西住みほ「第501統合戦闘航空団が生み出した最強の戦車戦術」back

西住みほ「第501統合戦闘航空団が生み出した最強の戦車戦術」


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1:
大洗女子学園 資料室
みほ「よい、しょっと」
柚子「ごめんね。雑用を手伝わせちゃって。あとでサツマイモアイスご馳走するから」
みほ「いえいえ。そんな」
杏「まぁまぁ、大洗の大英雄にこんなことさせちゃったんだ。お礼ぐらいは受け取ってよ」
みほ「え、英雄だなんて! とんでもない!」
桃「西住はもう少し自分に自信を持てるようになれたらいいのだがな」
優花里「それが西住殿の良い所なんですよぉ」
桃「謙遜し過ぎるのはどうなんだ」
沙織「華ぁー、これもってよぉー」
華「はぁーい。今、いきますわ」
麻子「……」
沙織「こら、麻子。サボんないの。資料の整理、手伝うって言ったでしょ」
麻子「興味深いのを見つけた」
沙織「なになに? ええと、第501……戦闘……団……戦術書? 所々擦れてて読めないじゃん」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1415525980
2:
麻子「昔の戦車戦術が書き記されている」
沙織「そうなの? 文字が達筆すぎてよくわかんないけど」
麻子「古いものだからな。だが、面白い記述があるのも確かだ」
沙織「麻子、読めるの?」
麻子「?号突撃砲による電撃砲やポルシェティーガーの高移動戦術……などか書かれているな」
沙織「電撃砲は何となくイメージできるけど、ポルシェティーガーの高移動ってなに?」
麻子「弱点の多いポルシェティーガーを時70キロで走らせることに成功しているようだ」
沙織「なにそれすごい!! ど、どうやって!?」
麻子「それは……」
杏「なにしてんの? サボるなら私もまぜてー」
沙織「あ、会長。昔の戦車道がとんでもなく異次元なんですけど、知ってました?」
杏「いや、戦車道は昔からそんなに変わってないはずだけど?」
沙織「でも、これに書いてあることがすごすぎて」
麻子「これだ」
杏「どれどれぇ。へぇー、すごいじゃん。真似できるもんかねぇ」
3:
麻子「私たちもポルシェティーガーを有しているから、真似できればいいな」
沙織「来年の戦車道も優勝間違いなしだね!!」
杏「著者は坂本美緒って読めるな。戦車道の有名人に坂本美緒なんていたっけ……。西住ちゃーん、秋山ちゃーん」
みほ「なんですか?」
優花里「はいっ!」
杏「戦車の歴史に坂本美緒っていう人物がいたの知ってる?」
みほ「坂本美緒……? ごめんなさい、分からないです」
優花里「私も知りません。歴史上の人物にも坂本美緒という名前は存在してなかったかと」
杏「だよね。ってことは」
麻子「嘘の本だな」
沙織「嘘!? 嘘なの!?」
麻子「未来の人間を驚かせるためにそういった嘘を書き残した人物は割りと多い」
杏「まぁ、全部が嘘ってわけじゃないだろうけど、現代ではあり得ないことを書いてある本だってあるしねぇ」
沙織「なーんだ。やっぱりそううまい話はないってことね……」
みほ「……?」
4:
柚子「それより少しは手伝ってくださいよぉ、会長」
華「河嶋さん、これはどこに置けばいいでしょうか」
桃「それは向こうだ」
杏「さぁー、資料の整理、パパっと終わらせるぞぉー」
優花里「了解でぇす!」
沙織「ほら、麻子。終わらないと帰れないからね」
麻子「分かっている。この本はどうする?」
杏「偽の資料かもしれないとは言え、よく読んでみる価値はあるかもねぇ」
麻子「保留にしておくか」
杏「うんっ」
みほ「あれ?」
華「みほさん、どうかされましたか?」
みほ「いつの間にか霧が出てきてて」
華「本当ですわ。随分と深い霧ですねぇ」
みほ「ちょっと怖いな……」
6:
501基地 執務室
ミーナ「困ったわね……」
美緒「上層部の決定だ。従うしかない」
ミーナ「ここの基地を放棄しろと言われたようなものよ。私たちが留守にしている間にネウロイの襲撃があったらどうするつもりなのかしら」
美緒「しかし、バミューダ諸島にもネウロイが多数出現しているのだろう? 放っておくことはできん」
ミーナ「確かにバミューダはブリタニア領で私たちにも防衛義務があるのだけど……」
美緒「リベリオンだけでは手に負えないからこその応援要請だ。今すぐ全員に伝えるぞ」
ミーナ「みんなを休ませてあげたいのに……仕方ないわね……」
美緒「私も気持ちは同じだ。だが、その前に我々はウィッチ。世界の空を守るためにここにいる」
ミーナ「ええ。そうね。ごめんなさい」
美緒「いや、構わん。私の前では本音を出してくれ、ミーナ。でなければ、お前が潰れてしまうかもしれないからな」
ミーナ「それはお互い様、でしょ」
美緒「はっはっはっは。私はいつだって本音だ」
ミーナ「はいはい。……行きましょう」
美緒「了解」
8:
ブリーフィングルーム
ミーナ「明朝、バミューダ諸島上空に出現したネウロイの殲滅作戦に参加するため、ここを発ちます。みなさん、そのつもりで」
エイラ「バミューダってここからどれぐらい離れているんだ?」
シャーリー「5000kmぐらいじゃないか。いや、もうちょっとあるかな」
エイラ「うぇ……そんなにかよぉ……」
芳佳「もうリベリオンの近くだよね。これでもブリタニア領なんだ」
リーネ「うん、そうなの。だから私たちにも防衛義務があるの」
エーリカ「はいはーい」
美緒「なんだ?」
エーリカ「全員で行くことないんじゃない? ここの防衛だってあるんだしさ」
バルクホルン「私もハルトマンと同意見だ。せめて半数を派遣するのではいけないのか」
ミーナ「501で殲滅にあたれというのが上層部の決定です」
バルクホルン「だが……」
美緒「11人ならばそれだけ迅に殲滅することもできる。これ以上、奴らの好きにさせていればリベリオンがどうなるかわからんぞ」
シャーリー「それは困るなぁ」
9:
ルッキーニ「あたしはいくー!! シャーリーの故郷守らなきゃ!!」
芳佳「私も!! リーネちゃんのブリタニアを守りたい!!」
ルッキーニ「そっかぁ! あたしもリーネの故郷まもるぅー!!」
芳佳「一緒に頑張ろう!! ルッキーニちゃん!!」
ルッキーニ「あいっ!! やるぞー!! よっしかぁー!!」
芳佳「おぉー!!」
リーネ「芳佳ちゃん……ルッキーニちゃん……ありがとう……」
シャーリー「サンキュ、ルッキーニ、宮藤」
サーニャ「がん……ばりま……すぅ……すぅ……」
エイラ「サーニャはやる気十分だ。私もやるぞ」
ペリーヌ「わたくしもリーネさんとシャーリーさんの故郷を穢されて黙っておくことはできませんわ」
エーリカ「あーあ、行かなきゃ悪者になっちゃうねこれ」
バルクホルン「ここの守りは504が務めてくれるのか」
美緒「そうなっている」
バルクホルン「……それならいい。私からは何も言うことはない。隊長と少佐の指示に従う」
10:
ミーナ「それではみなさん、明日の作戦概要をよく確認しておいてください」
美緒「本日の軍務は全て中止にする。皆、体を休めておけ」
エイラ「夜間哨戒もなしか?」
美緒「当然だ」
エイラ「サーニャ、聞いたか? 今日はゆっくりできるぞ」
サーニャ「すぅ……すぅ……」
リーネ「あの、紅茶でも飲みながらみんなで作戦の確認をしたいなぁ……なんて……」
ペリーヌ「何を言っていますの。そういうことは各人で――」
美緒「おぉ。良い考えだな。全員、食堂に移動しろ。ペリーヌ、リーネ、宮藤。頭がよく回るほど甘く美味いものを用意してくれ」
ペリーヌ「はぁい!! いますぐにぃ!! 行きますわよ!! 宮藤さん、リーネさん!! 急ぎなさい!!!」
芳佳「ちょっとまってよぉ」
リーネ「待ってくださーい」
エーリカ「おかしだー! おやつだー!! わーい!!」
バルクホルン「はぁ……。大丈夫か……?」
シャーリー「あたしはいつも通りで安心したけどな」
11:
食堂
ペリーヌ「こちらはダージリンになります」
美緒「いつもすまないな、ペリーヌ」
ペリーヌ「いえ……少佐に喜んでもらえるならなんでもいたしますわぁ……」
エーリカ「おいひぃ」
ルッキーニ「よしかぁー、おかわりぃ」
芳佳「ちょっと待ってね!」
シャーリー「はむっ……はむ……。ん? 中佐、陸戦ウィッチもこの作戦に参加してるんですか?」
ミーナ「ええ。陸戦型のネウロイも確認されているみたいだから、そのためじゃないかしら」
シャーリー「ふぅーん」
美緒「何か気になるのか」
シャーリー「あたしたちも場合によってはそっちと戦わないといけないのかなって」
美緒「可能性はあるだろう。だが、あまり心配することもないはずだ。リベリオンの陸戦ウィッチは非常に優秀だと聞いている」
シャーリー「どうも」
バルクホルン「……」
12:
ルッキーニ「それにあたしもいるから、だいじょーぶぅ!」ギュッ
シャーリー「そうだな。ルッキーニは空でも陸でも海でも戦えるもんな」
ルッキーニ「うん!」
エイラ「ルッキーニ、いつも以上に張りきってるなぁ」
ルッキーニ「だって、リベリオンが危ないんだよぉ? バミューダだってどうなってるかわかんないし、リーネのためにもがんばらないと」
シャーリー「ありがとな」
ルッキーニ「にゃはっ!」
エイラ「……はむっ。宮藤ぃ、私にもおかわりくれぇ」
芳佳「あ、はーい」
エーリカ「んー……。バミューダ上空到着直後にネウロイと交戦する可能性については?」
ミーナ「無闇に戦闘空域へ入り、即全滅という事態を避けるために先行部隊は決めてあるわ」
エーリカ「どこどこ?」ペラッ
美緒「21枚目だ。先行する者はミーナ、バルクホルン、シャーリー、エイラ、ペリーヌ、宮藤の6人。選抜理由も書いてあるが不満があるのなら言ってくれ」
エーリカ「敵戦力を即座に把握できて、魔法持続力が高くて、高移動ができて、予知ができて、電撃で多数の敵を倒せて、治癒と防御も万全だね。誰かが撃墜される心配はなさそう」
美緒「はっはっはっは。私は臆病な性格だからな」
13:
エーリカ「臆病ね……」
ミーナ「作戦開始直後から、ルッキーニさん、リーネさん、サーニャさんには遠方からの射撃に徹してもらうとして、坂本少佐とハルトマン中尉は状況を見てといったところね」
バルクホルン「それでいい。後方にエースと英雄が控えているというだけでも私たちの気持ちも楽になる」
美緒「私はお前たちが前にいることで安心して戦えるのがな」
エイラ「サーニャとロッテ組めないのかよぉ」
ミーナ「エイラさんは私とね」
エイラ「えぇー……」
ミーナ「あら、嫌なのですか?」
エイラ「ゼンゼン、ムシロ、ノゾムトコロ、ナンダナ」
ミーナ「嬉しいわ」
バルクホルン「私は……宮藤とか……」
美緒「過去の経験上、バルクホルンには宮藤のシールドが必須だろう。また熱くなって前に出すぎるとどうなるか分からん」
バルクホルン「あ、あれは……昔のことだろう……」
エーリカ「よかったね、トゥルーデ。宮藤とロッテ組みたいって寝言でいつも言ってたし」
バルクホルン「言ってない!!!」
14:
エーリカ「いっふぇふぇっふぇ」
バルクホルン「言っていないと言っている!!!」グニーッ
ミーナ「やめなさい、バルクホルン大尉」
芳佳「坂本さん、おかわりどうですか?」
美緒「いや、私はいい。それよりも宮藤?」
芳佳「はい」
美緒「バルクホルンのこと、頼むぞ」
芳佳「い、いえ。私のほうがバルクホルンさんの足を引っ張らないようにしないと」
美緒「お前ならやれる。心配するな」
芳佳「自信はないけど、やれるだけのことはやります。それに後ろにはリーネちゃんもサーニャちゃんもいますから」
リーネ「わ、私のほうこそ自信が……」
サーニャ「ふりーがー……はまぁ……で……まも、り……ますぅ……」
美緒「すまないな……」
芳佳「坂本さん?」
美緒「なんでもない。それよりも、やはり菓子をもう一つ頼めるか?」
15:
翌日 滑走路
ミーナ「先行部隊の6人は前の輸送機に、残りは後ろの輸送機に乗って」
美緒「急げ!! 時間はないぞ!!」
芳佳「リーネちゃん、また後でね!」
リーネ「うん! 気をつけてね、芳佳ちゃん!」
シャーリー「いくかぁー」
ルッキーニ「うじゅー!!」
バルクホルン「エーリカ!」
エーリカ「なぁに?」
バルクホルン「リーネたちのこと、任せるぞ」
エーリカ「傷一つつけないって。トゥルーデも宮藤にちゃんと守ってもらいなよー」
バルクホルン「私が宮藤を守るんだ!!」
エイラ「サーニャ、気をつけてな。何かあったらすぐに行くからな」ギュッ
サーニャ「ええ、エイラも何かあったらすぐに呼んでね」ギュッ
ペリーヌ「エイラさん、早く行きますわよ」
16:
輸送機内
芳佳「エイラさん、今どの辺りなんですか?」
エイラ「どこなんだろうな。海ばっかりでわかんないなぁ」
ペリーヌ「宮藤さん、エイラさん。いつまで窓に張り付いていますの。恥ずかしい」
エイラ「やることないだろ」
ペリーヌ「作戦概要にもう一度目を通しておけばいいでしょう。わたくしのように」
エイラ「お前の資料、そろそろ穴が開きそうだな」
ペリーヌ「なんですって!?」
芳佳「ペリーヌさん、喧嘩はダメだよ」
ペリーヌ「エイラさんが余計なことを言うからわたくしはいつも怒ることになるんですのよ!!」
バルクホルン「緊張感の欠片もないな……」
シャーリー「……」
バルクホルン「シャーリー、大丈夫か?」
シャーリー「ん? 心配してくれてるのか?」
バルクホルン「今回の作戦はお前にとっては重要な意味を持つものだろう」
17:
シャーリー「重要って? リベリオンが絡んでるからか」
バルクホルン「そうだ」
シャーリー「そんなこと言ったらみんな一緒だろ。あたしだけが特別じゃない。違うか?」
バルクホルン「別にお前を特別扱いするわけではない」
シャーリー「じゃ、気にしないでくれ」
バルクホルン「こいつは……」
ミーナ「はいはい。ペリーヌさんもバルクホルン大尉も落ち着きなさい」
ペリーヌ「わたくしは落ち着いていますわ!!」
バルクホルン「私もだ!!」
ミーナ「そろそろ準備を始めてね。目的の空域にはこの輸送機ではいけないから」
芳佳「了解!!」
エイラ「りょーかぁい。宮藤ぃ、ユニット装着するぞー」
芳佳「はぁーい」
シャーリー「バルクホルン、もしガムを持っていたらあたしに一つくれないか? 後で必ず返す」
バルクホルン「ふざけるな。準備しろ」
18:
ミーナ「こちら、ミーナ。坂本少佐、聞こえるかしら」
美緒『こちら坂本』
ミーナ「あと120秒後に作戦を開始します」
美緒『了解。こちらはすぐにでも空を舞えるぞ』
ミーナ「みんなをよろしくね」
美緒『こちらにはハルトマンがいる。心配するな』
ミーナ「みんな! 準備はいい!?」
芳佳「いつでも行けます」
エイラ「さっさと終わらせて帰ろう」
ペリーヌ「もう少しやる気を見せたらどうですの、エイラさん」
エイラ「みせてるぞー」
ペリーヌ「どこが!?」
シャーリー「ふぅー……」
バルクホルン「時間だな」
ミーナ「――発進!!!」
19:
美緒「ミーナたちが出たようだな。ルッキーニ、サーニャ、リーネ、用意はいいな!?」
ルッキーニ「うにゃ!」
サーニャ「行けます」
リーネ「大丈夫です!」
ミーナ『坂本少佐』
美緒「ネウロイの数は?」
ミーナ『10。その内、大型ネウロイは2よ』
エーリカ「ルッキーニ! サーニャ! リーネ! 早く出て!」
ルッキーニ「了解!」ブゥゥゥン!!!
美緒「どうした、ハルトマン?」
エーリカ「霧みたいなのが発生してる。先行部隊が目視できなくなりそう」
美緒「となると私の魔眼かサーニャでなければ……」
エーリカ「少佐、3人のこと任せていい? 私は先行部隊の援護に行きたいんだけど」
美緒「待て。お前が行ってしまうとこちらの守りが薄くなる。すまないが耐えてくれ」
エーリカ「……了解」
20:
ルッキーニ「でぇぇい!!」バァァン!!!
リーネ「ふっ!」バァン!!
サーニャ「エイラ、避けてね」バシュッ!!
エイラ『あらよっと。サーニャ、援護ありがとなぁ。もっと私の背中を狙って撃ってくれていいかんな』
サーニャ「うんっ」
リーネ「私もあれぐらいの連携が芳佳ちゃんとできたらな……」
ルッキーニ「んにゃ? シャーリーたちが雲の中に隠れちゃった。みーえーなーいー」
リーネ「え?」
サーニャ「雲? 霧のようにも見えるけど……」
リーネ「芳佳ちゃん、大丈夫? 芳佳ちゃん?」
ルッキーニ「シャーリー!! だいじょーぶー!?」
サーニャ「坂本少佐!! 先行部隊と無線が繋がりません!!」
美緒「魔眼で確認している。6人は無事だが視界の悪さからか苦戦しているようだな。サーニャ、魔法を活かして援護を頼む」
エーリカ「――先いくよ!!」ブゥゥゥン!!!
美緒「なに!? 待て!! ハルトマン中尉!!」
21:
バルクホルン「小型のネウロイは全て破壊できたか!?」
芳佳「視界が悪くてわかりません!!」
シャーリー「こっち手伝ってくれ!! デカいのが邪魔なんだ!!」
バルクホルン「仕方ない! ペリーヌ!! 小さいのは任せるぞ!!」
ペリーヌ「了解!!」
芳佳「ミーナ隊長!! 応答してください!! ミーナ隊長!!」
バルクホルン「無駄なことはやめろ。無線は通じない」
芳佳「でも……」
エイラ「――宮藤ぃ!!」ゴォォォ
芳佳「エイラさん!? どうしたんですか!?」
エイラ「こっちにこい!!」グイッ!!
芳佳「え? な、なんですか!?」
エイラ「いいから!! あ、ダメだ!! 大尉!! 宮藤の腕を引っ張ってくれ!!」
芳佳「せ、説明してください!!」
バルクホルン「エイラ、何か見えたのか?」
22:
エイラ「お前が消えるんだ! 黙ってろ!」
芳佳「え?」
バルクホルン「消える?」
ゴゴゴゴ……
芳佳「わわっ!?」
バルクホルン「宮藤!!」グイッ
エイラ「くそぉ……!! 始まった……!!」グイッ
芳佳「な、なんですか!? 体が後ろに……!?」
バルクホルン「宮藤! エンジンを限界まで回せ!!」
芳佳「やってます!!」
エイラ「だ、めだぁ……!! 引っ張られる……!!」
シャーリー「なにやってんだ!?」
ペリーヌ「どうされましたの!?」
バルクホルン「シャーリー!! 私たちを最大度で引いてくれ!!」
シャーリー「わ、わかった!!」
23:
ミーナ「みんな!? 無事!?」
ペリーヌ「ミーナ……中佐ぁ……!!」
ミーナ「みんなが光の中に……!? 手を伸ばして!!」
シャーリー「いや、ダメだ!! 中佐は少佐と合流してください!!」
ミーナ「なにを言っているの!?」
エイラ「宮藤と大尉がもう消えたんだ! 私たちも抜け出せそうにない!」
ミーナ「なんですって!?」
ペリーヌ「少佐に一言だけ伝え――」
ミーナ「ペリーヌさん!? 今助けるわ!!」
シャーリー「中佐! リベリオンのこと、お願いします!」
ミーナ「やめなさい!! エイラさん!! どうして1人で行動したの!?」
エイラ「隊長が消えたら、サーニャを誰に任せたらいいんだ。頼――」
シャーリー「ルッキーニによろし――」
ミーナ「待って!!! シャーリーさん!! エイラさん!!!」
ミーナ「あ……反応が……消えた……」
24:
エーリカ「ミーナー!!!」ブゥゥゥン!!!
ミーナ「……」
エーリカ「ミーナ! みんなはどこだ!?」
ミーナ「……」
エーリカ「ミーナ! おい!! しっかりしろ!!」
ミーナ「みんな……きえた……」
エーリカ「……」
ネウロイ「……」ゴォォォ!!!
エーリカ「――シュトゥルム!!!!」
パリィィィィン……!!
エーリカ「はぁ……はぁ……。ほら、ミーナ。ネウロイやっつけたよ。帰ろう」
ミーナ「みんなが……きえた……わたし……」
エーリカ「隊長、しっかりしてください」
ミーナ「あ……フラウ……ご、ごめんなさい……」
エーリカ「そんな顔、他の隊員の前では絶対に見せないでください。……ほら、いこっ」
26:
リーネ「え……」
ミーナ「ごめんなさい。救出しようと思ったのだけれど、もう手遅れで……」
ルッキーニ「シャーリーはぁ!? 芳佳はぁ!? ペリーヌはぁ!? エイラはぁ!? 大尉はぁ!?」
ミーナ「分かりません」
ルッキーニ「う……うぇぇぇぇん……!!」
サーニャ「……」
エーリカ「まぁまぁ、光の中に吸い込まれただけで撃墜されたわけじゃないし。探せば見つかるって」
リーネ「芳佳ちゃん……芳佳ちゃんが……」
エーリカ「落ち込まない、落ち込まない。ネウロイもいなくなったし、ゆっくり探せばいいだけじゃん?」
サーニャ「でも、みんなの反応はどこにも……」
エーリカ「サーニャん、そういう言い方はよくないって。ちゃんと探してもないのに」
美緒「ハルトマン中尉、無理はするな」
エーリカ「無理なんてしてないよー。ほら、元気出して探そうー!」
美緒「ミーナ、捜索の応援要請をしたい。リベリオン海軍と連絡をとってくれるか?」
ミーナ「ええ。そのつもりよ。私たちも全力で捜索をしましょう」
27:
学園艦 演習場 ?号戦車内
沙織「全然、見えないんだけど!! もー! どうなってるのよー!! 戦車の練習できないじゃーん!!」
みほ「こんな濃霧、初めてだよね」
優花里「海霧なんてこのあたりでは滅多に発生しないはず。これは貴重な経験ですよ」
華「初体験なので個人的にはワクワクしてしまうのですが、沙織さんの言うとおりこれでは練習ができませんね」
みほ「うん、無線も調子悪いみたいだし。沙織さん、直ったかな?」
沙織「ダメ。雑音しか入んない。こんなの初めてだよぉ」
みほ「困ったな……どうしよう……」
優花里「西住殿、西住殿、これを使いましょう!」サッ
みほ「え? ビューグルを使うの?」
優花里「集合の合図はカバさんチームと決めてありますから」
みほ「みんなに伝わらないと意味がないような……」
優花里「あぅ……すみません……」
みほ「あぁ……。あ、で、でも、鳴らせばみんなが音のほうへ集まってくれるかもしれないから、鳴らしてみてくれない?」
優花里「は、はい!! では、不肖、秋山優花里!! 信号ラッパを奏でさせていただきます!!!」
28:
パパパパッパパパパパッパパパ?♪
麻子「ん……朝か……」
沙織「麻子、寝てたの? まだ授業中だよ」
麻子「そうか。でも濃霧では何もできないだろう。だから、英気を養う……ために……」
沙織「ダメー!! ねるなぁー!!」
みほ「ありがとう、優花里さん」
優花里「いえ!! いつか使えると思って常備しておいてよかったです!!」
華「みほさん、みなさんが集まってきてくれたようですよ」
みほ「ホント。優花里さんのおかげだね」
優花里「そんなぁ……大したことではないですよぉ……」
沙織「これだけ近づいてくれたら、無線も……」
『……い……ら……じ……』
沙織「お! 通じた! さっすが私!!」
みほ「沙織さん、みんな戦車から降りたみたいだから、私たちも降りよう」
沙織「え? そうなの? うん、わかった」
29:
杏「西住ちゃん、どうする?」
みほ「あと20分しても晴れないようなら、練習は中止にしましょう」
ナカジマ「折角レオポンの足回りを改良したのになぁ」
ホシノ「まぁ、また放課後にでも動かせばいいんじゃない?」
カエサル「隊長殿、この状況は正しく戦場の霧だ。この悪条件での訓練もこなしておくべきだと思う」
みほ「でも、今日は本格戦闘を想定した練習をするつもりはないから」
梓「私は西住隊長に賛成です」
ねこにゃー「前が全く見えないと的もわからないから……」
典子「根性で霧ぐらい晴らしてみせます!!!」
みどり子「危ない状況で練習して怪我でもしたらどうするつもりなのよ」
杏「怪我は絶対にNGだからなぁ」
カエサル「まぁ、私たちは西住隊長の指示に従うしかないんだけど」
杏「そういうことだねぇ。でも、飽くまでも予定の練習が中止になるだけだぞぉ。ね、西住ちゃん?」
みほ「は、はい。戦車に乗らなくてもできる練習はいくらでもありますから」
典子「おぉー!! 私、そういうの大好きです!!」
30:
格納庫
柚子「無事にここまで戻ってこれたね、桃ちゃん」
桃「桃ちゃんと呼ぶな」
典子「何から始めますか!? やはりウサギ跳びでしょうか!?」
みほ「いえ。この地形図を見ながら、各チームで戦略を練ってもらおうかなって」
カエサル「おぉ。確かにいい訓練だ」
みほ「仮想の敵は黒森峰。相手戦力は前回の決勝戦と同じとします。各チームで勝つためにはどうすればいいのか考えてください」
みほ「戦場の条件が違っているため、前回と同じ戦術では負けると思ってくれていいです」
ねこにゃー「む、難しそうだけど、いつもネトゲでそういうのやってるし、いけるかも」
ももがー「がんばるなりー」
梓「みんなー! 集合ー!!」
あや「おぉー!!」
桂利奈「どうする、どうする!? まずはやっぱり高台をおさえちゃう!?」
杏「各自で判断して行動できるようになれば、今よりも強いチームになるね」
みほ「上手くなることで、もっと戦車道を楽しんでくれたらいいなって思います」
31:
エルヴィン「決勝戦での黒森峰は森を突っ切りショートカットしてきたな。となれば、この地形でも同じ事をする可能性がある」
おりょう「森林戦を仕掛けるぜよ?」
カエサル「つまりソロモン諸島の戦いのような?」
左衛門佐「いや、ニューギニアの戦いだな」
おりょう「ビルマの戦いっ」
エルヴィン「森林戦を語るときはバルジの戦いからだ」
カエサル・左衛門佐・おりょう「「それだ!!」」
ツチヤ「この辺りならレオポンがドリフトできそう」
スズキ「それならこっちの道でやったほうがカッコよさそうだけど」
ホシノ「となるとここで度をできるだけ上げて……」
ナカジマ「真面目にやらない?」
典子「うーん……」
妙子「んー……」
あけび「えーと……」
忍「むぅ……どこから手をつけましょうか……キャプテン……」
32:
優花里「みなさん、真剣ですね。どんな戦術を考えているのか気になります」
みほ「そうだね」
麻子「だが、これに答えなんてあるのか? 同じ戦力を想定しているなら隊長も西住さんのお姉さんになるが」
華「そうですね。まほさんならこちらの動きを見てからでも作戦を変えてくるでしょうし」
沙織「実際、みぽりんがそういう感じだもんね」
みほ「戦術に答えなんてないよ。そのときの状況もあるから。ただみんなでこうしてじっくりと話し合って、考えてもらうのが目的だから」
麻子「そういうことなら、私たちもやるか」
優花里「はい!! 西住殿、お願いします!!」
みほ「うんっ」
沙織「やっぱり、電撃戦は仕掛けてくるって思ったほうがいいよね」
華「でしたら、簡単には見つからない位置を……」
杏「いいなぁ。みんな楽しそうだ。もう1年、遅く生まれてたら……」
柚子「会長。授業は続きますから、まだまだやることはありますっ」
桃「会長、いい作戦を思いつきました。これで西住を驚かせることもできます」
杏「ああ、そうだなぁ。私らしくなかった。よぉーし、河嶋ぁ、作戦を発表してみぃ」
33:
華「霧が晴れてきたようですね」
みほ「よかったぁ」
沙織「帰るときまであの霧だと歩けないもんね」
優花里「そういえば1ヶ月ぐらい前にも結構深い霧が出てましたよね。今日ほど濃いものではなかったですけど」
華「あぁ、そうでしたね。忘れていました」
みほ「あの時はすぐに晴れたからね」
麻子「2週間前にも霧は発生していた。夜だったけど」
沙織「麻子、また昼夜逆転してるの?」
麻子「気にするな」
沙織「気にするよ。お昼寝はやめなさいってば」
優花里「まだ発生は稀といえますけど、夏の北太平洋でもなければ海霧はそこまで体験できないはずなのですが……」
華「海の天気ですから。こういうこともあるではないですか?」
優花里「うーん……不思議ですね……」
みほ「もしかして霧じゃないとか?」
優花里「なるほど! その発想は盲点でした!! 霧でなければ説明がつきますね!! 流石、西住殿!!」
34:
麻子「なら、あの霧のようなのはなんだったんだ?」
沙織「そこだよね」
華「みほさん、なんだったのですか?」
優花里「教えてください!!」
みほ「ちょっと待って! 私も今、思いつきで言っただけだから!!」
優花里「そ、そうですか」
みほ「ごめんなさい……」
優花里「いえ!! 西住殿の仮説は正しいかもしれません!! そういう柔軟な発想があったからこそ、私たちはあの黒森峰にも勝てたのです!!」
みほ「あはは……ありがとう……」
麻子「仮説は立証しないと意味がないな」
みほ「そんなのできない……」
桃「西住!! 戦略が決まったぞ!!」
梓「私も決まりました!! 見てください!!」
カエサル「この戦術ならばヘラクレアの戦いになることは間違いないが、勝てるはず!!」
みほ「じゅ、順番にお願いします」
38:
典子「ここを根性で突っ切って、ここも根性で突破して、最後は根性で突撃します!!!」
妙子「最高の作戦ですね!!」
みほ「えっと……。回り込まれて、逆包囲されたらどうするんですか?」
典子「え……。えと、だったら、更に相手の裏側に……こう、移動する感じで……」
みほ「あー……うん……えー……」
杏「遠まわしだったけど河嶋の作戦もダメ出しされまくったね」
桃「あ、穴があったのは認めますが」
柚子「西住さんから見れば穴しかなかったと思うよ、桃ちゃん」
桃「うるさい!!!」
カエサル「私たちの作戦にもあまり良くなかったみたい」
おりょう「完全に哀れみの目を向けられていたぜよ」
左衛門佐「かえって気を遣わせたな」
エルヴィン「車長としてまだまだ学ぶべきことが多いか……」
梓「はぁ……やっぱり西住隊長はすごいなぁ……。もっとがんばらないと! 重戦車キラーにはなれない!!」
優季「でも、梓の作戦褒められたじゃぁん。すごいことだよぉ」
39:
放課後 公園
みほ「ふぅー……」
沙織「お疲れさま、みぽりん。はい、ジュース。買って来たよ」
みほ「ありがとう、沙織さん」
沙織「でさ、みんなの戦術はみぽりん的にはどうだったの? やっぱりダメダメ?」
みほ「ううん。そんなことはないよ」
沙織「それにしてはズバズバと欠点を挙げてたけど」
みほ「あれはちょっと意地悪な質問をしちゃっただけだから」
沙織「意地悪って?」
みほ「いくら事前に綿密な戦術を組んでもその通りに行かないことも珍しくないし、想定外のことだって起きる。だから、少しだけ意地悪な質問をしたの」
沙織「そうなんだ」
みほ「みんなすごいよ。磯辺さんなんて勝てる可能性が最も高い戦術を考えてくれていた。その所為で逆転される隙を相手に与えるところもあったけど」
沙織「……」
みほ「カエサルさんや澤さんもその点で言えば大体同じだし、河嶋さんと会長が考えた作戦なんて普通は見破れ……。あれ? あの、沙織さん? 私の顔に何かついてる?」
沙織「みぽりんはやっぱりちゃんとみんなのこと見てるんだなぁって。私たち、最高の隊長と一緒に戦車道ができて幸せなんだよね」
40:
みほ「わ、私は別に、見たままの感想を言っているだけ……」
沙織「それがいいんだってぇ」
みほ「そ、そうかな……」
沙織「また来年も頑張ろうね」
みほ「うんっ」
沙織「さーてと、そろそろ帰ろうか」
みほ「そうだね。華さんたちは?」
沙織「麻子が寝ちゃって向こうのベンチに――」
みほ「ん?」
沙織「どうしたの?」
みほ「あれ、何かな?」
沙織「あれって何?」
みほ「向こうの空から何か来る……」
沙織「へ? あ、なんだろう? 飛行機にしては小さいような……」
みほ「鳥でもないし……あれは……」
41:
沙織「なんかこっちに近づいてきてない?」
みほ「……」
沙織「ねえ、みぽりんってば」
みほ「……人」
沙織「え?」
みほ「人が落ちてくる!」
沙織「人!? なんで!?」
みほ「どうしよう!? このままだと……!!」
沙織「どうするって言われても、マットとかないし!!」
みほ「ゆ、優花里さんなら持ってるかも!!」
沙織「可能性は低いけど聞いてみる!! ゆかりーん!!! ゆかりーん!!!」
優花里「はぁーい。なんですかぁ?」
沙織「マットとかクッションとかもってない!? 人が落ちてくるんだけど!!」
優花里「え!? ちょ、ちょっと待ってください!! あるかもしれません!!」
みほ「ダメ!! 間に合わない!! みんな!! 離れて!!」
42:
ドンッ!!
沙織「きゃ!?」
優花里「あ……」
華「な、なんですか? 今の凄い音は」
麻子「ぅん……朝か……?」
みほ「優花里さん、救急車!!」
優花里「は、はい!!」
沙織「ど、ど、どうしよう!!」
みほ「沙織さん!! 近くに救命機器があるはずだから持ってきて!!」
沙織「う、うん!!」
華「わたくしも探してきます!!」
みほ「大丈夫ですか!?」
芳佳「……」
麻子「西住さん、頭を打っているかもしれないから動かさないほうがいい」
みほ「あ、そうだね。えっと、意識はあるのかな……出血はないみたいだけど……」
43:
麻子「落ちてきたということは飛行機からか?」
みほ「でも、学園艦の上空には何も飛んでなかったような……」
麻子「どちらにせよ、それなりの高度から落ちてきて頭を打ったなら激しい出血は避けられないはずだ」
みほ「なら、頭は無事?」
麻子「傷は……擦り傷はあるみたいだが……。呼吸は?」
みほ「えっと……」
芳佳「う……うぅ……」
みほ「え!?」
麻子「気が付いたか?」
芳佳「あ……ぁ……こ、こは……?」
みほ「お、大洗の学園艦です」
芳佳「がくえんかん……?」
麻子「痛いところはあるか?」
芳佳「全身が……痛いです……」
みほ「だ、だよね! ちょっと待ってて! すぐに救急車が来るから!!」
44:
優花里「西住殿!! 5分以内に救急車は来ると思います!!」
みほ「ありがとう、優花里さん」
優花里「それで、大丈夫……ではないですよね……?」
麻子「いや、意識はあるし、受け答えもできている。目立った外傷はないから、命に別状はないだろうな」
優花里「えぇ!? でも、落ちてきたんですよね!?」
みほ「う、うん。そうなんだけど……」
芳佳「あ、ちゃんとシールドを張りましたから」
みほ「シールド?」
芳佳「はい……」
みほ「……」
優花里「シールドらしき装備は見当たりませんね」
麻子「この制服はどこのものだろうな。この大洗の制服ではないし、その下も水着を着ている」
優花里「これは旧スクですね。奥が深い水着として認知されています」
麻子「こんな奇抜な格好をしている学校なんてあったか?」
みほ「さ、さぁ……」
45:
芳佳「それより、あの、ネウロイはどうなったんですか?」
みほ「ねうろい?」
芳佳「はい。バミューダ諸島上空にいた、ネウロイは……?」
みほ「あの……?」
優花里「バミューダ海域まではかなり遠いですよね」
麻子「ここからだとアメリカ大陸を越えていくほうが近いな」
芳佳「え? ここ、バミューダ諸島じゃないんですか?」
みほ「うん。今は日本海の真っ只中だから」
芳佳「にほん……? にほんかいってどこですか?」
みほ「日本は日本だけど」
優花里「極東の島国です!」
芳佳「それは扶桑のことじゃ……」
みほ「ふそう?」
麻子「扶桑は日本の古い異名だな。普通は使わない」
芳佳「えっと……なにをいっているのかわからないんですけど……」
46:
優花里「戦艦の扶桑のことを言っているのでは?」
麻子「極東の島国と聞いて戦艦を思い浮かべないだろ」
みほ「やっぱり、頭を打ったんじゃ……」
芳佳「待ってください!! ここは一体ど……ぐっ……!?」
みほ「ああ、動かないで!!」
芳佳「リベリオンや……ブリタニアは……」
みほ「リベリオン?」
麻子「ブリタニアときたか。古代ローマで使われていたものだな」
優花里「申し訳ないんですが、そのような国名は今現在使われていません」
芳佳「あの……第501統合戦闘航空団は……?」
みほ「え? ごめんなさい……。優花里さん、知ってるかな?」
優花里「い、いえ、そのような名称の隊なんて聞いたことがないです」
麻子「少なくとも日本にはない」
芳佳「なら……ここは……?」
麻子「記憶が混乱しているんだろう。落ち着けば次第に記憶も戻るはずだ」
47:
沙織「みぽりーん!! あったよー!!!」
華「わたくしも見つけてきましたー!!」
みほ「ありがとう!」
沙織「さ、使うよ!!」
華「わたくしのも使ってください!」
麻子「張り切るのはいいが、それを使う必要性はない」
沙織「なんで!?」
優花里「しっかりと意識があるので」
華「そうなのですか?」
みほ「でも、記憶が曖昧になってるみたいで……」
芳佳「ここは……どこ……なんだろう……。私は……501にいて……」
沙織「なんか、そっちのほうがヤバくない?」
優花里「少し話を聞いたのですが、名前はミヤフジヨシカといって、階級は軍曹らしいんです」
麻子「扶桑皇国海軍遣欧艦隊第24航空戦隊288航空隊所属とも言っていたな」
沙織「な、なにそれ? どこの国のことなの?」
48:
華「記憶が曖昧になっているにしては、おかしな感じですね」
優花里「オンラインゲームでのチーム名かもしれませんよ。戦車のゲームは勿論ですが、航空機を操って戦うものもありますから」
沙織「ああ、それと混ざっちゃってるわけだ」
麻子「仲間にはバルクホルンやペリーヌなんて人もいるらしい。常識的に考えればネット上で使うハンドルネームだろうが」
華「記憶喪失だとしたら、心配ですね」
優花里「加えて何故空から落ちてきたのかもわかりませんし」
沙織「そうだ! 怪我は!? 流石に骨折とかはしてるんじゃない!?」
麻子「シールドで衝撃を緩和したと本人は言っていたが」
沙織「シールド?」
優花里「益々、ゲーム世界の話のように思えてきますね」
華「ゲームですか……わたくし、そういうことには疎くて……」
みほ「腕は動く?」
芳佳「はい……なんとか……」
優花里「あ! 西住殿!! 救急車が到着したようです!! 私がここまで車両を誘導しますね!!」
みほ「うん。お願い」
49:
芳佳「……」
みほ「もう大丈夫だよ」
芳佳「あの……」
みほ「なに?」
芳佳「……助けてくれて、ありがとうございます」
みほ「そんな。気にしないで」
芳佳「でも、信じてください。私、やっぱり501でネウロイと戦っていたんです」
みほ「それは……」
芳佳「リーネちゃんやルッキーニちゃん……それから坂本さん……みんなと一緒に……」
華「みほさん、救急車に同乗されてはどうですか?」
みほ「え?」
華「ミヤフジさんのことが分からないと、わたくし心配で水も喉を通りそうにありませんわ」
みほ「……そうする」
沙織「何か分かったら教えてね、みぽりん」
麻子「秋山さんが救急隊員を連れてきてくれたな」
50:
病院 病室
芳佳「……」
みほ「宮藤さん。実家の連絡先なんかは思い出せた?」
芳佳「扶桑皇国の――」
みほ「さっきも言ったけど、その住所は存在してないの……」
芳佳「この世界にはウィッチはいないんですね」
みほ「うん」
芳佳「魔法もない……」
みほ「よく思い出して、宮藤さん。それはゲームか何かじゃ……」
芳佳「違います!!」
みほ「……」
芳佳「あ、すみません……。だけど、あれが全部夢かなにかだったなんて信じられなくて……」
みほ「……よし。宮藤さん。第501統合戦闘航空団のこと教えて」
芳佳「え……?」
みほ「少なくともその航空団にいる人は宮藤さんのことを知っているはずだから、調べればなにかわかるかも」
51:
芳佳「ありがとうございます。ええと……」
みほ「ごめんなさい。私は西住みほ。よろしく」
芳佳「はい。西住さん」
みほ「それで、えっと、501のことなんだけど」
芳佳「はい。501は各国からミーナさんと坂本さんが優秀なウィッチを集めて作ったものなんですけど」
みほ「ネウロイと戦うためなんだよね」
芳佳「そうです! そこにはバルクホルンさんやシャーリーさんがいて……」
みほ「そこに所属してる人の名前を教えて欲しいな。名前が分かれば手がかりにもなるだろうし」
芳佳「はい! 501の隊長はミーナさん……ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐っていうんですけど……。聞いたことないですか? かなり有名なんですけど」
みほ「ごめんなさい……」
芳佳「そうですよね……。なら、坂本さん……坂本美緒少佐のことも……」
みほ「……さかもと、みお?」
芳佳「はい、漢字で書くと」
みほ「もしかして……こう……?」カキカキ
芳佳「そうです! あれ? なんで知ってるんですか?」
52:
杏『もしもーし。角谷杏だよぉ』
みほ「会長、夜分遅くにすみません」
杏『いーよ。西住ちゃんからの電話なら24時間受付ってから』
みほ「あの、以前、資料室で私に坂本美緒を知っているかどうか聞きましたよね?」
杏『あぁ、あの嘘っぽい戦術書の著者ね』
みほ「その戦術書はどこにあるんですか?」
杏『手元にあるよ。実はずっと読んでたんだよね。何かの参考になればと思ってさ』
みほ「何か参考になりそうなこと書いてありましたか?」
杏『いーや。ダメだね。加の魔法をーとか意味不明なこと書いてあって、戦車道の参考にはまずならないな。でも、創作の読み物としては面白いから全部読んじゃったけど』
みほ「魔法ですか?」
杏『うん。何度かその単語は出てくるよ。まぁ、所々読めないところもあるし、達筆だから本当に魔法って書いてあるのかわかんないし、私たちの知っている意味とは違うかもしれないけど』
みほ「会長、本当に申し訳ないんですけど。今からその戦術書を病院まで持ってきてくれませんか?」
杏『いいよ。何号室?』
みほ「え……。理由は聞かないんですか?」
杏『なんで? 理由なんてそっちにいってから聞けばいいじゃん。それで、何号室?』
53:
杏「――おまたせぇ、西住ちゃーん」
みほ「すみません」
杏「気にしない、気にしない」
芳佳「はじめまして」
杏「ご丁寧にどうも。私、角谷杏。よろしくぅ」
芳佳「私は宮藤芳佳です。よろしくお願いします」
杏「素直そうでいい子だねぇ」
芳佳「あ、ありがとうございます」
みほ「会長、戦術書を宮藤さんに」
杏「はい、これね」
芳佳「これは……?」
杏「坂本美緒って人が書いたもの」
芳佳「坂本さんが!? み、見てもいいですか!?」
杏「どうぞ、どうぞ。で、これに何かあるわけ?」
みほ「はい。実は――」
54:
杏「ふぅーん。なんかややこしいことになってんだねぇ」
みほ「それで著者の名前が一緒なので、もしかしたらと思って」
杏「手がかりになればいいけどなぁ。宮藤ちゃん、どう?」
芳佳「こ、これ……坂本さんの字です……」
杏「間違いない?」
芳佳「はい!! 間違いないです!!」
杏「となると、困ったことになったね」
みほ「どうしてですか? この坂本さんを探せば宮藤さんのこともわかるはずです」
杏「1945年に書かれているものなんだよね、それ」
みほ「1945年……!?」
杏「宮藤ちゃん、その坂本って人は何歳?」
芳佳「20歳です……」
みほ「えぇ……」
杏「1945年で20歳だとすると、今現在は90歳近いことになるか」
芳佳「さ、坂本さんはおばあちゃんじゃないです!!」
55:
杏「まぁまぁ。宮藤ちゃんの言う坂本って人は20歳。でも、その本は1945年に書かれている。どういうことか」
みほ「もしかして、宮藤さんは……」
杏「その本が本物で、宮藤ちゃんの言っていることが全部本当ならそうなるねぇ」
みほ「そ、そんな!! 現実にタイムスリップなんて!!」
杏「可能性の一つだから。宮藤ちゃんがこの坂本って人の名前をどこかで見たってことも考えられるしな」
みほ「そ、そうですね……」
芳佳「あの、タイムスリップだとか……何をいって……」
杏「それにだ。宮藤ちゃんのいう世界では日本は扶桑、イギリスはブリタニア、フランスはガリアって呼ばれてるみたいだけど、1945年でも一般的にそんな風には呼ばれてない」
みほ「そっか……」
杏「宮藤ちゃんが過去から来たっていうのは違うっぽいね」
みほ「だったらこの戦術書は?」
杏「宮藤ちゃん。それ読んでみて、気になることとか書いてあった? 例えば仲間の名前が一緒とか」
芳佳「はい。バルクホルンさん、シャーリーさん、ペリーヌさん、エイラさんの名前が出てきます」
みほ「あ、バルクホルンさんやシャーリーさんはさっき言ってたね。それにペリーヌさんも公園で聞いた名前」
芳佳「でも、ほかの名前がないんです。リーネちゃんにルッキーニちゃんにサーニャちゃん、ハルトマンさんだって書いてない……。なによりミーナ隊長の名前がないなんて……」
56:
みほ「宮藤さん……」
芳佳「どうしてだろう……。それにこれ戦車のことばっかり書いてある……私たちは航空団なのに……」
杏「その本に宮藤ちゃんの名前は?」
芳佳「私の……名前……」
杏「書いてある?」
芳佳「……ありません」
杏「そう」
芳佳「どうして……坂本さん……」
みほ「会長、これって……」
杏「宮藤ちゃん、今日はもうゆっくり寝たほうがいい。寝て起きたら思い出せていることもあるかもしれないからな」
芳佳「はい……。あ、これ。ありがとうございました」
杏「うん。お大事に」
芳佳「……」
杏「西住ちゃん、一緒に帰ろうか」
みほ「で、でも、このままにしておくなんて……」
57:
杏「まぁまぁ」
みほ「まぁまぁじゃなくて」
杏「この著者のことや本については何とか調べてみるよ」
みほ「会長、それなら私も」
杏「いいって、いいって。西住ちゃんはまた明日も宮藤ちゃんのお見舞いには行ってくれる?」
みほ「それは勿論です」
杏「おし。これを調べるのは私の役目。西住ちゃんの役目はお見舞いね」
みほ「……はいっ」
杏「あとバルクホルンやシャーリーって人も探してみないとな」
みほ「どうやって探すんですか?」
杏「もしネット上で使われている名前なら?」
みほ「そうか、猫田さんなら!」
杏「そうそう。あと宮藤ちゃんのことは悪いようにしないから」
みほ「どういうことですか?」
杏「ふふん。じゃ、おやすみぃ」
58:
芳佳「私、どうしちゃったんだろう……。あんなに楽しかったことも全部……」
芳佳「ううん! そんなことない!! そんなこと……」
みほ「宮藤さん」
芳佳「あれ? 西住さん、帰ったんじゃ」
みほ「ウィッチとか魔法とかネウロイとか、今はまだ信じられない」
芳佳「……」
みほ「でも、宮藤さんのことは絶対に助けるから」
芳佳「いいんですか? 私自身、自分のことが分からなくなりそうで……」
みほ「大丈夫。だから、元気だして。って、こんなこと言っても他人事みたいに聞こえちゃうかもしれないけど」
芳佳「――ありがとうございます!! 私もできるだけ色んなことを思い出します!!」
みほ「うん。今は不安かもしれないけど、なんとかするから」
芳佳「色々とすみません。私にできることがあったら言ってくださいね。これでも治療とかならできるので」
みほ「治療?」
芳佳「はい! 魔法で!! こう、パァっと」
みほ「ちょっと待って……それ……」
62:
翌日 西住宅
みほ「う……ん……。なんだろう……懐かしい香りが……」
芳佳「味は、良し。よかった。こっちでも同じ味が出せて」
みほ「宮藤さん?」
芳佳「あ、おはようございます、西住さん」
みほ「何してたの?」
芳佳「朝ごはん、作っていました。もうすぐ出来ますから待っていてくださいね」
みほ「ありがとう。でも、そこまでしなくても。宮藤さんはお客さんなんだし」
芳佳「助けてもらった上に、こうして私を泊めてくれたんです。朝ごはんぐらい作らせてください」
みほ「本当なら1日ぐらいは入院したほうがよかったんだけど……」
芳佳「私の体ならなんともないですから。それにあんなことになっちゃいましたし」
みほ「あはは……そうだね……。私の所為で……」
ピリリリ……
みほ「あ、ごめんね。電話みたい」
芳佳「電話!? その小さいのが電話機なんですか!? 西住さんは冷蔵庫まで持ってるし、こっちの世界は魔法よりも魔法みたいなものが多い気がする……」
63:
杏『おっはよ、西住ちゃん。昨日は大変だったみたいだねぇ』
みほ「すみません。宮藤さんのいう魔法を確認しようとしたら、大騒ぎになって」
杏『まぁ、私も半信半疑だったから試してくれたのはありがたかったよ。でも全治数ヶ月の重傷患者が一晩で治っちゃったら、そりゃ大騒ぎにもなるよね」
みほ「ごめんなさい」
杏『私に謝っても仕方ないって。それに逃げるのは悪いことじゃないから。あのまま病院にいたら色々聞かれて、下手したら宮藤ちゃんがテレビ出演とかしちゃうしな』
みほ「私もそう思ったので逃げちゃったんですが……」
杏『宮藤ちゃんは元気にしてる?』
みほ「はい。今も……」
芳佳「おぉー!! いつでもどこでも映画が見れるなんて!! あれ? 明日の天気まで教えてくれるんですか!? ありがとうございます!!」
みほ「テレビに感動してくれています」
杏『あははは。いいねぇ』
みほ「今日はどうしましょうか?」
杏『とりあえず学校に連れてきてよ。1人でお留守番させるのも可哀相だし、武部ちゃんたちも心配してるだろうし』
みほ「分かりました」
芳佳「すごい!! 無償で占いまでしてくれるなんて!! 私は獅子座だから……えーと……。ぃやったー!! 3位だー!! わーい!! 西住さん! 私、今日の運勢3位です!!」
65:
通学路
芳佳「本当にいいんですか? 私が西住さんの学校にお邪魔するなんて……」
みほ「宮藤さんが1人でいるよりは良いかなって思って。私のほうこそ、宮藤さんが嫌がらないか不安だったんだけど」
芳佳「そんなことないです。1人になると色々と考えてしまいそうで……。こうして西住さんと一緒にいるほうが安心です!」
みほ「そう。嬉しいな」
芳佳「それにしても高い建物が多いですよね。西住さんの住んでいたところもすっごく高かったですし」
みほ「そうだね。1945年頃と比べたら――」
芳佳「西住さん!! このお店はなんですか!? 色んなものがありますけど!?」
みほ「そこはコンビニだね。本当に便利なお店なんだよ。食べ物だけじゃなくて文房具や日用品、雑貨なんかも売ってるし」
芳佳「へぇー! すごーい! わぁ……本まで置いてある……」
みほ「……」
みほ(なんだろう……妹ができた気分になってきちゃった……。お姉ちゃんも私のことはこういう風に見守ってくれてたのかな……?)
沙織「みぽりーん!! おっはよー!!」テテテッ
みほ「沙織さん、おはよう」
芳佳「あ、おはようございます」
66:
沙織「芳佳ちゃん! 退院できたの!? よかったね!」
芳佳「はい。武部さんのおかげです」
沙織「それにしてもあんな落ち方して殆ど無傷だったってのはちょっとしたミステリーだよね。偶然にも土がクッションになったアンビリバボー的なあれだったりするわけ?」
芳佳「それは」
みほ「沙織さん、そのことはあとでゆっくり話すから」
沙織「なんで? 分かってるなら今教えてよぉ」
みほ「結構難しい話だから」
沙織「ふぅーん。で、芳佳ちゃんはこれからどこに行くの?」
みほ「学校だよ。会長が連れてきてほしいって」
沙織「家とかわかったの?」
みほ「そのことも含めてあとで話すから」
沙織「……訳ありなんだ。だけどさ、この制服でいいの? セーラー服の下に水着を着てるなんて目立って仕方ないと思うけど」
芳佳「これは服ですよぉ」
沙織「いや、どう見ても水着じゃん?」
みほ「本当に服なんだって」
67:
大洗女子学園 校門
みどり子「……」
みほ「おはようございます」
沙織「おはよーございます」
芳佳「おはようございます!!」
みどり子「西住さん」
みほ「は、はい?」
みどり子「他校の生徒は原則入れませんけど」
みほ「そ、それは……」
桃「そど子」
みどり子「名前を略さないでください!!」
桃「西住の隣にいる者は大事な客人だ。通してくれ」
みどり子「そういうことは予め言っておいてください」
芳佳「す、すみません」
みどり子「いや、貴方に言ったんじゃないから。……どうぞ。来客用の上履きは共同玄関を入ってすぐ右側にあるので履き替えてください」
68:
生徒会室
桃「会長、連れてきました」
杏「はぁーい。ようこそー、我が大洗女子学園へ」
芳佳「招待してもらえて嬉しいです。ありがとうございます」
柚子「良い子だね、桃ちゃん」
桃「そうだな」
杏「宮藤ちゃんのことは昨日、大体聞いたよ。魔法は本当に使えるみたいだね」
芳佳「はい」
沙織「魔法!? なにそれ!? きいてないわよ!?」
みほ「今から全部説明するから」
杏「となるとだ。ネウロイだったり魔女だったり第501統合なんとか団って話もぜーんぶ信じなきゃいけなくなった」
桃「異世界から来たか……とてもじゃないが……」
柚子「普通の女の子にしか見えないけど……」
みほ「宮藤さん、耳と尻尾を見せて」
芳佳「はい。こうですか?」ピコンッ
69:
沙織「おぉ!? なにこれ!? 本物!?」
芳佳「一応」ピコピコ
桃「耳が動いている……」
柚子「わぁ、可愛い」
芳佳「あ、ありがとうございます」フリフリ
沙織「尻尾まで動いてる!! おっほぉ!! すごいすごい!!」
桃「犬か……」
杏「ありがとう。まぁ、そういうわけだ」
桃「それで会長。宮藤についてはどうされるおつもりですか?」
杏「元の世界に戻る方法が分かるまでは面倒みっから。河嶋も小山も武部ちゃんも、よろしくぅ」
芳佳「いいんですか!?」
杏「ゆっくりしていっていいよ。ただ、この学校では指定の制服を着てもらうけどね。そのままじゃ学園内も自由に動けないしさ」
芳佳「制服って西住さんたちが着ているのと同じものですか?」
杏「そうそう。幾らなんでもその格好はちょっとねぇ」
芳佳「ベルトとか似合うかなぁ……」
70:
杏「河嶋ぁ、小山ぁ。宮藤ちゃんに制服を着させてあげろー」
桃「はっ。宮藤、こっちにこい」
芳佳「よ、よろしくお願いします」
柚子「そんなに畏まらなくてもいいからね」
桃「しかし、スカートを穿いているときに尾を出してしまうと見えるな」
柚子「そうだね。やっぱり中にはズボンを穿いておくほうがいいかも」
桃「体操着用のハーフズボンも用意するか」
芳佳「ズボンばっかりですね」
みほ「会長、何か分かったことはありますか?」
杏「一応、猫田ちゃんに聞いてみたけど、バルクホルンやシャーリーっていうハンドルネームのプレイヤーに心当たりはないってさ。ま、違う世界に実在する人物だからいたら困るけどな」
みほ「ですね……」
杏「あとこの本がどうしてここにあるのかもよく分からない」
みほ「違う世界の物がどうしてここにあるのか……」
杏「今、この本がどういった経緯でこの学園の資料室に保管されることになったのか調べてるところだ」
沙織「……で、芳佳ちゃんって何者なの?」
71:
昼休み 食堂
芳佳「ここでこの券を見せればごはんが出てくるんですか?」
みほ「うん。そうだよ」
芳佳「じゃあ……。おねがいします!!」
「はい。サバ煮定食ね」
芳佳「わぁ……。ありがとうございます!! いただきます!!」
みほ「宮藤さん、正しい行動なんだけどもうちょっと声を抑えて。みんな見てるから」
芳佳「あ……すみません……」
優花里「要約すると宮藤殿は魔法を使える魔女だと?」
華「あらあら。驚きですわね」
麻子「本当のことなのか?」
沙織「うん。昨日、病院で重傷の患者さんを一晩で完治させちゃったらしくてさ。あと、芳佳ちゃんに犬の耳と尻尾が生えたところもばっちりみたし」
優花里「にわかには信じられませんが、西住殿と会長がそう言っているなら本当なんでしょうね」
華「世の中、まだまだ不思議なことが多いのですね。あ、すみません。私はご飯大盛りでお願いします」
麻子「五十鈴さんはあまり驚いてなさそうだな」
72:
芳佳「いただきます!!」
みほ「どうぞ」
麻子「魔法とかネウロイとかは分かったが、そうなると次の問題が出てくるな」
優花里「はい。宮藤殿のいう501のみなさんが心配になってきますね」
芳佳「ごめんなさい。バルクホルンさんたちのことは私がなんとかします。これ以上は……」
華「いけません」
芳佳「え?」
麻子「そうだ。魔法が使えても1人ではできないことも多いだろう」
沙織「まっかせてよ。私の情報網を利用すれば501のみんなだろうが、男だろうがゲットできちゃうから」
華「沙織の情報網は結婚情報誌ぐらいでは?」
芳佳「みなさん……」
みほ「こんなときだからこそ、頼ってほしいな。勿論、私たちには魔法なんて使えないし、宮藤さんなんかよりもできないことは多いけど」
芳佳「はいっ!」
優花里「あの、興味本位の質問で恐縮なのですが、宮藤殿は航空団にいたんですよね。一体、そちらの世界ではどのような戦闘機で空を翔けていたのですか?」
芳佳「私たちウィッチは戦闘機に乗るんじゃなくて、ストライカーユニットっていうもの脚に装着して飛ぶんです」
73:
優花里「そんなことで空を飛べるなんてすごいです!! こちらの世界ではそんな風に飛ぶことはまだまだ実現できそうにないのに!!」
みほ「それはどこにあるの? 落ちてきたときにはなかったけど」
芳佳「分かりません。気づいたときには無くなってて」
みほ「そうなんだ。なら、今は飛べないんだね」
芳佳「でも、箒があれば飛べますよ」
沙織「マジ!? 魔女っぽい!!」
麻子「魔女だからな」
華「他の魔女さんたちも空を飛んでくれていれば見つけるのも楽なのですが」
優花里「宮藤殿の状態を考えれば、他のみなさんも同様かもしれませんね」
麻子「こちらではウィッチとして活動できないわけか」
芳佳「確かにユニットが無いと空でネウロイと戦うことは難しいですね」
華「本調子がでないと不安になりますよね。わたくしも花を生けるとき、いつもの調子がでないとその日はおかわりができなくなってしまって」
みほ「……」
沙織「みぽりん? 難しい顔してるよ? 何かあった?」
みほ「え? ううん。なんでもない。さ、早く食べよう。次の授業、戦車道だから急がないと」
74:
格納庫
杏「今日は特別ゲストの宮藤芳佳ちゃんが戦車道の授業に参加すっから」
芳佳「よ、よろしくお願いします! 宮藤芳佳です!!」
あや「何年何組?」
あゆみ「一年じゃないよね」
杏「まぁまぁ。そんなのはどーでもいいことだ」
桃「その通りだ!! さっさと戦車に乗り込めぇ!!!」
おりょう「宮藤か。中々、凛々しい顔をしているぜよ」
左衛門佐「宮本武蔵と武藤金義を足して2で割ったような名前だ」
カエサル「それはかなり無理がある」
エルヴィン「いや。武藤金義は空の宮本武蔵と呼ばれていた。宮藤はいいソウルネームだ」
カエサル「宮藤は本名じゃん」
典子「宮藤さんはどの戦車に乗るんですか!?」
杏「そうだねぇ。とりあえず見学」
芳佳「見学ですか!?」
75:
演習場
みほ「それでは練習を開始します!! パンツァー・フォー!!」
?突『出陣じゃー!!』
M3『桂利奈ちゃぁん。目的地はここだからね?』
M3『アイィ!!!』
ポルシェ・ティーガー『今日こそドリフト、ドリフト!!』
芳佳「わっ。すごい……。隊長をしてる西住さん、かっこいいなぁ。まるでミーナ隊長みたい……」
芳佳「……みんな、どうしてるのかな」
優花里「宮藤殿!!」
芳佳「は、はい!?」
沙織「暇なら私たちの車でドライブでもどう?」
芳佳「え? でも……」
麻子「無理すれば乗れる」
みほ「一緒にどうかな? 車内、狭いけど」
芳佳「……乗ります!!」テテテッ
76:
?号戦車内
芳佳「すみませぇん」ギュゥゥ
みほ「大丈夫だよ。動けないほどじゃないから」
芳佳「戦車なんて初めて乗りました。軍艦はあるんですけど」
優花里「どのような軍艦ですか?」
芳佳「ええと、赤城っていう艦なんですけど」
優花里「赤城?」
麻子「こっちの世界にもあったな。ミッドウェー海戦で沈没したが」
沙織「へぇー。そうなんだ」
華「ですが宮藤さんの世界には魔法がありますから、変ですね」
優花里「もしかして宮藤殿の世界とはどこかで繋がっているのではないですか。並行世界なんてのはよく聞きますからね」
麻子「並行世界か。理論上は存在が認められているみたいだが……」
芳佳「だから坂本さんが書いた本がこの世界にあったんですか?」ギュゥゥ
みほ「もしくはこの世界にも宮藤さんや坂本さんはいたのかも」
芳佳「私がもう1人いるんですか!? ちょっと怖いですけど、会ってみたい気も……」
77:
M3中戦車リー 車内
梓「この辺りだよね」
沙織『ウサギさんチーム、所定の位置に到着しましたか?』
優季「はぁい。大丈夫でぇす」
みほ『それでは本格戦と――』
梓「あれ? 西住隊長?」
『ど……に……み……じ……』
優季「あっれぇ? どうしちゃったんだろう?」
あや「なになに? 無線壊れた?」
あゆみ「えー? マジぃ? どうするの?」
桂利奈「とりあえず予定通りに行動する?」
梓「うーん……」
紗希「……」トントン
桂利奈「ん? なに?」
紗希「霧が出てきた」
79:
梓「ホントだ。昨日と同じぐらい濃い」
あや「また中止になっちゃうのかな」
あゆみ「最近多いよね。異常気象ってやつ?」
優季「もー、迷惑ぅ」
桂利奈「どうするのー?」
梓「西住隊長とも連絡が取れないんじゃ……」
『おーい!! そこのM3!!』
桂利奈「人の声だ」
梓「誰だろう……」ガチャ
シャーリー「よかった! 人だぞ!! ペリーヌ!!」
ペリーヌ「よく見えませんわ……」
シャーリー「あとで眼鏡も貸してもらえばいいだろ」
ペリーヌ「誰にですの……?」
梓「あのー?」
シャーリー「おっ。なんだ、扶桑の軍人が乗ってたのか。とりあえずピックアップしてくれないか? あたしたち遭難したみたいでさ」
82:
ポルシェ・ティーガー車外
ナカジマ「参ったなぁ。またやっちゃった」
スズキ「やっぱりレオポンでドリフトは夢のまた夢かな」
ツチヤ「そんなぁ。一度でいいからやってみたいんだけどなぁ」
ナカジマ「あーあ、地面にめり込んじゃってるよ。何とかしないと」
ホシノ「急がなくてもいいんじゃない? この霧だと練習どころじゃないし」
ナカジマ「そうも言ってられないって。早く出そう。いつでも動かせるようにしておかないと」
ツチヤ「はーい」
バルクホルン「大変そうだな」
ナカジマ「いえ、慣れてますから」
バルクホルン「私が動かしてやろう」ピコンッ
ナカジマ「え? なにを……」
エイラ「大尉ー、なにしてんだー?」
バルクホルン「みれば……わかるだろう……!! ふぅぅぅ……うぉぉぉおおお……!!!」ゴゴゴゴッ
ホシノ「レオポンを持ち上げてる……!?」
83:
ナカジマ「あぁ……」
バルクホルン「ぬおぉぉぉおおお!!!! であぁぁ!!!」ズゥゥゥン!!!!
ツチヤ「えぇ……」
バルクホルン「これでいいか?」
スズキ「あ、はい」
エイラ「大尉も人がいいな」
バルクホルン「ティーガーに乗る者たちを見捨ててはカールスラント軍人の名が廃る」
エイラ「それは欠陥戦車のほうだろ?」
バルクホルン「エイラ!! それは侮辱になるぞ!!!」
ナカジマ「あの……?」
バルクホルン「ああ、すまない。私はゲルトルート・バルクホルン。階級は大尉だ。まさか扶桑の人間がカールスラントの戦車を動かしているとは思わなかった」
ナカジマ「カールスラント?」
バルクホルン「お前たちはどこに所属しているんだ?」
ナカジマ「えっと、大洗女子学園ですけど」
エイラ「聞いたことないけど扶桑の軍学校か」
84:
?号戦車内
沙織「応答してください。みなさん、応答してください」
みほ「また無線が使えなくなるなんて」
芳佳「無線……」ギュゥゥ
みほ「うーん」
沙織「なんでこういうときに使えなくなるかなぁ。最終手段のケータイで連絡とっちゃう?」
みほ「うん。そうしようか」
沙織「よっと。えぇー!? 圏外!? もーやだー! どこを航行してるのよぉー!!」
華「昨日に続いて練習ができないのは辛いですね」
優花里「西住殿、どうしますか?」
みほ「このまま続行してもいいかな――」
麻子「西住さん。何か近づいてくる」
みほ「え?」
芳佳「何かってなんですか?」
華「なんでしょう……霧でよく見えなくて……」
86:
みほ「ちょっと見てみるね」
芳佳「西住さん、危ないですよ」
みほ「大丈夫。宮藤さんもどうかな」
芳佳「……見ます!」
みほ「はい、どうぞ」
芳佳「車長はこういう風に見渡すんですね」
みほ「あはは、普通はしないんだけど」
ゴゴゴゴ……
芳佳「あれは……!?」
みほ「……」
M3『やったぁ。あんこうチームはっけぇん』
みほ「なんだ。ウサギさんチームだったんだ。でも、よくこの濃霧の中を移動して……」
シャーリー「な? あたしの言ったとおりだったろ? 人の話し声がこっちから聞こえたんだよ」
ペリーヌ「シャーリーさんの長い耳は伊達ではありませんものね」
芳佳「あ……!! あぁー!!!」
87:
シャーリー「お!? 宮藤か!?」
ペリーヌ「宮藤さん!?」
芳佳「シャーリーさん!! ペリーヌさーん!!!」テテテッ
ペリーヌ「宮藤さん!! ご無事でしたのね!!」
芳佳「シャーリーさーん!!!」ギュゥゥ
シャーリー「怪我はないか?」
芳佳「はい!! ないです!!」ギュゥゥ
シャーリー「よかった。心配したんだぞ」
芳佳「シャーリーさん……私も心配だったんです……」スリスリ
ペリーヌ「……」
みほ「あ、あのー。宮藤さんのお知り合いのかたですか?」
シャーリー「おう、そうだ」
みほ「そうなんだ……」
芳佳「シャーリーさぁん……」スリスリ
ペリーヌ「宮藤さん、わたくしの心配はしていなかったということですの?」
88:
芳佳「え!? そんな!! まさか!! ペリーヌさんの心配もすっごくしてたよ!!」
ペリーヌ「なら、いいですけど」
シャーリー「ええと、西住隊長か?」
みほ「あ、はい。そうです」
シャーリー「そうか。澤から少しだけ話は聞いた。すげえ隊長らしいな」
みほ「いえ!! とんでもない!!」
シャーリー「謙遜するなって。あたしはシャーロット・E・イェーガー大尉だ。よろしくな」
みほ「はい、こちらこそ」
シャーリー「こっちはペリーヌ・クロステルマン中尉だ」
ペリーヌ「どうも。宮藤さんがご迷惑をおかけしたようで」
シャーリー「ペリーヌ、それは木だぞ」
ペリーヌ「えぇ!? あら、失礼しました。おほほほ」
みほ「目が悪いんですか?」
芳佳「そういえばペリーヌさん、眼鏡はどうしたの?」
ペリーヌ「落下したときの衝撃で破損してしまいましたの。不便で仕方ありませんわ」
89:
みほ「そうですか……。ちょっと待っていてください」
ペリーヌ「はい? あの……」
シャーリー「あとはバルクホルンとエイラだけか」
芳佳「私たちがいるんですから、バルクホルンさんもエイラさんもこの学園艦にいることは間違い無さそうですね」
ペリーヌ「学園艦ってなんですの? ここはどこかの演習地ではなくて?」
芳佳「それが違うんです。そもそもこの世界は私たちがいた世界とは違うんです。冷蔵庫だって1人1台持っているような世界なんですよ」
ペリーヌ「な、なんですって!? あのような高級品を1人1台も!?」
シャーリー「澤の話もかなりぶっ飛んでたからなぁ。違う世界だっていわれても別に驚かないけど」
ペリーヌ「だからってすぐに信じられる話というわけでも……」
みほ「お待たせしました」
沙織「みぽりん、この人?」
みほ「うん」
ペリーヌ「貴方は?」
沙織「私、武部沙織! 戦車道とモテ道を極めた今時の女子高生!」
ペリーヌ「……そうですか」
90:
沙織「はい。これかけてみて。合えばいいんだけど」
ペリーヌ「眼鏡……。いいんですの? 貴方も裸眼だと作戦行動で支障が出るのでは?」
沙織「私は普段コンタクトレンズ使ってるし、眼鏡も予備があるから平気だよ」
ペリーヌ「コンタクトレンズ……。確かそれはまだ……」
シャーリー「ペリーヌ、世界が違うんだ。それで納得しとけ」
ペリーヌ「そうですわね。では、武部さん。お言葉に甘えますわ」
沙織「使って、使って」
ペリーヌ「どうも……。あら、ピッタリ。それに軽いですわ」
シャーリー「ペリーヌの眼鏡はいいとしても、あたしたちのユニットがなぁ」
芳佳「シャーリーさんたちも無くなったんですか?」
シャーリー「あぁ。気が付いたらなくなってたよ。これじゃあ、ネウロイが出てきたときにどうすればいいか……」
みほ「……」
ペリーヌ「宮藤さんの言うように、ここが別世界だとすればネウロイが襲ってくることもないのでは? 元の世界に戻る方法を地道に探していきましょう」
芳佳「わ、私もそれでいいと思います」
シャーリー「あたしたちだけが都合よくこの世界に来たって考えるのはどうだ? こっちに来る前、ネウロイを仕留め損ねたのに」
91:
ペリーヌ「それもそうですわね……」
沙織「そのネウロイってなんなの?」
シャーリー「ん? ああ――」
みほ「もしかして、あれとか?」
芳佳「え?」
ネウロイ「……」ギギッ
M3『なんかいる!! キモっ!!』
ペリーヌ「陸戦タイプですわね。それも1体だけ」
芳佳「シャーリーさん!! ペリーヌさん!!」
シャーリー「西住、悪いけどここから離れてくれ。澤たちも連れてな」
みほ「わ、わかりました! 沙織さん!!」
沙織「う、うん!!」
ネウロイ「……」
シャーリー「飛んでないならやりようはいくらでもあるな。頼むぞ、ペリーヌ」
ペリーヌ「了解。――トネール!!!」パチンッ
92:
パリィィィン……!!
ペリーヌ「ふっ」
芳佳「ペリーヌさん、すごーい!!」
ペリーヌ「この程度、朝飯前ですわ」
シャーリー「1体出たってことは他にも出てくるかもな」
芳佳「え……」
シャーリー「バミューダ諸島でも陸戦タイプのネウロイは確認されてるからな。そいつらがこっちに来てたら、ありえるだろ」
芳佳「そ、そんな!! でも、今の私たちユニットもないし、武器も……!!」
シャーリー「バルクホルンの馬鹿力は別にしても、このままだとろくに戦えないよなぁ」
みほ「今のは雷……?」
沙織「すご……ペリーヌさん……。本当の魔女じゃん……」
あや「ちょーびっくりしたんですけど……」
澤「ウィッチって本当だったんだ……」
桂利奈「すごーい!!! アニメみたいだー!!!」
みほ「あ……!? まずい!! 沙織さん!! なんとかみんなと連絡をとって!!」
93:
沙織「え!? ど、どうしたの!?」
みほ「他のチームがネウロイと交戦してる可能性がある!!」
沙織「あぁ!! そ、そっか!!!」
シャーリー「あたしも耳を澄ませてみるか」ピコンッ
みほ「宇津木さんもお願い!!」
優季「わかりましたぁ!」
沙織「みんなー!! 応答してー!! 返事してー!! おねがいだからー!!」
優花里「ダメですよ、武部殿。私も試しましたが無線は使い物になりません」
華「携帯電話も圏外のままですね」
麻子「危険だな」
みほ「そんな……!!」
ペリーヌ「シャーリーさん、どうですの?」
シャーリー「交戦してるような音はないな」
芳佳「誰もネウロイとは戦ってないんですか?」
シャーリー「無いな。ただ、こっちに戦車が1輌近づいてくるけど。これは西住の仲間だな」
94:
芳佳「どこからくるんですか?」
シャーリー「3時の方角だ」
ペリーヌ「こちらですわね!」
ゴゴゴゴ……!!
バルクホルン「……」
ポルシェ・ティーガー『さっきすごく光ったところってこの辺りですよね、バルクホルンさん』
バルクホルン「ああ。そうだ。この辺りで止めてくれ、ナカジマ」
みほ「レオポンチーム!」
優花里「おぉ! 無事だったんですね!!」
華「砲塔のところに仁王立ちしてる方がいらっしゃいますね」
麻子「ズボンを穿いてないから宮藤さんの仲間だな」
みほ「その見分け方は……」
芳佳「バルクホルンさん!!」
バルクホルン「宮藤か!! 怪我はないか!?」
シャーリー「お。これで全員集合か。割と早かったな」
95:
ペリーヌ「全員ってまだエイラさんが……」
シャーリー「バルクホルンの後ろ」
ペリーヌ「後ろですか?」
エイラ「サーニャはなにしてるかなぁ」
ペリーヌ「エイラさん!!!」
エイラ「よぉ。2日ぶりだな」
ペリーヌ「2日ぶり!? 何を言っていますの!! それよりどこか怪我はありませんの!?」
エイラ「ないぞー」
バルクホルン「無事だったか……」
芳佳「バルクホルンさーん!!」ギュッ
バルクホルン「こら、上官に抱きつくやつがあるか」
芳佳「私、本当に心配で……」
バルクホルン「わ、分かった。とりあえず離れてくれ」
みほ「よかったぁ……宮藤さんの友達がみんな無事で……」
沙織「けど、これから大変だよね。芳佳ちゃんたちは元の世界に戻らなきゃいけないんだし」
96:
バルクホルン「お前が西住隊長か」
みほ「は、はい」
バルクホルン「他の隊員たちが世話になったな。礼を言う」
みほ「いえ。先ほど私たちは守られた側なので」
バルクホルン「そうか。ペリーヌ、やはりネウロイと交戦したのか」
ペリーヌ「はい。銃器もないので、魔法で応戦しました」
バルクホルン「……西住隊長。あればでいいのだが、機関銃やそれに代わる武器はないだろうか」
みほ「すみません。生憎と戦車しかなくて」
バルクホルン「やはりか……」
エイラ「ナカジマも軍人じゃないって言ってたからなー」
沙織「それにこっちの世界だとネウロイとかいなかったから」
優花里「蝶野殿に頼めば銃器一式を借りられるかもしれません」
麻子「いや、無理だろう。宮藤さんたちのことを説明して魔法を見せても、恐らく別の場所に連れて行かれるだけだ」
芳佳「べ、別の場所ってなんですか?」
麻子「人体実験をするようなところだ」
97:
芳佳「えぇぇぇ!?」
華「麻子さん、そうやって怖がらせてはいけませんわ」
麻子「可能性はある」
エイラ「私たちもこっちの世界で有名にはなりたくないしなぁ」
バルクホルン「ああ、帰る手段が見つかったときに拘束されては意味がない」
シャーリー「お前は拘束されるようなやつじゃないだろ?」
バルクホルン「宮藤やペリーヌは分からないだろう。魔法があるといってもこちらの世界でどの程度通じるのかは不明だ」
シャーリー「ま、変な武器をもってこられたらヤバいよな」
ペリーヌ「ユニットも無く、銃器もないのではジリ貧もいいところですわ」
バルクホルン「……」
みほ「……沙織さん、無線のほうはまだ直ってないかな?」
沙織「ちょっと待って。調べてみる」
優花里「私も手伝います!」
芳佳「ごめんなさい、西住さん。こんなことに巻き込んで」
みほ「平気だよ。少しだけ怖かったけど、それ以上に宮藤さんたちが頼りになるから」
98:
?号戦車内
沙織「みなさん、応答してください」
優花里「まだダメですか?」
沙織「うーん……」
『応答……く……や……じ……』
沙織「あ、何か聞こえた!」
優花里「おぉ! では、こちらも……。あれ、まだ圏外のままですね……」
沙織「応答してください! 無事ですか!!」
『誰だ……前は……』
沙織「え? あの、すみません。雑音が多くて。こちらはあんこうチームです」
『私は……01統合……団……本美緒……』
沙織「みお?」
優花里「武部殿、誰と通信をしているんですか?」
沙織「わ、わかんない……だ、だれだろう……」
優花里「みお……どこかで……」
99:
沙織「もしかして、オバケ!?」
『誰が……ケだ……それよりもお前……誰だ……』
沙織「えっと……もっと向こうの声が聞こえるようにしないと……」
『答えろ!!』
沙織「きゃぁ!?」
『貴様は誰だ!! 宮藤はどこにいる!?』
沙織「宮藤!? 芳佳ちゃんのことですか!?」
『そうだ!! 知っているなら答えろ!!』
沙織「芳佳ちゃんは元気です!!」
『本当か!? では、バルクホルン、シャーリー、ペリーヌ、エイラもか!?』
沙織「え? あ、はい!! みんな元気です!!」
『そうか……は……ど……る……しえて……』
沙織「あ!? なんですか!? もう一度お願いします!!」
杏『はいはぁーい。カメさんチームは無事だよぉ、武部ちゃーん。心配してくれサンキュー』
沙織「あ、あれぇ……? 会長の声になっちゃった……」
100:
優花里「圏外を脱したようですよ」
沙織「あ、そうなんだ」
優花里「それにしても今のはなんだったんでしょうか」
沙織「芳佳ちゃんのことを知ってたから、多分501の人なんじゃない?」
優花里「ということは、501の人たちはみんな私たちの世界にいるのですか!?」
沙織「さぁ、でも、シャーリーさんって人は全員集合したーとか言ってたけど」
優花里「それでしたら、今の通信は宮藤殿の世界と繋がったということになりますが」
沙織「え……なんか怖い……」
優花里「ダメですよ、武部殿!! 宮藤殿の世界に繋がるホットラインなんですから!! 怖がってなんていられません!!」
沙織「ど、どういうこと?」
優花里「武部殿が再度連絡をとってみるべきです! そして501の人に宮藤殿たちの声を聞かせて、安心させてあげるんですよぉ!」
沙織「できるかなぁ」
優花里「アマチュア無線2級の実力をここで発揮するべきです!!」
沙織「よーし!! って、異世界と無線を繋ぐってどうするのよー!!!」
華「あのぉ、何を騒いでいるのですか?」
101:
芳佳「え!? 私たちの世界と無線が!?」
沙織「うん。向こうの人は芳佳ちゃんたちのことを知っていたから」
ペリーヌ「交信された相手の名前はわかりませんの?」
優花里「ミオと言っていました」
ペリーヌ「さ、坂本少佐ですわ!!! 宮藤さん!! 坂本少佐ですわ!!!」
芳佳「うん!! 坂本さんだよ!!」
みほ「坂本……美緒……」
優花里「西住殿、坂本美緒といえば……」
バルクホルン「西住、何か知っているのか?」
みほ「宮藤さんには見てもらったんですけど、私たちの世界に坂本さんが書き残したと思われる本があって」
ペリーヌ「なんですって!? ちょっと宮藤さん!! そんな大事なことをなんで先に言わないんですの!?」
芳佳「だ、だって……いうタイミングが……」
シャーリー「それ、見せてくれるか?」
みほ「はい。霧も晴れましたし、一度戻りましょう。ただ申し訳ないんですけど、ネウロイのことは警戒しておいてもらえると助かります」
バルクホルン「了解」
102:
格納庫
杏「えっと、そちらのリーダーは?」
バルクホルン「今は私だ」
杏「そう。私は角谷杏」
バルクホルン「ゲルトルート・バルクホルン。早だが本を見せてくれ」
杏「ここには無いんだよね。生徒会室まで来てくれる?」
バルクホルン「いいだろう。シャーリー、一緒に来るか?」
シャーリー「そうするか」
みどり子「ちょっと!! 待ちなさい!! なんて格好をしているの!! 風紀が乱れるでしょう!?」
モヨ子「ここは強気でいくのよ、そど子!」
希美「あんな姿で校内を歩かれたら風紀委員の立つ瀬がないのよ、そど子!」
桃「落ち着け。早急に彼女たちの制服を用意する」
柚子「エイラさんとペリーヌさんもこっちの服を着てね」
ペリーヌ「私、ベルトには少し抵抗が……」
エイラ「私はいいぞ。そっちに従う」
104:
優花里「さて! 私たちは異世界とのホットラインを作りましょう!!」
沙織「だから、無理だってばぁー!」
麻子「モノは試しだ」
沙織「もー麻子までぇ」
みほ「……」
芳佳「西住さん、大丈夫ですか?」
みほ「え? う、うん。どうして?」
芳佳「だ、だって……」
華「戻ってきてからずっと何かを考えているようですが」
みほ「あ、えっと……その……ウィッチってみんな魔法が違うんだなぁって……」
芳佳「はい。私は治癒魔法ですけど、ペリーヌさんは雷を使えて、シャーリーさんは、えーと、エイラさーん、シャーリーさんの魔法って一言でどういえばいいんですか?」
エイラ「物質の加」
芳佳「です!」
みほ「バルクホルンさんとエイラさんは?」
エイラ「大尉は筋力をアップさせてとんでもない力を出せる。私は数秒先だけど予知ができる」
105:
みほ「へぇ……」
華「素敵な魔法ですねぇ」
ナカジマ「バルクホルンさんの魔法は本当にすごかったですよ。この目で見ました」
みほ「何かあったんですか?」
ナカジマ「いや、レオポンが地面にめり込んじゃったんですけど、そのときバルクホルンさんがレオポンを持ち上げて助けてくれたんです」
みほ「えぇ!? ポルシェ・ティーガーを!?」
ナカジマ「いやぁー。呼吸が止まるぐらい驚くことってあるんですね」
みほ「……」
芳佳「あはは、バルクホルンさんならそれぐらいはできますね」
カエサル「それはさぞ凄い現場だったんだろうな」
左衛門佐「?突も持ち上げて欲しい」
エルヴィン「いいな。できることなら背負ってくれないだろうか」
エイラ「おまえらなぁ、魔法で遊ぼうとするな。安売りは絶対にしないからな」
おりょう「ダメぜよ? では、未来予知の魔法とやらを見せてほしいぜよ」
エイラ「何でそうなるんだっ」
106:
生徒会室
杏「どう?」
シャーリー「だははははは!!! あーっはっはっはっは!!! ひぃー!! あははははは!!!」
バルクホルン「何がおかしいんだ!!!」
シャーリー「お前がベル……ベルトして……あーっはっはっはっはっは!!! 似合わねー!!!」
バルクホルン「くっ……!! やはりこのベルトは外す!!!」
桃「駄目だ。そのスカート、貴方たちの世界でいうベルトを外して外は歩けない」
柚子「すっごく大変なことになるので、やめてください」
杏「シャーリーちゃんも笑いすぎ。別に変じゃないじゃん」
シャーリー「いや、でもさぁ」
杏「まぁ、バルクホルンちゃんは制服よりもジャージのほうが似合いそうだけどねぇ」
柚子「確かにそうですね」
バルクホルン「では、そちらを用意してくれ!! それを着る!!」
桃「生憎、ジャージはなくてな」
バルクホルン「ええい!! もういい!! 今の問題はこの本だ!!!」バンッバンッ
107:
杏「宮藤ちゃんは間違いなく坂本美緒って人の字だと言ってたけど?」
バルクホルン「私の目から見ても、同意見だ。これは少佐の字だ」
杏「そうなるとその本が何故、ここにあるのかってことだけど」
バルクホルン「この世界にも少佐と全く同じ人物が存在しているということか」
杏「それだと書かれている内容がおかしいんだよね。シャーリーちゃん、エイラちゃん、ペリーヌちゃん、そしてバルクホルンちゃんの名前がある」
バルクホルン「その、ちゃん付けで呼ぶのはやめてくれないか」
シャーリー「いいじゃないか。バルクホルンちゃん」
バルクホルン「真面目にやれ!!」
杏「表紙には第501統合戦闘航空団考案戦車戦術書と書いてあるようにも見えるしな」
バルクホルン「だとしたら、これは……」
杏「その本だけこちらの世界に来たっていうことかなぁ。やっぱり」
バルクホルン「だが、書かれているのは航空戦術ではなく戦車戦術だろう? 少佐がそのようなことを書くとは思えない。意味がないからな」
杏「バルクホルンちゃんの知らないところで書いていたのかもよぉ? ま、どういう理由でここにあるのかは知る由もないけど、その本があってよかったよ」
バルクホルン「何故だ?」
杏「その本がなかったら、宮藤ちゃんのことを誰も信じなかっただろうからね」
108:
格納庫
みほ「……」
芳佳「西住さん、どうしたんでしょうか?」
華「ああいう顔をするみほさんは試合中ぐらいしか見ませんでしたが」
芳佳「試合中ですか?」
華「はい。戦車道の試合です。いつもは柔和な顔をしているみほさんも、戦車に乗ると顔つきが変わります」
芳佳「ぱんつぁーふぉーって言ったときの西住さんはとってもかっこよかったです」
華「どんな劣勢でも活路を見出そうとするとき、みほさんはああいう顔をするのです。わたくしたちはそんなみほさんを、隊長を心から信頼していますわ」
芳佳「すごいんですね、西住さん」
華「はい。とてもすごい人です」
芳佳「……」
カエサル「ここで革命だ!」
エイラ「革命返し。これでアガリだな。10連続で大富豪かよぉ。つまんねえなぁ」
おりょう「な!? またぜよ!? 完璧に魔法使っているぜよ!!」
エイラ「使ってないってー。ナニイッテンダー?」
109:
ペリーヌ「エイラさん。何を遊んでいますの?」
エイラ「他にやることないからな」
ペリーヌ「だからって……」
エイラ「こうでもしないと、やってられないだろ」
ペリーヌ「エイラさん……あなた……」
エイラ「もう1回やるか?」
左衛門佐「もう無理だ。勝てそうにない」
エイラ「なんだよ。根性ないな」
エルヴィン「この無敗ぶりはフィンランド空軍エイノ・イルマリ・ユーティライネンを彷彿とさせるな」
カエサル「それだ。エイラさんのソウルネームはエイノでいいんじゃないか」
おりょう「賛成ぜよ」
エイラ「誰だよそれぇ」
エルヴィン「無傷の撃墜王という異名を持つ軍人だ。エイラさんにはぴったりだと思うが」
エイラ「……まぁ、好きなように呼べよ」
おりょう「では、エイノはイッルと呼ばれていたから、イッルと呼ぶぜよ」
111:
ペリーヌ「エイラさんの名前に似てますわね」
エイラ「イッルまで一緒とか気持ち悪いなぁ」
ペリーヌ「この世界のエイラさんでは?」
おりょう「イッルは男ぜよ?」
エイラ「じゃあ、違うな」
沙織「はぁ……。やっぱり異世界とは交信はできないんだって」
優花里「では、どうしてあのとき成功したのですか」
沙織「そんこと私に聞かれても」
麻子「……霧だ」
沙織「え? 霧がどうしたの?」
麻子「霧が発生したとき無線が全てダメになっただろう。だが、そのときに坂本美緒と交信ができて、霧が晴れ始めたときに交信が途絶えた」
優花里「そうですね。ということは、あの霧は……」
麻子「宮藤さんの世界と繋がっているときなのかもな」
沙織「それじゃあ! あの霧が発生してるときが芳佳ちゃんたちの帰宅チャンス!?」
優花里「帰宅といいますか帰郷といいますか。その可能性は高いですね」
112:
沙織「おぉぉ!! 麻子、エライ!!」
麻子「誰でも気が付くだろう」
沙織「芳佳ちゃーん!! ビッグニュース!!」
芳佳「どうしたんですか?」
沙織「芳佳ちゃんたちが元の世界に帰る方法が分かったのー!!」
芳佳「ほ、本当ですか!? ぅわーい!! ぃやったー!!! 武部さん!! ありがとうございます!!!」
沙織「ふふーん。麻子が冴えてただけだよぉ」
芳佳「冷泉さん!! ありがとうございます!!!」
麻子「待て、沙織。それで帰れると決まったわけじゃないぞ」
芳佳・沙織「「えっ!?」」
麻子「可能性があるというだけだ」
芳佳「そんなぁ……」ガクッ
沙織「うぅぅ……ごめんね……よしかちゃん……」
麻子「はぁ……」
優花里「でも、希望は見えてきましたから、落ち込まないでください」
113:
みほ「……」カキカキ
ペリーヌ「西住さん、先ほどから何をされていますの?」
みほ「え? あ、ううん!! なんでもない!!」
ペリーヌ「……?」
バルクホルン「――宮藤、エイラ、ペリーヌ。集合しろ」
芳佳「りょうか――えぇぇぇぇ!?!?」
バルクホルン「なんだ!?」
エイラ「大尉、なんでベルトしてんだ?」
ペリーヌ「あら……。珍しい姿を見てしまいましたわ」
シャーリー「メチャクチャ似合ってるよなぁ、これ」
バルクホルン「いい加減ジャージをよこせ!! 河嶋!!」
桃「ないと言っている。私のではサイズも合わないだろう」
バルクホルン「ぐぅぅ……!!」
杏「西住ちゃんたちも来てくれる? これからのことを話しておきたいから」
みほ「は、はい」
114:
バルクホルン「暫くの間、角谷の厚意を素直に受けることする。異論はあるか?」
エイラ「迷惑じゃないっていうならありがたい話だな」
杏「ぜーんぜん、いいよ。雨露を凌げる場所もちゃーんと提供してあげるから」
ペリーヌ「ありがとうございます。ですが、何故そこまでしてくれるのですか? 私たちが侵略者であることも考えられますわよ」
杏「宮藤ちゃんみたいな可愛い侵略者なら、寧ろ大歓迎だね」
芳佳「そ、そんな、可愛いなんて……」
杏「で、問題の雨露を凌げる場所なんだけどさぁ。誰がいい?」
芳佳「誰がってどういう意味ですか?」
杏「一緒に住みたい人を選んでいいから」
ペリーヌ「はぁ!?」
エイラ「許可はとってあんのかよ」
杏「断られたら私のところにおいで。何人でもオッケーだから」
シャーリー「それなら全員が杏の家でいいんじゃないか?」
杏「相性のこともあるからねぇ。各自が好きな人の家で過ごしたほうがいいと思う」
芳佳「あ……それなら……」
127:
武部宅
沙織「じゃ、今から晩御飯作るから。ちょっと待っててね!」
ペリーヌ「わたくしに出来ることがあればなんでも言ってください、武部さん」
沙織「別にいいよ。ペリーヌさんもエイラさんも慣れない環境で大変でしょ?」
ペリーヌ「ありがとうございます。何から何まで」
エイラ「武部、この四角いのはなんだ?」
ペリーヌ「エイラさん、あなたね」
沙織「それがテレビ。リモコンはテーブルの上にあるよ。黒い長方形のやつ。赤いボタンを押すとテレビが点くからね」
エイラ「これか」ピッ
ペリーヌ「まぁ!? これが宮藤さんが言っていた……!! 本当に鮮明な映像が流れていますわ……」
エイラ「すげー。なんだこれー? 魔法の域を超えてるじゃないか」
ペリーヌ「エイラさん、わたくしにも見せてくださいな」
エイラ「うるせぇなぁ。お前が無理矢理私をここに連れてきたんだから、少しぐらい好きにさせてくれ」
ペリーヌ「無理矢理ってなんですの!! 貴方があの冷たい格納庫で寝泊りをするというから、わたくしが気を利かせて誘ってあげたの!! どうしてそれがわからないんですの!?」
沙織「二人とも喧嘩しないの。あとテレビは仲良く見てよね」
128:
エイラ「へぇー、犬や猫を見せるだけで視聴率ってやつが取れるらしいな」
ペリーヌ「犬と猫はそんなにも人を惹き付けることができるのでしょうか? 確かに愛らしい生き物ではありますが」
沙織「もうすぐできるからねー」
ペリーヌ「お皿ぐらいは並べませんと」
エイラ「宮藤のやつはこのテレビのこと知ってたんだよなぁ。なんでだ?」
ペリーヌ「西住さんの家に一泊したと言っていましたから、そのときに見せてもらったのでしょう」
エイラ「いいよなぁ。私なんて1日以上森の中だったのに。大尉がかなり慎重に行動してたから仕方ないんだけどなぁ」
沙織「森の中にずっと居たんだ。食べ物とかはどうしてたの?」
エイラ「あるわけないだろ。現地調達しようにも木の実が生っているわけでもないし」
沙織「まぁ、学園艦の中だからね」
ペリーヌ「……エイラさん。再会したときから気になっていましたけど、私たちがこちらの世界に来てからまだ24時間も経過していないでしょう?」
エイラ「はぁ? なにいってんだよぉ。お前と再会した時点で2日は経ってたぞ。正確にいえば42時間ぐらいだな」
沙織「ちょっと待って。芳佳ちゃんが学園艦に落ちてきたのは昨日の夕方5時ぐらいだから1日以上は経ってるけど、みんなそうじゃないの?」
ペリーヌ「え? そ、そうなのですか? わたくしとシャーリーさんがこの世界に来たときは夜でしたわ。夜明けが大体5時間後でしたから、時刻は2300時頃かと……」
エイラ「こっちに来た時間が違うのか……」
129:
大洗女子学園 生徒会室
桃「寝間着と簡易ベッドは用意できた。自由に使ってくれて構わない」
柚子「他に必要なものがあればいってくださいね」
バルクホルン「いや、十分だ。助かる」
ピリリリ……
桃「失礼」
バルクホルン「……」
杏「本当によかったの? 秋山ちゃんのところに行ってあげればかなり喜んでくれたと思うんだけど」
バルクホルン「秋山の申し出はありがたかったが、私はここで良い」
杏「バルクホルンちゃんが良いなら、私も構わないけどね」
バルクホルン「それにここにいれば様々な情報もすぐ耳へ入ってきそうだからな」
杏「お。それが目的なんだ。流石バルクホルンちゃんだねぇ」
バルクホルン「だから、その呼び方は……」
桃「会長。運航委員会からです」
杏「はいはーい。今、代わるよー」
130:
秋山宅
優花里「これは冷戦時代に活躍したセンチュリオンです」
シャーリー「これもかっこいいな! すげぇ強そうだ!!」
優花里「イェーガー殿も戦車については色々とお詳しいのですか!?」
シャーリー「エンジンのついた乗り物にはちょっとうるさいぐらいだ。改造なんかもよくやってたしなぁ。それで問題になったこともあるけど」
優花里「魔法も相成ってイェーガー殿が操縦するものは全てそうですね!!」
シャーリー「当たり前だろ。たとえば、このマウス。整地でも20キロが限界のこいつでも、あたしが操縦すれば電撃戦にも使えるな」
優花里「あのマウスで電撃戦ですか!? うぅー!! 今すぐにでもイェーガー殿には黒森峰に入学してほしいぐらいですぅ!!」
シャーリー「だけど、マウスはデカいからな。パンターぐらいでやるのが丁度いいかもな」
優花里「パンター戦車なら100キロオーバーも可能なのですか!?」
シャーリー「当然だ。ドリフトだってできる」
優花里「そ、それはこんな風にですか!? ぶーんっ!!」
シャーリー「そうそう。で、重戦車ばっかりが集まってるところにあたしが操るマウスが颯爽と登場する。――秋山ぁ! 生きているか!!」
優花里「イェーガー殿のマウスが到着した!! 総員!! 態勢を立て直せ!! 砲撃、開始!! ドドーン!!」
シャーリー「突破口はあたしが開く!! どーんっ!!」
131:
西住宅
芳佳「できましたー」
みほ「晩御飯まで用意してもらって、ごめんね」
芳佳「西住さんは気にしないでください。私がやりたくてやっているだけですから」
みほ「だけど、年上としては……」
芳佳「さ、食べましょう」
華「とても美味しそうですわ。いただきます」
麻子「私たちの分まですまないな」
芳佳「いえ。武部さんと秋山さんにも作ってあげたかったんですけど……」
みほ「二人も今頃、こうしてご飯を食べている頃かな」
麻子「秋山さんは晩御飯を食べることも忘れて模型の戦車で遊んでいるかもしれないな。シャーリーさんって乗り物に詳しいんだろう?」
芳佳「はい。シャーリーさんは運転するのが大好きですから。きっと秋山さんとは気が合うと思います」
華「はむっ……はむっ……」
芳佳「……五十鈴さん、どうですか?」
華「とても美味しいです。ですので、おかわりを貰えませんか?」
132:
芳佳「はい! ちょっと待っていてください!」
華「申し訳ありません」
麻子「……西住さん」
みほ「何?」
麻子「ネウロイについてはどうするつもりなんだ?」
みほ「ど、どうって?」
麻子「1体だけしか出てこないとは考えにくい。それにシャーリーさんやペリーヌさんが言ってた、出てきたのは陸戦型だと。ということは空と飛ぶものや海を泳ぐものがいると考えて良い」
みほ「……」
麻子「シャーリーさんの口ぶりからして、出てくるなら飛行タイプのネウロイだろうな」
みほ「でも、私たちじゃどうにもできないと思うから」
麻子「バルクホルンさんは銃器を探していた。そういった兵器でもネウロイを倒せるなら、戦車でも戦えると思う」
みほ「待って、麻子さん。戦車道は戦争じゃなくてスポーツだから、そんな危ないことはできない」
華「ですが、みほさんは既に戦う準備をされているのではないのですか? 今日、格納庫に戻ってからずっと難しい顔をされていました。あれは……」
みほ「ま、万が一の想定はしてあるってだけで、戦うつもりなんてないよ」
麻子「そうか。悪かった。おかしなことを聞いて」
133:
華「――お邪魔しました」
麻子「また明日」
みほ「うん。おやすみ」
華「宮藤さんも今日はありがとうございました」
芳佳「そんな。こちらこそ良くしてもらっているので、せめてものお礼です」
華「うふふ。そうですか」
麻子「おやすみ」
芳佳「おやすみなさい! 冷泉さん、五十鈴さん!」
みほ「……さてと、洗い物済ませてお風呂入っちゃおうか」
芳佳「はい!! 私がお風呂掃除しますね!!」
みほ「お、お風呂掃除? そこまでしなくていいよぉ」
芳佳「いえ! 西住さんには気持ちのいい綺麗なお風呂に入ってほしいですから!!」
みほ「そ、そう? 無理してない?」
芳佳「掃除も好きですから。ついでにトイレのほうも磨いておきますけど」
みほ「だ、大丈夫! トイレはホントに大丈夫だよ!」
134:
大洗女子学園 生徒会室
杏「りょーかい。じゃ、今から軽く会議でもする? うん、うん。でも、この時間に私にかけてきたのはそういうことだろ? うん、私は別にいいって」
桃「今日は帰れないな」
柚子「よくあることじゃない」
バルクホルン「……」
杏「よし。なら、すぐに役員を全員集めてくれ。オッケー。それじゃ30分後な。――河嶋、小山。いくぞ」
桃「どういった用件だったのですか?」
杏「霧が発生したときの対処法を決めておきたいんだってさ。まぁ、最近頻発してるし、無視できなくなったみたいだねぇ」
柚子「霧程度のことで今から役員会議を?」
杏「あの霧は視界が悪くなるだけじゃなくて、無線とケータイが使えなくなるからな。あとレーダーなんかも使い物にならなくなるみたいだから、かなり危ないってさ」
桃「そういうことですか」
バルクホルン「角谷、行くのか」
杏「うん。バルクホルンちゃんはこの部屋を自由に使っていいからね。あと、これ渡しとくよ」
バルクホルン「これは、なんだ?」
杏「この世界の電話機。携帯電話っていうんだけど、バルクホルンちゃんに貸してあげる。緊急用に必要だから」
135:
バルクホルン「これが電話機なのか……!?」
杏「そーそー。こっちでは携帯できる電話機をもっていて当たり前の時代だからね」
バルクホルン「文明の差に驚嘆することばかりだな」
杏「それさえあれば西住ちゃんたちとも連絡取れるから」
バルクホルン「私から西住に連絡することはない。それに複雑な機械の操作は苦手なんだ。これは返す」
杏「まぁまぁ。向こうから掛かってくることもあるかもしれないし」
バルクホルン「掛かってきたところでどうやって話せばいいんだ?」
杏「そっか。そうした説明もしなきゃいけないな」
バルクホルン「説明されたところで私では恐らく扱えない。それどころか壊してしまうこともあるぞ」
杏「んじゃ、画面の右上だけ見てて」
バルクホルン「右上?」
杏「そこが圏外って表示されたら、霧が発生したことになるから」
バルクホルン「それなら、分かりやすい」
杏「じゃ、おやすみぃ」
バルクホルン「感謝する」
136:
西住宅
みほ「これを押すとコール音が聞こえてくるの。あとは相手が通話ボタンを押してくれたら繋がるよ」
芳佳「そうなんですかぁ。色々と便利になっているんですね。このエアコンとかいうのも私たちの時代にもあればいいのに」
みほ「宮藤さんの世界は魔法も科学の内なら、きっと10年ぐらいで発展すると思うけど」
芳佳「魔法は万能じゃないですし、きっと難しいと思います」
みほ「そうなの?」
芳佳「個人差はありますけど使いすぎると魔法力も枯渇しますから」
みほ「スタミナみたいなものなんだ」
芳佳「あ、でも、ストライカーユニットは魔法力を利用するものだから、上手な使い方があれば……」
みほ「宮藤さんたちは普段ストライカーユニットで空を飛んで、ネウロイと戦っているんだよね?」
芳佳「そうですよ」
みほ「もしも、今飛行するタイプのネウロイが出てきたら、宮藤さんはどうするの?」
芳佳「戦います」
みほ「飛べないのに?」
芳佳「はいっ。西住さんたちを守るためには戦わないといけませんから」
137:
みほ「私たちを守るため……? どうして?」
芳佳「ど、どうしてと言われても困るんですけど」
みほ「だって、まだ出会って間もない私たちのために命をかけてあんな怪獣と戦うなんて普通は……」
芳佳「でも西住さんは私のことすぐに助けてくれました」
みほ「え……それは……」
芳佳「魔法とかウィッチとかよく分からないことを言う私のことをすぐに信じてくれたじゃないですか」
みほ「あ……うん……」
芳佳「もしあのとき、西住さんが助けてくれなかったら、私は今頃この世界にはいないはずの家族や友達を探していたかもしれません」
みほ「……」
芳佳「バルクホルンさんたちとも再会できなかったかもしれないじゃないですか。西住さんは私の命の恩人とも言えますっ」
みほ「そ、そうかなぁ」
芳佳「だから、どんなネウロイが来たって……!」
みほ「宮藤さん……」
芳佳「西住さんのことは絶対に守ります! あ、もちろんこの世界も一緒にですけど!!」
みほ「……ありがとう」
138:
武部宅
沙織「ペリーヌさん、お風呂どーぞ」
ペリーヌ「いいんですの? 夕食までご馳走になっていますのに」
沙織「気にしないで。好きに使っちゃってよ」
ペリーヌ「では、お言葉に甘えますわ」
沙織「ごゆっくり」
エイラ「……」
沙織「エイラさん」
エイラ「なんだぁ?」
沙織「テレビ、面白い?」
エイラ「そうだな。テレビよりケータイのほうに興味があるけど」
沙織「いいよ。はいっ」
エイラ「簡単に貸してくれるんだな。壊すかもしれないとか考えないのかよ」
沙織「失礼しちゃうなー。友達をそんな風に疑ったりしないって。あと見られて困るものも今のところは入ってないし」
エイラ「お人好しだな、武部は」
139:
沙織「ありがとー、えへへ」
エイラ「バカだなぁ」
沙織「なんですってー!?」
エイラ「ありがと。もういいぞ」
沙織「あれ? ケータイ使ってなんかしたいことがあったんじゃないの?」
エイラ「ちょっと確認したいことがあっただけだ」
沙織「……大丈夫?」
エイラ「なんで?」
沙織「自分の知らない世界に来ちゃったときの感覚というか気持ちというか想像するしかないけど、やっぱりすごく不安になると思うから」
エイラ「……」
沙織「宮藤さんもペリーヌさんも、しっかりしてそうなシャーリーさんとバルクホルンさんだってきっと不安で不安でたまらないんじゃないかなって」
エイラ「そうだな。今度は武部が私たちの世界にこいよ。歓迎してやってもいいぞ?」
沙織「えー? でもでも、エイラさんの世界にいって私が男を魅了する魔法とかを習得したら、それはそれで困っちゃうしぃ」
エイラ「それはないだろ」
沙織「なんでそんなこというのよー!?」
140:
秋山宅
優花里「イェーガー殿! いつでも入浴できますよ!」
シャーリー「サンキュー。けど、あたしは一番最後でいいよ。浴室を汚すことになるし」
優花里「いえ! 大切な客人であるイェーガー殿が一番に使ってください!!」
シャーリー「……じゃ、一緒に入るか」
優花里「私とですか!?」
シャーリー「扶桑、ああ、こっちは日本か。日本では裸の付き合いも大事なんだろ?」
優花里「でも、うちのお風呂はそこまで広くないので」
シャーリー「心配するな。これでもドラム缶風呂にだって入ったことがあるからさ」
優花里「ド、ドラム缶!! そんなサバイバル経験もお持ちとは!! やはり本物の軍人なのですね!!」
シャーリー「なんだ、疑ってたのかぁ?」グリグリ
優花里「ふ、ふふぃふぁふぇん!!」
シャーリー「あははは。さ、案内してくれ」
優花里「わかりました!! 一生懸命、お背中を流させていただきます!!」
シャーリー「お、いいな。頼むよ、秋山」
141:
浴室
優花里「よいしょ、よいしょ」ゴシゴシ
シャーリー「あー、いい気持ちだぁ」
優花里「ありがとうございます!!」
シャーリー「……秋山もそうだけど、西住たちも人がいいよなぁ。得体の知れない連中とこうして仲良くしてくれるんだからさ」
優花里「得体の知れないなんてとんでもない!! イェーガー殿も宮藤殿もあのネウロイから私たちを守ってくれたではありませんか!!」
シャーリー「まだ1体だけだろ。ネウロイの恐ろしさは伝わってないと思うけどな」
優花里「それはそうなんですけどぉ」
シャーリー「あいつらは容赦なく侵攻してくる。今、このときも私たちの世界ではネウロイの脅威に晒されてる」
優花里「あのネウロイが群れをなしてこの世界に入り込んできたら……」ゴシゴシ
シャーリー「あっと言う間に侵略されるかもな」
優花里「あんなよく分からない生命体にですか……。私の乏しい想像力ではそうなってしまった世界を思い描くこともできません」
シャーリー「私が思い描かせないよ」
優花里「え?」
シャーリー「私が戦うんだ。そんな世界は絶対に来ない」
143:
大洗女子学園 生徒会室
バルクホルン「……霧が発生している様子はないか」
バルクホルン「圏外とも表示されていないから大丈夫そうだな」
バルクホルン「だが……考えなければならない……」
バルクホルン「もしこの世界にまで大量のネウロイが攻め込んできたら……」
バルクホルン「まだネウロイの発見例はないようだが……これからは……」
ピリリリ……ピリリリ……
バルクホルン「な!? 電話機が……。た、確か、この通話ボタンを……」ピッ
バルクホルン「私だ」
杏『もしもし、バルクホルンちゃん。角谷杏ぅ』
バルクホルン「何かあったか?」
杏『いやぁ、悪いんだけどさぁ、ちょっと格納庫のほうまで行ってきてくれない? ナカジマちゃんたち、まだ残ってるかもしれないんだよね』
バルクホルン「こんな遅くまであいつらは何をしているんだ?」
杏『残ってるとしたらポルシェ・ティーガーのメンテかな。いつも私たちが声かけるんだけど、今日はまだ会議が終わりそうになくてね』
バルクホルン「角谷も大変だな。分かった。格納庫まで行ってこよう」
144:
格納庫
ナカジマ「おーい、ホシノー。終わりそう?」
ホシノ「あと5分頂戴」
ツチヤ「メンテが終わったら最後のテスト走行してみよう!!」
スズキ「オッケー」
バルクホルン「お前たち!!」
ナカジマ「あ、バルクホルンさん。どうしたんですか?」
バルクホルン「今、何時だと思っているんだ」
ナカジマ「何時って……。あれ? もう9時だ」
ツチヤ「ホント? 8時には会長が呼びに来るのに」
バルクホルン「角谷は運航委員会と会議中でまだ終わらないと言っていた」
ナカジマ「そうなんですか」
バルクホルン「連絡はなかったのか?」
ナカジマ「えーと……。あちゃぁ、会長から何度も着信がありますね。整備に夢中で気づきませんでした。後で謝っておかないと」
バルクホルン「だから角谷は私に頼んだのか……」
145:
スズキ「それじゃあ、テスト走行は明日に延期だね」
ツチヤ「えー? 今日こそはドリフトできると思うんだけどなぁ」
バルクホルン「いつもお前たちは夜遅くまで整備をしているのか?」
ナカジマ「戦車の整備は私たちがやるべきことですから」
バルクホルン「やるべきことか」
ナカジマ「はい。まぁ、好きでやっているところもあるんですけど」
バルクホルン「ここまで見事に乗りこなすものがいると、こいつも幸せだろうな。レオポンだったか」
ナカジマ「いやぁ、でも試合では結構無茶なことさせちゃいましたけどね」
バルクホルン「戦車道のことは角谷にから聞いた。輝かしい成績を残したらしいな」
ナカジマ「私たちは決勝戦だけですけどね。まぁ、その前から色々と西住さんたちのサポートはさせて頂きました」
バルクホルン「楽しかったか?」
ナカジマ「勿論です。大洗に来て一番充実していました。5輌の戦車を一晩でレストアしてほしいって言われたときは本当に大変でしたけど」
ツチヤ「あれは死ぬかと思ったよね」
スズキ「一晩は普通は無理だって。もうできない」
バルクホルン「だが、お前たちはそれをやり遂げたのだろう? 何故、そのようなことができたんだ?」
146:
ナカジマ「色々と理由はありますけど、一番は会長が必死だったからですね」
バルクホルン「角谷が?」
ナカジマ「あの会長が頭を下げにきたときは驚きました」
バルクホルン「確かに角谷がそのような行動をとるような人物には見えないな」
ナカジマ「ええ。後で知ったことですけど、会長と河嶋さんと小山さんは学園を守るために毎日頑張っていたんです。誰にも相談することもなく」
バルクホルン「この学園を守るためとは?」
ナカジマ「戦車道で優勝できなかったら廃校になるところだったんですよ」
バルクホルン「そんな重責をたった3人で背負っていたのか?」
ナカジマ「プレッシャーになるといけないから、楽しんで欲しいから、あえて誰にも言わなかったそうです。水臭いなぁとは思いますけど、嬉しかったのも事実ですね」
バルクホルン「この大きな艦を……3人だけで守ろうとしたのか……。そこまで大切な場所だったわけか」
ナカジマ「会長だけじゃなく私だって嫌ですよ。3年間の思い出が卒業と同時に消えるなんて。考えたくもないです」
バルクホルン「愚問だったな。すまない」
ホシノ「おわったよー」
ナカジマ「わかった。それじゃ今日は帰ろう」
バルクホルン「……待て。折角だからテスト走行ぐらいはやっていけばいい。私が付き合ってやろう」
147:
武部宅
ペリーヌ「むむ……」
エイラ「何ケータイを必死に眺めてるんだよぉ」
ペリーヌ「圏外になると霧が発生した証拠なのでしょう? 秋山さんたちが話しているのを聞いていましたもの」
エイラ「あぁ、それか。別に気にするほどのことでもないだろー」
ペリーヌ「何を言っていますの!! この世界にまでネウロイは入り込んでいますのよ!! もっと気を引き締めたらどうですの!?」
エイラ「相変わらず、クソ真面目だなぁ、お前。もっと肩の力抜けよ」
ペリーヌ「できるわけありませんわ! 武部さんたちには多大な恩がありますでしょう」
エイラ「飯食わせてもらって、風呂を使わせてくれたな。サウナがあればよかったけど」
ペリーヌ「わたくしはこの眼鏡までお借りしている身ですから」キリッ
エイラ「ふぅん」
ペリーヌ「エイラさん。サーニャさんの下へ帰りたい気持ちは分かりますけど、今は目の前のことを片付けなければなりませんわよ」
エイラ「……おい」
ペリーヌ「え? あ……圏外に……!?」
エイラ「行くか。ここからは私の出番だな」ピコンッ
148:
秋山宅
優花里「ここで?号が攻めてきます!! ゴゴゴ!」
シャーリー「じゃあ、私は八九式を動かして――」
優花里「あ!?」
シャーリー「どうした?」
優花里「いつの間にか圏外になっていました」
シャーリー「それって……」
優花里「霧が発生しているのでは……。窓の外を見る限り、まだよく分かりませんけど」
シャーリー「……」ピコンッ
優花里「これから霧が濃くなっていくのでしょうか」
シャーリー「秋山軍曹、シャーロット・E・イェーガー大尉はこれから巡回任務に向かいます」
優花里「これからですか!?」
シャーリー「秋山は寝ていてくれ。精巧な模型を使った戦術シミュレーション、楽しかったよ」
優花里「ま、待ってください!!」
シャーリー「じゃあな」
149:
西住宅
みほ「あ……」
芳佳「どうしたんですか?」
みほ「まさか……」
芳佳「窓の外になにかあるんですか?」
みほ「まだ霧は出てないけど……でも……」
芳佳「西住さん……?」
みほ「……」
芳佳「私、行ってきます」
みほ「ダメだよ。こんなに暗いのに、宮藤さんがどうなるかわからない」
芳佳「私たちがいかないと、西住さんを怖がらせてしまうことになりますから」
みほ「でも……いくら魔法があっても……もし、空を飛ぶネウロイが出てきたら……」
芳佳「行ってきますね!!」
みほ「まっ……!!」
みほ「宮藤さん……」
150:
学園艦内 会議室
桃「だから、霧が発生する直前まで周辺の情報をだな!!」
杏「あー、こりゃ長引くなぁ」
柚子「既に予定よりも1時間以上長引いてますよ。……主に桃ちゃんの所為で」
桃「桃ちゃんと呼ぶな!!」
杏「……小山、携帯みて」
柚子「え? あ、圏外になってます」
杏「霧が出てきたか」
柚子「どうするんですか?」
杏「できることあるかねぇ」
柚子「戦車で一緒に戦うとか」
杏「スポーツの戦車しか知らない私たちが出しゃばっても足手まといにしかならない」
柚子「でも何もしないよりかはいいんじゃないですか?」
杏「宮藤ちゃんたちは5人。どう頑張っても5輌を守るのが精一杯だ。敵が多ければ多くなるほど、宮藤ちゃんたちの負担になるし。別の方法で支援できればいいんだけどね」
柚子「えっと、それはどういう……?」
151:
演習場
バルクホルン「霧が出てきたか」
ナカジマ「これってネウロイってやつが出てくる合図ですか?」
バルクホルン「そういうことだな。ナカジマたちは格納庫まで戻れ。帰宅は暫く我慢しろ」
ホシノ「それはいいんだけど、もしネウロイが出てきたらどうするの? やっぱり戦うの?」
バルクホルン「ああ」
ツチヤ「任せていいの?」
バルクホルン「心配するな。命にかえてもお前たちは思い出と共に守ってやる」
ナカジマ「1人でですか?」
バルクホルン「他の4人もいずれ集まる」
ナカジマ「あの、レオポンでもネウロイをやっつけられるなら、手伝いますけど」
バルクホルン「ネウロイは白旗をあげても攻撃を止めない。……これはスポーツではないからな」
スズキ「そ、そっか」
ナカジマ「……では、私たちは戻りますね」
バルクホルン「ナカジマ。お前たちのポルシェ・ティーガーは最高の乗り心地だった。礼をいう」
152:
シャーリー「バルクホルン!!!」
バルクホルン「シャーリー。やはり早かったな。敵はどこにいる?」
シャーリー「位置的には昼間と同じ場所だな。ただ、1体じゃない」
バルクホルン「お前の耳では正確な数は分からないか」
シャーリー「悪いな。中佐がいればよかったんだろうけど」
バルクホルン「いない者の話はするな。宮藤たちは?」
シャーリー「さぁ、もう少しかかるんじゃないか?」
バルクホルン「……好都合だな。いくぞ、シャーリー」
シャーリー「お前な。かっこつけようとするなよ」
バルクホルン「長時間、武器もなく戦えるのは私とお前ぐらいだ」
シャーリー「あたしも数に入ってるのか」
バルクホルン「案内しろ、シャーリー」
シャーリー「エイラたちが怒るぞ」
バルクホルン「ネウロイを殲滅したあとで叱責は受けてやる」
シャーリー「……こっちだ」
153:
エイラ「うーん……」
ペリーヌ「エイラさん、何をされていますの? 早く合流地点に行かなくてはなりませんでしょう」
エイラ「分かってる。とりあえず、こっちだな」
ペリーヌ「も、もしや!! そちらにネウロイが!? こんな市街地で……!!」
エイラ「いや、そんな怖いものじゃない」
ペリーヌ「へ?」
芳佳「エイラさん!! ペリーヌさん!!」
エイラ「よぉー、宮藤ぃ」
ペリーヌ「あぁ、宮藤さんでしたの」
芳佳「よかったぁ。それじゃあ、学校まで行きましょう!! バルクホルンさんとシャーリーさんも待っているはずです!!」
エイラ「だな。というかもう大尉だけで戦ってそうだけど」
芳佳「そんな!! 1人なんて危険です!!」
エイラ「バカだなぁ、宮藤。大尉がどうして1人学校に残ったと思ってんだよ」
ペリーヌ「はい? 何か関係がありまして?」
エイラ「私たちの到着をわざと遅らせるためだ。大尉は魔法の持続力が高いから、なるべく1人で戦闘するつもりなんだ。こうでもしないと宮藤は命令しても戦おうとするかんな」
154:
西住宅
みほ「……」
みほ(戦車道はスポーツ……戦争じゃない……)
みほ(だけど、宮藤さんが戦おうとしてる。私たちのために。あんな怪獣と……)
みほ(ウィッチだから戦える……魔法があるから大丈夫……?)
みほ(本当に……? 宮藤さんはストライカーユニットがないと困るって言ってたのに……?)
みほ「……」
ピンポーン
みほ「え? は、はい?」
沙織『みぽりん!! 私!!』
みほ「沙織さん? どうしたの?」
沙織『ペリーヌさんとエイラさんがいなくなってたの!! 私がお風呂に入っている間にどっかいっちゃってさぁ!!』
みほ「ここにはいないよ」
沙織『もしかして、芳佳ちゃんも?』
みほ「う、うん……きっと今頃……」
155:
沙織『やっぱりこの霧の所為で……。みぽりん、今暇なら一緒に学校までいかない?』
みほ「え!? い、いまから!?」
沙織『うん!! 行こうよ!!』
みほ「……」
沙織『芳佳ちゃんたち、銃を探してたぐらいだしさぁ、戦車があれば大助かりなんじゃない?』
みほ「ダメ!! そんなの……ダメだよ……」
沙織『じゃあ、戦車を貸すのは? それだけでも全然違うよ! うん!』
みほ「……バルクホルンさんたちは戦車を貸して欲しいなんて一言も言わなかった」
沙織『そうだけど、乗ってもらったほうがよくない?』
みほ「きっと乗ってくれないと思うな……。宮藤さんを見ているとそんな気がして……」
沙織『そんなの聞いてみないと分からないじゃん。それともこのまま霧が晴れるまで待つの?』
みほ「……」
沙織『みぽりん』
みほ「私は――」
優花里『西住殿!! 秋山優花里、ただいま到着いたしました!!』
157:
みほ「優花里さん……!?」
優花里『イェーガー殿は巡回に行きましたよ。私たちも行きましょう!』
みほ「ま、待って!! 宮藤さんたちがやっているのは戦車道じゃないんだよ……」
華『それは分かっていますわ』
麻子『だからこそ、西住さんは真剣に悩んでいたんだろう?』
みほ「華さん、麻子さん……」
優花里『考えていることはみんな一緒ですよぉ』
みほ「怪我だけじゃ済まないかもしれないよ」
沙織『顔は怪我したくないけど、ペリーヌさんたちが怪我するのはもっと嫌だよ』
麻子『正直、私たちの危機感は薄いのかもしれない。心では戦車道と同じような感覚で戦おうとしているのかもしれない。けど、助けに行きたいという気持ちに嘘はつけない』
華『行きましょう、みほさん。わたくし、宮藤さんに夕食のお礼がしたいです』
みほ「……」
沙織『みぽりん、ダメかな?』
みほ「――行こう!!」
優花里『はい!! 行きましょう、西住殿!!』
158:
格納庫
ナカジマ「……」
ホシノ「このまま待ってるの退屈だ」
ツチヤ「やっぱり戦車を使ってもらったらどう?」
スズキ「それ賛成。武器なしで戦えるなら、銃器を貸してほしいなんていわないだろうし。やっぱり何かしら戦える武器はいるんじゃない?」
ナカジマ「よし。使ってもらおうか、戦車」
ホシノ「うん。整備も終わってるからいつでも動かせる」
ナカジマ「もう永遠に走れなくなるほど壊れちゃうかもしれないけど、いいよね」
ツチヤ「万が一そうなったときは、あとでみんなに謝ろう!!」
スズキ「土下座すればなんとかなるって」
ホシノ「みんな優しいしね」
ナカジマ「とりあえず持っていく戦車は――」
澤「あー!! いたー!!」
カエサル「なんだレオポンチームが一番乗りだったのか」
ナカジマ「こんな夜更けにどうしたんですか?」
159:
演習場
ネウロイ「……」ギギッ
バルクホルン「来たか……」
シャーリー「とりあえず視認できる数は20ってところか、霧も深いし、もっといるかもしれないけど」
バルクホルン「霧が晴れない限りは増える可能性もあるだろうな」
シャーリー「そういう冗談はやめてくれよ。気が滅入るだろ」
バルクホルン「私は冗談が嫌いなんだ」
シャーリー「いいか。ノルマは1人10体だぞ」
バルクホルン「そんなに素手で倒せるのか、シャーリー?」
シャーリー「倒すしかないだろ!! 戦車を借りるわけにもいかないからな」
バルクホルン「あいつらの戦車は戦うためにあるのではないようだからな。こんなつまらない戦闘で破損させてはナカジマたちに悪い」
シャーリー「走れなくなったら秋山が泣くだろうからなぁ」
ネウロイ「……」ギギッ
バルクホルン「行くぞ!! 命令は一つだ!! 絶対に死ぬな!!」
シャーリー「501とリベリオンの無事を確認するまで死んでたまるか!!」
160:
エイラ「あぁ、やっぱりもう戦ってるなぁ」
芳佳「急ぎましょう!!」
ペリーヌ「全く。大尉たちもわたくしたちの力も頼ってほしいですわ」
エイラ「いくら陸戦タイプとは言え、こっちは素手だからなぁ。厳しいなぁ」
芳佳「エイラさんの魔法があれば大丈夫ですよ!!」
エイラ「おい、ペリーヌ」
ペリーヌ「な、なんですの?」
エイラ「お前は宮藤と一緒に離れた場所にいろ。いいな」
ペリーヌ「どうしてですの。わたくしのトーネルで一掃しますわ」
エイラ「数回しか使えないだろ、その魔法。無駄撃ちはすんなよ。宮藤とお前さえいれば逆転するチャンスはいくらでも生まれるんだからな」
芳佳「わ、私とペリーヌさんがですか?」
エイラ「そうだ。特に宮藤。お前の治癒魔法があれば傷ついてもなんとかなるんだ」
芳佳「で、でも……」
エイラ「ペリーヌは宮藤を守ること。いいな? 絶対だかんな」
ペリーヌ「は、はい。わかりましたわ」
161:
バルクホルン「はぁぁ!!!」バキィッ!!!
パリィィィン……!!!
バルクホルン「シャーリー!! 無事か!!」
シャーリー「丁度いい石が転がってるからなんとかなってる!! お前も拾って投げてみたらどうだ!?」
バルクホルン「石を拾う時間があれば――」
ネウロイ「……」ギギッ
バルクホルン「ネウロイを叩く!!!」バキィッ!!!
シャーリー「無理はするなよー」
エイラ「――シャーリー!! 右だ!!」
ネウロイ「……」ピカッ!!!
シャーリー「おっと! 助かったよ、エイラ」
バルクホルン「エイラか!! 宮藤とペリーヌはどうした!!」
エイラ「遠くで待機させてる」
バルクホルン「そうか……。よし!! エイラは指示を出してくれ!! だが、自身を守ることが最優先だ!! いいな!!」
エイラ「りょーかーい」
162:
バルクホルン「ふっ!!」バキィッ!!!
パリィィン……!!
バルクホルン「はぁ……はぁ……」
シャーリー「こっちは8だ。バルクホルンはー?」
バルクホルン「12だ!」
シャーリー「おう。悪いな」
バルクホルン「残りは?」
シャーリー「1体や2体じゃあなさそうだ」
バルクホルン「くっ……。せめて霧が晴れてくれれば……」
シャーリー「――ヤバい!!」
バルクホルン「どうした?」
エイラ「シャーリー!! 今、嫌な未来が見えたぞ!!」
バルクホルン「何があったんだ!! 報告しろ!!」
シャーリー「ここから正反対の位置にもネウロイがいるみたいだ!! あいつらの足音が聞こえたよ……!!」
バルクホルン「恐れていたことが起きたか。このままでは学園艦に住む者たちが……」
163:
シャーリー「どうする? 今から避難させるか?」
バルクホルン「呼びかけて混乱したらそれこそ終わりだ」
シャーリー「けど……」
杏『マイクテストー、マイクテストー。あ、これは無線じゃないからいけるみたいだねぇ』
バルクホルン「角谷か?」
エイラ「なんだぁ?」
桃『会長、それよりも連絡を』
杏『ほいさ。えー、突然で悪いけど今から戦車道の夜戦訓練を市街地でおっぱじめるから、みーんな近くの避難経路を使ってやかに艦内へ移動してくれー。何かあってもしらないぞー』
柚子『外は霧が発生していますので十分に注意して落ち着いて移動してください。係りの者が誘導しますので指示に従ってください』
杏『なんとか10分で移動は終わらせるから、がんばってー』
シャーリー「マジかよ……」
バルクホルン「シャーリー、市街地にネウロイはいないな?」
シャーリー「ああ。けど、時間の問題だな。あいつらの音が近づいてる」
バルクホルン「ともかく戦力を分散するしかない。シャーリー、行ってくれ」
シャーリー「全力で行っても間に合うかどうか……。やるしかないけどさ」
164:
エイラ「乗せてもらったら、どうだ?」
シャーリー「……やっぱり、この音はそうか」
ポルシェ・ティーガー『バルクホルンさーん』ゴゴゴゴッ
バルクホルン「ナカジマ!? 何をしているんだ!! 戻れ!!」
ポルシェ・ティーガー『この戦車を使ってください』
?突『この?突も活用してほしい』
M3『私たちの戦車もどうぞ!!』
バルクホルン「いいから戻れ!! そんなものがなくても私たちは戦える!!」
エイラ「ムリダナ」
バルクホルン「エイラ!!」
エイラ「意地を張ってたら本当に守りたいものを守れなくなるぞ、大尉。もう角谷たちにも協力してもらってるんだ。カエサルやおりょうの世話になっても一緒だろ」
バルクホルン「しかし……!!」
シャーリー「ここで話し合ってる時間が無駄だろ」
エイラ「――?突!! 1時の方向!! 撃て!!」
?突『了解!!』ドォォン!!!
165:
パリィィン……!!
エイラ「命中だな」
おりょう『あ、当たったぜよ』
左衛門佐『今、勢いで撃ったんだけど』
エルヴィン『イッルの魔法は大富豪で確認済みだ』
カエサル『イッル!! 指示を!!』
エイラ「よし。任せろ」
バルクホルン「民間人を巻き込むのか」
エイラ「なんてことないって。私たちで守ってやればそれでいいだろ。私もシールドは使える」
バルクホルン「……シャーリー!! お前はレオポンと共に市街地に近づくネウロイの掃討にあたれ!!」
シャーリー「了解!! 行くぞ、ナカジマ!!」
ナカジマ『いつでもどうぞ!』
バルクホルン「M3は私と共にこい!!」
澤『了解!!』
ネウロイ「……」ギギッ
166:
芳佳「ペリーヌさん、私たちはどうしよう!?」
ペリーヌ「そ、そうですわね……えーと……」
?号『ヘイ、彼女。ドライブでも一緒にどう?』
芳佳「え……!?」
ペリーヌ「武部さん、ですの?」
みほ「宮藤さん。?号の上に乗って。ネウロイの攻撃は宮藤さんが防いでほしいの」
芳佳「西住さん……」
みほ「約束したから。宮藤さんを助けるって」
芳佳「……分かりました!」
ペリーヌ「わ、わたくしはどうしたらいいんですの!?」
みほ「ペリーヌさんは格納庫に急いでください」
ペリーヌ「何かありますの?」
みほ「みんなが集まってきちゃって。もし何かあるといけないから、防衛を頼みたいなぁって」
ペリーヌ「みんなって……」
沙織「戦車道の受講者全員!」
168:
?号戦車内
みほ「沙織さん、無線がいつ使えるか分からないけど、使えるようになったらすぐに言って」
沙織「分かってる」
みほ「麻子さん、視界は0と言ってもいい。いつも以上の負担を強いることになるけど」
麻子「西住さんの指示したルートを外れるつもりは微塵もない」
みほ「華さん、対象に砲撃するのは困難を極めるけど」
華「いえ。どのような状況でも必ず当ててみせます」
みほ「優花里さん、相手は戦車じゃないから装填も早めにお願い」
優花里「任せてください!!! 決勝戦よりも早く装填してみます!!」
みほ「宮藤さん!」
芳佳「はい!!」
みほ「ネウロイの攻撃に耐えられる戦車じゃないから、防御は全て宮藤さんに任せます。……ごめんなさい。勝手なことをして」
芳佳「いえ!! 私も不安でしたから……。西住さんたちがいてくれて心強いです。でも、本当はこんなことに巻き込みたくはなかったんですけど」
みほ「ううん。私たちから巻き込まれてにいっただけ。宮藤さんの所為じゃないよ」
芳佳「ありがとうございます!!」
170:
バルクホルン「宮藤!!! エイラ!!!」
芳佳「はい!!」
エイラ「なんだー」
バルクホルン「これより西住たちの共闘しネウロイの殲滅にあたる!! いいな!!」
芳佳「了解!!」
エイラ「宮藤!! 正面!!」
芳佳「え……!?」
ネウロイ「……」ピカッ!!!
芳佳「くっ……!!」ギィィン
みほ『華さん!!』
華『はい。今の光から相手の位置は……ここ……』
みほ『撃て!!』
華『はいっ!』ドォォォン!!!
パリィィィン……!!
芳佳「す、すごい……当てた……」
172:
シャーリー「急げ!! ナカジマ!!」
ナカジマ『これ以上はちょっと無理ですね』
ツチヤ『レオポンだから』
シャーリー「ツチヤの操縦テクニックはどれほどのものなんだ?」
ツチヤ『大洗のドリフトキングって呼ばれるぐらいには!!』
スズキ『そうだっけ?』
ホシノ『さぁ』
シャーリー「それなら時70キロのポルシェ・ティーガーも操れるな?」
ツチヤ『どういうこと?』
シャーリー「しっかり前みて、操縦桿を握れ!!」ピコンッ
ナカジマ『ちょっとまって――』
シャーリー「いっけぇぇぇ!!!」
ツチヤ『わぁぁぁ!?』ゴゴゴゴゴッ!!!
ナカジマ『はやい!! 過ぎますって!! 戦車のスピードじゃない!!』
ツチヤ『でも、これだけスピードがあれば……!! よぉーし!! 腕の見せ所ぉ!!!』
174:
格納庫
典子「私たちも戦いにいきます!!」
妙子「行かせてください!!」
ペリーヌ「ですから、ルノーならまだしも、八九式では……」
あけび「八九式を馬鹿にしないでください!!」
忍「中戦車なんですよ!?」
ペリーヌ「わ、わかりましたから」
みどり子「本来ならこんな時間に出歩くなんて校則違反なのに」
ねこにゃー「でも、霧が出た途端、こうしてみんなが集まったのって、ボク嬉しいな」
ぴよたん「この前やった戦略を考える訓練でもみんな似たようなものだったしね」
典子「今の戦力でもう一度黒森峰に勝とうと思うなら、大体一緒になると思うな」
ペリーヌ「……みなさん、強い絆があるようですわね」
みどり子「ド素人が戦車道の全国大会で優勝するためには技術よりもチームワークがないとダメだったのよ」
ペリーヌ「なるほど。では、今は西住さんたちを信じて、ここで待機ですわ」
ペリーヌ(守らないと……。この人たちだけは……)
175:
?号戦車内
沙織「うーん……?」
芳佳「西住さん!! 囲まれそうです!!」
みほ「分かってる。麻子さん、右転回!」
麻子「ほい」
みほ「華さん!!」
華「はい」カチッ
芳佳「――外れました!!」
華「申し訳ありません」
みほ「間髪いれずに砲撃します!! 行進間射撃でいけますか!?」
華「問題ありません」
優花里「装填完了!!」
華「……いきます」カチッ
みほ「宮藤さん!」
芳佳「あ、あたりました!!」
176:
M3 車内
あや「西住流すごい……」
あゆみ「というか華先輩が凄すぎ……」
バルクホルン「いや。あれは全員の腕が確かである証拠だ。この視界の悪さと移動しながらの砲撃。凡人では簡単にはできない」
澤「みんな!! あんこうチームに遅れをとならないようにしよう!! ここで足を引っ張っているようじゃ重戦車キラーにはなれない!!」
優季「そうだねぇ。怖いけど、やらなきゃ。桂利奈ちゃん、がんばってぇ」
桂利奈「あいぃぃ!!」
バルクホルン「左後方からネウロイが来ている!! 砲塔を回せ!!」
あゆみ「よーし!! これでもくらえ!!!」
澤「外れた!!」
あゆみ「あぁ……やっぱりだめ……華先輩みたいにはいかない……」
澤「諦めちゃダメ!! できなくて当たり前!! できるようになるまで練習!!」
あゆみ「わかった!!」
優季「ファイトォ」
バルクホルン「目標が高いなお前たち。西住たちはかなりの離れ業をやっているんだが……」
177:
?突 車内
エイラ「3……2……1……。――発射ぁ!」
左衛門佐「くらえ!!」カチッ
エルヴィン「命中を確認!!」
カエサル「イッルがいれば無敵だな」
おりょう「イッル、最高ぜよ」
エイラ「……エルヴィン。11時の方向だ」
エルヴィン「何かあるのか」ゲシッ
おりょう「いてっ。久しぶりに蹴られたぜよ」
エイラ「ネウロイが一匹、逃げてく」
カエサル「その方角だと、森の中に入ってしまうな」
エイラ「その先は?」
カエサル「人が住んでいるところに行ってしまう」
エルヴィン「まだ無線は使えないな。我々だけで踏み込むか?」
エイラ「……仕方ないな」
179:
?号戦車内
優花里「今ので6体目ですね」
みほ「宮藤さん、まだネウロイはいるかな?」
芳佳「視認はできません」
麻子「やっつけたか」
華「まだ分かりません。視界も悪いままですから」
沙織「……お! きたぁ!!」
みほ「無線、使えるの!?」
沙織「あ、違うの」
麻子「何をしているんだ?」
沙織「ちょっと聞いてよ。えーと……」
華「なんですか?」
沙織「こちら武部沙織。応答してください」
美緒『お前か!? 先ほどは何故強引に通信を断ったんだ!?』
沙織「いえ、あの、こっちでも色々繋がり難くて」
180:
優花里「もしかして坂本殿ですか!?」
芳佳「坂本さん!?」
美緒『宮藤は無事なのか!?』
みほ「宮藤さん、これを使って」
芳佳「はい! ――坂本さん!!」
美緒『宮藤!! 宮藤か!?』
芳佳「私は無事です!! バルクホルンさんもシャーリーさんもペリーヌさんもエイラさんも!! みんな無事です!!」
美緒『少し待て! 今、リーネを呼び戻す!!』
芳佳「すみません!! 今、ネウロイと交戦中なので!! またあとでお願いします!!」
美緒『なんだと!? どこで戦闘をしているんだ!!』
芳佳「それが坂本さんがいる世界とは別の場所で……」
美緒『何をわけの分からないことを言っている!?』
芳佳「えっと……あの……」
みほ「宮藤さん、私から説明してもいいかな?」
芳佳「は、はい。お願いします」
182:
美緒『――その話を信じろというのか?』
みほ「私たちもこうしてネウロイと戦っているのが不思議なぐらいです」
美緒『うーむ……』
みほ「とにかくまた通信できる機会があればすぐにでも――」
美緒『待て。その話が本当だとするなら、かなり厄介なことになる』
みほ「え?」
美緒『宮藤たちが消息を断ったあとにハルトマン、501の隊員が大型のネウロイを1体撃墜した。しかし、その直前まで2体いたことが確認されている』
みほ「それは航空機タイプですか?」
美緒『ああ。1体が消えた理由が分からなかったが……』
みほ「こっちの世界に……来ている……?」
美緒『ユニットは誰も持っていないのだったな?』
みほ「は、はい。宮藤さんたちは今は飛べません」
美緒『非常に不味いな。ユニットなしでネウロイと戦うのは……』
みほ「……あの坂本さん。私が考えた戦術があるんですけど、聞いてくれますか?」
美緒『戦術?』
185:
市街地
ツチヤ『ドリフト! ドリフトぉ!!』ガガガガガッ!!!!
シャーリー「おっしゃぁぁ!! ネウロイだ!!! 砲撃!!!」
ホシノ『これじゃ、当てられないっ!!』
スズキ『まともに装填もできない!!』
ネウロイ「……」ギギッ
ナカジマ『シャーリーさん!! 思ったんですけど、弾を上げることはできるんですか!?』
シャーリー「余裕だ!!」
ナカジマ『ホシノー。とりあえず撃てば当たるよ。照準だけ合わせて。ツチヤ、一時停止。スズキー、装填急いでー』
ツチヤ『よっと』
スズキ『装填できた!』
ホシノ『照準を……』
シャーリー「しっかり狙え。射線軸に相手がいれば避けられはしないからな」ピコンッ
ナカジマ『うてー!!』
ホシノ『発射!』ドォォン!!!
186:
ポルシェ・ティーガー 車内
ナカジマ「シャーリーさーん、どうですかー?」
シャーリー「クールだよ!」
ナカジマ「よかった。他にネウロイは?」
シャーリー「調べてみる」
ホシノ「あのウサ耳便利そう」
スズキ「遠くの音まで聞こえるのはいいよね」
ツチヤ「無線いらずかぁ」
シャーリー「180度転回。行くぞ」
ナカジマ「だってー」
ツチヤ「了解!!」
シャーリー「まだ避難が終わってないところもあるから、そこにだけは絶対に踏み込ませるな」
ナカジマ「そんなことさせませんよ」
沙織『応答してください。みなさん、状況報告をお願いします』
ナカジマ「お。無線が直った。こちら、レオポン。ネウロイの撃破は順調です」
187:
?号戦車内
みほ「あと何体残っていますか?」
ナカジマ『シャーリーさんによると、3体ほどだそうです』
みほ「分かりました。無理はしないでくださいね。今、そちらにカバさんチームも向かっているようですから、合流してからのほうがより安全です」
ナカジマ『了解』
みほ「ふぅー……」
優花里「霧も晴れたみたいですし、これで一安心ですね」
みほ「うん……」
芳佳「西住さん、大丈夫ですか?」
みほ「ちょっと疲れちゃったみたい」
芳佳「誰も怪我しなくてよかったぁ……」
みほ「私たち、宮藤さんの役に立てたかな?」
芳佳「十分すぎるほどですよ。むしろ、私のほうがあまり役に立てなかったような」
みほ「そんなことないよ。宮藤さんがいなかったら今頃?号はスクラップになってたかも」
芳佳「私のほうこそ、西住さんがいなかったらネウロイにやられていたかもしれないのに」
188:
麻子「しかし、気がかりだな」
華「坂本さんの話ですね。こちらの世界に大きなネウロイが1体、迷い込んでしまっていると」
麻子「宮藤さんと出会ってから、未確認飛行物体が都市を襲ったというニュースは無かったし、こちらに来ている可能性は低いのかもしれないが」
沙織「もー、麻子ぉ。そういうこと言わないでよぉ。たった今、安心できたところじゃない」
芳佳「やっぱり、みなさん……」
麻子「怖くないわけがないだろう」
優花里「貴重な体験といえますけど、やはり戦闘中は……」
芳佳「ごめんなさい!! 私たちがこっちに来ちゃったばっかりに!!」
華「宮藤さんの責任ではありませんわ」
沙織「そうだよぉ。こうして無事だったんだし、もういいじゃん」
優花里「ですが西住殿の考えた戦術、坂本殿にもお墨付きをもらったのに少しもったいないですね」
みほ「あはは。使わないほうがいいから」
優花里「あ、そ、そうですね。不謹慎なことを言ってしまいました。すみません」
みほ「そんなに思い詰めなくても」
麻子「早く帰ってアイス食べたいな」
189:
杏『西住ちゃーん! もしもーし!』
みほ「あ、会長?」
杏『そっちはどうなったの?』
みほ「なんとかなりそうです。会長もありがとうございます」
杏『いや。こういうやり方でしか手助けできないと思って』
みほ「そんなことは……」
芳佳「角谷さん、ありがとうございました!!」
杏『こっちこそ。化け物と戦ってくれてありがとね』
芳佳「戦ってくれたのは殆ど西住さんたちなんですけど」
バルクホルン『角谷。聞こえるか?』
杏『きこえるよー。バルクホルンちゃんもおつかれー』
バルクホルン『角谷の避難誘導がなければどうなっていたか。よく混乱させずに移動ができたな』
杏『まぁ、次に霧が出たらやろうと思ってたことだからねぇ。ところで市街地に戦車走ってくれた? 市街地で夜戦訓練するっていった手前、戦車が走ってないと困るんだよねぇ』
みほ「それなら大丈夫です。レオポンさんチームがドリフトとかしたらしいですから」
杏『え? もしかしてあの戦術書に書いてあったこと試したの?』
190:
みほ「戦術書って、坂本さんが書いたっていう?」
杏『そうそう』
バルクホルン『私がシャーリーに指示した。ポルシェ・ティーガーに乗れとな。あとは言わなくても勝手に魔法を使って加させることだろう』
杏『あぁ、そっか。バルクホルンちゃんは読んだもんね』
みほ「あ、そういえば私、一度も読んでない……」
杏『あのまま私が持って帰っちゃったからねぇ。読みたいなら貸してあげるけど?』
みほ「はい。是非」
杏『んじゃ、戻ってきたら……とか……で……か……』
みほ「え? 会長? あの……」
沙織「この感じ……。各チーム、応答してください!! 応答してください!!」
麻子「またか?」
優花里「そ、そんなぁ!! 終わったばっかりですよぉ!?」
華「霧は出ていませんが」
芳佳「た、大変です、西住さん! 空にネウロイが……!!」
みほ「な……」
191:
優花里「あ、あれが……航空機タイプのネウロイですか……」
麻子「確かに大きいな」
沙織「ど、どうするの!? あんなのからビームとか飛んできたら芳佳ちゃんでも無理じゃない!!」
芳佳「私のシールドなら武部さんたちを守ることはできます。でも、この艦を攻撃されたら……」
華「万事休すですね」
みほ「バルクホルンさんは?」
芳佳「ここからは見えない場所にいるみたいです。気づいてくれていればいいんですけど」
優花里「みなさんが上空のネウロイを発見していても、手出しができないのではないですか」
麻子「高射砲もないしな」
華「みほさん。先ほどの戦術を試してみてはどうでしょうか?」
みほ「でも、あれは全員の協力がないと……。無線は?」
沙織「ダメ! 霧がないのになんでかなぁ!? ケータイも圏外だし!! やだもー!!」
麻子「霧でもないなら上空のネウロイが原因か」
優花里「妨害電波を飛ばすネウロイ……。宮藤殿、ネウロイはそんなことまでしてくるんですか?」
芳佳「そんなの聞いたことないですよぉ」
192:
みほ「みんなを一箇所に集めないと……要となる人たちがいないと……」
麻子「どうする? このままでは危険だ」
芳佳「こっちに向かってきてます!!」
沙織「ヤバい!! ヤバいってー!!」
華「ここから撃っても当たりませんね」
みほ「優花里さん!!」
優花里「は、はい!!」
みほ「信号ラッパはありますか!?」
優花里「勿論です!!」サッ
みほ「優花里さんはそれを吹き続けてください!! 私たちは格納庫のほうまで向かいます!!」
麻子「分かった」
芳佳「いいんですか!?」
みほ「空の相手を撃ち落とすにはみんなの力が絶対に必要だから」
芳佳「みんなの……」
優花里「では、いきます!!」
193:
バルクホルン「?号戦車はどこだ!!」
梓『完全に見失いました!! すみません!!』
優季『あのぉ、沙織せんぱぁい、応答してくださぁい。おねがいしまぁす』
あや『こっから届かない?』
あゆみ『無理でしょ』
バルクホルン「勝手なことをするな!! 挑発するとどんな行動をとるかわからないぞ!!」
桂利奈『はい!! ごめんなさい!!!』
梓『西住隊長!! どこですかー!?』
紗希『静かに』
桂利奈『え? どうしたの?』
紗希『何か聞こえる』
優季『なにかって、なぁに?』
パパパパ……パパパ……
梓『ラッパ……?』
バルクホルン「信号ラッパか。集合をかけているようだな。音のするほうへ向かうぞ!!」
194:
市街地
エイラ「あと何体だー!?」
シャーリー「1体は確実にいる!!」
エイラ「くそぉ。さっきまで無線が使えてたのに。いちいち大声出すの疲れるんだからなぁ」
シャーリー「ん……?」ピクッ
エイラ「エルヴィン、2時の方角だ」
エルヴィン『了解!』
シャーリー「エイラ!! 集合しろって合図だ!!」
エイラ「集合!? なんでわかるんだ!?」
シャーリー「誰かがラッパ吹いてる!!」
エイラ「ラッパぁ?」
カエサル『グデーリアンだな』
エルヴィン『ああ、間違いない』
エイラ「グデーリアンって誰だ?」
カエサル『秋山優花里のソウルネームだ』
195:
シャーリー「まだネウロイがいるんだけどなぁ」
ナカジマ『シャーリーさん、?突のほうへ移動してください』
シャーリー「……?突のほうが足がいからな」
ナカジマ『ここは私たちがなんとかしますから』
シャーリー「調子に乗るな。ネウロイは決して弱くないんだ。お前らに何かあったらどうする?」
ナカジマ『このタイミングで召集かけてるってことは、何かあるはずですよ。少なくともウィッチであるシャーリーさんとエイラさんは戻らないと』
シャーリー「……いや。戻るなら、全員でだ」
ナカジマ『それだと市街地にネウロイが入り込んで、メチャクチャになります』
シャーリー「お前たちを置いていけるわけないだろ!!」
エイラ「シャーリー!! どうすんだ!?」
シャーリー「全員で戻る!!」
ナカジマ『シャーリーさん、レオポンは堅いですから。大丈夫ですよ』
シャーリー「そんなわけあるか!!」
ナカジマ『早く戻らないと手遅れになるかもしれません! だけどここも守らないとダメなんです!! ……私たちにとってこの学園艦は大切な場所ですから』
シャーリー「だからって……あたしは……」
196:
エイラ「シャーリー大尉、決めてくれ」
シャーリー「エイラ……」
エイラ「私は、上官に従う。ここで戦ってから戻るか?」
シャーリー「……分かった。?突で戻る。ナカジマの言うとおり、このタイミングだ。一緒に帰りましょうってわけでもないだろうし」
エイラ「で、ナカジマたちはどうするんだ?」
シャーリー「ナカジマ。一つだけ約束してくれないか?」
ナカジマ「……はい。なんですか?」
シャーリー「できる限り、身を隠してくれ。すぐに戻ってくるからさ」
ナカジマ「分かりました。でも、ネウロイが町を襲うようなら……」
シャーリー「とにかく、こっちにあたしが戻ってくるまで大人しくしてろ。いいな?」
ナカジマ「はい」
シャーリー「――戻るぞ、エイラ!!」
エイラ「了解!! エルヴィン!! おりょうに伝えてくれ!! 倍以上の度が出るから操縦には気をつけろってな!!」
エルヴィン『ん? どういうことだ?』
シャーリー「いくぞぉぉ!!! フルスロットルだぁぁぁ!!!」ピコンッ
198:
おりょう『おぉぉ……おぉ……!!』
左衛門佐『こんな度の戦車が存在していいのか!?』
エルヴィン『こわいんだが!!』
カエサル『もっとスピードおとせ!!』
おりょう『ブレーキが全然きかないぜよ!!』
エイラ「確かにナカジマたちは心配だけど、これはすぎないか?」
シャーリー「仕方ないだろ!」
エイラ「……あ。シャーリー、スピード落とせ」
シャーリー「なんでだ!」
エイラ「西住がこっちに向かってくる」
シャーリー「なに……?」
エイラ「エルヴィン、二つ目の路地を右折だ」
エルヴィン『二つ目の路地を右折だー!!』
おりょう『この度のままではぶつかるぜよ!!』
シャーリー「悪い、ちょっと緩める」
199:
芳佳「見えました!! ?号突撃砲です!!」
みほ「よかった!! すれ違いにならなくて!!」
エイラ「信号ラッパで召集かけたよな? なにかあったか?」
みほ「向こうの空を見てください」
エイラ「あ……?」
シャーリー「あれは……ネウロイか……!?」
みほ「はい。レオポンさんチームの援護は私たちに任せて、シャーリーさんとエイラさんはカバさんチームと格納庫まで戻ってください」
シャーリー「西住、最初からこっちに向かってきてたのか……?」
みほ「ネウロイが残っていると危ないですから」
エイラ「気が利くな」
シャーリー「あ、でもさ、宮藤はいいのか?」
芳佳「私では上空のネウロイを撃墜するお手伝いはできないので」
シャーリー「そうなのか」
みほ「シャーリーさん、エイラさん、ペリーヌさん、バルクホルンさんがいればなんとかなります。詳しいことは全てバルクホルンさんとシャーリーさんに伝えたので、急いでください」
シャーリー「了解!! 西住も早いとこナカジマのところに行ってくれ!!」
200:
格納庫
バルクホルン「……」
ペリーヌ「西住さん。これをずっと考えていたの……? 魔法のことだって殆ど理解していないはずなのに」
典子「これを今からするんですか!?」
みどり子「できるわけないじゃないの!!」
ねこにゃー「でも、バルクホルンさんたちは魔女だから不可能じゃないかも」
ペリーヌ「大尉、これは成功するでしょうか?」
バルクホルン「おかしい……」
ペリーヌ「何がです?」
バルクホルン「西住はあの戦術書を読んでないと言ってた」
ペリーヌ「え……?」
バルクホルン「偶然か……? いや……偶然でこんなにも酷似するか……?」
桂利奈「カバさんチームが戻ってきたー!!!」
あゆみ「早く準備しましょう!!」
バルクホルン「……今はネウロイ撃破が最優先だな」
201:
おりょう「うあぁぁ……ちょっと今までにない戦車だったぜよ……」
カエサル「しっかりしろ!! まだ終わっていないぞ!!」
シャーリー「今から何するんだ?」
エイラ「教えてくれ」
バルクホルン「?突の砲手は?」
左衛門佐「私でござる」
バルクホルン「装填手は?」
カエサル「私だ」
バルクホルン「二人は登場しろ。他の者は安全な場所に移動してくれ」
おりょう「それは無理な相談ぜよ」
エルヴィン「二人が戦場に残るというなら、私たちも残る」
バルクホルン「……了解。ここでお前たちを説得する時間もない。ペリーヌとシャーリーも?突に搭乗してくれ」
シャーリー「私もか?」
バルクホルン「急げ」
シャーリー「りょ、了解」
202:
エイラ「私の役目は?」
バルクホルン「魔法で砲撃のタイミングの指示を出してくれ。無論、ネウロイに砲弾が当たるタイミングをだ」
エイラ「それはいいけど、どうやって上空にいるネウロイに当てるんだよぉ」
バルクホルン「こうやってだ……!!」ググググッ!!!
エイラ「た、大尉……」
バルクホルン「ぬおぉぉぉおお……!!!」
エルヴィン「さ、?突を背負った……!?」
おりょう「凄すぎるぜよ……」
左衛門佐『なになに!? 傾いてるけど!?』
カエサル『何が起こっているんだ!?』
バルクホルン「照準を……あ、わせろ……!!」
左衛門佐『どうやって!?』
バルクホルン「向き……と……角度をいえ……!! 私が……合、わせる……!!!」
左衛門佐『は、はい!!』
エイラ「西住のやつ、こんなの考えてたのかよぉ……」
203:
市街地
ネウロイ「……」ギギッ
ナカジマ『来ちゃったなぁ』
ホシノ『撃っちゃう?』
ナカジマ『もうちょっと待とう。シャーリーさんは戻ってくるって言ってくれたんだし』
ツチヤ『でも、限界っぽいけど』
スズキ『すぐにでも光線撃ってきそう』
ネウロイ「……」ギギッ
ナカジマ『降りるなら今だけど?』
ホシノ『冗談。レオポン置いて逃げるなんて、ありえない』
ツチヤ『そうそう』
スズキ『根拠はないけど、なんとかなると思う』
ネウロイ「……」ギッ
ナカジマ『……攻撃開始!!』
ホシノ『これでもくらえ!!』
204:
ドォォォン!!!
ナカジマ『どう!?』
ホシノ『ダメだ!! 避けられた!!』
ネウロイ「……」ガシャンガシャン
ナカジマ『装填急いで!!』
スズキ『分かってる!!』
ネウロイ「……」ギギッ
ツチヤ『来る!! 退避していい!?』
ナカジマ『町とは逆方向ならいいよ!!』
ツチヤ『なら、バックだ!!』
スズキ『装填できたよ!』
ホシノ『当たれ!!』
ネウロイ「……」ピカッ!!!
ナカジマ『あ――』
ドォォォン!!!
205:
大洗女子学園 グラウンド
バルクホルン「まだ……か……ぁあぁあああ……!!!」
左衛門佐『あと気持ち上にしてください!』
バルクホルン「どれぐらいだぁぁ……!!!!」
梓「バルクホルンさん、辛そう」
あや「あぁ、もしちょっとでも力が抜けたら?突の下敷きになっちゃう……」
左衛門佐『そこ!!』
バルクホルン「よ、よし……!! シャーリー!!! ペリーヌ!!! 頼むぞぉぉ!!!」
ペリーヌ『了解!!』
シャーリー『完全にネウロイは?突の有効射程距離外にいるぞ。いくらあたしの魔法で弾を上げても届かないだろ』
ペリーヌ『ですから、わたしくがいるのです』バチッ
カエサル『発射準備完了!! イッル!! 指示を!!』
エイラ「大尉、ほんの少しだけ上に」
バルクホルン「こ、こうか……!!」ググッ
エイラ「そこだ。――発射!!!」
206:
パリィィィン……!!!
ナカジマ『……あれ?』
ホシノ『私の砲撃、当たった?』
スズキ『いや、違うみたい』
芳佳「大丈夫ですかー!?」
ナカジマ『?号……。西住さんかぁ……』
ツチヤ『あぁ……死ぬかとおもったぁ……』
ホシノ『はぁ……あぁ……』
スズキ『レオポンはどこも壊れてない?』
ナカジマ『うん。大丈夫』
芳佳「あのー!!」
ナカジマ「はいはーい。この通り、無事でーす」
芳佳「怪我はないですか!?」
ナカジマ「おかげさまで。ご心配をおかけしました」
芳佳「なんともなくてよかったぁ」
209:
みほ「ナカジマさん!!」
ナカジマ「西住さん。いやぁ、助かりましたよ。結構、怖かったですから」
みほ「本当ならここはナカジマさんやシャーリーさんに任せておきたかったんですけど」
ナカジマ「何かあったのは分かってますよ。西住さんはこんなときに意味のないことをする人じゃないですから」
ドォォン!!
ホシノ「わっ!? なに、今のすごい音」
みほ「あの青白い光は?突の砲撃です」
ナカジマ「どうして青白いのかはわかりませんが、空に向かって撃ったってことは……」
芳佳「はい。あそこを見てください。空にネウロイがいて、倒すためにはどうしてもシャーリーさんとエイラさんの力が必要だったんです」
ナカジマ「確かに気味の悪いのが飛んでますね。そういうことですか」
みほ「怖い思いをさせて、ごめんなさい」
ナカジマ「いえいえ。むしろ助けてくれたことに、私はお礼を――」
優花里「に、西住殿!! 電撃砲は命中したようですが、まだネウロイが消えてません!!」
みほ「どうして……!?」
芳佳「コアに当たらなかったのかも!! だとしたら大変です!!」
210:
大洗女子学園 グラウンド
バルクホルン「当たったか!?」
左衛門佐『命中はしたがネウロイは生きている!!』
バルクホルン「な、なんだと……!?」
エイラ「くる!!」ダダッ
梓「エイラさん!? どうしたんですか!?」
エイラ「お前たちはもっと遠くに逃げろ! ネウロイが撃ってくるぞ!!」
典子「え……」
ネウロイ「……」ゴゴゴ
あけび「キャプテン!! なんだか危険です!!」
忍「殺人スパイクがきそう!!」
妙子「エイラさん、何をするつもりなんですか!?」
エイラ「私のミスだ!! 私が守る!!」
バルクホルン「エ、イラ……シールドを……」
ネウロイ「……」ピカッ!!!
211:
エイラ「ぐっ……!!」ギィィン
ねこにゃー「ひっ!? た、たくさんの光線が……!?」
エイラ「くそ……! シールドの使い方、もっと練習しとくべきだったな……!!」
ペリーヌ『エイラさん!! 大丈夫ですの!?』
エイラ「いいから次を早く撃て!」
カエサル『りょ、了解!!』
シャーリー『待て! エイラの指示なしで対空砲を撃っても当たらないぞ!!』
カエサル『心配はいらない!! 左衛門佐もそれなりの腕前だ!!』
左衛門佐『やるでござる!!』
シャーリー『確実じゃないと意味がないんだよ!! 次で倒せなかったら、お前らの命も! この艦も! 故郷も! どうなるかわからないんだぞ!?』
カエサル『うっ……』
バルクホルン「いいから……はやくしてくれ……私も長くは戦車を……支えることは……できないぞ……」
エイラ「また撃ってくる……!」
おりょう「……どうしてイッルの予知が外れたぜよ?」
エイラ「何してんだ! 逃げろって言ってるだろ!!」
212:
エルヴィン「イッルを残して逃げるなどできるわけがない」
エイラ「まだわかってないのか! これは遊びじゃないんだかんな!!」
ネウロイ「……」ゴゴゴッ
おりょう「イッル!! どうして予知ができなかったぜよ!! イッルの魔法なら確実にしとめられると西住隊長も言ってたのに!!」
エイラ「それは――」
ネウロイ「……」ピカッ!!
エイラ「ぐあ……!? め、命中する未来しか見てなかったんだ……」ギィィン!!!
エルヴィン「くっ……。な、何故だ!? 大富豪ではそんな凡ミスはしなかったのに!!」
エイラ「こっちだって焦ってんだ」
おりょう「イッルが焦る……?」
エイラ「サーニャや私の世界だって心配なんだ! お前たちをネウロイから守りきって、早く帰る方法を探したい!!」
エルヴィン「イッル……」
エイラ「だから勝ちを急いでこうなった。間抜けな話だろ。笑いたきゃ笑え」
おりょう「……」
エイラ「またくる……!? くそ、私は宮藤じゃないんだから手加減ぐらいしろー!!」
213:
バルクホルン「このままでは……いずれ艦に直撃する……!!」
カエサル『装填完了!!』
左衛門佐『エイラさんは!?』
あゆみ「エイラさんは光線を防いでくれています!!」
梓「あれじゃあ指示を出すことはできません!!」
シャーリー『くっそ……!!』
ペリーヌ『シャーリーさん、エイラさんはこっちにきてかなり動揺していたようですから、失敗も仕方ないかと』
シャーリー『みんな一緒だろ?』
ペリーヌ『それは……』
シャーリー『宮藤もペリーヌも、強がってるバルクホルンだって冷静じゃない。私だっていつも通りの判断なんてできてないよ』
カエサル『なに……?』
左衛門佐『イッルは冷静だったと思ったけど』
シャーリー『どうしても故郷と仲間のことが頭から離れないんだ。今はこの世界のことを第一に考えなきゃいけないのにな』
カエサル『5人はそんな状態で私たちのことを……』
ペリーヌ『……無駄話をしている時間はありませんわ。今はあのネウロイを撃墜することに傾注なさい』
214:
学園艦 艦橋
桃「あぁぁ……!! あんなものが艦に当たったら……!!」
柚子「沈むかもしれないね」
桃「それじゃあ死んじゃうよぉ!! 柚子ちゃぁぁん!!!」
柚子「大丈夫、大丈夫。宮藤さんたちが守ってくれるから」
桃「でも!! あんなに大きいのに人間が勝てるわけないよぉぉ!!!」
杏「どうやらエイラちゃんがギリギリのところで守ってくれてるね。辛そうだけど」
柚子「望遠鏡、私にも貸してください」
杏「はいよ」
桃「もうだめですよぉ!! うぇぇぇん!!」
杏「河嶋、無線は使えないんだな?」
桃「ま、まだむりですぅ……」
杏「んじゃ、試してみる価値はあるかもね」
桃「な、なにをですかぁ?」
杏「私も通信手だぞ?」
215:
市街地 ?号戦車内
芳佳「ネウロイの攻撃がすごいのにまだ艦に当たってない……」
みほ「状況からしてエイラさんが1人でネウロイの攻撃を紙一重で防いでくれているんだと思う」
芳佳「エイラさんが……!?」
麻子「閃光の量が尋常じゃないがエイラさんは無事なのか」
華「いくらウィッチといえど限界があるのでは?」
みほ「魔法も無限に使えるわけじゃないみたいだし、急がないと……!!」
芳佳「エイラさんは避けるのは凄くうまいんですけど、防御は苦手みたいで……」
みほ「未来予知ができるから?」
芳佳「はい……」
麻子「501で誰よりも防御が苦手なのに、見知らぬ世界の艦を守ってくれているのか」
みほ「麻子さん!!」
麻子「分かっている。……?号の度に苛立ちを覚えたのは初めてだ」
沙織「誰かー!! 応答してー!! みんなー!! 無事ですかぁー!!」
『……あ……こえ……ぞ……』
217:
ネウロイ「……」ピカッ!!!
エイラ「やらせるか!!!」ギィィン!!!
ドォォォン!!!
おりょう「イッル!!」
エイラ「がっ……ずっ……しまった……」
バルクホルン「エイラ!!」
シャーリー『こうなったら私がエイラの援護に……!!』
ペリーヌ『しかし! シャーリーさんがいなければ弾を上げられませんわ!!』
シャーリー『ペリーヌの電撃があれば十分だろ!!』
カエサル『そうなると照準が狂ってしまう! 西住さんの考えた戦術はあなたの魔法による加が前提になっている!』
シャーリー『そんなこと言ってたらエイラがどうなるかわからないだろ!?』
エイラ「うぅ……」
おりょう「イッル!! もういいぜよ!!」
みどり子「エイラさん!! 逃げなさい!! 私たちも逃げるから!!」
バルクホルン「ぐっ……う……ここ、までなのか……」
218:
サーニャ『エイラ!!! 負けないで!!!』
エイラ「え……サーニャ……の声……?」
エーリカ『トゥルーデ!! 私たちは無事だよ!!』
ミーナ『必ず守り抜いて!! 今いる世界の空を!!』
バルクホルン「エーリカ……ミーナ……」
ルッキーニ『シャーリー!! リベリオンまもったよー!!! あたし!! がんばったからぁー!! シャーリーもがんばってぇー!!!』
シャーリー「ルッキーニ!? どこからだ!?」
美緒『ペリーヌ!! 弱音は吐いていないだろうな!! 私の知っているペリーヌは、諦めることを知らないはずだ!!!』
ペリーヌ「さ、坂本少佐!! も、もも、もちろんですわ!! 弱音など微塵も吐いておりません!!」
リーネ『芳佳ちゃん!! 私たちの世界のことは今は気にしないで!!! 西住さんたちを助けてあげて!!』
美緒『ウィッチに不可能はない!! 異世界にいようが、ストライカーユニットを失おうが、関係はない!!!』
あや「こ、これ学園艦内にある全部のスピーカーを使ってない?」
桂利奈「大音量の声援だー!!」
梓「こんなこと誰が……。会長……?」
エイラ「サーニャ、私は負けないぞ……。私は……イッルだ……。私は……無傷の撃墜王なんだ……。誰一人、傷一つ付けさせてたまるかぁ……!!」
219:
?号戦車内
優花里「501のみなさんですね!?」
芳佳「リーネちゃん……リーネちゃんの声が……みんなの声が……」
麻子「どうやら、無線がダメになった代わりに宮藤さんの世界と交信できたのは、霧の所為ではないようだな」
華「あの上空にいるネウロイの仕業だったのでしょうか」
麻子「ネウロイがこちらとあちらの世界を繋げている可能性もあるな」
優花里「で、でしたら!! あのネウロイを倒したら!!」
みほ「宮藤さんたちは元の世界に戻れなくなる……?」
沙織「なんでよぉ!? なんでそうなっちゃうの!? そんなのダメじゃん!!」
麻子「飽くまでも可能性の話だ。しかし、十分に考えられるだろう」
沙織「じゃあ、もっと慎重になろうよ!! ネウロイやっつけたって芳佳ちゃんが戻れないと意味ないんだから!!」
芳佳「大丈夫。あのネウロイは今ここで倒します」
みほ「宮藤さん、でも……」
芳佳「もし戻れなくても、向こうにはすっごく頼りになるウィッチがいるから平気です。絶対に私たちの世界を守ってくれる。そう信じてます」
芳佳「だから、私たちはリーネちゃんたちの期待を、信頼を裏切らないためにもこの世界を守らなきゃいけないんです!!!」
220:
典子「うぉぉぉおおお!!!! こんなところでエイラさんたちの応援だけに徹していていいのか!!!」
妙子・あけび・忍「「よくないと思います!!」」
典子「八九式に乗り込むぞ!! バレー部魂を見せ付けろぉ!!!」
妙子・あけび・忍「「はい!!」」
みどり子「ちょ、ちょっと!! 危険なことはしないで!!」
ねこにゃー「ボクたちにも出来ることことはあると思う」
みどり子「なにいってるの!? 勝手なことしないでー!!」
ももがー「ヘッツァーも借りるなり!!」
ぴよたん「オッケー。でも、誰が運転する?」
みどり子「あーもー!! それは私たちがやろうとしてたことなんだから!!」
モヨ子「そど子、私たちも乗るのよ!」
希美「じっとなんてしてられないのよ、そど子!」
みどり子「わかってるわ!! これ以上、あんな奇怪な怪獣に風紀を乱されてたまるもんですか!!」
優季「梓ぁ、はやくぅ」
梓「分かってる!! ワイヤーをありったけ運んで!!」
222:
ネウロイ「……」ゴゴゴッ
エイラ「来るならこい!! お前の攻撃なんて学園艦に掠りもさせないぞ!!」
バルクホルン「くっ……!! だが、劣勢なのにか変わりがない……!! 流石に私の魔法力も……!!」
エルヴィン「もう少し耐えてくれ!! 今、他の戦車を持ってくる!!」
バルクホルン「な、なに……?」
おりょう「他の戦車を使って支える。それなら負担も軽減できるぜよ」
バルクホルン「何をバカな……!! 下手をすれば……怪我ではすまないぞ……!!」
エルヴィン「違う!! 下手をすれば学園艦が無くなる!! ならば、上手くやるしかない!!」
おりょう「そのためならなんでもするぜよ。もうそう決めた。説得する時間のほうが無駄ぜよ」
バルクホルン「ふっ……バカばっかりだな……全く……」
典子『バルクホルンさぁーん!!! 今、いきまーす!!』
梓『ワイヤーを持って来ました!!』
エルヴィン「よーし!! ?突に括りつけろ!! そして思い切り後ろから引け!! そうすれば車体は浮き上がる!!」
そど子『了解!!』
ねこにゃー『ボクだって……やれることがある……!!』
224:
ネウロイ「……」ピカッ!!!
エイラ「守る……!! 命にかえても――」
芳佳「エイラさん!!!」
エイラ「宮藤!?」
芳佳「ふっ!!!」ギィィン!!!!
エイラ「お前……」
芳佳「私が守ります!! エイラさんは早くバルクホルンさんたちのところへ!!」
エイラ「任せるぞ!」
芳佳「守るのは得意ですから!!」
エイラ「それは嫌味かー?」グニーッ
芳佳「ふぉふぇんふぁふぁい!!」
エイラ「死ぬなよ」
芳佳「はい!!」
ネウロイ「……」ピカッ!!!
芳佳「やぁぁぁ!!!」ギィィィン!!!
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