雪歩「私と、インフェルノスターズ」back

雪歩「私と、インフェルノスターズ」


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1:
 1. 響「自分たちの、インフェルノスターズ」
 2. 真美「進めっ、インフェルノスターズ!」
 続きになります。
2:
「プロジェクト・フェアリーの皆さん、ありがとうございました!」
 割れんばかりの歓声が会場中に響き渡っている。
 今の自分にできることは――不安そうな表情の3人を、安心させることだ。
「それでは続きまして、優勝ユニットへのトロフィー授与、およびアイドルクラシック予選……」
雪歩「響ちゃん、あの」
響「みんなは表彰式、行ってきて。自分は美希達と話してくる」
3:
真美「待ってよひびきんっ、曲が」
千早「――分かった」
 自分を引き留めようとする真美を、千早が遮る。
真美「えっ!?」
千早「私達はプロよ、真美」
 千早はそう言うと、ステージの裏へと駆けていく。
4:
真美「ま、待っ……」
雪歩「響ちゃん……その」
響「大丈夫。だからみんなは、笑顔でトロフィーもらってきて」
雪歩「……うんっ」
 真美と雪歩も、千早に続いて走りだした。
 ……プロ。プロのアイドルだからこそ、何かあったとしても、やり遂げなきゃいけない。
 それは自分も一緒で、彼女たちをプロデュースする立場だから、何かあればそれを解決させなきゃいけないんだ。
5:
 どこからか沸き立つ不安を、怒りをかき消すように、ドアの前で深呼吸をした。
 そして――楽屋のドアを開ける。
美希「っ! ひび……」
貴音「……」
 フェアリーの楽屋には、さっきの衣装のままの二人が居た。
 美希はソファに座って、貴音は鏡の前に立っている。
響「……ねえ、ふたりとも」
6:
 なんでフェルノスの新曲をフェアリーが歌ってたんだとか、
 どうしてそもそも審査員として今日ここに来てるんだとか、
 ここにプロデューサーが居ないのはなぜなのか、とか。
 聞きたいことは山ほどあったけれど。
響「自分たち、優勝したぞ」
 自分でもわからないけど、そんな言葉が口をついて出た。
7:
美希「え……?」
 美希が呆然としている間に、貴音が微笑んで言う。
貴音「おめでとうございます。これでアイドルクラシックにひとつ、近づきましたね」
響「うん、だから待ってて」
貴音「分かっています。わたくし達は全力で立ち向かうのみ。……ですよね、美希」
美希「う、うん……じゃ、じゃなくって」
8:
 思わず力が入っていた自分の手を、美希が両手で握った。
美希「――響、ごめんなさい」
響「……曲のこと?」
 自分から切り出すことは、どうしても出来なかった。
 勇気がなかったんだ。関係が壊れるかもしれないと思うと、何も言えなくて。
美希「こんなことになったのは、全部……ぜんぶミキのせいなの」
9:
響「……美希。自分、美希が本当に何を思っているのか聞きたいんだ」
 本当に曲を盗んでしまったのか。だとしたら、それはどうしてなのか。
 「ごめんね」の真意を、知りたかった。
美希「――響のデスクにあったCDを」
響「CD?」
 CDなんて置いたっけ。
10:
美希「ほら、フェルノスの新曲のROMが……あったでしょ。あれを見つけて」
響「……うん」
 そういえば、確かにデスクの上に置きっぱなしだった気がする。
 黒井社長にもらった新曲データと、歌詞の印刷された紙。
美希「CDにサインペンで『フェアリー新曲』って書いてあったのを見たんだ」
響「……え?」
美希「書いてあったでしょ?」
11:
 鞄からCDを取り出そうとして、何も持たずにここに来たことに気づく。
 どうしてフェアリーの新曲、って書いて――そうか。
貴音「新曲はもともと、わたくし達が歌う予定だったもののようですね」
響「うん……それを黒井社長が来れたんだ。千早に、って」
 961プロでフェアリーが発売する予定だった曲なら、
 フェアリーの名前が書いてあって当たり前じゃないか。
美希「それ、ハニーが用意してくれた曲だと思って」
12:
響「プロデューサーが?」
貴音「……プロデューサーがわたくし達の新曲を用意している、ということは知っていました」
響「それが……『Melted Snow』だと思った、ってこと?」
美希「うん……それで、練習して、振付を考えて……昨日の夜、貴音とふたりで合わせたんだけどね」
 美希はさっきから、目を合わせてくれない。
美希「……事務所に帰ってきた時、律子が偶然その話をしてて」
13:
 それで美希は、貴音にすら言い出せないまま。
 今日という日を。新曲を発表する日を迎えてしまった。
貴音「わたくしも、響が来るまでの時間に聞いたばかりで」
 考えがまとまっていない、と貴音は逡巡した。
美希「今日はずっと混乱してて、千早さんの顔を見て何か言わなきゃ、って思って」
響「それでごめんね、って言ったの?」
 そんなの、
響「……自分のせいじゃないか」
 美希が勘違いするようなCDの置き方をしてた、自分の。
14:
バンッ
黒井「おい、どういうことだ!」
 その時、勢い良くドアが開いて黒井社長が楽屋に入ってきた。
 怒り心頭で自分と美希、貴音を順番に睨む。
黒井「なぜあの曲を貴様らが歌っている!」
美希「み、ミキの勘違いで」
黒井「勘違い!?」
15:
 美希が簡単に説明をすると、黒井社長が大きく溜息をつく。
 自分の瞳をまっすぐに見てきた。
黒井「どうするんだ」
響「え……」
黒井「如月千早の新曲にするという話は、このような状況でも進められるか?」
響「それは」
 やってみせる、と言うつもりだったのを、遮られる。
16:
黒井「大々的に、影響力のあるフェスで発表してしまった。それでも貴様は、あれを無かったことにできるのか」
響「な……」
黒井「どうなんだ」
 無かったことにして、千早――メインで、フェルノスの新曲として出す。
 それはきっと、難しい。
響「それじゃあ……自分じゃなくて、美希と貴音に渡せばよかったんだ」
17:
響「だって、元々フェアリーの曲なんでしょ?」
黒井「……そうだ」
響「それなら、曲が持ち主のところに戻った、ってことでさ」
 次々と想いが、口をついて出る。
 それは日頃感じている、美希と貴音へのどうしようもない感情なのかもしれない。
 怪我をしている自分が二度と立てない、”フェアリーのステージ”への嫉妬。
18:
 黒井社長は数秒黙って、静かに言った。
黒井「……プロジェクト・フェアリーは3人組だ。追加も脱退も認めない」
美希「社長……」
黒井「貴様らはもう私の手元には居ない。だが、企画立案、デビューライブの宣伝広告。全てそれは961プロが請け負った」
 オーバーマスターを初めて歌ったあのライブ。
 まだ自分は、ハッキリと覚えているんだ。
黒井「我那覇響の居ないフェアリーが何をしても、それは不完全だ」
19:
貴音「……ええ、その通りです」
響「貴音……」
美希「そうだよ、響。もしフェアリーが歌うなら、響も居て三人じゃなきゃ、いけなかったの」
 ふたりとも……黒井社長も、三人だったころのフェアリーを大切にしてくれている。
 美希がこの間、音楽番組で自分の昔の映像を合成するように頼んだように。
 貴音がトーク番組で、自分と美希との三人の思い出を笑顔で語っていたように。
 そうか。
 だから黒井社長は、プロデューサーにCDを渡さなかったんだ。
20:
黒井「……失礼する。曲に関しては一度手放したものだ、一任する」
 黒井社長が出て行くと、再び楽屋は静かな空間へと変わっていく。
美希「……響」
 美希が赤く腫れた目を腕で拭っている。……涙。
響「……ごめんね、美希」
美希「な、なんで響が謝るの? ミキが――」
21:
響「自分、美希と貴音が大切にしてくれた『3人のフェアリー』のこと、ちゃんと考えてなかった」
美希「……」
 『Song on the wave』でも、自分のことを考えていてくれたじゃないか。
 一瞬でもフェアリーがこの歌を歌えばいいと、その方が良いと考えてしまった自分が、嫌だった。
 ふたりの気持ちを踏みにじっているような、そんな気がした。
貴音「響。わたくしは、こう思っています」
22:
響「え?」
貴音「わたくし達プロジェクト・フェアリーは3人組です。響は今でも、フェアリーなのです」
響「……うん」
貴音「ですが、響はインフェルノスターズというユニットのプロデューサーをしています」
 そうだ。
 自分はプロデューサーになって、千早たちをトップアイドルにすることを目標にやっている。
貴音「それは決して、両立させることは出来ません」
23:
響「両立……」
貴音「いつかわたくしと千早達は、ステージで対立するのですから」
 ……対立。
 アイドルクラシックで自分たちが勝ち上がり、フェアリーのいる舞台に行くことが出来れば。
 最強のアイドルユニットであるフェアリーと戦うことが出来る。
美希「そう、だね。……ミキも『アイドルの響』と『プロデューサーの響』を一緒にしちゃ、いけないって思うな」
響「……うん」
貴音「ですから、響」
24:
 貴音は自分の眼をまっすぐ見つめた。
貴音「あの曲を……『Melted Snow』を歌うインフェルノスターズと対戦することを、楽しみにしています」
響「貴音……いいの?」
貴音「結論は出ていますよ、最初から。……ですよね、美希」
美希「……うん。あの曲は、もうフェアリーの曲じゃないの」
 本当にごめん、と美希は頭を下げた。貴音も続けて頭を下げる。
響「や、やめてふたりとも。自分こそ、ごめん」
25:
 すごく久しぶりに、ふたりと会話をした気がする。
 最近はずっと忙しくて、たまにテレビ局ですれ違うような、そんな日々が続いていたから。
 そういえば、
響「プロデューサーは?」
 春香から、プロデューサーはフェアリーにつきっきりだと聞いた。
 あの時は移籍の件で動いているのか、と思ったけれど。
美希「ハニーなら、ずっとやよいの仕事をしてるの」
貴音「まことですか? わたくしは真に帯同していると聞きましたが……」
響「え……?」
26:
美希「響はなにか知らない?」
響「いや……最近、プロデューサーがずっと会議を休んでて」
 だから、動向は知らないんだ。
 担当アイドルですら認識が違っているなんて、どういうことなんだろう。
響「何か、あったのかな」
 少し、不安になる。
 プロデューサーが無理をするのは、今も同じなんだな。
27:
 □
 『Melted Snow』の発売も、アナウンスもとりあえず保留にしておく。
 というのが、自分と律子とプロデューサーで出した結論だった。
 プロデューサーがずっと何をしていたのか、それは教えてくれなかった。
 多分、いろんなアイドルの曲や仕事を用意したんだろう。同じ事務所でもライバル、ってこと。
28:
響「……よーし、雪歩。そろそろ移動するぞ」
雪歩「はーい。……それじゃあ、行ってくるね。真ちゃん」
真「行ってらっしゃい、雪歩!」
 真が、自分の出ている情報番組の決めポーズをした。
 ルーキーユニットフェスで優勝したことで、アイドルクラシックの一次予選を通過したことになった。
 そこで開いた時間を、他の仕事に費やせる。
 雪歩が前から興味を持っていた特番ドラマのオーディション。
 今から自分と雪歩が、そこに向かうことになった。
29:
 雪歩と自分の変装もそろそろ板についてきて、自分も地下鉄のにおいに慣れてきていた。
響「雪歩。オーディション用の台本はどう?」
雪歩「うん。もうだいぶ自分のものに出来てきたよ」
 今から受けるのは、普段のモノとは少し違う特殊なオーディションだ。
 オーディション会場で特番ドラマに近い設定の別の演技をそれぞれにやってもらって、判断する。
 普通のオーディションなら少しの台詞、身体の動きだけれど、このオーディションは台本20ページ分。
 それを覚えて、自分のものにする。
30:
響「それなら良かった。このドラマは雪歩が出たい、ってずっと言ってたからなー」
雪歩「……この監督のドラマ、大好きなんだ」
 雪歩は演技を大切にする。
 自分に役柄を重ねあわせて、その役を一番理解することで、演技の完成度を上げていく。
響「分かるぞ。空気感とかが独特で」
雪歩「響ちゃんは前に一緒に仕事をしてたんだよね?」
31:
響「うん! 『クリスマスライナー』のCM」
雪歩「あのCMも大好きだったなぁ」
 真冬に流れるCM。池袋駅前に大量の雪を降らせて撮影した仕事。
 恋をする女の子の演技が分からなくて、自分が演技を難しい、と改めて思った時だ。
雪歩「私、大丈夫かな……?」
響「え?」
32:
雪歩「なんだか自信が無くなりそう……」
 雪歩の手に力が入って、台本が少し折れる。
響「だ、大丈夫だって! 雪歩、絶対に主役を勝ち取ろう!」
雪歩「う、うんっ」
 少し大きい声を出してしまった。周りのひそひそ話がなんだか気になる。
 ……もうすぐオーディション会場の最寄駅だ。
33:
 ――
 会場に入って、受付をしようと思った所で雪歩にスーツの裾を掴まれる。
雪歩「響ちゃん」
響「ん?」
雪歩「私ね、今日のオーディションは自分のために、じゃなくて」
 雪歩は真面目な表情で、ゆっくりと言った。
雪歩「響ちゃんを元気づけるために、頑張るから」
34:
響「元気づける?」
雪歩「うん。……響ちゃん、フェスの夜からずっと元気が無いから」
響「……そう、見える?」
 なんでだろう。
雪歩「新曲のことは、響ちゃんのせいじゃないんだよ」
響「自分のせい?」
35:
雪歩「……四条さんから聞いたんだ。『自分のせいだ』って言ってたって」
響「……うん」
 美希があの曲をフェアリーの新曲だと思ったのは、自分の管理が不手際だったから。
 だから、あれは自分のせいだ。
響「……自分のせい、だよ」
雪歩「違うよ、誰も悪くない」
36:
響「でも……」
「――765プロ」
雪歩「え……?」
 聞いたことのある声。振り返ると、そこには。
 フェスや……その前のCD発売ステージで突っかかってきた。
雪歩「う、うららちゃん」
響「な、なんでコスモプロがいるんだ!」
37:
 プチプラ★ネットの天王寺うらら。
 その目は、声は――怒気を孕んでいる。
うらら「それはこっちの台詞。なに、また低ランクのアイドルを潰しにきたの?」
響「な、なんだその言い方!」
うらら「アンタたちのせいでビジュアルの審査員が帰ってスターが台無しになったのよ?」
 ……コスモプロの大逆転負け。
 でも、プチプラは”低ランクのアイドル”じゃない。そんな言い方、まるで765が悪いみたいだ。
38:
うらら「……何を企んでるかは知らない。でも、私は負けない」
雪歩「何も、何も企んでなんか無いよ。私は真面目に、このドラマの主役になるために来たの」
うらら「…………再戦、ね」
 うららは静かに、そう口にした。
雪歩「……響ちゃん。私、絶対に主役になるから」
うらら「正々堂々行きましょう、765プロ」
 そして――ルーキーユニットフェスでの様々な感情を乗せて、オーディションが始まる。
48:
監督「今回のオーディションは皆さんにとって、あまり体験したことのないタイプのものだと思います」
 メガネの監督は、マイクを持って淡々と話し進めていた。
 オーディションは2回あって、今日は1回目。
 予め送られていた台本の通りに演技をして、監督が評価したキャストが2回目に進める。
 10人のうち、二次審査に進めるのは半分、5人しかいない。
監督「独特の手法ですが、これはチャンスがかなりあるオーディションだと思って受けていただきたい」
 ……いや、5人もいるんだ。
49:
監督「今回ここに集まっている皆さんには、5パターンの台本を配布しました」
雪歩「……っ」
 雪歩がこぶしを作って、監督をしっかりと見つめていた。
監督「同じ台本を持っている人が2人ずつ、5組あります」
 監督はメガネを外して、
監督「その2人にはそれぞれ全く同じシーンを演じてもらいます。交互に見て、僕が選んだ方が一次審査通過です」
 ……会場がざわつきはじめる。
 アイドルはおろか、プロデューサーにも伝えられていなかった”独特の手法”。
50:
 10人全員に同じ役柄ならまだしも、2人だけ?
 そんなオーディション、自分だって受けたことが無い。
監督「ホワイトボードに今から、その組み合わせを貼ります」
響「……!」
 剣道の対戦表のような組み合わせ一覧。765プロ、萩原の真下――同じ台本を持つアイドルは、
うらら「……」
 天王寺うらら。
 うららは雪歩を見ずに、ホワイトボードをじっと見ていた。
51:
 10分後から審査が始まる、と言って監督が退出する。
 そんなに時間が無いのも珍しい……こんな抜き打ちテストみたいなオーディションで。
 終わってすぐ、うららは雪歩に近づいた。自分も雪歩の横につく。
 うららは手に持っていた台本をぷらぷらと揺らした。
うらら「……あなたと私が同じ台本だなんてね」
雪歩「……うん」
うらら「ここまで場が揃うとは思わなかったわ。これで正真正銘、あなたを倒すことが出来る」
52:
響「……そんなに敵視してどうするんだ」
うらら「ライバルを敵視することが、なにかおかしいかしら?」
響「……いや」
 おかしくはない、と思う。
 自分だって961の時、春香や真のことを毛嫌いしていたこともある。
うらら「ルーキーユニットフェスのことは、今でも忘れられない」
響「っあれは、プチプラがジェノサイドを」
53:
 アピールに失敗して、ポイントを失ったうらら達。
 だからこそ、フェルノスの大逆転劇があって、優勝して。
うらら「元々アレは前後のユニットがアピールした分だけ、後にツケが回ってくるのよ」
響「だけど、それをフェルノスのせいにされちゃ」
うらら「結局優勝したのは貴方達じゃない……っ」
響「それでも、そのことを今日のオーディションまで引きずるのは良くないぞ!」
54:
うらら「あなたまだ分からないの!? 私と萩原雪歩が同じ台本ってことは、どっちかしか通過できないの!」
響「……っ」
 でも、だからってフェスのことを引きずって勝手にライバル視して、雪歩を動揺させるのは……。
うらら「どっちかが勝って、どっちかが負けるのよ! だから当然じゃない、コイツのことを敵視しても――」
雪歩「――うらら、ちゃん」
 透き通る雪歩の声に、うららの身体がびくん、と反応した。
55:
雪歩「私は、うららちゃんが私達のことを嫌ってる理由、分かるよ」
うらら「……何よ、全部分かってるわけ?」
雪歩「私だって、逆の立場だったら……相手の顔を見たくないかもしれないもん」
 雪歩の口調はいつもと変わらない。
 それでも、少しずつ自分に自信をつけはじめたその言葉は、今までの雪歩とは断然違う印象を与えた。
雪歩「オーディションでだって、敵同士になっちゃったよね」
56:
 彼女の手に力が入って、台本の表紙がくしゃりと折れる。
雪歩「だから、今は敵として、お互い高め合おう。がんばろう?」
うらら「……お互い高め合うなんて、敵に」
雪歩「――それで」
 雪歩がうららの言葉を断ち切る。
雪歩「どっちが勝っても、それは”結果”だから……認めよう」
57:
うらら「まるで自分が勝って当然だ、みたいな言い方ね。性格の悪さがにじみ出てるわよ?」
響「なっ……うらら、さすがに言い過ぎだよ!」
雪歩「私が勝つよ」
 透き通った声は、嘘偽り無く雪歩の想いを伝える。
うらら「……へぇ」
雪歩「そう思わないと、相手のうららちゃんにも、プロデューサーの響ちゃんにも、申し訳ないから」
58:
うらら「……いいわよ」
雪歩「……」
 こんなに真っ直ぐで、強くなっているなんて。
 自分は雪歩のことを、過小評価していたのかもしれない。
うらら「貴方、芯はしっかりしてるのね。……私が勝ったら、慰めの言葉ぐらいはかけてあげる」
 男の人と犬が苦手で、引っ込み思案な女の子――出会った頃の印象のまま、プロデュースしていたんじゃないのか?
雪歩「うん……よろしく」
うらら「ええ、良い演技をしましょう? 私が勝つけど」
59:
 雪歩のことをよく分かっていないのは、自分だ。
雪歩「……響ちゃん」
響「……うん?」
雪歩「私、どうしてもこのお芝居の主役、やりたいんだ」
 台本を持って、真剣な顔で自分を見る雪歩。
 闘志……っていうのかな、雪歩の中のパワーがみなぎっていた。
60:
響「うん……自分、良い結果を待ってるからね」
雪歩「ありがとう……頑張るよ!」
 雪歩は、自分を元気づけるために頑張る、とも言った。
 自分のためにじゃないって言ったけれど、雪歩の中にある「主役をやりたい」って気持ちは正真正銘の本物だ。
 なんで、こんなに自分は焦っているんだろう?
 曲の管理ミスをしてから、雪歩のオーディションでだって、彼女のことをよく理解できずにいて。
 そんな状態でプロデュースを続けて、本当に良いのか?
61:
 台本を片手に、大きい振りで演技をする雪歩を見る。
 ユニットを組んだ時だって、雪歩は充分強くて。
雪歩「――ああ、お待ちください! 貴女は何故……」
 こうやってひとりでも、自信を持って活動しているのに。
 雪歩は弱い、そう思ったままで。
 だから「か弱い」イメージの「インフェルノスターズ」のメンバーに抜擢して。
62:
 フェルノスはか弱くなんかない。華奢な女の子の、その中にある情熱を……感じてもらいたいユニット。
 情熱を秘めている雪歩は、千早は、真美は魅力的で、強くて、格好良い。
うらら「その剣を引き抜いてしまえば……魔王は目覚めてしまいます!」
 考えがまとまらない。
 自分はプロデューサーだから、アイドルに弱みなんか見せちゃいけないのに、こうして雪歩には気づかれた。
 ……難しいことを考えている間にオーディションが始まり、プロデューサー一同は廊下に出て行くことになった。
 出る寸前、雪歩と目があった。笑顔でグーを作っている。……雪歩なら絶対、大丈夫だぞ。
63:
 オーディションが始まって5分ほど経った時、携帯電話が震えた。
 真美からの電話だ。
響「もしもし、ま」
真美『もしもし、ひびきんっ!?』
 電話越しの真美はすごく焦った声で、それで急いでいるようで。
響「ど、どうしたの真美……?」
真美『あのね、ちょっとひびきんに確認してほしいことがあるんだけど』
64:
響「なんだ、スケジュールか? それならちゃんと渡して」
真美『今日の真美と千早お姉ちゃんのスケジュール、言ってみて』
響「え? 真美は『クッキングマスター』の収録で、千早は『ポップワンミュージック』の収録、だったはずだけど」
真美『……やっぱり』
響「何かあったのか?」
65:
真美『ひびきんがくれたスケジュールの紙、番組名は合ってるんだ。『クッキングマスター』ってなってる」
響「……」
 スケジュールを間違えた、ってことか。
 混乱気味だった頭が、さらにぐるぐるとなる。
真美『でもでも、場所はポップワンの東京テレビのCGスタジオで、そこで始まるのがポップワンの収録で』
響「えっ……?」
真美『さっき千早お姉ちゃんにも連絡したんだけど、真美と千早お姉ちゃん、お互い逆のテレビ局に来ちゃってて』
66:
響「そ、そんな……」
 慌てて自分の手帳を確認する。
 ……情報は合ってる。雪歩がオーディション、真美がブーブーエスで料理番組、千早が東京テレビで音楽番組。
 3人にスケジュール表を渡すときに、間違えた?
真美『どうしようひびきん! あと10分で番組の収録が始まっちゃうよ!』
 ……どうすれば、どうすればいいんだ。待って、落ち着かなきゃ。
 つまり真美が出る予定の料理番組のスタジオに千早が、千早が出る予定の音楽番組のスタジオに真美がいる。
67:
真美『テレビ局の人たちに相談したら、真美でも良いって言われたけど……』
響「ね、ねぇ真美。ポップワンで千早は何を歌う予定だったの?」
 あの番組はゲストが少なくてトークメインだから、最低でも2曲は歌う。
 真美のイメージに合う曲に変えてもらうことが出来れば、問題ないんだけど。
真美『えっとね……ちょっと待ってね! あったあった、如月千早……”THE IDOLM@STER”と”arcadia”!』
響「そっ、そんな……」
 2曲ともあんまり真美のイメージとは合わない曲だ。
68:
真美『あっ、出演者は準備してって、ひびきんっ』
響「……真美、雪歩のオーディションが終わったらすぐにそっちに行くから! だから、出演して欲しいんだ!」
真美『わ、分かった……頑張ってみる! あと、千早お姉ちゃんにも連絡しておいてっ』
響「分かったぞ! ……本当に、本当にごめん!」
真美『だいじょーびだよっ! ひびきん、ゆきぴょんのオーディション、しっかり見届けなよっ?』
響「ごめん、よろしく……っ!」
69:
 電話が切れた。後悔している時間はない、急いで千早に電話しなきゃ。
 1コール、2コール、3コール目で千早が出た。
響「千早っ」
千早『響! 真美に連絡はついた?』
響「うんっ、それで……ごめん、千早」
千早『もう過ぎてしまったことを責めても仕方ないわ。私は、この番組で真美がやるべきだったことをしっかりやらなきゃ』
70:
響「千早が出ても大丈夫なのか?」
千早『ええ、事情を説明したらね。……響は感謝しないといけないわよ、番組のプロデューサーには』
響「うん……ごめん。自分、全然気づかなくて」
千早『私達にも過失はある。番組とテレビ局が違うことに気付かなかったから』
響「……」
千早『それで、響。この番組のことを確認したいのだけれど』
71:
響「分かった」
 千早はやっぱり怒っている。当たり前だ、プロデューサーがまともに仕事もできていない。
 なんで自分はこんなミスをしてしまったんだ。
千早『まず、作る料理はカレー。今日は野菜を切るだけだったから大丈夫そうよ』
響「そ、そっか……良かった」
 千早はちゃんと自炊ができるし、料理に関しては問題無いと思うけれど。
 肝心なのは、千早が一番のメインに考えている仕事の方で。
響「それで……歌は?」
72:
千早『歌を歌うコーナーはあるわ、本来は真美が歌うところだけど、平気そうよ』
響「何の曲を歌うの?」
千早『はぁ……前に番組プロデューサーと確認しなかったの?』
響「……ごめん」
 確認したし、手帳とは別の資料に書いてあるけれど、混乱している頭では思い出せなかった。
千早『”おはよう!朝ごはん”よ』
73:
 やっぱり本来は別々の仕事だから、歌も全然違う方向性のものだった。
千早『この曲を歌い上げるのは難しいけれど……精一杯やってみる』
響「ごめん、千早……」
千早『収録まであと20分もないから、そろそろ切るわね』
響「うん……本当に、ごめん」
千早『……響』
74:
 ふと、さっきまでと全く違う声のトーンで名前を呼ばれる。
響「え……?」
千早『謝りすぎなんじゃないかしら。謝罪の言葉なんて1回言えば済むし……何より、あなたらしくない』
響「……自分らしくない…………?」
千早『ええ。私達のユニットが”か弱い”ぶん、プロデューサーにはもっと自信家で居てもらわないと困ってしまうから』
響「……」
千早『それじゃあ、行ってくるわね。雪歩のこと、しっかり支えてあげて』
響「う、うん……」
75:
 自分らしくない、って一体なんだろう。
 何のことだろう?
 重大なミスをして、落ち込む暇があるぐらいだったら頭を下げる。
 それがプロデューサー……の前に、社会人として当たり前の行動じゃないのか。
 自分らしく、って……何だろう。
76:
 ――
 プロデューサーの方々は室内に入ってきて下さい、発表します。
 係員にそう案内されて、オーディションが行われた部屋に戻る。
 雪歩を見ると、彼女は真面目な表情をしてじっと前を見つめていた。
 ……よし、大丈夫。雪歩ならやれる。
監督「えー、今回は非常に選定が難しいオーディションでした」
77:
 監督が長い前置きを喋り、一次審査の通過者の名前をあげていく。
 聞いたことのあるアイドルの名前が呼ばれ、見たことのあるアイドルが目の前で喜ぶ。
 4人目の名前を呼び、最後の1人。
監督「765プロ、萩原さん。……以上の5名が一次審査通過となります。お疲れ様でした」
 うららの身体が一瞬、揺れた。
88:
 監督が長い話を終えて、他のスタッフと部屋を退出していった瞬間。
 ……雪歩が自分の方に思いっきり走って、そして抱きついてきた。
雪歩「やった、やったよぉ」
響「雪歩、おめでとう!」
 少しだけ泣いてしまっている雪歩を両腕でしっかり支える。
 近づく人影に顔を見上げると、不満気な顔をしたうららが立っている。
89:
うらら「……おめでとう」
響「うらら……その」
うらら「認めるわよ、そっちが言った通りに、萩原雪歩が勝ったのは結果だから」
雪歩「……うららちゃん。いつか、一緒にドラマに出よう?」
 うららはしばらく無言だったけれど、最後に小さく頷いて部屋を出て行った。
90:
響「雪歩、改めておめでとう。自分、本当に嬉しい!」
雪歩「ありがとう、響ちゃん! 私……」
 雪歩が何かを言おうとした後、少しつっかかったような表情になって、首を振った。
雪歩「なんでもない。次も頑張るから、応援してね」
響「うんっ」
91:
 涙を流して喜んでいる雪歩とすぐに別れたくはないけど、仕方が無い。
響「雪歩。自分、ちょっと真美の仕事場に行かなくちゃいけないんだ」
雪歩「えっ? ……何か、あったの?」
響「……ちょっと、ミスしちゃってさ。千早と雪歩の仕事場を取り違えて」
雪歩「た、大変だよ! すぐ行かなきゃ!」
92:
響「だから、雪歩はここからまっすぐ事務所に……って、雪歩?」
雪歩「早く着替えるから、響ちゃんも準備しなきゃだよ!」
響「……来てくれるのか?」
雪歩「当たり前だよ! だって私たち」
 雪歩があたふたしながら放った言葉が、妙に重く、心に響いた。
雪歩「仲間なんだから!」
93:
響「……ありがと、雪歩」
雪歩「どこに行くの?」
響「え……東京テレビ、だけど」
雪歩「だったら、タクシー呼ぼう!」
 雪歩は合同の控室に急ぎながら、自分のことも急かしてくれた。
94:
 ◆
真美「や、やっぱり曲の変更とかは出来ないかなっ」
D「ごめんね、もうセッティングが済んじゃってるんだ。ミスキャストだと思うし、こっちも変えてあげたいけど」
真美「わかった……あのっ」
D「うん?」
真美「真美、千早お姉ちゃんに負けないぐらいに頑張るから! だから、ひびきんを怒らないで!」
95:
D「……響ちゃんを?」
真美「ひびきんね、ちょっといろいろあって、マイっちゃってると思うんだ」
D「そういえば、765のプロデューサーが謝ってきた時に」
真美「兄ちゃんも何か言ってたの?」
D「ん、ああ。私の不手際でした、ってさ」
96:
真美「そうだったんだ……」
D「ま、今回の件とはまた別だけどね。ほら、フェアリーの歌がどうの、って話で。
 フェスの生中継をウチの局がしていたから、混乱させてごめんってことなんだろうけど」
真美「やっぱり、怒る?」
D「そりゃあな、本当はここに千早ちゃんが居て、真美ちゃんはもっと真美ちゃんらしい仕事をしていたんだろう?」
真美「う……」
97:
D「それでも、真美ちゃんが頑張るって言ってくれるなら……俺はマスタールームから見てるよ」
真美「……うん」
D「よし。トークでは真美ちゃんの面白さ、爆発させてきてくれよ!」
真美「分かったよ! よーっし、しっかり見ててね!」
98:
 ――
司会「それでは、歌っていただきましょう。双海真美ちゃんで、『arcadia』!」
 さっきの『THE IDOLM@STER』はよく歌うけど、こっちはカラオケでしか歌ったこと無いや。
 千早お姉ちゃんの歌い方を、CDから……ライブから、色んな所から思い出そう。
 イントロ、どんな風に声を出してたっけ?
真美「……っ」
99:
 真美が右手を高く上げると、イントロが流れだす。そういう演出なんだ。
 だから、逆に言えば……右手をあげるまでは、どんな自由なことをしても良いんだ。
真美「テレビの前にいる兄ちゃん、姉ちゃん!」
 真美は左手をカメラに向けて思いっきりつきだした。
真美「インフェルノスターズの活躍、見てくれてるかなっ?」
100:
 他のゲストからの拍手をバックに、
真美「今から歌うのは、我らがリーダー! 千早お姉ちゃんの曲だよ!」
 MCをちょっとだけやってみる。
真美「真美、一生懸命歌うから、よーく聞いててねっ!」
 そして真美は、思いっきり右手をあげた。
 ブルーのライトが、後ろから衣装のドレスを照らす。
101:
 ◇
響「ぁっ、はぁっ」
雪歩「響ちゃん! 走っちゃダメだよ!」
響「……ダメだ、限界」
雪歩「やっぱり……でも、このフロアだから、急ごう?」
102:
 テレビ局について、自分と雪歩は大急ぎで、真美のいるスタジオを目指していた。
 『ポップワンミュージック』は人気番組だから、普段の撮影場所も知っていた。
響「っ、ごめん」
雪歩「大丈夫だよ、響ちゃん。こういう時こそ、助けないと」
 雪歩が自分をおぶってくれる。
 自信がないと言って穴を掘る、普段は小さい背中が今はすごく心強い。
103:
響「ここだ!」
 『ON AIR』の赤いランプが照らされているCGスタジオ。
 残念だけれど、このドアを開けることは出来ない。
雪歩「開ける?」
響「ダメだ、このランプがついてる時にドアを開けると、収録が止まっちゃうよ」
104:
雪歩「そ、そうだよね……あっ、でも音が聞こえるよ」
響「え?」
 雪歩が自分をゆっくりと床におろした。
雪歩「ほら、こうやってドアに聞き耳を立てれば……」
響「……」
105:
 聞こえた。arcadiaのメロディ。
 ヴァイオリンの音が入っているから、これは2番のサビが終わったあたり?
雪歩「真美ちゃん、歌ってるんだよね」
響「うん……」
 静かながら力を感じさせるラストのサビに入るところ。
 真美の声が聞こえてきた。
106:
『目指すarcadia……』
 すごく千早らしい、真美の歌い方。
 初めてでここまで歌えるってことを考えれば、それは充分だったと思う。
 『STAND BY』の緑色のランプが点灯して、自分は雪歩と一緒にスタジオの中に入った。
107:
真美「あっ、おーい! ひびきーん! ゆきぴょーん!」
 マイクを持って蒼いドレスを着て、服装とスタジオに合わない元気な声を出す。
響「真美っ! お疲れ様っ」
真美「ありがとっ! マスタールームでDの兄ちゃんが待ってるよっ」
響「うんっ」
 自分は雪歩にここで待ってて、と言って、副調整室に繋がるドアをゆっくりと開けた。
108:
 ――結果的に言うと、めちゃくちゃ怒られた。
 ポップワンのディレクターさんにも怒られたし、その後行ったブーブーエスでも叱責された。
 プロデューサーでありながら、これはどういうことだ……って。
 もちろん覚悟はしていた、けれどどっちのディレクターさんにも言われたもうひとつの言葉は、想定外だった。
「765のアイドルは最高だって分かった」っていうのは、真美と千早が精一杯頑張ってくれた証拠だ、と思う。
109:
 雪歩、千早、真美を連れて、いつかレッスン終わりに来たファミレスに入る。
 もう日が暮れてしまっていて、晩御飯のタイミングになっていた。
千早「たらこパスタをひとつ」
真美「ハンバーグ!」
雪歩「生姜焼き定食でお願いしますぅ」
響「……エビドリアで」
110:
響「……その、ごめん」
真美「平気だよ、なんとかなったし。ねっ!」
千早「ええ。あんまり気にしない方が」
響「ごめん、自分……最近、失敗してばっかりで」
111:
 下を向いてしまう。
 正面に千早と真美がいるから、今日の失敗を思い出して余計に前を向けない。
響「新曲のCDも、フェアリーの手に渡ってさ。それで仕事も取り違えるなんて」
真美「ひび……」
響「何にもいいところがないよ……ごめん、ごめんなさい」
 何度謝っても失敗は取り消せない。
 千早にも、真美にも……雪歩にも、迷惑をかけた。
112:
 プロデューサーは、アイドルを助ける存在でなくちゃいけない。
 自分が揺らいで、ヘマをしてどうするんだ。
響「自分、プロデューサー失格だよ」
千早「っ……そんなこと、無いわ」
真美「そうだよ! ひびきんが居なきゃ勝てなかったオーディションばっかりだし」
113:
響「……でも、今日みたいなことはあっちゃいけない」
千早「私達、なんとか仕事をやり切ることが出来たし……番組のディレクターと話し合って解決したなら」
真美「そうそう、解決したならもういいんじゃないの?」
響「良くないぞ……こんなミスをしてたら、いつかもっと大きなミスをしちゃうよ」
114:
雪歩「あの……響ちゃん」
 ずっと黙っていた雪歩が、小さく手を挙げた。
響「え?」
雪歩「私、その……響ちゃんの強さに、頼ってばっかりだったよね」
115:
雪歩「私だけじゃないと思うんだ。真美ちゃんも、千早ちゃんも……響ちゃんに頼りきり」
千早「ええ」
真美「うんっ」
雪歩「でもね? 新曲のこともあって、響ちゃんに重荷を背負わせるわけにはいかない、って思ったの」
116:
 顔を上げて、隣に座る雪歩を見る。
 雪歩は水を一口飲んで、下を向いていた。
雪歩「だから私、今回のオーディションは……響ちゃんのためにも、自分のためにも絶対に主役を穫りたいって」
響「主役……」
 オーディションを受ける前の、雪歩の言葉が脳裏をよぎる。
 『私、絶対に主役になるから』――ライバルのうららがいても、雪歩は強かった。
117:
 雪歩って、こんなに強い女の子だったかな?
 自分がこのユニットに雪歩を選んだのは、か弱くて儚げで、でも芯は通っていて。
 そんな内なる強さを秘めた彼女に魅力を感じたからだった、けれど。
雪歩「だからね、響ちゃん」
 今の雪歩は、充分強いんだ。
 誰かのために頑張れる力を持ってるんだ。それを、自分なんかに使ってくれている。
118:
 雪歩は顔を上げて、自分の方向を向いた。目と目が合って、それから。
雪歩「今度は私が……私達が、響ちゃんに頼ってもらう番、なんだよ」
 千早と真美も静かに頷いた。
 優しさの中にある強さ――それを自分に向けてくれる時、こんなに心強いなんて。
響「……あり、がとう」
119:
 うまく言葉を出せなかった。
 ちゃんと言おうとしても、嗚咽が混ざる。
雪歩「ひ、響ちゃんっ! なんで泣いてるの!? わ、私何か余計なことを……」
響「ち、違うって、違うからね」
真美「ゆきぴょん。ひびきんはうれしいんだよ?っ。そうだよね?」
120:
響「嬉しい……自分、ダンスができなくなってさ、アイドルを辞めて」
 それからいろんなことがあった。
 時々諦めきれなくなって、練習をした時もある。
響「それでも765プロに居させてくれた社長も、みんなも、優しすぎるって、おもって」
千早「響はもう少し、私達に任せても良いのよ?」
 千早の微笑みを、自分は涙で潤んだ瞳のせいで見ることは出来なかった。
 なんか、涙もろくなったな。
121:
真美「いやいやー、ゆきぴょんのオーディション合格もあったし、今日はめでたいなぁ」
千早「そうね。雪歩が相当努力していたの、見てたわよ?」
雪歩「えへへ……まだ、1次選考だけどね。でも、自信はついたよ」
響「……ほんと」
122:
 3人から「えっ?」と聞かれる。
 自分は涙を拭って、思い切り笑った。
響「本当に、最高のユニットだよ!」
 顔を見合わせた後、それぞれが返す。
千早「当たり前でしょう?」
真美「真美たち、完璧なひびきんのプロデュースで進んでるんだしね」
123:
雪歩「どんなユニットにも、絆の強さは誰にも負けないよねっ」
 丁度良いタイミングで、料理が運ばれてくる。
 自分は泣き止むのに一苦労で、なかなか食べ始められなかったけれど。
 自信を失くすのは、フェルノスのみんなにも失礼だ――そう、思った。
 こんなに素敵なアイドルをプロデュース出来るのは、自分ぐらいしか居ない。
124:
響「ねぇ」
千早「え?」
真美「どしたの?」
 食事が終わって、料理がさげられた後に、自分はもう一度、笑ってみせた。
響「……今日はありがとう。みんなから、勇気もらった!」
125:
 ――――
 ――
響「……大丈夫、雪歩?」
雪歩「うん、大丈夫。響ちゃんは?」
響「……そうだな、自分の方がちょっと緊張してるかも」
雪歩「ファイト、だよっ」
126:
響「うん……って、それは自分が言うセリフだぞっ」
雪歩「そうだね……ちゃんと、見ててね」
響「絶対見てる! 雪歩がオーディションに勝つ所、この目で見てるからな!」
雪歩「えへへ。それじゃあ、行ってきます」
響「いってらっしゃーい!」
127:
 オーディション、二次審査。というか、最終選考だった。
 実際にドラマの衣装を着て、演技をする。
 雪歩が着替えるために控室に入ったのを見送って、自分は一息ついた。
響「ふぅ……」
千早「雪歩、大丈夫かしら」
128:
響「大丈夫だよ。雪歩はもう、これぐらいのオーディションじゃビビらな……千早!」
千早「ふふっ、ちょっと来てみたの」
 メガネをかけて、帽子をかぶって変装している千早。少し怪しい。
 プリンスホテルの会議室前で佇む自分と千早は、だいぶ目立っていた。
響「今日はボーカルレッスンだけだもんなー。どう?」
129:
千早「ええ、特に問題はないわね。先生も私のことをよく考えてくれる」
響「それなら良かった。千早はもっとボーカル、伸ばせるはずだからな」
千早「そうね。現状で満足しちゃいけない」
 千早が言ったのは、自らへのメッセージだと分かったけれど。
 なぜだか、自分にも突き刺さった。
響「現状で満足しちゃ、いけない……」
130:
千早「ええ。もっと高みを目指せるのなら、そこに立って景色を見たいと思うでしょう?」
響「……そうだね」
千早「響、どうかした?」
響「ううん、どうもしてない」
千早「そう……なら、いいのだけれど」
131:
係員「では、オーディションを開始します。ご覧になる関係者の方はお入り下さい」
響「行こう、千早」
千早「ええ」
 広い広い会議室は、机が取っ払われている。
 最初は雪歩じゃない、別のアイドルの演技だった。
132:
千早「ねえ、響」
 千早は小声で話しかけてくる。
響「ん?」
千早「あの審査員の人の表情、見て」
響「……わぁ」
133:
 千早が言っていたのは、前回は無表情で座っていた監督だった。
 あからさまに怖い表情になっている。
響「あの監督、一次審査の時は全然感情を出さなかったのに」
千早「そうなの? ……あの娘は、ダメみたいね」
 演技中のアイドルは、さっきから何度もセリフを喋れなかったり、大事なところで躓いている。
134:
響「雪歩、大丈夫かな……」
千早「大丈夫、って言っていたんでしょう? なら問題無いと思う」
響「そ、そうだけどさ」
 そうこうしている間に、審査を受けていたアイドルはサイドの椅子に座った。
 審査終了。
監督「じゃあ、次。765プロの萩原さん」
135:
 雪歩が立ち上がって、ゆっくりと返事をした。
 思ったより余裕そうだ――と思ったけど、足が震えている。
 一瞬、雪歩と目が合った。
 彼女の緊張を振り払えればいいと思って、思いっきりはにかんだ。
 頷く雪歩。大丈夫そうだ。
136:
監督「それでは、お願いします」
雪歩「よろしくお願いします!」
 雪歩の、主役をかけたオーディションが始まる。
 見守ることしか出来ない自分は非力かもしれないけれど、そんなことはない。
 こうやって同じ部屋で雪歩を見ることが、応援に繋がると思う。
137:
 ◇
 会場からの帰り道、雪歩はご機嫌だった。
 自分と千早は少し後ろから、雪歩がスキップする姿を眺めている。
千早「私は演技のことはよく分からないけれど、雪歩のお芝居は凄いわね」
響「そうだな。あんなに会場の空気を自分のものに出来るなんて」
千早「歌と同じぐらい……いえ、それより強い力を持っているのかしら」
138:
 雪歩は文句なしの一位だった。
 これで、特番ドラマの主役は雪歩に決まった、ってことになる。
 会場では喜びすぎて、係員さんに怒られてしまった。
雪歩「響ちゃん、千早ちゃん」
 雪歩が振り返ると、春の風が自分たちの身体に吹きつけた。
 ワイシャツがなびく。
139:
雪歩「私、みんなに支えてもらって、きっと強くなれた」
 恥ずかしいけれど、と前置きした後に、雪歩は微笑む。
雪歩「ありがとう」
 照れくさくなって、千早と顔を見合わせて笑ってしまった。
千早「……最高のお芝居だったわよ、雪歩」
140:
雪歩「そ、そうかな。えへへ」
千早「ええ。ドラマでも頑張って」
雪歩「うん!」
 言いたいことは、いろいろあるけれど。
響「……雪歩」
141:
 ……とりあえず今は、これだけ言ってしまおう。
響「雪歩さ、フェルノスのファーストライブの時、センターになって欲しいって自分が言ったのを覚えてる?」
雪歩「うん、覚えてるよ」
響「あの時はさ、まだ全然自分に自信が無いって感じだった」
雪歩「……だね」
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