萌郁「私は、岡部くん依存症だから」back

萌郁「私は、岡部くん依存症だから」


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1:
「ごめ……ん……なさ……」
萌郁は自らの命が消えようとしているにもかかわらず、俺にそう言った。
まゆりを殺したのは別の世界線の出来事だ。
それでも、萌郁は俺に謝ってきた。
こんな悲しいことがあっていいのか、死ぬ間際に自分のことを大切にできないなんて。
もし、ラウンダーなんかにならなければ、FBのメールなんかに返信しなければ――。
いや、そんなことを考えてもなにも変わらない。
俺にはどうしようもない。
それでも、今だけは考えられずにはいられなかった。
「もし……岡部くんに……会っていたら」
「もっと……違う生き方……が……でき……たのかも……」
その言葉に俺はなにも返せない。
確かめようのない仮想の世界、それを考えても何も意味はない。
「D……メール……」
「……何?」
シュタインズ・ゲート 2 (アライブ)
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3:
「Dメール……四年……前……に……」
そう言うと萌郁はパープル色のケータイを手に取り、少しずつ指を動かす。
「これ……を……」
萌郁が最後に打ったメールの内容、それは――。
『おかべくんがたすけてくれる』
「萌郁……お前」
「おね……が……」
最後まで言い切れないまま、萌郁は息絶えてしまった。
「……岡部」
紅莉栖が、おずおずと呼びかけてくる。
「Dメールを、送るべきだと思う。もう、準備はできてる」
「ああ……」
Dメールを送れば、この世界線は無かったことになる。
だが、このまま見過ごしてもいいのか。
萌郁のケータイに残された最後の願いを、無視してもいいのか。
4:
「早くしないと、また誰かに邪魔されるかもしれない。だから」
「……少し、待ってくれないか」
「えっ……?」
「少しだけでいいんだ、一人にさせてくれ」
「……分かった、外に出てる」
紅莉栖の言うことは正しい、今すぐにDメールを送る以外は無い。
分かっている、分かってはいる。
だが、萌郁のケータイに残された最後のメールは、俺に助けを求めるものだった。
目の前には二つのケータイがある。
一つはFBのもの、これを送ればIBN5100が手に入る。
もう一つは萌郁のもの、これを送れば……何が変わる?
おそらく何も変わらない、萌郁もまゆりも助かることは無いだろう。
そう思いながらも俺は――パープル色のケータイを選んだ。
6:
「こんな文章では、俺を見つけることなどできる訳無いだろうが」
俺は萌郁の残したメールを書き換えた。
『池袋の岡部倫太郎を頼れ○○中学』
「ダル、俺だ。電話レンジの設定を変えてくれ」
「設定を変える? 何かあったん?」
「何も聞くな、今から五年前に送れるように変更してくれ」
「ご、五年前……? とりあえず設定はするけど……」
俺はいったい何をしている? 何を変えようとしている?
このメールを送れば、萌郁が俺ともっと前に出会うかもしれない。
過去の俺は何かしてやれるのか、何が変わるのか、それとも何も変わらないのか。
そう思いながら俺は、送信ボタンを押した。
7:
ええぞ!!
エロエロボディーの年上に迫られる童貞やな!!
ええぞ!!
9:
岡部(……っ! この感覚……世界線変動率が変わった?)
岡部(萌郁の部屋に居たはずだが……ん? ここは……どこだ?)
岡部(さっき居た場所よりも広い。……移動した?)
岡部(いや、それよりも何か変わったのか? ともかく外へ……)
萌郁「岡部くん、どこに行くの?」
岡部(……萌郁! ……この世界線では生きているのか)
萌郁「岡部くん? どうかした?」
岡部「……いや、何でもない。なあ、指圧師」
萌郁「……指圧師? 何のこと?」
11:
岡部「何のことと言われても、お前のことでは無いか」
萌郁「私が、指圧師? ……マッサージ、して欲しいの?」
岡部「いや、そういう意味ではなくて……何をとぼけているんだ」
萌郁「ごめん……岡部くんの言ってること、よく分からない」
岡部「……分からない?」
萌郁「指圧師になった覚えは、無い」
岡部「そうではない、お前の異名だ。メールを打つさが驚異的だから閃光の指圧師と」
萌郁「私、そこまでメールを打つのくないけど」
岡部「……何?」
16:
岡部「冗談を言うのは止めろ。お前はケータイ依存症で、そのせいかメールを打つ度が」
萌郁「ケータイ依存症……そんなこと、無いと思う」
岡部「何……? 違うと言いたいのか?」
萌郁「うん。それに、ケータイじゃなくて」
岡部「ケータイでは無くて?」
萌郁「私は、岡部くん依存症だから」
岡部「へっ……?」
19:
岡部「お、俺? 何を言っているんだ……?」
萌郁「岡部くんの方こそ、何を言っているの?」
岡部「いや、いやいや、おかしいだろ。どうして俺に依存ってことに」
萌郁「岡部くんから、離れられない」
岡部「離れられないって……」
萌郁「だから、いつもこうして――」
岡部「……っ!? い、いきなり抱き着いてきてな、何を!?」
萌郁「……? いつも通りだけど」
岡部「い、いつも通り?」
22:
萌郁「……岡部くん、良い匂い」
岡部「か、嗅ぐな! どうなってる……どうして俺と萌郁が」
萌郁「それは、恋人だから」
岡部「…………恋人?」
萌郁「うん。付き合って、もう四年位」
岡部「よ、四年!?」
萌郁「……日付は間違ってないはず。六月六日、忘れる訳が無い」
岡部「六月六日……」
萌郁「私の誕生日に、岡部くんから……告白してくれた」
岡部「俺が……告白!?」
23:
岡部(何だこれは!? どうなってるんだ!? まさか……Dメールのせいで?)
岡部「……指圧師、色々と聞いてもいいか?」
萌郁「その呼び方、嫌。いつも通り、萌郁って呼んで欲しい」
岡部「あ、ああ。萌郁、質問してもいいか?」
萌郁「岡部くんになら、何でも答える」
岡部「そ、そうか。……一つ目、俺とお前が会ったのはいつだ?」
萌郁「今から、五年前。八月の終わりに出会った……覚えてないの?」
岡部(八月の終わり……俺がDメールを送ったのはちょうど五年前)
26:
岡部「それは、変なメールが届いたから……だったりするのか?」
萌郁「うん。岡部くんに頼れってメールを見たから、頑張って探した」
岡部(本当にあのメールを信じたのか……。まあ、
 得体の知れないメールに返信するようなヤツだからな……)
岡部「……萌郁、FBという言葉に聞き覚えはあるか?」
萌郁「FB……? ごめん、分からない」
岡部(FBを知らない……ということはラウンダーでは無いのか?
  いや、嘘をついているという可能性もある……)
岡部(……待て、もっと先に確認すべきことがあるだろうが)
岡部(まゆりは無事なのか……? 電話に出てくれれば良いのだが……)
28:
萌郁「岡部くん、誰に電話してるの?」
岡部(頼む……出てくれ、まゆり)
まゆり『トゥットルゥー♪ オカリン、どうしたの?』
岡部「まゆり! 無事なのか? 今どこに居るんだ?」
まゆり『まゆしぃは元気だよー。今はお家でのんびりしてたんだ』
岡部「そ、そうか。ラボには居ないのだな」
まゆり『らぼ? それ、何のこと?』
岡部「ラボはラボだ。我が未来ガジェット研究所のことだろうが」
まゆり『うーん……まゆしぃはさっぱり分からないのです』
岡部「分からない……?」
30:
まゆり『あっ、そろそろ出かけなくちゃ。ごめんね、また電話してねー』
岡部「ま、まゆり? おい、まゆり! ……切れてる」
萌郁「まゆりちゃんに、何か用だったの?」
岡部「あ、ああ、……ん? まゆり、ちゃん? 何だその呼び方は」
萌郁「何って、五年前からずっと変わってないけど」
岡部「まゆりとも、長い付き合いなのか?」
萌郁「私を岡部くんに会わせてくれたのは、まゆりちゃんだから」
岡部「俺とお前を……? いや、それよりもラボのことだ……」
萌郁「ラボ?」
32:
岡部「未来ガジェット研究所のことだ。ブラウン管工房の上にある……ん? ど、どうした?」
萌郁「……岡部くんが何の話をしてるのか、分からない。嫌、嫌……嫌」
岡部「も、萌郁?」
萌郁「岡部くんのことを知らないなんて、嫌……不安になる」
岡部(様子がおかしい……まさか、さっき言っていた依存症というのは本当なのか?)
萌郁「何かあったのなら、教えて。お願い」
岡部「……俺が今から言うことは全て真実だ、お前は信じないだろうが」
萌郁「岡部くんのことなら何でも信じる。だから、話して」
岡部「俺は、別の世界線から来た」
萌郁「別の、世界線?」
35:
全てを話すと言ったが、まゆりと萌郁の死やショックを受けるようなことは話していない。
Dメール、ラボ、そして今の俺は記憶が上書きされたような状態だということを説明した。
岡部「――そして俺はDメールを送り、今に至る」
萌郁「…………」
岡部「信用してもらおうとは思わん。だが事実だ、今の俺にはお前との記憶が……無い」
萌郁「私との記憶が……無い」
岡部(ルカ子の時もお前は女だと言っても信じなかったんだ。……そう簡単には信じないだろう)
萌郁「……分かった、信じる」
岡部「信じるって……そんなにあっさり信じられるとは思えないが」
萌郁「五年間、岡部くんの言うことは全て信じてきた。それは今も、変わらない」
岡部(……ここまで信用されているとは。俺と早く出会っただけでこうも変わるものなのか?)
37:
岡部「一応言っておくが……お前とその、恋人だったということも俺は知らない」
萌郁「分かってる。……悲しいけど、信じる」
岡部(……俺は萌郁と恋人、らしい。まゆりは生きている。では、他のラボメンは……?)
岡部「調べてみるしか……無いな」
萌郁「岡部くん、どこに行くの……?」
岡部「ラボだ。済まないが俺は出かけてくる」
萌郁「待って……置いて……いかないで」
岡部「な、なぜ泣きそうになるのだ?」
萌郁「……岡部くん。一人に……しないで」
岡部「わ、分かった! ……来るなら来い、好きにしろ」
40:

岡部「おい、指圧師」
萌郁「その呼び方、嫌」
岡部「くっ……萌郁、一つ聞いても良いか」
萌郁「うん、何?」
岡部「……なぜ俺達は腕を組んで歩いているんだ」
萌郁「なぜって言われても、いつも通りだから」
岡部「いつも通りだと……? この世界線の俺は何をしているのだ……」
萌郁「嫌、だった?」
岡部「正直に言えば……恥ずかしいから止めてくれ」
萌郁「分かった……」
43:
岡部「おい、萌郁」
萌郁「岡部くん、どうかしたの?」
岡部「……なぜ手を繋ごうとする」
萌郁「いつも通り、だから」
岡部「恥ずかしいから止めろ」
萌郁「……分かった。じゃあ、これで」
岡部「ぬわっ!? う、後ろから抱き着くのも無しだ! というかこれでは歩けないだろうが!?」
萌郁「でも……いつも通りだから」
岡部「こ、これもなのか?」
萌郁「私は、これが一番好き」
46:
岡部「と、ともかく離れろ! それと……俺は、お前が恋人だとは思っていない」
萌郁「……っ!」
岡部「済まないとは思うが……その記憶は俺には無い。だから、その」
萌郁「……嫌」
岡部「えっ?」
萌郁「岡部くんと離れるなんて嫌……別れるなんて……絶対嫌、嫌、嫌嫌嫌!」
岡部「も、萌郁? いや、とりあえず落ち着いて」
萌郁「岡部くんと離れるくらいなら……死んだ方が良い」
47:
岡部「お、落ち着け! だから俺は以前の俺では無くてだな……」
萌郁「それでも、岡部くんの恋人じゃなくなるのは嫌……お願い、捨てないで……」
岡部「わ、分かった……捨てるとかそういうのは今は考えるな」
萌郁「……離れない?」
岡部「とりあえず……今は離れなくても良い」
萌郁「それなら、こうしても良い?」
岡部「……手を繋ぐのは無しだ、腕も駄目だからな」
萌郁「……寂しい」
岡部「近くに居るのに寂しいとか言うな……ほら、行くぞ」
岡部(俺はいったい何をしている……ついさっきまで、深刻な場面だったはずだ)
岡部(……ともかく、今は確認するのが先だ)
50:
ラボ前
岡部(ブラウン管工房は……あった! 店内にもブラウン管が並んでいる、ということは)
天王寺「よっこらせ……ったく、歳っつうもんは嫌なモンだ」
岡部(ミスターブラウン……生きている? この世界線では死んでいないのか……)
萌郁「岡部くん、あの人がどうかしたの?」
岡部「萌郁、お前はあの男に見覚えは無いか?」
萌郁「……ごめん、知らない」
岡部「そうか……いや、知らなくていいんだ」
岡部(それよりもラボだ、ラボがどうなっているか確認しなければ……)
52:
天王寺「ん? 何だおめえ達、このビルに用でもあんのか?」
岡部「ど、どうも。相変わらずのようですね、ミスターブラウン」
天王寺「はあ? ミスターブラウン? 誰だそれ?」
岡部「……それは、冗談ですか? 俺のことを忘れたんですか?」
天王寺「冗談も何も……初対面の相手に忘れたのか、なんて言われてもな」
岡部「初対面……?」
天王寺「ああ、こっちが忘れちまってるってのなら謝るけどよ。悪いが覚えがねえな」
岡部(ミスターブラウンとは面識が無い……? ということは……)
岡部「すいません、この上の部屋はどうなっていますか!?」
天王寺「この上? どうなってるのも何も……空き部屋だよ」
岡部「空き部屋……何も、無い?」
55:
電話レンジ消えちゃったのね
56:
天王寺「何だ、借りたいってことなら相談に乗るけどよ」
岡部「……あの、本当に空き部屋なんですか? 何も無いんですか?」
天王寺「おう、ちゃんと掃除はしてあるから心配すんな。どうだ、見てくか?」
岡部「い、いえ……また今度、良かったらお願いします」
天王寺「そうか、気が向いたら来てくれよ。そこまで高い家賃は取らねえから」
岡部「ありがとうございます……それでは、また」
岡部(ラボが……無い。そして電話レンジも存在しない……?)
59:
萌郁「岡部くん、大丈夫?」
岡部「……いや、今のところ大丈夫では無いな」
萌郁「あの人と、何かあったの? それとも、あの部屋を借りたいの?」
岡部「そういうことでは無いんだ……」
岡部(何も変わらない、そう思って俺はDメールを送った。……それなのに、どういうことだ)
岡部(ラボも無い、これではDメールが送れない……そして、萌郁が恋人)
岡部(この世界線はどうなっている……い、いや、まだ他のラボメンが何か知っている可能性がある!)
61:
萌郁「今度は、どこに行くの?」
岡部「……メイド喫茶だ。そこに行けば、あいつが居るはずだ」
萌郁「岡部くん……メイドさん、好きなの?」
岡部「……はい?」
萌郁「それなら……言ってくれれば、着るのに」
岡部「ち、違う! メイドが好きなのではない、そこに会いたい人物がいるというだけだ!」
萌郁「それ……女の子? メイドさん?」
岡部「女では無い、男だ……何でそんなことを気にする」
萌郁「……私より、他の女の人の方が良いのかなって不安になったから」
岡部「なっ……! と、ともかく女目当てでは無い!」
62:
この世界線のオカリンは童貞じゃなかったのかどうかが問題
63:
>>62
もえいくさんが童貞のままにしておくとでも、
64:
メンヘラは往々にして性欲が強い
http://www.amazon.co.jp/dp/B00CWWCBJM/
65:
メイクイーン+ニャン2
フェイリス「お帰りニャさいませ。ご主人様♪」
岡部「フェ、フェイリス! 良かった……お前はここに居てくれたんだな」
フェイリス「ニャニャ? 申し訳ないけど、ご主人様は初めて見るニャ」
岡部「何……? 俺のことが分からないのか?」
フェイリス「ニャー……ごめんニャさい、初めましてだと思うニャン」
岡部「そ、そんな……本当に、知らないのか?」
フェイリス「うーん、フェイリスと知り合いってのは間違いないのかニャ?」
岡部「……間違い無い、俺の目を見れば分かるだろう?」
フェイリス「どれどれ……ニャニャ! 言ってることは本当みたいだニャ……」
67:
フェイリス「でも、やっぱりフェイリスには覚えが無いのニャ」
岡部「……ラボ、という言葉に聞き覚えは無いか? それかDメールという言葉は」
フェイリス「うーん、分かんないニャ♪ ご期待に応えられなくてごめんニャン」
岡部(くっ……フェイリスは駄目だったか。それでも、あいつならきっと……ん?)
岡部(何だ? 後ろから冷たい視線を感じ――ッ!?)
萌郁「…………」
岡部「も、萌郁? どうした……?」
萌郁「……やっぱり、女の子目当てだった」
岡部「ち、違う! 誤解だ! 俺が会いたかったのは……」
「おーい、オカリーン!」
岡部「この声は……! ダァル! どこだ、どこに居る!?」
69:
ダル「オカリン、こんなところで何してるん?」
岡部「ダル……お前に会えることがこんなにも嬉しいなんて思わなかったぞ!」
ダル「うへっ……そんなアッー!な展開はお断りします」
岡部「ええい、そういうことでは無い! ……ダル、お前に聞きたいことがある」
ダル「聞きたいこと? まあ、立ち話もアレだし座れば?」
岡部「ああ、そうさせてもらおう。フェイリス、アイスコーヒーを頼む」
フェイリス「お任せニャンニャーン♪」
ダル「……オカリン、フェイリスたんを呼び捨てとか許されることじゃないお!」
岡部「お、落ち着け! ともかく座って話そう、な?」
70:
岡部「……で、お前は当然のように隣に座るのだな」
萌郁「これも、いつも通りだから」
ダル「相変わらずのバカップルっぷり。何それ自慢なの? 死ぬの?」
岡部「自慢では無い! その、色々あってだな」
ダル「まっ、高校の頃から有名なバカップルだったし今更感はあるけど」
岡部「こ、高校の頃から?」
ダル「それはもう、四六時中くっついてるから見ていられなかったお」
岡部「……萌郁、本当なのか」
萌郁「うん。でも、学校では我慢してたつもり」
ダル「あれで我慢とか……これは妄想が捗りますな」
岡部(……おそらく、聞いたら死にたくなるんだろうな)
72:
ダル「で、僕に聞きたいことってなんぞ?」
岡部「ダル、お前はラボという言葉に聞き覚えはあるか?」
ダル「ラボ? 研究所のことなら、僕たちまだ一年だし」
岡部「そうではない、秋葉原にある俺達の未来ガジェット研究所だ」
ダル「未来ガジェット研究所? うーん……何もヒットしないお」
岡部「そ、そんな……Dメールはどうだ!? 鈴羽も覚えてないのか!?」
ダル「お、落ち着けってオカリン。……悪いけど、何も分からないのぜ」
岡部「……そうか」
萌郁「岡部くん……」
フェイリス「お待たせしましたニャ、アイスコーヒーになりますニャン♪」
岡部(……落ち着け、今はブラックコーヒーで頭を切り替えて)
フェイリス「ガムシロップとミルク、入れちゃうニャン♪」
岡部「……忘れてた。ああ……全部入れやがって、もう手遅れか」
75:
フェイリス「まーぜまーぜ……」
ダル「出たー! フェイリスたんの奥義、目を見てまぜまぜー!」
岡部(世界線が移動したからといって、この辺は変わらないのか……)
萌郁「……む」
フェイリス「できましたニャ。ご主人様、ゆっくりしていってね♪」
ダル「はあ……フェイリスたん、マジ天使だお」
岡部「まったく……ん? どうした、萌郁」
萌郁「さっきの、今度やってあげるから……メイド喫茶には行かないで欲しい」
岡部「またどうでもいいことを……」
ダル「夏なのに心が寒い」
76:
ダル「それでオカリン、僕に聞きたいことってそれだけ?」
岡部「ああ……時間を取って済まなかった」
ダル「別に良いけど。でも、メイド喫茶にオカリンが来るなんて意外ですた」
岡部「ダルのことだ、ここに居るだろうと思ってな」
ダル「なるほど。まっ、彼女と来る場所では無いと思われ」
萌郁「メイド服……買った方が良いかな」
岡部「そんな心配せんでいい!」
ダル「それならドンキの上に行けばたくさん見つかるかと。あっ、是非とも写真を一枚」
フェイリス「それならメイクイーンのメイド服を着るのもアリだと思うニャン」
岡部「お前達も余計なことを言うな! まったく……」
岡部(世界線が変わり、ラボやその他の記憶も無い。……それなのに、性格は変わっていない)
岡部(いや、もしかすると……変わったのは、俺だけなのか?)
80:
フェイリス「また来てニャンニャーン♪」
萌郁「岡部くん、今度はどこに行くの?」
岡部「柳林神社だ。そこには……あいつが居る」
萌郁「それ、あの子のこと?」
岡部「あの子って、ルカ子のことか? 知っているのか?」
萌郁「うん。何度か、岡部くんと一緒に会ってるから」
岡部「そうか、それなら話は早い。……だが、ダルの感じから言って、期待はできないがな」
81:
柳林神社
ルカ子「あっ、岡部さんに桐生さん。こんにちは」
岡部「ルカ子、岡部でないと何度言えば分かるんだ。俺は鳳凰院凶真だ」
ルカ子「えっ? 鳳凰院凶真、ですか?」
岡部「何だその反応は。それより、妖刀・五月雨はどうした?」
ルカ子「妖刀……ごめんなさい、ボクには何のことだか」
岡部(まさか……鳳凰院凶真という名も、刀のことも知らないのか?)
萌郁「岡部くん、大丈夫?」
岡部「あ、ああ……大丈夫だ。ルカ子、俺とお前が知り合いなのは間違い無いな?」
ルカ子「えっ? は、はい、ボクが街中で男の方に絡まれていたのをお二人に助けていただいて」
岡部(二人……これは微妙に違っているのか。萌郁が一緒という位で他はあっている……)
84:
岡部「ルカ子、一応聞いておくが……ラボ、という言葉に聞き覚えは?」
ルカ子「ラボ、ですか? ……ごめんなさい、それも何か分からないです」
岡部「そうか……忙しいところ済まなかった。用件は以上だ」
ルカ子「分かりました。それで、今日も買っていかれますか?」
岡部「今日も、って何を買うというのだ?」
ルカ子「縁結びのお守りですよ。……でも、お二人には必要ないと思いますけど」
岡部「え、縁結び!?」
萌郁「今日は大丈夫。また今度、来る時に」
ルカ子「ええ、分かりました。ちゃんと用意しておきますからね」
86:
ルカ子「お気をつけてー」
岡部(ルカ子もラボに関しての記憶が無い……他のラボメンは)
岡部(紅莉栖、鈴羽……いや、ダルがあの調子ではおそらく)
萌郁「岡部くん、暗くなってきたから、そろそろ帰らないと」
岡部「……そうだな。今日は一度家に帰って、それから考えるしかなさそうだ」
萌郁「美味しいご飯、作ってあげるから……元気出して」
岡部「……ご飯? 何を言ってるんだ、俺の家まで来るつもりか?」
萌郁「何って、いつもみたいに私がご飯を作るつもり」
岡部「いつもみたい? お前……池袋の俺の家に通ってるのか?」
萌郁「違う。岡部くんは今――私と同棲してるから」
岡部「どう……せい?」
87:
萌郁のアパート
岡部「つまり……最初に居たのは萌郁の部屋でもあり、俺の部屋でもあったということか」
萌郁「一緒に住み始めて、五か月くらい」
岡部「五か月、大学に入る前か……」
萌郁「私と岡部くんは、一緒の大学に行ってる」
岡部「何……? お前は大学生なのか?」
萌郁「岡部くんと一緒に勉強して、一緒に入学した」
岡部「……お前はいったい、どこまで一緒に居るつもりなんだ」
萌郁「ずっと。岡部くんの近くに居たいから」
岡部「なっ……この世界線のお前は、ずいぶん物事をはっきり言うのだな」
萌郁「岡部くんが、そうするように言ってくれた」
岡部「俺が言ったのか。……厄介なことを言ってくれたものだ」
89:
岡部(よく見れば、二人分の生活用品は揃っているな。……本当に同棲しているのか)
萌郁「岡部くん。ご飯、食べる?」
岡部「あ、ああ。料理はできるのか」
萌郁「お母さんに、教えてもらった」
岡部「母親? ……萌郁、お前には母親は居なかったはずでは」
萌郁「私のじゃなくて、岡部くんのお母さん」
岡部「お、俺の母親?」
萌郁「居候させてもらってた時に、教えてもらった。その時に、お母さんって呼んでって言われたから」
岡部「ま、待ってくれ……そうだな、まずはそこも確認した方が良いよな」
萌郁「確認?」
岡部「萌郁、俺とお前の今までの話、聞かせてくれないか」
萌郁「……分かった」
93:
萌郁「今から五年前、その時の私は……何もかもイヤになって、自殺を考え始めていた」
岡部「そこにメールが届いた。そうだな?」
萌郁「うん。最初は気にも留めなかった。……でも、段々気になってきたから」
岡部「死ぬ前にそのメールに従ってみよう、そう思ったのか」
萌郁「そして私は、岡部くんを探し始めた。学校はすぐに分かった」
岡部「……当然だ、俺が分かりやすい文章に変えてやったのだからな」
萌郁「あのメール、岡部くんが送ってくれたの?」
岡部「送ったのは俺だ。だが……送ろうとしたのはお前自身だ」
萌郁「私が、決めた?」
岡部「それはまたいつか話す。今は過去のことを教えてくれ」
萌郁「あれは、八月の終わり。池袋の街を歩いていて――」
94:
五年前 池袋
萌郁「岡部……岡部倫太郎……頼る……」
萌郁(暑い……でも、今倒れたら……もう、会えない)
萌郁「池袋、岡部……どこ、どこなの?」
萌郁「……っ! お、岡部……りん……」
「お、オカリーン! 女の人が倒れてる!」
「何!? 本当だ……熱中症かもしれないな。とりあえず、救急車を呼ぶぞ」
「う、うん。オカリン、この人……大丈夫かなぁ」
「……まだ息はある。日陰まで運んで救急車を待とう」
萌郁(誰……? 誰かの……声が……)
95:
萌郁「……ん、……? ここは……?」
「あっ、気が付いた! 大丈夫ですか?」
萌郁「あなたは……誰?」
まゆり「はじめまして、椎名まゆりです。ここは病室ですよ。オカリン、目を覚ましたよー」
岡部「本当だ。どうなるかと思ったが……無事で良かった」
萌郁「あなた達が……助けてくれたの?」
岡部「その通り……この、鳳凰院凶真が直々に救ってやったのだ! 感謝するが良い! フゥーハハハ!」
萌郁「ほうおういん、きょうま?」
98:
岡部「いかにも、狂気のマッドサイエンティストである俺がお前の命を」
まゆり「もうー、オカリン。ちゃんと自己紹介しなよー」
岡部「むう……仕方ない、特別に教えてやろう。……岡部倫太郎だ」
萌郁「岡部、倫太郎……? 岡部……倫太郎……っ!」
岡部「ど、どうした?」
萌郁「本当に、岡部倫太郎……なの?」
岡部「な、何だ……俺は岡部倫太郎で間違いないぞ」
まゆり「オカリン、そんな言い方しちゃダメだよー」
萌郁「……本当に、会えるなんて……思わなかった」
岡部「その言い方だと、俺のことを知ってい……な、なぜ泣いているんだ!?」
萌郁「ごめん、なさい……でも、不思議と……嬉しくて」
岡部「そ、そうか。まあ、この鳳凰院凶真に会えて感涙にむせぶのも無理はないがな、フゥーハハハ!」
101:
萌郁「熱中症……」
岡部「ああ、それ以外にも栄養不足、寝不足、疲労、様々な要因で倒れたらしい」
まゆり「ごはん、食べてなかったんですか……? まだ暑いからちゃんと食べないと……」
萌郁「食べる気……しなかったから」
岡部「何も食べずに、いったい何をしていたのだ?」
萌郁「……メール」
岡部「メール? いったい何が――ッ!?」
『池袋の岡部倫』
『太郎を頼れ○』
『○中学』
102:
岡部「何だこのメールは……これが、届いたのか?」
萌郁「……私は、このメールを信じてここまで来た」
まゆり「信じて? えっと……何かあったんですか?」
萌郁「……私、死のうかどうか迷っていたの」
岡部「なっ……! じ、自殺するつもりだったのか?」
萌郁「生きてるのが、イヤになってきたから……多分、後少しで自殺するところだった」
まゆり「そ、そんなのダメだとまゆしぃは思います……」
岡部「じ、自殺など馬鹿げたことをするな! ま、まだ若いではないか!」
萌郁「……私の方が、年上だと思う」
岡部「そ、そういう問題では無い! 死んでも何にもならないぞ!?」
萌郁「……どうすれば、良いの?」
岡部「えっ……?」
105:
萌郁「誰も、私のことなんて必要としていない……消えても、誰も何も思わない」
まゆり「……そんなこと無いとまゆしぃは思うのです。きっと家族の人だって……」
萌郁「家族、居ないから……」
岡部「そ、そうなのか……」
萌郁「……何の希望も持てない。こんな性格だから……何もできない」
岡部「…………」
萌郁「だから、死んでも何も変わらな」
岡部「……黙れ! 黙れえ!!」
まゆり「オカリン……?」
106:
岡部「お前、名は何と言う?」
萌郁「……桐生、萌郁」
岡部「桐生、萌郁。お前は誰にも必要とされないと言った、それに間違いは無いな?」
萌郁「……うん」
岡部「フッ……だが、それも今日で終わりだ。その存在、
 この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真が最大限生かしてやろうではないか!」
萌郁「どういう……こと?」
岡部「つ、つまり……俺やまゆりがお前を必要としてやるから、その、死のうなんて考えるな!」
まゆり「あっ……そうだよ! 萌郁さん、まゆしぃ達が居るから、もう一人じゃないのです」
萌郁「一人じゃ、無い?」
107:
オカリンこういうとこイケメンだからかなぁ……
108:
岡部「その通り! 貴様の命、この鳳凰院凶真とその人質、
 椎名まゆりが預かった。……今後、勝手に命を絶とうとすることは許さん!」
萌郁「…………」
岡部「な、何だ。急に黙られると……恥ずかしいというか」
萌郁「……私の命、岡部くんが預かってくれる?」
岡部「お、岡部では無い。鳳凰院凶」
まゆり「オカリーン?」
岡部「むっ……わ、分かった。お前の命、俺が預かる。だから、その……死んじゃダメだ」
萌郁「……分かった。私……岡部くんに従うよ」
岡部「い、いや、従うとかまではいかなくても……まあ、それでいい」
まゆり「萌郁さん、今日からよろしくね?」
萌郁「……よろしく」
109:
萌郁「――それから私は、岡部くんの家に居候することになった」
岡部「あのメール一つが……ここまでお前を変えたのか」
萌郁「私は、岡部くんとまゆりちゃんに感謝している。……私を、世界と繋ぎとめてくれたから」
岡部(前の世界線では萌郁は世界との断絶を恐れていた。
  だが、この世界戦では……俺とまゆりが居た)
萌郁「だから、私は岡部くんに従う。岡部くんの言うことなら何でも信じる」
岡部「……俺に、依存しているのか」
萌郁「そう。私は、岡部くんの居ない世界なんていらない」
岡部「そ、そこまで言うか」
萌郁「この数年間ずっと、こう思って生きてきたから」
111:
岡部「……で、なぜ俺とお前はその、恋人になったんだ?」
萌郁「私が、岡部くんと離れたくないから……ずっと一緒に居ようとした」
岡部「ずっと一緒に?」
萌郁「食事の時も、お風呂も、寝る時も、全部一緒じゃないと落ち着かなくなってきた」
岡部「なっ……! そ、その辺は我慢するべきだろうが!?」
萌郁「我慢、できなかった。そうしたら、岡部くんも……我慢できなくなって」
岡部「……はあ?」
萌郁「押し倒されて、キス……されて」
岡部「ま、待て! その、それは……つまり」
萌郁「……うん」
岡部「この世界線の俺、何ということをしてくれたんだ……」
112:
そりゃあ中学高校のときにスタイルいい女がいつもボディタッチしてきたら仕方ないよな
113:
萌郁「でも、その後、ちゃんと告白してくれたから」
岡部「さっき言っていたな……六月六日だから、九か月近くは我慢したのか、俺」
萌郁「……もう少し、前から」
岡部「つ、つまり……押し倒す勇気はあったが、告白はできなかったと」
萌郁「……うん」
岡部「自分のこととはいえ……認めたくないものだな……」
115:
岡部「そして、俺とお前はこの部屋で……同棲していると」
萌郁「うん。この部屋は、二人でアルバイトをして借りてる」
岡部「アルバイト? 何のアルバイトを俺はしているんだ?」
萌郁「岡部くんは、レストランのホール。私はキッチン」
岡部「信じられん……だが、それが真実なのか」
萌郁「……何か、思い出した?」
岡部「……済まない。今、話を聞いても実感はわかない」
萌郁「……分かった。お腹減ってない? ご飯、用意するから」
岡部「ああ……頼む」
117:
岡部(確かに俺は、萌郁に何かしてやりたいと思いDメールを送った)
 (だが、Dメール一つでここまで変わるものなのか?)
 (まゆりも萌郁もミスターブラウンも死なない……それは確かに理想だ、しかし)
 (本当に……誰も死なないのか。いつか、まゆりの様に倒れて……)
 (……っ! そうなった時、誰が助けるんだ? 誰がそれを防ぐんだ?)
 (そんなの、俺しかいない……タイムリープして解決の道を探すしかない)
 (でも、今の俺には……何も無い。仲間も、ラボも、頼れる紅莉栖やダルも居ない……)
 (……この世界線は、もしかしたら――後戻りができないのでは)
 (まゆりが死んだら、もう戻らない。萌郁が死んでももう戻らない……そして)
 (俺が死ぬ可能性も……ある)
118:
萌郁「岡部くん。準備できた」
岡部「あ、ああ……済まない」
萌郁「好きなだけ、食べていいよ」
岡部「おおっ……美味そうではないか」
萌郁「家事は、お母さんに教えてもらったから」
岡部「では、このハンバーグを……あむ、……うん、美味い!」
萌郁「……良かった」
岡部「やるな指圧師、これならいくらでも」
萌郁「指圧師じゃなくて、萌郁」
岡部「す、済まない……」
121:
岡部「ふぅ……美味かった」
萌郁「満足してくれたみたいで、嬉しい」
岡部(不安な要素はいくつもある。だが、今は休んで明日に備えるしかない……)
岡部(電話レンジさえあればまだ何とかなる。ブラウン管は確認した、可能性はゼロでは無い)
萌郁「お風呂わいてるけど、入る?」
岡部「……思ったより汗をかいたから、入らない訳にはいかないな」
萌郁「それなら、先に入っていて」
岡部「ああ、そうさせてもらおう」
125:
風呂
岡部(はぁ……ずいぶん広い浴槽だな。一人では大きすぎるくらいだ。……しかし)
 (……冷静に考えると、俺はどうしてここまで萌郁を受け入れているんだ?)
 (あいつはまゆりを……たとえ世界に決められていたとしても、何度も、あいつは)
 (だが、この世界線の萌郁が俺に向ける感情は……全く違う。敵対とは程遠い……)
 (……あれが、愛情とかいうものなのか? わ、分からん……ええい、どうすれば)
 (考えても仕方ないか……。そういえば、何か忘れているような)
 (萌郁は俺から離れない、と言っていた。それはどんな場合でも変わらない……)
 (……! まさか!?)
萌郁「岡部くん。湯加減、どう?」
岡部「や、やっぱりこうなるのか!?」
127:
岡部「も、萌郁! なぜ入ってきた!?」
萌郁「いつも、こうしてるから」
岡部「それは前の俺であって、今の俺は……」
萌郁「ダメ」
岡部「い、いや、ダメと言われても……」
萌郁「少し詰めてくれないと、入れない」
岡部「詰めなければお前は入れない? それならば、このまま――って、おい!? 結局入ってくるのか!?」
萌郁「んっ……狭いけど、密着できるから私はこれでも良い」
岡部(お、俺が良くない……というか何だこの柔らかさは!? この感じ、場所を考えると……)
岡部(……臀部、まさかこんな時に直に触れることになるなんて)
129:
岡部(なぜ俺は、浴槽の中で萌郁を後ろから抱きしめているのだろうか……)
萌郁「……岡部くんにこうされてると、落ち着く」
岡部(俺は落ち着かん……そうだ、もう上がってしまえば良いではないか!)
岡部「す、済まないが俺はもうあがる。後はゆっくり入っていてくれ!」
萌郁「それなら、私も出る」
岡部「なっ!? ば、馬鹿、急に立ち上がったら……その、大事なところが……」
萌郁「……岡部くんには、いくら見られても良い。それに……もう何度も見られてるから」
岡部「だ、だが俺はまだ……って何を言わせるんだ!? ともかく……先にあがる」
130:
岡部(こ、この生活は駄目だ……刺激が強すぎる。しかし……大きかったな)
岡部(はっ……!? お、落ち着け……こんなことをしている場合では)
岡部(もういい……寝よう。……うん?)
萌郁「……岡部くん? どうかしたの?」
岡部「萌郁、一応確認しておくが……ベッドはいくつあるんだ?」
萌郁「一つだけ」
岡部「そこで俺達は……どうやって寝ていたんだ?」
萌郁「くっついて、一緒に寝てた」
岡部「予想通り過ぎる……」
133:
岡部「なあ、萌郁。他に布団は無いのか?」
萌郁「岡部くん、一緒に寝るのは……嫌なの?」
岡部「嫌、というか……流石にそれは」
萌郁「大丈夫。岡部くん、私を抱いてるとよく眠れるって言ってくれたから」
岡部「それは前の俺だ! 今の俺はそれだと逆に眠れないんだ!」
萌郁「どうして?」
岡部「それは……ともかく、駄目なものは駄目だ」
萌郁「……私、岡部くんと一緒じゃないと眠れない」
岡部「そ、そう言われてもだな……」
萌郁「岡部くん……お願い」
岡部「…………」
134:
岡部(……結局、俺は萌郁と一緒のベッドで寝ることになった)
萌郁「……こっちを向いて欲しい」
岡部「駄目だ、それでは寝られん」
萌郁「……じゃあ、こうする」
岡部「だ、だから後ろから抱きしめるのは止めろと……」
萌郁「こうしないと、不安で……眠れないから」
岡部「し、しかし……」
萌郁「……お願い」
岡部「……分かった、今晩だけだ。明日からは考えさせてもらうぞ」
萌郁「ありがとう……んっ」
岡部(萌郁の胸が、背中に……)
135:
オカリンまじ鉄の理性
211:
岡部(ね、眠れない……当たり前だ、こんな密着されて眠れる訳が……)
萌郁「まだ、起きてるの?」
岡部「……お前のせいで眠れん。なあ、離れても問題ないだろう?」
萌郁「……イヤ」
岡部「強情なヤツだ……仕方ない、そのままで良いから質問に答えろ」
萌郁「分かった」
岡部「数年間、一緒に居ると言っていたが……いつもこうだったのか?」
萌郁「うん。私は岡部くんの側にずっと居た」
岡部「それを俺は、受け入れていたということか?」
萌郁「俺の側に居ろ、って言ってくれた。いつまでも一緒だ、って言ってくれた」
岡部(……狂気のマッドサイエンティストが聞いて呆れるな)
214:
岡部「何度の言ったが、俺は前の俺とは違う。お前はそれでも良いのか?」
萌郁「岡部くんは、岡部くんだから」
岡部「……答えになってないぞ。まあいい、その内お前も気づく」
岡部(いくら姿が同じだからと言って、中身はまるで違う。……いつか愛想が尽きるだろう)
岡部「しかし、その呼び方は何だ? 四年間も付き合って『岡部くん』のままなのか?」
萌郁「岡部くんって呼ぶと、安心する。……だから、このまま」
岡部「……お前が良ければそれでも良いが、名前や愛称で呼ばないのか?
 いや、流石にまゆりみたいにオカリンとかは勘弁してもらいたいが……」
215:
萌郁「名前で、呼ぶこともある」
岡部「どんな時に呼ぶんだ?」
萌郁「……恥ずかしいから、言えない」
岡部「そ、そうか……まあ、そのままの方がこちらも楽だから良い」
岡部(恥ずかしいと言われても……この状況が既に十分恥ずかしいのだが)
岡部「……なあ、萌郁」
萌郁「…………すー」
岡部(寝てる……人の気も知らずにいい気なものだ)
岡部(……明日は別の場所も調べてみるか。ラボが無いとはいえ、まだ戻れないと決まった訳では無い)
萌郁「……おかべ、くん……んん」
岡部(寝言でも俺の名前か。……よし、俺も眠ろう)
216:
翌日
岡部(……結局、一睡もできなかった)
萌郁「んっ……岡部くん? もう起きてたの?」
岡部「……お前のせいで早起きさせられたんだ」
萌郁「……? とりあえず、朝ご飯用意するから」
岡部(鈴羽と紅莉栖以外のラボメンが全員生きているというのは、昨日確認できた)
岡部(今日は何を調べれば良いのだろうか……。ラボが無い、つまりは電話レンジも無い訳だ)
岡部(それに、まだまゆりが死なないと決まった訳でもない……後で連絡してみるか)
218:
萌郁「用意できた。すぐ食べる?」
岡部「トーストにウィンナーに目玉焼き……よし、冷めない内に食べてしまおう」
萌郁「お箸、どうぞ」
岡部「済まない。どれ……んっ! 美味いな……パリッとしたウィンナーなど久しぶりだ」
萌郁「岡部くん、それが好きだって言ってたから」
岡部「萌郁、この辺で古い家電が売っているところは無いか?」
萌郁「古い、家電? リサイクルショップとかなら」
岡部「そこで良い。今日は俺をそこまで案内してくれ」
萌郁「今日は……アルバイトだから」
岡部「そうか、それなら仕方ないな……俺一人で行くか」
萌郁「でも、一緒に行かないと」
岡部「俺が? ……ん? アルバイトって確か……」
萌郁「岡部くんも、今日はシフトに入ってる」
岡部「な、何? ということは――」
219:
ファミレス
岡部(なぜだ……なぜ狂気のマッドサイエンティストがファミレスでバイトなどしなければ)
萌郁「…………」
岡部(厨房からの視線……? 萌郁……常に俺を見ていないと気が済まないのかあいつは)
岡部(しかし、ファミレスのバイトなどどうすれば)
「注文お願いしまーす」
「これ三番テーブルに」
「コーヒーお替りくださーい」
「早くしてくれますかー?」
岡部「は、はい! 今行きます!」
岡部(なぜだ……なぜこんなことになった……)
222:
数時間後
岡部「……疲れた」
岡部(こんなことをしている場合では無い……俺にはやるべきことが)
萌郁「岡部くん、大丈夫?」
岡部「萌郁……なぜ俺がファミレスでバイトしなければいけないんだ」
萌郁「働かないと、家賃とか払えないから」
岡部「そういうことではない。俺には大事な用がある、それを差し置いてバイトなど……」
萌郁「……明日は暇だから、大丈夫だと思う」
岡部「それならば明日はレンジを探す。……リサイクルショップに無かったとしても、秋葉原に行けば」
萌郁「レンジ? お家のはまだ壊れてないけど……」
岡部「……そうではない。だが、どうしても電子レンジが必要なのだ」
萌郁「分かった。岡部くんのために、私も協力する」
岡部(あの電子レンジ、X68000、それにブラウンがあればおそらく再現は可能だ)
岡部(それが揃えば……まだ十分、可能性はある)
223:
電話レンジ再現するとかすごすぎオカリンwwww
224:
萌郁のアパート
岡部(夜飯を済ませ、疲れを癒すためにも風呂に入りたいところだ。
 ……しかし、昨日の様なことは避けねばならん)
萌郁「お風呂の準備、できたから」
岡部「……先に言っておくが、今日は一緒に入らんぞ」
萌郁「……じゃあ、先に入って良いよ」
岡部「その手には乗らん、昨日みたいにまた後から入ってくるつもりだろう」
萌郁「だって……一人で、入りたくないから」
岡部「こ、子供みたいなことを言うな! 一日位一人で入っても良いではないか……」
萌郁「……明日もそう言って、断られる気がする」
岡部「ぐっ……鋭いな」
萌郁「嫌って言われても、絶対一緒に入るから」
岡部(確固たる意志とはこういうことか……だが、このままでは――っ! そうだ!)
岡部「……分かった、一緒に入ってやろう。ただし、条件がある」
萌郁「条件?」
225:
浴室
萌郁「……岡部くん、入るね」
岡部「ああ、いつ入ってきても良いぞ」
萌郁「……やっぱり、ちょっと恥ずかしい」
岡部「裸より恥ずかしいとは変なヤツだな。早く入って来い、俺はいつ出ても良いんだぞ」
萌郁「……いじわる」
岡部(そう、俺が出した条件とは……水着を着用しての入浴、これならば直視しても問題は無い!)
萌郁「…………」
岡部「やっと来たか、そこまで恥ずかしがる必要など……なっ!?」
岡部(い、いや、水着なら大丈夫とか思ったけど……これはこれでマズイのではないか?)
萌郁「湯船に入りたいから……少し、詰めてくれる?」
岡部「あ、ああ……」
230:
岡部「も、萌郁……その、もう少しマシな水着は無かったのか?」
萌郁「……これ、岡部くんが選んでくれた水着」
岡部(余計なことを……まあ、確かに似合ってはいるのだが)
萌郁「一緒に海に行ったことも……覚えてない?」
岡部「ああ……まったく記憶に無い。というか、俺達は海なんかに行ったのか」
萌郁「……私の水着姿が見たいって……言ったから」
岡部「そ、そうなのか……」
萌郁「今の岡部くんは……どう、思う?」
岡部「どうって……何がだ」
萌郁「私の……水着」
岡部「そ、それは……まあ、何だ、似合ってるとは……思う」
萌郁「……ありがとう」
岡部(何だこの雰囲気は……やり辛い)
231:
岡部(疲れを取るどころか、余計に気疲れした……俺は、これを毎日続けないといけないのか?)
岡部(いっそのこと実家に戻った方が……いや、萌郁も着いてくるだろうし無駄か……)
萌郁「そろそろ、寝る?」
岡部「……そうだな、今日は色々と疲れた。さっさと寝て明日に備えねば」
萌郁「あの……」
岡部「ん? 言いたいことがあるなら言えば良いだろう?」
萌郁「……岡部くん、今の岡部くんは……私と、その」
岡部「急にもじもじしてどうした、最後まで言え」
萌郁「私と……したくない?」
岡部「……へっ?」
238:
岡部「し、したくない? な、何だ、ゲームか? それとも雷ネットとかか?」
萌郁「……これ」
萌郁が恥ずかしそうに取り出したのは、岡本さんの近藤さんだった。
岡部「なあっ!? お、お前は、いったい、な、何を考えている!?」
萌郁「……岡部くん、毎日……してくれたから」
岡部「ま、毎日……その、それを消費というか装備というか……」
萌郁「……したくないの?」
岡部「し、しない! それは前の俺との関係であって、今の俺とはその……と、ともかく無しだ!」
萌郁「……分かった」
岡部(……前の俺、どんだけ若かったんだ)
242:
萌郁「電気、消すね」
岡部「ああ……」
岡部(い、いかん……あんなことを言われたから意識してしまうではないか……)
岡部(確かにそういうのが盛んな歳ではあるが……いくら何でも毎日はどうかと思うぞ、俺)
萌郁「……岡部くん」
岡部「な、何だ?」
萌郁「電子レンジって、何に使うの?」
岡部「それは秘密だ。だが、それが無ければ何も始まらないんだ」
萌郁「……ねえ、岡部くん」
岡部「今度は何だ……」
萌郁「どこにも、行かない?」
岡部「……行くあてなど無い。とりあえずはここに居る」
萌郁「……分かった」
岡部(電話レンジができるまでの話だが……言わないでおいた方が良いだろう)
246:
岡部(しかし、眠れない……さっきの萌郁とのやりとりが頭から離れん)
萌郁「……すぅ……おか、べ……くん」
岡部(お前のせいで寝られなくなったというのに……)
岡部(いや、ここで眠らなければ明日に響く……何としてでも睡眠をとらないと)
岡部(……精神を研ぎ澄ませ。感覚を集中させろ……そして――)
岡部(うーぱが一匹、うーぱが二匹……うーぱが三匹……)
『……私と、したくない?』
岡部(……くっ! 立ち去れ煩悩……! うーぱが四匹、うーぱが五匹……うーぱが……)
247:
翌朝
萌郁「んっ……えっ? 岡部くん……?」
岡部「IBN5100が5098台……IBN5099が5100台……いや、違うな……。
  というかこれだけあれば5000億か……ふぅーははは……」
萌郁「お、岡部くん……大丈夫?」
岡部(また一睡も……できなかった……)
250:
岡部「……よし、今日こそ前に進まなければならん。行くぞ、萌郁」
萌郁「デートって考えても、いい?」
岡部「で、デートなどでは無い!」
岡部(……浮かれている暇は無い、戻れなければ何も解決してないのと同じだ)
岡部(多くの想いを犠牲にしてここまで来たのに……俺はそれを台無しにしてしまった)
岡部(……萌郁がどうなるか、そんなことを考えてはいけなかった)
岡部(大丈夫だ、必ず戻れる。……今までもそうしてきたんだ)
萌郁「……岡部くん」
岡部「どうした、何かあったか?」
萌郁「本当に、どこにも行かない?」
岡部「あ、ああ、昨日もそう言っただろうが」
萌郁「……うん。それなら、良いの」
252:
岡部「……リサイクルショップには無かったな」
萌郁「ごめん……役に立てなくて」
岡部「いや、気にするな。秋葉原にならきっとある、すぐに見つかるはずだ」
萌郁「……うん」
岡部「そういえば、休日は何をしていたんだ? 俺と行動するというのはなんとなく分かるが」
萌郁「海に行ったり、お買い物したり、勉強とか、色々」
岡部「……ただのリア充では無いか。狂気のマッドサイエンティストが情けない……」
萌郁「今の岡部くんは、それをまだ言ってるの? あと、鳳凰院とか」
岡部「まだ……? 前の俺は鳳凰院凶真の名を捨てたと言うのか?」
萌郁「高校に入る位には……あまり言わなくなったと思う。だから、少し懐かしい」
岡部「な、懐かしいなどと言うな、鳳凰院凶真は死なん」
254:
秋葉原
岡部「電子レンジ、X68000(ペケロッパ)、ともかくこの二つを探さなければな……」
萌郁「どこを探すつもり?」
岡部「ペケロッパなら、古いパソコンを置いてあるところを巡れば見つかるだろう」
萌郁「新しいパソコンじゃ、ダメなの?」
岡部「限りなく近い状態を再現したい。偶然をもう一度起こすにはそれが一番望ましい」
萌郁「……何を作るつもり?」
岡部「それは……遠隔操作ができる電子レンジだ」
萌郁「遠隔操作?」
岡部「ああ、携帯電話でレンジが作動するという最高の発明品である!」
萌郁「温めるものは、どうすれば良いの?」
岡部「それは……自分で中に入れてもらう」
萌郁「……それ、あまり意味ないと思うよ」
岡部「なっ……う、うるさい! ……ともかく、行くぞ」
263:
数時間後
岡部「ふ、フゥーフフ……フゥーハハハ! これも運命石の扉の選択か! 俺はやはり……望まれた存在なのだ!」
萌郁「二つとも、すぐに見つかって良かった」
岡部「ああ、まさか全く同じ電子レンジが手に入るとは……これで希望が見えてきた!」
萌郁「でも、岡部くん」
岡部「うん? どうした?」
萌郁「電子レンジとパソコン、どっちもは運べないと思う」
岡部「あっ……。ま、まあいい。ペケロッパはまだ必要無いだろう……ともかく電子レンジを持って帰る」
萌郁「……レンジならもっと良いのがあるのに」
岡部「そういう問題では無いのだ。……さあ、ここからが俺の力を発揮するところだ!」
267:
萌郁のアパート
岡部「はぁ……はぁ……重かった」
萌郁「……手伝うって言ったのに」
岡部「お前に持たせる訳にもいかないだろうが……いや、休んでる場合では無い」
岡部(電話レンジをもう一度作り、ブラウン管工房の上で実験を行う。そうすれば、きっと……)
萌郁「岡部くん……?」
岡部「済まないが、今から作業に入る。あまり相手はできないが悪く思うなよ」
萌郁「分かった。ご飯は、食べる?」
岡部「ああ、用意してくれれば助かる。必要な物は秋葉原で揃えた……よし、始めるぞ」
281:
岡部(確かここが……いや、こうか? 違う……くっ、ダルのありがたみが今になって分かる……)
萌郁「ご飯、食べる?」
岡部「もうできたのか? いや、それだけ時間が経ったということか……」
萌郁「帰ってからずっとそうしてる」
岡部「少し休むか……。今日の夕飯は何だ? この匂いだと……」
萌郁「カレー、たくさん作ったから」
岡部「よし……すぐに用意してくれ。腹が減って仕方が無い」
萌郁「分かった、少し待ってて」
岡部(萌郁の料理は今まで感じからいって期待はできる。あの二人の様なことには……)
岡部(……そういえば、もう三日も経っているのか。たった一通のメールが、こんなことになるとは)
岡部(俺は、あの世界線に戻らなければならない。……萌郁には悪いが、その時はきっと前の俺が)
岡部(萌郁に悪い? ……そんなこと、少し前の俺なら絶対に思わなかっただろうな)
284:
世界線が変わったら変わる前のオカリンの精神ってどうなんの?
285:
無かったことにされます
286:
岡部「美味い……このカレーも絶品だ、やるな萌郁」
萌郁「五年間、岡部くんと一緒に居るから」
岡部「味覚も完全に把握している、ということか。まあ、前の俺とは少し違うだろうが」
萌郁「……そんなことは、無いと思う」
岡部「いや、流石に差異はあるはずだ。お前の料理が美味いというのに変わりは無いがな」
萌郁「ありがとう。岡部くん、……今日も水着、着た方が良い?」
岡部「そ、それは……なあ、もっと地味な水着は無いのか?」
萌郁「地味な水着……あるよ」
岡部「よ、よし、それにしろ。……もっとも、一緒に入らないのがベストなのだが」
萌郁「イヤ」
岡部「ぐっ……まあいい、食ったらさっさと風呂を済ませるぞ」
289:
浴室
岡部「……おい、萌郁」
萌郁「どうしたの?」
岡部「地味な水着、俺はそう言ったよな」
萌郁「だから、これにした」
岡部「……スクール水着は、避けてほしかった」
萌郁「こういうの、好き?」
岡部「嫌いでは……ってそういう問題では無い!」
294:
岡部(毎日が煩悩との戦いになっている気がする……)
萌郁「まだ作業、するの?」
岡部「いや、俺一人ではただ時間がかかるだけだと分かった。……そこで、切り札を呼ぶ」
萌郁「切り札?」
岡部「そう、我が右腕(マイフェイバリットライトアーム)にしてスーパーハカー、橋田至に参戦してもらうのだ!」
萌郁「橋田くんを、この部屋に呼ぶの?」
岡部「ああ、済まないが許してくれ」
萌郁「別に良いけど……色々、隠さないと」
岡部「色々?」
萌郁「……下着、とか」
岡部「そ、そうか……」
300:
萌郁「電気、消しても良い?」
岡部「ああ。しかし疲れた……今日は、ぐっすり眠れそうだ」
萌郁「今まで眠れてなかったの?」
岡部「……お前のせいでな。そんなに密着されては寝ることもできん」
萌郁「……ごめんなさい」
岡部「どうせ言っても変わらないのは分かっている。それに……少しは慣れた」
萌郁「それなら、向き合って寝ても良い?」
岡部「そ、それは流石に無理だ……ともかく、もう寝るぞ」
萌郁「……うん」
311:
ここはどこだ? 見覚えのある……そうだ、我がラボではないか。
しばらくここには戻っていなかったな。ずっと俺は、萌郁の部屋に――萌郁?
「萌郁さん……?」
まゆりだ、どうしてここにまゆりが。 いや、ラボにいるのだから何も不思議では無い。
では、今目の前に居るのは。……萌郁? その黒い服は、何だ。
「椎名まゆりは、必要ない」
萌郁、お前は何をしようとしている。それは玩具か、いや、あれは。
誰か、止めろ。萌郁を、止めろ。
「……SERNのために……FBのために……SERNのために……FBの」
やめろ、やめろ……やめてくれ……。まゆりは何も関係ない……まゆりは――。
『……べくん、おか……ん、岡部くん……』
312:
萌郁「岡部くん……岡部くん……」
岡部「ぐっ……こ、ここは……?」
萌郁「私の部屋……岡部くん、うなされてたから……」
岡部「す、済まない……夢を見ていた」
萌郁「夢……? 怖い夢? 大丈夫……?」
岡部「……っ! さ、触るな! 近寄るな!!」
萌郁「えっ……? 岡部、くん……?」
岡部「あっ……ち、違うんだ……何でも無い」
萌郁「……夢、怖かったの?」
岡部「何でも無いんだ……だから、気にしないでくれ」
萌郁「……分かった」
313:
翌日
岡部「……ダル、俺だ」
ダル『あれ? オカリンから電話とか珍しい件について』
岡部「ダル、今日は暇か? 時間はあるか?」
ダル『メイクイーンに行く位だけど、何か用?』
岡部「手伝って欲しいことがある、俺の家に来てくれないか?」
ダル『オカリンの部屋ということは……桐生氏の部屋ということでもある訳で』
岡部「……ダル?」
ダル『みなぎってきたお! オカリン、さっさと家まで案内してもらおうか』
岡部「一つ言っておくが、そういうのは隠してあるからな」
ダル『……ですよねー。とりあえず、外出たらまた連絡するから』
岡部「ああ、よろしく頼む」
315:
萌郁「橋田くん、来れるの?」
岡部「メイクイーンに行くだけだと言っていたからな。要は暇ということだ」
萌郁「……多分、見られても大丈夫だと思う」
岡部「まあ、ダルのことだ。ああ言いながらも実際には、人の嫌がることはしないだろう」
萌郁「岡部くん……聞いても良い?」
岡部「……何だ?」
萌郁「……昨日の、夜のこと」
岡部「あれは……気にするな。何でも無い、悪夢を見てうなされて気が動転していただけだ」
萌郁「でも、私を見る目……怖かった」
岡部「……気のせいだ。そうだ、ダルが来るから菓子の一つでも用意しないとな」
萌郁「……岡部くん」
岡部「大丈夫だ、お前は何も関係ない。……お前はな」
316:
ダル『オカリン、多分近くまで来たと思わうんだけど』
岡部「そうか、今から外に出る。そこで待っていろ」
ダル『把握した。ハァ……暑いから早く来てほしいのぜ』
岡部「日陰で涼んでいろ、じゃあな」
岡部「迎えに行ってくる。お前はどうする?」
萌郁「一緒に、行きたい」
岡部「……よし、着いて来い。ダルが痩せない内に迎えに行かないとな」
萌郁「岡部くん……手、繋いでも良い?」
岡部「急にどうした……それ位は我慢できていただろうが」
萌郁「何となく……不安だから」
岡部「……分かった、今日だけは特別だ」
318:
しばらくして
岡部「ダル、ここが俺達の部屋だ」
ダル「おお、ここが……拙者、女性の部屋に入るのは初めてでござる。ふひひ」
萌郁「……岡部くん」
岡部「ダル、自重しろ」
ダル「まっ、僕は変態という名の紳士だから、無粋なことはしないお」
岡部「その言葉、信じるぞ」
ダル「しっかし、こんな暑い中手を繋いで登場とか……オカリンマジぱねえっす」
岡部「う、うるさい! ……まあいい。期待しているぞ、ダル」
ダル「へいへい、何をするのかはよく分からんけど」
321:
岡部「これだ、このレンジを携帯でも遠隔操作できるようにしたい」
ダル「……レンジを遠隔操作? オカリン、何考えてんの?」
岡部「……色々事情があるのだ。頼む、ダル……お前の力だけが頼りなんだ」
ダル「そう言われると嫌な気分はしないけど……じゃあ、とりあえずやってみるお」
岡部「お前なら必ずできる、思う存分やってくれ」
ダル「オーキードーキー!」
323:
萌郁「お茶、出した方が良い?」
岡部「ダルが好きなのはコーラだ。ダイエットコーラが冷蔵庫にあるから出してくれ」
萌郁「うん。橋田くん、ああいうのが得意なの?」
岡部「ダルは万能だ。……あいつと、もう一人居れば何も怖くは無いのだがな」
萌郁「もう一人……?」
岡部「……ああ」
岡部(紅莉栖が生きているのは確認できている。……ググってすぐに分かったからな)
岡部(……その能力は、記事を見た感じはまったく変わり無いようだ)
岡部(だが、今は連絡を取る手段が無い……いずれ時が来たら頼らねばならないだろう)
岡部(……その時に、すぐに協力してくれれば良いのだがな)
330:
数時間後
ダル「……オカリン」
岡部「どうしたダル。……ま、まさか」
ダル「……ミッション、コンプリート」
岡部「もうできたのか!? でかしたぞダル! 流石はマイフェイバリットライトアーム!」
ダル「そういえば、その呼び方何なん? つーか夏休み入ってから性格変わってね?」
岡部「何を言っているんだ? 俺は前からこうだろうが」
ダル「うーん……まあ、ともかくできたから試してみ」
岡部「ああ、これで……やっと……」
萌郁「…………」
332:
岡部(世界線が違うとはいえ、流石はダルだ、……見た目も同じ、電話レンジが目の前に)
ダル「そういえば、音声ガイダンスも付けろって言ってたから設定したけど、誰の声入れる?」
岡部「……よし、萌郁。お前の声を採用する」
萌郁「私……?」
岡部「ああ、合図を出したらここに向かって話してくれ。……ちょっと待ってろ、今紙に書く」
ダル「桐生氏、桐生氏」
萌郁「何?」
ダル「……なんか、最近のオカリン変じゃね? 何かあったん?」
萌郁「……そんなこと、無い。岡部くんは、岡部くんだから」
ダル「うーん、桐生氏がそう言うなら……」
336:
岡部「萌郁、この紙書いてある内容を読んでくれ。それが音声ガイダンスとなる」
萌郁「……うん」
ダル「じゃあ、録音開始するのぜ。……三、二、一、スタート」
萌郁「R・E・N・G。こちらは、電話レンジ……えっと、岡部くん」
岡部「どうした、そのまま読めば良いだけではないか」
萌郁「この……『(仮)』って、何?」
岡部「それはそのまま『かっこかり』と読め」
ダル「(仮)? 別にそのまま電話レンジでも良いと思われ」
岡部「……いや、そこは譲れん。ほら、再開するぞ」
萌郁「分かった」
338:
ダル「じゃ、桐生氏どうぞー」
萌郁「R・E・N・G。こちらは、電話レンジ(仮)です」
萌郁「こちらから、タイマー操作ができます」
萌郁「#ボタンを押した後、温めたい秒数をプッシュしてください」
萌郁「例えば、1分なら『#60』」
萌郁「2分なら『#120』……です」
ダル「オカリン……桐生氏の声、目覚ましにしたいんだけどおk?」
岡部「HENTAI発言は自重しろ」
ダル「ちえっ……」
340:
岡部「音声ガイダンスはこれでよし……さて、いよいよ実験だ」
ダル「もう僕が確認したから大丈夫だとは思うけど」
岡部「そう言うな、……電話レンジの番号を入力し、音声ガイダンスを呼び出す」
萌郁『R・E・N・G。こちらは、電話レンジ(仮)です』
萌郁「……私の、声」
岡部「そして音声ガイダンスに従い『#120』と入力。そうすると」
ダル「うんうん、問題なく動いてる」
岡部「よ、よーし! 後は……ブラウン管工房に行くだけだ!」
ダル「ブラウン管工房? 何ぞそれ?」
岡部「ダル、明日も俺に付き合ってもらうぞ。世紀の大実験にな」
ダル「……よく分かんないけど、面白そうだし行ってみるお」
360:
岡部「お前のおかげで上手くいきそうだ。感謝するぞ、ダル」
ダル「べっ、別にオカリンに礼を言われても嬉しくなんかないんだからね!」
岡部「相変わらずだな……まあいい、明日も頼む」
ダル「じゃ、また明日ってことで」
岡部「……これでやっと、前に進める」
萌郁「岡部くん、何をするつもりなの?」
岡部「それは……まあ、明日になれば分かる」
萌郁「……少し、不安なの」
岡部「不安?」
萌郁「本当に、どこにも行かない? 約束……してくれる?」
岡部「……余計な心配はしなくても良い、何も起きん」
萌郁「……うん」
363:
岡部(もしかしたら、萌郁は……薄々気づいてきているのか?)
萌郁「ご飯、用意できたから」
岡部「あ、ああ、済まない……今日は何だ?」
萌郁「餃子、作ってみた」
岡部「ごま油の香りはそのせいか。……腹が減ってきた」
萌郁「今出すから、待っててね」
岡部「分かった、期待しているぞ」
岡部(……こうやって萌郁の料理を食べるのも、これが最後か)
366:
岡部「美味そうだな……どれ、……んぐ。これは、ニラも入っているのか」
萌郁「どう、美味しい?」
岡部「ああ、香りが良いな。夏バテも解消できそうだ」
萌郁「明日も、橋田くんと一緒に実験をするの?」
岡部「その通りだ。……お前も、来るのか?」
萌郁「岡部くんの行くところには、どこにでも行くから」
岡部「そ、そうやってお前はまた恥ずかしいを……」
萌郁「恥ずかしい?」
岡部「……気にするな」
岡部(このやり取りも、後少しか。……萌郁も前の俺の方が良いに決まっている)
岡部(……明日で、元に戻る。あの世界線に戻り……この萌郁とは、お別れだ)
368:
岡部(……最後まで、水着の萌郁には慣れなかったな)
萌郁「今日は、もう寝る?」
岡部「ああ、お前も寝るのか?」
萌郁「一緒に、寝たいから」
岡部「そ、そうか……」
萌郁「……岡部くん、お願いがあるの」
岡部「お願い?」
萌郁「今日は……向かい合って、寝てほしい」
岡部「む、向かい合って!? いや、それは流石に……」
萌郁「……お願い、今日だけで良いから」
岡部(今日だけ……最後くらいなら)
岡部「分かった、望みどおりにしてやる。……電気、消すぞ」
萌郁「……うん」
372:
岡部(暗闇とはいえ、目が慣れてくると……相手の顔が見えるものだな)
萌郁「…………」
岡部「……寝ないのか」
萌郁「岡部くん、正直に言って」
岡部「……何だ」
萌郁「明日……居なくなっちゃうの?」
岡部「いつ誰がそんなことを言った? どこにも行かん、俺はここに居る」
萌郁「嘘、つかなくても良いから」
岡部「……なぜ、嘘だと分かる?」
萌郁「岡部くん、最近……遠くを見るような顔してた。だから」
岡部「それで勘付いた、ということか」
萌郁「あの電話レンジが、関係あるの?」
岡部「ああ、あれは……Dメールを送るための装置だ」
萌郁「D、メール……」
375:
岡部「前も話した通り、Dメールは過去に送るメールのことだ。
 ……お前が五年前に受け取ったものも、その一つという話しはしたな」
萌郁「……明日、過去にメールを送るの?」
岡部「ああ、そのためにダルに協力してもらった。まさか、一日で完成させるとは思わなかったけどな」
萌郁「誰に、どんなメールを」
岡部「それは……」
岡部(……萌郁に送ったメールで世界線変動率は変わった。それを元に戻すには)
岡部(萌郁に……FBからのメールに返信しろ、と送らなければならない)
岡部(そして、岡部倫太郎とは会うな……そう送らなくてはいけない)
『岡部は詐欺師一年後FBが救ってくれる』
岡部(一度に送れる容量を考えれば、これで十分だ。だが、それはつまり)
岡部(萌郁と岡部倫太郎の関係は……なかったことになる)
376:
なかったことにしてはいけなくもないわけではなくない
380:
岡部(世界線が変わるだけだ、この世界線の萌郁は俺と今まで通りの関係になる……)
岡部(だから、何も心配することは無い。……そうしなければ、元には戻らないのだから)
萌郁「……岡部くん?」
岡部「何も気にしなくて良い。……何も変わりはしない」
萌郁「今の岡部くんは……どこに行くの?」
岡部「元の世界線に戻る。お前が愛した男も戻ってくるはずだ」
萌郁「…………」
岡部「お前もその方が良いだろう? 愛情を向けても無駄な男なんかに気を遣う必要は無い」
萌郁「……嫌」
岡部「嫌……? 萌郁、お前はいったい何を……」
萌郁「岡部くんは、岡部くんだから……どこにも行かないで」
386:
岡部「だから言っているだろうが……前の俺が戻ってくる。居なくなる訳では無い」
萌郁「……本当に戻ってくるかなんて分からない。岡部くんが、消えてしまうかもしれない」
岡部「安心しろ、元に戻るだけなんだ。今の俺も、前の俺も、必ず戻る」
萌郁「…………」
岡部「……そんな顔をするな」
萌郁「……ごめんなさい」
岡部「お前には世話になった。萌郁のおかげで助かった、感謝している」
萌郁「本当に、行くの?」
岡部「……ああ。止めるな、俺は戻らなければならないんだ」
萌郁「岡部くんの言うことには、従う。だから……もう何も言わない」
岡部「……済まない」
萌郁「……大丈夫、だから」
岡部(済まない……戻るなんて軽く言ったが、俺にも分からない)
岡部(だが……そう言わないと、お前は俺を止めるだろうからな)
岡部(俺の軽はずみな行動が全ての原因だ。……赦してくれ、桐生萌郁)
387:
翌日
岡部「電話レンジは何とか運べそうだな……行くぞ、萌郁」
萌郁「……分かった」
岡部「ん? そのカバンは何だ?」
萌郁「お昼に食べられるものを、用意した」
岡部「準備が良いではないか。で、中身は何なんだ?」
萌郁「後で教えるから、今は秘密」
岡部「……そう言われると気になるな。まあいい……ブラウン管工房へ、出発だ」
389:
ブラウン管工房付近
ダル「おっ、来た来た。オカリーン」
岡部「はぁ……はぁ……ま、待たせたな」
ダル「いや、別に良いけど……何もしてないのにヘトヘトになってどうするん」
岡部「な、何もしてないとは……し、失礼な……はぁー……重かった」
ダル「桐生氏、こんなんで本当に大丈夫な訳?」
萌郁「……多分」
岡部「よ、よし……ミスターブラウンに話をしてくる」
ダル「いってらー。僕たちはここで待ってるお」
萌郁「……待ってるから」
391:
岡部「失礼する。ミスターブラウン、居ますか?」
天王寺「ん? ああ、おめえは確かこの前の……。今度は初対面じゃねえな」
岡部「ええ、それでお願いがあるのですが」
天王寺「お願い? ブラウン管の購入ならいつでも受け付けるけどよ」
岡部「いや、そんな物誰も欲しがら……あっ」
天王寺「……今、何つった?」
岡部「い、いえ! ブラウン管は本当に素晴らしく、残していくべき物だと言おうと」
天王寺「おっ、分かってんじゃねえか。どうだ、安くしとくぞ?」
岡部「それはまた今度で……今日来たのは、上の部屋に用があるからです」
天王寺「上の部屋?」
393:
岡部「上の部屋が空き部屋と前聞いたので、見せて頂きたいのですが」
天王寺「上の部屋? いや、でもなあ……」
岡部「す、少しの間だけで良いんです! お願いします!」
天王寺「別に良いけどよ。ほら、鍵だ」
岡部「ありがとうございます。……では、お邪魔します。それと」
岡部「その奥のテレビ、点けておいてもらえますか?」
天王寺「あ、ああ、言われなくても点けるけどよ」
岡部(……準備は、整った。後は実行するだけだ)
395:
ダル「おっ、戻って来た。部屋には入れる訳?」
岡部「ああ、鍵も借りてきた。……いよいよだな」
萌郁「……岡部くん」
岡部「どうした、何か用か?」
萌郁「……ごめん、何でも無い」
ダル「…………」
岡部「よし、上に行くぞ。……この重みもこれが最後だ、ふんっ……!」
398:
二階の部屋
岡部「……本当に何も無いんだな」
ダル「空き部屋なんだから当たり前だろ常考」
岡部「違う、本当はこの部屋には……いや、言っても分からないんだよな」
萌郁「ここで、何をするの?」
岡部「まずは、電話レンジを……この辺だな、ふんっ……」
ダル「えっと、電源は……あったあった。後は配線をちゃんとしてっと」
萌郁「コンセント、ここに刺す?」
ダル「桐生氏、今の台詞……もう一度言ってくんない? できれば誘うような感じで」
岡部「今は控えろ、ダル。……電源は確保した、動かすぞ」
岡部(電話レンジに電話をかけ……『#120』と打つ、そして)
ダル「おっ、動いた動いた。で、こっから世紀の大実験って何するん?」
400:
岡部「世紀の大実験、それは……」
ダル「それは?」
岡部「――過去にメールを送る実験だ!」
ダル「……はあ?」
岡部「信じられないのも無理はない。だが、事実だ……今からそれを見せてやろう」
ダル「ん? バナナなんか出してどうすんの?」
岡部「このバナナを、電話レンジの中に入れる」
ダル「バナナを中に入れる……桐生氏桐生氏」
岡部「控えろと言っているだろうが。そして電話レンジを使用するのだが……少し操作を変える」
ダル「操作を変える?」
岡部「普通なら『#120』と入力するのを、逆に『120#』とする」
ダル「ふんふん、それでそれで?」
岡部「見ていれば分かる。……電話レンジ、起動せよ!」
401:
ダル「あれ、これでも動くんだ。で、何が起きる訳?」
岡部「……今は待つのだ」
萌郁「…………」
ダル「……終わった」
岡部「さあ、見るが良い。これが……電話レンジの力だ!」
ダル「どれどれ……うん?」
萌郁「……?」
岡部「フゥーハハハ! どうだ、驚いたか!? バナナが見事に」
ダル「ほっかほかに温まってるけど」
岡部「……はあ? 何を言っている、こうすればちゃんとゲル状のバナナができて…………ない?」
407:
岡部「な、なぜだ? 42型ブラウン管も準備はできている、電話レンジもある……どこもおかしくは無い」
ダル「オカリン、結局このバナナがどうなって欲しかった訳?」
岡部「そのバナナがゲル状になるはずなんだ……」
ダル「ゲル状? あるあ……ねーよ」
岡部「ほ、本当になるはずなんだ! いや、もう一度やれば必ず……」
ダル「そもそも、電子レンジで温めてゲル状になるなんて有り得ないだろ常考」
岡部「そんなことは無い……何かの間違いだ、そうだ、やり方が違ったのかもしれない……」
萌郁「……岡部くん」
ダル「桐生氏も彼氏に何か言ってあげた方が良いんじゃね?」
萌郁「私は……邪魔しないようにって言われたから」
ダル「…………」
409:
数十分後
ダル「……オカリン、もう諦めた方が良いと思われ」
岡部「いや、俺は諦めん……何が違う、どうすれば」
萌郁「岡部くん……一度、休んだ方が」
岡部「……うるさい! 俺に指図するな!」
萌郁「……っ! ご、ごめんなさい……」
岡部「あっ……す、済まん」
ダル「……オカリン、もう諦めろって。桐生氏のためにも」
岡部「萌郁のため……どういう意味だ」
ダル「オカリン本当にどうしたん? 高校の頃からずっと、桐生氏のことばっか考えてたじゃんか」
萌郁「……橋田くん、私は良いから」
ダル「いや、最近のオカリンはやっぱり何か変だお。……少し、冷静になった方が良いんじゃね」
412:
ダル「あれだけ幸せにするとか言っといて、そんな態度取るとかオカリンじゃないだろ」
岡部「……それは、俺では」
ダル「オカリンが彼女いて羨ましいとかリア充爆ぜろとか言ってたけど、
  ちゃんと桐生氏を大切にしてたオカリンを僕はカッコいいと思ってますた」
萌郁「…………」
ダル「オカリン、何があったのかは知らんけど……少し頭、冷やそうぜ」
岡部「……違うんだ、俺は……実は」
ダル「今日はもう帰るから。また元に戻ったら協力でも何でもするお」
岡部「……ダル」
415:
萌郁「……橋田くん、行っちゃったね」
岡部「……元に戻ったら、か。……それができれば、こんな思いはしない」
萌郁「今日は……帰ろう?」
岡部「……分かった」
岡部(ダルは何も悪くない……あいつが言っていたことはすべて正しい)
岡部(だが、ダルの中の俺は……俺じゃない。萌郁を大切にしていたのは俺じゃない……)
岡部(……一人では、何も上手くいかない。それなのに……一人になってしまった)
420:
岡部「……鍵、返しに来ました」
天王寺「ん? どうした、さっきと違ってずいぶん元気がねえじゃねえか」
岡部「いえ、何でもありません……あの、また上の部屋を使わせて頂いても良いですか」
天王寺「いや、それなんだけどよ……実は、無理なんだ」
岡部「無理……? ど、どういうことですか!?」
天王寺「このビルも結構古くてよ、地震が来たら一発で潰れちまうかもって言われてな」
岡部「ま、まさか……取り潰す!?」
天王寺「そこまではいかねえけど、近い内にこのビルはしばらく閉鎖するんだよ。
  俺も愛しのブラウン管ちゃん達を連れて、ちょっとの間お引越しって訳だ」
岡部「ブラウン管が……無くなる……」
天王寺「そういうことだ。残念だったら一台持ってくか? 大負けに負けてやるぞ?」
岡部「……失礼、します」
天王寺「おお、また会ったら買ってけよ」
423:
萌郁「岡部くん……さっきよりも、落ち込んでる?」
岡部「……何も言わないでくれ。……帰ろう」
萌郁「……分かった」
岡部(ブラウン管工房が無くなる……それは42型ブラウン管が消えることを意味する)
岡部(数日の間にダルと関係を修復して……だが、それも数日間の間にだ)
岡部(もっとも、見たことのない現象を起こせと言ってできるのか……)
岡部(……甘かった。……失敗することなど、全く考えていなかった)
岡部(紅莉栖に頼るか? ……ただの学生が天才科学者と話ができると思うのか?)
岡部(いずれにせよ、俺一人では何もできない……元には、戻れない)
426:
萌郁のアパート
岡部「…………」
萌郁「……何か、食べない?」
岡部「……そんな気にもなれん、放っておいてくれ」
萌郁「でも……」
岡部「……このまま何もしないのも、楽かもしれないな」
萌郁「岡部くん……」
岡部「……済まない」
431:
それから数日、俺は何もできず壁に身を預けたまま時を過ごしていた。
動かそうにも身体が動かない、そして動く気も起きない。
萌郁はただ俺を見守り続け、時折水と食事を口に入れてくれる。
しかし、その行為すら今の俺には邪魔で、無意識に手で振り払っていた。
どうしてこうなったのかは分からない。色々原因はあるだろう。
前の世界線の数々の出来事、止まる余裕など無かった。
心も身体もボロボロのまま、俺はこの世界線にたどり着いた。
それは、萌郁がもし俺と会っていたらどうなるか、というあってはいけない考えが生み出した結果だ。
ダルに俺が知らない岡部倫太郎の話をされたのも辛かった。
そのことで俺は、この世界で「俺」のことを分かってくれる者は居ないと知ってしまった。
……いや、もう認めよう。俺は、疲れてしまった。
もう、何も考えず、このまま消えてしまいたい。
そう考え始めた時――萌郁の顔がアップで俺の視界に入ってきた。
そして、
439:
岡部「……っ!? んっ――な、何を……」
萌郁「んっ……。お水、飲まないと……脱水症状になるから」
岡部「……だからと言って、口で飲ませようとするヤツがあるか」
萌郁「岡部くん、やっとこっちを向いてくれた」
岡部「……何?」
萌郁「ずっと何もしないで、そのまま……消えてしまいそうだった」
岡部「……消えてしまえば良かったのにな」
萌郁「そんなこと、無い。……岡部くんが消えたら、私は生きてる意味なんて無いから」
岡部「それは以前の俺との記憶があるからだ……俺にはそこまでする様な価値は無い」
萌郁「岡部くんは、岡部くん。他の誰でも無い」
岡部「……またそれか。ああ、そういえば……お前は、俺としたかったんだよな」
萌郁「……岡部くん? ――っ!? な、何を……」
岡部「お前の望み通り……好きなだけしてやるって言ってんだよ」
442:
俺は力ずくで萌郁を押し倒し、そのまま両腕を掴んだ。
あの時と同じように、完全に主導権を握る体勢だ。
「何を……するつもり?」
「もう、どうでもいい……このまま何も考えず、馬鹿なことをしてやろうと思ってな」
「……そんなことしても、何も変わらない」
「だが、お前は言ったではないか。性欲に従うまま、俺を誘っただろうが」
「……ごめんなさい」
「謝っても何も変わらない……大人しくしろ」
「……分かった。好きにして」
無抵抗になった萌郁に俺は少しずつ顔を近づけていった。
その距離は縮まり続け、目の前に萌郁の豊満な胸が現れた。
着ているブラウスを?ぎ取り、肌を露出させ――そんなことはしなかった。
萌郁の胸に顔を預け、そのまま俺は涙を流し始めた。
「岡部……くん?」
「……萌郁、俺は……どうすれば……っ……何も、このままでは……」
443:
オッカリーン・・・
445:
オカリン壊れちゃう……ビクンビクン
447:
「この世界では俺は……五年間の記憶が無いも同然だ」
「……それなのにダルやまゆり、他の仲間のことを覚えている」
「だが、相手の記憶の中に居るのは俺ではない……別の岡部倫太郎だ」
「誰も俺が俺じゃないことなんて知らない……誰にも存在が認識されていない」
「この世界に一人……俺だけが急に取り残されたようだ。そして元の場所にも戻れない……」
「萌郁、俺はこのままなのか? このまま……世界から離れて生きていかなければならないのか?」
「……岡部くん」
「答えろ! 答えてくれ……俺は、一人で生きていくしか……」
崩れていく俺を、何かが優しく包み込んでくれた。
それは、萌郁の腕と体温だった。
「萌郁……」
「岡部くんは、一人じゃない……この世界から、断絶なんてさせない」
449:
「お前が俺を……繋ぎとめてくれるのか?」
「……五年前、岡部くんがしてくれたのと同じことを、私もしてあげたい」
「そして、私なんかのためにDメールを送ってくれたことを……無駄にしたくない」
萌郁はそう言うと俺をさらに強く抱きしめた。
どこかへ行ってしまいそうな自分が、強く引き戻されたようだった。
「まゆりちゃんを何度も酷い目に遭わせて……それなのに、最後には赦してもらおうとして」
「……萌郁? お前……その記憶は」
「岡部くんと一緒に寝ている時に……夢を見た」
「その夢は、まさか……」
「……銃を持っていたり、車に乗っていた。そしていつも……まゆりちゃんを」
「それともう一つ……血だらけになった私の最後の願いを、岡部くんが叶えてくれる夢……」
「……あの時の記憶もあるのか」
「岡部くんはあんなことをしなくても良かった。それなのに……私のせいで、岡部くんをここに連れてきてしまった」
「……ごめんなさい、私は岡部くんを犠牲にして……幸せな時間を手に入れてしまった」
460:
「……萌郁、お前は本当に幸せだったのか? 俺と一緒に居たことを、後悔していないのか?」
「私は幸せだった……でも、岡部くんは違ったかもしれない……」
「この世界線の俺はお前と居たことを後悔していた……そう言いたいのか?」
「……五年間も依存し続けて、岡部くんの自由を奪ってしまったから」
「萌郁、これだけは言える。……俺は、お前を幸せにしたいと本気で考えていたはずだ」
「どうして……そんなことが分かるの?」
「ダルが言っていたんだ。俺はお前のことばかりを考え、大切にしていたと」
「……でも、本当は一人の方が」
「ダルは……俺の右腕だ。あいつが言ったことは、間違いない……俺はダルの言葉を信じる」
間違いなく、以前の俺は萌郁を幸せにしようと考えていた。そして今、俺自身も萌郁の幸せを考えていた。
この世界線で数年間も側に居続け、そしてこの「俺」を迎え入れ、「俺」として扱ってくれた女性、桐生萌郁。
桐生萌郁、その大切な時間を、犠牲にはできない。だから俺は――。
「俺は――この世界線を、桐生萌郁との時間を選ぶ」
「……岡部くん」
463:
「萌郁、お前が居なければ……お前に依存していなければ、俺はこの世界線では自分を保てない」
「私に、岡部くんが……依存」
「ああ、お前はそれでも良いか? 俺が側に居ても良いのか?」
「……お願い。ずっと、私の側から離れないで……どこにも、行かないで」
「……分かった。どこへ行こうとも、お前からは離れない……何があっても」
俺は萌郁に依存することで存在を保ち、萌郁は俺に依存することで世界と繋がりを持つ。
互いに依存しあう関係、それがこの世界線での俺達の出した答えだった。
萌郁が今までしてきたことは、確かに赦されるものではないかもしれない。
だが、それ以上に俺がしたことは悪質で、誰にも赦されるものではない。
萌郁に託されたからといって、自らの好奇心で誰かの幸せを生み出したのは事実だ。
それをまた、自らの手でなかったことにしようとは思えなかった。
赦されず、依存しあう二人、それが岡部倫太郎と桐生萌郁だった。
466:
――あれからどれだけの時間が過ぎただろうか。
まゆりやダルとは定期的に連絡を取っている。
また、ミスターブラウンとも縁が切れないように注意している。
誰も死なず、鈴羽も現れない。この世界線の未来は、まだ分からないままだ。
今も家にはこの世界線のダルが作った電話レンジが、改装されたブラウン管工房には42型ブラウン管がある。
そして、ある学者とのメールアドレスも用意してある。
全ては何かがあった時のための準備だ。
それでも、何も無いことを祈っているのは間違いない。
468:
そして、俺と萌郁は――何も変わらないまま、歳を重ねていた。
互いが依存しあい、自分を保つという弱々しい人間のままだった。
「萌郁。今、時間あるか?」
「うん。どうしたの、岡部くん?」
「……萌郁、その呼び方はいい加減に直せと言っただろうが」
「でも……呼びやすいから」
「自分も同じ苗字なのに、そんな呼び方をするヤツがどこに居るんだ……」
「……ごめん。それで、用は何?」
「俺は外に出るつもりだが、萌郁も出られるか?」
「すぐに準備する、ちょっと待ってて」
「ああ、早くしてくれよ」
俺の選んだ世界線が正しかったのかは分からない。
だが、目の前の女性を幸せにしたいという思いは、何があっても変わらない。
それは、世界が変わっても「俺」がそうしたのと同じように。
終わり
471:

正直夢中で読んだわ
475:
完走乙。
後半はこのままでいてくれってのと助手来てくれってのが半々だったけど、これはこれで好きだ。
481:
おつおつ
もえいくさん誕生日おめでとうございました!
472:
超絶乙
原作っぽくまとまってて素晴らしかった
俺ならまゆり紅莉栖生きてるの確認したら即ラブラブED入っちゃう
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