番長「SOS団?」 2【前半】back

番長「SOS団?」 2【前半】


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1:
番長「SOS団?」
の続き
dt>10:
――

鶴屋「あっがりぃ! いっちばーん!」
キョン「またですか……」
古泉「凄まじいですね」
キョン「鶴屋さんゲームはじめてから大富豪と富豪にしかなってませんよね?」
鶴屋「そだっけ?」
みくる「鶴屋さんホントつよいですねぇ」
鶴屋「でも長門っちもかなり強かったっさ!」
キョン「というか長門も1度平民に落ちただけであとは大富豪か富豪だったな……」
長門「そう」
古泉「もう1局、と言いたいところですが1度涼宮さんたちの様子でも見に行ってみますか?」
鶴屋「そう言うことならあたしが見に行ってくるよっ」
キョン「ついていきましょうか? 配膳やら手伝えるところは手伝いたいですし」
みくる「うん。そうですね」
鶴屋「大丈夫大丈夫っ! ハルにゃんたちも完成したものを披露したいだろうしっ!」
鶴屋「んじゃ、みんなはもうちょろっと待っててねっ」
12:
――調理場。
鶴屋「ハッルにゃーん、番長くーん。首尾はどうっかなー?」
ハルヒ「ああ、鶴ちゃん。順調、というよりもうすぐ終わるわ」
鶴屋「そりゃよかったよっ!」
>改めて、食材の調達にお礼を言いたい。
鶴屋「いいっていいって! あたしが頼んだようなもんなんだからさっ!」
ハルヒ「そんなことないわよ。普段家じゃここまでの料理なんてできないもの。
 この場所も広いし、使いやすいし、ホント思いっきり料理できて気持ちよかったわ」
>ハルヒの言うとおりだ。ここまで全力で料理を作ったことは初めてだ。
鶴屋「くふふっ。あたしも楽しみだっ」
鶴屋「そうだっ、なんかあたしに手伝えることってないっかな?」
ハルヒ「そうね……食べる場所って鶴ちゃんの部屋ってわけにはいかないわよね」
鶴屋「まー、ちょっとここからだと遠いからねっ。
 あたし達がいつも使ってるところでいいっかな?」
ハルヒ「ええ、構わないわ。そこに運ぶの手伝ってもらっていいかしら」
鶴屋「お安い御用っさ!」
13:
――居間。
ハルヒ「よし、これでいいわね」
>2時間半ほどかかってしまったな。
鶴屋「じゃ、みんな呼んで来るねっ」
……

鶴屋「はぁい! キョンくんたち、こっちだよっ」
キョン「お疲れさん。……ってうおっ!」
ハルヒ「待たせたわね!」
古泉「これはこれは、何とも壮観ですね」
みくる「わぁ……いい匂い」
長門「……」
>キョン、有希はどう思っているんだ?
キョン「……長門も、心なしかうずうずしているように見えるな」
ハルヒ「当然じゃない! あたしと番長くんが作ったんだから!」
鶴屋「でも、すっごいよねぇっ!」
>では、食べる前に簡単に料理の説明をしよう。
14:
>自分が作ったものはフランス家庭料理だ。
>ブイヤベース、牛肉のワイン煮、キッシュ・ロレーヌ、そしてチーズフォンデュだ。
キョン「牛肉の煮込みやらはわかるが、キッシュ・ロレーヌ、ってなんだ?」
>キッシュ・ロレーヌはスパニッシュオムレツとピザの中間のような玉子料理だ。
>ふわっとした歯ごたえの玉子の中に野菜をはじめとした具材が混ぜ込んで焼き上げた料理だ。
キョン「ああ、このショートケーキみたいなのがそうなのか」
>そうだ。
>今回、普段なら未成年で買えないワインを鶴屋さんに用意してもらった。
>そのおかげで、これだけの料理を作ることができた。
鶴屋「赤白両方オーダーされてねっ」
キョン「赤ワインは、こっちの牛肉の煮込みに使われているんだろうことは想像つくんだが」
>白ワインはブイヤベースに使っている。
>今回はムール貝、エビ、タラ、イカで作ってみた。
キョン「ブイヤベースってこういう料理だったのか……ブイヤベースが赤みを帯びてるのは?」
>それはトマトの色だな。
キョン「なるほどなぁ」
古泉「ほう、ふふ。そういうことですか」
キョン「うん? どうした?」
古泉「いえ、今は説明に耳を傾けましょう」
20:
>チーズフォンデュは知っているとは思うが、熱して溶かしたチーズに、野菜、バゲット――パン、ソーセージをくぐらせて食べる料理だ。
みくる「もしかして、パンも焼いたんですか?」
>さすがにそれまでの時間はなかった。
>鶴屋さんに頼んで買ってもらったものだ。
キョン「ってことはパンも時間があれば焼けるのかよ……」
キョン「にしても、なんでチーズフォンデュセットまであるんですか。この専用フォークとか」
鶴屋「ふっふっふー、この鶴屋さんを舐めちゃいけないよ?
 でも別に今日のために買ったわけじゃないからねっ、前からあるんだっ」
キョン「そうですか……」
>まあ、あとは食べて判断してくれ。
ハルヒ「じゃあ、次はあたしね」
ハルヒ「あたしはイタリア家庭料理よ。番長くんと同じくワインを使った料理もあるのよ」
ハルヒ「あたしが作ったのは、カサゴのアクアパッツァ、冷製カッペリーニ、ストラコット・トスカーナ、そしてバーニャカウダよ」
キョン「にしても、みた感じ全然トマト感がないな」
ハルヒ「そうね、ちょっと今回王道から外してみたから」
みくる「すごくイタリア家庭料理って豪華なんですねぇ……」
21:
ハルヒ「そんなことないわよ。確かにカサゴはちょっと値が張ったでしょうけど、鶴ちゃんがいいって言ってたし。
 アクアパッツァは魚の水炊きだし、ストラコットもただの牛肉の煮込み料理だからね」
みくる「へぇ、そうなんですかぁ……」
キョン「水炊きって、これ水で煮ただけなのか?」
ハルヒ「違うわよ。これは水と白ワインを使っているの。
 それにムール貝とトマト、それにオリーブなんかと一緒に煮たものがこれよ」
古泉「ストラコット・トスカーナは、名前から察するにトスカーナ地方の料理なんでしょうか?」
ハルヒ「さすが古泉くんね。その通りよ。
 これも白ワインを使っているわ。白ワインと裏ごししたホールトマトを使った煮込み料理よ」
キョン「え、これトマトを使っているのか。全然赤くないぞ」
ハルヒ「お肉だけを取り出してスライスいるからね。側面は赤くなっても中までは赤くならないわよ。
 ソースをかけたい場合は、別で分けてあるから」
>よくみると、隣に煮込みに使ったらしきソースの入ったカップがあった。
ハルヒ「バーニャカウダは最近に有名になってきてたから説明はいらないと思うけど、一応するわね。
 基本的には野菜を、アンチョビ、ニンニク、オリーブオイルで作ったソースにディップして食べる料理よ」
古泉「ちなみに、バーニャはソース、カウダは熱いという意味です」
キョン「てことは、このソース温かいのか」
古泉「そういうことになりますね」
22:
キョン「で、最後のこれなんだが……スパゲティか、かなり細い麺のようだが」
ハルヒ「あたし特製、冷製カッペリーニ!」
みくる「え、もしかしてこれに使われてる具材って……桃ですか?」
ハルヒ「そ、桃と生ハムの冷製パスタ」
鶴屋「まさか桃をこんなふうに使うなんて予想外だったなっ!」
キョン「おい、ハルヒ。お前は酢豚にパイナップルを入れる感覚で適当に入れたんじゃないだろうな」
ハルヒ「そんなことないわよ。ちゃんとした料理なんだから」
キョン「本当か、番長」
>ああ。確かにそういう料理は存在する。
>しかし、プロでなければ味のバランスを崩してしまい過度に桃の甘さを引き立ててしまったり、
 反対に主張させすぎないように調整した結果、桃の存在感が薄まってしまう恐れのある難しい料理だ。
キョン「それを、ハルヒがねぇ……」
ハルヒ「安心なさい。味はあたしが保証してあげるわ!」
古泉「非常に興味がそそられますね」
鶴屋「じゃあ、さっそく試食をはじめよっか!」
>鶴屋さんはそれぞれに皿を配っていく。
鶴屋「ビュッフェ形式な感じで、好きなものとって食べるって形でいいよねっ?」
ハルヒ「ええ、構わないわ」
>それでいい。
ハルヒ「さあ、あたしたちの本気、とくと味わいなさい!」
25:
古泉「しかし、これだけあると目移りしてしまいますね」
みくる「ホント、困っちゃいますね」
ハルヒ「好きなものを好きなように食べればいいのよ」
>ああ、ハルヒの言うとおりだ。
長門「……」
>有希は既に自分のキッシュロレーヌに手を付けているようだ。
古泉「そうですね……順番に北上していくのも面白いかもしれません。
 もしくは南下していくというのもいいですね」
ハルヒ「あ、古泉くん気付いたんだ。
 気づかれなくてもいいやと思って番長くんとやった遊び心なんだけど」
>一樹、よく気づいたな。
キョン「うん? どういう意味だ」
みくる「え、え?」
鶴屋「あ、あぁーっ! なるほどねっ! ハルにゃんたち面白いこと考えるねっ!」
ハルヒ「あ、鶴ちゃんも気付いた?」
キョン「古泉、説明してくれ」
26:
古泉「おや、珍しいですね。あなたから僕に説明を求めるなんて」
キョン「気になって味が分からなくなったら大変だからな」
古泉「確かにそれは一大事です」
みくる「あの、あたしも教えてほしいです」
古泉「では、僭越ながら」
古泉「イタリアとフランスは隣接している国家というのは説明いたしましたね」
キョン「ああ」
古泉「涼宮さんの作った料理は、イタリアの各地方の名物料理なのです」
古泉「アクアパッツァはロンドンブーツの先のシチリア、カッペリーニはナポリ、ストラコットはトスカーナ、
 そしてバーニャカウダはトリノ、つまりフランスと隣接するピエモンテ州、といった具合に涼宮さんの料理はフランスへと向かって北上しているのです」
古泉「番長氏の作ったものも同じく、フランス各地方の名物料理です」
古泉「チーズフォンデュ――というよりチーズはノルマンディー、キッシュはロレーヌ、牛肉の煮込みはブルゴーニュ、ブイヤベースはプロヴァンス」
古泉「そしてプロヴァンスはイタリアと隣接しており、番長氏の料理はノルマンディーからイタリアへ向かって南下しているのですよ」
古泉「以上です」
ハルヒ「ええ、その通り。ホントよく気づいたわね」
古泉「ふふ、お二人とも丁寧にロレーヌやトスカーナと地名を入れた料理を入れてくださっていましたからね」
28:
>それでも気づかれるとは思わなかった。
ハルヒ「ホントただの遊び心だったからね」
キョン「遊び心って……そんなに急所メニュー代えたのか」
>変えたというよりハルヒが合わせてくれたんだ。
キョン「ハルヒが?」
>ハルヒは、自分が鶴屋さんに頼んだ食材から自分のメニューにあたりをつけていたんだろう。
>バーニャカウダを急遽組み入れたようだった。
ハルヒ「番長くんだってガレットの代わりに急遽キッシュにしてくれたんだから同じようなものよ」
>材料は困らなかったからそれほど難しくはなかった。
古泉「お二人の料理スキルには舌を巻くばかりです」
キョン「本当にな……お前ら本当に高校生かよ」
みくる「ぜひ教えてほしいです」
鶴屋「あたしもふたりには驚かされっぱなしっさ!」
ハルヒ「ま、それはいいのよ。有希を見習って冷める前に食べてほしいわ」
キョン「あ、ああ。そうだな」
>有希は黙々と食べているようだ。
37:
古泉「では、僕は、アクアパッツァからいただきます」
キョン「牛肉のワイン煮でももらうかな」
みくる「この、バーニャカウダいただきますね」
鶴屋「んー、どれもおいしそうだけど、あたしはまずキッシュもらおっかなっ!」
ハルヒ「どうぞ、召し上がれ」
>みな、はじめの一口をつけたようだ。
>口に合うだろうか……?
ハルヒ「勝負なんだからね、お世辞なんて言わずに率直な意見を言ってほしいわ」
>そうだな。
古泉「では、率直な意見を申し上げますと……非常に美味です。
 レストランにも引けを取りませんよ」
古泉「このふっくらと煮られたカサゴの身。トマトとオリーブの実の爽やかな香り。
 そして、魚、貝、野菜のエキスが染みだしたコクと深みのあるスープ。
 これらが口の中で絡み合い何とも素晴らしい味わいを生み出しています」
キョン「どこのレポーターだお前は」
古泉「ふふ。つい言葉に出てしまうほど、素晴らしいのですよ」
ハルヒ「よっし! どう? 番長くん! これがあたしの実力よ!」
>さすがハルヒだ。やるな。
38:
キョン「だがな。番長も負けてないと思うぜ。この牛肉のワイン煮」
キョン「古泉じゃないが、このソースの芳醇な香りとコクがあるってのか?
 なんて表現したらいいかわからんがとにかく舌に染み渡るような味だ。
 それにこの牛肉が口に入れた瞬間にとろけて、ほどけるような感覚は凄まじいの一言だな」
古泉「……あなたがそこまでおっしゃるなんて珍しいですね」
>ああ。これは自信作だ。
古泉「僕も、後ほどブフ・ブルギニオンをいただきましょう。
 俄然興味がわいてきましたよ」
キョン「ブフ……? なんだ?」
古泉「ブフ・ブルギニオン。ブルゴーニュ風牛肉のワイン煮、つまりそれのことです。
 ビーフシチューの原型となったフランスの郷土料理でもっとも有名な料理のひとつと言っても差し支えないでしょう」
キョン「これワインを使ったビーフシチューじゃなかったのか……確かに少し味は違うと思ったが」
>一樹は、なんでも知ってるな。
古泉「いえ、そんなことはありません」
鶴屋「でもキョンくんからそんな表現が出るなんてすっごいねぇ。お肉自体は全然大したモノじゃないんだけどなっ。
 番長くんの料理は魔法みたいだっ」
ハルヒ「むむ……さすがにやるわね」
>これくらいで負けていられないからな。
39:
鶴屋「あたしが食べた番長くんのキッシュも絶品だよっ!
 卵の優しいふんわりとした食感に野菜のしっかりとした存在感っ!
 それぞれがちゃんと主張してるにもかかわらず、お互いに邪魔をしていないんだっ!」
>こちらもなかなか評判がいいようだ。
みくる「バーニャカウダもおいしいですよ。
 ソースからはしっかりアンチョビの味がしていて、物足りないソースではないですし。
 かといってお野菜の味を消すわけではなくて、ちゃんと味を引き立てていますぅ」
キョン「お二人も、古泉に負けず劣らずの味コメントをたたき出してきますね……」
みくる「え、え?」
鶴屋「これだけのものをおいしいの一言で済ます方が難しいよっ!
 だからって、表現しきれてはいないんだけどっさ!」
みくる「そ、それにせっかく作ってもらったんですから、ちゃんと言わないとよくないのかなぁって」
ハルヒ「そんなの気にしなくていいのよ、みくるちゃん」
>ああ、ハルヒの言うとおりだ。
みくる「そ、そうなんですか?」
ハルヒ「あたしたちは『おいしい』って一言言ってもらえればそれで救われるの。
 別にムリしたコメントなんかなくても十分表情で伝わるんだから」
ハルヒ「ね、番長くんもそうでしょ?」
>そうだな。表情を見れば、100の言葉よりも伝わることもある。
ハルヒ「そういうこと。だからコメントとか気にしなくていいわよ」
40:
長門「……」
ハルヒ「有希は、どう?」
長門「どれもおいしい」
ハルヒ「そ、よかったわ」
古泉「では、ブフ・ブルギニオンをいただきましょうか……むぐ」
古泉「……! あなたの言うとおりですね。口に入れた後にとろけるように牛肉がほどけます」
キョン「だろ? さっき言ったことが的外れじゃなくて安心したぜ」
古泉「涼宮さんのアクアパッツァと比べても全く遜色はありません」
ハルヒ「むぅ……」
キョン「なら俺は次にハルヒのつくった牛肉料理でも食べてみるかね。これも一応煮込み料理なんだよな?
 名前なんだったか。す、すと……えー……」
ハルヒ「ストラコット。トスカーナの郷土料理だからストラコット・トスカーナ」
キョン「そうだ。それそれ」
ハルヒ「馴染みはないからしょうがないかもしれないけど、これくらい覚えてなさいよ」
キョン「悪かったな……」
みくる「あたしは次はブイヤベースいただきますね」
60:
キョン「おお、これもうまいな。ほろほろと肉が口の中でほどける。
 でもやっぱりなんだかんだ、トマトの味するんだな」
ハルヒ「そりゃトマト使ってるからね」
みくる「わぁ、ブイヤベースなんて久しぶりに食べましたけど、すっごくおいしいですねぇ」
キョン「というか食べたことあったのですか」
みくる「え? ええ、この時だ――ごほん。有名な一般食は一応一通り食べたことあるんですよ」
>この時代の知識を付けるうえでの研修か何かなのだろうか……?
ハルヒ「へぇ。みくるちゃんって意外と美食家だったりするのかしら?」
みくる「そ、そんなことないですよ! あたしが食べたブイヤベースってこんなにおいしいものじゃなかったですし!」
古泉「ええ。僕も分不相応ながらレストランでブフ・ブルギニオンを食べたことはありますが、こちらの方が美味しいですね」
キョン「これ、家庭料理じゃなかったのか?」
古泉「シチューがレストランで出てくることもあるでしょう? それと同じですよ」
キョン「ああ、そういうもんなのか」
ハルヒ「というかSOS団の団員って思った以上に舌肥えてたのね」
キョン「みたいだな。残念ながら俺はそんな上等な舌を持ち合わせちゃいないが」
みくる「あ、あたしもそんなことないですよぉ……」
古泉「右に同じです。偶々食べたことがあるだけですから」
61:
鶴屋「まぁまぁっ! 今は食べることに集中しよっか!」
古泉「ええ、そうですね」
キョン「じゃあ、そろそろ手を出してみるか……」
>キョンが自らの小皿に桃の冷静カッペリーニを盛った。
鶴屋「おっ、キョンくんそれいくのかいっ?」
キョン「ええ。どんなものかなと」
ハルヒ「ちゃんとした料理よ、失礼ね」
古泉「では、僕もそれをいただきましょうか」
鶴屋「じゃあ、あたしももらおっかなっ! ほらほら、みくるも!」
みくる「は、はぁい。で、でも桃のパスタなんて初めての体験です」
鶴屋「大丈夫大丈夫っ! あたしも初めてだからさっ!」
ハルヒ「だから味は保障するわよ。ただ苦手かどうかはあるかもしれないけどね」
キョン「桃ねぇ……割とマジで味が想像できんな、あむ」
>それぞれが、恐る恐るといった様子でカッペリーニを口へ運ぶ。
ハルヒ「……どうかしら?」
65:
みくる「涼宮さん、これすっごくおいしいです!」
ハルヒ「そ。よかったわ」
>みくるは瞠目している。
古泉「ええ、確かに美味です。これほど桃とカッペリーニが合うとは意外の一言ですね」
鶴屋「ホントだねっ! これバジルが、桃の甘さを抑えめにしてるのかなっ?」
ハルヒ「ええ。そうよ。桃が食べてみた感じ想像より甘かったからね。
 すこしバジルを多めに入れてみたんだけど、クドくないかしら」
古泉「いえ、そんなことはありませんよ。
 バジルの爽やかさと桃の甘味、それにオリーブオイルとガーリックの香ばしさが非常によくマッチしてます」
みくる「トマトの酸味と生ハムの塩味もいいアクセントになって、後を引きますねぇ」
鶴屋「うんうんっ。見た目も桃とトマトとバジルで華やかだし、冷製パスタだから、変に甘味が強調されることもないしっ!
 職人だねっ、ハルにゃんっ!」
>かなりの高評価のようだ。
>キョンは先ほどから黙っているがどうだろうか。
キョン「ん、ああ。俺か? いや、驚いてな。
 酢豚にパイナップルみたいなもんかと思ったら、全然違うからよ」
ハルヒ「美味しいかどうか訊いてるのよ」
キョン「ああ、間違いなくこいつはうまい。
 申し訳ないが、古泉や朝比奈さんみたいなコメントはできんがな」
69:
ハルヒ「別にそういうのはいいって言ってるじゃない」
みくる「涼宮さん。これ麺にかなりしっかり味がついていますけど、かなりの量の塩で茹でたんですか?」
ハルヒ「ええ。桃の味を生かすためにどうしてもソースはシンプルになっちゃうからね。
 茹でる段階でしっかり味付ないと、かなりぼんやりした味になっちゃうのよ」
古泉「食感も素晴らしいですね。
 麺を若干固めに茹でてあるおかげで、桃と麺にコントラストが生まれるので口の中が楽しいです」
ハルヒ「あ、わかってくれたんだ。
 やわらかく茹でちゃうと画一的な食感で口の中にいれたときに印象に残らないからそうしてみたのよ」
古泉「茹ですぎるとインパクトがなくなり、固くし過ぎると口の中が不愉快になってしまう……。
 ここしかないという点を、的確に見抜いていますね」
キョン「そんな大層なモンだったのか……」
ハルヒ「ふふん、どう? 番長くん?」
>さすがだな。
キョン「えらく余裕だな」
古泉「食感に関しては、番長氏も負けていないですよ」
>一樹はいつの間にか、自分のキッシュを食べている。
古泉「このキッシュ、先ほど鶴屋さんがおっしゃったように、卵の食感と野菜の食感の相乗効果が素晴らしいです」
古泉「涼宮さんのような驚きはないですが、料理全体のアベレージは非常に高いものになっていますから引けを取りませんよ」
73:
古泉「もちろん、料理全体のアベレージが高いのは涼宮さんも変わりませんがね」
>チーズフォンデュは素材の味がそのまま出るものだから若干料理かは怪しいが。
古泉「そんなことはありません。
 ただチーズを溶かしただけならともかく、白ワイン、ガーリック、黒こしょう、ミルク……あたりでしょうか。
 チーズソースとして高い完成度のものですよ」
キョン「チーズフォンデュって、チーズ溶かしてつけるだけの料理じゃなかったのな」
>一樹、食べただけでそこまでわかるとは。
古泉「かなり風味はいいですからね。分かりやすいくらいです」
キョン「……俺も食べてみたがわからん」
古泉「意識して食べるように心がければ、分かるようになりますよ」
キョン「そういうもんかね……」
みくる「お2人は食べないんですか?」
鶴屋「お互いの料理食べないのはもったいないとおもうなっ!」
ハルヒ「そうね、番長くん。あたしたちも、お互いのもの食べてましょか」
>ああ、そうしよう。
76:
ハルヒ「牛肉のワイン煮貰おうかしら」
>自分は、桃の冷製カッペリーニをもらおう。
ハルヒ「あむっ」
ハルヒ「うわっ、なにこれっ、おいしっ。これレストランで出てくるようなレベルよ。
 ううん、ヘタなレストランなんかよりよっぽどおいしいわ」
>ハルヒのこれも相当美味しい。味の均整がかなり良くとれている。
ハルヒ「うーん、こっちのキッシュもすごくおいしいわ」
>ストラコットもほろりととろける口当たりだ。
ハルヒ「できればもっと煮込みたかったんだけどね。
 それでもここまでやわらかくなるんだから圧力鍋さまさまね」
古泉「しかし、お2人ともメニューの組み方がそっくりですね」
キョン「組み方?」
古泉「チーズフォンデュとバーニャカウダ、ブイヤベースとアクアパッツァ。
 それに、ブフ・ブルギニオンとストラコット・トスカーナ。そっくりではありませんか?」
キョン「あーなるほどな」
みくる「ジャンルが明らかに違うのはカッペリーニとキッシュくらいですねぇ」
ハルヒ「別に意図したわけじゃないのよ」
77:
>これも偶然だな。
キョン「イタリア料理とフランス料理は起源が同じらしいから、まあこんなこともあり得るのかもな」
古泉「……」
ハルヒ「よく知ってるわね、キョン。アンタそんなに博識だっけ」
キョン「……それくらい知ってることもあるさ」
ハルヒ「ま、でもこれで評価はしやすいでしょ?
 全然ジャンルが違ったら絶対評価にせざるをえないけど、これなら比べて評価できるわ」
>有希を除くみんなが、食べる手を止めてハルヒを見つめている。
キョン「評価っても、難しいぞこれ……」
みくる「評価? あ、そっか。これ料理勝負でした」
ハルヒ「みくるちゃぁん? もしかして考えなしに食べてたんじゃないでしょうね」
みくる「ひぅ、ご、ごめんなさいぃ……」
古泉「すみませんそうでしたね。
 僕もあまりの美味しさに審査員という本分を忘却の彼方へ追いやっていたようです」
鶴屋「ごめんごめんっ! あたしもふっつーにご飯を楽しんでいたっさ!
 だからみくるだけを責めるのは許してあげてっ」
ハルヒ「もう。古泉くんに鶴ちゃんまで? しょうがないわね」
79:
古泉「しかし、彼の言うとおり評価は非常に難しいですね。
 お2人ともプロ並みの腕前であったことが完全に誤算です。予想外でしたよ」
キョン「(……なーにが、誤算だ)」
古泉「昨日のおにぎりのようなごくごく僕たちに親しみのあるものでしたらともかく、
 このような料理は食べなれていませんからね」
ハルヒ「そう? キョンはともかく古泉くんは食べなれている印象だったけど」
キョン「悪かったな、食べ慣れていなくて」
古泉「僕も基本的に昼食などはコンビニやレトルトで済ませてしまう人間ですからね。
 先ほども言ったように、偶々食べたことがあるだけでして恒常的に美食に浸れるほど裕福な人間でもありません。
 鶴屋さんは分かりませんけどね」
鶴屋「あたしかいっ? あたしも和食なら結構いろんなの食べてるけど洋食となるとさっぱりだねっ!
 みんなと同じ様なもんっさ!」
古泉「ということです。
 ですから僕たちは表面的な美味しさはわかっても、
 味わいの僅かな機微までを評価しそれを相対化することはできません」
 
古泉「それこそプロでなければ正確な判断を下すのは難しいでしょう」
古泉「そのため評するのなら、『どちらが美味しかった』ではなく『どちらも美味しかった』となってしまいますね。」
ハルヒ「でも、ここまでやってこの間みたいにどっちも勝ってどっちも負けたとか、引き分けとかそれこそ興ざめじゃない」
古泉「ええ、そこで提案なのですが。
 『どちらが美味しかった』ではなく『どちらがより好みだったか』という完全主観の評価というのはいかがでしょうか?
 美味しさで判断することは、僕らには荷が勝ちすぎてしまいますのでね」
83:
キョン「それはどこが違うんだ」
古泉「大きな違いですよ。
 前者は料理における技術、創意工夫、味のバランスなど評価する際に、客観的要素を多分に含みます」
古泉「しかし、後者は僕たちが料理を口に含んだ際の感想をそのまま口に出せばいいのです。
 料理人でもない、美食家でもない僕たちができることは、自らの好みを主張することだけなのではないでしょうか」
キョン「……ま、それもそうだな」
キョン「てことだ、ハルヒ。俺らの好みで決めるがいいか?
 というか技術の評価なんてできないからな」
ハルヒ「あたしたちも、そんな高尚な評価求めてないわよ」
>好きなほうを選んでくれればいい。
古泉「それを聞いて安心しました」
>一樹とキョンが何やら耳打ちをしている。
古泉「涼宮さんは決着より、番長氏と一緒に料理を作れたことで満足しているようです」
キョン「見てりゃわかる。それをなんでこんな近距離でいう必要がある。顔が近い、離れろ」
古泉「いえ、無理やり涼宮さんを勝たせる必要がないということを伝えたかっただけです。
 涼宮さんは勝っても負けても満足してくださるでしょう」
古泉「ですが――」
古泉「あなたがどちらにいれるのかは勝敗以上に重要なことであると忠告しようと思いましてね」
キョン「……ふん」
鶴屋「じゃあ、どうするのっかなっ? 挙手でもするかいっ?」
87:
ハルヒ「遠慮はいらないからバシッと判断してちょうだい! と言いたいところだけど」
キョン「どうした」
ハルヒ「匿名で投票にしましょ」
キョン「……どうしてだ?」
ハルヒ「番長くんより、あたしの方がキョン達との付き合い長いでしょ。
 そんなことするわけないと思うけど、身内びいきされたくないの」
キョン「逆に知り合って日が短いからこそ番長に気を使って、番長に入れることもあるんじゃないのか?」
ハルヒ「それも含めてよ。人で判断じゃなくてあくまで料理で判断してほしいわけ」
ハルヒ「それに匿名の方がキョン達も気が楽でしょ」
キョン「それはまあ、そうだが」
鶴屋「じゃあ、適当な紙とペン渡すからそれに書いてもらう形でいいっかな?」
ハルヒ「お願いね。あたしと番長くんは、部屋から出てるからそのあいだに書いて。
 あ、書いたのは鶴ちゃんに渡して。鶴ちゃん、集計というか結果発表の役やってもらっていいかしら?」
鶴屋「りょーかいっ! じゃあ、紙とペンとって来るからちょろっと待っててねっ!」
>鶴屋さんは紙とペンをとりに出ていき、しばらくして戻ってきた。
鶴屋「はいはいっ、じゃあこれに書いてねっ!」
91:
ハルヒ「じゃあ、あたしたちはちょっと居間の外にいるから。
 書き終わって鶴ちゃんに渡したら呼んで」
ハルヒ「あたしたちが戻ってきたらその投票用紙を1枚ずつ鶴ちゃんに読み上げてもらうからね」
ハルヒ「行きましょ、番長くん」
>ハルヒと2人で居間の外へ出ていった。
――

キョン「やれやれ。別にどっちもうまかったでいいだろうに」
鶴屋「あははっ。確かにねっ。
 でもハルにゃんの特技で張りあえる人なんて滅多にいないんだから、単純に嬉しいんだと思うなっ」
キョン「はあ、そうなんでしょうかね」
鶴屋「くふっ、キョロスケくんはまだまだハルにゃんをわかってないみたいだねぇっ」
キョン「む。少し心外ですね……ですけどわかっていないとは?」
鶴屋「ごめんごめんっ。別にキョンくんを貶すつもりで言ったんじゃないっさ」
鶴屋「ハルにゃんが何かやるときって、基本的にハルにゃんにとって未知の体験なんだよっ」
キョン「そりゃまぁ、宇宙人未来人超能力者に会って遊びたいなんて団体作るくらいですからね。
 日常一般のできことならそれくらいじゃないと面白くないんでしょう」
鶴屋「うーん、そういうことじゃないんだなっ!」
92:
鶴屋「ハルにゃんって、ほとんどなんでもできるでしょ?」
キョン「まあ、運動にせよ勉学にせよ人並み以上にできることは確かですね。
 容姿も黙っていればかなりいい方ですし」
鶴屋「容姿はともかくとして、そうでしょっ。
 だから日常一般のことはハルにゃんにとって勝負事にはなりえないんだなっ」
キョン「そうですか? 勝負にならないって別にハルヒのやつは何でも1番ってわけではないですよ。
 いくらでも勝負する機会はあると思うんですが」
 
キョン「勉強なんて事実長門の方ができているわけですし。
 そりゃハルヒはハルヒで全部の部活に体験入部して漏れなく勧誘が来るなんて離れ業をやってのけていますけどね。
 それでも全部の部活で1番になることなんて難しいでしょう」
鶴屋「1番になることと勝負にならないことは別だよっ、キョンくん」
キョン「どういうことですか?」
鶴屋「まずハルにゃんは勉強に関しては1番になろうと思ってないんじゃないっかな?」
キョン「SOS団の活動に支障がでなけりゃそれでいいとは、のたまってますね」
鶴屋「それに、運動でも極めようってことはないんじゃないっかなっ?」
キョン「まあ、そうだと思いますけど」
鶴屋「つまり運動も勉強もハルにゃんにとって『ただやればできること』で、根を詰めてやる勝負事にはなりえないと、あたしは思うのさっ!
 ハルにゃんにとって勉強や運動は、あたしたちが自転車に乗るのと同じような感覚なんじゃないっかなっ」
鶴屋「そんなことで勝負しようなんてキョンくんも思わないでしょっ?」
キョン「それはそうですけど……。
 というか、自転車に乗る感覚でテストで高得点叩きだしている方が驚きですよ俺は」
鶴屋「そういうことっ。つまりハルにゃんは勉強でも運動でも勝負の場にすら立っていないんだっ」
93:
キョン「あれ? でもちょっと待ってください。
 前にやった野球は勝負にこだわってましたよ?」
古泉「ええ、そうですね。あの野球大会は……なかなか大変でした」
鶴屋「あれはチームでやるスポーツだからじゃないっかなっ。
 それに野球もそんなに知らなかったみたいだし。
 ハルにゃんにとってチームプレイは未知の領域だったってところだと思うよっ」
鶴屋「もし、ハルにゃんが9人いたらあっさり勝って終わった気がするねっ」
キョン「……あながち否定できないところがイヤですね」
鶴屋「そんなハルにゃんが、特技にまでした料理で勝負なんてできると思う?」
キョン「普通は、相手にすらならないでしょうね」
鶴屋「だろうねっ。でも、番長くんは思いっきり張り合えてる。
 特技を持って同じラインで戦えるってことはハルにゃんにとって嬉しいことなんだと思うなっ」
キョン「だからハルヒは勝負にこだわっているんですか?」
鶴屋「あたしはそう思うよっ。ハルにゃんが既知の領域で勝負できることなんて早々ないだろうからねっ」
古泉「確かに、日常的なことであっても涼宮さんが楽しげにしていたのは、初めてやることが多かったですね。
 野球大会然り、映画作り然り、SOS団の不思議探しも未知を見つけるためですし」
キョン「未知にしか楽しみを見出せなかったハルヒが、既知の分野で楽しみを見出したのは驚嘆に値するってことか……」
96:
鶴屋「あたしの勘だから外れてるとは思うけどねっ」
みくる「鶴屋さんも涼宮さんのこと見てたんですねぇ……」
キョン「正直かなり意外っす」
鶴屋「あっはっはっ! 伊達にキョンくん達より北高に1年長くいるわけじゃないっさ!」
鶴屋「ま、そんなことはいいからさっ! 早く書いた書いたっ!」
古泉「そうですね。
 ですがこのノートの切れ端にある種の運命がかかっていると思うと些か緊張しますね」
キョン「そんな仰々しいことにならないよう祈っとくさ」
――

ハルヒ「番長くん、どっちが勝っても恨みっこなしだからね」
>もちろんだ。
ハルヒ「……正直昨日のお弁当対決は負けたと思ってるわ」
>そんなことはない。
ハルヒ「いいのよ。あたしが思ったことなんだから」
>……どうしてそう思うんだ?
ハルヒ「単純にバランスの問題よ。男子の方が多く食べると思って具材にせよ味付けにせよ男子に寄せ過ぎたわ。
 番長くんは全体に気を使ってたじゃない。あたしのは画一的になりすぎた。
 有希はともかくとして、みくるちゃんも鶴ちゃんも食が太いわけじゃないんだから、味に飽きないように気を使うべきだったのよ」
ハルヒ「だから、今日は気合を入れたのよ。絶対に負けないんだから!」
>ハルヒから熱意が伝わってくる。
97:
>わざわざサプライズも用意してたからな。
ハルヒ「ああ、桃の冷製カッペリーニのこと?
  前に食べたことあって、すっごく印象に残ってたから作ってみたのよ。
 レストランで食べた味を思い出しながら作ってみたんだけど、うまくいって何よりだわ」
>もしかして今日初めて作ったのか?
ハルヒ「? ええ、そうよ?」
>……すごいな、それは。
鶴屋「ハルにゃーんっ、番長くーんっ! 終わったよっ」
>鶴屋さんが居間から顔を出してこちらに呼びかけてきた。
ハルヒ「ああ、鶴ちゃん。じゃあ、行くわよ番長くん。
 いざ参らん。決戦の場へっ!」
98:
――居間。
鶴屋「さあさあっ、お待ちかねっ! 開票の時間だっ!」
キョン「鶴屋さん、ぜひ誰がどう書いたかわからないようにお願いします」
鶴屋「もちろん、ちゃんと匿名は守るっさ! あたしには誰が何を書いたかバレバレだけどねっ、くふっ」
みくる「つ、鶴屋さぁん……お願いしますね」
鶴屋「分かってる分かってるっ」
ハルヒ「別にもし誰が書いたかわかったところでとって食べやしないんだから。
 あたしが匿名にしようっていったのは、ただフラットに勝負がしたかっただけよ」
ハルヒ「それにあたしも番長くんも誰が何を書いたからって、恨まないわ」
>ああ。
鶴屋「それじゃあ、投票されたものを読み上げてくよっ!
 あ、ちなみにもう一度確認しておくけど『どちらが美味しいか』じゃなくて『どちらが自分の好みか』だからねっ」
ハルヒ「ええ、わかってるわ」
古泉「先に言っておきますが、どちらも間違いなくおいしかったです」
ハルヒ「当然よ、あたしと番長くんが作ってるんだからっ」
古泉「ふふ、そうですね」
106:
鶴屋「まず一枚目だねっ」
鶴屋「これはー、ハルにゃんかな!」
ハルヒ「よっし!」
>先手はハルヒにとられてしまったようだ。
鶴屋「桃のパスタが美味しかったんだって!」
ハルヒ「あら、わざわざ感想まで添えてくれたの?」
古泉「基準がどちらが好みか、ということなので特に決め手になった料理を全員書いてみたのです」
ハルヒ「なるほどねっ!」
キョン「(さっきのはきっと朝比奈さんだろうな)」
ハルヒ「ふふん、どう? 番長くん?」
>まだわからないさ。
鶴屋「そゆことっ! 2枚目は番長くん! 牛肉のワイン煮が特に好ましかったんだって!」
>巻き返せたようだ。
ハルヒ「むむ……確かにアレすっごく美味しかったからしょうがないわ。
 男の子にも女の子にもウケが良さそうな味だったし」
キョン「(古泉、ってところか。ブフ・ブルギニオンとか書いてあれば確定だったんだが)」
古泉「そんな熱心に視線を送られてどうしたのですか? 見つめられると少々照れてしまいますね」
キョン「……なんでもないから黙っておけ」
107:
鶴屋「3枚目は、えーっと。番長くんっ!」
ハルヒ「ぐっ……まさか抜かれるなんて」
鶴屋「キッシュすっごくおいしかったよ! ……だって!」
キョン「(鶴屋さん……それでは匿名の意味がありません……)」
>これで一歩リードだな。
ハルヒ「まだよ! まだ2枚あるんだからね!」
鶴屋「じゃあ、次っ! これはー、くふっ。ハルにゃんだねっ! 全部が自分の好みだったから全部が一番だって!」
ハルヒ「へぇっ。そこまでいってくれるなんて作った甲斐があるわね。
 みくるちゃんあたりかしら。当たってる?」
みくる「え、え? えーっとぉ……」
キョン「……おい、ハルヒ。匿名にしたんだからそうやって聞くのは反則だぞ」
>ハルヒはみくると言っていたが……反応的にキョンあたりだろうか。
ハルヒ「そんなことわかってるわよ。ジョークよ、ジョーク。
 でも嬉しいのは本当よ?」
みくる「あ、ジョークだったんですかぁ……」
ハルヒ「これで、2対2よ! さあ、次で勝負が決まるわ。
 覚悟はいい? 番長くん!」
>ああ。決戦だ。
110:
鶴屋「んでねっ、最後なんだけど」
鶴屋「うーんとね……その。このまま読んだ方がいいのかなぁっ」
ハルヒ「どうしたの? 歯切れ悪いけど」
鶴屋「ごめんねっ。なんて言ったらいいかわかんなくてさっ」
鶴屋「だからそのまま読み上げるねっ」
鶴屋「『彼の肉料理と魚料理、涼宮ハルヒの魚料理と麺料理が該当する』だって」
ハルヒ「……」
>……これは。
キョン「あー、匿名だが誰かわかっちまうな……」
ハルヒ「有希よね、これ」
長門「そう」
ハルヒ「……どうしてこうなったわけ?」
長門「言われた通り好ましいと思ったものを書いた」
ハルヒ「結局どっちがよかったのかしら」
長門「どちらもよかった」
ハルヒ「それじゃダメなの!」
キョン「どこかでこうなるんじゃないかと思ってたが・……やれやれ」
112:
長門「好みのものならばすべて該当するが、より好ましいと思ったものを選んだ」
ハルヒ「あのね、有希。勝負なんだからあたしか番長くんを選んでもらわないと困るの」
長門「どちらか一方を選ぶことは非常に難しい」
ハルヒ「難しくても、言ってもらえなきゃ終われないわ」
長門「……」
>有希がこちらを見つめてきている。
長門「あなたも困る?」
>できれば選んでほしい。ハルヒのためにも。
長門「そう」
長門「どちらか一方を上方に置く主観的判断はわたしにとって非常に難しい」
長門「……単独の味だけで好ましいと判断するなら、彼」
>しばらく逡巡いたあと、有希はそう言った。
>自分か?
ハルヒ「うっ……」
長門「しかし――」
長門「メニュー全体を対象とするならば、あなた」
ハルヒ「へ? どういうことよ?」
長門「あなたの料理は味に大きな濃淡があり、多彩な変化を持ちつつも、
 一定の方向性を維持しつつまとまりを持っているように感じられた」
長門「それをわたしは好ましいと感じた」
キョン「あー、甘いしょっぱいのいろんな味を楽しめたけど、うまくメニュー全体にまとまりがあって楽しかったってことか?」
長門「そう。わたしの主観的判断のため確証はない」
キョン「いや、それで構わないのさ」
長門「そう。……だから、個別の料理だけで判断するなら彼。
 メニュー全体で判断するなら涼宮ハルヒ、となる」
116:
鶴屋「あっははっ! 困ったねっ!」
キョン「そんな明るい声で言われても困ってるようには見えません」
古泉「しかし決着はつけなければ、涼宮さんは納得いかないでしょう?」
ハルヒ「当り前よ! 有希、決めてちょうだい」
長門「これ以上の判断は下せない」
ハルヒ「だからそれじゃ――」
キョン「待てハルヒ」
ハルヒ「なによ」
キョン「長門も困っているんだ。あまり詰め寄るな。
 それに長門はこれ以上このことは言わないだろうよ。堂々巡りにしかならん」
ハルヒ「じゃあ、どうしろってのよ」
キョン「どうするってもな……」
>キョンがこちらに視線を投げかけてくる。
>自分からみれば、これは自分の負けだと思う。
古泉「おや」
ハルヒ「……適当に勝ちを譲られてもあたしは嬉しくないわよ」
>そういうことじゃない。
117:
>有希は単品の評価なら自分、メニュー全体でならハルヒと言っていた。
ハルヒ「そうだけど、なんでそれが番長くんの負けになるの」
>昨日のおにぎりのときに、みんなに言われたことを覚えているか?
ハルヒ「……? 付け合せを逆にした方が美味しいって言われたこと?」
>ああ。
>あれは、付け合せも合わせて一つの料理だと考えるべきだ、と俺は思う。
>それはこれにも言える。メニュー全体で一つの料理と考えるのが妥当だ。
>自分はメニューの調和を怠った。ハルヒはメニューの調和を行った。
>そして有希は、メニュー全体ではハルヒの方がいいといった。
>十分勝敗を別つ要因だろう。
ハルヒ「うーん……むむ……」
キョン「なんだ、まだ納得してないのか」
ハルヒ「だって、番長くんに急遽メニュー代えてもらったのはあたしよ?」
>それはハルヒも一緒だろう。
ハルヒ「でもねぇ……」
118:
古泉「よろしいですか?」
ハルヒ「どうしたの?」
古泉「もし、変えた品が得意な料理ではなく不味いものに仕上がっていたら、
 涼宮さんの言う通り、ハンデ戦になっていたのかもしれません」
古泉「ですが、番長氏の作ったキッシュは非の打ちどころがないほど美味でした」
鶴屋「うんうんっ! ホントビックリしたよあたしっ!」
みくる「確かにすっごく美味しかったです」
古泉「ですから、それはマイナス要因になったとは考えにくいのではないでしょうか」
>そういうことだ。
ハルヒ「……」
キョン「ハルヒ、これ以上ゴネても結果は変わらんと思うぞ。
 素直に受け取っておけ」
ハルヒ「…………有希はそれでいいの?」
長門「構わない」
ハルヒ「番長くんもいいの?」
>ああ。
ハルヒ「……わかったわ」
鶴屋「決っっ着っ!! 3対2でこの料理対決はハルにゃんの勝ちっ!」
119:
ハルヒ「でも完全に納得したわけじゃないからね、番長くん!」
キョン「まだ言ってるのか」
ハルヒ「当然よ、こんなの完全勝利とは言えないわ。個別の料理だったら負けてたんだから。
 ていうかホント男の子のくせにここまでおいしく作れるなんて腹が立つわ」
キョン「上級生に向かって男の子はないだろうよ……。
 それにあくまで好みだからな好み」
ハルヒ「分かってるわよ。また勝負しましょ、番長くん。
 こんなに燃えたのは久しぶりだったわ」
>必ずリベンジさせてもらうさ。
古泉「このような勝負でしたら平和ですし、僕たちも嬉しいですね」
みくる「美味しいものも食べられますからねぇ、はふぅ」
キョン「こういうことばっかりならいいんだがな……」
鶴屋「さ、勝負はこれで終わりっ! まだまだあるし、純粋に食事を楽しもっかっ!」
ハルヒ「そうね、番長くんの牛肉のワイン煮ホントおいしいわね」
みくる「ですねぇ」
ハルヒ「ワイン飲みたいわ、ワイン。調理用に使ったのを残しておけばよかったわ」
古泉「……」
キョン「……お前そんなに酒に寛容だったか? というか俺ら未成年だぞ」
ハルヒ「何言ってるの、夏に合宿に行ったときみんなでパカパカ飲んだじゃない」
古泉「……そうでしたね」
126:
鶴屋「ワイン飲みたいならあるよっ? もってくる?」
ハルヒ「ホント――」
キョン「やめておきましょう、鶴屋さん」
ハルヒ「何よキョン。いまさらいいコぶっても意味ないわよ」
キョン「……そういうことを言ってるんじゃない。
 ハルヒ忘れたのか? 朝比奈さんは酒に弱いんだ。
 この時間に飲ませたら、誰かがおぶって朝比奈さんの家まで送ることになるぞ」
みくる「あ、あの……あたしが飲まなければいいだけですから」
ハルヒ「ええ、別に強制して飲めなんて言わないわ」
キョン「……それにな、番長もいるんだ。ハルヒもSOS団が不良集団だと思われたくないだろ?」
>安心しろ。俺は酒自体飲まなくても場酔いができる。
キョン「そういうことを言ってるんじゃない」
古泉「僕の心配はなんだったのでしょうね……」
ハルヒ「心配?」
古泉「いえ、なんでもないのです」
鶴屋「ハルにゃーん、もってきたよっ! 赤でいいっかなっ?」
キョン「鶴屋さん!」
128:
鶴屋「まあまあっ、この人数で飲んだら1人分なんてグラス一杯だけなんだからさっ!
 あっ、みくるは飲まなくていいからねっ」
キョン「意外と悪い娘ですね、鶴屋さん……」
ハルヒ「んー! やっぱりワインと牛肉のワイン煮合うわねぇ」
>ハルヒはだばだばグラスにワインを注いで飲んでいる。
古泉「では僕も頂きましょう」
ハルヒ「さすが古泉くん、イケる口ね」
古泉「あなたもいかがですか? 旅は道連れといいますよ?」
キョン「何が旅なんだ何が」
ハルヒ「アンタはいいから飲みなさい!」
キョン「おい、強制して飲めとは言わないんじゃなかったのか」
ハルヒ「それはみくるちゃんの話。キョンは別」
キョン「やれやれ……番長はどうする?」
>雰囲気だけで十分だ。それに。
鶴屋「ありゃ、長門っちの分で無くなっちゃった」
>とのことだ。ぶどうジュースがあれば嬉しいが。
キョン「……ハルヒがだぱだぱ入れたせいで1杯の量が多い」
136:
鶴屋「番長くんとみくるはぶどうジュースだねっ、はいっ」
>あるのか。
鶴屋「ふっふっふー。鶴屋家は伊達に大きいだけじゃないんだなっ」
ハルヒ「じゃあ、かんぱーい!」
>ハルヒの号令で皆がグラスに口をつける。
キョン「……ホントにいいのかね」
古泉「僕は嬉しいですけどね」
キョン「合宿の時を思い出せ。
 あのハイテンションになったハルヒの相手を誰がすると思うんだ」
古泉「役得じゃないんですか?」
キョン「やかましい」
古泉「それなら、僕に譲っていただいても構いませんよ?
 いえ、僕では荷が勝ちすぎてしまいますね。番長氏あたりに譲るのはいかがでしょう」
キョン「……そんなことを番長にさせるわけにはいかんだろうよ」
>何を話しているんだ?
キョン「なんでもない。気にするな」
>そんな一気に酒をあおって大丈夫か?
137:
キョン「こ、これくらいならな」
長門「……」
ハルヒ「あら、有希ももう飲んじゃったの?」
鶴屋「さすがにこれ以上は開けられないからあとはぶどうジュースだねっ」
ハルヒ「このワイン、おいしーわね! あははっ!」
キョン「おい、何か不穏な空気が漂ってるぞ」
古泉「このワイン……素晴らしいですね」
鶴屋「あ、そうなのっ? 適当に拝借してきたんだけどっ」
古泉「ええ……簡単に手に入るようなものではないと思うのですが」
みくる「い、いいんですかぁ?」
鶴屋「いいのいいのっ! いっぱいあるんだからさっ!」
ハルヒ「さっすが鶴ちゃん! このぶどうジュースもおいしいわっ!」
>鶴屋さんの肩をバシバシ叩きながら、ぶどうジュースもだぱだぱとグラスに注いでいる。
>ハルヒはもうワインは飲み干してしまったようだ。
ハルヒ「あははっ! 気分良くなってきたわ!」
141:
キョン「お、おい。あれって、ぶどうジュースなんだよな」
>ああ。これはぶどうジュースだ。
ハルヒ「あー、ぶどうジュースでも酔っぱらってきそうだわ」
みくる「はふぅ……」
>みくるがなぜか瞳を潤ませている。
キョン「……朝比奈さんが飲んでいるのも、ぶどうジュースなんだよな?」
>間違いなくぶどうジュースだ。
みくる「ふぇ、ろうしたんれすかぁ?」
キョン「あれは酔ってないんだよな? 酔っていないんだよな?」
古泉「いえ、一概にそうとも言えません」
>一樹が近づいてきた。
キョン「場酔いか? いくらなんでも早すぎるだろ!」
古泉「いえ、そうではありません。涼宮さんの願望実現能力ですよ」
キョン「……まさか、ハルヒがジュースでも酔いたいと思ったとでも言うのか」
古泉「そのまさかです。実際このジュースからはアルコールは感じられません。
 ですが飲んでいくうちに気分が高揚してきますし、
 僕自身これを飲み進めるたびにアルコールを摂取した際に似た感覚を憶えています」
キョン「……マジか」
古泉「マジです」
143:
キョン「ハルヒ特製即席アルコールドリンクってことか……」
古泉「厳密には酒ではありません。アルコールは1滴も入っていませんからね。
 言うなれば、場酔い促進ドリンクですか」
キョン「……どっちにしても厄介極まりないな」
ハルヒ「あははははっ! キョン、古泉くん、番長くん! 飲みが足りないわよ、飲みが!」
キョン「ハルヒ、絡み酒はやめろ」
ハルヒ「何言ってるの! これはジュースよジュース!」
キョン「やれやれ……」
みくる「はふぅぅ……キョンくぅん……あらし、なんかへんれすぅ……」
キョン「……朝比奈さん、それ飲まない方がいいですよ」
みくる「ふぇ、なんれれすかぁ?」
>みくるは大丈夫だろうか。
ハルヒ「みくるちゃーんっ! ジュースでなに酔っぱらってるのよ、あはははっ!
 飲みなさい、みくるちゃん!」
キョン「……ハルヒ。朝比奈の分は俺が飲むから、朝比奈さんは勘弁してやれ。
 番長、朝比奈さんを頼んだぞ」
>ああ、わかった。
145:
>とりあえず、横になっておけ。
みくる「よこれすかぁ? わかりましたぁ……はふぅ」
>みくるは自分の膝を枕にしてしまった
>……これでは動けない。
みくる「ばんちょーくんのひざ、きもちぃれぅ……」
>そっとしておこう……。
ハルヒ「有希は飲みっぷりいいわねー!」
長門「そう」
>有希は注がれるそばからぶどうジュースを飲みほしていく。
鶴屋「長門っち、すっごいねぇ! ザルさんだねっ!」
キョン「鶴屋さん、あれジュースです」
鶴屋「にゃはははっ! そんなの気にしない気にしないっ!」
キョン「はぁ……どうしてこうなっているんだ」
古泉「ふふ、涼宮さんがそう望んだからです」
キョン「あのな……」
ハルヒ「そのとーりよ! 古泉くん!
 あたしが望んだらそうなるの! あたしは王様よ! あはははっ!
 そうよね! こんなときこそ王様ゲームよね!」
キョン「マジで勘弁してくれ」
147:
ハルヒ「キョン! 割り箸もってきなさい!」
キョン「んなもんあるか!」
鶴屋「ハルにゃん、これこれっ!」
>鶴屋さんはいつの間にか赤い印がついている割り箸と
 数字の書かれた割り箸を用意していた。
キョン「鶴屋さん、何やってんですか!?」
鶴屋「王様の命令は絶対だからねっ! しょーがない、しょーがない!」
みくる「それならしょうがないれすれぇ……」
>起きたのかみくる。
キョン「朝比奈さん、あなたが一番被害にあう可能性が高いのですよ……いいのですか……」
みくる「はふぅ……」
>また膝を枕にされてしまった。
古泉「では、僭越ながら僕がゲームマスター――」
キョン「お前はゲームマスターのやりたがりか!」
古泉「ですが、涼宮さんは進行役やる気はないみたいですし」
ハルヒ「ゆきぃー、もっと飲んでー!」
長門「わかった」
鶴屋「長門っち、いいのみっぷりだねっ!」
古泉「あなたも進行役はやる気がない」
キョン「俺は進行役どころかゲーム自体やる気はない」
ハルヒ「ダメよ! 絶対参加なんだからね!」
古泉「番長氏は、アレですので僕がやるしかないかと」
キョン「あ、番長! てめ! 何羨ましいことを!」
>そんなこと言われても困る。
149:
ハルヒ「あ、番長くん! みくるちゃんに膝枕されるなんて幸せ者なんだからっ!
 罰として飲みなさいっ!」
>コップになみなみとジュースが注がれた。
ハルヒ「さあ、飲むのよっ!」
>一気に飲み干した!
ハルヒ・鶴屋・古泉「「「おぉ?」」」
キョン「いや、ジュースだからな? 忘れてるみたいだから言うがジュースだからな?」
>おかわり。ロックで頼む。
キョン「番長もわかってるよな? 酔ってないよな?」
>おいしいぶどうジュースだな。
キョン「頼むぞ、番長……お前まで酔ったら手におえないんだからな……」
ハルヒ「さあっ! 番長くんのいい飲みっぷりも見れたことだし始めるわよ! 王様ゲーム!」
キョン「悪夢の予感しかしない……」
ハルヒ「一応王様ゲームくらい分かると思うけど、説明するわね!
 古泉くん!」
古泉「はい。王様ゲームとは、王様役のくじを引いた人が、番号の振られたくじを引いた人に命令ができるゲームです。
 特徴としては王様役の方の下した命令は基本的に絶対です。拒否権はありません」
古泉「なお、王様役は名指し指名ではなく、必ず番号で命令を下さなければなりません。
 また命令が終わるまで王様役の方は、誰が何番になったのかを知ることができません」
キョン「以心伝心、阿吽の呼吸で説明してくれるな……頭痛がしてきた」
>キョン、おかわりをくれ。ストレートで頼む。
キョン「番長……」
150:
ハルヒ「さあ、引いた引いた! みくるちゃんもほら起きて!」
みくる「はぁい……」
鶴屋「あはははっ! やっぱり酔ったみくるは色っぽいねぇっ! くふっ!」
ハルヒ「有希も引いたかしら?」
長門「引いた」
ハルヒ「さあ、男ども引きなさいっ!」
キョン「やれやれ……せめて傍観者でいさせてくれるように神頼みするか」
古泉「番長氏、どうぞ」
>手前と奥、どちらを引こうか……。
>手前のくじを引いた。
古泉「では、僕はこちらですね」
ハルヒ「じゃあ、いくわよ! 王様だーれだっ!」
>自分は……1番と書いてある。
鶴屋「おーっ! 王様はあたしだっ!」
キョン「ほっ……まだまともな命令が下りそうだ」
151:
ハルヒ「鶴ちゃん! ぬるい命令じゃダメだからねっ!」
キョン「今の王様は鶴屋さんだ。王様に指図するやつがどこにいるんだ」
キョン「……鶴屋さん、ホントお願いしますね?」
鶴屋「あははっ! 大丈夫っさ! 最初はジャブだよジャブっ!」
鶴屋「えっとねぇ……1番――いや3番と4番があつーい抱擁でよろしくっ!」
キョン「ゲッ」
ハルヒ「うん、でもまあ、それくらいならいいか。
 で、3番と4番は誰?」
キョン「……3番は俺だ」
ハルヒ「ふっふっふ、自分だけ乗り気じゃなかった罰よ。いい気味だわ。
 さあ、お相手の4番は誰かしら?」
古泉「僕ですね」
>キョンと一樹が選ばれたようだ。
鶴屋「あははははっ!! いい具合にお約束だっ!」
キョン「そんなこと俺はお約束されたくありません」
古泉「では」
キョン「やめろ、笑顔で寄るな、なんでそんなに乗り気なんだ」
152:
古泉「抱擁くらいいいではないですか。キスせよなんて命令でなくて、むしろ僕は心から安心していますよ」
鶴屋「あ、今からでもキスしろって命令に変えてもいいけど、どうするっかな?」
キョン「しませんよ! 第一知ってから命令を変えるのはルール違反ですから!」
鶴屋「にゃははっ!だったら、そのまま熱くガバッと抱き合うしかないねっ!
 あ、時間は10秒くらいでいいからっ」
ハルヒ「さーやれー!」
みくる「がんばってくらはぁい……」
キョン「う……ぐ……」
古泉「覚悟はできましたか?」
キョン「どうしてこうなったんだ……」
古泉「涼宮さんが望んだから、ですかね」
キョン「そんなことあってたまるか!」
古泉「ふふ、では行きますよ」
鶴屋「あ、ちゃんとお互いに腕を背中に回すんだよっ」
古泉「わかりました」
キョン「……やりますよ、ええ。さっさと終わらせるぞ古泉」
>キョンと一樹の熱い抱擁が目の前で繰り広げられている。
155:
鶴屋「じゃあ、数えるからねっ」
ハルヒ「ねね、鶴ちゃん」
鶴屋「ん、なになに?」
>ハルヒが鶴屋さんに何か耳打ちしている。
鶴屋「くふっ、あははっ! それ面白いねっ!」
キョン「……もうすでに10秒ほど抱き合っているんですが離れてはダメですか」
鶴屋「ごめんごめんっ! 今から数えるからっ」
鶴屋「いくよーっ」
>鶴屋さんがカウントを始めた。
鶴屋「――ろーく、しーち、はーち」
ハルヒ「あはははははっ!」
>ハルヒはぐいぐいとジュースを飲みながら観戦している。
キョン「……鶴屋さん、まだですか」
鶴屋「はーち、ろーく、さーん、しーち、よーん!」
キョン「鶴屋さんっ!?」
ハルヒ「うるさいキョン! あんたは黙って抱き合ってなさい!
 王様時間で10秒なんだから!」
キョン「ぐっ……お前か入れ知恵したのはっ!」
鶴屋「はーち、はーち、きゅー、じゅー!
 はいっ、終わっていいよーっ!」
>キョンは素早く一樹から離れた。
156:
キョン「長かった……」
古泉「これでよかったですか?」
鶴屋「うんうんっ! バッチリだよ!」
みくる「わぁー、すごかったれす……」
>鶴屋さんが携帯を覗きながらニヤケている。
キョン「って、何バッチリ撮ってるんですか!」
古泉「ふふ、これは困りましたね。あらぬ誤解を受けてしまいそうです」
キョン「まったく困っているように見えないんだが」
古泉「そうですか?」
ハルヒ「よく撮れてるわねー、鶴ちゃんあとで送ってちょうだい」
鶴屋「了解っ!」
キョン「俺が王様になったら写真を消してもらおう……」
ハルヒ「さあ、そう簡単に王様になれるかしらね」
古泉「よしんば王様になれたとしても、鶴屋さんをピンポイントで当てるのは難しいでしょうね。確率的に1/42ですよ。
 この王様ゲーム中に消去するのは現実的でないとは言いませんが、他の命令をした方が有意義ではないですか?」
キョン「お前はどっちの味方なんだ。というかお前も被害者だろ」
古泉「僕は世界の平和の味方です。涼宮さんが満足しているのならそれでいいのですよ」
キョン「きいた俺が馬鹿だった」
165:
ハルヒ「いくわよ2かいせーん!」
>一樹が割り箸を付きだしている。
キョン「次はせめて何もありませんように……」
鶴屋「くふっ。こういうのも楽しいねっ」
キョン「当たった方はたまらないのですよ」
>手前と奥どちらを引こう……。
>奥のくじを引いた。
ハルヒ「む……王様だーれだ!」
>俺がキング(王様)だ!
鶴屋「おぉーっ! 番長くん! 期待してるよ!」
キョン「番長か……まともな命令で済みそうだ」
>キョン、その前におかわりをくれ。ストレートで頼む。
キョン「あ、ああ……番長?」
ハルヒ「さあさあっ! 番長くんどんな命令を出すのかしら?
 ぬるい命令なんか許さないからねっ!」
>何番に何をしてもらおうか。
169:
>決めたぞ。
キョン「番長。なんだそのメガネは。どこから出した」
>キングといえばメガネ。メガネといえばキングだろう?
キョン「何を言っているんだ」
ハルヒ「番長くん、メガネも似合う男前ねっ!」
鶴屋「あはははっ! 何そのメガネっ!」
>よし、1番が5番の膝に座る。
キョン「なんだ。いう割にそこまでキツイ命令じゃ……ってまた俺かよ!!」
>キョンは5番のようだ。
>1番は……。
ハルヒ「あ、あたし……」
>ハルヒが顔を赤らめている。
>王様の命令は?
鶴屋「絶対だねっ!」
古泉「絶対ですね」
ハルヒ「分かってるわよ! やるわよ!」
177:
>ぬるいと思うなら、膝枕、抱きつく、肩車とランクアップさせてもいいが。
ハルヒ「これでいい! これでいいから!」
古泉「涼宮さんの動揺なんてかなりのレア現象ですよ」
みくる「れふれぇ……」
鶴屋「ハルにゃんもそんな顔するんだねっ! あはははっ!」
ハルヒ「う、ぐ……! ほら、キョン! やるわよ!
 番長くんは後で覚えてなさいよ!」
キョン「わかってるよ……うごっ!」
>正座をしたキョンの上にハルヒがかなり勢いよく座った。
ハルヒ「こ、これでいいでしょ」
キョン「は、ハルヒ……もう少し静かに座ってほしかったんだが」
ハルヒ「うるさいっ!」
>10秒数えるからそのままで待て。
ハルヒ「こ、この体勢のまま10秒……」
鶴屋「はいはーい、数えるからねー!」
>1、2、3、4、5……。
178:
>6、7、6、5、7……。
キョン「ば、番長!」
>王様時間で10秒なんだろう?
ハルヒ「番長くんに絶対キツイ命令させてやるんだから……!」
鶴屋「あははははっ! ハルにゃんもキョンくんも顔真っ赤っさ!」
ハルヒ「お酒のせいだからっ!」
>ハルヒは面白いな。
鶴屋「でしょでしょー?」
キョン「そ、そんなことよりカウント早くしてくれ」
>ああ、すまん。どこまで数えたか忘れていたからもう一度10数えよう。
ハルヒ「か、覚悟しなさいよ……」
キョン「決めたぞ番長。俺もお前に恥ずかしいことさせてやる」
>敵を2人作ってしまったようだ……。
>……10秒数え終わった。
ハルヒ「終わり終わり! さあ、次のゲームに行くわよ。
 ……勝ち逃げは許さないからね番長くん」
>ハルヒから鬼気迫るオーラを感じる。
179:
古泉「では、3回戦です。どうぞ」
>一樹が割り箸を突き出してきている。
>それぞれ割り箸を引いていく。
ハルヒ「行くわよ、王様だーれだ!」
キョン「誰だ?」
古泉「僕ではありませんが」
鶴屋「あたしでもないねっ!」
ハルヒ「じゃあ、みくるちゃん?」
みくる「ちがいますよぉ……」
>みくるは相変わらず自分の膝の上でぐったりしている。
キョン「てことは」
長門「わたし」
>有希が王様になったようだ。
ハルヒ「有希か……有希ね」
>ハルヒは自分の割り箸を睨みつけている。
185:
キョン「長門、やり方は分かってるか?」
長門「問題ない」
>どのような命令が来るのだろう。
>自分の番号は……2番だ。
ハルヒ「さあ、有希。命令なさい」
長門「2番と4番がキス」
>……!?
古泉「ほう……」
キョン「長門……まさかお前が一番キッツい命令するとは」
長門「そう」
ハルヒ「ゆ、有希、思ったより過激ね。でもいいわ! ナイスよ有希!」
長門「そう」
ハルヒ「さあ、2番と4番は誰っ! ちなみにあたしは3番で違うからね」
鶴屋「あたしも、1番で違うよっ」
>2番は、自分だ。
ハルヒ「へぇ、番長くん……」
>4番は……。
190:
キョン「よかったぜ。俺じゃないみたいだ」
>となると、みくると一樹のどちらかだが。
みくる「ええっとぉ……あらひの番号はぁ……」
古泉「…………僕ですね。4番は」
>!?
鶴屋「あはははっ!」
キョン「ご愁傷様だ」
>キョンがこちらに向けて合掌している。
ハルヒ「あははははははっ! 番長くんさっそく天誅ね!」
>どうしてこうなったんだ……。
古泉「望んだからでしょうね、彼女が」
>この場合の彼女はハルヒととらえるべきなのだろうか。
>有希は、ハルヒを一瞥した後こちらを向いた。
有希「そうするべきだと判断した」
>……どうやら有希には誰が何番かわかっていた上で命令をしたらしい。
194:
ハルヒ「番長くん、古泉くんわかっているわよね?」
>ハルヒがにやにやしながら腕組みをしている。
古泉「王様の命令は絶対……ですか」
ハルヒ「そうよ」
キョン「抗議なんてせずに早々に諦めたほうがいいぞ番長。無駄だからな。
 それに俺は相手が朝比奈さんじゃなくて心底ありがたいと思っているよ」
みくる「はぇ……あらひれふかぁ?」
キョン「……そんな状態じゃ抗議すらできずにあっさりしかねないからな」
鶴屋「くふっ、でもまあ。美少年2人のキスっていうのもなかなか背徳的だねっ」
>好奇の目でみんながこちらを見つめてくる。
古泉「番長氏」
>なんだろうか。
古泉「講義しても無駄でしょうし、早々に終わらせますか?」
>なぜ一樹はそれほどまでにあっさり受け入れられるのだろうか……。
古泉「……職務の一貫として、とでも言っておきましょう」
ハルヒ「いい心がけだわ古泉くん!
 SOS団員たるものエンターテイメントには全力を持って答えるのよ!」
>……わかった。自分も覚悟を決めよう。
205:
古泉「では……」
>一樹の顔が近づいてくる……!
古泉「頬あたりにしてお茶を濁しましょう。
 命令は2番と4番がキスをするですから」
>……! なるほど。
鶴屋「な、なんかイケないもの見てる気分になってくるねっ」
キョン「この情緒たっぷりな雰囲気はなんだ……」
ハルヒ「マウストゥマウスだからね!」
>!?
キョン「だからなんでお前が決めているんだ」
ハルヒ「いいわよね? 有希」
長門「構わない」
キョン「……やれやれ」
>……どうする、一樹。
古泉「困ったものです」
ハルヒ「さぁ! やれー!」
209:
古泉「仕方がありません、行きます。
 ラップ越しなども考えましたがおそらく彼女が納得しないでしょう」
ハルヒ「ラップなんて甘っちょろいこと認めるわけないでしょ!」
キョン「だから、お前は出張るな」
古泉「でしたら早急に終わらせるべきでしょう」
>勇気を持って一樹の意見を受け入れることにした。
>仕方ない……こい!
……

>なにか、大切なものを失った気がする……。
古泉「奇遇ですね、僕もです……」
>振り絞った勇気にどれだけの意味があったのだろう……。
鶴屋「あははははははっ!」
ハルヒ「あはははははははっ!」
>ハルヒと鶴屋さんは爆笑を続けている。
みくる「らにやっれらんれすかぁ……」
>みくるは見ていなかったようだ。
キョン「お前たちの心からの勇気見せてもらった」
>キョンは相変わらず、こちらに向けて合掌している。
210:
>有希、これでいいか?
長門「……」
>有希はどこか虚空を見つめている。
長門「問題ない。問題は解決された」
>……? 何を言っているのだろうか。
ハルヒ「さぁ! 次よ! もっともっと面白くなるに違いないわ!」
キョン「ハルヒ、これ以上過激にするのはやめておけ」
ハルヒ「どうしてよ」
キョン「たまたま番長と古泉が犠牲……もとい対象になったからいいものの
 古泉と朝比奈さん、もしくは番長とハルヒなんて組合わせの可能性もあったんだぞ」
ハルヒ「……ま、たしかにキョンとみくるちゃんじゃみくるちゃんが可哀想かもね」
キョン「その例は挙げてない」
鶴屋「とにかく面白い命令ならいいんじゃないっかなっ!」
ハルヒ「そうね。過激じゃなくて機知に富んだ命令にすることいいわねっ」
古泉「そうしていただけると僕たちもありがたいです」
ハルヒ「有希もいい? もうキスなんて命令しちゃダメよ?」
長門「わかった」
……

>みんなでしばらく王様ゲームをして楽しんだ。
212:
――鶴屋邸前。
ハルヒ「あー楽しかったわ。すっかり暗くなっちゃったわね」
鶴屋「楽しんでもらえたなら幸いっさ。番長くんもありがとねっ!」
>あ、ああ……。
みくる「あの……あたし、途中から記憶がないんですけど」
キョン「大丈夫です。朝比奈さんに実害は特にありませんでしたから」
みくる「実害……?」
キョン「大事なものを失ったのは古泉と番長くらいなものです」
>思い出させないでくれ……。
古泉「彼の口癖を奪いたくなってしまいますね」
キョン「……やれやれ」
鶴屋「くふっ! ちゃんと写真撮ったからねっ! あとでメールで送るねっ!」
ハルヒ「面白いけど、画になるのがムカつくわよねー」
みくる「? なんのことですか?」
鶴屋「あ、みくるも見るっ? ほらほらっ!」
みくる「こ、これって!」
>みくるは顔を真っ赤にしてこちらを見ている。
213:
>誤解しないでほしい。
古泉「ある種の罰ゲームですから、番長氏と特別そう言った関係ではありません」
みくる「で、ですよね。そうですよね」
ハルヒ「ん、じゃあ、そろそろ帰りましょっか!」
鶴屋「ハルにゃんも料理美味しかったよっ、ありがとねっ」
ハルヒ「こんなことならいつでも呼んでほしいわ。番長くんとも完全決着をつけたいしね」
鶴屋「だってさっ、番長くんっ」
>……王様ゲーム抜きならばいつでも相手になろう。
鶴屋「にゃははっ、あのときなぜかみんなテンションおかしかったからねぇっ」
ハルヒ「不思議よね。お酒自体はグラス1杯しか飲んでなかったのに」
鶴屋「みくるに至ってはお酒飲んでなかったのにねぇ」
ハルヒ「でもさすがにジュースだったから、酔いは全然残らないわね」
みくる「あたし、ジュースで酔ってたんですかぁ?」
古泉「……あとでお話しますよ」
みくる「はい?」
214:
ハルヒ「ま、とりあえず今日はこれで帰るわね」
鶴屋「んじゃねっ! 番長くんみくる、また明日学校でねっ」
>鶴屋さんと別れ帰路についた。
……

ハルヒ「じゃあ、また明日ね」
>暗いから送っていこうか?
ハルヒ「平気よ。それよりみくるちゃんと有希をよろしくね。
 古泉くんと番長くんは平気だろうけど、キョンは送り狼になりそうだし」
キョン「ならんわ」
ハルヒ「あ、そ。また明日部室であいましょ。それと雨降るといいわね!」
キョン「マヨナカテレビ……本当にやるのか」
ハルヒ「当たり前じゃない。明日部室で打ち合わせするから休むんじゃないわよ」
>そう言ってハルヒは帰宅してしまった。
古泉「さて」
キョン「送っていくのか?」
古泉「ええ、ですがその前に聞きたいことがあります」
215:
>聞きたいこと?
古泉「ええ。長門さんにです」
キョン「長門に?」
古泉「ええ。なぜ僕と番長氏にあのような命令をしたのか、お聞かせ願えますか?」
キョン「なんだ、まだ根に持っているのか」
古泉「そういうわけではありません。
 ただ、長門さんが意味もなくあのような命令をするとは思えないのです」
>あれに意味があったのか?
古泉「それを訊こうというのですよ」
長門「……」
>有希?
長門「不快な思いをさせたのなら謝罪する。
 しかし、対処の方法があの方法しかなかった」
古泉「どういうことですか?」
長門「あのとき涼宮ハルヒが酩酊状態になったために、能力が周辺で散発していた。
 僅かながら我々の観測に影響が出る可能性があると判断した。
 よって涼宮ハルヒの意識を一点に集中させ、能力の散発を防ぐ必要があった」
長門「涼宮ハルヒが最も興味を持ちそうなことを命令とした」
古泉「それがあのキスだったのですか……」
長門「そう」
217:
古泉「能力の散発は防げたのでしょうか?」
長門「キスを目撃した瞬間から能力の散発は終息した」
古泉「なるほど……でしたら、無駄な行為ではなかったようで何よりです」
>ハルヒはそんなに男同士のキスが見たかったのか?
古泉「いえ。キスではなく、番長氏の醜態痴態が当てはまるのでしょう」
>自分の?
古泉「ええ。正直涼宮さんが今更僕の痴態を見て面白がるとは思えません。
 ですから、番長氏の困った顔が、あのとき涼宮さんが最も興味のあることだったのだと思います」
長門「わたしは、そう判断した」
キョン「くくっ。となると、お前は完全に巻き沿いを喰った形になるのか」
古泉「ふう、そういうことです。あなたも意地悪ですね。
 ですが涼宮さんはあなたが男同士でも、他人とキスすることを望まなかったために僕になったのでしょう」
キョン「……お前も大概意地悪だがな」
古泉「ふふ、すみません。そのようなつもりはなかったのですが」
キョン「しかし、酔うたびにハルヒははた迷惑な力を振り回すのか。
 もしかして、前に酔ったときもなにかあったのか?」
長門「あった」
キョン「マジかよ……」
古泉「夏合宿の2日目の台風を覚えておいでですか?」
キョン「ん、ああ」
古泉「あれも酔った際に能力を使っていたのでしょうね」
キョン「片鱗は前からあったってわけか……」
218:
みくる「あたしが寝てる間に、大変なことになってたみたいですねぇ」
キョン「まあ、みんな酔っていましたからね」
みくる「あれ、あたしもお酒飲んでたんですか?」
古泉「いえ、朝比奈さんは完全に場酔いですね」
みくる「場酔い?」
古泉「あの場にあったぶどうジュースを飲めば飲むほど場酔いが進んでいったんですよ。
 ですが、アルコールは1滴も入っていません」
みくる「あ、それであたし頭が痛くないんですね。
 あたしお酒飲むとすぐに頭が痛くなってきちゃうみたいで」
>みくるは恥ずかしそうに笑っている。
古泉「長門さんは、あのぶどうジュースを飲んでも問題はなかったのですか?」
長門「問題ない」
古泉「涼宮さんの能力をもってしても長門さんを酔わせることができないとは。
 すごいですね」
キョン「長門は一番の酒豪だからな」
>そんなにか。
キョン「ああ。合宿にいったときなんか一人でパカパカワインの瓶を空にしてたからな」
>すごいな。
219:
長門「……わたしたち情報生命体にとって、経口による食事の摂取は基本的に意味を持たない。
 よってアルコールによる影響を受けることはない」
>そうなのか?
長門「そう」
古泉「そうでしょうね。僕たち有機生命体は生命維持のために食事ないし栄養の摂取は必須です。
 ですが身体を有機物で構成することのない情報生命体にとっては不必要なことですから。
 ヒューマノイド・インターフェースと言えど、それは同じでしょう」
キョン「なら長門が食べたものはどこに消えているんだ」
長門「わたしが経口摂取したものは単一情報素子に変換分解され、
 過分エネルギーへ再変換したのちに、体表面構成情報素子へと再構成している」
キョン「え、あ?」
>どういうことだ?
古泉「さあ、僕にもわかりません。
 ただ一つ言えることは、長門さんは全く飲まず食わずでもまったく問題ないということですかね」
>ということは食べる意味は何もないということか。
長門「そう」
長門「だけど」
長門「あなたたちの作る料理は、わたし個人の意思として楽しんでいる」
223:
>そうか。嬉しいな。
長門「そう」
古泉「さて、涼宮さんも帰ってしまったことですし、解散しますか?」
キョン「そうだな、長門。意味はないと思うが送っていくぞ」
長門「そう」
古泉「では、僕は朝比奈さんを送っていきますよ」
みくる「あ、ありがとうございます」
>どちらについていこうか……。
古泉「番長氏は料理で疲れているでしょうから一足先に帰っていただいて構いませんよ」
キョン「そうだな、先に帰って休んでおけ。
 明日、マヨナカテレビを試すとかなんとかも言ってるからな」
古泉「では、いきましょうか」
みくる「は、はい」
キョン「俺らも行くか。じゃあな、番長」
>ああ。
>皆各々帰路についたようだった。
224:
>急に静かになってしまった。
>一樹から借りているマンション以外で一人になることは久しぶりかもしれない。
>……そういえば、王様ゲームをしていたせいで、友人のことを話すことを忘れてしまった。
>陽介、千枝、雪子、完二、りせ、直斗、クマ、叔父さん、菜々子……。
>みんな。どうしているだろうか……。心配させているかもしれない。
>……そういえばこちらの時間の進み方と自分の世界の時間の進み方に違いはあるのだろうか。
>しかし、それは誰にもわからない。
>不安が、押し寄せる……。
>見上げた星は、こちらの世界でも変わらず瞬いていた。
古泉「おや、まだここにいらいたのですね」
>一樹。
みくる「番長くん……? どうしたんですか?」
>なぜみくるが一緒にいるのだろうか。
古泉「それがですね、朝比奈さんが番長氏を労ってあげたいそうで」
>労う……?
225:
みくる「あの、お料理作ってもらってあたし酔ってて洗い物もお手伝いできませんでしたし……。
 そ、それにずっと膝枕してもらってたみたいで……ホントごめんなさいっ」
>ああ、気にしなくていい。
みくる「そんなわけにはいきません!」
>みくる?
みくる「あの、その……だから、なにかしてあげたいなって思って……」
古泉「僕は個人的にあとで番長氏と慰労会しようと思っていたのですがね。
 王様ゲームで辛酸をなめ合った者同士で杯を交わすのも悪くないでしょう?」
>未成年の飲酒はダメなんだろう?
古泉「番長氏はこちらの世界の人間ではないですから、治外法権ですよ。
 それにイケない飲酒も高校生らしくていいではないですか」
>一樹、悪い笑顔になっているぞ。
古泉「ふふ、これは失礼しました」
みくる「ふふ、お酌くらいならしますよ?」
>しかし、なぜ急に?
古泉「僕は先ほど述べたとおり、2人で慰労しようと思い立っただけなのですが」
みくる「その……番長くんはいついなくなっちゃうかわかりませんから」
226:
>……? いっただろう、自分はみくるよりも長くこちらにいることになるかもしれないと。
みくる「そうかもしれません。でも……明日には、ううん。5分後にはいなくなっちゃう可能性だってるじゃないですか」
>……かもしれないが。
みくる「急に現れた番長くんなら、急にいなくなってしまっても不思議じゃないじゃないですか。
 だから……番長くんには、お礼を後回しにしたくないんです」
みくる「絶対に、そんなことで後悔したくないから」
>みくるが、真摯なまなざしでこちらを見つめてくる。
みくる「あ、あはは。で、でもこんなこと言っても困っちゃいますか?」
>そんなことはない。嬉しく思う。
古泉「また、番長氏の部屋を借りてもいいですか?」
>ああ、構わない。
古泉「では、用意こちらでしますのでご安心を」
キョン「なに、不良な相談し合ってるんだ」
>キョン……?
古泉「おや」
みくる「あれ? キョンくん?」
キョン「あー、長門もいるぞ」
長門「……」
>有希もどうしたんだ。
228:
キョン「なんというか、長門もいるぞ、というより俺もいるぞといった方が正しいな」
キョン「長門が、番長にお礼したいってよ。そんで戻ってきたんだ」
長門「料理のお礼」
>そんなことのためにわざわざきたのか。
古泉「ふふ、結局集まってしまいましたね。
 せっかくですから慰労会兼2次会に変更しますか?」
>ああ、構わない。
キョン「2次会なら……ハルヒも呼ぶか?」
古泉「それも大変魅力的な提案ですが、今回は避けておきましょう。
 番長氏のことについてもいくつか話したいこともありますしね」
>自分の?
キョン「そうか……なら、呼べないな。すまん、ハルヒ」
>2次会はいいが、帰りが遅くなるぞ?
キョン「……帰りが遅くなって不都合なのは俺だけだな。
 歩きながらでもお袋に連絡入れておくさ」
古泉「では、向かいましょうか」
>みんなでマンションへと向かった。
230:
――マンション自宅前。
古泉「では、僕は用意をしてきますので」
>わかった。
……

――自宅。
長門「……」
みくる「おじゃましまぁす」
キョン「最近ここが第二の部室化してる気がするな」
>かもしれないな。
キョン「このテーブルも座る位置が定位置化してるしな」
キョン「にしても、相変わらず生活感がないな」
>必要最低限のものしかないからな。
みくる「たしかに、そうですねぇ」
キョン「帰った後とか暇なんじゃないか?」
>基本的にみんながここにいるからな。暇はしてない。
キョン「……なんかすまん」
231:
>謝ることじゃない。
キョン「でも、なんかなぁ」
みくる「たしかにここによく集まってますね、あたしたち」
ピーンポーン――……
>一樹が来たようだ。
古泉「すみません、あまりありませんでした」
>カクテルとビールを数本ずつ持ってきたようだ。
キョン「いや、十分だろ」
古泉「この量なら確かにそこまで酔いはしないでしょうからね」
みくる「あの、あたし……」
古泉「大丈夫ですよ、ソフトドリンクも持ってきましたから」
みくる「あ、ありがとう、古泉くん」
>ソフトドリンクもいくつか持ってきたようだ。
古泉「おつまみが少々さびしいですが、仕方ありませんね」
>チーズやカルパスがいくつかある。
古泉「では、お好きなものを」
キョン「んじゃ、チューハイでも貰うかね」
232:
>それぞれ飲み物をとった。
キョン「長門はどうする?」
長門「どれでも構わない」
キョン「じゃあこれでも飲んどけ」
>キョンは、甘口の酒を有希に渡したようだ。
古泉「とりましたか?
 本来ならグラスに注いだほうがいいのでしょうが洗い物も増えますから缶でいいでしょう」
>いや、それくらいなら構わないが。
みくる「ダメですよ、番長くんの仕事が増えるじゃないですか」
古泉「そういうことです。では、番長氏、本日はお疲れ様でした」
キョン「お疲れさん」
みくる「お疲れ様でしたぁ」
>カコンと缶同士の当たる音が響いた。
>缶に口をつける。炭酸が口の中で弾けた。
キョン「なんというか……悪いことをしている気分になるな」
古泉「実際学校にばれたら、どうなるかわかりませんね」
キョン「ま、一蓮托生ってやつだ。誰がばらすわけでもないだろうよ」
233:
>ハルヒも呼んであげたかったな。
古泉「そうですね。ですが、涼宮さんがいては話せないことも多くありますから」
キョン「ちゃんと後で埋め合わせをしてやればいいさ」
みくる「そうですね、涼宮さんにもちゃんとお礼言わなくちゃいけませんし」
>そういえば話とはなんだろうか。
古泉「番長氏の帰還の方法です」
>見つかったのか?
古泉「いえ、そうではありませんが出来る限り可能性を模索していまして」
>そんなことまでしてくれているのか。ありがとう。
古泉「ある種、僕たちの義務ですからね」
キョン「で、何か新しい可能性とやらは見つかったのか」
古泉「相変わらず涼宮さんの力を頼ることになるんですが一応」
>前にいったことは、ハルヒに好かれて八十稲羽へのゲートを作ってもらうことだったか。
古泉「ええ、そうですね。新しい仮説は後にして現状を確認しましょう」
古泉「以前も言ったように涼宮さんにゲートを繋いでもらうために番長氏には涼宮さんに嫌われないように努めてもらいました。
 ただ、好かれすぎても問題があるような気がしてきたのです」
>どういうことだ?
234:
古泉「番長氏がこちらに居ついてしまう可能性があるのですよ。
 涼宮さんがずっと一緒にいたいと願ってしまったらその通りになってしまい永遠にゲートは塞がれてしまうでしょう」
キョン「……そんなもん八方塞じゃねーか」
古泉「かもしれませんね。打算的に行動しないことや人当たりの良さなど
 番長氏は人に好かれる才能がおありのようです。ですがそれが今回ばかりは仇になるかもしれません」
>困ったな。特に意識はしていないのだが。
古泉「でしょうね。番長氏は、あくまで自然体で接しているだけの様ですから。
 実際、涼宮さんも番長氏に悪い印象はないようです」
>それは喜ばしいことだが……しかし。
古泉「ただ、現在涼宮さんの力を当てにしていますが、
 もちろん朝比奈さんがいったように突然番長氏が帰ってしまう可能性もゼロではありません」
古泉「ただ、楽観視するのは危険と判断すべきでしょう」
古泉「そこで新しい仮説……というよりアプローチの方法を変えてみる、という提案です」
>アプローチの方法?
古泉「ええ。涼宮さんの番長氏への印象は現状で留めておいて問題はないでしょう。
 むしろこれ以上あげない方がいいかもしれません」
古泉「ですから、今度は番長氏の良さではなく番長氏の住んでいた場所、
 つまり八十稲羽市のよさを重点的にアピールしてみてください」
キョン「なるほどな。ハルヒの興味を番長から八十稲羽に向けさせるわけか」
235:
古泉「そうです。しかし、これも少々問題がありまして」
キョン「問題だらけだな……」
古泉「涼宮さんが、そこへ普通に旅行へ行こうと思ってしまった場合です」
古泉「以前涼宮さんが番長氏のことをどう思いたいか話したことを覚えていらっしゃいますか?」
>たしか、自分の以前住んでいた場所を訊かなかったのは自分を異世界人だと思いたいから、という話か。
古泉「そうです。その場合、僕たちの住むこの世界に八十稲羽市を生み出してしまうの可能性――
 もしくは番長氏と同じく八十稲羽をこの世界へ呼びこんでしまう可能性もあるのです」
>とんでもないな、ハルヒの力は。
古泉「ええ、その場合、世界の理が根本から変わってしまいます。
 そして番長氏も本格的にこの世界の住人となってしまうでしょう」
古泉「ですから、八十稲羽市に羨望を抱かせつつも涼宮さんが番長氏が異世界人であってほしいと願い続ける――
 そんなアプローチをしなければなりません」
>……難しいな。
キョン「無理難題すぎるぞ」
古泉「僕も無茶を言っていると思っています。ですが、これくらいしか思いつかないのですよ」
みくる「……古泉くん」
古泉「なんでしょう」
236:
みくる「もっと確実な方法があって、それをあえて話していないことを番長くんに言うべきだと思います」
古泉「……」
キョン「朝比奈さん?」
みくる「あたしが気づいているんです。古泉くんが気づかないはずがありません。
 ……もちろん、あたしもその方法はできる限りとりたくありません。でも方法のひとつとして話しておくべきだと思います」
>みくるが一樹を真剣な顔つきで見つめている。
古泉「……そうですね。話しておくべきでしょう」
古泉「僕は先ほどこれくらいしか思いつかないと言いましたが、もう1つ方法は思い浮かんでいました。
 ですが、この方法は……僕たちにとって非常に不都合なので黙っていたのです」
キョン「古泉……」
古泉「そのような目で見られても仕方がないかもしれませんね」
>話してくれるのか?
古泉「ええ。というより番長氏は知っておくべきでしょう」
古泉「もう一つの方法はとてもシンプルなものです」
古泉「涼宮さんに涼宮さんの持つ力を自覚させればいいのです。
 そうすれば、簡単に異世界への扉は開かれることでしょうね」
キョン「……そういうことか」
237:
古泉「ですが……それは僕たちにとって非常に不都合です。
 僕は――いえ、機関は涼宮さんが能力を自覚することを望んでいません」
古泉「涼宮さんが、能力を自覚してしまえばこの世界は混沌へと再構築されることになるでしょう。
 いえ、僕たちはその混沌を混沌だと認識すらできないはずです。元からそうであったという認識の元、
 超能力者や宇宙人や未来人が溢れかえるファンタジーともSFとも区別のつかない世界で生きることになってしまう」
古泉「僕を含む機関は、現在の世界の維持に努めています。涼宮さんの能力の影響が極力外に漏れないようにとね。
 はたして改変が行われた後の世界で僕たちは存在していられるのか……その確証はまったくないのですから」
古泉「そして、それは朝比奈さんの未来にも影響します。
 いえもし世界の再構築が行われた場合、朝比奈さんのいる未来は消滅してしまうでしょう」
古泉「もしくは、能力の発現により既に混沌へと作り替わることが規定事項かもしれませんが」
みくる「禁則事項です。けど……古泉くんが思っているようなことにはなっていないはずです」
>一樹は肩をすくめている。
古泉「とにかく、涼宮さんに能力を自覚させるということはこの現在の世界のあり方を根本から揺るがしてしまうのです」
 
古泉「そういう事情があり、番長氏にこの方法は黙っていました。すみません」
古泉「納得はできなくとも理解はしてほしいのです」
>もし自分が一樹の立場なら同じことをしていただろう。
>だから気にするな。
古泉「ありがとうございます」
>それに、その方法は自分も考えたからな。
古泉「……!」
238:
古泉「では、なぜ実行しなかったのですか?」
>ハルヒが能力を自覚していいのなら、とっくにみんなハルヒに話しているだろう?
>そうでないということは、ハルヒが知ってはマズイことがあると考えただけだ。
古泉「……本当にあなたには頭が上がらない思いですよ」
キョン「……別に、番長はこの世界がどうなってもいいじゃねぇか。
 そりゃ、俺たちは困るが番長は困らんだろう」
>困るな。
キョン「なにがだ」
>もう自分とキョン達は友達だろう? 友達が困ることはできないさ。
キョン「……お人よしすぎるぞ」
>そうか?
古泉「何度目かは分かりませんが、本当にやってきたのがあなたでよかった。
 あなたは聡い人です。確かにこれくらいのことに気付かないはずがありませんね」
古泉「それを実行に移さないでいただいて本当にありがとうございます」
古泉「改めて、全力で番長氏の帰還をサポートさせていただきます」
>助かる。
みくる「番長くん、本当にそれでいいんですか?」
>ああ。
みくる「……ありがとう」
239:
>話に区切りがついたのなら、飲み直そうか。
古泉「ええ、そうですね」
>プシッと一樹が新たに缶を開ける。
キョン「……はあ。本当に番長には敵わんな」
>どうした。
キョン「いや……俺が異世界ではないが改変された世界に迷い込んだときは、
 帰ることだけ考えていて、その世界のことなんてほとんど考える余裕なんてなかったからな」
>それだけキョンが、この世界のことを大切に思っている証拠だ。
キョン「……まあ、いい。何を言っても番長に口で勝てる気はせんからな。
 ところで気になったんですけど、朝比奈さんがあんな風に古泉に突っかかるのって初めてじゃないですか?」
みくる「そ、そうですかぁ?」
キョン「ええ、俺の記憶が確かならですけど。珍しいこともあるもんだなと。俺としてはそっちに驚きましたよ」
みくる「で、出過ぎた真似しちゃいました、あはは……」
みくる「……ただ、今なら言えるかなって思って」
キョン「古泉となにかあったんですか?」
古泉「少し鶴屋邸で雑談をしただけですよ。それで朝比奈さんとほんの少し仲良くなっただけです。
 だからこそ、この場でいったのでしょうね。そうでなければ、僕のいない場所で番長氏にいったのではないでしょうか」
みくる「そうかもしれませんね……」
240:
古泉「番長氏に朝比奈さんとの仲を取り持ってもらったようなものです」
キョン「番長何やってやがるんだ」
>そんなつもりは全くないのだが……。
キョン「無自覚でそういうことをするのかお前は」
キョン「数か月前には、未来人と超能力者は思想として相容れることがないとか
 長門から聞いたときはどうしたもんかと思ったが、仲良くなったのならよかったよ。
 頑張って手を取り合いながらハルヒの監視だか観察だかに精を出してくれ」
>グイ、とキョンは酒を煽っている。
みくる「……」
古泉「……なんといいましょうか」
長門「以前にもあなたに言ったように、未来人と現代人の思想は相いれることはない」
>有希?
キョン「……てことはまだ対立してるにはしてんのか」
長門「そう」
キョン「でも、仲良くなったんだろ? どういうことだ?」
古泉「……つまらない話ではありますが酒の肴に少しばかりお話しましょうか」
241:
古泉「あなたは以前僕が話したことを覚えていますか?」
キョン「あ? ハルヒが神とかいう話か?」
古泉「もっと具体的に言えば、涼宮さんがこの世界を構築しているという話です。
 そして機関に涼宮さんを神視する派閥が大勢を占めているとはいえ、僕を含む少数派はそれに懐疑的です。
 あくまで涼宮さんは人だと、思っています」
古泉「ただ、どちらにも共通する点は、『涼宮さんは世界を構築する力を持っている』という見方をしています」
キョン「ああ、そんなことを言っていたな」
古泉「そして、朝比奈さんを含む未来人はこう考えているのです。
 『この世界はこの世界として然としてあり、涼宮さんの力は世界そのものを構築しているわけではない。
 現実を改変する力はあるがその大枠である世界そのものの仕組みを変えてしまうほどの力はない』とね」
キョン「俺からすれば、なんで対立するかわからんがね。
 大した違いはないんじゃないのか?」
みくる「そんなことありません!」
キョン「あ、朝比奈さん……?」
みくる「全然違います! 違うんです!」
>みくる、落ちつけ。
みくる「あ、ごご、ごめんなさい……」
キョン「すみません、朝比奈さん……」
みくる「う、ううん。あたしこそ、取り乱してごめんね」
242:
古泉「……いいでしょうか。続けますよ。
 朝比奈さん、出来る限り客観的に話すつもりですが
 もし、僕の配慮が足らず神経を逆なでするようなことがあるかもしれません。先に謝っておきます」
みくる「いえ……大丈夫です。この機会にキョンくんにも知っておいてほしいから」
古泉「……そうですか。わかりました。
 長門さんたち情報統合思念体も違う思想をしていますが今は省略します」
古泉「対立するポイントは大きく分けて2つあります。
 1つ目は『涼宮さんが世界を構築している』という点と『世界は然としてある』という点です」
キョン「そこの何が問題なんだ?」
古泉「もし、涼宮さんが世界を構築しているのなら『未来』という存在は涼宮さんによって造られたことになってしまうのです」
キョン「ん、あ?」
古泉「涼宮さんが存在している『現在』のみが真実であり、『未来』は涼宮さんの手で造られた『虚構』となってしまう」
古泉「つまり、涼宮さんが世界を構築しているとしてしまうと、未来は仮想世界、未来人はすべてが疑似生命だということになってしまうのです。
 言い方を悪くすれば未来人は、涼宮さんの手によってつくられた人形、なのです」
みくる「っ……!」
>みくるは辛そうだ……。
キョン「古泉、言っていいことと悪いことがあるぞ。
 朝比奈さんがハルヒに作られた人形だと!? ふざけるなよ!」
古泉「ふざけてなどいません。涼宮さんが世界を構築しているとなるとそういう結論に至ってしまうのですよ」
古泉「だからこそ、思想の対立が起っているのです」
キョン「だからってな――」
みくる「いいの、キョンくん。本当のことだから」
キョン「朝比奈さん……」
みくる「古泉くん、続きをお願いします」
古泉「分かりました」
243:
古泉「ですので未来人が『世界は然としてある』と考えるのは当然のことなのです。涼宮さんによってつくられているなど認められるはずがない。
 世界が然としてあるのならば、未来は虚構でも疑似生命などではありませんからね」
古泉「この疑似生命という考え方は、超能力者である僕たちにも同じことが言えます。
 涼宮さんに作られた存在、それが僕である可能性も同時に否定できません」
キョン「……」
>キョンは憮然とした表情で一樹の話を聞いている。
古泉「ですが、この『現在』が真実ならば、超能力者はただの一般人に能力が付与されただけの存在かもしれない」
古泉「しかし、『現在』に存在しない『未来』はそういうわけにはいきません。すべてを否定されてしまいますからね」
古泉「これが、対立のポイントの1つ目です」
キョン「……そりゃ、朝比奈さんが必死に否定するはずだな」
みくる「そういうことです、分かってもらえました?」
キョン「ええ、それはもう」
古泉「そして、2つ目は未来という存在そのものです」
キョン「またわけのわからんことを」
古泉「これは僕たち現代人側から否定しているものです。
 もし、”既定”とされる現在を辿った先が”未来”であるのならば……僕たちがすることはすべて無意味ではないですか」
みくる「無意味だなんて、そんな……」
>……なるほど。そういうことか。
古泉「未来が存在するということは、僕たちが何をしようともその先の結果はすべて決まりきっていることの証左です」
古泉「まさしく”運命”が存在しており、何をしようとも僕たちはその上を歩いているに過ぎないと言われてしまっているようなものなのですよ」
古泉「そんな世界、虚しいだけではないですか」
245:
古泉「……すみません。多分に主観が混じっていましたね」
古泉「ですから、僕たち現代人は未来を認められないのです。
 だからこそ『世界は涼宮さんによって構築されている』という思想へたどり着くわけです」
>現代を肯定すれば未来が否定される、未来を肯定すれば現代が否定される……。
>確かにこれでは、相容れることはないだろう……。
古泉「そういうことです。朝比奈さん、不快な思いをさせてすみませんでした」
みくる「ううん。いずれ知るべきことだと思うから」
キョン「……そんな2人がどうやって仲良くなったんだ?」
古泉「現代がどうであれ未来がどうであれ、僕たちがここでこうして話していることもまた真実です。
 それを大切にしよう、という話ですよ。現代人未来人関係なくただの一個人としての立場でね」
キョン「真実ね……」
古泉「さあ、この話はこれくらいにしましょう。今話しても何が本当なのかは分かることは絶対にないでしょうから」
>一樹は缶に残っていた酒を一気に飲み切ってしまった。
キョン「こういうのこそ、何とかしてほしいもんだぜ、神様」
みくる「ふふ、そうですね」
長門「……」
>一樹に合わせるように全員、缶に入っていた残りを一気に飲み干した。
264:
キョン「しかし、ハルヒを取り巻く環境を知ったつもりでいたが……全然だな」
古泉「ふふ、涼宮さんの周りは基本的に平和ですからね」
キョン「出来る限り面倒事には関わりあいたくないもんだ。
 特に組織間抗争なんて血なまぐさそうなことにはな。というか何度も命に関わる経験はごめんだ」
古泉「それはご安心を。僕たちの組織間抗争をあなたや涼宮さんまで届けないために僕たちがいるのですから」
キョン「ああ、よろしく頼むぜ」
>命に関わるような経験があったのか?
キョン「ん? ああ。2度程な。そういや話したことなかったか」
>そうだな、聞いたことはない。
キョン「と言っても、大したことじゃないさ。暴走宇宙人に殺されかけたってだけだな」
>かなり大したことだと思うが……。
>宇宙人というと有希関係か?
キョン「ああ、朝倉っつってな。元クラスメイトだったんだが、
 長門と一緒のヒューマノイドだったんだ。そいつが情報統合思念体の過激派だかで、俺を刺し殺そうとしやがった」
長門「……代表して改めて謝罪する」
キョン「あーいい、いい。そんなつもりで言ったんじゃない。
 あくまで悪いのは朝倉であって長門じゃないからな」
長門「……そう」
265:
キョン「とにかくそれが1回目だ。長門に助けてもらわなかったら間違いなく俺は今ここにいないね」
>それが前に言っていた有希が命の恩人という話か。
キョン「そういうこった」
>しかし、刺し殺そうとしたとは?
キョン「暴走イカレ宇宙人の考えることなんて俺にわかるはずがないさ。
 とにかくでかいサバイバルナイフで殺そうとしたんだ」
>有希。
長門「なに」
>どうしてそんな原始的な方法をとったんだ。有希たちなら、人間くらい跡形もなく消せるだろう?
キョン「ああ……そういえばなんでだろうな」
長門「有機生命体の情報連結を素粒子レベルまで分解することは容易」
>だろう?
古泉「死体がほしかったのではないですか? 見るからに凄惨な死体が。
 確か目的は――」
キョン「俺を殺して、ハルヒの出方を見るとか言ってたな」
古泉「素粒子レベルまで分解されたら行方不明にしかなりませんし、
 銃での殺害は現実味がない。おそらく通り魔に殺されたことにでもするつもりだったのでしょうね」
>なるほどな。
266:
キョン「改めて考えると恐ろしすぎるな」
>その、朝倉はどうなったんだ?
キョン「朝倉自体はそのときに長門にバックアップの権限を越えた暴走と判断をされて消されたんだが……」
>バックアップとは?
キョン「ああ、なんでもその朝倉は長門のバックアップだったらしい。
 何をバックアップしているかは知らんがな」
長門「……」
キョン「だが、殺されそうになった2回目も消えたはずの朝倉なんだ」
>どういうことだ?
キョン「あー、長門。一応訊いておく。話していいか?」
長門「構わない」
>?
キョン「ちょっと前の話なんだが、長門がハルヒから能力を奪ってこの世界を改変しちまっていたんだ」
>有希の影のときに言っていた話か。
キョン「ああ、それだ」
長門「エラーをどうしても回避することができなかった結果。
 再発はしないはず」
キョン「あの長門も悪くなかったけどな」
長門「……そう」
267:
キョン「まあ、とにかく、その改変世界で朝倉が復活していてな。
 改変世界から元の世界へ戻そうとしたときに朝倉に脇腹をナイフでグサリってな具合だ」
>……キョンはお祓いにいった方がいいかもしれないな。
キョン「かもしれん」
>しかし、2回目もナイフだったんだな。
キョン「ああ」
>2回目は死体なんていらなかったんじゃないのか?
キョン「……なんでだ、古泉」
古泉「さあ、わかりません。そこに居合わせていたわけでもないですからね。
 僕の知っている情報はあなたから聞いたことだけですよ」
キョン「……じゃあ、朝比奈さん分かりますか? 一緒にいましたし」
みくる「さ、さあ……? そういえばどうしてでしょう?」
キョン「長門、なんでだ?」
長門「あのとき朝倉涼子の行使可能能力は、あなたたち人類とほぼ同等かわずかに上方修正されている程度だったから。
 朝倉涼子は一度情報統合思念体に還元された際に、行使できる能力の大半において制限を受けていた」
>つまり、人間とほとんど変わらないから、人間と同じ方法しか取れなかったということか?
長門「そう」
268:
キョン「新たな事実だな……」
古泉「しかし、番長氏も着眼点が面白いですね。
 彼の殺害方法……気にも留めていませんでしたよ」
>ただ気になったから聞いただけだ。
キョン「ま、とにかくそれが命の危機2回目ってわけだな」
>もう少し、その改変されたときのことについて聞いていいだろうか?
キョン「別にかまわないが何か気になることでもあったのか?」
>いや、単純に興味があるだけだ。
キョン「じゃあ順を追って話していくか――」
>キョンから世界が改変された際の話を聞いた。
キョン「――ってところだ」
>キョンは想像以上に苦労しているんだな。
キョン「そんなことないさ。今の番長に比べればな。
 何か参考になることでもあったか?
 俺の場合結局最後も長門頼みだったから、そんなことはないと思うがな」
>一応訊いておこう。有希、自分を元の世界に送り返すことはできるだろうか?
長門「あなたがもともといた場所を観測できないため不可能」
>だろうな……。
269:
長門「もし、観測できたのならすぐに知らせる」
>ありがとう、有希。
キョン「長門ができなきゃホントあとはハルヒ頼みだな……」
古泉「そうせざるをえないでしょうね」
キョン「万能の長門でもわからない番長か……難儀だな」
みくる「帰れると、いいですねぇ」
>そういえば、有希はどうしてハルヒを観察しているのだろうか?
>有希たちほど能力が高ければ、地球で学ぶことなどないだろう?
長門「涼宮ハルヒは、3年前に情報フレアを引き起こしていたことから、自立進化の可能性を秘めていると考えられている。
 だから我々――自立進化を停止させてしまった情報統合思念体は、
 涼宮ハルヒを観測することにより新たな自立進化の可能性を見出そうとしている」
>自立進化の可能性……?
長門「そう」
>いくつか訊いていいだろうか。
長門「いい」
古泉「何か気になることでも?」
>ああ、少しな。
270:
>有希たちは、ハルヒの能力にその自立進化の可能性を感じているのだろうか?
長門「涼宮ハルヒに対して感じているものであり、その能力に限定しているわけではない」
>有希は、簡単にハルヒの能力を移動させることができるのだろうか。
長門「容易ではないが、可能」
>いまでも?
長門「可能」
>ならば、どうして有希はハルヒの力で有希たち自身の進化を願わないのだろうか。
>願望を実現する能力がならば可能であるかのように思えるのだが。
キョン「……!」
みくる「あっ……確かにそうですね」
長門「それは不可能と判断している」
>何故だろうか。
長門「涼宮ハルヒの持つ能力では過剰な自己昇華及び自己思考埒外に影響を与えることは非常に困難だと考えられている」
>……?
古泉「これに関しては僕が説明しますよ。かなり仮説のレベルなのですがね」
271:
古泉「涼宮さんの能力は願望を実現すると言っても万能ではないのです」
キョン「あれが万能じゃなかったら何が万能なんだ」
古泉「一見、ほぼ万能のように見える涼宮さんの能力ですが2つだけできないものがあります。
 いえ、あるというより観測できていないだけかもしれませんがね」
キョン「そういう御託はいい。その二つはなんだ」
古泉「1つは、自分自身への力の行使です。これは極端に弱くなるのではないかと考えられています」
キョン「どういうことだ」
古泉「よく考えてください。人が最も多く望む願望は自身のことではないでしょうか。
 もっと勉強ができるようになりたい、もっと運動ができるようになりたい、もっと料理ができるようになりたいなどなど」
キョン「全部ハルヒはできているじゃねぇか」
古泉「そうですね。ですが思い出してください。
 野球大会、文化祭でのバンド、映画作り……どれも涼宮さんはうまくやりたいと願ったはずです」
キョン「まあ、だろうな」
古泉「それにも関わらず、野球では打たれましたし、涼宮さん自身も精々ヒット止まり。
 文化祭では、ギターを覚えきれずにほぼ歌のみ。映画での脚本・カメラワークはご存知の通りです。
 個性的でいいとは思いますけどね」
古泉「もし自身へ能力が発動するのなら、このような中途半端なことにはならないはずなのです」
キョン「そんなものハルヒが望んでいなかったんじゃねぇのか」
古泉「かもしれません。ですが……勝負事にこだわる涼宮さんが力をセーブするとは思えないのです。
 なにせ、涼宮さんからすれば力を使うという認識ではなく、ただ強く思うだけなのですから」
キョン「……」
古泉「ですが、全くゼロとも言い切れませんので、極端に弱くなると表現させてもらいました」
272:
古泉「もう1つは、涼宮さんの力を発現させるためには、ほんの少しの具体性が必要なのではないかと考えられています」
>具体性?
古泉「そう、具体性です。
 簡単に言ってしまえば『何か面白いこと起これ』と願ってもその願望は実現しません。
 ただいたずらに閉鎖空間を生むだけとなるでしょうね」
古泉「つまりです。能力を行使して願望を実現するためには
 『何がどうなってほしいか』というほんの少しの具体性が必要なのです」
古泉「『猫が喋ってほしい』や『桜が咲いてほしい』や『ハトが白くなってほしい』などですね。
 詳細まで設定する必要はなく、ほんの少しの具体性で能力は発現します」
古泉「ですが具体性を伴わない願望は実現しない。つまり自身が到底想像しえない願望は叶えられないのです」
古泉「よって長門さんたち情報統合思念体は、涼宮さんの能力を得たとしても自身への能力行使はたいして効果は得られない。
 TFEI端末を使い客観的に能力を行使しようとしても情報統合思念体の更なる進化を想像できない、どのように進化したいのかわからない」
古泉「――つまり具体性が伴わない願望により能力が発現できないというわけです」
古泉「だからこそ、涼宮さんを観測することにより自立進化の可能性を見出そうとしている。違いますか?」
長門「そう捉えてもらって構わない」
古泉「つまり、長門さんたちは涼宮さんの力を奪い、自分たちで使っても目的を達成できないわけです」
>なるほどな。
キョン「頭がこんがらがってきたぞ、クソッ」
282:
古泉「難しく考える必要はありません。
 ?涼宮さんの能力は、能力を持つ者自身には使えない。
 ?具体性がなければ発現しない」
古泉「これだけです」
キョン「単純化すればそんなもんか。しかし、縛りがあったとはな」
古泉「あくまで仮説ですけどね」
>有希も同じようなことを言っていたのだから正しいのでは?
長門「わたしが真実を話しているという証明方法をあなたたちは持ち合わせていない。
 だから、わたしに限らず盲信することは推奨しない」
>確かにそれはそうだが……。
古泉「涼宮さん関連については各自で解答を見つけ出すしかないのですよ。
 所属する組織が違うという建前上、長門さんの言うとおり誰であれ盲信することはできないのですから」
みくる「……」
>少し寂しいが、一樹たちの言う通りなのかもしれないな。
古泉「いずれ、何のしがらみもなしにこうして介することができればいいのですが、いつになることかは分かりません」
キョン「……やめやめ。堅苦しい話は無しにしようぜ」
古泉「そうですね、せっかくの酒宴ですから」
283:
キョン「こういうときこそ番長、なにか話のネタもっていないか?」
>無茶ブリだな……。
みくる「あ、番長くんの話聞きたいですっ」
長門「わたしも興味がある」
キョン「ほら、女性陣からもリクエストだぞ」
>みくるに有希も難しいことを言う……。
古泉「ふふ、何でもいいのですよ。異世界の話はそれだけで面白いですから。
 それに涼宮さんへのアプローチの練習にもなりますから、やってみて損はないと思いますよ」
>そんなことを言われても、街のことは大体話したと思うが……。
>あと話していないことといえば、友人関係をはじめとする八十稲羽の人たちの話くらいだろう。
キョン「ああ、そういえば友人の話をするっつってきいてなかったな」
>本当は料理を食べた後にでもハルヒ達も交えて話そうと思っていたんだが、王様ゲームが始まってしまったからな……。
キョン「ああ……なるほどな……」
>今から話そうか?
みくる「でも涼宮さんにも話すなら2度手間ですよ……?」
>ハルヒにも同じこと言われたな。
みくる「あは、やっぱり涼宮さんは優しい人ですね」
295:
>友人の話は、明日の昼休みにでもしよう。
>今話しても構わないが、2回きくほどのことでもないだろうから。
キョン「番長がそう言うならそうするさ」
>そのかわりと言ってはなんだが、バイトでの話をしようか。
古泉「アルバイトをなさっていたんですか」
>ああ。
キョン「何のバイトしてたんだ?」
>主なものは、病院の夜間清掃と家庭教師、それに学童保育だ。
キョン「家庭教師って、番長そんな頭よかったのか……」
>中学生に教えるんだ。基本的な学力があれば誰でも勤まるさ。
キョン「悪いが俺にはできそうにないね……」
みくる「中学生……思春期というか反抗期というか、大変そうです」
古泉「ですね。意味もなく反抗したくなる歳ですしね」
>自分が担当した子は、その反対だったな。
キョン「反対?」
296:
>中学2年生の子だった。表面上はひねくれていたが。
キョン「どんなふうにひねくれていたんだ?」
>レーゾン・デートルという意味を知っているかどうか訊いてくるような子だ。
古泉「ふふ、それはそれは。確かにひねくれていますね」
みくる「え、え? れ、れーぞん?」
古泉「レーゾン・デートル。哲学用語のひとつです。意味は『存在価値』」
キョン「異世界の子供はそんなこしゃまっくれてるのか」
>いや、かなり物知りな部類だと思う。実際勉強もかなりできたからな。
>他にも、いい大学に入っていい会社に入れば人生は安泰なのかなども聞かれた。
キョン「ヤな子供だな……」
>キョンがそれを言うのか……。
みくる「ふふっ」
古泉「ふふっ」
キョン「あ、朝比奈さんまで。どうして笑うんですか?」
みくる「ふふ。いえ、なんでもありません」
297:
古泉「番長氏は、その問いに対してなんと返したのですか?」
>わからない、だな。
古泉「ふふ、番長氏らしいですね」
>そんなこと、まだ高校生の自分にわかるはずがないだろう?
>いや、いつまでたっても答えられるようになれるとも思えない。
キョン「かもな」
キョン「しかし……番長。聞く限りバッチリ反抗期だと思うが」
>……キョンは、どうしてその子が勉強していたと思う?
キョン「何で勉強って……さあな。プライドとか、じゃねぇのか?」
>その子は、勉強で1番であることが自分の存在価値だと思っていた。
>勉強で1番である自分こそが、母親にとっての『自分』であると。
キョン「……ってことは、なんだ。母親のために勉強していたのか」
>最初は、母親が喜んだ姿をみたかっただけなのだろう。片親だったから尚更な。
>だけど成長し、母親から大きな期待を掛けられるようになり、
 いつの間にか1番でならなければならない、1番でなければ意味がないと思うようになっていったのだろう。
>勉強だけが、勉強で1番になることだけが自分の存在価値であるように錯覚してしまっていた。
古泉「だからこそ、レーゾン・デートルを訊いてきたというわけなのですね」
>かもしれないな。
298:
みくる「お母さんのために、ずっと頑張っていたんですね」
>母親とも何度か話したが、実際かなり期待していた。初めて会ったときも自慢の息子と紹介されたからな。
みくる「そうなんですかぁ……」
キョン「それなら確かに反抗期とは違うかもしれんが」
みくる「でも勉強だけが存在価値だなんて……そんな寂しいこと」
古泉「勉学を追及することは悪いことではありません。
 邁進することで日本の学会に至宝とも呼ばれる存在が生まれることもあるでしょうから」
古泉「しかし――それだけが存在価値であるという考え方は良い結果を生まないでしょうね」
>ああ、一樹の言うとおりだ。
>実際、その子は1番から落ちることを恐れてカンニングをしてしまったからな。
キョン「カンニングねぇ……虚飾の1番に価値なんてないだろうに」
>その子にとっては、実際の学力ではなく1番であることだけが母親との絆だと思っていたからな。
>当然、そのあとカンニングは発覚した。
古泉「番長氏が知っているということは、そうでしょうね」
キョン「カンニングがバレて、その母親はどういう反応だったんだ」
>知った直後は、裏切られた、恥ずかしい、自分の子供じゃないと泣きながら絶叫していたそうだ。
みくる「ひ、酷いです! その子はお母さんのために頑張って、お母さんに認めてほしくて――」
キョン「あ、朝比奈さん、落ち着きましょう。番長に言っても何もなりませんから」
みくる「あ、う、うん。ごめんね、続けて、番長くん」
>みくるは感受性がかなり豊かなようだ……。
308:
みくる「それで、どうなったんですか?」
>母親とその子はしっかり話し合って、和解した。
>『家族をやり直す』と言ってな。
みくる「家族をやり直す、ですか……?」
>ああ。ただそこにあるものだと思っていた、
 ただ出来上がっていると思っていた家族をやり直すのだといっていた。
>そう言ってその子は、前を向いた。
>自分が勉強しかないと思っていたら――自分でそんなこと決めつけていたら、何もないまま。
>人生のレールは自分で考えて自分で敷くといってな。
キョン「大人びすぎだろ、そいつ」
>そうだな。
みくる「でも、よかったです。お母さんと和解できて……」
古泉「出来上がったものでもやり直せる、ですか」
>一樹?
古泉「いえ、何でもありませんよ。僕たちも、いずれそんな時が来るのかもしれないと思っただけです」
>来なければ来ない方がいいと思うがな。
古泉「ふふ、そうですね」
309:
キョン「しかし、よくもまあ、そんな複雑な家庭環境まで踏み込んでいくな」
>ほとんどは不可抗力だ。
>それに、自分はほとんど何もしていない。基本的に話を聞いてやっていただけだ。
>あの子が勇気を振り絞ったから変われたのだと思う。
みくる「うふっ」
>どうした? みくる。
みくる「ううん。番長くんはあたしたちのときと同じこと言うんだなぁって」
古泉「そうですね。番長氏は自覚なしにそういうことをする傾向にあるようです。ふふ」
古泉「その調子で別なところも取り持って頂けませんかね」
>だからそんなつもりはないと……。
キョン「うん? 別のところってどこだ?」
古泉「……さあ、どこでしょうね」
キョン「まさか、長門とも仲を深めようって魂胆じゃないだろうな。
 仲よくすることは結構だが、籠絡して長門を利用しようなんて絶対に許さんからな」
古泉「……」
>一樹。キョンは本気で言っているんだろうか。
古泉「……おそらく」
キョン「おい、なんだ」
313:
みくる「え、えっと! 番長くんっていろんな人と関わりあってそうですねっ」
>みくるがフォローを入れたようだ。
古泉「確かに番長氏の交友は広そうです」
キョン「……まあ、いいさ。もう一度言っておくが長門に変な意図を持って近づくなよ」
古泉「わかっております」
>一樹は肩をすくませている。
キョン「高校生で家庭教師なんて相当珍しいからな。人脈は広そうだ」
>一般的な高校生よりは、バイトのおかげもあって、多くの人と出会っているかもしれないな。
みくる「番長くんの出会った人ですかぁ……」
>みんな、それぞれ悩みを抱えていて必死にもがいていた。
古泉「それに番長氏は関わっていたわけですね?」
>さっきも言ったようにほとんどは不可抗力的にな。
>ただ、共通して一つ言えることは、『思いは口にしなければ伝わらない』ということだ。
みくる「思いは口にださなければ伝わらない……」
>ああ。
>思いを口に出さないことで、悩みを深くする人たちを多く見てきた。
314:
キョン「言いたいことあったらはっきり言えってことか」
>だからと言ってなんでもかんでも口に出せばいいというものでもないが。
キョン「ま、そらそうだ」
古泉「よく1000の言葉よりもたった1つの行動が伝わるといいますが、逆も然りですね。
 たった一つの言葉が、どんな行動よりも思いが伝わることがある」
みくる「うふ、ロマンチストですね」
キョン「言われてるぞ、古泉。ロマンチストだとよ」
古泉「お褒めに預かり光栄ですよ」
>キョンもたまには、そういう言い回しをしてみたらどうだ?
キョン「やめてくれ、ガラでもない。歯の浮くようなセリフは古泉の担当だ」
古泉「それほど意識しているわけではないのですがね」
長門「……」
>有希、退屈だっただろうか……?
長門「そんなことはない。非常に興味深かった」
>それなら、よかった。
長門「……言語による情報伝達は非常に非効率で不確定なもの。
 しかしあなたたちの言葉は言語化された情報より多くの情報を内包し、伝達している」
長門「それはわたしたち情報生命体にはない、有機生命体――人類特有の現象。
 とても興味深い」
>そうなのか?
長門「わたしたちにとっては、言語化した以上の意味を持たないから」
キョン「いわゆる空気を読むとか行間を読むとか、そういうのか」
長門「そう」
キョン「情報生命体だかってのも、難儀な生き物だな……」
315:
>だからヒューマノイド・インターフェースは有希のように口数が少ないのか?
長門「そういうわけではない」
キョン「さっき言った朝倉ってのはクラスの人気者になるくらい社交的だったぞ。
 だから随分と個体差はあるみたいだ」
長門「彼の言うとおり、我々対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースは統一個体でも画一個体でもない」
>なぜ?
長門「人間社会に溶け込むために画一個体では、不自然と情報統合思念体は判断した。
 よって各派閥から数体ずつこの惑星に送り込まれている」
キョン「同じ顔がぞろぞろいたらそりゃ不気味だわな……」
>各派閥……?
長門「わたしの所属する主流派、朝倉涼子の所属する急進派。
 ほかに、穏健派、革新派、折衷派といった意識が情報統合思念体には存在している」
>統一意思ではないのか。
長門「そう。統合体であって統一体ではない」
古泉「もしかしたら、長門さんたちTFEI端末は各派閥の特色を大いに受けているのかもしれませんね」
>?
古泉「長門さんたち主流派は、あくまで静観を主としているため、寡黙というキャラクターを長門さんに与えた。
 朝倉涼子属する急進派は、積極関与を主眼に置いているため、社交的というキャラクターを与えた」
古泉「あとは……いえ。サンプルが少なすぎてこれ以上の判断はできませんね」
長門「……」
キョン「……けっ。生み出すならもっとまともに考えろと言ってやりたいね」
320:
長門「古泉一樹の指摘はあながち間違いではない」
長門「情報統合思念体の各派閥が、わたしたち――対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースを形成する際には
 人類の性格サンプルを複数参照し、その中で各派閥が涼宮ハルヒの周辺調査及び観察に適切だと判断した性格を元に構成している」
長門「よって各派閥の特徴がわたしたちに現れるのは当然のことであると思われる」
古泉「なるほど……」
>有希の容姿も、その情報統合思念体が決めているのか?
長門「そう」
キョン「……まあ、そこだけはいい趣味していると褒めてやってもいい」
キョン「しかし、朝倉も美人だったわけだし長門のとこの親玉は美少女趣味でもあるのか?」
長門「この容姿も調査観察に適していると判断されたものが当てられているだけ。
 わたしが所属する主流派が、『目立たない人間』としてわたしを構成した結果」
古泉「本来ならば涼宮さんを刺激せずに観察するためですね。
 ということは、朝倉さんの容姿は『より円滑に他人とコミュニケートできる人間』を想定しているわけですか」
長門「そう」
キョン「目立たないって長門の容姿は、それなりに目立つんだがな……」
>確かに。
長門「……情報統合思念体に進言しておく」
キョン「いや、しなくていい。というかしないでくれ」
長門「……わかった」
324:
古泉「やはり、番長氏と話をすると新しい発見がありますね。
 長門さんたちの容姿ですか……」
>これは発見なのか?
古泉「ええ、発見で且つ有益な情報です。
 TFEI端末の人間社会への擬態時の外見性格から、何派であるか推測することができるのですから」
みくる「あっ、そうですね……」
キョン「長門、いろいろバレたみたいだがいいのか?」
長門「問題はない」
古泉「ええ、全く問題はないと思いますよ。
 むしろこれは長門さんからの親切心ではないかとすら思っています」
>親切心?
古泉「そうです。不用意に近づかない方がいいぞ、というね。
 なにせ情報統合思念体、ひいては長門さんたちTFEI端末は、僕たち人類がはるか及ばない力を持っていますから。
 情報が漏洩したところで、僕たちにはどうすることもできません」
 
古泉「それこそ僕たちを塵芥にすることなんて、造作もないでしょう。
 いえ、塵芥も残らず素粒子レベルまで分解されてしまいますね」
キョン「……実際、朝倉と対面して古泉や朝比奈さんがどうにかできるとは思えないからな」
古泉「その通りです。僕たちの場合、閉鎖空間の中でしたら幾分かマシに抵抗できるでしょうけどね。
 それでもマシという程度です。結末は全く変わらず、間違いなく蹂躙されるでしょう」
みくる「あたしは……どうにもできそうにないです」
325:
古泉「だからこその長門さんの親切心なのですよ。
 主流派や穏健派はともかくとして、急進派、革新派、折衷派は不穏な空気が漂っていますからね。
 急進派ほどではないにせよ、革新派も折衷派も自ら関与することを是としていそうです」
古泉「それを僕らが知らずに接触したら……考えるだけでも恐ろしいですね。
 この平穏な日常は砕け散ってしまうかもしれません」
>有希は、意図して情報を渡したのか?
長門「……これを情報として活用するかは、あなた達次第。
 わたしは、質問に答えただけ。情報提供の意図はない」
古泉「ふふ、そうですね。ここは酒宴の席ですから。
 すべては戯言です」
みくる「でも、ありがとう。長門さん」
長門「……」
キョン「朝倉みたいなのを呼び込まないようにしてくれよ、古泉」
古泉「ええ、わかっております」
キョン「……あんな怖ぇ思いをするのは、俺だけで十分だからな」
古泉「おや、僕たちを気遣ってくれるのですか?」
キョン「……そう捉えてもらっても構わん。
 ハルヒに朝比奈さんに、ついでに古泉もあんな恐怖体験はしなくていいと思ってるさ」
長門「わたしも、気を付ける」
キョン「ああ、よろしく頼むぜ。対宇宙人は長門だけが頼りだ。
 ただ、長門もあんな戦闘はもう2度として欲しくはないけどな」
長門「そう」
326:
>有希、そういえばひとつ気になることがあるのだが訊いていいか?
長門「構わない」
古泉「番長氏の疑問、いいですね。また何か新しく発見があるかもしれません」
>期待されても困るのだが……。
古泉「これは失礼を。ただ、番長氏は僕たちの持つ固定観念がないのです。
 だからこそ僕たちが気に留めなかったことにも気がつけると期待してしまったのですよ」
古泉「それに、純粋に聞いていて楽しいですしね」
みくる「ふふっ、そうですね」
キョン「確かに番長の発言から気づくことは多いか。
 で、何を訊きたいいんだ?」
>ああ……なぜその朝倉涼子はキョンを殺そうと思ったのか訊きたかったんだ。
キョン「ん? さっき言わなかったか? 俺を殺してハルヒの出方を見るとかなんとか――」
>いや目的のなぜではなく、なぜこんな時期に、ということだ。
キョン「時期?」
>ああ。有希の話を聞いている限り、その情報統合思念体はかなりの長寿だろう?
長門「宇宙開闢とほぼ同時に発生している」
>それならば尚更キョンを殺すなんて性急なことをせずとも
 成り行きをじっくり見守っていてもいい気がするのだが。
>情報統合思念体にとって人の寿命なんて一瞬の出来事ではないのか?
キョン「……確かにそうだな」
327:
古泉「それは……」
みくる「そういえば、どうしてでしょうね……?」
キョン「古泉、わかるか?」
古泉「……反対に、いつでも変わらないという見方もできますよ?
 今すぐでも80年後でも情報統合思念体にとってはあまり変わらない」
キョン「そういう見方もできるか……」
>有希、どうしてだ?
長門「それは、今ここで言わない方がいい」
みくる「えっ」
長門「今後起こりうる事態を鑑みた結果、そうした方がいいと判断した。
 言えないではなく、言わない」
>そうか……。
長門「……朝倉涼子が、あなたを殺そうとしたとき」
キョン「俺?」
長門「そう。朝倉涼子の情報封鎖空間への侵入を試みた際に、わたしはあなた達の会話は傍受していた」
キョン「それがどうしたんだ?」
長門「……あなたはもう、情報統合思念体が導いた答えへたどり着くことができる」
328:
キョン「……すまん、長門。殺されかけたことで頭がいっぱいになっていて憶えていないんだ」
長門「そう」
長門「……それならば、そのときの会話を再現する」
>有希の口元が高で動く。
長門「『遅いよ。入ったら?』」
>! 有希の声ではない女性の声だ。
キョン「あ、朝倉……」
>キョンはかなり動揺しているようだ。
キョン「この声を聴くと背中から嫌な汗が噴き出してくるな……」
長門「『お前か……』」
>今度はキョンの声だ。
みくる「わぁ、やっぱり長門さんすごいですねぇ……」
キョン「自分の声を聴くと変な気分だ」
長門「『そ。意外でしょ』」
>有希は淡々と続けていく。
329:
長門「『何の用だ』」
古泉「なんでこんなにぶっきらぼうなんですか?」
キョン「……下駄箱に手紙が入ってたんだよ。誰もいなくなったら教室こいってな」
古泉「ふふ、なるほど。合点がいきました」
長門「『用があることは確かなんだけどね。ちょっと訊きたいことがあるの』」
長門「『人間はさあ、よく『やらなくて後悔するよりやって後悔した方がいい』って言うよね』」
長門「『これ、どう思う?』」
長門「『よく言うかどうかは知らないが、言葉通りの意味だろうよ』」
長門「『じゃあさあ、たとえ話なんだけど、現状を維持するままではジリ貧になることは解ってるんだけど
 どうすれば良い方向へ向かうか解らないとき。あなたならどうする?』」
長門「『なんだそりゃ、日本経済の話か?』」
長門「『とりあえず何でもいいから変えてみようと思うんじゃない? どうせ今のままでは変わらないんだし』」
長門「『まあ、そういうこともあるかもしれん』」
長門「『でしょう?』」
古泉「……!」
みくる「……!」
>一樹とみくるは何かに驚いているようだ。
330:
長門「『でもね、上の方にいる人間は頭が固くて急な変化にはついていけないの。
 でも現場はそうもしてられない。手をつかねていたらどんどん良くないことになりそうだから』」
長門「『だったらもう現場の独断で強硬に変革を進めちゃってもいいわよね?』」
長門「『あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る』」
>有希はその後も淡々と続けていった。
長門「『じゃあ、死んで』――」
長門「これで、終わり。あとはわたしが朝倉涼子の情報封鎖空間へ侵入した」
キョン「こんなに長く喋っている長門は初めてだな。声は俺と朝倉のモンだったが」
長門「そう」
キョン「で、どこに答えがあるんだか教えてはくれないか?」
長門「それは、できない」
キョン「……だよな」
古泉「……」
みくる「……」
>2人は何か考え込んでいるようだ。
キョン「やれやれ……2人とも酒の席で仕事モードか?」
古泉「え。あ、ああ……すみません」
みくる「あ、あはは、ごめんなさい」
338:
キョン「……まあ、こういっておいてなんだが、何かわかったのなら教えてほしいんだが。
 悪いが俺にはさっぱりわかりそうにないんでね」
長門「……」
古泉「そうですね。……いえ、やめておきましょう」
キョン「もったいぶるのか」
古泉「そういう理由ではありません。ただ、仮定に過ぎない話でみなさんを困惑させるのもどうかと思いまして」
みくる「あたしも……話さない方がいいのかなって」
キョン「そんな殺生な」
みくる「あの、別にいじわるで話そうとしないわけじゃないですよ?
 ただ……」
キョン「ただ?」
みくる「もし、あたしが想像していることが本当のことなら。
 あたしの時代に一度持ち帰って判断を仰がなければならないほど重大なことになるかもしれませんから」
キョン「それなら……しょうがないですね」
キョン「自分で気づけば問題ないんだよな?」
長門「そう」
キョン「よし、番長。何にもわからない同士で考察しようか」
>自分か?
339:
古泉「番長氏は……普通に疑問からたどり着いてしまいそうな気がしますね」
みくる「かもしれません」
長門「……」
>買いかぶりだ。確かに疑問はいくつか湧いたが。
キョン「聞かせてくれ、それくらいなら構わないだろ?」
古泉「え、ええ……」
>そうだな。まずはその朝倉涼子の言うジリ貧とはなんなのか。
>情報統合思念体は寿命でも来ているのだろうか……?
長門「……」
>あと気付いたことは『上の方にいる人間』
 ……比喩であると思うが、情報統合思念体に組織体系があると思わしきこと。
>その朝倉涼子が独断で動いているということを発言から匂わせているあたり、有希たちは完全な独立意識であること。
>さらにいうならば情報統合思念体は有希たちを完全に掌握できておらず、また拘束性も薄いということか。
キョン「よくもまあ、あれだけの話でそこまで……」
古泉「まったくです。感服しますね」
長門「……情報統合思念体によるわたしたちの行動を制御する上級強制コードは存在する。
 しかし、それ以外では基本的に独自思考を持ち行動している」
342:
キョン「にしても、ジリ貧か。確かに何がジリ貧なのかさっぱりわからんな。
 情報統合思念体の寿命? それとも他の何かか?」
長門「自律進化の可能性を見失った情報統合思念体は現状のままであるならばいずれ滅ぶ。
 生命体にとって停滞は、退行と同義。進化をし続けることこそが生命体の根源的目的。
 しかし、人類の感覚からすれば永久的な時間を情報統合思念体は生命体として維持できる」
長門「情報統合思念体は人類が絶滅するまで滅びることは、おそらくない」
キョン「なら何がジリ貧なんだか……」
みくる「じゃあ、やっぱり……」
キョン「朝比奈さん、わかったんですか?」
みくる「あのっ……いえ、その」
>みくるは困ったようにキョンを見つめている。
古泉「鍵は、扉を開けるだけではなく扉を閉めることもできる、ということですよ。
 いえ、鍵の本来の役目はこちらでしょうか」
キョン「何を言ってるんだお前は」
>まったく意味が解らなかった。
古泉「ええ、番長氏はともかく、あなたは考えるべき時が来ているのかもしれませんね。
 自らの役割、役目……そう遠くない将来に自覚するときが来るかもしれません」
キョン「分かる言葉で説明しろ。
 まさか俺に超能力的宇宙的未来的ついでに異世界的パワーでも宿るとでも言いたいんじゃなかろうな」
古泉「いえ、何度も言っているようにあなたは一般人ですよ」
キョン「……ふん。それなら俺にはどうしようもできん」
古泉「ふふ。今はそれで構いません」
古泉「番長氏もすみません。置いてきぼりでしたね。
 ただ……こちらの世界の根深い問題なので、ご理解よろしくお願いします」
>ああ。
345:
キョン「やれやれ、小難しい話をしてたせいで酔いが冷めちまった。
 番長、トイレ借りるぞ」
>ああ、廊下のすぐ横だ。
バタン
みくる「……」
古泉「さて、彼がトイレに行っている間に番長氏にお話しておかなければならないことがあります」
>それは、ハルヒの力についてだろうか?
古泉「……やはり気付いておられましたか」
>情報統合思念体の寿命以外でジリ貧とするのならば、思いあたるものがそれしかないからな。
古泉「ええ……以前から指摘はあったのです。涼宮さんの力は決して恒久的なものではないと」
みくる「やっぱり……そうなんですね」
>つまりハルヒの力はいずれ失われるということか。
古泉「ええ、それも遠くない未来でしょう。
 もちろん今日明日に失われるものではないでしょう。ですが――」
みくる「だから、その朝倉涼子さんは動いたんですね」
古泉「涼宮さんの能力が閉じてしまった場合、涼宮さんはただの人間になってしまうでしょうからね。
 もしそうなってしまえば自律進化の可能性は閉ざされてしまう」
長門「そう。朝倉涼子はそう判断し独断専行した」
古泉「番長氏。悠長なことを言ってられなくなってきました。何年かかっても戻すつもりではいましたが……。
 涼宮さんの能力が消えてしまえば戻れる可能性は限りなくゼロになってしまう」
>そうだな……。しかし、打開策は見つからない……。
346:
キョン「なんだ、そんな深刻な顔して」
>ああ、戻ってきたのか。
古泉「いえ、番長氏の帰還が芳しくないので困っていたのです」
キョン「ああ……またそこに話題が戻っていたのか」
>空気が重い……。
>せっかく悪いことをしているんだ。今は楽しもう。
キョン「そうだな。飲み直そう飲み直そう」
古泉「そうですね」
みくる「あ、はぁい」
>今度はみんながどんな風にSOS団で過ごしてきたかを知りたい。
キョン「ああ、いいぜ。はじめての活動は……朝比奈さんとハルヒがバニーガールになってチラシを配ったことだな」
みくる「ひぃぇっ。そ、それ話すんですかぁ」
>ぜひ聞きたい。
みくる「そ、そんなぁ……」
>みんなと雑談しつつ夜は更けていく。
>明日は、天気予報によれば雨が降る。
>マヨナカテレビは映るのだろうか。
………
……

347:
――翌日、マンション前。
>雨が降っている。天気予報通りだ。
古泉「おはようございます、雨ですね」
>夜まで降るなら学校に忍び込むことになりそうだ。
古泉「そうですね。少々憂鬱ですよ」
>どうした?
古泉「おそらく何かが起こるでしょうからね。
 涼宮さんはマヨナカテレビを見たいと思っているはず。となれば何かが映るのは必然かと。
 ……いまからどのように誤魔化そうか思案中なのです」
>すまない。自分が話したばかりに。
古泉「いえ、番長氏のせいではありません。
 実際番長氏が来てくださったおかげで、涼宮さんの精神は今まで以上に安定しています。
 閉鎖空間も落ち着いているものです」
>そうか。
古泉「ですからこれは、その安定のための対価といったところでしょう。
 これくらいの苦心で平穏無事に過ごせるのでしたら、安いものです」
>一樹は心なしか嬉しそうだ。
348:
古泉「一番は雨が止んでくれることですが……それではただの先延ばしでしょう」
古泉「さて、どうしたものでしょうか。今日1日はこれで頭を悩ませそうです」
>自分も何か考えておこう。
古泉「助かります、ではそろそろ学校へ行きましょうか」
>一樹と一緒に登校した。
……

――2年某組。
みくる「おはよう、番長くん」
>おはよう。
みくる「雨ですねぇ……涼宮さんかなり張り切ってたみたいですよ」
>会ったのか?
みくる「うん、登校途中に。そしたら、すっごく目を輝かせながら楽しみだって言ってました」
>一樹がなんて誤魔化そうか悩んでいたみたいだ。
みくる「ふふっ。そこは古泉くんにお任せですね。あたし、嘘つくのが苦手みたいで……」
>確かに苦手そうだ。
349:
みくる「でも、本当に映るんでしょうか……?」
>一樹はおそらく映るだろうと言っていた。
みくる「うう……マヨナカテレビかぁ……」
>マヨナカテレビ自体は怖いものではないから安心していい。
みくる「そ、そうですかぁ」
>ただ……なにか恥ずかしいものが映るかもしれないが。
みくる「あ、あたしのですか?」
>いや、誰が映るかは分からない。
>みんなが見たいと思ったものをみたいように映す窓……らしいからな。
みくる「じゃあ、SOS団のみんなが見たいものが映るかもしれないってことですか?」
>そうなるな。
みくる「怖い反面、何が映るのか少し興味があるというか……」
>みくるは複雑な表情をしてる。
鶴屋「おっはよーっ! 2人ともっ!」
みくる「あ、おはようございます」
>おはよう。
鶴屋「さっきハルにゃんに昇降口であったんだけどさっ!
 昼休みに番長くんの友達の話聞きたいからSOS団の部室に集まれってさっ!
 昨日聞きそびれて悔しがってたみたいっ」
350:
>ハルヒ、ちゃんと憶えていたのか。
鶴屋「あははっ! 昨日は楽しかったからねっ!
 帰った後気付いたみたいだよっ!」
>昨日はありがとう。
鶴屋「にゃははっ! お礼を言うのはあたしのほうっさ!
 それはそうとあたしも楽しみにしてるからねっ!」
>ああ、分かった。
鶴屋「じゃ、ちゃんと伝えたからっ」
鶴屋「にしても、久しぶりの雨だねっ。ジトジトさんだっ」
>授業が始まるまで鶴屋さんとみくると一緒に過ごした。
………
……

――昼休み、SOS団部室。
>みくると鶴屋さんは飲み物を買ってくると言っていたので先に1人で部室に来たのだが。
長門「……」
>部室にはまだ有希しかいないようだ。
351:
>有希は相変わらず本を読んでいる。
長門「……」 パタン
>他のみんなは後から来るそうだ。
長門「そう」
>有希、これ。よければ。また弁当を作ってきた。
長門「……ありがとう」
>素直に受け取ってくれたようだ。
>ただ昨日の今日なので少し簡素なものだが。
長門「そう」
>……有希は、マヨナカテレビに何か映ると思うか?
長門「わからない」
>有希でもわからないのか。
長門「現在視聴覚室にあるテレビからは異空間への接合以外の異性能は確認できない」
長門「しかし、涼宮ハルヒの力によって変質する可能性も否定できない」
長門「だから、わからない」
>実際にやってみない限りわからないか……。
長門「そう」
358:
長門「でも映ってほしい」
>マヨナカテレビに興味があるのか?
長門「違う。もしあなたの世界と同じものが映るのならば、あなたの帰還への手がかりになるかもしれない」
長門「だから」
>考えていてくれたのか。
長門「そう」
ガチャ
古泉「こんにちは。おや、まだお2人だけですか?」
>ああ。
長門「……」
>有希は読書に戻ってしまったようだ。
>一樹、弁当だ。
古泉「ああ、ありがとうございます」
>朝、渡すのを忘れていた。もしかしてもう用意してしまったか?
古泉「いえ、今日は野菜ジュースで過ごそうかと思っていましたのでありがたく頂戴します」
359:
古泉「そういえば天気ですが、やはり明日の朝まで降るそうです」
>決行は確実だろう。
古泉「そうですね。言い訳もいくつか用意しましたし……」
ガチャ
鶴屋「やっほー!」
みくる「こんにちはぁ」
キョン「ういーっす」
ハルヒ「あら、あたしたちが最後だったみたいね」
古泉「お揃いでご到着ですね」
ハルヒ「自販機で鶴ちゃんとみくるちゃんと会ったのよ」
ハルヒ「ま、そんなことはいいから適当に座ってちょうだい」
>ハルヒはつかつかと歩いていき団長席へ腰を落とした。
鶴屋「じゃあー、あたしはみくるの横にでもすわろっかなっ!」
360:
古泉「では、僕はこちらに」
キョン「近い、離れろ」
長門「……」
>有希もこちらの長机に来たようだ。
>長机を挟んで男3、女3で対面に座る形になってしまった。
>正面にみくるがいる。
みくる「な、なんだか恥ずかしいですね」
ハルヒ「なーにやってるの、みくるちゃん!
 顔赤らめてないで食べるわよ!」
みくる「あ、赤らめてなんて……」
古泉「そうですね、昼休みは限られているわけですし」
>各々箸をつけ出したようだ。
>なんだか合コン喫茶を思い出す。
ハルヒ「そういえば、ちょっと前にそんなこと言ってたけど、合コン喫茶って何?」
>八十神高校の文化祭で自分たちのクラスの出し物だ。
キョン「トリッキーなクラスだな、おい」
367:
>皆が咀嚼しながらこちらに視線を向けている。
みくる「あの、ごーこんって……?」
キョン「あ、ああ……男女で楽しく盛り上がろうってアレですよ。
 基本は出会いの場なんですかね」
みくる「あ、ああ! はい! なるほどぉ……ごーこんですかぁ……」
>未来に合コンはない……のだろうか。
ハルヒ「みくるちゃんなにとぼけてんの。合コンのお誘いのひとつやふたつあるでしょうに」
みくる「え、えぇっ! そ、そんな。な、ないですよぉ」
ハルヒ「かまととぶってないで、白状なさいっ!」
>ハルヒがわきわきと手を動かしている。
鶴屋「にゃははっ! みくるに付きそうな悪い虫はあたしが取っ払っちゃうから知らなくても仕方ないねっ!
 みくるってば悪い男にころっと騙されそうだからっ」
みくる「つ、鶴屋さんっ」
ハルヒ「鶴ちゃん、まるでみくるちゃんのお母さんね……」
キョン「……で、その合コン喫茶とやらはうまくいったのか?」
>あれはとても成功とはいえない……。
368:
キョン「だろうな……」
ハルヒ「あむ、ひょもひょもらんで、ほんなほとりらったの?」
キョン「口のなかのものを無くしてから喋りなさい」
ハルヒ「分かってるわよ。で、そもそもなんでそんな合コン喫茶なんてことになったの?」
>陽介……友達が冗談で提案したらクラスのみんなが悪乗りしてな。
鶴屋「あははっ! 番長くんの友達って面白い人いっぱいいそうだねっ!」
ハルヒ「そうそう、その友達の話を聞きたいのよ」
ハルヒ「その陽介くんってどんな人だったの?」
>陽介は、八十神高校でできた初めての男の友達だ。
>お調子ものだが、誰よりも仲間思いで――俺の相棒だ。
古泉「相棒……ですか?」
>ああ、どんな時も陽介がそばにいてくれた。
>肩を並べて戦った、最高の相棒だ。
ハルヒ「あははっ、戦ったって番長くんも変な表現するのね」
鶴屋「ねねっ、具体的なエピソード聴きたいなっ」
>事件のことは伏せながら陽介のことを話した。
370:
みくる「か、河川敷で殴り合いですかぁ」
ハルヒ「過激ねー」
キョン「というか、なんでそんな絵に描いたような青春劇を繰り広げているんだ」
>相棒だからな。
古泉「番長氏の横に並んで立っていられる存在……羨ましい限りですね」
鶴屋「都会から田舎へってそんなにいやなもんなのかなっ」
>陽介にとっては、退屈だったんだろう。
キョン「俺らは、都会でもなく田舎でもなく中途半端な街だからその感覚は分からん」
ハルヒ「というか、番長くんも転校生だったんだ」
>ああ、転校はこれで2回目になる。
ハルヒ「大変ねー……」
>いろいろな街が見られて多くの友人ができるからそれそれで楽しいと伝えた。
ハルヒ「ポジティブシンキングね……転校かぁ、どうなんだろ。想像つかないや」
キョン「……別にハルヒは引っ越す予定もないんだろう? 俺や古泉、朝比奈さんに長門だってそうだ。
 そんな想像しても意味ないさ」
ハルヒ「それはそうだけど。新年度も近いし、そういうこともあるのかなって思っただけよ」
>ハルヒは一樹の言った通り誰かが転校してしまうのではないかと危惧しているようだ。
371:
>いろいろな街が見られて多くの友人ができるからそれそれで楽しいと伝えた。
それはそれで
372:
みくる「でも、その陽介くんも強い人ですね……だって、その」
古泉「想い人が亡くなったことですか?」
みくる「う、うん……」
>小西先輩のことは事故死として話した。
古泉「(おそらく、その方が以前番長氏が話していた事件の被害者でしょうね)」
>陽介は、目の前の現実を忘れることも目を逸らすこともせずに向き合えた。
>だから強くなれたのだと思う。
鶴屋「あたしの周りにある死は、寿命とか病気とか……。
 だから、唐突にいなくなる死は全然わからないけど、その陽介くんが強くなったっていうのは分かるかなっ」
ハルヒ「ふぅん……」
>次は……千枝の話をしよう。
古泉「女性ですか?」
>ああ、陽介は初めてできた男友達だったが、千枝は八十神高校で初めてできた友達だ。
キョン「初めての友人が女なのか……」
>千枝は、まさに体育会系の活発な女の子だった。
ハルヒ「あー、もしかして里中千枝さん? 番長くんの着信履歴にあった」
>よく覚えていたな。
373:
ハルヒ「ふふん。これでも記憶力はいい方なのよ」
>千枝とは、よくトレーニングをした。
みくる「トレーニングですか?」
>カンフーが好きで、蹴りの練習していた。
ハルヒ「蹴りって……大会でもあったのかしら、カンフーの」
>わからないが、無いと思う。
ハルヒ「変なコね……まあ、強くなりたいって気持ちはちょっとわかるけど」
キョン「気持ちが分かるて」
ハルヒ「だって、強くなきゃ宇宙人も超能力者も捕まえられないでしょ?」
キョン「ああ……やっぱりそっち方面なのか……」
ハルヒ「それ以外に何があるっていうのよ。
 でも、ま、そうじゃなくても強い女の子っていうのには憧れるわよね」
みくる「ふふ、そうですねぇ」
キョン「朝比奈さんはそのままでいてください」
みくる「はぇ?」
鶴屋「あたしもビシッと悪漢をやっつけるくらいには鍛えてるつもりだけどねっ。
 もーちょっと護身ができるようにはなりたいかなっ! みくるも守ってあげたいしねっ!」
キョン「鶴屋さんは、それ以上強くなってどうするんですか……」
377:
>千枝は、雪子――友達を守るために強くなろうとしていた。
>千枝は、その友達から頼られることだけが自分の価値だと思っていた。
みくる「どうして、そんなことに……?」
>千枝から見たら、その友達は千枝にないものをすべて持っているように見えたからだろう。
>その友達が、頼ってくれている。ただ、その1点でしか勝る部分がないと思っていたらしい。
ハルヒ「嫉妬ってこと?」
>ああ、千枝自身もそう言っていた。相当なコンプレックスだったのだろう。
>だが、自身と向かい合い、折り合いをつけることができた。
鶴屋「そんな簡単に折り合いなんてつけられるものなのかなっ?
 だってそれって、心の奥底で抱えていたモノだと思うんだけど」
>いや。実際かなり苦心していた。
>それでも苦しみながら、自分の中の見たくない自分……もう一人の自分と向き合った。
ハルヒ「もう一人の……自分? なんか変な表現の仕方するわね」
>そうか?
ハルヒ「うーんでも、そうやって表現するのが一番しっくりくるのかしら」
キョン「……まあ、分かりやすい表現なんじゃないか?」
ハルヒ「そうなのかしらね」
378:
>自分の中の影の部分と折り合いをつけることができた千枝は、本当の意味でその友達と友達になれた。
>そして千枝の中にあった優しさはその友達だけでなく、外へも向けられるようになった。
>だからこそ千枝は、誰よりも優しかった。
古泉「優しい、ですか」
キョン「会ってみたくなるな」
>欠点は……料理ができないことだな。
みくる「料理ですか?」
>あ、ああ……。
ハルヒ「番長くん顔色悪いみたいだけどどうしたの?」
>いや。嫌なことを思い出していただけだ……。
>次はその千枝の友達、雪子について話そう。
ハルヒ「え、えーと、雪子っていうと、えー」
キョン「別にクイズじゃないんだから当てなくていいんだぞ」
ハルヒ「気分よ気分!
 って、あ、そうそう! 天城雪子ね!」
>ハルヒは得意顔だ。
379:
キョン「ホントよく覚えてるな……」
>雪子は老舗旅館の一人娘で、よく家の手伝いをしていた。
古泉「ほお、旅館ですか。いいですね、たまにはゆっくりしたいものです」
ハルヒ「じゃあ、次の合宿は湯煙温泉殺人事件って感じかしら?
 あ、ポロリ役はもちろんみくるちゃんね」
みくる「ひぇっ! ぽ、ぽろりってなんですかぁっ?」
キョン「(朝比奈さんのポロリはさぞ眼福であろう)」
ハルヒ「……やっぱぽろりはなし。エロキョンにみられたら可哀想だわ。
 でも温泉はいい案ね。古泉くん、案のひとつに覚えておいて」
古泉「仰せのままに」
キョン「(ふむ……顔に出てただろうか)」
古泉「分かりやすいくらいに」
キョン「心を読むのはやめろ。
 で、番長。その雪子って人はどんな人だったんだ」
>外見と雰囲気を一言で言えば大和撫子といった感じだ。
>女性らしく、淑やかで、清楚という印象を大多数の人は持つと思う。
キョン「千枝って人とは正反対の印象だな。
 だから、嫉妬したのか……」
鶴屋「SOS団にはいないタイプだねっ!」
380:
ハルヒ「確かに大和撫子って感じの子はいないわね。
 あたしは柄じゃないし、みくるちゃんは撫子ってよりコスモスだし、有希は淑やかというより大人しい子だし」
みくる「コスモスですかぁ、ふふ。ありがとうございます」
長門「そう」
ハルヒ「強いて言うなら鶴ちゃんくらいかしら」
鶴屋「あたしが、ナデシコ! あっはははっ! ないないっ! ないってっ!」
>鶴屋さんはおなかを抱えながらケラケラ笑っている。
>とにかく、そんな印象を持たれるような女の子だ。
>そんな雪子は、千枝を自分に無いものをすべて持っている人間だと思っていた。
キョン「うん? それってさっきと同じってことか?」
>いや雪子は嫉妬ではなく、単純に憧れていただけだ。千枝のようになりたいと。
キョン「……どちらにせよ、お互いがお互いを羨んでいたわけか」
>そういうことになる。
古泉「自分がその立場にならなければその人の持つ苦悩は見えてきませんからね。
 なんとも皮肉なものです」
鶴屋「人って気付きたくない部分を本能的に見ないようにしているのかもねっ」
381:
>かつてアメノサギリがいっていた『人は見たいように見たいものを見る』という言葉を思い出した……。
キョン「どうした?」
>なんでもない。話を続けよう。
>雪子は、次期女将になると周囲から言われ続けその環境に嫌気がさしていた。
ハルヒ「そんなの嫌なら嫌って言えばいいじゃない」
キョン「全員が全員ハルヒみたいには言えないんだよ。
 それに、老舗旅館の跡継ぎなら、嫌なんて言えもしないんだろうさ」
ハルヒ「そんなものかしら。でもあたしは嫌なものは嫌ってはっきり言うわ」
>自分の意見をしっかり持てることはいいと思う。
ハルヒ「でしょ?」
>雪子はそんな状況に置かれた自分を鳥かごに入れられた鳥だと言っていた。
>だからこそ、千枝のように自由に自由に生きてみたいと願い、誰かが鳥かごから連れ出してくれることを願っていた。
ハルヒ「……」
古泉「鳥かごから連れ出す、ですか」
キョン「……? どうしてそこで俺を見る」
古泉「いえ、これは失礼を。他意はありません。偶然視線がそちらに向いてしまっただけです」
キョン「……そうかい」
385:
>しかし雪子もまた、自分と向き合った。
>誰かに変えてもらうのではなく、自分から変わる決意をした。
キョン「てことは、継がないことにしたのか」
>一度はな。
キョン「一度?」
>自分から旅館の女将になるという道から外れ、街から出ていくことも含めて考えた。
>考えて考え抜いて。そして雪子は、旅館を継ぐことを自分で決めた。
>他人の誰の意思でもなく、伝統に縛られるわけでもなく、自分で決めていた。
>そのときは、すごくいい顔をしていたな。
みくる「そこに至るまでにいっぱい悩んだんでしょうね……」
鶴屋「あたしも、家を継ぐとか継がないとか、継がせるとか継がせないとか、
 ああいう家だとやっぱりあるからさ。
 悩んだこともあるし、その気持ちすごく分かるな」
キョン「そんなことあったんですか」
鶴屋「まぁねっ! でもあたしももう覚悟は決めてるし、乗り越えたからねっ!
 でもその決断ってすっごく勇気がいるし、怖いんだ。
 だからその子はすっごく強い子なんだと思う」
>ああ。雪子は、誰よりも強い意志を持っている思う。
386:
>欠点を言うならば……料理がとんでもないことになる点だろう。
キョン「またか」
古泉「番長氏の顔色がまた悪くなりましたね」
>またあの悪夢のようなカレーを思い出してしまった……。
ハルヒ「強い、意思……」
>ハルヒも何か思うところがあるのだろうか。
ハルヒ「ねね、もっと番長くんの友達について聞かせて」
>そのつもりだ。
>次は……完二について話そう。
キョン「お、今度は男か」
ハルヒ「……」
キョン「今度は当てないのか」
ハルヒ「え、ああ。そうね。完二……完二……えーと巽完二くんだったかしら」
>ああ、あっている。
キョン「本当によく覚えているんだな」
ハルヒ「……そりゃね」
387:
>完二は、1つ学年が下の後輩だ。
古泉「僕たちと同じですね」
キョン「まあ、それならそんなに変わらないだろう」
>完二は、1人で暴走族のチームをつぶすような腕っ節の強さを持っていた。
キョン「すまん撤回する。全然違う。というか怖ぇよ! そんな高1いるか!」
古泉「ふふ、確かに僕たちとはかけ離れていますね」
>完二に追い掛け回されたときは確かに怖かった。
みくる「ぼ、暴走族さんが後輩にいたんですか?」
>完二は暴走族じゃない。それを潰しただけだ。
>見た目は確かに怖いところあるかもしれないがな。
みくる「あ、なぁんだ……ビックリしちゃいまいた」
鶴屋「でもすごいねそれっ! そんな無謀なことよくやるよっ!」
>母親が、暴走族のせいで夜に眠れないから、という理由で潰したらしい。
キョン「なんつー強引な問題の解決の仕方だ。
 それに親孝行なのかそうでないのかわからんな……」
>親孝行かどうかは分からないが、完二が親思いだったのは間違いない。
395:
キョン「そんな奴とまで友人関係になれるとは番長が改めてとんでもないやつだと思えるな」
>そんなことはない。完二は基本的にいい奴だ。
>外見的な怖さも、粗暴な振る舞いも自分を隠すために装っていた部分が大きい。
ハルヒ「自分を、隠す?」
>完二は幼いころから、裁縫や絵が好きだったらしい。
>それを『男のくせに』となじられ、拒絶の意思を受けたことで人と接することを恐れてしまった。
>だからこそ、人から距離をとる手段が暴力として外へ向いてしまったのだろう。
>それが完二自身への恐怖を生み、さらに周りと距離が開いてしまっていた。
ハルヒ「なんか、そういうの聞くとやるせないわね」
ハルヒ「でも、その人の本質なんて実際深く付き合ってみないとわからないし、しょうがないわ。
 ファーストインプレッションなんて外見と噂が10割でしょうし」
キョン「……だろうな。俺もついさっき話を聞いただけで怖いと思ったのがいい証拠だ」
みくる「やっぱり、そうなんでしょうか……」
ハルヒ「そうよ。あたしだって噂が独り歩きしてるじゃない。
 ま、あたしは気にしてないけど」
キョン「ハルヒの場合は、独り歩きじゃなくて事実だろうよ……。
 だが、誇大化して人づてに伝わるのは間違いないだろうな」
>ああ、そうだろう。完全に悪循環を起こしていた。
>完二は特に女性が恐怖の対象だったらしい。
>一時はそのせいで、自分が女性に興味が持てないのではないかと悩んでいた時期もあった。
408:
みくる「それって……?」
鶴屋「同性愛者かもしれないかどうかってことで悩んでたってことっ?」
>そうなるな。
キョン「同性愛者ねぇ」
古泉「なぜ、そこで僕に視線を向けるのでしょうか」
キョン「いや、これは失礼を。他意は無いぞ。
 偶然視線がお前に向いてしまっただけだ」
古泉「……あなたもなかなか意地悪な性格をしていますね」
キョン「お返しだ」
古泉「いよいよ、あなたの口癖を奪う時が来るかもしれませんね」
キョン「やれやれ。番長、続きを頼む」
>もちろん、のちに完二は異性に興味があることが分かる。
>そして完二は、自分たちに裁縫などの趣味があるということを知られてからは、
 子供たちに編みぐるみを作ってあげたりもしていた。
>出来がよく、子供たちにもかなり好評だった。
ハルヒ「へぇ、ギャップ萌えってやつね」
キョン「どこに萌え要素があるんだか……」
ハルヒ「でも、番長くんたちはどうして、その完二って子に裁縫の趣味があること知れたの?」
>偶然"見て"しまっただけだ。あとは本人の口から聴いたんだ。
ハルヒ「ふぅん」
412:
>完二もまた、自身と向かい合い他人から逃げることも自分から逃げることもやめ、立ち向かった。
>完二は誰よりも勇敢な男だ。
古泉「……確かに、自分自身と向き合えることは勇気のいることですからね」
ハルヒ「そう?」
古泉「ええ、それは、もう」
鶴屋「なんか、すっごい含みのあるというか含蓄があるというかそんな言い方だねぇっ、くふっ」
みくる「あははは……」
長門「……」
キョン「……まあ、大変だとは思いますよ」
ハルヒ「キョンにそんな経験あるわけ?」
キョン「16年生きていればそんな経験もなくはないさ」
ハルヒ「……あそ」
>次は……りせについて話そう。
ハルヒ「あ、その子は珍しい名前だったから覚えてるわ。確か久慈川りせちゃんだったかしら」
>ああ、あっている。
415:
>りせは学年が一つ下の後輩で、りせも自分と同じ転校生だった。
>りせは明るいキャラクターで……いわゆる学園の"アイドル"だった。
古泉「なるほど」
キョン「……そうきたか」
ハルヒ「あー、みくるちゃんみたいな」
みくる「あ、あたしアイドルなんかじゃないですよ!」
ハルヒ「なーにいってんの。みくるちゃんのファンって結構いっぱいいるんだからね。
 あたしにみくるちゃん紹介してくれっていう馬鹿な依頼も時々来るし。もちろん断ってるけどね」
みくる「そ、そうなんですかぁ? ごめんなさい、涼宮さん……」
ハルヒ「何でみくるちゃんが謝るの。
 悪いのはあたしに紹介してもらおうなんて魂胆のヘタレどもよ。
 それぐらい自分で話しかけなさいっての」
キョン「ハルヒに話しかける勇気があるなら、そのまま朝比奈さんに話しかけりゃいいだろうに」
鶴屋「みくるを紹介してっていうのはあたしのところにもよく来るなぁっ!
 あたしももちろん断ってるけどねっ!」
古泉「ときどきですけど僕も相談を受けたことがありますよ」
みくる「な、なんだか皆さんにご迷惑かけているみたいで……」
ハルヒ「だから、みくるちゃんが謝ることじゃないの。
 それで? 番長くんそのアイドルちゃんの続きお願い」
417:
>りせは、アイドルとしての自分――"りせちー"と本当の自分――"りせ"との間のギャップで苦悩していた。
ハルヒ「え、腹黒系なの?」
>いや、りせはかなり素直に感情を表現するタイプだった。
 それゆえに作られた自分ではなく、本当の自分を見てほしかったのだろう。
>一度、その造られたキャラクターを完全に脱ぎ捨てようとしていたことがあった。
>アイドルである"りせちー"に意味もなにもかもを見いだせなくなってな。
ハルヒ「そんなことってできるのかしら」
鶴屋「うーん、難しそうだよねっ」
>しばらくの間、アイドルとしてのりせは身をひそめ、素のりせで生活していた。
>しかしある日、ふとしたきっかけで、りせはアイドルだったころのりせの明るさに助けられていた人がいることを知った。
>"りせちー"にも意味があったことを知り、もう一度自分について考え始めた。
古泉「自分について考える……ですか」
>ああ。
ハルヒ「あー、その流れだと"りせちー"を受け入れたって感じかしら」
>いや、受け入れるではなく気付いたといった方がいいだろう。
ハルヒ「気付いた?」
>"りせちー"も"りせ"もどちらも本当の自分だと。
418:
古泉「両方とも本当の自分……」
ハルヒ「あー、なるほどねぇ」
>りせは、よく自分を知ったからこそ、誰よりも他者をよく見て知ろうとすることのできる人間だ。
鶴屋「他人を知ろうとすることって実はすっごく難しいからねっ。その娘すごいなぁって素直に感心しちゃうよ」
ハルヒ「学園のアイドルがそんな感じなら、みくるちゃんもそうなのかしらね」
みくる「あ、あたしですかぁ?」
ハルヒ「実はそのかわいい顔の下には本音を隠していて……なんてね」
みくる「ふ、ふぅ」
>欠点は……料理がものすごく辛くなってしまうことだな。
>……鈍痛がするくらいに。
古泉「また番長氏の顔が苦痛にゆがんでいますね」
キョン「番長の周りの女性陣は料理下手しかおらんのか」
>思い出したらまた口の中に痛みが戻ってきた気さえする……。
ハルヒ「なんだか逆に食べてみたくなってきたわ……。
 いや、キョンに食べさせてみたいわ」
キョン「いや、思わないでくれ。頼むから思わないでくれ」
>自分からも頼む。
ハルヒ「な、なによ。妙に必死になって」
421:
古泉「お2人ともそんなもしを語っても仕方ありませんよ」
ハルヒ「そうよ、あたしだって本気で言ってるわけじゃないんだから」
キョン「俺は今、心の底から安堵してるよ」
ハルヒ「変なキョン」
>次はクマのことを話そうと思ったが……説明が難しい。
>詳しく話そうとするとどうしてもテレビの中の世界のことを話すことになってしまいそうだ。
鶴屋「どうしたの番長くんっ。そんな難しい顔してっ」
>次はだれのことを話そうか迷っていたところだ。
>……クマのことはハルヒと鶴屋さんには話せそうにない。
>話すことができても女装が似合う美少年ということくらいだろう……。
>仕方がない。次は、直斗のことを話そう。
ハルヒ「直斗、直斗……白鐘直斗くんであってるかしら」
>ああ、それであっている。
>合っているが、ひとつだけ間違っていることがある。
>直斗は、女の子だ。
ハルヒ「え!?」
古泉「なんと……女性にしては珍しいお名前ですね」
422:
みくる「それってやっぱり、男の子と勘違いされるんでしょうか」
>ああ。だが、勘違いというよりは直斗が意図的に周囲に男であると思わせていたといった方がいい。
>服装も、男装が基本だった。
みくる「意図的に……? どうしてそんなこと」
鶴屋「それって、その直斗くんは趣味でやってたのかなっ?」
>もちろん違う。
鶴屋「だよねっ」
>その理由を話すためには直斗の生まれから話そう。
>直斗は実家が代々続く探偵の家系で、直斗はその跡取りなのだそうだ。
>直斗自身も、探偵として活動をしていた。
ハルヒ「探偵っ? ってことは高校生探偵!?」
>ハルヒは目を輝かせている。
ハルヒ「なんて甘美な響きなのかしら。高校生探偵なんてっ!」
キョン「おい、トリップするのはいいが帰って来いハルヒ」
ハルヒ「トリップなんてしてないわよ。
 それで、続き続きっ!」
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