響「うぅ……た、台風なんか怖くない、ぞ……」back

響「うぅ……た、台風なんか怖くない、ぞ……」


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1:
ガタガタガタッ
響「! ひゃうっ!」
響「あ、雨戸の音か……驚かさないでよ、もう……」
ガタタタタタッ!
響「ひぃいっ!」
響「うぅ……は、早く過ぎ去ってよぉ……ぐすん……」
ピーンポーン
響「!?」
11:
響「チャ、チャイムの音……?」
響「……そ、そんなはず……ないよね。こんな日に……」
ピーンポーン
響「!? ま、また……!」
響「……あっ。もしかして、飛んできた板切れかなんかがインターホンのとこに当たってるのかな……?」
ピピピピピピピーンポーン
響「! ひ、ひぃいっ! ぜ、絶対人為的だよこれ! ま、待ってて! 今開けるからっ……!」
17:
ガチャッ
春香「はいさい! 響ちゃん!」
千早「はいさい。我那覇さん」
響「は……はいさい……って、何してんの二人とも!?」
春香「いやあ、台風直撃で響ちゃん怯えてるだろうなって思ったらいてもたってもいられなくなって」
千早「気が付いたら裸足で駆け出していたわ」
響「裸足で!?」
千早「冗談だけどね」
響「うん、まあ見れば分かるけど」
春香「とりあえず、中に入れてもらっても良いかな? もう全身ずぶ濡れで……」
響「あ、ああ、うん。シャワーも使っていいぞ」
千早「流石我那覇さん。用意周到ね」
響「……ツッコまないからな、千早」
20:
春香「ふは?っ。生き返った?」
響「シャワーの湯加減良かった? 春香」
春香「うん、もうばっちり。あ、ごめんね千早ちゃん。先に頂いちゃって」
千早「いいのよ。春香の方が濡れてたし」
響「でも千早もそのままだと風邪引いちゃうから早く入った方がいいぞ」
千早「そうね。そうさせて頂くわ。でもその前に……」
響「?」
千早「ねぇねぇ我那覇さん、台風直撃で不安のさなかにいたときに私と春香が来て今どんな気持ち?」トントン
春香「ねぇねぇ今どんな気持ち?」トントン
響「……これやるために春香が上がるの待ってたのか、千早……」
千早「ねぇねぇ今どんな気持ち?」トントン
響「あーっもう! すっごく安心したさ! それでいいでしょ!? もう!」
千早「ふふっ、ありがとう我那覇さん。じゃあお湯頂くわね」
春香「ふふっ、響ちゃんかわいい」
響「もう……何なの二人とも……」
25:
千早「ふぅ……すっぷりしたわ。どうもありがとう我那覇さん」
響「……どういたしまして」
千早「あら? なんだかご機嫌斜めのようね」
春香「響ちゃんは私達に涙目だった自分の姿を見られて照れているのです。つまり羞恥心ですよ、羞恥心!」
響「違うよ! 千早と春香がそうやって自分をバカにするからだろー! 大体自分、泣いてなんかないし!」
千早「そんな、バカになんてしてないわ」
春香「そうだよ響ちゃん。大体、私達がそんなことをするためだけに台風の中会いに来ると思う?」
響「そ、それは……思わないけど」
千早「つまりね、我那覇さん」
春香・千早「それが愛でしょう?♪」
千早「と、いうことなのよ」
響「歌を歌えば許されると思ったら大間違いだぞ」
29:
春香「でもそれはそれとして、響ちゃん実際涙目だったよね?」
響「! ち、違うぞ!」
千早「いえ、明らかに涙目だったわ」
響「そ、そんなわけないじゃないか! なんで自分が、台風なんかで……」
春香「あっそう? じゃあ来た時に私が撮った写メで確認する?」
響「え!? しゃ、写メなんていつのまに……」
千早「そうね。物的証拠で確認するのが一番だわ」
春香「そうだよね。えっと……」ピッピッ
響「あ、え、えっと……だ、だめーっ!」
春香「まあ、そんなの撮ってるわけないんだけどね」ニッコリ
千早「ですよねー」
響「」
32:
響「………」ツーン
春香「どうしましょうか如月隊員……響ちゃんが完全に拗ねモードに入ってしまいましたが」
千早「まあ全面的に春香が悪いわね」
春香「こんなときだけ責任転嫁!? ひどいよ千早ちゃん!」
千早「自分に甘く、他人に厳しい……それが私、如月千早なのよ。春香」
春香「……千早ちゃん、色々吹っ切れてから、なんか随分価値観変わったよね……」
千早「ふふっ。まあ、冗談だけれどね」
春香「ですよねー」
響「…………」
千早「はっ! 私達が子猫のようにじゃれついている間に、体育座りをしている我那覇さんの背中が一層寂寥感を帯びているわ!」
春香「しまった! 最低でも五秒に一回は響ちゃんに構う……それが私達、ヒビキストの使命だというのに!」
響「あーっもう! 絶対自分をバカにするために来ただろ二人とも!」
33:
春香「やだなあ響ちゃん、そんなわけないって言ってるじゃないー」ナデナデ
響「……そうやって自分の頭を撫でながらそんなこと言っても、全然説得力ないぞ……春香」
千早「そうは言いながらも、春香に頭を撫でられることに抵抗はしない我那覇さんかわいい」ニコニコ
響「っ……! そ、それは、その……」
春香「んー? どうしたの、響ちゃん?」ナデナデ
響「……も、もぉ、いいさ……ふんっ」プイッ
春香(アカン)
千早(もう今日死んでもいいわ)
39:
春香「そういえば響ちゃん、動物達は?」
響「ああ、皆は予め田舎に疎開させておいたんさ。台風は危ないからね」
千早「流石我那覇さん。生じうる将来的なリスクを考慮した上での的確な判断ね」
響「ま、まあそれくらい当然さー」
春香「そして一人で台風に怯えていたんだね響ちゃん可愛い」
響「だ、だから怯えてなんかっ……!」
千早「そして行き当たりばったりで自らを窮地に追い込んでしまう我那覇さんの後先考えなさ!」
春香「うんうん、まあそんなところも可愛いんだけどね」
千早「全面的に同意するわ、春香」
響「あれ? 千早五秒前に真逆のこと言って自分を褒めてくれてなかった?」
40:
春香「ていうか響ちゃん、沖縄出身なのに台風怖いの?」
響「だ、だから別に怖がってなんか……」
千早「いいのよ我那覇さん。今くらいはありのままの自分をさらけ出しても」ナデナデ
響「うぅー……だから頭撫でないでってばぁ……」
春香(でもやっぱり抵抗はしない響ちゃんなのでした)
千早(滾る)
43:
響「ま、まあ……確かに実家にいた時も台風は多かったけど……というか、多かったからこそ、その、まあ、苦手になったっていうか……」
春香「トラウマみたいな?」
響「そこまで重いものじゃないけど……」
千早「つまり幼少期のトラウマがフラッシュバックのように事ある毎に脳裏をよぎり、胸をキリキリと締め付けるということかしら?」
響「千早が言うとすごく重く聞こえるんだけど!? ま、まあ少なくとも、そこまで大層なものじゃないぞ……」
千早「そう? まあ、なんでもいいのだけれど」
響「いいのかよ!」
春香「まあでも響ちゃん、沖縄出身なのに暑いの苦手だったりするもんね」
響「あー、うん。苦手さー」
千早「そういえば、夏も毎日家に引きこもってライトノベル読みふけっていたものね」
響「ま、毎日じゃないぞ! ら、ラノベはまあ、結構読んでたけど……」
春香(そこは否定しないんだ)
千早(部屋で一人、くふくふ笑みを零しながらライトノベルを読んでいる我那覇さんを想像するだけでご飯四杯はいけるわね)
44:
響「まあでも台風が怖いかどうかは別にしても、こんな日に出歩くのは本当に危ないぞ、二人とも。来てもらっといて言うのもなんだけどさ」
春香「そのへんは大丈夫だよ!」グッ
響「春香は何でそんなに根拠も無く自信満々なの……」
千早「こう見えても私達、ディフェンス力には定評があるから」グッ
響「いや、どこの定評なんさ……」
ガタタタタタッ!
響「! きゃあっ!」ガシッ
千早「!」
響「あ、ご、ごめんね千早……つい」
千早「い、いえ……いいのよ我那覇さん、気にしないで。私達は貴女を守るために、今日ここへ来たのだから」キリッ
春香「千早ちゃん、キメ顔してるとこ悪いんだけど鼻血出てるよ」
45:
春香「ん……でもなんか大分静かになってきたような……」
千早「そういえば、雨音もほとんど聞こえなくなったわね」
春香「ちょっと外に出てみようか」
響「えっ……ま、まだ危ないんじゃないか? 雨はマシになってるとしても、風とか……」
春香「大丈夫だよ響ちゃん。子供は風の子って言うでしょ?」
響「そういう問題!?」
千早「大丈夫よ我那覇さん。いざとなったら春香が身を挺して貴女を守るから」
春香「私単独!? さっきは『私達』って言ってなかった千早ちゃん!?」
響「はあ……わかった、もうなんでもいいから出るなら出ようさ」
48:
春香「おお……雨も風も止んでいる」
千早「これは……台風の目に入ったのね。多分」
響「ああ……どおりで。さっきまでの嵐が嘘みたいに静かだな」
春香「あっ! 見て見て二人とも! あれ!」
千早「えっ」
響「あっ……」
春香「レインボーですよ、レインボー!」
千早「すごい……こんなに鮮やかな虹は初めて見たわ」
響「本当、すごく綺麗だな……台風のもたらした副産物ってとこかな」
千早「…………」
春香「? どうしたの? 千早ちゃん?」
響「千早?」
千早「……私、歌うわ!」
春香・響「!?」
50:
春香「え? う、歌うって……千早ちゃん?」
響「いや、流石にここで歌うのはちょっと……自分と同じマンションの人とか、その、通るかもしれないし……」
千早「??♪??♪」
春香「ッ!? す、既に前奏を口ずさみ始めている!?」
響「ああ……この状態になった千早は、もう誰にも止められないぞ……」
春香「し……しかもこのメロディは……」
響「ああ、あれだな……」
千早「―――空になりたい♪ 自由な空へ?♪」
春香・響「『空』!!」
53:
春香「かつて、小鳥さんがアイドル時代に歌っていたという伝説の名曲……!」
響「今でも、ピヨ子が歌うディナーショーでは往年のファンからのリクエストが絶えないという……!」
千早「―――春は花をいっぱい咲かせよう♪ 夏は光いっぱい輝こう♪」 
春香「うーむ……でも流石は千早ちゃん、小鳥さんに勝るとも劣らぬこの歌いっぷり……!」
響「ああ……これで歌ってる場所が自分のマンション前の道路じゃなかったら、最高だったんだけどな……」
千早「―――奇跡じゃなくて♪ 運じゃなくて♪ 自分をもっと信じるの♪」
56:
千早「―――必要なのはたったひとつ♪ その心だけさ♪ ……皆も歌って!」
春香「え!?」
響「そ、そこまで再現しなくてもいいんじゃ……」
春香「……千早ちゃんに言われちゃったら……しょうがないね」スゥ
響「は、春香!?」
千早・春香「―――花はどこだって種を舞わすよ♪ 光はどこだって闇照らすよ♪」
響「は、春香まで……。うがー! なんか道行く人達がこっちを見てるぞー!?」
千早・春香「―――私のままに♪ 意のままに♪ 自分にちゃんと素直に♪」チラッチラッ
響「うぅ……あーもー! 分かったよ! 歌えばいんでしょ!? 歌えば!」スゥ
千早・春香・響「―――夜はいつだって朝に変わって♪ 雪はいつだって息吹残して♪」
千早・春香・響「―――一日ずつ♪ 一歩ずつ♪ きっかけは何だって大丈夫♪」
千早・春香・響「―――続くレインボー♪」
59:
響「うぅ……なんかめっちゃ恥ずかしかったぞ……」
春香「あはは……まあでもこれも良い思い出ってことで」
千早「ふぅ……思いっきり声を出したら喉が渇いたわ。我那覇さん、何か飲み物もらえるかしら」
響「千早は相変わらず自由だな……っていうか、二人ともまだ帰らないの? もう外暗いけど……」
春香「え?」
響「ん?」
千早「……私達が帰ってもいいの? 我那覇さん」
響「……え?」
春香「今天候が穏やかなのは、台風の目に入ってるからであって」
千早「目を抜けたら、また激しい嵐が来るのだけれど……」
響「あっ……」
62:
春香「ねぇねぇ響ちゃん、私達が帰っちゃってもいいの?」トントン
千早「そしたらまた、一人で台風に怯えないといけなくなると思うのだけれど?」トントン
響「うぅ……あーもー! だったら二人とも、明日の朝まで泊まっていけばいいでしょ!」
春香「……え?」
千早「……ごめんなさい、我那覇さん。よく聞こえなかったわ。もう一度言ってもらえないかしら?」ニッコリ
響「……う、うぅ……だ、だからぁ……」
春香「うんうん」
千早「それでそれで?」
65:
響「……あ、明日の朝まで泊まっていって……下さい」
春香「はい、よく言えました」ナデナデ
千早「我那覇さんは本当に良い子ね」ナデナデ
響「うぅ……だから頭撫でないでよぉ……ぐすん」
―――なんて涙目になりながらも、私と千早ちゃんに弄られているときの響ちゃんは、今日見た虹のごとく、輝いて見えましたとさ。
―――レインボーですよ、レインボー!
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