キョン「よう」長門有希「……やっほー」back

キョン「よう」長門有希「……やっほー」


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涼宮ハルヒが物憂げな表情を浮かべている時は大抵何かしらの面倒ごとを引き起こすと相場は決まっているものだが、ならば反対にやたらと上機嫌な場合はより一層の危機感を抱かざるを得なくなるなんてことは、今更忠告するまでもないことだろう。
とはいえ、そうした経験則に基づいてこちらが身構えられるという点においては、わかりやすいことはそう悪いことではないのかも知れない。
前置きが長くなってしまったが今から俺が語る話題に涼宮ハルヒは一切登場せず、まるで話のダシに使ってしまったようで僅かながらも申し訳なさを覚えるが、ダシとしてこれ以上ないくらい良い働きをしてくれた団長様に感謝しつつ、我がSOS団の無口キャラについて語らせて貰おうと思う。
それが誰か、などと今更説明は要るまい。
静かなる元文芸部員、長門有希の秘話だ。
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2: 以下、
「長門さんが最近おかしい?」
その日、SOS団の不毛且つ非生産的な活動を終えた俺は、前方に女性団員3人組を視界に収めつつ古泉にとある相談を持ちかけていた。
「具体的にはどうおかしいのですか?」
俺から相談があると言われた際に浮かべていた訝しげな表情はどこかに消え去り、興味津々な様子で古泉は追及してきた。
「とにかく変なんだよ」
「アバウトすぎますね。変と言ってもいろいろあるでしょう? たとえば明らかに怪しげな薬に手を出してしまったようだとか、何かおかしな宗教団体に入信してしまったようだとか、そうした具体的な説明が必要です」
長門に限ってはどんな強力な薬を打ってもラリることなどある筈もなく、そして変な宗教団員の構成員は今俺の隣を歩いているお前だ。
「幹部と、呼んで欲しいところですね」
俺はお前がハルヒ教の教皇でも驚かないさ。
「話が逸れました。詳しくお願いします」
「詳しくと言われても困るんだが……」
まるで告げ口をしているようで気が引けるが、相談を持ちかけたのはこちらなのでその説明責任を果たす義務はあるだろう。
最近の長門の様子を古泉に話して聞かせた。
3: 以下、
数日前のことだ。
いつものように放課後SOS団の部室を訪れると、そこに元文芸部員が鎮座していた。
まるで数千年前からそこに居たように、居ることが当たり前のように、長門が居た。
そんな長門に対して俺はいつものように、よう、だとか、おう、だとか声をかけた。
具体的になんと声をかけたのかは定かではないが、それに対してのリアクションは今もクッキリと脳裏に刻まれている。
「やっほー」
!?
なんだ、今のは。幻聴か? もしくは夢か?
「……なんちゃって」
!??!?
二度の衝撃を受けて俺は撤退を決めた。
文字通り回れ右をして部室から逃げ出した。
とにかく動転していて意味もなく校舎を3周くらいしてから再びSOS団の部室に向かう。
「あ、キョンくん。今日は遅かったですね」
俺を出迎えてくれたのはメイド姿の朝比奈さんで、ハルヒに遅刻したことについてお咎めを受けたが、麗しのメイドもお冠な団長もまるで目に入らず長門だけを凝視していた。
「……………」
長門はまるで生まれてこの方人と話したことがないかのように無言で、何ごともなかったかのように平然と読書していて、こちらに視線を向けることはなかった。
4: 以下、
「なるほど。あなたが遅刻したあの日、そんな超常現象が部室で起こっていたとは……」
「やっぱり変だろ?」
「変というひとことで済ますのは無理がある程に、狂気的な何かを感じますね」
それはいくらなんでも大袈裟だとは思うが、正直あの日俺は青天の霹靂というか、天地が逆さまになったかのような衝撃を受けたのは事実だった。
「その後、長門さんから何かアクションはありましたか?」
「特に何もないのが逆に不気味でな」
「ふむ。では、あなたの聞き間違いや勘違いという線はありませんか? たとえば単に長門さんはやまびこの練習をしていて、それを偶然聞いたあなたが動揺しているようなので、場を和ますために冗談にしようとしたとか」
「やまびこの練習をしてる時点でおかしいだろ。古泉、お前こそ動揺してるんじゃないのか?」
わけのわからないことを抜かす古泉に呆れつつ、前方を歩く長門に視線を向ける。
ハルヒが何やら偉そうに語っていることを熱心に聞いて頷いている。ふと、目があった。
「……やっほー」
!?
「古泉! 今の聞いたか!?」
「え? なんのことですか?」
「やっぱり俺に向かって言ってたぞ!」
「例のやまびこですか? でしたら、返してみたら如何でしょうか? ものの試しです」
「やっほー!!」
急かされるように大声を張り上げると、当然ながら女性陣に白い目で見られた。
そして肝心の長門は完全にシカトだった。
5: 以下、
「古泉」
「はい、例の案件ですね」
翌日、部活中に古泉を呼んで廊下に出た。
流石と言うべきか古泉は半信半疑ながらも昨日話したことについて調査してくれたらしく、懐からメモ帳を取り出して報告する。
「機関の調査によると長門さんの周辺並びに彼女の母体となる情報統合思念体に目立った動きは見受けられず、特段異常は見つけられませんでした。やはり、気のせいでは?」
こっちは二度もこの目で目撃してこの耳で聞いたんだ。気のせいで片付けられては困る。
「しかしこれ以上踏み込んだ調査をするとなると、あとは部室に監視カメラを仕掛けるくらいしか手立てがないのが実情でして……」
「むしろこれまで仕掛けていなかったことのほうが驚きなんだが……」
「団内に女性団員が存在していて内1名が毎日部室に着替えているとなれば流石にカメラを仕掛けるのを躊躇うくらいは機関にも分別がありますよ」
肩を竦めて言われてみれば当然な説明をする古泉に納得しつつ、それでも俺はなんとか証拠を抑えようと考えを巡らせ提案した。
「昼休みなら朝比奈さんも着替えることはないし、長門とも2人きりになれる筈だ」
「では、明日の昼休みにカメラを仕掛けるのでそこで長門さんの奇行を記録しましょう」
協力的な古泉と手を組み俺はついに長門を追い詰めた。悪いが、やられっぱなしは癪だ。
明日の昼休み、全ての真実が明らかとなる。
この時、俺はそう信じて疑っておらず、あとになって如何に自分が愚かだったかを思い知ることとなるとは、夢にも思わなかった。
6: 以下、
「よう」
待ちに待った昼休み。待ちかねたぜ。
元文芸部室の扉を開くと、長門は居た。
片手をあげて挨拶をする。すると、長門は。
「待っていた」
読んでいた本から顔を上げてそう言った。
待っていたのは俺のほうだ。おかしい。
長門は何故、俺を待っていたのか。尋ねる。
「待っていたってのはどういう意味だ?」
「最近の私の言動は全て、あなたを誘き寄せるための罠」
罠。その単語を聞いて背筋が凍る。やばい。
いま、待て。落ち着け。そう、古泉が居る。
あいつがリアルタイムでこの部室を監視しているならば、危険なことにはならない筈だ。
「あなたが古泉一樹に私のことについて相談し、機関が介入しようとしたことは知っている。その上で、既に対処済み」
「た、対処って……?」
「機関が設置した監視カメラには現在、ダミー映像が流れている。だから助けは来ない」
くそ。古泉の助けは来ない。詰んでいる。
7: 以下、
「ま、まあ、待てよ」
とりあえず、落ち着こう。
震える膝を誤魔化すことを諦めて、俺は部内に置かれたパイプ椅子に座った。深呼吸。
「別に取って食うつもりは無いんだろ?」
「命を奪うつもりはない」
それを聞いてホッとする。
考えてみれば当たり前の話だ。
長門は以前、俺の命を救ってくれた。
暴走した朝倉の凶刃から俺を守ってくれた。
では、何故俺を罠に嵌めるような真似を。
「あなたは無防備すぎた」
俯いて思案していたらいつの間にか目の前に長門が佇んでいた。感情が窺えない無機質な視線と無表情で俺を見下ろしている。怖い。
「私がいつもと違う行動をするだけで、あなたはすぐに罠にかかった」
「そ、そんなことを言われても……」
「私がふざけているのを見たあなたは動揺しながらも嬉しそうだった。それが敗因」
返す言葉もなかった。俺は、そうか。
俺は、嬉しかったのだ。長門の奇行を見て。
いつもとは違う日常に、わくわくしていた。
8: 以下、
「私がふざけるとそんなに嬉しい?」
ああ、嬉しかった。思わず記録したい程に。
「記録して、古泉一樹と鑑賞して、私のことを笑い物にして、それで満足?」
「ち、違っ……俺はただ、お前が……!」
「何も違わない。私の言うことは絶対」
まるでどこぞの鬼の首魁のような物言いだ。
「あなたには失望した」
んなこと言われても、どうにもならないぞ。
「……やっほー」
「っ……!?」
耳元でやまびこを囁かれて脳髄に染みた。
なんなんだ、この感覚は。ゾクゾクする。
こんなことで興奮する自分が嫌いになる。
「許して欲しい?」
ああ、許してくれ。どうか、この愚か者を。
「古泉一樹には勘違いだったと説明すること」
「……わかった」
「これから毎日、昼休みにここに来ること」
「……わかった」
従順に頷く俺を見て、ふと長門は首を傾げ。
「どうしてそんなに嬉しいのかわからない」
言われて気づく。自分が喜んでいることに。
9: 以下、
「変なのは、あなた」
ゆっくりと諭すように長門は俺を洗脳した。
「あなたは異常。おかしい。とても奇妙」
そうなのかも知れない。いや、そうなのだ。
「情報統合思念体は安定傾向にある涼宮ハルヒよりも不安定なあなたに興味を抱いた」
よもや宇宙人に目をつけられる程に変とは。
「私個人としても調査をしてみたかった」
それは、光栄だな。素直に嬉しい限りだ。
「あなたは普通とは違うこと、逸脱したことに愉悦を感じる異常者。だから実験する」
そう言って、長門は俺の膝に腰を下ろした。
小柄な長門の体重などたかが知れているが、それでもたしかな重さが膝に伝わった。
「このままほう尿して、あなたを観察する」
困惑と共に広がる期待感。俺は待っていた。
10: 以下、
「なあ、長門」
「なに?」
「ハルヒには黙っておいてくれるか?」
ダメ元で頼んでみる。すると不意に長門が微笑んだ、ような気がした。耳元で囁かれる。
「これは私とあなただけの……秘話」
その言葉に安心するのと同時に俺の膝は長門の尿で濡らされた。瞬間、脊髄反射の如く。
「フハッ!」
愉悦が口から溢れた。そして俺も失禁した。
ちょろろろろろろろろろろろろろろろんっ!
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
その後のことは、あまりよく覚えていない。
昼休みの終わり際、ダミー映像を観ていた古泉にやっぱりただの勘違いだったと報告して、奴はそれで納得した様子だったので汚れたズボンは長門によって情報操作されていたことは間違いあるまい。宇宙人はすごいな。
「よう」
「……やっほー」
今日も今日とて、俺と長門は密会を重ねる。
長門のおふざけにも慣れたもので回れ右をして校内を駆け回ることはない。鍵を締める。
え? それから2人で何をしてたかって?
悪いが、この先は秘話なのでご遠慮願おう。
【長門有希の秘話】
FIN
元スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1612793692/
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