番長「SOS団?」 2【後半】back

番長「SOS団?」 2【後半】


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0:
>直斗は、それに加えて自分が女性だということが分かってしまったら
 さらに軽く扱われてしまうと、思っていたらしい。
古泉「警察は男社会ですからね。その推測は間違っていないでしょう」
ハルヒ「ふん。他人の頭脳借りておいて、男だ女だなんて。よくいえたものね」
>だから、男に。推理小説に出てくるようなハードボイルドな大人な探偵に憧れていた。
キョン「それで男装に至ったわけか」
>服装や口調だけでなく、一人称も『僕』だったくらいだ。
キョン「僕……ねぇ。(あいつのこと、思い出すな。あいつも何か意図があってあんな風に喋っているんだろうか)」
みくる「でも、いずれ身体つきは嫌でも女の人になっていきますよね……そうしたら」
鶴屋「いやでも、女の子ってわかっちゃうねっ」
>大人でも、男でもない。そんな自分を直斗は受け入れることができなかった。
 男になりたい、大人になりたいと言い続けていた。
>だが、直斗は直斗が関わっていた事件を通して、自分を見つめ直すことになる。
>そして直斗は気づいた。本当の望みは男になることでも大人になることでもない。
>本来の自分――見ないふりをしていた、ありのままの自分をを受け入れることだと。
ハルヒ「ありのままの自分……」
431:
>直斗は、世の中が自分の思い通りにならないことをよく知っている。
 自分が受け入れられないことがあることも知っている。
>しかし、自らを見つめ直した直斗は心にぶれない一本の芯を持っている。
>だから直斗は、最も信念貫ける人間だ。
鶴屋「うーんっ! かっこいいねっ!」
キョン「俺らと同い年で信念ときたか」
古泉「生き方の指針を持つことは素晴らしいことだと思いますよ」
キョン「そりゃ、俺もそう思うさ。
 だが、俺ら――高校生1年なんてもんはモラトリアムのモラトリアムにいるようなもんだろ?」
キョン「就職を念頭に置いてる奴らはともかくとして、
 進学を希望しているのはたいてい、なんとなくだと思うがな」
古泉「モラトリアムのモラトリアムですか。あなたも妙な喩えをしますね。
 たしかに、確固たる意志を持って進学をする人は現代社会では一握りと言えるでしょう」
キョン「だろう?
 俺自身、信念なんてものは持ち合わせちゃいないからな。
 尊敬するというか全く親近感がわかないというか」
>早ければいいというものではないさ。ゆっくり見つけていけばいいと思う。
>無理矢理こじつけた信念なんて息苦しくなるだけだ。
キョン「……そういうもんかね」
439:
鶴屋「番長くんは持ってそうな言い方だねっ」
>そうか?
ハルヒ「あたしはあるわよ」
キョン「ハルヒが?」
ハルヒ「なんでSOS団員その1のくせにわからないわけ?」
キョン「残念ながらテレパシーなんぞ使えないんでな」
ハルヒ「いい? あたしの信念はね、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者と一緒に遊ぶことよっ!」
キョン「そりゃ、SOS団を作った目的だろうが」
ハルヒ「一緒よそんなもの。
 これこそが信念で目的で目標で義務で使命で存在理由なんだから」
キョン「信念ってもっとこう、崇高なものなんじゃないのか?」
ハルヒ「崇高な目的じゃないとでも言いたいわけ?」
キョン「そうじゃなくてだな……」
古泉「番長氏も言っていた通り無理矢理こじつけなくてもいいのです。
 反対に言ってしまえば、生き方の指針として自分自身にあってさえいれば、それでいい」
古泉「ですから、涼宮さんの目的は信念となりえると思いますよ」
440:
キョン「……ふぅむ」
鶴屋「にゃはははっ! それならあたしも持ってるよっ。
 『何ごとも楽しくっ!』 これがあたしの信念で信条だっ!」
キョン「それは何となく見ていてわかります」
ハルヒ「鶴ちゃんのが分かって、なんであたしのが分からないのよ!」
古泉「抽象的にすれば、納得するのではないでしょうか?
 『未知を発見、探求しつづける』とね」
キョン「ああ、そういうことか」
ハルヒ「具体的に言ってあげたのに、抽象的なほうがいいなんて会社で出世できないわよ」
キョン「何で出世が出てくるんだ……」
キョン「まあ、人生の目標みたいなもんか、それならあるぞ」
ハルヒ「へぇ……キョンがねぇ」
キョン「命が脅かされない生活」
ハルヒ「はぁ? 交通事故にでもビビってるの?」
キョン「まあ、そんなところだ」
>キョンから話を聴いた限り、キョンがそう思っても仕方ない……。
441:
鶴屋「番長くんはそういうのってあるのかなっ?」
>信念かどうかは分からないが、ひとつ心に決めていることがある。
>『真実を追い、真実を見つめ続けること』
キョン「信念っぽいな」
ハルヒ「真実ねぇ……」
>もちろん、すべての真実がいいことではない。
>当然不都合な真実もあるだろう。
>だけど、たとえそうであっても。真実から目を逸らすことはしたくないと思っている。
ハルヒ「不都合な真実?」
>ああ。たとえ信じたくないことが目の前に突き付けられて、
 それが真実だったとしても受け止めることができるような人間になりたい。
>まだ、それほどできた人間ではないからな。
みくる「考え方が大人ですねぇ……」
>いろんな人とふれ合って、いろんな人の考え方を知った。
>いろいろな場所で喜びも、苦悩も、悲しみも、嬉しさも――その人たちと多くを共有した。
>その中で見つけた、自分自身のひとつの答えがこれだ。
514:
ハルヒ「番長くんがその考えに至るようになったのって」
>もちろん、周りのみんながいたからだな。
キョン「いい友達をもってるな」
>友達、そして掛け替えのない大切な仲間だ。
キョン「臆面もなく仲間と言い切るか」
>事実だからな。
古泉「本当に良いご友人をお持ちのようだ」
みくる「仲間、ですかぁ」
ハルヒ「なーにいってるのよっ!
 あたしたちSOS団だって番長くんの友達に負けないくらいの仲間でしょっ!」
ハルヒ「もちろん、鶴ちゃんも番長くんも含めてねっ!」
鶴屋「にゃはははっ、そうだねぇっ!」
>そうだな。
ハルヒ「有希だってそう思うでしょ?」
長門「そう思う」
ハルヒ「ねっ! 有希が太鼓判推すんだから間違いないわよ」
515:
キョン「どうして長門基準なんだ」
ハルヒ「だって有希が間違ったことなんてないじゃない」
キョン「確かにそうだが――」
>キョンとハルヒは楽しそうに雑談を始めてしまった。
>仲がいいことはいいことだが、いいのか?
キョン「仲がいいってな」
ハルヒ「いいって何が?」
>時間だ。
ハルヒ「時間って……ああっ! もうこんな時間!?」
キョン「うおっ、昼休み終わっちまう」
古泉「もう少しで予鈴がなりますね」
ハルヒ「話に夢中になってたからまだ全然食べ終わってないわ」
鶴屋「あたしはもう終わってるにょろよ?」
古泉「右に同じくですね」
長門「……」
>有希もおわっているようだ。
516:
鶴屋「みくるはーっ?」
みくる「あたしですか? あたしはもともと量が少ないですから」
キョン「朝比奈さんも終わっているのか……」
鶴屋「あははっ、えらいえらいっ!」
キョン「番長は、話してたからまだ食い終わってないよな?」
>今終わった。
キョン「……どんな魔法使いやがった。
 さっきまでほぼ手を付けていなかったじゃねぇか!」
>雨の日限定スペシャル肉丼を食べきった自分にこの程度はわけない。
キョン「何を言ってるかさっぱりわからん!」
キーンコーンカーンコーン――……
>……予鈴だ。
古泉「では、僕は先に失礼しますよ」
長門「……」
鶴屋「ハルにゃん、じゃあねぇっ!」
517:
みくる「あ、じゃあまた」
>それぞれが席を立ち部室をでていく。
キョン「く、このままじゃ昼飯抜きだ」
ハルヒ「ごひほーはま!」
>パン、とハルヒが手を合わせた音が部室に響いた。
>ハルヒの弁当箱がいつの間にか空になっている。
キョン「なっ!?」
ハルヒ「さて、教室に戻るわね、番長くんかキョン鍵よろしくっ!」
キョン「ちょ、ちょっと、待てって!」
ハルヒ「何よ」
キョン「いつ喰いやがった!」
ハルヒ「アンタがぐだぐだ話している間以外なにがあるの」
キョン「ぐ……!」
ハルヒ「んじゃ、あたしは戻るわ。
 あ、今日の夜の打ち合わせするから放課後は部室集合だからね。
 番長くん、みくるちゃんにいっておいてもらえるかしら」
>ああ、分かった。
518:
ハルヒ「キョンは古泉くんに言っておくこと、いいわね?」
キョン「あ、ああ……」
ハルヒ「うん、よろしくっ」
>ハルヒは部室から出ていってしまった。
キョン「……」
>……。
キョン「なあ、俺はどうすればいい?」
>苦虫をつぶしたような顔でキョンがこちらを見つめている。
>そっとしておこう。
キョン「そっとするな!」
>昼休みが過ぎていく……。
…………
……

519:
――2年某組、放課後。
鶴屋「やれやれっ、今日は1日中雨が降りっぱなしだったねっ」
みくる「ですねぇ」
>どうやら朝まで降るらしい。
鶴屋「あちゃあ。すぐ止むなら番長くんとみくると
 ちょろっと時間潰してから帰ろうかとも思ったんだけどねっ。
 それなら今すぐに帰った方がいいみたいだっ」
鶴屋「みくるたちも一緒に……って、そういえばこの後SOS団のミーティングなんだっけ」
みくる「ごめんなさい、鶴屋さん……」
鶴屋「あははっ、いいっていいって! 一緒に帰らないと死んじゃうわけじゃないしさっ!」
鶴屋「一緒に帰るのは明日でも明後日でもいいっさ!」
>鶴屋さんは鞄を担ぐと教室の入り口へ駆けていった。
鶴屋「んじゃねっ、みくる、番長くん! また明日っ!」
みくる「はぁい」
>ああ、また。
>……鶴屋さんは帰っていったようだ。
みくる「じゃあ、あたしたちも行きますか?」
>そうしよう。
…………
……

522:
――SOS団部室。
ガチャ。
ハルヒ「来たわね、2年生コンビ」
キョン「先輩に対してその適当な括りはどうなんだ……」
古泉「どうも。昼休みぶりですね」
みくる「こんにちはぁ」
>キョンは昼食どうしたんだ?
キョン「さっき部室で喰った。午後の授業を飯抜きはきつすぎた。
 こんなにうまいと思ったお袋の弁当も初めてだったよ」
>ということは少し待たせてしまったのか。すまない。
ハルヒ「キョンのお腹の具合なんてどうでもいいわっ! 早く座ってちょうだい。
 今夜の流れを確認するわよ!」
みくる「す、涼宮さん楽しそうですねぇ」
ハルヒ「当り前よ! 待ちに待ったマヨナカテレビを試せるんだからね」
キョン「……何も映らないと思うがな」
ハルヒ「なんでよ?」
キョン「むしろどうして映ると思うんだ」
ハルヒ「番長くんのトコで映ってここで映らない道理も根拠も理由もないわ」
>霧が出なければ映らないのだが、あまり気にしていないようだ……。
キョン「はあ、止めても無駄だろうしな。
 それなら侵入したときに誰にも見つからないように精々祈ることにするさ」
535:
ハルヒ「じゃあ、まずは集合時間の確認ね。夜の11時に校門の前に集合!」
キョン「1時間も前に集まるのか」
ハルヒ「せっかくだし、夜の校舎探検するのもいいじゃない。
 学校の怪談の一つや二つ見つかるかもしれないし」
キョン「見つからないから怪談話なんだと思うがな」
ハルヒ「なによそれ、見つけてあげなきゃ怪談話もかわいそうじゃない」
キョン「怪談にかわいそうもなにもあるか」
ハルヒ「大体ね、見つけようって気概がなければ見つかるものも見つからないのよ」
キョン「あのなぁ」
>怪談話でキョンとハルヒが盛り上がっている。
みくる「あ、あのぉ」
古泉「よろしいのですか? 話がずいぶん脱線しているようなのですが」
ハルヒ「あ、ええ……そうだったわ。怪談話は今はどうでもいいのよ」
キョン「ああ、すまんな」
536:
古泉「発言したついでにひとつよろしいでしょうか」
ハルヒ「なにかしら」
古泉「夜の11時集合ということは、10時台に皆さん家を出ることになるかと思います」
ハルヒ「ええ、そうなるわね」
古泉「そうしますと、僕は構わないのですが、皆さんは親御さんに気づかれてしまうのではないかと。
 10時台ではさすがにまだ起きていらっしゃるでしょうし」
ハルヒ「むう……それもそうね」
古泉「さすがに高校生がその時間に抜け出せば、心配しない親御さんはいないでしょう。
 特にSOS団のみなさんは非行や夜遊びとは縁遠いですから」
キョン「たしかに11時前に抜けたらお袋に気づかれるかもしれん」
ハルヒ「てことは11時半くらいが妥当かしら」
古泉「そうですね、11時30分から11時45分くらいの幅を持たせてはいかがでしょう」
ハルヒ「幅?」
古泉「ええ、今回ばかりは親御さんの行動に寄りますからね。
 ぴったりに行動することは難しいかもしれません」
537:
ハルヒ「なるほどねぇ。
 うん、わかったわ。そうしましょ」
古泉「といっても僕は問題ありませんし」
長門「わたしはいつでも構わない」
ハルヒ「有希は一人暮らしだったから問題ないわね」
長門「そう」
ハルヒ「でも一人で出歩かせるのは心配だわ。
 古泉くん、有希を迎えに行ってもらっていいかしら?」
古泉「仰せのままに」
>自分も特に問題はない。
ハルヒ「てことは、みくるちゃんとキョンね」
みくる「あ、あたしは。た、たぶん大丈夫です」
ハルヒ「そ。じゃあ、みくるちゃんは番長くんに迎えに行ってもらおうかしら」
>ああ。
538:
キョン「ハルヒも親御さん心配するだろ」
ハルヒ「そんなの団長として何とかしてみせるわよ」
ハルヒ「だから実質問題があるのはキョンだけね」
ハルヒ「キョンのための変更なんだからね!
 ご両親にみつかって心配かけるようなことは絶対にしないこと!」
キョン「へーへー」
ハルヒ「よし、とりあえずの問題はクリアね」
ハルヒ「次に侵入のための事前準備だけど、覚えてる?」
みくる「ええっと、たしか事務員さんの見回りの時間に一人が忘れ物をしたっていって校舎に入る。
 そのときに事務員さんはへんな事をしないか見るために付いてくるでしょうから、
 その間にもう一人が鍵を開ける、ですよね?」
ハルヒ「みくるちゃん、よく覚えていたわ。
 その作戦はあたしとキョンでやるわ。キョンは解散後残っていてちょうだい」
ハルヒ「キョンが事務員さんに忘れ物をしたといって誘導する係。
 その間にあたしが鍵を開けておく」
キョン「なんで俺だ」
539:
ハルヒ「いかにも学校に忘れ物しそうな顔してるじゃない」
キョン「どんな顔だ……」
ハルヒ「というか、これに関してはキョンが一番適任なの」
キョン「は?」
ハルヒ「いい? ざっとここにいるメンバーの顔を見渡してみなさい。
 忘れ物しそうなメンバーいると思う?」
キョン「忘れ物くらい人なら誰でもすると思うがね。
 それに……」
ハルヒ「ぐだぐだうっさい!」
キョン「はあ、わかったよ。でもなんで2人なんだ。
 鍵開けなんて全員で周りに誰もいないか確認したほうが安全だと思うが」
古泉「それは違います。潜入ミッションの基本ですよ。
 人数が多ければ多いほど見つかりやすくなってしまいますからね。
 極力人数を少なくすることが鉄則です」
ハルヒ「古泉くんのいう通りよ。この鍵開けは、一番重要なポイントなんだからね。
 この任務はあたしが団長として確実に遂行するから。だからみんなは今日は先に帰っていていいわ」
>ああ、わかった。
540:
ハルヒ「最後にもってくるものを確認するわね」
みくる「もちものがあるんですか?」
ハルヒ「なにいってるの、当然持ってこなきゃいけないものがあるでしょう?」
みくる「あ、はい! わかりました。スリッパですね。足汚れちゃいますし危ないですし」
ハルヒ「そんなことどうでもいいのよ、みくるちゃん。上履き取りに行けばいいだけじゃない」
みくる「ご、ごめんなさぁい……」
キョン「俺も持ち物が必要なんて初耳だぞ」
ハルヒ「あのねぇ、どこに侵入しようとしてるか分かる?」
キョン「学校だろ?」
ハルヒ「ちっがう! 『雨が降っている』『夜の』学校よ!」
キョン「それの何が違うんだ」
ハルヒ「全く違うわよ!
 はい、番長くんは何が必要か分かっているわよね?」
>ハルヒは自分を試しているようだ。
>だが、これくらいならすぐ分かる。
541:
>それはもちろん、懐中電灯とビニール袋だ。
ハルヒ「さすが番長くん、正解よ!」
キョン「ビニール袋?」
ハルヒ「キョンは自分の靴を雨ざらしにしたいわけ?」
キョン「あっ……」
ハルヒ「それに靴に付いた雨水を廊下にたらしたらいい証拠だわ。
 華麗なスパイは現場に余計な証拠は残さないのよ」
>やはりハルヒの気分はスパイらしい。
キョン「それになんで懐中電灯が必要なんだ。電気をつければいいだろう」
ハルヒ「本当に分からないわけ? 古泉くん説明してあげて」
キョン「古泉は分かっていて当然とでもいうつもりか」
古泉「簡単なことですよ。外から見て深夜に学校の電気がついていたらどう思われますか?」
キョン「そりゃあ……ああ、そういうことか」
みくる「あ、なるほどぉ」
ハルヒ「ここまで言わないと分からないなんて。
 とにかく、深夜の学校に電気が灯っていたら不審なこと極まりないわけ」
542:
キョン「しかしビニール袋はともかく懐中電灯なんて家にあったかね……」
ハルヒ「一般的な家庭ならあるはずよ。災害用なんかも含めて用意してることあるでしょうし」
ハルヒ「あ、でも有希は一人暮らしだから――」
>有希は懐中電灯を持っているか?
長門「ない」
ハルヒ「うーん、困ったわね。でもまあ人数分はなくてもいいかしら」
古泉「よろしければ僕が人数分ご用意しますよ。
 今晩1度使う程度の簡素なモノでしたらすぐにそろえられると思いますし」
ハルヒ「ホント! ありがと、助かるわ。じゃあお願いね」
古泉「ええ」
ハルヒ「さあ、これで問題のすべてはクリアされたわ!」
キョン「ええと、集合は11時半から45分までに校門前、持ち物は古泉は懐中電灯を」
古泉「ついでですから、ビニール袋もご用意しますよ」
キョン「……そんで俺らは待機後に、事前準備と」
543:
ハルヒ「ん! いいわね。何か質問あるかしら?」
古泉「いえ、特には」
みくる「大丈夫、かな?」
ハルヒ「それじゃあ、いったん解散! また夜に会いましょ」
>ハルヒの号令と同時に有希が本を閉じ、各々が身支度を整えはじめる。
ハルヒ「それじゃあ、行くわよキョン! ちゃんと下見しなくちゃ作戦はうまく行かないわ!
 あ、部室の鍵はあたしが閉めておくからそのままにしておいて」
みくる「はぁい」
キョン「てことだ、先に帰っていてくれ」
古泉「そうさせていただきます」
ハルヒ「行くわよキョン!」
>ハルヒとキョンは部室から出て行ってしまった。
古泉「では、僕らは帰るとしましょう」
>先ほどハルヒに言われたことだが。
古泉「迎えの件ですか?
 朝比奈さんはともかく長門さんには必要ないでしょうけどね」
544:
みくる「あ、あの、よろしくお願いしますっ」
>みくるがぺこりとお辞儀をしている。
>そのことだが、どうせ一緒に行くなら
>自分の部屋で時間を潰してからそのまま一緒にいかないか?
古泉「確かに僕らとしては、そのほうがすこぶる楽ですが」
長門「わたしは構わない」
みくる「あ、あたしは……その。夜遅くなるみたいだから、
 その前にお風呂とかはいりたいですし……」
>そうか。ならば時間前に迎えに行こう。
みくる「う、ううん! 一度帰ってお風呂に入ってから番長くんのマンションにいきます!
 すぐ帰ってお風呂に入れば、夕方くらいにはそっちにいけるから大丈夫」
古泉「では、これからないし夕方ごろに番長氏の部屋へ一度集まってから
 4人で行くということでよろしいですか?」
みくる「は、はい!」
長門「分かった」
古泉「ありがとうございます。
 それでは帰りましょう、僕も懐中電灯を用意しなければならないのでね」
>部室を後にし、帰路へ付いた。
>マヨナカテレビには何かが映るのだろうか。
…………
……

551:
――夕方、自室。
>一樹と有希が自室に着ている。
古泉「連日お邪魔してしまっていますね」
長門「迷惑?」
>楽しいから問題ない。
長門「そう」
古泉「雨はやはり、止みそうにないですね」
>窓の外でしっとりと雨は降り続いている。
古泉「涼宮さんも今頃張り切っておられるでしょうし」
>キョンとハルヒはまだ学校付近にいるのだろう。
古泉「何が映るのかわかりませんが、鬼でも蛇でもないことを祈るばかりです」
古泉「涼宮さんが多少疑念を持ったとしても、
番長氏の帰還につながる何かが映ってくれるのでしたら、ありがたいのですがね」
長門「わたしもそれを期待している」
古泉「おや、長門さんも同じことを考えていたのですか」
552:
長門「現在、彼の世界とつながりを見出せる唯一のポイント」
古泉「そうですね」
>ハルヒへの言い訳が大変になるんじゃないか?
古泉「一応、布石は張ってきたのですよ」
>布石?
古泉「ええ。DVDプレイヤーとDVDを1枚、設置してきたんです。
 もしなにか映ってもDVDプレイヤーの誤作動ということで誤魔化そうかと」
>……無理がないか?
古泉「ええ、そうでしょうね。僕自身も相当に無理があると思っています」
古泉「ですが、『DVDプレイヤーの誤作動で何か映像が映った』という話と『何かしらの異常現象が起こった』。
 この二つを天秤にかけたときに、常識のある人でしたら前者で納得しようとするとは思いませんか?」
>そういわれれば、そうかもしれないが。
古泉「以前も言いましたが、幸いなことに涼宮さんはかなりの常識人です。
 僕はかなりの確率で納得してくれると思っていますよ」
>ちなみに、DVDの中の映像は何なんだろうか?
古泉「以前とった映画の没映像ですね」
553:
>それでは再生したらばれてしまうのではないか?
古泉「たしかに、そのままではそうです。
 ですがそのDVDには少し仕掛けがしておりまして」
>仕掛け?
古泉「ふふ、読み込めないんです。ディスクの裏面にごくごく小さな傷をつけて読み込めないようにしておきました」
古泉「今回は意図的に確実に読み込みができないようにしましたが、DVDプレイヤーは不安定なもので、
 同じDVDでも読み込めたり読み込めなかったりということがままあるのです」
古泉「その原因はさまざまですが、つまるところ、よくあることなのですよ」
古泉「ですから『たまたま誤作動して読み込んだ』で十分言い訳として通じると思います。
 プレイヤーのほうが壊れている可能性があるともいえますしね」
古泉「おそらく彼もその場でフォローしてくださると思いますし」
>キョンか?
古泉「ええ。小言をいいながらも彼も毎度苦心してくださっていますよ」
>信頼しているんだな。
古泉「信頼、ですか。そうかもしれません」
>どうかしたのか?
古泉「いえ、少し思うことがあっただけです」
554:
>思うところ?
古泉「……今から言うことは超能力者が妙なことを言っている、程度に流してくださって構いません。
 本来なら僕は彼を信頼するのではなく、彼から信頼を得るべき立場の人間です」
古泉「それは、僕が機関という組織に属していることに関係があります。
 彼は涼宮さんにもっとも近しい人間であると同時に、唯一涼宮さんを御することのできる人物でもあるためです」
>キョンがハルヒを御する……?
古泉「御するとは言い過ぎかもしれませんけどね。
 傍目には涼宮さんが彼を振り回しているようにも見えますが、彼の進言にだけは涼宮さんも耳を傾けますから」
>そうか? 一樹たちの言葉にも耳を傾けていると思うが。
古泉「ふふ、それは基本的に僕たち――朝比奈さんや長門さんも含めて、自分の役割を全うしているだけであって
 純粋に100%自らの意見を言っているわけでなく、涼宮さんの望むような進言をしているだけなのですよ」
古泉「もちろん、それぞれの性質はかなり異なりますがね。
 朝比奈さんの場合は、素で涼宮さんの望むような愛らしいキャラクターなのでしょうし」
古泉「長門さんの場合は、そもそも涼宮さんに意見することはありません」
古泉「ですが、僕は基本的に涼宮さんのイエスマンなのですよ。僕が反論することは基本ありません。
 ああ、もちろん嫌々やっているわけではないのでご安心を」
古泉「ただ、映画撮影時に朝比奈さんを池に落したシーンですとか、お酒で酔わせたりですとか――」
古泉「思うところがないわけではないですが、口に出すことは許されません」
555:
古泉「極端なことを言ってしまえば、僕が涼宮さんに反論するSOS団はSOS団ではないのですよ」
古泉「最近は、番長氏のおっしゃるように涼宮さんも僕たちの意見を聞き入れてくださいます。
 それでもやはり涼宮さんへ率直に意見をぶつけることができるのは彼しかいません」
古泉「そこで話は最初に戻るのですが、僕が機関という組織に属し、この世界の安定と秩序を願っている。
 そのためには、涼宮さんを御することのできる彼からの信頼を得ることが必須事項ともいえます」
古泉「このような内心を彼が知ったら、幻滅するでしょう」
古泉「しかしそんな僕が、彼を信頼している……不思議なものだなと、思ったのです。
 目的を第一に考えるのでしたら彼に信頼を置く必要はないのですから。
 反対に信頼を置くことで判断力が鈍ることもありえるかもしれないというのに」
>一樹は、如才なく笑っているがどこか遠いところをみている。
古泉「困ったものです」
古泉「おっと、すみません。冷たい人間に聞こえたかもしれないですね」
>そんなことはないさ。
>ただひとついえることは、一樹もハルヒと同じように変わってきているのだろうな。
古泉「僕が変わってきている、ですか。
 確かに自分の心境の変化を感じることはありますが……なるほど」
>一樹は他人のことになると鋭いが、自分のこととなると疎いのかもしれないな。
古泉「ふふ、それはそれは。これも、新たな発見ですね」
>一樹の笑みはいつものものに戻っている。
560:
古泉「……番長氏の話を聞いて思ったことがあります」
古泉「"両方とも本当の自分"。
 僕にも当てはまると思いましてね」
>りせのことか。
古泉「ええ。自分のことに気づくということは非常に難しいものです」
古泉「しかし、それに気づくことができた。
 確かに僕自身も成長してるのかもしれません」
>一樹はどこかすがすがしい笑顔をしている。
ピンポーン……
>チャイムだ。おそらくみくるだろう。
みくる「こんばんはぁ」
>別れたときと同じようにみくるは制服を着てきていた。
>みくるは傘とかばん以外に脹れたビニール袋を持っている。
561:
みくる「ふぅ、お買い物をしていたら遅くなっちゃいました」
>みくるにタオルを渡しながらビニール袋を受け取る。
>これは?
みくる「今日のお夕飯のお買い物をしてきちゃいました」
みくる「あっ、もしかしてもうお買い物してきちゃいましたか?」
>いや、まだだ。
みくる「うふ、よかったです」
古泉「そういえば、ここに直行したので夕餉がまだでしたね」
>そうだったな。
古泉「お声をかけていただければ、ご一緒したのですが」
みくる「ううん、行きがけに寄っただけだから」
>わざわざすまない。なら、作るとしようか。
みくる「あ、今日は番長くんはくつろいで待っていてね」
>どういうことだ?
みくる「いつも作ってもらってばかりですから。
 お礼というわけじゃないけど、今日はあたしが作ります」
>みくるに背中を押されキッチンから追い出されてしまった。
562:
長門「手伝う」
古泉「おやおや。女性陣による手料理ですか」
みくる「ふふ、そんな大層なものじゃないですよ」
>みくるは、かばんからエプロンを取り出し身に着けた。
みくる「準備は、よしっ!」
古泉「彼にこのことを話したら、ものすごく詰め寄られそうですね」
>ああ。
長門「……」
>有希がみくるを見つめている。
長門「……」
>有希は続いてこちらに視線を投げかけた。
>エプロンがほしいのだろうか。
古泉「エプロン、ですか……さすがに用意していませんね」
>そういえば、ハルヒから借りたエプロンを洗って返そうと、もって帰ってきていたはずだ。
>それでよければ、つかうか?
長門「つかう」
>有希にエプロンを渡した。
563:
長門「……」
>若干有希にはサイズが合っていないがしかたない。
古泉「ふふ、かわいらしいではないですか。
 これもまた彼にはいえないですね」
>一樹はどこかうれしそうだ。
みくる「ふふっ、かわいいですよ。長門さん」
長門「そう」
みくる「それじゃ、はじめましょう。
 えっと、長門さんは……」
>みくると有希は調理を始めたようだ。
古泉「何ができるか楽しみですね」
>たしかに、自分のために作ってもらうのはこちらに来てはじめてかもしれない。
古泉「申し訳ありません。僕は自炊しないものですから」
>一樹には十分すぎるほど助けられている。
>その上料理まで作らせることなんてできない。
564:
古泉「僕からすれば、番長氏がしていただいたことを考慮すると
 まだまだ恩を返しきれていないのですがね」
>……? なにかしたか?
古泉「事故とはいえこちらに来てくださったこと、テレビの中で助けてくださったこと、
 涼宮さんへの対応を配慮してくださったこと、料理をふるまってくださっていること。
 ……細かいことまで数えだしたらキリがありません」
>どれも些細なことばかりだ。
みくる「番長くんにとっては些細なことでも、みんなにとっては重要なんですよ」
>みくるがキッチンから顔を出す。
古泉「そのとおりです。
 番長氏を除いたこの3名で同じ空間を介することなども職務を除いては実現しなかったでしょう。
 番長氏は、僕らにここ数日で多くのよい変化をもたらしてくださっています」
長門「これでいい?」
みくる「あ、はぁい。ありがとうございます、長門さん」
長門「次は?」
みくる「次はですねぇ……」
>みくるは料理にもどったようだ。
古泉「特に長門さんの変化は驚異的といってもいい。
 エプロンをして料理をする長門さんなんて、数日前までは想像しえなかったです」
古泉「長門さん自身がどう思っているかは不明ですが、僕は好ましい変化だと思っていますよ」
>好ましい変化か……。
古泉「おそらく、彼もそういうでしょうね、ふふ」
569:
>彼……キョンか。
古泉「ええ。長門さんの機微を感じ取ることにおいては彼が一番長けていますね」
古泉「伊達に涼宮さんに選ばれたわけではないということです」
>キョンがハルヒに選ばれた?
古泉「番長氏も疑問に思いませんでしたか?
 なぜこれほどまでに特異が集まっている集団でただ一人、一般人である彼がいるのかと」
>キョンがハルヒの理解者だからではないのか?
古泉「ええ、それももちろんあるでしょう。
 ですが、それだけですと辻褄が合わないことがあるのです」
古泉「先日ご覧になった映画。あのときの撮影時に彼と涼宮さんは喧嘩をしているのです」
>喧嘩?
古泉「ええ、些細な喧嘩です。しかし、もし理解者であるという一点のみで彼が選ばれたのであれば、
 あのときに彼は涼宮さんに切り捨てられていたでしょうね」
>つまり偶然キョンが選ばれたというわけではないのか?
古泉「もちろん、その可能性も大いにあります。
 偶然で済ませてもいいのですが、僕なりに理由を考えてみたのです」
>理由?
570:
古泉「最初は、彼が涼宮さんに積極的に話しかけたからだと思っていましたが、
 それであるならば、中学のときの同級生と同様でしょう。
 いえ、むしろ同級生のほうが接触が早い分、彼のほうが不利といえる」
古泉「涼宮さんのあの容姿ですからね。
 ずいぶん好意を寄せる男性は多かったようですよ」
>確かにハルヒはモテそうだ。
古泉「しかし数多の男性を押し退け、涼宮さんのそばにいるのは彼なのです。
 それでは、彼のなにが涼宮さんを惹きつけたのか」
古泉「彼は朝比奈さんと時間遡行をした際に、3年前の涼宮さんと接触している。
 詳しいことは教えてくださりませんでしたが、なにか重要なことをしてきたらしいのです」
古泉「ですから、その彼に会いたいと願った涼宮さんが無意識のうちに彼を呼び寄せた」
>ふむ。
古泉「……としてしまうと、おかしなことになってしまうのです」
>おかしなこと?
古泉「そもそも彼が時間遡行をしたのは、涼宮さんと関わりを持ったからです。
 涼宮さんと関わりをもち、朝比奈さんと接触をしたからこそ起こった出来事なのです」
古泉「つまり彼が3年前に接触したことで、涼宮さんが今の彼に興味を持ったために起こった出来事と言い換えることができます」
>……? 待ってくれ、一樹。
古泉「はい」
>そうなると、ことの始まりはいつになるんだ?
571:
>キョンが興味をもたれるには、入学式時のキョンよりも、未来のキョンが3年前に行かなければならない。
>その未来のキョンも、さらに未来のキョンが3年前に行っていなければハルヒから興味がもたれないことになるから3年前へいく。
>そしてそのさらに未来のキョンも3年前へ……といった具合に無限に続いていくことになってしまう。
古泉「そう。この理屈では、最初が存在しなくなってしまう。
 一番初めの、原初的な『涼宮さんが彼に興味をもった』という最も重要な始点がなくなってしまうのですよ。
 メビウスの輪の中に囚われているようなものです」
>……! なるほどな。
古泉「そこで、僕はこう考えているのです。
 3年前の接触はきっかけ程度に過ぎず、彼は涼宮さんにとっての"基準"であるから選ばれたのだと」
>なんの基準だろうか。
古泉「"普通である"ということの、ですよ」
>ハルヒは普通であることを嫌っているのではないのか?
古泉「ええ、そうですね。
 ですが、考えてみてください。なにをもって"普通である"と我々は断じているのか。
 "普通である"というものは非常に曖昧なものです」
>普通が曖昧?
572:
古泉「たとえば、僕のような超能力者も機関という組織内部では、僕は普通の存在でしょうし」
古泉「未来へいけば、朝比奈さんは普通の存在であり」
古泉「そして情報統合思念体にとっては、長門さんのようなTFEI端末は普通の存在です」
古泉「番長氏が、番長氏の世界では普通の学生であるように、ね」
>確かにそういえるかもしれない……。
古泉「"普通"というものは立場や環境によってすぐに変わってしまう」
古泉「もし涼宮さんが世界を作り変え、超能力者、未来人、宇宙人が跋扈する世界になったのなら
 僕たちのような存在は特異ではなく、普遍へと塗り替えられるようにね」
古泉「つまり、超能力者や未来人や宇宙人を涼宮さんが『特別なことである』と認識するためには
 なにかしらの"基準"が必要になってくるのです」
573:
古泉「それは、涼宮さんが抱くこの世界への認識そのものであったり、常識と呼ばれるものであったり、涼宮さんの価値観であったり。
 基準となるものは様々なものがあげられます」
古泉「ですが、それらは涼宮さんの主観であり、非常に曖昧なものです」
古泉「ですから涼宮さんは、自身ではない外部に。
 涼宮さん自身の価値観や考え方に非常に近しいものを持ち、客観的に今の僕たちのような存在を"普通ではない"と判断できるモノを欲した」
>それがキョンというわけか。
古泉「ええ。僕はそう思っています。
彼は涼宮さんにとってのモノサシであり、この世界の普遍を象徴するものであり、僕たちのような存在を特異たらしめる"基準"なのです。
 極論を言ってしまえば、価値観や考え方だけを照らし合わせた場合、彼はもう一人の涼宮さんと言っても差し支えないかもしれません」
古泉「彼が変だと思うことは涼宮さんも変だと思うし、特別だと思うことは涼宮さんも特別だと思うのではないでしょうか」
古泉「彼が普通であるということは、僕たちが特異な属性を持ち合わせていること以上に重要なことなのです」
古泉「……もちろん、涼宮さんが何を思って彼がご自身と同様の価値観を持っていると判断したのかはわかりませんし、
 そのようなことをおっしゃったことは一度もないので、すべては僕の想像ですけどね」
>一樹は肩をすくめている。
古泉「ただ今僕の言ったことが的外れだったとしても、ひとつだけ確信的に言えることがあります」
 
古泉「もし涼宮さんの手によって世界が創りかえられても、彼だけは何の変化もしないでしょう」
580:
>一樹はどこか遠いところを見つめている。
古泉「と、まあ。僕なりの持論でしたが退屈しのぎにはなりましたか?」
古泉「実際のところ真相は誰にもわかりません。
 もしかしたら涼宮さん自身もわかっていないかもしれないですね」
>そうか。
>自分は単純にハルヒがキョンのことを好きだからだと思っていたが。
 ことは単純ではないみたいだ。
古泉「くくっ、ふふふ」
>どうした?
古泉「いえ、あなたはやはり物事を的確に見抜く目をお持ちだ。
 番長氏もそう思われますか?」
>そう思うも何も……見ていてそんな印象を受けただけだ。
>ハルヒなにかと、キョンと一緒にいたがるだろう?
>それほど意外なことを言っただろうか。
581:
>一樹はどこか遠いところを見つめている。
古泉「と、まあ。僕なりの持論でしたが退屈しのぎにはなりましたか?」
古泉「実際のところ真相は誰にもわかりません。
 もしかしたら涼宮さん自身もわかっていないかもしれないですね」
>そうか。
>自分は単純にハルヒがキョンのことを好きだからだと思っていたが。
 ことは単純ではないみたいだ。
古泉「くくっ、ふふふ」
>どうした?
古泉「いえ、あなたはやはり物事を的確に見抜く目をお持ちだ。
 番長氏もそう思われますか?」
>そう思うも何も……見ていてそんな印象を受けただけだ。
>ハルヒなにかと、キョンと一緒にいたがるだろう?
>それほど意外なことを言っただろうか。
582:
>一樹はどこか遠いところを見つめている。
古泉「と、まあ。僕なりの持論でしたが退屈しのぎにはなりましたか?」
古泉「実際のところ真相は誰にもわかりません。
 もしかしたら涼宮さん自身もわかっていないかもしれないですね」
>そうか。
>自分は単純にハルヒがキョンのことを好きだからだと思っていたが。
 ことは単純ではないみたいだ。
古泉「くくっ、ふふふ」
>どうした?
古泉「いえ、あなたはやはり物事を的確に見抜く目をお持ちだ。
 番長氏もそう思われますか?」
>そう思うも何も……見ていてそんな印象を受けただけだ。
>ハルヒなにかと、キョンと一緒にいたがるだろう?
>それほど意外なことを言っただろうか。
585:
古泉「いえ、その話題はSOS団の暗黙の了解的にださなかったのです」
古泉「最初に彼が涼宮さんに惹かれたのか、または涼宮さんが彼に惹かれたのか」
古泉「ただ、どちらにしても涼宮さんが
 彼のどこに惹かれたのかは気になるところではありますけどね」
古泉「最初から彼と価値観が近しいということはわかるはずもないでしょうし、
 彼自身の容姿もこの世界の一般論と照らし合わせてみても、特段に劣っているわけではない反面、
 同様に特段に優れているというわけでもありません」
 
古泉「もちろん彼の容姿が涼宮さんの好みにかなり合致していたということかもしれませんが」
古泉「ですが、彼は不思議な魅力をおもちであることは確かですね、ふふ」
>ふたりは付き合っていないのか?
古泉「さあ、わかりません。僕らの認識では、まだ付き合ってはいません。
 僕らの与り知らぬところで愛をはぐくんでいるのかもしれませんし、
 お互い暗黙の了解的に付き合っている認識を持っているかもしれません」
古泉「ただ、彼はともかく涼宮さんが付き合っていることを僕らに隠すとは思えませんけどね」
>一樹は楽しそうだ。
>……キッチンからいい匂いが漂ってきた。
586:
>この匂いは。
みくる「はぁい、難しいお話は終わりましたか?」
古泉「ああ、いえ。ただの他愛無い雑談ですよ」
みくる「そうですか? じゃあ、できたので盛り付けますね」
>時間をみるとずいぶんと時間が経っていたようだ。
みくる「はい、おまたせしましたぁ」
>コトリ、と目の前に料理が盛られた皿が置かれる。
古泉「いい匂いですね」
>みくると有希が作ってくれたものは……なんとカレーだ。
>ふと、物体Xが脳裏によぎり、口にあの奇妙な毒々しい食感が蘇る……。
みくる「市販のカレールウからじゃなくて、一応カレー粉から作ったんですけど」
みくる「お口に合わなかったらごめんなさい」
長門「……」
>みくると有希はエプロンを畳みながら席に着いた。
>今は物体Xのことは忘れよう。
587:
古泉「非常においしそうです。チキンカレーですか?」
みくる「ええ。ですけどトマトとかナスとかズッキーニとか。あとはアスパラをソテーして入れてみたり。
 ちょっとお野菜を多めにしてみました、ふふ」
>みくるは口に合うかわからないと謙遜していたが自信があるようだ。
古泉「それは楽しみですね。ではせっかく作ってくださったのです。
 冷めないうちにいただきましょう」
みくる「はい、どうぞ」
>確かに見た目はものすごくおいしそうだ。
みくる「……」
長門「……」
>みくると有希が期待した眼でこちらを見ている。
>心臓が早く脈打っているのがわかる。
>スプーンで掬い、口の中へいれた。
>……!
長門「どう?」
588:
>これは……はじけるうまさだ!
>たっぷりとした野菜から出るうまみがカレーに染み出している!
 ソテーされた野菜も香ばしい!
>スパイシーな香り! 口のなかで広がるうまさ! そうだ! これがカレーだ!
>喜びが胸の奥底からあふれ出てくる!
みくる「ほ、よかったぁ」
長門「そう」
>みくると有希は安心したようだ。
みくる「古泉くんは、どうかな?」
古泉「非常に美味ですよ。お2人が手ずから作ってくださったのですからまずいはずがありません」
みくる「うふ、ありがとう」
古泉「番長氏は相当感激なさっているようですね」
>スプーンを進める手が止まらない!
みくる「ふふ、そこまでおいしそうに食べてもらえると作った甲斐もありますね。
 ね。長門さん」
長門「わたしも、うれしく思う」
595:
みくる「そういえば、なんのお話をしていたんですか?」
古泉「たいした話ではありません。彼についてすこしお話していただけですよ」
みくる「キョンくん?」
古泉「ええ。特異でない彼の重要性についてね」
みくる「あ、なるほどぉ」
>みくるもなにかキョンについて思うことがあるようだ。
みくる「ふふ、特に思うことがあるとか、そういうことじゃないんですよ」
>どういうことだ?
みくる「涼宮さんって、全部の部活に入ったり、SOS団を作ったり。
 行動から考えてみると、基本的に誰かと一緒にいることは嫌いじゃないんだと思うんです」
みくる「だけど、一緒にいて楽しいと感じる人は少なかったんじゃないかな」
みくる「ただ、その中でキョンくんは……」
>ハルヒが楽しいと感じた人物だということか?
みくる「うん。あたしはそう思ってます。一緒にいて楽しい人。
 あとは、いつも涼宮さんがいつも言ってる、超能力者とか未来人とか宇宙人とか。
 その涼宮さんが望んでいるものに出会ったときに、一緒に喜びを分かちあえる人」
みくる「そういう風に考えているんじゃないかなって」
古泉「ふむ」
みくる「でも誰かと一緒にいたいって思うのは、理屈じゃないと思いますよ、ふふ」
古泉「誰かと一緒にいたいのは、理屈じゃない……
 そのとおりですね。なにかと理屈付けて考えてしまうのは僕の悪癖です」
596:
古泉「僕も番長氏と、一緒にいたいと思うこともあります。
 それも理屈じゃないですから」
>一樹、誤解を招くような発言は慎んだほうがいいぞ。
古泉「おやおや、純粋な友情ですよ?」
>わかってやっているだろう。
古泉「ふふ、どうでしょうね。ですが、たった今」
古泉「この空間を共有していることは、かけがえのない楽しい時間だと断言しますよ」
>一樹はうれしそうだ。
みくる「うふ、じゃああたしが番長くんと一緒にいたいと思うのも理屈じゃないですね」
長門「わたしも」
>みくるに有希まで……。
長門「あなたは、わたしたちと一緒にいて楽しくない?」
古泉「おや」
みくる「ふふ」
>みくると一樹はいたずらっぽく笑っている。
長門「……」
>有希がまっすぐにこちらを見つめている。
>もちろん、楽しいに決まっているだろう?
長門「そう」
長門「よかった」
597:
みくる「あ、長門さんおかわりどうですか?」
長門「お願いする」
>皿のカレーはきれいになくなった。
みくる「あ、番長くんもどうですか?」
>ぜひもらおう。
みくる「ふふ、気に入ってもらえたみたいでよかったです」
古泉「僕もいただいていいですか?」
みくる「はぁい」
>みんなで楽しく食事をした。
>また少し、絆が深まった。
>あめはしとしとと降り続いている。
>あとは、時間が来るのを待つだけだ……。
………
……

610:
――深夜、校門前。
>時刻は11時20分だ。
>雨はまだ降り続いている。
>まだ、ハルヒとキョンはきていない。
古泉「まだ少し時間に余裕がありますからね」
みくる「どこか雨宿りできるところがあればいいんですけど……」
>残念ながら、坂道が続いているだけで雨宿りができるようなところはない。
古泉「幸い、というわけではないですが、豪雨でなくて助かりましたね」
みくる「そうですねぇ。スカートとかびしょびしょになったら明日困っちゃいますし」
>しかし深夜の学校の前に制服を着た生徒がこれだけいるとなかなか異様だ。
長門「……」
古泉「ふふ、こういうイベントごとは制服と相場が決まっているのですよ」
みくる「き、決まっているんですか?」
古泉「雰囲気の問題です。涼宮さんもきっと制服でいらっしゃると思いますよ」
611:
>遠くから誰かが歩いてくるのが見える……。
キョン「よお」
みくる「こんばんはぁ」
キョン「朝比奈さん、こんばんは」
古泉「おや、お早いお付きですね」
キョン「ああ、家族が思ったより早く寝たんでね。
 案外簡単に抜け出せたんだ」
>キョンも制服に身を包んでいる。
キョン「ん? ああ。ハルヒが制服でこいって言ったからな」
キョン「そういやハルヒのやつまだ着てないのか」
>ああ、キョンのほうが早い。
キョン「今何時だ? 11時27分か。
 珍しいな。こういうときは、いの一番にいるんだが」
古泉「そうですね。僕らも5分ほど前にきたのですが、まだいらっしゃいませんでしたし」
キョン「ま、いいさ。おかげで罰金なんてもんを吹っかけられなくてすみそうだからな」
612:
>そういえば鍵は無事開けられたのだろうか。
キョン「ああ。ハルヒが大成功と息巻いてたからな。
 もう一度確認されて閉められていないのなら開いているだろうよ」
>そうか。よかった。
キョン「果たしてよかったのかね……」
キョン「しかし寒いぞ。冬場で雨で夜。これ以上ないくらい寒いシチュエーションだ」
キョン「朝比奈さん、寒くないですか? もし寒ければ上着をお貸ししますよ」
みくる「ううん、平気。ありがとね、キョンくん」
キョン「長門はどうだ?」
長門「平気」
キョン「なら、よかったよ」
>自分たちには聞いてくれないのか?
キョン「気色悪いことを言うな、番長」
キョン「……そういや、さっき古泉が『僕ら』といっていたが一緒にきたのか?」
古泉「ええ。番長氏のお宅で夕餉を共にしていたんですよ」
614:
キョン「なるほどな。たしかに番長の飯は旨いから古泉は役得だろうよ」
古泉「ええ、まさしくそのとおりです。
 機関に所属してから一番の役得といっていいかもしれません」
キョン「ちなみに。ちなみに訊くが朝比奈さんと長門は?」
みくる「あ、一緒にあたしたちもお夕飯でした」
長門「そう」
キョン「……」
>キョンがこちらを恨みがましい眼で見てくる……。
キョン「なぜその場に俺はいなかったんだ」
古泉「しかたありません。あなたはあなたのお役目をしていらしたのですから」
キョン「やれやれ……損な役回りだ」
キョン「しかし、番長も毎日飯作って大変だな」
>……。
古泉「……」
みくる「……」
長門「……」
キョン「おい、なんだ。この沈黙は」
616:
古泉「実はですね……」
>キョンにみくると有希に作ってもらったことを伝えた。
キョン「長門、朝比奈さん、ちょっと待っていてもらっていいですか?」
みくる「え、は、はい」
長門「わかった」
キョン「お前ら、ちょっとこっちこい」
>すこしみくるたちと離れた。
キョン「なにを作ってもらったんだ」
古泉「カレーですね」
キョン「レトルトを暖めてもらったのか?」
>いや、カレー粉からつくっていたな。
キョン「……うまかったか?」
古泉「ええ。それはもう」
>かなりおいしかったと伝えた。
キョン「エプロンは」
古泉「していましたね」
キョン「……」
古泉「ついでに言うなら長門さんも」
キョン「……」
617:
>キョン?
キョン「うおおおおおおおおっ!!」
キョン「どうして! 俺は! そこにいなかったんだッ!」
>キョンが地面にひざをついてくず折れている。
>濡れるぞ。
キョン「俺もまだ! 手料理なんて食べていないのに!
 それどころかエプロン姿も見ていないのに!」
キョン「ましてや長門のエプロン姿なんてッ!」
>キョンは、地面を叩いて悔しがっている。
>そっとしておこう……。
古泉「……ですね」
キョン「そっとしておくな!」
……

>とりあえずキョンを起こしみくるたちのところへもどった。
みくる「だ、大丈夫?」
キョン「え、ええ。少し精神的なダメージを受けただけです」
古泉「そういえば、涼宮さん遅いですね。
 もうそろそろ45分になりますが」
みくる「そうですねぇ……」
618:
キョン「なにか事故にでもあってるんじゃないだろうな」
>いや、どうやら来たようだ。
ハルヒ「遅れてごめんごめんっ!」
古泉「いえ、時間ぴったりですよ」
キョン「時間ぎりぎりなんて珍しいな。どうしたんだ」
ハルヒ「ん? 出てくるときに明日の朝食の用意するのを忘れてたこと思い出してたのよ」
ハルヒ「それで準備をしてたらこんな時間になっちゃったってだけね」
キョン「ハルヒも大変だな」
ハルヒ「なにせこんな深夜にSOS団の活動をするなんて初めてだからねっ!
 あたしもちょっと興奮してたのよ」
>ハルヒはうれしそうだ。
ハルヒ「さあ、いくわよ! 待ってなさい、マヨナカテレビ!」
>ハルヒの号令で、校舎へ侵入するべく動き出した。
………
……
619:
>無事、校舎内に侵入できたようだ。
>灯りのない校舎はどこか不気味だ……。
ハルヒ「みんなちゃんと靴はビニール袋に入れた?」
みくる「はぁい」
キョン「ああ」
ハルヒ「古泉くん! 懐中電灯!」
古泉「こちらに」
>ハルヒが懐中電灯を灯す。
古泉「皆さんもどうぞ」
キョン「ありがとさん」
>各々が懐中電灯を灯していく。
みくる「よ、夜の学校ってなんだか別の場所みたいですねぇ……」
ハルヒ「それがいいんじゃない!」
キョン「なんか、そうだな。
 なんて言ったらいいかわからんが懐中電灯の明かりだと余計に不気味に感じるな」
>わかる気がする。
キョン「だろ?」
古泉「できる限り足元を照らすことをオススメします。
 足元はよく見ないと危険ですし、光が外から見つかりにくいですしね」
ハルヒ「さ、まずは上履きを取りにいきましょ」
>そういってハルヒは歩き出した。
620:
>夜の学校に、自分たちの足音だけが響く。
ハルヒ「……」
>ハルヒは不思議そうな顔をしている。
 どうしたのだろうか。
ハルヒ「あ、ううん。なんでもないの。
 昔見た夢を思い出していただけだから」
>夢?
ハルヒ「ええ。いきなり学校に飛ばされた夢をみたことがあったの。
 それでそのときの学校の雰囲気とこの夜の学校の雰囲気がちょっと似てるなって思っただけ」
キョン「……」
古泉「ふふ」
みくる「……」
長門「……」
>なにかワケありのようだ。
621:
ハルヒ「ま、でも所詮夢は夢だからね。
 あたしがほしいのは夢のような現実! さあ、上履き履いて視聴覚室に行きましょ!」
キョン「そういうこった。夢なんて気にしてもしょうがない」
ハルヒ「時間があれば、深夜の校舎の探索もしてみたいんだけどね」
キョン「やめておけ。12時までもう時間がないぞ」
ハルヒ「わかってるわよ。さっさと回収していきましょ。
  深夜の不思議探索はまた今度にするわ」
キョン「また今度ってことは結局やるのか……」
ハルヒ「当然じゃない。こんなに不思議の匂いがぷんぷんするのにやらない理由はないわ」
キョン「やれやれ、それならせめて雨の降っていないときに頼むぜ」
ハルヒ「そうね、考えておくわ」
ハルヒ「うん。それもまた楽しみね!」
>ハルヒは深夜探索を決意したように言っている。
>1年生の上履きを回収し、2年の昇降口を回り視聴覚室へ向かった。
……

634:
――視聴覚室前。
ハルヒ「ついたわね。今何分かしら」
古泉「53分ですね。あと7分ほど余裕があるかと」
ハルヒ「まあ、よかったわ。
 あまり時間が余っちゃうとだれるかもしれないし」
>ハルヒが合鍵を使い、視聴覚室の扉を開けた。
>やはりここも不気味なほど静かだ。
キョン「ま、そら深夜だからな。逆に騒がしかったらそれこそホラーだぜ」
ハルヒ「それはそれで面白いかもね。
 でも、今騒がしくなってもマヨナカテレビ優先かしら」
>ハルヒはそうとうに楽しみのようだ。
――視聴覚室。
>懐中電灯の光がちらちらと視聴覚室内を動き回る。
ハルヒ「うーん、特に今は何も異常はないわね」
>ハルヒはなにかないか探し回っている。
キョン「落ち着いて待ってろ。あとどれくらいだ? 古泉」
古泉「あと、3分ほどですかね」
635:
みくる「ど、ドキドキしてきました」
長門「……期待している」
ハルヒ「あら? 有希がそんなこというなんて珍しいわね」
長門「そう」
ハルヒ「でも、ま。そうね。そろそろテレビの前で待機しましょ」
>ハルヒがテレビの前へ移動した。
キョン「おい、古泉」
古泉「はい?」
>キョンと一樹はなにか顔を近づけて話をしている。
キョン「で、なにをしたんだ」
古泉「なに、とは」
キョン「どうせお前のことだ。なにか仕掛けてるんだろ?」
古泉「ふふ、察しがよろしいですね」
キョン「お前が何もしないはずないからな」
古泉「お褒めにいただき、光栄ですよ。
 僕のしたことは、至極単純なことですよ。
 DVDロムをセットしただけです。読み込みのできない、ね」
キョン「褒めてなんかない。だが、なるほどな」
>キョンは何か納得したように一樹から離れた。
636:
ハルヒ「ほら、あんたらもこっち来なさい!
 もうそろそろ時間でしょ!」
古泉「ええ、すみません。あと1分ですね」
>ぞろぞろと全員がテレビの前に集まった。
>誰に合わせるわけでもなく全員が押し黙る。
>全員が真っ暗な画面を見つめ、雨の音だけが響いている……。
>時計に眼を落とす。
>もう、時間だ。
>5、4、3、2――。
キュィィィン……ガガガガガ。
「「「!!」」」
>!! このラジオのチューンをあわせたときのようなノイズ音は……!
>砂嵐とともに何かの映像が画面へ映りこむ。
ハルヒ「う、映った! 映ったわよ!!」
>ハルヒは興奮気味に画面を指差している。
637:
キョン「おいおい、マジかよ……」
古泉「ほう……」
みくる「え、まさか、え?」
長門「……」
>徐々に画面がクリアになっていく。
キョン「こ、これって」
>どうやら、子供――少女が一人こちらを見つめるように佇んでいる。
>……? みたことのあるような気がする……。
ハルヒ「え、あ、あたし? ど、どういうことなの?」
>今とは違うロングヘアーであるものの、トレードマークの黄色いカチューシャがはっきりと見て取れる。
>顔つきも幼いながらハルヒの面影を持ち合わせていた。
キョン「古泉!」
古泉「し、知りませんよ、僕は、こんなもの……!」
>一樹が激しくうろたえている。
???「こちらへ来なさい。あなたがほしかったもの、すべて教えてあげる」
>画面の中の少女がこちらに話しかけてきた……!
643:
ハルヒ「これ、誰かのいたずら?」
キョン「そんなわけあるかっ!」
???「教えてあげる、この世の全てを。この世の真理を」
???「あなたの全てを」
ハルヒ「じゃあ、これなんなの? CG、じゃないわよね。誰のイタズラ?」
>……? ハルヒが思いのほか冷静だ。
???「ふふ、そうよね。それが『涼宮ハルヒ』だもの」
ハルヒ「あたしの名前を呼んだ……? ずいぶん手の込んだイタズラね」
???「イタズラなんかじゃないわ」
ハルヒ「え! じゃあ、本当に怪奇現象!?」
>ハルヒは無邪気に喜んでいる。
ハルヒ「みんな! やったわ! ついにこの日が!
 SOS団が不思議をはじめてはっけ――」
>ハルヒが画面に触れようとし、そして――。
ハルヒ「え?」
ドプン
644:
キョン「おい、ハルヒッ!」
ハルヒ「きゃああああああっ!」
>ハルヒがテレビ画面に飲み込まれてしまった!
???「ふふ、じゃあね。"これ"は、あたしがもらっていくわ」
プツン
>マヨナカテレビが消え、一瞬の静寂が訪れる……。
キョン「ハルヒッ!!」
>キョンが画面に手を伸ばした……が。
ガンッ!!
キョン「ってぇ! な、な……!? どうなってやがる!?」
>画面は普段と変わらないまま、平面を保っている。
キョン「長門ッ!」
長門「わたしは接続を行っていない」
>どういうことだろうか。
645:
長門「異空間へ接続は調査時以外に断っている。
 だから、涼宮ハルヒが飲み込まれた瞬間も、今も、わたしは接続していない」
古泉「ということは、あの画面の向こうの少女が?」
長門「そう考えざるをえない」
みくる「じゃあ、じゃあ、涼宮さんは……」
古泉「画面の向こうの少女に招かれたということでしょうか」
古泉「というより、あの少女は……」
キョン「古泉ッ! そんなことはどうでもいい!」
キョン「ハルヒを助けに行く! 今はあれこれ考えている場合じゃない! そうだろう、番長!」
>ああ、その通りだ。
>だが、一度落ち着け。
キョン「落ち着け? この状況で落ち着けだと!?」
>画面の向こうの少女は、明確にこちらを意識して話しかけ、意思の疎通を行ってきた。
>こんなこと、自分のいたところでもなかったことだ。
古泉「つまり、番長氏であっても未知の存在であるということですか?」
>ああ。
646:
>ハルヒの影、ならばどうにかできるかもしれない。
>だが、ハルヒはまだこちら側にいた。
みくる「それってつまり……」
長門「涼宮ハルヒの影でない可能性がある」
>そういうことになる。
>だから、もし戦闘になるようなことがあれば、自分でもどうなるかわからない。
キョン「……」
>有希の影のときのように、守りながら戦うこともできないかもしれない。
>はっきり言おう。戦うことになれば、かなり危険だ。
>それでも、いくか? キョン。
キョン「……番長」
>キョンは深呼吸し、自分をまっすぐに見据えた。
キョン「愚問だ、愚問すぎる。
 俺はSOS団雑用係、団員その1だぜ。
 団長様を――ハルヒを助けに行く理由なんて、それだけで十分だ」
>キョンの覚悟が伝わってくる。
647:
>もう、大丈夫みたいだな。
キョン「ああ」
キョン「だけど……ありがとよ。
 番長の言うとおり、目の前で起こったことが信じられなくてパニックになっていた」
みくる「ふふ、よし。いきましょうか」
キョン「朝比奈さん、残ってもらっていいんですよ。番長の言ったとおり危険かもしれませんし」
みくる「うふ、あたしは副々団長ですよ? 助けに行く理由はそれだけで十分ですよね?」
キョン「朝比奈さん……」
古泉「では、副団長の僕が行かないわけにはいきませんね」
キョン「お前は、言わなくても来る気だっただろう」
古泉「おや、ばれていましたか」
キョン「……それにお前が、そんな薄情なやつだとは思っていないんでね」
古泉「ふふ」
キョン「長門」
長門「団員その2」
キョン「ああ、わかっているさ。
 ……番長のこと、頼んだぜ。戦いになったら俺じゃ力になれない」
>キョンは悔しそうだ。
648:
長門「……任せて。わたしが守る。あなたも、彼らも」
古泉「微力ながら僕もチカラを行使できますから。
 身を挺すればお守りすることくらいならできるかもしれませんが、あまり期待しないでください」
キョン「自分のケツくらい自分で持てるようにするさ。いざとなったら躊躇なく見捨ててくれ」
古泉「僕も見捨てていただいて構いません。番長氏も、長門さんも」
みくる「足手まといになるようでしたら、あたしもそれで構いません」
キョン「……朝比奈さんは守ってやってくれ、番長」
>全員覚悟はできているようだ。
>よし、行こう。
長門「接続する」
>テレビの中へ潜っていった。
……

649:
――テレビ内部。
>これは……。
>様子が様変わりしている。
キョン「こりゃあ……」
みくる「なんですか、これ……?」
>灰色の平面。灰色の空。これは……。
古泉「閉鎖空間……? いや、違う」
>後ろには灰色がかった北高の校舎がそびえている。
みくる「あ、あれ? ここ、北高の昇降口までの通路ですよね?」
キョン「え、ええ。この石畳は間違いなく、俺らがほぼ毎日歩いているところですよ」
キョン「さっきまで、視聴覚室にいたよな?」
長門「ここは、間違いなくあの部屋だった場所」
古泉「ということは」
>ハルヒがこの中へ入ったことで変化したのだろう。
>校庭へと目を向ける。遠目に2人の人物が見えた。
>片方の人物がなにか、叫んでいる。
650:
ハルヒ「アンタ、一体なんなのよ! それにここはどこなの!?」
???「うふふ」
ハルヒ「それに、アンタがいったあたしのほしいものってなんのことをいってるの!?」
キョン「ハルヒ!」
>ハルヒはどうやら無事のようだ。
???「やっぱりきたのね、うふふふ」
ハルヒ「え、あ。キョン……それにみんなも」
>ハルヒの元へ駆け寄る。
キョン「ハルヒ、無事か?」
ハルヒ「え、ええ。ここに来たときに思いっきりお尻打ったけど」
キョン「そうか……よかった」
ハルヒ「よくないわよ、痛かったんだから」
ハルヒ「それより……ねぇ、キョン。ここ――」
???「役者は、揃ったわ」
>ハルヒに似た少女が口を開く。
651:
???「みなさま、はじめまして。涼宮ハルヒです」
>金色の瞳を光らせ、目の前の少女は恭しく挨拶をした。
ハルヒ「いい加減にしなさいよ! 涼宮ハルヒはあたし! アンタは誰なの?」
???「だから、わたしは涼宮ハルヒそのもの」
>お前は、ハルヒの影なのか?
ハルヒの影(?)「影……ひどい言い方するわね。でも正解かもしれない」
ハルヒ「番長くん、何か知ってるの? 知ってるなら教えなさい!」
古泉「……涼宮さん、あとでしっかりご説明しますよ。今は番長氏に任せてください」
ハルヒ「古泉くんも、何か知っているのね」
古泉「ええ、ですが……」
ハルヒの影(?)「うふふふ」
ハルヒ「……わかったわ。こいつはあたしに話す気はないみたいだし。今は任せるわ」
ハルヒの影(?)「そんなことないわよ。今からしっかり話してあげる」
ハルヒの影(?)「言ったでしょう、役者は揃ったって。
  番長くん、もう一度さっきの質問に答えるわ」
ハルヒの影(?)「あたしは、3年前に押さえつけた涼宮ハルヒ。
  本当の涼宮ハルヒ」
652:
>3年前……?
ハルヒの影(?)「そのことに関しては後ろの3人のほうが詳しいかもね」
古泉「……」
みくる「……」
長門「……」
ハルヒ「ど、どうしたのよ、3人とも。怖い顔して」
古泉「どういうこと、でしょうか」
ハルヒの影(?)「うふふ、ちゃあんと教えてあげる」
ハルヒの影(?)「なぜ超能力に目覚めたのか、なぜ3年前以前に遡行できないのか、なぜ情報フレアが起こったのか」
ハルヒの影(?)「ちゃあんと教えてあげるから」
古泉「……!」
みくる「なん、なんでそのこと」
長門「……」
ハルヒの影(?)「ふふ、怖い顔しないでよ。あたしは当然のように知ることができる。
  だってそういう"能力"だから。知りたいと願っただけ」
>あなた達ならわかるでしょう、といわんばかりに微笑んでいる。
653:
ハルヒ「? なに? なんのこと?」
ハルヒの影(?)「きっかけは、3年前。たいしたことじゃなかった。
   あたしがちっぽけな人間だと気づいて、世界が退屈に染まったように見えたあの日。
   たしか春先のできごとだったかしら。桜が散り始めていたのを覚えているわ」
キョン「……」
ハルヒの影(?)「いつもと同じ登校風景。憂鬱で、陰鬱で、絶望的な気分だった。
   だからあたしは、面白い人を探そうと思った。
   日本中の、世界中のどこかにきっといるんだって信じて疑っていなかった」
 
ハルヒの影(?)「そんな人を探すにはたくさん時間が要る。日本全国に足を運ばないといけないだろう。
   だから早く夏休みになってほしい。夏休みになったら探しに行こう、そんなことを思いながら登校していたわ」
ハルヒの影(?)「楽しいことになるかもしれない。わくわくしていた」
ハルヒの影(?)「でもその途中で気づいたの。日本中を探し歩くにはオカネがたくさんいる。
   バス代や電車代、泊まるところ……もらっているお小遣い程度じゃ、ちっとも足らないって思い当たったわ。
   両親にいっても、きっとお金はくれないだろう。子供の一人旅なんてなおさら」
ハルヒの影(?)「また目の前が真っ暗になった気がした。
   あたしにはなにもできない。結局ちっぽけな人間で、ちっぽけな子供。
   楽しいことは起こらない。楽しいことを探すこともできない」
  
ハルヒの影(?)「ああ、なんてつまらないんだろう。せめてもし、目の前にお金が落ちていたら――」
ハルヒの影(?)「次の瞬間ふと、落ちていた封筒に眼が奪われた。眼が離せなくなった。
   よくみると中から、何枚もの1万円札が見えていたわ」
ハルヒの影(?)「あたしは歓喜した。警察に届けようなんて微塵も思わなかった。
   なんでこんなところにお金があるのかなんて疑念もまったくなく、心は喜びで満ち溢れていたわ」
ハルヒの影(?)「そのお金を拾って学校へ登校した、はやく夏休みになれと願いながら」
654:
古泉「まさか……」
ハルヒの影(?)「ふふ、古泉くんは察しがいいわね。そのまさか」
>ハルヒの影(?)は、なぜか楽しそうだ。
ハルヒの影(?)「最初は意味がわからなかったわ。お金を拾った喜びのあまり自分の頭がおかしくなったのかと思った。
  なにせ、学校についた途端、終業式が始まったんだからね」
ハルヒの影(?)「でも周囲はなんの疑問も持っていない。わけのわからないまま帰路についた。
   やけに暑い。まるで夏。そしてその帰り道に決定的な違和感に出会ったの」
ハルヒの影(?)「登校したときには淡いピンク色に染まっていた桜の木がね、全部青々とした若葉に変わっていたのよ」
ハルヒの影(?)「もしかして風で全部散ってしまったのかも。そう思って地面を見たわ。
   でも桜の散った形跡もまるでない。1枚たりとも桜の花びらは落ちていなかった」
ハルヒの影(?)「急いで家に帰ってテレビをつけたわ。ワイドショーがいってた日付は7月21日。
   まさしく終業式の日だった。
   新聞も、ラジオも、雑誌も。あらゆるマスメディアが7月21日をアナウンスしていた」
ハルヒの影(?)「はじめは面白いことを探しに行くことも忘れて恐怖に震えていたけれど、
   あたしの周りで起こる奇怪な現象に法則があることに気付いた」
キョン「それって……つまり」
ハルヒの影(?)「そう。すべてあたしが願ったことが起こっていたのよ。
   そこからは時間は掛からなかった」
>ハルヒは自分の能力を知っていた……?
>だが、今のハルヒは。
ハルヒ「?」
>なにをいっているのかさっぱりわからないといった様子だ。
655:
みくる「どういうことなんでしょう……」
長門「……」
ハルヒの影(?)「どうしてあたしにそんなチカラがあったのかはかわからない。
   でもそんなことはあたしに関係なかった」
ハルヒの影(?)「"能力"を自覚した瞬間、あたしの中の世界が一気に広がった気がしたわ。
   思いつく限りの面白いことをあたしはやった」
  
ハルヒの影(?)「だけど幼いあたしにとっては喜びだけじゃなかった。
   思いつく限りの面白いことは、経験した瞬間から徐々に"普通"へ、そして"つまらないこと"へと成り下がっていく……。
   目の前に現れるのは望んだ面白いことだったはずなのに、実際はつまらないものが増えていくだけ……」
ハルヒの影(?)「色んな感情が入り混じってどう表現していいかわからなかった」
  
ハルヒの影(?)「恐怖、悲哀、憤慨、驚愕、歓喜、驚喜、狂喜、狂気――。
   感情のタガが外れて暴走を始めた。なにか熱いものが身体中を駆け巡って、噴出したような気さえした」
長門「それが、情報フレア」
古泉「能力の自覚が引き金となったというわけですか」
ハルヒの影(?)「そうなるわね。普通に考えたらこんな"能力"一人の人間が制御できるわけないのよ。
   なにせ願うだけ思うだけ……思ったら勝手に発動してしまう。その場限りの感情的な願いでさえ発動してしまう。
   何度も何度も誤発動をしたわ。そのたびに修正した。何度も時間も巻き戻したし進めた」
ハルヒの影(?)「どれを修正したらいいのか、何処を修正したらいいのか、いつを修正したらいいのか、どの時間を修正したらいいのか。
   どんどん解らなくなっていった。はっきりいって気が狂いそうだったわ。ううん、もうそのときには気が狂っていたのよ。
   なにせ一度時間の概念すら破壊したからね。なにかもかもやけっぱちになって」
みくる「じゃ、じゃあ、それが過去に遡行できない原因を作った時空震……?」
ハルヒの影(?)「かもね。でもそのあとちゃんと作り直したわよ。ちゃんと今も時間の概念はあるでしょう?」
>ハルヒの影(?)はあっけらかんと言い放つ。
656:
ハルヒの影(?)「"能力"に制限をかけようとしてもうまくいかない。あたしの感情を消そうとしてもうまくいかない。
   どうやら、あたし自身にはこのチカラは掛かりにくいようだった」
ハルヒの影(?)「その後からは感情を押し殺して生きるようになった。
   "能力"の発動は感情に大きく左右されることをそのときには、あたしは知っていたからね」
古泉「……」
長門「……」
>以前一樹と有希が言っていた自身に能力が掛かりにくいというのはあたっていたようだ……。
ハルヒの影(?)「だけど、そんなことでこの"能力"を押さえつけることなんてできるはずがなかった。
   ふとしたことで誤発して、泣きながら修正する日々……しんじゃえって思っただけで両親が亡くなったときは絶望だったわ」
>金色の眼がさらに怪しく光る。
ハルヒの影(?)「もう、うんざりだった。もし世界をまるごと作り変えても、きっとなにも変わらない」
ハルヒの影(?)「なら、あたしが変わるしかない。でもあたしに能力は押さえつけられない」
ハルヒの影(?)「この袋小路で解決する方法をあたしは探したわ。
   その中で得たひとつの結論……あたしが、あたしでなくなればいい」
ハルヒの影(?)「あたしの中に『なにも知らないもう一人のあたし』の人格を作り出した。"能力"を抑えるための外殻。
   ……作ったというより、なにも知らなかったあのころのあたしを呼び戻したといったほうがいいかもしれないわね。
   あたし自身にかけられる能力の限界がこれだった」
ハルヒの影(?)「それが、あなたよ」
ハルヒ「あ、あたし?」
>ハルヒが、震えている……?
657:
ハルヒの影(?)「もう一人の人格を表層へと押し上げ、あたし自身は奥底へと押し込めた。
   だけど、それでもこの"能力"は外へ漏れでていく。あなたが感情を強く発露すればするほどね」
ハルヒの影(?)「漏れ出るこの"能力"の逃げ場所として、あたしはある場所を作り出した」
古泉「それが、閉鎖空間というわけですか」
ハルヒの影(?)「そういうこと。漏れ出る能力の全てを閉鎖空間へ追いやることはできなくても
   この世界へ大きく影響を与えそうな、修正をしなければならないようなものを追いやることはできた」
古泉「……神人は、その能力が具象化したものということですね」
ハルヒの影(?)「正解」
ハルヒの影(?)「閉鎖空間とあなたたちが神人と呼ぶものは、願望の集積物――つまり不発に終わった"能力"」
ハルヒの影(?)「でも追いやったからといって放置をしていたら、微弱とはいえいずれ閉鎖空間から噴出してしまう。また泣きながら世界を修正しなければならない。
   神人として具象化しているといえど、あたし自身の能力を押さえつけることはできないからね。
   そうしたら、あたしがしてきたことは全て水の泡」
古泉「そこで、僕たちに超能力を与えたわけですか」
ハルヒの影(?)「ええ。与えたというより目覚めさせたというべきかしら。
   この天啓としかいえない曖昧なものを理解して、神人退治を確実に行ってくれるような人物や性格に該当する人たちを選んだわ」
古泉「……創ればよかったのでは。神人を倒してくれる人物を、超能力をつけて」
ハルヒの影(?)「何度も言ってるように、あたし自身に能力は掛かりづらいの。
   あたしの造ったモノじゃ、結局はあたしの能力をあたし自身で押さえつけているようなものでダメなのよ」
ハルヒの影(?)「あくまで、あたし以外のほかの誰かでないとダメなの」
古泉「そう、ですか。僕は、僕たちは造られた人形ではなかったのですね……」
658:
ハルヒの影(?)「どう? 納得できた?
   なぜ超能力に目覚めたのか、なぜ3年前以前に遡行できないのか、なぜ情報フレアが起こったのかを」
古泉「……」
みくる「……」
長門「……」
>ハルヒの影(?)が話し終えると沈黙がその場に横たわった……。
ハルヒ「ちょ、ちょっと! なにいってるのか全然わからないわよ!
 あたしが、あんたに作られたですって? そ、そんなわけないじゃないっ!」
ハルヒの影(?)「そうよね、わからないわよね。"そういう風に"構築したんだもの。うふふふふふふ。
   でも、あなたは本能で理解してしまっているはずよ、本当のことだって。だって震えているもの」
ハルヒ「う、うっ……」
>ハルヒはガタガタと震えている。
キョン「このハルヒが、お前に作られた人格だと? ふざけるなよ」
キョン「ハルヒはハルヒだ! お前のほうが偽者だろうが!」
ハルヒの影(?)「ひどいこというわね、キョン……」
659:
ハルヒの影(?)「そもそもみんなは不思議じゃなかった?
   この『涼宮ハルヒ』が、あれほど不思議を望んでいる『涼宮ハルヒ』が、
   目の前であれほど不思議なことが起こっているのに頑なに信じようとしなかったことを」
古泉「……」
みくる「……」
長門「……」
ハルヒの影(?)「桜のあまりにも不自然な狂い咲き、不自然な台風の到来、不自然な猛吹雪。
   違和感だらけの映画撮影、違和感だらけの野球大会、そして極めつけはこの場所……。
   これだけ要素が揃っていて、どうして不審に思わなかったのかしら」
キョン「そりゃあ…………ハルヒが常識人だからだろう」
ハルヒの影(?)「うふふふふ……キョンは、この場所を覚えているでしょう?」
キョン「……ああ」
ハルヒの影(?)「もし、キョンがなんの前情報もなく、あの状況に陥ったらどう思うかしら」
キョン「…………そりゃ、夢だとおもうだろう」
ハルヒの影(?)「嘘ね。どんなに荒唐無稽な現実でも、夢と現実の感覚を取り違えることはありえないわ。
   精神的に病んでいない限り、夢を現実と取り違えることがあっても、現実を夢と取り違えるなんてまずない」
ハルヒの影(?)「『涼宮ハルヒ』もあの日キョンに言われたことは現実だと思っている。
   その証拠に、その『涼宮ハルヒ』はあの次の日、何をしてきた?」
キョン「……ポニー……テール」
660:
ハルヒの影(?)「そう。その通り。じゃあキョン、改めて訊くわ。
   あなたの知っている『常識人の涼宮ハルヒ』は、
   もしも夢で男に言われたからといって、それを真に受けて、実際に行動に移すような馬鹿な女かしら?」
キョン「……!!」
ハルヒ「ど、どういうこと?」
ハルヒの影(?)「だけど、実際にはあの不思議現象をまったくの夢だと断じてしまっている。
   キョンに言われたことは現実として認識しているにもかかわらずね」
ハルヒの影(?)「つまり、あなたは信じられないようになっているの。
   目の前でいくら不思議なことが起ころうともね。
   もしそこに疑惑を持ってしまえば、"能力"の自覚へと繋がる」
ハルヒの影(?)「だから『涼宮ハルヒ』は不思議現象への認識が不自然なくらい盲目的になっているのよ」
ハルヒの影(?)「それこそが、作られた人格という証左に他ならない。
   悲しいわね」
>ハルヒはわけのわからないといった表情をしているが……。
>ほかの4人はあまりの事に絶句している。
ハルヒの影(?)「でも、それでも、ここは心に引っかかりを覚えていたみたい。
   心象風景としてここまではっきり映し出されるなんて。やっぱり現実離れしすぎていたからかしら」
>やはりこの空間の変化は、ハルヒがここに入ったからか……。
682:
ハルヒ「じゃ、じゃあ、あのときのことって」
ハルヒの影(?)「ええ、夢じゃないわ」
ハルヒ「そんなの、そんなの信じられるわけないじゃない!」
ハルヒの影(?)「ここまできてもまだ信じないなんて。
  あたしが作ったとはいえ、どこまでも哀れね」
キョン「てめぇっ!」
>待て、キョン。
キョン「なんだ、番長!」
>こいつに、聞きたいことがある。
キョン「聞きたいことだ?」
>……なぜそんなことをハルヒに伝えた?
ハルヒの影(?)「なぜって? うふふふ」
みくる「そ、そうですよ! あなたの行動は矛盾しています!」
古泉「ええ、朝比奈さんの仰るとおりです。
 なぜ、涼宮さんに能力を自覚させるようなことを促したのですか」
683:
ハルヒの影(?)「そんなの決まっているでしょう?」
ハルヒの影(?)「もう、外殻に頼る必要なんてないからよ」
ハルヒ「必要、ない?」
ハルヒの影(?)「あたしがただ外殻に全て任せて、心の奥底に沈んでいったと思うの?」
>どういうことだ。
ハルヒの影(?)「あたしがこの"能力"を抱えたまま沈んでいったのは、人生から退場するためじゃない。
   目的はただひとつ。『面白い人生をおくること』。
   そのためにこんな面白い"能力"を完全封印することは、あたしの意図するところじゃない」
ハルヒの影(?)「だからあたしはずっと模索してた。この"能力"を制御する方法をね」
古泉「それを見つけたというのですか?」
ハルヒの影(?)「残念ながら完全に掌握する方法は見つからなかったわ。
   でも誤発した"能力"をある程度処理するシステムは作り出せた」
ハルヒの影(?)「――それが、SOS団」
キョン「……なんだと」
684:
ハルヒの影(?)「突発的な、意図しない"能力"の置き場所である閉鎖空間。
  そしてその処理をする古泉くんたちの機関」
ハルヒの影(?)「もし不都合が起きても、時間遡行で修正ができるみくるちゃんたち、未来の組織」
ハルヒの影(?)「それに加えて、その二つをサポートできる存在。
  さらにはあたしの"能力"が万が一暴走しても、"能力"を受け入れる耐性をもち"能力"を一時退避させる器となれるもの。
  有希たち、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースと情報統合思念体」
ハルヒの影(?)「ね、素敵なシステムでしょう?」
古泉「……ふざけていますね」
みくる「あたしたちをまるで道具扱い……じゃないですか!!」
長門「不愉快」
ハルヒ「なによ、どういうことなのよ……古泉くんが超能力者? みくるちゃんが未来人? 有希が宇宙人?
 もう全然わかんない。わかんない……」
ハルヒの影(?)「そして、あたしとそこの外殻を逆転させる。今度はあたしが表層へ戻り、その『涼宮ハルヒ』を奥底へ押し込める。
  その『自覚をしない器』に"能力"を押し込むことで、あたしの願望と能力の発動を直結させずにすむようになるの。
  そうすれば全てとはいかないまでも、能力を制限することができる」
ハルヒ「ひっ」
ハルヒの影(?)「不意の発動は、さっきも言ったように処理システム『SOS団』がなんとかしてくれるもの。
  ふふふふ、どう? これがあたしの計画! これでようやくあたしは素敵な人生が送れるようになるの!」
685:
ハルヒの影(?)「SOS団の名前は、そこの外殻が決めたことだけど素敵な名前だと思っているわ。
  なにせこうやってあたしの『SOS』を聞き届けてくれたんだから!」
キョン「てめぇ……!」
ハルヒの影(?)「だけどね、それだけじゃ足りない。もっとも重要なものが欠けている」
ハルヒの影(?)「それがキョン、あなた」
キョン「俺、だと?
 ふん、この平々凡々な俺がお前なんかのふざけたシステムに役に立つとは思えないね」
ハルヒの影(?)「くふふふふ……その『平々凡々』が重要だって言ってるのよ」
キョン「はあ? 意味がわからん」
ハルヒの影(?)「あたしの最大の失敗はね、"特別"を"普通"へと自分の認識を変化させてしまったこと」
ハルヒの影(?)「いくら"能力"をつかって"楽しいこと"を起こしても、それが"普通"になっていったら意味がない」
>そんなことは、ずっと続けば誰だってそうだろう。
ハルヒの影(?)「ふふふ。それがね、キョンは違うのよ」
キョン「何を言ってやがる……?」
ハルヒの影(?)「キョンはね、"特別"を"特別"と認識し続けることができるの」
686:
ハルヒの影(?)「普遍が普遍であるということを認識し続け、自らの普遍を保ち続けることのできる存在。
  自己や現環境を相対化ではなく"絶対の普遍"として認識できる存在。
  "普通とはなにか"を認識し続けられる"特殊"な存在」
ハルヒの影(?)「それがキョン。あなたなのよ」
キョン「意味がわかんねぇ。そんなもん、誰だって普通と特別は分けられるだろうが」
ハルヒの影(?)「そんなことないわ。一度認識してしまった特別は普遍へと変遷していく」
ハルヒの影(?)「キョンはまだ、超能力者や未来人や宇宙人いることを特別なことだって認識しているでしょう?」
キョン「そんなこと当たり前だろう。誰だってそうだ。一般人てのはそういう特殊な属性を持ってないやつのことだからな」
ハルヒの影(?)「それが当たり前じゃないのよ。一度認識してしまえば、いることが当然になってしまう。なんら特別なことじゃないってね。
  超能力者は当然いる、未来人は当然いる、宇宙人は当然いる。目の前の存在以外にも当然いる。
  確たる存在としてこの世界を構成している一要素と考えてしまう。そうでしょう? そこのお三方?」
古泉「……」
みくる「……」
長門「……」
ハルヒの影(?)「いくら特殊なことでも本来ならば時間が経つにつれ、普遍という認識は色濃くなっていく。
  だけどキョンはいまだに特殊の中にいるという認識を保っていられている。
  約1年という時間をSOS団なんて"特別"と一緒にすごしているにもかかわらず、ね」
687:
ハルヒの影(?)「つまり、キョンは"絶対普遍"という"特殊"なのよ。
  こんなもの、本来の普遍的環境にいたら絶対にわからない。だからまったく目立っていなかった。
  でも、みつけた。見つけられた。うふふふふ」
>ハルヒの影(?)は怪しく笑っている……。
キョン「……おまえがどうしても俺を変人だと位置づけたいのは1万歩、いや100万歩譲って理解した。
 だけどそれがどうした。だからどうしたとしか言えん」
ハルヒの影(?)「だからねキョン、あなたも一緒に取り込むのよ。その外殻と一緒にあたしの中へね。
  あたしとキョンはひとつになるの。嬉しいでしょう? キョンの存在はこの世から消えるけどいいわよね」
キョン「ふざけんな! はい、そうですかなんていうわけあるか!」
ハルヒの影(?)「ま……キョンがなんていっても関係ないけどね。もうこれは決定事項」
ハルヒの影(?)「キョンの"絶対普遍"を取り込むことができれば、あたしはいつまでも"面白いこと"を認識し続けられるわ!
  超能力者がいることは特別、未来人がいることは特別、宇宙人がいることは特別、ってね!」
ハルヒの影(?)「SOS団という能力制御システムをつかい、キョンという普遍を取り込んで!
  それでようやくはじめることができるのよ! あたしの退屈しない人生を!」
ハルヒの影(?)「今から楽しみで楽しみでしょうがないわ!
  うふふふふ、くふふふふふ、あは、あはは、あはははははははっ!!!」
>ハルヒの影(?)は恍惚の表情を浮かべている。
688:
古泉「……そんなものに、僕たちが手を貸すと思っているのですか?」
みくる「そ、そうです! あなたのためなんかにあたしは、あたしたちは協力しません!」
長門「あなたに協力する気は一切ない」
ハルヒの影(?)「ふう、わかってないわね。あなたたちの意思なんて関係ないのよ」
ハルヒの影(?)「記憶も、認識もこの"能力"を使って書き換えればいいだけだから。
  元からいた『涼宮ハルヒ』があたしであるように書き換えるだけ。簡単でしょう?」
ハルヒの影(?)「あなたたちは以前と同じように過ごすだけよ。あたしは外殻が培った友情を利用させてもらうだけ。
  あたしのために、あたしの面白い人生のために働くの。気付かないうちにね
  ここで起こったことはすべて忘れて」
ハルヒの影(?)「そうすればあなたたちも快く協力してくれるでしょう?
  だって、あなたたちの大好きなSOS団だもの」
古泉「くっ。それを容易く行えると?」
ハルヒの影(?)「…………ええ。そうね」
古泉「あなたは、涼宮さんの持つ願望実現能力そのものというわけですか」
ハルヒの影(?)「そういうことかしらね」
>すべてはお前の力の前に踊らされていたというわけか。
ハルヒの影(?)「ふふ……でもね、あたしだけじゃこうはできなかった。
  能力を押さえつけることばかり考えて、心の奥底に行き過ぎたのよ」
689:
ハルヒの影(?)「この計画を思いついて表層へ戻ろうと思ったわ。
   でも自力で復帰することができなくなっていた。このチカラを押さえ込むにはそれくらい深く深く封じるしかなかった」
ハルヒの影(?)「だから、ここから抜け出すために心の深部へアクセスして外界とつなげることのできる能力を持った存在を呼び寄せたの」
キョン「……! それは、つまり」
長門「……彼」
ハルヒの影(?)「そう、番長くんってわけ」
>……!!
古泉「異世界にいた無関係な番長氏まで、利用したというわけですか……!」
みくる「……許せないですっ!」
ハルヒの影(?)「仕方ないじゃない。それしか方法がなかったんだから。
   でも、嬉しかったんじゃないの? 番長くんはこんなに素敵な人だったんだから。
   あたしにとっても、あなたたちにとっても。くふふふふふふふ」
古泉「……あなたは神経を逆なでするのが得意なようですね」
キョン「今まで生きてきた中で、これほどまではらわたが煮えくり返っているのは初めてだ」
古泉「奇遇ですね。僕もです」
ハルヒの影(?)「そこの外殻も新たな刺激を欲していたし、番長くんの状況も相まって呼ぶのは容易かった」
ハルヒの影(?)「改めてお礼を言うわね。きてくれてありがとう。ここまできてくれてありがとう!
   おかげであたしの計画の成就も、もう目の前にあるわ!」
キョン「こんなのが、こんなものが、SOS団の真実なのかよ……!」
ハルヒの影(?)「そうよ! これが真実! たとえどんなに信じたくなくてもね!」
>ハルヒの影(?)の瞳が大きく開かれた!
699:
ハルヒの影(?)「さあ、こちらに来なさい。とりこんであげる。
  もう十分知ったでしょう? あなたの欲していた不思議は近くにあったのよ」
ハルヒ「う……」
ハルヒの影(?)「でも、あなたは気付かなかった。気付けなかった。そしてこれからも気付けない。
  だからもうあなたの役目は終わり。あとは、SOS団はあたしが引き継ぐわ」
ハルヒの影(?)「安心して。古泉くんもみくるちゃんも有希も。今までの生活を続けられるわ。
  ちゃんと違和感なく記憶いじってあげるからね」
古泉「……」
みくる「……」
長門「……」
ハルヒの影(?)「ついでに番長くんも、こっちにいることが自然であるかのように記憶いじってあげるから。
  SOS団の一員としてね」
>やはり、自分の知っている影とは違う。
>確かにある種のハルヒの内面を映し出しているのかもしれないが、まるっきり別の意思だ。
>ハルヒに、自身すらまるで認識していなかったハルヒの影(?)を受け入れさせることができるのか……?
>それに、本来のハルヒだとしても、どこか違和感を覚える。
ハルヒの影(?)「あら、番長くんは思ったよりも冷静なのね。あたしを受け入れてくれたのかしら」
>……。
700:
キョン「こんなのがハルヒだと……」
ハルヒの影(?)「ああ、キョンは最初からいなかったことになるから記憶なんていじらなくていいわよね。
   でも死ぬわけじゃないから安心して?」
キョン「ぐっ……」
ハルヒの影(?)「うふふふふふふふ。ここから新しいSOS団が始まるのね。
   あたしのあたしによるあたしだけのためのSOS団が!!」
ハルヒの影(?)「あたしの退屈を消し飛ばしてくれるSOS団が!!」
キョン「ッ! ふざ――」
ハルヒ「――んな……」
>ハルヒ?
ハルヒ「ふざっけんじゃないわよっ!!」
ハルヒの影(?)「うふふふふふふふふ」
ハルヒ「この際、あたしがアンタに創られた人格だとか、そんなもんはどうでもいいわ。
  でもね……」
ハルヒ「アンタのいってるSOS団なんて、SOS団じゃないのよっ!」
ハルヒの影(?)「何を言っているのかしら」
ハルヒ「キョンを消す? 記憶をいじる? あんただけのためのSOS団?」
ハルヒ「もう一度言うわ。ふざけんなっ!!」
701:
ハルヒ「SOS団は、あたしと、キョンと、有希と、みくるちゃんと、古泉くんと、番長くんが全員いてSOS団。
 もしも誰かがひとりでも欠けていたらそれはもうSOS団じゃない。誰一人欠けたってあたしは許さない」
キョン「ハルヒ……」
ハルヒ「それにね。SOS団の目的は、宇宙人や未来人や超能力者や異世界人を探し出して一緒に遊ぶこと」
ハルヒの影(?)「だから? だからそれをあたしが」
ハルヒ「違うッ!!」
ハルヒの影(?)「……」
ハルヒ「いい? 『一緒に遊ぶ』ってことは――宇宙人も、未来人も、超能力者も、異世界人も。
 みんなが楽しくなくっちゃ意味がないの!」
古泉「!」
みくる「!」
長門「……」
ハルヒ「SOS団に関わった全員が楽しくなる。いずれは世界中を巻き込んで楽しくさせる!」
ハルヒ「それが、SOS団!」
ハルヒ「それが! 『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』!!」
>ハルヒは人差し指をハルヒの影(?)に思い切り突きつけた。
702:
ハルヒ「そんなのSOS団の理念じゃない! アンタの言ってることは、所詮一人遊びの延長線よ!」
ハルヒの影(?)「……だから?」
ハルヒ「だから、SOS団をアンタの好きにはさせない。させてたまるもんですか」
ハルヒの影(?)「……ふふ。何度も言うけど、あなたの意思は関係ないの」
古泉「それは、どうでしょうか」
>一樹?
古泉「ありがとうございます、涼宮さん。おかげで冷静になれました」
>一樹が一歩前へ出る。
ハルヒ「こ、古泉くん?」
古泉「2つ」
ハルヒの影(?)「……」
古泉「2つ、あなたは嘘をついていますね」
ハルヒの影(?)「なにを言っているのかしら」
703:
古泉「1つは、涼宮さんがあなたに作られた人格であるということ」
みくる「えっ?」
>どういうことだ?
ハルヒの影(?)「……それは言ったでしょう。造ったというより呼び戻したって」
古泉「そのようなことを言いたいのではありません。
 僕が言いたいことは、あなたが涼宮さんの本体ではないということですよ」
ハルヒの影(?)「……認めたくないのね」
古泉「たしかに、あなたの言うとおり涼宮さんは不思議現象に対して、疎い部分があることは事実です。
 だがしかし。あなたが本来の涼宮さんというのは非常に違和感が付きまとう」
古泉「それはなぜか。あなたの感情が一部に偏り過ぎているからですよ」
>……! そういうことか。
ハルヒの影(?)「……」
古泉「あなたは話し始めたときから、ずっと同じある感情に伴う表情、口調です。
 怒りと悲しみと絶望に満ちた経験を話す際にも、あなたは笑みを口元に浮かべたまま……。
 最初から気付くべきでした。ですが、今までみてきた影の経験からそれが普通だと思ってしまった」
古泉「しかし、それはおかしいのですよ。
 僕らの知っている涼宮さんは、非常に感情表現が豊かです。
 現在ここにいる涼宮さんが呼び戻されたというのなら、あなたにも同じように感情を持っていて然るべきではないでしょうか」
704:
古泉「ところが、あなたの持つ感情はただひとつに支配されている」
 
>たった一つの感情、それは――。
古泉「狂気、です」
ハルヒ「狂気?」
ハルヒの影(?)「あたしの感情が狂気だけですって?
   そんなわけないじゃない。ただあたしはうれしくてうれしくて堪らないだけ」
古泉「ええ、そうかもしれません。これは僕の推測です。なんの証拠もありません。
 ですが、僕は確信めいたものを感じています」
古泉「現在の涼宮さん人格形成までのいきさつ、あなたの持つ感情、僕からみたあなた自身……」
古泉「これらを踏まえた、僕の推測です」
キョン「……ふー。ああ、なるほどな。
 そこまで言われれば、俺も古泉の言いたいことが予測がついたぞ」
>キョンが大きく息を吐き出し、一歩前へ出る。
古泉「おや、そうですか? たまには思い切り指摘するのも気分がいいかもしれませんよ。
 どうです? やってみませんか」
キョン「なら、言わせてもらうぜ。お前はハルヒの本体なんかじゃねぇ。
 ハルヒが封じようとした願望実現能力に、ハルヒの狂気がくっついただけの存在だ!」
ハルヒの影(?)「うふふふ、ああ、ひどい。傷ついちゃいそう」
705:
ハルヒ「ちょ、ちょっと待って。キョン、どういうことよ」
キョン「つまりだ。ハルヒは、能力を自覚したあと、能力の暴走に伴って心が狂っちまった。
 だから当時のハルヒは残った理性で、自分自身を守るために願望実現能力を封じようとした」
キョン「だが、完全に封じることはできなかった。
 その代わり、お前自身が能力を自覚しないように、自分を不思議に疎くなるように作り変えた」
キョン「……自分自身の性格を作りかえることができるのは、長門が証明しているからな」
長門「たしかに、可能」
みくる「そっか、そういえば……」
ハルヒの影(?)「ああ、有希に引っ張り出されたこともあったわね」
長門「……」
キョン「だが、長門もそうだったが、元の性格から大きく逸脱して作りかえることはできないみたいだな。
 だからハルヒの不思議への興味は強いままだったんだろうよ」
キョン「だから、ただ作り変えただけじゃ、そのまま願えば能力が発動しちまう。
 だからそのときのハルヒは、きっとこう判断したんだろうさ」
キョン「『もうひとりの、あたしを作ろう』
 そんで『そのもうひとりの自分に、能力を渡そう』ってな」
ハルヒ「そ、そうなの?」
706:
古泉「おそらく2重人格を意図的に作り出し、片方の人格を能力を使って表に出ないように封じた後、
 その人格に能力を置いておこうとしたのでしょう」
古泉「そして人格形成の際に、当時の涼宮さんを最も支配していた『狂気』を過分に受け継いでしまった」
古泉「本来なら、能力封じるためだけの人格でしたから、どのような人格でも問題はなかったのでしょう。
 ですが……」
>その結果、生まれたのがこのハルヒの影(?)だということか。
古泉「ええ、僕はそう考えています。
 だからこそ、彼女の容姿は幼い頃――能力を封じた頃のままなのではないでしょうか」
キョン「どうだ、ちがうか? ハルヒの影(?)さんよ。
 本当は、お前のほうが作られた人格だったんじゃねぇのか?」
ハルヒの影(?)「くふっ、くふふふふ、うふふふふ」
>ハルヒの影(?)笑っているだけで答えようとしない……。
古泉「そしてもうひとつの嘘は――」
古泉「僕たちの記憶をいじることは容易だとおっしゃいました。
 ですが、あなたは今、能力を100パーセント自由に使うことができない。違いますか?」
ハルヒの影(?)「くふ、うふ、うふふふ、どういう、うふふふ、ことかしら? ふふふふ」
707:
古泉「もし自由に能力を使えるのなら、こんな無用なおしゃべりなんてせずに、さっさと力を行使すればいいのですからね」
古泉「きっと能力を自由に発動するためには、明確な身体、肉体が必要なのでしょう。所詮あなたは一人格に過ぎません。
 その身体は、かりそめのもの……」
>その身体は、本来のハルヒの影を乗っ取ったものだろう?
古泉「番長氏もそう思われますか」
>あの金色の瞳は、影の特徴だ。
>おそらくハルヒの影も、願望実現能力に飲み込まれてしまったのだろう。
ハルヒの影(?)「ふふふふふふ、ふふ、ふふふふフフふふ、ふふふフふ、ふ、ふふフふふ」
ハルヒの影(?)「アはははははははははハハハハハハははハハハはハハハハハッぁ!!」
>ハルヒの影(?)が不気味に大きく笑い出した!
ハルヒ「あ、ううっ……な、なに、これ……」
キョン「ハルヒっ!」
>ハルヒの身体から黒い影が吹き出ていく!
727:
ハルヒ「あ、ううっ……な、なに、これ……」
キョン「ハルヒっ!」
>ハルヒの身体から黒い影が吹き出ていく。
>ハルヒが倒れこみそうになるところをキョンが無事に受け止めたようだ。
>しかし、これは。暴走……!?
キョン「番長ッ! 影が暴走したときと……!」
シャドウハルヒ「あハははっははっはハハはァっ!!」
>シャドウハルヒが猛然とキョンへ襲い掛かってきた!
キョン「!!」
>ペルソナ、ヨシツネ!
ヒュッ――!
シャドウハルヒ「へぇ……!」
>シャドウハルヒの両腕を押さえ、組み合う形となった!
728:
>ぐっ。なんとか、キョンとシャドウハルヒの間に割り込むことができたが……。
キョン「番長!」
>このままでは、押し負ける……!?
シャドウハルヒ「残念。ちょっと、出力不足ね。番長くん」
>マズイ! キョン、離れていろ!
キョン「わかってるっ!」
長門「こっち」
>有希、キョンたちを頼む!
長門「任せて」
>有希が、キョンとハルヒを抱えて大きく後ろへ後退した。
シャドウハルヒ「ふん、奇襲は失敗ね……でも!」
>ぐあっ!
ドォン!
>力負けをして、地面へと叩き伏せられた……!
古泉「番長氏!」
みくる「番長くん!」
>一樹もみくるもはなれていろ!
729:
シャドウハルヒ「くくく、いいわ。力がみなぎってくる……わッ!!」
>うぐっ!!
>シャドウハルヒに蹴り飛ばされ、ボールのように転がりキョンたちのところへまで飛ばされる。
>幸い、物理攻撃は無効化できたため、ダメージを受けることはなかったが……。
 ヨシツネを装備していなければ死んでいたかもしれない。
キョン「だ、大丈夫なのか!?」
>ああ、今の攻撃なら問題はない……。
>だが問題は、あのシャドウハルヒだ。
>ヨシツネのパワーを上回るとなると、対抗手段が限られる……。
>シャドウハルヒは、うっとりと確かめるように自らの身体を眺めている。
シャドウハルヒ「うふふふ、いいわ、いい。やっぱり身体があるのはいいわね」
キョン「どうなってやがる……ハルヒは、あいつを否定する言葉なんて口にしなかったぞ!」
古泉「確かに涼宮さんは、否定する言葉を口にしませんでしたが……
 あの影がそもそも自分の一面であることの認識すらしていませんでした」
>影は、本人がその一面を認めなかったときに暴走する……つまり。
古泉「涼宮さんの影の暴走は、本来ここに涼宮さんが落ちてきたときにはすでに始まっていたのかもしれません」
730:
キョン「その暴走自体を、あいつが抑えていただけってことか!?」
>理性を保ち続ける暴走する影、やっかいだ。
ハルヒ「あ、あれが、あたしですって……」
>ハルヒ!
シャドウハルヒ「くふ、うふふふ。まだ喋る元気はあるみたいね」
ハルヒ「わっけわかんない……あんたなんなのよ!」
シャドウハルヒ「言っているでしょう? あたしは本当のあなた」
ハルヒ「あたしに、本当も偽者もないわ。あたしは、あたしでしかない。
 アンタもアンタでしかない。さっきから、何を言ってるのかさっぱりわからないわよ!」
シャドウハルヒ「ふフふ、くふ。ウふフふふ。
  そうやって、いつまでも認めないつもりなのね」
>ハルヒの身体からさらに影が噴出す!
ハルヒ「いやあああっ!」
キョン「ハルヒッ!」
シャドウハルヒ「いいわ! あなたに認めてもらわなくてかまわない!
  あなたが認識しなければしないほど! あたしはあたしになっていく!」
シャドウハルヒ「あたしはあなたに取って代わる!
  あなた――『涼宮ハルヒ』という仮面(ペルソナ)をかぶって、また現実世界へ舞い戻る!」
731:
ハルヒ「はあ…はあ…アンタがあたしに成り代わる……? そんなことできるわけないでしょ……」
キョン「ハルヒ! それ以上喋るな!」
ハルヒ「嫌よ! だって、だって!! あいつは、あたしじゃないんだから!!」
>!!
シャドウハルヒ「…………うふ」
シャドウハルヒ「ウフフフフフフフフフフフ」
シャドウハルヒ「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
>一際大きな影がハルヒの中から噴出していく!!
ハルヒ「あ、う……」
>ハルヒは気を失ってしまったようだ。
古泉「はは。これは、拙いですね……」
キョン「笑ってる場合か!」
古泉「……笑うしかありません、なにせ彼女は今」
シャドウハルヒ「ハハハハハハハハハハハッハッハハハハハッハッハッハァ!!」
シャドウハルヒ「解き放たれた! ついに解き放たれた!!」
シャドウハルヒ「我は影、真なる我……!!」
古泉「完全に自由に行動のできる、涼宮さんから独立した存在になってしまったのですから」
古泉「あの恐ろしい願望実現能力を抱えた状態でね」
732:
キョン「ぐっ、ぐっ!!」
古泉「長門さんと対峙したときも絶望的でしたが、今回はその比ではありませんね」
古泉「相手はなにせ、神にも匹敵する力を持っているのですから」
>神との、対峙?
>頭のどこかに引っかかりを覚える……。
シャドウハルヒ「さあ、キョン。ひとつになりましょう……!!
  そうしてこんなところから出て、新しい世界を作り直すの!」
キョン「嫌だね、ざけんな」
シャドウハルヒ「アンタにだけは、いてもらわなきゃ困るのよ。
  あたしが楽しい人生を送るためにね」
シャドウハルヒ「古泉くんも、みくるちゃんも、有希も、番長くんも代わりを見つけてくればいいけどね。
  キョンだけは替えを見つけにくいから面倒ごとは嫌なの」
シャドウハルヒ「だから、さっさと取り込まれてよォ!!」
キョン「!!」
>シャドウハルヒが再びキョンへと襲い掛かる!
733:
>だが、させない!
シャドウハルヒ「番長くんに、止められるわけないでしょう!」
>やってみるまでわからない! ヒートライザ!
シャドウハルヒ「!!」
>よし、力は互角だ。
>先ほどとは違い、正面でお互いの両手同士で組み合い、押し合っている!
>だが、なんてパワーだ。気を抜いたらすぐにでも――。
シャドウハルヒ「へぇ……! でもね、今のあたしはこういうこともできるのよ」
シャドウハルヒ「『壁に叩き付けられるまで吹き飛べ』」
>!!
ドッオンッ!!
>シャドウハルヒから弾き飛ばされるように、身体が壁へと叩きつけられる。
シャドウハルヒ「『そのまま磔にされてなさい』」
>うぐっ! 身体が磔にされたまま動かせない!
>これは、圧倒的すぎる……! どうすることもできない!
734:
シャドウハルヒ「さあ、邪魔者は――」
ボォンッ!!
>あの、赤い発光球は……!
古泉「残念ながら、まだここにいますよ。邪魔者はね」
シャドウハルヒ「古泉くん、何するのよ」
古泉「無傷ですか。渾身の力で投げたのですが。
 ある程度予想していましたが、さすがにショックを隠せませんね」
キョン「こ、古泉」
古泉「あなただけは、なんとしても逃げ切ってください」
キョン「何を」
古泉「あの涼宮さんが、大規模な攻撃を行わないのはあなたがこの場にいるからです。
 あなただけは死なせるわけには、消し去るわけにはいかないのでしょう。
 僕らに勝ち目があるとすれば、あなたがあの涼宮さんに捕まらずにいることだけなのです」
古泉「反対にあなたさえいれば、世界は作り変えられずに済む。最後の希望は、あなたなのです」
735:
キョン「そんなこと言われても――」
古泉「お願いします」
キョン「……ああ。わかった」
シャドウハルヒ「古泉くん……邪魔しなければ、新しい世界でも一緒にSOS団ができるのよ?
  ここで素直に引けば、ちゃんと古泉くんの存在は保ってあげるから」
古泉「……それは、大変魅力的な提案ですね」
シャドウハルヒ「でしょう?」
古泉「ですがね。僕は今のこの世界が好きなのです。この『今のSOS団』があるこの世界がね」
古泉「それ以上に魅力的な世界なんて、今の僕には想像できない」
古泉「だから、あなたに新たな世界を創造させるわけにはいきません」
>一樹の手のひらから赤い発光球が浮かび上がる。
古泉「なにせ僕は、この世界を守るために生み出された超能力者ですから」
シャドウハルヒ「そう、残念ね」
746:
古泉「さて……」
長門「(コクッ)」
シャドウハルヒ「なら、せめてボロボロになるまであたしと遊んでちょうだい」
古泉「僕のチカラがどれほど通用するかわかりませんが――!」
>一樹がシャドウハルヒに向かって赤い発光球を放つ!
シャドウハルヒ「そんなもの、あたしに通用すると? 『消えろ』」
>シャドウハルヒの腕の一振りで、一樹の放った赤い発光球は霧散してしまった……。
シャドウハルヒ「どう? 絶望的な気分かしら?」
古泉「いえ、想定内、といったところでしょうか」
シャドウハルヒ「あ、そ」
古泉「(本来の閉鎖空間内の6割……いえ、5割5分といったところでしょうか)」
古泉「(前回この空間で能力を行使したときと比べれば、まだマシといったところでしょう)」
シャドウハルヒ「どうしたの? もう終わり?」
古泉「いいえ。できる限りの抵抗はさせてもらいますよ……!」
747:
>一樹の身体の周りから、同じように赤色に光を発しはじめている。
古泉「(……やはり、完全に能力を行使はできませんね。球形ではなく人型が限界ですか)」
シャドウハルヒ「へぇ。あの娘がここにきたから能力が使えるようになったってことかしら」
古泉「かもしれませんね」
シャドウハルヒ「そう! 楽しみだわ! あたしが目覚めさせた能力がどれほどのものか!」
>黒い影が一際大きくシャドウハルヒから噴出す!
古泉「そうです。あなたが授けた能力です。
 おかげであなたと対峙できるのです……感謝しますよ、これだけは!」
>お互いに猛進し、一樹とシャドウハルヒが衝突した!
>赤い閃光と黒い影は、中空へと浮かび幾度となく交錯している。
……

キョン「長門! どうにかならないのか! いくら古泉が力を使えるからって!」
長門「わたしが古泉一樹に加勢することは可能」
キョン「なら――」
長門「だけど、古泉一樹は今わたしが加勢することを望んでいない」
キョン「なっ……!?」
748:
長門「古泉一樹は、わたしに彼の救出を託した」
キョン「彼って、番長か?」
長門「そう。涼宮ハルヒの影を止めるには、彼の力が必須」
キョン「情報操作とやらで、ハルヒの影を消しちまうことはできないのか!」
長門「わからない。たとえできたとしても、涼宮ハルヒの影も情報操作は可能。
 つまりそれは、情報操作同士による戦闘を意味する」
長門「敵意を持ったもの同士の情報操作による戦闘は、どちらかが消滅するまで終わらない」
長門「今あそこで戦闘しているモノは涼宮ハルヒの精神の一部。
 それを消滅させることは、涼宮ハルヒの精神の死――心の死に繋がる恐れがある」
長門「そしてもうひとつ。わたしが勝てる保証はどこにもない。
 涼宮ハルヒの影は、わたしに――情報統合思念体ができなかった彼への情報操作を目の前で行った。
 その点だけを見ても情報操作のレベルは、相手の方が確実に上」
キョン「長門……」
長門「だからこそ、彼の力が必要。消滅させるのではなく、暴走を抑える心の力。
 彼がペルソナと呼ぶ、あの能力が必要」
キョン「だけど、番長はあそこまで吹き飛ばされて……!」
749:
長門「問題ない。彼は物理的なダメージは一切負っていない。彼の力のおかげ」
キョン「ペルソナって、そんなにすごいもんなのか……」
長門「だけど、涼宮ハルヒの影が行使した能力によって拘束され動くことができない」
長門「それをわたしが解除する」
キョン「できるのか!?」
長門「涼宮ハルヒの影が彼に行ったことは、ただの情報操作に過ぎない」
長門「それならば、わたしが解除できる」
キョン「だが、さっきあいつの情報操作のほうが上って――」
長門「してみせる」
キョン「……ああ、頼んだぜ。長門」
みくる「長門さん、お願いがあります」
キョン「朝比奈さん……?」
……

750:
>くそ! 力をいくらこめても動けない!
>赤い光と黒い影は、激しく空中で切り結んでいる。
ドォンッ!
>一際大きな衝突音と同時に、弾き飛ばされるように赤い光が地上へと叩き落された。
>一樹っ!
古泉「はっ、はっ……まったく、とんでも、ないですね」
>呼吸を乱し、肩で大きく息をしてる。
シャドウハルヒ「思ったより楽しいわ。思ったよりね」
>黒い影は、緩やかに地上へと舞い降り、シャドウハルヒの姿へと戻った。
古泉「ここまで力の差があるとは、思いませんでしたよ」
シャドウハルヒ「そう? 遊ぶのにはちょうどいいくらいよ?
   いい運動にもなるしね」
古泉「遊び、ですか」
シャドウハルヒ「早く決着つけてほしかったわけ?
   それなら『消えろ』って願うだけでいいんだから」
古泉「そうですね……あなたは最初から勝負の場になど立っていないのでしょう」
シャドウハルヒ「当然でしょう? でも、もういいわ。古泉くんも限界みたいだし。これ以上は望めないでしょうから。
   それなりに楽しい遊びだったわ。今の記憶を消して、新しい記憶を植えつけてあげる」
>シャドウハルヒが一樹へと歩み寄っていく……!
751:
古泉「絶体絶命というやつですか……困ったものです」
シャドウハルヒ「じゃあね、古泉一樹くん」
古泉「(時間は稼げたでしょうか……あとは頼みましたよ、長門さん、番長氏――)」
ヒュン!
みくる「――そんなこと、させませんっ!」
シャドウハルヒ「!」
古泉「!」
ヒュン!
>みくるが、突如一樹のそばに現れ、一樹の腕をとり一瞬にして姿を消した。
シャドウハルヒ「みくるちゃんも邪魔するのね……」
ヒュン!
みくる「ふうっ」
キョン「うわっ!」
長門「……」
>そして、キョンと有希のそばに再度出現した。
>この転移は、見覚えがある……!
752:
古泉「朝比奈さん、これは、一体」
みくる「説明は、あとです。今は涼宮さんの影に注意を払わないといけません」
古泉「! ええ、その通りですね」
キョン「……朝比奈さん」
みくる「いいの、キョンくん。これがあたしの選択。
 これであたしも、戦える」
……

――数分前。
みくる『長門さん、お願いがあります』
キョン『朝比奈さん……?』
みくる『あたしの――わたしの中にある航時に関するすべての制限をはずすことはできますか?』
長門『……なぜ?』
みくる『もし、はずすことができれば、あたしの影がやったこと――極小単位での航時も可能になると思うんです』
みくる『そうすれば、わたしも、お役に立てる……!』
長門『たしかに、可能』
753:
長門『朝比奈みくるに与えられている制限は概念装置によるところが大きい。
 情報操作によって、その制限を取り外すことは容易。
 しかし無断航時は、あなたたちにとって重大な背任行為にあたるはず』
みくる『わかってます。きっと制限を取り外して――これだけでも重罪なんですけど。
 さらに無断で航時した場合、最低でも懲戒以上の罰がわたしには下るでしょう。
 少なくともこの時代にはもういられなくなるに違いありません』
キョン『朝比奈さん、どうして、そんな!』
みくる『でも、なにかできるとわかっていて! それでいて手を拱いているのは嫌なんです!
 あたしにも、この世界を、このSOS団を守らせてくださいっ!』
『ドォンッ!』
キョン『!? 古泉っ!?』
みくる『古泉くんっ!』
『――今の記憶を消して、新しい記憶を植えつけてあげる』
みくる『長門さんっ!』
長門『……わかった』
……

シャドウハルヒ「やれやれ、面倒な手間がどんどん増えていくわね」
>シャドウハルヒは不適に笑っている。
769:
みくる「あたしだって、最後まで、抗ってみせますっ!」
シャドウハルヒ「みくるちゃんに、なにができるのかしら」
みくる「……」
シャドウハルヒ「覚悟をしている眼ね。
  そう。それなら……見せてもらおうかしらッ!!」
古泉「朝比奈さん! 避けてくださいっ!」
>シャドウハルヒが鋭く地面を蹴り、一樹とみくるへ突進する!
みくる「――大丈夫。古泉くんは体力の回復に専念して」
ヒュンッ!
シャドウハルヒ「……ちっ。その消えるやつ面倒だわ」
>シャドウハルヒの地表すら抉るような突進から繰り出された右手の突きは、虚空をつかんだだけだ。
みくる「……」
古泉「これが、極小単位ではあるものの時間跳躍ですか。
 ……このような感覚なのですね」
みくる「ごめんなさい。気分が悪くなるかもしれません。でも、我慢してください」
770:
シャドウハルヒ「ふう、みくるちゃんまでこんなに厄介だとはね」
シャドウハルヒ「でも、面白いわ。みくるちゃん、くふ……うふふ」
シャドウハルヒ「みくるちゃんは逃げる。あたしは追いかける。まるで鬼ごっこ」
>シャドウハルヒは獰猛な笑みを浮かべている。
みくる「(あたし自身に攻撃を与える術はない。
 だからこそあたしがすべきこと……古泉くんを守りながら、長門さんの情報操作完了までの時間を稼ぐ)」
みくる「やって、みせますっ!」
古泉「朝比奈さん。彼女は僕らを消すことは、あまり考えていないようです」
古泉「あくまで、僕らは僕らのまま、記憶を書き換えることに固執しているようだ」
みくる「あたしたちには、都合がいいですね」
古泉「ですが、いつ気まぐれを起こして僕たちを消すとも限りません」
みくる「そうですね……そうならないことを祈るだけです」
古泉「まったく、悪趣味な神頼みですよ。笑えません」
シャドウハルヒ「さあ、さあ、さあ! 楽しい楽しい鬼ごっこの始まり始まり!」
>先ほどの突進よりもさらに疾く、みくるたちにシャドウハルヒが迫る!
771:
みくる「行きます、古泉くん!」
ヒュンッ!
>みくるが転位し、それをシャドウハルヒが追う!
>シャドウハルヒは、みくるの転位先を的確に読み、間髪をおかずに攻撃を繰り出している。
シャドウハルヒ「あはっ、くふふ、うふ、ふふふふ……あはははははははッ!」
みくる「ううっ……」
ヒュンッ!
>みくるは辛そうだ……。
古泉「避けながら聞いて下さい。おかげで幾分か体力が回復しました。
 攻撃することもできそうです」
古泉「相談なのですが、空中に転位することはできますか?」
みくる「は、はいっ」
ヒュンッ!
みくる「もちろん、できますっ!」
ヒュンッ!
古泉「では、今から6回後の時間跳躍で、涼宮さんの影の直上に出現することは?」
みくる「か、可能ですっ!」
ヒュンッ!
772:
古泉「お願いします。できる限り近くに転位してほしいのです」
みくる「誤差もでるかもしれませんけど、や、やってみますっ」
ヒュンッ!
みくる「で、でも! 攻撃といってもあの涼宮さんの影に通じるんですか?」
古泉「わかりません。また先ほどと同じようにまったく効かない可能性もあります」
ヒュンッ!
古泉「ですが、この力は神人に……涼宮さんの能力の成れの果てに対抗するためのもの。
 この攻撃で何かしらの突破口に、もしくはそれを見つけ出す糸口になりえるかもしれません」
古泉「そして、彼らなら見つけてくれるかもしれない。彼らに希望を託すことができるかもしれない」
ヒュンッ!
みくる「番長くんたちに、託す……」
古泉「それだけでも、十分やる価値はあるように思えませんか?」
みくる「ええ。そうで――」
シャドウハルヒ「なんの相談かしらぁ!?」
みくる「くっ!」
ヒュンッ!
773:
みくる「ふう、ふう……」
古泉「……」
>みくるとシャドウハルヒが距離を大きくとり向かい合う。
>みくるは息を切らせている。
シャドウハルヒ「あら、疲れちゃった? じゃあこれで終わりかしらッ!」
>シャドウハルヒがみくるへと突貫する!
みくる「まだですっ!」
ヒュンッ!
>みくると一樹がシャドウハルヒの真上に転位した!
古泉「いきますっ! フッッ!!」
シャドウハルヒ「!?」
>一樹の攻撃を受け、砂煙が舞い上がる。
みくる「やった、せいこ――」
シャドウハルヒ「――ざーんねん」
ガシッ!
古泉「うぐっ!」
みくる「あっく……」
>砂煙からシャドウハルヒが飛び出し、それぞれの首を片手でギリギリと締め上げいく!
774:
>動け、動けっ!
『……解除コード生成完了。転送開始』
>……これは!
シャドウハルヒ「あはぁ、掴まえたァ」
古泉「が……ぐっ」
みくる「かっ……」
シャドウハルヒ「さあ、鬼ごっこはこれでお終いね」
シャドウハルヒ「そして、これまでの古泉くんとみくるちゃんともさような――」
長門「……」
ヒュオンッ!
シャドウハルヒ「おっとっと、危ないじゃない有希」
>シャドウハルヒは一樹とみくるを放し、有希の攻撃を回避した。
みくる「な、長門さん……」
古泉「げほ……た、助かりました」
シャドウハルヒ「でも、へぇ。有希が後ろ回し蹴りねぇ。
   思ったよりさまになってるじゃない。かっこよかったわよ」
775:
シャドウハルヒ「でも、有希があたしに勝てるかしら?」
長門「わからない。だけど、彼がいる」
シャドウハルヒ「彼?」
>待たせた。有希。
シャドウハルヒ「番長くん? どうやってあたしの拘束から抜けたのかしら」
古泉「番長氏……」
みくる「ば、番長くん」
>ふたりは休んでいてくれ。
古泉「わかりました。今は役に立てそうにありません」
みくる「気をつけて……」
>コウリュウ! メシアライザー!
古泉「身体が軽く……!」
みくる「こ、これって」
>少しはマシになっただろう?
>キョン、2人を頼む。
キョン「あ、ああ」
776:
シャドウハルヒ「誰が番長くんを助けたって考えるまでもないか。本当に有希も邪魔するのが好きね」
長門「……」
シャドウハルヒ「それで? あたしに一度負けた番長くんで、どうするつもり?」
長門「あなたを、止める」
>一樹とみくるがつないでくれたんだ。必ずお前を止める。
シャドウハルヒ「あたしを? ふふ、面白いこと言うわね」
シャドウハルヒ「じゃあ……止めてもらおうかしら!!」
>再び黒い影のようなオーラが噴出す!
>行くぞ、有希!
長門「(コクリ)」
>シャドウハルヒが、急に間合いを詰めにじり寄る!
シャドウハルヒ「もういいわ! 邪魔をするくらいなら消えなさい!」
長門「……」
>有希が上空へ大きく跳躍する!
777:
シャドウハルヒ「撃ち落してあげるわっ」
>させるかっ!
>チェンジ! ロキ! ニブルヘイム!
シャドウハルヒ「氷!?」
シャドウハルヒ「だけど、そんな攻撃であたしにダメージを……!」
>与えられるとは思っていないさ。
シャドウハルヒ「これは……凍り付いて……」
>だが、動きを封じさせてもらう。
シャドウハルヒ「無駄よ。『融けろ』」
>みるみるうちに氷が融けていく……。
シャドウハルヒ「今度こそ、終わりよ!」
>……その一瞬の隙がほしかった。
>有希っ!
長門「SELECT シリアルコード FROM データベース WHERE コードデータ
 ORDER BY 攻勢情報戦闘 HAVING ターミネートモード」
長門「さらに情報阻害因子を展開。局所的情報連結の解除を開始する」
778:
シャドウハルヒ「チィッ!」
>有希がシャドウハルヒの直上から滑空し、頭上へと振り上げていた右足を振り下ろす!
ヒュォンッ!
シャドウハルヒ「ぐっ!」
>シャドウハルヒは、攻撃を避け大きく後退した。
長門「……」
シャドウハルヒ「かかと落しとは、やってくれたわね」
>シャドウハルヒの左肩に少し切り傷をつけただけで、大きなダメージにはならなかったようだ……。
長門「……」
シャドウハルヒ「フフ。あたしに攻撃を当てたことは褒めてあげるわ。
  でもね、所詮は奇襲。二度目はもうないわよ」
長門「……」
シャドウハルヒ「あたしを止めるだっけ?
  その最初で最後のチャンスはたった今潰れた」
>シャドウハルヒの威圧感が増す。
779:
シャドウハルヒ「おしゃべりもこれまでね。消えなさい」
長門「終わった」
>……有希?
長門「情報阻害フィールド、展開開始」
シャドウハルヒ「これは……」
>シャドウハルヒの周りを透明な薄い膜のようなものが包む。
シャドウハルヒ「やれやれ。何をしたかわからないけど消せばいいだけの話。
  『消えなさい』」
>……?
シャドウハルヒ「……?」
>なにも変化が起こらない?
シャドウハルヒ「なにを、したの? 有希」
長門「あなたに答える必要はない」
シャドウハルヒ「ふ、ふふ、ふふふふ……あはははぁはァッ!!」
>狂気をむき出しにし、シャドウハルヒが躍りかかる!
780:
長門「今なら涼宮ハルヒの影と組み合っても大丈夫」
>……! ならば、チェンジ! ザオウゴンゲン!
シャドウハルヒ「また、吹き飛ばしてあげる!!」
長門「無駄」
>組み合ったが飛ばされない……それどころか、押し勝てる!
シャドウハルヒ「ぐうっ! こ、れ、は……」
バチィッ!!
>はじき飛ぶように後退し、シャドウハルヒは間合いを取る。
シャドウハルヒ「どうやったかわからないけど、この膜であたしの能力を封じたというわけね」
長門「……」
シャドウハルヒ「さしずめ、さっきのかかと落しのとき……かしらね。
  この膜、外側からの展開じゃなくて、左肩の内側から発生しているわ」
>先ほどの攻撃の際に有希はなにか仕込んでいたようだ。
シャドウハルヒ「でも、チカラ、使い果たしちゃったんでしょ?
  さっきの組み合いで加勢してこなかったのがいい証拠」
>有希……。
長門「……」
シャドウハルヒ「何よりも雄弁な沈黙ね、有希」
781:
>たとえそうだとしても、あとは俺が何とかしてみせる。
シャドウハルヒ「く、くく、くくくく。番長くんが、どうにか?」
シャドウハルヒ「番長くんに、あたしは止められない」
長門「気をつけて」
長門「涼宮ハルヒの影の力を完全に無効化したわけではない」
>どういうことだ?
長門「涼宮ハルヒの力は大きく分けて2つある」
長門「ひとつがわたしたちと同じような情報操作。
 この世界に存在しているものの情報や性質を書き換える能力」
長門「情報阻害因子によって一時的に妨害に成功したものはそちらだけ」
長門「そしてもうひとつが――」
シャドウハルヒ「ふふ、『変える』能力は使えないみたい。
  でも、いいわ。番長くんのその化身みたいなもの、面白そうね」
シャドウハルヒ「あたしも『創ろう』かしら!!」
>シャドウハルヒの後ろに、突如何体もの巨大な神人が顕現する!
長門「情報創造。わたしたち情報統合思念体も持ちえない能力。
 涼宮ハルヒだけが持ちえる無から有を生み出す、唯一無二の能力」
782:
シャドウハルヒ「有希も、古泉くんも戦えない今!
  番長くんにあたしとこの神人の両方を相手にすることができるかしら!」
シャドウハルヒ「行きなさい。そして二度と邪魔できないように捕らえてあげる」
>出現した神人たちが押し寄せるようにこちらへと向かってくる。
>チェンジ! ルシフェル! メギドラオン!
キィン――ドォオオォンッ!!
オオォオオォオオォ……。
>くっ、何体かは吹き飛ばすことができたが全てを消し飛ばすことはできない……!
オオォオオォオオォ……。
>神人の巨大な手が自分を目掛けなぎ払ってくる――避け切れない!
ズドォオオン!
>ぐっ……思いのほかダメージが大きい。ならば、もう一度! メギ――。
シャドウハルヒ「そっちに意識をもっていきすぎよ、番長くん?」
>!!
783:
シャドウハルヒ「――じゃあね」
>足元に闇が広がり、呪詛を彷彿とさせる無数の腕のような赤黒い触手が伸びる!
>こ、これは……!!
長門「させない」
ヒュンッ! ドンッ!
>有希のかかとが自分を思い切り吹き飛ばし、身体が地面を転がる。
>有希の身体に無数の触手が絡みつき、足元の闇の中へ引きずり込んでいく!
長門「わたしは、大丈夫」
長門「あなたを、信――」
ドプンっ……。
>有希ッ!
シャドウハルヒ「あらら、番長くんの代わりに有希が飲み込まれちゃった」
オオォオオォオオォ……。
>イザナギッ!
ザシュンッ!
>襲い来る数体の神人をどうにか切り倒し、再び対峙する。
784:
>有希を、どこへやった。
シャドウハルヒ「さあ? 答える義理があって?」
>……。
>あの光景は……どうしてだ。頭が痛む。
シャドウハルヒ「さあ! さあ! まだまだ終わりじゃないわよ!」
みくる「な、長門さんが」
キョン「な、が……」
キョン「長門を、長門をどこへやったっ!」
シャドウハルヒ「うふうふふふあははははははっ!!」
>再び足元に闇が拡がる!
>先ほどのダメージのせい避けることができない……!
古泉「いけませんっ!」
ドンッ!
>自分を突き飛ばした一樹に触手が絡みつき、闇の淵へと引きずり込んでいく。
古泉「ぐ、僕もどうやらここまでのようです。あとは、任せ――」
ドプンッ!
785:
>さらに足元に闇が広がる!
キョン「番長ッ!」
みくる「だめぇッ!!」
ドンッ!!
みくる「お願い、この世界を守っ――」
ドプンッ!
キョン「朝比奈さん!」
シャドウハルヒ「あはははははははははははッ!!
  なんだ、番長くんを守ろうとしてみんな消えちゃったじゃない!」
キョン「てめぇっ!!」
シャドウハルヒ「これで終わりにしましょう? そしてキョン、あたしとひとつになるのよ」
オオォオオォオオォ……。
>先ほどとは比べ物にならない一際大きな神人がシャドウハルヒの背後に現れる。
>ズキン、ズキン、ズキン――。
>頭が、割れるようだ。
786:
キョン「お、おい、番長! うずくまってどうした!?」
シャドウハルヒ「みんなが消えたショックで動けなくなっちゃった?」
シャドウハルヒ「ふう。残念ね、こんな幕切れなんて」
>!!
>頭に甦る、この映像は……!
……

――『幾千の呪言』
>死の呪いが仲間たちを襲う。
――『残念だよ…こんな幕切れになるなんて…』
>意識が遠くなっていく…。
>強大な相手を前に…ここで…力尽きるしかないのだろうか…。
???『――――――こっち』
>この声は……。
???『――――――こっちへきて』
???『――――――あたしを、助けて……』
>強烈な光が身体を包む!
……

798:
キョン「……う――長――番長っ!!」
>キョ……ン。
キョン「何を呆けているんだ! しっかりしろ!」
>ああ……すまない。
キョン「大丈夫か?」
>大丈夫だ。むしろ、不思議なくらい落ち着いている。
>それに、今頭をよぎったものは……そうか。
シャドウハルヒ「うふふ。そうそう。ちゃんと戻ってきてもらわないとね。
  このまま幕切れなんてつまらないもの」
>……。
>思い出したよ。
シャドウハルヒ「なにをいっているのかしら?」
>全部、思い出した。
>こちらへくる直前に、自分の世界でどんなことになっていたのか。
>どうしてこちらへ呼ばれたのか。
799:
シャドウハルヒ「……」
>あの状況からハルヒに助けられたこと。
>そして、ハルヒが――お前が、助けを求めていたことも。
>全て思い出した。
キョン「コイツが……助けを?」
シャドウハルヒ「アハハハッ! あたしが? 助けを? 番長くんに?
  面白いこというわね」
シャドウハルヒ「あたしがいつ! 助けてほしいって!」
>今だって、言っているじゃないか。
シャドウハルヒ「……」ピクッ
>今なら、わかる。ハルヒの、お前の。心からの叫びが。
『助けて』
『あたしを助けて――』
『あたしは、涼宮ハルヒは、』
『――ここにいる』
シャドウハルヒ「……ッ」
800:
>そう。お前だって、ハルヒなんだ。
シャドウハルヒ「……うるさい」
>自分に、自分を否定されるのは誰だって辛い。
シャドウハルヒ「うるさい」
>自分に、自分を認めてもらいたい。誰だって思うことだ。
シャドウハルヒ「うるさいうるさいうるさいっ!!」
>初めて、狂気以外の感情を露わにしたな。
シャドウハルヒ「黙れっ!!」
シャドウハルヒ「番長くんに、あたしの、"涼宮ハルヒ"のなにがわかるの!!」
>……確かに、出会って間もない自分にはハルヒのことはほとんどわからない。
シャドウハルヒ「なら――」
>だが。ここにいる。誰よりもハルヒのことを知っている人間が。
>なあ、キョン。
キョン「お、俺……?」
801:
シャドウハルヒ「キョン……? キョンだって上辺のあたししか。
  外殻のあたししか知らないじゃない」
シャドウハルヒ「それで、あたしのなにを知っているって!?」
キョン「ぐ……悔しいが、あいつの言うとおりだ」
>そうか? キョンは少なくとも自分よりは。
 いや、SOS団の誰よりもハルヒのことを知っている。
>それに、誰しも他人のすべてを知ることなんてできない。
キョン「……」
>それに、知らないのであれば。
>みんなが俺を受け入れてくれたように、1からはじめればいい。
>これから、知っていけばいい。
キョン「……!」
>それだけだろう?
キョン「……ははっ。ああ、そうだな。知らなければ知ればいい。それだけだ。
 もうひとりのハルヒを隠していたなんてな。古泉や朝比奈さんや長門以上に隠し事の多い団長様だ」
シャドウハルヒ「……うるさいうるさいうるさいッ!
  そんなことができるなら、最初からそうしてる!」
シャドウハルヒ「誰もあたしを認めない。あたし自身もあたしを認識しない」
シャドウハルヒ「それならば、あたしが新しい世界を創るのよ!!」
>…………ようやく、掴まえた。
802:
キョン「番長……?」
>それが、ハルヒから独立した意識となったお前の本心だ。
シャドウハルヒ「!!」
>未知の世界を楽しみたい……それはハルヒの願いだ。
 お前の願いじゃない。
>お前の本当の願いは、SOS団のみんなに、自分自身に認めてもらいたい。
>たった一つの純粋な願い。それだけだ。
シャドウハルヒ「だ、ま、れぇッ!!」
>シャドウハルヒの背後の巨大な神人が巨腕を振り下ろす!
ゴウッッ!!
>イザナギ!!
ザシュンッ!
>イザナギの矛が巨腕を切り落とす!
シャドウハルヒ「あたしは、アンタたちを屈服させて新しい世界を創る。
  もう、それだけでいい」
>神人が残った腕で攻撃に移ろうと溜めを作る。
803:
シャドウハルヒ「邪魔するものは、消すッ!」
>キョン、力を貸してくれ。
キョン「この状況で、俺に何ができるんだ」
>キョンは、今目の前にいるハルヒのことをどう思っている?
キョン「ハルヒの影のことか? どうって……それは」
>それは?
キョン「――いいや。ハルヒは、ハルヒだ。影でも偽者でもなんでもない。
 誰でもないさ。なにをしようとも、俺らSOS団に迷惑を振りまく団長様だ」
キョン「そんでその尻拭いをするのは、やっぱり一番下っ端の俺なんだろうよ」
キョン「その役割は、誰にも譲らない。譲らせない」
>それで、十分だ。
>イザナギの矛に触れてくれ。
キョン「こうか……?」
>イザナギの矛の刃が淡く光りだす。
>絆を真に深めた心が力へと変わる……。
>キョンとハルヒの絆の力、貸してもらうぞ。
804:
キョン「!! くるぞ、番長!」
シャドウハルヒ「消えろォッ!!」
ゴゥンッ!!
>イザナギが矛で襲いくる神人をなぎ払う!
パァンッ!
シャドウハルヒ「たった一振りで……」
キョン「神人が、砕け散った……!!」
>これがキョンとハルヒが育んだ絆の力だ。
>きっと、SOS団のみんなならば、お前だって受け入れてくれる。
シャドウハルヒ「なにを、戯言を!!」
>だがまずは、お前の暴走を止めさせてもらう。
シャドウハルヒ「……はっ! できるもんなら」
シャドウハルヒ「やってみなさいっ!!」
>シャドウハルヒの身体から爆発的に影のようなオーラが迸る!
805:
ギィン――ギィン――ギィン。
>イザナギのもつ矛の放がつ光激しくなる。
>離れていろ、キョン。
キョン「ああ、頼んだぜ」
>いくぞ。
シャドウハルヒ「あああぁあああぁぁあぁあぁあああッッ!!」
>オーラを纏い咆哮とともにこちらに向かい疾駆してくる!
ギィイィイイィインッ!!
>おおぉおおおおぉおおおおぉおぉぉおぉッ!
>シャドウハルヒの拳とイザナギの矛が正面でぶつかり合う!
シャドウハルヒ「こんなもの……こんなものッ!!」
>ぐぅっ……! おし、ま、け、る……!!
ギィイイィイイィイィン!!
シャドウハルヒ「う、ふふ……うふふ……あたしの、勝ちよ! 番長くん!」
>これは、この矛は! キョンとSOS団みんなの想い!!
>無駄にしてたまるかッ!!
806:
――――
――
キョン「なあ……ハルヒ。俺とハルヒの絆はよ。
 好きとか嫌いとか」
キョン「愛してるとか愛していないとか」
キョン「そういうことじゃねぇよな」
キョン「どこまでも、ついて行ってやる」
キョン「だから」
キョン「俺は、お前を。涼宮ハルヒを――」
――信じてる。
――――
――
807:
ギィイイィイィイィイイィイイィイイィイイン!!
>矛の煌めきに自分とハルヒの身体が包まれる!!
>届け!! 届けっ!!
シャドウハルヒ「こ、れ、は」
>届けえええぇえぇえええっ!!
シャドウハルヒ「!!」
ドッ……ザシュンッ!!。
シャドウハルヒ「あ……あ……」
>シャドウハルヒの身体の真ん中に矛が突き立つ。
シャドウハルヒ「あぁああああああああアアぁああァあぁああぁッッ!!」
シャドウハルヒ「ぁああぁあぁあああぁあぁあぁあああぁぁああぁ!!」
シャドウハルヒ「あ……あああ…ああああ…ああああぁぁぁぁ……」
ドサッ。
>シャドウハルヒが仰向けに倒れる。
キィン――。
>矛が光の粒となってシャドウハルヒの身体へ取り込まれていく。
ハルヒの影「……」
808:
>はあ、はあ、はあ……。
キョン「番長、終わったのか?」
>暴走は抑えられた、と思う。
キョン「古泉、朝比奈さん、長門は……?」
>……わからない。
キョン「まさか、このまま……?」
>それも、わからない。
キョン「くそっ! せっかく勝ったっていうのにこれじゃあ……」
>一樹、みくる、有希……。
古泉「勝手に亡き者にしないでいただけますか」
キョン「古泉っ!? いつから!?」
古泉「たった今です。長門さんがこじ開けてくれました」
長門「空間封鎖と情報封鎖が解除されただけ。すべてはあなたたちのおかげ」
みくる「でも、長門さんがいなければでられませんでしたから」
809:
キョン「全員、無事なのか?」
古泉「ええ。ただ涼宮さんの影が作り出した亜空間に囚われていただけですから」
キョン「俺はてっきりあのとき死んじまったとばっかり……」
古泉「あのとき、涼宮さんの影は『捕らえる』といっていましたから。
 最初から番長氏を含めて僕たちを亡き者にするつもりはなかったのでしょうね」
キョン「古泉、お前。それをわかっていて?」
古泉「いいえ。あのときは身体が勝手に動いただけです。
 あとも先もなにも考えずにね」
長門「わたしも、そう」
みくる「考えている暇はなかったですからねぇ」
キョン「そうか……そうだよな」
>ありがとう。みんな。
古泉「いえ。長門さんの言と重なりますが、全てはあなたたちのおかげです。
 この世界の命運をあなたたちに託してよかった」
みくる「ふふ、そうですね」
キョン「その命運とやらは、番長がほとんど背負っていたがな」
>そんなことはないさ。
810:
ハルヒ「ぅうっ……」
キョン「ハルヒ!」
>ハルヒも目を覚ましたようだ。
ハルヒ「なにが、どうなっているの……ここは。
 夢じゃ、なかった、わけ?」
キョン「夢なんかじゃないさ。全部現実だ」
ハルヒ「現実……」
キョン「いいよな。話しても」
古泉「一度は、あなたたちに託した世界の命運です。
 僕に止める権利はありません」
みくる「ええ、そうですね」
長門「任せる」
古泉「それに、涼宮さんもここで向かい合わなければ、
 いつかまた同じようなことが起こるでしょうからね」
キョン「ああ、そうだな」
ハルヒ「なにを……」
キョン「いいか、ハルヒ」
ハルヒ「な、なによ」
キョン「今、目の前に起こっていることは現実だ」
キョン「この空間も、このもうひとりのハルヒも、全部現実だ」
ハルヒ「これが、現実……?」
811:
ハルヒ「あはっ……そんなわけないじゃない。
 確かにこれが現実なら、そりゃ不思議すぎてびっくりだけど」
キョン「ハルヒ」
ハルヒ「でもね、いいキョン? 現実はそう甘くないの。
 こんな風に大仰に現れてくれないのが不思議ってものよ」
キョン「ハルヒ」
ハルヒ「それにね――」
キョン「ハルヒ!」
ハルヒ「!!」
キョン「もう一度言うぞ。全部、現実だ」
ハルヒ「……じゃあ、古泉くんが超能力者って言うのは」
古泉「本当です」
>一樹は赤光を纏い、空中に浮かんで見せた。
ハルヒ「……!」
古泉「この程度の超能力ですけどね。期待にはそえていないかもしれません」
ハルヒ「み、みくるちゃんが未来人って言うのも」
みくる「本当です」
ヒュン。
>ハルヒの手をとり、5秒後に時間転移をした。
ハルヒ「な、によこれ……」
みくる「時間転移……つまりタイムトラベルです。今のは5秒だけですけどね」
ハルヒ「ゆゆ、有希が宇宙人なんてさすがに嘘よね」
長門「本当」
>有希は自身の右手親指を噛み、出血をさせたのちに高で自己修復を行った。
ハルヒ「すご……」
>ハルヒが3人を不思議そうに眺めている。
812:
ハルヒ「じゃ、じゃあ番長くんは」
>どうやら異世界人ということらしいと伝えた。
>イザナギを出現させる。
ハルヒ「い、異世界人……? なんで、そんな……」
キョン「信じたか?」
キョン「それでな。ここからが一番大事な話だ」
キョン「ハルヒ、お前にはなんでも願いを叶えちまうトンデモパワーを持っている」
ハルヒ「それって、あたしが気を失う前に言ってたこと……?」
キョン「ああ」
キョン「そのトンデモパワーは、ハルヒ自身を苦しめた。
 その結果生まれたのが、今そこに倒れているハルヒだ」
キョン「ハルヒの抱えていた苦しみを全部受け持っていてくれてたんだとよ」
ハルヒの影「……」
>ハルヒの影がゆっくりと立ち上がる。
813:
キョン「つまりだ。お前は知らなくても、あいつは、もう一人のお前だ」
キョン「ちゃんと話をして、決着をつけて来い」
>キョンがハルヒの背を軽く押す。
ハルヒ「そ、そんなこと言われたって」
>ハルヒとハルヒの影が向かい合う。
ハルヒ「何を話せばいいのよ……」
ハルヒの影「……」
ハルヒ「あなたは、あたしなのよね?」
ハルヒの影「そう。あたしは、涼宮ハルヒ」
ハルヒ「やっぱり、全然ピンとこないわ……」
ハルヒの影「あたしの願いは、あなたの願いと同じだと思っていた」
ハルヒ「……?」
ハルヒの影「だけど、それは違ったわ」
ハルヒ「……? 違った?」
ハルヒの影「わたしは、あなたは、未知であふれた楽しい世界を欲していると思っていた。
  でも、あなたはそれ以上に、今のSOS団が続くことを願っている」
ハルヒ「……」
814:
ハルヒの影「番長くんの矛が身体に突き立ったとき、SOS団の絆があたしの中に流れ込んできた」
ハルヒの影「すごく暖かくて、心地よかった」
ハルヒの影「未知はほしい。でも今のSOS団をつぶしてまで得るものじゃない。
  素直にそう思えたわ」
ハルヒの影「最初は、結成した当初は自分だけが楽しければいい。そう思ってた。
  だけど今は違う。SOS団のみんなと未知を見つけて一緒に遊びたい」
ハルヒの影「ううん、未知じゃなくてもいい。SOS団のみんなと楽しいことがしたい」
ハルヒの影「だからSOS団を守らなくちゃいけない。団長だからじゃない。
  一個人の涼宮ハルヒとして」
ハルヒの影「そうでしょう?」
ハルヒ「!!」
ハルヒ「ふー……」
>ハルヒは、何か考え事をしているようだ。
ハルヒ「……そこまで言われちゃ、認めないわけにはいかないわね。
 全然ピンとこないけど、どうやらあなたは、あたしみたい。
 だって、誰にも話したことないもの。それを知っているのはあたししかいない」
キョン「ハルヒ……」
ハルヒ「そりゃ口に出せないわよ。団長が結成の根本を失ったら元も子もないもの。
 でもね、それ以上に楽しかったことも事実」
ハルヒ「野球も、合宿も、文化祭も、クリスマスパーティも、全部全部楽しかったわ」
ハルヒ「そこで気付いてしまったのよ。
 『ああ、特殊な属性なんてなくてもこんなに楽しいんだ』ってね」
815:
ハルヒ「気付いたときには、あたし自身に愕然としたわ。
 どうしたんだ、涼宮ハルヒらしくないぞ、なんて思ったわ」
ハルヒの影「だから、少しでも不思議を望んだ」
ハルヒ「そうね、異世界人が目の前に現れたらあたしたちはどう映るんだろうって考えたわ。
 なにか新しい刺激をくれるかもしれない、そんな風にも考えた」
ハルヒの影「そして、あたしの願いと重なって――」
ハルヒ「異次元の扉をこじ開けたわけね」
ハルヒ「ごめんね、番長くん。番長くんがここにきたのあたしのせいみたい」
>気にするな。それに自分も助けてもらったからな。
みくる「? どういうことですか?」
>ああ…それは、また後にしよう。
ハルヒ「とにかく、あなたはあたし。ちゃんと受け止めるわ。
 それと、今までありがとう。いやな部分、全部受け止めてくれて。
 そして、これからもよろしくね」
  
ハルヒの影「……そう」
>ハルヒは、ハルヒの影を受け入れたようだ。
>……?
ハルヒ「で、キョン。これでいいわけ?」
>ハルヒの影がハルヒの中へ戻る気配がない。
816:
古泉「これは……?」
キョン「おい、ハルヒ。心の底から自分だって認めたか?」
ハルヒ「? 認めてるわよ」
みくる「どういうことでしょう……?」
ハルヒの影「あたしは――もう、一つの自我として成長しすぎた」
ハルヒの影「確かにあたしは涼宮ハルヒ。だけど目の前にいる彼女とはもう別の存在。
  別の自我として確定してしまった」
キョン「じゃあ、もうハルヒの中へは戻れないってことか?」
ハルヒの影「ううん。もう、いつでも戻れるわ。反対にいつでも出てくることができる。
  だけどね、一つだけ言いたいことがあるから」
ハルヒの影「あたしは――いえ、あなたはもう認識してしまったわ。自分の力を」
ハルヒ「なんでも願いを叶える力……」
ハルヒの影「そう。認識してしまったからにはきっと、同じように苦しみを味わうことになる。
  また気が狂いそうになるほどの退屈な日常に襲われる。能力の発動を恐れるようになる」
ハルヒの影「あなたは、そのときに、どうする?」
ハルヒ「そ、それは――」
キョン「安心しろ、ハルヒ」
キョン「俺たちが、ついてる」
817:
長門「情報操作は得意。任せて」
古泉「閉鎖空間の処理は僕らがついています」
みくる「涼宮さんの思っているような未来にはさせませんから」
キョン「ってことだ。それにな、ハルヒ」
ハルヒ「何よ」
キョン「このメンバーが揃っていれば退屈なんてするはずない。そうだろう?」
>……そうだな。その通りだ。
ハルヒ「みん、な……」
ハルヒの影「これがSOS団。素敵ね」
ハルヒ「な、何をいまさら! 当然じゃない!」
>ハルヒは、向日葵のような笑顔を浮かべている。
818:
>ハルヒの影が淡い光をまとい足元から粒子へと変わっていく。
ハルヒ「!」
ハルヒの影「じゃあ、あたしは戻るわ」
ハルヒ「……ええ」
ハルヒの影「……もし、みんなが。SOS団がピンチになったら。
  そのときは、助けるために、出てきていいかしら?」
>どういうことだ?
ハルヒの影「あたしだって、涼宮ハルヒなんだもの。SOS団が潰れるところは見たくない。
  だから――」
ハルヒ「……もちろん。ていうか出てこないと許さないからっ」
ハルヒの影「ふふ……そう」
ハルヒ「あ、でもその恰好はやめてほしいかな。紛らわしいし」
ハルヒの影「わかったわ。あたしも、少し成長した姿を見せられるように頑張るわ」
ハルヒ「じゃあね、その日まで」
ハルヒの影「覚えていて。あたしがいたことを。
  覚えていて。わたしはすずみや――」
>ハルヒの影は粒子になってハルヒへと戻っていったようだ。
819:
キョン「ふー、終わったか」
古泉「とりあえずは、ですけどね」
ハルヒ「にしてもみんな。なんてものをあたしに隠してたのよ。
 外に出たらたっぷり話を聞かないとね」
キョン「仕方なかったんだ。わかってやれ」
ハルヒ「冗談よ。冗談。それぞれに事情があるんでしょうしね」
キョン「やけに物わかりがいいな……反対に怖いぞ」
ハルヒ「なによそれ」
みくる「……」
>どうした? 暗い顔して。
みくる「ごめんなさい、涼宮さん。外に出てお話はきっとできないと思います。
 だから、お話をするなら今しかないです」
みくる「せっかく隠し事せずにお話しできるのに
 ……これでお別れになるのは寂しいですけどね」
キョン「!」
ハルヒ「どういうことっ!?」
820:
みくる「帰るというか、強制送還だと思います。
 抵抗するためには仕方なかったとはいえ、いったい幾つの厳罰行為を犯したのか数え切れませんから」
ハルヒ「だ、駄目よ! 帰るなんて許さないわ!」
みくる「ごめんなさい。涼宮さん。みんな。けど、これには抵抗できないんです。
 みんなのこれからを見届けられないのは、やっぱり残念かな」
みくる「でも、ダメなんです。ここにはいられない。
 でもこうなることは、覚悟していたんです。後悔はしていません」
ハルヒ「みくるちゃん、そんな……」
みくる「これで、みんなのお役にたてたのなら――」
古泉「……まだ、その強制送還とやらは始まらないのですか?
 ずいぶん時間が経っているように思うのですが」
みくる「……? そういえば、そうですね。
 きっと、この空間を未来では認知できないんだと思います」
みくる「でも、ここから出たあと、すぐにでもあたしは――」
長門「問題ない」
みくる「え?」
ガリッ!
みくる「ひゃぁえぇえぇえぇっ!!」
>有希がみくるの腕に突然かみついた!
821:
ハルヒ「有希! ちょ、有希! 何やってるの!」
みくる「ひぃぃいいん……」
長門「朝比奈みくるの中にあった航時に関する概念装置の再生復旧を行った。
 一時的に消去した痕跡は残ってしまうが、人類の科学レベルでは検知できない程度」
長門「時間平面上に起こったノイズも修復を試みている」
長門「誰かが報告しない限り、なにも、問題はない」
ハルヒ「え、え? どういうこと?」
古泉「つまり、朝比奈さんは帰らなくてもよくなったってことです」
ハルヒ「有希のおかげで?」
キョン「そういうこったな」
みくる「よ、かった……よかったですぅぅ……」
>ぼろぼろと大粒の涙を流しながらその場にへたり込んでしまった。
822:
みくる「もう、二度と、みん、みんなに、あえ、会えなくなるのかと思っ、」
ハルヒ「そんなこと、させるわけないじゃない!」
みくる「涼宮、さん?」
ハルヒ「誰かがそれを壊そうとするなら、あたしが許さないわ。
 そうでしょう?」
>ああ。
キョン「そうだな、団長様」
みくる「涼宮さん…」
古泉「ふふ」
長門「……」
ハルヒ「さーて、こんなところさっさと出ましょう!
 ……みんなにも、お礼しなくちゃいけないしね」
キョン「それなら、番長をまず労ってやれ」
古泉「ええ、間違いなく最大の功労者ですから」
みくる「番長くんのおかげなのは間違いないですね」
長門「彼がいなければ、この状態にはなりえなかった」
ハルヒ「ありがとね、番長くん!」
>SOS団の全員と強い絆で結ばれるのがわかる……!
>これは……!!
823:
【我は汝…、汝は我…】
【汝、ついに真実の絆を得たり】
【真実の絆…それは即ち】
【真実の目なり】
【今こそ、汝には見ゆるべし】
【 世界 のアルカナが…汝が内に宿らんことを…】
824:
>突如、目の前の空間がゆがむ。
>……? なにかがゆらゆらと実体化しようとしてる。
キィィンッ!
ハルヒ「な、なによ! この扉……」
>これは、ベルベットルームの扉……!?
キョン「な、いきなり現れたぞ」
キョン「長門か?」
長門「違う。これは、彼と同じ」
古泉「番長氏と?」
長門「完全に、解析不能」
みくる「ど、どういうことですかぁ?」
>みんなの視線が集まる。
>これは、ベルベットルームと呼ばれる場所につながる扉だ。
>本来ならば、自分にしか見えないはずだが……。
ハルヒ「……いきましょ? 
 目の前に不思議があるんだからそれに乗り込まないのはSOS団じゃないわ」
キョン「ハルヒ?」
ハルヒ「いいから、いきましょ」
古泉「ふう……このタイミングですか」
長門「でも、これが最後かもしれない」
みくる「そう、ですね…」
ハルヒ「さあ、番長くん開けてちょうだい」
>ベルベットルームの扉を開く……。
825:
――ベルベットルーム。
ハルヒ「ここは……?」
古泉「車の中、ですかね。ですが閉鎖空間より光が乏しい」
キョン「お、おい。誰かいるぞ」
みくる「ひぇっ…」
イゴール「ようこそ、ベルベットルームへ」
>イゴール……!
イゴール「ようやく見つけられましたぞ、お客人」
マーガレット「久しぶり、といったほうがいいかしら?」
>マーガレット!
古泉「長鼻……」
キョン「? どこかで…?」
イゴール「おや? これはこれは。これほど多くの客人が一度に介したのは初めてですな」
イゴール「それに、それぞれが数奇な運命をお持ちのようだ」
826:
イゴール「わたくしの名はイゴール。お初にお目にかかります」
マーガレット「わたくしは、お客様の旅のお供を務めております。マーガレットと申し上げます」
古泉「旅……ですか」
キョン「ここはどこなんだ?」
イゴール「ここは、夢と現実。精神と物質。そして――世界と世界の狭間にある場所」
イゴール「本来は、何らかの形で契約を果たされた方のみが訪れる部屋」
マーガレット「ですが、あなたたちには主からお礼を申し上げたく、お呼び立てしました」
ハルヒ「お礼……?」
イゴール「お客人は、旅路の最後、強大な力を前に地に伏せってしまっておられた」
イゴール「その強大な力に飲み込まれ、そのまま力尽きるかに思われた刹那――」
イゴール「あなたが救い上げてくださったのですよ」
ハルヒ「あ、あたし?」
マーガレット「ええ。あのままでしたら、彼は消滅していたでしょう」
>ああ、そうだろうな……。
835:
古泉「消滅……?」
マーガレット「それほど強大なものと対峙しているのです」
イゴール「しかしあなたは、その強大なものにも立ち迎えるだけの力をつけて今ここに立っておられる」
イゴール「世界をその身に宿し、この場へと戻ってこられた」
マーガレット「本当ならば、あなたが別世界へ飛ばされたときにすぐに呼び戻そうと思ったのです」
マーガレット「ですが、それはできなかった」
マーガレット「あなたの居場所がつかめなくなってしまったのです」
イゴール「ですが、わたくしたちはようやく見つけたのです。あなたの紡いだ絆の輝きを」
マーガレット「あなたたちがコミュニティを作り、絆を深め、
  力強い絆の波導を感じ取ることができたおかげで、見つけることができました」
マーガレット「改めて、お礼を言わせていただきます」
>世界のアルカナを宿したことがきっかけになったというわけか……。
イゴール「あなたにとって絆を育むことは、世界も場所も関係ないようだ」
イゴール「本来の世界でなくとも、大変良い友をお持ちになった」
マーガレット「……でも、そろそろ時間です。
  ここへ足を踏み入れたときから、あなたの世界と時の流れは同期してしまっている」
836:
>……ああ。わかった。
>みんな。
ハルヒ「番長くん?」
>みんなとは、ここでお別れのようだ。
キョン「お別れだと?」
>自分の世界で、まだやり残したことがある。
>やり残したまま、そちらへ戻るわけにはいかないんだ。
古泉「……ここへ足を踏み入れた時からそうなるだろうとは、予測していましたが」
古泉「いざ直面すると、動揺を隠しきれませんね」
みくる「お別れ……そう、ですよね」
キョン「でも、ま」
キョン「永久の別れってわけじゃないんだろ? そっちの用事が終わったらまた遊びにこいよ」
マーガレット「それは叶わないわ」
キョン「……なに?」
837:
イゴール「本来、彼の世界とあなた方の世界は、交わることがないはずのものでした」
イゴール「しかし、奇跡とも呼べる偶然が重なり、彼がそちらへと召喚されただけに過ぎないのです」
イゴール「いえ、それもまた、運命だったのでしょうな」
マーガレット「ですが、一度世界の繋がりを絶ってしまえば二度とそちらへはいけない。
  お互いに干渉することも観測することも叶わない完全に独立した世界へと戻ってしまうのです」
キョン「そん、な……」
ハルヒ「…………なら、あたしが繋ぐわ」
>ハルヒ…。
ハルヒ「あたしは、なんでも願いを叶える力を持っているんでしょう?
 それなら――」
イゴール「残念ながら、それも叶わないでしょうな」
ハルヒ「っ! どうしてっ!」
イゴール「彼は、あなたたちの世界に本来は存在していない人間」
イゴール「世界が閉ざされるということは、その存在も閉ざされる」
マーガレット「つまり、彼と彼の世界を認識できなくなる」
838:
>それは自分にもいえることだろうか。
マーガレット「ええ、そうね」
マーガレット「あなたも、向こうの世界へ戻れば、彼らのことを認識できなくなるわ」
>そうか……。
ハルヒ「そんなことさせない。今ここで番長くんの存在をあたしたちの中へ刻み込むわ!」
マーガレット「……申し訳ありませんが、あなたの能力はここでは発動できません」
ハルヒ「どうしてっ!」
イゴール「あなた様の能力は、夢と現実、精神と物質に作用するもの」
イゴール「夢と現実、精神と物質。その狭間にある場所では、
  あなたの能力の発動のきっかけとなる触媒が何も在りませぬゆえ」
長門「この空間には情報が存在しない……?」
長門「ありえない。あなたたちは今ここに存在している。わたしたちもここに存在している。
 その情報は確実にこの場に確定している。
 それなのになぜ? 情報を持たない空間……?」
イゴール「おや、あなたは。どうやらわたくし達と近しい存在のようだ」
マーガレット「わたくし達は、力を統べる住人。あなたたちとは違った理を持っています」
マーガレット「つまり、あなたたちの世界の理に作用する能力は、ここでは意味を持ちません」
839:
ハルヒ「そんな……そんな!!」
ハルヒ「なによそれ! なにがなんでも願いを叶える能力よっ!」
ハルヒ「こんな能力! こんな能力……ッ!!」
>ハルヒは、強くこぶしを握り締めている。
ハルヒ「あたしは、なんて無力なの……」
マーガレット「それともう一つ」
マーガレット「彼のことを認識できなくなるとともに、徐々にですが
  彼が強く関わった出来事も認識ができなくなるでしょう」
マーガレット「特にここ――ベルベットルームでの出来事と」
古泉「テレビの中の出来事、というわけですか?」
マーガレット「その通りです。あの場所は彼がいなければ知ることもできない場所ですから」
古泉「つまりテレビの中で起こった出来事……。
 僕らの影のことも、ペルソナも、涼宮さんが能力を自覚したことも。
 すべては、なにもなかったかのようになってしまうと。そういうことですか」
キョン「なっ!」
マーガレット「あなたたちが何をしてきたのか。わたくし達には遡って感知する術はありません。
  ですが、あなたたちが考えていることと相違はそれほどないでしょう」
古泉「そう、ですか」
840:
みくる「せっかく……せっかく!
 新しい関係に進めると思ったのにっ! どうして、こんな……」
ハルヒ「いや……嫌よ! そんなことっ!」
長門「……」
キョン「すべては、ゼロに戻っちまうのか……」
>……それは、違うぞ、キョン。
キョン「?」
>ゼロなんかじゃない。
キョン「ゼロじゃない? 忘れちまうんだぞ!
 番長のことも! いままでのことも!」
キョン「そんなの……そんなの絶対に俺はごめんだ!」
>ゼロなんかじゃないさ。
>ハルヒ。
ハルヒ「な、なによ」
>料理対決のときに話したことを、覚えているか?
ハルヒ「料理対決……?」
ハルヒ「あ…!」
ハルヒ「一緒に過ごした『時』は消えない……」
841:
>そう。
ハルヒ「『過ごした思い出が、人生の中で埋没してしまう時が来るかもしれない』」
ハルヒ「『この時は思い出になって風化してしまうことがあるかもしれない』」
ハルヒ「『だが、今こうして過ごしている時間は決して消えはしない』」
ハルヒ「今培っている絆は、決して、嘘じゃない……」
>離れてしまっても、思い出せなくても。
>この瞬間の絆は嘘じゃない。
>今目の前にある、真実だ。
みくる「どうして……どうしてっ!
 番長くんは悲しくないんですかっ!」
みくる「もう会えなくなるんて、あたしは、あたしはっ」
>――不都合な真実であっても見つめ続ける。
>それが、心に決めていることだ。
みくる「でもっ!」
>悲しいさ。
>悲しくないわけがない。
>だけど、前に進まなければいけない。
>ここに留まっているわけにはいかない。
>自分を待っている人たちもいるから。
>自分が、しなければいけないことがあるから。
842:
みくる「番長、くん……」
>沈黙が横たわる…。
みくる「そう、ですよね……」
みくる「番長くんには、番長くんの世界がある……
 いつか、別れのときは来る……わかっていたんです。
 でも、それが突然すぎて……」
>みくる……。
古泉「ここは……笑顔で見送るべきなんでしょうね」
キョン「古泉!?」
古泉「あらゆる手段を考えてみても、世界の理を揺るがすことは僕たちにはできない」
古泉「涼宮さんも、長門さんもなにもできないのですから」
古泉「だから僕たちにできることは、笑顔で見送る。それくらいです」
>一樹……?
キョン「古泉、お前……その、涙」
古泉「え? は、はは、ははは……どういうことでしょうね。
 言った本人が笑顔を作れていません」
古泉「……困ったものです」
843:
古泉「この涙は、僕の本心なのでしょう。
 ですが、同時に、笑顔で見送りたいと思うのも僕の本心です」
古泉「この状況になにもできない僕の無力さをこれほど恨めしいと思ったこともありません」
古泉「だからこそ、笑顔で。
 この状況で唯一運命にあらがえる行為、それが笑顔で見送ることだと思います」
キョン「古泉……」
長門「……ひとつだけ、聞きたい」
>なんだろうか。
長門「あなたは、本当に、もう2度と会えないと思っている?」
>!
>有希は、鋭いな。
長門「そう」
>……実をいうと、あまり思っていない。
キョン「どういうことだ……?」
>なぜだろうな。自分でもわからない。
>だけど、ここで紡いだ絆が、またいつか自分とみんなを引き合わせてくれると信じている。
>根拠は、なにもないけれど。そう、感じてる。
長門「そう……それだけ、聞きたかった」
844:
ハルヒ「……そんなこといわれたら、信じるしかないじゃない」
キョン「納得できるのかよ!?」
ハルヒ「できないわよ! できないけど!」
>……キョン。
キョン「なんだ――」
ドゴォッ!!
ハルヒ「!!」
みくる「!!」
古泉「!!」
キョン「ってぇっ! 何しやがるっ!」
>何って、パンチだ。
キョン「そういうこと言ってるんじゃねぇっ!」
>キョン、こい。
キョン「なにを、こんなときに――」
ドゴォッ!
>こい。
キョン「っつ!! ……わかったよ、やってやるよ!!」
845:
>キョンとしばらく殴り合いを続けた。
キョン「いったい、なんなんだよこれはっ! がっはっ!」
ドゴォッ!
>さあな! ぐっ!
ドゴォッ!
キョン「なんで、別れ際に、こんなこと、しなきゃ、いけねーんだっ!」
>それはな――!!
ドッゴォッ!!
>お互いのパンチが顔面に入り、その場にへたり込んだ。
キョン「いつつ……はぁ、はぁ、はぁ……わっけわかんねぇ……」
>はあ、はあ、はあ……これで親友だ。
キョン「あん……?」
>殴り合えば、対等だ。
>対等ならば、親友になれる。
>その親友が戻ってくると言ってるんだ。信じてくれ。
キョン「そうかい……そういうことか」
キョン「これも……絆の形の一つか」
>そういうことだ。
>キョンとこぶしとこぶしを合わせる。
846:
ハルヒ「やれやれ、男って馬鹿ね」
みくる「ふふ、そうですね」
キョン「にしても、ここまで本気で殴るこたないだろうが……」
>つい……。
ハルヒ「しんみりした空気が台無しよ」
キョン「俺に言うな、番長にいってくれ」
>みんなに笑顔があふれる。
マーガレット「そろそろ、時間に余裕がなくなってきました」
イゴール「あなたは、再びあの強大な敵とまみえなければなりませぬ」
イゴール「覚悟は、お出来ですかな?」
>ああ。
マーガレット「別世界との接続により捩じれていた時空間が戻りつつあります」
マーガレット「もうすぐ、あなたたちの世界への道も閉ざされてしまう。
  その前に、その扉をお開きください」
ハルヒ「……わかったわ」
847:
ハルヒ「じゃあ、これで本当にお別れね、番長くん」
>ハルヒ。料理対決楽しかった。
ハルヒ「リベンジは、いつでも待ってるからっ」
>ああ、きっとさせてもらうさ。
みくる「番長くん……」
>みくる。SOS団にはみくるの優しさが必要だ。
みくる「必ず、必ず! また会いましょうね!」
>当然だ。だからみくるも、待っていてくれ。未来でも現在でも。
長門「……」
>有希?
長門「忘れない」
>! ああ。有希がそういうなら、絶対だな。
長門「そう」
古泉「何を言ったらいいんでしょうね」
>一樹には、世話になりっぱなしだったな。
古泉「とんでもありません。僕のほうが助けられっぱなしで」
>必ず、世話になった恩は返す。待っていてくれ。
古泉「はい、お待ちしておりますよ」
キョン「番長……最後まで、悪い」
>どうした、親友。
キョン「恥ずかしいからやめてくれ。……最高の数日だったぜ、先輩。
 次に会う時までには、胸を張って肩を並べられるようになってるから、その日まで待っていてくれ」
>楽しみにしておこう。
848:
ギィィ……。
>扉が開く。
マーガレット「少し、記憶が混乱するでしょうけど、身体に問題はないのでご安心ください」
ハルヒ「……あーあ。ってことは、せっかくみつけた超能力者も、未来人も、宇宙人も、異世界人も
 またしばらくお預けかぁ」
>大丈夫。ハルヒならきっと見つけられる。
ハルヒ「……本当に待ってるからね。ううん、絶対あたしからそっちに行ってやるんだから。
 もちろん、みんなを連れてね!」
>! ああ、待ってるよ。
ハルヒ「じゃあね――」
イゴール「それでは、よい旅路を」
ギィィ……バタン。
>ハルヒたちは扉を通り外へと出て行ってしまった。
イゴール「さて、準備はもうよいですかな?」
>ああ、みんなが待ってる。
マーガレット「時空間の捩じれにより扉の向こうは、あなたが倒れ伏した直後につながっております」
>決着を、つけよう。
イゴール「……いいお顔になられましたな」
>そうか?
イゴール「別世界でのできごとは、あなたにいいように作用したようですな」
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