男「(”まさかこんなに接近してはいないだろう”と思ってしまった!)」
チーンチーンチーンチーンチーン
『なにかあったのか?おい!』
男「くそっ」ガチャンッ
チーン チーン
男「(近い!相当近い!)」
772:
チーンチーンチーンチーンチーンチーンチーン
男「(どこか?横か?)」バッ
チーン
男「(上か?)」バッ
チーン
男「(…まさか)」
チーン
男「…後ろ?」
チリーン
黒い影「………………」
チリーン
773:
――――
神娘「……なっ」ゾワァッ
神娘「なんだこれは…なんだ、この悪寒は…」
神娘「まさか、神主が危ない!?」
神娘「…それになんだこの空は」バッ
ゴロゴロゴロゴロ ゴロゴロゴロ
神娘「暗雲だ、それも雷雲…しかも、規模が尋常ではないぞ!」
神娘「…神主!」
774:
男「(…やばい)」ゾワッ
チリィィィィン チリィィイィン
黒い影「…………」
男「(危険だとかそんなレベルじゃない…これは”やばい”!)」
黒い影「…………」
チィィィィィイン
男「(逃げないと…くそ、どうやったら逃げられるんだ)」
黒い影「………グァ」ガパァッ
男「…ん?」
黒い影「グァゲェォオァオァエェオァァイェェァオェオォ」ダダダダ
チィィィィィン
男「なんだこいつ、いっ……!?」
黒い影「ガァァイァァアオァオィァァァ」バッ
男「……あ」
チリーン
779:
黒い影「ゲェァァァイェァァアェァァ」
男「(逃げられないっ…!)」
生徒D「はぁっ!」バッ
黒い影「アゲァ!?」
生徒D「いやぁぁっ!」ザシュゥッ
男「(ま、真っ二つに…)」
黒い影「ア……アガァァァアァ…」
生徒D「…ふぅ、間に合った」
男「あ、ありがとう」
生徒D「油断したら駄目だよ?」
男「(出会い頭にそう言わなくても)」ムッ
生徒D「まあ、こっちもこんな早くに来るとは思ってなかったけど…」
780:
男「で、どちら様?」
生徒D「酷いな、君と同じ講義を受けてたのに」
男「…あ?ああ、あの…」
生徒D「剣士で」
男「へ」
生徒D「剣士でいいよ、どうせ名前を憶えてないだろう?」
男「…すまん」
剣士「あの学校人数多いから、知らない人が居ても不思議じゃないよ」
781:
男「そうか」
剣士「うん」
男「……」
剣士「……」
男「終わり?」
剣士「うん」
男「……」
剣士「……」
男「…本当に終わり!?」
剣士「これ以降の行動は教えられてないから」
男「なんて言われたのさ」
剣士「『この男を守れ、あとはそいつが何とかしてくれる』って」
男「は、はぁ…」
剣士「こちらとしても何とかしてくれないと困るんだけど…」
男「そう言われたってなぁ…」
785:
剣士「……」ボーッ
男「(出来れば神様を巻き込みたくはないんだけど…)」
剣士「…眠い」ウトウト
男「なあ」
剣士「うん」
男「お前も”こっち側”なんだよな?あの化けものを斬り殺してたし」
剣士「うちは退魔師の家系だからね、斬ったり刻んだりは得意なの」
男「お、おう…じゃあさ、神様に会いに行くか?どうせ一緒に居るところ見てるだろうし」
剣士「神様に合わせてくれるの?」
男「まあ、気は進まないけどあれ以上の適任は無いだろう」
剣士「頼むよ、神様に会えるなんてなあ…」
男「(気を付けないとな、神様に危害が加わる様なら…)」グッ
786:
男「ここが入口なんだけど…見えるか?」
剣士「うーん…あ、うっすらと」
男「ここが神社への入り口だ」
剣士「凄いな…こっちも訓練を積んでるつもりだったんだけど全然分からなかった」
男「そうか?こっちははっきりわかったんだが」
剣士「きっと君が特殊なんだよ」
男「そっか…」
剣士「でも、流石は”あの”神様だな…やる事が想像の桁違いだ」ブルブル
男「そんなに威厳のある神様じゃないけどな」
剣士「あれは”ただの神様”じゃないからさ、凄い存在だよね」
男「…ちょっと待て、こっちは神様が”戦神”って以外どんな神様か教えられてないんだが」
剣士「えっ」
787:
男「違うの?」
剣士「いや、こちら側では相当高位な存在なんだけど」
男「えっ、あの日がなぐでぐでしてる神様が?」
剣士「その発言にショックを感じざるを得ないけど、そうだよ」
男「どの位有名なの?」
剣士「それも教えられてないの?」
男「まあ」
剣士「自慢しないんだね…やっぱり神様って俗世と離れてるのかな」
男「酒も普通にやるけど」
剣士「えっ」
788:
お弁当作るしな
789:
剣士「でもあれだよ?この森の名前を見れば多分わかると思うけど…」
男「ああ、それならこれだ」
『○○鎮守の森』
男「どうした?」
剣士「なんだ、ちゃんと書いてあるじゃないか」
男「おん?」
剣士「この名前聞いたことあるでしょ?」
男「……うん?」
―――「このご時世唯一政府に何故か認められた神宮…」
男「…まさか」
剣士「うん、現在この国に現存している唯一の神宮」
剣士「雲隠れした後でも残された…いや”残さざるを得なかった”程の存在」
剣士「その祭神が、ここに居る」
剣士「ここの神様はつまり、○○神宮の祭神なんだよ」
790:
男「…ごめん、凄さがよく分からん」
剣士「えっ」
男「神様は神様だしなぁ、それ以上でもないし」
剣士「うーん…とにかく、凄い神様なんだよ」
男「分かった、そろそろつくぞ」
剣士「うわー…どきどきするな」
男「神様、帰ったよー」
剣士「お初にお目にかかります神様!」ペコッ
神娘「神主!」
791:
神娘「神主ぃ!」バッ
男「おうっ、どうした」
神娘「ええいとっとと服を脱げ!怪我してないか?呪われてないか?」
男「ちょ、やめろっ、大丈夫だから!大丈夫だから!」
剣士「…あ、うん?」ポカーン
神娘「ん?そこに居るのは誰だ」
男「いや、さっき襲われてさ」
神娘「なんだと!」
男「助けてもらった」
神娘「そうか…礼を言わねばらなんな」
剣士「あ、いえ!滅相もありません神様!」ペコリ
男「まあ上がって茶でも飲んでいけよ、用事があるんだろ?」
剣士「良いのかな?神様とお茶なんて飲んでも」
男「毎日一緒に飯食ってるし」
剣士「えっ」
792:
―――――
神娘「ほら、飲め」
剣士「神様が茶を淹れる側だとは…」
男「だって神様の方が美味いんだもん」
神娘「照れるから褒めるでない」
男「しゃーないだろ、淹れた経験なんてないんだから」
神娘「手ずから教えてやってもいいのだぞ?」
男「うーん…結構楽しそうだなそれ…」
剣士「(どうしよう、話に入っていけない)」
神娘「で、そこの」
剣士「あっ、はい」
神娘「一体我の領土に入り込むまでして、何様か」
剣士「(…!?さっきまでと威圧感が違うっ…!?)」ゾワッ
神娘「少なくとも害意が無いのは分かった…だがお前の目的が我である以上早急に理由を述べよ」ゴォッ
男「(…神様のこういった面、見るの久しぶりだな)」ゾクゾク
793:
剣士「分かりません、ですがそこの男さんを護るようにとだけ…」スチャッ
神娘「どう思う、神主」チラッ
男「聞かれても困る」
神娘「ふむ…む、そうか」
男「なんだ」
神娘「先遣隊と言ったところだろうな、こやつは」
男「先遣隊?」
神娘「知っての通りここの入り口は隠されている…そこを割り出す為に案内させたのだ」
男「なるほど、やけに回りくどい」
神娘「となると、直に来るだろうな」
ザッ ザッ ザッ
男「…ん、早いな」
神娘「ここは神の領土だと言うのに…今日は遠慮ない奴が多いな」
794:
ザッ ザッ ザァッ
宮司服の老爺「おお…ここが神のおわす場所…」
偉そうな男「時間が無い、早急にお目通り願うか」
男「(見た所偉そうな奴が一人、スーツの女は秘書か、それで爺さんは神主かな?それと部下みたいなのが結構…)」
神娘「揃いも揃って我が領土になに用か」
宮司服の老爺「このような形で来訪する事、大変申し訳ありません」
偉そうな男「おい、説明しろ」
スーツの女「此度は神様に協力を要請に参りました」
神娘「要請?………まあよい、話せ」
男「(あ、今の神様超不機嫌だ)」
795:
スーツ女「早急に申し上げますと、只今我が国と隣国間に一種の”戦闘を伴う行為”が発生しかけています」
神娘「それは戦争だろう?まどろっこしい言い方をするな、いや隠すな」
スーツ女「…失礼しました」
男「戦争はしちゃいけないんじゃなかったっけ」
スーツ女「その事に付いてですが…隣国が送り込んだのは人間ではありません」
男「こちら側の力を使って何かを送ってきたと」
スーツ女「隣国を問い詰めても”我が国とは関係が無い””言いがかりをつけるな”の一点張りでどうしようもありません」
神娘「どうしようもないんだろう?それで私に話が回ってきたと」
スーツ女「ええ、このままでは我が国は尋常ではない被害を受けると予想されます…しかし現状の戦力ではどうしようもなく」
偉そうな男「君に話が来るのも当然の流れだろう」
男「…あぁ?”君”?」イラァッ
偉そうな男「ああ、私は国家幻想並びに不明事案対策部のトップで尚且つ…」
男「そこじゃねえよ、神様に”君”だと「神主、落ち着け」…ああ」
神娘「で?こうして我が領土に土足で足を踏み入れたと」ギロリ
宮司服の老爺「……!」ゾワッ
796:
偉そうな男「力が欲しいのなら適当に信徒を見繕おう、なに国家の一大事だから予算も降りてな」
神娘「それは良い事だな」
偉そうな男「いや、神様も結構な量の信者を抱えていたのでは?これ程の回復量はただことではない」
神娘「ああ、良い人間に巡り合えたよ」ゴゴゴ
スーツ女「あ…っ」ゾクッ
偉そうな男「いやぁ、神様の隅に置けませんな!」ハッハッハ
神娘「…ああ、そうだな」ニコォッ
男「(神様、流石にその笑顔はやばい)」ゾゾゾゾ
偉そうな男「いや、しかし神主までは見つからなかったと思うので…こちらで最適なのを繕いました」
神娘「……あ゛?」ギョロッ
男「あ」
スーツ女「あ」
剣士「あっ…」
797:
死んだな
798:
神娘「一つ、聞こう」
偉そうな男「なんだね」
神娘「”お前は何様だ?”」ゴォッ
偉そうな男「…っ!」ゾクゥッ
神娘「要請?我は神だが貴様は、貴様らはその私に指図できるほどの存在なのか?」
ザワザワ… ザワッ…
偉そうな男「あ…え」
神娘「信徒だと?そんなもの最初から居ない、作ろうともしていない」
偉そうな男「それは…また…」
神娘「元より消える他なかった私を都合の悪い時になって頭を下げに来る貴様は何だ?神よりも上に居るのか?」
偉そうな男「そんな…滅相も無い…」
800:
神娘「まあそれはいい、赦そう、知らなかったですまされることだ」
偉そうな男「あ…ありがとうございます…」
神娘「だが」
神娘「神主を繕うと言う発言に限っては許さん」
神娘「絶対に許さん」バチッ バチィッ
男「(おーい?おーい?体から電気でてるんですが神様ってそんな力あったっけ?)」
神娘「神主!来い!」
男「あっ、はい!(凄い威厳だなおい…)」
神娘「私の神主はこやつ一人だ、こやつ以外認めん、分かったな?」
偉そうな男「え…あ……」
神娘「分 か っ た な?」バチィッ!
偉そうな男「はっ、はひいっ!」ドサッ
男「(あ、気絶した)」
802:
神様テラヤバス
803:
―――――
男「結局、あいつら逃げるように帰っちゃったね」ハフハフ
神娘「ふん、敬意を知らぬ者なぞ知らん」プンプン
男「あ、この山菜美味い」
神娘「なんだと」
男「ほら神様、食べなよ」ズイ
神娘「ふむ…ん、美味い」パクッ
男「腹減ってると良い事ないって」
神娘「まあ、確かに」
男「結局受けることになっちゃったね」
神娘「仕方ないさ、予想通りだ」
男「そう、だな…」
神娘「どうした、やけに自信が無いな」
男「…今日の朝まで、大丈夫だろうと思ってた」
神娘「ほう」
804:
男「でもあれの姿を見て…自信が揺らぐ」
神娘「……」
男「あんなのが攻め込んで来たら勝てるのか?本当に?って」
神娘「そうか、私も悪寒を感じたんだ」
男「神様もか」
神娘「あれだけの悪寒は初めてだった、私が想像していたより事態は悪いらしい…」
男「…大丈夫、なんだろうか」
神娘「分からん」
男「そこは嘘でも大丈夫って言う所だろ」
神娘「取り繕った勇気程脆いものはない、そんなものでは決して強くならない」
男「……」
805:
神娘「神主、いや人の子」
男「ん」
神娘「私の手を握れ」
男「ああ」ギュゥ
神娘「どうだ?」
男「どうって…確かに手の感触があって、普通の人間みたいで」
神娘「私は此処に居るか?」
男「…居る」
神娘「私は此処に居る、お前も此処に居る、それだけで十分じゃないか?」
男「…うん、そうだな」
神娘「”私を信じろ”、私にとってのお前は、今ここに居るお前でしかない」
男「ありがとう、なんだか落ち着いた」
神娘「……それは、私もだよ」
男「なんか言った?」
神娘「いいや?」
806:
男「…あ、そうだ」
神娘「なんだ」
男「さっき綺麗な花があったから神様に見せようと思って」
神娘「ほお?」
男「なんか紫の花でさ、綺麗だから」スッ
神娘「これは…」
男「ん?」
神娘「…紫苑だ」
男「しおん、良い名前だな」
神娘「……」ギュ
男「(気に入ってくれたかな)」
807:
神娘「ではお前に、お返しの花を捧げよう」パッ
男「これは?ってそんな事も出来るのか…」
神娘「一種の意向返しだよ」
男「小さい花が付いているな…名前は?」
神娘「これはペンステモンと言う名前だよ」
男「ペンステモン…」
神娘「お前にもらった図鑑を見るまで名前は分からなかったからな、そういう意味でも」
男「可愛い花だな、ありがと」
神娘「(…紫苑か、これはまた…)」ギュ
813:
神娘「ああ、おはよう」
男「ふぁ…学校は再開する気配がないしな」
『依然として気象は元に戻らず、体調不良を訴える患者が日に日に増えてきています』
男「こんな調子だしな」
『病院は連日のように対応に追われ、現在どこも満室状態で…』
神娘「…いやらしい手を使うものだ」
男「ああ、これから戦う相手か」
神娘「まだ伝令からは何もないな、だがもうじきだろう」
男「…そうか」
神娘「緊張するか?」
男「そりゃ、するさ」
神娘「神主、いや人の子」
男「ん?」
神娘「映画館に行かんか?」
男「映画館?」
814:
――――――
キネマ『森の宿』
男「えっらい閑散としてるなおい」
神娘「まあこの状況だ、貸切に近いだろうな」
男「まあ確かに、でもどうして映画館よ?」
神娘「ふふんっ」ギュ
男「腕を掴むな、結構重い」
神娘「まあまあ、今日ぐらいはこのままでいいだろう?」
男「…ん、まあ悪い気はしない」
神娘「それじゃ、いざ参る!」トストス
男「大げさだと思うがな」ザスザス
815:
神娘「おい、あれがポップコーンだな?」
男「そうだぞ、買うか?」
神娘「一番でかいのがいいな!」
男「食いきれないと思うから却下」
神娘「確かに、そして飽きそうだな」
男「そもそも上映中に何かを食べるのはマナー違反だと思う」
神娘「ではなぜ売っているのだろうと哲学的な質問をしてみる」
男「それは映画館の売り上げにつながるからです」
神娘「成程至極満足な回答」
男「と言う訳でポップコーンは上映前に食いきれるのを頼もう」
神娘「そこまで言っておきながら買ってくれるお前は良い奴だと思うぞ」
男「褒めるな照れる」
神娘「それは私の台詞だ」
816:
男「キャラメルポップコーンを頼んだわけですが」ボリボリ
神娘「正直ここで帰っても良いと思う」ボリッボリッ
男「それは来た意味ないと思う」ボリュッ
神娘「確かに」ボリッバリッ
男「なにか見るか、ああもうポップコーンが無くなった」
神娘「キャラメルがかかってる場所とかかってない場所では残念度が違うな」
男「それは同意する」
神娘「では何を見よう、おすすめはあるか?」
男「知らん」
神娘「だろうな」
817:
『私は道になりたい』
『アパム!弾!弾持って来い弾!』
『未知との遭遇 ちくわ編』
『鮪のカルパッチョのソテー』
男「これはひどいタイトル」
神娘「最早映画かどうかも定かではないな」
男「せめてまともなのを見たいんだが」
神娘「じゃ、これなんてどうだ」
『野良猫は見た!』
男「動物ものか、いいんじゃないかな」
818:
******
『あっ、だめぇっ、私には旦那が』
『いいじゃないか…、見ているものと言ったら猫ぐらいだぞ』
『あぁ〜っ あれぇ〜っ』
男「(…ほのぼのアニマルものだと思ったらどろどろ人妻ものだったでござる)」
神娘「……」
男「(こういう時って気まずいよなぁ…)」チラッ
神娘「眠い」クァーッ
男「なんか予想していた反応と違う!?」
神娘「この程度の修羅場は見慣れている」
男「あ、ああ…流石としか」
神娘「一人の女を巡って三つ巴どころか村中殺し合ったり、一家無理心中だったり」
男「重いし、凄く重いしそれ」
神娘「だろう?」
819:
神娘「それよりも…今は、な?」チラッ
男「ん?」
神娘「二人きりだぞ」トスッ
男「…そうだな」
神娘「なあ、人の子」
男「うん」
神娘「このままで居られたらいいのにな」
男「神様」
神娘「ん?」
男「なにを今更」
神娘「…くく、そうだな」
820:
男「なあ神様」
神娘「ん?」
男「神様ってどんな奴が好きなんだ?」
神娘「難しい質問だな…」
男「難しすぎて思いつかないから聞いた」
神娘「…ああそうだ、例え話だが」
男「ん?」
神娘「例えば私が死ぬとするだろ?」
男「嫌なたとえだな」
神娘「そうしたら真珠貝で墓穴を掘って、星のかけを墓標にして…そして待っていてくれる人かな」
821:
男「待つってどれぐらい?」
神娘「日が昇るだろ?」
男「うん」
神娘「そして沈むだろ?」
男「うん」
神娘「また昇って、沈んで…飽きるほどにそれを繰り返して、太陽が飽きてしまうまでさ」
男「途方もない話だな」
神娘「そうだな、つまりはそう言う事だ」
男「それまで待ち続けたらまた会いに来るのか?」
神娘「さあな」
男「なんだそりゃ」
822:
神娘「さて、帰るか」
男「ああ、正直この映画には飽きていたんだ」
神娘「決まりきった結末のある映画より、七転八倒の現実の方が面白い」
男「時折嫌になるがな」
神娘「それでも、それだから生きるのはやめられない」
男「神様って生きてるの?」
神娘「死んではいない」
男「なんだ、そんな事か」
823:
――――
神娘「しかし退屈な映画だったな」
男「題名だけは度肝を抜かれたがね」
神娘「ま、そんなもんだろ…ん」
スチャッ カチャッ…
剣士「どうも」ペコリ
神娘「ほら、少なくとも退屈はしなさそうだ」
男「…そうだな」
827:
―――――
男「どうぞ」コトン
剣士「作戦実行の日時が決まりました、丁度一週間後の丑の刻です」ズズズ
神娘「そちらが仕掛けてから一か月経ってまぁ、迅な作戦指揮な事で」
剣士「手間取った言い訳と言いますか、理由と共に概要を説明いたします」パサッ
男「この国の地図だな、この線は?」
剣士「古来よりこの国…と言うより各国では風水や気脈等様々な礼術を用いて防衛陣を敷いてきました」
男「それがこの線と…」
剣士「はい、賊は流石に陣が厚い所ではなく薄い所に攻め込んでくるだろうとの予測はできましたが…」
男「まあそうだろうな」
828:
神娘「いやしかし、綻びが多いな」
剣士「ええ、何せ数百年前のものですから地形の変更とともに綻びが多発しどこに攻め込んでくるのかわからず…」
男「こんだけ時間がかかったと」
剣士「はい、結果としてここの海岸にて大規模な侵攻作戦が始まるだろうと」トントン
神娘「なるほど、予測に時間が掛かりすぎたこと以外は私も同意だ」
男「神様、棘のある言い方は良しなよ」
神娘「…すまん」
剣士「と言う事でここに我々の全精力を結集し迎え撃つと言う事になりました」
男「つまりはごり押しだな」
神娘「だがまあ、一番現実的な手だ」
829:
男「それで、神様にはどうしてもらいたいの?」
剣士「簡単な話、足止めをお願いしたい」
神娘「足止め?」
剣士「ええ、我々は各個撃破ならばできますがまとめて相手する事は不可能…神様にはそこを何とかしていただきたいのです」
神娘「なるほど、まあ簡潔だが綻びのない作戦だな」
剣士「はい…」
神娘「それがとんでもなく難しいことを除けばだが」
剣士「…無理は承知しております」
神娘「幾ら神主が居るとはいえ私の力にも限りがある、そこは分かっているな?」
神娘「無理にとは言いませんが…この作戦の成否には神様の力添えが必要なんです!」
神娘「…ほぉ」
830:
ミス 最後から二行目は剣士が言ったです 神様一人芝居駄目よ
剣士「私はこの国が好きなんです!護りたいんです!」
男「(…そうか、こいつも護るべきものを持ってるんだな…)」
剣士「無礼なのはわかっています!でも…でもっ…!」
神娘「良い」
剣士「神様…」
神娘「お前の強い想い、この私がしかと聞き届けた」
男「(…最近神様威厳ましましだな)」
神娘「お前の思いも私が受け止めようぞ、任せるがいい」
剣士「あ…ありがとうございます!」ペコリッ
神娘「いよいよもって負けられなくなったな」
男「…そうだね」
831:
―――――――――
それから数日後
『ますますもって異常気象は拡大の一途をたどり…』
男「…もうすぐ山場か」
神娘「ああ、私ももう近くに感じているぞ」
男「気味が悪いな」
神娘「早く終わらせたいものだ」
男「無事に、ね」
神娘「勿論だが…」クァァ
男「眠いの?」
神娘「力を蓄えているからな、溜めても困ることは無いだろうし…」
男「布団を敷くからゆっくり寝てよ」
神娘「助かる…」
男「(神様も緊張しているみたいだな…)」
832:
ゴロッ ゴロゴロゴロ…
男「(最近はあんな雲ばっかりだ、太陽を見なくなっちまった)」
神娘「太陽を隠すと言う事は…国の力を弱める事にもなる」
男「下準備ってわけか」
神娘「向こうは何としてもこちらを落としたいらしいな…そうもいかんが」
男「ああ、だから今はゆっくり休んで」
神娘「…ん…」トッ トッ トッ
男「…寝たか」
ゴロッ ゴロゴロゴロ…
男「……ん?」
ヒタッ ヒタッ
男「(来客?いやこの感覚は…)」
娘「やぁ」スッ
男「やっぱり、君か」
娘「久しぶりだけど忘れてないよね?」
833:
男「忘れる筈無いけど…もう出てこないんじゃなかったっけか」
娘「あの件に関してはもう私は要らなくなったけど、やっぱり時々出てくるんだよ」
男「まあそれも良いけど…何か用事があったんだろう?」
娘「簡潔に言おう」
男「ああ」
娘「どちらかが死ぬか、どちらも死ぬよ」
男「それまた…えらい殺伐としてるな」
娘「今君たちは…いや私達はひどく曖昧で不安定な場所に居る、それがどう落ちるかは想定できない」
男「…死ぬのか」
娘「ああ間違えても自分が死ぬことで”私”を生かそうと思っちゃ駄目だよ?最悪両方死ぬから」
男「分かっているけど…なんだ、いざ言われると…」
娘「目を背けちゃ駄目だよ」
男「……」
娘「目を背けたら見えない世界があるんだから」
男「…分かった」
834:
娘「諦めない限り、きっと悪い方にはいかないよ」
男「そうだろうかな」
娘「そうだよ、私は神様だから」
男「そうか、それなら安心だ」
娘「…ああ、あと教えておいた方がいいよね」
男「うん?」
娘「紫苑の花言葉、君が送った言葉の意味を」
男「気になる、けど怖いな」
娘「耳を貸して」
男「ああ」
娘「紫苑の花言葉はね――――――」
835:
―――――――
そして、決戦の日
その夜の帳が降りる
―――――――
男「…まるで生気が感じられない」
神娘「もう太陽が見えなくなって相当立つからな、国も憔悴しきっている…」
男「絶好のチャンスってわけか」
神娘「ああ、聞こえんか?」
男「…ん」
―――――――――――――ドォーン
―――――ドォォォン
――――――――――ドーォォン
男「…これは」
神娘「化け物どもの太鼓の音だよ、けったいな事だ」
男「…気味が悪いな」ブルッ
836:
神娘「さて、そろそろ着くぞ」
男「もう勢揃いってわけか」
ザワッ ザワワッ…
神娘「少ないな」
男「このご時世だからね」
神娘「…荷が重くなるな」
男「何にもできないのが悔しいんだけど」
神娘「お前はそこで私を信じているがいい、それでいい」ギュ
男「…分かった」ギュッ
宮司服「神様」
神娘「来たぞ」
宮司服「ご無礼にも関わらず力をお貸しくださり誠に感謝で御座います」ペコリ
神娘「世辞は言い、状況を話せ」
837:
宮司服「間もなく到着すると索敵隊からの知らせが」
神娘「どのぐらいだ」
宮司服「凄まじい量です、大よそ1000の鋼鉄の船に化け物がひしめく様に入っています」
男「まるでパンドラの箱だな…」ゾクッ
神娘「だがその中には希望は無いぞ」
男「本土に上陸させるわけにはいかない…か」
宮司服「ええ、いったん抜けられたら最後夥しい量の魔の者が解き放たれることになりましょう…」
神娘「何としても止めねばならんな」
宮司服「はい」
844:
神娘「さあ、始めようか」バッ
ズズズ…
「見ろ!雲が晴れていく!」
「おお…」
「光だ!光が降りていくぞ!」
男「(戦神としての神様は見た事なかったな…)」
「光が神様の元に…」
「おお、なんと神々しい…」
「後光だ!」
神娘「……聞けぇ!」
「はっ!」ビシッ
「者共!敬礼!」ビシィッ
男「(一瞬にして軍勢を統制下に置いた…凄いな)」
845:
神娘「我々が護るものはこの国であり、人民である」
神娘「だがそれと同時に諸君も同じくこの国の民である!易々と命を投げ出す事は許さん!」
神娘「案ずるな、我を信ずる限り貴様らが負けることは無い!」カッ
神娘「神の加護は貴様らの元にあるぞ!」
「うおおおおおおおおお!」
「よっしゃぁあああ!」
「神様万歳!神様万歳!」
男「(…一発で心を掴んでしまった…これが神の威厳…!)」ゾワッ
神娘「光は我らと共にある!」グワシッ
「うおっ、まぶしっ」
「直視できん!」
男「(大仰なパフォーマンス、激励と叱咤で精神を掌握…これが戦神か)」
846:
影「ヴァェェエエァェアェェアオェ」
影「イゲァァアイェアオィアェエ」
影「イギィィイィイイィィィィィ」
神娘「見よ!敵は漆黒の海より出でて我々の領土を侵犯しようと画策している!」
神娘「構えよ!神の力を見せつけてやるがいい!」
「はっ!」ガチャッ
「気合入れるぜ!」ガリッ
「やってやんよ!」バチバチッ
神娘「……往けぇ!」
「「いくぞぉぉぉぉ!」」「「やってやるわぁぁ!」」「「ごぉぁあああ!」」
ドドドドドドドッ
ヒュンッ ヒュゥン スドォン
伝令「第一波撃破!」
宮司服「早いっ…予想より遥かに…!」
847:
神娘「神主よ」
男「おう」
神娘「よく見ていろ、これが私の力だ、これが私だ」
ズズズズズ…
伝令「第二波!第三波纏めて来ます!」
「凄い数が来るぞぉ!」
「押しとどめろ!何としてもだ!」
男「…なんだ?何も変わらないが…」
影「……ゲゥヴォェェ?」
影「グェァアイェアガァァァイア!」
影「ゲェァァアアェァアア!!!」
男「ちっ、襲ってくる!」
ズズズズズズズ…
848:
男「…なんだ?」
「く、雲が!」
「どんどん敵陣の真上に移動していくぞ!」
ズズズズズズッ…
神娘「さて、”呪い返し”といこうか」ニマァ
影「ガ…ゲ…」
影「ガガガガガガガガァァアァガアァァ!!」
影「ゲェェアァァガガァァ!」
神娘「今更気づいても遅い」スッ
神娘「さあ大人しく神罰を食らうがいい!」バッ
ド ドガァァァァァ…ビシビシッ ピカッドシャァァァ…ン
男「すげ…一発で船が粉々に…」
849:
伝令「更に来ます!」
神娘「ちっ、ならば嵐の中で踊っておれ!」ババッ
ドォォォォン バフゥゥゥゥゥ…
神娘「向こうに船酔いがあるかは分からんが足止めにはなる」
「残党狩りだ!」
「一隻たりとも逃すな!」
「死ぬ気で狩れぇ!」
宮司服「予想外…いや人間如きが神の力を予想するなぞ失礼千万か…」
「いけるぞ!まだまだやれるぞ!」
「うぉぉぉ神様万歳!」
「万歳!ばんざぁぁい!」
850:
神娘「…っ、はぁっ、はぁ…」
男「大丈夫か!?」
神娘「流石に…きついな…っ」
男「神様」ギュゥ
神娘「…ふふ、ありがとう」
男「これしか出来ないけど、神様を目一杯信じるよ」
神娘「それさえあれば千人力よ!」ヒュッ ヒュッ
ドォォォォン…
ドォォォォォォォン…
影「アガァァァァァアアァアァ…」
影「オゴァエァォアイエィアァ…」
851:
――――――
――――
―――
男「(戦闘もいよいよ激化してきた)」
「この野郎っ!」
「行かせはせん!行かせはせんよぉ!」
「お国のためにぃぃぃ!」
男「(皆流石に疲労の色が濃いな…)」
「はいはい、回復したらちゃっちゃと行きな!」
「男が先にへばってんじゃないよ!私らだってやってんだからさ!」
男「(あれは回復の礼術だろうか?色々あるんだな)」
神娘「……くっ はぁっ…!」
男「神様…」
神娘「まだまだ…まだまだぁ!」
852:
「神様の為に負けんぞぉ!」
神娘「護るべき者が居るのだ」
「行かせるかぁ!」
神娘「殺してはならぬ者が居るのだ」
「おらぁぁぁ!」
神娘「これからの者の為に」
「負けるかぁぁぁ!」
神娘「そして」
――――「神様!」
神娘「それを護って散っていった者達のために!」
神娘「負けるわけにはいかんのだ!」
853:
神娘「くっ…はぁ…ぐ…」ハーハー…
男「神様…っ!?」ゾワッ
男「(なんだ?今一瞬凄まじい悪寒が…)」
影「ゲェアェィアィエィァイェイェ」ギュギギギ…
男「…弓兵か!」
「遠距離攻撃くるぞぉ!」「当るな!」「気をつけろ!」
影「ゲェァアァァィァァエィエア!!!!!」バビュンッ
男「いっ!?」バッ
男「(あ、危なかった…もし当っていたら…)」
ドスッ
男「(致命傷は…)」ゾクッ
男「避けられな…い…」
854:
男「……今、後ろで何かに当たった音が」
男「…まさか、いや、そんな筈は」
――――「どちらかが…」
男「そんな はずは」バッ
神娘「…………か…はっ…」グラッ
―――「死ぬよ」
ドサッ
858:
男「……神様?」
神娘「…は、はは…避けられんかったなぁ…」
「嵐が止んだぞ!」
「神様が!」
「なんだと!?」
男「神様なら、治癒出来るんじゃ…」
神娘「悪い…少々力を使いすぎて 間に合わな…い…」ヒュゥ ヒュゥ
男「苦しいの?」
神娘「なに…大したことは…ない…」ゼェゼェ
男「嘘、つかないでよ」
神娘「…流石に ばれる…か…はは…」ヒュゥッ
男「だって、神主だからさ、神主だから」
神娘「……ああ、そうだったな」ゲホッ
859:
神娘「…段々と死んでいく感覚がする」ヒュゥ…
男「そうか」
神娘「懐かしいな、あの頃もこうしてただ消えていくのを待っていたか」
男「……」
神娘「ただあの時と違って、もう私はどうにもできないと言う事だが…」ゲホッ
男「そんな事、言うなよ」
神娘「変に冷静なんだ、苦しいのに、こんなにも苦しいのに頭は冷静なんだ」
男「……」
神娘「神主」
男「ああ」
神娘「お前に命を言い渡す、心して聞け、確固としてかかかれ」
男「…ああ」
860:
神娘「お前に全てを託す、だから護れ」
神娘「国を護れ、人を護れ、自らを護れ」
神娘「私が出来なかった事を…やってくれ」
男「……」
神娘「我が名において命ずる、私の最後の命だ、命を賭した頼みだ」
男「ああ」
神娘「…頼んだ」
男「分かった、分かったよ神様」
861:
神娘「しかし我ながら…呆気ないなぁ…」コホッコホッ
男「こんな時に、そう言う事って言っらだ駄目だと思う」
神娘「辛辣…だね…もう僅かも無い神様に…言う言葉かい…」
男「分からない、でも頭の奥が痺れたように動かないんだ」
男「考えなきゃいけないって分かってるけど、ぼーっとして、熱くて」
男「考えようとするたびに頭の中が白熱したように眩しくなって」
神娘「それでいい」
男「え…」
神娘「今は何も考えるな、振り返るな、ただ前を向いて進め」
男「そんな事、出来る訳が「神主」」
神娘「神主、我が神官よ」
男「うん」
神娘「泣くのは後にしてくれ、私はそんな顔を見たくないから」
男「泣かないよ、男だからね」
神娘「それでこそ…私の…」
862:
神娘「……神主」
男「なんだい」
神娘「近くに…寄って…くれ、力を…神の力を託す…」ハー…ハー…
男「うん、分かったよ」スッ
神娘「もっと寄れ…私の目の前まで…もう目が見えないんだ…」
男「…ああ」カクン
神娘「ふ…ふふ…全くお前は私の事を信用し過ぎているのだな」
男「だって、神主だからさ、神様の事を信用しているからさ…」
神娘「それだから…」スッ
チュッ
神娘「こうして、不意打ちを食らうのだぞ?」
863:
男「……え」スッ
神娘「惜しむべくは瞼だった事だがまあ…不意打ちとしては上々…」ニコ
男「あ…ぁ…」
神娘「は…はは…最後に一本取ってやったぞ…」
男「かみ さま…」
神娘「はは…ははは…は…は……」
男「……」
神娘「……」
男「……」
神娘「………」
864:
男「神様」
神娘「……」
男「…」
神娘「……」
男「神様の居ないこの世の中が、護る価値があるのかは分からないよ」
神娘「……」
男「でも」シュルルルル…
男「神様の言うとおり、護るよ」ゴォッ
男「なんたって、神主だからな」ブワァァッ
神娘「……」コク
男「待っていて神様」スッ
男「今終わらせて、すぐ帰ってくるから」ザシュ ザシュッ
865:
―――――
伝令「駄目です!押し切られています!」
宮司服「く…」
伝令「神は倒れ、我々も疲弊しきっています…最早打つ手が」
宮司服「…これまでか」
伝令「この国は…どうなるのでしょうか」
宮司服「分からん、だが…我々の命と引き換えにしてでも被害を食い止める」バッ
伝令「承知しました」グッ
ヒュル…
「…風だ」
「でも神様はもう…」
ビュゥッ ゴォォッ
866:
宮司服「…随分と、凄い突風だっ…」
「お、おい逃げた方がいいか?」
「馬鹿言え、逃げたら元も子もないぞ!」
ビュォッ バビュゥゥ… ビュオォォォ…
「段々と強くなって…」
「吹き飛ばされるぞ!何かに掴まれ!」
伝令「なんでしょう…この風」ゾワッ
宮司服「分からん、だが」
ゴォォォォォォ… ズォォオォォォ…
――――ギャァアアァァ……
――――イゲェァアァイェァアア……
「船が沈んでいく…」
「突風ってレベルじゃねえな、あれ…」
ドドドドドドドドォッ…
宮司服「あれは、紛れも無く”神の力”…」
867:
男「我は神主」ビュォッ
―――「人の子?」
男「神の代理人としてヒュァッ
―――「お前!」
男「そして、その敵を討つために」ビッ
―――「なあ…いやなんでもない」
男「お前らに」
―――「神主」
男「おてめえらに」
―――「…神主」
男「神罰を下す!」バッ
ビュゴォォォォオオオォォォ… バギンッ ボキボキボキ…
 ギァアェァア… ……ァ…アア…ァ
―――――「ありがとう」
868:
――――――
―――――
ザァァァァ…
剣士「結局、あっけなく終わりましたね」
宮司服「こちらの犠牲は最小限で済んだ、これも神の御力の成すところだろう」
ザブゥゥン…
剣士「しかし、神様は…」
宮司服「あの後すぐに神主の姿と神様の御姿が見えなくなった」
剣士「二人でどこかに行ったのでしょうか」
宮司服「恐らくは…いや、余計な詮索だ」
剣士「ええ、しかし人間の身で神力が使えるとは…」
宮司服「…いいや、人間の器で神の力は使えん」
剣士「はて、ちらと神主が風を呼んでいるように見えましたが…」
宮司服「神の力を使えるのは人に非ず、それはつまり―――――」
ザザァ…ザブゥゥゥン…
869:
――――――――――
――――――
男「思い出すね、こうしていると」ザッ ザッ
神娘「……」
男「初めて一緒に森に出かけた時、こうして神様をおぶってたんだよ」ザッ ザッ
神娘「……」
男「忘れてた?そんな筈無いと思いたいんだけどな」フッ
神娘「……」
男「…どこに行こうか」
神娘「……」
男「帰るか、あの森に」
神娘「……」
ヒュルゥゥゥゥゥゥ…
870:
―――――
男「…なんだ、これ」
チラチラ… チラチラ
男「視界一面が白い…それで寒い」ブルルッ
男「なんか白いものが振って、それが積もってるのか」
男「夏でも、秋でもない…」ザシュ ザシュ
男「…冷たい」
男「寒い」
男「何も聞こえない」
男「生き物の気配も無い」
―――「生き物に与えられる試練の季節」
男「…そうか、これが”冬”か」
―――「淘汰の季節だよ」
男「…皮肉なもんだ」ブルルッ
871:
男「神様、着いたよ」
神娘「……」
男「…これからどうなるんだろうな」
神娘「……」
男「本当はさ、割り切れていないんだ」
神娘「……」
男「神様は死んでなんかないって、きっとまた戻ってくるって」
神娘「……」
男「信じているんだ、諦めていないんだ」
神娘「……」
男「目を背けたらそこで終わりなんだ、諦めちゃダメなんだって」
神娘「……」
男「…何言ってるんだろうな」
872:
男「……寒いな」
神娘「…」
男「ずっと季節なんて暖かい物だと思ってた」
神娘「…」
男「でも、やっぱり想像って甘くできてるんだよな」
神娘「…」
男「…」
神娘「…」
男「…待てよ」
神娘「…」
男「神様がもし死んでいたなら、この空間はどうなるんだ?」
873:
男「神様の力で構築されていたなら、あの時点で無くなってても良かったんだ」
男「でも、この森には入れたし、しかも季節が動いた」
男「もしかしたら…」バッ
神娘「……」
男「…うん、分かった」
男「信じるよ、信じ続ける」
男「神様がまた帰ってくるって信じる」
男「何年かかっても、何十年かかっても」
男「人間の範囲内で、待つよ」
男「待ってるから」
神娘「……」
男「ずっと、待ってるから」
879:
――――――
神娘「そう言えば」
男「うん?」
神娘「ここら周辺の木の名前が気になるみたいだな」
男「あ?ああ、そうだな…別に紅葉が綺麗な訳じゃないし、なんでこの木が沢山植わってるかなって」
神娘「ま、木には紅葉だけじゃないのは気付かんようだな」フッ
男「あ、なんか馬鹿にしてるな神様」
神娘「この木はな…いや、今はやめておこう」
男「んだよ…気になるな」
神娘「気になるだろ?その気持ちを取っておけ」
男「えー…」
神娘「焦がれるほどに焦れる様に、その気持ちはきっと理解した時興奮に昇華するだろう」
男「そういうものか?」
神娘「私はお前の顔を見たいのだ、嬉しがる顔、楽しむ顔、全てを見たい」
880:
神娘「私は見ていたいんだお前を、お前の全てを」ニコッ
男「……」
―――――――
―――――
ヒュゥゥゥゥ…
男「…は」バッ
男「いかん、幻覚か」ブルブル
男「…まあ、回想とも言うけど」
ビュルゥゥゥゥゥ…
男「う、さむ…」ブルッ
男「…帰るか」ザクッ ザクッ
881:
男「……」ザクッ ザクッ
男「(息が白い)」ハァーッ…
男「大分慣れて来たけど、冬は辛いな」
男「……」ザク ザク ザク
男「ただいま」タッ
神娘「……」
男「神様、帰って来たよ」
882:
男「あれからどれぐらい経ったんだろうね」
神娘「……」
男「日が昇って…また沈んで、一週間?一年?それとも一日?」
神娘「……」
男「大丈夫だよ、置いて行ったりはしないから」
神娘「……」
男「(相変わらず神様は眠ったままだ)」
神娘「……」
男「(いや、死んでいるのかもしれない…でも腐敗はしてない)」
神娘「……」
男「(この森に相変わらず冬以外の変化は訪れない、ただ静寂な雪が覆っている)」
神娘「……」
男「だからまだ神様は死んでいない、生きてもいない、眠っているだけなのかもしれないと考える」
神娘「……」
男「それに…」
883:
男「神様」
神娘「……」
男「信じていれば、それは信仰となって神様の力になるんでしょう?」
神娘「……」
男「だったら、信じるよ」
神娘「……」
男「信仰する」
神娘「……」
男「神様を信仰するよ」
神娘「……」
男「待っているから」
神娘「……」
884:
――――
男「さて、偶には飯でも作ろうか…っと」トン
男「(あの時この森に入ってからだろうか、徐々に体に変化が訪れ始めた)」
男「(眠らなくても平気になった、食べなくても平気になった、この雪の中歩き回っても大丈夫になった)」
男「(怪我を負ってもすぐ直る、病気もしない、なぜだろう)」
男「この森自体の時間が止まってるって事なのかな、神様」
神娘「……」
男「…って聞いても無駄か…」ハハ
男「さて、偶には飯でも作ろう…」
885:
――――――
神娘「おい」
男「どーした」
神娘「醤油が無い」
男「あ?ああ、あそこに」
神娘「届かん」
男「はいはい」ヒョイッ
神娘「ええい、この身長がもどかしい」
男「成長とかできないの?」
神娘「出来るが力を使うし…一度やってみたが」
男「ほぉ」
神娘「身長はあまり変わらんかった」
男「…ああ」
神娘「畜生…高いのが羨ましい」
男「そんな事ない、棚に頭ぶつけるし」
886:
神娘「それでも高いところから見えるのは良い」
男「どしてよ」
神娘「頼りがいがある」
男「今でも十分あるけど」
神娘「お前は知らんから言えるのだ」
男「何をさ」
神娘「私が昔、この地を護って来た時の事だ」
男「慕われてたじゃないか」
神娘「それはいいのだ、それは」
男「だったらなんなのさ」
神娘「奴等、私の事を娘か何かだと時々思ってるみたいだった」
男「…あー…」
神娘「なぜ納得する!」
887:
男「親しみがあるんだよ」
神娘「親しみより畏敬を抱け!」
男「抱いてるんだがな」
神娘「行動で示せ!」
男「はい塩」ヒョイ
神娘「おお、ありがたい」パッパッ
男「……」
神娘「……」パッパッ
男「うん」
神娘「そうじゃないだろう!」ガターン
―――――
男「そんな事もあったな」タンタンタン
888:
男「出来た、簡単な炒め物だけど」
神娘「……」
男「ん、出来あいにしては中々」
神娘「……」
男「冬の山菜って見つけるのは大変だけど美味しいんだな」
神娘「……」
男「神様と一緒に行きたいな…あ、でもこの冬だと神様外に出ないだろうけど」
神娘「……」
男「久々に神様の料理も食いたいしな」
神娘「……」
男「ああ」
神娘「……」
男「ごちそうさま」
889:
男「食ったし、久しぶりに寝ようかな」
神娘「……」
男「布団持ってこよう…」
神娘「……」
男「神様寒くないかな、まあ布団の中に入れてるけど」ドサドサッ
神娘「……」
男「寝るか」
神娘「……」
ヒュルルルルルル…
男「…寒い」
神娘「……」
890:
男「(何日経ったんだろうか)」
ビュゥゥゥゥ…
男「(吹雪の日もあるし、快晴の日もある)」
ヒュルルルル
男「(太陽は忙しなく昇っては沈み、昇ってはまた沈む)」
ガタガタガタガタ…
男「(何度それを繰り返しただろう)」
カンカン
男「(100を超えたあたりから、考えるのをやめてしまった)」
ヒュゥー…
男「(体の成長は止まったようにあの時から動かない)」
ヒュルルルルル…
男「(この世界には、変化するものが少なすぎる)」
カタカタカタカタ…
男「(飽きたのかもしれない、でも諦めるにしては大きすぎるものがここにはある)」
891:
男「(神様)」
男「(時々不思議に思う)」
男「(なぜこんなにも神様に固執しているんだろうか)」
男「(神主だから?)」
男「(あの場所に居たから?)」
男「(付き合いが長いから?)」
男「(違う、そうじゃない)」
男「(もっと深い所で、神様に執着している自分が居る)」
男「(なんだ?)」
男「(それはなんだ?)」
男「……明日にしよう」
男「今日は疲れた」
男「…おやすみ」
神娘「……」
ヒュルルルルル…
896:
――――――
男「……」
神娘「人の子」
男「…神様」
神娘「なぜお前は、私を待っているのだ」
男「待っていたいからさ」
神娘「目覚めるか分からない私の為にか?」
男「うん」
神娘「時間を無為に使うな」
男「神様を待っている時間は、決して無意味ではないと思うけどな」
神娘「…お前は馬鹿か?」
男「馬鹿じゃなきゃこんなことしてないさ」
神娘「…努力が報われない時もあると、知らないのだろうな」
男「知らないからこうしている」
神娘「もういい!そのままそこで朽ち果てるがいい!」
897:
男「……」
―――――
男「…夢か」バッ
男「夢の中にまで出てくるとはな、どうかしてるよ」フルフル
ヒュルルルルル…
男「…寒い」ブルルッ
男「外に行くか」トントンッ
ヒュゥ……
男「日が昇る」
男「また一つ日が昇る」
男「…いつまで待てばいい?」
男「何度こうして、昇っては沈むのを見ていればいい?」
男「……神様」
898:
―――――
―――
月日は流れる
男「神様、今日は晴れてるよ」
神娘「……」
男「一緒に外に行こうか、おぶって行くよ」
神娘「……」
男「風邪引いたりしてね、そう言えば神様って風邪引くのかな」
神娘「……」
男「目覚めたら第一に風邪をひいたりしてね、看病しなくちゃ」
神娘「……」
男「うん、じゃあ行こうか」
899:
――――――
太陽は昇り、沈む
男「うーん、髭も生えない」
神娘「……」
男「まあ手入れしなくていいのはいいけどね」
神娘「……」
男「これもこの森が止まってるからなのかな、でも一日は過ぎていくし…どうなんだろ」
神娘「……」
男「まあ神様に聞いても分からないって言うだろうな、うん」
神娘「……」
男「本当になー、不思議の森だよここは」
900:
昇っては沈む
男「吹雪って嫌だな、やっぱり」
神娘「……」
沈んでは昇る
男「なんかどこもかしこも白くて飽きるな」
神娘「……」
男「偶には赤とか黄色とか…秋の色が見たい」
太陽は一直線上を進んで往く
男「雪って、なんで冷たいんだろうな」
神娘「……」
901:
昇る
男「何年経ったんだろ」
沈む
男「冬にも慣れたな」
昇っては
男「随分ここに居る気がする」
沈む
男「…分からない」
―――――
同じ日々が続く
続く
男「なあ、もうそろそろ目覚めても良いんだと思うんだけどな」
902:
続く
「飽きちゃないよ」
続く
男「辞めたくなる時はあったけどさ」
続く続く
「でも、神主だから神様を放っては置けないだろ?」
続く続く続く
「そう思ったらなんだか、まだやれそうな気がしてさ」
終わりも見えない日々が永劫に続く
「そしたらなんかさ、途中からよく分からなくなって」
無意味な積み重ねが
「進んでるのか戻ってるのか分からなくなって」
903:
続く
「ぐちゃぐちゃで、なんかもうどうでも良くなって」
続く
「おかしくなっちゃったのかな」
続く
「もう、訳わかんないよ」
ただ、続く
「神様」
「もう神様の声が思い出せないんだよ」
904:
「最初はぼやけたみたいに時々聞こえ辛くなるぐらいだった」
「気のせいかなと思ったんだけど、やっぱり思い出し辛くなって」
「そのうちぶつ切りになって」
「細切れになって」
「もう思い出せない」
「あれだけ聞いたのに思い出せない」
「どうしよう」
「どうしたらいいんだよ」
「分からないよ神様」
「もう神様を思い出せないんだよ」
「どうしたら…」
906:
「分からない」
「別に、神様の事なんて放っておいてもよかったんだ」
「今だけじゃない、最初に助けを請われた時も無視すればよかったんだ」
「だってそうだろう?自分には関係のない事だ」
「あの時神様を無視しても何の不利益も無かったんだ」
「それでも、無視できなかった」
「神様が倒れたあの時だってそうだ」
「諦めればよかった」
「そうすれば日常に戻れたんだ」
「でも」
「そんな事、出来ない」
「神様を諦めるなんて出来なかった」
「なんでだろう」
「分からない」
907:
男「静かだ」
男「雪は音を吸収するから冬は静かなんだって、神様言ってたっけ」
男「……」
男「寒いな」
男「神様、寒くないかい?」
神娘「……」
男「聞こえてる訳ないか」
「教えてあげるよ」
908:
神娘「……」ポロッ
男「……うん?」
男「神様、こんな髪留めしてたっけ」スッ
男「違う、これは…生花だ」サワサワ
男「…この花、どこかで見た事がある」
男「淡い紫色で、綺麗な…」
――――「さっき綺麗な花があったから――に見せようと思って」
男「神様に、似合いそうな…」
――――「なんか紫の花でさ、綺麗だから」
男「……あ」
男「…しおんだ、これ…」
909:
――――――
娘「教えてあげるよ、紫苑の花言葉を」
男「特別な意味でもあるのか」
娘「うん、自分が送った花の言葉ぐらい覚えておかなきゃ」
男「いや、何気なく渡したんだがな…」
娘「花を送るのは気持ちを送る事、自分では言い表せない直接的な感情をぶつける事」
男「…そんな重いものだとは知らんかった」
娘「だから覚えておいて、自分の捧げた言葉を」
男「ああ」
娘「耳を貸して、よく聞いて、覚えて」
男「意味があるのか」
娘「きっと役立つよ、危ない時にこの花は繋ぎとめてくれるから」
男「そうか」
娘「この花の、花言葉はね」
910:
―――『思い出』
男「思い出…」
娘「沢山の思い出、覚えておいてね」
男「忘れる筈無いさ」
娘「本当に?」
男「本当だよ、絶対」
娘「でも、思い出は忘れるものじゃないんだよ」
男「そうなのか?」
娘「思い出せなくなるもの、引出しにしまったまま場所が分からなくなるものなの」
男「自分の意志には関係なくか」
娘「寂しいけど、そう言う事なんだよ」
911:
『遠方の人を想う』
男「いや神様と遠くないし、すぐ近くだし、人じゃなくて神だし」
娘「距離的には遠くないだろうけど、心理的にはどうなのかな」
男「…分からん」
娘「神様と人間の距離はとても遠いの、別の世界に生きているから」
男「それも、なんだか寂しいな」
娘「想い続ければきっと大丈夫だよ」
男「何が大丈夫なのさ」
娘「さあねー」
男「気になるんだが」
912:
『追憶』
男「なんか物騒な言葉だな」
娘「そう?どこが?」
男「なんか、もう会えないみたいな」
娘「そんな事も無いと思うよ」
男「そうか?」
娘「また会える、その時まで思い出し続けていればそれも追憶なの」
男「そんな状況に陥るのもあれだけどな」
娘「ま、そうだよね」
男「願わくば、だけどな」
娘「そして、最後の一つ」
男「うん」
娘「忘れないでね、この花を見るたびに思い出して」
男「ああ」
娘「その言葉は」
913:
―――――
男「あなたを……」
――『あなたを忘れない』
男「忘れない」ギュゥ
男「忘れない」
娘「そう」
男「そうか」
娘「そう思っていれば思い出せるよ」
男「うん」
娘「だから、”忘れない”って思い続けて」
男「分かった」
娘「きっとそれは、力になるから」
男「約束する」
娘「君自身と、約束してね」
男「分かった」
914:
男「分かった」
―――「おい」
男「忘れないよ」
―――「こっちを向け」
男「絶対忘れない」
―――「…よし」
男「想い続ける」
―――「神主」
男「忘れそうになっても」
―――「笑え、悲しむより笑え」
男「…神様」
―――神娘「それで、いい」
男「…ああ」
916:
だめだ、涙腺が
918:
―――――
神娘「なあ」
男「うん?」
神娘「もしも、私がお前を好きだといったらどうする?」
男「どうって…分からん」
神娘「…だろうなあ」
男「なんかあれだ、フィルターが掛かったみたいなんだ」
神娘「そういうものだ」
男「うん」
神娘「人と神、神と人、互いに決して交わることの無いように出来ている」
男「なんかあれだな、次元の違いと言うか」
神娘「こちらとしても人間であったうちの同族意識を今は感じんのは、少し寂しいな」
男「神様にとっての人間って?」
神娘「今となっては既に護るべき存在さ」
男「そっか」
919:
神娘「ただ…」
男「うん?」
神娘「それはあくまでお前が”人間”であればだ」
男「別に人間を止めるつもりは毛頭ないけど」
神娘「それは知っている、が」
男「が」
神娘「往々にしてこの世界には予想外がつきものだ」
男「まあ、そりゃ知ってるけど」
神娘「予想外が無ければ私と出会わなかったわけで、なあ?」
男「でも、人間から外れるって何になるのさ」
神娘「……お前は時々馬鹿なのではないかと思う」
男「なんだと」
神娘「ま、いずれその時が来たら分かる」
男「来なかったら?」
神娘「その時はその時さ、簡単な話だ」
920:
――――――
シンシン シンシン
男「よく分からなかった」
男「なんで神様をそんなに待ち続けなきゃいけないのか」
男「あの時神様を諦められなかったのか」
男「…分かったよ」
男「やっと分かったんだ」
ヒュル…
男「神様が好きだ」
男「それだけだったんだ」
男「自分でも馬鹿らしくなるほどに簡単な話だったんだ…」
921:
男「思い出せるよ」
男「さり気なく小首を傾げる仕草が好きだった」
男「新しい事がある度に目を輝かせるのが可愛かった」
男「時々寂しそうな顔をするたびに、悲しそうな顔をするたびにこちらまで悲しくなった」
男「護ろうと思った」
男「助けようと思った」
男「それが全部なんだ、慰めたのも、傍に居たのも全部」
男「神様が好きだったからなんだ」
922:
ヒュルルル…
男「もう迷わない」
男「神様が再び目覚めるまで待ってる」
男「好きだから、待っている」
男「いつか」
男「いつか神様が目覚めるまで」
男「その時にきっと伝えるから」
『貴方の事が好きです』
男「言わなきゃ男じゃないな」
923:
ザザ…
男「………なんだ?」
男「外の様子がおかしい」
男「風が吹いているのに、雪が舞ってるのに…」
ザザザザァ…
男「…違う」
男「風が暖かいしこれは…雪じゃない」フワッ
男「薄い桃色…どこから来たんだ?」
ブワァァァッ
男「外が!」
男「……神社の周りの木は、この花の木だったのか…」
男「蕾が一斉に花開いたんだな…綺麗だ」
924:
ザザァ… ザァッ…
男「雪があっという間に溶け始めている…」
男「この季節は一体…」
―――「冬を乗り越した者のみが享受できる季節」
男「…春か、春が来たのか」
男「なんて綺麗なんだ…」ウルッ
男「こうしてはいられない、神様に知らせてこよう」バッ
925:
男「神様」
神娘「……」
男「春が来たよ」
神娘「……」
男「花が咲いてるんだ」
神娘「……」
男「花見をしようって約束したよね」
神娘「……」
男「今度一緒に行こう、おぶってくから」
神娘「いらん」
男「……え?」
神娘「おぶらせずとも歩けるわ」パチッ
男「……神様?」
926:
神娘「ああ、私だ」
男「本当に神様?」
神娘「そうだ、私が神だ」
男「本当に…」
神娘「神主」
男「…ああ」
神娘「言いたい事は色々ある、がそれを話し合う時間はもうある」
男「そうだな」
神娘「沢山あるんだ、こうして話せる時間が」
男「そう、だよな…話せるんだよな…神様と」
神娘「話せるんだ、安心しろ、一杯話してやるから」
男「嘘じゃないよな?」
神娘「神は嘘をつかんさ」
927:
神娘「だから、私の目ざめに相応しい言葉をお前に掛けよう」
男「うん」
神娘「神主…ありがとう」ニッ
男「あ…ぁ…」フラッ
神娘「お前の信仰、想い、確かに受け取った」ギュゥ
男「……ああ」ヒシッ
神娘「…もう少し、このままで居ような」
男「……ああ…!」
928:
――――――
男「それにしても、この花だったんだな」
神娘「桜と言うんだ、これは山桜と言う種類でな」
男「さくら…満開だな」
神娘「綺麗だろう?」
男「綺麗だ…とっても」
神娘「……お前のおかげだ」
男「そうだな、今回ばかりはそう言わせてもらうぞ」
神娘「ああ、誇っていい」
男「……うん?」
神娘「どうした?」
929:
男「あそこに百合が咲いている、一輪だけ」
神娘「どこだ?」
男「あそこ、冬にいつも座ってた場所の正面」
神娘「見事な白百合だな」
男「どうしてあそこに」
神娘「……ああ、そうか」
男「知ってるか?」
神娘「真珠貝で穴を掘り、星の破片を墓印に…か」
男「なんだよ」
930:
神娘「待ったんだな、お前は」
男「そりゃ待ったさ」
神娘「待ち続けたんだな…」ボロボロッ
男「待ってたんだよ、どうして神様が無くのさ」
神娘「泣きたくない だけど こんなにも想われて泣かないなんて出来んよ…」ボロボロ
男「…なんだか知んないが胸を貸そうか」
神娘「頼む」
男「うん」ギュゥ
神娘「…暖かいな」
男「春だからな」
931:
男「それで、言いたい事があるんだ」
神娘「私が好きなんだろう?お前」
男「聞いていたのかよ」
神娘「なんとなく声が聞こえたんだ」
男「まあ…あれだ、神様はこっちの事どうとも思ってないかもしれないけど…」カリカリ
神娘「好きだ」
男「へ」
神娘「お前が好きだ」
男「ちょっと待て」
神娘「待つものか、こちとらあの戦いがある以前から好いておったわ」
男「なにそれ初耳」
神娘「言ったのは初めてだからな!」
男「そうだけどさ!」
932:
神娘「お前は私が好きだな?そうだな?」
男「そうだけど!」
神娘「私もお前が好きだ」
男「お、おう」
神娘「よし」
男「よし、じゃないよ!」
神娘「何か問題でもあるか?」
男「無いけど…人間と神様だぜ?」
神娘「…ぷっ」クスクス
男「笑う要素あったのか今!?」
神娘「お前、自分がまだ人間だと思ってるのか?」
男「えっ」
933:
神娘「お前、ひょっとしなくとも待っている間自分の身体が成長しなかったろう」
男「まあ、髭も生えなかったし不便じゃなかったな」
神娘「やはりな」
男「なにがなんだか分からん」
神娘「神に恋し、神に愛されるのは人間ではない」
男「…ん?」
神娘「譲渡されたとはいえ神の力を使えるお前の身は最早人間ではない、我々と同族…」
男「それって、まさか…」
神娘「お前は、神になったのだよ」
935:
男「…そっかー…」
神娘「驚かんのな」
男「いや、別になんか驚かなくなったし」
神娘「適応するのは良い事だと思うぞ」
男「まーねー…神様とこうしていればもういいや」
神娘「私もだ」
男「…神様」
神娘「うん?」
男「もうちょっと違う呼び方出来ないかな」
神娘「今までのままでいいだろう」
男「気持ち的にさ、なんか違う呼び方したい」
936:
神娘「まあ確かに、もう”神主”とか”人の子”とかで呼べないな」
男「神主でもいいんだがね」
神娘「それは人のなるものだ、神では神主になれん」
男「そうか…」
神娘「お前でいいか、おまえにすればなんかそれっぽいし」
男「若干暴言っぽいんだが」
神娘「なんか言ったか」
男「なんでも」
937:
男「うーん…あ」
神娘「ん?」
男「みーちゃん、にしよう」
神娘「かーちゃんじゃなくて?と言うかその可愛い名前辞めろ」
男「母親みたいだから嫌だよみーちゃん」
神娘「やめろ」
男「みーちゃん」
神娘「やめんかこんばかもんがぁ!」ドカァァン
男「ちょ、やめろっ、爆発させるの止めうわぁぁぁぁぁ!」
938:
―――――
男「大変な目に合った」
神娘「お前が悪い」
男「でも回復が早いから大丈夫」
神娘「簡単には死なんからなんでもできるな」ニンマリ
男「止めて怖いから止めて」
神娘「…まあいい」ストン
男「良かった生き延びた」ストン
神娘「…桜は良いな」
男「隣に神様がいると一層いいな」
神娘「同意だ、これに関してだけは」
939:
男「なあ神様」
神娘「うん?」
男「この桜の…山桜だっけ?花言葉って何?」
神娘「お前そんなの気にするのか」
男「言われたんだよ」
神娘「何を」
男「花を送るのは気持ちを送る事だって」
神娘「それは同意だが…誰に言われたんだ」
男「いいじゃないか、それより教えてよ」
940:
神娘「…『優れた美人』『純潔』『精神美』『淡泊』」
男「お、おう…なんかすごい言葉が」
神娘「後は…まあいいか」
男「えっ」
神娘「『桜』の花言葉ではないからな それにまあ、忘れた」
男「嘘つけ」
神娘「嘘じゃない」
男「神様の嘘は分かり易い」
神娘「神は嘘を言わん、神の発言が真実なのだ」
男「それせこいぞ、そして今はこっちも神だぞ」
神娘「くっ」
941:
――――――
男「これからどうしようか」
神娘「下界に降りてみるか?」
男「そうだな…なんか怖いけど」
神娘「…親も、何もかも置いてきてしまったものな」
男「それだけは、胸が痛いんだ」
神娘「…すまん」
男「こればかりは恨ませてくれ、自分勝手すぎるけど」
神娘「受け入れるさ」
男「どれだけ変わってるだろうな」
神娘「知らん、それをこれから見に行くのだろう」
男「そうだな」
神娘「ああ、そうさ」
942:
神娘「世界は変わる、永劫に止まる事なく回る」
男「時々ついていけなくて立ち眩みはするけどな」
神娘「その時は私がお前を支えてやろう」
男「なら、君が倒れそうな時は支えてあげるよ」
神娘「…頼むぞ」
男「こっちも、頼んだ」
神娘「行こうか」スッ
男「エスコートは要る?」
神娘「要らん、自分の足で歩けずして何が神だ」
男「へいへい」
943:
男(階段を下っている)
男(あの時とは逆に、延々と続く階段を下っている)
男(そして、隣には神様が居る)
神娘「楽しみだな」
男「ああ」
神娘「怖くもあるな」
男(怖いけど、乗り越えられる気がする)
神娘「…もうじきだ」
男(光が見えてきた)
神娘「さあ行こう」
男(握った手だけがいやに現実的だ)
神娘「私を、いや――――」
男(そうだ、隣に居る君は)
神娘「我を呼ぶのは、どこの人ぞ?」
944:
ここまで読んでくれた方土下座して感謝します ひとまずここで終わりになります
後日談をちょこちょこっとだけ書ければと思ってますが完全蛇足です
余計な事をぶつくさ垂れ流すのは苦手なのでこれで
946:
乙!
いいものを書いてくれてありがとう
しばらく日常編も無かったし、後日談も欲しいな
948:
乙!激しく乙!
後日談欲しいです
956:
――――
神娘「良かったのか?」
男「なにが」
神娘「墓参りだけで」
男「いいよ…というかどの面下げて会いに行けばいいのか分からんし」
神娘「ま、そこのところは国が何とかしてくれたらしいがな」
男「国が?」
神娘「お前は海難事故に巻き込まれて死んだ事になっていた、それだけだ」
男「なんて無難な、まあ微妙にあたってるけどさ」
神娘「……すまんな」
男「なんか」
神娘「ん?」
男「神様の気持ちが分かった、これは過去に囚われるわ」
神娘「ああ…」
957:
男「時間が掛かるかもな、立ち直るのには」
神娘「…待っているよ」
男「ああ」
神娘「お前がそうしたように、私も力を貸すからさ」トンッ
男「…ああ」
神娘「これからどうしようか」
男「取り敢えず今まで通りぼーっとしてもしたいな」
神娘「冬だったからな、今まで」
男「…春ってこんなに綺麗なんだな」
神娘「秋に比べて食べ物はないがな」
男「花より団子じゃないからいいんですわ」
神娘「本当に?」
男「う…本当に」
958:
男「一周まわったんだな」
神娘「ああ、夏から始まって秋、冬、そして春」
男「なんか夏って聞くのは懐かしいな」
神娘「こっちとしてもな、しばらくしたら夏になるかもしれん」
男「まあ今は」
神娘「このままでいいな」
男「……」ウトウト
神娘「おい」
男「うん?」
神娘「ここに寝ろ」ポンポン
男「膝じゃん」
神娘「膝枕がしたい」
959:
男「……ん」
神娘「どうだ?」
男「…いい」
神娘「そうかそうか」
男「まさに神様のお膝元か…」
神娘「安心するだろう?」
男「そりゃ、勿論」
神娘「ゆっくり寝ろ、今までの分」
男「うんにゃ…おやすみ」
神娘「おやすみ」
960:
男(柔らかい)
ヒュゥゥゥ…
男(暖かくて、心地のいい風が吹いている)
ゴォッ
男(春一番の様な突風も…)
ゴオォォォォォォ…
男「ん?」
神娘「へ?」
ドォォォォォォッ
男「なんじゃぁ!?」
神娘「おわぁぁっ!?」
961:
ドシャァァァン…
男「……」
神娘「……」
竜女「……」
男「お前かよ!」
龍女「私だ」
神娘「驚いただろうが!」
龍女「そりゃ驚かせることが目的だしな」カラカラ
神娘「全くお前は…」
龍女「その前に我が友よ」
神娘「あん?」
龍女「おはよう」ニッ
神娘「…ああ、おはよう」プイッ
962:
龍女「んー…」ジロジロ
神娘「なんだ?」
男「おん?」
龍女「やっと付き合ったかこのアホンダラが」
男「一発でばれたか…」
神娘「やっぱりお前には敵わんな…」
龍女「龍の髭はな、気を察知するのよ」カラカラ
男「なんか悔しい」
龍女「元人間に龍が負けると思うなよ?」
神娘「ぐぬぬ…」
963:
龍女「それで、昨日目覚めたそうだな」
男「ああ」
龍女「外へは行って来たか?」
神娘「こいつに付いて行った」
男「墓参りでな」
龍女「ふむ…外はどうだった」
男「んー…なんだろ」
神娘「変わりあったか?」
男「なんか、前より馴染みが深くなったみたいな…」
神娘「ああ確かに、なんとなく過ごしやすくなったな」
龍女「やはり気づくか」
神娘「どう言う事だ?」
964:
龍女「あの時、何か不気味な事が起こっている事は誰もが知っている事だった」
男「ああ、あの軍勢の進行があった時か」
龍女「幾ら時間がたっても解決しない問題、そのほかにも本能が危機を察知していた」
神娘「ほうほう」
龍女「相当な鬱憤、不安、そう言ったものが溜まりこんでいた…そこまでは向こうの思う壺だったのだろうな」
男「腹だたしいな」
龍女「だがあの夜を境にそれが一変した、空は元に戻り逆に清々しいまでの風が吹いていた」
男「神様何かやった?」
神娘「なにもやってない」
龍女「そっちの方が思いっきり暴風ぶっ放したから穢れとか色々溜まっていたものが吹っ飛んで行ったんだな」
神娘「やるなお前」
男「それ程でも」
965:
男「それで、こっちに色々けしかけてきたのはどうなったんだ?」
神娘「思いっきり返したなら軽くはすまんと思うが」
龍女「壊滅した」
男「えっ」
龍女「翌朝には既に跡形も無く荒廃しておったわ、よっぽど大掛かりにやったのだろうな」
神娘「…ひょっとして、そのぶっとばしたのも全部?」
龍女「多分な、全く良い呪い返しだ!」ケラケラケラ
神娘「人を呪わば穴二つだなまったく」フッ
男「あー…あは、あははは…」ヒクヒクッ
967:
男「えーっと…それとこれとでどう関係が?」
龍女「ああいや、その日の晩から色々と話題になってな」
神娘「そんな話題になるようなことしたかな」
龍女「『夜なのに眩い光が空から降ってきた』とか」
神娘「へっ」
龍女「『今まで感じたことの無い気分だった、震えるほど畏れを感じた』とか」
男「…神様」
龍女「『死にかけていた老人が全員飛び起きて口それぞれに信仰の言葉を口にし始めた』とか」
神娘「それってまさか」
龍女「それだけじゃない、『卒倒しそうな怒気と共に暴風が吹き荒れた』もある」
男「えっ」
968:
龍女「いずれにせよ」パシン
神娘「…ナンノコトカナー」
男「ナンノコトダロウネー」
龍女「その日を堺に噴出した様に話題となった言葉がある」
男「……おう」
龍女「『神』…今までは鼻で笑われてたそれを大真面目に学者が語り始めた」
神娘「現金主義だなおい」
龍女「現に大多数が説明不明な事を感じていたのだ、説明不明な力が作用していたと考えるのも当然」
男「ううむ…で」
龍女「数十年にも及ぶ追及に耐えきれず国は遂に吐いた、『神は居る』と遂に認めた」
神娘「今まで認めてなかった癖に」
男「言うな神様」
969:
龍女「結果として事は大きく動いた、一国が認めた事で他国も認めねばならくなったからな」
男「良い事なのか?」
神娘「まあ良い事ばかりではないだろうよ、こちらの力を悪用する者も出てくるだろうし」
龍女「今までまやかしだったと思われた研究が発展し、技術によって科学へと昇華された」
神女「調べれば何とかなるものでもないがな」フンッ
男「人間って調べずにはおれないからさ、ほら」
神娘「…まあ、そこは置いておこう」
龍女「うむ、結果として新しい宗教が生まれた」
男「え」
神娘「まあ当然だな」
男「なんでそんな落ちつけるんだよ」
神娘「神だからな」
970:
龍女「まあそんな大したものではない、遊びみたいなものだ」
神娘「不敬だなおい」
龍女「本山を○○神宮、祭神をお前に定めた程度だ」
男「んー…なんか複雑だ」
龍女「なにがだ、もう力を失う心配はないのだぞ?」
男「それでも…なんだかな」
神娘「私の身は信徒の物だからな、慣れろ」
男「…それでもさ」
神娘「私の”身”はな?」
男「ああ」
神娘「だが”心”は違う、それは二人の物だ」
男「…おう」
神娘「それでいいだろう?」ニコ
男「…そんな顔されたら駄目って言えないわ…」
神娘「はっはっはぁ」
971:
龍女「これで終わりかな、私が言うべき事は」
神娘「助かった」
龍女「いやいや」
神娘「結構重要な事を教えられてな…うむ、持つべきものは友」
龍女「今度餅奢れ」
神娘「男手が居るからな」
男「…分かったよ」
龍女「はっはっは、きなこ頼んだ」
神娘「私はあんこで」
男「磯部…」
神娘「見事に分かれたなおい」
973:
龍女「で、どうするつもりだ?」
神娘「どうって」
龍女「お前らは外に出るつもりはあるのか?」
男「うーむ…」
龍女「出ればそれなりの信仰は集まる…いや”実物”なんだ、凄まじい効果が出るだろうな」
男「どうする?」
神娘「外か…」
男「どっちでもいいんだ、神様次第」
龍女「まあ私はそれに関してとやかく言わんさ」
976:
――――――
母「ここが○○神宮ね」
子供「わーい!綺麗な花で一杯だー!」
父「こら、ここには神様が居るんだからはしゃいじゃ駄目だよ」
神娘「別に子供がはしゃいだぐらいでとやかく言わんがな」
母「えっ?」
男「あ、すみません…こいつちょっと変人で」ペコリ
神娘「むうっ」
父「あなた達もこの神宮にお参りに?」
男「ええ、まあ」
母「神様が居るんでしょうか…」
神娘「居るぞ、信じれば神は居る」
父「…そんなもんですかね」
神娘「ああ、だから安心して信じろ…そこに神は居るのだから」
977:
父「それでは私は神宮を回ってきますね」
母「ほら、行くわよ?」
神娘「気をつけろよ」
子供「……」ジーッ
男「ん?どした?」
子供「ばいばい、かみさま」ダッ
男「へっ?」
神娘「子供は純粋な分勘づくのかもな」
男「…そうかあ」
神娘「こうして人間に紛れるのも久しぶりだな」
男「こっちもだよ」
978:
神娘「私が人間だった時も、こうして人に囲まれていたな」
男「もう、無理しなくていいんじゃないかな」
神娘「無理はしてないさ」
男「神らしく生きるとか、神らしく振舞うとかじゃなくて…人の中に居る神でもいいじゃないか」
神娘「…そうかもしれんな」
ヒュゥゥ…
男「…風だ」
神娘「私が起こしたんじゃないぞ」
男「知ってるよ、でも…」
―――「私は…神様であって神様ではない」
男「あれ」
―――「気を付けて」
男「待てよ」
神娘「ん?」
979:
――――「これで、私の役目も終わった」
男「神様が過去を認めた時に”神様になりきれなかった神様”は役目を終えた」
――――「彼女の強い罪の意識が私を呼んだんだ」
男「罪の意識が薄れた以上現れることは無い…だったら」
――――「そうだよ、私は神様だから」
男「『あの再び現れたの』は、どの神様だ?」
――――「教えてあげるよ」
男「何のために現れたんだ?神様の強い意識ってなんだったんだ?」
ヒュゥッ ヒュルルゥッ
ヒュゥッ
娘「それはね」
980:
娘「現れる筈のなかった私、神様の強く成長してしまった無意識の自我」
―――「私は人を生かす為ではない、人を殺すための神だ」
娘「一度目は過去への贖罪」
―――「戦争を止める為ではない、戦争を続けるための神だ」
娘「そして二度目は…」
―――「私としては、一緒に居られるだけでもいいのだ」
娘「決して混じりあうことの無い存在への恋慕」
―――「…神主」
娘「簡単に言えば私はお手伝いとか後押し役だね、損な役」
娘「大丈夫とか言っておきながら全然大丈夫じゃないんだよね」
娘「みっともなくて、卑屈で」
娘「…まあでも、いいかな」
娘「だってあれは私だもの」
981:
ザァァァッ…
娘「花嵐はいつ見ても綺麗、向こうに居る二人は見れないだろうけどね」フッ
ザァ…
娘「さあ、そろそろ行こう」スゥ…
ザッ…
娘「末永く仲良くね」
ザァァァァァァッ
ザァァァァァッ 
ザァァァッ…
ザァッ…
982:
男(風が吹いている)
神娘「おい」
男(どこまでも続く空に、風が)
神娘「手を繋ぐぞ、有無は言わせん」
男(願わくばいつまでも吹き続けているように)
神娘「ん?」
男(願わくば―――)
神娘「我を呼んだか?」
男「呼んだよ」
男(君に届く様に)
983:
後日談終了
ぎりぎりですねぎりぎり、私の頭がぎりぎりなせいでペース配分ぎりぎりですぎりぎりぎり
二か月もかかった点ももうぎりぎりですわぎりぎり
読んでくれてありがとうございました 人外物流行れこら
986:
神娘様ペロペロ…ここまで予測変換されるようになってしまった
ともかく乙です
987:
すごく面白かった

990:
すっごく面白かった
素敵な作品をありがとう!
991:
おつ
最高だった
994:
乙乙
夢十夜の使い方上手かったわ
996:
おつ
よかったです
997:
お疲れ様でした
久しぶりに楽しませてもらいました
999:
面白かった!
1000:
乙乙
950:
因みに何年待っていたのかわかった人は握手してください
有名な話なので分かる人はぴんと来るはず
952:
百年だよね…?
記憶が曖昧でなんとも言えんが夏目漱石の話だったような違ったような…
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